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特表2022-527901ざ瘡が起こりやすい皮膚およびざ瘡性皮膚の予防および管理におけるポリリシンデンドリマーの使用
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  • 特表-ざ瘡が起こりやすい皮膚およびざ瘡性皮膚の予防および管理におけるポリリシンデンドリマーの使用 図1
  • 特表-ざ瘡が起こりやすい皮膚およびざ瘡性皮膚の予防および管理におけるポリリシンデンドリマーの使用 図2
  • 特表-ざ瘡が起こりやすい皮膚およびざ瘡性皮膚の予防および管理におけるポリリシンデンドリマーの使用 図3
  • 特表-ざ瘡が起こりやすい皮膚およびざ瘡性皮膚の予防および管理におけるポリリシンデンドリマーの使用 図4
  • 特表-ざ瘡が起こりやすい皮膚およびざ瘡性皮膚の予防および管理におけるポリリシンデンドリマーの使用 図5A
  • 特表-ざ瘡が起こりやすい皮膚およびざ瘡性皮膚の予防および管理におけるポリリシンデンドリマーの使用 図5B
  • 特表-ざ瘡が起こりやすい皮膚およびざ瘡性皮膚の予防および管理におけるポリリシンデンドリマーの使用 図5C
  • 特表-ざ瘡が起こりやすい皮膚およびざ瘡性皮膚の予防および管理におけるポリリシンデンドリマーの使用 図5D
  • 特表-ざ瘡が起こりやすい皮膚およびざ瘡性皮膚の予防および管理におけるポリリシンデンドリマーの使用 図5E
  • 特表-ざ瘡が起こりやすい皮膚およびざ瘡性皮膚の予防および管理におけるポリリシンデンドリマーの使用 図5F
  • 特表-ざ瘡が起こりやすい皮膚およびざ瘡性皮膚の予防および管理におけるポリリシンデンドリマーの使用 図6A
  • 特表-ざ瘡が起こりやすい皮膚およびざ瘡性皮膚の予防および管理におけるポリリシンデンドリマーの使用 図6B
  • 特表-ざ瘡が起こりやすい皮膚およびざ瘡性皮膚の予防および管理におけるポリリシンデンドリマーの使用 図7
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-07
(54)【発明の名称】ざ瘡が起こりやすい皮膚およびざ瘡性皮膚の予防および管理におけるポリリシンデンドリマーの使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/88 20060101AFI20220531BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20220531BHJP
   A61P 17/10 20060101ALI20220531BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220531BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20220531BHJP
   A61K 31/07 20060101ALI20220531BHJP
   A61K 31/192 20060101ALI20220531BHJP
   A61K 31/203 20060101ALI20220531BHJP
   A61K 31/4436 20060101ALI20220531BHJP
   A61K 31/327 20060101ALI20220531BHJP
   A61K 31/047 20060101ALI20220531BHJP
   A61K 31/60 20060101ALI20220531BHJP
   A61K 31/136 20060101ALI20220531BHJP
   A61K 36/61 20060101ALI20220531BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220531BHJP
   A61K 31/785 20060101ALI20220531BHJP
【FI】
A61K8/88
A61Q19/00
A61P17/10
A61P29/00
A61P31/04
A61K31/07
A61K31/192
A61K31/203
A61K31/4436
A61K31/327
A61K31/047
A61K31/60
A61K31/136
A61K36/61
A61K45/00
A61K31/785
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021557286
(86)(22)【出願日】2020-02-21
(85)【翻訳文提出日】2021-11-16
(86)【国際出願番号】 US2020019173
(87)【国際公開番号】W WO2020197669
(87)【国際公開日】2020-10-01
(31)【優先権主張番号】62/823,730
(32)【優先日】2019-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】502451731
【氏名又は名称】インターナショナル フレーバーズ アンド フラグランシズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100218578
【弁理士】
【氏名又は名称】河井 愛美
(72)【発明者】
【氏名】アッティア-ヴィニョー ジョアン
(72)【発明者】
【氏名】ロアン エステル
(72)【発明者】
【氏名】ボレル マガリ
【テーマコード(参考)】
4C083
4C084
4C086
4C088
4C206
【Fターム(参考)】
4C083AA122
4C083AB411
4C083AC111
4C083AC172
4C083AC231
4C083AC291
4C083AC422
4C083AC471
4C083AC482
4C083AC761
4C083AC862
4C083AC902
4C083AD071
4C083AD072
4C083AD212
4C083AD352
4C083AD572
4C083AD621
4C083AD662
4C083BB51
4C083CC05
4C083CC11
4C083CC23
4C083DD11
4C083DD27
4C083DD31
4C083DD41
4C083EE13
4C083EE14
4C084AA19
4C084AA22
4C084MA02
4C084MA28
4C084MA63
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA89
4C084ZA90
4C084ZB11
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC17
4C086DA17
4C086FA03
4C086GA04
4C086GA08
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA03
4C086MA04
4C086MA28
4C086MA63
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA89
4C086ZA90
4C086ZB11
4C088AB57
4C088MA28
4C088MA63
4C088NA05
4C088NA14
4C088ZA89
4C088ZA90
4C088ZB11
4C206CA03
4C206CA07
4C206CA40
4C206DA12
4C206DA17
4C206DA36
4C206FA31
4C206KA09
4C206MA28
4C206MA48
4C206MA83
4C206NA05
4C206NA14
4C206ZA89
4C206ZA90
4C206ZB11
(57)【要約】
本発明は、吹き出物またはざ瘡が起こりやすい皮膚を管理するための、または尋常性ざ瘡を処置もしくは予防するための、ポリリシンデンドリマーまたはその塩の使用に関する。ポリリシンデンドリマーは、皮膚の微生物叢を回復するまたは再バランスさせるための活性剤として使用される。ポリリシンデンドリマーはまた、処置される皮膚の外観および感触を改善または回復するための活性剤として使用される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ざ瘡が起こりやすい皮膚および吹き出物が出やすい皮膚の管理における、活性成分としてのポリリシンデンドリマーまたはその塩の化粧的非治療的使用。
【請求項2】
尋常性ざ瘡を処置するため、活性成分として使用するためのポリリシンデンドリマーまたはその塩。
【請求項3】
ポリリシンデンドリマーまたはその塩が、皮膚の微生物叢を回復するまたは再バランスさせるため、好ましくは皮膚表面のC.アクネスの多様性を回復するため、活性成分として使用される、請求項1に記載の化粧的使用、または請求項2に記載の使用のためのポリリシンデンドリマーもしくはその塩。
【請求項4】
ポリリシンデンドリマーまたはその塩が、皮膚における、ざ瘡性C.アクネス株、好ましくはファイロタイプIA1、IA2、IBおよびIC、より好ましくはファイロタイプIA1に属するC.アクネス株の存在量を低下させる活性成分として使用される、請求項1もしくは3に記載の化粧的使用、または請求項2もしくは3に記載の使用のためのポリリシンデンドリマーもしくはその塩。
【請求項5】
ポリリシンデンドリマーまたはその塩が、皮膚における、非ざ瘡性C.アクネス株、好ましくはファイロタイプIIまたはIII、好ましくはファイロタイプIIに属するC.アクネス株の存在量を増加させるために使用される、請求項1および3~4のいずれか1項に記載の化粧的使用、または請求項2~4のいずれか1項に記載の使用のためのポリリシンデンドリマーもしくはその塩。
【請求項6】
ポリリシンデンドリマーまたはその塩が、以下:
- 皮膚の外観および感触の改善、および/または
- 皮膚の快適さの回復、および/または
- 吹き出物の予防、改善または処置、および/または
- 皮膚の消炎、および/または
- 皮膚の赤みまたは皮膚炎症の軽減または予防、および/または。
- 皮脂分泌量の低下、および/または
- 面皰、膿疱および丘疹などの目視可能な病変の軽減、および/または
- 皮膚落屑の改善
のために活性成分として使用される、請求項1および3~5のいずれか1項に記載の化粧的使用、または請求項2~5のいずれか1項に記載の使用のためのポリリシンデンドリマーもしくはその塩。
【請求項7】
ポリリシンデンドリマーが、48などのDPn40~60、好ましくは46~50を有する第2世代の非コンジュゲートポリ-L-リシンデンドリグラフトである、請求項1および3~6のいずれか1項に記載の化粧的使用、または請求項2~6のいずれか1項に記載の使用のためのポリリシンデンドリマーもしくはその塩。
【請求項8】
ポリリシンデンドリマーが、ε-アミノ基がポリ-L-リシン部分によりそれぞれ置換されている、直鎖状ポリ-L-リシンコアを有するポリ-L-リシンデンドリグラフトである、請求項1および3~7のいずれか1項に記載の化粧的使用、または請求項2~7のいずれか1項に記載の使用のためのポリリシンデンドリマーもしくはその塩。
【請求項9】
直鎖状ポリ-L-リシンコアが、長さが6~10個、好ましくは8個のリシン残基を含有し、かつ/またはε-アミノ基上にグラフトされているポリ-L-リシン部分が、長さが2~6個、好ましくは5個のリシン残基を有する、請求項8に記載の化粧的使用、または請求項8に記載の使用のためのポリリシンデンドリマーもしくはその塩。
【請求項10】
ポリリシンデンドリマーが、対陰イオンが酢酸陰イオンであるポリ陽イオン性デンドリマーの形態にある、請求項1および3~9のいずれか1項に記載の化粧的使用、または請求項2~9のいずれか1項に記載の使用のためのポリリシンデンドリマーもしくはその塩。
【請求項11】
ポリリシンデンドリマーが、非医療用組成物、化粧品組成物または皮膚化粧品組成物に存在する、請求項1および3~10のいずれか1項に記載の化粧的使用、または請求項2~10のいずれか1項に記載の使用のためのポリリシンデンドリマーもしくはその塩。
【請求項12】
ポリリシンデンドリマーが、スージングクリーム、角質除去製品、デイリークリームまたはゲル製品、クラリファイイングトナーまたはローション、ピューリファイングクレンザー、吹き出物改善クリームまたはスティック、およびコンシーラースティックまたはクリームからなる群から選択される化粧品組成物中に活性成分として存在し、前記化粧品組成物が、ざ瘡性皮膚、吹き出物が出やすい皮膚またはざ瘡が起こりやすい皮膚に使用される、請求項1および3~11のいずれか1項に記載の化粧的使用、または請求項2~11のいずれか1項に記載の使用のためのポリリシンデンドリマーもしくはその塩。
【請求項13】
ポリリシンデンドリマーが、ビタミンA、レチノイド(アダパレン、トレチノインまたはタザロテンなど)、殺細菌剤(過酸化ベンゾイルおよびデカンジオール)、アゼライン酸、サリチル酸、抗炎症剤(ダプソンまたはメラレウカ・アルテルニフォリア(Melaleuca alternifolia)(ティーツリー)オイルなど)、抗赤み剤、消炎剤およびそれらの組合せから選択される活性成分と組み合わせて使用される、請求項1および3~12のいずれか1項に記載の化粧的使用、または請求項2~12のいずれか1項に記載の使用のためのポリリシンデンドリマーもしくはその塩。
【請求項14】
ざ瘡性皮膚、ざ瘡の起こりやすい皮膚または吹き出物が出やすい皮膚の管理に使用するための局所用組成物であって、活性成分としてのポリリシンデンドリマー、および1種またはいくつかの賦形剤を含む、局所用組成物。
【請求項15】
- 好ましくは請求項7~10のいずれか1項に記載の、0.1~100ppm、好ましくは0.1~10ppmのポリリシンデンドリマー、
- 0%~20%の1種または複数の追加の活性剤、および
- 70%~99.9999%の1種または複数の賦形剤
を含む、請求項14に記載の使用のための局所用組成物であって、
百分率が、該組成物の総質量に対する質量基準で表される、
局所用組成物。
【請求項16】
対象におけるざ瘡を処置または予防する方法であって、前記対象に有効量の好ましくは請求項7~10のいずれかに記載のポリリシンデンドリマーまたはその組成物を局所投与するステップを含む、方法。
【請求項17】
ざ瘡皮膚、吹き出物が出やすい皮膚またはざ瘡が起こりやすい皮膚において、微生物叢を回復するまたは再バランスさせる方法であって、前記対象に有効量の好ましくは請求項7~10のいずれかに記載のポリリシンデンドリマーまたはその組成物を局所投与するステップを含む、方法。
【請求項18】
ざ瘡、吹き出物が出やすい皮膚またはざ瘡が起こりやすい皮膚を有する対象における、皮膚の外観および感触を改善する、かつ/または皮膚の快適さを回復する、かつ/または吹き出物および/もしくはざ瘡病変を予防、改善または処置する、かつ/または皮膚を消炎する、かつ/または毛穴を見えにくくする(および、したがって皮膚を滑らかにする)、かつ/または皮膚の赤みおよび/もしくは皮膚炎症を軽減または予防する、かつ/または皮脂分泌量を低下させる、かつ/またはてかりおよび/または脂性の外観の少ない皮膚にする、かつ/または皮膚を改善する方法であって、前記対象に有効量の好ましくは請求項7~10のいずれかに記載のポリリシンデンドリマーまたはその組成物を局所投与するステップを含む、方法。
【請求項19】
好ましくは請求項1~18のいずれか1項に記載の、ざ瘡が起こりやすい皮膚、吹き出物が出やすい皮膚またはざ瘡性皮膚の管理または処置のための、局所用組成物の製造におけるポリリシンデンドリマーの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
単にざ瘡としても知られている尋常性ざ瘡は、皮脂を生成する分泌腺(脂腺性毛包)の一般的な慢性炎症性疾患である。ざ瘡は、炎症を起こした隆起(丘疹、膿疱、結節および嚢腫)、面皰(黒ニキビおよび白ニキビ)、および皮膚の瘢痕の形成をもたらす。ざ瘡は、皮膚科医および他の医療従事者によって処置される最も一般的な障害の1つである。世界人口の90%超が、その生涯のある時点でざ瘡に罹患する。ざ瘡の病因は、多元的であり、相互関連する機構を伴う4つの重要な因子:皮脂生成の増大、過角化、皮膚炎症およびクチバクテリウム・アクネス(Cutibacterium acnes)の増殖を含む。
クチバクテリウム・アクネス(以前のプロピオニバクテリウム・アクネス(Propionibacterium acnes))は、顔面および背中に多い、皮膚のヒト脂腺性毛包に偏在する。C.アクネスは、正常な皮膚の微生物叢の広く見られるメンバーであり、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)などのいくつかの病原性細菌の発生を阻害することによって、および毛嚢脂腺毛包における酸性pHの酸を維持することによって正常な皮膚の微生物叢の維持に重要な役割を果たす。C.アクネスは片利共生性であるが、炎症を促進することによるざ瘡の病因に関与していると一般に考えられている。実際に、いくつかの検討により、皮膚において、C.アクネスは、単球およびケラチノサイトにより発現されるToll様受容体により先天性免疫を活性化し、インターロイキンの分泌を増大することが示されている。その他に、C.アクネスは、とりわけ、留置式医療用装具の観点では、日和見感染と関連することが示された。皮膚の微生物叢のバランス、ざ瘡炎症状態および日和見感染におけるその二面性の役割により、C.アクネスのある種の株は潜在的病原性および潜在的炎症性の向上を特徴とするという仮説に至った。
【0002】
系統発生学的検討により、C.アクネスの遺伝的集団構造への貴重な洞察がもたらされた。C.アクネスは、総合的なクローン構造を有すること、およびその分離株は、タイプIA1、IA2、IB、IC、IIおよびIIIと指定されたいくつかの統計的に有意な分岐群またはファイログループに分類することができることが示された。これらのファイログループは、感染の具体的なタイプとのその関連性に差異を示し、推定上の病原性決定因子のその生成、炎症可能性、抗生物質耐性、侵襲特性および形態学的特徴が様々であることが示された。C.アクネスのファイロタイプIA1、IA2、IB、ICは、ざ瘡株として特定されている一方、ファイロタイプIIおよびIIIは、非ざ瘡株として分類されている。ファイロタイプIA1は、ざ瘡株において最も豊富に存在する株であることが示された一方、ファイロタイプIIおよびIIIは、健常な非ざ瘡性の皮膚に大部分が存在する。
【0003】
実際に、いくつかの独立した疫学的検討により、タイプIA1のファイログループに由来するクロナールコンプレックスと中度から重度のざ瘡との間に相関関係があることが示された(Scholz et al., PlosOne, 2014, e104199, Barnard et al. Journal of Clinical Microbiology, 2015, 53, 1149-1155)。
最近、Dagnelieら(Acta Derm Venereol, 2018; 98:262-267)は、重度のざ瘡を有する患者における様々なファイロタイプ、クロナールコンプレックス(CC)および単一遺伝子座配列タイピング(SLST)のタイプを決定し、健常患者に対して比較した。健常患者は、ファイロタイプIA1(39.1%)およびII(43.4%)を有している一方、ざ瘡群は、IA1(84.4%)を非常に多く、とりわけ背中(95.6%)に有することをDagnelieらは示した。IA1 SLSTタイプは、重度のざ瘡と大きく関係した。留意すべきことに、Dagnelieらは、顔面と背中の両方の炎症が重度のざ瘡は、C.アクネス多様性集団がかなり喪失していることと関連していることを報告した。微生物叢は、皮膚の先天性免疫をモジュレートするので、多様性のこのような喪失は、炎症の引き金となり、炎症性ざ瘡病変を促進し得ると考えられる。非常に最近の出版物では、Dagnelieらは、皮膚(sin)表面のC.アクネスの部分群の多様性の喪失が、自然免疫系の活性化、すなわち皮膚炎症の発症の引き金となるという証拠を提示した(Dagnelie et al., JEADV, 2019; 33:2340-2348)。
【0004】
現在の時点で、ざ瘡の重症度に応じて、ざ瘡を管理する処置方針がいくつか存在する。その処置とは、2つのタイプの活性成分:抗炎症作用を発揮し、皮膚落屑を正常化し、コネドリティック作用(comedolytic action)を発揮する局所レチノイド、ならびに皮膚表面のC.アクネスの総合的な存在量を低下させるために使用される過酸化ベンゾイルなどの抗生物質および殺細菌剤に本質的に基づいている。中度および重度のざ瘡の処置は、一般に、局所併用療法をベンジル過酸化物(benzyl peroxide)およびレチノイドまたは抗生物質と組み合わせる。抗生物質およびイソトレチノインにより経口処置もまた処方され得る。女性では、併用経口丸剤も処方され得る。不運なことに、これらの処置は、皮膚刺激、皮膚炎または光過敏性などのいくつかの欠点も有する。抗生物質の使用はまた、抗生物質の耐性問題のため賛否両論があり、微生物叢の不均衡化をもたらす恐れがある。
しかし、これらの処置のいずれも、ざ瘡性C.アクネス株に比べて非ざ瘡性C.アクネス株を促進するよう、皮膚の微生物叢を再バランスすることを目的とするものではない。
したがって、ざ瘡性皮膚、同様にざ瘡を起こしやすい皮膚および吹き出物が出やすい皮膚を管理する代替方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、ざ瘡が起こりやすい皮膚および吹き出物が出やすい皮膚の管理における、活性成分としてのポリリシンデンドリマーまたはその塩の化粧的非治療的使用に関する。本発明はまた、尋常性ざ瘡を処置または予防するための活性成分としてのポリリシンデンドリマーまたはその塩の使用に関する。
一部の実施形態では、ポリリシンデンドリマーまたはその塩は、皮膚の微生物叢を回復するまたは再バランスさせるため、好ましくは皮膚におけるC.アクネスの多様性を回復するための活性成分として使用される。例えば、ポリリシンデンドリマーまたはその塩は、皮膚における、ざ瘡性C.アクネス株、好ましくはファイロタイプIA1、IA2、IBおよびIC、より好ましくはファイロタイプIA1に属するC.アクネス株の存在量を低下させる活性成分として使用されてもよい。代替としてまたはさらに、ポリリシンデンドリマーまたはその塩は、皮膚における、非ざ瘡性C.アクネス株、好ましくはファイロタイプIIまたはIII、好ましくはファイロタイプIIに属するC.アクネス株の存在量を増加させるために使用されてもよい。
【0006】
一部の実施形態では、ポリリシンデンドリマーまたはその塩は、ざ瘡性皮膚、ざ瘡が起こりやすい皮膚または吹き出物が出やすい皮膚において、活性成分として、以下:
- 皮膚の外観および感触の改善、および/または
- 皮膚の快適さの回復、および/または
- 吹き出物の予防、改善または処置、および/または
- 皮膚の消炎化、および/または
- 皮膚の赤みまたは皮膚炎症の軽減または予防、および/または
- 皮脂分泌量の低下、および/または
- 面皰、膿疱および丘疹などの目視可能な病変の軽減、および/または
- 皮膚落屑の改善
のために使用される。
一部の実施形態では、ポリリシンデンドリマーは、48などのDPn40~60、好ましくは46~50を有する第2世代の非コンジュゲートポリ-L-リシンデンドリグラフトである。
一部の他の実施形態では、ポリリシンデンドリマーは、ε-アミノ基が、ポリ-L-リシン部分により置換されている、直鎖状ポリ-L-リシンコアを有するポリ-L-リシンデンドリグラフトである。例えば、直鎖状ポリ-L-リシンコアは、長さが6~10個、好ましくは8個のリシン残基を含有し、かつ/またはε-アミノ基上にグラフトされているポリ-L-リシン部分は、長さが2~6個、好ましくは5個のリシン残基を有する。
【0007】
一部のさらなる実施形態では、ポリリシンデンドリマーは、対陰イオンが酢酸陰イオンである、ポリ陽イオン性デンドリマーの形態にある。このようなデンドリマーの例が、図7に提示されている。
ポリリシンデンドリマーは、非医療用組成物、化粧品組成物または皮膚化粧品組成物において、活性成分として存在することができる。目的の化粧品組成物の例は、スージングクリーム、角質除去製品、デイリークリームまたはゲル製品、クラリファイイングトナーまたはローション、ピューリファイングクレンザー、吹き出物改善クリームまたはスティック、およびコンシーラースティックまたはクリームを包含する。
一部の実施形態では、ポリリシンデンドリマーは、ビタミンA、レチノイド(アダパレン、トレチノインまたはタザロテンなど)、殺細菌剤(過酸化ベンゾイルおよびデカンジオール)、アゼライン酸、サリチル酸、抗炎症剤(ダプソンまたはメラレウカ・アルテルニフォリア(Melaleuca alternifolia)(ティーツリー)オイルなど)、抗赤み剤、消炎剤およびそれらの組合せから選択される活性成分と組み合わせて使用することができる。
【0008】
本発明はまた、ざ瘡性皮膚、ざ瘡の起こりやすい皮膚または吹き出物が出やすい皮膚を管理する際に使用するための局所用組成物であって、活性成分としてのポリリシンデンドリマー、および1種またはいくつかの賦形剤を含む、局所用組成物に関する。局所用組成物は、以下:
- 好ましくは請求項7~10のいずれか1項に定義されている、0.1~100ppmのポリリシンデンドリマー、
- 0%~20%の1種または複数の追加の活性剤、および
- 70%~99.9999%の1種または複数の賦形剤
を含むことができ、
百分率は、該組成物の総質量に対する質量基準で表されている。
本発明のさらなる目的は、対象におけるざ瘡を処置または予防する方法であって、前記対象に有効量のポリリシンデンドリマーまたはその組成物を局所投与するステップを含む、方法である。本発明はまた、ざ瘡皮膚、吹き出物が出やすい皮膚またはざ瘡が起こりやすい皮膚において、微生物叢を回復するまたは再バランスさせる方法であって、前記対象に有効量のポリリシンデンドリマーまたはその組成物を局所投与するステップを含む、方法に関する。
【0009】
本発明は、ざ瘡、吹き出物が出やすい皮膚またはざ瘡が起こりやすい皮膚を有する対象における、皮膚の外観および感触を改善する、かつ/または皮膚の快適さを回復する、かつ/または吹き出物および/もしくはざ瘡病変を予防、改善または処置する、かつ/または皮膚を消炎する、かつ/または毛穴を見えにくくする(および、したがって皮膚を滑らかにする)、かつ/または皮膚の赤みおよび/もしくは皮膚炎症を軽減または予防する、かつ/または皮脂分泌量を低下させる、かつ/またはてかりおよび/または脂性の外観の少ない皮膚にする、かつ/または皮膚を改善する方法であって、前記対象に有効量のポリリシンデンドリマーまたはその組成物を局所投与するステップを含む、方法にさらに関する。
本発明はまた、上記のざ瘡が起こりやすい皮膚、吹き出物が出やすい皮膚もしくはざ瘡性皮膚を管理または処置するための局所用組成物の製造における、ポリリシンデンドリマー、好ましくはポリ-L-リシンデンドリマーの使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】正常なヒト真皮線維芽細胞における、本発明によるG2デンドリマーの抗炎症作用を示す図である。ヒドロコルチゾン(0.05μg/mL)またはG2デンドリマー(10-9M、10-8M、10-7Mまたは10-6M)の存在下で、細胞を0.0003ng/mLのIL-αにより処理し、IL-8の生成量をIL-8 ELISAアッセイによって決定した。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。
図2】実施例5において使用した尋常性ざ瘡のex vivoモデルにおける、生成物の施用の予定を示す概略図である。D0、D1、D4およびD6に、G2デンドリマーを2ppmまたは5ppmで、次いでC.アクネス(1時間)、施用した。
図3】C.アクネスが接種されたヒト皮膚外植片における、TRL2発現に及ぼすG2デンドリマーの効果を示す図である。C.アクネスまたはG2により処置をしない外植片を対照として使用した。
図4】C.アクネスのざ瘡株(RT4およびRT5)およびC.アクネスの非ざ瘡株(RT6)の膜流動性に及ぼすG2デンドリマーの効果を示す図である。G2デンドリマーは、ざ瘡株において、膜流動性を特異的かつ有意に増大させる。
図5A】処置して28日後の、炎症性病変(すなわち、膿疱および丘疹)(図5A)、貯留性病変(すなわち、黒ニキビおよび白ニキビ)(図5B)および黒ニキビの数、ならびに皮脂排出速度(図5C)に及ぼす、プラセボクリーム(プラセボ)と比較した、G2デンドリマー(G2)を含有する試験クリームによる処置の効果を評価する目的の臨床的検討の結果を示している。
図5B】処置して28日後の、炎症性病変(すなわち、膿疱および丘疹)(図5A)、貯留性病変(すなわち、黒ニキビおよび白ニキビ)(図5B)および黒ニキビの数、ならびに皮脂排出速度(図5C)に及ぼす、プラセボクリーム(プラセボ)と比較した、G2デンドリマー(G2)を含有する試験クリームによる処置の効果を評価する目的の臨床的検討の結果を示している。
図5C】処置して28日後の、炎症性病変(すなわち、膿疱および丘疹)(図5A)、貯留性病変(すなわち、黒ニキビおよび白ニキビ)(図5B)および黒ニキビの数、ならびに皮脂排出速度(図5C)に及ぼす、プラセボクリーム(プラセボ)と比較した、G2デンドリマー(G2)を含有する試験クリームによる処置の効果を評価する目的の臨床的検討の結果を示している。
図5D】処置して28日後の、炎症性病変(すなわち、膿疱および丘疹)(図5A)、貯留性病変(すなわち、黒ニキビおよび白ニキビ)(図5B)および黒ニキビの数、ならびに皮脂排出速度(図5C)に及ぼす、プラセボクリーム(プラセボ)と比較した、G2デンドリマー(G2)を含有する試験クリームによる処置の効果を評価する目的の臨床的検討の結果を示している。
図5E】処置の28日後の、それぞれ、Simpson指数およびShannon指数を使用する、C.アクネス株の多様性を示す図である。臨床試験のプロトコルおよび結果が、実施例8に詳述されている。
図5F】処置の28日後の、それぞれ、Simpson指数およびShannon指数を使用する、C.アクネス株の多様性を示す図である。臨床試験のプロトコルおよび結果が、実施例8に詳述されている。
図6A】非ざ瘡株RT6により形成されたバイオフィルム、およびざ瘡株RT5から形成されたバイオフィルムに及ぼす、本発明のデンドリマーの効果を示す図である。G2デンドリマーは、両方の株のバイオフィルムの厚さを低下させる。留意すべきことに、G2デンドリマーは、RT5株により形成されるバイオフィルムにおけるバイオマス密度を有意に低下させた一方、RT6株により形成されるバイオフィルムのバイオマス密度に対しては有意な効果を有さなかった。
図6B】非ざ瘡株RT6により形成されたバイオフィルム、およびざ瘡株RT5から形成されたバイオフィルムに及ぼす、本発明のデンドリマーの効果を示す図である。G2デンドリマーは、両方の株のバイオフィルムの厚さを低下させる。留意すべきことに、G2デンドリマーは、RT5株により形成されるバイオフィルムにおけるバイオマス密度を有意に低下させた一方、RT6株により形成されるバイオフィルムのバイオマス密度に対しては有意な効果を有さなかった。
図7】本発明のポリリシンデンドリマーの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本出願人は、本明細書において「G2デンドリマー」と称するリシン残基の「樹様」ポリマーが、20ppmのMICで、ファイロタイプIA1に属するざ瘡性C.アクネス株に対して抗菌活性を示すことを示した。さらに、G2デンドリマーは、角質溶解作用をモジュレートし、P.アクネスのコロニー形成に関連することが知られている免疫および炎症カスケードを低下させる。本出願人は、このポリ-L-リシンデンドリマーは、C.アクネスのざ瘡株を特異的に標的することができることをさらに示した。留意すべきことに、実施例6により、ファイロタイプIA1(RT4およびRT5)に属するざ瘡性リボタイプにおいて、G2デンドリマーが膜流動性を有意に増加させる一方、ファイロタイプIIに属する非ざ瘡性リボタイプRT6に対して有意な効果を有さないことを示された。言い換えると、この結果は、G2デンドリマーが、ざ瘡株の細胞膜を特異的に不安定化し、こうして、非ざ瘡性C.アクネス株を損傷することなく、ざ瘡株の増殖を阻害することができることを示唆している。他には、実施例7は、G2デンドリマーが、ざ瘡株RT5により形成されるバイオフィルムにおけるバイオマス密度を有意に低下させる一方、非ざ瘡性RT6株により形成されるバイオフィルムにおけるバイオマス密度に対しては有意な効果を有さなかったことを示している。したがって、ポリリシンデンドリマーは、ざ瘡株のバイオフィルムを不安定化することによるざ瘡株に対する選択的かつ特異的阻害作用を発揮すると同時に、どの株であろうとも、バイオフィルムの厚さを低下させることによって、C.アクネスバイオフィルムにより引き金となる炎症応答を軽減することが期待される。
【0012】
吹き出物(blemishes)および病変を管理し、ざ瘡性皮膚における皮膚の微生物叢を改善するための本発明のG2デンドリマーの有効性を臨床的に確認した。本出願人は、G2デンドリマーを低濃度(2ppm)で含有するクリームによる28日間の処置により、プラセボクリームによる処置と比較すると、特に、丘疹、膿疱、黒ニキビおよび貯留性病変などのざ瘡吹き出物および病変の数を低下させることによって、皮膚の外観が有意に改善されることを示した。G2含有クリームは、皮膚の皮脂分泌速度を低下させることがさらに可能であった。留意すべきことに、顔面試料に行ったゲノム解析により、G2デンドリマー含有組成物は、C.アクネス株の多様性を増大することによって、皮膚の微生物叢が改善されることが示された。文献においてざ瘡を促す株と特定されたファイロタイプIA1株の存在量が低下した一方、非ざ瘡性ファイロタイプII株の存在量は、G2含有組成物により処置された皮膚に由来する試料では増加した。言い換えると、ポリリシンデンドリマーは、ざ瘡性皮膚において、C.アクネス(C.acneic)の多様性を再バランスすることが可能な薬剤となることが示された。
【0013】
まとめると、これらの結果は、ポリリシンデンドリマーは、ざ瘡およびざ瘡が起こりやすい皮膚および吹き出物が出やすい皮膚において、吹き出物を管理するおよび皮膚の微生物叢を回復するのに有効な活性剤であることを実証している。
したがって、本発明は、ざ瘡性皮膚、ざ瘡が起こりやすい皮膚および吹き出物が出やすい皮膚の管理における活性剤としての、ポリリシンデンドリマー、好ましくはポリ-L-リシンデンドリマーの使用に関する。
本発明はまた、尋常性ざ瘡(vulgaris acne)の予防または処置における、ならびに/または尋常性ざ瘡に関連する吹き出物および皮膚の病変の管理における、活性剤としてのポリリシンデンドリマーの使用に関する。
【0014】
本発明はまた、ざ瘡皮膚、ざ瘡が起こりやすい皮膚および吹き出物-ざ瘡皮膚から選択される、皮膚タイプを有する対象において、以下:
- 皮膚の外観および感触を改善するための、ならびに/または
- 皮膚の快適さを回復するための、ならびに/または
- 吹き出物を予防、改善または処置するための、ならびに/または
- ざ瘡病変を予防、改善または処置するための、ならびに/または
- 皮膚を消炎するための、ならびに/または
- 毛穴が見えにくいようにするための、ならびに/または
- 皮膚の赤みもしくは皮膚炎症を軽減または予防するため、ならびに/または
- 皮脂分泌量を低下させるため、ならびに/またはてかりおよび/もしくは脂性の外観の少ない皮膚にするため、
- 目視可能な病変:黒ニキビ、膿疱および丘疹を軽減するため、ならびに/または
- 皮膚落屑(例えば、角質溶解作用を発揮させることによって)を改善するための
活性剤としての、ポリリシンデンドリマー、好ましくはポリ-L-リシンデンドリマーの使用に関する。
【0015】
本発明はまた、ざ瘡皮膚、ざ瘡が起こりやすい皮膚または吹き出物が出やすい皮膚において、微生物叢を回復するまたは再バランスさせるための、ポリリシンデンドリマーの使用、好ましくはポリ-L-リシンデンドリマーに関する。より正確には、本発明のポリリシンデンドリマーは、皮膚、好ましくはざ瘡およびざ瘡の起こりやすい皮膚における、ざ瘡性C.アクネス株の存在量を低下させるために、薬剤として使用される。別のまたは追加的な実施形態では、本発明のポリリシンデンドリマーは、皮膚、好ましくはざ瘡またはざ瘡の起こりやすい皮膚において、非ざ瘡性C.アクネスの存在量を増加させるためのものである。本発明はまた、ざ瘡性C.アクネス株によって、皮膚のコロニー形成を予防または低下させる、ポリリシンデンドリマーの使用に関する。本発明は、ざ瘡性皮膚またはざ瘡が起こりやすい皮膚において、C.アクネスファイロタイプIIまたはIIIの存在量の増加を可能にすると同時に、例えば、C.アクネスのファイロタイプIA1の存在量を低下させることによって、C.アクネスの多様性を増大させるためのポリリシンデンドリマーの使用にさらに関する。
【0016】
さらに一般的な態様では、本発明は、特に、ざ瘡またはざ瘡が起こりやすい皮膚において、皮膚の微生物叢のバランスを回復するため、活性剤としてポリリシンデンドリマーの使用、好ましくはポリ-L-リシンデンドリマーに関する。さらなる態様では、本発明は、C.アクネス集団のアンバランスに関連する皮膚の構成異常を予防または処置するための、ポリリシンデンドリマー、好ましくはポリ-L-リシンデンドリマーの使用に関する。
本発明はまた、とりわけ、ざ瘡性皮膚、ざ瘡の起こりやすい皮膚または吹き出物が出やすい皮膚を有する対象における、皮膚の微生物叢ホメオスタシスを維持または回復するため、活性剤としてポリリシンデンドリマーの使用、好ましくはポリ-L-リシンデンドリマーに関する。
本発明のさらなる態様は、対象における、ざ瘡性皮膚、ざ瘡が起こりやすい皮膚および吹き出物が出やすい皮膚から選択される皮膚タイプを管理する方法であって、前記対象に有効量のポリリシンデンドリマーを局所投与するステップを含む、方法に関する。このような方法は、例えば、対象における皮膚の吹き出物および皮膚の病変を処置する、これらを軽減するおよび/またはこれらの発病を遅延させることによって、対象における皮膚の外観を改善することが可能である。
【0017】
本発明はまた、対象におけるざ瘡を処置または予防する方法であって、前記対象に有効量のポリリシンデンドリマーを局所投与するステップを含む、方法に関する。本発明の別の目的は、ざ瘡、ざ瘡が起こりやすい皮膚または吹き出物が出やすい皮膚を有する対象における、皮膚の外観および感触を改善する、かつ/または皮膚の快適さを回復する、かつ/または吹き出物および/もしくはざ瘡病変を予防、改善または処置する、かつ/または皮膚を消炎する、かつ/または毛穴を見えにくくする(および、したがって皮膚を滑らかにする)、かつ/または皮膚の赤みおよび/もしくは皮膚炎症を軽減または予防する、かつ/または皮脂分泌量を低下させる、かつ/またはてかりおよび/もしくは脂性の外観の少ない皮膚にする、かつ/または皮膚を改善する方法であって、前記対象に有効量のポリリシンデンドリマーを局所投与するステップを含む、方法である。本発明は、ざ瘡皮膚またはざ瘡が起こりやすい皮膚において、微生物叢を回復するまたは再バランスさせる方法であって、前記対象に有効量のポリリシンデンドリマーを局所投与するステップを含む、方法にさらに関する。
【0018】
本発明はまた、上記のざ瘡が起こりやすい皮膚、吹き出物が出やすい皮膚もしくはざ瘡性皮膚を管理または処置するための局所用組成物の製造における、ポリリシンデンドリマー、好ましくはポリ-L-リシンデンドリマーの使用に関する。
本発明はまた、ポリリシンデンドリマー、例えばG2デンドリマーおよび/またはその塩を使用する、尋常性ざ瘡を処置する、皮膚における炎症応答を軽減する、および皮膚の落屑を促進する局所用組成物および方法を提供する。例えば、本発明は、処置を必要とする対象の皮膚に、ポリリシンデンドリマー、例えば、非コンジュゲートポリ-L-リシンデンドリグラフトまたはその塩を含む組成物を施用し、これにより、対象の皮膚における炎症応答を軽減するステップを含む、皮膚における炎症応答を軽減する方法であって、炎症応答が、クチバクテリウム・アクネスに応答したIL-8放出またはTLR2過剰発現を含む、方法に関する。本発明は、処置を必要とする対象の皮膚に、ポリリシンデンドリマー、例えば、非コンジュゲートポリ-L-リシンデンドリグラフトまたはその塩を含む組成物を施用し、これにより、対象の皮膚細胞の落屑を促すステップを含む、皮膚細胞の落屑を促す方法にさらに関する。
【0019】
本発明によるポリリシンデンドリマーは、局所用組成物、通常、医薬組成物、化粧品組成物または皮膚化粧品組成物中の活性成分として配合することができる。
通常、ポリリシンデンドリマーは、局所用組成物中に、0.1ppm~100ppm、好ましくは0.1ppm~20ppm、より好ましくは0.5~7ppm、例えば0.5~6ppmなどの0.5~10ppmの濃度で存在する。局所用組成物中のポリリシンデンドリマーの濃度、および前記局所用組成物の施用頻度は、処置される皮膚、および/または処置の段階に依存し得る。例えば、ざ瘡が起こりやすい皮膚、吹き出物が出やすい皮膚および軽度のざ瘡を有する皮膚を処置するためには、1日1回の施用の場合、4ppm未満、例えば2ppmの濃度が十分となり得る。中度または重度のざ瘡を有する皮膚を処置する場合、初期処置の間、1日2回の施用の場合、一層高い濃度のポリリシンデンドリマーを使用することができる(例えば、4~10ppm、例えば、4ppmまたは6ppm)。施用の用量および頻度は、一旦、ざ瘡に関連する皮膚病変が管理されて、数週間にわたる維持処置が実施され得ると、低下させることができる。
ポリリシンデンドリマーは、局所経路によって通常、使用され、例えば、処置される皮膚領域に、例えばざ瘡に罹患した皮膚領域、またはざ瘡が起こりやすいプロファイルもしくは吹き出物が出やすいプロファイルを有する皮膚領域に施用される。通常、処置される皮膚領域は、下記の皮膚の吹き出物および/または皮膚病変および/または脂性外観(例えば、皮脂の過剰生成による)のうちの1つまたはいくつかを示すことがある。目的の皮膚領域は、以下に限定されないが、顔面、頚部、胸部、肩および背中を包含する。
【0020】
処置の頻度は、様々とすることができ、対象の皮膚のタイプ、および/または存在する場合、ざ瘡の重症度に依存する。一般に、ポリリシンデンドリマーは、処置する皮膚に1日1回または1日2回、施用される。ポリリシンデンドリマーによる処置は、連続する数日間、例えば7~28日間、または数か月間(少なくとも、2、3、4、6、8または10か月間)、続くことができる。
少なくとも、ポリリシンデンドリマーは、C.アクネスのざ瘡株を特異的に標的することによって、皮膚の微生物叢の再バランスを促進するので、とりわけ10ppm未満の濃度での本発明のポリリシンデンドリマーによる処置の延長は、皮膚刺激などのいかなる重大な副作用を有する患者でも十分に耐容されることが期待される。
デンドリマーによって発揮される効果は、皮膚タイプおよび施用方法に応じて、治療的であってもよく、予防的であってもよく、かつ/または化粧用であってもよい。
例えば、本発明のポリリシンデンドリマーの使用は、吹き出物-ざ瘡皮膚に施用される場合、化粧的非治療的使用であってもよい。
【0021】
対象は、ざ瘡に罹患している対象、またはざ瘡が起こりやすい皮膚もしくは吹き出物が出やすい皮膚を有する対象のいずれかとすることができる。
一部の実施形態では、対象は、10~18歳まで、好ましくは12~16歳までの10代の若者である。
一部の実施形態では、対象は、ざ瘡に罹患しており、23歳より年齢が高い。
別の態様では、対象は、23歳より上の女性または男性のどちらか一方である。
一部の実施形態では、対象は、ざ瘡が起こりやすい皮膚を有する。
一部のさらなる実施形態では、対象は、軽度のざ瘡、中度のざ瘡または重度のざ瘡、好ましくは中度または重度のざ瘡に罹患している。
さらなる実施形態では、対象は、吹き出物が出やすい皮膚を有する。
本明細書で使用する場合、「吹き出物が出やすい皮膚」とは、皮膚のタイプであって、皮膚が、丘疹および膿疱などのいかなる炎症性病変もなしに、いくらかの面皰およびニキビ、例えば黒ニキビおよび白ニキビを発症する傾向を有する、皮膚のタイプを指す。
「吹き出物が出やすい皮膚」は、皮脂腺が他の皮膚タイプよりも皮脂を多く生じることにより、脂性のおよびてかりのある外観を特徴とすることができる。アンドロゲンと呼ばれるホルモン物質の生成量が増加し、ひいては、皮脂腺を刺激して、必要な量より多くの皮脂を生成する場合に、皮脂生成量のこのような増加が、思春期の間に一般に起こる。ある種のホルモン処置はまた、皮膚の皮脂の過剰生成の引き金となり得る。この脂漏症は、それ自体、正常な皮膚の脱皮をやはり妨害する恐れがあり、皮膚の吹き出物に至る。一部の実施形態では、吹き出物が出やすい皮膚を有する対象は、ざ瘡、とりわけ重度または中度のざ瘡の既往歴を有さない。
【0022】
本明細書で使用する場合、「ざ瘡が起こりやすい皮膚」とは、皮膚が、いくつかの面皰およびニキビ、さらにはいくつかのごくわずかな炎症性病変(通常、丘疹)を発症する傾向を有する、皮膚のタイプを指す。一部の実施形態では、ざ瘡が起こりやすい皮膚を有する対象は、ざ瘡の既往歴を有する対象、すなわち少なくとも1つのざ瘡のエピソードを既に試みている対象、またはざ瘡の家族歴を有する対象、すなわち中度または重度のざ瘡を試みた家族の一員の少なくとも1名(母親、父親または姉妹/兄弟)を有する対象を指す。
「ざ瘡が起こりやすい皮膚」または「吹き出物が出やすい皮膚」は、狭義では、皮膚疾患を罹患しているが、適切に管理されない場合、ざ瘡に悪化する恐れがある皮膚を指さない。
【0023】
本明細書で使用する場合、本明細書において「ざ瘡皮膚」とも呼ばれる「ざ瘡性皮膚」とは、ざ瘡を罹患している皮膚(尋常性ざ瘡とも呼ばれる)を指す。ざ瘡は毛包脂腺構造を含む、非伝染性の炎症性皮膚障害であり、皮脂腺の炎症および感染により引き起こされるニキビを特徴とする。この疾患は、青年期に最も一般的であるが、症状は成人期まで続く可能性があり、一部の人々、とりわけ女性は、25歳以降に初めて症状を経験する。持続性または遅発性ざ瘡は、アクネ・タルダ(acne tarda)として知られている。ざ瘡は、通常、顔面、頚部、肩、胸部および背中に現れる。ざ瘡は、重症度が、軽度のざ瘡(アクネ・コメドニカ(Acne Comedonica))から、中度のざ瘡(アクネ・パプロプスツロサ(Acne Papulopustulosa))を経て、重度のざ瘡(アクネ・コングロバタ(Acne Conglobata))までの範囲に及ぶ。軽度のざ瘡は、複数の黒ニキビ、白ニキビ、および時としてほとんどない丘疹の存在を特徴とする。中度のざ瘡は、面皰、丘疹および膿疱の存在を特徴とする。皮膚は、赤く、炎症しているように見え得る。最後に、重度のざ瘡は、一緒に群となって結節および嚢腫を形成する恐れがある丘疹および膿疱を含めた、複数の炎症している吹き出物を特徴とするざ瘡の一般的ではない形態である。ざ瘡の病因は、多元的であり、相互関連する機構を伴う4つの重要な因子:皮脂生成の増大、過角化、皮膚炎症およびクチバクテリウム・アクネスの増殖を含む。
【0024】
本明細書で使用する場合、「吹き出物」は、赤み、ニキビまたは面皰などの皮膚が不完全であること、例えば、吹き出物が出やすい皮膚(またはざ瘡が起こりやすい皮膚)、通常、黒ニキビ、白ニキビおよび他のニキビなどの貯蔵性病変において観察され得る、皮膚が不完全であることを指す。
本明細書で使用する場合、「ざ瘡病変」とは、中度および重度のざ瘡において観察される、ざ瘡、例えば、丘疹、膿疱、嚢腫および結節に関連する炎症を起こした炎症性病変を指す。
本明細書で使用する場合、ざ瘡株とは、健常な皮膚における場合よりも、ざ瘡性皮膚において統計学的に存在量の多いC.アクネス株を指す。クチバクテリウム・アクネスは、6つの主要なファイロタイプ、すなわちIA1、IA2、1B、IC、IIおよびIIIに部分分類される(Dagnelieら、2018年、上記)。皮膚では、ざ瘡皮膚では、RT4およびRT5リボタイプなどのファイロタイプIA1に属する細菌が優勢である。ざ瘡株は、ファイロタイプIA1、1A2、1BおよびIC、好ましくはIA1およびIA2、より好ましくはリボタイプ I(RT1)、リボタイプ4(RT4)およびリボタイプ5(RT5)などのIA1を包含する。
【0025】
非ざ瘡株とは、ざ瘡性皮膚における場合よりも、健常な皮膚において統計学的に存在量が多いC.アクネス株を指す。このような株は、リボタイプRT6などのファイロタイプIIおよびIIIを包含する。
C.アクネスのファイロタイプである、クロナールコンプレックスおよび単一遺伝子座配列に関する一層の詳細に関しては、Dagnelieら(上記)およびScholzら、2016年を参照することができる。
一部の実施形態では、本発明のポリリシンデンドリマーによる処置は、対象の皮膚表面に存在するC.アクネスの全集団における、C.アクネスのファイロタイプI株の存在量を低下させる。一部の他の実施形態では、本発明のポリリシンデンドリマーによる処置は、対象の皮膚表面に存在するC.アクネスの全集団における、C.アクネスのファイロタイプIIまたはIII株、好ましくはファイロタイプIIの存在量を増加させる。
本明細書で使用する場合、用語「皮膚の微生物叢」、「皮膚マイクロバイオーム」または「皮膚微生物叢」は、皮膚、通常、ヒトの皮膚表面に常在する微生物を指し、細菌性の、マイコバクテリア属の、真菌性のおよび寄生性の細菌を包含する。大部分は、表皮の表層および毛包の上部に見られる。皮膚の微生物叢は、通常、非病原性であり、片利共生性であるか、または共利性のどちらか一方である。このような微生物がもたらし得る恩恵は、栄養素を奪い合い、栄養素に対する化学物質の分泌、または皮膚の免疫系の刺激のいずれかによって、一過性の病原性生物が皮膚表面にコロニーを形成することを防止することを含む。
【0026】
皮膚の微生物叢「を回復するまたは再バランスさせる」とは、皮膚の健康を促すおよび/または健常な皮膚に対応する、微生物分布のバランスが得られるよう、微生物の多様性を回復することを意味する。本発明の文脈において、吹き出物が出やすい皮膚、ざ瘡が起こりやすい皮膚またはざ瘡性皮膚における「マイクロバイオームを回復するまたは再バランスさせる」、または「C.アクネス分布を回復するまたは再バランスさせる」は、皮膚表面のざ瘡性C.アクネス株の存在量を低下させることを意味する。一部の実施形態では、例えば、それは、非ざ瘡株の存在量を増加させることによって、皮膚表面の非ざ瘡株を促進することも包含する。一部のさらなる実施形態では、「C.アクネス分布を回復するまたは再バランスさせる」は、本発明のポリリシンデンドリマーが、健常な皮膚のマイクロバイオドームのC.アクネス集団に、例えば、対象における健常な皮膚領域のC.アクネス集団に近い、またはそれに類似したC.アクネス集団が得られるよう、処置された皮膚領域表面のC.アクネスのバイオマス密度を調節すると同時に、C.アクネスの多様性を促進することが可能であることを意味する。施用された組成物または活性成分は、非病原性の片利共生性菌株、特にC.アクネスの非病原性の片利共生性菌株に対して大きな致死作用を発揮しないということも包含することができる。
【0027】
「ざ瘡株の存在量の低下」という表現は、対象の皮膚の、例えば対象の顔面領域の所定領域に存在するC.アクネス細菌の総量に比較して、ざ瘡性C.アクネス株に属する細菌の量/割合が低下することを意味する。
「非ざ瘡株の存在量の増加」という表現は、対象の皮膚の、例えば対象の顔面領域の所定領域に存在するC.アクネス細菌の総量に比較して、非ざ瘡性C.アクネス株に属する細菌の量/割合が増加することを意味する。
株の存在量/割合の有意な増加/低下は、処置前に決定されたその存在量の少なくとも1%、2%、3%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%または45%などの少なくとも0.1%の変化を指す。
C.アクネス株の存在量は、目的の皮膚領域(aera)からのスワブに対して行う、メタゲノミクスによって、実施例8に示されている通りに決定することができる。
【0028】
本明細書で使用する場合、「マイクロバイオームの多様性を増大させる」とは、皮膚表面に存在する様々な菌株の数を増加させることを意味する。より正確には、「C.アクネスに関する多様性の増大」は、皮膚表面の非ざ瘡性株の数および/または存在量が増加することを意味する。
本明細書で使用する場合、「ざ瘡が起こりやすい皮膚または吹き出物が出やすい皮膚を管理する」とは、ざ瘡が起こりやすい皮膚または吹き出物が出やすい皮膚の目視による外観が改善されたこと、例えば、皮膚は、脂性の外観をそれほど有さない、かつ/または吹き出物およびニキビが少なくなったこともしくは軽減したことを示すこと、かつ/または吹き出物がそれほど見えないこと、かつ/または皮膚が本発明の処置により吹き出物を示す傾向が小さくなることを意味する。
表現「予防する」とは、吹き出物、ざ瘡病変またはざ瘡などの、目的の障害の発病を遅延させることまたは予防することを意味することが意図される。
表現「状態を処置する」とは、目的の状態、またはその関連する兆候、例えば、ざ瘡および関連する吹き出物または病変の発症を低下させる、低減する、和らげる、是正する、または減速させることを意味することが意図されている。
【0029】
本明細書で使用する場合、「デンドリマー」は、三次元の高度に規則性のポリマー化合物を構築するため、代々の「世代」において付加される連続層または段階を用いて最初のコア分子から開始する反復連続反応により形成される、高度に分岐した巨大分子化合物である。デンドリマーの調製は、当分野において記載されている(例えば、リシン単位の層に基づく、デンドリマーを記載している、US4,289,872およびUS4,410,688を参照されたい)。
本発明のデンドリマーは、ポリリシンデンドリマー、より好ましくはポリ-L-リシンデンドリグラフトなどのポリ-L-リシンデンドリマーである。
【0030】
従来のデンドリマーのように、世代ベースのスキーム中のグラフトしたデンドリマー(本明細書において、デンドリグラフトとも称される)の調製は、重合工程と組み合わせた保護基操作、すなわち、保護、モノマー重合および脱保護というサイクル(いわゆる、"grafting from" method; Klok & Rodriguez Hernandez (2002) Macromolecules 35:8718-23)、または保護、縮合および脱保護というサイクルでABnビルディングブロックとして、分子化合物の代わり事前形成されたポリマーを使用する(いわゆる、"grafting onto" method; Teertstra & Gauthier (2004) Prog. Polym. Sci. 29:277-327)ことのどちらか一方によるものを含む。G2デンドリマーは、もやは単分子化合物ではないので、デンドリグラフトポリマーは、従来のデンドリマーほど制御された構造を有していないが(例えば、US4,289,872に記載されている通りである)、通常、超分岐ポリマーに比べると、一層規則正しい構造を有する(例えば、Rodriguez-Hernandez, et al. (2003) Biomacromolecules 4:249-258およびKlok, et al. (2002) Macromolecules 35:8718-8723に記載されている通りである)。それにもかかわらず、その合成手順のため、グラフト化デンドリマーの分子量は、各世代の場合で、デンドリマーの分子量よりも急速に増加する。
【0031】
一部の実施形態では、本発明によるポリリシンデンドリマーは、本明細書において「G2ポリ-L-リシンデンドリグラフト」、「G2デンドリマー」、「グラフト化デンドリマー」、「グラフト化ポリリシンデンドリマー」または「グラフト化ホモポリリシンデンドリマー」、「リシンデンドリグラフト」または「DGL」とも互換的に称される、第2世代(G2)グラフト化ポリリシンデンドリマーである。G2デンドリマーは、C.アクネス増殖を阻害し、抗炎症作用を促進するのに、直鎖状ポリリシンよりも効果的であることが示された。
本発明の方法において使用されるG2デンドリマーは、本明細書に記載されている通り(実施例1)、または例えば、US2008/0206183もしくはCollet, et al. (2010) Chem. Eur. J. 16:2309-16に記載されている通りに調製することができる。
【0032】
ある種の実施形態では、ポリリシンデンドリマー、例えばG2デンドリマーは、30~70個のリシン残基、またはより好ましくは40~60個のリシン残基、または最も好ましくは48個のリシン残基からなるホモポリリシンデンドリグラフトである。ある種の実施形態では、ポリリシンデンドリマーは、G2デンドリマーであり、前記G2デンドリマーは、48個のリシン残基を含む、これからなる、またはこれから本質的になる、ホモポリリシンデンドリグラフトである。好ましくは、本明細書で使用する場合、リシン残基の数は、前記デンドリマーまたはデンドリグラフトの平均重合度(DPn)を指す。
本発明のある種の実施形態では、本発明のデンドリマーは、コンジュゲートされていない。「コンジュゲートされていない」ポリリシンデンドリグラフトまたはデンドリマーとは、通常、治療部分などの医薬物質または農業物質などの別の物質に共有結合により結合されていない、またはこれと会合していないポリリシンデンドリグラフトまたはデンドリマーを指す。言い換えると、本発明のデンドリマーは、リシン以外のいずれの治療部分、医薬品部分または化粧品部分も欠き得る。一部の実施形態では、リシン残基は、本発明のポリリシンデンドリマー中に存在する単一のビルディングブロックである。
【0033】
一部の実施形態では、本発明のポリリシンデンドリマーは、直鎖状ポリリシンコアを含むデンドリグラフトであって、前記コアのリシン残基の1つまたはいくつか(好ましくは全部)の側鎖NH2基(ε-アミノ基)が、ポリリシン部分により置換されている、デンドリグラフトである。例えば、本発明のポリリシンデンドリグラフトは、直鎖状ポリ-L-リシンコア(すなわち、α-ポリ-L-リシン)であって、各リシン残基のε-NH2基が、ポリ-L-リシン部分、好ましくはα-ポリ-L-リシンにより置換されている、直鎖状ポリ-L-リシンコアを含むことができる。直鎖状コアは、長さが2~10個、例えば6~10個のリシン残基、例えば8個のリシン残基を含むことができ、ポリ-L-リシン置換基は、長さが、2~10個、例えば5個などの3~8個のリシン残基を含むことができる。
【0034】
例えば、本発明のポリリシンデンドリグラフトは、式(I):
【化1】
(I)
(式中、nは、2~10の整数、例えば、2、3、4、5、6、7、8または9、好ましくは6、7、8または9、より好ましくは7である)の化合物を含むことができる。
【0035】
[Lys]は、リシン残基を表し、n1は、一緒に連結して、ポリリシン部分、好ましくはα-ポリリシン部分を形成する、リシン部分の数を表す。n1はそれぞれ、2~10、例えば、2、3、4、5、6、7または8、好ましくは3、4、5、6または7、およびさらにより好ましくは4、5または6から独立して選択される整数である。一部の実施形態では、n1はすべて、同じであり、例えば5である。
本発明のデンドリグラフトの平均重合度(DPn)は、42~58、好ましくは46~50、より好ましくは約48である。本明細書で使用する場合、平均重合度(DPn)は、本発明によるポリリシンデンドリマー中のデンドリマー分子1つあたりのリシンモノマーの数平均を表す。
【0036】
一部のまたはさらなる実施形態では、本発明によるデンドリグラフトの質量平均モル質量(Mw)は、7500~10000gmol-1、好ましくは8600gmol-1などの8400~8800gmol-1である。
本発明のG2デンドリマーを含めたポリリシンデンドリマーは、ポリ陽イオン性ポリマーである。本明細書において合成および例示されているG2デンドリマーは、対陰イオンとして、トリフルオロ酢酸陰イオン(TFA)を含むが、この陰イオン性構成成分は、炭酸水素陰イオン、リン酸二水素陰イオン、フッ化物陰イオン、塩化物陰イオン、臭化物陰イオン、ヨウ化物陰イオン、クエン酸陰イオンまたは酢酸陰イオンなどの様々な他の対陰イオンと交換することができる。
【0037】
したがって、本発明は、G2デンドリマーなどのポリリシンデンドリマー、およびその塩を含む。適切な対陰イオンは、酢酸陰イオン、トリフルオロ酢酸陰イオン、塩化物陰イオン、クエン酸陰イオン、リン酸陰イオン、炭酸陰イオンおよびそれらの組合せ、好ましくは酢酸陰イオン、塩化物陰イオン、炭酸陰イオン(carbonated)およびそれらの組合せ、より好ましくは酢酸陰イオンである。
ある種の実施形態では、デンドリマーの対陰イオンは酢酸陰イオンである。実際に、本出願人は、酢酸対陰イオンを有するG2デンドリマーは、塩化物陰イオンまたは炭酸対陰イオンを有するG2デンドリマーよりもin vitroにおいて抗炎症活性が改善されていることを示した:実際に、対陰イオンとして酢酸陰イオンを有するG2デンドリマーにより、真皮線維芽細胞において、in vitroでIL1-α刺激の後にIl-8の生成が一層効率よく達成される。
【0038】
酢酸対陰イオンにおいて、TFA対陰イオンを交換するため、様々な方法が利用可能である。方法の1つは、炭酸水素アンモニウム溶出緩衝液(0.1M)を用いるクロマトグラフィー様式での立体排除支持体(G25)の使用を含む。クロマトグラフィー後、ポリマーを炭酸水素塩緩衝液中で回収し、回転式蒸発器で乾燥し、これにより、炭酸水素対陰イオンを有するポリマーが得られる。この対陰イオンは、次に、酢酸を用いてpH6.5で中和することによって、酢酸陰イオンにより交換することができる。次に、この生成物を凍結乾燥によって乾燥する。代替として、ポリマー溶液を酢酸アンモニウム緩衝液中で透析し、TFA対陰イオンを交換する。さらなる代替として、ポリマーを酢酸陰イオン中で事前に条件を整えた陰イオン交換樹脂に適用する。交換の成績は、19F NMRによって、100進法分析(centesimal analysis)によって、またはLC/MSにおけるTFAイオンを探索することによって確認することができる。
本発明の方法および使用において使用する場合、ポリリシンデンドリマー、例えばG2デンドリマーおよび/またはその塩は、化粧品用組成物、医薬品組成物または皮膚化粧品組成物中に存在する化粧用活性成分として提供され得る。
【0039】
例えば、化粧品組成物は、以下に限定されないが、抗ざ瘡製品、アーバンケア製品、スージングクリーム、角質除去製品、デイリー保護製品、クラリファイイングトナーまたはローション、ピューリファイングクレンザー、吹き出物改善クリームまたはスティック、コンシーラースティックなどを包含する。一部の実施形態では、ポリリシンデンドリマーは、例えば、ざ瘡が起こりやすい皮膚または吹き出物が出やすい皮膚に好適な、非医療用組成物、化粧品組成物または皮膚化粧品組成物に配合される。
したがって、ある種の実施形態では、ポリリシンデンドリマー、例えばG2デンドリマーは、皮膚に局所的または局部に施用される組成物または製剤の構成成分である。ある種の実施形態では、組成物は、洗顔液、トナー、ローション、溶液、ゲル、クリーム、軟膏または発泡体の形態にある。この点で、ポリリシンデンドリマー、例えばG2デンドリマーを含有する製剤または組成物は、局所または局部施用に好適であるか、またはこれらに適合されている。
【0040】
本発明によるポリリシンデンドリマー、例えばG2デンドリマーを含有する組成物は、粘度の高い流体であってもよく、もしくは粘度が中程度に高い流体であってもよく、または噴霧剤またはエアゾールに使用され得るなどの、粘度がそれほど高くない流体であってもよい。組成物は、溶液、懸濁液またはエマルションの形態をとってもよい。組成物は、粉末または顆粒などの固体の形態をとってもよく、これらは、使用前に液体(例えば、水)に添加するよう設計されていてもよい。一部の実施形態では、製剤は、その投与を容易にするため、スポンジ、スワブ、ブラシ、パッド、ティッシュ、布、ワイプ、皮膚用パッチまたはドレッシング材(これは、包帯、プラスター、皮膚粘着剤、または組織表面に施用するよう設計されている他の物質を含む)などの担体に施用されてもよい。
本発明による組成物は、医薬品(これは、獣医学的なものを含むが、好ましくはヒトである)使用のため、および/または化粧品用、皮膚化粧品用もしくは他の非医療看護目的(例えば、皮膚をクレンジングするため、または皮膚の外観、感触または匂いを改善するため)のために意図されてもよい。
本発明による組成物は、局所製剤における使用が知られている賦形剤および他の添加物を含有してもよい。局所または局部施用に設計されている製剤中で使用するのに好適な賦形剤は、当業者に周知であろう。含まれるものは、製剤を施用する意図される様式および部位に依存する。皮膚への局所施用向けの製剤に関しては、例は、例えば、Williams' Transdermal and Topical Drug Delivery (Pharmaceutical Press, 2003)および他の類似の参照本に見出すことができる。Date, et al. ((2006) Skin Pharmacol. Physiol. 19(1):2-16) for a review of topical delivery strategies、やはりまたSkin Delivery Systems (2006) John J Wille, Ed, Blackwell Publishingも参照されたい。
【0041】
使用される賦形剤は、例えば、送達の所望部位および/または時間を目標とするため、投与の意図される部位において、組成物、または組成物の構成成分の標的化放出または制御放出に好適となり得る。このような賦形剤は、皮膚の領域、例えば、角質層もしくは毛嚢脂腺毛包に、または毛包に組成物を、例えば標的化することができる。賦形剤は、特定の期間にわたり、組成物の放出を遅延させることができるか、またはそうではない場合、放出を制御することができる。
組成物が、皮膚への局所施用が意図されている場合、賦形剤とも称される好適な添加物の例には、希釈剤、充填剤、担体、エモリエント、保湿剤、芳香剤、抗酸化剤、保存剤、安定剤、ゲル化剤および界面活性剤;ならびに/または化粧品分野もしくは医薬品分野において製剤中に一般に使用される他の物質が含まれる。他のものは、Williams' Transdermal and Topical Drug Delivery(上記を参照されたい)に見出すことができる。しかし、ざ瘡の処置の場合、エモリエントを含有しない組成物が好ましいことがある。
【0042】
ポリリシンデンドリマー、例えばG2デンドリマーおよび/またはその塩は、個別にまたは一緒に使用されてもよく、または抗微生物(特に、抗菌)剤または抗炎症剤などの、1種または複数の追加の活性成分と組み合わせて使用されてもよい。追加の活性成分は、1つの単一組成物中でポリリシンデンドリマーと一緒にされてもよく、または異なる経路によるものを含めて(例えば、経口経路による)、個別に投与されてもよい。
一部の実施形態では、前記追加の活性成分およびポリリシンデンドリマーは、同一組成物内に一緒にされる。
例えば、前記製剤は、抗ざ瘡剤、乳酸などの角質溶解薬、面皰改善剤(comedolytics)、ケラチノサイトおよび/または脂腺細胞機能を正常化することが可能な薬剤、リコカルコンAおよびシンキョウカンゾウ(Glycyrrhiza Inflata)エキスなどの抗炎症剤、抗増殖剤、抗生物質、抗アンドロゲン薬、皮脂低減剤/皮脂抑制剤(皮脂調節因子としても知られている)(例えば、レモンマートル(Backhousia citriodoraの天然エキス)、抗かゆみ剤、免疫調節剤、抗刺激物または消炎剤(例えば、ヤナギラン(Epilobium angustifolium)のエキス)、創傷治癒を促進する薬剤、日焼け防止剤、美白剤、抗エージング物質およびそれらの混合物から選択される、1種または複数の薬剤を含有することができる。
【0043】
例えば、抗ざ瘡剤は、以下に限定されないが、ビタミンA、レチノイド(アダパレン、トレチノインまたはタザロテンなど)、殺細菌剤(過酸化ベンゾイルおよびデカンジオールなど)、抗生物質(クリンダマイシンまたはエリトロマイシンなど)、アゼライン酸、サリチル酸、抗炎症剤(ダプソンまたはメラレウカ・アルテルニフォリア(Melaleuca alternifolia)(ティーツリー)オイルなど)、およびそれらの組合せ物を包含する。
皮脂調節因子の例として、亜麻リグナン、米粉、グルコン酸亜鉛、サルコシン、シナモン(Cinnamomum zeylanicum)樹皮のエキス、アボカドのエキス、オーストラリアのレモンマートル(Backhousia citriodora)の葉に由来するエキス、ムラサキツメキサ(Trifolium Pratense)(クローバー)の花のエキス、およびそれらの組合せ物を言及することができる。
抗赤み剤とは、サポニン、フラボノイド、ルスコゲニン、エスクロシド、およびそれらを含有するエキス、例えば、ラスカスのエキス、やはりまた例えばラベンダーもしくはローズマリーのある種のエッセンシャルオイルを言及することができる。
【0044】
消炎剤の例として、アラントイン、アロエ、キンセンカ(Calendula officinalis)、カバノキ(例えば、シラカバ(Betula alba))、ヤナギソウ(ヤナギラン(Epilobium angustifolium))、タスマニア・ペッパー(Tasmania Pepper)(例えば、タスマニア・ランセオラタ(Tasmania Lanceolata)、クリ(例えば、ヨーロッパグリ(Castenea sativa))、コーンフラワー(例えば、ヤグルマギク(Centaurea cyanus))、センテラ(例えば、ツボクサ(Centella asiatica))、スギナ(例えば、スギナ(Equisetum arvense))、フェンネル(例えば、ウイキョウ(Foeniculum vulgare))、一般的なウィッチヘイゼル(例えば、ハマメリス(Hamamelis virginiana))、ツタ(例えば、セイヨウキヅタ(Hedera helix))、ローゼル(Habiscus sabdariffa)、ユリ(例えば、マドンナリリー(Lilium candidum))、ウスベニアオイ(例えば、ウスベニアオイ(Malva sylvestris))、レモンバーム(例えば、レモンバーム(Melissa officinalis))、タツナミソウ(例えば、コガネバナ(Scutellaria baicalensis))、ミモザ(例えば、ミモザ・テヌイフロラ(Mimosa tenuiflora))、キジムシロ(例えば、ポテンティラ・エレクタ(Potentilla erecta))のエキス、極限微生物(例えば、アルテロモナス・フェルメント(Alteromonas ferment))に由来するエキソ多糖のエキス、オリゴ糖(複数または単数)、例えば亜麻のエキス、ペプチド(パルミトイルトリペプチド-8など)、およびそれらの組合せ物を言及することができる。
【0045】
例えば、ポリリシンデンドリマーは、組成物中に存在してもよい。前記化粧品組成物は、1種または複数の賦形剤を含むことができ、化粧作用もしくは医薬作用を有する1種または複数の追加の活性剤を含んでもよい。
一部の実施形態では、組成物中に存在する追加の活性剤は、化粧用活性成分である。
「化粧用活性剤」という表現は、皮膚表面に少なくとも1つ化粧作用を発揮することが可能な化合物を指す。用語「化粧作用」は、皮膚の外観もしくは感触を改変および/または改善すること、外部攻撃(太陽、風、湿気、乾燥、化学製品)から皮膚を保護すること、あるいは加齢もしくは思春期に関連する現象を予防および/または矯正することを目的とする任意の非治療作用を意味することが意図されている。
通常、前記組成物は、以下:
- 0.1~100ppmの本発明のポリリシンデンドリマー
- 0%~20%の1種または複数の追加の活性剤、および
- 70%~99.9999%の1種または複数の賦形剤
を含み、
百分率は、該組成物の総質量に対する質量基準で表される。
【0046】
好ましくは、前記組成物は、化粧品組成物または皮膚化粧品組成物である。
一部の実施形態では、ポリリシンデンドリマー、例えばG2デンドリマーは、抗微生物剤および/または抗炎症剤と相乗的に組み合わせて使用され、これにより、類似作用または改善作用を実現するために、薬剤の一方または両方の投与量の減量が可能となる。これにより、一層少用量の使用が可能となり、したがって、毒性の潜在的な出現率が低下して、高価な抗微生物剤の費用が下がると思われる。
この状況では、追加の抗微生物剤は、殺生物剤、消毒剤、防腐剤、抗生物質、バクテリオファージ、酵素、抗アドヘシン(anti-adhesin)、免疫グロブリン、抗微生物として活性な抗酸化剤およびそれらの混合物から選択することができる。それは、特に、プロピオン酸菌属に対する殺微生物剤として活性なことがある。ある種の実施形態では、抗微生物剤は、ペニシリン、セファロスポリン、カルバセフェム セファマイシン、カルバペネム、モノバクタム、アミノグリコシド、グリコペプチド、キノロン、テトラサイクリン、マクロライドまたはフルオロキノロンなどの抗生物質である。具体的な抗生剤の例には、以下に限定されないが、ペニシリンG、メチシリン、ナフシリン、オキサシリン、クロキサシリン、ジクロキサシリン、アンピシリン、アモキシシリン、チカルシリン、カルベニシリン、メズロシリン、アズロシリン、ピペラシリン、イミペネム、アズトレオナム、セファロチン、セファゾリン、セファクロル、セファマンドールギ酸ナトリウム、セホキシチン、セフロキシム、セフォニシド、セフィネタゾール、セフォテタン、セフプロジル、ロラカルベフ、セフェタメト、セフォペラゾン、セフォタキシム、セフリゾキシム、セフトリアキソン、セフタジジム、セフェピム、セフィキシム、セフポドキシム、セフスロジン、フレロキサシン、ナリジクス酸、ノルフロキサシンシプロフロキサシン、オフロキサシン、エノキサシン、ロメフロキサシン、シノキサシン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、テトラサイクリン、アミカシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネチルマイシン、トブラマイシン、ストレプトマイシン、アジスロマイシン、クラリスロマイシン、エリトロマイシン、エリトロマイシンエストレート、エリトロマイシンコハク酸エチル、エリトロマイシングルコヘプトン酸塩、エリトロマイシンラクトビオン酸塩、エリトロマイシンステアリン酸塩、バンコマイシン、テイコプラニン、クロラムフェニコール、クリンダマイシン、トリメトプリム、スルファメトキサゾール、ニトロフラントイン、リファンピン、ムピロシン、メトロニダゾール、セファレキシン、ロキシスロマイシン、コアモキシクラブアネート(Co-amoxiclavuanate)、ピペラシリンとタゾバクタムとの組合せ物、およびそれらの様々な塩、酸、塩基および他の誘導体、ならびにそれらの組合せ物が含まれる。
【0047】
ポリリシンデンドリマー、例えばG2デンドリマーおよび/またはその塩はまた、抗真菌剤と組み合わせて使用されてもよい。例示的な抗真菌剤には、以下に限定されないが、テルビナフィン塩酸塩、ナイスタチン、アムホテリシンB、グリセオフルビン、ケトコナゾール、ミコナゾール硝酸塩、フルシトシン、フルコナゾール、イトラコナゾール、クロトリマゾール、安息香酸、サリチル酸およびセレンスルフィドが含まれる。
ポリリシンデンドリマー、例えばG2デンドリマーおよび/またはその塩はまた、抗ウイルス剤と組み合わせて使用されてもよい。例示的な抗ウイルス剤には、以下に限定されないが、アマンタジン塩酸塩、リマンタジン、アシクロビル、ファムシクロビル、ホスカルネット、ガンシクロビルナトリウム、イドクスウリジン、リバビリン、ソリブジン、トリフルオリジン、バラシクロビル、ビダラビン、ジダノシン、スタブジン、ザルシタビン、ジドブジン、インターフェロンアルファおよびエドクスジンが含まれる。
【0048】
ポリリシンデンドリマー、例えばG2デンドリマーおよび/またはその塩はまた、抗寄生虫剤と組み合わせて使用されてもよい。例示的な抗寄生虫剤には、以下に限定されないが、ピレトリン/ピペロニルブトキシド、ペルメトリン、ヨードキノール、メトロニダゾール、ジエチルカルバマジンクエン酸塩、ピペラジン、パモ酸ピランテル、メベンダゾール、チアベンダゾール、プラジカンテル、アルベンダゾール、プログアニル、グルコン酸キニジン注射、キニーネ硫酸塩、リン酸クロロキン、メフロキン塩酸塩、プリマキンリン酸塩、アトバクオン、コトリモキサゾール(スルファメトキサゾール/トリメトプリム)およびペンタミジンイセチオン酸塩が含まれる。
【0049】
上で明記されている通り、ポリリシンデンドリマー、例えばG2デンドリマーおよび/またはその塩は、他の公知の抗炎症剤と相乗的に組み合わせて使用されることがある。抗炎症剤には、非限定的に、コルチコステロイド(例えば、ヒドロコルチゾン、トリアムシノロン)、非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)(例えば、ナブメトン、インドメチシン(indomethicin)、ナプロキセン、イブプロフェン)、抗炎症性サイトカイン(例えば、IL-4、IL-10、IL-13)、サイトカインアンタゴニスト(例えば、IL-1受容体アンタゴニスト、TNF-αモノクローナル抗体、可溶性TNF受容体、血小板因子4)などが含まれる。例えば、US6,190,691;US5,776,892;US4,816,449;およびUS RE37,263も参照されたい。
【0050】
本発明の方法において使用する製剤は、化粧品;スキンケア調製物(例えば、皮膚洗顔液、トナーまたは保湿液)、デオドラントまたは発汗抑制剤;クレンジング調製物(例えば、フェイシャルウォッシュ);医薬調製物(これは、獣医学的調製物を含む);薬用化粧品調製物;トイレタリー製品(例えば、浴室用添加物もしくはシャワー用添加物、または石鹸)に配合されてもよく、したがって、これらの形態で施用され得る。製剤は、皮膚洗顔液、または特にリーブオン皮膚処置製品などの洗い流し用皮膚処置製品であってもよく、またはこれらに組み込まれてもよい。
本明細書に記載されている通り、ポリリシンデンドリマー、例えばG2デンドリマーおよび/またはその塩は、抗菌活性を示し、ある種のC.アクネス株の皮膚細胞への粘着を低下させる。したがって、本発明の一態様は、処置を必要とする対象の皮膚に、非コンジュゲートポリ-L-リシンデンドリグラフトおよび/またはその塩を含有する抗菌剤として有効な量の組成物を施用することによって、尋常性ざ瘡を処置する方法である。
【0051】
本明細書で使用する場合、「抗菌活性な」とは、C.アクネス、好ましくはざ瘡性C.アクネス株の成長および増殖を予防または低減することが可能な活性剤を指す。
上記の通り、「ざ瘡」または「尋常性ざ瘡」は、丘疹、膿疱、結節、ならびに開放面皰および閉鎖面皰などの、様々な炎症および非炎症病変を特徴とする、顔面および上幹の毛嚢脂腺毛包の多因子性疾患である。したがって、その処置は、これらの症状のいずれかの処置(この処置は、予防または軽減を包含する)を包含することができ、したがって、抗ざ瘡剤として使用していることに言及していると解釈されてもい。特に、ざ瘡の処置は、ざ瘡に関連する病変の処置(予防を含む)を包含する。処置は、ざ瘡またはその症状を引き起こし得るか、または他には、それらに関連するプロピン酸菌属の活性の阻害も包含する。本発明の文脈では、処置は、特に、炎症したざ瘡病変の処置とすることができる。
ざ瘡の処置は、ヒトまたは動物のどちらかであるが、特にヒトにおける、治療的処置および予防処置の両方を包含する。処置は、状態の完全または部分根絶、状態の関連症状の除去または改善、状態のその後の発症の抑止、および/または状態のその後の発生の予防もしくはそのリスクの低減を含むことができる。処置は、本明細書に記載されている通り、非コンジュゲートG2デンドリマーおよび/またはその塩の使用を特に含む。ある種の実施形態では、方法は、顔の皮膚に存在するC.アクネスに関連する尋常性ざ瘡の処置を包含する。
【0052】
本発明の別の態様は、処置を必要とする対象の皮膚に、非コンジュゲートポリ-L-リシンデンドリグラフトおよび/またはその塩を含有する組成物を施用することによって、炎症応答を低下する方法を対象とする。ある種の実施形態では、炎症応答は、P.アクネスに応答したIL-8放出またはTLR2過剰発現を含む。IL-8放出量またはTLR2過剰発現量の測定可能な低下は、従来の技法のいずれか、または本明細書において例示されている技法を使用して評価することができる。好ましくは、ポリリシンデンドリマー、例えば非コンジュゲートポリ-L-リシンデンドリグラフトおよび/またはその塩は、非コンジュゲートポリ-L-リシンデンドリグラフトおよび/またはその塩に接触していない皮膚に比べると、IL-8タンパク質生成量および/またはTLR2過剰発現量の少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%または80%の低下を実現する。
本発明のさらなる態様は、処置を必要とする対象の皮膚に、ポリリシンデンドリマー、例えば非コンジュゲートポリ-L-リシンデンドリグラフトおよび/またはその塩を含有する組成物を施用することによって、皮膚細胞の落屑を促進する方法である。落屑は、皮膚の上部層を構成する表皮が常に再生成することに関連する自然現象である。落屑の正常な過程の間に、最上層の角質細胞が、表皮の表面から剥離する。本方法によれば、ポリリシンデンドリマー、例えば非コンジュゲートポリ-L-リシンデンドリグラフトを皮膚の表面に施用すると、落屑が促進される、および/または表皮の再生過程が刺激される。
【0053】
ポリリシンデンドリマー、例えば非コンジュゲートG2デンドリマーおよび/またはその塩を含有する組成物を対象の皮膚に「施用すること」、対象の皮膚へのその「施用」、対象の皮膚に「投与すること」または皮膚へのその「投与」は、該組成物により局所または局部皮膚処置を包含する。ある種の実施形態では、ポリリシンデンドリマー、例えばG2デンドリマーおよび/またはその塩は、対象の顔の皮膚に施用される。
ポリリシンデンドリマー、例えばG2デンドリマーおよび/またはその塩を含有する組成物による処置を必要とする対象は、G2デンドリマーおよび/またはその塩が、利益、例えば抗ざ瘡活性、抗炎症活性または角質溶解活性をもたらす状態を有するリスクのある、この状態に罹患しやすい、またはこの状態を有する対象のいずれも指す。一部の実施形態では、本発明の方法は、10代の若者におけるざ瘡問題の低減、皮膚炎症の軽減、および成人皮膚の外観または感触の改善に特に有用である。
【0054】
ポリリシンデンドリマー、例えば非コンジュゲートG2デンドリマーおよび/またはその塩を含有する組成物の有効量とは、完全であるかまたは部分的であるかに関わらず、1種または複数のざ瘡性C.アクネス株の細菌の成長の測定可能な阻害;炎症応答、例えばC.アクネスに応答したIL-8放出量またはTLR2過剰発現量の測定可能な低下;および/または皮膚細胞の測定可能な落屑をもたらす量を指すことができる。有効量はまた、ざ瘡性の皮膚もしくはざ瘡の起こりやすい皮膚における吹き出物を改善または処置することが可能な量も指す。
ポリリシンデンドリマー、例えば非コンジュゲートG2デンドリマーおよび/またはその塩を含有する組成物の有効量は、ポリリシンデンドリマー、例えば非コンジュゲートG2デンドリマーおよび/またはその塩を約0.01ppm~約100ppm、またはより好ましくは約0.1ppm~50ppm、または最も好ましくは約1ppm~10ppmの間を含む。
ある種の態様では、本発明の組成物の使用は、非治療的目的である。本態様によれば、組成物は、非治療的目的のため、例えば、皮膚、特に顔の皮膚の外観または感触を改善するためなどの化粧目的のために、抗ざ瘡/抗炎症、または特に皮膚ケア剤として使用される。
【実施例
【0055】
本発明は、以下の非限定例によって、一層詳細に記載されている。
(実施例1)DGL G2の合成
ポリ(L-リシン)の第1世代の合成は、3工程の順序によって行った(スキーム1)。
【化2】
【0056】
Ne-トリフルオロアセチル-L-リシンのN-カルバモイル化により、C-Lys(Tfa)を得た。アセトニトリル中のC-Lys(Tfa)のNO媒介性ニトロ化により、モノマーLys(Tfa)-NCAが得られ、これを、次に、水性炭酸水素ナトリウム(pH6.5)中で反応させて、Ne保護オリゴ(L-リシン)G1Pが得られた。ニトロソ化および重縮合工程のどちらもNCA中間体を単離することなくワンポットで行い、生じたポリマーG1Pが反応媒体から自発的に沈殿した。G1Pポリマーをろ過によって単離し、ε-アミノ基をメタノール/水中、アンモニアによるG1Pのアルカリ処理によって脱保護した。脱保護により、C-Lys(Tfa)から50~60%の総収率で、約8のDPnを有するオリゴ(L-リシン)G1が得られた。
続いて、デンドリマー状物質を多世代順序で、上記の反応順序を実施することによって調製した(スキーム1)。ポリ(L-リシン)G1(30%w/w;モノマー単位で0.36当量)の存在下、水性NaHCO3中、粗製Lys(Tfa)-NCAを反応させると、ポリマーG2Pは、反応媒体から自発的に沈殿し、これは、単離後、アルカリNe-脱保護を受けて、約48のDPnおよびC-Lys(Tfa)から36%の総収率でポリ(L-リシン)G2が得られた。続いて、イオン交換を行い、トリフルオロ酢酸塩を酢酸塩に変換した。
【0057】
(実施例2)G2デンドリマーによるC.アクネスの阻害
培養物中のC.アクネスの成長を阻害するG2デンドリマーの有効性を評価した。G2デンドリマーは、10-2M~10-5Mの間の範囲の最終濃度で使用した。実験は、ざ瘡を引き起こすことが知られている株である、C.アクネス株IP53117T(フランス特許出願公開第2844715号)を参照されたい)を使用して行った。この株は、ファイロタイプ1A1に由来するリボタイプ1(RT1)に属し、したがって、ざ瘡株である。
ある範囲のG2デンドリマー濃度を含有する96ウェルプレート中、細菌(108CFU/ml)を接種した。MIC(最小発育阻止濃度)は、37℃で24~48時間、インキュベートした後、目視可能な成長のない最低濃度でとして目視で定義した。この解析は、2つの個別の実験結果に基づき、C.アクネス株IP53117Tに対するG2デンドリマーのMICが、1.6~2.3×10-5M(10~20ppm)となることを示した。したがって、G2デンドリマーは、試験したざ瘡性C.アクネス株に対する成長を有意に阻害し、したがって、高用量(20ppm)で殺細菌作用を示す。
【0058】
(実施例3)ケラチノサイト培養物中のC.アクネス接着に及ぼすG2デンドリマーの効果
尋常性ざ瘡の初期段階は、皮膚表面の細菌の定着、すなわちコロニー形成である。コロニー形成は、細菌の接着に依存する。したがって、G2デンドリマーは、培養物中のざ瘡性C.アクネス株のケラチノサイトへの接着を阻害することができることかどうかを判定した。
ケラチノサイトは、ヒト上皮細胞系NCTC2544から分離した(Neufahrt, et al. (1978) Arch. Dermaol. Res. 256(3):255-60)。培養物は、10%ウシ胎児血清、1%抗生物質(ペニシリン/ストレプトマイシン)および1%のL-グルタミンを含有するダルベッコの改変イーグル培地(DMEM)を用いて、5%CO2および95%湿度の下、37℃に維持した。
細菌の接着をモニタリングするため、IP53117T菌株(ざ瘡性ファイロタイプIA1に属する)のアデニンをトリチウムにより標識し、放射活性を計数することによってケラチノサイトの表面への細菌接着を判定した。
【0059】
方法1。標識細菌(2x108微生物/mL)を、様々な量のG2デンドリマー(10-5M~6.25×10-6Mの間の最終濃度)と一緒にし、ケラチノサイトの単層の表面に堆積させた。2時間(37℃、5%CO2)のインキュベート後、細胞をリン酸緩衝液生理食塩水(PBS)により洗浄し、非接着細胞を除去した。
方法2。ケラチノサイトは、G2デンドリマーにより24時間、事前処理した。次に、G2デンドリマーを事前除去することなく、標識細菌(2x108微生物/mL)を細胞単層に2時間、加えた。
この分析の結果は、2時間後に、デンドリマーは、G2デンドリマーの非存在下でのC.アクネスの接着に比べて、10-5M、5×0-6Mおよび2.5×10-6Mにおいて、それぞれ、50%、40%および29%、ケラチノサイト表面へのC.アクネスの接着を阻害したことを示した。G2デンドリマーは、24時間の事前処理後に、G2デンドリマーの非存在下でのC.アクネスの接着に比べて、10-5M、5×10-6Mおよび2.5×10-6Mにおいて、それぞれ、50%、51%および35%、ケラチノサイト表面へのC.アクネスの接着を阻害した。これらの2つのアッセイ(同時または前処理)の結果に基づくと、G2デンドリマーは、強力な抗接着活性を示すことが示された。したがって、G2デンドリマーは、すなわち、ざ瘡株による過度の細菌接着またはコロニー形成を防止することによる、尋常性ざ瘡の初期段階の遮断に有用である。
【0060】
(実施例4)正常ヒト真皮線維芽細胞における炎症に及ぼすG2デンドリマーの効果
C.アクネスが炎症応答の誘発に関与している証拠が存在する。特に、C.アクネスによるToll様受容体2(TLR2)の刺激は、インターロイキン8および12(IL-8およびIL-12)濃度の増大をもたらすことが示されている(Kim, et al. (2002) J. Immunol. 169(3):1535-41)。したがって、正常なヒト真皮線維芽細胞(NHDF)における炎症に及ぼすG2デンドリマーの効果を評価した。NHDFを、ヒト真皮から単離し、10%ウシ胎児血清、1%抗生物質(ペニシリン/ストレプトマイシン)および1%L-グルタミンを含有するDMEM中、5%CO2および95%湿度の下、37℃に維持した。
IL-8は、好中球および他の免疫細胞の動員により、皮膚における炎症反応を媒介して損傷組織または炎症組織に進入する。IL-8分泌は、炎症誘発性サイトカインIL-1αによる活性化の後に、培養したヒト真皮線維芽細胞において誘発可能である(Larsen, et al. (1989) Immunology 68(1):31-6)。したがって、非コンフルエントNHDF細胞を、G2デンドリマー(10-9M、10-8M、10-7Mまたは10-6M)の存在下または非存在下、IL-8生成の誘発因子としてIL1-α(0.1ng/mL)により、またはポジティブ抗炎症対照としてヒドロコルチゾン(0.05μg/mL)により処理した。線維芽細胞からのIL-8放出量は、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)によって決定した。
この分析の結果(図1)は、ヒドロコルチゾンによりIL-8生成量が83%低下したことを示している。G2デンドリマーは、同じ実験条件下では、IL1-αが誘発するIL-8生成量を66~81%低下させた。したがって、G2デンドリマーは、C.アクネスのコロニー形成に関連することが知られているヒト真皮線維芽細胞における炎症カスケードを弱化することができる。
【0061】
(実施例5)ヒト皮膚外植片におけるG2デンドリマーの抗ざ瘡活性および角質溶解活性
G2デンドリマーの抗ざ瘡活性および角質溶解活性を実証するために、ヒト皮膚外植片に凍結乾燥P.アクネス(C.アクネス株IP53117T-RT1-ファイロタイプIA1)に曝露させて、in vivoのざ瘡をex vivoで刺激した。
皮膚処置。美容整形手術を受けた患者から15個のヒト皮膚試験体を得た(白人の女性、26歳)。皮膚の外植片を8日間、培養物中で維持した。G2デンドリマー(2ppmおよび5ppm)による1時間の処置を、0、1、4および6日目に凍結乾燥したC.アクネス(30μL)の施用と同時に行った(図2)。8日目に、外植片をパラフィンに固定して埋包した。5μmの厚い切片をマッソントリクローム染色または抗TLR2抗体により染色した。
【0062】
角質溶解作用の評価。外植片の一般的な幾何形状、および特に角質層を分析した。画像は、アクイジションおよびアーカイブソフトウェアLeica IM1000によって駆動したデジタルカメラ(tri-CCD)を装備したLeica Orthoplan顕微鏡で撮影した。
TLR2の免疫染色。TLR2は、ざ瘡への皮膚の炎症応答を媒介することが知られている(Kim, et al. (2002) J. Immunol. 169(3):1535-41; McInturff & Kim (2005) Semin. Cutan. Med. Surg. 24(2):73-8)。したがって、凍結切片におけるTLR2タンパク質を抗TLR2(クローンTL2.1;Santa Cruz)により評価した。切片を抗TLR2抗体の1:25希釈物と共に、一晩、4℃でインキュベートし、続いて、抗体の結合をビオチン/ストレプトアビジン-FITCコンジュゲートで検出した。核をヨウ化プロピジウムで染色した。
IL1-αサイトカインの定量。培養培地中のIL1-αの濃度は、ELISAアッセイ キット(Cayman、Ann Arbor、MI)を使用して決定した。吸光度は、Magellanのソフトウェアと組み合わせたマイクロプレートリーダーTecan Infinite M200 Proを使用して測定した。
【0063】
結果。2ppmのG2デンドリマーの局所施用により、角質層の上層部の中度の分離が誘発され、それより下の層は、さらに積層された状態のままであった。比較として、5ppmのG2デンドリマーを施用すると、より少ない剥離が誘発された。この角質溶解活性の観点から、G2デンドリマーは、皮膚落屑の促進に有用である。
TLR2発現に関すると、2ppmおよび5ppmのG2デンドリマーの局所施用により、C.アクネスにより誘発されるTLR2過剰発現の完全な阻害がもたらされた。
炎症応答を評価するため、IL1-α生成量を定量した(図3)。1日目(D1)に、C.アクネスは、対照条件(すなわち、処理のない外植片)に比べると、IL1-α生成量の有意な上昇を誘発しなかった。さらに、G2デンドリマーは、C.アクネスによる処理に比べると、1日目に、2ppmおよび5ppmにおいてそれぞれ、49%および42%、IL1-αの生成量を有意に低下させた。生存の4日後(D4)、IL1-αの放出量は、対照条件では53%有意に低下した。さらに、C.アクネスによる処理と比較すると、2ppmおよび5ppmのG2デンドリマーは、4日目に、IL1-α生成量の低下をもたらした(それぞれ、28%および27%)。したがって、G2デンドリマーは、C.アクネスの成長を低下させて、最適な皮膚保護のための免疫および炎症カスケードを弱め、角質溶解作用をもたらす。
【0064】
(実施例6)G2デンドリマーは、C.アクネスのファイロタイプIA1に属するC.アクネス株において、膜流動性を選択的に増大させる。
クチバクテリウム・アクネスの3種の菌株の膜流動性に及ぼすG2デンドリマーの影響を試験した。C.アクネスの試験株の2つは、ファイロタイプIA1(RT4およびRT5)に属する「ざ瘡性」株である一方、最後の1つは、ファイロタイプIIに属する非ざ瘡株(RT6)である。
RT4、RT5およびRT6(C.アクネス株)のいくつかのコロニーを壊して、強化したクロストリジウム培地(RMC培地)に置いた。管を数秒間、ボルテックスして均一にした後、嫌気状態を生成するため、RMCで完全に満たした。次に、これらの管を少なくとも48時間、37℃でインキュベートした。
細菌培養物を採集し、ODを580nmにおいて測定した。接種後、細菌をマイクロプレートに送り、G2デンドリマーで処理したか、または処理しなかった。嫌気性チャンバ中で2時間後に、これらのプレートを72時間、マイクロプレートリーダーに移送した(30分毎にOD580nmで測定した)。
【0065】
次に、細菌の生成時間を各C.アクネス株について分析した。G2デンドリマーは、以下の濃度で試験した:6.10-6Mおよび6.10-7M。
- 結果
これらの結果が図4に示されている。72時間のインキュベート後、G2デンドリマー(6.10-6M)により、対照と比較すると、ざ瘡株RT4およびRT5の膜の剛性が有意に低下した。留意すべきことに、G2デンドリマーは、6.10-6Mでは、RT6株に対して何ら有意な効果を示さない。言い換えると、G2デンドリマーは、非ざ瘡株(RT6)と比べて、ざ瘡株RT4およびRT5における膜流動性に対して特異的な効果を示す。
膜流動性のこのような増大は、ざ瘡性ファイロタイプIA1のざ瘡株の細菌膜を不安定化することが期待され、したがって、上記の株の成長を制限すると同時に、ファイロタイプIIの非ざ瘡性ファイロタイプ株を維持して、それを促進さえする。
【0066】
(実施例7)ざ瘡株のバイオフィルム形成に及ぼすG2デンドリマーの効果
- プロトコル
菌株および細菌培養
クチバクテリウム・アクネスざ瘡株であるリボタイプ5(RT5)HL043PA2/HM-514およびクチバクテリウム・アクネス非ざ瘡株であるリボタイプ6(RT6)HL110PA3/HM-554を、BEI Resourcesアメリカンタイプカルチャーコレクション(Virginia、米国)から取得した。これらの2つの株は、それぞれ、ファイロタイプIA1およびIIに属する(McDowell、2017年)。-80℃で保管した細菌を、RT6株の場合、ブレインハートインフュージョン(BHI、BD)寒天プレートに、RT5株の場合、強化クロストリジウム培地(RCM)寒天プレートに最初にプレート培養し、BD GasPack(商標)システムを使用して、37℃で無酸素条件下でインキュベートした。12mlのRCMを含有する滅菌した15mLのコニカル管(Falcon)にコロニーを移送し、均一化するためにボルテックス後に、falcon管にRCM培地を完全に充填して、37℃で72時間、インキュベートした。
【0067】
スライドガラス上でのバイオフィルム形成
G2デンドリマーへの曝露の間のクチバクテリウム・アクネスバイオフィルムの形成を評価するため、フラットガラスボトムの24ウェル培養プレートを使用した(Sensoplate、Greiner bio-one、ドイツ)。72時間の細菌培養物(上の段落を参照されたい)を室温で10分間、7,500gで遠心分離した。細菌ペレットを5mlの滅菌生理水(SPW)に再懸濁した。最後に、300μlの細菌接種材料(OD580nm=0.8)を24ウェルの培養プレートの8つの中央ウェルに入れた。細菌の一次接着が有利になるよう、これらのプレートを嫌気性条件で3時間、インキュベートした。このインキュベート期間の後、生理水を各ウェル中で注意深く除去し、G2デンドリマーを補充したまたは補充していない1mlの細菌培養物培地(RCM)を加えた。これらのプレートを嫌気性Whitley A85 Workstationにおいて、37℃で72時間、インキュベートした。
72時間(バイオフィルム形成)後、浮遊細胞を除去するため、RCM培地を各ウェル中で注意深く除去した。次に、300μlのSYTO9緑色蛍光核酸染色剤(Thermofisher)を各ウェルに加え、暗室条件で20分間、インキュベートした。その後、SYTO9染色剤を除去し、300μlのSPWを各ウェルに加えた。63×油浸対物レンズを使用するZeiss LSM710(Carl Zeiss Microscopy、Oberkochen、ドイツ)を用いて、CLSM観察を直ちに行った。Syto9を488nmで励起し、蛍光発光を500~550nmで検出した。画像は、バイオフィルムの深さ全体にマイクロメートル毎に撮影した。三次元(3D)画像の可視化および加工に関しては、Zen2.1 SP1ソフトウェア(Carl Zeiss Microscopy、Oberkochen、ドイツ)を使用した。画像スタックの定量的解析は、COMSTATソフトウェア(http://www.imageanalysis.dk/)(Heydornら、2000年)を使用して行った。バイオフィルム厚さ(μm)の最大値および平均値、ならびにそれらのバイオマス体積(μm3/μm2)を決定した。各検討は、最低3回、繰り返した。
【0068】
- 結果
G2デンドリマーは、RT5(-48%)株とRT6(-32%)株のどちらに対しても、バイオフィルムの厚さを低下させることが示された。留意すべきことに、バイオフィルムの厚さの低下は、非ざ瘡株RT6に対してよりも、ざ瘡株RT5に対する方がかなり重要であった。さらに、図6に示される通り、G2デンドリマーは、RT5(-50%)の場合、バイオフィルムのバイオマス密度を有意に低下させたが、RT6の場合、バイオフィルムのバイオマス密度には影響を及ぼさなかった。
結論として、ポリリシンデンドリマーは、C.アクネスのバイオフィルムを不安定化することによるざ瘡株に対する選択的かつ特異的阻害作用を発揮すると同時に、どの株であろうとも、バイオフィルムの厚さを低下させることによって、C.アクネスのバイオフィルムにより引き金となる炎症応答を軽減することが期待される。この不安定化効果は、バイオマス密度が変化しないままであるので、非ざ瘡株RT6の場合、観察されたかった。
留意すべきことに、このような結果は、ポリリシンデンドリマーが、ざ瘡性RT5株では膜流動性を増大させるが、非ざ瘡性RT6株ではそうではないことを示す実施例6と一致している。
【0069】
(実施例8)臨床的検討
顔面に皮脂が多く、ざ瘡皮膚になりやすい20名の白人対象(50%の対象が14~25歳の間であり、50%の対象が26~40歳の間である)が、2ppmのG2デンドリマーを含有するクリーム(試験クリーム)またはプラセボクリームを28日間、1日2回、顔面の半分に施用した。
試験製剤(G2デンドリマー製剤)は、以下の通りであった:
【表1】

G2デンドリマーは、ざ瘡性病変を低下させて、皮脂排出速度を調節することによって、ざ瘡性皮膚の外観をかなり改善した。
【0070】
プラセボ製剤は、G2デンドリマーを水に置き換えた以外、試験製剤のそれと同様であった。使用して28日後に、施用前(D0)に顔面における病変の数と比べた、面皰が発生する可能性および抗不完全作用を評価した。
- 臨床的な試験:使用して28日後に、施用前(D0)の顔面における病変数と比べて、プラセボに対する試験クリームの面皰が発生する可能性および抗不完全作用を評価した。D0およびD28に、皮膚科医が皮膚を検査して、各登録対象の顔半分のそれぞれにおいて、全体的な炎症性病変、ならびに丘疹および膿疱を計数した。皮膚科医はまた、各患者の顔半分のそれぞれについて、全体的な貯留性病変および黒ニキビの数を決定した。これらの結果が、図5A、5Bおよび5Cに示されている。
- 皮脂レベルの測定:皮膚表面に分泌された皮脂の量を、28日目に、COURAGE and KHAZAKA SM 810 PC Sebumeter(登録商標)を用いて定量的に評価した。これらの結果が図5Dに示されている。
【0071】
結果:
図5A~5Cにおいて例示されている通り、G2デンドリマーを含む試験クリームは、プラセボクリームに比べると、28日間の処置後に、黒ニキビ、貯留性病変および炎症性病変の数を有意に減少させた。さらに、試験クリームはまた、プラセボクリームに比べると、ざ瘡性皮膚による皮脂排出速度を有意に低下させた(図5D)。まとめると、これらのデータは、G2デンドリマーがざ瘡性障害を管理する有効な薬剤となることを実証している。
*G2デンドリマーは、ざ瘡性皮膚の微生物叢を改善する。
28日間の処置後、メタゲノム解析によってC.アクネス株を定量し、プラセボクリームと比べた、C.アクネスの多様性に及ぼす試験クリームの効果を判定するよう、各登録志願者の各顔半分に皮膚のサンプリング(スワブ)を行った。
このメタゲノミクス検討の原理は、クチバクテリウム・アクネスの領域を増幅して、アンプリコンを配列決定することである。アンプリコン配列を、アンプリコン配列をSLSTタイプおよび分岐群、ならびにファイロタイプにリンクさせたSLST参照データベース(http://medbac.dk/slst/pacnes)と比較する。この方法は、修正を伴うScholtzら(Scholz、2014年、上記)の刊行物に基づく。SLSTタイプおよび分岐群およびファイロタイプの存在量および多様性を各試料について計算して比較し、活性製剤により処置した志願者とプラセボ製剤により処置した志願者からなる群間での処置効果を評価した。
【0072】
プロトコル
スワブを凍結し、DNA抽出するまで、-80℃で保管した。DNA抽出および精製は、Qiagen DNeasy PowerSoilキット(カタログ番号12888)を使用して行った。手短に述べると、機械的(ビーズによるたたき)処理と化学的(洗剤)処理とを組み合わせることによって細胞を溶解した。次に、抽出したDNAをシリカ膜上で精製した。
元のクチバクテリウム・アクネスSLST方法(Scholz、2014年、上記)は、Illumina技術を使用して配列決定するには多すぎる、612個の塩基対の領域を増幅する。1つの領域または497個の塩基対を増幅する新規プライマーを設計し、フォワードプライマーには、元よりも下流に74個のヌクレオチドが位置し、リバースは、上流に26個のヌクレオチドが位置する。この修飾は、SLSTタイプA1とA6との間、またはSLSTタイプE3とE7の間の区別はできない。どちらの場合でも、これらのバリアントは、同じ分岐群およびファイロタイプに属する。DNA配列決定は、ペアエンド技術を使用するIllumina Miseqで行った。配列決定処理は、QIIME2スイートを使用して行った(https://qiime2.org/)。品質のフィルタリングを行った後、読み取りペアを重なりによって融合し、クラスター化してキメラ配列を除去した。SLSTタイプは、99%相同性閾値を使用して、クチバクテリウム・アクネスSLST基準データベース(http://medbac.dk/slst/pacnes)に対する配列に割り当てた。
【0073】
データ分析。
入力データ
生データは、トータルサムスケーリング(Total Sum Scaling)(TSS)手順を使用して正規化した。すなわち、所与の試料の場合、各SLST存在量をすべての分類群の存在量の総和により除算する。
群間で統計学的に比較する前に、たった1つの試料において観察されたSLSTタイプを除くことによって、存在量データをさらにフィリタリングした。
希薄化
希薄化曲線(f(配列番号)=SLST番号))は、Past3.20ソフトウェアで描いた(https://palaeo-electronica.org/2001_1/past/issue1_01.htm)。これらの曲線により、配列決定深度が十分(曲線がプラトーに到達する場合)かどうかに関わらず、グラフにより評価することが可能となる。
【0074】
アルファ(α)-多様性。
ShannonおよびSimpson多様性指数は、Past3.20ソフトウェアを使用して計算した。これらの2つのアルファ-多様性尺度を使用して、各試料の分類学的多様性:Shannon、エントロピー様多様性およびSimpson(1-D)多様性を特徴付けた。両方の指数の値は、豊富度(様々な分類群の数)および集団の公平性に依存し、Simpson指数は、豊富な分類群が少ないことによってそれほど影響を受けない。どちらの場合でも、指数は多様性に応じて向上する。SLST(豊富度)の数が示され、これはまた、豊富なSLSTの高低に同じ重みが与えられるというバイアスを伴う、多様性メトリックス指標と見なすことができる。
すべての場合において、SLSTタイプに正規化した存在量データを計算に使用した。
【0075】
存在量の比較。
対のあるStudentパラメトリックT検定、および非パラメトリックウイルコクソンの検定および符号検定を使用して、各レベルにおける株のタイプの存在量を比較した。正規化済みSLSTタイプおよびフィルタリング済み存在量データを計算に使用した。
結果
この検討は、試験した試料のうち、32種のSLSTタイプの特定に至り、すべてが、文献中に記載されているファイロタイプに関係した。
【0076】
ファイロタイプIA1が最も代表的なものであり、SLSTタイプA1が主要なものとして、次いでファイロタイプII、IB、IA2、ICおよびIIIであった。この再割り当ては、試験クリームまたはプラセボクリームにより処置した試料の場合、同じであった。ファイロタイプ再割り当ては、個体(年齢、性別)およびサンプリング領域に応じて様々であった。ファイロタイプIA1は、顔面試料に比べると、背中の試料の大部分に、一層多く存在した。本発明者らの知見は、ファイロタイプIA1は、健常な皮膚よりもざ瘡皮膚において多く存在する一方、ファイロタイプIIは、ざ瘡性皮膚には健常な皮膚ほど多量に存在しないことをさらに示した、Dagnelieら(Dagnelie、2018年、上記)の検討と一致した。
【0077】
図5Eおよび5Fに示されている通り、処置の28日後に、試験クリームによる処置は、プラセボクリームに比べて、株の多様性を増大させた。本発明者らは、とりわけ、男性の対象および少なくとも23歳の対象では、試験組成物による処置によって、プラセボクリームに比べて、ざ瘡性IA1ファイロタイプの存在量の低下、および非ざ瘡性ファイロタイプIIの増加がもたらされたことをさらに認めた。したがって、G2デンドリマーは、非ざ瘡株を促進すると同時に、ざ瘡株を限定することによって、ざ瘡性皮膚におけるC.アクネス集団に対する有益な作用を発揮する。言い換えると、ざ瘡性皮膚およびざ瘡が起こりやすい皮膚において、G2デンドリマーを使用して、C.アクネス集団を再バランスすることができる。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図6A
図6B
図7
【国際調査報告】