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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-02
(54)【発明の名称】MAGE A4 T細胞受容体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/12 20060101AFI20220526BHJP
   C07K 14/725 20060101ALI20220526BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20220526BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20220526BHJP
   C12N 15/867 20060101ALI20220526BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220526BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20220526BHJP
   A61K 38/02 20060101ALI20220526BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20220526BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20220526BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20220526BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20220526BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220526BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220526BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20220526BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20220526BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220526BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20220526BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20220526BHJP
   C07K 16/30 20060101ALI20220526BHJP
【FI】
C12N15/12
C07K14/725 ZNA
C07K19/00
C12N15/62 Z
C12N15/867 Z
C12N5/10
C12N5/0783
A61K38/02
A61K31/7088
A61K35/76
A61K35/12
A61K35/17 Z
A61K39/395 D
A61K39/395 T
A61P35/00
A61P35/02
A61P37/04
A61K48/00
C12N15/63 Z
C12N15/13
C07K16/30
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021560302
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(85)【翻訳文提出日】2021-11-15
(86)【国際出願番号】 EP2020058779
(87)【国際公開番号】W WO2020193767
(87)【国際公開日】2020-10-01
(31)【優先権主張番号】19165387.2
(32)【優先日】2019-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521438504
【氏名又は名称】メディジーン イミュノセラピーズ ゲーエムベーハー
(71)【出願人】
【識別番号】521438515
【氏名又は名称】2セブンティ バイオ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】エリンガー クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ゾンマーマイヤー ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ブラックバーン パーソンズ ジェフリー
(72)【発明者】
【氏名】マン ジャスディ-プ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C085
4C086
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AA94X
4B065AA94Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C084AA02
4C084AA07
4C084AA13
4C084BA02
4C084BA23
4C084CA53
4C084NA14
4C084ZB09
4C084ZB26
4C084ZB27
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
4C085BB31
4C085DD62
4C085EE01
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB09
4C086ZB26
4C086ZB27
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB37
4C087BB65
4C087BC83
4C087CA04
4C087CA12
4C087NA14
4C087ZB09
4C087ZB26
4C087ZB27
4H045AA10
4H045AA11
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA50
4H045DA75
4H045EA20
4H045FA72
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、MAGE-A4に特異的な単離されたT細胞受容体(TCR)、およびそのTCRの機能部分を含むポリペプチドに関する。さらに、多価TCR複合体、TCRをコードする核酸、TCRを発現する細胞、およびTCRを含む薬学的組成物も関係する。本発明はまた、医薬として使用するためのTCR、特にがんの処置において使用するためのTCRにも関係する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)SEQ ID NO:2のアミノ酸配列を有するCDR1、SEQ ID NO:3のアミノ酸配列を有するCDR2およびSEQ ID NO:4のアミノ酸配列を有するCDR3を含む、可変TCRα領域、
SEQ ID NO:5のアミノ酸配列を有するCDR1、SEQ ID NO:6のアミノ酸配列を有するCDR2およびSEQ ID NO:7のアミノ酸配列を有するCDR3を含む、可変TCRβ領域;または
b)SEQ ID NO:12のアミノ酸配列を有するCDR1、SEQ ID NO:13のアミノ酸配列を有するCDR2およびSEQ ID NO:14のアミノ酸配列を有するCDR3を含む、可変TCRα領域、
SEQ ID NO:15のアミノ酸配列を有するCDR1、SEQ ID NO:16のアミノ酸配列を有するCDR2およびSEQ ID NO:17のアミノ酸配列を有するCDR3を含む、可変TCRβ領域;または
c)SEQ ID NO:22のアミノ酸配列を有するCDR1、SEQ ID NO:23のアミノ酸配列を有するCDR2およびSEQ ID NO:24のアミノ酸配列を有するCDR3を含む、可変TCRα領域、
SEQ ID NO:25のアミノ酸配列を有するCDR1、SEQ ID NO:26のアミノ酸配列を有するCDR2およびSEQ ID NO:27のアミノ酸配列を有するCDR3を含む、可変TCRβ領域
を含む、MAGE-A4に特異的な単離されたT細胞受容体(TCR)。
【請求項2】
SEQ ID NO:1のアミノ酸配列またはそのフラグメントを特異的に認識する、好ましくはHLA-A2に結合した形態のSEQ ID NO:1のアミノ酸配列を特異的に認識する、より好ましくはHLA-A*02:01がコードする分子によって提示されるSEQ ID NO:1のアミノ酸配列を特異的に認識する、請求項1記載の単離されたTCR。
【請求項3】
a)SEQ ID NO:8のアミノ酸配列を有する可変TCRα領域およびSEQ ID NO:9のアミノ酸配列を有する可変TCRβ領域;または
b)SEQ ID NO:18のアミノ酸配列を有する可変TCRα領域およびSEQ ID NO:19のアミノ酸配列を有する可変TCRβ領域;または
c)SEQ ID NO:28のアミノ酸配列を有する可変TCRα領域およびSEQ ID NO:29のアミノ酸配列を有する可変TCRβ領域
を含む、前記請求項のいずれか一項記載の単離されたTCR。
【請求項4】
SEQ ID NO:4、7、14、17、24および27のアミノ酸配列のうちの少なくとも1つを含む機能部分を含む、前記請求項のいずれか一項記載の単離されたTCR。
【請求項5】
a)SEQ ID NO:10のアミノ酸配列を有するTCRα鎖およびSEQ ID NO:11のアミノ酸配列を有するTCRβ鎖;
b)SEQ ID NO:20のアミノ酸配列を有するTCRα鎖およびSEQ ID NO:21のアミノ酸配列を有するTCRβ鎖;または
c)SEQ ID NO:30のアミノ酸配列を有するTCRα鎖およびSEQ ID NO:31のアミノ酸配列を有するTCRβ鎖
を含む、請求項1~4のいずれか一項記載の単離されたTCR。
【請求項6】
a)SEQ ID NO:87のアミノ酸配列を有するTCRα鎖およびSEQ ID NO:88のアミノ酸配列を有するTCRβ鎖;
b)SEQ ID NO:89のアミノ酸配列を有するTCRα鎖およびSEQ ID NO:90のアミノ酸配列を有するTCRβ鎖;または
c)SEQ ID NO:91のアミノ酸配列を有するTCRα鎖およびSEQ ID NO:92のアミノ酸配列を有するTCRβ鎖
を含む、請求項1~4のいずれか一項記載の単離されたTCR。
【請求項7】
a)SEQ ID NO:102のアミノ酸配列を有するTCRα鎖およびSEQ ID NO:103のアミノ酸配列を有するTCRβ鎖;
b)SEQ ID NO:108のアミノ酸配列を有するTCRα鎖およびSEQ ID NO:109のアミノ酸配列を有するTCRβ鎖;または
c)SEQ ID NO:114のアミノ酸配列を有するTCRα鎖およびSEQ ID NO:115のアミノ酸配列を有するTCRβ鎖
を含む、請求項1~4のいずれか一項記載の単離されたTCR。
【請求項8】
HLA-A*02:01がコードする分子によって提示されるSEQ ID NO:1のアミノ酸配列への結合によってIFN-γ分泌が誘導される、請求項1~7のいずれか一項記載の単離されたTCRまたは請求項8記載の多価TCR複合体。
【請求項9】
HLA-A*02:01がコードする分子によって提示されるSEQ ID NO:1のアミノ酸配列に、エフェクター細胞上に発現したTCRが結合することによって誘導されるIFN-γ分泌が、HLA-A*02:01がコードする分子によって提示されるSEQ ID NO:1のアミノ酸配列に結合した時には、HLA-A*02:01がコードする分子によって提示される無関係なペプチドへの結合と比較して、100倍超、好ましくは500倍超、より好ましくは2000倍超、高くなりうる、請求項1~7のいずれか一項記載の単離されたTCR。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか一項記載のTCRを少なくとも2つ含む、多価TCR複合体。
【請求項11】
TCRα鎖とTCRβ鎖とを含み、かつSEQ ID NO:94、96、98、104、110および116のうちのいずれか1つに示されるアミノ酸配列を含む、融合タンパク質。
【請求項12】
請求項1~7のいずれか一項記載のTCRまたは請求項11記載の融合タンパク質をコードする、核酸。
【請求項13】
TCRα鎖をコードする核酸配列が、SEQ ID NO:69、77、85、99、105および111のうちのいずれか1つに示される、請求項12記載の核酸。
【請求項14】
TCRβ鎖をコードする核酸配列が、SEQ ID NO:70、78、86、100、106および112のうちのいずれか1つに示される、請求項12記載の核酸。
【請求項15】
TCRが、
a)SEQ ID NO:69によってコードされるTCRα鎖およびSEQ ID NO:70によってコードされるTCRβ鎖;
b)SEQ ID NO:77によってコードされるTCRα鎖およびSEQ ID NO:78によってコードされるTCRβ鎖;
c)SEQ ID NO:85によってコードされるTCRα鎖およびSEQ ID NO:86によってコードされるTCRβ鎖;
d)SEQ ID NO:99によってコードされるTCRα鎖およびSEQ ID NO:100によってコードされるTCRβ鎖;
e)SEQ ID NO:105によってコードされるTCRα鎖およびSEQ ID NO:106によってコードされるTCRβ鎖;または
f)SEQ ID NO:111によってコードされるTCRα鎖およびSEQ ID NO:112によってコードされるTCRβ鎖
を含む、請求項10記載の核酸。
【請求項16】
融合タンパク質が、SEQ ID NO:93、95、97、101、107および113のうちのいずれか1つに示される核酸配列によってコードされる、請求項12記載の核酸。
【請求項17】
請求項12~16のいずれか一項記載の核酸を含む、ベクターであって、好ましくは発現ベクター、より好ましくはレトロウイルスベクター、さらに好ましくはレンチウイルスベクターである、前記ベクター。
【請求項18】
a)SEQ ID NO:87およびSEQ ID NO:88に示すポリペプチド配列;
b)SEQ ID NO:89およびSEQ ID NO:90に示すポリペプチド配列;
c)SEQ ID NO:91およびSEQ ID NO:92に示すポリペプチド配列;
d)SEQ ID NO:102およびSEQ ID NO:103に示すポリペプチド配列;
e)SEQ ID NO:108およびSEQ ID NO:109に示すポリペプチド配列;または
f)SEQ ID NO:114およびSEQ ID NO:115に示すポリペプチド配列
をコードする核酸を含む、ベクターであって、好ましくは発現ベクター、より好ましくはレトロウイルスベクター、さらに好ましくはレンチウイルスベクターである、前記ベクター。
【請求項19】
請求項1~47のいずれか一項記載のTCRを発現する、細胞。
【請求項20】
請求項17または18記載のベクターを含む、細胞。
【請求項21】
免疫エフェクター細胞である、請求項19または20記載の細胞。
【請求項22】
免疫エフェクター細胞が、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞またはナチュラルキラーT(NKT)細胞である、請求項19~21のいずれか一項記載の細胞。
【請求項23】
請求項1~7のいずれか一項記載のTCRのうちのMAGE-A4に対する特異性を媒介する部分に特異的に結合する、抗体またはその抗原結合フラグメントであって、好ましくは、TCRのうちのMAGE-A4特異性を媒介する部分が、
a)SEQ ID NO:4のアルファ鎖のCDR3および/もしくはSEQ ID NO:7のベータ鎖のCDR3、または
b)SEQ ID NO:14のアルファ鎖のCDR3および/もしくはSEQ ID NO:17のベータ鎖のCDR3、または
c)SEQ ID NO:24のアルファ鎖のCDR3および/もしくはSEQ ID NO:27のベータ鎖のCDR3
を含む、前記抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項24】
請求項1~7のいずれか一項記載のTCR、請求項8記載の多価TCR複合体、請求項11記載の融合タンパク質、請求項12~16のいずれか一項記載の核酸、請求項17もしくは18記載のベクター、請求項19~22のいずれか一項記載の細胞、または請求項23記載の抗体を含む、組成物。
【請求項25】
薬学的に許容される担体と、請求項1~7のいずれか一項記載のTCR、請求項8記載の多価TCR複合体、請求項11記載の融合タンパク質、請求項12~16のいずれか一項記載の核酸、請求項17もしくは18記載のベクター、請求項19~22のいずれか一項記載の細胞、または請求項23記載の抗体とを含む、薬学的組成物。
【請求項26】
医薬として使用するための、請求項1~7のいずれか一項記載のTCR、請求項8記載の多価TCR複合体、請求項11記載の融合タンパク質、請求項12~16のいずれか一項記載の核酸、請求項17もしくは18記載のベクター、請求項19~22のいずれか一項記載の細胞、請求項23記載の抗体、請求項24記載の組成物、または請求項25記載の薬学的組成物。
【請求項27】
がん、好ましくは血液がんまたは固形腫瘍であるがん、より好ましくは肉腫、前立腺がん、子宮がん、甲状腺がん、精巣がん、腎がん、膵がん、卵巣がん、食道がん、非小細胞肺がん、非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、メラノーマ、肝細胞癌、頭頸部がん、胃がん、子宮内膜がん、結腸直腸がん、胆管癌、乳がん、膀胱がん、骨髄性白血病、および急性リンパ芽球性白血病からなる群より選択されるがん、最も好ましくはNSCLC、SCLC、乳がん、卵巣がんもしくは結腸直腸がん、肉腫、または骨肉腫からなる群より選択されるがんの処置において使用するための、請求項1~7のいずれか一項記載のTCR、請求項8記載の多価TCR複合体、請求項11記載の融合タンパク質、請求項12~16のいずれか一項記載の核酸、請求項17もしくは18記載のベクター、請求項19~22のいずれか一項記載の細胞、請求項23記載の抗体、請求項24記載の組成物、または請求項25記載の薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2019年3月27日に出願された欧州特許出願第19 165 387.2号の恩典を主張し、この欧州特許出願は参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0002】
配列表に関する陳述
本願に関連する配列表はハードコピーの代わりにテキスト形式で提供され、これによって、参照により本明細書に組み入れられる。配列表を含むテキストファイルの名称はMED16702PCT_ST25である。このテキストファイルは146KBであり、2020年3月24日に作成され、EFS-Webにより、本明細書の出願と同時に電子提出された。
【0003】
本発明は、MAGE-A4に特異的な単離されたT細胞受容体(TCR)、TCRの機能部分を含むポリペプチド、多価TCR複合体、TCRをコードする核酸、TCRを発現する細胞、ならびにそれらを含む組成物および薬学的組成物に関する。本発明は、医学的処置の方法において、もしくは製剤のために、前記を使用する方法、および/または医薬としての、特にがんの処置において使用するための医薬としての使用にも関する。
【背景技術】
【0004】
関連技術の説明
細胞媒介性免疫系の一部を構成するTリンパ球(すなわちT細胞)は、病原体の根絶に大きな役割を果たす。T細胞は胸腺で発生し、有核細胞上に発現する主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子上に提示されたペプチド(抗原提示として公知である)の認識を可能にするTCR分子を、それらの表面に発現する。病原体由来の抗原、すなわちMHC分子によって提示される外来抗原が、強力なT細胞応答を引き出すのに対し、自己抗原は、そのようなT細胞の発生中の胸腺における自己抗原特異的T細胞の負の選択ゆえに、通常はT細胞応答につながらない。免疫系は、こうして外来抗原を提示する有核細胞と自己抗原を提示する有核細胞とを識別することができ、T細胞の強力なサイトカイン放出および細胞性細胞傷害性機序によって、感染細胞を特異的に標的とし、感染細胞を根絶することができる。
【0005】
免疫系の能力は将来のがん治療のための有望なツールであると認識されている。過去数十年の間に、エクスビボで増殖された患者由来のリンパ球の投与を伴う養子細胞療法(adoptive cell therapy:ACT)を使用することによって、T細胞のユニークな特性を利用する研究が始まっている。ACTはがんの処置にとって魅力的な考えである。なぜなら、これは患者の免疫能を必要としないし、移入されるリンパ球の特異性を、非変異型であるために免疫原性に乏しく概して自己T細胞応答を効果的にトリガーすることができない腫瘍抗原に向かわせることができるからである。ACTはさまざまなタイプのがんの有望な処置であることが示されてきたが、臨床的処置としてのその幅広い応用は、各患者から腫瘍特異的T細胞をカスタムで単離し特徴づける必要があり、そのプロセスは困難で時間がかかるだけでなく、高アビディティーT細胞が得られないことも多いということに妨げられてきた(Xue et al.Clin.Exp.Immunol.2005 Feb;139(2):167-172、Schmitt et al.,Hum.Gene Ther.2009 Nov;20(11):1240-1248)。
【0006】
初代T細胞への腫瘍抗原特異的TCRの遺伝子移入は、免疫不全患者においてさえ、所定の抗原特異性を持つ腫瘍反応性Tリンパ球の迅速な生成を可能にするので、現在のACTの制約の一部を克服することができる。しかし、腫瘍抗原を特異的に認識してインビボで所望の抗腫瘍効果を呈するTCRを保持する適切なT細胞クローンの同定は、今なお、継続中の研究の主題である。2012年に発生したがんの新規症例が世界中で約1410万例であったこと、そしてがんは現在、世界中の人の全死亡数の約14.6%の原因であることを考えると、効率のよい新規な処置選択肢が緊急に必要とされている。本発明の目的は上述の必要を満たすことである。
【0007】
MAGE-A4はメラノーマ抗原(MAGE)ファミリーに属する。MAGEファミリーは、メラノーマ、大腸、肺ないし乳房その他の腫瘍に及ぶさまざまな悪性腫瘍タイプに発現する。具体的に述べると、MAGEファミリーはその組織発現パターンに基づいて2つのグループに分類され、そのうちのMAGE-Aサブファミリーは、精巣の生殖細胞において発現し、悪性腫瘍において異所性に再発現する。これはMAGE-A4にも当てはまる。
【0008】
腫瘍組織発現研究により、MAGE-A4は、非小細胞肺がん(NSCLC)症例の19~35%、乳がん症例の13%、卵巣上皮癌症例では47%、そして結腸直腸がん症例では22%において(過剰)発現することが明らかになっている(Tajima et al.Lung Cancer 2003;42:23-33、Gure et al.Clin Cancer Res 2005,11:8055-8062、Kim et al.Int J Mol Med 2012,29:656-662、Otte et al.Cancer Res 2001,61:6682-668、Daudi et al.PLoS One 2014,9:e104099、Li et al.Clin Cancer Res 2005,11:1809-1814)。
【発明の概要】
【0009】
概要
MAGE-A4に特異的な単離されたT細胞受容体(TCR)を提供することが、本発明の目的である。
【0010】
特にこのTCRは、SEQ ID NO:1のアミノ酸配列またはそのフラグメントを特異的に認識する。
【0011】
具体的態様では、TCRが、HLA-A2に結合した形態のSEQ ID NO:1のアミノ酸配列を特異的に認識し、より具体的には、TCRが、HLA-A*02:01がコードする分子によって提示されるSEQ ID NO:1のアミノ酸配列を認識する。
【0012】
いくつかの態様において、TCRは、SEQ ID NO:2のアミノ酸配列を有するCDR1、SEQ ID NO:3のアミノ酸配列を有するCDR2およびSEQ ID NO:4のアミノ酸配列を有するCDR3を含む、可変TCRα領域、ならびにSEQ ID NO:5のアミノ酸配列を有するCDR1、SEQ ID NO:6のアミノ酸配列を有するCDR2およびSEQ ID NO:7のアミノ酸配列を有するCDR3を含む、可変TCRβ領域;またはSEQ ID NO:12のアミノ酸配列を有するCDR1、SEQ ID NO:13のアミノ酸配列を有するCDR2およびSEQ ID NO:14のアミノ酸配列を有するCDR3を含む、可変TCRα領域、ならびにSEQ ID NO:15のアミノ酸配列を有するCDR1、SEQ ID NO:16のアミノ酸配列を有するCDR2およびSEQ ID NO:17のアミノ酸配列を有するCDR3を含む、可変TCRβ領域;またはSEQ ID NO:22のアミノ酸配列を有するCDR1、SEQ ID NO:23のアミノ酸配列を有するCDR2およびSEQ ID NO:24のアミノ酸配列を有するCDR3を含む、可変TCRα領域、ならびにSEQ ID NO:25のアミノ酸配列を有するCDR1、SEQ ID NO:26のアミノ酸配列を有するCDR2およびSEQ ID NO:27のアミノ酸配列を有するCDR3を含む、可変TCRβ領域を含む。これらのTCRについて以下にさらに詳しく述べる。
【0013】
特定態様において、TCRは、SEQ ID NO:8のアミノ酸配列を有する可変TCRα領域およびSEQ ID NO:9のアミノ酸配列を有する可変TCRβ領域;またはSEQ ID NO:18のアミノ酸配列を有する可変TCRα領域およびSEQ ID NO:19のアミノ酸配列を有する可変TCRβ領域;またはSEQ ID NO:28のアミノ酸配列を有する可変TCRα領域およびSEQ ID NO:29のアミノ酸配列を有する可変TCRβ領域を含む。
【0014】
一定の態様において、TCRは、SEQ ID NO:10のアミノ酸配列を有するTCRα鎖およびSEQ ID NO:11のアミノ酸配列を有するTCRβ鎖;SEQ ID NO:20のアミノ酸配列を有するTCRα鎖およびSEQ ID NO:21のアミノ酸配列を有するTCRβ鎖;またはSEQ ID NO:30のアミノ酸配列を有するTCRα鎖およびSEQ ID NO:31のアミノ酸配列を有するTCRβ鎖を含む。
【0015】
別の態様において、TCRは、SEQ ID NO:87のアミノ酸配列を有するTCRα鎖およびSEQ ID NO:88のアミノ酸配列を有するTCRβ鎖;SEQ ID NO:89のアミノ酸配列を有するTCRα鎖およびSEQ ID NO:90のアミノ酸配列を有するTCRβ鎖;またはSEQ ID NO:91のアミノ酸配列を有するTCRα鎖およびSEQ ID NO:92のアミノ酸配列を有するTCRβ鎖を含む。
【0016】
いくつかの態様において、TCRは、SEQ ID NO:102のアミノ酸配列を有するTCRα鎖およびSEQ ID NO:103のアミノ酸配列を有するTCRβ鎖;SEQ ID NO:108のアミノ酸配列を有するTCRα鎖およびSEQ ID NO:109のアミノ酸配列を有するTCRβ鎖;またはSEQ ID NO:114のアミノ酸配列を有するTCRα鎖およびSEQ ID NO:115のアミノ酸配列を有するTCRβ鎖を含む。
【0017】
本明細書において企図されるTCRは単離されおよび/または精製されており、可溶性であっても膜結合型であってもよい。
【0018】
いくつかの態様において本発明は、本明細書記載の単離されたTCRであって、HLA-A*02:01がコードする分子によって提示されるSEQ ID NO:1のアミノ酸配列に、エフェクター細胞上に発現したTCRが結合することによって誘導されるIFN-γ分泌が、HLA-A*02:01がコードする分子によって提示されるSEQ ID NO:1のアミノ酸配列に結合した時には、HLA-A*02:01がコードする分子によって提示される無関係なペプチドへの結合と比較して、100倍超、好ましくは500倍超、より好ましくは2000倍超、高くなりうるTCRに関係する。
【0019】
いくつかの態様では、TCRのアミノ酸配列が、1つまたは複数の表現型的にサイレントな置換を含みうる。加えて、TCRは標識することができる。有用な標識は当技術分野において公知であり、常法により、任意でさまざまな長さのリンカーを介して、TCRまたはTCRバリアントにカップリングすることができる。「標識」または「標識基」という用語は、任意の検出可能な標識を指す。上記に加えてまたは上記に代えて、治療剤または薬物動態改変部分を含むようにアミノ酸配列を改変してもよい。治療剤は、免疫エフェクター分子、細胞毒性剤および放射性核種からなる群より選択されうる。免疫エフェクター分子は例えばサイトカインでありうる。薬物動態改変部分は、少なくとも1つのポリエチレングリコール繰返し単位、少なくとも1つのグリコール基、少なくとも1つのシアリル基またはそれらの組合せでありうる。
【0020】
TCR、特に本明細書において企図される可溶型のTCRは、例えば免疫原性を低減し、流体力学的サイズ(溶解状態におけるサイズ)、溶解性および/もしくは安定性を(例えばタンパク質分解からの保護の強化によって)増加させ、ならびに/または血清中半減期を延ばすなどのために、機能部分を取り付けることによって改変することができる。他の有用な機能部分および改変として、本発明TCRを保持するエフェクター宿主細胞を患者の体内で機能停止または作動開始させるために使用することができる「自殺スイッチ」または「安全スイッチ」が挙げられる。本明細書では、グリコシル化パターンが変化しているTCRも想定される。
【0021】
TCRに、特に可溶型の本発明TCRに、薬物または治療実体(therapeutic entity)、例えば低分子化合物を付加することも考えられる。各分子の同定、追跡、精製および/または単離を助ける追加ドメイン(タグ)を導入するために、TCR、特に可溶型の本発明TCRをさらに改変することもできる。
【0022】
いくつかの態様において、TCRは、TCRα鎖とTCRβ鎖とがリンカー配列によって連結された単鎖タイプであり、任意でリンカー配列は切断可能である。
【0023】
別の一局面は、本明細書記載のTCRの機能部分を含むポリペプチドであって、機能部分がSEQ ID NO:4、7、14、17、24および27からなる群より選択されるアミノ酸配列のうちの少なくとも1つを含むポリペプチドに関係する。
【0024】
具体的態様において、機能部分はTCRα可変領域および/またはTCRβ可変領域を含む。
【0025】
具体的態様は、少なくとも2つの本明細書記載のTCRを含む多価TCR複合体に関係する。さらに具体的な一態様では、該TCRのうちの少なくとも1つに治療剤が結合している。
【0026】
特定態様は、TCRα鎖とTCRβ鎖とを含み、かつSEQ ID NO:94、96、98、104、110および116のうちのいずれか1つに示されるアミノ酸配列を含む、融合タンパク質に関係する。
【0027】
具体的局面において、融合タンパク質はフューリン切断部位および/またはリボソームスキップ配列をさらに含む。
【0028】
別の一局面は、本明細書記載のTCRをコードする核酸または上述のポリペプチドもしくは融合タンパク質をコードする核酸に関係する。
【0029】
一局面において、TCRα鎖をコードする核酸配列は、SEQ ID NO:69、77、85、99、105および111のいずれか1つに示される。別の一局面において、TCRβ鎖をコードする核酸配列は、SEQ ID NO:70、78、86、100、106および112のいずれか1つに示される。別の局面において、TCRは、SEQ ID NO:69によってコードされるα鎖およびSEQ ID NO:70によってコードされるβ鎖;SEQ ID NO:77によってコードされるα鎖およびSEQ ID NO:78によってコードされるβ鎖;SEQ ID NO:85によってコードされるα鎖およびSEQ ID NO:86によってコードされるβ鎖;SEQ ID NO:99によってコードされるα鎖およびSEQ ID NO:100によってコードされるβ鎖;SEQ ID NO:105によってコードされるα鎖およびSEQ ID NO:106によってコードされるβ鎖;またはSEQ ID NO:111によってコードされるα鎖およびSEQ ID NO:112によってコードされるβ鎖を含む。
【0030】
さらなる局面は、SEQ ID NO:93、95、97、101、107および113のうちのいずれか1つに示される核酸配列によってコードされる融合タンパク質に関する。
【0031】
さらなる一局面は、上述した本願の核酸を含むプラスミドまたはベクターに関係する。さらなる一局面は、SEQ ID NO:87およびSEQ ID NO:88に示すポリペプチド配列;SEQ ID NO:89およびSEQ ID NO:90に示すポリペプチド配列;SEQ ID NO:91およびSEQ ID NO:92に示すポリペプチド配列;SEQ ID NO:102およびSEQ ID NO:103に示すポリペプチド配列;SEQ ID NO:108およびSEQ ID NO:109に示すポリペプチド配列;またはSEQ ID NO:114およびSEQ ID NO:115に示すポリペプチド配列をコードする核酸を含むプラスミドまたはベクターに関係する。好ましくは、ベクターは発現ベクターであるか、または細胞、特に真核細胞の形質導入もしくはトランスフェクションに適したベクターである。ベクターは、例えばレトロウイルスベクター、例えばガンマレトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクターでありうる。
【0032】
別の一局面は本明細書記載のTCRを発現する細胞に関係する。細胞は単離されてもよいし、非天然であってもよい。
【0033】
別の一局面は上述の核酸または上述のプラスミドもしくはベクターを含む細胞に関係する。より具体的には、細胞は、1つまたは複数の上述の核酸を含む発現ベクターを含むか、または本明細書記載のTCRのα鎖をコードする核酸を含む第1発現ベクターと本明細書記載のTCRのベータ鎖をコードする核酸を含む第2発現ベクターとを含みうる。
【0034】
細胞は末梢血リンパ球(PBL)または末梢血単核球(PBMC)でありうる。典型的には、細胞は免疫エフェクター細胞、とりわけT細胞である。他の適切な細胞タイプとしては、ガンマ-デルタT細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞およびNK様T(NKT)細胞が挙げられる。
【0035】
別の一局面は、本明細書記載のTCRのうちのMAGE-A4に対する特異性を媒介する部分に特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメントに関係する。
【0036】
別の一局面は、本明細書記載のTCR、本明細書記載のポリペプチド、本明細書記載の融合タンパク質、本明細書記載の多価TCR複合体、本明細書記載の核酸、本明細書記載のベクター、本明細書記載の細胞、または本明細書記載の抗体を含む、組成物に関係する。
【0037】
別の一局面は、本明細書記載のTCR、本明細書記載のポリペプチド、本明細書記載の融合タンパク質、本明細書記載の多価TCR複合体、本明細書記載の核酸、本明細書記載のベクター、本明細書記載の細胞、または本明細書記載の抗体を含む、薬学的組成物に関係する。
【0038】
典型的には、薬学的組成物は少なくとも1つの薬学的に許容される担体を含む。
【0039】
別の一局面は、医薬として使用するための、特にがんの処置において使用するための、本明細書記載のTCR、本明細書記載のポリペプチド、本明細書記載の多価TCR複合体、本明細書記載の核酸、本明細書記載のベクター、本明細書記載の細胞、本明細書記載の抗体、本明細書記載の組成物、または薬学的組成物に関係する。がんは、血液がんまたは固形腫瘍でありうる。がんは、肉腫、前立腺がん、子宮がん、甲状腺がん、精巣がん、腎がん、膵がん、卵巣がん、食道がん、非小細胞肺がん、非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、メラノーマ、肝細胞癌、頭頸部がん、胃がん、子宮内膜がん、結腸直腸がん、胆管癌、乳がん、膀胱がん、骨髄性白血病、および急性リンパ芽球性白血病からなる群より選択されうる。好ましくは、がんは、NSCLC、SCLC、乳がん、卵巣がんまたは結腸直腸がん、肉腫、および骨肉腫からなる群より選択される。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1図1は、異なるMAGE-A4反応性TCRが形質導入されたCD8+T細胞のMAGE-A4GVY-MHC多量体結合を示す。CD8+T細胞を健常ドナーのPBMCから単離し、3つの異なるMAGE-A4-TCRおよびMAGE-A4を認識しない1つの対照TCRを形質導入した。形質導入されたCD8+T細胞は、形質導入に関するマーカーとしてマウス定常ベータ領域を使用して、FACSによって濃縮した。これらの細胞の増殖後に、それらをMAGE-A4GVY-MHC多量体ならびにCD8に対する抗体およびマウス定常ベータ領域(mmCb)に対する抗体で染色し、フローサイトメトリーで分析した。集団には生存CD8+/mCb+細胞でゲートをかけた。多量体/CD8の染色を示す。
図2図2は、MAGE-A4-TCRトランスジェニックT細胞がHLA-A2上に提示されたMAGE-A4GVYペプチドを認識することを示す。トランスジェニックT細胞を、MAGE-A4GVYペプチドを外から負荷したT2細胞またはMAGE-A4遺伝子が導入されているK562/HLA-A2細胞と、共培養した。陰性対照としては、対照ペプチドを負荷したT2細胞および非形質導入K562/HLA-A2細胞を、それぞれ使用した。標的細胞の認識は、共培養上清中のIFN-γ濃度を標準的ELISAで測定することによって分析した。
図3図3は、MAGE-A4-TCRトランスジェニックT細胞の機能的アビディティーを示す。トランスジェニックT細胞を、MAGE-A4GVYペプチドを段階的濃度(10-12M~10-4M)で外から負荷したT2細胞と共培養した。共培養上清中のIFN-γ濃度を標準的ELISAで測定した。
図4A図4A~Cは、HLA-A2依存的にMAGE-A4陽性腫瘍細胞株を溶解するMAGE-A4-TCRトランスジェニックT細胞(TCR-1、TCR-2およびTCR-3)の能力を示す。トランスジェニックT細胞を、異なるMAGE-A4陽性HLA-A2陽性腫瘍細胞株(NCI-H1703、NCI-H1755)、MAGE-A4陰性HLA-A2陽性腫瘍細胞株(Saos-2)およびMAGE-A4陰性HLA-A2陰性腫瘍細胞株(A549)と共培養した。MAGE-A4GVYペプチドを負荷した腫瘍細胞を陽性対照として使用する。蛍光マーカーが安定に形質導入された腫瘍細胞株に対する細胞傷害性を、IncuCyte(登録商標)ZOOMデバイス(Essen Bioscience)で、2時間ごとに写真撮影することによって測定した。サイトカイン放出を分析するために、共培養上清を24時間後に収穫し、IFN-γ濃度を標準的サンドイッチELISA(BDヒトIFN-γ ELISAセット)で分析した。
図4B図4Aの説明を参照のこと。
図4C図4Aの説明を参照のこと。
図5A図5A~CはMAGE-A4-TCRトランスジェニックT細胞(TCR-1、TCR-2およびTCR-3)が正常ヒト細胞を認識しないことを示す。トランスジェニックT細胞を、基本的な組織または器官を代表する異なる初代細胞および誘導多能性幹細胞(iPS)由来細胞と共培養した。MAGE-A4GVYペプチドを負荷した正常細胞を陽性対照として使用する。ニューロンではIFN-γとのプレインキュベーションによってHLA-A2発現を誘導した。HLA-A2陰性NHBE細胞にはHLA-A2-ivtRNAをエレクトロポレートし、すべての細胞のHLA-A2発現をフローサイトメトリーによって確認した。サイトカイン放出を分析するために、共培養上清を24時間後に収穫し、IFN-γ濃度およびIL-2濃度を標準的サンドイッチELISA(BDヒトIFN-γまたはIL-2 ELISAセット)で分析した。
図5B図5Aの説明を参照のこと。
図5C図5Aの説明を参照のこと。
図6図6は、異なるMAGE-A4反応性完全ヒトTCRが形質導入されたCD3+T細胞のMAGE-A4GVY-MHC多量体結合を示す。CD3+T細胞を健常ドナーのPBMCから単離し、3つの異なるMAGE-A4-TCRおよびMAGE-A4を認識しない1つの対照TCRを形質導入した。これらの細胞の増殖後に、それらをMAGE-A4GVY-MHC多量体およびCD3に対する抗体で染色し、フローサイトメトリーで分析した。集団には生存CD3+細胞および多量体染色でゲートをかけた。
図7図7は、MAGE-A4完全ヒトTCRトランスジェニックT細胞がHLA-A2上に提示されたMAGE-A4GVYペプチドを認識することを示す。トランスジェニックT細胞を、MAGE-A4GVYペプチドを外から負荷したT2細胞またはMAGE-A4遺伝子が導入されているA549/HLA-A2細胞と、共培養した。陰性対照としては、対照ペプチドを負荷したT2細胞および非形質導入A549/HLA-A2細胞を、それぞれ使用した。標的細胞の認識は、共培養上清中のIFN-γ濃度をLuminexアッセイで測定することによって分析した。
図8図8は、HLA-A2依存的にMAGE-A4陽性腫瘍細胞株に特異的に反応するMAGE-A4完全ヒトTCRトランスジェニックT細胞の能力を示す。トランスジェニックT細胞を、異なるMAGE-A4陽性HLA-A2陽性腫瘍細胞株(A375、NCI-H1703、NCI-H1755)、MAGE-A4陽性HLA-A2陰性腫瘍細胞株(NCI-H520)およびMAGE-A4陰性HLA-A2陽性腫瘍細胞株(A549)と共培養した。サイトカイン放出を分析するために、共培養上清を24時間後に収穫し、IFN-γ濃度をLuminexアッセイで分析した。
図9図9は、HLA-A2依存的にMAGE-A4陽性腫瘍細胞株を溶解するMAGE-A4完全ヒトTCRトランスジェニックT細胞の能力を示す。トランスジェニックT細胞を、異なるMAGE-A4陽性HLA-A2陽性腫瘍細胞株(A375、NCI-H1755、A549-HLA-A2-MAGE-A4)、およびMAGE-A4陰性HLA-A2陽性腫瘍細胞株(A549-HLA-A2)と共培養した。腫瘍細胞株に対する細胞傷害性は、共培養を始めてから6時間後に開始したインピーダンスアッセイによって測定した。
図10図10は、NSGマウスに移植されたMAGE-A4陽性腫瘍を抑制するMAGE-A4完全ヒトTCRトランスジェニックT細胞の能力を示す。
図11図11A~Cは、MAGE-A4 TCRのベクターコピー数(VCN)と発現を示す。末梢血単核球(PBMC)に、完全ヒトMAGE-A4 TCR(TCR-5)または強化型バリアント(TCR-8)をコードするレンチウイルスベクターで形質導入した。A)TCR-5 T細胞およびTCR-8 T細胞におけるVCN測定値は同等だった。B)T細胞表面上のTCR発現を、フローサイトメトリーによるGVY特異的四量体検出を使って評価し、総CD3+T細胞のパーセンテージとして示した。TCR-8発現はTCR-5発現と比べて増加している。C)T細胞表面上のTCR分子の密度を、フローサイトメトリーによるGVY特異的四量体検出を使って評価し、総四量体+TCR T細胞の幾何平均蛍光強度(gMFI)として示した。TCR-8発現密度はTCR-5発現密度と比べて増加している。
図12図12A~Bは、完全ヒトMAGE-A4 TCR(TCR-5)または強化型バリアント(TCR-8)を発現するT細胞が、MAGE-A4発現標的細胞を、インビトロで特異的に殺すことを示す。A)TCR-5 T細胞、TCR-8 T細胞または非形質導入(untransduced:UTD)T細胞を、A549.A2細胞(A2+、MAGE-A4(-))、NCI-H2023細胞(A2+、MAGE-A4(+))、A375細胞(A2+、MAGE-A4(+))またはA549.A2.MAGEA4細胞(A2+,MAGE-A4(+))と、1:1のE:T比で共培養した。24時間後に、T細胞活性に関するバイオマーカーとして、IFNγ放出を評価した。TCR-5 T細胞およびTCR-8 T細胞は、MAGE-A4を発現する標的細胞と共培養した場合にはINFγを分泌したが、MAGE-A4陰性細胞の存在下では分泌しなかった。B)TCR-5 T細胞、TCR-8 T細胞または非形質導入(UTD)T細胞を、A375細胞(A2+、MAGE-A4(+))、A549.A2.MAGEA4細胞(A2+、MAGE-A4(+))またはU2OS細胞(A2+、MAGE-A4(低))と、10:1、5:1および2.5:1のE:T比で共培養した。細胞傷害性は、インピーダンスを使って、6時間後に、腫瘍細胞のみに対する標準化されたパーセンテージとして測定した。TCR-5 T細胞とTCR-8 T細胞は、3種のMAGE-A4発現細胞株に対して同等な細胞傷害性を媒介した。
図13図13A~Bは、完全ヒトMAGE-A4 TCR(TCR-5)または強化型バリアント(TCR-8)を発現するT細胞が、MAGE-A4発現腫瘍を持つマウスにおいて退縮を媒介することを示す。5匹のNSGマウス(各条件)の皮下にMAGEA4(+)A375腫瘍細胞を注入し、媒体、UTD T細胞、または完全ヒトMAGE-A4 TCR(TCR-5)もしくは強化型バリアント(TCR-8)を発現するT細胞で処置した。腫瘍成長を週に2回測定し、TCR T細胞の抗腫瘍活性を、UTD対照および媒体対照を与えたマウスと比較して評価した。A)50mm3のA375腫瘍を持つマウスに、5×106個(左)または1.5×106個(右)のUTD T細胞、TCR-5 T細胞またはTCR-8 T細胞を与えた。TCR-5 T細胞とTCR-8 T細胞はどちらも5×106個のT細胞用量で腫瘍を抑制したが、TCR-8 T細胞はそれより低い1.5×106個のT細胞で増加した腫瘍抑制を示した。B)100mm3のA375腫瘍を持つマウスに、10×106個のUTD T細胞、TCR-5 T細胞またはTCR-8 T細胞を与えた。TCR-8 T細胞はTCR-5 T細胞またはUTD T細胞と比較して増加した腫瘍退縮を媒介した。
【発明を実施するための形態】
【0041】
詳細な説明
A. 概観
MAGE-A4はその発現パターンゆえにACTの適切な腫瘍特異的標的になる。MAGE-A4は、HLA-A2分子によって提示されるアミノ酸配列GVYDGREHTV(SEQ ID NO:1)を有するデカペプチドの形でエピトープを含む(Duffour et al.Eur J Immunol.1999 10:3329-37)。総合的に考えて、MAGE-A4はACTの適切な腫瘍特異的標的である。がん免疫治療のためにMAGE-A抗原を標的とする新規で安全で効果的なTCRエフェクターが必要とされている。本開示は、がん細胞上のMAGE-A4抗原を効率よく標的とするT細胞受容体に関し、この未充足の医療ニーズに対処することを目指す。
【0042】
B. 定義
本発明の諸局面をその好ましい態様のいくつかについて詳述する前に、以下の一般的定義を述べる。
【0043】
以下に例示的に記載される発明は、本明細書に具体的に開示されていない1つまたは複数の要素、1つまたは複数の制限が存在しなくても、適切に実施されうる。
【0044】
本発明を特定態様に関して一定の図面を参照して説明するが、本発明はそれらに限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0045】
本明細書および特許請求の範囲において「を含む」(comprising)という用語が使用される場合、それは他の要素を排除しない。本発明において、「からなる」(consisting of)という用語は、「を含む」(comprising of)という用語の好ましい一態様であるとみなされる。以下に、ある群が少なくとも一定数の態様を含むと規定された場合、それは、好ましくはそれらの態様だけからなる群も開示していると理解されるべきである。
【0046】
本発明において、「得られた」(obtained)という用語は、「得ることができる」(obtainable)という用語の好ましい一態様であるとみなされる。以下に、例えばある抗体がある具体的供給源から得ることができると規定された場合、それは、その供給源から得られた抗体も開示していると理解されるべきである。
【0047】
単数名詞を指して不定冠詞または定冠詞、例えば「a」、「an」または「the」が使用される場合、それは、他に何らかの具体的言明がある場合を除き、複数のその名詞を包含する。「約」(about)または「およそ」(approximately)という用語は、本発明においては、問題の特徴の技術的効果が依然として保証されると当業者が理解するであろう精度の区間(interval of accuracy)を意味する。この用語は、典型的には、表示された数値からの±10%、好ましくは±5%、より好ましくは±2%、最も好ましくは±1%の逸脱を示す。
【0048】
別段の表示がある場合を除き、一連の要素に先行する「少なくとも」という用語は、それら一連の要素のすべてを指すと理解されるべきである。「少なくとも1つ」という用語は、1つまたは複数、例えば2,3、4、5、6、7、8、9、10またはそれ以上を指す。本明細書に記載する発明の具体的態様の数多くの均等物は、当業者にはわかるか、せいぜい日常的な実験を使って確かめることができるであろう。そのような均等物は本発明に包含されるものとする。
【0049】
「および/または」という用語は、本明細書において使用される場合はいつでも、「および」、「または」および「該用語によってつながれる要素のすべてまたは他の任意の組合せ」の意味を包含する。
【0050】
「未満」(less than)という用語、そしてまた「超(を超える/より多い)」(more than)という用語は、その具体的な数を含まない。例えば20未満は表示した数より少ないことを意味する。同様に、より多いまたはより大きいとは、表示した数より多いまたは表示した数より大きいことを意味し、例えば80%超とは、80%という表示した数より多いまたは大きいことを意味する。
【0051】
「を包含する」(including)は「を包含するが、それらに限定されない」(including but not limited to)を意味する。「を包含する」と「を包含するが、それらに限定されない」は相互に交換可能である。
【0052】
本明細書および特許請求の範囲の全体を通して、単数形は、文脈上別段の必要がある場合を除き、複数形を包含する。特に、不定冠詞が使用される場合、本明細書は、文脈上別段の必要がある場合を除き、単数だけでなく複数も企図していると理解されるべきである。
【0053】
技術用語は、それぞれの、当業者にとっては一般的な語義または意味で使用される。一定の用語に特別な意味が付与される場合、用語の定義は以下に、それらの用語が使用される文脈で与えられる。
【0054】
追加の定義は本開示の全体にわたって記載される。
【0055】
本明細書の本文全体を通して引用される刊行物は(すべての特許、特許出願、科学刊行物、説明書などを含めて)いずれも、上述したものも後述するものも、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。本発明が、先行発明を理由に、そのような開示に先行する資格がないことの自白であるとみなすべきものは、本明細書には何もない。参照により組み入れられた資料が本明細書と矛盾するか適合しない場合は、本明細書がそれらの資料のいずれにも優先されることになる。
【0056】
本明細書において引用されるすべての文書および特許文書の内容は、参照により、その全体が本明細書に組み入れられる。
【0057】
C. TCRの基礎情報
TCRは、2つの異なる別個のタンパク質鎖、すなわちTCRアルファ(α)鎖とTCRベータ(β)鎖から構成される。TCRα鎖は可変(V)領域、接合部(joining)(J)領域および定常(C)領域を含む。TCRβ鎖は、可変(V)領域、多様性(diversity)(D)領域および定常(C)領域を含む。TCRα鎖およびTCRβ鎖の再構成V(D)J領域はどちらも超可変領域(CDR、相補性決定領域)を含有し、なかでもCDR3領域が特異的エピトープ認識を決定する。TCRα鎖とTCRβ鎖はどちらもC末領域に疎水性膜貫通ドメインを含有し、短い細胞質テールで終わっている。
【0058】
典型的にはTCRは1本のα鎖と1本のβ鎖のヘテロ二量体である。このヘテロ二量体はペプチドを提示するMHC分子に結合することができる。
【0059】
この文脈において「可変TCRα領域」または「TCRα可変鎖」または「可変ドメイン」という用語は、TCRα鎖の可変領域を指す。この文脈において「可変TCRβ領域」または「TCRβ可変鎖」という用語は、TCRβ鎖の可変領域を指す。
【0060】
TCR遺伝子座およびTCR遺伝子は、International Immunogenetics(IMGT)TCR命名法(IMGTデータベース、www.IMGT.org;Giudicelli et al.Nucl.Acids Res.,34,D781-D784(2006);Lefranc and Lefranc,Academic Press 2001)を使って名付けられる。
【0061】
D. MAGE-A4
第1局面はMAGE-A4に特異的な単離されたT細胞受容体(TCR)に関する。
【0062】
MAGE-A4はいわゆるがん/精巣抗原のグループに属する。がん/精巣抗原はさまざまな悪性腫瘍と生殖細胞において発現するが、他の成人組織では発現しない。それゆえにMAGE-A4は興味深い免疫治療標的抗原である。MAGE-A4をコードするヒト遺伝子はMAGEA4(ENSG00000147381)と呼ばれている。
【0063】
特に、本明細書において企図されるTCRは、MAGE-A4のアミノ酸230~239、すなわちアミノ酸配列SEQ ID NO:1(GVYDGREHTV、本明細書ではMAGE-A4GVYともいう)またはそのフラグメントを含むエピトープを特異的に認識する。
【0064】
典型的には、TCRは、抗原のペプチドフラグメントが主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子によって提示された場合に、それを認識する。
【0065】
ヒト白血球抗原(HLA)系またはHLA複合体は、ヒトにおける主要組織適合遺伝子複合体(MHC)タンパク質をコードしている遺伝子複合体である。HLA-A*02(HLA-A2)は、HLA-A遺伝子座における、ある特定のクラスI主要組織適合遺伝子複合体(MHC)アレル群である。HLA-A*02:01は具体的なHLA-A*02アレルである。
【0066】
したがって、具体的一態様においてTCRは、HLA-A2に結合した形態のSEQ ID NO:1のアミノ酸配列を認識する。さらに具体的な一態様において、TCRは、HLA-A*02:01がコードする分子によって提示されるSEQ ID NO:1のアミノ酸配列を特異的に認識する。
【0067】
本TCRはMAGE-A4に高度に特異的であり、他のペプチドに対する交差反応性を呈さない。これは、MAGE-A4を発現しない心筋細胞、内皮細胞、肺線維芽細胞、肝細胞、腎皮質上皮細胞、アストロサイト、気管支上皮細胞およびニューロンを含む正常ヒト細胞株を、本TCRが認識しないことを意味する。交差反応性は本明細書に記載するようにIFN-γ分泌によって測定しうる。
【0068】
この文脈において「に特異的な」という用語は、TCRが標的に特異的に結合することを意味する。特定態様において、TCRはMAGE-A4に特異的であり、HLA-A*02:01がコードする分子によって提示されたSEQ ID NO:1に示すアミノ酸配列に特異的に結合する。
【0069】
E. TCR特異的配列
TCRのTCRα鎖のCDR3は、SEQ ID NO:4、SEQ ID NO:14およびSEQ ID NO:24からなる群より選択されるアミノ酸配列を有しうる。
【0070】
TCRのTCRβ鎖のCDR3は、SEQ ID NO:7、SEQ ID NO:17およびSEQ ID NO:27からなる群より選択されるアミノ酸配列を有しうる。
【0071】
いくつかの態様は、TCRα鎖とTCRβ鎖を含む単離されたTCRであって、a)TCRα鎖は、SEQ ID NO:4のアミノ酸配列を有する相補性決定領域3(CDR3)を含み、TCRβ鎖はSEQ ID NO:7のアミノ酸配列を有するCDR3を含むか;またはb)TCRα鎖は、SEQ ID NO:14のアミノ酸配列を有するCDR3を含み、TCRβ鎖はSEQ ID NO:17のアミノ酸配列を有するCDR3を含むか;またはc)TCRα鎖はSEQ ID NO:24のアミノ酸配列を有するCDR3を含み、TCRβ鎖はSEQ ID NO:27のアミノ酸配列を有するCDR3を含む、単離されたTCRに関する。
【0072】
より具体的な態様は、a)SEQ ID NO:2のアミノ酸配列を有するCDR1、SEQ ID NO:3のアミノ酸配列を有するCDR2およびSEQ ID NO:4のアミノ酸配列を有するCDR3を含む、TCRα鎖、ならびにSEQ ID NO:5のアミノ酸配列を有するCDR1、SEQ ID NO:6のアミノ酸配列を有するCDR2およびSEQ ID NO:7のアミノ酸配列を有するCDR3を含む、TCRβ鎖;またはb)SEQ ID NO:12のアミノ酸配列を有するCDR1、SEQ ID NO:13のアミノ酸配列を有するCDR2およびSEQ ID NO:14のアミノ酸配列を有するCDR3を含む、TCRα鎖、ならびにSEQ ID NO:15のアミノ酸配列を有するCDR1、SEQ ID NO:16のアミノ酸配列を有するCDR2およびSEQ ID NO:17のアミノ酸配列を有するCDR3を含む、TCRβ鎖;またはc)SEQ ID NO:22のアミノ酸配列を有するCDR1、SEQ ID NO:23のアミノ酸配列を有するCDR2およびSEQ ID NO:24のアミノ酸配列を有するCDR3を含む、TCRα鎖、SEQ ID NO:25のアミノ酸配列を有するCDR1、SEQ ID NO:26のアミノ酸配列を有するCDR2およびSEQ ID NO:27のアミノ酸配列を有するCDR3を含む、TCRβ鎖を含む、単離されたTCRに関する。
【0073】
好ましい態様は、上述したTCRα鎖およびTCRβ鎖のCDRによって規定される、特にCDR3によって規定される、単離されたTCRであって、組換えTCR配列が、マウス化されたCαおよびCβ領域、好ましくは最小マウス化(minimal murinized)CαおよびCβ領域を含有するように改変されている、単離されたTCRに関する。
【0074】
特に好ましい態様において、単離されたTCRは、上述したTCRα鎖およびTCRβ鎖のCDRによって、特にCDR3によって規定され、組換えTCR配列は、最小マウス化CαおよびCβ領域と、Cα膜貫通ドメイン中の疎水性アミノ酸変異とを含有するように改変されている。特定態様において、これらのTCRは、最小限にマウス化されておらずCα膜貫通領域中に疎水性変位を含有しないTCRと比較して、発現量および機能的アビディティーが増加している。
【0075】
さらに好ましい態様では、単離されたTCRが、上述したTCRα鎖およびTCRβ鎖のCDRによって、特にCDR3によって規定され、組換えTCR配列は、マウス化されたCαおよびCβ領域、または最小限にマウス化された(minimally murinized)CαおよびCβ領域を含有するように改変されていない。
【0076】
いくつかの態様は、a)SEQ ID NO:8と少なくとも80%同一なアミノ酸配列を有する可変TCRα領域およびSEQ ID NO:9と少なくとも80%同一なアミノ酸配列を有する可変TCRβ領域;またはb)SEQ ID NO:18と少なくとも80%同一なアミノ酸配列を有する可変TCRα領域およびSEQ ID NO:19と少なくとも80%同一なアミノ酸配列を有する可変TCRβ領域;またはc)SEQ ID NO:28と少なくとも80%同一なアミノ酸配列を有する可変TCRα領域およびSEQ ID NO:29と少なくとも80%同一なアミノ酸配列を有する可変TCRβ領域を含む単離されたTCRに関係する。
【0077】
本明細書にいう「少なくとも80%同一な」、特に「少なくとも80%同一なアミノ酸配列を有する」は、アミノ酸配列が記載のアミノ酸配列と少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%同一であることを包含する。
【0078】
いくつかの態様において、TCRはTCRα鎖とTCRβ鎖とを含み、a)可変TCRα領域はSEQ ID NO:8と少なくとも80%同一なアミノ酸配列を有し、SEQ ID NO:4記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含み、かつ可変TCRβ領域はSEQ ID NO:9と少なくとも80%同一なアミノ酸配列を有し、SEQ ID NO:7記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含むか、またはb)可変TCRα領域はSEQ ID NO:18と少なくとも80%同一なアミノ酸配列を有し、SEQ ID NO:14記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含み、かつ可変TCRβ領域はSEQ ID NO:19と少なくとも80%同一なアミノ酸配列を有し、SEQ ID NO:17記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含むか;またはc)可変TCRα領域はSEQ ID NO:28と少なくとも80%同一なアミノ酸配列を有し、SEQ ID NO:24記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含み、かつ可変TCRβ領域はSEQ ID NO:29と少なくとも80%同一なアミノ酸配列を有し、SEQ ID NO:27記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む。
【0079】
例示的態様は、a)SEQ ID NO:8のアミノ酸配列を有する可変TCRα領域およびSEQ ID NO:9のアミノ酸配列を有する可変TCRβ領域;またはb)SEQ ID NO:18のアミノ酸配列を有する可変TCRα領域およびSEQ ID NO:19のアミノ酸配列を有する可変TCRβ領域;またはc)SEQ ID NO:28のアミノ酸配列を有する可変TCRα領域およびSEQ ID NO:29のアミノ酸配列を有する可変TCRβ領域を含む、単離されたTCRに関係する。
【0080】
以下の表に例示的TCRの要約を示す。
【0081】
実施例からわかるように、本明細書において企図されるTCRはMAGE-A4に特異的である。
【0082】
複数の配列間の同一性パーセントの決定は、好ましくは、Vector NTI Advance(商標)10プログラムのAlignXアプリケーション(Invitrogen Corporation、米国カリフォルニア州カールズバッド)を使って達成される。このプログラムでは改変Clustal Wアルゴリズム(Thompson et al.Nucl Acids Res 1994;42:23-33、Invitrogen Corporation.User Manual 2004;389-662)を使用する。同一性パーセントの決定はAlignXアプリケーションの標準パラメータで行われる。
【0083】
本明細書において企図されるTCRは単離または精製されている。「単離された」とは、TCRが、自然においてそれが元々存在していた状況には存在しないことを意味する。「精製された」とは、例えばTCRが、その元の由来源である細胞の他のタンパク質および非タンパク質部分を含まないか、実質的に含まないことを意味する。
【0084】
いくつかの態様では、TCRのアミノ酸配列が、1つまたは複数の表現型的にサイレントな置換を含みうる。
【0085】
「表現型的にサイレントな置換」(phenotypically silent substitution)は「保存的アミノ酸置換」とも呼ばれる。「保存的アミノ酸置換」の概念は当業者には理解されており、好ましくは、正に荷電した残基(H、KおよびR)をコードするコドンは正に荷電した残基をコードするコドンで置換され、負に荷電した残基(DおよびE)をコードするコドンは負に荷電した残基をコードするコドンで置換され、中性極性残基(C、G、N、Q、S、TおよびY)をコードするコドンは中性極性残基をコードするコドンで置換され、中性非極性残基(A、F、I、L、M、P、VおよびW)をコードするコドンは中性非極性残基をコードするコドンで置換されることを意味する。これらの変異は自発的に起こる場合もあるし、ランダム変異導入によって導入される場合もあるし、指向的変異導入によって導入される場合もある。これらの変化はこれらのポリペプチドの本質的特徴を破壊せずに加えることができる。当業者は、変異アミノ酸および/またはそれらをコードする核酸を容易に常法でスクリーニングして、これらの変異がリガンド結合能を実質的に低減または破壊するかどうかを、当技術分野において公知の方法で決定することができる。
【0086】
いくつかの態様では、TCRのアミノ酸配列が、検出可能な標識、治療剤または薬物動態改変部分を含むように改変される。
【0087】
検出可能な標識の非限定的な例は、放射性標識、蛍光ラベル、核酸プローブ、酵素およびコントラスト試薬である。TCRに結合させうる治療剤としては、放射性化合物、免疫調節物質、酵素または化学治療剤が挙げられる。治療剤は、標的部位において化合物が徐放されうるように、TCRに連結されたリポソームで封入しうる。これにより、体内での輸送中の損傷が回避され、治療剤、例えば毒素は、関連する抗原提示細胞へのTCRの結合後に、その最大限の効果を発揮することが保証されるだろう。治療剤の別の例を以下に挙げる:ペプチド細胞毒、すなわち哺乳動物細胞を殺す能力を持つタンパク質またはペプチド、例えばリシン、ジフテリア毒素、シュードモナス細菌エキソトキシンA、DNaseおよびRNase。低分子細胞毒性剤、すなわち哺乳動物細胞を殺す能力を持ち、700ダルトン未満の分子量を有する化合物。そのような化合物は、細胞毒性効果を有することができる有毒金属を含有しうる。さらにまた、これらの低分子細胞毒性剤にはプロドラッグ、すなわち生理的条件下で崩壊するか変換されて細胞毒性剤を放出する化合物も包含されると理解すべきである。そのような剤としては、例えばドセタキセル、ゲムシタビン、シスプラチン、メイタンシン誘導体、ラシェルマイシン、カリケアマイシン、エトポシド、イホスファミド、イリノテカン、ポルフィマーナトリウム・フォトフリンII、テモゾロミド、トポテカン、トリメトレキサートグルクロネート、ミトキサントロン、アウリスタチンE、ビンクリスチンおよびドキソルビシン;放射性核種、例えばヨウ素131、レニウム186、インジウム111、イットリウム90、ビスマス210および213、アクチニウム225およびアスタチン213を挙げることができる。TCRまたはその誘導体への放射性核種の結合は、例えばキレート剤によって実行しうる;免疫賦活薬としても公知の免疫刺激物質、すなわち免疫応答を刺激する免疫エフェクター分子。例示的な免疫刺激物質は、IL-2およびIFN-γなどのサイトカイン、抗T細胞またはNK細胞決定因子抗体(例えば抗CD3、抗CD28または抗CD16)を含む抗体またはそのフラグメント;抗体様結合特徴を持つ代替タンパク質スキャフォールド;スーパー抗原、すなわちT細胞の非特異的活性化を引き起こしてポリクローナルT細胞活性化および大量サイトカイン放出をもたらす抗原、ならびにその変異体;IL-8、血小板因子4、メラノーマ増殖刺激活性タンパク質などのケモカイン、補体活性化因子;異種タンパク質ドメイン、同種異系タンパク質ドメイン、ウイルス/細菌タンパク質ドメイン、ウイルス/細菌ペプチド。
【0088】
ヒトTリンパ球上の抗原受容体分子(T細胞受容体分子)は、細胞表面上のCD3(T3)分子複合体と非共有結合的に結合している。抗CD3モノクローナル抗体によるこの複合体の摂動はT細胞活性化を誘導する。したがっていくつかの態様は、抗CD3抗体または該CD3抗体の機能的フラグメントもしくはバリアントが(通常はアルファ鎖またはベータ鎖のN末またはC末への融合によって)結合している本明細書記載のTCRに関係する。本明細書に記載する組成物および方法における使用に適した抗体フラグメントおよびバリアント/類似体としては、ミニボディ、Fabフラグメント、F(ab')2フラグメント、dsFvおよびscFvフラグメント、Nanobodies(商標)(Ablynx(ベルギー))、ラクダ科動物(ラクダまたはラマまたはアルパカ)抗体)由来の合成単一免疫グロブリン可変重鎖ドメインを含む分子、およびドメイン抗体(アフィニティー成熟単一免疫グロブリン可変重鎖ドメインもしくは免疫グロブリン可変軽鎖ドメインを含むもの(Domantis(ベルギー))、またはAffibody(工学的に操作されたプロテインAスキャフォールドを含むもの、Affibody(スウェーデン))もしくはアンチカリン(工学的に操作されたアンチカリンを含むもの、Pieris(ドイツ))などの抗体様結合特徴を呈する代替タンパク質スキャフォールドが挙げられる。
【0089】
治療剤は、好ましくは、免疫エフェクター分子、細胞毒性剤および放射性核種からなる群より選択されうる。好ましくは、免疫エフェクター分子はサイトカインである。
【0090】
薬物動態改変部分は、例えば少なくとも1つのポリエチレングリコール繰返し単位、少なくとも1つのグリコール基、少なくとも1つのシアリル基またはそれらの組合せでありうる。少なくとも1つのポリエチレングリコール繰返し単位、少なくとも1つのグリコール基、少なくとも1つのシアリル基の結合は、当業者に公知のいくつかの方法で引き起こすことができる。好ましい一態様において、前記単位はTCRに共有結合で連結される。本明細書において企図されるTCRは、1個または数個の薬物動態改変部分で改変することができる。特に、可溶型のTCRは、1個または数個の薬物動態改変部分で改変される。薬物動態改変部分は、治療薬の薬物動態プロファイルに有益な変化、例えば血漿中半減期の改良、免疫原性の低減または強化および溶解性の改良などをもたらしうる。
【0091】
本明細書において企図されるTCRは可溶性であっても膜結合型であってもよい。「可溶性」という用語は、TCRが、例えば治療剤を抗原提示細胞に送達するためのターゲティング剤として使用するために、可溶型であること(すなわち膜貫通ドメインまたは細胞質ドメインを有しないこと)を指す。安定性のために、可溶性αβヘテロ二量体型TCRは、好ましくは、例えばWO 03/020763に記載されているように、各定常ドメインの残基間に導入されたジスルフィド結合を有する。αβヘテロ二量体中に存在する定常ドメインの一方または両方は、1つまたは複数のC末において、例えば最大15個、もしくは最大10個、もしくは最大8個またはそれ未満のアミノ酸が切断されていてもよい。養子療法で使用するために、αβヘテロ二量体型TCRは、例えば、細胞質ドメインと膜貫通ドメインをどちらも有する完全長鎖としてトランスフェクトしうる。TCRは、各アルファ定常ドメインとベータ定常ドメインの間に天然に見いだされるものに対応するジスルフィド結合を含有してよく、それに加えてまたはそれに代えて、非天然ジスルフィド結合が存在してもよい。
【0092】
こうしてTCR、特に本明細書において企図される可溶型のTCRは、例えば免疫原性を低減し、流体力学的サイズ(溶解状態におけるサイズ)、溶解性および/もしくは安定性を(例えばタンパク質分解からの保護の強化によって)増加させ、ならびに/または血清中半減期を延ばすなどのために、追加の機能部分を取り付けることによって改変することができる。他の有用な機能部分および改変として、本発明TCRを保持するエフェクター宿主細胞を患者の体内で機能停止させるために使用することができる「自殺スイッチ」または「安全スイッチ」が挙げられる。一例は、Gargett and Brown.Front Pharmacol 2014;5:235に記載の誘導性カスパーゼ9(iCasp9)「安全スイッチ」である。簡単に述べると、エフェクター宿主細胞は、周知の方法により、カスパーゼ9ドメインを発現するように改変され、そのカスパーゼ9ドメインの二量体化はAP1903/CIPなどの低分子二量体化薬に依存し、その二量体化が改変エフェクター細胞におけるアポトーシスの迅速な誘導をもたらす。この系は例えばEP2173869(A2)に記載されている。他の「自殺スイッチ」または「安全スイッチ」の例も、例えば単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV-TK)、CD20の発現とそれに続く抗CD20抗体を使った枯渇、またはmycタグなど、当技術分野では公知である(Kieback et al.Proc Natl Acad Sci USA 2008 15;105(2):623-628)。
【0093】
本明細書では、グリコシル化パターンが変化しているTCRも想定される。当技術分野では公知のとおり、グリコシル化パターンは、アミノ酸配列(例えば後述する特定グリコシル化アミノ酸残基の有無)および/またはそのタンパク質が生産される宿主細胞または宿主生物に依存しうる。ポリペプチドのグリコシル化は典型的にはN-結合型またはO-結合型のどちらかである。N-結合型とはアスパラギン残基の側鎖への炭水化物部分の取り付けを指す。結合分子へのN-結合型グリコシル化部位の付加は、アミノ酸配列をそれがアスパラギン-X-セリンおよびアスパラギン-X-スレオニン(ここでXはプロリンを除く任意のアミノ酸である)から選択される1つまたは複数のトリペプチド配列を含有するように変化させることによって、都合よく達成される。O-結合型グリコシル化部位は、出発配列に1つもしくは複数のセリンもしくはスレオニン残基の付加または1つもしくは複数のセリンもしくはスレオニン残基による置換を行うことによって導入しうる。
【0094】
TCRをグリコシル化するもう一つの手段は、タンパク質へのグリコシドの化学的または酵素的カップリングによる。使用するカップリング法に依存して、(a)アルギニンおよびヒスチジン、(b)遊離カルボキシル基、(c)遊離スルフヒドリル基、例えばシステインのもの、(d)遊離ヒドロキシル基、例えばセリン、スレオニンもしくはヒドロキシプロリンのもの、(e)芳香族残基、例えばフェニルアラニン、チロシンもしくはトリプトファンのもの、または(f)グルタミンのアミド基に、糖を取り付けうる。同様に、脱グリコシル化(すなわち結合分子上に存在する炭水化物部分の除去)も、化学的に、例えばTCRをトリフルオロメタンスルホン酸にばく露することによって、または酵素的に、エンドグリコシダーゼおよびエキソグリコシダーゼを使用することによって、達成しうる。
【0095】
TCRに、特に可溶型の本発明TCRに、低分子化合物などの薬物を付加することも考えられる。連結は、共有結合によって達成するか、または静電力によるなど、非共有結合的相互作用によって達成することができる。薬物コンジュゲートを形成させるために、当技術分野において公知のさまざまなリンカーを使用することができる。
【0096】
各分子の同定、追跡、精製および/または単離を助ける追加ドメイン(タグ)を導入するために、TCR、特に可溶型の本発明TCRをさらに改変することもできる。したがって、いくつかの態様では、TCRα鎖またはTCRβ鎖を、エピトープタグを含むように改変しうる。
【0097】
エピトープタグは、TCRに組み入れることができるタグの有用な例である。エピトープタグは、アミノ酸の短いストレッチであって、特異的抗体の結合を許すことで、患者の体内または培養(宿主)細胞内での可溶性TCRまたは宿主細胞の結合および移動の同定および追跡を可能にする。エピトープタグの検出、したがってタグ付けされたTCRの検出は、いくつかの異なる技法を使って達成することができる。タグはさらに、該タグに特異的な結合分子(抗体)の存在下で細胞を培養することによる、本発明TCRを保持する宿主細胞の刺激および増殖にも使用することができる。
【0098】
一般に、いくつかの例では、標的抗原に対するTCRのアフィニティーおよび解離速度(off-rate)を改変するさまざまな変異で、TCRを改変することができる。特に、これらの変異は、アフィニティーを増加させおよび/または解離速度を低減しうる。このように、TCRには、そのCDRおよび可変ドメインフレームワーク領域の少なくとも一つに、変異を導入しうる。
【0099】
しかし好ましい一態様において、TCRのCDR領域は、実施例のTCR受容体の場合のように、改変されず、インビトロアフィニティー成熟も行われない。これはCDR領域が天然の配列を有することを意味する。これが有利になりうるのは、インビトロ親和性成熟がTCR分子に免疫原性をもたらしうるからである。それは、治療効果および処置を減じまたは不活化する抗薬物抗体の産生につながり、および/または有害作用を誘導しうる。
【0100】
変異は1つまたは複数の置換、欠失または挿入でありうる。これらの変異は、例えばSambrook,Cold Spring Harbor Laboratory Press 2012に記載されている、DNA合成、ポリメラーゼ連鎖反応、制限酵素によるクローニングを、ライゲーション非依存的なクローニング手法などといった、当技術分野において公知の任意の適切な方法によって導入することができる。
【0101】
理論的には、内在性TCR鎖と外因性TCR鎖との間のミスペアリングにより、交差反応性のリスクを伴う予測不可能なTCR特異性が生じうる。TCR配列のミスペアリングを回避するために、最小マウス化CαおよびCβ領域を含有するように、組換えTCR配列を改変しうる。これは、形質導入されたいくつかの異なるTCR鎖の正しいペアリングを効率よく強化することが示されている技術である。TCRのマウス化(すなわちアルファ鎖およびベータ鎖中のヒト定常領域をそれぞれのマウス対応物と交換すること)は、宿主細胞におけるTCRの細胞表面発現を改良するためによく応用される技法である。特定の理論に束縛されることは望まないが、マウス化TCRは、CD3補助受容体とより効果的に結合し、および/または互いに優先的にペアを形成し、所望の抗原特異性を持つTCRを発現するようにエクスビボで遺伝子改変されたヒトT細胞上で、混合型TCRを形成しにくいが、それぞれの「元の」TCRは依然として保持し、発現していると考えられる。
【0102】
マウス化TCRの改良された発現の原因となる9個のアミノ酸は同定されており(Sommermeyer and Uckert,J Immunol.2010;184(11):6223-6231)、TCRアルファ鎖および/またはベータ鎖定常領域中のそれらアミノ酸残基の1つまたはすべてで、それぞれのマウス対応残基を置換することが想定される。この技法は「最小マウス化」(minimal murinization)とも呼ばれ、これには、細胞表面発現を強化すると同時に、アミノ酸配列中の「外来」アミノ酸残基の数を低減し、よって免疫原性のリスクを低減するという利点がある。
【0103】
好ましい一態様において、最小マウス化CαおよびCβ領域を含有するTCRは、SEQ ID NO:10のα鎖およびSEQ ID NO:11のβ鎖を含むTCR-1、SEQ ID NO:20のα鎖およびSEQ ID NO:21のβ鎖を含むTCR-2、SEQ ID NO:30のα鎖およびSEQ ID NO:31のβ鎖を含むTCR-3である。
【0104】
好ましい態様において、TCRは、最小限にマウス化されたCαおよびCβ領域を含有し、Cα膜貫通ドメイン中の疎水性アミノ酸変異をさらに含む。TCRα鎖の膜貫通ドメインは、鎖全体の安定性の欠如の一因となり、その結果、TCR-CD3複合体全体の形成と表面発現に影響を及ぼすことが示されている。TCRα膜貫通ドメイン中の3つのアミノ酸を疎水性アミノ酸ロイシンまたはバリンで置換すると、TCRの発現および機能的アビディティーが増加した。Haga-Friedman et al.J.Immunology 2012;188:5538-5546。
【0105】
好ましい一態様において、最小限にマウス化されたCαおよびCβ領域とTCRα鎖中の疎水性アミノ酸置換とを含有するTCRは、SEQ ID NO:102のα鎖およびSEQ ID NO:103のβ鎖を含むTCR-7、SEQ ID NO:108のα鎖およびSEQ ID NO:109のβ鎖を含むTCR-8、SEQ ID NO:114のα鎖およびSEQ ID NO:115のβ鎖を含むTCR-9である。
【0106】
いくつかの態様は、TCRα鎖とTCRβ鎖とがリンカー配列によって連結された単鎖タイプであり、任意でリンカーは切断可能である、本明細書記載の単離されたTCRに関係する。
【0107】
適切な単鎖TCR型は、可変TCRα領域に対応するアミノ酸配列によってコードされる第1セグメント、TCRβ鎖定常領域細胞外配列に対応するアミノ酸配列のN末に融合された可変TCRβ領域に対応するアミノ酸配列によって構成される第2セグメント、および第1セグメントのC末を第2セグメントのN末に連結するリンカー配列を含む。あるいは、第1セグメントはTCRβ鎖可変領域に対応するアミノ酸配列によって構成されてもよく、第2セグメントは、TCRα鎖定常領域細胞外配列に対応するアミノ酸配列のN末に融合されたTCRα鎖可変領域配列に対応するアミノ酸配列によって構成されてもよい。上記単鎖TCRは第1鎖と第2鎖の間にジスルフィド結合をさらに含んでもよく、リンカー配列の長さとジスルフィド結合の位置は、第1セグメントと第2セグメントの可変ドメイン配列が、相互に、本質的に天然T細胞受容体における配向と同じように配向されるような長さと位置である。より具体的に述べると、第1セグメントは、TCRα鎖定常領域細胞外配列に対応するアミノ酸配列のN末に融合されたTCRα鎖可変領域配列に対応するアミノ酸配列によって構成されてもよく、第2セグメントは、TCRβ鎖定常領域細胞外配列に対応するアミノ酸配列のN末に融合されたTCRβ鎖可変領域に対応するアミノ酸配列によって構成されてもよく、ジスルフィド結合が第1鎖と第2鎖の間に設けられてもよい。リンカー配列は、TCRの機能を損なわない任意の配列でありうる。
【0108】
「機能的」TCRαおよび/またはβ鎖融合タンパク質とは、例えばアミノ酸の付加、欠失または置換によって改変されたTCRまたはTCRバリアントであって、少なくとも実質的な生物学的活性を維持しているものを意味するものとする。TCRのαおよび/またはβ鎖の場合、これは、両方の鎖が(非改変型のαおよび/またはβ鎖と共に、またはもう一つの本発明融合タンパク質のαおよび/またはβ鎖と共に)T細胞受容体であって、その生物学的機能、特に該TCRの特異的ペプチド-MHC複合体への結合および/または特異的ペプチド:MHC相互作用時の機能的シグナル伝達を発揮するものを形成することが、依然として可能であることを意味するものとする。
【0109】
具体的態様において、TCRは、該エピトープタグが6~15アミノ酸、好ましくは9~11アミノ酸の長さを有する機能的T細胞受容体(TCR)αおよび/またはβ鎖融合タンパク質となるように、改変されてもよい。別の一態様において、TCRは、間隔の空いたまたは互いに直結している2つ以上のエピトープタグを含む機能的T細胞受容体(TCR)αおよび/またはβ鎖融合タンパク質となるように改変されてもよい。融合タンパク質の態様は、その融合タンパク質がその1つまたは複数の生物学的活性を維持している(「機能的である」)限りにおいて、2、3、4、5個またはそれ以上のエピトープタグを含有することができる。
【0110】
該エピトープタグが、これらに限定されないが、CD20もしくはHer2/neuタグ、または他の従来のタグ、例えばmycタグ、FLAGタグ、T7タグ、HA(ヘマグルチニン)タグ、Hisタグ、Sタグ、GSTタグもしくはGFPタグから選択される本発明の機能的T細胞受容体(TCR)αおよび/またはβ鎖融合タンパク質は好ましい。mycタグ、T7タグ、GSTタグ、GFPタグは既存の分子に由来するエピトープである。対照的にFLAGは、高い抗原性のために設計された合成エピトープタグである(例えば米国特許第4,703,004号および同第4,851,341号参照)。mycタグは、高品質な試薬を入手してその検出のために使用することができるので、好ましく使用することができる。エピトープタグは、当然ながら、抗体による認識の他にも、1つまたは複数の追加機能を有することができる。これらのタグの配列は文献に記載されており、当業者には周知である。
【0111】
より好ましい態様では、TCRα鎖とTCRβ鎖とが1つまたは複数のポリペプチド切断シグナルで隔てられた融合タンパク質として、単離されたTCRを発現させる。特定態様において、融合タンパク質は、5'から3'に向かって、TCRα鎖、1つまたは複数のポリペプチド切断シグナル、およびTCRβ鎖を含みうる。特定態様において、融合タンパク質は、5'から3'に向かって、TCRβ鎖、1つまたは複数のポリペプチド切断シグナル、およびTCRα鎖を含みうる。
【0112】
本明細書において企図されるポリペプチド切断シグナルとしては、プロテアーゼ切断部位およびリボソームスキップ配列が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。ポリペプチド切断シグナルは、本明細書記載のポリペプチドドメインのそれぞれの間に、例えばTCRα鎖とTCRβ鎖の間に配置しうる。加えて、ポリペプチド切断シグナルは、任意のリンカーペプチド配列中に入れることができる。例示的なポリペプチド切断シグナルとしては、ポリペプチド切断認識部位、例えばプロテアーゼ切断部位、ヌクレアーゼ切断部位(例えば希少制限酵素認識部位、自己切断リボザイム認識部位)、および自己切断性ウイルスオリゴペプチドまたはリボソームスキップ配列が挙げられる(deFelipe and Ryan,2004.Traffic,5(8);616-26参照)。
【0113】
特定態様における使用に適したプロテアーゼ切断部位の具体例としては、フューリン(例えばArg-X-X-Arg、例えばArg-X-Lys/Arg-ArgまたはArg-Gln/Tyr-Lys/Arg-Arg。フューリンはさらに配列Arg-Ala-Arg-Tyr-Lys-ArgまたはArg-Ala-Arg-Tyr-Lys-Arg-Serも切断しうる);サブチリシン(例えばPC2、PC1/PC3、PACE4、PC4、PC5/PC6、LPC/PC7IPC8/SPC7およびSKI-I);エンテロキナーゼ(例えばAsp-Asp-Asp-Aps-Lys*およびAsp/Glu-Arg-*Met);第Xa因子(例えばGlu-Gly-Arg*);トロンビン(例えばLeu-Val-Pro-Arg*Gly-Ser);グランザイムB(例えばIle-Glu-Pro-Asp*);カスパーゼ-3(例えばAsp-Glu-Val-Asp*)などが挙げられるが、それらに限定されるわけではない。
【0114】
自己切断性ウイルスペプチドまたはリボソームスキップ配列の具体例としては、2Aまたは2A様の部位、配列またはドメインが挙げられるが、それらに限定されるわけではない(Donnelly et al.,2001.J.Gen.Virol.82:1027-1041)。特定態様において、ウイルス2Aペプチドは、アフトウイルス2Aペプチド、ポティウイルス2Aペプチドまたはカルジオウイルス2Aペプチドである。好ましい態様において、ウイルス2Aペプチドは、口蹄疫ウイルス2Aペプチド(F2A)、ウマ鼻炎Aウイルス2Aペプチド(E2A)、トシア・アシグナ(Thosea asigna)ウイルス2Aペプチド(T2A)、ブタテッショウウイルス-1 2Aペプチド(P2A)、タイロウイルス2Aペプチドおよび脳心筋炎ウイルス2Aペプチドからなる群より選択される。
【0115】
一定の態様において、融合タンパク質は、TCRα鎖、タンパク質分解切断部位および/またはリボソームスキップ配列、ならびにTCRβ鎖を含む。好ましい態様において、融合タンパク質は、TCRα鎖、フューリン切断部位および/またはP2Aリボソームスキップ配列、ならびにTCRβ鎖を含む。別の好ましい態様において、融合タンパク質は、TCRα鎖、P2Aリボソームスキップ配列およびTCRβ鎖を含む。
【0116】
特定態様において、融合タンパク質は、TCRβ鎖、タンパク質分解切断部位および/またはリボソームスキップ配列、ならびにTCRα鎖を含む。好ましい態様において、融合タンパク質は、TCRβ鎖、フューリン切断部位および/またはP2Aリボソームスキップ配列、ならびにTCRα鎖を含む。別の好ましい態様において、融合タンパク質は、TCRβ鎖、P2Aリボソームスキップ配列およびTCRα鎖を含む。
【0117】
好ましい態様において、融合タンパク質は、SEQ ID NO:94、96、98、104、110および116のうちのいずれか1つに示されるアミノ酸配列を含む。
【0118】
F. TCRのフラグメントおよびバリアント
別の一局面は、本明細書記載のTCRの機能部分を含むポリペプチドに関係する。機能部分は、SEQ ID NO:4、SEQ ID NO:14、SEQ ID NO:24、SEQ ID NO:7、SEQ ID NO:17、SEQ ID NO:27からなる群より選択されるアミノ酸配列のうちの少なくとも1つを含みうる。
【0119】
具体的態様において、ポリペプチドはTCRの機能部分のみ、例えば可溶型のものを含みうる。あるいは、ポリペプチドは他のドメインと組み合わされうる。
【0120】
機能部分は、抗原への、特に抗原-MHC複合体への、TCRの結合を媒介しうる。一態様において、機能部分は、本明細書記載のTCRα可変鎖および/またはTCRβ可変鎖を含む。
【0121】
TCRバリアント分子、すなわちTCRの機能部分を含むポリペプチドと他のドメインとを併せ持つ分子は、TCRの結合特性を有しうるが、エフェクター細胞(T細胞以外)のシグナリングドメイン、特にNK細胞のシグナリングドメインとも組み合わされうる。それゆえに、いくつかの態様は、NK細胞などの免疫エフェクター細胞のシグナリングドメインと組み合わされた本明細書記載のTCRの機能部分を含むタンパク質に関係する。
【0122】
「結合」とは、標的と特異的かつ非共有結合的に結合し、一体化し、または結合する能力を指す。
【0123】
別の一局面は、少なくとも2つの本明細書記載のTCRを含む多価TCR複合体に関係する。この局面の一態様において、少なくとも2つのTCR分子は、多価複合体を形成させるためのリンカー部分によって連結される。好ましくは、複合体は水溶性であるので、リンカー部分は相応に選択されるべきである。形成される複合体の構造的多様性が最小限に抑えられるように、リンカー部分はTCR分子上の所定の位置への取り付けが可能であることが好ましい。本局面の一態様は、ポリマー鎖またはペプチドリンカー配列が、TCRの可変領域配列内にはない各TCRのアミノ酸残基間にまたがるTCR複合体によって与えられる。複合体は医療用でもありうるので、リンカー部分は薬学的適性、例えばその免疫原性などを、相応に考慮して選ばれるべきである。上記の望ましい基準を満たすリンカー部分の例は、当技術分野、例えば抗体フラグメントを連結する技術分野では公知である。
【0124】
リンカーの例は親水性ポリマーおよびペプチドリンカーである。親水性ポリマーの一例はポリアルキレングリコールである。この種類で最もよく使用されるものは、ポリエチレングリコール、すなわちPEGに基づく。しかし、他の適切な、置換されていてもよい、ポリアルキレングリコールに基づくものもあり、これには、例えばポリプロピレングリコールおよびエチレングリコールとプロピレングリコールのコポリマーが含まれる。ペプチドリンカーはアミノ酸の鎖で構成され、TCR分子を取り付けることができる簡単なリンカーまたは多量体化ドメインを生じるように機能する。
【0125】
ある態様は、TCRのうちの少なくとも1つに治療剤が結合している多価TCR複合体に関係する。
【0126】
G. サイトカインおよびケモカインの放出
いくつかの態様は、HLA-A*02:01がコードする分子によって提示されるSEQ ID NO:1のアミノ酸配列に、エフェクター細胞上に発現した本発明TCRが結合することによって、IFN-γ分泌が誘導される、本明細書記載の単離されたTCR、本明細書記載のポリペプチド、本明細書記載の多価TCR複合体に関係する。
【0127】
HLA-A*02:01がコードする分子によって提示されるSEQ ID NO:1のアミノ酸配列に、エフェクター細胞上に発現した本発明TCRが結合することによって誘導されるIFN-γ分泌は、HLA-A*02:01がコードする分子によって提示されるSEQ ID NO:1のアミノ酸配列に結合した時には、HLA-A*02:01がコードする分子によって提示される無関係なペプチド(ASTN1、SEQ ID NO:56、KLYGLDWAEL)への結合と比較して、100倍超、好ましくは500倍超、より好ましくは2000倍超、高くなりうる。IFN-γ分泌は、例えば100pg/ml超、例えば500pg/ml超または2000pg/ml超でありうる。
【0128】
サイトカインおよびケモカインの放出、例えばIFN-γ分泌は、K562細胞(Greiner et al.2006,Blood.2006 Dec 15;108(13):4109-17)にivtRNAのトランスフェクションを行うか、または形質導入を行って、それぞれSEQ ID NO:1のアミノ酸配列または無関係なペプチドを発現させ、それらを、調べようとするTCRを発現するCD8濃縮PBMCおよび/または非CD8濃縮PBMCと共にインキュベートするインビトロアッセイを使って測定するか、またはSEQ ID NO:1もしくは無関係なペプチドが外から負荷されたT2細胞を使用し、次にそれらを、調べようとするTCRを発現するCD8濃縮PBMCおよび/または非CD8濃縮PBMCと共インキュベートするインビトロアッセイにおいて測定することができる。
【0129】
いくつかの態様は、SEQ ID NO:1のアミノ酸配列に、または特にHLA-A*02:01がコードする分子によって提示されるSEQ ID NO:1のアミノ酸配列に、エフェクター細胞上に発現した本発明TCRが結合することによって誘導されるIFN-γ分泌が、前もって定められた閾未満である、本明細書記載の単離されたTCR、本明細書記載のポリペプチドまたは本明細書記載の多価TCR複合体に関係する。閾は少なくとも2:1である特定のエフェクター対標的比を使用することによって決定されうる。
【0130】
「エフェクター細胞」は末梢血リンパ球(PBL)または末梢血単核球(PBMC)でありうる。典型的には、エフェクター細胞は免疫エフェクター細胞、とりわけT細胞である。他の適切な細胞タイプとしては、ガンマ-デルタT細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞およびNK様T(NKT)細胞が挙げられる。
【0131】
HLA-A*02:01がコードする分子によって提示されるSEQ ID NO:1のアミノ酸配列に、エフェクター細胞上に発現した本発明TCRが結合した時のIFN-γ分泌は、少なくとも10-7[M]、好ましくは少なくとも10-8[M]、より好ましくは10-9[M]のMAGE-A4ペプチド濃度で誘導されうる。具体的態様において、例えばTCRトランスジェニックT細胞対T2細胞の比が2:1である場合、HLA-A*02:01がコードする分子によって提示されるSEQ ID NO:1のアミノ酸配列に、エフェクター細胞上に発現した本発明TCRが結合した時のIFN-γ分泌は、少なくとも10-7[M]、好ましくは少なくとも10-8[M]、より好ましくは10-9[M]のMAGE-A4ペプチド濃度で誘導されうる。
【0132】
本発明は、HLA-A*02:01がコードする分子によって提示される標的アミノ酸配列SEQ ID NO:1に結合するTCRまたはそのフラグメントを同定するための方法であって、候補TCRまたはそのフラグメントを、HLA-A*02:01がコードする分子によって提示されるSEQ ID NO:1のアミノ酸配列と接触させる工程、および候補TCRまたはそのフラグメントが標的に結合しおよび/または免疫応答を媒介するかどうかを決定する工程を含む方法にも関する。
【0133】
候補TCRまたはそのフラグメントが免疫応答を媒介するかどうかは、例えばIFN-γ分泌などのサイトカイン分泌の測定によって決定することができる。上述のようにサイトカイン分泌は、例えば、SEQ ID NO:1のアミノ酸配列をコードするivtRNAがトランスフェクトされたK562細胞(または他のAPC)を、調べようとするTCRを発現するかそのTCRのフラグメントを含む分子を発現するCD8濃縮PBMCと共にインキュベートするインビトロアッセイによって測定されうる。
【0134】
H. 核酸、ベクター
別の一局面は、本明細書記載のTCRをコードする核酸、または本明細書記載のTCRをコードするポリヌクレオチドをコードする核酸に関係する。
【0135】
以下の表に各ペプチド配列をコードするヌクレオチド配列を示す。
【0136】
「核酸分子」および「ヌクレオチド配列」とは、一般に、DNAまたはRNAのポリマーを意味し、これらは、一本鎖または二本鎖であって、合成されたもの、または天然源から得られた(例えば単離および/または精製された)ものであることができ、天然ヌクレオチド、非天然のまたは改変されたヌクレオチドを含有することができ、天然のヌクレオチド間結合を含有することも、未改変オリゴヌクレオチドのヌクレオチド間に見いだされるホスホジエステルの代わりに、ホスホロアミデート結合またはホスホロチオエート結合などといった非天然のまたは改変されたヌクレオチド間結合を含有することもできる。好ましくは、本明細書記載の核酸は組換え核酸である。本明細書において使用される「組換え」という用語は、(i)天然核酸セグメントまたは合成核酸セグメントを接合して生細胞内で複製することができる核酸分子にすることにより、生細胞外で構築された分子、または(ii)上記(i)に記載した分子の複製によって生じる分子を指す。本明細書において複製はインビトロ複製またはインビボ複製であることができる。核酸は、化学合成および/または酵素的ライゲーション反応に基づいて、当技術分野において公知の手法または(例えばGenscript、Thermo Fisherなどの会社から)市販されている手法を使って構築することができる。例えば核酸は、天然ヌクレオチドを使って、または分子の生物学的安定性を増加させるためもしくはハイブリダイゼーション時に形成される二重鎖の物理的安定性を増加させるために設計された、さまざまに改変されたヌクレオチド(例えばホスホロチオエート誘導体およびアクリジン置換ヌクレオチド)を使って、化学合成することができる(Sambrook et al.参照)。核酸は、組換えTCR、組換えポリペプチドもしくは組換えタンパク質またはその機能部分もしくは機能的バリアントのいずれかをコードする任意のヌクレオチド配列を含むことができる。
【0137】
本開示は、本明細書記載のTCRをコードするヌクレオチド配列と少なくとも75%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%同一な、単離または精製された核酸のバリアントも提供する。そのようなバリアントヌクレオチド配列は、MAGE-A4を特異的に認識する機能的TCRをコードする。
【0138】
本開示は、本明細書記載の核酸のいずれかのヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を含む、または本明細書記載の核酸のいずれかのヌクレオチドにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列を含む、単離または精製された核酸も提供する。
【0139】
ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列は、好ましくは高ストリンジェンシー条件下でハイブリダイズする。「高ストリンジェンシー条件」とは、ヌクレオチド配列が標的配列(本明細書記載の核酸のいずれかのヌクレオチド配列)に、非特異的ハイブリダイゼーションよりも検出可能に強い量でハイブリダイズすることを意味する。高ストリンジェンシー条件には、厳密な相補配列を持つポリヌクレオチドまたは散在した少数のミスマッチだけを含有するものと、当該ヌクレオチド配列とマッチする少数の小さな領域(例えば3~10塩基)を偶然有するランダム配列とが区別されることになる条件が含まれる。そのような小さな相補性領域は14~17塩基またはそれ以上の完全長相補鎖よりも融解しやすく、高ストリンジェンシーハイブリダイゼーションでは、それらを容易に区別することが可能になる。相対的に高いストリンジェンシー条件には、例えば低塩および/または高温条件、例えば約0.02~0.1M NaClまたはその等価物、約50~70℃の温度によって与えられるものが含まれるだろう。そのような高ストリンジェンシー条件は、ヌクレオチド配列とテンプレート鎖または標的鎖との間のミスマッチをほとんど許容せず、本明細書記載のTCRのいずれかの発現を検出するのに特に適している。ホルムアミドの添加量を増やすことで条件のストリンジェンシーを強化できることは、一般に理解される。
【0140】
特定態様において核酸はコドン最適化される。本明細書において使用する「コドン最適化される」という用語は、ポリペプチドの発現、安定性および/または活性を増加させるために、そのポリペプチドをコードするポリヌクレオチド中のコドンを置換することを指す。コドン最適化に影響を及ぼす因子として、(i)2種以上の生物間もしくは遺伝子間または合成的に構築されたバイアステーブル間でのコドンバイアスの変動、(ii)ある生物、遺伝子または遺伝子セット内でのコドンバイアスの程度の変動、(iii)コンテキストを含むコドンの体系的変動、(iv)それぞれのデコーディングtRNAに応じたコドンの変動、(v)トリプレット全体での、またはトリプレットの一つの位置における、GC%に応じたコドンの変動、(vi)リファレンス配列、例えば天然配列との類似度の変動、(vii)コドン頻度カットオフの変動、(viii)DNA配列から転写されたmRNAの構造的特性、(ix)コドン置換セットの設計の根拠とすべきDNA配列の機能に関する予備知識、(x)各アミノ酸にためのコドンセットの体系的変動、および/または(xi)偽翻訳開始部位(spurious translation initiation site)の単独除去のうちの1つ以上が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。
【0141】
別の一態様は、本明細書記載のTCRをコードする核酸を含むベクターに関係する。ベクターは、好ましくは、プラスミド、シャトルベクター、ファージミド、コスミド、発現ベクター、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、または遺伝子治療において使用される粒子および/もしくはベクターである。
【0142】
「ベクター」は、コードされているポリペプチドの合成が起こりうる適切な宿主細胞に核酸配列を運び入れる能力を有する、任意の分子または組成物である。典型的には、そして好ましくは、ベクターは、所望の核酸配列を組み入れるために当技術分野において公知の組換えDNA技法を使って工学的に操作された核酸である。ベクターはDNAもしくはRNAを含んでよく、および/またはリポソームを含んでもよい。ベクターは、プラスミド、シャトルベクター、ファージミド、コスミド、発現ベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、または遺伝子治療において使用される粒子および/もしくはベクターでありうる。ベクターは、それが宿主細胞中で複製することを可能にする、複製起点などの核酸配列を含みうる。ベクターは、1つまたは複数の選択可能マーカー遺伝子、および当業者に公知の他の遺伝要素も含みうる。ベクターは、好ましくは、本発明の核酸の発現を可能にする配列に機能的に連結された本発明の核酸を含む発現ベクターである。
【0143】
好ましい態様において、ベクターは、SEQ ID NO:88に示すアミノ酸配列を有するTCRβ鎖およびSEQ ID NO:87に示すアミノ酸配列を有するTCRα鎖;SEQ ID NO:90に示すアミノ酸配列を有するTCRβ鎖およびSEQ ID NO:89に示すアミノ酸配列を有するTCRα鎖;SEQ ID NO:92に示すアミノ酸配列を有するTCRβ鎖およびSEQ ID NO:91に示すアミノ酸配列を有するTCRα鎖;SEQ ID NO:103に示すアミノ酸配列を有するTCRβ鎖およびSEQ ID NO:102に示すアミノ酸配列を有するTCRα鎖;SEQ ID NO:109に示すアミノ酸配列を有するTCRβ鎖およびSEQ ID NO:108に示すアミノ酸配列を有するTCRα鎖;またはSEQ ID NO:115に示すアミノ酸配列を有するTCRβ鎖およびSEQ ID NO:114に示すアミノ酸配列を有するTCRα鎖をコードする核酸を含む。
【0144】
好ましくは、ベクターは発現ベクターである。より好ましくはベクターはレトロウイルスベクター、より具体的にはガンマレトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクターである。
【0145】
I. 細胞、細胞株
別の一局面は本明細書記載のTCRを発現する細胞に関係する。いくつかの態様において細胞は単離物または非天然物である。具体的態様において、細胞は、本明細書記載のTCRをコードする核酸を含むか、または該核酸を含むベクターを含みうる。
【0146】
細胞には、上述のTCRをコードする核酸配列を含む上述のベクターが導入されるか、または該TCRをコードするivtRNAが導入されうる。細胞はT細胞などの末梢血リンパ球でありうる。TCRのクローニングおよび外因性発現の方法は、例えばEngels et al.Cancer Cell,2013;23(4):516-526に記載されている。レンチウイルスベクターによる初代ヒトT細胞の形質導入は、例えばCribbs et al.BMC Biotechnol.2013;13:98に記載されている。
【0147】
「トランスフェクション」という用語は、外因性核酸配列が宿主細胞内、例えば真核宿主細胞内に導入される非ウイルスプロセスを指す。核酸配列の導入または移入は言及する方法に限定されず、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、遺伝子銃送達、リポフェクションまたはスーパーフェクション(superfection)など、多くの手段によって達成されうることに留意されたい。
【0148】
「形質導入」という用語は、ウイルスベクター、例えばアデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、ワクシニアウイルス、ヘルペスウイルス、レトロウイルス、またはレンチウイルスを使った、宿主細胞への外因性核酸配列の導入を指す。
【0149】
いくつかの態様は、a)本明細書記載の少なくとも1つの核酸を含む発現ベクターを含む細胞、またはb)本明細書記載のTCRのα鎖をコードする核酸を含む第1発現ベクターと本明細書記載のTCRのベータ鎖をコードする核酸を含む第2発現ベクターとを含む細胞に関係する。
【0150】
いくつかの態様において、細胞は末梢血リンパ球(PBL)または末梢血単核球(PBMC)である。細胞は、ナチュラルキラー(NK)細胞、ナチュラルキラー様T(NKT)細胞、またはT細胞でありうる。好ましくは、細胞はT細胞である。T細胞はCD4T細胞もしくはCD8T細胞であるか、または二重陰性T細胞、すなわちCD4もCD8も発現しないT細胞でありうる。いくつかの態様において、細胞は幹細胞様メモリーT細胞である。
【0151】
好ましい態様において、TCRは、補助受容体に依存することなく機能する。すなわちTCR、例えばTCR-5およびTCR-8は、CD8細胞でもCD4細胞でも機能する。
【0152】
幹細胞様メモリーT細胞(TSCM)は、CD8T細胞のうちの分化度が低い亜集団であり、自己複製能と長期間持続する能力とを特徴とする。これらの細胞がインビボでそれぞれの抗原に出会うと、それらはセントラルメモリーT細胞(TCM)、エフェクターメモリーT細胞(TEM)および最終分化エフェクターメモリーT細胞(TEMRA)へとさらに分化するが、一部のTSCMは静止状態にとどまる(Flynn et al.,Clinical&Translational Immunology 2014;3(7):e20)。これらの残存TSCM細胞は、インビボで耐久性のある免疫記憶を確立する能力を示し、それゆえに養子T細胞療法にとって重要なT細胞亜集団とみなされる(Lugli et al.,Nature Protocols 2013;8:33-42、Gattinoni et al.,Nat.Med.2011;Oct;17(10):1290-1297)。T細胞プールを幹細胞メモリーT細胞サブタイプに限定するには、免疫磁気選択を使用することができる(Riddell et al.Cancer Journal 2014;20(2):141-144参照)。
【0153】
J. TCRを標的とする抗体
別の一局面は、本明細書記載のTCRのうちのMAGE-A4に対する特異性を媒介する部分に特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメントに関係する。一態様において、TCRのうちのMAGE-A4特異性を媒介する部分は、SEQ ID NO:4、SEQ ID NO:14およびSEQ ID NO:24からなる群より選択されるTCRアルファ鎖のCDR3、ならびにSEQ ID NO:7、SEQ ID NO:17またはSEQ ID NO:27からなる群より選択されるベータ鎖のCDR3を含む。
【0154】
抗体またはその抗原結合フラグメントはTCRの活性を調整しうる。これはTCRとMAGE-A4との結合を遮断してよいし、遮断しなくてもよい。これは、TCRの治療活性を調整するために使用したり、診断目的で使用したりすることができる。
【0155】
K. 薬学的組成物、医学的処置およびキット
別の一局面は、本明細書記載のTCR、該TCRの機能部分を含むポリペプチド、本明細書記載の多価TCR複合体、TCRをコードする核酸、該核酸を含むベクター、該TCRを含む細胞、または本発明記載のTCRの一部分に特異的に結合する抗体を含む、組成物に関係する。
【0156】
別の一局面は、本明細書記載のTCR、該TCRの機能部分を含むポリペプチド、本明細書記載の多価TCR複合体、TCRをコードする核酸、該核酸を含むベクター、該TCRを含む細胞、または本発明記載のTCRの一部分に特異的に結合する抗体を含む、薬学的組成物に関係する。
【0157】
本発明のこれらの活性構成要素は、好ましくは、疾患を処置するかまたは少なくとも緩和することができる用量で、許容される担体または担体材料と混合されて、上述の薬学的組成物に使用される。そのような組成物は(活性構成要素および単体に加えて)、公知の技術水準である充填材(filling material)、塩、緩衝液、安定剤、可溶化剤その他の材料を含むことができる。
【0158】
「薬学的に許容される」という用語は、活性構成要素の生物学的活性の有効性を妨害しない非毒性材料を示す。単体の選択は応用に依存する。
【0159】
薬学的組成物は、活性構成要素の活性を強化する追加の構成要素、または処置を補う追加の構成要素を含有しうる。そのような追加の構成要素および/または因子は、相乗効果を得るための、または有害な効果もしくは不必要な効果を最小限に抑えるための、薬学的組成物の一部であることができる。
【0160】
本発明の活性構成要素の製剤または調製および適用/薬物治療のための技法は、Remington:The Science and Practice of Pharmacy、第I巻および第II巻、第22版、Loyd V.Allen Jr.編、ペンシルベニア州フィラデルフィア、Pharmaceutical Press;2012に掲載されており、これは参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。適当な適用は非経口適用、例えば筋肉内注射、皮下注射、髄内注射、ならびに髄腔内注射、直接室内注射、静脈内注射、節内注射、腹腔内注射または腫瘍内注射である。静脈内注射または静脈内注入は好ましい患者の処置である。
【0161】
好ましい一態様によれば、薬学的組成物は注入または注射によって投与される。注射可能な組成物は、少なくとも1つの活性成分、例えばTCRを発現する増殖されたT細胞集団(例えば処置される患者にとって自家または同種異系)を含む、薬学的に許容される流体組成物である。活性成分は、通常、生理学的に許容される担体に溶解または懸濁され、その組成物は、微量の1つまたは複数の非毒性補助物質、例えば乳化剤、保存剤およびpH緩衝剤などを、さらに含むことができる。本開示の融合タンパク質と共に使用するのに有用なそれら注射可能組成物は従来どおりであり、適当な製剤は当業者に周知である。
【0162】
典型的には、薬学的組成物は少なくとも1つの薬学的に許容される担体を含む。
【0163】
したがって別の一局面は、医薬として使用するための、本明細書記載のTCR、該TCRの機能部分を含むポリペプチド、本明細書記載の多価TCR複合体、該TCRをコードする核酸、該核酸を含むベクター、該TCRを含む細胞、TCRの一部に特異的に結合する抗体、本明細書記載のTCRを発現する1つまたは複数の細胞を含む組成物、または薬学的組成物に関係する。
【0164】
いくつかの態様は、がんの処置において使用するための、本明細書記載のTCR、該TCRの機能部分を含むポリペプチド、本明細書記載の多価TCR複合体、該TCRをコードする核酸、該核酸を含むベクター、該TCRを含む細胞、またはそれを含む組成物もしくは薬学的組成物に関係する。
【0165】
一態様において、がんは、血液がんまたは固形腫瘍である。血液がんは血液のがんとも呼ばれ、固形腫瘍を形成せず、それゆえに体内に散在する。血液がんの例は、白血病、リンパ腫、または多発性骨髄腫である。固体腫瘍には大きく分けて肉腫と癌腫の2タイプがある。肉腫は、例えば血管、骨、脂肪組織、靱帯、リンパ管、筋肉、または腱の腫瘍である。
【0166】
一態様において、がんは、肉腫、前立腺がん、子宮がん、甲状腺がん、精巣がん、腎がん、膵がん、卵巣がん、食道がん、非小細胞肺がん(NSCLC)、小細胞肺がん(SCLC)、非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、メラノーマ、肝細胞癌、頭頸部がん、胃がん、子宮内膜がん、結腸直腸がん、胆管癌、乳がん、膀胱がん、骨髄性白血病、および急性リンパ芽球性白血病からなる群より選択される。好ましくは、がんは、NSCLC、SCLC、乳がん、卵巣がんもしくは結腸直腸がん、または肉腫からなる群より選択される。より好ましくは、がんは、尿路上皮(膀胱)がん、メラノーマ、頭頸部がん、卵巣がん、NSCLC、食道がん、胃がん、滑膜肉腫、および粘液/円形細胞型脂肪肉腫(Myxoid Round Cell Liposarcoma:MRCLS)から選択される。
【0167】
一態様において、TCRは、NSCLC細胞株NCI-H1703などの肺がん細胞株およびNSCLCの肝臓転移細胞株NCI-H1755を認識する。
【0168】
本明細書では、(i)本明細書記載の単離されたTCR;(ii)組換えTCRをコードする核酸を含むウイルス粒子;(iii)本明細書記載の組換えTCRを発現するように改変された免疫細胞、例えばT細胞またはNK細胞;(iv)本明細書記載の組換えTCRをコードする核酸のうちの1つまたは複数を含有する薬学的組成物およびキットも企図される。いくつかの態様において、本開示は、本明細書記載の組換えTCRをコードするヌクレオチド配列を含むレンチウイルスベクター粒子を含む組成物(または組換えTCRを発現するように本明細書記載のベクター粒子を使って改変されたT細胞)を提供する。そのような組成物は、本明細書においてさらに記述するように、本開示の方法において対象に投与することができる。
【0169】
本明細書記載の改変T細胞を含む組成物は、公知の技法または本開示に基づいて当業者には明らかになるであろうその変法による養子免疫治療のための方法および組成物において利用することができる。
【0170】
いくつかの態様において、細胞は、まずそれらをその培養培地から収穫し、次に細胞を投与に適した媒質および容器系(「薬学的に許容される」担体)において洗浄および濃縮することにより、処置有効量で製剤化される。適切な注入媒質として、任意の等張性媒質製剤、典型的には生理食塩水、Normosol R(Abbott)またはPlasma-Lyte A(Baxter)を挙げることができるが、5%デキストロース水溶液または乳酸加リンゲルも利用することができる。注入媒質にはヒト血清アルブミンを補足することができる。
【0171】
効果的な処置のための組成物中の細胞数は、典型的には10細胞超、最大106細胞、最大108または109細胞以下であり、1010細胞超であることができる。細胞の数は、その組成物の最終的用途およびそこに含まれる細胞のタイプに依存するであろう。例えばある特定抗原に特異的な細胞が望ましい場合、その集団は、70%超、一般的には80%超、85%超および90~95%超のそのような細胞を含有するであろう。本明細書において提供される使用の場合、細胞は、一般に1リットル以下の体積中にあり、500ml以下、さらには250ml以下または100ml以下であることができる。したがって、望ましい細胞の密度は、典型的には106細胞/ml超であり、一般的には107細胞/ml超、一般的には108細胞/ml以上である。臨床的に妥当な数の免疫細胞は、累積的に109細胞以上、1010細胞以上、1011細胞以上となる複数回の注入に分割することができる。
【0172】
本明細書において提供される薬学的組成物は、例えば固形物、液状物、粉末、水溶液、または凍結乾燥型など、さまざまな形態をとりうる。適切な薬学的担体の例は当技術分野において公知である。そのような担体および/または添加剤は従来の方法で製剤化することができ、適切な用量で対象に投与することができる。脂質、ヌクレアーゼ阻害剤、ポリマーおよびキレート剤などの安定化剤は、組成物を体内での分解から保護することができる。注射による投与が意図されている組成物には、界面活性剤、保存剤、湿潤剤、分散剤、懸濁化剤、緩衝液、安定剤および等張化剤のうちの1つまたは複数が含まれうる。
【0173】
本明細書記載の組換えTCR、または本明細書において提供される組換えTCRをコードするヌクレオチド配列を含むウイルスベクター粒子は、キットとしてパッケージングすることができる。キットは、任意で、1つまたは複数の構成要素、例えば使用説明書、デバイスおよび追加試薬、ならびに本方法を実施するためのチューブ、容器およびシリンジなどの構成要素を含むことができる。例示的なキットは、組換えTCRをコードする核酸、組換えTCRポリペプチド、または本明細書において提供されるウイルスを含むことができ、任意で、使用説明書、対象内のウイルスを検出するためのデバイス、対象に組成物を投与するためのデバイス、および対象に組成物を投与するためのデバイスを含むことができる。
【0174】
本明細書では、関心対象の遺伝子(例えば組換えTCR)をコードするポリヌクレオチドを含むキットも企図される。本明細書では、関心対象の配列(例えば組換えTCR)をコードするウイルスベクターおよび任意で免疫チェックポイント阻害剤をコードするポリヌクレオチド配列を含むキットも企図される。
【0175】
本明細書において企図されるキットには、本明細書において開示されるTCRのうちの任意の1つまたは複数をコードするポリヌクレオチドの存在を検出するための方法を実行するためのキットも含まれる。特に、そのような診断キットは、本明細書において開示されるTCRをコードするポリヌクレオチドを検出するためのディープシーケンシングを実施するための、適当な増幅プライマーと検出プライマーのセットおよび他の関連試薬を含みうる。さらなる態様において、本明細書におけるキットは、本明細書において開示されるTCRを検出するための試薬、例えば抗体または他の結合分子を含みうる。診断キットは、本明細書において開示されるTCRをコードするポリヌクレオチドの存在の決定に関する説明書または本明細書において開示されるTCRの存在の決定に関する説明書も含みうる。キットは説明書も含みうる。説明書には、典型的には、キットに含まれている構成要素と、対象の適正な状態、適正な投薬量および適切な投与法を決定するための方法を含む投与のための方法とを説明する具体的表現が含まれる。説明書は、処置時間の継続中に対象をモニタリングするためのガイダンスも含みうる。
【0176】
本明細書において提供されるキットは本明細書記載の組成物を対象に投与するためのデバイスも含むことができる。医薬品またはワクチンを投与するための当技術分野公知のさまざまなデバイスはいずれも、本明細書において提供されるキットに含めることができる。例示的なデバイスとしては、皮下針、静脈内針、カテーテル、無針注射デバイス、吸入器および点眼器などの液剤ディスペンサーが挙げられるが、それらに限定されるわけではない。典型的には、キットのウイルスを投与するためのデバイスは、キットのウイルスと適合するだろう。例えば高圧注射デバイスなどの無針注射デバイスは、高圧注射によって損傷されないウイルスと共にキットに含めることができるが、典型的には、高圧注射によって損傷されるウイルスと共にキットに含まれることはない。
【0177】
本明細書において提供されるキットは、T細胞活性化因子もしくはT細胞刺激因子、またはTLRアゴニスト、例えばTLR4アゴニストなどといった化合物を対象に投与するためのデバイスも含むことができる。医薬品を対象に投与するための当技術分野公知のさまざまなデバイスはいずれも、本明細書において提供されるキットに含めることができる。例示的なデバイスとしては、皮下針、静脈内針、カテーテル、無針注射、皮下針、静脈内針、カテーテル、無針注射デバイス、吸入器および点眼器などの液剤ディスペンサーが挙げられるが、それらに限定されるわけではない。典型的には、キットの化合物を投与するためのデバイスは、その化合物の望ましい投与方法と適合するだろう。
【0178】
特定態様において、薬学的に許容される担体溶液の調剤は当業者には周知であり、例えば経腸投与および非経口投与、例えば血管内投与、静脈内投与、動脈内投与、骨内投与、室内投与、脳内投与、頭蓋内投与、脊髄内投与、髄腔内投与、および髄内投与および製剤を含めて、さまざまな処置レジメンにおいて本明細書記載の特定組成物を使用するのに適した投与レジメンおよび処置レジメンの開発も同様である。本明細書において企図される特定態様が、他の製剤、例えば薬学分野において周知であって、例えば参照によりその全体が本明細書に組み入れられるRemington:The Science and Practice of Pharmacy、第I巻および第II巻、第22版、Loyd V.Allen Jr.編、ペンシルベニア州フィラデルフィア、Pharmaceutical Press;2012に記載されているものを含みうることは、当業者には理解されるだろう。
【0179】
この明細書において言及する刊行物、特許出願および交付済み特許はすべて、あたかも個々の刊行物、特許出願または交付済み特許について参照により本明細書に組み入れられることを具体的かつ個別に示したかのごとく、参照により本明細書に組み入れられる。
【0180】
上記の態様は、明快に理解されるように例示と実施例をもって、いくらか詳しく説明したが、添付の特許請求の範囲の要旨または範囲から逸脱することなく、一定の変更および改変をそこに加えうることは、本明細書において企図される教示に照らして、当業者には明白だろう。以下の実施例は例示のために記載されるに過ぎず、限定のために記載されるのではない。変更または改変しても本質的に類似する結果を与えうる種々の決定的でないパラメータは当業者にはすぐにわかるだろう。
【実施例
【0181】
実施例1
MAGE-A4-TCRトランスジェニックT細胞はMAGE-A4GVY-MHC多量体に結合する
MAGE-A4反応性T細胞クローンを単離するために、インビトロ感作アプローチを使用した。この感作系では、HLA-A*02:01陽性ドナーおよびHLA-A*02:01陰性ドナーの成熟樹状細胞(mDC)を抗原提示細胞として使用し、自家CD8濃縮T細胞を応答細胞として使用した。ヒトMAGEA4遺伝子をコードするインビトロ転写RNA(in vitro transcribed RNA:ivtRNA)を、特異的抗原の供給源とした。mDCへのエレクトロポレーション後に、MAGE-A4をコードするivtRNAはタンパク質に転写され、続いてプロセシングされ、HLA-A*02:01がコードする分子により、mDC上にペプチドとして提示された。HLA-A*02:01陰性ドナーの場合は、MAGE-A4 ivtRNAに加えて、HLA-A*02:01をコードするivtRNAを使用することで、抗原提示細胞中で各HLAアレルをトランスジェニックに発現させた(同種異系アプローチ)。T細胞と、同じドナーからのivtRNAトランスフェクトmDCとのインビトロ共培養は、抗原特異的T細胞の新規誘導につながり、これを対応するTCRの供給源とした。抗原特異的T細胞はさまざまな方法で濃縮することができ、限界希釈法またはFACSベースの単一細胞選別によってクローニングされる。MAGE-A4反応性T細胞クローンのTCRアルファ鎖およびTCRベータ鎖の配列を次世代シーケンシングによって同定し、定常TCR領域をそれらのマウス対応物と交換してから、レトロウイルスベクターpES.12-6中にクローニングした。健常ドナーのPBMCはフィコール勾配遠心分離によって単離した。負の磁気選別(Miltenyi)によってCD8T細胞を濃縮し、抗CD3 mAb(5μg/ml)および抗CD28 mAb(1μg/ml)(BD Pharmingen、ドイツ・ハイデルベルク)でプレコーティングされた非組織培養24ウェルプレート中で刺激した。HEK293T細胞に各TCRコードレトロウイルスプラスミドおよび2つの発現プラスミドをトランスフェクトすることにより、アンホトロピックレトロウイルス粒子を生産した。刺激後2日目に、CD8T細胞を形質導入し、12日目に、FACSにより、形質導入に関するマーカーとしてマウス定常ベータ領域を使用して、形質導入CD8細胞を濃縮し、次に迅速増殖プロトコール(rapid expansion protocol)(Riddell SR,Science,1992 Jul 10;257(5067):238-41)によって、それらを増殖させた。
【0182】
実施例2~5に記載する実験では、マウス化CαおよびCβ領域を含有するTCR(すなわち、SEQ ID NO:57のα鎖およびSEQ ID NO:58のβ鎖を含むTCR-1、SEQ ID NO:59のα鎖およびSEQ ID NO:60のβ鎖を含むTCR-2、SEQ ID NO:61のα鎖およびSEQ ID NO:62のβ鎖を含むTCR-3)を試験した。実施例2~5に記載するものと同じタイプの実験は、上述の最小マウス化CαおよびCβ領域を含有するTCRでも実行しうる。
【0183】
結果:
CD8T細胞に、MAGE-A4反応性T細胞クローンから単離された3つの異なるTCRと、MAGE-A4を認識しない1つの対照TCRを形質導入した。それらをMAGE-A4GVY-MHC多量体(MAGE-A4230-239、GVYDGREHTV;immuneAware)ならびにCD8に対する抗体およびマウス定常ベータ領域に対する抗体で染色した。MAGE-A4-TCRトランスジェニックT細胞集団はいずれも、MAGE-A4GVY-MHC多量体に極めて効率よく結合した(>70%)。MAGE-A4GVY-MHC多量体染色は対照TCRでは観察されなかった。これらの結果は、MAGE-A4反応性T細胞クローンから単離されたTCRを、健常ドナーのT細胞においてトランスジェニックに発現させうることを示している(図1)。
【0184】
実施例2
MAGE-A4-TCRトランスジェニックT細胞はMAGE-A4GVYペプチドを認識する
TCRトランスジェニックT細胞のMAGE-A4特異性を以下のプロトコールに従って確認した。
標的細胞として、T2細胞(HLA-A*02陽性)に飽和量(10-5M)のMAGE-A4GVYペプチド(SEQ ID NO:1)または無関係な対照ペプチドを負荷した。加えて、K562細胞にHLA-A*02:01およびMAGE-A4遺伝子を形質導入した(K562/A2/MAGE-A4)。HLA-A*02:01だけを形質導入したK562細胞を対照として使用した(K562/A2)。各標的細胞株をTCRトランスジェニックT細胞と、20,000個のT細胞と10,000個の標的細胞とを使って、2:1の比でインキュベートした。20~24時間後に、共培養上清中のIFN-γ濃度を、標準的サンドイッチELISA(BDヒトIFN-γ ELISAセット)で分析した。
【0185】
結果:
MAGE-A4-TCRトランスジェニックT細胞は、MAGE-A4GVYが負荷されたT2細胞およびMAGE-A4が形質導入されたK562細胞を認識したが、対照標的細胞は認識しなかった。TCR-3が形質導入されたT細胞はK562/A2対照の認識を示した。これらの結果は、MAGE-A4反応性T細胞クローンから単離されたTCRは、健常ドナーのT細胞に移入された場合に、機能的であることを示している(図2)。
【0186】
実施例3
MAGE-A4-TCRトランスジェニックT細胞は高い機能的アビディティーを示す
MAGE-A4GVYペプチドが負荷されたT2細胞を使って、MAGE-A4-TCRトランスジェニックT細胞の機能的アビディティーの違いを分析した。
【0187】
T2細胞に、MAGE-A4GVYペプチドを段階的濃度(10-11M~10-5M)で外から負荷し、TCRトランスジェニックT細胞と、10,000個のT2細胞と20,000個のT細胞とを使って、1:2の比で共培養した。20~24時間後に、共培養上清中のIFN-γ濃度を、標準的サンドイッチELISA(BDヒトIFN-γ ELISAセット)で分析した。
【0188】
結果:
複数のドナーを総合すると、HLA-A*02上に負荷されたMAGE-A4GVYペプチドに対する最も高い機能的アビディティーはTCR-2によって示された。TCR-1およびTCR-3はTCR-2と比べてわずかに低減した機能的アビディティーを示した(図3)。
【0189】
実施例4
MAGE-A4-TCRトランスジェニックT細胞はMAGE-A4陽性腫瘍細胞株を溶解する
MAGE-A4陽性HLA-A2陽性腫瘍細胞株(NCI-H1703、NCI-H1755)、MAGE-A4陰性HLA-A2陽性腫瘍細胞株(Saos-2)およびMAGE-A4陰性HLA-A2陰性腫瘍細胞(A549)を標的細胞として使用した。細胞傷害性アッセイでは、共培養物を、40,000個のTCRトランスジェニックT細胞ならびに蛍光マーカー遺伝子が形質導入されているそれぞれ5,000個(NCI-H1755、NCI-H1703、A549)および2,500個(Saos-2)の腫瘍細胞で、約8~16:1のエフェクター対標的比(標的細胞サイズに依存)に設定した。飽和濃度のMAGE-A4GVYペプチド(10-5M)が負荷された腫瘍細胞を内部陽性対照として使用した。蛍光標的細胞の減少(1ウェルあたりの細胞カウント)を、172時間の総期間にわたり、生細胞モニタリング(IncuCyte(登録商標)ZOOM、Essen Bioscience)を使って、3時間ごとに測定した。サイトカイン放出を分析するために、共培養上清を24時間後に収穫し、各IFN-γ濃度を標準的サンドイッチELISA(BDヒトIFN-γ ELISAセット)で分析した。
【0190】
結果:
2つの内在性MAGE-A4陽性HLA-A2陽性腫瘍細胞株(NCI-H1703、NCI-H1755)は、すべてのMAGE-A4-TCRトランスジェニックT細胞によって認識され、溶解された。MAGE-A4陰性であるがHLA-A2陽性である腫瘍細胞株(Saos-2)は、飽和濃度のMAGE-A4GVYペプチドを細胞に外から負荷した場合にのみ、認識され溶解された。陰性対照細胞株(A549)は、どのMAGE-A4-TCRによっても認識も溶解もされなかった。これらの結果は、MAGE-A4-TCRトランスジェニックT細胞が、内在性にMAGE-A4陽性である腫瘍細胞を、著しく選択的に、効率よく溶解できることを示している(図4a図4bおよび図4c)。
【0191】
実施例5
MAGE-A4-TCRトランスジェニックT細胞は正常ヒト細胞を認識しない
正常ヒト細胞のパネルを使って、MAGE-A4-TCRトランスジェニックT細胞によって引き起こされうる、潜在的オンターゲット/オフ腫瘍毒性およびオフターゲット毒性を分析した。
【0192】
基本的な組織または器官を代表する初代細胞および誘導多能性幹細胞(iPS)由来細胞を、MAGE-A4-TCR形質導入T細胞による認識について試験した。HLA-A*02:01陰性NHBE細胞には、HLA-A2-ivtRNAをエレクトロポレーションによってトランスフェクトすることで、HLA-A2を一過性に発現させた。iCellニューロン(iCell Neuron)は、共培養の開始に先立ち、細胞表面HLA-A2発現を誘導するために、IFN-γで72時間にわたって処理した。すべての細胞タイプのHLA-A2発現をフローサイトメトリーによって確認した。細胞傷害性アッセイのために、20,000個のTCRトランスジェニックT細胞と細胞タイプ特異的な量の標的細胞とで共培養を設定した。内部陽性対照として、すべての正常ヒト細胞に最終濃度10-5MのMAGE-A4GVYペプチドを負荷した。サイトカイン放出を分析するために、共培養上清を24時間後に収穫し、IFN-γ濃度またはIL-2濃度を標準的サンドイッチELISA(BDヒトIFN-γまたはIL-2 ELISAセット)で分析した。HLA-A2表面発現を誘導するためにIFN-γで前処理されているiCellニューロンとの共培養については、IL-2放出を決定した。
【0193】
結果:
MAGE-A4-TCRトランスジェニックT細胞との共培養の開始時点で、初代細胞と誘導多能性幹細胞(iPS)由来細胞はいずれもHLA-A2陽性だった。さらにまた、MAGE-A4-TCRトランスジェニックT細胞は、個々の標的細胞にMAGE-A4GVYペプチドを負荷した場合には、すべての正常細胞を効率よく認識することができた。無負荷の正常細胞はどのMAGE-A4トランスジェニックT細胞によっても認識されなかった。MAGE-A4トランスジェニックT細胞はオンターゲット/オフ腫瘍毒性およびオフターゲット毒性の徴候を示さない(図5a図5bおよび図5c)。
【0194】
実施例6
完全ヒトMAGE-A4 TCRをコードするレンチウイルスベクター
実施例1において同定されたTCRポリヌクレオチド配列を、発現に関して最適化した。ポリシストロニックTCRコンストラクトをコードするレンチウイルスベクターを使ってTCRを発現させた。ポリシストロニックTCRコンストラクトは、TCRα鎖またはTCRβ鎖、随意のフューリン切断部位、P2Aリボソームスキップ配列、および対応するTCRα鎖またはTCRβ鎖を含有する。レンチウイルスベクターは公知の方法に従って生産された。例えばKutner et al.,BMC Biotechnol.2009;9:10.doi:10.1186/1472-6750-9-10、Kutner et al.Nat.Protoc.2009;4(4):495-505.doi:10.1038/nprot.2009.22を参照されたい。
【0195】
MAGE-A4 TCR-4ポリタンパク質(SEQ ID NO:94)をコードするポリシストロニックポリヌクレオチド(SEQ ID NO:93)は、SEQ ID NO:70によってコードされるβ鎖、リボソームスキップ配列をコードするポリヌクレオチド、およびSEQ ID NO:69によってコードされるα鎖を含有する。
【0196】
MAGE-A4 TCR-5ポリタンパク質(SEQ ID NO:96)をコードするポリシストロニックポリヌクレオチド(SEQ ID NO:95)は、SEQ ID NO:78によってコードされるβ鎖、フューリン切断部位をコードするポリヌクレオチド、リボソームスキップ配列をコードするポリヌクレオチド、およびSEQ ID NO:77によってコードされるα鎖を含有する。
【0197】
MAGE-A4 TCR-6ポリタンパク質(SEQ ID NO:98)をコードするポリシストロニックポリヌクレオチド(SEQ ID NO:97)は、SEQ ID NO:86によってコードされるβ鎖、フューリン切断部位をコードするポリヌクレオチド、リボソームスキップ配列をコードするポリヌクレオチド、およびSEQ ID NO:85によってコードされるα鎖を含有する。
【0198】
実施例7
MAGE-A4完全ヒトTCRを発現するT細胞はMAGE-A4GVY-MHC多量体に結合する
CD3T細胞を健常ドナーのPBMCから単離し、3つの異なる完全ヒトMAGE-A4 TCRおよびMAGE-A4を認識しない対照TCRをコードするレンチウイルスベクターで形質導入した。発現後に、形質導入されたT細胞を、MAGE-A4GVY-MHC多量体(MAGE-A4230-239、GVYDGREHTV;immuneAware)と、CD3に対する抗体とで染色した。集団には生存CD3細胞および多量体染色でゲートをかけた。MAGE-A4-TCRトランスジェニックT細胞集団はいずれも、MAGE-A4GVY-MHC多量体に極めて効率よく結合した(>70%)。MAGE-A4GVY-MHC多量体染色は対照TCRでは観察されなかった。
【0199】
結果:
これらの結果は、MAGE-A4反応性T細胞クローンから単離されたTCRを、健常ドナーのT細胞においてトランスジェニックに発現させうることを示している(図6)。
【0200】
実施例8
MAGE-A4完全ヒトTCRを発現するT細胞はMAGE-A4GVYペプチドを認識する
抗原依存的サイトカイン発現を使ってTCRトランスジェニックT細胞のMAGE-A4特異性を確認した。実施例6に記載した完全ヒトMAGE-A4 TCRをコードするレンチウイルスベクターで形質導入されたT細胞を、10ng/mLのMAGE-A4GVYペプチドもしくは無関係な対照ペプチドがパルスされたT2細胞(HLA-A*02陽性)、および非形質導入A549/HLA-A2細胞またはMAGE-A4遺伝子が形質導入されたA549/HLA-A2と、2:1のエフェクター対標的細胞比で共培養した。20~24時間後に、Luminexアッセイを使って、共培養上清中のIFN-γ濃度を分析した。
【0201】
結果:
MAGE-A4-TCRトランスジェニックT細胞はMAGE-A4GVYが負荷されたT2およびMAGE-A4が形質導入されたA549細胞を認識したが、対照標的細胞は認識しなかった。これらの結果は、完全ヒトMAGE-A4 TCRを発現する健常ヒトドナーT細胞が、MAGE-A4GVYペプチドをディスプレイする標的細胞と特異的に反応することを示している(図7)。
【0202】
実施例9
MAGE-A4完全ヒトTCRを発現するT細胞は高い機能的アビディティーを示す
MAGE-A4GVYペプチドをディスプレイする腫瘍細胞株を使って、完全ヒトMAGE-A4-TCRを発現するT細胞の機能的アビディティーの違いを分析した。実施例6に記載した完全ヒトMAGE-A4 TCRをコードするレンチウイルスベクターで形質導入されたT細胞を、MAGE-A4陽性HLA-A2陽性腫瘍細胞株(A375、NCI-H1703、NCI-H1755)、MAGE-A4陽性HLA-A2陰性腫瘍細胞株(NCI-H520)およびMAGE-A4陰性HLA-A2陽性腫瘍細胞株(A549)と、5:1のエフェクター対標的細胞比で共培養した。20~24時間後に、Luminexアッセイを使って、共培養上清中のIFN-γ濃度を分析した。
【0203】
結果:
複数のドナーを総合すると、MAGE-A4 TCR5が、MAGE-A4陽性HLA-A2陽性腫瘍細胞株に対して最も高い機能的アビディティーを示した。MAGE-A4 TCR1およびMAGE-A4 TCR-6は、MAGE-A4 TCR-5と比べると、低減した機能的アビディティーを示した(図8)。
【0204】
実施例10
MAGE-A4完全ヒトTCRを発現するT細胞はMAGE-A4陽性HLA-A2陽性腫瘍細胞株を溶解する
実施例6に記載した完全ヒトMAGE-A4 TCRをコードするレンチウイルスベクターで形質導入されたT細胞を、MAGE-A4陽性HLA-A2陽性腫瘍細胞株(A375、NCI-H1703、A549-HLA-A2-MAGE-A4)およびMAGE-A4陰性HLA-A2陽性腫瘍細胞株(A549-HLA-A2)と、5:1のエフェクター対標的細胞比で共培養した。6時間の共培養後に、腫瘍細胞株に対する細胞傷害性をインピーダンスアッセイで測定した。
【0205】
結果:
MAGE-A4陽性HLA-A2陽性腫瘍細胞株(A375、NCI-H1703、A549-HLA-A2-MAGE-A4)は、すべてのMAGE-A4-TCRトランスジェニックT細胞によって認識され、溶解された。MAGE-A4-TCRトランスジェニックT細胞によるMAGE-A4陰性HLA-A2陽性腫瘍細胞株(A549-HLA-A2)の溶解は、非形質導入対照T細胞を使って観察される溶解と有意差がなかった(図9)。
【0206】
実施例11
MAGE-A4完全ヒトTCRを発現するT細胞はインビボでMAGE-A4陽性腫瘍を抑制する
5×106個のMAGE-A4陽性A375腫瘍細胞を10匹のNSGマウスの各側腹部に注射した。腫瘍移植の10日後に、3.5×107個のMAGE-A4-TCRトランスジェニックT細胞、3.5×107個の対照非形質導入T細胞または媒体PBSを、マウスに投与した。処置後は、すべてのマウスを、それぞれの腫瘍体積について、キャリパーで週に2回測定した。
【0207】
結果:
非形質導入T細胞および媒体PBSで処置されたマウスは腫瘍成長を抑制することができず、プロトコールが許容する最大サイズに腫瘍が到達したら屠殺した。MAGE-A4-TCRトランスジェニックT細胞で処置されたマウスはT細胞注入後35日まで腫瘍成長を抑制した(図10)。
【0208】
実施例12
強化型ヒトMAGE-A4 TCR
発現と機能的アビディティーを強化するために、実施例1において同定されたTCRポリヌクレオチド配列を改変した。TCRαおよびβ鎖定常領域を最小限にマウス化し、疎水性アミノ酸置換をTCRα鎖定常領域の膜貫通ドメインに導入した。強化型MAGE-A4 TCRの例示的ポリヌクレオチド配列をSEQ ID NO:97~99、103~105および109~111に示す。強化型MAGE-A4 TCRの例示的ポリペプチド配列をSEQ ID NO:100~102、106~108および112~114に示す。
【0209】
ポリシストロニックTCRコンストラクトをコードするレンチウイルスベクターを使って、強化型MAGE-A4 TCR(TCR-7、TCR-8およびTCR-9)を発現させた。ポリシストロニックTCRコンストラクトは、TCRα鎖またはTCRβ鎖、随意のフューリン切断部位、P2Aリボソームスキップ配列、および対応するTCRα鎖またはTCRβ鎖を含有する。レンチウイルスベクターは公知の方法に従って生産された。例えばKutner et al.,BMC Biotechnol.2009;9:10.doi:10.1186/1472-6750-9-10、Kutner et al.Nat.Protoc.2009;4(4):495-505.doi:10.1038/nprot.2009.22を参照されたい。
【0210】
MAGE-A4 TCR-7ポリタンパク質(SEQ ID NO:102)をコードするポリシストロニックポリヌクレオチド(SEQ ID NO:99)は、SEQ ID NO:98によってコードされるβ鎖、リボソームスキップ配列をコードするポリヌクレオチド、およびSEQ ID NO:97によってコードされるα鎖を含有する。
【0211】
MAGE-A4 TCR-8ポリタンパク質(SEQ ID NO:108)をコードするポリシストロニックポリヌクレオチド(SEQ ID NO:105)は、SEQ ID NO:104によってコードされるβ鎖、フューリン切断部位をコードするポリヌクレオチド、リボソームスキップ配列をコードするポリヌクレオチド、およびSEQ ID NO:103によってコードされるα鎖を含有する。
【0212】
MAGE-A4 TCR-9ポリタンパク質(SEQ ID NO:114)をコードするポリシストロニックポリヌクレオチド(SEQ ID NO:111)は、SEQ ID NO:110によってコードされるβ鎖、フューリン切断部位をコードするポリヌクレオチド、リボソームスキップ配列をコードするポリヌクレオチド、およびSEQ ID NO:109によってコードされるα鎖を含有する。
【0213】
実施例13
MAGE-A4完全ヒトTCRまたは強化型MAGE-A4 TCRを発現するT細胞はヒトT細胞上に効率よく発現させることができる。
末梢血単核球(PBMC)を3人の無関係な健常ドナーから単離し、活性化し、完全ヒトMAGE-A4 TCR(TCR-5)または強化型MAGE-A4 TCR(TCR-8)をコードするレンチウイルスベクターで形質導入するか、または陰性対照として形質導入を行わなかった。細胞をインビトロ増殖のために培養し、ベクターコピー数(VCN)を測定することによってベクターの組込みについて分析すると共に、MAGE-A4GVY-MHC多量体(MAGE-A4230-239、GVYDGREHTV;immuneAware)とCD3に対する抗体で染色した細胞に対するフローサイトメトリーを使って発現について分析した。
【0214】
結果:
TCR-5およびTCR-8のVCNは同等であったが、TCRの表面発現と密度は、TCR-8が形質導入された細胞およびTCR-5が形質導入された細胞では高かった。図11A図11C
【0215】
実施例14
MAGE-A4完全ヒトTCRまたは強化型MAGE-A4 TCRを発現するT細胞はインビトロでMAGE-A4+細胞株を特異的に認識して殺す
末梢血単核球(PBMC)を3人の無関係な健常ドナーから単離し、活性化し、完全ヒトMAGE-A4 TCR(TCR-5)または強化型MAGE-A4 TCR(TCR-8)をコードするレンチウイルスベクターで形質導入するか、または陰性対照として非形質導入(UTD)細胞とした。TCRを発現するT細胞を、以下のMAGEA4陽性(+)およびMAGEA4陰性(-)腫瘍細胞株に対する特異的反応性について評価した:A549.A2(A2+,MAGE-A4(-));NCI-H2023(A2+,MAGE-A4(+));A375(A2+,MAGE-A4(+));A549.A2.MAGEA4(A2+,MAGE-A4(+));およびU2OS(A2+,MAGE-A4(低))。
【0216】
結果:
TCR-5 T細胞およびTCR-8 T細胞は、HLA-A2+/MAGEA4(+)腫瘍細胞株と共培養した場合にはIFNγを放出したが、HLA-A2+/MAGEA4(-)細胞と共培養した場合または標的細胞の非存在下で培養した場合は、IFNγを放出しなかった。UTD T細胞はどの培養条件でもIFNγを放出しなかった。図12A
【0217】
TCR-5 T細胞とTCR-8 T細胞は、HLA-A2+/MAGEA4(+)腫瘍細胞株を、10:1、5:1および2.5:1のE:T比で効果的に殺した。UTD T細胞はどのE:T比でもHLA-A2+/MAGEA4(+)腫瘍細胞株を殺さなかった。図12B
【0218】
実施例15
MAGE-A4完全ヒトTCRまたは強化型MAGE-A4 TCRを発現するT細胞はインビボでMAGE-A4発現腫瘍の退縮を媒介する
MAGE-A4陽性A375腫瘍細胞を5匹のNSGマウスの各側腹部に注射した。50mm3のA375腫瘍を持つマウスにPBS(媒体)、非形質導入T細胞(UTD)、5×106個のTCR-5もしくはTCR-8 T細胞(左側腹部)、または1.5×106個のTCR-5もしくはTCR-8 T細胞(右側腹部)を投与した。100mm3のA375腫瘍を持つマウスには、PBS(媒体)、非形質導入(UTD)T細胞、または10×106個のTCR-5もしくはTCR-8 T細胞を投与した。腫瘍成長を週に2回測定し、TCR T細胞の抗腫瘍活性を、UTD対照および媒体対照を与えたマウスと比較して評価した。
【0219】
結果:
TCR-5 T細胞とTCR-8 T細胞は、用量5×106個のTCR+T細胞で、50mm3のA375腫瘍の同等な腫瘍退縮を媒介した。TCR-8 T細胞はTCR-5 T細胞と比較して、用量1.5×106個のTCR+T細胞で50mm3のA375腫瘍の、または用量10×106個のTCR+T細胞で100mm3のA375腫瘍の、腫瘍退縮の増進を媒介した。媒体およびUTD T細胞はどの条件でもA375腫瘍の退縮を媒介しなかった。
【0220】
本発明はさらに、以下の項目を特徴とする。
【0221】
第1項:MAGE-A4に特異的な単離されたT細胞受容体(TCR)。
【0222】
第2項:a)SEQ ID NO:2のアミノ酸配列を有するCDR1、SEQ ID NO:3のアミノ酸配列を有するCDR2およびSEQ ID NO:4のアミノ酸配列を有するCDR3を含む、可変TCRα領域、
SEQ ID NO:5のアミノ酸配列を有するCDR1、SEQ ID NO:6のアミノ酸配列を有するCDR2およびSEQ ID NO:7のアミノ酸配列を有するCDR3を含む、可変TCRβ領域;または
b)SEQ ID NO:12のアミノ酸配列を有するCDR1、SEQ ID NO:13のアミノ酸配列を有するCDR2およびSEQ ID NO:14のアミノ酸配列を有するCDR3を含む、可変TCRα領域、
SEQ ID NO:15のアミノ酸配列を有するCDR1、SEQ ID NO:16のアミノ酸配列を有するCDR2およびSEQ ID NO:17のアミノ酸配列を有するCDR3を含む、可変TCRβ領域;または
c)SEQ ID NO:22のアミノ酸配列を有するCDR1、SEQ ID NO:23のアミノ酸配列を有するCDR2およびSEQ ID NO:24のアミノ酸配列を有するCDR3を含む、可変TCRα領域、
SEQ ID NO:25のアミノ酸配列を有するCDR1、SEQ ID NO:26のアミノ酸配列を有するCDR2およびSEQ ID NO:27のアミノ酸配列を有するCDR3を含む、可変TCRβ領域
を含む、MAGE-A4に特異的な単離されたT細胞受容体(TCR)。
【0223】
第3項:SEQ ID NO:1のアミノ酸配列またはそのフラグメントを特異的に認識する、前記項目のいずれか一項記載の単離されたTCR。
【0224】
第4項:HLA-A2に結合した形態のSEQ ID NO:1のアミノ酸配列を特異的に認識する、前記項目のいずれか一項記載の単離されたTCR。
【0225】
第5項:HLA-A*02:01がコードする分子によって提示されるSEQ ID NO:1のアミノ酸を特異的に認識する、前記項目のいずれか一項記載の単離されたTCR。
【0226】
第6項:SEQ ID NO:4、SEQ ID NO:14およびSEQ ID NO:24からなる群より選択される配列を有する相補性決定領域3(CDR3)を含むTCRα鎖を含む、前記項目のいずれか一項記載の単離されたTCR。
【0227】
第7項:SEQ ID NO:7、SEQ ID NO:17およびSEQ ID NO:27からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するCDR3を含むTCRβ鎖を含む、前記項目のいずれか一項記載の単離されたTCR。
【0228】
第8項:a)SEQ ID NO:8と少なくとも80%同一なアミノ酸配列を有する可変TCRα領域およびSEQ ID NO:9と少なくとも80%同一なアミノ酸配列を有する可変TCRβ領域;または
b)SEQ ID NO:18と少なくとも80%同一なアミノ酸配列を有する可変TCRα領域およびSEQ ID NO:19と少なくとも80%同一なアミノ酸配列を有する可変TCRβ領域;または
c)SEQ ID NO:28と少なくとも80%同一なアミノ酸配列を有する可変TCRα領域およびSEQ ID NO:29と少なくとも80%同一なアミノ酸配列を有する可変TCRβ領域
を含む、前記項目のいずれか一項記載の単離されたTCR。
【0229】
第9項:a)SEQ ID NO:8のアミノ酸配列を有する可変TCRα領域およびSEQ ID NO:9のアミノ酸配列を有する可変TCRβ領域;または
b)SEQ ID NO:18のアミノ酸配列を有する可変TCRα領域およびSEQ ID NO:19のアミノ酸配列を有する可変TCRβ領域;または
c)SEQ ID NO:28のアミノ酸配列を有する可変TCRα領域およびSEQ ID NO:29のアミノ酸配列を有する可変TCRβ領域
を含む、前記項目のいずれか一項記載の単離されたTCR。
【0230】
第10項:a)SEQ ID NO:10と少なくとも80%同一なアミノ酸配列を有するTCRα鎖およびSEQ ID NO:11と少なくとも80%同一なアミノ酸配列を有するTCRβ鎖;または
b)SEQ ID NO:20と少なくとも80%同一なアミノ酸配列を有するTCRα鎖およびSEQ ID NO:21と少なくとも80%同一なアミノ酸配列を有するTCRβ鎖;または
c)SEQ ID NO:30と少なくとも80%同一なアミノ酸配列を有するTCRα鎖およびSEQ ID NO:31と少なくとも80%同一なアミノ酸配列を有するTCRβ鎖
を含む、前記項目のいずれか一項記載の単離されたTCR。
【0231】
第11項:a)SEQ ID NO:10のアミノ酸配列を有するTCRα鎖およびSEQ ID NO:11のアミノ酸配列を有するTCRβ鎖;または
b)SEQ ID NO:20のアミノ酸配列を有するTCRα鎖およびSEQ ID NO:21のアミノ酸配列を有するTCRβ鎖;または
c)SEQ ID NO:30のアミノ酸配列を有するTCRα鎖およびSEQ ID NO:31のアミノ酸配列を有するTCRβ鎖
を含む、前記項目のいずれか一項記載の単離されたTCR。
【0232】
第12項:TCRが、TCRα鎖とTCRβ鎖とを含み、
a)-可変TCRα領域はSEQ ID NO:8と少なくとも80%同一なアミノ酸配列を有し、SEQ ID NO:4記載のアミノ酸配列によってコードされるCDR3を含み、
-可変TCRβ領域はSEQ ID NO:9と少なくとも80%同一なアミノ酸配列を有し、SEQ ID NO:7記載のアミノ酸配列によってコードされるCDR3を含む;または
b)-可変TCRα領域はSEQ ID NO:18と少なくとも80%同一なアミノ酸配列を有し、SEQ ID NO:14記載のアミノ酸配列によってコードされるCDR3を含み;または
-可変TCRβ領域はSEQ ID NO:19と少なくとも80%同一なアミノ酸配列を有し、SEQ ID NO:17記載のアミノ酸配列によってコードされるCDR3を含む;または
c)-可変TCRα領域はSEQ ID NO:28と少なくとも80%同一なアミノ酸配列を有し、SEQ ID NO:24記載のアミノ酸配列によってコードされるCDR3を含み;または
-可変TCRβ領域はSEQ ID NO:29と少なくとも80%同一なアミノ酸配列を有し、SEQ ID NO:27記載のアミノ酸配列によってコードされるCDR3を含む、
前記項目のいずれか一項記載の単離されたTCR。
【0233】
第13項:a)SEQ ID NO:10のアミノ酸配列を有するTCRα鎖およびSEQ ID NO:11のアミノ酸配列を有するTCRβ鎖;
b)SEQ ID NO:20のアミノ酸配列を有するTCRα鎖およびSEQ ID NO:21のアミノ酸配列を有するTCRβ鎖;または
c)SEQ ID NO:30のアミノ酸配列を有するTCRα鎖およびSEQ ID NO:31のアミノ酸配列を有するTCRβ鎖
を含む、第1項~第5項のいずれか一項記載の単離されたTCR。
【0234】
第14項:a)SEQ ID NO:87のアミノ酸配列を有するTCRα鎖およびSEQ ID NO:88のアミノ酸配列を有するTCRβ鎖;
b)SEQ ID NO:89のアミノ酸配列を有するTCRα鎖およびSEQ ID NO:90のアミノ酸配列を有するTCRβ鎖;または
c)SEQ ID NO:91のアミノ酸配列を有するTCRα鎖およびSEQ ID NO:92のアミノ酸配列を有するTCRβ鎖
を含む、第1項~第5項のいずれか一項記載の単離されたTCR。
【0235】
第15項:a)SEQ ID NO:102のアミノ酸配列を有するTCRα鎖およびSEQ ID NO:103のアミノ酸配列を有するTCRβ鎖;
b)SEQ ID NO:108のアミノ酸配列を有するTCRα鎖およびSEQ ID NO:109のアミノ酸配列を有するTCRβ鎖;または
c)SEQ ID NO:114のアミノ酸配列を有するTCRα鎖およびSEQ ID NO:115のアミノ酸配列を有するTCRβ鎖
を含む、第1項~第5項のいずれか一項記載の単離されたTCR。
【0236】
第16項:精製されている、前記項目のいずれか一項記載の単離されたTCR。
【0237】
第17項:前記項目のいずれか一項記載の単離されたTCRであって、そのアミノ酸配列が1つまたは複数の表現型的にサイレントな置換を含む、単離されたTCR。
【0238】
第18項:前記項目のいずれか一項記載の単離されたTCRであって、そのアミノ酸配列が、検出可能な標識、治療剤または薬物動態改変部分を含むように改変されている、単離されたTCR。
【0239】
第19項:治療剤が、免疫エフェクター分子、細胞毒性剤および放射性核種からなる群より選択される、第18項記載の単離されたTCR。
【0240】
第20項:免疫エフェクター分子がサイトカインである、第19項記載の単離されたTCR。
【0241】
第21項:可溶性または膜結合型である、前記項目のいずれか一項記載の単離されたTCR。
【0242】
第22項:薬物動態改変部分が、少なくとも1つのポリエチレングリコール繰返し単位、少なくとも1つのグリコール基、少なくとも1つのシアリル基またはそれらの組合せである、第18項記載の単離されたTCR。
【0243】
第23項:TCRα鎖とTCRβ鎖とがリンカー配列によって連結された単鎖タイプである、前記項目のいずれか一項記載の単離されたTCR。
【0244】
第24項:TCRα鎖またはTCRβ鎖がエピトープタグを含むように改変されている、第1項~第23項のいずれか一項記載の単離されたTCR。
【0245】
第25項:第1項~第24項のいずれか一項記載のTCRの機能部分を含む単離されたポリペプチドであって、機能部分がSEQ ID NO:4、7、14、17、24および27のアミノ酸配列のうちの少なくとも1つを含む、単離されたポリペプチド。
【0246】
第26項:機能部分がTCRα可変鎖および/またはTCRβ可変鎖を含む、第25項記載の単離されたポリペプチド。
【0247】
第27項:TCRα鎖とTCRβ鎖とを含む融合タンパク質であって、SEQ ID NO:94、96、98、104、110および116のうちのいずれか1つに示されるアミノ酸配列を含む融合タンパク質。
【0248】
第28項:第1項~第24項のいずれか一項記載のTCRを少なくとも2つ含む多価TCR複合体。
【0249】
第29項:TCRのうちの少なくとも1つに治療剤が結合している、第28項記載の多価TCR複合体。
【0250】
第30項:HLA-A*02:01がコードする分子によって提示されるSEQ ID NO:1のアミノ酸配列への結合によってIFN-γ分泌が誘導される、第1項~第24項のいずれか一項記載の単離されたTCR、第25項または第26項記載のポリペプチド、第27項記載の融合タンパク質、第28項または第29項記載の多価TCR複合体。
【0251】
第31項:第1項~第24項のいずれか一項記載のTCRをコードするか、第25項または第26項記載のポリペプチドをコードするか、または第27項記載の融合タンパク質をコードする、核酸。
【0252】
第32項:TCRα鎖をコードする核酸配列が、SEQ ID NO:69、77、85、99、105および111のいずれか1つに示される、第31項記載の核酸。
【0253】
第33項:TCRβ鎖をコードする核酸配列がSEQ ID NO:70、78、86、100、106および112のうちのいずれか1つに示される、第31項または第32項記載の核酸。
【0254】
第34項:TCRが、SEQ ID NO:69によってコードされるα鎖およびSEQ ID NO:70によってコードされるβ鎖;SEQ ID NO:77によってコードされるα鎖およびSEQ ID NO:78によってコードされるβ鎖;SEQ ID NO:85によってコードされるα鎖およびSEQ ID NO:86によってコードされるβ鎖;SEQ ID NO:99によってコードされるα鎖およびSEQ ID NO:100によってコードされるβ鎖;SEQ ID NO:105によってコードされるα鎖およびSEQ ID NO:106によってコードされるβ鎖;またはSEQ ID NO:111によってコードされるα鎖およびSEQ ID NO:112によってコードされるβ鎖を含む、第31項記載の核酸。
【0255】
第35項:融合タンパク質がSEQ ID NO:93、95、97、101、107および113のうちのいずれか1つに示される核酸配列によってコードされる、第31項記載の核酸。
【0256】
第36項:第31項~第35項のいずれか一項記載の核酸を含むベクター。
【0257】
第37項:(a)SEQ ID NO:87およびSEQ ID NO:88に示すポリペプチド配列;(b)SEQ ID NO:89およびSEQ ID NO:90に示すポリペプチド配列;(c)SEQ ID NO:91およびSEQ ID NO:92に示すポリペプチド配列;(d)SEQ ID NO:102およびSEQ ID NO:103に示すポリペプチド配列;(e)SEQ ID NO:108およびSEQ ID NO:109に示すポリペプチド配列;または(f)SEQ ID NO:114およびSEQ ID NO:115に示すポリペプチド配列をコードする核酸を含む、ベクター。
【0258】
第38項:発現ベクターである、第36項または第37項に記載のベクター。
【0259】
第39項:レトロウイルスベクターである、第36項~第38項のいずれか一項記載のベクター。
【0260】
第40項:レンチウイルスベクターである、第36項~第39項のいずれか一項記載のベクター。
【0261】
第41項:第1項~第24項のいずれか一項記載のTCRを発現する細胞。
【0262】
第42項:第36項~第40項のいずれか一項記載のベクターを含む細胞。
【0263】
第43項:単離された、または非天然である、第41項または第3942項記載の細胞。
【0264】
第44項:第31項~第35項のいずれか一項記載の核酸または第36項~第40項のいずれか一項記載のベクターを含む細胞。
【0265】
第45項:a)第28項~第32項のいずれか一項記載の核酸を少なくとも1つ含む、発現ベクター、
b)第1項~第21項のいずれか一項記載のTCRのアルファ鎖をコードする核酸を含む第1発現ベクターおよび第1項~第21項のいずれか一項記載のTCRのベータ鎖をコードする核酸を含む、第2発現ベクター
を含む、第41項~第44項のいずれか一項記載の細胞。
【0266】
第46項:末梢血リンパ球(PBL)または末梢血単核球(PBMC)である、第41項~第45項のいずれか一項記載の細胞。
【0267】
第49項:T細胞である、第41項~第48項のいずれか一項記載の細胞。
【0268】
第50項:T細胞である、第41項~第48項のいずれか一項記載の細胞。
【0269】
第51項:第1項~第24項のいずれか一項記載のTCRのうちのMAGE-A4に対する特異性を媒介する部分に特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメント。
【0270】
第52項:TCRのうちのMAGE-A4特異性を媒介する部分が、
a)SEQ ID NO:4のアルファ鎖のCDR3および/もしくはSEQ ID NO:7のベータ鎖のCDR3、または
b)SEQ ID NO:14のアルファ鎖のCDR3および/もしくはSEQ ID NO:17のベータ鎖のCDR3、または
c)SEQ ID NO:24のアルファ鎖のCDR3および/もしくはSEQ ID NO:27のベータ鎖のCDR3
を含む、第51項記載の抗体。
【0271】
第53項:第1項~第24項のいずれか一項記載のTCR、第25項もしくは第26項記載のポリペプチド、第27項記載の融合タンパク質、第28項もしくは第29項記載の多価TCR複合体、第31項~第35項のいずれか一項記載の核酸、第36項~第40項のいずれか一項記載のベクター、第41項~第50項のいずれか一項記載の細胞、または第51項もしくは第52項記載の抗体を含む組成物。
【0272】
第54項:薬学的に許容される担体と、第1項~第24項のいずれか一項記載のTCR、第25項もしくは第26項記載のポリペプチド、第27項記載の融合タンパク質、第28項もしくは第29項記載の多価TCR複合体、第31項~第35項のいずれか一項記載の核酸、第36項~第40項のいずれか一項記載のベクター、第41項~第50項のいずれか一項記載の細胞、または第51項もしくは第52項記載の抗体とを含む、薬学的組成物。
【0273】
第55項:少なくとも1つの薬学的に許容される担体と第41項~第50項のいずれか一項記載の細胞とを含む薬学的組成物。
【0274】
第56項:医薬として使用するための、第1項~第24項のいずれか一項記載のTCR、第25項もしくは第26項記載のポリペプチド、第27項記載の融合タンパク質、第28項もしくは第29項記載の多価TCR複合体、第31項~第35項のいずれか一項記載の核酸、第36項~第40項のいずれか一項記載のベクター、第41項~第50項のいずれか一項記載の細胞、第51項もしくは第52項記載の抗体、第53項記載の組成物、または第54項もしくは第55項記載の薬学的組成物。
【0275】
第57項:がんの処置において使用するための、第1項~第24項のいずれか一項記載のTCR、第25項もしくは第26項記載のポリペプチド、第27項記載の融合タンパク質、第28項もしくは第29項記載の多価TCR複合体、第31項~第35項のいずれか一項記載の核酸、第36項~第40項のいずれか一項記載のベクター、第41項~第50項のいずれか一項記載の細胞、第51項もしくは第52項記載の抗体、第53項記載の組成物、または第54項もしくは第55項記載の薬学的組成物。
【0276】
第58項:がんが、血液がんまたは固形腫瘍である、第57項記載のTCR、ポリペプチド、融合タンパク質、多価TCR複合体、核酸、細胞、抗体、組成物、または薬学的組成物。
【0277】
第59項:がんが、肉腫、前立腺がん、子宮がん、甲状腺がん、精巣がん、腎がん、膵がん、卵巣がん、食道がん、非小細胞肺がん、非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、メラノーマ、肝細胞癌、頭頸部がん、胃がん、子宮内膜がん、結腸直腸がん、胆管癌、乳がん、膀胱がん、骨髄性白血病および急性リンパ芽球性白血病からなる群より選択される、第57項または第58項記載のTCR、ポリペプチド、融合タンパク質、多価TCR複合体、核酸、細胞、抗体、組成物、または薬学的組成物。
【0278】
第60項:がんが、好ましくは、NSCLC、SCLC、乳がん、卵巣がんもしくは結腸直腸がん、肉腫または骨肉腫からなる群より選択される、第50項または第51項記載のTCR、ポリペプチド、融合タンパク質、多価TCR複合体、核酸、細胞、抗体、組成物または薬学的組成物。
【0279】
参考文献
【0280】
一般に、添付の特許請求の範囲において、使用される用語は、特許請求の範囲を本明細書および特許請求の範囲に開示された具体的態様に限定するように解釈されるのではなく、それら特許請求の範囲に認められる均等物の全範囲に沿った考えうるすべての態様を包含するように解釈されるべきである。したがって請求項が本開示によって限定されることはない。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【配列表】
2022527635000001.app
【国際調査報告】