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特表2022-52740410-メチレン脂質の誘導体、そのような誘導体の調製方法、およびその使用方法
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  • 特表-10-メチレン脂質の誘導体、そのような誘導体の調製方法、およびその使用方法 図1
  • 特表-10-メチレン脂質の誘導体、そのような誘導体の調製方法、およびその使用方法 図2
  • 特表-10-メチレン脂質の誘導体、そのような誘導体の調製方法、およびその使用方法 図3
  • 特表-10-メチレン脂質の誘導体、そのような誘導体の調製方法、およびその使用方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-01
(54)【発明の名称】10-メチレン脂質の誘導体、そのような誘導体の調製方法、およびその使用方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 53/19 20060101AFI20220525BHJP
   C07C 69/63 20060101ALI20220525BHJP
   C07C 67/307 20060101ALI20220525BHJP
   C07C 51/363 20060101ALI20220525BHJP
   C07C 229/22 20060101ALI20220525BHJP
   C07C 227/08 20060101ALI20220525BHJP
   C07C 69/675 20060101ALI20220525BHJP
   C07C 67/31 20060101ALI20220525BHJP
   C07C 59/01 20060101ALI20220525BHJP
   C07C 51/367 20060101ALI20220525BHJP
   C08G 69/08 20060101ALI20220525BHJP
   C12P 7/6463 20220101ALN20220525BHJP
【FI】
C07C53/19 CSP
C07C69/63
C07C67/307
C07C51/363
C07C229/22
C07C227/08
C07C69/675
C07C67/31
C07C59/01
C07C51/367
C08G69/08
C12P7/6463
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021560157
(86)(22)【出願日】2020-03-26
(85)【翻訳文提出日】2021-11-05
(86)【国際出願番号】 EP2020058484
(87)【国際公開番号】W WO2020193681
(87)【国際公開日】2020-10-01
(31)【優先権主張番号】19305385.7
(32)【優先日】2019-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】322005747
【氏名又は名称】ギンコ バイオワークス インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ラボワン ジャン-クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】シュトルブ アンリ
【テーマコード(参考)】
4B064
4H006
4J001
【Fターム(参考)】
4B064AD61
4B064AD85
4B064AD87
4H006AA01
4H006AA03
4H006AB84
4H006AC30
4H006BE01
4H006BE30
4H006BM10
4H006BM73
4H006BN10
4H006BS10
4H006KA31
4J001DA01
4J001DB01
4J001DB02
4J001EA14
4J001EA23
4J001GB02
(57)【要約】
本発明は、10-メチレン脂質の誘導体、その調製、およびその使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともポリアミド、ポリエステル、ラクタム、およびラクトンより選択される生成物を調製するための中間生成物であって、
任意で、該中間生成物が、14~20個の炭素原子の飽和脂肪族直鎖を有し、該脂肪族直鎖が、以下:
- カルボン酸およびカルボン酸エステルより選択される末端基、
- Δ10位で分岐しているメチル基、
- 該分岐メチル基の炭素に結合された官能基であって、この官能基はブロモ(-Br)、ヒドロキシル(-OH)、およびアミノ(-NH2)基より選択され、ブロモ(-Br)が好ましい、官能基
を有する、
中間生成物。
【請求項2】
脂肪族直鎖が、16、17、または18個の炭素原子、好ましくは、16または18個の炭素原子を有する、請求項1記載の中間生成物。
【請求項3】
末端基が、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、およびイソプロピルエステルより選択されるエステルである、請求項1または2のいずれか一項記載の中間生成物。
【請求項4】
任意で他の脂質と混合された、請求項1~3のいずれか一項記載の少なくとも1つの中間生成物
を含む、組成物。
【請求項5】
以下の工程:
a)Δ10位で分岐しているメチレン(=CH2)基とカルボン酸およびカルボン酸エステルより選択される末端基とを有する14~20個の炭素原子の脂肪族直鎖を含む、任意で他の脂質と混合された、少なくとも1つの10-メチレン置換脂質
を提供する工程、
b)任意で他の脂質と混合された、該少なくとも1つの10-メチレン置換脂質と、少なくとも1つの試薬とを、任意で該他の脂質と混合された、少なくとも1つの対応する10-メチル置換脂質を提供するための条件下で、反応させる工程であって、該対応する10-メチル置換脂質が、以下:
- 10-メチレン置換脂質の脂肪族直鎖と同じ数の炭素原子を有する飽和脂肪族直鎖、
- Δ10位で分岐しているメチル基、および
- ブロモ(-Br)、ヒドロキシル(-OH)、およびアミノ(-NH2)基、好ましくはブロモ(-Br)より選択される、分岐メチル基の炭素に結合された官能基
を含む、工程
を含む、請求項1~3のいずれか一項記載の中間生成物または請求項4記載の組成物を調製するための方法。
【請求項6】
工程b)が、任意で他の脂質と混合された、10-メチレン置換脂質と、臭素含有反応物とを、任意で該他の脂質と混合された、対応する10-ブロモメチル脂質を提供するための条件下で、反応させることを含む、請求項5記載の方法。
【請求項7】
工程b)が、任意で他の脂質と混合された、10-ブロモメチル脂質と、アミン含有反応物とを、任意で該他の脂質と混合された、対応する10-アミノメチル脂質を提供するための条件下で、反応させることをさらに含む、請求項5または6記載の方法。
【請求項8】
工程b)が、任意で他の脂質と混合された、10-ブロモメチル脂質と、塩基含有反応物とを、任意で該他の脂質と混合された、対応する10-ヒドロキシメチル脂質を提供するための条件下で、反応させることをさらに含む、請求項5または6記載の方法。
【請求項9】
工程b)から得られた10-ブロモメチル脂質、10-アミノメチル脂質、または10-ヒドロキシメチル脂質が、形成されたエナンチオマーを分離するために精製工程へ供される、精製工程c)
をさらに含む、請求項5~8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
- 工程a)において提供された10-メチレン置換脂質が、末端基としてカルボン酸を有し、かつ、方法が、任意で他の脂質と混合されかつ/もしくは精製された、工程b)から得られた10-メチル置換脂質を、過剰のアルコールと、対応するエステルを提供するための条件下で接触させることを含むエステル化工程を、さらに含む、
または
- 工程a)において提供された10-メチレン置換脂質が、末端基としてカルボン酸エステルを有し、かつ、方法が、任意で他の脂質と混合されかつ/もしくは精製された、工程b)から得られた10-メチル置換脂質を、過剰の水と、対応するカルボン酸を提供するための条件下で接触させることを含む加水分解工程を、さらに含む、
請求項5~9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
官能基としてのアミノ基および末端基としてのカルボン酸を有する、請求項1~3のいずれか一項記載の少なくとも1つの中間生成物、または請求項4記載の組成物を、単独で、または少なくとも1つのアミノ基および1つのカルボン酸基を含有する別のモノマーの存在下で、重縮合条件へ供し、かつポリアミドのホモオリゴマー、ホモポリマー、コオリゴマー、またはコポリマーを得る工程
を含む、ポリアミド材料を調製するための方法。
【請求項12】
以下の工程:
- 官能基としてのアミノ基および末端基としてのカルボン酸を有する、請求項1~3のいずれか一項記載の少なくとも1つの中間生成物、または請求項4記載の組成物を、単独で、または少なくとも1つのアミノ基および1つのカルボン酸基を含有する別のモノマーの存在下で、重縮合条件へ供し、かつポリアミドのホモオリゴマー、ホモポリマー、コオリゴマー、またはコポリマーを得る工程、ならびに
- ポリアミドのホモオリゴマー、ホモポリマー、コオリゴマー、またはコポリマーを、ポリエーテルと、該ポリアミドの遊離アミンまたは遊離カルボン酸部分上での該ポリエーテルのグラフト化を得るための条件下で接触させる工程
を含む、コポリマーを調製するための方法。
【請求項13】
官能基としてのヒドロキシル基および末端基としてのカルボン酸を有する、請求項1~3のいずれか一項記載の少なくとも1つの中間生成物、または請求項4記載の組成物を、ラクトンを得るための環形成条件へ供することから特に得られた、11-アルキルオキサシクロドデカン-2-オンであって、
環のΔ11位で分岐しているアルキル基が、4~10個の炭素原子、好ましくは6、7、または8個の炭素原子、最も好ましくは8個の炭素原子を有する脂肪族直鎖である、
11-アルキルオキサシクロドデカン-2-オン。
【請求項14】
官能基としてのアミノ基および末端基としてのカルボン酸を有する、請求項1~3のいずれか一項記載の少なくとも1つの中間生成物、または請求項4記載の組成物を、ラクタムを得るための環形成条件へ供することから特に得られた、11-アルキルアザシクロドデカン-2-オンであって、
環のΔ11位で分岐しているアルキル基が、4~10個の炭素原子、好ましくは6、7、または8個の炭素原子、最も好ましくは8個の炭素原子を有する脂肪族直鎖である、
11-アルキルアザシクロドデカン-2-オン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、10-メチレン脂質の誘導体、その調製、およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ツベルクロステアリン酸(10-メチルステアリン酸)および対応する10-メチレン生物学的前駆体は公知であり、例えば、Yuzuru Akamatsu and John Law, “Enzymatic synthesis of 10-methylene stearic acid and tuberculostearic acid”, Biochemical and Biophysiscal Research Communications, Vol. 33, Issue 1 , 10th October 1968, pages 172-176(非特許文献1)を参照されたい。
【0003】
たとえ著者がツベルクロステアリン酸はマイコバクテリウム属の種(Mycobacterium species)由来のリン脂質の主成分であると述べているとしても、総脂質含量に関連するその低産生収率はさらなる産業利用を妨げた。最近、Novogy, Inc.は、脂肪酸のメチル化を担う遺伝子配列をヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)へ挿入し発現させることができた(Shaw et al., “Heterologous production of 10-methyl stearic acid”, WO2018/057607(特許文献1))。
【0004】
ツベルクロステアリン酸の10-メチレン生物学的前駆体の産生は、現在、遺伝子改変細胞からより大きな規模で想定できるが、そのような前駆体の安定性は、合理的なコストでの産業規模生産に適した幅広い精製方法を可能にしない。広範囲の適用に関して、10-メチレンステアリン酸に基づく、安定しかつ使いやすい出発物質を提供する必要性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2018/057607
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Yuzuru Akamatsu and John Law, “Enzymatic synthesis of 10-methylene stearic acid and tuberculostearic acid”, Biochemical and Biophysiscal Research Communications, Vol. 33, Issue 1 , 10th October 1968, pages 172-176
【発明の概要】
【0007】
本発明は、広範囲の適用に関して、特に、ポリアミド、ポリエステル、ブロックコポリマー、例えば、PEBA(ポリエーテルブロックアミド)、潤滑油、例えば、SAE AS5780 High Performance Capability (HPC)規格に対して検査した場合に改善された特性を有するジェットエンジン用の潤滑油、フレーバーおよびフレグランス産業、医薬物および農薬のための出発物質の調製に関して、より汎用性の高い合成中間体であるツベルクロステアリン酸誘導体を提供する。好ましい適用は、ポリマー、潤滑油、ならびに油井またはガス井の掘削および仕上げ補助剤である。あるいは、好ましい適用は、化粧品用ならびにフレーバーおよびフレグランス用である。
【0008】
第1局面によれば、本発明は、少なくともポリアミド、ポリエステル、ラクタム、およびラクトンより選択される、好ましくは少なくともポリアミド、ポリエステル、ラクタム、およびラクトン、フレーバー、フレグランス、医薬物、農薬より選択される生成物を調製するための中間生成物を提供する。
【0009】
本発明の中間生成物は、14~20個の炭素原子の飽和脂肪族直鎖を有し、該脂肪族直鎖は、以下:
- カルボン酸およびカルボン酸エステルより選択される末端基、
- Δ10位で分岐しているメチル基、
- 該分岐メチル基の炭素に結合された官能基であって、この官能基はブロモ(-Br)、ヒドロキシル(-OH)、およびアミノ(-NH2)基より選択される、官能基
を有する。
【0010】
前記分岐メチル基の炭素に結合された特に好ましい官能基はブロモであり、何故ならば、ブロモはヒドロキシルまたはアミノ基へ容易に変換され得るためである。
【0011】
前記中間生成物は、その安定性に起因して使いやすく、また、上述のポリアミド、ポリエステル、ラクタム、およびラクトン、ならびにまた、フレーバーおよびフレグランス産業、医薬物、および農薬のための出発物質を含むが、これらに限定されない、多くのさらなる生成物の調製を可能にする点で注目に値する。
【0012】
Miller et al., JAOCS Vol. 51, No. 10, pages 427-432, 1 October 1974は、オレオニトリルから出発して2工程での9-アミノメチルオクタデカン酸および10-アミノメチルオクタデカン酸の混合物の調製を記載している。この方法は、高価なロジウム系触媒の使用を伴うヒドロホルミル化工程、続いての酸化およびアミノ化を含む。ヒドロホルミル化は位置選択的ではなく、従って、9-および10-アミノメチル異性体が同時に生成される。それらは分離されず、ポリアミドを作製するために(共)重合についてそのまま使用される。モノマーの精製のための方法は提供されていない。
【0013】
同様に、Behr et al., Eur. J. Lipid Sci. Technol. 102 (2000), 467-471は、同じ種類の誘導体を同じヒドロホルミル化法で調製し、その結果、純粋な生成物の単離による同じ欠点がある。生成物は常に混合物の形で分析されている。メチルアミノ基は常に置換されている。
【0014】
WO2013/142206はGuerbetアルコールおよびその調整方法を開示しており、ここで、それらのGuerbetアルコールは、存在する場合、2つの末端カルボン酸またはエステルを常に有している。
【0015】
WO2017/001194は、その脂肪酸エステル鎖の1つに沿って少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を含むトリグリセリドからのヒドロキシメチル化トリグリセリドのワンポット合成を開示する。二重結合のヒドロキシメチル化は、COおよびH2圧力下でロジウムまたはコバルト触媒を用いて行われる。
【0016】
任意で、脂肪族直鎖は、16、17、または18個の炭素原子、好ましくは18個の炭素原子を有する。
【0017】
任意で、末端基は、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、およびイソプロピルエステルより選択されるエステルである。
【0018】
第2局面によれば、本発明は、本発明の少なくとも1つの中間生成物を含有する組成物を提供する。
【0019】
任意で、前記組成物は、他の生成物、例えば他の脂質、特に、本発明の中間生成物について上記に定義された同じリストより選択される官能基を任意で有する、細胞発酵に由来するものを含有してもよい。
【0020】
さらなる局面によれば、本発明は、該発明の中間生成物または組成物を調製するための方法を提供し、該方法は、以下の工程:
a)Δ10位で分岐しているメチレン(=CH2)基とカルボン酸およびカルボン酸エステルより選択される末端基とを有する14~20個の炭素原子の脂肪族直鎖を含む、任意で他の脂質と混合された、少なくとも1つの10-メチレン置換脂質
を提供する工程、
b)任意で他の脂質と混合された、該少なくとも1つの10-メチレン置換脂質と、少なくとも1つの試薬とを、任意で該他の脂質と混合された、少なくとも1つの対応する10-メチル置換脂質を提供するための条件下で、反応させる工程であって、該対応する10-メチル置換脂質が、以下:
- メチレン置換脂質の脂肪族直鎖と同じ数の炭素原子を有する飽和脂肪族直鎖、
- Δ10位で分岐しているメチル基、および
- ブロモ(-Br)、ヒドロキシル(-OH)、およびアミノ(-NH2)基より選択される、分岐メチル基の炭素に結合された官能基
を含む、工程
を含む。
【0021】
そのような方法は、上述の生成物の調製においてさらに使用することができる安定した10-メチル置換脂質の回収を可能にする。
【0022】
一態様において、工程a)は、単一の10-メチレン置換脂質、即ち、純粋な生成物を提供し得る。そのような場合、単一の対応する10-メチル置換脂質が、任意で副生成物と共に、工程b)から回収される。
【0023】
別の態様において、工程a)は、2種以上の10-メチレン置換脂質を提供し得る。そのような場合、2種以上の対応する10-メチル置換脂質が、工程b)から回収される。
【0024】
さらに別の態様において、工程a)は、他の脂質と混合された1種またはいくつかの10-メチレン置換脂質を提供し得る。この場合、対応するメチレン置換脂質から生じた10-メチル置換脂質が、該他の脂質と混合された状態で工程b)から回収され、該他の脂質もまた、1つまたは複数の炭素-炭素二重結合を有する場合、反応物と反応していてもよい。
【0025】
最後の2つの態様において、本発明に従う組成物が工程b)から回収される。
【0026】
有利には、工程a)において提供される10-メチレン置換脂質は、生物有機化合物の微生物産生によって得られてもよい。特に、そのような10-メチレン置換脂質は、微生物、例えば遺伝子改変微生物よって産生される発酵産物であり得る。他の脂質と混合されたメチレン置換脂質は、特に、微生物によって産生された油組成物であり得る。好ましくは、前述の微生物の抽出から直接生じたメチレン置換脂質は、他の脂質と共にトリグリセリドの形態またはリン脂質の形態のいずれかで、5 wt%超、好ましくは10 wt%超、より好ましくは20 wt%超、さらにより好ましくは30 wt%超で、得られる。メチレン脂質を含有するトリグリセリドは、遊離脂肪酸、およびグリセロールなどの副生成物を得るために、最初に加水分解され得る。結果として生じる遊離脂肪酸は、溶媒および水での液体-液体抽出などの当技術分野における周知の方法に従って分離される。
【0027】
一態様において、工程b)は、任意で他の脂質と混合された、10-メチレン置換脂質と、臭素含有反応物とを、任意で該他の脂質と混合された、対応する10-ブロモメチル脂質を提供するための条件下で、反応させることを含む。これらの他の脂質もまた、臭素化脂質を形成するために反応していてもよい。そのような10-ブロモメチル脂質は、対応する10-アミノメチル脂質または10-ヒドロキシメチル脂質などのさらなる生成物を調製するために特に有用である。この点について、10-メチレン置換脂質と臭素含有反応物とを反応させることは、好ましくは、ArkemaのEP3030543の実施例および比較例に記載される手順に従って行われる。
【0028】
有利には、工程b)は、任意で他の脂質と混合された、10-ブロモメチル脂質と、アミン含有反応物とを、任意で該他の脂質と混合された、対応する10-アミノメチル脂質を提供するための条件下で、反応させることをさらに含み得る。これらの他の脂質もまた、アミノ基を有する脂質を形成するために反応していてもよい。そのように得られた10-アミノメチル脂質は、ラクタムなどのさらなる生成物を調製するために特に有用である。
【0029】
あるいは、工程b)は、任意で他の脂質と混合された、10-ブロモメチル脂質と、塩基含有反応物とを、任意で該他の脂質と混合された、対応する10-ヒドロキシメチル脂質を提供するための条件下で、反応させることをさらに含み得る。これらの他の脂質もまた、ヒドロキシル基を有する脂質を形成するために反応していてもよい。そのように得られた10-ヒドロキシメチル脂質は、ラクトンなどのさらなる生成物を調製するために特に有用である。
【0030】
そのようなラクタムおよびラクトンは、そのまま使用してもよく、同じ目的のための出発物質として使用してもよい。ラクタムおよびラクトンはまた、開環重合(ROP)によって、それぞれ、ポリアミドおよびポリエステルを作製するために使用してもよい。
【0031】
有利には、本発明の方法は、精製工程c)をさらに含み得、ここで、工程b)から得られた10-ブロモメチル脂質、10-アミノメチル脂質、10-ヒドロキシメチル脂質、ラクトン、またはラクタムは、出発物質が混合物である場合は反応生成物を分離するために、かつ/または、形成された異性体もしくはエナンチオマーを分離するために、精製工程へ供される。
【0032】
出発物質、ならびに臭素、アミノ、ヒドロキシル、ラクトン、およびラクタムの中より選択される官能基を有する本明細書に記載される生成物の各々は、適切な溶媒および固相(例えば、シリカゲル、アルミナ)を用いる液体クロマトグラフィー技法ならびに技術(例えば、カラム、薄層、または遠心クロマトグラフィー)を使用して精製され得る。エナンチオマー分離が望まれる場合、好ましくはキラルアミンもしくはアルコール、または10-メチレン置換脂質がアミン部分を含有する場合はキラル酸を使用して、好ましくは塩を作るために、適切なキラル補助剤を用いて、ディファレンシャルクリスタリゼーションを適用してもよい。代替の精製方法は、従来の方法に従うキラル固定相の助けを借りての液体クロマトグラフィーの使用を含む。
【0033】
精製される生成物がカルボン酸エステル、ラクトン、またはラクタムの場合、エナンチオマー分離が望まれる場合を除き、蒸留が好ましい。
【0034】
有利には、工程a)において提供された10-メチレン置換脂質が、末端基としてカルボン酸を有する場合、方法は、任意で他の脂質と混合されかつ/または精製された、工程b)から得られたメチル置換脂質を、過剰のアルコールと、対応するエステルを提供するための条件下で接触させることを含むエステル化工程を、さらに含み得る。
【0035】
有利には、工程a)において提供された10-メチレン置換脂質が、末端基としてカルボン酸エステルを有する場合、方法は、任意で他の脂質と混合されかつ/または精製された、工程b)から得られた10-メチル置換脂質を、過剰の水と、対応するカルボン酸を提供するための条件下で接触させることを含む加水分解工程を、さらに含み得る。
【0036】
さらなる局面によれば、本発明は、本発明の少なくとも1つの中間生成物または本発明の組成物(該少なくとも1つの中間生成物は、官能基としてのアミノ基および末端基としてのカルボン酸を有する)を、単独で、または少なくとも1つのアミノ基および1つのカルボン酸基を含有する別のモノマーの存在下で、重縮合条件へ供し、かつポリアミドのホモオリゴマー、ホモポリマー、コオリゴマー、またはコポリマーを得る工程を含む、ポリアミド材料を調製するための方法を提供する。
【0037】
さらなる局面によれば、本発明は、以下の工程:
- 本発明の少なくとも1つの中間生成物または本発明の組成物(該少なくとも1つの中間生成物は、官能基としてのアミノ基および末端基としてのカルボン酸を有する)を、単独で、または少なくとも1つのアミノ基および1つのカルボン酸基を含有する別のモノマーの存在下で、重縮合条件へ供し、かつポリアミドのホモオリゴマー、ホモポリマー、コオリゴマー、またはコポリマーを得る工程、ならびに
- ポリアミドのホモオリゴマー、ホモポリマー、コオリゴマー、またはコポリマーを、ポリエーテルと、該ポリアミドの遊離アミンまたは遊離カルボン酸部分上での該ポリエーテルのグラフト化を得るための条件下で接触させる工程
を含む、コポリマーを調製するための方法を提供する。
【0038】
さらなる局面によれば、本発明は、本発明の少なくとも1つの中間生成物または本発明の組成物(該少なくとも1つの中間生成物は、官能基としてのヒドロキシル基および末端基としてのカルボン酸を有する)を、ラクトンを得るための環形成条件へ供する工程を含む、ラクトンを調製するための方法を提供する。
【0039】
さらなる局面によれば、本発明は、特に前述の方法から得られた、ラクトン、より具体的には11-アルキルオキサシクロドデカン-2-オンを提供し、ここで、環のΔ11位で分岐しているアルキル基は、4~10個の炭素原子、好ましくは6~8個の炭素原子、最も好ましくは8個の炭素原子を有する脂肪族直鎖である。好ましくは、脂肪族鎖は飽和している。
【0040】
さらなる局面によれば、本発明は、本発明の少なくとも1つの中間生成物または本発明の組成物(該少なくとも1つの中間生成物は、官能基としてのアミノ基および末端基としてのカルボン酸を有する)を、ラクタムを得るための環形成条件へ供する工程を含む、ラクタムを調製するための方法を提供する。
【0041】
さらなる局面によれば、本発明は、特に前述の方法から得られた、ラクタム、より具体的には11-アルキルアザシクロドデカン-2-オンを提供し、ここで、環のΔ11位で分岐しているアルキル基は、4~10個の炭素原子、好ましくは6~8個の炭素原子、最も好ましくは8個の炭素原子を有する脂肪族直鎖である。好ましくは、脂肪族鎖は飽和している。
【0042】
上述のラクタムおよびラクトンは、有利には、フレーバー、フレグランス、またはラクタムおよびラクトンを調製するための前駆体として使用することができる。
【0043】
さらなる局面によれば、本発明は、少なくとも1つの出発物質、本発明の1つの中間生成物、または本発明の組成物(該少なくとも1つの出発物質または1つの中間生成物は、末端基としてカルボン酸を有する)を、金属または金属塩と、該1つの出発物質または該1つの中間生成物のカルボン酸金属塩を得るための条件下で接触させる工程を含む、抗真菌性化合物を調製するための方法を提供する。そのような金属は好ましくは亜鉛である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
発明の詳細な説明
本発明の目的のために、以下の定義を提供する。
【0045】
本明細書において使用される場合、「対応する10-ブロモメチル脂質」における「対応する」という用語は、メチル基がΔ10位にあり、かつ10-ブロモメチル脂質を生じる10-メチレン置換脂質の脂肪族直鎖と同じ数の炭素原子を有する、脂肪族直鎖を、10-ブロモメチル脂質が有することを意味する。同様に、「対応する10-アミノメチル脂質」は、それを生じる10-ブロモメチル脂質と同じ脂肪族直鎖(メチル基がΔ10位にある)を有し、臭素がアミノ基によって置き換えられており、「対応する10-ヒドロキシメチル脂質」は、それを生じる10-ブロモメチル脂質と同じ脂肪族直鎖(メチル基がΔ10位にある)を有し、臭素がヒドロキシル基によって置き換えられている。
【0046】
本明細書において使用される場合、表現「C#」において、「#」は、炭素原子の数に対応する正の整数である。
【0047】
脂肪族直鎖がX個の炭素原子を有すると記載される場合、炭素原子のこの数字Xは、脂肪族直鎖上で分岐しているいかなる炭素も除外する。例えば、分岐メチル基を有する14個の炭素原子の脂肪族直鎖は、合計15個の炭素原子を有する。
【0048】
用語「エステル」は本明細書においてカルボン酸エステルを指す。
【0049】
用語「含むこと(comprising)」、「含む(comprises)」、および「で構成される(comprised of)」は、本明細書において使用される場合、「含むこと(including)」、「含む(includes)」または「含有すること(containing)」、「含有する(contains)」と同義であり、包含的またはオープンエンドであり、追加の、未記載のメンバー、要素または方法工程を除外しない。用語「含むこと(comprising)」、「含む(comprises)」、および「で構成される(comprised of)」はまた、用語「からなる」を包含する。
【0050】
終点による数値範囲の記載は、記載された終点だけでなく、それぞれの範囲内に含まれる全ての数値および分数を含む。
【0051】
本明細書において援用される全ての文書は、参照によりそれらの全体が本明細書に組み入れられる。特に、本明細書において具体的に言及される全ての文書の教示が、参照により組み入れられる。
【0052】
「生物有機化合物」または「微生物由来有機物」に関して、特定の特徴、構造、特性、または態様は、1つまたは複数の態様において、本開示から当業者に明らかであるように、任意の好適な方法で組み合わせることができる。
【0053】
本発明は、中間生成物およびまたこれらの中間生成物からのさらなる生成物を調製するための方法を提供する。
【0054】
本発明の中間生成物を調製するための方法
工程a)
工程a)において提供される10-メチレン置換脂質の各々は、Δ10位で分岐しているメチレン(=CH2)基とカルボン酸およびカルボン酸エステルより選択される末端基とを有する14~20個の炭素原子の脂肪族直鎖を含む。
【0055】
有利には、脂肪族直鎖は16~18個の炭素原子を有する。好ましい態様において、脂肪族直鎖は18個の炭素原子を有する。そのような脂肪族直鎖は好ましくは飽和している。
【0056】
10-メチレン置換脂質は、10-メチレンステアリン酸またはエステル、10-メチレンパルミチン酸またはエステル、および10-メチレンアラキジン酸またはエステル、好ましくは10-メチレンステアリン酸またはエステルより選択され得る。
【0057】
好ましいエステルは、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、およびイソプロピルエステルである。
【0058】
一態様において、10-メチレン置換脂質は微生物によって産生される。工程a)は、次いで、適切な細胞培養物を培養し、細胞培養物から油組成物を回収することを含み、該油組成物は前に定義されるような10-メチレン置換脂質を含む。
【0059】
適切な細胞は、参照により本明細書中に組み入れられるWO2018/057607に開示されるような、分岐メチル脂質またはそのような脂質を含む組成物を産生するためのメチルトランスフェラーゼ遺伝子および/またはレダクターゼ遺伝子を含む細胞である。
【0060】
メチルトランスフェラーゼ遺伝子はメチルトランスフェラーゼタンパク質をコードし、これは、S-アデノシルメチオニンなどの基質から、オレイン酸などの脂肪酸(例えば、ここで、脂肪酸は、遊離脂肪酸、カルボキシレート、リン脂質、ジアシルグリセロール、またはトリアシルグリセロールとして存在する)へと、炭素原子およびそれに結合された1つまたは複数のプロトンを移すことができる酵素である。レダクターゼ遺伝子はレダクターゼタンパク質をコードし、これは、脂肪酸(例えば、ここで、脂肪酸は、遊離脂肪酸、カルボキシレート、リン脂質、ジアシルグリセロール、またはトリアシルグリセロールとして存在する)の二重結合を、しばしばNADPH依存的に、還元することができる酵素である。
【0061】
そのような細胞は、通常、上述のメチルトランスフェラーゼ遺伝子および/またはレダクターゼ遺伝子を含む核酸を含み、一般に、例えば、遺伝子銃、エレクトロポレーション、ガラスビーズ形質転換、および炭化ケイ素ウィスカー形質転換を含む任意の好適な周知の技法によって形質転換された細胞である。
【0062】
適切な細胞および核酸のリストはWO2018/057607において提供されている。細胞は、藻類、細菌、カビ、真菌、植物、および酵母の群より選択され得る。例として、好適な細胞としては、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)、ヤロウィア・リポリティカ、またはアルクスラ・アデニニボランス(Arxula adeninivorans)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0063】
典型的に、微生物中において脂質を製造することは、発酵槽またはバイオリアクター中において所望の脂質を産生することができる微生物を増殖させること、および、細胞内に蓄積されたかまたは細胞によって分泌されたかのいずれかの、細胞により産生された油を回収することを伴う。培養培地および条件は、培養される細胞の種に基づいて選択することができ、所望の脂質プロファイルの最大限の産生を提供するように最適化することができる。細胞の培養物から油組成物を回収するのに適した任意の公知の方法を使用することができる:例えば、濾過または遠心分離によってなど、培養細胞を採取し、細胞内に蓄積された脂質を含有する溶解物を作製するために細胞を溶解し、または分泌された脂質を培養培地から収集し、そして疎水性溶媒を使用して脂質/炭化水素成分を抽出する。
【0064】
工程a)は、メチル化のための基質として役立つ、オレイン酸などの、非分岐、不飽和脂肪酸が任意で補われた培養培地中、バイオリアクター中において適切な細胞を培養することを含み得る。培養培地は、同様に基質として役立ち得る、メチオニンまたはs-アデノシルメチオニンが任意で補われ得る。従って、工程a)は、1つの細胞または複数の細胞を、オレイン酸、メチオニン、または両方と接触させることを含み得る。工程a)は、有機溶媒での抽出によってなど、細胞からおよび/または培養培地から脂質を回収することを含み得る。
【0065】
回収された脂質は、少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、または99重量%の脂質を、主にトリグリセリドとして、ならびに比較的程度は低いが、ジグリセリド、モノグリセリド、リン脂質、および遊離カルボン酸として含有し得る、油組成物を形成する。油組成物は、分岐メチレン置換脂質、および任意で(メチル)脂質を含む。メチレン置換脂質は、遊離カルボン酸(例えば、10-メチレンステアリン酸、10-メチレンパルミチン酸、12-メチレンオレイン酸、13-メチレンオレイン酸、10-メチレン-オクタデカ-12-エン酸)を含有し得る。
【0066】
回収された油組成物は工程b)へ直接送ることができ、または工程a)は、Δ10位で分岐しているメチレン(=CH2)基とカルボン酸およびカルボン酸エステルより選択される末端基とを有する14~20個の炭素原子の脂肪族直鎖を有する1種または複数種の10-メチレン置換脂質、またはそのようなメチレン置換脂質の混合物を回収するために適した条件へと、油組成物を供することを含み得る。例として、真空蒸留が、カルボン酸の形態の1種または複数種の10-メチレン置換脂質を回収するために使用され得る。この場合、カルボン酸は、硫酸、塩酸、またはリン酸などの酸性触媒の存在下での加水分解によってトリグリセリド含有粗製油組成物から得られる。
【0067】
工程b)
工程a)において提供された10-メチレン置換脂質、10-メチレン置換脂質の混合物、または10-メチレン置換脂質を含有する油組成物は、次いで、工程b)へ供され、ここで、それは、分岐メチル基の炭素に結合された官能基を含む対応する10-メチル置換脂質を提供するための条件下で1つまたはいくつかの試薬と反応される。そのような官能基はブロモ(-Br)である。
【0068】
このブロモ官能基は、10-ヒドロキシメチル脂質を提供するためにヒドロキシル官能基でさらに置換されてもよい。あるいは、ブロモ官能基は、10-アミノメチル脂質を提供するためにアミノ官能基で置換されてもよい。前記アミノ官能基は、一置換アミノ基、例えば、メチルアミノもしくはエチルアミノ、または二置換アミノ基、例えば、ジエチルアミノ、ジイソプロピルアミノ、ピロリジニルもしくはメチルエチルアミノであり得る。
【0069】
好ましい官能基は、ブロモ(-Br)、ヒドロキシル(-OH)、アミノ(-NH2)基より選択される。他のアミノ基は一または二置換アミノ基である。
【0070】
特に、官能基は、中間化合物が使用されるように意図される反応に応じて選択することができる。
【0071】
そのような「対応する10-メチル置換脂質」は、出発メチレン置換脂質の脂肪族直鎖と同じ数の炭素原子を有する脂肪族直鎖、およびΔ10位で分岐しているメチル基を含む。
【0072】
上記メチル置換脂質を得るための適切な条件は、化学合成の当業者によって一般知識から決定することができる。特に、選択される反応物のうちの1つは、官能基を有する10-メチル置換脂質を提供するために、10-メチレン置換脂質のΔ10位にある炭素-炭素二重結合と反応する官能基を含有する。
【0073】
既述の通り、1つまたはいくつかの炭素-炭素二重結合をまた含有する他の脂質が存在する場合、そのような二重結合もまた、官能基と反応し、10-メチル置換脂質と同じ官能基を有する脂質を提供し得る。対照的に、炭素-炭素二重結合を有さない脂質はおそらく反応しない。
【0074】
Δ10位に官能基を有する10-メチル置換脂質と、同じ官能基を1つまたはいくつか有する脂質と、この官能基を有さない他の脂質とを含有する組成物を、次いで得ることができる。そのような組成物の使用目的に応じて、関心対象ではない脂質のうちのいくつかの分離が、例えば、蒸留(常圧および/もしくは真空蒸留)または任意の他の適切な分離技術によって、想定され得る。
【0075】
組成物
本発明の組成物は、前に定義されるような、特に、本明細書中に記載される方法によって得られた、少なくとも1つの中間生成物を含有する。
【0076】
組成物は、好ましくは、1つまたは複数の中間生成物を、少なくとも25 wt%、30 wt %、35%、またはそれ以上、最大90 %wt、95%wt、99%wtまで含有する。中間生成物の含有量は、上記の限界値の任意の組み合わせによって定義される範囲内であってもよい。
【0077】
そのような組成物は、特に、1%wt、5%wt、10%wtから、最大75%wt、70%wt、65%wtまで、またはこれらの限界値の任意の組み合わせによって定義される範囲内の含有量で、他の脂質をさらに含有し得る。
【0078】
脂質はC12~C30脂肪酸を含み得る。一般に、脂質はC14~C24脂肪酸を含む。そのような脂質は、脂肪酸、トリアシルグリセリド(TAG)、または脂肪酸エステルとして存在し得る。
【0079】
脂質の性質および割合は、クロマトグラフィー技術、特に質量分析と連結されたガスクロマトグラフィーによって、またはNMRによって決定することができる。典型的に、遺伝子改変酵母発酵から生じた粗製油組成物は、トリグリセリドの形態で、10~40 wt%の10-メチレンステアリン酸、1~10 wt%の10-メチレンパルミチン酸、および0.1~1 wt%の10-マルガリン酸を含有する。
【0080】
実施例
本発明の態様は、好ましい経路ならびに生成物調製スキームおよび方法を示す以下の図によって説明される、下記の種々の実施例を見ることによってよりよく理解されると考えられる。全ての図において、Rは、例えばメチル、エチル、プロピル、およびイソプロピル基より選択される、アルキル基を示す。
【図面の簡単な説明】
【0081】
図1図1は、10-メチレン-パルミチン酸エステル/酸から10-ブロモメチル-パルミチン酸エステル/酸および10-アミノメチル-パルミチン酸エステル/酸への経路(左側)、ならびに10-メチレン-ステアリン酸エステル/酸から10-ブロモメチル-ステアリン酸エステル/酸および10-アミノメチル-ステアリン酸エステル/酸への経路(右側)を示す。Rはアルキルまたは水素基を示し得る。
図2図2は、直接的に水の脱離での、または対応する10-アミノメチル-ステアリン酸エステルの形成を介しての、ポリアミドへの10-アミノメチル-ステアリン酸の重縮合を示す。図において、nは、ポリアミドの単位数を示す。11-オクチルアザシクロドデカン-2-オンの開環重合(ROP)が左下にさらに示される。
図3図3は、対応するラクトンである、11-オクチルオキサシクロドデカン-2-オンへの10-ヒドロキシメチルステアリン酸の環化(右側)、および対応するラクトンである、11-ヘキシルオキサシクロドデカン-2-オンへの10-ヒドロキシメチルパルミチン酸の環化(左側)を示す。
図4図4は、対応するラクタムである、11-オクチルアザシクロドデカン-2-オンへの10-アミノメチルステアリン酸の環化(右側)、および対応するラクタムである、11-ヘキシルアザシクロドデカン-2-オンへの10-アミノメチルパルミチン酸の環化(左側)を示す。
【実施例
【0082】
10-メチレンステアリン酸またはエステルの臭素化
10-メチレンステアリン酸の臭化水素化(hydrobromination)は、臭化水素酸と、紫外線(UV)、化学種、例えば、酸素、オゾン、ジアゾ化合物、過酸化物、例えば、過酸化水素、ジ-ベンゾイル-ペルオキシド、ジ-ter-ブチル-ペルオキシド(di-ter-butyl-peroxide)、4-クロロフェニル-過安息香酸、または過安息香酸であり得る、ラジカル種のジェネレーターとの存在下で行われ得る。
【0083】
好ましい臭化水素化方法としては、WO2015/019028 (EP3030543B1)、FR951932、およびCN1100030Cに記載されるものが挙げられ、これらは臭化水素酸および酸素を利用し、ここで、臭化水素化されるオレフィン生成物は、好適な溶媒中の溶液である。
【0084】
好適な溶媒は、反応中に形成されるラジカルのスカベンジャーとして機能しない溶媒を意味する。
【0085】
好適な溶媒としては、WO2015/019028に開示されるもの、例えば、これらに限定されないが、ベンゼン、フルオロベンゼン、クロロベンゼン、トルエン、メチルシクロヘキサン、トリフルオロトルエン(「BTF」)、エチルベンゼン、キシレン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ヘプタン、イソオクタン、1,1,1-トリクロロエタン、およびジブロモメタン、ならびにそれらの混合物が挙げられる。芳香族溶媒、例えば、ベンゼン、トルエン、またはキシレン、ならびにまたハロゲン化溶媒、例えば、モノクロロベンゼンは、一般に、「良溶媒」と記載される。用語「良溶媒」は、臭化水素化反応温度で、試薬および臭化水素化反応の生成物の混和性および溶解性を可能にし、従って、系によりよい反応性を与える溶媒を意味するように意図される。混和性は、通常、様々な液体が一緒に混ざる能力を意味する。得られた混合物が均質である場合、液体は本発明の目的について混和性と記載される。溶質と呼ばれる、イオン化合物または分子化合物の溶解度とは、所与の温度で、溶媒中において溶解または解離できるこの化合物の最大濃度(1リットル当たりのモル)である。
【0086】
試薬および生成物の完全な溶解性を可能にすることによって、良溶媒はまた、機器の詰まりを防ぐことができる。逆に、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、またはヘプタンなどの溶媒は、この種の臭化水素化プロセスでは一般に「貧溶媒」に分類される。
【0087】
反応温度は、オレフィン官能基の末端(非置換)sp2炭素原子上への臭素原子ラジカル付加の位置選択性を維持するために、-50℃~+20℃である。有利には、HBrおよび試薬が溶媒に溶けるようにするために、溶媒が使用される温度は、好ましくは、試薬の結晶化の最高温度とアンチマルコフニコフ反応の限界温度との間、即ち、-50℃~20℃の範囲内である。
【0088】
10-メチレンステアリン酸のエステルは、調製方法を大幅に変更することなく、同じ反応を受けることができる。
【0089】
結果として生じる10-ブロモメチルステアリン酸/エステルは、次いで、図1に示されるような10-ブロモメチルステアリン酸/エステルを提供するための温和な条件下でアンモニアと反応させる。
【0090】
アミノ誘導体の調製
10-アミノメチルステアリン酸/エステルは、WO2010/070228 (EP2358662B1)、FR988699、およびGB591027に記載される方法に従って調製することができ、これらは、11-ブロモウンデカン酸をアンモニア溶液と接触させることからの11-アミノウンデカン酸の調製に専ら取り組んでいる。WO2010/070228の方法が好ましい。
【0091】
ブロモ置換メチルステアリン酸、マルガリン酸、およびパルミチン酸/エステルのヒドロキシル化
10-ブロモメチルステアリン酸、マルガリン酸、もしくはパルミチン酸/エステル、またはそれらの混合物は、それぞれ、10-ヒドロキシメチルステアリン酸、マルガリン酸、およびパルミチン酸/エステル、またはそれらの混合物を高収率で提供するために、水の存在下において酸性または塩基性条件下で臭素交換を受け得る。1)アミンならびに強いカルボン酸もしくはスルホン酸(例えばトリフルオロメチルスルホン酸)のような、臭素原子との求核交換を受けやすい酸または塩基の使用を回避すること、ならびに2)出発物質、即ち、10-メチレンステアリン酸、マルガリン酸、もしくはパルミチン酸へ戻るか、または10-メチルオレイン酸などの異性体へ至るであろう、望ましくない脱離反応を回避するために反応温度を制御することに注意すべきである。
【0092】
エナンチオマーの分離
必要に応じて、10-ヒドロキシメチルステアリン酸/エステル、10-ブロモメチルステアリン酸/エステルおよび10-アミノメチルステアリン酸/エステルは、それらのエナンチオマーを分離するために各々独立して精製され得る。分離方法としては、非限定的に、キラル分子での分画結晶化、キラル溶媒でのまたはキラル支持体上での液相クロマトグラフィーによる分離が挙げられる。10-アミノメチルステアリン酸および10-アミノメチルステアリン酸エステルに関して、好ましい分離方法としては、(+/-)-酒石酸などのキラル酸との塩の形成が挙げられる。
【0093】
同じ方法が、10-ヒドロキシメチルパルミチン酸/エステル、10-ブロモメチルパルミチン酸/エステル、10-アミノメチルパルミチン酸/エステル、10-ヒドロキシメチルマルガリン酸/エステル、10-ブロモメチルマルガリン酸/エステル、および10-アミノメチルマルガリン酸/エステルのエナンチオマーを分離するために使用することができる。
【0094】
ステアリン酸、マルガリン酸、およびパルミチン酸誘導体のエステル
本明細書に記載されるステアリン酸、マルガリン酸、およびパルミチン酸誘導体のエステルは、ステアリン酸、マルガリン酸、もしくはパルミチン酸誘導体、またはそれらの混合物を、硫酸などの強酸の存在下で、エステル化されることになる過剰のアルコールと接触させることによる、従来の方法を使用して、調製してもよい。好ましくは、生成された水は、加水分解の逆反応を制限するために反応媒体から除去される。好ましいアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、およびイソプロパノールが挙げられる。好ましいエステルとしては、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、およびイソプロピルエステルが挙げられる。
【0095】
本明細書に記載されるステアリン酸、マルガリン酸、およびパルミチン酸誘導体のエステルは、それを、強酸の存在下で過剰の水と接触させることによって、対応するステアリン酸、マルガリン酸、およびパルミチン酸誘導体へ加水分解してもよい。生成されたアルコールは、好ましくは、エステル化の逆反応を制限するために反応媒体から除去される。
【0096】
ポリアミド調製
10-アミノメチル-ステアリン酸は、図2に示されるように、ポリアミドまたはそのオリゴマーを提供するために縮合することができる。
【0097】
反応は、溶媒または触媒無しで、120~180℃にて、ポリマーの所望の特性に合わせた時間の間、行うことができる。発生した水は、それが形成している場合は反応媒体から蒸留によって除去される。
【0098】
10-アミノメチルステアリン酸エステルもまた、同じ方法を使用して縮合することができる。発生したアルコールは適宜除去される。
【0099】
好適な重合方法はW02000/68298に見い出され得、ここで、超分岐ポリアミドが調製される。この文献は、超分岐ポリアミドが、例えば自動車照明についてのPMMA(ポリメチルメタクリレート)市場に取って代わるために重要な因子である透明性を改善することを示している。
【0100】
同じ方法が、10-アミノメチル-マルガリン酸または10-アミノメチル-パルミチン酸モノマーの重縮合に適用され得る。
【0101】
コポリマー調製
10-アミノメチル-ステアリン酸と、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸、10-アミノデカン酸などの他のモノマーとのコポリマーの調製が、上記と同じ方法を使用して想定され得る。
【0102】
高性能コポリマーについての他の重要な市場使用としては、ポリエーテルブロックアミド(PEBA)が挙げられ、これは、1)本発明に従うアミノ酸のホモポリマーの、または同じものとPA6、PA11およびPA12を作製するために使用されるモノマーのうちの1つとのコポリマーの重縮合、続いてのポリアミドの遊離アミンまたは遊離カルボン酸部分上でのポリエーテルの末端グラフト化によって得られる、熱可塑性エラストマーである。公知のPEBA商標としてはPEBAX(登録商標)(Arkema)およびVESTAMID(登録商標)(Evonik Industries)が挙げられる。
【0103】
PEBAXまたはVestamide誘導体の調製においてコモノマーとして本発明に従うモノマーを導入することは、より良い結果をもたらすと予想される:
1)UV分解に対する耐性。なぜならモノマーは、ラジカルを安定させることが公知である、第3級アルキル部分を有するため。従って、UV耐性改善を特許請求することは選択肢であり得る。
2)低温での耐熱性の改善。なぜならポリアミド結晶性は、本発明に従うモノマーの導入によって低下すると考えられるため。
3)透明度の改善。
【0104】
例として、10-アミノメチルステアリン酸は、直鎖状C6側鎖を有するポリアミド12(Nylon 12(登録商標))と同様のポリアミドを提供するために重縮合され得る。12-アミノドデカン酸との共重合は、Nylon 12(登録商標)の物理的性質の緩和を可能にする。他の密接に関連しているポリアミドとしては、商標Rilsan(登録商標)としてArkemaによって市販されるNylon 11が挙げられる。
【0105】
10-ヒドロキシメチルステアリン酸は、ポリエステルを提供するために重縮合され得る。
【0106】
同じ方法が、10-アミノメチル-マルガリン酸または10-アミノメチル-パルミチン酸モノマーの共重合に適用され得る。
【0107】
ラクトンおよびラクタム調製
10-ブロモメチルステアリン酸、10-ブロモメチルマルガリン酸、および10-ブロモメチルパルミチン酸からのラクトン環形成は、Galli C. and Mandolini, Organic Syntheses, (1978), 58, 98-101 , “Macrolides from cyclization of ω-bromocarboxylic acids: 11-hydroxyundecanoic lactone”に記載される方法に従って、DMSO(ジメチルスルホキシド)中において約100℃で加熱することによりK2CO3の存在下で行うことができる。
【0108】
それぞれ、10-ヒドロキシメチルステアリン酸、10-ヒドロキシメチルマルガリン酸、10-ヒドロキシメチルパルミチン酸、および10-アミノメチルステアリン酸、10-アミノメチルマルガリン酸、10-アミノメチルパルミチン酸からの、ラクトンおよびラクタム環形成は、例えば、適切な溶媒中において高希釈下で加熱することによって、行うことができる。この目的のために、ヒドロキシ酸からのラクトン環形成は、Chemishe Berichte, (1947), 80, 129-137からの方法に従って(ここで、ヒドロキシ酸は、所望のラクトンを得るために、K2CO3の存在下、沸騰しているメチルエチルケトン(MEK)中において環化される)、またはMukaiyama et al., Chemistry Letters, (1976), (1), 49-50に従って(ここで、ヒドロキシ酸は、2-クロロ-1-メチルピリジニウムヨージドの存在下、トリメチルアミン中において加熱することによって環化される)、行われ得る。アミノ酸からのラクタム環形成は、Yunxin Bo and Donglu Bai, Chinese Chemical Letters, (1994), Vol. 5, issue 2, 95-96に従って行われ得、ここで、アミノ酸は、2-ブロモ-1-メチルピリジニウムヨージドの存在下で環化される。
【0109】
あるいは、ラクトンおよびラクタム環形成は、1)適切な連結基を有する固相ポリマー支持体上での出発物質の固定、次いで2)対応するラクトンまたはラクタムへと切断工程で環化する、出発物質の切断、によって行われ得る。
【0110】
結果として生じる11-ヘキシルオキサシクロドデカン-2-オンまたは11-オクチルオキサシクロドデカン-2-オン(図3)および11-ヘキシルアザシクロドデカン-2-オンまたは11-オクチルアザシクロドデカン-2-オン(図4)は、いくつかのより小さいラクトンおよび環状エーテルが、例えば、ピーチ、マンゴー、またはムスクの香りを有することが公知であるため、そのまま、またはフレーバーおよびフレグランスを作製するための出発物質として、作物保護に適した組成物を作製するための出発物質として、特に、害虫などの昆虫の性ホルモン受容体の模倣体もしくはアンタゴニストとして、または従来の技術を用いて開環重合(ROP)によってポリエステルもしくはポリアミドを調製するためのモノマーもしくはコモノマーとして、用途を見出し得る。
【0111】
抗真菌特性を有する金属塩の調製
10-ヒドロキシメチルステアリン酸、10-ヒドロキシメチルマルガリン酸、および10-ヒドロキシメチルパルミチン酸は、ヒトおよび動物の治療において、ならびに作物保護のための、有用な抗真菌性化合物としての対応する10-ヒドロキシメチルステアリン酸、10-ヒドロキシメチルマルガリン酸、および10-ヒドロキシメチルパルミチン酸金属塩を得るために、適切な金属または金属塩と反応させることができる。好ましい金属は亜鉛である。最も近い治療用製品はMycodecyl(登録商標)(ウンデシレン酸亜鉛)である。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】