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特表2022-527972前悪性病変を有する患者において癌を予測及び予防する方法
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  • 特表-前悪性病変を有する患者において癌を予測及び予防する方法 図1
  • 特表-前悪性病変を有する患者において癌を予測及び予防する方法 図2
  • 特表-前悪性病変を有する患者において癌を予測及び予防する方法 図3A
  • 特表-前悪性病変を有する患者において癌を予測及び予防する方法 図3B
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-07
(54)【発明の名称】前悪性病変を有する患者において癌を予測及び予防する方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/68 20180101AFI20220531BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20220531BHJP
【FI】
C12Q1/68
G01N33/574 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021558926
(86)(22)【出願日】2020-04-01
(85)【翻訳文提出日】2021-11-26
(86)【国際出願番号】 EP2020059272
(87)【国際公開番号】W WO2020201362
(87)【国際公開日】2020-10-08
(31)【優先権主張番号】19305434.3
(32)【優先日】2019-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】19305535.7
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(71)【出願人】
【識別番号】520053762
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・パリ・シテ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS CITE
(71)【出願人】
【識別番号】518059934
【氏名又は名称】ソルボンヌ・ユニヴェルシテ
【氏名又は名称原語表記】SORBONNE UNIVERSITE
(71)【出願人】
【識別番号】509196062
【氏名又は名称】アシスタンス・ピュブリク・オピトー・ドゥ・マルセイユ
【氏名又は名称原語表記】ASSISTANCE PUBLIQUE HOPITAUX DE MARSEILLE
(71)【出願人】
【識別番号】511025226
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ デクス-マルセイユ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE D’AIX-MARSEILLE
【住所又は居所原語表記】Jardin du Pharo, 58, Bld Charles Livon, F-13284 Marseille cedex 07, France
(71)【出願人】
【識別番号】503128401
【氏名又は名称】ユニベルシテ リブル ドゥ ブリュッセル
(71)【出願人】
【識別番号】301069856
【氏名又は名称】トラスティーズ オブ ボストン ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ギャロン,ジェローム
(72)【発明者】
【氏名】マスコー,セリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】アンゲロワ,ミハエラ
(72)【発明者】
【氏名】スキュリエ,ジャン-ポール
(72)【発明者】
【氏名】ベール,ジェニファー
(72)【発明者】
【氏名】ヒジャージー,カーケシャン
(72)【発明者】
【氏名】スピラ,アバーム
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA13
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ42
4B063QQ53
4B063QR32
4B063QR36
4B063QR72
4B063QS34
(57)【要約】
進行癌は予後不良であるので、最初期の段階におけるその検出及び処置が、癌生存率を上げるのに重要である。癌発生中の病変内免疫反応の決定因子の解明は、精密医療及び免疫療法に基づく癌予防に進めるのに重要である。腫瘍内の獲得免疫応答は、癌の最初期の段階において最強であることが示された。したがって、本発明者らは、免疫微小環境及び獲得免疫がまず、肺癌発生の初期段階に確立されるという仮説を立てた。ここで、本発明者らは、遺伝子発現プロファイリング及びマルチスペクトルイメージングを使用して、連続的な肺扁平上皮癌発生段階中における、腫瘍分子プロファイル及びその微小環境の変化を同定した。77人の患者に由来する122個の注釈の充実した生検材料を含む、9個の形態学的な発生段階の特有かつ貴重なデータセットを分析した。特に、本発明者らは、免疫活性化及び免疫回避は、腫瘍浸潤前に起こること、並びに、免疫抑制性サイトカイン及びチェックポイント受容体による免疫回避機序は、高グレード異形成における抗腫瘍免疫と同時に起こることを示す。したがって、本発明は、前悪性病変を有する被験者における癌を予測及び予防する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者から得られた生物学的試料中の少なくとも1つの免疫マーカーのレベルを決定する工程を含み、ここで、前記免疫マーカーの発現レベルは、癌を有するリスクと相関している、前悪性病変を有する被験者が癌を有するリスクがあるかどうかを決定するための方法。
【請求項2】
ポリジーン表現型又は多因子性表現型から生じる癌を有するリスクを予測するための、請求項1の方法。
【請求項3】
肺癌を有するリスクを予測するための請求項1の方法。
【請求項4】
前記試料が、体液試料又は組織試料である、請求項1の方法。
【請求項5】
被験者から得られた生物学的試料中の少なくとも1つの免疫マーカーのレベルを決定する工程を含み、ここで、前記免疫マーカーは、CD58及びセルピンメンバーからなる群より選択され、前記免疫マーカーの発現レベルは、癌を有するリスクと相関している、低グレード異形成を有する被験者が癌を有するリスクがあるかどうかを決定するための、請求項1の方法。
【請求項6】
被験者から得られた生物学的試料中の少なくとも1つの免疫マーカーのレベルを決定する工程を含み、ここで、前記免疫マーカーは、CD58及びセルピンメンバーからなる群より選択され、前記免疫マーカーの発現レベルは、癌を有するリスクと相関している、低グレード気管支異形成を有する被験者が肺癌を有するリスクがあるかどうかを決定するための、請求項5の方法。
【請求項7】
被験者から得られた生物学的試料中の少なくとも1つの免疫マーカーのレベルを決定する工程を含み、ここで、前記免疫マーカーは、CD4ナイーブT細胞であり、前記免疫マーカーの発現レベルは、癌を有するリスクと相関している、低グレード異形成を有する被験者が癌を有するリスクがあるかどうかを決定するための、請求項1の方法。
【請求項8】
被験者から得られた生物学的試料中の少なくとも1つの免疫マーカーのレベルを決定する工程を含み、ここで、前記免疫マーカーはCD4ナイーブT細胞であり、前記免疫マーカーの発現レベルは、癌を有するリスクと相関している、低グレード気管支異形成を有する被験者が肺癌を有するリスクがあるかどうかを決定するための、請求項7の方法。
【請求項9】
被験者から得られた生物学的試料中の少なくとも1つの免疫マーカーのレベルを決定する工程を含み、ここで、前記免疫マーカーは、TNFRSF18(GITR)、IL18、TNFRSF14(HVEM)、TNFSF4、及びTNFRSF17(BCMA)からなる群より選択され、前記免疫マーカーの発現レベルは、癌を有するリスクと相関している、低グレード異形成を有する被験者が癌を有するリスクがあるかどうかを決定するための、請求項1の方法。
【請求項10】
被験者から得られた生物学的試料中の少なくとも1つの免疫マーカーのレベルを決定する工程を含み、ここで、前記免疫マーカーは、TNFRSF18(GITR)、IL18、TNFRSF14(HVEM)、TNFSF4、及びTNFRSF17(BCMA)からなる群より選択され、前記免疫マーカーの発現レベルは、癌を有するリスクと相関している、低グレード気管支異形成を有する被験者が肺癌を有するリスクがあるかどうかを決定するための、請求項9の方法。
【請求項11】
被験者から得られた生物学的試料中の少なくとも1つの免疫マーカーのレベルを決定する工程を含み、ここで、前記免疫マーカーは、共阻害性分子、共刺激性分子、免疫抑制性インターロイキン、及び免疫刺激性インターロイキンからなる群より選択され、前記免疫マーカーの発現レベルは、癌を有するリスクと相関している、高グレード異形成を有する被験者が癌を有するリスクがあるかどうかを決定するための、請求項1の方法。
【請求項12】
被験者から得られた生物学的試料中の少なくとも1つの免疫マーカーのレベルを決定する工程を含み、ここで、前記免疫マーカーは、共阻害性分子、共刺激性分子、免疫抑制性インターロイキン、及び免疫刺激性インターロイキンからなる群より選択され、前記免疫マーカーの発現レベルは、癌を有するリスクと相関している、高グレード気管支異形成を有する被験者が肺癌を有するリスクがあるかどうかを決定するための、請求項11の方法。
【請求項13】
前記免疫マーカーが、CD137、GITR、ICOS、TNFRSF25、及びCD86からなる群より選択される共刺激性分子である、請求項11又は12の方法。
【請求項14】
前記免疫マーカーが、PDL1、PD1、IDO1、CTLA4、及びTIGITからなる群より選択される共阻害性分子である、請求項11又は12の方法。
【請求項15】
前記免疫マーカーが、IL-18及びIFNGからなる群より選択される免疫刺激性インターロイキンである、請求項11又は12の方法。
【請求項16】
前記免疫マーカーが、IL6、IL10、及びTGFβからなる群より選択される免疫抑制性インターロイキンである、請求項11又は12の方法。
【請求項17】
前記免疫マーカーの検出が、免疫系の細胞によって特異的に産生されるタンパク質をコードしているゲノムDNAから転写されるメッセンジャーRNA(mRNA)の存在若しくは量を含むか、又は、細胞(例えば腫瘍細胞又は免疫細胞)によって発現されているか
若しくは可溶化形として放出されている(例えば血液などの体液中に)、タンパク質の存在若しくは量を含む、請求項1の方法。
【請求項18】
2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、又は15個の免疫マーカーの発現レベルが決定される、請求項1の方法。
【請求項19】
異なる免疫マーカーの発現レベルの複合であるスコアが決定され、そして所定の基準値と比較され、ここでの前記スコアと前記の所定の基準値との間の差異は、被験者が癌を有するリスクがあるかどうかを示す、請求項18の方法。
【請求項20】
a)試料中の複数の免疫マーカーのレベルを定量する工程;b)定量された複数の免疫マーカーを含むデータに関してアルゴリズムを実施して、アルゴリズムの出力を得る工程;c)被験者が癌を発症するであろう確率を、工程b)のアルゴリズム出力から決定する工程を含む、請求項18の方法。
【請求項21】
治療有効量の少なくとも1つの化学的予防剤を被験者に投与する工程を含む、少なくとも1つの前悪性病変を有する被験者における癌の予防的処置のための方法。
【請求項22】
前記被験者が、請求項1の方法によって癌を有するリスクがあると判断される、請求項21の方法。
【請求項23】
前記化学的予防剤が、免疫チェックポイント阻害剤である、請求項21の方法。
【請求項24】
前記免疫チェックポイント阻害剤が、PD-1アンタゴニスト、PD-L1アンタゴニスト、PD-L2アンタゴニスト、CTLA-4アンタゴニスト、VISTAアンタゴニスト、TIM-3アンタゴニスト、LAG-3アンタゴニスト、GITRアンタゴニスト、IDOアンタゴニスト、KIR2Dアンタゴニスト、A2ARアンタゴニスト、B7-H3アンタゴニスト、B7-H4アンタゴニスト、及びBTLAアンタゴニストからなる群より選択される、請求項23の方法。
【請求項25】
前記化学的予防剤が、免疫抑制性サイトカインの阻害剤である、請求項21の方法。
【請求項26】
前記免疫抑制性サイトカインが、IL6、IL10、又はTGFβである、請求項25の方法。
【請求項27】
前記化学的予防剤が、免疫チェックポイント阻害剤又は抑制性サイトカイン又は抑制性タンパク質に対するワクチンである、請求項21の方法。
【請求項28】
前記免疫チェックポイント阻害剤に対するワクチンが、PD-1、PD-L1、PD-L2、CTLA-4、VISTA、TIM-3、LAG-3、GITR、IDO、KIR2D、A2AR、B7-H3、B7-H4、及びBTLAのタンパク質又はペプチドを含む、請求項27の方法。
【請求項29】
前記ワクチンが、IL6、IL10、又はTGFβに対するものである、請求項27の方法。
【請求項30】
前記化学的予防剤が、被験者の前悪性病変に対して全身経路によって、又は前悪性病変内に局所経路によって投与される、請求項21の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野:
本発明の分野は、腫瘍学及び免疫学である。
【0002】
発明の背景:
癌の発生段階における早期介入は、これまで被験者の癌を治癒する唯一の機会である。早期介入の中でも、最も有望な介入としては、可能であるならば前癌段階における、さらには浸潤が起こる前における、早期検出が挙げられ、これにより微小転移に関連した再発のリスクを低減させるための新補助術前処置又は補助処置と組み合わせた、腫瘍の根本的かつ治癒的な切除が可能となる。癌の量を低減させる他の可能な早期介入は、例えば禁煙などの一時的予防、及びまた化学的予防によるアプローチの出現を含む二次的予防をはじめとする、癌の予防である。最初期段階で癌を検出又は予防するために、前悪性病変及びその微小環境に関与している分子機序の研究が必要とされる。前悪性病変は、形態学的に変化した組織であり、ここではその外見から判断して正常な同等なものよりも癌が発生する確率がより高い。これらとしては、とりわけ、白板症、紅板症、及び逆喫煙の口蓋病変、バレット食道、及び、胃又は大腸の腺腫性ポリープが挙げられる。例えば、喫煙は、呼吸器粘膜を発癌物質に曝し、これにより、「領域癌化」プロセスに至る。喫煙者には、浸潤性肺癌の発症に先行して、一連の連続的な前浸潤段階が発生し、該浸潤性肺癌は、この多段階の進行プロセスを特徴とする。蛍光気管支鏡検査を展開した後、肺扁平上皮前浸潤病変を収集し研究することができる。しかしながら、技術的進歩の発展にも関わらず、前浸潤病変の収集物の希少性が、それらの分子プロファイル及び免疫プロファイルに関する少ない知識の理由である。
【0003】
発明の要約:
特許請求の範囲によって定義されているように、本発明は、前悪性病変を有する被験者において癌を検出する方法、予測する方法、及び予防的処置を用いて予防する方法に関する。
【0004】
発明の詳細な説明:
進行癌は予後不良であるので、最初期の段階におけるその検出及び処置が、癌生存率を延長するのに重要である。それ故、前悪性病変において生じている分子プロセス及びそれらの微小環境の役割の解明は、発癌の背後にある生態のより良い理解に重要である。癌発生中の病変内免疫反応の決定因子の解明は、精密医薬及び免疫療法に基づく癌予防に進めるのに重要である。腫瘍内の獲得免疫応答は、癌の最初期の段階において最強であることが示された。したがって、本発明者らは、免疫微小環境及び獲得免疫がまず、肺癌発生の初期段階に確立されると仮説を立てた。ここで、本発明者らは、遺伝子発現プロファイリング及びマルチスペクトルイメージングを使用して、連続的な肺扁平上皮癌発生段階中における、腫瘍分子プロファイル及びその微小環境の変化を同定した。77人の患者に由来する122個の注釈の充実した生検材料を含む、9個の形態学的な発生段階の独特かつ貴重なデータセットを分析した。結果は、以下のような連続的な分子経路を描く。1)正常な組織から癌へと直線的に形成、増殖の持続的増加、及びDNAの修復;2)低グレード前浸潤病変における一過性の代謝増加、並びに常在免疫細胞の活性化及び記憶表現型の獲得による早期免疫感作;3)高グレード前浸潤病変から、免疫応答の活性化及び免疫回避(免疫チェックポイントであるPDL1、PD1、IDO1、CTLA4、TIGIT、及び抑制性インターロイキン(IL6、IL10を含む)、及びTGFβを含む)、並びに4)最終的に浸潤段階において、上皮間葉転換(EMT)の活性化(CXCR4を含む)。本発明者らは、免疫活性化及び免疫回避が、腫瘍浸潤前に起こること、並びに、免疫抑制性サイトカイン及びチェックポイント受容体による免疫回避機序は、高グレード異形成における抗腫瘍免疫と同時に起こることを示す。
【0005】
これらのデータは、癌を発生するリスクの高い個体における、免疫に基づいたバイオマーカーによる早期検出、及び化学的予防によるアプローチのための免疫療法の使用可能性を支持する。
【0006】
本発明の一般的発明概念:
したがって、本発明は、被験者から得られた生物学的試料中の少なくとも1つの免疫マーカーのレベルを決定する工程を含み、ここで前記免疫マーカーの発現レベルは、癌を有するリスクと相関している、前悪性病変を有する被験者が癌を有するリスクがあるかどうかを決定するための方法に関する。
【0007】
本明細書において使用する「前悪性病変」という用語は、まだ悪性ではないが、悪性となり得る、組織を意味する。本明細書において使用する「病変」という用語は、病的変化を受けたか、又は受けたように思われる、組織の領域を指す。例えば、前腫瘍病変は、化生性癌、過形成癌、異形成癌、又は上皮内癌として組織学的に同定され得る。いくつかの実施態様では、前悪性病変は、低グレード又は高グレードの異形成である。異形成は、上皮の明白な腫瘍性変化として定義される。異形成はそれ自体、上皮内の異形成細胞の比率に応じて、高グレード及び低グレードに客観的に細分化され得る。低グレード異形成では細胞は主に、上皮の基底層に留まり、一方、高グレード異形成では細胞は通常、上皮の上部に達する。
【0008】
いくつかの実施態様では、被験者は監視計画に従う。本明細書において使用する「監視プログラム」という用語は、スクリーニング計画において前悪性病変を有すると同定された、個体を長期的に経過観察するために使用されるワンセットの検査又は手順を指す。「監視計画」は、監視間隔及び監視強度の両方についての戦略を含む。例えば、検査は、1つ以上の適切な手順、例えば、内視鏡検査(例えば気管支鏡検査、大腸内視鏡検査、及びS状結腸鏡検査)、試料の潜血検査、コンピューター断層撮影(CT)、又は他の画像診断手順によって行なわれてもよい。
【0009】
いくつかの実施態様では、本発明の方法は、ポリジーン表現型又は多因子性表現型から生じる癌を有するリスクを予測するのに特に適している。いくつかの実施態様では、本発明の方法は、日光、タバコ、アルコール、汚染、特定の化学物質、又は放射線などの外因に曝されたか又は以前に曝された被験者における、癌のリスクを予測するのに特に適している。
【0010】
いくつかの実施態様では、本発明の方法は、副腎皮質癌、肛門癌、胆管癌(例えば、周辺癌、遠位胆管癌、肝内胆管癌)、膀胱癌、骨癌(例えば、骨芽腫、骨軟骨腫、血管腫、軟骨粘液線維腫、骨肉腫、軟骨肉腫、線維肉腫、悪性線維性組織球腫、骨巨細胞腫、脊索腫)、脳及び中枢神経系の癌(例えば、髄膜腫、星状細胞腫、乏突起膠腫、上衣腫、神経膠腫、髄芽腫、神経節膠腫、シュワン腫、胚細胞腫、頭蓋咽頭腫)、乳癌(例えば非浸潤性乳管癌、浸潤性乳管癌、浸潤性小葉癌、非浸潤性小葉癌、女性化乳房)、キャッスルマン病(例えば巨大リンパ節過形成、血管濾胞性リンパ節過形成)、子宮頸癌、結腸直腸癌、子宮体癌(例えば、子宮内膜腺癌、腺癌腫、乳頭状漿液性腺癌、明細胞)、食道癌、膀胱癌(粘液腺癌、小細胞癌)、消化管カルチノイド腫瘍(例えば、絨毛癌、破壊性絨毛腺腫)、ホジキン病、カポジ肉腫、腎臓癌(例えば腎細胞癌)、喉頭癌及び下咽頭癌、肝臓癌(例えば、血管腫、肝腺腫、限局性結節性過形成、肝細胞癌)、肺癌(例えば小細胞肺癌、非小細胞肺癌、扁平上皮肺癌)、中皮腫、形質細胞腫、鼻腔癌及び副鼻腔癌(例えば、感覚神経芽腫、正中線肉芽腫)、上咽頭癌、神経芽腫、口腔癌及び中咽頭癌、卵巣癌、膵臓癌、陰茎癌、下垂体癌、前立腺癌、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫(例えば、胎児性横紋筋肉腫、胞巣状横紋筋肉腫、多形性横紋筋肉腫)、唾液腺癌、皮膚癌(例えば、黒色腫、非黒色腫皮膚癌)、胃癌、精巣癌(例えば、セミノーマ、非セミノーマ胚細胞癌)、胸腺癌、甲状腺癌(例えば濾胞状癌、未分化癌、低分化癌、甲状腺髄様癌、膣癌、外陰部癌、及び子宮癌(例えば子宮平滑筋肉腫)からなる群より選択された癌のリスクを予測するのに特に適している。
【0011】
いくつかの実施態様では、本発明の方法は、肺癌を有するリスクを予測するのに特に適している。
【0012】
本明細書において使用する、本発明の文脈における「リスク」という用語は、事象が特定の期間にわたり起こるであろう確率に関し、被験者の「絶対」リスク又は「相対」リスクを意味し得る。絶対リスクは、関連する時間コホートかけて測定した後の実際の観察を参考にして、又は関連する期間かけて経過観察された統計学的に有効な歴史的コホートから展開された指標値を参考にして測定され得る。相対リスクは、低リスクのコホートの絶対リスク、又はどのように臨床リスク因子が評価されるかによって変動し得る平均的な集団のリスクのいずれかと比較した、被験者の絶対リスクの比を指す。無変換に対する、所与の試験結果に関する負の事象に対する正の事象の比率であるオッズ比も、一般的に使用される(オッズ比は式p/(1-p)に従い、ここでのpは事象の確率であり、(1-p)は、事象が全く起こらない確率である)。本発明の文脈における「リスク評価」又は「リスクの評価」は、ある事象又は疾患が起こり得る確率、オッズ比、又は可能性、事象又はある疾患から別の疾患への変換の発生する比率を予測することを包含する。リスク評価はまた、将来の臨床パラメーター、伝統的な実験室でのリスク因子の数値、又は、以前に測定された集団を参考にした、絶対的な見地若しくは相対的な見地のいずれかの、他の再発指数の予測も含み得る。本発明の方法を使用して、変換のリスクの連続的測定又はカテゴリー別の測定を行なうことができ、よって、変換のリスクがあると規定された被験者のカテゴリーのリスク域の診断及び定義が行なわれ得る。カテゴリー別の概要では、本発明を使用して、正常な被験者コホートと、リスクのより高い他の被験者コホートとを識別することができる。いくつかの実施態様では、本発明を使用して、正常な被験者からリスクのある被験者を識別することができる。
【0013】
試料:
本明細書において使用する「試料」という用語は、インビトロで評価の目的から得られた任意の生物学的試料を指す。
【0014】
いくつかの実施態様では、生物学的試料は、体液試料である。体液の例は、血液、血清、血漿、羊水、脳/脊髄液(fluid)、液(liquor)、脳脊髄液、痰、咽頭及び喉頭の分泌液、及び他の粘膜分泌液、滑液、腹水、涙液、リンパ液、及び尿である。より特定すると、該試料は、血液試料である。本明細書において使用する「血液試料」という用語は、患者から得られた全血試料を意味する。
【0015】
いくつかの実施態様では、生物学的試料は組織試料である。「組織試料」という用語は、生検又は剖検の試料などの組織切片、及び組織的検査の目的のために採取された凍結切片を含む。いくつかの実施態様では、該組織試料は、前悪性病変から得られる。該組織試料は、インビトロでの評価の目的で得られる。いくつかの実施態様では、該組織試料は、患者の前悪性病変において行なわれた生検から得られてもよい。
【0016】
免疫マーカー:
本明細書において使用する「免疫マーカー」という用語は、被験者の免疫応答の状態を示す、任意の検出可能な、測定可能な、又は定量可能なパラメーターからなる。
【0017】
いくつかの実施態様では、該免疫マーカーは、免疫系の細胞の存在、又はその数若しくは密度を含む。いくつかの実施態様では、該免疫マーカーは、免疫系の細胞によって特異的に産生されるタンパク質の存在又は量を含む。いくつかの実施態様では、該免疫マーカーは、可溶形として(例えば血液などの体液で)放出されるタンパク質の存在又は量を含む。いくつかの実施態様では、該免疫マーカーは、宿主の特異的な免疫応答の発生に関連した遺伝子のレベルを示す、任意の生物学的物質の存在又は量を含む。したがって、いくつかの実施態様では、該免疫マーカーは、免疫系の細胞によって特異的に産生されるタンパク質をコードしているゲノムDNAから転写されるメッセンジャーRNA(mRNA)の存在又は量を含む。いくつかの実施態様では、該免疫マーカーは、免疫系の細胞によって、例えばBリンパ球、Tリンパ球、単球/マクロファージ、樹状細胞、ナチュラルキラー細胞、ナチュラルキラーT細胞、及びナチュラルキラー-樹状細胞によって、特異的に発現される表面抗原、又は代替的には該表面抗原をコードしているmRNAを含む。
【0018】
免疫マーカーは、(i)該マーカーの定量値の増加又は減少と、(ii)癌の発生との間に、良好な統計学的相関が認められる場合に、本発明の方法を実施する目的のための「免疫マーカー」となる。試験される各マーカーの相関値を計算し、それにより本発明に記載の「免疫マーカー」としての該マーカーの統計学的妥当性を判定するために、当業者には公知である統計学的方法のいずれか1つを使用してもよい。例えば、ログランク検定を使用した単変量分析及び/又はコックス比例ハザードモデルを使用した統計学的方法を使用してもよく、それは本明細書の実施例に示されている通りである。0.05未満、さらにより好ましくは10-3、10-4、10-5、10-6、又は10-7未満のP値(単変量分析及び多変量分析、例えばそれぞれログランク検定及びコックス検定による)であると判定された任意のマーカーが、本発明の方法に使用可能な「免疫マーカー」を構成する。1つを超える免疫マーカーを用いて本発明の方法を実施する場合、工程a)で定量される個別の免疫マーカーの数は通常、100個未満の個別のマーカー、大半の実施態様では50個未満の個別のマーカーである。本発明の方法を使用して、正確かつ信頼できる予後を得るために必要とされる、個別の免疫マーカーの数は、定量技術の種類に応じて顕著に変動し得る。例えば、本発明の方法が、関心対象のタンパク質マーカーのインサイツでの免疫組織化学的検出によって行なわれる場合、高い統計学的有意性が、少数の免疫マーカーの組合せを用いて見られ得る。いくつかの実施態様では、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、又は50個のマーカーのレベルが決定される。
【0019】
本明細書における関心対象の様々な免疫マーカーの各々の名称は、以下のインターネットアドレス:http://www.gene.ucl.ac.uk/nomenclature/index.htmlにおいて特に利用手可能である、HUGO遺伝子命名法委員会のデーターベースに含まれる、国際的に認められている遺伝子配列及びタンパク質配列のデータベースに見られるような、国際的に認められた対応する遺伝子の名称を指す。本明細書における関心対象の様々な免疫マーカーの各々の名称はまた、国際的に認められている遺伝子配列及びタンパク質配列のデータベースGenBankに見られるような、国際的に認められている対応する遺伝子の名称を指してもよい。これらの国際的に認められている配列データベースを通して、本明細書に記載の関心対象の免疫マーカーの各々に対応する核酸配列及びアミノ酸配列は、当業者によって検索され得る。
【0020】
低グレード異形成を有する被験者が癌を有するリスクがあるかどうかを決定するための方法:
いくつかの実施態様では、本発明は、被験者から得られた生物学的試料中の少なくとも1つの免疫マーカーのレベルを決定する工程を含み、ここで、前記免疫マーカーは、CD58及びセルピンメンバーからなる群より選択され、前記免疫マーカーの発現レベルは、癌を有するリスクと相関している、低グレード異形成を有する被験者が癌を有するリスクがあるかどうかを決定するための方法に関する。
【0021】
より特定すると、本発明は、被験者から得られた生物学的試料中の少なくとも1つの免疫マーカーのレベルを決定する工程を含み、ここで、前記免疫マーカーは、CD58及びセルピンメンバーからなる群より選択され、前記免疫マーカーの発現レベルは、癌を有するリスクと相関している、低グレード気管支異形成を有する被験者が肺癌を有するリスクがあるかどうかを決定するための方法に関する。
【0022】
本明細書において使用する「CD58」という用語は当技術分野におけるその一般的な意味を有し、抗原提示細胞(APC)上、特にマクロファージ上に発現される細胞接着分子である、リンパ球機能関連抗原3(LFA-3)を指す(Barbosa JA, Mentzer SJ, Kamarck ME, Hart J, Biro PA, Strominger JL, Burakoff SJ (April 1986). "Gene mapping and somatic cell hybrid analysis of the role of human lymphocyte function-associated antigen-3 (LFA-3) in CTL-target cell interactions". J. Immunol. 136 (8): 3085-91.; Wallich R, Brenner C, Brand Y, Roux M, Reister M, Meuer S (15 March 1998). "Gene structure, promoter characterization, and basis for alternative mRNA splicing of the human CD58 gene". J. Immunol. 160 (6): 2862-71)。
【0023】
本明細書において使用する「セルピンメンバー」という用語は、それらのプロテアーゼ阻害活性について初めて同定された、類似した構造を有するタンパク質のスーパーファミリーである。セルピンによるプロテアーゼの阻害は、炎症をはじめとする、一連の生物学的プロセスを制御する。セルピンメンバーの例としては、アンギオテンシノーゲン、アンチトロンビンIII、白血球エラスターゼ阻害剤(セルピンB1)、血漿プロテアーゼC1阻害剤、プラスミノーゲン活性化因子阻害因子、セルピンB9/マスピン、セルピンE3、及びセルピンH1が挙げられる。
【0024】
いくつかの実施態様では、本発明は、被験者から得られた生物学的試料中の少なくとも1つの免疫マーカーのレベルを決定する工程を含み、ここで、前記免疫マーカーは、CD4ナイーブT細胞であり、前記免疫マーカーの発現レベルは、癌を有するリスクと相関している、低グレード異形成を有する被験者が癌を有するリスクがあるかどうかを決定するための方法に関する。
【0025】
より特定すると、本発明は、被験者から得られた生物学的試料中の少なくとも1つの免疫マーカーのレベルを決定する工程を含み、ここで、前記免疫マーカーは、CD4ナイーブT細胞であり、前記免疫マーカーの発現レベルは、癌を有するリスクと相関している、低グレード気管支異形成を有する被験者が肺癌を有するリスクがあるかどうかを決定するための方法に関する。
【0026】
本明細書において使用する「T細胞」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、細胞性免疫において重要な役割を果たしているリンパ球の種類を指し、細胞表面上のT細胞受容体(TCR)の存在によって、B細胞などの他のリンパ球とは区別される。特に、T細胞は、CD3の発現によって特徴付けられる。「CD3」という用語は、4つの別個の鎖から構成される、T細胞受容体に会合したタンパク質複合体を指す。哺乳動物では、該複合体は、1本のCD3γ鎖、1本のCD3δ鎖、及び2本のCD3ε鎖を含有している。これらの鎖はT細胞受容体及びζ鎖(ゼータ鎖)と会合して、Tリンパ球内で活性化シグナルを発生する。T細胞受容体、ζ鎖及びCD3分子は一緒にT細胞受容体複合体を構成する。
【0027】
本明細書において使用する「CD4」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、T細胞表面糖タンパク質CD4を指す。CD4は、T細胞受容体(TCR)の共受容体であり、抗原提示細胞との伝達においてT細胞受容体を補助する。T細胞受容体複合体及びCD4は各々、それぞれ抗原を提示しているMHCII分子-α1/β1及びβ2の別個の領域に結合する。
【0028】
本明細書において使用する「CD4陽性T細胞」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、それらの表面上にCD4を発現するT細胞サブセットを指す。CD4陽性T細胞は、ヘルパーT細胞であり、これはマクロファージ及びCD8陽性T細胞の活性化(Th1細胞)、B細胞による抗体の産生(Th2細胞)を指揮するか、又は、自己免疫疾患において不可欠な役割を果たすと考えられている(Th17細胞)。
【0029】
「ナイーブT細胞」は、骨髄において分化し、胸腺において中枢性の正の選択及び負の選択のプロセスを成功裡に受けたT細胞である。ナイーブT細胞は一般的に、L-セレクチン(CD62L)及びC-Cケモカイン受容体7型(CCR7)の表面発現;活性化マーカーCD25、CD44又はCD69が存在しないこと;及び、記憶CD45ROアイソフォームが存在しないことによって特徴付けられる。それらはまた、サブユニットIL-7受容体αとCD127と共通のγ鎖であるCD132からなる、機能的IL-7受容体も発現している。
【0030】
いくつかの実施態様では、本発明は、被験者から得られた生物学的試料中の少なくとも1つの免疫マーカーのレベルを決定する工程を含み、ここで、前記免疫マーカーは、TNFRSF18(GITR)、IL18、TNFRSF14(HVEM)、TNFSF4、及びTNFRSF17(BCMA)からなる群より選択され、前記免疫マーカーの発現レベルは、癌を有するリスクと相関している、低グレード異形成を有する被験者が癌を有するリスクがあるかどうかを決定するための方法に関する。
【0031】
いくつかの実施態様では、本発明は、被験者から得られた生物学的試料中の少なくとも1つの免疫マーカーのレベルを決定する工程を含み、ここで、前記免疫マーカーは、TNFRSF18(GITR)、IL18、TNFRSF14(HVEM)、TNFSF4、及びTNFRSF17(BCMA)からなる群より選択され、前記免疫マーカーの発現レベルは、癌を有するリスクと相関している、低グレード気管支異形成を有する被験者が肺癌を有するリスクがあるかどうかを決定するための方法に関する。
【0032】
本明細書において使用する「TNFRSF18」すなわち「GITR」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーメンバー18を指し、これは糖質コルチコイド誘導性TNFR関連タンパク質としても知られる。この受容体は、T細胞活性化時に発現が増加することが示され、CD25陽性/CD4陽性制御性T細胞によって維持される優位な免疫的な自己寛容において重要な役割を果たしていると考えられる。
【0033】
本明細書において使用する「IL18」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、インターロイキン18を指し、これはインターフェロンγ誘導因子としても知られる。IL18は、ヒトではIL18遺伝子によってコードされているタンパク質である。IL-18は、インターロイキン18受容体と結合することによって作用し、IL-12と一緒に、リポ多糖(LPS)のような微生物産物による感染後に細胞性免疫を誘導する。
【0034】
本明細書において使用する「TNFRSF14」すなわち「HVEM」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーメンバー14を指し、これはヘルペスウイルス侵入メディエーター(HVEM)としても知られる。TNFRSF14は、腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーのヒト細胞表面受容体である。該タンパク質は、炎症性及び阻害性のT細胞免疫応答を活性化する、シグナル伝達経路において機能する。それは、単純ヘルペスウイルス(HSV)ウイルスエンベロープ糖タンパク質D(gD)に結合し、細胞内へのその侵入を媒介する。
【0035】
本明細書において使用する「TNFSF4」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、腫瘍壊死因子リガンドスーパーファミリーメンバー4を指す。該用語はまた、OX40L又はCD52としても知られる。TNFSF4は、TNFRSF4に結合し、T細胞の増殖及びサイトカインの産生を共刺激するサイトカインである。
【0036】
本明細書において使用する「TNFRSF17」すなわち「BCMA」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーメンバー17を指し、これはB細胞成熟抗原としても知られる。TNFRSF17は、B細胞活性化因子(BAFF)を認識する、TNF受容体スーパーファミリーの細胞表面受容体である。この受容体は、成熟Bリンパ球において優先的に発現され、B細胞の発達に重要であり得る。
【0037】
高グレード異形成を有する被験者が癌を有するリスクがあるかどうかを決定するための方法:
いくつかの実施態様では、本発明は、被験者から得られた生物学的試料中の少なくとも1つの免疫マーカーのレベルを決定する工程を含み、ここで、前記免疫マーカーは、共阻害性分子、共刺激性分子、免疫抑制性インターロイキン、及び免疫刺激性インターロイキンからなる群より選択され、前記免疫マーカーの発現レベルは、癌を有するリスクと相関している、高グレード異形成を有する被験者が癌を有するリスクがあるかどうかを決定するための方法に関する。
【0038】
より特定すると、本発明は、被験者から得られた生物学的試料中の少なくとも1つの免疫マーカーのレベルを決定する工程を含み、ここで、前記免疫マーカーは、共阻害性分子、共刺激性分子、免疫抑制性インターロイキン、及び免疫刺激性インターロイキンからなる群より選択され、前記免疫マーカーの発現レベルは、癌を有するリスクと相関している、高グレード異気管支異形成を有する被験者が肺癌を有するリスクがあるかどうかを決定するための方法に関する。
【0039】
本明細書において使用する「共刺激性分子」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、特定のリガンドとの結合が、抗原受容体への抗原の結合後の完全な活性化応答に必要であるようである、T細胞内の一群の免疫細胞表面受容体を指す。いくつかの実施態様では、共刺激性分子は、CD137、GITR、ICOS、TNFRSF25、及びCD86からなる群より選択される。
【0040】
本明細書において使用する「共抑制性分子」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、特定のリガンドとの結合により、抗原受容体への抗原の結合後に活性化応答を緩徐化又は妨げる、T細胞内の一群の免疫細胞表面受容体を指す。いくつかの実施態様では、共阻害性分子は、PDL1、PD1、IDO1、CTLA4、及びTIGITからなる群より選択される。
【0041】
本明細書において使用する「免疫刺激性インターロイキン」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、免疫系の活性を誘導するインターロイキンを指す。免疫刺激性インターロイキンは、直接的に(例えば免疫細胞に作用することによって)又は間接的に(他の媒介細胞に作用することによって)、応答している免疫細胞(例えばT細胞を含む)の機能を増強することによって作用する。いくつかの実施態様では、免疫刺激性インターロイキンは、IL-18及びIFNGからなる群より選択される。
【0042】
本明細書において使用する「免疫抑制性インターロイキン」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、免疫系の活性を阻害、緩徐化、又は逆転させるインターロイキンを指す。免疫抑制性インターロイキンは、直接的に(例えば免疫細胞に作用することによって)又は間接的に(他の媒介細胞に作用することによって)、応答している免疫細胞(例えばT細胞を含む)の機能を抑制することによって作用する。いくつかの実施態様では、免疫抑制性インターロイキンは、IL6、IL10、及びTGFβからなる群より選択される。
【0043】
免疫マーカーを定量するための方法:
いくつかの実施態様では、免疫マーカーのレベルは、免疫組織化学的検査(IHC)によって決定される。免疫組織化学的検査は典型的には、以下の工程を含む。i)該組織試料をホルマリンで固定する、ii)該組織試料をパラフィンに包埋する、iii)該組織試料を染色のために切片へと切断する、iv)該切片を、免疫マーカーに特異的な結合対と共にインキュベートする、v)該切片を濯ぐ、vi)該切片をビオチニル化二次抗体と共にインキュベートする、及びvii)抗原-抗体複合体を、アビジン-ビオチン-ペルオキシダーゼ複合体を用いて顕現させる。したがって、該組織試料をまず、結合対と共にインキュベートする。洗浄後、関心対象のマーカーに結合した標識された抗体を、標識された抗体によって生じる標識の種類、例えば放射性標識、蛍光標識、又は酵素標識などに応じて適切な技術によって顕現させる。複数の標識を同時に行なってもよい。あるいは、本発明の方法は、増幅システム(染色シグナルを強化するため)及び酵素分子に結合させた二次抗体を使用してもよい。このような結合した二次抗体は、例えば、ダコ社のEnVision systemから市販されている。例えばヘマトキシリン及びエオシン、DAPI、ヘキストなどの対比染色を使用してもよい。他の染色法が、当業者には明らかであろうような任意の適切な方法又はシステム、例えば自動システム、半自動システム、又は手動システムを使用して成し遂げられてもよい。例えば、1つ以上の標識を抗体に付着させ、これにより、標的タンパク質(すなわち免疫マーカー)の検出が可能となり得る。例示的な標識としては、放射性同位体、フルオロフォア、リガンド、化学発光剤、酵素、及びその組合せが挙げられる。いくつかの実施態様では、標識は量子ドットである。一次及び/又は二次アフィニティリガンドにコンジュゲートさせることのできる標識の非限定的な例としては、蛍光色素又は金属(例えばフルオレセイン、ローダミン、フィコエリトリン、フルオレサミン)、発色団色素(例えばロドプシン)、化学発光化合物(例えばルミノール、イミダゾール)、及び生物発光タンパク質(例えばルシフェリン、ルシフェラーゼ)、ハプテン(例えばビオチン)が挙げられる。様々な他の有用な蛍光剤及び発色団が、Stryer L (1968) Science 162:526-533及びBrand L and Gohlke J R (1972) Annu. Rev. Biochem. 41:843-868に記載されている。アフィニティリガンドを、酵素(例えばセイヨウワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ラクタマーゼ)、放射性同位体(例えば3H、14C、32P、35S、又は125I)、及び粒子(例えば金)を用いて標識することもできる。様々な種類の標識を、様々な化学反応、例えばアミン反応又はチオール反応を使用してアフィニティリガンドにコンジュゲートさせることができる。しかしながら、アミン及びチオール以外の他の反応性基、例えば、アルデヒド、カルボン酸、及びグルタミンも使用することができる。関心対象のタンパク質を検出するための様々な酵素染色法が、当技術分野において公知である。例えば、酵素相互作用を、様々な酵素、例えばペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、又は様々な色素原、例えばDAB、AEC又はファストレッドを使用して可視化することができる。他の例では、抗体を、ペプチド又はタンパク質にコンジュゲートさせることができ、これを標識された結合対又は抗体を介して検出することができる。間接的な免疫組織化学アッセイでは、第一の結合対の結合を検出するために二次抗体又は二次結合対が必要とされる。なぜなら、第一の結合対は標識されていないからである。検出可能なシグナルを見て、画像、例えばデジタル染色画像を取得するためのシステムを使用して、結果として得られた染色された標本をそれぞれ画像撮影する。画像取得のための方法は、当業者には周知である。例えば、一旦、試料が染色されたら、任意の光学的又は非光学的イメージング装置、例えば、正立型又は倒立型光学顕微鏡、走査型共焦点顕微鏡、カメラ、走査型又はトンネル電子顕微鏡、走査型プローブ顕微鏡、及びイメージング赤外線検出器を使用して、染色又はバイオマーカー標識を検出することができる。いくつかの例では、画像をデジタルでキャプチャーすることができる。その後、試料中の免疫マーカーの量を定量的に又は半定量的に決定するために、得られた画像を使用することができる。免疫組織化学法に使用するのに適した様々な自動試料処理、走査、及び分析システムが当技術分野において入手可能である。このようなシステムは、自動化された染色及び顕微鏡による走査、コンピューター化された画像分析、連続切片比較(試料の方向及びサイズのばらつきを制御するため)、デジタルリポートの作成、並びに試料(組織切片が置かれているスライドなど)の保存記録及び追跡を含み得る。免疫染色された試料を含む、細胞及び組織上での定量分析を実施するための、従来の光学顕微鏡をデジタル画像処理システムと組み合わせた細胞イメージングシステムは市販されている。例えば、CAS-200システム(ベクトン・ディッキンソン社)を参照されたい。特に、検出は、手作業で、又はコンピュータープロセッサ及びソフトウェアを伴う画像処理技術によって行なわれ得る。このようなソフトウェアを使用して、例えば染色品質又は染色強度をはじめとする因子に基づいて、当業者に公知の手順を使用して、例えば、画像を、構成、校正、標準化、及び/又は検証することができる(例えば、公開されている米国特許公開公報第US20100136549号参照)。画像を、定量的に又は半定量的に分析し、試料の染色強度に基づいてスコア化することができる。定量的又は半定量的組織化学検査法は、組織化学検査法を受けた試料を走査及びスコア化して、特定のバイオマーカー(すなわち免疫マーカー)の存在を同定及び定量する方法を指す。定量的又は半定量的方法は、染色密度若しくは染色量を検出するためのイメージングソフトウェア、又はヒトの眼によって染色を検出する方法を使用することができ、ここでの訓練された操作者は、結果を数値で順位付けする。例えば、ピクセルカウントアルゴリズム(例えば、アペリオスペクトラムソフトウェア、自動QUantitative解析プラットフォーム(AQUA(登録商標)プラットフォーム)、及び染色度を測定又は定量若しくは半定量する他の標準的な方法を使用して、画像を定量的に解析することができる;例えば、米国特許第8,023,714号、米国特許第7,257,268号、米国特許第7,219,016号、米国特許第7,646,905号、公開されている米国特許公開公報第US20100136549号及び第20110111435号;Camp et al. (2002) Nature Medicine, 8:1323-1327;Bacus et al. (1997) Analyt Quant Cytol Histol, 19:316-328参照。総染色面積の合計に対する(茶色染色のような)強力な陽性染色の比率を計算し、スコア化することができる。検出されたバイオマーカー(すなわち免疫マーカー)の量を定量化し、陽性ピクセル及び/又はスコアの比率として示す。例えば、陽性ピクセルの比率として量を定量化することができる。いくつかの例では、染色された面積の比率、例えば陽性ピクセルの比率として、量を定量する。例えば、試料は、総染色面積と比較して、少なくとも又はほぼ少なくとも又はほぼ0%、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、31%、32%、33%、34%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%以上の陽性ピクセルを有し得る。いくつかの実施態様では、試料の組織化学的染色の強度又は量の数的表示であるスコアが試料に対して付与され、該スコアは、試料中に存在する標的バイオマーカー(例えば免疫マーカー)の量を示す。光学密度又は面積率の数値には、目盛りの付けられたスコア、例えば整数の目盛りのスコアが付与され得る。したがって、いくつかの実施態様では、本発明の方法は、i)免疫マーカー(例えば上記のような抗体)と選択的に相互作用することのできる結合対を使用することによって、自動スライド染色システムによって得られた1つ以上の免疫染色された組織切片の薄片を準備する工程、ii)高解像度のスキャンキャプチャにより、工程a.のスライドをデジタル化へと進める工程、iii)デジタル写真上の組織切片薄片を検出する工程、iv)サイズ参照用グリッドに、同じ表面積を有する均一に分布された単位を付与する工程(ここでのグリッドは、分析される組織切片のサイズに適応されている)、及びv)各単位内において染色された細胞の強度を検出、定量、及び測定する工程(これにより、各単位の染色された細胞の数又は密度が評価される)からなる、工程を含む。
【0044】
多重組織分析技術が、組織試料中のいくつかのマーカーを定量するのに特に有用である。このような技術は、たった1つの組織試料から、少なくとも5個、又は少なくとも10個以上のバイオマーカーの測定を可能とするはずである。さらに、該技術にとって、バイオマーカーの場所を保存し、癌細胞内のバイオマーカーと非癌細胞内のバイオマーカーの存在を識別することができることは有利である。このような方法としては、例えば、米国特許第6,602,661号;第6,969,615号、第7,214,477号及び第7,838,222号;米国公開公報第2011/0306514号(参照により本明細書に組み入れられる);及びChung & Hewitt, Meth Mol Biol, Prot Blotting Detect, Kurlen & Scofield, eds. 536: 139-148, 2009に教義された、層状免疫組織化学的検査(L-IHC)、層状発現走査(LES)、又は多重組織イムノブロット(MTI)が挙げられ、各参考文献は、層状でブロットされた膜、紙、フィルターなどの上に8個まで、9個まで、10個まで、11個まで、又はそれ以上の組織切片の画像の作成が使用され得ることを教義する。L-IHC/MTIプロセスを実施するのに有用なコーティングされた膜は、20/20ジーンシステムズ社(ロックビル、MD州)から入手可能である。
【0045】
いくつかの実施態様では、L-IHC法は、新鮮であれ保存されたものであれ、様々な組織試料の中のいずれに対しても実施され得る。試料は、針生検材料を含み、これは10%の通常の緩衝ホルマリンで固定され、病理部門で処理された。標準的な5μm厚の組織切片を、組織塊から切断して帯電スライド上に置き、これをL-IHCに使用した。したがって、L-IHCは、組織切片から複数の生物親和性でコーティングされた膜へと移された分子のコピーを得て、組織「画像」のコピーを実質的に作成することによって、組織切片内の複数のマーカーの試験を可能とする。パラフィン切片の場合、組織切片を、例えば、該切片をキシレン又はキシレン代替品、例えばネオクリア(登録商標)及び等級エタノール溶液に曝して、当技術分野において公知のように脱パラフィン化する。切片を、パパイン、トリプシン、プロテイナーゼKなどのプロテイナーゼを用いて処理することができる。その後、例えば、タンパク質などの組織分子を積層を通って透過させるための直径0.4μmの孔を有する、10μm厚のコーティングされたポリマー骨格の複数のシートを含んでいる、積層膜基質を、その後、組織切片上に置く。液体及び組織の分子の移動が、膜表面に対して実質的に垂直になるように構成されている。切片、膜、間隔紙、吸収紙、おもしなどのサンドイッチ状のものを熱に曝すことにより、組織から積層膜への分子の移動を促進することができる。該組織のタンパク質の一部は、各々の生物親和性でコーティングされた積層膜(20/20ジーンシステムズ社、ロックビル、MD州から入手可能)上に捕捉される。したがって、各膜は1コピーの組織を含み、これに標準的なイムノブロット技術を使用して、様々なバイオマーカーに対するプローブを付けることができ、これにより、たった1つの組織切片で実施されるのと同様の1つのマーカープロファイルの無制限の増幅が可能となる。タンパク質の量は、組織からより離れている積層内の膜上ではより少ない場合があり、これは、例えば、組織試料中の分子の量が異なること、組織試料から放出される分子の移動度が異なること、膜に対する分子の結合親和性が異なること、転写時間の長さなどで生じ得るので、数値の正規化、対照の実行、組織分子の転写レベルの評価などを手順に含めることにより、膜内で、膜間(2者間)で、及び膜間(3者以上の間)で起こる変化について修正することができ、そして、膜内で、膜間(2者間)で、及び膜間(3者以上の間)で情報を直接比較することが可能となる。したがって、1つの膜あたりの全タンパク質は、例えば、タンパク質、例えばビオチニル化している入手可能な分子、例えばタンパク質を、標準的な試薬及び方法を使用して定量し、その後、膜を、当技術分野において公知であるような、標識されたアビジン又はストレプトアビジン;タンパク質染色液、例えばBlot fastStain、ポンソー赤色、ブリリアントブルー染色液などに曝すことによって、結合したビオチンを顕現させるための任意の手段を使用して決定され得る。
【0046】
いくつかの実施態様では、本発明の方法は、バイオマーカーを測定するための多重組織インプリンティング(MTI)技術を使用し、ここで、該方法は、複数のバイオマーカー、場合によっては少なくとも6つのバイオマーカーを可能とすることによって、貴重な生検組織を節約する。
【0047】
いくつかの実施態様では、代替的な多重組織分析システムが存在し、これも本発明の一部として使用され得る。1つのこのような技術は、質量分析に基づいた選択反応モニタリング(SRM)アッセイシステムである(OncoPlexDx社(ロックビル、MD州)から入手可能な「Liquid Tissue」)。その技術は、米国特許第7,473,532号に記載されている。
【0048】
いくつかの実施態様では、本発明の方法は、GEグローバルリサーチ社(ニスカユナ、NY州)によって開発された多重免疫組織化学技術を利用した。その技術は、米国特許公開公報第2008/0118916号及び第2008/0118934号に記載されている。そこでは、複数の標的を含有している生物学的試料について連続分析が行なわれ、これは、蛍光プローブを試料に結合させ、その後、シグナルを検出し、次いで、プローブを不活化させ、続いてプローブを別の標的に結合させ、検出し、不活化させ、そして全ての標的が検出されるまでこのプロセスを継続する工程を含む。
【0049】
いくつかの実施態様では、多重組織イメージングを行なうことができ、蛍光(例えばフルオロフォア又は量子ドット)を使用する場合、ここではシグナルをマルチスペクトルイメージングシステムを用いて測定することができる。マルチスペクトルイメージングは、画像の各ピクセルにおける分光学的な情報が集められ、結果として得られたデータを、スペクトルイメージ処理ソフトウェアを用いて分析する技術である。例えば、該システムは、電子的に連続的に選択することのできる様々な波長で一連の画像を撮影することができ、その後、このようなデータを取り扱うために設計された分析プログラムを用いて利用され得る。したがって、該システムは、色素のスペクトルが高度に重複している場合でさえ、又はそれらが同じ場所に局在している、すなわち試料中の同じ点に存在している場合でさえも、複数の色素から同時に量的情報を得ることができ、ただし、スペクトル曲線は異なる。多くの生物学的物質は自己蛍光を発するか、又は、より高いエネルギーの光によって励起された場合、より低いエネルギーの光を放出する。このシグナルは、よりコントラストの低い画像及びデータをもたらす場合がある。マルチスペクトルのイメージング能を有さない高感度カメラは、蛍光シグナルと共に自己蛍光シグナルも増加させるだけである。マルチスペクトルイメージングは、組織に由来する自己蛍光を分離、すなわち分別することができ、これにより、到達可能な信号対ノイズ比を高めることができる。簡潔に言えば、定量は、以下の工程によって実施され得る:i)被験者から得られた腫瘍組織マイクロアレイ(TMA)を準備する工程、ii)その後、TMA試料を、関心対象のタンパク質(群)に特異性を有する抗抗体で染色する工程、iii)TMAスライドをさらに、上皮細胞マーカーで染色して、腫瘍及び間質の自動セグメンテーションを補助する工程、iv)その後、TMAスライドを、マルチスペクトルイメージングシステムを使用して走査する工程、v)走査された画像を、強力なパターン認識アルゴリズムを通した特定の組織の検出、定量、及びセグメンテーションを可能とする、自動画像解析ソフトウェア(例えばパーキンエルマーテクノロジー社)を使用して処理する工程。機械学習アルゴリズムは、典型的には、間質から腫瘍をセグメント化し、標識された細胞を同定するために事前に訓練された。
【0050】
いくつかの実施態様では、免疫マーカーのレベルは、核酸レベルで決定される。典型的には、遺伝子のレベルは、mRNAの量を決定することによって決定され得る。mRNAの量を決定するための方法は当技術分野において周知である。例えば、試料(例えば被験者から調製された細胞又は組織)中に含有される核酸をまず標準的な方法に従って、例えば溶解酵素若しくは化学溶液を使用して抽出するか、又は、製造業者の説明書に従って核酸結合樹脂によって抽出する。次いで、抽出されたmRNAをハイブリダイゼーション(例えばノザンブロット分析、インサイツハイブリダイゼーション)及び/又は増幅(例えば逆転写PCR)によって検出する。他の増幅法としては、リガーゼ連鎖反応(LCR)、転写増幅法(TMA)、鎖置換増幅法(SDA)及び核酸配列ベース増幅法(NASBA)が挙げられる。
【0051】
少なくとも10個のヌクレオチドを有しかつ本明細書の関心対象のmRNAに対して配列相補性又は相同性を示す核酸は、ハイブリダイゼーションプローブ又は増幅プライマーとしての有用性を見出す。このような核酸は同一である必要はないが、典型的には同等なサイズの相同領域に対して少なくとも約80%同一、より好ましくは85%同一、さらにより好ましくは90~95%同一であると理解される。いくつかの実施態様では、ハイブリダイゼーションの検出のために、適切な手段、例えば検出可能な標識と組み合わせて核酸を使用することが有利であろう。
【0052】
典型的には、核酸プローブは、例えば、開示されたプローブを使用した標的核酸分子の検出を可能とするための、1つ以上の標識を含む。インサイツハイブリダイゼーション手順などの様々な適用において、核酸プローブは標識(例えば検出可能な標識)を含む。「検出可能な標識」は、試料中のプローブ(特に結合した又はハイブリダイズしたプローブ)の存在又は濃度を示す、検出可能なシグナルを発生させるために使用することのできる、分子又は材料である。したがって、標識された核酸分子は、試料中の標的核酸配列(例えばゲノム標的核酸配列)(これに、標識された独特な特異的な核酸分子が結合又はハイブリダイズしている)の存在又は濃度の指標を提供する。1つ以上の核酸分子(例えば開示された方法によって生成されたプローブ)に結合した標識は、直接的に又は間接的にのいずれかで検出され得る。標識は、光子(ラジオ波周波数、マイクロ波周波数、赤外線周波数、可視周波数、及び紫外線周波数の光子を含む)の吸収、放出及び/又は散乱をはじめとする任意の公知の機序又は依然として発見されていない機序によって検出することができる。検出可能な標識としては、着色した、蛍光の、リン光の、及び発光の分子及び材料、ある物質を別の物質へと変換して検出可能な差をもたらす触媒(例えば酵素)(例えば、無色物質を着色物質へと若しくはその逆へと変換することによって、又は沈降物を生成するか若しくは試料の濁度を増加させることによって)、抗体結合相互作用によって検出することのできるハプテン、並びに常磁性及び磁性の分子又は材料が挙げられる。
【0053】
検出可能な標識の特定の例としては、蛍光分子(又は蛍光色素)が挙げられる。数多くの蛍光色素が当業者には公知であり、例えばライフ・テクノロジーズ社(以前はインビトロジェン社)から選択することができ、例えばThe Handbook-A Guide to Fluorescent Probes and Labeling Technologiesを参照されたい。核酸分子(例えば独特な特異的な結合領域)に付着(例えば化学的にコンジュゲート)することのできる特定のフルオロフォアの例が、Nazarenko et al.の米国特許第5,866,366号に提供され、例えば4-アセトアミド-4’-イソチオシアナトスチルベン-2,2’ジスルホン酸、アクリジン及び誘導体、例えばアクリジン及びアクリジンイソチオシアネート、5-(2’-アミノエチル)アミノナフタレン-1-スルホン酸(EDANS)、4-アミノ-N-[3ビニルスルホニル]フェニル]ナフタルイミド-3,5ジスルホネート(ルシファーイエローVS)、N-(4-アニリノ-1-ナフチル)マレイミド、アントラニルアミド、ブリリアントイエロー、クマリン及び誘導体、例えばクマリン、7-アミノ-4-メチルクマリン(AMC、クマリン120)、7-アミノ-4-トリフルオロメチルクマリン(クマリン151);シアノシン;4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI);5’,5’’ジブロモピロガロール-スルホネフタレイン(ブロモピロガロールレッド);7-ジエチルアミノ-3-(4’-イソチオシアナトフェニル)-4-メチルクマリン;ジエチレントリアミンペンタアセテート;4,4’-ジイソチオシアナトジヒドロ-スチルベン-2,2’-ジスルホン酸;4,4’-ジイソチオシアナトスチルベン-2,2’-ジスルホン酸(disulfor1ic acid);5-[ジメチルアミノ]ナフタレン-1-スルホニルクロリド(DNS、ダンシルクロリド);4-(4’-ジメチルアミノフェニルアゾ)安息香酸(DABCYL);4-ジメチルアミノフェニルアゾフェニル-4’-イソチオシアネート(DABITC);エオシン及び誘導体、例えばエオシン及びエオシンイソチオシアネート;エリスロシン及び誘導体、例えばエリスロシンB及びエリスロシンイソチオシアネート;エチジウム;フルオレセイン及び誘導体、例えば5-カルボキシフルオレセイン(FAM)、5-(4,6-ジクロロトリアジン-2-イル)アミノフルオレセイン(DTAF)、2’7’ジメトキシ-4’5’-ジクロロ-6-カルボキシフルオレセイン(JOE)、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、及びQFITC Q(RITC);2’,7’-ジフルオロフルオレセイン(オレゴングリーン(登録商標));フルオレスカミン;IR144;IR1446;マラカイトグリーンイソチオシアネート;4-メチルウンベリフェロン;オルトクレゾールフタレイン;ニトロチロシン;パラローザニリン;フェノールレッド;B-フィコエリトリン;o-フタルジアルデヒド;ピレン及び誘導体、例えばピレン、ピレンブチレート、及びスクシンイミジル1-ピレンブチレート;リアクティブレッド4(チバクロンブリリアントレッド3B-A);ローダミン及び誘導体、例えば6-カルボキシ-X-ローダミン(ROX)、6-カルボキシローダミン(R6G)、リサミンローダミンBスルホニルクロリド、ローダミン(Rhod)、ローダミンB、ローダミン123、ローダミンXイソチオシアネート、ローダミングリーン、スルホローダミンB、スルホローダミン101及びスルホローダミン101のスルホニルクロリド誘導体(テキサスレッド);N,N,N’,N’-テトラメチル-6-カルボキシローダミン(TAMRA);テトラメチルローダミン;テトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC);リボフラビン;ロソール酸及びテルビウムキレート誘導体である。他の適切なフルオロフォアとしては、約617nmで発光するチオール反応性ユーロピウムキレート(Heyduk and Heyduk, Analyt. Biochem. 248:216-27, 1997; J. Biol. Chem. 274:3315-22, 1999)、並びに、GFP、リサミン(商標)、ジエチルアミノクマリン、フルオレセインクロロトリアジニル、ナフトフルオレセイン、4,7-ジクロロローダミン、及びキサンテン(Lee et al.の米国特許第5,800,996号に開示されているような)及びその誘導体が挙げられる。当業者に公知である他のフルオロフォア、例えば、ライフ・テクノロジーズ社(インビトロフェン社;モレキュラープローブ(ユージーン、オレゴン州))から入手できるもの、例えばALEXA FLUOR(登録商標)シリーズの色素(例えば、米国特許第5,696,157号、第6,130,101号、及び第6,716,979号に記載)、BODIPYシリーズの色素(ジピロメテンボロンジフルオリド色素、例えば米国特許第4,774,339号、第5,187,288号、第5,248,782号、第5,274,113号、第5,338,854号、第5,451,663号、及び第5,433,896号に記載のような)、カスケードブルー(米国特許第5,132,432号に記載のスルホン化ピレンのアミン反応性誘導体)及びマリーナブルー(米国特許第5,830,912号)も使用することができる。
【0054】
上記の蛍光色素に加えて、蛍光標識は、蛍光ナノ粒子、例えば半導体ナノ結晶、例えばQUANTUM DOT(商標)(例えばライフ・テクノロジーズ社(QuantumDot社、インビトロジェン社のナノクリスタルテクノロジー、ユージーン、オレゴン州)から得られた;米国特許第6,815,064号;第6,682,596号;及び第6,649,138号も参照)であり得る。半導体ナノ結晶は、サイズ依存性の光学的及び/又は電気的特性を有する顕微粒子である。半導体ナノ結晶を第一のエネルギー源を用いて照射すると、半導体ナノ結晶に使用された半導体材料のハンドギャップに相当する周波数の第二のエネルギーの放出が起こる。この放出は、特定の波長の色光又は蛍光として検出することができる。様々なスペクトル特徴を有する半導体ナノ結晶が、例えば、米国特許第6,602,671号に記載されている。例えば、Bruchez et al., Science 281 :20132016, 1998; Chan et al., Science 281:2016-2018, 1998;及び米国特許第6,274,323号に記載の技術によって様々な生物学的分子(例えばdNTP及び/又は核酸)又は基質に結合させることのできる半導体ナノ結晶。様々な組成の半導体ナノ結晶の形成が、例えば、米国特許第6,927,069号;第6,914,256号;第6,855,202号;第6,709,929号;第6,689,338号;第6,500,622号;第6,306,736号;第6,225,198号;第6,207,392号;第6,114,038号;第6,048,616号;第5,990,479号;第5,690,807号;第5,571,018号;第5,505,928号;第5,262,357号、及び米国特許公開公報第2003/0165951号並びにPCT公開公報第99/26299号(1999年5月27日に公開)に開示されている。その異なるスペクトル特徴に基づいて同定可能である別の集団の半導体ナノ結晶を生成することができる。例えば、その組成、サイズ、又はサイズと組成に基づいて異なる色の光を放出する半導体ナノ結晶を生成することができる。例えば、本明細書に開示されたプローブにおける蛍光標識として適切である、サイズに基づいて異なる波長(565nm、655nm、705nm、又は800nmの発光波長)で発光する量子ドットは、ライフ・テクノロジーズ社(カールスバッド、カリフォルニア州)から入手可能である。
【0055】
追加の標識としては、例えば、放射性同位体(例えばH)、金属キレート、例えばGd3+のような放射性又は常磁性金属イオンのDOTA及びDPTAキレート、並びにリポソームが挙げられる。核酸分子と共に使用することのできる検出可能な標識としては、酵素、例えばセイヨウワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、酸性ホスファターゼ、グルコースオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、β-グルクロニダーゼ、又はβ-ラクタマーゼも挙げられる。あるいは、酵素を、金属組織検出スキームに使用することができる。例えば、銀インサイツハイブリダイゼーション(SISH)手順は、ハイブリダイズしたゲノム標的核酸配列の同定及び場所決定のための金属組織検出スキームを含む。金属組織検出法は、アルカリホスファターゼなどの酵素を、水溶性金属イオン及び酸化還元不活性な酵素の基質と組み合わせて使用することを含む。基質は、酵素によって酸化還元活性な物質へと変換され、酸化還元活性物質は金属イオンを還元し、それが検出可能な沈降物を形成することを引き起こす(例えば、米国特許出願公開公報第2005/0100976号、PCT公開公報第2005/003777号及び米国特許出願公開公報第2004/0265922号を参照)。金属組織検出法はまた、酸化還元酵素(例えばセイヨウワサビペルオキシダーゼ)を、水溶性金属イオン、酸化剤及び還元剤と共に使用して、ここでも検出可能な沈降物を形成することを含む。(例えば、米国特許第6,670,113号参照)。
【0056】
開示された方法を使用して作製されたプローブを、核酸の検出のために、例えばインサイツハイブリダイゼーション手順に(例えば蛍光インサイツハイブリダイゼーション(FISH)、発色インサイツハイブリダイゼーション(CISH)、及び銀インサイツハイブリダイゼーション(SISH))又は比較ゲノムハイブリダイゼーション(CGH)に使用することができる。
【0057】
インサイツハイブリダイゼーション(ISH)は、中期又は間期染色体調製物の状況の標的核酸配列(例えばゲノム標的核酸配列)を含有している試料(例えばスライド上に積載されている細胞試料又は組織試料)を、標的核酸配列(例えばゲノム標的核酸配列)に特異的にハイブリダイズすることができるか又は特異的である標識されたプローブと接触させることを含む。スライドに場合により前処理をして、例えば、パラフィン、又は均一なハイブリダイゼーションを妨害する可能性のある他の材料を除去する。試料及びプローブは両方共に、二本鎖核酸を変性させるために、例えば加熱することによって処理される。プローブ(適切なハイブリダイゼーション緩衝液中で調合される)及び試料を、ハイブリダイゼーションが起こる(典型的には平衡に到達する)ことを許容する条件下及び十分な時間かけて合わせる。染色体調製物を洗浄して過剰なプローブを除去し、染色体標的の特異的標識の検出は、標準的な技術を使用して実施される。
【0058】
例えば、ビオチニル化プローブは、フルオレセインで標識されたアビジン又はアビジン-アルカリホスファターゼを使用して検出することができる。蛍光色素の検出のために、蛍光色素を直接検出しても、又は、試料を、例えばフルオレセインイソチオシアネート(FITC)にコンジュゲートさせたアビジンと共にインキュベートしてもよい。FITCシグナルの増幅は、必要であれば、ビオチンにコンジュゲートさせたヤギ抗アビジン抗体と共にインキュベーション、洗浄、及びFITCにコンジュゲートさせたアビジンと共に2回目のインキュベーションによって行なわれ得る。酵素活性による検出のために、試料を、例えば、ストレプトアビジンと共にインキュベートし、洗浄し、ビオチンにコンジュゲートさせたアルカリホスファターゼと共にインキュベートし、再度洗浄し、そして事前に平衡化(例えばアルカリホスファターゼ(AP)緩衝液中で)させることができる。インサイツハイブリダイゼーション手順の一般的な説明については、例えば、米国特許第4,888,278号を参照されたい。
【0059】
FISH、CISH、及びSISHのための数多くの手順が当技術分野において公知である。例えば、FISHを実施するための手順は、米国特許第5,447,841号;第5,472,842号;及び第5,427,932号;及び例えばPir1kel et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 83:2934-2938, 1986;Pinkel et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 85:9138-9142, 1988;及びLichter et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 85:9664-9668, 1988に記載されている。CISHは、例えばTanner et al., Am. .1. Pathol. 157:1467-1472, 2000及び米国特許第6,942,970号に記載されている。追加の検出法は米国特許第6,280,929号に提供されている。
【0060】
数多くの試薬及び検出スキームを、FISH、CISH及びSISH手順と併せて使用して、感度、分解能、又は他の所望の特性を改善させることができる。上記に考察されているように、フルオロフォア(蛍光色素及びQUANTUM DOTS(登録商標)を含む)で標識されたプローブは、FISHを実施した場合、直接光学的に検出することができる。あるいは、プローブを、非蛍光分子、例えばハプテン(例えば以下の非制限的な例;ビオチン、ジゴキシゲニン、ジニトロフェノール、及び様々なオキサゾール、ピラゾール、チアゾール、ニトロアリール、ベンゾフラザン、トリテルペン、尿素、チオ尿素、ロテノン、クマリン、クマリン系化合物、ポドフィロトキシン、ポドフィロトキシン系化合物、及びその組合せ)、リガンド又は他の間接的に検出可能な部分を用いて標識してもよい。次いで、このような非蛍光分子で標識されたプローブ(及びそれらが結合する標的核酸配列)を、試料(例えばプローブが結合する細胞試料又は組織試料)を、選択されたハプテン又はリガンドに対して特異的である標識された検出試薬、例えば抗体(又は受容体、又は他の特異的な結合対)と接触させることによって検出することができる。検出試薬は、フルオロフォア(例えばQUANTUM DOTS(登録商標))で又は別の間接的に検出可能な部分で標識されても、あるいは、フルオロフォアで標識されていてもよい1つ以上の追加の特異的な結合物質(例えば二次抗体又は特異的抗体)と接触させてもよい。
【0061】
他の例では、プローブ又は特異的結合物質(例えば抗体、例えば一次抗体、受容体、又は他の結合物質)を、蛍光発生組成物又は発色性組成物を検出可能な蛍光シグナル、着色シグナル、又は別様に検出可能なシグナル(例えば、SISHにおいて検出可能な金属粒子の沈着におけるように)へと変換することができる酵素を用いて標識する。上記に示されているように、酵素を、関連したプローブ又は検出試薬へと直接的に又はリンカーを介して間接的に付着させることができる。適切な試薬(例えば結合試薬)及び化学反応(例えばリンカー及び付着化学反応)の例は、米国特許出願公開公報第2006/0246524号;第2006/0246523号及び第2007/0117153号に記載されている。
【0062】
標識されたプローブ-特異的結合物質の対を適切に選択することによって、1回のアッセイ(例えば1つの細胞試料若しくは組織試料上での、又は、1つを超える細胞試料若しくは組織試料上での)で複数の標的核酸配列(例えばゲノム標的核酸配列)の検出を容易にする多重検出スキームを作成することができることが当業者によって理解されるだろう。例えば、第一標的配列に対応する第一プローブを、ビオチンなどの第一のハプテンで標識し、一方で、第二標的配列に対応する第二のプローブをジニトロフェノールなどの第二のハプテンで標識してもよい。プローブに試料を曝露した後、試料を、第一の特異的な結合物質(この場合、第一のフルオロフォアで標識されたアビジン、例えば585nmで発光する、例えば第一のスペクトル的に明確に異なるQUANTUM DOTS(登録商標))及び第二の特異的な結合物質(この場合、第二のフルオロフォア(例えば、705nmで発光する、例えば第二のスペクトル的に明確に異なるQUANTUM DOTS(登録商標))で標識された抗ジニトロフェノール抗体、又は抗体断片)と接触させることによって、結合したプローブを検出することができる。追加のプローブ/結合物質の対を、他のスペクトル的に明確に異なるフルオロフォアを使用して多重検出スキームに加えることができる。直接的及び間接的(1工程、2工程、又はそれ以上)な数多くの変法を想定することができ、その中の全てが、開示されたプローブ及びアッセイの脈絡において適切である。
【0063】
プローブは典型的には、10~1000、例えば10~800、より好ましくは15~700、典型的には20~500ヌクレオチド長の一本鎖核酸を含む。プライマーは典型的には、増幅しようとする関心対象の核酸と完全に又はほぼ完全に一致するように設計された、10~25ヌクレオチド長のより短い一本鎖核酸である。プローブ及びプライマーは、それらがハイブリダイズする核酸に対して「特異的」であり、すなわち、それらは好ましくは高ストリンジェンシーなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズする(最も高い融解温度Tm、例えば50%ホルムアミド、5×又は6×SCCに相当する。SCCは、0.15M NaCl、0.015Mクエン塩ナトリウムである)。
【0064】
上記の増幅法及び検出法に使用された核酸プライマー又はプローブは、キットとして構築されてもよい。このようなキットは、共通プライマー及び分子プローブを含む。好ましいキットはまた、増幅が起こったかどうかを決定するのに必要とされる成分を含む。キットはまた、例えば、PCR緩衝液及び酵素;正の対照配列、反応制御プライマー;並びに、特定の配列を増幅及び検出するための説明書も含み得る。
【0065】
いくつかの実施態様では、本発明の方法は、卵丘細胞から抽出された全RNAを準備する工程、及び、より特定すると定量又は半定量逆転写PCRによってRNAを増幅し、特異的なプローブに対するハイブリダイゼーションにかける工程を含む。
【0066】
いくつかの実施態様では、レベルは、DNAチップ分析によって決定される。このようなDNAチップ又は核酸マイクロアレイは、マイクロチップ、スライドガラス、又はマイクロスフィアのサイズのビーズであり得る、基材に化学的に付着させた様々な核酸プローブからなる。マイクロチップは、ポリマー、プラスチック、樹脂、多糖、シリカ、又はシリカ系材料、炭素、金属、無機ガラス、又はニトロセルロースから構成され得る。プローブは、約10~約60塩基対であり得る、核酸、例えばcDNA又はオリゴヌクレオチドを含む。レベルを決定するために、場合によりまず逆転写にかけた試験患者の試料を、標識し、そして、ハイブリダイゼーション条件でマイクロアレイと接触させ、マイクロアレイ表面に付着させたプローブ配列に対して相補的である標的核酸との間で複合体を形成するに至る。次いで、標識されたハイブリダイズした複合体を検出し、定量又は半定量することができる。標識は、様々な方法によって、例えば放射能標識又は蛍光標識を使用することによって成し遂げることができる。マイクロアレイハイブリダイゼーション技術の多くの変法が、当業者には利用可能である(例えば、Hoheisel, Nature Reviews, Genetics, 2006, 7:200-210による総説を参照)。
【0067】
いくつかの実施態様では、nCounter(登録商標)分析システムを使用して、内因性遺伝子発現を検出する。nCounter(登録商標)分析システムの基本は、アッセイしようとする各々の核酸標的に割り当てられた独特なコードである(国際特許出願公開公報第WO08/124847号、米国特許第8,415,102号及びGeiss et al. Nature Biotechnology. 2008. 26(3): 317-325;その内容は各々その全体が参照により本明細書に組み入れられる)。コードは、アッセイしようとする各標的に対して独特なバーコードを作成する規則正しい一連の有色蛍光スポットから構成される。各々のDNA標的又はRNA標的のための1対のプローブ、すなわちビオチニル化捕捉プローブと蛍光バーコードを有するレポータープローブとを設計する。このシステムは本明細書においてナノレポーターコードシステムとも称される。各標的に対して特異的なレポーター及び捕捉プローブを合成する。レポータープローブは、第一シグナルを構成している、光を放出する1つ以上の標識モノマーが付着する少なくとも1つの第一標識付着領域;第二のシグナルを構成している、光を放出する1つ以上の標識モノマーが付着する、第一の標識付着領域と重複していない、少なくとも1つの第二の標識付着領域;及び、第一の標的特異的配列を含み得る。好ましくは、各々の配列特異的レポータープローブは、1つ以下の遺伝子にハイブリダイズすることができる標的特異的配列を含み、かつ少なくとも3つ、又は少なくとも4つの標識付着領域を場合により含み、該付着領域は、それぞれ少なくとも1つの第三のシグナル又は少なくとも1つの第四のシグナルを構成している、光を放出する1つ以上の標識モノマーを含む。捕捉プローブは、第二の標的特異的配列;及び第一の親和性タグを含み得る。いくつかの実施態様では、捕捉プローブはまた、1つ以上の標識付着領域を含み得る。好ましくは、レポータープローブの第一の標的特異的配列及び捕捉プローブの第二の標的特異的配列は、検出しようとする同じ遺伝子の異なる領域にハイブリダイズする。レポータープローブ及び捕捉プローブは全て、1つのハイブリダイゼーション混合物、すなわち「プローブライブラリー」にプールされる。1回の多重ハイブリダイゼーション反応における各標的の相対量を測定する。該方法は、該組織試料をプローブライブラリーと接触させる工程を含み、よって、試料中の標的の存在は、プローブ対-標的の複合体を作る。次いで、複合体を精製する。より具体的には、試料をプローブライブラリーと合わせ、溶液中でハイブリダイゼーションが起こる。ハイブリダイゼーション後、三者間のハイブリダイズした複合体(プローブ対及び標的)を、捕捉プローブ及びレポータープローブ上に存在する普遍的な配列に対して相補的なオリゴヌクレオチドに連結させた磁気ビーズを使用して2工程手順で精製する。この二重精製過程は、大過剰の標的特異的プローブを用いてハイブリダイゼーション反応を完了に導くことが可能である。なぜなら、それらは最終的に除去され、したがって、試料の結合及びイメージングに干渉しないからである。全てのハイブリダイゼーション後の工程は、カスタムリキッドハンドリングロボット(プレップステーション、ナノストリング・テクノロジー社)でロボット操作される。精製された反応液を典型的には、捕捉プローブを介して、ストレプトアビジンでコーティングされた表面に結合した、試料カートリッジの個々のフローセルにプレップステーションによって沈着させ、電気泳動にかけてレポータープローブを伸長し、そして固定する。加工後、試料カートリッジを、完全自動化イメージング装置及びデータ収集装置(デジタルアナライザ、ナノストリング・テクノロジー社)に移す。各試料をイメージングし、その標的に対するコードが検出された回数を計数することによって標的のレベルを測定する。各試料について、約10mm2の結合表面を示す典型的には600個の視野(FOV)がイメージングされる(1376×1024ピクセル)。典型的な画像密度は、多重化度、試料投入量、及び標的の総量に依存して、1視野あたり100~1200個であると計数されたレポーターである。データは、1つの標的あたり、1つの試料あたりの計数を列挙した簡単なスプレッドシート形式に出力する。このシステムをナノレポーターと共に使用することができる。ナノレポーターに関する追加の開示は、国際公開公報第07/076129号及び国際公開公報第07/076132号、及び米国特許公開公報第2010/0015607号及び第2010/0261026号に見出すことができ、その内容はその全体が本明細書に組み入れられる。さらに、核酸プローブ及びナノレポーターという用語は、国際公開公報第2010/019826号及び米国特許公報第2010/0047924号(その全体が参照により本明細書に組み入れられる)に記載の合理的に設計された(例えば合成配列)を含み得る。
【0068】
遺伝子のレベルは、絶対レベル又は正規化レベルとして表現され得る。典型的には、レベルは、遺伝子の発現を、リスクを決定するのに関連のない遺伝子の発現と比較することによって、該遺伝子の絶対レベルを修正することによって正規化される。この正規化により、1つの試料中のレベルの比較、例えば、対象の試料と別の試料、又は異なる入手源に由来する試料間の比較が可能となる。
【0069】
いくつかの実施態様では、試料が体液試料である場合、免疫マーカーのレベルは、イムノアッセイによって決定される。このようなアッセイとしては、例えば、競合アッセイ、直接反応アッセイ、サンドイッチ型アッセイ、及びイムノアッセイ(例えばELISA)が挙げられる。アッセイは、定量的であっても、定性的であってもよい。免疫複合体の形成を検出するための多くの異なる慣用的なアッセイが存在する。例えば、検出工程は、ELISAアッセイの実施、側方流動イムノアッセイの実施、凝集アッセイの実施、分析ローターにおける試料の分析、又は、電気化学的、光学的若しくは光電子的センサーを用いた試料の分析を含み得る。これらの異なるアッセイは当業者には周知である。いくつかの実施態様では、装置は、本発明に記載のイムノアッセイを実施するのに有用である。例えば、いくつかの実施態様では、装置は側方流動イムノアッセイ装置である。いくつかの実施態様では、装置は分析ローターである。いくつかの実施態様では、装置は量子ドットである。いくつかの実施態様では、装置は、チューブ、又は、例えばELISAアッセイに適したプレート内のウェルである。いくつかの実施態様では、装置は、電気化学的センサー、光学的センサー、又は光電子的センサーである。免疫複合体の存在及び量は、標識に基づいた検出及び標識を含まない検出を含む、当技術分野において公知の方法によって検出され得る。例えば、標識に基づいた検出法は、シグナル発生化合物を含む指示試薬に結合させている二次抗体の付加を含む。二次抗体は、抗ヒトIgG抗体であり得る。指示試薬としては、発色剤、触媒、例えば酵素コンジュゲート、蛍光化合物、例えばフルオレセイン及びローダミン、化学発光化合物、例えばジオキセタン、アクリジニウム、フェナントリジニウム、ルテニウム、及びルミノール、放射性元素、直接可視できる標識、並びに、補因子、阻害剤、及び磁気粒子が挙げられる。酵素コンジュゲートの例としては、アルカリホスファターゼ、セイヨウワサビペルオキシダーゼ、及びβ-ガラクトシダーゼが挙げられる。標識を含まない検出法としては、表面プラズモン共鳴、カーボンナノチューブ、及びナノワイヤー、及び干渉法が挙げられる。標識に基づいた検出法及び検出を含まない検出法は、当技術分野において公知であり、例えば、Hall et al.(2007)及びRay et al. (2010) Proteomics 10:731-748によって開示されている。検出は、当技術分野において公知であり、かつ使用される標識に適切である走査法、及び関連する分析ソフトウェアによって成し遂げられ得る。いくつかの実施態様では、蛍光標識及び検出法を使用して、免疫複合体を検出する。特に有用なアッセイフォーマットは、側方流動イムノアッセイフォーマットである。ヒト又は動物(例えばイヌ、マウス、シカなど)免疫グロブリンに対する抗体、又は黄色ブドウ球菌A型又はGタンパク質抗体を、シグナル発生剤又はリポーター(例えばコロイド状金)を用いて標識することができ、これをガラス繊維パッド(試料適用パッド又はコンジュゲートパッド)上で乾燥させ配置する。別のアッセイは、酵素結合免疫吸着アッセイ、すなわち、ELISAである。典型的にはELISAでは、免疫マーカーをマイクロタイターウェルの表面に、直接、又は捕捉用マトリックス(例えば抗体)を通して吸着させる。表面上に残留している非特異的なタンパク質の結合した部位を、適切な物質、例えばウシ血清アルブミン(BSA)、熱不活化正常ヤギ血清(NGS)、又はBLOTTO(保存剤、塩、及び消泡剤も含有している、無脂肪ドライミルクの緩衝溶液)を用いて遮断する。その後、ウェルを試料と共にインキュベートする。試料を、そのままで適用するか、又は大抵の場合、それを、通常、少量(0.1~5.0重量%)のタンパク質、例えばBSA、NGS、又はBLOTTOを含有している緩衝化溶液で希釈してもよい。特異的な結合が起こるに十分な時間をかけてインキュベートした後、ウェルを洗浄して、結合していないタンパク質を除去し、その後、最適な濃度の適切な抗免疫グロブリン抗体(例えばヒト被験者では、標準的な手順によって酵素又は他の標識にコンジュゲートさせ、そして遮断緩衝液に溶解させた、別の動物、例えばイヌ、マウス、ウシなどに由来する、抗ヒト免疫グロブリン(αHuIg))と共にインキュベートする。標識は、セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)、β-ガラクトシダーゼ、アルカリホスファターゼ、グルコースオキシダーゼなどを含む、様々な酵素から選択され得る。特異的な結合が再度起こるに十分な時間をかけて、その後、ウェルを再度洗浄して、結合していないコンジュゲートを除去し、酵素に適した基質を加える。発色させ、ウェルの内容物の吸光度を、目視で又は機械(適切な波長で測定)で決定する。
【0070】
いくつかの実施態様では、複数の定量が必要とされる場合、関心対象の結合対を有するビーズの使用が好ましい場合がある。いくつかの実施態様では、ビーズは、フローサイトメトリーに使用するためのサイトメトリービーズであってもよい。このようなビーズは、例えば、BDバイオサイエンシーズ社(サンノゼ、カリフォルニア州)によって市販されている、BD(商標)サイトメトリービーズに相当し得る。典型的には、サイトメトリービーズは、多重ビーズアッセイを調製するのに適している場合がある。多重ビーズアッセイ、例えばBD(商標)サイトメトリービーズアレイは、可溶性抗原を捕捉及び定量するために使用され得る、一連のスペクトルの明確に異なるビーズである。典型的には、ビーズは、1つ以上のスペクトルの明確に異なる蛍光色素で標識され、検出は、複数の光検出器を使用して行なわれ、1つのビーズに対してそれぞれ個別の色素で検出する。識別可能なビーズのセットを作製及び使用する多くの方法が文献に記載されている。これらには、サイズによって識別可能なビーズ(ここでの各サイズのビーズは、異なる標的特異的抗体でコーティングされている(例えば、Fulwyler and McHugh, 1990, Methods in Cell Biology 33:613-629参照))、様々な濃度の2つ以上の蛍光色素を有するビーズ(ここでのビーズは、蛍光色素のレベルによって同定される)(例えば欧州特許第0126,450号参照)、及び2つの異なる色素で識別可能なように標識されたビーズ(ここでのビーズは、各色素の蛍光強度を別々に測定することによって同定される)(例えば、米国特許第4,499,052号及び第4,717,655号参照)が含まれる。フローサイトメトリーによる複数の抗原の同時分析のための一次元アレイ及び二次元アレイの両方が市販されている。蛍光強度のレベルによって識別可能な単一の色素で染色されたビーズの一次元アレイの例としては、BD(商標)サイトメトリービーズアレイ(CBA)(BDバイオサイエンシーズ社、サンノゼ、カリフォルニア州)及びCyto-Plex(商標)フローサイトメトリーミクロスフィア(Duke Scientific社、パロアルト、カリフォルニア州)が挙げられる。蛍光強度(5つのレベル)及びサイズ(2つのサイズ)の組合せによって識別可能なビーズの二次元アレイの一例は、QuantumPlex(商標)ミクロスフィア(Bangs Laboratories社、フィッシャー、インディアナ州)である。2つの色素のそれぞれの蛍光レベルによって識別可能な2つの色素で染色されたビーズの二次元アレイの一例は、Fulton et al.(1997, Clinical Chemistry 43(9):1749-1756)に記載されている。ビーズは、当技術分野において公知である任意の蛍光化合物、例えば、FITC(FL1)、PE(FL2)、青色レーザーで使用するためのフルオロフォア(例えばPerCP、PE-Cy7、PE-Cy5、FL3、及びAPC又はCy5、FL4)、赤色、紫色、又は紫外線レーザーで使用するためのフルオロフォア(例えばパシフィックブルー、パシフィックオレンジ)で標識されてもよい。別の特定の実施態様では、ビーズは、磁気分離に使用するための磁気ビーズである。磁気ビーズは、当業者には公知である。典型的には、磁気ビーズは好ましくは、金属(例えば鉄、コバルト、及びニッケル)、その合金、及びその酸化物からなる群より選択された磁気材料から作製される。別の特定の実施態様では、ビーズは、色素で染色され、磁気化されている、ビーズである。
【0071】
所定の基準値:
いくつかの実施態様では、本発明の方法はさらに、免疫マーカーの発現レベルを所定の基準値と比較する工程を含み、ここでの、免疫マーカーの発現レベルと所定の基準値との間の差の検出は、被験者が、癌を有するリスクがあるか否かを示す。
【0072】
いくつかの実施態様では、所定の基準値は、同じ又は類似した年齢範囲の被験者、同じ又は類似した民族群の被験者、及び同じ重症度の前悪性病変を有する被験者を含むがこれらに限定されない、集団研究から得られた数又は値と比較したものである。このような所定の基準値は、数学的アルゴリズム及びコンピューター計算された指数から得られた、集団の統計分析及び/又はリスク予測データから導かれ得る。いくつかの実施態様では、適切に寄託された病歴記録のある被験者試料における免疫マーカーのレベルの遡及的測定が、これらの所定の基準値の確立に使用され得る。したがって、いくつかの実施態様では、所定の基準値は、閾値又はカットオフ値である。試験の関数及びベネフィット/リスクのバランス(偽陽性及び偽陰性の臨床結果)に従って、最適な感度及び特異度を得るように、閾値は決定されなければならない。典型的には、最適な感度及び特異度(及び、よって閾値)は、実験データに基づいた受信者動作特性(Receiver Operating Characteristic)(ROC)曲線を使用して決定され得る。例えば、リファレンス群における免疫マーカーのレベルを決定した後、試験される予定の試料において測定された免疫マーカーのレベルの統計学的処理のためのアルゴリズム分析を使用し、これにより、試料の分類について有意性を有する分類標準物質を得ることができる。ROC曲線の正式名は、受信者動作特性(receiver operator characteristic)曲線であり、これは、受信者操作特性(receiver operation characteristic)曲線としても知られている。それは主に、生化学的臨床診断試験のために使用される。ROC曲線は、真の陽性率(感度)及び偽の陽性率(1-特異度)の連続変数を反映する総合的な指標である。ROC曲線は、画像合成法を用いて感度と特異度の間の関係を明らかとする。一連の様々なカットオフ値(閾値又は臨界値、すなわち、診断試験の正常な結果と異常な結果との間の境界値)が、一連の感度及び特異度の数値を計算するための連続変数として設定される。次いで、曲線を描くために、感度は縦軸座標として使用され、特異度は横軸座標として使用される。曲線下面積(AUC)が高くなればなるほど、診断の正確度は高くなる。ROC曲線上では、座標図の左上端に最も近い点は、高い感度と高い特異度の数値の両方を有する臨界点である。ROC曲線のAUC値は、1.0~0.5である。AUCが0.5を上回る場合、AUCが1に近づくほど、診断結果はより良好となる。AUCが0.5~0.7である場合、正確度は低い。AUCが0.7~0.9である場合、正確度は中程度である。AUCが0.9より高い場合、正確度は極めて高い。このアルゴリズム法は好ましくは、コンピューターを用いて実施される。当技術分野における既存のソフトウェア又はシステムをROC曲線の描写のために使用し得る:例えば、MedCalc9.2.0.1医学統計ソフトウェア、SPSS9.0、ROCPOWER.SAS、DESIGNROC.FOR、MULTIREADER POWER.SAS、CREATE-ROC.SAS、GB STAT VI0.0(ダイナミック・マイクロシステムズ社、シルバースプリング、メリーランド州、米国)など。
【0073】
典型的には、対照集団(例えば、決して癌へと進行しない前悪性病変を有する被験者集団)において観察された標準的なレベルと比較した、低グレード異形成における、CD58、セルピンメンバー、CD4ナイーブT細胞、TNFRSF18(GITR)、及びIL18のレベルの増加は、癌を有するリスクの上昇と関連している。
【0074】
典型的には、対照集団(例えば、決して癌へと進行しない前悪性病変を有する被験者集団)において観察された標準的なレベルと比較した、低グレード異形成における、TNFRSF14(HVEM)、TNFSF4、及びTNFRSF17(BCMA)のレベルの減少は、癌を有するリスクの上昇と関連している。
【0075】
典型的には、対照集団(例えば、決して癌へと進行しない前悪性病変を有する被験者集団)において観察された標準的なレベルと比較した、高グレード異形成における、共阻害性分子、共刺激性分子、免疫抑制性インターロイキン、及び免疫刺激性インターロイキンのレベルの増加は、癌を有するリスクの上昇と関連している。
【0076】
スコアを実行するための方法:
いくつかの実施態様では、異なる免疫マーカーの発現レベルの混成であるスコアを決定し、所定の基準値と比較し、ここで、前記スコアと前記の所定の基準値との間の差は、被験者が癌を有するリスクがあるかどうかを示す。
【0077】
いくつかの実施態様では、本発明の方法は、実施例に記載のような、線形判断分析(LDA)、位相的データ分析(TDA)、神経ネットワーク、サポートベクトルマシン(SVM)アルゴリズム、及びランダムフォレストアルゴリズム(RF)から典型的には選択される、分類アルゴリズムの使用を含む。いくつかの実施態様では、本発明の方法は、分類アルゴリズムを使用して、被験者の応答を決定する工程を含む。本明細書において使用する「分類アルゴリズム」という用語は当技術分野におけるその一般的な意味を有し、米国特許第8,126,690号;国際公開公報第2008/156617号に記載のような当技術分野において周知である、分類及び回帰木法並びに多変量分類を指す。本明細書において使用する「サポートベクトルマシン(SVM)」という用語は、パターン認識に有用な万能学習マシンであり、その決定面は、ワンセットのサポートベクトル及びワンセットの対応する重みによってパラメーター化され、複数の変数を別々に処理するのではなく、同時に処理する方法を指す。したがって、サポートベクトルマシンは、分類のための統計学的ツールとして有用である。サポートベクトルマシンは、そのn次元入力空間を高次元特徴空間に非線形的にマッピングし、特徴間の最適なインターフェース(最適な分離面)を提示する。サポートベクトルマシンは、以下の2つのフェーズを含む:訓練フェーズ及び試験フェーズ。訓練フェーズでは、サポートベクトルが作成されるが、推定は、試験フェーズの特定の法則に従って行われる。一般的に、サポートベクトルマシンは、n人の各被験者を、被験者1人あたり1つのバイオマーカー測定値のk次元ベクトル(kタプルと呼ばれる)に基づいて2つ以上の疾患カテゴリーに分類する際に使用するためのモデルを提供する。サポートベクトルマシンはまず、tタプルをカーネル関数を使用して同等又はより高次元の空間へと変換する。カーネル関数は、超平面を使用してカテゴリーを、元来のデータ空間で可能であったであろうよりも良好に分離することのできる空間へとデータを投影する。超平面(これを用いてカテゴリー間を識別する)を決定するために、疾患カテゴリー間の境界の最も近くにあるワンセットのサポートベクトルが選択され得る。その後、超平面は、サポートベクトルと超平面との間の距離が、間違った予測にはペナルティーを科す、コスト関数の限界内で最大となるように、公知のサポートベクトルマシンによって選択される。この超平面は、予測の点でデータを最適に分離するものである(Vapnik, 1998 Statistical Learning Theory. New York: Wiley)。その後、あらゆる新規な観察は、超平面に関してどこが観察されるかに基づいて、関心対象のカテゴリーのいずれか1つに属するとして分類される。2つを超えるカテゴリーが考えられる場合、プロセスは、全てのカテゴリーについて対で行なわれ、そうした結果を合わせて、全てのカテゴリー間を識別する法則を作り出す。本明細書において使用する「ランダムフォレストアルゴリズム」すなわち「RF」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、米国特許第8,126,690号;国際公開公報第2008/156617号に記載のような分類アルゴリズムを指す。ランダムフォレストは、元々Leo Breiman(Breiman L, "Random forests," Machine Learning 2001, 45:5-32)によって開発されたアルゴリズムを使用して構築された、決定木に基づいた分類器である。分類器は、多くの個々の決定木を使用し、個々の木によって決定されるようなクラスのモードを選択することによってクラスを決定する。個々の木は、以下のアルゴリズムを使用して構築される:(1)訓練セットにおける症例数はNであり、分類器における変数の数はMであると仮定する;(2)入力変数の数を選択し、これを使用して木のノードにおける決断を決定するだろう;この数字mは、Mよりはるかに小さくあるべきである;(3)置換を含む訓練用セットからN個の試料を選択することによって、訓練用セットを選択する;(4)木の各ノードについて、そのノードにおける決定の基礎となる、M中m個の変数を無作為に選択する;(5)訓練用セットにおけるこれらのm個の変数に基づいて、最善の分割を計算する。いくつかの実施態様では、スコアは、コンピュータープログラムによって作成される。
【0078】
いくつかの実施態様では、本発明の方法は、a)試料中の複数の免疫マーカーのレベルを定量する工程;b)定量された複数の免疫マーカーを含むデータについてアルゴリズムを実行することにより、アルゴリズムの出力を得る工程;c)工程b)のアルゴリズム出力から、被験者が癌を発症するであろう確率を決定する工程を含む。
【0079】
本発明のアルゴリズムは、1つ以上のコンピュータープログラムを実行して、入力データを操作し出力を出すことによって機能を果たす、1つ以上のプログラム可能なプロセッサによって実施され得る。アルゴリズムは、特殊用途ロジック回路、例えばFPGA(現場で書き換え可能な論理回路の多数配列)又はASIC(特定用途向け集積回路)によって実施されてもよく、装置もまた、特殊用途ロジック回路、例えばFPGA(現場で書き換え可能な論理回路の多数配列)又はASIC(特定用途向け集積回路)として実装されてもよい。コンピュータープログラムの実行に適したプロセッサとしては、例えば、汎用及び特殊目的マイクロプロセッサの両方、並びに、任意の種類のデジタルコンピューターのいずれか1つ以上のプロセッサが挙げられる。一般的には、プロセッサは、リードオンリーメモリ又はランダムアクセスメモリ又はその両方からの指示及びデータを受け取るだろう。コンピューターの必須要素は、指示を行なうプロセッサと、指示及びデータを保存するための1つ以上のメモリ装置である。一般的には、コンピューターはまた、データを保存するための1つ以上の大容量記憶装置、例えば磁気ディスク、光磁気ディスク、若しくは光ディスクを含むであろうか、又はそれからデータを受け取るように若しくはそれにデータを転送するように若しくはその両方を行なうように動作上接続されているだろう。しかしながら、コンピューターはこのような装置を有する必要はない。さらに、コンピューターは別の装置に組み込まれていてもよい。コンピュータープログラムの指示及びデータを保存するのに適したコンピューター可読媒体としては、全ての形式の不揮発性メモリ、媒体、及びメモリ装置を含み、これには例えば、半導体メモリ装置、例えばEPROM、EEPROM、及びフラッシュメモリ装置;磁気ディスク、例えば内臓ハードディスク又はリムーバブルディスク;光磁気ディスク;並びにCD-ROM及びDVD-ROMディスクが含まれる。プロセッサ及びメモリは、特殊目的ロジック回路によって補充されていても、又はそれに組み込まれていてもよい。ユーザーとのインタラクトを提供するために、本発明の実施態様は、ディスプレイデバイス、例えば非限定的な例では、ユーザーに情報を表示するためのCRT(陰極線管)又はLCD(液晶ディスプレイ)モニター、及びキーボード及びポインティングデバイス、例えばマウス又はトラックボール(これによりユーザーはコンピューターに入力することができる)を有する、コンピューター上に実装され得る。他の種類の装置も同様にユーザーとのインタラクトを提供するために使用することができ;例えば、ユーザーに提供されたフィードバックは、任意の形式の感覚フィードバック、例えば視覚フィードバック、聴覚フィードバック、又は触覚フィードバックであり得;ユーザーからの入力は、音響入力、音声入力、又は触覚入力をはじめとする任意の形式で受け取られ得る。したがって、いくつかの実施態様では、アルゴリズムは、例えばデータサーバーとしてバックエンドコンポーネントを含むか、又はミドルウェアコンポーネント、例えばアプリケーションサーバーを含むか、又はフロントエンドコンポーネント、例えばグラフィカルユーザーインターフェース若しくはウェブブラウザ―(これを通して、ユーザーは本発明の実装とインタラクトすることができる)を有するクライアントコンピューターを含むか、又は1つ以上のこのようなバックエンドコンポーネント、ミドルウェアコンポーネント若しくはフロントエンドコンポーネントの任意の組合せを含む、コンピューターシステムに実装され得る。システムのコンポーネントは、任意の形式又は媒体のデジタルデータ通信、例えば通信ネットワークによって相互接続されていてもよい。通信ネットワークの例としては、ローカルエリアネットワーク(「LAN」)及びワイドエリアネットワーク(「WAN」)、例えばインターネットが挙げられる。コンピューターシステムは、クライアント及びサーバーを含み得る。クライアント及びサーバーは一般的に互いにリモートであり、典型的には通信ネットワークを通してインタラクトする。クライアント及びサーバーの関係は、それぞれのコンピューター上で作動し、互いにクライアント-サーバー関係を有する、コンピュータープログラムのお蔭で生じる。
【0080】
少なくとも1つの前悪性病変を有する被験者における癌の予防的処置のための方法:
本発明のさらなる目的は、治療有効量の少なくとも1つの化学的予防剤を被験者に投与する工程を含む、少なくとも1つの前悪性病変を有する被験者における癌の予防的処置のための方法に関する。
【0081】
本明細書において使用するような、本明細書において使用する「予防」又は「予防的使用」及び「予防的処置」という用語は、その目的が疾患を予防することである、任意の医学的手順又は公衆衛生手順を指す。本明細書において使用する「予防する」、「予防」及び「予防すること」という用語は、病気ではないが、疾患を有する被験者に近いか又は近い可能性がある、被験者における、所与の容態を獲得若しくは発症するリスクの低減、又は該容態の再発の低減若しくは阻止を指す。
【0082】
いくつかの実施態様では、前記被験者は、本発明の予測法によって、癌を有するリスクがあると判断される。
【0083】
いくつかの実施態様では、化学的予防剤は、アルキル化剤、例えばチオテパ及びシクロホスファミド;アルキルスルホネート類、例えばブスルファン、インプロスルファン、及びピポスルファン;アジリジン系、例えばベンゾドーパ、カルボコン、メツレドーパ、及びウレドーパ;エチレンイミン類及びメチルメラミン類、例えばアルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホルアミド、トリエチレンチオホスホルアミド、及びトリメチロールメラミン;アセトゲニン類(特にブラタシン及びブラタシノン);カンプトテシン類(合成類似体のトポテカンなど);ブリオスタチン類;カリスタチン;CC-1065(例えば、そのアドゼレシン、カルゼレシン及びビゼレシン合成類似体);クリプトフィシン(特にクリプトフィシン1及びクリプトフィシン8);ドラスタチン;デュオカルマイシン(例えば合成類似体、KW-2189及びCBI-TMIなど);エリュテロビン;パンクラチスタチン;サルコジクチイン;スポンジスタチン;ナイトロジェンマスタード、例えばクロラムブシル、クロルナファジン、クロロホスファミド、エストラムスチン、イフォスファミド、メクロレタミン、塩酸メクロレタミンオキシド、メルファラン、ノボエンビキン、フェネステリン、プレドニムスチン、トロホスファミド、ウラシルマスタード;ニトロソウレア類、例えばカルムスチン、クロロゾトシン、ホテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、及びラニムスチン;抗生物質、例えばエンジイン抗生物質(例えばカリケアマイシン、特にカリケアマイシンγ1及びカリケアマイシンω1;ダイネミシン、例えばダイネミシンA;ビスホスホネート、例えばクロドロネート;エスペラマイシン;並びにネオカルジノスタチン発色団及び関連したクロモプロテイン系エンジイン抗生物質発色団)、アクラシノマイシン、アクチノマイシン、アントラマイシン、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カルビシン、カルミノマイシン、カルジノフィリン、クロモマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、ドキソルビシン(例えばモルホリノ-ドキソルビシン、シアノモルホリノ-ドキソルビシン、2-ピロリノ-ドキソルビシン及びデオキシドキソルビシン)、エピルビシン、エソルビシン、イダルビシン、マルセロマイシン、マイトマイシン、例えばマイトマイシンC、ミコフェノール酸、ノガラマイシン、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン(potfiromycin)、ピューロマイシン、クエラマイシン、ロドルビシン(rodorubicin)、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン、ゾルビシン;代謝拮抗薬、例えばメトトレキサート及び5-フルオロウラシル(5-FU);葉酸類似体、例えばデノプテリン、メトトレキサート、プテロプテリン、トリメトレキサート;プリン類似体、例えばフルダラビン、6-メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニン;ピリミジン類似体、例えばアンシタビン、アザシチジン、6-アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロキシウリジン;アンドロゲン、例えばカルステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトン;抗副腎薬、例えばアミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタン;葉酸補充物質、例えばフォリン酸;アセグラトン;アルドホスファミドグリコシド;アミノレブリン酸;エニルウラシル;アムサクリン;ベストラブシル;ビサントレン;エダトレキサート;デフォファミン;デメコルシン;ジアジコン;エルホルミチン;酢酸エリプチニウム;エポチロン;エトグルシド;硝酸ガリウム;ヒドロキシ尿素;レンチナン;ロニダミン(lonidainine);メイタンシノイド、例えばメイタンシン及びアンサミトシン;ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダモール(mopidanmol);ニトラエリン;ペントスタチン;フェナメット(phenamet);ピラルビシン;ロソキサントロン;ポドフィリン酸;2-エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK多糖複合体;ラゾキサン;リゾキシン;シゾフィラン(sizofuran);スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸;トリアジクオン;2,2’,2’’-トリクロロトリエチルアミン;トリコテセン(特にT-2毒素、ベルカリンA、ロリジンA、及びアンギジン);ウレタン;ビンデシン;ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン;アラビノシド(「Ara-C」);シクロホスファミド;チオテパ;タキソイド、例えばパクリタキセル及びドセタキセル;クロラムブシル;ゲムシタビン;6-チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキサート;白金配位複合体、例えばシスプラチン、オキサリプラチン、及びカルボプラチン;ビンブラスチン;白金;エトポシド(VP-16);イホスファミド;ミトキサントロン;ビンクリスチン;ビノレルビン;ノバントロン;テニポシド;エダトレキサート;ダウノマイシン;アミノプテリン;ゼローダ;イバンドロン酸塩;イリノテカン(例えばCPT-11);トポイソメラーゼ阻害剤RFS2000;ジフルオロメチルオルニチン(DMFO);レチノイド、例えばレチノイン酸;カペシタビン;並びに、上記のいずれかの薬学的に許容される塩、酸、又は誘導体からなる群より選択される。
【0084】
いくつかの実施態様では、化学的予防剤は、免疫チェックポイント阻害剤である。本明細書において使用する「免疫チェックポイント阻害剤」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、免疫阻害性チェックポイントタンパク質の機能を阻害する任意の化合物を指す。阻害は、機能の低減及び完全な遮断を含む。好ましい免疫チェックポイント阻害剤は、免疫チェックポイントタンパク質を特異的に認識する抗体である。多くの免疫チェックポイント阻害剤が公知であり、これらの公知の免疫チェックポイントタンパク質阻害剤から類推して、代替的な免疫チェックポイント阻害剤を(近い)将来開発することができる。免疫チェックポイント阻害剤は、ペプチド、抗体、核酸分子、及び低分子を含む。免疫チェックポイント阻害剤の例としては、PD-1アンタゴニスト、PD-L1アンタゴニスト、PD-L2アンタゴニスト、CTLA-4アンタゴニスト、VISTAアンタゴニスト、TIM-3アンタゴニスト、LAG-3アンタゴニスト、GITRアンタゴニスト、IDOアンタゴニスト、KIR2Dアンタゴニスト、A2ARアンタゴニスト、B7-H3アンタゴニスト、B7-H4アンタゴニスト、及びBTLAアンタゴニストが挙げられる。
【0085】
いくつかの実施態様では、PD-1(プログラム細胞死-1)系アンタゴニストとしては、PD-1アンタゴニスト(例えば抗PD-1抗体)、PD-L1(プログラム細胞死リガンド-1)アンタゴニスト(例えば抗PD-L1抗体)、及びPD-L2(プログラム細胞死リガンド-2)アンタゴニスト(例えば抗PD-L2抗体)が挙げられる。いくつかの実施態様では、抗PD-1抗体は、MDX-1106(ニボルマブ、MDX-1106-04、ONO-4538、BMS-936558、及びオプジーボ(登録商標)としても知られる)、メルク3475(ペンブロリズマブ、MK-3475、ランブロリズマブ、キートルーダ(登録商標)、及びSCH-900475としても知られる)、及びCT-011(ピディリズマブ、hBAT、及びhBAT-1としても知られる)からなる群より選択される。いくつかの実施態様では、PD-1結合性アンタゴニストは、AMP-224(B7-DCIgとしても知られる)である。いくつかの実施態様では、抗PD-L1抗体は、YW243.55.S70、MPDL3280A、MDX-1105及びMEDI4736からなる群より選択される。MDX-1105は、BMS-936559としても知られているが、これは国際公開公報第2007/005874号に記載の抗PD-L1抗体である。抗体YW243.55.S70は、国際公開公報第2010/077634A1号に記載の抗PD-L1抗体である。MEDI4736は、国際公開公報第2011/066389号及びUS第2013/034559号に記載の抗PD-L1抗体である。MDX-1106は、MDX-1106-04、ONO-4538又はBMS-936558としても知られているが、これは米国特許第8,008,449号及び国際公開公報第2006/121168号に記載の抗PD-1抗体である。メルク3745は、MK-3475又はSCH-900475としても知られているが、これは米国特許第8,345,509号及び国際公開公報第2009/114335号に記載の抗PD-1抗体である。CT-011(ピディリズマブ)は、hBAT又はhBAT-1としても知られているが、これは国際公開公報第2009/101611号に記載の抗PD-1抗体である。AMP-224は、B7-DCIgとしても知られているが、これは国際公開公報第2010/027827号及び国際公開公報第2011/066342号に記載のPD-L2-Fc融合可溶性受容体である。アテゾリムマブは、米国特許第8,217,149号に記載の抗PD-L1抗体である。アベルマブは、US第20140341917号に記載の抗PD-L1抗体である。CA-170は、国際公開公報第2015033301号及び国際公開公報第2015033299号に記載のPD-1アンタゴニストである。他の抗PD-1抗体は、米国特許第8,609,089号、US第2010028330号、及び/又はUS第20120114649号に開示されている。いくつかの実施態様では、PD-1阻害剤は、ニボルマブ、ペンブロリズマブ、又はピディリズマブから選択された抗PD-1抗体である。いくつかの実施態様では、PD-L1アンタゴニストは、アベルマブ、BMS-936559、CA-170、デュルバルマブ、MCLA-145、SP142、STI-A1011、STIA1012、STI-A1010、STI-A1014、A110、KY1003、及びアテゾリムマブを含む群から選択され、好ましいのは、アベルマブ、デュルバルマブ、又はアテゾリムマブである。将来開発されるであろう類似した機序を有する他の分子も、癌の化学的予防の可能性ある候補である。
【0086】
いくつかの実施態様では、CTLA-4(細胞障害性Tリンパ球抗原-4)アンタゴニストは、抗CTLA-4抗体、ヒト抗CTLA-4抗体、マウス抗CTLA-4抗体、哺乳動物抗CTLA-4抗体、ヒト化抗CTLA-4抗体、モノクロ―ナル抗CTLA-4抗体、ポリクローナル抗CTLA-4抗体、キメラ抗CTLA-4抗体、MDX-010(イピリムマブ)、トレメリムマブ、抗CD28抗体、抗CTLA-4アドネクチン、抗CTLA-4ドメイン抗体、一本鎖抗CTLA-4断片、重鎖抗CTLA-4断片、軽鎖抗CTLA-4断片、共刺激経路にアゴニスト作用するCTLA-4阻害剤、PCT公開公報第WO2001/014424号に開示されている抗体、PCT公開公報第WO2004/035607号に開示されている抗体、米国公開公報第2005/0201994号に開示されている抗体、及び認可された欧州特許第EP1212422B号に開示されている抗体からなる群より選択される。さらなるCTLA-4抗体が、米国特許第5,811,097号;第5,855,887号;第6,051,227号;及び第6,984,720号;PCT公開公報第WO01/14424号及び第WO00/37504号;並びに米国公開公報第2002/0039581号及び第2002/086014号に記載されている。本発明の方法に使用され得る他の抗CTLA-4抗体としては、例えば、国際公開公報第98/42752号;米国特許第6,682,736号及び第6,207,156号;Hurwitz et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 95(17): 10067-10071 (1998); Camacho et al., J. Clin: Oncology, 22(145): Abstract No. 2505 (2004)(抗体CP-675206); Mokyr et al., Cancer Res., 58:5301-5304 (1998)、及び米国特許第5,977,318号、第6,682,736号、第7,109,003号、及び第7,132,281号に開示されている抗体が挙げられる。好ましい臨床的なCTLA-4抗体は、国際公開公報第01/14424号に開示されている、ヒトモノクローナル抗体(MDX-010及びイピリムマブとも称され、CAS番号477202-00-9を有し、メダレックス社、ブルームズベリー、NJ州から入手可能である)である。CTLA-4アンタゴニスト(抗体)に関しては、これらは公知であり、そしてこれらには、トレメリムマブ(CP-675,206)及びイピリムマブが挙げられる。将来開発されるであろう類似の機序を有する他の分子も、癌の化学的予防の可能性ある候補である。
【0087】
他の免疫チェックポイント阻害剤としては、リンパ球活性化遺伝子-3(LAG-3)阻害剤、例えばIMP321、可溶性Ig融合タンパク質(Brignone et al., 2007, J. Immunol. 179:4202-4211)が挙げられる。他の免疫チェックポイント阻害剤としては、B7阻害剤、例えばB7-H3阻害剤及びB7-H4阻害剤が挙げられる。特に、抗B7-H3抗体であるMAG271(Loo et al., 2012, Clin. Cancer Res. July 15 (18) 3834))。TIM-3(T細胞免疫グロブリンドメイン及びムチンドメイン3)阻害剤も含まれる(Fourcade et al., 2010, J. Exp. Med. 207:2175-86及びSakuishi et al., 2010, J. Exp. Med. 207:2187-94)。本明細書において使用する「TIM-3」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、T細胞免疫グロブリン及びムチンドメイン含有分子3を指す。TIM-3の天然リガンドは、ガレクチン9(Gal9)である。したがって、本明細書において使用する「TIM-3阻害剤」という用語は、TIM-3の機能を阻害することのできる、化合物、物質、又は組成物を指す。例えば、該阻害剤は、TIM-3の発現若しくは活性を阻害することができ、TIM-3シグナル伝達経路を調節若しくは遮断することができ、及び/又はガレクチン-9に対するTIM-3の結合を遮断することができる。TIM-3に対して特異性を有する抗体は。当技術分野において周知であり、典型的には、国際公開公報第2011155607号、国際公開公報第第2013006490号及び国際公開公報第2010117057号に記載されている抗体である。将来開発されるであろう類似の機序を有する他の分子も、癌の化学的予防の可能性ある候補である。
【0088】
いくつかの実施態様では、免疫チェックポイント阻害剤はIDO阻害剤である。IDO阻害剤の例は、国際公開公報第2014150677号に記載されている。IDO阻害剤の例としては、1-メチル-トリプトファン(IMT)、β-(3-ベンゾフラニル)-アラニン、β-(3-ベンゾ(b)チエニル)-アラニン)、6-ニトロ-トリプトファン、6-フルオロ-トリプトファン、4-メチル-トリプトファン、5-メチルトリプトファン、6-メチル-トリプトファン、5-メトキシ-トリプトファン、5-ヒドロキシ-トリプトファン、インドール3-カルビノール、3,3’-ジインドリルメタン、没食子酸エピガロカテキン、5-ブロモ-4-クロロ-インドキシル1,3-ジアセテート、9-ビニルカルバゾール、アセメタシン、5-ブロモ-トリプトファン、5-ブロモインドキシルジアセテート、3-アミノ-ナフトエ酸、ピロリジンジチオカルバメート、4-フェニルイミダゾール、ブラシニン(brassinin)誘導体、チオヒダントイン誘導体、β-カルボリン誘導体、又はブラシレキシン(brassilexin)誘導体が挙げられるがこれらに限定されない。好ましくは、IDO阻害剤は、1-メチル-トリプトファン、β-(3-ベンゾフラニル)-アラニン、6-ニトロ-L-トリプトファン、3-アミノ-ナフトエ酸、及びβ-[3-ベンゾ(b)チエニル]-アラニン、又はその誘導体若しくはプロドラッグから選択される。将来開発されるであろう類似の機序を有する他の分子も、癌の化学的予防の可能性ある候補である。
【0089】
いくつかの実施態様では、前記の化学的予防は、免疫抑制性サイトカインの阻害剤である。
【0090】
本明細書において使用する「免疫抑制性サイトカインの阻害剤」という表現は、免疫抑制性サイトカインの生物学的活性又は発現を部分的に又は完全に遮断するか、阻害するか、又は中和する分子を指す。したがって、該阻害剤は、例えば、サイトカインをコードしている核酸の転写若しくは翻訳を低減することによって、又はサイトカインポリペプチドの活性を阻害若しくは遮断することのいずれかによって、又はその両方によって、細胞内の少なくとも免疫抑制性サイトカインに関連したシグナル伝達に干渉する任意の種類の分子であり得る。阻害剤の例としては、アンチセンスポリヌクレオチド、干渉RNA、触媒RNA、RNA-DNAキメラ、サイトカイン特異的アプタマー、抗サイトカイン抗体、サイトカイン結合性抗サイトカイン抗体断片、サイトカイン結合性低分子、サイトカイン結合性ペプチド、及び、サイトカインに特異的に結合し、よって該阻害剤と標的化されたサイトカインとの間の相互作用により、サイトカインの活性又は発現の低減又は停止をもたらす他のポリペプチドが挙げられるがこれらに限定されない。いくつかの実施態様では、該阻害剤は、免疫抑制性サイトカインとその受容体の1つとの間の相互作用を阻害する。したがって、阻害剤のさらなる例としては、受容体特異的アプタマー、抗受容体抗体、受容体結合性抗受容体抗体断片、受容体結合性低分子、受容体結合性ペプチド、及びサイトカイン受容体に特異的に結合し、よって該阻害剤と該受容体との間の相互作用により、サイトカインの活性の低減又は停止がもたらされる他のポリペプチドが挙げられる。
【0091】
いくつかの実施態様では、前記阻害剤は、IL6阻害剤、IL10阻害剤、及びTGFβ阻害剤からなる群より選択される。
【0092】
いくつかの実施態様では、IL6、IL10、又はTGFβの阻害剤は抗体である。したがって、本明細書において使用する「抗体」という用語は、抗原結合領域を有する任意の抗体様分子を指すために使用され、この用語は、抗原結合ドメイン、例えばFab’、Fab、F(ab’)2、単一ドメイン抗体(DAB)、タンデム抗体ダイマー、Fv、scFv(一本鎖Fv)、dsFv(二本鎖Fv)、ds-scFv、Fd、鎖状抗体、ミニ抗体、ダイアボディ、二重特異的抗体断片、ビボディ、トリボディ(それぞれ二重特異的又は三重特異的なscFv-Fab融合物);sc-ダイアボディ;κ(λ)ボディーズ(scFv-CL融合物);BiTE抗体(二重特異的T細胞誘導抗体、T細胞を誘引するscFv-scFv);DVD-Ig(デュアル可変ドメイン抗体、二重特異的フォーマット);SIP(小型免疫タンパク質、一種のミニ抗体);SMIP(「小型モジュラー免疫医薬」scFv-Fcダイマー);DART(二本鎖安定化ダイアボディ「デュアル親和性再標的化」);1つ以上のCDRを含む小型抗体模倣体などを含む、抗体断片を含む。様々な抗体をベースとした構築物及び断片を調製及び使用するための技術は当技術分野において周知である(Kabat et al., 1991参照、参照により本明細書に具体的に組み入れられる)。ダイアボディは特に、欧州特許第404,097号及び国際公開公報第93/11161号にさらに記載され;一方、鎖状抗体は、Zapata et al. (1995)にさらに記載されている。抗体は、慣用的な技術を使用して断片化され得る。例えば、F(ab’)2断片は、抗体をペプシンで処理することによって生成され得る。結果として得られたF(ab’)2断片を処理して、ジスルフィド架橋を還元することにより、Fab’断片を生成することができる。パパインによる消化により、Fab断片が形成され得る。Fab、Fab’及びF(ab’)2、scFv、Fv、dsFv、Fd、ドメイン抗体、タンデム抗体、ds-scFv、ダイマー、ミニ抗体、ダイアボディ、二重特異的抗体断片、及び他の断片も、組換え技術によって合成されても、又は、化学合成されてもよい。抗体断片を生成するための技術は、当技術分野において周知であり、記載されている。いくつかの実施態様では、本発明の抗体は、一本鎖抗体である。本明細書において使用する「単一ドメイン抗体」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、天然的には軽鎖を欠失しているラクダ科哺乳動物に見られ得る種類の抗体の単一重鎖可変ドメインを指す。このような単一ドメイン抗体は、「ナノボディ(登録商標)」とも呼ばれる。(単一)ドメイン抗体の一般的な説明については、上記に引用されている先行技術、並びに、欧州特許第0368684号、Ward et al.(Nature 1989 Oct 12; 341 (6242): 544-6)、 Holt et al.、Trends Biotechnol., 2003, 21(11):484-490;及び国際公開公報第06/030220号、国際公開公報第06/003388号も参照されたい。いくつかの実施態様では、該抗体はヒト化抗体である。本明細書において使用する「ヒト化」は、CDR領域外のいくつかの、大半の、又は全てのアミノ酸が、ヒト免疫グロブリン分子に由来する対応するアミノ酸で置換されている、抗体を説明する。ヒト化法としては、米国特許第4,816,567号、第5,225,539号、第5,585,089号、第5,693,761号、第5,693,762号、及び第5,859,205号に記載されている方法が挙げられるがこれらに限定されず、これらは参照によりここに組み入れられる。いくつかの実施態様では、前記抗体は完全ヒト抗体である。完全ヒトモノクローナル抗体はまた、ヒト免疫グロブリンの重鎖及び軽鎖の遺伝子座の大部分について遺伝子組換えされたマウスを免疫化することによって調製され得る。例えば、米国特許第5,591,669号、第5,598,369号、第5,545,806号、第5,545,807号、第6,150,584号、及びその中に引用されている参考文献を参照されたい(これらの内容は参照により本明細書に組み入れられる)。これらの動物は、内因性(例えばマウス)抗体の産生が機能的に欠失するように、遺伝子的に改変されている。動物は、ヒト生殖系列免疫グロブリン遺伝子座の全部又は一部を含有するようにさらに改変され、これにより、これらの動物の免疫化により、関心対象の抗原に対する完全なヒト抗体が産生されるだろう。これらのマウス(例えば、ゼノマウス(アブジェニクス社)、HuMAbマウス(メダレックス社/ジェンファーム社))の免疫化後、モノクローナル抗体を、標準的なハイブリドーマ技術に従って調製することができる。これらのモノクローナル抗体は、ヒト免疫グロブリンアミノ酸配列を有し、それ故、ヒトに投与された場合に、ヒト抗マウス抗体(KAMA)応答を惹起しないだろう。ヒト抗体を作製するためのインビトロでの方法も存在する。これらとしては、ファージディスプレイ技術(米国特許第5,565,332号及び第5,573,905号)及びインビトロでのヒトB細胞の刺激(米国特許第5,229,275号及び第5,567,610号)が挙げられる。これらの特許の内容は、参照により本明細書に組み入れられる。
【0093】
いくつかの実施態様では、前記抗体はサイトカインに対して特異的である。いくつかの実施態様では、該抗体は、サイトカインの1つの受容体に対して特異的である。
【0094】
TGFβ阻害活性を示す抗体は、常識の一部である。例えば、TGFβの1つ以上のアイソフォームに対して指向されるモノクローナル抗体及びポリクローナル抗体は、米国特許第5,571,714号;国際公開公報第97/13844号;及び国際公開公報第00/66631号;国際公開公報第05/097832号;国際公開公報第05/101149号;国際公開公報第06/086469号に記載されている。TGFβ受容体に対して指向される抗体は、Flavell et al., Nat. Rev. Immunol. 2:46-53 (2002;米国特許第5,693,607号;米国特許第6,001,969号;米国特許第6,008,011号;米国特許第6,010,872号;国際公開公報第92/00330号;国際公開公報第93/09228号;国際公開公報第95/10610号;及び国際公開公報第98/48024号にも記載されている。
【0095】
抗IL-6抗体又はそのIL-6結合性断片の非限定的な例としては、シルツキシマブ、オロキズマブ、ALD518(BMS-945429)、C326、シルクマブ、エルシリモマブ、及びクラザキズマブが挙げられる。
【0096】
抗IL-6受容体抗体に関連した特許及び特許刊行物としては、米国特許第5,171,840号(キシモト)、米国特許第5,480,796号(キシモト)、米国特許第5,670,373号(キシモト)、米国特許第5,851,793号(キシモト)、米国特許第5,990,282号(キシモト)、米国特許第6,410,691号(キシモト)、米国特許第6,428,979号(キシモト)、米国特許第5,795,965号(ツチヤら)、米国特許第5,817,790号(ツチヤら)、米国特許第7,479,543号(ツチヤら)、US第2005/0142635号(ツチヤら)、米国特許第5,888,510号(キシモトら)、US第2001/0001663号(キシモトら)、US第2007/0036785号(キシモトら)、米国特許第6,086,874号(ヨシダら)、米国特許第6,261,560号(ツジナカら)、米国特許第6,692,742号(ナカムラら)、米国特許第7,566,453号(ナカムラら)、米国特許第7,771,723号(ナカムラら)、US第2002/0131967号(ナカムラら)、US第2004/0247621号(ナカムラら)、US第2002/0187150号(ミハラら)、US第2005/0238644号(ミハラら)、US第2009/0022719号(ミハラら)、US第2006/0134113号(ミハラ)、米国特許第6,723,319号(イトウら)、米国特許第7,824,674号(イトウら)、US第2004/0071706号(イトウら)、米国特許第6,537,782号(シブヤら)、米国特許第6,962,812号(シブヤら)、国際公開公報第00/10607号(アキヒロら)、US第2003/0190316号(カクタら)、US第2003/0096372号(シブヤら)、米国特許第7,320,792号(イトウら)、US第2008/0124325号(イトウら)、US第2004/0028681号(イトウら)、US第2008/0124325号(イトウら)、US第2006/0292147号(ヨシザキら)、US第2007/0243189号(ヨシザキら)、US第2004/0115197号(ヨシザキら)、US第2007/0148169(ヨシザキら)、米国特許第7,332,289号(タケダら)、米国特許第7,927,815号(タケダら)、米国特許第7,955,598号(ヨシザキら)、US第2004/0138424号(タケダら)、US第2008/0255342号(タケダら)、US第2005/0118163号(ミズシマら)、US第2005/0214278号(カクタら)、US第2008/0306247号(ミズシマら)、US第2009/0131639号(カクタら)、US第2006/0142549号(タケダら)、米国特許第7,521,052号(オクダら)、US第2009/0181029号(オクダら)、US第2006/0251653号(オクダら)、US第2009/0181029号(オクダら)、US第2007/0134242号(ニシモトら)、US第2008/0274106号(ニシモトら)、US第2007/0098714号(ニシモトら)、US第2010/0247523号(カノウら)、US第2006/0165696号(オカノら)、US第2008/0124761号(ゴトウら)、US第2009/0220499号(ヤスナミ)、US第2009/0220500号(コバラ)、US第2009/0263384号(オカダら)、US第2009/0291076号(モリチカら)、US第2009/0269335号(ナカシマら)、US第2010/0034811号(イシダ)、US第2010/0008907号(ニシモトら)、US第2010/0061986号(タカハシら)、US第2010/0129355号(オオグロら)、US第2010/0255007号(ミハラら)、US第2010/0304400号(Stubenrach et al.)、US第2010/0285011号(イマエダら)、US第2011/0150869号(ミツナガら)、国際公開公報第2011/013786号(マエダ)、及びUS第2011/0117087号(Franze et al.)が挙げられる。
【0097】
いくつかの実施態様では、抗IL6R抗体はトリシズマブである。
【0098】
いくつかの実施態様では、IL-6、IL-10、又はTGFβ阻害剤は有機低分子である。
【0099】
いくつかの実施態様では、TGFβ阻害剤として使用され得る有機低分子の例としては、国際公開公報第02/062753号;国際公開公報第02/062776号;国際公開公報第02/062787号;国際公開公報第02/062793号;国際公開公報第02/062794号;国際公開公報第02/066462号;国際公開公報第02/094833号;国際公開公報第03/087304号;国際公開公報第03/097615号;国際公開公報第03/097639号;国際公開公報第04/010929号;国際公開公報第04/021989号;国際公開公報第04/022054号;国際公開公報第04/024159号;国際公開公報第04/026302号;国際公開公報第04/026871号;米国特許第6,184,226号;国際公開公報第04/016606号;国際公開公報第04/047818号;国際公開公報第04/048381号;国際公開公報第04/048382号;国際公開公報第04/048930号;国際公開公報第04/050659号;国際公開公報第04/056352号;国際公開公報第04/072033号;国際公開公報第04/087056号、国際公開公報第05/010049号;国際公開公報第05/0032481号;国際公開公報第05/0065691号;国際公開公報第05/092894号;国際公開公報第06/026305号;国際公開公報第06/026306号;及び国際公開公報第06/052568号に記載のものが挙げられるがこれらに限定されない。いくつかの実施態様では、TGFβ阻害剤は、SB431542(4-[4-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-5-(2-ピリジニル)-1H-イミダゾール-2-イル]ベンズアミド)、SB525334(6-[2―(l,l-ジメチルエチル)-5―(6-メチル-2-ピリジニル)-1H-イミダゾール-4-イル]キノキサリン)、Ki26894(麒麟麦酒株式会社、群馬、日本、(Ehata et al Cancer Sci 98): 127-133)、LY364947(4-[3―(2-ピリジニル)-1H-ピラゾール-4-イル]-キノリン)、SD-208(2―(5-クロロ-2-フルオロフェニル)-4-[(4-ピリジル)アミノ]プテリジン)、SD-093(2―(2-フルオロフェニル)―N-ピリジン-4-イルピリド[2,3-d]ピリミジ-4-アミン)(米国特許第6,476,031号)、SM16(4―(5―(ベンゾ[d][l,3]ジオキソール-5-yl)-4―(6-メチルピリジン-2-イル)-lH-イミダゾール-2-イル)ビシクロ[2.2.2]オクタン-l-カルボキサミド)、Ly2109761(4-[2-[4―(2-ピリジン-2-イル-5,6-ジヒドロ-4H-ピローロ[l,2-b]ピラゾール-3-イル)キノリン-7-イル]オキシエチル]モルホリン)、Ly2157299(2―(6-メチル-ピリジン-2-イル)-3-[6-アミド-キノリン-4-イル]-5,6-ジヒドロ-4H-ピローロ[l,2-b]ピラゾール一水和物)、K02288(3-[6-アミノ-5―(3,4,5-トリメトキシ-フェニル)-ピリジン-3-イル]-プリエノール(plienol)、SB505124(2-[4―(l,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-2―(l,l-ジメチルエチル)-lH-イミダゾール-5-イル]-6-メチル-ピリジン)、LDN-193189(4―(6―(4―(ピペラジン-l-イル)フェニル)ピラゾロ[l,5-a]ピリミジン-3-イル)キノリン塩酸塩)、GW788388(4-[4-[3―(2-ピリジニル)-lH-ピラゾール-4-イル]-2-ピリジニル]―N-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)-ベンズアミド)、Ly580276(3―(4-フルオロフェニル)-2―(6-メチルピリジン-2-イル)-5,6-ジヒドロ-4H-ピローロ[l,2-b]ピラゾール)、EW-7203(3―((5-([l,2,4]トリアゾロ[l,5-a]ピリジン-6-イル)-4―(6-メチルピリジン-2-イル)チアゾール-2-イルアミノ)メチル)ベンゾニトリル)、EW-7195(3-[メチル-[5―(6-メチルピリジン-2-イル)-4-([l,2,4]トリアゾロ[l,5-a]ピリジン-6-yl)H-イミダゾール-2-イル]アミノ]ベンゾニトリル)、EW-7197(N-[[4-([l,2,4]トリアゾロ[l,5-a]ピリジン-6-イル)-5―(6-メチルピリジン-2-イル)-lH-イミダゾール2-イル]メチル]-2-フルオロアニリン)、YR-290(N-フェニルアセチル-l,3,4,9-テトラヒドロ-lH-β-カルボリン)、A83-01(3-(6-メチル-2-ピリジニル)―N-フェニル-4―(4-キノリニル)-lH-ピラゾール-1-カルボチオアミド)、D4476(4-[4―(2,3-ジヒドロ-l,4-ベンゾジオキシン-6-イル)-5―(2-ピリジニル)-lH-イミダゾール-2-イル]ベンズアミド)、RepSox[代替的にはE-616452、SJN2511](2―(3―(6-メチルピリジン-2-イル)-lH-ピラゾール-4-イル)-1,5-ナフチリジン)、R268712(4-[2-フルオロ-5-[3―(6-メチル-2-ピリジニル)-lH-ピラゾール-4-イル)フェニル]-lH-ピラゾール-l-エタノール](又は、その混合物若しくはその組合せ、又は及びその薬学的に許容されるその塩)からなる群から選択されるがこれらに限定されない。
【0100】
いくつかの実施態様では、IL-6阻害剤又はIL-10阻害剤は、JAK阻害剤から選択される。本明細書において使用する「JAK」という用語は当技術分野におけるその一般的な意味を有し、膜受容体からSTAT転写因子へとサイトカイン(例えばIL-6又はIL-10)シグナル伝達を伝達する細胞質チロシンキナーゼである、ヤヌスキナーゼ(JAK)ファミリーを指す。4つのJAKファミリーメンバー、すなわちJAK1、JAK2、JAK3、及びTYK2が記載され、JAKという用語は、まとめて全てのJAKファミリーメンバー、又は内容が示すようなJAKファミリーメンバーの中の1つ以上を指す。本明細書において使用する「JAK阻害剤」という用語は、少なくともJAK2の活性又は発現を阻害する化合物を意味することを意図する。JAK阻害剤は、JAK分子の量又は活性をダウンレギュレートする。JAK2の1つの活性は、STATタンパク質をリン酸化することである。それ故、JAK阻害剤の効果の一例は、1つ以上のSTATタンパク質のリン酸化を減少させることである。該阻害剤は、リン酸化形のJAK2又は非リン酸化形のJAK2を阻害し得る。いくつかの実施態様では、JAK阻害剤は、選択的JAK2阻害剤である。「選択的」によって、該化合物が、少なくとも1つの他のJAK(例えばJAK1、JAK3、及び/又はTYK2)と比較して、それぞれより高い親和性又は強度で、JAK2に結合するか又は阻害することを意味する。選択性は、少なくとも約5倍、少なくとも約10倍、少なくとも20倍、少なくとも約50倍、少なくとも約100倍、少なくとも約200倍、少なくとも約500倍、又は少なくとも約1000倍であり得る。選択性は、当技術分野における日常的な方法によって測定され得る。いくつかの実施態様では、選択性は、各酵素のKmで試験され得る。JAK阻害剤は、当技術分野において周知である。例えば、JAK阻害剤としては、フェニルアミノピリミジン化合物(国際公開公報第2009/029998号)、置換三環式ヘテロアリール化合物(国際公開公報第2008/079965号)、シクロペンチル-プロパンニトリル化合物(国際公開公報第2008/157208号及び国際公開公報第2008/157207号)、インダゾール誘導体化合物(国際公開公報第2008/114812号)、置換アミノ-チオフェンカルボン酸アミド化合物(国際公開公報第2008/156726号)、ナフチリジン誘導体化合物(国際公開公報第2008/112217号)、キノキサリン誘導体化合物(国際公開公報第2008/148867号)、ピロロピリミジン誘導体化合物(国際公開公報第2008/119792号)、プリノン及びイミダゾピリジノン誘導体化合物(国際公開公報第2008/060301号)、2,4-ピリミジンジアミン誘導体化合物(国際公開公報第2008/118823号)、デアザプリン化合物(国際公開公報第2007/117494号)及び三環式ヘテロアリール化合物(国際公開公報第2008/079521号)が挙げられる。JAK阻害剤の例としては、以下の刊行物に開示されている化合物が挙げられる:US第2004/176601号、US第2004/038992号、US第2007/135466号、US第2004/102455号、国際公開公報第2009/054941号、US第2007/134259号、US第2004/265963号、US第2008/194603号、US第2007/207995号、US第2008/260754号、US第2006/063756号、US第2008/261973号、US第2007/142402号、US第2005/159385号、US第2006/293361号、US第2004/205835号、国際公開公報第2008/148867号、US第2008/207613号、US第2008/279867号、US第2004/09799号、US第2002/055514号、US第2003/236244号、US第2004/097504号、US第2004/147507号、US第2004/176271号、US第2006/217379号、US第2008/092199号、US第2007/043063号、US第2008/021013号、US第2004/152625号、国際公開公報第2008/079521号、US第2009/186815号、US第2007/203142号、国際公開公報第2008/144011号、US第2006/270694号及びUS第2001/044442号。JAK阻害剤としてはさらに、以下の刊行物に開示されている化合物が挙げられる:国際公開公報第2003/011285号、国際公開公報第2007/145957号、国際公開公報第2008/156726号、国際公開公報第2009/035575号、国際公開公報第2009/054941号、及び国際公開公報第2009/075830号。JAK阻害剤としてはさらに、以下の特許出願に開示されている化合物が挙げられる:米国特許出願第61/137475号及び第61/134338号。特定のJAK阻害剤としては、AG490、AUB-6-96、AZ960、AZD1480、バリシチニブ(LY3009104、INCB28050)、BMS-911543、CEP-701、CMP6、CP352,664、CP690,550、CYT-387、INCB20、Jak2-IA、レスタウルチニブ(CEP-701)、LS104、LY2784544、NS018、パクリチニブ(SB1518)、ピリドン6、ルキソリチニブ(INCB018424)、SB1518、TG101209、TG101348(SAR302503)、TG101348、トファシチニブ(CP-690,550)、WHI-PI54、WP1066、XL019及びXLOI9が挙げられる。ルキソリチニブ(ジャガフィ(商標)、INCB018424;(3R)-3-シクロペンチル-3-[4―(7H-ピローロ[2,3-d]ピリミジン-4-yl]ピラゾール-1-yl]プロパンニトリル)は、強力で経口で利用可能なJAK-STATシグナル伝達経路のJAK1及びJAK2の両方の選択的阻害剤である。CYT387は、ヤヌスキナーゼJAK1及びJAK2の阻害剤であり、ATP競合物質として作用し、それぞれIC50値は11nM及び18nMである。TG101348(SAR302503)は、ヤヌスキナーゼ2(JAK-2)の経口で利用可能な阻害剤である。TG101348は、プロテインキナーゼJAK-2の競合的阻害剤としてIC50=6nMで作用し;関連するキナーゼのFLT3及びRETも感度が高く、それぞれIC50=25nM及びIC50=17nMである。AZD1480は、抗腫瘍活性を有する可能性のあるヤヌス関連キナーゼ2(JAK2)の経口で生体利用可能な阻害剤である。JAK2阻害剤であるAZD1480は、JAK2の活性化を阻害し、STAT3の活性化をはじめとする、JAK/STAT(シグナル伝達物質及び転写活性化因子)のシグナル伝達は阻害される。レスタウルチニブ(CEP-701)は、スタウロスポリンに構造的に関連したチロシンキナーゼ阻害剤である。パクリチニブ(SB1815)は、JAK2及びJAK2突然変異体であるJAK2V617Fの経口で生体利用可能な阻害剤である。パクリチニブは、ATPとの結合についてJAK2と競合し、これにより、JAK2活性化は阻害され得、JAK-STATシグナル伝達経路は阻害され得、それ故、カスパーゼ依存性アポトーシスが起こり得る。バリシチニブ(LY3009104、INCB28050)は、JAK1及びJAK2の経口で生体利用可能な阻害剤であり、それぞれIC50=5.9nm及びIC50=5.7nmである。バリシチニブは、Tyk2よりも10倍高い選択性、JAK3よりも100倍高い選択性で、JAK1及びJAK2を優先的に阻害する。XL019は、ヤヌス関連キナーゼ2(JAK2)の経口で生体利用可能な阻害剤である。XL019は、JAK2並びに突然変異形のJAK2V617Fの活性化を阻害する。NS018は、強力なJAK2阻害剤であり、Srcファミリーキナーゼも幾分阻害する。NS018は、50%阻害(IC50)は1nM未満で、JAK2に対して非常に活性であることが示され、他のJAKファミリーキナーゼよりもJAK2に対して30~50倍高い選択性を示した。
【0101】
いくつかの実施態様では、IL-6阻害剤としては、米国特許第6,599,875号;第6,172,042号;第6,838,433号;第6,841,533号;及び第5,210,075号のいずれかに記載のペプチドなどの、IL-6のシグナル伝達を遮断するペプチドが挙げられる。また、本発明に記載のIL-6阻害剤としては、IL-6などのサイトカインの産生におけるp38MAPキナーゼの役割を考慮すると、US第20070010529号に報告されているような、p38MAPキナーゼ阻害剤が挙げられ得る。さらに、本発明に記載のIL-6阻害剤としては、US第20050090453号に報告されている糖アルカロイド化合物、並びに、その中に報告されているスクリーニングアッセイを使用して単離可能な他のIL-6アンタゴニスト化合物が挙げられる。
【0102】
いくつかの実施態様では、前記阻害剤は、IL6、IL10、又はTGFβの発現阻害剤である。「発現阻害剤」は、遺伝子の発現を阻害するような生物学的効果を有する、天然化合物又は合成化合物を指す。本発明の好ましい実施態様では、前記の遺伝子発現阻害剤は、低分子干渉RNA(siRNA)、アンチセンスオリゴヌクレオチド、又はリボザイムである。例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド(アンチセンスRNA分子及びアンチセンスDNA分子を含む)は、サイトカインmRNAに結合し、よって、タンパク質の翻訳を妨げるか、又はmRNAの分解を増加させ、よって細胞内のサイトカインのレベルを減少させ、よって活性を減少させることによって、サイトカインmRNAの翻訳を直接遮断するように作用するだろう。例えば、少なくとも約15塩基であり、サイトカインをコードしているmRNA転写物配列の特有の領域に対して相補的である、アンチセンスオリゴヌクレオチドを、例えば、慣用的なホスホジエステル技術によって合成することができる。その配列が既知である遺伝子の遺伝子発現を特異的に阻害するためのアンチセンス技術を使用するための方法は、当技術分野において周知である(例えば、米国特許第6,566,135号;第6,566,131号;第6,365,354号;第6,410,323号;第6,107,091号;第6,046,321号;及び第5,981,732号参照)。低分子阻害RNA(siRNA)はまた、本発明に使用するための発現阻害剤としても機能し得る。サイトカインの遺伝子発現は、患者又は細胞を、低分子二本鎖RNA(dsRNA)、又は低分子二本鎖RNAの産生を引き起こすベクター若しくは構築物と接触させ、これによりサイトカインの遺伝子発現は特異的に阻害される(すなわちRNA干渉すなわちRNAi)ことによって、低減させることができる。本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、shRNA、及びリボザイムは、インビボで単独で送達されても、又はベクターと併用して送達されてもよい。その最も広義な意味において、「ベクター」は、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、shRNA、又はリボザイム核酸の、細胞への、典型的にはサイトカインを発現している細胞への導入を促進することのできる、任意のビヒクルである。典型的には、該ベクターは、ベクターの非存在下において生じるであろう分解の程度と比較して、低減した分解度で、核酸を細胞に輸送する。一般的には、本発明において有用なベクターとしては、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、shRNA、又はリボザイム核酸配列の挿入若しくは組込みによって操作された、プラスミド、ファージミド、ウイルス、ウイルス源又は細菌源に由来する他のビヒクルが挙げられるがこれらに限定されない。ウイルスベクターが、好ましい種類のベクターであり、これは以下のウイルス:レトロウイルス、例えばモロニーマウス白血病ウイルス、ハーベイマウス肉腫ウイルス、マウス乳腺腫瘍ウイルス、及びラウス肉腫ウイルス;アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス;SV40型ウイルス;ポリオーマウイルス;エプシュタインバーウイルス;パピローマウイルス;ヘルペスウイルス;ワクシニアウイルス;ポリオウイルス;及びRNAウイルス、例えばレトロウイルスに由来する核酸配列を含むがこれらに限定されない。命名されていないが当技術分野において公知である他のベクターも容易に使用することができる。いくつかの実施態様では、発現阻害剤はエンドヌクレアーゼである。「エンドヌクレアーゼ」という用語は、ポリヌクレオチド鎖内のホスホジエステル結合を切断する酵素を指す。いくつかの、例えばデオキシリボヌクレアーゼIは、DNAを比較的非特異的に(配列に関係なく)切断し、一方、多くの、典型的には制限エンドヌクレアーゼ又は制限酵素と呼ばれるものは、非常に特定のヌクレオチド配列でしか切断しない。エンドヌクレアーゼに基づいたゲノム不活化の背後にある機序は一般的に、DNAの一本鎖又は二本鎖の切断という第一工程を必要とし、これはその後、DNA修復のための2つの明確に異なる細胞性機序(エラーを起こしがちな非相同末端結合(NHEJ)及び高忠実度の相同組換え修復(HDR))をトリガーし得、これがDNAの不活化に活用され得る。特定の実施態様では、該エンドヌクレアーゼはCRISPR-casである。本明細書において使用する「CRISPR-cas」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、短い反復塩基配列を含有している原核生物DNAのセグメントである、関連しているクラスター化して規則的な配置の短い回文反復配列を指す。いくつかの実施態様では、該エンドヌクレアーゼは、化膿性連鎖球菌(ストレプトコッカス・ピオゲネス)に由来する、CRISPR-cas9である。CRISPR/cas9系は、US第8697359B1号及びUS第2014/0068797号に記載されている。いくつかの実施態様では、該エンドヌクレアーゼは、CRISPR-Cpf1であり、これは、Zetsche et al.(“Cpf1 is a Single RNA-guided Endonuclease of a Class 2 CRISPR-Cas System (2015); Cell; 163, 1-13)においてつい最近特徴付けられたプレボテラ及びフランシセラに由来するCRISPR1(Cpf1)である。
【0103】
いくつかの実施態様では、前記阻害剤は、IL-6可溶性受容体、IL-10可溶性受容体、TGFβ可溶性受容体からなる群より選択される。
【0104】
いくつかの実施態様では、前記化学的予防剤は、免疫チェックポイント阻害剤、又は抑制性サイトカイン若しくは抑制性タンパク質に対するワクチンなどの、免疫調節性抗原である。好ましい免疫チェックポイント阻害剤は、これらの免疫チェックポイント阻害剤、又は抑制性サイトカイン若しくは抑制性タンパク質に対する特異性を有する、T細胞及びB細胞を誘導又は増殖する、獲得免疫応答(T細胞応答及びB細胞応答)を特異的に生じる、これらの分子に対するワクチンである。免疫チェックポイント阻害剤に対するワクチンの例としては、PD-1、PD-L1、PD-L2 CTLA-4、VISTA、TIM-3、LAG-3、GITR、IDO、KIR2D、A2AR、B7-H3、B7-H4、及びBTLAのタンパク質又はペプチドが挙げられる。いくつかの実施態様では、該阻害剤は、IL6、IL10、及びTGFβなどの抑制性サイトカイン又は抑制性分子に対するワクチンである。
【0105】
いくつかの実施態様では、前記化学的予防剤は、前悪性病変に局所的に、又は全身的アプローチによって被験者に投与される。可能である場合、該薬剤は、局所経路を介して投与される。典型的には、被験者が皮膚の前悪性病変を患っている場合、該化学的予防剤は、被験者に局所投与される。全身経路は、自己免疫反応を含む副作用のリスクがより高いが、局所経路では近づけない部位の多くの症例において、又は癌化領域の症例に必要とされる。
【0106】
本発明はさらに、以下の図面及び実施例によって説明されるだろう。しかしながら、これらの実施例及び図面は、いずれにしても、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0107】
図1】CD58及びセルピンメンバーをコードしている遺伝子は、低グレード異形成において二相性の増加を示した。
図2】CD4T細胞についての免疫状態の連続的推移。1段階あたりの有意差を、0.1未満の偽陽性率では黒色のアステリスクを用いて、又はそれ以外では灰色で強調した(マンホイットニー検定、***p<0.001、**0.001≧p<0.01、0.01≧p<0.05、0.05≧p<0.1、BH補正)。
図3】初期扁平上皮肺癌発生における腫瘍浸潤前の免疫回避。A)共阻害性分子及び免疫抑制性インターロイキンの平均的発現は、高グレードにおいては増加し、腫瘍試料においてはさらに増幅している(ノンパラメトリックな順位に基づいた検定、ダンのペアワイズ多重比較検定、***p<0.001、**0.001≧p<0.01、0.01≧p<0.05、0.05≧p<0.1)。B)それらの対応する正常組織の発現と比較して、高グレードの癌及び扁平上皮癌においてプラスの倍率変化が、共刺激性インターロイキン(例えばCD137)、共抑制性インターロイキン(例えばTIGIT、PDL1)、及び抑制性インターロイキン(IL6、IL10)において観察された。p値及び係数の推定値は、4つの分子段階の線形混合効果モデルから導き出され、固定効果としての喫煙歴及び以前の癌状態について、及び変量効果としての患者について補正された。
【0108】
実施例
方法:
1)試験集団
2003年から2007年まで、年間30パック以上喫煙に曝されている現在の喫煙者又は元喫煙者の蛍光気管支鏡検査中の気管支生検材料をジュール・ボルデ(Jules Bordet)研究所(ベルギー、ブリュッセル)で収集した。元喫煙者は、6カ月以上喫煙を止めていた個体として定義された。試験は、ジュール・ボルデ研究所の倫理委員会によって承認され、患者は、インフォームドコンセントに同意した。高グレード病変は稀であるという事実に基づいて、及びDobbinらの報告31に基づいて、本発明者らは、各組織学的段階から少なくとも12個の生検材料を含めた。組織病理学的分類は、1人の病理学者(AH)によって、独立して盲検的に3回実施された。逐次評価間でのあらゆる不一致診断は、マルチヘッド顕微鏡を使用して地元の病理学者チームによって再評価され、意見の一致が得られた。生検材料は、気管支の浸潤前の及び浸潤した扁平上皮病変の2004年の世界保健機構/国際肺癌学会による組織分類を使用して分類された32。さらに、16人の全く喫煙したことのない人からの正常な気管支生検材料を、参照RNAとして使用するために収集し、プールした(各々、同じ量のRNA)。
【0109】
77人の個体(35人の元喫煙者及び42人の現在の喫煙者)に由来する計122個の生検材料を試験した。年齢の中央値は62才であった(42~78才の範囲)。男/女比は62人/15人であった。122個の生検材料を、以下のように組織学的状態及び蛍光状態に従って分配した:正常な組織及び正常な蛍光を有する13個の生検材料(元喫煙者/現喫煙者に由来する8個/5個の生検材料)、正常な組織及び低蛍光を有する14個の生検材料、15個の過形成(7個/8個)、15個の異形成(5個/10個)、13個の軽度異形成(8個/5個)、13個の中等度の異形成(7個/6個)、12個の重度の異形成(2個/10個)、13個の上皮内癌(CIS)(5個/8個)、及び14個の扁平上皮癌(5個/9個)。扁平上皮癌ではなかった108個の生検材料の中で、6個の生検材料が、肺癌を併発している4人の患者において採取された。122個の試料の中で、対応するホルマリン固定パラフィン包埋ブロックは、その中の110個に見られた。
【0110】
2)試料の収集及びRNAの抽出
気管支鏡検査中に、2つの生検材料を、同じ領域において清潔な鉗子を用いて採取した:一方は、通常の組織病理学的検査用に、第二のものは、分子の研究のために、氷上のトリピュア単離試薬中に直ちに落とし、ホモジナイズし、-80℃で凍結させた(ロシュダイアグノスティックス社、インディアナポリス、IN州、米国)。RNA抽出プロトコールは、以前に記載されている27。単離されたRNAは、ナノドロップND-1000分光光度計(ナノドロップテクノロジーズ社、ロックランド、デラウェア州、米国)で量及び純度について、並びにRNA6000ナノアッセイと共にアジレント社2100バイオアナライザ(アジレントテクノロジーズ社、パロアルト、CA州、米国)で品質について評価された。RNAは、122個の新鮮な凍結生検材料から成功裡に抽出された。生検材料から抽出された全RNAの収量の中央値は1275ngであった(244~11000ngの範囲)。
【0111】
3)遺伝子発現プロファイルの取得及び分析
増幅及び標識後、cRNAを、提供業者(アジレントテクノロジーズ社)の推奨に従って、2色のWhole Human Genome 4x44Kアレイにハイブリダイズさせた(詳細は文書S1に)。さらなる正規化工程を、Genespring GX、バージョン7.3.1ソフトウェア(アジレントテクノロジーズ社)を用いて実施した:1)場所ごとに(制御チャネルによって分ける)、2)チップごとに(チップ間の発現値中央値に対して正規化)、及び3)遺伝子ごとに(患者間の発現中央値に対して正規化)。
【0112】
数工程のデータ品質管理を行なった。無作為な主成分分析は、試料間に外れ値がなかったことを示した。コホートの遺伝子発現測定値はガウス分布に従った。
【0113】
4)線形の遺伝子発現変化及び分子表現型の同定
発生段階に関連した単調な遺伝子発現の変化が、線形混合効果モデルを使用して同定された。各遺伝子は、発生段階(可変因子)の関数として、固定効果として喫煙状態、性別、及び癌の病歴について調整しながらモデル化された。患者レベルの観察は独立していないので、本発明者らは、患者というパラメーターを変量効果と判断した。分散分析の試験は、ヌルモデルに対する遺伝子及び発生段階の関連を比較した。偽陽性率(FDR)が、ベンジャミン及びホッホベルク34、35の方法を使用して、各々の分散分析33のp値について計算された。発生段階に有意に関連していた遺伝子は、偽陽性率<0.001で分散分析によって決定された。その後、これらの遺伝子の半教師付き階層的クラスタリングを使用して、9個の異なる発生段階を比較した。
【0114】
5)遺伝子モジュールの定義及び機能の特徴付け
発生中の遺伝子発現の軌跡を同定するために、本発明者らは、重み付き遺伝子共発現ネットワーク解析(WGCNA)36を、発生段階に有意に関連している遺伝子に適用した。重み付き遺伝子共発現ネットワーク解析のネットワーク構築及びモジュール検出は、符号付きネットワークタイプ、ソフト閾値パワー12、及びマージモジュールについての樹状図の切断の高さ0.3を使用して行なわれた。50個の遺伝子という最小クラスターサイズを使用してモジュールを規定した。0というp値の比の閾値が、モジュール間の遺伝子の再割り当てに考えられた。クラスターのアイゲン遺伝子(eigengene)(クラスターの第一主成分)の数値を使用して、9つの段階の癌と各モジュールの関連を評価した。それにより、本発明者らは、9つの発生段階の間で類似した発現パターンを有する、高度に相関した遺伝子の遺伝子クラスター(モジュール)を決定した。
【0115】
遺伝子モジュールを機能的に説明するために、本発明者らは、mSigDBデータベース37から癌の特徴の定義を使用し、Rパッケージクラスタープロファイラー38を使用して、過剰出現についての超幾何学的試験を適用した。さらに、本発明者らはまた、単一試料遺伝子セット濃縮分析(ssGSEA)39を、全遺伝子発現アッセイに使用して、癌の特徴の遺伝子セットが、試料内のアップレギュレートされた遺伝子又はダウンレギュレートされた遺伝子間で濃縮されていたかどうかを決定した(遺伝子モジュールに関係なく)。プローブを、ユニークなEntrez IDにマッピングした。遺伝子は、試料ごとにそれらのzスコア変換された発現値によって順位付けされた。所与の遺伝子セットを有する最小で5つの遺伝子の重複が必要とされた。濃縮スコアは、所与の癌の特徴の遺伝子セットに由来する遺伝子が、試料内でアップレギュレートされた又はダウンレギュレートされた程度を示す。
【0116】
6)免疫細胞型のサイン
多数の異なる免疫細胞サブタイプを探索するために、さらには、それらの活性化状態を調べるために、本発明者らは、冷凍ロバストマルチアレイ平均化(fRMA)法を用いて正規化された、ほぼ2000個の公共的に利用可能な実験から、多くの注意深くアノテーション付けされたマイクロアレイ遺伝子発現プロファイルを編集した。本発明者らの以前の方法で構築して3、40、41、本発明者らは、それらの天然状態、休止状態、及び活性化状態を考慮して、免疫細胞型についての特定の発現を有する遺伝子を同定した(論文準備中)。汎細胞型のサインは、複数の細胞型において類似したレベルで発現されている遺伝子として定義された。例えば、骨髄由来カテゴリーは、樹状細胞、好酸球、単球、マクロファージ、好中球、及び肥満細胞の全てのサブタイプを含み、一方、マクロファージ-樹状細胞は、マクロファージ及び樹状細胞の両方の全ての研究されたサブタイプにおいて発現されている共通した遺伝子を含んでいる遺伝子サインであった。
【0117】
7)遺伝子発現プロファイルからの免疫の特徴付け
規定の免疫サインを使用して、扁平上皮癌の様々な組織学的発生段階における遺伝子発現データから多種多様な免疫細胞型を探索した。まず、本発明者らは、免疫サインと遺伝子モジュールとの間の超幾何分布検定を行ない、特定の免疫細胞型の起こり得る進行の軌跡を指摘した。
【0118】
本発明者らは次に、CIBERSORT42に実装された絶対定量化のためのアルゴリズムを適用し、所定のLM22サインに従って、混合した遺伝子発現シグナルから免疫細胞型の発現を解析した。
【0119】
最後に、本発明者らは、社内で規定された免疫遺伝子サインを使用して、単一試料の遺伝子セット濃縮分析(ssGSEA)を行なった。それにより、各免疫細胞型について、本発明者らは、関連した遺伝子のアップレギュレーション又はダウンレギュレーションの程度を示す、試料ごとの濃縮スコアを得た。プローブIDを、特有のEntrezIDにマッピングした。最小で5個の遺伝子の重複が必要とされた。
【0120】
8)多重免疫組織化学的検査及びマルチスペクトル画像分析
122個の新鮮な凍結試料の適合したホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)ブロックは、110個の試料について利用可能であった。2~4μm厚のスライドを、FFPEブロックから切り出し、クラレン(clarene)中で脱パラフィン化し、エタノール勾配を通して再水和し、NBF(10%中性緩衝化ホルマリン)で固定した。その後、スライドを、同じスライド上で6個のマーカーの同時可視化を可能とする、パーキンエルマー社のOpal7-plex技術に従って染色した。それ故、各6サイクルの染色において、抗原賦活を、マイクロウェーブ処理(MWT)を介して、標的に応じて抗原賦活溶液pH6又はpH9(AR6又はAR9)中で行ない、タンパク質の遮断は、無血清タンパク質遮断液(ダコ社)を使用して15分間かけて行ない、その後、一次抗体を、室温で30分間インキュベートした。次に、セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)で標識されたポリマーマウス又はウサギ(ダコエンビジョン+システム-HRP標識ポリマー)とのインキュベーションを室温で15分間行ない、その後、TSA opalフルオロフォア(Opal520、Opal540、Opal570、Opal620、Opal650、又はOpal690)との10分間のインキュベーションを行なった。マイクロウェーブ処理を、各染色サイクルにおいて行なうことにより、抗体TSA複合体をAR溶液(pH9又は6)を用いて除去した。最後に、全てのスライドを、DAPIを用いて5分間かけて対比染色し、ProLong Diamond Antifade Mountant(サーモフィッシャー社)に封入した。スライドを、パーキンエルマーVectra3システムを使用して走査し、得られたマルチスペクトル画像を、inForm Advanced画像分析ソフトウェア(inForm2.3.0パーキンエルマー社)を使用して、各フルオロフォアについて染色された画像から事前に構築されたスペクトルライブラリーを使用して分離した(モノプレックス)。異なる試料に属する選択されたそれぞれのマルチスペクトル画像を使用して、組織セグメント化、細胞セグメント化、及び表現型判定のためのinFormソフトウェアを訓練し、最後に、訓練画像に適用された設定は、全組織スライドのバッチ分析を可能とするアルゴリズム内に保存された。本発明者らは、表現型パネル及び機能パネルとして定義される、2つの異なる7プレックスパネルを設計し、これを、2つの連続したスライド上に使用し、(不)活性化細胞、(不)活性化免疫経路、及び免疫反応の種類を含む、肺の前癌病変の免疫微小環境を特徴付けた。表現型パネルは、CD3、CD8、FoxP3、CD68、CD68、好中球エラスターゼ(NE)、DAPI、及びサイトケラチン(CK)を含み、機能パネルは、CD3、PD-L1、PD1、Ki67、CD137、DAPI、及びCKを含んでいた。
【0121】
9)空間的統計
本発明者らは、微小環境構造の高解像度の特徴付けを可能とする、マルチスペクトルイメージングデータの一次及び二次空間分析を行なった。まず、本発明者らは、エッジ効果を生じ、情報の損失をもたらす、各画像の別々の分析ではなく、全スライドを再構築した。本発明者らは、組織表面積単位(mm)あたりの陽性細胞数として免疫細胞密度を計算した。inFormソフトウェアを用いて実施された組織カテゴリー化に基づいて、間質及び上皮の区画が画像上でアノテーション付けされ、間質及び上皮の組織のカテゴリーについての密度及び空間分布を個々に計算することが可能となった。様々な免疫細胞型の空間の場所を比較するために、本発明者らは、エッジ補正を実行しながら、最も近くに隣接するものに対する距離及びそれらの分布を計算したG(r)。関数G(r)は、典型的なランダムな細胞Xからその最も近い細胞Yまでの距離の累積分布であり、ここでの引数rは、G(r)が評価される面積の半径である。経験的及び理論的G(r)関数からの偏差は、クラスター化し分散したパターンを示す。
【0122】
7)統計
R統計ソフトウェア(バージョン3.3.3)を統計分析及びグラフ可視化のために使用した。ヌル仮説は、特記されない限り、0.05より低いp値で拒絶された。正常な組織の遺伝子発現に対して腫瘍組織の遺伝子発現を比較する場合、線形混合効果モデルを使用して、喫煙歴、以前の癌、患者間のばらつき、性別、及び年齢という交絡因子について調整した。ベンジャミーニ・ホッホベルク法34、35を、多重検定の補正に適用した。事後多重検定の修正を、ダン検定を使用したペアワイズ比較に適用した。
【0123】
結果:
標的化療法及び免疫療法における発展にも関わらず、進行肺癌は依然として不治である。米国における肺癌による死亡は、早期診断及び処置によって年間70,000以上減少させることができると推定される。近年、NelsonボリュームCTスクリーニング試験は、男性では26%、女性では39~61%の肺癌死亡率の減少を示した。その早期検出以降及びそれより前に、癌の予防は、癌の量を有意に減少させ得る。癌予防のための免疫療法を含む、精密医療に進めるために、肺癌発生の基礎にある機序を理解して、早期病変における微小環境の役割を解明することが重要である。喫煙者では、一連の連続的な発生段階が、浸潤性肺扁平上皮細胞癌(SCC)に先行し、これによりこの癌は、癌がどのように発生するかを機構的に研究するための簡便なモデルとなる。しかしながら、前浸潤病変の収集物の希少性が、それらの分子プロファイル及び免疫プロファイルの限定された知識の説明となる。遺伝子発現プロファイリング及びマルチスペクトルイメージングを使用して、本発明者らは、連続的な肺扁平上皮癌発生段階中の腫瘍及びその微小環境における変化を同定することを探索した。
【0124】
本発明者らは、77人の患者に由来する122個の注意深くアノテーション付けされた生検材料からなる、9つの形態学的な肺扁平上皮癌発生段階の希少なデータセットを調べた(データは示されていない)。遺伝子発現プロファイリングを使用して、本発明者らはまず、9つの組織学的発生段階に関連した7739個の遺伝子を同定した(線形混合効果モデル、偽陽性率<0.001)。4つの別個かつ連続的な分子進行段階が、選択された遺伝子の半教師付き階層学的クラスタリングによって判明した(データは示されていない)。第一段階は、正常な非蛍光生検材料及び蛍光生検材料、並びに、過形成(正常な気管支組織)を含み;第二は、異形成、軽度異形成、及び中等度の異形成(低グレード)を含み;第三は、重度の異形成及び上皮内癌(CIS)の両方を合併し(高グレード)、第四は、前悪性病変から浸潤病変(SCC)が分離された(データは示されていない)。
【0125】
発癌は、異常細胞による、有益な生物学的能力、すなわち癌の特徴を獲得するプロセスとして記載される。本発明者らはまず、特定の発現パターンを有する遺伝子モジュールを単離し、その後、癌の特徴との有意な関連について探索した(超幾何学的試験、データは示されていない)。7つの遺伝子発現の進行の軌跡が、重み付き遺伝子共発現ネットワーク解析(WGCNA、データは示されていない)から導かれた7つの遺伝子モジュールによって確認された。2つの最大のモジュールが、正常な組織から癌への直線状の進行を示し、増殖に関連したものは上昇し(n=1848)、DNA修復(すなわち紫外線応答)においてダウンレギュレートされている遺伝子に関連したものは減少し(n=939)、このことは、DNA損傷応答の持続的活性化を示唆する。150個の遺伝子のモジュールが、高グレードの病変から始まる、後期の発現増加を示した(高グレードで上昇している)。興味深いことに、このモジュールは、免疫応答に関与する遺伝子が高度に濃縮されていた。1セットの遺伝子は、癌の発生まで改変されないままであった(扁平上皮癌において上昇している、n=51)。扁平上皮癌に特異的な発現のこの増加は、上皮間葉転移(EMT)に関与する遺伝子によって過剰提示された。上皮間葉転移プロセスを促進することが知られているCXCL12-CXCR4系は、扁平上皮癌においてCXCL12の非常に低い発現、及びCXCR4の発現の有意な増加を明らかとした(データは示されていない)。2つのさらなるモジュールは、二相性の遺伝子発現の進行を示し、どちらも低グレードにおいて発現のピークに達した(二相性1、n=164、及び二相性2、n=64)(図1)。ここで、本発明者らは、代謝の調節が、二相性の軌跡を有していたことを発見した。特に、脂肪酸の代謝、酸化的リン酸化、及びクエン酸サイクルに関与している遺伝子は、低グレードにおいて一過性の発現増加を示した(二相性1)。
【0126】
免疫応答の進行の軌跡を分析するために、本発明者らはまず、特定の免疫細胞型、間質細胞型、及び癌細胞型を示す遺伝子を編集し、それらを各遺伝子モジュールに一致させた。本発明者らは、高グレードで上昇しているモジュールにおいては最も高い比率の免疫関連遺伝子を確認し、それと共に、直線状に減少しているモジュールにおいてはかなり過小提示されていることを確認した(どちらもp<0.001、フィッシャーの直接確率検定、データは示されていない)。癌生殖細胞抗原は、好中球活性化に関与している遺伝子の過剰提示の傾向と共に(偽陽性率<0.1、データは示されていない)、予想よりも有意に多い数で上昇しているモジュールにおいて認められた(偽陽性率<0.05)。両方の観察は、最初期の形質転換段階における免疫感作を示唆する。顕著には、活性化T細胞を示す増加した遺伝子発現が、全好中球、M1マクロファージ、及び全体的な骨髄サインと同じパターンで、腫瘍浸潤前の高グレード病変に検出された。
【0127】
その後、本発明者らは、複雑な組織の細胞組成を遺伝子発現から解析するための方法を使用して、様々な免疫細胞型の絶対量を推定した(データは示されていない)。本発明者らは、高グレード異形成における、骨髄球由来細胞である好中球及びマクロファージのサブタイプの増加を確認した(データは示されていない)。さらに、本発明者らは、免疫細胞量の相関に基づいて、自然免疫及び獲得免疫の両方に由来する免疫細胞の共調節を観察した(データは示されていない)。活性化T細胞(CD4記憶細胞)、マクロファージ(M0)、記憶B細胞、濾胞ヘルパーT細胞、及び樹状細胞は、同じ量のパターンを追随した。興味深いことに、同じ患者内の病変は、異なる発生段階において異なる免疫組成を有していた(データは示されていない)。本発明者らはまた、休止状態又はナイーブ状態から活性化状態又は記憶状態へと、免疫状態の有意なシフトを検出した(データは示されていない)。休止肥満細胞は、後期発生段階と比較して、初期発生段階の方がより豊富であったが、活性化肥満細胞は、逆のパターンを追随した(データは示されていない)。ナイーブB細胞量の減少は、記憶B細胞の増加を伴った。ナイーブCD4細胞の流入はすでに軽度異形成の段階で観察され(段階4)、続いて、ナイーブCD4細胞の量の突然の減少、及び続く段階における活性化CD4記憶T細胞の同時増加が起こった(図2)。
【0128】
形質転換の各分子段階における免疫移行をさらに解明するために、本発明者らは、正常な組織と比較して形質転換された組織における、差次的に調節される遺伝子の機能的分析を行なった。交絡因子として喫煙歴、以前の癌の状態、及び患者内のばらつきを考慮して、本発明者らは、低グレード、高グレード、及び扁平上皮癌において差次的に調節されている遺伝子間で濃縮されている遺伝子オントロジー(GO)免疫プロセスを同定した(線形混合効果モデル、偽陽性率<0.05、データは示されていない)。いくつかの免疫機能が、低グレードにおいて、アップレギュレートされた遺伝子(n=5)の間だけでなく、ダウンレギュレートされた遺伝子(n=13、例えばTGFβに対する応答)の間でも特に調節されていた。低グレードとは異なり、高グレード(n=148)及び扁平上皮癌(n=240)においては、多くの免疫機能が、アップレギュレートされた遺伝子の間のみに濃縮されていた。顕著には、免疫系の負の調節は、抗原処理及びペプチド抗原の提示に加えて、全ての発生段階において関与していた(データは示されていない)。それにも関わらず、低グレードでは、負の調節に関連した遺伝子は、有意にダウンレギュレートされ、一方、高グレード及び扁平上皮癌では、それらはアップレギュレートされていた。それ故、早期免疫反応の1つは、HVEM(TNFRSF14)、CD200、CD59、TGFβ3、及びHLA-Gなどの免疫系を負に調節する遺伝子のダウンレギュレーションによって免疫の制御を解く。逆に、高グレード及び扁平上皮癌では、免疫抑制に関与する遺伝子がアップレギュレートされていた。
【0129】
免疫調節遺伝子発現のより詳しい調査は、共阻害性分子及び抑制性インターロイキンの平均的発現が、重度の異形成(段階6)及び続く段階において有意により高かったことを明らかとした(図3A)。特に、PDL1、PD1、IDO1、CTLA4、及びTIGITの発現は、重度異形成(段階6)への移行点において増加を記録した。類似の進行パターンが、IL6、IL10、及びTGFβをはじめとする抑制性インターロイキンにおいて観察され、中程度異形成(段階5)からの移行時に発現が上昇していた。全体的に、多くの免疫調節分子が、正常な組織と比較して、高グレード異形成において正の倍率変化を示した(図3B)。抑制性分子(IDO1、PDL1、TIGIT,CTLA4、ICOS、IL10及びIL6)だけでなく、刺激性分子(CD137、GITR、ICOS、CD80、CD86、CD70、CD137L、TNFRSF25)も、高グレードにおいて増加した発現を示し(線形混合効果モデル、ベンジャミン及びホッホベルク(BH))及び浸潤段階においてより程度の高い増加した発現を示した。要するに、共阻害剤及び抑制性インターロイキンが高グレード段階以降に有意に増加するにつれて、腫瘍浸潤前に免疫回避が起こった。
【0130】
微小環境構築の高解像度の特徴付けのために、本発明者らは、同じ気管支上皮病変に由来するホルマリン固定及びパラフィン包埋ブロックにおいて、2つの7プレックス染色パネル、すなわち免疫細胞の性質を決定するための表現型パネル、及び、CD3、サイトケラチン(CK)及びDAPIの他に、PD1、PD-L1、Ki67、及びCD137を含む機能パネル(それぞれn=110及び106、データは示されていない)を使用した。まず、本発明者らは、間質組織及び上皮組織のカテゴリーについて個々に、組織表面積単位(mm)あたりの陽性細胞数としての免疫細胞密度を計算した(データは示されていない)。全体的に、本発明者らは、免疫細胞密度の比較的大きな変動を発見した。しかしながら、本発明らは、間質区画において4つの発生段階の間に有意差を観察し、同じことが、上皮区画においても同じ傾向を維持した(データは示されていない)。CD4T細胞(すなわちCD3陽性CD8陰性)及びCD8陽性リンパ球は両方共に、高グレードの前浸潤病変において一過性の増加を示した(p<0.01)。免疫遺伝子発現の進行と一致して、骨髄球、好中球、及びマクロファージの密度は、高グレードの間質(p<0.05、偽陽性率<0.1)及び上皮(p<0.1、BHによる補正前)において増加した。遺伝子発現と一致して、PD-L1(PD-L1陽性CK陰性)密度は、CD137と同じように(これは統計学的有意に達しなかった)、高グレードの病変及びさらには扁平上皮癌(p<0.05))において有意に増加した(データは示されていない)。CD137、PD-L1及びCD3陽性FoxP3陽性表現型を有する細胞は、上皮の早期発生段階(すなわち段階0~5、正常及び低グレード)では殆ど見られなかった。
【0131】
本発明者らは次に、二次空間統計を実施し、細胞表現型の各対間の距離を測定した。本発明者らは、最も近い隣接細胞との距離G(r)の交差型累積分布を計算した(データは示されていない)。本発明者らは、2つの細胞が25μm以内の距離にあった場合に起こり得る相互作用を予想した。観察された経験的関数GX,Y(r)を、ランダムな試料の分布を示す理論的曲線G理論 X、Y(r)と比較することにより、本発明者らは、一貫して両方のパネルにおいて、上皮細胞(CK)とCD3との間の分離を検出した(p<0.001、偽陽性率<0.1、データは示されていない)。特に、本発明者らは、高グレードにおいてCD3細胞の近くに、予想されるよりも少数の上皮細胞を観察した(データは示されていない)。このパターンは、機能パネルにおける全てのCK陽性細胞、すなわち全上皮細胞(全てのCK陽性細胞)、CK陽性PD-L1陽性細胞、及びCK陽性Ki67陽性細胞において観察された(p<0.01、偽陽性率<0.1、データは示されていない)。それ故、高グレードでは、本発明者らは、CD3細胞からの上皮細胞の分離によって明らかになる、前の発生段階と比較した、腫瘍微小環境の再構成を識別した。
【0132】
この報告は、免疫活性化及び免疫抑制の両方が、浸潤前の段階で起こることを示し、このことは、処置の最初期段階における免疫療法の使用を補強し、化学的予防アプローチにおけるその可能性のある役割の基礎をなす。免疫浸潤物の予後における影響が、ステージI15の肺癌14をはじめとする、初期ステージ13の様々な癌の種類10~12において実証されている。腫瘍内在因子は、外因性発癌物質16又は免疫微小環境の調節不全17と比較して、発現のリスクの中等度の原因となる。本発明者らは以前に、腫瘍微小環境が、播種から遠隔転移への18、及び転移腫瘍の発生の重要な決定因子であり、腫瘍微小環境では、腫瘍の進行を、免疫を回避しているクローンにまでさかのぼることができることを示した17。これらの知見はまた、前悪性形質転換及び細胞癌の惹起にも適用することができた。さらに、チェックポイント免疫療法の主な臨床利点が、癌処置の様々な状況で得られた。非小細胞肺癌(NSCLC)では、チェックポイント阻害剤は現在、進行した疾患のための、第一選択19、20及び第二選択の処置選択肢21、22、23として、及び局所的に進行した段階の治癒的な化学放射線療法後の維持としての24、標準治療である。しかしながら、現在までに、肺癌患者を治癒する最善の機会は、初期の介入である。黒色腫25における補助療法の状況における、及び肺癌26のための新補助術前療法の状況における、免疫チェックポイント遮断療法のプラスの結果は、処置戦略の初期段階において免疫療法を使用することの重要性を強化する。
【0133】
本発明者らの研究は、4段階の肺扁平細胞癌発生に関与する分子経路を説明し(データは示されていない)、これによると、最初期の分子変化は、増殖及び代謝に影響を及ぼした。ナイーブT細胞の一過性の流入が、低グレードにおいて観察され、これは、同じ前腫瘍病変のサブセットにおけるmiRNAの発現について以前に記載されたパターンである27。要するに、免疫移行は以下のように展開する1)免疫感作及び免疫制御の解除は、形質転換の最初期の段階において誘導される;2)持続的な細胞増殖は、体細胞の突然変異の蓄積を育成し、抗腫瘍免疫応答を惹起し、それに応じて、3)すでに高グレードの前癌における生来の免疫抑制機序をトリガーする。歴史的には、研究は、癌進行のリスクが、低グレードの病変(2~9%)と比較して、高グレードの方が(32~87%)はるかに高いことを示した28~30。要するに、本発明者らの結果は、肺癌のリスクの高い個体における免疫療法及び化学的予防の役割を評価することを推奨する。
【0134】
参考文献:
本出願全体を通して、様々な参考文献が、本発明が属する技術分野の最先端技術を記載する。これらの参考文献の開示はこれにより、本開示への参照により組み入れられる。
【0135】
【表1】



図1
図2
図3A
図3B
【国際調査報告】