(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-08
(54)【発明の名称】生物学的療法またはベクター遺伝子療法における左心室の負荷を軽減するためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
A61M 1/36 20060101AFI20220601BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220601BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20220601BHJP
A61L 29/14 20060101ALI20220601BHJP
A61L 29/16 20060101ALI20220601BHJP
A61L 31/16 20060101ALI20220601BHJP
A61L 31/14 20060101ALI20220601BHJP
A61M 25/10 20130101ALI20220601BHJP
A61M 25/00 20060101ALI20220601BHJP
A61M 60/13 20210101ALI20220601BHJP
【FI】
A61M1/36
A61K48/00
A61K31/7088
A61L29/14
A61L29/16
A61L31/16
A61L31/14
A61M25/10
A61M25/00
A61M60/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021560405
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(85)【翻訳文提出日】2021-11-11
(86)【国際出願番号】 US2020025307
(87)【国際公開番号】W WO2020205547
(87)【国際公開日】2020-10-08
(32)【優先日】2020-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510121444
【氏名又は名称】アビオメド インコーポレイテッド
(71)【出願人】
【識別番号】521440312
【氏名又は名称】ハヤール ロジャー ジェイ.
(71)【出願人】
【識別番号】521440323
【氏名又は名称】石川 清猛
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ハヤール ロジャー ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】石川 清猛
(72)【発明者】
【氏名】クラン ジェラルド ウェイン
(72)【発明者】
【氏名】ジョセフィー ノーム
【テーマコード(参考)】
4C077
4C081
4C084
4C086
4C267
【Fターム(参考)】
4C077AA04
4C077DD01
4C077JJ03
4C081AC08
4C081AC10
4C081DA03
4C081DA16
4C084AA13
4C084MA65
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA361
4C084ZA362
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA65
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA36
4C267AA02
4C267AA08
4C267BB26
4C267CC08
4C267CC19
4C267HH08
(57)【要約】
生物学的療法(例えば、遺伝子療法ベクター)と同時に機械的循環補助を使用するための方法およびシステムを開示する。具体的な適応としては、心臓療法の方法が挙げられ、該方法では、冠動脈などの血管を閉鎖し、続いて遺伝子療法ベクターまたは生物学的製剤を該閉鎖部位よりも遠位に注射し、かつ一定の時間をおき、一方で、機械的循環補助システムを使用して患者に循環補助を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
補助期間の間、機械的循環補助デバイスを作動させる段階、
該補助期間の間に、血管を閉鎖する段階、および
該補助期間の間に、生物学的療法を心臓に施す段階
を含む、心臓を処置する方法。
【請求項2】
前記機械的循環補助デバイスが、少なくとも2.5 L/分の血流、少なくとも3.5 L/分の血流、または少なくとも5 L/分の血流のうちの1つの速度で作動する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記生物学的療法が、閉鎖された血管内に施される、請求項1または請求項2記載の方法。
【請求項4】
血管形成術用バルーンを血管に挿入する段階、および
該血管を一時的に閉鎖するために、該血管形成術用バルーンを膨張させる段階
をさらに含む、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記生物学的療法を心臓に施す段階が、
前記生物学的療法を、患者の血管内の血管形成術用バルーンよりも遠位の場所に施すこと
を含む、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記患者の血管が冠動脈であり、かつ前記生物学的療法が、該冠動脈内の膨張した血管形成術用バルーンの下流で施される、請求項5記載の方法。
【請求項7】
生物学的療法を心臓に施す段階が、
第1の施す期間の間に、生物学的療法の第1の用量を該心臓に施すこと、
第1の休止期間をおくこと、および
第2の施す期間の間に、生物学的療法の第2の用量を該心臓に施すこと
を含む、請求項4、5、または6記載の方法。
【請求項8】
前記生物学的療法を施すことが、前記生物学的療法を血管内に注射することを含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
膨張した血管形成術用バルーンが、前記血管を約3分未満閉鎖する、請求項4記載の方法。
【請求項10】
膨張した血管形成術用バルーンが、前記血管を約1分未満閉鎖する、請求項4記載の方法。
【請求項11】
前記補助期間が、10分超、15分超、20分超、または30分超のうちの1つである、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
前記生物学的療法の持続時間が、10秒未満、30秒未満、1分未満、3分未満、または5分未満のうちの1つである、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
第1の休止期間が、第1の施す期間よりも長い、請求項7記載の方法。
【請求項14】
第1の施す期間が、第2の施す期間よりも長い、請求項7記載の方法。
【請求項15】
前記機械的循環補助デバイスが、第1の施す期間、第1の休止期間、および第2の施す期間の間、作動する、請求項7記載の方法。
【請求項16】
前記機械的循環補助デバイスが、血液ポンプを含む、請求項1記載の方法。
【請求項17】
前記血液ポンプが、マイクロアキシャル(microaxial)血液ポンプである、請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記生物学的療法を施す段階が、前記生物学的療法を、冠血管、心筋、線維芽細胞、または内皮細胞のうちの1つへと注射することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項19】
前記機械的循環補助デバイスが、少なくとも2.5 L/分の血流、少なくとも3.5 L/分の血流、または少なくとも5 L/分の血流のうちの1つの速度で作動する、請求項1記載の方法。
【請求項20】
前記生物学的療法が、遺伝子療法ベクターである、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項21】
前記遺伝子療法ベクターを心臓に施すことが、心組織におけるベクターDNAの発現を増加させるように構成されている、請求項20記載の方法。
【請求項22】
患者内に血液ポンプを経皮的に挿入し、かつ該血液ポンプを、該患者の心臓の大動脈弁にわたって配置する段階、
該患者の心臓の左心室の負荷を軽減するために、該血液ポンプを作動させる段階、
該患者の心臓の血管を閉鎖する段階、および
該血液ポンプを作動させかつ該血管を閉鎖するのと同時に、生物学的療法を該患者の冠血管内に注射する段階
を含む、患者の心臓を補助する方法。
【請求項23】
前記血管が、
患者の冠動脈内にバルーンを設置すること、および
該バルーンを、第1の期間の間、膨張させて、第1の期間の間、該冠動脈内の血流をブロックすること
により閉鎖される、請求項22記載の方法。
【請求項24】
前記生物学的療法が、遺伝子療法ベクターである、請求項22または23記載の方法。
【請求項25】
患者の冠動脈内にバルーンを設置する段階、
該バルーンを、第1の期間の間、膨張させて、第1の期間の間、該冠動脈内の血流を一時的にブロックする段階、
該患者の心臓内に血液ポンプを設置し、かつ該血液ポンプを、該心臓の大動脈弁にわたって配置する段階、
第2の期間の間、該患者の心臓内で該血液ポンプを作動させる段階、および
第1の期間の間に、該冠動脈内の膨張したバルーンよりも遠位の場所に遺伝子療法ベクターを注射する段階、および
第1の期間の後にバルーンをしぼませて該冠動脈内の血流を復活させる段階
を含む、患者の心筋における遺伝子発現を上方制御する方法であって、
第1の期間が第2の期間内に存在し、かつ第1の期間は、該患者の心筋の細胞に永続的虚血をもたらさない持続時間を有する、
方法。
【請求項26】
第2の期間の間に、前記冠動脈内の膨張したバルーンよりも遠位の場所に前記遺伝子療法ベクターを注射する段階をさらに含む、請求項25記載の方法。
【請求項27】
第3の期間の間に、前記冠動脈内の膨張したバルーンよりも遠位の場所に前記遺伝子療法ベクターを注射する段階をさらに含み、
第3の期間は、第2の期間よりも短い、または第2の期間と等しい、
請求項26記載の方法。
【請求項28】
第1の期間の持続時間が3分未満である、請求項25記載の方法。
【請求項29】
第1の期間の持続時間が1分未満である、請求項28記載の方法。
【請求項30】
第1の期間の持続時間が30秒未満である、請求項29記載の方法。
【請求項31】
機械的循環補助デバイス;
近位端および遠位端を有する膨張可能なバルーンと、膨張カテーテルとを有する、バルーンカテーテルであって、該膨張カテーテルは、該バルーンカテーテルのバルーンの近位端と流体連通しており、該バルーンは、該機械的循環補助デバイスとの同時使用のために患者の冠動脈に挿入されるように構成されている、バルーンカテーテル;
生物学的療法をインビボで送達するための送達カテーテルであって、該生物学的療法を含有する溶液を受けるように構成されている入口開口部を有する近位端、出口開口部を有する遠位端、および該送達カテーテルの近位端と遠位端との間に延びるチューブを有する、送達カテーテル
を含む、心保護システムであって
該バルーンは、膨張した場合に、該冠動脈を通る血流を少なくとも部分的に閉鎖するように構成されている、
心保護システム。
【請求項32】
前記機械的循環補助デバイスが、カテーテルベースの血管内血液ポンプである、請求項31記載の心保護システム。
【請求項33】
送達カテーテルの遠位端の出口開口部が、膨張可能なバルーンカテーテルのバルーンが膨張した場合に、該バルーンカテーテルの遠位端よりも遠位に位置するように構成されている、請求項31記載の心保護システム。
【請求項34】
送達カテーテルの近位端と遠位端との間に延びるチューブが、前記バルーンよりも長い長手方向長さを有する、請求項31記載の心保護システム。
【請求項35】
バルーンカテーテルが、バルーン膨張の際に該バルーンで送達カテーテルの出口開口部を塞がないように構成されている、請求項31記載の心保護システム。
【請求項36】
前記生物学的療法が、遺伝子療法ベクターである、請求項31~35のいずれか一項記載の心保護システム。
【請求項37】
前記遺伝子療法ベクターが、インビボで発現すると心保護機能を有するペプチドをコードする非天然核酸物質を含み、前記遺伝子療法ベクターは、心筋細胞に吸収されるように構成されている、請求項36記載の心保護システム。
【請求項38】
血管を閉鎖する一方で機械的循環補助デバイスを作動させることと、
閉鎖の間に、患者の心臓内に遺伝子療法ベクターを投与し、かつ、以下の段階:
(i)該患者の心臓からの前記遺伝子療法ベクターのクリアランス速度を低下させる段階、
(ii)該患者の心臓内での前記遺伝子療法ベクターの発現をもたらす段階、および
(iii)前記遺伝子療法ベクターによる該患者の心臓への形質導入をもたらす段階
の少なくとも1つを行うことと
を含む、患者の心臓を補助する方法。
【請求項39】
前記血管を閉鎖するのにバルーンカテーテルが用いられる、請求項38記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2019年3月29日に出願された米国特許仮出願第62/826,444号および2020年1月10日に出願された同第62/959,333号の優先権を主張するものであり、これらは両方とも参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
背景
心血管疾患は、世界中で罹患率、死亡率、および医療負担の筆頭の原因となっている。医薬から医療機器、最終的には移植まで、心血管疾患の様々な処置様式が開発されている。補助人工心臓などの一時的心臓補助デバイスは、血行動態の補助を提供し、心臓の回復を促す。IMPELLA(登録商標)ファミリーのデバイス(マサチューセッツ州ダンバーのAbiomed, Inc.)などの心臓に経皮的に挿入される補助人工心臓もあり、本来の心臓と並働して心拍出量を補うことができる。
【0003】
標的に遺伝子を導入する遺伝子操作により、細胞、または心臓などの器官を処置することができる。例えば、Julie A. Wolfram, PhD et al., Gene Therapy to Treat Cardiovascular Disease, JAHA Vol 2, Issue 4 (2013)(非特許文献1)(「Wolfram」)を参照されたく、その全文が参照により本明細書に組み入れられる。遺伝子療法の方法としては、ウイルス性であれ非ウイルス性であれ1つまたは複数の遺伝子療法ベクターの使用が挙げられる。ウイルスベクターの場合、あるウイルスのゲノムをプログラムしてから、このウイルスゲノムが患者内で発現することを期待して該ウイルスを遺伝子療法ベクターとして患者に注射することができる。ウイルスベクターの少なくとも1つの例として、アデノ随伴ウイルス(AAV)が挙げられる。ベクターは、種々の場所への注射または灌流によって投与され得る。例えば、冠血管灌流により、心筋全体にベクターゲノムを送達することができる。一般に、治療効果を得るには遺伝子の高発現が必要である。ウイルスベクターを冠血管に投与する少なくとも1つのデメリットは、心臓によってベクターゲノムが体循環中に迅速に送達されるため、同手法の効率が比較的悪いことである。心臓の押し出しのせいで心臓からのベクターゲノムのクリアランス速度が速すぎて、所望の遺伝子発現が得られないことがある。ウイルスは心臓を比較的素早く通過してしまい、心筋に接着しかつ心筋に十分に形質導入する時間は比較的わずかしかない。これと同じ問題が、心臓に生物学的療法を施す際にも生じる。心停止させてベクターゲノムまたは生物学的製剤のクリアランス速度を低下させ、心臓内で長く保持させる手法は、心臓不安定性および/または虚血を招く。
【0004】
したがって、心臓の停止または減速に関連するマイナス面なく、心臓におけるベクターゲノムおよび生物学的製剤のクリアランス速度を低下させることができるシステムおよび方法があることが望ましい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Julie A. Wolfram, PhD et al., Gene Therapy to Treat Cardiovascular Disease, JAHA Vol 2, Issue 4 (2013)
【発明の概要】
【0006】
概要
本明細書に記載される方法、システム、およびデバイスは、限定ではないが遺伝子療法ベクターなどの生物学的療法の心筋への効率的な送達を、(i)心筋への血流を一時的にブロックして、生物学的療法(例えば、遺伝子療法ベクター)の心筋での吸収を増加させ、かつ生物学的療法(例えば、遺伝子療法ベクター)の心臓からのクリアランスを低下させ、(ii)一方で、生物学的療法(例えば、ベクター遺伝子療法)の注射と同時に機械的循環補助デバイスを心臓内で作動させて、患者への有害作用なく心機能および体循環を維持することによって、可能にする。これらの方法、システム、およびデバイスの少なくとも1つのメリットは、心筋内の生物学的療法(例えば、遺伝子療法ベクター)の付着を増加させる能力である。少なくとも1つの冠血管(すなわち心臓を取り囲む、かつ心臓に供給する、動脈および血管)内に血管形成術用バルーンを配備して血流を一時的に止め、そして配備したバルーンよりも遠位に遺伝子療法ベクターウイルスなどの生物学的療法を注射することにより、このウイルス媒体が冠動脈内にプールされ、心筋への形質導入のためにウイルスベクターなどの療法に相当長い時間が与えられる。生物学的療法を注射する一方で機械的循環補助デバイスを作動させることで、生命に必要な心拍出量を維持し、また膨張した血管形成術用バルーンがもたらしかねない虚血事象を患者が凌ぐことができ、言わば機械的循環補助デバイスが一時的な心臓バイパスの働きをする。機械的補助デバイスは、Impellaデバイスなどの血液ポンプであり得る。いくつかの態様では、遺伝子療法ベクターなどの生物学的療法は、線維芽細胞または内皮細胞などの特定の心組織を標的とし得る。いくつかの態様では、1つまたは複数の遺伝子療法ベクターを使って、筋細胞、線維芽細胞、内皮細胞、またはその他の標的組織を優先的に標的とすることができる。
【0007】
第1の例示的態様では、心臓を処置する方法が、心臓を補助するために機械的循環補助デバイスを作動させることを含む。いくつかの態様では、機械的循環補助デバイスを患者の体外で作動させ、他の態様では、機械的循環補助デバイスを患者内に挿入する。方法は、機械的循環補助デバイスを補助期間の間作動させること、およびこの補助期間の間に、遺伝子療法ベクターなどの生物学的療法を心臓に施すことをさらに含む。一例では、遺伝子療法ベクターを心臓の血管内に投与する。別の例では、方法は、血管形成術用バルーンを血管に挿入すること、および該バルーンを膨張させて該血管を一時的に閉鎖することをさらに含む。一例では、遺伝子療法ベクターを血管形成術用バルーンよりも遠位の場所で心臓に投与する。例えば、遺伝子療法ベクターを、冠動脈内の膨張したバルーンの下流で投与する。いくつかの例では、いくつかの期間のコースにわたり遺伝子療法ベクターを投与する場合がある。例えば、第1の投与期間の間に遺伝子療法ベクターの第1の用量を心臓に投与し、続いて第2の投与期間の間に遺伝子療法ベクターの第2の用量を心臓に投与し、両投与期間を休止期間で区切る。一例では、休止期間は第1の投与期間よりも長い。一例では、膨張した血管形成術用バルーンは、約3分未満、好ましくは1分間、血管を一時的に閉鎖する。一例では、機械的循環補助デバイス、例えばマイクロアキシャルトランス弁(microaxial transvalvular)ポンプが用いられる補助期間は、10分よりも長い。補助デバイスを、これらの種々の投与期間および休止期間の間作動させる。一例では、遺伝子療法ベクターの心臓への投与は、心組織におけるベクターDNAの発現を増加させるように構成されている。心筋、線維芽細胞、内皮細胞、またはその他の心組織などの心臓内の組織を遺伝子療法ベクターの標的とすることができる。
【0008】
第2の例示的態様では、患者の心臓を補助する方法が、血液ポンプを心臓に経皮的に挿入すること、および該血液ポンプを、心臓の大動脈弁にわたって配置することを含む。方法は、心臓の左心室の負荷を軽減するために血液ポンプを作動させること、および血液ポンプを作動させるのと同時に、本明細書に記載のようにして閉鎖されている心臓の冠血管内に、遺伝子療法ベクターを注射することをさらに含む。
【0009】
第3の例示的態様では、患者の心筋における遺伝子発現を上方制御する方法が、患者の冠動脈内にバルーンを設置すること、および該バルーンを第1の期間の間膨張させて、該第1の期間の間該冠動脈内の血流を一時的にブロックすることを含む。方法は、患者の心臓内に血液ポンプを設置し、かつ該ポンプを、心臓の大動脈弁にわたって配置してから、第2の期間の間該患者の心臓内で該血液ポンプを作動させることをさらに含む。方法は、第1の期間の間に、冠動脈内の膨張したバルーンよりも遠位の場所に遺伝子療法ベクターを注射すること、および第1の期間の後に該バルーンをしぼませて冠動脈内の血流を復活させることを含む。この例示的態様では、第1の期間が第2の期間内に存在し、かつ第1の期間は、心筋の細胞に永続的虚血をもたらさない持続時間を有する。一例では、方法は、第2の期間の間に、冠動脈内の膨張したバルーンよりも遠位の場所に遺伝子療法ベクターなどの生物学的療法を注射することを含む。別の例では、方法は、第2の期間よりも短い、または第2の期間と等しい第3の期間の間に、冠動脈内の膨張したバルーンよりも遠位の場所に遺伝子療法ベクターを注射することを含む。第1の期間の持続時間は、3分未満、好ましくは1分未満であり得る。
【0010】
第4の例示的態様では、患者の心臓を補助する方法が、遺伝子療法ベクターなどの生物学的療法を心臓内に施すことを含む。方法は、心臓からの遺伝子療法ベクターなどの生物学的療法のクリアランス速度を低下させることをさらに含む。生物学的療法が遺伝子療法ベクターである態様では、低下したクリアランス速度が、心臓内での遺伝子療法ベクターの発現、遺伝子療法ベクターによる心臓への形質導入、またはこれらの任意の組み合わせをもたらす。一例では、方法は、心臓に機械的循環補助デバイスおよびバルーンカテーテルを配備する。
【0011】
第5の例示的態様では、心原性ショックまたは心筋梗塞を経験した患者の心臓を補助するための心保護システムが、患者内に挿入されて作動するように構成されている機械的循環補助デバイスと、近位端および遠位端を有する膨張可能なバルーンを有するバルーンカテーテルとを配備している。バルーンカテーテルは、バルーンの近位端と流体連通している膨張カテーテルを含み、該バルーンは、機械的循環補助デバイスとの同時使用のために患者の冠動脈に挿入されるように構成されている。システムは、遺伝子ベクター療法をインビボで送達するための送達カテーテルをさらに配備し、該送達カテーテルは、遺伝子療法ベクターを含有する溶液を受けるように構成されている入口開口部を有する近位端、出口開口部を有する遠位端、および該送達カテーテルの近位端と遠位端との間に延びるチューブを有する。バルーンは、膨張した場合に、冠動脈を通る血流を少なくとも部分的に閉鎖するように構成されている。一例では、機械的循環補助デバイスは、カテーテルベースの血管内血液ポンプである。別の例では、出口開口部は、バルーンが膨張した場合に、バルーンの遠位端よりも遠位に位置するように構成されている。さらに別の例では、送達カテーテルの近位端と遠位端との間に延びるチューブは、バルーンよりも長い長手方向長さを有する。別の例では、バルーンカテーテルは、バルーン膨張の際にバルーンでバルーンカテーテルの出口開口部を妨げないように構成されている。遺伝子療法ベクターが投与される態様では、ベクターは、インビボで発現すると心保護機能を有するペプチドをコードする非天然核酸物質を含み得、該遺伝子療法ベクターは、心筋細胞に吸収されるように構成されている。
【0012】
第6の例示的態様では、心臓を処置する方法が、心臓を補助するために機械的循環補助デバイスを作動させることを含む。方法は、機械的循環補助デバイスを補助期間の間作動させること、少なくとも1つの心血管を閉鎖すること、および閉鎖された心血管に生物学的療法を施すことをさらに含む。生物学的療法は、筋細胞、線維芽細胞、内皮細胞、またはその他の標的組織を優先的に標的とするようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
前述のおよびその他の目的およびメリットは、以下の詳細な説明を添付の図面と共に考察すれば明白になる。全図面を通じて、類似の参照符号が類似の部品を指す。
【0014】
【
図1】(i)Impella補助なし(ブタIGT5、IGT6、IGT12)、(ii)Impella補助あり、血管形成術用バルーンなし(ブタIGT7、IGT8、IGT10)、および(iii)血管形成術用バルーンと組み合わせたImpella補助あり(ブタIGT4、IGT9、IGT11)の、ウイルス遺伝子療法ベクターを用いた生物学的療法を受けた3群のブタの種々の心組織における遺伝子発現レベルを例示している。
【
図2】
図1の3群のブタの左心房組織における遺伝子発現レベルを例示している。ブタは、(i)Impella補助なし(ブタIGT5、IGT6、IGT12)、(ii)Impella補助あり、血管形成術用バルーンなし(ブタIGT7、IGT8、IGT10)、および(iii)血管形成術用バルーンと組み合わせたImpella補助あり(ブタIGT4、IGT9、IGT11)の、ウイルス遺伝子療法ベクターを用いた生物学的療法を受けた。
【
図3】
図1の3群のブタの肝臓組織における遺伝子発現レベルを例示している。ブタは、(i)Impella補助なし(ブタIGT5、IGT6、IGT12)、(ii)Impella補助あり、血管形成術用バルーンなし(ブタIGT7、IGT8、IGT10)、および(iii)血管形成術用バルーンと組み合わせたImpella補助あり(ブタIGT4、IGT9、IGT11)の、ウイルス遺伝子療法ベクターを用いた生物学的療法を受けた。
【
図4】Impella補助および血管形成術用バルーンありの、ウイルス遺伝子療法ベクターを用いた生物学的療法を受けた1匹のブタ(ブタIGT11)のベクターゲノム発現を、ベクターゲノムおよびブタゲノムをPCRにより計測して、例示している。
【
図5】Impella補助および血管形成術用バルーンありの、ウイルス遺伝子療法ベクターを用いた生物学的療法を受けた1匹のブタ(ブタIGT11)のベクターゲノム発現を、ブタ細胞1個あたりの一定のDNA重量を想定して、例示している。
【
図6】Impella補助および血管形成術用バルーンありの、ウイルス遺伝子療法ベクターを用いた生物学的療法を受けた1匹のブタ(ブタIGT11)の種々の組織試料のルシフェラーゼ活性とベクターゲノム発現との相関を例示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
詳細な説明
本明細書に記載されるシステムおよび方法を全体的に理解してもらうために、特定の例示的な実施態様を記述する。本明細書に記載される実施態様および特長は、特に循環および再灌流療法システムと関連した使用について記述されてはいるが、以下に概説する構成要素およびその他の特長はどれも、任意の好適なやり方で互いに組み合わせてもよいし、またその他のタイプの循環および再灌流療法デバイスに適応させたり応用したりしてもよいことが理解されよう。
【0016】
上記したように、一態様では、機械的に補助されている心臓の、閉鎖された血管内に、遺伝子療法ベクターを導入する。
図1~6は、ブタで行った遺伝子療法ベクターの研究から得られた結果を例示している。第1のブタ対照群について。この研究では、ブタ5をIGT5と呼び、ブタ6をIGT6と呼ぶ、というようにブタに番号をつけた。3群のブタについて考察した。第1のブタ対照群(「第1群」)では、6型アデノ随伴ウイルスベクター(AAV6)およびルシフェラーゼ(生物発光を生成する酵素)を冠血管に注射し、血管形成術用バルーンも機械的循環システムデバイスも使用しなかった。第2のブタ群(「第2群」)では、機械的循環システムデバイス(Impellaポンプ)で左心室の負荷を軽減し、一方で遺伝子療法ベクターを冠血管に注射した。血管形成術用バルーンは使用しなかった。第3のブタ群(「第3群」)では、冠血管内に血管形成術用バルーンを配備し、冠血管のバルーン遠位に遺伝子療法ベクターを注射し、注射と同時に機械的循環システムデバイス(Impellaポンプ)を使用した。研究プロトコルの一環として、遺伝子療法ベクター注射をいくつかの相で実施し、第1の注射相に続いて注射をしない期間を設け、かつ第2の注射相に続いて注射をしない期間を設け、最後に第3の注射相に続いて注射をしない期間を設けた。
【0017】
図1は、ブタの研究中、3群のブタについて観測した結果を例示している。Y軸は、組織生検のルシフェラーゼのレベルの測定であり、ルシフェラーゼのレベルは筋細胞で発現したいくつかの遺伝子と相関している。ルシフェラーゼが発現するとアッセイが光り、光の強さは組織で発現したベクターゲノムの量と相関している。Y軸は対数スケールを用いており、1という値は標準のゲノム発現を示す。様々なデータ点(後方、後方内皮(post endo)、後方上皮(post epi)、心尖、梗塞、辺縁)は、生検を採取した心筋の、種々の領域に対応している。
図1に示すように、第1群(Impellaなし)および第2群(Impellaあり、バルーンなし)と比べて、第3群のブタ(バルーンおよびImpellaあり)は、第1群または第2群のベクターゲノム発現レベルよりも対数的に高いレベルのベクターゲノム発現を示す。血管形成術用バルーンと機械的循環補助デバイスとを同時に使用することの少なくとも1つのメリットは、心臓の安定性を維持しながら、遺伝子療法ベクター媒体が心筋内にプールされる時間を長引かせる能力である。血管形成術用バルーン配備の時間は比較的短く、例えば1分未満であり、冠血管を閉鎖した結果ある程度の心筋気絶(短時間の組織虚血)が生じるかもしれないが、心筋気絶の影響は可逆的である。
【0018】
図2は、フォーマットは
図1と似ているが、左心房の組織生検に関するベクターゲノムの発現レベルを例示している。
図2に示すように、第3群の1匹のブタ、ブタ11(IGT11)では、ルシフェラーゼ活性の3000倍の増加があり、極めて高レベルの遺伝子発現が示された。
【0019】
図3は、フォーマットは
図1と似ているが、肝臓の組織生検に関するベクターゲノムの発現レベルを例示している。ウイルスベクターを採用する生物学的療法を用いる場合、標的器官以外でのウイルスの存在を最小限化することが望ましい。好ましくは、患者の体循環内のウイルスレベルを低くすべきである。体循環の浄化を目的とする肝臓などの器官は、肝臓に達する前にウイルスがどれほど系から除かれていたかを示す。
図3に示すように、第3群のブタでは、肝臓における発現レベルが発現期待値1よりも低い。これは、ベクターウイルスの大半が、注射部位の近く、すなわち心筋内へとアウトプットされたこと、そして肝臓まで達したベクターウイルスは望ましくもほんの少量であったことを示している。
【0020】
図4は、同じブタの研究のブタ11の、ただし
図1~3とはフォーマットが異なる、ベクターゲノムの発現レベルを例示している。
図4は、PCR検査、つまりポリメラーゼ連鎖反応検査を用いた、遺伝子療法ベクターを採用する生物学的療法の結果を示す。ブタ11(第3群の1匹:Impellaおよび血管形成術用バルーンを使用)に関する遺伝子療法ベクターを採用した処置の結果は、PCRによると、
図1~3に示される結果と一致しており、ブタ11(および第3群のブタ)は、特定の心組織において、その系のほかの部分よりも高いベクター遺伝子の発現レベルを示している。左側のグラフでは、Y軸は遺伝子発現をPCRで測定しており、x軸は、異なる組織エリアからの異なる生検に対応している。PCRのレベルは、心臓に対応する組織エリア(心尖、梗塞、辺縁、後方上皮、後方内皮、中間-中隔、基部-前方、基部-側方、基部-後方、基部-中隔、冠血管、および左心房)のほうが、その他の組織エリア(RV、RA、肝臓、SKM、肺、腎皮質、脾臓、脳、CM、非CM)よりもはるかに高い。これによって、遺伝子療法ベクターの大半が心組織で発現し、他の器官での発現は非常に少ないことが確認される。同様に、右側のグラフでは、ブタゲノムにより正規化したブタ11(IGT11)のベクターゲノムの比率は、他のどの組織生検(脳、CM、腎臓、肝臓、肺、非CM、RV、SKI、脾臓)よりも冠血管および左心房の組織生検で大幅に高い。
【0021】
図5は、ブタの研究の遺伝子療法ベクター発現の別の指標を表示している。1個のブタ細胞中に6 pgのDNAがあると想定して、療法ベクターゲノムを1個のブタ細胞中のDNA量により正規化する。ここでも、ブタゲノムに対する療法ベクターゲノムの比率は左心房および冠血管の組織生検で最高であり、遺伝子療法ベクターが最も効率的なのは左心房および冠血管であることが示された。
【0022】
図6は、
図1~3で考察したタイプの遺伝子療法ベクター指標(ルシフェラーゼ)と、
図4~5で考察したタイプの遺伝子療法ベクター指標(PCR)との相関を例示している。
図6は、ルシフェラーゼ活性をY軸にとり、ベクターゲノム/ブタゲノムの比率をx軸にとっている。
図6から、ルシフェラーゼ活性がウイルスゲノム(VG)発現と直接関連していることが確認される。ブタゲノムに対するベクターゲノムの比率が高いほど、ルシフェラーゼ(Luc)活性が高い。
【0023】
遺伝子療法ベクターに関し上述したのと同じ手法を、幹細胞、RNA、mRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド療法、ポリペプチドといった他の生物学的製剤、または心臓に取り込ませる任意の他の生物学的製剤の吸収を増加させるために用いることができる。例えば、方法を、心臓における遺伝子生産を妨害するオリゴヌクレオチド、または同様の機能をもつ任意の他の分子と一緒に用いることができる。別の例では、心組織の炎症反応を管理または阻害することを標的とする、プロタンパク質転換酵素サブチリシン・ケキシン9型(PCSK9)、腫瘍壊死因子(TNF)阻害剤、またはRNA干渉生物学的製剤などの生物学的製剤を、心臓内に注射することができる。心疾患および心臓の症状の処置は、心筋または任意の他の標的組織種、例えば線維芽細胞もしくは内皮細胞に、様々な生物学的製剤を冠血管内注射することにより、向上し得る。生物学的療法は、筋細胞、線維芽細胞、内皮細胞、またはその他の標的組織を優先的に標的とするようにしてもよい。
【0024】
生物学的療法は心臓の血管内に施されるが、血管内の血管形成術用バルーンの使用と組み合わせて血管を一時的に閉鎖して施されてもよい。生物学的療法は、心臓内の血管形成術用バルーンよりも遠位の場所に、例えば冠動脈内の血管形成術用バルーンよりも遠位の場所に施すことができる。いくつかの例では、休止期間を間に挟むいくつかの期間のコースにわたり生物学的療法を施し、休止期間中は生物学的療法を施さない。休止期間は、生物学的療法を施す期間よりも長い場合がある。
【0025】
生物学的製剤は、心臓の症状に応じて、互いに組み合わせて、または遺伝子ベクター療法と組み合わせて、心臓に注射することができる。いずれかの生物学的製剤を心筋または任意の他の標的組織種、例えば線維芽細胞もしくは内皮細胞に送達するために、血管内の血流を一時的にブロックして、心組織における生物学的製剤の吸収を増加させ、かつ心臓からの生物学的製剤のクリアランスを低下させ、一方で同時に機械的循環補助デバイスを心臓内で作動させて、患者への有害作用なく心機能および体循環を維持する。生物学的製剤の投与中に血流をブロックすることにより、所望の組織標的への形質導入のために該生物学的製剤が心組織と接触する時間が長くなる。
【0026】
本明細書では、「含む(comprising)」という言葉は、「広義」に、つまり「含む(including)」の意味で理解すべきであり、したがって「狭義」に、つまり「のみからなる」という意味に限定されない。対応する言葉「含む(comprise)」、「含む(comprised)」、および「含む(comprises)」が登場する場合、対応する意味をもつ。
【0027】
この技術の具体的な態様を記述してきたが、本技術がその本質的な特徴から逸脱することなく他の特定の形態として具現化され得ることは、当業者には明白であろう。したがって、本明細書の態様および例は、あらゆる点において例示的かつ非限定的と考えるべきである。例えば、本開示では手/腕などに基づく所作や回転といった動きの検出を記述してきたが、これと同じ原理を他の大規模な動きにも、例えばユーザーがベッドで横臥した体位から座位へと動く場合(逆も同様)や、特定の標的(テーブルランプまたは呼吸装置)に手を伸ばす場合等にも応用できる。
【0028】
本明細書における当技術分野で公知の主題への参照は、相反する見解が生じないかぎり、そうした主題が当技術関連の当事者にとって周知であると認めるという意味ではないことが、さらに理解されよう。
【国際調査報告】