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特表2022-527597筋肉発現のためのハイブリッドプロモーター
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-02
(54)【発明の名称】筋肉発現のためのハイブリッドプロモーター
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/11 20060101AFI20220526BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20220526BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20220526BHJP
   C12N 15/67 20060101ALI20220526BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20220526BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20220526BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220526BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220526BHJP
   C12N 15/86 20060101ALI20220526BHJP
【FI】
C12N15/11 Z
C12N15/864 100Z
C12N15/63 Z ZNA
C12N15/67 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N15/86 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021559863
(86)(22)【出願日】2020-04-07
(85)【翻訳文提出日】2021-12-07
(86)【国際出願番号】 EP2020059919
(87)【国際公開番号】W WO2020208032
(87)【国際公開日】2020-10-15
(31)【優先権主張番号】19305455.8
(32)【優先日】2019-04-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503197304
【氏名又は名称】ジェネトン
(71)【出願人】
【識別番号】507241492
【氏名又は名称】アンスティトゥート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシャルシュ・メディカル・(インセルム)
(71)【出願人】
【識別番号】518059934
【氏名又は名称】ソルボンヌ・ユニヴェルシテ
【氏名又は名称原語表記】SORBONNE UNIVERSITE
(71)【出願人】
【識別番号】503119487
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・デヴリ・ヴァル・デソンヌ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジュセッペ・ロンツィッティ
(72)【発明者】
【氏名】パトリス・ヴィダル
(72)【発明者】
【氏名】フェデリコ・ミンゴッツィ
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA91X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA31
4B065CA44
4B065CA46
(57)【要約】
本発明は、筋肉における遺伝子発現を推進するハイブリッドプロモーターに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筋肉選択的プロモーターに作動可能に連結された1種又は複数の肝臓選択的エンハンサーを含む核酸分子であって、
- 肝臓選択的エンハンサーが、配列番号1、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32及び配列番号33からなる群の中から選択される配列、配列番号1、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32及び配列番号33から選択される配列のいずれか1つと80%の同一性を有する機能性変異体、並びにその機能的断片を含む若しくはからなり、又は
- 複数の肝臓選択的エンハンサーが、配列番号1、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32及び配列番号33からなる群の中から選択される配列、配列番号1、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32及び配列番号33から選択される配列のいずれか1つと80%の同一性を有する機能性変異体、並びにその機能的断片を含む若しくはからなる少なくとも1つの肝臓選択的エンハンサーを含む、核酸分子。
【請求項2】
複数の肝臓選択的エンハンサーのすべての肝臓選択的エンハンサーが同じ配列を有する、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項3】
複数の肝臓選択的エンハンサーのうちの少なくとも2つの肝臓選択的エンハンサーが、異なる配列を有する、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項4】
複数の肝臓選択的エンハンサーが、少なくとも2つの肝臓選択的エンハンサーを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の核酸分子。
【請求項5】
複数の肝臓選択的エンハンサーが、3つの肝臓選択的エンハンサーを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の核酸分子。
【請求項6】
肝臓選択的エンハンサーの配列が、配列番号1からなるか、又は配列番号1と少なくとも80%同一の配列を有する機能性変異体である、請求項1から5のいずれか一項に記載の核酸分子。
【請求項7】
肝臓選択的エンハンサーの配列が、配列番号30からなるか、又は配列番号30と少なくとも80%同一の配列を有する機能性変異体である、請求項1から5のいずれか一項に記載の核酸分子。
【請求項8】
プロモーターがspC5-12プロモーターであり、特にspC5-12プロモーターが、配列番号2、3若しくは4に示されている配列からなるか、又は配列番号2、3若しくは4と少なくとも80%同一の配列を有する機能性変異体である、請求項1から7のいずれか一項に記載の核酸分子。
【請求項9】
プロモーターがCK6プロモーターであり、特にCK6プロモーターが、配列番号6に示されている配列からなるか、又は配列番号6と少なくとも80%同一の配列を有する機能性変異体である、請求項1から7のいずれか一項に記載の核酸分子。
【請求項10】
プロモーターがCK8プロモーターであり、特にCK8プロモーターが、配列番号7に示されている配列からなるか、又は配列番号7と少なくとも80%同一の配列を有する機能性変異体である、請求項1から7のいずれか一項に記載の核酸分子。
【請求項11】
プロモーターがACTA1プロモーターであり、特にACTA1プロモーターが、配列番号8に示されている配列からなるか、又は配列番号8と少なくとも80%同一の配列を有する機能性変異体である、請求項1から7のいずれか一項に記載の核酸分子。
【請求項12】
肝臓選択的エンハンサー、又は複数の肝臓選択的エンハンサーと、筋肉選択的プロモーターとの間に位置する筋肉選択的エンハンサーを更に含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の核酸分子。
【請求項13】
目的の導入遺伝子に作動可能に連結された、請求項1から11のいずれか一項に記載の核酸分子を含む、発現カセット。
【請求項14】
請求項13に記載の発現カセットを含むベクターであって、特にプラスミド又はウイルスベクターである、ベクター。
【請求項15】
前記ウイルスベクターがアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである、請求項14に記載のベクター。
【請求項16】
請求項13に記載の発現カセットを含む単離した組換え細胞。
【請求項17】
医薬として使用するための、請求項13に記載の発現カセット、請求項14若しくは15に記載のベクター、又は請求項16に記載の細胞。
【請求項18】
神経筋障害の処置に使用するための、請求項13に記載の発現カセット、請求項14若しくは15に記載のベクター、又は請求項16に記載の細胞。
【請求項19】
神経筋障害が、筋ジストロフィー(例えば、筋緊張性ジストロフィー(スタイナート病)、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、ベッカー型筋ジストロフィー、肢帯筋ジストロフィー、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー、先天性筋ジストロフィー、眼咽頭筋ジストロフィー、遠位筋ジストロフィー、エメリードレフュス型筋ジストロフィー、運動ニューロン疾患(例えば、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄性筋萎縮症(乳児進行性脊髄性筋萎縮症(1型、ウェルドニッヒホフマン病)、中間型脊髄性筋萎縮症(2型)、若年性脊髄性筋萎縮症(3型、クーゲルベルクウェランダー病)、成人脊髄性筋萎縮症(4型))、球脊髄性筋萎縮症(ケネディー病)、炎症性ミオパシー(例えば、多発性筋炎皮膚筋炎、封入体筋炎)、神経筋接合部の疾患(例えば、重症筋無力症、ランバートイートン(筋無力症)症候群、先天性筋無力症候群)、末梢神経の疾患(例えば、シャルコーマリートゥース病、フリードライヒ運動失調症、デジェリンソッタス病)、筋肉の代謝性疾患(例えば、ホスホリラーゼ欠損症(マックアードル病)、酸性マルターゼ欠損症(ポンペ病)、ホスホフルクトキナーゼ欠損症(垂井病)、脱分枝酵素欠損症(コリ病又はフォーブズ病)、ミトコンドリアミオパシー、カルニチン欠損症、カルニチンパルミチルトランスフェラーゼ欠損症、ホスホグリセリン酸キナーゼ欠損症、ホスホグリセリン酸ムターゼ欠損症、乳酸デヒドロゲナーゼ欠損症、ミオアデニル酸デアミナーゼ欠損症)、内分泌異常によるミオパシー(例えば、甲状腺機能亢進性ミオパシー、甲状腺機能低下性ミオパシー)、及び他のミオパシー(例えば、先天性ミオトニー、先天性パラミオトニア、セントラルコア病、ネマリンミオパシー、筋細管ミオパシー、周期性四肢麻痺)からなる群から選択される、請求項18に記載の使用のための、請求項13に記載の発現カセット、請求項14若しくは15に記載のベクター、又は請求項16に記載の細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋肉において遺伝子発現を推進するためのハイブリッドプロモーターに関する。本発明は、前記ハイブリッドプロモーターを含有する発現カセット及びベクターに更に関する。これらハイブリッドプロモーターを実行する方法、特に遺伝子療法の方法もまた本明細書で開示されている。
【背景技術】
【0002】
神経筋障害は、in vivoベースの遺伝子療法に対する主な難題の1つを代表するものである。しかし、所望の標的組織における不十分な導入遺伝子発現及び抗導入遺伝子免疫は、依然として多くの疾患のための遺伝子療法の成功を達成する上で大きなハードルとなっている。したがって、目的の細胞への導入遺伝子の強い発現を、ただし、ベクターの潜在的毒性とベクターに対する免疫応答との両方を阻止するために、低用量のベクターで提供する必要性が依然として存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許出願EP17306448.6
【特許文献2】特許出願EP17306447.8
【特許文献3】EP18305399
【特許文献4】WO2005/118792
【特許文献5】出願PCT/2017/072942
【特許文献6】出願PCT/EP2017/072945
【特許文献7】出願PCT/EP2017/072944
【特許文献8】EP18306088
【特許文献9】WO2018162748
【特許文献10】WO2018046772
【特許文献11】WO2018046774
【特許文献12】WO2018046775
【特許文献13】WO2015158924
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Carrieriら、2012年、Nature 491巻: 454~7頁
【非特許文献2】Zucchelliら、2015年、RNA Biol、12巻(8号):771~9頁
【非特許文献3】Indrieriら、2016年、Sci Rep、6巻: 27315頁
【非特許文献4】Chuahら、Molecule Therapy、2014年、22巻、9号、1605頁
【非特許文献5】Wangら、Gene Therapy、15巻、1489~1499頁(2008年)
【非特許文献6】Lingら、2016年7月18日、Hum Gene Ther Methods.
【非特許文献7】Vercauterenら、2016年、Mol. Ther.、24巻(6号)、1042頁
【非特許文献8】Rosarioら、2016年、Mol Ther Methods Clin Dev. 3、16026頁
【非特許文献9】McCartyら、Gene Therapy、2003年
【非特許文献10】Wu Z.ら、Mol Ther.、2010年、18巻(1号): 80~86頁
【非特許文献11】Lai Y.ら、Mol Ther.、2010年、18巻(1号): 75~79頁
【非特許文献12】Wang Y.ら, Hum Gene Ther Methods、2012年、23巻(4号): 225~33頁
【非特許文献13】「Remington's Pharmaceutical Sciences」、E. W. Martin
【非特許文献14】Chuahら、Molecule Therapy, 2014年、22巻、9号、1605頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
理論的にはこの目標は、標的細胞内で強い発現を提供するプロモーターを選択することにより対処することができる。しかし、いくつかの問題がこれらの使用から生じ得る。特に、遺伝子療法用の構築物を設計する場合、治療用導入遺伝子を送達するために使用されるベクターに特異的なサイズの制約について留意しなければならない。例えば、AAVベクターに導入されるエレメントは、AAVベクターの最大カプシド形成サイズ、すなわちおよそ5kbにより提示される限定により、更に小さなサイズを有するべきである。
【0006】
ここでは、タンパク質筋肉の効率的な発現を可能にする、AAVベクター等の遺伝子療法ベクターと適合性のあるサイズを有するエンハンサー/プロモーターの組合せの同定について記載する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、筋肉特異性を有する新規のハイブリッドプロモーターを実行する遺伝子操作戦略を提供する。これらのハイブリッドプロモーターは神経筋疾患の遺伝子療法に使用することができる。これら新規のハイブリッドプロモーターは、筋肉選択的プロモーターに作動可能に連結された1種又は複数の肝臓選択的エンハンサーの組合せに基づく。驚くことに、導入遺伝子の発現は、肝臓選択的エンハンサーを含むこのようなハイブリッドプロモーターの制御下に置かれた場合、筋肉細胞内で増加することが本明細書で示されている。
【0008】
したがって、本発明の第1の態様は、筋肉選択的プロモーターに作動可能に連結された1種又は複数の肝臓選択的エンハンサーを含む核酸分子に関する。
【0009】
さらなる特定の実施形態では、核酸分子は、筋肉選択的プロモーターに作動可能に連結された1つの肝臓選択的エンハンサーを含む。別の実施形態では、核酸分子は、筋肉選択的プロモーターに作動可能に連結された複数の肝臓選択的エンハンサーを含む。特定の実施形態では、複数の肝臓選択的エンハンサーは少なくとも2つの肝臓選択的エンハンサーを含む。更に別の実施形態では、複数の肝臓選択的エンハンサーは2つの肝臓選択的エンハンサーを含む。さらなる実施形態では、複数の肝臓選択的エンハンサーは3つの肝臓選択的エンハンサーを含む。さらなる実施形態では、複数の肝臓選択的エンハンサーは4つの肝臓選択的エンハンサーを含む。更に別の実施形態では、複数の肝臓選択的エンハンサーは5つの肝臓選択的エンハンサーを含む。特定の実施形態では、核酸分子は、1、2又は3つの肝臓選択的エンハンサー、より特には1つ又は3つの肝臓選択的エンハンサーを含む。特定の実施形態では、複数の肝臓選択的エンハンサーのすべての肝臓選択的エンハンサーは、同じ配列を有し、また複数の肝臓選択的エンハンサーのうちの少なくとも2つの肝臓選択的エンハンサーは異なる配列を有する。特定の実施形態では、複数の肝臓選択的エンハンサーのすべての肝臓選択的エンハンサーは同じ配列を有する。
【0010】
本発明の核酸の本発明の特定の実施形態では、エンハンサーは短いサイズの肝臓選択的エンハンサーであってもよいし、又は複数の肝臓選択的エンハンサーは複数の短いサイズの肝臓選択的エンハンサーであってもよい。特に、本発明に使用するための肝臓選択的エンハンサーは、10~175ヌクレオチド、例えば、40~100ヌクレオチド、特に50~80ヌクレオチドからなってもよい。特定の実施形態では、本発明に使用するための肝臓選択的エンハンサーは70~75ヌクレオチドからなってもよい。特定の実施形態では、肝臓選択的エンハンサーは、配列番号1からなる72ヌクレオチドHS-CRM8エンハンサー、又は肝臓選択的エンハンサー活性を有する配列番号1の機能的断片である。別の実施形態では、肝臓選択的エンハンサーは、配列番号1と少なくとも80%同一、例えば、少なくとも85%同一、特に少なくとも90%同一、より特には配列番号1と少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は更に少なくとも99%同一の72ヌクレオチドHS-CRM8エンハンサーの機能性変異体であり、ここで前記機能性変異体は肝臓選択的エンハンサー活性を有する。さらなる実施形態では、肝臓選択的エンハンサーは、配列番号1と少なくとも80%同一、例えば、少なくとも85%同一、特に少なくとも90%同一、より具体的には、配列番号1と少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は更に少なくとも99%同一の配列からなる配列の機能的断片であり、ここで前記機能的断片は肝臓選択的エンハンサー活性を有する。
【0011】
好ましくは、プロモーターは短いサイズの筋肉選択的プロモーターである。特定の実施形態では、プロモーターはCK6プロモーター、CK8プロモーター、Acta1プロモーター又は合成プロモーターC5.12(spC5.12、或いは本明細書では「C5.12」と呼ばれている)。特定の実施形態では、筋肉選択的プロモーターはspC5.12プロモーターである。さらなる特定の実施形態では、spC5-12プロモーターは以下から選択される:
- 配列番号2、3又は4、特に、配列番号2に示されている配列からなる配列、又は配列番号2、3若しくは4、特に配列番号2の機能的断片、ここで前記断片は筋肉選択的プロモーター活性を有する;
- 配列番号2、3及び4のいずれか1つと少なくとも80%同一、例えば、少なくとも85%同一、特に少なくとも90%同一、より特には、配列番号2、3及び4のいずれか1つ、特に配列番号2と少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は更に少なくとも99%同一の配列からなる配列;並びに
- 配列番号2、3及び4のいずれか1つと少なくとも80%同一、例えば、少なくとも85%同一、特に少なくとも90%同一、より特には、配列番号2、3及び4のいずれか1つ、特に配列番号2と少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は更に少なくとも99%同一配列からなる配列の機能的断片、前記機能的断片は筋肉選択的プロモーター活性を有する。
【0012】
任意選択で、本明細書に記載されている核酸分子は、さらなるエンハンサー、例えば、筋肉選択的エンハンサー、例えば、配列番号34のSA195エンハンサー、又は配列番号5のMCKエンハンサー、又は配列番号34若しくは配列番号5と少なくとも80%同一、例えば、配列番号34若しくは配列番号5と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%若しくは更に少なくとも99%同一の配列を有するその機能性変異体を更に含んでもよい。特定の実施形態では、さらなるエンハンサーは、肝臓選択的エンハンサー又は複数の肝臓選択的エンハンサーと、筋肉選択的プロモーターとの間に位置する。特定の実施形態では、肝臓選択的エンハンサー又は複数の肝臓選択的エンハンサーと、筋肉選択的プロモーターとの間にいかなるさらなるエンハンサーも提供されない。
【0013】
本発明のハイブリッドプロモーターは、目的の導入遺伝子に作動可能に連結されていてもよい。したがって、本発明は、目的の導入遺伝子に作動可能に連結された、本明細書に記載されている核酸分子を含む発現カセットに更に関する。
【0014】
本発明は、上記の発現カセットを含むベクターに更に関する。特定の実施形態では、ベクターはプラスミドベクターである。別の実施形態では、ベクターはウイルスベクターである。代表的なウイルスベクターとしては、限定なしで、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター及びパルボウイルスベクター、例えば、AAVベクターが挙げられる。特定の実施形態では、ウイルスベクターはAAVベクター、例えば、AAV8又はAAV9カプシドを含むAAVベクターである。
【0015】
本発明はまた、本発明による核酸構築物を含む単離した組換え細胞に関する。
【0016】
本発明は、薬学的に許容される担体、本発明のベクター又は単離した細胞を含む医薬組成物に更に関する。
【0017】
更に、本発明はまた、医薬として使用するための、本明細書に開示されている発現カセット、ベクター又は細胞に関する。本態様では、発現カセット、ベクター又は細胞に含まれる目的の導入遺伝子は治療用導入遺伝子である。
【0018】
本発明は、遺伝子療法において使用するための、本明細書に開示されている発現カセット、ベクター又は細胞に更に関する。
【0019】
別の態様では、本発明は、神経筋障害の処置に使用するための、本明細書に開示されている発現カセット、ベクター又は細胞に関する。特に、神経筋障害は、筋ジストロフィー(例えば、筋緊張性ジストロフィー(スタイナート病)、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、ベッカー型筋ジストロフィー、肢帯筋ジストロフィー、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー、先天性筋ジストロフィー、眼咽頭筋ジストロフィー、遠位筋ジストロフィー、エメリードレフュス型筋ジストロフィー、運動ニューロン疾患(例えば、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄性筋萎縮症(乳児進行性脊髄性筋萎縮症(1型、ウェルドニッヒホフマン病)、中間型脊髄性筋萎縮症(2型)、若年性脊髄性筋萎縮症(3型、クーゲルベルクウェランダー病)、成人脊髄性筋萎縮症(4型))、球脊髄性筋萎縮症(ケネディー病)、炎症性ミオパシー(例えば、多発性筋炎皮膚筋炎、封入体筋炎)、神経筋接合部の疾患(例えば、重症筋無力症、ランバートイートン(筋無力症)症候群、先天性筋無力症候群)、末梢神経の疾患(例えば、シャルコーマリートゥース病、フリードライヒ運動失調症、デジェリンソッタス病)、筋肉の代謝性疾患(例えば、ホスホリラーゼ欠損症(マックアードル病)、酸性マルターゼ欠損症(ポンペ病)、ホスホフルクトキナーゼ欠損症(垂井病)、脱分枝酵素欠損症(コリ病又はフォーブズ病)、ミトコンドリアミオパシー、カルニチン欠損症、カルニチンパルミチルトランスフェラーゼ欠損症、ホスホグリセリン酸キナーゼ欠損症、ホスホグリセリン酸ムターゼ欠損症、乳酸デヒドロゲナーゼ欠損症、ミオアデニル酸デアミナーゼ欠損症)、内分泌異常によるミオパシー(例えば、甲状腺機能亢進性ミオパシー、甲状腺機能低下性ミオパシー)、及び他のミオパシー(例えば、先天性ミオトニー、先天性パラミオトニア、セントラルコア病、ネマリンミオパシー、筋細管ミオパシー、周期性四肢麻痺)からなる群から選択することができる。
【0020】
さらなる特定の実施形態では、疾患はコリ病であり、目的の導入遺伝子は、GDE、例えば、短縮形態のGDEである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】プロモーター/エンハンサーの会合の概略を示す図である。各エレメントのサイズが示されている。
図2】筋肉におけるmSeAPタンパク質発現のグラフである。C57BL/6マウスに、spC5-12プロモーター(spC5-12)、又は同じプロモーターと、MCK(MCK-spC5-12)、H1及びMCK(H1-MCK-spC5-12)、若しくはH3及びMCK(H3-MCK-spC5-12)エンハンサーとの融合の転写制御下でネズミ分泌アルカリホスファターゼ(mSeAP)レポーター遺伝子を発現する2×1011vg/マウスのAAV9ベクターを注入した。PBSを注入したマウスを対照(PBS)として使用した。注射から1カ月後、mSeAP活性を異なる筋肉において測定し、PBS群で測定されたレベルと比較して何倍の変化があったかを報告した。統計的分析はANOVA(*=p<0.05、1群当たりn=5)で実施した。
図3】非筋肉組織におけるmSEAP発現のグラフである。図2に記載されているように処置したC57BL/6マウスからの肝臓、脳及び腎臓をmSEAP活性について分析した。測定されたmSeAP活性は、PBSを注入したマウスにおいて測定されたレベルと比較して何倍の変化があったかを報告した。統計的分析はANOVA(*=p<0.05、1群当たりn=5)で実施した。
図4】MCKエンハンサーの存在は、筋肉において導入遺伝子発現を増加させるために必要とされない。C57BL/6マウスに、spC5-12プロモーター(spC5-12)、又は同じプロモーターと、H3(H3-spC5-12)、若しくはH3及びMCK(H3-MCK-spC5-12)エンハンサーとの融合の転写制御下で、ネズミ分泌アルカリホスファターゼ(mSeAP)レポーター遺伝子を発現する4×1011vg/マウスのAAV9ベクターを注入した。PBSを注入したマウスを対照(PBS)として使用した。注射から1カ月後、mSeAP活性を心臓、横隔膜、四頭筋及び三頭筋において測定し、PBS群において測定されたレベルと比較して何倍の変化があったかを報告した。統計的分析はANOVA(*=p<0.05と示されている通り、1群当たりn=4)で実施した。
図5】H3エンハンサーは、異なる筋肉特異的プロモーターと融合した場合、筋肉発現を増加させる。C57BL/6マウスに、CK6若しくはCK8プロモーター、又はCK6と融合したH3エンハンサー(H3-CK6)若しくはCK8と融合したH3エンハンサー(H3-CK8)で構成されるエンハンサープロモーターの組合せの転写制御下で、ネズミ分泌アルカリホスファターゼ(mSeAP)レポーター遺伝子を発現する5×1011vg/マウスのAAV9ベクターを注入した。PBSを注入したマウスを対照(PBS)として使用した。ベクター注射から15日後、mSeAP活性を心臓、四頭筋及び三頭筋において測定し、CK6プロモーターの制御下で、mSeAPを注入したマウスにおいて測定されたレベルと比較して何倍の変化があったかを報告した。統計的分析はANOVA(*=p<0.05と示されている通り、1群当たりn=4)で実施した。
図6】H3エンハンサーは、ACTA1筋肉特異的プロモーターと融合した場合、筋肉発現を増加させる。C57BL/6マウスに、spC5-12と融合したH3エンハンサー(H3-spC5-12)又はActa1プロモーターと融合したH3エンハンサー(H3-Acta1)で構成されるエンハンサープロモーターの組合せの転写制御下で、ネズミ分泌アルカリホスファターゼ(mSeAP)レポーター遺伝子を発現する4×1011vg/マウスのAAV9ベクターを注入した。PBSを注入したマウスを対照(PBS)として使用した。注射から1カ月後、mSeAP活性を心臓、横隔膜、四頭筋及び三頭筋において測定し、PBS群において測定されたレベルと比較して何倍の変化があったかを報告した。統計的分析はANOVA(*=p<0.05対PBS、1群当たりn=4)で実施した。
図7】Fエンハンサーは、筋肉特異的プロモーターと融合した場合、筋肉発現を増加させる。C57BL/6マウスに、spC5-12プロモーター、又はFエンハンサーとspC5-12プロモーターの組合せ(F-spC5-12)の転写制御下で、ネズミ分泌アルカリホスファターゼ(mSeAP)レポーター遺伝子を発現する4×1011vg/マウスのAAV9ベクターを注入した。PBSを注入したマウスを対照(PBS)として使用した。ベクター注入から15日後、mSeAP活性を四頭筋において測定し、PBS群において測定されたレベルと比較して何倍の変化があったかを報告した。統計的分析はANOVA(対spC5-12としての*=p<0.05、1群当たりn=3~4)で実施した。
【発明を実施するための形態】
【0022】
定義
本発明の文脈で、「転写調節エレメント」とは、組織又は細胞内での導入遺伝子の発現を推進又は増強することができるDNA配列である。
【0023】
本発明の文脈で、「筋肉選択的プロモーター」という表現は、天然又は合成の筋肉選択的プロモーターを含む。加えて、「肝臓選択的エンハンサー」という表現は、天然又は合成の肝臓選択的エンハンサーを含む。
【0024】
本発明によると、組織選択性とは、転写調節エレメントが、所与の組織、又は一連の組織における前記転写調節エレメントに作動可能に連結された遺伝子の発現を、別の組織における発現と比較して、優先的に推進する(プロモーターの場合)又は増強する(エンハンサーの場合)ことを意味する。この「組織選択性」の定義は、組織選択的転写調節エレメント(例えば、筋肉選択的プロモーター)がある程度漏出する可能性を排除しない。「漏出する」、「漏出すること」又はその逸脱とは、筋肉選択的プロモーターが、前記プロモーターに作動可能に連結された導入遺伝子の別の組織への発現を、より低い発現レベルではあるが、推進又は増加させる可能性を意味する。例えば、筋肉選択的プロモーターが肝臓組織内で漏出し得るとは、このプロモーターにより推進される発現が、肝臓組織内よりも、筋肉組織内でより高いことを意味する。或いは、組織選択的転写調節エレメントは、「組織特異的な」転写調節エレメントであってよく、この転写調節エレメントは、所定の組織、又は一連の組織における発現を、優先的な方式で推進又は増強するだけでなく、この調節エレメントは、他の組織での発現を推進又は増強しない、又はわずかしか推進又は増強しないことを意味する。
【0025】
本発明によると、「目的の導入遺伝子」とは、RNA又はタンパク質生成物をコードし、探究された目的のため細胞へと導入され得、適当な条件下で発現することが可能なポリヌクレオチド配列を指す。目的の導入遺伝子は、目的の生成物、例えば、目的の治療用又は診断用生成物をコードすることができる。「治療用導入遺伝子」は、所望の治療結果をもたらすため、特に前記治療用導入遺伝子の発現が必要とされる細胞、組織又は器官への前記治療用導入遺伝子の発現を達成するために選択され、使用される。療法は、前記タンパク質を発現しない細胞にタンパク質を発現させることによる、変異型のタンパク質を発現する細胞にタンパク質を発現させることによる、タンパク質が発現される標的細胞に対して毒性を持つタンパク質を発現させることによる(例えば、がん細胞等の望ましくない細胞を死滅させるために使用される戦略)、遺伝子抑制若しくはエキソンスキッピングを誘発させるアンチセンスRNAを発現させることによる、又はその目的がタンパク質の発現を抑制することである、shRNA等のサイレンシングRNAを発現させることによる方式を含むいくつかの方式で達成することができる。目的の導入遺伝子はまた、標的のゲノム操作のためのヌクレアーゼ、例えば、CRISPR関連タンパク質9(Cas9)エンドヌクレアーゼ、メガヌクレアーゼ又は転写活性因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)をコードすることができる。目的の導入遺伝子はまた、CRISPR/Cas9システムと一緒に使用するためのガイドRNA又は一連のガイドRNAであってもよいし、又はあらかじめ記載されているようなヌクレアーゼと共に、標的とするゲノム操作戦略において使用するための補正マトリックスであってもよい。目的の他の導入遺伝子としては、限定なしで、合成の長いノンコーディングRNA(SINEUP;Carrieriら、2012年、Nature 491巻: 454~7頁;Zucchelliら、2015年、RNA Biol、12巻(8号):771~9頁;Indrieriら、2016年、Sci Rep、6巻: 27315頁)及び人工ミクロRNAが挙げられる。本発明の実施に有用な、目的の他の特異的導入遺伝子は以下に記載されている。
【0026】
本発明によると、「処置」という用語は、治癒的、軽減又は予防的効果を含む。したがって、治療的及び予防的処置は、障害の症状の改善、又は特定の障害を発症する危険性を防止すること、さもなければ減少させることを含む。処置は、疾患の進行及び/又はその症状の1種若しくは複数を遅延、減速又は逆転するために投与することができる。「予防的」という用語は、特定の状態の重症度又は開始を減少させると考えることができる。「予防的」とはまた、以前に特定の状態であると診断された患者において、その状態の再発を阻止することを含む。「治療的」とはまた、既存の状態の重症度の減少を指すこともできる。「処置」という用語は、動物、特に哺乳動物、より特にはヒト対象が恩恵を受けることができる任意のレジメンを指すために本明細書で使用されている。特定の実施形態では、前記哺乳動物は、乳児又は成人対象、例えば、ヒト乳児又はヒト成人であってよい。
【0027】
「治療的関心対象の細胞」又は「治療的関心対象の組織」とは、本明細書では、治療用導入遺伝子の発現が障害の処置に対して有用である主な細胞又は組織を意味する。本発明では、目的の組織は筋肉組織である。
【0028】
ハイブリッドプロモーター
本発明の発明者らは、遺伝子療法ベクターのサイズ制約、例えば、AAVベクターのサイズ制約に適合しながら、遺伝子療法の有効性を増加させるため、本明細書では「ハイブリッドプロモーター」とも呼ばれる転写調節エレメントを設計した。
【0029】
本発明の核酸分子は、(ii)筋肉選択的プロモーターに作動可能に連結されている(i)1種又は複数の肝臓選択的エンハンサーを含む。
【0030】
肝臓選択的エンハンサー又は複数の肝臓選択的エンハンサーは、当業者に公知の肝臓選択的エンハンサーから選択することができる。特定の実施形態では、本発明の核酸分子は、1種の、及び1種のみの肝臓選択的エンハンサーを含む。本実施形態では、肝臓選択的エンハンサーのサイズは、10~500ヌクレオチド、例えば、10~175ヌクレオチド、特に40~100ヌクレオチド、特に50~80ヌクレオチド、より特には70~75ヌクレオチドであってよい。別の実施形態では、複数の肝臓選択的エンハンサーが導入される場合、複数の肝臓選択的エンハンサーの組合せのサイズは、10~500ヌクレオチド、例えば、40~400ヌクレオチド、特に70~250ヌクレオチドであってよい。特定の実施形態では、肝臓選択的エンハンサーは、肝細胞において選択的に発現する遺伝子のcisに位置する自然発生のエンハンサーである。更に特定の実施形態では、肝臓選択的エンハンサーは人工の肝臓選択的エンハンサーであってもよい。本発明の実施に有用な例示的人工の肝臓選択的エンハンサーとしては、限定なしで、Chuahら、Molecule Therapy、2014年、22巻、9号、1605頁に開示されたもの、特に、HS-CRM1(配列番号:21)、HS-CRM2(配列番号22)、HS-CRM3(配列番号23)、HS-CRM4(配列番号24)、HS-CRM5(配列番号25)、HS-CRM6(配列番号26)、HS-CRM7(配列番号27)、HS-CRM8(配列番号1)、HS-CRM9(配列番号28)、HS-CRM10(配列番号29)、HS-CRM11(配列番号30)、HS-CRM12(配列番号31)、HS-CRM13(配列番号32)及びHS-CRM14(配列番号33)からのものが挙げられる。特定の実施形態では、肝臓選択的エンハンサーは、HS-CRM1、HS-CRM2、HS-CRM3、HS-CRM5、HS-CRM6、HS-CRM7、HS-CRM8、HS-CRM9、HS-CRM10、HS-CRM11、HS-CRM13及びHS-CRM14からなる群において選択され得る。更に特定の実施形態では、肝臓選択的エンハンサーは、HS-CRM2、HS-CRM7、HS-CRM8、HS-CRM11、HS-CRM13及びHS-CRM14からなる群において選択され得る。特定の実施形態では、肝臓選択的エンハンサーは、配列番号1からなるHS-CRM8エンハンサー、又は肝臓選択的エンハンサー活性を有する配列番号1の機能的断片である。別の実施形態では、肝臓選択的エンハンサーは、配列番号1と少なくとも80%同一、例えば、少なくとも85%同一、特に少なくとも90%同一、より具体的には、配列番号1と少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は更に少なくとも99%同一のHS-CRM8エンハンサーの機能性変異体であり、ここで前記機能性変異体は肝臓選択的エンハンサー活性を有する。さらなる実施形態では、肝臓選択的エンハンサーは、配列番号1と少なくとも80%同一、例えば、少なくとも85%同一、特に少なくとも90%同一、より具体的には配列番号1と少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は更に少なくとも99%同一の配列からなる配列の機能的断片であり、前記機能的断片は肝臓選択的エンハンサー活性を有する。複数の肝臓選択的エンハンサーの場合、前記エンハンサーは、直接的に融合していてもよいし、又はリンカーにより分離されていてもよい。直接的融合とは、エンハンサーの第1のヌクレオチドが、上流のエンハンサーの最後のヌクレオチドの直後に続くことを意味する。リンカーを介して連結する場合、ヌクレオチド配列が、上流のエンハンサーの最後のヌクレオチドと、それに続く下流のエンハンサーの第1のヌクレオチドとの間に存在する。例えば、リンカーの長さは、1~50ヌクレオチドの間、例えば、1~40ヌクレオチド、例えば、1~30ヌクレオチド、例えば、1~20ヌクレオチド、例えば、1~10ヌクレオチドで構成されていてもよい。本発明では、核酸分子の設計は、上述されたサイズの制約を考慮に入れることができ、したがって、このようなリンカーは、もしある場合には、短いことが好ましい。代表的な短いリンカーは、15ヌクレオチド未満、特に14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3未満又は2ヌクレオチド未満、例えば、1ヌクレオチドのリンカーからなる核酸配列を含む。
【0031】
本発明の核酸分子に存在する第2の転写調節エレメントは、筋肉選択的プロモーター、例えば、天然又は合成の筋肉選択的プロモーターである。筋肉選択的プロモーターは短いサイズの筋肉選択的プロモーターである。本発明の文脈では、「短いサイズのプロモーター」とは、2600ヌクレオチド以下、特に2000ヌクレオチド以下の長さを有し、導入遺伝子に作動可能に連結された場合、筋肉選択的プロモーター活性を有する。特定の実施形態では、筋肉選択的プロモーターは、1500ヌクレオチド以下、1100ヌクレオチド以下、600ヌクレオチド以下、500ヌクレオチド以下、400ヌクレオチド以下、300ヌクレオチド以下、又は200ヌクレオチド以下の長さを有する。本発明の実施に有用な例示的筋肉プロモーターとしては、限定なしで、CK6プロモーター(配列番号6)、CK8プロモーター(配列番号7)、Acta1プロモーター(配列番号8)又は合成プロモーターC5.12が挙げられる。特定の実施形態では、筋肉選択的プロモーターは、合成プロモーターC5.12(spC5.12、或いは本明細書では「C5.12」と呼ばれている)、例えば、配列番号2、3若しくは4に示されているspC5.12又はWangら、Gene Therapy、15巻、1489~1499頁(2008年)に開示されたspC5.12プロモーターである。本発明はまた、筋肉選択的プロモーターの機能的断片及び機能性変異体を導入することができる。特に、本発明の実施に有用な筋肉選択的プロモーターは、限定なしで、以下から選択することができる:
- 配列番号2、3、4、6、7若しくは8、特に配列番号2、3若しくは4に示されている配列、より具体的には、配列番号2に示されている配列からなる配列、又は配列番号2、3、4、6、7若しくは8、特に配列番号2、3若しくは4、より特には配列番号2の機能的断片、前記断片は筋肉選択的プロモーター活性を有する;
- 配列番号2、3、4、6、7又は8のいずれか1つと少なくとも80%同一、例えば、少なくとも85%同一、特に少なくとも90%同一、より特には、配列番号2、3、4、6、7又は8のいずれか1つ、特に配列番号2、3及び4のいずれか1つ、特に配列番号2と少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は更に少なくとも99%同一の配列からなる配列;並びに
- 配列番号2、3、4、6、7又は8のいずれか1つと少なくとも80%同一、例えば、少なくとも85%同一、特に少なくとも90%同一、より特には配列番号2、3、4、6、7又は8のいずれか1つ、特に配列番号2、3及び4のいずれか1つ、より具体的には配列番号2と少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は更に少なくとも99%同一の配列からなる配列の機能的断片、前記機能的断片は筋肉選択的プロモーター活性を有する。他の筋肉選択的プロモーターとしては、限定なしで、MCKプロモーター(配列番号14)、デスミンプロモーター(配列番号15)及びunc45bプロモーター(配列番号16)、又は筋肉選択的プロモーター活性を有するその機能的断片が挙げられる。さらなる実施形態では、筋肉選択的プロモーターの配列は、配列番号14、15又は16のいずれか1つと少なくとも80%同一、例えば、少なくとも85%同一、特に少なくとも90%同一、より特には、配列番号14、15又は16のいずれか1つと少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は更に少なくとも99%同一の配列からなる。別の実施形態では、筋肉選択的プロモーターは、配列番号14、15又は16のいずれか1つと少なくとも80%同一、例えば、少なくとも85%同一、特に少なくとも90%同一、より特には、配列番号14、15又は16のいずれか1つと少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は更に少なくとも99%同一の配列からなる配列の機能的断片であり、前記機能的断片は筋肉選択的プロモーター活性を有する。
【0032】
加えて、ただし任意選択で、本明細書に記載されている核酸分子は、さらなるエンハンサー、例えば、筋肉選択的エンハンサー、例えば、配列番号5のMCKエンハンサー、又は配列番号5と少なくとも80%同一、例えば、配列番号5と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は更に少なくとも99%同一の配列を有するその機能性変異体を更に含んでもよい。特定の実施形態では、さらなるエンハンサー、特に配列番号5のMCKエンハンサー又はその機能性変異体は、肝臓選択的エンハンサー又は複数の肝臓選択的エンハンサーと、筋肉選択的プロモーターとの間に位置する。
【0033】
本発明の文脈では、本発明の核酸分子に導入される転写調節エレメント(すなわち(i)肝臓選択的エンハンサー又は複数のエンハンサー;(ii)先行する段落に記述されている任意選択の他のエンハンサー;及び(iii)筋肉選択的プロモーター)は、直接融合していても、又はリンカーを介して連結していてもよい。例えば、1つの肝臓選択的エンハンサー及び筋肉選択的プロモーターを用いた設計の場合、直接的融合とは、プロモーターの第1のヌクレオチドが、肝臓選択的エンハンサーの最後のヌクレオチドの直後に続くことを意味する。加えて、複数の肝臓選択的エンハンサー及び筋肉選択的プロモーターを用いた設計の場合、直接的融合とは、プロモーターの第1のヌクレオチドが、最も3'側の肝臓選択的エンハンサーの最後のヌクレオチドの直後に続くことを意味する。リンカーを介して連結する場合、ヌクレオチド配列は、唯一の肝臓選択的エンハンサーの最後のヌクレオチドと、プロモーターの第1のヌクレオチドとの間、又は最も3'側の肝臓選択的エンハンサーの最後のヌクレオチドとプロモーターの第1のヌクレオチドとの間に存在する。例えば、リンカーの長さは、1~1500ヌクレオチドの間、例えば、1~1000ヌクレオチド(例えば101、300、500又は1000ヌクレオチド、例えば、配列番号17、18、19及び20にそれぞれ示されているリンカー)、例えば、1~500ヌクレオチド、例えば、1~300ヌクレオチド、例えば、1~100ヌクレオチド、例えば、1~50ヌクレオチド、例えば、1~40ヌクレオチド、例えば、1~30ヌクレオチド、例えば、1~20ヌクレオチド、例えば、1~10ヌクレオチドで構成されていてもよい。本発明では、核の分子の設計は、上述されたサイズ制約を考慮に入れることができ、したがって、このようなリンカーは、もしある場合には、短いことが好ましい。代表的な短いリンカーは、15ヌクレオチド未満、特に14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3ヌクレオチド未満又は2ヌクレオチド未満からなる核酸配列、例えば、1ヌクレオチドのリンカーを含む。
【0034】
特定の実施形態では、本発明の核酸分子は、特に5'から3'までこの順序で以下を含む:
- 1つの選択的肝臓選択的、特にHS-CRM8エンハンサー、又はその機能性
若しくは機能的断片;及び
- 筋肉選択的プロモーター、特にspC5.12プロモーター又はその機能性変異体若しくは機能的断片。
【0035】
本実施形態の特定の変形例によると、本発明の核酸分子は、配列番号9に示されている配列、又は配列番号9と少なくとも80%同一、例えば、筋肉選択的プロモーター活性を有する配列番号9と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%若しくは更に少なくとも99%同一の配列を有するその機能性変異体からなる。
【0036】
特定の実施形態では、本発明の核酸分子は、特に5'から3'までこの順序で以下を含む:
- 1つの選択的肝臓選択的、特にHS-CRM8エンハンサー、又はその機能性変異体若しくは機能的断片;
- 筋肉選択的エンハンサー、例えば、MCKエンハンサー;及び
- 筋肉選択的プロモーター、特にspC5.12プロモーター、又はその機能性変異体若しくは機能的断片。
【0037】
本実施形態の特定の変形例によると、本発明の核酸分子は、配列番号10に示されている配列、又は配列番号10と少なくとも80%同一、例えば、筋肉選択的プロモーター活性を有する配列番号10と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%若しくは更に少なくとも99%同一の配列を有するその機能性変異体からなる。
【0038】
特定の実施形態では、本発明の核酸分子は、特に5'から3'までこの順序で以下を含む:
- 2つの選択的肝臓選択的エンハンサー、特にHS-CRM8エンハンサー又はその機能性変異体若しくは機能的断片の2回の繰返し;及び
- 筋肉選択的プロモーター、特にspC5.12プロモーター、又はその機能性変異体若しくは機能的断片。
【0039】
特定の実施形態では、本発明の核酸分子は、特に5'から3'までこの順序で以下を含む:
- 2つの選択的肝臓選択的エンハンサー、特にHS-CRM8エンハンサー、又はその機能性変異体若しくは機能的断片の2回の繰返し;
- 筋肉選択的エンハンサー、例えば、MCKエンハンサー;及び
- 筋肉選択的プロモーター、特にspC5.12プロモーター、又はその機能性変異体若しくは機能的断片。
【0040】
特定の実施形態では、本発明の核酸分子は、特に5'から3'までこの順序で以下を含む:
- 3つの選択的肝臓選択的エンハンサー、特にHS-CRM8エンハンサー、又はその機能性変異体若しくは機能的断片の3回の繰返し;及び
- 筋肉選択的プロモーター、特にspC5.12プロモーター又はその機能性変異体若しくは機能的断片。
【0041】
本実施形態の特定の変形例によると、本発明の核酸分子は、配列番号11に示されている配列、又は配列番号11と少なくとも80%同一、例えば、筋肉選択的プロモーター活性を有する配列番号11と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%若しくは更に少なくとも99%同一の配列を有するその機能性変異体からなる。
【0042】
特定の実施形態では、本発明の核酸分子は、特に5'から3'までこの順序で以下を含む:
- 3つの選択的肝臓選択的エンハンサー、特にHS-CRM8エンハンサー、又はその機能性変異体若しくは機能的断片の3回の繰返し;
- 筋肉選択的エンハンサー、例えば、MCKエンハンサー;及び
- 筋肉選択的プロモーター、特にspC5.12プロモーター又はその機能性変異体若しくは機能的断片。
【0043】
本実施形態の特定の変形例によると、本発明の核酸分子は、配列番号12に示されている配列、又は配列番号12と少なくとも80%同一、例えば、筋肉選択的プロモーター活性を有する配列番号12と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%若しくは更に少なくとも99%同一の配列を有するその機能性変異体からなる。
【0044】
本明細書に具体的に開示されている本発明の核酸分子のすべての実施形態において、前記核酸分子は、肝臓選択的エンハンサーと筋肉選択的プロモーターとの間に位置するリンカーを含んでもよい。
【0045】
更に、本明細書に具体的に開示されている本発明の核酸分子のすべての実施形態において、前記核酸分子は、2つの肝臓選択的エンハンサーの間に位置するリンカーを含んでもよい。例えば、2つの肝臓選択的エンハンサーを含む一実施形態では、リンカーは、これら2つの肝臓選択的エンハンサーの間に、又はこれら2つの肝臓選択的エンハンサーの間ではない位置に位置していてもよい。加えて、3つの肝臓選択的エンハンサーを含む一実施形態では、リンカーは、第1と第2の肝臓選択的エンハンサーとの間、及び/又は第2と第3の肝臓選択的エンハンサーとの間に含まれてもよい。例えば、3つの肝臓選択的エンハンサーを用いた一実施形態では、リンカーは、第1と第2の肝臓選択的エンハンサーとの間に位置し、いかなるリンカーも、第2と第3の肝臓選択的エンハンサーとの間には位置しない。別の変化形において、3つの肝臓選択的エンハンサーを用いた一実施形態では、いかなるリンカーも第1と第2の肝臓選択的エンハンサーとの間に位置せず、リンカーは第2の肝臓選択的エンハンサーと第3の肝臓選択的エンハンサーとの間に位置する。
【0046】
発現カセット
本発明の核酸分子は、目的の導入遺伝子の目的の組織への発現をもたらすように設計された発現カセットに導入することができる。
【0047】
よって、本発明の発現カセットは、上記の核酸分子、及び目的の導入遺伝子を含む。
【0048】
発現カセットは、目的の組織ではないある特定の組織内でのその発現を低減又は抑制することにより、目的のタンパク質、例えば、目的の導入遺伝子によってコードされている治療タンパク質に対するmRNAコーディングを安定化させることにより、目的の治療用導入遺伝子の発現を更に制御することが可能な少なくとも1つのさらなる調節配列を含んでもよい。これらの配列は、例えば、サイレンサー(例えば、組織特異的サイレンサー)、ミクロRNA標的配列、イントロン及びポリアデニル化シグナルを含む。
【0049】
特定の実施形態では、本発明の発現カセットは、5'から3'までこの順序で以下を含む:
- 本発明の核酸分子;
- 目的の導入遺伝子;及び
- ポリアデニル化シグナル。
【0050】
本実施形態の特定の変形例では、イントロンは、本発明の核酸分子と目的の導入遺伝子との間に導入することができる。その結果、イントロンは、上に記載されている核酸分子に含まれる筋肉選択的プロモーターと目的の導入遺伝子との間に位置する。或いは、イントロンは、目的の導入遺伝子内に位置してもよい。特定の実施形態では、イントロンは、SV40イントロン、例えば、配列番号13からなるSV40イントロンであってよい。
【0051】
当然のことながら、本明細書に開示されている教示及び分子生物学及び遺伝子療法の分野の一般的知識から、当業者であれば、発現カセットに組み込まれた目的の導入遺伝子のサイズに従い、エンハンサーの数、エンハンサーのサイズ、プロモーターのサイズ、リンカーのサイズ、及び任意の他の要素、例えば、さらなるエンハンサー(例えば、MCKエンハンサー又はその機能性変異体)及びイントロンを選択し、適応させることができる。
【0052】
目的の導入遺伝子は、上のセクション「定義」中に記載されているような任意の導入遺伝子であってよい。加えて、目的の特異的な例示的導入遺伝子は、以下の表中で提供され、これらの中で導入遺伝子は、これらが処置することができる神経筋障害のファミリーにより再編成されている:
【0053】
筋ジストロフィー
【0054】
【表1A】
【0055】
【表1B】
【0056】
先天性筋ジストロフィー
【0057】
【表2】
【0058】
先天性ミオパシー
【0059】
【表3】
【0060】
遠位型ミオパシー
【0061】
【表4】
【0062】
他のミオパシー
【0063】
【表5】
【0064】
筋緊張症候群
【0065】
【表6】
【0066】
イオンチャネル筋肉疾患
【0067】
【表7】
【0068】
悪性高熱
【0069】
【表8】
【0070】
代謝性ミオパシー
【0071】
【表9】
【0072】
遺伝性心臓ミオパシー
【0073】
【表10A】
【0074】
【表10B】
【0075】
【表10C】
【0076】
先天性筋無力症候群
【0077】
【表11】
【0078】
運動ニューロン疾患
【0079】
【表12A】
【0080】
【表12B】
【0081】
遺伝性運動感覚性ニューロパシー
【0082】
【表13A】
【0083】
【表13B】
【0084】
遺伝性対麻痺
【0085】
【表14A】
【0086】
【表14B】
【0087】
他の神経筋障害
【0088】
【表15】
【0089】
ベクター、細胞及び医薬組成物
本発明の発現カセットは、ベクターに導入することができる。よって、本発明はまた、上記の発現カセットを含むベクターに関する。本発明に使用されているベクターは、RNA/タンパク質発現に適した、特に遺伝子療法に適したベクターである。
【0090】
一実施形態では、ベクターはプラスミドベクターである。
【0091】
別の実施形態では、ベクターは非ウイルスベクター、例えば、本発明の発現カセットを含有するナノ粒子、脂質ナノ粒子(LNP)又はリポソームである。
【0092】
別の実施形態では、ベクターは、標的細胞のゲノム内で本発明の発現カセットの組込みを可能にするトランスポゾン、例えば、機能亢進性Sleeping Beauty(SB100X)トランスポゾンシステム(Matesら、2009年)に基づくシステムである。
【0093】
さらなる実施形態では、目的の導入遺伝子は、標的のゲノム操作のための有用な修復マトリックス、例えば、上記のようなエンドヌクレアーゼと共に、遺伝子の補正に適した修復マトリックスである。より特には、ベクターは、相同性駆動組込みのために、目的の遺伝子と相同性のアームを含有する修復マトリックスを含む。
【0094】
別の実施形態では、ベクターは、筋肉を標的とした遺伝子療法に適したウイルスベクターである。この場合、当技術分野で周知のような、効率的なウイルスベクターを生成するのに適したさらなる配列を本発明の発現カセットに加える。特定の実施形態では、ウイルスベクターは組込みウイルスから誘導される。特に、ウイルスベクターは、アデノウイルス、レトロウイルス又はレンチウイルス(例えば、統合欠損レンチウイルス)から誘導されてもよい。特定の実施形態では、レンチウイルスは、目的の細胞/組織、例えば、肝臓及び/又は筋肉細胞を標的とすることを可能にするエンベロープを有する偽型レンチウイルスである(特許出願EP17306448.6及びEP17306447.8に記載)。ウイルスベクターがレトロウイルス又はレンチウイルスから誘導される場合、さらなる配列は、発現カセットの側面にあるレトロウイルス又はレンチウイルスLTR配列である。別の特定の実施形態では、ウイルスベクターは、パルボウイルスベクター、例えば、AAVベクター、例えば、筋肉の形質導入に適したAAVベクターである。この実施形態では、さらなる配列は、発現カセットの側面にあるAAV ITR配列である。
【0095】
好ましい実施形態では、ベクターはAAVベクターである。ヒトパルボウイルスアデノ随伴ウイルス(AAV)は、潜在的感染症を確立するために感染細胞のゲノムに組み込まれることが可能な、複製が元来不完全なディペンドウイルス属である。組込みが、ヒトゲノムにおいてAAVS1と呼ばれる染色体19(19q13.3-qter)に位置する特異的な部位に生じるため、最後の特性は哺乳動物のウイルス中でも独特であるように見える。
【0096】
したがって、AAVベクターは、ヒト遺伝子療法に対する潜在的なベクターとしてかなりの関心を集めている。中でも、ウイルスの好ましい特性は、任意のヒト疾患との関連性の欠如、分裂細胞と非分裂細胞の両方に感染するその能力、及び感染し得る異なる組織から誘導される広範囲の細胞株である。
【0097】
ヒト又はヒト以外の霊長類(NHP)から単離した及び十分に特徴付けられた血清タイプのAAVの中でも、ヒト血清タイプ2は、遺伝子移動ベクターとして開発された最初のAAVである。現在使用されている他のAAV血清タイプとしては、AAV-1、AAV-2変異体(例えば、Lingら、2016年7月18日、Hum Gene Ther Methods.で開示された、Y44+500+730F+T491V変化を有する操作されたカプシドを含む四重変異体カプシド最適化AAV-2)、-3及びAAV-3変異体(例えば、Vercauterenら、2016年、Mol. Ther.、24巻(6号)、1042頁に開示された、2つのアミノ酸変化、S663V+T492Vを有する操作されたAAV3カプシドを含む、AAV3-ST変異体)、-3B及びAAV-3B変異体、-4、-5、-6及びAAV-6変異体(例えば、Rosarioら、2016年、Mol Ther Methods Clin Dev. 3、16026頁に開示された、三重変異AAV6カプシドY731F/Y705F/T492V形態を含むAAV6変異体)、-7、-8、-9、-2G9、-10、例えば、cy10及び-rh10、-rh74、-rh74-9等、EP18305399に開示されているもの(例えば、EP18305399の実施例に記載されているHybrid Cap rh74-9血清タイプ;rh74-9血清タイプはまた本明細書で「-rh74-9」、「AAVrh74-9」又は「AAV-rh74-9」とも呼ばれている)、EP18305399に開示されている-9-rh74(例えば、EP18305399の実施例に記載されているHybrid Cap 9-rh74血清タイプ;-9-rh74血清タイプはまた本明細書で「-9-rh74」、「AAV9-rh74」、「AAV-9-rh74」、又は「rh74-AAV9」とも呼ばれている)、-dj、Anc80、LK03、AAV2i8、ブタAAV血清タイプ、例えば、AAVpo4及びAAVpo6、並びにAAV血清タイプのチロシン、リジン及びセリンカプシド変異体等が挙げられる。加えて、他の非天然の、操作された変異体及びキメラのAAVもまた有用となり得る。
【0098】
AAVウイルスは、従来の分子の生物学技術を使用して操作することができ、これによって、核酸配列の細胞特異的な送達に対して、免疫原性を最小限に抑えることに対して、安定性及び粒子寿命を調整することに対して、効率的な分解に対して、核への正確な送達に対して、これらの粒子を最適化することが可能となる。
【0099】
ベクター中の組立てに望ましいAAV断片として、vp1、vp2、vp3及び超可変領域を含むcapタンパク質、rep78、rep68、rep52、及びrep40を含むrepタンパク質、並びにこれらのタンパク質をコードしている配列が挙げられる。これらの断片は、様々なベクターシステム及び宿主細胞において容易に利用することができる。
【0100】
Repタンパク質を欠くAAVベースの組換えベクターは、低い有効性で宿主のゲノムに組み込まれ、標的細胞内で数年間持続することができる安定した環状エピソームとして主に存在する。
【0101】
AAV天然の血清タイプを使用する代わりに、本発明の文脈で、限定なしで、非自然発生のカプシドタンパク質を有するAAVを含む、人工AAV血清タイプを使用することができる。このような人工カプシドは、選択されたAAV配列(例えば、vp1カプシドタンパク質の断片)を、異なる選択されたAAV血清タイプ、同じAAV血清タイプの非隣接部分、非AAVウイルス源、又は非ウイルス源から得ることができる異種配列と組み合わせて使用する任意の適切な技術により生成することができる。人工AAV血清タイプは、限定なしで、キメラAAVカプシド、組換えAAVカプシド、又は「ヒト化」AAVカプシドであってよい。
【0102】
本発明の文脈で、AAVベクターは、目的の標的細胞、すなわち筋肉細胞を形質導入することができるAAVカプシドを含む。
【0103】
特定の実施形態によると、AAVベクターは、AAV-1、-2、AAV-2変異体(例えば、Lingら、2016年7月18日、Hum Gene Ther Methods.[印刷前電子出版]に開示された、Y44+500+730F+T491V変化を有する操作されたカプシドを含む四重変異体カプシド最適化AAV-2)、-3及びAAV-3変異体(例えば、Vercauterenら、2016年、Mol. Ther.、24巻(6号)、1042頁に開示された2つのアミノ酸変化、S663V+T492Vを有する操作されたAAV3カプシドを含むAAV3-ST変異体)、-3B及びAAV-3B変異体、-4、-5、-6及びAAV-6変異体(例えば、Rosarioら、2016年、Mol Ther Methods Clin Dev.3、16026頁に開示された、三重変異AAV6カプシドY731F/Y705F/T492V形態を含むAAV6変異体)、-7、-8、-9、-2G9、-10、例えば、-cy10及び-rh10、-rh39、-rh43、-rh74、-rh74-9、-dj、Anc80、LK03、AAV.PHP、AAV2i8、ブタAAV、例えば、AAVpo4及びAAVpo6、並びにAAV血清タイプのチロシン、リジン及びセリンカプシド変異体のベクターである。特定の実施形態では、AAVベクターは、AAV8、AAV9、AAVrh74、AAVrh74-9、又はAAV2i8血清タイプ(すなわちAAVベクターは、AAV8、AAV9、AAVrh74、AAVrh74-9又はAAV2i8血清タイプのカプシドを有する)のベクターである。さらなる特定の実施形態では、AAVベクターは偽型ベクターであり、すなわちそのゲノム及びカプシドは異なる血清タイプのAAVから誘導される。例えば、偽型AAVベクターは、そのゲノムが上述のAAV血清タイプの1つから誘導され、そのカプシドが別の血清タイプから誘導されたベクターであってよい。例えば、偽型ベクターのゲノムは、AAV8、AAV9、AAVrh74、AAVrh74-9、又はAAV2i8血清タイプから誘導されたカプシドを有していてもよく、そのゲノムは、異なる血清タイプから誘導されてもよい。特定の実施形態では、AAVベクターは、AAV8、AAV9、AAVrh74又はAAVrh74-9血清タイプのカプシド、特にAAV8又はAAV9血清タイプのカプシド、より具体的にはAAV8血清タイプのカプシドを有する。
【0104】
別の実施形態では、カプシドは改変されたカプシドである。本発明の文脈で、「改変されたカプシド」とは、キメラカプシド又は1種若しくは複数の野生型AAV VPカプシドタンパク質から誘導された1種若しくは複数の変異体VPカプシドタンパク質を含むカプシドであってよい。
【0105】
特定の実施形態では、AAVベクターは、キメラベクター、すなわちそのカプシドは、少なくとも2種の異なるAAV血清タイプから誘導されたVPカプシドタンパク質を含むか、又は少なくとも2種のAAV血清タイプから誘導されたVPタンパク質領域若しくはドメインを合わせた少なくとも1種のキメラVPタンパク質を含む。例えば、キメラAAVベクターは、AAV8カプシド配列と、AAV8血清タイプとは異なる一連のAAV血清タイプ、例えば、具体的に上述されたもののいずれかとの組合せから誘導することができる。
【0106】
別の実施形態では、改変されたカプシドは、エラーが発生しやすいPCR及び/又はペプチド挿入により挿入されたカプシド改変からも誘導することができる(例えば、Bartelら、2011年に記載の通り)。加えて、カプシド変異体は、単一のアミノ酸変化、例えば、チロシン変異体(例えば、Zhongら、2008年に記載の通り)を含むことができる。
【0107】
加えて、AAVベクターのゲノムは、一本鎖又は自己相補的二本鎖ゲノムのいずれかであってよい(McCartyら、Gene Therapy、2003年)。自己相補的二本鎖AAVベクターは、AAV末端反復のうちの1つから末端解離部位を欠失させることにより生成される。その複製ゲノムが野生型AAVゲノムの半分の長さを有するこれらの改変されたベクターは、DNAダイマーをパッケージする傾向を有する。好ましい実施形態では、本発明の実施に導入されるAAVベクターは、一本鎖ゲノムを有し、更に好ましくは、AAV8、AAV9、AAVrh74、AAVrh74-9、又はAAV2i8カプシド、特にAAV8、AAV9、AAVrh74又はAAVrh74-9カプシド、例えば、AAV8又はAAV9カプシド、より特にはAAV8カプシドを含む。当技術分野で公知の通り、追加の適切な配列を、機能的ウイルスベクターを得るために、本発明の核酸構築物の中に導入することができる。適切な配列はAAV ITRを含む。
【0108】
当然のことながら、本発明の核酸配列及び本発明の発現カセットを設計する上で、当業者は、前記構築物を細胞又は器官に送達するために使用されるベクターのサイズ限界に配慮することに留意している。特に、上記で注意喚起したように、ベクターがAAVベクターである場合、AAVベクターの主要な限定は、各AAV血清タイプにより変動し得るその積載容量であるが、これは親のウイルスゲノムのサイズの周辺に限定されると考えられることを当業者は承知している。例えば、5kbは、AAV8カプシドに普通パッケージされると考えられる最大サイズである。(Wu Z.ら、Mol Ther.、2010年、18巻(1号): 80~86頁; Lai Y.ら、Mol Ther.、2010年、18巻(1号): 75~79頁; Wang Y.ら, Hum Gene Ther Methods、2012年、23巻(4号): 225~33頁)。したがって、当業者は、AAV5'-及び3'-ITRをコードする配列を含む生成した核酸配列が、好ましくは導入されるAAVベクターの積載容量の110%を超えない、特に好ましくは5.5kbを超えないように、本発明の核酸構築物の成分を選択するよう本発明を実施する上で留意している。
【0109】
本発明はまた本発明の核酸配列又は本発明の発現カセットを用いて変換される単離した細胞、例えば筋肉細胞に関する。本発明の細胞は、目的の組織又は前記対象の血流への注入を介してそれを必要とする対象に送達され得る。特定の実施形態では、本発明は、本発明の核酸分子又は発現カセットを、処置される対象の細胞に導入するステップ、及び核酸又は発現カセットが導入された前記細胞をこの対象に戻すステップを含む。
【0110】
本発明はまた、本発明の核酸分子、ベクター又は細胞を含む医薬組成物を提供する。このような組成物は、治療有効量の本発明の核酸配列、ベクター又は細胞、及び薬学的に許容される担体を含む。「薬学的に許容される」という用語は、連邦の監督官庁又は州政府により承認されていること、或いは動物、及びヒトにおける使用に対して、米国若しくは欧州薬局方又は他の一般的に認められている薬局方に列挙されていることを意味する。「担体」という用語は、希釈剤、アジュバント、賦形剤、又はビヒクルを指し、これらと一緒に治療薬が投与される。このような薬学的担体は、滅菌液体、例えば、水及び油、例えば、石油、動物、植物若しくは合成起源のものを含めた、例えば、ピーナッツ油、ダイズ油、鉱油、ゴマ油等である。生理食塩水及び水性ブドウ糖及びグリセロール溶液もまた、特に注射溶液用の液体担体として利用することができる。適切な医薬賦形剤としては、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、乾燥した脱脂乳、グリセロール、プロピレングリコール、水、エタノール等が挙げられる。
【0111】
組成物はまた、所望する場合、微量な湿潤化剤又は乳化剤、又はpH緩衝剤を含有することができる。これらの組成物は、液剤、懸濁剤、乳剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、持続放出製剤等の形態を取ることができる。経口製剤は、標準的な担体、例えば、医薬品等級のマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウム等を含むことができる。適切な薬学的担体の例は、E. W. Martinによる「Remington's Pharmaceutical Sciences」に記載されている。このような組成物は、対象への適切な投与のための形態を提供するために、好ましくは精製された形態の治療有効量の治療薬を、適切な量の担体と一緒に含有することになる。特定の実施形態では、本発明の核酸配列、発現カセット、ベクター又は細胞は、リン酸緩衝食塩水を含み、0.25%ヒト血清アルブミンを補充した組成物に製剤化される。別の特定の実施形態では、本発明のベクターは、リンガー乳酸及び非イオン性界面活性剤、例えば、プルロニック(登録商標)F68を、全組成物の0.01~0.0001質量%の最終濃度、例えば、0.001質量%の濃度で含む組成物に製剤化される。製剤は、血清アルブミン、特にヒト血清アルブミン、例えば、ヒト血清アルブミンを0.25%で更に含むことができる。貯蔵又は投与のいずれかに対して他の適当な製剤は、当技術分野で公知であり、特にWO2005/118792又はAllayら、2011年から公知である。
【0112】
好ましい実施形態では、組成物は、ヒトへの静脈内又は筋肉内投与、好ましくは静脈内投与に適応した医薬組成物として、所定の手順に従い製剤化される。通常、静脈内投与用組成物は、滅菌の等張性水性緩衝液中の溶液である。必要な場合、組成物はまた、可溶化剤及び注入部位の疼痛を和らげるための局所麻酔剤、例えば、リグノカインを含んでもよい。
【0113】
一実施形態では、本発明の核酸配列、発現カセット又はベクターは、ベシクル、特にリポソームで送達することができる。更に別の実施形態では、本発明の核酸配列、発現カセット又はベクターは、制御放出性システムで送達することができる。
【0114】
ベクターの使用方法
本発明のおかげで、目的の導入遺伝子を、筋肉又は筋肉細胞内に発現させることができる。
【0115】
本発明の核酸分子、発現カセット又はベクターは、遺伝子を筋肉細胞内に発現させるために使用することができる。したがって、本発明は、目的の導入遺伝子を筋肉細胞内で発現させるための方法であって、本発明の発現カセットが筋肉細胞に導入され、目的の導入遺伝子が発現される方法を提供する。方法は、目的の導入遺伝子を筋肉細胞内で発現させるためのin vitro、ex vivo又はin vivoの方法であってよい。
【0116】
本発明の核酸分子、発現カセット又はベクターはまた、遺伝子療法に対して使用することもできる。したがって、一態様では、本発明は、医薬として使用するための、上記のような核酸分子、発現カセット、ベクター、細胞又は医薬組成物に関する。よって、一態様では、本発明は、療法、具体的には遺伝子療法において使用するための、本明細書に開示されている核酸分子、発現カセット又はベクターに関する。同様に、本発明の細胞は、療法、具体的には細胞療法に使用することができる。
【0117】
別の態様では、本発明は、神経筋障害を処置するための方法において使用するための、上記載のような核酸分子、発現カセット、ベクター、細胞又は医薬組成物に関する。
【0118】
さらなる態様では、本発明は、神経筋障害の処置に使用するための医薬の製造のための、上記のような核酸分子、発現カセット、ベクター、細胞又は医薬組成物の使用に関する。
【0119】
別の態様では、本発明は、神経筋障害の処置のための方法であって、本明細書に記載されている治療有効量の核酸分子、発現カセット、ベクター、細胞又は医薬組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む方法に関する。
【0120】
神経筋障害は特に遺伝性又は後天性障害、例えば、遺伝性又は後天性神経筋疾患である。当然のことながら、治療的関心対象の組織への発現を推進する治療用導入遺伝子及びプロモーターは、処置すべき障害を考慮して選択されることになる。
【0121】
「神経筋障害」という用語は、直接的(随意筋の病態である)、又は間接的(神経又は神経筋接合部の病態である)のいずれかにより、筋肉が機能することを障害する疾患及び病気を包含する。例示的な神経筋障害としては、限定なしで、筋ジストロフィー(例えば、筋緊張性ジストロフィー(スタイナート病)、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、ベッカー型筋ジストロフィー、肢帯筋ジストロフィー、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー、先天性筋ジストロフィー、眼咽頭筋ジストロフィー、遠位筋ジストロフィー、エメリードレフュス型筋ジストロフィー)、運動ニューロン疾患(例えば、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄性筋萎縮症(乳児進行性脊髄性筋萎縮症(1型、ウェルドニッヒホフマン病)、中間型脊髄性筋萎縮症(2型)、若年性脊髄性筋萎縮症(3型、クーゲルベルクウェランダー病)、成人脊髄性筋萎縮症(4型))、球脊髄性筋萎縮症(ケネディー病)、炎症性ミオパシー(例えば、多発性筋炎皮膚筋炎、封入体筋炎)、神経筋接合部の疾患(例えば、重症筋無力症、ランバートイートン(筋無力症)症候群、先天性筋無力症候群)、末梢神経の疾患(例えば、シャルコーマリートゥース病、フリードライヒ運動失調症、デジェリンソッタス病)、筋肉の代謝性疾患(例えば、ホスホリラーゼ欠損症(マックアードル病)、酸性マルターゼ欠損症(ポンペ病)、ホスホフルクトキナーゼ欠損症(垂井病)、脱分枝酵素欠損症(コリ病又はフォーブズ病)、ミトコンドリアミオパシー、カルニチン欠損症、カルニチンパルミチルトランスフェラーゼ欠損症、ホスホグリセリン酸キナーゼ欠損症、ホスホグリセリン酸ムターゼ欠損症、乳酸デヒドロゲナーゼ欠損症、ミオアデニル酸デアミナーゼ欠損症)、内分泌異常によるミオパシー(例えば、甲状腺機能亢進性ミオパシー、甲状腺機能低下性ミオパシー)、及び他のミオパシー(例えば、先天性ミオトニー、先天性パラミオトニア、セントラルコア病、ネマリンミオパシー、筋細管ミオパシー、周期性四肢麻痺)が挙げられる。本実施形態では、本発明の核酸配列は、肝臓選択的、筋肉選択的及び/又はニューロン選択的転写調節エレメント、例えば、肝臓選択的及び筋肉選択的転写調節エレメント、肝臓選択的及びニューロン選択的転写調節エレメント、並びに肝臓選択的、筋肉選択的及びニューロン選択的転写調節エレメントを含む。
【0122】
特定の実施形態では、障害はグリコーゲン蓄積症である。「グリコーゲン蓄積症」という表現は、グリコーゲンの合成及び分解を担う酵素が関与する遺伝性代謝障害の群を表す。より特定の実施形態では、グリコーゲン蓄積症は、GSDI(フォンギールケ病)、GSDII(ポンペ病)、GSDIII(コリ病)、GSDIV、GSDV、GSDVI、GSDVII、GSDVIII又は心臓の致死性先天性グリコーゲン蓄積症であってよい。より特には、グリコーゲン蓄積症は、GSDI、GSDII及びGSDIIIからなる群、更により特にはGSDII及びGSDIIIからなる群において選択される。更により特定の実施形態では、グリコーゲン蓄積症はGSDIIである。特に、本発明の核酸分子は、GAA欠乏状態、又はグリコーゲンの蓄積に関連する他の状態、例えば、GSDI(フォンギールケ病)、GSDII(ポンペ病)、GSDIII(コリ病)、GSDIV、GSDV、GSDVI、GSDVII、GSDVIII及び心臓の致死性先天性グリコーゲン蓄積症、より具体的にはGSDI、GSDII又はGSDIII、更により特にはGSDII及びGSDIIIを処置するための遺伝子療法において有用であってよい。更に特定の実施形態では、障害はポンペ病であり、治療用導入遺伝子は、酸性アルファ-グルコシダーゼ(GAA)又はその変異体をコードしている遺伝子である。GAAのこのような変異体は、特にこれら全体において参照により本明細書に組み込まれる、出願PCT/2017/072942、PCT/EP2017/072945及びPCT/EP2017/072944に開示されている。本実施形態では、本発明の核酸配列は、肝臓選択的、筋肉選択的及び/又はニューロン選択的転写調節エレメント、例えば、肝臓選択的及び筋肉選択的転写調節エレメント、肝臓選択的及びニューロン選択的転写調節エレメント、筋肉選択的及びニューロン選択的転写調節エレメント、並びに肝臓選択的、筋肉選択的及びニューロン選択的転写調節エレメントを含む。特定の実施形態では、障害は、乳児発症型ポンペ病(IOPD)又は遅発型ポンペ病(LOPD)である。好ましくは、障害はIOPDである。
【0123】
当業者は、遺伝子療法によるこれら及び他の障害の処置に有用な目的の導入遺伝子を認識している。例えば、治療用導入遺伝子は、MPSIに対してはリソソーム酵素α-L-イズロニダーゼ[IDUA(アルファ-L-イズロニダーゼ)]であり、ポンペ病に対しては酸性-α-グルコシダーゼ(GAA)であり、コリ病(GSDIII)に対してはグリコーゲン脱分枝酵素(GDE)又は短縮形態のGDE(短縮形態のGDE、又は小型GDEとも呼ばれる)であり、GSDIに対してはG6Pであり、LGMD2Dに対してはアルファ-サルコグリカン(SGCA)であり、DMDに対してはジストロフィン又はその短縮形態であり、SMAに対してはSMN1である。目的の導入遺伝子はまた、欠損したタンパク質又は所与のタンパク質の発現を抑制するRNAを提供する以外の他の治療薬特性を提供する導入遺伝子であってもよい。例えば、目的の導入遺伝子としては、限定なしで、筋力を増加させることができる導入遺伝子を挙げることもできる。
【0124】
特定の疾患に対して、本発明のハイブリッドプロモーターに作動可能に連結され得る目的の治療用導入遺伝子の具体例は、以下に提供されている。
【0125】
特定の実施形態では、疾患はコリ病であり、目的の導入遺伝子GDE又は短縮形態のGDEをコードする。本発明での使用に適した短縮形態のGDEとしては、限定なしで、EP18306088に記載されているものを挙げることができる。代わりに、本発明は、GDEを発現するための二重AAVベクターシステム、例えば、WO2018162748で開示された二重AAVベクターシステムに使用される。本実施形態では、本発明のベクターは、5'と3'の間のAAV ITR、すなわち、本発明の核酸分子の制御下で、GDEのN末端部分をコードする最初の核酸配列を含む二重AAVベクターシステムの最初のAAVベクターに対応することができる。
【0126】
別の特定の実施形態では、疾患はポンペ病であり、目的の導入遺伝子は、酸性-α-グルコシダーゼ(GAA)、又は改変GAAをコードする。本発明での使用に適した改変GDEとしては、限定なしで、WO2018046772、WO2018046774及びWO2018046775で開示されたものが挙げられる。
【0127】
さらなる特定の実施形態では、障害は、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、筋細管ミオパシー、脊髄性筋萎縮症、肢帯筋ジストロフィー2I、2A、2B、2C又は2D型及び筋緊張性ジストロフィー1型から選択される。
【0128】
本発明のベクターの投与方法として、これらに限定されないが、WO2015158924に記載されているような皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外、局所領域投与、及び経口経路が挙げられる。特定の実施形態では、投与は静脈内又は筋肉内経路を介する。本発明のベクターは、任意の好都合な経路、例えば点滴又はボーラス注射により、上皮又は皮膚粘膜の内壁(例えば、口腔粘膜、直腸及び腸管粘膜等)を介した吸収により投与することができ、他の生物活性物質と一緒に投与することができる。投与は全身性又は局所的であることができる。
【0129】
特定の実施形態では、本発明の医薬組成物を、処置を必要とする領域、例えば、肝臓又は筋肉に局所的に投与することが望ましいこともある。これは、例えば、インプラントの手段により達成することができ、前記インプラントは、シアラスティック膜等の膜、又は繊維を含めた、多孔質、無孔質、又はゼラチン状の材料である。
【0130】
処置すべき障害の処置において有効である本発明のベクターの量は、標準的な臨床技術で決定することができる。加えて、in vivo及び/又はin vitroアッセイを任意選択で利用して、最適な用量範囲を予測するのを助けることもできる。製剤に利用されるべき正確な用量はまた、投与経路、及び疾患の重症度に依存することになり、医師の判断及び各患者の状況に従い決定されるべきである。それを必要とする対象に投与される本発明のベクターの用量は、限定なしで、投与経路、処置する特定の疾患、対象の年齢又は治療効果を得るのに必要な発現のレベルを含むいくつかの因子に基づき変動することになる。当業者は、当分野のその知識に基づき、これらの因子及びその他に基づき必要とされる用量範囲を容易に決定することができる。AAVベクターを対象に投与することを含む処置の場合、ベクターの典型的な用量は、体重1キログラム当たり少なくとも1×108のベクターゲノム(vg/kg)、例えば、少なくとも1×109vg/kg、少なくとも1×1010vg/kg、少なくとも1×1011vg/kg、少なくとも1×1012vg/kg、少なくとも1×1013vg/kg、少なくとも1×1014vg/kg又は少なくとも1×1015vg/kgである。
【0131】
特定の実施形態では、本発明のベクターは、遺伝子療法に使用されている典型的な用量より低い用量で投与されてもよい。特に、それを必要とする対象にAAVベクターを投与することを含む処置において、ベクターは、上記の典型的な用量の2分の1以下の用量、特に遺伝子療法で通常使用されている典型的なAAV用量の3分の1以下、4分の1以下、5分の1以下、6分の1以下、7分の1以下、8分の1以下、9分の1以下、10分の1以下、11分の1以下、12分の1以下、13分の1以下、14分の1以下、15分の1以下、16分の1以下、17分の1以下、18分の1以下、19分の1以下、20分の1以下、21分の1以下、22分の1以下、23分の1以下、24分の1以下、25分の1以下、26分の1以下、27分の1以下、28分の1以下、29分の1以下、30分の1以下、31分の1以下、32分の1以下、33分の1以下、34分の1以下、35分の1以下、36分の1以下、37分の1以下、38分の1以下、39分の1以下、40分の1以下、41分の1以下、42分の1以下、43分の1以下、44分の1以下、45分の1以下、46分の1以下、47分の1以下、48分の1以下、49分の1以下、又は更に少なくとも50分の1以下の用量で投与されてもよい。
【実施例
【0132】
材料及び方法
in vivo実験
すべてのマウス実験は、動物の飼育及び実験に関するフランス及び欧州の法律に従い(2010/63/EU)実施され、地元の組織倫理委員会により承認された(プロトコルno.2016-002B)。AAVベクターを週齢6~8週の雄のC57Bl6/Jマウスの尾静脈を介して静脈内投与した。PBS注入した同腹子を対照として使用した。屠殺時、マウスにPBSを灌流して、組織内の血液混入を回避した。サンプリング後、Fastprepチューブ(4m/秒;60秒)を使用して、DNAse/RNAseフリーの水中で組織をホモジナイズした。
【0133】
mSeAP活性
Phospha-Light(商標)SEAP Reporter Gene Assay System(ThermoFisher社)を使用して、製造者の指示書に従い、組織内のmSeAP活性を測定した。
【0134】
プラスミドの構築。
エンハンサー/プロモーター(EP)配列を商業的供給源から購入した。XhoI及びMlu1制限酵素を使用して、mSeAP cDNAを各EP配列にライゲートした。配列の側面にあるXbaI制限酵素認識部位を使用して、生成した導入遺伝子発現カセットを、AAV2から誘導された2つのITRの間にクローニングした。
【0135】
実験部門で使用した作製されたプロモーター/エンハンサー組合せの記載が以下のTable 1(表16)に示されている。
【0136】
【表16】
【0137】
結果
図1に報告されているように、エンハンサーとプロモーターの4種の組合せにより推進された組織特異的発現を評価した。これらのプロモーターは、筋肉エンハンサーMCK(MCK-spC5-12、Table 1(表16))と組み合わせた筋肉特異的プロモーター(spC5-12)で構成された。プロモーターとエンハンサーのこの組合せは、E-Syn等文献(Wang B.、Gene therapy、2008年)において公知であった。新規ハイブリッドプロモーターは、MCK-spC5-12プロモーター/エンハンサーの組合せの1の位置において、肝臓エンハンサーHS-CRM8の1つ(H1)又は3つの繰返し(H3)を融合することにより得た(Table 1(表16)のそれぞれH1-MCK-spC5-12及びH3-MCK-spC5-12)。これらの構築物の組織特異性を検証するために、マウス分泌アルカリホスファターゼ(mSeAP)レポーター遺伝子を使用した。このレポーター遺伝子及び4種のプロモーター/エンハンサーの組合せを保持する導入遺伝子発現カセットは、三重形質移入及び塩化セシウムの勾配精製により生成されるAAV9ベクター中の偽型であった。
【0138】
mSeAP-AAV9ベクターを、月齢2カ月のC57Bl6/J雄マウスに、マウス1匹当たり2×1011のベクターゲノムの用量で静脈内注射した。並行して、対照としてマウスにリン酸緩衝液生理食塩水(PBS)を注入した。ベクター注入から1カ月後、動物を屠殺した。マウスにPBSを灌流して、組織内の血液混入を回避した。筋肉及び非筋肉組織を生化学的に分析して、mSeAP酵素活性を定量化した。筋肉において、spC5-12プロモーター又はMCK-spC5-12エンハンサー/プロモーターは、PBS注入したマウスと比較して、有意な及び検出可能なmSEAP活性をもたらさなかった(図2)。興味深いことに、H1-MCK-spC5-12及びH3-MCK-spC5-12ハイブリッドプロモーターの転写制御下で、mSEAPを発現するAAV9は、異なる骨格筋におけるmSEAP活性の有意な、5~10倍の増加を可能にした(図2)。横隔膜及び脛骨筋後部では、H3-MCK-spC5-12エンハンサー/プロモーターに対してそれぞれ150及び20倍のmSEAP活性のより高い増加を観察した。肝臓では、mSEAP発現のいかなる有意な増加も観察しなかった(図3)。腎臓及び脳では、H1-MCK-spC5-12及びH3-MCK-spC5-12を有するベクターを与えたマウスにおいて、mSEAP発現における有意な2~3倍の増加を観察した(図3)。
【0139】
他の組織と比較して、筋肉において一層高いmSEAP発現があったことを考慮すると、これらのデータは、合成筋肉プロモーター(MCK-spC5-12)の5'での1つ又は3つのコピーのHS-CRM8の融合が筋肉における導入遺伝子の発現を特異的に増加させ、よって神経筋障害に対する遺伝子療法のための新規ツールを提供することを実証している。
【0140】
次いで、MCKエンハンサーを除去することにより、プロモーターのサイズを減少させた。(i)spC5-12プロモーター、(ii)HS-CRM8の3つのコピーと直接融合したspC5-12プロモーター(H3-spC5-12)、又は(iii)H3-MCK-spC5-12ハイブリッドプロモーターの転写制御下でmSEAPを発現するAAV9ベクターを調製した。mSeAP-AAV9ベクターをC57Bl/6雄のマウスに、マウス1匹当たり4×1011のベクターゲノムの用量で注入した。並行して、対照としてマウスにリン酸緩衝液生理食塩水(PBS)を注入した。ベクター注入から1カ月後、動物を屠殺した。マウスにPBSを灌流して、組織内の血液混入を回避した。筋肉組織を分析して、mSeAP酵素活性を定量化した。重要なことに、筋肉において、spC5-12プロモーターとは異なり、spC5-12プロモーターとH3又はH3-MCKとの融合は、PBS注入したマウスと比較して有意な及び検出可能なmSEAP活性をもたらした(図4)。これらのデータは、導入遺伝子の筋肉発現の増加が、MCKエンハンサーの存在に依存しないことを示唆している。以下の導入遺伝子発現カセット構築物はこのエンハンサーを含まない。
【0141】
H3エンハンサーを筋肉プロモーターと融合させた場合に観察された効果の信頼性を確認するため、in-vivo遺伝子療法に頻繁に使用されているCK6及びCK8プロモーターに関与するプロモーター/エンハンサーの2種の新規組合せを作り出した。CK6若しくはCK8プロモーターの転写制御下で、又はHS-CRM8の3つのコピーと直接融合したCK6若しくはCK8(それぞれH3-CK6及びH3-CK8)の制御下で、mSEAPを発現するAAV9ベクターを調製した。mSeAP-AAV9ベクターを、C57Bl/6雄のマウスに、マウス1匹当たり5×1011のベクターゲノムの用量で注入した。ベクター注入から15日後、動物を屠殺した。マウスにPBSを灌流して、組織内の血液混入を回避した。筋肉組織を分析して、mSeAP酵素活性を定量化した。重要なことに、筋肉において、H3と、CK6及びCK8の両方の筋肉特異的なプロモーターとの融合は、親のCK6及びCK8プロモーターとそれぞれ比較して、有意な及び検出可能なmSEAP活性をもたらした(図5)。類似の知見が、異なるプロモーターに対しても報告され、すなわち、ACTA1をHS-CRM8の3つのコピーと融合させた場合(H3-ACTA1)、筋肉においてH3-spC5-12ハイブリッドプロモーターにより測定されたレベルと類似のレベルのmSEAP導入遺伝子発現をもたらした(図6)。注目すべきは、異なる実験設定では、ACTA1プロモーターが筋肉においてspC5-12プロモーターと同等の有効性を示したことであった(データは示されていない)。これらのデータは、H3が筋肉選択的プロモーターに関わらず、プロモーター有効性の増加を誘発することを示唆している。
【0142】
最後に、他の肝臓選択的エンハンサーが類似の効果を有することを確認するため、spC5-12プロモーターと融合したフィブリノゲンアルファ鎖(F-spC5-12)の転写を制御する調節配列を試験した(Chuahら、Molecule Therapy, 2014年、22巻、9号、1605頁にHS-CRM11として記載されている)。F-spC5-12ハイブリッドプロモーターは、spC5-12プロモーターと比較した場合、mSEAP導入遺伝子発現において有意な増加をもたらし(図7)、よって、H3と同様に、他の肝臓特異的エンハンサーが、筋肉において筋肉特異的プロモーターで推進される導入遺伝子発現を増加させることを示した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
2022527597000001.app
【国際調査報告】