(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-07
(54)【発明の名称】乾湿生化学分析技術を用いた横波型弾性表面波バイオセンサによる心筋トロポニンまたは生物学的マーカの検出
(51)【国際特許分類】
G01N 33/543 20060101AFI20220531BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20220531BHJP
G01N 5/02 20060101ALI20220531BHJP
G01N 29/02 20060101ALI20220531BHJP
【FI】
G01N33/543 593
G01N33/53 D
G01N5/02 A
G01N29/02 501
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021559456
(86)(22)【出願日】2020-02-04
(85)【翻訳文提出日】2021-10-21
(86)【国際出願番号】 US2020016577
(87)【国際公開番号】W WO2020197641
(87)【国際公開日】2020-10-01
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】521437703
【氏名又は名称】オートノマス メディカル デバイセズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】AUTONOMOUS MEDICAL DEVICES INCORPORATED
(71)【出願人】
【識別番号】521437714
【氏名又は名称】イエホシュア シャチャー
【氏名又は名称原語表記】Yehoshua SHACHAR
(71)【出願人】
【識別番号】521437725
【氏名又は名称】マーロン トーマス
【氏名又は名称原語表記】Marlon THOMAS
(74)【代理人】
【識別番号】100136227
【氏名又は名称】長谷 玲子
(72)【発明者】
【氏名】イエホシュア シャチャー
(72)【発明者】
【氏名】マーロン トーマス
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA04
2G047BC15
2G047CA01
2G047CB03
2G047GB21
2G047GB35
2G047GG29
(57)【要約】
説明される実施形態は、流体中の試料を検出するためのSAWセンサの動作方法を含み、以下の工程を含む:手持ち式の携帯型アッセイおよびセンサシステムにおいて、SAWセンサに官能化された検出レーンを提供する工程;試料が検出レーンに流体的に配置されるまで、SAWセンサの官能化された検出レーンを乾燥状態に維持する工程;官能化された検出レーンに試料を流体的に配置する工程;官能化された検出レーンから流体を除去し、官能化された検出レーン中の試料を濃縮して特異的な抗体-抗原相互作用の確率を高める工程;官能化された検出レーンを洗浄し、実質的に特異的な抗原-抗体相互作用のみを官能化された検出レーンに残す工程;官能化された検出レーンから再び流体を除去する工程;および官能化された検出レーンに流体のない状態で試料の濃度を測定する工程。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体中の試料を検出するためのSAWセンサの動作方法であって、
手持ち式の携帯型アッセイおよびセンサシステムにおいて、SAWセンサに少なくとも1つの官能化された検出レーンを提供する工程;
前記試料が前記少なくとも1つの検出レーンに流体的に配置されるまで、前記SAWセンサの前記少なくとも1つの官能化された検出レーンを乾燥状態に維持する工程;
前記少なくとも1つの官能化された検出レーンに前記試料を流体的に配置する工程;
前記少なくとも1つの官能化された検出レーンから流体を除去し、前記少なくとも1つの官能化された検出レーン中の試料を濃縮して特異的な抗体-抗原相互作用の確率を高める工程;
前記少なくとも1つの官能化された検出レーンを洗浄し、前記特異的な抗原-抗体相互作用のみを前記少なくとも1つの官能化された検出レーンに残す工程;
前記少なくとも1つの官能化された検出レーンから再び流体を除去する工程;および
前記少なくとも1つの官能化された検出レーンに流体のない状態で前記試料の濃度を測定する工程
を含む、方法。
【請求項2】
その後に第2の試料を採取する工程;
前記第2の試料が前記少なくとも1つの検出レーンに流体的に配置されるまで、前記SAWセンサの前記少なくとも1つの官能化された検出レーンを乾燥状態に維持する工程、前記少なくとも1つの官能化された検出レーンに前記第2の試料を流体的に配置する工程、前記少なくとも1つの官能化された検出レーンから前記流体を除去し、前記少なくとも1つの官能化された検出レーン中の前記第2の試料を濃縮して特異的な抗体-抗原相互作用の確率を高める工程、前記少なくとも1つの官能化された検出レーンを洗浄し、実質的に前記特異的な抗原-抗体相互作用のみを前記少なくとも1つの官能化された検出レーンに残す工程、前記少なくとも1つの官能化された検出レーンから再び流体を除去する工程、を繰り返す工程;および
第2の後の時間に、前記少なくとも1つの官能化された検出レーンに流体のない状態で前記第2の試料の濃度を測定し、試料濃度が経時で増加しているかまたは減少しているかを評価する工程
をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記試料が心筋トロポニンであり、経験豊富な技術的トレーニングを受けなくても動作可能な簡便な携帯型のアッセイおよびセンサシステムにおいてSAWセンサに少なくとも1つの官能化された検出レーンを提供する工程をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記試料が心筋トロポニンであり、経験豊富な技術的トレーニングを受けなくても動作可能な簡便な携帯型のアッセイおよびセンサシステムにおいてSAWセンサに少なくとも1つの官能化された検出レーンを提供する工程をさらに含むことを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つの官能化された検出レーンに流体のない状態で前記試料の濃度を測定する工程が、前記少なくとも1つの官能化された検出レーンが10pg/ml以下の濃度レベルで流体のない状態で前記試料の濃度を測定する工程を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
心筋梗塞のための追加検査を同時にまたはほぼ同時に行う工程をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記追加検査を行う工程が、複数のバイオマーカの多重測定を行う工程を含むことを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記試料が心筋トロポニンであり、心筋梗塞のための追加検査を同時にまたはほぼ同時に行う工程をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記追加検査を行う工程が、心電図(EKG)を行う工程を含むことを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記追加検査を行う工程が、複数のバイオマーカの多重測定を行う工程を含むことを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記複数のバイオマーカの多重測定を行う工程が、cTnl結果についての検査の信頼性を高めるために、等モル検査のためトロポニンCおよびIの両方の測定を行う工程、または、クレアチンキナーゼ(CK)および/またはミオグロビン(MB)についての検査を行う工程を含むことを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも1つの官能化された検出レーンに流体のない状態で前記試料の濃度を測定する工程が、前記少なくとも1つの官能化された検出レーンに流体のない状態で、前記SAWセンサの複数の官能化された検出レーン内の前記試料中の分析物の濃度を同時に測定する工程を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも1つの官能化された検出レーンに流体のない状態で前記SAWセンサの複数の官能化された検出レーン内の前記試料中の分析物の濃度を同時に測定する工程が、前記官能化された検出レーンの各々に流体のない状態で、前記SAWセンサの複数の官能化された検出レーン内の前記試料中の分析物の濃度を同時に測定する工程を含むことを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記少なくとも1つの官能化された検出レーンに流体のない状態で前記試料の濃度を測定する工程が、2pg/ml~24μg/mlの分析物の較正されたダイナミックレンジで前記少なくとも1つの官能化された検出レーンに流体のない状態で前記試料の濃度を測定する工程を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
2pg/ml~24μg/mlの分析物の較正されたダイナミックレンジで前記少なくとも1つの官能化された検出レーンに流体のない状態で前記試料の濃度を測定する工程が、2pg/ml~24μg/mlのトロポニンIの較正されたダイナミックレンジで前記少なくとも1つの官能化された検出レーンに流体のない状態で前記試料の濃度を測定する工程を含むことを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
手持ち式の携帯型アッセイおよびセンサシステムにおいて、SAWセンサに少なくとも1つの官能化された検出レーンを提供する工程が、回転により発生する力によって全血試料から赤血球、白血球および血小板が分離されるスピニングディスクカートリッジを用いたセンサスピン-ディスクシステムにSAWセンサを提供する工程を含み、前記スピニングディスクカートリッジが、前記SAWセンサの感知領域にナノ粒子コンジュゲートを導入するため、前記試料を混合および洗浄するため、および前記カートリッジの周囲で前記試料を移動させるためのチャンバを含み、前記SAWセンサが、前記スピニングディスクカートリッジに統合され、それによって、測定のために前記試料を別の装置やチャンバに移動させる必要がなくなり、その結果、分析時間が短縮され、前記全血試料を前記システム中に配置した後、10分以内に前記試料のアッセイが可能となることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
複数の試料をほぼ同時に採取する工程;
前記第2の試料が前記少なくとも1つの検出レーンに流体的に配置されるまで、前記SAWセンサの前記少なくとも1つの官能化された検出レーンを乾燥状態に維持する工程、前記少なくとも1つの官能化された検出レーンに前記第2の試料を流体的に配置する工程、前記少なくとも1つの官能化された検出レーンから前記流体を除去し、前記少なくとも1つの官能化された検出レーン中の前記第2の試料を濃縮して特異的な抗体-抗原相互作用の確率を高める工程、前記少なくとも1つの官能化された検出レーンを洗浄し、実質的に前記特異的な抗原-抗体相互作用のみを前記少なくとも1つの官能化された検出レーンに残す工程、信頼性の高い測定値を得るために十分な量の前記試料が前記少なくとも1つの官能化された検出レーンに配置されるまで、前記少なくとも1つの官能化された検出レーンから再び流体を除去する工程、を繰り返す工程;および
その後に、前記官能化された検出レーンに流体のない状態で前記試料の濃度を測定する工程
をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
分析物を含む所定の限られた量の液体試料を、所定の抗体で官能化されたSAW検出器の感知領域に亘って配置する工程;
分析物を含む所定の限られた量の液体試料を、所定の抗体で官能化されていないSAW検出器の参照領域に配置する工程;
前記分析物が、液体から所定の抗体に拡散し、前記感知領域上に固定化されるように前記抗体に結合するための適切な方向を見出すのに必要な時間よりも長い時間に亘って、前記液体試料を前記SAW検出器の前記感知領域に接触させたまま維持する工程;
前記感知領域および参照領域から前記液体試料を蒸発させる工程;および
蒸発後に前記感知領域に結合した分析物の量を示す差動測定信号を、前記感知領域および参照領域から生成する工程
を含む、乾湿法。
【請求項19】
分析物を含む所定の限られた量の追加の液体試料をSAW検出器の感知領域に亘って配置する工程、分析物を含む所定の限られた量の前記追加の液体試料をSAW検出器の前記参照領域に亘って配置する工程、前記分析物が液体から前記所定の抗体に拡散し、前記感知領域上に固定化されるように前記抗体に結合するための適切な方向を見出すのに必要な時間よりも長い時間に亘って、前記追加の液体試料を前記SAW検出器の前記感知領域に接触させたまま維持する工程、および、前記感知領域および参照領域から前記追加の液体試料を蒸発させて、前記分析物が適切な方向で前記抗体とペアリングする確率を高め、測定前に前記感知領域で特異的な捕捉を行う工程、を繰り返す工程
をさらに含むことを特徴とする、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記感知領域の上にガスケットを配置し、前記液体試料が結合する前記感知領域の部分を制限的に画定する工程をさらに含むことを特徴とする、請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波(SAW)センサを用いた生物剤、因子またはマーカの診断用微量分析の分野に関するものである。特に、本発明は、横波型(SH)弾性表面波(SAW)バイオセンサを用いて、免疫化学反応によって圧電基板(タンタル酸リチウム)に固定化された特異的な抗体への標的抗原の結合を検出するための装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トリペプチドである心筋トロポニン(トロポニンI-T-C複合体)またはトロポニンサブユニットIと、トロポニンIサブユニット上のエピトープを認識する抗体との間の受容体-リガンド相互作用を調べるためのモデルシステムが開発されてきた。トロポニンは、骨格筋や心筋繊維の細いフィラメント上に位置するトリペプチド複合体(サブユニットC、T、I)である。トロポニンCはカルシウム結合成分であり、トロポニンTはトロポミオシン結合成分であり、トロポニンIは阻害成分である。トロポニンCのアイソフォームは骨格筋と心筋で同一であるため、血中のトロポニンC濃度は心筋の損傷に特異的ではない。トロポニンTおよびトロポニンIのアイソフォームは、骨格筋と心筋で異なるため、心筋組織の壊死に特異的である。トロポニンTは、主に心筋細胞の収縮要素に結合した形で存在する;しかしながら、細胞質内に遊離した形でも存在する。トロポニンTは、最初に細胞質成分および後に結合成分の二重の放出を示す。トロポニンサブユニットIは、単一のアイソフォームを有し、心筋に極めて特異的であり、骨格筋からは分離されていない。
【0003】
この絶対的な特異性により、心筋損傷の理想的なマーカとなっている。心筋損傷後6~8時間で循環系に放出され、12~24時間でピークに達し、7~10日間上昇したままである(42)。cTnの唯一の欠点は、クリアランスが遅いことであり、これによって心筋梗塞の再発の診断ができない。この問題を解決するために、複数のトロポニンを連続して測定し、レベルが上昇しているか、下降しているか、あるいは一定しているかを判断する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
それにもかかわらず、トロポニンIおよびトロポニンTは、急性心筋梗塞(AMI)の診断のための世界的に認知された標準的なバイオマーカとなっている。免疫検出法や二次増幅法における近年の技術的進歩により、検出限界が1ng/mlを大幅に下回るようになったため、高感度の心筋トロポニン(hs-cTn)アッセイが開発された。これらは現在世界中で実施されているが、このようなアッセイは可搬性に限界があり、運用や維持に費用がかかり、使用するには経験豊富な技術トレーニングが必要である。したがって、容易かつ便宜な携帯型hs-cTnアッセイおよびセンサシステムが依然として差し迫って必要である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
説明される実施形態は、流体中の試料を検出するためのSAWセンサの動作方法を含み、以下の工程を含む:手持ち式の携帯型アッセイおよびセンサシステムにおいて、SAWセンサに官能化された検出レーンを提供する工程;試料が検出レーンに流体的に配置されるまで、SAWセンサの官能化された検出レーンを乾燥状態に維持する工程;官能化された検出レーンに試料を流体的に配置する工程;官能化された検出レーンから流体を除去し、官能化された検出レーン中の試料を濃縮して特異的な抗体-抗原相互作用の確率を高める工程;官能化された検出レーンを洗浄し、実質的に特異的な抗原-抗体相互作用のみを官能化された検出レーンに残す工程;官能化された検出レーンから再び流体を除去する工程;および官能化された検出レーンに流体のない状態で試料の濃度を測定する工程。
【0006】
本発明の方法は、以下の工程を含む:その後に第2の試料を採取する工程;第2の試料が検出レーンに流体的に配置されるまで、SAWセンサの官能化された検出レーンを乾燥状態に維持する工程、官能化された検出レーンに第2の試料を流体的に配置する工程、官能化された検出レーンから流体を除去し、官能化された検出レーン中の第2の試料を濃縮して特異的な抗体-抗原相互作用の確率を高める工程、官能化された検出レーンを洗浄し、実質的に特異的な抗原-抗体相互作用のみを官能化された検出レーンに残す工程、官能化された検出レーンから再び流体を除去する工程、を繰り返す工程;および、第2の後の時間に、官能化された検出レーンに流体のない状態で第2の試料の濃度を測定し、試料濃度が経時で増加しているかまたは減少しているかを評価する工程。
【0007】
試料は、心筋トロポニンを含み、さらに、経験豊富な技術的トレーニングを受けなくても動作可能な簡便な携帯型のアッセイおよびセンサシステムにおいてSAWセンサに官能化された検出レーンを提供する工程を含む。
【0008】
官能化された検出レーンに流体のない状態で試料の濃度を測定する工程が、官能化された検出レーンが10pg/ml以下の濃度レベルで流体のない状態で試料の濃度を測定する工程を含む。
【0009】
本発明の方法はさらに、心筋梗塞のための追加検査を同時にまたはほぼ同時に行う工程を含む。
【0010】
追加検査を行う工程が、複数のバイオマーカの多重測定を行う工程を含む。
【0011】
試料が心筋トロポニンであり、心筋梗塞のための追加検査を同時にまたはほぼ同時に行う工程をさらに含む。
【0012】
追加検査を行う工程が、心電図(EKG)を行う工程を含む。
【0013】
複数のバイオマーカの多重測定を行う工程は、cTnl結果についての検査の信頼性を高めるために、等モル検査のためトロポニンCおよびIの両方の測定を行う工程、または、クレアチンキナーゼ(CK)および/またはミオグロビン(MB)についての検査を行う工程を含む。
【0014】
官能化された検出レーンに流体のない状態で試料の濃度を測定する工程が、官能化された検出レーンに流体のない状態で、SAWセンサの複数の官能化された検出レーン内の試料中の分析物の濃度を同時に測定する工程を含む。
【0015】
官能化された検出レーンに流体のない状態でSAWセンサの複数の官能化された検出レーン内の試料中の分析物の濃度を同時に測定する工程が、官能化された検出レーンの各々に流体のない状態で、SAWセンサの複数の官能化された検出レーン内の試料中の分析物の濃度を同時に測定する工程を含む。
【0016】
官能化された検出レーンに流体のない状態で試料の濃度を測定する工程が、2pg/ml~24μg/mlの分析物の較正されたダイナミックレンジで、官能化された検出レーンに流体のない状態で試料の濃度を測定する工程を含む。
【0017】
2pg/ml~24μg/mlの分析物の較正されたダイナミックレンジで、官能化された検出レーンに流体のない状態で試料の濃度を測定する工程が、2pg/ml~24μg/mlのトロポニンIの較正されたダイナミックレンジで、官能化された検出レーンに流体のない状態で試料の濃度を測定する工程を含む。
【0018】
手持ち式の携帯型アッセイおよびセンサシステムにおいて、SAWセンサに官能化された検出レーンを提供する工程が、回転により発生する力によって全血試料から赤血球、白血球および血小板が分離されるスピニングディスクカートリッジを用いたセンサスピン-ディスクシステムにSAWセンサを提供する工程を含み、スピニングディスクカートリッジは、SAWセンサの感知領域にナノ粒子コンジュゲートを導入するため、試料を混合および洗浄するため、およびカートリッジの周囲で試料を移動させるためのチャンバを含み、SAWセンサは、スピニングディスクカートリッジに統合され、それによって、測定のために試料を別の装置やチャンバに移動させる必要がなくなり、その結果、分析時間が短縮され、全血試料をシステム中に配置した後、10分以内に試料のアッセイが可能となる。
【0019】
本発明の方法はさらに、以下の工程を含む:複数の試料をほぼ同時に採取する工程;第2の試料が検出レーンに流体的に配置されるまで、SAWセンサの官能化された検出レーンを乾燥状態に維持する工程、官能化された検出レーンに第2の試料を流体的に配置する工程、官能化された検出レーンから流体を除去し、官能化された検出レーン中の第2の試料を濃縮して特異的な抗体-抗原相互作用の確率を高める工程、官能化された検出レーンを洗浄し、実質的に特異的な抗原-抗体相互作用のみを官能化された検出レーンに残す工程、信頼性の高い測定値を得るために十分な量の試料が官能化された検出レーンに配置されるまで、官能化された検出レーンから再び流体を除去する工程、を繰り返す工程;および、その後に、官能化された検出レーンに流体のない状態で試料の濃度を測定する工程。
【0020】
説明された実施形態はまた、乾湿(wet-dry)法としても特徴づけることができ、以下の工程を含む:分析物を含む所定の限られた量の液体試料を、所定の抗体で官能化されたSAW検出器の感知領域に亘って配置する工程;分析物を含む所定の限られた量の液体試料を、所定の抗体で官能化されていないSAW検出器の参照領域に配置する工程;分析物が、液体から所定の抗体に拡散し、感知領域上に固定化されるように抗体に結合するための適切な方向を見出すのに必要な時間よりも長い時間に亘って、液体試料をSAW検出器の感知領域に接触させたまま維持する工程;感知領域および参照領域から液体試料を蒸発させる工程;および、蒸発後に感知領域に結合した分析物の量を示す差動測定信号を、感知領域および参照領域から生成する工程。
【0021】
本発明の方法はさらに、以下の工程を含む:分析物を含む所定の限られた量の追加の液体試料をSAW検出器の感知領域に亘って配置する工程、分析物を含む所定の限られた量の追加の液体試料をSAW検出器の参照領域に亘って配置する工程、分析物が液体から所定の抗体に拡散し、感知領域上に固定化されるように抗体に結合するための適切な方向を見出すのに必要な時間よりも長い時間に亘って、追加の液体試料をSAW検出器の感知領域に接触させたまま維持する工程、および、感知領域および参照領域から追加の液体試料を蒸発させて、分析物が適切な方向で抗体とペアリングする確率を高め、測定前に感知領域で特異的な捕捉を行う工程、を繰り返す工程。
【0022】
本発明の方法はさらに、感知領域の上にガスケットを配置し、液体試料が結合する感知領域の部分を制限的に画定する工程を含む。
【0023】
説明された実施形態の精神および範囲は、上記の方法を実行するための装置も含む。
【0024】
機能的な説明と文法的な整合性をとるために装置および方法が説明されてきたまたは以下に説明されるが、35USC112の下で明確に規定されない限り、請求項は、「手段」または「工程」の制限の解釈によって必ずしも何らかの制限がされると解釈されるものではなく、司法の均等論の下で請求項により提供される定義の意味および均等物のすべての範囲が認められるものであり、請求項が35USC112の下で明確に規定される場合は35USC112の下で完全な法定の均等物が認められることが明確に理解されるべきである。本開示は、以下の図面を参照することによってよりよく理解することができ、同様の要素は同様の数字で参照される。
【0025】
本開示およびその様々な実施形態は、請求項に定義された実施形態の例示的な実施例として提示されている好ましい実施形態の以下の詳細な説明を参照することによって、よりよく理解することができる。請求項により定義される実施形態は、以下で説明される例示的な実施形態よりも広くてもよいことが明示的に理解される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】青=トロポニンC、緑=トロポニンI、マゼンタ=トロポニンTである、カルシウム飽和形態のヒト心筋トロポニン複合体(52kDaコア)を表すリボンダイアグラム
【
図2】グリセロールの濃度変化に対するSH-SAW検出器の感度を示す、SAW位相シフト出力体時間のグラフ
【
図3】溶液粘度の変化に対するSH-SAWセンサの感度を示す表
【
図4】トロポニン結合の関数としてSAWセンサの感度を示す、濃度の関数としてのcTnによるSAW位相シフトのグラフ
【
図5】リン酸ナトリウム緩衝液中のcTn濃度に対するSH-SAWセンサの感度を示す表
【
図6】マルチチャネルSH-SAWセンサが内部に含まれ試料が内部にピペッティングされた任意の回路から分離して示されたマルチチャネルSH-SAWセンサの写真
【
図8】一対のくし型電極(IDT)を特徴とするタンタル酸リチウム基板16上に蒸着された二酸化ケイ素の複合薄膜14から構成された電流SAWセンサの概略図
【発明を実施するための形態】
【0027】
心筋トロポニンI(cTnI)測定は、急性冠症候群(ACS)が疑われる患者のリスク層別化や転帰評価に欠かせないツールとなっている。心筋トロポニンのリボンダイアグラムが
図1に示される。患者の血液中のトロポニンをモニタリングできる携帯性の高いセンサは、世界中のあらゆる場所で、任意の患者にベッドサイドでの測定を可能にするための大きな進歩を示す。
【0028】
cTnIは、病気の状態を示すだけでなく、病気の発症の早期指標としても機能する。循環しているcTnI複合体またはサブユニットIは、ヒトの血中で天然に10pg/ml未満の濃度であるため、センサプラットフォームは、10pg/ml以下の濃度を検出できる必要がある。患者の急性心筋梗塞(AMI)のリスクを増加することなく、トロポニン濃度を増加させることができる一般的な状況がいくつかある。このため、臨床医は、トロポニンI濃度を増加させる可能性のある非心臓性の理由を知っておく必要がある。誤診や偽陽性の可能性を最小限にするために、トロポニンの評価は通常、他の測定法と一緒に行われる。例えば、医師は通常、鑑別診断の補助のために、EKGおよびcTnIについての血液検査の両方を含む精密検査を指示する。全ての循環しているcTnIの95%超は、cTnI-cTnC 複合体として生じると推定される。したがって、cTnI結果の信頼性を高める1つの潜在的な方法は、複数のバイオマーカの多重測定を提供することである;例えば、等モル法のためのトロポニンCおよびIの両方の測定値を含む、または、クレアチンキナーゼ(CK)および/またはミオグロビン(MB)についての検査を含む。
【0029】
図6に示すように、単一のSAWセンサ10に複数の検出レーン12を備えた、横波型弾性表面波(SH-SAW)センサ10は、多重アッセイを行うのに適している。適切な診断のために複数のバイオマーカを測定する必要性は、急性心筋梗塞(AMI)に必ずしも限定されない。実際、癌、ウイルス感染症、真菌病原体などの複数の形態を含むいくつかの疾患モデルは、診断や治療のために複数のバイオマーカについての検査を必要とする。これらの生化学アッセイはすべて、SH-SAWバイオアッセイで実施可能な免疫学的検定によって検出することができる。
【0030】
図8に図式的に示され、参照によってその全体が記載されているかのように本明細書に組み込まれる米国特許第8,709,791号明細書に記載されるように、SAWセンサ10は、一対のくし型電極(IDT)18を特徴とするタンタル酸リチウム基板16上に蒸着された二酸化ケイ素の複合薄膜14から構成される。二酸化ケイ素層14には2つの目的がある:1)捕捉剤(通常は抗体またはDNAプローブ)による生体官能化のための足場(scaffold)を提供すること、および2)SH-SAW波を導波路20およびSAWセンサ10の上面の1波長程度の表層に閉じ込めるための導波路20として作用すること。したがって、SAWセンサ10は、固液界面のみを精査し、バルク溶液は精査しない。当然のことながら、表面における分析物の濃度はバルク溶液を表すものであるという仮定がなされる。トロポニンの検出のために、二酸化ケイ素導波路20の上面は、ヒト心筋トロポニン、サブユニットIの結合エピトープに対して標的化される抗体を固定化することによって官能化されている。
【0031】
SAWセンサ10の反対端にあるSiO2の最上層14の下には、IDT18がある。本発明の装置では、IDT構造18は、325または650MHzの範囲の信号を伝達するように正確に調整されている。IDT18は、基板16のタンタル酸リチウム(LiTaO3)結晶を励起し、その過程で圧力波(音響波)を発生させるように設計されている。SH-SAWセンサ10の作製の前に、基板16のLiTaO3結晶は、X軸伝搬形状の36°Yカットに切断され、結晶中の横波の伝搬を促進する。SH-SAWセンサ10における横波の伝搬は、溶媒の粘性により波のエネルギーの一部が失われるため、漏洩(leaky)弾性表面波の伝搬と表現される。X軸伝搬の36°Yカットを施したLiTaO3結晶は、二酸化ケイ素のガイド層により液体処理が可能であるが、このシステムは、溶媒の粘性または液体溶媒からの質量負荷による横波の減衰がほとんどないため、空気中で極めて感度が高くなる。空気は粘性や質量負荷がほとんどないため、SH-SAWセンサ10の空気中での感度は、液体環境での感度よりも著しく高い。
【0032】
1つのIDTアレイ18が適切な周波数のRF入力波形によって励起されると、その信号はSH-SAW波の形でLiTaO3基板16を介して伝送され、反対端のIDTアレイ18によって受信される。この波の伝搬速度および減衰は、2つのIDT18を分離する領域の材料特性に非常に敏感である;これが導波路20の感知領域または遅延線である。SH-SAW波の伝達を変化させる感知領域20への変化には、抗原の抗体への結合、温度の増減、および固液界面での質量の付加または除去による、粘弾性層の硬直化を含む粘弾性特性の変化が含まれる。したがって、抗体-抗原複合体の結合および形成に伴う表面への質量の付加が、SAWシステム10の検出の基礎となる。SH-SAW波の変化が診断用の測定値に変換される方法については、以下でさらに説明する。
【0033】
診断の背景:
小分子およびタンパク質バイオマーカの濃度を正確に取得できることは、病気の進行をモニタリングし早期診断をするために重要な要件である。しかしながら、これは、循環血液中のバイオマーカのレベルは微量レベルであることが多いため複雑である。このため、バイオマーカの検出には、通常、濃縮工程が必要になるか、使用するセンサの感度が非常に高くなければならない。従来のバイオマーカ検出を行う方法は、免疫診断生化学アッセイを行う工程を含む。タンパク質抗原についての免疫診断測定法には様々な形態があり、いくつかのクラスのセンシングモダリティを使用して行うことができる。これらのモダリティには、酵素結合免疫測定法、蛍光免疫測定法、電気泳動免疫測定法、電気化学インピーダンス免疫測定法、および質量分析免疫測定法が含まれる。これらのシステムには、それぞれ独自の欠点がある。これらの技術はいずれも、標識されたマーカ、長い処理時間、および大型のかさばる装置を必要とするという欠点がある。そのため、これらの機器の感度を持つ、携帯型のポイント・オブ・ケア機器が必要とされてきた。携帯型バイオセンサにおいてタンパク質でコーティングされたチップを用いて行われる免疫測定は、医療に変革をもたらす大きな可能性を有する。
【0034】
これらの携帯型ポイント・オブ・ケアシステムでは、認識要素として機能する表面結合抗体を用いて抗原の検出が行われる。抗体が抗原とうまくペアになると、電気的に伝達される信号に変化が生じる。そのため、アッセイの感度は、固定化された抗原の数に依存する。SH-SAWセンサ10の場合、表面に結合した抗体への抗原の結合は、弾性波の伝搬に影響を与える。捕捉効率に影響を与える要因としては、表面密度、表面上の抗体の向き、および使用される溶媒が挙げられる。抗体の共有結合は、エポキシ末端のトリメトキシシランリンカーを用いて行われる。理想的なシナリオでは、抗体をネイティブ形態で固定化することが所望である。ここでは、バイオマーカについてヒト血液をモニタリングするための、使いやすく迅速なSAWセンサ10を提示する。
【0035】
SH-SAW波の背景:
表面波の現象は、1877年からLord Rayleighによって最初に記述された。しかしながら、SAW技術に基づいた化学センサの最初の報告は、1979年8月のAnalytical Chemistryの発行物に掲載された蒸気センサであった。この初期の報告以来、SAWデバイスは、ガスセンサとしての使用に魅力的な存在となった。しかしながら、レイリー波の縦(longitudinal)成分および横(shear vertical)成分は液体中で著しく減衰するため、化学センサとしての利用が制限された。この制限を克服するために、ラブ波デバイスが開発され最適化された。この種類の圧電素子は、基板の上でガイド層を使用して過酷な液体環境からセンサを保護し、液体と弾性波との間の直接の相互作用を防ぐ音響導波路として作用し、表面波のエネルギーを固液界面に閉じ込める。SAWセンサ10の導波路20の表面上での粒子の変位は、圧電基板16の励起によって発生する弾性表面波の速度および振幅の両方を減衰させる。SH-SAWデバイスは、導波層である音響導波路20を用いて、1波長以内の領域の弾性表面波をSAWセンサ10の表面に閉じ込める。この導波路は、SAWセンサ10を作製するために使用される基板16よりも低い位相速度を有することが主な要件である。導波路がないと、弾性波が基板16の奥に入ってしまうため、露出したSH-SAW素子10は感度が低くなる。タンタル酸リチウムの場合、SH位相速度は、X軸伝搬の36°Yカットについて~4077m/sである。SH-SAWデバイスに使用されるガイド層は、二酸化ケイ素層14である。
【0036】
動作周波数におけるSH-SAWセンサ10の性能は、SAWチップが動作するように設計された中心周波数の周りの小さな範囲または周波数(±1MHz)を走査することによって自動的に決定することができる。これにより、SAWセンサ10が可能な最高のゲインで機能するように、励振周波数を微調整することができる。これらの努力にもかかわらず、試料の粘性または媒体中に存在する試料の質量を含むいくつかの要因の組合せによって、エネルギーが常に失われる。したがって、信号対雑音比を最大化することが、挿入損失を最小化し、センサ表面上の質量負荷による特異的シグナルを最大化し、センサ表面上の粘性を増加し、かつ、表面上の結合による剛性を増加する試みとなる。
【0037】
試料は、ピペット、シリンジまたはシリンジポンプを用いて、試料チャンバ(図示せず)またはウェルを介してリーダ(図示せず)に導入される。被検試料は、従来、SAWセンサ10の導波路20の表面積全体を覆うように、設定量の緩衝液を含む液体試料中に導入されていた。本明細書では、
図6に示されるように、導入される液体の体積を単一の液滴の試料または一連の液滴に減らす代替方法を提案する。あるいは、0.5~5μlの小容量を使用することもできる。試料中の抗原は、導波路20の感知面と相互作用し、動的平衡に達することができる。試料からの液体を完全に蒸発させる。蒸発後、引き続き洗浄工程を行い、次に試料を2回目の乾燥をさせる。次いで、参照レーン24から測定された信号を、試料または検出レーン12から差し引くことにより、新しい終点を参照レーン24の終点と比較する。試料レーン12および参照レーン24からの終点の間の差が、SAWセンサ10の較正に使用される差分測定値である。本発明者は、2ピコグラム/ミリリットル(2pg/ml)~24マイクログラム/ミリリットル(24μg/ml)のダイナミックレンジを確立する。この範囲は、10pg/ml~100ng/mlの臨床関連範囲にまたがる。これにより、SH-SAWセンサ10は、単一の測定から、トロポニンIの正常濃度、わずかに上昇したトロポニンレベル、および高いトロポニンレベルを評価することができる。1時間後に実行される2回目の測定は、値が前縁または後縁にあるかどうか、すなわち増加または減少勾配を有するかどうかを明らかにする。
【0038】
第1の実施形態では、蒸発は、センサ10が配置されている環境の温度、圧力および湿度で起こる自然な蒸発プロセスである。この環境は、場所や時間に応じて湿度および他のパラメータが変化しうる。一般的にセンサ10を乾燥させるために加熱することは、生物学的に活性な分子が存在するために所望でないが、100°F以下では加熱によってタンパク質、核酸または炭水化物を変性させないことが可能である、しかしながら、天然の生物学的活性を変化させうる。別の実施形態では、分析の時間を促進または短縮するために、液滴または試料上に乾燥ガスを流すことによる乾燥が用いられてもよい。例えば、窒素は比較的不活性なガスであり任意の生物学的活性を変化させないため、乾燥窒素をセンサ10に流すことは1つの実施形態である。
【0039】
さらに別の実施形態では、連続した乾燥が用いられる、すなわち、乾燥-再懸濁またはさらなる液体の追加-次いで再び乾燥する。これには2つの利点がある:分析物の全体的な質量を増加させる;および適切な抗体-抗原コンジュゲートのために複数の試みが可能となる。(a)拡散距離が短い(液滴や試料のサイズが小さいため)ことに加えて、蒸発による試料の濃縮、および試料が感知領域のみに分布しているため捕捉率が最大化される。しかしながら、逐次付加が可能なため、捕捉の確率が高まり、堆積した試料の総質量が増加する。
【0040】
三次元感知表面積をセンサ10内に提供して総感知表面積を増加させることは、説明された実施形態の範囲および精神の範囲内である。表面積の増加によって、センサ10上の全体的な抗原捕捉が増加される。
【0041】
一実施形態では、水分センサ(図示せず)が設けられており、絶乾(bone-dry)ガスによる乾燥後に密閉チャンバ内で所定の水分レベル、例えば20%の相対湿度が達成される時にのみ、測定プロセスが開始または実行される。感知レーンおよび参照レーンは、同じ同一の環境条件を受ける。しかしながら、参照レーンは、抗原を特異的に結合することができない。非特異的結合のみである。感知領域の乾燥状態をモニタリングし、毎回同じになるようにプログラムすることができる。SH-SAWセンサ10自体が、測定されたフィルムがいつ十分に乾燥したかのの指標を与える。必要な乾燥度が達成されると、センサ10からの信号に大きいジャンプがある。液体が臨界または所望のレベルまで除去されていないプロセスでは、センサ10の感度に劇的なシフトはない。このシフトは、測定されたフィルムが乾燥する際のプロセスの最後に常に生じる。
【0042】
携帯型デバイス(図示せず)は、全血を採取し、測定を容易にするために血液を血漿および固形物に処理する完全に統合されたシステムである。携帯型デバイスおよびその動作方法は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、2019年2月25日に出願された米国特許出願第16/285,092号に完全に記載されている。新鮮な血液試料の血液処理および浄化は、毎分2000回転(RPM)で回転するディスク状のカートリッジ(図示せず)で行われ、赤血球、白血球および血小板を血液の液体成分から分離する。カートリッジには内部にチャンバ(図示せず)が設けられて設計され、SH-SAWセンサの感知領域へのナノ粒子コンジュゲートの導入、混合、およびアッセイの洗浄が可能となる。血液をその成分に分離するという問題を解決することに加えて、ディスクはまた、液体をカートリッジの周りに移動させるという問題を解決する。SH-SAWセンサ10は回転するディスクに組み込まれているため、液体試料を別の装置またはチャンバに移動させる必要がなくなる。その結果、分析時間が短縮される。これにより、本開示のシステムでは、患者の提示後30分以内、あるいは全血試料の受取り後10分以内に、患者の試料について結果を得ることができる。SH-SAW分析係数からの結果は、10%未満の変動を示す。ANOVA分散分析の結果によって、6桁に亘る濃度範囲を持つ試料から収集したデータは、2.4ng/ml~24μg/mlの濃度を有する試料について、各SH-SAWの結果が95%の信頼限界内に収まったことを示し、平均値が別の母集団からのものであった可能性は5%未満であったことが明らかになった。2.4ng/ml未満のデータポイントでは、試料を順次追加して信号を得るために質量を増加することが必要であった。これらの値はまた、明確かつ別個のものであり、各グループについての平均値は別個であり、値が別の統計的集団以下になる可能性は5%未満であることが分かった。
【0043】
SH-SAW生化学アッセイ
このSH-SAWバイオセンサプラットフォームを開発する目的は、特に、目的のタンパク質バイオマーカ上のエピトープとその抗原のこれらの特異的エピトープに向けられた抗体との間の相互作用を検出できるようにすることである。通常、これは、SAWセンサ10上にすでに緩衝液があるウェルに、約50μLの試料溶液を加えることで実行される。これにより約2/3希釈の試料が生じる。この希釈は、粘性のある試料または複雑なマトリクスを持つ試料の場合に有益でありうる。しかしながら、試料の取扱いの難しさおよび検出限界を下げる労力のために、試料の希釈は逆効果となる。
【0044】
この問題に対処するために、本発明者は、導波路20の感知面に試料を加えるまでセンサを乾燥させておく乾湿法を用いて、SH-SAW測定を行う代替手法を開発した。この技術は、初期希釈を効果的に排除し、液体が蒸発する際に試料が導波路20の感知面に高度に濃縮されることを可能にする。従来の湿式(wet-wet)法に比べ、乾式法を行うことにはいくつかの明確な利点がある:1)検出レーン12上の液体のカラムによる弾性波の減衰がないこと;2)測定を純粋な質量測定に減らすことにより、簡単な洗浄工程が可能となり、関心のある特異的な抗原-抗体の相互作用のみが確保されること;および3)蒸発プロセスが濃縮メカニズムとして機能し、特異的な抗体-抗原のペアリングの確率が高められること。総合すれば、これらの利点によって、信号対雑音比が劇的に改善される。
【0045】
乾湿法では、少量の液体サンプル、通常は50μlをピペッティングするか、または、液体の連続流を導波路20の単一の遅延線を通過させて流す。分子が溶液から抗体に拡散し結合のための適切な向きを見つけるのに必要な時間よりも長い期間、液体が導波路20の感知領域に接触したままであれば、抗体が検出レーン12に固定化される可能性が高くなる。SH-SAWセンサ10の1回の反復では、ガスケット(図示せず)が導波路20の遅延線の上に配置されて、サンプルが結合する領域を制限的に方向づける。液体サンプルは、時間、湿度、および溶液中の分析物の分子の濃度の関数として蒸発する。蒸発率が高ければ、適切な抗体-抗原の相互作用の可能性が著しく高まる。抗原を含むサンプルを複数回投与することで、抗原が適切な方向で抗体とペアリングする可能性が高まり、特異的な捕捉が生じる。残りのレーンは参照レーン24として機能する。測定された信号は、サンプルレーン12から蒸発した後の終点を比較し、参照レーン24内のサンプルの信号を差し引くことで算出される。参照レーン24のサンプルは、すべての抗原の緩衝液ボイド(void)を含む。サンプルは、未知の濃度のcTnlを有する。乾湿測定は、金ナノ粒子(AuNP)および磁性ナノ粒子(MNP)を含むさまざまなタイプの質量増強剤に適合する。
【0046】
生化学アッセイでは、SH-SAWセンサ10が水中に入り、バルク溶液からの種の吸着または選択的結合によって形成された生物層の質量が、横波型弾性表面波(SH-SAW)センサ10の表面上の弾性波の伝搬と相互作用する。非摂動波(unperturbed wave)に対する弾性波の遅延によって引き起こされる位相シフトが、位相シフトを与える。液体媒体のカラムにより引き起こされる位相シフトおよび信号減衰をなくすことにより、粘弾性結合が位相速度に与える影響が劇的に大きくなる。バイオセンサ表面の簡単なモデルは、固体弾性基板(LiTaO3)16、粘弾性中間層14(二酸化ケイ素)、および粘弾性最上層26(生体層)からなる3層システムを用いて開発することができる。固体基板16では、SH-SAW波の変位場は、横波方程式である以下の式1で与えられる。
【0047】
【0048】
ここで、νnは基板(LiTaO3)中の音速であり、μnは基板のせん断弾性係数であり、ρiは基板16の質量密度である。
【0049】
波長あたりの伝搬損失は、以下の式2で与えられる。
式2:波長あたりの伝搬損失
【0050】
ここで、ILiqは、フローセルに液体が充填される際のデバイス挿入損失であり、IAirは、空のフローセルでのデバイス挿入損失である。これらの2つの項を差し引くことは、固液界面におけるフレネル反射を考慮しない。
【0051】
実験的には、デバイスの伝搬損失は、粘度および密度の平方根の積で増加することが確認されている。したがって、波長あたりの伝搬損失は、以下の式3のように表される:
式3:波長当たりの伝搬損失
【0052】
長波長SH-SAWの位相速度シフトは、以下の式4で与えられる:
【0053】
ここで、Δφは、ネットワーク・アナライザを用いて測定された位相シフトであり、φ0は、入力および出力インターデジタル変換器(IDT)18の間の非摂動位相である。
【0054】
粘性液体の負荷を受けているSH-SAWセンサ10の場合、相対的な位相速度シフトは、液体粘度の平方根に比例することが分かり、式6で与えられる:
【0055】
に対して
のプロットをしてみると、理論モデルに一致する直線関係が得られる。このプロットにおける線形回帰線は、原点からわずかに負のオフセットを有する。原点からの付加的な相対速度シフトは、液体の負荷によるものである。液体を除去すると、これらの影響がなくなり、正のオフセットが得られる。
【0056】
湿式技術と比較して、乾湿技術は質量検出において高い感度を示す。これは、同じ処理条件であれば、乾湿技術は同伴粘性液体がより薄いという事実に起因しうる。これにより、導波路20の遅延線上の液体のカラムが最大減衰深度に近くなるため、伝搬する弾性波の摂動が少なくなる、すなわち、挿入損失が著しく低くなる。
【0057】
SAWチップ
上述したマルチチャネルSH-SAWセンサ10は、リフトオフ・フォトリソグラフィ・リソグラフィ法を用いてLiTaO3基板16上に作製された。この作製プロセスは、以下の態様でLiTaO3基板16を使用する:1)合金を形成するための一連の金属の蒸着、すなわち、200Åのチタン、その後に200Åのアルミニウム、その後に500Åの窒化ケイ素、次いで0.75μmの二酸化ケイ素の蒸着順序;2)50Åのチタンおよび次いで1000Åのアルミニウムによるデバイスの上部のコーティング;3)100Åの二酸化ケイ素を最終層に配置。フォトリソグラフィ法が完了した後、SAWセンサ10の部分的に処理されたチップを、接着層でコーティングした。接着層は、エポキシ末端トリエトキシシラン層である。このエポキシ末端トリエトキシシランは、複数の官能基と反応する。エポキシ基は、ポリペプチドおよび様々のタンパク質からの遊離アミン基との反応性が高く、開環プロセスを介して反応する。次いで、SAWセンサ10のチップを洗浄し、水分を含まない不活性雰囲気中で保管する。SAWセンサ10のチップが使える状態である場合、IgGおよびScFvのような標的分子で共有結合により修飾される。遊離エポキシ基は、Stabil Coat Immunoassay stabilizer(ミネソタ州Eden PrairieのSurModics社)と称されるタンパク質安定化剤を用いてクエンチされる。SH-SAWセンサ10の官能化されたチップは、使用するまで専用のチャンバに保管される。リーダからのデータは、スプレッドシートまたはデータ解析ツールMatlabを用いてオフラインでさらに処理することができる。
【0058】
データ分析
データ分析は、データ収集のためにAgilent Vee Pro環境で設計されたカスタム設計のグラフィカル・ユーザー・インターフェース(GUI)を用いて行われる。データ処理は、位相遅延、減衰を決定し、既知の基準に対してデータを正規化するMatLab/SimuLinkプログラムによって行われる。位相の変化およびサンプルのコンフォメーション変化を決定するためにコンピュータで使用される方程式は以下である:
式1:
【0059】
ここで、ACRは平均検量線反応であり、SCRは特異的検量線反応であり、下付き文字Rは基準データポイントを示し、下付き文字Sはサンプルデータポイントを示す。式2は以下を与える。
式2:
【0060】
予備データ
グリセロールの較正
グリセロール-水の二元溶液は、グリセロールが50%未満の濃度で、本質的にニュートン流体として振る舞う。水とグリセロール-水混合物との間の主な違いは、粘度の大きさである。したがって、変化する溶液の粘度が、装置によって測定中の伝搬する弾性波の位相シフトに与える影響を精査することができる。
【0061】
乾湿法の較正は、0.002%グリセロール~20%グリセロールの範囲の脱イオン水に含まれるグリセロールの二元溶液を用いて行われた。すべての測定について、センサの温度は試料とほぼ同じであると仮定した。しかしながら、すべての実験について温度を記録したので、弾性波伝搬の温度による影響について位相シフトを正規化することができた。
図3の表1および
図2のグラフは、グリセロール-水の調査から得られた結果をまとめたものである。
【0062】
多くの変更および修正が、実施形態の精神および範囲から逸脱することなく当業者によって行われうる。したがって、図示された実施形態は例示の目的のためだけに提示されたものであり、以下の実施形態およびその様々な実施形態によって定められる実施形態を限定するものと見なされるべきではないことが理解されるべきである。
【0063】
したがって、図示された実施形態は例示の目的のためだけに提示されたものであり、以下の請求項によって定められる実施形態を限定するものと見なされるべきではないことが理解されるべきである。例えば、請求項の要素が特定の組合せで以下に提示されているにもかかわらず、実施形態には、より少ない、より多い、または異なる要素の他の組合せが含まれており、そのような組合せで当初は請求されていない場合でも上記に開示されていることが明示的に理解されなければならない。2つの要素が請求された組合せで組み合わされているという教示はさらに、2つの要素が互いに組み合わされておらず、単独で使用されてもよいまたは他の組合せで組み合わされてもよいという請求された組合せも考慮に入れるものとして理解されなければならない。実施形態の任意の開示された要素の削除は、実施形態の範囲内として明示的に企図されている。
【0064】
様々な実施形態を説明するために本明細書で使用される用語は、一般的に定義された意味だけでなく、本明細書の特別な定義による一般的に定義された意味の範囲を超えた構造、材料または動作を含むものとして理解される。したがって、ある要素が本明細書の文脈において2つ以上の意味を含むものとして理解される場合、請求項におけるその使用は、本明細書およびその用語自体によってサポートされるすべての可能な意味に対して包括的であると理解されなければならない。
【0065】
したがって、以下の請求項の用語または要素の定義は、本明細書において、文字通り提示されている要素の組合せだけでなく、実質的に同じ機能を実質的に同じ方法で実行して実質的に同じ結果を得るためのすべての等価な構造、材料または動作を含むように定義されている。この意味で、2つ以上の要素の等価な置換が以下の請求項の要素のいずれか1つに対してなされてもよい、または、単一の要素が請求項の2つ以上の要素に対して置換されてもよいことが企図されている。要素は、特定の組合せで作用するものとして上記に記載され、さらにそのように当初請求されうるが、請求された組合せからの1つまたは複数の要素を場合によっては当該組合せから除外することができ、請求された組合せがサブコンビネーションまたはサブコンビネーションのバリエーションを対象としてもよいことを明示的に理解されたい。
【0066】
現在知られている、または後に考案される、当業者から見た請求項の主題からの実質的でない変更は、請求項の範囲内で等価的であることが明示的に企図されている。したがって、当業者に現在または後に知られる明らかな置換は、定義された要素の範囲内にあると定義される。
【0067】
したがって、請求項には、上記で具体的に図示および説明されているもの、概念的に等価のもの、明らかに代替可能なもの、および実施形態の本質的なアイデアを本質的に組み込んだものが含まれると理解されたい。
【国際調査報告】