(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-07
(54)【発明の名称】CAR遺伝子が導入されたNK細胞の製造方法及びその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0783 20100101AFI20220531BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220531BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20220531BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20220531BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20220531BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20220531BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220531BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20220531BHJP
【FI】
C12N5/0783 ZNA
C12N5/10
C12N15/13
C12N15/12
C12N15/62 Z
A61K35/17 Z
A61P35/00
A61P35/02
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021557871
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(85)【翻訳文提出日】2021-11-08
(86)【国際出願番号】 KR2020004197
(87)【国際公開番号】W WO2020197318
(87)【国際公開日】2020-10-01
(31)【優先権主張番号】10-2019-0036264
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2019-0036265
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】515276624
【氏名又は名称】コリア リサーチ インスティチュート オブ バイオサイエンス アンド バイオテクノロジー
【氏名又は名称原語表記】KOREA RESEARCH INSTITUTE OF BIOSCIENCE AND BIOTECHNOLOGY
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チョ,イー ソク
(72)【発明者】
【氏名】キム,ハン-ソップ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ジェ ユン
(72)【発明者】
【氏名】セオル,ビンナ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA94X
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA02
4B065BB19
4B065BC12
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB37
4C087BB64
4C087BB65
4C087CA04
4C087CA12
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZB02
4C087ZB26
4C087ZB27
(57)【要約】
本発明は、キメラ抗原受容体(Chimeric Antigen Receptor; CAR)をコードするCAR遺伝子が導入されたiNK(induced Natural Killer)細胞の製造方法、上記方法で製造されたiNK細胞、上記iNK細胞を含む癌予防または治療用細胞治療剤組成物及び薬学組成物に関する。
本発明による方法は、初期細胞の制限なしに分離された細胞からCAR遺伝子が導入されたiNK細胞を、直接リプログラミングを通じて高効率で生産することができ、分化工程過程なしに直接生産できることで生産工程が簡素化されることにより費用及び時間が節減される効果がある。従来リプログラミング技術を通じて生産される誘導多能性幹細胞を経由することなく確保が容易なヒト体細胞から直接NK細胞を生産することにより安全性の側面で改善された優れたNK細胞を生産する効果がある。また、上記方法で製造された、CAR遺伝子が導入されたiNK細胞は癌細胞殺傷能に優れるところ、癌予防または治療用細胞治療剤組成物あるいは薬学組成物として有用に活用され得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リプログラミング因子(Reprogramming Factor)及びCAR(Chimeric Antigen Receptor)遺伝子が導入された分離された細胞を、a)成長因子、サイトカイン及びGSK3β(Glycogen Synthase Kinase 3 beta)阻害剤(Inhibitor)を含む第1培地;b)成長因子、サイトカイン及びAHR(Aryl Hydrocarbon Receptor)拮抗剤(Antagonist)を含む第2培地;並びにc)サイトカイン、GSK3β阻害剤及びAHR拮抗剤を含む第3培地で、段階的に培養してNK細胞に直接リプログラミングさせる段階を含む、CAR-iNK(induced Natural Killer)細胞の製造方法。
【請求項2】
上記CAR遺伝子は、上記リプログラミング因子導入の際、上記a)の第1培地で培養時、上記b)の第2培地で培養時又は上記c)の第3培地で培養時から選択されるいずれか一つの時点で上記分離された細胞に導入される、請求項1に記載のCAR-iNK細胞の製造方法。
【請求項3】
上記成長因子は、SCF(Stem Cell Factor)、FLT3(FMS-like Tyrosine Kinase)及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれか一つ以上である、請求項1に記載のCAR-iNK細胞の製造方法。
【請求項4】
上記サイトカインは、IL(Interleukin)-3、IL-6、IL-15、IL-7、IL-2、IL-21、IL-12、IL-18及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれか一つ以上である、請求項1に記載のCAR-iNK細胞の製造方法。
【請求項5】
上記a)の第1培地は、SCF、FLT3、IL-3及びIL-6及びCHIR99021を含む培地である、請求項1に記載のCAR-iNK細胞の製造方法。
【請求項6】
上記b)の第2培地は、SCF、FLT3、IL-15、IL-7、IL-2及びステムレゲニンIを含む培地である、請求項1に記載のCAR-iNK細胞の製造方法。
【請求項7】
上記c)の第3培地は、IL-2、IL-15、IL-21、IL-12、IL-18、CHIR99021及びステムレゲニンIを含む培地である、請求項1に記載のCAR-iNK細胞の製造方法。
【請求項8】
上記a)の第1培地、b)の第2培地又はc)の第3培地は、FBS(Fetal Bovine Serum)、抗生剤及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれか一つ以上をさらに含む、請求項1に記載のCAR-iNK細胞の製造方法。
【請求項9】
リプログラミング因子及びCAR遺伝子が導入された分離された細胞は、上記a)の第1培地で4~7日間培養し、上記b)の第2培地で10~14日間培養した後、c)の第3培地で14日間以上培養する、請求項1に記載のCAR-iNK細胞の製造方法。
【請求項10】
上記リプログラミング因子は、Lin28、Asc11、Pitx3、Nurr1、Lmx1a、Nanog、Oct4、Oct3、Sox2、Klf4、Myc及びこれらの組み合わせからなる群から選択されたいずれか一つ以上である、請求項1に記載のCAR-iNK細胞の製造方法。
【請求項11】
上記リプログラミング因子は、Oct4、Sox2、Klf4及びMycである、請求項10に記載のCAR-iNK細胞の製造方法。
【請求項12】
上記CAR遺伝子は
i)CD8リーダ(Leader)、CD19 scFv、CD8ヒンジ(hinge)、CD8膜貫通ドメイン及びFc-γ受容体を含むCAR遺伝子;
ii)CD8リーダ、CD19 scFv、CD8ヒンジ、CD8膜貫通ドメイン、CD28細胞内ドメイン、CD3ζ及びIRES(Internal Ribosome Entry Site)を含むCAR遺伝子;
iii)CD8リーダ、MSLN(Mesothelin)scFv、CD8ヒンジ、CD8膜貫通ドメイン、CD28細胞内ドメイン、CD3ζ及びIRESを含むCAR遺伝子;並びに
iV)CD8リーダ、HER2(Human Epidermal Growth Factor Receptor 2)scFv、CD8ヒンジ、CD8膜貫通ドメイン、CD28細胞内ドメイン、CD3ζ及びIRESを含むCAR遺伝子;からなる群から選択されるいずれか一つである、請求項1に記載のCAR-iNK細胞の製造方法。
【請求項13】
上記CAR遺伝子は、GFP(Green Fluorescent Protein)をさらに含む、請求項12に記載のCAR-iNK細胞の製造方法。
【請求項14】
上記リプログラミング因子及びCAR遺伝子が導入される分離された細胞は、NK細胞を除く体細胞である、請求項1に記載のCAR-iNK細胞の製造方法。
【請求項15】
上記製造されたCAR-iNK細胞は、CD56+、CD16+、CD3-及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれか一つ以上を発現する、請求項1に記載のCAR-iNK細胞の製造方法。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか一項に記載の方法により製造されたCAR-iNK細胞。
【請求項17】
請求項1~15のいずれか一項に記載の方法により製造されたCAR-iNK細胞を有効成分として含む、癌の予防又は治療用細胞治療剤組成物。
【請求項18】
請求項1~15のいずれか一項に記載の方法により製造されたCAR-iNK細胞を有効成分として含む、癌の予防又は治療用薬学組成物。
【請求項19】
上記癌はCD19、MSLNまたはHER2からなる群から選択されるいずれか一つ以上の発現と連関した癌である、請求項18に記載の癌の治療用薬学組成物。
【請求項20】
上記CD19、MSLNまたはHER2からなる群から選択されるいずれか一つ以上の発現と連関した癌は、骨髄異形成症、骨髄異形成症候群。前白血病、血液癌、急性白血病、B-細胞急性リンパ性白血病(BALL)、T-細胞急性リンパ性白血病(TALL)、小リンパ球性白血病(SLL)、急性リンパ性白血病(ALL);慢性白血病、慢性骨髄白血病(CML)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、非-ホジキンリンパ腫、リンパ腫、骨髄腫、膵臓癌、胆道癌、肺癌、卵巣癌、乳癌、子宮癌、直腸癌、大腸癌、結腸癌、骨髄癌、肝癌、脳癌、前立腺癌、胃癌、神経膠腫、黒色腫、扁平細胞癌腫、頭頸部癌、腎細胞癌、膠芽腫、髄芽腫、肉腫及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれか一つ以上である、請求項19に記載の癌の治療用薬学組成物。
【請求項21】
上記CD19、MSLNまたはHER2からなる群から選択されるいずれか一つ以上の発現と連関した癌は、血液癌、膵臓癌、前立腺癌、大腸癌、肺癌、肝癌、胃癌、黒色腫及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれか一つ以上である、請求項20に記載の癌の治療用薬学組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キメラ抗原受容体(Chimeric Antigen Receptor; CAR)をコードするCAR遺伝子が導入されたiNK(induced Natural Killer)細胞の製造方法、上記方法で製造されたiNK細胞、上記iNK細胞を含む癌の予防又は治療用細胞治療剤組成物及び薬学組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
NK(Natural Killer)細胞は、ウイルス、バクテリア及び寄生虫の感染と非正常な自己細胞(特に、癌細胞)を即刻認識して除去する体内の1次防御(先天免疫)機能を行う核心先天免疫細胞である。抗原特異的な受容体を発現して標的細胞を認知するT細胞とは異なってNK細胞は抗原に対する特異性及びヒト白血球抗原(HLA)のマッチングなしにキラー免疫グロブリン受容体(Killer Immunoglobulin Receptors; KIR)、自然細胞毒性受容体(Natural Cytotoxicity Receptors; NCR)、DNAM-1(DNAX Accessory Molecule-1)及びNKG2D(NK Group 2 Member D)のような抑制受容体または活性化受容体の均衡、表面MHC(Major Histocompatibility Complex)クラス(Class)I抗原の消失など、ターゲット細胞(特に、癌細胞)の非正常な変化を認知し、接触依存性(Contact-dependent)細胞毒性を有する。
【0003】
具体的には、NK細胞はパーフォリン(Perforin;Prf1)、グランザイムB(Granzyme B; GzmB)、インターフェロン-ガンマ(Interferon-γ; IFN-γ)、インターロイキン(腫瘍壊死因子-アルファ(Tumor Necrosis Factor-α; TNF-α)などのサイトカイン分泌及びアポトーシス誘導受容体(Fas, Tumour Necrosis Factor-related Apoptosis-inducing Ligand; TRAIL)の活性化を通じて直接的に標的癌細胞死滅(Apoptosis)を媒介することにより癌細胞を殺傷することができる。また、Fc受容体-FcRγIIIa(CD16)を発現するNK細胞は抗体依存性細胞傷害(Antibody-dependent Cellular Cytotoxicity; ADCC)を媒介する等、先天免疫だけでなく後天免疫を誘導して直接・間接的に癌細胞を効果的に除去できることが知られている。特に、T細胞とは異なってNK細胞は移植片対宿主病(Graft-versus-host Disease, GVHD)などの副作用を引き起こさず、自己だけではなく、同種抗癌免疫細胞治療剤の開発に利用可能な安全な細胞源として浮上している。
【0004】
現在、ヒトNK細胞は、人体[末梢血液(Peripheral Blood)、骨髄(Bone Marrow)、臍帯血(Umbilical Cord Blood)等)に存在する少量の細胞を一次培養方法を通じて分離、増殖して生産したり、NK細胞への分化能を有する幹細胞[造血幹細胞(Hematopoietic Stem Cells, HSCs)、胚性幹細胞(Embryonic Stem Cells, ESCs)及び誘導多能性幹細胞(induced Pluripotent Stem Cells, iPSCs)]から分化誘導培養を通じてNK細胞を生産する方法などを通じて多次元的に確保可能である。
【0005】
最近、ターゲット癌細胞に対する特異性と活性化を促進し、結果的に抗癌治療効用性を増進するための方法で癌細胞標的キメラ抗原受容体(Chimeric Antigen Receptor; CAR)遺伝子を導入して生産されたT細胞(CAR-T細胞)が血液癌の治療で改善された抗癌効果が立証されながらCAR-免疫細胞治療剤の開発に対する関心が台頭している。しかし、CAR-T細胞により分泌されるインターフェロン(IFN)-γ、腫瘍壊死因子(TNF)-α、インターロイキン(IL)-1及びIL-6因子により誘導されるサイトカイン放出症候群(Cytokine Release Syndrome, CRS)などは克服しなければならない深刻な問題として提示されている。また、CAR-T細胞は固形癌腫瘍微小環境(Tumor Microenvironment, TME)で免疫関門タンパク質PD(Programmed Death Ligand)-1などにより癌細胞毒性作用が抑制されることが知られ、固形癌治療効能を改善するための技術開発が必要である。
【0006】
しかし、NK細胞は、IL-3及び顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(Granulocyte-macrophage Colony-stimulating Factor)を分泌するため、CRSを誘発する可能性が低く[K. Rezvani, R. Rouce, E. Liu et al, Engineering Natural Killer Cells for Cancer Immunotherapy, Mol. Ther., 25 (2017), pp. 1769-1781(非特許文献1)]、NK細胞により分泌されるPD-1水準は、実質的に低く、免疫抑制をほぼ誘発せず、樹状細胞を腫瘍に移動させることにより、抗PD-1免疫療法を向上させることが知られ[K.C. Barry, J. Hsu, M.L. Broz, et al. A Natural Killer-dendritic Cell Axis Defines Checkpoint Therapy-responsive Tumor Microenvironments, Nat. Med., 24 (2018), pp. 1178-1191(非特許文献2)]、CAR-NK開発の優秀性が立証されている。また、CAR-NK細胞治療に対する前臨床及び臨床試験の結果で血液癌及び固形癌細胞を効果的に除去できることが確認され[E.L. Siegler, Y. Zhu, P. Wang, et al. Off-the-shelf CAR-NK Cells for Cancer Immunotherapy, Cell Stem Cell, 23 (2018), pp. 160-161(非特許文献3)]、固形癌を含む広範囲で抗癌免疫細胞治療剤として開発される潜在力が浮上している。
【0007】
上記CAR-NK細胞を製造する方法として癌抗原に特異的なCAR遺伝子を培養増殖が比較的容易な単一NK細胞株(NK-92、iPSC等)に導入し、CRA-発現NK細胞を分離、増幅する方法が主に用いられている。最も多用される一次培養NK-92細胞は悪性非ホジキンリンパ腫(Malignant non-Hodgkin's Lymphoma)患者に由来した細胞に注射後に二次腫瘍形成及びEB(Epstein-Barr)Virus感受性を誘発する潜在力があり、安全性を確保するために臨床適用前に致死照射(Lethal Irradiation)過程が必須であるが、同過程は、CAR-NK-92細胞の生体内生存時間を短縮することにより、結果として抗癌効果が減少する。誘導多能性幹細胞(iPSCs)にCAR遺伝子を導入し、分化誘導してNK細胞を生産する方法は、本質的にCAR-iPSCs工程及び分離増幅過程だけではなく、かなりの時間と費用が要される複雑な分化工程過程を追加で経なければならない問題と腫瘍形成可能性により安全性を確保、維持できる技術開発が必須である。
【0008】
最近、体細胞リプログラミング技術を用いて比較的確保が容易な初期ヒト体細胞からこれと異なる系統の特性を有する高付加価値機能性ヒト組織特異標的細胞を直接生産する技術が急発展している。しかし、今のところ体細胞リプログラミングを通じてiPSCsを経由することなく直接CAR-NK細胞を生産する技術については報告されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】K. Rezvani, R. Rouce, E. Liu et al, Engineering Natural Killer Cells for Cancer Immunotherapy, Mol. Ther., 25 (2017), pp. 1769-1781
【非特許文献2】K.C. Barry, J. Hsu, M.L. Broz, et al. A Natural Killer-dendritic Cell Axis Defines Checkpoint Therapy-responsive Tumor Microenvironments, Nat. Med., 24 (2018), pp. 1178-1191
【非特許文献3】E.L. Siegler, Y. Zhu, P. Wang, et al. Off-the-shelf CAR-NK Cells for Cancer Immunotherapy, Cell Stem Cell, 23 (2018), pp. 160-161
【非特許文献4】Morgan RA, Hum Gene Ther. 2012;23:1043-1053
【非特許文献5】Wilkie S, J Immunol. 2008;180:4901-4909
【非特許文献6】Willemsen RA, Gene Ther. 2001;8:1601-1608
【非特許文献7】Emtage PC, Clin Cancer Res. 2008;14:8112-8122
【非特許文献8】Kakarla S, Cancer J. 2014;20:151-155
【非特許文献9】Karlin及びAltschul, Pro. Natl. Acad. Sci. USA, 90, 5873(1993)
【非特許文献10】Methods Enzymol., 183, 63, 1990
【非特許文献11】J. Sambrook et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 2nd Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York, 1989;
【非特許文献12】F.M. Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは、CAR-NK細胞を効率よく生産する方法を開発すべく鋭意努力した結果、CAR-NK細胞特異的なリプログラミング培地及びリプログラミング培養条件を開発し、これを通じて初期細胞資源の制限なしに分化工程過程に必要ではない方法でヒト体細胞からCAR-NK細胞を製作することができ、生産されたCAR-NK細胞に優れた癌細胞殺傷能を示し、癌の予防又は治療に適用できることを確認し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の目的は、リプログラミング因子(Reprogramming Factor)及びCAR(Chimeric Antigen Receptor)遺伝子が導入された分離された細胞を、a)成長因子、サイトカイン及びGSK3β(Glycogen Synthase Kinase 3 beta)阻害剤(Inhibitor)を含む第1培地;b)成長因子、サイトカイン及びAHR(Aryl Hydrocarbon Receptor)拮抗剤(Antagonist)を含む第2培地;並びにc)サイトカイン、GSK3β阻害剤及びAHR拮抗剤を含む第3培地で、段階的に培養してNK細胞に直接リプログラミングさせる段階を含む、CAR-iNK(induced Natural Killer)細胞の製造方法を提供することにある。
【0012】
本発明の他の目的は、上記方法により製造されたiNK細胞を提供することにある。
【0013】
本発明の他の目的は、上記方法により製造されたiNK細胞を有効成分として含む、癌の予防又は治療用細胞治療剤組成物を提供することにある。
【0014】
本発明の他の目的は、上記方法により製造されたiNK細胞を有効成分として含む、癌の予防又は治療用薬学組成物を提供することにある。
【発明の効果】
【0015】
本発明による方法は、分離された細胞からCAR遺伝子が導入されたiNK細胞を直接リプログラミングを通じて分化工程過程なしに生産することにより、癌細胞殺傷機能が強化されたCAR-NK細胞を初期細胞の制限なしに高効率で生産することができ、生産工程が簡素化されることにより費用及び時間が節減される効果がある。従来リプログラミング技術を通じて生産される誘導多能性幹細胞を経由することなくNK細胞を生産できることにより安全性の側面で改善された差別化される優れたNK細胞生産の効果がある。また、上記方法で製造された、CAR遺伝子が導入されたiNK細胞は癌細胞殺傷能に優れるところ、癌の予防又は治療用細胞治療剤組成物あるいは薬学組成物として有用に活用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】CAR遺伝子4種の構成ドメインを示した図である。
【
図2】体細胞直接リプログラミング及びCAR遺伝子導入によるCAR-iNK製造方法の模式図である。
【
図3】PBMC細胞から製造したCD19-CAR-iNK細胞を確認した結果である。
【
図4】PBMC細胞から製造したMSLN-CAR-iNK細胞を確認した結果である。
【
図5】PBMC細胞から製造したHER2-CAR-iNK細胞を確認した結果である。
【
図6】(A)CARを発現するレンチウイルス導入時期(Day 0、Day 14、Day 24)により製造されたCD19-CAR-iNK細胞を確認した結果、(B)PBMC細胞から製造したiNK細胞でCD19-CAR遺伝子の挿入如何を確認した結果である。
【
図7】CAR-iNK第1培地及び第3培地の組成または培養時間に応じたCAR-iNK生産効率を確認した結果である。
【
図8】製造されたCD19-CAR-iNK細胞と癌細胞との共培養時にCD107a発現細胞の頻度を確認した結果である。
【
図9】製造されたCD19-CAR-iNK細胞と癌細胞との共培養時にCD107a発現細胞の頻度を確認した結果である。
【
図10】製造されたMSLN-CAR-iNK細胞と癌細胞との共培養時にCD107a発現細胞の頻度を確認した結果である。
【
図11】製造されたHER2-CAR-iNK細胞と癌細胞との共培養時にCD107a発現細胞の頻度を確認した結果である。
【
図12】製造されたCD19-CAR-iNK細胞と癌細胞との共培養時にIFN-ガンマ発現細胞の頻度を確認した結果である。
【
図13】製造されたCD19-CAR-iNK細胞と癌細胞との共培養時にIFN-ガンマ発現細胞の頻度を確認した結果である。
【
図14】製造されたMSLN-CAR-iNK細胞と癌細胞との共培養時にIFN-ガンマ発現細胞の頻度を確認した結果である。
【
図15】製造されたHER2-CAR-iNK細胞と癌細胞との共培養時にIFN-ガンマ発現細胞の頻度を確認した結果である。
【
図16】製造されたCD19-CAR-iNK細胞の癌細胞殺傷能を確認した結果である。
【
図17】製造されたMSLN-CAR-iNK細胞の癌細胞殺傷能を確認した結果である。
【
図18】製造されたHER2-CAR-iNK細胞の癌細胞殺傷能を確認した結果である。
【
図19】膵臓癌細胞異種移植マウス動物モデルにおいてMSLN-CAR-iNK細胞の腫瘍成長抑制効果を確認した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
これを具体的に説明すると、次の通りである。一方、本発明で開示されたそれぞれの説明及び実施形態は、それぞれの他の説明及び実施形態にも適用され得る。即ち、本明細書で開示された多様な要素の全ての組み合わせが本発明の範疇に属する。また、下記の具体的な記述により本発明の範疇が制限されることはない。
【0018】
本発明の目的を達成するための一つの様態として、本発明は、リプログラミング因子(Reprogramming Factor)及びCAR(Chimeric Antigen Receptor)遺伝子が導入された分離された細胞を、a)成長因子、サイトカイン及びGSK3β(Glycogen Synthase Kinase 3 beta)阻害剤(Inhibitor)を含む第1培地;b)成長因子、サイトカイン及びAHR(Aryl Hydrocarbon Receptor)拮抗剤(Antagonist)を含む第2培地;並びにc)サイトカイン、GSK3β阻害剤及びAHR拮抗剤を含む第3培地で、段階的に培養してNK細胞に直接リプログラミングさせる段階を含む、CAR-iNK(induced Natural Killer)細胞の製造方法を提供する。
【0019】
本発明において用語、「NK(Natural Killer)細胞」とは、ウイルス、バクテリア及び寄生虫の感染と非正常な自己細胞(癌細胞等)を除去する体内の1次防御(先天免疫)機能を行う核心先天免疫細胞である。NK細胞は血液癌だけではなく、固形癌を含む多様な癌腫で癌の発生、増殖、転移及び再発を防ぐのに効果的であることが立証され、抗癌治療剤及び再発抑制剤の有用な細胞資源として注目されている。人体から分離、培養したNK細胞及び幹細胞から分化したNK細胞を抗癌免疫細胞治療剤として開発するための努力が急増しているが、低いNK生産効率及び抗癌治療効能は依然として克服すべき問題として指摘されている。
【0020】
癌細胞に対する特異性と活性化を促進するための案として多様な癌の抗原に特異的なキメラ抗原受容体(Chimeric Antigen Receptor; CAR)を発現するNK(CAR-NK)細胞を作製し、これにより癌細胞殺害活性増進及びその治療効用性を究明する研究が活発に進行している。上記CAR-NK細胞を製造する方法として培養増殖が比較的容易な単一NK細胞株(NK-92、iPSCs等)に導入する方法が主に用いられているが、低生産効率、複雑な工程過程、安全性の問題(腫瘍形成可能性等)などは克服されるべき問題として浮き彫りになっている。
【0021】
これに対し、本発明者らはCAR-NK細胞を生体外培養条件で収集が容易な多様なヒト体細胞に適用可能でありながら、分化工程過程が必要ではない方法で製造しようとし、その結果、直接リプログラミングを通じて分離されたヒト体細胞からCAR-NK細胞を直接誘導及び生産できる方法を初めて発明した。
【0022】
本発明において用語、「CAR-iNK(CAR-induced Natural Killer)細胞」とは、本発明の方法により直接リプログラミングを通じて誘導され(induced)、CAR遺伝子が導入されたNK(Natural Killer)細胞を意味する。
【0023】
本発明において用語、「リプログラミング(Reprogramming)」とは、特定細胞が有する全体遺伝子発現パターン(Global Gene Expression Pattern)などを調節し、全く異なる特性を有する目的とする細胞に系統を転換する方法を意味する。リプログラミングは細胞の逆分化(Dedifferentiation)、直接リプログラミング(Direct Reprogramming若しくは Direct Conversion)、又は直接分化転換(Trans-differentiation)を含んでもよいが、これに制限されない。本発明において、上記リプログラミングは外来遺伝子あるいはDNAを含むベクターを細胞に導入することにより行われてもよい。上記「転換」とは、細胞が異なる状態に変わることを意味し、上記「分化」とは、細胞が分裂して作られた娘細胞が本来の母細胞と異なる機能を得る現象を意味し、本発明において上記「転換」と「分化」は、「誘導」と混用され得る。
【0024】
本発明において用語、「直接リプログラミング(Direct Reprogramming)」とは、特定細胞をリプログラミング培地で培養して目的とする細胞への直接転換を誘導する方法を意味する。従来のリプログラミング技術を用いて目的細胞であるNK細胞を生産するためには、1)分離された体細胞から誘導多能性幹細胞を生産し、2)誘導多能性幹細胞から中間体である造血幹(前駆)細胞を一次分化生産した後、3)分化した幹(前駆)細胞から目的細胞であるNK細胞を二次分化生産しなければならなかった。このように、従来技術は、複雑な培養過程を順次経なければならないために生産効率が低く、時間的、費用的消耗が多いという短所がある。また、全分化能を有する誘導多能性幹細胞を経由して生産されるために未分化細胞の残留有無は腫瘍形成可能性があり、安全性確保の有無が検証されるべき重要な点である。これに対し、本発明は、直接リプログラミングを通じて分離された体細胞から目的細胞であるNK細胞を直接生産することにより生産時間が短く、費用が節約され、効率が高く安全性が確保されるところ、従来技術と差別化され、この問題を克服できる代案を提供することができる。上記直接リプログラミングは直接逆分化、直接分化、直接転換、直接分化転換、分化転換などと混用されてもよく、本発明において、上記直接リプログラミングは分離された体細胞からNK細胞への直接逆分化または分化転換を意味してもよいが、これに制限されない。
【0025】
本発明において用語、「分化した細胞」とは、構造や機能が特殊化した細胞、即ち、生物の細胞、組織などがそれぞれに与えられる役割をするために適した形態及び機能に変化した状態を意味する。例えば、広くは胚性幹細胞のような全分化能幹細胞に由来した外胚葉、中胚葉及び内胚葉細胞が分化した細胞であり、狭くは造血母細胞に由来した赤血球、白血球、血小板などが分化した細胞であってもよい。
【0026】
本発明において用語、「系統が転換された細胞」とは、細胞が有していた固有の系統特性が発生学的に又は人為的な方法(例えば、リプログラミング等)で変わって異なる系統特性を有する細胞類型に転換された細胞であり、転換される前の細胞類型の特性とは全く異なる細胞類型の特性を有する。本発明において、上記系統が転換された細胞は目的細胞であってもよい。例えば、末梢血液単核細胞内の非NKリンパ球細胞がリプログラミング培地でのNK細胞に転換されるものであってもよいが、これに制限されない。
【0027】
本発明において、上記方法は、リプログラミング因子及びCAR遺伝子が導入された分離された細胞を、a)成長因子、サイトカイン及びGSK3β阻害剤を含む第1培地;b)成長因子、サイトカイン及びAHR拮抗剤を含む第2培地;並びにc)サイトカイン、GSK3β阻害剤及びAHR拮抗剤を含む第3培地で、段階的に培養してNK細胞に直接リプログラミングさせるものであってもよい。
【0028】
本発明における用語、「分離された細胞」とは、特別な制限はないが、具体的には、生殖細胞、体細胞(Somatic Cell)又は前駆細胞(Progenitor Cell)など、既に系統(Lineage)が特定された細胞であってもよい。上記「体細胞」とは、生殖細胞を除いた動・植物を構成する分化が完結したあらゆる細胞を意味し、上記「前駆細胞」とは、子孫に該当する細胞が特定分化形質を発現することが明らかになった場合、分化形質を発現しないが、その分化運命(Fate)を有している母細胞をいう。例えば、神経細胞(ニューロン)に対しては神経芽細胞(ニューロン幹細胞)が前駆細胞に該当し、筋管細胞に対しては筋芽細胞が前駆細胞に該当する。
【0029】
上記分離された細胞はヒトに由来した細胞であってもよいが、これに制限されず、多様な個体に由来した細胞も本発明の範囲内に属することができる。また、本発明の分離された細胞には生体内又は生体外の細胞のいずれも含まれていてもよい。具体的には、上記分離された細胞は体細胞であってもよく、より具体的には、NK細胞を除いた体細胞であってもよいが、これに制限されない。
【0030】
本発明において用語、「リプログラミング因子(Reprogramming Factor)」とは、細胞に導入されてリプログラミングを誘導できる遺伝子(あるいはポリヌクレオチド)、又はこれからコーディングされるタンパク質を意味する。上記リプログラミング因子はリプログラミングを通じて得ようとする目的細胞により、そしてリプログラミングされる前の細胞の種類に応じて変わり得る。例えば、分離された体細胞をNK細胞に誘導しようとする場合、上記分離された体細胞に導入されるリプログラミング因子は、Lin28、Asc11、Pitx3、Nurr1、Lmx1a、Nanog、Oct4、Oct3、Sox2、Klf4、Myc及びこれらの組合わせからなる群から選択されるいずれか一つ以上を含むものであってもよく、具体的には、Oct4、Sox2、Klf4及びMycであってもよいが、これに制限されず、分離された体細胞をNK細胞に誘導できるリプログラミング因子であれば当業界において公知となった全ての因子を含んでもよい。上記リプログラミング因子を用いたリプログラミングは細胞が有する全体遺伝子発現パターンを調節して目的細胞への転換を誘導するものであり、上記リプログラミング因子を細胞に導入し、細胞を一定期間培養することにより目的とする種類の細胞の遺伝子発現パターンを有する目的細胞に細胞をリプログラミングさせることができる。
【0031】
本発明において用語、「リプログラミング因子の導入」とは、リプログラミング因子を細胞の培養液に投与する方法;リプログラミング因子を細胞に直接注入する方法;細胞内に存在するリプログラミング因子の発現水準を増加させる方法;リプログラミング因子をコードする遺伝子を含む発現ベクターを細胞に形質転換させる方法;リプログラミング因子をコードする遺伝子の発現が増加するように遺伝子配列を変形する方法;リプログラミング因子をコードする外来発現遺伝子を導入する方法;リプログラミング因子の発現誘導効果を奏する物質を処理する方法;及びこれらの組合わせを通じて細胞内のリプログラミング因子の発現水準を増加させる方法であってもよいが、リプログラミング因子の発現水準を増加させることができる限り、これに制限されない。特に、リプログラミング因子の導入は所望の時間及び条件の下でリプログラミング因子の発現を誘導するものであってもよい。具体的には、上記リプログラミング因子を細胞に導入する方法は、リプログラミング因子を細胞の培養液に投与する方法、リプログラミング因子をコードする遺伝子を含む発現ベクターを細胞に形質転換させる方法であってもよいが、これに制限されない。
【0032】
上記リプログラミング因子を細胞に直接注入する方法は当業界において公知となった任意の方法を選択して用いることができ、これに制限されないが、マイクロインジェクション法(Microinjection)、電気穿孔法(Electroporation)、粒子噴射法(Particle bombardment)、直接筋肉注入法(Direct Muscle Injection)、インシュレータ(Insulator)及びトランスポゾン(Transposon)を用いた方法から適宜選択して適用できる。
【0033】
本発明において用語、「ベクター」とは、適した宿主内で目的タンパク質又はポリペプチドを発現させることができるように、適した調節配列及び上記目的タンパク質又はポリペプチドの塩基配列を含有するDNA製造物を意味する。上記調節配列はプロモーター、オペレータ、開始コドン、終結コドン、ポリアデニル化シグナル、エンハンサーを含んでもよい。本発明のベクターは調節配列以外にも膜標的化又は分泌のための信号配列又はリーダ配列を含み、目的に応じて多様に製造され得る。ベクターのプロモーターは構成的又は誘導性であってもよい。また、ベクターはベクターを含有する宿主細胞を選択するための選択性マーカーを含み、複製可能なベクターの場合、複製起源を含む。上記ベクターは適当な宿主細胞内に形質転換された後、宿主ゲノムと関係なく複製され、機能を発現することができ、ゲノムそのものに統合されることができる。
【0034】
本発明で用いられるベクターは宿主細胞内で複製可能であれば、特に限定されず、当業界において知られた任意のベクターを用いることができる。通常用いられるベクターの例としては天然状態であるか、組み換えられた状態のウイルスベクター(Virus Vector)、エピソームベクター(Episomal Vector)、プラスミドベクター(Plasmid Vector)、コスミドベクター(Cosmid Vector)などを挙げることができる。
【0035】
具体的には、上記ウイルスベクターは、センダイウイルス(Sendai Virus)、レンチウイルス(Lentivirus)、HIV(Human Immunodeficiency Virus)、MLV(Murineleukemia Virus)、ASLV(Avian Sarcoma/Leukosis)、SNV(Spleen Necrosis Virus)、RSV(Rous Sarcoma Virus)、MMTV(Mouse Mammary Tumor Virus) などのレトロウイルス(Retrovirus)、アデノウイルス(Adenovirus)、アデノ関連ウイルス(Adeno-associated Virus)、単純ヘルペスウイルス(Herpes Simplex Virus)などに由来したベクターを含んでもよく、より具体的には、RNA基盤ウイルスベクターであってもよいが、これに制限されない。
【0036】
上記エピソームベクターは非ウイルス性非挿入性ベクターであり、染色体内に挿入されることなくベクターに含まれた遺伝子を発現させる特性を有することが知られている。従って、上記エピソームベクターを含む細胞は、エピソームベクターがゲノム内に挿入されたり、又はゲノム内に挿入されていない状態で細胞内に存在する場合をいずれも含んでもよい。
【0037】
本発明の用語「作動可能に連結された(Operably Linked)」とは、一般的機能を行うように核酸発現調節配列と目的とするタンパク質をコードする核酸配列が機能的に連結(Functional Linkage)されていることをいう。組換えベクターとの作動的連結は当該技術分野においてよく知られている遺伝子組換え技術を用いて製造することができ、部位特異的DNA切断及び連結は当該技術分野において一般に知られている酵素などを用いることができる。
【0038】
本発明において用語、「CAR遺伝子」とは、抗体ドメイン(scFv)を含む細胞外ドメイン、細胞膜貫通ドメイン及び細胞内ドメインをコードする遺伝子を含め、上記細胞外ドメイン、細胞膜貫通ドメイン及び細胞内ドメインからなるキメラ抗原受容体(Chimeric Antigen Receptor)をコードする遺伝子を意味する。本発明の目的上、本発明のCAR遺伝子はCD19 scFvを含むCD19-CAR1遺伝子又はCD19-CAR2遺伝子、MSLN(Mesothelin)scFvを含むMSLN-CAR遺伝子及びHER2(Human Epidermal Growth Factor Receptor 2) scFvを含むHER2-CAR遺伝子からなる群から選択されるいずれか一つ以上であってもよいが、これに制限されない。
【0039】
固形腫瘍に対するCARの標的因子としては、EGFRvIII(Morgan RA, Hum Gene Ther. 2012;23:1043-1053(非特許文献4)), MUC-1(Wilkie S, J Immunol. 2008;180:4901-4909(非特許文献5)), MAGE(Willemsen RA, Gene Ther. 2001;8:1601-1608(非特許文献6)), CEA(Emtage PC, Clin Cancer Res. 2008;14:8112-8122(非特許文献7)), PSMA, GD2, CA125, Her2及びMSLN, FAP, VEGFR(Kakarla S, Cancer J. 2014;20:151-155(非特許文献8)) などを用いることができることが知られている。
【0040】
また、上記CD19は細胞表面抗原群(Cluster of Differentiation; CD)として免疫表現型に応じて細胞表面分子を識別する番号19を割り当てたもので、上記CD19はBリンパ球の標識子を意味する。上記CD19は大部分のB-細胞悪性腫瘍癌細胞で発現し、これら癌腫に対する理想的な標的を提供することが知られている。
【0041】
具体的には、上記CAR遺伝子はi)CD8リーダ(Leader)、CD19 scFv、CD8ヒンジ(Hinge)、CD8膜貫通ドメイン及びFc-γ(Gamma)受容体を含むCAR遺伝子(CD19-CAR1遺伝子);ii)CD8リーダ、CD19 scFv、CD8ヒンジ、CD8膜貫通ドメイン、CD28細胞内ドメイン、CD3ζ及びIRES(Internal Ribosome Rntry Site)を含むCAR遺伝子(CD19-CAR2遺伝子);iii)CD8リーダ、MSLN(Mesothelin)scFv、CD8ヒンジ、CD8膜貫通ドメイン、CD28細胞内ドメイン、CD3ζ及びIRESを含むCAR遺伝子(MSLN-CAR遺伝子);並びにiV)CD8リーダ、HER2(Human Epidermal Growth Factor Receptor 2)scFv、CD8ヒンジ、CD8膜貫通ドメイン、CD28細胞内ドメイン、CD3ζ及びIRESを含むCAR遺伝子(HER2-CAR遺伝子);からなる群から選択されるいずれか一つ以上であってもよいが、これに制限されない。
【0042】
上記CD8リーダは、配列番号1、CD19 scFvは配列番号2、MSLN scFvは配列番号3、HER2 scFvは配列番号4、CD8ヒンジは配列番号5、CD8膜貫通ドメインは配列番号6、Fc-γ受容体は配列番号7、CD28細胞内ドメインは配列番号8、CD3ζは配列番号9、上記CAR遺伝子を、二重シストロンを構成するベクターにクローニングするために挿入するIRESは配列番号10の塩基配列を含むものであってもよいが、これに制限されない。
【0043】
上記CAR遺伝子は、GFP(Green Fluorescent Protein)をさらに含むものであってもよいが、これに制限されない。
【0044】
上記GFPは、配列番号11の塩基配列を含むものであってもよいが、これに制限されない。
【0045】
上記配列番号1~配列番号11の塩基配列は公知のデータベースであるNCBI Genbankでその配列を確認することができる。
【0046】
本発明において、上記配列番号1~配列番号11の塩基配列は、上記配列番号1~配列番号11と少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%以上の相同性(Homology)又は同一性(Identity)を有する塩基配列を含んでもよい。また、このような相同性又は同一性を有し、上記配列番号1~配列番号11の塩基配列と対応する機能を示す塩基配列であれば、一部配列が欠失、変形、置換又は付加された塩基配列を有する配列も本発明の範囲内に含まれることは自明である。
【0047】
本発明の用語「相同性(Homology)及び同一性(Identity)」とは、2つの与えられたアミノ酸配列又は塩基配列と関連した程度を意味し、百分率で表すことができる。用語、相同性及び同一性は、しばしば相互交換的に用いられ得る。
【0048】
保存された(Conserved)ポリヌクレオチド又はポリペプチドの配列相同性又は同一性は標準配列アルゴリズムにより決定され、用いられるプログラムにより確立したデフォルトギャップペナルティが共に用いられてもよい。実質的に、相同性を有し(Homologous)又は同一の(Identical)配列は中間又は高いストリンジェントな条件(Stringent Condition)で一般的に配列全体又は全長の少なくとも約50%、60%、70%、80%又は90%以上でハイブリッドすることができる。ハイブリッド化はポリヌクレオチドでコドンの代わりに縮退コドンを含有するポリヌクレオチドも考慮される。
【0049】
上記ポリペプチドまたはポリヌクレオチド配列に対する相同性又は同一性は、例えば、文献によるアルゴリズムBLAST[参照:Karlin及びAltschul, Pro. Natl. Acad. Sci. USA, 90, 5873(1993)(非特許文献9)]、又はPearsonによるFASTA(参照: Methods Enzymol., 183, 63, 1990(非特許文献10))を用いて決定することができる。このようなアルゴリズムBLASTに基づいて、BLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(参照: http://www.ncbi.nlm.nih.gov)。また、任意のアミノ酸又はポリヌクレオチド配列が相同性、類似性又は同一性を有するかどうかは定義されたストリンジェントな条件の下でサザンハイブリダイゼーション実験により配列を比較することにより確認することができ、定義される適切なハイブリダイゼーション条件は当該技術範囲内であり、当業者においてよく知られている(例えば、J. Sambrook et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 2nd Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York, 1989(非特許文献11); F.M. Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology(非特許文献12))。
【0050】
本発明において、上記CAR遺伝子は前述したリプログラミング因子の導入方法と同様の方法で細胞内に導入されてもよく、特に、リプログラミング因子とCAR遺伝子は所望の時間及び条件の下で同時に、または順次導入されてもよい。
【0051】
具体的には、
図2の青色で示された通り、CARを発現するレンチウイルスはリプログラミング因子と同時に、リプログラミング因子導入後にCAR-iNK第1培地で培養する段階、CAR-iNK第2培地で培養する段階又はCAR-iNK第3培地で培養する段階から選択して培養培地に接種することによりiNKに転換される過程のPBMC又はリプログラミング誘導過程の細胞に形質転換されてもよい。本発明による方法はNK細胞ではなく分離された細胞にCAR遺伝子をリプログラミング因子と導入してCARを発現するNK細胞を生産できることに意義がある。また、CAR遺伝子を導入する時期をリプログラミング培養過程で当業者が所望するまま定めることができることに意義がある。具体的には、上記CAR遺伝子の導入時期、即ち、CARを発現するレンチウイルスの接種時期はリプログラミング因子と同時に(Day 0)、リプログラミング因子導入後にCAR-iNK第2培地で培養する段階(Day 14)又はCAR-iNK第3培地で培養する段階(Day 24)で行われるものであってもよいが、これに制限されない(
図2及び
図6)。
【0052】
本発明において用語、「培養」とは、細胞を調節された環境条件で生育させることを意味し、本発明の培養過程は当業界において知られた培地と培養条件に応じて行われ得る。このような培養過程は、選択される細胞により当業者が容易に調整して用いることができる。本発明の目的上、上記培養はリプログラミング因子及び/又はCAR遺伝子が導入された細胞を異なる系統の目的細胞に転換する過程であるため、上記遺伝子が導入された細胞を培養する第1培地、第2培地又は第3培地の組成は目的細胞に転換されるのに適した組成、例えば、成長因子、サイトカイン、GSK3β阻害剤又はAHR拮抗剤などを含んでもよいが、これに制限されない。
【0053】
上記a)の第1培地は成長因子、サイトカイン及びGSK3β阻害剤を含むものであってもよい。
【0054】
本発明において用語、「成長因子」とは、種々の細胞の分裂、成長及び分化を促進するポリペプチドを意味する。上記成長因子は、例えば、EGF(Epidermal Growth Factor), PDGF-AA(Platelet-derived Growth Factor-AA), IGF-1(Insulin-like Growth Factor 1), TGF-β(Transforming Growth Factor-β), FGF(Fibroblast Growth Factors), SCF(Stem Cell Factor)及びFLT3(FMS-like Tyrosine Kinase)などであってもよく、具体的には、SCF、FLT3及びこれらの組合わせからなる群から選択されるいずれか一つ以上であってもよいが、これに制限されない。
【0055】
本発明において用語、「サイトカイン」とは、細胞から生産され、細胞信号伝達に用いられる比較的小さいサイズの多様なタンパク質であり、自身を含む他の細胞に影響を及ぼすことができる。一般に、炎症または感染に対する免疫反応と関連があることが知られている。上記サイトカインは、例えば、IL(Interleukin)-2、IL-3、IL-5、IL-6、IL-7、IL-11、IL-15、IL-21、IL-12、IL-18、BMP4(Bone Morphogenetic Protein 4)、アクチビンA(Acivin A)、ノッチリガンド (Notch Ligand)、G-CSF(Granulocyte-colony Stimulating Factor)、SDF-1(Stromal Cell-derived Factor-1) などであってもよく、具体的には、IL-3、IL-6、IL-15、IL-7、IL-2、IL-21、IL-12、IL-18及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれか一つ以上であってもよいが、これに制限されない。
【0056】
発明の目的上、上記成長因子及びサイトカインは分離された細胞を目的細胞に直接リプログラミングする培地に含まれ、成長因子及びサイトカインの種類は直接リプログラミングに用いられるものであれば、特に制限されない。
【0057】
本発明において用語、「GSK3β(Glycogen Synthase Kinase 3 beta, Glycogen Synthase Kinase-3β)阻害剤(Inhibitor)」とは、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3ベータの活性を阻害または抑制する物質を意味する。上記GSK3β阻害剤は、例えば、1-Azakenpaullone, 2-D08, 3F8, 5-Bromoindole, 6-Bio, A 1070722, Aloisine A, AR-A014418, Alsterpaullone, AZD-1080, AZD2858, Bikinin, BIO, BIO-acetoxime, Bisindolylmaleimide I, Bisindolylmaleimide I Hydrochloride, CAS 556813-39-9, Cazpaullone, CHIR98014. CHIR98023. CHIR99021(CT99021), CP21R7, Dibromocantherelline, GSK-3β Inhibitor I, VI, VII, X, XI,XV, GSK-3 Inhibitor IX, XVI, Hymenidin, Hymenialdisine, HMK-32, I3M(Indirubin-3-monoxime, Indirubin, Indole-3-acetamide, IM-12, Kenpaullone, L803-mts, Leucettine L41, Lithium, Lithium Carbonate, LY-2090314, Manzamine A MeBIO, Meridianine A, NP00111, NP031115, NP031111, NSC 693868, Palinurin, Ro 31-8220 Methanesulfonate, SB-216763, SB-415286, TC-G 24, TCS 2002, TCS 21311, Tideglusib, Tricantin, Trihydrochloride, Tungstate, TWS-119, TZDZ-8, Zinc などであってもよく、具体的には、CHIR99021であってもよいが、これに制限されない。
【0058】
上記a)の第1培地は、SCF、FLT3、IL-3及びIL-6及びCHIR99021を含むものであってもよいが、これに制限されない。
【0059】
上記a)の第1培地は、FBS(Fetal Bovine Serum)、抗生剤及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれか一つ以上をさらに含むものであってもよいが、これに制限されない。
【0060】
上記抗生剤は、ペニシリン/ストレプトマイシン(Penicillin/Streptomycin)であってもよいが、これに制限されない。
【0061】
具体的には、上記a)の第1培地は、FBS、ペニシリン/ストレプトマイシン、SCF、FLT3、IL-3、IL-6及びCHIR99021を含むものであってもよいが、これに制限されない。
【0062】
より具体的には、上記a)の第1培地は8~12%のFBS、0.1~2%のペニシリン/ストレプトマイシン、80~120ng/mlのヒトSCF、80~120ng/mlのヒトFLT3、10~30ng/mlのヒトIL-3、10~30ng/mlのヒトIL-6、2~7uMのCHIR99021を含むStemSpan SFEM IIであってもよく、さらに具体的には、10%のFBS、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、100ng/mlのヒトSCF、100ng/mlのヒトFLT3、20ng/mlのヒトIL-3、20ng/mlのヒトIL-6、5uMのCHIR99021を含むStemSpan SFEM IIであってもよいが、これに制限されない。
【0063】
上記b)の第2培地は、成長因子、サイトカイン及びAHR(Aryl Hydrocarbon Receptor)拮抗剤(Antagonist)を含むものであってもよい。
【0064】
上記用語「成長因子」及び「サイトカイン」とは、前述した通りである。
【0065】
本発明において用語、「AHR(Aryl Hydrocarbon Receptor)拮抗剤(Antagonist)」とは、TCDD(Dioxin(2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin))により活性化されるリガンド活性化転写因子(Transcription Factor)であるAHRの活性を下向きに調節し又は減少させる物質を意味する。上記AHR拮抗剤は、例えば、ステムレゲニンI[StemRegenin I,SRI;4-(2-(2-(ベンゾ[b]チオフェン-3-イル)-9-イソプロピル-9H-プリン-6-イルアミノ)エチル)フェノールヒドロクロリド[4-(2-((2-Benzo[b]thiphen-3-yl)-9-isopropyl-9H-purin-6-yl)amino)ethyl)phenol hydrochloride]、CH-223191(1-メチル-N-[2-メチル-4-[2-(2-メチルフェニル)ジアゼニル]フェニル-1H-ピラゾール-5-カルボキサミド[1-Methyl-N-[2-methyl-4-[2-(2-methylphenyl)diazenyl]phenyl-1H-pyrazole-5-carboxamide)]などであってもよく、具体的には、ステムレゲニンIであってもよいが、直接リプログラミング効率を上げる役割をすればこれに制限されずに用いることができる。
【0066】
上記b)の第2培地は、SCF、FLT3、IL-15、IL-7、IL-2及びステムレゲニンIを含んでもよいが、これに制限されない。
【0067】
上記b)の第2培地は、FBS、抗生剤及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれか一つ以上をさらに含むものであってもよいが、これに制限されない。
【0068】
上記抗生剤は、ペニシリン/ストレプトマイシンであってもよいが、これに制限されない。
【0069】
具体的には、上記b)の第2培地は、FBS、ペニシリン/ストレプトマイシン、SCF、FLT3、IL-15、IL-7、IL-2及びステムレゲニンIを含んでもよいが、これに制限されない。
【0070】
より具体的には、上記b)の第2培地は8~12%のFBS、0.1~2%のペニシリン/ストレプトマイシン、10~30ng/mlのヒトSCF、10~30ng/mlのヒトFLT3、100~500IU/mlのヒトIL-2、10~30ng/mlのヒトIL-7、10~30ng/mlのヒトIL-15、1~3uMのステムレゲニンIであってもよく、さらに具体的には、10%のFBS、1%のペニシリン/ストレプトマイシン、20ng/mlのヒトSCF、20ng/mlのヒトFLT3、200 IU/mlのヒトIL-2、20ng/mlのヒトIL-7、20ng/mlのヒトIL-15、2uMのステムレゲニンIであってもよいが、これに制限されない。
【0071】
上記c)の第3培地はサイトカイン、GSK3β阻害剤及びAHR拮抗剤を含むものであってもよい。
【0072】
上記用語「サイトカイン」、「GSK3β阻害剤」及び「AHR拮抗剤」とは、前述した通りである。
【0073】
上記c)の第3培地はIL-2、IL-15、IL-21、IL-12、IL-18、CHIR99021及びステムレゲニンIを含んでもよいが、これに制限されない。
【0074】
上記c)の第3培地はFBS、抗生剤及びこれらの組合わせからなる群から選択されるいずれか一つ以上をさらに含むものであってもよいが、これに制限されない。
【0075】
上記抗生剤は、ペニシリン/ストレプトマイシンであってもよいが、これに制限されない。
【0076】
具体的には、上記c)の第3培地はFBS、ペニシリン/ストレプトマイシン、IL-2、IL-15、IL-21、IL-12、IL-18、CHIR99021及びステムレゲニンIを含んでもよいが、これに制限されない。
【0077】
より具体的には、上記c)の第3培地は8~12%のFBS、0.1~2%のペニシリン/ストレプトマイシン、100~500IU/mlのヒトIL-2、40~60ng/mlのヒトIL-12、10~30ng/mlのヒトIL-15、90~110ng/mlのヒトIL-18、10~30ng/mlのIL-21、1~3uMのCHIR99021及び1~3uMのステムレゲニンIを含むRPMI 1640であってもよく、さらに具体的には、10%のFBS、1%のペニシリン/ストレプトマイシン、200 IU/mlのヒトIL-2、50ng/mlのヒトIL-12、20ng/mlのヒトIL-15、100ng/mlのヒトIL-18、20ng/mlのIL-21、2uMのCHIR99021及び2uMのステムレゲニンIを含むRPMI 1640であってもよいが、これに制限されない。
【0078】
上記方法において、リプログラミング因子及びCAR遺伝子が導入され分離された細胞は、上記a)の第1培地で4~7日間培養し、上記b)の第2培地で10~14日間培養した後、c)の第3培地で14日間以上培養するものであってもよいが、これに制限されない。
【0079】
本発明の一実施例では、CAR-iNK第1培地で互いに異なる培養期間(3、5、7、9日間)培養し、その後、実施例1と同様の条件でCAR-iNK第2培地及び第3培地で培養した後、CAR-iNK生産収率を比較分析した結果、CAR-iNK第1培地で5日間培養した時、約80%と最高のCAR-iNK生産収率が示されることを確認した(
図7A)。
【0080】
本発明の他の一実施例では、20ng/mlヒトIL-21、2μM CHIR99021、2μMステムレゲニンI(SR1)、50ng/mlヒトIL-12、及び100ng/mlヒトIL-18を含むCAR-iNK第3培地で培養した場合、CAR-iNK収得効率が増加することを確認した(
図7B)。また、上記各組成のCAR-iNK第3培地で7日間または14日間培養した時、14日間培養した場合、CAR-iNK収得効率が最大15倍まで増加することを確認した(
図7B)。これは、CAR-iNKがCAR-iNK第1培地で5日間、CAR-iNK第2培地で12日間、CAR-iNK第3培地で2-3週間培養した時に最も優れた生産効率(CD19-CAR-iNK細胞:最大45.9%(
図6A)、MSLN-CAR-iNK細胞:43.7%(
図4)、HER2-CAR-iNK細胞:47.8%(
図5)を示すことを示唆した。
【0081】
本発明の方法により製造されたCAR-iNK細胞はCD56+、CD16+、CD3-及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれか一つ以上を発現できるが、これに制限されない。
【0082】
上記「CD56+」、「CD16+」及び「CD3-」とは、NK細胞の表面にある指標であり、本発明ではCD56+、CD16+及びCD3-の発現をフローサイトメトリー(Flow cytometry)を通じて分析してCAR-iNK細胞が製造されたことを確認した(
図3~6)。
【0083】
また、本発明の方法により製造されたCAR-iNK細胞は、多様な癌細胞に対する殺傷能に優れたものであってもよい。
【0084】
本発明の一実施例では、CAR-iNK細胞と共培養された癌細胞で癌細胞溶解能を有するCD107a+細胞及びインターフェロン-ガンマ+細胞の頻度(%)が増加し(
図8~
図15)、血液癌細胞株、膵臓癌細胞株、前立腺癌細胞株、大腸癌細胞株、肺癌細胞株、肝癌細胞株、胃癌細胞株、黒色腫細胞株に対するiNK細胞の殺傷能を確認した結果、優れた殺傷能を示すことを確認した(
図16~
図18)。また、膵臓癌が発生したマウスモデルにCAR-iNK細胞注入後14日目に腫瘍の大きさがCAR遺伝子が導入されていないiNK細胞又はiNK細胞を注入していない対照群に比べて顕著に減少したことを確認した(
図19)。
【0085】
本発明の他の様態は、上記方法により製造されたCAR-iNK細胞を提供する。
ここで用いられる用語は、前述した通りである。
【0086】
上記CAR-iNK細胞は前述したように、多様な癌細胞に対する殺傷能に優れたものであってもよい。
【0087】
本発明の他の様態は、上記の方法により製造されたCAR-iNK細胞を有効成分として含む癌の予防又は治療用細胞治療剤組成物を提供する。
【0088】
ここで用いられる用語は、前述した通りである。
【0089】
本発明において用語「予防」とは、上記組成物の投与により癌を抑制する及び発生を遅延させる全ての行為を意味する。
【0090】
本発明において用語、「治療」とは、上記組成物の投与により癌による症状が好転する及び有益に変更される全ての行為を意味する。
【0091】
本発明において用語、「細胞治療剤」とは、個体から分離、培養及び特殊な操作を通じて製造された細胞及び組織に治療、診断及び予防の目的で用いられる医薬品(米国FDA規定)であり、細胞あるいは組織の機能を復元させるために生きている自己、同種、又は異種細胞を体外で増殖選別する又は他の方法で細胞の生物学的特性を変化させるなどの一連の行為を通じて治療、診断及び予防の目的で用いられる医薬品を意味する。
【0092】
上記細胞治療剤組成物は、本発明の方法により製造されたCAR-iNK細胞を含むことにより癌の予防又は治療効能があるものであってもよい。
【0093】
上記細胞治療剤組成物は、組成物の全重量に対して上記CAR-iNK細胞を1.0×104~1.0×1010個の細胞/ml、好ましくは1.0×105~1.0×109個の細胞/mlで含んでもよいが、これに制限されない。
【0094】
上記細胞治療剤組成物は、薬学分野の常法により患者の身体内投与に適した単位投与型の薬学製剤に剤形化させて投与することができ、上記製剤は1回または数回投与により効果的な投与量を含む。このような目的に適した剤形としては非経口投与製剤として注射用アンプルのような注射剤、注入バッグのような注入剤、及びエアロゾル製剤のような噴霧剤などが好ましい。上記注射用アンプルは使用直前に注射液と混合調製することができ、注射液としては生理食塩水、ブドウ糖、マンニトール、リンゲル液などを用いることができる。また、注入バッグは塩化ポリビニルまたはポリエチレン材質のものを用いることができ、バクスター(Baxter)、ベクトンディッキンソン(Becton Dickinson)、メドセップ(Medcep)、ナショナルホスピタルプロダクト(National Hospital Products)又はテルモ(Terumo)社の注入バッグを例示できる。
【0095】
上記薬学製剤には、上記有効成分以外に一つまたはそれ以上の薬学的に許容可能な通常の不活性担体、例えば、注射剤の場合には、保存剤、無痛化剤、可溶化剤または安定化剤などを、局所投与用製剤の場合には、基剤(Base)、賦形剤、潤滑剤または保存剤などをさらに含んでもよい。
【0096】
このように製造された本発明の細胞治療剤組成物又はこの薬学製剤は当業界において通常に用いる投与方法を用いて癌治療に用いられる他の細胞と共に、またはそのような細胞との混合物の形態で投与されてもよく、望ましくは治療が必要な患者の疾患部位に直接生着又は移植する、又は腹腔に直接移植若しくは注入することが可能であるが、これに限定されない。また、上記投与はカテーテルを用いた非外科的投与及び疾患部位切開後に注入又は移植など外科的投与方法のいずれも可能である。また、常法により非経口的に、例えば、直接病変に投与すること以外に血管内注入による移植も可能である。
【0097】
上記細胞治療剤組成物は1日0.0001~1000mg/kgで、具体的には、0.001~100mg/kgの用量で投与することができ、上記投与は1日に1回または数回に分けて投与することができる。しかし、有効成分の実際の投与量は治療しようとする疾患、疾患の重症度、投与経路、患者の体重、年齢及び性別などの種々の関連因子に照らして決定されなければならないと理解されるべきであり、従って、上記投与量はいかなる面でも本発明の範囲を限定するわけではない。
【0098】
本発明の他の様態は、上記の方法により製造されたCAR-iNK細胞を有効成分として含む、癌の治療又は予防用薬学組成物を提供する。
【0099】
ここで用いられる用語は、前述した通りである。
【0100】
本発明において、上記癌はCAR-iNK細胞の免疫反応などにより予防又は治療の結果を示す癌であってもよい。上記癌は、例えば、繊維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫癌、骨原性肉腫、骨髄癌、骨髄腫、骨髄異形成症、リンパ腫、非ホジキンリンパ腫、血液癌、黒色腫、脊索腫、血管肉腫、内皮肉腫、リンパ管肉腫、リンパ血管内皮肉腫、滑液膜腫、中皮腫、ユーイング肉腫、胃癌、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸癌腫、結腸癌、大腸癌、直腸癌、膵胆管癌、膵臓癌、胆道癌、胆嚢癌、肝癌、乳癌、卵巣癌、子宮癌、前立腺癌、前白血病、白血病、急性白血病、B-細胞急性リンパ性白血病(BALL)、T-細胞急性リンパ性白血病(TALL)、小リンパ球性白血病(SLL)、急性リンパ性白血病(ALL);慢性白血病、慢性骨髄白血病(CML)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、扁平細胞癌腫、基底細胞癌腫、腺癌腫、汗腺癌腫、皮脂腺癌腫、甲状腺乳頭癌、嚢腫癌、甲状腺髄様癌、気管支原性癌腫、腎細胞癌腫、肝癌、胆汁管癌腫、絨毛膜癌腫、精上皮腫、胎生性癌腫、ウィルムス腫瘍、子宮頸部癌、皐丸腫瘍、肺癌腫、肺癌、小細胞肺癌腫、膀胱癌腫、上皮癌腫、頭頸部癌、脳癌、神経膠腫、星状細胞腫、腎細胞癌、膠芽腫、髄芽腫、頭蓋咽頭腫、上衣細胞腫、松果体腫、血管芽細胞腫、聴神経腫、乏枝膠腫、脳髄膜腫、黒色腫、神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫及び肉腫であってもよく、具体的には、CD19、MSLNまたはHER2のいずれか一つ以上の発現と連関した癌、例えば、骨髄異形成症、骨髄異形成症候群、前白血病、血液癌、急性白血病、B-細胞急性リンパ性白血病(BALL)、T-細胞急性リンパ性白血病(TALL)、小リンパ球性白血病(SLL)、急性リンパ性白血病(ALL);慢性白血病、慢性骨髄白血病(CML)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、非ホジキンリンパ腫、リンパ腫、骨髄腫、膵臓癌、胆道癌、肺癌、卵巣癌、乳癌、子宮癌、直腸癌、大腸癌、結腸癌、骨髄癌、肝癌、脳癌、前立腺癌、胃癌、神経膠腫、黒色腫、扁平細胞癌腫、頭頸部癌、腎細胞癌、膠芽腫、髄芽腫、肉腫及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれか一つ以上であってもよく、より具体的には、血液癌、膵臓癌、前立腺癌、大腸癌、肺癌、肝癌、胃癌、黒色腫及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれか一つ以上であってもよいが、これに制限されない。
【0101】
上記薬学組成物は、本発明の方法により製造されたCAR-iNK細胞を含むことにより癌の予防又は治療効能があるものであってもよい。
【0102】
本発明の薬学組成物は、組成物の全重量に対して上記CAR-iNK細胞を1.0×104~1.0×1010個の細胞/ml、好ましくは1.0×105~1.0×109個の細胞/mlで含んでもよいが、これに制限されない。
【0103】
上記薬学組成物は、薬学組成物の製造に通常用いる薬学的に許容可能な担体、賦形剤または希釈剤をさらに含んでもよく、上記担体は、非自然的担体(Non-naturally Occuring Carrier)を含んでもよい。上記担体、賦形剤及び希釈剤としてはラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、澱粉、アカシアゴム、アルギネート、ゼラチン、カルシウムホスフェート、カルシウムシリケート、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、マグネシウムステアレート及び鉱物油などを挙げることができる。
【0104】
また、上記薬学組成物は、それぞれ常法により錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、懸濁剤、内用液剤、乳剤、シロップ剤、滅菌された水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤、経皮吸収剤、ゲル剤、ローション剤、軟膏剤、クリーム剤、貼付剤、カタプラズマ剤、ペースト剤、スプレー、皮膚乳化液、皮膚懸濁液、経皮伝達性パッチ、薬物含有包帯又は坐剤の形態に剤形化して用いることができる。
【0105】
具体的には、剤形化する場合、通常用いる充填剤、重量剤、結合剤、湿潤剤、崩解剤、界面活性剤などの希釈剤又は賦形剤を用いて調剤されてもよい。経口投与のための固形製剤としては、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などを含むが、これに制限されない。このような固形製剤は少なくとも一つ以上の賦形剤、例えば、澱粉、カルシウムカーボネート、スクロース、ラクトース、ゼラチンなどを混ぜて調剤されてもよい。また、単純な賦形剤以外にマグネシウムステアレート、タルクのような潤滑剤なども用いられる。経口のための液状物、リキッドパラフィン以外に種々の賦形剤、例えば、湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などを添加して調剤され得る。非経口投与のための製剤は、滅菌された水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤及び坐剤を含む。非水性溶剤及び懸濁剤としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブオイルのような植物性オイル、オレイン酸エチルのような注射可能なエステルなどが用いられる。坐剤の基剤としては、ウィテプゾール、マクロゴール、ツイン61、カカオ脂、ラウリン脂、グリセロゼラチンなどが用いられる。
【0106】
本発明の薬学組成物は薬学的に有効な量で投与されてもよい。上記用語、「薬学的に有効な量」とは、医学的治療に適用可能な合理的な恩恵リスクの比率で疾患を治療するのに十分な量を意味し、有効用量の水準は、個体の種類及び重症度、年齢、性別、薬物の活性、薬物に対する敏感度、投与時間、投与経路及び排出比率、治療期間、同時に用いられる薬物を含む要素及びその他医学分野によく知られている要素により決定され得る。例えば、上記薬学組成物は1日0.0001~1000mg/kgで、具体的には、0.001~100mg/kgの用量で投与することができ、上記投与は1日に1回または数回に分けて投与することができる。
【0107】
上記薬学組成物は、個別治療剤で投与してもよく、他の治療剤と併用して投与してもよく、従来の治療剤とは段階的または同時に投与してもよい。そして単一または多重投与され得る。上記要素を全て考慮して副作用なしに最小限の量で最大の効果が得られる量を投与することが重要であり、当業者により容易に決定され得る。
【0108】
上記「投与」とは、任意の適切な方法で個体に本発明の組成物を導入することを意味し、上記組成物の投与経路は目的組織に到達できる限り、任意の一般的な経路を通じて投与されてもよい。腹腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、経口投与、局所投与、鼻内投与されてもよいが、これに制限されない。
【0109】
上記「個体」とは、癌が発病しているか、発病し得るヒト、サル、牛、馬、羊、豚、鶏、七面鳥、ウズラ、ネコ、犬、マウス、ラット、ウサギまたはモルモットを含むあらゆる動物を意味する。本発明の薬学組成物を個体に投与することにより上記疾患を効果的に予防又は治療できれば個体の種類は制限なく含まれ得る。
【0110】
本発明のもう一つの様態は、上記細胞治療剤組成物又は薬学組成物をヒトを除く個体に投与する段階を含む、癌の治療方法を提供する。
【0111】
ここで用いられる用語は、前述した通りである。
【0112】
本発明は、直接リプログラミングを通じて分離された細胞からCAR-iNK細胞を直接生産することにより生産工程が簡素化され、生産時間が少なくとも32日間程度で従来のリプログラミング技術を用いてNK細胞を生産後に、これにCAR遺伝子を導入した方法に比べて短く、これにより費用が節約され、NK細胞生産効率が最大47.8%優れ、誘導多能性幹細胞を経由することなく生産されることにより安全性が確保され、従来リプログラミング技術と差別化される優れたCAR-iNK細胞生産性を有する。
【0113】
併せて、本発明は、従来の直接採取、幹細胞分化過程などを通じてNK細胞を得る方法とは異なり、NK細胞と系統が異なり、収集が容易な細胞をリプログラミング培地での培養を通じてNK細胞を直接製造することができるところ、細胞の種類、品質に対する広範囲な選択肢を提供できることに意義がある。
【0114】
それだけでなく、本発明の方法により製造されたCAR-iNK細胞は前述したように癌細胞殺傷能に優れるところ、これを含む癌の予防又は治療用細胞治療剤組成物及び薬学組成物として提供することができる。
【実施例】
【0115】
以下、実施例を通じて本発明の構成及び効果をより詳しく説明する。これら実施例は専ら本発明を例示するためのものに過ぎず、本発明の範囲がこれら実施例により限定されるものではない。
【0116】
実施例1:CARをコードするレンチウイルスベクターの構築
CAR(Chimeric Antigen Receptor)をコードする二重シストロンレンチウイルスベクターを作製するために、CD19、HER2(Human Epidermal Growth Factor Receptor 2)又はMSLN(Mesothelin)にそれぞれ結合する4種のCAR遺伝子を作製した。上記各CAR遺伝子は抗体ドメイン(scFv)を含む細胞外ドメイン、細胞膜貫通ドメイン及び細胞内ドメインをコードする遺伝子を含めて構成された。具体的には、上記各CAR遺伝子は下記の通り構成された(
図1)。
【0117】
i)CD8リーダ(leader)(配列番号1)、CD19 scFv(配列番号2)、CD8ヒンジ(Hinge)(配列番号5)、CD8膜貫通(Transmembrane, TM)ドメイン(Domain)(配列番号6)、Fc-γ(Gamma)受容体(配列番号7)及びGFP(Green Fluorescent Protein)(配列番号11)を含むCD19-CAR1遺伝子;
ii)CD8リーダ(配列番号1)、CD19 scFv(配列番号2)、CD8ヒンジ(配列番号5)、CD8膜貫通ドメイン(配列番号6)、CD28細胞内(Intracellular)ドメイン(配列番号8)、CD3ζ(Zetta)(配列番号9)、IRES(Internal Ribosome Entry Site)(配列番号10)及びGFP(配列番号11)を含むCD19-CAR2遺伝子;
iii)CD8リーダ(配列番号1)、MSLN(Mesothelin)scFv(配列番号3)、CD8ヒンジ(配列番号5)、CD8膜貫通ドメイン(配列番号6)、CD28細胞内ドメイン(配列番号8)、CD3ζ(配列番号9)、IRES(配列番号10)及びGFP(配列番号11)を含むMSLN-CAR遺伝子;及び
iV)CD8リーダ(配列番号1)、HER2(Human Epidermal Growth Factor Receptor 2)scFv(配列番号4)、CD8ヒンジ(配列番号5)、CD8膜貫通ドメイン(配列番号6)、CD28細胞内ドメイン(配列番号8)、CD3ζ(配列番号9)、IRES(配列番号10)及びGFP(配列番号11)を含むHER2-CAR遺伝子。
【0118】
上記IRESは、CAR遺伝子を、二重シストロンを構成するベクターにクローニングするために挿入した。上記4種のCAR遺伝子を含む各ベクターはCAR1(Addgene ID:113014)から
図1の各ドメインを合成し、オーバーラップPCR(Overlap PCR, Gibson Assembly)を通じてCARを発現するレンチウイルスを作製した。
【0119】
実施例2:PBMCからNK細胞への直接リプログラミング
分離された末梢血液単核細胞(Peripheral Blood Mononuclear Cell: PBMC)を培養液(2.5% StemPro-34栄養補充物(Nutrient Supplement)、2mMグルタマックス(Glutamax)I、1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Penicillin/Streptomycin)、20ng/mlヒトIL(Interleukin)-3、20ng/mlヒトIL-6、100ng/mlヒトSCF(Stem Cell Factor)、100ng/mlヒトFLT3(FMS-like Tyrosine Kinase)を含むStempro SFEM II)で2日に1回ずつ培地を交換して4日間培養した。
【0120】
上記PBMC細胞にリプログラミング因子(Oct4、Sox2、Klf4及びMyc)を形質転換するためにリプログラミング因子を発現するセンダイウイルスシステム[Oct4、Sox2、Klf4及びMyc発現RNA基盤センダイウイルス(CytoTune 2.0 Sendai Reprogramming Kit, Thermo Scientific);OSKM-SeV]と実施例1の4種のCARを発現する4種のレンチウイルスを用いた。具体的には、PBMC細胞をリプログラミング因子で形質転換させるために上記センダイウイルス(5 MOI)、PBMC細胞及びポリブレン(4μg/ml)が含まれた標準培養培地(SCM培地)で1日間培養後に、次に提示された第1培地、第2培地、第3培地で順次交替しながら培養した。上記方法で形質転換された細胞(2×10
5個の細胞/48-ウェルプレート)をGSK3β(Glycogen Synthase Kinase 3β)阻害剤(Inhibitor)を含むCAR-iNK第1培地(10%FBS、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、100ng/mlヒトSCF、100ng/mlヒトFLT3、20ng/mlヒトIL-3、20ng/mlヒトIL-6、5 uM CHIR99021を含むStemSpan SFEM II)で5-6日間培養した後、AHR(Aryl Hydrocarbon Receptor)拮抗剤(Antagonist)を含むCAR-iNK第2培地(10%FBS、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、20ng/mlヒトSCF、20ng/mlヒトFLT3、200 IU/mlヒトIL-2、20ng/mlヒトIL-7、20ng/mlヒトIL-15、2uMステムレゲニンI(StemRegenin I,SR1)を含むStemSpan SFEM II)で12日間培養し、その後、GSK3β阻害剤及びAHR拮抗剤を含むCAR-iNK第3培地(10%FBS、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、200 IU/mlヒトIL-2、50ng/mlヒトIL-12、20ng/mlヒトIL-15、100ng/mlヒトIL-18、20 ng/ml IL-21、2 uM CHIR99021及び2uMステムレゲニンIを含むRPMI 1640)で14日間以上培養してNK細胞に誘導した(
図2)。CARを発現するレンチウイルスは
図2のようにリプログラミング因子と同時に(Day 0)、リプログラミング因子導入後にCAR-iNK第1培地で培養する段階(Day 4)、CAR-iNK第2培地で培養する段階(Day 14)またはCAR-iNK第3培地で培養する段階(Day 24)中、選択して培養培地に接種することによりPBMC細胞からNK細胞に転換されるリプログラミング過程の細胞に形質転換された。
【0121】
上記直接リプログラミングを通じてCD19-CAR1遺伝子、CD19-CAR2遺伝子、MSLN-CAR遺伝子又はHER2 CAR遺伝子が導入されたNK細胞が製造されたかどうかを確認するために、CD56抗体、CD3抗体、CD19抗原、MSLN抗原、HER2抗原で上記細胞を染色後にフローサイトメトリー(Flow Cytometry)を用いてiNK細胞(CD56+及びCD3-)群、CD19 CAR-iNK細胞(CD56+及びCD19+)群、MSLN CAR-iNK細胞(CD56+及びMSLN+)群及びHER2 CAR-iNK(CD56+及びHER2+)群を分析した。具体的には、直接リプログラミングを通じて誘導されたNK(iNK)細胞を蛍光が付着された上記抗体、抗原が添加された1% BSA(Bovine Serum Albumin)及び2mM EDTA(Ethylenediaminetetraacetic Acid)を含むリン酸塩緩衝液(FACS緩衝液)に投与し、常温で20分間反応後、細胞を遠心分離機を用いて洗浄及び回収した後、FACS(BD Bioscience)で分析した。
【0122】
また、各CAR遺伝子がiNK細胞ゲノムに挿入されたかどうかを確認するために各細胞のゲノムDNAをCD19 CARに対するプライマー(配列番号12及び13)、MSLN CARに対するプライマー(配列番号14及び15)、HER2 CARに対するプライマー(配列番号16及び17)を用いたPCR遺伝子分析を通じて確認した。
【0123】
その結果、CD56+CD3- CD19-CAR-iNK細胞が最大45.9%(
図3、
図6A)、CD56+CD3- MSLN-CAR-iNK細胞が43.7%(
図4)、CD56+CD3- HER2-CAR-iNK細胞が47.8%(
図5)の効率で製造されることを確認した。
【0124】
また、
図6のように、CARを発現するレンチウイルスをリプログラミング因子と同時に(Day 0)、リプログラミング因子導入後にCAR-iNK第2培地で培養する段階(Day 14)またはCAR-iNK第3培地で培養する段階(Day 24)から選択して培養培地に接種した時に、CD56+CD3- CD19-CAR-iNK細胞がそれぞれ15.5%、31.6%、45.9%の効率で生産されることを確認した。
【0125】
実施例3:培養期間の最適化
3-1.CAR-iNK第1培地での培養期間の最適化
CAR-iNK第1培地で互いに異なる培養期間(3、5、7、9日間)培養し、その後、実施例1と同様の条件でCAR-iNK第2培地及び第3培地で培養した後、CAR-iNK生産収率を比較分析した。
【0126】
その結果、CAR-iNK第1培地で5日間培養した時、約80%と最高のCAR-iNK生産収率が示されることを確認した(
図7A)。
【0127】
3-2.CAR-iNK第3培地の組成の最適化
実施例1と同様の条件でCAR-iNK第1培地及び第2培地で培養した後、互いに異なる組成のCAR-iNK第3培地で培養してCAR-iNK生産収率を比較分析した。
【0128】
その結果、20ng/mlヒトIL-21、2μM CHIR99021、2μMステムレゲニンI(StemRegenin 1, SR1)、50ng/mlヒトIL-12、及び100ng/mlヒトIL-18を追加したCAR-iNK第3培地で培養した場合、CAR-iNK収得効率が増加することを確認した(
図7B)。また、上記各組成のCAR-iNK第3培地で7日間または14日間培養した時、14日間培養した場合、CAR-iNK収得効率が最大15倍まで増加することを確認した(
図7B)。
【0129】
上記結果に基づいてCAR-iNKは、CAR-iNK第1培地で5日間、CAR-iNK第2培地で12日間、CAR-iNK第3培地で2-3週間培養した。
【0130】
実施例4:CD107a+細胞定量の分析
実施例2で製造されたCAR-iNK細胞の癌細胞殺傷可能性を検証するために、CAR-iNK細胞を癌細胞と共培養した後に発現する、癌細胞溶解能を有するCD107a+細胞の頻度を定量分析した。具体的には、癌細胞である Raji(Raji B, Human B Lymphocytes; Burkitt's Lymphoma), Jurkat T(Immortalized Human T Lymphocytes), SNU-291(Human B-lymphoblastoid Cells), SNU-817(Human B-lymphoblastoid Cells), HCT116(Human Colon Cancer Cells), NIC-H460(Human Lung Cancer Cells), HepG2(Human Liver Hepatocellular Carcinoma Cells), Mia-paca-2(Human Pancreas Ductal Adenocarcinoma Cells), PC3(PC-3, Human Prostate Cancer Cells) それぞれ1×106個の細胞/mlとCAR-iNK細胞1×106個の細胞/mlを6-ウェルプレートにそれぞれ1mlずつ分注した後、400gで1分間遠心分離し、これを2時間または16時間37℃、5% CO2 存在下で、細胞インキュベーターで培養した後、フローサイトメトリーを通じてCD107a+細胞の頻度を確認した。具体的には、CD107a+細胞の頻度はCAR-iNK細胞を蛍光が付着されたCD56及びCD107aに対する抗体が添加されたFACS緩衝液で20分間常温で反応した後、上記細胞を、遠心分離機を用いて洗浄及び回収した後、FACS分析した。
【0131】
その結果、CAR遺伝子が導入されていないiNK対照群又は共培養してしない対照群(-)に比べ、CD19 CAR-iNK細胞(
図8~9)、MSLN-CAR-iNK細胞(
図10)、HER2-CAR-iNK細胞(
図11)と癌細胞を共培養する場合、CD107a+iNK細胞の頻度(%)が増加することを確認した。
【0132】
実施例5:インターフェロンガンマ(IFN-gamma)発現細胞定量の分析
実施例2で製造されたCAR-iNK細胞の癌細胞殺傷可能性を検証するために、CAR-iNK細胞を癌細胞と共培養した後に発現する、IFN-ガンマ細胞頻度を定量分析した。具体的には、癌細胞である Raji、SNU-291、SNU-817、HepG2、NIC-H460(Human Lung Cancer Cells)、KATO3(KATOIII, Human Gastric Cancer Cells)、CFPAC-1(Human Ductal Pancreatic Adenocarcinoma Cells) それぞれ1×106個の細胞/mlとCAR-iNK細胞1×106個の細胞/mlを6-ウェルプレートにそれぞれ1mlずつ分注した後、400gで1分間遠心分離し、これを2時間または16時間37℃、5% CO2存在下で細胞インキュベーターで培養した後、フローサイトメトリーを通じてIFN-ガンマ細胞の頻度を確認した。具体的には、IFN-ガンマ細胞の頻度はCAR-iNK細胞を0.5% Tween 20、0.5% BSAを含むリン酸塩緩衝液で、20分間常温で反応した後、上記細胞を、遠心分離機を用いて洗浄及び回収した。回収した細胞を蛍光が付着されたCD56及びIFN-ガンマに対する抗体が添加されたFACS緩衝液で、20分間常温で反応した後、上記細胞を、遠心分離機を用いて洗浄及び回収し、FACS分析した。
【0133】
その結果、CAR遺伝子が導入されていないiNK対照群又は共培養してしない対照群(-)に比べ、CD19-CAR-iNK細胞(
図12~13)、MSLN-CAR-iNK細胞(
図14)、HER2-CAR-iNK細胞(
図15)と癌細胞を共培養した場合、IFN-ガンマ+iNK細胞の頻度(%)が増加することを確認した。
【0134】
実施例6:CAR-iNK細胞の癌細胞殺傷能の測定
実施例1で製造されたCAR-iNK細胞の癌細胞殺傷能を測定するために、カルセイン-AM(Calcein-AM)を用いた細胞殺傷能の測定を行った。具体的には、癌細胞であるRaji, SNU-291, SNU-817, Mia-paca-2, CFPAC-1, PC3(PC-3), LNcap(Androgen-sensitive Human Prostate Adenocarcinoma Cells), DU145(Human Prostate Cancer Cells), HCT116, A549(Human Lung Carcinoma Cells), NIC-H460, HepG2, KATO3(KATOIII), SK-MEL-3(Human Melanoma Cells)を、10%のウシ胎児血清を含むDMEM培地でそれぞれ11×105個の細胞/mlになるように希釈した後、25μMになるようにカルセイン-AMを添加し、37℃で1時間培養後にDMEM培地で洗浄し、カルセイン標識標的癌細胞を作製した。
【0135】
iNK細胞を培養液を用いてそれぞれ0.25×105個の細胞/m1、1×105個の細胞/mlの密度に希釈して準備した後に96-ウェルプレートにそれぞれ100mlずつ分注した。作製したカルセイン標識標的癌細胞(1×105個の細胞/ml)を100ul/wellずつ96-ウェルプレートに添加した後、400gで1分間遠心分離し、これを4時間37℃、5% CO2存在下で細胞インキュベーターに培養した後、各ウェルから上清100ulをとって蛍光プレートリーダー(485mm/535nm)で測定した。細胞殺傷能(%)は下記数式により算出した。
【0136】
【0137】
上記式中、最小値はカルセイン標識標的癌細胞のみ存在するウェルの測定値であり、最大値はカルセイン標識標的癌細胞に0.1% TritonX-100を添加して細胞を完全溶解したウェルの測定値である。
【0138】
その結果、iNK対照群対比CD19-CAR-iNK細胞(
図16)、MSLN-CAR-iNK細胞(
図17)、HER2-CAR-iNK細胞(
図18)が高い癌細胞殺傷能を有することを確認し、各CAR-iNK細胞数に比例するように癌細胞殺傷能が増加することを確認した。
【0139】
実施例7:CAR-iNK細胞の生体内癌細胞殺傷能の検証
生後8週目のヌードマウス(Balb/c-nude Mouse、平均重量20-25g)の背中にルシフェラーゼ(Luciferase)を発現するCFPAC-1 1×107個の細胞/ml200μlを皮下注入(Subcutaneous Injection)し、膵臓癌細胞異種移植マウス動物モデルを製造した。翌日、陰性対照群としてPBS 200 ulまたは実験群としてiNK、MSLN-CAR-iNK細胞を同一用量(1×107個の細胞/mlPBS)で注入した後、7日間の間隔でPBSに溶解した150μlのD-ルシフェリン(150μg/ml,Promega)を腹腔注射し、15-20分間後に腫瘍の大きさを IVIS 100(PerkinElmer)を通じて確認した。
【0140】
その結果、14日目でPBSを注入した条件で形成された対照群の腫瘍の大きさ(1.21×10
10放射輝度(Radiance))比iNK(5.35×10
9放射輝度)及びCAR-NK(3.83×10
9放射輝度)細胞実験群で形成された腫瘍の大きさが顕著に減っていることを確認することによりCAR-iNK細胞がiNK細胞比で優れた抗癌効果を奏することを確認した(
図19)。
【0141】
上記実施例の結果から、分離された細胞を直接リプログラミングを用いて抗癌活性に優れたCAR-iNK細胞を製造できることを確認した。
【0142】
以上の説明から、本発明が属する技術分野の当業者であれば、本発明がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施されうることが理解できるだろう。これに関連し、以上で記述した実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本発明の範囲は上記詳細な説明よりは、後述する特許請求の範囲の意味及び範囲、そしてその等価概念から導かれるあらゆる変更または変形された形態が本発明の範囲に含まれるものと解釈すべきである。
【配列表】
【国際調査報告】