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特表2022-527895KDM5A遺伝子及びATRX遺伝子の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-07
(54)【発明の名称】KDM5A遺伝子及びATRX遺伝子の使用
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6886 20180101AFI20220531BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220531BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20220531BHJP
   A61K 31/47 20060101ALI20220531BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20220531BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20220531BHJP
   C12Q 1/6841 20180101ALI20220531BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20220531BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20220531BHJP
【FI】
C12Q1/6886 Z
A61P35/00
A61P11/00
A61K31/47
C12Q1/6869 Z
C12Q1/686 Z
C12Q1/6841 Z
G01N33/53 M
G01N33/53 Y
G01N33/543 597
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021557124
(86)(22)【出願日】2020-03-23
(85)【翻訳文提出日】2021-09-24
(86)【国際出願番号】 CN2020080579
(87)【国際公開番号】W WO2020192606
(87)【国際公開日】2020-10-01
(31)【優先権主張番号】201910228411.9
(32)【優先日】2019-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519108051
【氏名又は名称】シンセン チップスクリーン バイオサイエンセズ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】ルー、シエンピン
(72)【発明者】
【氏名】シャン、ソン
(72)【発明者】
【氏名】パン、トースー
(72)【発明者】
【氏名】ニン、チチアン
【テーマコード(参考)】
4B063
4C086
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ08
4B063QQ42
4B063QR08
4B063QR42
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS33
4B063QS34
4B063QX01
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC28
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA05
4C086ZA59
4C086ZB26
(57)【要約】
本発明は、キアウラニブの治療効果の評価又はキアウラニブの投与の指導における、バイオマーカーとしてのKDM5A遺伝子及び/又はATRX遺伝子の使用、並びにKDM5A遺伝子又はATRX遺伝子に遺伝子変異がある小細胞肺がん患者を治療するための医薬品の製造におけるキアウラニブの使用を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キアウラニブの治療効果の評価又はキアウラニブの投与の指導における、バイオマーカーとしてのKDM5A遺伝子及び/又はATRX遺伝子の使用。
【請求項2】
キアウラニブの治療効果を評価し、又はキアウラニブの投与を指導するための製品の製造における、KDM5A遺伝子及び/又はATRX遺伝子の変異を検出するための製品の使用。
【請求項3】
キアウラニブの治療効果を評価し、又はキアウラニブの投与を指導するためのバイオマーカーの製造における、KDM5A遺伝子及び/又はATRX遺伝子の使用。
【請求項4】
キアウラニブの治療効果を評価し、又はキアウラニブの投与を指導するための方法であって、
小細胞肺がん腫瘍組織に対して遺伝子変異を検出したところ、KDM5A遺伝子又はATRX遺伝子に遺伝子変異がある場合、キアウラニブの治療効果は良好であることを特徴とする、方法。
【請求項5】
前記検出では、ctDNA、腫瘍組織、腫瘍循環細胞又は人体に由来する他の組織を検出サンプルとすることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記検出では、遺伝子配列決定、PCR、FISH、免疫組織化学、ELISA、Western又はフローサイトメトリーを検出方法とすることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
KDM5A遺伝子又はATRX遺伝子に遺伝子変異がある小細胞肺がん患者の治療におけるキアウラニブの使用。
【請求項8】
KDM5A遺伝子又はATRX遺伝子に遺伝子変異がある小細胞肺がん患者を治療するための医薬品の製造におけるキアウラニブの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2019年3月25日に出願された中国特許出願第201910228411.9号(発明の名称:KDM5A遺伝子及びATRX遺伝子の使用)に基づく優先権を主張し、引用によりその全ての記載内容が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、医薬品の技術分野に関し、具体的にはKDM5A遺伝子及びATRX遺伝子の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
肺がんの発生率と死亡率は両方とも悪性腫瘍の中で第1位である。小細胞肺がん(small cell lung cancer,SCLC)は肺がんの総数の10%~15%を占め、その臨床的特徴及び生物学的挙動は他のタイプの肺がんと異なり、倍加時間が短く、早期に転移が発生しやすく、悪性度が極めて高いと表現された。治療を受けていない患者は通常2~4ヶ月以内に死亡する。初めて治療を受けた患者は化学療法に対して比較的敏感であるが、薬剤耐性と再発を起こしやすく、二次化学療法薬に対して比較的鈍感であり、予後は不良である。診断された患者の30%から40%は限局期にあり、60%から70%は進展期にある。限局期の長期生存率は20%、進展期の長期生存率は2%である。
【0004】
エトポシド/シスプラチン(EP)療法は、現在SCLCの主要な化学療法である。第III相臨床試験結果から分かるように、限局期のSCLC患者において、EP療法の2年及び5年生存率はシクロホスファミド/エピルビシン/ビンクリスチン療法よりも良好である(25%対10%、8%対3%)。進展期のSCLC患者において、EP療法は同様に生存利益をもたらすことができる。後の一連の研究によっても、EP療法の有効性が実証される。そのため、EP療法はSCLCの標準的な初回化学療法となっている。
【0005】
イリノテカン/シスプラチン(CPT-11/DDP,IP)療法群及びEP療法群の結果から分かるように、両群では患者の客観的奏効率(ORR)はそれぞれ84.4%、67.5%(P=0.02)であり、生存期間の中央値はそれぞれ12.8ヶ月、9.4ヶ月(P=0.002)である。トポテカン併用ベストサポーティブケア群の総生存期間、生活品質及び症状の改善は、いずれも単剤ベストサポーティブケア群よりも優れている。トポテカンは、SCLCの二次化学療法薬の医薬品となっている。つまり、SCLCには効果的な治療法がなく、通常のEP又はIP療法が失敗した場合、選択可能な二次化学療法が少なく(例えば、トポテカン、パクリタキセル等)、また二次化学療法が失敗した場合、NCCN等のガイドラインには、サポーティブケア又は臨床研究しか推奨されていない。そのため、小細胞肺がんに対して、治療効果がより高い治療計画を開発する必要がある。
【発明の概要】
【0006】
以上の事情に鑑み、本発明の目的は、キアウラニブの治療効果の評価又はキアウラニブの投与の指導における、バイオマーカーとしてのKDM5A遺伝子及び/又はATRX遺伝子の使用を提供することにある。
【0007】
キアウラニブ(Chiauranib)という化合物は、現在、臨床試験されており、その化学名がN-(2-アミノフェニル)-6-(7-メトキシキノリン-4-オキシ)-1-ナフタミドであり、その構造式が式(I)で表される。
【0008】
【化1】
【0009】
本発明では、キアウラニブカプセルを用いて再発・難治性小細胞肺がんにつき第Ib相臨床試験を行い、血漿遊離腫瘍DNA(ctDNA)を検出して分析することにより548個の腫瘍関連遺伝子に対して治療効果に関するバイオマーカーの付随研究を行う。グループに入る前に、すべての患者から血液サンプルを採取し、腫瘍関連遺伝子の配列を検出する(遺伝子変異及びコピー数異常を含む)。検出結果に応じて、変異発生率が0.4%以上のすべての遺伝子を選び、患者の無増悪生存期間(PFS)及び客観的奏効率(ORR)を治療効果指標として腫瘍関連遺伝子の異常とキアウラニブ治療効果との関連性を分析する。結果は、548個の腫瘍関連遺伝子の中に、KDM5A遺伝子及びATRX遺伝子のみがキアウラニブの治療効果と顕著な関連性を有することを示している。
【0010】
具体的な試験結果から分かるように、KDM5A遺伝子及びATRX遺伝子の変異はそれぞれ小細胞肺がん患者でのキアウラニブのPFS和ORRと有意に相関する。其中,PFSの中央値は、KDM5A遺伝子変異の患者において145日であり、野生型患者において27.5日であり、P値は0.0087である。客観的奏効(PR)及び非奏効(SD+PD)を治療効果の評価指標とする場合、ATRX遺伝子変異患者の治療効果の評価は、野生型患者よりも顕著に良く、P値が0.0031である。
【0011】
上記の技術的効果に基づいて、本発明では、キアウラニブの治療効果を評価し、又はキアウラニブの投与を指導するための製品の製造におけるKDM5A遺伝子及び/又はATRX遺伝子の変異を検出するための製品の使用、並びにキアウラニブの治療効果を評価し、又はキアウラニブの投与を指導するためのバイオマーカーの製造における、KDM5A遺伝子及び/又はATRX遺伝子の使用がさらに提供される。
【0012】
さらに、本発明では、小細胞肺がん腫瘍組織に対して遺伝子変異を検出したところ、KDM5A遺伝子又はATRX遺伝子に遺伝子変異がある場合、キアウラニブの治療効果は良好であるキアウラニブの治療効果を評価し、又はキアウラニブの投与を指導するための方法がさらに提供される。
【0013】
本発明の具体的な実施形態において、小細胞肺がん腫瘍組織ctDNAを検出サンプルとし、次世代シーケンシング技術により検出する。遺伝子変異の検出手段は様々あり、実施例における次世代シーケンシング技術を用いるctDNAの検出に限られない。腫瘍組織、腫瘍循環細胞又は人体に由来する他のサンプルに対して、遺伝子配列決定、PCR、FISH、免疫組織化学等の他の検出手段を採用しても遺伝子変異の検出を達成することができる。
【0014】
以上より、本発明では、患者の無増悪生存期間(PFS)及び客観的奏効率(ORR)を治療効果の指標としてKDM5A遺伝子及びATRX遺伝子変異とキアウラニブ治療効果との関連性を検証する。KDM5A遺伝子及びATRX遺伝子変異情報の検出は、キアウラニブの臨床投与を指導し、小細胞肺がんに対する治療効果を評価することができ、特に再発・難治性小細胞肺がんに適用される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明にはKDM5A遺伝子及びATRX遺伝子の使用が開示されている。当業者は、本明細書の内容に基づいてプロセスパラメータを適当に改良することができる。なお、すべての同等な置換及び修正は当業者には明らかなものであり、それらはすべて本発明に含まれると見なされる。本発明に記載の使用は、好ましい実施形態を通じて説明されてきた。当業者は、本開示の内容、精神及び範囲から逸脱することなく、本明細書に記載の使用に変化、適切な変更又は組み合わせを加えることによって本発明の技術を達成することができる。
【0016】
以下、本発明で提供されるKDM5A遺伝子及びATRX遺伝子の使用をさらに説明する。
【0017】
実施例1:キアウラニブ単剤で再発・難治性小細胞肺がんを治療する第Ib相臨床試験
【0018】
試験用医薬品:キアウラニブカプセル(仕様:5mg、25mg;深セン微芯生物科技股分有限公司製)。
【0019】
投薬計画:キアウラニブカプセルを50mg/日でQD(1日1回)投与する(体重又は体表面積に応じて調整しない)。毎朝空腹時に水でカプセル全体を服用する。28日間の連続投与を1つの治療周期とし、各治療周期の間には間隔がない。
【0020】
病例数:入群25例。
【0021】
選択標準
1、年齢:≧18歳且つ≦75歳、性別制限なし
2、組織学又は細胞学的に確認された小細胞肺がん
3、過去に少なくとも2種類の異なる全身化学療法(白金製剤を用いる化学療法が含まれる)を受けた後、いずれも病勢進行と再発がある。
4、RECIST1.1規準により少なくとも1つの測定可能な標的病巣がある。放射線治療又は局所治療における病巣の中、必ず病勢進行のイメージング証拠があるものは、標的病巣とみなすことができる。
5、ECOGの体力状況スコア:0-1点
6、主な臓器機能は以下の基準を満たす。
血液ルーチン検査:好中球絶対数≧1.5×10/L、血小板≧75×10/L、ヘモグロビン≧80g/L
血液生化学検査:総ビリルビン≦正常値の上限の1.5倍、AST/ALT≦正常値の上限の2.5倍(肝臓に転移した場合、≦正常値の上限の5倍)、血清クレアチニン≦正常値の上限の1.5倍
血液凝固機能:プロトロンビン時間-国際標準比(PT-INR)<1.5
7、予想生存時間≧3ヶ月
8、書面によるインフォームドコンセントの自発的な署名
【0022】
治療計画
被験者がキアウラニブカプセル50mgを1日1回で経口摂取する。28日ごとを1つの治療周期とし、治療周期の間には休薬間隔期間がない。試験期間全体を通して、病勢進行、毒性反応に耐えられないこと、死亡、インフォームドコンセントの撤回又は追跡不能のいずれか(最初に発生するもの)が発生するまで、すべての被験者に治療を持続的に与える。
【0023】
治療効果の評価
RECIST1.1規準により、それぞれベースライン期間及び治療後の4週目末に評価し、その後、病勢進行が発生するまで8週間ごとに繰り返す。腫瘍画像検査には、首、胸、腹部全体、骨盤CT又はMRIが含まれる。他の部位の検査は、臨床適応症に応じて必要がある場合に行われる。病巣ベースライン及び後の評価は、同様な技術及び方法を採用する。
【0024】
安全性の評価
体格検査、生命徴候、ECOG体力状況スコア、血液ルーチン検査、尿ルーチン検査、12 誘導心電図、血液生化学、電解質、血液凝固機能、心筋酵素、トロポニン、TSH、FT3、FT4、アミラーゼ、心エコー図、24時間尿タンパク定量(必要がある場合)、有害事象が含まれる。
【0025】
バイオマーカーの研究
被験者がキアウラニブを初めて服用する前及び病勢進行時に末梢血を10ml採血し、血漿遊離腫瘍DNA(ctDNA)及び白血球から抽出したDNA(対照)に対して遺伝子(合計548個の腫瘍関連遺伝子)の配列を検出する。検出結果には、遺伝子変異、コピー数異常、及び腫瘍変異負荷(TMB)の分析が含まれる。
【0026】
臨床試験の結果
入群した患者は25名、治療効果があると評価された患者は20名であり、そのうち、4名患者の最良治療効果の評価は、部分奏効(PR)であり、ORRが20%、利益率が60%である。結果として、小細胞肺がんのキアウラニブ単剤での治療は有効である。
【0027】
評価された患者の血漿遊離腫瘍DNA(ctDNA)を検出して分析する。548個の腫瘍関連遺伝子に対して治療効果に関するバイオマーカーの付随研究を行う。検出結果では、変異発生率が0.4%以上のすべての遺伝子を選び、患者の無増悪生存期間(PFS)及び客観的奏効(PR)を治療効果指標とし、腫瘍関連遺伝子の異常とキアウラニブの治療効果との関連性を検討する。結果は、548個の腫瘍関連遺伝子の中に、KDM5A遺伝子及びATRX遺伝子のみがキアウラニブの治療効果と顕著な関連性を有することを示している。
【0028】
KDM5A遺伝子と患者の無増悪生存期間(PFS)の利益との間に顕著な関連性がある。結果を表1に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
表1の結果から明らかなように、患者の無増悪生存期間(PFS)を治療効果の評価指標とする場合、KDM5A遺伝子変異と患者のPFS利益との間に顕著な関連性を有する。KDM5A遺伝子野生型患者は合計12名で、PFSの中央値は27.5日である。KDM5A遺伝子変異型患者は合計8名で、PFSの中央値は145日である。KDM5A遺伝子変異型患者と野生型患者との無増悪生存期間には統計的顕著な差があり、P値は0.0087である。これは、KDM5A遺伝子変異型患者がキアウラニブの治療においてより良好な利益を受けることができることを示している。
【0031】
ATRX遺伝子と患者の客観的奏効(PR)の利益との間に顕著な関連性がある。結果を表2に示す。
【0032】
【表2】
【0033】
表2の結果から明らかなように、客観的奏効(PR)及び非奏効(SD+PD)を治療効果の評価指標とする場合、ATRX遺伝子変異型患者は合計6名で、その中、4名が客観的奏効として評価され、すべての変異患者の66.7%を占め、ATRX遺伝子野生型患者は合計14名で、その中、0名が客観的奏効として評価され、すべての野生型患者の0%を占める。ATRX遺伝子変異型患者と野生型患者との客観的奏効状況には統計的顕著な差があり、P値は0.0031である。以上の結果は、ATRX遺伝子変異型患者がキアウラニブの治療においてより良好な客観的奏効の利益を受けることができることを示している。
【0034】
以上の説明は、本発明の好ましい実施形態に過ぎない。当業者は、本発明の原理から逸脱することなく、複数の改良及び修飾を加えることができ、これらの改良及び修飾も本発明の保護範囲内に含まれるべきである。
【国際調査報告】