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特表2022-528549式(I)の化合物及びGLP-1受容体アゴニストを含む組合せ療法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-14
(54)【発明の名称】式(I)の化合物及びGLP-1受容体アゴニストを含む組合せ療法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/192 20060101AFI20220607BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220607BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220607BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20220607BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20220607BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20220607BHJP
   A61K 38/26 20060101ALI20220607BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20220607BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20220607BHJP
   C07K 14/605 20060101ALN20220607BHJP
【FI】
A61K31/192
A61K45/00 ZNA
A61P43/00 121
A61P43/00 111
A61P3/04
A61P3/10
A61P1/16
A61K38/26
A61K9/20
A61K9/08
C07K14/605
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021559868
(86)(22)【出願日】2020-04-09
(85)【翻訳文提出日】2021-12-08
(86)【国際出願番号】 EP2020060283
(87)【国際公開番号】W WO2020208205
(87)【国際公開日】2020-10-15
(31)【優先権主張番号】19305468.1
(32)【優先日】2019-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】506236163
【氏名又は名称】ジェンフィット
【氏名又は名称原語表記】GENFIT
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ロベルト・ヴァルチャク
(72)【発明者】
【氏名】ヴァネッサ・ルグリー
(72)【発明者】
【氏名】エムリーヌ・デカン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C206
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA01
4C076AA06
4C076AA09
4C076AA11
4C076AA14
4C076AA16
4C076AA22
4C076AA24
4C076AA36
4C076AA53
4C076AA72
4C076BB01
4C076BB11
4C076CC16
4C076CC21
4C084AA01
4C084AA02
4C084AA19
4C084DB35
4C084MA02
4C084MA13
4C084MA17
4C084MA23
4C084MA27
4C084MA28
4C084MA31
4C084MA32
4C084MA34
4C084MA35
4C084MA37
4C084MA43
4C084MA52
4C084MA63
4C084MA66
4C084NA05
4C084NA06
4C084ZA701
4C084ZA751
4C084ZC351
4C084ZC411
4C084ZC412
4C084ZC751
4C206AA01
4C206AA02
4C206MA02
4C206MA04
4C206MA33
4C206MA37
4C206MA43
4C206MA47
4C206MA48
4C206MA51
4C206MA52
4C206MA54
4C206MA55
4C206MA57
4C206MA63
4C206MA72
4C206MA83
4C206MA86
4C206NA05
4C206NA06
4C206ZA70
4C206ZA75
4C206ZC35
4C206ZC41
4C206ZC75
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA30
4H045EA20
4H045EA50
(57)【要約】
本発明は、PPARアゴニスト及びGLP-1受容体アゴニストを含む組合せ療法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)式(I)
【化1】
(式中、
Y1は、ハロゲン原子、Ra、又はGa-Ra基を示し、
Aは、CH=CH、又はCH2-CH2基を示し、
Y2は、Gb-Rb基を示し、
Ga及びGbは、同一か又は異なり、酸素又は硫黄の原子を示し、
Raは、水素原子、非置換の(C1~C6)アルキル基、1つ若しくは複数のハロゲン原子によって置換されている(C6~C14)アリール基若しくは(C1~C6)アルキル基、(C1~C6)アルコキシ基若しくは(C1~C6)アルキルチオ基、(C3~C14)シクロアルキル基、(C3~C14)シクロアルキルチオ基、又は複素環基を示し、
Rbは、少なくとも1つの-COORc基(式中、Rcは、水素原子を示す)によって置換されている(C1~C6)アルキル基、1つ若しくは複数のハロゲン原子によって置換されているか又は置換されていない(C1~C6)アルキル基、(C3~C14)シクロアルキル基、又は複素環基を示し、
Y4及びY5は、同一か又は異なり、1つ若しくは複数のハロゲン原子によって置換されているか又は置換されていない(C1~C6)アルキル基、(C3~C14)シクロアルキル基、又は複素環基を示す)の化合物又は薬学的に許容されるその塩
及び
(ii)グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体アゴニスト又は薬学的に許容されるその塩
を含む組合せ製品。
【請求項2】
成分(i)が、エラフィブラノール又は薬学的に許容されるその塩である、請求項1に記載の組合せ製品。
【請求項3】
成分(ii)が、セマグルチド、リラグルチド、エキセナチド、アルビグルチド、デュラグルチド、リキシセナチド、ロキセナチド、エフペグレナチド、タスポグルチド、MKC-253、DLP-205、ORMD-0901、LY-3305677、長時間作用型オキシントモジュリン、及び薬学的に許容されるそれらの塩からなる群から選択される、請求項1又は2に記載の組合せ製品。
【請求項4】
成分(ii)が、セマグルチド又は薬学的に許容されるその塩である、請求項1から3のいずれか一項に記載の組合せ製品。
【請求項5】
成分(ii)が、リラグルチド又は薬学的に許容されるその塩である、請求項1から3のいずれか一項に記載の組合せ製品。
【請求項6】
前記組合せ製品が、成分(i)及び(ii)並びに薬学的に許容される担体を含む組成物である、請求項1から5のいずれか一項に記載の組合せ製品。
【請求項7】
成分(i)及び(ii)が、懸濁液、ゲル剤、油剤、丸薬、錠剤、坐剤、散剤、カプセル、エアゾール、軟膏、クリーム剤、パッチ剤、又は持続放出及び/若しくは徐放のためのガレヌス形態の手段で製剤化される、請求項1から6のいずれか一項に記載の組合せ製品。
【請求項8】
前記組合せ製品が、逐次的に、個別に、又は同時に使用するための、成分(i)及び(ii)を含むキットオブパーツである、請求項1から5のいずれか一項に記載の組合せ製品。
【請求項9】
成分(i)及び(ii)が経口剤形である、請求項8に記載の組合せ製品。
【請求項10】
前記経口剤形が丸薬又は錠剤である、請求項9に記載の組合せ製品。
【請求項11】
成分(i)が経口剤形であり、成分(ii)が注射用溶液である、請求項8に記載の組合せ製品。
【請求項12】
医薬としての使用のための、請求項1から11のいずれか一項に記載の組合せ製品。
【請求項13】
GLP-1受容体アゴニストの投与が必要とされる状態を治療するための方法における使用のための、請求項1から11のいずれか一項に記載の組合せ製品。
【請求項14】
前記状態が、非アルコール性脂肪性肝疾患、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、線維化性NASH、糖尿病、及び肥満から選択される、請求項13に規定の使用のための組合せ製品。
【請求項15】
前記状態が、非アルコール性脂肪性肝炎である、請求項13又は14に規定の使用のための組合せ製品。
【請求項16】
GLP-1受容体アゴニストの投与が必要とされる状態を治療するための方法という観点から、体重を低下させるためのような、体重を低下させるための方法における使用のための、請求項1から11のいずれか一項に記載の組合せ製品。
【請求項17】
GLP-1受容体アゴニストを単独で投与する場合に必要とされるGLP-1受容体アゴニストの量に比べて、投与されるGLP-1受容体アゴニストの量が低減される、GLP-1受容体アゴニストの投与が必要とされる状態を治療するための方法における使用のための、請求項1から11のいずれか一項に記載の組合せ製品。
【請求項18】
前記GLP-1受容体アゴニストの少なくとも1つの副作用が、それによって低下する、請求項15に規定の使用のための組合せ製品。
【請求項19】
GLP-1受容体アゴニストを単独で投与する場合に比べて、GLP-1受容体アゴニストに関連する少なくとも1つの有害作用が軽減される、GLP-1受容体アゴニストの投与が必要とされる状態を治療するための方法における使用のための、請求項1から11のいずれか一項に記載の組合せ製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PPARアゴニスト及びGLP-1受容体アゴニストを含む組合せ療法に関する。
【背景技術】
【0002】
グルカゴン様ペプチド-1受容体アゴニスト(すなわちGLP-1Rアゴニスト)は、肥満及び2型糖尿病等の代謝性疾患の治療のために提案される化合物のクラスである。このクラスのいくつかの化合物は、セマグルチド、リラグルチド、エキセナチド、リキシセナチド、アルビグルチド、及びデュラグルチド等、医薬として既承認である。これらの承認にもかかわらず、このクラスの化合物は、それらの治療効果を向上させるための他のクラスの化合物との組合せから利益を得ることが可能であった。加えて、GLP-1Rアゴニストは、胃腸の有害作用のような有害作用を引き起こす。例えば、セマグルチド及びリラグルチドの一般的な副作用には、悪心、嘔吐、下痢、腹痛、及び便秘が含まれる。これらの有害作用を軽減させるための方法は有利となるであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2012080471
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】NASH Clinical Research Network(Kleiner、2005年、Brunt、1999年)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、GLP-1RアゴニストをエラフィブラノールのようなPPARアゴニストと組み合わせることによって、脂肪症、インスリンレベル及び血糖、体重調節、並びに有害作用の軽減に対する作用の相乗効果のようないくつかの有益な効果が得られるという観察に起因する。加えて、この組合せが、それを必要とする対象に投与されるGLP-1Rアゴニストの減量、それによるGLP-1Rアゴニストと関連する有害作用の軽減といった可能性を広げることが本明細書に示される。
【0006】
したがって、本発明は、
(i)PPARアゴニスト、特に、式(I)
【0007】
【化1】
【0008】
(式中、
Y1は、ハロゲン原子、Ra、又はGa-Ra基を示し、
Aは、CH=CH、又はCH2-CH2基を示し、
Y2は、Gb-Rb基を示し、
Ga及びGbは、同一か又は異なり、酸素又は硫黄の原子を示し、
Raは、水素原子、非置換の(C1~C6)アルキル基、1つ若しくは複数のハロゲン原子によって置換されている(C6~C14)アリール基若しくは(C1~C6)アルキル基、(C1~C6)アルコキシ基若しくは(C1~C6)アルキルチオ基、(C3~C14)シクロアルキル基、(C3~C14)シクロアルキルチオ基、又は複素環基を示し、
Rbは、少なくとも1つの-COORc基(式中、Rcは、水素原子を示す)によって置換されている(C1~C6)アルキル基、1つ若しくは複数のハロゲン原子によって置換されているか又は置換されていない(C1~C6)アルキル基、(C3~C14)シクロアルキル基、又は複素環基を示し、
Y4及びY5は、同一か又は異なり、1つ若しくは複数のハロゲン原子によって置換されているか又は置換されていない(C1~C6)アルキル基、(C3~C14)シクロアルキル基、又は複素環基を示す)
の化合物又は薬学的に許容されるその塩、
及び
(ii)グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体アゴニスト
を含む組合せ製品に関する。
【0009】
本発明の特定の実施形態において、Y1は、Ga-Ra基を示す。
【0010】
別の特定の実施形態において、Raは、(C1~C6)アルキル基又は(C3~C14)シクロアルキル基を示す。また別の実施形態において、Raは、1つ若しくは複数のハロゲン原子によって置換されているか又は置換されていない(C1~C6)アルキルを示すか、又はRaは、1つ若しくは複数のハロゲン原子によって置換されているか又は置換されていない(C3~C14)シクロアルキル基を示す。
【0011】
本発明の追加の実施形態において、Rbは、-COORc基(式中、Rcは、水素原子又は1~4個の炭素原子を有するアルキル基を示す)によって置換されている(C1~C6)アルキル基を示す。別の実施形態において、Rcは、水素原子を表す。
【0012】
式(I)の化合物の特定の実施形態において、
Aは、CH=CH基を示し、
Raは、(C1~C6)アルキル基又は(C3~C14)シクロアルキル基、特に、1つ若しくは複数のハロゲン原子によって置換されているか又は置換されていない(C1~C6)アルキル基又は(C3~C14)シクロアルキル基を示し、
Rbは、-COORc基(式中、Rcは、水素原子又は1~4個の炭素原子を有するアルキル基を示す)によって置換されている(C1~C6)アルキル基を示し、
Y4及びY5は、独立して(C1~C4)アルキル基を示す。
【0013】
式(I)の化合物の特定の実施形態において、
Aは、CH2-CH2基を示し、
Gaは、酸素又は硫黄の原子を示し、かつGbは、酸素の原子を示し、
Raは、(C1~C6)アルキル基又は(C3~C14)シクロアルキル基を示し、
Rbは、少なくとも1つの-COORc基(式中、Rcは、水素原子又は(C1~C4)アルキル基を示す)によって置換されている(C1~C6)アルキル基を示し、
Y4及びY5は、独立して(C1~C4)アルキル基を示す。
【0014】
式(I)の化合物の特定の実施形態において、
Aは、CH2-CH2基を示し、
Gaは、酸素又は硫黄の原子を示し、かつGbは、酸素の原子を示し、
Raは、1つ若しくは複数のハロゲン原子によって置換されている(C1~C6)アルキル基又は(C3~C14)シクロアルキル基を示し、
Rbは、1つ若しくは複数のハロゲン原子によって置換されているか又は置換されておらず、かつ少なくとも1つの-COORc基(式中、Rcは、水素原子又は(C1~C4)アルキル基を示す)によって置換されている(C1~C6)アルキル基を示し、
Y4及びY5は、(C1~C4)アルキル基を示す。
【0015】
式(I)の化合物の特定の実施形態において、Gbは、酸素原子であり、Rbは、-COORc基(式中、Rcは、水素原子又は非置換の直鎖状若しくは分枝状(C1~C4)アルキル基を示す)によって置換されている(C1~C6)アルキル基である。本実施形態の特定の変形形態において、Rcは、水素原子を示す。
【0016】
式(I)の化合物の特定の実施形態において、Y1は、直鎖状又は分枝状であり、1つ若しくは複数のハロゲン原子によって置換されているか又は置換されていない(C1~C6)アルキル基を含む(C1~C6)アルキルチオ基である。本実施形態の一変形形態において、Y1は、メチルチオ基である。
【0017】
特定の実施形態において、式(I)の化合物は、1-[4-メチルチオフェニル]-3-[3,5-ジメチル-4-カルボキシジメチルメチルオキシフェニル]プロパ-2-エン-1-オン(エラフィブラノール、ELA、又はGFT505)、1-[4-メチルチオフェニル]-3-[3,5-ジメチル-4-イソプロピルオキシカルボニルジメチルメチルオキシフェニル]プロパ-2-エン-1-オン、1-[4-メチルチオフェニル]-3-[3,5-ジメチル-4-tertブチルオキシカルボニルジメチルメチルオキシフェニル]プロパ-2-エン-1-オン、1-[4-トリフルオロメチルフェニル]-3-[3,5-ジメチル-4-tertブチルオキシカルボニルジメチルメチルオキシフェニル]プロパ-2-エン-1-オン、1-[4-トリフルオロメチルフェニル]-3-[3,5-ジメチル-4-カルボキシジメチルメチルオキシフェニル]プロパ-2-エン-1-オン、1-[4-トリフルオロメチルオキシフェニル]-3-[3,5-ジメチル-4-tertブチルオキシカルボニルジメチルメチルオキシフェニル]プロパ-2-エン-1-オン、1-[4-トリフルオロメチルオキシフェニル]-3-[3,5-ジメチル-4-カルボキシジメチルメチルオキシフェニル]プロパ-2-エン-1-オン、2-[2,6-ジメチル-4-[3-[4-(メチルチオ)フェニル]-3-オキソ-プロピル]フェノキシ]-2-メチルプロパン酸、2-[2,6-ジメチル-4-[3-[4-(メチルチオ)フェニル]-3-オキソ-プロピル]フェノキシ]-2-メチル-プロパン酸イソプロピルエステル、及び薬学的に許容されるそれらの塩からなる群から選択される。
【0018】
本発明の特定の実施形態において、成分(i)は、エラフィブラノール又は薬学的に許容されるその塩である。
【0019】
本発明の文脈において、「グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体アゴニスト」という表現は、GLP-1アナログ及びGLP-1アナログではないGLP-1受容体アゴニストを指す。GLP-1受容体アゴニスト(GLP-1Rアゴニストとしても記載)は、GLP-1受容体に結合し、それを活性化する化合物である。例示的なGLP-1受容体アゴニストには、以下に限定されないが、セマグルチド、リラグルチド、エキセナチド、アルビグルチド、デュラグルチド、リキシセナチド、ロキセナチド、エフペグレナチド、タスポグルチド、MKC-253、DLP-205、ORMD-0901、LY-3305677、長時間作用型オキシントモジュリン、及び薬学的に許容されるそれらの塩が含まれる。
【0020】
特定の実施形態において、成分(ii)は、セマグルチド、リラグルチド、エキセナチド、リキシセナチド、アルビグルチド、デュラグルチド、又は薬学的に許容されるこれらの化合物のうちの1つの塩である。
【0021】
特定の実施形態において、成分(ii)は、セマグルチド又は薬学的に許容されるその塩である。
【0022】
別の特定の実施形態において、成分(ii)は、リラグルチド又は薬学的に許容されるその塩である。
【0023】
本発明によれば、成分(i)及び(ii)は、前記化合物の組合せが、相乗作用をもたらすように選択され得る。このような相乗効果は、Bliss超過(Excess Over Bliss)(EOB、すなわち単剤最大効果の超過(Excess over Highest Single Agent))法を使用することによって等、当該分野で周知の方法に従って判定され得る。組合せ薬物製品の承認のためにFDAによって採用されたこの方法は、予想された組合せ効果が、組合せの最良の成分を用いて個別に投与された場合に得られた効果を上回ると仮定する。実施例で証明された通り、エラフィブラノールとセマグルチド又はリラグルチド等のGLP-1Rアゴニストの組合せは、脂肪肝(肝脂肪)、トリグリセリドレベル、体重減少、インスリンレベル、及び血糖に対する相乗作用を生じる。
【0024】
したがって、特定の実施形態において、成分(i)は、エラフィブラノール又は薬学的に許容されるその塩であり、成分(ii)は、セマグルチド又は薬学的に許容されるその塩である。
【0025】
別の特定の実施形態において、成分(i)は、エラフィブラノール又は薬学的に許容されるその塩であり、成分(ii)は、リラグルチド又は薬学的に許容されるその塩である。
【0026】
特定の実施形態において、本発明の組合せ製品は、薬学的に許容される担体中に成分(i)及び(ii)の両方を含む医薬組成物である。
【0027】
別の実施形態において、本発明の組合せ製品は、逐次的に、個別に、又は同時に使用するための、成分(i)及び成分(ii)を含むキットオブパーツ(a kit of parts)である。この実施形態において、成分の各々は、異なる医薬組成物として製剤化され得る。
【0028】
本発明で使用される医薬組成物は、医薬的状況の範囲内で許容される1種又はいくつかの賦形剤又はビヒクルを含むことが可能である(例えば、医薬的使用に適合し、当業者に周知の生理食塩液、生理的溶液、等張液等)。これらの組成物は、分散剤、可溶化剤、安定剤、保存剤等の中から選択される1種又はいくつかの剤又はビヒクルを含むことも可能である。これらの製剤(液体及び/又は注射用及び/又は固体)に有用な剤又はビヒクルは、特に、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリソルベート80、マンニトール、ゼラチン、ラクトース、植物油、アカシアゴム、リポソーム等である。本発明で使用される化合物は、経腸又は非経口投与用に製剤化され得る。例えば、化合物は、経口、血管内(例えば、静脈内又は動脈内)、筋肉内、腹腔内、皮下、経皮、又は経鼻投与用に製剤化され得る。製剤は、固体又は液体の剤形であり得る。例示的な製剤には、これらに限定されるものではないが、注射用懸濁液若しくは経口摂取のための懸濁液、ゲル剤、油剤、丸薬、錠剤、坐剤、散剤、カプセル、エアゾール、軟膏、クリーム剤、パッチ剤、又は持続放出及び/若しくは徐放のためのガレヌス形態の手段が含まれる。この種類の製剤に対して、セルロース、カーボネート、又はデンプン等の剤は、有利に使用され得る。
【0029】
本明細書で実施された化合物は、薬学的に許容される塩、特に、医薬使用に適合する酸又は塩基の塩として製剤化され得る。本明細書で実施された化合物の塩には、薬学的に許容される酸付加塩、薬学的に許容される塩基付加塩、薬学的に許容される金属塩、アンモニウム塩、及びアルキル化アンモニウム塩が含まれる。これらの塩は、その化合物の最終的な精製ステップの間に、又は予め精製された化合物に塩を組み入れることによって得られる。
【0030】
上記に提示された通り、この活性成分(すなわち組合せ製品の成分(i)及び成分(ii))は、経口摂取を目的とした丸薬又は錠剤の形態のような1種又は複数の医薬組成物として投与されるためのものであり得る。
【0031】
別の実施形態において、活性成分は、注射用溶液の形態のような1種又は複数の医薬組成物として投与されるためのものである。
【0032】
追加の特定の実施形態において、活性成分は、個別の組成物として投与されるためのものである。
【0033】
別の実施形態において、成分(i)は、経口組成物の形態であり、成分(ii)は、経口組成物の形態である。
【0034】
本発明の特定の実施形態において、
- 成分(i)は、エラフィブラノール又は薬学的に許容されるその塩の経口投与のための固体組成物の形態、特に、丸薬又は錠剤の形態、より具体的には錠剤の形態であり、
- 成分(ii)は、GLP-1Rアゴニスト又は薬学的に許容されるその塩の経口投与のための固形剤形、特に、丸薬又は錠剤の形態、より具体的には錠剤の形態である。
【0035】
本発明の特定の実施形態において、成分(ii)は、出願WO2012080471に記載される通り、GLP-1Rアゴニスト及びN-(8-(2-ヒドロキシベンゾイル)アミノ)カプリル酸の塩を含む、経口投与のための固体剤形である。別の実施形態において、成分(ii)は、GLP-1Rアゴニスト及びN-(8-(2-ヒドロキシベンゾイル)アミノ)カプリル酸ナトリウム(別名、SNAC又はサルカプロザートナトリウムと称される)を含む、経口投与のための固体剤形である。更に別の実施形態において、成分(ii)は、セマグルチド及びSNACのようなN-(8-(2-ヒドロキシベンゾイル)アミノ)カプリル酸の塩を含む、経口投与のための固体剤形である。特定の実施形態において、成分(ii)は、錠剤の形態である。
【0036】
追加の実施形態において、成分(i)は、経口組成物の形態であり、成分(ii)は、注射用溶液の形態である。
【0037】
更に別の実施形態において、成分(i)は、注射用溶液の形態であり、成分(ii)は、経口組成物の形態である。
【0038】
追加の実施形態において、成分(i)は、注射用溶液の形態であり、成分(ii)は、注射用溶液の形態である。
【0039】
投与に関連する投与回数及び/又は用量は、当業者によって、治療を受ける対象、治療される疾患、疾患の病期、投与の形態等に関連して適合され得る。典型的には、ELA又は薬学的に許容されるその塩等の成分(i)は、エラフィブラノールに関して0.01mg/日~4000mg/日の間で、例えば、エラフィブラノールに関して1mg/日~2000mg/日、特に、25~1000mg/日、具体的には50~200mg/日、更に具体的には80~120mg/日で含まれる用量で投与され得る。別の特定の実施形態において、セマグルチド又はリラグルチド、特に、セマグルチド又は薬学的に許容されるその塩等の成分(ii)は、0.001mg/日~200mg/日の間で、例えば、0.01mg/日~150mg/日、特に、0.1mg/日~100mg/日で含まれる用量で投与され得る。
【0040】
更に別の特定の実施形態において、本発明の組合せ製品の成分の投与量は、以下の通りである:
- 成分(i)は、0.01mg/日~4000mg/日の間で、例えば、1mg/日~2000mg/日、特に、25~1000mg/日、具体的には50~200mg/日、更に具体的には80~120mg/日で含まれる用量で経口投与するためのエラフィブラノールの固体剤形であり、
- 成分(ii)は、1~20mg/日の用量で、例えば3~14mg/日で経口投与するためのセマグルチドの固体剤形である。
【0041】
本発明の別の実施形態において、本発明の組合せ製品の成分の投与量は、以下の通りである:
- 成分(i)は、80~120mg/日の間で含まれる用量で経口投与するためのエラフィブラノールの固体剤形であり、
- 成分(ii)は、3~14mg/日の間で含まれる用量で経口投与するためのセマグルチドの固体剤形である。
【0042】
本発明の更に別の特定の実施形態において、本発明の組合せ製品の成分の投与量は、以下の通りである:
- 成分(i)は、80~120mg/日の間で含まれる用量で経口投与するためのエラフィブラノールの固体剤形であり、
- 成分(ii)は、3mg/日、7mg/日、又は14mg/日の用量で経口投与するためのセマグルチドの固体剤形である。
【0043】
追加の実施形態において、本発明の組合せ製品の成分の投与量は、以下の通りである:
- 成分(i)は、80~120mg/日の間で含まれる用量で経口投与するためのエラフィブラノールの固体剤形であり、
- 成分(ii)は、3mg/日、7mg/日、又は14mg/日の用量で経口投与するためのセマグルチドの固体剤形である。
【0044】
追加の実施形態において、本発明の組合せ製品の成分の投与量は、以下の通りである:
- 80~120mgのエラフィブラノールを含む錠剤は、1日1回投与され、
- 3mg、7mg、又は14mgのセマグルチドを含む錠剤は、1日1回投与される。
【0045】
追加の実施形態において、本発明の組合せ製品の成分の投与量は、以下の通りである:
- 80mgのエラフィブラノールを含む錠剤は、1日1回投与され、
- 3mg、7mg、又は14mgのセマグルチドを含む錠剤は、1日1回投与される。
【0046】
別の特定の実施形態において、本発明の組合せ製品の成分の投与量は、以下の通りである:
- 120mgのエラフィブラノールを含む錠剤は、1日1回投与され、
- 3mg、7mg、又は14mgのセマグルチドを含む錠剤は、1日1回投与される。
【0047】
経口セマグルチドの投与量は、当業者によって適合され得る。セマグルチドの経口剤形は、商標Rybelsus(登録商標)として米国食品医薬品局及び欧州医薬品庁によって近年承認された。このため、当業者は、2型糖尿病の成人における血糖管理の改善のために適応される、本医薬と共に提供される処方情報に開示されている推奨投与量に基づいて、投与するセマグルチドの用量を決定することができる。簡潔に述べると:
- 経口セマグルチドの投与は、3mgを1日1回30日間で開始可能であり、
- 3mg用量で30日間後、用量は、7mgを1日1回に増加され、
- 7mg用量で少なくとも30日間後、血糖管理の改善のための投与という観点から、さらなる血糖管理のような追加の効果が必要とされる場合、用量は、14mgを1日1回に増加されてもよい。
【0048】
別の態様において、本発明は、医薬としての使用のための本発明の組合せに関する。
【0049】
本発明の組合せは、体重を低下させるための方法において使用され得る。例えば、本発明は、肥満を治療するための方法における使用のための本発明の組合せに関する。
【0050】
本発明の組合せは、肝脂肪(別名、「脂肪肝」と称される)を減少させるためにも使用され得る。したがって、本発明は、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)を治療するための方法における使用のための本発明の組合せに関する。更なる特定の実施形態において、NAFLDは、線維化性NAFLDである、すなわち対象が、肝線維症と共にNAFLDを有する。別の特定の実施形態において、NAFLDは、NASHである。NASHは、線維化性NASHであることもある、すなわち対象が、肝線維症と共にNASHを有する。
【0051】
本発明の組合せは、血糖を低下させるためにも使用され得る。したがって、本発明は、血糖を低下させるための方法における使用のための本発明の組合せにも関する。本発明の組合せは、インスリンレベルを管理するためにも使用され得る。したがって、本発明は、インスリンレベルを管理するための方法における使用のための本発明の組合せにも関する。
【0052】
特定の実施形態において、本発明の組合せは、糖尿病、特に、2型糖尿病を治療するための方法における使用のためのものである。
【0053】
追加の実施形態において、本発明の組合せは、2型糖尿病の対象における血糖管理を改善するための方法における使用のためのものである。
【0054】
食物摂取量が、本発明の組合せの投与による影響を受けないことも本明細書に示される。食物摂取量の減少は、GLP-1Rアゴニストによる有害作用の指標である。したがって、本発明の組合せは、GLP-1Rアゴニストによる有害作用を軽減するか、又は抑制するために有利に使用され得ることが本明細書に示される。
【0055】
特定の実施形態において、本発明の組合せは、有害作用を軽減するか、又は抑制すると共に、体重又は体脂肪量を低下させるための方法における使用のためのものである。本発明の文脈では、「有害作用を軽減するか、又は抑制すると共に」という表現は、GLP-1Rアゴニストの単独摂取に一般的に関連する、胃腸の有害作用、例えば、悪心、嘔吐、下痢、腹痛、及び/若しくは便秘のような少なくとも1つ又は全ての有害作用の軽減又は抑制を意味する。
【0056】
別の実施形態において、本発明の組合せは、有害作用を軽減するか、又は抑制すると共に、肥満を治療するための方法における使用のためのものである。
【0057】
更なる特定の実施形態において、本発明の組合せは、有害作用を軽減するか、又は抑制すると共に、NAFLDを治療するための方法における使用のためのものである。具体的な変形形態において、組合せは、線維化性NAFLD、NASH、又は線維化性NASHの治療のために使用される。
【0058】
更に別の実施形態において、本発明の組合せは、有害作用を軽減するか、又は抑制すると共に、血糖を低下させるための方法における使用のためのものである。
【0059】
別の実施形態において、本発明の組合せは、有害作用を軽減するか、又は抑制すると共に、インスリンレベルを低下させるための方法における使用のためのものである。
【0060】
追加の実施形態において、本発明の組合せは、有害作用を軽減するか、又は抑制すると共に、糖尿病を治療するための方法における使用のためのものである。より具体的には、本発明は、有害作用を軽減するか、又は抑制すると共に、2型糖尿病を治療するための方法における使用のための本発明の組合せに関する。
【0061】
本明細書の組合せが、有利に体重の調節を可能にすることも本明細書に示される。したがって、本発明は、体重を調節するための方法における使用のための本発明の組合せにも関する。
【0062】
特定の実施形態において、本発明の組合せは、肥満を治療するための方法という観点から、体重を調節するための方法における使用のためのものである。
【0063】
更なる特定の実施形態において、本発明の組合せは、NAFLDを治療するための方法という観点からのような、肝脂肪を低下させるための方法という観点から、体重を調節するための方法における使用のためのものである。具体的な変形形態において、組合せは、線維化性NAFLD、NASH、又は線維化性NASHを治療するための方法という観点から、体重を調節するために使用される。
【0064】
更に別の実施形態において、本発明の組合せは、血糖を低下させるための方法という観点から、体重を調節するための方法における使用のためのものである。
【0065】
別の実施形態において、本発明の組合せは、インスリンレベルを低下させるための方法という観点から、体重を調節するための方法における使用のためのものである。
【0066】
更なる実施形態において、本発明の組合せは、2型糖尿病のような糖尿病を治療するための方法という観点から、体重を調節するための方法における使用のためのものである。
【0067】
驚くべきことに、本発明の組合せがもたらす相乗効果に加えて、組合せ製品の成分(i)及び(ii)の前記組合せは、成分(ii)の低減用量で観察された有益な効果に繋がることも本明細書に示される。別の言い方では、成分(i)は、成分(i)及び成分(ii)の両方の望ましい効果の恩恵をうけつつ、成分(ii)の量を減少させるために使用され得る。このため、望ましい治療効果に影響を与えることなく、又は大きな影響を与えることなく、GLP-1Rアゴニストにおいて一般的に観察される有害作用の軽減又は抑制が得られる。したがって、本発明は、GLP-1受容体アゴニストの投与が必要とされる状態の治療のための方法におけるGLP-1受容体アゴニストとの組合せにおける使用のための式(I)の化合物等のPPARアゴニストにも関し、それによってGLP-1受容体アゴニストの副作用が軽減される。この態様において、GLP-1受容体アゴニストは、GLP-1受容体アゴニストを単独で投与する場合に投与される量に比べて、低減量で投与され得る。例えば、対象に投与されるGLP-1受容体アゴニストの量は、少なくとも1.5分の1、少なくとも2分の1、少なくとも2.5分の1、少なくとも3分の1、少なくとも3.5分の1、少なくとも4分の1、少なくとも4.5分の1、少なくとも5分の1、少なくとも5.5分の1、少なくとも6分の1、少なくとも6.5分の1、少なくとも7分の1、少なくとも7.5分の1、少なくとも8分の1、少なくとも8.5分の1、少なくとも9分の1、少なくとも9.5分の1、又は少なくとも10分の1にさえ低減され得る。
【0068】
このため、本発明は、更に、GLP-1受容体アゴニストの投与が必要とされる状態を治療するための方法における使用のための本発明の組合せであって、それによってGLP-1受容体アゴニストに関連する副作用が軽減される本発明の組合せにも関する。本発明の恩恵で減少される例示的な副作用は、以下の副作用:悪心、嘔吐、下痢、腹痛、及び便秘のうちの少なくとも1つ又は全てであり得る。
【0069】
本発明は、GLP-1受容体アゴニストの投与が必要とされる状態を治療するための方法であって、単独で投与する場合に必要とされるGLP-1受容体アゴニストの量に比べて、対象に投与されるGLP-1受容体アゴニストの量が低減される、方法における使用のための本発明の組合せにも関する。例えば、対象に投与されるGLP-1受容体アゴニストの量は、少なくとも1.5分の1、少なくとも2分の1、少なくとも2.5分の1、少なくとも3分の1、少なくとも3.5分の1、少なくとも4分の1、少なくとも4.5分の1、少なくとも5分の1、少なくとも5.5分の1、少なくとも6分の1、少なくとも6.5分の1、少なくとも7分の1、少なくとも7.5分の1、少なくとも8分の1、少なくとも8.5分の1、少なくとも9分の1、少なくとも9.5分の1、又は少なくとも10分の1にさえ低減され得る。
【0070】
更に別の実施形態において、本発明は、GLP-1受容体アゴニストの投与が必要とされる状態を治療するための方法における使用のための本明細書に開示された組合せ製品であって、成分(i)が成分(ii)の活性を増強させるために投与される組合せ製品に関する。このような増強作用は、単独で投与する場合に必要とされるGLP-1受容体アゴニストの量に比べて、GLP-1受容体アゴニストの投与量を有利に低減する結果となり得る。例えば、前記対象に投与されるGLP-1受容体アゴニストの量は、少なくとも1.5分の1、少なくとも2分の1、少なくとも2.5分の1、少なくとも3分の1、少なくとも3.5分の1、少なくとも4分の1、少なくとも4.5分の1、少なくとも5分の1、少なくとも5.5分の1、少なくとも6分の1、少なくとも6.5分の1、少なくとも7分の1、少なくとも7.5分の1、少なくとも8分の1、少なくとも8.5分の1、少なくとも9分の1、少なくとも9.5分の1、又は少なくとも10分の1にさえ低減され得る。
【0071】
当然ながら、上述の全てのGLP-1受容体アゴニストの用量の低減は、前記GLP-1受容体アゴニストが単独で使用される場合に通常使用される用量に対する百分率としても表記され得る。例えば、本発明の恩恵により、前記低減率は、前記GLP-1受容体アゴニストが単独で使用される場合に通常使用される用量の少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、又は50%を上回ることさえあり得る。
【0072】
GLP-1受容体アゴニストの上述の低減された量の例示的な実現例は、例えば、上記で開示された通り、Ryblesus(登録商標)の処方情報で開示されているレジメンに従って経口投与したセマグルチドの用量の低減であり得る。特にNASH(線維化を伴うNASH等)の治療のための、又は2型糖尿病の対象における血糖管理の改善における非限定的投与レジメンの例示は、以下に提示され、GLP-1受容体アゴニストの用量が50%低減されている:
- 経口セマグルチドの投与は、1.5mgを1日1回30日間で開始することができ、
- 3mg用量で30日間後、前記用量は、3.5mgを1日1回に増量され、
- 3.5mg用量で少なくとも30日間後、血糖管理の改善のための投与という観点からのさらなる血糖管理のような追加の効果が必要とされる場合、用量は、7mgを1日1回に増量されてもよい。
【0073】
本発明の文脈では、「GLP-1受容体アゴニストが適応される状態」という表現には、限定されるものではないが、その治療によってGLP-1受容体アゴニストの投与から利益が得られるであろう状態又は疾患が含まれる。こられには、限定されるものではないが、2型糖尿病のような糖尿病、肥満、NAFLD、及びNASHが含まれる。
【0074】
本発明の文脈では、略記ELAはエラフィブラノールを指す。
【0075】
本発明の文脈では、略記SEMAはセマグルチドを指す。
【0076】
本発明の文脈では、略記LIRAはリラグルチドを指す。「治療」又は「治療すること」という用語は、それを必要とする対象における疾患の治癒的又は予防的治療を指す。治療は、宣告された疾患を有する対象に対して、その疾患の進行を予防するか、治癒するか、遅延させるか、逆行させるか、又は緩徐にし、それによって対象の状態を改善するための本発明の組合せの投与を伴う。組合せ製品は、健康であるか、又は疾患を発症するリスクのある対象にも投与され得る。治療される対象は、哺乳動物、好ましくはヒトである。本発明に従って治療される対象は、過去の薬物治療、関連する病状、遺伝子型、リスク因子への曝露、ウイルス感染等、その治療が探究される具体的な疾患に関連するいくつかの基準に基づいて、更に疾患に関連する任意のバイオマーカーの検出に基づいて選択され得る。
【0077】
必要であれば、投与は1日1回又は1日あたり複数回であっても実施され得る。治療の期間は、治療される具体的な疾患によって異なるであろう。例えば、投与は、少なくとも1日間、少なくとも2日間、少なくとも3日間、少なくとも4日間、少なくとも5日間、少なくとも6日間、又は少なくとも7日間等、1日若しくは数日間実施され得る。代替方法として、投与は、少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも4週間実施され得る。慢性疾患に対する投与は、少なくとも1カ月間、2カ月間、3カ月間、4カ月間、5カ月間、6カ月間、又は少なくとも1年間若しくは数年間等、6カ月間を超える等、4週間を超えると考えられ得る。いくつかの場合では、本発明の組合せ製品は、対象の生涯の間投与され得る。
【0078】
本発明は、以下の非限定的な実施例を参照して更に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0079】
図1】10mg/kg/日のエラフィブラノール(ELA)と10nmol/kg/日のセマグルチド(SEMA)の組合せによる40日間の治療後の体重に対する効果を示す図である。
図2】10mg/kg/日のELAと10nmol/kg/日のセマグルチドの組合せによる40日間の治療後の、0日目に対する相対的体重増加として表記される体重に対する効果を示す図である。
図3】10mg/kg/日のELAと10nmol/kg/日のセマグルチドの組合せによる40日間の治療後の肝トリグリセリド含有量に対する効果を示す図である。
図4】10mg/kg/日のELAと10nmol/kg/日のセマグルチドの組合せによる40日間の治療後の血糖に対する効果を示す図である。
図5】10mg/kg/日のELAと10nmol/kg/日のセマグルチドの組合せによる40日間の治療後のインスリン血症に対する効果を示す図である。
図6】10mg/kg/日のELAと10nmol/kg/日のセマグルチドの組合せによる40日間の治療後の脂肪肝に対する効果を示す図である。
図7A】10mg/kg/日のELAと0.3又は1nmol/kg/日のセマグルチドの組合せによる28日間の治療後の食物摂取量に対する効果を示す図である。
図7B】10mg/kg/日のELAと0.3又は1nmol/kg/日のセマグルチドの組合せによる28日間の治療後の体重に対する効果を示す図である。
図8A】DIO-NASHマウスにおける10mg/kg/日のELAと0.3nmol/kg/日のセマグルチドの組合せによる12週間の治療後のNAFLD活性スコアに対する効果を示す図である。
図8B】DIO-NASHマウスにおける10mg/kg/日のELAと0.3nmol/kg/日のセマグルチドの組合せによる12週間の治療後の脂肪肝に対する効果を示す図である。
図8C】10mg/kg/日のELAと0.3nmol/kg/日のセマグルチドの組合せによる12週間の治療後のDIO-NASHマウスにおける活性指数(バルーニングスコア及び炎症スコアの合計)に対する効果を示す図である。
図8D】DIO-NASHマウスにおける10mg/kg/日のELAと0.3nmol/kg/日のセマグルチドの組合せによる12週間の治療後の小葉炎症に対する効果を示す図である。
図9A】DIO-NASHマウスにおける10mg/kg/日のELAと0.3nmol/kg/日のセマグルチドの組合せによる12週間の治療後の肝トリグリセリド含有量(TG)に対する効果を示す図である。
図9B】DIO-NASHマウスにおける10mg/kg/日のELAと0.3nmol/kg/日のセマグルチドの組合せによる12週間治療後の血漿トランスアミナーゼ(ALT)に対する効果を示す図である。
図9C】DIO-NASHマウスにおける10mg/kg/日のELAと0.3nmol/kg/日のセマグルチドの組合せによる12週間の治療後の血漿トランスアミナーゼ(AST)に対する効果を示す図である。
図9D】DIO-NASHマウスにおける10mg/kg/日のELAと0.3nmol/kg/日のセマグルチドの組合せによる12週間の治療後のCRPに対する効果を示す図である。
図9E】DIO-NASHマウスにおける10mg/kg/日のELAと0.3nmol/kg/日のセマグルチドの組合せによる12週間の治療後の肝ヒドロキシプロリンに対する効果を示す図である。
図10A】DIO-NASHマウスにおけるELA(10mg/kg/日)、SEMA(0.3nmol/kg/日)、及びそれらの組合せによる12週間の治療後の肝臓のトランスクリプトーム解析において、病理学的特徴、化合物の効果、及び変化した経路を同定するためのRNAseq解析に使用されるアルゴリズムを示す図である。
図10B】DIO-NASHマウスにおけるELA(10mg/kg/日)、SEMA(0.3nmol/kg/日)、及びそれらの組合せによる12週間の治療後の肝臓のトランスクリプトーム解析において、ELA/SEMAの組合せに関与する遺伝子を示すベン図である。
図10C】DIO-NASHマウスにおけるELA(10mg/kg/日)、SEMA(0.3nmol/kg/日)、及びそれらの組合せによる12週間の治療後の肝臓のトランスクリプトーム解析において、ELA/SEMAの組合せによって強化された経路の上位10の一覧を示す図である。
図10D】DIO-NASHマウスにおけるELA(10mg/kg/日)、SEMA(0.3nmol/kg/日)、及びそれらの組合せによる12週間の治療後の肝臓のトランスクリプトーム解析において、炎症経路に関与する遺伝子に対するELA/SEMAの組合せの相乗効果を示すドットプロットである。
図10E】DIO-NASHマウスにおけるELA(10mg/kg/日)、SEMA(0.3nmol/kg/日)、及びそれらの組合せによる12週間の治療後の肝臓のトランスクリプトーム解析において、線維化遺伝子の発現を示す図である。
図11A】エラフィブラノールとGLP-1受容体アゴニストの組合せは、LPS活性化マクロファージにおけるTNFα分泌を相乗的に抑制する。エラフィブラノールとセマグルチドの間の代表的な相乗的組合せにおけるTNFα分泌の抑制率に関する用量反応マトリックスである。データは平均(4通り)±標準偏差(SD)として示される。
図11B】エラフィブラノールとGLP-1受容体アゴニストの組合せは、LPS活性化マクロファージにおけるTNFα分泌を相乗的に抑制する。エラフィブラノールとリラグルチドの間の代表的な相乗的組合せにおけるTNFα分泌の抑制率に関する用量反応マトリックスである。データは平均(4通り)±標準偏差(SD)として示される。
図11C】エラフィブラノールとGLP-1受容体アゴニストの組合せは、LPS活性化マクロファージにおけるTNFα分泌を相乗的に抑制する。エラフィブラノールとセマグルチドの間の代表的な相乗的組合せにおけるBliss超過(EOB)相加(additivism)モデルに従った解析を示す図である。データは平均(4通り)±標準偏差(SD)として示される。
図11D】エラフィブラノールとGLP-1受容体アゴニストの組合せは、LPS活性化マクロファージにおけるTNFα分泌を相乗的に抑制する。エラフィブラノールとリラグルチドの間の代表的な相乗的組合せにおけるBliss超過(EOB)相加モデルに従った解析を示す図である。データは平均(4通り)±標準偏差(SD)として示される。
図11E】エラフィブラノールとGLP-1受容体アゴニストの組合せは、LPS活性化マクロファージにおけるTNFα分泌を相乗的に抑制する。エラフィブラノールとセマグルチドの間の代表的な相乗的組合せにおけるTNFα分泌をプロットした棒グラフである。データは平均(4通り)±標準偏差(SD)として示される。
図11F】エラフィブラノールとGLP-1受容体アゴニストの組合せは、LPS活性化マクロファージにおけるTNFα分泌を相乗的に抑制する。エラフィブラノールとリラグルチドの間の代表的な相乗的組合せにおけるTNFα分泌をプロットした棒グラフである。データは平均(4通り)±標準偏差(SD)として示される。
図12】エラフィブラノールとGLP-1受容体アゴニストの組合せは、TGFβ刺激肝星細胞におけるαSMA産生を相乗的に抑制する。組合せは、用量反応マトリックス方式で試験され、Bliss超過(EOB)相加モデルに従って解析された。代表的な相乗的組合せにおけるαSMA産生は、棒グラフ表示でプロットされた。データは平均(4通り)±標準偏差(SD)として示される図である。
図13A】NASH-B6マウスにおける3mg/kg/日のELAと0.02mg/kg/日のリラグルチドの組合せによる8週間の治療後の脂肪症に対する効果を示す図である。各マウスにおける精巣上体脂肪組織(EAT)の重量は、体重(BW)に対する比率として表記される。
図13B】NASH-B6マウスにおける3mg/kg/日のELAと0.02mg/kg/日のリラグルチドの組合せによる8週間の治療後のエネルギー消費量に対する効果を示す図である。
図14】NASH-B6マウスにおける3mg/kg/日のELAと0.02mg/kg/日のリラグルチドの組合せによる8週間の治療後の肝コラーゲン含有量に対する効果を示す図である。
図15】3mg/kg/日のELAと0.02mg/kg/日のリラグルチドの組合せによる8週間の治療後のNASH-B6マウスの肝臓における線維化遺伝子の発現に対する効果を示す図である。
図16】NASH-B6マウスにおける3mg/kg/日のELAと0.02mg/kg/日のリラグルチドの組合せによる治療前及び8週間の治療後の血中グルコース放出に対する効果を示す図である。
図17】エラフィブラノールは、高用量セマグルチドと同等レベルに血漿ALT濃度を低下させるまでにセマグルチドの効果を押し上げる。治療群におけるALTレベルをAMLN給餌ビヒクル群と比較して表記した図である。
図18】エラフィブラノールは、高用量セマグルチドと同等レベルに血漿CRP濃度を低下させるまでにセマグルチドの効果を押し上げる。治療群におけるCRPレベルをAMLN給餌ビヒクル群と比較して表記した図である。
図19】エラフィブラノールは、高用量セマグルチドによる肝臓の遺伝子シグネチャーを肝臓で再現するまでにセマグルチドの効果を押し上げる。各治療に対する遺伝子オントロジー(GO)カテゴリーエンリッチメントの-log10(調整p値)が示される図である。高値は、治療によるGOカテゴリーの高度なエンリッチメント、すなわちGOカテゴリーの多くの遺伝子が治療によって影響を受けることを示唆する。「0」値は、治療によってGOカテゴリーの僅かな遺伝子のみが調節を解除されたことを意味する。
【発明を実施するための形態】
【実施例
【0080】
化合物
エラフィブラノールは、Genfit社で合成された。セマグルチド及びリラグルチドは市販されていた。
エラフィブラノールを1%CMC+0.1%Tween80に溶解した。
セマグルチドを1%CMC+50mM Na2HPO4+70mM NaCl+0.05%Tween80に溶解した。
リラグルチドをリン酸緩衝生理食塩水(PBS1×)中0.1%BSAに溶解した。
【0081】
統計分析
統計的方法として、Shapiro-Wilk正規性検定を全ての未処理データに対して適用した。
正規分布の場合、固形飼料(Chow)とビヒクル(Veh)の比較を片側Studentのt検定(#)で行う。必要であれば、Welch(○)補正を適用することができる。
多重比較検定のために、一元配置ANOVA及びFisherの最小有意差(LSD)事後検定(*)を適用した。
他の場合、固形飼料とビヒクル(Veh)の比較を片側Mann-Whitney($)で行い、多重比較検定のために、Kruskall Wallis非補正Dunnの事後検定(§)を適用した。
Fisherの正確確率検定を用いて、分布(£)を比較した。
薬物の組合せの治療的相乗効果を、単剤最大効果の超過(HSA)モデル(片側統計的検定)を使用して評価した。
#/○/*/$/§/£/°:p<0.05
##/○○/**/$$/§§/££/°°:p<0.01
###/○○○/***/$$$/§§§/£££/°°°:p<0.001
【0082】
(実施例1)
雄DIO-NASHマウスにおけるエラフィブラノール単独又はセマグルチドとの組合せを用いた40日間の治療の食物摂取量及び体重調節に対する効果
動物モデル
エラフィブラノール単独、セマグルチド単独、及びその両方の組合せの効果は、DIO-NASHマウス(Amylin Liver NASHモデル食(AMLN)(Research Diet社、脂肪40%(トランス脂肪18%)、炭水化物40%(フルクトース20%)、及びコレステロール2%)を給餌されたC57BL6JRjマウス)(試験開始36週間前から)において評価された。41週齢の雄DIO-NASHマウスに、ビヒクル(n=12)、又はエラフィブラノール(10mg/kg/日)を添加したビヒクル、又はセマグルチド単独(10nmol/kg)(0.08mg/mLの増分を用いて5日間にわたり最終用量まで漸増)、又は組合せ(群あたりn=12)を与えた。
【0083】
体重を1日1回モニターした。食物及び水の摂取量を、1~2週目の間は1日1回モニターし、続く数週間の間は1週間に1回モニターした。
【0084】
血中グルコース、血漿インスリン、アラニントランスアミナーゼ、アスパラギン酸トランスアミナーゼ、トリグリセリド、総コレステロールの測定のために、プロトコールの間、尾静脈からの試料採取を行った。
【0085】
治療の最終日、心臓穿刺血液採取後に血漿サンプルを得て、マウスを屠殺した。生化学的及び組織学的分析のために、肝臓を速やかに摘出した。
【0086】
標準的プロトコールに従って、また実験動物の適切な取扱い及び使用の標準的推奨に従って、全ての動物の処置を実施した。
【0087】
体重及び食物摂取量
体重を1日1回モニターした。食物及び水の摂取量を、1~2週目の間は1日1回モニターし、続く数週間の間は1週間に1回モニターした。
【0088】
40日目の最終絶対体重を図1に示す。0日目と比較した40日目の相対的体重も図2に示す。体重は、エラフィブラノールとセマグルチドの組合せによって有意に減少した。
【0089】
生化学的分析
肝トリグリセリド含有量の測定
約100mgの凍結された肝臓組織を、15.4mM NaN3を含有する150mM NaCl緩衝液中で、組織ホモジナイザー(Precellys(登録商標)24、Bertin Technologies社、France)を用いて均質化した。ホモジネート中の脂質画分を、クロロホルム-メタノール(2:1、v/v)で抽出し、続いてトリグリセリドの測定を行った(Biolabo社、カタログ番号80019)。
【0090】
セマグルチド(10nmol/kg/日)を用いた治療は、このモデルにおける肝脂肪に対する顕著で有益な効果を有していた(図3)。セマグルチドとエラフィブラノールの組合せは、肝臓トリグリセリド含有量に対する有意な効果をもたらした。
【0091】
血糖の測定
製造業者の推奨に従い、Daytona automate(Randox社、カタログ番号GL3815)用のRandoxキットを使用して、血漿グルコースレベルを測定した。この方法は、サンプルのいかなる脱タンパクも行うことのない比色アッセイに基づいていた。簡潔に述べると、サンプルのグルコースオキシダーゼ消化は、過酸化水素の合成をもたらした。フェノール及び4-アミノフェナゾンの存在下で、この過酸化水素は、ペルオキシダーゼによって触媒され、色素:キノンイミンを形成した。この呈色強度は、グルコース濃度に正比例し、505nmで測定された。結果をmg/dLで表記した。
【0092】
エラフィブラノール(10mg/kg/日)単独及びセマグルチド(10nmol/kg/日)単独による治療は、このモデルにおける血糖に対する有益な効果を有さなかった(図4)。セマグルチドとエラフィブラノールの組合せは、血糖に対する顕著な効果をもたらした(図4)。
【0093】
インスリン血症の測定
Crystal Chem Inc.社(カタログ番号90010)からの固相2部位(two-site)酵素免疫測定法を使用して、血漿インスリンを測定した。簡潔に述べると、モルモット抗インスリン血清95μL及び希釈されたサンプル(又は標準品)5μLを、96-ウェルプレートのウェル毎に分注した。4℃で一晩のインキュベーション及び洗浄後、ペルオキシダーゼに結合された抗モルモット抗体100μLを加え、室温で1時間のさらなるインキュベーションによって反応が生じた。その後、酵素の基質100μLを分注し、続いて暗所にて室温で30分間のさらなるインキュベーションを行った。次に、停止液100μLを加えることによって反応を停止させ、450nmで吸光度を速やかに測定した(波長630nmを差し引く)。この呈色の強度は、試験開始時にサンプル中に存在するインスリンの量に比例し、標準血清を使用して算出された。結果をng/mLで表記した。
【0094】
セマグルチド(10nmol/kg/日)を用いた治療は、このモデルにおけるインスリン血症に対する顕著で有益な効果を有した(図5)。セマグルチドとエラフィブラノールの組合せは、インスリン血症に対する顕著な効果をもたらした(図5)。
【0095】
組織学
組織の包埋及び切片化:
肝臓スライスを、最初に、ホルマリン4%溶液で12時間固定した。次に、この肝臓小片を、PBSで30分間洗浄し、エタノール溶液で脱水した(連続する70、80、95、及び100%エタノール浴)。この肝臓小片を、3種の異なるキシレン浴(Sigma-Aldrich社、カタログ番号534056)中でインキュベートし、続いて2種の流動パラフィン浴(56℃)中でインキュベートした。次に、肝臓小片を枠の中に置き、この枠をHistowax(登録商標)で緩やかに満たしてこの組織を完全に覆った。組織を含有するパラフィンブロックを、枠から取り外し、室温で保存した。この肝臓ブロックを、3μmにスライスした。
【0096】
ヘマトキシリン/エオシン/サフラニン染色
肝臓切片を、脱パラフィンし、再水和して、Mayerのヘマトキシリン(Microm社、カタログ番号F/C0303)中で3分間インキュベートした。次に、肝臓切片を、水中ですすぎ、0.5%エオシンYアルコール溶液(VWR社、カタログ番号1.02439.0500)及び0.5%エリスロシン溶液(VWR社、カタログ番号1.15936.0010)中で1分間インキュベートし、エタノールですすいだ。次に、切片を、サフラニン中で2分間インキュベートし、最終的に脱水して、CV Mount培地(Leica社、カタログ番号046430011)を使用してマウントした。
【0097】
組織学的検査
各肝臓検体の採取源について盲検下の技術者が組織学的検査を実施した。3D HistechからのPannoramic250スキャナーを使用して、バーチャルスライドを作製した。各動物におけるNASHの主な組織学的病変を要約するスコアを、NASH Clinical Research Network(Kleiner、2005年、Brunt、1999年)に従って分類した。脂肪肝をスコア化した(0~3)。
【0098】
DIO-NASHマウスにおいて、NASHを誘導した。介入群の動物には、エラフィブラノール、セマグルチド、又は両方の化合物を、全試験期間中投与した。NASHの発生を組織学によって評価した。様々な関連するバイオマーカーに対する追加の生化学的分析及び分子分析も実施した。
【0099】
DIO-NASHマウスは、重度疾患の高い浸透性を有するNASH関連組織像を生じた。全動物において進行した脂肪肝が認められた。
【0100】
セマグルチドとエラフィブラノールの組合せは、脂肪肝の顕著な減少をもたらした(図6)。
【0101】
(実施例2)
雄DIO-NASHマウスにおけるエラフィブラノール単独及びセマグルチドとの組合せを用いた4週間の治療の食物摂取量及び体重調節に対する効果
動物モデル
エラフィブラノール単独、セマグルチド単独、及びその両方の組合せの効果は、DIO-NASHマウスにおいて評価された。42~44週齢の雄DIO-NASHマウスに、ビヒクル(n=6)、又はエラフィブラノール(10mg/kg/日)、又はセマグルチド単独、又は組合せを添加したビヒクル(群あたりn=6)を4週間与えた。組合せは、2つの用量のセマグルチドを用いて評価された:
- セマグルチド0.3nmol/kg
- セマグルチド1nmol/kg
【0102】
体重、食物、及び水の摂取量を、1日1回モニターした。治療の最終日に、眼窩後血液採取から血漿サンプルを得て、6時間の絶食期間後に、マウスを屠殺した。生化学的分析及び組織学的分析のために、肝臓を速やかに摘出した。
【0103】
標準的プロトコールに従って、また実験動物の適切な取扱い及び使用の標準的推奨に従って、全ての動物の処置を実施した。
【0104】
体重及び食物摂取量
体重を1日1回モニターした。食物及び水の摂取量を、28日間1日1回モニターした。
【0105】
累積食物摂取量の平均を図7Aに示す。全治療群、とりわけエラフィブラノールと用量が0.3又は1nmol/kgであるセマグルチドとの組合せにおいて、期間中、食物摂取量が安定していることがわかった。この効果によって、エラフィブラノールとセマグルチドの組合せは、セマグルチドの有害作用を軽減することが証明される。
【0106】
28日間の期間の最後における最終絶対体重を図7Bに示す。体重は、エラフィブラノールと試験した2つの用量のセマグルチドとの組合せによって有意に減少した。
【0107】
我々は、セマグルチドの用量が3~10分の1と少ない用量での、エラフィブラノールとセマグルチドの組合せの体重減少に対する有意な効果を発見した。更に、エラフィブラノールとセマグルチドの組合せは、NASHを含む多くの疾患における治療上の関心を示し、セマグルチドの有害作用を軽減する。
【0108】
(実施例3)
雄DIO-NASHマウスにおけるエラフィブラノール単独及びセマグルチドとの組合せを用いた12週間の治療のNASHに対する効果
動物モデル
雄C57BL/6JRjマウスに、試験開始35週間前からAMLN食を給餌した(DIO-NASHモデル)。生検にて脂肪肝(スコア≧2)及び線維症(スコア≧1)が確認されたマウスを、治療群(群あたりn=12~14)に無作為に割り当てた。マウスに、ビヒクル、エラフィブラノール(10mg/kg/日、経口投与)、セマグルチド(0.3nmol/kg/日、皮下投与)、又はエラフィブラノール及びセマグルチドの両方のいずれかを12週間投与した。本試験では、準最適薬物用量を使用した。SEMA誘発性過小食を回避するため、治療の最初の3週間の間、漸増プロトコールを適用した。
【0109】
治療の最終日、心臓穿刺血液採取後に血漿サンプルを得て、マウスを屠殺した。組織学的分析及び生化学的分析並びにトランスクリプトーム解析のために、肝臓を速やかに摘出した。
【0110】
標準的プロトコールに従って、また実験動物の適切な取扱い及び使用の標準的推奨に従って、全ての動物の処置を実施した。
【0111】
NASHの組織学的評価
実施例1に記載される通りに、肝臓切片を調製し、ヘマトキシリン、エオシン、サフラニン(HES)で染色した。NASHの組織学的特徴(脂肪肝、バルーニング、小葉炎症、及び線維症)は、実験群について盲検下の技術者によって、NASH Clinical Research Network Scoring System(Kleiner、2005年、Brunt、1999年)を用いて評価された。脂肪肝スコア、活性指数(肝細胞バルーニング+小葉炎症)、及びNAFLD活性スコア(NAS)を算出した。200x倍率を用いて、1視野あたりの炎症病巣数を計数した。
【0112】
組み入れ時、マウスは、重度のNASH表現型(NAFLD活性スコア(NAS)が5~7の間であり、線維症のステージが少なくとも2)であった。ELA/SEMAの組合せによる12週間の治療後に、NASは、マウスの14%で3ステージ下がり、マウスの44%で2ステージ下がった(図8A)。低用量のELA又は低用量のSEMAのいずれかを投与されたマウスのうち、NASが1ステージよりも低下したマウスはいなかった。この低下については、脂肪肝(図8B)及び活性指数(図8C)の両方における減少によって説明が付いた。肝臓の炎症病巣数は、とりわけ、組合せ治療によって減少した(-59%)(図8D)。
【0113】
生化学的分析
肝臓サンプルをホモジナイズし、加熱によってトリグリセリド(TG)を5%NP-40中に抽出した。製造業者の使用説明書に従って市販のキット(Roche Diagnostics社)及びCobas(商標)C-501自動分析装置を使用し、肝TG含有量に加えて、血漿アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)及びアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)レベルを測定した。血漿C反応性蛋白(CRP)濃度を、ELISA(Mouse C-Reactive Protein/CRP Immunoassay MCRP00、R&D Systems社)によって測定した。コラーゲンの主要成分であるヒドロキシプロリンの比色検出を用いて、肝コラーゲンを評価した(QZBhypro、Quickzyme社)。
【0114】
ALT及びASTは肝臓の酵素であり、その濃度は肝細胞が損傷している場合に血漿中で増加する。血漿CRPは、NASHのような軽度の炎症を伴う代謝性疾患で典型的に上昇する肝炎症のマーカーであり、臨床における心血管リスクと相関する。予想通り、血漿ALT、AST、及びCRPレベルは、47週間のAMLN食後に上昇した。興味深いことに、ELA/SEMA群において、血漿ALT(-60%)、AST(-56%)、及びCRP(-56%)の激減に加えて、肝臓のトリグリセリド(-56%)の激減も認められ、肝臓の組織像における効果を裏付けた(図9A図9D)。線維症の改善は、ELAを投与された動物で認められ、SEMAとの組合せは、肝コラーゲン含有量を更に減少させる傾向にあった(図9E)。
【0115】
トランスクリプトーム解析
製造業者の使用説明書に従ってNucleospin(登録商標)96 RNAキット(Macherey Nagel社)を使用して、マウスの肝臓から全RNAを単離した。Illumina NexSeq 500配列決定技術を用いて、肝臓におけるRNAseqデータを作成した(群あたりn=5)。これらのクオリティスコア(Phredスコア)の関数で、未処理のFASTQファイルを3'末端でトリミングする。使用されたパラメータは、末端の最低クオリティレベル25及び最低リード長50である。ソフトウエアSTARバージョン2.5.3を用いて、非整列のリードをハツカネズミ(Mus musculus)mm10参照ゲノムに整列させた。デフォルトパラメータを使用する。デフォルトパラメータを用いたfeatureCounts v1.5.3を使用して、カウント表を作成した。差次的に発現する遺伝子(DE遺伝子)を同定するために、R(バージョン3.5.3)及びDESEq2ライブラリー(v. 1.22.2)を使用した。簡潔に述べると、FeatureCountsによって作製されたカウントマトリックスを、DESeqDataSetFromMatrix()関数、続いてDESeq2ライブラリーからのDEseq()関数によって解析した。DESeq2からのresults()関数を使用して、各条件(すなわちELA/SEMAとAMLNの比較)における倍率変化及びp値を取得した。調整p値<0.01及び|倍率変化|>1.5を有する遺伝子は、DE遺伝子と判断された。キーとしてEnsembl IDを使用して、異なる表を統合した。biomaRtライブラリー(v. 2.38.0)を使用して、遺伝子アノテーションを取得した。条件毎のDE遺伝子の選択に関して、Metascapeを使用して、遺伝子オントロジー解析を実施した。
【0116】
完全な肝臓トランスクリプトームのリモデリングが立証された。ELA/SEMAの組合せ群では、2194遺伝子のセットが差次的な調節を受けたのに対し、ELA及びSEMAの単剤療法群では、それぞれ1140及び55遺伝子のセットが差次的な調節を受けた(図10A図10B)。SEMA治療のみが、脂質代謝に関連する遺伝子の発現に多少の影響を与えた。驚くべきことに、肝臓におけるELA/SEMAの組合せのトランスクリプトームシグネチャーは、炎症経路に対して特に強化されており、特に、骨髄細胞マーカーは、この組合せを投与された動物において選択的に低下していた(図10C図10D)。更に、いくつかの線維化遺伝子は、組合せ治療によって選択的に低下しており、線維化の進行を遅らせる組合せの治療上の利益を示唆した(図10E)。
【0117】
低用量のエラフィブラノールとセマグルチドの組合せは、AMLN食誘発性疾患モデルにおける重症のNASH表現型を軽減し、肝損傷マーカーを減少させる。トランスクリプトーム解析によって、ELA及びSEMAは、肝臓における炎症性浸潤を特に減少させ、線維形成を減弱することに相乗効果を示すことが明らかにされた。
【0118】
(実施例4)
エラフィブラノールとGLP-1受容体アゴニストの組合せは免疫細胞の活性化を相乗的に抑制する
LPS活性化マクロファージにおける組合せ処理
ヒトTHP-1単球を、384-ウェルプレートのウェルあたり25,000細胞の密度で、10%FBS、1%ペニシリン-ストレプトマイシン(Gibco社、15140122)、及び25mM Hepes(Gibco社、15630080)を添加したRPMI1640(Gibco社、21875)に播種し、PMA(ホルボール12-ミリステート13-アセテート、Sigma社、P8139)を最終濃度100ng/mLで24時間用いて、マクロファージに分化させた。
【0119】
2つの成分の組合せマトリックスを調製した。ELA及びGLP-1受容体アゴニストの原液を、96-ウェルプレートの横列に3ウェル連続(ELA)及びGLP1RAを縦列に8ウェル連続で、DMSO中に段階希釈した。続いて、全ての単剤濃度を1:1で混合することによって、3×8の組合せマトリックスを作製した。
【0120】
PMAを加えて24時間後、培地を除去し、無血清RPMIに交換した。次に、血清枯渇THP1マクロファージを化合物と共に24時間プレインキュベートし、続いて、リポ多糖LPS(大腸菌(E. coli)055 B5)(Sigma社、L6529)を加えて更に6時間インキュベートした。
【0121】
FRET(蛍光共鳴エネルギー転移(Fluorescence Resonance Energy Transfer))技術に基づくHTRF(均質時間分解蛍光(Homeogenoeus Time Resolved Fluorescence))技術(Cisbio社、62HTNFAPEG)を用いて、上清中のヒトTNFαを定量化した。HTRF(登録商標)試薬による検出のために、細胞上清、サンプル、及び標準品をアッセイプレートに直接分注した。HTRFドナー及びアクセプターで標識された抗体を予め混合し、単回分注ステップで加えた。665nmで検出されるシグナル強度は、形成された抗原-抗体複合体の数に比例し、このためTNFα濃度に比例する。4パラメータロジスティックモデルを用いてデータを当てはめることによって、7点検量線(39pg/mL~2500pg/mLの供給されたヒトTNFα)を得た。
【0122】
Bliss超過(EOB)方法を用いて、化合物間の相乗効果を判定した。まず、TNFαのHTRFアッセイで得られた値を、LPS対照に対するパーセント阻害率に変換した。次に、これらのパーセント阻害率を用いて、EOBを算出した。
【0123】
第一に、予想されるBliss相加スコア(E)を式:
E=(A+B)-(A×B)
(式中、A及びBは、所定の用量におけるエラフィブラノール(A)及びGLP-1アナログ(B)のパーセント阻害率である)によって求めた。同じ用量におけるBliss期待値と組み合わせたELA/GLP-1アナログの観察された阻害率の間の差異は、「Bliss超過」スコアである。
- Bliss超過スコア=0は、組合せ治療が(独立した経路の効果として予想される通り)相加的であることを示唆し、
- Bliss超過スコア>0は、相加的を上回る活性(相乗効果)を示唆し、
- Bliss超過スコア<0は、組合せが相加的を下回る(拮抗作用)ことを示唆する。
全てのEOBを加算して合計Blissスコアを算出した。
【0124】
NAFLD/NASHのような代謝性疾患は、軽度の炎症と関連する。免疫細胞の活性化によって、肝臓及び末梢器官(脂肪組織、膵臓等)の代謝機能を変化させるサイトカインが産生される。代謝性及び肝疾患において言及される腸管透過性は、肝臓及び末梢器官(脂肪組織)でマクロファージを活性化するLPSのような、血中の細菌成分を増加させる結果となる。実施例3におけるエラフィブラノールとセマグルチドの間の炎症経路に対する相乗効果から鑑みて、エラフィブラノールと様々なGLP-1受容体アゴニストが、LPSによるマクロファージ活性化を阻害することに相乗効果を示し得るのではないかということを検討した。マクロファージに分化したTHP1単球において、LPSによって約4倍に増加するTNFα分泌によって測定される通り、LPS処理はマクロファージを活性化させる(図11E図11F)。エラフィブラノール単独の最大効果は、1μMの用量で認められ、TNFα分泌の阻害率が85%に達した(図11B)。これに反して、GLP-1受容体アゴニストの最大効果は、セマグルチド及びリラグルチドについてTNFα阻害率が、それぞれ29%及び38%であった(図11A図11B)。in vivo(実施例3)で観察された通り、エラフィブラノールとセマグルチドの組合せは、低用量で炎症を軽減することに相乗効果を示す:0.07μMのエラフィブラノールは、0.7nMのセマグルチドと相乗効果を示して、TNFα分泌を56%低下させた(図11E)。驚くべきことに、0.1μMのエラフィブラノールは、リラグルチド(0.003nM)とも相乗効果を示して、TNFα分泌を83%低下させた(図11F)。
【0125】
これらの結果から、様々なGLP-1受容体アゴニストと相乗効果を示して、NASH及び代謝性疾患を含む多くの疾患で観察される炎症傾向を低減するエラフィブラノールの能力が示される。
【0126】
(実施例5)
エラフィブラノールとGLP-1受容体アゴニストの組合せは肝星細胞(HSC)活性化を相乗的に抑制する
TGFβ刺激HSCにおける組合せ治療
ヒト初代肝星細胞(hHSC)(Innoprot社)を、2%ウシ胎児血清(FBS、ScienCell社、カタログ番号0010)、1%ペニシリン/ストレプトマイシン(ScienCell社、カタログ番号0503)、及び星細胞増殖添加物(SteCGS、ScienCell社、カタログ番号5352)を添加したSTeCM培地(ScienCell社、カタログ番号5301)で培養した。付着性を良くするため、細胞培養フラスコをポリ-Lリジン(Sigma社、カタログ番号P4707)でコーティングした。
【0127】
2つの成分の組合せマトリックスを調製した。ELA及びGLP-1受容体アゴニストの原液を、96-ウェルプレートの横列に3ウェル連続(ELA)及びGLP-1受容体アゴニストを縦列に7ウェル連続で、DMSO中に段階希釈した。続いて、全ての単剤濃度を1:1で混合することによって、3×7の組合せマトリックスを作製した。
【0128】
続いて、細胞を、384-ウェルプレートに6500細胞/ウェルの密度で播種した。翌日、細胞培養培地を除去し、細胞をPBS(Invitrogen社、カタログ番号14190)で洗浄した。hHSCを無血清及び無SteCGS培地にて24時間枯渇させた。ELA、GLP-1受容体アゴニスト、及びそれぞれの組合せによる処理のために、無血清及び無SteCGS培地中の血清枯渇hHSCを、化合物と共に1時間プレインキュベートし、続いて、線維形成促進性刺激物質であるTGF-β1(PeproTech社、カタログ番号100-21、3ng/mL)を加えて更に48時間インキュベートした。
【0129】
FRET(蛍光共鳴エネルギー転移)技術に基づくHTRF(均質時間分解蛍光)技術(Cisbio社、62HTNFAPEG)を用いて、細胞溶解物中のヒトα-平滑筋アクチン(αSMA)を定量化した。HTRF(登録商標)試薬による検出のために、希釈した細胞溶解物、サンプル、及び標準品をアッセイプレートに直接分注した。HTRFドナー及びアクセプターで標識された抗体を予め混合し、単回分注ステップで加えた。620nmで検出されるシグナルに対する665nmで検出されるシグナル強度のHTRF比は、形成された抗原-抗体複合体の数に比例し、このためαSMA濃度に比例する。
【0130】
肝損傷後、静止状態のHSCは、α-SMA-陽性筋線維芽細胞への分化を特徴とする活性化の過程を経る。エラフィブラノールは、線維形成促進性サイトカインであるTGFβ1によって活性化されたhHSCにおける抗線維化活性を有する。3μMのELAによって、α-SMA産生が61%低下した(図示せず)。セマグルチド及びリラグルチド単独では、α-SMA産生を多少低下させるのみであった(セマグルチドの最大値-12%、リラグルチドの最大値-30%)。しかし、エラフィブラノールは、セマグルチド及びリラグルチドと相乗効果を示し、活性化HSCにおけるα-SMA産生を低下させる(図12)。相乗効果の最たる例のうちの1例は、0.3μMのELAと0.01μMのセマグルチドを用いることでαSMA産生の阻害率が84%に達している図12Eに示される。同様に、0.003μMのリラグルチド単独では、いかなる抗線維化活性も認められないが、0.1μMのエラフィブラノールに加えることで、αSMA産生を相乗的に低下させ、阻害率が62%にまで達した(図12F)。
【0131】
これらの結果から、エラフィブラノールとGLP-1受容体アゴニストは、線維形成を低下させることに相乗効果を示し、線維化性NASHに対する治療上の可能性を提示していることが明確になった。
【0132】
(実施例6)
食事誘発性NASHのマウスモデルにおけるエラフィブラノール単独及びリラグルチドとの組合せを用いた8週間の治療の脂肪症、血中グルコース、及び肝臓に対する効果
動物モデル
雄C57BL/6N Tacマウス(Taconic社、USA)に、試験開始31週間前からGAN食(D09100310 Research Diet社)を給餌し、NASH病状を誘発した(NASH-B6モデル)。治療前に、6時間の絶食期間後に、眼窩後副鼻腔穿刺によって血液を採取し、血漿ALT、AST、TIMPメタロペプチダーゼ阻害因子1(TIMP1、肝線維症の代理マーカー)を測定する。6時間の絶食期間後に、WellionVetグルコメーター(CALEA)を使用して、血中グルコースを尾静脈から直接測定した。FreeStyle Optium Neoケトメーター(ketometer)を使用して、ケトン体(KB)も尾静脈から直接測定した。マウスを、体重、血糖、ケトン血症、並びに血漿ALT、AST、及びTIMP1に基づき、治療群(n=10/群)に無作為に割り当てた。これらのマウスに、ビヒクル、エラフィブラノール(3mg/kg/日、経口投与)、リラグルチド(0.01mg/kg、1日2回、皮下投与)、又はエラフィブラノール及びリラグルチドの両方を8週間投与した。GLP-1受容体アゴニスト誘発性過小食を回避するため、治療開始の3週間の間、漸増プロトコールをリラグルチドに適用した(0.001mg/kg、1日2回で開始)。ビヒクル-投与の固形飼料-給餌のマウスを追加の対照とした(R03-10 U8211G10R、SAFE社)。
【0133】
治療期間中、体重及び食物摂取量を毎日モニターした。治療の最終日に、眼窩後副鼻腔穿刺血液採取後に血清サンプルを得て、マウスを屠殺した。組織学的、生化学的、及びトランスクリプトーム解析のために、肝臓を速やかに摘出した。精巣上体脂肪組織を計量した。
【0134】
標準的プロトコールに従って、また実験動物の適切な取扱い及び使用の標準的推奨に従って、全ての動物の処置を実施した。
【0135】
39週間のGAN給餌後、NASH-B6マウスは肥満になった(48g)。リラグルチドと組み合わせるか、又はリラグルチドと組み合わせずに、エラフィブラノールを用いた8週間の治療によって、体重が15%減少した(図示せず)。脂肪症は、エラフィブラノールによって減少し、組合せ治療では更に低下した(図13A)。本試験で使用された準最適薬物用量の恩恵で、リラグルチドによる過小食の影響はなかった(図13B)。
【0136】
生化学的分析
適切なQuickzymeキット(総コラーゲンアッセイ、カタログ番号QZB-totcol2)を使用して、肝コラーゲン含有量を決定した。このアッセイは、コラーゲンの三重ヘリックス中に主に認められる非タンパク質新生アミノ酸であるヒドロキシプロリンの検出に基づいている。このため、組織加水分解物中のヒドロキシプロリンを、(プロコラーゲン、成熟コラーゲン、及びコラーゲン分解生成物を区別することなく)組織内に存在するコラーゲンの量の直接的な尺度として使用することができる。ヒドロキシプロリンを添加する前に、95℃の6M HCl中で組織サンプルを完全に加水分解する必要がある。このアッセイによって、570nmで最大吸光度を有する色原体が生成される。結果をコラーゲンμg/mg肝臓として表記する。
【0137】
NASH-B6マウスは、全マウスにおける最大脂肪肝スコアである3、小葉炎症、及びコラーゲン沈着を特徴とする肝臓病変を発症した(図示せず)。単剤療法があまり効果を有さなかったのに対して、組合せ治療は顕著にコラーゲン含有量を低下させ(図14)、これは、これらの低用量では、組合せ治療のみが肝損傷を軽減することが可能であったことを示唆している。
【0138】
肝遺伝子発現解析
製造業者の使用説明書に従ってNucleospin(登録商標)96RNAキット(Macherey Nagel社)を使用して、マウスの肝臓から全RNAを単離した。5×RT緩衝液(Invitrogen社)中のM-MLV RT(モロニーマウス白血病ウイルス逆転写酵素(Moloney Murine Leukemia Virus Reverse Transcriptase))(Invitrogen社、カタログ番号28025)、10mM DTT(Invitrogen社)、10mM dNTPs(Promega社)、200ng pdN6(Amersham社)、及び40UのRNase阻害剤(Promega社)を用いて、全RNAをcDNAに逆転写した。次に、CFX96 Touch(商標)リアルタイムPCR検出システム(Biorad社)を用いて、定量的PCRを行った。簡潔に述べると、以下のプライマー配列を使用して、5μLの逆転写反応溶液、0.5μLのリバース及びフォワードプライマー(各々10mmol)、並びに12.5μLの2×iQ SYBR Green Supermix(BioRad社)を含有する全量25μLで96-WP型にて、PCR反応を実施した。
【0139】
【表1】
【0140】
サンプル中のハウスキーピング遺伝子としてのNONO遺伝子の発現を使用して、発現レベルを正規化した。PCR反応効率を100%に近づけ、相関係数を1に近づけるために、最良点(少なくとも3点)を選択することによって、検量線を描いた。ハウスキーピング遺伝子及び標的遺伝子(各標的遺伝子の具体的なPCR効率を考慮に入れる)の両方に対する検量線の方程式を使用して、発現レベルを決定した。
【0141】
予想通り、線維化遺伝子Col1a1の発現は、GANを給餌されたNASH-B6マウスにおいて誘発されていた(図15)。Col1a1発現は、エラフィブラノール治療によって減少し、リラグルチドとの組合せによって更に低下した。
【0142】
8週間の治療前及び治療後に、6時間の絶食期間後、WellionVetグルコメーター(CALEA)を使用して、血中グルコースを尾静脈から直接評価した。図16は、GAN食を給餌されたビヒクル群の血中グルコースの放出と比較した治療群の血中グルコースの放出を示す。本試験において、ELA(3mg/kg/日)及びリラグルチド(0.02mg/kg/日)は、血糖に対する効果がなかった。しかし、組合せ治療は、血糖を劇的に66%低下させた。
【0143】
これらの結果から、エラフィブラノールは、リラグルチドと相乗効果を示して、脂肪症を減少させ、肝臓病変を軽減し、線維形成を低下させ、グルコース恒常性を改善することも示され、2型糖尿病及びNASHを有する患者を治療するためのエラフィブラノールとGLP-1受容体アゴニストの間の組合せ療法の治療上の利益が明確にされた。この相乗効果は、GLP-1受容体アゴニストの治療用量の低下を可能にし、それによって、これらの有害作用を制限する。
【0144】
(実施例7)
エラフィブラノールは低用量のGLP1受容体アゴニストの効果を増強する
動物モデル
エラフィブラノール単独、セマグルチド(低用量及び高用量)単独、及びそれらの組合せの効果は、DIO-NASHマウス(Amylin Liver NASHモデル食(AMLN)(Research Diet社、脂肪40%(トランス脂肪18%)、炭水化物40%(フルクトース20%)、及びコレステロール2%)を給餌されたC57BL6JRjマウス)(試験開始35週間前)において評価された。生検にて脂肪肝(スコア≧2)及び線維症(スコア≧1)が確認されたマウスを、治療群(群あたりn=12)に無作為に割り当てた。マウスに、ビヒクル、エラフィブラノール(10mg/kg/日、経口投与)、低用量セマグルチド(0.3nmol/kg/日、皮下投与)、高用量セマグルチド(10nmol/kg/日、皮下投与)、又はエラフィブラノール(10mg/kg/日)とセマグルチド(0.3nmol/kg/日)の組合せのいずれかを投与した。
【0145】
治療の最終日、心臓穿刺血液採取後に血漿サンプルを得て、マウスを屠殺した。トランスクリプトーム解析のために、肝臓を速やかに摘出した。標準的プロトコールに従って、また実験動物の適切な取扱い及び使用の標準的推奨に従って、全ての動物の処置を実施した。
【0146】
血漿マーカー評価
製造業者の使用説明書に従ってCobas(商標)C-501自動分析装置を使用し、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)レベルを測定した。ELISA(マウスC反応性蛋白/CRP免疫測定法MCRP00、R&D Systems社)によって、C反応性蛋白(CRP)濃度を測定した。
【0147】
トランスクリプトーム解析及び遺伝子オントロジー解析
製造業者の使用説明書に従ってNucleospin(登録商標)96 RNAキット(Macherey Nagel社)を使用して、マウスの肝臓から全RNAを単離した。Illumina NexSeq 500配列決定技術を用いて、肝臓におけるRNAseqデータを作成した(群あたりn=5)。これらのクオリティスコア(Phredスコア)の関数で、未処理のFASTQファイルを3'末端でトリミングする。使用されたパラメータは、末端の最低クオリティレベル25及び最低リード長50である。ソフトウエアSTARバージョン2.5.3を用いて、非整列のリードをハツカネズミmm10参照ゲノムに整列させた。デフォルトパラメータを使用する。デフォルトパラメータを用いたfeatureCounts v1.5.3を使用して、カウント表を作成した。差次的に発現する遺伝子(DE遺伝子)を同定するために、R(バージョン3.5.3)及びDESEq2ライブラリー(v. 1.22.2)を使用した。簡潔に述べると、DESeqDataSetFromMatrix()関数、続いてDESeq2ライブラリーからのDEseq()関数によって、FeatureCountsにより作製されたカウントマトリックスを解析した。各比較(すなわちSEMA-10対AMLN、SEMA-0.3対AMLN、ELA対AMLN、ELA+SEMA-0.3対AMLN)において、差次的に発現する(DE)遺伝子の一覧を設定した。これに関して、DESeq2のlfcshrink()関数を使用し、以下のカットオフを使用して、DE遺伝子を選択した:|倍率変化|>1.5及び調整p値<0.05。デフォルトパラメータを用いて、これらの遺伝子一覧をmetascape分析に供した(https://metascape.org/gp/index.html#/main/step1)。
【0148】
各metascape分析を、Excelファイルとしてエクスポートした。readxlライブラリー(バージョン1.3.1)からのread_excel関数を用いて、ファイルをRVでインポートした。異なるファイルを共に組み合わせて、各比較に対する遺伝子オントロジー(GO)カテゴリーエンリッチメントの-log10(調整p値)を含む表を作成した。更に、各カテゴリーに関して、RNA-seq解析で見出されたDE遺伝子の数を、このGOカテゴリーにおける遺伝子の総数と比較した。少なくとも1つの比較において調整p値<0.01を有するGOカテゴリーのみを取得した。
【0149】
予想通り、GAN食は、肝機能検査として臨床で使用される肝障害のマーカーである血漿ALTのレベルを上昇させた。高用量(10nmol/kg/日)のセマグルチドは、ALTを劇的に74%低下させたのに対して、低用量のセマグルチド(0.3nmol/kg/日)は、効率が悪かった(図17)。驚くべきことに、エラフィブラノール及び低用量のセマグルチドを含有する組合せ治療は、ALTレベルを、高用量のセマグルチドによる治療と同程度に低下させ(-77%対-83%、p>0.05)、これは、組合せにおいて、セマグルチドが低用量で使用される場合に、エラフィブラノールがセマグルチドの効果を増強することを示唆している(図17)。
【0150】
同様に、ヒトにおける心血管疾患のリスクに関連するとも知られている炎症マーカーCRPのレベルは、高用量のセマグルチドでは43%減少したのに対し、低用量のセマグルチドは効率が悪かった(図18)。また、低用量セマグルチドとエラフィブラノールの組合せは、CRPレベルを、高用量のセマグルチドと同程度に低下させた(-47%対-43%、p>0.05)。
【0151】
この相乗効果を理解するため、エラフィブラノール、高用量セマグルチド、低用量セマグルチド、及びエラフィブラノールと低用量セマグルチドの組合せの間の肝遺伝子シグネチャーを比較した。Metascapeを用いて、肝臓に対するRNAseq及び経路解析を実施した。遺伝子オントロジー解析によって、高用量のセマグルチド(10nmol/kg/日)は、AMLNによって誘発された病理学的特徴、特に、炎症反応、サイトカイン(IL1、IL6)産生、免疫細胞の活性化及び遊走を元に戻したことが示される(図19)。低用量のSEMAは、これらの経路を元に戻すための効率が悪かった。エラフィブラノール(10mg/kg/日)は、炎症に結びつく遺伝子オントロジーカテゴリーに対する中程度の効果を有していたが、むしろPPARアゴニストの既知の効果である脂質代謝カテゴリーに影響を与えた。しかし、低用量セマグルチドとの組合せにおいて、エラフィブラノールは、脂質代謝におけるその有益な効果に加えて、高用量のセマグルチドの抗炎症遺伝子シグネチャーを戻した。
【0152】
これらの結果によって、エラフィブラノールは、肝損傷及び炎症に対するGLP-1受容体アゴニストの効果を増強し、GLP1受容体アゴニストの用量を低下させ、これによって、治療停止を招き得るそれらの副作用(悪心、下痢)を制限するといった興味深い治療上の利益を示すことが示される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8-1】
図8-2】
図9-1】
図9-2】
図9-3】
図10-1】
図10-2】
図10-3】
図11-1】
図11-2】
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図12-1】
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図12-3】
図13
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図16
図17
図18
図19
【配列表】
2022528549000001.app
【国際調査報告】