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特表2022-528475ヘリウム上の電子のためのキュービットハードウェア
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-10
(54)【発明の名称】ヘリウム上の電子のためのキュービットハードウェア
(51)【国際特許分類】
   H01L 39/22 20060101AFI20220603BHJP
【FI】
H01L39/22 Z ZAA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021560588
(86)(22)【出願日】2020-03-16
(85)【翻訳文提出日】2021-11-25
(86)【国際出願番号】 US2020023001
(87)【国際公開番号】W WO2020197833
(87)【国際公開日】2020-10-01
(31)【優先権主張番号】62/825,466
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】16/818,508
(32)【優先日】2020-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521440404
【氏名又は名称】ポラネン ヨハネス
(71)【出願人】
【識別番号】521440415
【氏名又は名称】ベイセングロフ ニヤーズ
(71)【出願人】
【識別番号】521440426
【氏名又は名称】リース デイヴィッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【弁理士】
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【弁理士】
【氏名又は名称】那須 威夫
(72)【発明者】
【氏名】ポラネン ヨハネス
(72)【発明者】
【氏名】ベイセングロフ ニヤーズ
(72)【発明者】
【氏名】リース デイヴィッド
【テーマコード(参考)】
4M113
【Fターム(参考)】
4M113AC44
4M113AC45
(57)【要約】
液体ヘリウムの膜を支持する基板と、膜の表面に対して垂直な方向に鏡像力と、電子サブシステムの境界を静電的に画定するためのサイドゲートと、電子サブシステムの境界の外部に位置する電子トラップを静電的に画定するためのトラップゲートと、電子サブシステムから電子トラップへの進入路を選択的に開閉するためのロードゲートとによって閉じ込められた電子サブシステムとを含むシステムであって、電子トラップへの進入路を開くことは電子が電子トラップに進入することを可能にするためにロードゲートに第1のロードゲート電圧を印加することであり、電子トラップへの進入路を閉じることは、電子が電子トラップに進入するのを防ぐためにロードゲートに第2のロードゲート電圧を印加することであるシステムと、そのシステムを使用する方法とが開示される。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
システムであって、
液体ヘリウムの膜が、閉じ込められている電子を含む電子サブシステムを前記液体ヘリウムの膜に対する静電引力の鏡像力によって前記液体ヘリウムの膜の表面に対して垂直な方向に支持する、前記液体ヘリウムの膜を支持する基板と、
前記電子サブシステムの境界を静電的に画定するためのサイドゲート電圧を受けるサイドゲートと、
前記電子サブシステムの前記境界の外部に位置する電子トラップを静電的に画定するためのトラップ電圧を受けるトラップゲートと、
前記電子サブシステムから前記電子トラップへの進入路を選択的に開閉するためのロードゲートとを含み、前記電子サブシステムから前記電子トラップへの進入路を開くことは、前記電子サブシステムの前記電子が前記電子トラップに進入することができるようにするために前記ロードゲートに第1のロードゲート電圧を印加することであり、前記電子サブシステムの前記電子トラップへの進入路を閉じることは、前記電子サブシステムの前記電子が前記電子トラップに進入するのを防ぐために前記ロードゲートに第2のロードゲート電圧を印加することである、システム。
【請求項2】
前記電子トラップに容量結合された電荷センサをさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記電荷センサは単一電子トランジスタを含む、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
クライオスタットへの高周波(RF)信号出力を発生するRF回路をさらに含み、前記クライオスタットは前記基板と、前記サイドゲートと、前記トラップゲートと、前記ロードゲートとを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記RF回路は増幅器入力RF信号を、前記クライオスタットへの前記RF信号出力に変換する増幅器を含む、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記RF回路は、
第1の信号と第2の信号とを出力する波形発生器と、
ローカル発振器入力と、前記第1の信号と、前記第2の信号とを受信するミキサとをさらに含み、前記ミキサは前記増幅器入力RF信号を出力する、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記ミキサの同相入力が前記第1の信号を受信し、前記ミキサの直交入力が前記第2の信号を受信する、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記RF信号出力を前記クライオスタットに送る同軸ケーブルをさらに含む、請求項5に記載のシステム。
【請求項9】
前記RF回路は、
増幅器入力RF信号を増幅RF信号に変換する増幅器と、
クライオスタットへの前記RF信号出力を得るために前記増幅RF信号を逓倍する逓倍器とを含む、請求項4に記載のシステム。
【請求項10】
前記RF信号出力を前記クライオスタットに送る導波路をさらに含む、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記導波路はテーパ導波路である、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記電子トラップに容量結合された電荷センサと、前記電荷センサに結合された方向性結合器とをさらに含む、請求項4に記載のシステム。
【請求項13】
前記方向性結合器と前記電荷センサとの間に結合された共振回路と、
前記方向性結合器に結合されたアナログ-デジタル変換器(ADC)と、
前記ADCに結合されたクロックとをさらに含む、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
キュービットを実装する方法であって、
液体ヘリウムの膜が電子サブシステムを支持し、前記電子サブシステムが前記液体ヘリウムの膜の表面付近を浮遊する電子を含み、前記電子が前記液体ヘリウムの膜に対する静電引力の鏡像力によって前記液体ヘリウムの膜の前記表面に対して垂直な方向に閉じ込められる、前記液体ヘリウムの膜を準備することと、
前記電子サブシステムの境界を静電的に形成するためにサイドゲートに第1のサイドゲート電圧を印加することと、
前記電子サブシステムの前記境界の外部に位置する電子トラップを静電的に形成するためにトラップゲートに第1のトラップゲート電圧を印加することと、
前記電子トラップへの投入のために、ロードゲートに第1のロードゲート電圧を印加することによって、前記電子トラップへの前記電子サブシステムの電子の進入路を開くことと、
前記ロードゲートに第2のロードゲート電圧を印加することによって、前記電子トラップへの前記電子サブシステムの前記電子の進入路を閉じることとを含む、方法。
【請求項15】
前記電子のうちの所定数の電子が前記電子トラップ内に残るように、前記電子トラップに第2のトラップゲート電圧を印加することによって、前記電子トラップ内の前記電子の数を調整することをさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記電子の前記所定数は1である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
キュービットの状態を判定する方法であって、
前記キュービットの固有状態間の第1のエネルギー差に対応する周波数を有する第1の入力信号を準備することと、
前記第1の入力信号を前記キュービットに容量結合されたマイクロ波共振器回路に送ることによって前記キュービットに前記第1の入力信号を印加することと、
前記第1の入力信号に対する前記マイクロ波共振器回路の第1の応答を検出することと、
前記第1の入力信号に対する前記マイクロ波共振器回路の前記第1の応答に基づいて前記キュービットの状態を判定することとを含む、方法。
【請求項18】
前記第1の入力信号を準備することは、
第1の周波数を有する第1の信号を発生することと、
前記第1の信号を波形発生器によって発生された1つまたは複数の位相安定パルスと混合することによって第2の信号を発生することと、
前記第2の信号を目標周波数にアップコンバートすることによって前記第1の入力信号を発生することとを含み、前記目標周波数は前記キュービットの前記固有状態間の前記第1のエネルギー差に対応する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記第1の入力信号を前記マイクロ波共振器回路に送ることは、前記第1の入力信号をテーパ導波路を介して送信することを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記第1の入力信号を前記マイクロ波共振器回路に送ることは、前記第1の入力信号を同軸ケーブルを介して送信することを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記マイクロ波共振器回路は前記キュービットに容量結合された電荷センサを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
前記マイクロ波共振器回路の前記第1の応答から前記キュービットの前記状態を判定することは、前記マイクロ波共振器の前記第1の応答をアナログ-デジタル変換器に通すことを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
前記キュービットの固有状態間の第2のエネルギー差に対応する第2の周波数を有する第2の入力信号を準備することと、
前記マイクロ波共振器回路が前記キュービットに容量結合されている、前記キュービットに前記第2の入力信号を印加することと、
前記第2の入力信号に対する前記マイクロ波共振器回路の第2の応答を検出することとを含み、
前記キュービットの前記状態を判定することは、前記第2の入力信号に対する前記マイクロ波共振器回路の前記第2の応答にさらに基づく、請求項17に記載の方法。
【請求項24】
前記第2の入力信号は、前記第1の入力信号の周波数の少なくとも10倍の周波数を有し、前記第1の入力信号は同軸ケーブルを介して前記マイクロ波共振器回路に送られ、前記第2の入力信号はテーパ導波路を介して前記マイクロ波共振器回路に送られる、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
複数のキュービットのうちのキュービットの状態を判定する方法であって、
前記複数のキュービットのそれぞれが複数の制御ゲートのうちのそれぞれの制御ゲートに関連付けられている、前記複数のキュービットと前記複数の制御ゲートとを含むデバイスを、マイクロ波共振器回路に容量結合することと、
標的キュービットを読み出す指示を受け取ることと、
前記標的キュービットの固有状態間のエネルギー差を他のキュービットの固有状態間のエネルギー差から離れるようにシュタルクチューニングするために、前記標的キュービットに関連付けられた前記それぞれの制御ゲートに制御電圧を印加することと、
前記標的キュービットの前記固有状態間の前記エネルギー差に対応する周波数を有する入力信号を準備することと、
前記入力信号を前記マイクロ波共振器回路に送ることによって前記デバイスに前記入力信号を印加することと、
入力信号に対する前記マイクロ波共振器回路の応答を検出することと、
前記マイクロ波共振器回路の前記応答から前記標的キュービットの前記状態を判定することとを含む、方法。
【請求項26】
前記複数のキュービットは線状の空間配置または平面空間配置を有する、請求項25に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、一般には、量子コンピューティングのためのキュービットハードウェアとキュービット制御および読み出し機構とを作製するシステムおよび方法に関する。より詳細には、本明細書は、液体ヘリウムの表面付近に存在する電子を静電トラップ内に閉じ込めることによってキュービットを生成することと、トラップされた電子の量子状態を電磁波信号によってプローブすることによるそのようなキュービットの量子制御および読み出しとに関する。
【背景技術】
【0002】
量子コンピューティングは、量子ビット(キュービット)、すなわち、常に0か1かの2つの古典的状態のうちの一方のままである古典的ビットとは異なり、パラメータαとβが連続的に変化する、|0〉と|1〉の2つの量子状態の重ね合わせ状態α|0〉+β|1〉をとることができる量子システムを使用する技術である。量子コンピュータの動作は、キュービット状態の準備と、2つ以上の別個のキュービットの量子もつれと、解決する特定のタスクに合わせて作成された量子アルゴリズム(コード)に従ったもつれ合ったキュービットのシステムの量子遷移と、もつれ合ったキュービットの最終状態の量子読み出しと、量子システムの本質的に確率的性質を踏まえた誤り訂正機構とを含み得る。量子コンピュータは、古典的コンピュータでは実施不可能であるかまたは指数関数的に大規模な資源を必要とすることになる、いくつかの問題(素数因数分解など)の場合に、古典的コンピュータよりも優れる場合がある。キュービットおよび読み出し方法の様々な実現形態が提案されているにもかかわらず、量子コンピューティングの信頼性のある実装は未解決の技術的課題を示している。実際の量子計算に適合するには、キュービットは、キュービットの量子状態のコヒーレンスに影響を与える可能性のある追加の自由度を持たない必要がある。それと同時に、キュービットの初期状態の準備のためと、その最終状態の読み出しのために、個別のキュービットへの外部結合が可能である必要がある。キュービットは、初期状態の準備と量子アルゴリズムの実行と最終状態の読み出しのために十分に長い時間、その量子コヒーレンスを維持可能である必要がある。読み出し方法の容易さと信頼性とが、依然として現行の量子計算の取り組みの重大なボトルネックとなっている。上記の理由により、現実的なキュービットと読み出し方法の開発が技術的にきわめて重要である。
【発明の概要】
【0003】
本開示の態様および実装形態は、以下の詳細な説明と、本開示の様々な態様および実装形態を示す添付図面とからよりよく理解することができるであろう。ただし、これらは本開示を特定の態様または実装形態に限定するものと解釈すべきではなく、説明と理解の目的のためのみに示すに過ぎない。
【0004】
本開示の態様は、表面状態電子に基づくキュービットの実装形態と、それに関連する読み出しおよび制御システムと、量子計算の方法とを対象とする。場合によっては、液体ヘリウムの表面付近に存在し、ヘリウムへの静電像力によりその表面の近傍に保持される電子を使用して、表面状態電子を実装することができる。電子を有界領域に閉じ込めるためと、さらに、少数の電子を中にトラップするその有界領域の外部の電子トラップを実装するために、静電ゲートを使用することができる。このようにしてトラップされる電子の数は、静電ゲーティングによって制御することができ、実装形態によっては1個であってもよい。このような個別電子をキュービットとして使用することができる。キュービットの量子状態|0〉と|1〉とを、例えば、トラップ内の電子の基底状態と励起状態として実現することができる。実装形態によっては、キュービットの量子状態は、液体ヘリウムの表面上を浮遊する電子の垂直リュードベリ運動状態であってもよい。他の実装形態では、キュービットの量子状態は、設計された静電トラップ内部の電子の量子化横方向運動によるものであってもよい。さらに他の実装形態では、トラップ内の電子の面外運動と面内運動とを結合することによって、ハイブリッドダブルキュービットを形成することができる。これらの実装形態では、トラップされた各電子から大きな周波数分離を有する2つのキュービットが形成される。
【0005】
本開示の態様は、単一電子キュービットと、静電トラップと、関連するマイクロ波制御および高周波(RF)制御と、古典的デジタルコンピュータを使用する後処理による読み出し電子部品など、量子コンピューティングの実装のためのシステムの様々なコンポーネント(およびそれらのアセンブリ)も対象とする。実装形態によっては、1キュービットまたは複数キュービットを含むシステムのRF読み出しは、キュービットの2つの量子状態間のエネルギー差にチューニングした周波数を有する入力RF信号を準備し、その入力信号を、キュービットを容量性素子として含むシステムを含むマイクロ波共振器回路に送信し、マイクロ波共振器回路の応答を検出することによって行うことができる。本明細書に記載のコンポーネントは、ユニバーサル量子計算のための単一キュービットおよび2キュービットゲート操作を行うために使用することができる。本明細書に記載のシステムおよびコンポーネントは、複数キュービット(例えば約100キュービット)に拡張した場合、固有のノイズあり中規模量子(noisy intermediate scale quantum:NISQ)計算のために使用することができる。本明細書に記載のシステムおよびコンポーネントは、完全フォールトトレラント量子コンピューティングプラットフォームの実現のためのノイズ低減、キュービットもつれ、および改良されたキュービットコヒーレンスにおけるさらなる発展のために使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】一実装形態による、キュービットのための電子溜めの役割を果たすことができ、電子閉じ込めを容易にするために液体ヘリウムと静電ゲートを使用する、例示のシステムを概略的に示す図である。
図2】一実装形態による、電子トラップを実現することができ、電子閉じ込めを容易にするために液体ヘリウムと静電ゲートとを使用する、例示のシステムを概略的に示す図である。
図3】一実装形態による、電子トラップ内の電子の数を調整するための例示の電子ローディング法を概略的に示す図である。
図4】キュービットのマイクロ波および高周波単一電子トランジスタベースの読み出しおよび制御を実装することができるシステムの例示の実装形態とコンポーネントとを示す概略ブロック図である。
図5】トラップされた電子の横方向運動を使用する、キュービットを形成するための電子トラップの例示の実装形態を概略的に示す図である。
図6】単一電子キュービットの例示の一実装形態における、トラップされた電子の横方向運動を使用する電子トラップ内の電子のエネルギー準位の例示のスペクトルを示す図である。
図7】例示の一実装形態における、電子トラップを形成し、ヘリウム膜の表面上を浮遊する電子のサブシステムから電子トラップに投入する方法の例示の実装形態を示す流れ図である。
図8】高周波入力信号を使用して、マイクロ波共振器回路に容量結合されたキュービットの状態を読み出す方法の例示の実装形態を示す流れ図である。
図9】本開示の1つまたは複数の態様により動作する古典的コンピュータシステムを示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
図1に、一実装形態による、キュービットの電子溜めの役割を果たすことができ、電子閉じ込めを容易にするために液体ヘリウムと静電ゲートとを使用する、例示のシステムを概略的に示す。システム100における液体ヘリウムは、基板102によって支持することができる。実装形態によっては、基板102は誘電体、例えばシリコンまたはサファイアであってもよい。基板102は、液体ヘリウム104の膜を支持することができる。液体ヘリウムの膜は、バンク106によって基板102から漏出しないように横方向に制限可能である。実装形態によっては、バンク106は、基板102の材料と同じであっても異なっていてもよい誘電材料からなってもよい。例えば、バンクはSiOxまたはSiO2でできていてもよい。バンクは、熱蒸着またはスパッタリングによって付着させることができる。バンク106の厚さ(高さ)は、液膜のレベルを決定するために使用することができる。実装形態によっては、バンクは0.2μm~1μmの厚さを有することができるが、他の実装形態では厚さはこの範囲より下でも上でもよい。実装形態によっては、バンク106は、図1に示すように、液体ヘリウムのマイクロチャネルを形成するように配置することができる。マイクロチャネル(またはヘリウム膜104の任意のその他の構成)は、ヘリウムの供給源(図1には明示せず)を使用して毛細管現象によりヘリウムで満たすことができる。ヘリウムの供給源はヘリウムの低位バルク貯槽であってもよい。
【0008】
ヘリウム膜104は、ヘリウムの表面の上方を浮遊する電子108を支持するための基板の役割を果たすことができる。電子108は、電子電荷とヘリウムの誘電分極との相互作用によって生じる長距離像引力によってヘリウムの表面に引きつけられ得る。他方、電子108は短距離ではヘリウム原子によってはねつけられる。その結果、電子108は、液体ヘリウムの表面から50Å~100Å程度の距離で液体ヘリウムの表面付近に閉じ込められ、1meV程度の結合エネルギーを有することができる。像引力結合による電子のスペクトルは、リュードベリ型であり得る。基板102の上に下部ゲート(電極)110を配置することができる。下部ゲート110は、実装形態によってはシステムの全幅および全長にわたって延びていてもよい。他の実装形態では、下部ゲートはシステムの一部のみの下にあってもよい。下部ゲート110は、下部ゲート110に直流(DC)電圧信号が印加されると下部ゲート110全体が同じ電位を得るように、導電性材料からなり得る。実装形態によっては、電子108は、近傍(例えばヘリウム膜の上方)に配置されたフィラメント(例えばタングステンフィラメント)からの熱電子放出によって、最初にヘリウムの表面に堆積させることができる。他の実装形態では、電界放出により、または光子放出により電子を発生させることができる。下部ゲート110は、電子の密度を制御するためにも使用することができる。下部ゲート110の電位を変動させることによって、ヘリウムの表面上の電子108の最適密度を実現することができる。例えば、下部ゲート110の電位を低下させることによって、電子108の一部を押しのけることができる。逆に、下部ゲート110の電位を高くすると、システム100は電子108のより多くを保持することが可能になり得る。電子108が高密度な状態では、電子108は、図1に概略的に示すように、規則的な空間配置を有するウィグナー固体の状態になることができる。低密度では、電子108は電子液体状態を形成することができる。
【0009】
絶縁バンク106の上に作り込むことができる1つまたは複数の上部ゲート(電極)112によって電子108のさらなる制御を実現することができる。上部ゲート112は、横方向の静電閉じ込めによって液体ヘリウム104の表面に沿った電子の運動を規制することができる。例えば、1対の上部ゲート112に、より低い(例えば負)電圧を印加することによって、電子チャネルを横方向に圧搾することが可能になり得る。逆に、上部ゲート112に印加される電圧を高くすることによって、電子チャネルの横方向の広がりを大きくすることができる。電子108の(例えばチャネルに沿った)横方向の広がりと運動を制御するために、追加のゲート(図1には明示されていない)を使用してもよい。上部ゲート112(および下部ゲート110および/またはその他のゲート)は、様々な導電性材料から形成することができる。例えば、一実装形態ではゲートは5nmのTiと45nmのAuとから形成されてもよいが、他の実装形態では、ゲートの他の設計も可能である。図1に例示するように、ゲートは、下にある基板(例えばシリコンまたはサファイア)バンク106上に熱蒸着またはスパッタリングすることができる。
【0010】
図1に示すシステム100は、様々な実装形態で設計し、製造することができる。図1に示すコンポーネントの一部は省いてもよい。実装形態によっては、システム100は、常に低温を維持するためにクライオスタット(図示せず)内に実装されていてもよい。クライオスタット内のシステム100は、ヘリウムの沸点である4.2Kより低温に維持されてもよい。実装形態によっては、システム100は4He超流動転移温度である2.17Kより低温に維持されてもよい。実装形態によっては、システムは極低温、例えば3He超流動転移温度である0.0025Kより低温に維持されてもよい。実装形態によっては、0.001Kより低温を実現するために無寒剤3He-4He希釈冷凍機を使用してもよい。このような温度では、垂直閉じ込めの異なるリュードベリ電子状態間の自然温度遷移をほとんどフリーズアウトすることができる。液体ヘリウム膜104の表面張力が、安定させる役割を果たし、システム内に作製可能な様々な追加の読み出し電極および制御電極(下記参照)から電子108を固定した距離に維持することができる。ヘリウム膜104の表面の安定性は、例えば4Heアイソトープと比較して比較的粘度が高い制御された量の3Heアイソトープを導入することによってさらに制御することができる。
【0011】
図2に、一実装形態による、電子トラップを実現することができ、電子閉じ込めを容易にするために液体ヘリウムと静電ゲートとを使用する例示のシステム200を概略的に示す。システム200は、図1に示す概念の一部を使用してもよい。システム200のコンポーネントの一部はシステム100のコンポーネントに対応する場合がある。具体的には、先頭桁が異なる番号(例えば1XYと2XY)によって示されるコンポーネントが、2つのシステムで同一または類似している場合がある。システム200における液体ヘリウムは、基板202によって支持されてもよい。基板202の上に下部ゲート210を付着させることができる。基板202および/または下部ゲート210の上に液体ヘリウム(明示せず)が配置され、図1と同様の膜を形成することができる。液体ヘリウム膜は、図1のバンク106と同様の1組の(例えば誘電体)バンクによって横方向に支持されることができる。実装形態によっては、バンクは液体ヘリウムを別々の貯槽に分割することができる。貯槽は、実装形態によっては、システム200の横寸法の大部分にわたって延びていてもよい。他の実装形態では、貯槽はシステム200の一部にのみわたって延びていてもよい。実装形態によっては、貯槽はいくつかの並行なマイクロチャネルに分かれていてもよい。液体ヘリウムは、図1に関して上述したように、静電像力によって垂直方向(ヘリウムの表面に対して垂直な方向)に閉じ込められた電子の電子サブシステムを支持することができる。絶縁バンクの上方に導電性ガード電極212を付着させてもよい。実装形態によっては、ガード電極212は、下にある絶縁バンクの形状を再現してもよい。実装形態によっては、ガード電極212の幾何形状は、絶縁バンクの幾何形状と異なっていてもよい。ガード電極212は、上部ゲートによって形成されてもよい。実装形態によっては、ガード電極212は等電位であってもよい。他の実装形態では、ガード電極112は、その様々な部分に別々に異なる電位(電圧)を印加することができるように、複数の分離された要素からなってもよい。
【0012】
図2(左図)に概略的に示す特定の一実現形態では、システム200は2つの比較的大きな領域である左貯槽214と右貯槽216とを有し、それぞれが20個~25個のマイクロチャネル構造体を含む。例えば、マイクロチャネル構造体は、比較的長い長さ(例えば一実施形態では約700μm)を有してもよい。左貯槽214と右貯槽216とは、上述のような複数の電子マイクロチャネルを画定することができる。貯槽214および216は、最終的に、電子を電子トラップ内にロードするための電子溜めとして機能することができる。システム200は、サイドゲート218およびサイドゲート220などの複数のサイドゲートをさらに含んでもよい。サイドゲート218および220は、ガード電極212および相互から電気的に分離されていてもよい。実装形態によっては、サイドゲートに異なる電位によって別々にバイアスがかけられてもよい。図2の分解図(中央の図)に示すように、サイドゲートは中央マイクロチャネル222を画定することができる。中央マイクロチャネルは、貯槽214および216の寸法と比較して短い長さを有してもよい。実装形態によっては、中央マイクロチャネル222の長さは100μm~200μmとすることができる。中央マイクロチャネル216内の電子の密度は、下部ゲート224に印加される電圧による容量結合によって制御することができ、一方、中央マイクロチャネル222内で電子が占める電子の有効幅はサイドゲート218および220に印加される電圧によってさらに制御することができる。得られた電子サブシステムの特性を特性評価するために、有限要素シミュレーションと組み合わせて電気伝導測定(低可聴周波伝導率および圧縮率測定、電流電圧特性、電子密度を求めるための測定など)を行って、電気化学ポテンシャルφe、面電子密度ns、および/またはその他の数量を求めてもよい。実装形態によっては、伝導測定は、中央マイクロチャネル222にのみ電子の電流が発生するように、貯槽電極210の左部分と右部分の間に電圧バイアスを印加することによって行ってもよい。他の実装形態では、駆動電極の特定の幾何形状に応じて、マイクロチャネルのうちの一部または全部のマイクロチャネルに電流が流れている状態で左貯槽214(または右貯槽216)のマイクロチャネルに電圧バイアスを印加してもよい。駆動電極は、ガード電極212または別個の追加の電極(図2には明示せず)を含んでもよい。
【0013】
中央マイクロチャネル222内のヘリウムの表面の上方を浮遊する電子は、図2(拡大図、右図)に示す電子トラップ226のための電子の供給源として機能することができる。(電圧バイアスが印加された)サイドゲート218(およびサイドゲート220)によって生じる電界が、中央マイクロチャネル222内の電子108の1つまたは複数の境界を生じさせることができる。境界は、中央マイクロチャネル222内のヘリウムの表面の上方に浮遊する電子108の横方向運動の限界を線引きすることができる。この境界の外側に1つまたは複数の追加の制御ゲート228を配置してもよい。制御ゲート228に印加される正電圧が、中央マイクロチャネル222からの電子が制御ゲート228の近傍まで移動するのをエネルギー的に好都合にすることができる。制御ゲート228はサイドゲート218の電位(例えば負)と比較して反対の(例えば正)電圧を有し得るため、実装形態によっては、負のサイドゲートポテンシャルの対抗作用を低減するようにサイドゲート218に切り込みを入れると有利な場合がある。実装形態によっては、電子トラップ226内部に電荷センサを配置してもよい。実装形態によっては、電荷センサは、個別の電子の存在を検出することができる量子電荷センサであってもよい。例えば、電荷センサは高周波単一電子トランジスタセンサ(RF-SETセンサ)230であってもよい。
【0014】
中央マイクロチャネル222から電子トラップ226に至る追加のサイドマイクロチャネルをロードゲート232によって形成することができる。ロードゲート232は、液体ヘリウムの表面の上方を浮遊する電子から電子トラップ226への進入を選択的に開閉することができる。例えば、ロードゲート232に正電位が印加されると、電子が電子トラップ226を満たすことができるように、ロードゲートへの電子の静電引力により中央マイクロチャネル222から電子に対してサイドマイクロチャネルを開くことができる。その後、ロードゲートに負電圧が印加されると、この負電圧は、中央マイクロチャネル222と電子トラップ226との間に電位障壁を築くことによってサイドマイクロチャネルを切断し、電子を電子トラップ226内部にトラップすることができる。実装形態によっては、制御ゲート228と、RF-SETセンサ230と、ロードゲート232は、ヘリウムの表面の下に配置されてもよい。実施形態によっては、図2に示すように、制御ゲート228と、RF-SETセンサ230と、ロードゲート232は、下部ゲート224の面内に配置されてもよく、一方、絶縁挿入物234によって下部ゲート224および相互から電気的に分離されたままとすることができる。他の実装形態では、制御ゲート228と、RF-SETセンサ230と、ロードゲート232と、下部ゲート224と、貯槽電極210とのうちの少なくとも一部が異なる面内に配置されてもよい。
【0015】
中央マイクロチャネル222と電子トラップ226との間の接続が切断された後は、制御ゲート228に印加される電圧Vgを制御することによって電子トラップ226内部にトラップされた電子の数を必要に応じて調整することができる。例えば、ゲート電圧Vgを低下させると、電子トラップ226内の電子の電位エネルギーが増大する(電子電荷は負であるため)。その結果、一部の電子が電子トラップ226から押し出される。このプロセスを、電子トラップ226内の電子の数が所定の値に達するまで続けることができる。量子コンピューティングに関係する一部の実施形態では、所定の値は1に等しくてもよく、これは単一電子量子キュービットが実現される状況である。図3に、電子トラップ226内の電子の数を調整するための例示の電子ローディング法を示す。システム200と電子トラップ226の特定の一実現形態の、印加制御ゲート228電圧Vgに対する電子トラップ226内部の電荷Qの依存関係300が(電子電荷の単位で)示されている。図3に示す依存関係300は、有限要素モデリングを使用して計算されている。依存関係300は、電子と制御ゲート228との相互作用が電子トラップ226内部の電子反発のクーロンエネルギーの変化に打ち勝つのに十分である場合の、電圧Vgの特定の値において起こるn個の電子とn+1個の電子を有する状態の間に急激な遷移のある、特徴的なクーロンブロッケード電子階段を示している。電圧Vgを調整することによって、クーロンブロッケード階段によって示されるように、所定数の電子が(例えば、1個、2個、3個というように)電子トラップ226内に残るように、電子トラップ226内の電子の数を制御することができる。
【0016】
実装形態によっては、トラップ226内部の電子の数の調整に続いて行われるローディングマイクロチャネルの切断により、単一電子をトラップ領域にロードするプロセスを異なる方式で行うことも可能である。例えば、ローディングプロセスを次のように行ってもよい。まず、電子トラップ226とローディングマイクロチャネル内の電子の静電電位を、貯槽214および216と中央マイクロチャネル222内の電子の電気化学ポテンシャルよりも正となるようにチューニングすることができる。このような条件下で、電子はローディングマイクロチャネルに沿って電子トラップ226内まで移動することができる。電子トラップ226にロードされる電子の数は、上述のように有限要素モデリングから推定することができる。その後、制御ゲート電圧Vgを負(またはより低い正)の値にスイープすることができる。これにより、図3に示すように、電子トラップ226から電子が1つずつ減少するように、電子トラップ226内の静電電位が低下することになる。有限要素モデリング計算によると、電子トラップ226から1個の電子をアンロードするのに必要な電圧差ΔVgは、電子トラップ226の幾何学的サイズおよび形状と、その静電環境とに応じて1mVから数10mVまで変化し得る。数学モデリングに加えて、以下で詳述するように、RF-SETセンサ230により電子アンローディングプロセスを監視することができる。電子トラップ226内の電子の数が1個(または他の所定の値)に減少した後は、ローディングゲート232の電圧を下げることによって、ローディングマイクロチャネルの静電電位を負の値に設定することができる。実装形態によっては、形成されたキュービットから電子が逃げて中央マイクロチャネル222に戻るのを防ぐのに十分な高さの電位障壁を築くために、ローディングマイクロチャネル内部の電位を電子トラップ226内部の電位と比較して十分により負にしてもよい。
【0017】
RF-SETセンサ230(または任意のその他の量子電荷センサ)は、絶縁基板(例えば基板202)上に微細加工され、液体ヘリウム表面下に沈められた高感度の高周波単一電子トランジスタであってもよい。実装形態によっては、高速量子電荷センサを、その上方(例えば、電子トラップ226内部)でトラップされた電子の垂直運動量子状態を測定するためのRF-SETとして使用してもよい。本明細書で開示する完全量子コンピューティングシステムでは、RF-SETセンサ230はキュービット状態の読み出しを容易にすることができる。RF-SETセンサ230の高速動作速度を実現するために、実装形態によっては、従来型SETが高周波マイクロ波共振回路の容量性コンポーネントとして内蔵されてもよい。最新のRF-SETベースの電荷センサは、最大1×106μC/√Hzの実証済み感度と、100MHzを上回る測定速度とを有する。このような高周波数は、キュービットのブロッホ球振動を読み出すのに十分に高速であるとともに、背景電荷からの低周波1/fノイズが量子電荷センサの読み出し性能にとって確実に無視できる程度にするのに十分に高い。実装形態によっては、電荷センサはRF-SETベースのセンサとは異なっていてもよい。例えば、電荷センサは、オフセット電荷感受性超伝導キュービット、または個別電子電荷を検出可能な同様のデバイスであってもよい。
【0018】
有限領域(例えば電子トラップ226)内部にトラップされた電子は、エネルギーの離散スペクトルを有することができる。キュービットの一実現形態では、電子の基底状態がキュービット状態|0〉を表すことができ、一方、励起状態の1つ、例えば、第1励起状態がキュービットの状態|1〉を表すことができる。様々な実装形態において、第1励起状態は電子の様々な量子運動に対応し得る。このようなトラップの場合、キュービットの第1励起状態|1〉は、トラップされた電子の垂直(すなわちヘリウムの表面に対して垂直な)運動の第1励起リュードベリ状態であり得る。これは、キュービットの例示の一実装形態を表し得る。このような実装形態では、キュービットの第1励起状態|1〉とその基底状態|0〉との周波数差は約120GHz(これはエネルギー差では約0.5meVに対応する)であり得る。逆に、横方向寸法がリュードベリ状態のボーア半径より大きい電子トラップでは、横方向運動に対応するエネルギー準位間の間隔が、トラップされた電子の垂直運動に対応するエネルギー準位間の間隔よりも小さくなり得る。そのようなトラップの場合、キュービットの第1励起状態|1〉は、トラップされた電子の横方向運動(例えば、「箱の中の粒子」量子運動)の第1励起であり得る。これは、キュービットの別の例示の実装形態を表すことができる。例えば制御ゲート228の幾何形状と電位とにより制御することができる、電子トラップ226内の電子の閉じ込め度に応じて、キュービットの状態間のエネルギー差は実装形態ごとに大きく異なる場合がある。例えば、例示の非限定的一実装形態では、キュービットの第1横方向励起状態|1〉とその基底状態|0〉との周波数差は約10GHzの場合がある。例えば、振幅αおよびβのラビ振動を生じさせることによって、高周波またはマイクロ波信号を使用して(以下で詳述するように)量子振幅αおよびβを有するキュービットの2つの状態の重ね合わせα|0〉+β|1〉を準備し、制御することができる。
【0019】
実装形態によっては、トラップされた電子の垂直運動と横方向運動の両方を使用して、単一電子を使用する2キュービットシステムを実装することができる。そのような実装形態では、トラップされた電子は、|↓0〉、|↓1〉、|↑0〉、および|↑1〉などの少なくとも4つの固有状態を有することができ、|↓〉はトラップされた電子の垂直リュードベリ運動に関する基底状態であり、|↑〉は励起状態であり、|0〉はトラップされた電子の横方向運動に関する基底状態であり、|1〉は励起状態である。したがって、状態|↓0〉はエネルギーE0のトラップされた電子の基底状態である。状態|↓1〉は横方向運動に関する励起状態に対応する第1のエネルギー差E1だけより高いエネルギーE0+E1を有し得る。状態|↑0〉は、垂直運動に関する励起状態に対応する第2のエネルギー差E2だけより高いエネルギーE0+E2を有し得る。最後に、状態|↑1〉は、両方の運動に関する励起状態に対応するエネルギーE0+E1+E2を有し得る。このような2キュービットシステムの状態は、周波数E1/hの第1の信号と周波数E2/hの第2の信号などの複数の高周波またはマイクロ波信号を使用して準備し、制御することができる量子振幅A、B、CおよびDを有する、4つの状態の重ね合わせA|↓0〉+B|↓1〉+C|↑0〉+D|↑1〉であり得る。
【0020】
キュービットのこのような実装形態の量子状態は量子計算用途にとって十分な長い量子コヒーレンス時間を有することができることと、液体ヘリウムの表面上の電子のin situ配置が実現可能であることに留意されたい。例えば、キュービットの状態間のエネルギー差が、温度スケールで約0.5Kに対応する10GHzのように低い実装形態であっても、キュービットの温度デコヒーレンスは、最新の希釈冷凍機の典型的な温度である約10mKでは無視可能であり得る。
【0021】
キュービットとしてヘリウム上にトラップされた電子の量子化垂直または横方向運動を使用する場合の主な問題は、単一または複数キュービットゲート操作を可能にすることになる総合的システムにおいて、キュービットダイナミクスの十分に高速な制御とキュービットへの読み出し電子回路の統合とをいかにして実装するかであることに留意されたい。本開示の態様では、NISQまたは完全にフォールトトレラントな量子コンピューティングのために量子化運動を利用することができる完全で統合的なシステムのためのそのような実装形態について説明する。
【0022】
上述のように、個別のキュービット(電子)を、制御ゲート228によって画定された電子トラップ226の近くに配置されたRF-SETセンサ230の上方に配置することができる。他の実装形態では、RF-SETセンサ230の代わりに、キュービット読み出しのために同様の量子電荷センサ(例えばオフセット電荷感受性超伝導キュービットまたは同様のデバイス)を使用してもよい。電子は中央マイクロチャネル222からロードすることができる。図2(中央の図)に示すように、単一のマイクロチャネルで複数の電子トラップ226に対応することができ、各電子トラップ226が別個のキュービットとして機能する。実装形態によっては、個別のキュービットを別々に制御することができる。例えば、異なる電子トラップ226の制御ゲート228に異なる制御ゲート電圧を印加することができる。その結果、異なるトラップにおける電子スペクトルは同じではない場合がある。例えば、隣接するトラップを、例えば12.0GHz、12.1GHz、12.2GHzというように、キュービットの2つの状態に分かれるエネルギーに対応する異なる周波数を有するようにチューニングしてもよい。したがって、標的キュービットの応答を特定のキュービットによって共振的にプローブすることができる。すなわち、最初のキュービットを12.0GHzの駆動周波数で共振的にプローブすることができ、12.2GHzの周波数を有する信号が2番目のキュービットの状態を共振的にプローブし、以下同様にプローブすることができる。これに対応して、単一の可変高周波源により様々なキュービットの量子状態をプローブすることができる。他の実装形態では、制御ゲート228は同じ電圧Vgを受けるが、制御ゲートおよび/またはサイドゲート218の幾何形状およびレイアウトがトラップごとに異なっていてもよい。実装形態によっては、制御ゲート228の電圧と、異なるトラップの幾何形状/レイアウトの両方が異なっていてもよい。実装形態によっては、トラップのレイアウトと制御ゲート228の電圧が同じであってもよいが、対応する電子トラップ226の近く(例えば下)に配置されたRF-SETセンサ230に異なるDC電圧が印加されてもよい。このようなトラップごとに異なるRF-SET電圧を使用して、各キュービットの共振周波数を個別にシュタルクチューニングすることができる。実装形態によっては、様々なキュービットの量子もつれを促進するために、個別のキュービットを互いに共振させるように選択的にチューニングすることができる。このようにして2つ以上のキュービットをもつれ合わせることができる。実装形態によっては、印加制御ゲート電圧および/またはRF-SET電圧が時間とともに変動してもよい。例えば、トラップの量子状態間の量子遷移を生じさせずにトラップ内の電子状態のエネルギーをチューニングするために、このような電圧を断熱的に変動させることができる。実装形態によっては、異なるキュービット間(例えば最も近い隣接キュービットと次に近い隣接キュービットとの間)のもつれ合いが、それぞれの電荷自由度間の相互作用により生じ得る。具体的には、このような相互作用は電気双極子間結合により生じ得る。このような結合のパラメータ(例えば強度および距離)は、上記で開示したように、静電ゲーティングおよび/または量子エネルギー準位のシュタルクシフトによって制御することができる。実装形態によっては、電子トラップ226内の電子を(例えば容量結合により)下にある共振器バスに結合することによって、遠隔キュービット間の長距離もつれを実現することができる。実装形態によっては、遠隔キュービットの長距離結合ともつれとを確立するために、複数のキュービットの集団電荷振動(例えばプラズマ振動)を使用してもよい。
【0023】
図2および図3を参照して開示したコンポーネントは、単一のチップ上に実装可能である。実装形態によっては、様々なコンポーネントを別々のチップ上に実装してもよい。例えば、第1の複数のキュービットを第1のチップ上に実装し、第2の複数のキュービットを第2のチップ上に実装してもよい。実装形態によっては、第1および/または第2の複数のキュービットが線状の空間配置を有してもよい。実装形態によっては、第1および/または第2の複数のキュービットが平面空間配置を有してもよい。
【0024】
図4は、キュービットのマイクロ波および高周波単一電子トランジスタベースの読み出しおよび制御を実装可能な、例示の一実施形態と、システム400のコンポーネントとを示す回路ブロック図である。システム400は、クライオスタットと、クライオスタットに1つまたは複数のRF信号を送るRF回路とを含むことができる。システム400は、RF信号およびマイクロ波信号を準備するためのコンポーネント(例えば、1つまたは複数の信号発生器、ミキサ、増幅器、逓倍器など)と、電子キュービットのシステムに(例えば容量)結合されたマイクロ波共振器回路とを含む容器(例えばクライオスタット)に準備された信号を送るための信号ガイドと、準備された信号に対するマイクロ波回路の応答を検出するコンポーネント(例えば、RF-SETセンサ、タンク回路、方向性結合器、アナログ-デジタル変換器など)とを含むことができる。これらの要素は、電子キュービット状態の準備とその後の読み出しとを行うために使用可能な例示のコンポーネントである。実装形態によっては、キュービットの準備は、連続波高周波信号(例えば正弦信号)を発生する信号発生器402で開始してもよい。信号発生器402は、キュービットの共振周波数にチューニングされた時変信号を発生する可変周波数信号発生器であってもよい。信号発生器402は、アナログ合成器、水晶発振源、十分に高速なデジタル信号源などであってもよい。実装形態によっては、信号発生器402によって発生される信号は、制御されていない時間遅延と伝播中の送信信号のスプリアス位相シフトとを補正するために、移相器404によって位相シフトされてもよい。信号発生器402によって発生された信号によって制御された1つおよび/または2つのキュービット状態を生じさせるために、これらの制御信号を適切に整形してもよい。実装形態によっては、制御信号はパルス波形に整形されてもよい。これらのパルス信号は、正確に制御された持続期間、位相および振幅を有することができる。実装形態によっては、これは、単側波帯変調とミキシングとによって実現することができる。例えば、信号はマイクロ波ミキサ406のローカル発振器入力に供給することができる。ミキサ406は、実装形態によってはIQミキサであってもよく、他の実装形態では3ポートミキサが使用されてもよい。ミキサ406は、移相器404および/または信号発生器402に結合されたLO入力を有してもよい。ミキサ406は、信号が信号発生器402によって発生された信号と混合されるとキュービット共振周波数における周波数を有する信号が得られるように、キュービット共振周波数よりも低い周波数(例えば10MHz~1GHz)の信号(例えばパルス)を受信する同相入力と直交入力とをさらに有してもよい。実装形態によっては、ミキサ406の同相入力は波形発生器408から第1の信号を受信することができ、ミキサ406の直交入力は、波形発生器408から第2の信号を受信することができる。実装形態によっては、波形発生器408は、任意波形発生器(AWG)またはフィールドプログラマブルアレイ(FPGA)ボード信号源であってもよい。ミキサ406は、ローカル発振器入力を波形発生器(AWG)408によって生成された信号(例えば位相安定パルス)と混合してもよい。ミキサ出力は、発生器408によって制御された、所定の存続期間と位相と振幅の、1つまたは複数の高周波信号(例えばパルス)とすることができる。実装形態によっては、信号発生器402によって発生される信号は、制御され、読み出されることが意図されたキュービットの横方向運動エネルギー準位の差に対応する5GHz~20GHzの信号であってもよい。実装形態によっては、周波数は、ミキサ406によって、例えばAWG408からの適切なパルスを使用して、特定の(例えばシュタルクチューニングされた)キュービット(または複数のキュービット)の周波数にさらにチューニングすることができる。信号伝送中のスプリアス損失を補償するために、混合信号をクライオスタット420に送り込む前に、混合信号を増幅器410によって増幅してもよい。例えば、増幅器410によって増幅器入力RF信号を同じ周波数であるが振幅がより大きい信号に変換してから、増幅されたRF信号をクライオスタット420に出力してもよい。実装形態によっては、準備され、増幅されたRF出力信号は、キュービットのシステム(実装形態によっては、システム200など)を含むクライオスタット420に信号ガイド412を通して直接送られてもよい。信号ガイド412は、フィルタ付きテーパ導波路または、フィルタ付き減衰同軸半剛体ケーブルなどの同軸ケーブルであってもよい。2キュービットシステムを実装するためにトラップされた電子の横方向運動と垂直運動の両方が使用されるような一部の実装形態では、クライオスタット420に信号を同時に送り込むために、導波路と同軸ケーブルの両方が使用されてもよい。実装形態によっては、キュービット共振周波数は、ミキサ406(および増幅器410)によって出力される信号の周波数より有意に高くてもよい。例えば、これは、キュービットがトラップされた電子の垂直運動の横方向リュードベリ状態を使用する場合であり得る。そのような実装形態では、ミキサ406(および増幅器410)によって出力された信号は、周波数を目標周波数にアップコンバートするために周波数逓倍器416によって処理されてもよい(目標周波数はキュービットの固有状態間のエネルギー差に対応する)。実装形態によっては、アップコンバートされた周波数は、ミキサ406および/または増幅器410によって出力された信号の周波数の少なくとも10倍になり得る。例えば、図4に一例として示すが限定ではない実施例のように、12×逓倍器が初期周波数10GHzを120GHz信号にアップコンバートすることができる。周波数逓倍器416は、実装形態によっては標準周波数エクステンダモジュールに基づいてもよい。他の実装形態では、周波数逓倍器は、ミキサベースのアップコンバートを使用して動作してもよい。その結果のアップコンバートされた高周波信号(例えばパルス)は、次に、信号ガイド418を介してクライオスタット420に送信することができる。信号ガイドはテーパ導波路であってもよい。信号ガイド418は、アップコンバート時に発生したか、または10mKに維持可能なクライオスタットの区画よりも高い温度を有するシステムの領域から放出された可能性のあるスプリアス信号をフィルタ除去するために、追加のフィルタを含んでもよい。
【0025】
実装形態によっては、信号ガイド412および418のうちの一方のみを使用してもよい。例えば、トラップされた電子の垂直運動がキュービットとして使用されている場合は、信号ガイド418のみを使用してもよく、信号ガイド412を介して送信される信号はない。実装形態によっては、高周波信号(例えば図のように120GHz信号)と低周波信号(例えば図のように10GHz信号)の両方が、それぞれ信号ガイド418と412を介して同時に送信されてもよい。例えば、これは、キュービットのシステムが、トラップされた電子の垂直運動を使用するものとトラップされた電子の横方向運動を使用するものとの異なる種類のキュービットを含み、両方の種類のキュービットを同時に読み出す(または準備する)必要がある場合に行うことができる。
【0026】
キュービットのシステムを含むことができるクライオスタット420に送信される信号(アップコンバートされているか否かを問わない)を、1つまたは複数のキュービットの量子状態をプローブするために使用することができる。1つまたは複数のキュービットの量子状態は、キュービットのシステムによる量子コードの先行する実行の結果を表すことができる。コードの完了時、従来型(古典的)コンピュータでの後続の処理のためにキュービットのシステムの量子状態を読み出す必要がある場合がある。複数のキュービットのシステムの状態は、個別のキュービットの量子状態のもつれ合った組み合わせの場合がある。そのようなもつれ合った組み合わせの特性を判定するために、キュービットのシステムに(上記で開示したように準備された)マイクロ波放射の1つまたは複数のパルスを印加することができ、量子コード実行の終わりにキュービットのシステムの状態を、マイクロ波放射に対するキュービットの応答から突き止めることができる。実装形態によっては、そのような応答はラビ振動、すなわち、キュービットの量子状態|1〉と|0〉との重ね合わせを示す量子振幅の時間依存遷移を含み得る。このようなラビ振動は、実装形態によっては、上記で開示したような、電子トラップ226のプローブとしてRF-SETセンサ430(例えばシステム200のRF-SETセンサ230)を含むマイクロ波共振回路の減衰および周波数シフトによって測定することができる。実装形態によっては、RF-SETセンサ430は、図4の破線矩形SET内のコンポーネントによって概略的に示すように、中央の島を介して接続された2つのトンネル接合を有してもよい。中央の島は、金属または半導体からなってもよい。実装形態によっては、中央の島は、超伝導材料からなってもよい。実装形態によっては、中央の島は量子ドットであってもよい。RF-SETセンサ430の中央の島は、ゲートに容量結合することができ、ゲート電圧431をその中に印加することができる。例えば、中央の島に単一の伝導電子が存在するように、RF-SETセンサ430の状態をチューニングするためにゲート電圧431を使用してもよい。図4に示すように、RF-SETセンサ430にさらにバイアス電圧433を印加してもよい。
【0027】
RF-SET430によって検出された応答は、十分に高速なアナログ-デジタル変換器(ADC)432を通過させることができ、ADC432において応答がサンプリングされ、デジタル化されることができる。実装形態によっては、ADC432は約0.5GS/s~6.4GS/s以上の速度を有し得る。制御と測定方式の同期により、キュービットシステムの動作を向上させることができる。例えば、同期はマスタクロック434によって促進されてもよい。さらに、RF-SET430からの信号は、2ポートベクトルネットワーク分析器(VNA)441を使用して共振回路436の共振周波数での反射または伝送で監視することができる。一実施形態では、共振回路は、RF-SETセンサ430とキャパシタとの間にインダクタが直列に結合され、RF-SETセンサ430と接地(または接地電位)との間にキャパシタが並列に結合された、LCタンク回路である。測定回路は、発生器440からの読み出し信号を方向づけるための方向性結合器438などの追加の要素を含んでもよい。実装形態によっては、この結合器を3ポートアイソレータまたはサーキュレータに置き換えてもよい。信号発生器440は、特定の実装形態に応じて、RF-SETを含むタンク回路436の問合せのための広い周波数範囲(10MHz~100MHz)内のRF信号を発生することができる。マスタクロック434は、キュービット準備と読み出しの同期のために、ADC432および波形発生器408とRF信号源440の両方に結合することができる。実装形態によっては、マスタクロック434は、信号発生器402とミキサ406とによって発生されたパルスを、ADC432によって受信された出力と互いに関係づけてもよい。
【0028】
トラップされた電子の垂直リュードベリ状態によるキュービットの実現形態を参照すると、実装形態によってはそのようなキュービットのラビ振動の特性時間スケールは約100MHz~1GHzの範囲内であり得る。当技術分野で知られているコヒーレンス時間を考えると、これは、これらのキュービットによる最大100回を超える量子ゲート操作を可能にし得る。これにより、本明細書で開示している読み出し機構は、総合的量子コンピューティングシステムの実現可能なコンポーネントとなる。
【0029】
キュービットが電子トラップ226内の電子の量子化横方向運動により実現される実装形態では、そのような運動の基底状態|0〉と第1励起状態|1〉との周波数差(キュービットの共振周波数である)を1GHz~10GHz程度になるように(トラップ226とその制御ゲート228との幾何形状により)設計することができる。実装形態によっては、(上記で開示した読み出し機構に加えて)超伝導回路ベースのキュービットの回路量子電気力学測定のために開発された回路と類似したマイクロ波回路とともにRF-SET技術を使用することによって、キュービットのこのような横方向運動状態の読み出しを実現することもできる。このような回路ベースの実装形態の組み込みに関する本明細書で開示されている概念の新規性は、明確なキュービット状態の形成を確実にする特定の貯槽およびトラップの設計の使用と、これらの特徴のマイクロ波制御およびRF-SET読み出し方式との統合にある。
【0030】
図4を参照した上記の開示ではキュービット読み出し技術について説明したが、同じ技術はキュービット制御にも使用することができる。より詳細には、図4に関連して説明した技術によりパルスマイクロ波信号をキュービットに印加時にキュービットにラビ振動を生じさせることによって、最初は基底状態|0〉であるキュービットが(キュービットのシステムで実装される量子計算コードにより要求される)所望の重ね合わせ状態α|0〉+β|1〉へと変化することができる。
【0031】
図5に、トラップされた電子の横方向運動を使用するキュービットを作製するための電子トラップ(例えば電子トラップ226)の例示の実装形態500を概略的に示す。例示の非限定的一実装形態では、電子トラップ500は非対称な形状を有してもよく、例えばトラップは長さ4μm、幅1μmであってもよい。トラップの非対称性は、電子の横方向運動に対応する励起状態の縮退を解き、したがって、近接エネルギーによる別の励起状態への/からの仮想遷移による状態|1〉のデコヒーレンスを抑止する機能を果たすことができる。図6に、特定の一実装形態における、キュービットのエネルギー準位間のエネルギー差En-Emを、制御ゲート228に印加された電圧の関数として例示する。図6に示すエネルギー差は、トラップされた電子の運動の固有状態と固有エネルギーについてシュレディンガーの方程式を数値的に解くことによって計算された。データ600によって示すように、制御ゲート228の電位を変化させることによって、基底状態から第1励起状態への遷移|0〉→|1〉のためのキュービット遷移周波数を、約4GHz~8GHz内の広い範囲にわたってチューニングすることができる。
【0032】
図6に示すキュービット実装形態は非調和性を示す。すなわち、第1励起状態と基底状態とのエネルギー(または同等に遷移周波数)差E1-E0は、第2励起状態と第1励起状態との差E2-E1とは異なる。図6に示す特定の例示の実装形態では、このような非調和性の範囲は0.1GHz~0.4GHz程度である。実装形態によっては、このような非調和性が有利な場合がある。例えば、読み出しマイクロ波信号の周波数を差E1-E0付近にチューニングした場合、ラビ振動は状態|0〉と|1〉との間の遷移に限定することができる。したがって、同じ読み出しマイクロ波信号が状態間の遷移|1〉→|2〉を引き起こす可能性は低くなる。これにより、キュービットデコヒーレンスを生じさせることになるより高い励起状態|2〉、|3〉...のスプリアス混合を防ぐことができる。実装形態によっては、より高い励起状態へのキュービット励起を確実に不可能にするように、非調和性度を電子トラップの幾何形状によって制御してもよい。
【0033】
キュービット操作時、上記で開示したように、マイクロチャネルと電子トラップとに電子が投入されると運動基底状態|0〉へのキュービットの初期化が必然的に起こる。これは、システムの典型的な動作温度(約10mK)がキュービット遷移エネルギーであるE1-E0よりも有意に低くなり得るために起こり得る。その後のキュービット制御操作(例えばゲート操作)時に、図4に関して上記で開示したようにキュービット遷移周波数にチューニングされたパルスマイクロ波フィールドを使用して、キュービットの状態|1〉への励起を実現することができる。
【0034】
図7は、例示の一実装形態における、電子トラップを形成し、ヘリウム膜の表面上を浮遊する電子のサブシステムから電子トラップに電子を投入する方法700の例示の実装形態を示す流れ図である。実装形態によっては、方法700は、図1から図6に関連して上記で開示したシステムとコンポーネントを使用して行うことができる。方法700は、膜の表面付近を浮遊する電子の電子サブシステムを支持することができる液体ヘリウムの膜を準備することから開始することができる(710)。例えば、方法700は、ヘリウムの毛細管現象を使用して液体(例えば超流動体)ヘリウムで満たされたマイクロチャネルを備えた基板を準備することを含み得る。膜の準備は、例えば電子発生源からの熱電子放出によって、電子サブシステムに電子発生源から電子を投入することを含み得る。膜の準備は、例えば、電子サブシステムの電気化学ポテンシャル、密度(例えば電子の気中濃度)、および/または電子サブシステムのその他の数量を求めるための測定を行うことによる、電子サブシステムの特性評価も含み得る。膜の準備は、液体ヘリウムの近傍に様々なゲートを配置することも含み得る。ゲートのうちの一部のゲートは、ヘリウムからと電子サブシステムから電気的に分離されてもよいが、電子サブシステムに容量結合されてもよい。ゲートのうちの一部のゲートは、ヘリウム膜と直接、電気接触してもよい。ゲートのうちの一部のゲートは電圧バイアスされてもよい。ゲートのうちの一部のゲートは、電子サブシステムの境界を形成するために使用されてもよい。ゲートのうちの一部のゲートは、電子トラップ内の電子が電子サブシステムの他の部分および/または他の電子トラップに存在する可能性のある電子から空間的に(例えば横方向に)分離されるように、境界外部の1つまたは複数の電子トラップを画定するために使用されてもよい。
【0035】
方法700は続いて、電子サブシステムの境界を形成するためにサイドゲートに第1のサイドゲート電圧を印加することができる(720)。実装形態によっては、第1のサイドゲート電圧の大きさを、境界の位置と形状とを制御するために使用することができる。実装形態によっては、サイドゲートは、サイドゲートの各部の間に液体ヘリウムのマイクロチャネルが形成されるように、複数の電気的に接続された部分を有してもよい。実装形態によっては、サイドゲートは、複数の電気的に分離された部分を含んでもよい。したがって、「サイドゲート電圧」という用語は、サイドゲートの異なる部分に印加される複数の電圧を含み得る。方法700は続いて、電子サブシステムの境界の外部に位置する電子トラップを形成するために、トラップゲートに第1のトラップゲート電圧を印加することができる(730)。「トラップゲート」という用語は、図2の制御ゲート228を含む。電子トラップは、(負に荷電したトラップされた電子のポテンシャルエネルギーがその位置で最小値を有することができるように)トラップ位置またはその付近で最大値を有する静電ポテンシャルによって画定可能である。実装形態によっては、図5に示すように、トラップゲートはトラップを囲む単一の電極であってもよい。実装形態によっては、図2(右図)に示すように、トラップゲートは複数の電極を含んでもよく、異なる電極(例えば制御ゲート228)に複数の異なるトラップゲート電圧が印加される。実装形態によっては、第1のトラップゲート電圧を全く印加しなくてもよく、例えば、電子サブシステムの境界の外部に上昇した静電ポテンシャルの領域が形成されるように、電子トラップがサイドゲートの特定の形状によって画定されてもよい。
【0036】
方法700は続いて、電子サブシステムの電子の進入路を開くためにロードゲートに第1のロードゲート電圧を印加することができる(740)。例えば、第1のロードゲート電圧は、(例えば、2つの領域の間にマイクロチャネルを形成することによって)電子サブシステムの境界から電子トラップへの電子の進入を可能にするように、静電ポテンシャルの空間プロファイルを変更することができる。実装形態によっては、第1のロードゲート電圧は全く印加されなくてもよく、例えば、上昇した静電ポテンシャルの領域が電子サブシステムの境界からトラップ領域に向かってずっと存在するように、サイドゲートの特定の形状によりマイクロチャネルが形成されてもよい。方法700は続いて、電子トラップへの電子サブシステムの電子の進入を閉鎖するために、ロードゲートに第2のロードゲート電圧を印加することができる(750)。例えば、第2のロードゲート電圧は、第1のロードゲートよりもより正でなくてもよい。したがって、電子が電子トラップ内にトラップされるように、電子トラップと電子サブシステムの境界との間に前に形成されていたマイクロチャネルを切断することができる。
【0037】
方法700は続いて、電子トラップ電圧内の電子の数を調整するために、トラップゲートに第2のトラップゲート電圧を印加することができる(760)。より詳細には、電子トラップに至るマクロチャネルが切断された後、トラップには必要な数の電子とは異なる数の電子が含まれている可能性がある。実装形態によっては第2のトラップゲート電圧は第1のトラップゲート電圧よりも低くすることができる。これにより、トラップ内の電子のポテンシャルエネルギーを上昇させ、電子の一部をポテンシャル障壁を超えて電子サブシステムに押し戻すことができる。具体的には、トラップゲートの電圧を下げることによって、システムが(図3に例示するような)クーロンブロッケード階段を「降りて行く」ようにすることができる。第2のトラップゲート電圧は、トラップ内の電子の所定の数を、例えば1個、2個、3個というように維持するように選択されてもよい。実装形態によっては、単一電子キュービットを形成するために、第2のトラップゲート電圧は、トラップ内に電子が(例えば、クーロンブロッケード階段の段Q=1に対応する)1個だけ残るように選定されてもよい。実装形態によっては、必要な第2のトラップ電圧は、事前のキャリブレーション測定からわかる場合がある。実装形態によっては、第2のトラップゲート電圧の印加は全く行われなくてもよく、残っている電子の必要数(例えばQ=1)は、ブロック730での第1のトラップゲート電圧および/またはブロック720での第1のサイドゲート電圧の適正な選定によって実現されてもよい。実装形態によっては、第2のトラップゲート電圧の印加とトラップされた電子の数の調整が行われた後に、第3のトラップゲート電圧を印加してもよい(図7には示さず)。第3のトラップゲート電圧は、残っている電子がトラップから逃げるのを防ぐためにトラップ内の残っている電子のポテンシャル井戸の深さが増すように、第2のトラップゲート電圧より高く(例えばより正に)することができる。
【0038】
方法700の操作の一部は、方法700が行われるたびに使用されなくてもよい。例えば、ブロック710でのヘリウム膜の準備は、電子のトラップのためにゲート電圧を印加する複数の状況について1回だけ行われてもよい。実装形態によっては、ヘリウム膜が安定した状態を維持している(または貯槽から補充される)限り、追加の準備は必要がない場合がある。
【0039】
図8は、高周波入力信号を使用して、マイクロ波共振器回路に容量結合されたキュービットの状態を読み出す方法800の例示の実装形態を示す流れ図である。方法800は、キュービットの固有状態間の第1のエネルギー差に対応する周波数を有する第1の入力信号を準備することから開始することができる(810)。キュービットの固有状態はトラップされた電子の垂直(液体ヘリウムの表面に対して垂直)または横方向(液体ヘリウムの表面に平行)運動に対応し得る。実装形態によっては、第1の入力信号は、図4に示す高周波回路コンポーネント402、404、406、408、410、412、416、418の一部または全部によって準備可能である。方法800は続いて、準備された第1の入力信号をキュービットを容量性コンポーネントとして含むマイクロ波共振器回路に送ることによって、キュービットに第1の入力信号を印加することができる(820)。キュービットの固有状態間のエネルギー差に応じて、第1の入力信号の送信は、同軸高周波ケーブルまたはテーパ導波路を介して第1の入力信号をキュービットの保持器に(例えばクライオスタット内に)送信することを利用してもよい。キュービットは、マイクロ波共振器回路の一部であってもよい。例えば、キュービットのトラップされた電子は、図2図4および図5に示すように、トラップされた電子の近傍に配置されたRF-SETに容量結合されてもよい。RF-SETは、例示の一実装形態では、図4に示すようにマイクロ波共振器回路に含まれてもよい。
【0040】
方法800は続いて、第1の入力信号に対するマイクロ波共振器回路の第1の応答を検出することができる(830)。実装形態によっては、これはマイクロ波共振器回路のインピーダンス応答、例えば回路の周波数シフトと減衰を測定することによって行うことができる。方法800は続けて、マイクロ波共振器回路の測定応答からキュービットの状態を判定することができる(840)。マイクロ波共振器回路の第1の応答をアナログ-デジタル変換器によって処理することができ、古典的コンピュータ上で後続の処理を使用してキュービットのラビ振動を求めることができる。その結果、入力マイクロ波信号が印加される前(例えば量子コード実行の完了時)の励起されたキュービットの状態を突き止めることができる。
【0041】
実装形態によっては、方法800は同時に複数の信号を使用してもよい。例えば、第1の入力信号はトラップされた電子の垂直運動または横方向運動の一方に対応する周波数を有してもよく、第2の入力信号はトラップされた電子の運動の他方(例えば横または垂直)に対応する周波数を有してもよい。実装形態によっては、第2の入力信号は増幅器410および/またはミキサ406によって出力されたRF信号をアップコンバートする逓倍器416によって得ることができる。したがって、ブロック810で2つの入力信号を準備することができる。同様に、ブロック820で、キュービットに第1の入力信号と第2の入力信号とが同時に(または異なる時点、例えば連続した時点に)印加されてもよい。実装形態によっては、第1の入力信号は同軸ケーブルを介してマイクロ波共振器回路に送られてもよく、第2の入力信号は導波路(例えばテーパ導波路)を介してマイクロ波共振器回路に送られてもよい。ブロック830で、第2の入力信号に対するマイクロ波共振器の第2の応答が、第1の入力信号に対するマイクロ波共振器の第1の応答とともに検出されてもよい。実装形態によっては、ブロック840で第1の応答と第2の応答の両方に基づいてキュービットの状態の判定を行ってもよい。方法800を行った結果として、固有状態|↓0〉、|↓1〉、|↑0〉および|↑1〉の重ね合わせであるキュービットの状態など、キュービットの4ビット状態を判定することができる。
【0042】
量子コードの実行の前にキュービットの状態を準備するために、方法800に類似した方法を使用することもできる。例えば、(例えば方法700または他の何らかの同等の方法に従って)電子トラップに投入後、対応するキュービットは基底状態|0〉であり得る。(キュービットのシステムで実装される特定の量子計算コードによって要求される場合がある)重ね合わせ状態α|0〉+β|1〉を準備するには、キュービットを要求される重ね合わせ状態に駆動するような振幅および持続期間のラビ振動を生じさせるためにキュービットに適切に準備されたマイクロ波信号を印加してもよい。
【0043】
複数のキュービットを使用して方法800に類似した方法を行ってもよい。例えば、複数のキュービットと複数の制御ゲートとを含むデバイスを、マイクロ波共振器回路に容量結合することができる。様々なキュービット(および/または)制御ゲートが、線状の空間配置(例えば同一の線に沿って配置される)または平面空間配置(例えば同一平面内に配置されてもよい)を有してもよい。実装形態によっては、複数のキュービットのそれぞれが複数の制御ゲートのうちのそれぞれの制御ゲートに関連付けられてもよい。実装形態によっては、標的キュービットを読み出すという指示が、処理デバイス(例えばコンピューティングシステム)から受け取られてもよい。標的キュービットの固有状態間のエネルギー差をシュタルクチューニングするために、標的キュービットに関連付けられたそれぞれの制御ゲートに制御電圧を印加してもよい。シュタルクチューニングは、標的キュービットの固有状態間のエネルギー差Δτが、他のキュービットの固有状態エネルギーの対応する差Δから離れるように(例えば、数量|Δτ-Δ|がキュービットの逆(放射または非放射)寿命を超えるように)行うことができる。この方法は続いて、エネルギー差Δτに対応する周波数を有する入力信号を準備し、入力信号をマイクロ波共振器回路に送ることによってデバイスに入力信号を印加し、入力信号に対するマイクロ波共振器回路の応答を検出し、マイクロ波共振器回路の応答から標的キュービットの状態を判定することができる。
【0044】
方法700および800と、方法700および/または800に類似した他の方法は、ハードウェア(例えば、回路、専用ロジック、プログラマブルロジック、マイクロコードなど)、ソフトウェア、ファームウェア、またはこれらの組み合わせを含み得る、処理ロジックによって行うことができる。方法700および800および/またはその個々の機能、ルーチン、サブルーチン、または操作は、古典的コンピュータの1つまたは複数の処理ユニットによって行われてもよい。特定の実装形態では、方法700および800は、単一の処理スレッドによって行われてもよい。あるいは、方法700および800は、各スレッドがその方法の1つまたは複数の個別の機能、ルーチン、サブルーチンまたは操作を実行する2つ以上の処理スレッドによって行われてもよい。例示の実施例では、方法700および800を実装する処理スレッドは同期させてもよい。あるいは、方法700および800を実装する処理スレッドは、互いに対して非同期で実行されてもよい。方法700および800の様々なステップが、図7および図8に示す順序とは異なる順序で行われてもよい。一部のステップが他のステップと並行して行われてもよい。
【0045】
図9に、本開示の1つまたは複数の態様により動作する古典的コンピュータシステム900のブロック図を示す。例えば、古典的コンピューティングシステム900は、実装形態によっては、キュービットのうちの1つまたは複数のキュービットの初期状態の準備と制御とに使用される古典的コンピューティングコードを実装することができる。コンピューティングシステム900は、実装形態によっては、図4に示す動作のうちの一部を実装してもよい。コンピューティングシステム900は、マイクロ波共振器回路から受信した応答データの処理を行うことができ、読み出すキュービットの最終状態を判定することができる。特定の実装形態では、コンピュータシステム900は、(例えばローカルエリアネットワーク(LAN)、イントラネット、エクストラネットまたはインターネットなどのネットワークを介して)他のコンピュータシステムに接続することができる。コンピュータシステム900は、クライアント-サーバ環境におけるサーバまたはクライアントコンピュータの能力内で、または、ピアツーピアもしくは分散ネットワーク環境におけるピアコンピュータとして動作することができる。コンピュータシステム900は、パーソナルコンピュータ(PC)、タブレットPC、セットトップボックス(STB)、パーソナルデジタルアシスタント(PDA)、携帯電話、ウェブ機器、サーバ、ネットワークルータ、スイッチまたはブリッジ、あるいは、デバイスによって行われるべきアクションを指定する命令(順次命令またはその他の命令)のセットを実行可能な任意のデバイスによって提供可能である。また、「コンピュータ」という用語は、本明細書に記載の方法のうちのいずれか1つまたは複数の方法を行うために、個別にまたは共同で命令のセット(または複数のセット)を実行するコンピュータの任意の集合を含むものとする。
【0046】
さらなる態様では、コンピュータシステム900は、バス908を介して互いに通信可能な、処理デバイス902と、揮発性メモリ904(例えばランダムアクセスメモリ(RAM))と、不揮発性メモリ906(例えば読み取り専用メモリ(ROM)または電気的消去可能プログラマブルROM(EEPROM))と、データストレージデバイス916とを含むことができる。
【0047】
処理デバイス902は、汎用プロセッサ(例えば、複合命令セットコンピューティング(CISC)マイクロプロセッサ、縮小命令セットコンピューティング(RISC)マイクロプロセッサ、超長命令語(VLIW)マイクロプロセッサ、その他の種類の命令セットを実装するマイクロプロセッサ、または複数の種類の組み合わせの命令セットを実装するマイクロプロセッサなど)、または専用プロセッサ(例えば、特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)、またはネットワークプロセッサなど)などの、1つまたは複数のプロセッサによって提供可能である。
【0048】
コンピュータシステム900は、ネットワークインターフェースデバイス922をさらに含んでもよい。コンピュータシステム900は、ビデオディスプレイユニット910(例えばLCD)と、英数字入力デバイス912(例えばキーボード)と、カーソルコントロールデバイス914(例えばマウス)と、信号発生デバイス920も含んでもよい。
【0049】
データストレージデバイス916は、好ましくない従業員関係および退職の可能性を検出するモデルを実装するため、特に、方法700および800を実装するための命令を含む、本明細書に記載の方法または機能のうちのいずれか1つまたは複数をコード化する命令926を記憶し得る、非一時的なコンピュータ可読記憶媒体924を含み得る。
【0050】
命令926は、コンピュータシステム500による命令の実行時に、揮発性メモリ504内および/または処理デバイス902内に完全にまたは部分的に存在してもよく、したがって、揮発性メモリ904と処理デバイス902とはマシン可読記憶媒体も構成し得る。
【0051】
例示の実施例ではコンピュータ可読記憶媒体924が単一の媒体として示されているが、「コンピュータ可読記憶媒体」という用語は、実行可能命令の1つまたは複数のセットを記憶する、単一の媒体または複数の媒体(例えば、集中型または分散型データベースおよび/または付随するキャッシュおよびサーバ)を含むものとする。「コンピュータ可読記憶媒体」という用語は、本明細書に記載の方法のうちのいずれか1つまたは複数の方法をコンピュータに行わせる、コンピュータによる実行のための命令のセットを記憶またはコード化することができる、任意の有形の媒体も含むものとする。「コンピュータ可読記憶媒体」という用語は、ソリッドステートメモリ、光学式媒体、および磁気媒体を含むがこれらには限定されないものとする。
【0052】
本明細書に記載の方法、コンポーネントおよび機構は、個別ハードウェアコンポーネントによって実装されてもよく、または、ASIC、FPGA、DSPまたは類似のデバイスなど、他のハードウェアコンポーネントの機能に統合されてもよい。さらに、方法、コンポーネントおよび機構は、ファームウェアモジュール、またはハードウェアデバイス内の機能回路によって実装されてもよい。また、方法、コンポーネントおよび機構は、ハードウェアデバイスとコンピュータプログラムコンポーネントとの任意の組み合わせで、またはコンピュータプログラムで実装されてもよい。
【0053】
以上の説明は、例示を意図したものであり、制限的ではないことを理解されたい。上記の説明を読み、理解すれば、当業者には多くの他の実装例が明らかであろう。本開示は、特定の実施例について説明しているが、本開示のシステムおよび方法は本明細書に記載の実施例には限定されず、添付の特許請求の範囲内で修正を加えて実施することもできることがわかるであろう。したがって、本明細書および図面は、制限的な意味ではなく例示的な意味で捉えられるべきである。したがって、本開示の範囲は、添付の特許請求の範囲を、添付の特許請求の範囲が権利を有する均等物の全範囲とともに参照して決定されるべきである。
【0054】
上記の方法、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェアまたはコードの実装形態は、メモリに結合された処理要素によって実行可能な、マシンアクセス可能媒体、マシン可読媒体、コンピュータアクセス可能媒体、またはコンピュータ可読媒体上に記憶された命令またはコードにより実装可能である。「メモリ」は、コンピュータまたは電子システムなどのマシンによって読み取り可能な形態の情報を提供する(すなわち記憶および/または伝達する)あらゆる機構を含む。例えば、「メモリ」は、スタティックRAM(SRAM)またはダイナミックRAM(DRAM)などのランダムアクセスメモリ(RAM)、ROM、磁気または光学式記憶媒体、フラッシュメモリデバイス、電気的ストレージデバイス、光学式ストレージデバイス、音響ストレージデバイス、およびマシン(例えばコンピュータ)により読み取り可能な形態の電子的命令または情報を記憶または伝達するのに適した、任意の種類の有形なマシン可読媒体を含む。
【0055】
本明細書全体を通じて、「一実装形態」または「実装形態」と言う場合、その実装形態に関連して記載されている特定の機構、構造体、または特徴が、本開示の少なくとも1つの実装形態に含まれることを意味している。したがって、本明細書全体の様々な個所で「一実装形態では」または「実装形態では」という語句が記載されている場合、必ずしもそれらがすべて同じ実装形態を指しているとは限らない。また、特定の機構、構造体または特徴は、1つまたは複数の実装形態において任意の適切な方式で組み合わせることができる。
【0056】
以上、本明細書では、特定の例示の実装形態を参照しながら詳細な説明を示した。しかし、これらの実装形態には、添付の特許請求の範囲に記載されている本開示のより広い思想および範囲から逸脱することなく様々な修正および変更を加えることができることは明らかであろう。したがって、本明細書および図面は、制限的な意味ではなく例示的な意味で捉えるべきである。また、上記の実装形態、実施形態および/またはその他の例示の表現の使用は、必ずしも同じ実装形態または同じ実装例を指しているとは限らず、異なる、明確に区別される実装形態と、場合によっては同一の可能性がある実装形態とを指す場合がある。
【0057】
本明細書では「例」または「例示の」という用語は、例、事例または例示となるという意味で使用されている。本明細書に「例」または「例示の」として記載されているいずれの態様または設計も、必ずしも、他の態様または設計より好ましいかまたは有利であるものと解釈すべきではない。逆に、「例」または「例示の」という用語の使用は、概念を具体的な形で示すことを意図している。本出願で使用されている「または」という用語は、排他的「または」ではなく包含的「または」を意味することが意図されている。すなわち、別に明記されているか文脈から明らかでない限り、「XがAまたはBを含む」は、自然な包含的置換のいずれも意味することが意図されている。すなわち、XがAを含む、XがBを含む、またはXがAとBの両方を含む場合、「XがAまたはBを含む」はこれらの事例のいずれにおいても満たされる。さらに、本出願および添付の特許請求の範囲で使用されている冠詞「a」および「an」は、別に明記されているか文脈から単数形を示していることが明らかでない限り、「1つまたは複数」を意味するものと一般的に解釈すべきである。また、全体を通して「実施形態」もしくは「一実施形態」または「実装形態」もしくは「一実装形態」という用語の使用は、同じ実施形態または実装形態として記載されていない限り、同じ実施形態または実装形態を意味することは意図されていない。また、本明細書で使用されている「第1の」、「第2の」、「第3の」、「第4の」などの用語は、異なる要素を区別するための標識であることが意図されており、必ずしもその数字表記による序数的な意味を有するとは限らない場合がある。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】