(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-03
(54)【発明の名称】ラジカルスカベンジャー、その製造方法、及びそれを含む膜電極組立体
(51)【国際特許分類】
H01M 8/1051 20160101AFI20220527BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20220527BHJP
H01M 8/1004 20160101ALI20220527BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20220527BHJP
【FI】
H01M8/1051
H01M4/86 B
H01M8/1004
H01M8/10 101
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021556809
(86)(22)【出願日】2020-05-08
(85)【翻訳文提出日】2021-09-21
(86)【国際出願番号】 KR2020006088
(87)【国際公開番号】W WO2020226449
(87)【国際公開日】2020-11-12
(31)【優先権主張番号】10-2019-0053447
(32)【優先日】2019-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518215493
【氏名又は名称】コーロン インダストリーズ インク
(71)【出願人】
【識別番号】514074957
【氏名又は名称】コリア・アドバンスト・インスティテュート・オブ・サイエンス・アンド・テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100083138
【氏名又は名称】相田 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100189625
【氏名又は名称】鄭 元基
(74)【代理人】
【識別番号】100196139
【氏名又は名称】相田 京子
(72)【発明者】
【氏名】キム ヒタク
(72)【発明者】
【氏名】ユク ソンミン
(72)【発明者】
【氏名】イ ドンウク
(72)【発明者】
【氏名】ソン カヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム チョンヨン
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018BB01
5H018BB06
5H018BB08
5H018BB12
5H018EE03
5H018EE04
5H018EE05
5H018EE06
5H018EE16
5H018EE17
5H018HH03
5H126AA02
5H126AA05
5H126BB06
5H126GG02
5H126GG05
5H126GG06
5H126GG17
5H126GG18
5H126HH01
5H126HH03
5H126HH04
5H126HH08
5H126JJ03
(57)【要約】
燃料電池の運転中にラジカル捕獲粒子に来由する金属イオンの溶出を長期間持続的に防止することができ、燃料電池の性能を長期間維持することができ、その寿命を向上させることができるラジカルスカベンジャー、その製造方法、及びそれを含む膜電極接合体が開示される。本発明のラジカルスカベンジャーは、ラジカル捕獲粒子(radical-scavenging particle)と、前記ラジカル捕獲粒子の表面上の多孔性保護膜(porous protective film)とを含み、前記多孔性保護膜は、シリカ(silica)、炭素窒化物(carbon nitride)、ヘテロ原子がドーピングされたグラフェン(heteroatom-doped graphene)、ポルフィリン系化合物(porphyrin-based compound)、フェナジン系化合物(phenazine-based compound)、及びこれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の高酸化安全性物質(material of high oxidative stability)を含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル捕獲粒子(radical-scavenging particle)と、
前記ラジカル捕獲粒子の表面上の多孔性保護膜(porous protective film)とを含み、
前記多孔性保護膜は、シリカ(silica)、炭素窒化物(carbon nitride)、ヘテロ原子がドーピングされたグラフェン(heteroatom-doped graphene)、ポルフィリン系化合物(porphyrin-based compound)、フェナジン系化合物(phenazine-based compound)、及びこれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の高酸化安全性物質(material of high oxidative stability)を含み、
前記ヘテロ原子は、N、S、P、B、及びFからなる群から選択される、ラジカルスカベンジャー。
【請求項2】
前記ラジカル捕獲粒子は、遷移金属、貴金属、これらのイオン、これらの塩、これらの酸化物、これらの窒化物、及びこれらの錯物からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載のラジカルスカベンジャー。
【請求項3】
前記多孔性保護膜は、炭素窒化物又はその誘導体を含む、請求項2に記載のラジカルスカベンジャー。
【請求項4】
前記多孔性保護膜は、黒鉛化炭素窒化物(graphitic carbon nitride)又はその誘導体を含み、
前記黒鉛化炭素窒化物はg-C
3N
4又はg-C
2Nである、請求項3に記載のラジカルスカベンジャー。
【請求項5】
前記多孔性保護膜は0.5~50nmの厚さを有する、請求項4に記載のラジカルスカベンジャー。
【請求項6】
シリカ前駆体及び炭素窒化物前駆体からなる群から選択される少なくとも1種の前駆体を含む前駆体層をラジカル捕獲粒子の表面上に形成する段階と、
前記前駆体層を多孔性保護膜に転換する段階と、
を含む、ラジカルスカベンジャーの製造方法。
【請求項7】
前記前駆体層は、テトラエチルオルトシリケート(tetraethyl orthosilicate)、テトラメトキシシラン(tetramethoxysilane)、(3-メルカプトプロピル)トリエトキシシラン[(3-mercaptopropyl)triethoxysilane]、及びシリコンテトラクロリド(silicon tetrachloride)からなる群から選択される少なくとも1種のシリカ前駆体を含む、請求項6に記載のラジカルスカベンジャーの製造方法。
【請求項8】
前記前駆体層は、シアンアミド(cyanamide)、ジシアンジアミド(dicyandiamide)、ウレア(urea)、メラミン(melamine)、ポリメラミン(polymelamine)、及びポリメラミン-ホルムアルデヒド共重合体(polymelamine-formaldehyde copolymer)からなる群から選択される少なくとも1種の炭素窒化物前駆体を含む、請求項6に記載のラジカルスカベンジャーの製造方法。
【請求項9】
前記前駆体層はジシアンジアミドを含む、請求項8に記載のラジカルスカベンジャーの製造方法。
【請求項10】
前記前駆体層形成段階は、
シリカ前駆体及び炭素窒化物前駆体からなる群から選択される前記少なくとも1種の前駆体を含む前駆体溶液を準備する段階と、
前記前駆体溶液を前記ラジカル捕獲粒子の表面に塗布する段階と、
前記ラジカル捕獲粒子の表面に塗布された前記前駆体溶液から溶媒を除去する段階と、
を含む、請求項6に記載のラジカルスカベンジャーの製造方法。
【請求項11】
前記前駆体溶液は、水、シクロヘキサン(cyclohexane)、ヘキサン(hexane)、ジメチルアセトアミド(dimethylacetamide:DMA)、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide:DMSO)、ジメチルホルムアミド(dimethylformamide:DMF)、及びメチルピロリドン(methylpyrrolidone)からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒を含む、請求項10に記載のラジカルスカベンジャーの製造方法。
【請求項12】
前記塗布段階は、
前記ラジカル捕獲粒子を前記前駆体溶液に入れる段階と、
前記ラジカル捕獲粒子が入っている前記前駆体溶液を撹拌する段階と、
前記撹拌の後、遠心分離を行う段階と、
を含む、請求項11に記載のラジカルスカベンジャーの製造方法。
【請求項13】
前記溶媒除去段階は、前記ラジカル捕獲粒子の表面に塗布されている前記前駆体溶液を乾燥させる段階を含む、請求項12に記載のラジカルスカベンジャーの製造方法。
【請求項14】
前記前駆体層を前記多孔性保護膜に転換する段階は、前記前駆体層を熱処理する段階を含む、請求項6に記載のラジカルスカベンジャーの製造方法。
【請求項15】
酸化極と、
還元極と、
前記酸化極と前記還元極との間の高分子電解質膜と、
請求項1~5のいずれか一項に記載のラジカルスカベンジャー(radical scavengers)と、
を含む、膜電極組立体。
【請求項16】
前記ラジカルスカベンジャーの少なくとも一部は、(i)前記酸化極の前記高分子電解質膜を向く面において前記酸化極の内部に配置されるか、(ii)前記還元極の前記高分子電解質膜を向く面において前記還元極の内部に配置されるか、(iii)前記酸化極を向く前記高分子電解質膜の面において前記高分子電解質膜の内部に配置されるか、(iv)前記還元極を向く前記高分子電解質膜の面において前記高分子電解質膜の内部に配置されるか、(v)前記酸化極と前記高分子電解質膜との間に配置されるか、又は(vi)前記還元極と前記高分子電解質膜との間に配置される、請求項15に記載の膜電極組立体。
【請求項17】
前記膜電極組立体は、前記酸化極と前記高分子電解質膜との間の界面接着層(interfacial bonding layer)をさらに含み、
前記ラジカルスカベンジャーの少なくとも一部は前記界面接着層内に配置される、請求項16に記載の膜電極組立体。
【請求項18】
前記膜電極組立体は、前記還元極と前記高分子電解質膜との間の界面接着層をさらに含み、
前記ラジカルスカベンジャーの少なくとも一部は前記界面接着層内に配置される、請求項16に記載の膜電極組立体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はラジカルスカベンジャー、その製造方法、及びそれを含む膜電極組立体に関し、より具体的には、燃料電池の運転中にラジカル捕獲粒子に来由する金属イオンの溶出を長期間にわたって持続的に防止することができ、燃料電池の性能を長期間維持することができ、その寿命を向上させることができるラジカルスカベンジャー、その製造方法、及びそれを含む膜電極組立体に関する。
【背景技術】
【0002】
膜電極組立体(Membrane-Electrode Assembly:MEA)とセパレーター(separator)[「バイポーラプレート(bipolar plate)」ともいう]とからなる単位セル(unit cell)の積層構造を用いて電気を発生させる高分子電解質膜燃料電池(Polymer Electrolyte Membrane Fuel Cell:PEMFC)は高いエネルギー効率性及び環境に優しい特徴によって化石エネルギーを代替することができる次世代エネルギー源として注目されている。
【0003】
前記膜電極組立体は、一般的に酸化極(anode)(「燃料極」ともいう)、還元極(cathode)(「空気極」ともいう)、及びこれらの間の高分子電解質膜(polymer electrolyte membrane)を含む。
【0004】
水素ガスのような燃料が酸化極に供給されると、酸化極では水素の酸化反応によって水素イオン(H+)と電子(e-)が生成される。生成された水素イオンは高分子電解質膜を介して還元極に伝達され、生成された電子は外部回路を介して還元極に伝達される。酸素を含む空気が供給される還元極では、前記酸素の還元反応が起こる。すなわち、前記酸素が前記酸化極からそれぞれ来る水素イオン及び電子と結合して水を生成する。
【0005】
膜電極組立体、特に高分子電解質膜は高分子電解質膜燃料電池の性能及び寿命に莫大な影響を及ぼす。よって、燃料電池の駆動による高分子電解質膜の劣化(degradation)を防止することが燃料電池の性能及び寿命向上に非常に重要である。
燃料電池が駆動するときに発生するラジカルが前記高分子電解質膜の劣化の主要原因と知られている。例えば、還元極での酸素の還元反応中に過酸化水素(H2O2)が生成され、この過酸化水素から過酸化水素ラジカル(hydroperoxyl radical)(HO2・)及び/又は水酸化ラジカル(hydroxyl radical)(・OH)が生成される。また、前記還元極に供給される空気中の酸素分子が高分子電解質膜を通過して酸化極に到逹する場合、前記酸化極でも過酸化水素が生成されて過酸化水素ラジカル及び/又は水酸化ラジカルを生成させる。このようなラジカルは高分子電解質膜に含まれているイオノマー(ionomer)(例えば、スルホン酸基を有するポリマー)の劣化を引き起こして前記電解質膜のイオン伝導度を低下させる。
ラジカルによる高分子電解質膜(より具体的には、イオノマー)の劣化を防止するために、前記ラジカルを除去することができるラジカルスカベンジャー(radical scavenger)の導入が提案された。
【0006】
しかし、粒子形態として電解質膜内に分散される前記ラジカルスカベンジャーは燃料電池の運転中に溶出(migration)するという問題がある。すなわち、ラジカルを除去することができるラジカルスカベンジャーの量が減るから、燃料電池の駆動時間が長くなるほどラジカルが適切に除去されず燃料電池の急激な性能低下が引き起こされる。
【0007】
また、ラジカルスカベンジャーのイオン化によって生成される金属イオンが水によって溶出する。この金属イオンは非常に高い還元電位を有するから、電極の構成成分(例えば、白金及び/又は炭素)を酸化させて燃料電池の性能低下を引き起こす。
【0008】
より具体的に、1.5M硫酸溶液に1mM Ce(SO
4)
2を溶解させて1mM Ce
4+溶液を製造した後、10mLの1mM Ce
4+溶液に20mgのPt/Cパウダーを入れ、80℃で250rpmで撹拌しながらCe
4+とPt/Cを50時間反応させた。次いで、遠心分離法(3600rpm、10分)でPt/Cパウダーを分離した後、溶液サンプルを抽出した。抽出した溶液サンプルを200~600nmの波長範囲で1nmの間隔でUV-Vis分光法で測定した結果、
図1のグラフから分かるように、Ce
4+の還元及びPt
2+の生成(すなわち、Ce
4+による白金酸化/劣化)が確認された。
【0009】
本出願人によって出願された韓国公開特許第10-2019-003764A号公報は、ラジカルスカベンジャー粒子の表面上にドーパミン(dopamine)含有溶液をコーティングした後、前記ドーパミンを炭化させて表面コーティング層を形成することによりラジカルスカベンジャー粒子の移動度(mobility)を減少させてラジカルスカベンジャー粒子の溶出を防止することができることを教示している。
【0010】
しかし、前記先行技術はラジカルスカベンジャー粒子自体の溶出を防止することにのみ注目しているだけで、ラジカルスカベンジャーのイオン化によって生成される金属イオン(例えば、Ce3+/4+)の溶出及びそれによる副作用については全然把握できていない。むしろ、前記先行技術は、ラジカルスカベンジャーのイオン化によって生成される金属イオンが前記表面コーティング層を介して排出されるように前記表面コーティング層が充分に大きいサイズの気孔を有しなければならないと教示している。
さらに、ドーパミンの炭化によって形成される物質は前記金属イオンに対する酸化安全性(oxidative stability)が充分に高くないから、時間の経過によって前記表面コーティング層が前記金属イオンによって酸化及び劣化して選択的透過性能(selective permeability)を喪失することになり、その結果、前記先行技術が意図するラジカルスカベンジャー粒子自体の溶出も長期間防止するのに限界がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明は前記のような関連技術の限定及び欠点に起因する問題点を防止することができるラジカルスカベンジャー、その製造方法、及びそれを含む膜電極組立体に関するものである。
【0012】
本発明の一観点は、燃料電池の駆動中にラジカル捕獲粒子に来由する金属イオンの溶出を長期間持続的に防止することができ、燃料電池の性能を長期間維持することができ、その寿命を向上させることができるラジカルスカベンジャーを提供することである。
本発明の他の観点は、燃料電池の駆動中にラジカル捕獲粒子に来由する金属イオンの溶出を長期間持続的に防止することができ、燃料電池の性能を長期間維持することができ、その寿命を向上させることができるラジカルスカベンジャーを製造する方法を提供することである。
【0013】
本発明のさらに他の観点は、燃料電池の駆動中にラジカル捕獲粒子に来由する金属イオンの溶出を長期間持続的に防止することができ、燃料電池の性能を長期間維持することができ、その寿命を向上させることができるラジカルスカベンジャーを含む膜電極組立体を提供することである。
【0014】
以上で言及した本発明の観点の他にも、本発明の他の特徴及び利点は以下で説明されるか、そのような説明から本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者に明らかに理解可能であろう。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記のような本発明の一観点によって、ラジカル捕獲粒子(radical-scavenging particle)と、前記ラジカル捕獲粒子の表面上の多孔性保護膜(porous protective film)とを含み、前記多孔性保護膜は、シリカ(silica)、炭素窒化物(carbon nitride)、ヘテロ原子がドーピングされたグラフェン(heteroatom-doped graphene)、ポルフィリン系化合物(porphyrin-based compound)、フェナジン系化合物(phenazine-based compound)、及びこれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の高酸化安全性物質(material of high oxidative stability)を含み、前記ヘテロ原子は、N、S、P、B、及びFからなる群から選択されるラジカルスカベンジャーが提供される。
【0016】
前記ラジカル捕獲粒子は、遷移金属、貴金属、これらのイオン、これらの塩、これらの酸化物、これらの窒化物、及びこれらの錯物からなる群から選択される少なくとも1種を含むことができる。
【0017】
前記多孔性保護膜は、炭素窒化物又はその誘導体を含むことができる。
前記多孔性保護膜は、黒鉛化炭素窒化物(graphitic carbon nitride)又はその誘導体を含むことができ、前記黒鉛化炭素窒化物はg-C3N4又はg-C2Nであってもよい。
前記多孔性保護膜は0.5~50nmの厚さを有することができる。
【0018】
本発明の他の観点によって、シリカ前駆体及び炭素窒化物前駆体からなる群から選択される少なくとも1種の前駆体を含む前駆体層をラジカル捕獲粒子の表面上に形成する段階と、前記前駆体層を多孔性保護膜に転換する段階とを含むラジカルスカベンジャーの製造方法が提供される。
【0019】
前記前駆体層は、テトラエチルオルトシリケート(tetraethyl orthosilicate)、テトラメトキシシラン(tetramethoxysilane)、(3-メルカプトプロピル)トリエトキシシラン[(3-mercaptopropyl)triethoxysilane]、及びシリコンテトラクロリド(silicon tetrachloride)からなる群から選択される少なくとも1種のシリカ前駆体を含むことができる。
【0020】
前記前駆体層は、シアンアミド(cyanamide)、ジシアンジアミド(dicyandiamide)、ウレア(urea)、メラミン(melamine)、ポリメラミン(polymelamine)、及びポリメラミン-ホルムアルデヒド共重合体(polymelamine-formaldehyde copolymer)からなる群から選択される少なくとも1種の炭素窒化物前駆体を含むことができる。
【0021】
前記前駆体層はジシアンジアミドを含むことができる。
前記前駆体層形成段階は、シリカ前駆体及び炭素窒化物前駆体からなる群から選択される前記少なくとも1種の前駆体を含む前駆体溶液を準備する段階と、前記前駆体溶液を前記ラジカル捕獲粒子の表面に塗布する段階と、前記ラジカル捕獲粒子の表面に塗布された前記前駆体溶液から溶媒を除去する段階とを含むことができる。
【0022】
前記前駆体溶液は、水、シクロヘキサン(cyclohexane)、ヘキサン(hexane)、ジメチルアセトアミド(dimethylacetamide:DMA)、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide:DMSO)、ジメチルホルムアミド(dimethylformamide:DMF)、及びメチルピロリドン(methylpyrrolidone)からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒を含むことができる。
【0023】
前記塗布段階は、前記ラジカル捕獲粒子を前記前駆体溶液に入れる段階と、前記ラジカル捕獲粒子が入っている前記前駆体溶液を撹拌する段階と、前記撹拌の後、遠心分離を行う段階とを含むことができる。
【0024】
前記溶媒除去段階は、前記ラジカル捕獲粒子の表面に塗布されている前記前駆体溶液を乾燥させる段階を含むことができる。
前記前駆体層を前記多孔性保護膜に転換する段階は、前記前駆体層を熱処理する段階を含むことができる。
【0025】
本発明のさらに他の観点によって、酸化極と、還元極と、前記酸化極と前記還元極との間の高分子電解質膜と、前記ラジカルスカベンジャー(radical scavengers)とを含む膜電極組立体が提供される。
【0026】
前記ラジカルスカベンジャーの少なくとも一部は、(i)前記酸化極の前記高分子電解質膜を向く面において前記酸化極の内部に配置されるか、(ii)前記還元極の前記高分子電解質膜を向く面において前記還元極の内部に配置されるか、(iii)前記酸化極を向く前記高分子電解質膜の面において前記高分子電解質膜の内部に配置されるか、(iv)前記還元極を向く前記高分子電解質膜の面において前記高分子電解質膜の内部に配置されるか、(v)前記酸化極と前記高分子電解質膜との間に配置されるか、又は(vi)前記還元極と前記高分子電解質膜との間に配置させることができる。
【0027】
前記膜電極組立体は、前記酸化極と前記高分子電解質膜との間の界面接着層(interfacial bonding layer)をさらに含むことができ、前記ラジカルスカベンジャーの少なくとも一部を前記界面接着層内に配置させることができる。
【0028】
前記膜電極組立体は、前記還元極と前記高分子電解質膜との間の界面接着層をさらに含むことができ、前記ラジカルスカベンジャーの少なくとも一部を前記界面接着層内に配置させることができる。
前記のような本発明についての一般的記述は本発明を例示するか又は説明するためのものであるだけで、本発明の権利範囲を限定しない。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、ラジカル捕獲粒子の表面上に多孔性保護膜を形成することによりラジカルスカベンジャー自体の移動度(mobility)を減少させてその溶出を抑制することができるだけでなく、前記多孔性保護膜をシリカ、炭素窒化物などの高酸化安全性物質から形成することにより、ラジカル捕獲粒子のイオン化によって生成される金属イオンによる前記保護膜の劣化を防止することができる。
【0030】
結果的に、本発明によれば、燃料電池の運転中にラジカルスカベンジャー自体の溶出を長期間持続的に防止することができることはもちろんのこと、それから生成される金属イオンの溶出も長期間持続的に防止することができる。よって、燃料電池の運転中に生成されるラジカル又はラジカルスカベンジャーのイオン化によって生成される金属イオンによる電解質膜及び/又は電極の化学的劣化なしに燃料電池の性能を長期間維持することができ、その寿命を著しく向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
添付図面は本発明の理解を助け、本明細書の一部を構成するためのものであり、本発明の実施例を例示し、発明の詳細な説明とともに本発明の原理を説明する。
【
図1】Ceイオンによる白金(Pt)の酸化/劣化を示すグラフである。
【
図2】本発明のラジカルスカベンジャーを概略的に示す図である。
【
図3】Ceイオンに対するC
3N
4の高い酸化安全性を示すグラフである。
【
図4】(a)~(c)は多孔性保護膜の厚さ、平均孔径、及び選択的透過性能の関係を概略的に示す図である。
【
図5】(a)~(f)は本発明の一実施例による構造を有する膜電極組立体内に本発明のラジカルスカベンジャーが配置される多様な例を示す膜電極組立体の断面図である。
【
図6】(a)~(f)は本発明の他の実施例による構造を有する膜電極組立体内に本発明のラジカルスカベンジャーが配置される多様な例を示す膜電極組立体の断面図である。
【
図7】実施例2-1及び比較例2-1の開回路電圧(Open Circuit Voltage:OCV)維持率(retention rate)をそれぞれ示すグラフである。
【
図8】実施例2-1及び比較例2-1の電気化学活性面積(Electro-Chemical Surface Area:ECSA)損失をそれぞれ示すグラフである。
【
図9】実施例1-1、実施例1-2、及び比較例1-1のラジカルスカベンジャーのCeイオン溶出量をそれぞれ示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下では添付図面に基づいて本発明の実施例を詳細に説明する。ただ、以下で説明する実施例は本発明の明確な理解を助けるための例示的目的で提示するものであるだけで、本発明の範囲を限定しない。
【0033】
図2に例示するように、本発明のラジカルスカベンジャー100は、ラジカル捕獲粒子110、及び前記ラジカル捕獲粒子110の表面上の多孔性保護膜120を含む。
前記ラジカル捕獲粒子110は電解劣化を引き起こしてイオン伝導度を低下させる過酸化水素ラジカル及び/又は水酸化ラジカルを除去することができる粒子であり、遷移金属、貴金属、これらのイオン、これらの塩、これらの酸化物、これらの窒化物、及びこれらの錯物からなる群から選択される少なくとも1種を含むことができる。
【0034】
前記遷移金属は、セリウム(Ce)、マンガン(Mn)、タングステン(W)、コバルト(Co)、バナジウム(V)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、イリジウム(Ir)、鉄(Fe)、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、ランタン(La)、又はネオジム(Nd)であるが、これらに限定されない。
前記貴金属は、銀(Au)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、又はロジウム(Rh)であることができるが、これらに限定されない。
【0035】
前記遷移金属又は貴金属の塩は、炭酸塩、酢酸塩、塩化塩、弗化塩、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、タングステン酸塩、水酸化塩、酢酸アンモニウム塩、硫酸アンモニウム塩、又はアセチルアセトネート塩であるが、これらに限定されない。
【0036】
本発明の前記多孔性保護膜120は、シリカ、炭素窒化物、ヘテロ原子(N、S、P、B、及び/又はF)にドーピングされたグラフェン、ポルフィリン系化合物、フェナジン系化合物、及びこれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の高酸化安全性物質(material of high oxidative stability)を含む。例えば、本発明の一実施例による前記多孔性保護膜120は炭素窒化物又はその誘導体、より具体的には黒鉛化炭素窒化物(graphitic carbon nitride)(g-C3N4又はg-C2N)又はその誘導体を含むことができる。
【0037】
前記多孔性保護膜120は前記ラジカル捕獲粒子110の移動度(mobility)を減少させることにより前記粒子110の溶出を防止することができる。
前記遷移金属又は貴金属のイオン(以下、「金属イオン」という)はかなり高い還元電位を有するから、前記金属イオンによる前記多孔性保護膜120の酸化及び劣化が引き起こされる危険がある。よって、本発明によれば、前記多孔性保護膜120が前記金属イオンに対して高い酸化安全性を有する物質であるシリカ及び/又は炭素窒化物を含むことにより、前記金属イオンによる劣化なしに金属イオンの溶出を長期間持続的に防止することができ、その結果、前記金属イオンによる電解質膜及び/又は電極の化学的劣化なしに燃料電池の性能を長期間維持することができ、その寿命を著しく向上させることができる。
【0038】
例えば、ジシアンジアミド(dicyandiamide)パウダー20mgをN
2の雰囲気で550℃で4時間熱処理してC
3N
4パウダーを製造した。また、1.5M硫酸溶液に1mM Ce(SO
4)
2を溶解させて1mM Ce
4+溶液を製造した。前記C
3N
4パウダーを前記1mM Ce
4+溶液に入れ、80℃で250rpmで50時間撹拌した。次いで、遠心分離法(3600rpm、10分)でC
3N
4パウダーを分離した後、溶液サンプルを抽出した。抽出した溶液サンプルを200~600nmの波長範囲で1nmの間隔でUV-Vis分光法で測定した結果、
図3のグラフから分かるように、Ceイオン(Ce
4+)の濃度がほとんど変わらなかったことが観察された。これからCeイオン(Ce
4+)に対するg-C
3N
4の高い酸化安全性を確認することができた。
【0039】
本発明の一実施例によれば、前記多孔性保護膜120の平均孔径(average pore diameter)は水酸化ラジカルの半径である0.22nmより大きいが、前記ラジカル捕獲粒子110に来由する金属イオンのサイズよりは小さい。例えば、前記ラジカル捕獲粒子110のイオン化によって生成される金属イオンがCeイオン(Ce3+/4+)の場合、前記多孔性保護膜120の平均孔径は0.22nmを超えるが、Ceイオン(Ce3+/4+)のサイズより小さい0.45nm未満である。
【0040】
したがって、本発明の一実施例による多孔性保護膜120は、水酸化ラジカルは通過させるが前記金属イオンは通過させない選択的透過性能を有することにより、前記ラジカルスカベンジャー100のラジカル除去性能を低下させないながらも前記金属イオンの溶出を効果的に防止することができ、その結果、前記金属イオンによる電解質膜及び/又は電極の化学的劣化なしに燃料電池の性能を長期間維持することができ、その寿命を著しく向上させることができる。
【0041】
本発明の一実施例によれば、前記多孔性保護膜120は、0.5~50nm、より好ましくは0.5~10nm、より好ましくは0.05~2nm未満の厚さを有する。前記厚さが厚いほど前記多孔性保護膜120の平均孔径が小さくなる傾向を有する。
【0042】
図4の(a)~(c)は多孔性保護膜120の厚さ、平均孔径、及び選択的透過性能の関係を概略的に示す。
図4(a)に例示するように、多孔性保護膜120があまりに薄ければ、その平均孔径があまりに大きくて金属イオン[Ceイオン(Ce
3+/4+)]の溶出が引き起こされる。一方、
図4(c)に例示するように、多孔性保護膜120があまりに厚ければ、その平均孔径があまりに小さくて金属イオン[Ceイオン(Ce
3+/4+)]はもちろんのこと、ラジカル(OH・)も通過することができなくてラジカル除去という本来の機能を果たすことができない。よって、
図4(b)に例示するように、多孔性保護膜120の厚さを適宜調節して選択的透過性能を保障することができる平均孔径を有するようにすることが重要である。
【0043】
以下では、本発明のシリカスカベンジャー100の製造方法を具体的に説明する。
本発明の方法は、シリカ前駆体及び炭素窒化物前駆体からなる群から選択される少なくとも1種の前駆体を含む前駆体層をラジカル捕獲粒子110の表面上に形成する段階、及び前記前駆体層を多孔性保護膜120に転換する段階を含む。
【0044】
前記シリカ前駆体は、テトラエチルオルトシリケート、テトラメトキシシラン、(3-メルカプトプロピル)トリエトキシシラン、又はシリコンテトラクロリドであることができるが、これらに限定されない。すなわち、前記前駆体層は、テトラエチルオルトシリケート、テトラメトキシシラン、(3-メルカプトプロピル)トリエトキシシラン、及びシリコンテトラクロリドからなる群から選択される少なくとも1種のシリカ前駆体を含むことができる。
【0045】
前記炭素窒化物前駆体は、シアンアミド、ジシアンジアミド、ウレア、メラミン、ポリメラミン、又はポリメラミン-ホルムアルデヒド共重合体であることができるが、これらに限定されない。すなわち、前記前駆体層は、シアンアミド、ジシアンジアミド、ウレア、メラミン、ポリメラミン、及びポリメラミン-ホルムアルデヒド共重合体からなる群から選択される少なくとも1種の炭素窒化物前駆体を含むことができる。
本発明の一実施例によれば、前記前駆体層はジシアンジアミドを含む。
【0046】
本発明の一実施例によれば、前記前駆体層形成段階は、シリカ前駆体及び炭素窒化物前駆体からなる群から選択される前記少なくとも1種の前駆体を含む前駆体溶液を準備する段階、前記前駆体溶液を前記ラジカル捕獲粒子110の表面に塗布する段階、及び前記ラジカル捕獲粒子110の表面に塗布された前記前駆体溶液から溶媒を除去する段階を含むことができる。
前記前駆体溶液は、水、シクロヘキサン、ヘキサン、ジメチルアセトアミド(DMA)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、及びメチルピロリドンからなる群から選択される少なくとも1種の溶媒を含むことができる。
【0047】
前記溶液内の前駆体の濃度は0.01~50重量%とすることができる。前記前駆体の濃度を調節することにより、ラジカル捕獲粒子110の表面に形成される多孔性保護膜120の厚さ及び平均孔径を調節することができる。
【0048】
本発明の一実施例によれば、前記塗布段階は、前記ラジカル捕獲粒子110を前記前駆体溶液に入れる段階、前記ラジカル捕獲粒子110が入っている前記前駆体溶液を撹拌する段階、及び前記撹拌の後、遠心分離を行う段階を含むことができる。
【0049】
本発明の一実施例によれば、前記前駆体溶液に投入される前記ラジカル捕獲粒子110は上述した遷移金属又は貴金属の酸化物、窒化物、塩、錯物、又はこれらの混合物であることができ、前記前駆体溶液に入っている前記前駆体100重量部に対して0.1~30重量部のラジカル捕獲粒子110を前記前駆体溶液に投入することができる。前記ラジカル捕獲粒子110の投入量を調節することにより、ラジカル捕獲粒子110の表面に形成される多孔性保護膜120の厚さ及び平均孔径を調節することができる。
前記撹拌段階は、0℃~80℃で10分~2日間100~500rpmで遂行することができ、より具体的には、20℃~40℃で8~16時間200~300rpmで遂行することができる。前記撹拌を0℃未満で遂行するか、又は10分未満で遂行するか、又は100rpm未満で遂行する場合、コーティング不均一が発生するか又はコーティングがあまりに薄くなることがある。一方、前記撹拌を80℃を超えて遂行するか又は2日を超えて遂行すれば、コーティングがあまりに厚くなり得る。
【0050】
前記遠心分離は選択的工程(optional process)であり、2000~4000rpmで遂行することができる。
前記溶媒除去段階は、前記ラジカル捕獲粒子110の表面に塗布されている前記前駆体溶液を乾燥させる段階を含むことができる。前記乾燥段階は、40℃~80℃で12~24時間遂行することができる。
前記前駆体層を前記多孔性保護膜120に転換する段階は、前記前駆体層を熱処理する段階を含むことができる。前記熱処理段階は、窒素又はアルゴンの雰囲気で300℃~700℃で3~6時間遂行することができる。
【0051】
前記熱処理段階の直後、前記多孔性保護膜120に吸着された不純物の除去のために、通常の酸洗(acid cleaning)工程(例えば、50℃~90℃の0.1~3Mの硫酸に投入した後、1時間~5時間200~300rpmで撹拌)、蒸溜水を用いたリンス(rinse)工程、及び乾燥工程を順次遂行することができる。
【0052】
以下では、
図5及び
図6を参照して、本発明の膜電極組立体の実施例を具体的に説明する。
図5に例示するように、本発明の膜電極組立体は、二つの電極(すなわち、酸化極及び還元極)220、これらの間の高分子電解質膜210、及び本発明のラジカルスカベンジャー100を含む。
【0053】
前記電極(「触媒層」ともいう)220は、触媒粒子を含む。前記触媒粒子は、水素の酸化反応及び/又は酸素の還元反応に触媒として使うことができるものであればどれを使っても構わないが、好ましくは白金系金属粒子であることができる。前記触媒粒子を担体に担持して使う場合、前記触媒粒子は担体の表面上に位置することもでき、担体の内部気孔(pore)を満たしながら担体の内部に浸透することもできる。前記担体は、炭素系担体;ジルコニア、アルミナ、チタニア、シリカ、及びセリアのような多孔性無機酸化物;又はゼオライトである。前記電極220は、接着力向上及び水素イオンの伝達のために、バインダーをさらに含むことができる。前記バインダーとしては、イオン伝導性を有するイオノマーを使うことが好ましい。
【0054】
前記高分子電解質膜210は、(i)イオン伝導体の単一膜、又は(ii)多孔性支持体及び前記多孔性支持体に含浸されたイオン伝導体を含む強化膜である。前記多孔性支持体はe-PTFEのようなフッ素系多孔性支持体又は電気紡糸などによって製造された多孔性ナノウェブ支持体である。前記イオン伝導体は陽イオン交換グループを有する陽イオン伝導体であるか、又は陰イオン交換グループを有する陰イオン伝導体である。
【0055】
図5(a)に例示するように、本発明のラジカルスカベンジャー100の少なくとも一部は前記電極220のいずれか一つの内部に配置され、前記高分子電解質膜210を向く面に隣接した位置に配置されることができる。前記ラジカルスカベンジャー100が内部に配置される電極220は酸化極又は還元極であり、特にラジカルが相対的に多く生成される還元極である。
図5(a)の実施例のために、(i)触媒粒子及びバインダーを含む電極形成用組成物に前記ラジカルスカベンジャー100を添加した後、このように得た組成物から前記電極220を製造するか、又は(ii)一旦前記電極220を形成した後、前記ラジカルスカベンジャー100を含む溶液を前記電極220に含浸させることができる。
【0056】
図5(a)に例示した実施例によれば、前記電極220で生成されたラジカルが高分子電解質膜210に流入する直前、本発明のラジカルスカベンジャー100によって除去することができるから、ラジカルによる高分子電解質膜210の劣化を防止することができる。
また、
図5(b)に例示するように、本発明のラジカルスカベンジャー100の少なくとも一部は前記高分子電解質膜210の内部に配置され、前記電極220のいずれか一つを向く面に隣接した位置に配置させることができる。前記ラジカルスカベンジャー100が隣接して配置された面が向かう電極220は酸化極又は還元極であり、特にラジカルが相対的に多く生成される還元極である。
【0057】
図5(b)の実施例のために、(i)イオン伝導体を含む電解質膜形成用組成物に前記ラジカルスカベンジャー100を添加した後、このように得た組成物から前記高分子電解質膜210を製造するか、又は(ii)前記ラジカルスカベンジャー100を含む溶液を前記高分子電解質膜210に含浸させることができる。
【0058】
図5(b)に例示した実施例によれば、前記電極220で生成されたラジカルが高分子電解質膜210に入った途端本発明のラジカルスカベンジャー100によって除去することができるから、ラジカルによる高分子電解質膜210の劣化を最小化させることができる。
図5(a)の実施例と
図5(b)の実施例の多様な組合せが
図5(c)~
図5(f)にそれぞれ例示されている。また、これらの他の多様な組合せも考えることができ、これらもやはり本発明の権利範囲に属するものに理解されなければならない。
【0059】
例えば、前記ラジカルスカベンジャー100を含む溶液を前記高分子電解質膜210の表面及び/又は前記電極220の表面上に塗布してから乾燥させることにより、前記高分子電解質膜210と前記電極220との間に前記ラジカルスカベンジャー100を配置させることもできる。
【0060】
図6に例示するように、本発明の膜電極組立体は各電極220と高分子電解質膜210との間に界面接着層230をさらに含むことができ、前記界面接着層230内にラジカルスカベンジャー100の少なくとも一部を存在させることができる。
【0061】
イオノマーを含む前記界面接着層230は膜電極接合体がイオン伝導度の低下なしに低い水素透過度を有するようにし、前記電極220と前記電解質膜210との間の界面接合性を向上させて前記膜電極組立体の耐久性を向上させることができる。
【0062】
前記界面接着層230に含まれた前記イオノマーは当量(equivalent weight、EW)が1100g/eq以下であり、具体的に500g/eq~1100g/eqである。前記イオノマーの当量は、前記イオノマーが含むイオン交換グループ1個当たり前記イオノマーの分子量(molecular mass)である。
【0063】
前記界面接着層230は、前記イオノマーの当量調節によって低加湿の条件で前記膜電極組立体の水管理に肯定的な効果を与えることができ、前記当量を有するイオノマーを使う場合、水素イオンの伝導性低下なしに前記膜電極組立体の性能を改善することができる。一方、前記イオノマーの当量が500g/eq未満の場合、イオノマーの溶出現象又は水素ガス透過度を増加させることができ、1100g/eqを超える場合、高温低加湿の条件で水素イオン伝導性を低下させることができる。
【0064】
前記界面接着層230が含む前記イオノマーは、フッ素系イオノマー、炭化水素系イオノマー、及びこれらの混合物からなる群から選択されるいずれか1種である。
図6では前記界面接着層230が前記電解質膜210の両面に配置された実施例を例示しているが、本発明がこれに限定されるものではなく、前記界面接着層230は前記電解質膜210の一面のみに位置することもできる。
【0065】
図6(a)に例示するように、本発明のラジカルスカベンジャー100の少なくとも一部を前記電極220のいずれか一つ(酸化極又は還元極、好ましくはラジカルが相対的に多く生成される還元極)と前記高分子電解質膜210との間に位置する界面接着層230内に配置させることができる。
前記ラジカルスカベンジャー100を含む界面接着層230を形成する段階は、前記ラジカルスカベンジャー100と前記イオノマーを混合して界面接着層形成用組成物を製造する段階、及び前記界面接着層形成用組成物を前記電解質膜210又は電極220の表面に塗布してから乾燥させる段階を含むことができる。
【0066】
前記界面接着層形成用組成物は、前記ラジカルスカベンジャー100と前記イオノマーを溶媒に添加してから混合して製造することができる。
前記界面接着層形成用組成物は、前記イオノマーを0.1重量%~30重量%の濃度で含むことができる。前記界面接着層形成用組成物が前記イオノマーを前記濃度範囲で含む場合、前記膜電極組立体の界面抵抗増加なしに水素イオン伝導性及び界面接合性を改善することができる。前記イオノマーの濃度が0.1重量%未満の場合、水素イオン伝達能力が低下することがあり、30重量%を超える場合、イオノマーの分布が不均一に形成されることがある。
【0067】
前記界面接着層形成用組成物は、前記ラジカルスカベンジャー100を0.1重量%~70重量%で含むことができ、好ましくは5重量%~15重量%で含むことができる。前記ラジカルスカベンジャー100の含量が0.1重量%未満の場合、化学的耐久性向上の効果が高くないことがあり、70重量%を超える場合、前記膜電極組立体内のイオン伝達抵抗を大きく増加させることができる。
前記溶媒としては、エタノール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール、ブチルアルコール、グリセロールなどのようなアルコール、水、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、テトラヒドロフラン及びこれらの混合物からなる群から選択されるいずれか1種である。
【0068】
前記界面接着層形成用組成物を前記電解質膜210又は前記電極220上に塗布する方法としては、スロットダイコーティング、バーコーティング、ディップコーティング、コンマコーティング、スクリーンプリンティング、スプレーコーティング、ドクターブレードコーティング、シルクスクリーンコーティング、グラビアコーティング、ペインティング法などの方法を用いることができる。
【0069】
前記乾燥工程は、25℃~90℃で12時間以上乾燥させることができる。前記乾燥温度が25℃未満で、乾燥時間が12時間未満の場合には、充分に乾燥した界面接着層230を形成することができないことがあり、90℃を超える温度で乾燥させれば、界面接着層230に亀裂が発生することがある。
【0070】
前記界面接着層230の厚さは10nm~10μm、好ましくは0.5μm~2μmであり、前記界面接着層230のローディング量は0.01~2.0mg/cm2である。前記界面接着層230の厚さが10nm未満であるか又はローディング量が0.01mg/cm2未満の場合、化学的耐久性向上の効果が高くないことがあり、前記電解質膜210と前記電極220との間の界面接合性を向上させることができないことがあり、厚さが10μmを超えるか又はローディング量が2.0mg/cm2を超える場合、前記膜電極組立体内のイオン伝達抵抗を大きく増加させることができる。
最後に、前記界面接着層230を含む電解質膜210又は電極220を用いて前記膜電極組立体を製造する。
【0071】
前記界面接着層230を前記電極220上に形成した場合、前記電解質膜210と前記電極220を熱圧着して前記膜電極組立体100を製造することができ、前記界面接着層230を前記電解質膜210に形成した場合、前記電解質膜210と前記電極220を熱圧着するか、前記電解質膜210に前記電極220をコーティングして前記膜電極組立体を製造することができる。
【0072】
前記界面接合層230を挟んで遂行する前記電極220と前記電解質膜210との熱圧着は80℃~2000℃及び5~200kgf/cm2の条件で遂行することができる。80℃未満の温度及び/又は5kgf/cm2未満の圧力で熱圧着を遂行する場合、離型フィルム上に前記電極220が正常に転写されないことがあり、温度が200℃を超える場合には、前記電解質膜210の高分子の変性が発生するおそれがあり、200kgf/cm2を超える圧力では電極220内の気孔構造の崩壊によって性能低下の要因になり得る。
【0073】
一方、前記熱圧着過程で前記界面接合層230内に存在していたラジカルスカベンジャー100の一部が前記電極220、電解質膜210、又はこれらの両方に移動することにより、
図6(b)及び
図6(c)にそれぞれ例示されている実施例のいずれか一つを具現することもできる。
図6(a)に例示した実施例によれば、前記電極220で生成されたラジカルが前記電極220を離れて前記電解質膜210に移動する過程で本発明のラジカルスカベンジャー100によって除去されるから、ラジカルによる高分子電解質膜210の劣化を事前に防止することができる。
【0074】
図5(a)の実施例、
図5(b)の実施例、及び
図6(a)の実施例の多様な組合せが
図6(b)~
図6(f)にそれぞれ例示されている。また、これらの他の多様な組合せも考えることができ、これらもやはり本発明の権利範囲に属するものに理解されなければならない。
以下、具体的実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。ただ、下記の実施例は本発明の理解を助けるためのものであるだけで、これによって本発明の権利範囲が限定されてはいけない。
【0075】
「製造例1:ラジカルスカベンジャー」
実施例1-1
メチルピロリドン溶媒に3重量%のジシアンジアミドを含む前駆体溶液に、前記溶媒100重量部に対して2重量部のCeO2ナノ粒子を投入した後、25℃で10時間250rpmで撹拌した。次いで、3600rpmで遠心分離を遂行し、60℃でひと晩乾燥させることにより、表面にジシアンジアミド層が形成されたCeO2ナノ粒子を収得した。
表面にジシアンジアミド層が形成されたCeO2ナノ粒子を550℃で4時間熱処理して前記ジシアンジアミド層をg-C3N4の多孔性保護膜に転換することによりラジカルスカベンジャーを収得した。前記ラジカルスカベンジャーを80℃の1.5M硫酸に入れて3時間撹拌することにより、前記g-C3N4の多孔性保護膜に吸着された不純物を除去し、蒸溜水で数回濯いでから乾燥させることにより、ラジカルスカベンジャーを完成した。収得したラジカルスカベンジャーのg-C3N4多孔性保護膜の厚さは約1~1.5nmであった。
【0076】
実施例1-2
エタノールと水の混合溶媒に10重量%の(3-メルカプトプロピル)トリエトキシシランを含む前駆体溶液にCeO2ナノ粒子を投入し(投入量:前記混合溶媒100重量部に対して2重量部)、25℃で10時間250rpmで撹拌しながら加水分解反応を遂行した。前記加水分解反応によってCeO2ナノ粒子の表面にシラン層が形成された。次いで、3600rpmで遠心分離を遂行し、60℃で24時間縮合反応を遂行することにより、前記シラン層をシリカ多孔性保護膜に転換させた。そして、蒸溜水で数回濯いでから乾燥させることにより、ラジカルスカベンジャーを完成した。収得したラジカルスカベンジャーのシリカ多孔性保護膜の厚さは約1nmであった。
【0077】
比較例1-1
ドーパミンをトリス塩酸バッファー溶媒に添加して前駆体コーティング用組成物を製造し、前記前駆体コーティング用組成物にCeO2ナノ粒子を添加した。ここで、前記前駆体コーティング用組成物は、前記CeO2ナノ粒子100重量部に対して前記ドーパミンを0.3重量部含む。
前記CeO2ナノ粒子が添加された前記組成物を25℃で12時間250rpmで撹拌し、250℃及び窒素の雰囲気で前記前駆体を安定化させた。次いで、前記CeO2ナノ粒子の表面にコーティングされた前駆体を700℃の窒素の雰囲気で炭化させて多孔性炭素コーティング層を形成し、前記実施例1と同じ条件で酸洗工程、リンス工程及び乾燥工程を順次遂行することにより、ラジカルスカベンジャーを完成した。収得したラジカルスカベンジャーの多孔性炭素コーティング層の厚さは2~5nmであった。
【0078】
「製造例2:膜電極組立体の製造」
実施例2-1
高分子電解質膜を製造するために、スルホン化したPAESを10重量%でDMACに溶解させて高分子電解質膜形成用組成物を準備した。前記高分子電解質膜形成用組成物をブレードコーティング法でガラス板上にコーティングした後、60℃のオーブンで24時間乾燥させて高分子電解質膜を製造した。
酸化極用触媒層及び還元極用触媒層を通常の方法でそれぞれ製造した。
次いで、水とノーマルプロパンが1:1で混合された溶媒に前記実施例1-1で製造されたラジカルスカベンジャー及びナフィオン(Nafion)イオノマーが含まれた混合液を準備した。ここで、前記混合液内のナフィオンの含量は5重量%であり、前記混合液内の固形分の総重量に対する前記ラジカルスカベンジャーの重量の比は7%であった。
スプレーコーティング法を用いて前記混合液を前記酸化極用触媒層及び還元極用触媒層にそれぞれ塗布してから乾燥させて、0.2~0.3mg/cm2の単位面積当たり質量を有する界面接着層を形成した。次いで、表面上に前記界面接着層がそれぞれ形成された前記酸化極用触媒層及び前記還元極用触媒層を前記高分子電解質膜とそれぞれ熱圧着することにより膜電極組立体を完成した。
【0079】
実施例2-2
実施例1-1で製造されたラジカルスカベンジャーの代わりに実施例1-2で製造されたラジカルスカベンジャーを使ったことを除き、実施例2-1と同様な方法で膜電極組立体を完成した。
【0080】
比較例2-1
前記実施例1-1で製造されたラジカルスカベンジャーの代わりに前記比較例1-1で製造されたラジカルスカベンジャーを使ったことを除き、前記実施例2-1と同様な方法で膜電極組立体を完成した。
【0081】
「膜電極組立体の評価」
前記実施例2-1及び比較例2-1によってそれぞれ製造された膜電極組立体の開回路電圧(Open Circuit Voltage:OCV)維持率及び電気化学活性面積(Electro-Chemical Surface Area:ECSA)損失を下記の方法でそれぞれ測定した。
*開回路電圧維持率(OCV retention rate)(%)
【0082】
膜電極組立体のラジカル除去活性を確認するために、膜電極組立体を燃料電池単位セル評価装置に締結し、90℃の温度及び50%の相対湿度の条件で0.2mA/cm
2基準の当量比10で酸化極と還元極にそれぞれ水素及び空気を投入し、開回路電圧維持率を測定した。
図7は実施例2-1及び比較例2-1の開回路電圧維持率をそれぞれ示すグラフである。
図7から分かるように、本発明のg-C
3N
4多孔性保護膜を有するラジカルスカベンジャーを界面接着層に含む実施例2-1の膜電極接合体が多孔性炭素コーティング層を有するラジカルスカベンジャーを界面接着層に含む比較例2-1の膜電極組立体に比べて相当高いOCV耐久性を有することを観察することができた。
*電気化学活性面積損失(ECSA loss)(%)
【0083】
膜電極組立体の触媒層の劣化程度を確認するために、前記開回路電圧維持率測定(600時間)前後の電気化学活性面積(ECSA)をサイクリックボルタンメトリー(cyclic voltammetry)(スキャン速度:50mV/s、スキャン範囲:0.05~0.9V)を用いてそれぞれ測定した後、その損失率を算出した。
図8は実施例2-1及び比較例2-1の電気化学活性面積損失(loss)をそれぞれ示すグラフである。
図8から分かるように、実施例2-1の膜電極組立体のECSA損失(ECSA loss=1.4%)が比較例2-1の膜電極組立体のECSA損失(ECSA loss=37.4%)に比べてずっと小さいことを観察することができた。すなわち、本発明のg-C
3N
4多孔性保護膜がドーパミンに来由する多孔性炭素コーティング層に比べて金属イオン(Ce
3+/4+)溶出をより効果的に抑制することにより触媒層の劣化をより一層防止することができることを確認した。
【0084】
「ラジカルスカベンジャーのCeイオン溶出量評価」
実施例1-1、実施例1-2、及び比較例1-1のラジカルスカベンジャーのCeイオン溶出抑制性能を評価するために、1日の間隔で3日間にかけて3回Ceイオン溶出量を測定した。具体的に、20mgのラジカルスカベンジャーを0.5Mの硫酸溶液10mLに入れた後、80℃で250rpmの速度で撹拌した。遠心分離法(3600rpm、5分)で溶液サンプルを抽出した後、前記溶液サンプル内のCeイオンの量(すなわち、溶出量)をUV-Vis分光法で測定した。翌日の後続測定のために、前記溶液サンプルの抽出後に、沈んだ固体粒子を新しい0.5Mの硫酸溶液にさらに入れた後、80℃で撹拌してCeイオンを溶出させた。ここで、UV-Vis分光法は、抽出された溶液サンプルを200-600nmの波長範囲で1nmの間隔で測定した。
図9は、実施例1-1、実施例1-2、及び比較例1-1のラジカルスカベンジャーのCeイオン溶出量をそれぞれ示すグラフである。
図9から分かるように、ドーパミンに来由する多孔性炭素コーティング層とは違い、本発明のg-C
3N
4多孔性保護膜及びシリカ多孔性保護膜は卓越したCeイオン溶出抑制効果を有することを確認することができた。
【国際調査報告】