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2022-527457接着剤および封止剤として使用するための機能性グラフェン材料
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-02
(54)【発明の名称】接着剤および封止剤として使用するための機能性グラフェン材料
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/194 20170101AFI20220526BHJP
   C01B 32/198 20170101ALI20220526BHJP
   C09J 1/00 20060101ALI20220526BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20220526BHJP
【FI】
C01B32/194
C01B32/198
C09J1/00
C09J11/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021556894
(86)(22)【出願日】2020-03-20
(85)【翻訳文提出日】2021-11-12
(86)【国際出願番号】 US2020023895
(87)【国際公開番号】W WO2020198022
(87)【国際公開日】2020-10-01
(31)【優先権主張番号】62/919,682
(32)【優先日】2019-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】502064461
【氏名又は名称】カーネギーメロン ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】Carnegie Mellon University
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】クリッツァー, カーティス アール.
(72)【発明者】
【氏名】シドリック, ステファニー エー.
(72)【発明者】
【氏名】アーノルド, アン エム.
(72)【発明者】
【氏名】ホルト, ブライアン ディー.
(72)【発明者】
【氏名】エックハルト, キャロライン イー.
【テーマコード(参考)】
4G146
4J040
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AB07
4G146AC16B
4G146AC27B
4G146AD37
4G146BA01
4G146BA02
4G146BC41
4G146BC50
4G146CB09
4G146CB10
4J040GA05
4J040GA14
4J040HA036
4J040HB03
4J040HB10
4J040HC07
4J040MA02
4J040MB06
4J040NA12
(57)【要約】
本発明は、様々な用途において接着剤または封止剤として作用する接着特性または機能性を有する特定の化学的化合物または材料を提供する。具体的には、本発明は、その様々な実施形態を含めて、結合された接着性部分を有する特定の機能性グラフェン材料であって、得られた化合物に接着特性または機能性を付与し、様々な用途、例えば、発電所の復水器管などの流体を運ぶ管における漏口または欠陥のその場での修理において接着剤または封止剤として使用することができる機能性グラフェン材料に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着特性を有する化合物であって、
グラフェン足場と、
金属表面に接着することができる1,2-ジヒドロキシベンゼンを含む部分を有する、前記グラフェン足場に共有結合された分子と、
を含む、化合物。
【請求項2】
前記グラフェン足場が酸化グラフェンを含む、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記グラフェン足場がクライゼングラフェンを含む、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
前記分子が、前記分子を前記グラフェン足場に共有結合する求核剤を含む、請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
前記求核剤が第一級アミンを含む、請求項1に記載の化合物。
【請求項6】
前記分子がカテコール誘導体を含む、請求項1に記載の化合物。
【請求項7】
前記分子が3,4-ジヒドロキシベンジルアミンを含む、請求項1に記載の化合物。
【請求項8】
管壁における開口部の封止であって、
管壁における開口部と、
1,2-ジヒドロキシベンゼンを含む部分を有する共有結合された分子を有するグラフェン足場を含む封止であって、前記封止が前記管壁の一部に接着され、それによって前記開口部を覆う封止と、
を含む、管壁における開口部の封止。
【請求項9】
前記グラフェン足場が酸化グラフェンを含む、請求項8に記載の化合物。
【請求項10】
前記グラフェン足場がクライゼングラフェンを含む、請求項8に記載の化合物。
【請求項11】
前記分子がカテコール誘導体を含む、請求項8に記載の化合物。
【請求項12】
前記分子が3,4-ジヒドロキシベンジルアミンを含む、請求項8に記載の化合物。
【請求項13】
管における漏口を低減する方法であって、
管を通る流体に封止剤を添加することであって、前記封止剤は、1,2-ジヒドロキシベンゼンを含む部分を有する共有結合された分子を有するグラフェン足場を含み、前記管は、前記流体が通過する漏口を含む、添加することと、
前記漏口に隣接する前記管に前記封止剤を接着することと、
前記封止剤を含む封止を形成し、それによって前記漏口を覆うことと、
を含む方法。
【請求項14】
前記グラフェン足場が酸化グラフェンを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記グラフェン足場がクライゼングラフェンを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記分子がカテコール誘導体を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記分子が3,4-ジヒドロキシベンジルアミンを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記形成することが、前記流体が前記漏口を通過するのを防止することを含む、請求項13に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
発明の分野
本発明は、その様々な実施形態を含めて、様々な用途において接着剤または封止剤として作用する接着特性または機能性を有する特定の化学物質に関する。具体的には、本発明は、その様々な実施形態を含めて、結合された接着性部分を有する特定の機能性グラフェン材料であって、接着特性または機能性を有し、様々な用途、例えば、発電所の復水器管などの流体を運ぶ管における漏口または欠陥のその場での修理において接着剤または封止剤として使用することができる機能性グラフェン材料に関する。
【背景技術】
【0002】
関連分野の説明
ランキンサイクル発電所などの発電所では、望ましくない復水器管の漏口が頻繁に発生し、その結果、電力出力が減少し、下流システムの負担が増加し、大幅な収益損失が生じる。より恒久的な修復措置は損傷した管の完全な交換を必要とし、著しい時間と費用を必要とするので、一般的に観察される漏口は、一時的な修復措置によってのみ対処され得る。現在、木粉などの粒子によって物理的に塞ぐことが、非自己修理(自己修復)復水器管に対する産業標準である。しかしながら、その強力な凝集特性および接着性部分の欠如のため、木粉には限界がある。さらに、存在する官能基の種類の結晶性および均一性のために、木粉は、凝集および接着を付与および調整するための化学修飾の可能性が限られている。したがって、木粉は、望ましくない高凝集特性を有し、耐久性のある封止を形成するための接着特性を欠くので、復水器管の漏口に対する解決策としては不適切である。
【0003】
したがって、復水器管の漏口に対する改良された封止剤が必要とされている。具体的には、より費用がかかる他の修理を回避しまたは最小限に抑えるために、長期的な欠陥修理または復水器管に対する長期封止を提供するために使用することができる改良されたインサイチュ封止剤が必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明の簡単な要旨
一般的には、本発明は、様々な用途において接着剤または封止剤として作用する接着特性または機能性を有する特定の化学的化合物または材料に関する。具体的には、本発明は、その様々な実施形態を含めて、結合された接着性部分を有する特定の機能性グラフェン材料であって、得られた化合物に接着特性または機能性を付与し、様々な用途、例えば、発電所の復水器管などの流体を運ぶ管における漏口または欠陥のその場での修理において接着剤または封止剤として使用することができる機能性グラフェン材料に関する。
【0005】
本発明のFGMの化学的組成物は、接着剤として作用するまたは足場に接着機能を付与する、カテコール誘導体接着剤などの共有結合された低分子で官能化されたグラフェン足場であって、機能性グラフェン材料またはFGMの1つのクラスをもたらすグラフェン足場である。FGMは、様々なグラフェン足場に由来し得る。例えば、結合して一体化し、酸化された炭素原子の、原子レベルの薄さを有するミクロンサイズのシートである酸化グラフェン(GO)をグラフェン足場として使用することができる。クライゼングラフェン(CG)として知られるGOの誘導体もグラフェン足場として使用され得る。
【0006】
一実施形態において、FGMは、グラフェン足場と、金属表面に接着することができる1,2-ジヒドロキシベンゼンを含む部分を有する、前記グラフェン足場に共有結合された分子とを含む。一実施形態において、グラフェン足場は、酸化グラフェンまたはクライゼングラフェンを含む。一実施形態において、グラフェン足場に共有結合された分子は、該分子をグラフェン足場に共有結合する求核剤および第一級アミンを含む。いくつかの実施形態において、分子は、カテコール誘導体、例えば3,4-ジヒドロキシベンジルアミンである。
【0007】
FGMは、様々な用途において接着剤または封止剤として使用することができる。例えば、FGMは、チューブまたはパイプの漏口のその場での修理を提供するために使用することができる。一実施形態において、本発明は、管における漏口を低減する方法であって、管を通る流体に封止剤を添加することであって、前記封止剤は、1,2-ジヒドロキシベンゼンを含む部分を有する共有結合された分子を有するグラフェン足場を含み、前記管は、前記流体が通過する漏口を含む、添加することと、前記漏口に隣接する前記管に前記封止剤を接着することと、前記封止剤を含む封止を形成し、それによって前記漏口を覆うことと、を含む方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の一実施形態による機能性グラフェン材料(FGM)封止剤の封止剤能力を最大化するための材料設計の考察を示す。
【0009】
図2図2は、本発明の一実施形態によるGOの合成を示す。
【0010】
図3図3は、本発明の一実施形態によるCGの合成を示す。
【0011】
図4図4は、本発明の一実施形態によるGOおよびCGからのFGMの合成を示す。
【0012】
図5A図5は、本発明の一実施形態に従って生成されたGO、CGおよびFGMの熱重量分析の結果を示す。
図5B図5は、本発明の一実施形態に従って生成されたGO、CGおよびFGMの熱重量分析の結果を示す。
【0013】
図6図6は、本発明の一実施形態に従って生成されたGO、CGおよびFGM封止剤のX線光電子分光法(XPS)分析の結果を示す。
【0014】
図7図7は、本発明の一実施形態による、XPSを使用した官能化されていないGOおよびCG足場ならびにFGM封止剤の化学的特性決定を示す。
【0015】
図8図8は、本発明の一実施形態による官能化されていないおよびカテコール(3,4-ジヒドロキシベンジルアミン、DHBA)官能化された材料の高分解能XPSを示す。
【0016】
図9図9は、本発明の一実施形態による3,4-ジヒドロキシベンジルアミン(DHBA)のXPSを示す。
【0017】
図10図10は、本発明の一実施形態によるGO、CG)、およびFGM封止剤のフーリエ変換赤外(FTIR)分光法を示す。
【0018】
図11図11は、本発明の一実施形態による、緩衝培地中の大腸菌を用いた官能化されていない足場およびFGM封止剤の抗菌能力を示す。
【0019】
図12図12は、本発明の一実施形態による圧縮およびねじれ状態で測定された水和グラフェンパック(puck)の動的機械分析を示す。
【0020】
図13図13も、本発明の一実施形態による圧縮およびねじれ状態で測定された水和グラフェンパックの動的機械分析を示す。
【0021】
図14図14は、本発明の一実施形態によるグラフェンの水中分散液の画像を示す。
【0022】
図15図15は、本発明の一実施形態によるグラフェン材料の水性分散液の吸収分光法を示す。
【0023】
図16図16は、本発明の一実施形態による、欠陥を含有するポリプロピレンシリンジ中でのグラフェン分散液の封止能力を示す。
【0024】
図17図17も、本発明の一実施形態による、欠陥を含有するポリプロピレンシリンジ中での官能化されていないグラフェン分散液の封止能力を示す。
【0025】
図18図18は、本発明の一実施形態による、シリンジから抽出されたFGMで封止された欠陥のAFM画像を示す。
【0026】
図19A図19は、本発明の一実施形態によるGO、CG、およびFGMの光学顕微鏡画像を示す。
図19B図19は、本発明の一実施形態によるGO、CG、およびFGMの光学顕微鏡画像を示す。
【0027】
図20図20は、本発明の一実施形態によるFGMを使用するためのプロセスを示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
発明の詳細な説明
以下では、添付の図面を参照して、本発明をより詳細に説明する。本発明は特定の実施形態に関連して説明されるが、そのような実施形態は例として見なされるべきであり、本発明の唯一の実施形態を限定または記載するものと見なされるべきではない。むしろ、本発明は、本明細書に明示的に記載されているか否かにかかわらず、様々な実施形態または形態および様々な関連する態様または特徴および使用、ならびにそれらのすべてが本発明の趣旨および範囲および特許請求の範囲の中に含まれる代替物、修正物および均等物を含む。さらに、本明細書全体を通じた「発明」、「本発明」、「実施形態」という用語および類似の用語の使用は、広義に使用されており、本発明が、記載されているいずれかの特定の実施形態もしくは態様を必要とすることもしくはこれらに限定されること、またはそのような記載が本発明を作製もしくは使用し得る唯一の様式であることを意味するものではない。
【0029】
一般的には、本発明は、様々な用途において接着剤または封止剤として作用する接着特性または機能性を有する特定の化学的化合物または材料に関する。具体的には、本発明は、その様々な実施形態を含めて、結合された接着性部分を有する特定の機能性グラフェン材料であって、得られた化合物に接着特性または機能性を付与し、様々な用途、例えば、発電所の復水器管などの流体を運ぶ管における漏口または欠陥のその場での修理において接着剤または封止剤として使用することができる機能性グラフェン材料に関する。これらの材料は、機能性グラフェン材料(「FGM」)または機能性グラフェン材料封止剤と称され、接着剤または封止剤機能および金属表面などの表面中の欠陥を効果的に修理または封止する能力を有する。特に、本発明のFGMは、発電所の復水器管などの管の金属表面中の欠陥または漏口を修理または封止し、それによって管の漏口を効果的に最小化または低減または除去する能力を提供する。さらに、本発明のFGMは、このような欠陥または漏口をその場で修理または封止する能力を提供する。したがって、FGMは、管の使用中または稼働中に、漏れている復水器管などの欠陥または漏口を有するパイプまたは管を通って輸送されている流体に添加することができる。FGMは、欠陥または漏口の位置で管の内面に接着し、それによって管の使用を停止させる必要なしにその欠陥または漏口をその場で修復する。さらに、FGMによって提供される封止は、かかる封止がなければ漏口を修理するために必要とされる保守を最小限に抑える比較的長期の封止である。
【0030】
本発明のFGMの化学的組成物は、接着剤として作用するまたは足場に接着機能を付与する、カテコール誘導体接着剤などの共有結合された低分子で官能化されたグラフェン足場であって、機能性グラフェン材料またはFGMの1つのクラスをもたらすグラフェン足場である。FGMは、様々なグラフェン足場に由来し得る。例えば、結合して一体化し、酸化された炭素原子の、原子レベルの薄さを有するミクロンサイズのシートである酸化グラフェン(GO)をグラフェン足場として使用することができる。クライゼングラフェン(CG)として知られるGOの誘導体もグラフェン足場として使用され得る。接着特性を付与するためにGOおよびCGを化学修飾する能力は、これらの材料を特に有用にすることを理解すべきである。特に、GOおよびCGのカルボン酸含有量は、インサイチュ封止剤性能を高めるために利用される。GOおよびCG上のカルボン酸は、接着剤として作用する低分子(例えば、接着性カテコール)を共有結合的に設置するための化学的取っ手(chemical handles)として使用され、それによって様々な用途で封止剤または接着剤として使用するためのFGMが生成される。FGM全体に接着剤機能を付与するのは、前記低分子、すなわち足場に結合された分子であることを理解すべきである。接着剤機能は、表面欠陥または漏口を有する金属管などの修理されるべき所与の表面への結合を可能にする。
【0031】
図面と併せた以下の説明は、FGMの合成、得られた特性および使用を含む、FGMに関するさらなる詳細を提供する。FGMの合成および特性に関して行われた研究および分析のいくつかの例も全体を通して記載されている。
【0032】
図1は、本発明の一実施形態による機能性グラフェン材料(FGM)封止剤の封止剤能力を最大化するための材料設計の考察を示す。図示されているとおり、FGMを形成するために使用される2つの成分であるグラフェン足場および低分子接着剤が存在する。一般に、グラフェン足場が合成され、次いで低分子接着剤が共有結合されて、適切なまたは所望の接着および凝集を有するFGMを生成し、その場で表面に塗布することができる封止剤などの封止剤を提供する。
【0033】
酸化度(酸素官能基の量)、接着性分子を繋留するために使用される酸素基(カルボン酸を含む)の位置、および所与のグラフェン足場上のカルボン酸繋留物の立体的障害はすべて、封止剤性能に影響を及ぼす要因であり、FGMを設計する上で考慮されるべきである。グラフェン足場に関しては、図示されているように、グラフェン足場の酸化の量(番号1として示されている)、カルボン酸基を含む酸素基の位置(番号2として示されている)、およびカルボン酸繋留物の立体的障害(番号3として示されている)はすべて、適切なグラフェン材料を選択するために使用することができる特性である。接着と凝集は、インサイチュ封止剤を作製する目的のための競合する特性であることを理解されたい。封止剤は、例えば、損傷した復水器管における金属表面に接着し(接着)、1つに融合して欠陥または漏口を封止する堅牢な塊を形成する(凝集)ことが可能であるべきである。しかしながら、凝集特性は強すぎることはできず、または材料は処理されるべき表面の損傷していない領域中で凝集し、望ましくない閉塞を引き起こす可能性がある。したがって、上記の要因は、グラフェン材料を含む、足場として使用するための材料の選択を考慮する上で使用することができる。
【0034】
いくつかの実施形態において、グラフェン足場は、結合して一体化し、酸化された炭素原子の、原子レベルの薄さを有するミクロンサイズのシートである酸化グラフェン(GO)、またはクライゼングラフェン(CG)として知られるGOの誘導体であり得る。対応する欄に図示されているとおり、GOおよびCGは、酸化の異なるレベル、グラフェン足場上の対応する酸素基の異なる位置、および異なる立体的様相を有する。しかしながら、いずれもFGMにおいて使用され得る。
【0035】
GOに関しては、接着および凝集の調整可能性に対処するために、GOの酸化度を合成中に制御できることを理解されたい。酸化度が増加する一連のGOを生成することにより、カルボン酸含有量および基底面酸化も増加する。カルボン酸含有量が高いほど、接着剤を設置するための化学的取っ手がより多く作られ、接着特性を増大させる。より多くの基底面酸化は、水分散性を増大させ、凝集特性を低下させる。酸化度は、FGM材料の接着特性および凝集特性の両方を調整するために使用することができる。
【0036】
CGに関しては、CGのグラフェン骨格はより酸化されにくく、グラファイトをGOに酸化することによるだけでは接近することができない官能基の異なる分布を有する。基底面の表面積が大きいために、CGは、GOより多くのカルボン酸含有量を有し、多数の第三級アルコールをカルボン酸に変換することができる。
【0037】
GOおよびCG上のカルボン酸の位置の対照性は、接着特性に影響を及ぼし得る。GO上では、カルボン酸はシート端部に局在化するが、基底面では第三級アルコールおよびエポキシドが優越的である。他方、CG上のカルボン酸は、より大きな表面積にわたって、限局されずに基底面全体に存在し、接着性分子を共有結合によって繋留するためにこれらのカルボン酸が使用されると、接着を増幅し得る。
【0038】
GOおよびCG上のカルボン酸の立体的障害は、官能化効率に影響を及ぼし得、したがって接着特性に影響を及ぼし得る。GOは、骨格に直接結合されたカルボン酸をシート端部に有し、骨格は官能化の標的となる求電子性炭素を立体的に妨害することができる。しかしながら、CG上のカルボン酸は、2炭素スペーサーによって骨格から隔てられている。CG上のスペーサーは、求電子性炭素の立体的障害を減少させ、より良好な官能化効率を促進して接着特性を高め得る。
【0039】
さらに、上に記されているように、接着特性を付与するためにGOおよびCGを化学修飾する能力は、これらの材料を特に有用にする。特に、GOおよびCGのカルボン酸含有量は、インサイチュ封止剤性能を高めるために利用される。したがって、グラフェン足場への低分子接着剤の結合は、この機能性を付与する。したがって、接着および凝集を制御してFGMの封止剤性能を高めるためにまたはFGMの接着および凝集を制御するために、適切なGOまたはCGおよび対応する低分子接着剤の選択を使用することができる。例えば、グラフェン足場の接着特性は、グラフェンシートに結合された低分子接着剤の空間的位置および量によって制御することができるが、凝集特性は基底面上の酸化度によって影響を受けた。
【0040】
低分子接着剤は、湿潤環境で様々な基材に強固な接着を形成する分子を基礎として選択され得、様々な生物によって産生される分子に由来しまたは様々な生物によって産生される分子を基礎とする特定の低分子が含まれ得る。例えば、ムール貝は、そのような接着を形成するカテコール部分を含有するポリマーを形成する。したがって、カテコール誘導体を低分子接着剤として使用することができることが認められた。例えば、図示されているように、接着剤はカテコール誘導体接着剤である。カテコール分子は、接着にとって極めて重要なジオールをベンジル骨格上に含有する。このジオール官能性は、核となるカテコール部分と、グラフェン基質上の求電子性炭素と反応することができる強力な求核剤である懸垂した第一級アミンとを含有する、3,4-ジヒドロキシベンジルアミン(DHBA)などの共有結合のために使用することができる追加のペンダント基を有するカテコール誘導体を選択することによって保存され得る。FGM封止剤を形成するためのアミド化に関与するDHBA上の求核性第一級アミンおよびグラフェン足場上の求電子性カルボン酸が、それぞれ円およびアスタリスク(*)で示されている。いくつかの実施形態において、接着性分子は、金属に配位して接着することができる1,2-ジヒドロキシベンゼンおよびグラフェン足場に共有結合することができる求核剤(例えば、第一級アミン)を特徴とすることを理解されたい。FGM封止剤を作製するために、これら2つの基準(1,2-ジヒドロキシベンゼン部分および求核剤を含有する)に合致する任意の低分子を使用することができる。いくつかの実施形態において、任意のカテコールアミンが機能し得る。例えば、チロシン、DOPA、ドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリン。いくつかの実施形態において、5-ヒドロキシドーパミンおよび6-ヒドロキシドーパミンがFGM封止剤分子として使用され得る。
【0041】
上記に基づいて、GOおよびCGは、FGMを形成するための接着特性を付与する結合された分子と組み合わせて使用することができる理想的な足場であることが認められた。GOおよびCGは、適度な凝集特性、水分散性、高い比表面積、および接着を付与するための化学的取っ手として利用することができる酸素基のために、インサイチュ封止剤のための理想的な足場を提供する。GOまたはCG上の化学的取っ手を湿潤接着性分子で修飾することにより、得られたFGMは水分散性であり、基材中の欠陥に能動的に融合して接着する。FGMは、官能化されていない材料より最大3倍高い増大した凝集特性を与え、より安定な封止を付与する。金属復水器管における漏口に対して塗布されると、FGM材料は基本的に、その場で漏口を封止するための栓を作る。これとは反対に、官能化されていない足場は封止能力を完全に欠いている。さらに、以下でさらに記載されているように、FGM封止剤は、生物付着を低減または防止するための向上した抗菌能力(最大55%の大腸菌の減少)も付与する。
【0042】
FGMの合成に目を向けると、まずGOまたはCGが調製され、その後、接着剤がグラフェン足場に共有結合される。以下は、GOから調製されたFGMおよびCGから調製されたFGMを生成するために使用される合成工程の詳細な説明である。
【0043】
図2は、本発明の一実施形態によるGOの合成を示す。図示されているように、GOは、グラファイトを過マンガン酸カリウム(KMnO)で酸化することによって、改変されたHummersの方法を用いて調製することができる。Hummers,W.S.;Offeman,R.E.,Preparation of Graphitic Oxide,J.Am.Chem.Soc.1958,80(6),1339-1339,https://doi.org/10.1021/ja01539a017およびHolt,B.D.;Arnold,A.M.;Sydlik,S.A.,In It for the Long Haul:The Cytocompatibility of Aged Graphene Oxide and Its Degradation Products,Adv.Healthcare Mater,2016,5(23),3056-3066 https://doi.org/10.1002/adhm.201600745は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0044】
一例として、様々なKMnO対グラファイト比(1:1、2:1、3:1、および4:1)を有する4つの異なるGOを合成した。具体的には、過マンガン酸カリウム(KMnO)対グラファイトの重量比を1:1、2:1、3:1、および4:1のw/w比で変化させることによって、GOの4つの異なるバッチを調製した。各反応は、5gのグラファイトフレーク(グラファイトフレーク、天然、-325メッシュ、99.8%金属ベース;Alfa Aesar,Ward Hill,MA,USA)を125mLの濃硫酸(Fisher Scientific,Pittsburg,PA,USA)とともに1Lの三角フラスコ中に分散させることによって行った。混合物を撹拌し、氷で冷却した。次いで、KMnO(Sigma-Aldrich,St.Louis,MO,USA)を20~30分間にわたってゆっくり添加した。各反応に添加されたKMnOの質量は、それぞれGO 1:1、GO 2:1、GO 3:1およびGO 4:1を生成するために、5g、10g、15gまたは20gのいずれかであった。氷浴を取り除き、反応物を室温まで温め、2時間撹拌した。次いで、反応物を35℃に穏やかに加熱し、さらに2時間撹拌した。熱を除去し、700mLの脱イオン(DI)水、10mLの30% H(Fisher Scientific)、次いで225mLのDI水をゆっくり添加することによって、GO反応をクエンチした。最後に、反応物を一晩撹拌した。
【0045】
GO反応物を精製するために、GO反応物をブフナー漏斗に通して真空濾過した。濾紙をこすらずに漏斗からパックを慎重に取り出し、3500分子量カットオフ透析チューブ(SNAKESKIN透析チューブ、Thermo Scientific,Waltham,MA,USA)中に充填した。反応物をDI水に対して3~7日間透析した。DI水を1日目に2回交換し、次いで透明になるまで1日1回交換した。次いで、GOバッチを-80℃に凍結し、乾燥するまで3~5日間凍結乾燥した。
【0046】
図3は、本発明の一実施形態によるCGの合成を示す。図示されているように、CGは、グラフェン骨格を同時に還元しながら第三級アルコールを使用して加水分解的に安定なC-C部分を基底面上に設置するジョンソン-クライゼン転位によってGOから変換される。酸化グラフェン(GO)上の基底面第三級アルコールは、[3,3]シグマトロピー転位を通じて、2炭素リンカーによって足場から隔てられたエステルへと変換される。鹸化により、これらのエステル基をカルボン酸に変換することができる。Sydlik,S.A.;Swager,T.M.,Functional Graphenic Materials Via a Johnson-Claisen Rearrangement,Advanced Functional Materials 2013,23(15),1873-1882,https://doi.org/10.1002/adfm.201201954およびHolt,B.D.;Arnold,A.M.;Sydlik,S.A.,Peptide-Functionalized Reduced Graphene Oxide as a Bioactive Mechanically Robust Tissue Regeneration Scaffold,Polym.Int 2017,66(8),1190-1198,https://doi.org/10.1002/pi.5375を参照、これらは、参照により本明細書に組み込まれる。
【0047】
一例として、ジョンソン-クライゼン転位および鹸化に従って、CGを合成した。1.23gのGO(2:1比)および250mLのオルト酢酸トリエチル(Alfa Aesar,Haverhill,MA,USA)を、フレームドライした窒素下の丸底フラスコに添加した。反応物を10分間超音波処理した(240W、42kHz超音波洗浄器、Kendal)。次いで、21mgのp-トルエンスルホン酸を添加し、反応物を窒素下で36時間還流した(142℃)。熱を除去し、急速に撹拌しながら50mLの1.0M NaOH(エタノール中)を85℃での冷却プロセス中に添加した。反応が室温に達したら、さらに3時間撹拌した。CGを3600×gで5分間遠心分離し、上清を廃棄した。ペレットをDI水中に再分散させ、3600×gで5分間遠心分離し、上清を廃棄した。ペレットをDI水でさらに3回およびアセトンで2回洗浄した。次いで、乾燥するまで、CGを24~48時間真空下で乾燥させた。
【0048】
図4は、本発明の一実施形態によるGOおよびCGからのFGMの合成を示す。上記のように、カテコール由来の接着剤を設置するために、GOおよびCG上のカルボン酸を化学的取っ手として使用した。一実施形態において、カテコール分子は、塩化チオニルアミド化を使用してGOまたはCGに共有結合するために使用される求核性アミンを有する。言い換えれば、塩化チオニルアミド化は、カテコール誘導体接着剤などのアミン含有低分子接着剤をGOまたはCG骨格に共有結合でコンジュゲートさせてFGMを形成するために使用される。この実施形態において、カテコール分子は、接着のために極めて重要なベンジル骨格上のジオールを含有しており、したがって、共有結合のために使用することができる追加のペンダント基を有するカテコール誘導体を選択することによってジオール官能基を保存する。したがって、3,4-ジヒドロキシベンジルアミン(DHBA)は、核となるカテコール部分と、グラフェン基質上の求電子性炭素と反応することができる強力な求核剤である懸垂した第一級アミンとを含有するので、カテコール接着剤として使用することができる。図示されているように、低分子接着剤(DHBA)上のアミン求核剤およびジオール官能基は、それぞれ円および四角で強調されており、グラフェンシートは、明確にするために単純化されたピレン構造として表されている。
【0049】
一例として、カテコールGO(CGO)およびカテコールCG(CCG)を製造するためにGO 1:1、GO 2:1、GO 3:1、GO 4:1およびCGを出発グラフェン材料として使用して、FGM封止剤の5つの異なる配合物を製造した。CGOおよびCCGは、塩化アシル中間体を介して調製した。上で引用したFunctional Graphenic Materials Via a Johnson-Claisen Rearrangementを参照されたい。フレームドライした窒素下の丸底フラスコに、100mgのグラフェン材料、50mLの無水ジオキサンおよび5滴のジメチルホルムアミドを投入した。混合物を10分間超音波処理し、次いで、0.7mLの塩化チオニル(Sigma-Aldrich,St.Louis,MO,USA)をゆっくり滴加した。反応物を室温で一晩撹拌した。次いで、250mgの3,4-ジヒドロキシベンジルアミン(DHBA)(Sigma-Aldrich,St.Louis,MO,USA)を加えた。反応物を100℃に加熱し、窒素下で一晩撹拌した。反応物を室温に冷却し、3600×gで5分間遠心分離し、上清を廃棄した。ペレットをジクロロメタン中に再分散させ、3600×gで5分間遠心分離し、上清を廃棄した。これをジクロロメタンでさらに1回、DI水で2回、アセトンで2回繰り返した。次いで、乾燥するまで、24~48時間、真空下でCGOおよびCCGを乾燥させた。
【0050】
図5は、本発明の一実施形態に従って生成されたGO、CGおよびFGMの熱重量分析の結果を示す。熱重量分析(TGA)は、PerkinElmer TGA 4000で、窒素下(20mL/分の流量)において、50~800℃、10℃/分の加熱速度で行った。単純移動平均(ステップサイズ50)によって、サーモグラムの導関数を平滑化した。次いで、TRIOSソフトウェア(TA Instruments)でデータを分析して、オンセット温度(To)、エンドセット温度(Te)、一次導関数ピーク温度(Tp)、重量損失パーセント(%D)、および炭化(char)重量パーセントを決定した。ToおよびTeは、それぞれTriosのオンセット関数およびエンドセット関数を用いて、3つの測定値の平均を使用してサーモグラムから決定した。Tpは、サーモグラムの一次導関数の信号最小値から決定した。%Dは、分解事象の開始から終了までの一次導関数曲線下面積として計算した。最後に、800℃でのサーモグラムを介して材料の残りの重量パーセントから炭化重量パーセントを決定した。
【0051】
2つのグラフ中のGO、CG、およびFGM封止剤のサーモグラム(A)、およびグラフBにおけるオンセット温度(To)、グラフCにおける一次導関数ピーク温度(Tp)、グラフDにおける分解事象の官能基重量損失(%D)、およびグラフEにおける800℃での炭化重量パーセントを含む、サーモグラムおよびサーモグラムの一次導関数から得られた熱重量分析データを含む、図5に示されているこの分析からのサーモグラム。図5の左側のグラフA~Eは、GOおよびCGに対するものであり、図5の右側のグラフA~Eは、対応するFGMに対するものであることを理解されたい。グラフB~E中のバーは、各材料に対するn=3の別々のTGA実行の平均を表し、エラーバーは標準偏差であることを理解されたい。
【0052】
図6は、本発明の一実施形態に従って生成されたGO、CGおよびFGMのX線光電子分光法(XPS)分析の結果を示す。XPSスペクトルは、Al K-Alphaソースガンを備えたThermo Fisher ESCALAB 250 Xi機器で収集した。分析のために両面銅テープ上に接着することによって、粉末化された試料を調製した。全てのスペクトルは、200μmのスポットサイズを用いて収集した。試料の3つの別個のスポット位置に対してサーベイスキャン(スペクトルあたり5回の累積スキャン)を実施した。スマートベースラインを使用してCasaXPSソフトウェア(CasaXPS)で元素の定量を行った。それぞれ炭素、酸素、窒素、臭素、硫黄および塩素の定量のために、C1s、O1s、N1s、Br3d、S2pおよびCl2p発光ピークを使用した。
【0053】
C1sおよびO1s発光ピークの定量を使用して、GOおよびCGのC/O比を計算した。DHBAカテコール(炭素原子パーセントおよび酸素原子パーセントの両方に寄与する)および塩化チオニル不純物(酸素原子パーセントに寄与する)の存在および取り込みの故に、CGOおよびCCGのC/O比はより複雑であった。したがって、炭素および酸素の原子百分率は、炭素および酸素の原子パーセントが専らグラフェン骨格を反映するようにカテコール誘導体および塩化チオニルからの寄与を除去するための補正係数を必要とし、これにより、CGOおよびCCGのC/O比を官能化されていない出発物質と直接比較することが可能になる。
【0054】
DHBA中の全ての窒素原子に対して7個の炭素原子が存在するので、窒素原子パーセントには、7の係数を乗じて、材料中の総炭素原子パーセントから差し引くことができる(総炭素原子%-7(窒素原子%))。酸素原子パーセントは、以下の3つの補正を必要とした:1)GO足場に結合されていないDHBA分子は、DHBAの1分子当たり2個の酸素原子を導入する。結合されていないDHBAの原子パーセントは、臭素原子パーセントを用いて近似した。2)GO足場に結合されたDHBAは、DHBAの1分子あたり1個の酸素原子を付加する。結合されたDHBAは、全窒素原子パーセントから臭素(結合されていないDHBAの指標)を差し引くことによって近似した。3)硫黄および塩素不純物は、未反応の塩化チオニルに起因すると仮定した。塩化チオニル不純物は、塩化チオニルの1分子当たり1個の酸素原子を導入し、塩化チオニル不純物の量を決定するために、硫黄原子パーセントを使用した。(総酸素原子%-2(臭素原子%)-(窒素原子%-臭素原子%)-(硫黄原子%))。
【0055】
官能化されていない足場およびFGM封止剤のXPSを含めて、得られた原子組成およびC/O比を図6に示す。GOおよびCGのサーベイスキャンから得られた元素組成をグラフAに示し、FGM封止剤のサーベイスキャンから得られた元素組成をグラフBに示す。GOおよびCGに対する元素分析から得られた炭素対酸素(C/O)比をグラフCに示し、CGOおよびCCGに対する元素分析から得られた炭素対酸素(C/O)比をグラフDに示す。足場の骨格上に存在する炭素および酸素含有量を単離するために、CGOおよびCCGに対する値は、上記の炭素および酸素補正を通じて得られたことに留意されたい。グラフ中のバーはn=3の平均であり、エラーバーは標準偏差であることを理解されたい。
【0056】
TGAおよびXPSを使用して、GO、CGおよびFGM封止剤の酸化度を評価した。それぞれ、分解中の官能基重量損失の増加(%D)および炭素対酸素(C/O)比の増加によって実証されるように、図5および図6に示されている結果は、KMnO対グラファイト比が増加するにつれてGOの酸化が増加することを示している。高温の合成条件の故に、CGは、4.5のC/O比を有する酸化度が最も低い材料である。XPSは、FGM封止剤の酸化度が塩化チオニルアミド化後に穏やかに低下することも確認した。
【0057】
より具体的には、TGAは、接着性FGMの合成後における効果的なカテコール(3,4-ジヒドロキシベンジルアミン、DHBA)コンジュゲーションおよび酸素基の保存を明らかにする。図5を参照すると、一次導関数ピーク温度(Tp)は70~83℃上昇し、アミドなどのより強固な結合が存在することを示唆している(既に強固なC-C結合を含有するCGを除く)。分解中の官能基重量損失のパーセント(%D)は、合成後に、13重量%まで増加する。Tpおよび%Dの増加は、DHBAがFGM封止剤に搭載されたことを示差する。さらに、コンジュゲーション後のFGM封止剤のオンセット温度(To)の有意な増加は存在せず、グラフェン足場上の酸素基は159~214℃で分解し始める。これは、FGM封止剤の骨格上に酸素が依然として存在することを示唆しており、したがって、本発明者らの合成アプローチは足場を完全には還元しない。
【0058】
図6を参照すると、XPS元素組成は、カテコールの存在および合成条件から生じる不純物の存在を明らかにする。生成物へのDHBAの取り込みは、DHBAに固有の原子である窒素が合成後に含まれていることから明らかである。元素スキャンは、臭素、硫黄および塩素不純物も示す。臭素は、材料中に吸蔵された未反応のDHBAの結果である。しかしながら、窒素と臭素はDHBAにおいて1:1のモル比を有し、カテコールがグラフェン骨格に共有結合で繋留されると、臭素は置換される。窒素原子%>臭素原子%であるので、これは、窒素の一部がFGM封止剤に共有結合されていることを示唆する。さらに、硫黄および塩素不純物は、塩化チオニルの吸蔵または副反応から生じる可能性がある。
【0059】
図7は、本発明の一実施形態による、XPSを使用した官能化されていないGOおよびCG足場ならびにFGM封止剤の化学的特性決定を示す。図8は、官能化されていないおよびカテコール(3,4-ジヒドロキシベンジルアミン、DHBA)官能化された材料の高分解能XPSを示す。図9は、本発明の一実施形態による3,4-ジヒドロキシベンジルアミン(DHBA)のXPSを示す。
【0060】
試料の3つの別個のスポット位置に対してC1sスペクトルの高分解能スキャン(スペクトルあたり10回の累積スキャン)を行った。15点刻み幅の二次多項式を使用してサビツキー・ゴーレー法により、OriginPro(OriginLab)で生のC1sスペクトルを平滑化した。次いで、外来炭素に対する電荷補正(284.8eV)をC1sスペクトルに対して適用し、データを292~280eVに切り詰めた。次に、Fitykソフトウェア(バージョン0.9.8)で、C1sスペクトルのシャーリーベースライン減算を行い、ガウスピークフィッティングを使用してデコンボリューションを行った。すべてのピークのピーク位置および半値全幅は、すべてのグラフェン材料について、それぞれ±0.2eVおよび1.4eVに限定された。
【0061】
高分解能N1sスキャン(スペクトルあたり25回の累積スキャン)も、3つの別個のスポット位置に対して行った。25点刻み幅のサビツキー・ゴーレー法(二次多項式)により、OriginProで生のN1sスペクトルを平滑化した。次いで、データを405~395eVに切り詰めて、Fitykで処理した。シャーリーバックグラウンドを除去し、ガウスピークフィッティングを使用してN1sスペクトルにデコンボリューションを行った。アミンのピーク位置(400.1eV)および半値全幅(1.64eV)は、標準としてDHBAを使用して決定した(グラフAのXPSサーベイスキャンおよびグラフBのXPS高分解能N1sスペクトルを含む3,4-ジヒドロキシベンジルアミン(DHBA)のXPSを示す図9を参照、グラフAのバーはn=3の平均であり、エラーバーは標準偏差であることに留意されたい。)。FGM封止剤のN1sスペクトルに新しいピークが出現し、398.8eVのピーク位置および2.30eVの半値全幅を有するアミドを示す。
【0062】
グラフAに示されている高分解能炭素(C1s)スペクトルを使用して同定された官能化されていない骨格上の代表的な炭素官能基およびグラフBに示されている高分解能窒素(N1s)スペクトルを使用して同定されたFGM封止剤中に存在する代表的な窒素結合3,4-ジヒドロキシベンジルアミン(DHBA)を含む、代表的な炭素官能基および窒素結合が図7に示されている。窒素含有量は、DHBAの存在によって導入される固有の元素であるため、官能化されていない足場には存在しない。したがって、窒素スペクトルのデコンボリューションは、FGM封止剤中のDHBA窒素結合の種類についての洞察を与える。すなわち、FGM封止剤の接着特性に寄与する(アミド結合されたDHBA)および寄与しない(遊離+エステル結合されたDHBA)DHBAの量を定量化することができる。バーは、各材料の異なるスポット位置でのn=3のXPS測定値の平均を表し、エラーバーは標準偏差であることを理解されたい。
【0063】
C1sスペクトルおよびN1sスペクトルを含む、官能化されていないおよびカテコール(3,4-ジヒドロキシベンジルアミン、DHBA)で官能化された材料の高分解能X線光電子分光法(XPS)が、それぞれ図8のグラフA~Fに示されている。スペクトル中に存在する官能基が単純化されたピレン構造で表されているGOおよびCGの高分解能C1sスペクトルをグラフAに示す。C1sスペクトルのピークデコンボリューションがグラフBに示され、デコンボリューションされたC1sスペクトルからの曲線下面積の定量化がグラフCに示されている。FGM封止剤のグラフェン骨格上の遊離の、エステル結合した、およびアミド結合したカテコール(DHBA)の構造がグラフDに表されている、カテコールで官能化された足場の高分解能N1sスペクトル。N1sスペクトルのピークデコンボリューションがグラフEに示され、デコンボリューションされたN1sスペクトルの曲線下面積の定量化がグラフFに示されている。
【0064】
さらなる結果を以下の表1および表2に示す:
【表1】
【表2】
【0065】
高分解能XPS炭素(C1s)スペクトルのデコンボリューションは、GOの酸化の増加がカルボン酸および基底面酸素基を増加させることを示す。この方法は、GO上のカルボン酸含有量が、飽和に達するまで酸化条件によって制御され得ることを明らかにする。他の官能基の飽和ではなくカルボン酸の飽和が観察されたということは、カルボン酸はGOの端部にのみ設置されており、グラファイトのGOへの酸化は端部から中心へと起きるという事実に起因する可能性が高い。したがって、低いKMnO対グラファイト比では、シートの中心に到達する前にKMnOが消費されるので、酸化は端部で完了し、内部方向へは最小限に留まる。CGの場合、カルボン酸官能化が基底面上で起こるため、CGはGOと同じ制限を受けないので、CGは最も高いカルボン酸含有量を有していた。GOの場合、第三級アルコールおよびエポキシドによる基底面官能化は、カルボン酸飽和に達した後に、より高い酸化に寄与する。したがって、(接着に影響する)カルボン酸含有量および(凝集に影響する)GOの基底面酸素含有量を制御するために、酸化を使用することができる。
【0066】
高分解能XPS窒素(N1s)スペクトルのデコンボリューションにより、おそらくはCG上のカルボン酸の低下した立体的障害の故に、CCGが、接着のために望ましい配向で骨格に結合された最も多くのDHBAを有することが確認された。上記のように、DHBAのアミンピークは、400.1eVに同定された。
【0067】
CGOおよびCCG材料では、アミド結合に対応する398.8eVに新しいピークの出現が存在した。窒素スペクトルの定量によって、FGM封止剤足場にアミド結合されたDBHAの定量的決定が可能となり、ここでアミド結合されたDHBAは接着を促進するための望ましい共有結合である。CGO 1:1は、アミド結合されたDBHAが最も少なかった。残りのCGOは、アミド結合されたDHBAの量がより多かったが、すべて類似していた。CCGは最も多量のアミド結合されたDHBAを有しており、CGが最も効率的な官能化をもたらしたことを示した。
【0068】
図10は、本発明の一実施形態によるGO、CG)、およびFGM封止剤のフーリエ変換赤外(FTIR)分光法を示す。ゲルマニウム結晶を含有する減衰全反射(ATR)アタッチメントを備えたPerkinElmer Frontier FT-IR Spectrometerで、粉末化されたグラフェン材料のFTIRスペクトルを収集した。4cm-1の分解能で、4000~700cm-1まで生のスペクトルを記録した。全てのスペクトルはATRであり、ベースラインはSpectrumソフトウェア(PerkinElmer)を使用して補正した。次いで、スペクトルを透過率パーセントから吸光度に変換し、ヒドロキシルストレッチ(3400~3200cm-1)を0.1の吸光度に正規化した。明確にするために、スペクトルを透過率パーセントに戻し、オフセットした。得られたスペクトルが図10のグラフAおよびBに示されており、グラフAおよびBの各々の縦棒はそれぞれカルボン酸およびアミドストレッチを表すことに留意されたい。
【0069】
DHBAのGOおよびCG足場への共有結合を評価するために、FTIR分光法およびTGAを定性的ツールとして使用した(図5も参照)。FTIR分光法は、共有結合性DHBAの搭載およびすべてのカルボン酸の利用を実証する。1710~1680cm-1のカルボン酸ピークは完全に消失するが、FGM封止剤では1680~1630cm-1のアミド結合に対応する新しいピークが出現し、FGM封止剤はCGOおよびCCGとして具体的に表される。さらに、カルボン酸バンドの完全な消失は、すべての反応部位が繋留のために利用されたことを示唆している。TGAはFTIR分光法と共同した。一次導関数ピーク温度(Tp)の上昇および分解中の官能基の重量損失(%D)は、FGM封止剤の効果的なDHBAコンジュゲーションを示唆する。
【0070】
図11は、本発明の一実施形態による、緩衝培地中の大腸菌を用いた官能化されていない足場およびFGM封止剤の抗菌能力を示す。具体的には、LIVE/DEAD(登録商標) BACLIGHT(商標)アッセイを用いて調製された標準の蛍光発光がグラフAに示されている。緑色(530nm)と赤色(630nm)の蛍光ピーク強度の比から作成された検量線がグラフBに示されている。検量線の蛍光顕微鏡画像がC中の画像に示されている。実験試料中で決定された生きた細菌のパーセントがグラフDに示されており、陰性対照はいかなる材料でも処理されず、陽性対照はペニシリン/ストレプトマイシンで処理された。
【0071】
汚染を防ぐために、すべての試薬および試料は無菌技術を用いて取り扱った。12.5gのLB Miller Broth(Fisher BIOREAGENTS(商標)、USA)および0.75gのTris HCl(Promega,Madison,WI,USA)を500mLの脱イオン水中に溶解することによって緩衝培地を調製し、10g/Lのトリプトン、10g/LのNaClおよび5g/Lの酵母抽出物の最終ブロス成分濃度に達した。121℃で1時間、培地をオートクレーブ処理し、使用前に室温に冷却した。大腸菌(E.coli)K12株は、ATCCから購入した(ATCC(登録商標) 25404(商標))。37℃で(MyTemp Mini Digital Incubator,Benchmark Scientific)、回転振盪機(MINIMIXER(商標),Benchmark Scientific,Sayreville,NJ,USA)上の緩めた蓋が付いた15mL遠心管中の5mLの培地中で培養物を維持し、16時間インキュベートした。次いで、10000×gで15分間の遠心分離によって細菌を沈渣とした後、上清を吸引し、5mLの新鮮な培地中に沈渣を再懸濁した。次いで、新鮮な培地との1:4の分割比で(4mLの新鮮な培地中に1mLの細胞懸濁原液)、培養物を実験のために使用した。グラフェン原材料を20mLのガラスシンチレーションバイアル中に秤量し、滅菌のために254nmの紫外線を5分間照射した。5mg/mLの最終濃度になるように、培地(滅菌され、緩衝化されたLB Miller Broth)中に粉末を分散させた。次いで、グラフェン原分散液を短時間超音波処理して凝集剤を破壊した。
【0072】
陰性対照、陽性対照およびグラフェン試料を調製し、96ウェル細胞培養プレートの内部ウェルに添加した。全てのサンプルは、細胞原液からの4% v/vの大腸菌を含有していた。陰性対照は処理されず(大腸菌および培地のみを含有した)、陽性対照には100U/mLに希釈されたペニシリン/ストレプトマイシン(ThermoFisher Scientific)を与えた。グラフェン試料は、1mg/mLの最終濃度になるように、大腸菌にグラフェン原分散液(5mg/mL)を与えることによって調製した。最後に、ウェルあたり250μLの最終濃度になるように、各試料を培地で希釈した。次いで、96ウェル細胞培養プレート(細胞培養プレート蓋付き)を回転式振盪機上にて、37℃で16時間インキュベートした後、製造業者のプロトコルに従ってLIVE/DEAD(登録商標) BACLIGHT(商標)アッセイによる細胞分析を行った。すべての試料は3連で実行した。LIVE/DEAD(登録商標) BACLIGHT(商標)Bacterial Viability Kit(ThermoFisher Scientific,Waltham,MA,USA)を用いて検量線を作成するために、さらなる陰性対照を実行した。
【0073】
LIVE/DEAD(登録商標) BACLIGHT(商標)アッセイを行った後、SPARKCONTROL(商標)v 2.2ソフトウェアを用いてSPARK(登録商標)プレートリーダー(Tecan)上で、96ウェル細胞培養プレート中の実験試料(検量線、陰性対照、陽性対照およびグラフェン試料)の蛍光データを取得した。蛍光は、470nmの励起波長および10nmの帯域幅で測定した。500~700nmの蛍光発光スペクトルを、10nmの帯域幅および5nmの刻み幅で収集した。蛍光顕微鏡試料は、ステージインサートを使用して顕微鏡の対物レンズを横切って架けられた#1.5カバースリップ上に10μLの染色された細菌試料を堆積させることによって調製した。100倍、1.40開口数の油浸対物レンズを備えたEVOS(登録商標) FL Auto Cell Imaging System(ThermoFisher Scientific)を使用して、いかなる蒸発作用の前に蛍光顕微鏡画像を迅速に取得した。
【0074】
抗菌能力は、インサイチュ封止剤、例えば、微生物の定着および生物膜の形成によって引き起こされる復水器管欠陥部位へのさらなる損傷を軽減するために使用されるインサイチュ封止剤の重要な側面であり得る。図示されているように、コンジュゲートされたカテコールを含有するすべてのグラフェン材料(FGM封止剤)は抗菌性であった。CGOおよびCCGは、生きた大腸菌細胞の割合を最大55%減少させた。官能化されていないGO 3:1、GO 4:1およびCGは効果がなく、GO 1:1およびGO 2:1は中程度の効果を有した。封止剤配合物中のカテコール部分および不純物は、強化された殺菌特性の原因となり得る。XPSスペクトル中で不純物として同定された塩素(図6参照)も優れた抗菌剤である。
【0075】
図12は、本発明の一実施形態による圧縮およびねじれ状態で測定された水和グラフェンパックの動的機械分析を示す。図13も、本発明の一実施形態による圧縮およびねじれ状態で測定された水和グラフェンパックの動的機械分析を示す。これらの結果は、種々の試験によって得られた。動的機械分析(DMA)は、Discovery Hybrid Rheometer HR-2(TA Instruments,New Castel,DE)で行った。すべての機械的試験の過程を通じて、予め1Nの力を加えた(および維持した)。すべての試験は、底部形状として研磨された25mmのアルミニウム板、および(サンドブラストで磨かれた)8mm鋼の上部形状を使用して実施された。3mLのポリプロピレンシリンジ筒を2インチの長さの円筒に切断し、エポキシ接着剤を使用して底部形状の中心に固定した。エポキシ接着剤をポリプロピレンシリンジの外側および底部形状に投与した。ポリプロピレンシリンジチューブの内側の底部形状を材料がコーティングし、これによって、人為的現象を導入し得る不均一な試験表面をもたらし得ることを防ぐために、エポキシ接着剤の塗布は注意して施された。エポキシを15分間乾燥させ、次いで、高真空シリコングリース(DOW CORNING(登録商標))を使用して、(この場合も、エポキシ接着剤と同じ様式でポリプロピレンシリンジチューブの外側にシリコングリースを塗布することによって)シリンジを底部形状に完全に封止した。次いで、約30mgのグラフェン粉末をシリンジに加えた後、1mLのDI水を加えた。15分後、グラフェン材料は、機械的試験のためのパック様の塊でシリンジ装置の底部上に沈降し、パックは厚さ0.6~1.2mmであった。
【0076】
ねじり剪断における振幅掃引を、0.01~50%の歪みまで1Hzで行った。線形粘弾性領域(LVR)および臨界歪み(γ)は、ASTM D7175.6に従って振幅掃引から決定した。すなわち、LVRおよびγは、0.01%の歪みでの貯蔵弾性率(G’)の±10%の偏差を用いて算出した。見かけの降伏応力(σ)は、以下の式から近似された:σ=γ×G*、式中、G*は0.01%歪みでの複素弾性率である。TRIOSソフトウェアを使用して、生の振幅掃引データを複素弾性率に変換した。凝集エネルギー(CE)は、以下の式によって決定した:CE=1/2×γ2×G、式中、G’は0.01%歪みで測定される。全ての振幅掃引は、各材料に対して3連で行った。
【0077】
上記試験から得られた結果に目を向けると、図12は、イメージAにおいて、空の試験装置のイメージを示す。代表的な振幅掃引がグラフBに示されている。振幅掃引から得られた臨界歪み(γ)、凝集エネルギーおよび見かけの降伏応力(σ)が、それぞれグラフC、DおよびEに示されており、n=3、エラーバーが標準偏差である。図13は、グラフAにおいて、1Hzで収集された代表的な振幅掃引を示す。貯蔵弾性率(E’)、損失弾性率(E’’)およびtanδ(すべてのデータは1Hzおよび0.01%の歪みで取得された)がそれぞれグラフB~Dに示されており、グラフ中の棒はn=3の平均であり、エラーバーは標準偏差であることに留意されたい。
【0078】
図14は、本発明の一実施形態による本発明の一実施形態によるグラフェンの水中分散液の画像を示す。図15は、本発明の一実施形態によるグラフェン材料の水性分散液の吸着分光法を示す。図16は、本発明の一実施形態による、欠陥を含有するポリプロピレンシリンジ中でのグラフェン分散液の封止能力を示す。図17も、本発明の一実施形態による、欠陥を含有するポリプロピレンシリンジ中での官能化されていないグラフェン分散液の封止能力を示す。図18は、本発明の一実施形態による、シリンジから抽出されたFGMで封止された欠陥のAFM画像を示す。図19は、本発明の一実施形態によるFGM封止された欠陥の原子間力顕微鏡(AFM)画像を示す。
【0079】
図14図19に示されている結果は、様々な手順を使用して生成された。大きな凝塊を破壊するために短時間超音波処理されたグラフェンの水中分散液(1mg/mL)を使用して接着特性の特性決定を行った。分散液を毎分120回転で撹拌し、16メガピクセルのカメラで画像を取得した。100μg/mLになるようにDI水中に希釈し、ボルテックス撹拌し、1分間未満、短時間超音波処理した(240W、42kHz超音波洗浄器、Kendal)粉末試料に対して吸収分光法を使用した。1cmの経路長の石英キュベットの中に試料を入れた。Varian Cary 5000分光光度計を使用して、200:1:800nmの波長にわたって、紫外可視吸収分光法を実施した。
【0080】
FGMの封止能力を試験するために、18ゲージの皮下注射針の先端で穿刺することによって、20mLポリプロピレンシリンジ中に小さな欠陥を作製した。シリンジ壁を完全に貫通したことを確認するために、DI水を用いて欠陥を試験した。すなわち、シリンジに24mLのDI水を満たし、次いで、シリンジノズルを封鎖してプランジャを圧縮することによって、強制的にDI水をシリンジの欠陥に通した。シリンジの壁全体を貫通する欠陥を確認した後、10倍、0.30開口数の対物レンズを備えたEVOS(登録商標) FL Auto Cell Imaging Systemで、欠陥の明視野、モノクロ画像撮影を行った。16メガピクセルのカメラを使用して、シリンジ全体の画像も撮影した。350μg/mLの濃度でグラフェン水分散液を調製し、次いで、大きな凝集剤が確実に完全に分散されるようにするために20分間超音波処理した。次いで、24mLのGO 2:1、CGO 2:1、CGおよびCCG分散液をシリンジ中に充填した。配合物の封止能力は、シリンジ欠陥が封止されるか、または完全に空になるまで、強制的にグラフェン分散液をシリンジ欠陥に通すことによって試験した。これは、液体の損失を防ぐためにシリンジノズルを同時に覆いながらシリンジプランジャに対して力を加えることによって達成された。実験後、顕微鏡および写真を用いて欠陥を再度画像化した。取得された顕微鏡画像の全てのデータ処理は、ImageJ(National Institutes of Health,Bethesda,Maryland)で行った。
【0081】
シリンジの欠陥がCGO 2:1またはCCGで首尾よく封止された後、シリンジを空にし、封止された欠陥のすぐ周囲のシリンジの区画を慎重に切り取った。次いで、原子間力顕微鏡法(AFM)を行った。切り出した試料をAFMステージ上に載置した。40N/mのバネ定数および300kHzの共振周波数を有するチップ(#MPP-11200-10;Bruker AFM Probes,Camarillo,CA,USA)を使用して、セミコンタクトモードで、NT-MDT SOLVER Nano原子間力顕微鏡上でグラフェン封止のAFM画像化を行った。Nova Px 3.2.5ソフトウェアを使用して画像を取得し、処理した。取得されたままの高さ画像は、4次適合線1D平坦化補正を受けた。
【0082】
粒子画像化も行った。グラフェンの水中分散液(100μg/mL)を短時間超音波処理(20分)して、大きな凝集剤を分散させた。次いで、20μLの分割量を顕微鏡スライド上に滴下し、風乾させた。顕微鏡スライドを#1.5顕微鏡カバースリップで覆い、人為的現象(接着剤など)の導入を防ぐためにテープで固定した。40倍、0.65開口数、長作動距離の対物レンズを使用して、EVOS(登録商標) FL Auto Cell Imaging System上で明視野カラー画像化を行った。粒子を識別するために、ImageJで画像を8ビットのグレースケール画像に変換した。次いで、画像を強度閾値処理し、二値に変換し、「二値閉鎖」機能によって全ての開放構造を閉鎖させ、必要に応じて手作業で確認および調整し、次いで、4ピクセル未満のあらゆるオブジェクトを除外して、「粒子分析」機能を使用して定量化した。試料あたりn>100粒子として、すべての検出された粒子から平均面積および平均値の標準誤差を計算した。本発明者らの画像化システム、公知のイメージピクセル・サイズ変換を通じて、ピクセル面積をミクロンに変換した。円の面積の式を用いて面積から直径を算出した。粒径分布のヒストグラムは、MATLAB(登録商標)(The MathWorks,Inc.)の「hist」機能を使用して作成した。
【0083】
上述のように、これらの手順から収集されたデータは、図14図19に示されている。図14は、穏やかに撹拌されている、1mg/mLの濃度のグラフェンの水中分散液の画像を示す。図15は、グラフェン材料の水性分散液の吸収分光法を示し、具体的には、グラフAにおいて紫外可視スペクトルのスペクトル、およびグラフBにおいてn-π*およびπ-プラズモン特徴の拡大図を示す。図16は、画像A、B、DおよびCにおいて、250μm程度の欠陥を含有するポリプロピレンシリンジ中のグラフェン分散液またはFGM封止剤(350μg/mL)の封止能力を示す。FGM封止剤(CGO 2:1およびCCG)の添加前および添加後におけるシリンジ欠陥の内部および外部の光学顕微鏡画像が、FGM封止剤の添加および欠陥の修理後に失われた液体の体積の量とともに、FGM封止剤の添加前および添加後におけるシリンジおよび欠陥の画像を含めて、画像CおよびFに示されている。欠陥が首尾よく封止されたいくつかの実施形態では、シリンジ内の欠陥は0.07mm程度であり、FGM材料の濃度は25mg/L程度であった。
【0084】
比較のために、図17は、画像A、B、DおよびEにおいて、250μm程度の欠陥を含有するシリンジ中の官能化されていないグラフェン材料の350μg/mLの分散液の封止能力を示す。GO 2:1およびCGの添加前および添加後におけるシリンジ欠陥(外部および内部)の光学顕微鏡画像が、FGM封止剤の添加および欠陥の修理後に失われた液体の体積の量とともに、画像CおよびFに示されている。
【0085】
図18は、シリンジから抽出されたFGMで封止された欠陥のAFM画像を示す。図19は、FGMおよび官能化されていないグラフェン材料の粒子および凝集剤の特性決定を示す。官能化されていない足場の水性懸濁液の代表的な光学画像が画像Aに示されており、FGM封止剤の代表的な光学画像が画像Bに示されている。画像CおよびEは、AおよびBにおける対応する光学画像の高分解能光学顕微鏡法によって決定された平均粒径を示す。棒は試料平均であり、エラーバーは標準誤差である。画像によって決定された粒径の分布がグラフDおよびFに示されており、明確にするためにデータはオフセットされていることに留意されたい。
【0086】
上記の分析に基づくと、カテコール-グラフェンコンジュゲートであるFGM封止剤は、封止栓に似た、GOおよびCGより安定である固体構築物へと水中で集合することができる。線形粘弾性領域および凝集エネルギーは、官能化されていない材料と比較してFGM封止剤で有意に増加した。これは、グラフェンシート間でのより強い凝集相互作用のために、FGM封止剤が水中でより安定な構築物を作ることを示唆している。さらに、すべてのFGM封止剤の凝集特性は互いに類似していた。FGM封止剤における基底面酸化はDHBAの存在によって遮蔽されることを理解されたい。DHBAは、強い水素結合を形成し、FGM封止剤中のグラフェン骨格間にシート間積層をもたらすπ-π芳香族相互作用に関与することができる。上記の分析は、他のグラフェン材料を含む他の足場材料および接着特性を有する結合された低分子が、接着剤または封止剤として使用される所望の特性を付与し得るかどうかを評価するために使用することができる。
【0087】
上記の試験に基づいて、接着剤または封止剤として機能するFGMを生成するために、グラフェン材料に対する接着性分子の広範な比が使用され得ることを理解されたい。しかしながら、使用される過剰な接着性分子が無駄にならないという点で、より小さい比率がより効率的であり得ることを理解されたい。換言すれば、接着性分子の量がグラフェン材料に対して増加するにつれて、グラフェン材料上の利用可能なカルボン酸の欠如に起因して、接着性分子をグラフェン足場に共有結合させるさらなる能力を制限する飽和点に達し得る。結合していない接着性分子は、FGMの精製中に単に洗い流されるわけではない。それにもかかわらず、FGMは、過剰な接着性分子にもかかわらず、なお接着剤または封止剤として機能する。したがって、いくつかの実施形態においては、約1:1~10:1の範囲の接着性分子対グラフェン材料の重量比が使用され得る。いくつかの実施形態においては、約1:1~5:1の範囲の接着性分子対グラフェン材料の重量比が使用され得る。いくつかの実施形態においては、約1:1~2.5:1の範囲の接着性分子対グラフェン材料の重量比が使用され得る。いくつかの実施形態においては、約1:1、2.5:1または5:1の範囲の接着性分子対グラフェン材料の重量比が使用され得る。
【0088】
使用時には、上記のように同定および合成され、上記の特性を有する本発明のFGMは、様々な用途において使用され得る。一般に、本発明のFGMは、封止剤または接着剤として使用され得る。いくつかの実施形態において、本発明のFGMは、流体を運ぶ管またはパイプ中の漏口または欠陥を修理するための封止剤として使用され得る。いくつかの実施形態において、本発明のFGMは、流体を運ぶ管またはパイプ中の漏口または欠陥を修理するためにその場で使用され得る。いくつかの実施形態において、本発明のFGMは、ランキンサイクル発電所などの発電所において使用される復水器管における漏口または欠陥を修理するためにその場で使用され得る。このような実施形態においては、FGMは、管またはパイプの通常の使用中に管またはパイプ中で運ばれている流体に単に添加され得、FGMは、管またはパイプの壁における開口部または漏口などの欠陥または漏口の位置に接着し、漏口を低減もしくは除去する封止またはFGMが漏口の位置に接着しなければ漏口になり得る欠陥を修理する封止であり得る修理を与える。欠陥または漏口にわたる圧力降下は、FGMを欠陥または漏口の部位に向けるように作用することを理解されたい。
【0089】
定性的には、FGM封止剤は金属表面に接着することができる。これは、鋼およびアルミニウムの形状を用いたレオロジー試験中に観察された。機械的試験が完了した後、FGM封止剤は、上部の鋼形状および下部のアルミニウム形状に付着した。官能化されていないGOおよびCG足場は、同じ金属接着特性を示さなかった。したがって、金属復水器管へのFGM封止剤の接着性および安定性は、FGMの封止能力を評価するために上記で使用された非極性のポリプロピレンシリンジより強くなるであろう。したがって、既存の圧力降下に基づいて金属表面中の欠陥または漏口の部位に導かれると、FGMは金属表面のその領域に引き付けられ、その場所で接着し、それによって封止を構築し、漏口を効果的に低減または除去する。
【0090】
図20は、本発明の一実施形態によるFGMを使用するためのプロセスを示す。図示されているように、復水器管2002は、復水器管からの流体の損失を図示する封止されていない欠陥または漏口2004とともに図示されている。FGM2008から作られた栓または封止を含む修理された漏口2006も示されている。既存の漏口2004を修理するために、FMGが流体2014内に分散されて流体に分散されたFGM封止剤を形成するように、カテコール酸化グラフェン(CGO)2010またはカテコールクライゼングラフェン(CCG)2012などのFGMが流体2014に添加され得る。流体は、典型的には管によって輸送される作動流体、この事例では、通常の使用中に復水器管を通って流れている水であり得ることを理解されたい。この場合には、修理はその場で行われ、復水器管の使用を停止させる必要なしに、FGMを水に加えることができる。あるいは、FGM材料は、管が使用されていない間に、漏口または欠陥を有する管を単に通されている水などの流体に添加することができる。いずれの場合にも、漏れている管を修理のために取り外す必要なしに、その場で修理が為され得る。必要とされるFGMの量およびFGMと欠陥または漏口との間で必要とされる接触時間は変化する。例えば、より大きな欠陥は、より多くの材料を必要とする。水は循環しているため、FGM栓のサイズが増大するにつれて、より大きな欠陥は封止するのにより時間がかかり得る。欠陥または漏口の部位における圧力降下の大きさは、その位置に引き込まれるFGMの量にも影響を及ぼし、次いで、これは流体に添加する必要があるFGMの量に影響を及ぼすことを理解されたい。それにもかかわらず、欠陥または漏口に対する封止を与えるために必要とされるFGMの量は、修理の十分さまたは漏口のサイズの低下に基づいて決定することができる。
【0091】
本発明の様々な実施形態について上記に説明してきた。しかしながら、代替の実施形態が可能であること、および本発明が上述の特定の実施形態に限定されないことを理解されたい。例えば、足場および接着性分子として他の材料を使用してもよい。これらの例では、このような足場もしくは接着剤またはこれらの様々な組み合わせが接着剤もしくは封止剤として十分に機能するかどうか、およびこれらがその場で表面の欠陥または漏口の修理を与えるかどうかを決定するために、上記の分析が使用され得る。

図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19A
図19B
図20
【国際調査報告】