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  • 特表-分光測定装置を構成するための方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-06
(54)【発明の名称】分光測定装置を構成するための方法
(51)【国際特許分類】
   G01J 3/02 20060101AFI20220530BHJP
【FI】
G01J3/02 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021560211
(86)(22)【出願日】2020-04-03
(85)【翻訳文提出日】2021-11-29
(86)【国際出願番号】 EP2020059507
(87)【国際公開番号】W WO2020201484
(87)【国際公開日】2020-10-08
(31)【優先権主張番号】1903613
(32)【優先日】2019-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.MATLAB
(71)【出願人】
【識別番号】518113199
【氏名又は名称】グリーントロピズム
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ラボルド,アントワーヌ
(72)【発明者】
【氏名】メルシエ,クレメント
(72)【発明者】
【氏名】コート,ヨアン
(72)【発明者】
【氏名】ブランジェ,アンソニー
【テーマコード(参考)】
2G020
【Fターム(参考)】
2G020BA02
2G020CA02
2G020CD03
2G020CD22
2G020CD32
2G020CD37
2G020CD38
(57)【要約】
本発明は、参照分光測定装置を用いて対象分光測定装置を構成するための方法(1)に関し、各分光計は、光源、および光源によって放出されかつ物体によって反射または透過された光放射を検出し、したがってスペクトル測定値を生成するのに適した検出器を備え、スペクトル測定値は、各物体の一連のn個のスペクトル、および各一連のスペクトルについて測定された平均スペクトルを含み、当該方法は、-参照試料のセットの参照スペクトル測定値を参照分光計で取得し、スペクトル測定値を参照データベースに保存するステップ(10)と、-参照試料のサブセットの対象スペクトル測定値を対象分光計で取得し、スペクトル測定値を対象データベースに保存するステップ(12)と、-参照および対象スペクトル測定値から、各参照試料の平均スペクトルsを決定するステップ(14)と、-各平均スペクトルsについて、一連のn個のスペクトルs(i=1…n)を決定するステップ(16)であって、これは、対象分光計の光学伝達関数を決定するステップ、および光学伝達関数を参照分光計によって測定された各平均スペクトルに適用するステップを含む、ステップと、-各参照試料の平均スペクトルおよび一連のスペクトルを、対象データベースに保存するステップ(18)と、を含み、決定するステップ(14、16)は、演算モジュールを用いて実行される。本発明はまた、本発明による方法(1)を使用して構成された分光測定装置(100)に関する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
参照分光測定装置を用いて対象分光測定装置を構成するための方法(1)であって、各分光測定装置は分光計を備え、各分光計は、光源、および前記光源によって放出されかつ物体によって反射または透過された光放射を検出し、それによりスペクトル測定値を生成するように適合された検出器を備え、前記スペクトル測定値は、各物体についての一連のn個のスペクトル、および各一連のスペクトルについて測定された平均スペクトルを備え、前記方法は、
-参照試料のセットについての参照スペクトル測定値を参照分光計によって取得し、前記スペクトル測定値を参照データベースに保存するステップ(10)と、
-前記参照試料のサブセットについての対象スペクトル測定値を対象分光計によって取得し、前記スペクトル測定値を対象データベースに保存するステップ(12)と、
-参照および対象スペクトル測定値から、各参照試料についての平均スペクトルsを決定するステップ(14)であって、前記対象分光計の光学伝達関数を決定するためのステップ、および前記光学伝達関数を前記参照分光計によって測定された各平均スペクトルに適用するためのステップを備える、ステップ(14)と、
-各平均スペクトルsについて、一連のn個のスペクトルs(i=1…n)を決定するステップ(16)と、
-各参照試料についての平均スペクトルおよび一連のn個のスペクトルを、前記対象データベースに保存するステップ(18)と、
を備え、
決定ステップ(14、16)は、計算モジュールを用いて実装される、方法(1)。
【請求項2】
前記参照試料のサブセットの各試料について、決定された平均スペクトルsと、前記対象分光計によって測定された平均スペクトルとの間の差を最小化するステップをさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載の方法(1)。
【請求項3】
前記光学伝達関数は、前記対象分光計の少なくとも1つの技術的特性によって決定されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法(1)。
【請求項4】
前記少なくとも1つの技術的特性は、感度、スペクトル範囲または分解能から選択されることを特徴とする、請求項3に記載の方法(1)。
【請求項5】
前記一連のn個のスペクトルを決定するステップ(16)は、
-前記対象分光計によって測定されたスペクトルから共分散行列を推定するステップと、
-各参照試料について、前記共分散行列からn個のガウスベクトルを決定するステップと、
を備えることを特徴とする、先行する請求項の1項に記載の方法(1)。
【請求項6】
前記共分散行列は、前記対象分光計によって測定されたスペクトル、およびこれらの測定値と関連するノイズから推定されることを特徴とする、請求項5に記載の方法(1)。
【請求項7】
分光計(110)および電子モジュール(120)を備える分光測定装置(100)であって、前記分光計(110)は、光源、および前記光源によって放出されかつ物体によって反射または透過された光放射を検出するように適合された検出器を備え、前記分光測定装置(100)は、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法(1)に従って構成され、前記電子モジュール(120)は、データベースを保存するように適合される、分光測定装置(100)。
【請求項8】
前記分光計(110)は小型分光計であることを特徴とする、先行する請求項に記載の分光測定装置(100)。
【請求項9】
前記分光計(110)は、400nmと2500nmとの間の波長範囲で動作することを特徴とする、請求項7または8に記載の分光測定装置(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、参照分光測定装置を用いて対象分光測定装置を構成するための方法に関する。また、この方法に従って構成された分光測定装置に関する。
【0002】
発明の分野は、非限定的に、分光測定方法の分野のそれである。
【背景技術】
【0003】
分光測定は、物質、化合物、または分子の同定、定量、および特徴づけに不可欠な手段である。それは、物理学、有機化学、医薬品分野、または医学などの、多くの科学分野で使用されている。分光測定は、例えば、製造品質管理、混合物の検査、インライン洗浄、またはメタン化センターの監視のために、産業分野においても非常に重要である。
【0004】
その主要な利点の1つは、非常に迅速な検出時間である。
【0005】
分光測定装置の応答は、分析される試料または物体に向かって放出され、それによって吸収または反射された光ビームの、吸収または反射の振幅に比例する電気信号からなる。分析される試料の性質としては、例えば、任意の化学成分(糖、脂質、混入物など)の濃度、マトリックス中の水分レベルまたはコムギ中のタンパク質レベル、炭水化物、糖のテクスチャまたは温度などが挙げられ得る。この電気信号を試料の性質と関連づけるために、測定された信号と試料の性質との間の関係が確立されなければならない。これらの較正関係は、分光測定装置に直接保存されるか、または分光計に直接もしくは間接的に接続されたモジュールに保存される。そのようなデータベースは、典型的には、分光計が意図する分析のための幅広い種類の試料の関係を含む。
【0006】
分光測定機器の較正を可能にするために、広範囲の試料にわたって分光測定を予め行わなければならない。すべての試料は、例えば、様々な小麦粉、織物、液体などの範囲を含み得る。これらの試料は、明らかに同定可能であり、保存され得る。
【0007】
例えば、参照装置の特定の特性を低減または排除するためのシミュレーションを使用して、参照測定装置から別の測定装置に較正データを転送するための技術が存在する。しかしながら、このために、2つの装置で較正試料の測定を行う必要がある。参照装置用に開発された較正モデルは、次いで、第2の装置に適用され得る。
【発明の概要】
【0008】
本発明の1つの目的は、既存の技術を改善することである。
【0009】
本発明の1つの目的は、対象分光計の構成を実装するために、参照試料のサブセットのみを選択することを可能にする、すなわち、参照装置によって測定されるすべての試料が、対象装置によっても測定される必要はない、参照分光測定装置を用いて対象分光測定装置を構成するための方法を提案することである。
【0010】
これらの目的の少なくとも1つは、参照分光測定装置を用いて対象分光測定装置を構成するための方法で達成され、各分光測定装置は分光計を備え、各分光計は、光源、および光源によって放出されかつ物体によって反射または透過された光放射を検出し、それによりスペクトル測定値を生成するように適合された検出器を備え、スペクトル測定値は、各物体についての一連のn個のスペクトル、および各一連のスペクトルについて測定された平均スペクトルを備え、当該方法は、
-参照試料のセットについての参照スペクトル測定値を参照分光計によって取得し、スペクトル測定値を参照データベースに保存するステップと、
-参照試料のサブセットについての対象スペクトル測定値を対象分光計によって取得し、スペクトル測定値を対象データベースに保存するステップと、
-参照および対象スペクトル測定値から、各参照試料についての平均スペクトルを決定するステップであって、対象分光計の光学伝達関数を決定するステップ、および光学伝達関数を参照分光計によって測定された各平均スペクトルに適用するステップを備える、ステップと、
-各平均スペクトルについて、一連のn個のスペクトルを決定するステップと、
-各参照試料についての平均スペクトルおよび一連のn個のスペクトルを、対象データベースに保存するステップと、
を備える。
【0011】
決定ステップは、演算モジュールを用いて実装される。
【0012】
本発明による方法は、前述の分光計の構成を進めることができるようになる前の、対象分光計で参照セットのすべての試料を測定する必要性をなくすことを可能にする。発明による方法を用いて、すべての試料のすべてのスペクトル測定値を含有するスペクトルデータベースが、少量の測定から開始し、参照分光計によって行われた測定を使用して、対象分光計のために記録され得る。有利には、方法は、任意の種類の対象分光計に適用され得る。
【0013】
マスター分光計とも呼ばれる参照分光計は、例えば、実験用分光計、または参照分光計として機能する任意の他の種類の分光計であり得る。
【0014】
スレーブ分光計とも呼ばれる対象分光計は、参照分光計と同じ種類の分光計であり得る。典型的には、対象分光計は、参照分光計の製品版に対応する。
【0015】
対象分光計はまた、参照装置のものと異なる技術的特性を有する装置であり得る。2つの分光計は、具体的には、それらの測定方法(反射、透過、もしくはトランスフレクション)、それらのスペクトル範囲、それらの分解能、感度、またはダイナミックレンジによって、互いに区別され得る。第2の分光計は、例えば、小型分光計であり得る。
【0016】
参照分光計は、好ましくは、その技術仕様が対象分光計のものより良好な装置である。
【0017】
2つの分光計は、好ましくは、約400nmと2500nmとの間の、光スペクトルの可視および/または赤外領域で高感度である。
【0018】
一般的には、分光計の光学伝達関数は、そのインパルス応答、すなわち、所与の波長での分光計の応答に対応する。
【0019】
一例によれば、光学伝達関数は、光学伝達関数と各平均スペクトルとの間の畳み込み積を計算することによって、参照分光計の各平均スペクトルに適用される。
【0020】
一実施形態によれば、方法は、参照試料のサブセットの各試料について、決定された平均スペクトルと、対象分光計によって測定された平均スペクトルとの間の差を最小化するステップをさらに備え得る。
【0021】
一実施形態によれば、光学伝達関数は、対象分光計の少なくとも1つの技術的特性によって決定される。この技術的特性は、感度、スペクトル範囲または分解能から選択される。好ましくは、対象分光計のこれら3つの技術的特性は、光学伝達関数を決定するのに使用される。
【0022】
対象分光計のこれらの技術的特性は、製造業者によって提供され得る。提供されない場合、それらは、推定または測定され得る。
【0023】
一実施形態によれば、一連のn個のスペクトルを決定するステップは、
-対象分光計によって測定されたスペクトルから共分散行列を推定するステップと、
-各参照試料について、共分散行列からn個のガウスベクトルを決定するステップと、
を備える。
【0024】
好ましくは、共分散行列は、対象分光計によって測定されたスペクトル、およびこれらの測定値と関連するノイズから推定される。
【0025】
これは、共分散行列の推定が、高周波ノイズ、またはすべての物理的測定に存在する測定ノイズを考慮することによって、より信頼性が高くなるためである。測定された光信号の強度のノイズへの依存性は、モデル化され得、共分散行列の推定を精密化するのに使用され得る。
【0026】
別の態様によれば、発明は、光源、光放射検出器を備える分光計と、電子モジュールとを備える分光測定装置に関し、分光測定装置は、発明による方法に従って構成される。
【0027】
対象スペクトルデータベースは、具体的には、分光計の一部を形成するか、またはそれに接続される電子モジュールに記録され得る。この電子モジュールは、例えば、分光計の内部メモリ、または埋め込みプラットフォーム、例えば、マイクロコンピュータ、スマートフォン、および/または遠隔サーバを含み得る。電子モジュールは、例えば、クラウドまたは任意の他の通信装置を介して、分光計に直接または間接的に接続され得る。
【0028】
同様の方法で、本発明による方法を決定および推定するステップを行う計算モジュールは、分光計の一部を形成するか、またはそれに接続され得る。
【0029】
これら2つのモジュールは、単一のモジュールからなるか、または2つの別個のモジュールからなるかのいずれかであり得る。
【0030】
好ましい実施形態によれば、分光計は小型分光計であり得る。この場合、遠隔測定を行うように適合された光ファイバプローブを含み得る。
【0031】
他の利点および特徴は、決して限定的ではない例の詳細な説明および添付図面の検討から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】発明の実施形態による分光測定装置の概略図である。
図2】発明の実施形態による方法の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
当然のことながら、以下に記載されることになる実施形態は、決して限定的なものではない。具体的には、記載された他の特徴から分離された、以下に記載された特徴の選択したもののみを含む発明の変形を想像することが、特徴のこの選択が、技術的利点を与えるか、または先行技術に対して発明を差別化するのに十分である場合、可能であろう。この選択は、少なくとも1つの、好ましくは、構造の詳細を含まないか、または技術的利点を与えるか、もしくは先行技術に対して発明を差別化するのにこの部分だけで十分である場合に構造の詳細の一部のみを含む、機能的特徴を含む。
【0034】
具体的には、記載されるすべての変形およびすべての実施形態は、技術面でそのような組み合わせに反対するものがない場合、ともに組み合わされ得る。
【0035】
発明は、参照分光測定装置を用いて対象分光測定装置を構成するための方法に関する。
【0036】
図1は、分光計110および電子モジュール120を備える分光測定装置100を概略的に示す。
【0037】
各分光計110は、少なくとも光源および検出器を備える。光は、分析される物体または試料上に向けられ、透過または反射された放射は、検出器によって捕捉される。
【0038】
分光測定装置100は、外部制御ユニット130を用いて制御され得る。
【0039】
電子モジュール120は、検出された光信号を処理し、したがって、その中に記録された、具体的には較正式を含むデータベースを用いて、試料を分析するように構成される。各分光計110は、光学伝達関数によって、または等価に、そのインパルス応答によって特徴づけられ得る。
【0040】
一般的には、スペクトル測定は、スペクトル範囲Λ内の各波長λの光の吸光度の測定に対応する。材料の吸光度を得るために、試料によって反射または透過された強度I(λ)が測定され、以下の方程式に従って参照強度I(λ)と比較される:
【数1】
【0041】
参照強度I(λ)は、不活性材料から作製された参照試料で測定される。この参照試料は、一般に、分光計の光源のスペクトル分布を測定するのに使用される材料である。
【0042】
図2は、発明の一実施形態による方法1のステップを概略的に示す。
【0043】
最初に、方法1のステップ10では、第1の分光計Mで、試料のセットAのスペクトルsが測定される。この第1の分光計Mは、マスター分光計または参照分光計と呼ばれる。これらの測定値は、いわゆる参照スペクトルデータベースBAMに保存または記録される。
【0044】
ステップ12では、試料のサブセットBのスペクトルsが、対象またはスレーブ分光計と呼ばれる第2の分光計Sで測定される。これらの測定値は、いわゆる対象スペクトルデータベースBBSに保存または記録される。サブセットBは、試料のセットAの一部を形成する。
【0045】
セットAの参照試料は、好ましくは、不活性材料、例えば、木材、小麦粉、コムギ、プラスチック材料、または油から作製される。セットAの参照試料では、試料によって異なる化学的性質はほんのわずかであると仮定される。実際、参照試料は、それらのスペクトルが過剰に多くの独立した変動源にさらされないように、同様の化学的性質を有することが好ましい。例えば、タンパク質レベルの異なる小麦粉のセットは、タンパク質レベルという変動源を有し得る。すべての小麦粉が様々な種類の小麦粉(例えば、T45、T55)を含有する場合、さらなる変動源がある。変動源が多ければ多いほど、サブセットBのサイズは大きくなければならない。
【0046】
スペクトルの測定10、12は、同じ条件下で行われる。試料は、分光計MおよびSを用いて、各試料上の様々な物理点でのn回の反復走査を実装することによって測定される。測定方法(反射率、透過率、またはトランスフレクタンス)は、2つの分光計MおよびSで異なる場合がある。
【0047】
典型的には、各スペクトル測定は、m列および行の行列であり、mは、スペクトルの測定に使用される波長の数に対応し、nは、試料ごとに測定されるスペクトルの数である。これは、いくつかの要因のため、同じ試料での2つのスペクトル測定(走査)は、同一ではないためである。これらの要因としては、例えば、試料の不均一性、測定機器の電子ノイズ、機器の光学部品の欠陥、および湿度または気温などの測定条件が挙げられる。試料のセットのすべてのスペクトル測定は、単一のファイルに保存され得る。あるいは、スペクトル測定ごとに1つのファイルを処理することが可能である。
【0048】
1つの試料のn個のスペクトルから、n個のスペクトルの平均を表す平均スペクトルを得ることが可能である。
【0049】
図2を参照すると、ステップ14では、セットAの各試料の平均スペクトルs’(λ)の形式が、分光計Sについて決定される。これを行うために、参照平均スペクトルと呼ばれる、参照分光計によるスペクトル測定値から得られた平均スペクトルが、リサンプリングを実装するのに使用される。
【0050】
このステップ14のために、各分光計MおよびSの以下の技術的特性およびパラメータ:スペクトル範囲Λ、Λ、分解能r、r、および感度s、sを知る必要がある。
【0051】
スペクトル範囲Λは、スペクトル測定を行うのに使用される全波長のセットである。この情報は、例えば、測定ファイル、または製造業者によって提供される分光計の技術ノートに見出され得る。スペクトル範囲は、ナノメートル(nm)単位の波長λ、またはcm-1単位の波数σで表され得る。使用される2つの単位は、2つの分光計MおよびSの間で同一でなければならない。単位は、以下の方程式に従って変換され得る:
【数2】
【0052】
参照平均スペクトルをリサンプリングするために、対象分光計の光学伝達関数またはインパルス応答CMSの推定が実装される。これは、対象分光計の分解能が、参照平均スペクトルからシミュレートされるためである。これを行うために、対象分光計の伝達関数と参照平均スペクトルとの間の畳み込み積が計算される。このようにして、対象分光計で測定可能な対象平均スペクトルが得られる。インパルス応答は、例えば、以下の一般方程式:
【数3】
に従うガウス形式を有し得、式中、aは振幅であり、bは値aの横座標であり、cは分散、すなわちガウスベル曲線の幅である。この方程式では、xは波長を表す。
【0053】
インパルス応答の形式は、3つの定数a、b、およびcによって特徴づけられる。これらの定数を、分光計MおよびSの技術情報を用いて後で決定する。パラメータa、b、およびcは、したがって、平均スペクトルs’(λ)の決定に関与する(図2のステップ15)。
【0054】
インパルス応答は、以下の方法で使用される。スペクトル範囲Λ内の各波長λについて、スペクトル範囲Λ内の波長λに最も近い値を見出す必要がある。次に、定数a、b、およびcが、範囲Λ内のこのように同定された各波長について計算される。最後に、関数CMSが、参照平均スペクトルに適用される。
【0055】
インパルス関数は、定数a、b、およびcのように、スペクトル範囲Λ内の各波長λに対して定義されることに留意すべきである。
【0056】
パラメータaλは、対象分光計Sの感度に比例する。パラメータaλは、測定されたスペクトルを使用して以下の方法:
【数4】
または
【数5】
で計算され得、式中、s(λ)は、対象分光計によって測定された平均スペクトルに対応し、s(λ)は、参照平均スペクトルと呼ばれる、参照分光計によって測定された平均スペクトルに対応する。これは、対象分光計のインパルス応答は、スペクトル範囲全体にわたって必ずしも同一のゲインを有しないという事実を、これらの方程式の最初のものが考慮するためである。例えば、スペクトル範囲の端部で感度の低下があり得る。
【0057】
パラメータbλは、問題の波長λに最も近い、参照スペクトル範囲Λ内の波長を表す:
【数6】
【0058】
パラメータcλは、各波長での対象分光計の分解能を用いて決定される。分解能は、対象分光計の想定されるガウスインパルス応答の半値幅(FWHM)と定義される。それはしばしば、製造業者によって分光計の技術ノートに与えられる。分光計で単色光源を測定することによっても、得ることができる。FWHMは、スペクトル範囲内で変動し得る。パラメータcλを、以下の計算を行うことによって得ることができる:
【数7】
【0059】
最後に、対象分光計Sについて決定された平均スペクトルが、スペクトル範囲Λの各波長λでの、対象分光計のインパルス応答CMS、および参照平均スペクトルsを用いて得られる。したがって、シミュレートされた平均スペクトルs’[λ]を、以下:
【数8】
によって得ることができ、式中、s(i)は、参照平均スペクトル中の点を表す。
【0060】
数式8の計算は、対象分光計の完全な平均スペクトルを得るために、対象分光計Sのスペクトル範囲Λの各波長で反復される。
【0061】
計算は、各試料の計算された平均スペクトルs’を得るために、セットAの各参照試料で反復される。
【0062】
平均スペクトルの決定またはシミュレーションの質は、3つのパラメータaλ、bλ、およびcλの値の決定または推定の質に依存する。これは、対象分光計Sに利用可能な技術情報が、満足できる精度でこれらの値を決定するには不十分であることが起こり得るためである。次いで、参照データベースを使用して、スペクトルの良好なモデル化の基準を定義する必要がある。
【0063】
発明の有利な実施形態によれば、方法は、サブセットBの各試料の、計算された平均スペクトルs’と、対象分光計によって測定された平均スペクトルsとの間の調整ステップを含む。これは、参照および対象データベースBAMおよびBBSが、2つのコヒーレントなデータベースである、すなわち、同じ試料で行われた測定に基づくため、可能である。
【0064】
この調整ステップに、例えば、以下の方程式に従う残差平方和(RSS)を使用することが可能である:
【数9】
【0065】
この関数は、パラメータaλ、bλ、およびcλにブルートフォース戦略を使用して、各パラメータの値のセットを徹底的に検証することによって、最適化され得る。
【0066】
平均スペクトルs’を決定するステップ14は、調整ステップ後に終了する。このように、対象データベースBASが得られ、対象装置の電子モジュールに保存され、セットAの各試料の平均スペクトルが入力される。
【0067】
次いで、全スペクトル測定値s’、すなわち、計算された平均スペクトルs’の各々に対する一連のn個のスペクトルを得る必要がある。これを行うために、変数を生成するステップ16では、n個のスペクトルが、各平均スペクトルs’から生成される。
【0068】
ステップ16では、同じ試料のスペクトル測定値の変動は、多変量正規則に従うと仮定される。この場合、確率密度関数は、以下:
【数10】
によって定義されるガウス関数であり、式中、μは期待値を表し、Σは共分散行列を表し、|Σ|は共分散行列の行列式である。Nは、変数の数、すなわち、対象分光計Sのスペクトル範囲内の波長λの数である(N=card(Λ))。Tは、行列の転置を表す。
【0069】
この場合、μは、数式8に従って計算された平均スペクトルs’によって定義される。共分散行列Σは、未知である。
【0070】
方法1のステップ17では、共分散行列が推定される。これを行うために、サブセットBの試料で測定され、対象分光計SのデータベースBBSに保存されたスペクトルが使用される。これは、このデータベースが、i行およびj列を有する行列Xで表され得るためである。スペクトル測定は、変数(すなわち、波長λ)が列になるように、行に構成される。
【0071】
この表記法によれば、行列Xの列iは、Xで示され、μは、以下の方程式に従って、行列Xの列iの平均を表す:
【数11】
【0072】
数式11の方程式は、i番目の波長の平均スペクトルの吸光度を表す。
【0073】
共分散行列Σは、N×Nのサイズの正方行列である。それは、以下の方程式に従って、行列Xを用いて推定される:
【数12】
【0074】
共分散行列Σが推定されたら、確率密度関数の値が、数式11の方程式に従って決定され得る。この決定は、例えば、好適なソフトウェアを用いて行われ得る。例として、多変量正規(もしくはガウス)分布を生成することができる既知の統計ソフトウェア、またはMATLABもしくはCなどのプログラミング言語が、この値の生成を実装するのに使用され得る。
【0075】
数式11および12の方程式を用いて、次いで、n個のガウスベクトルを決定することが可能である。数nの選択は、任意である。これらのガウスベクトルは、対象分光計Sで測定されたスペクトルをシミュレートするスペクトルs’(λ)を表す。
【0076】
要約すると、共分散行列Σは、試料のある走査から他の走査への分光測定値の変動に関するすべての情報を含有する。上記の実施形態で記載されたように、Σの推定は、それが十分な質のものであるために、サブセットBのすべての試料に基づく。しかしながら、試料の性質に依存して、Σの良好な推定を得るのに、少数の試料だけで十分な場合がある。さらに、試料の完全なセットAが、非常に異なる化学材料または化学物質を含有する場合、Σを推定するために対象分光計でより多くの試料を測定するのが有用であり得る。
【0077】
最後に、高周波ノイズまたは測定ノイズを考慮することによって、共分散行列Σのより信頼性の高い推定を得ることも可能である。測定ノイズは、その高周波信号で測定されたスペクトルデータ内に認識され得、スペクトル信号自体によって変調される。
【0078】
この種のノイズは、共分散行列の対角項を使用して計算され得る。ノイズは、測定された吸光度のレベルに依存する。検出器による信号が小さければ小さいほど、吸光度は高くなり、測定ノイズの影響も大きくなる。
【0079】
測定ノイズは、その分散V:
【数13】
によって特徴づけられ得、式中、Eは平均演算子を表し、bは測定されたノイズ信号である。
【0080】
測定ノイズの分散と、測定での吸光度のレベルとの間の関係を見出すことが可能である。例えば、この関係は、様々な吸光度レベルの試料の収集を使用することによって、分光計について推定され得る。変形によれば、様々な拡散反射レベル(例えば、10%、20%、30%…99%)を有するSpectralon(登録商標)材料が、この推定に適している。他の材料も使用され得る。
【0081】
各材料は、分光計で測定され、データは、先に述べたスペクトル測定と同じ方法で行列に保存され、すなわち、m列およびn行の行列で保存され、mは、測定に使用される波長の数に対応し、nは、試料ごとに測定されるスペクトルの数である。次に、各スペクトルについて、ノイズ信号が、この目的に適合された、信号を処理するための技術を使用して、測定信号から分離されなければならない。技術は、例えば、ローパスフィルタ、バンドパスフィルタ、またはSavitzsky-Golayフィルタを含んでよい。高周波ノイズを低減することができる任意の他のフィルタも使用されてよい。
【0082】
そのようなフィルタの、スペクトル測定sへの適用は、ノイズを含有しないスペクトルデータsをもたらす。ノイズbr自体は、方程式br=s-sに従って計算され得る。
【0083】
ノイズの分散は、各吸光度レベルについて、数式13の方程式を用いて決定される。次いで、第1の列にノイズの分散、および第2の列に吸光度レベルを含有する、データの表が得られる。この表の2つの列間の関係は、方程式V=f(A)を得るために指数曲線を用いてモデル化され、式中、Aは吸光度レベルを表す。指数曲線は、以下の方程式:
【数14】
で記載される形式を有し、式中、パラメータαおよびβは、測定データに最も良く合わせるためにV(A)のモデル化を最適化するように適合された、標準的な統計ソフトウェアを使用して計算され得る。
【0084】
ノイズの分散と吸光度との間の関係が得られたら、上に記載されたような共分散行列Σの対角項Σiiが、それに、問題の吸光度レベルに対応するノイズの分散Vを加えることによって修正され、1≦i≦Nについて:
【数15】
であり、式中、α(i)およびβ(i)は、吸光度とノイズの分散との間の数式14の指数方程式の、最適化されたパラメータを表す。Nは、対象分光計のスペクトル範囲の波長の数であり、パラメータ対(α(i)、β(i))の数でもある。
【0085】
したがって、変数を生成するステップ16の最後に、計算された各平均スペクトルs’に対するn個のスペクトルs’が、データベースBASを完成させることになる。
【0086】
記録ステップ18では、データベースBASは、次いで、対象装置の電子モジュールに記録される。
【0087】
一実施形態によれば、記録されたデータベースBASは、次いで、対象分光計Sを構成する他の操作に使用され得る。例えば、分光計を較正するステップ20が、データベースに存在する計算されたスペクトルs’(λ)を使用する較正方法に従って実装され得る。
【0088】
他の操作、例えば、計量化学モデルの構成、またはスペクトルの測定値を活用するための統計作業への、データベースの任意の他の使用が、データベースの記録の後に続き得る。
【0089】
典型的には、上に記載された発明による方法のすべての決定、計算、および/または推定ステップは、計算モジュールによって実装される。この計算モジュールは、(図1に参照番号130で示すような)少なくとも1つのコンピュータ、中央もしくは計算ユニット、アナログ電子回路(好ましくは専用)、デジタル電子回路(好ましくは専用)、および/またはマイクロプロセッサ(好ましくは専用)、および/またはソフトウェア手段を含む。
【0090】
当然のことながら、発明は、今説明された例に限定されず、多くの調整が、発明の範囲から逸脱することなくこれらの例に行われ得る。
図1
図2
【国際調査報告】