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特表2022-528388強誘電体材料の薄い層を準備する方法
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  • 特表-強誘電体材料の薄い層を準備する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-10
(54)【発明の名称】強誘電体材料の薄い層を準備する方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 41/337 20130101AFI20220603BHJP
   H01L 21/02 20060101ALI20220603BHJP
   H01L 41/187 20060101ALI20220603BHJP
【FI】
H01L41/337
H01L21/02 B
H01L21/02 C
H01L41/187
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2021557768
(86)(22)【出願日】2020-03-26
(85)【翻訳文提出日】2021-09-28
(86)【国際出願番号】 EP2020058460
(87)【国際公開番号】W WO2020200986
(87)【国際公開日】2020-10-08
(31)【優先権主張番号】1903359
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507088071
【氏名又は名称】ソイテック
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アレクシス ドルーアン
(72)【発明者】
【氏名】イザベル フイエ
(72)【発明者】
【氏名】モーガン ロジウ
(57)【要約】
本発明は、強誘電体材料のモノドメイン薄層を準備するための方法に関する。この方法は、脆化面を形成し、脆化面と基板の第1の面との間に第1の層を規定するために、強誘電体ドナー基板の第1の面に光種を注入する。誘電体アセンブリ層を用いて、ドナー基板の第1の面を支持基板と組み立て、脆化面でドナー基板を破壊する。誘電体アセンブリ層(7b)は、第1の層(3)よりも低い水素濃度を有する若しくは第1の層への水素の拡散を防止する酸化物を含むか、又は、誘電体アセンブリ層(7b)は、水素の拡散を防止するバリアを含む。また準備方法は、第1の層に含まれる水素を拡散させ、この第1の層の表面部分のマルチドメイン変換を引き起こし、続いて少なくとも表面部分を除去するための第1の層を薄くするために、第1層の自由面の熱処理を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
強誘電体材料の薄いモノドメイン層(10)を準備するための方法であって、
強誘電性ドナー基板(1)の第1の面(4)に光種を注入して脆化面(2)を形成し、前記脆化面(2)と前記第1の面(4)との間に第1の層(3)を規定するステップと、
誘電体アセンブリ層(7b)を用いて、前記ドナー基板(1)の前記第1の面(4)を支持基板(7)に組み立てるステップと、
前記第1の層(3)を前記支持基板(7)に転写し、前記第1の層(3)の自由面(8)を露出させるために、前記脆化面(2)で前記ドナー基板(1)を破壊するステップと、
前記第1の層(3)を仕上げ、前記仕上げは、前記第1の層(3)の前記自由面(8)の熱処理、続いて前記第1の層(3)を薄くして薄いモノドメイン層(10)を形成するステップと
を含み、
前記誘電体アセンブリ層(7b)は、前記第1の層(3)よりも低い水素濃度を有する若しくは前記第1の層への水素の拡散を防止する酸化物を含み、又は、前記誘電体アセンブリ層(7b)は、前記第1の層(3)に向かって水素の拡散を防止するバリアを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記薄くすることは、前記第1の層(3)の前記自由面(8)に適用される化学機械研磨を含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記熱処理は、30分から10時間との間の期間で、300℃と前記第1の層(3)を構成する強誘電体材料のキュリー温度との間の温度で実施されることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記熱処理は、酸化性または中性のガス状雰囲気下で実施されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
前記ドナー基板(1)は、LiTaO3またはLiNbO3から選択される強誘電性材料を含むことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
前記強誘電体材料は、30°と60°RYとの間の結晶方向を有することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
前記支持基板(7)の材料は、シリコンであることを特徴とする請求項1から6のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
前記ドナー基板(1)は、固体材料のブロックであることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
前記ドナー基板(1)は、マニピュレータ基板(1b)上に配置された強誘電体材料の厚い層(1a)を含むことを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1つに記載の方法。
【請求項10】
前記マニピュレータ基板(1b)は、前記支持体(7)の熱膨張係数と同一又はそれに近い熱膨張係数を有することを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記第1の層(3)の材料および前記支持基板(7)の材料は、異なる熱膨張係数を有することを特徴とする請求項1ないし10のいずれか1つに記載の方法。
【請求項12】
前記誘電体アセンブリ層(7b)は、0.01または0.05以上の窒素/酸素比の窒素を有する酸化物を含むことを特徴とする請求項1ないし11のいずれか1つに記載の方法。
【請求項13】
前記誘電体アセンブリ層(7b)は、0.01と0.25との間、又は、0.05と0.01との間の窒素/酸素比の窒素を有する酸化ケイ素を含むことを特徴とする請求項1ないし12のいずれか1つに記載の方法。
【請求項14】
前記誘電体アセンブリ層(7b)は、前記支持基板(7a)の側面に配置された第1の酸化物層と、前記第1層(3)の側面に配置された窒化ケイ素の層とを含むスタックによって形成されたことを特徴とする請求項1ないし13のいずれか1つに記載の方法。
【請求項15】
強誘電体材料層(10)の薄い完全モノドメイン層と、
前記薄層(10)と接触し、前記薄層(10)への水素の拡散を防止する酸化物を含む、又は前記第1の層(3)への水素の拡散を防止するバリアを含む、誘電体アセンブリ層(7b)と、
前記誘電体層と接触している支持体(7)と
を備えたことを特徴とする装置。
【請求項16】
前記支持体基板(7)は、前記支持体の固体部分(7a)と前記誘電体アセンブリ層(7b)との間に配置された電荷トラップ層(7c)を備えたことを特徴とする請求項15に記載の装置。
【請求項17】
前記誘電体アセンブリ層(7b)は、0.01又は0.05以上の窒素/酸素比の窒素を有する酸化物を含むことを特徴とする請求項15又は16に記載の装置。
【請求項18】
前記誘電体アセンブリ層(7b)は、0.01と0.25との間、又は、0.05と0.01との間の窒素/酸素比の窒素を有する酸化ケイ素を含むことを特徴とする請求項15ないし17のいずれか1つに記載の装置。
【請求項19】
前記誘電体アセンブリ層(7b)は、前記支持基板(7a)の側面に配置された第1の酸化物層と、前記第1層(3)の側面に配置された窒化ケイ素の層とを含むスタックによって形成されたことを特徴とする請求項15ないし18のいずれか1つに記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強誘電体材料の薄層を準備するための方法に関する。より具体的には、本発明は、最終製品の薄層において強誘電体材料のモノドメインの性質を維持することを可能にする準備方法に関する。この準備方法は、例えば、マイクロエレクトロニクス、マイクロメカニックス、フォトニクスなどの分野で使用される。
【背景技術】
【0002】
前文では、強誘電体材料は、自然状態で電気分極を有する材料であり、その分極は、外部電界を印加することによって逆転させることができることに留意されたい。“強誘電性ドメイン”とは、分極が均一である材料の各連続領域を指す(すべての双極子モーメントが所定の方向に互いに平行に整列している)。したがって、強誘電体材料は、この材料が、分極が均一である単一の領域によって形成される場合は「モノドメイン」として、または強誘電体材料が、異なる分極を有する複数の領域を含む場合は「マルチドメイン」として特徴付けることができる。
【0003】
強誘電性材料の薄層を形成するための様々な方法が最先端技術から知られている。これは、例えば、分子線エピタキシー、プラズマスパッタリング、レーザパルス蒸着、またはSmartCut(商標)技術の適用を使用する技術であり、光種の注入によって固体基板に形成される脆弱なゾーン(または脆化面)で破壊することによって、強誘電体材料の固体基板から薄層が除去される。
【0004】
本発明は、より具体的には、そのような方法を適用することによって得られる薄い強誘電体層の準備に関する。特許文献1は、水素の注入を実施する方法によって転写されたタンタル酸リチウムの強誘電体層が、マルチドメイン層の形成につながることに留意している。このような機能は、薄層上/薄層内に形成されるデバイス、たとえば弾性表面波デバイス(SAW)のパフォーマンスに影響を与えるため、層を使用に適さないものにする。
【0005】
特許文献2は、中間層によって、およびスマートカット法の適用によって、支持体上に転写された薄い強誘電体層の仕上げを開示している。一例では、この仕上げは、薄層の熱処理とそれに続く研磨を含む。この文書によると、このシーケンスにより、薄い強誘電体層の初期のモノドメイン特性を復元することができる。しかしながら、出願人によって実施された追加の分析は、この仕上げシーケンスだけでは、その厚さ全体、すなわち、中間層との界面からその自由表面までの層のモノドメインの性質を保証できないことを示した。より具体的には、PFMを使用したこれらの分析(「ピエゾレスポンスフォース顕微鏡」)測定は、一般に測定面から約50nmの深さにわたって行われ、薄層の表面部分は確かにモノドメインであるが、中間層と並置された埋め込み部分はマルチドメインであることが確認された。この「埋もれた」PFM測定を実行するために、この中間層の測定面に近づくために、化学機械研磨によって層を徐々に薄くした。
【0006】
特許文献3はまた、スマートカット技術を使用して強誘電体材料の薄層を製造するための方法を開示している。この文書では、前述の特許文献1と同様に、支持基板上に除去および転写される層は、そのモノドメイン強誘電特性を改善または回復するために、それを電界にさらすことによって準備される。そのような処理は、例えば、この層と電気的に接触して処理される強誘電体層のいずれかの側に配置された一対の電極の存在を必要とする。特に強誘電体層が電気絶縁基板上または電気絶縁層上に転写される場合、そのような一対の電極を有することが常に可能であるとは限らない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】US20100088868
【特許文献1】FR3068508
【特許文献3】FR2914492
【特許文献4】FR2860341
【特許文献5】FR2933233
【特許文献6】FR2953640
【特許文献7】US2015115480
【発明の概要】
【0008】
本発明の目的は、少なくとも前述の欠点に部分的に対処する強誘電体材料の薄層を準備するための方法を提案することである。それは、より具体的には、光種を注入するステップを実施する強誘電体材料の層を転写する方法、転写された層のモノドメイン品質をその厚さ全体にわたって保存または回復することができる方法に関する。したがって、層形成法では、後者を電界にさらしてそのモノドメイン品質を回復する必要はなく、それを電気絶縁基板上に転写するか、または誘電体層を設けることができる。
【0009】
この目的を達成するために、本発明の主題は、以下のステップを含む強誘電体材料の薄いモノドメイン層を準備するための方法は、
強誘電性ドナー基板の第1の面に光種を注入して脆化面を形成し、前記脆化面と前記ドナー基板の前記第1の面との間に第1の層を規定することと、
誘電体アセンブリ層を用いて、前記ドナー基板の前記第1の面を支持基板に組み立てることと、
前記第1の層を前記支持基板上に転写し、前記第1の層の自由面を露出させるために、前記脆化面で前記ドナー基板を破壊することと、
前記第1の層を仕上げ、該仕上げは、前記第1の層の前記自由面の熱処理、続いて前記第1の層を薄くして前記薄いモノドメイン層を形成することと、
を含む。
【0010】
本発明によれば、酸化物を含む前記誘電体アセンブリ層は、前記第1の層よりも低い水素濃度を有するか、又は前記第1の層への水素の拡散を防止するか、または前記誘電体アセンブリ層は、前記第1の層への前記水素の拡散を防止するバリアを含む。
【0011】
驚くべきことに、この正確な一連の準備ステップは、前記アセンブリ層の特定の性質と組み合わされて、その厚さ全体にわたってモノドメイン分極を有し、満足のいく結晶および表面品質を有する最終的な薄層の形成をもたらす。
【0012】
本発明の他の有利で制限のない特性によれば、単独で、または技術的に実現可能な任意の組み合わせで取得される:
前記薄くすることは、前記第1の層の前記自由面に適用される化学機械研磨を含む。
【0013】
前記熱処理は、300℃と前記第1層を構成する前記強誘電体材料のキュリー温度との間の温度で、30分と10時間との間の期間で実施される。
【0014】
前記熱処理は、酸化性または中性のガス状雰囲気下で実施される。
【0015】
前記ドナー基板は、LiTaO3又はLiNbO3から選択された強誘電体材料を含む。
【0016】
前記強誘電体材料は、30°RYと60°RYとの間の結晶方向を有する。
【0017】
前記支持基板の材料は、シリコンである。
【0018】
前記ドナー基板は、固体材料のブロックである。
【0019】
前記ドナー基板は、マニピュレータ基板上に配置された強誘電体材料の厚い層を含む。
【0020】
ここで、前記マニピュレータ基板は、前記支持体の熱膨張係数と同一またはそれに近い熱膨張係数を有する。
【0021】
前記第1層の前記材料と前記支持基板の前記材料は、異なる熱膨張係数を有する。
【0022】
前記支持基板は、電荷トラップ層を備えている。
【0023】
前記誘電体アセンブリ層は、0.01又は0.05以上の窒素/酸素比の窒素を有する酸化物を含む。
【0024】
前記誘電体アセンブリ層は、0.01と0.25との間、又は、0.05と0.01との間の窒素/酸素比の窒素を有する酸化ケイ素を含む。
【0025】
前記誘電体アセンブリ層は、前記支持基板の側面に配置された第1の酸化物層と、前記第1の層の側面に配置された窒化ケイ素の層とを含むスタックによって形成される。
【0026】
別の態様によれば、本発明は、
強誘電体材料層の薄い完全モノドメイン層と、
前記薄層と接触し、前記薄層への水素の拡散を防止する酸化物を含む、又は、前記第1の層への水素の拡散を防止するバリアを含む、誘電体アセンブリ層と、
前記誘電体層と接触している支持体と
を含む装置を提案する。
【0027】
本発明のこの態様の他の有利で非限定的な特徴によれば、単独で、または技術的に実現可能な任意の組み合わせで、
前記支持基板は、前記支持体の固体部分と前記誘電体アセンブリ層との間に配置された電荷トラップ層を備え、
前記誘電体アセンブリ層は、0.01又は0.05以上の窒素/酸素比の窒素を有する酸化物を含む。
【0028】
前記誘電体アセンブリ層は、0.01と0.25との間、又は、0.05と0.01との間の窒素/酸素比の窒素を有する酸化ケイ素を含む。
【0029】
前記誘電体アセンブリ層は、前記支持基板の側面に配置された第1の酸化物層と、前記第1の層の側面に配置された窒化ケイ素の層とを含むスタックによって形成される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
本発明の他の特徴および利点は、以下の本発明の詳細な説明から明らかになり、その説明は添付の図面を参照して与えられる。
図1】1Aは、本発明による方法の第1の実施形態を示す説明図である。1Bは、本発明による方法の第1の実施形態を示す説明図である。1Cは、本発明による方法の第1の実施形態を示す説明図である。1Dは、本発明による方法の第1の実施形態を示す説明図である。
図2】2Aは、本発明による方法の第2の実施形態を示す説明図である。2Bは、本発明による方法の第2の実施形態を示す説明図である。2Cは、本発明による方法の第2の実施形態を示す説明図である。2Dは、本発明による方法の第2の実施形態を示す説明図である。
図3】3Aは、本発明による層を準備するための方法を概略的に示す説明図である。3Bは、本発明による層を準備するための方法を概略的に示す説明図である。
図4】本発明による方法を使用して製造することができる表面音響装置を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下の説明を簡略化するために、同じ参照記号が、説明されている方法の異なる実施形態において同一の要素または同じ機能を実行する要素に使用される。
【0032】
図面は概略図であり、読みやすさのために、必ずしも縮尺通りではない。特に、層の厚さは、これらの層の横方向の寸法に関して縮尺どおりではない。
【0033】
層または基板に関してこの説明の残りの部分で使用される表現「熱膨張係数」は、この層または基板を定義する主平面で定義される方向の膨張係数を指す。材料が異方性の場合、係数の保持値は最大振幅の値になる。係数の値は、室温で測定された値である。
【0034】
図4は、本発明による方法を使用して製造することができる表面音響装置を示す。
【0035】
薄い強誘電体層10は、誘電体層7bを介して支持体7と直接接触して配置される。金属電極11a、11bは、薄い強誘電体層10上に配置されている。それ自体よく知られているように、一方の電極に印加された高周波電気信号は、表面波の形で薄い強誘電体層10内を伝播し、そこで処理され(例えば、濾過され)、他方の電極上で回復される。薄い強誘電体層10、より一般的には、薄い強誘電体層10が置かれるスタックを形成するすべての層の特徴は、電気信号、特に、薄い強誘電体層10の厚さおよびモノドメイン結晶品質の所望の処理を実行するために決定的である。
【0036】
支持体7の特徴は、音響結合によって、薄層10内の波の伝播に影響を与える可能性がある。したがって、これらの層の性質および厚さはまた、電気信号の所望の処理を実行するために、または少なくともこの処理に影響を与えるために決定的である。図4に示される例では、支持体7は、固体シリコン部7aと、薄い強誘電体層10と直接接触している、好ましくは酸化物を含む誘電体アセンブリ層7bとを含む。例として、アセンブリ層7bは、酸化ケイ素または窒化ケイ素から作製されるか、又はこれらの材料から構成される層のスタックによって形成される。好ましくは、支持体7は、電極11a、11bに印加される高周波信号との電気的結合を回避するために、電気的に抵抗性であり、電極11a、11bの伝播に影響を与える可能性がある。したがって、固体部7aは、高抵抗率のシリコン基板によって形成することができ、すなわち、1000オームセンチメートルを超える、より好ましくは3000オームセンチメートルを超える抵抗率を有する。
【0037】
支持体7の抵抗性を支持するために、図4の例では、例えば多結晶シリコンからなる電荷トラップ層7cを、固体部7aとアセンブリ層7bとの間に挿入するための準備がなされている。そのような層の形成および支持基板7の抵抗率に寄与するその役割は、それ自体よく知られており、その詳細な説明は、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7に見出すことができる。もちろん、この電荷トラップ層7cは、多結晶シリコンからなる層を提供する技術以外の技術を使用して形成することが可能である。この層はまた、炭素を含むか、炭化ケイ素又はケイ素と炭素の合金からなるか、又は、それらを含んでよい。あるいは、電荷をトラップすることができる結晶欠陥をその中に生成するために、支持体の表面部分に比較的重い種(例えば、アルゴン)のイオン衝撃によって層7cに電気トラップを生成することの問題である。多孔質材料でできている電荷トラップ層7cを、例えば、基板7がシリコンでできている場合、基板7の表面部分を多孔質化することによって提供することも可能である。
【0038】
図4に示されるデバイスは、薄い強誘電体層10の下に電極を提供しないことに留意されたい。誘電体アセンブリ層7bの存在は、薄い強誘電体層10の背面との接触を可能にしない。したがって、本出願の紹介で引用された最新技術に記載されているように、そのような電極の存在または電気接点の形成を使用して、薄い強誘電体層10を分極することは不可能である。
【0039】
したがって、再分極電圧の印加を必要とせずに、この層10のモノドメイン特徴を保存または回復することができる薄い強誘電体層10を準備するための方法を有することが重要である。
【0040】
図1および図2を参照し、図4に示されるデバイスを製造することを可能にするために、本発明は、一般に、第1の強誘電体層3を支持基板7上に転写することを提供し、第1の層3は、水素種などの軽い種の注入に基づく転写技術によるモノドメイン強誘電体ドナー基板1から取られる。
【0041】
この技術によれば、水素は、その中に埋め込まれた脆化面2を形成するために、ドナー基板1の第1の面4に注入される。第1の層3は、このようにして、脆化面2とドナー基板1の第1の面4との間に定義される。次に、ドナー基板1の第1の面4は、この場合、誘電体アセンブリ層7bによって、支持体7と組み立てられる。次に、ドナー基板1は、例えば、適度な熱処理および/または機械的力の適用を使用して、脆化面2で破壊される。次に、第1の層3がドナー基板1から解放されて、第1の層の自由面8が露出し、薄層の他の面4は、支持基板7のアセンブリ層7bと直接接触している。
【0042】
「有用な」薄層10を形成するために、このように支持体7上に転写された第1の転写層3を準備するためのステップを提供することが一般に必要である。これらのステップは、一般に、薄層10の結晶品質およびその表面状態(例えば、その粗さ)を改善することを目的としている。これらの準備ステップは、第1の層3を薄くするステップ(例えば、以下の表で「CMP」と示される化学機械研磨による)および/または熱処理のステップ(強誘電体材料の場合、それは、中性雰囲気で500°C程度の熱処理、又は下の表で「TTH」と表示されている酸素を含む熱処理を行うことができる)を含んでよい。層3の自由面8を熱処理するこのステップは、ドナー基板を破壊させたステップとは別であることに留意されたい。実際、破壊焼鈍中に層3がまだ完全に解放されていないため、この熱処理はその自由面を処理することができない。
【0043】
しかしながら、出願人は、薄層10を形成することを目的として、支持基板7上に転写された第1の層3を準備する方法が、薄層10内に複数の強誘電体ドメインの作成をもたらし、それにマルチドメイン性質を与える可能性があることを観察した。すでに述べたように、このような特徴は、転写された薄層上/内に形成されるデバイス、たとえば図4に示すような表面音響デバイスの性能に影響を与えるため、層をその使用に不適切にする。
【0044】
本出願の発明者は、第1の層3を準備するステップの性質および順序が、薄層10の強誘電特性に著しく影響を及ぼし得ることを観察した。これらの最初の観察から、本出願の発明者は、圧電力顕微鏡法(PFM)技術を使用して準備ステップの様々なシーケンスの分析を実行して、薄層10の表面のモノドメインまたはマルチドメインの性質を特徴付けた。これらの実験は、以下の表に要約される。
【0045】
【表1】

【0046】
剥離ステップの終わりに、そして準備の前に得られた第1の層3が、順応性のある強誘電性、すなわちモノドメインを示すことが分かる(表の1行目)。ただし、この層の表面状態と結晶品質には、準備ステップの適用が必要である。
【0047】
表の4行目は、薄化と熱処理(CMP+TTH)をリンクする方法の適用に対応しており、この処理の最後に、薄層がマルチドメイン強誘電性を持っていることがわかる。
【0048】
行2と行3は、それぞれ薄化CMPまたは熱処理TTHの単一ステップの適用を表している。これらのステップは両方とも、薄層3の非準拠特性につながる。
【0049】
出願人は、熱処理工程TTHとそれに続く薄層化工程CMPを連続して適用することにより、得られた薄層10は、PFMによってこの層の表面上で観察されるように、その強誘電分極および許容可能な結晶および表面品質のモノドメイン分布を有することを認識した。
【0050】
出願人によって実施された追加の分析は、薄層10における複数の強誘電性ドメインの形成が、その準備前の第1の層3における強い水素濃度勾配の存在に関連し得ることを特定することを可能にした。実際、そのような勾配を有する層に熱処理を適用すると、複数の強誘電性ドメインが形成されることが観察されている。第1の層3を定義するステップの間にドナー基板1に注入された水素は、脆化面2に濃度ピークを有するプロファイルに従って、この基板に分配される。したがって、破砕後、支持基板7上に転写された第1の強誘電体層3は、その自由面8において、1021at(原子)/cm3のオーダーのかなりの濃度の水素を有する。この濃度は、支持体7の方向に薄い層の厚さで減少し、1019at/cm3のオーダーのレベルに達する。
【0051】
準備ステップは、第1の層3を薄くしてその厚さを薄層10の目標厚さにする第1のステップとそれに続く熱処理とからなる場合、後者は、薄層が依然として強い水素勾配を有する間に特に薄層の表面部分で、適用される。これは、水素勾配が実質的である薄層10の厚さ又は表面部分の複数の強誘電性ドメインへの変換をもたらす。
【0052】
これらの2つのステップを逆にすると、強い水素濃度勾配を有する第1の層3の表面部分は、複数の強誘電性ドメインを有するように変換される。しかしながら、第1の層3のこのマルチドメイン表面部分は、次の薄化ステップによって除去される。これにより、必要なモノドメイン品質を有する薄層10を提供することが可能になる。
【0053】
熱処理は、薄化工程の前又は後に行われるかどうかにかかわらず、その層が飽和している水素を拡散させ、この層の厚さの勾配を減少させることに留意されたい。したがって、薄層10の準備に後で適用することができる熱処理は、この層のモノドメインの性質に影響を与える可能性が低い。
【0054】
薄層10の圧電力顕微鏡による観察を使用した非常に詳細な分析は、薄層10が薄くされた後、この薄層10が、アセンブリ層と接触して、埋め込まれたマルチドメイン部分を有する可能性があることも明らかにした。この埋め込まれたマルチドメイン部分は、測定が約50nmの深さに制限されている単純なPFM表面観察を使用して簡単に見ることはできない。
【0055】
複数のサンプルの薄層のPFM観察から、出願人は、誘電体アセンブリ層7bの性質が、薄層10を準備する方法の熱処理中の強誘電体層における水素の再分配に関して重要な役割を果たすことを決定した。
【0056】
特定の堆積酸化物または誘電体の場合のようにアセンブリ層7bが水素に富む場合、それは、熱処理が、そのアセンブリ層7bが接触している強誘電体層に移動を引き起こす可能性がある水素源を形成する。この水素は、特に、この層とアセンブリ層7bとの界面の強誘電体層に蓄積する可能性がある。この移動およびこの蓄積は、熱処理中にアセンブリ層と接触している強誘電体層の一部のマルチドメイン変換を可能にする水素濃度勾配を構成することができる。
【0057】
反対に、アセンブリ層7bが比較的水素が枯渇している場合、すなわち、転写された強誘電体層に存在する水素濃度よりも低い水素濃度を有する場合、強誘電体層の過剰な水素は、熱処理による拡散中、アセンブリ層7bに吸収される。したがって、これにより、アセンブリ界面での水素の蓄積が防止され、この界面近くの強誘電体層の部分でのマルチドメイン変換が回避される。
【0058】
本発明は、これらの結果および観察を利用して、薄層10を準備するための方法を提案する。より具体的には、本発明は、非常に一般的に前述したように、水素種などの光種の注入を含む転写技術によって、ドナー基板1から支持基板7に転写された強誘電体材料の薄層10を準備する方法に関する。この転写を実行するためのいくつかの実施形態が存在する。
【0059】
図1Aから図1Dに示される第1の実施形態によれば、ドナー基板1は、強誘電体材料の固形のモノドメインブロック、例えば、LiTaO3、LiNbO3、LiAlO3、BaTiO3、PbZrTiO3、KNbO3、BaZrO3、CaTiO3、PbTiO3、又はKTaO3からなる。ドナー基板1は、標準化されたサイズ、例えば直径150mmまたは200mmの円形ウエハの形態をとることができる。しかしながら、本発明は、決してこれらの寸法またはこの形状に限定されない。ドナー基板1は、強誘電体材料のインゴットから除去された可能性があり、この除去は、ドナー基板1が所定の結晶配向を有するように実施された。その配向は、意図された適用に応じて選択される。したがって、薄層の特性を利用してSAWフィルタを形成することを目的とする場合は、30°RYと60°RYとの間、または40°RYと50°RYとの間の方向を選択するのが一般的な方法である。しかしながら、本発明は決して特定の結晶配向に限定されない。
【0060】
ドナー基板1の結晶配向に関係なく、この方法は、このドナー基板1への水素の導入を含む。この導入は、水素の注入、すなわち、ドナー基板1の平面4の水素のイオン衝撃に対応することができる。当然のことながら、この水素の導入は、たとえば注入によるものであり、ヘリウムなどの他の光種の導入によって補完されることが期待できる。
【0061】
それ自体が知られている方法で、図1Bに示されるように、注入されたイオンの目的は、面4の側面に位置する転写される強誘電体材料の第1の層3と基板の残りの部分を形成する別の部分5との境界を定める脆化面2を形成することである。
【0062】
性質、注入された種の線量、および注入エネルギーは、転写されることが意図されている層の厚さ、およびドナー基板1の物理化学的特性の関数として選択される。したがって、LiTaO3から作られたドナー基板1の場合、200nm~2000nmのオーダーで第1層3の境界を定めるようにするために、エネルギーが30keVと300keVとの間で、1E16と5E17at/cm2の間の水素の線量を注入することを選択することが可能になる。
【0063】
図1Cに示される次のステップにおいて、ドナー基板1の平坦な面4は、支持基板7の面6と組み立てられる。支持基板7は、ドナー基板1のものと同じサイズおよび同じ形状であってよい。入手可能性およびコスト上の理由から、支持基板7は、シリコン、単結晶、又は多結晶ウエハである。しかしながら、より一般的には、支持基板7は、任意の材料、例えば、シリコン、さらにはサファイアまたはガラスなどの電気絶縁材料によって形成することができ、任意の形状であってよい。図4に示すデバイスを形成するために、例えば多結晶シリコンで作られた電荷トラップ層7cを備えた高抵抗シリコンで作られた固体部分7aによって形成される支持基板が選択される。
【0064】
組み立て工程の前に、洗浄、ブラッシング、乾燥、研磨の工程を使用して、又は、例えば、酸素若しくは窒素に基づくプラズマ活性化を使用して、組み立てられる基板の面を準備することを検討することが可能である。
【0065】
組み立て工程は、分子接着および/または静電結合によるドナー基板1と支持基板7との密接な接触に対応することができる。2つの基板1、7の組み立てを容易にするために、組み立てられる支持基板7の面6上に少なくとも1つの誘電体組み立て層7bを形成するための準備がなされる。好ましくは、脆化面2の形成前に、組み立てられるドナー基板1の面4上に組み立て層を形成することもまた又は代替的に可能である。言い換えれば、誘電体アセンブリ層7bは、少なくとも部分的に、2つの基板1、7の一方および/または他方上に形成することができる。
【0066】
誘電体アセンブリ層7bは、例えば、酸化ケイ素によって、又はより一般的には、Ta25、ZrO2又はHfO(これらの酸化物は、SiO2のように、堆積物によって形成されることができる)又は窒化ケイ素などの酸化物によって形成され、数ナノメートルから数ミクロンの厚さの間である。アセンブリ層7bは、異なるタイプの誘電体層のスタックから構成することができる。誘電体アセンブリ層7bは、例えば、熱酸化または窒化処理、化学堆積物(PECVD、LPCVDなど)の各種の周知技術によって生成することができる。
【0067】
一般に、そのアセンブリ層を堆積または形成するための技術が好まれ、その中に少量の水素が組み込まれることにつながる。このアセンブリ層を形成する材料の選択、その厚さ、およびその形成技術は、完全に自由ではないことに留意されたい。この選択は、特に、電気絶縁、音波の伝播、および/または最終構造におけるこの層の接着の特性によって、および意図された用途に従って決定される。最後に、堆積、特に酸化物堆積によってアセンブリ層を形成することは、一般に、より容易でより普遍的であることに留意されたい。なぜなら、この形成方法は、支持体の性質とは独立して実施することができるからであり、および、支持体7aの固体部分の性質によって又はトラップ層7cの存在によって課せられることがある、1000℃若しくは950℃よりも低いか又は900℃よりも低い場合もある比較的中程度の温度で実施することができるからである。
【0068】
一実施形態の重要な特徴によれば、誘電体アセンブリ層7bが第1の層3の平均水素濃度よりも低い水素濃度を有することを確実にするように注意が払われる。第1の層3の水素の大部分は、脆化面2を形成するために注入された水素に由来すると推定することによって、水素の平均濃度は、注入された線量(at/cm2)を第1の層3の厚さ(cm)で割ることによって決定することができる。通常、1020at/cm3と1022at/cm3との間である。例として、アセンブリ層7bが支持基板上に堆積された酸化ケイ素によって形成される場合、この酸化物は、それが含む水素の大部分を浸出拡散物(exodiffuse)にするように、組み立てステップの前にアニールされる。
【0069】
一般に、アセンブリ層7bをアニーリングするステップは、この誘電体層を、この説明の後半で説明する第1の転写層を準備するための熱処理よりも高い温度にすることを目的とすることを提供することができる。したがって、この層は、600℃、700℃、さらには800℃以上の温度にすることができる。したがって、この浸出拡散(exodiffusion)ステップ後のアセンブリ層7b内の平均水素濃度は、5.1020at/cm3未満、又は有利には1018at/cm3未満、又はより有利には1018at/cm3未満であってよい。アニーリングは、水素濃度以外のアセンブリ層の特徴を変更できることに留意されたい。特に、水素の拡散性、つまり、この種がアセンブリ層を形成する材料内で拡散する能力を低下させることができるため、水素は比較的高濃度(1020at/cm3程度)でも、第1の層3に向かって拡散する可能性は低くなる。
【0070】
あるいは、またはこの実施形態に加えて、誘電体アセンブリ層7bに、第1の層3への水素の拡散を防止するバリア層を提供するための準備をすることができる。例として、アセンブリ層7bは、支持基板7a(または、後者の場合、トラップ層7c)の側面に配置された例えば酸化ケイ素の酸化物の第1の層、および、第1の強誘電体層3の側面に配置された窒化ケイ素の層、によって形成されたスタックによって形成することができる。この窒化物層は、酸化ケイ素層に存在する可能性のある水素が第1の強誘電体層3に向かって拡散するのを防ぐ。
【0071】
さらに別のアプローチによれば、誘電体アセンブリ層が任意の濃度の水素を有するように備えることができるが、この層はこの水素の拡散性が非常に低く、したがって、薄い層3の方向に著しく拡散しないように十分に閉じ込められたままである。
【0072】
そのような層は、0.01、0.05または0.1以上の窒素/酸素比の窒素を有する酸化物、例えば、酸化ケイ素SiONによって形成することができる。アセンブリ誘電体層7bが酸化ケイ素SiONに基づいている場合、この材料は音波の形成、接着、電気絶縁、および伝播のよく知られた特徴を持っているため、非常に一般的であり、これらの機能を過度に変更せず、および単純な酸化ケイ素SiO2と同等またはそれに近い動作を維持するために、0.1又は0.25を超える窒素/酸素の比率を超えないように決定することができる。そのような窒素に富む酸化物層は、堆積技術、例えば、PECVDによって容易に形成することができ、そのキャリアガスの少なくとも1つは、制御された方法で酸化物層に組み込むことができる窒素であるように選択することができることに留意されたい。窒素/酸化物の比率は、EDX(「エネルギー分散型X線分光法」)と呼ばれる手法で測定するか、酸化物層4のSIMS(二次イオン質量分析)測定で測定された窒素と酸素の測定値から確立できる。
【0073】
誘電体アセンブリ層7bは、その全厚にわたって、低拡散性を有する材料、例えば、上記のような窒素を含む酸化物によって形成することができる。
【0074】
あるいは、前の代替案で説明したように、拡散性の低いこの材料でできている第1の層3への水素の拡散を防ぐバリア層のみを設けることができる。例えば、高濃度の水素を有する酸化ケイ素の層は、支持基板上に堆積することによって形成することができ、この層は、この窒素を表面的に組み込むために窒素ベースのプラズマを使用して準備される。したがって、窒素に富むSiOのバリア層がこの表面の厚さに形成され、残りの酸化物に含まれる水素の拡散を防ぐことができる。
【0075】
支持体7aの固体部分にシリコンを含む電荷トラップ層7cが表面に設けられている場合、このトラップ層の表面部分を、950°C未満、好ましくは800°Cと900°Cとの間の中程度の温度の酸化雰囲気内において処理することによる熱酸化することによって、誘電体アセンブリ層7bを形成することを考えることができる。したがって、これは、例えば、再結晶化による、電荷トラップ層7cを950℃又は900℃を超える高温にさらすことによる損傷を回避する。任意選択で、このように酸化されたトラッピング層7cの表面を研磨するステップを導入して、後続の組み立てステップと互換性を持たせることができる。
【0076】
誘電体アセンブリ層7bの性質およびそれが受けた処理に関係なく、このアセンブリステップの終わりに、2つの関連する基板、誘電体アセンブリ層7bによってドナー基板1の平坦面4に接着している支持基板7の平坦面6を含む、図1Cに示されるアセンブリが提供される。
【0077】
次に、アセンブリは、脆化面2での劈開によって、強誘電体材料の第1の層3をドナー基板1から剥離するように処理される。
【0078】
したがって、この剥離ステップは、第1の層3が支持基板7上に転写されることを可能にするために、80℃から300℃のオーダーの温度範囲内でアセンブリに熱処理を適用することを含むことができる。熱処理の代わりに、または熱処理に加えて、このステップは、脆化面2での刃、又はガス若しくは液体流体の噴射、又は機械的性質の他の任意の力の適用を含んでよい。
【0079】
この分離ステップに続いて、図1Dに示される構造9が得られる。この構造9は、支持基板7上に配置された第1の自由面8および第2の面4(ドナー基板の第1の面に対応する)を含む強誘電体材料の第1の層3を含み、誘電体アセンブリ層7bは、第1の層3と支持体7の残部との間に配置される。
【0080】
図2Aから図2Dは、異種(heterogeneous)構造9を生成するのに特に適した第2の実施形態を示し、第1の層3は、例えば10%を超える差を有する支持体の熱膨張係数とは非常に異なる熱膨張係数を有する。
【0081】
図2Aを参照すると、この場合のドナー基板1は、第1の実施形態に関連して強誘電体材料の固体ブロックについて説明したものと同じ特性を有する強誘電体材料1aとマニピュレータ基板1bとの厚い層から構成される。
【0082】
マニピュレータ基板1bは、支持基板7を構成するものに近い熱膨張係数を提供する材料(または複数の材料)によって有利に形成される。「近い」とは、マニピュレータ基板1bと支持体との熱膨張係数の差が、強誘電体材料の固体ブロックと支持体基板7との熱膨張の差よりも、絶対値として小さいことを意味する。
【0083】
好ましくは、マニピュレータ基板1bおよび支持基板7は、同一の熱膨張係数を有する。ドナー基板1と支持体7の組み立て中に、比較的高温での熱処理に耐えることができる構造が形成される。実装を簡単にするために、支持基板7の材料と同じ材料によって形成されるようにマニピュレータ基板1bを選択することによって得ることができる。
【0084】
この実施形態のドナー基板1を形成するために、強誘電体材料の固体ブロックは、例えば、上記のような分子接着による結合技術に従って、最初にマニピュレータ基板1bと組み立てられる。次に、強誘電性材料の層1aは、例えば研磨(grinding)および/または化学機械研磨および/またはエッチングによる薄化によって形成される。組み立てる前に、接触させた面の一方および/または他方に(例えば、酸化ケイ素および/または窒化ケイ素を堆積させることによって)接着層を形成するための準備をすることができる。アセンブリは、低温熱処理(例えば、50℃から300℃、典型的には100℃)の適用を含み、結合エネルギーの十分な強化を可能にして、次の薄化ステップを可能にする。
【0085】
マニピュレータ基板1bは、支持基板7の厚さと実質的に同等の厚さを有するように選択される。薄層化工程は、厚い層1aの厚さが、方法の残りの部分で適用される熱処理中に発生する応力がより低い強度を有するのに十分に薄くなるように実行される。同時に、この厚さは、第1の層3、または複数のそのような層を除去することができるのに十分な厚さである。この厚さは、例えば、5ミクロンと400ミクロンとの間であってよい。
【0086】
この第2の実施のプロセスの以下のステップは、第1の実施形態で説明したステップのステップと同等である。図2Bに示されるように、水素が厚い層1a内に注入されて、脆化面2を生成し、これは、ドナー基板1の残り部分5からの第1の層3の分離を示す。このステップの後に、図2Cに示されるように、支持基板7上にドナー基板1を組み立てるステップが続く。誘電体アセンブリ層7bは、ドナー基板1と支持基板7との間に提供され、このアセンブリ層は、第1の実施形態の内容内で提供されるものと同じ特性を有する。組み立てられる本実施形態のドナー基板1の面上に酸化ケイ素(又は水素の浸出拡散(exodiffusion)アニーリングを必要とする他の性質の誘電体)の層を形成することが決定された場合、厚さは数ナノメートル、たとえば10nmまたは50nm未満に制限される。これは、熱膨張係数が大きく異なる材料のアセンブリで構成されるドナー基板1に損傷を与えるリスクを冒さずに、この層に浸出拡散アニーリングを適用することが難しい場合があるためである。
【0087】
次に、図2Dに示される構造9を得るために、第1の層3が基板5の残りの部分から切り離される。
【0088】
この実施形態は、ドナー基板1および支持体7から形成されたアセンブリが、基板の1つの制御されない破壊又はドナー基板1の層間剥離のリスクなしに、第1の実施形態で適用される温度よりもはるかに高い温度にさらされるという点で有利である。すなわち、このアセンブリの熱膨張係数に関してバランスの取れた構造は、比較的高い温度、例えば、100℃と600℃との間にアセンブリを曝すことによって、薄層3を分離するステップを容易にすることを可能にする。
【0089】
選択された実施形態に関係なく、および上記で特定されたように、次に、第1の層3を準備するステップは、満足のいく結晶および表面品質を有する薄層10を形成するために必要とされる。
【0090】
図3Aに示されるように、この方法は、最初に、転写された第1の層3の自由面8の熱処理を含む。この熱処理により、第1の層3に存在する結晶欠陥を修正することができる。さらに、この層3と支持体7との間の結合を強化するのに役立つ。上記の研究は、この熱処理が十分な温度を持っていれば、この熱処理が、第1の層3、特にその表面部分に含まれる水素の拡散を引き起こし、およびこの表面部分のマルチドメインを引き起こす、という効果を有することも示している。
【0091】
表面部分は、約50nm以下の厚さであり、層3の全範囲にわたって確立することができる。熱処理の終わりに、強誘電体層10は、その厚さにおいて比較的一定の濃度の水素を有し、1018at/cm3と1019at/cm3との間である。上記のアセンブリ層7bの特性により、このアセンブリ層に含まれる水素は、アニーリング中に薄層3に向かって拡散する可能性が低く、および/またはアセンブリ層7bとこの層3との間に存在する界面にトラップされる可能性が低いことに留意されたい。したがって、これにより、この界面近くのこの埋め込みゾーン内での水素濃度勾配の形成が回避され、このようにして、このゾーンが変換されてマルチドメイン特性を有することが防止される。
【0092】
コンプライアント薄層10を準備するための熱処理は、構造を、30分と10時間との間で、300℃と強誘電体材料のキュリー温度との間の温度(好ましくは水素の拡散を促進するために、450℃、500°または550°以上)にする。熱処理は、緩やかな傾斜を提供することができる。この熱処理は、好ましくは、第1の層3の自由面8を酸化性または中性のガス状雰囲気に曝すことによって、すなわち、薄層のこの面を、水素の浸出拡散(exodiffusion)を防ぐことができる保護層で覆うことなく実施する。
【0093】
図3Bを参照すると、準備方法はまた、熱処理後の薄層3の薄層化を含む。この薄化は、例えば、機械的、化学的、機械的薄化技術および/または化学エッチングによる、薄層3の自由面8の研磨に対応することができる。それは、自由面8が、例えば、原子間力測定(AFM)によって0.5nm RMS 5×5μm未満の低粗さを示すように準備され、薄層10のマルチドメイン表面部分が除去されることを可能にする。薄層10の目標厚さ、およびすべての場合においてマルチドメイン表面部分の厚さよりも厚い厚さに到達するために、100nmから300nmの厚さの除去が一般に提供される。
【0094】
したがって、これは、結晶品質のために、表面状態品質に必要な品質を有する、その厚さ全体にわたる薄いモノドメイン層を構成する。第1の層3の水素濃度よりも低い水素濃度を有するか、または第1の層3への水素の拡散に対する障壁を含む誘電体アセンブリ層7bは、アセンブリ界面(interface)の近くに位置する薄層10の埋め込みゾーンに過剰な水素を蓄積することを回避する。これにより、排除することが不可能なこのゾーンのマルチドメイン変換が防止される。
【0095】
もちろん、本発明は、説明された実施形態および例に限定されず、特許請求の範囲によって規定される本発明の範囲から逸脱することなく、変形された実施形態を提供することが可能である。
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2021-09-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
強誘電体材料の薄いモノドメイン層(10)を準備するための方法であって、
強誘電性ドナー基板(1)の第1の面(4)に光種を注入して脆化面(2)を形成し、前記脆化面(2)と前記第1の面(4)との間に第1の層(3)を規定するステップと、
誘電体アセンブリ層(7b)を用いて、前記ドナー基板(1)の前記第1の面(4)を支持基板(7)に組み立てるステップと、
前記第1の層(3)を前記支持基板(7)に転写し、前記第1の層(3)の自由面(8)を露出させるために、前記脆化面(2)で前記ドナー基板(1)を破壊するステップと、
前記第1の層(3)を仕上げ、前記仕上げは、前記第1の層(3)の前記自由面(8)の熱処理、続いて前記第1の層(3)を薄くして薄いモノドメイン層(10)を形成するステップと
を含み、
前記誘電体アセンブリ層(7b)は、前記第1の層への水素の拡散を防止する酸化物を含み、又は、前記誘電体アセンブリ層(7b)は、前記第1の層(3)に向かって前記水素の拡散を防止するバリアを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記薄くすることは、前記第1の層(3)の前記自由面(8)に適用される化学機械研磨を含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記熱処理は、30分から10時間との間の期間で、300℃と前記第1の層(3)を構成する強誘電体材料のキュリー温度との間の温度で実施されることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記熱処理は、酸化性または中性のガス状雰囲気下で実施されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
前記ドナー基板(1)は、LiTaO3またはLiNbO3から選択される強誘電性材料を含むことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
前記強誘電体材料は、30°と60°RYとの間の結晶方向を有することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
前記支持基板(7)の材料は、シリコンであることを特徴とする請求項1から6のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
前記ドナー基板(1)は、固体材料のブロックであることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
前記ドナー基板(1)は、マニピュレータ基板(1b)上に配置された強誘電体材料の厚い層(1a)を含むことを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1つに記載の方法。
【請求項10】
前記マニピュレータ基板(1b)は、前記支持体(7)の熱膨張係数と同一又はそれに近い熱膨張係数を有することを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記第1の層(3)の材料および前記支持基板(7)の材料は、異なる熱膨張係数を有することを特徴とする請求項1ないし10のいずれか1つに記載の方法。
【請求項12】
前記誘電体アセンブリ層(7b)は、0.01または0.05以上の窒素/酸素比の窒素を有する酸化物を含むことを特徴とする請求項1ないし11のいずれか1つに記載の方法。
【請求項13】
前記誘電体アセンブリ層(7b)は、0.01と0.25との間、又は、0.05と0.01との間の窒素/酸素比の窒素を有する酸化ケイ素を含むことを特徴とする請求項1ないし12のいずれか1つに記載の方法。
【請求項14】
前記誘電体アセンブリ層(7b)は、前記支持基板(7a)の側面に配置された第1の酸化物層と、前記第1層(3)の側面に配置された窒化ケイ素の層とを含むスタックによって形成されたことを特徴とする請求項1ないし13のいずれか1つに記載の方法。
【請求項15】
強誘電体材料層(10)の薄い完全モノドメイン層と、
前記薄層(10)と接触し、前記薄層(10)への水素の拡散を防止する酸化物を含む、又は前記第1の層(3)への水素の拡散を防止するバリアを含む、誘電体アセンブリ層(7b)と、
前記誘電体層と接触している支持体(7)と
を備えたことを特徴とする装置。
【請求項16】
前記支持体基板(7)は、前記支持体の固体部分(7a)と前記誘電体アセンブリ層(7b)との間に配置された電荷トラップ層(7c)を備えたことを特徴とする請求項15に記載の装置。
【請求項17】
前記誘電体アセンブリ層(7b)は、0.01又は0.05以上の窒素/酸素比の窒素を有する酸化物を含むことを特徴とする請求項15又は16に記載の装置。
【請求項18】
前記誘電体アセンブリ層(7b)は、0.01と0.25との間、又は、0.05と0.01との間の窒素/酸素比の窒素を有する酸化ケイ素を含むことを特徴とする請求項15ないし17のいずれか1つに記載の装置。
【請求項19】
前記誘電体アセンブリ層(7b)は、前記支持基板(7a)の側面に配置された第1の酸化物層と、前記第1層(3)の側面に配置された窒化ケイ素の層とを含むスタックによって形成されたことを特徴とする請求項15ないし18のいずれか1つに記載の装置。
【国際調査報告】