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特表2022-527987可変振幅および波形による小型バイオデバイスへの磁気電気データおよび給電
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-07
(54)【発明の名称】可変振幅および波形による小型バイオデバイスへの磁気電気データおよび給電
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/36 20060101AFI20220531BHJP
   G01R 33/02 20060101ALI20220531BHJP
   H01L 41/193 20060101ALI20220531BHJP
   H01L 41/113 20060101ALI20220531BHJP
   H01L 41/20 20060101ALI20220531BHJP
【FI】
A61N1/36
G01R33/02 R
H01L41/193
H01L41/113
H01L41/20
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021559263
(86)(22)【出願日】2020-04-03
(85)【翻訳文提出日】2021-11-30
(86)【国際出願番号】 US2020026688
(87)【国際公開番号】W WO2020206332
(87)【国際公開日】2020-10-08
(31)【優先権主張番号】62/830,089
(32)【優先日】2019-04-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/976,051
(32)【優先日】2020-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.MATLAB
(71)【出願人】
【識別番号】510166102
【氏名又は名称】ウィリアム マーシュ ライス ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】WILLIAM MARSH RICE UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】6100 Main Street,Houston,TX 77005, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ロビンソン ジェイコブ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン カイヨアン
(72)【発明者】
【氏名】ユ ジャンハオ
(72)【発明者】
【氏名】チェン ジョシュア
(72)【発明者】
【氏名】シンガー アマンダ
(72)【発明者】
【氏名】アヴァンツ ベンジャミン
(72)【発明者】
【氏名】ヴァーマ ニシャント
【テーマコード(参考)】
2G017
4C053
【Fターム(参考)】
2G017AA02
2G017BA03
2G017CB01
2G017CB10
4C053JJ02
4C053JJ03
4C053JJ13
4C053JJ27
(57)【要約】
本開示は、可変振幅および波形を有する磁気電気神経刺激装置を利用する新たな装置、システムおよび方法を記載する。本開示の具体的な態様は、磁気電気薄膜と、磁界発生器と、磁気電気薄膜に結合された電気回路とを含む。特定の態様において、電気回路は、磁気電気薄膜によって生成された電気出力信号を変更するように構成された構成部品を含む。特定の態様において、電気回路は、電荷貯蔵素子に充電し、埋め込み型ワイヤレス神経刺激装置にデータを伝送し、電極に刺激出力を提供するために、電気信号を変更するように構成されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気電気薄膜;
20~500kHzの入力周波数で磁界を発生させるように構成された磁界発生器;および
該磁気電気薄膜に結合された電気回路
を含み、
該磁気電気薄膜が、該入力周波数の該磁界によって刺激されたとき、電気出力信号を生成するように構成され;
該電気回路が、該電気出力信号が0.5~1000Hzの出力周波数を有するように該電気出力信号を変更するよう構成された電気部品を含む、
埋め込み型装置。
【請求項2】
磁気電気薄膜が中央部分を含み;
電気回路が該磁気電気薄膜の該中央部分に結合されている、
請求項1記載の装置。
【請求項3】
磁気電気薄膜が共振周波数を有し;
入力周波数が該磁気電気薄膜の該共振周波数の10%以内である、
請求項1記載の埋め込み型装置。
【請求項4】
磁界発生器が、一連の磁界パルスを発生させるように構成されている、請求項1記載の埋め込み型装置。
【請求項5】
一連のパルス中の各パルスが約1ミリ秒(ms)の持続時間を有する、請求項4記載の埋め込み型装置。
【請求項6】
電気出力信号が出力電圧を有し;
該出力電圧の振幅が、一連のパルス中のパルスの持続時間を変えることによって制御されることができる、
請求項4記載の埋め込み型装置。
【請求項7】
電気出力信号が出力電圧を有し;
該出力電圧の振幅が、一連のパルス中のパルスの総数を変えることによって制御されることができる、
請求項4記載の埋め込み型装置。
【請求項8】
電気出力信号が単相性出力信号である、請求項1記載の埋め込み型装置。
【請求項9】
電気出力信号が二相性出力信号である、請求項1記載の埋め込み型装置。
【請求項10】
磁気電気薄膜が磁気歪層および圧電層を含む、請求項1記載の埋め込み型装置。
【請求項11】
磁気電気薄膜がポリフッ化ビニリデン(PVDF)層を含む、請求項1記載の埋め込み型装置。
【請求項12】
磁気電気薄膜がチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)層を含む、請求項1記載の埋め込み型装置。
【請求項13】
入力周波数が20~500キロヘルツ(kHz)である、請求項1記載の埋め込み型装置。
【請求項14】
出力信号が生物組織を刺激する、請求項1記載の埋め込み型装置。
【請求項15】
出力信号が電子デバイスに給電する、請求項1記載の埋め込み型装置。
【請求項16】
磁気電気薄膜が第一の磁気電気薄膜であり、装置が第二の磁気電気薄膜をさらに含む、請求項1記載の埋め込み型装置。
【請求項17】
磁界発生器が電磁石を含む、請求項1記載の埋め込み型装置。
【請求項18】
磁界発生器が永久磁石を含む、請求項1記載の埋め込み型装置。
【請求項19】
電気部品が全波整流器およびトランジスタを含む、請求項1記載の埋め込み型装置。
【請求項20】
電気部品がダイオードおよびコンデンサを含む、請求項1記載の埋め込み型装置。
【請求項21】
ステレオトロードをさらに含み、電気出力信号が該ステレオトロードを通して伝送される、請求項1記載の埋め込み型装置。
【請求項22】
磁気電気薄膜が、
第一端、第二端、該第一端と該第二端との間で等距離にある中心点、および該第一端と該第二端との間に延びる長さ
を含み;
前記中央部分が該磁気電気薄膜の長さの10%を含み;
該中心点が該磁気電気薄膜の該中央部分の中心に位置している、
請求項2記載の埋め込み型装置。
【請求項23】
磁界発生器が、磁気電気薄膜の共振周波数の5%以内の入力周波数で磁界を発生させるように構成されている、請求項1記載の埋め込み型装置。
【請求項24】
電気磁気薄膜;および
20~500kHzの入力周波数で磁界を発生させるように構成された磁界発生器
を含み、
該磁気電気薄膜が自己整流薄膜であり;
該磁気電気薄膜が、該入力周波数の該磁界によって刺激されたとき、0.5~1000Hzの出力周波数で電気出力信号を生成するように構成されている、
埋め込み型装置。
【請求項25】
磁気電気薄膜が酸化亜鉛(ZnO)を含む、請求項24記載の埋め込み型装置。
【請求項26】
磁気電気薄膜が、酸化亜鉛(ZnO)ナノ粒子をドープされたポリフッ化ビニリデン(PVDF)層を含む、請求項24記載の埋め込み型装置。
【請求項27】
磁気電気薄膜が共振周波数を有し;
入力周波数が該磁気電気薄膜の該共振周波数の10%以内である、
請求項24記載の埋め込み型装置。
【請求項28】
磁気電気薄膜の共振周波数が65~75キロヘルツ(kHz)である、請求項27記載の埋め込み型装置。
【請求項29】
磁界発生器が、一連の磁界パルスを発生させるように構成されている、請求項24記載の埋め込み型装置。
【請求項30】
一連のパルス中の各パルスが約1ミリ秒(ms)の持続時間を有する、請求項29記載の埋め込み型装置。
【請求項31】
電気出力信号が出力電圧を有し;
該出力電圧の振幅が、一連のパルス中のパルスの持続時間を変えることによって制御されることができる、請求項29記載の埋め込み型装置。
【請求項32】
電気出力信号が出力電圧を有し;
該出力電圧の振幅が、一連のパルス中のパルスの総数を変えることによって制御されることができる、
請求項29記載の埋め込み型装置。
【請求項33】
電気出力信号が単相性出力信号である、請求項24記載の埋め込み型装置。
【請求項34】
電気出力信号が二相性出力信号である。請求項24記載の埋め込み型装置。
【請求項35】
磁気電気薄膜が磁気歪層および圧電層を含む、請求項24記載の埋め込み型装置。
【請求項36】
磁気電気薄膜がポリフッ化ビニリデン(PVDF)層を含む、請求項24記載の埋め込み型装置。
【請求項37】
入力周波数が20~300キロヘルツ(kHz)である、請求項24記載の埋め込み型装置。
【請求項38】
出力信号が生物組織を刺激する、請求項24記載の埋め込み型装置。
【請求項39】
出力信号が電子デバイスに給電する、請求項24記載の埋め込み型装置。
【請求項40】
磁気電気薄膜が第一の磁気電気薄膜であり、装置が第二の磁気電気薄膜をさらに含む、請求項24記載の埋め込み型装置。
【請求項41】
磁界発生器が電磁石を含む、請求項24記載の埋め込み型装置。
【請求項42】
磁界発生器が永久磁石を含む、請求項24記載の埋め込み型装置。
【請求項43】
ステレオトロードをさらに含み、電気出力信号が該ステレオトロードを通して伝送される、請求項24記載の埋め込み型装置。
【請求項44】
神経組織を刺激する方法であって、
請求項1~23のいずれか一項記載の装置を提供する工程;
磁界発生器によって磁界を発生させる工程;
電気磁気薄膜によって電気出力信号を生成する工程;および
電気回路によって該電気出力信号を変更する工程
を含む、方法。
【請求項45】
変更された電気出力信号によって神経組織を刺激する工程をさらに含む、請求項44記載の方法。
【請求項46】
変更された電気出力信号によってデバイスに給電する工程をさらに含む、請求項44記載の方法。
【請求項47】
神経組織を刺激する方法であって、
請求項24~43のいずれか一項記載の装置を提供する工程;
磁界発生器によって磁界を発生させる工程;および
電気磁気薄膜によって電気出力信号を生成する工程
を含む、方法。
【請求項48】
電気出力信号によって神経組織を刺激する工程をさらに含む、請求項47記載の方法。
【請求項49】
電気出力信号によってデバイスに給電する工程をさらに含む、請求項47記載の方法。
【請求項50】
磁気電気薄膜と;
20~500kHzの入力周波数で磁界を発生させるように構成された磁界発生器と
を含み、
該磁気電気薄膜が、該入力周波数の該磁界によって刺激されたとき、電圧波形を有する電気出力信号を生成するように構成され;
装置が、該電圧波形を変更するための電気回路または材料を含み、
該電気回路または材料が、該電気出力信号が0.5~1000Hzの出力周波数を有するように該電気出力信号を変更するよう構成された電気部品を含む、
埋め込み型装置。
【請求項51】
材料が酸化亜鉛(ZnO)ナノロッドを含む、請求項50記載の埋め込み型装置。
【請求項52】
磁界発生器;および
埋め込み型ワイヤレス神経刺激装置
を含み、
該埋め込み型ワイヤレス神経刺激装置が、
磁気電気薄膜;
該磁気電気薄膜に結合された第一の電極;
該磁気電気薄膜に結合された第二の電極;
該磁気電気薄膜に結合された電気回路;
該電気回路に結合された第三の電極;および
該電気回路に結合された第四の電極
を含み、
該電気回路が電荷貯蔵素子を含み;
該磁界発生器が、入力周波数で磁界を発生させるように構成され;
該磁気電気薄膜が、該入力周波数の該磁界によって刺激されたとき、電気信号を生成するように構成され;
該電気回路が、該電荷貯蔵素子に充電するために該電気信号を変更するように構成され;
該電気回路が、該埋め込み型ワイヤレス神経刺激装置にデータを伝送するために該電気信号を変更するように構成され;
該電気回路が、該第三の電極および該第四の電極に刺激出力を提供するために該電気信号を変更するように構成されている、
装置。
【請求項53】
電気回路が、埋め込み型ワイヤレス神経刺激装置からデータを伝送するために電気信号を変更するように構成されている、請求項52記載の装置。
【請求項54】
電気回路が相補型金属酸化物半導体(CMOS)チップ上に形成されている、請求項52記載の装置。
【請求項55】
電荷貯蔵素子がコンデンサである、請求項52記載の装置。
【請求項56】
電気回路が充電モジュール、データモジュールおよび刺激ドライバモジュールを含む、請求項52記載の装置。
【請求項57】
充電モジュールが、電荷貯蔵素子の電力管理および充電を提供するように構成されている、請求項56記載の装置。
【請求項58】
データモジュールが、埋め込み型ワイヤレス神経刺激装置にデータ伝送を提供するように構成されている、請求項56記載の装置。
【請求項59】
刺激ドライバモジュールが、第三の電極および第四の電極に刺激出力を提供するように構成されている、請求項56記載の装置。
【請求項60】
充電モジュールが整流器および基準発生器を含む、請求項56記載の装置。
【請求項61】
電気回路が、磁界の振幅偏移変調(ASK)を実行することにより、埋め込み型ワイヤレス神経刺激装置データ伝送にデータを伝送するために電気信号を変更するように構成されている、請求項52記載の装置。
【請求項62】
磁気電気薄膜が中央部分を含み;
電気回路が該磁気電気薄膜の該中央部分に結合されている、
請求項52記載の装置。
【請求項63】
磁気電気薄膜が共振周波数を有し;
入力周波数が該磁気電気薄膜の該共振周波数の10%以内である、
請求項52記載の装置。
【請求項64】
磁界発生器が、一連の磁界パルスを発生させるように構成されている、請求項52記載の装置。
【請求項65】
一連のパルス中の各パルスが約1ミリ秒(ms)の持続時間を有する、請求項64記載の装置。
【請求項66】
電気信号が出力電圧を有し;
該出力電圧の振幅が、一連のパルス中のパルスの持続時間を変えることによって制御されることができる、
請求項65記載の装置。
【請求項67】
電気信号が出力電圧を有し;
該出力電圧の振幅が、一連のパルス中のパルスの総数を変えることによって制御されることができる、請求項65記載の装置。
【請求項68】
電気信号が単相性出力信号である、請求項52記載の装置。
【請求項69】
電気信号が二相性出力信号である、請求項52記載の装置。
【請求項70】
磁気電気薄膜が磁気歪層および圧電層を含む、請求項52記載の装置。
【請求項71】
磁気電気薄膜がポリフッ化ビニリデン(PVDF)層を含む、請求項52記載の装置。
【請求項72】
磁気電気薄膜がチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)層を含む、請求項52記載の装置。
【請求項73】
入力周波数が20~500キロヘルツ(kHz)である、請求項52記載の装置。
【請求項74】
出力信号が生物組織を刺激する、請求項52記載の装置。
【請求項75】
出力信号が電子デバイスに給電する、請求項52記載の装置。
【請求項76】
磁気電気薄膜が第一の磁気電気薄膜であり、装置が第二の磁気電気薄膜をさらに含む、請求項52記載の装置。
【請求項77】
磁界発生器が電磁石を含む、請求項52記載の装置。
【請求項78】
磁界発生器が永久磁石を含む、請求項52記載の装置。
【請求項79】
第三の電極および第四の電極がステレオトロードとして構成されている、請求項52記載の装置。
【請求項80】
磁気電気薄膜が、
第一端、第二端、該第一端と該第二端との間で等距離にある中心点、および該第一端と該第二端との間に延びる長さ
を含み;
前記中央部分が該磁気電気薄膜の該長さの10%を含み;
該中心点が該磁気電気薄膜の該中央部分の中心に位置している、
請求項52記載の装置。
【請求項81】
磁界発生器が、磁気電気薄膜の共振周波数の5%以内の入力周波数で磁界を発生させるように構成されている、請求項52記載の装置。
【請求項82】
磁界発生器によって磁界を発生させる方法であって、
請求項52~81のいずれか一項記載の装置を提供する工程;
磁気電気薄膜によって電気信号を生成する工程;および
電気回路によって電気信号を変更する工程
を含む、方法。
【請求項83】
電気回路によって電気信号を変更する工程が、
電荷貯蔵素子に充電するために該電気信号を変更すること;
埋め込み型ワイヤレス神経刺激装置にデータを伝送するために該電気信号を変更すること;および
第三の電極および第四の電極に刺激出力を提供するために該電気信号を変更すること
を含む、請求項82記載の方法。
【請求項84】
変更された電気信号によって神経組織を刺激する工程をさらに含む、請求項82記載の方法。
【請求項85】
変更された電気信号によってデバイスに給電する工程をさらに含む、請求項82記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年4月5日に出願された米国特許仮出願第62/830,089号および2020年2月13日に出願された米国特許仮出願第62/976,051号への優先権を主張する。これらの出願それぞれの内容全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
A. 分野
本開示は、可変振幅および波形を用いる磁気電気神経刺激装置を利用する装置および方法に関する。特に、本開示は、電荷貯蔵素子に電荷を充電し、埋め込み型ワイヤレス神経刺激装置にデータを伝送し、刺激出力を提供するように構成された装置および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
B. 関連技術
埋め込み受電デバイスの実現の成功には数多くの課題がある。例えば、バイオエレクトロニクスの基本的な問題が、体内の小型デバイスに電力を供給する能力である。ワイヤは、効率的な電力伝送を提供するが、一般的な障害点であり、デバイス配置を制限する。電磁波または超音波によるワイヤレス給電もまた、障害を克服しなければならない。例えば、電磁波または超音波によるワイヤレス給電は、体による吸収と、空気、骨および組織の間でのインピーダンス不整合とを克服しなければならない。また、自由に動く動物または人の深部組織領域中の神経インプラントにワイヤレスで給電するための従来の方法は、通常、大きな電磁コイルまたは外部リード付きのバッテリパックのせいで、かさ高い。加えて、埋め込み型ワイヤレス神経刺激装置に磁気電気充電、データ伝送および刺激を提供する能力は、既存のシステムにおいては提供されていない。
【0004】
したがって、埋め込み受電デバイスの効果的な実現のためには、これらの問題および他の問題に対処する必要がある。
【発明の概要】
【0005】
概要
簡潔にいうと、本開示は、埋め込み神経刺激デバイスに磁界によってデータを伝送するシステムを提供する。特定の態様において、埋め込みデバイスは、磁界からタイミングおよび電圧基準を抽出して、確実でキャリブレーション不要のデータ伝送を実行する電気回路を含む。特定の態様において、回路は、磁界のエンベロープをモニタすることによって異なる動作モード(電力伝送、データ伝送、刺激)間で移行し、これは、一部の従来法よりも確実かつエネルギー効率的であることができる。
【0006】
加えて、本開示は、体による吸収、または空気、骨および組織の間の界面におけるインピーダンスの差をほとんど被らない、磁界を利用する装置、システムおよび方法を提供する。これらの利点が、誘導または磁気熱効果に基づく磁気給電式刺激装置につながった。しかし、これらの電力伝送技術における根本的な制限により、多くの治療法および疾患モデルにおける小型磁気給電式刺激装置の適用が阻まれてきた。理由は、そのような刺激装置は、20Hzを超える臨床「高周波」範囲では作動しないからである。
【0007】
本開示の例示的な態様は、神経刺激のために、または電子デバイスに給電するために、磁界からの小規模エネルギーハーベスティングを提供する磁気電気材料を利用する。例示的な態様は、電磁コイルによって供給される高周波(例えば20~500KHz)磁界を変調する磁界ドライバによって発される交番磁界に依存する。この磁界は、通常はコイルから数センチ離れたところに配置することができる磁気電気薄膜の共振周波数またはその近くにある。薄膜(圧電材料と磁気電気材料とのラミネート)は、磁界を高周波高電圧電気信号へと変換することができる。例示的な態様は、電圧波形を変化させる(例えば、電圧および電流を、所望の用途にとって安定なレベルに整流し、上限設定する)ための回路素子を薄膜に取り付ける。具体的な例示的態様において、薄膜からの電場が、興奮性細胞をインビトロで直接刺激するために使用されることができ、薄膜は、自由に動く対象における刺激のために生体内に埋め込まれた電極に結合されることができる。
【0008】
磁界を使用して遠隔給電される磁気電気デバイスは、小さなデバイスパッケージサイズ中で特定の電気信号を供給することができる。この小型化が、デバイスをウェアラブルにし、脳深部および末梢部をはじめとする、体の到達しにくい部位を標的とするための鍵である。加えて、ワイヤレス刺激装置は、神経刺激装置の主要な故障モードのいくつか、例えばリード移動および接触不良を回避するのに役立つ。さらなる利点は、外部から制御される磁界ドライバによって刺激のパターンを選択して、特定の周波数の交番磁界の特定のタイミングのパルスを創出することができることである。この磁気電気電圧制御のさらなる使用は、電気刺激に加え、生理学的変数を記録するための中枢または末梢神経系中の神経インプラントに給電するための使用であることができる。
【0009】
特定の態様は、所望の用途に依存して神経組織を刺激するのに有用であることができる4つの異なる波形を含む。様々な波形は、正しい数の薄膜およびそれらに取り付けられた回路を使用し、磁界の周波数を適切にゆっくりと変調することによって創出される。波形は、(1)高周波単相性(単一薄膜);(2)エンベロープ単相性(単一薄膜);(3)高周波二相性(二重薄膜)および(4)エンベロープ二相性(二重薄膜または単一薄膜)を含む。
【0010】
本開示の例示的な態様は、適切な磁気電気薄膜、回路素子および磁界発生器の波形を組み込むことにより、多様な治療用神経刺激を生成することができる。例えば、薄膜の固有共振周波数は生理学的応答を生成し得ないが、本開示の例示的な態様は、治療範囲内のより低周波数の二相性パルスを創出することができる。例示的な態様はまた、磁界をパルス化することができ、したがって、高周波数共振を使用して細胞活性を直接変調することができる電圧パルスを生成することができる。本開示の局面は、単相性電圧信号の場合には1つの薄膜で、二相性電圧信号の場合には2つの薄膜で、これを達成し得る。
【0011】
加えて、磁気電気薄膜から報告される典型的な電圧は一般に最大でも数ボルトしかなく、それは、薄膜の角度および磁石からの距離とともに電圧が急速に低下することを意味する。これらの低い電圧は、磁気電気電圧を生成するために使用される交番磁界の弱さによる。そのような高い周波数では、これらの強い磁界は、高電圧(概ねkV範囲)電源なしで創出することは困難である。本開示の例示的な態様は、一般的なアウトレットに差し込むことができる、数十ボルトしか要しない小さなシステムを使用して高強度磁界を発生させるためにカスタム設計された磁界ドライバを用いる。この構成は、50Vよりも大きい最大電圧を生成することができる。この刺激を安定化するために、LEDまたはツェナーダイオードを使用することができる。これは、電圧を、用途に依存して選択される値、通常は1~6Vで上限設定する。したがって、例示的な態様は、距離および角度の変動があるとしても、所与の電圧を安定的に出力することができる。
【0012】
電力効率は一部のコンピューティング技術よりも低いが、組織吸収は、他のワイヤレス給電スキームよりもずっと低く、組織の深部にあるデバイスに安全に給電する能力を許す。電力伝送の効率は角度依存性であり、したがって、ドライバコイルとデバイスとは、最大効率のために整列されるべきである。
【0013】
本明細書に開示される例は、相対的にまっすぐな磁気電気材料の形状寸法を含む。他の態様は、磁気歪および圧電部品のために様々な材料を使用するだけでなく、様々な形状または構造の磁気歪デバイスを含み得る。特定の態様はまた、感度を高めるために薄膜にバイアスをかけるための磁気要素を薄膜中に含むこともできる。態様はまた、電圧波形を自然に整流する薄膜を含むこともできる。特定の態様において、バイアス磁界は、薄膜または交番磁界回路のいずれかに組み込まれることができる。具体的な態様は、動く対象中に完全に埋め込むことができる小型形態のシステムを含むことができる。
【0014】
小型化ワイヤレスバイオエレクトロニクスインプラントは、基本的な生物学的研究を加速し、人の疾患のための臨床療法を改善するための強力な能力を提供することができる。その小さなサイズおよびワイヤレスインタフェースのおかげで、これらの小さなデバイスは、脳または末梢神経などの組織へのより非侵襲的かつより長期的なインタフェースを提供する潜在能力を有する。これらの埋め込みバイオエレクトロニクスを開発する中で基本的な課題の1つが、体内のデバイスへのワイヤレス電力・データ伝送(WPDT)である。無線周波数電磁界、超音波、誘導結合および磁気熱効果に基づく既存の技術は、安全、確実、安定かつ効率的なWPDTスキームの所望の性質のすべてを満たすことはできない。これらの課題を解決するために、本発明者らは、磁気電気(ME)材料を設計し、CMOSチップとで集積して、磁気電気効果に基づく初めてのWPDT技術を創出することを提案する。この提案される磁気電気「スマートダスト」技術(本明細書中、「Mag-Dust」または「MagMote」と呼ばれることもある)は、小型バイオエレクトロニクスインプラントに直面する3つの課題:組織および骨による低い吸収および反射;トランスミッタとの角度およびトランスミッタまでの距離の変化にかかわらない、安定した能力;およびウェアラブルな電力/データトランスミッタ、を同時に解決することにより、多くの科学的および医学的適用を可能にする。
【0015】
本開示の例示的な態様は、小型で高度に集積されたバイオエレクトロニクスインプラントのための磁気電気(ME)ワイヤレス電力・データ伝送技術を組み込む。本開示の例示的な態様は、3つの技術分野:(1)埋め込みデバイスへのワイヤレス電力・データ伝送のための小型化高効率MEトランスデューサを製造するための新たな製造戦略;(2)電力効率およびロバストネスの向上、キャリブレーション作業の削減ならびに歩留まりの向上を目的とする、Mag-Dustのための新規な低電力CMOS回路およびシステム設計;(3)原理証明1ミリメートル立方のプログラム可能なME対応ワイヤレス末梢神経刺激装置、において有意な進歩を成し遂げることができる。この研究はまた、インビトロおよび加速劣化試験で評価される高い生体適合性、長期的安定性および安全性を達成するための集積戦略を生み出す。加えて、本発明者らは、Mag-Dustを駆動し、プログラムするためのバッテリ給電式ポータブル磁界トランスミッタを実証する。
【0016】
本開示の例示的な態様は、小型化バイオエレクトロニクスインプラントに対して幅広い影響を及ぼすことができる。具体的には、例示的な態様は、深部に埋め込まれた小型デバイスへの安全、確実かつ効率的なワイヤレス電力・データ伝送の基本的な課題を解決して、長期的な神経刺激、記録、薬物送達、生理学的モニタリングなどのための最小侵襲的かつ長期的なインタフェース技術への道を切り開くことができる。これらの技術は、神経系(特に長期的および社会的行動)の理解、障害の治療および痛みの緩和において数多くの変革的で広範囲にわたる科学的および医学的応用に恩恵をもたらすことが期待されている。
【0017】
バイオエレクトロニクスインプラントは、基本的な神経科学研究を加速し、人の障害の臨床治療法を改善するための強力な能力を提供する。一般的な用途は、電気的および光学的刺激および抑制ならびに神経および生理学的信号の測定を含む。従来のバッテリ給電式インプラントは、多くの場合、標的部位に直接埋め込むには大きすぎ、バッテリパックをセンサ/刺激装置に接続するためのワイヤの使用は、バイオエレクトロニクスデバイスにとって一般的な障害点である。臨床用途において、リード線は感染経路を呈し[1]、刺激装置が組織とともに動く能力を制限して、異物反応、または標的組織との接触の喪失を招く[2、3]。小動物を使用する科学実験において、特に複数の動物の間の社会的相互作用を研究する場合、ワイヤまたは重いバッテリが自然な行動を制限するおそれがある[4]。したがって、インプラントを小型化し、コードをなくすための技術は、特に中枢および末梢神経系の組織への次世代最小侵襲的かつ高空間分解能かつ長期的バイオエレクトロニクスインタフェースを構築する際に重要である。これらの小型ワイヤレスバイオエレクトロニクスインプラントは、十分すぎるほどの変革的な臨床的および科学的適用を可能にし、進歩させる潜在能力を有する。
【0018】
小型ワイヤレス埋め込みバイオエレクトロニクスの開発における基本的な課題の1つが、体内の小型デバイスに電力およびデータを安全かつ確実に供給することである。電磁気学(EM)による埋め込み型のmmサイズのレシーバへの効率的なワイヤレス電力・データ伝送はGHz無線周波数のEM波を必要とする。これらの周波数において、EM放射線は体によって有意に吸収される。その結果、安全に供給することができる電力の量[5]およびインプラントの体積[6~8]に対して厳しい制限がある。超音波は組織吸収を比較的受けないが、空気、骨および組織の間の音響インピーダンス不整合によって有意に反射(減衰)され、空気または頭蓋骨などの骨を通して十分なエネルギーを供給することを困難にする。光学的電力伝送は、かさ高いレシーバを除くための代替手法であるが[9]、限られた浸透深度および組織加熱の問題を抱えている。他方、磁界は、体による吸収および反射によるエネルギー損失をほとんど被らない[10~12]。これらの利点が、誘導結合または磁気熱効果に基づく磁気給電式インプラントにつながった。誘導結合は、家庭用電化製品における電力伝送のために十分に開発された技術であるが、受信コイルの直径が制限される。コイル直径を9mm未満に減らすと、受信される電力が有意に減り、トランスミッタとレシーバとの間の距離および整列に対してより敏感になる[13、14]。最後に、最近実証された磁気熱刺激は、レシーバのサイズの懸念を除くが、20Hzを超える臨床「高周波」範囲では作動しないため[15、16]、多くの治療法および疾患モデルには適さない。そのうえ、求められる>20mTの磁界強度は、ポータブル発生器によって容易に生成することはできず、それが、自由に動く患者または動物の長期的神経変調療法のためにこの技術を使用する能力を制限する。
【0019】
要約すると、理想的なワイヤレス電力・データ伝送技術は以下の性質を有するべきである。(1)インプラントに十分なエネルギーを安全に供給するための、体による低い吸収および反射;(2)制御された確実なワイヤレス電力・データ伝送;および(3)長期的使用を必要とする生物医学的応用を可能にするための、バッテリ作動式のポータブルトランスミッタ。
【0020】
これらの基本的な課題を解決するために、本発明者らは、磁気電気(ME)材料をCMOS ASICと組み合わせる初めての小型ワイヤレスバイオエレクトロニクスインプラントを創出するための変革的手法であるMag-Dustを提案する。ナノ加工されたMEトランスデューサ中で磁気歪効果と圧電効果とを結合することにより、低周波(100kHz~10MHz)交番(AC)磁界を効率的に交番電位へと変換して、低周波磁界は体によって吸収されず、したがって、深く埋め込まれたデバイスに電力を効率的に供給することができるという事実を含む利点を有するワイヤレス電力・データ伝送を可能にすることができる。予備結果が、1mT磁界の下、骨および組織の下8センチメートル超でME効果を確認した[17]。加えて、音響共振は同じ周波数の電磁共振よりも105倍短い波長を有するため、ME技術は、トランスデューサによって生成される電圧を有意に下げることなく、埋め込みデバイスを小型化する。さらに、高い電圧変換効率を有するMEトランスデューサは、潜在的に、ポータブルかつ軽量のバッテリ給電式磁界発生器によって駆動することができ、自由に動くげっ歯類モデルの長期的な科学的研究のための長期的かつ非制限的な神経変調および記録システムの新たなパラダイムならびに将来のウェアラブルなポイント・オブ・ケア障害治療および疼痛緩和デバイスへの道を切り開く。
【0021】
ME有効化ワイヤレス電力・データ伝送技術に基づいて、本開示の例示的な態様は、完全集積化された概念実証ミリメートルサイズのMag-Dust神経刺激装置を含む。MEトランスデューサの設計および製造においては、製造技術を用いて、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)またはチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)および磁気歪合金(Metglas)に基づく、ワイヤレス電力・データ伝送のためのmmスケールのMEトランスデューサを創出することができる。さらなる態様は、磁気バイアスを加えることによる小型化MEトランスデューサ効率の向上を含み得る。Mag-DustのCMOS回路およびシステム設計の場合、ME薄膜とインタフェースさせるためにCMOS回路およびシステムを用いて、制御された電力供給、キャリブレーション不要でロバストなデータ伝送およびプログラム可能な刺激を可能にすることができる。例示的な態様は、MEトランスデューサとCMOSチップとの生体適合性集積による、ミリメートルサイズの神経刺激装置を含む。体内の条件を近似する水溶液中で例示的な態様の機能性および長期安定性を評価するために、インビトロ試験を実施することができる。
【0022】
本開示の例示的な態様は、小型化され、高度集積化されたバイオエレクトロニクスインプラントのための磁気電気(ME)ワイヤレス電力・データ伝送技術を含む。例示的な態様は、電力効率およびロバストネスの向上、キャリブレーション作業の削減ならびに歩留まりの改善のための低電力CMOS回路およびシステム設計を含む。加えて、例示的な回路技術は、低電力エネルギーハーベスタおよび電圧/電流/タイミング基準を提供する。例示的な態様は、1mm3のプログラム可能なワイヤレス神経刺激装置として構成されたデバイスを含む。集積化戦略が、生体適合性および安全性に関して研究され、それが、加速劣化およびインビトロ試験で評価される。例示的な態様はまた、治療に適切な広い範囲の刺激パターン(0~200Hzの周波数、30~1500μAの振幅および50~1000μsのパルス幅)をカバーする、提案されるMag-Dust刺激装置の二相性刺激をプログラムし、維持するためのバッテリ給電式のウェアラブルな1mT磁界トランスミッタを含む。
【0023】
本開示の例示的な態様は、磁気電気材料(バイオエレクトロニクスデバイスに初めて適用される)が、臨床的に適切な高周波数で作動する小型の磁気給電式神経刺激装置を可能にすることを実証する。一例として、ME神経刺激装置は、自由に行動するげっ歯類におけるパーキンソン病モデルの症状を効果的に治療することができることが示されている。本発明者らはまた、ME給電式デバイスが、効果的な刺激電圧を維持しながらも、米粒よりも小さいサイズまで小型化することができることを示す。これらの結果は、ME材料が、臨床用途と研究用途の両方において小型神経刺激装置を可能にするワイヤレス電力供給のための優れた候補であることを示唆する。
【0024】
ワイヤレス神経刺激装置は、バッテリ給電式デバイスまたはワイヤ式刺激装置と比べ、より非侵襲的であり、より長持ちするインタフェースを脳領域および末梢神経へ提供する潜在能力を有する。実際、ワイヤは、バイオエレクトロニクスデバイスにとって一般的な障害点である。経皮ワイヤは感染経路を呈し[1]、埋め込みワイヤもまた、刺激装置が組織とともに動く能力を制限して、異物反応、または標的組織との接触の喪失を招く[2、3]。加えて、特に末梢部におけるデバイスの場合、ワイヤにかかる長期的応力および歪が、ワイヤそのものまたは刺激装置へのその接続における障害を招くおそれがある[4]。ラットおよびマウスなどの小動物において、特に複数の動物間の社会的相互作用を研究する場合、神経刺激装置に給電するために使用されるワイヤが自然な行動を妨げるおそれがある[5]。
【0025】
特定の態様は、磁界発生器および埋め込み型ワイヤレス神経刺激装置を含み、埋め込み型ワイヤレス神経刺激装置が、磁気電気薄膜;磁気電気薄膜に結合された第一の電極;磁気電気薄膜に結合された第二の電極;磁気電気薄膜に結合された電気回路;電気回路に結合された第三の電極;および電気回路に結合された第四の電極を含む、装置を含む。特定の態様において、電気回路は電荷貯蔵素子を含み;磁界発生器は、入力周波数で磁界を発生させるように構成され;磁気電気薄膜は、入力周波数の磁界によって刺激されたとき、電気信号を生成するように構成され;電気回路は、電荷貯蔵素子に充電するために電気信号を変更するように構成され;電気回路は、埋め込み型ワイヤレス神経刺激装置にデータを伝送するために電気信号を変更するように構成され;電気回路は、第三の電極および第四の電極に刺激出力を提供するために電気信号を変更するように構成されている。
【0026】
いくつかの態様において、電気回路は、埋め込み型ワイヤレス神経刺激装置からデータを伝送するために電気信号を変更するように構成されている。特定の態様において、電気回路は相補型金属酸化物半導体(CMOS)チップ上に形成されている。具体的な態様において、電荷貯蔵素子はコンデンサである。特定の態様において、電気回路は充電モジュール、データモジュールおよび刺激ドライバモジュールを含む。特定の態様において、充電モジュールは、電荷貯蔵素子の電力管理および充電を提供するように構成されている。いくつかの態様において、データモジュールは、埋め込み型ワイヤレス神経刺激装置にデータ伝送を提供するように構成されている。具体的な態様において、刺激ドライバモジュールは、第三の電極および第四の電極に刺激出力を提供するように構成されている。特定の態様において、充電モジュールは整流器および基準発生器を含む。特定の態様において、電気回路は、磁界の振幅偏移変調(ASK)を実行することにより、埋め込み型ワイヤレス神経刺激装置にデータを伝送するために電気信号を変更するように構成されている。いくつかの態様において、磁気電気薄膜は中央部分を含み、電気回路は磁気電気薄膜の中央部分に結合されている。
【0027】
特定の態様において、磁気電気薄膜は共振周波数を有し、入力周波数は磁気電気薄膜の共振周波数の10%以内である。特定の態様において、磁界発生器は、一連の磁界パルスを発生させるように構成されている。特定の態様において、一連のパルス中の各パルスは約1ミリ秒(ms)の持続時間を有する。特定の態様において、電気信号は出力電圧を有し、出力電圧の振幅は、一連のパルス中のパルスの持続時間を変えることによって制御されることができる。いくつかの態様において、電気信号は出力電圧を有し、出力電圧の振幅は、一連のパルス中のパルスの総数を変えることによって制御されることができる。具体的な態様において、電気信号は単相性出力信号である。特定の態様において、電気信号は二相性出力信号である。特定の態様において、磁気電気薄膜は磁気歪層および圧電層を含む。いくつかの態様において、磁気電気薄膜はポリフッ化ビニリデン(PVDF)層を含む。具体的な態様において、磁気電気薄膜はチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)層を含む。
【0028】
特定の態様において、入力周波数は20~500キロヘルツ(kHz)であり、特定の態様において、出力信号は生物組織を刺激する。いくつかの態様において、出力信号は電子デバイスに給電する。具体的な態様において、磁気電気薄膜は第一の磁気電気薄膜であり、装置はさらに第二の磁気電気薄膜を含む。特定の態様において、磁界発生器は電磁石を含む。特定の態様において、磁界発生器は永久磁石を含む。いくつかの態様において、第三の電極および第四の電極はステレオトロードとして構成されている。具体的な態様において、磁気電気薄膜は、第一端、第二端、第一端と第二端との間で等距離にある中心点および第一端と第二端との間に延びる長さを含み;中央部分は磁気電気薄膜の長さの10%を含み;中心点は、磁気電気薄膜の中央部分の中心に位置している。特定の態様において、磁界発生器は、磁気電気薄膜の共振周波数の5%以内の入力周波数で磁界を発生させるように構成されている。
【0029】
特定の態様は、磁界発生器によって磁界を発生させる方法であって、本明細書に開示される装置(例えば、請求項1~30のいずれか一項記載の装置を含む)を提供する工程;磁気電気薄膜によって電気信号を生成する工程;および電気回路によって電気信号を変更する工程を含む方法を含む。特定の態様において、電気回路によって電気信号を変更する工程は、電荷貯蔵素子に充電するために電気信号を変更すること;埋め込み型ワイヤレス神経刺激装置にデータを伝送するために電気信号を変更すること;および第三の電極および第四の電極に刺激出力を提供するために電気信号を変更することを含む。特定の態様はさらに、変更された電気信号によって神経組織を刺激する工程を含む。いくつかの態様はさらに、変更された電気信号によってデバイスに給電する工程を含む。
【0030】
特定の態様は、磁気電気薄膜;20~500kHzの入力周波数で磁界を発生させるように構成された磁界発生器;および磁気電気薄膜に結合された電気回路を含む埋め込み型装置を含む。特定の態様において、磁気電気薄膜は、入力周波数の磁界によって刺激されたとき、電気出力信号を生成するように構成され;電気回路は、電気出力信号が0.5~1000Hzの出力周波数を有するように電気出力信号を変更するように構成された電気部品を含む。
【0031】
具体的な態様において、磁気電気薄膜は中央部分を含み、電気回路は磁気電気薄膜の中央部分に結合されている。いくつかの態様において、磁気電気薄膜は共振周波数を有し、入力周波数は磁気電気薄膜の共振周波数の10%以内である。
【0032】
特定の態様において、磁界発生器は、一連の磁界パルスを発生させるように構成されている。特定の態様において、一連のパルス中の各パルスは約1ミリ秒(ms)の持続時間を有する。いくつかの態様において、電気出力信号は出力電圧を有し、出力電圧の振幅は、一連のパルス中のパルスの持続時間を変えることによって制御されることができる。具体的な態様において、電気出力信号は出力電圧を有し、出力電圧の振幅は、一連のパルス中のパルスの総数を変えることによって制御されることができる。特定の態様において、電気出力信号は単相性出力信号である。特定の態様において、電気出力信号は二相性出力信号である。いくつかの態様において、磁気電気薄膜は磁気歪層および圧電層を含む。具体的な態様において、磁気電気薄膜はポリフッ化ビニリデン(PVDF)層を含む。特定の態様において、磁気電気薄膜はチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)層を含む。いくつかの態様において、入力周波数は20~500キロヘルツ(kHz)である。特定の態様において、出力信号は生物組織を刺激する。具体的な態様において、出力信号は電子デバイスに給電する。
【0033】
特定の態様において、磁気電気薄膜は第一の磁気電気薄膜であり、装置はさらに第二の磁気電気薄膜を含む。特定の態様において、磁界発生器は電磁石を含む。いくつかの態様において、磁界発生器は永久磁石を含む。具体的な態様において、電気部品は全波整流器およびトランジスタを含む。特定の態様において、電気部品はダイオードおよびコンデンサを含む。特定の態様において、装置はさらにステレオトロードを含み、電気出力信号はステレオトロードを通して伝送される。いくつかの態様において、磁気電気薄膜は、第一端、第二端、第一端と第二端との間で等距離にある中心点および第一端と第二端との間に延びる長さを含み;中央部分は磁気電気薄膜の長さの10%を含み;中心点は磁気電気薄膜の中央部分の中心に位置している。具体的な態様において、磁界発生器は、磁気電気薄膜の共振周波数の5%以内の入力周波数で磁界を発生させるように構成されている。
【0034】
特定の態様は、磁気電気薄膜;および20~500kHzの入力周波数で磁界を発生させるように構成された磁界発生器を含む埋め込み型装置を含む。特定の態様において、磁気電気薄膜は自己整流薄膜であり;磁気電気薄膜は、入力周波数の磁界によって刺激されたとき、0.5~1000Hzの出力周波数で電気出力信号を生成するように構成されている。特定の態様において、磁気電気薄膜は酸化亜鉛(ZnO)を含む。いくつかの態様において、磁気電気薄膜は、酸化亜鉛(ZnO)ナノ粒子をドープされたポリフッ化ビニリデン(PVDF)層を含む。具体的な態様において、磁気電気薄膜は共振周波数を有し、入力周波数は磁気電気薄膜の共振周波数の10%以内である。特定の態様において、磁気電気薄膜の共振周波数は65~75キロヘルツ(kHz)である。特定の態様において、磁界発生器は、一連の磁界パルスを発生させるように構成されている。いくつかの態様において、一連のパルス中の各パルスは約1ミリ秒(ms)の持続時間を有する。具体的な態様において、電気出力信号は出力電圧を有し、出力電圧の振幅は、一連のパルス中のパルスの持続時間を変えることによって制御されることができる。
【0035】
特定の態様において、電気出力信号は出力電圧を有し、出力電圧の振幅は、一連のパルス中のパルスの総数を変えることによって制御されることができる。特定の態様において、電気出力信号は単相性出力信号である。いくつかの態様において、電気出力信号は二相性出力信号である。具体的な態様において、磁気電気薄膜は磁気歪層および圧電層を含む。特定の態様において、磁気電気薄膜はポリフッ化ビニリデン(PVDF)層を含む。特定の態様において、入力周波数は20~300キロヘルツ(kHz)である。いくつかの態様において、出力信号は生物組織を刺激する。具体的な態様において、出力信号は電子デバイスに給電する。特定の態様において、磁気電気薄膜は第一の磁気電気薄膜であり、装置はさらに第二の磁気電気薄膜を含む。特定の態様において、磁界発生器は電磁石を含む。いくつかの態様において、磁界発生器は永久磁石を含む。具体的な態様において、装置はさらにステレオトロードを含み、電気出力信号はステレオトロードを通して伝送される。
【0036】
特定の態様は、神経組織を刺激する方法であって、本明細書に開示される装置(例えば、請求項1~23のいずれか一項記載の装置)を提供する工程;磁界発生器によって磁界を発生させる工程;電気磁気薄膜によって電気出力信号を生成する工程;および電気回路によって電気出力信号を変更する工程を含む。特定の態様はさらに、変更された電気出力信号によって神経組織を刺激する工程を含む方法を含む。いくつかの態様はさらに、変更された電気出力信号によってデバイスに給電する工程を含む。
【0037】
特定の態様は、神経組織を刺激する方法であって、本明細書に開示される装置(例えば、請求項24~43のいずれか一項記載)を提供する工程;磁界発生器によって磁界を発生させる工程;および電気磁気薄膜によって電気出力信号を生成する工程を含む、方法を含む。特定の態様はさらに、電気出力信号によって神経組織を刺激する工程を含む。いくつかの態様はさらに、電気出力信号によってデバイスに給電する工程を含む。
【0038】
特定の態様は、磁気電気薄膜と;20~500kHzの入力周波数で磁界を発生させるように構成された磁界発生器とを含む、埋め込み型装置を含む。特定の態様において、磁気電気薄膜は、入力周波数の磁界によって刺激されたとき、電圧波形を有する電気出力信号を生成するように構成され;装置は、電圧波形を変更するための電気回路または材料を含み、電気回路または材料は、電気出力信号が0.5~1000Hzの出力周波数を有するように電気出力信号を変更するように構成された電気部品を含む。いくつかの態様において、材料は酸化亜鉛(ZnO)ナノロッドを含む。
【0039】
本方法、組成物、キットおよびシステムのいずれかの任意の態様は、記載された工程および/または特徴からなり得る、または本質的になり得る(それらを含む/包含する/有する、のではなく)。したがって、請求項のいずれにおいても、上記非限定的連結動詞のいずれかに代えて語「~からなる」または「~から本質的になる」を用いると、所与の請求項の範囲を、非限定的連結動詞を使用した場合の範囲から変更し得る。
【0040】
特許請求の範囲における語「または」の使用は、択一的選択肢のみを指すことが明示的に示されない限り、または選択肢が相互排他的でない限り、「および/または」を意味するために使用されるが、本開示は、選択および「および/または」のみを指す定義を支持する。
【0041】
本明細書全体を通して、語「約」は、ある値が、その値を決定するために用いられるデバイスまたは方法の標準偏差または誤差を含むことを示すために使用される。
【0042】
長年の特許法にしたがって、特許請求の範囲または明細書中で語「含む」と合わせて使用される単数形不定冠詞「1つの(a)」および「1つの(an)」は、特に明記されない限り、1つまたは複数を指す。
【0043】
本発明の他の目的、特徴および利点が以下の詳細な説明から明らかになるであろう。しかし、本発明の精神および範囲内の様々な変更および変形がこの詳細な説明から当業者には明らかになるため、詳細な説明および具体例は、本発明の特定の態様を示すが、例示として記されるだけであることが理解されるべきである。
【0044】
以下の図面は、本明細書の一部を形成し、本発明の特定の局面をさらに説明するために含まれる。これらの図面の1つまたは複数を、本明細書に提示される具体的な態様の詳細な説明と合わせて参照することにより、本発明がよりよく理解され得る。特許または出願ファイルは、カラーで作製された少なくとも1つの図面を含む。カラー図面を含む本特許または特許出願公開公報のコピーは、要請および必要な料金の支払いをもって、庁によって提供される。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1】本開示の例示的な態様の装置の模式図である。
図2】本開示の例示的な態様の様々な波形を示す。
図3】本開示の様々な波形を生成するために使用することができる様々な回路を示す。
図4】固定振幅および可変振幅構成の様々な局面を示す。
図5】本開示の例示的な態様のシステムの模式図である。
図6】磁気電気(ME)薄膜が交番磁界を電圧へと変換する方法の局面を示す。
図7】薄膜性質と薄膜長との関係を示す。
図8】薄膜出力電圧をバイアス磁界の関数として示す。
図9】磁界ドライバの局面を示す。
図10】インビトロで細胞を活性化する単相性ME刺激装置の局面を示す。
図11】直接ME薄膜上で増殖した細胞の局面を示す。
図12】エクスビボ脳切片中でニューロンを活性化する二相性ME刺激装置の局面を示す。
図13】自由に動くラットにおける脳深部刺激療法(DBS)のための二相性刺激装置の局面を示す。
図14】実験装置中で交番磁界を発生させるために使用されるワイヤの位置および間隔ならびにドライバの数を示す模式図を示す。
図15】円形コイル上の磁界のCOMSOLシミュレーションおよびコイル上の距離の関数として測定されたデバイス出力電圧を示す。
図16】人頭蓋骨模型中の小型化マルチチャネル刺激の局面を示す。
図17】ZnOナノ粒子をドープされたPVDF/Metglas薄膜の場合の電圧対時間を示す。
図18】PVDFのポーリング処理をPVDFのαおよびβ相ピークとともに示すX線回折データを示す。
図19】ZnO/PVDF薄膜製造の局面を示す。
図20】指が材料を押すときエネルギーハーベスタとして使用されるPVDF/ZnOナノワイヤハイブリッド材料の電流の自己整流を示す。
図21】本開示の例示的な態様の回路図を示す。
図22A】本開示の例示的な態様の電気回路の図を示す。
図22B】アクティブ整流器、ネイティブMOSベースの電圧基準および5ビットのプログラム可能な刺激ドライバの回路図を示す。
図23】本開示の例示的な態様の充電、データおよび刺激波形を示す。
図24】MEトランスデューサの特性を示す。(a)ME材料の等価回路モデルおよび予備COMSOLシミュレーション。(b)誘導電圧は機械的共振で最大化する。(c)磁界周波数に対するMEトランスデューサ(PZT系)のインピーダンス。
図25】ASICとMEトランスデューサと間のインピーダンス整合下での使用可能な電力を(a)純粋に抵抗性のインピーダンスおよび(b)容量性インピーダンスの場合で示す。
図26】提案される適応的データ受信スキーム、(a)モード切り替えのための回路;および(b)適応的閾電圧生成およびデータ受信を示す。
図27】適応的データ受信のシミュレーション波形を示す。
図28】低電力CMOS回路構成部品を示す。(a~b)キャリブレーション不要の電圧/電流基準、(c)製造ばらつきを含めた測定結果、(d)プログラム可能な刺激ドライバおよび(e)ホイートストンブリッジベースのタイミング基準。
図29】本開示の例示的な態様の分解図および組み立て図を示す。
図30】封入戦略の表を示す。
図31】ウェアラブルなバッテリ給電式磁界トランスミッタを示す。(A~C)は、埋め込みME神経刺激装置を駆動することができるウェアラブルなバッテリ給電式磁界発生器の概念を示す。(D)は、コイルを通過する3.7mAの電流によってバッテリ上わずか0.2mAの引き込みで発生させた1mT磁界を示す予備デスクトップ装置を示す。
図32】インビトロ試験を示す。(A)37℃(または80℃)のPBSへの浸漬試験を使用して、安定した密封包装を確認することができる。予備データは、安定したピーク・ツー・ピーク電圧を示す、ポリイミド封入磁気電気薄膜の28日間浸漬試験を示す。(B)完全包装されたCMOSデバイスを測定するためには、フレキシブルPCBを使用してワイヤ式構成で電圧波形を記録することもできるし、ワイヤレス構成でLEDの強度および周波数をモニタすることもできる。あるいはまた、カメラによって不安定な測定結果が見られる場合、ファイバをLEDに結合することもできる(図示せず)。
図33】磁気電気(ME)トランスデューサの原理および特性;ワイヤレス電力伝送機構の比較;提案されるMagMoteおよびウェアラブル神経刺激システム概念の図を示す。
図34】適応的動作スキームのシステム図;Vrectのトラッキングにおける4入力コンパレータのロバストネスの向上;クロックのロバストネス分析;測定データ変調度;および変化するVs下でのIstim,maxを示す。
図35】様々な刺激周波数で測定されたMagMoteの波形;電力回復、データ伝送ならびに0.05~1.5mAの振幅、256および512μsのパルス幅を示す二相性刺激のズームイン図を示す。
図36】PBS中のインビトロ装置(左上);様々な距離および刺激波形におけるME電力供給(右上);様々な媒質中で測定されたVrectおよびPin,avgならびに7日間浸漬試験を通してのPin,avgの安定性(下)を示す。
図37】Hydra試験の実験装置(左上);電気刺激に応答する時間整列測定蛍光増増大(右上);最先端ワイヤレス埋め込み型神経刺激装置との比較(下)を示す。
図38】チップ顕微鏡写真、SoC性能概要および電力内訳を示す。
図39】顕微鏡および一定励起光を使用して蛍光画像を取り込む実験装置;提案されるデバイスに接続されたステレオトロード;Hydra中のGCaMP6活性を画像化するために使用されるレーザを示す。
図40】ポータブル磁界ドライバおよびそのシステム図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0046】
発明の詳細な説明
まず図1を参照すると、基本的な模式図が本開示の装置10の局面を示す。以下さらに詳細に説明するように、本開示の例示的な態様は、神経組織を刺激する、生理学的信号を記録するデバイスに給電する、および/または閉ループバイオエレクトロニクス医療のために記録および刺激を結合するように構成されることができる。
【0047】
装置10は、磁界発生器20(この例においてはコイルとして示す)と、磁気電気(ME)薄膜30と、薄膜30の中央部分に結合された電気回路40とを含む。薄膜の中央への回路の結合は、ME薄膜共振の機械的減衰を最小限にするため、最大限の効率にとって重要であり、細胞を刺激することができる電圧振幅を可能にする。
【0048】
図1に示す模式図は、以下さらに詳細に説明する、本明細書に開示される態様の簡略図であることが理解されよう。一般的に、磁界発生器20は磁界を発生させ、その磁界が、薄膜30によって高周波単相性または二相性電圧/電流へと変換されたのち、それが、電気回路40により、コンディショニングされた刺激へと変換される。
【0049】
装置10は、安定かつ効果的な神経刺激を達成するために、コンディショニングされた刺激の振幅および波形を制御するように構成されることができる。特に、電気回路40は、高周波磁界を、図2に示す以下の波形のいずれかへと変換するように構成されることができる。図2は、単相性高周波波形(例えばダイオードを使用して創出)、単相性低周波/エンベロープ波形(例えば、ダイオードおよびコンデンサを使用して創出)、二相性高周波波形(例えば回路および2つの薄膜を使用して創出)および二相性低周波/エンベロープ波形(回路および2つの薄膜または回路および1つの薄膜を使用して創出)を示す。
【0050】
次いで図3を参照すると、本開示にしたがって様々な波形を生成するために使用することができる様々な回路の例。図3に示す図は模式図にすぎず、原寸に比例しないことが理解されよう。例えば、特定の例において、図3に示す回路は、薄膜の端部に結合されているが、例示的な態様は、薄膜の中央部分に結合された回路を含む。また、示される図は、所望の波形を生成するために利用することができる回路のタイプの単なる例示であることが理解されよう。図3に示すように、例示的な電気回路は、所望の波形を生成するために、必要に応じて、整流器、ダイオード、トランジスタ、抵抗器および他の構成部品を含むことができる。
【0051】
特定の態様において、圧電薄膜は、サイズおよび誘電率によって決まる静電容量値を有するコンデンサとして働く。薄膜と並列にダイオードを追加すると、高周波波形にバイアスをかけるクランパ回路が創出される。二薄膜構成においては、トランジスタを追加して、アクティブな薄膜が二相性波形の創出を可能にするための信号を提供する間、非アクティブな薄膜につながる回路がスイッチオフされるようにすることができる。抵抗器を使用すると、組織に印加される波形の電流または電圧を制限し、機能性を試験するために回路を精査するための場所を提供することができる。薄膜およびダイオードと並列にLEDまたはツェナーダイオードを使用すると、薄膜出力電圧をツェナーダイオードまたはLEDの順方向バイアス電圧で上限設定することができる。薄膜と並列にコンデンサを使用すると、波形を平滑化し、図2に示すエンベロープ形体を創出することができる。別々の構成部品を使用することに加えて、エネルギー貯蔵のためのコンデンサを含むこともできる、所望の波形を生成するための集積回路を設計することもできる。
【0052】
単相性または二相性刺激を創出する必要性は、どの症状が治療されるのかに依存する。例えば、図6のパネルDに示すように、慢性腰痛には単相性刺激によって対処し得、パーキンソン病には二相性刺激によって対処し得る。
【0053】
デバイスの安定な効能を維持するために、多くの場合、デバイスが磁界発生器(例えば固定振幅デバイス)に対して動くとき電圧出力を安定させることが重要である。また、組織が変化するとき、デバイスが時間とともに移動するとき、または患者のニーズが変化するとき、刺激の振幅を調節することが重要であり得る(可変振幅)。
【0054】
次いで図4を参照すると、固定振幅および可変振幅構成の様々な局面が示されている。刺激の振幅をコンディショニングするために、デバイスは固定振幅構成で作動することができ、それは、第一のダイオードと並列にLEDまたはダイオードを追加することによって達成することができる。そのような態様において、順方向バイアス電圧がデバイスの上限電圧を設定する。これらの構成は、磁界強度が広い区域で変化する用途に有益であることができる。
【0055】
デバイスはまた、刺激の振幅をコンディショニングするために可変振幅構成で作動させることもできる。そのような構成は、パルス幅変調を使用して、高周波磁界パルスの持続時間または周波数を変更することにより、刺激振幅を増減することができる。
【0056】
特定の態様は周波数偏移を利用し得る。例えば、特性評価された薄膜の共振からわずかに離れるように磁界周波数を変えることにより、出力電圧を下げることができる。これは、パルス長を長くする必要があり、かつ振幅を低めに維持する必要がある用途に有用である。
【0057】
特定の態様はまた、パルス持続時間制御を使用し得る。例えば、非常に短いパルスの場合、薄膜を特性評価し、計算された立ち上がり時定数を使用して、所望の電圧を達成するために必要な磁界パルスの回数を決定することができる。これは、パルス時間が非常に短い用途における振幅制御に有用であることができる。
【0058】
加えて、特定の態様は、プログラム可能な関数を利用してデバイスをプログラムし得る。例えば、磁界を介してデータを伝送して、必要に応じて電気回路中で刺激モードを切り替えることができる。
【0059】
ME薄膜の共振周波数は細胞が応答するには速すぎるが(約50~500kHz)、本発明者らは、ゆっくりと変化するエンベロープをこの高周波キャリアに印加して、電気興奮性細胞を刺激することができる。例えば、本発明者らは、一連の短い高周波パルス(持続時間約1ms)を印加し、ダイオードを使用してME応答を整流することにより、130Hz(DBSに典型的な治療用周波数)で刺激パルス列を創出することができる。
【0060】
例示的な態様は、磁気刺激の性質を変えることにより、MEデバイスによって生成された電圧を、従来のDBS刺激に一致するように動的に調節することができる。例えば、ME薄膜と直列にコンデンサおよび抵抗器を加えることにより、所望のパルス列(130Hz)に比べて速く、かつキャリア周波数(約100kHz)に比べて遅いRC時定数を操作することができる。この場合、薄膜が、薄膜に充電するための時定数によって決定される電圧に達するよう、高周波磁気パルスの持続時間またはデューティサイクルを調節することができる。
【0061】
次いで図5を参照すると、本開示の例示的な態様のシステム100のより詳細な模式図が提供されている。システム100は第一の磁気電気薄膜110および第二の磁気電気薄膜120を含む。他の態様は1つの磁気電気薄膜しか含まなくてもよいことが理解されよう。システム100はさらに、永久磁石132と交流磁気コイル134とを含む磁界発生器130を含む。図示する態様は、磁界発生器において永久磁石を利用するが、他の態様は、磁界発生器において電磁石を利用してもよい。特定の態様において、磁界発生器130は、20~500kHzの周波数で磁界136を発生させるように構成されている。
【0062】
図示する態様において、第一および第二の磁気電気薄膜110および120は、磁界発生器130によって発生した入力周波数の磁界136によって刺激されたとき電気出力信号146を生成するように構成されている。特定の態様において、電気回路140は、電気出力信号146が0.5~1000Hzの出力周波数を有するように電気出力信号を変更するように構成されている。以下さらに詳細に説明するように、電気回路140は、様々な構成部品、例えば1つまたは複数の整流器142、トランジスタ144および抵抗器148を含み得る。電気出力信号146は、ステレオトロード150を介して伝送されて、生体試料160(例えば脳組織)中のニューロンを活性化することができる。
【0063】
特定の例示的な態様において、磁気電気薄膜110および120は、圧電層、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)および磁気歪層(例えばMetglas)を組み合わせて磁気電気(ME)薄膜を形成することによって製造することができる。具体的な態様においては、はじめに、接着および清浄な表面を促進するために、2つの層をプラズマ処理する。次いで、厚さ約30μmのエポキシ層の塗布によって層どうしを接着することができる。硬化したならば、サブミリメートルスケールでデバイスをカットすることができるフェムト秒レーザシステムを使用して複合薄膜をカットすることができる。
【0064】
薄膜上の高電圧をインテロゲートするために、銀プリントまたは銀導電性エポキシを使用して、マイクロワイヤを薄膜の中央部分に結合することができる。電気回路140は、高電圧および高周波数に到達するための磁気コイルドライバとして働くための新規なHブリッジ回路を含むことができる。本明細書に開示される具体的な製造方法および材料は単なる例示であり、本開示の態様はそのような方法および材料に限定されないことが理解されよう。
【0065】
特定の態様において、磁気電気薄膜110および120は、圧電ポリマー(PVDF-TrFE)をスピンコートする、PZT圧電セラミック材料を使用する、またはPVDFナノファイバのエレクトロスピニングおよび直接書き込み法を使用することによって製造することができる。具体的な態様において、ME薄膜が、ドライバおよび永久バイアス磁石またはDCバイアスコイルによって発生した交番磁界と接触すると、薄膜は共振し、最大50Vのピーク・ツー・ピークを生成する。適切な回路を薄膜に電気的に結合して、以下に説明する例を含む、所望の出力電圧波形を得ることができる。
【0066】
特定の態様においては、酸化亜鉛(ZnO)ナノ粒子をドープされたPVDF薄膜をはじめとする他の磁気歪材料を利用してもよい。チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)のような高い圧電係数を有することは、より高いエネルギー出力およびハーベスティングのための材料の製造において有益である。PVDFは、PZTよりも圧電性が低い圧電ポリマーであるが、柔らかいコンフォーマルな材料であり、PVDFに埋め込まれたZnOナノ粒子が、主に複合薄膜の誘電率を高めることにより、その圧電性を高めることが示されている[48]。
【0067】
ZnOナノ粒子を組み込む態様の詳細な説明および動作原理のさらなる説明は、以下の実施例および結果の詳述においても見ることができる。
【実施例
【0068】
以下の実施例は、本開示の好ましい態様を実証するために含まれる。以下の実施例に開示される技術は、本開示の実施において良好に機能することが本発明者らによって見いだされた技術を表し、したがって、その実施のための好ましい形態を構成するものとみなすことができることが当業者には理解されるべきである。しかし、当業者は、本開示に照らして、開示の精神および範囲を逸脱することなく、開示される具体的な態様に数多くの変更を加えることができ、それでもなお、同様または類似の結果を得ることができることを理解するべきである。
【0069】
設計課題
ワイヤレス神経刺激装置の主な課題の1つが、動物または人患者が通常の活動に従事するとき骨および組織の下で確実に作動する効率的な小型デバイス(長さ<1cm)を創出することである。1cm未満の長さでは、デバイスは周辺に完全に埋め込まれ、制限のない動物行動を許すのに十分な軽さになることができるが、これほど小さいデバイスの場合、電力供給が課題として残る。伝搬電磁波による効率的な電力伝送は、電磁波長に匹敵し得る形体サイズのアンテナを必要とする。したがって、提案されているRF給電式「ニューログレイン[6]」などのサブミリメートルデバイスの場合、効果的な電力伝送周波数は、電磁放射線が体によって吸収されるところのGHz範囲にある[7]。この無線周波数電磁エネルギーの吸収が、組織深部にあるインプラントに安全に供給することができる電力量を制限する[7]。結果として、研究者は通常、埋め込みデバイスに給電するために磁気誘導またはバッテリに目を向ける。しかし、これらの技術は小型化の程度をも制限する。バッテリがデバイスのサイズを増し、かなりの重量を加える。加えて、バッテリは交換または充電が必要であり、それが潜在的用途を制限する場合がある。他方、誘導結合コイルは、バッテリよりも小型かつ軽量にすることができるが、受信コイルが生成することができる電力は、コイルの区域によって捕捉される磁束の量に直接関連する。したがって、レシーバコイルが小型化されると、出力電力が減り、トランスミッタとレシーバとの間の距離または角度の摂動に対してより敏感になる[8]。例えば、Freemanらは、直径1mm未満の小さな誘導コイルが、麻酔したラットにおける坐骨神経のための刺激装置に給電することができることを実証した[9]。しかし、このデバイスは、その現在の形態では、レシーバコイルとトランスミッタコイルと間の角度および距離の変化に伴う電力結合効率の低下のせいで、自由に動く動物において安定した刺激を提供することは困難である。
【0070】
加えて、神経刺激装置がパーキンソン病(PD)、強迫性障害およびてんかんなどの多くの神経学的障害を治療するためには、100~200Hzの高周波「治療バンド」で安全かつ効果的に作動しなければならない[10~12]。このタイプの高周波神経刺激は、電気分解、組織損傷および局所pHの変化を防ぐために、連続する刺激パルスの合間に電極上の電荷を散逸しなければならないため、困難である[13]。高周波数における電荷散逸は、サイクルごとに電極をアクティブまたはパッシブに充放電する二相性刺激波形を使用することによって達成される。実際、この治療バンドにおける臨床的に承認されたすべての電気的神経刺激療法は様々な形態の「電荷平衡」二相性刺激波形を使用する[14]。
【0071】
最近、磁気誘導およびバッテリに代わるいくつかの有望な代替が小型神経刺激装置を可能にした。しかし、これらの手法は、自由に動く動物において治療用高周波バンドにおけるインビボ動作をまだ実証していない。MontgomeryらおよびHoらは、マウスの体を電磁共振空洞として使用して、動物の体内に埋め込まれたサブ波長スケールデバイスにエネルギーを効果的に伝送することができることを示した[15、16]。この手法は、光遺伝学的刺激のための小さなLEDを駆動する場合に特に効果的である。しかし、電気波形は単相性であるため、電気刺激は<20Hzに制限されている。超常磁性ナノ粒子を使用して高周波(500kHz)磁界からエネルギーを吸収することにより[17]、自由に動く動物の脳の特定の領域[18、19]を加熱することができる[19]。この局所加熱は、標的の脳領域が温度変化に反応するように遺伝子改変されている場合、神経活動を刺激することができる[18、19]。しかし、この手法は、遺伝子組換えを必要とし(規制の複雑さを増す)、また、刺激間隔の合間に組織を冷却する必要があるため、高周波動作をまだ示していない。超音波が、バイオエレクトロニクスインプラントに給電するための有望かつ効率的な方法を提供する。理由は、超音波波長は、同じ周波数で電磁波よりも105倍小さく、サブミリメートルサイズのデバイスが波長スケールの圧電アンテナを有することを可能にするからである[20、21]。しかし、これらの「ニューラルダスト」モートの実現は、空気、骨および組織の間のインピーダンス不整合が効率的な電力伝送のために軟部組織と超音波トランスデューサとの接触を要求するため、自由に動く動物においては困難になる場合がある。結果として、自由に動く動物における超音波給電式神経刺激装置はいまだ実証されていない[22]。
【0072】
ここで、本発明者らは、磁気電気(ME)材料が、治療用高周波バンドで作動する初めての磁気給電式小型神経刺激装置を可能にすることを示す。誘導コイルと同様に、これらの材料は磁界を電界へと変換するが、埋め込みコイルを使用する代わりに、本発明者らは、薄膜中で磁気歪層と圧電層との機械的結合を介して電圧を生成する材料を使用する。すなわち、磁界は、磁気双極子が印加磁界と整列したとき磁気歪層中に歪を発生させる。その歪が圧電層に力を加え、圧電層が電圧を生成する(図5)。この変換機構を利用することにより、磁気電気材料は、コイルと同じ小型化制約を受けず、数ミリテスラ程度の弱い磁界によって駆動させることができる。これらの性質が、研究者がバイオエレクトロニクスインプラントに有望な材料として磁気電気材料を提案することを導いた[23~27]。ここで、本発明者らは、パーキンソン病(PD)のための自由に行動するげっ歯類モデルにおいて、ME材料に基づく初めての原理証明ワイヤレス神経刺激装置を実証し、これらの材料が人の脳内深くにある小型デバイスに給電することができることを実証する。
【0073】
ME刺激装置の製造および特性評価
本発明者らは、長方形の磁気歪層(Metglas)を白金コートされた圧電層ポリフッ化ビニリデン(PVDF)に結合することにより、原理証明ME刺激装置を製造した。次いで、本発明者らは、薄膜を保護用パリレンC層(厚さ8~10μm)に封入した(図6のパネル(a)を参照。また、「方法」セクションを参照)。この態様は、28~110μmのPVDF層を組み込み、これにより、50~150μmの全デバイス厚を生じさせた。他の態様は、例えば、同じくPZTとも呼ばれるチタン酸ジルコン酸鉛をはじめとする代替またはさらなる圧電材料を含んでもよい。
【0074】
図6は、ME薄膜が交番磁界を電圧へと変換する方法の概要を示す。図6のパネル(a)には、ワイヤレス神経刺激のための、自由に動くラットにおけるMEデバイスの図が示されている。図示する態様において、アクティブなME要素は、パリレンCによって封入された圧電PVDF(青色)およびMetglas(灰色)ラミネートを含む。挿入図は、灰色の磁気歪層を磁化するとき生成された歪が青色の圧電層に伝達され、それが、薄膜にかかる電圧を創出するという動作原理を示す。図6のパネル(b)においては、ME薄膜の共振応答曲線の例が、磁界周波数が171kHzの音響共振と一致するとき最大電圧が生成されることを示す。薄膜にかかる電圧を測定すると、印加された磁界周波数が音響共振周波数と一致するとき、劇的な電圧増大が見られた。写真挿入図は、組み立てられたME刺激装置の例を示す。「応力プロファイル」挿入図は、有限要素シミュレーションオン/オフ共振(COMSOL)によって計算された、ME薄膜中で生成された応力の上面図を示す。図6のパネル(c)には、バイアス磁界を印加するための永久磁石と、交番磁界を印加するための電磁コイルとを備えたデバイス試験装置が示されている(スケールバー:上図=1cm、下図=2mm)。
【0075】
図6のパネル(d)は、二相性および単相性動作におけるMEデバイスの最大刺激持続時間(周波数を増しながら400μs/位相パルスを繰り返し使用)を示す。この例において、最大刺激時間は、気泡によって証明される、生理食塩水中のステレオトロード上の電気分解の時間によって決まる(エラーバー±1標準偏差、試行回数n=4)。破線は、様々な臨床用途において使用される電気刺激の周波数を示し、二相性動作が多くの臨床的に適切な用途に必要であることを示す。ローマ数字は、以前に公表された小型磁気刺激装置によって実証された刺激周波数を示す(i:Magnetothermal, Chen et. al, 2015、ii:Magnetothermal, Munshi et. al, 2017、iii:Mid-Field Optogenetics, Montgomery et. al, 2015、iv:RF Inductive Coupling, Freeman et. al, 2017)。
【0076】
共振周波数は薄膜長の逆数に比例するため、図7に示すように、複数の薄膜を設計し、刺激周波数を変えることによってそれらを選択的にアクティブ化することができる。この原理を使用して、本発明者らは、異なる磁界周波数を使用して、体の異なる領域にあり得る別々のデバイスをアクティブ化する、または2つの異なる薄膜(それぞれが神経刺激の正相または負相を駆動)のインタリーブ式共振刺激によって二相性刺激装置を創出することができる。図7は、ME特性を薄膜サイズの関数として示す。パネル(a)は、データを収集するために使用される実験装置の模式図を示す。3つの異なるPVDF厚さ:28(青)、52(赤)および110(黄)μmのME薄膜に関して試験を実施した。図7のパネル(b)は、共振周波数を薄膜長の関数として示し、パネル(c)は、出力電圧を薄膜長の関数として示し、パネル(d)は、出力電圧を薄膜表面積の関数として示し、パネル(e)は、Q値を薄膜長の関数として示す。
【0077】
図7のパネル(f)は、厚さ52umのPVDFの場合の最大出力を薄膜幅の関数として示し、パネル(g)は、PVDF厚さに対してプロットされたピーク共振電圧を示し、ピークME電圧がPVDF厚さとともに増大することを示す。エラーバーは、厚さごとのn≒50薄膜の±1標準偏差を示す。図7のパネル(h)は、ME電圧を薄膜とコイルとの間の角度の関数として示す。青色の領域は、電圧が予想刺激電圧よりも大きい作動角度の範囲を示す。
【0078】
図6のパネル(c)に示すように、永久磁石または電磁石によって一定のバイアス磁界を印加することにより、ME薄膜によって生成される電圧をさらに高めることができる。磁気歪材料の歪は磁界強度のシグモイド関数であるため、図8に示すように、磁界がシグモイドの中点を中心に振動するとき、交番磁界によって生成される電圧の変化が最大になる[28、29]。図8は、薄膜出力電圧をバイアス磁界の関数として示す。ピーク共振電圧は、永久磁石によって発生させることができる適度なバイアス磁界によって有意に高められる。
【0079】
したがって、バイアス磁界を使用して、シグモイド磁気歪応答曲線の中心の近くの磁界をオフセットすることができる。このバイアス磁界は、本発明者らが、図9に示すような、電磁コイルと、交番磁界の周波数およびタイミングを指定するカスタム制御回路とを使用して、小さな(数mT)交番磁界を印加しながら治療電圧レベルを生成することを許す。図9は磁界ドライバの局面を示す。図9のパネル(a)は、磁界ドライバの主要構成部品の模式図を示し、破線が、パネル(b)に描画されている構成部品を示す。図9のパネル(c)は、単相性刺激の場合の出力波形と、ドライブソフトウェアによって制御することができるパラメータとを示し、パネル(d)は、二相性刺激の場合の出力波形と、ドライバソフトウェアによって制御することができるパラメータとを示す。
【0080】
ME刺激装置の動作周波数を識別するために、本発明者らは、生理食塩水中でそれらを試験し、二相性刺激波形の場合に、有意な加水分解なしで少なくとも800Hzまで一定の刺激を印加することができることを見いだした。この試験のために、本発明者らは、生理食塩水中のステレオトロード(マイクロプローブ)に取り付けられた、単相性刺激のための1つの薄膜または二相性刺激のための2つの薄膜のいずれかを作動させた(「方法」を参照)。次いで、本発明者らは、加水分解の結果として生じる電極チップにおける気泡を認めることができる時間を測定した。この加水分解事象は、周囲の組織を損傷するであろう状態を暗示する。本発明者らは、単相性刺激波形の場合、50Hzを超える刺激周波数が加水分解を生じさせるが、二相性電荷平衡刺激は、800Hzの最大試験周波数まで加水分解を示さないことを見いだした。以前に実証された小型磁気神経刺激装置と比べて、ここで示される二相性MEデバイスは、パーキンソン病および強迫性障害の治療などの臨床用途に使用される高周波バンドに初めてアクセスするものである(図6のパネル(d)に示す)。
【0081】
任意のワイヤレス給電式神経刺激装置のさらなる課題は、十分に制御された刺激電圧を維持することである。この課題は、デバイスが小さくなるにつれ特によく見られるようになり、それが、多くの場合、電力伝送効率を低下させて、デバイスと電力トランスミッタとの間の整列に対する感度の増大を生じさせる。ME材料は、デバイスが小さくなり、ドライバコイルに対して動くときでも安定かつ効果的な刺激を可能にすることができる2つの主な利点を提供する。
【0082】
まず、MEデバイスは、有効刺激電位をゆうに超える電圧を生成して、材料がドライバコイルと整列しない場合でさえ効果的であることを可能にする。本発明者らは、共振状態で、わずか1mTの電界強度で30Vを超えるME電圧を測定した(図7のパネル(c)および(d)に示す)。有効刺激電圧は通常1~5Vであるため、本発明者らは、LEDまたはツェナーダイオードを使用して、印加電圧をこの有効刺激範囲に上限設定することができる。ME薄膜によって生成される電圧が上限設定電圧以上である限り、本発明者らは、ドライバコイルとME薄膜との間の角度または距離にかかわりなく、ほぼ同じ刺激電圧を印加する。本発明者らは、典型的な薄膜の場合、薄膜を±80°方向転換し、3Vを超える電圧を維持することができることを見いだした(図7のパネル[h])に示す)。この大きな角度許容差は、Metglas層の高い透磁率によって支援され、それが、磁力線を薄膜の長軸に沿って向ける(磁気歪応答を創出するのにもっとも効果的)のに役立つ。
【0083】
第二に、圧電材料によって生成される電圧は、薄膜の面積ではなく圧電層の厚さに依存し[30]、本発明者らが、より大きなデバイスとほぼ同じ刺激電圧を生成する小さな磁気電気薄膜を製造することを許す。図7は、様々な面積のME薄膜の場合に生成されたピーク電圧およびQ値を示す。本発明者らは、厚さ52μmのPVDF層の場合、薄膜長が減少しても、電圧は約10Vのままであることを見いだした。ピーク電圧およびQ値の±40%の変動は、薄膜製造中に生じた欠陥のせいである可能性が高く、製造の改善によって減らし得る。本発明者らはまた、PVDFの3つの異なる厚さ(28μm、52μmおよび110μm)を有するMEデバイスからのピーク電圧を測定することにより、出力電圧が圧電薄膜厚のみに依存することを検証した。予想どおり、ピーク電圧はPVDF厚さとともに線形に増大し、薄膜厚さとは無関係であることを見てとることができる。本発明者らは、所与の厚さおよび長さ/幅比>3の場合、MEデバイスによって生成される電力が薄膜幅に比例することを計算(かつ、実験的に確認)した(図7のパネル[f]を参照)。本発明者らは、薄膜が小さくなるにつれて電力が減少するにもかかわらず、長さ1cm未満の薄膜が最大で4mWを生成することができると計算する。これは、神経刺激をはじめとする数多くのワイヤレス用途にとって十分すぎる[31]。
【0084】
ME薄膜による単相性刺激はインビトロで活動電位を誘発する
本発明者らは、培養細胞中の電圧を画像化するために蛍光顕微鏡検査法を使用して、ME薄膜による100Hzで50ms間の単相性刺激が活動電位(AP)を確実に刺激することを見いだした。これらの実験のために、本発明者らは、ナトリウムおよびカリウムチャネルを発現するように改変された「スパイキング」ヒト胎児腎(HEK)細胞株を使用した。これらの細胞は、培養のコンフルエンシーに依存して数秒間持続することができる、長方形であるスパイク状の電気波形を有する[32]。磁気刺激と活動電位生成との間の相対的タイミングを決定するために、本発明者らは、ArcLight33(蛍光顕微鏡検査法を使用して活動電位を測定することを許す遺伝的にコードされた電圧指標)をこれらの細胞にトランスフェクトした。
【0085】
次いで図10を参照すると、インビトロで細胞を活性化する単相性ME刺激装置の局面が示されている。図10のパネル(a)は実験装置の模式図を示し、パネル(b)は、ME薄膜に打ち抜かれた穴の顕微鏡画像を示し、電界の有限要素シミュレーションが、それらの穴が、培養細胞とオーバラップするフリンジ電界を発生させることを示す。図10のパネル(c)および(d)は、磁界がそれぞれオン共振状態およびオフ共振状態であるときME薄膜にかかる電圧を示す。挿入図は、高周波キャリア波形の拡大図を示す。図10のパネル(e~g)は、ArcLightをトランスフェクトされたスパイキングHEKからの蛍光を示し、これは、活動電位が、共振状態で駆動されるME薄膜によっては誘導されるが(パネル[e])、薄膜がオフ共振状態で駆動されるときには誘導されない(パネル[f])ことを示す。GFPをトランスフェクトされたHEK細胞からの蛍光は、ME薄膜がオン共振状態で駆動されたときには応答を示さず、測定されたArcLight応答が膜電位差の変化の結果であり、ME薄膜の磁界または音響共振のアーチファクトではないことを確認する。
【0086】
本発明者らが磁界を印加したときの蛍光を画像化するために、長さ10cmのソレノイドの中心(3cmの間隙がある)にある対物レンズの下に細胞およびME薄膜を配置することを許す実験装置を開発した。この構成は、図10のパネル(a)に示すように、ME薄膜、細胞および対物レンズを印加磁界の中心に配置することを可能にした。間隙の両側に配置された2つのわずかに大きめのコイルが定バイアス磁界を提供する。
【0087】
次いで、本発明者らは、2つの実験構成:(1)直接ME薄膜上で細胞を増殖させる構成(図11に示す);および(2)ME薄膜の上に細胞が付着した状態でカバースリップを配置する構成(図10に示す)を使用して、埋め込みME刺激装置を近似した。図11は、直接ME薄膜上で増殖させた細胞のME刺激を示す。図11のパネル(a)は実験装置の模式図を示す。図11のパネル(b)は、打ち抜かれた穴の周囲の領域に付着した固定細胞の顕微鏡画像を示す(Hoechst/Calcein-AM、固定前に細胞を標識)。図11のパネル(c)は、磁界がオン共振状態であるときのスパイキングHEK細胞のArcLight蛍光を示し、図11のパネル(d)は、磁界がオフ共振状態であるときのそれを示す。
【0088】
直接ME薄膜上で細胞を培養するために、本発明者らは、最上パリレン層をポリ-l-リジンでコートした。MEデバイス上のHEKの健全な増殖は、この封入手法が、ME材料が細胞増殖を制限するのを防ぐことを示す(図11、パネル[b])。しかし、典型的な使用例において、標的細胞はME刺激装置に付着しないおそれがあるため、本発明者らはまた、ME材料の上に配置された細胞の応答を試験した。この構成において、本発明者らは、はじめにカバースリップ上で細胞を3~5日間増殖させたのち、カバースリップを反転させ、試験に備えてME上に配置した(図6、「方法」を参照)。
【0089】
培養細胞と相互作用するフリンジ電界を創出するために、本発明者らは、図10のパネル(b)に示すように、ME薄膜に穴を打ち抜いた。他の点では、薄膜は、本明細書に記載されるように製造した(図6、「方法」)。ME薄膜およびPt電極を使用する実験において、本発明者らは、細胞膜の低域濾波性によって予想されたように、ME共振周波数(通常は20~150kHz)の高周波二相性刺激が、培養HEK中で活動電位(AP)を刺激する効果を有しないことを見いだした[9]。効果的な単相性刺激波形を創出するために、本発明者らは、ショットキーダイオードを使用して電圧を整流して、ダイオード方向に依存して完全に正または負の電圧波形を創出した。この整流された波形は、細胞が応答するところの<500Hz周波数バンド内でゆっくりと変化する単相性エンベロープを有する(図10のパネル[c]および[d])。
【0090】
直接ME薄膜上で成長させた細胞と、接触状態に配置した細胞の両方に関し、本発明者らは、100Hzのエンベロープ周波数を有する5つの刺激パルスが、スパイクキングHEK細胞においてAPを一貫して刺激することを見いだした(図10のパネル[e]、図11のパネル[c])。有意なことに、この10~500Hz刺激周波数は、多くの脳深部刺激療法の治療ウィンドウに及び[34]、オンボードコンデンサに充電することによって低効能エネルギーハーベスティングを補償する他のワイヤレス刺激装置を用いて達成することは困難である[35]。本明細書に開示される実験の場合、磁界のキャリア周波数はデバイスの共振周波数であり、それは、デバイス長に依存して20~40KHzの間で変化した。刺激信頼性を試験するために、本発明者らは、30秒間にわたって5パルス刺激を3回繰り返した。本発明者らは、カバースリップ上のn=43の細胞および薄膜上で増殖させたn=144の細胞において刺激パルスごとにAPを観測した。本発明者らは、磁界が共振周波数の外へ整調されたときの電圧感受性蛍光を画像化することにより、ME薄膜によって刺激されたAPが、実際に薄膜の共振励起の結果であり、印加磁界のアーチファクトではないことを確認した。非共振励起の場合、本発明者らは、スパイキングHEKにおいて印加磁界と蛍光検出されたAPとの間の相関関係を認めず(図10のパネル[f]、図11のパネル [d])、APが共振状態のME薄膜によって刺激されたという結論を支持する。本発明者らはまた、電圧非依存性細胞質GFPをトランスフェクトされた細胞を画像化することにより、記録された蛍光シグナルが実際に電圧依存性ArcLight応答を表すことを確認した。これらの細胞は、薄膜が共振周波数で駆動されたとき蛍光の変化を示さなかった(図10のパネル[g])。
【0091】
ME薄膜による二相性刺激は脳切片において活動電位を誘発する
上記のように、二相性刺激は、電極表面13における電荷蓄積および望ましくない電気化学反応を減らす電荷平衡刺激を創出する要望により、大部分の用途に好ましい。共振状態でME薄膜によって生成される電圧波形は二相性であるが、これらの共振周波数(通常は20~150kHz)は、上記のように確実な細胞刺激を生成するには高すぎる。治療ウィンドウ(100~200Hz)内で効果的な二相性刺激を創出するために、本発明者らは、同じ刺激電極に接続された異なる共振周波数を有する2つの薄膜を使用する(図12のパネル[a])。第一の薄膜は、正パルスを生成するように向けられている全波整流器に取り付けられ、第二の薄膜は、負パルスを生成する全波整流器に取り付けられている。
【0092】
トランジスタは、一方の薄膜によって生成された電流が他方の薄膜に取り付けられた回路を通って伝搬するのを阻止して、一度に回路の半分だけがアクティブになることを保証する。磁界周波数を2つのME共振周波数の間で切り替えることにより、本発明者らは、正相刺激と負相刺激とを交番させて二相性神経刺激装置を創出することができる(図12、パネル[b~d])。この場合、<2msで放電する-2.3nCの残留電荷は、この刺激装置が、電荷を蓄積することなく、>500Hzの周波数で安全に作動することができることを暗示する。
【0093】
本発明者らは、GABA作動性ニューロン中の遺伝的にコードされたカルシウム指標GCaMP3を発現するマウス由来の新皮質脳切片を使用して、二相性ME刺激装置が神経刺激を繰り返し加えることができることを見いだした。ME刺激後の神経活動を画像化するために、本発明者らは、上記ステレオトロード取り付け二相性ME刺激装置を挿入し、その間、蛍光顕微鏡検査法を使用してGCaMP活動を画像化した(図12のパネル[e~g]、「方法」)。本発明者らは、脳深部刺激に一般に使用されるものに類似する神経刺激パラメータ[34](100の200Hz二相性パルス。各相が175μs間持続)を選択した。磁界がオンであるとき、本発明者らは、新皮質層5におけるn=23の記録において、活動媒介カルシウム増加と一致する対応する蛍光の増大を認めた。テトロドトキシン(TTX、500nM)の浴適用ののち、n=9の記録において蛍光の増大は完全に阻止されて、ME刺激が近くのニューロン中でナトリウムチャネル依存性活動電位を確実に誘発することを確認した。
【0094】
要約すると、図12は、エクスビボ脳切片中でニューロンを活性化する二相性ME刺激装置の局面を示す。図12のパネル(a)は、二相性刺激のための2つのME薄膜を用いる実験装置の模式図を示す。この装置は、図1に記載された態様に類似しているが、観察のための顕微鏡対物レンズを含む。図12のパネル(b)は、磁界発生器によって生成された測定電圧波形を示す。磁気コイルに結合されると、この波形は、2つのME薄膜の共振周波数の間で交番する磁界を発生させる。図12のパネル(c)は、ステレオトロードにかかる測定電圧を示し、これは、予想された二相性パルス形状を示す。図12のパネル(d)は、負荷抵抗器(VR)にかかる電圧の測定に基づいて計算された電流を示し、パルス列ごとに電極に蓄積する電荷がわずか2.3nCである、ほぼ完璧な電荷平衡を示す。図12のパネル(e)は、マウス皮質中のステレオトロードの明視野画像(スケールバー=1mm)を、ステレオトロードチップの周囲600μm×600μmの領域で平均化されたGCaMPシグナルの挿入図とともに示す。矢印は、ステレオトロードの近くで蛍光を発する細胞体を示す。図12のパネル(f)は、共振磁界を印加したときの平均GCaMPシグナルを、TTXを加える前(パネル[f])と加えた後(パネル[g])とで示し、神経活動がME刺激装置によって誘発されることを示す。細い緑色のトレースは2つの異なる脳切片からの別々の実験を表し、太い黒色のトレースは全実験の平均を表す。
【0095】
自由に動くラットにおけるME神経刺激は行動的効能を示す
本明細書に開示されるME刺激装置の主な利点は、遠隔アクティブ化が自由に行動する動物での実験を可能にするという事実である。原理証明として、本発明者らは、図13に示すように、二相性刺激装置を、自由に動くラットにおける脳深部刺激療法(DBS)に適合させた。ME刺激装置効能を試験するために、本発明者らは、ヘミパーキンソン病ラットにおいてDBSを試験するための、以前に報告されているプロトコル[36]を使用した。これらの実験においては、ラットの左内側前脳束(MFB)に6-OHDAを注射して、黒質緻密部(SNc)の片側病変を作出する。次いで、ラットを直径30cmの円形囲いに入れる。メタンフェタミン投与後、ヘミパーキンソン病ラットは、注射と同じ側に回転することが示された(例えば、左MFBへの注射の場合には左側)。これらの回転中、ラットは主に反対側(右)前足を使用して動き、同側(左)前足を地に付けることはめったにない。つないだ電極アレイ刺激装置を使用して視床下核(STN)に200Hzで二相性刺激を印加すると、ラットは通常、左への回転を停止し、両前足で動く、安定した向きを維持する、または反対側に回転するなど、より正常な行動を示す[34]。
【0096】
自由に動く動物のためのワイヤレス二相性ME刺激装置を創出するために、本発明者らは、バイアス磁界を発生させるための小さな永久磁石をME刺激装置に加え、行動チャンバを18AWG銅線で包んでソレノイドを創出した(図13のパネル[a]、図14)。小さな永久磁石(<0.25g)をME刺激装置に組み込むことにより、本発明者らは、ラットが囲い内で動くときバイアス磁界が常にME薄膜と整列することを保証した。本発明者らはまた、各薄膜と永久磁石との間の距離を独立して調節することにより、正の刺激と負の刺激とが等しい振幅を有することを保証した。次いで、このME刺激装置を、STNに埋め込まれた市販の電極アレイ(マイクロプローブ)に接続した(図13のパネル[b]、「方法」)。本発明者らは、脳の等価回路モデルに接続されたME刺激装置の出力を測定することにより、刺激電圧および電流が安全な治療範囲内にあることを保証した(図13のパネル[c]、「方法」)。具体的には、本発明者らは、400usの場合、約50%のデューティサイクルで約±1.5Vのピーク電圧および約±100μAのピーク電流を観測し(相あたりの全電流200μs)、これは、従来のワイヤ付き刺激装置に関して報告されている有効刺激[36]の範囲内である。本発明者らが磁界周波数をオフ共振に整調すると、生成される電圧または電流はほとんど観測されない(図13のパネル[c])。
【0097】
図13には、ワイヤレスME刺激装置を使用する、自由に動くラットにおける効果的なDBSが示されている。図13のパネル(a)は、マグネットワイヤで包まれた円形囲い内のラットを示す実験装置を示す。挿入図は、1セント硬貨上の二相性ME刺激装置を示す。図13のパネル(b)は、STNに埋め込まれている電極アレイに取り付けられた二相性ME刺激装置の模式図を示す。図13のパネル(c)は、MEデバイスによって生成された測定電圧と、オン共振状態(緑)およびオフ共振状態(青)で脳に印加された電流とを示す。磁界周波数が共振条件と一致する場合のみ、約100μAの二相性刺激が印加される。図13のパネル(d)は、共振刺激および非共振刺激の間隔を用いる40分間のDBS試行におけるヘミパーキンソン病ラットの角速度を示し、刺激装置が共振磁界によってアクティブ化された場合のみ回転が減ることを示す。図13のパネル(e)は、cで示された2つの30秒間隔にわたりラットの頭の位置を示す典型的な軌跡を示す(スケールバー=5cm)。図13のパネル(f)は、40分間の実験中の間隔ごとに刺激前30秒間および最初の30秒間の刺激中のラットの平均角速度を示し、ME薄膜がオン共振状態でアクティブ化された場合のみ角速度における明らかな減少を示す(***P=4×10-7、n.s.=非有意P=0.70、対応のあるt検定)。
【0098】
本発明者らは、自由に行動するラットの頭部に取り付けられた二相性ME刺激装置のワイヤレスバージョンを試験し、ME刺激が、以前に報告されているワイヤ式DBS刺激装置に匹敵する効能を示すことを見いだした。本発明者らは、共振状態で磁界が印加されると、図13のパネル(d)の緑色の間隔に示すように、1分周期の200Hz二相性パルスがラットの回転速度における有意な低下をもたらすことを見いだした。この回転の減少は、図13のパネル(d)の青い間隔に示すように、磁気刺激周波数がオフ共振に整調された場合には認められなかった。頭部軌跡のプロットは、ME刺激装置が共振磁界刺激中にアクティブである場合、オフ共振磁界刺激中に認められた病的回転が存在しないことを示す(図13パネルの[e]、「方法」)。全試行で平均すると、刺激の前半中の平均回転速度は、刺激の非存在における9.3rpmまたはオフ共振刺激中の9.4rpmと比べ、統計的に有意な毎分1.6回転(rpm)に低下した(対応のあるt検定、図13のパネル[f])。本発明者らはさらに、2匹目のラットに対してこの刺激プロトコルを繰り返すことによってこの刺激装置の再現性を実証し、類似の結果を見いだした(図14のパネル[b])。
【0099】
図14のパネル(a)は、チャンバ内の磁界強度のCOMSOLシミュレーションにオーバーレイする交番磁界を発生させるために使用されたワイヤの位置および間隔ならびにドライバの数を示す模式図を示す。図14のパネル(b)は、ラット2における回転試験の結果を示す。刺激前30秒間および刺激の最初の30秒間の角速度は、ME薄膜がオン共振状態でアクティブ化された場合のみ、角速度の明らかな減少を示す(***P=1.5×10-8、n.s.=非有意P=0.27、対応のあるt検定)。
【0100】
0.67gの重量で、ここに記載されるME刺激装置は、初めて報告される小型磁気高周波刺激装置である。さらに、外部駆動コイルの周波数およびタイミングを変更することにより、本発明者らは、100~200Hzの治療ウィンドウ全体で、他の疾患モデルにも適用可能である多様な刺激パターンを生成することができる。加えて、磁界強度の計算は、本発明者らが、動物囲いの床下にコイルを配置することにより、数多くの行動実験のために駆動コイルを再構成することができることを示唆する。有限要素シミュレーションおよび測定は、駆動コイルから上に4~5cmの距離でさえ、ME薄膜が刺激に十分な電圧を生成することを示す(図15)。この距離は、コイルの形状寸法を最適化する、または磁界の力を高めることにより、さらに改善することができる。図15は、MEデバイスが単一の磁気コイルから数センチメートル上で作動することができることを示す。図15のパネル(a)は、円形コイルの上の磁界のCOMSOLシミュレーションを示し、図15のパネル(b)は、測定されたデバイス出力電圧をコイルから上への距離の関数として示す。
【0101】
米粒大のME薄膜を使用する、頭蓋骨模型におけるマルチチャネル脳深部刺激療法の実証実験
自由に動くげっ歯類における実験を支援することに加えて、ME材料は、大型動物または人患者の脳の深部で作動し、外部電磁石によって個々にアクティブ化される小型化ワイヤレス刺激装置を可能にすることができる。本発明者らの知る限り、これは、人頭蓋骨模型の深部にある複数の小型刺激装置の独立した外部ワイヤレス制御を可能にする初めて技術である。図16は、様々な小型アンテナが、頭蓋骨の下に安全に埋め込まれ、高周波連続神経刺激に必要なおおよその最大電力である1mWの電力を生成することができる予測深度を示す[31]。上述したように、約1MHzを超える周波数で作動する無線周波数(RF)給電式アンテナは、潜在的に有害な組織加熱を引き起こすことなく、埋め込みデバイスに安全に印加することができる電力の量に制限がある。シミュレーションは、安全な電力制限で作動する場合、1mWの電力を収穫するためには、RFアンテナは、脳の表面または非常に浅い領域に配置されなければならないことを示す。「ミッドフィールド」技術[37]は、RF結合効率を改善して深部動作を可能にするが、この手法は固定周波数で作動するため、個々に対応可能なモートまたは二相性刺激はいまだ実証されていない。磁気誘導など、前述のワイヤレス電力供給のための他の技術もまた、深部マルチチャネル刺激を達成することはできない。例えば、より高い1MHzの動作周波数を使用しても、ここに示されるME薄膜と同じ向きおよび断面積を有する誘導コイルは、ここで使用される同じ0.5mTの磁界を使用して2Vを生成するためには、最低でも500ターンのワイヤを必要とするであろう(一般的なQ値10を仮定して)。したがって、磁気誘導子に基づくデバイスは、前述のように利用可能な電力を犠牲にすることなく小型化することはできない[9]。
【0102】
図16は、人頭蓋骨模型における小型化マルチチャネル刺激の局面を示す。図16のパネル(a)は、他の小型ワイヤレス刺激装置と比べた、MEデバイスの場合の人頭蓋骨模型下の有効深度を示す。深度制限は、1mWを生成するための安全制限に基づく(i:Park et. al, Proc Nat Ac Sci, 2016、ii:Yazdandoost et. al, Asia Pac Microw Conf, 2009、iii:Yazdandoost et. al, Proc 37 Europ Microw Conf, 2007、iv:Agrawal et. al, Nat Biomed Eng, 2017)。図16のパネル(b)は、米粒の隣のME薄膜の写真と、磁界周波数の関数としての対応する電圧とを示す(磁界強度1mT、スケールバー2mm)。図16のパネル(c)は、帽子またはバイザに組み込むことができる外部コイルによって発生させた磁界を用いる、完全に埋め込まれたME薄膜の潜在的適用を示す模式図である。図16のパネル(d)は、LEDを見せるために上部を取り外した頭蓋骨模型の正面図を示し、パネル(e)は、その上面図を示す(薄膜の位置を矢印で示す。スケールバー1cm)。図16のパネル(f)は、180kHzで磁界を印加されるME薄膜に取り付けられたLEDの写真を示し、図16のパネル(g)は、200kHzで磁界を印加されるME薄膜に取り付けられたLEDの写真を示す。薄膜の共振周波数に対応するLEDの選択的点灯が、個々の薄膜のマルチチャネルアクティブ化の成功を実証する(スケールバー1cm)。磁界強度はME薄膜の位置で0.5mTであると測定された。
【0103】
概念実証実験として、本発明者らは、外部電磁石を使用して、2つの米粒大ME薄膜を人頭蓋骨模型の中心で個々にアドレス指定することができることを示す。長さが8mmおよび10mmのこれら2つの薄膜は、薄膜の長さによって決まる180および200kHzの音響共振周波数を有する。これらの薄膜をオレンジ色LEDに取り付けると、それらの出力電圧は約1.8Vで上限設定され、それが、刺激電圧を制御するのに役立ち、薄膜アクティブ化を可視化することを可能にする。このサイズのME薄膜は、現在のDBSリードよりも小さく、図16のパネル(c)に示すように、潜在的に脳深部区域に埋め込むことができる。加えて、磁気刺激コイルは、患者が快適に装用することができるスタイリッシュな帽子またはバイザに組み込むのに十分なほど小さい。本発明者らは、2つのME薄膜を頭蓋骨模型の中心に配置したとき、選択した薄膜の共振周波数で磁界を印加すると、各薄膜上でLEDを個々に点灯させることができることを見いだした(図16パネル[d~g])。この実験の場合、本発明者らは400W電源を使用し、その電源が、頭蓋骨模型の中心で約0.5mTの磁界を発生させた。頭蓋骨模型の上部は可視化のために除かれたが、LEDインジケータを駆動する能力に影響はなかった。異なる共振周波数を有するME薄膜を追加すると、刺激チャネルの数を増すこともできる。
【0104】
本発明者らの知る限り、これは、(1)自由に動く動物の治療バンド(100~200Hz)で作動し;(2)人頭蓋骨模型の深部で個々にアドレス指定可能な小型刺激装置を可能にする、小型磁気神経刺激装置の初めての実証である。しかし、ME材料の利点はこれらの原理証明実証を超える。
【0105】
インビボラット実験に記載された例のようなME刺激装置は、げっ歯類疾患モデルを使用するDBS療法の研究に直接的な影響を及ぼすことができる。ME刺激装置は市販の埋め込み電極と適合性であり、磁気刺激装置は多くの標準的な行動実験または動物囲いに適合させることができるため、本明細書に開示されるME刺激装置は、現在使用されているワイヤ式DBS刺激装置に容易に取って代わることができる。結果として、長期的かつ継続的なDBSまたはワイヤ式DBS刺激装置が実現不可能である社会的状況におけるDBSの影響を精査するための新たな実験を開発することができる。
【0106】
加えて、ME材料は、大型動物または人の脳深部に埋め込まれ、小さな電磁石で外部からアドレス指定することができる小型神経刺激装置を可能にする潜在能力を有する。ここで示すように、米粒大の薄膜を固有の共振周波数に基づいて選択的にアクティブ化することができる。電圧は、薄膜の長さではなく圧電界の厚さに依存するため、さらなる小型化が、これらの薄膜によって生成される電圧を減らすとは予想されず(図7のパネル[c])、さらに小さな薄膜が効果的な刺激装置として働くことができることを示唆する。
【0107】
本発明者らはまた、より複雑な埋め込み型バイオエレクトロニクスデバイスのためのワイヤレス給電技術としてのME材料の適用を予見する。例えば、LEDに給電するME薄膜の実証された能力は、ME材料が埋め込み型光遺伝学的刺激装置または生理学的モニタリングのための小さな集積回路に給電することもできることを暗示する。
【0108】
これらの完全埋め込み型バイオエレクトロニクスデバイスを実現するためには、ME材料および製造プロセスを改善して、高品質の小型ME薄膜を確実に製造し、長期的使用のために封入するための作業が必要である。また、ウェアラブル技術に関しては、磁界発生器を、バッテリ給電式にし、快適に装用することができるよう、さらに小型化することが必要である。また、これらの進歩には、長期的使用のための安全性および効率を示すためのインビボ試験が伴わなければならない。
【0109】
総じて、ME材料は、主要な課題が、組織を加熱する、または組織、骨および空気の間の界面で損失を被ることなく、数センチメートルの距離にわたってエネルギーを伝送することであるところの小型二相性神経刺激装置および他のバイオエレクトロニクスデバイスへのワイヤレス電力供給のための重要な必要性を満たす潜在能力を有する。
【0110】
方法
一般的統計法:図7のパネル(f)および(g)のエラーバーは、n=約50のデータ点の±1標準偏差を示す。本発明者らはさらに、図7のパネル(g)のデータに対してテューキーのHSD検定を実施し、それが、異なるPVDF厚さごとに生成される電圧が有意に異なることを示した。図13のパネル(e)の回転試験には、対応のあるt検定を使用した。
【0111】
薄膜製造
ME薄膜を製造するために、本発明者らは、磁気歪層にはMetglas SA1合金(Metglas Inc)を使用し、圧電層にはポリフッ化ビニリデン「PVDF」(precision acoustics)を使用した。これらの実験に使用されたPVDF薄膜は、メーカによって予め引き延ばされ、ポーリング処理されたものであった。2つの層の間で機械的応力を伝達することができるエポキシ(Hardman double bubble redエポキシ)を使用して2つの層を結合した。2つの層を結合する前に、本発明者らは、PVDF上に上部電極として薄い白金層(<100nm)をスパッタリングした。エポキシ処理の前に、O2プラズマを使用してMetglasとPVDFの両方を5分間プラズマ洗浄した。エポキシ硬化後、はさみを使用して、PVDFの延伸方向に沿って薄膜の長軸を切るよう注意しながら薄膜を所望の長方形にカットした。次いで、本発明者らは、薄膜の電気的能力を測定するために、導電性エポキシを使用して薄膜の各側にワイヤを取り付けた。本発明者らは、中央部へのワイヤ取り付けが共振電圧を劇的に増大させることを見いだした。しかし、都合上、インビトロ実験中は、ワイヤは薄膜の端部近くに取り付けた。多くの場合、本発明者らはまた、本文の該当するセクションに記されるように、さらなる電子部品、例えばダイオードまたはLEDを、薄膜に取り付けられたワイヤに取り付けた。最後に、デバイスを5~10μmのパリレンC(Labcoater 2)でコートした。当初、このコーティングは、インビトロ実験中にデバイスを電気的に絶縁し、保護するために使用されるものであったが、本発明者らは、封入が共振電圧を増大させることを見いだし、それは、封入による機械的結合の増大のおかげであったかもしれない。
【0112】
ベンチトップ電気分解試験
チップにおける電気分解からの気泡形成を観測するために、図13のパネル(a)に示す刺激装置を、顕微鏡下、生理食塩水に浸漬したステレオトロードに配線接続した。上記で実証したように、単相性刺激の間、本発明者らは1つの共振周波数のみを使用し、二相性刺激の間、本発明者らは2つの周波数を使用した。いずれの場合も、パルス時間は400μs/相であった。本発明者らは、刺激時間の限界を、最初の気泡が電極のチップに現れ始めたときと決定し、各データ点を4回繰り返した。
【0113】
磁界発生
図9に示す態様において、各磁界発生器は、2つの主要な構成部品:(1)交番磁界に使用される磁気コイル(本文に記載され、実験ごとに最適化される);および(2)コイル内の交流の電圧およびタイミングを制御するための電子ドライバ(全実験で同じ)を含む。
【0114】
シンプルさ、効率および低コストを維持するために、コイルは、全Hブリッジスタイルのスイッチング回路で駆動した。ドライバは、二相性パルス列の形態で駆動コイルに大電流を供給するように設計されている。これが、任意関数発生器と比べ、ドライバそのものならびに電源および制御回路のコストおよび複雑さを減らす。この設計はまた、駆動コイルとのインピーダンス整合を通して動作効率を改善する能力を有する。さらに、電流パルスのデューティサイクルを調節し、共振キャリア周波数を維持しながらも、ME薄膜に供給される電力を容易に数値的に制御することを可能にすることにより、駆動コイルに供給される電力をオンザフライで制御することも可能である。磁界の出力キャリアおよびパルス周波数は、制御されたME刺激を供給するための特定のパルスタイミングを生成するために、TeensyLCボードおよびカスタムArduinoコードを使用して生成される(図9のパネル[c]および[d])。
【0115】
これらのコイルおよびドライバを様々な方法で組み合わせて、所与の実験に適切な磁界を発生させることができる。例えば、インビボ回転実験において交番磁界を発生させるために使用される装置は、4つすべてのドライバが同じ出力信号に同期しているとき1つのドライバによって給電される5つのターンをそれぞれが有する4セットのコイルを含むものであった。このようにして、本発明者らは、行動区域全体にわたってmTスケールの磁界を発生させるのに十分な電力を生成することができる(図14のパネル(a)]。
【0116】
細胞培養
カバースリップ上で実施した実験の場合、ナトリウムチャネルNa1.3およびカリウムチャネルK2.1を発現するHEK細胞を、12mmのポリ-l-リジンでコートしたカバースリップ上、約30%コンフルエンシーまで増殖させた。次いで、リポフェクタミン(Invitrogen)をメーカの推奨にしたがって使用して、遺伝的にコードされた電圧指標ArcLightを細胞にトランスフェクトした。トランスフェクションから2~3日後、試験に備え、カバースリップをME薄膜上に反転させた。GFPコントロールの調製は、ArcLightベクター(AddGene)に代えてGFP発現ベクター(AddGene)を用いることを除き、同じ手順を踏襲した。薄膜上で増殖させた細胞を用いて実施した実験の場合、ArcLightをトランスフェクトしたHEK細胞を、パリレンコートされたポリ-l-リジン処理薄膜上に配置した。薄膜を細胞培地中に一晩置き、翌日に試験した。
【0117】
LED光源によってArcLightおよびGFPを460nmで励起した。CCDカメラを使用して蛍光画像を33fpsで収集した。Matlabを使用して画像を解析して、個々の細胞における蛍光変化を定量化した。細胞外緩衝液(ECB、mM単位:NaCl 119、KCl 5、Hepes 10、CaCl2 2,671 MgCl2 1;pH7.2;320mOsm)中でインビトロ試験を実施した。
【0118】
図11のパネル(b)は、細胞培地に5日間浸漬した薄膜上で非改変HEK細胞を増殖させることによって得られたものである。次いで、HoechstおよびCalcein-AMで細胞を染色して、生細胞中の核および膜それぞれを標識した。次いで、細胞を固定し、共焦点顕微鏡を使用して画像化した。
【0119】
マウス脳切片作製手順
本発明者らは、GAD2-Cre(JAX#10802)マウスをflox-GCaMP3(JAX#14538)マウスと交配することによって作出された40日齢GAD2-GCaMP3マウスを使用した。脳切片の調製は、Tingら[45]によって記述された手順を踏襲し、国立衛生研究所のガイドラインに従って実施され、THealth動物福祉委員会によって承認された。マウスをイソフルランで深く麻酔し、92mM NMDG、2.5mM KCl、1.25mM NaH2PO4、10mM MgSO4、0.5mM CaCl2、30mM NaHCO3、20mMグルコース、20mM HEPES、2mMチオ尿素、5mMアスコルビン酸Na、3mMピルビン酸Naを含む、95% O2および5% CO2で飽和した氷冷NMDGベースの溶液で、約6ml/分の速度で灌流した。ビブラトーム(Leica VT1200S)を使用して冠状脳切片(300μm)をカットし、NMDG溶液中35℃で15分間インキュベートしたのち、92mM NMDG、2.5mM KCl、1.25mM NaH2PO4、2mM MgSO4、2mM CaCl2、30mM NaHCO3、25mMグルコース、20mM HEPES、2mMチオ尿素、5mMアスコルビン酸Na、3mMピルビン酸Naを含有する、95% O2および5% CO2で飽和した、室温に維持されたチャンバに移した。実験のために、切片を、126mM NaCl、2.5mM KCl、1.25mM NaH2PO4、2mM MgCl2、2mM CaCl2、26mM NaHCO3、10mMグルコースを含有するACSFで灌流された、695インラインヒータを使用して32~34℃に保持された記録チャンバに入れた。AMPA受容体媒介シナプス伝達をブロックするために、NBQX(10μM)を浴溶液に含めた。ステレオトロードは、体性感覚(バレル)皮質の第五層に配置した。
【0120】
LED光源によってGCaMP3を460nmで励起した。Olympus BX51WI顕微鏡に取り付けたCCDカメラを使用して蛍光画像を9.8fpsで収集した。Matlabを使用して画像を解析して、ステレオトロードチップ周辺の600×600μm領域の蛍光変化を定量化した。
【0121】
インプラント設計およびラット外科処置
2匹のオスLong-Evansラット(n≒1、400g)をイソフルランガスで麻酔した。5%イソフルランを使用して麻酔を誘導し、2%を使用して麻酔深度を維持した。イヤーバーの30分前に、鎮痛のためのブプレノルフィン(0.04mg/kg)を投与した。5~7本の頭蓋骨ネジを配置して電極アレイを固定した。Metabond歯科用アクリル樹脂によって頭蓋骨ネジを頭蓋骨に結合した。マイクロ電極アレイを収容し、開頭術を実施して、神経毒のための注射部位を露出させた。先端が曲がった30ゲージの針で脳の硬膜被覆を切開し、引き剥がした。ノルアドレナリン作動性ニューロンを保護するために、生理食塩水中15mg/mLの濃度で再構成したデシプラミン(DMI)を腹腔内注射した。DMIの投与量は約15mg/kgであり、神経毒投与の約30分前に注射した。ヘミパーキンソン病病変を誘発するために、生理食塩水中2μg/μLの6-ヒドロキシドーパミン(OHDA)8ugを0.2uL/minで前脳中束(MFB、-1.2ML、-4APおよび-8.1DV)に注射した。2×2白金イリジウムマイクロ電極アレイ(マイクロプローブ)を介し、75μm電極の600×600μm間隔でSTN刺激を供給した。各電極は公称インピーダンス10kOhmであった。電極アレイを、ブレグマから-2.6ML、-3.6APおよび約-8.2DVに下げた。アレイは、歯科用アクリル樹脂で頭蓋骨に固定した。すべての実験は、ライス大学のInstitutional Animal Care and Use Committeeによって承認されたものであった。
【0122】
磁気電気刺激装置によって各ラットを刺激する前に、げっ歯類電極インピーダンスのベンチトップ近似によって刺激装置電力を推定した。A-M Systems 4100刺激装置によるげっ歯類脳の定電流刺激は、簡略化された並列RC回路に近い特徴的な電圧波形を生成した。並列状態の56kOhm抵抗器および440pFコンデンサが、刺激電極にかかるラット脳のインピーダンス特性を厳密に近似した。この回路モデルを使用して、本発明者らは、所望の刺激効果を生じさせるために必要な電界強度およびパルス持続時間を推定し、げっ歯類実験の前に刺激が電荷平衡状態であったことを確認する。
【0123】
回転試験
回転試験を実施する前に、ラットを5%イソフルランガスで手短に麻酔し、メタンフェタミン(0.31ml、1.25mg/kg)を腹腔内注射し、ワイヤレス二相性刺激装置を埋め込み電極アレイに接続した。麻酔が切れたのち(約5~10分)、ラットを円柱形の行動チャンバに入れた。行動区域全体にかけてデバイス上の薄膜まで磁界を印加した(図14のパネル[a])。
【0124】
磁界は、40分間の試行中、様々なタイミングで1分間、オン共振状態およびオフ共振状態で印加した。共振周波数は73kHzおよび747 77kHzであり、オフ共振周波数は63kHzおよび87kHzであった。
【0125】
げっ歯類トラッキング
耳、口吻およびインプラントをトラッキングするために、DeepLabCut[46]の微修正バージョンを使用して、回転タスク上の頭の位置を生成した。オン共振回転タスクとオフ共振回転タスクの両方からの合計286フレームのデータセットをハンドラベリングし、約140,000回の反復で訓練した。
【0126】
頭蓋骨模型実証実験
この実験に使用された磁界周波数においては、骨および組織は実質的に透過性であるため[47]、本発明者らは、平均的な成人頭部サイズを有する実物大模型を頭蓋骨として選択した(Orient Infinity Limited)。図16に示すように、それを18 AWGマグネットワイヤで包んだ。コイルは、それぞれが個々の磁界ドライバに配線接続された4つのコイルを並列に含むものであった。すべてのドライバを同じ入力周波数信号に配線接続し、同じ電源から給電した。薄膜を頭蓋骨模型の中央に吊り下げた。薄膜によって生成された電圧のワイヤレス検証のために、ダイオードを逆並列に含むオレンジ色LED(Chanzon)を薄膜に取り付けた。可視化を目的として、LEDをよりよく撮影するために、頭蓋骨上部を取り外した。
【0127】
酸化亜鉛(ZnO)態様
前述のように、特定の態様は、酸化亜鉛(ZnO)ナノ粒子をドープされた薄膜を含み得る。次に図17を参照すると、グラフが、約70kHzで共振する、ZnOナノ粒子をドープされたPVDF/Metglas薄膜(約8μm)の電圧を経時的に示す。共振周波数を逸脱すると、電圧はゼロまで低下する。
【0128】
製造方法
予備試行において、Doddsらからの類似の手順にしたがって、PVDF-TrFE(温度に対する感度が比較的低い修飾PVDF分子)を、溶媒メチルエチルケトンおよびブタノンに20重量%溶解する[49]。ZnOナノ粒子(直径約13nm)を約10重量%の割合で溶液に加え、溶液を、6時間超、バスソニケータに入れた。次いで、溶液を、3×3cmのMetglas片上に約3000RPMで45秒間2回スピンコートして、約8μmの膜厚を得た。次いで、ラミネートを150℃で熱アニーリングし、特注のコロナポーリング装置で電気的にポーリング処理した。これが、より高い電圧および自己整流性を有する4つのうちの1バッチの薄膜を生じさせた(図17を参照)。課題は、ZnOナノ粒子が特に高めの重量%ではPVDF溶液に不溶性である、結果の再現性を含むものであった。本発明者らの知る限り、ナノ粒子と混合したPVDF-TrFEの自己整流挙動を示す証拠は文献に存在しない。
【0129】
自己整流挙動を確実に示すPVDF-ZnOナノワイヤ材料は公知である[50]。ZnOナノワイヤはインサイチューで成長するため、ハイブリッド材料の出力を制御するための自己調節ダイオードとして働く。
【0130】
特定の製造法においては、溶媒中のPVDFの濃度は同じままである(MEKおよびブタノン中20重量%)。ZnOナノ粒子を使用する代わりに、特定の態様は、ZnOナノシードからZnOナノワイヤを成長させ得る。考え得る態様は、Zn(Ac2)(酢酸亜鉛)をシードとして使用し、それをPVDF溶液と混合し得る。次いで、ハイブリッド溶液をMetglas基材にスピンコートすることができる。
【0131】
特定の態様においては、薄膜をZnNO3(硝酸亜鉛)水溶液に入れることができ、ナノワイヤを80℃で6時間、自然に成長させる。反応のタイミングおよび終了は、望まれるナノワイヤのサイズに依存する。さらに、PVDFは、ZnO NW成長による伸長力によって自然に応力を受けるため、PVDF材料は自然に圧電β相へと形成される。しかし、ポーリング処理が不十分であるならば、本発明者らは、コロナポーリング装置によって材料を電気的にポーリング処理することもできる。最終製品を精査してマイクロワイヤによって試験し、共振周波数で電圧を測定する。また、SEMイメージングを使用して、薄膜中のZnO NW成長を検証し、X線回折を使用して薄膜がβ圧電コンホメーションにあることを検証することもできる。図18は、PVDFのポーリング処理をPVDFのαおよびβ相ピークとともに示すX線回折データを示し、これは、ZnOナノワイヤ成長後の薄膜を検証するために使用することができる。
【0132】
図19は、ZnO/PVDF薄膜製造の局面を示す。図19のパネル(a)は、ナノシードとして働かせるために酢酸亜鉛をPVDF溶液に組み込むと、それが硝酸亜鉛中で薄膜を形成し、ナノワイヤを成長させることを示す。パネル(b)は、PVDF中で成長させたZnOナノワイヤの走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。パネル(c)は、PVDFの表面上のZnOナノワイヤのSEM画像を示し、図19のパネル(d)は、ZnOナノワイヤの拡大図を示す。
【0133】
図20は、エネルギーハーベスタとして使用されるPVDF/ZnOナノワイヤハイブリッド材料の、材料を指で押したときの電流の自己整流を示す。
【0134】
次に図21を参照すると、装置200は、埋め込み型ワイヤレス神経刺激装置210と、1つまたは複数の入力周波数で磁界236を発生させるように構成された磁界発生器220とを含む。図示する態様において、埋め込み型ワイヤレス神経刺激装置215は、磁気電気薄膜230、電荷貯蔵素子235、電気回路240、第一の電極251および第二の電極252を含む。この態様において、電気回路240は第一および第二の電極231および232を介して磁気電気薄膜230に結合されている。本開示の例示的な態様は、本明細書中では「Mag-Dust」または「MagMote」デバイスと呼ばれることもある。
【0135】
特定の態様において、磁気電気薄膜230は、特定の入力周波数の磁界によって刺激されたとき電気信号245を生成するように構成されている。電気回路240は、特定の態様においてはコンデンサであり得る電荷貯蔵素子235に充電するために電気信号245を変更するように構成されることができる。加えて、電気回路240は、埋め込み型ワイヤレス神経刺激装置210の構成部品にデータを伝送するように構成されることができ、第三の電極251および第四の電極252に刺激出力258を提供するように構成されることができる。図示する態様において、刺激出力258は、神経組織290を刺激するために使用されることができ、特定の態様において、第三の電極251および第四の電極252はステレオトロードとして構成されてもよい。
【0136】
次に図22Aおよび22Bを参照すると、電気回路240の特定の構成部品を含む例示的な態様が示されている。この態様は単なる一例であり、電気回路240の他の態様は、図22Aおよび図22Bに示すものとは異なる構成部品または構成部品の異なる配置を含み得ることが理解されよう。この態様において、電気回路240は、電荷貯蔵素子235の電力管理および充電を提供するように構成された充電モジュール241を含む。加えて、図示する電気回路240の態様は、データ伝送および制御を提供するように構成されたデータモジュール242を含む。図22Aに示す電気回路240の態様はまた、第三の電極251および第四の電極252に刺激出力258を提供するように構成された刺激ドライバモジュール243を含む。この態様において、充電モジュール241は、整流器、基準発生器、低ドロップアウト(LDO)リニア電圧レギュレータおよびパワーオンリセット(POR)を含む。図示される刺激ドライバモジュールは基準電流発生器および電流デジタル・アナログ(DAC)変換器を含む。加えて、図示されるデータモジュールは、制御信号発生器、刺激コントローラおよびクロックリカバリモジュールを含む。図22Bは、整流器、ネイティブMOSベースの電圧基準および5ビットのプログラム可能な刺激ドライバの具体的な態様の回路図を示す。電気回路240および具体的な構成部品の動作局面のさらなる説明は、以下「実施例」と題するセクションで提供される。
【0137】
例示的な態様において、電気回路240は、電力およびコマンドを受け(例えば、データ伝送を通して)、プログラム可能な電気刺激を駆動するために磁気電気薄膜230を組み込むMEトランスデューサ239とインタフェースすることができる相補型金属酸化物半導体(CMOS)チップ247を含む。図示する態様において、磁気電気薄膜230上で誘導されるAC電圧は、まず、4入力差動コンパレータによって駆動される効率的なアクティブ整流器によってDC電圧へと変換される。エネルギーは、次の刺激相に備えて電荷貯蔵素子235に一時的に貯蔵することができる。特定の態様において、低ドロップアウトレギュレータが、システムの残り部分(刺激を除く)に安定した1V供給を提供して、それらの電力消費を減らし、特定用途向け集積回路(ASIC)の負荷インピーダンスを効果的に増大させる。
【0138】
図23に示すように、ASICは、充電工程261、データ受信工程262および刺激工程263を循環することができる。特定の態様においては、ダウンリンクデータ伝送が磁界の振幅偏移変調(ASK)によって実行される(図21および22Aに示す)。受信されたデータは、システム動作および刺激モードをプログラムするために使用されることができる。組み込まれたドライバ刺激を使用して、治療に適切な広範囲の刺激パターン(例えば、0~200Hzの周波数、30~1500μAの振幅および50~500μsのパルス幅)をカバーする電流調整された二相性パルスによって電極251および252(図21~22に示す)を駆動することができる。
【0139】
ASIC設計への1つの課題は、MEトランスデューサ239上に誘導される電圧の振幅がMEトランスデューサ239と磁界発生器220との間の異なる距離および角度の下で変化するときでも、確実な動作を維持することである。例示的な態様は、デバイスの電力変換効率を最大化し、システムを、環境条件に適応可能にし、外部トランスミッタによって制御可能にし、かつキャリブレーション不要にすることにより、これに対処することができる。これらの性質は、3つの回路およびシステム特徴:(1)異なる材料を用いる、MEトランスデューサへの最適化電力インタフェース;(2)ME誘導電圧が変化する場合でもデータ伝送を確実に開始し、データをデコードするための適応的MEベースのデータレシーバ;および(3)ASICの静止電力を最小化し、刺激に利用可能なエネルギーを最大化するための低電力かつキャリブレーション不要の回路、によって達成され得る。
【0140】
MEトランスデューサへのCMOS電力インタフェース
Mag-Dustの電力変換効率を高めて、低強度磁界からより多くの使用可能な電力を抽出することは、(1)大きな物理的距離および角度の変化の下での確実な動作、および(2)ウェアラブルなバッテリ給電式トランスミッタ、に対する本発明者らの目的を実現するためにきわめて重要である。インプラントを小型化するために、Mag-Dustにはバッテリが組み込まれず、Mag-Dustは外部磁界によって連続的に給電される。各サイクル内で、収穫されたすべてのエネルギーは、刺激およびシステム動作に使用される、または浪費される。結果として、大部分の環境エネルギーハーベスタにおけるように低効率DC・DCアップコンバータによって最大電力点を追求するよりも、MEトランスデューサから直接高電圧を抽出するほうが効率的である。Mag-Dustにおいて使用可能な電力を最大化するために、本発明者らは、MEトランスデューサの電気モデル、Mag-Dustの電力管理およびMEトランスデューサとASICとの間のインピーダンス整合を研究する。
【0141】
トランスデューサの電気モデルは、インタフェース設計およびトランスデューサと回路との協調最適化に有用である。磁気電気ラミネート複合材は、図24のパネル(a)に示すRLCモデルでモデル化することができる。このモデルは、ナノ加工された試料のCOMSOL物理シミュレーションおよび測定でキャリブレーションすることができる。図23のパネル(b)および(c)に示すように、PZT圧電材料でナノ加工されたMEトランスデューサは、機械的共振240kHzおよび2つの純粋に抵抗性の実効電気共振周波数でピーク電圧を誘導する。一部のME材料(PZTなど)は、超音波トランスデューサと同様に、共振状態で純粋に抵抗性のインピーダンスを示すが[10]、他のME材料(PVDFなど)は、共振の付近で容量性であることが留意されるべきである。
【0142】
例示的な態様の開発は、ワイヤレス給電式のバッテリレスデバイスに関する有意な観測結果をもたらした。特に、最大負荷電力(例えば、大部分の場合、刺激相)は、貯蔵素子235に充電するための有効再充電電力に等しい(図21~22に示す)。増大する負荷インピーダンスが受信電力を減らす従来的な電力伝送モデルとは対照的に、電荷貯蔵素子に貯蔵される利用可能な電力は、実際、受信電圧とともに増加する。予備シミュレーション結果(図24のMEモデルに基づく)がこの挙動を確認し、図25のパネル(a)に示すように、静止電力を減らすことによってASICの実効負荷インピーダンスを減らす重要性を暗示する。図25は、ASICとMEトランスデューサとの間のインピーダンス整合下での使用可能な電力を示し、パネル(a)には純粋に抵抗性のインピーダンスが示され、(b)には容量性インピーダンスが示されている。数キロオームのインピーダンスでMEトランスデューサを電極に直接取り付ける場合と比べて、ASICの実効負荷インピーダンスは、特定の態様においては数十キロオームの大きさになることもある。
【0143】
PVDF材料の以前の研究と合致して、PVDFに基づくmmサイズのME薄膜の本発明者らの予備測定は、150kHz共振で68pFの静電容量を示す。鉛フリーのPVDFは潜在的にPVTよりも生体適合性であるため、本発明者らは、他の一般的に見られるエネルギーハーベスタとは異なる特性を受け入れるための、PVDFベースのMEトランスデューサへの回路インタフェースを研究する。1つの課題は、電力ハーベスティングを最大化するためにMEトランスデューサの容量性インピーダンスを補償することである。これを達成するための1つの方法は、直列インダクタを加えることである。しかし、図25のパネル(b)に示すように、目標を達成するためにはミリヘンリーインダクタが必要であり、このような数値のインダクタは、かさ高い別々の構成部品を用いてのみ可能であるため、これは難題である。この課題を解決するために、本発明者らは、インピーダンス補償のために多相フリッピングコンデンサでインダクタをエミュレートする原理[41]を探求する。本発明者らは、PVDFベースの態様のためのその回路実装、およびより多くの相を加え、新たなスイッチトキャパシタトポロジーを探求することによる、必要なオンチップ静電容量の減少を調査する。
【0144】
適応的データ受信
高いデータ速度が必要ない場合、振幅偏移変調(ASK)が、埋め込みデバイスへの低電力データ通信に適している。mT強度の磁界発生器に必要な大きなインダクタは異なる振幅間の高速切り替えを防ぐため、特定の態様は、AC磁界の周波数を変調することにより、MEトランスデューサに誘導される電圧を間接的に変調し得る。しかし、この振幅変調スキームを採用することは3つの課題を提示する。(1)整流されたDC電圧の切り替え速度を制限する大きなエネルギー貯蔵コンデンサ;(2)製造ばらつきによるMEトランスデューサの共振周波数および電圧変換効率の変動;および(3)物理的条件、例えばMEトランスデューサとトランスミッタとの間の距離および整列に依存する予測不可能なME誘導AC振幅。
【0145】
データ受信中の大きなオフチップコンデンサを回避するために、例示的な態様はデュアルパス(1つは電力供給用、1つはデータ受信用)構造を用い得る。本発明者らは、ME誘導電圧の変化をモニタするウォッチドッグロジックにより、2つのパスの間の切り替えを制御することを提案する。図23のパネル(b)に示すように、トランスミッタは、データ伝送中のME誘導電圧の平均振幅を減らすように設計されている。実際には、例示的な態様は、ゼロオーバヘッドモード切り替えウォッチドッグとしてアクティブ整流器内の既存のコンパレータを活用する。入力の振幅がエネルギーコンデンサに貯蔵された電圧よりも低い場合、コンパレータは、狭いパルスの列を生成することができる。例示的な態様は、図26のパネル(b)に示すように、データ伝送のためのイネーブル信号としてこのパルス列のエンベロープを抽出することができる。このようにして、外部トランスミッタ(例えば、図21および22に示す磁界発生器220)は、充電およびデータ伝送工程の持続時間の制御を有する。
【0146】
製造および環境ばらつき下、トランスミッタとインプラントとの間でデータサンプリングクロックおよび閾値を同期させるために、最先端の小型インプラントはすべて、製造された各デバイスを個々に特性評価し、トランスミッタをそれに合わせてキャリブレーションすることに依存する[10~12]。この手法は3つの大きな欠点を抱えている。(1)これらの設定を試験し、保存することは、実装の複雑さを増し、トランスミッタとインプラントとのペアリングを必要とする。(2)オンチップ周波数は供給電圧および経年変化条件に依存するため、正確な整合は実現不可能であり、潜在的なデータエラーおよび誤ったコマンドを招く。(3)ASKされた信号は、様々な物理的条件下で偏移する、または歪むことができ、固定閾値電圧は「1」と「0」を確実に区別することはできない。これらの制限を解決するために、例示的な態様は、外部AC磁界からクロックと閾値電圧の両方を抽出するための簡単かつ効果的な方法を含むことができる。クロックは、AC磁界の周波数から直接抽出することができるため、リカバリされたクロックの周波数はトランスミッタの周波数と厳密に同じになる。例示的な態様はまた、各データ伝送セッションの前にトランスミッタによって送られるトグルするパイロットトーンから閾値電圧を抽出することもできる。結果として、閾値電圧は、実行時の実際の受信振幅の50%に設定されることができ、それは、他のやり方ではシステムとって未知である。回路実装において、受信されたパイロット信号は、まず、そのDC成分を抽出するために低域濾波され、次いで、図26のパネル(b)に示すように、データデコーディングのための最終閾値電圧としてトラックアンドホールド回路によってサンプリングされることができる。適応的データ受信スキームのシミュレーション動作が図27に示されている。
【0147】
低電力かつキャリブレーション不要の回路構成部品
本開示の例示的な態様はまた、電力管理回路のための低電力かつキャリブレーション不要の電圧基準、刺激ドライバのための電流基準および正確な刺激のタイミング制御を含み得る。前述したように、例示的な態様のASICの静止電力の減少は、特定の磁界下で使用可能な電力を増すために重要である。加えて、実装の複雑さを減らし、環境変動に対するロバストネスを向上するためには、キャリブレーション不要の回路が望ましい。この課題からの結果は主に、例示的な態様のASICのため設計されるが、この技術は他の低電力用途にも適用可能であり得る。
【0148】
キャリブレーション不要の電圧および電流基準:バイポーラトランジスタのバンドギャップを使用する従来の電圧および電流基準は、高いバイアス電力を有し、バッテリレスの埋め込みデバイスにおけるそれらの適用を妨げる。閾値電圧に基づく基準が、そのシンプルさおよび低電力のために、これらの適用のために出現した[42]。しかし、既存の設計の大きな欠点は、良好な供給および温度安定性に達するために多点キャリブレーションを要することである。キャリブレーションをなくす試みにおいて、PI Yangの以前の研究において行われた重要な観察が、温度効果を補償するための追加のチューニングノブとしてボディバイアスを使用することができることである[27,43]。この原理で設計された電圧および電流基準は、図28のパネル(a~c)に示すように、従来技術に対して製造ばらつきの有意な減少を示す。しかし、それらの供給電圧感度はまだ十分に良好とはいえない。例示的な態様における供給電圧は距離および角度の変化に敏感であるため、電圧安定性は温度安定性よりも重要である。本開示の例示的な態様は、従来のネイティブトランジスタスタック技術[18]を活用して、いくらかの温度安定性と引き換えに大幅に改善された電圧安定性を得ることができる。図28は低電力CMOS回路構成部品を示す。パネル(a~b)には、キャリブレーション不要の電圧/電流基準が示されている。パネル(c)は、製造ばらつきを含めた測定結果を示し、パネル(d)はプログラム可能な刺激ドライバを示し、パネル(e)はホイートストンブリッジベースのタイミング基準を示す。
【0149】
確実なプログラム可能な刺激モードを達成するために、例示的な態様は、図28パネルの(d)に示すように、AC磁界からリカバリされたクロックとで有限状態論理機械を活用して、デジタル・アナログ電流変換器およびHブリッジ出力駆動ステージを制御し得る。MEトランスデューサの共振周波数が変動するときでさえ、刺激パルスの幅および周波数を所望の値に数値的に調節することができると予想される。しかし、刺激タイミング制御の精度が不十分であると証明されるならば、例示的な態様は、かさ高い水晶発振器ではなく、CMOS RC発振器を活用して、インプラントの体積および重量を増すことなくタイミング基準を提供し得る。図28のパネル(e)に示すように、ホイートストンブリッジを使用すると、最先端設計で提示される高いバイアス電力を除くことができる。例示的な態様のプロトタイプが、この設計が最先端技術よりも2倍効率的であり得ることを示す[44]。本発明者らはさらに、例示的な態様において望まれるプログラム可能かつ低周波治療に適切な刺激モードをサポートするために、ブリッジ内の抵抗器とコンデンサの両方の切り替えを探求する。
【0150】
ミリメートルサイズ刺激装置およびインビトロ試験
本明細書に開示されるように、神経刺激装置の例示的な態様は、AC磁界を介するワイヤレス電力・データ伝送、MEトランスデューサとCMOS ASICとの間の効率的なインタフェースおよび全くコードのない刺激制御を実証する。システムの例示的な態様は、ナノ加工されたMEトランスデューサ、CMOS ASIC、一時的エネルギー貯蔵のためのセラミックコンデンサおよび1対の電極(フレキシブルPCB上)を含むことができる。図30のパネル(a)は例示的な態様の分解図を示し、図30のパネル(b)は同態様の組み立て図を示す。構成部品は、ポリイミドベースのフレキシブルプリント回路基板上に集積され、完全に封入される。原理証明システムを実証する際の課題は、生物学的環境下、その機能性ならびに生体適合性および安全性を維持する能力を含む。本発明者らは以下を調査する。(1)例示的な態様のための封入および熱管理戦略、(2)電力およびデータを例示的な態様に伝送するためのポータブルかつウェアラブルな磁界発生器、および(3)機能性、安全性および効率を検証するための加速劣化試験およびインビトロ試験。
【0151】
生体適合性集積
生物学的適用のための態様においては、トランスデューサおよびASICを、それらの機械的共振および電気的性質をイオン溶液(体内の溶液のような)中に保存する方法で封入することができる。パリレンCが、その化学的不活性および強力なイオンバリアとして働く能力により、埋め込み電子部品のためのパッシベーション層として一般的に使用されている。しかし、水分拡散のせいでパリレン層の破損がよく起こる。この問題を解決するために、例示的な態様はまた、優れた防湿層である酸化アルミニウムを堆積させるための原子層堆積を使用して製造されてもよい。特定の態様において、二層薄膜は化学蒸着および原子層堆積を使用し、両工程は、ME薄膜が均一にコートされることを可能にするコンフォーマルプロセスである。酸化アルミニウムとパリレンとの組み合わせは、加速劣化試験において埋め込み神経インタフェースの寿命を有意に改善することが示されている[45]。この戦略は当初の手法であるが、Al2O3とパリレンCとの組み合わせは、磁気電気材料の機械的および電気的性質を維持するには不十分であるおそれがある。パリレンC/Al2O3ラミネートの試験に加えて、本発明者らはまた、代替の硬質および軟質材料、例えば炭化ケイ素(SiC)およびポリイソブチレン(PIB)を系統的に調査する(参考のために図30の材料概要を参照)。
【0152】
例示的な態様において、薄膜は、まず、機械的共振を維持するための軟質材料で封入されたのち、硬質材料で包まれる。本発明者らの予備研究のいくつかが、半軟質材料ポリイミドに封入された薄膜がその最大電圧の95%超を保持することを示した。特定の態様において、外部構成部品、集積回路およびコンデンサは、そのような用途に通常に使用される材料である医療用エポキシでポッティングされる[46~52]。まず、例示的な態様は、溶液試験で有線PCBを使用してチップおよびシステム機能性を試験して試験ポイントを探ったのち、デバイスのワイヤレスバージョンを試験する。
【0153】
熱管理
例示的な態様の試験は、生物組織の有意な加熱を生じさせない電力レベルの十分に範囲内にある結果を示す。予備デバイスのインピーダンスおよび電圧に基づくと、薄膜に供給される全電力は1.5mWであると予想される。この電力散逸率は、脳の有意な加熱を生じさせないDBS刺激装置に匹敵する[45、46]。それにもかかわらず、長期インビトロ安定性試験中にデバイスによって生じる温度変化が直接測定される。光ファイバ温度計を使用して、溶液の温度をモニタして、神経インプラントにとって安全レベルとみなされる2℃よりも大きく上昇しないことを保証することができる[47]。試験中に温度が摂氏2度よりも大きく上昇することを見いだすならば、デューティサイクルを下げて、またはデバイス特性を改善して(例えば、電極インピーダンスを下げて)電力効率を改善することにより、より低電力の刺激パラダイムが調査される。
【0154】
ウェアラブル磁気トランスミッタ
ワイヤレス刺激装置としての例示的なME薄膜の利点は、これらのデバイスをアクティブ化するために必要な磁界が、他の類似のワイヤレス電力供給技術と比べ、非常にわずかな電力しか必要としないことである。例えば、本発明者らは、強度が他の磁気駆動神経刺激技術よりも少なくとも1桁は小さい1mT未満である磁界で薄膜を正常にアクティブ化することができた[16]。結果として、本発明者らは、小さな軽量の磁界発生器によってMag-Dustに給電することを予想する。これらの磁界ドライバはまた、Mag-Dust ASICにデータを伝送するためにも使用される(「適応的データ受信」と題するセクションを参照)。
【0155】
例示的な態様は、ウェアラブルパックの外部に配置されたバッテリ、マイクロコントローラおよびHブリッジドライバを含むウェアラブルな電力・データトランスミッタを含むことができる。特定の態様において、ワイヤがパックからインプラントの部位に位置する伝送コイルまで延びる。例えば、図31のパネル(a)~(c)に示すように、コイルは、脊髄インプラントの場合には腰の近くに配置し、迷走神経インプラントの場合にはネックバンドに配置し、脳インプラントの場合には頭周りのバイザ中に配置することができる。共振回路を使用してコイルのインピーダンスを低下させることにより、例示的な態様は、図31のパネル(d)に示すように、バッテリ上わずか0.2mAの引き込みで1mT磁界を創出することができる。重量120g未満の1200mAhバッテリを使用すると、最大電力で連続的に作動するとしても、バッテリ寿命は10時間を超えると推定される。
【0156】
ASICへのダウンリンクデータ伝送は、共振周波数とオフ共振周波数との間でドライバの周波数を変調することによって達成することができる。完全に共振状態にあるとき、ICへの入力電圧はその最大値になる。わずかにオフ共振の2つの代替ドライバ周波数を選択することにより、ICは、薄膜によって生成された電圧の変化を情報ビット「0」および「1」として検出する。例示的な態様において、IC内の回路は、これらのレベルを動的にトラッキングして、結合変動およびドライバ振幅ドリフトを補償して、電圧シフトを入力データとしてロバストに解釈することを可能にする。ドライバの周波数発生器は3つの周波数すべてを同時に生成することができるため、刺激パルス間で周波数の切り替えをシームレスに達成することができ、むだ時間を最小化にし、データ伝送速度を最大化することができる。コイルおよび薄膜が、効率を最大化するために高いQ値を有するように設計されている場合でも、周波数生成の精度が、この手法が確実に働くことを可能にする。
【0157】
インビトロ試験
例示的な態様の機能性は、LEDを刺激ドライバに取り付け、カメラまたは結合された光ファイバを使用して光学信号をモニタすることにより、MEベースのワイヤレス電力・データ伝送で試験することができる(図32を参照)。これは、デバイスを駆動する磁界と相互作用することなく、電力およびプログラミングに対するICの応答のリモートセンシングを可能にすることができる。LEDの強度ならびにその出力周波数およびパルス幅を測定することにより、本発明者らは、本発明者らのプログラミング手法の信頼性と、無数の試験条件にわたるシステムの実効効率の両方を検証することができる。試験装置を用いて、性能および信頼性に対するコイルとデバイスとの間の距離および整列の影響を調べることができる。そのような試験は、体内の生物学的条件を近似するために、リン酸緩衝溶液中、摂氏37度で実施することができる。
【0158】

神経系の電気的活動の変調は、神経科学研究および臨床療法のための大きな潜在能力を示した。感染症のリスクおよび対象の可動性の制限を減らすために、神経変調装置は小型化され、コードを有しないべきである。サイズおよび電力の制約がある、安全かつ確実なワイヤレス電力伝送・データ供給は、小型神経インタフェースを開発する中で、基本的な課題の1つとして残る。RF、誘導結合[1~3]、超音波[4]および光[5]によって給電されるワイヤレス神経インプラントがいくつか報告されているが;既存の解決手段は、高周波EM波の身体吸収による組織加熱[6]、異なる媒質を透過するときの機械的波動の減衰[7]、限られた光の浸透深度[5]または磁気熱ナノ粒子の制御性の欠如[8]を回避しながらも、インプラント小型化、システム可搬性、機能的フレキシビリティおよび対象可動性を同時に達成することはできない。それに比べ、磁気歪薄膜と圧電薄膜との機械的結合を介して低周波(100kHz~10MHz)AC磁界を電気エネルギーへと変換する磁気電気(ME)トランスデューサ(図33の上図を参照)は、図33に要約される望ましい性質を提供することにより、生物医学的インプラントへの給電に有望である。共振状態で、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)/MetglasベースのME薄膜は、1mT未満の磁界下、低い抵抗性ソースインピーダンス(約800Ω)で高い出力電圧(>7Vpp)を生成して、それ自体を、効率的なエネルギーハーベスティングに適したものにする。
【0159】
本開示の例示的な態様(「MagMote」と呼ばれることもある)は、ME効果を利用する、コードを有しないプログラム可能な神経インプラントを含む。具体的な態様は、1.5mm2の180nm CMOSシステムオンチップ(SoC)と、自社製の4mm×2mmME薄膜と、単一のエネルギー貯蔵コンデンサと、オンボード電極とを、フレキシブルなポリイミド基板上に集積する。特定の態様は以下を特徴とする。(1)2つの別々の構成部品をSoCに追加するだけの、8.2mm3および28mgの小さな物理的寸法;(2)電源振幅変動(1V変動許容差および0.2V変調度)下でロバストな適応的システム制御およびデータ伝送機構;(3)23.7μWまでの低い静的電力による90%チップ効率;および(4)脊髄、迷走神経および脳などの多様な臨床標的に適した、0.05~1.5mAの振幅、64~512μsのパルス幅および0~200Hzの周波数範囲をカバーする完全にプログラム可能な二相性電流刺激を実行する能力。ウェアラブルベルトに組み付けたバッテリ給電式磁気トランスミッタを有するMagMoteによって可能にされた脊髄刺激システムの概念が図33(左下パネル)に示されている。
【0160】
本明細書において説明したように、電力管理、データリカバリおよび刺激モジュールを含むMagMote SoCは、図22Aおよび22Bにおいて前述したように、ME薄膜とインタフェースして電力およびデータを受信し、プログラム可能な刺激を駆動する。MEトランスデューサ上で誘導される交流(AC)電圧は、まず、アクティブ整流器によって直流(DC)電圧(Vrect)へと変換される。次いで、エネルギーがオフチップ4.7μFコンデンサに貯蔵される。LDOは、クロックおよびデータリカバリのための一定の1V供給VLDOを提供して、電力消費を減らし、より高い電圧変換比のためにSoCの入力インピーダンスを効果的に高める。電力管理のための温度および供給不変的な基準電圧がネイティブMOSベースの基準回路によって生成される[9]。ダウンリンクデータが磁界の振幅偏移変調(ASK)によって伝送され、5ビット電流DACを使用して50μA分解能で刺激電流をプログラムするために使用される。また、受信されたデータによって構成された有限状態機械(FSM)が、二相性刺激のタイミングを制御し、この二相性刺激は、単相性パルスとは異なり、電荷平衡状態にあり、望ましくない電気化学反応を防ぐ。刺激の終了までに、電極を短絡させて残留電荷を完全に除去する。SoCは、充電相と、データ受信相と、外部トランスミッタ(TX)によって設定される所望の刺激周波数での刺激相とを循環する(図22、左下)。
【0161】
特に距離の変化および誤整列のせいでME誘導電圧の振幅変動があるときに確実なシステム動作を維持するために、3つの動作相およびデジタル通信の間の移行は、適応的であり、キャリブレーション不要であり、TX(ユーザ)側によって完全制御可能であるように設計されている。まず、データ伝送相の有効化は、ME振幅を変化させることによって制御され、各相のための時間割り当ては、外部TXにより、正確なタイミング基準と、制御のためのコンピューティングリソースとを用いて完全に制御される。電力および区域を節約するために、アクティブ整流器中の既存のコンパレータが、振幅変化をモニタするためのウォッチドッグとして再使用される。このコンパレータは、充電中にVrectをトラッキングするパルス列を生成し、入力の振幅がエネルギーコンデンサの電圧を下回ったならば停止する。ウォッチドッグ信号を分割Vrectと比較し、エンベロープを抽出することにより、データ伝送のためのレール・ツー・レールイネーブル信号(ENdata)が創出される(図34、右上)。コンパレータオフセットが、Vrectのトラッキングを失敗させ、誤ったENdataを生成することもある(図34、左下)。これを緩和するために、同サイズの2入力コンパレータよりも高い駆動性を有する4入力コンパレータ[10]が、オフセット許容差を11mVから23mVへと増大させて、故障率を8%から0.02%へと効果的に減らす(オフセットのシミュレーション分散で試算)。第二に、システムクロックはMEソースから直接誘導され、したがって、PVT不変的な周波数および厳密なデューティサイクル分布を提示する(図34、右)。第三に、MEの電圧変動下で正しいデータ復調を保証するために、各データ伝送の前に、TXによって送られる交番するパイロットトーンを使用して電圧閾値がオンラインで生成される。閾値は、低域フィルタで抽出されたのち、トラックアンドホールド回路によって処理される。測定結果は、0.2V変調度での正常なデータ伝送を示す。さらに、本発明者らは、磁界変動のせいでME誘導電圧が2.6から3.6Vへと変化するとき、刺激電流の固定設定(図34の右下の最大設定)が予想値1.5mA付近に留まることを示すことにより、デバイスのロバストな動作を検証した。
【0162】
図35は、MagMoteが20、67および200Hz刺激周波数で作動するときの測定波形を示す。Vrectは、0.61mT磁界強度で83%電圧変換率で2.95Vのピークに達し、1.5mA、512μs刺激ののち、2.55Vに低下する。ASKは、周波数をわずかに偏移させることにより、ME薄膜を、減少した振幅でオフ共振状態で振動させることによって実現される。ME薄膜の整定時間によって設定されると、1ビットを確実に伝送するためには32サイクルが必要であり、結果、7.8kbpsのデータレートとなる。加えて、0.05~1.5mAの二相性刺激電流が検証されている。このSoCは、刺激なしで23.7μWの電力を消費し、2.27mWの最大平均刺激電力Pstim,avg(Pstim,avg=Istim2×Rload×Tpulse×fstim)で90%ピーク効率を達成する。
【0163】
埋め込みのための適合性を実証するために、ME薄膜を3Dプリントされたエンクロージャ中にパッケージングして、機械的振動に対する環境影響を排除したのち、インプラント全体を非導電性エポキシで封入する。MagMoteをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に7日間浸漬することにより、浸漬試験を実施する。起動時、TXコイルの中心にあるとき、デバイスを、0.37mWの平均入力電力Pin,avgで44ms以内に2.6Vまで充電する。TXから30mm離れた位置で、SoC機能性を保証するのに十分である、2.05VのVrectおよび0.16mWのPin,avgが達成される。また、PBS中の試験に加えて、デバイスを、空気および寒天(脳の機械的性質を模倣するために使用される基質)中で試験して、それぞれ0.14Vおよび0.05mW未満のVrectおよびPin,avg変動を示し(図36の左下)、異なる媒質中のME効果の適応性を実証する。1週間の浸漬試験を通して、PBS中のMagMoteは一貫して機能し、Pin,avgは0.35~0.39mWで変動し、埋め込みのための長期的な信頼性を示す。
【0164】
MagMoteの生体刺激能力をさらに評価するために、興奮性組織のモデルとしてHydra vulgarisを使用してデバイスを検証した。使用したトランスジェニックHydra株は、カルシウム感受性蛍光タンパク質GCaMP6sを外胚葉中に発現し、電圧感受性イオンチャネルを自然に発現する(図37の左上)。本発明者らは、100Hzで500usパルス幅の二相性パルスを5秒間印加するとき、筋収縮を生じさせるHydra組織中の電圧ゲートイオンチャネルの電気的アクティブ化と合致する、GCaMP6s蛍光の>200%の増加を認める(図37の右上)。図37の表は、MagMoteを最先端の埋め込み型ワイヤレス刺激装置と比較したものである。MagMote SoCのダイ顕微鏡写真が図38に含まれている。
【0165】
図39は、顕微鏡および定励起光を使用して蛍光画像を取り込む実験装置;提案されるデバイスに接続されたステレオトロード;Hydra中のGCaMP6s活性を画像化するために使用されるレーザを示す。
【0166】
図40は、ポータブル磁界ドライバおよびそのシステム図を示す。
【0167】
本明細書において開示され、特許請求されるすべての方法は、本開示に照らして、過度の実験を実施することなく達成し、実施することができる。本発明の組成物および方法が好ましい態様の観点で説明されたが、本発明の概念、精神および範囲を逸脱することなく、本明細書に記載された方法および方法の工程または工程の順序に変更を加え得ることが当業者には明らかであろう。より具体的には、本明細書に記載された薬剤に代えて、化学的かつ生理学的に関連する特定の薬剤を使用しても、同じまたは類似の結果が得られることが明らかであろう。当業者には明らかなそのような類似の代替および変更はすべて、特許請求の範囲によって定められる本発明の精神、範囲および概念の範囲内であるとみなされる。
【0168】
V. 参考文献
以下の参考文献が、本明細書に記載されるものを補足する例示的な手順または他の詳細を提供する程度に、参照により具体的に本明細書に組み入れられる。
【0169】
さらなる参考文献
【0170】
さらなる参考文献
【0171】
さらなる参考文献
図1
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【国際調査報告】