(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-10
(54)【発明の名称】抗ILDR2抗体とPD-1アンタゴニストの組み合わせ
(51)【国際特許分類】
C07K 16/28 20060101AFI20220603BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220603BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220603BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20220603BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220603BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220603BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20220603BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
A61K45/00
A61P35/00
A61P37/04
A61P43/00 121
A61K39/395 N
A61K39/395 U
A61K39/395 T
C12N15/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021560557
(86)(22)【出願日】2020-04-06
(85)【翻訳文提出日】2021-12-10
(86)【国際出願番号】 EP2020059745
(87)【国際公開番号】W WO2020207961
(87)【国際公開日】2020-10-15
(32)【優先日】2019-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591063187
【氏名又は名称】バイエル アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Bayer Aktiengesellschaft
(71)【出願人】
【識別番号】517290958
【氏名又は名称】コンピュジェン リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ラース・レーゼ
(72)【発明者】
【氏名】ウーヴェ・グリッツァン
(72)【発明者】
【氏名】スペンサー・リアン
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー・ポウ
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・ハンター
(72)【発明者】
【氏名】オフェル・レヴィ
(72)【発明者】
【氏名】イラン・ヴァクニン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084ZB091
4C084ZB092
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC751
4C084ZC752
4C085AA14
4C085BB01
4C085CC23
4C085EE03
4H045AA11
4H045AA30
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
本発明は、がんの治療においてPD-1アンタゴニストと組み合わせて使用するための抗ILDR2抗体、そのフラグメントもしくは誘導体、改変された抗体形式、または抗体模倣物に関する。本発明の他の態様は、抗ILDR2抗体およびPD-1アンタゴニストを含む組み合わせ、ならびにかかる組み合わせの薬物としての使用、ならびに被験体におけるがんの治療または予防の方法に関し、被験体に治療上有効な量の本明細書に記載の抗体を投与するステップを含む。さらに、本発明は、抗ILDR2抗体およびPD-1アンタゴニストと、場合により1個または複数のさらなる医薬品を含むキットに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
がんの治療においてPD-1アンタゴニストと組み合わせて使用するための抗ILDR2抗体、そのフラグメントもしくは誘導体、改変された抗体形式、または抗体模倣物であって、前記抗ILDR2抗体、そのフラグメントもしくは誘導体、改変された抗体形式、または抗体模倣物が、配列番号1、配列番号2および配列番号3に記載の少なくとも3つのCDR重鎖配列と、配列番号4、配列番号5および配列番号6に記載の3つのCDR軽鎖配列をさらに含む、抗ILDR2抗体、そのフラグメントもしくは誘導体、改変された抗体形式、または抗体模倣物。
【請求項2】
請求項1に記載のがんの治療においてPD-1アンタゴニストと組み合わせて使用するための抗ILDR2抗体、そのフラグメントもしくは誘導体、改変された抗体形式、または抗体模倣物であって、前記抗ILDR2抗体、そのフラグメントもしくは誘導体、改変された抗体形式、または抗体模倣物が、
(i)配列番号7の配列と少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一である、少なくとも1つの重鎖可変領域配列、および/または
(ii)配列番号8の配列と少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一である、少なくとも1つの軽鎖可変領域配列、
を含む、抗ILDR2抗体、そのフラグメントもしくは誘導体、改変された抗体形式、または抗体模倣物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のがんの治療においてPD-1アンタゴニストと組み合わせて使用するための抗ILDR2抗体、そのフラグメントもしくは誘導体、改変された抗体形式、または抗体模倣物であって、前記抗ILDR2抗体、そのフラグメントもしくは誘導体、改変された抗体形式、または抗体模倣物が、
(i)配列番号9の配列と少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一である、少なくとも1つの重鎖配列、および/または
(ii)配列番号10の配列と少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一である、少なくとも1つの軽鎖配列、
を含む、抗ILDR2抗体、そのフラグメントもしくは誘導体、改変された抗体形式、または抗体模倣物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のがんの治療においてPD-1アンタゴニストと組み合わせて使用するための抗ILDR2抗体、そのフラグメントもしくは誘導体、改変された抗体形式、または抗体模倣物であって、前記PD-1アンタゴニストが、抗体、そのフラグメントもしくは誘導体、改変された抗体形式、または抗体模倣物であり、これらがすべてPD-1結合特性を有している、抗ILDR2抗体、そのフラグメントもしくは誘導体、改変された抗体形式、または抗体模倣物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のがんの治療においてPD-1アンタゴニストと組み合わせて使用するための抗ILDR2抗体、そのフラグメントもしくは誘導体、改変された抗体形式、または抗体模倣物であって、前記PD-1アンタゴニストが、ニボルマブ(オプジーボ(登録商標)、BMS-936558、MDX1106)、ペンブロリズマブ(キイトルーダ(登録商標)、MK-3475、ランブロリズマブ)、PDR-001(ノバルティス社)、JS001(Shanghai Junshi Biosciences社)、STI-A1110、ピディリズマブ(Cure Tech社)、AMP-224(グラクソ・スミスクライン社)、AMP-514(グラクソ・スミスクライン社)、セミプリマブ(Regeneron社およびSanofi社)、BGB-A317(BeiGene社、中国)、SHR-1210(Jiangsu Hengrui Medicine社)からなる群から選択される、抗ILDR2抗体、そのフラグメントもしくは誘導体、改変された抗体形式、または抗体模倣物。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか一項に記載のがんの治療においてPD-1アンタゴニストと組み合わせて使用するための抗ILDR2抗体、そのフラグメントもしくは誘導体、改変された抗体形式、または抗体模倣物であって、前記PD-1アンタゴニストが、ニボルマブ(オプジーボ(登録商標)、BMS-936558、MDX1106)またはペンブロリズマブ(キイトルーダ(登録商標)、MK-3475、ランブロリズマブ)であり、好ましくはペンブロリズマブ(キイトルーダ(登録商標)、MK-3475、ランブロリズマブ)である、抗ILDR2抗体、そのフラグメントもしくは誘導体、改変された抗体形式、または抗体模倣物。
【請求項7】
請求項1から4のいずれか一項に記載のがんの治療においてPD-1アンタゴニストと組み合わせて使用するための抗ILDR2抗体、そのフラグメントもしくは誘導体、改変された抗体形式、または抗体模倣物であって、前記PD-1アンタゴニストが、
i)配列番号12、配列番号13および配列番号14に記載の少なくとも3つのCDR重鎖配列および配列番号16、配列番号17および配列番号18に記載の3つのCDR軽鎖配列;および/または
ii)配列番号19の配列と少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一である少なくとも1つの重鎖配列;および/または
iii)配列番号20の配列と少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一である少なくとも1つの軽鎖配列、
を含む、抗ILDR2抗体、そのフラグメントもしくは誘導体、改変された抗体形式、または抗体模倣物。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載のがんの治療においてPD-1アンタゴニストと組み合わせて使用するための抗ILDR2抗体、そのフラグメントもしくは誘導体、改変された抗体形式、または抗体模倣物であって、前記抗ILDR2抗体および前記PD-1アンタゴニストの少なくとも1つが、1個または複数の医薬品と同時に、別々に、または順次に組み合わせて投与される、抗ILDR2抗体、そのフラグメントもしくは誘導体、改変された抗体形式、または抗体模倣物。
【請求項9】
少なくとも2つの成分、成分Aおよび成分Bを含む組み合わせであって、成分Aおよび成分Bが同時に、同時発生的に、別々に、または順次に投与され、
i)成分Aが、請求項1から3のいずれか一項に定義される抗ILDR2抗体、そのフラグメントもしくは誘導体、改変された抗体形式、または抗体模倣物であり;かつ
ii)成分Bが、請求項4から7のいずれか一項に定義されるPD-1アンタゴニストである、
組み合わせ。
【請求項10】
薬物として使用するための、請求項9に記載の組み合わせ。
【請求項11】
がんなどの新生物性疾患、または免疫疾患もしくは障害の治療または予防に使用するための請求項9に記載の組み合わせであって、前記組み合わせが、1または複数の治療上効率的な投薬量で投与される、組み合わせ。
【請求項12】
がんなどの新生物性疾患、または免疫疾患もしくは障害に罹患している患者を治療する方法であって、請求項1から3のいずれか一項に定義される抗ILDR2抗体、そのフラグメントもしくは誘導体、改変された抗体形式、または抗体模倣物と、請求項4から7のいずれか一項に定義されるPD-1アンタゴニストとを、1または複数の治療上効率的な投薬量で前記患者に投与するステップであって、前記抗ILDR2抗体と前記PD-1アンタゴニストが、同時に、同時発生的に、別々に、または順次に投与される、ステップを含む、方法。
【請求項13】
がんの治療のための薬物の製造のための、請求項1から3のいずれか一項に定義される抗ILDR2抗体、そのフラグメントもしくは誘導体、改変された抗体形式、または抗体模倣物、および請求項4から7のいずれか一項に定義されるPD-1アンタゴニストの使用。
【請求項14】
i)請求項1から3のいずれか一項に定義される抗ILDR2抗体、そのフラグメントもしくは誘導体、改変された抗体形式、または抗体模倣物;および
ii)請求項4から7のいずれか一項に定義されるPD-1アンタゴニスト;および
iii)1個または複数のさらなる医薬品
を含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がんの治療においてPD-1アンタゴニストと組み合わせて使用するための抗ILDR2抗体、そのフラグメントもしくは誘導体、改変された抗体形式、または抗体模倣物に関する。本発明の他の態様は、抗ILDR2抗体およびPD-1アンタゴニストを含む組み合わせ、ならびにかかる組み合わせの薬物としての使用、ならびに被験体におけるがんの治療または予防の方法に関し、被験体に治療上有効な量の本明細書に記載の抗体を投与するステップを含む。さらに、本発明は、抗ILDR2抗体およびPD-1アンタゴニストと、場合により1個または複数のさらなる医薬品を含むキットに関する。
【背景技術】
【0002】
がんは、米国で2番目に多い死因であり、年間45万人が死亡している。がんの可能性のある環境的および遺伝的原因のいくつかを識別することにおいて実質的な進歩があったが、がんおよび関連疾患を標的とするさらなる治療様式が必要とされている。特に、調節不全の成長/増殖に関連する疾患を治療するための治療方法が必要とされている。
【0003】
がんは、抗腫瘍免疫応答からの脱出、増強された生存/アポトーシスに対する耐性および無限の増殖能などの獲得された機能的能力を有する細胞の選択プロセス後に生じる複雑な疾患である。したがって、限定されるものではないが、免疫抑制性腫瘍微小環境(TME)および不十分なT細胞プライミングなどの、確立された腫瘍の異なる特徴に対処するがん治療のための薬物を開発することが好ましい。
【0004】
免疫調節リガンドのB7ファミリーは、免疫応答を調節するリンパ球上の受容体に結合する、構造的に関連した細胞表面タンパク質リガンドで構成されている。
【0005】
Tリンパ球およびBリンパ球の活性化は、細胞表面の抗原特異的T細胞受容体またはB細胞受容体の関与によって開始されるが、B7リガンドによって同時に送達される追加のシグナルが最終的な免疫応答を決定する。これらの「共刺激」または「共抑制」シグナルは、リンパ球上の受容体のCD28ファミリーによってB7リガンドによって送達される。
【0006】
B7タンパク質のファミリーには、B7.1(CD80)、B7.2(CD86)、誘導性共刺激リガンド(ICOS-L)、プログラム死-1リガンド(PD-L1、B7-1とも呼ばれる))、プログラム死-2リガンド(PD-L2)、B7-H3、およびB7-H4が含まれる。このファミリーのメンバーは、主にヒトおよびマウスで特徴付けられているが、一部のメンバーは鳥類にも見出される。これらは20~40%のアミノ酸同一性を共有し、構造的に関連しており、細胞外ドメインには可変および定常免疫グロブリンドメインに関連するタンデムドメインが含まれている。B7リガンドは、リンパ組織および非リンパ組織で発現する。免疫応答の調節におけるこのファミリーの重要性は、B7ファミリーの遺伝子に変異があるマウスの免疫不全および自己免疫疾患の発症によって示されている。B7リガンドによって送達されるシグナルの操作は、自己免疫、炎症性疾患、およびがんの治療の可能性を示している。
【0007】
B7ファミリーメンバーとそれぞれの共刺激受容体(通常はCD28関連ファミリーのメンバー)との相互作用は、免疫応答を増強するが、CTLA4などの共抑制受容体との相互作用は、免疫応答を弱める。
【0008】
明らかに、各B7分子は免疫系において独自のニッチを発達させてきた。B7ファミリーメンバーの特定のニッチが引き続き分析されるにつれて、それらの診断および治療の可能性がますます明らかになってきている。B7スーパーファミリーメンバーの多くは、当初、T細胞共刺激分子として特徴付けられていた。しかし、最近になって、それらがT細胞応答を共抑制することができることも明らかになっている。したがって、B7ファミリーメンバーは免疫応答に反対の影響を与える可能性がある。
【0009】
B7スーパーファミリーのメンバーは、免疫チェックポイント阻害剤治療の標的となっている。
【0010】
最近、PD-1/PD-L1シグナル伝達経路が免疫系の活性の重要なレギュレーターとして浮上している。がんでは、腫瘍細胞は、PD-1のリガンドであるPD-L1を発現し、それによって宿主の免疫系による殺傷を回避することができる。PD-1とそのリガンドであるPD-L1およびPD-L2に対する阻害剤が最近開発された。これらは、この免疫抑制機構を妨害し、様々な種類のがんの患者の全体的な生存期間を延長することによって、驚くべき臨床効果を示した。これらの阻害剤のいくつかは、黒色腫、NSCLC、HNSCC、RCC、膀胱癌、およびNHLなどの様々ながんの適応症に承認されている。治療活性を改善するために、他の適応症での、および/または他の多様な抗腫瘍剤と併用した、多数の追加の臨床試験が進行中である。
【0011】
PD-1阻害剤は、主にGサブクラスの免疫グロブリンである生物学的製剤であり、PD-1として公知のプログラム細胞死タンパク質1に結合し、その活性を遮断する。既知のPD-1阻害剤は、ニボルマブ(オプジーボ(登録商標)、BMS-936558、MDX1106)、ペンブロリズマブ(キイトルーダ(登録商標)、MK-3475、ランブロリズマブ)、PDR-001(ノバルティス社)、JS001(Shanghai Junshi Biosciences社)、STI-A1110、ピディリズマブ(Cure Tech社)、AMP-224(グラクソ・スミスクライン社)、AMP-514(グラクソ・スミスクライン社)、セミプリマブ(Regeneron社およびSanofi社)、BGB-A317(BeiGene社、中国)、SHR-1210(Jiangsu Hengrui Medicine社)である。
【0012】
PD-1(CD279としても公知)は、様々な免疫細胞、主に活性化CD4+およびCD8+T細胞、マクロファージ、活性化B細胞の表面にモノマーとして発現する受容体タンパク質であるが、ナチュラルキラー(NK)細胞および抗原提示細胞(APC)にも見出される。そのリガンドPD-L1またはPD-L2に結合すると、ホスファターゼSHP-2が動員され、それにより、T細胞受容体(TCR)シグナル伝達複合体の主成分であるキナーゼZAP70が脱リン酸化される。これにより、TCRシグナル伝達が停止され、T細胞の細胞障害活性、それらのインターフェロンγの産生および増殖が阻害される。その上、PD-1の連結は、E3-ユビキチンリガーゼであるCBL-bおよびc-CBLをアップレギュレートし、T細胞受容体のダウンモジュレーションを引き起こす。PD-1は、ヒトではPdcd1遺伝子によってコードされており、転写因子NFATc1、IRF9およびFoxO1によって転写的に活性化される。これらは、TCRの活性化と、トランスフォーミング増殖因子βやエオメソデルミンなどのT細胞枯渇シグナルによって活性化される。PD-1の活性化誘導発現は、この受容体がむしろ末梢組織の免疫応答の後期の段階(エフェクター期、記憶応答および慢性感染)を調節していることを示唆している。
【0013】
しかし、上記で識別されたアプローチの大きな成功にもかかわらず、一部のアプローチは、その有効性の点で持続可能ではないこと、すなわち、疾患の再発が起こる、および/または一部の種類のがんでのみ有効であることが判明した。
【0014】
そのため、免疫チェックポイント阻害剤治療の分野では、新規かつ改善された治療法の提供ならびに既存の治療法の改善が非常に必要とされている。
【0015】
最近識別されたILDR2(免疫グロブリン様ドメイン含有受容体2)は、C1ORF32としても公知の、B7/CD28ファミリーの新規メンバーである。ILDR2は、他の既知のB7メンバーと同様にI型膜タンパク質であることに加えて、IgVドメインを含む。これにより最終的にその注釈はB7ファミリーへのものとなった。また、野生型C1ORF32と最初の5つのエクソンのみを共有するILDR2の2つの選択的スプライシングバリアント(H19011-1-P8およびH19011-1-P9)は、そのエクソンのサイズおよびこれらのエクソン内のIgVドメインと膜貫通ドメインの位置において、既知のB7ファミリーメンバーに類似している。ILDR2の完全な特徴については、その内容が参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2009032845号パンフレットを参照されたい。
【0016】
これまでのところ、この最近識別された受容体を標的とする治療法は開発されていない。したがって、本発明の1つの目的は、ILDR2を標的とする、新しく、改善された免疫チェックポイント阻害剤治療を提供することである。特に、既存の免疫チェックポイント阻害剤治療との組み合わせの可能性と、新しい組み合わせによる現存する免疫チェックポイント阻害剤治療の上記の欠点を克服するためのそれらの改善が調査されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】国際公開第2009032845号パンフレット
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0018】
したがって、本発明は、がんの治療においてPD-1アンタゴニストと組み合わせて使用するための抗ILDR2抗体、そのフラグメントもしくは誘導体、改変された抗体形式、または抗体模倣物を提供し、抗ILDR2抗体、そのフラグメントもしくは誘導体、改変された抗体形式、または抗体模倣物は、配列番号1、配列番号2および配列番号3に記載の少なくとも3つのCDR重鎖配列と、配列番号4、配列番号5および配列番号6に記載の3つのCDR軽鎖配列をさらに含む。
【0019】
本発明の一実施形態では、抗ILDR2抗体、そのフラグメントもしくは誘導体、改変された抗体形式、または抗体模倣物は、配列番号7の配列と少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一である少なくとも1つの重鎖可変領域配列、および/または、配列番号8の配列と少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一である少なくとも1つの軽鎖可変領域配列を含む。
【0020】
本発明のさらなる実施形態では、抗ILDR2抗体、そのフラグメントもしくは誘導体、改変された抗体形式、または抗体模倣物は、配列番号9の配列と少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一である少なくとも1つの重鎖配列、および/または、配列番号10の配列と少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一である少なくとも1つの軽鎖配列を含む。
【0021】
本発明の一実施形態では、PD-1アンタゴニストは、抗体、そのフラグメントもしくは誘導体、改変された抗体形式、または抗体模倣物であり、これらはすべて、PD-1結合特性を有する。
【0022】
本発明のさらなる実施形態では、PD-1アンタゴニストは、ニボルマブ(オプジーボ(登録商標)、BMS-936558、MDX1106)、ペンブロリズマブ(キイトルーダ(登録商標)、MK-3475、ランブロリズマブ)、PDR-001(ノバルティス社)、JS001(Shanghai Junshi Biosciences社)、STI-A1110、ピディリズマブ(Cure Tech社)、AMP-224(グラクソ・スミスクライン社)、AMP-514(グラクソ・スミスクライン社)、セミプリマブ(Regeneron社およびSanofi社)、BGB-A317(BeiGene社、中国)、SHR-1210(Jiangsu Hengrui Medicine社)からなる群から選択される。
【0023】
本発明の好ましい実施形態では、PD-1アンタゴニストは、ニボルマブ(オプジーボ(登録商標)、BMS-936558、MDX1106)またはペンブロリズマブ(キイトルーダ(登録商標)、MK-3475、ランブロリズマブ)であり、最も好ましいのはペンブロリズマブ(キイトルーダ(登録商標)、MK-3475、ランブロリズマブ)である。
【0024】
本発明の一実施形態では、PD-1アンタゴニスト1は、
i)配列番号12、配列番号13および配列番号14に記載の少なくとも3つのCDR重鎖配列および配列番号16、配列番号17および配列番号18に記載の3つのCDR軽鎖配列;および/または
ii)配列番号19の配列と少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一である少なくとも1つの重鎖配列;および/または
iii)配列番号20の配列と少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一である少なくとも1つの軽鎖配列、を含む。
【0025】
さらなる実施形態では、本発明は、がんの治療において本明細書に定義されるPD-1アンタゴニストと組み合わせて使用するための、本明細書に定義される抗ILDR2抗体、そのフラグメントもしくは誘導体、改変された抗体形式、または抗体模倣物を提供し、抗ILDR2抗体とPD-1アンタゴニストの少なくとも1つは、1個または複数の医薬品と同時に、別々に、または順次に組み合わせて投与される。
【0026】
本発明はさらに、少なくとも2つの成分、成分Aおよび成分Bを含む新規な組み合わせを提供し、成分Aと成分Bは、同時に、同時発生的に、別々に、または順次に投与され、成分Aは、本明細書に定義される抗ILDR2抗体、そのフラグメントもしくは誘導体、改変された抗体形式、または抗体模倣物であり、成分Bは、本明細書に定義されるPD-1アンタゴニストである。
【0027】
本発明の一実施形態は、薬物として使用するための、本明細書に定義される組み合わせに関する。
【0028】
さらなる実施形態は、がんなどの新生物性疾患、または免疫疾患もしくは障害の治療または予防に使用するための、本明細書に記載される組み合わせに関し、この組み合わせは、1または複数の治療上効率的な投薬量で投与される。
【0029】
本発明のもう一つの実施形態は、がんなどの新生物性疾患に罹患している患者を治療するための方法であって、本明細書に記載される抗ILDR2抗体、そのフラグメントもしくは誘導体、改変された抗体形式、または抗体模倣物と、本明細書に定義されるPD-1アンタゴニストとを、1または複数の治療上効率的な投薬量で患者に投与するステップであって、抗ILDR2抗体とPD-1アンタゴニストが、同時に、同時発生的に、別々に、または順次に投与される、ステップを含む方法に関する。
【0030】
本発明のもう一つの実施形態は、がんの治療のための薬物の製造のための、本明細書に定義される抗ILDR2抗体、そのフラグメントもしくは誘導体、改変された抗体形式、または抗体模倣物、および本明細書に定義されるPD-1アンタゴニストの使用に関する。
【0031】
本発明のさらなる実施形態は、本明細書に記載される抗ILDR2抗体、そのフラグメントもしくは誘導体、改変された抗体形式、または抗体模倣物、本明細書に記載されるPD-1アンタゴニスト、および1個または複数のさらなる医薬品を含むキットに関する。
【0032】
定義
特に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解される意味を有する。しかしながら、以下の参考文献は、本発明が関係する技術分野の当業者に、本発明で使用される用語の多くの一般的な定義を提供することができ、このような定義が当技術分野で一般的に理解される意味と一致する限り、参照および使用することができる。このような参考文献には、限定されるものではないが、Singletonら、Dictionary of Microbiology and Molecular Biology(第2版1994);The Cambridge Dictionary of Science and Technology(Walker編、1988);Hale&Marham、The Harper Collins Dictionary of Biology(1991);およびLackieら、The Dictionary of Cell&Molecular Biology(第3版1999);およびCellular and Molecular Immunology、編者Abbas、LichtmanおよびPober、第2版、W.B.Saunders Companyが含まれる。当技術分野で一般的に理解される意味を有する本明細書で使用される用語の定義を提供する、当業者に利用可能な任意の追加の技術リソースを参照することができる。本発明の目的のために、以下の用語がさらに定義される。追加の用語は、本明細書の他の箇所で定義される。本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される場合、文脈上明らかに別段の指示がない限り、単数形「a」および「the」は複数の指示対象を含む。
【0033】
「アミノ酸」は、一般的に知られている3文字記号によって、またはIUPAC-IUB Biochemical Nomenclature Commissionによって推奨される1文字記号によって、本明細書で言及され得る。同様に、ヌクレオチドは、一般的に受け入れられている1文字コードによって言及され得る。
【0034】
本発明の用語「組み合わせ」は、当業者に公知のように使用され、組み合わせは固定された組み合わせ、固定されていない組み合わせまたはパーツキットであることが可能である。
【0035】
本発明における「固定された組み合わせ」は、当業者に知られているように使用され、例えば、第1の有効成分、例えば本発明のILDR2アンタゴニストおよびさらなる有効成分が1つの単位投与量または単一実体中に一緒に存在する組み合わせとして定義される。「固定された組み合わせ」の一例は、第1の有効成分とさらなる有効成分が同時投与用の混和物、例えば、製剤中に存在する医薬組成物である。「固定された組み合わせ」の別の例は、第1の有効成分とさらなる有効成分が混和していないが一単位中に存在する医薬組み合わせである。
【0036】
本発明の固定されていない組み合わせまたは「パーツキット」は、当業者に公知のように使用され、第1の有効成分とさらなる有効成分が2つ以上の単位中に存在する組み合わせとして定義される。固定されていない組み合わせまたはパーツキットの一例は、第1の有効成分とさらなる有効成分が別々に存在する組み合わせである。固定されていない組み合わせまたはパーツキットの成分は、別々に、順次に、同時に、同時発生的にまたは経時的に交互に投与することができる。
【0037】
同義語として「免疫グロブリン」(Ig)とも呼ばれる「抗体」は、一般に2本の重(H)鎖と2本の軽(L)鎖の4本のポリペプチド鎖を含み、したがって多量体タンパク質、またはその等価なIg相同体(例えば、重鎖のみを含むラクダナノボディ、重鎖または軽鎖のどちらにも由来し得るシングルドメイン抗体(dAb))である。これには、全長の機能的変異体、バリアント、またはその誘導体(限定されるものではないが、Ig分子のエピトープ結合機能を保持している(または、必要に応じて、親和性成熟または脱免疫化(deiimuization)を受けている)マウス、キメラ、ヒト化および完全ヒト抗体が含まれる)が含まれ、さらに、二重特異性(dual specific)、二重特異性(bispecific)、多重特異性、および二重可変ドメイン免疫グロブリンが含まれる。免疫グロブリン分子は、任意のクラス(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgA、およびIgY)、またはサブクラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、およびIgA2)であってもよいし、アロタイプであってもよい。本発明の一実施形態では、抗ILDR2抗体は、完全にヒトであり、IgG2サブクラスの抗体である。
【0038】
本明細書において使用される「抗体ベースの結合タンパク質」は、他の非免疫グロブリンまたは非抗体由来の成分との関連で、少なくとも1つの抗体由来のVH、VL、またはCH免疫グロブリンドメインを含む任意のタンパク質を表すことがある。そのような抗体ベースのタンパク質には、限定されるものではないが(i)免疫グロブリンCHドメインの全部または一部を有する受容体または受容体成分を含む、結合タンパク質のFc融合タンパク質、(ii)VHおよびまたはVLドメインが、代替分子足場に結合している結合タンパク質、または(iii)免疫グロブリンVH、および/またはVL、および/またはCHドメインが、天然に存在する抗体または抗体フラグメントには通常見られない方法で結合および/または構築された分子、が含まれる。
【0039】
本明細書において使用される「抗体誘導体またはフラグメント」は、全長ではない抗体に由来する少なくとも1つのポリペプチド鎖を含む分子に関し、それには、限定されるものではないが、(i)軽鎖可変(VL)、重鎖可変(VH)、定常軽鎖(CL)および定常重鎖1(CH1)ドメインからなる一価のフラグメントである、Fabフラグメント;(ii)ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結された2つのFabフラグメントを含む二価のフラグメントである、F(ab’)2フラグメント、;(iii)VHおよびCH1ドメインからなる、Fab(Fd)フラグメントの重鎖部分;(iv)抗体の単一のアームのVLおよびVHドメインからなる、可変フラグメント(Fv)フラグメント、(v)単一可変ドメインを含むドメイン抗体(dAb)フラグメント;(vi)単離された相補性決定領域(CDR);(vii)単鎖Fvフラグメント(scFv);(viii)VHおよびVLドメインが単一のポリペプチド鎖上に発現しているが、同じ鎖上の2つのドメイン間の対形成を可能にするには短すぎるリンカーを使用しており、それにより、ドメインが別の鎖の相補性ドメインと対形成させ、2つの抗原結合部位を生成している二価の二重特異性抗体である、ダイアボディ;および(ix)相補性軽鎖ポリペプチドと一緒になって一対の抗原結合領域を形成する一対のタンデムFvセグメント(VH-CH1-VH-CH1)を含む、線状抗体;および(x)免疫グロブリン重鎖および/または軽鎖の他の非全長部分、またはその変異体、バリアント、もしくは誘導体が、単独でまたは任意の組み合わせで含まれる。
【0040】
本明細書において使用される「改変された抗体形式」という用語は、抗体薬物複合体、ポリアルキレンオキシド改変scFv、モノボディ、ダイアボディ、ラクダ抗体、ドメイン抗体、二重もしくは三重特異的抗体、IgA、またはJ鎖によって結合された2つのIgG構造および分泌成分、サメ抗体、新世界霊長類フレームワーク+非新世界霊長類CDR、ヒンジ領域が除去されたIgG4抗体、CH3ドメインに組み込まれた2つの追加の結合部位を有するIgG、Fcγ受容体に対する親和性を高めるために変更されたFc領域を有する抗体、CH3+VL+VHを含む二量体化構築物などを包含する。
【0041】
本明細書において使用される「抗体模倣物」という用語は、免疫グロブリンファミリーに属していないタンパク質、さらにはアプタマーなどの非タンパク質、または合成ポリマーを指す。一部の種類は、抗体様βシート構造を有する。抗体に対する「抗体模倣物」または「代替足場」の潜在的な利点は、溶解性が良好であり、組織浸透性が高く、熱および酵素に対する安定性が高く、製造コストが比較的低いことである。
【0042】
一部の抗体模倣物は、考えられるすべての標的に対して特異的な結合候補を提供する大規模なライブラリで提供され得る。抗体の場合と同様に、標的に特異的な抗体模倣物は、ファージディスプレイ、バクテリアディスプレイ、酵母もしくは哺乳類ディスプレイなどの確立されたディスプレイ技術によるだけでなく、ハイスループットスクリーニング(HTS)技術を用いて開発することができる。現在開発されている抗体模倣物には、例えば、アンキリンリピートタンパク質(DARPinsと呼ばれる)、C型レクチン、黄色ブドウ球菌(S.aureus)のAドメインタンパク質、トランスフェリン、リポカリン、フィブロネクチンの10番目のIIIドメイン、Kunitzドメインプロテアーゼ阻害剤、ユビキチン由来バインダー(アフィリンと呼ばれる)、ガンマクリスタリン由来バインダー、システインノットまたはノッティン、チオレドキシンA足場ベースのバインダー、核酸アプタマー、ポリマーの分子インプリンティングによって作製された人工抗体、細菌ゲノムから得たペプチドライブラリ、SH-3ドメイン、ストラドボディ(stradobodies)、ジスルフィド結合およびCa2+によって安定化した膜受容体の「Aドメイン」、CTLA4ベースの化合物、Fyn SH3、およびアプタマー(特定の標的分子に結合するオリゴ核酸またはペプチド分子)が含まれる。
【0043】
本明細書中の「Fc領域」という用語は、定常領域の少なくとも一部を含む免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために使用される。この用語には、天然配列のFc領域およびバリアントFc領域が含まれる。本明細書中で特に記載のない限り、Fc領域または定常領域のアミノ酸残基の番号付けは、Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD,1991に記載される、EUインデックスとも呼ばれるEU番号付けシステムによる。
【0044】
本明細書において使用される「ILDR2」は、B7/CD28ファミリーの新規メンバーであり、C1ORF32としても公知の免疫グロブリン様ドメイン含有受容体2に関する。ILDR2の完全な特徴については、その内容が参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2009032845号パンフレットを参照されたい。
【0045】
「抗ILDR2抗体」、「aILDR2」、「aILDR2抗体」および「ILDR2に結合する抗体」という用語は、ILDR2に十分な親和性で結合することができるため、この抗体がILDR2を標的とした診断薬および/または治療薬として有用である抗体を指す。一実施形態では、抗ILDR2抗体と、関連のない非ILDR2タンパク質の結合の程度は、例えば、表面プラズモン共鳴(SPR)によって測定して、抗体とILDR2の結合の約5%未満、または好ましくは約2%未満である。特定の実施形態では、ILDR2に結合する抗体の解離定数(KD)は、≦1 μM、≦100nM、≦10nM、≦1nM、≦0.1nM、≦0.01nM、または≦0.001nM(例えば10~8M以下、例えば10~8Mから10~13M、例えば、10~9Mから10~13M)である。特定の実施形態では、抗ILDR2抗体は、異なる種からのILDR2間で保存されているILDR2のエピトープに結合する。
【0046】
「PD-1アンタゴニスト」という用語は、PD-1アゴニストによって引き起こされる生物学的応答を遮断する能力のあるあらゆる種類の分子を指す。PD-1アゴニストには、リガンドのPD-L1およびPD-L2が含まれる。アンタゴニストは、PD-1を標的とする際の治療薬として有用である。
【0047】
「抗PD-1抗体」、「aPD-1」、「aPD-1抗体」および「PD-1に結合する抗体」という用語は、PD-1に十分な親和性で結合することができるため、この抗体がPD-1を標的とした診断薬および/または治療薬として有用である抗体を指す。
【0048】
本明細書で使用される場合、「相補性決定領域」(CDR;例えば、CDR1、CDR2およびCDR3)という用語は、その存在が抗原結合のために必要である抗体可変ドメインのアミノ酸残基を指す。各可変ドメインは、典型的には、CDR1、CDR2およびCDR3として識別される3つのCDR領域を有する。各相補性決定領域は、Kabatによって定義される「相補性決定領域」由来のアミノ酸残基(例えば、軽鎖可変ドメイン中の約24~34残基(L1)、50~56残基(L2)および89~97残基(L3)ならびに重鎖可変ドメイン中の31~35残基(H1)、50~65残基(H2)および95~102残基(H3);(Kabatら、Sequences of Proteins of Immulological Interest、第5版.Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、MD.(1991))および/または「超可変ループ」由来の残基(例えば、軽鎖可変ドメイン中の約26~32残基(L1)、50~52残基(L2)および91~96残基(L3)ならびに重鎖可変ドメイン中の26~32残基(H1)、53~55残基(H2)および96~101残基(H3)(ChothiaおよびLesk;J Mol Biol 196:901~917(1987))を含み得る。一部の例では、相補性決定領域は、Kabatに従って定義されるCDR領域と超可変ループの両方由来のアミノ酸を含み得る。
【0049】
重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に応じて、インタクト抗体を異なる「クラス」に割り当てることができる。インタクト抗体には5つの主なクラス:IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMがあり、これらのいくつかを「サブクラス」(アイソタイプ)、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2にさらに分けることができる。本発明で使用するための好ましいクラスの免疫グロブリンはIgGである。
【0050】
異なるクラスの抗体に対応する重鎖定常ドメインは、それぞれ[アルファ]、[デルタ]、[イプシロン]、[ガンマ]および[ミュー]と呼ばれる。異なるクラスの免疫グロブリンのサブユニット構造および三次元構成は周知である。本明細書で使用される場合、抗体は従来公知の抗体およびその機能的フラグメントである。
【0051】
本発明で企図される抗体または抗原結合抗体フラグメントのバリアントは、抗体または抗原結合抗体フラグメントの結合活性が維持されている分子である。
【0052】
「ヒト」抗体またはその抗原結合フラグメントは、キメラではない(例えば、「ヒト化」されていない)もの、および(全体的にまたは部分的に)非ヒト種に由来しないものとして本明細書に定義されている。ヒト抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒトに由来するものであってもよいし、合成ヒト抗体であってもよい。「合成ヒト抗体」は、本明細書において、既知ヒト抗体配列の分析に基づく合成配列に、インシリコで全体的にまたは部分的に由来する配列を有する抗体として定義される。ヒト抗体配列またはそのフラグメントのインシリコ設計は、例えば、ヒト抗体または抗体フラグメント配列のデータベースを分析し、そこから得られたデータを利用してポリペプチド配列を考案することによって達成することができる。ヒト抗体またはその抗原結合フラグメントの別の例は、ヒト起源の抗体配列のライブラリから単離された核酸によってコードされるものである(例えば、そのようなライブラリは、ヒト天然源から得られた抗体に基づく)。ヒト抗体の例としては、Soderlindら、Nature Biotech.2000、18:853-856に記載される抗体が挙げられる。
【0053】
「モノクローナル抗体」という用語は、本明細書において、実質的に均質な抗体の集団から得られた抗体を指す。すなわち、集団を構成する個々の抗体は、少量存在し得る、起こり得る変異、例えば自然発生突然変異を除いて同一である。したがって、「モノクローナル」という用語は、別個の抗体の混合物ではないという、抗体の特徴を指す。異なる決定基(エピトープ)に対して作られた様々な抗体を一般に含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、モノクローナル抗体調製物の各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対して作られている。その特異性に加えて、モノクローナル抗体調製物は、それらが通常他の免疫グロブリンによって汚染されていないという点で有利である。「モノクローナル」という用語は、特定の方法による抗体の産生を必要とすると解釈されるべきではない。モノクローナル抗体という用語には、特に、キメラ抗体、ヒト化抗体、およびヒト抗体が含まれる。
【0054】
「単離された」抗体は、抗体を発現させた細胞の成分から識別され分離されたものである。細胞の汚染成分は、抗体の診断または治療的用途を妨げる物質であり、それには、酵素、ホルモン、および他のタンパク性もしくは非タンパク性の溶質を挙げることができる。
【0055】
本明細書において、目的の抗原、例えば腫瘍関連ポリペプチド抗原標的に「特異的に結合する」、「特異的である」または「特異的に認識する」抗体とは、その抗体が、抗原を発現している細胞または組織を標的にする際の治療薬として有用であり、他のタンパク質と大きく交差反応しないかまたは前述の抗原標的のオルソログおよびバリアント(例えば、変異型、スプライスバリアント、またはタンパク質分解によって切断された形態)以外のタンパク質と大きく交差反応しないように、十分な親和性で抗原と結合する抗体である。本明細書において使用される特定のポリペプチド標的上の特定のポリペプチドまたはエピトープを「特異的に認識する」またはそれに「特異的に結合する」または「特異的である」という用語は、例えば、抗原に対する一価のKDが約10~4M未満、あるいは約10~5M未満、あるいは約10~6M未満、あるいは約10~7M未満、あるいは約10~8M未満、あるいは約10~9M未満、あるいは約10~10M未満、あるいは約10~11M未満、あるいは約10~12M未満、またはそれ未満である抗体、またはその抗原結合フラグメントによって示され得る。抗体は、かかる抗体がかかる抗原と1個または複数の参照抗原とを区別する能力がある場合に、抗原に「特異的に結合する」、「特異的である」または抗原を「特異的に認識する」。その最も一般的な形態において、「特異的結合」、「特異的に結合する」、「特異的である」または「特異的に認識する」は、目的の抗原と無関係の抗原とを区別する抗体の能力をさし、例えば、以下のいずれかの方法に従って決定される。かかる方法は、限定されるものではないが、表面プラズモン共鳴(SPR)、ウエスタンブロット、ELISA試験、RIA試験、ECL試験、IRMA試験およびペプチドスキャンを含む。例えば、標準的なELISAアッセイを行うことができる。スコアリングは、標準的な発色(例えば、西洋わさびペルオキシダーゼによる二次抗体および過酸化水素によるテトラメチルベンジジン)によって行ってよい。特定のウェルでの反応は、例えば450nmでの光学密度によって記録される。典型的なバックグラウンド(=負の反応)は0.1ODであり得;典型的な正の反応は1ODであり得る。これは、正/負の差が5倍以上、10倍以上、50倍以上、好ましくは100倍以上であるこ
とを意味する。一般に、結合特異性の決定は、単一の参照抗原ではなく、約3~5個の無関係な抗原、例えば粉乳、BSA、トランスフェリンなどのセットを使用することによって行われる。
【0056】
「結合親和性」または「親和性」とは、分子の単一の結合部位とその結合パートナーとの間の非共有結合相互作用の総和の強さを指す。別段の指示がない限り、本明細書において使用される、「結合親和性」とは、結合対のメンバー(例えば、抗体と抗原)の1:1の相互作用を反映する固有の結合親和性を指す。解離定数「KD」は、分子(抗体など)とその結合パートナー(抗原など)との親和性、つまりリガンドが特定のタンパク質にどれだけ強く結合するかを表すために一般的に使用される。リガンド-タンパク質親和性は、2つの分子間の非共有分子間相互作用の影響を受ける。親和性は、本明細書に記載されているものを含む、当技術分野で公知の一般的な方法によって測定することができる。
【0057】
本明細書で使用される、「エピトープ」という用語には、免疫グロブリンまたはT細胞受容体に特異的に結合する能力のあるタンパク質決定基が含まれる。エピトープ決定基は、通常、アミノ酸または糖側鎖またはそれらの組み合わせなどの分子の化学的に活性な表面グループからなり、通常、特定の三次元構造特性と特定の電荷特性を有する。
【0058】
参照抗体と「同じエピトープに結合する抗体」または参照抗体と「結合を競合する抗体」とは、競合アッセイにおいて参照抗体とその抗原との結合を50%以上遮断する抗体を指し、逆に、参照抗体は競合アッセイにおいて抗体とその抗原との結合を50%以上遮断する。例示的な競合アッセイが本明細書に記載されている。
【0059】
参照ポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列のそれぞれに対する、「配列同一性パーセント(%)」は、配列を整列させ、必要に応じてギャップを導入して最大の配列同一性パーセントを達成した後、候補配列の核酸またはアミノ酸残基のそれぞれが、参照ポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列のそれぞれの核酸またはアミノ酸残基それぞれと同一である割合として定義される。保存的置換は、配列同一性の一部とは見なされない。好ましいのは、ギャップのないアライメントである。アミノ酸配列同一性パーセントを決定するためのアライメントは、例として、BLAST、BLAST-2、ALIGNまたはMegalign(DNASTAR社)ソフトウェアなどの公開されているコンピュータソフトウェアを使用して、当技術分野の技術の範囲内にある様々な方法で達成することができる。当業者は、比較される配列の全長にわたって最大のアライメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムをはじめとする、配列を整列させるための適切なパラメータを決定することができる。「配列相同性」は、同一であるか、または保存的アミノ酸置換を表すアミノ酸の割合を示す。
【0060】
「新生物性疾患」は、良性と悪性の両方の腫瘍増殖を引き起こす状態である。新生物/腫瘍は、細胞の異常な成長であり、腫瘍としても公知である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【
図1】CT26腫瘍モデルにおけるaPD-1とaILDR2/no.1の組み合わせによる腫瘍増殖の遅延を示す図である。 「rIgG」および「hIgG」という用語は、それぞれ、ラットおよびヒトの免疫グロブリンGを指す。 「aPD-1」という用語は、CD279としても公知のマウスPD-1(プログラム死-1)と反応し、PD-L1およびPD-L2とPD-1の相互作用を遮断する抗PD-1モノクローナル抗体RMP1-14を指す。 「aILDR2/no.1」という用語は、本明細書下文の詳細な説明にさらに記載される本発明による抗ILDR2抗体を指す。 「アイソタイプコントロール」という用語は、同じアイソタイプ、同じ種であるが、無関係の抗原に対して作られたモノクローナル抗体の使用を指す。本発明の実験で使用されたアイソタイプコントロールは、配列番号31および32に開示される抗体TPP-75(抗ILDR2抗体のアイソタイプコントロール)およびBioXcell社のInVivoPlusラットIgG2aアイソタイプコントロール、抗トリニトロフェノール、クローン2A3、カタログ番号BP0089(抗PD-1抗体のアイソタイプコントロール)である。 CT26腫瘍モデルでは、抗ILDR2抗体のみを使用した治療では、アイソタイプコントロールと比較して、単剤療法の有効性は観察されなかった。aPD-1のみでの治療は、腫瘍縮小活性を示した。しかし、aPD-1とaILDR2/no.1の組み合わせは、アイソタイプコントロールと比較して、そしてaPD-1単剤療法と比較して、統計学的に有意な腫瘍増殖を相乗的に遅延させた。単剤療法および併用治療の、アイソタイプコントロール(p=0,0001)またはaPD-1(p=0,0291)に対する有意性は、最終対数化データポイントの一元配置分散分析(ダネット)により決定された。治療開始:q3d i.p。
【
図2】CT26同系マウスモデルにおける本発明による治療的介入の有効性を示す図である。活性は、上記で定義されたアイソタイプコントロールで治療中の腫瘍体積に対する、治療薬で治療中の腫瘍体積として測定される。
【発明を実施するための形態】
【0062】
本発明が詳細に説明される前に、本発明は、記載されたデバイスの特定の構成部品、または記載された方法のプロセスステップに限定されるものでなく、そのようなデバイスおよび方法は変化する可能性があることを理解されたい。また、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的としており、限定することを意図したものではないことも理解されたい。本明細書および添付される特許請求の範囲で使用される場合、文脈上明らかに別段の指示がない限り、単数形「a」、「an」および「the」は、単数および複数の指示対象を含むことに留意されたい。さらに、数値で区切られたパラメータ範囲が与えられた場合、その範囲はこれらの制限値を含むと見なされることを理解されたい。
【0063】
さらに、本明細書に開示される実施形態は、互いに関連しないであろう個々の実施形態として理解されることを意図しないことを理解されたい。一実施形態で考察された特徴は、本明細書に示されている他の実施形態にも関連して開示されることが意図される。ある例では、特定の特徴がある実施形態では開示さないが、別の実施形態では開示される場合、当業者は、特徴が別の実施形態で開示されることを必ずしも意味しないことを理解するであろう。当業者は、他の実施形態についても特徴を開示することが本願の要旨であることを理解するが、明確にするために、そして明細書を管理可能な量に保つために、それは行われていないことを理解するであろう。
【0064】
さらに、本明細書で言及される先行技術文書の内容は、参照により組み込まれる。これは、特に、標準的または日常的な方法を開示する先行技術文書を指す。その場合、参照による組み込みは、主に、十分な有効な開示を提供し、長い繰り返しを回避することを目的としている。
【0065】
本発明の1つの目的は、ILDR2を標的とする、新しく、改善された免疫チェックポイント阻害剤治療を提供することである。特に、既存の免疫チェックポイント阻害剤治療との併用の可能性と、新しい併用治療を提供することにより、現在存在する免疫チェックポイント阻害剤治療の欠点を克服するためのそれらの改善が調査されてきた。
【0066】
そのため、本発明は、がんの治療において、PD-1アンタゴニストと組み合わせて使用するための抗ILDR2抗体、そのフラグメントもしくは誘導体、改変された抗体形式、または抗体模倣物に関する。本発明の他の態様は、薬物としてのPD-1アンタゴニストと組み合わせたそのような抗ILDR2抗体の使用、ならびに、被験体に本明細書に記載される治療上有効な量の抗体を投与するステップを含む、被験体におけるがんの治療または予防の方法に関する。
【0067】
本明細書でさらに定義されるように、抗ILDR2抗体とPD-1アンタゴニストを投与した場合に、インビボ腫瘍モデルにおいて驚くべき効果が観察された。本発明に記載されている組み合わせの治療効果は、PD-1アンタゴニストまたは抗ILDR2抗体単独によって達成される効果よりも優れていることが示されている。
【0068】
したがって、本発明は、がんの治療においてPD-1アンタゴニストと組み合わせて使用するための抗ILDR2抗体、そのフラグメントもしくは誘導体、改変された抗体形式、または抗体模倣物を提供し、抗ILDR2抗体、そのフラグメントもしくは誘導体、改変された抗体形式、または抗体模倣物は、配列番号1、配列番号2および配列番号3に記載の少なくとも3つのCDR重鎖配列と、配列番号4、配列番号5および配列番号6に記載の3つのCDR軽鎖配列をさらに含む。
【0069】
本発明の一実施形態では、抗ILDR2抗体、そのフラグメントもしくは誘導体、改変された抗体形式、または抗体模倣物は、配列番号7の配列と少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一である少なくとも1つの重鎖可変領域配列、および/または、配列番号8の配列と少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一である少なくとも1つの軽鎖可変領域配列を含む。
【0070】
本発明のさらなる実施形態では、抗ILDR2抗体、そのフラグメントもしくは誘導体、改変された抗体形式、または抗体模倣物は、配列番号9の配列と少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一である少なくとも1つの重鎖配列、および/または、配列番号10の配列と少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一である少なくとも1つの軽鎖配列を含む。
【0071】
本発明の一実施形態では、PD-1アンタゴニストは、抗体、そのフラグメントもしくは誘導体、改変された抗体形式、または抗体模倣物であり、これらはすべて、PD-1結合特性を有する。
【0072】
本発明のさらなる実施形態では、PD-1アンタゴニストは、ニボルマブ(オプジーボ(登録商標)、BMS-936558、MDX1106)、ペンブロリズマブ(キイトルーダ(登録商標)、MK-3475、ランブロリズマブ)、PDR-001(ノバルティス社)、JS001(Shanghai Junshi Biosciences社)、STI-A1110、ピディリズマブ(Cure Tech社)、AMP-224(グラクソ・スミスクライン社)、AMP-514(グラクソ・スミスクライン社)、セミプリマブ(Regeneron社およびSanofi社)、BGB-A317(BeiGene社、中国)、SHR-1210(Jiangsu Hengrui Medicine社)からなる群から選択される。
【0073】
本発明の好ましい実施形態では、PD-1アンタゴニストは、ニボルマブ(オプジーボ(登録商標)、BMS-936558、MDX1106)またはペンブロリズマブ(キイトルーダ(登録商標)、MK-3475、ランブロリズマブ)であり、最も好ましいのはペンブロリズマブ(キイトルーダ(登録商標)、MK-3475、ランブロリズマブ)である。
【0074】
ブリストル・マイヤーズスクイブ社の開発した「ニボルマブ」(商標名「オプジーボ(登録商標)」;旧名称5C4、BMS-936558、MDX-1106、またはONO-4538)は、PD-1リガンド(PD-L1およびPD-L2)との相互作用を選択的に防止し、それにより抗腫瘍T細胞の機能のダウンレギュレーションを遮断する、完全ヒトIgG4(S228P)PD-1免疫チェックポイント阻害剤抗体である(米国特許第8,008,449号明細書)。例えば、それは、手術不能または転移性の黒色腫に対して、がんがBRAFに変異を持たない場合にはイピリムマブとの併用による第一選択治療として、イピリムマブによる治療後にがんがBRAFに変異を有する場合にはBRAF阻害剤による第二選択治療として、扁平上皮非小細胞肺がんに対する第二選択治療として、腎細胞がんに対する第二選択治療として使用される。
【0075】
メルク社の開発した「ペンブロリズマブ」(商標名「キイトルーダ(登録商標)」、ランブロリズマブおよびMK-3475としても公知)は、ヒト細胞表面受容体PD-1に対して作られたヒト化モノクローナルIgG4抗体である。ペンブロリズマブは、例えば、米国特許第8,900,587号明細書に記載されている。これは例えば、切除不能または転移性の黒色腫の患者の治療に、FDA承認の検査により測定された腫瘍のPD-L1発現が高く[(腫瘍比率スコア(TPS)≧50%)]、EGFRまたはALKゲノム腫瘍異常のない、転移性NSCLCの患者の第一選択治療の単剤として、また、白金を含む化学療法中またはその後に疾患が進行した再発性または転移性HNSCCの患者の治療に適応される。
【0076】
ノバルティス社が開発した「PDR-001」は、静脈内投与される抗PD-1抗体である。2017年7月には、悪性黒色腫を対象とした第III相試験、上咽頭がんと神経内分泌腫瘍を対象とした第II相試験、固形腫瘍を対象とした第I/II相試験、肝細胞がん、リンパ腫、および結腸直腸がんを対象とした第I相試験が進行中である。
【0077】
BeiGene社(中国)が開発した「BGB-A317」は、現在、進行腫瘍のある被験体において第Ia/Ib相臨床試験中である。
【0078】
Jiangsu Hengrui Medicine社が開発したSHR-1210は、もう一つの抗PD-1 mAbであり、その安全性と忍容性を評価するために、非盲検、多施設、非ランダム化、用量漸増の第I相試験が行われている。
【0079】
Shanghai Junshi Biosciences株式会社が開発したJS001は、組換えヒト化モノクローナル抗体である。2017年7月、黒色腫および膀胱がんを対象とした第II相の開発、胃がん、上咽頭がん、食道がん、および頭頸部がんを対象とした第I/II相試験、ならびに乳がん、リンパ腫、泌尿生殖器がん、腎がん、神経内分泌腫瘍および固形腫瘍を対象とした第I相の開発が進行中である。
【0080】
STI-A1110は、SorrentoTherapeutics社が、がんの治療のためにG-MAB完全ヒト抗体ライブラリプラットフォームを使用して開発中である、プログラム細胞死タンパク質1(PD-1)に対するリードモノクローナル抗体(MAb)である。臨床試験の開始は2017年下半期に予定されている。
【0081】
ピディリズマブ(BAT mAb、CT-011およびMDV9300としても公知)は、Cure Tech社が開発したマウスBAT-1モノクローナル抗体に由来するヒト化抗体である。この抗体は、びまん性大B細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、および多発性骨髄腫を対象として現在臨床試験中であり、有望な結果と好ましい毒性を示している。
【0082】
グラクソ・スミスクライン社が開発した「AMP-224」は、PD-1を標的とするPD-L2 lgG2a融合タンパク質である。第I相臨床試験は、44名の進行がん患者を対象に、2014年1月に終了した。現在、この薬剤は、転移性結腸直腸がん患者において体幹部定位放射線治療と併用した第II相試験中である。
【0083】
グラクソ・スミスクライン社が開発した「AMP-514」(MEDI0680としても公知)は、PD-1を標的とするPD-L2融合タンパク質である。進行性悪性腫瘍の患者においてAMP-514の安全性、忍容性および薬物動態を評価するための第I相多施設非盲検試験が2013年12月に開始された。進行性悪性腫瘍の患者における、MEDI4736と併用したAMP-514の別の第I相試験は、現在、参加者を募集している。さらに、1つまたは2つの前の治療ラインに失敗した、再発または難治性のアグレッシブB細胞リンパ腫の参加者において、AMP-514と併用したMEDI-551の安全性および/または有効性を評価する第Ib/II相非盲検試験が行われている。
【0084】
「セミプリマブ」(REGN-2810としても公知)は、扁平上皮がん、骨髄腫、および肺がん用の薬物として開発中のPD-1を標的とするモノクローナル抗体である。2018年9月、これは、「治癒的手術または治癒的放射線照射の候補ではない、転移性皮膚扁平上皮癌(CSCC)または局所進行CSCCの患者」の治療について米国FDAによって承認された。セミプリマブ-rwlcは、Libtayoとして販売される。
【0085】
本発明の一実施形態では、PD-1アンタゴニストは、
i)配列番号12、配列番号13および配列番号14に記載の少なくとも3つのCDR重鎖配列および配列番号16、配列番号17および配列番号18に記載の3つのCDR軽鎖配列;および/または
ii)配列番号19の配列と少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一である少なくとも1つの重鎖配列;および/または
iii)配列番号20の配列と少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一である少なくとも1つの軽鎖配列、を含む。
【0086】
さらなる実施形態では、本発明は、がんの治療において本明細書に定義されるPD-1アンタゴニストと組み合わせて使用するための、本明細書に定義される抗ILDR2抗体、そのフラグメントもしくは誘導体、改変された抗体形式、または抗体模倣物を提供し、抗ILDR2抗体とPD-1アンタゴニストの少なくとも1つは、1個または複数の医薬品と同時に、別々に、または順次に組み合わせて投与される。
【0087】
本発明はさらに、少なくとも2つの成分、成分Aおよび成分Bを含む新規な組み合わせを提供し、成分Aと成分Bは、同時に、同時発生的に、別々に、または順次に投与され、成分Aは、本明細書に定義される抗ILDR2抗体、そのフラグメントもしくは誘導体、改変された抗体形式、または抗体模倣物であり、成分Bは、本明細書に定義されるPD-1アンタゴニストである。
【0088】
したがって、本発明は、一態様において、少なくとも2つの成分、成分Aおよび成分Bを含む新規な組み合わせを提供し、成分Aは、抗ILDR2抗体、そのフラグメントもしくは誘導体、改変された抗体形式、または抗体模倣物(これらはすべてILDR2結合特性を有する)であり、配列番号1、配列番号2および配列番号3に記載の少なくとも3つのCDR重鎖配列と、配列番号4、配列番号5および配列番号6に記載の3つのCDR軽鎖配列をさらに含み、成分Bは、PD-1アンタゴニストである。
【0089】
本発明の一実施形態では、成分Aは、配列番号7の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一である少なくとも1つの重鎖可変領域配列、および/または、配列番号8の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一である少なくとも1つの軽鎖可変領域配列を含む、抗ILDR2抗体、そのフラグメントもしくは誘導体、改変された抗体形式、または抗体模倣物である。
【0090】
本発明のさらなる実施形態では、成分Aは、配列番号9の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一である少なくとも1つの重鎖配列、および/または、配列番号10の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一である少なくとも1つの軽鎖配列を含む、抗ILDR2抗体、そのフラグメントもしくは誘導体、改変された抗体形式、または抗体模倣物である。
【0091】
さらなる実施形態では、成分Aは、aILDR2/no.1とも呼ばれる抗ILDR2/no.1である。本発明の抗体である抗ILDR2/no.1は、ILDR2の細胞外ドメインに結合する可変ドメインおよび定常ドメインフレームワークからなる。重鎖および軽鎖ならびに可変ドメインおよびCDRの配列は、配列番号1~10として配列のセクションに開示されている。抗体抗ILDR2/no.1は、特許出願PCT/EP2018/082779号明細書で最初に特徴付けられており、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0092】
本発明のもう一つの実施形態は、がんの治療のための薬物の製造のための、本明細書に定義される抗ILDR2抗体、そのフラグメントもしくは誘導体、改変された抗体形式、または抗体模倣物、および本明細書に定義されるPD-1アンタゴニストの使用に関する。
【0093】
本発明のさらなる実施形態は、本明細書に記載される抗ILDR2抗体、そのフラグメントもしくは誘導体、改変された抗体形式、または抗体模倣物、本明細書に記載されるPD-1アンタゴニスト、および1個または複数のさらなる医薬品を含むキットに関する。
【0094】
治療方法
治療方法は、治療を必要とする被験体に、治療上有効な量の抗体またはその抗原結合フラグメントまたは本発明によって企図されるそのバリアントを投与するステップを含む。本発明による「治療上有効な」量は、単回投与として、または複数回投与計画に従って、単独で、または他の薬剤と組み合わせて、有害な状態の緩和をもたらすために十分な数量の抗体または抗原結合フラグメントの量であり、さらに毒物学的に許容できる量と定義される。被験体は、ヒトであってもよいし、非ヒト動物(例えば、ウサギ、ラット、マウス、イヌ、サルまたは他の下位霊長類)であってもよい。
【0095】
本発明の一実施形態では、成分Aおよび成分Bは、同時に、同時発生的に、別々に、または順次に投与される。
【0096】
本発明のさらなる一実施形態は、がんの治療のための薬物として使用するための、本明細書に記載される組み合わせに関する。
【0097】
さらなる実施形態は、がんなどの新生物性疾患、または免疫疾患もしくは障害の治療または予防に使用するための、本明細書に記載される組み合わせに関し、この組み合わせは、1または複数の治療上効率的な投薬量で投与される。
【0098】
本発明のもう一つの実施形態は、がんなどの新生物性疾患に罹患している患者を治療するための方法であって、本明細書に記載される組み合わせを1または複数の治療上効率的な投薬量で患者に投与するステップであって、成分Aおよび成分Bが、同時に、同時発生的に、別々に、または順次に投与される、ステップを含む方法に関する。
【0099】
本発明のもう一つの実施形態は、がんなどの新生物性疾患に罹患している患者を治療するための方法であって、本明細書に記載される使用のための抗ILDR2抗体、そのフラグメントもしくは誘導体、改変された抗体形式、または抗体模倣物と、本明細書に定義されるPD-1アンタゴニストとを、1または複数の治療上効率的な投薬量で患者に投与するステップであって、抗ILDR2抗体とPD-1アンタゴニストが、同時に、同時発生的に、別々に、または順次に投与される、ステップを含む方法に関する。
【0100】
本発明の組成物による治療に適した障害および状態は、限定されるものではないが、乳房、気道、脳、生殖器官、消化管、尿路、眼、肝臓、皮膚、頭頸部、甲状腺、副甲状腺などの固形腫瘍、およびそれらの遠隔転移であり得る。これらの障害にはリンパ腫、肉腫および白血病も含まれる。
【0101】
消化管の腫瘍には、限定されるものではないが、肛門、結腸、結腸直腸、食道、胆嚢、胃、膵臓、直腸、小腸および唾液腺がんが含まれる。
【0102】
食道がんの例には、限定されるものではないが、食道細胞癌および腺癌、ならびに扁平上皮癌、平滑筋肉腫、悪性黒色腫、横紋筋肉腫およびリンパ腫が含まれる。
【0103】
胃がんの例には、限定されるものではないが、腸型およびびまん型の胃腺癌が含まれる。
【0104】
膵臓がんの例には、限定されるものではないが、腺管腺癌、腺扁平上皮癌、および膵臓内分泌腫瘍が含まれる。
【0105】
乳がんの例には、限定されるものではないが、トリプルネガティブ乳がん、浸潤性乳管癌、浸潤性小葉癌、非浸潤性乳管癌、および非浸潤性小葉癌が含まれる。
【0106】
気道のがんの例には、限定されるものではないが、小細胞および非小細胞肺がん、ならびに気管支腺腫および胸膜肺芽腫が含まれる。
【0107】
脳がんの例には、限定されるものではないが、脳幹および視床下部膠腫、小脳および大脳星状細胞腫、神経膠芽腫、髄芽腫、上衣腫、ならびに神経外胚葉および松果体腫瘍が含まれる。
【0108】
男性生殖器の腫瘍には、限定されるものではないが、前立腺および精巣がんが含まれる。女性生殖器の腫瘍には、限定されるものではないが、子宮内膜、子宮頚部、卵巣、膣および外陰がん、ならびに子宮の肉腫が含まれる。
【0109】
卵巣がんの例には、限定されるものではないが、漿液性腫瘍、類内膜腫瘍、粘液性嚢胞腺癌、顆粒膜細胞腫、セルトリ・ライディッヒ細胞腫および男化腫瘍が含まれる。
【0110】
子宮頸がんの例には、限定されるものではないが、扁平上皮癌、腺癌、腺扁平上皮癌、小細胞癌、神経内分泌腫瘍、ガラス状細胞癌、および絨毛腺管状腺癌が含まれる。
【0111】
尿路の腫瘍には、限定されるものではないが、膀胱、陰茎、腎臓、腎盂、尿管、尿道ならびに遺伝性および孤発性のヒト乳頭状腎臓がんが含まれる。
【0112】
腎臓がんの例には、限定されるものではないが、腎細胞癌、尿路上皮細胞癌、傍糸球体細胞腫瘍(レニノーマ)、血管筋脂肪腫、腎オンコサイトーマ、ベリニ管癌、腎臓の明細胞肉腫、中胚葉性腎腫およびウィルムス腫瘍が含まれる。
【0113】
膀胱がんの例には、限定されるものではないが、移行上皮癌、扁平上皮癌、腺癌、肉腫および小細胞癌が含まれる。
【0114】
目のがんには、限定されるものではないが、眼内黒色腫および網膜芽細胞腫が含まれる。
【0115】
肝がんの例には、限定されるものではないが、肝細胞癌(線維層板型の変形を伴うまたは伴わない肝臓細胞癌)、胆管癌(肝内胆管癌)および混合肝細胞性胆管癌が含まれる。
【0116】
皮膚がんには、限定されるものではないが、扁平上皮癌、カポジ肉腫、悪性黒色腫、メルケル細胞皮膚がんおよび非黒色腫皮膚がんが含まれる。
【0117】
頭頸部がんには、限定されるものではないが、頭頸部の扁平上皮がん、咽頭がん、下咽頭がん、上咽頭がん、中咽頭がん、唾液腺がん、唇および口腔がん、ならびに扁平上皮がんが含まれる。
【0118】
リンパ腫には、限定されるものではないが、AIDS関連リンパ腫、非ホジキンリンパ腫、皮膚T細胞リンパ腫、バーキットリンパ腫、ホジキン病および中枢神経系のリンパ腫が含まれる。
【0119】
肉腫には、限定されるものではないが、軟組織の肉腫、骨肉腫、悪性線維性組織球腫、リンパ肉腫および横紋筋肉種が含まれる。
【0120】
白血病には、限定されるものではないが、急性骨髄性白血病、急性リンパ芽球性白血病、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病および有毛細胞白血病が含まれる。
【0121】
実施例
本発明は、図面および前述の説明において詳細に例示および説明されたが、そのような例示および説明は、例示的または模範的であり、限定的ではないと見なされるべきである。本発明は、開示される実施形態に限定されない。開示された実施形態に対するその他の変形は、特許請求される本発明を実践する当業者が、図面、開示、および添付の特許請求の範囲の研究から理解し、もたらすことができる。特許請求の範囲において、「含む」という単語は、他の要素またはステップを除外しない、また、不定冠詞「a」または「an」は、複数を除外しない。ある手段が相互に異なる従属請求項に記載されているという事実だけでは、これらの手段の組み合わせを有利に利用することができないことを示すものではない。特許請求の範囲内の参照記号は、範囲を制限するものとして解釈されるべきではない。
【0122】
本明細書に開示されるすべてのアミノ酸配列は、N末端からC末端に示されている。つまり、本明細書に開示されるすべての核酸配列は、5’→3’で示されている。
【0123】
1.腫瘍マウスモデル
CT26腫瘍モデルをインビボ実験で使用した。CT26は、N-ニトロソ-N-メチルウレタン-(NNMU)で誘発された、未分化の結腸癌細胞株である。
【0124】
2.抗体作製
ILDR2に対する抗体は、ファージディスプレイによって生成された。手短に言えば、ビオチン化抗原を捕捉するためにストレプトアビジンでコーティングされた磁気ビーズを使用して溶液中でパンニング反応が実施された。ビーズは、磁気ラック(プロメガ社)を使用して回収した。すべてのファージパンニング実験で、5%スキムミルクでブロッキングされたXOMA031ヒトfab抗体ファージディスプレイライブラリ(XOMA Corporation、カリフォルニア州バークレー)が使用された。
【0125】
ファージディスプレイに必要なタンパク質は、Sulfo-NHS-LC-Biotinキット(Pierce社)を使用してビオチン化した。遊離ビオチンは、適切な緩衝液に対して透析することによって反応物から除去した。ビオチン標識タンパク質には、ILDR2-HMと、同じマウスIgG2a配列に融合したコントロール抗原のECDが含まれていた。コントロール抗原は、パンニング実験の枯渇ステップに使用された。パンニングプロセス中には、ストレプトアビジンビーズおよびマウスIgG2aFcドメインへの不要なバインダーを除去する必要があった。これを実現するために、ストレプトアビジンビーズをコントロール抗原と結合させた。次に、ファージのアリコートをこれらの「枯渇」ビーズと混合し、室温(RT)で30分間インキュベートした。その後、枯渇ビーズを廃棄した。ILDR2-HMに対して特異的なバインダーを選択するために、ブロックして枯渇させたファージライブラリを、ビオチン化ILDR2-HMに結合した磁気ビーズと混合した。反応物をRTで1~2時間インキュベートし、PBS-TおよびPBSで洗浄することにより非特異的ファージを除去した。洗浄後、結合したファージを100mMトリエチルアミン(EMD)とのインキュベーションによって溶出させ、トリス-HCl pH 8.0(Teknova社)を添加することによって溶出液を中和した。得られる大腸菌の菌叢をこすり取り、液体増殖培地に再懸濁した。再懸濁した細胞の少量のアリコートを100mLの培養液(アンピシリンを含む2YT)に接種し、600nMでのODが0.5に達するまで37℃で培養した。この培養液にM13K07ヘルパーファージ(New England Biolabs社)を感染させ、カナマイシン(M13K07の選択抗生物質)を加えた。その後、この培養液を25℃に維持してファージのパッケージングを可能にした。培養上清のアリコートは、その後のラウンドのパンニングまたはファブ結合スクリーニングのいずれかのために持ち越された。2回目以降のラウンドは、前のラウンドから救済されたファージ上清をファージライブラリの代わりに使用することを除いて、同じ方法で実施された。このファージ溶出液をTG1大腸菌に感染させ、TG1大腸菌はXOMA031ファージミドで細胞を形質転換した。次に、形質転換細胞を選択寒天プレート(アンピシリン)に広げ、37℃で一晩インキュベートした。XOMA031ライブラリは、IPTG誘導性fab発現ベクターとしても機能するファージミドコンストラクトに基づいている。3ラウンド目のパンニングから溶出したファージプールを希釈し、寒天プレートに広げると単一コロニーが生成されるようにTG1大腸菌細胞(Lucigen)に感染させた。個々のクローンを1mLの培養液(グルコースとアンピシリンを含む2YT)で増殖させ、IPTG(Teknova社)を添加することによってタンパク質の発現を誘導した。発現培養物を25℃で一晩インキュベートした。次に、大腸菌のペリプラズムに分泌されたFabタンパク質を分析のために抽出した。サンプルの各プレートには、ネガティブコントロールとして機能する重複した「ブランクPPE」ウェルも含まれていた。これらは、fab PPEと同じ方法で処理された、接種していない培養液から作成された。FACS分析を使用して、ILDR2に親和性のあるfabを識別した。個々のfab PPEを、ヒトILDR2を過剰発現するHEK-293T細胞(293T-huILDR2細胞)への結合について試験した。すべての分析には、「空のベクター」のコントロールプラスミドでモックトランスフェクトされたネガティブコントロールHEK-293T細胞(293T-EV細胞)が含まれた。試薬調製ステップおよび洗浄ステップは、FACS緩衝液(1%BSAを含むPBS)中で行った。Fabと空のPPEを細胞のアリコートと混合し、4℃で1時間インキュベートした後、FACS緩衝液で洗浄した。次に、細胞を抗C-myc一次抗体(Roche)と混合した。同じインキュベーションと洗浄ステップの後、細胞を抗マウスIgG Fc AlexaFlour-647抗体(Jackson Immunoresearch)で染色した。最後のインキュベーションおよび洗浄の後、細胞をFACS緩衝液で構成した4%パラホルムアルデヒドで固定した。サンプルはHTFCスクリーニングシステム(Intellicyt)で読み取った。データは、FCS Express(De Novo Software社、CA、USA)またはFloJo(De Novo Software社、CA、USA)を使用して解析した。これらの結果に基づいて、さらなる分析のために5つのバインダーが選択され、全長IgGに再フォーマットされた。
【0126】
本発明の抗体aILDR2/no.1は、ILDR2の細胞外ドメインに結合する可変ドメインと、定常ドメインフレームワークからなる。重鎖および軽鎖ならびに可変ドメインおよびCDRの配列は、配列番号1~10として配列のセクションに開示されている。抗体aILDR2/no.1は、特許出願PCT/EP2018/082779号明細書で最初に特徴付けられている。
【0127】
インビボ実験でCT26腫瘍に適用された抗体aPD-1およびaILDR2/no.1は、アイソタイプコントロールによって制御される。aILDR2/no.1抗体は、ILDR2の細胞外ドメインに結合する可変ドメインと定常ドメインフレームワークからなり、インビボ実験ではヒトIgG2アイソタイプコントロールによって制御される。aPD-1抗体は、PD-1の細胞外ドメインに結合する可変ドメインと定常ドメインフレームワークからなり、インビボ実験ではラットIgG2aアイソタイプコントロールによって制御される。
【0128】
【0129】
3.CT26腫瘍モデルにおけるaILDR2/no.1とaPD-1の治療的、相乗的有効性
ズルツフェルトのCharles River Deutschlandからの9週齢の雌のBalb/cAnNマウス(体重18~22g)をCT26腫瘍モデルに使用した。実験は、6日間の順化期間の後に開始された。動物は12時間の明/暗サイクルで飼育された。食料および水は自由に摂取できた。飼育温度は21℃に維持された。マウス(グループあたりn=12)に、5×105個のCT26腫瘍細胞を左脇腹の皮下に接種し、腫瘍接種後5日目に層別無作為化(腫瘍サイズが均等に分布するようにマウスを群に分割する方法)により実験グループに割り当てた。治療開始時に、動物に印を付け、各ケージにケージ番号、研究番号、およびケージあたりの動物数のラベルを付けた。
【0130】
インビボ投与の適用量を5ml/kgにするための調整は、Ca2+、Mg2+を含まないDPBS、pH7.4(Biochrom社)で原液を希釈することによって達成した。aPD-1は、10mg/kg q3d x5でi.p.投与し、aILDR2/no.1は、10mg/kg q3d x 5で投与し、すべての処置は5日目(d5)から開始した。実験条件を以下の表に示す:
【0131】
【0132】
図1および
図2から分かるように、aPD-1とaILDR2/no.1の組み合わせは、アイソタイプコントロールと比較して、そしてaILDR2/no.1またはaPD-1単剤療法と比較して、統計学的に有意な腫瘍増殖を相乗的に遅延させた。
【0133】
配列
以下の表に示す配列を本明細書では参照している。この表と、本明細書およびその開示の一部を構成するWIPO標準配列表との間に曖昧さが存在する場合、この表の配列および修飾語が正しいものと見なされる。
【0134】
【配列表】
【国際調査報告】