(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-01
(54)【発明の名称】皮膚病変の治療的処置のための二成分系組成物およびその生成方法
(51)【国際特許分類】
A61L 26/00 20060101AFI20220525BHJP
A61L 33/00 20060101ALI20220525BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20220525BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20220525BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220525BHJP
A61K 49/00 20060101ALI20220525BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20220525BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20220525BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20220525BHJP
A61K 31/192 20060101ALI20220525BHJP
A61K 31/155 20060101ALI20220525BHJP
A61K 33/38 20060101ALI20220525BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20220525BHJP
A61K 8/02 20060101ALI20220525BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20220525BHJP
A61K 8/20 20060101ALI20220525BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20220525BHJP
A61K 8/81 20060101ALI20220525BHJP
A23L 33/10 20160101ALN20220525BHJP
【FI】
A61L26/00
A61L33/00
A61P17/02
A61P17/00
A61P17/00 101
A61K45/00
A61K49/00
A61K9/06
A61K47/32
A61K47/36
A61K31/192
A61K31/155
A61K33/38
A61K47/02
A61K8/02
A61Q19/00
A61K8/20
A61K8/73
A61K8/81
A23L33/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021558968
(86)(22)【出願日】2020-03-26
(85)【翻訳文提出日】2021-11-09
(86)【国際出願番号】 IB2020052851
(87)【国際公開番号】W WO2020201940
(87)【国際公開日】2020-10-08
(31)【優先権主張番号】102019000005004
(32)【優先日】2019-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520366879
【氏名又は名称】ドテク-ソシエテ ア リスポンサビリタ リミタータ
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100086380
【氏名又は名称】吉田 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100103078
【氏名又は名称】田中 達也
(74)【代理人】
【識別番号】100130650
【氏名又は名称】鈴木 泰光
(74)【代理人】
【識別番号】100168099
【氏名又は名称】鈴木 伸太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100168044
【氏名又は名称】小淵 景太
(74)【代理人】
【識別番号】100200609
【氏名又は名称】齊藤 智和
(74)【代理人】
【識別番号】100217467
【氏名又は名称】鶴崎 一磨
(72)【発明者】
【氏名】キアレッリ、ピエロ
【テーマコード(参考)】
4B018
4C076
4C081
4C083
4C084
4C085
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4B018LE06
4B018MD07
4B018MD08
4B018ME14
4B018MF14
4C076AA09
4C076BB31
4C076CC18
4C076CC19
4C076DD23P
4C076EE06A
4C076EE09
4C076EE36
4C076EE36P
4C076EE37
4C076FF68
4C081AA07
4C081AA12
4C081BA12
4C081BA14
4C081BA17
4C081BB07
4C081BC02
4C081CA051
4C081CC05
4C081CD042
4C081CD082
4C081CE01
4C081CE02
4C081CE03
4C081CF23
4C081DA12
4C083AB331
4C083AB332
4C083AC741
4C083AC742
4C083AD091
4C083AD092
4C083AD301
4C083AD302
4C083AD331
4C083AD332
4C083CC02
4C083DD41
4C083EE12
4C084AA17
4C084MA28
4C084MA63
4C084NA10
4C084ZA532
4C084ZA891
4C084ZA892
4C084ZB112
4C084ZB212
4C084ZB352
4C085HH11
4C085JJ12
4C085KA27
4C085KB68
4C085KB79
4C085LL20
4C086AA01
4C086AA02
4C086HA01
4C086HA24
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA28
4C086MA63
4C086ZB35
4C206AA01
4C206AA02
4C206HA31
4C206MA03
4C206MA05
4C206MA48
4C206MA83
4C206NA10
4C206ZA89
4C206ZA90
4C206ZB11
(57)【要約】
一般に皮膚病変、ならびに創傷、熱傷、床痛、潰瘍の治療的処置のための、2つの成分からなる二成分系組成物であって、第1の成分は水性ゲルの形態であり、架橋剤と呼ばれる第2の成分は水溶液の形態であり、前記第1の成分は、少なくとも1種の生体適合性ポリマー、少なくとも1種のポリ酸またはその塩からなり、少なくとも1種の保存物質、少なくとも1種の薬理学的に活性な物質が存在し得ること、ならびに前記第2の成分は、塩化カルシウム、塩化マグネシウムおよび塩化亜鉛を含む生理食塩水からなること、使用方法が、患者の皮膚上への粘性流体状態の水性ゲルの形態での第1の成分の事前の塗布を含み、その後にのみ、水溶液形態の第2の成分で噴霧され、ゴム様の稠度を有するフィルムの生体上形成をもたらすこと、ならびに前記ゴム様のフィルムが、皮膚を水で洗うことで除去され得ることを特徴とする二成分系組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚病変の治療的処置のための二成分系組成物であって、第1の成分が水性ゲル形態であり、架橋剤と呼ばれる第2の成分が水溶液形態である2つの成分で構成されること、前記第1の成分が少なくとも1種のポリ酸またはその1種の塩による少なくとも1種の生体適合性ポリマーで構成されること、および少なくとも1種の保存物質が少なくとも1種の薬理学的に活性な物質と同様に存在することができること、および前記第2の成分が、カチオンが二価、三価またはより高い価数である生理食塩水で構成されることを特徴とする二成分系組成物。
【請求項2】
前記第1の成分中に存在する化合物が、前記生体適合性ポリマーが前記第1の成分に対して0.001~30%w/wの間、好ましくは1%~10%w/wの間の濃度を有するポリビニルアルコールであること、および10~1,000,000の範囲に含まれる分子量、より好ましくは10,000を超える分子量を有することを特徴とし、前記ポリ酸が、それ自体で、または関連して使用されるポリアクリル酸およびアルギン酸ナトリウムによって表され、10~5,000,000の間、好ましくは400,000に等しい分子量を有する前記ポリアクリル酸が、前記第1の成分に対して0.01~10%w/w、より好ましくは2~4%w/wの濃度で存在し、アルギン酸ナトリウムは、前記第1の成分に対して0~5%w/wの間に含まれる、好ましくは1.5%w/wに等しい濃度で存在し、粘度は20℃で50~2000cpの範囲であることを特徴とし、皮膚科学的使用のための抗生物質が、前記第1の成分に対して0.01~70%w/wの間、より好ましくは0.5~30%w/wの間に含まれる濃度を有する前述の薬学的に活性な分子に属し、前記抗生物質は、メトロニダゾール、安息香酸メトロニダゾール、ニトロイミダゾールのファミリーに属する任意の抗生物質、ドキシサイクリン、テトラサイクリンのファミリーに属する任意の抗生物質、クラブラン酸にも関連するアモキシシリン、およびペニシリンのファミリーに属する任意の抗生物質、リファキシミン、およびリファマイシンのファミリーに属する任意の抗生物質、ネオマイシン、ムピロシン、およびそれらの任意の組み合わせで構成される群から選択されることを特徴とし、消毒剤が、前記第1の成分に対して0.0001~10%w/wの間、より好ましくは0.002~4%w/wの間に含まれる濃度を有する前述の薬学的に活性な分子に属し、前記消毒剤は、グルコン酸クロルヘキシジン、ヨウ素、銀イオン、およびそれらの任意の組み合わせを含む群から選択されることを特徴とし、抗炎症剤が、前記第1の成分に対して0.001~30%w/wの間、より好ましくは0.5~10%w/wの間に含まれる濃度を有する前述の薬学的に活性な分子に属し、前記抗炎症剤は、アセチルサリチル酸および/またはフルルビプロフェンおよびそれらの任意の組み合わせを含む群から選択されることを特徴とし、組織再生因子が、前記第1の成分に対して0.001~30%w/w、より好ましくは0.01~2%w/wの間に含まれる濃度を有する前述の薬学的に活性な分子に属し、前記組織再生因子はヒアルロン酸であることを特徴とし、再生因子が、ヒアルロン酸および/またはそのナトリウム塩、レチノール、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビオチン、リノール酸、アラキドン酸、コエンザイムQ10、酸素、酸素化水、または酸素を発生する他の化合物およびそれらの任意の組み合わせを含む群から選択される前述の薬学的に活性な分子に属することを特徴とし、局所凝固因子が、前記第1の成分に対して0.001~4%w/w、より好ましくは0.2~2%w/wの間に含まれる濃度を有する前述の薬学的に活性な分子に属し、前記局所凝固因子は、ビタミンK、プロタミン、フィブリノーゲン、プロトロンビン、カルシウム、プロアクセレリン、アクセレリン、プロコンベルチン、抗血友病A因子、クリスマス因子、組織III因子、スチュアートパワー因子、トロンボプラスチンの血漿前駆体、ハーゲマン因子、フィブリン安定化因子、またはそれらの任意の1つの組み合わせを含む群から選択されることを特徴とし、最終的に、前述の保存化合物が、パラベンのクラス、またはパラオキシ安息香酸プロピルおよびパラオキシ安息香酸メチルの群、またはそれらの任意の組み合わせに属するものを含む群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の二成分系組成物。
【請求項3】
前記第2の成分が、前記カチオンが二価、三価またはより高い価数である生理食塩水によって構成されること、前記塩が、塩化物、ヨウ化物を含む群から選択されること、最後に、前記塩が、0.001モルと溶液飽和濃度との間に含まれる濃度の塩化カルシウム、塩化マグネシウムおよび塩化亜鉛を含む群から選択されることを特徴とする、請求項1または2に記載の二成分系組成物。
【請求項4】
前記第1の成分において、細菌株の検出のために少なくとも1種の蛍光物質が存在し、そのような蛍光物質は、緑色蛍光タンパク質(GFP)、フルオレセイン、ジクロロフルオレセイン、Dylight Fluor、またはそれらの組み合わせを含む群から選択されること、ならびに、前記第1の成分において、少なくとも1種の比色指示薬が、pH値、ゲルフィルム内の酸化還元特性、塩分、酸化還元活性および溶存ガスを示すために存在し、そのような指示薬は、ブロモチモールブルー、チモールブルー、メチルバイオレット、ベーシックバイオレット3、メチルイエロー、メチルオレンジ、ブロモフェノールブルー、ブロモクレゾールグリーン、メチルレッド、フェノールレッド、クレゾールレッド、1-ナフトールフタレイン、フェノールフタレイン、チモールフタレイン、ブロモクレゾールバイオレット、トリニトロトルエン、フェロイン、N-フェニルアントラニル酸、ナフチルブラック、2,2’-ビピリジン(Ruとの複合体)、ニトロフェナントロリン
(Feとの複合体)、N-フェニルアントラニル酸、1,10-フェナントロリン(Feとの複合体)、N-エトキシクリソイジン、2,2’-(Feとの複合体)、5,6-ジ
メチルフェナントロリン(Feと複合体)、o-ジアニシジン、ジフェニルアミンスルホン酸ナトリウム、ジフェニルベンジジン、ジフェニルアミン、ビオロゲン、2,6-ジブロモフェノール-インドフェノール、o-クレゾール-インドフェノール、チオニン(または「ラウトバイオレット」)、メチレンブルー、インジゴテトラスルホン酸、インジゴトリスルホン酸、カーマインインジゴ(インジゴスルホン酸)、インジゴモノスルホン酸、フェノサフラニン酸、サフラニンT、ベーシックレッド5、またはそれらの任意の組み合わせを含む群から選択されることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の二成分系組成物。
【請求項5】
皮膚または粘膜と接触している前記系が、温度、前記pH値、イオン濃度、生理食塩水濃度、酸素濃度、組織内の酸素の灌流、二酸化炭素の濃度またはそれらの任意の組み合わせを検出するための少なくとも1つのデバイスの支持体として機能することを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の二成分系組成物。
【請求項6】
動物およびヒトにおける一般的な皮膚病変、ならびに創傷、熱傷、褥瘡性潰瘍および潰瘍の治療的処置のために使用されること、使用方法が、患者の皮膚上への粘性流体状態の水性ゲルの形態での前記第1の成分の事前の塗布を含むこと、その後にのみ、前記塗布された第1の成分が水溶液形態の前記第2の成分で噴霧され、ゴム様の稠度を有するフィルムの生体上形成を誘発すること、ならびに前記ゴム様のフィルムが、水で前記皮膚を洗浄することによって除去され得ることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の二成分系組成物。
【請求項7】
前記ゴム様の稠度を有するフィルムが、一旦形成されると10ミクロン未満の多孔度を有すること、1,000,000ニュートン/平方メートル超の剪断弾性率を有すること、および100%以上の破断伸びを有することを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の二成分系組成物。
【請求項8】
前記フィルムが生体接着活性を行うこと、前記生体接着プロセスが、輸送された活性成分が作用部位または吸収部位と長期間密接に接触したままであることを可能にし、前記活性成分自体の薬物動態プロファイルの改善を得ること、ならびに細菌および胞子の通過を防止し、酸素、二酸化炭素、窒素および水蒸気等のガスを透過させる水不透過性バリアが達成されることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の二成分系組成物。
【請求項9】
前記第1の成分の構成成分の中に、化粧品用途、栄養補助食品用途および微量栄養素、特に組織再生プロセスを補助するための物質が含まれることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の二成分系組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の二成分系組成物を生成する方法および塗布する方法であって、
(i)ポリビニルアルコールを均一な溶液が得られるまで撹拌しながら室温の水に溶解し、次いでその後ヒアルロン酸、ポリアクリル酸、アルギン酸ナトリウム、塩化銀、グルコン酸クロルヘキシジンおよびアセチルサリチル酸を添加することにより第1の成分を調製する段階と;
(ii)塩化カルシウムを室温の水に溶解することにより第2の成分を調製する段階と
を含み、前記第1の成分が皮膚病変に塗布され、次いで、噴霧ネブライザによって前記第2の成分の塩化カルシウムが噴霧されることを特徴とする方法。
【請求項11】
前記系が、センサを挿入するために使用され、均一な溶液を得るまで撹拌しながらポリビニルアルコールを室温の水に溶解し、次いでその後ポリアクリル酸を添加し、溶液を撹拌することによって、均一な溶液を得るまでポリアクリル酸も溶解することにより塩基成分を調製することを含み、温度および酸素センサが前記最終的な均一な溶液に挿入および配置され、これが脱水塩の存在下、40°Cのオーブン内で24時間乾燥される、請求項1~10のいずれか一項に記載の二成分系組成物を生成する方法および塗布する方法であって、前記センサを含む最終ゴム様フィルムが80℃で一時間架橋され、こうして得られた固体弾性フィルムが、接着剤として第1の成分を使用して創傷または縫合の上方および周囲の皮膚または粘膜に接着され、次いで第2の成分の塩化カルシウムが噴霧ネブライザを使用して塗布されることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の特許出願は、一般に医療健康部門に関し、より具体的には皮膚科学、外科手術および心臓外科手術の分野に関する。より具体的には、本発明は、皮膚または真皮の損傷、ならびに熱傷および偶発的原因に起因する感染症の予防および処置、長期の入院ならびに/または外科縫合の治癒のための治療的処置の分野に含まれる。
【背景技術】
【0002】
知られているように、病理学的事象、外傷性事象または環境事象によって引き起こされる皮膚表面の任意の変化は、皮膚病変と呼ばれる。
【0003】
無傷の皮膚には、「常在細菌叢」として定義される多数の細菌種が定着しており、これは、自身を植え込もうとする他の細菌種に対して競合作用を示す。ほとんどの場合、皮膚病変は治癒に向かって急速な経過を示すが、一部の患者では、医療および介護にもかかわらず、経過は特に長く複雑であり、必ずしも治癒に進展しない。広範囲の外科縫合および熱傷等の創傷の場合、大量の細菌汚染の存在は、患者の健康を損ない、極端な場合には敗血症による死に至らしめる可能性がある。その結果、これらの傷害は、身体的および精神的健康、より一般的には患者の生活の質に悪影響を及ぼし、長期の入院、組織的および経済的な面の両方で健康系への影響を有する重要な資源の消費を引き起こす。
【0004】
慢性皮膚病変の感染のリスクは、宿主の耐性および細菌の特徴、負荷および病原性に関連する。実際には、すべての皮膚病変が汚染されているが、この状態は、治癒過程が容易な非複製または成長低下微生物の存在を特徴とする。しかしながら、それらは、宿主がもはや攻撃因子と防御因子との間のバランスを維持することができない場合により速く複製する傾向があり、治癒過程の明らかな遅延を伴う病変の拡大を引き起こす細菌負荷の増加を特徴とする連続段階に移行する可能性がある。最後に、強力な細胞複製および細胞修復プロセスの遮断を特徴とする感染状態に達し得る。この場合、結果として患者の脱水を伴う体液の大量損失であっても、臨床像を悪化させる合併症であり、回避されなければならない。床擦れの場合、組織の圧縮はそれらの正常な生理学を妨げ、経時的に壊死を引き起こす。この場合、組織の再増殖を刺激し、その最適な水和状態を維持する因子の局所投与を関連付けることが重要である。
【0005】
創傷治癒を補助するための現在の技術は、本質的に創傷自体を包帯で覆うことからなり、これは、細菌汚染を防ぐことを目的として、汚染、ならびに薬剤、消毒剤および抗生物質の定期的な追加の両方のために交換を必要とすることが多い。しかしながら、包帯の使用は、患者にとってしばしば困難で痛みを伴い、除去しなければならないという欠点を有し、痛みならびに場合によっては刺激および患者の損傷の悪化を引き起こす。床擦れの場合、シーツまたは衣類への接着は、同様の理由で、深刻な問題を発生させる可能性があり、クリームの塗布は、包帯から機械的に除去されるときに極めて頻繁に繰り返されなければならない。
【0006】
一般に、創傷を効果的に処置するためには、まず、組織の湿度を維持し、流体の過剰な損失を回避し、酸素および二酸化炭素等のガスの交換を可能にするために、外部から効率的なバリアを形成することが必要である。したがって、細菌の侵入ならびに消毒剤、抗炎症剤、抗生物質および/または組織の再増殖を刺激する因子もしくは凝固因子の持続的かつ連続的な放出を防止するためのバリアの静菌および生体接着作用の生成は、同じ病変の治癒に適した状態を維持するための基本的な条件である。別の必要性は、創傷治癒状態または感染の発症を検出するためのセンサおよび指示薬を内部に収容することができる良好な機械的および弾性的特徴を有するバリアを有することにある。
【0007】
最後に、皮膚病変の処置におけるさらなる特徴は、非粘着性の外面を有し、高い抵抗性を有し、容易に除去可能な良好な耐久性のバリアを形成することである。現在市販されている製品のこれらおよび他の欠点を克服するために、本発明者らは、ガス透過性および通気性の安定した弾性フィルムを生体上(in situ)で形成することを特徴とする、皮膚科学、外科手術および心臓手術における臨床使用のための組み合わせ製品を提供した。
【0008】
本発明の別の目的は、組織の脱水を回避して体液を収容することができ、水による簡単な洗浄によって容易に除去可能な皮膚科学的使用のための系を提供することである。
【0009】
より具体的な目的は、ヒトまたは動物の生物において局所的または全身的な効果を発揮することができる活性成分分子を経時的に放出することができる、皮膚科学的使用のための生体接着系を提供することである。特に、本発明の目的は、厳密には、消毒剤、抗炎症剤、再増殖因子、凝固因子、抗生物質等の薬理学的に活性な物質を放出することである。
【0010】
本発明の他の利点は、以下に示される非限定的な例として提供されるその実施形態の詳細な説明から明らかになるであろう。
【発明の概要】
【0011】
工業的発明のための本特許出願は、ベースゲルと呼ばれる水性ゲルの形態の第1の成分、および生理食塩水の形態の架橋成分と呼ばれる第2の成分からなる、一般に皮膚病変、ならびに創傷、熱傷、床擦れ、潰瘍等の治療的処置のための生体接着系を形成する二成分系組成物を開示し、且つ、権利請求するものである。
【0012】
より具体的には、前記第1の成分は、生体適合性ポリマー、ポリ酸またはその塩、ならびに少なくとも1種の消毒剤および1種以上の薬理学的に活性な物質、ならびに消毒剤、抗炎症剤、再増殖因子、凝固因子、および水溶液中で皮膚科学的に使用するための抗生物質の混合物からなる。一方、前記第2の成分は、二価、三価または多価カチオンの塩の水溶液からなる。
【0013】
前記本発明の二成分系組成物の臨床使用に関して、これは、無菌状態を必要とする患者の皮膚へのその予防的塗布、ならびに汚れの断片からの細菌感染および/または損傷からの保護を含み、したがってそれを均等に覆い、その形状および罹患身体部位に適合することが報告されなければならない。その後にのみ、流体粘性状態で存在する前記水性ゲルに、水溶液の形態の第2の成分が噴霧され、本発明のゴム様フィルムの生体上形成を誘導する。一旦形成された前記本発明のフィルムは、10ミクロン未満の多孔度を有し、細菌および胞子の通過を防止するバリアを形成し、酸素、二酸化炭素、窒素および水蒸気等のガスを通過させ、水分を保持しながらその蒸散を可能にし、剪断弾性率が1,000,000ニュートン/平方メートル超であり、破断伸びが100%以上である。
【0014】
本発明によるこの解決策は、前記ゴム様ゲルフィルムが有利には様々な作用を実行することができるという点で、最適な妥協点を構成する。
【0015】
ポリマーの接着プロセスは、実際には、病変の表面と生体接着系のポリマー鎖との間の密接な接触の形成、特に粘膜の表面または露出した皮膚表面の脱水、続いてこれらの2つの表面間の架橋された二次化学結合、ならびに水素結合の形成を含む。
【0016】
第1に、この状況は、塗布領域における生体接着作用と組み合わせて、細菌および汚れの断片の浸潤を妨げる保護的かつ静菌的なバリア作用を形成する。
【0017】
このすべてに対して、粘膜付着プロセスは、運ばれた薬物が作用部位または吸収部位と長時間密接に接触したままであることを可能にし、活性物質の薬物動態学的プロファイルの改善をもたらし、その結果、治療のより高い有効性および副作用の可能性の低減をもたらす。
【0018】
フィルムを形成するこの発明的手段は、フィルムが任意の身体部位に完全に適合することを可能にし、容易かつ連続的にその機能を果たすことを可能にすることも強調されるべきである。
【0019】
さらに、ポリビニルアルコールの存在は、得られるフィルムの弾性、ゴム様の固体性(伸長および応力に対する強い耐性を有する)ならびに接着特性を与え、これは介入部位の密封作用および細菌侵入からの保護を可能にし、大きな応力に対する耐性を可能にし、また外部の包帯に対する抗接着特性を示す。
【0020】
本発明によるさらなる基本的な態様は、これまでに説明したすべての技術的解決策と並行するが、本発明の実施に特に関連して、創傷環境が動的であり、治療薬を適切な時期に投与することによって治癒率を改善することができるという事実から始まる。したがって、このアプローチは、創傷環境のリアルタイムの監視を必要とし、これは常に前記フィルムの生体接着作用に関連し得る。実際に、詳細な説明に見られるように、前記二成分系組成物は、センサおよび化学的指標のための実際の支持体として機能し、創傷の状態をリアルタイムで監視し、その特定の瞬間の適切な応答を可能にすることができる。
【0021】
本発明の他の特徴は、様々な従属請求項によって保護される、その1つ以上の特定の実施形態の以下の詳細な説明に記載される。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に説明する生成方法も参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0023】
本発明の第1の態様は、皮膚病変ならびに創傷、熱傷、床擦れ、潰瘍の治療的処置のための前記二成分系組成物が、水性ゲルの形態の第1の成分および水溶液の形態の第2の成分の2つの成分からなることからなる。
【0024】
より具体的には、前記第1の成分は、少なくとも1種の生体適合性ポリマー、少なくとも1種のポリ酸またはその塩、ならびに1種以上の保存剤および薬理学的に活性な物質で構成される。耐性フィルムの形成を保証することができ、良好な弾性を有し、ガス、ならびに酸素および二酸化炭素の通過に十分な多孔度を有するが、細菌の通過を防止する効果的な系を得るための最適濃度の値もまた、以下に報告される。
【0025】
詳細には、本発明の好ましい実施形態は、生体適合性ポリマーがポリビニルアルコールであり、前記第1の成分に対して0.001~30%w/wの間、好ましくは1%~10%w/wの間の濃度で、10~1,000,000の範囲内の分子量、より好ましくは10,000超の分子量を有することを特徴とする。
【0026】
ポリ酸に関する限り、これは、単独でまたは関連して摂取されるポリアクリル酸およびアルギン酸ナトリウムによって表され、10~5,000,000の間、好ましくは400,000に等しい分子量を有する前記ポリアクリル酸は、前記第1の成分に対して0.01~10%w/wの間、より好ましくは2~4%w/wの間の濃度で存在し、アルギン酸ナトリウムは、前記第1の成分に対して0~5%w/wの間に含まれる、好ましくは1.5%w/wに等しい濃度で存在し、粘度は20℃で50~2000cpの範囲内である。
【0027】
第1の本発明の化合物中に存在する薬学的に活性な分子および保存剤に関する限り、これらは多様であり、以下に特定されるように、これらは様々な医薬カテゴリーに属する。
【0028】
特に、本発明の好ましい実施形態は、皮膚科学的使用のための抗生物質が、メトロニダゾール、安息香酸メトロニダゾール、ニトロイミダゾールファミリーに属する任意の抗生物質、ドキシサイクリン、テトラサイクリンファミリーに属する任意の抗生物質、クラブロン酸とも関連するアモキシシリンおよびペニシリンファミリーに属する任意の抗生物質、リファキシミンおよびリファマイシンファミリーに属する任意の抗生物質、ネオマイシン、ムピロシンおよびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択され、前記第1の成分に対する抗生物質の濃度は0.01~70%w/wの間、より好ましくは0.5~30%w/wの間に含まれることを提供する。
【0029】
前記好ましい実施形態において、消毒剤は、前記第1の成分に対して0.0001~10%w/wの間、より好ましくは0.002~4%w/wの間に含まれる濃度の、グルコン酸クロルヘキシジン、ヨウ素、銀イオンおよびそれらの任意の組み合わせを含む群から選択される。
【0030】
前記好ましい実施形態において、抗炎症剤は、前記第1の成分に対して0.001~30%w/wの間、より好ましくは0.5~10%w/wの間に含まれる濃度の、アセチルサリチル酸および/またはフルルビプロフェンならびにそれらの任意の組み合わせを含む群から選択される。
【0031】
前記好ましい実施形態において、組織の再生因子は、前記第1の成分に対して0.001~30%w/wの間、より好ましくは0.01~2%w/wの間に含まれる濃度のヒアルロン酸である。
【0032】
前記好ましい実施形態において、前記第1の成分に含まれる再生因子は、ヒアルロン酸および/もしくはそのナトリウム塩、レチノール、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビオチン、リノール酸、アラキドン酸、コエンザイムQ10、酸素、過酸化水素、または他の酸素生成化合物およびそれらの任意の組み合わせを含む群から選択される。
【0033】
前記好ましい実施形態において、局所凝固因子は、前記第1の成分に対して0.001~4%w/wの間、より好ましくは0.2~2%w/wの間に含まれる濃度の、ビタミンK、プロタミン、フィブリノーゲン、プロトロンビン、カルシウム、プロアクセレリン、アクセレリン、プロコンベルチン、抗血友病A因子、クリスマス因子、組織III因子、スチュアートパワー因子、トロンボプラスチンの血漿前駆体、ハーゲマン因子、フィブリン安定化因子、またはそれらの任意の組み合わせを含む群から選択さる。
【0034】
前記好ましい実施形態において、第1の成分は、パラベンクラスのメンバーを含む群、またはパラオキシ安息香酸プロピルおよびパラオキシ安息香酸メチルの群、またはそれらの任意の組み合わせから選択される消毒剤を含む。
【0035】
代わりに、前述の好ましい実施形態において存在する前記第2の成分に関して、これは、カチオンが二価、三価またはより高い価数である生理食塩水によって構成され、前記塩は、塩化物、ヨウ化物を含む群から選択され、好ましくは、前記塩は、0.001モルと溶液飽和濃度との間に含まれる濃度の塩化カルシウム、塩化マグネシウムおよび塩化亜鉛を含む群から選択される。
【0036】
非限定的な例として、本発明による特に好ましい組成物は、約2%w/wの濃度の約90,000の分子量を有するポリビニルアルコール、約2%w/wの濃度のアルギン酸ナトリウム、約1%w/wの濃度の銀イオンおよび/または約2~4%の濃度のグルコン酸クロルヘキシジンおよび約5%w/wの濃度のフルルビプロフェンの水溶液中の混合物の形態の第1の成分の存在によって構成され、好ましくは0.001~10Mの間に含まれる濃度の塩化カルシウムの食塩水溶液の形態の第2の成分の存在からなる。
【0037】
しかしながら、これまで、薬学的に活性な物質が第1の成分中の構成成分の中に含まれる場合が考慮されてきたが、これは、特に組織再生プロセスを補助するために前記本発明の治療系が化粧品、栄養補助食品用途および微量栄養素のための物質を含有することもできるので、本発明にとって限定的であると見なされるべきではない。したがって、本発明の放出系の適用分野は、医療、医薬、化粧品および薬用化粧品(治療目的のための化粧品)ならびに栄養補助食品分野である。既に上述したように、皮膚病変の動的環境を検出するためのアプローチは、化学的、物理的または生物学的センサ、ならびに温度、pH値、細菌負荷値等のためのセンサの存在を必要とする。この状況は、前記本発明の二成分系組成物が、以下に指定されるように、一般的な化学的、物理的または生物学的センサおよび指示薬の支持体として統合または機能することを可能にすることによって実施される。
【0038】
この目的のために、前記本発明の系が、温度、pH値、イオン濃度、生理食塩水濃度、酸素濃度、組織内の酸素の灌流、二酸化炭素の濃度またはそれらの任意の組み合わせを検出するための少なくとも1つのデバイスの支持体として機能する可能性が想定される。さらに上記に照らして、前記第1の本発明の成分の組成において、緑色蛍光タンパク質(GFP)、フルオレセイン、ジクロロフルオレセイン、Dylight Fluor、またはそれらの組み合わせを含む群から選択される、細菌株を検出するための蛍光物質の存在が提供される。
【0039】
今述べられた概念の範囲内の別の特徴は、前記本発明の系が、第1の成分の組成内における、pH値、酸化還元特性、塩分、酸化還元活性および溶存ガスを示すための皮膚病変の状態の比色指示薬の存在を提供することであり、そのような指示薬は、ブロモチモールブルー、チモールブルー、メチルバイオレット、ベーシックバイオレット3、メチルイエロー、メチルオレンジ、ブロモフェノールブルー、ブロモクレゾールグリーン、メチルレッド、フェノールレッド、クレゾールレッド、1-ナフトールフタレイン、フェノールフタレイン、チモールフタレイン、ブロモクレゾールバイオレット、トリニトロトルエン、フェロイン、N-フェニルアントラニル酸、ナフチルブラック、2,2’-ビピリジン(
Ruとの複合体)、ニトロフェナントロリン(Feとの複合体)、N-フェニルアントラニル酸、1,10-フェナントロリン(Feとの複合体)、N-エトキシクリソイジン、2,2’-(Feとの複合体)、5,6-ジメチルフェナントロリン(Feと複合体)、
o-ジアニシジン、ジフェニルアミンスルホン酸ナトリウム、ジフェニルベンジジン、ジフェニルアミン、ビオロゲン、2,6-ジブロモフェノール-インドフェノール、o-クレゾール-インドフェノール、チオニン(または「ラウトバイオレット」)、メチレンブルー、インジゴテトラスルホン酸、インジゴトリスルホン酸、カーマインインジゴ(インジゴスルホン酸)、インジゴモノスルホン酸、フェノサフラニン酸、サフラニンT、ベーシックレッド5、またはそれらの任意の組み合わせを含む群から選択される。
【0040】
第2の態様において、本発明は、上記の好ましい組成物を生成する方法に関する。しかしながら、本発明による生成物の調製、特性評価および使用に関する以下の実施例は、例示のみを目的として提供されており、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲を決して限定することを意図するものではない。
【実施例1】
【0041】
<調製>
分子量90,000のポリビニルアルコールを4%w/wの濃度で水に溶解することにより、ベースゲル(第1の成分)を得た。均質な溶液が得られるまで溶液を撹拌し、その後、ヒアルロン酸を0.5%w/wの濃度で、フルルビプロフェンを5%w/wの濃度で、および高分子量アルギン酸ナトリウムを2%w/wの濃度で添加した。最後に、塩化銀を1%w/wの濃度で全体に添加し、グルコン酸クロルヘキシジンを2%w/wの濃度で添加した。生理食塩水は、1モルの塩化カルシウムの水溶液からなる。
【実施例2】
【0042】
<塗布>
実施例1に従って調製したゲルを皮膚病変に塗布し、次いで、実施例1に従って調製した塩化カルシウムを噴霧ネブライザによって噴霧した。
【実施例3】
【0043】
<弾性フィルムの特性評価>
実施例1に記載の方法で得られたゴム様フィルムを、その中に含まれるフルルビプロフェン、銀イオン、グルコン酸クロルヘキシジンおよびヒアルロン酸の弾性および放出能力により特性評価する。ゲル試料の弾性破断伸びの測定を行ったところ、100%を超えていた。フルルビプロフェン、銀イオンおよびヒアルロン酸の放出は7日より長かった。
【実施例4】
【0044】
<代替調製>
分子量90,000のポリビニルアルコールを4%w/wの濃度で水に溶解することにより、ベースゲル(第1の成分)を得た。均質な溶液が得られるまで溶液を撹拌し、その後、ヒアルロン酸を0.5%w/wの濃度で、ポリアクリル酸を0.5%w/wの濃度で、4,000cpの比粘度のアルギン酸ナトリウムを1.5%w/wの濃度で添加した。最後に、塩化銀を1%w/wの濃度で、グルコン酸クロルヘキシジンを2%w/wの濃度で、およびアセチルサリチル酸を10%w/wの濃度で全体に添加した。
【0045】
ゲルを軟質ゴムの稠度を有する固体に変換することができる架橋剤(第2の成分)は、1モルの塩化カルシウムの水溶液からなる。
【実施例5】
【0046】
<物理センサを挿入するための代替調製>
分子量90,000のポリビニルアルコールを10%w/wの濃度で水に溶解することにより、ベースゲル(第1の成分)を得た。均質な溶液が得られるまで溶液を撹拌し、その後、ポリアクリル酸を4%w/wの濃度で添加し、これも溶液を撹拌することによって溶解した。温度および酸素センサを挿入および配置した後、最終的な均質溶液を、脱水塩の存在下、40℃のストーブ内で24時間乾燥させた。センサを含む最終的なゴム様フィルムを80℃で1時間架橋させた。このようにして得られた固体弾性フィルムを、実施例1に従って調製され、実施例2に従って塗布されたゲルを接着剤として使用して、創傷または縫合の上方および周囲の皮膚に接着させる。
【国際調査報告】