(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-14
(54)【発明の名称】水性コーティング組成物、該組成物でコーティングされた基材、該コーティング組成物を使用した水生生物付着を抑制する方法
(51)【国際特許分類】
C09D 133/06 20060101AFI20220607BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20220607BHJP
C09D 157/06 20060101ALI20220607BHJP
C09D 133/12 20060101ALI20220607BHJP
C09D 133/08 20060101ALI20220607BHJP
B05D 5/00 20060101ALI20220607BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20220607BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20220607BHJP
【FI】
C09D133/06
C09D5/02
C09D157/06
C09D133/12
C09D133/08
B05D5/00 H
B05D7/24 302P
B05D7/24 302R
B05D7/24 302Y
B05D7/00 K
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2021557212
(86)(22)【出願日】2020-03-30
(85)【翻訳文提出日】2021-11-04
(86)【国際出願番号】 EP2020058958
(87)【国際公開番号】W WO2020201213
(87)【国際公開日】2020-10-08
(32)【優先日】2019-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500286643
【氏名又は名称】アクゾ ノーベル コーティングス インターナショナル ビー ヴィ
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100128484
【氏名又は名称】井口 司
(72)【発明者】
【氏名】ファーガソン,ジェームス
(72)【発明者】
【氏名】フィニー,アリステア アンドリュー
【テーマコード(参考)】
4D075
4J038
【Fターム(参考)】
4D075AC53
4D075AC57
4D075AE03
4D075BB03X
4D075BB16X
4D075BB56Z
4D075BB60Z
4D075BB65X
4D075BB69X
4D075CA13
4D075CA34
4D075CA45
4D075CA47
4D075CA48
4D075DA06
4D075DB13
4D075DB31
4D075DB38
4D075DC06
4D075DC08
4D075EA06
4D075EA07
4D075EA41
4D075EB14
4D075EB22
4D075EB33
4D075EB37
4D075EB43
4D075EB51
4D075EB56
4D075EC07
4D075EC30
4D075EC37
4D075EC51
4D075EC54
4J038CG141
4J038FA212
4J038GA15
4J038KA04
4J038MA06
4J038MA08
4J038MA10
4J038NA05
4J038PB05
4J038PC02
4J038PC04
4J038PC06
4J038PC08
(57)【要約】
本発明は、水と水混和性溶媒とを含む液相に溶解したアクリルポリマーを含む水性コーティング組成物に関し、該コーティング組成物は少なくとも50重量%の水を含み、アクリルポリマーは、30~70重量%の範囲のポリ(エチレングリコール)(メタ)アクリルモノマーa、2~20重量%の範囲のアルコキシシリル又はアルコキシアルキルシリル官能性(メタ)アクリルモノマーb、並びに10~68重量%の範囲の疎水性エチレン性不飽和モノマーcを含むモノマー混合物のフリーラジカル重合によって得ることができるフィルム形成ポリマーである。本発明はさらに、該コーティング組成物でコーティングされた基材、人工物体の表面上の水生生物付着を抑制する方法、及び人工物体上の水生生物付着を抑制するための該コーティング組成物の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と水混和性溶媒とを含む液相に溶解したアクリルポリマーを含む水性コーティング組成物であって、前記コーティング組成物が少なくとも50重量%の水を含み、前記アクリルポリマーが、以下を含むモノマー混合物のフリーラジカル重合によって得ることができるフィルム形成ポリマーである、水性コーティング組成物:
・30~70重量%の範囲の、一般式(I)のポリ(エチレングリコール)(メタ)アクリルモノマーa:
【化1】
式中、
R
1は、H原子又はメチルラジカルであり、
Aは、O原子又はNHラジカル、好ましくはO原子であり、
R
2は、H原子、炭素数1~6のアルキルラジカル、又はフェニルラジカルであり、
nは、2~100の範囲の整数である;
・2~20重量%の範囲の、一般式(II)のアルコキシシリル又はアルコキシアルキルシリル官能性(メタ)アクリルモノマーb:
【化2】
式中、
R
1は、H原子又はメチルラジカルであり、
Aは、O原子又はNHラジカル、好ましくはO原子であり、
R
a-[X-R
a]
kは、炭素数1~20の基であり、ここで、
各R
aは、(i)脂肪族炭化水素基、及び(ii)上記(i)から選択される1つ又は2つの置換基を場合により有する芳香族炭化水素基から独立して選択され、ここで、上記(i)又は(ii)の脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基のそれぞれは、-C
1~3アルキル、-N(R
b)
2、及び-OR
bから選択される1つ又はそれ以上の置換基で場合により置換されることができ、
各R
bは、H及びC
1~3アルキルから独立して選択され、
Xは、A、-C(O)O-、-OC(O)-、-C(O)NR
b-、及び-NR
bC(O)-から選択され、
kは、0~3の範囲の整数であり、
nは、1、2、又は3、好ましくは2又は3であり、
R
3及びR
4は、独立して、炭素数1~6のアルキル又はアルコキシアルキルラジカルである;並びに
・10~68重量%の範囲の、スチレン、アルキル化スチレン、及び一般式(III)の(メタ)アクリルモノマーからなる群から選択される疎水性エチレン性不飽和モノマーc:
【化3】
式中、
R
1は、H原子又はメチルラジカルであり、
Aは、O原子又はNHラジカルであり、
R
5は、炭素数1~18の炭化水素ラジカル、好ましくは炭素数1~12のアルキルラジカル又は炭素数6~12の(アルキル)アリールラジカルである。
【請求項2】
前記コーティング組成物の総重量に基づいて、15~35重量%の範囲の前記アクリルポリマーを含む、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項3】
前記ポリ(エチレングリコール)アクリルモノマーaが一般式(I)のものであり、R
2がH原子、メチルラジカル、エチルラジカル、又はフェニルラジカル、好ましくはメチルラジカルであり、nが2~100の範囲の整数である、請求項1又は2に記載のコーティング組成物。
【請求項4】
前記水混和性溶媒が、70℃~180℃の範囲の沸点を有するエチレングリコール若しくはプロピレングリコールのモノ若しくはジエーテルであるか、又は70℃~180℃の範囲の沸点を有するアルキルアルコールである、請求項1から3のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項5】
モノマーbが一般式(II)のものであり、AがO原子であり、mが1~6の範囲の整数であり、nが2又は3であり、R
3及びR
4が、独立して、炭素数1~6のアルキルラジカル、好ましくはメチル又はエチルラジカルである、請求項1から4のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項6】
前記モノマーcが、ブチルアクリレート、メチルメタクリレート、又はそれらの混合物である、請求項1から5のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項7】
モノマーbにおける部分R
a-[X-R
a]
kが(C
mH
2m)であり、ここで、mが1~20、好ましくは1~6の範囲の整数である、請求項1から6のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項8】
第三級アミン基を場合により有するシラノール縮合触媒をさらに含む、請求項1から7のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載のコーティング組成物でコーティングされた基材。
【請求項10】
前記基材が、以下を含む多層コーティング系でコーティングされている、請求項9に記載の基材:
・前記基材に塗布され、プライマーコーティング組成物から堆積させた、場合によって含まれるプライマー層;
・有機溶媒に溶解した、硬化性アルコキシシリル又はアルコキシアルキルシリル官能基を有するバインダーポリマーを含み、10重量%未満の水を含むタイコート組成物から堆積させた、前記基材又は場合によって含まれる前記プライマー層に塗布されたタイコート層;及び
・前記タイコート層に塗布されたトップコート層であって、請求項1から8のいずれか一項に記載のコーティング組成物から堆積させた、トップコート層。
【請求項11】
前記タイコート組成物中の前記バインダーポリマーが、硬化性アルコキシシリル又はアルコキシアルキルシリル官能基を有するポリ(メタ)アクリレートである、請求項10に記載の基材。
【請求項12】
前記タイコート組成物がシラノール縮合触媒をさらに含む、請求項10又は11に記載の基材。
【請求項13】
人工物体の表面上の水生生物付着を抑制する方法であって、
(a)前記人工物体の前記表面の少なくとも一部に、請求項1から8のいずれか一項に記載のコーティング組成物を塗布する工程;
(b)前記コーティング組成物を硬化させて、硬化したコーティング層を形成する工程;及び
(c)前記人工物体を少なくとも部分的に水に浸漬する工程
を含む、方法。
【請求項14】
工程(a)の前記コーティング組成物の塗布の前に、前記人工物体の前記表面の前記少なくとも一部にタイコート層を塗布する工程をさらに含み、前記タイコート層が、請求項12に記載のタイコート組成物から堆積させたものであり、前記タイコート組成物が、工程(a)の前記コーティング組成物の塗布の前に部分的に硬化させられる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
人工物体上の水生生物付着を抑制するための、請求項1から8のいずれか一項に記載のコーティング組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性コーティング組成物、該コーティング組成物でコーティングされた基材、人工物体の表面上の水生生物付着を抑制する方法、及び人工物体上の水生生物付着を抑制するための該コーティング組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
水に浸漬されるか、又は内側を水が通過する人工物体、例えば船舶の船体、ブイ、掘削プラットフォーム、乾ドック設備、石油生産リグ、養殖設備、並びに網及びパイプには、水生生物、例えば緑藻類及び褐藻類、フジツボ、イガイなどが付着しやすい。該物体は、金属製であることが多いが、他の材料、例えばコンクリート、ガラス強化プラスチック、又は木製であることもある。このような付着物は、水中で動く際の摩擦抵抗を増加させるので、船舶の船体には厄介である。その結果、速度が低下し、燃料消費が増加する。このことは、静止している物体、例えば掘削プラットフォームの脚、並びに石油及びガスの生産、精製及び貯蔵のためのリグにとって厄介である。なぜなら、付着物の厚い層が波及び流れに及ぼす抵抗は、予測不可能かつ潜在的に危険な応力を物体内に引き起こす可能性があり、また付着により、欠陥、例えば応力亀裂及び腐食について物体を検査することが困難になるからである。このことは、パイプ、例えば冷却水の取り入れ口及び取り出し口において厄介である。なぜなら、付着によって有効断面積が減少し、その結果として流量が減少するからである。
【0003】
ポリシロキサン系樹脂によるコーティングは、水生生物による付着に耐えることが知られている。このようなコーティングは、典型的には溶剤系であり、比較的高価である。ポリシロキサン系樹脂によるコーティングのさらなる欠点は、多くの他の樹脂が、ポリシロキサン樹脂が混入した表面に塗布された場合に、ポリシロキサン樹脂が混入した表面に接着しないか、又は膜欠陥を示すことである。ポリシロキサン系コーティングが過剰噴霧されるか、又はこぼれたことにより表面にポリシロキサン樹脂が混入した場合、該表面を洗浄してからプライマー又は他のコーティングを該表面に塗布するようにしなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
当分野では、付着に耐え、有害な化合物を含まないか又はあまり含まず、比較的安価であり、塗装される他の表面への混入を引き起こさないコーティング組成物が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
加水分解性アルコキシシリル又はアルコキシアルキルシリル基を有するアクリルポリマーの、水で希釈された水混和性溶媒溶液を含む水性コーティング組成物が、水中に沈んだ基材、例えば船舶の船体に付着抑制特性を与えるために好適に使用できることが今般見出された。
【0006】
したがって、本発明は、第1の態様において、以下を提供する:
水と水混和性溶媒とを含む液相に溶解したアクリルポリマーを含む水性コーティング組成物であって、該コーティング組成物が少なくとも50重量%の水を含み、アクリルポリマーが、以下を含むモノマー混合物のフリーラジカル重合によって得ることができるフィルム形成ポリマーである、水性コーティング組成物:
・30~70重量%の範囲の、一般式(I):
【化1】
のポリ(エチレングリコール)(メタ)アクリルモノマーaであって、式中、
R
1は、H原子又はメチルラジカルであり、
Aは、O原子又はNHラジカル、好ましくはO原子であり、
R
2は、H原子、炭素数1~6のアルキルラジカル、又はフェニルラジカルであり、
nは、2~100の範囲の整数である、ポリ(エチレングリコール)(メタ)アクリルモノマーa;
・2~20重量%の範囲の、一般式(II):
【化2】
のアルコキシシリル又はアルコキシアルキルシリル官能性(メタ)アクリルモノマーbであって、式中、
R
1は、H原子又はメチルラジカルであり、
Aは、O原子又はNHラジカル、好ましくはO原子であり、
R
a-[X-R
a]
kは、炭素数1~20の基であり、ここで、
各R
aは、(i)脂肪族炭化水素基、及び(ii)上記(i)から選択される1つ又は2つの置換基を場合により有する芳香族炭化水素基から独立して選択され、ここで、上記(i)又は(ii)の脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基のそれぞれは、-C
1~3アルキル、-N(R
b)
2、及び-OR
bから選択される1つ又はそれ以上の置換基で場合により置換されることができ、
各R
bは、H及びC
1~3アルキルから独立して選択され、
Xは、A、-C(O)O-、-OC(O)-、-C(O)NR
b-、及び-NR
bC(O)-から選択され、
kは、0~3の範囲の整数であり、
nは、1、2、又は3、好ましくは2又は3であり、
R
3及びR
4は、独立して、炭素数1~6のアルキル又はアルコキシアルキルラジカルである、アルコキシシリル又はアルコキシアルキルシリル官能性(メタ)アクリルモノマーb;並びに
・10~68重量%の範囲の、スチレン、アルキル化スチレン、及び一般式(III):
【化3】
の(メタ)アクリルモノマーからなる群から選択される疎水性エチレン性不飽和モノマーcであって、式中、
R
1は、H原子又はメチルラジカルであり、
Aは、O原子又はNHラジカルであり、
R
5は、炭素数1~18の炭化水素ラジカル、好ましくは炭素数1~12のアルキルラジカル又は炭素数6~12の(アルキル)アリールラジカルである、疎水性エチレン性不飽和モノマーc。
【0007】
ポリシロキサン系コーティング組成物と比較して、本発明による水性コーティング組成物はより安価であり、コーティング組成物が表面又は設備に混入した場合に、他のコーティングの接着不良を引き起こさない。
【0008】
第2の態様において、本発明は、本発明の第1の態様によるコーティング組成物でコーティングされた基材を提供する。
【0009】
第3の態様において、本発明は、人工物体の表面上の水生生物付着を抑制する方法であって、
(a)人工物体の表面の少なくとも一部に、請求項1から8のいずれか一項に記載のコーティング組成物を塗布する工程;
(b)コーティング組成物を硬化させて、硬化したコーティング層を形成する工程;及び
(c)人工物体を少なくとも部分的に水に浸漬する工程
を含む、方法を提供する。
【0010】
最後の態様において、本発明は、人工物体上の水生生物付着を抑制するための、第1の態様によるコーティング組成物の使用を提供する。
【0011】
以下のさらなる考察では、「(メタ)アクリル」という用語は「メタクリル又はアクリル」を意味する。同様の用語、例えば「(メタ)アクリレート」及び「(メタ)アクリロキシ」も同様に、すなわち、それぞれ「メタクリレート又はアクリレート」及び「メタクリロキシ又はアクリロキシ」と解釈される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明によるコーティング組成物は、水と水混和性溶媒とを含む液相に溶解したアクリルポリマーを含む。コーティング組成物は、コーティング組成物の総重量に基づいて、少なくとも50重量%の水、好ましくは50~75重量%の範囲の水を含む。好ましくは、コーティング組成物は、コーティング組成物の総重量に基づいて、5~30重量%、より好ましくは8~20重量%の範囲の水混和性溶媒水を含む。好ましくは、コーティング組成物は、5重量%未満、より好ましくは1重量%未満、さらに好ましくは0.1重量%未満の、水混和性溶媒以外の有機溶媒を含む。
【0013】
本明細書において水混和性溶媒に言及する場合、25℃で水1リットル当たり少なくとも250g、好ましくは水1リットル当たり少なくとも300g、より好ましくは水1リットル当たり少なくとも500gの溶解度を有する溶媒を指す。あらゆる割合で水と完全に混和性である溶媒が特に好ましい。水混和性は、25℃で脱イオン水を使用して、ASTM D 1722に従って決定される。
【0014】
水混和性溶媒は、アクリルポリマー及びそのモノマーのための溶媒である。好ましくは、水混和性溶媒は、70℃~180℃の範囲の沸点を有する。
【0015】
好ましくは、水混和性溶媒は、70℃~180℃の範囲の沸点を有するエチレングリコール若しくはプロピレングリコールのモノ若しくはジエーテルであるか、又は70℃~180℃の範囲の沸点を有するアルキルアルコールである。
【0016】
より好ましくは、水混和性溶媒は、1-メトキシプロパン-2-オール(プロピレングリコールメチルエーテル)、エチレングリコールジメチルエーテル、2-ブトキシエタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、及び2-ブタノールからなる群から選択される。
【0017】
本発明による水性コーティング組成物は、アクリルポリマーの水混和性溶媒溶液を水で希釈することにより好適に調製される。
【0018】
アクリルポリマーのこのような溶液は、溶液の総重量に基づいて、40~80重量%の範囲、好ましくは50~75重量%の範囲のアクリルポリマーを含んでいてよい。水性コーティング組成物において、すなわち、アクリルポリマーの溶液を水で希釈した後で、アクリルポリマーの濃度は、コーティング組成物の総重量に基づいて、10~40重量%、好ましくは15~35重量%、より好ましくは20~30重量%の範囲であり得る。
【0019】
アクリルポリマーは、フィルム形成ポリマーであり、エチレン性不飽和モノマーの混合物のフリーラジカル重合によって得ることができる。好ましくは、アクリルポリマーは、水混和性溶媒中でのモノマーのフリーラジカル重合によって調製される。アクリルポリマーは、コーティング組成物の水性液相、すなわち、アクリルポリマーの溶液を水で希釈したときに得られる水混和性溶媒と水との混合物に、25℃の温度で可溶である。
【0020】
モノマー混合物は、以下を含む:
・30~70重量%の範囲のポリ(エチレングリコール)(メタ)アクリルモノマーa;
・2~20重量%の範囲のアルコキシシリル又はアルコキシアルキルシリル官能性(メタ)アクリルモノマーb;及び
・10~68重量%の範囲の疎水性エチレン性不飽和モノマーc。
【0021】
モノマーaは、以下の一般化学式(I):
【化1】
のものであり、式中、
R
1は、H原子又はメチルラジカルであり、
Aは、O原子又はNHラジカル、好ましくはO原子であり、
R
2は、H原子、炭素数1~6のアルキルラジカル、又はフェニルラジカルであり、
nは、2~100、好ましくは2~25の範囲の整数である。
【0022】
好ましくは、R2は、H原子、メチルラジカル、エチルラジカル、又はフェニルラジカルであり、より好ましくは、H原子又はメチルラジカルである。エチレングリコール部分の数が2~25の範囲であるメトキシポリ(エチレングリコール)メタクリレートが、特に好ましいモノマーaである。
【0023】
アクリルポリマーの調製材料であるモノマー混合物は、1つ又はそれ以上のモノマーaを含んでいてよい。モノマー混合物は、モノマーの総重量に基づいて、30~70重量%、好ましくは35~65重量%、より好ましくは40~60重量%の範囲のモノマーaを含む。
【0024】
モノマー混合物は、モノマーの総重量に基づいて、2~20重量%、好ましくは5~17重量%、より好ましくは8~14重量%の範囲のアルコキシシリル又はアルコキシアルキルシリル官能性(メタ)アクリルモノマーbをさらに含む。アルコキシシリル又はアルコキシアルキルシリル基は、アクリルポリマーに架橋官能性を与える。モノマーbは、一般式(II):
【化2】
のものであり、式中、
R
1は、H原子又はメチルラジカルであり、
Aは、O原子又はNHラジカル、好ましくはO原子であり、
R
a-[X-R
a]
kは、炭素数1~20の基であり、ここで、
各R
aは、(i)脂肪族炭化水素基、及び(ii)上記(i)から選択される1つ又は2つの置換基を場合により有する芳香族炭化水素基から独立して選択され、ここで、上記(i)又は(ii)の脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基のそれぞれは、-C
1~3アルキル、-N(R
b)
2、及び-OR
bから選択される1つ又はそれ以上の置換基で場合により置換されることができ、
各R
bは、H及びC
1~3アルキルから独立して選択され、
Xは、A、-C(O)O-、-OC(O)-、-C(O)NR
b-、及び-NR
bC(O)-から選択され、
kは、0~3の範囲の整数であり、
nは、1、2、又は3、好ましくは2又は3であり、
R
3及びR
4は、独立して、炭素数1~6のアルキル又はアルコキシアルキルラジカル、好ましくはメチル又はエチルラジカルである。
【0025】
脂肪族のRa炭化水素基は、直鎖、分岐鎖、若しくは環状であり得、又は環状部分と非環状部分との混合物を含み得る。
【0026】
芳香族のRa炭化水素基は、C6~C10芳香族炭化水素基であり得る。
【0027】
一実施形態では、Ra-[X-Ra]kは[CmH2m]であり、ここで、mは1~20、好ましくは1~6の範囲の整数である。
【0028】
複数の実施形態では、各Rbは、H及びメチルから独立して選択され、複数のさらなる実施形態では、すべてのRb基はHである。
【0029】
トリアルコキシシリルアルキル(メタ)アクリレートモノマー及びアルキルジアルコキシシリルアルキル(メタ)アクリレートモノマーが好ましい。好ましい一実施形態では、Aは酸素原子であり、Ra-[X-Ra]kの炭素数は1~6、より好ましくは3であり、nは2又は3であり、R3及びR4は、独立して、メチル又はエチルラジカルである。例えば、複数の該実施形態では、Ra-[X-Ra]kは(CmH2m)であり得、ここで、mは1~6、例えば3である。
【0030】
特に好ましいモノマーbは、
トリメトキシシリルプロピル(メタ)アクリレート、トリエトキシシリルプロピル(メタ)アクリレート、メチルジメトキシシリルプロピル(メタ)アクリレート、エチルジメトキシシリルプロピル(メタ)アクリレート、メチルジエトキシシリルプロピル(メタ)アクリレート、エチルジエトキシシリルプロピル(メタ)アクリレート、より具体的には、トリメトキシシリルプロピルメタクリレート又はトリエトキシシリルプロピルメタクリレートである。
【0031】
モノマーbのさらなる例としては、
トリメトキシシリルメチル(メタ)アクリレート、トリエトキシシリルメチル(メタ)アクリレート、3-(メタ)アクリルアミドプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリルアミドプロピルトリエトキシシラン、N-(3-(メタ)アクリロキシ-2-ヒドロキシプロピル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(3-(メタ)アクリロキシ-2-ヒドロキシプロピル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、((メタ)アクリロキシメチル)フェネチルトリメトキシシラン、((メタ)アクリロキシメチル)フェネチルトリエトキシシラン、O-((メタ)アクリロキシエチル)-N-(トリメトキシシリルプロピル)カルバメート、O-((メタ)アクリロキシエチル)-N-(トリエトキシシリルプロピル)カルバメート、N-(3-(メタ)アクリロキシ-2-ヒドロキシプロピル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、及びN-(3-(メタ)アクリロキシ-2-ヒドロキシプロピル)-3-アミノプロピルトリエトキシシランが挙げられる。
【0032】
モノマー混合物は、1つ又はそれ以上のモノマーbを含んでいてよい。
【0033】
モノマー混合物は、モノマーの総重量に基づいて、10~68重量%、好ましくは25~60、より好ましくは20~50重量%の範囲の疎水性エチレン性不飽和モノマーcを含む。モノマーcは、スチレン、アルキル化スチレン、又は一般式(III):
【化3】
の(メタ)アクリルモノマーから選択され、式中、
R
1は、H原子又はメチルラジカルであり、
Aは、O原子又はNHラジカルであり、
R
5は、炭素数1~18の炭化水素ラジカル、好ましくは炭素数1~12のアルキルラジカル又は炭素数6~12の(アルキル)アリールラジカルである。
【0034】
モノマーcは、親水性又は架橋性官能基を有しないエチレン性不飽和モノマーである。モノマー混合物は、1つ又はそれ以上のモノマーcを含んでいてよい。
【0035】
好ましくは、モノマーcは、スチレン、アルキル化スチレン、例えばジメチルスチレン、又はアクリル酸若しくはメタクリル酸のC1~C12アルキルエステルである。より好ましくは、モノマーcは、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、スチレン、又はそれらの2つ以上の混合物である。特に好ましい一実施形態では、モノマーcは、ブチルアクリレート、メチルメタクリレート、又はそれらの混合物である。
【0036】
モノマー混合物は、モノマーa、b及びc以外の、例えば以下のようなエチレン性不飽和モノマーを含んでいてよい:ビニルモノマー、例えば酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、又はモノマーa以外の親水性(メタ)アクリルモノマー、例えば双性イオン性(メタ)アクリルモノマー若しくは塩基を有する(メタ)アクリルモノマー。好ましくは、モノマー混合物は、モノマーa、b及びc以外のエチレン性不飽和モノマーを、モノマーの総重量に基づいて、10重量%超、好ましくは5重量%以下含まない。モノマー混合物がモノマーa以外の親水性(メタ)アクリルモノマーを含む場合、親水性(メタ)アクリルモノマーの総量、すなわちモノマーaとモノマーa以外の親水性(メタ)アクリルモノマーとの合計は、モノマーの総重量に基づいて、70重量%以下、好ましくは60重量%以下である。
【0037】
一実施形態では、モノマー混合物は、モノマーa、b及びc以外のエチレン性不飽和モノマーを含まない。
【0038】
好ましくは、モノマー混合物は、フッ素化エチレン性不飽和モノマーを含まない。
【0039】
アクリルポリマーは、モノマー混合物のフリーラジカル重合によって得ることができる。フリーラジカル重合は当分野で周知であり、アクリルポリマーは、あらゆる公知の適切なフリーラジカル重合法によって調製され得る。モノマーのアクリルポリマーへのフリーラジカル重合による重合を可能にする条件は、当分野で周知である。あらゆる適切な条件が適用され得る。適切な条件としては、典型的には、開始剤の存在、及び重合を可能にするのに十分な温度が挙げられる。典型的には、重合中の温度は、50℃~120℃、好ましくは70℃~100℃の範囲である。最適な重合温度は、使用される開始剤の分解温度、並びに使用される水混和性溶媒及びモノマーの沸点に依存することが理解されよう。
【0040】
アクリルポリマーは、好ましくは水混和性溶媒中でのモノマー混合物のフリーラジカル重合によって調製され、それにより、アクリルポリマーは水混和性溶媒溶液として直接得られる。
【0041】
あらゆる適切な開始剤が適切な量で使用され得る。適切な開始剤は当分野で公知であり、有機過酸化物及びアゾ開始剤、例えばアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)又は2,2’-アゾジ(2-メチルブチロニトリル)(AMBN)が挙げられる。適切な有機過酸化物としては、ベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、ジ-t-ブチルペルオキシド、アセチルペルオキシド、t-ブチルパーオクトエート、t-アミルパーオクトエート、及びt-ブチルパーベンゾエートが挙げられる。開始剤は、あらゆる適切な量で、典型的にはモノマーの総モル数に基づいて3モル%以下、好ましくは1.0~3.0モル%の範囲で添加してよい。開始剤の総量は、2段階又は3段階で、すなわち重合開始時の量及び重合反応中のさらなる量で添加してよい。
【0042】
場合により、重合中に連鎖移動剤が使用される。あらゆる適切な連鎖移動剤が適切な量で使用され得る。適切な連鎖移動剤は当分野で公知であり、メチルメルカプトプロピオネート、ドデシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、チオグリコール酸、2-メルカプトエタノール、及びブテンジオールが挙げられる。場合により、重合触媒が重合中に使用される。適切な触媒は当分野で公知であり、しばしば「活性剤」と呼ばれる。
【0043】
アクリルポリマーは、好ましくは-25℃~+10℃、より好ましくは-20℃~+5℃、さらに好ましくは-15℃~+2℃の範囲のガラス転移温度を有する。本明細書においてガラス転移温度に言及する場合、非架橋ポリマーのFox式で計算したガラス転移温度を指す。
【0044】
コーティング組成物は、アルコキシシリル又はアルコキシアルキルシリル基の加水分解時に形成されるシラノール基の縮合によって硬化する。本発明によるコーティング組成物におけるようにアクリルポリマーが希釈される場合、シラノール基は縮合しないか、又はほとんど縮合しないことが見出された。コーティング組成物を塗布して生じる膜が乾燥すると、水及び水混和性溶媒が蒸発し、アクリルポリマーの濃度が増加し、結果としてシラノール縮合が生じる。
【0045】
水性コーティング組成物は、水で希釈された一液型組成物として提供されてもよいし、一方の成分にアクリルポリマー溶液を含み、他方の成分に水で希釈された触媒を含む二液型組成物として提供されてもよい。
【0046】
好ましくは、コーティング組成物は、アクリルポリマー以外のいかなるバインダーポリマーも含まない。
【0047】
水性コーティング組成物は、シラノール縮合触媒を含んでいてよい。このような触媒は、アルコキシシリル又はアルコキシアルキルシリル基の加水分解、及びこのような加水分解の際に形成されるシラノール基の架橋を触媒する。好ましくは、コーティング組成物はシラノール縮合触媒を含む。触媒は、あらゆる適切な量で、好ましくはコーティング組成物の総重量に基づいて0.01~2重量%の範囲で使用され得る。
【0048】
シラノール基間の縮合反応を触媒するのに適切なあらゆる水溶性触媒が使用され得る。このような触媒は当分野で周知であり、第三級アミン、例えば1,8-ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデカ-7-エン(DBU)、並びに強酸、例えばパラトルエンスルホン酸、硫酸、及びメチルスルホン酸が挙げられる。触媒は、酸基に対して[α]位にある炭素原子上に少なくとも1つのハロゲン置換基、及び/若しくは酸基に対してβ位にある炭素原子上に少なくとも1つのハロゲン置換基を有するハロゲン化有機酸、又は加水分解して縮合反応の条件下でハロゲン化有機酸を形成することができる誘導体を含んでいてよい。
【0049】
第三級アミン基を含むシラノール縮合触媒は、触媒活性及びポリマーの缶内安定性(in-can stability)の両方をもたらすことが見出されている。そのため、シラノール縮合触媒は、第三級アミン基を有することが好ましい。このような触媒としては、例えば1,8-ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデカ-7-エン(DBU)、1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン(TBD)、ヒドロキシベンゾトリアゾール、ヒドロキシアザベンゾトリアゾール、5-ニトロピリジン-2-オール、イミダゾール、アルキルイミダゾール類、例えば1-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、又は2-ヘプタデシルイミダゾール、アリールイミダゾール類、例えば2-フェニルイミダゾール、アルキルアリールイミダゾール類、例えば2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、N-メチルモルホリン、及びテトラメチルグアニジンが挙げられる。より好ましくは、シラノール縮合触媒はDBU又はTBDである。
【0050】
付着からの保護を強化するために、コーティング組成物は殺生物剤を含んでいてよい。海洋生物又は淡水生物に対して殺生物活性を有することが知られているあらゆる殺生物剤が、適切な量で好適に使用され得る。適切な海洋殺生物剤は当分野で周知であり、無機殺生物剤、例えば酸化銅、チオシアン酸銅、及び銅フレーク、有機金属若しくは金属有機殺生物剤、例えば銅ピリチオン、亜鉛ピリチオン、及びジネブ、又は有機殺生物剤、例えば4,5-ジクロロ-2-(n-オクチル)-3(2H)-イソチアゾロン、2-(p-クロロフェニル)-3-シアノ-4-ブロモ-5-トリフルオロメチルピロール(トラロピリル)、及びメデトミジンが挙げられる。本発明によるコーティング組成物の利点は、殺生物剤なしで抗付着特性をもたらすことができることである。
【0051】
本発明によるコーティング組成物の利点は、殺生物剤なしで付着抑制をもたらすことができることである。したがって、コーティング組成物は、殺生物剤を含まないことが好ましい。
【0052】
コーティング組成物は、体質顔料(充填剤)及び/又は着色顔料、並びにコーティング組成物に一般的に使用される1つ又はそれ以上の添加剤をさらに含んでいてよい。
【0053】
コーティング組成物中の着色顔料と体質顔料との総量は、コーティング組成物の総重量に基づいて、好ましくは0~10重量%、より好ましくは0~5重量%の範囲である。
【0054】
コーティング組成物中の殺生物剤以外の添加剤の総量は、コーティング組成物の総重量に基づいて、好ましくは0~3重量%、より好ましくは0~2重量%の範囲である。
【0055】
本発明はさらに、本発明の第1の態様によるコーティング組成物でコーティングされた基材に関する。コーティング組成物は、液体コーティング組成物を塗布するための公知の技術、例えばブラシ、ローラー、浸漬、バー、又は噴霧(エアレス及び従来型の)塗布によって塗布することができる。
【0056】
基材は、水に浸漬される構造体、例えば金属、コンクリート、木材、又はポリマー基材の表面であってよい。ポリマー基材の例は、ポリ塩化ビニル基材又は繊維強化樹脂の複合材料である。別の実施形態では、基材は、可撓性ポリマーキャリア箔の表面である。コーティング組成物を、次いで可撓性ポリマーキャリア箔、例えばポリ塩化ビニルキャリア箔の一方の表面に塗布し、硬化させ、続いて、キャリア箔のコーティングされていない表面を、例えば接着剤を使用して、付着耐性及び/又は付着剥離特性の付与対象となる構造体の表面に積層する。
【0057】
基材への良好な接着を達成するために、プライマー層及び/又はタイコート層が設けられた基材にコーティング組成物を塗布することが好ましい。プライマー層は、当分野で公知のあらゆるプライマー組成物、例えばエポキシ樹脂系又はポリウレタン系プライマー組成物から堆積させ得る。好ましくは、基材には、本発明によるコーティング組成物から堆積させたコーティング層を塗布する前に、タイコート組成物から堆積させたタイコート層が設けられている。タイコート組成物は、露出した基材表面、プライマーを施した基材表面、又は抗付着若しくは付着剥離コーティング組成物の層をすでに含む基材表面に塗布され得る。
【0058】
本発明によるコーティング組成物から堆積させたコーティングは、アルコキシシリル又はアルコキシアルキルシリル官能基を有するバインダーポリマーを含むタイコート組成物から堆積させたタイコート層への優れた接着性をもたらすことが見出された。タイコート組成物は、溶媒系組成物であり、該組成物において、硬化性アルコキシシリル又はアルコキシアルキルシリル官能基を有するバインダーポリマーが有機溶媒に溶解しており、タイコート組成物は、10重量%未満の水、好ましくは5重量%未満の水、より好ましくは1重量%未満の水を含む。一実施形態では、タイコート組成物は実質的に水を含まない。
【0059】
タイコート組成物中の硬化性アルコキシシリル又はアルコキシアルキルシリル官能基を有するバインダーポリマーは、あらゆる適切なバインダーポリマー、例えばポリウレタン、ポリウレア、ポリエステル、ポリエーテル、ポリエポキシ、又はエチレン性不飽和モノマー、例えば(メタ)アクリルモノマーに由来するバインダーポリマーであってよい。このようなバインダーポリマーは当分野で公知であり、例えば国際公開第99/33927号に記載されている。
【0060】
好ましくは、バインダーポリマーは、硬化性アルコキシシリル又はアルコキシアルキルシリル官能基を有するポリ(メタ)アクリレートである。このようなバインダーポリマーは、硬化性アルコキシシリル又はアルコキシアルキルシリル官能基を有する(メタ)アクリルモノマー、好ましくはモノマーbについて上述したモノマーと、架橋性基を有しない疎水性(メタ)アクリルモノマー、特にモノマーcについて上述したモノマーとを含む(メタ)アクリルモノマー混合物のラジカル重合によって得ることができる。好ましくは、モノマー混合物は、モノマーaについて上述したあらゆる(メタ)アクリルモノマー、又はあらゆる他の親水性(メタ)アクリルモノマー、例えば(メタ)アクリル酸、ヒドロキシ官能性、アルコキシ官能性、双性イオン性、若しくは塩基含有(メタ)アクリルモノマーを25重量%未満、より好ましくは10重量%未満、さらに好ましくは5重量%未満含む。一実施形態では、モノマー混合物は、上記のモノマーa、(メタ)アクリル酸、ヒドロキシ官能性、アルコキシ官能性、双性イオン性、及び塩基含有(メタ)アクリルモノマーからなる群から選択される親水性(メタ)アクリルモノマーを実質的に含まない。
【0061】
タイコート組成物中のバインダーポリマーのためのモノマー混合物の例は、メチルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、及びトリメトキシシリルメチルメタクリレート又はトリメトキシシリルプロピルメタクリレートを含む混合物である。
【0062】
好ましくは、タイコート組成物中のバインダーポリマーは、アルコキシシリル又はアルコキシアルキルシリル官能基以外の架橋性官能基を有しない。
【0063】
タイコート組成物は、有機溶媒を含む。溶媒は、溶媒中でのフリーラジカル重合によってバインダーポリマーが調製される溶媒であることが好ましい。したがって、モノマー及びバインダーポリマーの両方が溶解する溶媒が好ましい。適切な溶媒の例としては、ケトン、例えばメチルn-アミルケトン(MAK)、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルイソアミルケトン(MIAK)、及び炭化水素溶媒、例えばキシレン、トルエン、トリメチルベンゼンが挙げられる。メチルn-アミルケトンが特に好ましい溶媒である。タイコート組成物は、50重量%以下、好ましくは10~40重量%、より好ましくは20~35重量%の範囲の溶媒を含んでいてよい。
【0064】
水に浸漬した後のタイコートの変形や皺を防止するために、本発明による水性コーティング組成物を塗布する前に、タイコート組成物を少なくとも部分的に硬化させることが好ましい。したがって、タイコート組成物は、好ましくはシラノール縮合触媒を含み、その結果、タイコート組成物は、本発明のコーティング組成物を塗布する前に数時間乾燥させた場合に、少なくとも部分的に硬化する。適切なシラノール縮合触媒は当分野で公知であり、様々な金属、例えばスズ、亜鉛、鉄、鉛、バリウム、及びジルコニウムのカルボン酸塩、例えばジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、ジブチルスズジオクトエート、ステアリン酸鉄、オクタン酸スズ(II)、及びオクタン酸鉛;有機ビスマス化合物;有機チタン化合物;有機ホスフェート、例えばリン酸水素ビス(2-エチルヘキシル);キレート、例えばジブチルスズアセトアセトネート;第三級アミン、例えば1,8-ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデカ-7-エン(DBU)が挙げられる。シラノール縮合触媒は、あらゆる適切な量で、典型的にはタイコート組成物に基づいて0.1~2重量%の範囲で使用され得る。
【0065】
好ましい一実施形態では、基材は多層コーティング系でコーティングされており、該多層コーティング系は、基材に塗布され、プライマーコーティング組成物から堆積させたプライマー層を場合により含み、硬化性アルコキシシリル又はアルコキシアルキルシリル官能基を有するバインダーポリマーを含むタイコート組成物から堆積させた、基材又は場合によって含まれるプライマー層に塗布されたタイコート層、及びタイコート層に塗布されたトップコート層をさらに含み、ここで、トップコート層は、本発明の第1の態様によるコーティング組成物から堆積させたものである。
【0066】
第3の態様において、本発明は、人工物体の表面上の水生生物付着を抑制する方法であって、
(a)人工物体の表面の少なくとも一部に、本発明の第1の態様による水性コーティング組成物を塗布する工程;
(b)コーティング組成物を硬化させて、硬化したコーティング層を形成する工程;及び
(c)人工物体を少なくとも部分的に水に浸漬する工程
を含む、方法を提供する。
【0067】
好ましくは、該方法は、工程(a)のコーティング組成物の塗布の前に、人工物体の表面の少なくとも一部にタイコート層を塗布する工程をさらに含み、タイコート層は、上記の硬化性アルコキシシリル又はアルコキシアルキルシリル官能基を有するバインダーポリマーを含むタイコート組成物から堆積させたものである。特に好ましい一実施形態では、タイコート組成物はシラノール縮合触媒を含み、水性コーティング組成物の塗布の前に部分的に硬化させられる。
【実施例】
【0068】
本発明を、以下の非限定的な実施例によってさらに説明する。
【0069】
アクリルポリマー溶液の調製
アクリルポリマーの溶液を、モノマー混合物から以下のように調製した。1-メトキシプロパン-2-オールを入れた95℃の重合容器に、モノマー混合物及び開始剤(AMBN)の1-メトキシプロパン-2-オール溶液を、蠕動ポンプを用いて滴下した。モノマー溶液は、4時間かかる速度で添加した。添加が完了した後、促進用の開始剤の1-メトキシプロパン-2-オール溶液を添加し、反応器を95℃で1時間保持した。次いで、ポリマー溶液を室温まで冷却した。得られたポリマー溶液は、65重量%のアクリルポリマーを有していた。
【0070】
様々なモノマー混合物A~Fを使用して、アクリルポリマーの種々の溶液を上記のように調製した。表1に、使用したモノマー混合物の組成、及び得られたアクリルポリマーのFox式で計算したガラス転移温度(Tg)を示す。
【0071】
【0072】
タイコート組成物の調製
連鎖移動剤としてのメルカプトプロピルトリメトキシシラン及び開始剤としての2,2’-アゾジ(2-メチルブチロニトリル)(AMBN)の存在下で、メチルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、及びトリメトキシシリルプロピルメタクリレートの混合物を、溶媒としてのメチルn-アミルケトン(MAK)中で100℃で共重合することにより、アルコキシシリル官能性ポリアクリレートを調製した。メチルメタクリレート/ラウリルメタクリレート/トリメトキシシリルプロピルメタクリレート/メルカプトプロピルトリメトキシシランのモル比は70/12/15/3であった。70重量%のポリマーのMAK溶液を得た。
【0073】
実施例1-バイオフィルム剥離試験1
モノマー混合物Bから得たポリマー溶液を、25重量%のポリマー濃度が得られるまで水で希釈することによって、本発明によるコーティング組成物を調製した(組成物B)。
【0074】
組成物Bから堆積させたコーティングの付着剥離特性を決定し、市販のポリシロキサン系付着剥離コーティング(Intersleek(商標)1100SR、例えばAkzoNobel)、及び非付着剥離性の参考としての市販のエポキシ系プライマー(Intershield(商標)300、例えばAkzoNobel)と比較した。
【0075】
コーティング組成物を75mm×25mm×2mmのプラスチック(PVC)試験クーポンに塗布し、コーティングされた基材を、海洋生物付着が起こることが知られている水生環境(ハートリプールマリーナ、英国)に浸漬した。4週間の浸漬後、試料を取り出し、可変速流体力学的フローセル内でバイオフィルム剥離について試験した。生物付着した試験クーポンをフローセルに取り付け、その表面に非常に乱流の海水を流した。流速を漸増させ、各速度で1分間流速を一定のままとした。速度増加の前ごとにスライドを画像化し、画像解析ソフトウェア(ImageJ、バージョン1.46r、シュナイダーら、2012)を使用して、表面に保持されたバイオフィルムの量を総面積に対する割合(被覆率%)として評価した。バイオフィルムによる被覆率を6つの複製スライド間で平均し、平均被覆率を各速度について表面間で比較した。結果を表2に示す。
【0076】
【0077】
実施例2-バイオフィルム剥離試験2(スライムファーム試験)
モノマー混合物C、D、E及びFから得たポリマー溶液を、25重量%のポリマー濃度が得られるまで水で希釈し(組成物C、D、E及びF)、次いで触媒として1重量%のDBUを添加することによって、本発明によるコーティング組成物を調製した。
【0078】
組成物C、D、E及びF、並びにIntersleek(商標)1100SRから堆積させたコーティングの付着剥離特性を、いわゆるスライムファーム試験で決定した。コーティング組成物を75mm×25mm×2mmのプラスチック(PVC)試験クーポンに塗布した。コーティングされたクーポンを、複数種スライム培養系の再循環反応器に入れた。これは、野生微生物の複数種の培養物を接種した再循環人工海水系(温度22±2℃、塩分33±1psu(実用塩分単位)、pH8.2±0.2)である。この系は、亜熱帯環境を模したものであり、これにより、制御された流体力学的条件及び環境的条件下で海洋バイオフィルムが培養され、続いてコーティングされた試験面上で加速条件下で増殖させられる。4週間後、試料を取り出し、実施例1に記載のように可変速流体力学的フローセル内でバイオフィルム剥離について試験した。結果を表3に示す。
【0079】
【0080】
表2及び表3の結果は、本発明によるコーティング組成物が、合理的な付着剥離特性を示す一方で、ポリシロキサン系コーティング組成物と比較して安価であり、混入の問題が少ないことを示している。
【0081】
実施例3-触媒あり及びなしでの乾燥時間、ポットライフ、及び貯蔵寿命
モノマー混合物A及びBから調製されたアクリルポリマー溶液を、20重量%又は25重量%のポリマー濃度が得られるまで水で希釈することによって、本発明によるコーティング組成物を調製した。コーティング組成物のうちいくつかに、シラノール縮合触媒を添加した。
【0082】
ガラス製試験パネルに300μmの湿潤膜厚で塗布されたコーティング組成物が半硬化乾燥する、又は硬化乾燥するまでの時間を、BK乾燥粘着性記録器(dry-tack recorder)を使用して、ASTM D-1640/D 1640M-14(2018)、A法(23℃、相対湿度50%)に従って決定した。
【0083】
触媒を含むいくつかのコーティング組成物について、ポットライフ又は貯蔵寿命を以下のように決定した。
【0084】
20ml容バイアル中でコーティング組成物と触媒とを混合することによって、ポットライフを決定した。Sheen CP1コーンプレート粘度計を用いて、混合直後に粘度を測定した。バイアルを23℃で保存し、粘度を定期的に測定した。ポットライフは、粘度が元の値の1.5倍に増加するまでの時間と定義した。
【0085】
20ml容バイアル中でコーティング組成物と触媒とを混合し、45℃でバイアルを保存することによって、貯蔵寿命を決定した。Sheen CP1コーンプレート粘度計を用いて、1、2、及び3日後、次いで1、2、及び3週間後、その後毎月粘度を測定した。貯蔵寿命は、組成物がゲル化するまでの時間と定義した。
【0086】
シラノール縮合触媒としてDBUを含むコーティング組成物は、長いポットライフを示し、20重量%のポリマー濃度に希釈した場合、著しく長い貯蔵寿命を示す。
【0087】
【0088】
実施例4-海水浸漬後のプライマー及びタイコートへの接着性
モノマー混合物Aから得たポリマー溶液を、25重量%のポリマー濃度が得られるまで水で希釈することによって、本発明によるコーティング組成物を調製した。次いで、シラノール縮合触媒として1重量%のDBUを添加した。
【0089】
このようにして得られたコーティング組成物を、様々なプライマー又はタイコート組成物から堆積させた様々なアンダーコート(undercoat)に塗布し、海水浸漬後のコーティングのアンダーコートに対する接着強度を以下のようにして求めた。
【0090】
30cm×8cm×2cmのPVC試験パネルをサンドペーパーを用いて表面粗面化し、次いで溶媒で脱脂した。次いで、パネルの切片をアンダーコートでブラシコーティングし、23℃で50%の相対湿度で乾燥させた。次いで、300μm Sheen cubeアプリケーターを用いて本発明によるコーティング組成物を塗布し、23℃で50%の相対湿度で3日間乾燥させた。次いで、試験パネルを天然海水(導電率42.6mS/cm)に22℃で浸漬した。6日後、ペンナイフブレードを用いてコーティングの小切片を基材に至るまで切断して取り出すことによって、アンダーコートとトップコートとの間の接着性を定性的に評価した。露出した切片を指でこすり、アンダーコートとトップコートとの間の接着性に0(非常に不十分な接着性)から5(非常に良好な接着性)の評点をつけた。
【0091】
以下のアンダーコートを使用した:
・エポキシプライマー:24時間乾燥させたIntershield(商標)300。
・タイコート組成物1:「タイコート組成物の調製」に基づいて上記のように調製し、6時間乾燥させたタイコート組成物。
・タイコート組成物2:塗布直前に0.025重量%のリン酸水素ビス-2-(エチルヘキシル)を触媒として添加し、6時間乾燥させたタイコート組成物1。
【0092】
【0093】
実施例5-比較例
実施例Hは水に不溶であった。
【0094】
実施例Gを20重量%及び25重量%の濃度で水に溶解した。次いで、1重量%のDBUを添加した。
【0095】
25重量%溶液は2分以内にゲル化した。
【0096】
20重量%溶液を、タイコート組成物2のアンダーコート(実施例4の下の上記参照)を有するPVC基材に塗布した。
【0097】
上記の実施例14によるポリマーAも、タイコート組成物2のアンダーコートを有するPVC基材に塗布した。
【0098】
次いで、持続時間が6日間ではなく24時間であったことを除き上述の実施例4に詳述した手順に従って、2つのコーティングされた基材を海水に浸漬した。
【0099】
(MPEGMAモノマー含有量が高い)比較ポリマーGを含む組成物は、層間剥離、並びにコーティングの激しい膨れ及び気泡を示したが、ポリマーA含有組成物では該欠陥は観察されなかった。
【国際調査報告】