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特表2022-527330逆回復が改善されたセグメント構造パワーダイオード
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-01
(54)【発明の名称】逆回復が改善されたセグメント構造パワーダイオード
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/861 20060101AFI20220525BHJP
   H01L 29/74 20060101ALI20220525BHJP
   H01L 21/822 20060101ALI20220525BHJP
【FI】
H01L29/91 K
H01L29/91 C
H01L29/74 H
H01L27/04 A
H01L27/04 F
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021558742
(86)(22)【出願日】2020-04-01
(85)【翻訳文提出日】2021-11-15
(86)【国際出願番号】 EP2020059271
(87)【国際公開番号】W WO2020201361
(87)【国際公開日】2020-10-08
(31)【優先権主張番号】19166711.2
(32)【優先日】2019-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519431812
【氏名又は名称】ヒタチ・エナジー・スウィツァーランド・アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】HITACHI ENERGY SWITZERLAND AG
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ビクストレーム,トビアス
(72)【発明者】
【氏名】ベムラパティ,ウママヘスワラ
(72)【発明者】
【氏名】スティアスニー,トーマス
【テーマコード(参考)】
5F005
5F038
【Fターム(参考)】
5F005AD02
5F005BA03
5F005CA01
5F005DA01
5F038AV04
5F038BH04
5F038CA02
(57)【要約】
パワーダイオードは、複数のダイオードセル(10)を備える。各ダイオードセル(10)は、第1の導電型の第1のアノード層(40)と、第1のアノード層(40)より低いドーピング濃度を有しかつ第1のアノード層(40)によりアノード電極層(20)から分離されている第1の導電型の第2のアノード層(45)と、第2のアノード層(45)と共にpn接合を形成する第2の導電型のドリフト層(50)と、カソード電極層(60)と直に接触している第2の導電型のカソード層(60)と、カソード電極層(30)と直に接触しているカソード側セグメンテーション層(67)と、を備える。カソード側セグメンテーション層(67)の材料は、第1の導電型の半導体であって、第2の主面(102)と直角を成す方向に沿って集積されるカソード側の集積ドーピング含有量は、2・1013cm-2未満であり、または、カソード側セグメンテーション層(67)の材料は、絶縁材料である。水平平面(K1)に沿った各ダイオードセル(10)を介する水平断面は、水平平面(K1)が第2のアノード層(45)と交差する第1の領域と、平面(K1)がドリフト層(50)と交差する第2の領域とを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード電極層(20)と、カソード電極層(30)と、前記アノード電極層(20)と前記カソード電極層(30)との間に配置される複数のダイオードセル(10;10’;10’’;10’’’)とを備えるパワーダイオードであって、前記アノード電極(20)から前記カソード電極層(30)への方向は、垂直方向を画定し、各ダイオードセル(10;10’;10’’;10’’’)は、
前記アノード電極層(20)と直に接触し、かつ前記アノード電極層から第1の深さ(d1)まで垂直方向に延設する第1の導電型の第1のアノード層(40;40’’)と、
前記第1のアノード層(40;40’’)より低いドーピング濃度を有しかつ前記アノード電極層(20)から前記第1のアノード層(40;40’’)によって分離されている第1の導電型の第2のアノード層(45;45’;45’’;45’’’)であって、前記第2のアノード層は、前記第1のアノード層から前記第1の深さ(d1)より大きい第2の深さ(d2)まで垂直方向に延設する、第1の導電型の第2のアノード層(45;45’;45’’;45’’’)と、
前記第2のアノード層(45;45’;45’’;45’’’)と共にpn接合を形成する第2の導電型のドリフト層(50;50’;50’’;50’’’)であって、前記第2の導電型は、前記第1の導電型とは異なる、第2の導電型のドリフト層(50;50’;50’’;50’’’)と、
前記カソード電極層(30)と直に接触している第2の導電型のカソード層(60;60’;60’’’)であって、前記カソード層(60;60’;60’’’)は、前記ドリフト層(65)より高いドーピング濃度を有する、第2の導電型のカソード層(60;60’;60’’’)と、
前記カソード電極層(30)と直に接触しているカソード側セグメンテーション層(67;67’;67’’’)と、を備え、
第3の深さ(d3)において前記垂直方向と直角を成す水平平面に沿った、各ダイオードセル(10;10’;10’’;10’’’)を介する水平断面は、各ダイオードセル(10;10’;10’’;10’’’)内に、前記水平平面(K1;K1’;K1’’;K1’’’)が前記第2のアノード層(45;45’;45’’;45’’’)と交差する第1の領域と、前記平面(K)が前記ドリフト層(50;50’;50’’;50’’’)と交差する第2の領域とを備え、前記第1の深さ(d1)は、前記第3の深さ(d3)より小さく、かつ前記第3の深さ(d3)は、前記第2の深さ(d2)より小さく、
前記カソード側セグメンテーション層(67;67’;67’’’)の材料は、第1の導電型の半導体であり、前記第2の主面(102)と直角を成す方向に沿って集積される集積ドーピング含有量は、2・1013cm-2未満であること、または、前記カソード側セグメンテーション層(67;67’;67’’’)の材料は、絶縁材料であること、を特徴とする、パワーダイオード。
【請求項2】
前記水平平面(K1;K1’;K1’’)と直角を成す少なくとも1つの垂直断面において、隣接するダイオードセル(10;10’;10’’)による各ペアの前記第2のアノード層(45;45’;45’’)は、隣接するダイオードセル(10;10’;10’’)による個々のペアの前記ドリフト層(50;50’’)によって互いから横方向へ分離される、請求項1に記載のパワーダイオード。
【請求項3】
前記少なくとも1つの垂直断面において、隣接するダイオードセル(10;10’;10’’)による各ペアのカソード側セグメンテーション層(67;67’)は、隣接するダイオードセル(10;10’;10’’)による前記個々のペアのカソード層(60)によって互いから横方向に分離される、請求項2に記載のパワーダイオード。
【請求項4】
前記少なくとも1つの垂直断面において、隣接するダイオードセル(10;10’;10’’)による各ペアの前記第2のアノード層(45;45’;45’’)間の最短横方向距離Ld1は、0.3・Lp1~Lp1の範囲内であり、Lp1は、前記少なくとも1つの垂直断面における、隣接するダイオードセル(10;10’;10’’)による前記ペアのうちの各々のカソード側セグメンテーション層(67;67’)の横幅である、請求項2または請求項3に記載のパワーダイオード。
【請求項5】
前記少なくとも1つの垂直断面において、隣接するダイオードセル(10;10’;10’’)による各ペアのカソード側セグメンテーション層(67;67’)間の最短横方向距離Ln1は、0.3・W~Wの範囲内であり、Wは、前記ダイオードセル(10;10’;10’’)の垂直厚さである、請求項2から請求項4のいずれか1項に記載のパワーダイオード。
【請求項6】
前記少なくとも1つの垂直断面において、前記カソード側セグメンテーション層(67;67’)の横幅Lp1は、0.3・W~Wの範囲内であり、Wは、前記ダイオードセル(10;10’;10’’)の垂直厚さである、請求項2から請求項5のいずれか1項に記載のパワーダイオード。
【請求項7】
前記水平平面(K)と直角を成す少なくとも1つの垂直断面において、前記ドリフト層の一部分は、各ダイオードセル(10’’’)内の前記第2のアノード層(45’’’)を横方向へ、前記ドリフト層の前記一部分から前記ダイオードセル(10’’’)の縁まで横方向に延在する2つの別個の領域に分離する、請求項1に記載のパワーダイオード。
【請求項8】
前記少なくとも1つの垂直断面において、隣接するダイオードセル(10’’’)による各ペアのカソード層(60’’’)は、隣接するダイオードセル(10’’’)による前記個々のペアのカソード側セグメンテーション層(67’’’)によって互いから横方向に分離される、請求項7に記載のパワーダイオード。
【請求項9】
前記少なくとも1つの垂直断面において、隣接するダイオードセル(10’’’)による各ペアの各ダイオードセル(10’’’)における前記第2のアノード層(45’’’)の別個の2領域間の最短横方向距離Ld2は、0.3・Lp2~Lp2の範囲内であり、Lp2は、前記少なくとも1つの垂直断面における隣接するダイオードセル(10’’’)によるペアの前記カソード層(60’’’)間の最短横方向距離である、請求項7または請求項8に記載のパワーダイオード。
【請求項10】
前記少なくとも1つの垂直断面において、各ダイオードセル(10’’’)のカソード層(60’’’)の横幅Ln2は、0.3・W~Wの範囲内であり、Wは、前記ダイオードセル(10’’’)の垂直厚さである、請求項7から請求項9のいずれか1項に記載のパワーダイオード。
【請求項11】
前記少なくとも1つの垂直断面において、隣接するダイオードセル(10’’’)による各ペアの前記2つのカソード層(60’’’)間の最短横方向距離Lp2は、0.3・W~Wの範囲内であり、Wは、前記ダイオードセル(10’’’)の垂直厚さである、請求項7から請求項10のいずれか1項に記載のパワーダイオード。
【請求項12】
前記複数のダイオードセル(10;10’;10’’;10’’’)の全てのダイオードセル(10;10’;10’’;10’’’)は、同一の構造を有する、請求項1から請求項11のいずれか1項に記載のパワーダイオード。
【請求項13】
各ダイオードセル(10;10’;10’’;10’’’)は六角形の形状を有し、または、各ダイオードセル(10’)は水平断面にストライプ形状を有する、請求項1から請求項12のいずれか1項に記載のパワーダイオード。
【請求項14】
第2の導電型のバッファ層(65)を備え、
前記バッファ層(65)は、前記ドリフト層(50;50’;50’’;50’’’)より高いドーピング濃度を有し、
前記カソード層(60)は、前記バッファ層(65)のそれより高いドーピング濃度を有し、
前記バッファ層(65)は、前記カソード電極層(30)から、前記カソード層(60;60’;60’’’)により、かつ前記カソード側セグメンテーション層(67;67’;67’’’)により分離され、かつ、
前記バッファ層(65)は、前記第1のアノード層(40;40’’)から、かつ前記第2のアノード層(45;45’;45’’;45’’’)から、前記ドリフト層(50;50’;50’’;50’’’)により分離される、請求項1から請求項13のいずれか1項に記載のパワーダイオード。
【請求項15】
ゲート転流型サイリスタ(93)と、請求項1から請求項14のいずれか1項に記載のパワーダイオード(91;91’;91’’;91’’’)とを備える、逆導通集積化ゲート転流型サイリスタデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、請求項1の前提部分に記載のパワーダイオード、およびこのようなパワーダイオードを含む逆導通(RC)集積化ゲート転流型サイリスタ(IGCT)に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
高速パワーダイオードのスナップ回復は、過渡期の間のスイッチング損失が低いより高速なパワー半導体デバイスの必要性に鑑みて、長年に渡り研究されてきている。高速回復ダイオードは、典型的には、還流ダイオード、スナバダイオードおよびクランプダイオードとして、集積化ゲート転流型サイリスタ(IGCT)、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)およびゲートターンオフサイリスタ(GTO)と組み合わせて使用される。
【0003】
パワーダイオードの回復期間中の残留蓄積電荷の空乏は、電流勾配dI/dtに現れる電流不連続(チョップオフ)をもたらす。dI/dtは、回路のインダクタンスに作用し、結果的にデバイスを破壊し得る電圧オーバーシュート(V=-L dI/dt)を引き起こす。図1は、回復期間中の順方向電流IFおよびパワーダイオードに流れる電圧の時間依存性を示す。図1から、逆回復期間の終わりで、ダイオードは、スナッピーなターンオフ挙動(スナップ回復)を示すことが分かる。これは、主として、デバイスの不十分な厚さに起因する。スナップ回復は、主に、より低温(25゜C)およびより低電流(公称電流の10%未満)において、より顕著である。スナップ回復は、デバイスの厚さを増すことで減少させることができる。しかし、これにより、導通損失およびスイッチング損失が増加する。
【0004】
集積化ゲート転流型サイリスタ(IGCT)は、中電圧ドライブ、揚水発電、鉄道インタータイおよび電力品質アプリケーションなどの高電力用途用の選択デバイスとして確立されてきている。今日、IGCTは、電圧形インバータ(VSI)、電流形インバータ(CSI)およびイベントスイッチング(ソリッドステート回路遮断器)用途用に最適化されていて、非対称、対称(逆阻止)および逆導通(RC)デバイスとして利用可能である。VSIトポロジの場合、非対称IGCTは、所与のウェーハサイズに対して最高の電力レベルを有するが、逆導通(RC)IGCTは、コンパクトさ(サイズおよび重量の低減)を提供し、かつゲート転流型サイリスタ(GCT)と同じウェーハ上でのパワーダイオードのモノリシック集積化によって信頼性を高める(コンポーネント数の低減)。
【0005】
RC-IGCTでは、IGCTおよびダイオードの双方が同じウェーハ上に存在し、かつ同じ電気圧力接点(ウェーハの上側の1つと、底側の別の1つ)を用いることから、出発原料としてのシリコンの選択は、1つの厚さに限定される。該厚さは、デバイス電圧および宇宙線弾性の定格、ならびにGCTおよびダイオード部品双方の動的挙動によって規定される。ダイオード部品の動的挙動には、先に述べたダイオードのスナップオフ挙動が含まれる。厚さの増大は、言及する3つの態様の全てを改善するが、双方の動作モードで損失も高める。RC-IGCTのある典型的な最適化において、スナップオフ挙動は、ウェーハの最小厚さを決定づけるが、これが理由で、RC-IGCTの場合、ダイオード逆回復のこの態様を改善する動機が二重にある、すなわち、GCT部品およびダイオード部品の双方が、厚さの低減による動作損失の低減によって恩恵を受けるのである。
【0006】
欧州特許出願公開第3029737A1号明細書からは、裏面正孔注入型ダイオードが知られている。半導体基板裏面からの正孔注入の効果をより効果的に確保することにより、半導体デバイスの性能は、高められる。半導体基板の主面に形成されるアノードP型層と、半導体基板の裏面に形成される裏面N型層とを含むPN接合の形状をなすダイオードにおいて、裏面P型層は、裏面に形成され、かつ表面P型層は、裏面P型層の直上の周面に形成され、これにより、裏面からの正孔注入の効果が促進される。
【0007】
特開平06-29558A号公報には、静電誘導ダイオードが記載されていて、これは、アノード領域およびカソード領域の一方または双方に静電誘導効果を利用して平面構造を設定することにより、かつ高抵抗層内に寿命分布を設定することにもよって高耐圧を得ることに適する平面構造を有する。アノード側およびカソード側の近傍における寿命は、長く設定され、かつ寿命分布は、これらの領域からの距離が増すにつれて徐々に短く設定される。アノード側およびカソード側から深い位置の寿命は、残留キャリアの低減が加速されるように、比較的短く設定される。したがって、静電誘導短絡の効果に加えて、逆回復電荷量がほとんどなく、かつ逆回復時間が短い高耐圧ダイオードを実現することが可能である。
【0008】
独国特許出願公開第3631136A1号明細書からは、電界電荷抽出(FCE)の概念を実装することによる、すなわち、ダイオードのカソード側にダイオードカソード短絡またはP領域を導入することによる、シリコン層が比較的薄くスナップオフのないダイオードが知られている。これらのP領域は、逆回復期間のテール(終了)段階の間に正孔を注入し、かつ電流をサポートし、よって、GCT動作モードにおけるデバイス性能に大きな影響を与えることなく、ダイオードの動作モードにおけるデバイスのソフトさを高める。しかしながら、GCTモードにおけるデバイスの安全動作領域(SOA)または最大制御可能なターンオフ電流(MCC)ケイパビリティは、FCE設計をn-バッファピークドーピング濃度として有する統合パワーダイオードを備えたRC-IGCTにおいて少ない可能性があり、通常、FCE設計では、ダイオードのカソード短絡がない、またはダイオードカソード側にp領域がない従来のダイオード設計より少ない(<1・1016cm-3)。また、FCE設計を有するこれらの構造では、寄生PNPトランジスタの利得が低バッファドーピングで増加することから、漏洩電流がより高くなる可能性がある。さらに、FCE設計は、デバイスの温度変動に対する感受性がより高い。FCE効果は、より顕著であり、すなわち、P領域からのキャリア注入は、より高い温度でより高くなり、その結果、逆回復損失が増加する。FCE設計の強い温度依存性は、FCE部品の長いテール電流の結果として、Tjmaxおよび室温における技術曲線に大きな差をもたらす。
【0009】
ツクダら著「Dynamic Punch-Through Design of High-Voltage Diode for Suppression of Waveform Oscillation and Switching Loss」 Proceedings of the 21st International Symposium on Power Semiconductor Devices&IC’s,pp.128-131,2009、からは、カソード電極の一部分を覆うように酸化ケイ素領域がn型カソード層内に埋め込まれたパワーダイオード設計が知られている。このようなパワーダイオード設計は、逆回復の間の電流および電圧の揺動を抑制できると記載されている。
【0010】
Pfaffenlehnerら著「Optimization of Diodes using SPEED concept and CIBH」、Proceedings of the 23rd International Symposium on Power Semiconductor Devices&IC’s,pp108-111,2011、には、サージ電流耐久性が改善されたフリーホイーリングダイオードが記載されている。SPEED概念によるこのフリーホイーリングダイオードにおいて、アノードは、低ドープ、pエミッタ領域の内部に位置決めされる高ドープのp領域から成る。低い電流密度において、正孔注入は、主に双方のpドープ領域から生じるが、主にP領域により決定される。しかしながら、SPEED概念を用いるこのダイオードは、デバイス厚さが薄い場合にスナッピーな逆回復を呈し得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
発明の概要
従来技術における上述の欠点に鑑みて、本発明の目的は、広範な温度範囲において導通およびスイッチング損失を低減しながら、高速かつソフトな回復(すなわち、スナッピーでない回復)を呈するパワーダイオードを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的は、請求項1に記載のパワーダイオードによって達成される。請求項1に記載のパワーダイオードは、アノード電極層と、カソード電極層と、アノード電極層とカソード電極層との間に配置される複数のダイオードセルとを備える。アノード電極層からカソード電極層へ向かう方向は、垂直方向を画定する(該垂直方向は、アノード電極層とカソード電極層とを繋ぐ最短線の方向である)。各ダイオードセルは、アノード電極層と直に接触している第1の導電型アノード層と、該第1のアノード層より低いドーピング濃度を有しかつ該第1のアノード層によりアノード電極層から分離されている第1の導電型の第2のアノード層と、該第2のアノード層と共にpn接合を形成する第2の導電型のドリフト層と、カソード電極層と直に接触している第2の導電型のカソード層と、該カソード電極層と直に接触しているカソード側のセグメンテーション層と、を備え、第2の導電型は、第1の導電型とは異なる。ここで、カソード層は、ドリフト層より高いドーピング濃度を有する。カソード側セグメンテーション層の材料は、第1の導電型の半導体または絶縁材料である。カソード側のセグメンテーション層が第1の導電型の半導体である場合、第2の主面と直角を成す方向に沿って集積される集積ドーピング含有量は、2・1013cm-2未満である。第1のアノード層は、垂直方向にアノード電極層から第1の深さまで延在し、かつ第2のアノード層は、垂直方向に第1のアノード層から、第1の深さより大きい第2の深さまで延在する。第3の深さにおける、垂直方向と直角を成す水平平面に沿った各ダイオードセルの水平断面は、各ダイオードセルにおいて、水平平面が第2のアノード層と交差する第1の領域と、水平平面がドリフト層と交差する第2の領域とを含み、第1の深さは、第3の深さより小さく、第3の深さは、第2の深さより小さい。ドリフト層は、例示的に、一定のドーピング濃度を有し得る。ここで、一定のドーピング濃度とは、ドーピング濃度がドリフト層全体に渡って略均一であることを意味するが、製造上の理由から、ドリフト層内でドーピング濃度が1~5倍程度変動する可能性もあり得ることを排除するものではない。
【0013】
本発明のパワーダイオードのこの設計は、アノード側およびカソード側にセグメント化された構造体を有する。具体的には、該設計は、アノード側におけるセグメント化された第2のアノード層と、カソード側のセグメンテーション層によってセグメント化されているカソード層とを有する。本発明のパワーダイオードのセグメント化された構造体は、パワーダイオードの最小厚さに対するパワーダイオードの逆回復を改善する(本明細書を通じて、パワーダイオードの厚さとは、アノード電極層とカソード電極層との最短距離を指すものとする)。逆回復期間のテール(終了)段階の間は正孔の注入に依存するFCEダイオードと比較して、本発明のパワーダイオードの特性は、温度依存性が少ない。ソフトな逆回復挙動(すなわち、図6を参照して後により詳細に説明するような、逆回復中の著しく低減された電圧ピーク)は、FCEダイオードとは逆に、カソード側におけるP領域からのキャリア注入の結果ではなく、セグメント化されていない領域に残る蓄積された電荷の結果である。
【0014】
ある第1の例示的な実施形態では、水平平面と直角を成す少なくとも1つの垂直断面において、隣接するダイオードセルによる各ペアの第2のアノード層は、隣接するダイオードセルによる個々のペアのドリフト層によって互いから横方向へ分離される。本明細書を通じて、ある第1の領域(または層)が第2の領域(または層)から第3の領域(または層)によって分離される場合、これは、第1の領域と第2の領域との間に直接接触はないが、第1の領域から第2の領域まで、第3の領域を介して他の領域を通過することなく連続的経路があることを意味するものとする。
【0015】
この第1の例示的な実施形態では、少なくとも1つの垂直断面において、隣接するダイオードセルによる各ペアのカソード側セグメンテーション層は、隣接するダイオードセルによる個々のペアの第2の導電型のカソード層によって互いから横方向へ分離されてもよい。これにより、パワーダイオードの逆回復をさらに向上させることができる。
【0016】
第1の例示的な実施形態では、少なくとも1つの垂直断面において、隣接するダイオードセルによる各ペアの第2のアノード層間の最短横方向距離Ld1は、0.3・Lp1~Lp1の範囲内であってもよく、Lp1は、隣接するダイオードセルによるペアのうちの各々におけるカソード側セグメンテーション層の最小の横幅である。
【0017】
第1の例示的な実施形態では、少なくとも1つの垂直断面において、隣接するダイオードセルによる各ペアのカソード側セグメンテーション層間の最短横方向距離Ln1は、0.3・W~Wの範囲内であってもよく、Wは、ダイオードセルの垂直厚さである。
【0018】
第1の例示的な実施形態では、少なくとも1つの垂直断面において、カソード側セグメンテーション層の横幅Lp1は、0.3・W~Wの範囲内であってもよく、Wは、ダイオードセルの垂直厚さである。
【0019】
ある第2の例示的な実施形態では、水平平面と直角を成す少なくとも1つの垂直断面において、ドリフト層の一部分は、各ダイオードセル内の第2のアノード層を横方向へ、ドリフト層の該一部分からダイオードセルの縁まで横方向に延在する2つの別個の領域に分離する。
【0020】
この第2の例示的な実施形態では、少なくとも1つの垂直断面において、隣接するダイオードセルによる各ペアのカソード層は、隣接するダイオードセルによる個々のペアのカソード側セグメンテーション層によって互いから横方向へ分離されてもよい。
【0021】
第2の例示的な実施形態では、少なくとも1つの垂直断面において、隣接するダイオードセルによる各ペアの各ダイオードセルにおける第2のアノード層の別個の2領域間の最短横方向距離Ld2は、0.3・Lp2~Lp2の範囲内であってもよく、Lp2は、少なくとも1つの垂直断面における隣接するダイオードセルによるペアのカソード層間の最短横方向距離である。
【0022】
第2の例示的な実施形態では、少なくとも1つの垂直断面において、各ダイオードセルのカソード層の横幅Ln2は、0.3・W~Wの範囲内であってもよく、Wは、ダイオードセルの垂直厚さである。
【0023】
第2の例示的な実施形態では、少なくとも1つの垂直断面において、隣接するダイオードセルによる各ペアの2つのカソード側セグメンテーション層間の最短横方向距離Lp2は、0.3・W~Wの範囲内であってもよく、Wは、ダイオードセルの垂直厚さである。
【0024】
ある例示的な実施形態では、複数のダイオードセルが全て同じ設計または構造を有する。このような例示的実施形態のパワーダイオードにおける対称性は、大部分の均一なデバイス特性を可能にする。
【0025】
ある例示的な実施形態では、パワーダイオードがハニカム構造を有し、各ダイオードセルは、水平断面が六角形の形状を有する。あるいは、各ダイオードセルは、水平断面がストライプ形状であってもよい。
【0026】
ある例示的な実施形態において、パワーダイオードは、第2の導電型バッファ層を備える。バッファ層は、ドリフト層のそれより高く、カソード層のそれより低いドーピング濃度を有する。バッファ層は、カソード電極層から、カソード層により、かつカソード側セグメンテーション層により分離される。バッファ層は、第1のアノード層から、かつ第2のアノード層から、ドリフト層によって分離される。ある例示的な実施形態において、バッファ層のピークドーピング濃度は、1・1016cm-3より高く、または2・1016cm-3より高く、または4・1016cm-3より高い。FCE設計とは逆に、本発明の概念は、バッファ設計とは独立していて、すなわち、バッファのピークドーピングは、FCE設計の場合のように所定の限界未満の値に限定されない。バッファ層のピークドーピングはより高く、本発明のパワーダイオードは、温度変動に対する感受性が低くなる。
【0027】
本発明のパワーダイオードは、逆導通集積化ゲート転流型サイリスタ(RC-IGCT)デバイス内でゲート転流型サイリスタ(GCT)と共に集積されてもよい。ダイオードモードにおけるデバイスのソフトな逆回復挙動は、最小厚さのデバイスで達成される。したがって、デバイスの効率は、ダイオードおよびGCT双方の動作モードにおいて、ソフトな回復挙動を確保しながら向上されることが可能である。
【0028】
図面の簡単な説明
以下、添付の図面を参照して、本発明の詳細な実施形態について説明する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】従来のパワーダイオードのスナップ回復中の電流および電圧の時間依存性を示す図である。
図2】第1、第3および第4の実施形態によるパワーダイオードを示す上面図である。
図3図5の線I-I’に沿った、第1の実施形態によるパワーダイオードに含まれる9つのダイオードセルの水平断面である。
図4図5の線II-II’に沿った、第1の実施形態によるパワーダイオードに含まれる9つのダイオードセルの水平断面である。
図5図3および図4における各々線A-A’、線B-B’および線C-C’のいずれか1つに沿った、第1の実施形態のパワーダイオードを示す垂直断面図である。
図6】第1の実施形態によるパワーダイオードによる、および従来の(セグメント化されていない)パワーダイオードの逆回復期間中の電流および電圧の時間依存性を示す図である。
図7図9の線I-I’に沿った、第2の実施形態によるパワーダイオードを示す水平断面図である。
図8図9の線I-I’に沿った、該第2の実施形態によるパワーダイオードを示す水平断面図である。
図9図7および図8における、各々線E-E’に沿った、第2の実施形態によるパワーダイオードを示す垂直断面図である。
図10図3および図4における各々線A-A’、線B-B’および線C-C’のいずれか1つに沿った、第3の実施形態によるパワーダイオードを示す断面図である。
図11図13の線I-I’に沿った、第4の実施形態によるパワーダイオードに含まれる9つのダイオードセルを示す水平断面図である。
図12図13の線II-II’に沿った、該第4の実施形態によるパワーダイオードに含まれる9つのダイオードセルを示す水平断面図である。
図13図11および図12における各々線A-A’、線B-B’および線C-C’のいずれか1つに沿った、第4の実施形態によるパワーダイオードを示す垂直断面図である。
図14】本発明の一実施形態によるパワーダイオードを含むRC-IGCTを示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図面で用いる参照符号およびそれらの意味は、参照符号リストに纏めている。概して、類似のエレメントは、本明細書を通じて同じ参照符号を有する。記載している実施形態は、例として意図されたものであって、本発明の範囲を限定するものではない。同じ参照数字でも異なる数のダッシュを有する類似の参照符号(たとえば、参照符号100、100’、100’’、100’’’)は、異なる実施形態における類似のエレメント/エンティティを指す。これらの類似する参照符号のうちの1つに関する特徴の記載は、別段の記載のない限り、これらの参照符号により参照される全てのエレメント/エンティティに当てはまるものとする。
【0031】
実施形態の詳細な説明
以下、図2図6を参照して、本発明の第1の実施形態によるパワーダイオード91について説明する(括弧内の参照符号は、後により詳細に論じる他の実施形態に関する)。図2は、パワーダイオード91の上面図を示し、図3は、図5の線I-I’に沿った、パワーダイオード91に含まれる9つのダイオードセル10の水平断面図であり、図4は、図5の線II-II’に沿った、パワーダイオード91に含まれる9つのダイオードセル10の水平断面図であり、図5は、各々図3および図4の線A-A’、線B-B’および線C-C’のうちのいずれか1つに沿った、パワーダイオード91の断面図を示す(パワー半導体デバイス91において、線A-A’に沿った断面は、線B-B’に沿った断面と同じであり、かつ線C-C’に沿った断面とも同じである)。
【0032】
パワーダイオード91は、図5に示すように、第1の主面101と第2の主面102とを有する半導体ウェーハ100を備える。図2から分かるように、半導体ウェーハ100は、横方向をエッジ終端領域5によって囲まれる活性領域を含む。この活性領域内に、パワーダイオード91は、複数のダイオードセル10を備える。エッジ終端領域5へ直に隣接する不完全なセル110を除いて、全てのダイオードセル10は、例示的には6面構造である同一の構造を有してもよい。6面構造は、上面図における(すなわち、垂直方向である、第1の主面101に直交する方向の図における)六角形の外形によって特徴づけられる。6面構造を有するダイオードセル10は、図2に示すように、上面図においてハニカムパターンを形成する。エッジ終端領域5へ直に隣接する不完全なセル110は、エッジ終端領域5へ直に隣接していないダイオードセル10と比較して、ダイオードセル10の6面構造の一部のみを含む異なる構造を有し得る。図3および図4の水平断面図には、各々、同じ6面構造を有する9つの隣接するダイオードセル10が示されている。図2図4において、実線は、隣接するダイオードセル10間の境界を表すが、図3における細い破線は、図5の線I-I’に沿った第1の水平平面K1におけるp型の第2のアノード層45の境界(すなわち、外縁または外周縁)を示し、かつ図4における細い破線は、図5の線II-II’に沿った第2の水平平面K2におけるカソード側セグメンテーション層67の境界を示す。図3および図4に示すように、p型の第2アノード層45の境界およびカソード側セグメンテーション層67の境界は、上面図におけるダイオードセル10の外形に類似する六角形であってもよい。
【0033】
図5は、図3および図4における各々線A-A’、線B-B’および線C-C’のいずれか1つに沿った、近傍の(すなわち、直に隣接する)3つのダイオードセル10を示す断面図である。図5に示すように、パワーダイオード91は、半導体ウェーハ100の第1の主面101上に形成されるアノード電極層20と、半導体ウェーハ100の第2の主面102上に形成されるカソード電極層30とを備える。アノード電極層20およびカソード電極層30は、各ダイオードセル10の少なくとも一部分を覆う。例示的には、アノード電極層20およびカソード電極層30は各々、第1の主面101および第2の主面102上の各々連続するメタライゼーション層として形成されてもよい。したがって、半導体ウェーハ100内のダイオードセル10は、アノード電極層20とカソード電極層30との間に配置される。各ダイオードセル10は、アノード電極層20と直に接触しているp型の第1のアノード層40と、(アノード電極層20からカソード電極層30までの任意の垂直直線に沿って、ここで、垂直方向は、アノード電極20とカソード電極層30とを連結する最短の線に沿ってアノード電極20からカソード電極層30へ向かう方向である)第1のアノード層40によりアノード電極層20から分離される第2のアノード層45と、第2のアノード層45と共にpn接合を形成するn型ドリフト層50と、n型バッファ層65と、カソード電極層30と直に接触しているn型カソード層60と、カソード電極層30と直に接触していて、カソード側セグメンテーション層67と交互するカソード側セグメンテーション層67とを含む。バッファ層65は、第1のアノード層40から、かつ第2のアノード層45からドリフト層50によって分離され、かつバッファ層65は、カソード電極層30からカソード層60およびカソード側セグメンテーション層67によって分離される。第2のアノード層45は、ドリフト層50内のウェル領域であってもよい。
【0034】
第1の実施形態によるパワーダイオード91は、シリコンベースのパワーダイオードであってもよく、すなわち、第1のアノード層40と、第2のアノード層45と、n型ドリフト層50と、n型バッファ層65と、n型カソード層60とを含む半導体ウェーハ100は、シリコン製であってもよい。
【0035】
第1の実施形態によるパワーダイオード91における第1のアノード層40は、複数のダイオードセル10によって共有される連続した層である。該複数のダイオードセル10のうちの全てのダイオードセル10において、第1のアノード層40は、第1の主面101と直角を成す方向に一定の厚さd1を有し得、すなわち、第1のアノード層40は、半導体ウェーハ100の表面101から垂直方向へ第1の深さd1まで延在する。第2のアノード層45は、第1のアノード層40から垂直方向へ第2の深さd2まで延在する。
【0036】
隣接するダイオードセル10の各ペアの第2のアノード層45は、隣接するダイオードセル10の個々のペアのn型ドリフト層50の一部分によって互いから横方向に分離される。より具体的には、各ダイオードセル10の第2のアノード層45は、図3および図5に示すように、ドリフト層50の一部分によって横方向を包囲され、かつダイオードセル10の周縁から分離される。本明細書を通じて、横方向とは、第1の主面101または第2の主面102に対して平行方向を指すものとする。したがって、各ダイオードセル10の第2のアノード層45は、第1の主面101に平行な(または、第2の主面102に平行な)平面上への直交射影におけるドリフト層50の一部分によって横方向を包囲され、かつダイオードセル10の周縁から分離される。したがって、各ダイオードセル10を介する、第3の深さd3において垂直方向と直角を成す第1の水平平面K1に沿った水平断面は、各ダイオードセル10において、第1の水平平面K1が第2のアノード層45と交差する第1の領域と、第1の水平平面K1がドリフト層50と交差する第2の領域とを含み、第3の深さd3は、第1のアノード層40が延在する深さd1と第2のアノード層45が延在する第2の深さd2との間の深さである。
【0037】
図5に示す垂直断面において、隣接するダイオードセル10の各ペアの2つの第2のアノード層45間の最短横方向距離をLd1と称する。パワーダイオード91におけるダイオードセル10の構造または設計の同一性に起因して、ダイオードセル10のアノード層45と該ダイオードセル10の周縁との距離は、Ld1/2であり、かつ図5に示す断面における隣接する2つの第2のアノード層45間の距離Ld1は、直に隣接するダイオードセル10の全てのペアで同じである。
【0038】
したがって、第1のアノード層40と第2のアノード層45とを含むp型領域は、ダイオードセル10の周縁に第1の深さd1を有し、かつダイオードセル10の横方向の中央に第2の深さd2を有し、第2の深さd2は、第1の深さd1より大きい。例示的には、第1の主面101と直角を成す方向における第1のアノード層40の厚さは、2μm~80μmの範囲内であり、すなわち、第1の深さd1は、2μm~80μmの範囲内である。第2のアノード層45の、第1の主面101と直角を成す方向における厚さは、例示的には、50μm~200μmの範囲内であり、すなわち、第2の深さd2と第1の深さd1との差d2-d1は、50μm~200μmの範囲内である。第1のアノード層40は、第1のp型ドーパントの第1のドーピング濃度を含み、かつ第2のアノード層45は、第1のp型ドーパントより低い表面濃度を有する第2のp型ドーパントの第2のドーピング濃度を含む。例示的には、第1のp型ドーパントは、第2のp型ドーパントとは異なり、たとえば、第1のp型ドーパントは、ホウ素(B)であってもよく、かつ第2のp型ドーパントは、アルミニウム(Al)であってもよい。
【0039】
第1のアノード層40のピークドーピング濃度は、第2のアノード層45のピークドーピング濃度より高い。例示的には、第1のアノード層40のピークドーピング濃度は、5・1017cm-3より高く、かつ第2のアノード層45のピークドーピング濃度は、5・1017cm-3より低い。
【0040】
ドリフト層50は、全てのダイオードセル10によって共有され、かつ第1の主面101に平行な平面上への直交射影において、各ダイオードセル10の全領域内に延在し、すなわち、ドリフト層50は、各ダイオードセル10を通って横方向へ延在する。ドリフト層50は、第1の主面101に平行な平面上への直交射影において、第1のアノード層40が第2のアノード層45と重なり合わない領域内で、第1のアノード層40とpn接合を形成する。第1の主面101に平行な平面上への直交射影において、第1のアノード層40が第2のアノード層45と重なり合う領域内では、ドリフト層50は、第2のアノード層45とpn接合を形成する。ドリフト層50の厚さは、パワーダイオードの電圧クラスに依存する。ドリフト層50のドーピング濃度は、比較的低く(例示的には、バッファ層65のような他の層のドーピング濃度より低い)、例示的には、パワーダイオード91の電圧クラスに依存して5・1013cm-3未満である。ドリフト層50は、一定のドーピング濃度を有してもよい。ここで、一定のドーピング濃度とは、ドーピング濃度がドリフト層50全体に渡って略均一であることを意味するが、製造上の理由から、ドリフト層50内でドーピング濃度が1~5倍程度変動する可能性もあり得ることを排除するものではない。バッファ層65のドーピング濃度は、ドリフト層50のそれより高い。例示的には、バッファ層65は、第2の主面102に向かって上昇するドーピング濃度を有してもよい。バッファ層65のピークドーピング濃度は、例示的には1・1016cm-3より高く、例示的には2・1016cm-3より高く、または、より例示的には4・1016cm-3より高い。図4に示すような水平断面において、カソード側セグメンテーション層67は、n型カソード層60により囲まれてダイオードセル10の横方向の中央に位置決めされる。したがって、上面図(水平平面への直交射影)において、第2のアノード層45は、カソード側セグメンテーション層67に完全に重なる。
【0041】
カソード側セグメンテーション層67の材料は、p型半導体、または酸化ケイ素もしくは酸窒化物などの電気絶縁材料のいずれかである。カソード側セグメンテーション層67の材料は、カソード側セグメンテーション層67に隣接する、またはカソード側セグメンテーション層67より上の領域におけるダイオード導通の間のバッファ層65からドリフト領域への電子放出を抑止することができるあらゆる材料であり得る。カソード側セグメンテーション層67の厚さは、高n型ドープカソード層60の厚さより少ない。カソード層60のドーピング濃度は、バッファ層のそれより遙かに高く、たとえば1018cm-3より高くてもよい。
【0042】
電界がバッファに近い最後の電荷を掃き出すにつれて電流の崩壊を緩和するために大きな正孔注入を必要とする既知のFCEダイオード(すなわち、FCEダイオードは、強力なpエミッタを必要とする)とは逆に、本発明のセグメント化されたパワーダイオード91は、カソード側からの正孔注入を必要としない。全く逆に、FCE作用、すなわち大きな正孔注入、は、それが温度依存的であり、かつそれが最も必要とされない高温で最も強い効果を与えることに起因して、望ましくない。セグメンテーション層67が絶縁材料製である場合、正孔注入は存在しない。一方で、カソード側セグメンテーション層67がp型半導体材料製である場合、エミッタ効率は、比較的低いことが望ましい。p型カソード側セグメンテーション層67のエミッタ効率は、基本的に、カソード側セグメンテーション層67のドーピング濃度およびその深さ(すなわち、第2の主面102と直角を成す方向の厚さ)に依存する。カソード側セグメンテーション層67の用量または集積ドーピング含有量(第2の主面102と直角を成す方向に沿って集積される)は、2・1013cm-2未満、または例示的には1・1013cm-2未満、またはより例示的には5・1012cm-2未満である。ここで、ドーピング含有量は、活性化ドーパントを指す。p型用量が低いほど、正孔注入のためのp型カソード側セグメンテーション層67のエミッタ効率は、低くなる。カソードセグメンテーション層67としてのp型材料の使用は、カソードセグメンテーション層67に絶縁材料が使用される場合と比較して、パワーダイオードの製造を容易にし得る。
【0043】
第2のアノード層45と同様に、カソード側セグメンテーション層67もセグメント化される。隣接するダイオードセル10の各ペアのカソード側セグメンテーション層67は、隣接するダイオードセル10の個々のペアのn型カソード層60によって互いから横方向に分離される。より具体的には、図5に示す垂直断面および図4に示す水平断面から分かるように、各ダイオードセル10のカソード側セグメンテーション層67は、n型カソード層60の一部分によって横方向に(すなわち、第1の主面101または第2の主面102に平行な平面への直交射影において)包囲されかつダイオードセル10の周縁から分離される。隣接するダイオードセル10の各ペアの2つのカソード側セグメンテーション層67間の最短横方向距離を、図5に示す垂直断面においてLn1と称する。ダイオードセル10の構造または設計の同一性に起因して、ダイオードセル10のカソード側セグメンテーション層67からそのダイオードセル10の周縁までの距離は、Ln1/2である。ダイオードセル10のカソード側セグメンテーション層67の横幅を、図5に示す垂直断面においてLp1と称する。
【0044】
各ダイオードセルのカソード側セグメンテーション層67の横幅Lp1と、隣接するダイオードセル10の各ペアの2つのカソード側セグメンテーション層67間の最短横方向距離Ln1と、隣接するダイオードセル10の各ペアの第2のp型層45間の最短横方向距離Ld1と、各ダイオードセル10の厚さWn1との間の関係(設計規則)は、以下の通りであってもよい。
【0045】
(i)0.3・Lp1≦Ld1≦Lp1
(ii)0.3・Wn1≦Ln1≦Wn1
(iii)0.3・Wn1≦Lp1≦Wn1
図6には、第1の実施形態によるパワーダイオード91の、および比較として従来のセグメント化されていないパワーダイオード(従来型のPiNダイオード)の逆回復期間中の電流および電圧の時間依存性が示されている。図6のグラフにおける実線は、第1の実施形態によるパワーダイオード91の電流および電圧に対応し、かつ破線は、従来のセグメント化されていないパワーダイオードの電流および電圧に対応する。図6から明らかに分かるように、本発明のパワーダイオード91がソフトな回復挙動を示すのに対して、従来のパワーダイオードは、電圧の顕著な揺動を伴うスナッピーな逆回復挙動を示す。
【0046】
以下、図5および図7図9を参照し、第2の実施形態によるパワーダイオード91’について説明する。第1の実施形態によるパワーダイオード91と第2の実施形態によるパワーダイオード91’との多くの類似性に起因して、第1および第2の実施形態による2つのパワーダイオード91および91’で同じである特徴については、以下、その全てを反復するわけではない。第2の実施形態によるパワーダイオード91’についての記述は、第1の実施形態と第2の実施形態との相違点に焦点を当てているのに対して、他の全ての特徴に関しては、第1の実施形態に関する先の記述を参照されたい。具体的には、諸図面における同一の参照符号は、同じ特性または特徴を有する類似のエレメントを指す。
【0047】
第2の実施形態によるパワーダイオード91’は、パワーダイオード91’の各ダイオードセル10’の水平断面がストライプ形状である点で、第1の実施形態によるパワーダイオード91とは異なる。これは、各々図5および図9の線I-I’に沿った第1の水平断面におけるパワーダイオード91’の3つのダイオードセル10’を示す図7から、および図5および図9の線II-II’に沿った第2の水平断面におけるこれらの3つのダイオードセル10’を示す図8から分かる。図5は、各々図7および図8の線D-D’に沿ったこれらの3つのダイオードセル10’の第1の垂直断面を示す。したがって、図7および図8の線D-D’に沿ったダイオードセル10’の断面は、各々図3および図4の線A-A’、B-B’およびC-C’のうちのいずれか1つに沿ったダイオードセル10の断面と同じように見える。図5では、専ら第2の実施形態に関連する参照符号が括弧に入れて示されている。具体的には、線D-D’に沿ったストライプ形状であるp型の第2のアノード層45’の断面、およびストライプ形状であるカソード側セグメンテーション層67’の断面は、各々図3および図4の線A-A’、B-B’およびC-C’に沿った第2のアノード層45の断面、およびカソード側セグメンテーション層67の断面と同じである。
【0048】
第2の実施形態において、図5にその部分垂直断面が示されている半導体ウェーハ100’は、第1の主面101’’と、第2の主面102’’とを有し、かつ先に述べた半導体ウェーハ100に類似している。これが先に述べた半導体ウェーハ100とは異なる唯一の点は、ダイオードセル10’の先に述べたストライプ形状に起因する、第2のアノード層45’、ドリフト層50’、バッファ層65’、カソード層60’およびカソードセグメンテーション層67’の異なる形状にある。パワーダイオード91と同様に、パワーダイオード91’は、4つ以上のダイオードセル10’を有してもよい。加えて、パワーダイオード91’は、第1の実施形態に関して先に述べたように、エッジ終端領域5と、エッジ終端領域に隣接する不完全なダイオードセル110とを有してもよい。図7および図8の水平断面において、実線は、隣接するダイオードセル10’間の境界を表すが、図7における細い破線は、図5および図9の線I-I’に沿った第1の水平平面K1’における第2のアノード層45’の境界を示し、かつ図8の細い破線は、図5および図9の線II-II’に沿った第2の水平平面K2’におけるカソード側セグメンテーション層67’の境界を示す。上面図において、すなわち垂直方向にと直角を成す平面への直交射影において、ならびに図7および図8に示す第1および第2の水平断面において、第2のアノード層45’およびカソード側セグメンテーション層67’のうちの各々は、ストライプ形状を有する。ストライプ形状である第2のアノード層45’およびストライプ形状であるカソード側セグメンテーション層67’の長手方向軸は、ダイオードセル10’全体に渡り、図7および図8の線E-E’に沿って、すなわち図9の左右方向に、延在する。図7の水平断面において、ドリフト層50’のストライプ形領域は、第2のアノード層45’のストライプ形領域と交互する。同様に、図8に示す水平断面において、カソード層60’のストライプ形領域は、カソードセグメンテーション層67’’のストライプ形領域と交互する。
【0049】
先に述べた第1の実施形態と同様に、図5に示す垂直断面において、隣接するダイオードセル10’(各々図7および図8の線D-D’に平行な方向に隣接している)による各ペアの2つの第2のアノード層45’間の最短横方向距離Ld1、隣接するダイオードセル10’による各ペアの2つのカソード側セグメンテーション層67’間の最短横方向距離Ln1、各々図7および図8の線D-D’に平行な方向における各カソード側セグメンテーション層67’の横幅Lp1、および各ダイオードセル10’の厚さWは、例示的には、先に示した設計規則(i)~(iii)を満たしてもよい。
【0050】
以下、図2図4および図10を参照し、第3の実施形態によるパワーダイオード91’’について説明する。ここで、図3は、図10の線I-I’に沿った(図10の平面K1’’に沿った)パワーダイオード91’’のダイオードセル10’’の水平断面を示し、かつ図4は、図10のII-II’に沿った(すなわち、図10の平面K2’’に沿った)これらのダイオードセル10’’の別の水平断面を示す。第1の実施形態によるパワーダイオード91と第3の実施形態によるパワーダイオード91’’との多くの類似性に起因して、2つのパワーダイオード91および91’’で同じである特徴については、以下、その全てを反復するわけではない。第3の実施形態によるパワーダイオード91’’についての記述は、第1の実施形態と第3の実施形態との相違点に焦点を当てているのに対して、他の全ての特徴に関しては、第1の実施形態に関する先の記述を参照されたい。具体的には、諸図面における同一の参照符号は、同じ特性または特徴を有する類似のエレメントを指す。
【0051】
第3の実施形態のパワーダイオード91’’が、図2図5を参照して先に述べたような第1の実施形態によるパワーダイオード91と異なる唯一の点は、p型の第1のアノード層40’’およびp型の第2のアノード層45’’の形状にある。第3の実施形態において、第1のアノード層40’’は、第2のアノード層45’’内のウェル領域として構成されている。第3の実施形態によるパワーダイオード91’’の上面図は、図2に示す第1の実施形態によるパワーダイオード91の上面図と同じである。図2図3および図4では、専ら第3の実施形態に関連する参照符号が括弧に入れて示されている。図10には、図3および図4の線A-A’、B-B’およびC-C’のいずれか1つに沿ったパワーダイオード91’’の断面が示されている。第1のアノード層40’’および第2のアノード層45’’の変形された形状に起因して、ドリフト層50’’は、第1のアノード層40’’と直に接触せず、第2のアノード層45’’によって第1のアノード層40’’から分離されるという点で、第1の実施形態におけるドリフト層50とは異なる。第3の実施形態において、図10に示す、第1の主面101’’と第2の主面102’’とを有する半導体ウェーハ100’’は、先に述べた半導体ウェーハ100に類似している。これが先に述べた半導体ウェーハ100と異なる唯一の点は、第1のアノード層40’’、第2のアノード層45’’およびドリフト層50’’の構造にある。第1の実施形態におけるドリフト層50に反して、第3の実施形態では、ドリフト層50’’が半導体ウェーハ100’’の第1の主面101’’まで延在する。同様に、第2のアノード層45’’も第1の主面101’’まで延在する。第1の主面101’’上にドリフト層50’’を覆って設けられる絶縁層80は、アノード電極20がドリフト層50’’と直に接触すること、および第2のアノード層45’’と直に接触することを防止する。
【0052】
以下、図2および図11図13を参照し、第4の実施形態によるパワーダイオード91’’’について説明する。第1の実施形態によるパワーダイオード91と第4の実施形態によるパワーダイオード91’’’との多くの類似性に起因して、第1および第4の実施形態による2つのパワーダイオード91および91’’’で同じである特徴については、以下、その全てを反復するわけではない。パワーダイオード91’’’についての記述は、第1の実施形態と第4の実施形態との相違点に焦点を当てているのに対して、他の全ての特徴に関しては、第1の実施形態に関する先の記述を参照されたい。具体的には、諸図面における同一の、または類似する参照符号は、同じ特性または特徴を有する類似のエレメントを指す。
【0053】
図2は、パワーダイオード91’’’を上面図で示している。これは、パワーダイオード91’’’の上面図が、第1の実施形態によるパワーダイオード91の上面図と同じであることを意味する。図11は、図13の線I-I’に沿った(すなわち、図13の水平平面K1’’’に沿った)、パワーダイオード91’’’に含まれる9つのダイオードセル10’’’の第1の水平断面図であり、図12は、図13の線II-II’に沿った(すなわち、図13の水平平面K2’’’に沿った)、パワーダイオード91’’’に含まれる9つのダイオードセル10’’’の第2の水平断面図であり、図13は、各々図11および図12の線A-A’、線B-B’および線C-C’のうちのいずれか1つに沿った、パワーダイオード91の断面図を示す(パワー半導体デバイス91’’’において、図11および図12における線A-A’に沿った断面は、線B-B’に沿った断面と同じであり、かつ線C-C’に沿った断面とも同じである)。
【0054】
パワーダイオード91’’’がパワーダイオード91と異なる点は、第2のアノード層45’’’が、第1の実施形態の場合のように、各ダイオードセル10’’’の横方向の中央には配置されず、垂直方向と直角を成す水平平面への直交射影において、各ダイオードセル10’’’の外側境界に沿って配置されることにある。したがって、図13に示すような第1の水平平面K1’’と直角を成す垂直断面において、ドリフト層50’’’の一部分は、各ダイオードセル10’’’内の第2のアノード層45’’’を横方向へ、各々ドリフト層50’’’の該一部分からダイオードセル10’’’の縁まで横方向に延在する2つの別個の領域に分離する。図11に示す第1の水平断面において、各ダイオードセル10’’’内の先に述べたドリフト層50’’’の部分は、第1の水平平面K1’’’が第2のアノード層45’’’と交差する領域によって囲まれる(第1の水平平面K1’’’がドリフト層50’’’の該部分と交差する)アイランド状の領域である。
【0055】
パワーダイオード91’’’がパワーダイオード91と異なる点は、カソード層60’’’が、第1の実施形態の場合のように各ダイオードセル10’’’の横方向の中央には配置されず、図12に示す水平断面において、および垂直方向と直角を成す水平平面への直交射影において、各ダイオードセル10’’’の外側境界に沿って配置されることにもある。図12に示す水平断面において、各ダイオードセル10’’’内のカソードセグメンテーション層67’’’は、第2の水平平面K2’’’がカソード層60’’’と交差する領域によって囲まれる(第2の水平平面K2’’’がセグメンテーション層67’’’と交差する)アイランド状の領域である。第1の水平平面K1’’’と直角を成す垂直断面において、隣接するダイオードセル10’’’による各ペアのカソード層60’’’は、隣接するダイオードセル10’’’の個々のペアのカソード側セグメンテーション層67’’’によって互いから横方向に分離される。
【0056】
図13に示すような垂直断面において、隣接するダイオードセル10’’’による各ペアの各ダイオードセル10’’’における第2のアノード層45’’’の別個の2領域間の最短横方向距離Ld2は、0.3・Lp2~Lp2の範囲内であり、Lp2は、隣接するダイオードセル10’’’によるペアのカソード層60’’’間の最短横方向距離である。この特徴は、第1の実施形態における上述の設計規則(i)に対応する。
【0057】
また、図13に示すような垂直断面において、各ダイオードセル10’’’のカソード層60’’’の横幅Ln2は、0.3・W~Wの範囲内であり、Wは、ダイオードセル10’’’の垂直厚さである。この特徴は、上述の設計規則(ii)に対応する。
【0058】
最後に、図13に示すような垂直断面において、隣接するダイオードセル10’’’による各ペアの2つのカソード層60’’’間の最短横方向距離Lp2は、0.3・W~Wの範囲内であり、Wは、ダイオードセル10’’’の垂直厚さである。この特徴は、上述の設計規則(iii)に対応する。
【0059】
この第4の実施形態において、図13にその部分垂直断面が示されている半導体ウェーハ100’’’は、第1の主面101’’’と、第2の主面102’’’とを有し、かつ先に述べた半導体ウェーハ100に類似している。これが先に述べた半導体ウェーハ100とは異なる唯一の点は、ダイオードセル10’’’の先に述べた構造に起因する、第2のアノード層45’’’、ドリフト層50’’’、バッファ層65’’’、カソード層60’’’およびカソードセグメンテーション層67’’’の異なる形状および配置にある。
【0060】
図14は、本発明の一実施形態による逆導通集積化ゲート転流型サイリスタ(RC-IGCT)90の上面図を示す。RC-IGCT90は、単一ウェーハにモノリシック集積されたゲート転流型サイリスタ(GCT)93と、(環流ダイオードとして機能する)パワーダイオード910とを備える。ウェーハ内で、GCT93は、パワーダイオード910から分離領域92により分離される。図9に示すように、GCT93は、2つのリング内に配置されてパワーダイオード91’’’を取り囲む複数のGCTフィンガを備える。ウエハの周縁に沿って、RC-IGCTは、図9に示すように、GCT93を制御するためのゲート接点94を有する。RC-IGCTのこのような設計は、当業者に周知である。したがって、GCT93および分離領域92の構造についての詳細な説明は控える。本発明の一実施形態によるRC-IGCT90がこうした周知のRC-IGCTと異なる唯一の点は、パワーダイオード910が、たとえば、上述のパワーダイオード91、91’、91’’または91’’’のうちのいずれか1つについて先に述べたように構成される、エッジ終端領域5のない、本発明によるパワーダイオードであることにある。RC-IGCT90における新規ダイオード設計は、従来のPiNパワーダイオードを還流ダイオードとして有するRC-IGCTの既知の製造方法と比較して、追加のマスクを必要とすることなく製造可能であることに留意されたい。
【0061】
当業者には、添付の特許請求の範囲により定義される本発明の範囲を逸脱することなく、上述の実施形態の変更が可能であることが明らかであろう。
【0062】
パワーダイオードの上述の第1~第3の実施形態では、ダイオードセル10、10’’および10’’’の形状を上面図で六角形であると記述し、かつダイオードセル10’の形状をストライプ形状であると記述した。しかしながら、ダイオードセル10、10’、10’’、10’’’は、上面図における、すなわち、第1の主面101、101’、101’’、101’’’に平行な平面上への水平射影における、正方形または三角形などの他の任意の形状を有してもよい。同様に、パワーダイオード91、91’、91’’、91’’’における第2のアノード層45、45’、45’’、45’’’の外形は、上面図における正方形、三角形、他の任意の多角形または円形などの、六角形またはストライプ形状以外の別の形状を有してもよい。また、第1~第3の実施形態では、ダイオードセル10、10’、10’’、10’’’の外形を上面図において第2のアノード層45、45’、45’’、45’’’の外形と同じ(六角形またはストライプ形状のいずれか)であると記述しているが、本発明のパワーダイオード91、91’、91’’、91’’’におけるダイオードセル10、10’、10’’、10’’’の外形は、上面図における第2のアノード層45、45’、45’’、45’’’の外形と必ずしも同じではない。
【0063】
上述の実施形態では、1つのパワーダイオード91、91’、91’’、91’’’内のダイオードセル10、10’、10’’、10’’’が、RC-IGCT90においてエッジ終端領域5へ直に隣接する、または分離領域92へ隣接する不完全なダイオードセル110を除いて、全て同じ設計を有していた。しかしながら、本発明のパワーダイオードは、複数のダイオードセルの中で2つ以上の異なる設計を有するダイオードセル、たとえば異なるサイズのダイオードセル、を使用してもよい。
【0064】
RC-IGCTでは、ゲート接点94が、GCT93を取り囲むデバイスの周縁に位置決めされるものと記述されている。しかしながら、ゲート接点94は、サイリスタフィンガによる2つのリングの間などの別のロケーションにも位置決めされ得る。また、GCT93も、他の任意の配置のGCTフィンガを有してもよく、かつ具体的には、サイリスタフィンガが配置されるリングも他の任意の数で有してもよい。
【0065】
上述の実施形態では、本発明のパワーダイオードが、第1~第3の実施形態におけるように離散デバイスであるか、RC-IGCTに組み込まれるかのいずれかであるものとして記述されている。しかしながら、本発明のパワーダイオードは、たとえば、環流ダイオード、スナバダイオードおよびクランプダイオードとして絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)およびゲートターンオフサイリスタ(GTO)との組合せ、など、他の任意のパワーデバイスにおいて使用されても、集積されてもよい。
【0066】
上述の実施形態では、本発明のパワーダイオードが、バッファ層を含むものとして、すなわち、パンチスルー(PT)構造を有するものとして記述されている。しかしながら、上述の実施形態は、バッファ層を持たないように、すなわち、非パンチスルー(NPT)構造を有するようにも変更され得る。
【0067】
実施形態は、特定の導電型を用いて説明されている。上述の実施形態の各々において、半導体層の導電型は、p型層として記述されている層が全てn型層となり、かつn型層と記述されている層が全てp型層となるように交換されてもよい。
【0068】
「を備える(comprising)」という用語は、他のエレメントまたはステップを排除するものではないこと、また、単数を意味する不定冠詞(aまたはan)は、複数を排除するものではないことに留意されたい。また、異なる実施形態に関連して記述されているエレメントは、組み合わされてもよい。
【符号の説明】
【0069】
符号の説明
5 エッジ終端
10,10’,10’’,10’’’ ダイオードセル
20 アノード電極層
30 カソード電極層
40,40’’ 第1のアノード層
45,45’,45’’,45’’’ 第2のアノード層
50,50’,50’’,50’’’ ドリフト層
60,60’,60’’’ カソード層
67,67’,67’’’ カソード側セグメンテーション層
80 絶縁層
90 RC-IGCT
91,91′,91’’,91’’’,910 パワーダイオード
92 分離領域
93 ゲート転流型サイリスタ(GCT)
94 ゲート接点
100,100’,100’’,100’’’ 半導体ウェーハ
101,101’,101’’,101’’’ 第1の主面
102,102’,102’’,102’’’ 第2の主面
110 不完全なセル
K1,K1’,K1’’,K1’’’ 第1の水平平面
K2,K2’,K2’’,K2’’’ 第2の水平平面
d1 (隣接する2つのダイオードセルの第2のアノード層間の)最短横方向距離
n1 (隣接する2つのダイオードセルのカソード側セグメンテーション層間の)最短横方向距離
p1 (カソード側セグメンテーション層の)横幅
d2 (第2のアノード層の2つの別個の領域間の)最短横方向距離
n2 (カソード側セグメンテーション層の)横幅
p2 (隣接する2つのダイオードセルのカソード層間の)最短横方向距離
ダイオードセルの垂直厚さ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【国際調査報告】