(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-10
(54)【発明の名称】尿細胞から腎前駆細胞への直接逆分化を誘導する方法、及びその方法で逆分化した腎前駆細胞を含む腎細胞損傷疾患の予防または治療用薬学組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20220603BHJP
A61K 35/22 20150101ALI20220603BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20220603BHJP
C12N 5/071 20100101ALN20220603BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20220603BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
A61K35/22
A61P13/12
C12N5/071
C12N15/12
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021559954
(86)(22)【出願日】2020-04-09
(85)【翻訳文提出日】2021-10-08
(86)【国際出願番号】 KR2020004835
(87)【国際公開番号】W WO2020209636
(87)【国際公開日】2020-10-15
(31)【優先権主張番号】10-2019-0041289
(32)【優先日】2019-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】314000442
【氏名又は名称】高麗大学校産学協力団
【氏名又は名称原語表記】KOREA UNIVERSITY RESEARCH AND BUSINESS FOUNDATION
【住所又は居所原語表記】145, Anam-ro Seongbuk-gu Seoul 02841, Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】スン・クォン・ユ
(72)【発明者】
【氏名】イン・ヨン・キム
(72)【発明者】
【氏名】ウェイ・ウェイ・ガオ
(72)【発明者】
【氏名】フィル・ジュン・カン
(72)【発明者】
【氏名】ウォン-ジン・ユン
(72)【発明者】
【氏名】ギュマン・パク
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BA02
4B065BB12
4B065BB18
4B065BB19
4B065BC46
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB40
4C087BB41
4C087BB65
4C087CA04
4C087CA12
4C087NA14
4C087ZA81
(57)【要約】
本発明は、尿細胞から腎前駆細胞への直接逆分化を誘導する方法及び前記方法で逆分化された腎前駆細胞を含む腎細胞損傷疾患の予防または治療用薬学組成物に関する。本発明は、不便と苦痛なしに容易に繰り返して得られる体細胞である尿細胞を用いて個人オーダーメード型逆分化腎前駆細胞の大量生産が可能なので、腎臓損傷の治癒と腎臓の再生分野に拡大可能な難病分野及び細胞治療剤の生産に適用が可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の段階を含む尿細胞から腎前駆細胞への直接逆分化を誘導する方法。
(a)尿から尿細胞を分離して培養する段階と、
(b)前記培養された尿細胞に逆分化因子i)Oct4タンパク質をコードする核酸、ii)Sox2タンパク質をコードする核酸、iii)Klf4タンパク質をコードする核酸、iv)c-Mycタンパク質をコードする核酸及びv)Slugタンパク質をコードする核酸を導入する段階と、
(c)前記逆分化因子が導入された尿細胞を腎前駆細胞培養培地で培養し、腎前駆細胞に逆分化を誘導する段階と、
(d)前記腎前駆細胞に直接逆分化が誘導された細胞から腎前駆細胞の特性を持つ逆分化腎前駆細胞を選別する段階。
【請求項2】
前記尿細胞は、尿由来体細胞であることを特徴とする、請求項1に記載の尿細胞から腎前駆細胞への直接逆分化を誘導する方法。
【請求項3】
前記(b)段階は、前記逆分化因子が挿入されたウイルスベクターを直接尿細胞に導入させることを特徴とする、請求項1に記載の尿細胞から腎前駆細胞への直接逆分化を誘導する方法。
【請求項4】
前記(c)段階の培養培地は、FGF9、BMP7、CHIR99021及びY-27632を含むことを特徴とする、請求項1に記載の尿細胞から腎前駆細胞への直接逆分化を誘導する方法。
【請求項5】
ヘパリン、LDN-193189またはL-グルタミンをさらに含むことを特徴とする、請求項4に記載の尿細胞から腎前駆細胞への直接逆分化を誘導する方法。
【請求項6】
マトリゲル、ラミニン、フィブロネクチン、ゼラチンまたはコラーゲンがコーティングされた培養プレートで培養することを特徴とする、請求項4に記載の尿細胞から腎前駆細胞への直接逆分化を誘導する方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法で逆分化誘導された腎前駆細胞を有効成分として含む腎細胞損傷疾患の予防または治療用薬学組成物。
【請求項8】
前記腎細胞損傷疾患は、急性/慢性腎不全(acute/chronic renal failure)、糸球体腎炎(glomerulonephritis)、腎症候群(nephrotic syndrome)、腎盂腎炎(nephropyelitis)、多嚢胞性腎症(polycystic nephropathy)及び末期腎疾患(end-stage renal disease)からなる群から選ばれることを特徴とする、請求項7に記載の腎細胞損傷疾患の予防または治療用薬学組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は尿細胞から腎前駆細胞への直接逆分化を誘導する方法及び前記方法で逆分化した腎前駆細胞を含む腎細胞損傷疾患の予防または治療用薬学組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
幹細胞(stem cell)とは、身体内に特定の条件及び環境が与えられるか、または自体内で必要に応じて程度に応じた無限の自己増殖能力、及び身体内で必要な特定の細胞及び組織への分化能を持っている細胞を指す。幹細胞は、3つに分類され、初期胚から分離した胚性幹細胞(embryonic stem cell、ES細胞)、胚期の原始生殖細胞から分離した胚生殖細胞(embryonic germ cell、EG細胞)及び成体の骨髄から分離した多能性成体幹/前駆細胞(multipotent adult progenitor cell、MAPC細胞)がある。
【0003】
幹細胞は、それぞれ特化した機能を持つ細胞に発達する潜在力を持っているため、各種臓器の機能回復及び組織再生のための細胞治療剤として研究されており、最近では、成形と美容に至るまで、その活用範囲が拡大されている傾向にある。
【0004】
生体内において成体幹細胞の役割は、大きく2つに要約できるが、第一は、幹細胞そのものが私たちの体で損傷した組織と細胞に分化して再び再生させる役割であり、第二は、一生の間持続的に成長因子及びサイトカインなどの治療因子を分泌し、近隣細胞の成長及び再生を助ける役割を果たす。
【0005】
一方、直接逆分化(direct reprogramming)方式は、体細胞を目標とする他のタイプの固有機能を持つ細胞に転換及び生産できる技術である。日本の山中教授の逆分化(reprogramming)された誘導多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell、iPSC)とは異なり、多能性幹細胞の状態(pluripotency state)を経ないため、核型(karyotypic)の安定性、目標とする細胞の均質性、細胞源間の変動性、腫瘍発生のリスク、患者による特異性、時間及び労力の効率性の面で長所がある。しかし、現在行われている直接逆分化方式は、細胞源としてマウス細胞を主に用い、ヒト体細胞において同じように再現される確率が高くなく、ヒト体細胞の中では、よく皮膚細胞(線維芽細胞)を使用するが、この場合、侵襲的方式の細胞源採取方法が必要となり、供与者の痛み、安全性のリスクをもたらすことがあり、利便性が低下する。
【0006】
損傷後の自然再生において、極めて制限的な能力を持つ腎臓で腎前駆細胞の存在の有無は現在までに疑問として残っているが、学界で合意された腎臓再生のメカニズムは、次の通りである。損傷後に生き残った腎細胞が一時的に脱分化して成長でき、損傷組織を代替できる腎前駆細胞の決定的な役割を基盤とする(Benigni A et al.,Lancet 375(9722):1310-7,2010;Sallustio F et al., Biores Open Access 4(1):326-33,2015)。すなわち、この再生過程は、腎前駆細胞から増殖された前駆細胞が損傷した地域に移動し、成長及び分化を介して機能性腎組織として再構成される。また、このような再生過程で幹細胞による自己分泌(autocrine)、傍分泌(paracrine)、内分泌(endocrine)の相互作用を介して、腎臓の生理学的細胞転換及び腎臓の各区画の再生に寄与する(Bussolati B et al.,Am J Pathol.66(2):545-55,2005;Sagrinati C et al.,J Am Soc Nephrol.17(9):2443-56,2006)。
【0007】
前駆細胞を用いた治療アプローチは、炎症反応を減らすのに寄与する。腎臓の損傷後、炎症因子及び関連血管内の作動因子による活性酸素ストレスは、組織再生のさらに他の障壁と考えられる。これは腎臓の損傷を拡大するだけでなく、腎不全患者にとって心血管系の疾患を引き起こすおそれがある。
腎臓の損傷において、体細胞から誘導された腎前駆細胞の生産、及びこれを用いた医薬品素材の開発技術は、効率性及び患者のオーダーメード型、治療効能性の面で腎臓の組織の治療と再生のための高い価値を有しており、新たな市場の開拓とともに新しいバイオ産業のモデルを提示するという面でその意味が大きいと言える(Takasato M et al.,Semin Nephrol.4(4):462-80,2014;Sallustio F et al.,Biores Open Access 4(1):326-33,2015)。
【0008】
腎前駆細胞の場合、単純細胞代替の役割だけでなく、腎臓再生に重要な役割を果たす治療因子を分泌する役割もあるため、腎臓損傷の予防及び再生治療製剤の開発に腎臓特化した腎前駆細胞を用いるということは、科学的にも治療期待効果においても極めて当然のアプローチ方式である。
そこで、本発明者らは、損傷した腎臓組織の再生または代替のできる腎前駆細胞を製造するために鋭意努力した結果、逆分化因子Oct4、Sox2、Klf4、c-Myc及びSlugを導入して過発現させた尿細胞を腎臓の発達過程において重要と考えられる因子が含まれている環境(niche)で培養することにより、腎前駆細胞と似たような特性を持つ逆分化腎前駆細胞に誘導し、このような逆分化腎前駆細胞を用いて組織の再生効能を確認し、本発明を完成させた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Benigni A et al.,Lancet 375(9722):1310-7,2010
【非特許文献2】Sallustio F et al., Biores Open Access 4(1):326-33,2015
【非特許文献3】Bussolati B et al.,Am J Pathol.66(2):545-55,2005
【非特許文献4】Sagrinati C et al.,J Am Soc Nephrol.17(9):2443-56,2006
【非特許文献5】Takasato M et al.,Semin Nephrol.4(4):462-80,2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、腎臓損傷の治癒と腎臓の再生及び腎細胞損傷疾患の治療に適用可能な腎前駆細胞と似たような特性を持つ逆分化腎前駆細胞を誘導するため、尿細胞に逆分化因子Oct4、Sox2、klf4、c-Myc及びSlugを導入した後、腎臓の発達過程において重要と考えられる因子が含まれている環境(niche)で培養する段階を含む尿細胞から腎前駆細胞への直接逆分化を誘導する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するため、本発明は、(a)尿から尿細胞を分離して培養する段階と、(b)前記培養された尿細胞に逆分化因子i)Oct4タンパク質をコードする核酸、ii)Sox2タンパク質をコードする核酸、iii)Klf4タンパク質をコードする核酸、iv)c-Mycタンパク質をコードする核酸、及びv)Slugタンパク質をコードする核酸を導入する段階と、(c)前記逆分化因子が導入された尿細胞を腎前駆細胞培養培地で培養して腎前駆細胞に逆分化を誘導する段階と、(d)前記腎前駆細胞に直接逆分化が誘導された細胞から腎前駆細胞の特性を持つ逆分化腎前駆細胞を選別する段階と、を含む尿細胞から腎前駆細胞への直接逆分化を誘導する方法を提供する。
【0012】
本発明は、さらに前記方法で逆分化誘導された腎前駆細胞を有効成分として含む腎細胞損傷疾患の予防または治療用組成物を提供する。
【0013】
本発明は、さらに前記方法で逆分化誘導された腎前駆細胞を有効成分として含有する組成物を個体に投与する段階を含む腎細胞損傷疾患の予防または治療方法を提供する。
【0014】
本発明は、さらに前記方法で逆分化誘導された腎前駆細胞を有効成分として含有する組成物を腎細胞損傷疾患の予防または治療に使用する用途を提供する。
【0015】
本発明は、さらに腎細胞損傷疾患の予防または治療用薬剤の製造のための前記方法で逆分化誘導された腎前駆細胞を有効成分として含有する組成物の用途を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1a】
図1aは、直接逆分化技術を用いて腎前駆細胞に誘導するために試みられた転写因子の組み合わせを示し、これにより誘導された細胞のコロニー形成能と自己増殖能を示した結果である。
【
図1b】
図1bは、女性と男性由来の尿細胞にOct4、Sox2、Klf4、c-Myc及びSlug転写因子の組み合わせにより、誘導された細胞のコロニー形成能を比較した結果である(5F:Oct4、Sox2、Klf4、c-Myc及びSlugの組み合わせ;5F-Slug:Oct4、Sox2、Klf4及びc-Mycの組み合わせ)。
【
図1c】
図1cは、Oct4、Sox2、Klf4、c-Myc及びSlug転写因子の組み合わせにより、腎前駆細胞マーカー遺伝子SIX2の発現程度を比較した結果である。
【
図2】
図2は、尿細胞を直接逆分化技術を用いて腎前駆細胞に誘導してコロニーを得た後、該コロニー培養を通じて腎前駆細胞の数を拡大し、腎細胞に分化するまでの全体の工程を示したものである。
【
図3】
図3は、尿細胞からOCT4及びSOX2、KLF4、cMYC、SLUG遺伝子を導入して逆分化腎前駆細胞に誘導した後、胚性幹細胞から由来した腎前駆細胞を陽性対照群とし、RT-PCRによるmRNAレベルの解析を介してSIX2及びCITED1、WT1のような腎前駆細胞マーカー遺伝子を発現するかどうかを誘導時間に応じて確認した結果である。
【
図4】
図4は、女性または男性由来の尿細胞を用いて逆分化腎前駆細胞を誘導したコロニーを選別した後、拡張培養してRT-PCRによるmRNAレベルの解析を介してSIX2及びCITED1、WT1のような腎前駆細胞マーカー遺伝子を発現するかどうかを確認した結果である。
【
図5】
図5は、尿細胞を用いて逆分化腎前駆細胞を誘導した後、RT-PCRによるmRNAレベルの解析を介してNANOG及びOCT4のような多能性マーカー遺伝子の発現有無により、誘導多能性幹細胞のような腫瘍発生リスクからの安定性を確認した結果である。
【
図6】
図6は、免疫解析法を介して逆分化腎前駆細胞がSIX2及びCITED1のような腎前駆細胞マーカー遺伝子を発現するかどうかを確認した結果である。
【
図7】
図7は、女性または男性由来の尿細胞を用いて逆分化腎前駆細胞がSIX2及びCITED1のような腎前駆細胞のマーカータンパク質の発現有無をウエスタンブロット解析を介して確認した結果である。
【
図8】
図8は、女性または男性由来の尿細胞を用いて逆分化腎前駆細胞が正常な染色体を保持しているかどうかを時間に応じて核型解析を介して確認した結果である。
【
図9】
図9は、逆分化腎前駆細胞がSIX2とCITED1のような腎前駆細胞マーカー遺伝子が腎前駆細胞の拡張培養培地で長時間発現維持されるかmRNAレベルの解析とFACS解析を介して確認した結果である。
【
図10A】
図10Aは、総RNAシーケンス(sequencing)を通じて全体の遺伝子発現レベル(global gene expression level)で逆分化腎前駆細胞が本来の女性または男性の尿由来細胞よりもH9、BG01胚性幹細胞から由来した腎前駆細胞と類似したmRNA及びlnc-RNA(long non-coding-RNA)の発現パターンを示すかどうかを確認した結果である。
【
図10B】
図10Bは、総RNAシーケンス(sequencing)を通じて全体の遺伝子発現レベル(global gene expression level)で逆分化腎前駆細胞が本来の女性または男性の尿由来細胞よりもH9、BG01胚性幹細胞から由来した腎前駆細胞と類似したmRNA及びlnc-RNA(long non-coding-RNA)の発現パターンを示すかどうかを確認した結果である。
【
図10C】
図10Cは、総RNAシーケンス(sequencing)を通じて全体の遺伝子発現レベル(global gene expression level)で逆分化腎前駆細胞が本来の女性または男性の尿由来細胞よりもH9、BG01胚性幹細胞から由来した腎前駆細胞と類似したmRNA及びlnc-RNA(long non-coding-RNA)の発現パターンを示すかどうかを確認した結果である。
【
図10D】
図10Dは、総RNAシーケンス(sequencing)を通じて全体の遺伝子発現レベル(global gene expression level)で逆分化腎前駆細胞が本来の女性または男性の尿由来細胞よりもH9、BG01胚性幹細胞から由来した腎前駆細胞と類似したmRNA及びlnc-RNA(long non-coding-RNA)の発現パターンを示すかどうかを確認した結果である。
【
図11】
図11は、総RNAシーケンスを通じて全体の遺伝子のうち、腎臓の発達に関連した遺伝子発現レベルで逆分化腎前駆細胞が本来の女性または男性の尿由来細胞よりもH9、BG01胚性幹細胞から由来した腎前駆細胞と類似したmRNA及びlnc-RNA(long non-coding-RNA)の発現パターンを示すかどうかを確認した結果である。
【
図12】
図12は、総RNAシーケンスを通じて全体の遺伝子発現レベルで女性または男性の尿細胞から逆分化腎前駆細胞とBG01胚性幹細胞から由来した腎前駆細胞の間で、腎臓発達に関連したmRNA発現の共通性をベンダイアグラムで示した結果である。
【
図13】
図13は、総RNAシーケンスを通じて全体の遺伝子発現のうち、腎臓発達に関連した細部的に分けて各グループの遺伝子発現レベルで尿細胞から誘導された腎前駆細胞と、BG01胚性幹細胞から由来した腎前駆細胞の間の類似性を比較した結果である。
【
図14】
図14は、逆分化腎前駆細胞の糸球体足細胞(Glomerular Podocyte)への分化能を検証するため、糸球体足細胞の遺伝子マーカーであるNephrin、Synaptopodocin、podocalyxinの発現をRT-PCRによるmRNAレベルの解析を介して確認した結果である。
【
図15】
図15は、逆分化腎前駆細胞の糸球体足細胞への分化能を検証するため、糸球体足細胞の特異的な形態を分化前の形態と顕微鏡で比較し、糸球体足細胞の遺伝子マーカーであるSynaptopodocin、POXDLの発現を免疫染色法を介して確認した結果である。
【
図16】
図16は、逆分化腎前駆細胞の尿細管細胞(renal tubular cells)への分化能を検証するため、尿細管細胞の遺伝子マーカーであるCD13、AQP1の発現をRT-PCRによるmRNAレベルの解析を介して確認した結果である。
【
図17】
図17は、逆分化腎前駆細胞が尿細管細胞への分化能を検証するため、尿細管細胞の遺伝子マーカーであるAQP1、LTLの発現を免疫染色法を介して確認した結果である。
【
図18】
図18は、逆分化腎前駆細胞の新単位類似組織への分化能を検証するため、新単位類似組織の特異的な形態を確認し、糸球体足細胞遺伝子マーカーPODXLと尿細管細胞の遺伝子マーカーであるLTLの発現を免疫染色法を介して確認した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
特に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術的及び科学的用語は、本発明の属する技術分野において熟練した専門家によって通常理解されるものと同一の意味を持つ。一般的に、本明細書で使用される命名法は、本技術分野でよく知られており、通常使用されるものである。
【0018】
本発明では、尿から尿細胞を分離、培養してOct4、Klf4、Sox2、c-Myc及びSlug逆分化因子の組み合わせが導入されたベクターを尿細胞に導入させた。ヘパリン、LDN-193189、L-グルタミンが含まれているAdvanced RPMI 1640培地にFGF9、BMP7、CHIR99021及びY-27632を添加して前記逆分化因子が導入された尿細胞を培養することにより、腎前駆細胞への逆分化を誘導した。
【0019】
したがって、本発明は、一側面において、(a)尿から尿細胞を分離して培養する段階と、(b)前記培養された尿細胞に逆分化因子i)Oct4タンパク質をコードする核酸、ii)Sox2タンパク質をコードする核酸、iii)Klf4タンパク質をコードする核酸、iv)c-Mycタンパク質をコードする核酸及びv)Slugタンパク質をコードする核酸を導入する段階と、(c)前記逆分化因子が導入された尿細胞を腎前駆細胞培養培地で培養して腎前駆細胞へ逆分化を誘導する段階と、(d)前記腎前駆細胞に直接逆分化が誘導された細胞から腎前駆細胞の特性を持つ逆分化腎前駆細胞を選別する段階と、を含む尿細胞から腎前駆細胞への直接逆分化を誘導する方法に関する。
【0020】
本発明の用語の「逆分化腎前駆細胞」とは、分化した細胞に逆分化技術を用いて腎幹細胞と類似または同一の多分化能(pluripotency)を持つ未分化状態の幹細胞を確立する方式で作製された細胞を意味する。誘導腎前駆細胞は、腎前駆細胞と同一または類似の特性を有しているが、具体的には、似たような細胞の形態を示し、遺伝子及びタンパク質の発現パターンが類似しており、生体内外で多分化能を持つことができる。したがって、本発明の逆分化腎前駆細胞は、糸球体足細胞(Glomerular Podocyte)または尿細管細胞(renal tubular cells)などへ分化可能なものであってもよい。
【0021】
本発明において使用される用語の「腎前駆細胞」とは、腎組織構成細胞に分化可能な多能性(multipotent)未分化細胞(幹細胞及び/又は前駆細胞)として、足細胞と尿細管細胞に分化できる未分化細胞も含む。
【0022】
本発明において逆分化(dedifferentiation)とは、分化された細胞が1つ以上の互いに異なる組織形態に分化する前に「幹細胞」-類似または多能性細胞状態(multipotent state)を得る現象に関する。
【0023】
本発明において用語の「分化(differentiation)」とは、細胞が分裂増殖して成長する間に細胞の構造や機能が特殊化される現象を意味する。多能性中葉幹細胞は、系統が限られた前駆細胞(例えば、中胚葉性細胞)に分化した後、他の形態の前駆細胞にさらに分化してもよく、以後、特定の組織において特徴的な役割を果たす末期分化細胞(例えば、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞など)に分化されてもよい。
【0024】
本発明の「腎前駆細胞」とは、特定の組織(例えば、腎臓組織)で特徴的な役割を果たす末期分化細胞、すなわち、腎構成細胞にのみ分化しうる。
【0025】
本発明において用語の「尿細胞(Urine cells;UCs)」とは、患者の年齢や性別、健康状態に関連なく、低コストで安全かつ簡単に何らかの不便と苦痛なしに、いつでも容易に繰り返し獲得可能で、特別な分離過程なしに尿から得られる体細胞として知られている。
【0026】
本発明において、前記尿細胞は、尿由来体細胞であることを特徴とする。
【0027】
本発明では、尿細胞において逆分化因子であるOct4及びSox2、Klf4、c-Mycと同時に転写因子Slugを発現させる場合、既に分化した細胞タイプの尿細胞が分化能を持つ腎前駆細胞に逆分化(de-differentiation)する可能性を発見した。
【0028】
本発明の用語の「逆分化因子」とは、2006年山中(Yamanaka)教授チームによって導入された概念である逆分化(Reprogramming)から始まった。成体のすべての組織は、正常発達過程を経て、分化されない未分化状態から次第に分化し、各機能が専門化した細胞に変化する。そのうち、受精卵の細胞は、全能性(Totipotent)を有しており、以後、発達段階が進むにつれて胚盤胞になると、内部細胞塊(inner cell mass)と外側の細胞に区分が可能である。このときの内部細胞塊細胞が胚体細胞と生殖細胞として発生でき、これを多能性(pluripotent)と呼ぶ。この胚性幹細胞は、多能性特有の遺伝子発現の様相を示すが、その代表的な例がOct4、Sox2、Nanog、Lin28などである。逆分化は、体細胞にこのような特異的な遺伝子発現を誘導し、胚性幹細胞及び成体幹細胞などの未分化細胞と類似した性質に戻す技術と言える。Oct4及びSox2、Klf4、c-Mycは、それに伴う一連の研究において使用されてきた様々な因子であって、本発明において尿細胞から腎前駆細胞に逆分化させるのに用いた。
【0029】
本発明の「Slug」とは、さらに「Snai2」としても知られており、SlugとSnai2は、同じであると理解できる。
【0030】
本発明のOct4及びSox2、Klf4、c-Myc、Slug(またはSnai2)は、ヒトとウマ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ラクダ、レイヨウ、イヌなどの動物由来のすべてのOct4及びSox2、Klf4、c-Myc、Slug(またはSnai2)を含み、好ましくは、ヒトOct4及びSox2、Klf4、c-Myc、Slug(またはSnai2)である。また、腎前駆細胞への逆分化に使用される本発明のOct4及びSox2、Klf4、c-Myc、Slug(またはSnai2)タンパク質は、その野生型(wild type)のアミノ酸配列を有するタンパク質だけでなく、Oct4及びSox2、Klf4、c-Myc、Slug(またはSnai2)タンパク質の変異体を含んでもよい。
【0031】
具体的な一実施例において、逆分化に使用されたOct4及びSox2、Klf4、c-Myc、Slug(またはSnai2)の遺伝子配列は、Cell 2007 Nov 30;131(5):861-72に開示されたものを使用した。
【0032】
Oct4及びSox2、Klf4、c-Myc、Slug(またはSnai2)タンパク質の変異体とは、Oct4及びSox2、Klf4、c-Myc、Slug(またはSnai2)の天然アミノ酸配列と1つ以上のアミノ酸残基が欠失、挿入、非保存的または保存的置換またはこれらの組み合わせにより、異なる配列を有するタンパク質を意味する。前記変異体は、天然タンパク質と同じ生物学的活性を示す機能的等価物であるか、必要に応じてタンパク質の物理化学的性質が変形された変異体であってもよい。物理、化学的環境に対する構造安定性が増大するか、または生理学的活性が増大した変異体である。
【0033】
前記Oct4及びSox2、Klf4、c-Myc、Slug(またはSnai2)タンパク質をコードするヌクレオチド配列からなる核酸は、野生型または前記のような変異体の形態のOct4及びSox2、Klf4、c-Myc、Slug(またはSnai2)タンパク質をコードするヌクレオチド配列からなる核酸であって、1つ以上の塩基が置換、欠失、挿入またはこれらの組み合わせによって変異されてもよく、天然から分離されるか、または化学的合成法を用いて製造してもよい。
【0034】
前記Oct4及びSox2、Klf4、c-Myc、Slug(またはSnai2)タンパク質をコードするヌクレオチド配列を有する核酸は、短鎖または二重鎖であってもよく、DNA分子(ゲノム、cDNA)またはRNA分子であってもよい。
【0035】
1つの好ましい態様において、本発明で尿細胞を腎前駆細胞に逆分化を誘導する逆分化因子は、Oct4及びSox2、Klf4、c-Myc、Slug(またはSnai2)タンパク質をコードするヌクレオチド配列を有する核酸が導入されたOct4及びSox2、Klf4、c-Myc、Slug(or Snai2)タンパク質を発現するベクターを含んでもよい。
【0036】
本発明において、前記(b)段階は、前記逆分化因子が挿入されたウイルスベクターを直接尿細胞に導入させることを特徴とする。
【0037】
本発明において用語の「ベクター」とは、適切な宿主細胞から目的タンパク質を発現できる発現ベクターであって、遺伝子挿入物が発現されるように作動可能に連結された必須の調節要素を含む遺伝子作製物をいう。
【0038】
本発明において用語の「作動可能に連結された(operably linked)」とは、一般的な機能を行うように核酸発現調節配列と目的とするタンパク質をコードする核酸配列が機能的に連結(functional linkage)されていることをいう。組換えベクターとの作動的連結は、当該技術分野でよく知られている遺伝子組換え技術を用いて製造してもよく、部位-特異的DNA切断及び連結は、当該技術分野で一般的に知られている酵素などを使用する。
【0039】
本発明のベクターは、プロモーター、オペレーター、開始コドン、終止コドン、ポリアデニル化シグナル、エンハンサーなどの発現調節要素の他にも膜標的化または分泌のための信号配列またはリーダー配列を含み、目的に応じて多様に製造されてもよい。ベクターのプロモーターは、構成的または誘導性であってもよい。また、発現ベクターは、ベクターを含有する宿主細胞を選ぶための選択性マーカーを含み、複製可能な発現ベクターの場合、複製起源を含む。ベクターは、自己複製するか、または宿主DNAに統合されてもよい。
【0040】
ベクターは、プラスミドベクター、コズミドベクター、ウイルスベクターなどを含む。好ましくは、ウイルスベクターである。ウイルスベクターは、レトロウイルス(Retrovirus)、例えば、HIV(Human immunodeficiency virus)MLV(Murine leukemia virus)ASLV(Avian sarcoma/leukosis)、SNV(Spleen necrosis virus)、RSV(Roussarcoma virus)、MMTV(Mouse mammary tumor virus)など、アデノウイルス(Adenovirus)、アデノ随伴ウイルス(Adeno-associated virus)、単純ヘルペスウイルス(Herpes simplex virus)などから由来したベクターを含むが、これに制限されるものではない。本発明の具体的な実施例では、MMLV- 基盤-ウイルスベクター(Murine Moloney leukemia virus based virus vector)としてpMXsベクターを用いた。
【0041】
本発明においてOct4及びSox2、Klf4、c-Myc、Slug(またはSnai2)タンパク質をコードするヌクレオチド配列を有する核酸は、当分野の公知の方法、例えば、ベクター形態のネイキッドDNAで細胞内に伝達するか(Wolff et al.Science,1990:Wolffet al.J Cell Sci.103:1249-59,1992)、リポソーム(Liposome)、カチオン性ポリマー(Cationic polymer)などを用いて細胞内に伝達してもよい。リポソームは、遺伝子伝達のためにDOTMAやDOTAPなどのカチオン性リン脂質を混合して製造したリン脂質膜であって、カチオン性リポソームとアニオン性核酸が一定の割合で混合すると、核酸-リポソーム複合体が形成される。
【0042】
さらに他の好ましい様態として、本発明において尿細胞を腎前駆細胞に逆分化を誘導する組成物は、Oct4及びSox2、Klf4、c-Myc、Slug(またはSnai2)タンパク質をコードするヌクレオチド配列からなる核酸を含むOct4及びSox2、Klf4、c-Myc、Slug(またはSnai2)タンパク質を発現するウイルスを含んでもよい。
【0043】
本発明において、用語の「ウイルス」とは、Oct4及びSox2、Klf4、c-Myc、Slug(またはSnai2)タンパク質をコードするヌクレオチド配列を有する核酸を含むウイルスベクターをパッケージング細胞に形質転換及び感染させて作製したOct4及びSox2、Klf4、c-Myc、Slug(またはSnai2)を発現するウイルスを意味する。
【0044】
本発明のOct4及びSox2、Klf4、c-Myc、Slug(またはSnai2)タンパク質を発現するウイルスの製造に使用可能なウイルスは、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、単純ヘルペスウイルスなどを含み、これに制限されるものではない。好ましくは、レトロウイルスである。
【0045】
本発明の具体的な実施例では、pMXsベクターにOct4及びSox2、Klf4、c-Myc、Slug(またはSnai2)タンパク質をコードする核酸配列を挿入して製造したベクター(pMXs-Oct4及びpMXs-Sox2、pMXs-Klf4、pMXs-c-Myc、pMXs-Slug(またはpMXs-Snai2))をOct4及びSox2、Klf4、c-Myc、Slug(またはSnai2)広範囲な哺乳類宿主細胞に感染が可能な高力価ウイルスを生成するパッケージング細胞である293gpg細胞に形質転換させてOct4及びSox2、Klf4、c-Myc、Slug(またはSnai2)タンパク質を発現させるウイルスを製造して尿細胞を感染させた。
【0046】
本発明において、前記段階(a)で尿細胞の培養は、FBS(fetal bovine seruM)及びbFGF(basic fibroblast growth factor)、EGF(epithelial growth factor)含有培地で行われてもよい。
【0047】
本発明で使用される用語の「培地(culture Medium)」とは、in vitro上で細胞の成長及び生存を支持できるようにする培地を意味し、尿細胞及び逆分化腎前駆細胞の誘導及び培養に適切な当分野で使用される通常の培地をすべて含む。細胞の種類に応じて培地及び培養条件を選んでもよい。培養に使用される培地は、好ましくは、細胞培養最小培地(cell culture minimum Medium;CCMM)で、一般的に炭素源、窒素源及び微量元素成分を含む。このような細胞培養最小培地には、例えば、DMEM(Dulbecco's Modified Eagle's Medium)、MEM(Minimal essential Medium)、BME(Basal Medium Eagle)、RPMI1640、F-10、F-12、αMEM(α Minimal essential Medium)、GMEM(Glasgow's Minimal essential Medium)、及びIMEM(Iscove's Modified Dulbecco's Medium)などがあるが、これに制限されるものではない。また、前記培地は、ペニシリン(penicillin)、ストレプトマイシン(streptomycin)またはゲンタマイシン(gentamicin)などの抗生剤を含んでもよい。
【0048】
本発明の具体的な実施例において、尿から分離した細胞をFBS、bFGF及びEGFを含有する基本培地で培養することにより、得ることができ、具体的には、FBSが含まれたハイグルコースDMEM及びREGM(Renal Epithelial Cell Growth Medium、Lonza社)培地にbFGF及びEGFを添加して培養することにより得られる。さらに好ましくは、前記ハイグルコースDMEM及びREGM培地は、L-グルタミン及びペニシリン-ストレプトマイシンをさらに含んでもよい。
【0049】
本発明において、前記段階(b)で逆分化因子を尿細胞に導入する方法は、当業界で通常使用される細胞に核酸分子またはタンパク質を提供する方法を制限なく使用してもよく、好ましくは、逆分化因子を分化された細胞の培養液に投与する方法、または逆分化因子を分化した細胞に直接注入する方法を使用してもよく、このときに使用される逆分化因子は、該当因子の遺伝子を挿入したウイルスベクターで形質感染させたパッケージ細胞から得たウイルス、試験管内転写(in vitro transcription)により生産したmRNA、または様々な細胞株内で生産されたタンパク質などの形態で使用してもよい。本発明の具体的な実施例において、尿細胞への前記逆分化因子の導入は、Oct4及びSox2、Klf4、c-Myc、Slug(またはSnai2)をコードするDNAを使用した。
【0050】
前記DNAを分化した細胞に直接注入する方法は、当業界で公知の任意の方法を選択して使用してもよく、これに制限されるものではないが、微細注入法(microijection)、電気穿孔法(electroporation)、粒子噴射法(particle bombardment)、直接筋肉注入法、インシュレータ(insulator)及びトランスポゾンを用いた方法の中から適宜選択して適用してもよい。具体的には、本発明の実施例において逆分化因子のDNAは、電気穿孔法を用いて尿細胞に導入した。
【0051】
本発明において、前記段階(c)でOct4及びSox2、Klf4、c-Myc、Slugタンパク質をコードする核酸が導入された尿細胞を腎前駆細胞に誘導する培地(腎前駆細胞誘導培地)は、LDN-193189、CHIR99021、FGF9、BMP7のうち1つ以上が含有された基本培地で培養することにより、腎前駆細胞への逆分化を誘導し得、本発明の具体的な実施例において、前記培地は、Advanced RPMI 1640培地にY-27632、CHIR99021、FGF9、BMP7をすべて添加し、さらにLDN-193189、Heparin、L-glutamineを添加した培地での腎前駆細胞の転換率が最も優れていることを確認した。
【0052】
本発明において、前記(c)段階の培養培地は、FGF9、BMP7、CHIR99021及びY-27632を含むことが好ましく、さらに好ましくは、ヘパリン、LDN-193189またはL-グルタミンをさらに含むものであり、Advanced RPMI 1640基本培地に含まれるものであるが、これに限定されるものではない。
【0053】
また、前記培養培地での培養は、Matrigel、laminin、fibronectin、gelatin及びcollagenのうち1つまたは1つ以上のコーティング条件で行われる場合、誘導効率が増加しうる。
【0054】
本発明において前記段階(d)で誘導された腎前駆細胞の選別は、前記段階(c)を行った後、生成された腎前駆細胞コロニーを採取するものであり、前記選別された腎前駆細胞は、腎前駆細胞培地で培養してもよい。
【0055】
前記腎前駆細胞培地は、Advanced RPMI 1640培地にFGF9、BMP7、Y-27632、CHIR99021、Heparin、LDN-193189、L-glutamineをすべて添加した培地であってもよい。さらに、前記逆分化腎前駆細胞は、0.5mM EDTA溶液もしくはAccutase溶液を用いて継代培養してもよい。
【0056】
本発明は、他の観点から、前記方法で逆分化誘導された腎前駆細胞を有効成分として含む腎細胞損傷疾患の予防または治療用薬学組成物に関する。
【0057】
本発明は、さらに他の観点から、前記方法で逆分化誘導された腎前駆細胞を投与する段階を含む腎細胞損傷疾患の予防または治療方法に関する。
【0058】
本発明は、さらに他の観点から、腎細胞損傷疾患の予防または治療方法に使用するための前記方法で逆分化誘導された腎前駆細胞に関する。
【0059】
本発明は、さらに他の観点から、腎細胞損傷疾患の予防または治療方法で使用するための前記方法で逆分化誘導された腎前駆細胞を含む薬学的組成物に関する。
【0060】
本発明は、さらに他の観点から、前記方法で逆分化誘導された腎前駆細胞を有効成分として含有する組成物を腎細胞損傷疾患の予防または治療に使用する用途に関する。
【0061】
本発明は、さらに他の観点から、腎細胞損傷疾患の予防または治療用薬剤の製造のための前記方法で逆分化誘導された腎前駆細胞の用途に関する。
【0062】
本発明の逆分化腎前駆細胞は、糸球体足細胞(Glomerular Podocyte)または尿細管細胞(renal tubular cells)などに分化可能な多分化能を持つ細胞で、損傷または消失した腎細胞を修復でき、前記腎細胞の損傷または消失により発生する疾患を制限なく治療が可能である。
【0063】
具体的には、前記腎細胞の損傷により発生する疾患は、急性/慢性腎不全(acute/chronic renal failure)、糸球体腎炎(glomerulonephritis)、腎症候群(nephrotic syndrome)、腎盂腎炎(nephropyelitis)、多嚢胞性腎症(polycystic nephropathy)、末期腎疾患(end-stage renal disease)からなる群から選ばれてもよい。
【0064】
本発明の前記薬剤学的組成物は、その持続的に効果を増進させるために薬物送達システムをさらに導入してもよい。例えば、高分子水和ゲル、高分子マイセル、エマルジョン、リポソーム、高分子粒子、微細針などの形態の伝達システムに担持されてもよく、このようなシステムを構成している材料としては、天然及び合成ポリマー、無機物を含んでもよい。
【0065】
本発明の薬学組成物は、薬学的組成物の製造に通常使用される適切な担体、賦形剤または希釈剤をさらに含んでもよい。具体的には、前記薬学組成物は、それぞれ通常の方法によって散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン、シロップ、エアロゾルなどの経口型剤形、外用剤、坐剤及び滅菌注射溶液の形態で剤形化して使用されてもよい。本発明において、前記薬学組成物に含まれてもよい担体、賦形剤及び希釈剤としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、デンプン、アカシアゴム、アルギン酸塩、ゼラチン、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾアート、プロピルヒドロキシベンゾアート、タルク、マグネシウムステアレート及び鉱物油が挙げられる。製剤化する場合には、通常使用される充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩解剤、界面活性剤などの希釈剤または賦形剤を使用して調製される。経口投与のための固形製剤には、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などが含まれており、これらの固形製剤は、少なくとも1つ以上の賦形剤、例えば、デンプン、炭酸カルシウム(calciuM carbonate)、スクロース(sucrose)またはラクトース(lactose)、ゼラチンなどを混合して調剤される。また、単純な賦形剤以外にマグネシウムステアレート、タルクのような潤滑剤も使用される。経口のための液状製剤としては、懸濁剤、内用液剤、乳剤、シロップ剤などが該当するが、よく使用される単純希釈剤である水、リキッドパラフィン以外に様々な賦形剤、例えば、湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などが含まれてもよい。非経口投与のための製剤には、滅菌された水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤、坐剤が含まれる。非水性溶剤、懸濁剤としては、プロピレングリコール(propylene glycol)、ポリエチレングリコール、オリーブオイルなどの植物油、オレイン酸エチルのような注射可能なエステルなどが使用されてもよい。坐剤の基剤としては、ウイテプゾール(witepsol)、マクロゴール、ツイン(tween)61、カカオ脂、ラウリン脂、グリセロゼラチンなどが使用されてもよい。
【0066】
本発明一実施例による薬学組成物に含まれた前記製剤の含量は、特にこれに制限されるものではないが、最終の組成物の総重量を基準として0.0001~50重量%、より好ましくは、0.01~10重量%の含量で含んでもよい。
【0067】
前記本発明の薬学組成物は、薬学的に有効な量で投与されてもよいが、本発明の用語の「薬剤学的に有効な量」とは、医学的治療または予防に適用可能な合理的な受恵/リスク比で疾患を治療または予防するのに十分な量を意味し、有効容量レベルは、疾患の重症度、薬物の活性、患者の年齢、体重、健康、性別、患者の薬物に対する感度、使用された本発明の組成物の投与時間、投与経路及び排出割合治療期間、使用された本発明の組成物と配合または同時に使用される薬物を含む要素及びその他の医療分野でよく知られている要素によって決定されてもよい。本発明の薬学組成物は、個別治療剤として投与するか、他の治療剤と併用して投与されてもよく、従来の治療剤とは、順次または同時に投与されてもよい。そして、単一または多重投与されてもよい。前記要素をすべて考慮し、副作用なしに最小限の量で最大の効果が得られる量を投与することが重要である。
【0068】
本発明の薬学組成物の投与量は、使用目的、疾患の重篤度、患者の年齢、体重、性別、既往歴、または有効成分として使用される物質の種類などを考慮して当業者が決定してもよい。例えば、本発明の薬学組成物をヒトを含む哺乳動物に一日に10~100mg/kg、より好ましくは、10~30mg/kgで投与してもよく、本発明の組成物の投与頻度は、特にこれに制限されるものではないが、1日に1回~3回投与するか、または容量を分割して数回投与してもよい。
【0069】
本発明の用語の「予防」とは、本発明による薬学的組成物の投与により、腎細胞損傷疾患の発症を抑制または遅延させるすべての行為を意味する。
【0070】
本発明の用語の「治療」とは、本発明の薬学組成物を投与することにより、腎細胞損傷疾患が好転するか、または有利に変更させるすべての行為を意味する。
【0071】
本発明の用語の「投与」とは、何らかの適切な方法で対象に本発明の薬学組成物を導入する行為を意味し、投与経路は、目的組織に到達できる限り、経口または非経口の多様な経路を介して投与されてもよい。
【0072】
本発明の薬学組成物の投与経路は、目的組織に到達できる限り、どのような一般的な経路を介して投与されてもよい。本発明の薬学組成物は、特にこれに制限されるものではないが、目的に応じて、腹腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、経口投与、脾内投与、肺内投与、直腸内に投与されてもよい。
【0073】
以下、実施例を通じて本発明をさらに詳細に説明する。これらの実施例は、単に本発明を例示するためのもので、本発明の範囲がこれらの実施例によって制限されるものと解されないものは、当業界において通常の知識を持つ者にとって自明であろう。
【実施例】
【0074】
実施例1:尿から尿細胞(Urine cell)の分離
尿から尿細胞を分離する方法は、1972年に英国のSutherlandとBainが開発した技術を基本としており、具体的には、以下の通りである。
【0075】
まず、供与者から提供された尿を1000gで10分間遠心分離した。上澄み液を除去した後、下層に残ったペレットを1%Penicillin/Streptomycin/Amphotericin B抗生剤が含まれたPBS溶液20mlに希釈した。次に、希釈されたPBS+ペレット溶液を1000gで10分間遠心分離した。再び上澄み液を除去した後、下層に残ったペレットをゼラチンがコーティングされた12-ウェル細胞培養プレートにDMEM/F12を基本として、1%Penicillin/Streptomycin/Amphotericin B抗生剤、1%L-グルタミン、10%FBSが含まれた基本培地1mlで希釈してシーディングした。以後、3日間基本培地を1mlずつ添加して培養した後、DMEMとREGM(Renal Epithelial Cell Growth Medium、Lonza社)を1:1で混合した培地を基本として、1%Penicillin/Streptomycin抗生剤、1%L-グルタミン、5%FBS、1010ng/ml bFGF、10g/ml EGFが含まれた成長培地に変更して培養した。
【0076】
実施例2:尿細胞に逆分化因子の導入
pMXsベクターにOct4及びKlf4、Sox2、c-Myc、Slug、Six1、Six2、Osr1、Pax2、Eya1タンパク質をコードするヌクレオチド配列を挿入して製造したベクターpMXs-Oct4及びpMXs-Klf4、pMXs-Sox2、pMXs-cMyc、pMXs-Slug、pMXs-Six1、pMXs-Six2、pMXs-Osr1、pMXs-Pax2、pMXs-Eya1をヒト293-由来レトロウイルスパッケージング細胞株である293GPGを用いて前記逆分化因子の組み合わせが導入されたベクターを製造した。これらの逆分化因子の組み合わせが導入されたベクターを実施例1から分離、培養した尿由来細胞にLipofectamine 2000(Life Technologies)を介して注入させ、逆分化因子が導入された尿細胞を製造した。
【0077】
前記逆分化因子を導入した尿細胞は、ゼラチンがコーティングされた6-ウェル細胞培養プレートにDMEMとREGMを1:1で混合した培地を基本として、1%Penicillin/Streptomycin抗生剤、1%L-グルタミン、5%FBS、10ng/ml bFGF、10g/ml EGFを含む環境で2日間培養した。
【0078】
実施例3:尿由来の逆分化腎前駆細胞の誘導
マトリゲル(Matrigel)がコーティングされた細胞培養プレートに前記逆分化因子が導入された尿由来細胞をシーディングした後、1ug/mlのヘパリン、125nMのLDN-193189、0.5%のL-グルタミンが含まれたAdvanced RPMI 1640(Gibco)培地を基本として、100ng/mlのFGF9、30ng/mlのBMP7、1.25uMのCHIR99021、10uMのY-27632を添加した腎前駆細胞の誘導及び拡張培地で10-13日間培養した。誘導完了時に腎前駆細胞コロニーの発生有無を確認できた(
図1a及び
図2)。
【0079】
特に、山中因子の組み合わせ(Oct4、Klf4、Sox2、c-Myc)にSlugが追加された組み合わせ(5F:Oct4、Klf4、Sox2、c-Myc、Slug)において自己増殖能とコロニー形成能が優れていることが確認された(
図1b)。しかし、5つの因子がすべて導入された場合と比較し、各因子が1つずつ除去された4つの因子の組み合わせから誘導された男性と女性由来の腎前駆細胞は、非常に少ないコロニー形成能を示した(
図1b)。また、代表的な腎前駆細胞マーカー遺伝子であるSIX2 mRNAレベルの解析においても、5つの因子がすべて導入された腎前駆細胞は、4つの組み合わせまたは胚性幹細胞から誘導された場合よりもはるかに高い発現度合いを示した(
図1c)。
【0080】
誘導された逆分化腎前駆細胞コロニーを採取し、マトリゲルがコーティングされた細胞培養プレートに前記腎前駆細胞の誘導及び拡張培地を入れて培養した。逆分化腎前駆細胞は、以後、0.5mM EDTA溶液またはAccutase溶液を用いて継代培養し、以後、次の実施例において、前記逆分化腎前駆細胞の様々な特性を検証した。
【0081】
実施例4:逆分化腎前駆細胞の分子生物学的特性の分析
4-1:腎前駆細胞マーカー遺伝子発現の確認
胚性幹細胞から由来した腎前駆細胞を陽性対照群とし、RT-PCRによるmRNAレベルの解析を介して逆分化腎前駆細胞がSIX2、CITED1、WT1、NCAM1のような腎前駆細胞マーカー遺伝子を発現していることを確認した(
図3及び
図4)。使用されたプライマー配列は、以下の通りである。
【0082】
SIX2: forward-CTCAAGGCACACTACATCGAG (配列番号 1)
reverse-GTTGTGGCTGTTAGAATTGGA (配列番号 2)
CITED1: forward-CAGCATCACTTCCCGCCAATTT (配列番号 3)
reverse-TTGCGATCTTTCACCGCAAGG (配列番号 4)
WT1: forward-TGTGTGCTTACCCAGGCTGCAA (配列番号 5)
reverse-CCGGGAGAACTTTCGCTGACAA (配列番号 6)
NCAM1: forward-CGATCTCATGGTTTCGGGATGG (配列番号 7)
reverse-TCATCAAACTGCACCTGGGCTG (配列番号 8)
【0083】
4-2:多能性マーカー遺伝子発現の確認
NANOG及びOCT4のような多能性マーカー遺伝子の発現有無によって、誘導多能性幹細胞のような腫瘍発生のリスクからの安全性を確認した。
【0084】
誘導多能性幹細胞を陽性対照群として逆分化腎前駆細胞においてNANOG及びOCT4のような多能性マーカー遺伝子の発現有無をRT-PCRによるmRNAレベルの解析を介して確認した(
図5)。使用されたプライマー配列は、以下の通りである。
【0085】
NANOG: forward-ATAGCAATGGTGTGACGCAG (配列番号 9)
reverse-GATTGTTCCAGGATTGGGTG (配列番号 10)
OCT4: forward-GACAGGGGGAGGGGAGGAGCTAGG (配列番号 11)
reverse-CTTCCCTCCAACCAGTTGCCCCAAAC (配列番号 12)
【0086】
4-3:タンパク質レベルで腎前駆細胞マーカー発現の確認
逆分化腎前駆細胞においてSIX2及びCITED1のような腎前駆細胞マーカーのタンパク質レベルの発現を免疫染色法を介して確認した(
図6)。抗体は、SIX2(11562-1-AP、Proteintech)及びCITED1(H00004435、Abnova)を使用した。
【0087】
また、ウエスタンブロットを通じて女性と男性の尿由来細胞から逆分化腎前駆細胞がSIX2及びCITED1のような腎前駆細胞のマーカータンパク質を発現していることを確認した(
図7)。
【0088】
4-4:核型解析及び腎前駆細胞マーカーmRNAの量的解析
逆分化腎前駆細胞の分子生物学的特性を検証するため、逆分化腎前駆細胞が正常な染色体を時間に応じて保存していることを核型解析を介して確認した(
図8)。
【0089】
次に、mRNAの量的解析を介して逆分化腎前駆細胞がSIX2のような腎前駆細胞マーカー遺伝子発現を時間経過にも一定量を維持していることをqRT-PCRとFACSによって確認した(
図9)。
【0090】
4-5:腎臓発達に関連した遺伝子発現レベルの確認
総RNAシーケンス(sequencing)を通じて腎臓発達に関連した遺伝子発現レベル(global gene expression level)で逆分化腎前駆細胞が本来の尿由来細胞よりも胚性幹細胞から由来した腎前駆細胞と類似したmRNA及びlnc-RNA発現パターンを示すことを確認した(
図9)。
【0091】
また、総RNAシーケンスを通じて全遺伝子のうち、腎臓発達に関連した遺伝子発現レベルで逆分化腎前駆細胞が本来の女性または男性の尿由来細胞よりも胚性幹細胞から由来した腎前駆細胞と類似したmRNA及びlnc-RNA(long non-coding-RNA)発現パターンを示すかどうかを確認し、腎臓発達に関連したmRNA発現の共通性をベンダイヤグラム解析により確認した(
図11及び
図12)。
【0092】
さらに、総RNAシーケンスを通じて全発現遺伝子のうち、腎臓発達に関連した遺伝子を細部的に分け、各グループの遺伝子発現レベルで尿細胞から逆分化腎前駆細胞とBG01胚性幹細胞から由来した腎前駆細胞の間の類似性を確認した(
図13)。
【0093】
実施例5:逆分化腎前駆細胞の分化能の解析
5-1:糸球体足細胞への分化能の解析
逆分化腎前駆細胞を糸球体足細胞に分化させるため、腎前駆細胞をDMEM/F12培地に1%Penicillin/Streptomycin抗生剤、1%L-グルタミン、10%FBS、100nMビタミンD3と60uM all-trans retinoic acidを添加した糸球体足細胞分化培地に7日間培養して分化を誘導した。その結果、糸球体足細胞マーカー遺伝子であるNephrin、Synaptopodocin、podocalyxinを発現することを確認した(
図14)。
【0094】
糸球体足細胞マーカー遺伝子の解析のために使用されたRT-PCRプライマー配列は、以下の通りである。
【0095】
Nephrin: forward-TGGCTCGGACCAAACCAACATT (配列番号 13)
reverse-AGGGCCTCATACCTGATGCAGA (配列番号 14)
Synaptopodocin: forward-CGCTCACCACACCAACTTCTAA (配列番号 15)
reverse-CTAGAAAGTGGCAGGCTCTGTG (配列番号 16)
podocalyxin: forward-CTTGAGACACAGACACAGAG (配列番号 17)
reverse-CCGTATGCCGCACTTATC (配列番号 18)
【0096】
また、免疫染色法を介してそれぞれSynaptopodocin、POXDLを染色して逆分化腎前駆細胞が糸球体足細胞に分化できることを確認した(
図15)。抗体は、naptopodocin(SC-21537、Santa cruz bitechnology)及びPOXDL(AF1658、R&D Systems)を使用した。
【0097】
5-2:尿細管細胞への分化能の解析
腎前駆細胞をDMEM/F12培地に1%Penicillin/Streptomycin抗生剤、1%L-グルタミン、10%FBS、1X ITS、20ng/mL hEGF(human epidermal growth factor)、1nM tri-iodothyronineと100ng/ml hydrocorticoneを添加した尿細管細胞の分化培地で21日間培養し、尿細管細胞に分化を誘導した。その結果、尿細管細胞のマーカー遺伝子であるCD13、AQP1を発現することを確認した(
図16)。
【0098】
尿細管細胞マーカー遺伝子の解析のために使用されたRT-PCRプライマー配列は、以下の通りである。
【0099】
CD13: forward-CCATGAAGGCCGAGTTCAACA (配列番号 19)
reverse-ATGAAGGCCAGCAAGTACGTG (配列番号 20)
AQP1: forward-ATGCCGACGACATCAACTCCAG (配列番号 21)
reverse-TGAGTCGGTGAGCAACTTTGGG (配列番号 22)
【0100】
また、免疫染色法を介してそれぞれLTL、AQP1、E-cadherinを染色して逆分化腎前駆細胞が尿細管細胞に分化できることを確認した(
図17)。抗体は、LTL(B-1325、Vector Labs)、AQP1(SC32737、Santa cruz bitechnology)、E-cadherin(610181、BD Biosciences)を使用した。
【0101】
5-3:新単位類似組織への分化能の解析
Advanced RPMI 1640(Gibco)に1%Penicillin/Streptomycin(P/S)、1%L-グルタミン(L/G)、100ng/ml FGF9、3010ng/ml BMP7、1.25uM CHIR、125nM LDN、10uM Y27632及び10ng/mlヘパリンを添加したNPEMで腎前駆細胞を1日間培養した後、ARPMI培地に1%P/S、1%L/G、10ng/ml FGF9、3uM CHIRを添加した分化培地で2日間培養し、ARPMI培地に1%P/S、1%L/G、10ng/ml FGF9を添加した分化培地で3日間培養した後、 ARPMI培地に1%P/S、1%L/Gを添加した培地で7-14日間培養して新単位類似組織に分化を誘導した。その結果、糸球体足細胞マーカー遺伝子であるPODXL及び尿細管細胞マーカー遺伝子であるLTLを発現していることを免疫染色法を介して確認した(
図18)。抗体は、PODXL(AF1658、R&D Systems)、LTL(B-1325、Vector Labs)を使用した。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明は、不便と苦痛なしに容易に繰り返して得られる体細胞である尿細胞を用いて個人オーダーメード型逆分化腎前駆細胞の大量生産が可能なので、腎臓損傷の治癒と腎臓の再生分野に拡大可能な難病分野及び細胞治療剤の生産に適用が可能である。
【0103】
以上、本発明の内容の特定の部分を詳細に記述したところ、当業界の通常の知識を持つ者にとって、このような具体的な技術は、単に好ましい実施態様に過ぎず、これにより、本発明の範囲が制限されるものではないことは明らかであろう。したがって、本発明の実質的な範囲は、添付の請求項とそれらの等価物によって定義されると言える。
【配列表】
【国際調査報告】