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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-02
(54)【発明の名称】反転可能なレンズ及び設計方法
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/04 20060101AFI20220526BHJP
【FI】
G02C7/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021557834
(86)(22)【出願日】2020-03-26
(85)【翻訳文提出日】2021-11-05
(86)【国際出願番号】 IB2020052874
(87)【国際公開番号】W WO2020201941
(87)【国際公開日】2020-10-08
(31)【優先権主張番号】16/369,378
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510294139
【氏名又は名称】ジョンソン・アンド・ジョンソン・ビジョン・ケア・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Johnson & Johnson Vision Care, Inc.
【住所又は居所原語表記】7500 Centurion Parkway, Jacksonville, FL 32256, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】ジュビン・フィリップ・エフ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルドマール・ロバート・ライアン
(72)【発明者】
【氏名】ゼイナリ・シャーロク・ショーン
【テーマコード(参考)】
2H006
【Fターム(参考)】
2H006BC00
2H006BC07
(57)【要約】
眼用レンズが、第1の表面と、第1の表面の反対側の第2の表面とを備える本体を備えてもよく、本体は、直径、ベースカーブ、周辺厚さ、及び中心厚さを有し、直径、ベースカーブ、周辺厚さ、又は中心厚さのうちの1つ以上は、第1の表面のうちの少なくとも一部分が着用者の眼に当接する本体の第1の配向と、第2の表面のうちの少なくとも一部分が着用者の眼に当接する本体の第2の配向と、を比較すると、dsagが1.3%未満となるように構成される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼用レンズであって、
第1の表面と、前記第1の表面の反対側の第2の表面と、を備える本体であって、直径、ベースカーブ、周辺厚さ、及び中心厚を有する本体を備え、
前記直径、前記ベースカーブ、前記周辺厚さ、又は前記中心厚さのうちの1つ以上は、前記第1の表面のうちの少なくとも一部分が着用者の眼に当接する前記本体の第1の配向と、前記第2の表面のうちの少なくとも一部分が前記着用者の前記眼に当接する前記本体の第2の配向と、を比較すると、dsagが1.3%未満となるように構成されている、眼用レンズ。
【請求項2】
前記直径、前記ベースカーブ、前記周辺厚さ、又は前記中心厚さのうちの1つ以上は、前記第1の表面のうちの少なくとも一部分が着用者の眼に当接する前記本体の第1の配向と、前記第2の表面のうちの少なくとも一部分が前記着用者の前記眼に当接する前記本体の第2の配向と、を比較すると、dsagが1.2%未満となるように構成されている、請求項1に記載の眼用レンズ。
【請求項3】
前記直径、前記ベースカーブ、前記周辺厚さ、又は前記中心厚さのうちの1つ以上は、前記第1の表面のうちの少なくとも一部分が着用者の眼に当接する前記本体の第1の配向と、前記第2の表面のうちの少なくとも一部分が前記着用者の前記眼に当接する前記本体の第2の配向と、を比較すると、dsagが1.1%未満となるように構成されている、請求項1に記載の眼用レンズ。
【請求項4】
前記直径、前記ベースカーブ、前記周辺厚さ、又は前記中心厚さのうちの1つ以上は、前記第1の表面のうちの少なくとも一部分が着用者の眼に当接する前記本体の第1の配向と、前記第2の表面のうちの少なくとも一部分が前記着用者の前記眼に当接する前記本体の第2の配向と、を比較すると、dsagが1.0%未満となるように構成されている、請求項1に記載の眼用レンズ。
【請求項5】
前記本体は、ANSI Z80.20に従って測定されるとき、150kPa~1000kPaの弾性率を呈する、請求項1に記載の眼用レンズ。
【請求項6】
前記本体は、ANSI Z80.20に従って測定されるとき、270kPa~1000kPaの弾性率を呈する、請求項1に記載の眼用レンズ。
【請求項7】
前記本体は、ANSI Z80.20に従って測定されるとき、420kPa~1000kPaの弾性率を呈する、請求項1に記載の眼用レンズ。
【請求項8】
前記本体の前記直径は13.8mm~15mmである、請求項1に記載の眼用レンズ。
【請求項9】
前記本体の前記直径は14.3mm~14.8mmである、請求項1に記載の眼用レンズ。
【請求項10】
前記本体の前記ベースカーブは8mm~8.6mmである、請求項1に記載の眼用レンズ。
【請求項11】
前記本体の前記ベースカーブは8mm~8.3mmである、請求項1に記載の眼用レンズ。
【請求項12】
前記本体の前記ベースカーブは8mm~8.1mmである、請求項1に記載の眼用レンズ。
【請求項13】
前記本体の前記中心厚さは0.06mm~0.2mmである、請求項1に記載の眼用レンズ。
【請求項14】
前記本体の前記中心厚さは0.1mm~0.2mmである、請求項1に記載の眼用レンズ。
【請求項15】
請求項1に記載の前記眼用レンズの製造方法。
【請求項16】
眼用レンズであって、
第1の表面と、前記第1の表面と反対側の第2の表面とを備える本体であって、直径、ベースカーブ、厚さプロファイル、及び縁部プロファイルを有する本体を備え、
前記縁部プロファイル、及び前記直径、前記ベースカーブ、又は前記厚さプロファイルのうちの1つ以上は、前記第2の表面のうちの少なくとも一部分が前記着用者の眼に当接する反転配向に前記レンズがあるときに、縁部頂点から前記眼の最も近い表面まで測定される頂点高さが0.020mm以下となるように構成されている、眼用レンズ。
【請求項17】
前記縁部プロファイル、及び前記直径、前記ベースカーブ、又は前記厚さプロファイルのうちの1つ以上は、前記第1の表面のうちの少なくとも一部分が着用者の眼に当接する前記本体の第1の配向と、前記第2の表面のうちの少なくとも一部分が前記着用者の前記眼に当接する前記本体の第2の配向と、を比較すると、dsagが1.2%未満となるように構成されている、請求項16に記載の眼用レンズ。
【請求項18】
前記縁部プロファイル、及び前記直径、前記ベースカーブ、又は前記厚さプロファイルのうちの1つ以上は、前記第1の表面のうちの少なくとも一部分が着用者の眼に当接する前記本体の第1の配向と、前記第2の表面のうちの少なくとも一部分が前記着用者の前記眼に当接する前記本体の第2の配向と、を比較すると、dsagが1.1%未満となるように構成されている、請求項16に記載の眼用レンズ。
【請求項19】
前記縁部プロファイル、及び前記直径、前記ベースカーブ、又は前記厚さプロファイルのうちの1つ以上は、前記第1の表面のうちの少なくとも一部分が着用者の眼に当接する前記本体の第1の配向と、前記第2の表面のうちの少なくとも一部分が前記着用者の前記眼に当接する前記本体の第2の配向と、を比較すると、dsagが1.0%未満となるように構成されている、請求項16に記載の眼用レンズ。
【請求項20】
前記本体は、ANSI Z80.20に従って測定されるとき、150kPa~1000kPaの弾性率を呈する、請求項16に記載の眼用レンズ。
【請求項21】
前記本体は、ANSI Z80.20に従って測定されるとき、270kPa~1000kPaの弾性率を呈する、請求項16に記載の眼用レンズ。
【請求項22】
前記本体は、ANSI Z80.20に従って測定されるとき、420kPa~1000kPaの弾性率を呈する、請求項16に記載の眼用レンズ。
【請求項23】
前記本体の前記直径は13.8mm~15mmである、請求項16に記載の眼用レンズ。
【請求項24】
前記本体の前記直径は14.3mm~14.8mmである、請求項16に記載の眼用レンズ。
【請求項25】
前記本体の前記ベースカーブは8mm~8.6mmである、請求項16に記載の眼用レンズ。
【請求項26】
前記本体の前記ベースカーブは8mm~8.3mmである、請求項16に記載の眼用レンズ。
【請求項27】
前記本体の前記ベースカーブは8mm~8.1mmである、請求項16に記載の眼用レンズ。
【請求項28】
前記本体の前記中心厚さは0.06mm~0.2mmである、請求項16に記載の眼用レンズ。
【請求項29】
前記本体の前記中心厚さは0.1mm~0.2mmである、請求項16に記載の眼用レンズ。
【請求項30】
請求項16に記載の前記眼用レンズの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ソフトコンタクトレンズを含む着用可能なレンズなどの眼用デバイスに関するものであり、より具体的には、反転可能な眼用デバイス及び反転可能な眼用デバイスを設計するための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在のコンタクトレンズ設計は、1つの配向に適合することが意図されており、したがって、基本配向(例えば、眼と接触するための規定の内側表面を有する)と裏返し配向との間の不同性は、眼への挿入/配置中の正しい配向と不正な配向との間の混乱を防止するために最大化されている。したがって、レンズが裏返しに挿入されると、レンズのフィット性、視力、及び快適性が悪影響を受ける。
【0003】
欧州特許第1364248B1号は、正規の配向又は裏返しの配向のいずれかで着用者の眼に適合させるためのソフトコンタクトレンズについて記載したものであり、ここで、当該正規の配向では、前方凸状表面と後方凹状表面とが設けられ、また当該裏返しの配向では、当該正規の前方凸状表面は、後方凹状表面に変換され、当該正規の後方凹状表面は凸状前方表面に変換される。欧州特許第1364248B1号によれば、当該変換はレンズの屈曲によってもたらされ、当該レンズの屈曲は、結果として当該第1の表面及び第2の表面のいずれかの表面輪郭への調節を生じる少なくとも1つのフォーメーションによって対処される。欧州特許第1364248B1号によれば、「裏返し」になることに対する自然抵抗性、及びその結果として生じる抽象的でかつ制御されない曲率変化は、レンズ内に配置される緩和エリアによって低減又は削除され得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、改善が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、反転可能な眼用レンズ、並びに、例えばインシリコ性能分析及びプロトタイピングによって、そのような眼用レンズを設計及び最適化するための方法に関する。一例として、レンズの周辺領域は、基本配向と裏返し配向との間におけるベースカーブ及び直径の不同性が最小化されるように設計され得る。この不同性に対する周辺厚さの影響は、レンズ直径、ベースカーブ、及び中心厚さに依存するが、これらは、最良の性能を得るために周辺厚さと共に最適化されなければならない。レンズのベースカーブ及び直径が基本配向と裏返し配向との間で同等である場合、眼上のフィット性及び視力性能も同等であると予想される。
【0006】
レンズのベースカーブ及び直径は、反転時のフィット性の要因を決定するものとして識別され得る。本開示によれば、レンズのベースカーブ及び直径のうちの1つ以上は、基本配向と裏返し配向との間に構成され得る。したがって、レンズの周辺領域は、基本配向と裏返し配向との間における直径又は垂れ下がりの偏差(dDiam又はdSag)が最小化されるように設計されてもよい。更に、周辺厚さの影響は、レンズの直径、ベースカーブ、及び中心厚さに依存し得る。レンズの直径、ベースカーブ、及び中心厚さのうちの1つ以上は、最良の性能が得られるように最適化されてもよい。
【0007】
反転され得るレンズ設計における印刷は、交換可能な(例えば、可逆的な)美容的外観を眼上にもたらし得る。この効果は、色、パターン、又はエフェクトのうちの1つ以上の変化を含んでもよい。結果として得られる交換可能な美容的外観は、印刷順序、デザイン/パターン、色、パターン配置、及び不透明性レベルなどに基づいてカスタマイズされてもよい。
【0008】
眼用レンズが、第1の表面と、第1の表面の反対側の第2の表面とを備える本体を備えてもよく、本体は、直径、ベースカーブ、周辺厚さ、及び中心厚さを有し、直径、ベースカーブ、周辺厚さ、又は中心厚さのうちの1つ以上は、第1の表面のうちの少なくとも一部分が着用者の眼に当接する本体の第1の配向と、第2の表面のうちの少なくとも一部分が着用者の眼に当接する本体の第2の配向と、を比較すると、dsagが1.3%未満となるように構成される。
【0009】
眼用レンズが、第1の表面と、第1の表面の反対側の第2の表面とを備える本体を備えてもよく、本体は、直径、ベースカーブ、厚さプロファイル、及び縁部プロファイルを有し、縁部プロファイルと、直径、ベースカーブ、又は厚さプロファイルのうちの1つ以上は、第2の表面のうちの少なくとも一部分が着用者の眼に当接する反転配向にレンズがあるときに、縁部頂点から眼の最も近い表面まで測定される頂点高さが0.020mm以下となるように構成される。
【0010】
眼用レンズを作製するための方法が開示される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
本開示の上述及びその他の特徴と利点は、添付図面に例証されるような、本開示の好ましい実施形態の以下のより詳しい記載から明白となるであろう。
図1A】基本配向並びにその巻き付き構成にあるソフトコンタクトレンズの概略図である。
図1B】反転されたソフトコンタクトレンズ(例えば、裏返し)並びにその巻き付き構成の概略図である。
図2A】基本配向(図2A)及び反転又は裏返し配向(図2B)にある従来のソフトコンタクトレンズの歪みモデリングを示す。
図2B】基本配向(図2A)及び反転又は裏返し配向(図2B)にある従来のソフトコンタクトレンズの歪みモデリングを示す。
図3A】本開示による(例えば、周辺厚さを最適化された)ソフトコンタクトレンズの歪みモデリングを示し、ここでレンズは基本配向(図3A)及び反転又は裏返し配向(図3B)にある。
図3B】本開示による(例えば、周辺厚さを最適化された)ソフトコンタクトレンズの歪みモデリングを示し、ここでレンズは基本配向(図3A)及び反転又は裏返し配向(図3B)にある。
図4A】14人の被験者の調査の評価のリストを示す。
図4B】14人の被験者の調査の評価のリストを示す。
図5】レンズが裏返しであることを判別する容易性に関するシミュレートされたdsagと調査スコアとの間の関係を表すプロットを示す。
図6】結果として得られる直径、ベースカーブ、及びCTの設計空間を示すと共に、それらがシミュレーションメトリックdSagに与える影響をマーカのサイズ(例えば、円形マーカの直径)で表したものを示したプロットを示す。
図7】基本配向において巻き付いた従来のコンタクトレンズの周辺縁部のモデルを示す。
図8】反転又は裏返し配向において巻き付いた従来のコンタクトレンズの周辺縁部のモデルを示す。
図9】基本配向において巻き付いた、本開示によるコンタクトレンズの周辺縁部のモデルを示す。
図10】反転又は裏返し配向において巻き付いた、本開示によるコンタクトレンズの周辺縁部のモデルを示す。
図11A】基本配向と反転又は裏返し配向との両方における0.00Dレンズの光学分析に基づくプロットを示す。
図11B】基本配向と反転又は裏返し配向との両方における0.00Dレンズの光学分析に基づくプロットを示す。
図11C】基本配向と反転又は裏返し配向との両方における0.00Dレンズの光学分析に基づくプロットを示す。
図11D】基本配向と反転又は裏返し配向との両方における0.00Dレンズの光学分析に基づくプロットを示す。
図12A】基本配向と反転又は裏返し配向との両方における-4.00Dレンズの光学分析に基づくプロットを示す。
図12B】基本配向と反転又は裏返し配向との両方における-4.00Dレンズの光学分析に基づくプロットを示す。
図12C】基本配向と反転又は裏返し配向との両方における-4.00Dレンズの光学分析に基づくプロットを示す。
図12D】基本配向と反転又は裏返し配向との両方における-4.00Dレンズの光学分析に基づくプロットを示す。
図13A】基本配向と反転又は裏返し配向との両方における+4.00Dレンズの光学分析に基づくプロットを示す。
図13B】基本配向と反転又は裏返し配向との両方における+4.00Dレンズの光学分析に基づくプロットを示す。
図13C】基本配向と反転又は裏返し配向との両方における+4.00Dレンズの光学分析に基づくプロットを示す。
図13D】基本配向と反転又は裏返し配向との両方における+4.00Dレンズの光学分析に基づくプロットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
ソフトコンタクトレンズは、着用者の眼の角膜/強膜プロファイルにレンズを適合させるように構成されたベースカーブ(複数可)、一般に角膜直径よりも大きい直径、及びレンズの屈折機能をもたらす前面カーブ(複数可)を用いて設計され得る。ソフトコンタクトレンズは、機能によっては、軟質材料から作製され得るため、ソフトコンタクトレンズは、角膜/強膜プロファイル及び眼上への「巻き付き」に適合し得る(図1A)。レンズの反転状態からのこの巻き付き又は変形は、角膜及び強膜のプロファイルに適応するためにコンタクトレンズのカーブが変化するにつれて、眼に顕著な屈折作用を及ぼし得る。レンズが反転されると、前表面は、反転されたレンズが眼に巻き付いたときに眼表面に触れる後表面となる(図1B)。更に、レンズの屈折力に対する巻き付きの効果はまた、レンズが眼に基本配向で適用されるか、反転/裏返し配向で適用されるかに依存し得る。
【0013】
本開示によれば、レンズの反転、眼上へのレンズの巻き付き、及びレンズの取り扱い、例えば、指又は用具を使用した眼上へのレンズの配置をシミュレートするために、様々な配向におけるレンズの挙動が(例えば、有限要素解析(FEA)、MSC Marcソフトウェアなどを使用して)モデリングされ得る。例えば、図2A図2Bは、歪みがないと想定される基本配向(図2A)及びレンズを強制的に反らせた後の残留歪を伴う反転又は裏返し配向(図2B)における従来のソフトコンタクトレンズの歪みモデリングを示す。標準的な設計を用いたレンズが反転されると、周辺の厚さが変形の抵抗となり、反転構成においてレンズに残留歪みが生じることになる。これは、レンズ縁部が外に広がることに対応し、したがって、直径が増加(垂れ下がりが減少)し、最終的には眼上に置かれたときに、眼上におけるフィッティング特性が異なることになる。実際に、ソフトコンタクトレンズ使用者による現在の慣行によれば、基本構成と反転構成との間の不同性が大きいほど、目視確認によってレンズが裏返しであるか否かを認識することがより容易になる。図3A図3Bは、本開示による(例えば、周辺厚さを低減された)ソフトコンタクトレンズの歪みモデリングを示し、ここでレンズは基本配向(図3A)及び反転又は裏返し配向(図3B)にある。周辺厚さを管理すること(例えば、削減すること、最小化することなど)によって、レンズの反転に対する主な抵抗が低減され、したがって、レンズの直径及び垂れ下がりは、基本構成(反転前)における本来意図された値により近くなり、すなわち、基本配向と裏返し配向の間における直径又は垂れ下がりの偏差(dDiam又はdSag)が最小化される。
【0014】
周辺厚さを低減する潜在的な不利益は、レンズの取扱いにおける難しさ(例えば、薄っぺらさ及び折れ曲がり)が増すことである。いくつかの設計代替例が本開示によって生み出され、評価のために製造された。ある態様では、14人の被験者の調査が、2つのメトリクス/質問、すなわち、1)レンズが裏返しであることを判別する容易性を評価すること、及び、2)5枚のサンプルレンズのうちの各レンズに対してレンズを取り扱う容易性を評価すること、に基づいて実施された。5枚のレンズは、1枚の対照レンズと、提案される設計の種々の変形例の4枚の試験レンズと、を含むものであり、それぞれ、ミリメートル(mm)単位の所定の直径(D)、ベースカーブ(BC)、及び中心厚さ(CT)を、次のように有する。
対照:D14.2、BC8.5、CT0.085
設計403:D14.3、BC8.1、CT0.1
設計404:D14.3、BC8.1、CT0.2
設計405:D14.3、BC8.3、CT0.1
設計406:D14.3、BC8.5、CT0.1
【0015】
図4A及び図4Bは、14人の被験者の調査の評価のリストを示しており、各評価は以下のとおりである。
1=非常に困難
2=やや困難
3=やや容易
4=非常に容易
【0016】
表1は、裏返しの判別及び取扱いに関する調査からの平均スコアを示す。
【0017】
【表1】
【0018】
表1及び主観的フィードバックによれば、設計405は、両方の態様から最適に挙動するように見え、すなわち、取扱いが容易であり、同時に、裏返しであることを判別することがより困難であるように見える。図5は、シミュレートされたdsag(反転後の垂れ下がりの偏差)と、レンズが裏返しであるか否かを判別する容易性に関する調査スコアとの間の関係を表すプロットを示す。このプロットは、シミュレーションdsagが裏返し判別スコアの予測因子として使用され得ることを示す。
【0019】
適用可能な設計パラメータの範囲を更に検討するために、設計405が最適設計として選択され、表2に示されるように、直径及びベースカーブ及び中心厚さの変動範囲が、更なる評価のために提案された。
【0020】
【表2】
【0021】
上記のパラメータ範囲(表2によって表される)内で、元の18の設計に加えて、更に27の設計の組み合わせが生成され、反転シミュレーションについて評価され、合計で45の設計変形例が得られた。図6は、結果として得られる直径、ベースカーブ、及びCTの設計空間、並びに、それらがシミュレーションメトリックdSagに与える影響をマーカのサイズ(例えば、円形マーカの直径)で表したものを示すプロットを示す。dSagが小さいほど、裏返しを判別することがより困難であり、性能がより良好になる。
【0022】
表1のデータ、及びシミュレーションメトリックdSagと裏返し判別の容易性との間の関係性(図5)に基づいて、好ましいdSag及び許容可能なdSagの限界値が次のように推定され得る。
裏返し判別の容易性<1.2%が好ましい<==>dSag<1%が好ましい
裏返し判別の容易性<2%が許容可能<==>dSag<1.3%が許容可能
【0023】
「好ましい」及び「許容可能」という用語は、本明細書において、例示的な性能レベルを区別するために使用され、好ましい実施形態又は最良の実施形態を示すことを意図するものではない。他の性能範囲が使用されてもよい。シミュレーションメトリックdSagのこれらの限界により、本発明者らは、表2に示される範囲内にある45の設計から、好ましい設計(表3)及び許容可能な設計(表4)を以下のように特定し得る。
【0024】
【表3】
【0025】
【表4】
【0026】
材料特性(例えば、ANSI Z80.20を使用して測定される弾性率)は、レンズの機械的挙動に影響を及ぼし得る。材料特性の影響を検討するために、弾性率は150kpa~660kpaの間で変更された。取扱い及び裏返し反転(I/O)の判別に関するメトリックを評価するために、反転及び取扱いのシミュレーションが繰り返され、その結果が表5に示されている。
【0027】
【表5】
【0028】
表5のデータが示すところによれば、弾性率を増大させることは、レンズの逆転形状に影響を与えることなく、可逆的なレンズの取扱い性を改善することになり得るが、これは望ましい結果である。
【0029】
コンタクトレンズでは、レンズの周辺縁部が全体的な快適性に影響を及ぼし得る。例えば、図7は、基本配向において巻き付いた従来のコンタクトレンズの周辺縁部のモデルを示す。図示のように、縁部は、レンズ縁部が眼と完全に接触したときに通常は着用者にとって快適となるような方式で巻き付く。比較のために、図8は、反転又は裏返し配向において巻き付いた従来のコンタクトレンズの周辺縁部のモデルを示す。図示のように、周辺縁部は、着用者の眼とは異なる様式で巻き付き、縁部頂点と眼の表面との間に間隙が存在するが、このことは、まばたき中に眼瞼が眼の表面からコンタクトレンズまで繰り返し移動するので、着用者にとって不快となり得る。
【0030】
しかしながら、本開示によれば、レンズの両側に対して対称的であるかあるいは実質的に同様である縁部プロファイルを用いると、2つの配向間における眼の快適性の差が最小化され得る。追加的にあるいは代替的に、縁部頂点と眼表面との間の既存の間隙(すなわち、頂点高さ)は、いずれの配向においても低減され得る。例えば、図9は、基本配向において巻き付いた、本開示によるコンタクトレンズの周辺縁部のモデルを示す。比較のために、図10は、反転又は裏返し配向において巻き付いた、本開示によるコンタクトレンズの周辺縁部のモデルを示す。
【0031】
視力矯正を提供する眼用医療装置として、反転可能なソフトコンタクトレンズは、いずれかの配向を使用して同等の屈折力補正を提供する必要がある。ソフトコンタクトレンズ材料の非圧縮性の性質、及びいずれかの側で眼上に置かれたときにレンズが眼に巻き付くという事実を考慮すると、コンタクトレンズの光学領域は、いずれかの配向で置かれたときに眼上の同様の湾曲又は形状へと変形することが推測され得る。本開示によるレンズ設計を用いて、基本配向と反転配向との両方で、予備的な光機械的シミュレーションが実施される。異なる度数(-4.00D、0.00D、+4.00D)を用いた設計について分析が繰り返される。巻き付いていないレンズ形状と巻き付いたレンズ形状(FEAによって推定される)の両方を想定して、光学分析が行われる。図11A図11Dは、基本配向と反転又は裏返し配向との両方における0.00Dレンズの光学分析に基づくプロットを示す。図11A図11Dに示されるプロットは、レンズプロファイルとそれらの算出された屈折力プロファイルとを比較したものである。これらは、基本配向と裏返し配向との間においてレンズ度数に最小限の差(r<4mmの光学領域内)があることを示す(図11A図11B)。特に、レンズが眼に巻き付くと、幾何学的形状が同等になるので、度数プロファイル間の差異が消失する(図11C図11D)。
【0032】
図12A図12Dは、基本配向と反転又は裏返し配向との両方における-4.00Dレンズの光学分析に基づくプロットを示す。これらのプロットは、レンズプロファイルとそれらの算出された屈折力プロファイルとを比較したものである。これらは、2つの側面の間に最小限の差異があることを示す(図12A図12B)。特に、レンズが眼に巻き付くと、幾何学的形状が同等になるので、度数プロファイル間の差異が消失する(図12C図12D)。
【0033】
図13A図13Dは、基本配向と反転又は裏返し配向との両方における+4.00Dレンズの光学分析に基づくプロットを示す。これらのプロットは、レンズプロファイルとそれらの算出された屈折力プロファイルとを比較したものである。これらは、2つの側面の間に最小限の差異があることを示す(図13A図13B)。特に、レンズが眼に巻き付くと、幾何学的形状が同等になるので、度数プロファイル間の差異が消失する(図13C図13D)。
【0034】
これらの光学機械的シミュレーションは、本開示による反転可能なレンズ設計による視力がレンズの配向とは無関係となり得るという概念を裏付けている。
【0035】
本明細書に記載されるように、レンズの周辺領域は、基本配向と裏返し配向との間におけるベースカーブ及び直径の不同性が最小化されるように設計され得る。この不同性に対する周辺厚さの影響は、レンズ直径、ベースカーブ、及び中心厚さに依存するが、これらは、最良の性能を得るために周辺厚さと共に最適化されなければならない。レンズのベースカーブ及び直径が基本配向と裏返し配向との間で同等である場合、眼上のフィット性及び視力性能も同等であると予想される。
【0036】
更に、反転され得るレンズ設計における印刷は、交換可能な(例えば、可逆的な)美容的外観を眼上にもたらし得る。この効果は、色、パターン、又はエフェクトのうちの1つ以上の変化を含んでもよい。結果として得られる交換可能な美容的外観は、印刷順序、デザイン/パターン、色、パターン配置、及び不透明性レベルなどに基づいてカスタマイズされてもよい。
【0037】
図示及び説明されたものは、最も実用的かつ好ましい実施形態であると考えられるが、説明及び図示した特定の設計及び方法からの変更がそれ自体当業者にとって自明であり、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく使用できることは明らかであろう。本発明は、説明し例証した特定の構成に限定されないが、添付の特許請求の範囲に含まれ得る全ての修正と一貫するように構成されているべきである。
【0038】
〔実施の態様〕
(1) 眼用レンズであって、
第1の表面と、前記第1の表面の反対側の第2の表面と、を備える本体であって、直径、ベースカーブ、周辺厚さ、及び中心厚を有する本体を備え、
前記直径、前記ベースカーブ、前記周辺厚さ、又は前記中心厚さのうちの1つ以上は、前記第1の表面のうちの少なくとも一部分が着用者の眼に当接する前記本体の第1の配向と、前記第2の表面のうちの少なくとも一部分が前記着用者の前記眼に当接する前記本体の第2の配向と、を比較すると、dsagが1.3%未満となるように構成されている、眼用レンズ。
(2) 前記直径、前記ベースカーブ、前記周辺厚さ、又は前記中心厚さのうちの1つ以上は、前記第1の表面のうちの少なくとも一部分が着用者の眼に当接する前記本体の第1の配向と、前記第2の表面のうちの少なくとも一部分が前記着用者の前記眼に当接する前記本体の第2の配向と、を比較すると、dsagが1.2%未満となるように構成されている、実施態様1に記載の眼用レンズ。
(3) 前記直径、前記ベースカーブ、前記周辺厚さ、又は前記中心厚さのうちの1つ以上は、前記第1の表面のうちの少なくとも一部分が着用者の眼に当接する前記本体の第1の配向と、前記第2の表面のうちの少なくとも一部分が前記着用者の前記眼に当接する前記本体の第2の配向と、を比較すると、dsagが1.1%未満となるように構成されている、実施態様1に記載の眼用レンズ。
(4) 前記直径、前記ベースカーブ、前記周辺厚さ、又は前記中心厚さのうちの1つ以上は、前記第1の表面のうちの少なくとも一部分が着用者の眼に当接する前記本体の第1の配向と、前記第2の表面のうちの少なくとも一部分が前記着用者の前記眼に当接する前記本体の第2の配向と、を比較すると、dsagが1.0%未満となるように構成されている、実施態様1に記載の眼用レンズ。
(5) 前記本体は、ANSI Z80.20に従って測定されるとき、150kPa~1000kPaの弾性率を呈する、実施態様1に記載の眼用レンズ。
【0039】
(6) 前記本体は、ANSI Z80.20に従って測定されるとき、270kPa~1000kPaの弾性率を呈する、実施態様1に記載の眼用レンズ。
(7) 前記本体は、ANSI Z80.20に従って測定されるとき、420kPa~1000kPaの弾性率を呈する、実施態様1に記載の眼用レンズ。
(8) 前記本体の前記直径は13.8mm~15mmである、実施態様1に記載の眼用レンズ。
(9) 前記本体の前記直径は14.3mm~14.8mmである、実施態様1に記載の眼用レンズ。
(10) 前記本体の前記ベースカーブは8mm~8.6mmである、実施態様1に記載の眼用レンズ。
【0040】
(11) 前記本体の前記ベースカーブは8mm~8.3mmである、実施態様1に記載の眼用レンズ。
(12) 前記本体の前記ベースカーブは8mm~8.1mmである、実施態様1に記載の眼用レンズ。
(13) 前記本体の前記中心厚さは0.06mm~0.2mmである、実施態様1に記載の眼用レンズ。
(14) 前記本体の前記中心厚さは0.1mm~0.2mmである、実施態様1に記載の眼用レンズ。
(15) 実施態様1に記載の前記眼用レンズの製造方法。
【0041】
(16) 眼用レンズであって、
第1の表面と、前記第1の表面と反対側の第2の表面とを備える本体であって、直径、ベースカーブ、厚さプロファイル、及び縁部プロファイルを有する本体を備え、
前記縁部プロファイル、及び前記直径、前記ベースカーブ、又は前記厚さプロファイルのうちの1つ以上は、前記第2の表面のうちの少なくとも一部分が前記着用者の眼に当接する反転配向に前記レンズがあるときに、縁部頂点から前記眼の最も近い表面まで測定される頂点高さが0.020mm以下となるように構成されている、眼用レンズ。
(17) 前記縁部プロファイル、及び前記直径、前記ベースカーブ、又は前記厚さプロファイルのうちの1つ以上は、前記第1の表面のうちの少なくとも一部分が着用者の眼に当接する前記本体の第1の配向と、前記第2の表面のうちの少なくとも一部分が前記着用者の前記眼に当接する前記本体の第2の配向と、を比較すると、dsagが1.2%未満となるように構成されている、実施態様16に記載の眼用レンズ。
(18) 前記縁部プロファイル、及び前記直径、前記ベースカーブ、又は前記厚さプロファイルのうちの1つ以上は、前記第1の表面のうちの少なくとも一部分が着用者の眼に当接する前記本体の第1の配向と、前記第2の表面のうちの少なくとも一部分が前記着用者の前記眼に当接する前記本体の第2の配向と、を比較すると、dsagが1.1%未満となるように構成されている、実施態様16に記載の眼用レンズ。
(19) 前記縁部プロファイル、及び前記直径、前記ベースカーブ、又は前記厚さプロファイルのうちの1つ以上は、前記第1の表面のうちの少なくとも一部分が着用者の眼に当接する前記本体の第1の配向と、前記第2の表面のうちの少なくとも一部分が前記着用者の前記眼に当接する前記本体の第2の配向と、を比較すると、dsagが1.0%未満となるように構成されている、実施態様16に記載の眼用レンズ。
(20) 前記本体は、ANSI Z80.20に従って測定されるとき、150kPa~1000kPaの弾性率を呈する、実施態様16に記載の眼用レンズ。
【0042】
(21) 前記本体は、ANSI Z80.20に従って測定されるとき、270kPa~1000kPaの弾性率を呈する、実施態様16に記載の眼用レンズ。
(22) 前記本体は、ANSI Z80.20に従って測定されるとき、420kPa~1000kPaの弾性率を呈する、実施態様16に記載の眼用レンズ。
(23) 前記本体の前記直径は13.8mm~15mmである、実施態様16に記載の眼用レンズ。
(24) 前記本体の前記直径は14.3mm~14.8mmである、実施態様16に記載の眼用レンズ。
(25) 前記本体の前記ベースカーブは8mm~8.6mmである、実施態様16に記載の眼用レンズ。
【0043】
(26) 前記本体の前記ベースカーブは8mm~8.3mmである、実施態様16に記載の眼用レンズ。
(27) 前記本体の前記ベースカーブは8mm~8.1mmである、実施態様16に記載の眼用レンズ。
(28) 前記本体の前記中心厚さは0.06mm~0.2mmである、実施態様16に記載の眼用レンズ。
(29) 前記本体の前記中心厚さは0.1mm~0.2mmである、実施態様16に記載の眼用レンズ。
(30) 実施態様16に記載の前記眼用レンズの製造方法。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図11C
図11D
図12A
図12B
図12C
図12D
図13A
図13B
図13C
図13D
【国際調査報告】