(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-02
(54)【発明の名称】PLK1阻害薬及び前立腺癌のPSAレベル
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20220526BHJP
A61P 13/08 20060101ALI20220526BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220526BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220526BHJP
A61K 31/519 20060101ALI20220526BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20220526BHJP
A61K 31/58 20060101ALI20220526BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P13/08
A61P35/00
A61P43/00 111
A61K31/519
A61P35/04
A61K31/58
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021558518
(86)(22)【出願日】2020-03-25
(85)【翻訳文提出日】2021-10-22
(86)【国際出願番号】 US2020024572
(87)【国際公開番号】W WO2020198281
(87)【国際公開日】2020-10-01
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520305502
【氏名又は名称】カーディフ・オンコロジー・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】CARDIFF ONCOLOGY,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】アーランダー マーク
(72)【発明者】
【氏名】アダムス トーマス エイチ
(72)【発明者】
【氏名】ライディンガー マヤ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084MA02
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC201
4C084ZC202
4C084ZC751
4C084ZC752
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB05
4C086DA12
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZC20
4C086ZC75
(57)【要約】
前立腺癌患者が上昇性前立腺特異抗原(PSA)レベルを有する場合に、ポロ様キナーゼ1(PLK1)阻害薬による患者の治療を推奨することを含む方法を提供する。異なる時に前立腺癌患者から得られた少なくとも2つのサンプルの前立腺特異抗原(PSA)レベルを測定すること;及びサンプルのPSAレベルが経時的に上昇する場合はPLK1阻害薬による患者の治療を推奨すること、又はサンプルのPSAレベルが経時的に上昇しない場合はPLK1阻害薬による患者の治療を推奨しないことを含む方法をも提供する。さらに、活性化にリガンドを必要としない変性アンドロゲン受容体を有する前立腺癌を有する患者にPLK1阻害薬の治療を推奨することを含む方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前立腺癌患者が上昇性前立腺特異抗原(PSA)レベルを有する場合に、ポロ様キナーゼ1(PLK1)阻害薬による前記患者の治療を推奨することを含む方法。
【請求項2】
前記患者をPLK1阻害薬で治療することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記上昇性PSAレベルが、少なくとも1週間離れた2つの上昇性PSA値であり、1つは少なくとも0.1ng/mLの上昇を示し、1つは低下を示さない確認値である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記患者が抗アンドロゲン又はアンドロゲン拮抗薬で治療されているときに上昇性PSAレベルを有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記患者がプレドニゾンでも治療された、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記PLK1阻害薬治療が、PSAレベルを、PLK1阻害薬治療の開始時のPSAレベル超25%未満に維持する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
前記抗アンドロゲン又はアンドロゲン拮抗薬が、アビラテロン、TOK-001、ARN 509、エンザルタミド、アパルチビド、ダロルタミド、又はその任意の組み合わせである、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記PLK1阻害薬が、ジヒドロプテリジノン、ピリドピリミジン、アミノピリミジン、置換チアゾリジノン、プテリジン誘導体、ジヒドロイミダゾ[1,5-f]プテリジン、メタ置換チアゾリジノン、ベンジルスチリルスルホン類似体、スチルベン誘導体、又はその任意の組み合わせである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項9】
前記PLK1阻害薬が、オンバンセルチブ、BI2536、ボラセルチブ(BI 6727)、GSK461364、HMN-176、HMN-214、AZD1775、CYC140、リゴサチブ(ON-01910)、MLN0905、TKM-080301、TAK-960又はRo3280である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項10】
前記PLK1阻害薬がオンバンセルチブである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項11】
前記オンバンセルチブが、12mg/m
2以下の薬用量で前記患者に投与される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記オンバンセルチブが、24mg/m
2以下の薬用量で前記患者に投与される、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記オンバンセルチブが、24mg/m
2超の薬用量で前記患者に投与される、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記PLK1阻害薬が、前記患者に毎日投与される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項15】
前記PLK1阻害薬が、PLK1阻害薬が投与されない投与周期の間が9日以下である複数の投与周期で前記患者に投与される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項16】
前記PLK1阻害薬が投与されない投与周期の間が5日以下である、請求項14bに記載の方法。
【請求項17】
前記PLK1阻害薬が、1~10日の毎日投与と5~16日の非投与の複数の周期で投与される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項18】
前記PLK1阻害薬が、3~7日の毎日投与と10~16日の非投与の複数の周期で投与される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項19】
前記PLK1阻害薬が、4~6日の毎日投与と10~16日の非投与の複数の周期で投与される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項20】
前記PLK1阻害薬が、3~7日の毎日投与と3~10日の非投与の複数の周期で投与される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項21】
前記PLK1阻害薬が、4~6日の毎日投与と4~9日の非投与の複数の周期で投与される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項22】
前記PLK1阻害薬が、2~5日の毎日投与と5~9日の非投与の複数の周期で投与される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項23】
前記PLK1阻害薬が、2~3日の毎日投与と5~7日の非投与の複数の周期で投与される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項24】
前記患者が、アビラテロンをも毎日投与される、請求項10~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記前立腺癌が、去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)又は去勢感受性前立腺癌(CSPC)である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項26】
前記CRPC又はCSPCが転移性である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記CRPC又はCSPCが非転移性である、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
循環腫瘍細胞(CTC)を評価してアンドロゲン受容体変異体を同定することをさらに含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項29】
セルフリー核酸又はタンパク質を評価してアンドロゲン受容体変異体を同定することをさらに含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項30】
組織生検で腫瘍細胞を評価してアンドロゲン受容体変異体を同定することをさらに含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項31】
前記前立腺癌が、持続的副腎アンドロゲン産生、腫瘍内テストステロン産生の上方制御、アンドロゲン受容体の生物学的特性の変化、又はステロイド産生並行経路を介したアンドロゲン受容体シグナル伝達の再活性化を特徴とするCRPCである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項32】
前記CRPCが、変性アンドロゲン受容体を特徴とする、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記変性アンドロゲン受容体が、活性化にリガンドを必要としない、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記変性アンドロゲン受容体が、AR-V7又はAR
T878Aである、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記CRPCが、野生型アンドロゲン受容体の増幅を特徴とする、請求項31に記載の方法。
【請求項36】
下記
前立腺癌患者から異なる時に得られた少なくとも2つのサンプルの前立腺特異抗原(PSA)レベルを測定すること;及び
前記サンプルの前記PSAレベルが経時的に上昇する場合はPLK1阻害薬による前記患者の治療を推奨すること、又は
前記サンプルの前記PSAレベルが経時的に上昇しない場合はPLK1阻害薬による前記患者の治療を推奨しないこと
を含む方法。
【請求項37】
さらに下記
前記サンプルの前記PSAレベルが経時的に上昇する場合に前記患者をPLK1阻害薬で治療すること
を含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
PSAレベルの上昇が、少なくとも1週間離れた2つの上昇性PSA値によって同定され、1つは少なくとも0.1ng/mLを示し、1つは低下を示さない確認値である、請求項36又は37に記載の方法。
【請求項39】
前記患者が、抗アンドロゲン薬又はアンドロゲン拮抗薬及びプレドニゾンで治療されている、請求項36又は37に記載の方法。
【請求項40】
抗アンドロゲン薬又はアンドロゲン拮抗薬が、アビラテロン、TOK-001、ARN 509、エンザルタミド、アパルチビド、ダロルタミド、又はその任意の組み合わせである、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記PLK1阻害薬が、ジヒドロプテリジノン、ピリドピリミジン、アミノピリミジン、置換チアゾリジノン、プテリジン誘導体、ジヒドロイミダゾ[1,5-f]プテリジン、メタ置換チアゾリジノン、ベンジルスチリルスルホン類似体、スチルベン誘導体、又はその任意の組み合わせである、請求項36又は37に記載の方法。
【請求項42】
前記PLK1阻害薬が、オンバンセルチブ、BI2536、ボラセルチブ(BI 6727)、GSK461364、HMN-176、HMN-214、AZD1775、CYC140、リゴサチブ(ON-01910)、MLN0905、TKM-080301、TAK-960又はRo3280である、請求項36又は37に記載の方法。
【請求項43】
前記PLK1阻害薬がオンバンセルチブである、請求項36又は37に記載の方法。
【請求項44】
前記前立腺癌が、去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)又は去勢感受性前立腺癌(CSPC)である、請求項36又は37に記載の方法。
【請求項45】
前記CRPC又はCSPCが転移性である、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記CRPC又はCSPCが非転移性である、請求項44に記載の方法。
【請求項47】
活性化にリガンドを必要としない変性アンドロゲン受容体を有する前立腺癌を有する患者にPLK1阻害薬の治療を推奨することを含む方法。
【請求項48】
前記患者を前記PLK1阻害薬で治療することをさらに含む、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記変性アンドロゲン受容体が、AR-V7又はAR
T878Aアンドロゲン受容体である、請求項47又は48に記載の方法。
【請求項50】
前記患者が、上昇性PSAレベルをも有する、請求項47又は48に記載の方法。
【請求項51】
前記患者が、抗アンドロゲン薬又はアンドロゲン拮抗薬で治療されている、請求項47又は48に記載の方法。
【請求項52】
前記患者が、プレドニゾンでも治療されている、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記抗アンドロゲン薬又はアンドロゲン拮抗薬が、アビラテロン、TOK-001、ARN 509、エンザルタミド、アパルチビド、ダロルタミド、又はその任意の組み合わせである、請求項51に記載の方法。
【請求項54】
前記PLK1阻害薬が、オンバンセルチブ、BI2536、ボラセルチブ(BI 6727)、GSK461364、HMN-176、HMN-214、AZD1775、CYC140、リゴサチブ(ON-01910)、MLN0905、TKM-080301、TAK-960又はRo3280である、請求項47又は48に記載の方法。
【請求項55】
前記PLK1阻害薬がオンバンセルチブである、請求項47又は48に記載の方法。
【請求項56】
アンドロゲン拮抗薬で治療されており、かつ上昇性PSAレベルを有する前立腺癌患者にPLK1阻害薬による治療を推奨することを含む方法。
【請求項57】
前記PLK1阻害薬とアビラテロンの組み合わせによる治療が推奨される、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
前記アンドロゲン拮抗薬による治療が中止され、前記患者は、前記PLK1阻害薬とアビラテロンによる治療を開始する、請求項56に記載の方法。
【請求項59】
前記アンドロゲン拮抗薬が、エンザルタミド、アパルチビド、又はダロルタミドである、請求項56~58のいずれか1項に記載の方法。
【請求項60】
前記PLK1阻害薬が、オンバンセルチブ、BI2536、ボラセルチブ(BI 6727)、GSK461364、HMN-176、HMN-214、AZD1775、CYC140、リゴサチブ(ON-01910)、MLN0905、TKM-080301、TAK-960又はRo3280である、請求項56~58のいずれか1項に記載の方法。
【請求項61】
前記PLK1阻害薬がオンバンセルチブである、請求項56~58のいずれか1項に記載の方法。
【請求項62】
前記前立腺癌が、持続的副腎アンドロゲン産生、腫瘍内テストステロン産生の上方制御、アンドロゲン受容体の生物学的特性の変化、又はステロイド産生並行経路を介したアンドロゲン受容体シグナル伝達の再活性化を特徴とするCRPCである、請求項56~58のいずれか1項に記載の方法。
【請求項63】
前記CRPCが、変性アンドロゲン受容体を特徴とする、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
前記変性アンドロゲン受容体が、活性化にリガンドを必要としない、請求項63に記載の方法。
【請求項65】
前記変性アンドロゲン受容体が、AR-V7又はAR
T878Aである、請求項64に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、両開示内容全体を参照することによりここに援用する2019年3月28日に提出された米国仮出願第62/825634号、及び2019年8月22日に提出された米国仮出願第62/890209号の利益を主張する。
【0002】
発明の背景
(1)発明の分野
本出願は、一般的に前立腺癌の治療に関する。より詳細には、本出願は、抗アンドロゲン薬又はアンドロゲン拮抗薬で治療された患者のPSAレベルを安定化するためのPLK1阻害薬による前立腺癌の治療に関する。
【背景技術】
【0003】
(2)関連技術の説明
転移性去勢抵抗性前立腺癌
前立腺癌(PCa)は、男性の間で2番目に高頻度に診断される癌で、5番目に多い癌による死亡原因であり、2012年には世界中で推定300,000名の死亡をもたらしている[WHO, 2014]。転移性前立腺癌を患っているほとんどの男性は、最初は歴史的標準治療、アンドロゲン遮断療法に応答するが、数カ月から数年後に抵抗性が必然的に生じ、これは転移性去勢抵抗性前立腺癌(mCRPC)として知られている。抵抗性は、持続的副腎アンドロゲン産生、腫瘍内テストステロン産生の上方制御、アンドロゲン受容体の生物学的特性の変化、及びステロイド産生並行経路を介したアンドロゲン受容体シグナル伝達の再活性化に媒介される可能性がある[Yamaoka et al., 2010; Sharp et al., 2019; Armstrong and Lao, 2018; Cao et al., 2016; Vlachostergios et al., 2017; Wadosky and Koochekpour, 2017]。複数のホルモン薬及び非ホルモン薬が利用できるにもかかわらず、mCRPC診断後の生存期間は依然として限定されている。さらに、この環境にはバイオマーカーに基づく標的アプローチが最近現れたばかりである[Mateo et al., 2015]。
【0004】
酢酸アビラテロンは、アビラテロンのプロドラッグである。それは、アンドロゲン生合成に重大な意味を持つ酵素であるチトクロムP-450c17を標的にする。活性なD4A代謝物は、複数のステロイド産生酵素を阻害し、アンドロゲン受容体と拮抗する[Li, et al., 2015]。大規模ランダム化試験は、ドセタキセル療法の前[de Bono et al., 2011; Fizazi et al., 2012]又は後[Ryan et al., 2013]のmCRPCに対するアビラテロンによる全生存利益を実証した。それは、第3相試験が進行中ではあるが、限局性PCa用のネオアジュバント環境に有効な可能性もある[Taplin et al., 2014]。最後に、2つの最近の研究は、去勢抵抗性前立腺癌の第2選択療法としてのその使用時とは対照的に、転移性去勢感受性前立腺癌(mCSPC)におけるアビラテロンの早期使用の延命効果を実証した[Taplin et al., 2014; Fizazi et al., 2017]。従って、標準治療は、最近アンドロゲン遮断療法と組み合わせたアビラテロンの第1選択使用を含めるように変更された。
【0005】
アビラテロンは、mCSPCにもmCRPCにも明らかに有効であるが、それでも患者は必然的に抵抗性を生じることになる。さらに、アビラテロン後の引き続くホルモン措置の有効性は限定されることが多い[de Bono and Spears, 2017]。従って、アビラテロン抵抗性PCaは、未だに主要な臨床課題である。アビラテロンが第1選択環境でますます使用されるにつれて、増大する患者集団は最終的に、さらなるホルモン処置に抵抗性である二次疾患進行を経験することになる[Fizazi et al., 2017]。現時点では、試験においてドセタキセル、カバジタキセル、及びラジウム223のみが対照薬療法に対して数カ月ほどであるが、生存利益を示し[Chi et al., 2017; Tannock et al., 2004; Petrylak et al., 2004; de Bono t al., 2010];全試験の全生存期間の中央値は2年未満に限定された。利益は、アビラテロン及びアンドロゲン受容体拮抗薬、例えばエンザルタミドを利用したことがある現代の患者集団ではさらにいっそう限定される可能性がある。明らかに、PCaのための新規かつより良い治療選択肢が緊急に必要とされている。
【0006】
ポロ様キナーゼ1
ポロ様キナーゼ1(PLK1)は、セリン/スレオニンタンパク質キナーゼファミリーの5メンバーの最も良く特徴づけられたメンバーであり、有糸分裂による細胞の進行を強力に促進する。PLK1は、細胞周期の分裂(M)期全体を通して、セントロソーム成熟及び紡錘体形成の制御、染色体腕からのコヒーシンの除去、後期促進複合体/サイクロソームインヒビターの不活化、並びに有糸分裂停止及び細胞質分裂の制御を含めたいくつかの重要な機能を果たす[Parker et al., 2013]。有糸分裂の種々の段階中にPLK1はセントロソーム、キネトコア及び中心紡錘体を限局化する。
【0007】
PLK1は、正常な増殖性組織に広範に発現され、種々多様のヒト腫瘍(肺癌、結腸癌、前立腺癌、卵巣癌、乳癌、頭頚部扁平上皮癌[Wolf et al., 1997; Weichert et al., 2004(a), 2004(b), 2005(a), 2005(b); Knect et al., 1999]、及び血液悪性腫瘍[Renner et al., 2009; Mito et al., 2005; Ikezoe et al., 2009]を含めて)において過剰発現される。さらに、いくつかの研究により、この過剰発現は予後不良と相関関係があることが分かった。例えば、頭頚部扁平上皮癌では、PLK1を過剰発現する腫瘍を有する患者において中発現レベル対高発現レベルの患者の5年生存率は、43%から12%へ低下する[Knect et al., 1999]。
さらに、PLK1は、ニューロンのような、代わりにPLK2及びPLK3の発現が検出される、分化した分裂終了細胞には発現されない[Kauselmann et al., 1999]。従って、PLK1選択的阻害薬は非増殖性組織(例えばニューロン)に存在するチューブリンには作用しないので、PLK1選択的阻害薬は、神経障害等の重大な副作用を引き起こすタキサン又はビンカアルカロイドのような古典的有糸分裂阻害薬に比べて有利であり得る[Jackson et al., 2007]。これらの特性は、PLK1を癌治療にとって非常に魅力的な新しい標的にする[Strebhardt and Ullrich, 2006]。
【0008】
オンバンセルチブ(Onvansertib)
【化1】
【0009】
オンバンセルチブ(PCM-075、NMS-1286937、NMS-937、米国特許8,927,530の「式(I)の化合物」としても知られる;IUPAC名1-(2-ヒドロキシエチル)-8-{[5-(4-メチルピペラジン-1-イル)-2-(トリフルオロメトキシ)フェニル]アミノ}-4,5-ジヒドロ-1H-ピラゾロ[4,3-h]キナゾリン-3-カルボキサミド)は、様々な前臨床モデルにおいて証明された抗腫瘍活性で臨床試験に参加するために経口投与された最初のPLK1特異的アデノシン三リン酸競合的阻害薬である[Weiss et al., 2017]。この化合物は、固形腫瘍のみならず血液腫瘍からの多数の細胞株への低ナノモル活性を有する増殖アッセイにおいて高い効力を示す。オンバンセルチブは、癌細胞株において有糸分裂細胞周期停止後に強力にアポトーシスを引き起こし、経口投与後のマウスにおいて良好な耐容性用量で明白なPLK1関連作用機序によって異種移植腫瘍増殖を抑制する。オンバンセルチブは、げっ歯動物種及び非げっ歯動物種において好ましい薬理学的パラメーター及び良い経口バイオアベイラビリティーを有するのみならず、種々の投与レジメンの様々な非臨床モデルにおいて証明された抗腫瘍活性を有し、投与計画の高度なフレキシビリティーを可能にし、臨床環境における治験を保証する可能性がある
【0010】
様々な動物種に見られる主な代謝経路は、N酸化物M2を与えるためのNメチル-ピペラジン環のN酸化及び代謝物M1を与えるためのピラゾロキナゾリン部分のメチレン架橋の脂肪族炭素原子上のヒドロキシル化である。定性的には、オンバンセルチブの代謝に種間の顕著な差異は観察されず、定量的には、種間でいくらかの差異が観察された。
オンバンセルチブは、シスプラチン、シタラビン、ドキソルビシン、ゲムシタビン及びパクリタキセルを含めた10を超える異なる化学療法薬のみならず、アビラテロン、HDAC阻害薬、FLT3阻害薬、及びボルテゾミブ等の標的療法と組み合わせて前臨床により評価された。これらの治療薬は、急性骨髄性白血病、非ホジキンリンパ腫、転移性去勢抵抗性前立腺癌、副腎皮質癌、トリプルネガティブ乳癌、小細胞肺癌、及び卵巣癌を含めた多くの血液学的及び固形癌の治療のため臨床的に使用される。
【0011】
オンバンセルチブによる第1相安全性研究は、米国において単一研究部位に進行性/転移性固形腫瘍がある成人患者で行なわれた[Weiss et al., 2017]。主目的は、3週間毎に(すなわち、21日の治療周期)連続して5日間経口投与されるオンバンセルチブの第1周期の用量制限毒性(DLT)及び最大耐量(MTD)を決定することだった。第2の目的は、オンバンセルチブの安全性プロファイルを決定し、血漿中のオンバンセルチブの薬物動態(PK)を(MTDで)決定し、いずれの抗腫瘍活性をも記録することだった。
総数21名の患者が登録され、19名の患者が治療された。最初の3用量レベル(6、12、及び24mg/m2/日)ではDLTが生じなかった。引き続く用量レベル(48mg/m2/日)では、3名の患者のうち2名にDLTが生じた。そこで、36mg/m2/日という中間レベルが調査された。4名の患者が治療され、2名の患者のDLTが観察された。さらにコホートが拡大された後、MTDが24mg/m2/日であると決定された。
最も良く観察された治療応答は、16名の評価可能患者のうちの5名に起こった疾患の安定化だった。16名の評価可能患者のうちの1名の患者は、前立腺癌を患っており、疾患が進行していた。この研究は、オンバンセルチブの予想される作用機序及び前臨床研究の結果と一致する主毒性として血小板減少及び好中球減少を明らかにした。これらの血液学的毒性は可逆的であり、通常は3週間以内に回復した。
【0012】
前立腺癌、特にmCRPCを有する患者にとって緊急のアンメットメディカルニーズがある。PLK1は、去勢後の前立腺癌において最も多く上方制御される経路の1つである[Li et al., 2015]。染色体10上で削除されたホスファターゼ・テンシン・ホモログ(phosphatase and tensin homolog)(PTEN)腫瘍サプレッサーの欠失は、進行性前立腺癌の大半のドライバーであるが、有糸分裂のストレスをもたらす。PTENの不活化は、PLK1の過剰発現と相関関係があり、PTEN欠失細胞が有糸分裂のストレスに適応するのに重大な意味を持つ[Liu et al., 2011]。機構は、E3ユビキチンリガーゼ後期促進複合体/サイクロソームAPC-Cdh1への核内PTENの制御作用の結果である可能性があり、PLK1をユビキチン化及び分解する[Song et al., 2011]。PLK1は、マウス異種移植モデルにPTEN欠失前立腺癌細胞の腫瘍原性コンピテンスを与え、PLK1キナーゼ阻害薬又はsiRNAによる阻害はPTEN欠失細胞の腫瘍増殖を優先的に抑制する[Liu et al., 2011]。in-vitro及びin-vivoでの両研究の前臨床証拠は、PLK1阻害がPCaにおけるアビラテロンの有効性を増強し得ることを示している[Zhang et al., 2014; Zhang et al., 2015]。PLK1阻害に加えてアビラテロンの観察された相乗作用については複数の機構が提案されている。Liu及び共同研究者らは、前立腺癌細胞においてPLK1依存様式で酸化ストレスがPI3K-AKT-mTOR経路及びアンドロゲン受容体(AR)のシグナル伝達を活性化することを観察した。さらに、Plk1阻害は、アンドロゲン生合成に関与する酵素のSREBP依存性発現を下方制御した。最後に、PLK1阻害は、アビラテロンのへの細胞応答を増強し、培養PCa細胞のアビラテロン抵抗性及び患者由来の腫瘍異種移植を克服した[Zhang et al., 2014; Zhang et al., 2015]。
【発明の概要】
【0013】
発明の概要
前立腺癌患者が上昇性前立腺特異抗原(PSA)レベルを有する場合に、ポロ様キナーゼ1(PLK1)阻害薬による患者の治療を推奨することを含む方法を提供する。
異なる時に前立腺癌患者から得られた少なくとも2つのサンプルの前立腺特異抗原(PSA)レベルを測定すること;及び
サンプルのPSAレベルが経時的に上昇する場合はPLK1阻害薬による患者の治療を推奨すること、又は
サンプルのPSAレベルが経時的に上昇しない場合はPLK1阻害薬による患者の治療を推奨しないこと
を含む方法をも提供する。
さらに、AR-V7アンドロゲン受容体を有する前立腺癌を有する患者にPLK1阻害薬の治療を推奨することを含む方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】アビラテロン、プレドニゾン及びオンバンセルチブで治療している4名の前立腺癌患者の前立腺特異抗原(PSA)レベルを示すグラフである。
【
図2】オンバンセルチブ治療周期中のオンバンセルチブの予測濃度を示すグラフである。
【
図3】複数のオンバンセルチブ治療周期中の好中球絶対数を示すグラフである。
【
図4】A群投与計画下でのオンバンセルチブによる前立腺癌患者03-013の治療前及び治療中のPSAレベルを示すグラフである。
【
図5】B群投与計画を受けた3名の前立腺癌患者のPLAレベルの変化を示すグラフである。
【
図6A】B群投与計画下でのオンバンセルチブによる前立腺癌患者01-024の治療前、及び治療中のPSAレベルを示すグラフである。
【
図6B】B群投与計画下でのオンバンセルチブによる前立腺癌患者01-024の治療前、及び治療中のPSAレベルを示すグラフである。
【
図7】A群及びB群の複数の試験患者のアウトカムを示すグラフである。
【
図8】数名の試験患者におけるベースラインから12週間での循環腫瘍細胞(CTC)の変化率を示すグラフである。
【
図9】試験患者におけるPSAレベルの変化率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
発明の詳細な説明
本発明は、PLK1阻害薬、特にオンバンセルチブが、特に抗アンドロゲン又はアンドロゲン拮抗薬で治療している(下記実施例参照)患者及び活性化にリガンドを必要としない変性アンドロゲン受容体を有する癌を有する患者の前立腺特異抗原(PSA)レベルを安定化できるという発見に基づいている。
従って、前立腺癌患者が上昇性前立腺特異抗原(PSA)レベルを有する場合にポロ様キナーゼ1(PLK1)阻害薬による患者の治療を推奨することを含む方法を提供する。いくつかの実施形態では、患者は、PLK1阻害薬で治療もされる。
異なる時に前立腺癌患者から得られた少なくとも2つのサンプルの前立腺特異抗原(PSA)レベルを測定すること;及び
サンプルのPSAレベルが経時的に上昇する場合はPLK1阻害薬による患者の治療を推奨すること、又はサンプルのPSAレベルが経時的に上昇しない場合はPLK1阻害薬による患者の治療を推奨しないことを含む方法をも提供する。これらの方法の一部の実施形態は、サンプルのPSAレベルが経時的に上昇する場合はPLK1阻害薬で治療し、サンプルのPSAレベルが経時的に上昇しない場合はPLK1阻害薬で治療しないことをさらに含む。これらの実施形態の一部では、患者はPLK1阻害薬で治療される。
さらに、活性化にリガンドを必要としない変性アンドロゲン受容体を有する前立腺癌を有する患者にPLK1阻害薬の治療を推奨することを含む方法を提供する。これらの実施形態の一部では、患者はPLK1阻害薬で治療される。
アンドロゲン拮抗薬で治療され、かつ上昇性PSAレベルを有する前立腺癌患者にPLK1阻害薬による治療を推奨することを含む方法をさらに提供する。これらの実施形態の一部では、PLK1阻害薬と組み合わせたアビラテロンによる治療が推奨される。他の実施形態では、アンドロゲン拮抗薬による治療が中止され、患者はPLK1阻害薬による治療、及び、場合によってはアビラテロンによる治療を開始する。
【0016】
これらの発明方法では、いずれの適切な様式でも上昇性PSAレベルを測定することができる。PSAは、現時点では一般的に血中で測定されるが、本発明は、如何なる個別患者の組織又は体液中の上昇性PSAレベルにも限定されない。例えば、Seratec 2011を参照されたい。PSA試験は、前立腺癌と診断するため又は限定するものではないが、生検及び組織学的検査、PET/CT、PCA3 mRNA、循環腫瘍細胞の定量を含めた前立腺癌の特徴を評価するために用いられる他の試験、或いは現在既知であるか又は後に発見される他のいずれの試験でも補足可能である。例えば、Szeliski et al., 2018を参照されたい。
上昇性PSAレベルは、時間的に離れた2つ以上の患者サンプルからの早期の患者サンプルから後期の患者サンプルへのPSAレベルの上昇があるかどうかを評価することによって決定することができる。
いくつかの実施形態では、上昇性PSAレベルは、1カ月以下、例えば、1日、3日、5日、1週間、2週間、3週間、4週間、又は中間の任意の時間間隔の長さの時間離れた2つの上昇性PSA値によって決定される。
種々の実施形態では、PSAレベル上昇の2つ以上のサンプルからの評価は、上昇性PSAレベルが低下を示さない少なくとも1つの確認的PSA定量をも含む。
PSAレベルが上昇しているということを確立するために必要である少なくとも2つの時間的に離れたサンプル間のPSAレベルの上昇量は、いずれの適切な量、例えば、0.1ng/mL、0.2ng/mL、0.3ng/mL、0.5ng/mL、1.0ng/mL、3ng/mL、5ng/mL、10ng/ml、又は中間の任意の値でもあり得る。
ある特定の実施形態では、上昇性PSAレベルは、少なくとも1週間離れた2つの上昇性PSA値であり、1つは少なくとも0.3ng/mLの上昇を示し、1つは低下を示さない確認値である。
【0017】
任意の患者のPLK1阻害薬治療の有効性は、いずれの適切な方法によっても、例えば、上記いずれの前立腺癌試験によっても判定可能である。いくつかの実施形態では、PLK1治療をしなければ上昇すると予想されるPSAレベルの安定化を利用してPLK1治療の有効性を判定することができる。それらの実施形態の一部では、有効なPLK1阻害薬治療は、PSAレベルを、PLK1阻害薬治療の開始時のPSAレベル超50%未満、若しくは40%未満、若しくは30%未満、若しくは25%未満、若しくは20%未満、若しくは15%未満若しくは10%未満若しくは5%未満若しくは0%未満、若しくは-10%未満、若しくは-50%未満、又は任意のより低いか若しくは中間の百分率に維持する。
いくつかの実施形態では、プレドニゾンの有無にかかわらず、抗アンドロゲン薬又はアンドロゲン拮抗薬で治療されながら、患者は上昇性PSAレベルを有する。これらの実施形態は、いずれの特定の抗アンドロゲン薬又はアンドロゲン拮抗薬にも限定されない。これらの実施形態の一部では、抗アンドロゲン薬又はアンドロゲン拮抗薬がアビラテロン、TOK-001、ARN 509、エンザルタミド、アパルチビド(apalutibide)、ダロルタミド、又はその任意の組み合わせである。
【0018】
PLK1阻害薬治療は、単独で実現することができ、或いはいずれの他の治療と組み合わせて実現することもできる。この他の治療は、PLK1阻害薬治療の前、又は後又はと共に施される。抗アンドロゲン薬、アンドロゲン拮抗薬、及び/又はプレドニゾン治療に加えて、又はその代わりに、患者は、例えばいずれの他の化学療法薬、放射線等によっても治療を受けることができる。
発明方法は、現在既知又は後に発見されるいずれのPLK1阻害薬の使用をも包含する。いくつかの実施形態では、PLK1阻害薬は、他のキナーゼに比べてPLK1に対してかなりの特異性を有する。これらの実施形態の一部では、PLK1阻害薬は、他のポロ様キナーゼ、例えば、PLK2及びPLK3に比べてPLK1に対してかなりの特異性を有する。
いくつかの実施形態では、PLK1阻害薬は、ジヒドロプテリジノン、ピリドピリミジン、アミノピリミジン、置換チアゾリジノン、プテリジン誘導体、ジヒドロイミダゾ[1,5-f]プテリジン、メタ置換チアゾリジノン、ベンジルスチリルスルホン類似体、スチルベン誘導体、又はその任意の組み合わせである。これらの実施形態の一部では、PLK1阻害薬は、オンバンセルチブ、BI2536、ボラセルチブ(BI 6727)、GSK461364、AZD1775、CYC140、HMN-176、HMN-214、リゴサチブ(ON-01910)、MLN0905、TKM-080301、TAK-960又はRo3280である。
特定実施形態では、PLK1阻害薬はオンバンセルチブである。これらの実施形態では、オンバンセルチブは、患者に任意の適切な薬用量で、例えば、12mg/m2未満、24mg/m2以下又は24mg/m2超の薬用量で投与される。
【0019】
これらの方法は、いずれのPLK1阻害薬投与計画をも包含する。これらの実施形態の一部では、PLK1阻害薬は、患者に毎日投与される。本明細書で提供する方法の範囲内の投与計画の他の非限定例としては、下記投与計画がある:PLK1阻害薬が、PLK1阻害薬が投与されない投与周期の間が9日以下、7日以下又は5日以下である複数の投与周期で患者に投与される(実施例2及び
図2に示す論考参照、オンバンセルチブによる治療後9日超で、認識できる量のオンバンセルチブが存在しないことを示している);PLK1阻害薬が、1~10日の毎日投与と5~16日の非投与の複数の周期で投与される;PLK1阻害薬が、3~7日の毎日投与と10~16日の非投与の複数の周期で投与される;PLK1阻害薬が、4~6日の毎日投与と10~16日の非投与の複数の周期で投与される;PLK1阻害薬が、5日の毎日投与と10~16日の非投与の複数の周期で投与される;PLK1阻害薬が、3~7日の毎日投与と3~10日の非投与の複数の周期で投与される;PLK1阻害薬が、4~6日の毎日投与と4~9日の非投与の複数の周期で投与される;PLK1阻害薬が、5日の毎日投与と5~9日の非投与の複数の周期で投与される;PLK1阻害薬が、2~5日の毎日投与と5~9日の非投与の複数の周期で投与される;PLK1阻害薬が、2~3日の毎日投与と5~7日の非投与の複数の周期で投与される;PLK1阻害薬が、2日の毎日投与と5~6日の非投与の複数の周期で投与される;PLK1阻害薬が、1~2日の毎日投与と3~8日の非投与の複数の周期で投与される;又はPLK1阻害薬が、1日の毎日投与と5~7日の非投与の複数の周期で投与される。
【0020】
発明方法は、いずれの型の前立腺癌患者にも有用である。いくつかの実施形態では、前立腺癌は、去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)又は去勢感受性前立腺癌(CSPC)である。これらの実施形態の一部ではCRPC又はCSPCは転移性であり;他の実施形態ではCRPC又はCSPCは非転移性である。
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、前立腺癌を評価してアンドロゲン受容体変異体を同定することをも含む。これらの実施形態の一部では、前立腺癌は、生検組織を評価することによって評価される。他の実施形態では、前立腺癌は、循環腫瘍細胞(CTC)を評価することによって評価される。さらなる実施形態では、例えば、患者の血漿中のセルフリー核酸又はタンパク質が評価されてアンドロゲン受容体変異体を同定する。
【0021】
前立腺癌は、前立腺癌を引き起こすことが現在知られているか又は後に発見されるいずれの突然変異によっても引き起こされる可能性がある。いくつかの実施形態では、CRPCは、持続的副腎アンドロゲン産生、腫瘍内テストステロン産生の上方制御、アンドロゲン受容体の生物学的特性の変化、及びステロイド産生並行経路を介したアンドロゲン受容体シグナル伝達の再活性化を特徴とする。これらの実施形態の一部では、CRPCは、変性アンドロゲン受容体、例えば、AR-V1、AR-V3、AR-V7、AR-V9、AR-V12、AR8、AR23、AR45、又はART878Aを特徴とする[Cao et al., 2016]。これらの実施形態の一部では、変性アドレナリン受容体は、活性化に必要とされない。該変性アドレナリン受容体の具体例は、AR-V7又はAR-V12である。さらなる実施形態では、CRPCは、野生型アンドロゲン受容体の増幅を特徴とする。
下記実施例では好ましい実施形態について述べる。本出願の特許請求の範囲内の他の実施形態は、本明細書で開示する本発明の明細事項又は実施の考察から当業者には明らかであろう。明細事項は、実施例と共に、単なる例示とみなすべきであり、本発明の範囲及び精神は、実施例に続く特許請求の範囲によって表されるものとする。
【実施例】
【0022】
実施例1. オンバンセルチブによるヒトチトクロムP450の阻害
ヒトの肝薬物代謝の原因となる主ヒトチトクロムP450(CYP)イソ型(CYP1A2、CYP2C8、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、及びCYP3A4)に向けたオンバンセルチブの潜在的阻害能力をヒト肝ミクロソームを用いて調べた。結果を下表1に示す。オンバンセルチブは、CYP2C8、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、及びCYP3A4イソ型の代謝活性を様々な程度まで抑制することができ、IC50値の範囲は20μM~66μMだった。CYP1A2に対しては有意な阻害効果は見られなかった。マウスにおいてこの化合物の有意な抗腫瘍活性を得るために妥当な濃度は1μMほどであることを考慮すると、オンバンセルチブが臨床的に妥当な、薬物と代謝物の薬物間相互作用(metabolic drug-drug interaction)を示す可能性は低いと考えられる。
【0023】
【0024】
実施例2. 臨床試験
IND数105112を有する第2相研究を2018年に開始して、転移性去勢抵抗性前立腺癌(mCRPC)患者におけるアビラテロン及びプレドニゾンと併用したオンバンセルチブの効果を評価した。ヒトチトクロムP450sのオンバンセルチブによる阻害をも評価した。
この進行中の研究の目標は、mCRPC患者における標準治療アビラテロン及びプレドニゾンと併用したオンバンセルチブによる治療を調査することである。オンバンセルチブの開始用量は、前の第1相試験(Study PLKA-937-001)の結果に基づいて24mg/m2だった。
【0025】
オンバンセルチブによるPSAレベルの安定化
この進行中の研究(IND No. 105112)の目標は、mCRPC患者における標準治療アビラテロン及びプレドニゾンと併用したオンバンセルチブによる治療を調査することである。オンバンセルチブの開始用量は、前の第1相試験(Study PLKA-937-001)の結果に基づいて24mg/m
2だった。
患者の治療を3群に分ける(全ての群が毎日のアビラテロンを含む):
-A群:3週間投与周期の1日目~5日目にオンバンセルチブ24mg/m
2
-B群:2週間投与周期の1日目~5日目にオンバンセルチブ18mg/m
2
-C群:3週間投与周期の1日目~14日目にオンバンセルチブ12mg/m
2
B群及びC群(オンバンセルチブ治療間の日数が短縮されている)の追加の理論的根拠は、A群に既に登録された患者のPSA値の観察された時間変化に基づいている。詳細には、1回を超える周期を受けた多くの患者において、PSAの変化は、投与計画と相関するように見える。
図1に示すように、1日目~5日目のオンバンセルチブ投与後に、PSA値は、ベースラインに対して8日目に下がるが、その後8日目と次の周期の開始との間に上昇する。特に、患者02-002、03-009及び03-013については、このパターンが周期1でも周期2でも観察される。これは、21日周期では、16日間のオフは、腫瘍が回復し、増殖し続けられるようになる(観察されたPSAレベル上昇のとおり)ことを示している可能性がある。
【0026】
前の第1相試験(24mg/m
2用量で)からの薬物動態データは、160時間(約7日)で、オンバンセルチブの量は、オンバンセルチブのIC
50値の10倍未満であり、患者は、21日周期の1日目~7日目の間だけ治療レベルのオンバンセルチブを受けていることを示唆している。これは、上記患者について観察されたPSA値の下向き変化と一致する。290時間(約12日)で、薬物濃度は0.1ng/ml未満であり、オンバンセルチブのアッセイにとって定量限界(BLQ)である。周期長が14日であると仮定すると、これは、3日間で、認識できる量のオンバンセルチブは存在しないことを示唆している(
図2)。
このことをさらに評価するため、現在の試験のA群内の患者について好中球レベルを評価した。
図3に7名の患者について好中球絶対数(ANC)をプロットする。グレード2の閾値としてANC 1.5を示している(CTCAEバージョン4.03)。2名の患者は、治療の最初の周期後に≧グレード2の好中球減少症を経験した(02-002及び02-005)。注目すべきことに、患者02-002は、前のドセタキセル治療による好中球減少症という病歴を有し、患者02-005は、ベースラインで1.54のANC(グレード1の好中球減少症)を有した。
【0027】
図4に示すように、患者03-01に関するA治療群のさらなる周期のデータは、オンバンセルチブ投与前のオンバンセルチブ治療の周期1の1日目(C1D1)におけるベースラインPSAレベル超25%(点線)未満へのPSAレベルの安定化を第5周期になるまで示している。詳細には、オンバンセルチブ治療前のアビラテロン/プレドニゾン治療中に60日でPSAレベルは2倍になったが、オンバンセルチブを追加した(84日)後は8.4%上昇しただけであり、疾患の安定化を実証している。研究終了時のCTスキャンは、約30%の腫瘍縮小を示した。腫瘍は、C1D1にAR-V7アンドロゲン受容体変異体を有すると推定された。これは抗アドレナリン療法に抵抗性を示す侵襲性腫瘍と見なされる。
患者03-013による結果の重要性は、ザイティガ(アビラテロン)とプレドニゾンのみに対してPSAレベルが急速に上昇したときでさえ、PSAレベルを維持するオンバンセルチブの能力によって強調されている。PSAレベル維持の臨床的意義は、特に抗アンドロゲン療法に抵抗性を示すことが知られているAR-V7アンドロゲン受容体変異体を有する腫瘍タイプが存在する場合に腫瘍縮小によって確証される。さらに、患者03-013はA群だったので、各周期の終了時に少なくとも2日間、治療レベルのオンバンセルチブが無かった。従って、周期終了時にこの2日間の非治療レベルが除かれているB群及びC群のレジメンは、さらにいっそう有効であると予想される。
【0028】
循環腫瘍細胞(CTCs)及び循環腫瘍DNA(ctDNA)において応答する可能性のあるバイオマーカーの評価
腫瘍細胞における恒常的に活性なアンドロゲン受容体スプライス変異体7(AR-V7)の存在は、新規アンドロゲン受容体シグナル伝達阻害薬(ARSi)又は他の療法に対する初期耐性又は獲得耐性を与えるかどうか、及びそれを診療の治療選択ツールとして使用できるかどうかについていくつかの研究により調査された。発表データは、一貫して、ARSiの利益は主にAR-V7陰性CRPC患者に生じ、一方でほとんどのAR-V7陽性CRPC患者は、アビラテロンによく応答しないか又は耐久性であることを実証している。我々は、AR-V7状態を評価するためのオンバンセルチブ+アビラテロンというこの試験の患者から、AR-V7、及びctDNA(Guardant)の存在について循環腫瘍細胞(CTC)を評価してゲノム変化を判定した。
結果を下表2に示す。現在までに、4周期(12週間)の治療を完了した6名の患者のうちの2名はAR-V7陽性であり、オンバンセルチブがアビラテロンに追加されるとPSA応答を示し、C1D1からC5D1までにCTC数の最小増加を有したことも確認されている。
【0029】
【0030】
実施例3. 追加の臨床試験結果
実施例2に記載の臨床試験からの追加の結果をここに添付する。
PSAレベルに基づいた初期疾患安定化又は軽減は、B群の3名の被験者で達成された(
図5)。さらに、5以上の治療周期後の疾患安定化が2名の患者で達成された。それらのうちの1名の患者03-013(
図4)はA群であり、他の安定化患者01-024(
図6A)はB群だった。
現在(2019年8月)までに、全てのAR-V7陽性被験者(n=4)で初期PSA安定化又は低下が観察された。これらの患者のうちの2名(03-013(
図4)、01-024(
図6A))は、初期有効性エンドポイントを満たし、1名の患者01-025(
図6B)は、まだ評価段階にある。
【0031】
実施例4. さらなる臨床試験結果
この出願時点では、63%(19名のうちの12名)の患者が、オンバンセルチブ+アビラテロンによる12週間の治療後に、PSA値(初期エンドポイント)及びX線スキャンに基づいて、部分応答(PR)又は病状安定(stable disease)(SD)を達成した。
図7に示すように、A群(n=14)においては、57%(14名のうち8名)の患者が12週間でSD又はPRを有し、5名の患者は有効性エンドポイント(PSA安定化)を達成し、4名の患者は治療を続けており;A群の患者の21%(14名のうち3名)は、無進行生存を有するか又は有した。2名の患者は1年より長く治療を続けている。
B群(n=5)においては、80%(5名のうち4名)の患者が12週間でSDを有し、3名の患者は有効性エンドポイント(PSA安定化)を達成し、3名の患者は治療を続けており;B群の患者の60%(5名のうち3名)は7カ月超の無進行生存を有するか又は有した。
【0032】
好ましいか又は好ましくない(<5対≧CTC/7.5mlの血液)として報告した循環腫瘍細胞(CTC)評価を
図8に示す。ベースラインでは、25名(78%)の患者が19 CTC/7.5mlという中央値で好ましくないCTC数を有した。12週間の治療後に10名の好ましくない患者を再分析した。2名のAR-V7陽性患者(01-024及び01-025)を含めた5名(50%)の患者は、≧80%のCTC低減を有し;4名(40%)の患者は、好ましくないCTCレベルから好ましいCTCレベル(<5 CTC/7.5ml)に変化し;3名(30%)の患者は検出不能CTCを有した。
CTCが低減した患者(n=5)の治療している中位期間は、今まで7カ月であり、4名の患者は治療を続けている。逆に、CTCが増加した患者(n=5)の治療している中位期間は5カ月であり、それらの患者は誰も治療を続けていない。
図9は、全ての患者についてPSAレベルの変化を示す。25名のうち18名(72%)の患者は、1周期の治療後にオンバンセルチブの追加でPSAレベルが低下した。少なくとも1周期の治療を完了した全てのAR-V7陽性患者(n=5)では、初期PSA安定化又は低下が観察された。有効性評価のための3カ月の治療を完了した4名のAR-V7陽性患者のうちの3名は、病状安定という初期エンドポイントを達成した。
実施例2~4は、ARシグナル伝達阻害薬(ARSi)療法に抵抗性を示す患者を含め、AR-V7陽性アンドロゲン受容体を有する患者を含めた予後不良の患者のためにオンバンセルチブとアビラテロンの併用が新しい治療選択肢を提供することを証明している。
【0033】
【0034】
上記を考慮すれば、本発明のいくつかの目的が達成され、他の利点が得られることが分かるであろう。
上記方法及び組成物には、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変更を加えるこができるので、上記説明に含まれ、添付図面に示される全ての事項は、例示として解釈すべきであり、限定的意味に解釈すべきでないことを意図する。
限定するものではないが、特許公報及び非特許文献を含め、本明細書で引用した全ての参考文献は、参照によって本明細書に組み込まれる。本明細書中の参考文献の論考は、著者の主張を単に要約する意図であり、いずれの参考文献も先行技術を構成することを認めるものではない。
【0035】
本明細書で使用する場合、特定実施形態では、数値に先行するとき、用語「約(about又はapproximately)」は、その値の10%の範囲のプラス又はマイナスを表す。値の範囲を提供している場合、文脈上明白に他の意味に解釈すべき場合を除いて、当該範囲の上限と下限の間及び当該明示範囲内の任意の他の明示値又は介在値の間の、下限の単位の10分の1までの各介在値が本開示内に包含されることを理解すべきである。これらのより狭い範囲の上限及び下限を独立により狭い範囲に含められることも、明示範囲内のいずれもの具体的に除外された限界を条件として、本開示内に包含される。明示範囲が限界の一方又は両方を含む場合、当該含まれる限界のどちらか又は両方を除く範囲も本開示に含まれる。
【0036】
本明細書及び実施形態で使用する不定冠詞「a」及び「an」は、明白に反対の意味を示していない限り、「少なくとも1つ」を意味するものと理解すべきである。
本明細書及び実施形態で使用する表現「及び/又は」は、そのように等位接続された要素の「どちらか又は両方」を意味するものと理解すべきである。すなわち、ある場合には要素が結合的に存在し、他の場合には選言的に存在する。「及び/又は」を用いて列挙された複数の要素は、同じ様式で、すなわち、「1つ以上の」要素がそのように等位接続されていると解釈すべきである。場合によっては、「及び/又は」クローズによって具体的に特定された要素以外に、体的に特定した要素に関連するか関連しないかにかかわらず、他の要素が存在する可能性がある。従って、非限定例として、「A及び/又はB」への言及は、「comprising」等のオープンエンドランゲージと併用するとき、ある実施形態では、Aのみを指し(場合によってはB以外の要素を含めて);別の実施形態では、Bのみを指し(場合によってはA以外の要素を含めて);さらに別の実施形態では、AとBの両方を指す(場合によっては他の要素を含めて)等が可能である。
【0037】
本明細書及び実施形態で使用する場合、「又は」は、上記「及び/又は」と同じ意味を有するものと理解すべきである。例えば、リスト中の項目を分離しているとき、「又は」又は「及び/又は」は両立的(inclusive)であると解釈すべきであり、すなわちいくつかの又はリストの要素の少なくとも1つを含めるが、1つより多くをも含め、かつ、場合によっては、さらにリストされていない項目をも含める。「のみ」という用語は、明白にそれとは反対を意味し、例えば「の1つのみ」又は「の厳密に1つ」、又は実施形態で使用するときには、「から成る(consisting of)」は、いくつかの又はリストの要素の厳密に1つの要素を含めることを指すことになる。一般に、本明細書で使用する用語「又は」は、例えば「どちらか」、「の1つ」、「の1つのみ」、又は「の厳密に1つ」等の排他的用語が先行するときには、排他的選択肢(すなわち「両方ではなく一方又は他方」)を表すとのみ解釈すべきである。「から本質的に成る」は、実施形態で使用するとき、特許法の分野で使用されるその一般的意味を有するものとする。
【0038】
本明細書及び実施形態で使用する場合、1つ以上の要素のリストに関して、表現「少なくとも1つ」は、要素のリスト中の任意の1つ以上の要素から選択される少なくとも1つの要素を意味するが、必ずしも要素のリスト内に具体的に列挙されたありとあらゆる要素の少なくとも1つを含まず、かつ要素のリスト中の要素の任意の組み合わせを排除しないことを意味すると理解すべきである。この定義は、場合によっては、表現「少なくとも1つ」が指す要素のリスト内に具体的に特定された要素以外に、具体的に特定された要素に関連するか関連しないかにかかわらず、要素が存在し得ることをも許容する。従って、非限定例として、「A及びBの少なくとも1つ」(又は、同等に「A又はBの少なくとも1つ」、又は、同等に「A及び/又はBの少なくとも1つ」)は、ある実施形態では、場合によっては複数のAを含めて少なくとも1つのAを指し、Bは存在せず(場合によってはB以外の要素を含めて);別の実施形態では、場合によっては複数のBを含めて少なくとも1つのBを指し、Aは存在せず(場合によってはA以外の要素を含めて);さらに別の実施形態では、場合によっては複数のAを含めて少なくとも1つのA、及び場合によっては複数のBを含めて少なくとも1つのAを指す(場合によって他の要素を含めて)等が可能である。
【国際調査報告】