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特表2022-527827構造化照明顕微鏡法を使用した高度な試料画像化
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  • 特表-構造化照明顕微鏡法を使用した高度な試料画像化 図1A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-06
(54)【発明の名称】構造化照明顕微鏡法を使用した高度な試料画像化
(51)【国際特許分類】
   G02B 21/06 20060101AFI20220530BHJP
   G02B 21/36 20060101ALI20220530BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20220530BHJP
   G01N 21/65 20060101ALI20220530BHJP
【FI】
G02B21/06
G02B21/36
G01N21/64 E
G01N21/65
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021559237
(86)(22)【出願日】2020-04-01
(85)【翻訳文提出日】2021-10-04
(86)【国際出願番号】 US2020026143
(87)【国際公開番号】W WO2020205952
(87)【国際公開日】2020-10-08
(31)【優先権主張番号】62/827,921
(32)【優先日】2019-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509027021
【氏名又は名称】サーモ エレクトロン サイエンティフィック インストルメンツ リミテッド ライアビリティ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(72)【発明者】
【氏名】ジョージアディス マイケル エス
(72)【発明者】
【氏名】デック フランシス
【テーマコード(参考)】
2G043
2H052
【Fターム(参考)】
2G043EA01
2G043EA03
2G043EA10
2G043FA02
2G043HA15
2G043KA09
2G043NA05
2H052AA07
2H052AA08
2H052AA09
2H052AB01
2H052AB02
2H052AC04
2H052AC15
2H052AC16
2H052AC18
2H052AC20
2H052AC34
2H052AD20
2H052AD34
2H052AF07
2H052AF14
(57)【要約】
空間解像度を向上させるために、共焦点レーザー走査型顕微鏡または試料走査型顕微鏡などの走査型顕微鏡に構造化照明顕微鏡法(SIM)を適用する方法および装置を開示する。本開示の特定の態様は、(i)試料への光スループットを増加させて、それにより信号/雑音比を向上させ、かつ/または露光時間を短縮し、さらに、(ii)処理する生画像の数を減少させ、それにより画像取得時間を短縮する能力における重要な進歩の発見に関する。どちらの効果も、走査型顕微鏡のユーザーの利益のために、全体的な性能の大幅な改善をもたらす。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を画像化する方法であって、
顕微鏡の対物レンズを通って出射された光ビームの干渉によって、複数の点の各々において生成された第1の収束フリンジパターンで、前記試料の前記複数の点を照明することを含み、
前記第1の収束フリンジパターンに対して、前記顕微鏡の対物レンズの第1の別個の照明領域は第1の回転軸を有し、前記光ビームの位相は、第1の位相だけお互いに対してシフトされ、
前記方法が、前記複数の点を少なくとも1つの異なる収束フリンジパターンで照明することをさらに含み、前記光ビームは、前記第1の位相に対して、異なる位相だけ互いに対して位相がシフトされ、(i)前記顕微鏡の対物レンズの同一の別個の照明領域は、前記第1の回転軸に対して角度付けられていない同一の回転軸を有するか、または、(ii)前記顕微鏡の対物レンズの異なる別個の照明領域は、前記第1の回転軸に対して角度付けられている異なる回転軸を有し、
前記別個の照明領域の一方または双方が、非円形である、方法。
【請求項2】
単一要素検出器または分光器から、前記第1の収束フリンジパターンおよび前記少なくとも1つの異なる収束フリンジパターンの各々に対応する、複数の生画像の各々に対する照明データを取得することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
以下の式に従って、前記複数の生画像の各々に対する前記照明データから、超解像合成画像を再構成することをさらに含み、
【数1】
式中、Isynは、前記合成画像であり、nimagesは、前記複数の生画像の各々の数であり、
前記第1の収束フリンジパターンおよび前記少なくとも1つの異なる収束フリンジパターンの各々に対して、
iは、回転軸角度に対応する指数であり、
jは、前記光ビームのお互いに対しての位相シフトに対応する指数であり、
rawi、jは、前記回転軸角度に対応する指数iおよび前記位相シフトに対応する指数jを有する、前記複数の生画像の各々に対する前記照明データであり、
Aは、収束フリンジパターンのコントラストを表す係数であり、
phaseは、前記位相シフトである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記別個の照明領域が、前記顕微鏡の対物レンズの後部開口の中心と実質的に同一直線上にある中心を有する最大内接円を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記別個の照明領域が、各々、前記最大内接円の外部の照明増強領域をさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記照明増強領域が、前記別個の照明領域の少なくとも約50%を表す、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記照明領域が、前記顕微鏡の対物レンズの後部円形開口の反対側部分に一致するスリットとして形状化される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも1つの異なる収束フリンジパターンに対して、前記光ビームが、プログラム可能な空間光変調器を使用して同位相で変調される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記第1および前記少なくとも1つの異なる収束フリンジパターンのいずれに対しても、前記別個の照明領域が、0の余弦を有する位相だけシフトされていない、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記第1および前記少なくとも1つの異なる収束フリンジパターンのいずれに対しても、前記別個の照明領域が、0.5未満の絶対値を有する余弦を有する位相だけシフトされていない、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つの異なる収束フリンジパターンが、前記第1の位相とは異なる第2の位相だけ前記光ビームがシフトされている第2の収束フリンジパターンであり、前記同一の別個の照明領域が、前記第1の回転軸に対して角度付けられていない第2の回転軸を有する第2の別個の照明領域である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも1つの異なる収束フリンジパターンは、
前記光ビームが前記第1の位相と実質的に同一である第3の位相だけシフトされており、かつ、第3の別個の照明領域が前記第1の回転軸および前記第2の回転軸に対して角度付けられている第3の回転軸を有する、第3の収束フリンジパターンをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも1つの異なる収束フリンジパターンは、
前記光ビームが前記第2の位相と実質的に同一である第4の位相だけシフトされており、かつ、第4の別個の照明領域が前記第3の回転軸に対して角度付けられていない第4の回転軸をさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記第2の位相が、前記第1の位相とはπだけ異なる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記第1の位相が、0であり、前記第2の位相が、πである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記少なくとも1つの異なる収束フリンジパターンは、
前記光ビームが前記第1の位相および前記第3の位相と実質的に同一である第5の位相だけシフトし、かつ、第5の別個の照明領域が前記第1、第2、第3、および第4の回転軸に対して角度を有する第5の回転軸を有する、第5の収束フリンジパターンと、
前記光ビームが前記第2の位相および前記第4の位相と実質的に同一である第6の位相だけシフトされ、かつ、第6の別個の照明領域が前記第5に対して角度を有さない第6の回転軸を有する、第6の収束フリンジパターンと、を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記第1、第3、および第5の位相が0であり、前記第2、第4、および第6の位相がπである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記第3の回転軸は、前記第1の回転軸に対して約π/6から約π/2の角度を有し、前記第5の回転軸は、前記第1の回転軸に対して約π/2から約5π/6の角度を有する、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
試料を画像化する方法であって、
複数の生画像の各々の照明データを取得することを含み、前記生画像の各々は、1組の収束フリンジパターンの所与の1つに対応し、前記収束フリンジパターンの各々は、顕微鏡の対物レンズを通って出射される一対の光ビームの干渉によって生成され、前記試料の複数の点を照明し、
前記収束フリンジパターンの組は、(i)前記光ビームがシフトされたX位相と、(ii)前記光ビームの回転軸が向けられたY角度と、の組み合わせであるXおよびY構成要素を含み、前記組は、Xの2つの異なる値以下である。
【請求項20】
ラマン分光法または蛍光顕微鏡法を実行するための装置であって、前記光ビームの位相を変調するためのプログラム可能な空間光変調器(SLM)を備え、かつ、請求項1に記載の方法を実行するように構成されている、装置。
【請求項21】
前記SLMは、前記光ビームを前記顕微鏡の対物レンズの前記非円形の別個の照明領域に通過させる位相格子を表示する、請求項20に記載の装置。
【請求項22】
前記非円形の別個の照明領域を平滑化するためにガウスぼかしを実行するように構成されている、請求項21に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年4月2日に出願された米国特許出願第62/827,921から得られる優先権を主張し、これにより、すべての目的のためにその全体が参照によって本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、走査型顕微鏡(例えば、共焦点レーザー走査型または試料走査型顕微鏡)を使用した試料の画像化と、解像度を改善するための構造照明と、に関する。
【背景技術】
【0003】
従来の光学顕微鏡は、回折によって制限される空間解像度を有する。顕微鏡の対物レンズの後部開口が完全に平行光で満たされている場合には、その焦点または試料平面の画像はエアリーディスクであり、その半径rairy(ナノメートル(nm))は以下に従う。
【数1】
式中、λ(nm)は照明の波長であり、NA(無次元)は顕微の鏡対物レンズの開口数であり、その解像力の基準を与える。この量に関連するのは顕微鏡の解像度であり、通常単一の物体ではなく、2つの物体を個別に画像化できるようにする2つの物体間の最小距離として定義される。エアリーディスクビームを試料上で掃引してこの試料を画像化すると、得られた画像の解像度は以下のようになる。
【数2】
式中、この場合のrは解像度(nm)であり、λおよびNAは上記で定義されたとおりであり、nは周囲の媒体の屈折率であり、θはレンズに入射、または、出射できる光の最大光錐の半角である。この式から明らかなように、照明光の波長を短くするか、対物レンズの開口数を大きくすることで、空間解像度を向上させることができる(つまり、「r」の値を小さくすることができる)。ただし、これは、直線偏光ビームが顕微鏡の対物レンズの後部開口全体を満たす状況にのみ当てはまる。特定の技術的に検討された部分のみを満たすことにより、エアリーディスクとは異なる干渉パターンを生成し、この干渉パターンを試料表面上で掃引することができる。重要なのは、干渉パターンのフリンジ間隔がエアリーディスクの直径よりも比較的小さいことである。そのような技術的に検討された照明パターン、および、それらの結果として生じる検出ならびに再構成アルゴリズムは、当該技術分野では「構造化照明」と呼ばれ、それは顕微鏡の解像度を最大2倍に改善可能な技術である。
【0004】
構造化照明顕微鏡(SIM)システムは、様々な蛍光顕微鏡で市販されている。ただし、これらのSIMシステムは「広視野」照明を使用する。これは、平行化された光源が対物レンズ入射前に収束レンズを通過することで広い試料領域を照明することを意味する。蛍光画像化の通常の目的は、スペクトル全体を収集することではなく、対象の波長の発光光を単にフィルタリングして、それをカメラに導くことである。広視野顕微鏡は様々な蛍光画像化用途に適しているが、共焦点顕微鏡が優れている場合もある。共焦点顕微鏡は、ピンホールを利用して焦点が合っていない光を排除することによって、厚い試料を用いた画像化を大幅に改善する。共焦点画像は(広視野画像化のように)広い領域ではなくピクセルごとに構築されるため、発光または散乱した光をピンホール下流の分光器に送ることができる。それゆえ、共焦点顕微鏡は分光画像化に適している。共焦点顕微鏡の特定の用途には、厚くて、かつ不均一な試料を用いた蛍光セクショニングと、ラマン顕微鏡の画像化の場合などのハイパースペクトル画像化と、が挙げられる。
【0005】
共焦点顕微鏡は、広視野顕微鏡の場合のように試料全体を一度に照らすわけではないため、既存のSIMシステムとその再構成アルゴリズムは、共焦点顕微鏡と直接「ドロップイン」互換ではない。ただし、SIMの共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)への特定の用途は、Gao他(Optics Letters(2016)Vol.41、No.6:1193-96)に記載されている。この出版物によると、顕微鏡の対物レンズを通った光の2つの「円形瞳孔」の集光から生成されたフリンジパターンを使用して、試料が点ごとに複数回走査される。より具体的には、これらのフリンジパターンは、瞳孔を結ぶ線の角度を参照する方向指数m、および、2つの瞳孔のうちの一方の他方に対する位相シフトnによって特徴付けられる。4つの異なる角度と4つの異なる相対位相を使用する場合には、高度な画像を再構成するために16の生画像を収集する必要がある。特に効率性能の観点から、CLSMなどの走査型顕微鏡へのSIMの適用を改善することは、現在の最先端技術にとって有利になるであろう。
【発明の概要】
【0006】
本発明の態様は、空間解像度を改善するために、構造化照明顕微鏡法(SIM)を、共焦点レーザー走査型顕微鏡または共焦点試料走査型顕微鏡などの走査型顕微鏡に適用する方法および装置に関する。特定の態様は、(i)試料への光スループットを増加させて、それにより信号/雑音比を向上させ、かつ/または露光時間を短縮する能力と、さらに、(ii)処理する生画像の数を減少させ、それにより画像取得時間を短縮する能力と、における重要な進歩の発見に関する。どちらの効果も、走査型顕微鏡のユーザーの利益のために、全体的な性能の大幅な改善をもたらす。
【0007】
SIMが共焦点顕微鏡法に適用された、試料を画像化するための特定の方法によれば、干渉縞、すなわち、収束フリンジパターンは、試料領域にわたって走査されるか、より具体的には、この領域にわたって、試料の等間隔等の目立たない点に生成される。収束フリンジパターンは、2つレーザービームを所与の角度と位相差で顕微鏡の対物レンズの2つの側面に送ることによって生成される。この角度および位相を変えるには、例えば、ピクセルごとに光ビームの波面を変調することができる既知のプログラム可能なデバイスなどの空間光変調器を使用することができる。位相変調に使用される一般的なタイプは、液晶オンシリコン空間光変調器(LCOS-SLM)である。これは、LCDディスプレイと同様に動作する。つまり、液晶は電界が印加された状態でその屈折率が変化し、光がその結晶と相互作用するため、位相遅延が発生する。空間光変調器は、コンピュータを二次ディスプレイとして利用することができ、その結果、カラーパターンが位相ストロークに変換される。例えば、8ビットのカラーパターンの場合には、128と256はそれぞれπと2πの位相遅延を表してよい。光が顕微鏡の対物レンズの後部開口の端部のみに向けられている場合には、2つのビームは試料上で構造的、かつ、激しく相互干渉し、上記のエアリーディスクの直径の約半分の周期の正弦波パターンになる。これは、従来の共焦点顕微鏡と比較して、SIMを使用して画像のさらなる解像度を取得するための基礎を提供する。
【0008】
しかしながら、単一の所与の角度と位相から取得された生の画像は、高分解画像を再構成するのに十分ではない。むしろ、画像を構築するために、光ビームを生成するレーザーは試料にわたって掃引され、例えば、一連の、または、所定の組の目立たない角度および位相の各々で、共焦点ピンホールを介して複数回画像化される。つまり、顕微鏡の対物レンズの背面開口部の照明領域に対応する2つのビームの照明パターンが、これらの角度と位相で投影される。例えば、空間光変調器を使用して、一方のビームの位相を他方に対して遅らせることによって、0ラジアンなどの所与の角度で2つ以上の位相画像を収集してよい。位相シフトが0の1つの画像と、同一の角度であるが相対的にπ/2、π、3π/2ラジアンなどのゼロ以外の位相シフトを有する別の画像と、を角度と位相の他の組み合わせの他の収束フリンジパターンに対応する画像と共に使用して、特定の対象の試料領域の走査共焦点画像全体をピクセルごとに合成(再構成)することができる。このように、共焦点顕微鏡法などの走査型顕微鏡法において、SIMを使用することで、有利的に空間分解能を例えば約1.8倍から約2.0倍など、約1.5倍以上向上させる(上記式の「r」の値を減少させる)ことができる。
【0009】
本発明の特定の態様は、顕微鏡の対物レンズの対応する照明領域が非円形になるように2つのビームの照明パターンを使用することによって、システム全体の光スループットを大幅に改善することを可能にするパラメータの発見に関する。円形領域の場合には、円形プロファイルの2つのビームは、2つの円の変位軸に沿って試料上に正弦波パターンを生成する。ここで、この変位軸は、2つの円の中心を通る線を意味する。試料上で最良の正弦波を生成する際の重要な要素は、軸に沿った2つの円の変位の長さまたは距離である。重要なことであるが、円の上または下に光が存在しても(または、不在でも)、変位距離は維持されるが、試料で生成される正弦波の品質は影響されない。したがって、2つの円だけで照明するのではなく、円の外部の領域で後部開口をさらに照明して、画質を犠牲にすることなく導入される光の量を増やすことができる。
【0010】
例えば、「照明増強領域」は、スリット形状の照明領域で形成することができる。ここで、最大スリット幅は、スリット内の最大内接円を表す円形の「瞳孔」の直径と同一である。顕微鏡の対物レンズを通って取り込まれたさらなる光も干渉して、選択された角度と位相で正弦波の収束フリンジパターンを形成する。特定の実施形態では、スリットの形態の照明領域、すなわち、顕微鏡の対物レンズの後部円形開口に対応するはるかにより大きな円の円形の一部分は、最大内接円の外側(外部)に照明増強領域を与え、それにより、信号/雑音比を有利に増加させ、および/または露光時間を短縮することができる光スループットの増加に貢献する。これは共焦点または他の走査型顕微鏡の全体的な性能にとって重要である。それは、レーザーによって生成された光のほとんどが対物レンズに向けられないため、従来の光スループットが非常に制限されるからである。有利的には、1つまたは複数(好ましくは2つの双方)の非円形の照明領域の使用への変更は、容易に実施される。対応する劇的な(例えば、4倍の)光スループットの増加により、照明領域内の最大内接円で表されるリファレンスまたはベースラインの円形領域を使用する場合と比較して、同等の信号/雑音比、しかし、短いカメラの露光時間で画像収集が可能になる。その結果、全体的な画像取得時間が短縮され、走査型顕微鏡の分野のユーザーに様々なメリットがもたらされる。他の実施形態によれば、非円形の照明領域は、レファレンスまたはベースライン円形領域と同一の総照明を提供するように構成することができるが、これらの参照またはベースライン円形領域と比較して小さい最大内接円を有する。これにより、変位軸に沿った領域の間隔を広げることができ、画質を向上させる効果がある。
【0011】
また、SIMを共焦点レーザー顕微鏡または試料走査型顕微鏡に適用した場合には、1次元および2次元の物理的な光伝播シミュレーションで実証されたように、角度ごとに3つの位相で画像を収集しなければならないという数学的な制限はなく、実際には2つ以上の位相の照明で十分であるという発見にも関する。これの直接の影響としては、取得される生画像の総数が減少することである。つまり、全体的な画像取得時間も同様に短縮される。例えば、角度ごとに4つの位相を使用する手法(例えば、4つの別々の角度で合計16の画像を収集する)、または角度ごとに3つの位相のみを使用する(例えば、3つの別々の角度で合計9つの画像を収集する)手法と比較すると、画像の取得時間はそれぞれ約50%または約33%減少する。このような取得時間の改善としては、時間がユーザーにとって貴重であるだけでなく、熱ドリフトまたは振動の影響を受けにくくなり、画像に大きな収差が発生しにくくなることである。これにより、画質が向上する。取得する生画像の数が少なくなると、管理、追跡、および保存に必要なソフトウェアのオーバーヘッドも減少する。したがって、SIMの利点である、例えば高開口数(NA)の対物レンズを使用することによる1.8倍以上の空間分解能の向上は、既知の方法および装置を使用する場合と比較して、著しく低いコストで達成することができる。
【0012】
これらおよびその他の実施形態は、例えば、イメージングラマン分光法などのハイパースペクトル画像化または、蛍光顕微鏡法などのラベルベースの画像化を行う際に、画像の解像度を向上させるためにSIMを利用する方法および装置に関するものであるが、これらは以下の詳細な説明から明らかになるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A】円(図1A)およびスリットの形態における、入力ビームプロファイル、すなわち、顕微鏡の対物レンズの後部開口の照明領域である。
図1B】より大きな直径を有する円の一部分(図1B)の形態における、入力ビームプロファイル、すなわち、顕微鏡の対物レンズの後部開口の照明領域である。
図1C】異なる角度で回転軸を有する、図1Bに示すような入力ビームプロファイルを示す。
図2】向上した解像度で試料を画像化するためにSIM(共焦点SIM)を利用した共焦点走査型顕微鏡の概実質的に図である。
図3】焦点距離75mmのレンズを通して25μmのピンホールに焦点を合わせた、100倍、0.7NAの対物レンズを通して532mmの波長を照射する共焦点SIMのシミュレーションされた点広がり関数を示している。6つのシミュレーションされた画像は、光ビームの3つの異なる角度(0、π/3、2π/3)の使用に基づいており、角度ごとに2つの光ビームの照明パターンが0とπだけ位相がお互いに対してにシフトしている。
図4】従来のCLSMを用いたサンプルのシミュレーション画像と、解像度を向上させた共焦点SIMを用いた同一のシミュレーション画像を示す。図3に示すように角度と位相の6つの組み合わせを使用して、試料全体にわたって掃引される照明パターンに対して超解像画像を再構成することによって改善が得られている。
【0014】
これらの図は、本発明の実施形態および/または関連する原理の例示を提示するものと理解されるべきであり、同一または類似の要素を示すために図の中で同一番号が使用されている。本開示の知識を有する当業者に明らかであるように、SIMを使用する他の方法および装置は、特定の画像化用途に従って部分的に決定される関連するステップおよび構成要素を有するであろう。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の代表的な実施形態は、対象領域上などの試料の複数の点を複数の収束フリンジパターン(または、干渉フランジ)で照明する、試料を画像化する方法に関する。また、当該収束フリンジパターンは、回転軸に様々な角度で導かれ、かつ、位相がお互いに対して様々な位相だけシフトされた光ビームから生成される。したがって、これらの複数の収束フリンジパターンは、「第1の収束フリンジパターン」、「第2の収束フリンジパターン」、「第3の収束フリンジパターン」などで指定してよく、「第1」、「第2」、「第3」などの用語は、これらの収束フリンジパターンが当該収束フリンジパターンを生成するために干渉する光ビームの特性、すなわち、各々の特性回転軸および位相シフト(例えば、「第1の回転軸」、「第2の回転軸」、「第3の回転軸」等の角度、または、「第1相」、「第2相」、「第3相」等のシフト)に関連することを単に示すために用いている。これらの用語は、収束フリンジパターンを生成するために特定の順序が必要であると解釈されることを意図するものではない。また、これらの用語は、必ずしも異なる値の角度および/または位相を必要とするものとして解釈されるべきではない。実際、好ましい実施形態によれば、所与の試料を複数の点で照明するために使用されるいくつかの収束フリンジパターンは、他の収束フリンジパターンを生成するために使用される光ビームと同一の回転軸角度を有する(実質的に一致する回転軸を有する)。しかしながら、他の収束フリンジパターンは、異なる位相だけシフトされた光ビームが生成される。本明細書でより詳細に説明するように、この回転軸角度は、これらのビームによって照明される顕微鏡の後部開口上の別個の照明領域の向きを指す。同様に、いくつかの収束フリンジパターンは、他の収束フリンジパターンを生成するために使用される光ビームと同一の位相だけシフトされた光ビームから生成され得るが、他の収束フリンジパターンは異なる回転軸角度を有する光ビームから生成される。したがって、試料を照明するために使用される任意の2つの収束フリンジパターンに対して、これらは、それらの特徴的な回転軸角度のみ、それらの特徴的な位相シフトのみ、またはそれらの特徴的な回転軸角度と位相シフトの双方に関して異なる可能性がある。
【0016】
特に顕微鏡の対物レンズを通って出射され、当該顕微鏡の対物レンズによって収束され、かつ、対物レンズの後部開口に照明領域を与える光の文脈における、「光」および「光ビーム」という用語は、任意の波長、好ましくは電磁スペクトルの紫外線(UV)部分から電磁スペクトルの中赤外線部分までの範囲、例えば、約200nmから約11μmの範囲の波長λの電磁放射を指す。多くの場合には、例えば約380nmから約750nmの波長を有する可視光が使用される。特に明記されていない限り、すべての角度はラジアンで示され、2πラジアン=360°である。
【0017】
本明細書に記載の方法は、例えば、特に共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)に適用される場合の共焦点SIMの場合に、構造化照明顕微鏡(SIM)を利用する。そのような方法によれば、対象の試料の複数の点は、従来の共焦点顕微鏡の場合のように顕微鏡の対物レンズの後部開口全体を占めるレーザービームによってだけではなく、顕微鏡の対物レンズを通って出射され、当該顕微鏡の対物レンズによって集光される2つ以上、しかし、好ましくは2つだけの光ビーム(例えば、平行レーザービーム)の干渉によって生成された正弦波の収束フリンジパターンによって照射される。特に、これらの光ビームは、技術的に検討された照明領域など、対物レンズの後部開口の一部のみを満たす。ビームが顕微鏡の対物レンズによって収束され、試料に出射されるこれらの領域は、例えば、後部開口の直径の両端にあってよい。所与の収束フリンジパターンは、試料領域にわたって走査または掃引され、例えば、マイクロメートル当たり複数の試料など、所与のサンプル周波数に対応する目立たないサンプル間隔で、照明データを取得するために使用され得る。照明データは、例えば、単一の元素検出器から得られた強度値、あるいは、分光器から得られたスペクトルであってよい。
【0018】
図1Aおよび1Bは、例えば、顕微鏡の対物レンズの後部開口14に投射された光ビームの対応するそれぞれの照明領域12、22を備えたそれぞれの入力ビームプロファイル10、20の2つの図を提供する。左側の図は、これらの光ビームを、平面領域を照明する白い領域(図1Aの場合は円、図1Bの場合はスリット)として示しており、それ以外は完全に暗くなっている。右側の図は、更なる詳細を示すために、これらの暗い背景を削除している。図1Aおよび1Bの実施形態では、ビームは上記のように顕微鏡の後部開口14の直径の両端から出射され、この直径はビームが間隔を置いて、または、分離して配置された変位軸16と一致する。したがって、ビームは、アパーチャの領域よりも少ない合計量を表す「照明領域」のみを照明する。一般に、これらの照明領域12、22を、後部開口14の近接端部に配置されるように、または、これらの端部の少なくとも一部に一致するように構成して、可能な限り最大の分離距離を獲得することにより、画質を改善することができる。特に、これらの照明領域12、22を提供する光ビームの干渉によって試料上に生成される正弦波の品質は、それらの間の距離の関数であり、距離が大きいほどより高い品質が得られる。
【0019】
図1Aの実施形態では、これらの照明領域12は、円または瞳孔の形態であり、後部開口14の中心18も含む変位軸16に沿って間隔を置いて配置されている。図1Bは、異なる入力ビームプロファイル20を示している。ここでは、(図1Aに示されているものとは異なり)別個の照明領域22が非円形である、これらの領域は、最大内接円25を含む。すなわち、最大内接円25は、それぞれの照明領域22内に内接し得る最大の円であって、図示の実施形態では、図1Aの円形の照明領域12全体と面積が同等である円に対応する。したがって、最大内接円25は、変位軸16に沿って、後部開口14の中心18と同一直線上にあるそれぞれの中心27を有してよい。最大内接円がそのような同一線上の中心を有しないの場合には、「最大内接円」という用語は、対応する照明領域に適用される限り、実施形態によっては、必ずしもその必要はないが、そのような同一直線上の中心を有する(すなわち、後部開口14の中心18と同一直線上にある)最大内接円を意味する。
【0020】
図1Bに示される非円形の照明領域22からも明らかであるように、これらは照明増強領域29をさらに含み、照明増強領域29は、変位軸16の方向に沿って、すなわち、図1Bに示されているような水平方向に、最大内接円25のいずれの部分よりも近接していない、最大内接円25の外側の任意の照明領域を指す。(これらの要件を満たす)照明増強領域29内の光は、画質(解像度)を犠牲にすることなく光スループットを増加させるのに有利に機能する。対照的に、円形の一部分またはスリット形状の照明領域22の2つの弦23の間の光は、光スループットを増加させながら、それにもかかわらず、技術的に検討された照明パターンを後部開口が照明される従来の共焦点顕微鏡法の方向に動かすことによって解像度を低下させてしまう。この説明を考慮して、円形の一部分(すなわち、円の縁および弦によって境界が定められた領域)である照明領域22は、最大内接円25の任意の所与の直径に対して最大の照明増強領域を提供することが理解され得る。直径は、特定の変位距離を定義し、その結果、特定の解像度を定義する。図1Bの好ましい実施形態によれば、スリットまたは円の一部分の形状の照明領域22の弦23は平行であり、変位距離dだけ離れており、このようにして、上記の方法で光スループットおよび解像度の双方に影響を与える。また、この好ましい実施形態では、スリット形状の照明領域22は、顕微鏡の対物レンズの円形の後部開口14の反対側部分、すなわち、円弧21に一致し、それにより、これらの領域は、(i)円形の後部開口14の円弧、すなわち、これらの反対側部分21と実質的に一致する円弧21と、(ii)この円形の後部開口14の弦も定義する弦23と、を含む円形の一部分を定義する。さらに、本実施形態では、最大内接円25の直径28が、その最も広い点(この場合は変位軸16に沿っている)でのスリット幅に対応することが分かる。
【0021】
一般に、照明増強領域を提供する任意の非円形の照明領域を使用ことにより、SIMを共焦点顕微鏡に適用する際に関連するトレードオフを改善できる。つまり、これは、(i)生成されたフリンジパターンの精細度を増加させ、その結果、生成された画像の解像度を向上させる変位距離の増加と、(ii)信号/雑音比を低下させ、かつ/または、露光時間を延長させる光スループットの低下と、のトレードオフである。すなわち、照明増強領域は、(i)に影響を与えることなく(ii)を有利的に補償するか、あるいは(ii)に影響を与えることなく(i)の改善を可能にする。有利的には、照明増強領域は、照明領域全体の相当な部分を表すことができ、それによって、最大内接円からの光スループットのベースライン量を、例えば、少なくとも約1.5倍(例えば、約1.5から約6.0倍)、あるいは、少なくとも約2.0(例えば、約2.0から約5.0倍)増加させることができる。この係数は、最大内接円の面積に対する総照明面積の比率を表す。例えば、スリット形状の照明領域の場合には、この比率が増加するにつれて、後部開口の直径に対する最大内接円の直径(この場合は、変位軸を横切るスリット幅)の比率が減少する。すなわち、スリットが後部開口に比べて小さくなる。例えば、後部開口の幅の3/8、1/4、1/8のスリット幅を有するスリット状の照明領域は、ベースライン量を超える増加係数がそれぞれ2.4、3.1、または4.5になるように、照明領域全体のそれぞれ59%、68%、78%を表す照明増強領域から光を提供する。そのような円形の一部分またはスリット形状の照明領域の特定の場合において、後部開口の直径に対するスリット幅の比率は、一般に、約0.02から約0.4であり、典型的には約0.05から約0.3であり、多く場合約0.1から約0.25である。
【0022】
本開示から、照明領域の多くの可能な非円形形状が、本明細書に記載されるように、照明増強領域からの光スループットを有利に可能にすることが理解され得る。例えば、レンズ形状(フットボールの断面)、多角形、または曲線的な多角形を使用することができる。レンズ形状の照明領域の場合など、場合によっては、最大内接円の外側のすべての照明領域が、上記で定義された「照明増強領域」の特性を満たす場合がある。他の場合には、非円形の照明領域の形状は、それらの最大内接円の外側に照明領域を提供する可能性があり、これは、上記で定義された「照明増強領域」の特性を満たさないであろう。特定の形状に関係なく、好ましくは、(i)最大内接円の外側の照明領域の少なくとも約85%、少なくとも約95%、またはすべてが「照明増強領域」であり、(ii)照明増強領域は、照明領域全体の少なくとも約50%(例えば、約50%から約95%)、少なくとも約75%(例えば、約50%から約90%)、または少なくとも約80%(例えば、約80%から約90%)を示し、(iii)最大内接円は、変位軸と実質的に一致する中心を有し、それゆえ後部開口の中心と実質的に同一直線上にあり、および/または、(iv)照明領域全体は、後部開口の面積の約25%未満(例えば、約1%から約25%)または約15%未満(例えば、約2%から約15%)を示す。
【0023】
図1Cは、図1Bと同様に、顕微鏡の対物レンズの後部開口14の直径と一致する変位軸16に沿って分離されたスリット形状の照明領域22を示している。図1Cにさらに示されているのは、変位軸16に垂直な回転軸32である。本実施形態によれば、回転軸32は、別個の照明領域22の間に延在し、それらと交差せず、照明領域22が互いの鏡像となる対称軸と一致する。この図に示されているように、回転軸32の代表的な角度は、0(0°)、π/3(60°)、および2π/3(120°)であり、これらの異なる角度で出射される干渉ビームは、異なる収束フリンジパターンとなる。つまり、収束フリンジパターンは様々な方向から生成される。回転軸の特徴的な角度が変化する収束フリンジパターンで試料表面を走査または掃引することにより、これにより、様々な方向に沿った画像解像度の向上が可能になる。したがって、図1Cに示されるように、0、π/3、および2π/3の異なる回転軸の角度で、画像解像度の向上が空間全体に対して達成され得る。それゆえ、実施形態によっては、複数の収束フリンジパターンで試料は走査または掃引されよく、それによって、試料の点は、異なる第1、第2、および第3の回転軸(例えば、0、π/3、2π/3)を有する収束フリンジパターンで第1回目、第2回目、第3回目の照明がされる。ただし、特定の方向に沿った解像度の向上が不要な画像化用途の場合には、2つの異なる回転軸、または、1つの回転軸のみを有する収束フリンジパターンを使用した試料の照明で十分であると見なされる場合がある。図1Cでは、垂直方向は、特に0の回転軸32の角度に対応するが、これは任意の方向であり、主な考慮すべき事項は、別個の照明領域が異なる回転軸を有するための異なる収束フリンジパターンの組み合わせを使用して、所望の方向、すなわち、異なる方向の組み合わせに沿って画像解像度を向上させる能力にある。
【0024】
図2は、共焦点走査顕微鏡(例えば、共焦点レーザー走査顕微鏡)200と、改善された解像度で試料を画像化するための構造化照明顕微鏡(SIM)を利用したその動作を示している。レーザー201は、偏光保持光ファイバ203およびファイバコリメータ205を通って、約2mmから約20mm(例えば、約5mmから約15mm)のビーム径を有する、水平に偏光され、かつ、平行になった光のビーム207を提供する。このビームは、空間光変調器(SLM)209に向けられる。SLMは、固定された空間(例えば、ピクセル)パターンに従って光を変調する電気的にプログラム可能な装置でよい。特に、各ピクセルのアドレスにプログラムされた情報は、その光学特性を変更し、入射光または読み出し光の適切な変調を与える。この場合には、SLM209は、特に回折をもたらす位相格子211を表示することにより、この光の位相を変更するために使用される。SLMに存在する変調光ビーム213’、213”が追加の機器を通った後、SLM209および位相格子211の組み合わせが顕微鏡の対物レンズ223の後部開口14に上述の所望の照明領域および回転軸方向に従った光パターンを投射する。そのような追加の装置には、(i)例えば、ビーム分離を後部開口14の直径内に低減するように構成された可変ビームコンプレッサなどのビームコンプレッサ215と、(ii)励起波長を出射波長から区別するための端部フィルタ217と、(iii)ビームの操作および移動のための検流計を備えたレーザー走査モジュール219と、(iii)適切な反射/透過特性を備えたダイクロイックミラー221と、が挙げられる。対物レンズ223は、周囲媒体として、屈折率1を有する空気を使用しておよい。そうでない場合は、対物レンズ223は、油浸対物レンズの場合の油など、より高い屈折率(例えば、約1.2から約1.6)を有する媒体で動作し、それによって顕微鏡の解像力を高めてよい。
【0025】
SLM209は、図1Bに示される非円形の照明領域22に対応する2Dパターン(画像)を表示することができる。実施形態によっては、ぼかしを使用して、表示されたパターンの端部(例えば、円形部分パターンの端部)で発生する回折を低減、すなわち、これらの端部を「ソフト」にしてよい。ぼかしは、例えば、特定の標準偏差のガウスカーネルを使用して画像の畳み込みを実行することによって実現できる。標準偏差が大きいほど、結果として生じる画像が大きくぼやける。SLM209または他の位相変調デバイス上に表示する前の画像のぼかしは、ガウスぼかしフィルタ208として知られているソフトウェアアルゴリズムを適用することによって達成してよい。SLM209は、例えば、位相のみのSLM、またはそうでなければ、振幅を変調する追加の機能を有する振幅と位相との組み合わせSLMでよい。位相のみのSLMは、出射された光に回折を生じさせる位相格子を表示する。ただし、振幅変調は、位相格子パターンが表示される箇所と表示されない箇所とを選択することで実現できる。例えば、スリット形状のパターンの生成が必要な場合は、SLMは、この形状の格子パターンを表示し、他の場所には格子を表示しないように構成できる。この場合には、格子から回折された光はスリット状の振幅プロファイルを有し、0次の回折ビームはスリットのネガティブイメージを有する。SLMは格子パターンの上で位相を変調することもできるため、2つのスリットの1つに位相遅延(例えば、πの位相遅延)を追加することができる。
【0026】
特に、SLM209を使用して(例えば、プログラムして)、対物レンズ223上に投射され、通過する1つの光ビーム213’の別の光ビーム213”に対する位相シフトを変調することができる。変調された光ビーム213´、213”は、すなわち、図1A~1Cに示されるような照明領域22などの照明領域を提供するために使用される。これらの図に関して説明され、さらに図2を考慮して、ビーム213’、213”は、対物レンズ223によって収束され、試料225上で干渉して、上記のように異なる回転軸角度および/またはビーム間の位相シフトを有する収束フリンジパターンを生成する。各収束フリンジパターンは、試料225の複数の点を走査し、対応する生画像の照明データを収集するために使用される。これは、例えば、検出器250を使用して、収束レンズ229および共焦点ピンホール231の下流に出射された光を検出することによって実行され得る。検出器250は、画像データが2Dアレイの形態で収集され得るように、強度値を提供する単一の要素検出器であってよい。そうでない場合は、検出器250は、スペクトルデータを提供する分光器などの多要素検出器であってよく、その結果、画像データは、3Dデータキューブの形態で収集されてよく、第3の次元は分光学的次元である。画像再構成アルゴリズムはいずれの場合も同一であるが、スペクトルデータの場合は一般に長い時間が必要である。ラマン分光画像化の場合には、検出器250は、DXR2分光器などの市販の分光器であってよい。共焦点顕微鏡200は、固定位置に維持された試料に従ったレーザー走査装置として動作してよく、試料上の画像に対して収束フリンジパターンを走査することによって、所与の画像が構築されるか、または、関連する照明データがピクセルごとに取得される。あるいは、共焦点顕微鏡200は、固定位置に維持された試料に従ったこのピクセル情報を取得するための試料走査デバイスとして動作してよく、例えば、電動ステージ227(例えば、XYZ電動ステージ)を用いて、例えば2次元、または可能であれば三次元で試料は移動する。(例えば、パーソナルコンピュータ(PC)内の)プロセッサ260は、ガウスぼかしフィルタ208、SLM209、レーザー走査モジュール219、電動ステージ227、および/または検出器250の動作を連動させ、かつ、動作可能にリンクするために使用されてよい。プロセッサ260は、照明データを収集および処理し、画像再構成アルゴリズムを実行するための命令のプログラムを含んでよい。
【0027】
ビームの異なる回転軸角度および/または2つのビーム間の異なる位相シフトを有する異なる収束フリンジパターンを使用することにより、複数の「生」画像の照明データ取得することができる。ここで、各生画像は、複数の点で試料を照明(走査または掃引)するために使用される各収束フリンジパターンに対応する。次いで、この生画像データを使用して、従来の共焦点顕微鏡で得られたものと比較して、より高い解像度で超分解され、合成された画像を再構成することができる。したがって、試料を画像化するための代表的な方法は、試料の対象の領域上など、試料の複数の点を、第1の収束フリンジパターンおよび少なくとも1つの異なる収束フリンジパターンで照射することを含んでよく、(例えば、コリメートされたレーザー光源からの)光ビームの干渉によって複数の点の各々で、これらパターンのそれぞれが生成される。これらのビームは、顕微鏡の対物レンズを通って、例えば、その背面または背面の開口の直径の両端で出射されてよい。「構造化照明」を提供するために、ビームは開口部全体よりも少なく照明する。最初の収束フリンジパターンの場合には、このパターンを生成するために使用される「第1の別個の照明領域」と見なされ得る顕微鏡の対物レンズの別個の照明領域に光ビームが向けられる。第1の別個の照明領域は、「第1の回転軸」と見なされ得る上記のような回転軸を有してよく、光ビームは「第1の位相」だけお互いに対してに位相がシフトされてよい。上記のように、対応する修飾子「第2」、「第3」、「第4」、「第5」、および「第6」は、それぞれの「2番目、「3番目」、「4番目」、「5番目」、「6番目」の収束フリンジパターンの別個の照明領域、回転軸、位相を言及する従来の方法として使用され得る。これらの修飾子は、試料を画像化するために特定の順序で使用される必要がなく、別個の照明領域、回転軸、位相を異ならせる必要もない。回転軸角度と位相シフトの可能な値には0が含まれる。また、序数が大きいこれらの修飾子のいずれにとって、必ずしもそれよりも小さい修飾子を必要としない。したがって、本明細書に記載されているように、例えば、試料は必ずしも「第3」および「第4」の収束フリンジパターンによって画像化されることなく、「第1」、「第2」、「第5」、「第6」の収束フリンジパターンで画像化されてよい。
【0028】
代表的な方法は、試料の複数の点を第1の収束フリンジパターンで照明することに加えて、これらの点を少なくとも1つの異なる収束フリンジパターンで照明することをさらに含む。ここで光ビーム(したがって、別個の照明領域の後部開口に投射される光)は、最初の位相に対して、異なる位相だけお互いに対して位相がシフトされる。第1の収束フリンジパターンに対して異なる位相シフトを有するこの少なくとも1つの異なる収束フリンジパターンの場合には、回転軸角度は、第1の収束フリンジパターンの回転軸角度と同一であっても異なっていてもよい。すなわち、この少なくとも1つの異なる収束フリンジパターンに関して、(i)顕微鏡の対物レンズの同一の別個の照明領域が使用され、当該別個の照明領域は、第1の回転軸に対して角度付けられていない(すなわち、実質的に一致している)同一の回転軸を有するか、あるいは、(ii)顕微鏡の対物レンズの異なる別個の照明領域が使用され、当該別個の照明領域は、第1の回転軸に対して角度付けられている異なる回転軸を有し、それによって光ビームが試料に収束される方向に差を生じさせる。特定の実施形態(上記のケース(i)に該当する)によれば、少なくとも1つの異なる収束フリンジパターンは、第1の収束フリンジパターンに対して異なる位相シフトを有する第2の収束フリンジパターンであってよい。他の特定の実施形態によれば、少なくとも1つの異なる収束フリンジパターンは、2つ以上、例えば、2つ、3つ、4つ、または5つの異なる収束フリンジパターンであってよい。したがって、本明細書に記載されているように、特徴的な回転軸角度(所与の収束フリンジパターンに対する別個の照明領域の回転軸の角度)が異なり、かつ/または、それらの特徴的な位相シフト(別個の照明領域に投射された光ビームが所与の収束フリンジパターンに対してシフトされる位相)が異なる、例えば、合計で3つ、4つ、5つ、または6つの異なる収束フリンジパターン等の、合計で少なくとも2つの異なる収束フリンジパターン(第1の収束フリンジパターンと少なくとも1つの異なる収束フリンジパターン)を用いて試料を照明する。
【0029】
複数回実行されるこの照明(走査または掃引)は、例えば、収束フリンジパターンおよび少なくとも1つの異なる収束フリンジパターン等の複数の収束されたフリンジパターンの各々に対応する複数の生画像の各々に対応する照明データの取得を可能にする。上記のように、照明データは、例えば、(2Dアレイの形態でデータを収集するため)単一要素検出器、または、(3D立体データの形態でデータを収集するための)スペクトルグラフから取得してよい。次いで、特定の検出器に関係なく、超分解合成画像は、以下の画像再構成アルゴリズムに従って、複数の生画像の各々の照明データから再構成されてよい。
【数3】

式中、Isynは、合成画像であり、nimageは、使用する収束フリンジパターンの数に対応する生画像の数である。これらの収束フリンジパターン、すなわち、第1の収束フリンジパターンおよび少なくとも1つの異なる収束フリンジパターンの各々に対して、iはその特徴的な回転軸角度に対応する指数であり、jはその特徴的な位相シフトに対応する指数である。上記の式のインデックスi、jは、それぞれXおよびYの一意の番号を有してよい(例えば、回転軸角度インデックスiは1、2、3の3つの番号を有することができ、位相シフトインデックスjは1と2の2つの番号を有することができる。)。XとYは、回転軸角度と位相シフトのそれぞれのXとYの一意の値にそれぞれ対応する。例えば、3つの固有の回転角および2つの固有の位相シフトを有する6つの収束フリンジパターンの場合のように、X個の固有の回転軸角度およびY個の固有の位相シフトを有するXおよびY収束フリンジパターンの組を利用してよい。用語Irawi、jは、対応する回転軸角度および位相シフト指数i、jを有する、複数の生画像のそれぞれの照明データである。Aは、収束フリンジパターンのコントラストを表す係数であり、試料上で生成された干渉パターンの正弦波の振幅で得られる。位相は、位相シフトの値(ラジアン単位)である。
【0030】
cos(位相)の係数で重み付けされた上記の合計の第2項を考慮すると、特定の位相シフト、特にこの係数の値が比較的低いものは、合成画像Isynへの寄与が比較的小さくなる。すなわち、実施形態によっては、cos(位相)が比較的低くなるような特徴的な位相シフトを伴う収束フリンジパターンに対応する追加の照明データに起因する合成画像の解像度のわずかな改善は、この照明データを収集することに関連する追加の取得および処理時間を正当化しない。特定の実施形態では、収束フリンジパターンのいずれもが特徴的な位相シフトを有さないか、さもなければ、第1および少なくとも1つの異なる収束フリンジパターンのいずれに対しても、別個の照明領域は、余弦が0となる位相だけシフトされる。例えば、そのような実施形態では、Isynを生成する際に、π/2または3π/2の特徴的な位相シフトを有する収束フリンジパターンの使用が除外される。特定の、より具体的な実施形態では、収束されたフリンジパターンのより広い可能性の使用は除外され得る。例えば、そのような実施形態によれば、収束フリンジパターンのいずれも特徴的な位相シフトを有さないか、さもなければ、第1および少なくとも1つの異なる収束フリンジパターンのいずれに対しても、別個の照明領域が0.5未満の絶対値を有する余弦を有する位相だけシフトする。そのような実施形態では、Isynを生成する際に、例えば、π/3から2π/3の範囲、または、5π/3から5π/3の範囲の特徴的な位相シフトを有する収束フリンジパターンの使用が除外される。
【0031】
上記のように、特徴的な回転軸角度および位相シフトを有する第1の収束フリンジパターン、ならびに、同一回転軸角度を有するが異なる位相シフトを有する第2(または第3または第4)の収束フリンジパターンで試料を照明することにより、その回転軸角度の方向に沿って高度な画像解像度を十分に提供し得る。したがって、特定の実施形態では、少なくとも1つの異なる収束フリンジパターンは、光ビームが第1の位相とは異なる第2の位相だけシフトするが、第2の別個の照明領域が第2の収束フリンジパターンのそれと同一である、第2の収束フリンジパターンでよい。それにより、これらの別個の照明領域が、第1の回転軸に対して角度付けられていない(実質的に一致する)第2の回転軸を有する。好ましい実施形態では、第1の位相シフト(または、第1の収束フリンジパターンを生成する光ビームがお互いに対してシフトされる位相)がゼロ(0)であり、かつ、第2の位相シフト(または、第2の収束フリンジパターンを生成する光ビームがお互いに対してシフトされる位相)がpi(π)である場合などのように、第2の位相は第1の位相とπだけ異なる。
【0032】
同様に、別の方向への画像解像度の向上が望まれる場合には、別の特徴的な回転軸角度を有するが異なる特徴的な位相シフトを有する、第3および第4の収束フリンジパターンを使用してよい。したがって、代表的な画像化方法によれば、少なくとも1つの異なる収束フリンジパターンは、第2の収束フリンジパターンだけでなく、第3および/または第4の収束フリンジパターン、好ましくは第3および第4の収束フリンジパターンの双方を使用することを含んでよい。第3の収束フリンジパターンの場合は、光ビームは、第1の位相と実質的に同一である第3の位相だけシフトされてよいが、第3の別個の照明領域は、第1の回転軸および2番目の回転軸の双方に対して角度付けられている第3の回転軸を有してよい。第4の収束フリンジパターンの場合は、光ビームは、第2の位相と実質的に同一である第4の位相だけシフトしてよいが、第4の別個の照明領域は、第3の回転軸に対して角度付けられていない(実質的に一致する)第4の回転軸を有してよい。好ましい実施形態では、第3の位相シフト(または、第3の収束フリンジパターンを生成する光ビームがお互いに対してにシフトされる位相)がゼロ(0)であり、かつ、第4の位相シフト(または、第4の収束フリンジパターンを生成する光ビームがお互いに対してシフトされる位相)がpi(π)である場合など、第4に位相は第3の位相とπだけ異なる。他の好ましい実施形態では、第3の回転軸、またはそうでなければ第3および第4の回転軸の双方は、第1の回転軸、またはそうでなければ第1および第2の回転軸の双方に対して約π/4から約π/2など、約π/6から約π/2だけ角度付けられている。例えば、第1および/または第2の回転軸は、ゼロ(0)の基準回転軸角度を有してよく、第3および/または第4の回転軸は、第1および/または第2の回転軸に対してπ/3だけ角度付けられてよい。
【0033】
さらに別の方向に沿って画像解像度の向上が望まれる場合には、別の特徴的な回転軸角度を有するが異なる特徴的な位相シフトを有する第5および第6の収束フリンジパターンを使用してよい。したがって、代表的な画像化方法によれば、少なくとも1つの異なる収束フリンジパターンは、第2、第3、第4の収束フリンジパターンだけでなく、第5および/または第6の収束フリンジパターン、好ましくは第5および第6の収束フリンジパターンの双方を含んでよい。第5の収束フリンジパターンの場合は、光ビームは第1および第3の位相と実質的に同一である第5の位相だけシフトしてよいが、第5の別個の照明領域は、第1、第2、第3、第4の回転軸のすべてに対して角度付けられている第5の回転軸を有してよい。第6の収束フリンジパターンの場合は、光ビームは第2および第4の位相と実質的に同一である第6の位相だけシフトしてよいが、第6の別個の照明領域は、5番目の回転軸に対して角度付けられている(実質的に一致する)第6の回転軸を有してよい。好ましい実施形態では、第5の位相シフト(または、第5の収束フリンジパターンを生成する光ビームがお互いに対してシフトされた位相)がゼロ(0)であり、かつ、第6の位相シフト(または、第6の収束フリンジパターンを生成する光ビームがお互いに対してシフトされた位相)がpi(π)である場合など、第6の位相は第5の位相とπだけ異なる。他の好ましい実施形態では、第5の回転軸、またはそうでなければ第5および第6の回転軸の双方は、第1の回転軸に対して、またはそうでなければ第1および第2の回転軸の双方に対して約π/2から約3π/4など、約π/2から約5π/6の角度付けられている。例えば、第1および/または第2の回転軸は、ゼロ(0)の基準回転軸角度を有してよく、第5および/または第6の回転軸は、第1および/または第2の回転軸に対して2π/3だけ角度付けられてよい。
【0034】
したがって、本明細書に記載の代表的な試料画像化方法は、複数の生画像の各々に対して照明データを取得することを含み、各生画像は、一組の収束フリンジパターンの所与の1つに対応する。顕微鏡の対物レンズを通って出射された一対の光ビームの干渉によって各収束フリンジパターンは生成され、例えば、固定された試料の周りのパターンを走査し、レーザー走査顕微鏡法を実行することで、あるいは、固定したパターンの周りで試料を移動させ、レーザー走査顕微鏡法を実行することで、試料の複数のポイントを照明する。収束フリンジパターンの組は、構成要素XおよびYを備えてよい。構成要素XおよびYは、(i)光ビームの回転軸が向くX個の固有の角度と、(ii)光ビームがシフトするY個の固有の位相と、の組み合わせであるか、あるいは、それらのマトリクスを定義する。有利的には、本明細書で説明するように、位相シフトの対応するY固有の値を適切に選択することにより、従来の方法では追加の利点をほとんど、または、まったく提供しない照明データの収集を制限または排除することにより、時間およびデータ処理を減らして高度な画像解像度が得られる。例えば、πの位相シフト指数1および2の値の差に対応する位相差を選択することは、これらの値の余弦が有意である場合(例えば、0の値を有する位相シフト指数1、および、πの値を有する位相シフト指数2)は望ましい場合があるが、これらの値の余弦がそれほど重要でない場合(例えば、π/2の値を有する位相シフト指数1、および、3π/2の値を有する位相シフト指数2の場合)は望ましくない場合がある。したがって、位相シフト指数の値の差を単に選択するだけでは、場合によっては不十分であり得ることが理解できる。しかしながら、インデックス値の適切な選択により、位相シフトの2つ以下の固有の値、および/または合計で6つ以下、または4つ以下の収束フリンジパターンを用いて、本明細書に記載の方法に従って試料を画像化され得る。
【0035】
代表的な実施形態では、例えば、それらの回転軸角度指数iおよび位相シフト指数jに関して、以下の表1に特徴付けられるように、収束フリンジパターン1~6のうちの2つ、4つ、または6つを用いて試料を画像化され得る。
【表1】
【0036】
例えば、収束フリンジパターン1、2のみ、1~4のみ、または1~6のみで試料を画像化してよい。回転軸角度指数iの値は、例えば、0、π/3、および2π/3でよく、位相シフト指数jの値は、例えば、0およびπでよい。この場合には、上記の特定の収束フリンジパターン1~6は、表1の回転軸指数iおよび位相シフト指数jのそれぞれに対して、回転軸角度および位相シフトの値によってより具体的に特徴付けることができる。これらの値は以下の表2に記載される。
【表2】
【0037】
本発明のさらなる実施形態は、本明細書に記載の画像化方法のいずれかに従ってラマン分光法または蛍光顕微鏡法を実施するための装置に関する。そのような装置は、本明細書に記載されるように、顕微鏡の対物レンズの後部開口に投射され、試料上に収束フリンジパターンを生成するために干渉する光ビームの位相を変調するためのプログラム可能な空間光変調器(SLM)などの構成要素を含んでよい。好ましくは、SLMは、光ビームが顕微鏡の対物レンズの別個の照明領域を通るようにする位相格子を表示する。ここで、これらの別個の領域は非円形である。装置、またはより具体的には、装置で使用されるプロセッサのソフトウェアは、これらの非円形の別個の照明領域の端部に沿った回折を低減または排除するために、(ガウスブラーリングフィルタとして知られたソフトウェアアルゴリズムに従った)ガウスぼかしをさらに実行してよい。
【0038】
全体として、本発明の態様は、試料画像化用途において、レーザー光ビームを顕微鏡の後部開口の別個の照明領域に向けることで達成される利点に関するものであり、実施形態によってはこれらの領域は非円形(例えば、スリットまたは円の一部分の形状)である。円形の照明領域の使用と比較して、後部開口を横切る特定の変位(距離)に対して、2つの非円形の照明領域は光スループットを向上させることができる。例えば、図1Aおよび1Bに示されるような水平変位軸16に沿って、2つの円の間の距離(図1A)は、2つの非円形スリットの間の距離(図1B)と同一である。しかしながら、2つの非円形スリット(この特定の実施形態では円形の一部分である)の場合には、実質的により多くの光が垂直方向に沿って顕微鏡の対物レンズに入射する。例えば、この対物レンズの後部開口の光強度の少なくとも4倍の増加を達成することができる。あるいは、円形の照明領域の使用と比較して、所与の光スループットに対して、2つの非円形の照明領域は、干渉から生じる高品質(より細かい)正弦波を提供する変位を増加させることができる。他の態様は、試料走査用の収束フリンジパターンプロファイルの適切な選択による、照明データの収集と処理の効率から生じる利点に関連している。本開示から得られた知識を有する当業者は、本発明の範囲から逸脱することなく、これらおよび他の利点を達成するために開示された装置および方法に様々な変更を加えることができることを認識されたい。したがって、本明細書に記載の特徴は、変更または置き換えを受けやすいことを理解されたい。本明細書で例解および説明される特定の実施形態は、例解のみを目的としており、添付の特許請求の範囲に記載される本発明を限定するものではない。
【0039】
以下の実施例は、本発明の典型例として示されている。これらおよび他の同等の実施形態は、本開示および添付の特許請求の範囲を考慮して明らかであるため、これらの実施例は、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0040】
実施例1
シミュレーション研究
「グラウンドトゥルース画像」を有する真の試料の画像化を、共焦点SIMを用いて本明細書に記載された改良された画像化方法に従ってシミュレーションし、従来のCLSMと比較した。シミュレーション結果は、「PROPER」としてオンラインで入手できる光伝搬ライブラリを使用して取得した。フーリエ変換アルゴリズム(フレネル、角度スペクトル法)を使用して光学システムを介した光の伝播をシミュレーションするため、この一連のルーチンは物理的な光伝播ツールとして十分に検証されており、望遠鏡の性能をモデル化する際に天文学者によって一般的に使用されている。このライブラリは、特に、焦点距離75mmのレンズを通して25μmの共焦点ピンホールに焦点を合わせた、100x、0.7NAの対物レンズを通して532nmレーザーの共焦点および共焦点SIMの点像分布関数をシミュレーションするために使用された。図3は、光ビームの3つの異なる角度(0、π/3、2π/3)および各角度に対するこの共焦点SIMの例のシミュレーションされた点広がり関数を示している。光ビームは0とπの位相だけお互いに対してシフトしている。次いで、収集された結果の画像は、点像分布関数とグラウンドトゥルース画像の畳み込みをすることにより、これらのパターンを使用してシミュレーションした。角度0、位相シフトπの生の共焦点SIM画像の場合には、この画像自体はほとんど役立たなかった。すべての角度と位相の生画像データが収集され、ここで説明する画像再構成アルゴリズムに従って超解像画像を再構成するために使用された場合にのみ、従来のCLSMに対する改善が明らかになった。
【0041】
図4は、従来のCLSMを使用してシミュレーションされた試料の画像の集まりと、同一のシミュレーションされた画像であるが、解像度を向上させるために共焦点SIMを使用しているものが示している。図3に示すように角度と位相の6つの組み合わせを使用して、試料全体にわたって掃引される照明パターンに対して超解像画像を再構成することによって改善が得られた。画像再構成アルゴリズムは上記の通りであった。したがって、シミュレーション作業は、シミュレーションされた顕微鏡解像度標準で上記の改善を使用した共焦点SIM画像のシミュレーションが成功したことを証明した。他の研究では、1Dシミュレーションと2Dシミュレーションの双方で、特定の回転軸角度で2つの異なる照明の位相シフトのみが必要であることが証明した。
【0042】
実施例2
実験的実証
共焦点SIMを実行するためのプロトタイプ顕微鏡は、図2に示す構成に従って構築された。ダイクロイックミラーは、顕微鏡カメラを使用して、試料上のレーザースポットを観察する能力を提供した。このカメラは、実施例1で記載した物理的な光伝搬シミュレーション研究と同様に、同一の収束フリンジパターンが生成されたことを証明するために、SLMパターンからSIMで生成されたスポットの画像を取得するために使用された。これは、この実験的実証で得られた画像の周りの円形の境界を考慮して、シミュレーション結果と並べて比較することに基づいており、共焦点ピンホールとの実質的に位置揃えを示すのに有益である。シミュレーション研究では、図3に示すように、シミュレーションされたSIMレーザーパターンが共焦点マスクの適用をすでに説明しており、これがこれらのパターンの外形が円形の理由である。
【0043】
Pelcotec(登録商標)CDMS(Ted Pella株式会社によるCritical Dimension Magnification Standard)を使用して、ライン走査とフル2D画像の双方で、共焦点SIMによる超解像度が実証することに成功した。CDMS試料には500nm間隔の線があり、共焦点画像化システムでは分離できなかった。対照的に、共焦点SIMを使用して画像化する場合には、画像は分解できる。さらに、100x、0.9NAの対物レンズを使用して532nmの励起で画像化する場合には、上記の背景技術の章で示した式に従って計算された共焦点解像度は296nmになる。これは、カーボンナノチューブの試料を使用して実験的に確認でき、279nmの共焦点(非SIM)解像度を達成することにより、共焦点システムで確認された。同一システムで、同一の励起波長、対物レンズ、およびカーボンナノチューブの試料を使用して、組み合わせた共焦点SIMを使用して画像化すると、186nmの改善された解像度が達成された。
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2021-10-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を画像化する方法であって、
顕微鏡の対物レンズを通って出射された光ビームの干渉によって、複数の点の各々において生成された第1の収束フリンジパターンで、前記試料の前記複数の点を照明することを含み、
前記第1の収束フリンジパターンに対して、前記顕微鏡の対物レンズの第1の別個の照明領域は第1の回転軸を有し、前記光ビームの位相は、第1の位相だけお互いに対してシフトされ、
前記方法が、前記複数の点を少なくとも1つの異なる収束フリンジパターンで照明することをさらに含み、前記光ビームは、前記第1の位相に対して、異なる位相だけ互いに対して位相がシフトされ、(i)前記顕微鏡の対物レンズの同一の別個の照明領域は、前記第1の回転軸に対して角度付けられていない同一の回転軸を有するか、または、(ii)前記顕微鏡の対物レンズの異なる別個の照明領域は、前記第1の回転軸に対して角度付けられている異なる回転軸を有し、
前記別個の照明領域の一方または双方が、非円形である、方法。
【請求項2】
単一要素検出器または分光器から、前記第1の収束フリンジパターンおよび前記少なくとも1つの異なる収束フリンジパターンの各々に対応する、複数の生画像の各々に対する照明データを取得することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
以下の式に従って、前記複数の生画像の各々に対する前記照明データから、超解像合成画像を再構成することをさらに含み、
【数1】
式中、Isynは、前記合成画像であり、nimagesは、前記複数の生画像の各々の数であり、
前記第1の収束フリンジパターンおよび前記少なくとも1つの異なる収束フリンジパターンの各々に対して、
iは、回転軸角度に対応する指数であり、
jは、前記光ビームのお互いに対しての位相シフトに対応する指数であり、
rawi、jは、前記回転軸角度に対応する指数iおよび前記位相シフトに対応する指数jを有する、前記複数の生画像の各々に対する前記照明データであり、
Aは、収束フリンジパターンのコントラストを表す係数であり、
phaseは、前記位相シフトである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記別個の照明領域が、前記顕微鏡の対物レンズの後部開口の中心と実質的に同一直線上にある中心を有する最大内接円を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記別個の照明領域が、各々、前記最大内接円の外部の照明増強領域をさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記照明増強領域が、前記別個の照明領域の少なくとも約50%を表す、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記照明領域が、前記顕微鏡の対物レンズの後部円形開口の反対側部分に一致するスリットとして形状化される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも1つの異なる収束フリンジパターンに対して、前記光ビームが、プログラム可能な空間光変調器を使用して同位相で変調される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記第1および前記少なくとも1つの異なる収束フリンジパターンのいずれに対しても、前記別個の照明領域が、0の余弦を有する位相だけシフトされていない、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記第1および前記少なくとも1つの異なる収束フリンジパターンのいずれに対しても、前記別個の照明領域が、0.5未満の絶対値を有する余弦を有する位相だけシフトされていない、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つの異なる収束フリンジパターンが、前記第1の位相とは異なる第2の位相だけ前記光ビームがシフトされている第2の収束フリンジパターンであり、前記同一の別個の照明領域が、前記第1の回転軸に対して角度付けられていない第2の回転軸を有する第2の別個の照明領域である、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも1つの異なる収束フリンジパターンは、
前記光ビームが前記第1の位相と実質的に同一である第3の位相だけシフトされており、かつ、第3の別個の照明領域が前記第1の回転軸および前記第2の回転軸に対して角度付けられている第3の回転軸を有する、第3の収束フリンジパターンをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも1つの異なる収束フリンジパターンは、
前記光ビームが前記第2の位相と実質的に同一である第4の位相だけシフトされており、かつ、第4の別個の照明領域が前記第3の回転軸に対して角度付けられていない第4の回転軸をさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記第2の位相が、前記第1の位相とはπだけ異なる、請求項11~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記第1の位相が、0であり、前記第2の位相が、πである、請求項11~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記少なくとも1つの異なる収束フリンジパターンは、
前記光ビームが前記第1の位相および前記第3の位相と実質的に同一である第5の位相だけシフトし、かつ、第5の別個の照明領域が前記第1、第2、第3、および第4の回転軸に対して角度を有する第5の回転軸を有する、第5の収束フリンジパターンと、
前記光ビームが前記第2の位相および前記第4の位相と実質的に同一である第6の位相だけシフトされ、かつ、第6の別個の照明領域が前記第5に対して角度を有さない第6の回転軸を有する、第6の収束フリンジパターンと、を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記第1、第3、および第5の位相が0であり、前記第2、第4、および第6の位相がπである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記第3の回転軸は、前記第1の回転軸に対して約π/6から約π/2の角度を有し、前記第5の回転軸は、前記第1の回転軸に対して約π/2から約5π/6の角度を有する、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
試料を画像化する方法であって、
複数の生画像の各々の照明データを取得することを含み、前記生画像の各々は、1組の収束フリンジパターンの所与の1つに対応し、前記収束フリンジパターンの各々は、顕微鏡の対物レンズを通って出射される一対の光ビームの干渉によって生成され、前記試料の複数の点を照明し、
前記収束フリンジパターンの組は、(i)前記光ビームがシフトされたX位相と、(ii)前記光ビームの回転軸が向けられたY角度と、の組み合わせであるXおよびY構成要素を含み、前記組は、Xの2つの異なる値以下である、方法。
【請求項20】
ラマン分光法または蛍光顕微鏡法を実行するための装置であって、前記光ビームの位相を変調するためのプログラム可能な空間光変調器(SLM)を備え、かつ、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法を実行するように構成されている、装置。
【請求項21】
前記SLMは、前記光ビームを前記顕微鏡の対物レンズの前記非円形の別個の照明領域に通過させる位相格子を表示する、請求項20に記載の装置。
【請求項22】
前記非円形の別個の照明領域を平滑化するためにガウスぼかしを実行するように構成されている、請求項20又は21に記載の装置。
【国際調査報告】