(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-01
(54)【発明の名称】骨関節インプラント
(51)【国際特許分類】
A61F 2/42 20060101AFI20220525BHJP
【FI】
A61F2/42
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021559495
(86)(22)【出願日】2020-02-28
(85)【翻訳文提出日】2021-11-15
(86)【国際出願番号】 EP2020055344
(87)【国際公開番号】W WO2020193078
(87)【国際公開日】2020-10-01
(32)【優先日】2019-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521438168
【氏名又は名称】ローサイ・オーソペディックス・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100172041
【氏名又は名称】小畑 統照
(72)【発明者】
【氏名】ストックマンズ,フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】クラーク,ジェリー
(72)【発明者】
【氏名】ウェイス,アーノルド-ピーター・シー
(72)【発明者】
【氏名】ラッド,エイミー・エル
(72)【発明者】
【氏名】ボランド,ブレンダン
【テーマコード(参考)】
4C097
【Fターム(参考)】
4C097AA12
4C097BB01
4C097CC01
4C097CC05
4C097CC12
4C097CC16
4C097DD06
4C097DD09
4C097EE02
4C097EE11
4C097SC08
4C097SC09
(57)【要約】
骨関節インプラント(1)が、第1手根中手関節における大菱形骨上で並進運動するための近位部品(120)と、第1中手骨内で髄内係合するための遠位部品(110)とを有する。関節式連結器(103、121、123)が、一方の部品(120)における骨上での並進運動と関節式連結器(121、103)の周りでの他方の部品(110)における回転とを含む多軸運動のためのものである。フランジ(105)が、連結器の周りでの近位部品と遠位部品との相対的回転運動を制限するために、また、近位部品と遠位部品との接触のための弾性を提供するために、径方向および連結器の周りに延在する。フランジは、極限位置までの使用中の部品の関節運動時に近位部品(122)の当接表面(125)に適合する輪郭成形された表面(101)を有する。フランジ(105)は、遠位部品(110)のステム(111)内のインサート(100)に含まれ、フランジは、ステム(111)の近位に延在し、かつ、関節運動中の近位部品(120)とステム(111)との接触を阻止する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨関節インプラント(1)であって、
骨上で並進運動するように構成された近位部品(120)と、
骨内で髄内係合するように構成された遠位部品(110)と、
前記近位部品と前記遠位部品との間の関節式連結器(103、121、123)であって、前記インプラントが、一方の部品(120)における骨上での並進運動と前記関節継手(121、103)の周りでの他方の部品(110)における回転とを含む多軸運動をするように構成される、関節式連結器(103、121、123)と、
径方向および前記連結器の少なくとも一部の周りに延在し、かつ、前記連結器の周りでの前記近位部品と前記遠位部品との相対的回転運動を制限するように、また、前記近位部品と前記遠位部品との接触のための弾性を提供するように構成された、フランジ(105)と、
を備える、骨関節インプラント(1)。
【請求項2】
前記フランジ(105)が、前記フランジ(105)が接触する前記近位部品(120、125)の材料よりも弾性のある材料で作られる、請求項1に記載の骨関節インプラント。
【請求項3】
前記フランジが、極限位置までの使用中の前記部品の関節運動時に前記近位部品(122)の当接表面(125)に適合する輪郭成形された表面(101)を有する、請求項1または2に記載の骨関節インプラント。
【請求項4】
前記フランジの輪郭成形された表面(101)が、環状である、請求項3に記載の骨関節インプラント。
【請求項5】
前記フランジ(105)の輪郭成形された表面(101)が、径方向および遠位方向にテーパ付けされ、前記近位部品の対合しかつ当接する表面(125)が、径方向および近位方向にテーパ付けされる、請求項3または4に記載の骨関節インプラント。
【請求項6】
前記フランジ(105)が、前記遠位部品(110)のステム(111)内のインサート(100)に含まれ、前記フランジが、前記ステム(111)の近位に延在し、かつ、関節運動中の前記近位部品(120)と前記ステム(111)との接触を阻止する、請求項1から5までのいずれか一項に記載の骨関節インプラント。
【請求項7】
前記フランジが、0.5mmから4.0mmの範囲内の厚さを有する、請求項1から6までのいずれか一項に記載の骨関節インプラント。
【請求項8】
前記厚さが、1.0mmから3.0mmの範囲内である、請求項7に記載の骨関節インプラント。
【請求項9】
前記フランジが、ポリマー材料で作られる、請求項1から8までのいずれか一項に記載の骨関節インプラント。
【請求項10】
前記フランジが、非金属でありかつ接触表面の材料とは異なる材料で作られる、請求項1から9までのいずれか一項に記載の骨関節インプラント。
【請求項11】
前記フランジが、前記近位部品の周りでの前記遠位部品の30°から50°の範囲内の運動円錐を提供するように構成される、請求項1から10までのいずれか一項に記載の骨関節インプラント。
【請求項12】
前記インサートが、前記関節式連結器の構成要素(103、106)を含む、請求項6から11までのいずれか一項に記載の骨関節インプラント。
【請求項13】
前記継手が、ボールソケット連結器(121、103、106)であり、前記インサート(100)が、前記連結器のソケット(103、106)を含む、請求項12に記載の骨関節インプラント。
【請求項14】
前記インサートが、前記ステム(111、115、116)内にスナップフィットするためのロック特徴(104)を備える、請求項6から13までのいずれか一項に記載の骨関節インプラント。
【請求項15】
前記ロック特徴が、前記インサート(100)の遠位環状リム(104)である、請求項14に記載の骨関節インプラント。
【請求項16】
哺乳類の第1手根中手関節のためのものであり、第1の部品が、大菱形骨上で並進運動するように構成され、前記遠位部品が、第1中手骨の端部と髄内係合するように構成される、請求項1から15までのいずれか一項に記載の骨関節インプラント。
【請求項17】
前記フランジの輪郭成形された表面(101)が、関節運動中の前記近位部品(120)のプラットフォーム(122)と前記遠位部品(110)のステム(111)との接触を阻止する環状非金属製摩耗表面である、請求項1から16までのいずれか一項に記載の骨関節インプラント。
【請求項18】
前記近位非金属製摩耗表面(101)が、凹状湾曲部を含む、請求項17に記載の骨関節インプラント。
【請求項19】
前記近位部品プラットフォーム(122)が、凸状湾曲部を有する遠位端部表面(125)を含む、請求項17または18に記載の骨関節インプラント。
【請求項20】
前記インプラントが、球状に成形された遠位非金属製摩耗表面(103)を備える、請求項1から19までのいずれか一項に記載の骨関節インプラント。
【請求項21】
前記フランジ(105)が、前記遠位部品(110)のステム(111)内に挿入される用に構成された単一非金属製摩耗部材インサート(100)の一体部分であり、前記インサートが、極限関節運動位置において前記近位部品(120)と当接するための近位非金属製摩耗表面(101)と、関節式連結器構成要素(121)の表面と係合するための遠位非金属製摩耗表面(103)とを有する、請求項1から20までのいずれか一項に記載の骨関節インプラント。
【請求項22】
前記単一非金属製摩耗部材が、前記ステム(100)の近位端部表面内に受け入れられるインサート(100)であり、前記インサートが、前記ステムの前記近位端部表面の近位に延在する近位部分(105)を含み、前記近位部分が、前記インサートの前記フランジ(105)であり、前記フランジが、前記近位非金属製摩耗表面(101)を含む、請求項21に記載の骨関節インプラント。
【請求項23】
前記関節式連結器が、ボールソケット連結器であり、前記インサート(100)が、前記ボール(121)ソケット連結器の前記ソケット(103、106)を形成する、請求項21または22に記載の骨関節インプラント。
【請求項24】
近位部品(120)、遠位部品(110)、および前記近位部品と前記遠位部品との間の関節式連結器(121、103)を備える骨関節インプラント(1)のためのインサート(100)であって、前記インサート(100)が、前記遠位部品と係合するように構成され、かつ、前記継手の周りでの相対的回転運動を制限するように構成されたフランジ(105)を備え、
前記フランジ(105)が、前記フランジ(105)が接触する前記近位部品(120、125)の材料よりも弾性のある材料で作られ、
前記フランジが、極限位置までの使用中の前記部品の関節運動時に前記近位部品(122)の当接表面(125)に適合する輪郭成形された表面(101)を有し、
前記フランジの輪郭成形された表面(101)が、環状である、インサート(100)。
【請求項25】
前記フランジ(105)の輪郭成形された表面(101)が、径方向および遠位方向にテーパ付けされ、前記近位部品の対合しかつ当接する表面が、径方向および近位方向にテーパ付けされる、請求項24に記載のインサート。
【請求項26】
前記インサート(100)が、前記遠位部品(110)の髄内ステム(111)内に挿入されるように構成され、前記フランジが、前記ステム(111)の近位に延在する、請求項24または25に記載のインサート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、どちらも2019年3月25日に出願された米国仮出願第62/823,367号および第62/823,392号、2019年5月14日に出願された米国仮出願第62/847,719号、ならびに2019年11月8日に出願された米国実用特許出願第16/678,552号の優先権の利益を主張するものであり、それらは全て、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、骨関節のためのインプラントに関する。いくつかの例では、本発明は、手または肘などにおける2つの回転軸による2軸ヘミアースロプラスティが存在するインプラントなどの、複数の回転軸が存在するインプラントに関する。しかし、他の態様では、本発明は、股関節インプラントなどの単軸インプラントに関する。
【背景技術】
【0003】
複数の回転軸を有するインプラントの一例は、大菱形骨を第1中手骨から一定の間隔に配置するための第1手根中手関節用のものである。この場合、大菱形骨上での近位インプラント部品の鞍形状表面の並進運動、および、ボールソケット継手(ball-and-socket joint)などの関節式連結器に起因する遠位部品の3次元的な回転運動が行われる。そのようなインプラントの例が、WO2017/137607(NUIG)で説明されている。
【0004】
そのようなインプラントでは、動作点(point of motion)は、2つの点にもしくは2つの点の間に同時発生的にまたは独立的に存在し得る。インプラントが挿入されている関節の生体力学に応じて、動作の主たる力は、2つの点の間で急速かつ突然に変化し得る。
図1(a)および(b)は、2つの回転軸、すなわち中手骨の基部におけるAb-Ad(軸1)と大菱形骨の表面にわたるEx-Fl(軸2)とを提供して関節の自然な回転軸を再現する、2軸インプラントを示す。中手骨におけるボールおよびソケットの位置を示すために、
図1(a)では放射線透過性ステムが使用されている。
【0005】
整形外科用インプラントにおける衝突は、一方の要素を他方の要素に衝突させる2つの要素間の空間の減少が存在するときにはいつでも生じる可能性があり、例えば、関節ヘミアースロプラスティのヘッドが、ステムに衝突する。
【0006】
制御されない衝突は、インプラントの不良転帰の原因となる。人口股関節形成術などの単軸インプラントも参照すると、制御されない衝突は、不安定性、促進摩耗、および原因不明の痛みをもたらし得る。衝突は、人工装具設計、構成要素位置、生体力学因子、および患者変数に影響される。制御されない衝突は、脱臼に関係し、また、促進摩耗は、移植回復研究からもたらされる。衝突のない動作範囲を最大限に高める手術原理は、正しく組み合わせられた寛骨臼および大腿骨の前傾と、最適なヘッド-ネック比とを含む。衝突を防止するための手術技法は、構成要素の衝突を回避するための杯状窩の内方移動(medialization)と、骨の衝突を回避するための股関節のオフセットおよび長さの再建とを含む。
【0007】
これらの問題を示すために、
図1(c)は、Brown TD、Callaghan JJ.Impingement in Total Hip Replacement:Mechanisms and Consequences.Curr Orthop.2008;22(6):376-391からの画像である。これらの画像は、初期脱臼(A、B)の瞬間における応力曲線を示す、拘束型ライナTHA(constrained-liner THA)の有限要素解析を示すものである。
図1(d)もまた、Brown TD、Callaghan JJ.Impingement in Total Hip Replacement:Mechanisms and Consequences.Curr Orthop.2008;22(6):376-391からのものであり、インプラント構成要素の初期相対位置(左)、安定した関節運動中の寛骨臼構成要素支持表面応力(中央)、および後方脱臼事象直前の対応する応力(右)を示す、全股関節脱臼の3D有限要素モデルを示すものである。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、衝突が制御されるかまたは少なくとも衝突が生じた場合に影響が軽減される、改良されたインプラントを提供することを対象とする。
【0009】
本発明者らは、添付の請求項1から23に記載のインプラント、および、添付の請求項24から26に記載のそのようなインプラントのためのインサートについて説明する。
【0010】
本開示は、骨関節インプラントを含む。例えば、本開示は、大菱形骨上で並進運動するように構成された金属製近位プラットフォームと、第1中手骨の端部と髄内係合するように構成された遠位ステムと、近位プラットフォームと遠位ステムとの間の関節式連結器と、近位非金属製摩耗表面および遠位非金属製摩耗表面とを備える、哺乳類の第1手根中手関節のための骨関節インプラントを含む。
【0011】
本明細書におけるいくつかの例によれば、近位非金属製摩耗表面は、関節運動中の近位プラットフォームとステムとの接触を阻止する緩衝表面を形成することができ、凹状湾曲部を含むことができ、かつ/または、環状表面を形成することができる。近位プラットフォームは、凸状湾曲部を有する遠位端部表面を含むことができる。少なくとも1つの例では、遠位非金属製摩耗表面は、球状に成形され得る。
【0012】
いくつかの例では、インプラントは、単一非金属製摩耗部材を含むことができ、近位非金属製摩耗表面および遠位非金属製摩耗表面は、単一摩耗部材上に形成され得る。単一非金属製摩耗部材は、ステムの近位端部表面内に受け入れられるインサートであってよく、インサートは、ステムの近位端部表面の近位に延在する近位部分を含むことができる。いくつかの例では、近位部分は、インサートのフランジである場合があり、フランジは、近位非金属製摩耗表面を含むことができ、および/または、関節式連結器は、ボールソケット連結器(ball and socket coupling)である場合があり、また、インサートは、ボールソケット連結器のソケットを形成する場合がある。
【0013】
本開示はまた、大菱形骨上で並進運動するように構成された近位部品であって、プラットフォームを含む近位部品と、第1中手骨の端部と髄内係合するように構成された遠位部品であって、ステムおよびステムの近位に配置された摩耗表面を含む遠位部品と、近位部品と遠位部品との間の関節式連結器と、を備える、哺乳類の第1手根中手関節のための骨関節インプラントであって、摩耗表面が、関節運動を制限しかつプラットフォームとステムとの接触を阻止するようにさらに配置される、骨関節インプラントを含む。少なくとも1つの例では、摩耗表面は、非金属製とされる場合があり、プラットフォームは、金属製とされる場合がある。摩耗表面は、凹状湾曲部を含むことができ、かつ/または、環状表面を形成することができる。プラットフォームは、凸状湾曲部を有する遠位端部表面を含むことができる。
【0014】
いくつかの例では、インプラントは、ステムの近位端部表面内に受け入れられるインサートを含むことができ、この場合、摩耗表面は、インサート上に形成される。インサートは、近位フランジを含むことができ、この場合、摩耗表面は、フランジ上に形成される。さらに、関節継手は、ボールソケット連結器であってよく、ボールは、近位部品の一部を形成することができ、ソケットは、インサートによって形成されてよい。少なくとも1つの例では、ボールは、フランジの遠位に延在し得る。
【0015】
本開示はまた、大菱形骨上で並進運動するように構成された近位部品であって、プラットフォームを含む近位部品と、第1中手骨の端部と髄内係合するように構成された遠位部品であって、ステムおよびステムの近位端部内へ延在するインサートを含み、インサートが、ステムの近位端部の近位に延在するフランジを含む遠位部品と、近位部品と遠位部品との間の関節式連結器と、を備える、哺乳類の第1手根中手関節のための骨関節インプラントであって、フランジが、近位部品と遠位部品との間の運動を制限する近位端部表面を含む、骨関節インプラントを含む。少なくとも1つの例では、インサートは、非金属製とされる場合があり、プラットフォームは、金属製とされる場合がある。フランジの近位端部表面は、凹状湾曲部を有することができ、および/または、プラットフォームは、凸状湾曲部を有する遠位端部表面を含むことができる。少なくとも1つの例では、フランジは、環状とされ得る。さらに、関節式連結器は、ボールソケット連結器であってよく、近位部品は、ボールを含むことができ、インサートは、ソケットを含むことができ、かつ/または、ボールは、フランジの遠位に延在することができる。
【0016】
本開示はまた、大菱形骨上で並進運動するように構成された近位部品であって、凹状湾曲部を有する近位端部表面および凸状湾曲部を有する遠位端部表面を具備する金属製プラットフォームを含む近位部品と、第1中手骨の端部と髄内係合するように構成された遠位部品であって、金属製ステム、およびステムの近位端部内へ延在する非金属製インサートを含み、インサートが、ステムの近位端部の近位に延在するフランジを含む、遠位部品と、近位部品と遠位部品との間のボールソケット連結器と、を備える、哺乳類の第1手根中手関節のための骨関節インプラントであって、近位部品が、ボールを含み、インサートが、ソケットを含み、フランジが、近位部品と遠位部品との間の運動を制限する近位端部表面を含む、骨関節インプラントを含む。いくつかの例によれば、近位端部表面は、凹状表面を含むことができ、および/または、近位端部表面は、環状とされ得る。
【0017】
本発明者らは、他の例示的な態様では、哺乳類の第1手根中手関節の骨関節インプラントであって、
大菱形骨上で並進運動するように構成された金属製近位プラットフォームと、
第1中手骨の端部と髄内係合するように構成された遠位ステムと、
近位プラットフォームと遠位ステムとの間の関節式連結器と、
近位非金属製摩耗表面および遠位非金属製摩耗表面と、
を備える、骨関節インプラントについて説明する。
【0018】
近位非金属製摩耗表面は、関節運動中の近位プラットフォームとステムとの接触を阻止する緩衝表面を形成することが好ましい。近位非金属製摩耗表面は、凹状湾曲部を含むことが好ましい。近位プラットフォームは、凸状湾曲部を有する遠位端部表面を含むことが好ましい。近位非金属製摩耗表面は、環状表面を形成することが好ましい。遠位非金属製摩耗表面は、球状に成形されることが好ましい。
【0019】
インプラントは、単一非金属製摩耗部材をさらに含み、近位非金属製摩耗表面および遠位非金属製摩耗表面は、単一摩耗部材上に形成されることが、好ましい。単位非金属製摩耗部材は、ステムの近位端部表面内に受け入れられるインサートであり、インサートは、ステムの近位端部表面の近位に延在する近位部分を含むことが、好ましい。近位部分は、インサートのフランジであり、フランジは、近位非金属製摩耗表面を含むことが、好ましい。関節式連結器は、ボールソケット連結器であり、インサートは、ボールソケット連結器のソケットを形成することが、好ましい。
【0020】
別の態様では、本発明者らは、
大菱形骨上で並進運動するように構成された近位部品であって、プラットフォームを含む近位部品と、
第1中手骨の端部と髄内係合するように構成された遠位部品であって、ステムおよびステムの近位に配置された摩耗表面を含む遠位部品と、
近位部品と遠位部品との間の関節式連結器と、
を備える、哺乳類の第1手根中手関節のための骨関節インプラントであって、
摩耗表面が、関節運動を制限しかつプラットフォームとステムとの接触を阻止するようにさらに配置される、骨関節インプラントについて説明する。
【0021】
摩耗表面は非金属製であり、プラットフォームは金属製であることが、好ましい。摩耗表面は、凹状湾曲部を含むことが好ましい。プラットフォームは、凸状湾曲部を有する遠位端部表面を含むことが好ましい。摩耗表面は、環状表面を形成することが好ましい。インプラントは、ステムの近位端部表面内に受け入れられるインサートをさらに含み、摩耗表面は、インサート上に形成されていることが、好ましい。インサートは、近位フランジを含み、摩耗表面は、フランジ上に形成されていることが、好ましい。関節式連結器は、ボールソケット連結器であり、ボールは、近位部品の一部を形成し、ソケットは、インサートによって形成されることが、好ましい。ボールは、フランジの遠位に延在することが好ましい。摩耗表面は、凹状湾曲部を含むことが好ましい。
【0022】
本発明者らはまた、
大菱形骨上で並進運動するように構成された近位部品であって、プラットフォームを含む近位部品と、
第1中手骨の端部と髄内係合するように構成された遠位部品であって、ステムおよびステムの近位端部内へ延在するインサートを含み、インサートが、ステムの近位端部の近位に延在するフランジを含む、遠位部品と、
近位部品と遠位部品との間の関節式連結器と、
を備える、哺乳類の第1手根中手関節のための骨関節インプラントであって、
フランジが、近位部品と遠位部品との間の運動を制限する近位端部表面を含む、骨関節インプラントについて説明する。
【0023】
インサートは非金属製であり、プラットフォームは金属製であることが、好ましい。フランジの近位端部表面は、凹状湾曲部を有することが好ましい。プラットフォームは、凸状湾曲部を有する遠位端部表面を含むことが好ましい。フランジは、環状であることが好ましい。関節式連結器は、ボールソケット連結器であり、近位部品は、ボールを含み、インサートは、ソケットを含むことが、好ましい。ボールは、フランジの遠位に延在することが好ましい。
【0024】
他の例では、本発明者らは、
大菱形骨上で並進運動するように構成された近位部品であって、凹状湾曲部を有する近位端部表面および凸状湾曲部を有する遠位端部表面を具備する金属製プラットフォームを含む近位部品と、
第1中手骨の端部と髄内係合するように構成された遠位部品であって、金属製ステムおよびステムの近位端部内へ延在する非金属製インサートを含み、インサートが、ステムの近位端部の近位に延在するフランジを含む、遠位部品と、
近位部品と遠位部品との間のボールソケット連結器であって、近位部品がボールを含み、インサートがソケットを含む、ボールソケット連結器と、
を備える、哺乳類の第1手根中手関節のための骨関節インプラントであって、
フランジが、近位部品と遠位部品との間の運動を制限する近位端部表面を含む、骨関節インプラントについて説明する。
【0025】
近位端部表面は、凹状表面を含むことが好ましい。近位端部表面は、環状であることが好ましい。
【0026】
本発明者らはまた、様々な態様において、
近位部品と、
遠位部品と、
近位部品と遠位部品との間の関節式連結器と、
継手の周りでの相対的回転運動を制限しかつ/または近位部品と遠位部品との接触のための弾性を提供するように構成された緩衝インターフェースと、
を備える、骨関節インプラントについて説明する。
【0027】
インターフェースは、径方向および連結器の少なくとも一部の周りに延在するフランジを備えることが好ましい。フランジは、フランジが接触する材料よりも弾性のある材料で作られることが好ましい。
【0028】
フランジは、極限位置までの使用中の部品の関節運動時に部品の当接表面に適合する輪郭成形された(contoured)表面を有することが、好ましい。フランジの輪郭成形された表面は、環状であることが好ましい。フランジは、遠位部品に含まれることが好ましい。
【0029】
フランジは、遠位部品内のインサートに含まれることが好ましい。
【0030】
フランジは、好ましくは0.5mmから4.0mmの範囲内、より好ましくは1.0mmから3mmの範囲内の厚さを有する。
【0031】
緩衝インターフェースは、ポリマー材料で作られることが好ましい。緩衝インターフェースは、非金属でありかつ接触する表面の材料とは異なる材料で作られることが好ましい。
【0032】
インターフェースは、近位部品の周りでの遠位部品の30°から50°の範囲内の運動円錐(cone of motion)を提供するように構成されることが好ましい。インサートは、関節式連結器の構成要素を含むことが好ましい。
【0033】
連結器は、ボールソケット連結器であり、インサートは、連結器のソケットを含むことが、好ましい。インサートは、別の遠位部品構成要素内にスナップフィットするためのロック特徴を備えることが好ましい。ロック特徴は、インサートの遠位環状リムであることが好ましい。
【0034】
インプラントは、多軸運動をするように構成され得る。インプラント(1)は、一方の部品においては骨上で並進運動するように構成され、他方の部品においては関節式連結器の周りで回転するように構成されることが好ましい。
【0035】
インプラントは、哺乳類の第1手根中手関節のためのものであってよく、第1の部品は、大菱形骨上で並進運動するように構成され、遠位部品は、第1中手骨の端部と髄内係合するように構成される。
【0036】
インターフェースは、近位部品上の遠位に面する特徴を含み得る。遠位に面する特徴は、近位部品上の被覆を含み得る。被覆は、0.5mから3.0mm、好ましくは1.0mmから2.0mmの範囲内の厚さを有することができ、また好ましくはポリマー材料で作られる。
【0037】
本発明者らはまた、
近位部品と、
遠位部品と、
近位部品と遠位部品との間の関節式連結器と、
継手の周りの相対的回転運動を制限するように構成されたフランジと、
を備える、骨関節インプラントであって、
インプラントが、哺乳類の第1手根中手関節のためのものであり、第1の部品が、大菱形骨上で並進運動するように構成され、遠位部品が、第1中手骨の端部と髄内係合するように構成される、骨関節インプラントについて説明する。
【0038】
フランジは、遠位部品の第1の近位部内に係合されたインサートの一部であることが好ましい。
【0039】
本発明者らはまた、
フランジが弾性材料で作られ、
フランジが、極限位置までの使用中の部品の関節運動時に部品の当接表面に適合する環状の輪郭成形された表面を有し、また、
フランジが遠位部品内にある、骨関節インプラントについて説明する。
【0040】
本発明者らはまた、近位部品と、遠位部品と、近位部品と遠位部品との間の関節式連結器とを備える骨関節インプラントのためのインサートであって、部品のうちの一方と係合するように構成され、かつ、連結器の周りの相対的回転運動を制限するように構成されたフランジを備える、インサートについて説明する。
【0041】
インサートは、哺乳類の第1手根中手関節のためのインプラント用に構成されることが好ましく、この場合、第1の部品は、大菱形骨上で並進運動するように構成され、遠位部品は、第1中手骨の端部と髄内係合するように構成され、また、
フランジは、弾性材料で作られ、かつ/または、
フランジは、極限位置までの使用中の部品の関節運動時に部品の当接表面に適合する環状の輪郭成形された表面を有し、かつ/または、
インサートは、遠位部品内に係合するように構成される。
【0042】
1つの態様では、インプラントは、単軸回転するように構成される。例えば、インプラントは、股関節、肩関節、または肘関節のためのものであり得る。
【0043】
緩衝インターフェースは、ソケットのライナを含むことができ、上記ライナは、連結器のネックなどの構成要素と接触するためのインターフェーシング表面を提供する。
【0044】
本発明は添付の図面を参照しながら単なる例として本発明のいくつかの実施形態を以下に説明することから、よりはっきりと理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【
図1(a)】導入部において上で論じられたような、大菱形骨を第1中手骨から一定の間隔に配置するための第1手根中手関節用のインプラントに対する従来技術における様々な運動軸を示す図である。
【
図1(b)】導入部において上で論じられたような、大菱形骨を第1中手骨から一定の間隔に配置するための第1手根中手関節用のインプラントに対する従来技術における様々な運動軸を示す図である。
【
図1(c)】やはり導入部において上で論じられたような、股関節における従来技術の衝突を示す有限要素解析(FEA)図である。
【
図1(d)】やはり導入部において上で論じられたような、従来技術における衝突および退出部位を示す、股関節のFEA図である。
【
図2】本発明のインプラントの近位部品および遠位部品の両方を遠近法によって示す図である。
【
図3(a)】インプラント遠位部品の断面図である。
【
図4】上面平面図、端面図、斜視図、および断面図を含む、インプラントの遠位部品の一部分を示す図のセットである。
【
図5】インプラントの近位部品と遠位部品との間の様々な相対位置におけるインプラントを示す、端面図および断面図の3対の図のセットである。
【
図6】近位部品と遠位部品との間の許容運動円錐を示す図である。
【
図7】
図7(a)は、材料応力の領域を示す、インプラントの断面図である。
図7(b)は、材料応力の領域を示す、インプラントの断面図である。
【
図8】
図8(a)は、近位部品上のインターフェース被覆を含むインプラントを示す断面図である。
図8(b)は、近位部品上のインターフェース被覆を含むインプラントを示す断面図である。
【
図9】表面積を増大させて接触応力を減少させるためのフランジを含む、股関節のためのインプラントの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
用語
「髄内係合(intramedullary engagement)」は、骨内に形成されたまたは骨内に存在する髄腔内での係合を意味し、この腔は一般に、しかし限定的ではないが、骨の長手軸に沿って形成される。1つの実施形態では、髄内係合固定具は、ねじ、釘、または締まり嵌めステムを含むが、他の髄内固定具が知られている。典型的には、ねじは、雄ねじが切られている。髄内固定具は、Smith&Nephew、Zimmer、Synthes、および他の供給業者によって販売されている。係合は、インプラントを骨に固定する。1つの実施形態では、髄腔は、掌方向に向かってオフセットされた位置に形成される。髄腔は、骨の解剖学的な軸および/または生体力学的な軸からオフセットされた位置に形成され得る。
【0047】
「非係合当接(non-engaging abutment)」は、近位部品が第1の骨に固定されないが、その並進運動を可能にする態様で骨の端部に当接するように構成されることを意味する。これを達成する方法は、処置される関節、および、第1の骨の固有の生体構造に依存する。一例として、関節が母指における手根中手関節である場合、大菱形骨の端部は、ねじれた鞍形状を有し(Turkerら、Indian J Plast Surg.2011、44(2):308-316の
図2参照)、プラットフォームは、この鞍の上に位置しかつ鞍にわたるプラットフォームの並進運動を可能にするように構成される。したがって、この実施形態では、湾曲した鞍形状のプラットフォームは、典型的には、凹凸形状を有し、この凹凸形状は、長手方向側面に沿った凹状湾曲部と、横側面に沿った凸状湾曲部とを有する。湾曲した鞍形状のプラットフォームは、長手方向側面および横側面の両方に、すなわち長さ方向および幅方向の両方に(例えば
図2および4に示されるように)凹状湾曲部および凸状湾曲部を有する場合もある。この形状は、生理学的状況を綿密に模倣しかつ自然な屈曲-伸展関節運動を可能する係合を提供することが示されている。本開示において湾曲(例えば、凹部または凸部)を論じる場合、基準点は、構造体または構成要素の内側からではなく、構造体(インプラント)または構成要素の外側からとされる。
【0048】
「第1の骨に対する第2の骨の並進運動(translational movement of the second bone in relation to the first bone)」は、第1の骨に対する第2の骨の非枢動運動を意味する。これは、摺動運動とも説明され得る。一例は、母指手根中手関節における大菱形骨に対する中手骨の不随意性の並進運動であり、これは、母指の屈曲-伸展関節運動に大きく貢献する。本発明のインプラントは、第1の骨に非係合的に当接するように構成された近位部品を用いることにより、そのような並進運動を促進する。
【0049】
「関節式連結器(articulating coupling)」は、インプラントの第1の部品と第2の部品との間の関節運動を可能にする連結器を意味する。インプラントに用いられる連結器の具体的なタイプは、インプラントで処置される関節に依存し、また場合により、適応症または適応症の重症度に依存する。例えば、インプラントが、関節炎にかかった蝶番関節、例えば肘関節の治療のためのものである場合、インプラントは、一般に、蝶番関節連結器を備える。インプラントが鞍関節、例えば手根中手関節の治療のためのものである場合、インプラントは、一般に、ボールソケット継手または自在継手を備える。「制御された関節運動(controlled articulation)」は、関節運動が特定のタイプの関節運動に限定されることを意味する。
【0050】
「当接プラットフォーム(abutting platform)」は、骨の端部に対するプラットフォームの並進(すなわち、摺動)運動が可能とされるように第1の骨の端部に当接する基部を意味する。骨は、プラットフォームに固定されない。プラットフォームは、骨の頂部の表面に適合するように構成され得る。1つの実施形態では、プラットフォームは、並進運動を含めて生来の健常な関節と同じ可動範囲を可能とするように、第2の骨の端部を模倣する形状とされる。第1の骨(大菱形骨)の端部が、ねじれた鞍のトポグラフィーを有する手根中手関節の場合、プラットフォームは、大菱形骨に対する第1中手骨の以下の可動範囲、すなわち屈曲、伸展、外転、内転、内旋、外旋、対立、分回し、および並進のうちの1つもしくは複数または全てを可能にするために、ねじれた鞍に適合する形状とされ得る。
【0051】
図2から7を参照すると、インプラント1が、ステム110内のインサート100を含む遠位部品と、近位部品120とを有する。
【0052】
この事例では、インプラント1は、関節の大菱形骨を関節の第1中手骨から一定の間隔に配置すると同時に大菱形骨に対する第1中手骨の並進運動を可能にするための、
図1(a)に示されるような哺乳類の第1手根中手関節用のものである。遠位部品110は、第1中手骨の端部と髄内係合するように構成される。近位部品120は、大菱形骨上で摺動するか大菱形骨を横断するための近位に面する表面124を含む湾曲した鞍形状のプラットフォーム122を有する。関節式連結器(例えば、ボールソケット)が、知られているように、鞍122とボール121とをつなぐネック123を備える。これは、大菱形骨および第1中手骨の制御された関節運動を可能にする。
【0053】
インサート100は、この事例では輪郭成形された近位に面する表面101を含むフランジ105である緩衝インターフェース特徴(すなわち、緩衝表面)を有し、これは、
図5に示されるように、環状とされ得る。フランジ105は、ステムの近位に延在し、その輪郭成形された表面101は、ステム111の近位端部の近位に位置し、かつ、ステム111の近位端部から離間される。これは、使用中の近位部品との接触に起因する例えば緩衝材としての重要な役割を表面101が果たすことを可能にする。この表面の遠位には肩102が存在し、この肩102は、ステム111内のインサート100と係合し(
図5参照)、ステム内のインサートの回転を防ぎ、かつ、関節式連結器ボール121を受け入れるためのリム106付きのソケット103を取り囲むためのキーとして機能する。ソケットのリム106の後側では、手術中の関節ヘミアースロプラスティの組立てを可能にするために、ソケット103内でのボール121のスナップフィット係合(特に
図3(d)および
図5参照)が行われ、このスナップフィット係合はまた、生体内でのデバイスの分解を防ぐことができる。ソケットは、中央に位置するか、または、必要に応じて任意の方向もしくは角度においてオフセットされ得る。
【0054】
インサート100は、さらに遠位に、インサート100を収容するステム111凹部115の対応する溝116内にスナップフィットするための環状のロッキングリム104を備える。ステム111内へのインサート100の係合は、インサート材料の弾性、および、リム104とステム111内のその対応する係合表面との間にスナップフィットの態様で広範囲の表面-表面接触が存在するという事実により、効果的である。インサート100およびステム111のこのスナップフィット係合は、手術中の関節ヘミアースロプラスティの組立てを可能にし、また、スナップフィット係合は、生体内でのデバイスの分解を防ぐことができる。インサートは、回転および結果として起こる背面摩耗の可能性を防止するために、肩102によって固定される。
【0055】
フランジ105(および、この事例ではインサート100全体)は、好ましくはUHMWPE(場合によりビタミンEを含む、その形態のいずれかにおける)またはその形態のいずれかにおけるPEEKなどのポリマーである、弾性ポリマー材料で作られる。そのような場合、インサート100は、単一非金属製摩耗部材と呼ばれ得る。あるいは、インサート100は、構造物の予期される摩耗パターンに応じて、熱分解炭素(PyC)またはセラミックなどの、整形外科で一般に使用される他の材料で作られてもよい。インサート100は、単一近位部品120(鞍122、ネック123、および関節式連結器ボール121)の金属材料とは異なる材料で作られ、したがって、過度の摩耗、および/または汚染を生じさせる化学反応をもたらし得る、いかなるガルバニックタイプの相互作用をも回避する。同様に、インサートの(ポリマー)材料は、同じ理由から、ステム111の金属材料とは異なる。一般に、金属間接触界面は、インプラントでは避けられる。ポリマー材料は摩耗に効果的であるが、フランジの生体力学的な利点、すなわち2つの回転軸をなくすことが、より重要である場合があり、したがって、フランジは、場合により、任意の適切な材料で作られ得る。一例は、インサート(または「ライナ」)がセラミック材料で作られるが、ヘッドがPEEKで作られる場合であり、このヘッドは、関節式連結器のためのスナップフィット係合をなおも可能とするはずである。比較的硬い材料は低弾性率/高弾性を有する材料以外のものに対してスナップフィットを可能にしない可能性があるので、フランジおよびソケットは、比較的硬い材料で作られないことが、一般に好ましい。これは、逆の場合もあり、例えばヘッドがポリマーでありライナがセラミックである場合、軟質のポリマー材料は、硬質のセラミックソケット内になおもスナップフィットし得る。
【0056】
したがって、上で論じたように、インプラント1は、少なくとも1つの非金属製摩耗表面を含み得る。非金属製摩耗表面は、
図5に示されるように、ステム110の表面とプラットフォーム122の表面とが係合することができる、インプラントの任意の部分上に存在し得る。ステム110がインサート100を含む場合、インサート100は、少なくとも1つの非金属製摩耗表面を含み得る。少なくとも1つの非金属製摩耗表面は、成形表面、例えば凸状湾曲部を有する表面を含むことができ、かつ/または、環状表面を形成することができる。プラットフォームは、例えば凹面といった対応する形状を有する遠位端部表面を含むことができる。あるいは、少なくとも1つの非金属製摩耗表面が凹状湾曲部を有する場合、プラットフォームは、凸状湾曲部を有する遠位端部表面を含むことができる。
【0057】
フランジ材料の弾性は、軸間の運動の漸進的な変換を達成するのに望ましい程度に使用中の圧縮を可能にするのに十分であることが好ましい。母指のためのこのインプラントの場合、フランジ105の厚さは、好ましくは0.5mmから4.0mmの範囲内であり、また好ましくは1.0mmから3.0mmの範囲内である。インプラントは、近位部品122、遠位部品110のステム111、およびそのそれぞれがステム111内に嵌合するが異なるフランジ厚さを有する2つ以上のインサートの集まりが含まれているキットとして提供され得る。フランジ厚さは、可能とされる相対運動の範囲を設定し、
図6に示された例では、この範囲は40°である。一般に、フランジは、近位部品の周りでの遠位部品の30°から60°の範囲内の運動円錐を提供するように構成されることが好ましい。それにより、外科医は、望ましい運動円錐を選択することができる。したがって、インプラントは、予測可能な摩耗パターンを得る。また、運動円錐を小さくすることにより、脱臼の可能性が低下する。多軸性であるこのタイプの関節の場合、大菱形骨上での近位部品の摺動運動を考慮すると、最大可動域は実際には約80°であることに注目すべきである。
図6の図は、例示の目的のために、静止している近位部品に基づく。
【0058】
さらに、フランジ105の輪郭成形された近位に面する表面101は、2つの運動軸間での力の動きを段階的な態様に限定させるために、すなわち部品110と120との間の運動を制限するために、鞍122の対応する対合遠位表面125に適合するように構成される。したがって、2つの軸の間には、急激な力の変化または「フリップフロップ」は存在しない。対合する表面101および125は、
図5および7に示されるように、部品110と120との接触のための大きな表面積を提供する。
【0059】
軸間に介在された耐荷重表面101を有することにより、力は、より制御されより自然でありかつより生理学的な態様で分散される。関節式連結器の周りでの相対運動は、
図6に示されるように、1つの例では約40°に制限される。この運動の規模は、配置後のインプラントの使用に十分であるが、表面間に過度の衝撃力が存在しないこと、ならびに
図1(a)および1(b)に示された軸間に滑らかな移行が存在することを確実とするのにも役立つ。
【0060】
ライナ100のスナップフィット要素104は、ステム111内への容易かつ効率的な組付けを可能にする。また、ライナスナップフィットソケット103は、インサート100の材料の弾性により有利な態様でボールソケット継手を形成するために、対合するボール121の捕獲を促進する。図に示されるように、ソケット103は、ボールソケット継手のボールを受け入れるために、球状に成形され得る。
【0061】
フランジ105の表面101は、表面接触を最大化し、したがってライナ摩耗を最小限に抑えるために、ヘッド構成要素120の幾何形状に適合するように輪郭成形される。
【0062】
インサート100は、ステム内から置き換え可能であり、すなわち、過度の摩耗が生じた場合には、インサート100を取り外して、その場所に別のインサートを挿入することができる。インサート100は、適切なツールまたはツールセットを用いて挿入されかつ/または取り外され得る。
【0063】
インサート100は、外転-内転平面および屈曲-伸展平面における相対的回転の規模を有利に制限する。
図5および6に示されるように、鞍122は、この観点からすると上方への回転自由度が低く、また、表面インサート100との接触がなされると、鞍122と丸みを付けられた表面101との間には完全な表面接触が存在する。フランジの丸みを付けられた表面は、径方向および遠位方向にテーパ付けされ、鞍の対応する対合表面は、径方向および近位方向にテーパ付けされることが、好ましい。
【0064】
図5で見たときの下側には、より小さな接触表面領域(meeting surface area)が存在するが、同じ効果および利点が適用される。インサート100は衝突の問題を改善させることが、理解されるであろう。当然ながら、
図5は、単一平面、すなわちページの平面における対合を単に示すものである。
図3および4に示されるように、対合する表面125および101は、周囲360°で当接するための環状の態様で連結器(123、121、103)の周りに径方向に延在する。フランジ表面101は、大きな半径を持つにもかかわらず、主として凹形状を有し、鞍形状のプラットフォーム122の遠位表面125は、やはり大きな半径を持つにもかかわらず、主として凸形状を有する。
【0065】
図7(a)および7(b)を参照すると、陰影が付けられた領域は、ボールとソケットの接触面間の最大限の材料応力を受け止める。
図7(b)では、近位部品120の鞍122は、インサート100のフランジ105と接触していない。結果として、材料応力の全てが、ボールとソケットの接触面(ボール121上の応力領域として
図7(b)に示される)に集中する。
図7(a)は、インサート100のフランジ105および近位に面する表面101と接触している近位部品120の一部分、例えば鞍125の遠位に面する側125を示す。追加的な応力領域として
図7(a)に示されたこの増大した接触領域は、材料応力のより広範囲の分散を可能にする。インサート100は、そのような増大した接触領域を含む部分において最大厚さとされ得る。インプラント1にかかる応力負荷のこのより広範囲かつより一様な分散は、ボール121に示されたボールとソケットの接触面における応力集中を減少させ、インプラント1の寿命を延ばすことができる。
【0066】
代替例
インプラントは、緩衝表面を提供する緩衝インターフェースを有し得ることも想定されており、この緩衝表面は、フランジに加えてまたはフランジの代わりに特徴を含み、かつ/または、必ずしも遠位部品におけるインサート上に存在するわけではない。例えば、近位部品は、遠位に面する表面上に緩衝インターフェースを有してもよく、このインターフェースは、大きな表面積を持つ遠位部品と係合する。そのようなインターフェースは、例えば0.5mmから3.0mm、好ましくは1.0mmから2.0mmの範囲内の厚さの被覆であってよい。インターフェースは、上記の説明で言及されたポリマーのうちのいずれかなどの弾性材料で作られることが好ましい。この場合、遠位部品はいくつかの例におけるフランジを有さない可能性があることが想定され、その場合、近位部品インターフェース特徴は、遠位部品ステムと直接係合する。
【0067】
図8(a)および8(b)を参照すると、インプラント150が、やはり母指のためのものであり、かつ、ステム151と近位部品154のボール153を受け入れるためのインサート152とを含む遠位部品を備える。近位部品154の遠位に面する側は、緩衝インターフェース、すなわち被覆157を有する。これは、前述の実施形態のフランジの便益のうちの少なくともいくつかを達成するために設けられている。被覆157は、運動円錐を小さくする緩衝効果を提供し、かつ、構造物にわたる力の分散のための増大した表面積を提供する。
【0068】
図8(a)および(b)の例は、遠位部品にフランジを有さず、ステム151内に関節式連結器を固定するためのインサート152を有するだけである。しかし、遠位部品は、近位部品154と係合するためにステムから近位に離間された好ましくは輪郭成形された近位に面する表面を含むフランジを有することが、好ましい。
【0069】
図2から7の例に対する代替的な構成
インプラント遠位部品がインサートの物理的特徴を一体的に含み得ることが、想定されている。または、フランジ105は、個別の物品として提供され得る。また、インサートが、スナップフィットされるのではなく、その代わりに、ステム内に係合するためにねじを切られ得る。
【0070】
一体的なフランジを含むステムが、硬質材料を含むことができ、連結ボールが、軟質材料で作られ得る。フランジは、ステムの基部および中手骨に関連する。
【0071】
フランジは、ステムの一体部品であり得る。フランジは、好ましくは、接触部との接触のための大きな表面積を提供するために輪郭成形された表面を有するという有利な特徴を有する。
【0072】
弾性のあるボールおよび高弾性率のソケットが代わりに存在し得ることが、想定されている。
【0073】
上記の例では、フランジの輪郭成形された表面101は、鞍122の遠位に面する表面125に適合するが、これらの表面は、違う方法で構成されてもよい。例えば、鞍122の遠位に面する表面125は、図に示されるような凹状湾曲部を有さなくてもよい。
【0074】
伸長距離(distraction distance)、すなわちデバイスの植込み後の2つの骨間の距離は、例えば
図5および6に示されるような鞍ヘッドの高さを増大させることによって修正され得る。フランジは同じ幾何形状のものになるので、運動円錐は影響を受けない。あるいは、フランジは、より厚いかまたはより薄いものであってよく、これは、運動円錐に影響を与える。いくつかの臨床用途では、例えばインプラントをしばしば脱臼する患者の場合、外科医は、可動域を縮小させて飛越し距離(jump distance)(脱臼するのにボールがソケットの外へ出なければならない距離)を増大させることにより脱臼の可能性を潜在的に低下させるために、非常に厚いフランジを有するフランジ付きインサートを使用することを再置換手術中に選択することができる。
【0075】
インサートは、機械的/物理的な係合特徴を伴わずにステム内に係合されてよく、かつ、接着ボンドのみを有し得ることが、想定されている。
【0076】
単軸インプラントの例
図1(c)および(d)を参照しながら導入部において述べたように、股関節インプラントは、ボールの周りでのライナの衝突の問題を有し得る。本発明者らは、股関節インプラントの転帰を改善するためのフランジを含むインプラントについても説明する。
【0077】
図9は、ボール付きのネック201(その一部のみが示される)と、球状の内部ソケット表面を有しかつソケットの入口の周りに周方向に延在するフランジ203を有するソケット202とを含む、インプラントを示す。フランジ203の材料は、UHMWPE、PEEK、セラミック、または整形外科用インプラントで一般に使用される別の材料などの、弾性材料で作られる。
【0078】
フランジ203は、ソケット202のためのライナの一部であり、ライナは、スナップフィット、テーパ、または他の適切なロック機構により、ソケット(遠位)部の残りの部分に取り付けられる。フランジ付きライナ203は、この場合ではボールの下方のネック201である衝突する構成要素の幾何形状に適合するインターフェーシング表面204を含む幾何形状を有する。フランジ203は、ソケット202から遠位に延在し、ネック201との衝突のために、衝突表面204において各端部において終端する。
【0079】
上述のように、インサートは、プレス嵌め、ねじ、またはスナップフィットにより、ソケット部の残りの部分に取り付けられる。
【0080】
図9は、ネック201のための2つの位置を示し、約110°の運動の角自由度があることを示している。この構成は、ソケット202にかかる衝突力を改善し、インターフェース表面204にわたって応力を分散させ、かつ、脱臼を防ぐのに役立つ。したがって、フランジ203は、はるかに大きなインターフェーシング/接触表面204を提供するだけではなく、接触力が吸収されるように、より弾性のある材料で作られる。
【0081】
上述のように、ポリマーライナおよび金属ボールが1つの好ましい構成であるが、摩耗パターンまたは生体力学的な軸の管理がより重要であるかどうかに応じて、金属ライナおよびポリボール、セラミックライナおよびポリボール、ポリライナおよびセラミックボールが任意の適切な組合せで代替的に存在し得る。
【0082】
フランジは、対合する構成要素の任意の部分の幾何形状に適合するように輪郭成形され得る。例えば、肩部インプラントでは、フランジは、インプラントのネックの相対的幾何形状と最適に対合するように凹状とされ得る。同様に、股関節インプラントでは、フランジは、ネック構成要素の幾何形状に適合するように凸状とされ得る。
【0083】
関節のインプラント全体における遠位部品および近位部品は、関節およびインプラントに応じて逆にされ得る。
【0084】
本発明は、説明された実施形態に限定されるものではなく、構造および細部において変更され得る。
【国際調査報告】