(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-09
(54)【発明の名称】パンベース飲料
(51)【国際特許分類】
A23L 2/38 20210101AFI20220602BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20220602BHJP
A23L 33/14 20160101ALI20220602BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20220602BHJP
【FI】
A23L2/38 J
A23L33/135
A23L33/14
A23L2/00 F
A23L2/52
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021558799
(86)(22)【出願日】2020-04-01
(85)【翻訳文提出日】2021-11-30
(86)【国際出願番号】 SG2020050200
(87)【国際公開番号】W WO2020204832
(87)【国際公開日】2020-10-08
(31)【優先権主張番号】10201902948Y
(32)【優先日】2019-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507335687
【氏名又は名称】ナショナル ユニヴァーシティー オブ シンガポール
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リウ,シャオ チュエン
(72)【発明者】
【氏名】トー,ミンツァン
(72)【発明者】
【氏名】グエン,チュイ リン
【テーマコード(参考)】
4B018
4B117
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018LE05
4B018MD81
4B018MD86
4B018MD87
4B018ME14
4B018MF13
4B117LC04
4B117LG13
4B117LK21
4B117LP05
(57)【要約】
本発明は、ラクトバシラス属菌、ビフィドバクテリウム属菌、サッカロミセス属酵母又はこれらの組合せから選択されるプロバイオティクスを含むパンベース飲料であって、該プロバイオティクスが5.0log CFU/mLを超えるプロバイオティック生細胞数を有する、飲料に関する。そのパンベース飲料を調製する方法であって、パンを水と混合して混合物を形成するステップ、該混合物にプロバイオティクスを添加して、接種混合物を形成するステップ、及び該接種混合物を発酵させて該飲料を形成するステップを含む、方法も提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロバイオティクスを含むパンベース飲料であって、前記プロバイオティクスが5.0log CFU/mL以上のプロバイオティック生細胞数を有する、飲料。
【請求項2】
6週間の保存後、飲料中に含まれるプロバイオティクスが5.0log CFU/mL以上のプロバイオティック生細胞数を有する、請求項1に記載の飲料。
【請求項3】
発酵飲料である請求項1又は2に記載の飲料。
【請求項4】
前記プロバイオティクスが、プロバイオティック酵母、プロバイオティック細菌又はこれらの組合せを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項5】
前記プロバイオティクスが、ラクトバシラス属菌、ビフィドバクテリウム属菌、サッカロミセス属酵母又はこれらの組合せを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項6】
前記プロバイオティクスが、ラクトバシラス(Lb.)・ラムノーサス、サッカロミセス(S.)・セレビシエ、ビフィドバクテリウム(B.)・ラクティス又はこれらの組合せを含む、請求項5に記載の飲料。
【請求項7】
添加物をさらに含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項8】
前記添加物が、甘味料、安定化剤、香味料又はこれらの組合せから選択される、請求項7に記載の飲料。
【請求項9】
5.0log CFU/mL以上の生細胞数を有するプロバイオティクスを含むパンベース飲料を調製する方法であって、
- パンを水と混合して混合物を形成するステップ、
- 前記混合物にプロバイオティクスを添加して、接種混合物を形成するステップ、及び
- 前記接種混合物を発酵させて前記飲料を形成するステップ
を含む、方法。
【請求項10】
廃棄物ゼロの方法である請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記混合するステップが前記混合物をホモジナイズすることを含む、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記混合物中のパンの濃度が前記混合物の総固形分に基づき0.5~10.0重量%である、請求項9から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記パンが30~45重量%の含水量を有する、請求項9から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記プロバイオティクスが、プロバイオティック酵母、プロバイオティック細菌又はこれらの組合せを含む、請求項9から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記プロバイオティクスが、ラクトバシラス属菌、ビフィドバクテリウム属菌、サッカロミセス属酵母又はこれらの組合せを含む、請求項9から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記プロバイオティクスが、ラクトバシラス(Lb.)・ラムノーサス、サッカロミセス(S.)・セレビシエ、ビフィドバクテリウム(B.)・ラクティス又はこれらの組合せを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記添加するステップが、少なくとも1log CFU/mLの初期プロバイオティック生菌数を得るようにプロバイオティクスを添加することを含む、請求項9から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記発酵させるステップが、4~96時間である所定の時間である、請求項9から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記発酵させるステップが、15~45℃である所定の温度である、請求項9から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記混合物に添加物を添加するステップをさらに含む、請求項9から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記添加物が、甘味料、安定化剤、香味料又はこれらの組合せから選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
プロバイオティクスを添加する前記ステップに先行して前記混合物を加熱処理するステップをさらに含む、請求項9から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記加熱処理するステップの後、プロバイオティクスを添加する前記ステップに先行して前記混合物を冷却するステップをさらに含む、請求項22に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パンベース飲料(bread-based beverage)及びこれを調製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品廃棄は、増大する一方の世界的懸案事項であり、世界で生産された全食品のうち3分の1近くが消費されずに捨てられている。種々の食品廃棄物のうち、最も多く廃棄されている品目の1つがパンである。パンの廃棄の大半は、家庭廃棄物又は市場で余ったものにより生じる。
【0003】
パンの高廃棄量という問題に取り組むために、多様な用途、例えば動物飼料への加工、又は発酵過程を通じて工業製品若しくは消費財を生産する生物学的活用(biovalorisation)用途等における廃棄パンの使用に関して多くの技術が探索されてきた。しかし、既存の技術はいずれも、当該用途は付加価値が低い、当該用途は工場で発生する廃棄パンにのみ応用可能であり家庭で発生する廃棄パンには応用できない、当該用途では固形の廃棄パンが依然としてかなり残ったままになる、という限界のうち少なくとも1つに直面している。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、これらの課題に対処すること、及び/又は、廃棄パンを用いたパンベース飲料、並びに廃棄物を発生させずに当該飲料を調製する方法を提供することを目的とする。
【0005】
第1の態様によれば、本発明は、プロバイオティクスを含むパンベース飲料であって、該プロバイオティクスが5.0log CFU/mL以上のプロバイオティック生細胞数を有する、飲料を提供する。この飲料は発酵飲料であり得る。
【0006】
特定の態様によれば、6週間の保存後、飲料中に含まれるプロバイオティクスは、5.0log CFU/mL以上のプロバイオティック生細胞数を有し得る。
【0007】
この飲料中に含まれるプロバイオティクスは、任意の好適なプロバイオティックであってよい。例えば、プロバイオティクスは、プロバイオティック酵母、プロバイオティック細菌又はこれらの組合せであり得るが限定されない。例として、プロバイオティクスは、ラクトバシラス属菌(lactobacillus)、ビフィドバクテリウム属菌(bifidobacterium)、サッカロミセス属(Saccharomyces)酵母又はこれらの組合せを含み得るが限定されない。特に、プロバイオティクスは、ラクトバシラス(Lb.)・ラムノーサス(rhamnosus)、サッカロミセス(S.)・セレビシエ(cerevisiae)、ビフィドバクテリウム(B.)・ラクティス(lactis)又はこれらの組合せを含み得るが限定されない。
【0008】
この飲料は、添加物をさらに含み得る。添加物は任意の好適な添加物であってよい。例として、添加物は、甘味料、安定化剤、香味料又はこれらの組合せであり得るが限定されない。
【0009】
第2の態様によれば、本発明は、5.0log CFU/mL以上の生細胞数を有するプロバイオティクスを含むパンベース飲料を調製する方法であって、
- パンを水と混合して混合物を形成するステップ、
- 該混合物にプロバイオティクスを添加して、接種混合物を形成するステップ、及び
- 該接種混合物を発酵させて該飲料を形成するステップ
を含む、方法を提供する。
【0010】
本発明による方法は、廃棄物ゼロの方法であり得る。
【0011】
特定の態様によれば、混合するステップは、任意の好適な手段によって実施され得る。例えば、混合するステップは、該混合物をホモジナイズすることを含み得る。
【0012】
該混合物は、好適な量の水及びパンを含み得る。特に、該混合物中のパンの濃度は、該混合物の総固形分に基づき0.5~10.0重量%であり得る。
【0013】
該混合物中に含まれるパンは、任意の好適なパンであり得る。例えば、パンは好適な含水量を有し得る。特定の態様によれば、パンは30~45重量%の含水量を有し得る。
【0014】
添加するステップは、任意の好適なプロバイオティクスを該混合物に添加することを含み得る。例えば、プロバイオティクスは、プロバイオティック酵母、プロバイオティック細菌又はこれらの組合せを含み得るが限定されない。具体的には、プロバイオティクスは、ラクトバシラス属菌、ビフィドバクテリウム属菌、サッカロミセス属酵母、又はこれらの組合せを含み得るが限定されない。さらにより具体的には、プロバイオティクスは、ラクトバシラス(Lb.)・ラムノーサス、サッカロミセス(S.)・セレビシエ、ビフィドバクテリウム(B.)・ラクティス又はこれらの組合せを含み得る。
【0015】
添加するステップは、好適な量のプロバイオティクスを添加することを含み得る。特定の態様によれば、添加するステップは、少なくとも1log CFU/mLの初期プロバイオティック生菌数を得るようにプロバイオティクスを添加することを含み得る。
【0016】
発酵させるステップは、任意の好適な条件下であり得る。例えば、発酵させるステップは、所定の時間であり得る。特定の態様によれば、所定の時間は4~96時間であり得る。
【0017】
発酵させるステップは、所定の温度であり得る。特定の態様によれば、所定の温度は15~45℃であり得る。
【0018】
本方法は、該混合物に添加物を添加するステップをさらに含み得る。添加物は任意の好適な添加物であってよい。例えば、添加物は、甘味料、安定化剤、香味料又はこれらの組合せであり得るが限定されない。
【0019】
本方法はさらに、プロバイオティクスを添加するステップに先行して該混合物を加熱処理するステップをさらに含み得る。加熱処理は任意の好適な手段によるものであり得る。
【0020】
本方法は、加熱処理するステップの後、プロバイオティクスを添加するステップに先行して該混合物を冷却するステップをさらに含み得る。
【0021】
次に、本発明の完全な理解及び容易な実用化を可能にするために、非限定的な例として例示のみを目的とした実施形態の説明を、添付の説明図面を参照して行う。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、パンスラリーで増殖させた単培養物及び共培養物を接種したパンスラリー(総固形分2.5重量%)にて37℃でインキュベーションした際におけるL.ラムノーサスGG(
図1(A))及びS.セレビシエCNCM I-3856(
図1(B))の生細胞数の変化を示す。エラーバーは、独立の実験(n=3)から得た標準偏差を示している。「
*」は、同一時点内で有意差がある(p<0.05)ことを示している。
【
図2】
図2は、パンスラリーで増殖させたL.ラムノーサスGG単独、S.セレビシエCNCM I-3856単独及びL.ラムノーサスGG+S.セレビシエCNCM I-3856を接種したパンスラリー(総固形分2.5重量%)を37℃でインキュベーションした際におけるpHの変化を示す。エラーバーは、独立の実験(n=3)から得た標準偏差を示している。
【
図3】
図3は、パンスラリー又はブロスで増殖させたL.ラムノーサスGG単独(
図3(A))及びL.ラムノーサスGG+S.セレビシエCNCM I-3856(
図3(B))を接種したパンスラリー(総固形分2.5重量%)にて37℃でインキュベーションした際におけるL.ラムノーサスGGの生細胞数の変化を示す。エラーバーは、独立の実験(n=3)から得た標準偏差を示している。小文字は、同一時点内で有意差がある(p<0.05)ことを示している。
【
図4】
図4は、パンスラリー又はブロスで増殖させたS.セレビシエCNCM I-3856単独(
図4(A))及びL.ラムノーサスGG+S.セレビシエCNCM I-3856(
図4(B))を接種したパンスラリー(総固形分2.5重量%)にて37℃でインキュベーションした際におけるS.セレビシエCNCM I-3856の生細胞数の変化を示す。エラーバーは、独立の実験(n=3)から得た標準偏差を示している。小文字は、同一時点内で有意差がある(p<0.05)ことを示している。
【
図5】
図5は、パンスラリー又はブロスで増殖させたL.ラムノーサスGG単独(
図5(A))、S.セレビシエCNCM I-3856単独(
図5(B))及びL.ラムノーサスGG+S.セレビシエCNCM I-3856(
図5(C))を接種したパンスラリー(総固形分2.5重量%)を37℃でインキュベーションした際におけるpHの変化を示す。エラーバーは、独立の実験(n=3)から得た標準偏差を示している。小文字は、同一時点内で有意差がある(p<0.05)ことを示している。
【
図6】
図6は、L.ラムノーサスGG単独(
図6(A))及びL.ラムノーサスGG+S.セレビシエCNCM I-3856(
図6(B))を接種し、且つ、総固形パン含有量1.25重量%、2.5重量%又は5.0重量%で作製したパンスラリーにて37℃でインキュベーションした際におけるL.ラムノーサスGGの生細胞数の変化を示す。エラーバーは、独立の実験(n=3)から得た標準偏差を示している。小文字は、同一時点内で有意差がある(p<0.05)ことを示している。
【
図7】
図7は、S.セレビシエCNCM I-3856単独(
図7(A))及びL.ラムノーサスGG+S.セレビシエCNCM I-3856(
図7(B))を接種し、且つ、総固形パン含有量1.25重量%、2.5重量%又は5.0重量%で作製したパンスラリーにて37℃でインキュベーションした際におけるS.セレビシエCNCM I-3856の生細胞数の変化を示す。エラーバーは、独立の実験(n=3)から得た標準偏差を示している。小文字は、同一時点内で有意差がある(p<0.05)ことを示している。
【
図8】
図8は、L.ラムノーサスGG単独(
図8(A))、S.セレビシエCNCM I-3856単独(
図8(B))及びL.ラムノーサスGG+S.セレビシエCNCM I-3856(
図8(C))を接種し、且つ、総固形パン含有量1.25重量%、2.5重量%又は5.0重量%で作製したパンスラリーを37℃でインキュベーションした際におけるpHの変化を示す。エラーバーは、独立の実験(n=3)から得た標準偏差を示している。小文字は、同一時点内で有意差がある(p<0.05)ことを示している。
【
図9】
図9は、L.ラムノーサスGG単独(
図9(A))及びL.ラムノーサスGG+S.セレビシエCNCM I-3856(
図9(B))を接種し、且つ、5.0重量%総固形分のEnriched White Bread、Fine Grain Wholemeal Bread、Hi Calcium Milk Breadで作製したパンスラリーにて37℃でインキュベーションした際におけるL.ラムノーサスGGの生細胞数の変化を示す。エラーバーは、独立の実験(n=3)から得た標準偏差を示している。小文字は、同一時点内で有意差がある(p<0.05)ことを示している。
【
図10】
図10は、S.セレビシエCNCM I-3856単独(
図10(A))及びL.ラムノーサスGG+S.セレビシエCNCM I-3856(
図10(B))を接種し、且つ、5.0重量%総固形分のEnriched White Bread、Fine Grain Wholemeal Bread、Hi Calcium Milk Breadで作製したパンスラリーにて37℃でインキュベーションした際におけるS.セレビシエCNCM I-3856の生細胞数の変化を示す。エラーバーは、独立の実験(n=3)から得た標準偏差を示している。小文字は、同一時点内で有意差がある(p<0.05)ことを示している。
【
図11】
図11は、L.ラムノーサスGG単独(
図11(A))、S.セレビシエCNCM I-3856単独(
図11(B))及びL.ラムノーサスGG+S.セレビシエCNCM I-3856(
図11(C))を接種し、且つ、5.0重量%総固形分のEnriched White Bread、Fine Grain Wholemeal Bread、Hi Calcium Milk Breadで作製したパンスラリーを37℃でインキュベーションした際におけるpHの変化を示す。エラーバーは、独立の実験(n=3)から得た標準偏差を示している。小文字は、同一時点内で有意差がある(p<0.05)ことを示している。
【
図12】
図12は、L.ラムノーサスGG単独(
図12(A))及びL.ラムノーサスGG+S.セレビシエCNCM I-3856(
図12(B))を接種し、且つ、添加物を用いずに又は3重量%の甘味料+0.001重量%の安定化剤を用いて5.0重量%総固形分のEnriched White Breadで作製したパンスラリーにて37℃でインキュベーションした際におけるL.ラムノーサスGGの生細胞数の変化を示す。エラーバーは、独立の実験(n=3)から得た標準偏差を示している。小文字は、同一時点内で有意差がある(p<0.05)ことを示している。大文字は、同一サンプルの異なる時点間で有意差がある(p<0.05)ことを示している。
【
図13】
図13は、S.セレビシエCNCM I-3856単独(
図13(A))及びL.ラムノーサスGG+S.セレビシエCNCM I-3856(
図13(B))を接種し、且つ、添加物を用いずに又は3重量%の甘味料+0.001重量%の安定化剤を用いて5.0重量%総固形分のEnriched White Breadで作製したパンスラリーにて37℃でインキュベーションした際におけるS.セレビシエCNCM I-3856の生細胞数の変化を示す。エラーバーは、独立の実験(n=3)から得た標準偏差を示している。小文字は、同一時点内で有意差がある(p<0.05)ことを示している。大文字は、同一サンプルの異なる時点間で有意差がある(p<0.05)ことを示している。
【
図14】
図14は、L.ラムノーサスGG単独(
図14(A))、S.セレビシエCNCM I-3856単独(
図14(B))及びL.ラムノーサスGG+S.セレビシエCNCM I-3856(
図14(C))を接種し、且つ、添加物を用いずに又は3重量%の甘味料+0.001重量%の安定化剤を用いて5.0重量%総固形分のEnriched White Breadで作製したパンスラリーを37℃でインキュベーションした際におけるpHの変化を示す。エラーバーは、独立の実験(n=3)から得た標準偏差を示している。小文字は、同一時点内で有意差がある(p<0.05)ことを示している。
【
図15】
図15は、L.ラムノーサスGG単独及びL.ラムノーサスGG+S.セレビシエCNCM I-3856を接種してから37℃で16時間インキュベーションした発酵パン飲料を5℃(
図15(A))及び30℃(
図15(B))で保存した際におけるL.ラムノーサスGGの生細胞数の変化を示す。エラーバーは、独立の実験(n=3)から得た標準偏差を示している。
【
図16】
図16は、S.セレビシエCNCM I-3856単独及びL.ラムノーサスGG+S.セレビシエCNCM I-3856を接種してから37℃で16時間インキュベーションした発酵パン飲料を5℃(
図16(A))及び30℃(
図16(B))で保存した際におけるS.セレビシエCNCM I-3856の生細胞数の変化を示す。エラーバーは、独立の実験(n=3)から得た標準偏差を示している。
【
図17】
図17は、L.ラムノーサスGG単独、S.セレビシエCNCM I-3856単独及びL.ラムノーサスGG+S.セレビシエCNCM I-3856を接種してから37℃で16時間インキュベーションし、5℃(
図17(A))及び30℃(
図17(B))で保存した際におけるpHの変化を示す。エラーバーは、独立の実験(n=3)から得た標準偏差を示している。
【
図18】
図18は、L.ラムノーサスGG単独及びL.ラムノーサスGG+S.セレビシエCNCM I-3856を接種してから37℃で16時間インキュベーションした発酵パン飲料を5℃(
図18(A))及び30℃(
図18(B))で保存した際におけるL.ラムノーサスGGの生細胞数の変化を示す。エラーバーは、独立の実験(n=3)から得た標準偏差を示している。
【
図19】
図19は、S.セレビシエCNCM I-3856単独及びL.ラムノーサスGG+S.セレビシエCNCM I-3856を接種してから37℃で16時間インキュベーションした発酵パン飲料を5℃(
図19(A))及び30℃(
図19(B))で保存した際におけるS.セレビシエCNCM I-3856の生細胞数の変化を示す。エラーバーは、独立の実験(n=3)から得た標準偏差を示している。
【
図20】
図20は、L.ラムノーサスGG単独、S.セレビシエCNCM I-3856単独及びL.ラムノーサスGG+S.セレビシエCNCM I-3856を接種してから37℃で16時間インキュベーションし、5℃(
図20(A))及び30℃(
図20(B))で保存した際におけるpHの変化を示す。エラーバーは、独立の実験(n=3)から得た標準偏差を示している。
【
図21】
図21は、B.ラクティスBB-12単独及びB.ラクティスBB-12+S.セレビシエCNCM I-3856を接種してから37℃で24時間インキュベーションした発酵パン飲料を5℃(
図21(A))及び30℃(
図21(B))で保存した際におけるB.ラクティスBB-12の生細胞数の変化を示す。エラーバーは、独立の実験(n=3)から得た標準偏差を示している。
【
図22】
図22は、B.ラクティスBB-12+S.セレビシエCNCM I-3856を接種してから37℃で24時間インキュベーションした発酵パン飲料を5℃(
図22(A))及び30℃(
図22(B))で保存した際におけるS.セレビシエCNCM I-3856の生細胞数の変化を示す。エラーバーは、独立の実験(n=3)から得た標準偏差を示している。
【発明を実施するための形態】
【0023】
これまでに記載したように、食品廃棄、特にパン廃棄を防ぐ方法が必要とされている。本発明は、廃棄パンを使用して機能性パンベース飲料を形成する方法を提供する。
【0024】
一般的には本発明は、機能特性を有する高付加価値飲料を提供する。例えば、本発明による飲料は、プロバイオティック、パラバイオティック(parabiotic)及び/又はポストバイオティック(postbiotic)であり得る。さらに、本飲料は、乳成分不使用でヴィーガンフレンドリーな飲料であり得る。本発明の飲料はまた、無濾過及び非低温殺菌(non-pasteurised)であるという選択肢を有する利点も有する。
【0025】
第1の態様によれば、本発明は、プロバイオティクスを含むパンベース飲料であって、該プロバイオティクスが5.0log CFU/mL以上のプロバイオティック生細胞数を有する、飲料を提供する。本発明の飲料は発酵飲料であり得る。
【0026】
本発明の目的のために、「プロバイオティクス」という用語は、「プロバイオティクス」、「パラバイオティクス」及び「ポストバイオティクス」を包含し得る。特に、プロバイオティクスとしては、特定数を摂取されると固有の一般的な栄養素を上回る健康上の利益を発揮する生きた微生物を挙げることができる。プロバイオティクスによって健康上の利益がもたらされる主な理由は、プロバイオティクスが胃腸管に生息可能であり健康でバランスのとれた腸管微生物叢の確立に寄与するからと考えられる。パラプロバイオティクス(paraprobiotic)としては、いくつかの経路(例えば、死滅したプロバイオティック細胞の腸管細胞への付着、死滅したプロバイオティック細胞の細胞壁からの化合物の提供、及び、死滅したプロバイオティック細胞による代謝産物の放出等)を通して適切に吸収されると健康上の利益をもたらす、プロバイオティクス微生物の不活化細胞を挙げることができる。ポストバイオティクスとしては、生細菌により分泌される又は細菌溶解時に放出される可溶性代謝産物若しくは代謝副産物であり、十分な量で投与されると生物活性を通じて健康上の利益をもたらすものを挙げることができる。そのような化合物の例としては、短鎖脂肪酸、酵素、ペプチド、タイコ酸、ペプチドグリカン由来のムロペプチド、多糖、細胞表面タンパク質、ビタミン、プラズマロゲン及び有機酸が挙げられる。
【0027】
本飲料中には、好適な量のプロバイオティクスが含まれ得る。例えば、プロバイオティクスは5.0log CFU/mL以上の生細胞数を有し得る。特定の態様によれば、プロバイオティクスは6.0log CFU/mL以上の生細胞数を有し得る。さらにより具体的には、プロバイオティクスは7.0log CFU/mL以上の生細胞数を有し得る。
【0028】
具体的には、本飲料中に含まれるプロバイオティクスは、5.0~10.0log CFU/mL、5.5~9.5log CFU/mL、6.0~9.0log CFU/mL、6.5~8.5log CFU/mL、7.0~8.0log CFU/mLの生細胞数を有し得る。さらにより具体的には、本飲料中に含まれるプロバイオティクスは約6.0~9.0log CFU/mLの生細胞数を有し得る。
【0029】
本飲料は、6週間保存した後でも安定した飲料であり得る。例えば、飲料中に含まれるプロバイオティクスは、6週間保存した後でも5.0log CFU/mL以上のプロバイオティック生細胞数を有し得る。したがって、本飲料は、本飲料の製造後特定の期間が経過してもなお健康上の利益を消費者に与えることができると考えられる。したがって、本飲料は、好適な品質保持期間を有し得る。
【0030】
本飲料中に含まれるプロバイオティクスは、任意の好適なプロバイオティクスであってよい。例として、プロバイオティクスは、プロバイオティック酵母、プロバイオティック細菌又はこれらの組合せであり得るが限定されない。特定の態様によれば、本飲料中に含まれるプロバイオティクスは少なくとも1種類のプロバイオティック酵母であり得る。別の特定の態様によれば、本飲料中に含まれるプロバイオティクスは少なくとも1種類のプロバイオティック細菌であり得る。別の特定の態様によれば、本飲料中に含まれるプロバイオティクスは少なくとも1種類のプロバイオティック酵母及び少なくとも1種類のプロバイオティック細菌であり得る。例として、プロバイオティクスは、ラクトバシラス属菌、ビフィドバクテリウム属菌、サッカロミセス属酵母又はこれらの組合せを含み得るが限定されない。特に、プロバイオティクスは、ラクトバシラス(Lb.)・ラムノーサス、サッカロミセス(S.)・セレビシエ、ビフィドバクテリウム(B.)・ラクティス又はこれらの組合せを含み得るが限定されない。
【0031】
本飲料は、添加物をさらに含み得る。添加物は任意の好適な添加物であってよい。添加物は、より完成度の高い消費財をもたらすための、飲料の風味プロファイルを高めるための、及び/又は飲料の官能特性を高めるための、任意の好適な添加物であり得る。例として、添加物は、甘味料、安定化剤、香味料又はこれらの組合せであり得るが限定されない。
【0032】
本飲料は、好適なアルコール含有量を有し得る。特定の態様によれば、本飲料のアルコール含有量は0.5体積%以下であり得る。別の特定の態様によれば、アルコール含有量は0.5体積%以上であり得る。
【0033】
本発明の第2の態様によれば、5.0log CFU/mL以上の生細胞数を有するプロバイオティクスを含むパンベース飲料を調製する方法であって、
- パンを水と混合して混合物を形成するステップ、
- 該混合物にプロバイオティクスを添加して、接種混合物を形成するステップ、及び
- 該接種混合物を発酵させて該飲料を形成するステップ
を含む、方法が提供される。
【0034】
本方法は、上記の第1の態様によるパンベース飲料を形成する方法であり得る。
【0035】
本発明による方法は、廃棄物ゼロの方法であり得る。換言すれば、この方法は廃棄物を出さず、パンベース飲料の調製に使用される廃棄パンは本飲料の製造に完全に利用される。したがって本発明の方法は、パン廃棄の課題を克服し、食品廃棄を低減し、加えて、付加価値がある機能性の飲料を形成する。本方法はまた、単純であり高価な溶媒の使用を伴わないことから、スケールアップがより容易である。
【0036】
本発明の目的で使用されるパンは、任意の好適なパンであってよい。例えば、パンは廃棄パンを含み得る。特に、パンは、工場で発生する廃棄パン、家庭で発生する廃棄パン又はこれらの組合せを含み得る。
【0037】
本方法において使用され飲料中に含まれるパンは、好適な特性を有するものであってよい。例えば、パンは、好適な含水量を有するものであってよい。特に、パンは30~45%の含水量を有し得る。
【0038】
パンは、好適な炭水化物含量を有するものであってよい。例えば、本発明の方法において使用されるパンの炭水化物含量は、パン100g当たり20~70gであり得る。
【0039】
パンは、好適なタンパク質含量を有するものであってよい。例えば、本発明の方法において使用されるパンのタンパク質含量は、パン100g当たり5~10gであり得る。
【0040】
混合するステップは、好適な量の水及びパンを混合することを含み得る。混合するステップは、水及びパンを混合してパンスラリーを形成することを含み得る。任意の好適な量のパンを添加してスラリーを形成することができる。例えば、パンの量は混合物の総固形分に基づき0.5~10.0重量%であり得る。特に、添加されるパンの量は、混合物の総固形分に基づき1.0~8.0重量%、1.25~7.5重量%、1.5~7.0重量%、2.0~6.5重量%、2.5~6.0重量%、3.0~5.5重量%、3.5~5.0重量%、4.0~4.5重量%であり得る。
【0041】
特定の態様によれば、混合するステップは、任意の好適な手段によって実施され得る。例えば、混合するステップは、混合物をホモジナイズすることを含み得る。ホモジナイズすることは、任意の好適な手段、例えばホモジナイザーにより行い得る。特に、混合するステップは、混合物をホモジナイズして、飲用に適した液体の均質混合物を形成することを含み得る。
【0042】
本方法は、混合物に添加物を添加するステップをさらに含み得る。添加物は任意の好適な添加物であってよい。特に、添加物は、飲料の風味プロファイルを高めるための及び/又は飲料の官能特性を高めるためのものであり得る。例として、添加物は、甘味料、安定化剤、香味料又はこれらの組合せであり得るが限定されない。
【0043】
特定の態様によれば、本方法は、プロバイオティクスを添加するステップに先行して混合物を加熱処理するステップをさらに含み得る。例えば、加熱処理は、混合物の穏やかな低温殺菌又は滅菌を含み得る。加熱処理は飲料の品質保持期間を延長することができ、さらに、飲料を形成する方法を実施する際の汚染リスクを低減することができる。特に、加熱処理は、プロバイオティクスの添加に先立ち、望ましくない微生物を除去し得る。
【0044】
加熱処理は、好適な条件下で実施され得る。例えば、加熱処理は約50~150℃の温度で実施され得る。具体的には、温度は約80~140℃であり得る。さらにより具体的には、温度は約121℃であり得る。
【0045】
加熱処理は、好適な時間にわたって実施され得る。加熱処理が実施される時間は、加熱処理が実施される温度に依存し得る。例えば、加熱処理は3秒~60分間であり得る。具体的には、加熱処理は約3秒~30分間であり得る。さらにより具体的には、加熱処理は約15分間であり得る。
【0046】
本方法は、特に、混合物が先に記載の加熱処理を施された場合には、プロバイオティクスを添加するステップに先行して混合物を冷却するステップをさらに含み得る。特に、冷却するステップは、混合物を周囲温度、例えば約25℃に冷却することを含み得る。
【0047】
プロバイオティクスを添加するステップは、任意の好適なプロバイオティクスを混合物に添加することを含み得る。例として、プロバイオティクスは、プロバイオティック酵母、プロバイオティック細菌又はこれらの組合せを含み得るが限定されない。具体的には、プロバイオティクスは、ラクトバシラス属菌、ビフィドバクテリウム属菌、サッカロミセス属酵母又はこれらの組合せを含み得るが限定されない。さらにより具体的には、プロバイオティクスは、ラクトバシラス(L.)・ラムノーサス、サッカロミセス(S.)・セレビシエ、ビフィドバクテリウム(B.)・ラクティス又はこれらの組合せを含み得る。
【0048】
特定の態様によれば、プロバイオティクスを添加するステップは、2種類以上のプロバイオティクスを添加することを含み得る。2種類以上のプロバイオティクスはそれぞれ異なるタイプのプロバイオティクスであってもよい。例えば、プロバイオティクスを添加するステップは、L.ラムノーサス、S.セレビシエ及び/又はB.ラクティスの組合せを添加することを含み得る。特に、プロバイオティクスを添加するステップは、L.ラムノーサスGG及びS.セレビシエCNCM I-3856、又は、S.セレビシエCNCM I-3856及びB.ラクティスBB-12を添加することを含み得る。
【0049】
2種類以上のプロバイオティクスは、混合物中に同時又は逐次的に添加され得る。特定の態様によれば、2種類以上のプロバイオティクスは逐次的に添加され得る。特に、プロバイオティクスを添加するステップは、第1のプロバイオティクスを混合物に添加し、続いて、第1のプロバイオティクスの添加から所定の時間後に第2又は後続のプロバイオティクスを添加することを含み得る。
【0050】
特定の態様によれば、2種類以上のプロバイオティクスは、混合物に同時に添加され得る。特に、第1及び第2又は後続のプロバイオティクスは全て、同時に混合物に添加される。
【0051】
プロバイオティクスを添加するステップは、好適な量のプロバイオティクスを添加することを含み得る。特定の態様によれば、プロバイオティクスを添加するステップは、少なくとも1log CFU/mLの初期プロバイオティック生菌数を得るようにプロバイオティクスを添加することを含み得る。例えば、添加されるプロバイオティクスの量は少なくとも4log CFU/mLであり得る。具体的には、添加されるプロバイオティクスの量は、約5~7log CFU/mL、5.5~6.5log CFU/mL、5.7~6log CFU/mLであり得る。さらにより具体的には、添加されるプロバイオティクスの量は4.5~6.5log CFU/mLであり得る。
【0052】
プロバイオティクスを添加するステップは、プロバイオティクスを非プロバイオティック材料と一緒に添加することを含み得る。非プロバイオティック材料は、プロバイオティクスの成長及び/又は生存を改善し得る。非プロバイオティック材料は、S.セレビシエEC-1118、ウィリオプシス・サターナス(Williopsis saturnus)NCYC22、ヤロウィア・リポリチカ(Yarrowia lipolytica)又は不活化酵母誘導体であり得るが限定されない。
【0053】
プロバイオティクスを添加するステップは、好適な条件下でなされ得る。例えば、プロバイオティクスを添加するステップは、無菌設定でなされ得る。
【0054】
本方法は、プロバイオティクスを添加するステップに先行して混合物を好適な温度でインキュベートすることをさらに含み得る。特に、この場合の温度は、発酵が生じる温度であり得る。これにより、混合物中でプロバイオティクスを均質に成長させることができる。
【0055】
発酵させるステップは、任意の好適な条件下で実施され得る。例えば、発酵させるステップは所定の時間であり得る。所定の時間は、本発明の目的のために好適な任意の時間であり得る。所定の時間は、プロバイオティクスを添加するステップにおいて添加されるプロバイオティクスに依存し得る。特定の態様によれば、所定の時間は4~96時間であり得る。具体的には、所定の時間は4~72時間であり得る。例えば、所定の時間は、6~60時間、12~54時間、18~48時間、24~42時間、30~36時間であり得る。さらにより具体的には、所定の時間は約16~24時間であり得る。
【0056】
発酵させるステップは、所定の温度であり得る。所定の温度は、本発明の目的のために好適な任意の温度であり得る。特定の態様によれば、所定の温度は15~45℃であり得る。具体的には、所定の温度は、20~40℃、25~37℃、30~35℃であり得る。さらにより具体的には、所定の温度は約37℃であり得る。温度は発酵中の任意の時点で変更されてもよい。
【0057】
本発明の方法によって形成される飲料は、0.5体積%以下のアルコール含有量を有し得る。但し、形成された飲料のアルコール含有量は調整することができる。したがって、本方法は、飲料のアルコール含有量を調整することをさらに含み得る。特に、本方法は、飲料のアルコール含有量を高めることをさらに含み得る。
【0058】
特定の態様によれば、形成されたパンベース飲料は、発酵に続いて好適な温度で保存され得る。例えば、本飲料は30℃以下の温度で保存され得る。具体的には、本飲料は約25℃以下の温度で保存され得る。さらにより具体的には、本飲料は約1~5℃の温度で保存され得る。
【0059】
ここまで本発明を全般的に説明してきたが、下記の実施形態を参照することにより本発明はより容易に理解されるであろう。下記の実施形態は例示の目的で提供するものであり、限定を意図したものではない。
【実施例】
【0060】
パンベース飲料の生産
Gardenia(S) Pte. Ltd.製のスライスされた形態のパン(Enriched White Bread、Fine Grain Wholemeal Bread又はHi Calcium Milk Bread)を小さなさいころ状にカットし、これにIce Mountainミネラルウォーター(Fraser and Neave Ltd.)を注いで総固形分が1.25、2.50又は5.00重量%になるようにした。この混合物を、Emulsor Screensワークヘッド搭載のSilverson L4RTミキサー(Silverson Machines Ltd、Buckinghamshire、UK)を用いて7000rpmで15分間ホモジナイズした。こうして得たスラリーのいくつかのサンプルに、Taikoo Sugar Refinery製のゼロカロリー甘味料(エリトリトール99.5重量%、ステビオールグリコシド、バニラエキス)3重量%、及び、CP Kelco製のKelcogel(登録商標)Gellan Gum 0.001重量%を共に添加した。甘味料は、Silverson L4RTミキサーの3000rpmで1分間の混合下で添加し、続いて5000rpmで10分間のさらなるブレンドを行った。次いで、スラリーを121℃で15分間滅菌してから周囲温度に冷却した。
【0061】
こうして調製した滅菌済みのパンスラリーに、プロバイオティック細菌株若しくはプロバイオティック酵母菌株のいずれか又は両方を接種した。プロバイオティック細菌及びプロバイオティック酵母の両方を共培養物としてパンスラリーに接種したケースでは、2種類の菌株の接種を同時又は逐次的に行った。本実施例で使用したプロバイオティック細菌は、ラクトバシラス・ラムノーサスGG及びビフィドバクテリウム・ラクティスBB-12であった。使用したプロバイオティック酵母はサッカロミセス・セレビシエCNCM I-3856であった。次いで、菌接種済みのパンスラリーを50mL遠心管(各チューブに40mLずつ)において37℃でインキュベートすることにより発酵させた。
【0062】
発酵モニタリング
pH測定
pH測定値は、FiveEasyPlus pHメーター(Mettler Toledo、Giessen、ドイツ)を用いて取得した。
【0063】
微生物計数
L.ラムノーサスGG細胞数は、MRS寒天培地[Man、Rogosa及びSharpeによる寒天培地(Man, Rogosa and Sharpe agar)](Merck、Darmstadt、ドイツ)に抗真菌剤として0.5g/LのNatamax(Danisco A/S、Copenhagen、デンマーク)を加えたものを用いた混釈平板法により決定した。B.ラクティスBB-12細胞数は、MRS寒天培地(Man、Rogosa及びSharpeによる寒天培地)(Merck、Darmstadt、ドイツ)に抗真菌剤として0.5g/LのNatamax(Danisco A/S、Copenhagen、デンマーク)及び酸素除去用に0.5g/LのL-システイン塩酸塩を加えたものを用いた混釈平板法により決定した。S.セレビシエCNCM I-3856細胞数は、ポテトデキストロース寒天培地(Oxoid Ltd.、Hampshire、UK)に抗菌剤として0.1g/Lのクロラムフェニコール(Sigma-Aldrich、St.Louis、MO、USA)を加えたものを用いた塗抹平板法(spread plate method)により決定した。
【0064】
品質保持期間モニタリング
選択したパンベース発酵飲料について、5℃での保存時及び30℃での保存時における週1回の品質保持期間モニタリングを実施した。品質保持期間サンプル(shelf life sample)を週1回のpH測定及び微生物計数によりモニタリングした。数組のパンベース発酵飲料について、無発酵サンプル、発酵サンプル及び品質保持期間が終了時の発酵サンプルをさらに分析して、糖、有機酸、遊離アミノ酸、揮発性有機化合物及びエタノールの含有量を定量化した。
【0065】
糖及び有機酸含有量の定量化
高速液体クロマトグラフィー(島津製作所、京都、日本)を用いて糖及び有機酸を分析し定量化した。Zorbax炭水化物カラム(150×4.6mm、Agilent、Santa Clara、CA、USA)を蒸発光散乱検出器(ELSD-LT II、島津製作所)に接続して用い、30℃で糖を分離した。移動相は80体積%アセトニトリルであり、イソクラティックフローは1mL/分であった。溶出された糖の検出は、蒸発光散乱検出器(ELSD-LT II、島津製作所)を用いて行った。Supelcogel C-610Hカラム(Supelco、Bellefonte、PA、USA)を210nm設定のSPD-M20Aフォトダイオードアレイ検出器(島津製作所)に接続して用い、有機酸を40℃で分離した。移動相は0.1体積%H2SO4であり、流速は0.4mL/分であった。
【0066】
遊離アミノ酸(FAA)含有量の定量化
FAAの分離は、Aracus Amino Acid Analyser(membraPure GmbH、Berlin、ドイツ)を用いて実施した。分離したFAAをニンヒドリンでポストカラム誘導体化し、LED光度計を用いて570nm及び440nmで検出した。
【0067】
揮発性有機化合物(VOC)の定量化
ヘッドスペース固相微量抽出ガスクロマトグラフィー-質量分析計/フレームイオン化検出器(HS-SPME-GC-MS/FID)を用いてVOCの同定及び半定量化を実施した。サンプル(5g)に2gの塩化ナトリウム(NaCl)を添加し60℃で20分間インキュベートした後、85μmカルボキセン/ポリジメチルシロキサン(CAR/PDMS)固相微量抽出ファイバー(Supelco、Sigma-Aldrich、Barcelona、スペイン)を用いたHS-SPMEに60℃で30分間供し、Combi Palオートサンプラー(CTC Analytics、Zwingen、スイス)を用いて250rpmで撹拌した。固相微量抽出(SPME)ファイバーは、Agilent 5975CトリプルアクシスMS及びFIDに連結されたAgilent 7890Aガスクロマトグラフの注入ポートにおいて250℃で3分間、熱脱離させた。DB-FFAPキャピラリーカラム(長さ60m、直径0.25mm、膜厚0.25μm、Agilent)及びキャリアガスとしてヘリウムを用い、流速1.2mL/分でVOCを分離した。オーブン温度は、最初50℃で5分間保持し、その後5℃/分で230℃まで上昇させて30分間保持した。質量分析計(MS)分析に際しては、検出器は電子イオン化モード(70eV)で動作させ、イオン源温度は230℃に維持した。フルスキャンモードでのデータ取得を、2.78スキャン/秒でm/z 25~550について実施した。VOCの質量スペクトルをNIST(アメリカ国立標準技術研究所(National Institute of Standards and Technology))08及びWiley275データベースとマッチングさせるとともにそれらの線形保持指標(LRI)をNIST WebBookに蓄積された文献データと比較することにより、VOCを同定した。VOCのLRI値は、VOCの保持時間を、同一パラメーターを用いて分析したC7~C40飽和アルカン標準品(Sigma-Aldrich)の保持時間と関連付けることにより導いた。VOCの半定量化は、フレームイオン化検出器(FID)で得たVOCピーク面積を用いて行った。
【0068】
エタノール含有量の定量化
エタノール含有量の定量化を、密度計(DMA(商標)4500M、Anton-Parr GmbH、Graz、オーストリア)が連結されたアルコール測定モジュール(Alcolyzer ME、Anton-Parr GmbH)を用いて実施した。
【0069】
データ報告及び統計解析
全ての報告データは、3つの独立した実験(n=3)から得た平均値及び標準偏差を含んでいる。有意差の検定には、SPSS(登録商標)20.0(SPSS Inc.、Chicago、IL)による一元配置分散分析(ANOVA)及びDuncanの多重範囲検定を用いた。
【0070】
[実施例1]
パンスラリーで増殖させた微生物(L.ラムノーサスGG及び/又はS.セレビシエCNCM I-3856)を接種したパンベース発酵飲料
2.5重量%の総パン固形分(total bread solid)で作製し、パンスラリーで増殖させた微生物(L.ラムノーサスGG及び/又はS.セレビシエCNCM I-3856)を接種したパンスラリーにて、発酵を行わせた。
図1及び
図2に細胞数及びpHの測定結果を示す。
【0071】
図1(A)で示されるように、37℃では、単培養及び共培養のいずれについてもL.ラムノーサスGG細胞数は16時間のうちに5.4log CFU/mLから7.7log CFU/mLまで増加した。細胞数は、16時間から24時間までは安定しており、その後、48時間時点ではどちらの培養物においても有意に減少していた(p<0.05)。
図1(B)で示されるように、プロバイオティック酵母については、パンスラリーに4.8log CFU/mLのS.セレビシエCNCM I-3856を接種した。37℃でのインキュベーション中、S.セレビシエCNCM I-3856の生細胞数は、単培養物の場合は6.5log CFU/mL(20時間)で、及び、L.ラムノーサスGGと共培養した場合には6.0log CFU/mL(16時間)で、それぞれピークに達した。72時間を通じて、単培養物におけるS.セレビシエCNCM I-3856の生細胞数は、共培養物と比較して有意に高値であった。
【0072】
図2で示されるように、37℃で16時間インキュベーション後、全ての発酵パンスラリーのpHは初期値の5.8から減少しており、S.セレビシエCNCM I-3856単培養物では5.2前後、L.ラムノーサスGG単培養物では3.4前後、及び、共培養サンプルでは3.5前後で安定していた。
【0073】
[実施例2]
ブロスで増殖させた微生物(L.ラムノーサスGG及び/又はS.セレビシエCNCM I-3856)を接種したパンベース発酵飲料
2.5重量%の総パン固形分で作製し、ブロスで増殖させた微生物(L.ラムノーサスGG及び/又はS.セレビシエCNCM I-3856)を接種したパンスラリーにて、発酵を行わせた。
図3、
図4及び
図5は、パンスラリーで増殖させた微生物を用いた発酵(実施例1)と比較した細胞数及びpHの測定結果を示す。
【0074】
L.ラムノーサスGG細胞数においては、
図3(A)に示される単培養サンプルと
図3(B)に示される共培養サンプルとで同様の傾向が観察された。ブロスで増殖させた微生物を接種したパンスラリーサンプルにおいては、L.ラムノーサスGG細胞数の初期値(6.6log CFU/mL)は、パンスラリーで増殖させた微生物を接種したサンプル(5.4log CFU/mL)と比較して有意に高値であった。しかし、ブロスでのL.ラムノーサスGGの増殖は、パンスラリーでの増殖と比較して有意に低かった。インキュベーションの24時間後、L.ラムノーサスGG細胞数のピークが全てのサンプルで観測された時点において、ブロスで増殖させた微生物を用いたサンプルにおけるL.ラムノーサスGG細胞数は7.0log CFU/mLであったのに対し、パンスラリーで増殖させた微生物を用いたサンプルでは7.5log CFU/mLであった。
【0075】
同様に、
図4で示されるように、ブロスで増殖させた微生物を接種したパンスラリーサンプルにおいてはまた、S.セレビシエCNCM I-3856細胞数の初期値は、パンスラリーで増殖させた微生物を接種したサンプルと比較して有意に高値であった(5.3log CFU/mL対4.8log CFU/mL)。
図4(A)で示されるように、単培養サンプルでは、S.セレビシエCNCM I-3856細胞数は、ブロスで増殖させた微生物を用いたサンプル及びパンスラリーで増殖させた微生物を用いたサンプルのいずれにおいても、インキュベーションの24~72時間時点で6.5log CFU/mL前後に増えた。
図4(B)で示されるように、共培養サンプルでは、L.ラムノーサスGG細胞数とは対照的に、S.セレビシエCNCM I-3856細胞数のピーク(24~48時間)は、ブロスで増殖させた微生物を用いたサンプルの方が、パンスラリーで増殖させた微生物を用いたサンプルより有意に高値であった(6.3log CFU/mL対6.0log CFU/mL)。
【0076】
図5の示すところによれば、パンスラリーで増殖させた微生物を接種したサンプル及びブロスで増殖させた微生物を接種したサンプルのpH値は、L.ラムノーサスGGの単培養物(
図5(A))、S.セレビシエCNCM I-3856の単培養物(
図5(B))及びL.ラムノーサスGGとS.セレビシエCNCM I-3856との共培養物(
図5(C))の間で同程度であったが、わずかな有意差が観察され、ブロスで増殖させた微生物を接種したサンプルはその対応サンプルと比較してわずかに低いpHを呈した。
【0077】
全体的に見て、パンスラリーで増殖させた微生物を用いた発酵は、単培養物の場合はS.セレビシエCNCM I-3856細胞数のピークが0.3log CFU/mL高値であるという結果をもたらしたが、共培養物の場合には、S.セレビシエCNCM I-3856細胞数のピークに効果を及ぼさなかった。さらに、それは、単培養及び共培養のいずれにおいてもL.ラムノーサスGG細胞数のピークが0.5log CFU/mL低いという結果をもたらした。
【0078】
次に記載する発酵に関する実施例は、L.ラムノーサスGG細胞数にとって有利なパンスラリーで増殖させた微生物を用いて実施した。
【0079】
[実施例3]
異なるパン濃度で作製したパンベース発酵飲料
微生物(L.ラムノーサスGG及び/又はS.セレビシエCNCM I-3856)を接種したパンベース発酵飲料において、初期パン濃度が異なるもの、すなわち総固形分が1.25重量%、2.5重量%及び5.0重量%のものについて細胞数及びpHの比較を行った。比較結果を
図6、
図7及び
図8に示す。
【0080】
図6で示されるように、L.ラムノーサスGGについては、全てのパンスラリーに5.7log CFU/mLのL.ラムノーサスGGを接種した。16時間後L.ラムノーサスGG細胞数はそれぞれのピークに達しており、異なるパン濃度間で有意差が認められた。パン含有量の増加に伴い、細胞の成長程度は有意に増加した。
図6(A)は、単培養サンプルの場合は、初期固形パン含有量が1.25重量%、2.5重量%及び5.0重量%のサンプルにおけるL.ラムノーサスGG細胞数のピーク(インキュベーション16時間時点)はそれぞれ7.5、7.8及び8.2log CFU/mLであったことを示している。
図6(B)は、共培養サンプルの場合は、初期固形パン含有量が1.25重量%、2.5重量%及び5.0重量%のサンプルにおけるL.ラムノーサスGG細胞数のピーク(インキュベーション16時間時点)はそれぞれ7.6、7.8及び8.2log CFU/mLであったことを示している。
【0081】
図7は、S.セレビシエCNCM I-3856についても同様の傾向が見られることを示している。全てのサンプルに4.7log CFU/mLのS.セレビシエCNCM I-3856を接種した。
図7(A)は、単培養物の場合は、初期固形パン含有量が1.25重量%、2.5重量%、5.0重量%のサンプルにおけるS.セレビシエCNCM I-3856細胞数のピーク(インキュベーション16時間時点)はそれぞれ6.2、6.4及び6.8log CFU/mLであったことを示している。
図7(B)は、共培養物の場合は、初期固形パン含有量が1.25重量%、2.5重量%、5.0重量%のサンプルにおけるS.セレビシエCNCM I-3856細胞数のピーク(インキュベーション16時間時点)はそれぞれ5.9、6.1及び6.3log CFU/mLであったことを示している。S.セレビシエCNCM I-3856の生細胞数は単培養サンプルの方が共培養サンプルと比較して高値であったことも観測された。
【0082】
図8は、初期パン含有量が異なるサンプルのpH変化は、L.ラムノーサスGGの単培養物(
図8(A))、S.セレビシエCNCM I-3856の単培養物(
図8(B))及びL.ラムノーサスGGとS.セレビシエCNCM I-3856との共培養物(
図8(C))の間で同程度であったことを示している。初期パン含有量の増加に伴ってサンプルのpH低下の程度がわずかに増加したケースもあった。
【0083】
全体的に見て、パン濃度が高いほど、より高い栄養分が微生物に供給されることから予想されるように、微生物の成長はより良好となり、細胞数のピークもより高い値となった。調べたパン濃度のうち、初期総パン固形分が5.0重量%のパンスラリー中で発酵させた場合に、L.ラムノーサスGG及びS.セレビシエCNCM I-3856のいずれについても生細胞数が最も高値になった。したがって、次に記載する発酵に関する実施例においては、5.0重量%の初期総パン固形分を用いた。
【0084】
[実施例4]
L.ラムノーサスGG及びS.セレビシエCNCM I-3856での逐次発酵によるパンベース発酵飲料
S.セレビシエCNCM I-3856の接種及びインキュベーションの24時間後にL.ラムノーサスGGをパンスラリーへ接種し、それによってL.ラムノーサスGGによる競合が発生しないうちに培地中で成長するための時間をS.セレビシエCNCM I-3856に与える、逐次発酵を実施した。逐次接種を行った場合の細胞数ピークについての結果、並びに、単培養物及び共培養物における細胞数のピークについての先の結果を表1に示す。
【0085】
【0086】
表1に示すように、逐次発酵により得たS.セレビシエCNCM I-3856細胞数のピークは6.70log CFU/mLであったが、これは、単培養発酵とほぼ同じであり、且つ、同時接種を行った共培養より0.38log CFU/mL高値であった。しかし、L.ラムノーサスGG細胞数のピークは、同時共培養発酵(simultaneous co-culture fermentation)では8.19log CFU/mLであったのに対し、逐次発酵では大きく低減して7.12log CFU/mLであった(1.07log CFU/mL低値であった)。逐次発酵により得たL.ラムノーサスGG細胞数のピークが同時接種と比較して低値であったのは、S.セレビシエCNCM I-3856細胞がすでに豊富な培地において競合及び生息する能力がL.ラムノーサスGGにおいて低減したためであると考えられる。加えて、酵母と共に24時間インキュベーションした後には、パンスラリー中の栄養分は枯渇していた可能性があり、後から接種したL.ラムノーサスGGを養うだけ多くの栄養分はもはや残っていなかった。
【0087】
全体的に見て、S.セレビシエCNCM I-3856の生細胞数の増大よりL.ラムノーサスGG細胞数の喪失の方が大きかったため、逐次発酵についてはこれ以上探索しなかった。
【0088】
[実施例5]
多様なパンタイプでの発酵の実行可能性
多様なパンタイプでの発酵の実行可能性を調べた。5.0重量%総固形分のEnriched White Bread、Fine Grain Wholemeal Bread及びHi Calcium Milk Bread(Gardenia)から作製したサンプル間で比較を行った。パン種別ごとの栄養成分表を表2に提示する。
【0089】
L.ラムノーサスGG及びS.セレビシエCNCM I-3856を用いた発酵で得た細胞数及びpHの測定結果を
図9、
図10及び
図11に示す。
【0090】
L.ラムノーサスGG発酵サンプルについては、全てのパンスラリーに6.2log CFU/mLのL.ラムノーサスGGを接種した。
図9(A)で示されるように、単培養物では、37℃で16時間インキュベーション後、L.ラムノーサスGG細胞数は、Enriched White Bread、Fine Grain Wholemeal Bread及びHi Calcium Milk Breadから作製したサンプルそれぞれについて8.3、8.3及び8.5log CFU/mLに増加した。
図9(B)で示されるように、共培養物では、37℃で16時間後、L.ラムノーサスGG細胞数は、Enriched White Bread、Fine Grain Wholemeal Bread及びHi Calcium Milk Breadから作製したサンプルそれぞれについて8.2、8.2及び8.3log CFU/mLに増加した。全体的に見て、16時間後のFine Grain Wholemeal BreadサンプルにおけるL.ラムノーサスGGの増殖はEnriched White Breadサンプルと同程度であった。これに対し、16時間後のHi Calcium Milk BreadサンプルにおけるL.ラムノーサスGGの増殖は、おそらくルテイン及びカルシウムの存在のために、他の2つのパンタイプより統計学的に有意に高値であった。
【0091】
【0092】
酵母発酵サンプルでは、全てのパンスラリーに4.9log CFU/mLのS.セレビシエCNCM I-3856を接種した。
図10(A)で示されるように、単培養物では、16時間後、S.セレビシエCNCM I-3856細胞数は、Enriched White Bread、Fine Grain Wholemeal Bread及びHi Calcium Milk Breadから作製したサンプルそれぞれについて6.7、6.5及び6.9log CFU/mLに増加していた。
図10(B)で示されるように、共培養物では、16時間後、S.セレビシエCNCM I-3856細胞数は、Enriched White Bread、Fine Grain Wholemeal Bread及びHi Calcium Milk Breadから作製したサンプルそれぞれについて6.3、6.3及び6.5log CFU/mLに増加していた。単培養物では、Fine Grain Wholemeal BreadサンプルにおけるS.セレビシエCNCM I-3856細胞の増殖は、Enriched White Breadサンプルより有意に低値であった。単培養物及び共培養物のいずれにおいても、Hi Calcium Milk BreadサンプルにおけるS.セレビシエCNCM I-3856細胞の増殖は、おそらくルテイン及びカルシウムの存在のために、他の2つのパンタイプより統計学的に有意に高値であった。
【0093】
図11は、L.ラムノーサスGGの単培養物(
図11(A))、S.セレビシエCNCM I-3856の単培養物(
図11(B))及びL.ラムノーサスGGとS.セレビシエCNCM I-3856との共培養物(
図11(C))の間の、異なるパン種から作製したサンプルにおけるpH変化のわずかな変動を示している。
【0094】
全体的に見て、プロバイオティックパン飲料の生産は、パンが微生物発酵のための栄養分を供給するという同一メカニズムに依拠していたことから、多様なタイプのパンで実行可能であることが示された。異なるタイプのパンから作製した発酵パンベース飲料からは、異なるパンマトリックスのわずかな差異に起因して、細胞数及びpHのわずかな差異が観測された。
【0095】
[実施例6]
甘味料及び安定化剤の添加
添加物、例えば甘味料及び安定化剤の使用は最終的な飲料製品の官能特性を向上させるのに重要であるため、甘味料及び安定化剤添加がサンプルの発酵に及ぼす効果を調べた。使用した甘味料は、Taikoo Sugar Refineryの製品(エリトリトール-99.5重量%、ステビオールグリコシド、バニラエキス)であった。使用した安定化剤は、CP Kelco製のKelcogel(登録商標)Gellan Gumであった。細胞数及びpHの測定結果を、添加物を使用しなかった場合に得た結果との比較で
図12、
図13及び
図14に示す。
【0096】
図12及び
図13で示されるように、添加物を有する又は有しないサンプル間で、L.ラムノーサスGG及びS.セレビシエCNCM I-3856の細胞数の差異は観測されなかった。全てのサンプルについて、37℃でのインキュベーションの16時間後に細胞数のピークが観測された。添加物を加えたサンプルにおいて、L.ラムノーサスGG細胞数のピークは、単培養サンプル(
図12(A))では8.4log CFU/mLであり、共培養サンプル(
図12(B))では8.1log CFU/mLであった。添加物を加えたサンプルにおいて、S.セレビシエCNCM I-3856細胞数のピークは、単培養サンプル(
図13(A))では6.7log CFU/mLであり、共培養サンプル(
図13(B))では6.4log CFU/mLであった。
【0097】
図14で示されるように、L.ラムノーサスGGの単培養物(
図14(A))、S.セレビシエCNCM I-3856の単培養物(
図14(B))及びL.ラムノーサスGGとS.セレビシエCNCM I-3856との共培養物(
図14(C))では、添加物を有する又は有しないサンプル間でpHの差異は観察されなかった。
【0098】
全体的に見て、3重量%のTaikoo甘味料及び0.001重量%のKelcogel(登録商標)Gellan Gumの添加は、調べた期間では予想通りサンプルの生細胞数及びpHに影響を及ぼさなかった。これは、使用した添加物が発酵性のものではなかったことによる。加えて、3重量%のTaikoo甘味料の添加が、サンプル、特にL.ラムノーサスGG(単培養物及び共培養物)で発酵させた高レベルの酸性度を有するサンプルの味を向上させたことが定性的に観察された。さらに、0.001重量%のKelcogel(登録商標)Gellan Gumの添加は、サンプルの沈降を少なくとも1週間遅延させた。
【0099】
[実施例7]
品質保持期間試験(6週間、L.ラムノーサスGG及び/又はS.セレビシエCNCM I-3856で発酵させたパンベース飲料を対象とする)
5.00重量%固形分のGardenia Enriched White Breadで作製して3重量%のTaikoo甘味料及び0.001重量%のKelcogel(登録商標)Gellan Gumを添加したパンベース発酵飲料について、6週間にわたる品質保持期間モニタリングを5℃及び30℃の保存条件で実施した。サンプルにL.ラムノーサスGG単培養物、S.セレビシエCNCM I-3856単培養物、又は前述の菌株2種の共培養物を接種し、これを37℃で16時間インキュベートした後、保存に移した。
【0100】
(a)生細胞数及びpH
図15、
図16及び
図17は、週1回の細胞数及びpH測定結果を示すものである。
【0101】
図15で示されるように、品質保持期間の開始時点において、L.ラムノーサスGGの生細胞数は、単培養サンプルでは8.6CFU/mL、及び、共培養サンプルでは8.4CFU/mLであった。5℃で保存した場合(
図15(A))、1週間の保存後、単培養及び共培養サンプルの双方においてL.ラムノーサスGG細胞数の有意な低減が観測された。その後もL.ラムノーサスGG細胞数の減少は観測され続け、単培養物では共培養サンプルと比較して減少幅が急であった。単培養及び共培養サンプル間のL.ラムノーサスGG細胞数の有意差は第2週時点で観測され始め、共培養サンプルは単培養サンプルと比較してL.ラムノーサスGG細胞数が0.4log CFU/mL高値であった。モニタリング期間の終了時(第6週)、共培養サンプルのL.ラムノーサスGGは7.2log CFU/mLであり、単培養サンプル(6.2CFU/mL)より1.0log CFU/mL高値であった。30℃で保存した場合(
図15(B))、1週間の保存後、単培養及び共培養サンプルのいずれにおいてもL.ラムノーサスGG細胞数の有意且つ急速な減少が観測された。その後L.ラムノーサスGG細胞数は、共培養サンプルにおいては相対的に安定していたが、単培養サンプルにおいては徐々に低下した。単培養及び共培養サンプル間のL.ラムノーサスGG細胞数の有意差は第5週時点で観測され始めた。モニタリング期間の終了時(第6週)、共培養サンプルのL.ラムノーサスGGは6.9log CFU/mLであり、単培養サンプル(6.3CFU/mL)より0.6log CFU/mL高値であった。
【0102】
酵母細胞数については、
図16で示されるように、品質保持期間の開始時にS.セレビシエCNCM I-3856の生細胞数は、単培養サンプルでは6.7CFU/mL、及び、共培養サンプルでは6.3CFU/mLであった。5℃で保存した場合(
図16(A))、酵母細胞数は単培養サンプルにおいては相対的に安定していた。反対に、共培養サンプルにおいては、酵母細胞数の漸減が第3週から観測された。モニタリング期間の終了時(第6週)、共培養サンプルのS.セレビシエCNCM I-3856は5.7log CFU/mLであり、単培養サンプル(6.7CFU/mL)より1.0log CFU/mL低値であった。30℃で保存した場合(
図16(B))は、5℃で保存した場合と同様に、酵母細胞数は単培養サンプルにおいては相対的に安定していた。反対に、共培養サンプルにおいては、酵母細胞数が第3週時点で急速に低減し、続いて漸減するのが観測された。モニタリング期間の終了時(第6週)、共培養サンプルのS.セレビシエCNCM I-3856は5.4log CFU/mLであり、単培養サンプル(6.6CFU/mL)より1.2log CFU/mL低値であった。
【0103】
図17で示されるように、品質保持期間サンプルのpH値は、5℃(
図17(A))及び30℃(
図17(B))での保存を通して、相対的に安定であった。pH値は、L.ラムノーサスGG単培養サンプルでは3.4前後、S.セレビシエCNCM I-3856単培養サンプルでは5.5前後、及び共培養サンプルでは3.6前後であった。保存期間中、サンプルにおいて後酸性化(post-acidification)は生じなかった。
【0104】
全体的に見て、品質保持期間中の細胞数の低減は全てのサンプルにおいて観測された。L.ラムノーサスGGについては、S.セレビシエCNCM I-3856と共培養した場合の方がより良好な生存能力を発揮できた。S.セレビシエCNCM I-3856の助けにより、5℃及び30℃のいずれにおいても、6週間の保存後、L.ラムノーサスGG細胞数は7log CFU/mLに維持された。このことは、酵母細胞がもたらす保護及び増強効果によるものである可能性がある。単培養物におけるL.ラムノーサスGG細胞数は、5℃及び30℃のいずれにおいても、6週間の保存後、7log CFU/mL未満であった。S.セレビシエCNCM I-3856については、単培養物中の細胞数はいずれの保管温度においても6.7log CFU/mLで相対的に安定していた。共培養の場合、いずれの保管温度においても、6週間後に6log CFU/mLを下回る値への低減が観測された。
【0105】
(b)糖及び有機酸の定量化
糖及び有機酸の定量化の結果を表3に提示する。表3によると、無発酵パンスラリーは、フルクトース、グルコース及びマルトースを含有した。
【0106】
S.セレビシエCNCM I-3856発酵サンプルについては、37℃で16時間発酵後、マルトース及びグルコースは酵母発酵サンプルにおいてエネルギー源として完全に利用された。フルクトースは、発酵段階で一部利用され、品質保持期間終了時までに完全に消費された。16時間の発酵後全てのマルトースが酵母に利用されていたものの、5℃での6週間の保存後、S.セレビシエCNCM I-3856の単培養サンプルにおいてマルトースが検出されたことは注目に値した。この観測結果は、マルトースと同じ保持時間で溶出する他の化合物が原因で生じた可能性がある。
【0107】
L.ラムノーサスGG単独発酵サンプルについては、37℃で16時間発酵させた際、グルコースは枯渇し、フルクトースは一部利用され、マルトースは利用されなかった。保管温度30℃の場合には、第6週時点でマルトース及びフルクトースの完全な利用が観測された。
【0108】
有機酸については、シュウ酸、リンゴ酸、酢酸、フマル酸及びプロピオン酸を無発酵パンスラリーにおいて同定した。発酵及び品質保持期間全体を通して、シュウ酸及びプロピオン酸の含有量の変化は観測されなかった。リンゴ酸は、L.ラムノーサスGG及び酵母の双方に利用された。フマル酸は、L.ラムノーサスGGに利用された。また、L.ラムノーサスGGは解糖及びホスホケトラーゼ経路を通して乳酸及び酢酸を産生しており、これによりL.ラムノーサスGG発酵サンプルの低pHに寄与している。サンプルの保存中、単培養サンプルにおいて乳酸の、及び、単培養及び共培養サンプルの双方において酢酸の、わずかな増加が認められた。しかし、
図17に示すように、その増加は、サンプルのpHの有意な低減を伴わなかった。酵母単培養サンプルにおいては、おそらくアルコール発酵の副産物として、酢酸の増加も観測された。酢酸含有量のわずかな増加はあったものの、酵母発酵サンプルの品質保持期間モニタリング中に後酸性化は観測されなかった。
【0109】
【0110】
(c)遊離アミノ酸(FAA)の定量化
遊離アミノ酸定量化で得た結果を表4に提示する。表4に示す結果は、独立した実験(n=3)から得た平均値及び標準偏差として報告される。異なる小文字を有する同じ列の平均値間には有意差がある(p<0.05)。
【0111】
表4で示されるように、L.ラムノーサスGG発酵サンプルにおいてFAAの総含有量の増加が観測されたが、これは、乳酸菌はタンパク質分解を行って自身の栄養源として必要なアミノ酸を産生することができるためである。L.ラムノーサスGG発酵サンプルの品質保持期間中にγ-アミノ酪酸(GABA)含有量が無発酵サンプルより高いレベルまで増加しており、このことは栄養学的な利益をもたらし得る点は注目すべきである。加えて、30℃で保存したL.ラムノーサスGG発酵サンプルにおいてはアンモニア含有量の増加も観測されたが、これはおそらく、酸性ストレスに反応してL.ラムノーサスGGが産生したものである。アンモニアはわずかに塩基性だからである。L.ラムノーサスGG発酵サンプルとは対照的に、酵母単培養サンプルにおいては発酵後にFAA含有量の低減が観測されたが、これは、酵母はバイオマス産生のための窒素源としてアミノ酸を利用することによる。30℃で保存したサンプルにおいてはFAA含有量がわずかに増加したが、それは、ストレス条件下で酵母の自己消化からFAAが放出されたこと、アミノ酸が新たに生合成されたこと、又は、酵母プロテアーゼ及びペプチダーゼによりタンパク質からアミノ酸が放出されたことに起因する可能性がある。
【0112】
(d)揮発性有機化合物(VOC)の定量化
VOC分析の結果を表5に提示する。結果は、独立した実験(n=3)から得た平均値及び標準偏差として報告してある。「LRI」の列は、C10~C40アルカン標準に対するDB-FFAPカラムを用いて決定した実験的な線形保持指標を指す。小文字は、同じ列(同じ培養で発酵させたサンプル及び無発酵パンスラリー)内で有意差がある(p<0.05)ことを示している。
【0113】
【0114】
【0115】
VOC(表5)に関して酸を見ると、FIDピーク面積は、発酵による及び品質保持期間中の酢酸の増加を示しており、このことは、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析と一致した(表3)。プロピオン酸についても、発酵による及び品質保持期間中の増加が観測された。この点は、プロピオン酸含有量の変化を示さなかったHPLC分析においては観測されなかった。プロピオン酸のGC/FIDピーク面積の増加が観測されたのは、他の化合物を表すピークの共溶出が原因であった可能性がある。L.ラムノーサスGGによる酪酸の産生が観測されたが、それはHPLC解析では検出されなかった。これはおそらく、サンプルにおける酪酸の濃度がHPLC分析の検出限界を下回ったためである。
【0116】
アルコールについては、無発酵パンスラリーにおいて、おそらく製パン時に生じた残留エタノールとして、内因性エタノールを検出した。酵母発酵サンプルにおいて、有意なエタノール産生が観測された。酵母単独発酵サンプルにおいては、エールリッヒ経路のアルコール、例えばイソブチルアルコール及び2-フェネチルアルコール等の産生も観測された。その一方、L.ラムノーサスGG(単培養物及び共培養物の双方)においては、酵母単独発酵サンプルより多くのケトン及びアルデヒド産生が観測された。
【0117】
(e)エタノール含有量の定量化
エタノール含有量の定量化の結果を表6に提示する。
【0118】
【0119】
表6によると、酵母発酵サンプルにおいてはエタノールの産生が観測された。しかし、全てのサンプルは、エタノール含有量が0.5%未満のノンアルコール品であると考えられた。但し、パンベース酵母発酵飲料のエタノール含有率は、糖の添加により容易に調整できる。
【0120】
[実施例8]
品質保持期間試験(13週間、L.ラムノーサスGG及び/又はS.セレビシエCNCM I-3856で発酵させたパンベース飲料を対象とする)
本実施例では、5.00重量%固形分のGardenia Enriched White Breadで作製したパンベース発酵飲料について、13週間にわたる品質保持期間モニタリングを5℃及び30℃の保存条件で実施した。サンプルにL.ラムノーサスGG単培養物、S.セレビシエCNCM I-3856単培養物、又は前述の菌株2種の共培養物を接種し、これを37℃で16時間インキュベートした後、保存に移した。
【0121】
【0122】
図18に示すように、品質保持期間の開始時、L.ラムノーサスGGの生細胞数は、単培養サンプル及び共培養サンプルのいずれにおいても8.9CFU/mLであった。
図18(A)で示されるように、5℃で保存した場合、単培養及び共培養サンプルのいずれにおいても保存期間にわたってL.ラムノーサスGG細胞数の有意な低減が認められた。モニタリング期間の終了時(第13週)、共培養サンプル中のL.ラムノーサスGGは7.1log CFU/mLであり、単培養サンプル(6.4CFU/mL)より0.7log CFU/mL高値であった。
図18(B)で示されるように、30℃で保存した場合は、5℃で保存した場合と比較して、保存期間にわたってL.ラムノーサスGG細胞数の減少の程度がより大きかった。モニタリング期間の終了時(第13週)、共培養サンプル中のL.ラムノーサスGGは6.3log CFU/mLであり、単培養サンプル(4.9CFU/mL)より1.4log CFU/mL高値であった。
【0123】
酵母細胞数について、
図19は、品質保持期間の開始時にS.セレビシエCNCM I-3856の生細胞数は、単培養サンプルでは7.0CFU/mL、共培養サンプルでは6.7CFU/mLであったことを示している。
図19(A)で示されるように、5℃で保存した場合、酵母細胞数は単培養サンプルにおいては相対的に安定していた。反対に、共培養サンプルにおいては、酵母細胞数の漸減が観測された。モニタリング期間の終了時(第13週)、共培養サンプル中のS.セレビシエCNCM I-3856は6.1log CFU/mLであり、単培養サンプル(6.8CFU/mL)より0.7log CFU/mL低値であった。
図19(B)で示されるように、30℃で保存した場合、単培養サンプル及び共培養サンプルのいずれにおいても酵母細胞数の低減が認められた。モニタリング期間の終了時(第13週)、共培養サンプル中のS.セレビシエCNCM I-3856は5.6log CFU/mLであり、単培養サンプル(6.1CFU/mL)より0.5log CFU/mL低値であった。
【0124】
図20に示すように、品質保持期間サンプルのpH値は、5℃(
図20(A))及び30℃(
図20(B))での保存期間全体を通して相対的に安定であった。pH値は、L.ラムノーサスGG単培養サンプルでは3.4前後、S.セレビシエCNCM I-3856単培養サンプルでは5.2前後、共培養サンプルでは3.9前後であった。保存中、サンプルにおいて後酸性化は生じなかった。
【0125】
全体的に見て、保存期間全体を通じた細胞数の観測結果は実施例7と同様の傾向を示した。品質保持期間中の細胞数の低減は、全てのサンプルにおいて観測された。13週間の終了時、サンプル中のプロバイオティック細胞数は、6週間の終了時点と比較して低値であった。L.ラムノーサスGGについては、S.セレビシエCNCM I-3856と共培養した場合の方が、5℃及び30℃のいずれの保存条件においてもより良好な生存能力が達成された。共培養サンプルにおけるL.ラムノーサスGG細胞数7log CFU/mLは、5℃で少なくとも13週間、及び、30℃で10週間まで維持された。S.セレビシエCNCM I-3856については、単培養において共培養と比較してより良好な生存能力が達成されたが、それはおそらく、共培養サンプルのより低いpHがS.セレビシエCNCM I-3856細胞にダメージをもたらすためである。
【0126】
[実施例9]
品質保持期間試験(12週間、B.ラクティスBB-12をS.セレビシエCNCM I-3856と共に用いて又はS.セレビシエCNCM I-3856なしで用いて発酵させたパンベース飲料を対象とする)
5.00重量%固形分のGardenia Enriched White Breadで作製したパンベース発酵飲料について、12週間にわたる品質保持期間モニタリングを5℃及び30℃の保存条件で実施した。サンプルにB.ラクティスBB-12単培養物、又はB.ラクティスBB-12とS.セレビシエCNCM I-3856との共培養物のいずれかを接種し、これを37℃で24時間インキュベートした後、保存に移した。
【0127】
【0128】
図21で示されるように、品質保持期間の開始時、B.ラクティスBB-12の生細胞数は、単培養サンプルでは9.5CFU/mL、共培養サンプルでは9.4CFU/mLであった。
図21(A)で示されるように、5℃で保存した場合、単培養及び共培養サンプルのいずれにおいても保存期間にわたってB.ラクティスBB-12細胞数の漸減が観測された。モニタリング期間の終了時(第12週)、共培養サンプル中のB.ラクティスBB-12は7.8log CFU/mLであり、単培養サンプル(5.9CFU/mL)より1.9log CFU/mL高値であった。
図21(B)で示されるように、30℃で保存した場合は、5℃で保存した場合と比較して、保存期間にわたってB.ラクティスBB-12細胞数のはるかに急激な減少が観測された。30℃で保存した場合、11週間後に共培養サンプルにおいて、2週間後に単培養サンプルにおいて、BB-12の生細胞数は検出されなかった。
【0129】
酵母細胞数について、
図22は、品質保持期間の開始時にS.セレビシエCNCM I-3856の生細胞数は、共培養サンプルにおいて6.8CFU/mLであったことを示している。
図22(A)で示されるように、5℃で保存した場合、酵母細胞数は相対的に安定していた。モニタリング期間の終了時(第12週)、共培養サンプル中のS.セレビシエCNCM I-3856は6.6log CFU/mLであった。
図22(B)で示されるように、30℃で保存した場合は、5℃で保存した場合と比較して酵母細胞の安定性が劣ることが観測された。モニタリング期間の終了時(第12週)、共培養サンプル中のS.セレビシエCNCM I-3856は6.2log CFU/mLであった。
【0130】
品質保持期間サンプルのpH値は保存期間を通じて相対的に安定しており、B.ラクティスBB-12単培養サンプルにおいては4.1前後、共培養サンプルにおいては4.5前後であった。
【0131】
全体的に見て、L.ラムノーサスGGとの比較では、B.ラクティスBB-12株は30℃で保存した場合にはそれほど安定ではないが、5℃で保存した場合には良好な安定性が依然として観測される。L.ラムノーサスGGと同様に、B.ラクティスBB-12株も、S.セレビシエCNCM I-3856との共培養において、より良好な生存能力を示した。7CFU/mLを超えるB.ラクティスBB-12の生細胞数は、S.セレビシエCNCM I-3856との共培養において5℃で保存した場合には、少なくとも12週間の保存期間にわたって維持できる。
【0132】
前述の説明では例示的な実施形態を記載してきたが、本発明から逸脱することなく多くの変更がなされ得ることは当業者には理解されよう。
【国際調査報告】