(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-08
(54)【発明の名称】NK細胞免疫チェックポイントを標的とすることによる感染症処置のための方法
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20220601BHJP
A61K 45/06 20060101ALI20220601BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20220601BHJP
A61P 31/18 20060101ALI20220601BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20220601BHJP
A61P 31/20 20060101ALI20220601BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20220601BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20220601BHJP
A61K 38/07 20060101ALI20220601BHJP
A61K 38/06 20060101ALI20220601BHJP
A61K 31/4709 20060101ALI20220601BHJP
A61K 31/4725 20060101ALI20220601BHJP
A61K 31/7072 20060101ALI20220601BHJP
A61K 31/7068 20060101ALI20220601BHJP
A61K 31/4178 20060101ALI20220601BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220601BHJP
【FI】
A61K45/00
A61K45/06
A61P31/12
A61P31/18
A61P31/14
A61P31/20
A61K31/7105
A61K31/713
A61K38/07
A61K38/06
A61K31/4709
A61K31/4725
A61K31/7072
A61K31/7068
A61K31/4178
A61P43/00 121
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021559469
(86)(22)【出願日】2020-03-20
(85)【翻訳文提出日】2021-11-04
(86)【国際出願番号】 CN2020080365
(87)【国際公開番号】W WO2020192572
(87)【国際公開日】2020-10-01
(31)【優先権主張番号】201910219951.0
(32)【優先日】2019-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521437895
【氏名又は名称】チャイニーズ・アカデミー・オブ・サイエンシーズ、アンスティテュ・パストゥール・オブ・シャンハイ
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT PASTEUR OF SHANGHAI, CHINESE ACADEMY OF SCIENCES
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(74)【代理人】
【識別番号】100221545
【氏名又は名称】白江 雄介
(72)【発明者】
【氏名】タン,ホン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,チャオ
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ハイロン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084AA18
4C084BA01
4C084BA10
4C084BA15
4C084BA16
4C084BA23
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4C084ZB331
4C084ZB332
4C084ZC751
4C086AA01
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4C086EA16
4C086EA17
4C086GA07
4C086GA10
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZB33
4C086ZC75
(57)【要約】
本開示は、ナチュラルキラー(NK)細胞免疫チェックポイント分子に対するアンタゴニストまたは発現阻害剤を対象に投与するステップを含む、対象における感染症を予防または処置する方法に関する。本開示はまた、感染症の処置における、NK細胞免疫チェックポイント分子に対するアンタゴニストまたは発現阻害剤の使用、およびNK細胞免疫チェックポイント分子に対するアンタゴニストまたは発現阻害剤を含む医薬組成物の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象がウイルス感染に起因する感染症に罹患している、または罹患のリスクがある、対象においてNK細胞の枯渇を阻止、阻害、および/または逆転するための医薬組成物の製造における、NK細胞免疫チェックポイント分子に対するアンタゴニストまたは発現阻害剤の使用。
【請求項2】
対象においてウイルス感染に起因する感染症を予防または処置するための医薬組成物の製造における、NK細胞免疫チェックポイント分子に対するアンタゴニストまたは発現阻害剤の使用。
【請求項3】
該ウイルスが、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、B型肝炎ウイルス(HBV)、およびC型肝炎ウイルス(HCV)から選択される、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
該ウイルスが、HCVである、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
該感染症が慢性感染期にある、請求項1-4の何れか1項に記載の使用。
【請求項6】
該NK細胞免疫チェックポイント分子が、KIR、NKG2A、TIGITおよびKLRG1から選択される、請求項1-5の何れか1項に記載の使用。
【請求項7】
該アンタゴニストが、該免疫チェックポイント分子に対する抗体またはその抗原結合フラグメントである、請求項1-6の何れか1項に記載の使用。
【請求項8】
該NK細胞免疫チェックポイント分子がNKG2Aであり、および該アンタゴニストがNKG2AまたはそのリガンドHLA-Eに対して指向性を持つ抗体またはその抗原結合フラグメントである、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
該アンタゴニストが免疫チェックポイント分子の対応するリガンド/受容体またはそのフラグメントの可溶性形態である、請求項1-6の何れか1項に記載の使用。
【請求項10】
該免疫チェックポイント分子がNKG2Aであり、および該アンタゴニストがHLA-Eまたはそのフラグメントの可溶性形態である、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
該発現阻害剤がmicroRNAおよびsiRNAから選択される、請求項1-6の何れか1項に記載の使用。
【請求項12】
該医薬組成物がウイルスの排除を促進するためのものである、請求項1-11の何れか1項に記載の使用。
【請求項13】
該対象が、ヒトまたは非ヒトの霊長類である、請求項1-12の何れか1項に記載の使用。
【請求項14】
該医薬組成物がさらに1以上の追加の治療剤を含む、請求項1-13の何れか1項に記載の使用
【請求項15】
該追加の治療剤が、NK細胞活性化受容体のアゴニスト、NK細胞抑制性受容体のアンタゴニスト、またはNK細胞を活性化するサイトカインまたはケモカインなどの、NK細胞活性化剤である、請求項14に記載の使用
【請求項16】
該追加の治療剤が直接作用型抗ウイルス(DAA)薬から選択される、請求項14に記載の使用。
【請求項17】
該ウイルスがHCVであり、該DAA薬が、テラプレビル、ボセプレビル、シメプレビル、アスナプレビル、ソフォスブビル、メリシタビン(RG-7128)、ACH-3422、MK-3682、およびダクラタスビルから選択される、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
該対象がDDA薬処置に不応答性である、または耐性がある、請求項1-13の何れか1項に記載の使用。
【請求項19】
該ウイルスがHCVであり、および該DAA薬がテラプレビル、ボセプレビル、シメプレビル、アスナプレビル、ソフォスブビル、メリシタビン(RG-7128)、ACH-3422、MK-3682、およびダクラタスビルから選択される、請求項18に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権
本出願は、2019年3月22日に出願された、中国出願第201910219951.0号の優先権を主張するものであり、ここに本明細書の一部として参照によりその全体を援用する。
【0002】
技術分野
本開示は免疫療法の分野に関する。特に、本開示はNK細胞免疫チェックポイントを標的とすることによる感染症の予防または処置のための方法に関する。本開示はまた、感染症の処置における、NK細胞免疫チェックポイント分子に対するアンタゴニストまたは発現阻害剤の使用、およびNK細胞免疫チェックポイント分子に対するアンタゴニストまたは発現阻害剤を含む医薬組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
背景技術
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、B型肝炎ウイルス(HBV)、およびC型肝炎ウイルス(HCV)を含むウイルスの感染による感染症は世界中で蔓延している。人々の性別、年齢、および人種が異なれば、これらのウイルスに対する感受性の程度は異なる。例えば、世界保健機関の統計によれば、世界中で約1億8千5百万人の人(総人口の約3%)がHCVに感染しているとされている(Mohd Hanafiah,K.,et al.,Global epidemiology of hepatitis C virus infection:New estimates of age-specific antibody to HCV seroprevalence.Hepatology,2013.57(4):p.1333-1342)。中国では現在3千万人以上のHCV感染症患者がいると推定されており、その数は年々増加する傾向にある。
【0004】
ウイルス感染の急性期においてウイルスを迅速に排除し得ない場合、それはしばしば感染の慢性期へと進行する。HCV感染症の場合、急性感染症患者の最大80%がウイルスを排除できず、および慢性感染症へと進行する。さらに、慢性HCV感染症の主な症状には、肝硬変、門脈圧亢進症、および肝臓がんが含まれる。WHOの2015年のデータによると、毎年約35万件の死亡が直接的にHCVに関係しており、および肝硬変の約27%、および肝臓がんの約25%はHCV感染症が原因だとされている。加えて、HCV感染症は患者の生活の質(quality of life)を著しく低下させる原因となり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
HCV処置の標準的なレジメンは、長時間作用型のインターフェロンの注射と、リバビリンの経口投与の併用である。HCVサブタイプの違いを考慮すると、約50%の患者が処置を通じてウイルス学的著効(SVR)を達成し得る。近年では、直接作用型抗ウイルス薬(DAA)が非常に進歩してきており、かつ新しいDAA薬が徐々に臨床的に使用されてきている。しかし、DAA薬には、以下を含む限界がある;(1)薬剤耐性、(2)従来のリバビリン/長時間作用型インターフェロン併用療法のようなDAA薬では、再感染を効果的に防ぐ事ができず、および中期または後期の慢性感染症に入った患者においては有効性が限定的である事、(3)現在、DAA薬は種類が少なく、かつ高価であるため、患者の経済的負担が著しく増加する事。
【0006】
したがって、当分野ではHCVを含むウイルス感染に起因する感染症に対する、特に感染症の慢性期における、効率的かつ経済的な処置方法が依然必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の概要
驚くべきことに、本発明者らは、NK細胞上に発現される免疫チェックポイント分子を標的とすることで(例えば、対応するアンタゴニストまたは発現阻害剤を用いて)、ウイルス感染による感染症患者において、NK細胞の枯渇を阻止、阻害、および/または逆転させる事が可能である事を見出した。上記の処理はさらにウイルスの迅速な排除を促進し、これによって感染症を予防または処置し得る。
【0008】
したがって1つの態様では、本開示は対象におけるNK細胞の枯渇を阻止、阻害および/または逆転させるための方法であって、ここで該対象がウイルス感染に起因する感染症に罹患している、または罹患のリスクがあり、該方法が該対象に対して有効量の、NK細胞免疫チェックポイント分子に対するアンタゴニストまたは発現阻害剤を投与するステップを含む、方法に関する。
【0009】
別の態様では、本開示は対象におけるウイルス感染に起因する感染症の予防または処置の方法であって、該方法が該対象に対してNK細胞免疫チェックポイント分子に対する有効量のアンタゴニストまたは発現阻害剤を投与するステップを含む、方法に関する。
【0010】
上記のウイルスの種類は特に限定されず、および感染症を成立させ得る任意の種類のウイルスを含んでいてよい。いくつかの実施形態では、該ウイルスはヒト免疫不全ウイルス(HIV)、B型肝炎ウイルス(HBV)、およびC型肝炎ウイルス(HCV)から選択されてよい。いくつかの実施形態では、該ウイルスはHCVである。
【0011】
ヒト後天性免疫不全症候群(AIDS)はヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染に起因する一連の疾患である。HIVにはHIV-1およびHIV-2を含み、これらはレトロウイルスである。HIVは、ヘルパーT細胞(特にCD4+T細胞)、マクロファージ、および樹状細胞などのヒトの免疫系において不可欠な細胞に感染する。HIV感染は様々なメカニズムを通じてCD4+T細胞の発現低下を引き起こすが、これには感染T細胞のアポトーシス、非感染隣接細胞のアポトーシス、ウイルス感染細胞の直接的な傷害、およびCD8+細胞傷害性リンパ球細胞による感染CD4+T細胞の傷害、などを含む。CD4+T細胞の数が致命的なレベル以下にまで減少すると、細胞介在性の免疫が消失し、および生体は日和見感染を受けやすくなるので、AIDSの発症につながる。
【0012】
ほとんどの場合、HIVは血液、精液および膣液との接触またはその移動を介して起こる性感染症である。これらの体液中において、HIVは遊離のウイルス粒子および感染した免疫細胞中のウイルスの両方として存在する。加えて、感染した母親と赤ん坊の間での垂直感染も起こり得る。
【0013】
HIV感染症の初期段階を、急性HIV(acute HIVまたはprimary HIV)と呼ぶ。多くの人が感染後2-4週間後にインフルエンザ様の症状または単核球症様の症状を発症するが、明らかな症状がない人もいる。最も一般的な症状には発熱、リンパ節腫脹、喉の炎症、発疹、頭痛、疲労、および/または口内および陰部の潰瘍を含む。一部の患者はこの段階で日和見感染も発症する。症状の持続期間は様々だが、通常は1または2週間である。これらの症状の非特異性のために、これら症状はしばしばHIVの兆候として認識されないことがある。
【0014】
初期症状の後の第2段階は、臨床潜伏期/慢性感染期、無症候性HIV、または慢性HIV期と呼ばれる。HIV感染症の第2段階は約3-20年間続き得る(平均で約8年)。しかし通常、最初は症状がわずかであるかまたは症状が見られず、この段階が進行するにつれて多くの人が発熱、体重減少、胃腸障害、および筋肉痛を発症し、および50-70%の人では、持続的な全身性のリンパ腫脹も生じる。HIV-1に感染したほとんどの人が検出可能なウイルス量を有しており、処置しないと最終的にAIDSを発症する。免疫系の破綻の進行によって、AIDS患者は様々なウイルス感染症およびがんのリスクが増加する。処置しない場合、患者の平均生存期間は9年から11年である。
【0015】
B型肝炎は、B型肝炎ウイルス(HBV)の感染に起因し、肝臓に影響を与える疾患である。これは急性および慢性の感染症を引き起こし得る。世界人口の約3分の1がその生涯のどこかの時点でHBVに感染し、およびそのうち約3億4千3百万人は慢性感染症である。75万人を超える人が毎年B型肝炎によって亡くなっており、そのうち約30万人は肝臓がんが原因である。この疾患は他の非ヒトの類人猿にも感染し得る。HBV感染は主に感染性の血液または血液を含む体液への暴露を介して起こり、HIVに比して50から100倍の感染力がある。有り得る感染の形態には、性的接触、輸血および他人の血液製剤の注入、汚染した針およびシリンジの再使用、ならびに出産時の母親から子供への垂直感染などを含む。このウイルスは感染後30日から60日以内には検出できるようになり、そして持続し、および慢性B型肝炎へと発展し得る。
【0016】
急性HBV感染は、急性ウイルス性肝炎を引き起こし、これは、全身の健康状態の悪化、食欲不振、吐き気、嘔吐、全身の痛み、微熱、および濃い尿に始まり、そして黄疸へと進行する。ほとんどの感染者では、疾患は数週間続き、そして徐々に改善する。わずかな人々がより重度の肝疾患、劇症肝不全、を発症し、結果として死亡する事もあり得る。急性感染症は、完全に無症候性である事、および認識できない事もあり得る。
【0017】
HBVの慢性感染症は無症候性であるか、または肝臓の慢性炎症(慢性肝炎)と関連し得る場合があり、数年間続く肝硬変を引き起こし得る。この種類の感染症は肝細胞がんの発症率を顕著に増加させる。ヨーロッパ全体では、B型およびC型肝炎は肝細胞がんの約50%を引き起こす。肝硬変および肝臓がんを含むこれらの合併症によって、慢性HBV感染症の患者の15から25%が亡くなる。
【0018】
C型肝炎はC型肝炎ウイルス(HCV)に起因する感染症であり、主に肝臓に影響する。世界保健機関の統計によると、世界中で約1億8千5百万人(総人口の約3%)の人がHCVに感染しているとされる。推計によると、中国では現在3千万人を超えるHCV感染症患者がいるとされており、その数は年々増加する傾向にある。HCVは主に血液を介して感染し、およびその感染経路もまた、性行為による感染、母親から子供への感染などを含む。HCVは一般的にヒトおよびチンパンジーに感染すると考えられている。HCV感染症の中でも、急性HCV感染症の患者の最大80%がウイルスを排除できずに慢性感染症へ進行する。さらに、慢性感染症の主な症状には、肝硬変、門脈圧亢進症、および肝臓がんを含む。WHOの2015年のデータによると、毎年約35万人の死亡がHCVに直接関係しているとされる。加えて、HCV感染症は患者の生活の質(quality of life)を著しく低下させる原因となり得る。
【0019】
HCV感染はその約15%の場合において急性症状を引き起こす。症状は通常穏やかであり、食欲不振、疲労、吐き気、筋肉痛または関節痛、および体重減少、そして稀な急性肝不全を含む。ウイルスの自然除去は、HCV感染症の15%~20%の場合のみでしか起こらない。
【0020】
HCVにさらされた人の約80%は、慢性感染症へと変わり、これは少なくとも6ヶ月間検出可能なウイルスの複製が存在する事と定義されている。慢性感染症の初めの数年間は、ほとんどの人で症状がわずかであるかまたは症状が見られない。しかし、慢性感染症は数年後に肝硬変または肝臓がんを引き起こし得る。世界中で、肝硬変の約27%、および肝臓がんの約25%はHCV感染症が原因である。HCV感染症患者の約10-30%が30年以内に肝硬変を発症する。肝硬変患者は正常な人に比べて肝細胞がんになる可能性が20倍高い。この転換の発生率は年間1-3%である。加えて、肝硬変は門脈圧亢進症、腹水、あざができやすい、または出血しやすい、静脈瘤、黄疸、および認知障害症候群(肝性脳症)などの症状の原因となり得る。
【0021】
いくつかの実施形態では、上記の方法は、ウイルス(例えばHIV、HBV、またはHCV)感染に起因する感染症を、この感染症の発症リスクのある対象において予防するためのものである。例えば該対象は、血液感染、性感染、および母子感染を含む、対応するウイルスの感染経路を介して、ウイルス(例えばHIV、HBV、またはHCV)に感染した人またはキャリアと接触している
【0022】
いくつかの実施形態では、上記の方法は、ウイルス(例えばHIV、HBV、またはHCV)感染に起因する対象における感染症を処置するためのものである。いくつかの実施形態では、この感染症は急性感染期にある。その他の実施形態では、この感染症は慢性感染期にある。
【0023】
例えば、いくつかの実施形態では、この感染症は慢性感染期にあるHCV感染症である。
【0024】
種々の感染症について上記に議論したように、ウイルス感染とは通常、病原体と宿主免疫が戦う過程である。感染症は急性感染症および慢性感染症の段階に分けることができる。急性感染症は通常、一時的なものであって、病原体の侵入が免疫系を活性化させ、生体は自然免疫または適応免疫応答を通じて迅速に病原体を排除し、恒常性を回復する。慢性感染症では、病原体は潜伏を保ち、宿主免疫から逃避し得る。慢性感染症は、細胞症の誘発、継続的な炎症の誘発、および免疫寛容の確立によって宿主細胞に影響を与え、免疫力の低下、臓器の病変やがん化、さらには死などの深刻な結果をもたらし得る。この過程では、T細胞およびNK細胞などの免疫エフェクター細胞の枯渇を伴うことが多い。
【0025】
上記の方法の任意の実施形態では、NK免疫チェックポイント分子はKIR、NKG2A、TIGIT、およびKLRG1から選択されてよい。
【0026】
KIR(キラー細胞免疫グロブリン様受容体)は、NK細胞および少しのT細胞において発現されるI型膜貫通型糖タンパク質ファミリーである。KIRは有核細胞種において発現する腫瘍組織適合性遺伝子(MHC)クラスI分子(ヒトではHLA-A)との相互作用を介して、これらの細胞の細胞傷害性機能を調節する。ほとんどのKIRは抑制性であり、つまりそれらがMHC分子を認識すると、それらが発現しているNK細胞の細胞傷害活性を阻害する事を意味する。NK細胞上のKIRの初期発現はランダムだが、NK細胞の成熟に従ってKIRの発現は変化し、免疫防御と自己寛容のバランスをとる。そのNK細胞の活性を阻害する性質のために、KIRはウイルス感染症、自己免疫疾患、およびがんの発生などに広く関与する。
【0027】
NKG2A(CD94)はII型膜貫通型タンパク質である、C型レクチン受容体ファミリーである。NKG2Aは主にNK細胞および一部のCD8+T細胞の亜集団の表面に発現する。NKG2Aは、非古典的MHC糖タンパク質クラスI(ヒトではHLA-Eであり、およびマウスではQa-1分子)を認識し、そのリガンドと結合した後、NK細胞の細胞傷害活性を阻害する。
【0028】
TIGIT(IgおよびITIMドメインを有するT細胞免疫受容体)は、一部のNK細胞およびT細胞に存在する抑制性の免疫受容体である。TIGITは樹状細胞(DC)上、マクロファージおよびその他の細胞上のCD155(PVR)と高親和性で結合し得る、かつCD112(PVRL2)とも低親和性で結合し得る。TIGITはリンパ球の活性を阻害する一方、DNAM-1受容体は活性化する受容体である。TIGITはCD155リガンドへの結合についてDNAM-1と競合することでDNAM-1を介したNK細胞の活性化を阻害する。TIGITを遮断することで、NK細胞の一部の機能は回復し得る。
【0029】
KLRG1(キラー細胞レクチン様受容体サブファミリーGメンバーI)はリンパ球共抑制の、または免疫チェックポイントの受容体であって、および分化後期のエフェクター、エフェクターおよびメモリーCD8+T細胞ならびにNK細胞で主に発現する。KLRG1のリガンドは、同程度の親和性でもってE-カドヘリンおよびN-カドヘリンであり、これらはそれぞれ上皮細胞および間葉系細胞のマーカーである。
【0030】
「免疫チェックポイント分子」、とは当業者に理解されるように、典型的にはリガンド-受容体のペアとして存在し、機能する。ここでは、免疫チェックポイントタンパク質受容体およびそのリガンドをまとめて免疫チェックポイント分子と呼ぶ。例えば、NK細胞免疫チェックポイント分子については、リガンド-受容体ペアの受容体が、通常NK細胞で発現し、一方対応するリガンドは他の種類の細胞で発現する。NK細胞の活性化および免疫エフェクター機能は、受容体-リガンド相互作用によって阻害される。したがって、「免疫チェックポイント分子」と呼ぶ場合、リガンドと受容体の両方が包含される。例えば、NKG2Aに言及する場合、NKG2AとそのリガンドであるHLA-E(ヒト)およびQa-1(マウス)が包含される。
【0031】
いくつかの実施形態では、アンタゴニストは、受容体および対応するリガンドを含む免疫チェックポイント分子に対する抗体または抗原結合フラグメントである。
【0032】
本明細書で使用する場合、「抗体」という用語は、少なくとも1つの抗原認識部位を含み、および抗原に特的に結合し得る免疫グロブリン分子を指す。本明細書で言及する場合の「抗体」という用語は、その最も広い意味で理解され、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、抗体フラグメント、少なくとも2つの異なる抗原結合ドメインを含む多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)を含む。抗体にはまた、マウス由来抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体および他に由来する抗体を含む。本開示の抗体は、任意の動物に由来していてよく、これには、ヒト、非ヒトの霊長類、マウス、またはラットなどの免疫グロブリン分子を含むが、これらに限定されない。抗体は、非天然アミノ酸残基、Fcエフェクター機能の変異、およびグリコシル化部位の変異などのさらなる修飾を含んでいてもよい。また、抗体は、その抗体が所望の生物学的活性を示す限りにおいて、翻訳語修飾された抗体、複数の抗体の抗原決定基を含む融合タンパク質、および抗原認識部位のその他の任意の修飾を含む免疫グロブリン分子を含む。
【0033】
「抗原結合フラグメント」という用語には、VL、CL、VHおよびCH1ドメインを有するFabフラグメント;CH1ドメインのC末端に1以上のシステイン残基を有するFabフラグメントであるFab’フラグメント;VHおよびCH1ドメインを有するFdフラグメント;VHおよびCH1ドメインを有し、およびCH1ドメインのC末端に1以上のシステイン残基を有するFd’フラグメント;抗体の片腕のVLおよびVHドメインを有するFvフラグメント;VHドメインまたはVLドメインからなるdAbフラグメント;単離されたCDR領域;ヒンジ領域においてジスルフィド架橋で連結されていた2つのFab’フラグメントの二価フラグメントであるF(ab’)2フラグメント:一本鎖抗体分子(例えば、一本鎖Fv;scFv);同じポリペプチド鎖内で、軽鎖可変ドメイン(VL)に連結した重鎖可変ドメイン(VH)を含む、2つの抗原結合部位を持つ「ダイアボディ」;相補的な軽鎖ポリペプチドと一緒になって1対の抗原結合領域を形成する1対のタンデムFdセグメント(VH-CH1-VH-CH1)を含む「直鎖状抗体」;および抗原結合活性を保持している、任意の前述の物質の改変体などを含むが、これらに限定されない。
【0034】
上記の方法のいくつかの実施形態では、NK細胞免疫チェックポイント分子はNKG2Aであり、およびアンタゴニストは、NKG2AまたはそのリガンドHLA-Eに指向性を持つ抗体またはその抗原結合フラグメントである。いくつかの実施形態では、NK細胞免疫チェックポイント分子はKIRであり、およびアンタゴニストはKIRまたはそのリガンドHLA-Aに指向性をもつ抗体または抗原結合フラグメントである。いくつかの実施形態では、NK細胞免疫チェックポイント分子はTIGITであり、およびアンタゴニストはTIGITまたはそのリガンドCD155(PVR)/CD112(PVRL2)に指向性をもつ抗体または抗原結合フラグメントである。いくつかの実施形態では、NK細胞免疫チェックポイント分子はKLRG1であり、およびアンタゴニストはKLRG1またはそのリガンドE-カドヘリン/N-カドヘリンに指向性をもつ抗体または抗原結合フラグメントである。
【0035】
その他の実施形態では、アンタゴニストは免疫チェックポイント分子の対応するリガンド/受容体またはそのフラグメントの可溶性形態である。例えば、NK細胞免疫チェックポイント分子がNKG2Aであるとき、このアンタゴニストはNKG2A/HLA-Eまたはそのフラグメントの可溶性形態であってもよい。NK細胞免疫チェックポイント分子がKIRであるとき、このアンタゴニストはKIR/HLA-Aまたはそのフラグメントの可溶性形態であってもよい。NK細胞免疫チェックポイント分子がTIGITであるとき、このアンタゴニストはTIGIT/CD155(PVR)/CD112(PVRL2)またはそのフラグメントに対する可溶性形態であってもよい。いくつかの実施形態では、NK細胞免疫チェックポイント分子がKLRG1であり、そのアンタゴニストはKLRG1/E-カドヘリン/N-カドヘリンまたはそのフラグメントの可溶性形態である。このアンタゴニストはまた、受容体/リガンドまたはそのフラグメントを含む融合タンパク質の可溶性形態であってもよい。
【0036】
上記の方法のいくつかの実施形態では、発現阻害剤は対応する免疫チェックポイント分子(受容体およびその対応リガンドを含む)の発現を阻害するmicroRNAまたはsiRNAであり、これにはmicroRNAまたはsiRNAの様々な改変体を含む。
【0037】
いくつかの実施形態では、本開示のNK細胞免疫チェックポイント分子に対するアンタゴニストまたは発現阻害剤は、ウイルスの排除を促進し得る。
【0038】
本開示の方法の任意の実施形態では、対象には、非ヒトの霊長類およびヒトを含むが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、対象はヒトである。
【0039】
いくつかの実施形態では、該方法は、1以上の追加の治療剤を対象に投与するステップをさらに含む。
【0040】
いくつかの実施形態では、例えば、この追加の治療剤は、NK細胞活性化受容体のアゴニスト、NK細胞抑制性受容体のアンタゴニスト、またはNK細胞を活性化するサイトカインまたはケモカインなどの、NK細胞活性化剤から選択される。いくつかの実施形態では、この追加の治療剤は、T細胞活性化受容体のアゴニスト、T細胞抑制性受容体のアンタゴニスト、またはT細胞を活性化するサイトカインまたはケモカインなどの、T細胞(例えば、CD8+T細胞)活性化剤から選択される。その他の実施形態では、この治療剤は直接作用型抗ウイルス(DAA)薬から選択される。
【0041】
当分野では多くのDAA薬が開発されてきた。HBV感染症の場合、例えば現在一般的に使用されているDAA薬にはインターフェロンや、ならびにラミブジン、アデホビルジピボキシル、テルビブジン、エンテカビル、テノホビルジソプロキシル、およびクレブジンなどのヌクレオシドアナログが含まれる。HCV感染症の場合、現在のDAA薬には、テラプレビル、ボセプレビル、シメプレビル、およびアスナプレビルなどのNS3/4Aセリンプロテアーゼ阻害剤、ソフォスブビル、メリシタビン(RG-7128)、ACH-3422、およびMK-3682などのNS5Bポリメラーゼ阻害剤、ダクラタスビルを含むNS5A複製複合体タンパク質阻害剤が含まれる。
【0042】
HIV感染症の場合、現在一般的に使用されている治療は、カクテル療法としても知られている、DAA薬を用いた抗レトロウイルス治療薬との効果の高い併用療法である。例えば、2種類のヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤(NRTI)と1種類の非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤(NNRTI)の組み合わせや、2種類のNRTIと1種類の強化型PI(リトナビルを含む)の組み合わせなどが用いられている。
【0043】
したがって、いくつかの実施形態では、ウイルスはHBVであり、および本方法には対象にNK細胞免疫チェックポイントに対するアンタゴニストまたは発現阻害剤、およびDAA薬を併用して投与するステップを含み、ここでDAA薬はインターフェロン、およびラミブジン、アデホビルジピボキシル、テルビブジン、エンテカビル、テノホビルジソプロキシル、クレブジンなどといったヌクレオシドアナログから選択される。
【0044】
いくつかの実施形態では、ウイルスはHCVであり、および本方法には対象にNK細胞免疫チェックポイントに対するアンタゴニストまたは発現阻害剤、およびDAA薬を併用して投与するステップを含み、ここでDAA薬はテラプレビル、ボセプレビル、シメプレビル、アスナプレビル、ソフォスブビル、メリシタビン(RG-7128)、ACH-3422、MK-3682 およびダクラタスビルから選択される。
【0045】
いくつかの実施形態では、本開示のアンタゴニストまたは発現阻害剤は、DAA薬処置に不応答性である、または耐性がある対象において、NK細胞の枯渇を阻止、阻害、および/または逆転させる、またはウイルス感染に起因する感染症を予防または処置することにおいて使用するためのものであって、ここで、DAA薬は、例えば上記のものである。
【0046】
1つの態様では、本開示は、対象におけるNK細胞の枯渇を阻止、阻害、および/または逆転させるためのNK細胞免疫チェックポイント分子に対するアンタゴニストまたは発現阻害剤の使用に関し、ここで、該対象はウイルス感染に起因する感染症を罹患している、または罹患するリスクがある。
【0047】
別の態様では、本開示は対象におけるNK細胞の枯渇を阻止、阻害、および/または逆転させるための医薬組成物の製造における、NK細胞免疫チェックポイント分子に対するアンタゴニストまたは発現阻害剤の使用に関し、ここで、該対象はウイルス感染に起因する感染症を罹患している、または罹患するリスクがある。
【0048】
1つの態様では、本開示は、対象におけるウイルス感染に起因する感染症の予防または処置のための、NK細胞免疫チェックポイント分子に対するアンタゴニストまたは発現阻害剤の使用に関する。
【0049】
別の態様では、本開示は対象におけるウイルス感染に起因する感染症の予防または処置のための医薬組成物の製造における、NK細胞免疫チェックポイント分子に対するアンタゴニストまたは発現阻害剤の使用に関する。
【0050】
1つの態様では、本開示はNK細胞免疫チェックポイント分子に対するアンタゴニストまたは発現阻害剤、および任意には1以上の医薬的に許容できるキャリア、賦形剤、および/または希釈剤を含む医薬組成物に関し、ここで、該医薬組成物は対象におけるNK細胞の枯渇を阻止、阻害、および/または逆転させるために使用され、およびここで、該対象はウイルス感染に起因する感染症を罹患している、または罹患するリスクがある。
【0051】
別の態様では、本開示はNK細胞免疫チェックポイント分子に対するアンタゴニスト、および任意には1以上の医薬的に許容できるキャリア、賦形剤、および/または希釈剤を含む医薬組成物に関し、ここで、該医薬品組成物は対象におけるウイルス感染に起因する感染症の予防または処置のために使用される。
【0052】
「医薬的に許容できる」という用語は、それらの成分、物質、組成物、および/または剤形が、合理的な医学的判断の範囲内でヒトおよび動物の組織と接触して使用するのに適しており、過度な毒性、刺激、アレルギー反応、またはその他の問題、または合併症を生じさせず、および合理的な利益/リスク比を持つものである事を意味する。本明細書で用いられる場合、「医薬的に許容できるキャリア、賦形剤および/または希釈剤」という用語は、本開示のアンタゴニストの安定性、可溶性、または活性を維持する、液体または個体の充填剤、希釈剤、賦形剤、溶媒、培地、カプセル化材料、製造補助剤、または溶剤カプセル化材料などの、医薬的に許容できる物質、組成物またはビヒクルを指す。
【0053】
本開示の医薬組成物は、さまざまな経路を通じて投与され得る、および異なる投与経路に従って製剤化される。好ましくは、医薬品組成物は皮下注射、静脈注射(ボーラス注射を含む)、筋肉内注射および動脈内注射などを含むが、これらに限定されない非経口経路で投与される。非経口投与剤での投与は通常、汚染物質に対する患者の自然防御を迂回するため、非経口投与剤は、好ましくは無菌であるか、または患者への投与前に滅菌し得る。非経口投与剤の例としては、注射可能な溶液、医薬的に許容できる注射ビヒクルに溶解または懸濁可能な乾燥製品、注射可能な懸濁液、徐放性の非経口投与剤、およびエマルジョンを含むが、これらに限定されない。
【0054】
上記の使用および医薬組成物のいくつかの実施形態では、ウイルスはHIV、HBV、およびHCVから選択され得る。例えば、いくつかの実施形態では、ウイルスはHCVである。
【0055】
いくつかの実施形態では、アンタゴニストもしくは発現阻害剤、または医薬組成物は、ウイルス(例えば、HIV、HBVまたはHCV)感染者またはキャリアと接触があったなどの、ウイルス感染症に罹患するリスクがある対象における、ウイルス(例えば、HIV、HBVまたはHCV)感染に起因する感染症の予防において使用するためのものである。
【0056】
いくつかの実施形態では、アンタゴニストもしくは発現阻害剤、または医薬組成物は、対象におけるウイルス(例えば、HIV、HBVまたはHCV)感染に起因する感染症の処置において使用するためのものである。いくつかの実施形態では、この感染症は急性感染期にある。その他の実施形態では、この感染症は慢性感染期にある。例えば、いくつかの実施形態では、この感染症は慢性感染期のHCV感染症である。
【0057】
上記の使用のいくつかの実施形態では、NK細胞免疫チェックポイント分子はKIR、NKG2A、TIGIT、およびKLRG1から選択され得る。
【0058】
いくつかの実施形態では、アンタゴニストは、対応するリガントを含む免疫チェックポイント分子に対する抗体または抗原結合フラグメントである。いくつかの実施形態では、NK細胞免疫チェックポイント分子はNKG2Aであり、およびアンタゴニストはNKG2Aまたはそのリガンド、HLA-Eに指向性を持つ抗体またはその抗原結合フラグメントである。いくつかの実施形態では、NK細胞免疫チェックポイント分子はKIRであり、およびアンタゴニストはKIRまたはそのリガンド、HLA-Aに指向性をもつ抗体または抗原結合フラグメントである。いくつかの実施形態では、NK細胞免疫チェックポイント分子はTIGITであり、およびアンタゴニストはTIGITまたはそのリガンド、CD155(PVR)/CD112(PVRL2)に指向性をもつ抗体または抗原結合フラグメントである。いくつかの実施形態では、NK細胞免疫チェックポイント分子はKLRG1であり、およびアンタゴニストはKLRG1またはそのリガンド、E-カドヘリン/N-カドヘリンに指向性をもつ抗体または抗原結合フラグメントである。
【0059】
その他の実施形態では、アンタゴニストは免疫チェックポイント分子の対応するリガンド/受容体またはそのフラグメントの可溶性形態である。例えば、NK細胞免疫チェックポイント分子がNKG2Aであるとき、そのアンタゴニストはNKG2A/HLA-Eまたはそのフラグメントの可溶性形態であってもよい。NK細胞免疫チェックポイント分子がKIRであるとき、そのアンタゴニストはKIR/HLA-Aまたはそのフラグメントの可溶性形態であってもよい。NK細胞免疫チェックポイント分子がTIGITであるとき、そのアンタゴニストはTIGIT/CD155(PVR)/CD112(PVRL2)またはそのフラグメントの可溶性形態であってもよい。いくつかの実施形態では、NK細胞免疫チェックポイント分子はKLRG1であり、およびそのアンタゴニストはKLRG1/E-カドヘリン/N-カドヘリンの可溶性形態である。このアンタゴニストはまた、受容体/リガンドまたはそのフラグメントを含む融合タンパク質の可溶性形態であってもよい。
【0060】
上記の使用のいくつかの実施形態では、発現阻害剤は対応する免疫チェックポイント分子(受容体およびその対応リガンドを含む)の発現を阻害するmicroRNAまたはsiRNAであり、これにはmicroRNAまたはsiRNAの様々な改変体を含む
【0061】
いくつかの実施形態では、NK細胞免疫チェックポイント分子に対するアンタゴニストもしくは発現阻害剤、または医薬組成物は、ウイルスの排除を促進するためのものである。
【0062】
上記の使用の任意の実施形態では、対象には、非ヒトの霊長類およびヒトを含むが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、対象はヒトである。
【0063】
いくつかの実施形態では、アンタゴニストまたは発現阻害剤は、1以上の追加の治療剤と併用して使用するためのものであり、または医薬組成物は1以上の追加の治療剤をさらに含む。
【0064】
いくつかの実施形態では、この追加の治療剤は、NK細胞活性化受容体のアゴニスト、NK細胞抑制性受容体のアンタゴニスト、またはNK細胞を活性化するサイトカインまたはケモカインなどの、NK細胞活性化剤から選択される。いくつかの実施形態では、この追加の治療剤は、T細胞活性化受容体のアゴニスト、T細胞抑制性受容体のアンタゴニスト、またはT細胞を活性化するサイトカインまたはケモカインなどの、T細胞(例えば、CD8+T細胞)活性化剤から選択される。その他の実施形態では、この治療剤はDAA薬から選択される。このDAA薬は、例えば、本開示の方法に関して上記に記載したものから選択され得る。
【0065】
いくつかの実施形態では、本開示のアンタゴニストもしくは発現阻害剤、または医薬組成物は、DAA薬処置に不応答性である、または耐性がある対象において、NK細胞の枯渇を阻止、阻害、および/または逆転させる、またはウイルス感染に起因する感染症を予防または処置することにおいて使用するためのものである。このDAA薬は上記のものである
【図面の簡単な説明】
【0066】
図面の説明
【
図1】
図1は、HCV感染モデルの確立と確認を示す。
図1Aは、qPCRによる、尾静脈へのHCV注入後、異なる時点でのC/O-Tgマウスおよび野生型同腹仔コントロールマウスの肝臓組織におけるHCVゲノムのコピー数の結果を示し(各時点でn≧6)、検出の最下限は100コピー/mgである。
図1Bは、Luminexによる、感染後の異なる時点でのマウス血清中のIL-2、IL12p40、およびIFN-γの発現量の結果を示す。
【0067】
【
図2】
図2は、HCV感染時の、T細胞免疫チェックポイント分子の発現プロファイルおよびこれらの分子を標的とした結果を示す。
図2Aおよび2Bは、感染後の異なる時点における、肝臓および末梢血のCD8+T細胞表面のPD-1およびTim-3の発現量の結果を示す。
図2Cは、qPCRによる、PD-1抗体またはコントロール抗体でマウスを処置した後の末梢血および肝臓組織におけるHCVのコピー数の結果を示す。
図2Dは、qPCRによる、Tim-3抗体と併用したPD-1抗体、またはコントロール抗体でマウスを処置した後の末梢血および肝臓組織におけるHCVのコピー数の結果を示す。
【0068】
【
図3】
図3は、HCV感染時の、免疫寛容およびNK細胞の枯渇の結果を示す。
図3Aは、感染後の異なる時点における、肝臓NK細胞を標的細胞Yac1と共培養した後での、フローサイトメトリーによるNK細胞のIFN-γおよびCD107aの発現のプロファイルの結果を示す。
図3Bは、NK細胞活性化受容体Ly49D、Ly49H、およびNKG2Dの発現の結果を示す。
図3Cは、NK細胞免疫チェックポイント分子、NKG2A、KLRG1、およびTIGITの発現プロファイルの結果を示す。
【0069】
【
図4】
図4は感染結果が異なるマウスにおけるNKG2Aの発現量の結果を示す。
図4Aは、HCV感染から1月後の血清中のウイルスコピー数の変化から、C/O-Tgマウスを自己限定性感染および慢性感染に分類し得ることを示す。
図4Bは感染から1月後の、マウスの血清中のウイルスのコピー数とNK細胞におけるNKG2Aの発現プロファイルの相関を示す。
【0070】
【
図5】
図5は、NKG2A抗体による、HCVの慢性感染の確立の阻害の結果を示す。
図5Aは、抗体を用いたマウスの処置の概要をフローチャートで示し、抗体はHCV注入の1日前から投与を開始した。
図5Bは、NKG2A抗体またはコントロール抗体での処置を開始してから1週間および2週間後の、血清および肝臓組織中のウイルスのコピー数の結果を示す。
図5Cは、NKG2A抗体またはコントロール抗体での処置を開始してから1週間および2週間後の、肝臓NK細胞を標的細胞Yac-1と共培養した後での、フローサイトメトリーによる、NK細胞のCD107a、グランザイムB、およびIFN-γの発現プロファイルの結果を示す。
【0071】
【
図6】
図6は、確立した慢性感染における、NKG2A抗体によるHCV排除の促進の結果を示す。
図6Aは、抗体を用いたマウスの処置の概要をフローチャートで示し、抗体はHCV注入の2週間後から投与を開始した。
図6Bは、NKG2A抗体またはコントロール抗体での処置を開始してから4週間後の、血清および肝臓組織中のウイルスのコピー数の結果を示す。
図6Cは、NKG2A抗体またはコントロール抗体での処置を開始してから4週間後の、肝臓NK細胞を標的細胞Yac-1と共培養した後での、フローサイトメトリーによる、NK細胞のCD107aおよびグランザイムBの発現プロファイルの結果を示す。
図6Dは、ELISPOTによる、NKG2A抗体またはコントロール抗体での処置を開始してから4週間後のHCV特異的CD8+T細胞の機能の結果を示す。
【0072】
【
図7】
図7は、Qa-1抗体による、HCVの慢性感染の確立の阻害の結果を示す。
図7Aは、qPCRによる、HCV感染の異なる時点における、肝臓組織中のQa-1のmRNA量の結果を示す。
図7Bは、Qa-1抗体またはコントロール抗体での処置を開始してから2週間後の、血清および肝臓組織中のウイルスのコピー数の結果を示す。
図7Cは、Qa-1抗体またはコントロール抗体での処置を開始してから2週間後の、肝臓NK細胞を標的細胞Yac-1と共培養した後での、フローサイトメトリーによる、NK細胞のCD107aおよびIFN-γの発現プロファイルの結果を示す。
図7Dは、ELISPOTによる、Qa-1抗体またはコントロール抗体での処置を開始してから2週間後のHCV特異的CD8+T細胞の機能の結果を示す。
【0073】
【
図8】
図8は、Qa-1発現をsiRNA干渉することによる、HCVの慢性感染の確立の阻害の結果を示す。
図8Aは、Qa-1 siRNAまたはコントロールsiRNAを用いたマウスの処置の概要をフローチャートで示し、siRNAはHCV注入の1日前に投与を開始した。
図8Bは、Qa-1 siRNAまたはコントロールsiRNAでの処置を開始してから2週間後の、肝臓細胞における異なる細胞成分のQa-1 mRNAの発現量の結果を示す。
図8Cは、Qa-1 siRNAまたはコントロールsiRNAでの処置を開始してから2週間後の、血清および肝臓組織中のウイルスのコピー数の結果を示す。
図8Dは、Qa-1 siRNAまたはコントロールsiRNAでの処置を開始してから2週間後の、肝臓NK細胞を標的細胞Yac-1と共培養した後での、フローサイトメトリーによる、NK細胞のCD107aおよびIFN-γの発現プロファイルの結果を示す。
【0074】
【
図9】
図9は、NK細胞を介した、NKG2A抗体の機能の結果を示す。
図9Aは、NK細胞の枯渇の結果を示す。
図9Bは、ELISPOTによる、NK細胞の存在下または枯渇下で、NKG2A抗体による処置を開始してから2週間後の、HCV特異的CD8+T細胞の機能の結果示す。
図9Cは、NK細胞枯渇またはCD8+T細胞枯渇の場合における、NKG2A抗体での処置を開始してから2週間後の、血清および肝臓組織中のウイルスのコピー数の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0075】
実施例
本発明は、具体的な実施例を参照して以下でさらに説明される。本発明の利点および特徴は、この説明によってより明確になるだろう。しかしながら、これらの実施例は単なる例示であり、本発明の範囲を何ら制限するものではない。当業者は、本発明の技術的な解決策の詳細および形態は、本発明の精神および範囲から逸脱する事なく改変または置換され得るが、しかしこれらの改変および置換も本発明の保護範囲に入ることを理解するべきである。
【0076】
実施例1。HCVマウスモデルの確立および確認
HCV感染時、急性HCV感染症はT細胞反応の開始の著しい遅れによって特徴づけられる。先行研究では、ヒトCD81およびOCLN肝臓特異的2重トランスジェニックマウス(C/O-Tgマウス)がICRマウスの系統において構築されており、これは慢性HCV感染を補助し、かつ慢性C型肝炎における免疫寛容、脂肪症、肝繊維症、および肝硬変などの疾患の進行を模倣し得る(Chen J,Zhao Y,Zhang C,Chen H,Feng J,et al.2014.Persistent hepatitis C virus infections and hepatopathological manifestations in immune-competent humanized mice.Cell research 24:1050)。
【0077】
このHCV感染症のマウスモデルについて、最初に再現および確認を行った。C/O-Tgマウスおよび野生型の同腹仔コントロールマウスにおいて、HCV(J399EM、1mL、TCID
50=2x10
7)を用いて、尾静脈に注入した。HCV注入後の異なる時点でのマウス肝臓におけるHCVゲノムのコピー数の検出によって、C/O-TgマウスのHCV感染、および急性感染期から慢性完成期へと転換する過程が見られたが、一方野生型のコントロールマウスにおいてHCVゲノムは検出されなかった(
図1A)。血清サイトカインのLuminex測定によって、感染の経過に沿って典型的な遅延したTh1(IFN-γ、IL-2およびIL-12p40)、およびTh2応答の欠如が示された(
図1B)。上記の結果は、HCVに感染した患者における観察と一致する(Fahey S,Dempsey E,Long A.The role of chemokines in acute and chronic hepatitis C infection.Cellular and Molecular Immunology 11,25 (2014))。
【0078】
実施例2。T細胞免疫チェックポイントの遮断はHCVによる慢性感染に影響しない。
一般的にCD8+T細胞がウイルス感染およびその除去において重要な役割を担うと考えられるため、HCV感染時のCD8+T免疫チェックポイント分子の発現プロファイルを第1に試験した。マウスをHCVに感染させた後、慢性感染の確立に伴い、T細胞免疫チェックポイント分子PD-1(
図2A)およびTim-3(
図2B)の発現が増加することが示された。これに基づいて、T細胞免疫チェックポイント分子を標的にすることで慢性感染の過程を阻害し得るかどうか試験した。しかし、
図2Cおよび2Dの結果に示すように、単独のPD-1遮断抗体(ハイブリドーマから作成した、クローン番号G4)、またはPD-1およびTim-3遮断抗体(BioXcellから購入した、クローン番号BE0115)の併用は、効果的にウイルスの排除を促進しなかった。上記の結果は、T細胞免疫チェックポイント分子を標的としても、効果的に慢性感染の過程を阻害し得ず、およびHCVの排除を促進し得ない事を示す。
【0079】
実施例3。NK細胞の枯渇がHCVの持続的な感染につながる
続いて、HCV感染がNK細胞機能に与える影響を試験した。in vitroのNK機能アッセイによって、HCV感染時の肝臓NK細胞の枯渇を試験した。その結果、HCVに感染したC/O-Tgマウスの肝臓NK細胞は標的細胞Yac-1によって刺激され、そしてIFN-γ分泌能およびCD107a脱顆粒量がHCV注入後4日以内に上昇し、その後急速に非感染肝臓NK細胞と同程度の基準値まで減少する事を示した(
図3A)。さらなる研究から、HCV注入後4日以内に、NK活性化受容体Ly49D、LY49HおよびNKG2Dの発現が増加することが示された(
図3B)。これらの結果は、HCV感染に応じた一過性の肝臓への浸潤とNK細胞の活性化を示す。しかし、これらの活性化受容体は、HCV注入の4日後には肝臓のNK細胞で減少したが、免疫チェックポイント分子KLRG1、NKG2A、TIGITの発現は増加し、HCV注入の2ヶ月後にも維持されていた(
図3C)。
【0080】
加えて、HCV感染C/Oマウスのごく一部では、HCVの自然排除が観察され、自己限定性感染を形成していた(
図4A)。したがって、異なるHCV感染結果(すなわち、自己限定性感染または慢性感染)をもつC/O-Tgマウス集団における、NK細胞の枯渇および免疫チェックポイント分子の発現プロファイルをさらに調査した。HCVを自然排除し得るマウスのNK細胞は、非常に低いNKG2A発現を示し、一方で持続的なHCV感染に発展したマウスのNK細胞はより高いNKG2Aの発現を示した(
図4B)。上記の結果は、HCV感染の急性感染期から慢性感染期への転換の間で、NKG2Aを含む免疫チェックポイント分子の発現上昇がNK細胞の機能に影響し、およびNK細胞の枯渇に寄与することで、急性感染期から慢性感染期へのHCV感染の進行が促進され、持続性の感染症をもたらすことを示唆する。
【0081】
実施例4。NKG2Aの遮断または阻害がHCVの排除を促進する。
HCVの持続性感染まで進行したマウスにおいて、NKG2Aの発現が上昇していたため、本開示では、HCV感染の予防または処置のための、NKG2Aを遮断するアンタゴニストの使用についてさらに試験した。第1に、HCV(J399EM,1mL,TCID50=2x10
7)をマウス(1群当たりのn数=9匹)に注射するのと同時に、C/O-TgマウスにNKG2A遮断抗体(クローン番号20D5、Thermoより購入)またはコントロール抗体(一回あたり50μg、腹腔内注射)を処置し、さらにHCV注入後1週間または2週間の間、3日ごとに抗体を投与した(
図5A)。この結果は、1週間および2週間後の時点で、NKG2A遮断抗体を処置した群のマウスの血清および肝臓におけるウイルス量が、アイソタイプコントロールを処置した群に比して有意に減少する事を示した(
図5B)。抗NKG2A抗体処置後のHCVコピー数の減少は、NK細胞の傷害活性の上昇およびNK細胞のIFN-γ分泌能の増強と関連していた(
図5C)。
【0082】
慢性HCV感染症に対するNKG2A遮断の治療効果をさらに調べるために、マウスにNKG2A遮断抗体をHCV感染から2週間後に投与した。2週間後の段階ではNKG2A発現の上昇が観察され(
図3C)、投与を2週間続けた(
図6A)。その結果、NKG2Aの遮断で肝臓および血清におけるウイルス量が減少し(
図6B)、および、これは肝臓のNK細胞活性の上昇(
図6C)およびT細胞をHCVペプチドNS3、NS4B、NS5B、コアおよびE2で刺激した後のIFN-γ分泌量で示される、HCV特異的T細胞応答(
図6D)と関連していた。上記の結果は、NKG2Aを標的とすることで、NK細胞およびHCV特異的T細胞の不応答性を打ち破り、かつウイルスの排除に寄与し得ることを示す。
【0083】
ヒトではHLA-E、またはマウスではQa-1がNKG2Aと相互作用してNK機能を制限するリガンドであるため、HCV感染時のNKG2Aのリガンドの発現プロファイルをさらに試験した。マウスにHCVを感染させた後の異なる時点での肝臓組織におけるQa-1の転写量の検出から、Qa-1は免疫細胞よりも肝実質性細胞において主に発現すること、およびHCV感染後Qa-1の発現量が有意に上昇する事が見出された(
図7A)。したがって、さらにQa-1抗体を用いたアンタゴニズムが、NK細胞の枯渇を阻害または逆転し得るかを試験した。その結果、コントロール群と比較して、Qa-1遮断抗体(クローン番号6A8.6F10.1A6、BD Pharmigenから購入)を投与によって、HCVを感染させたC/O-Tgマウスにおいて、HCVの複製が阻害され(
図7B)、それに伴って、NK細胞機能が回復し(
図7C)、およびCD8+T細胞機能が回復した(
図7D)。
【0084】
一方で、免疫チェックポイント分子の発現抑制がHCVの排除を促進し得るかを調べた。これについて、HCVに感染させたC/O-Tgマウスに、コレステロールとコンジュゲートしたQa-1(配列:GAAGAGGAGGAGACACAUA、GenePharmaが合成)に対するsiRNAを、尾静脈注射で投与し(
図8A)、肝細胞におけるQa-1を選択的に発現抑制した(
図8B)。その結果は、肝細胞におけるQa-1発現の抑制は、HCVの複製を阻害し(
図8C)、およびNK細胞の枯渇過程を逆転させることを示した(
図8D)。まとめると、これらの結果は、免疫チェックポイント分子Qa-1/NKG2Aの相互作用が、NK細胞機能を損ない、およびその枯渇をもたらし、持続性HCV感染の確立が促進されること、および上記のように免疫チェックポイント分子を標的とすることで、この過程を逆転させ、ウイルスの排除を促進し得る事を示す。
【0085】
実施例5。T細胞に代えてNK細胞上のNKG2Aを標的とすることでHCVの排除が促進される。
NKG2AはT細胞の一部にも発現しているため、持続性HCV感染の確立には、NK細胞またはT細胞でのNKG2Aの発現が不可欠であるかどうかをさらに調べた。この過程におけるNK細胞の役割を検証するために、抗NKG2Aの処置の前にHCVに感染したC/O-TgマウスのNK細胞を欠失させた(
図9A)。その結果、NK細胞が存在しない場合、抗体によるNKG2Aの遮断はHCV特異的なT細胞の活性を回復に失敗し(
図9B)、マウスにおけるHCVウイルスの量が有意に増加する事が示された(
図9C)。NK細胞が存在する場合、NKG2A抗体はHCV特異的なT細胞活性を回復し、およびHCVの排除を促進し得る。したがって、抗NKG2AによるHCV特異的なT細胞の細胞傷害能の回復は、NK細胞に依存している。
【国際調査報告】