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特表2022-527565CEA CD3二重特異性抗体及びWntシグナル伝達阻害剤を使用するがんの治療
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-02
(54)【発明の名称】CEA CD3二重特異性抗体及びWntシグナル伝達阻害剤を使用するがんの治療
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/46 20060101AFI20220526BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20220526BHJP
   C07K 16/30 20060101ALI20220526BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220526BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220526BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220526BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220526BHJP
   C12N 15/62 20060101ALN20220526BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20220526BHJP
【FI】
C07K16/46 ZNA
C07K16/28
C07K16/30
A61K39/395 T
A61K39/395 E
A61P35/00
A61P43/00 111
A61K45/00
A61K39/395 U
C12N15/62
C12N15/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021559412
(86)(22)【出願日】2020-04-09
(85)【翻訳文提出日】2021-12-02
(86)【国際出願番号】 EP2020060114
(87)【国際公開番号】W WO2020208124
(87)【国際公開日】2020-10-15
(31)【優先権主張番号】19168811.8
(32)【優先日】2019-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】306021192
【氏名又は名称】エフ・ホフマン-ラ・ロシュ・アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ガーリンガー, マルコ
(72)【発明者】
【氏名】ゴンザレス-エクスポジト, レイエス
(72)【発明者】
【氏名】セミアニコワ, マリア
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084NA14
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC202
4C084ZC412
4C084ZC751
4C084ZC752
4C085AA13
4C085AA14
4C085CC23
4C085EE03
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、がんの治療、特に、CEA CD3二重特異性抗体及びWntシグナル伝達阻害剤を使用するがんの治療に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体におけるがんの治療における使用のためのCEA CD3二重特異性抗体であって、治療がWntシグナル伝達阻害剤と組み合わせたCEA CD3二重特異性抗体の投与を含む、CEA CD3二重特異性抗体。
【請求項2】
個体におけるがんの治療のための医薬の製造におけるCEA CD3二重特異性抗体の使用であって、治療がWntシグナル伝達阻害剤と組み合わせたCEA CD3二重特異性抗体の投与を含む、使用。
【請求項3】
個体にCEA CD3二重特異性抗体及びWntシグナル伝達阻害剤を投与することを含む、個体におけるがんを治療するための方法。
【請求項4】
CEA CD3二重特異性抗体を含む第1の医薬と、Wntシグナル伝達阻害剤を含む第2の医薬とを含み、場合によっては、個体におけるがんを治療するための第1の医薬と第2の医薬を組み合わせた投与のための指示書を含む添付文書をさらに含む、キット。
【請求項5】
CEA CD3二重特異性抗体が、
(i)CD3に特異的に結合し、配列番号1の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号2のHCDR2、及び配列番号3のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号4の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号5のLCDR2、及び配列番号6のLCDR3を含む軽鎖可変領域とを含む、第1の抗原結合部分と、
(ii)(i)配列番号9の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号10のHCDR2、及び配列番号11のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号12の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号13のLCDR2、及び配列番号14のLCDR3を含む軽鎖可変領域とを含むか、又は(ii)配列番号17の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号18のHCDR2、及び配列番号19のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号20の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号21のLCDR2、及び配列番号22のLCDR3を含む軽鎖可変領域とを含む、第2の抗原結合部分と、
を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の、使用のためのCEA CD3二重特異性抗体、使用、方法、又はキット。
【請求項6】
CEA CD3二重特異性抗体が、CEAに特異的に結合する第3の抗原結合部分及び/又は第1のサブユニットと第2のサブユニットとから構成されるFcドメインを含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の、使用のためのCEA CD3二重特異性抗体、使用、方法、又はキット。
【請求項7】
CEA CD3二重特異性抗体が、
(i)CD3に特異的に結合し、配列番号1の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号2のHCDR2、及び配列番号3のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号4の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号5のLCDR2、及び配列番号6のLCDR3を含む軽鎖可変領域とを含む、第1の抗原結合部分であって、Fab軽鎖及びFab重鎖の可変領域又は定常領域のいずれかが交換されているクロスオーバーFab分子である、第1の抗原結合部分と、
(ii)(i)配列番号9の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号10のHCDR2、及び配列番号11のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号12の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号13のLCDR2、及び配列番号14のLCDR3を含む軽鎖可変領域とを含むか、又は(ii)配列番号17の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号18のHCDR2、及び配列番号19のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号20の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号21のLCDR2、及び配列番号22のLCDR3を含む軽鎖可変領域とを含む、第2及び第3の抗原結合部分であって、それぞれがFab分子、特に従来のFab分子である、第2及び第3の抗原結合部分と、
(iii)第1及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインと、
を含み、
第2の抗原結合部分はFab重鎖のC末端において第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合されており、第1の抗原結合部分はFab重鎖のC末端においてFcドメインの第1のサブユニットのN末端に融合されており、第3の抗原結合部分はFab重鎖のC末端においてFcドメインの第2のサブユニットのN末端に融合されている、
請求項1から6のいずれか一項に記載の、使用のためのCEA CD3二重特異性抗体、使用、方法、又はキット。
【請求項8】
CEA CD3二重特異性抗体の第1の抗原結合部分が、配列番号7のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%、又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%、又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含み、且つ/又はCEA CD3二重特異性抗体の第2及び(存在する場合)第3の抗原結合部分が、(i)配列番号15のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%、又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%、又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含むか、又は(ii)配列番号23のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%、又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号24のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%、又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の、使用のためのCEA CD3二重特異性抗体、使用、方法、又はキット。
【請求項9】
CEA CD3二重特異性抗体のFcドメインが、Fcドメインの第1のサブユニットと第2のサブユニットの会合を促進する修飾を含み、且つ/又はFcドメインが、Fc受容体への結合及び/又はエフェクター機能を低下させる一又は複数のアミノ酸置換を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の、使用のためのCEA CD3二重特異性抗体、使用、方法、又はキット。
【請求項10】
CEA CD3二重特異性抗体がシビサタマブである、請求項1から9のいずれか一項に記載の、使用のためのCEA CD3二重特異性抗体、使用、方法、又はキット。
【請求項11】
Wntシグナル伝達阻害剤が、Wnt/β-カテニンシグナル伝達阻害剤である、請求項1から10のいずれか一項に記載の、使用のためのCEA CD3二重特異性抗体、使用、方法、又はキット。
【請求項12】
Wntシグナル伝達阻害剤が、Frizzled(Fz)、Disheveled(DVL)、Porcupine、タンキラーゼ、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3β(GSK-3β)からなる群より選択される、Wntシグナル伝達経路、特にWnt/β-カテニン経路の構成要素を標的とする、請求項1から11のいずれか一項に記載の、使用のためのCEA CD3二重特異性抗体、使用、方法、又はキット。
【請求項13】
Wntシグナル伝達阻害剤がタンキラーゼ阻害剤である、請求項1から12のいずれか一項に記載の、使用のためのCEA CD3二重特異性抗体、使用、方法、又はキット。
【請求項14】
Wntシグナル伝達阻害剤が化合物21である、請求項1から13のいずれか一項に記載の、使用のためのCEA CD3二重特異性抗体、使用、方法、又はキット。
【請求項15】
治療が、PD-L1結合アンタゴニスト、特にアテゾリズマブの投与をさらに含む、請求項1から14のいずれか一項に記載の、使用のためのCEA CD3二重特異性抗体、使用、方法、又はキット。
【請求項16】
がんがCEA陽性がんである、請求項1から15のいずれか一項に記載の、使用のためのCEA CD3二重特異性抗体、使用、方法、又はキット。
【請求項17】
がんが、結腸直腸がん、肺がん、膵臓がん、乳がん、及び胃がん、特に結腸直腸がんからなる群より選択される、請求項1から16のいずれか一項に記載の、使用のためのCEA CD3二重特異性抗体、使用、方法、又はキット。
【請求項18】
上に記載するような発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がんの治療、特に、CEA CD3二重特異性抗体及びWntシグナル伝達阻害剤を使用するがんの治療に関する。
【背景技術】
【0002】
T細胞活性化二重特異性抗体は、腫瘍細胞に対して細胞傷害性T細胞を関与させるように設計された新しいクラスのがん治療薬である。このような抗体が、T細胞上のCD3と腫瘍細胞に発現する抗原に同時に結合すると、腫瘍細胞とT細胞との間に一時的な相互作用が生じ、T細胞の活性化とそれに続く腫瘍細胞の溶解が引き起こされる。
【0003】
T細胞二重特異性抗体シビサタマブ(RG7802、RO6958688、CEA-TCB)は、T細胞受容体の特異性とは無関係に細胞表面でCEA糖タンパク質を発現する腫瘍細胞にT細胞をリダイレクトする、腫瘍細胞上の癌胎児性抗原(CEA)とT細胞上のCD3とを標的とする新規のT細胞活性化二重特異性抗体である(Bacac et al.,Oncoimmunology.2016;5(8):1-30)。T細胞リダイレクト二重特異性抗体の主な利点は、それらが新生抗原の負荷とは無関係にT細胞によるがん細胞の認識を媒介することである。CEAは多くの結腸直腸がん(CRC)の細胞表面で過剰発現しているため、シビサタマブは非超変異マイクロサテライト安定性(MSS)CRCの有望な免疫療法剤である。
【0004】
シビサタマブは、T細胞上のCD3イプシロン鎖に対する単一の結合部位と、中程度から高いCEA細胞表面発現を伴うがん細胞への結合力を調整する2つのCEA結合部位とを有する(Bacac et al.,Clin Cancer Res.2016;22(13):3286-97)。これにより、一部の組織に生理学的に存在する、CEA発現レベルが低い健康な上皮細胞を標的とすることが回避される。がん細胞表面上のCEA及びT細胞上のCD3へのシビサタマブの結合は、T細胞の活性化、サイトカイン分泌、及び細胞傷害性顆粒の放出を引き起こす。少なくとも2つの以前の化学療法レジメンに失敗したCEA発現転移性CRCを有する患者におけるシビサタマブの第I相試験では、単剤療法で又はPD-L1阻害抗体と組み合わせて治療された患者のそれぞれ1%(4/36)及び50%(5/10)において放射線収縮を伴う抗腫瘍活性を示した(Argiles et al.,Ann Oncol.2017 Jun 1;28(suppl_3):mdx302.003-mdx302.003;Tabernero et al.,J Clin Oncol.2017 May 20;35(15_suppl):3002)。これらの結果に基づき、CEAは、MSS CRCにおける免疫療法に最も有望な標的抗原である。この用量漸増試験の一部の患者は、最終推奨用量よりも低い用量で治療されたが、それにもかかわらず、奏効率は、腫瘍のサブグループが治療に耐性があることを示している。
【0005】
よって、シビサタマブ及び他のCEA標的免疫療法剤、特にCEA CD3二重特異性抗体に対する奏効率及び/又はそれらの治療効果を高めることが望ましい。
【発明の概要】
【0006】
シビサタマブ活性の分子機構は、末梢血単核細胞を用いた殺傷アッセイを使用して、in vitroでCRC細胞株において調査されてきた(Bacac et al.,Clin Cancer Res.2016;22(13):3286-97)。中程度から高いCEAレベルを発現する細胞株のみがT細胞媒介性殺傷に感受性であったため、これはCEA発現をシビサタマブ感受性の主要な決定因子として同定した。
【0007】
患者由来の結腸直腸がんオルガノイド(PDO)を使用して、本発明の発明者は、がん細胞上のCEA発現がWntシグナル伝達阻害剤を用いた治療により増加される場合があり、よって、Wntシグナル伝達阻害剤と組み合わせることによって、シビサタマブなどのCEA CD3二重特異性抗体に対する奏効率及び/又はその治療効果が高められる場合があることを発見した。
【0008】
したがって、第1の態様では、本発明は、個体におけるがんの治療における使用のためのCEA CD3二重特異性抗体であって、治療がWntシグナル伝達阻害剤と組み合わせたCEA CD3二重特異性抗体の投与を含む、CEA CD3二重特異性抗体を提供する。
【0009】
さらなる態様では、本発明は、個体におけるがんの治療のための医薬の製造におけるCEA CD3二重特異性抗体の使用であって、治療がWntシグナル伝達阻害剤と組み合わせたCEA CD3二重特異性抗体の投与を含む、使用を提供する。
【0010】
またさらなる態様では、本発明は、個体にCEA CD3二重特異性抗体及びWntシグナル伝達阻害剤を投与することを含む、個体におけるがんを治療するための方法を提供する。
【0011】
一態様では、本発明は、CEA CD3二重特異性抗体を含む第1の医薬と、Wntシグナル伝達阻害剤を第2の医薬とを含み、場合によっては、個体におけるがんを治療するための第1の医薬と第2の医薬を組み合わせた投与のための指示書を含む添付文書をさらに含む、キットも提供する。
【0012】
上記又は本明細書に記載のCEA CD3二重特異性抗体、方法、使用、又はキットは、以下に記載する特徴のいずれかを、単独で又は組み合わせて組み込むことができる(文脈で別段の指示がない限り)。
【0013】
本明細書に記載のCEA CD3二重特異性抗体は、CD3とCEAとに特異的に結合する二重特異性抗体である。特に有用なCEA CD3二重特異性抗体は、例えば、PCT出願国際公開第2014/131712号及び同第2017/055389号に記載されている(それぞれは参照によりその全文が本明細書に援用される)。
【0014】
「二重特異性」との用語は、抗体が、少なくとも2つの別個の抗原決定基に特異的に結合することができることを意味する。典型的には、二重特異性抗体は、2つの抗原結合部位を含み、それぞれが異なる抗原決定基に対して特異的である。特定の実施態様では、二重特異性抗体は、2つの抗原決定基、特に、2つの別個の細胞で発現した2つの抗原決定基に同時に結合することができる。
【0015】
本明細書で使用される場合、「抗原決定基」という用語は、「抗原」及び「エピトープ」と同義であり、抗原結合部分-抗原複合体を形成する、抗原結合部分が結合するポリペプチド高分子上の部位(例えば、アミノ酸の連続伸長部又は異なる領域の非連続アミノ酸から構成される配座構成)を指す。有用な抗原決定基は、例えば、腫瘍細胞の表面上に、ウイルス感染した細胞の表面上に、他の疾患細胞の表面上に、免疫細胞の表面上に、血清中で遊離して、及び/又は細胞外マトリックス(ECM)中に認めることができる。
【0016】
本明細書で使用される場合、「抗原結合部分」という用語は、抗原決定基に特異的に結合するポリペプチド分子を指す。一態様では、抗原結合部分は、標的部位に、例えば、抗原決定基を有する特定の種類の腫瘍細胞に結合する部分(例えば、第2の抗原結合部分)に指向することができる。別の態様では、抗原結合部分は、その標的抗原、例えばT細胞受容体複合抗原を通してシグナル伝達を活性化することができる。抗原結合部分は、本明細書にさらに定義される抗体及びその断片を含む。特定の抗原結合部分は、抗体重鎖可変領域と抗体軽鎖可変領域とを含む、抗体の抗原結合ドメインを含む。特定の実施態様では、抗原結合部分は、本明細書でさらに定義され、当該技術分野で知られているような抗体定常領域を含んでいてもよい。有用な重鎖定常領域は、α、δ、ε、γ又はμの5つのアイソタイプのいずれかを含む。有用な軽鎖定常領域は、κ及びλの2つのアイソタイプのいずれかを含む。
【0017】
「特異的に結合する」とは、その結合が抗原選択性であり、望ましくない相互作用又は非特異的な相互作用とは判別することができることを意味する。抗原結合部分が特定の抗原決定基に結合する能力は、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)または当業者には知られている他の技術、例えば、表面プラズモン共鳴(SPR)技術(例えば、BIAcore機器で分析される)(Liljeblad et al.,Glyco J 17,323-329(2000))、および従来の結合アッセイ(Heeley,Endocr Res 28,217-229(2002))のいずれかによって測定することができる。一実施態様では、無関係なタンパク質に対する抗原結合部分の結合度は、例えばSPRによって測定される抗原に対する抗原結合部分の結合の約10%未満である。特定の実施態様では、抗原に結合する抗原結合部分、またはこの抗原結合部分を含む抗体は、≦1μM、≦100nM、≦10nM、≦1nM、≦0.1nM、≦0.01nM、または≦0.001nM(例えば、10-8M以下、例えば、10-8M~10-13M、例えば、10-9M~10-13M)の解離定数(K)を有する。
【0018】
「親和性」は、分子の単一の結合部位(例えば、受容体)と、その結合パートナー(例えば、リガンド)との間の非共有結合性相互作用の合計強度を指す。特に示されない限り、本明細書で使用される場合、「結合親和性」は、結合対(例えば、抗原結合部分と抗原、又は受容体とそのリガンド)のメンバー間の1:1相互作用を反映する固有の結合親和性を指す。分子Xの結合対Yに対する分子Xの親和性は概して、解離定数(K)によって表すことができ、解離速度定数と会合速度定数(それぞれkoffおよびkon)の比である。したがって、速度定数の比が同じままである限り、等価の親和性は、異なる速度定数を含み得る。親和性は、本明細書に記載するものを含め、当該技術分野で既知の十分に確立された方法によって測定することができる。親和性を測定するための特定の方法は、表面プラズモン共鳴(SPR)である。
【0019】
「CD3」は、別途明記しない限り、霊長類(例えばヒト)、非ヒト霊長類(例えばカニクイザル)及び齧歯類(例えば、マウス及びラット)などの哺乳動物を含む任意の脊椎動物源由来の任意の天然CD3を指す。この用語は、「完全長」の、未処理CD3、及び、細胞内での処理によりもたらされる任意の形態のCD3を包含する。この用語は、CD3の天然に存在する変異体、例えば、スプライス変異体又は対立遺伝子変異体も包含する。一態様では、CD3は、ヒトCD3、特にヒトCD3のイプシロンサブユニット(CD3ε)である。ヒトCD3εのアミノ酸配列は、UniProt(www.uniprot.org)受託番号P07766(バージョン144)、又はNCBI(www.ncbi.nlm.nih.gov/)RefSeq NP_000724.1に示されている。配列番号34も参照のこと。カニクイザル[Macaca fascicularis]CD3εのアミノ酸配列は、NCBI GenBank番号BAB71849.1に示されている。配列番号35も参照のこと。
【0020】
癌胎児性抗原関連細胞接着分子5(CEACAM5)としても知られている、「癌胎児性抗原」又は「CEA」という用語は、別途記載のない限り、霊長類(例えばヒト)、非ヒト霊長類(例えばカニクイザル)、並びに齧歯類(例えばマウス及びラット)などの哺乳動物を含む、任意の脊椎動物源由来の任意の天然CEAを指す。この用語は、「完全長」のプロセシングされていないCEA、及び細胞におけるプロセシングから生じるCEAの任意の形態を包含する。この用語は、CEAの天然に存在するバリアント、例えば、スプライスバリアント又は対立遺伝子バリアントも包含する。一態様では、CEAはヒトCEAである。ヒトCEAのアミノ酸配列は、UniProt(www.uniprot.org)受託番号P06731、又はNCBI(www.ncbi.nlm.nih.gov/)RefSeq NP_004354.2に示されている。一態様では、CEAは膜結合CEAである。一態様では、CEAは、細胞、例えばがん細胞の表面に発現したCEAである。
【0021】
本明細書で使用される場合、Fab分子などに関する「第1」、「第2」又は「第3」という用語は、各タイプの部分が2つ以上存在する場合の区別の便宜のために使用される。これらの用語の使用は、そのように明示的に示されていない限り、二重特異性抗体の特定の順序又は向きを与えることを意図していない。
【0022】
「価数」という用語は、本明細書で使用される場合、抗体内の特定数の抗原結合部位の存在を示す。この場合、「抗原に対する一価の結合」という用語は、抗体内の抗原に特異的な1つの(且つ1つを超えない)抗原結合部位の存在を示す。
【0023】
「抗体」という用語は、本明細書では最も広い意味で使用され、限定されるものではないが、それらが所望の抗原結合活性を示す限り、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、及び抗体断片を含めた、さまざまな抗体構造を包含する。
【0024】
「完全長抗体」、「インタクト抗体」及び「全抗体」という用語は、天然の抗体構造に実質的に類似した構造を有する抗体を指すために、本明細書で相互に置き換え可能に用いられる。
【0025】
「抗体断片」は、インタクト抗体が結合する抗原を結合するインタクトな抗体の一部を含むインタクトな抗体以外の分子を指す。抗体フラグメントの例としては、限定されないが、Fv、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)、ダイアボディ、直鎖抗体、一本鎖抗体分子(例えば、scFv)、及びシングルドメイン抗体が挙げられる。ある特定の抗体断片の総説としては、Hudson et al.,Nat Med 9,129-134(2003)を参照のこと。scFv断片の総説としては、例えば、Pluckthun、「The Pharmacology of Monoclonal Antibodies」第113巻、Rosenburg及びMoore編、Springer-Verlag、ニューヨーク、第269~315頁(1994年)を参照されたく、また、国際公開第93/16185号並びに米国特許第5,571,894号及び同第5,587,458号を参照されたい。サルベージ受容体結合エピトープ残基を含み、in vivo半減期が長くなったFab及びF(ab’)断片の説明については、米国特許第5,869,046号を参照のこと。ダイアボディは、二価または二重特異性であり得る2つの抗原結合部位を有する抗体断片である。例えば、欧州特許第404,097号、国際公開第1993/01161号、Hudson et al.,Nat Med 9,129-134(2003)、及びHollinger et al.,Proc Natl Acad Sci USA 90,6444-6448(1993)を参照のこと。トリアボディ及びテトラボディも、Hudson et al.,Nat Med 9,129-134(2003)に説明されている。シングルドメイン抗体は、抗体の重鎖可変ドメインの全て又は一部又は軽鎖可変ドメインの全て又は一部を含む抗体断片である。特定の態様では、シングルドメイン抗体は、ヒトシングルドメイン抗体である(Domantis,Inc.,Waltham,MA;例えば、米国特許第6,248,516B1号を参照のこと)。抗体断片は、限定されないが、本明細書に記載されるように、インタクト抗体のタンパク質分解による消化、及び組み換え宿主細胞(例えば、大腸菌又はファージ)による産生を含め、さまざまな技術によって作製することができる。
【0026】
用語「可変領域」又は「可変ドメイン」とは、抗体の抗原への結合に関与する抗体重鎖又は軽鎖のドメインを指す。天然の抗体の重鎖及び軽鎖の可変ドメイン(それぞれVH及びVL)は、概して、類似の構造を有しており、各ドメインは、4つの保存されたフレームワーク領域(FR)と、3つの超可変領域(HVR)と、を含む。例えば、Kindt et al.,Kuby Immunology,6thed.,W.H.Freeman and Co.,第91頁(2007)を参照のこと。単一のVHまたはVLドメインは、抗原結合特異性を付与するために充分であり得る。可変領域配列と組み合わせて本明細書で使用される場合、「Kabat番号付け」は、Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991)によって記載される番号付けシステムを指す。
【0027】
本明細書で使用される場合、重鎖及び軽鎖のすべての定常領域及びドメインのアミノ酸位置は、Kabat,et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th ed.,Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991)に記載されるKabat番号付けシステムに従って番号付けされ、本明細書では「Kabatによる番号付け」又は「Kabat番号付け」と呼ばれる。具体的には、Kabat番号付けシステム(Kabat,et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th ed.,Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991)の647-660ページを参照)を、κ及びλアイソタイプの軽鎖定常ドメインCLに使用し、Kabat EUインデックス番号付けシステム(661-723ページを参照)を、重鎖定常ドメイン(CH1、ヒンジ、CH2及びCH3)に使用し、この場合には、「Kabat EUインデックスによる番号付け」と言及することによってさらに明確にしている。
【0028】
本明細書で使用する場合、用語「超可変領域」又は「HVR」とは、配列内で超可変であり、抗原結合特異性を決定する、抗体可変ドメインの領域、例えば「相補性決定領域」(CDR)のそれぞれを意味する。一般的に、抗体は、6つのCDRを含み、VHに3つ(HCDR1、HCDR2、HCDR3)、VLに3つ(LCDR1、LCDR2、LCDR3)含む。本明細書における例示的なCDRとしては、
(a)アミノ酸残基26-32(L1)、50-52(L2)、91-96(L3)、26-32(H1)、53-55(H2)、及び96-101(H3)で生じる超可変ループ(Chothia and Lesk,J. Mol.Biol.196:901-917(1987));
(b)アミノ酸残基24-34(L1)、50-56(L2)、89-97(L3)、31-35b(H1)、50-65(H2)、及び95-102(H3)で生じるCDR(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991));及び
(c)アミノ酸残基27c-36(L1)、46-55(L2)、89-96(L3)、30-35b(H1)、47-58(H2)、及び93-101(H3)で生じる抗原接触(MacCallum et al.J.Mol.Biol.262:732-745(1996))
が挙げられる。
【0029】
特に指示がない限り、CDRは、上記Kabat et al.に従い決定される。当業者は、CDRの表記は、上記Chothia、上記McCallum、又は、任意の他の、科学的に認可された命名システムに従い決定することができることを理解するであろう。
【0030】
「フレームワーク」又は「FR」は、超可変領域(HVR)残基以外の可変ドメイン残基を指す。可変ドメインのFRは、概して、FR1、FR2、FR3及びFR4の4つのFRドメインからなる。したがって、HVR配列及びFR配列は、概して、VH(又はVL)中で以下の順序で現れる:FR1-H1(L1)-FR2-H2(L2)-FR3-H3(L3)-FR4。
【0031】
抗体又は免疫グロブリンの「クラス」は、抗体又は免疫グロブリンの重鎖が保有する定常ドメイン又は定常領域の種類を指す。抗体には、5種類の主要なクラス:IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMがあり、これらのいくつかは、さらにサブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG、IgG、IgG、IgG、IgA、およびIgAに分かれてもよい。免疫グロブリンの異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれα、δ、ε、γ、及びμと呼ばれる。
【0032】
「Fab分子」とは、免疫グロブリンの重鎖(「Fab重鎖」)のVHドメイン及びCH1ドメインと、免疫グロブリンの軽鎖(「Fab軽鎖」)のVLドメイン及びCLドメインと、からなるタンパク質を指す。
【0033】
「クロスオーバー」Fab分子(「Crossfab」とも呼ばれる)とは、Fab重鎖及び軽鎖の可変ドメイン及び定常ドメインが交換された(すなわち、互いに置き換えられた)Fab分子を意味する。すなわち、クロスオーバーFab分子は、軽鎖可変ドメインVL及び重鎖定常ドメイン1 CH1(VL-CH1、N末端からC末端方向に)で構成されるペプチド鎖と、重鎖可変ドメインVH及び軽鎖定常ドメインCL(VH-CL、N末端からC末端方向に)で構成されるペプチド鎖と、を含む。明確性のために、Fab軽鎖及びFab重鎖の可変ドメインが交換されているクロスオーバーFab分子において、重鎖定常ドメイン1 CH1を含むペプチド鎖は、本明細書では、(クロスオーバー)Fab分子の「重鎖」と呼ばれる。逆に、Fab軽鎖及びFab重鎖の定常ドメインが交換されているクロスオーバーFab分子において、重鎖可変ドメインVHを含むペプチド鎖は、本明細書では、(クロスオーバー)Fab分子の「重鎖」と呼ばれる。
【0034】
これとは対照的に、「従来の」Fab分子は、その天然のフォーマットでのFab分子を意味し、すなわち、重鎖可変ドメイン及び定常ドメインで構成される重鎖(VH-CH1、N末端からC末端方向に)と、軽鎖可変ドメイン及び定常ドメインで構成される軽鎖(VL-CL、N末端からC末端方向に)と、を含む。
【0035】
「免疫グロブリン分子」という用語は、天然に存在する抗体の構造を有するタンパク質を指す。例えば、IgGクラスの免疫グロブリンは、約150,000ダルトンのヘテロテトラマー糖タンパク質であり、ジスルフィド結合した2つの軽鎖と2つの重鎖から構成される。N末端からC末端に向かって、それぞれの重鎖は、可変重鎖ドメイン又は重鎖可変領域とも呼ばれる可変ドメイン(VH)と、その後に重鎖定常領域とも呼ばれる3つの定常ドメイン(CH1、CH2、及びCH3)と、を有する。同様に、N末端からC末端に向かって、それぞれの軽鎖は、可変軽鎖ドメイン又は軽鎖可変領域とも呼ばれる可変ドメイン(VL)と、その後に軽鎖定常領域とも呼ばれる定常軽鎖(CL)ドメインと、を有する。免疫グロブリンの重鎖は、α(IgA)、δ(IgD)、ε(IgE)、γ(IgG)又はμ(IgM)と呼ばれる5種類の1つに割り当てられてもよく、このいくつかは、例えば、γ(IgG)、γ(IgG)、γ(IgG)、γ(IgG)、α(IgA)及びα(IgA)などのさらなるサブタイプに分けられてもよい。免疫グロブリンの軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づき、カッパ(κ)及びラムダ(λ)と呼ばれる2種類のうちの1つに割り当てられてもよい。免疫グロブリンは、免疫グロブリンヒンジ領域を介して接続する、2つのFab分子とFcドメインとから実質的になる。
【0036】
「Fcドメイン」又は「Fc領域」という用語は、本明細書において、定常領域の少なくとも一部を含有する免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために使用される。該用語は、天然配列Fc領域とバリアントFc領域とを含む。IgG重鎖のFc領域の境界は、わずかに変動してもよいが、ヒトIgG重鎖Fc領域は通常、Cys226から、またはPro230から、重鎖のカルボキシ末端まで伸長するよう定義されている。しかし、宿主細胞によって産生される抗体は、重鎖のC末端から1つ以上、特に1つ又は2つのアミノ酸の翻訳後開裂を受けてもよい。したがって、完全長重鎖をコードする特定の核酸分子の発現によって、宿主細胞によって産生する抗体は、完全長重鎖を含んでいてもよく、又は完全長重鎖の開裂した多様体を含んでいてもよい。これは、重鎖の最終的な2つのC末端アミノ酸がグリシン(G446)及びリジン(K447、Kabat EUインデックスによる番号付け)である場合であってもよい。したがって、Fc領域のC末端リジン(Lys447)、又はC末端グリシン(Gly446)及びリジン(Lys447)が存在してもよく、又は存在していなくてもよい。本明細書で別途明記されない限り、Fc領域又は定常領域におけるアミノ酸残基の番号付けは、Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed. Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD,1991(上も参照)に記載されるような、EU番号付けシステム(EUインデックスとも呼ばれる)に従う。Fcドメインの「サブユニット」は、本明細書で使用される場合、二量体Fcドメインを形成する2つのポリペプチドのうちの1つ、すなわち、安定した自己会合が可能な、免疫グロブリン重鎖のC末端定常領域を含むポリペプチドを指す。例えば、IgG Fcドメインのサブユニットは、IgG CH2及びIgG CH3定常ドメインを含む。
【0037】
「Fcドメインの第1及び第2のサブユニットの会合を促進する修飾」は、ホモ二量体を形成するためのFcドメインサブユニットを含むポリペプチドの同一のポリペプチドとの会合を減少又は防止する、ペプチド骨格の操作又はFcドメインサブユニットの翻訳後修飾である。会合を促進する修飾は、本明細書で使用される場合、特に、会合することが望ましい2つのFcドメインサブユニット(すなわち、Fcドメインの第1及び第2のサブユニット)のそれぞれに対し、別個の修飾を含み、修飾は、2つのFcドメインサブユニットの会合を促進するように、互いに相補的である。例えば、会合を促進する修飾は、それぞれ立体的又は静電的に望ましい会合を行うように、Fcドメインサブユニットの片方又は両方の構造又は電荷を変えてもよい。したがって、(ヘテロ)二量化は、第1のFcドメインサブユニットを含むポリペプチドと、第2のFcドメインサブユニットを含むポリペプチドとの間で起こり、それぞれのサブユニットに融合するさらなる構成要素(例えば、抗原結合部分)が同じではないという意味で、同一ではない場合がある。いくつかの態様では、会合を促進する修飾は、Fcドメイン内のアミノ酸変異、具体的には、アミノ酸置換を含む。特定の態様では、会合を促進する修飾は、Fcドメインの2つのサブユニットのそれぞれに、別個のアミノ酸変異、具体的にはアミノ酸置換を含む。
【0038】
「エフェクター機能」という用語は、抗体のFc領域に帰属可能な生体活性を指し、抗体アイソタイプによって変わる。抗体エフェクター機能の例としては、以下のものが挙げられる:C1q結合及び補体依存性細胞傷害(CDC)、Fc受容体結合、抗体依存性細胞媒介障害(ADCC)、抗体依存性細胞食作用(ADCP)、サイトカイン分泌、抗原提示細胞による免疫複合体媒介性抗原取り込み、細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体)の下方制御、及びB細胞活性化。
【0039】
参照ポリペプチド配列に関する「アミノ酸配列同一性パーセント(%)」は、最大の配列同一性率を達成するために、配列をアラインメントし、必要に応じてギャップを導入した後に、いかなる保存的置換も配列同一性の一部として考慮せずに、参照ポリペプチド配列におけるアミノ酸残基と同一である、候補配列におけるアミノ酸残基の割合として定義される。アミノ酸配列同一性率を決定するためのアラインメントは、当該技術分野の技術の範囲内にある種々の様式で、例えば、公的に入手可能なコンピュータソフトウェア、例えば、BLAST、BLAST-2、Clustal W、Megalign(DNASTAR)ソフトウェア又はFASTAプログラムパッケージを用いて達成することができる。当業者であれば、比較される配列の全長にわたって最大のアラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、配列のアラインメントのための適切なパラメータを決定することができる。しかしながら、本明細書での目的のために、アミノ酸配列同一性%の値は、FASTAパッケージバージョン36.3.8cのggsearchプログラムを使用するか、またはその後にBLOSUM50比較マトリックスを用いて生成される。FASTAプログラムパッケージは、W.R.PearsonおよびD.J.Lipman(1988)、「Improved Tools for Biological Sequence Analysis」,PNAS 85:2444-2448;W.R.Pearson(1996)「Effective protein sequence comparison」Meth.Enzymol.266:227-258;およびPearson et. al.(1997)Genomics 46:24-36によって記載されており、http://fasta.bioch.virginia.edu/fasta_www2/fasta_down.shtmlから公的に入手可能である。あるいは、http://fasta.bioch.virginia.edu/fasta_www2/index.cgiでアクセス可能な公的なサーバーを使用し、ggsearch(global protein:protein)プログラム及びデフォルトオプション(BLOSUM50;オープン:-10;ext:-2;Ktup=2)を用い、ローカルではなくグローバルのアラインメントを確実に行い、配列を比較することができる。アミノ酸同一性率は、アウトプットアラインメントヘッダーで与えられる。
【0040】
「活性化Fc受容体」は、抗体のFcドメインによる係合の後に、エフェクター機能を発揮するために受容体を含む細胞を刺激するシグナル伝達事象を誘発するFc受容体である。ヒト活性化Fc受容体としては、FcγRIIIa(CD16a)、FcγRI(CD64)、FcγRIIa(CD32)及びFcαRI(CD89)が挙げられる。
【0041】
「結合の低減」、例えば、Fc受容体に対する結合の低減は、例えば、SPRによって測定される場合、それぞれの相互作用についての親和性の低下を指す。明確性のために、本用語はまた、親和性のゼロ(または分析方法の検出限界を下回る)までの低減、すなわち、相互作用の完全な終止も含む。逆に、「結合の増加」は、個々の相互作用に対する結合親和性の増加を指す。
【0042】
「融合した」が意味するのは、構成要素(例えば、Fab分子及びFcドメインサブユニット)が、ペプチド結合によって直接的に又は1つ又は複数のペプチドリンカーを介してのいずれかにより結合されていることである。
【0043】
CEA CD3二重特異性抗体は、CD3に特異的に結合する第1の抗原結合部分と、CEAに特異的に結合する第2の抗原結合部分とを含む。
【0044】
一態様では、第1の抗原結合部分は、配列番号1の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号2のHCDR2、及び配列番号3のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号4の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号5のLCDR2、及び配列番号6のLCDR3を含む軽鎖可変領域と、を含む。
【0045】
一態様では、第2の抗原結合部分は、配列番号9の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号10のHCDR2、及び配列番号11のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号12の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号13のLCDR2、及び配列番号14のLCDR3を含む軽鎖可変領域と、を含むか、又は(ii)配列番号17の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号18のHCDR2、及び配列番号19のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号20の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号21のLCDR2、及び配列番号22のLCDR3を含む軽鎖可変領域と、を含む。
【0046】
特定の態様では、CEA CD3二重特異性抗体は、
(i)CD3に特異的に結合し、配列番号1の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号2のHCDR2、及び配列番号3のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号4の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号5のLCDR2、及び配列番号6のLCDR3を含む軽鎖可変領域と、を含む、第1の抗原結合部分と、
(ii)配列番号9の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号10のHCDR2、及び配列番号11のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号12の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号13のLCDR2、及び配列番号14のLCDR3を含む軽鎖可変領域と、を含むか、又は(ii)配列番号17の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号18のHCDR2、及び配列番号19のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号20の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号21のLCDR2、及び配列番号22のLCDR3を含む軽鎖可変領域と、を含む第2の抗原結合部分と、
を含む。
【0047】
一態様では、第1の抗原結合部分は、配列番号7のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む。
【0048】
一態様では、第1の抗原結合部分は、配列番号7の重鎖可変領域配列と、配列番号8の軽鎖可変領域配列とを含む。
【0049】
一態様では、第2の抗原結合部分は、配列番号15のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含むか、又は、(ii)配列番号23のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号24のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む。
【0050】
一態様では、第2の抗原結合部分は、配列番号15の重鎖可変領域配列と、配列番号16の軽鎖可変領域配列を含むか、又は(ii)配列番号23の重鎖可変領域配列と、配列番号24の軽鎖可変領域配列とを含む。
【0051】
いくつかの態様では、第1及び/又は第2の抗原結合部分は、Fab分子である。いくつかの態様では、第1の抗原結合部分は、Fab軽鎖及びFab重鎖の可変領域又は定常領域のいずれかが交換されているクロスオーバーFab分子である。そのような態様では、第2の抗原結合部分は、好ましくは、従来のFab分子である。
【0052】
二重特異性抗体の第1及び第2の抗原結合部分が両方ともFab分子であり、抗原結合部分の1つ(特に、第1の抗原結合部分)において、Fab軽鎖及びFab重鎖の可変ドメインVL及びVHが互いに置き換わっているいくつかの態様では、
i)第1の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて、位置124のアミノ酸は、正に帯電したアミノ酸によって置換されており(Kabatによる番号付け)、第1の抗原結合部分の定常ドメインCH1において、位置147のアミノ酸又は位置213のアミノ酸は、負に帯電したアミノ酸によって置換されているか(Kabat EUインデックスによる番号付け)、又は
ii)第2の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて、位置124のアミノ酸は、正に帯電したアミノ酸によって置換されており(Kabatによる番号付け)、第2の抗原結合部分の定常ドメインCH1において、位置147のアミノ酸又は位置213のアミノ酸は、負に帯電したアミノ酸によって置換されている(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0053】
二重特異性抗体は、i)及びii)に記述されている修飾を両方とも含むことはない。VH/VLが置き換わっている抗原結合部分の定常ドメインCL及びCH1は、互いに置き換わっていない(すなわち、置き換わらないままである)。
【0054】
より具体的な態様では、
i)第1の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて、位置124のアミノ酸は、独立して、リシン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)によって置換されており(Kabatによる番号付け)、第1の抗原結合部分の定常ドメインCH1において、位置147のアミノ酸又は位置213のアミノ酸は、独立して、グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)によって置換されているか(Kabat EUインデックスによる番号付け)、又は
ii)第2の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて、位置124のアミノ酸は、独立して、リシン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)によって置換されており(Kabatによる番号付け)、第2の抗原結合部分の定常ドメインCH1において、位置147のアミノ酸又は位置213のアミノ酸は、独立して、グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)によって置換されているか(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0055】
1つのこのような態様では、第2の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて、位置124のアミノ酸は、独立して、リシン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)によって置換されており(Kabatによる番号付け)、第2の抗原結合部分の定常ドメインCH1において、位置147のアミノ酸又は位置213のアミノ酸は、独立して、グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)によって置換されている(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0056】
さらなる態様では、第2の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて、位置124のアミノ酸は、独立して、リシン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)によって置換されており(Kabatによる番号付け)、第2の抗原結合部分の定常ドメインCH1において、位置147のアミノ酸は、独立して、グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)によって置換されている(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0057】
特定の態様では、第2の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて、位置124のアミノ酸が、独立して、リシン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)によって置換されており(Kabatによる番号付け)、位置123のアミノ酸が、独立して、リシン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)によって置換されており(Kabatによる番号付け)、第2の抗原結合部分の定常ドメインCH1において、位置147のアミノ酸が、独立して、グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、位置213のアミノ酸が、独立して、グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)によって置換されている(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0058】
より具体的な態様では、第2の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて、位置124のアミノ酸が、リシン(K)によって置換されており(Kabatによる番号付け)、位置123のアミノ酸が、リシン(K)によって置換されており(Kabatによる番号付け)、第2の抗原結合部分の定常ドメインCH1において、位置147のアミノ酸が、グルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、位置213のアミノ酸が、グルタミン酸(E)によって置換されている(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0059】
さらに特定の態様では、第2の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて、位置124のアミノ酸が、リシン(K)によって置換されており(Kabatによる番号付け)、位置123のアミノ酸が、アルギニン(R)によって置換されており(Kabatによる番号付け)、第2の抗原結合部分の定常ドメインCH1において、位置147のアミノ酸が、グルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、位置213のアミノ酸が、グルタミン酸(E)によって置換されている(Kabat EUインデックスによる番号付け)。
【0060】
特定の態様では、上の態様に係るアミノ酸置換が、第2の抗原結合部分の定常ドメインCL及び定常ドメインCH1でなされる場合、第2の抗原結合部分の定常ドメインCLは、カッパアイソタイプである。
【0061】
いくつかの態様では、第1及び第2の抗原結合部分は、場合によってはペプチドリンカーを介して、互いに融合されている。
【0062】
いくつかの態様では、第1及び第2の抗原結合部分は、それぞれFab分子であり、(i)第2の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端で、第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合されているか、又は(ii)第1の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端で、第2の抗原結合ドメインのFab重鎖のN末端に融合されているか、のいずれかである。
【0063】
いくつかの態様では、CEA CD3二重特異性抗体は、CD3に対する一価の結合を提供する。
【0064】
特定の態様では、CEA CD3二重特異性抗体は、CD3に特異的に結合する単一の抗原結合部分と、CEAに特異的に結合する2つの抗原結合部分とを含む。よって、いくつかの態様では、CEA CD3二重特異性抗体は、CEAに特異的に結合する第3の抗原結合部分を含む。いくつかの態様では、第3の抗原結合部分は、第1の抗原結合部分と同一である(例えば、第3の抗原結合分子は、Fab分子でもあり、同じアミノ酸配列を含む)。
【0065】
特定の態様では、CEA CD3二重特異性抗体は、第1及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインをさらに含む。一態様では、Fcドメインは、IgG Fcドメインである。特定の態様では、FcドメインはIgG Fcドメインである。別の態様において、Fcドメインは、IgG Fcドメインである。より具体的な態様において、Fcドメインは、位置S228にアミノ酸置換、特にアミノ酸置換S228Pを含むIgG Fcドメインである(Kabat EUインデックスナンバリング)。このアミノ酸置換は、インビボでのIgG抗体のFabアーム交換を低減する(Stubenrauch et al.,Drug Metabolism and Disposition 38,84-91(2010)を参照されたい)。さらに具体的な態様では、Fcドメインは、ヒトFcドメインである。特定の好ましい態様では、Fcドメインは、ヒトIgG Fcドメインである。ヒトIgG Fc領域の例示的な配列は、配列番号33で与えられる。
【0066】
第1の抗原結合部分、第2の抗原結合部分、及び、存在する場合、第3の抗原結合部分が、それぞれFab分子であるいくつかの態様では、(a)(i)第2の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端で、第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合され、第1の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端で、Fcドメインの第1のサブユニットのN末端に融合されているか、又は(ii)第1の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端で、第2の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合され、第2の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端で、Fcドメインの第1のサブユニットのN末端に融合されているかのいずれか一方であり、且つ、(b)存在する場合、第3の抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端で、Fcドメインの第2のサブユニットのN末端に融合されている。
【0067】
特定の態様では、Fcドメインは、Fcドメインの第1及び第2のサブユニットの会合を促進する修飾を含む。ヒトIgG Fcドメインの2つのサブユニット間の最も長いタンパク質-タンパク質相互作用の部位は、CH3ドメインの中にある。したがって、一態様では、前記修飾は、FcドメインのCH3ドメインの中にある。
【0068】
具体的な態様では、Fcドメインの第1及び第2のサブユニットの会合を促進する修飾は、いわゆる「ノブ・イントゥ・ホール(knob-into-hole)」修飾であり、Fcドメインの2つのサブユニットの一方に「ノブ(knob)」修飾及びFcドメインの2つのサブユニットの他方に「ホール(hole)」修飾を含む。ノブ・イントゥ・ホール技術は、例えば、米国特許第5,731,168号、米国特許第7,695,936号、Ridgway et al.,Prot Eng 9,617-621(1996)及びCarter,J Immunol Meth 248,7-15(2001)に記載される。一般的に、この方法は、第1のポリペプチドの界面にある突起(「ノブ」)と、第2のポリペプチドの界面にある空洞(「ホール」)とを導入することを含み、その結果、突起が、ヘテロ二量体形成を促進し、ホモ二量体形成を妨害するように空洞内に位置することができる。突起は、第1のポリペプチドの界面からの小さなアミノ酸側鎖を、より大きな側鎖(例えば、チロシン又はトリプトファン)と交換することによって構築される。突起と同一又は同様の大きさの相補性空洞が、大きなアミノ酸側鎖を、より小さなアミノ酸側鎖(例えば、アラニン又はトレオニン)と置き換えることによって、第2のポリペプチドの界面に作られる。
【0069】
したがって、いくつかの実施形態では、Fcドメインの第1のサブユニットのCH3ドメインにおけるアミノ酸残基を、より大きな側鎖体積を有するアミノ酸残基で置き換えることにより、第2のサブユニットのCH3ドメイン内の空洞に位置可能な第1のサブユニットのCH3ドメイン内に突起を生成し、Fcドメインの第2のサブユニットのCH3ドメインにおけるアミノ酸残基を、より小さな側鎖体積を有するアミノ酸残基で置き換えることにより、第1のサブユニットのCH3ドメイン内の突起が位置可能な第2のサブユニットのCH3ドメイン内に空洞を生成する。好ましくは、より大きな側鎖体積を有する前記アミノ酸残基は、アルギニン(R)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)及びトリプトファン(W)からなる群から選択される。好ましくは、より小さな側鎖体積を有する前記アミノ酸残基は、アラニン(A)、セリン(S)、トレオニン(T)及びバリン(V)からなる群から選択される。突起及び空洞は、ポリペプチドをコードする核酸を変えることによって、例えば、部位特異的変異導入法によって、又はペプチド合成によって作り出すことができる。
【0070】
具体的なこのような態様では、Fcドメインの第1のサブユニットにおいて、位置366のトレオニン残基がトリプトファン残基と置き換わっており(T366W)、Fcドメインの第2のサブユニットにおいて、位置407のチロシン残基がバリン残基と置き換わっており(Y407V)、場合によっては、位置366のトレオニン残基がセリン残基と置き換わっており(T366S)、位置368のロイシン残基がアラニン残基と置き換わっている(L368A)(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。さらなる態様では、Fcドメインの第1のサブユニットにおいて、追加的に位置354のセリン残基がシステイン残基と置き換わっており(S354C)又は位置356のグルタミン酸残基がシステイン残基と置き換わっており(E356C)(特に、位置354のセリン残基がシステイン残基と置き換わっており)、Fcドメインの第2のサブユニットにおいて、追加的に位置349のチロシン残基がシステイン残基と置き換わっている(Y349C)(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。好ましい態様において、Fcドメインの第1のサブユニットは、アミノ酸置換S354C及びT366Wを含み、Fcドメインの第2のサブユニットは、アミノ酸置換Y349C、T366S、L368A及びY407Vを含む(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。
【0071】
いくつかの態様では、Fcドメインは、Fc受容体への結合を低下させる、且つ/又はエフェクター機能を低下させる一又は複数のアミノ酸置換を含む。
【0072】
特定の態様では、Fc受容体は、Fcγ受容体である。一態様では、Fc受容体は、ヒトFc受容体である。一態様では、Fc受容体は、活性化Fc受容体である。具体的な態様では、Fc受容体は、活性化ヒトFcγ受容体であり、より具体的には、ヒトFcγRIIIa、FcγRI又はFcγRIIaであり、最も具体的には、ヒトFcγRIIIaである。一態様では、エフェクター機能は、補体依存性細胞傷害(CDC)、抗体依存性細胞媒介細胞障害(ADCC)、抗体依存性細胞食作用(ADCP)、及びサイトカイン分泌の群から選択される一又は複数である。特定の態様では、エフェクター機能は、ADCCである。
【0073】
典型的には、同じ一又は複数のアミノ酸置換が、Fcドメインの2つのサブユニットのそれぞれに存在する。一態様において、一又は複数のアミノ酸置換は、Fc受容体へのFcドメインの結合親和性を低減する。一態様において、一又は複数のアミノ酸置換は、Fc受容体へのFcドメインの結合親和性を、少なくとも2分の1、少なくとも5分の1又は少なくとも10分の1に低減する。
【0074】
一態様において、Fcドメインは、E233、L234、L235、N297、P331及びP329の群から選択される位置にアミノ酸置換を含む(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。より具体的な態様において、Fcドメインは、L234、L235及びP329の群から選択される位置にアミノ酸置換を含む(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。一部の態様において、Fcドメインは、アミノ酸置換L234A及びL235Aを含む(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。1つのこのような態様において、Fcドメインは、IgG Fcドメイン、特にヒトIgG Fcドメインである。一態様では、Fcドメインは、P329位にアミノ酸置換を含む。より具体的な態様において、アミノ酸置換は、P329A又はP329G、特にP329Gである(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。一態様において、Fcドメインは、位置P329にアミノ酸置換を含み、E233、L234、L235、N297及びP331から選択される位置にさらなるアミノ酸置換を含む(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。より具体的な態様において、さらなるアミノ酸置換は、E233P、L234A、L235A、L235E、N297A、N297D又はP331Sである。特定の態様において、Fcドメインは、位置P329、L234及びL235にアミノ酸置換を含む(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。より具体的な態様において、Fcドメインは、アミノ酸変異L234A、L235A及びP329G(「P329G LALA」、「PGLALA」又は「LALAPG」)を含む。具体的には、好ましい態様において、Fcドメインのそれぞれのサブユニットは、アミノ酸置換L234A、L235A及びP329Gを含み(Kabat EUインデックスナンバリング)、すなわち、Fcドメインの第1及び第2のサブユニットのそれぞれにおいて、位置234のロイシン残基はアラニン残基と置き換わっており(L234A)、位置235のロイシン残基はアラニン残基と置き換わっており(L235A)、位置329のプロリン残基はグリシン残基と置き換わっている(P329G)(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。1つのこのような態様において、Fcドメインは、IgG Fcドメイン、特にヒトIgG Fcドメインである。
【0075】
好ましい態様では、CEA CD3二重特異性抗体は、
(i)CD3に特異的に結合し、配列番号1の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号2のHCDR2、及び配列番号3のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号4の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号5のLCDR2、及び配列番号6のLCDR3を含む軽鎖可変領域と、を含む、第1の抗原結合部分であって、Fab軽鎖及びFab重鎖の可変領域又は定常領域のいずれか、特に定常領域が交換されているクロスオーバーFab分子である、第1の抗原結合部分と、
(ii)CEAに特異的に結合し、配列番号9の重鎖CDR(HCDR)、配列番号10のHCDR2、及び配列番号11のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号12の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号13のLCDR2、及び配列番号14のLCDR3を含む軽鎖可変領域と、を含む、第2及び第3の抗原結合部分であって、それぞれFab分子、特に従来のFab分子である、第2及び第3の抗原結合部分と、
(iii)第1及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインと、
を含み、
第2の抗原結合部分はFab重鎖のC末端において第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合されており、第1の抗原結合部分はFab重鎖のC末端においてFcドメインの第1のサブユニットのN末端に融合されており、第3の抗原結合部分はFab重鎖のC末端においてFcドメインの第2のサブユニットのN末端に融合されている。
【0076】
一態様では、第1の抗原結合部分は、配列番号7のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む。
【0077】
一態様では、第1の抗原結合部分は、配列番号7の重鎖可変領域配列と、配列番号8の軽鎖可変領域配列とを含む。
【0078】
一態様では、第2及び第3の抗原結合部分は、配列番号15のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む。
【0079】
一態様では、第2及び第3の抗原結合部分は、配列番号15の重鎖可変領域配列と、配列番号16の軽鎖可変領域配列とを含む。
【0080】
上記の態様によるFcドメインは、Fcドメインに関して上に記載される特徴のすべてを単独で又は組み合わせて組み込んでもよい。
【0081】
一態様では、抗原結合部分及びFc領域は、ペプチドリンカー、特に、配列番号27及び配列番号28にあるようなペプチドリンカーによって、互いに融合している。一態様では、CEA CD3二重特異性抗体は、配列番号25の配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一の配列を含むポリペプチド(特に2つのポリペプチド)と、配列番号26の配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一の配列を含むポリペプチドと、配列番号27の配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一の配列を含むポリペプチドと、配列番号28の配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一の配列を含むポリペプチドとを含む。
【0082】
特に好ましい態様では、CEA CD3二重特異性抗体は、配列番号25の配列を含むポリペプチド(特に2つのポリペプチド)と、配列番号26の配列を含むポリペプチドと、配列番号27の配列を含むポリペプチドと、配列番号28の配列を含むポリペプチドとを含む。
【0083】
特に好ましい態様では、CEA CD3二重特異性抗体はシビサタマブである(WHO Drug Information(International Nonproprietary Names for Pharmaceutical Substances),Recommended INN:List 80,2018,vol.32,no.3,p.438)。
【0084】
一態様では、CEA CD3二重特異性抗体は、
(i)CD3に特異的に結合し、配列番号1の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号2のHCDR2、及び配列番号3のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号4の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号5のLCDR2、及び配列番号6のLCDR3を含む軽鎖可変領域と、を含む、第1の抗原結合部分であって、Fab軽鎖及びFab重鎖の可変領域又は定常領域のいずれか、特に可変領域が交換されているクロスオーバーFab分子である、第1の抗原結合部分と、
(ii)CEAに特異的に結合し、配列番号17の重鎖CDR(HCDR)1、配列番号18のHCDR2、及び配列番号19のHCDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号20の軽鎖CDR(LCDR)1、配列番号21のLCDR2、及び配列番号22のLCDR3を含む軽鎖可変領域と、を含む、第2及び第3の抗原結合部分であって、それぞれFab分子、特に従来のFab分子である、第2及び第3の抗原結合部分と、
(iii)安定な会合が可能な第1及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインと、
を含み、
第2の抗原結合部分はFab重鎖のC末端において第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合されており、第1の抗原結合部分はFab重鎖のC末端においてFcドメインの第1のサブユニットのN末端に融合されており、第3の抗原結合部分はFab重鎖のC末端においてFcドメインの第2のサブユニットのN末端に融合されている。
【0085】
一態様では、第1の抗原結合部分は、配列番号7のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む。
【0086】
一態様では、第1の抗原結合部分は、配列番号7の重鎖可変領域配列と、配列番号8の軽鎖可変領域配列とを含む。
【0087】
一態様では、第2及び第3の抗原結合部分は、配列番号23のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号24のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変領域配列とを含む。一態様では、第2及び第3の抗原結合部分は、配列番号23の重鎖可変領域配列と、配列番号24の軽鎖可変領域配列とを含む。
【0088】
上記の態様によるFcドメインは、Fcドメインに関して上に記載される特徴のすべてを単独で又は組み合わせて組み込んでもよい。
【0089】
一態様では、抗原結合部分及びFc領域は、ペプチドリンカー、特に、配列番号30及び配列番号31にあるようなペプチドリンカーによって、互いに融合している。
【0090】
一態様では、(ii)の第2及び第3のFab分子の定常ドメインCLにおいて、位置124のアミノ酸がリジン(K)によって置換されており(Kabatによるナンバリング)、位置123のアミノ酸がリシン(K)又はアルギニン(R)によって、特にアルギニン(R)によって置換されており(Kabatによる番号付け)、(ii)の第2及び第3のFab分子の定常ドメインCH1において、位置147のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによる番号付け)、位置213のアミノ酸がグルタミン酸(E)によって置換されている(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。
【0091】
一態様では、二重特異性抗体は、配列番号29の配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一の配列を含むポリペプチドと、配列番号30の配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一の配列を含むポリペプチドと、配列番号31の配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一の配列を含むポリペプチドと、配列番号32の配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一の配列を含むポリペプチド(特に2つのポリペプチド)とを含む。
【0092】
一態様では、二重特異性抗体は、配列番号29の配列を含むポリペプチドと、配列番号30の配列を含むポリペプチドと、配列番号31の配列を含むポリペプチドと、配列番号32の配列を含むポリペプチド(特に2つのポリペプチド)とを含む。
【0093】
当業者に知られるであろう他のCEA CD3二重特異性抗体も、本発明における使用が検討されている。
【0094】
一態様では、CEA CD3二重特異性抗体は、MEDI565(AMG211、MT111)である。
【0095】
本明細書中のCEA CD3二重特異性抗体は、Wntシグナル伝達阻害剤と組み合わせて使用される。
【0096】
「Wntシグナル伝達阻害剤」という用語は、Wnt経路、特にWnt/β-カテニン経路(標準Wnt経路とも呼ばれる)を通じたシグナル伝達を阻害する分子を指す。Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路によって、細胞質でβ-カテニンが蓄積し、最終的に核に移動してTCF/LEF(T細胞因子/リンパ増強因子)ファミリーに属する転写因子の転写共役因子として作用する。
【0097】
Wnt/β-カテニン経路は、結腸直腸がんを含む多くの腫瘍型の発生に関連してきた。
【0098】
β-カテニン核転座を介して細胞内シグナル伝達を開始するには、Frizzled(Fz)受容体およびLRP5/6共受容体(低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質5/6)に結合するWntリガンドが必要である。β-カテニンは非常に不安定なタンパク質であり、細胞質の存在が厳密に制御されている。Wntリガンドが存在しない場合、細胞質β-カテニンは、いわゆる分解複合体によって標的とされる。この複合体は、腫瘍抑制因子大腸腺腫症(APC)と、足場タンパク質AXINと、2つのキナーゼCK1α(カゼインキナーゼ1α)及びGSK-3β(グリコーゲンシンターゼキナーゼ3β)とから構成される。これらの最後の2つの成分は、N末端のいくつかのセリンおよびトレオニン残基のβ-カテニンをリン酸化することができる。リン酸化されたβ-カテニンは、その後、ユビキチンリガーゼ複合体の一部であるβ-トランスデューシンによって認識され、β-カテニンのポリユビキチン化及びプロテアソーム分解につながる。LRP5/6に関連するFrizzled受容体に結合するWntリガンドは、乱れた(dishevelled(DVL))リン酸化を誘導する。続いて、Axinを補充し、それによって分解複合体を分解し、β-カテニンの安定化とそれに続く核転座を達成する。核内では、β-カテニンは転写因子のTCF/LEF(T細胞因子/リンパ球エンハンサー因子)ファミリーのメンバーに結合し、転写Kat3コアクチベーターp300及び/又はCBP(CREB結合タンパク質)を補充して、Wnt標的遺伝子を転写すること及びとクロマチン修飾を引き起こすことができる(Duchartre et al.,Critical Reviews in Oncology/Hematology 2016,99,141-149、全文が本明細書に援用される)。
【0099】
Wntシグナル伝達阻害剤は、Wntシグナル伝達に関与する一又は複数のタンパク質を標的とし、Wntシグナル伝達経路の活動を、例えば、このようなタンパク質とWntシグナル伝達経路の他の構成要素との間の相互作用を阻害すること、このようなタンパク質の分解を促進すること、又はこのようなタンパク質の機能(例えば、酵素機能)を阻害することにより、阻害する分子であり得る。例示的な阻害部位には、限定されないが、Frizzled受容体、DVLタンパク質、β-カテニン分解複合体(例えばGSK-3βを含む)、核β-カテニン、並びに酵素porcupine及びタンキラーゼが含まれる。
【0100】
Wntシグナル伝達の阻害剤は、例えば、Duchartre et al.,Critical Reviews in Oncology/Hematology 2016,99,141-149、又はTran et al.,Protein Science 2017,26,650-661において総説される(その全文が参照により本明細書に援用される)。
【0101】
一態様では、本明細書のWntシグナル伝達阻害剤は、Wnt/β-カテニンシグナル伝達阻害剤である。一態様では、Wntシグナル伝達阻害剤は、ヒトWntシグナル伝達経路、特にヒトWnt/β-カテニンシグナル伝達経路の阻害剤である。
【0102】
一態様では、Wntシグナル伝達阻害剤は、Wnt/β-カテニンシグナル伝達に関与する二つ以上のタンパク質の相互作用を阻害する。一態様では、Wntシグナル伝達阻害剤は、Wnt/β-カテニンシグナル伝達に関与する一又は複数のタンパク質の分解を促進する。一態様では、Wntシグナル伝達阻害剤は、Wnt/β-カテニンシグナル伝達に関与する一又は複数のタンパク質の機能を阻害する。一態様では、Wntシグナル伝達阻害剤は、Frizzled(Fz)、Disheveled(DVL)、porcupine、タンキラーゼ、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3β(GSK-3β)からなる群より選択されるWntシグナル伝達経路、特にWnt/β-カテニン経路の構成要素を標的とする(例えば、それに特異的に結合する)。
【0103】
一態様では、Wntシグナル伝達阻害剤は、タンキラーゼ阻害剤である。タンキラーゼ1及び2(それぞれ、TNKS/ARTD5及びTNKS2/ARTD5)は、Wntシグナル伝達を含む細胞機能の範囲に含まれるPARP(ポリ-ADP-リボースポリメラーゼ)タンパク質である。TNKS及びTNKS2は通常、破壊複合体のうちの2つの構成要素、AXIN1及びAXIN2をPAR化し、それにより、それらのユビキチン化、プロテアソーム分解、活性β-カテニンの総量を最小限に抑える事象を促進する。TNKS/TNKS2の阻害は、AXINの分解を最小限に抑え、破壊複合体を安定化し、Wntシグナル伝達を抑制する(Elliott et al.,Med Chem Comm.2015,6,1687-1692、参照によりその全文が本明細書に援用される)。
【0104】
具体的な態様では、Wntシグナル伝達阻害剤は、Elliott et al.,Med Chem Comm.2015,6,1687-1692に記載されるようなタンキラーゼ阻害剤、特に本明細書に記載されるような化合物21である。化合物21の構造は以下:
[式中、RはMeであり、RはCH2-N-(4-NMe)-ピペラジンである]に示される。
【0105】
別の具体的な態様では、Wntシグナル伝達阻害剤は、Huang et al.,Nature 2009,461,614-620(参照によりその全文が本明細書に援用される)に記載されるようなタンキラーゼ阻害剤、特にXAV-939(CAS番号284028-89-3)である。
【0106】
別の具体的な態様では、Wntシグナル伝達阻害剤は、Chen et al.,Nat Chem Biol 2009,5(2),100-107(参照によりその全文が本明細書に援用される)に記載されるようなタンキラーゼ阻害剤、特にIWR-1である。IWR-1の構造を以下:
に示す。
【0107】
別の具体的な態様では、Wntシグナル伝達阻害剤は、McGonigle et al.,Oncotarget 2015,6,41307-41323(参照によりその全文が本明細書に援用される)に記載されるようなタンキラーゼ阻害剤、特にE7449(CAS番号1140964-99-3)である。
【0108】
別の具体的な態様では、Wntシグナル伝達阻害剤は、Waaler et al.,Cancer Res 2012,72,2822-2832(参照によりその全文が本明細書に援用される)に記載されるようなタンキラーゼ阻害剤、特にJW55(CAS番号664993-53-7)である。
【0109】
一態様では、Wntシグナル伝達阻害剤は、porcupine阻害剤である。porcupineは、膜結合O-アセチルトランスフェラーゼ(MBOAT)ファミリーのメンバーであり、Wntの脂質修飾及び分泌を担っている(Duchartre et al.,Critical Reviews in Oncology/Hematology 2016,99,141-149)。
【0110】
別の具体的な態様では、Wntシグナル伝達阻害剤は、porcupine阻害剤LGK974(CAS番号1243244-14-5;Liu et al.,Proc Natl Acad Sci USA 2013,110,20224-20229、参照によりその全文が本明細書に援用される)。LGK974の構造を以下:
に示す。
【0111】
別の具体的な態様では、Wntシグナル伝達阻害剤は、Madan et al.,Oncogene 2016,35,2197-2207(参照によりその全文が本明細書に援用される)に記載されるようなporcupine阻害剤、特にETC-1922159(ETC-159;CAS番号1638250-96-0)である。
【0112】
別の具体的な態様では、Wntシグナル伝達阻害剤は、Madan et al.,Kindney Int 2016,89,1062-1074(参照によりその全文が本明細書に援用される)に記載されるようなporcupine阻害剤、特にWnt-C59(CAS番号1243243-89-1)である。
【0113】
別の具体的な態様では、Wntシグナル伝達阻害剤は、Wang et al.,J Med Chem 2013,56,2700-2704(参照によりその全文が本明細書に援用される)に記載されるようなporcupine阻害剤、特にIWP-L6(CAS番号1427782-89-5)又はIWP-2(CAS番号686770-61-6)である。
【0114】
一態様では、Wntシグナル伝達阻害剤は、DVL(disheveled)阻害剤、特にDVLのPDZドメインの阻害剤である。DVLのPDZドメインは、DVL-Frizzled受容体相互作用とWntシグナルの細胞内形質導入とに不可欠な役割を果たす。
【0115】
別の具体的な態様では、Wntシグナル伝達阻害剤は、Shan et al.,Biochemistry 2005,44,15495-15503(参照によりその全文が本明細書に援用される)に記載されるようなDVL阻害剤、特にNSC668036(CAS番号144678-63-7)である。
【0116】
別の具体的な態様では、Wntシグナル伝達阻害剤は、Grandy et al.,J Biol Chem 2009,284,16256-16263(参照によりその全文が本明細書に援用される)に記載されるようなDVL阻害剤、特に3289-8625(CAS番号294891-81-9)である。
【0117】
さらに別の態様では、Wntシグナル伝達阻害剤は、Shan et al.,Chem Biol Drug Des 2012,79,376-383(参照によりその全文が本明細書に援用される)に記載されるようなDVL阻害剤、特にJ01-017aである。
【0118】
別の具体的な態様では、Wntシグナル伝達阻害剤は、Choi et al.,Bioorg Med Chem 2016,24,3259-3266(参照によりその全文が本明細書に援用される)に記載されるようなDVL阻害剤、特にBMD4702(CAS番号335206-54-7)である。
【0119】
一態様では、Wntシグナル伝達阻害剤は、Frizzled阻害剤である。Wntシグナル伝達は、分泌されたWnt分子のその受容体、Frizzledへの結合によって開始される。
【0120】
一態様では、Wntシグナル伝達阻害剤は、一又は複数のFrizzled受容体に特異的に結合する抗体、特にモノクローナル抗体である。具体的な態様では、Wntシグナル伝達阻害剤はバンチクツマブ(OMP-18R5)である。
【0121】
一態様では、Wntシグナル伝達阻害剤は、Frizzled受容体のリガンド結合ドメインを含む。一態様では、Wntシグナル伝達阻害剤は、ヒトFrizzled 8受容体の細胞外リガンド結合ドメイン及びヒトIgG1 Fcドメインを含む融合プロテインである。具体的な態様では、Wntシグナル伝達阻害剤はイパフリセプト(OMP-54F28)である。
【0122】
当業者に知られるであろう他のWntシグナル伝達阻害剤も、本発明における使用が検討されている。
【0123】
「がん」という用語は、制御されていない細胞増殖を典型的に特徴とする哺乳動物における生理学的状態を指す。がんの例には、癌腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫、及び白血病が含まれるが、これらに限定されない。かかるがんのより具体的な例には、扁平上皮細胞がん、肺がん(小細胞肺がん、非小細胞肺がん、肺の腺癌、並びに肺の非扁平上皮癌及び扁平上皮癌を含む)、腹膜のがん、肝細胞がん、胃がん(gastric cancer)または胃がん(stomach cancer)(消化管がんを含む)、膵臓がん(転移性膵臓がんを含む)、膠芽腫、子宮頸がん、卵巣がん、肝臓がん、膀胱がん、肝臓がん、乳がん(局所進行性、再発性または転移性のHER-2陰性乳がん、および局所再発性または転移性のHER2陽性乳がん)、結腸がん、結腸直腸がん、子宮内膜がんまたは子宮癌、唾液腺癌、腎臓がん(kidney cancer)または腎臓がん(renal cancer)、肝臓がん、前立腺がん、外陰部がん、甲状腺がん、肝癌、及びさまざまな種類の頭頸部がん、ならびにB細胞リンパ腫(低悪性度/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL);小リンパ球性(SL)NHL;中悪性度/濾胞性NHL;中悪性度びまん性NHL;高悪性度免疫芽細胞性NHL;高悪性度リンパ芽球性NHL;高悪性度小型非開裂細胞性NHL;巨大病変性NHL;マントル細胞リンパ腫;AIDS関連リンパ腫;及びワルデンストレーム高ガンマグロブリン血症を含む);慢性リンパ性白血病(CLL);急性リンパ芽球性白血病(ALL);有毛細胞性白血病;慢性骨髄芽球性白血病;及び移植後リンパ増殖性障害(PTLD)、ならびに母斑症、浮腫(脳腫瘍と関連するものなど)、及びメグス症候群と関連する異常な血管増殖が含まれる。
【0124】
本発明のCEA CD3二重特異性抗体、方法、使用、及びキットのいくつかの態様では、がんは、固形腫瘍がんである。「固形腫瘍がん」とは、(例えば、一般的には固形腫瘍を形成しない白血病などの血液がんとは対照的に)肉腫又は癌腫などの患者の体の特定の位置に位置する別個の腫瘍塊(腫瘍転移も含む)を形成する悪性腫瘍を意味する。がんの非限定的な例には、膀胱がん、脳がん、頭頸部がん、膵臓がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、子宮がん、子宮頸がん、子宮内膜がん、食道がん、結腸がん、結腸直腸がん、直腸がん、胃がん、前立腺がん、皮膚がん、扁平細胞癌腫、骨がん、肝臓がん及び腎臓がんが含まれる。本発明の文脈で企図される他の固形腫瘍がんには、限定されないが、腹部、骨、乳房、消化器系、肝臓、膵臓、腹膜、内分泌腺(副腎、副甲状腺、脳下垂体、睾丸、卵巣、胸腺、甲状腺)、眼、頭頸部、神経系(中枢及び末梢)、リンパ系、骨盤、皮膚、軟組織、筋肉、脾臓、胸部領域及び泌尿生殖器系に位置する新生物が含まれる。前がん状態又は病変及びがん転移も含まれる。
【0125】
いくつかの態様では、がんは、CEA陽性がんである。「CEA陽性がん」又は「CEA発現がん」とは、がん細胞でのCEAの発現又は過剰発現により特徴づけられるがんを意味する。CEAの発現は、例えば、免疫組織化学(IHC)又はフローサイトメトリー法によって決定され得る。一態様では、がんはCEAを発現する。一態様では、がんは、CEAに特異的な抗体を使用する免疫組織化学(IHC)によって決定されるように、腫瘍細胞の少なくとも20%、好ましくは少なくとも50%又は少なくとも80%でCEAを発現する。
【0126】
いくつかの態様では、患者におけるがん細胞は、PD-L1を発現する。PD-L1の発現は、IHC又はフローサイトメトリー法によって決定され得る。
【0127】
いくつかの態様では、がんは、結腸がん、肺がん、卵巣がん、胃がん、膀胱がん、膵臓がん、子宮内膜がん、乳がん、腎臓がん、食道がん、前立腺がん、または本明細書に記載の他のがんである。
【0128】
特定の態様では、がんは、結腸直腸がん、肺がん、膵臓がん、乳がん、及び胃がんからなる群より選択されるがんである。好ましい態様では、がんは、結腸直腸がん(CRC)である。一態様では、結腸直腸がんは、転移性結腸直腸がん(mCRC)である。一態様では、結腸直腸がんは、マイクロサテライト安定性(MSS)結腸直腸がんである。一態様では、結腸直腸がんは、マイクロサテライト安定性転移性結腸直腸がん(MSS mCRC)である。
【0129】
本明細書中の「患者」、「対象」、又は「個体」は、がんの一又は複数の徴候、症状、又は他の指標を経験している、又は経験した、治療に適格な任意の単一のヒト対象である。いくつかの態様では、患者は、がんを有するか、又はがんを有すると診断されている。いくつかの態様では、患者は、局所進行若しくは転移性がんを有するか、又は局所進行若しくは転移性がんを有すると診断されている。患者は、CEA CD3二重特異性抗体又は別の薬物で以前に治療されていても、治療されていなくてもよい。特定の態様では、患者は、CEA CD3二重特異性抗体で以前に治療されていない。患者は、CEA CD3二重特異性抗体療法が開始される前に、CEA CD3二重特異性抗体以外の一又は複数の薬物を含む療法で治療されていてもよい。
【0130】
本明細書で使用される場合、「治療(treatment)」(及びその文法的な変化形、例えば、「治療(treat)する」又は「治療(treating)すること」)は、治療される個体において疾患の本来の経過を変える試行における臨床的介入を指し、予防のために、又は臨床病理の経過の間に行うことができる。治療の所望の効果としては、疾患の発症または再発の予防、症状の軽減、疾患の任意の直接的または間接的な病理学的結果の減弱、転移の予防、疾患進行率を低下させること、病状の寛解または緩和、および回復または改善された予後が挙げられるが、これらに限定されない。
【0131】
CEA CD3二重特異性抗体及びWntシグナル伝達阻害剤は、有効量で投与される。
【0132】
薬剤、例えば、薬学的組成物の「有効量」は、所望の治療結果又は予防結果を達成するために必要な投薬量及び所要期間で有効な量を指す。
【0133】
一態様では、CEA CD3二重特異性抗体の投与は、特にがんの部位(例えば、固形腫瘍がん内)で、T細胞、特に細胞傷害性T細胞の活性化をもたらす。前記活性化は、T細胞の増殖、T細胞の分化、T細胞によるサイトカイン分泌、T細胞からの細胞傷害性エフェクター分子放出、T細胞の細胞傷害性活動、及びT細胞による活性化マーカーの発現を含み得る。一態様では、CEA CD3二重特異性抗体の投与は、がんの部位(例えば、固形腫瘍がん内)で、T細胞、特に細胞傷害性T細胞の数の増加をもたらす。
【0134】
一態様では、Wntシグナル伝達阻害剤の投与は、がんによるCEA発現の増加をもたらす。一態様では、前記増加は、がん細胞上でのCEA発現レベル(細胞毎に発現されるCEA分子の数)の増加である。一態様では、前記増加は、CEAを発現するがん細胞の数(又は割合)の増加である。CEAの発現は、例えば、免疫組織化学(IHC)若しくはフローサイトメトリー法によって、又はCEA mRNAの定量化(例えば、RT-PCRによる)によって、決定され得る。
【0135】
上記又は本明細書中のCEA CD3二重特異性抗体、方法、使用、又はキットのいくつかの態様では、CEA CD3二重特異性抗体及びWnt阻害剤の治療又は投与は、個体における応答をもたらし得る。いくつかの態様では、応答は、完全奏功であり得る。いくつかの態様では、応答は、治療の中止後の持続的応答であり得る。いくつかの態様では、応答は、治療の中止後に持続される完全奏功であり得る。他の態様では、応答は、部分奏功であり得る。いくつかの態様では、応答は、治療の中止後に持続される部分応答であり得る。いくつかの態様では、応答は、CEA CD3二重特異性抗体単独(すなわち、Wntシグナル伝達阻害剤不使用)の治療又は投与と比較して改善され得る。
【0136】
いくつかの態様では、CEA CD3二重特異性抗体及びWnt阻害剤の治療及び投与は、CEA CD3二重特異性抗体単独(すなわち、Wntシグナル伝達阻害剤不使用)で治療された対応する患者集団と比較して、患者集団の奏効率を増加させ得る。
【0137】
本発明の併用療法は、CEA CD3二重特異性抗体及びWntシグナル伝達阻害剤の投与を含む。
【0138】
本明細書で使用される場合、「組み合わせ(併用)」(及びその文法的変化形、例えば「組み合わせる」又は「組み合わせること」)は、本発明によるCEA CD3二重特異性抗体とWntシグナル伝達阻害剤の組み合わせを包含し、ここで、CEA CD3二重特異性抗体及びWntシグナル伝達阻害剤が同時に体内で生物学的効果を発揮することができることを条件として、CEA CD3二重特異性抗体及びWntシグナル伝達阻害剤は、同じ又は異なる容器に入っており、同じ又は異なる薬学的調合物に入っており、一緒に又は別々に投与され、同時に又は連続して、任意の順序で投与され、同じ又は異なる経路によって投与される。例えば、本発明によるCEA CD3二重特異性抗体とWntシグナル伝達阻害剤を「組み合わせること」は、特定の薬学的調合物中のCEA CD3二重特異性抗体を初めに投与し、続いて、別の薬学的調合物中のWntシグナル伝達阻害剤を投与すること、又はその逆を意味し得る。
【0139】
CEA CD3二重特異性抗体及びWntシグナル伝達阻害剤は、当該技術分野で知られる任意の適切なやり方で投与され得る。一態様では、CEA CD3二重特異性抗体及びWntシグナル伝達阻害剤は、連続して(異なる時間に)投与される。別の態様では、CEA CD3二重特異性抗体及びWntシグナル伝達阻害剤は、同時に(同じ時間に)投与される。理論に縛られることを望むものではないが、Wntシグナル伝達阻害剤をCEA CD3二重特異性抗体より前に及び/又はそれと同時に投与することが有利であり得る。いくつかの態様では、CEA CD3二重特異性抗体は、Wntシグナル伝達阻害剤とは別個の組成物に入っている。いくつかの態様では、CEA CD3二重特異性抗体は、Wntシグナル伝達阻害剤と同じ組成物に入っている。
【0140】
CEA CD3二重特異性抗体及びWntシグナル伝達阻害剤は、任意の適切な経路で投与されてよく、同じ投与経路によって又は異なる投与経路によって投与されてもよい。いくつかの態様では、CEA CD3二重特異性抗体は、静脈内、筋肉内、皮下、局所、経口、経皮、腹腔内、眼窩内、移植により、吸入により、髄腔内、脳室内、又は鼻腔内で投与される。特定の態様では、CEA CD3二重特異性抗体は、静脈内で投与される。いくつかの態様では、Wntシグナル伝達阻害剤は、静脈内、筋肉内、皮下、局所、経口、経皮、腹腔内、眼窩内、移植により、吸入により、髄腔内、脳室内、又は鼻腔内で投与される。有効量のCEA CD3二重特異性抗体及びWntシグナル伝達阻害剤が、疾患の予防又は治療のために投与され得る。治療される疾患の種類、CEA CD3二重特異性抗体及びWntシグナル伝達阻害剤の種類、疾患の重症度及び経過、個体の臨床状態、個体の病歴及び治療への応答、並びに主治医の裁量に基づいて、CEA CD3二重特異性抗体及び/又はWntシグナル伝達阻害剤の適切な投与経路又は投与量が決定され得る。投薬は、任意の適切な経路によるもの、例えば、一部には、投与が一時的であるか慢性的であるかに依存して、注射によって、例えば、静脈又は皮下への注射によるものであってもよい。単回投与または様々な時点にわたる複数回投与、ボーラス投与、およびパルス注入を含むが、これらに限定されない様々な投薬スケジュールが、本明細書では企図される。CEA CD3二重特異性抗体及びWntシグナル伝達阻害剤は、一度に又は一連の治療にわたって患者に適切に投与される。
【0141】
本発明の組み合わせは、単独で、又は他の薬剤と組み合わせて治療に用いることができる。例えば、本発明の組み合わせは、少なくとも1つの追加の治療剤と共投与され得る。ある態様では、追加の治療剤は、抗がん剤、例えば、化学療法剤、腫瘍細胞増殖の阻害剤、又は腫瘍細胞アポトーシスのアクチベーターである。特定の態様では、追加の治療剤は、アテゾリズマブなどのPD-L1結合アンタゴニストである。
【0142】
上記又は本明細書中のCEA CD3二重特異性抗体、方法、使用、又はキットのいくつかの態様では、治療は、PD-L1結合アンタゴニスト、特にアテゾリズマブの投与をさらに含む。
【0143】
本発明の組み合わせは、放射線療法と組み合わせることもできる。
【0144】
本明細書で提供されるキットは、典型的には、一又は複数の容器と、容器上若しくは容器に関連するラベル又は添付文書とを含む。適切な容器としては、例えば、瓶、バイアル、シリンジ、静注溶液袋などが挙げられる。容器は、ガラス又はプラスチックなどの種々の材料から作られてもよい。容器は、それ自体で、又は、状態を治療、予防、及び/又は診断するのに有効な別の組成物と組み合わせられる組成物を保持し、無菌アクセスポートを有していてもよい(例えば、容器は、静脈内溶液バッグ又は皮下注射針によって穿孔可能なストッパーを有するバイアルであってもよい)。組成物中の少なくとも一つの活性剤は、本発明の組み合わせに使用されるCEA CD3二重特異性抗体である。別の活性剤は、本発明の組み合わせに使用されるWntシグナル伝達阻害剤であり、これは、二重特異性抗体のように同じ組成物及び容器に入っていてもよく、又は異なる組成物及び容器で提供されていてもよい。ラベル又は添付文書は、本組成物ががん等の選択された状態を治療するために使用されることを示す。
【0145】
一態様では、本発明は、同じ又は別個の容器に(a)CEA CD3二重特異性抗体、及び(b)Wntシグナル伝達阻害剤を含み、場合によっては(c)がんを治療するための方法としての組み合わせ治療の使用を指示する印刷された指示書を含む添付文書をさらに含む、がんの治療を目的とするキットを提供する。さらに、キットは、(a)中に組成物が含有されている第1の容器であって、組成物がCEA CD3二重特異性抗体を含む、第1の容器と、(b)中に組成物が含有されている第2の容器であって、組成物がWntシグナル伝達阻害剤を含む、第2の容器と、場合によっては、(c)中に組成物が含有されている第3の容器であって、組成物が細胞傷害性薬剤あるいは治療剤をさらに含む、第3の容器とを含み得る。一態様では、さらなる治療剤は、PD-L1結合アンタゴニスト、特にアテゾリズマブである。本発明のこれらの態様におけるキットは、組成物ががんを治療するために使用することができることを示す添付文書をさらに含み得る。代替的又は追加的に、本キットは、注射用静菌水(BWFI)、リン酸緩衝食塩水、リンガー溶液、及びデキストロース溶液等の薬学的に許容される緩衝液を含む第3(又は第4)の容器をさらに含んでもよい。他の緩衝剤、希釈剤、フィルタ、針、注射器を含む、商業的及び使用者の観点から望ましい他の材料をさらに含んでいてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0146】
図1】10日間の共培養の間にシビサタマブ又は非標的コントロール抗体で治療された8人の患者由来の、さまざまな細胞表面CEA発現レベルを有する、結腸直腸がんオルガノイド(PDO)株の成長曲線。各PDOは、2:1のエフェクター対標的(E:T)比で3人の異なる同種異系ドナーからのT細胞で培養された。平均を示す。
図2A】8つのPDOのそれぞれのCEAhi細胞の割合と、図1のアッセイエンドポイントでシビサタマブと非標的コントロール抗体で達成された増殖低下との比較。
図2B】すべてのPDOの増殖低下とCEAhi細胞の割合の相関分析。線形回帰直線と、有意差検定のピアソン相関係数及びp値が示されている。
図3】タンキラーゼ阻害剤での治療あり及び治療なしの2つの結腸直腸がんオルガノイド株の細胞表面CEA発現。
図4】CD8 T細胞とシビサタマブ又は標的コントロール抗体の存在下、2μMタンキラーゼ阻害剤あり又はなしで培養されたときの7日間にわたる結腸直腸がんオルガノイド株の増殖(前治療又は継続治療のいずれかとして提供)。
図5】CD8 T細胞とシビサタマブ又は標的コントロール抗体の存在下、10μMタンキラーゼ阻害剤あり又はなしで培養されたときの7日間にわたる結腸直腸がんオルガノイド株の増殖(前治療として提供)。
【実施例
【0147】
以下は、本発明の方法及び組成物の例である。上に提供された一般的な説明を考慮すると、種々の他の態様が実施されてもよいことが理解される。
【0148】
実施例1.同種異系T細胞共培養アッセイにおけるPDOのシビサタマブ感受性
最近開発されたプロトコールは、CRC生検からのいわゆる患者由来オルガノイド(PDO)としてのがん細胞の拡大と長期増殖を可能にする(Sato et al.,Gastroenterology.2011;141(5):1762-72)。PDOは、数十年前に確立され、プラスチック上での長期培養中に変化を遂げたがん細胞株よりも、患者の腫瘍の生物学的特性をよりよく表すことが示唆されてきた。患者からモデル系を迅速に生成する機能により、病期と以前の治療歴を、新薬が臨床試験されている患者のものと照合することができる。
【0149】
患者由来の結腸直腸がんオルガノイド(PDO)のシビサタマブ免疫療法に対する感受性を評価するために、さまざまな細胞表面CEA発現レベルを有する、8人の患者由来の結腸直腸がんオルガノイド株を生成し、同種異系CD8 T細胞との10日間の共培養中にシビサタマブ(20nM)又は非標的コントロール抗体(20nM)で治療した。磁気ビーズ選別によってCD8 T細胞を同種異系の健康なドナーの末梢血単核細胞(PBMC)から単離し、IL2及びCD3/CD28ビーズで、7-14日間in vitroで拡大した。その後、GFPタグ付けCRC PDO細胞を96ウェルプレートに播種し、T細胞細胞を翌日に添加し、共培養物を2-3日毎に自動化96ウェルプレート蛍光顕微鏡で画像化した。2:1及び5:1のエフェクター対標的(E:T)比を試験し、2:1のE:Tは、CEAhi PDO CRC-01の増殖を効果的に抑制し、ネガティブコントロールとして使用された非標的抗体(DP47-TCB)の存在下では活性を示さなかったため、それを後続の実験のために選択した。あらゆる抗体を伴わないCD8 T細胞との共培養物が、アロ反応性ドナーT細胞の同定を可能にするためのさらなるコントロールとして含まれた。T細胞がアロ反応性を示す(10回の実験に1回未満で観察された)共培養物を分析から除外し、各PDO株が3人の独立した同種異系ドナーからのCD8 T細胞で試験されるまでアッセイを繰り返した。
【0150】
8つのPDO株:3つのCEAhiPDO(すなわち、主にCEAhi細胞を含有する;CRC-01、CRC-05、CRC-07)、混合CEA発現を有する4つのPDO(すなわち、CEAhi及びCEAlo細胞両方の大きな亜集団を含有する;CRC-02、CRC-03、CRC-04、CRC-08)、及び1つのCEAloPDO(すなわち、主にCEAlo細胞を含有する;CRC-06)を試験した。
【0151】
3つのCEAhiPDOのすべては、CD8 T細胞及びシビサタマブを用いた治療に非常に感受性であったのに対して、CEAloPDO CRC-06の大部分は、予想通り、これらの実験条件下で耐性を示した(図1)。当社のアッセイは、7-10日間の期間にわたるシビサタマブの影響を評価し、CEAhiPDOにおいて89-100%の増殖阻害を示した。このことは、このアッセイでT細胞を抗原陽性細胞にリダイレクトするシビサタマブの高い有効性を裏付ける。
【0152】
我々は、次に、混合CEA発現を有する4つのPDOを試験した。これらのそれぞれは、シビサタマブ及びT細胞を用いて治療したにも関わらず、コントロールと比較してがん細胞増殖速度が穏やかに低下しただけで、継続して増殖した(図1及び図2A)。よって、混合CEA発現を有するPDOは、このCEA標的免疫療法に対して部分的奏功を示しただけであった。達成された増殖低下と各PDOのCEAhiがん細胞の割合とのピアソン相関分析は、オルガノイド株内で高いCEA発現を示す細胞の割合とそのシビサタマブに対する感受性との強力で有意な相関関係を示した(r=0.9152、95% CI:0.593から0.9848;p=0.0014;図2B)。
【0153】
これは、細胞表面上に高レベルのCEAを均一に発現するオルガノイドがシビサタマブに対して感受性であり、主にCEA低細胞を有するオルガノイドは耐性があり、二峰性/混合CEA発現を有するオルガノイドは限られた感受性しか示さないことを実証している。
【0154】
実施例2.Wntシグナル伝達阻害剤での治療あり及び治療なしの2つの結腸直腸がんオルガノイド株の細胞表面CEA発現。
我々は3つのPDOからCEAhi細胞及びCEAlo細胞をフローソートし、RNA発現分析を実施して、CEA発現を調節し、不均一性をもたらすメカニズムを調査した。遺伝子セット濃縮分析(GSEA)(Subramanian et al.,Proc Natl Acad Sci USA.2005/09/30.2005 Oct 25;102(43):15545-50)を適用して、CEA遺伝子発現レベルに関連する潜在的な分子経路を特定した。WNT/β-カテニンシグナル伝達は、多重検定の修正後に有意に濃縮されたシグネチャであり、CEAlo集団で上方制御された(データは示さず)。WNT/β-カテニンシグナル伝達経路は、CRCの大部分で遺伝的に活性化され、最も頻繁にはAPC腫瘍抑制遺伝子の変異及びヘテロ接合性の喪失を通して、まれにRNF43又はβ-カテニン/CTNNB1自体などのWNTシグナル伝達の他の調節因子の変異を通して活性化される(Network CGA,Nature.2012 Jul 18;487(7407):330-7;Giannakis et al.,Nat Genet.2014 Dec;46(12):1264-6)。WNT/β-カテニン経路の高い活性及びCEA発現の不存在は、腸幹細胞が存在する腸陰窩底部の特徴である(Jothy et al.,Am J Pathol.1993 Jul;143(1):250-7;Barker et al.,Nat Rev Mol Cell Biol.2013 Dec 11;15:19)。さらに、WNT/β-カテニン経路の高い活性は、結腸がん幹細胞の特徴でもある(de Sousa et al.,Clin Cancer Res.2011 Feb 15;17(4):647 LP-653)。
【0155】
我々は、WNT/β-カテニン経路の薬理学的阻害がこれらのデータによる予測通りにCEA発現を強化するかどうかを調査した。混合CEA発現を有する2つのPDO株を、WNTシグナル伝達阻害剤:β-カテニン破壊複合体を安定化することにより下流のWNT/β-カテニン経路を阻害するタンキラーゼ阻害剤化合物21で治療した(Elliott et al.,Med Chem Comm.2015;6(9):1687-92;Mariotti et al.,Br J Pharmacol.2017;174(24):4611-36)。Wntシグナル伝達阻害剤は、両方のPDOのCEA発現及びCEAhi亜集団を増加させた(図3)。
【0156】
CEA発現及び混合CEA発現を有するPDOのCEAhi亜集団の増加は、別のシグナル伝達阻害剤、WNTリガンド分泌を防止し、したがってオートクリン及びパラクリンWNT受容体の活性化を防止するporcupine阻害剤LGK-974でも見られた(結果は示さず)。
【0157】
これらの結果は、CRC PDOにおけるCEA発現の調節因子としてのWNT/β-カテニンシグナル伝達の役割を裏付けた。
【0158】
実施例3.シビサタマブとタンキラーゼ阻害剤の併用療法
我々は、シビサタマブとタンキラーゼ阻害剤化合物21の組み合わせで治療されたときの、混合CEA発現を有する2つのPDO株(上記実験1と比較した長期培養後のCRC-08及びCRC-06)の増殖を調査した。
【0159】
CD8 T細胞と20nMのシビサタマブ又は非標的コントロール抗体(DP47-TCB)の存在下、7日間にわたってPDOを培養した。共培養は、a)タンキラーゼ阻害剤を用いず、又はb)T細胞が添加されたときに除去されたタンキラーゼ阻害剤を用いた前治療の48時間後、又はc)タンキラーゼ阻害剤の継続的な曝露のためにT細胞が添加されたときに補充されたタンキラーゼ阻害剤を用いた前治療の48時間後、のいずれかで実施した。図4は、タンキラーゼ阻害剤の2μM濃度の結果を示し、図5は、タンキラーゼ阻害剤の10μM濃度の結果の結果を示す(アッセイ期間全体にわたる10μMタンキラーゼ阻害剤の継続的な投与はがん細胞に毒性であり、データは示していない)。GFP標識結腸直腸がんオルガノイド培養物のコンフルエンスを7日間顕微鏡で追跡し、その後T細胞及び抗体を添加した。非標的コントロールの存在下での播種密度から7日目までの増殖を100%と定義した。末梢血単核細胞を抽出し、続いてIL-2及びCD3ビーズで刺激し、in vitroで拡大することによって、CD8 T細胞を同種異系の健康なドナーから生成した。実験を3回実施した。示される結果は平均である。エラーバーは1つの標準偏差を表す。これらのデータは、タンキラーゼ阻害剤治療が、用量及び時間に依存してシビサタマブに対する結腸直腸がんスフェロイド培養物の感受性を増加させることを実証している。
【0160】
実施例4.材料及び方法
ヒトサンプル及び細胞株
少なくとも2つの化学療法の前のラインで治療された転移性結腸直腸がんからの画像誘導コア生検は、Prospect C and Prospect R試験(主任研究員:D. Cunningham,UK national ethics committee承認番号:それぞれ、12/LO/0914及び14/LO/1812)から得られた。FOrMAT試験から未治療の原発性結腸直腸がんからの1つの内視鏡生検を得た(主任研究員:N. Starling,UK national ethics committee承認番号13/LO/1274)。試験をRoyal Marsden Hospitalで実行し、すべての患者に試験への参加前に書面によるインフォームドコンセントを提供した。健康なドナーからの匿名のバフィーコートを、地元の血液バンク(National ethics committee承認番号06/Q1206/106)から、又はBarts Cancer Institute(主任研究員:T. Powles、UK national ethics committee承認番号:13/EM/0327)のImproving Outcomes in Cancerバイオバンキングプロトコールを通じて、書面によるインフォームドコンセントを提供する個人から入手した。DLD-1及びMKN-45細胞株を、American Type Culture Collectionから入手し、10% FBS、1X Glutamax、及び100単位/mlのペニシリン/ストレプトマイシンが補充されたRPMI 1640培地(Thermo Fisher)中で維持した。
【0161】
患者由来オルガノイドの生成
CRC-01、CRC-02、及びCRC-06からのPDO培養物を、粗い切断とそれに続く成長因子還元マトリゲル(Corning)への包埋によってコア生検から直接確立した。CRC-03、CRC-04、CRC-05、CRC-07、及びCRC-08から非常に小さい生検断片が入手可能であった。これらを初めに、Institute of Cancer ResearchのTumour Profiling Unit(Home office licence number PD498FF8D)によって、メスCD1ヌードマウスの皮下又は腎臓被膜下に移植した。腫瘍が成長し、腫瘍が除去され、Human Tumour Dissociation Kit(Miltenyi Biotec)を使用してgentleMAX Octo解離器で解離されたら、マウスを淘汰した。Mouse Cell Depletion Kit(Miltenyi Biotec)を使用してマウス細胞を磁気的に除去し、精製したヒト腫瘍細胞を成長因子還元マトリゲル中に包埋した。1X Glutamax、100単位/mlのペニシリン/ストレプトマイシン、1X B27、1X N2、10mM HEPES(すべてThermo Fisher)、1mM N-アセチル システイン、10mM ニコチンアミド、10μM SB202190、10nM ガストリン、10μM Y27632(Sigma Aldrich)、10nM プロスタグランジン E2、500nM A-83-01、100ng/ml Wnt3a(Biotechne)、50ng/ml EGF(Merck)、1μg/ml R-Spondin、100ng/ml Noggin、及び100ng/ml FGF10(Peprotech)が補充されたAdvanced DMEM/F12培地を使用して、PDOを記載されるようにマトリゲル中で拡大させた(Sato et al.,Gastroenterology.2011;141(5):1762-72)。マトリゲルマトリックス中で少なくとも2ケ月継続的に成長させた後(最低12継代)、PDOを初めにeGFPタグ付けし(以下を参照)、その後、20%ウシ胎児血清(FBS)、1XGlutamax、2% Matrigelを含有する100単位/mlのペニシリン/ストレプトマイシンを含むDMEM/F12(Sigma Aldrich)中で成長するように適合させた。PDO培養物を、これらの条件で維持し、T細胞共培養アッセイ及びFACS分析の必要に応じて使用した。各PDO株で結腸がんドライバー遺伝子の遺伝子分析を実施し、これらは、一致した腫瘍生検で同定された変異と同一であった。
【0162】
核eGFPでのPDOの標識
eGFPタグ付けヒストン2Bコンストラクト(pLKO.1-LV-H2B-GFP)(Beronja et al.,Nat Med.2010 Jul;16(7):821-7)を導入することによりPDOの核を標識し、自動顕微鏡による細胞の定量化を可能にした。ウイルス生成のために、10%FBS、1XGlutamax、及び100単位/mlのペニシリン/ストレプトマイシンが補充されたDMEM中でHEK-293T細胞を培養した。TransIT-293トランスフェクション試薬(Mirus)を使用して、9μgのpLKO.1-LV-H2B-GFP、2.25μgのpsPAX2パッケージングプラスミド(Didier Trono;Addgene plasmid #12260;http://n2t.net/addgene:12260;RRID:Addgene_12260から贈与)、及び0.75ugのpMD2.Gエンベローププラスミド(Didier Trono;Addgene plasmid #12259;http://n2t.net/addgene:12259;RRID:Addgene_12259から贈与)を含有するプラスミド混合物を一晩トランスフェクションすることにより、レンチウイルス粒子を生成した。翌日、細胞の培地を交換し、24時間後にウイルスを採取し、使用前に0.45uMフィルタに通した。レンチウイルス導入のために、マトリゲル中の培養物からPDOを採取し、TrypLE Express(Thermo Fisher)を使用して単一の細胞に解離し、ペレット成形した。ウイルス及び1nM ポリブレン(Sigma Aldrich)を添加した培地にペレットを再懸濁し、300gで1時間遠心分離した。培地を交換する前に、サンプルを再懸濁し、6時間から一晩の間、培養液に播種した。回収及び拡大の後、eGFP陽性細胞をフローサイトメトリーによってソートし、使用前にさらに拡大させた。
【0163】
フローサイトメトリーによる表面CEA発現分析
酵素非含有のCell Dissociation Buffer(Thermo Fisher)を使用して細胞株を採取し、TrypLE Express(Gibco)を使用してPDOを採取した。2x10細胞を、20nMのヒト抗ヒトCEA抗体CH1A1A(Roche)及び25ug/mlのR-Phycoerythrinコンジュゲート二次抗体AffiniPureF(ab’)2 Fragment Goat Anti-Human IgG、Fcγ Fragment Specific(Stratech)で染色した。死細胞の排除のためにDRAQ7(Biostatus)染色を含めた。Sony SH800フローサイトメーターでCEA発現を分析した。混合CEA発現を伴うPDOの高CEA集団と低CEA集団の間のトラフにゲート境界を設定し、すべてのサンプルで同一のゲートを使用した。CEAhi集団とCEAlo集団の割合、及び平均蛍光強度(MFI)を各PDOについて計算した。
【0164】
末梢血単核細胞からのCD8 T細胞の拡大
末梢血単核細胞(PBMC)を、製造業者のプロトコールに従って(GE Healthcare)Ficoll-Paqueを用いてバフィーコートから単離した。CD8 T細胞を、Human CD8 Dynabeads FlowComp(Thermo Fisher)を用いてPBMCから単離した。CD8 T細胞の純度をフローサイトメトリー(Alexa Fluor 488抗ヒトCD8、Sony Biotechnology)によって評価し、製造業者のプロトコールに従って、10% FBS(Biosera)、1X Glutamax、100単位のペニシリン/ストレプトマイシン、及び30U/mL IL-2(Sigma Aldrich)が補充されたRPMI 1640でのCD3/CD28 Dynabeads Human T-Activatorキット(Thermo Fisher)による拡大には、少なくとも90%のCD8陽性細胞を含む集団のみを使用した。
【0165】
PDOとCD8 T細胞の共培養
TrypLE ExpressでPDOを採取し、10% FBSを含むDMEM/F12 Ham培地(Sigma Aldrich)で中和した。細胞を70μmフィルタを通して濾過し、カウントし、10% FBS(Biosera)、1XGlutamax、及び100単位のペニシリン-ストレプトマイシンが補充されたフェノールレッド非含有RPMI培地(Thermo Fisher)に再懸濁した。第0日に、96ウェルプレート(Corning Special Optics Microplate)の1ウェルにつき5000個の腫瘍細胞を播種した。20nMのシビサタマブ又は20nMの非標的ネガティブコントロール抗体DP47-TCB(どちらもRocheにより提供)を用いて、示されたエフェクター対標的(E:T)比でCD8 T細胞を第1日に添加した。CD8 T細胞を含まない腫瘍細胞及び抗体を含まない腫瘍細胞も、コントロールとして含めた。すべての条件を3回播種し、8つのPDOのそれぞれについて少なくとも3人の異なる健康なドナーを試験した。
【0166】
免疫蛍光顕微鏡法によるがん細胞増殖の評価
Celigo Imaging Cytometer(Nexcelom Bioscience)でGFPコンフルエンスアプリケーションを使用して、10日間の期間にわたってGFPコンフルエンスを48時間-72時間毎に定量化した。GFPコンフルエンス分析は、共培養物中のT細胞を誤ってカウントすることなく、複数の時点にわたって、GFP陽性PDO細胞の増殖を追跡することが可能であった。コンフルエンス分析は、さらに、PDO中心などのがん細胞密度の高い領域において不正確な結果をもたらした細胞核をカウントすることよりも優れていた。スフェロイド直径の測定に対するコンフルエンス分析の主な利点は、非常に変化しやすい形状を示すPDOの増殖でさえも追跡する能力である。3人の異なる健康なドナーからのCD8 T細胞を用いて成長曲線を生成した。PDOがおそらく増殖培地の枯渇が原因である増殖遅延を示す前に、第7日から第9日の間に取られた測定値から増殖低下の割合を計算した。増殖低下の割合を計算するために、第1日のコンフルエンスを差し引き、エンドポイントのDP47-TCBコントロール抗体で処置されたウェルのコンフルエンスを100%に設定した。
【0167】
Wnt/β-カテニン経路阻害アッセイ
10 PDO細胞/ウェルを12ウェルプレートに播種し、一晩接着させた。培地を交換し、DMSOコントロール又は10μM タンキラーゼ阻害剤(化合物21)(Elliott et al.,Med Chem Comm.2015;6(9):1687-92)又は10μM porcupine阻害剤(LGK-974、SelleckChem)で3日間処置した。TrypLE Expressを使用して細胞を採取し、CEAに関してCH1A1A一次抗体及びR-フィコエリスリンコンジュゲート二次抗体で染色し、上記のようにFACSによって分析した。
【0168】
統計分析
GraphPad Prismソフトウェアを使用してピアソン相関分析及び対応t検定を実施した。すべてのp値は両側にあった。5000の遺伝子セット置換を使用するGSEAソフトウェアV3.0及びHallmarks V6.2遺伝子セットコレクションを用いて遺伝子セット濃縮分析を実施した(Subramanian et al.,Proc Natl Acad Sci USA.2005/09/30.2005 Oct 25;102(43):15545-50)。
【0169】
上述の発明を、理解を明確にする目的で、説明および実施例によって、ある程度詳細に説明してきたが、説明および実施例は、本発明の範囲を限定するものと解釈すべきではない。本明細書に引用される全ての特許および科学文献の開示は、参照によりその全体が明示的に組み込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
2022527565000001.app
【国際調査報告】