(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-10
(54)【発明の名称】S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンの塩形態
(51)【国際特許分類】
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【FI】
C07K5/037
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A61K9/70 401
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021557223
(86)(22)【出願日】2020-03-26
(85)【翻訳文提出日】2021-11-22
(86)【国際出願番号】 IB2020000237
(87)【国際公開番号】W WO2020194058
(87)【国際公開日】2020-10-01
(32)【優先日】2019-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517094415
【氏名又は名称】トニックス ファーマ ホールディングス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】サリバン, グレゴリー エム.
(72)【発明者】
【氏名】フォガーティ, シオバーン ジェイ.
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA12
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4H045EA20
(57)【要約】
本発明は、様々な態様において、塩形態S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオン、その塩形態を製造する方法、前記塩形態を含む医薬組成物に関する。本発明はまた、グルタミン酸関連障害を予防または処置する方法であって、治療上有効量の前記塩形態を前記対象に投与することを含む方法に関する。本開示は、一態様では、S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオン(カルバマチオン)の塩形態が、カルバマチオン溶解度およびカルバマチオンの他の物理化学的特性を改善するという知見に基づく。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンの塩形態であって、前記塩が、酢酸塩、アジピン酸塩、アスコルビン酸塩、安息香酸塩、樟脳酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、グルタル酸塩、グリコール酸塩、塩酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンジスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、シュウ酸塩、リン酸塩、硫酸塩、ソルビン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、シクラミン酸塩、コハク酸塩、トルエンスルホン酸塩、アルギニン塩、リジン塩、デアノール塩、コリン塩、ナトリウム塩、カリウム塩、ジエチルアンモニウム塩、メグルミン塩、ピリドキシン塩、トリス(ヒドロキシメチル)アンモニウム塩、N-シクロヘキシルスルファミン酸塩、カンファー-10-スルホン酸塩、ナフタレンジスルホン酸塩、およびキナルジン酸塩、その溶媒和物、多形、水和物またはその混合物からなる群から選択される、塩形態。
【請求項2】
前記塩がリジン塩またはその溶媒和物、多形、水和物もしくは混合物である、請求項1に記載の塩形態。
【請求項3】
(i)400MHz装置でD
2O中で記録した場合に、約4.61、約3.65~3.78、約3.42、約3.38、約3.37、約3.17、約2.99、約2.42~2.56、約2.06~2.15、約1.80~1.94、約1.69、約1.32~1.56および約1.01~1.22ppmにピークを有する
1H-NMRスペクトル;または
(ii)Cu X線源、1.54オングストローム、管電圧40kVおよび管出力15mAを使用して測定した場合に、約3.6959、約9.4909、約10.6341、約14.9275、約18.0999、約18.9789、約19.5979、約20.0613、約20.1184、約20.8543、約21.5501、約23.7993、約23.9411、および約24.4051°2θにピークを有するXRPDパターン
を特徴とする、請求項2に記載の塩形態。
【請求項4】
Cu X線源、1.54オングストローム、管電圧40kVおよび管出力15mAを使用して測定した場合に、約3.4898、約6.8808、約9.3893、約10.4978、約15.4881、約16.299、約17.8328、21.0389、約23.2165、約25.5622、約26.4561、約31.5247°2θにピークを有するXRPDパターンを特徴とする、請求項2に記載の塩形態。
【請求項5】
前記塩形態の溶解度が、遊離S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンよりも5%~90%高い、請求項2に記載の塩形態。
【請求項6】
前記塩形態の溶解度が、遊離S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンよりも5%~20%高い、請求項5に記載の塩形態。
【請求項7】
結晶性、共結晶性、半結晶性または非晶質粉末である、請求項1から6のいずれか一項に記載の塩形態。
【請求項8】
(i)治療上有効量の請求項1から7のいずれか一項に記載の塩形態であって、結晶性、共結晶性、半結晶性もしくは非晶質粉末である塩形態、またはその溶媒和物、多形、水和物またはその混合物と;
(ii)少なくとも1つの薬学的に許容され得る担体と
を含む医薬組成物。
【請求項9】
(i)30mg~4000mgの請求項1から7のいずれか一項に記載の塩形態であって、結晶性、共結晶性、半結晶性もしくは非晶質粉末である塩形態、またはその溶媒和物、多形、水和物またはその混合物と;
(ii)少なくとも1つの薬学的に許容され得る担体と
を含む医薬組成物。
【請求項10】
経口投与、舌下投与、鼻腔内投与、経皮投与、皮下投与、筋肉内投与、腹腔内投与、静脈内投与、結膜投与、髄腔内投与、肺への吸入または直腸投与用に製剤化される、請求項8または9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
経口投与用に製剤化される、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記薬学的に許容され得る担体が液体希釈剤である、請求項8または9に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記薬学的に許容され得る担体が、錠剤、割線入り錠剤、コーティング錠、経口溶解錠、薄膜、カプレット、ハードカプセル、ソフトゼラチンカプセル、トローチ、糖衣錠、分散液、懸濁液、水溶液、リポソーム、パッチおよび徐放製剤からなる群から選択される、請求項8または9に記載の医薬組成物。
【請求項14】
懸濁化剤、乳化剤、非水性ビヒクル、香味剤、着色剤、抗微生物剤、保存剤、または請求項1から7のいずれか一項に記載の塩形態と共晶を形成する剤をさらに含む、請求項8または9に記載の医薬組成物。
【請求項15】
グルタミン酸関連障害の予防もしくは処置を必要とするまたはそのリスクがある対象のグルタミン酸関連障害を予防または処置する方法であって、治療上有効量の請求項8から14のいずれかに記載の組成物を前記対象に投与することを含む方法。
【請求項16】
前記対象がヒトである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記グルタミン酸関連障害が、ハンチントン病、アルツハイマー病、パーキンソン病、後天性免疫不全症候群(AIDS)ニューロパシー、てんかん、摂食障害、睡眠障害、ニコチン嗜癖、脳虚血、家族性筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ギャンブル障害、嗜癖離脱に関連する気分症状、チアミン欠乏症に関連する神経変性疾患、ウェルニッケ・コルサコフ症候群、脳性脚気、マシャド・ジョセフ病、Soshin病、および関連疾患、不安、グルタミン酸関連痙攣、肝性脳症、神経障害性疼痛、ドウモイ酸中毒、低酸素症、無酸素症、神経系への機械的外傷、高血圧、アルコール離脱発作、アルコール嗜癖、アルコール渇望、心血管虚血、酸素痙攣、低血糖、クロイツフェルト・ヤコブ病、コカイン嗜癖、騒音性難聴、ニコチン嗜癖、ヘロイン嗜癖、オピオイド嗜癖、シアン化合物誘導アポトーシス、統合失調症、双極性障害、糖尿病に関連する末梢神経障害および非ケトン性高グリシン血症からなる群から選択される、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
前記グルタミン酸関連障害がアルコール使用障害である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記アルコール使用障害が、アルコール嗜癖、アルコール乱用、アルコール依存、アルコール離脱発作およびアルコール渇望からなる群から選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記塩形態が0.5mg/kg~500mg/kgの濃度で投与される、請求項15に記載の方法。
【請求項21】
S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンの前記塩形態が、投与後に、2~100nmol/Lの前記対象における血漿レベルを達成する、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
開示の背景
アルコール使用障害(AUD)は、複雑で破壊的な疾患であり、1年間に13.9%のアメリカ人が罹患し、一連の医学的、心理学的、社会的、経済的および個人的問題をもたらす。問題飲酒は、米国社会に毎年2490億ドルを超える費用をかけさせ、毎年88,000件近くの死亡を引き起こす(Centers for Disease Control and Prevention、2013)。AUDのための有効な処置、特に医薬の開発において進歩がなされてきた。具体的には、米国食品医薬品局(FDA)によって、ジスルフィラム、経口ナルトレキソン、長時間作用型注射用ナルトレキソンおよびアカンプロサートの4種の医薬がアルコール依存について承認されている。さらに、ナルメフェンは、アルコール依存を処置するために欧州医薬品庁によって欧州で承認された。
【0002】
いくつかの因子がAUDの発症に寄与する。それらの不均一性は、広く有効な薬物療法的介入を開発するための課題を提示する。現在の証拠は、AUDに関連する神経生物学的機能障害におけるいくつかの神経伝達系の役割を裏付けている。これらには、中脳辺縁系ドーパミン作動機構、セロトニン作動性、γ-アミノ酪酸(GABA)作動性、およびグルタミン酸作動性神経伝達の異常、ならびに内因性オピオイドなどのプロオピオメラノコルチン(POMC)ペプチドの役割が含まれる。さらに、ストレス応答系において重要ないくつかの他の神経伝達物質も関与している。
【0003】
ジスルフィラム(DSF)は、65年以上にわたってアルコール(エタノール)乱用およびアルコール依存症の処置に使用されているアルデヒドデヒドロゲナーゼ(ALDH)阻害剤である(HaldおよびJacobson.1948.Lancet 2、1001-04)。肝臓ミトコンドリアALDH2のDSF阻害は、アルコール代謝の第2のステップを遮断する。したがって、その後のエタノールの消費は、毒性中間体であるアセトアルデヒドの蓄積をもたらす。DSFで処置されている患者によってエタノールが消費されると、これはジスルフィラム-エタノール反応(DER)として知られる有害効果をもたらす。具体的には、アセトアルデヒドの蓄積が、潮紅、頭痛、悪心および頻脈などの症状を伴う強力な全身血管拡張反応をもたらす。
【0004】
ReViaおよびVivitrolの商品名で販売されているナルトレキソンは、オピオイド受容体の競合的アンタゴニストであり、Campralの商品名で販売されているアカンプロサートは、NMDA受容体アンタゴニストおよびGABA受容体の正のアロステリックモジュレーターとして作用すると考えられている医薬である。
AUDは、複数の神経生物学的機構からなり、複雑な遺伝的および環境的相互作用を介して、様々な表現型を示す。この不均一性のために、医薬がすべての人およびすべての状況に働くわけではない。したがって、ALDH2阻害に関連する有害な副作用およびそれに関連するDERを併せて回避しながら、ヒトによるエタノール消費を抑止し、グルタミン酸関連障害を処置するための新たな、より有効な、生物学的に利用可能で忍容性の高い医薬を発見および開発する必要性が存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】HaldおよびJacobson.1948.Lancet 2、1001-04
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
開示の概要
本開示は、一態様では、S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオン(カルバマチオン)の塩形態が、カルバマチオン溶解度およびカルバマチオンの他の物理化学的特性を改善するという知見に基づく。
【0007】
したがって、第一の態様では、本開示は、S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンの塩形態であって、前記塩が、酢酸塩、アジピン酸塩、アスコルビン酸塩、安息香酸塩、樟脳酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、グルタル酸塩、グリコール酸塩、塩酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンジスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、シュウ酸塩、リン酸塩、硫酸塩、ソルビン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、シクラミン酸塩、コハク酸塩、トルエンスルホン酸塩、アルギニン塩、リジン塩、デアノール塩、コリン塩、ナトリウム塩、カリウム塩、ジエチルアンモニウム塩、メグルミン塩、ピリドキシン塩、トリス(ヒドロキシメチル)アンモニウム塩、N-シクロヘキシルスルファミン酸塩、カンファー-10-スルホン酸塩、ナフタレンジスルホン酸塩、およびキナルジン酸塩、その溶媒和物、多形、水和物またはその混合物からなる群から選択される、塩形態に関する。
【0008】
別の態様では、本開示は、(i)治療上有効量の本発明の第1の態様による塩形態であって、結晶性、共結晶性、半結晶性もしくは非晶質である塩形態、またはその溶媒和物、多形、水和物またはその混合物と;(ii)少なくとも1つの薬学的に許容され得る担体とを含む医薬組成物に関する。
【0009】
別の態様では、本開示は、(i)30mg~4000mgの本発明の第1の態様による塩形態であって、結晶性、共結晶性、半結晶性もしくは非晶質である塩形態、またはその溶媒和物、多形、水和物またはその混合物と;(ii)少なくとも1つの薬学的に許容され得る担体とを含む医薬組成物に関する。
【0010】
別の態様では、本開示は、グルタミン酸関連障害の予防もしくは処置を必要とするまたはそのリスクがある対象のグルタミン酸関連障害を予防または処置する方法であって、治療上有効量の本発明の第1の態様による塩形態または本開示の別の態様による医薬組成物を前記対象に投与することを含む方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
前記の概要、ならびに本開示の以下の詳細な説明は、添付の図面と併せて読めばよりよく理解されよう。本開示を例示する目的で、現在好ましい実施形態が図面に示されている。しかしながら、本開示は、示される正確な配置および手段に限定されないことを理解すべきである。
【0012】
【
図1】
図1は、成体雄Pラットによる2時間のエタノール摂取(g/kg)に対するカルバマチオン(0、100、200、400mg/kg)の腹腔内投与の効果を示す。
【0013】
【
図2】
図2は、成体雄HAD1ラットによる2時間のエタノール摂取(g/kg)に対するカルバマチオン(0、100、200、400mg/kg)の腹腔内投与の効果を示す。
【0014】
【
図3】
図3は、吸入チャンバー内で慢性間欠的エタノール(CIE)蒸気曝露に曝露されたマウスの群と、同様に処置されたが吸入チャンバー内で空気に曝露された別のマウスの群(CTL)を比較する、週平均エタノール摂取量(g/kg)を示すグラフである。ベースラインおよび初期試験サイクル中の毎日の飲用セッションの開始前に、全てのマウスに生理食塩水の腹腔内投与(IP)を行い、動物を取り扱い手順に順応させた。
【0015】
【
図4】
図4は、飲用30分前にカルバマチオン(100、200または400mg/kg)またはビヒクル(水中0.25% CMC)のIP注射を行った、CIEマウスとCTLマウスを比較する、週平均エタノール摂取量(g/kg)を示すグラフである。
【0016】
【
図5】
図5は、400mg/kgのカルバマチオンで処置し、第6のサイクルのCIE(試験6)に曝露したCIEマウスとCTLマウスを比較する、週平均エタノール摂取量(g/kg)を示すグラフである。
【0017】
【
図6】
図6は、100または200mg/kgのカルバマチオンを投与されたマウスを組み合わせ、無作為に再分類して(redistributed)最初の2日間に75または100mg/kgのジスルフィラムを投与し、これらの用量を試験6の最後の3日間でそれぞれ125および150mg/kgのジスルフィラムに増加させた、週平均エタノール摂取量(g/kg)を示すグラフである。
【0018】
【
図7】
図7は、125および150mg/kgのジスルフィラムで処置したマウスの週平均エタノール摂取量(g/kg)を示すグラフである。
【0019】
【
図8】
図8は、第7のCIEまたは空気曝露サイクルおよび600mg/kgのカルバマチオン投与後の週平均エタノール摂取量(g/kg)を示すグラフである。
【0020】
【
図9】
図9は、100、200、400または600mg/kg用量のカルバマチオンによる処置を受けたマウスについて、対応するCIEまたはCTLビヒクル注射群からの変化%として表される試験サイクル5および7の間に得られた結果を示すグラフである。
【0021】
【
図10】
図10はカルバマチオン(TNX1001-SM)の
1H-NMRスペクトル(D
2O、400MHz)である。
【0022】
【
図11】
図11はカルバマチオン(TNX1001-SM)のXRPDパターンである。
【0023】
【
図12】
図12はTNX1001-SMのDSCプロファイルである。
【0024】
【
図13】
図13はTNX1001-SMのTGA(黒線)およびdTGA(赤線)である。
【0025】
【
図14】
図14はTNX1001-SMのFT-IRスペクトルである。
【0026】
【
図15】
図15は、コフォーマーL-リジン(「LLYS」)を用いた水の高温蒸発実験から収集された固体試料のXRPDパターン(上)である。TNX1001-LLYS-NP01のディフラクトグラム(下)を参照として報告する。
【0027】
【
図16】
図16は、水の高温蒸発実験から回収された試料と、1日後(中央)および4日後(上)の同じ試料との間のXRPDパターン比較である。
【0028】
【
図17】
図17は、コフォーマーNaOHを用いた水中スラリー実験から収集された固体試料のXRPDパターン(中央)である。2θ18°のシグナルは、バイアルキャップからの残留物質によるものであった。
【0029】
【
図18】
図18は、L-Lysを用いたメタノールスラリー実験で収集された固体試料のXRPDパターン(上から2番目)である。TNX1001-SM(下から2番目)、L-リジン(下)およびTNX1001-LLYS-NP02(上)のディフラクトグラムを参照標準として報告する。
【0030】
【
図19】
図19は、乾燥後のL-Lysを用いたメタノールスラリー実験で収集された固体試料のXRPDパターン(上)である。TNX1001-LLYS-NP01(中央)およびTNX1001-LLYS-NP02(下)のディフラクトグラムも参照として報告する。
【0031】
【
図20】
図20は、保存前に取得した同じ試料のXRPDパターン(上)と比較した、周囲条件下で24時間保存した後の試料TNX1001-LLYS-SL-MET-乾燥のXRPDパターン(中央)である。TNX1001-LLYS-NP02のディフラクトグラム(下)を参照として報告する。
【0032】
【
図21】
図21は、L-リジンを用いたDCMスラリー実験から収集された固体試料のXRPDパターン(上)である。TNX1001-LLYS-NP02のディフラクトグラムを参照として報告する(下)。
【0033】
【
図22】
図22は、p-トルエンスルホン酸を用いたDCMスラリー実験で収集された固体試料のXRPDパターンである。
【0034】
【
図23】
図23は、触媒量のH
2OとコフォーマーL-リジンを用いた混練実験(kneading experiment)から収集された固体試料のXRPDパターン(上)である。TNX1001-LLYS-NP02のディフラクトグラム(下)を参照として報告する。
【0035】
【
図24】
図24は、触媒量のH
2Oとコフォーマー硫酸(上)およびメタンスルホン酸(下)を用いた混練実験から収集された固体試料のXRPDパターンである。
【0036】
【
図25】
図25は、コフォーマーとして塩酸を用いた実験から回収された固体試料のXRPDパターンである。
【0037】
【
図26】
図26は、TNX1001-SMおよびL-リジンの水溶液の高温蒸発から回収された試料(上)と参照標準TNX1001-LLYS-NP01との間のXRPDパターン比較である。
【0038】
【
図27】
図27はTNX1001-LLYS-NP01のXRPDパターンである。
【0039】
【
図28】
図28はTNX1001-LLYS-NP01のDSCプロファイルである。
【0040】
【
図29】
図29は、試料TNX1001-LLYS-NP01のTGA(実線)およびdTGA(点線)である。
【0041】
【
図30】
図30は試料TNX1001-LLYS-NP01のFT-IRスペクトルである。
【0042】
【
図31】
図31は、試料TNX1001-LLYS-NP01(下)とTNX1001-SM参照(中央)およびL-リジン(上)のFT-IRスペクトルの比較である。
【0043】
【0044】
【
図33】
図33は、TNX1001-LLYS-NP01の
1H-NMRスペクトル(D
2O、400MHz)である。
【0045】
【
図34】
図34はTNX1001-LLYS-NP02のXRPDパターンである。
【0046】
【
図35】
図35は、カルバマチオンリジン塩(TNX1001-LLYS-NP01)のDVS等温線プロットである。
【0047】
【
図36】
図36は、DVS分析中のカルバマチオンリジン塩についてのDVS質量変化対時間を示すプロットである。
【0048】
【
図37】
図37は、pH6.8の溶液におけるTNX1001-LLYS-NP01の溶解度対温度(℃)を示すプロットである。円はTNX1001-LLYS-NP01の観察された溶解度に対応する;四角は25℃でのTNX1001-LLYS-NP01の推定溶解度に対応する;ひし形はpH6.8、25℃での遊離カルバマチオン(TNX1001)の溶解度に対応する。
【0049】
【
図38】
図38は、pH4.5の溶液におけるTNX1001-LLYS-NPO1の溶解度対温度(℃)を示すプロットである。円はTNX1001-LLYS-NP01の観察された溶解度に対応する;四角は25℃でのTNX1001-LLYS-NP01の推定溶解度に対応する;ひし形はpH4.5、25℃での遊離カルバマチオン(TNX1001)の溶解度に対応する。
【発明を実施するための形態】
【0050】
開示の詳細な説明
一般的な技術
本明細書で別段の定義がない限り、本出願で使用される科学用語および技術用語は、当業者によって一般的に理解される意味を有するものとする。一般に、本明細書に記載される、薬理学、細胞および組織培養、分子生物学、細胞およびがん生物学、神経生物学、神経化学、ウイルス学、免疫学、微生物学、遺伝学およびタンパク質および核酸化学に関連して使用される命名法、およびその技術は、当技術分野で周知であり、一般的に使用されているものである。矛盾する場合は、定義を含む本明細書が優先する。
【0051】
本明細書および実施形態を通して、「含む(comprise)」という単語または「含む(comprises)」もしくは「含む(comprising)」などの変形は、明言される整数または整数群を含むが、任意の他の整数も整数群も除外しないことを意味すると理解される。
【0052】
実施形態が「含む(comprising)」という文言で本明細書に記載されている場合は常に、「からなる(consisting of)」および/または「から本質的になる(consisting essentially of)」という用語で記載されている他の類似の実施形態も提供されることが理解される。
【0053】
「含む(including)」という用語は、「それだけに限らないが、~を含む(including but not limited to)」を意味するために使用される。「含む(including)」および「それだけに限らないが、~を含む(including but not limited to)」は互換的に使用される。
【0054】
「例えば(e.g.)」または「例えば(for example)」という用語に続く任意の例は、網羅的であることも限定的であることも意味しない。
【0055】
文脈上他に要求されない限り、単数形の用語は複数形を含み、複数形の用語は単数形を含むものとする。
【0056】
冠詞「a」、「an」および「the」は、本明細書では、1つまたは1つを超える(すなわち、少なくとも1つの)冠詞の文法上の目的語を指すために使用される。例として、「要素(an element)」は、1つの要素または1つを超える要素を意味する。本明細書における「約(about)」値またはパラメータへの言及は、その値またはパラメータ自体を対象とする実施形態を含む(および記載する)。例えば、「約X(about X)」という記載は、「X」の記載を含む。数値範囲は、範囲を定義する数を含む。
【0057】
本開示の広範な範囲を示す数値範囲およびパラメータは近似値であるにもかかわらず、具体例に示される数値は可能な限り正確に報告される。しかしながら、いずれの数値も、それぞれの試験測定に見出される標準偏差から必然的に生じる一定の誤差を本質的に含む。さらに、本明細書に開示される全ての範囲は、その中に包含されるありとあらゆる部分範囲を包含すると理解されるべきである。例えば、「1~10(1 to 10)」と明言される範囲は、最小値1と最大値10との間(およびこれらを含む)のありとあらゆる部分範囲;すなわち、1またはそれを超える最小値で始まる全ての部分範囲、例えば1~6.1、および10またはそれ未満の最大値で終わる全ての部分範囲、例えば5.5~10を含むと見なされるべきである。
【0058】
本明細書に記載されるものと類似または同等の方法および材料も本出願の実施または試験に使用することができるが、例示的な方法および材料を本明細書に記載する。材料、方法および例は例示にすぎず、限定することを意図するものではない。
【0059】
定義
以下の用語は、別段の指示がない限り、以下の意味を有すると理解されるものとする。
本明細書で使用される場合、「遊離カルバマチオン」、「親カルバマチオン」、「遊離S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオン」、および「親S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオン」という用語は互換的に使用され、その中性形態の、すなわち酸性または塩基性コフォーマーと未反応のカルバマチオン(すなわち、S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオン)を指す。
【0060】
本明細書で使用される場合、「溶媒和物」という用語は、溶質イオンまたは分子と1またはそれを超える溶媒分子、例えば水(水和物としても知られる)、メタノール、エタノール、ジメチルホルムアミド、ジエチルエーテル、アセトアミドなどとからなる凝集体を指す。このような溶媒和物の混合物も調製することができる。溶媒和は、様々な種類の分子間相互作用:水素結合、イオン-双極子相互作用、およびファンデルワールス力(双極子-双極子相互作用、双極子-誘起双極子相互作用、および誘起双極子-誘起双極子相互作用からなる)を伴う。このような溶媒和物の供給源は、結晶化の溶媒、調製もしくは結晶化の溶媒に固有のもの、またはこのような溶媒に付随したものであり得る。
【0061】
本明細書で使用される場合、「多形」という用語は、同じ化合物の異なる結晶形態、および同じ化合物の共結晶、半結晶、非晶質粉末、擬多形、例えば水和物、溶媒和物、または塩を含む他の固体分子形態を指す。異なる結晶多形は、温度、圧力の変化、または結晶化プロセスの変動の結果として、格子内の分子の充填が異なるために異なる結晶構造を有する。多形は、X線回折特性、安定性、融点、溶解度、または一定の溶媒への溶解速度などの物理的特性が互いに異なる。したがって、結晶多形形態は、医薬業界での適切な剤形の開発における重要な態様である。
【0062】
本明細書で使用される場合、「水和物」という用語は、水分子が別の化合物または元素に化学的に結合している化合物、典型的には結晶性化合物を指す。水和物はまた、他の化合物を化学的に変化させることなく水が結晶構造に組み込まれた組成物を指し得る。水和物は、一水和物、二水和物、三水和物、四水和物などを含み得る。
【0063】
本明細書で使用される場合、「代謝産物」という用語は、生理学的条件下で、例えば一定の酵素経路を介して、親化合物の代謝/生化学的修飾によって産生される化合物を包含することを意図している。
【0064】
「薬学的に許容され得る」という用語は、動物、より具体的にはヒトにおける使用について、連邦政府もしくは州政府の規制当局によって承認されていること、または米国薬局方もしくは他の一般に認識されている薬局方に列挙されていることを意味する。「担体」という用語は、医薬組成物と共に投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤、またはビヒクルを指す。「賦形剤」は、本明細書で使用される場合、有効成分の活性を妨害しない非毒性材料を指す。適切な医薬担体の例は、E.W.Martinによる「Remington’s Pharmaceutical Sciences」に記載されている。製剤は投与様式に適するべきである。
【0065】
「薬学的に許容され得る塩」という用語は、本開示の化合物の生物学的有効性および特性を保持し、生物学的にも他の点でも望ましくないものではない塩を指す。いくつかの実施形態では、本開示の化合物が、アミノ基および/もしくはカルボン酸基またはこれらに類似する基の存在によって酸および/または塩基塩を形成することができる。薬学的に許容され得る酸付加塩形態は、無機酸および有機酸から調製することができる。薬学的に許容され得る塩基付加塩は、無機塩基および有機塩基から調製することができる。
【0066】
「患者」、「対象」、または「個体」という用語は、本明細書で互換的に使用され、ヒトまたは非ヒト動物のいずれかを指す。これらの用語には、ヒト、霊長類、家畜動物(ウシ、ブタ、ラクダ等を含む)、コンパニオンアニマル(例えば、イヌ、ネコ等)およびげっ歯類(例えば、マウスおよびラット)などの哺乳動物が含まれる。
【0067】
本明細書で使用される場合、「予防する(prevent)」、「予防する(preventing)」および「予防(prevention)」という用語は、疾患(例えば、グルタミン酸関連障害)の初期または早期段階での治療(例えば、予防薬または治療薬)の施行の結果としての、対象における疾患の再発もしくは発症の予防、または疾患の1またはそれを超える症状の軽減を指す。例えば、障害のための対象への治療の施行の文脈において、「予防する(prevent)」、「予防する(preventing)」および「予防(prevention)」は、治療(例えば、予防薬もしくは治療薬)の施行または治療の組み合わせ(例えば、予防薬もしくは治療薬の組み合わせ)の施行に起因する、対象における障害の発達もしくは発症の阻害もしくは低減、または障害の1またはそれを超える症状の再発、発症もしくは発達の予防を指す。
【0068】
本明細書で使用される場合、「処置する(treat)」、「処置する(treating)」または「処置(treatment)」という用語は、臨床徴候が現れた後に疾患の進行を制御するための化合物の投与を指すために使用される。疾患の進行の制御は、それだけに限らないが、症状の低減、疾患の持続期間の短縮、病的状態の安定化(具体的にはさらなる障害の回避)、疾患の進行の遅延、病的状態の改善および寛解(部分的と完全の両方)を含む有益なまたは所望の臨床結果として理解される。
【0069】
対象への物質、化合物または薬剤の「投与(administering)」または「投与(administration)」は、当業者に公知の様々な方法の1つを使用して行うことができる。例えば、化合物または薬剤は、経口、舌下、鼻腔内、経皮、皮下、筋肉内、腹腔内、静脈内、結膜、髄腔内、肺への吸入により、または直腸投与することができる。投与は、例えば、1回、複数回、および/または1またはそれを超える長期間にわたって実施することもできる。いくつかの態様では、投与が、自己投与を含む直接投与と、薬物を処方する行為を含む間接投与の両方を含む。例えば、本明細書で使用される場合、患者に薬物を自己投与するように指示する、または別の者に薬物を投与させる、および/または患者に薬物の処方箋を提供する医師が、薬物を患者に投与している。
【0070】
「グルタミン酸関連障害」という用語には、それだけに限らないが、ハンチントン病、アルツハイマー病、パーキンソン病、後天性免疫不全症候群(AIDS)ニューロパシー、てんかん、ニコチン嗜癖、脳虚血(脳卒中)、および家族性筋萎縮性側索硬化症(ALS)を含むがこれらに限定されない、細胞外グルタミン酸レベルの上昇に関連する神経変性疾患;ならびにウェルニッケ・コルサコフ症候群(Wemicke-Korsakoff syndrome)、脳性脚気、マシャド・ジョセフ病、Soshin病(Soshin disease)、および関連疾患などのチアミン欠乏症に関連する神経変性疾患が含まれる。グルタミン酸関連疾患には、不安、グルタミン酸関連痙攣、肝性脳症、神経障害性疼痛、ドウモイ酸中毒、低酸素症、無酸素症、神経系への機械的外傷、高血圧、アルコール離脱発作、アルコール嗜癖、アルコール渇望、心血管虚血、酸素痙攣、および低血糖などのグルタミン酸関連活性が関与する疾患または状態も含まれる。グルタミン酸受容体の過剰または異常な活性化に関連している他の障害には、クロイツフェルト・ヤコブ病(Mullerら、Mech.Ageing.Dev.、116:193(2000))、ニコチン嗜癖、コカイン嗜癖(Ciano&Everitt、Neuropsychopharmacology、25:341(2001))、騒音性難聴(Chenら、Hear.Res.、154:108(2001))、ヘロイン嗜癖および他のオピオイド嗜癖(Bisagaら、Psychopharmacology(Bert)、157:1(2001))、シアン化合物誘導アポトーシス(Jensenら、Toxicol.Sci.、58:127(2000))、統合失調症(Birdら、Psychopharmacology(Bert)、155:299(2001))、双極性障害(Deanら、J.Affect.Disord、66:147(2001))、糖尿病に関連する末梢神経障害(Elgado-Estebanら、J.Neurochem、75:1618(2000))、ギャンブル障害、嗜癖離脱に関連する気分症状および非ケトン性高グリシン血症(Deutschら、Clin.Neuropharmacol.、21:71(1998))が含まれる。
【0071】
本明細書で使用される場合、「曲線下面積」または「AUC」という用語は、血漿中の薬物濃度対時間のプロットにおける定積分である。AUCは、ある用量の薬物の投与後の薬物への実際の身体曝露を反映し、h μg/mLで表される。曲線下面積は、身体からの薬物の排出速度および投与される用量に依存する。身体によって排出された薬物の総量は、時間0(薬物の投与の時間)から無限時間までの、各時間間隔で排出された量を合計または積分することによって評価され得る。この総量は、全身循環に達する投与された用量の割合に対応する。
【0072】
S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンの塩形態
一態様では、本発明は、中性親化合物と比較して、改善された溶解度、増強された物理化学的特性、バイオアベイラビリティ、吸収、安定性および/または他のより好ましい特性を有するS-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンの塩形態を含む組成物を提供する。
【0073】
一態様では、本開示は、S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオン(カルバマチオン)の塩形態に関する。
【化1】
【0074】
いくつかの実施形態では、S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンの塩形態が、酸付加塩形態または塩基付加塩形態である。
【0075】
いくつかの実施形態では、S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンの塩形態が、それだけに限らないが、その水和物、溶媒和物、異性体(例えば、回転立体異性体を含む)、結晶性、共結晶性、半結晶性、および非結晶性、非晶質形態、同形体(isomorph)、共晶、多形、代謝産物およびプロドラッグを含む化合物の全ての形態を含むと定義される。例えば、これは、非溶媒和形態および水、エタノールなどの薬学的に許容され得る溶媒による溶媒和形態で存在し得る。溶媒または水がしっかりと結合している場合、複合体は湿度とは無関係に明確な化学量論を有する。しかしながら、チャネル溶媒和物および吸湿性化合物のように、溶媒または水が弱く結合している場合、水/溶媒含有量は湿度および乾燥条件に依存する。このような場合、非化学量論が標準である。一般に、溶媒和形態は、本発明の目的のために非溶媒和形態と等価であると考えられる。好ましい実施形態では、S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンの塩形態が、結晶性、共結晶性、半結晶性または非晶質粉末である。
【0076】
いくつかの実施形態では、S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオン(カルバマチオン)の塩形態が、中性形態を無機酸または有機酸などの適切な酸で処理することによって調製される。無機酸には、それだけに限らないが、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、チオシアン酸などが含まれる。有機酸には、それだけに限らないが、2,2-ジクロロ酢酸、アスコルビン酸、アスパラギン酸、酢酸、アジピン酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、4-アセトアミド-安息香酸、樟脳酸、カンファー-10-スルホン酸、カプリン酸(デカン酸)、カプロン酸(ヘキサン酸)、カプリル酸(オクタン酸)、炭酸、ケイヒ酸、シクラミン酸、クエン酸、エタン-1,2-ジスルホン酸、エタンスルホン酸、エタンジスルホン酸、2-ヒドロキシ-エタンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ギ酸、フマル酸、ガラクタル酸、ゲンチジン酸、グルコヘプトン酸、グルコン酸、グルクロン酸、グルタミン酸、グルタル酸、2-オキソ-グルタル酸、グリセロリン酸、グリコール酸、馬尿酸、イソ酪酸、乳酸、ラクトビオン酸、ラウリン酸、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、ナフタレン-1,5-ジスルホン酸、ナフタレン-1-スルホン酸、ナフタレン-2-スルホン酸、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、ニコチン酸、オレイン酸、オロト酸、シュウ酸、パルミチン酸、パモ酸(エンボン酸)、プロピオン酸、ピログルタミン酸、サリチル酸、4-アミノサリチル酸、セバシン酸、ソルビン酸、コハク酸、ステアリン酸、酒石酸、トルエンスルホン酸一水和物およびウンデシレン酸、またはその溶媒和物、多形、水和物またはその混合物が含まれる。
【0077】
別の態様では、本開示は、S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオン(カルバマチオン)の塩基付加塩に関する。いくつかの実施形態では、S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオン(カルバマチオン)の塩基付加塩形態が、中性化合物を有機塩基または無機塩基で処理することによって調製される。無機塩基には、単なる例として、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、アンモニウム塩、カルシウム塩およびマグネシウム塩が含まれる。有機塩基には、それだけに限らないが、第一級、第二級および第三級アミン、例えばアルキルアミン、ジアルキルアミン、トリアルキルアミン、置換アルキルアミン、ジ(置換アルキル)アミンおよびトリ(置換アルキル)アミンが含まれる。有機塩基には、四級アンモニウム塩基、例えばコリン塩(例えば、2-ヒドロキシエチル)トリメチルアンモニウムヒドロキシド)も含まれる。一定のこのような実施形態では、2つまたは3つの置換基がアミノ窒素と一緒になって複素環式基を形成するアミンも含まれる。一定のこのような実施形態では、適切なアミンには、単なる例として、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリ(イソ-プロピル)アミン、トリ(n-プロピル)アミン、エタノールアミン、2-ジメチルアミノエタノール、デアノール(ジメチルエタノールアミン)、トロメタミン、L-リジン、L-アルギニン、ヒスチジン、カフェイン、プロカイン、ヒドラバミン、コリン、ベタイン、エチレンジアミン、グルコサミン、N-アルキルグルカミン、テオブロミン、プリン、ピペラジン、ピペリジン、モルホリン、N-エチルピペリジンなどが含まれる。好ましい実施形態では、S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンの塩基付加塩がL-リジン塩である。
【0078】
いくつかの実施形態では、塩は、酢酸塩、アジピン酸塩、アスコルビン酸塩、安息香酸塩、樟脳酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、グルタル酸塩、グリコール酸塩、塩酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンジスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、シュウ酸塩、リン酸塩、硫酸塩、ソルビン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、シクラミン酸塩、コハク酸塩、トルエンスルホン酸塩、アルギニン塩、リジン塩、デアノール塩、コリン塩、ナトリウム塩、カリウム塩、ジエチルアンモニウム塩、メグルミン塩、ピリドキシン塩およびトリス(ヒドロキシメチル)アンモニウム塩 その溶媒和物、多形、水和物またはその混合物からなる群から選択される。好ましい実施形態では、塩がL-リジン塩またはその溶媒和物、多形、水和物もしくは混合物である。いくつかの実施形態では、L-リジン塩が水和物である。
【0079】
いくつかの実施形態では、S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンの塩形態が、遊離S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンと比較して増加した溶解度を有する。いくつかの実施形態では、塩形態の溶解度が、遊離S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンの溶解度よりも約5%~100%高い、例えば、遊離S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンよりも約5%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%または約100%高い。S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンの塩形態の溶解度の所与のパーセント増加は、溶液中に溶解することができる溶質の量が、同じ特性(例えば、溶媒、温度、pH等)を有する溶液中の遊離S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンと比較してそのパーセント(すなわち、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%)増加することを意味する。例えば、10mgのS-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンが、pH7.0を有する1mLの25℃水に溶解し、塩形態として添加された場合に、15mgのS-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンが、pH7.0を有する1mLの25℃水に溶解する場合、S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンの溶解度は50%増加している。
【0080】
本開示の医薬組成物
一態様では、本発明は、治療上有効量のS-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンの塩形態と、少なくとも1つの薬学的に許容され得る担体とを含む医薬組成物に関する。いくつかの実施形態では、塩は、酢酸塩、アジピン酸塩、アスコルビン酸塩、安息香酸塩、樟脳酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、グルタル酸塩、グリコール酸塩、塩酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンジスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、シュウ酸塩、リン酸塩、硫酸塩、ソルビン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、シクラミン酸塩、コハク酸塩、トルエンスルホン酸塩、アルギニン塩、リジン塩、デアノール塩、コリン塩、ナトリウム塩、カリウム塩、ジエチルアンモニウム塩、メグルミン塩、ピリドキシン塩およびトリス(ヒドロキシメチル)アンモニウム塩 その溶媒和物、多形、水和物またはその混合物からなる群から選択される。好ましい実施形態では、塩がL-リジン塩またはその溶媒和物、多形、水和物もしくは混合物である。いくつかの実施形態では、L-リジン塩が水和物である。
【0081】
許容され得る担体の例としては、それだけに限らないが、固体、ゲル化もしくは液体希釈剤または摂取可能なカプセルが挙げられる。適切な賦形剤には、それだけに限らないが、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、脱脂粉乳、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、オメガ3油、エタノールなどが含まれる。
【0082】
あるいは、本明細書に記載される組成物を凍結乾燥物として製剤化してもよく、または当技術分野で公知の技術を使用して化合物をリポソーム内にカプセル化してもよい。医薬組成物はまた、生物学的に活性であっても不活性であってもよい他の成分を含有してもよい。このような成分には、それだけに限らないが、緩衝剤(例えば、中性緩衝食塩水もしくはリン酸緩衝食塩水)、炭水化物(例えば、グルコース、マンノース、スクロースもしくはデキストラン)、マンニトール、タンパク質、ポリペプチドまたはアミノ酸、例えばグリシン、抗酸化剤、キレート剤、例えばEDTAもしくはグルタチオン、安定剤、色素、香味剤および懸濁化剤、共晶を形成する剤ならびに/あるいは保存剤が含まれる。
【0083】
共晶は、同じ成分で構成された他の組成物よりも低い温度で融解する単一の化学組成を有する化学化合物または元素の混合物である。共晶を含む組成物は共晶組成物として知られており、その融解温度は共晶温度として知られている。いくつかの実施形態では、S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンの塩形態が共晶組成物の一部である。
【0084】
本発明の医薬組成物は、それだけに限らないが、当技術分野で周知の徐放製剤を含む、錠剤、例えば割線入り錠剤、コーティング錠または経口溶解錠;薄膜剤、カプレット剤、カプセル剤(例えば、ハードまたはソフトゼラチンカプセル剤)、トローチ剤、糖衣錠、分散液剤、懸濁剤、水性液剤、リポソーム剤、パッチ剤などを含む多くの形態で調製され得る。
【0085】
経口液体医薬組成物は、例えば、水性もしくは油性懸濁剤、液剤、乳剤、シロップ剤またはエリキシル剤の形態であってもよく、あるいは使用前に水または他の適切なビヒクルで構成するための乾燥生成物として提供されてもよい。
【0086】
いくつかの実施形態では、治療上有効量のS-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンの塩形態を含む医薬組成物が経口投与される場合、医薬組成物は安全であり、安定であり、生物学的に利用可能である。バイオアベイラビリティは、全身循環に到達する未変化の薬物の投与用量の割合を指す。いくつかの実施形態では、治療上有効量のS-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンの塩形態を含む医薬組成物が、投与後約1時間で少なくとも80%吸収される。別の実施形態では、治療上有効量のS-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンの塩形態を含む医薬組成物が、投与後約2時間で少なくとも80%吸収される。別の実施形態では、治療上有効量のS-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンの塩形態を含む医薬組成物が、投与後約3時間で少なくとも80%吸収される。
【0087】
本発明による化合物はまた、非経口投与用に製剤化され得る。非経口投与は、一般に、皮下、筋肉内または静脈内のいずれかの注射を特徴とする。注射剤は、慣用的な形態で、液体液剤もしくは懸濁剤として、注射前の液体の液剤もしくは懸濁剤に適した固体形態として、または乳剤として調製することができる。適切な賦形剤は、例えば、水、食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなどである。さらに、所望であれば、投与される医薬組成物はまた、微量の非毒性補助物質、例えば湿潤剤または乳化剤、pH緩衝剤など、例えば、例えば酢酸ナトリウム、ソルビタンモノラウレート、トリエタノールアミンオレエート等を含有し得る。非経口製剤は、アンプル剤、プレフィルドシリンジ剤、小容量注入容器、または保存剤を含む複数回投与容器の単位剤形で提供され得る。
【0088】
医薬組成物に使用するための当業者に公知の皮下投与用の任意の適切な賦形剤または担体が、本明細書に記載される組成物に使用され得る。
【0089】
表皮への局所投与のために、化合物は、軟膏剤、クリーム剤もしくはローション剤として、または経皮パッチ剤の有効成分として製剤化され得る。適切な経皮送達システムは、例えば、A.Fisherら(米国特許第4,788,603号)に開示されている。軟膏剤およびクリーム剤は、例えば、適切な増粘剤および/またはゲル化剤を添加した水性または油性基剤を用いて製剤化され得る。ローション剤は、水性または油性基剤を用いて製剤化されてもよく、一般に、1またはそれを超える乳化剤、安定剤、分散剤、懸濁化剤、増粘剤または着色剤も含有する。
【0090】
口への局所投与に適した医薬組成物は、風味付けされた基剤、通常はスクロースおよびアカシアまたはトラガカント中に本発明の化合物を含むロゼンジ剤;ゼラチンおよびグリセリンまたはスクロースおよびアカシアなどの不活性基剤中に化合物を含むパステル剤;粘膜付着性ゲル剤、ならびに適切な液体担体中に化合物を含む洗口液などの単位剤形を含む。
【0091】
いくつかの実施形態では、上記の医薬組成物を、化合物の徐放または遅延放出のために製剤化することができる。徐放製剤は、担体マトリックス中に分散された、および/または速度制御膜によって囲まれたリザーバ内に含有された薬剤を含有し得る。このような製剤内で使用するための賦形剤は、生体適合性であり、生分解性であってもよい;好ましくは、製剤は、比較的一定レベルの活性成分放出を提供する。徐放製剤内に含有される活性化合物の量は、移植部位、放出の速度および予想される持続時間、ならびに処置または予防される状態の性質に依存する。
【0092】
担体が固体である直腸投与に適した医薬組成物は、最も好ましくは単位用量坐剤として提供される。適切な担体には、カカオ脂および当技術分野で一般的に使用される他の材料が含まれる。坐剤は、活性化合物を軟化または融解した担体(複数可)と混和し、引き続いて冷却し、型に成形することによって好都合に形成され得る。
【0093】
吸入による投与のために、本開示による化合物は、インサフレーター、ネブライザーもしくは加圧パックまたはエアロゾルスプレーを送達する他の便利な手段から好都合に送達される。加圧パックは、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素または他の適切なガスなどの適切な噴霧剤を含んでもよい。加圧エアロゾルの場合、投与単位は、計量された量を送達するためのバルブを提供することによって決定され得る。
【0094】
鼻腔内投与のために、本発明の化合物は、液体スプレーとして、または油スプレー(例えば、ヒマシ油)として、例えばプラスチックボトルアトマイザーを介して投与され得る。
【0095】
本発明の医薬組成物はまた、慣用的なアジュバント、例えば懸濁化剤、乳化剤、非水性ビヒクル(食用油を含み得る)、香味剤、着色剤、抗微生物剤または保存剤を含有し得る。
【0096】
S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンの塩形態を製造する方法
S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンの塩形態は、当業者に公知の方法によって製造することができる。例えば、S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンを適切な溶媒に溶解し、引き続いて化学量論的当量または過剰の酸または塩基を添加すると、カルボン酸基、チオール基および/またはアミノ基によってS-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンの塩形態が形成され得る。酸または塩基の添加は、S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンを含む溶液、懸濁液またはスラリーに対するものであり得る。さらに、塩形態は、当業者に公知の任意の数の方法に従って単離することができる。例えば、貧溶媒を混合物に添加して塩形態の沈殿を誘導することができ、その後、これを濾過することができる。沈殿は、結晶性、半結晶性または非晶質であり得る。あるいは、それだけに限らないが、液体-液体拡散、蒸気-液体拡散、および遅い蒸発などの結晶化技術によって、結晶塩の形成をもたらすことができ、次いで、これを上清の濾過または除去によって単離することができる。粉砕および混練実験によっても、塩形態の形成をもたらすことができる。例えば、S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンは、1当量または過剰の選択された酸または塩基コフォーマーの存在下でボールミル粉砕することによって、触媒量の適切な溶媒で粉砕することができる。XRPDによって回収された固体を分析することにより、S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンの新しい塩形態の決定が可能になる。
【0097】
一態様では、本発明は、S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンの酸付加塩を製造する方法であって、
(i)S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンをC1~C6アルコール、ジクロロメタン、水または水性低級アルコールに懸濁し、それによって、懸濁液を形成することと;
(ii)懸濁液に酸を添加し、それによって、混合物を形成することと;
(iii)必要に応じて、tert-ブチルメチルエーテル、シクロヘキサン、アセトニトリル、アセトン、またはアセトニトリル-アセトン混合溶媒を混合物に添加し、それによって、塩を結晶化させる、または混合物を凍結乾燥することと
を含む方法に関する。
【0098】
いくつかの実施形態では、本開示は、S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンの塩形態を製造する方法であって、S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンおよび適切な量の酸を適切な溶媒の存在下で混合することを含む方法に関する。いくつかの実施形態では、本方法が、S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンを1当量の酸と粉砕または混練することを含む。いくつかの実施形態では、本方法が、S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンを過剰の酸と粉砕または混練することを含む。いくつかの実施形態では、溶媒が水、エタノール、メタノールまたはジクロロメタンである。いくつかの実施形態では、本方法が、混合物から溶媒を蒸発させることをさらに含む。
【0099】
いくつかの実施形態では、酸が、臭化水素酸、硝酸、2,2-ジクロロ酢酸、アスコルビン酸、アスパラギン酸、酢酸、アジピン酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、4-アセトアミド-安息香酸、樟脳酸、カンファー-10-スルホン酸、カプリン酸(デカン酸)、カプロン酸(ヘキサン酸)、カプリル酸(オクタン酸)、炭酸、ケイヒ酸、シクラミン酸、クエン酸、ドデシル硫酸、エタン-1,2-ジスルホン酸、エタンスルホン酸、2-ヒドロキシ-エタンスルホン酸、ギ酸、フマル酸、ガラクタル酸、ゲンチジン酸、グルコヘプトン酸、グルコン酸、グルクロン酸、グルタミン酸、グルタル酸、2-オキソ-グルタル酸、グリセロリン酸、グリコール酸、馬尿酸、塩酸、イソ酪酸、乳酸、ラクトビオン酸、ラウリン酸、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、ナフタレン-1,5-ジスルホン酸、ナフタレン-2-スルホン酸、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、ニコチン酸、オレイン酸、オロト酸、シュウ酸、パルミチン酸、パモ酸(エンボン酸)、リン酸、プロピオン酸、ピログルタミン酸、サリチル酸、4-アミノサリチル酸、セバシン酸、ソルビン酸、コハク酸、ステアリン酸、硫酸、酒石酸、チオシアン酸、トルエンスルホン酸一水和物、ウンデシレン酸、N-シクロヘキシルスルファミン酸、カンファー-10-スルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、およびキナルジン酸、またはその溶媒和物、多形、水和物またはその混合物からなる群から選択される。
【0100】
いくつかの実施形態では、酸が、酢酸、アジピン酸、アスコルビン酸、安息香酸、樟脳酸、クエン酸、フマル酸、グルタル酸、グリコール酸、塩酸、酒石酸、リンゴ酸、マレイン酸、メタンスルホン酸、シュウ酸、リン酸、硫酸、ソルビン酸、コハク酸、トルエンスルホン酸一水和物、N-シクロヘキシルスルファミン酸、カンファー-10-スルホン酸、ナフタレンジスルホン酸およびキナルジン酸、またはその溶媒和物、多形、水和物またはその混合物からなる群から選択される。
【0101】
一態様では、本発明は、S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンの塩形態を製造する方法であって、
(i)S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンをC1~C6アルコール、水、ジクロロメタンまたは水性低級アルコールに懸濁し、それによって、懸濁液を形成することと;
(ii)懸濁液に塩基を添加し、それによって、混合物を形成することと;
(iii)必要に応じて、tert-ブチルメチルエーテル、シクロヘキサン、アセトニトリル、アセトン、またはアセトニトリル-アセトン混合溶媒を混合物に添加し、それによって、塩を結晶化させる、または混合物を凍結乾燥することと
を含む方法に関する。
【0102】
いくつかの実施形態では、塩基が、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、アンモニウム塩、カルシウム塩およびマグネシウム塩から選択される無機塩基、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリ(イソ-プロピル)アミン、トリ(n-プロピル)アミン、エタノールアミン、2-ジメチルアミノエタノール、デアノール(ジメチルエタノールアミン)、トロメタミン、L-リジン、L-アルギニン、ヒスチジン、カフェイン、プロカイン、ヒドラバミン、コリン、ベタイン、エチレンジアミン、グルコサミン、N-アルキルグルカミン、テオブロミン、プリン、ピペラジン、ピペリジン、モルホリン、N-エチルピペリジンなどである。
【0103】
いくつかの実施形態では、塩基が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化コリン、L-アルギニン、L-リジン、デアノール、ジエチルアミンおよびトロメタミンからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、塩基がL-リジンである。
【0104】
いくつかの実施形態では、本開示は、S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンの塩形態を製造する方法であって、S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンおよび適切な量の塩基を適切な溶媒の存在下で混合することを含む方法に関する。いくつかの実施形態では、本方法が、S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンを1当量の塩基と粉砕または混練することを含む。いくつかの実施形態では、本方法が、S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンを過剰の塩基と粉砕または混練することを含む。いくつかの実施形態では、溶媒が水、エタノール、メタノールまたはジクロロメタンである。いくつかの実施形態では、本方法が、混合物から溶媒を蒸発させることをさらに含む。いくつかの実施形態では、塩基がL-リジンである。
グルタミン酸関連障害の予防または処置
【0105】
一態様では、本開示は、グルタミン酸関連障害の予防もしくは処置を必要とするまたはそのリスクがある対象のグルタミン酸関連障害を予防または処置する方法であって、治療上有効量のS-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンの塩形態を前記対象に投与することを含む方法に関する。
【0106】
いくつかの実施形態では、処置を必要とするまたは障害を有するリスクがある対象が、それだけに限らないが、ヒト、霊長類、家畜動物(ウシ、ブタ、ラクダ等を含む)、コンパニオンアニマル(例えば、イヌ、ネコ等)およびげっ歯類(例えば、マウスおよびラット)などの哺乳動物を含む。一実施形態では、化合物が哺乳動物、好ましくはヒトに投与される。
【0107】
いくつかの実施形態では、本発明の医薬組成物が、標準的な投与経路によって投与され得る。製剤を対象に導入するために多くの方法を使用することができ、これらには、それだけに限らないが、鼻腔内、気管内、舌下、経口、皮内、髄腔内、筋肉内、経皮、直腸、腹腔内、静脈内、結膜および皮下経路が含まれる。
【0108】
予防または処置に使用するために必要とされる本化合物、本化合物の組み合わせ、またはその活性塩もしくは誘導体の量は、選択される特定の塩だけでなく、投与経路、処置される状態の性質、ならびに患者の年齢および状態によっても変化し、最終的には主治医または臨床医の裁量にゆだねられることがさらに理解されよう。
【0109】
投与される本発明の組成物またはその組み合わせの量および所与の対象への投与頻度は、患者の心理的プロファイルおよび身体の状態に関連する様々な可変要素に依存する。これらの因子の評価については、Brien,JFら、Eur J Clin Pharmacol.1978;14(2):133-41;およびPhysicians’ Desk Reference、Charles E.Baker,Jr.、Pub.,Medical Economics Co.、Oradell、N.J.(第41版、1987)を参照されたい。
【0110】
グルタミン酸関連疾患を予防または処置するための組成物の用量は、医療分野の当業者によって理解されるパラメータに従って決定され得る。
【0111】
いくつかの実施形態では、本発明は、S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンの塩形態が0.5mg~500mg/kgの量で医薬組成物中に存在する方法を提供する。一定の実施形態では、S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンの塩形態が0.5~50mg/kgの量で組成物中に存在する。一定の実施形態では、S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンの塩形態が0.5~20mg/kgの量で組成物中に存在する。一定の実施形態では、S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンの塩形態が5~100mg/kgの量で組成物中に存在する。いくつかの実施形態では、S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンの塩形態が10~800mg/kgの量で組成物中に存在する。他の実施形態では、S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンの塩形態が50~800mg/kgの量で組成物中に存在する。いくつかの実施形態では、S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンの塩形態が50~250mg/kgの量で組成物中に存在する。他の実施形態では、S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンの塩形態が200~700mg/kgの量で組成物中に存在する。別の実施形態では、量が400~700mg/kgである。いくつかの実施形態では、量が500~700mg/kgである。いくつかの実施形態では、量が600~700mg/kgである。
【0112】
いくつかの実施形態では、投与後のS-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンの塩形態のピーク血漿レベルが2~100nmol/Lの範囲にある。別の実施形態では、範囲が5~50nmol/Lである。別の実施形態では、範囲が5~100nmol/Lである。別の実施形態では、範囲が1~10μmol/Lである。他の実施形態では、範囲が10~1000μmol/Lである。一定の実施形態では、範囲が50~800μmol/Lである。いくつかの実施形態では、範囲が200~700μmol/Lである。別の実施形態では、範囲が200~500μmol/Lである。他の実施形態では、範囲が400~700μmol/Lである。いくつかの実施形態では、範囲が500~700μmol/Lである。いくつかの実施形態では、範囲が600~700μmol/Lである。
【0113】
いくつかの実施形態では、S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンの塩形態の投与後の平均曲線下面積(AUC)が20~1000hμg/mlの間である。他の実施形態では、AUCが30~800hμg/mlの間である。他の実施形態では、AUCが50~700hμg/mlの間である。他の実施形態では、AUCが70~500hμg/mlの間である。他の実施形態では、AUCが80~400hμg/mlの間である。他の実施形態では、AUCが100~300hμg/mlの間である。
【0114】
いくつかの実施形態では、投与後のS-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンの塩形態のトラフ血漿レベルが2~100nmol/Lの範囲にある。別の実施形態では、範囲が5~50nmol/Lである。別の実施形態では、範囲が5~100nmol/Lである。別の実施形態では、範囲が1~10μmol/Lである。他の実施形態では、範囲が10~1000μmol/Lである。一定の実施形態では、範囲が50~800μmol/Lである。いくつかの実施形態では、範囲が200~700μmol/Lである。別の実施形態では、範囲が200~500μmol/Lである。他の実施形態では、範囲が400~700μmol/Lである。いくつかの実施形態では、範囲が500~700μmol/Lである。いくつかの実施形態では、範囲が600~700μmol/Lである。
【0115】
いくつかの実施形態では、グルタミン酸関連障害の例として、それだけに限らないが、ハンチントン病、アルツハイマー病、パーキンソン病、後天性免疫不全症候群(AIDS)ニューロパシー、てんかん、摂食障害、睡眠障害、ニコチン嗜癖、脳虚血(脳卒中)、家族性筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ウェルニッケ・コルサコフ症候群、脳性脚気、マシャド・ジョセフ病、Soshin病、不安、グルタミン酸関連痙攣、肝性脳症、神経障害性疼痛、ドウモイ酸中毒、低酸素症、無酸素症、神経系への機械的外傷、高血圧、アルコール離脱発作、アルコール嗜癖、アルコール渇望、心血管虚血、酸素痙攣、低血糖、クロイツフェルト・ヤコブ病、コカイン嗜癖、騒音性難聴、ヘロイン嗜癖、オピオイド嗜癖、シアン化合物誘導アポトーシス、統合失調症、双極性障害、糖尿病に関連する末梢神経障害および非ケトン性高グリシン血症が挙げられる。
【0116】
いくつかの実施形態では、グルタミン酸関連障害が、不安、グルタミン酸関連痙攣、肝性脳症、ドウモイ酸中毒、低酸素症、無酸素症、アルコール嗜癖、アルコール離脱発作、アルコール渇望、酸素誘発発作および低血糖からなる群から選択される。
【0117】
いくつかの実施形態では、グルタミン酸関連障害がアルコール使用障害(AUD)である。いくつかの実施形態では、アルコール使用障害が、アルコール嗜癖、アルコール乱用、アルコール依存、アルコール離脱発作およびアルコール渇望の群から選択される。
【0118】
AUDは、消化不良または心窩部痛、頭痛、下痢、睡眠困難、疲労、原因不明の体重減少、明らかな栄養失調、紫斑ができやすい、平均赤血球容積の増加、トランスアミナーゼレベルの上昇(特にアラニントランスアミナーゼよりも高いアスパラギン酸トランスアミナーゼレベル)、y-グルタミルトランスフェラーゼレベルの上昇、鉄欠乏性貧血、肝腫大、黄疸、クモ状血管腫、腹水、および末梢浮腫を含む症状をもたらし得る。AUDに関連する行動症状には、過敏性を高める仕事または学校の常習的欠勤(欠席)、人間関係の困難、言葉によるまたは身体的虐待、およびうつ病が含まれる。
【0119】
AUDと診断されるためには、個体が、Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders(DSM)に概説されている一定の基準を満たさなければならない。DSM-5(現在のマニュアル)の下では、同じ12か月間に11個の基準のうちのいずれか2つを満たす人は誰でもAUDの診断を受ける。AUDの重症度(軽度、中等度または重度)は、満たされる基準の数に基づく。以下の表を参照されたい。
【表17】
【0120】
現在、ジスルフラム(DSF)が、AUDの処置に一般的に使用されている。AUDの処置におけるDSFの有効性は、アルデヒドデヒドロゲナーゼ(ALDH2)に対するその阻害活性に起因している。しかしながら、これはまた、DSFに関するほとんどの安全上の懸念の機構的根拠でもある。具体的には、肝臓ミトコンドリアALDH2のDSF阻害は、アルコール代謝の第2のステップを遮断する。したがって、その後のエタノールの消費は、毒性中間体であるアセトアルデヒドの蓄積をもたらす。DSFで処置されている患者によってエタノールが消費されると、これはジスルフィラム-エタノール反応(DER)として知られる有害効果をもたらす。具体的には、アセトアルデヒドの蓄積が、潮紅、頭痛、悪心および頻脈などの症状を伴う強力な全身血管拡張反応をもたらす(米国特許出願公開第2013/0165511号A1)。対照的に、カルバマチオンは、ALDH2の阻害活性を欠いており(Faimanら、2013.Neuropharmacology 75;95-105)、したがって、DERのリスクはない。
【0121】
DSFは、摂取されると、S-メチル-N,N-ジエチルカルバメートスルホキシド(DETC-MeSO)に代謝され、これがカルバマチオンにさらに代謝される(Jinら、1994;Nagendraら、Biochem.Pharmacol.55:749-756、1998)。ラットの微小透析研究では、静脈内カルバマチオン投与が、ドーパミン(DA)を増加させ、GABAを減少させ、AUDに関連する報酬プロセスに関与する2つの脳領域である側坐核(NAc)および前頭前皮質(PFC)におけるグルタミン酸(Glu)に対する二相効果を及ぼす(Faimanら、Neuropharmacology.75:95-105、2013)。プロドラッグDSFの投与もまた、NAcおよびPFCにおけるDA、GABAおよびGLuのこれらの同じ変化をもたらす。DSF代謝が阻害されると、カルバマチオンは形成されず、これらの神経伝達物質の変化は起こらない(Faimanら、2013.Neuropharmacology、75;95-105)。理論に拘束されることを望むものではないが、AUDの処置におけるDSFの有効性は、DSFが患者に投与された後のカルバマチオン代謝産物の下流形成、ならびにDA、GABAおよびGLUならびに/あるいは他の神経伝達物質に対するそのその後の効果に起因し得る。したがって、本開示の一態様では、DSFの代わりにカルバマチオンまたはその薬学的に許容され得る塩の投与も、ALDH2阻害に関連する有害な副作用とそれに関連するDERを併せて回避しながら、AUDの処置において有効である。
【0122】
いくつかの実施形態では、S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンの塩形態を含む組成物が、通常の飲用時間の少なくとも30分前に投与される。いくつかの実施形態では、S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンの塩形態を含む組成物が、通常の飲用時間の少なくとも2時間前に投与される。
【0123】
いくつかの実施形態では、記載される予防または処置方法のいずれかが、予防または処置の結果を改善するために心理療法的介入と組み合わされ得る。
【0124】
一実施形態では、化合物が、グルタミン酸関連障害の予防または処置に有用な1またはそれを超える治療薬と組み合わせて投与される。
【0125】
「組み合わせて」という表現は、本明細書で使用される場合、本発明の化合物を、グルタミン酸関連疾患の予防または処置に有用な治療薬と一緒にまたは別々に、同時に、併せて、または順次に投与することができることを理解すべきである。
【0126】
当業者であれば、本発明の化合物とグルタミン酸関連障害の予防または処置に有用なさらなる治療薬の併用投与が、単一剤形または別個の剤形の形態であり得ることを理解する。
【0127】
S-(N,N-ジエチルカルバモイル)グルタチオンの塩形態と組み合わせて投与することができる治療薬の例としては、それだけに限らないが、ガバペンチンおよびトピラマート、アカンプロサート、コプリン、シアナミド、シクロベンザプリン、ナルトレキソン、ラサギリンおよびセレギリン、またはその薬学的に許容され得る塩が挙げられる。
【実施例】
【0128】
実施例1.マウスまたはラットのエタノール摂取量の減少におけるカルバマチオンの有効性
ラットのエタノール摂取量の減少におけるカルバマチオンの有効性を評価した。成体雄アルコール嗜好性ラット(Pラット)および高アルコール摂取1(high alcohol-drinking-1)(HAD1)ラット(開始時約75日齢)をこの試験に使用した。これらのラットは、15%および30%エタノールへの並行自由選択アクセスの8週間の獲得/順化期間を経た。動物を24時間アクセスで開始し、5日間(月曜日~金曜日)/週のアクセスで1日2時間に用量設定した。逆暗-明サイクル(10:00時~22:00時消灯)で維持された部屋で、暗サイクルの開始時(10:00時)にエタノールアクセスを開始した。
【0129】
獲得期間の後、動物は3週間の試験を受けた。4つの用量:0、100、200および400mg/kg/日を試験した。0.25% Tween(登録商標)80を含む無菌等張(0.9%ノーマルセーライン)食塩水を全ての用量についてビヒクルとして使用した。各投与のおよそ1時間前に注射液を調製した。
【0130】
カルバマチオン溶液は、溶液を毎日混合するまで-20℃に維持した。カルボキシル関連化合物を添加すると、カルバマチオン固体の溶解に役立ち、これを50μlのTween(登録商標)80を用いて乳棒および乳鉢によって微粉砕し、pH3.5を得た。撹拌プレート上でpH7.0に中和することにより、化合物を溶液中に留めることができた。用量を3ml/kgで計算して、500gラット当たり1.5mlの注射体積を可能にした。用量群は、獲得の最後の週からのデータを使用してエタノール摂取量についてバランスを取った。消灯の30分前に、薬物を毎日1回(月曜日~金曜日)腹腔内(IP)投与した。食物および水は自由に入手可能とした。
【0131】
データを、用量、試験日、および各ラット系統に対する2元配置混合ANOVA、引き続いてDunnettのt検定計画比較によって分析した。
【0132】
Pラットの場合、2元配置ANOVAで分散の25%近く(0.757の検出力で、効果量=0.235)と決定された用量の有意な主効果(p=0.021)以外には、カルバマチオンの有意な反復測定効果はなかった。表1を参照されたい。用量の主な効果について、Dunnettのt検定は、最高用量について有意な効果を明らかにした。
【表1】
【0133】
HAD-1ラットの場合、2元配置ANOVAで分散の7%近く(0.727の検出力で、効果量=0.068)と決定された試験日の有意な主効果(p=0.036)以外には、カルバマチオンの有意な反復測定効果はなかった。表2を参照されたい。
【表2】
【0134】
図1および
図2に見られるように、遊離カルバマチオンは、Pラットでは中程度の正の効果(modest positive effect)を有するが、HAD1ラットでは効果がない。この中程度の効果は、溶液へのカルバマチオンの溶解度が限られていることに起因する。Tween(登録商標)80を添加すると、泡状懸濁液が形成され、カルバマチオンの過少投与または吸収不良をもたらし得る。
【0135】
カルバマチオンの吸収が以前の研究で観察された中程度の結果の原因であるかどうかを決定するために、異なるビヒクル(水中0.25%カルボキシメチルセルロース(CMC))を試験した。
【0136】
確立されたプロトコルに従って、成体雄C57BL/6Jマウス(N=96)を、アクセスを制限した(2時間/日)自由選択(15%v/vエタノール対水)飲用手順でエタノールを摂取するように訓練した。4週間後、摂取量の安定なベースラインレベルが確立され、マウスを2つの群に分けた。マウスの一方の群(CIE群)を、吸入チャンバー内で慢性間欠的エタノール(CIE)蒸気曝露に曝露した(16時間/日×4日間)。残りのマウス(CTL群)を同様に処置したが、吸入チャンバー内で空気に曝露した。72時間の強制離脱期間の後、全てのマウスは、5日間の試験期間にわたって同じアクセス制限パラダイムでエタノール飲用を再開した。毎週の試験飲用サイクルを介在させた毎週のCIE(または空気)曝露サイクルのこのパターンを、以前公開された手順(BeckerおよびLopez、2004年;Griffinら、2009;LopezおよびBecker、2005)に従って7サイクル繰り返した。
【0137】
ベースラインおよび初期試験サイクル中の毎日の飲用セッションの開始30分前に、全てのマウスに生理食塩水の腹腔内(IP)投与を行い、動物を取り扱い手順に順応させた。第4のエタノール摂取試験サイクルの後、マウスをカルバマチオン用量処置条件にさらに分けた(N=10~12/群)。
【0138】
ベースラインおよび初期試験サイクルの最後の週の間の週平均エタノール摂取量(g/kg)を、群(CTL、CIE)を対象間因子として、相(ベースライン~試験4)を反復測定として、分散分析(ANOVA)によって分析した。ANOVAは、群[F(1,84)=18.88;p<0.0001]、相[F(4,336)=10.88;p<0.0001]の有意な主効果およびこれらの因子間の有意な相互作用[F(4,336)=15.48;p<0.0001]を示した。Newman-Keulsの事後比較は、ベースライン中の群間でエタノール摂取量に差がないことを示した-これは、マウスが摂取量のベースラインレベルに基づいてCIE群とCTL群に分けられたため、予想される結果である。CTLマウスは、試験全体を通して安定な摂取量レベルを示した。対照的に、CIEマウスは、試験サイクル2、3および4の間に、それ自体のベースラインと比較して、また同じ試験サイクルの間のCTLマウスと比較して、有意に多くのエタノールを消費した(
図3の#)。
【0139】
試験4の後、CIEマウスとCTLマウスを試験5について用量群(N=11~12/群)に分け、群は、試験4の間の摂取量に関して同等であった。マウスは、摂取の30分前にカルバマチオン(100、200または400mg/kg)またはビヒクル(0.25%カルボキシメチルセルロース、水中CMC)の腹腔内(IP)注射を受けた。カルバマチオンIP注射液を懸濁液として投与した。試験5中のエタノール摂取量を1週間平均し、対象間因子として群(CTL、CIE)およびカルバマチオン用量(0、100、200、400mg/kg)を用いてANOVAによって分析した。ANOVAは、CTLマウスと比較したCIEマウスにおけるより高レベルのエタノール摂取量を反映して、群の有意な主効果[F(1,78)=53.33;p<0.0001]を示した(
図4の
*)。ANOVAはまた、カルバマチオン用量の有意な効果を示した[F(3,78)=4.39;p<0.01]。事後検定は、ビヒクルおよび最低用量のカルバマチオン(100mg/kg)を投与されたマウスと比較して、最高用量のカルバマチオン(400mg/kg)を投与されたマウスで有意に低いエタノール摂取量を示した。カルバマチオン用量相互作用による群は有意ではなかったが[F(3,78)=1.57、p>0.05]、相互作用項に基づく計画比較は、200および400mg/kgのカルバマチオンが、非依存性(CTL)マウスにおいてビヒクル条件と比較してエタノール摂取量を有意に減少させることを示した(
図4の#)。
【0140】
次に、マウスにおけるエタノール摂取量の減少におけるカルバマチオンの有効性を、慢性アルコール依存症の処置で使用されるFDA承認薬であるジスルフィラムの有効性と比較した。マウスを第6のサイクルのCIE(または空気)に曝露し、ジスルフィラムを比較薬として含めたことを除いて、前の試験サイクルで使用したのと同じ手順で摂取量を評価した。ビヒクルまたは400mg/kgのカルバマチオンを投与されたマウスは、この処置スケジュールを継続した。100または200mg/kgのカルバマチオンを投与されたマウスを組み合わせ、無作為に再分類して最初の2日間に75または100mg/kgのジスルフィラムを投与し、これらの用量を試験6の最後の3日間でそれぞれ125および150mg/kgのジスルフィラムに増加させた。ジスルフィラム用量は、カルバマチオンに使用したのと同じビヒクル(すなわち、0.25%CMC)を用いて調製した。別々の分析を行って、カルバマチオンおよびジスルフィラム処置の効果を評価した。
図5に提示されるデータは、ビヒクルまたはカルバマチオンを投与したCIEマウスおよびCTLマウスの週平均摂取量を示す。これらのデータの分析は、群の有意な主効果[F(1,38)=75.22;p<0.0001]を示し、CIEマウスはCTLマウスよりも多く飲用していた(
図5の
*)。ANOVAは、カルバマチオン処置の主効果[F(1,38)=2.28;p>0.05]もカルバマチオン用量相互作用による有意な群[F(1,38)=1.03;p<0.05]も示すことができなかった。相互作用項に基づくペアワイズ比較により、400mg/kgのカルバマチオンで処置されたマウスでは、ビヒクル処置マウスと比較してエタノール摂取量が低い傾向が示された(p=0.07)。ビヒクル、75または100mg/kgのジスルフィラムを投与されたマウスのデータを、週の最初の2日にわたって平均した。これらのデータの分析は、群の有意な主効果[F(1,60)=50.44;p<0.0001]を示し、CIEマウスはCTLマウスよりも有意に多くのエタノールを消費した(
図6の
*)。これらのデータの分析は、ジスルフィラム処置の有意な効果[F(2,60)=2.54;p=>0.05]も群とジスルフィラム処置との間の相互作用[F(2,60)=1.26;p>0.05]も示さなかった。
【0141】
試験6の最後の3日間のデータは、ビヒクル、125または150mg/kgのジスルフィラムを投与されたマウスについての平均とした。これらのデータのANOVAは、群の有意な主効果[F(1,59)=31.00;p<0.0001]を示し、CIEマウスはCTLマウスよりも多くのエタノールを消費した(
図7の
*)。ジスルフィラム処置の主効果もあった[F(2,59)=8.84;p<0.0001]。事後比較は、ジスルフィラムで処置されたマウス(CIEおよびCTL条件で平均した)が、ビヒクルで処置されたマウスと比較して低いレベルのエタノール摂取量を示すことを示した(
図7の#)。ANOVAは、群とジスルフィラム処置との間の有意な相互作用を示さなかった[F(2,59)=0.17;p>0.05]。
【0142】
第7の最後のCIEまたは大気曝露サイクルの後、自発的エタノール摂取についてマウスを再度評価した。試験7の5日間中、試験開始からビヒクル注射を受けたマウスは、ビヒクル注射を受け続けた。試験サイクル5および6でカルバマチオンおよびジスルフィラムを投与されたマウスは、試験7でビヒクル注射を受けて、以前の処置の長期持続効果を評価した(薬物ウォッシュアウト評価)。最後に、400mg/kgのカルバマチオンを投与されたマウスは、より高用量のカルバマチオン(600mg/kg)による処置を継続した。試験7中にビヒクル注射を受けた群の分析を、群(CIE、CTL)および以前の処置(ビヒクル、低用量または高用量のジスルフィラム)を主因子として実施した。この分析は、群の有意な主効果[F(1,59)=25.36;p<0.0001]を示した。これは、CTLマウスと比較したCIEマウスにおける有意に高い摂取量レベルによるものであった。ANOVAは、以前の薬物処置の長期持続効果[F(2,59)=1.06;p>0.05]も群×処置相互作用[F(2,59)=0.17;p>0.05](データは示さず)も示さなかった。別個の分析を行って、CIE群およびCTL群におけるエタノール飲用に対するカルバマチオン(600mg/kg)処置の効果を評価した。この分析は、群[F(1,38)=28.43;p<0.0001]およびカルバマチオン用量[F(1,38)=38.88;p<0.0001]の有意な主効果を示したが、群×カルバマチオン用量相互作用は有意ではなかった[F(1,38)=0.01;p>0.05]。事後比較は、CIEマウスがCTLマウスと比較して多くのエタノールを消費し(
図8の
*)、カルバマチオン(600mg/kg)処置が、CIE群およびCTL群のビヒクル処置対象と比較してエタノール摂取量を有意に減少させる(
図8の#)ことを示した。
【0143】
最後に、試験サイクル5および7の間に得られた結果を、100、200、400または600mg/kg用量のカルバマチオンによる処置を受けたマウスについて、対応するCIEまたはCTLビヒクル注射群からの変化%として表されるデータを用いて再分析した。ANOVAは、群[F(1,96)=14.24;p<0.001]、カルバマチオン用量[F(4,96)=18.91;p<0.0001]の有意な主効果、およびこれらの因子間の有意な相互作用[F(4,96)=2.47;p<0.05]を示した。相互作用項に基づく事後比較は、200、400および600mg/kg用量のカルバマチオンで処置されたCTLマウスが、対応するビヒクル群と比較して自発的エタノール摂取量の有意な減少を示すことを示した(
図7の^)。さらに、この試験で評価された最高用量(600mg/kg)のカルバマチオンのみが、ビヒクル対象と比較して、CIEマウスにおいてエタノール摂取量の有意な減少をもたらした(
図9の^)。また、カルバマチオン(200、400および600mg/kg用量)は、CIE曝露マウスと比較したCTLマウスにおけるエタノール摂取量の有意に大きな減少をもたらした(
図9の
*)。
【0144】
予想されるように、依存性マウスでは連続したCIE曝露サイクルにわたってエタノール摂取量が増加したが、非依存性マウスでは試験全体を通してエタノール消費は比較的安定したままであった(BeckerおよびLopez、Alcohol Clin Exp Res、第28巻、第12号、2004、1829-1838頁;Griffinら、Alcohol Clin Exp Res、第33巻、第11号、2009、1893-1900頁;LopezおよびBecker、Psychopharmacology、第181巻、2005、688-696頁)。この効果は、全ての動物がビヒクル処置を受け(試験1~4)、その後の試験サイクル(試験5~7)で、CTL群と比較してCIEで高レベルのエタノール摂取量が、ビヒクル処置対象で維持された試験サイクル中に明らかであった。カルバマチオンを試験した最初の試験サイクル(試験5)中、薬物は、非依存性(CTL)マウスで、用量関連様式でエタノール摂取量を減少させることが分かったが、依存性(CIE)マウスではエタノール消費量が変化しなかった。その後の試験サイクルでは、より高用量のカルバマチオン(600mg/kg)が、CIE曝露マウスおよびCTLマウスにおいてエタノール摂取量を有意に減少させることが示された。ジスルフィラムも評価して、その効果をカルバマチオンと比較した。ジスルフィラムは、125および150mg/kg用量で、CIE対象とCTL対象の両方においてエタノール摂取量を減少させた。この効果は、その後の試験サイクル(ウォッシュアウト試験)中に全ての対象がビヒクル処置を受けた場合にはもはや観察されなかった。最後に、試験サイクルにわたるビヒクルからの変化%として表されるデータの分析により、カルバマチオン処置が、依存性(CIE)対象よりも非依存性対象で、エタノール摂取量の減少において比較的有効であることが確認された。評価された最高用量のカルバマチオン(600mg/kg)のみが、エタノール依存性マウスでエタノール摂取量の有意な減少をもたらした。まとめると、これらの結果は、カルバマチオンが、エタノール依存性マウスおよび非依存性マウスで自発的エタノール摂取量を用量関連様式で有意に減少させることを示唆している。さらに、カルバマチオンは、エタノール依存性対象と比較して、非依存性対象でのエタノール摂取量の減少において比較的有効であるようである。
【0145】
これらのデータは、カルバマチオン注射に使用されるビヒクルがエタノール消費の減少に対するカルバマチオンの有効性に影響を及ぼすことを実証している。理論に拘束されることを望むものではないが、この差異は、対象に投与されると、Tween(登録商標)80がカルバマチオン吸収を妨害することに起因する可能性がある。さらに、この試験で観察されたカルバマチオン処置の用量依存性は、カルバマチオンの溶解度が低いためであり得る。したがって、カルバマチオンの塩形態の使用が、処置の有効性をさらに改善し得る。
【0146】
実施例2.カルバマチオン(TNX-1001-SM)の合成および特性評価
スキーム1
【化2】
グルタチオン(9.0g、29.28mmol)を秤量し、磁気撹拌子を備えた1L丸底フラスコに移した。H
2O(100mL)およびピリジン(200mL)を添加したところ、出発物質の完全な溶解が観察された。混合物を氷浴中で0℃に冷却し、この温度で30分間撹拌した。
【0147】
ピリジン(80mL)中のジエチルカルバモイルクロリド(11.1mL、87.84mmol)を滴下漏斗に移し、反応物にゆっくり添加した(およそ2時間)。氷水浴を除去し、反応混合物を室温で一晩撹拌した。溶媒をロータリーエバポレーター(浴温.60℃、100mbar)によって完全に除去して、淡黄色ワックス状固体を得た。H2O/EtOH混合物(5/95、800mL)を添加し、反応物を室温で2時間撹拌し、次いで、冷蔵庫(4℃)で一晩保存した。
【0148】
形成された沈殿を真空濾過によって回収し、冷エタノール(100mL)で洗浄し、40℃および50mbarで一晩乾燥させた。白色固体3.46gを回収した(収率=29%)。
1H NMR(400 MHz,D
2O):δ 4.60(dd,1H,J=5.0,8.2 Hz),3.94(s,2H),3.7(t,1H,J=6.4 Hz),3.32-3.46(m,5H),3.18(dd,1H,J=8.2,14.4 Hz),2.42-2.56(m,2H),2.12(quart.,2H,J=7.7 Hz),1.04-1.20(m,6H).
1H NMRスペクトルについては、
図10を参照されたい。試料をXRPDによっても特性評価した(
図11)。TNX1001-SMのXRPDピークを以下の表3に列挙する。
【表3】
【0149】
DSC/TGA
TNX1001-SMのDSC分析は、生成物の融解および分解に帰することができる209.3℃(開始202.2℃)での吸熱事象を示す(
図12)。TGAプロファイルは、200℃超で分解する無水化合物の典型である(
図13)。発生ガス分析(EGA)は、硫化カルボニルの損失と一致した。
【0150】
FT-IR
カルバマチオン(TNX1001-SM)のFT-IRスペクトルを
図14に示す。対応するピークを以下の表4に示す。
【表4】
【0151】
実施例3.塩/共結晶スクリーニング
塩/共結晶スクリーニングをカルバマチオンについて行った。固体または液体ベースの方法を使用して、固体状態粉砕/混練、スラリー熟成、溶液結晶化(飽和溶液からの結晶化および沈殿)および溶媒蒸発を含む塩/共結晶の形成をスクリーニングした。塩の形成を、L-リジン、NaOH、p-トルエンスルホン酸一水和物、硫酸、およびメタンスルホン酸を含む様々なコフォーマーを用いて評価した。当業者であれば、それだけに限らないが、ベンゼンスルホン酸、シクラミン酸、エタンジスルホン酸、エタンスルホン酸、1-ナフタレンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、L-アルギニン、デアノール、コリンおよびジエチルアミン、N-シクロヘキシルスルファミン酸、カンファー-10-スルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、キナルジン酸、ならびに表5に要約されるものを含む他のコフォーマーも試験することができることを認識する。
【表5】
【0152】
遊離カルバマチオン(TNX1001-SM)の溶解度
最初に、遊離カルバマチオンの溶解度を水および一般的な有機溶媒で評価した。試験した一般的な有機溶媒は、ジクロロメタン(DCM)、メタノール、酢酸エチル、エタノール、アセトニトリル、アセトン、2-プロパノールおよびN,N-ジメチルホルムアミドを含んでいた。
【0153】
各溶媒について、50mgのカルバマチオンを秤量して栓付きチューブに入れ、引き続いて0.05mLの試験溶媒をチューブに添加することによって、カルバマチオンの溶解度を評価した。混合物を1分間激しく振盪し、25.0±0.5℃で15分間、恒温デバイスに入れた。カルバマチオンが完全に溶解しなかった場合、激しい振盪を1分間繰り返し、次いで、さらに15分間、恒温デバイスに入れた。カルバマチオンが完全に溶解しなかった場合、カルバマチオンの溶解が観察されるまで追加の溶媒を少しずつ添加した。完全な溶解が観察されない場合、溶液を撹拌下で沸点まで加熱して、高温での溶解度を確認した。溶媒を、表6に記載される群に決定された視覚的溶解度に従って分類した。
【表6】
【0154】
カルバマチオンは、一般的な有機溶媒の全てに極めてわずかに溶け、高温でのみ水にやや溶けにくいことが分かった。
【0155】
出発物質の溶解度特性も考慮しながら、溶媒クラス、極性、沸点および水素結合受容体/供与体傾向に関して結晶化媒体特性を可能な限り変化させるために、いくつかの溶媒を選択した。
【0156】
一部のスラリー実験では、tert-ブチルメチルエーテル(TBME)を貧溶媒として使用した。使用した溶媒の主な物理化学的特性および溶解度試験の結果を以下の表7に列挙する。
【表7】
【0157】
溶解度評価に使用した全ての混合物を、水中の混合物を除いて室温で3日間撹拌した。回収した固体をXRPDによって分析して、試験中に遭遇する可能性があるカルバマチオンの潜在的な多形および/または溶媒和物の存在を調査した。全ての分析した固体が、カルバマチオン出発物質と同じディフラクトグラムを示した。
【0158】
熱水溶液を冷却することによって、数ミリグラムの固体を回収し、分析した;同時に、濾液を高温(60℃)で蒸発させ、得られた固体をXRPDによって分析した。両固体は、カルバマチオン出発物質のものと重ね合わせることができるディフラクトグラムを示した。
【0159】
水中スラリー実験
カルバマチオン(50mg)および1当量のL-リジンを8mLガラスバイアルに秤量した。水(1~2mL)を添加し、混合物を24時間撹拌した。カルバマチオンとL-リジンの等モル混合物は水に可溶であり、24時間の撹拌後に沈殿は観察されなかった。溶液を高温(60℃)で蒸発させ、灰白色固体を単離した。XRPD分析により、新たな誘導体TNX1001-LLYS-NP01の回収が確認された(
図15)。試料を24時間後および4日後に分析し、ディフラクトグラム間の比較は、周囲条件下での試料の良好な安定性を強調した(
図16)。
【0160】
水中スラリー実験を、コフォーマーとしてNaOHを用いて繰り返した。カルバマチオン(50mg)および1当量のNaOHを8mLガラスバイアルに秤量した。水(1~2mL)を添加し、混合物を24時間撹拌して、透明な溶液を得た。液体を蒸発させて、粘着性の固体/油を形成させ、これをTBME中、50℃で3日間さらにスラリー化した。コフォーマーとしてNaOHを用いて行われたスラリー実験から得られた白色固体をXRPDによって分析すると、非晶質相の形成が明らかになった(
図17)。
【0161】
メタノール中スラリー実験
スラリー実験をメタノール中で繰り返した。カルバマチオン(TNX1001-SM)(50mg)および1当量のL-リジンを、磁気撹拌子を備えた8mLガラスバイアルに秤量した。メタノール(1~2mL)を添加し、混合物を室温でおよそ24時間撹拌したままにした。
【0162】
24時間撹拌した後、固体を収集し、XRPDによって分析したところ、新たな回折パターンが観察された(
図18)。この新たなパターンをTNX1001-LLYS-NP02と表示した。固体を真空下(50mbar)、40℃で18時間乾燥させ、乾燥した試料のXRPD分析は、誘導体TNX1001-LLYS-NP01の存在と適合するディフラクトグラムを示した(水中スラリー実験参照)が、TNX1001-LLYS-NP02の存在に帰することができる一部の残留ピークが依然として明らかであった(
図19の矢印で強調表示)。乾燥ステップ後、試料を24時間湿度に曝露し、ディフラクトグラムを再度取得した。
図20に示されるように、試料は自発的に初期形態TNX1001-LLYS-NP02に変換した。
【0163】
ジクロロメタン中スラリー実験
スラリー実験をジクロロメタン(DCM)中で繰り返した。カルバマチオン(50mg)および1当量のL-リジンを8mLガラスバイアルに秤量した。DCM(1~2mL)を添加し、混合物を室温で1日撹拌したままにした。
【0164】
24時間撹拌した後、固体を回収し、XRPDによって分析した。回収されたままの、メタノールスラリー実験で観察された新たな誘導体、TNX1001-LLYS-NP02(
図21)。
【0165】
コフォーマーとしてp-トルエンスルホン酸一水和物(TSA)を使用して、ジクロロメタンスラリー実験を繰り返した。カルバマチオン(50mg)および1当量のTSAを8mLガラスバイアルに秤量した。DCM(1~2mL)を添加し、混合物を室温で1日撹拌したままにすると、透明な溶液が得られた。液体を高温(60℃)で蒸発させ、粘着性固体を得た。粘着性固体を50℃でTBME中でさらにスラリー化して、白色固体を回収した。XRPDによる白色固体の分析により、非晶質相の形成が明らかになった(
図22)。
【0166】
混練
カルバマチオン、1当量のL-リジンおよび触媒量の水(10μL)を、Retsch MM 200粉砕機で20分間、30Hzの周波数でボールミル粉砕することによって粉砕した。次いで、固体を収集し、XRPDによって分析した。得られたディフラクトグラムは、メタノールおよびジクロロメタンを用いたスラリー実験で以前に観察されたL-リジン誘導体(TNX1001-LLYS-NP02)の回収を明らかにした(
図23)。
【0167】
混練実験を、独立に1当量の硫酸(SFA)およびメタンスルホン酸(MSA)を用いて繰り返した。これらの実験から、非晶質XRPDプロファイルを示した粘着性固体を回収した(
図24)。
【0168】
コフォーマーとしてHClを用いた実験
TNX1001-SM(100mg)を秤量し、磁気攪拌棒を備えた50mL丸底フラスコに移した。メタノール(5mL)およびHCl 37%(1当量、20.2μL)を添加すると、透明な溶液が直ちに実現された。溶媒をロータリーエバポレーター(浴温40℃、70mbar)によって除去すると、粘着性油が得られた。シクロヘキサン(20mL)を粘着性油に添加し、その後、ロータリーエバポレーターによって除去した。HCl 37%を含有する微量の水を除去するために、シクロヘキサンの添加および除去を3回繰り返した。最後に、粘着性油を油ポンプ(0.1mbar)によって室温で一晩乾燥させた。
【0169】
回収されたガラス状固体は高い吸湿性を示し、XRPD分析によって非晶質プロファイルの回収が確認された(
図25)。
【0170】
結果の要約
TNX1001およびL-リジン付加物に関連する2つの新たなXRPDパターンを同定し、TNX1001-LLYS-NP01およびTNX1001-LLYS-NP02と表示した。
【0171】
コフォーマーとしてNaOH、p-トルエンスルホン酸一水和物、硫酸、メタンスルホン酸およびHClを使用する実験から、5種の非晶質材料を得た。
【0172】
TNX1001-LLYS-NP01に関連する新たな固相を、等モル比のTNX1001-SMとL-リジンの水溶液の高温(60℃)での蒸発によって回収した。この時間の後に再度取得した試料のXRPDディフラクトグラムに明らかな差が観察されなかったので、パターンが最大4日の周囲条件下で安定であることが判明した。
【0173】
実験を50mgの出発物質で繰り返し、150mgにスケールアップして、新たな誘導体の回収を確認した。試料TNX1001-LLYS-NP01-150mgを完全に特性評価した(以下の新たなパターンの特性評価参照)。この付加物は、遊離カルバマチオンと比較して、水溶性の明らかな改善を示した。
【0174】
特に、TNX1001-SMとL-リジンコフォーマーの等モル混合物をメタノールまたはジクロロメタン中室温で24時間スラリー化した場合、有機媒体中でL-リジンを用いて行った実験から、第2の新たな回折パターンも観察された(TNX1001-LLYS-NP02)。メタノール中スラリー実験から回収した試料(TNX1001-LLYS-1-1-SL-MET)を50mbarおよび40℃で一晩さらに乾燥させると、TNX1001-LLYS-NP01への変換が観察されたが、微量のNP02が依然として明らかであった。乾燥した試料を湿度に曝露すると、XRPD分析によって確認されるように、およそ24時間後にNP01形態がNP02形態に再変換する。
【0175】
TNX1001-LLYS-NP02に起因する回折パターンは、TNX1001-SMとL-リジンとの等モル混合物を室温で24時間DCM中でスラリー化し、触媒量の水と混練した後に回収された固体についても観察された。
【0176】
2つの異なる溶媒からの同じ固体形態の回収は、生成物が溶媒和形態ではないことを示唆している。さらに、乾燥によって観察された変換、引き続いて湿度への曝露後の再変換が、この仮定を確認し、新たなカルバマチオンリジン塩の水和物誘導体の存在を通知する。
【0177】
新たなパターンの特性評価
新たな誘導体、TNX1001-LLYS-NP01の合成を行って、その完全な特性評価を容易にした。TNX1001-SM(150mg)およびL-リジン(1当量、54mg)を、磁気撹拌子を備えたバイアルに正確に秤量した。H
2O(3ml)を添加し、混合物を透明な溶液が得られるまで室温で4時間撹拌した。溶液を、0.45μm RCフィルタを通して濾過し、濾液を高温(60℃)で蒸発させた。回収された灰白色固体を、XRPD分析によって水中スラリー実験から得られた試料と比較して、所望の誘導体の回収を確認した(
図26)。表8に概説される方法を使用して生成物を完全に特性評価した(
図27~
図33参照)。XPRDピークを以下の表9に列挙する。
【表8】
【表9-1】
【表9-2】
【0178】
DSC/TGA
試料TNX1001-LLYS-NP01のDSCプロファイルは、生成物の融解/分解に帰することができる234.4℃(開始224.2℃)での単一吸熱事象を示す(
図28)。TGAプロファイルは、200℃超で分解する無水化合物の典型である(
図29)。EGAは、硫化カルボニルの損失と一致した。
【0179】
FT-IR
試料TNX1001-LLYS-NP01のFT-IRスペクトルは
図30に対応する。対応するFT-IRピークリストを以下の表10に報告する。カルバマチオン出発物質(TNX1001-PM-1-224)との比較を
図31に報告する。2つのスペクトルは、いくつかの相違を示した。最も重要なのは、おそらくカルバマチオン中の新たなカルボキシレート部分の形成により、カルバマチオン出発物質のスペクトル中に明らかな1675cm
-1のバンドが存在しないこと、ならびにL-リジンのカルボキシレート部分に帰することができる1579cm
-1および1537cm
-1の2つの新たな伸長バンドが存在することである(
図32)。
【表10】
【0180】
1H NMR
1H-NMRにより、カルバマチオンの構造的完全性および1:1の化学量論比でのL-リジンの存在が確認された。NMRスペクトルは
図33に対応する。
1H-NMR(D
2O,400 MHz,温度:25°C);δ:4.61(dd,1H,J=4.8,8.4 Hz),3.65-3.78(m,4H),3.42(dd,1H,J=4.8,14.4 Hz),3.38(quart.,2H,J=7.2 Hz),3.37(quart.,2H,J=7.2 Hz),3.17(dd,1H,J=8.4,14.4 Hz),2.99(t,2H,J=7.6 Hz),2.42-2.56(m,2H),2.06-2.18(m,2H),1.80-1.94(m,2H),1.69(quint.,2H,J=7.6 Hz),1.32-1.56(m,2H),1.01-1.22(m,6H).
TNX1001-LLYS-NP02の特性評価
【0181】
TNX1001-LLYS-NP02をXRPD(
図34参照)によって特性評価した。XRPDピークを以下の表11に列挙する。
【表11-1】
【表11-2】
【0182】
実施例4.TNX1001-LLYS NP01の吸湿性
無水カルバマチオンリジン塩(TNX1001-LLYS-NP01)を動的水蒸気吸着(DVS)分析に供した(
図35)。等温線プロットは、相対湿度(RH)60%と70%との間の吸着曲線における質量の急激な増加を示す。同様に、脱着曲線は、30%および20%RHの間の質量の明確な減少を示す。この挙動は、水和物種を形成する化合物と一致する。さらに、70%RHでおよそ6.1% w/wの水取り込みに基づいて、塩の水和形態はおそらく二水和物種である(
図36)。
【0183】
吸脱着サイクルを2回実施した。得られた吸着曲線は、ほぼ完全に重なり合い、水和種を形成するための水取り込み、および無水種(anhydrous species)を再形成するための水放出が可逆的に起こることを示唆している。
【0184】
試料を、PXRD、1H NMR分光法、およびDVS分析後の質量分析によって特性評価し、無水カルバマチオンリジン塩(TNX1001-LLYS NP01)の単離を確認した。
【0185】
実施例5.安定性試験
およそ50mgの無水カルバマチオンリジン塩を、PTFE/シリコーン隔壁でクリンプしたガラスバイアルに入れ、所望の温度および湿度で1か月間保存した。塩:40℃で75%RHのNaClおよび25℃で60%RHのNaBrの飽和溶液を使用して、湿度制御を実現した。保存後、試料をXRPD分析によって分析した。各安定性試験を2連で行った。
【0186】
25℃および60%RHで1か月間保存した後、出発物質と比較してXRPDパターンに有意差は観察されず、無水カルバマチオンリジン塩がこれらの条件下で安定であることを実証した。
【0187】
40℃および75% RHで1か月間保存した後、出発物質と比較してXRPDパターンに有意差は観察されず、無水カルバマチオンリジン塩がこれらの条件下で安定であることを実証した。
【0188】
実施例6.溶解度試験
3つの異なるpH値での10~80℃の間の無水カルバマチオンリジン塩の溶解プロファイルを評価して、25℃におけるTNX1001-LYSの溶解度の近似値を外挿した。
【0189】
3つの異なる緩衝液を、欧州薬局方の手順(pH1.2)に従って、または市販の濃縮緩衝液(pH4.5および6.8)を希釈することによって調製した。
【0190】
市販の濃縮溶液(Reagecon)をHPLCグレードの水で希釈することによって、pH6.8のリン酸緩衝液を調製した。1M NaOH溶液を使用して最終pHを調整した。
【0191】
市販の濃縮溶液(Reagecon)をHPLCグレードの水で希釈することによって、pH4.5の酢酸緩衝液を調製した。濃酢酸および1M NaOH溶液を使用して最終pHを調整した。
【0192】
NaCl(0.2M、125mL)およびHCl(0.2M、212.5mL)溶液を混合し、引き続いて体積を500mLに調整することによって、pH1.2の緩衝液を調製した。1M NaOH溶液でpHを調整した。
【0193】
溶解温度の決定は、自動反応器システムCrystal16で実施した。このシステムは、温度の慎重な制御を可能にし、固体の完全な溶解の検出を可能にする濁度計を備えている。適切な量の化合物を、磁気攪拌棒を備えた1.5mLバイアル中に正確に秤量した。選択した緩衝液を冷蔵庫で予冷し、適量をバイアルに添加した。懸濁液を10℃で予冷した自動反応器システムに入れ、600rpmで撹拌した。温度を5分間一定に保ち、系を平衡化させた。次いで、透明な溶液が得られるまで、温度を0.5℃/分で上昇させた。各pHについて、濃度を増加させた4つの溶液を調製し、同じ温度プログラムに供した。
【0194】
pH6.8での溶解度
TNX1001-LLYS濃度がそれぞれ199mg/mL、222mg/mL、340mg/mLおよび397mg/mLである溶液のpH6.8での溶解度を評価した。最も希薄な2つの溶液は、10℃での平衡化期間中に透明になった。他の2つのより濃縮された溶液については、24℃および33℃の溶解温度が観察された。
【0195】
無水カルバマチオンリジン塩の溶解度を遊離カルバマチオンと比較するために、既知量の固体を5mLの緩衝液に少しずつ添加することによって、遊離カルバグルタチオンの溶解度を25℃で評価した。100mgの遊離カルバマチオンが5mLの緩衝液に完全に溶解したので、遊離カルバマチオンの溶解度は、20~30mg/mLの間であると決定されたが、その後、固体の50mgアリコートを溶液に添加すると飽和溶液が形成された。
【0196】
入手可能な2つの実験点を考慮して、線形近似によって、25℃でのTNX1001-LYSの溶解度を推定した(
図37)。これは理論的な観点からは正確ではないが、24℃での実験値が近いため、この単純な近似を用いて、生じる誤差を制限した。
【0197】
データを表12に報告する。TNX1001-LLYと遊離カルバマチオンの溶解度の比較は、およそ10%の溶解度増加を実証する。
【表12】
【0198】
pH4.5での溶解度
TNX1001-LLYS濃度がそれぞれ249mg/mL、299mg/mL、356mg/mLおよび401mg/mLである溶液のpH4.5での溶解度を評価した。最も希薄な溶液は、10℃での平衡化期間中に透明になった。TNX1001-LLYS濃度がそれぞれ299mg/mL、356mg/mLおよび401mg/mLである溶液について、16℃、26℃および33℃の溶解温度が観察された。
【0199】
無水カルバマチオンリジン塩の溶解度を遊離カルバマチオンと比較するために、既知量の固体を5mLの緩衝液に少しずつ添加することによって、遊離カルバグルタチオンの溶解度を25℃で評価した。50mgの遊離カルバマチオンが5mLの緩衝液に完全に溶解したので、遊離カルバマチオンの溶解度は、10~20mg/mLの間であると決定されたが、その後、固体の50mgアリコートを溶液に添加すると飽和溶液が形成された。
【0200】
入手可能な3つの実験点を考慮して、線形近似によって、25℃でのTNX1001-LYSの溶解度を推定した(
図38)。これは理論的な観点からは正確ではないが、26℃での実験値が近いため、この単純な近似を用いて、生じる誤差を制限した。
【0201】
データを表13に報告する。TNX1001-LLYSと遊離カルバマチオンの溶解度の比較は、およそ17%の溶解度増加を実証する。
【表13】
【0202】
pH1.2での溶解度
TNX1001-LLYS濃度が297mg/mL、349mg/mL、400mg/mLおよび455mg/mLである溶液のpH1.2での溶解性を試してみた。しかしながら、試験した実験条件下では、おそらく緩衝液中に存在するHClによるリジンプロトン化のために、リジン誘導体は安定ではなく、親カルバマチオンに変換された。
【0203】
試験した最も希薄な試料(297mg/mL)は10℃でほぼ完全に溶解したが、遊離カルバマチオンの再沈殿が同じ温度で急速に起こることが観察された。
【0204】
溶解温度を推定しようとして、懸濁液を1.5mLに希釈し、80℃まで0.5℃/分で加熱したが、完全な溶解は起こらなかった。温度を90℃に上昇させると、いずれの場合も透明な溶液の形成が観察されたが、溶解度曲線を構築するための信頼できるデータを収集することができなかった。
【0205】
固体溶解後、透明な溶液をRTに自然に冷却した。沈殿した固体のXRPD分析を実施し、遊離カルバマチオンの沈殿がいずれの場合も起こったことを確認した。
【0206】
【0207】
TNX 1001-LYSについての推定溶解度データおよび親カルバマチオンとの比較の結果を以下の表15に要約する。収集したデータは、pH6.8および4.5で、親カルバマチオンと比較して、リジン誘導体の溶解度のおよそ一桁の増加を示す。pH1.2での溶解度の測定は、固体の最初の速い溶解後、遊離カルバマチオン(carbamarhione)の再沈殿が急速に起こったため不可能であった。
【表15】
【0208】
実施例7.多形スクリーニング
TNX1001-LLYS-NP01およびTNX1001-LLYS-NP02の調製をスケールアップして、多形スクリーニング調査で使用するためのバッチ(およそ50g)を製造する。
【0209】
溶媒溶解度スクリーニング
TNX1001-LLYS-NP01およびTNX1001-LLYS-NP02の多形に対する様々な溶媒の影響を評価する。最初に、TNX1001-LLYS-NP01およびTNX1001-LLYS-NP02の視覚的溶解度を、欧州薬局方に記載されている手順に従って独立に評価する。TNX1001-LLYS-NP01およびTNX1001-LLYS-NP02の視覚的溶解度による溶媒の分類を、表16に記載される群に基づいて決定する。
【表16】
【0210】
蒸発
TNX1001-LLYS-NP01およびTNX1001-LLYS-NP02を、溶媒の各々で独立に評価する。50mgの試料を5mLの各溶媒に溶解する。溶液をおよそ60分間撹拌する。溶液をWhatman 0.45μmフィルタで濾過し、放置して蒸発させる。実験は、化合物が極めてよく溶ける、自由に溶ける、溶ける、およびやや溶けにくい溶媒中で実施する。蒸発条件は、低温(4~10℃)、室温(17~25℃)、高温(40~60℃)、および1atm未満、または減圧(10-2atm)の範囲とする。
【0211】
一連の二成分溶媒混合物を、溶解度データ、溶媒混和性および単一溶媒蒸発実験の結果に基づいて、さらなる蒸発実験のために定義する。
【0212】
やや溶けにくいと分類される試料については、飽和溶液の蒸発を以下のように実施する:試料(最大300mg)を室温で溶解することによって、3mLの飽和溶液を調製する。溶液をWhatman 0.45μmフィルタで濾過し、放置して蒸発させる。得られた固体を収集し、XRPDによって分析する。
【0213】
スラリー実験
TNX1001-LLYS-NP01またはTNX1001-LLYS-NP02が10g/L以下の選択された溶媒への溶解度を有する場合、スラリー実験を実施する。塩(30~50mg)を600~1500μLの単一溶媒に懸濁し、様々な条件下、およそ350rpmで撹拌する。この実験で使用される条件の例は以下の通りである:
● 室温(25℃)で3日間
● 高温(50℃)で3日間
● 室温(25℃)で15日間
● 記載される可変温度で3日間
○ 20℃/時間で10℃から50℃まで
○ 50℃で3時間
○-20℃/時間で50℃から10℃まで
○ 10℃で3時間
○ 10℃/時間で10℃から50℃まで
○ 50℃で3時間
○-10℃/時間で50℃から10℃まで
○ 10℃で3時間
○ 5℃/時間で10℃から50℃まで
○ 50℃で3時間
○-5℃/時間で50℃から10℃まで
○ 10℃で3時間
○ 10℃/時間で10℃から25℃まで
○ 25℃で24時間
【0214】
懸濁液を回収し、真空下で濾過し、XRPDによって分析する。
【0215】
スラリー実験を溶媒の混合物でも実施する。塩(40mg)を4mLの予め調製した溶媒の混合物に懸濁し、およそ350rpmで撹拌したままにする。スラリーを長期間、様々な温度で撹拌する。一例として、スラリーを室温(25℃)で7日間または高温(50℃)で3日間撹拌する。懸濁液を回収し、真空下で濾過する。得られた固体をXRPDによって分析する。
【0216】
沈殿
沈殿実験のための溶媒は、様々な溶媒へのTNX1001-LLYS-NP01およびTNX1001-LLYS-NP02の溶解度データに基づいて選択する。沈殿実験で使用される方法には、例として、貧溶媒添加による沈殿、または勾配温度による沈殿が含まれる。
【0217】
貧溶媒添加による沈殿のために、出発物質(TNX1001-LLYS-NP01またはTNX1001-LLYS-NP02のいずれか)を室温で溶媒に懸濁して、懸濁液を得る。懸濁液を一晩撹拌したままにし、引き続いてWhatmanフィルタ(0.45μm)で濾過して透明な溶液を得る。透明溶液と貧溶媒の混合を、以下の方法のいずれか1つで実施する:
● 室温で磁気撹拌しながら、貧溶媒を溶液に滴下添加する(PAD);
● 室温で磁気撹拌しながら、溶液を貧溶媒に滴下添加する(PAI);
● 飽和溶液を、室温で7~10日間、低沸点貧溶媒の蒸気に曝露する(PASD)。
【0218】
得られた沈殿を真空下で濾過し、XRPDによって分析する。沈殿が形成しない場合、溶液を低温(8℃)で24時間保存する。沈殿が生じない場合、溶液を-20℃で24時間放置する。得られた固体を収集し、XRPDによって分析する。
【0219】
勾配温度による沈殿実験のために、TNX1001-LLYS-NP01またはTNX1001-LLYS-NP02の懸濁液を100℃(溶媒沸点によって許容される)に加熱して完全な溶解を誘導する。次いで、溶液を冷却する。冷却プロセスは、様々な方法に従って行うことができる。例えば、熱溶液を、
● 0.5℃/分の傾斜を適用して10℃に冷却し、次いで、傾斜の最後からおよそ30分後に沈殿を真空下で回収する(PSS);
● 氷浴中で急冷することによって10℃で冷却し、引き続いて沈殿事象から5~10分後に真空下で沈殿を回収する(PSF);
● 25℃で冷却し、引き続いて沈殿事象から5~10分後に真空下で沈殿を回収する(PPT_RT)。
【0220】
得られた沈殿を真空下で濾過し、XRPDによって分析する。沈殿が形成しない場合、溶液を低温(8℃)で24時間保存する。沈殿が生じない場合、溶液を-20℃で24時間放置する。得られた固体を収集し、XRPDによって分析する。
【0221】
新たな形態の完全な物理的特性評価
全ての新たな結晶相について、結晶化手順の再現性が実行される。それらの安定性の予備評価を様々な条件下で行う。例えば、試料を室温、圧力および相対湿度の条件で放置する。さらに、試料の安定性を、密封バイアル内で室温で7日間保存した後に評価する。十分な安定性を示す相について、適切な量の試料を、当技術分野で周知の方法によって特性評価する。例えば、XRPD、FT-IR/FT-ラマン、DSC、TGA-EGA、DVS、DF、粉砕および/もしくは混練後ならびに/または25℃/60% RH/7日間での保存後および/もしくは60℃/75% RH/3日間での保存後のXRPD。分子の完全性を再結晶または他の適切な手順によって評価し、単離された形態の相互変換図を使用して最も安定な結晶形態を同定する。
【国際調査報告】