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特表2022-528194抗原の組み合わせ、アルツハイマー病の検出への抗原の組み合わせの使用、アルツハイマー病を検出するキット及びアルツハイマー病の検出用抗原
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-08
(54)【発明の名称】抗原の組み合わせ、アルツハイマー病の検出への抗原の組み合わせの使用、アルツハイマー病を検出するキット及びアルツハイマー病の検出用抗原
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/47 20060101AFI20220601BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20220601BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20220601BHJP
【FI】
C07K14/47
G01N33/68 ZNA
C12N15/12
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021560278
(86)(22)【出願日】2020-04-17
(85)【翻訳文提出日】2021-09-27
(86)【国際出願番号】 CN2020085224
(87)【国際公開番号】W WO2021142963
(87)【国際公開日】2021-07-22
(31)【優先権主張番号】202010039229.1
(32)【優先日】2020-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】521440002
【氏名又は名称】上海衆啓生物科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】沈 ▲ルー▼
(72)【発明者】
【氏名】呉 斉輝
(72)【発明者】
【氏名】殷 ▲クン▼
(72)【発明者】
【氏名】鄒 永紅
【テーマコード(参考)】
2G045
4H045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CA25
2G045CA26
2G045DA36
2G045FB03
2G045FB06
2G045FB07
2G045FB11
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA09
4H045CA40
4H045DA86
4H045EA50
4H045FA74
4H045GA01
4H045GA15
4H045GA26
(57)【要約】
本発明は生体検出分野に属し、特に、ヒト血清サンプル中のアルツハイマー病自己抗体の検出のためのタンパク質抗原の組み合わせおよびその使用に関する。本発明で採用される技術方案は、前記抗原の組み合わせが、MAPT、ADARB1、P21、DNAJC8、RAGE、ASXL1、JMJD2Dから選ばれる少なくとも2つのタンパク質断片を含むことである。上記の抗原組成物に基づいて、アルツハイマー病またはそれに関連するリスクの診断、特に早期診断のためのキットを製造することができる。本発明で提供される抗原組成物を使用することにより、初期アルツハイマー病を標的に迅速かつ正確に診断することができるため、重要な現実的意義を有する。
【選択図】無
【特許請求の範囲】
【請求項1】
MAPT、ADARB1、P21、DNAJC8、RAGE、ASXL1、JMJD2Dタンパク質から選ばれる少なくとも2つのタンパク質断片を含む、ことを特徴とする抗原の組み合わせ。
【請求項2】
前記タンパク質断片配列は、以下の配列のいずれか1つまたはそれらの組み合わせから選ばれる、ことを特徴とする請求項1に記載の抗原の組み合わせ:
SEQ ID NO.1に示す前記MAPTタンパク質断片配列;
SEQ ID NO.2に示す前記ADARB1タンパク質断片配列;
SEQ ID NO.4に示す前記P21タンパク質断片配列;
SEQ ID NO.6に示す前記DNAJC8タンパク質断片配列;
SEQ ID NO.7に示す前記RAGEタンパク質断片配列;
SEQ ID NO.8に示す前記ASXL1タンパク質断片配列;
SEQ ID NO.9に示す前記JMJD2Dタンパク質断片配列。
【請求項3】
HSP60、DAGの全タンパク質のいずれか1つを含む、ことを特徴とする請求項2に記載の抗原の組み合わせ。
【請求項4】
前記全タンパク質配列は、SEQ ID NO.3に示す前記HSP60タンパク質断片配列、SEQ ID NO.5に示す前記DAGタンパク質配列である、ことを特徴とする請求項3に記載の抗原の組み合わせ。
【請求項5】
MAPTタンパク質断片、ADARB1タンパク質断片、HSP60タンパク質断片を同時に含む、ことを特徴とする請求項4に記載の抗原の組み合わせ。
【請求項6】
DNAJC8タンパク質断片、RAGEタンパク質断片、ASXL1タンパク質断片を同時に含む、ことを特徴とする請求項4に記載の抗原の組み合わせ。
【請求項7】
JMJD2Dタンパク質断片、P21タンパク質断片、DAGタンパク質断片を同時に含む、ことを特徴とする請求項4に記載の抗原の組み合わせ。
【請求項8】
MAPTタンパク質断片、HSP60タンパク質断片、DNAJC8タンパク質断片を同時に含む、または、
ADARB1タンパク質断片、RAGEタンパク質断片、ASXL1タンパク質断片を同時に含む、または、
HSP60タンパク質断片、RAGEタンパク質断片、P21タンパク質断片を同時に含む、ことを特徴とする請求項4に記載の抗原の組み合わせ。
【請求項9】
アルツハイマー病の検出への、請求項1~7のいずれか1項に記載の抗原の組み合わせの使用。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか1項に記載の抗原の組み合わせにより製造されるアルツハイマー病を検出するキット。
【請求項11】
前記キットに用いるサンプルは全血または血清である、ことを特徴とする請求項9に記載のキット。
【請求項12】
SEQ ID NO.1に示す配列を有するMAPTタンパク質断片である、ことを特徴とするアルツハイマー病の検出用抗原。
【請求項13】
SEQ ID NO.2に示す配列を有するADARB1タンパク質断片である、ことを特徴とするアルツハイマー病の検出用抗原。
【請求項14】
SEQ ID NO.4に示す配列を有するP21タンパク質断片である、ことを特徴とするアルツハイマー病の検出用抗原。
【請求項15】
SEQ ID NO.6に示す配列を有するDNAJC8タンパク質断片である、ことを特徴とするアルツハイマー病の検出用抗原。
【請求項16】
SEQ ID NO.7に示す配列を有するRAGEタンパク質断片である、ことを特徴とするアルツハイマー病の検出用抗原。
【請求項17】
SEQ ID NO.8に示す配列を有するASXL1タンパク質断片である、ことを特徴とするアルツハイマー病の検出用抗原。
【請求項18】
SEQ ID NO.9に示す配列を有するJMJD2Dタンパク質断片である、ことを特徴とするアルツハイマー病の検出用抗原。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生体検出分野に属し、特に、ヒト血清サンプル中のアルツハイマー病自己抗体の検出のためのタンパク質抗原の組み合わせおよびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病(Alzheimer's disease、ADと略称する)は、記憶及び認知機能障害が主な特徴である進行性神経変性疾患であり、高齢者群に多発し、疾患経過が遅く不可逆的である。アルツハイマー病は、認知機能障害の進行に応じて、初期、中期、後期に分けられる。初期に、患者は明らかな症状を示さず、多くは健忘、不安を示しているだけなので、知覚または確定診断が困難であり、中期に、錯乱症状が現れ、性格や性情が変化し、記憶力も錯乱し、後期になると、患者は完全に痴呆を呈し、生活するセルフケア能力がなくなり、最終的には、種々の疾患に続発して死亡を致すことが多い。
【0003】
現在、アルツハイマー病について、1.初期および顕著なエピソード記憶障害の出現;2.中側頭回の萎縮;3.βアミロイド1-42(Aβ1-42)濃度の低下、総Tauタンパク質濃度の上昇、リン酸化Tauタンパク質濃度の上昇、またはこれらの3つの組み合わせを含む異常な脳脊髄液バイオマーカー;4.PET機能的神経イメージの特異的イメージング、両側側頭葉、頭頂葉のグルコース代謝率の低下;5.直系親族の中に明確なAD関連の常染色体の優性突然変異;を含む手段により診断している。しかしながら、アルツハイマー病は、初期の症状が目立たなく、中期では他の疾患との区別がつきにくいなどの問題から、診断に依然として著しい見落としや誤診の問題があるため、早急にADの診断や病期分類に有効なツールが必要である。
【0004】
自己抗体は、個体の自己タンパク質抗原に対する、個体の免疫系によって産生される抗体である。通常、免疫系は、体内の異種タンパク質または物質に応答して抗体を生成するが、時に、一つ以上の、体の内因性成分を認識して、自己抗体を生成してしまうことがある。血清中で種々の自己抗体は神経性の疾患および症候群に関係があることが、数多くの証拠により証明されている。アルツハイマー病の場合では、ニューロン結合自己抗体を含めて、高い力価の非脳および脳関連の標的に対する自己抗体を有する患者に関する多くの報告がある。
【0005】
血清中の抗体の検出は、既に熟練した技術であり、アルツハイマー病自己抗体の精確な検出を可能とし、さらに血清中のアルツハイマー病自己抗体を検出標的として診断を実現することができる。例えば、中国特許出願公開番号CN103154736Aは、一連のタンパク質を開示し、それらのタンパク質はアルツハイマー病自己抗体に結合する抗原として潜在的に使用できるため、アルツハイマー病の診断用の指示薬として有用であることを提案している。
【0006】
しかしながら、CN103154736Aに開示されたタンパク質抗原の数は極めて膨大であり、その中から、アルツハイマー病を診断又は病期分類する適切で実行し得る手段を提供するために、検体の血清中に存在する可能性のあるアルツハイマー病自己抗体を高い特異性及び感度で検出するためのタンパク質抗原の組み合わせとして併用できるタンパク質を選択することが依然として必要である。また、単一のタンパク質抗原であっても、タンパク質の全長と、存在する可能性のある対応するアルツハイマー病自己抗体との結合作用はかなり弱く、その結果、検出効果が悪く、検出失敗、さらには誤診に至る可能性がある。したがって、単独で使用する場合でも併用する場合でも、特定のタンパク質抗原の組み合わせ、またはタンパク質における特定の領域もしくは断片をスクリーニングして、対応する自己抗体に効果的に結合して検出することが重要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ヒト血清サンプル中のアルツハイマー病自己抗体の検出のためのタンパク質抗原の組み合わせおよびその使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記本発明の目的を達成するために、本発明で採用される技術方案は、MAPT、ADARB1、P21、DNAJC8、RAGE、ASXL1、JMJD2Dというタンパク質から選ばれる少なくとも2つのタンパク質断片を含む抗原の組み合わせである。
【0009】
前記タンパク質断片配列は、以下の配列のいずれか1つまたはそれらの組み合わせから選ばれることが好ましい。
SEQ ID NO.1に示す前記MAPTタンパク質断片配列;
SEQ ID NO.2に示す前記ADARB1タンパク質断片配列;
SEQ ID NO.4に示す前記P21タンパク質断片配列;
SEQ ID NO.6に示す前記DNAJC8タンパク質断片配列;
SEQ ID NO.7に示す前記RAGEタンパク質断片配列;
SEQ ID NO.8に示す前記ASXL1タンパク質断片配列;
SEQ ID NO.9に示す前記JMJD2Dタンパク質断片配列。
【0010】
前記抗原の組み合わせは、HSP60、DAGという全タンパク質のいずれか1つを含むことが好ましい。
【0011】
前記全タンパク質配列は、SEQ ID NO.3に示す前記HSP60タンパク質断片配列、SEQ ID NO.5に示す前記DAGタンパク質配列であることが好ましい。
【0012】
前記抗原の組み合わせは、MAPTタンパク質断片、ADARB1タンパク質断片、HSP60タンパク質断片を同時に含むことが好ましい。
【0013】
前記抗原の組み合わせは、DNAJC8タンパク質断片、RAGEタンパク質断片、ASXL1タンパク質断片を同時に含むことが好ましい。
【0014】
前記抗原の組み合わせは、JMJD2Dタンパク質断片、P21タンパク質断片、DAGタンパク質断片を同時に含むことが好ましい。
【0015】
前記抗原の組み合わせは、MAPTタンパク質断片、HSP60タンパク質断片、DNAJC8タンパク質断片を同時に含む、
ADARB1タンパク質断片、RAGEタンパク質断片、ASXL1タンパク質断片を同時に含む、または
HSP60タンパク質断片、RAGEタンパク質断片、P21タンパク質断片を同時に含むことが好ましい。
【0016】
対応する技術方案として、アルツハイマー病の検出への、前記抗原の組み合わせの使用である。
【0017】
対応する技術方案として、前記抗原の組み合わせにより製造されるアルツハイマー病を検出するキットである。
【0018】
前記キットに用いるサンプルは全血または血清であることが好ましい。
【0019】
対応する技術方案として、SEQ ID NO.1に示す配列を有するMAPTタンパク質断片である、アルツハイマー病の検出用抗原である。
【0020】
対応する技術方案として、SEQ ID NO.2に示す配列を有するADARB1タンパク質断片である、アルツハイマー病の検出用抗原である。
【0021】
対応する技術方案として、SEQ ID NO.4に示す配列を有するP21タンパク質断片である、アルツハイマー病の検出用抗原である。
【0022】
対応する技術方案として、SEQ ID NO.6に示す配列を有するDNAJC8タンパク質断片である、アルツハイマー病の検出用抗原である。
【0023】
対応する技術方案として、SEQ ID NO.7に示す配列を有するRAGEタンパク質断片である、アルツハイマー病の検出用抗原である。
【0024】
対応する技術方案として、SEQ ID NO.8に示す配列を有するASXL1タンパク質断片である、アルツハイマー病の検出用抗原である。
【0025】
対応する技術方案として、SEQ ID NO.9に示す配列を有するJMJD2Dタンパク質断片である、アルツハイマー病の検出用抗原である。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、以下の有益な効果を有する。
本発明は、アルツハイマー病自己抗体の検出のためのタンパク質抗原組成物を提供し、ここで、かかるタンパク質抗原またはその断片は、人工的に合成する方法で作成され得る。例えば、タンパク質抗原またはその断片をコードするDNAを合成し、合成DNAを鋳型としてプライマーを設計し、PCR、酵素切断、ライゲーション等の分子クローニング手段により、前記タンパク質抗原またはその断片の遺伝子断片を発現プラスミド上にクローニングする。同時に、タンパク質抗原またはその断片のN末端にHIS、c-mycなどのタグを選択的に付加することもできる。
【0027】
本発明で提供される抗原の組み合わせは、以下の用途を有する。
(1)検体からの生体サンプルに、前記抗原の組み合わせに対する自己抗体の存在又は存在のレベルについて試験を実施して、前記検体がアルツハイマー病にかかっているかどうかを判断すること;前記検体がアルツハイマー病にかかるリスクを有するかどうかを予測すること;前記検体がかかっているアルツハイマー病の進行を評価すること;又は前記検体がアルツハイマー病の再発リスクを有するか否かを判断することに用いられる。ここで、前記生体サンプルは、血清、血漿、全血、唾液、口腔スワブ、尿、リンバ液、脳脊髄液などであっても良い。場合によっては、前記生体サンプルは、抽出、希釈、濃縮などの手段によって前処理されてもよい。使用方法は多様で、簡便で操作しやすい。
【0028】
本発明で提供されるタンパク質抗原の組み合わせを上記の試験に使用する場合、前記抗原の組み合わせにおけるタンパク質またはその断片を、存在する可能性のある対応する自己抗体と結合または相互作用させることによって、当該自己抗体の存在または存在のレベルについて試験を実施する。
【0029】
(2)また、本発明で提供されるタンパク質抗原の組み合わせは、アルツハイマー病自己抗体の検出試薬またはアルツハイマー病の診断試薬を調製するために使用することができる。理解すべきは、前記タンパク質抗原の組み合わせは、さらにアルツハイマー病自己抗体の検出キットを製造するために使用することができ、前記キットは、本発明の実施例に説明するタンパク質抗原の組み合わせによるアルツハイマー病自己抗体の検出のための方法及び試薬を参照して調製されてもよく、必要に応じて適宜調整してもよい。
【0030】
以上に述べたように、本発明は、アルツハイマー病の検出または診断に使用可能であり、特に早期検出または診断に適用され、アルツハイマー病にかかるリスクの予測にも使用可能であり、さらに必要に応じて、関連試薬やキットを作成することができるタンパク質抗原の組み合わせを提供している。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本願について具体的な実施例を参照してさらに説明する。特に断りのない限り、下記実施例に用いる実験方法はいずれも常法であり、使用される材料、試薬などはいずれも市販されるものであり、得られたデータは、いずれも少なくとも3回繰り返して得られた平均値であるとともに、繰り返して得られたものはいずれも有効なデータである。
【実施例
【0032】
実施例1:抗原の組換えベクターの構築、発現、および精製
1、抗原の選択
アルツハイマー病と非常に関連性の高い抗原タンパク質を115種選択して、構築、発現、および精製を行った。文字量を減らすために、ここでは、中の代表的なもの50種のみが示され、それらのそれぞれのデータベースIDを具体的に表1に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
2、抗原の組換えベクターの構築および発現
表1の50種のタンパク質から目的のタンパク質抗原をスクリーニングした。ヒトcDNAライブラリー(Invitrogen社から購入)または全遺伝子合成DNAを鋳型として、それぞれプライマーを設計し、PCR、酵素切断、ライゲーションなどの分子クローニング手段により、当該タンパク質の全長遺伝子をpET28プラスミド上にクローニングした。同時に、タンパク質のN末端にHISやc-mycなどのタグを付加して、融合タンパク質を形成した。得られた組換え発現ベクターをDNA配列決定により同定して、正確なタンパク質遺伝子断片が含まれていることを確認した。なお、添加されたタグはタンパク質の認識及び抽出をしやすくするためのものであり、タンパク質の抗原としての機能に決定的な影響を与えたものではなく、使用に際しては、タグを添加しなくても、必要に応じて他のタグを添加しても問題ない。
【0035】
上記のタンパク質遺伝子断片を含む組換えプラスミドを大腸菌BL21(DE3)のコンピテントセルに形質転換し、クローンを選別してLB培地に接種し、37℃で振盪培養した。菌体密度OD600が約0.8に達した時点で16℃まで降温し、各LB培地に0.1mMイソプロピルチオ-β-D-ガラクトシド(IPTG)を加えて発現を一夜誘導し、菌体を得た。
【0036】
3、抗原の精製
発現が誘導された前記菌体を遠心分離により回収し、PBSで2回リンスした。菌体を溶解液(菌体1gあたり5~10mlの溶解液)に再懸濁、分散させ、氷浴下で、超音波処理(超音波パワー200W、破砕5S、休止5S)により菌体を破砕した。破砕後に13000rpmで、10℃で、20分間遠心分離し、上清を採取し、Niカラムアフィニティークロマトグラフィーおよびモレキュラーシーブクロマトグラフィーの二段階で精製した後、SDS-PAGE電気泳動で分析することによりタンパク質の分子量、純度を確認し、Bradford法で濃度を測定した後、使用に備えて-80℃に保存した。このように、精製後の試験対象のタンパク質を得た。
実施例2:試験対象のタンパク質からスクリーニングによる候補抗原の取得
【0037】
1、本実施例で使用した溶液および試薬は以下の通りである。
(1)被覆バッファーはpH=7.4のPBSバッファーである。当該バッファーは、3.58gのNa2HPO4・12H2O、0.23gのKH2PO4・2H2O、0.2gのKCl、8.0gのNaClを精密に秤取し、水に溶解し、清水で1Lにメスアップした方法で調製される。
(2)ブロッキング溶液/サンプル希釈液/抗体希釈液:BSA(ウシ血清アルブミン)10gを被覆バッファーに溶解し、清水で1Lにメスアップした液。
(3)洗浄液:用時調製する。使用直前に、pH=7.4の0.5% Tween20(V/V)を、被覆バッファーに加えた。
(4)顕色試薬:KPL社から購入したTMB顕色試薬。
(5)停止液:1M塩酸。
【0038】
2、固相で試験対象のタンパク質を被覆する。実施例1で得られた精製後の試験対象のタンパク質を、被覆バッファーで5μg/mlに希釈し、96ウェルプレートにウェルあたり50μlで加え、4℃一夜被覆を実施した。翌日、溶液を捨て、脱水し、ウェルあたり200μlずつの洗浄液で3回洗浄した。その後、各ウェルに200μlのブロッキング溶液を加え、室温で1時間インキュベートした後、ブロッキング溶液を捨て、脱水し、改めてウェルあたり200μlずつの洗浄液で3回洗浄し、再度脱水したことで、96ウェルプレートにおける固相被覆抗原を得た。
【0039】
3、試験対象のサンプルを加える。試験対象のヒト血清をサンプル希釈液で100倍に希釈した後、希釈された試験対象のサンプルを前記試験対象のタンパク質含有96ウェルプレートにウェルあたり50μlとなるように加えた。続いて、96ウェルプレートをマイクロプレート振とう機にセットし、室温で振とうしながら1時間インキュベートした。脱水し、ウェルあたり200μlずつの洗浄液で3回洗浄し、再度脱水した。
【0040】
4、酵素標識二次抗体を加える。1.0mg/mlの西洋ワサビペルオキシダーゼ標識組換えヤギ抗ヒト免疫グロブリンG抗体(Jackson ImmunoResearch Inc.から購入)を抗体希釈液で20000倍に希釈した後、工程3の処理後の96ウェルプレートにウェル当たり50μlとなるように加えた。続いて、96ウェルプレートをマイクロプレート振とう機にセットし、室温で振とうしながら0.5時間インキュベートし、プレートを脱水し、ウェルあたり200μlずつの洗浄液で3回洗浄し、再度脱水した。
【0041】
5、顕色反応を行って光学濃度値を読み取る。工程4の処理後の96ウェルプレートに、ウェル当たり50μlとなるようにTMB顕色試薬を加え、15秒間振とうして、室温で15分間光を遮断して反応させ、さらに50μlの停止液を加えた。その後、マイクロプレートリーダーを用いて波長450nmにおける吸収値を読み取り、試験対象のサンプルのそれぞれの検出信号(S)を得た。
【0042】
6、感度及び特異性を分析する。陽性サンプル(アルツハイマー病と確定診断された患者の血清)180例と陰性サンプル(健常検体の血清)180例をそれぞれ採取し、サンプルごとに、上記の方法(波長450nmにおける吸収値)に従って検出信号(S)を測定した。陰性参照サンプルとして陰性サンプルを用い、全ての陰性参照サンプルの検出信号(S)の平均値(M)及び標準偏差(SD)を算出し、M+3SDをCut Off値とした。検出信号(S)≧Cut Off値のサンプル(S≧M+3SD)を陽性とし、検出信号(S)<Cut Off値のサンプル(S<M+3SD)を陰性とする。
【0043】
特異性及び感度は、サンプルの陽性および陰性の結果に基づいて算出された。ここで、特異性とは、正確に陰性と判定された健常検体サンプルの割合を意味し、すなわち、陰性サンプルにおいて正確に陰性と判定されたサンプルの数を陰性サンプルの総数で割ったものである。感度とは、正確に陽性と判定されたアルツハイマー病患者のサンプルの割合を意味し、すなわち、陽性サンプルにおいて陽性と判定されたサンプルの数を陽性サンプルの総数で割ったものである。抗原として各被検タンパク質を使用してサンプルを検出したときの感度及び特異性を計算により求め、結果を表2に示す。
【0044】
【表2】
【0045】
7、上記の各被検タンパク質から、感度≧20%かつ特異性≧75%のタンパク質をスクリーニングして候補抗原とした。スクリーニング結果を表3に示す。
【0046】
【表3】
実施例3:候補抗原の活性部位のスクリーニング
【0047】
1、実施例2で得られた前記候補抗原のアミノ酸配列及びその構造を分析し、数多くの初期試験を経た後、前記候補抗原のそれぞれから異なる配列断片及びエピトープを選択した。選択された配列断片または全長を表4に示す。
【0048】
【表4】
【0049】
2、表4のタンパク質断片ごとに、実施例1の方法に従って発現ベクターの構築、発現、精製を行い、構築したタンパク質断片を得て、さらに、それぞれ実施例2の方法に従って抗原としての感度と特異性を検出した。実施例1と同様に、ここでも各タンパク質断片に若干のタグが添加されているが、タグの添加は主に抽出と認識の容易さを目的としたものであり、タンパク質断片の抗原としての機能に実質的に影響を与えたものではない。タグ添加前後のいずれのタンパク質を用いても本発明の目的を達成することができ、実際に使用する場合、当業者は、必要に応じてタグを添加するか否か、および添加するタグの種類を選択すればよい。したがって、本発明は、その全体を通して、タグ添加前のタンパク質配列のみを提供している。試験の結果を表5に示す。
【0050】
【表5-1】
【表5-2】
【0051】
3、表5の結果から、あるタンパク質について、特定のアミノ酸配列領域を分離し、適宜に最適化して得られたタンパク質断片は、全タンパク質よりも優れた検出効果を有する一方、ある抗原について、全タンパク質は、その断片よりも優れた検出効果を有することが分かる。これは、アルツハイマー病関連部位との結合または認識の過程において、ある全タンパク質中の一部のタンパク質断片が抑制作用を発揮しているからである可能性がある。
【0052】
表5の結果に基づき、さらに9種のタンパク質の全長またはその断片をスクリーニングし、スクリーニングされたタンパク質の全長またはその断片は、感度が33%以上であり、かつ特異性が88%以上であり、アルツハイマー病患者と健常検体とを区別する候補抗原とする。スクリーニング結果を表6に示す。
【0053】
【表6】
実施例4:候補抗原の検出効果の提示
【0054】
1、表6のスクリーニング結果に基づき、前記タンパク質の候補抗原から、異なる抗原の組み合わせを形成するものを選択した。そして、候補群1~8の候補タンパク質断片に対応する全タンパク質に基づいて、対応する全タンパク質の組み合わせをそれぞれ対照群1~8として設定した。特許CN109738653Aの表5の組み合わせ5、6に従って、それぞれ対照群9、10を設定した。具体的には表7に示す。なお、発明者は、表7の組み合わせのみを試験したのではなく、数多くの初期試験を経た後、表7に示す各抗原の組み合わせを得たが、文字数に限りがあるため、好適的な効果を有する組み合わせを一部だけ摘み取った。
【0055】
【表7】
【0056】
2、精神状態短時間検査シート(Mini-Mental State Examination、MMSE)-Folstein版に準じて、アルツハイマー病患者及び健常検体を採点し、27~30点の被験者を正常者、21~26点の被験者を軽度(初期)患者、10~20点の被験者を中等度(中期)患者、0~9点の被験者を重度(後期)患者とした。
【0057】
MMSEスコアに基づき、アルツハイマー病患者の初期180例、中期90例、後期90例を検出サンプルとして、MMSEスコアが正常な健常検体180例を健常検体のサンプルとして採取した。上記各サンプルについて、実施例2の検出方法を参照して、表7の各群の抗原の組み合わせをそれぞれ用いて、感度および特異性の検出を行った(なお、対照群に用いた各タンパク質は、未切断の全タンパク質である)。この実施例における感度及び特異性は、具体的に、全体特異性、全体感度、初期感度、中期感度、及び後期感度である。
【0058】
中でも、初期感度、中期感度および後期感度について陽性および陰性を定義する方法は、実施例2を参照されたい。
【0059】
初期感度とは、初期アルツハイマー病患者のサンプル180例における、当該組み合わせにより正確に陽性と判定されたサンプルの割合を意味し、すなわち、初期アルツハイマー病患者のサンプルにおいて陽性と判定されたサンプルの数を初期アルツハイマー病患者のサンプルの総数で割ったものである。中期感度とは、中期アルツハイマー病患者のサンプル90例における、正確に陽性と判定されたサンプルの割合を意味し、すなわち、中期アルツハイマー病患者のサンプルにおいて陽性と判定されたサンプルの数を中期アルツハイマー病患者のサンプルの総数で割ったものである。後期感度とは、後期アルツハイマー病患者のサンプル90例における、正確に陽性と判定されたサンプルの割合を意味し、すなわち、後期アルツハイマー病患者のサンプルにおいて陽性と判定されたサンプルの数を後期アルツハイマー病患者のサンプルの総数で割ったものである。全体感度とは、初期180例、中期90例、後期90例のアルツハイマー病患者のサンプルにおける、正確に陽性と判定されたサンプルの合計の割合を意味し、すなわち、全てのアルツハイマー病患者のサンプルにおいて陽性と判定されたサンプルの数を全てのアルツハイマー病患者のサンプルの総数で割ったものである。全体特異性とは、健常検体のサンプル180例における、正確に陰性と判定されたサンプルの割合を意味し、すなわち、健常検体のサンプル180例において、健常検体のサンプルのうち陰性と判定されたサンプルの数を、健常検体のサンプルの総数で割ったものである。
【0060】
各群の抗原の組み合わせによる検出で得られた結果を表8に示す。
【0061】
【表8】
【0062】
表8から、候補群1~8はいずれも、全体感度が85%超、全体特異性が88%超であって、より高い感度及び特異性を有することが示される。同時に、本発明で提供される抗原の組み合わせを使用して、中期および後期のサンプルよりも初期のサンプルを検出する際に高い感度を有する。したがって、本発明は、アルツハイマー病の診断、特に早期診断のためのより精確な検出方法を提供した。
【0063】
後続の応用に際しては、必要に応じて、本発明で提供される候補抗原または抗原の組み合わせから1種以上を選択して、AD診断キットを作成することもできる。
【配列表】
2022528194000001.app
【手続補正書】
【提出日】2021-09-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
MAPT、ADARB1、P21、DNAJC8、RAGE、ASXL1、JMJD2Dタンパク質から選ばれる少なくとも2つのタンパク質断片を含む、ことを特徴とする抗原の組み合わせ。
【請求項2】
前記タンパク質断片配列は、以下の配列のいずれか1つまたはそれらの組み合わせから選ばれる、ことを特徴とする請求項1に記載の抗原の組み合わせ:
SEQ ID NO.1に示す前記MAPTタンパク質断片配列;
SEQ ID NO.2に示す前記ADARB1タンパク質断片配列;
SEQ ID NO.4に示す前記P21タンパク質断片配列;
SEQ ID NO.6に示す前記DNAJC8タンパク質断片配列;
SEQ ID NO.7に示す前記RAGEタンパク質断片配列;
SEQ ID NO.8に示す前記ASXL1タンパク質断片配列;
SEQ ID NO.9に示す前記JMJD2Dタンパク質断片配列。
【請求項3】
HSP60タンパク質のタンパク質断片、DAGの全タンパク質のいずれか1つを含む、ことを特徴とする請求項2に記載の抗原の組み合わせ。
【請求項4】
前記HSP60タンパク質断片配列は、SEQ ID NO.3に示すタンパク質断片配列、前記DAGタンパク質配列は、SEQ ID NO.5に示すタンパク質配列である、ことを特徴とする請求項3に記載の抗原の組み合わせ。
【請求項5】
MAPTタンパク質断片、ADARB1タンパク質断片、HSP60タンパク質断片を同時に含む、ことを特徴とする請求項4に記載の抗原の組み合わせ。
【請求項6】
DNAJC8タンパク質断片、RAGEタンパク質断片、ASXL1タンパク質断片を同時に含む、ことを特徴とする請求項4に記載の抗原の組み合わせ。
【請求項7】
JMJD2Dタンパク質断片、P21タンパク質断片、DAGタンパク質断片を同時に含む、ことを特徴とする請求項4に記載の抗原の組み合わせ。
【請求項8】
MAPTタンパク質断片、HSP60タンパク質断片、DNAJC8タンパク質断片を同時に含む、または、
ADARB1タンパク質断片、RAGEタンパク質断片、ASXL1タンパク質断片を同時に含む、または、
HSP60タンパク質断片、RAGEタンパク質断片、P21タンパク質断片を同時に含む、ことを特徴とする請求項4に記載の抗原の組み合わせ。
【請求項9】
アルツハイマー病の検出への、請求項1~7のいずれか1項に記載の抗原の組み合わせの使用。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか1項に記載の抗原の組み合わせにより製造されるアルツハイマー病を検出するキット。
【請求項11】
前記キットに用いるサンプルは全血または血清である、ことを特徴とする請求項10に記載のキット。
【請求項12】
SEQ ID NO.1に示す配列を有するMAPTタンパク質断片である、ことを特徴とするアルツハイマー病の検出用抗原。
【国際調査報告】