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特表2022-528556対象者の認知能力を強化又はリハビリするためのシステム及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-14
(54)【発明の名称】対象者の認知能力を強化又はリハビリするためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61H 1/00 20060101AFI20220607BHJP
【FI】
A61H1/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2021560137
(86)(22)【出願日】2020-03-24
(85)【翻訳文提出日】2021-10-21
(86)【国際出願番号】 IB2020052737
(87)【国際公開番号】W WO2020194180
(87)【国際公開日】2020-10-01
(31)【優先権主張番号】102019000004269
(32)【優先日】2019-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.BLUETOOTH
(71)【出願人】
【識別番号】521438526
【氏名又は名称】リストラティブ・ニューロテクノロジーズ・ソチエタ・ア・レスポンサビリタ・リミタータ
【氏名又は名称原語表記】RESTORATIVE NEUROTECHNOLOGIES S.R.L.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100189555
【弁理士】
【氏名又は名称】徳山 英浩
(72)【発明者】
【氏名】オリヴェーリ,マッシミリアーノ
【テーマコード(参考)】
4C046
【Fターム(参考)】
4C046AA13
4C046AA30
4C046AA33
4C046AA45
4C046BB10
4C046BB17
4C046CC01
4C046CC04
4C046DD01
(57)【要約】
対象者の認知能力を強化又はリハビリするためのシステム(9)は、対象者による視覚の摂動を誘導するように、視覚対象刺激(T)から来る光線を逸らす少なくとも1つのプリズムレンズ(12)を備える装着可能な光学機器(10)と、プリズムレンズ(12)を回転可能に支持する少なくとも1つのハウジングシート(14)とを備える。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者の認知機能の強化又はリハビリテーションのためのシステム(9)であって、
視覚対象刺激(T)を表示するスクリーン(16)と、
前記スクリーン(16)の領域上の可変位置に、前記対象者が視認可能な所定の順序の視覚対象刺激(T)を生成するようにプログラムされた電子画像生成ユニットと、
前記対象者による視覚対象刺激(T)の照準を検知するように配置された照準センサ手段と、
前記対象者によって装着可能な光学機器(10)であって、前記対象者による前記視覚対象刺激(T)の視覚の摂動を誘導するように、前記視覚対象刺激(T)から来る光線を逸らすように構成された少なくとも1つのプリズムレンズ(12)と、前記少なくとも1つのプリズムレンズ(12)を回転可能に支持するように構成されたハウジングシート(14)とを有する光学機器(10)と、
各視覚対象刺激(T)に関連して、対象者による照準動作及び/又は照準位置を記録するために配置された記録手段と、
前記視覚対象刺激(T)の表示された位置に対する前記照準位置の偏向量を決定する処理手段と、
前記対象者の認知プロファイルを示すデータと、前記対象者に対する所定の治療効果に関連する前記対象者による視覚対象刺激(T)の視覚の摂動を誘導するように構成された少なくとも1つのプリズムレンズ(12)の向きとを記憶するように構成された記憶手段と、
を備え、
前記処理手段は、前記対象者の認知プロファイルに応じて、前記所定の治療効果を誘導するために前記少なくとも1つのプリズムレンズ(12)のどの向きが必要かを決定するように配置されている、システム。
【請求項2】
前記処理手段は、前記視覚対象刺激(T)の表示位置に対する照準位置の偏向量と、前記記憶手段によって記憶された認知プロファイルの関数として前記対象者に対する所定の治療効果に関連する所定の摂動と、を比較するように配置されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記処理手段は、所定の治療効果に関連する前記対象者による視覚対象刺激(T)の前記所定の視覚の摂動を誘導するように、少なくとも1つのプリズムレンズ(12)を配向するために、前記光学機器(10)と相互作用するように配置されている、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記対象者の認知プロファイルは、前記対象者の健康状態及び/又は前記対象者が感じる障害を示す情報を含む、請求項1~3のいずれか1つに記載のシステム。
【請求項5】
前記電子画像生成ユニットは、前記スクリーン(16)の領域上の中央位置、前記スクリーン(16)の第1の側部に属する位置、及び前記スクリーン(16)の垂直方向の対称軸に関して前記第1の側部とは反対側の第2の側部に属する位置に、前記視覚対象刺激(T)を交互に生成するようにプログラムされている、請求項1~4のいずれか1つに記載のシステム。
【請求項6】
前記照準センサ手段は、マウス又は前記スクリーン(16)の触覚面を有する、請求項1~5のいずれか1つに記載のシステム。
【請求項7】
前記電子画像生成ユニットは、前記処理手段によって制御され、可変時間、又は前記処理手段が視覚対象刺激(T)の表示位置に対する前記照準位置の略一致を決定する間、視覚対象刺激(T)をスクリーン(16)に表示する、請求項1~6のいずれか1つに記載のシステム。
【請求項8】
前記少なくとも1つのプリズムレンズ(12)は、前記視覚対象刺激(T)から来る前記光線の決められた波長をフィルタ処理するように配置されている、請求項1~7のいずれか1つに記載のシステム。
【請求項9】
前記少なくとも1つのプリズムレンズ(12)は、620nmから750nmの間に含まれる範囲の波長の光放射、又は450nmから480nmの間に含まれる範囲の波長の光放射のみをフィルタ処理するように配置されている、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記装着可能な光学機器(10)は、前記少なくとも1つのプリズムレンズ(12)を回転可能に支持するように構成された前記ハウジングシート(14)を有するフレーム(10a)を備える一対の眼鏡である、請求項1~9のいずれか1つに記載のシステム。
【請求項11】
前記装着可能な光学機器(10)は、少なくとも1つの統合されたプリズムレンズ(12)を有するバーチャルリアリティビューアである、請求項1~9のいずれか1つであるシステム。
【請求項12】
前記視覚対象刺激(T)は、円形の画像、アルファベットの文字、数字、単語、図面のうちの少なくとも1つを含む、請求項1~11のいずれか1つに記載のシステム。
【請求項13】
前記電子画像生成ユニットは、10Hz又は40Hzの周波数を有する前記視覚対象刺激(T)を表す信号を前記光学機器(10)に送信するように配置されている、請求項1~12のいずれか1つに記載のシステム。
【請求項14】
音響刺激の電磁信号を生成する電子ユニットを備え、
前記電子ユニットは、音響刺激の電磁信号を前記装着可能な光学機器に連結された受信手段に送信するように配置され、
前記受信手段は、前記視覚対象刺激と相補的な方法で対象者をコンディショニングするために、前記音響刺激の電磁信号を、前記対象者が聴取可能な少なくとも1つの周波数の少なくとも1つの音響刺激に変換するように構成されている、請求項1~13のいずれか1つに記載のシステム。
【請求項15】
前記対象者が聴取可能な前記周波数は、40~80Hzの間で変化する周波数である、請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
前記装着可能な光学機器に連結された前記受信手段は、片耳音響刺激及び/又は両耳音響刺激を発するように制御される、請求項14に記載のシステム。
【請求項17】
対象者の認知能力を強化又はリハビリするための方法であって、
a)請求項1~16のいずれか1つに記載のシステムを準備するステップと、
b)対象者の認知プロファイルを示すデータを記憶するステップと、
c)前記対象者に対して達成すべき治療効果を予め決定するとともに、前記認知プロファイルに従って、前記対象者の所定の治療効果に関連する前記対象者による視覚対象刺激(T)の視覚の摂動を誘導するように構成された少なくとも1つのプリズムレンズ(12)の向きを示すデータを記憶するステップと、
d)視覚対象刺激(T)を生成するとともに、前記視覚対象刺激(T)をスクリーン(16)上で視認可能にするステップと、
e)前記対象者による前記視覚対象刺激(T)の照準を検知するステップと、
f)各視覚対象刺激(T)に関連して、前記対象者による照準動作及び/又は照準位置を記録するステップと、
g)前記視覚対象刺激(T)の表示位置に対する前記照準位置の偏向量を、視角の度合いで決定するステップと、
h)前記認知プロファイルに従って、前記対象者の所定の治療効果に関連する前記所定の摂動を誘導するように構成された、少なくとも1つのプリズムレンズ(12)の向きを決定するステップと、
を含む方法。
【請求項18】
前記視覚対象刺激(T)の表示位置に対する前記照準位置の偏向量と、前記記憶手段によって記憶された前記認知プロファイルの関数として前記対象者に対する所定の治療効果に関連する所定の摂動と、を比較するステップを含む、請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、医療用リハビリテーション機器の分野に関するものであり、特に、本発明は、患者の認知機能の強化及び/又は免疫反応の調節のためのシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
神経学的な問題に関連する障害の発生率及び程度が知られている。ヨーロッパに限って言えば、現在までに人口の38%が、てんかん、パーキンソン病、アルツハイマー病、多発性硬化症、脳卒中、頭痛などの神経疾患に苦しんでいると推定されている。これらの疾患は、患者本人だけでなく、その家族の生活にも大きな影響を与え、経済的にも社会福祉的にも大きな影響を与える疾患である。
【0003】
これらの病気は非常に重要である。ヨーロッパでは、神経疾患の負担は、一般医療費の約3分の1に相当すると言っても過言ではない。
【0004】
このような理由から、また、神経疾患の世界的な広がり及び影響から、神経疾患は、真の社会病といえる。数多くの国際的な疫学調査によると、今後20年間で認知症患者数が劇的に増加し、その大部分が発展途上国に集中すると予測されている。
【0005】
一方で、脳の特定の部位の活動やそれに伴う認知プロセスと免疫反応との間に関連性があることが科学的に示唆されている。
【0006】
そのためには、患者の能力を維持又は回復させるためのリハビリテーションを実施することが必要である。
【0007】
心拍数、呼吸、動き、皮膚電気活動などの信号を測定可能な生理的機能をモニタする装着可能な機器はあるが、認知機能を直接、非侵襲的に調整することはできない。
【0008】
一方、これらの機能のリハビリテーション/強化のために使用される手順は、コンピュータ化されたエクササイズの繰り返しに基づいているが、このエクササイズは、脳の可塑性に間接的な影響を与えるため、非常に集中的且つ長時間の使用が必要となる。
【0009】
斜視、複視、眼性収束機能不全、視野障害(半盲症)、片側の脳損傷による空間的注意障害などの矯正にプリズムを使用する方法が知られているが、これは右大脳半球を犠牲にすることが多い。
【0010】
光学プリズムは、平行ではない2つの平面で区切られた透明な手段である。2つの平面は、交差して屈折角を形成する。これらの屈折面が交差するプリズムの薄いエッジを頂部、厚いエッジを底部という。プリズムを通過した光線は、その底部に向かって偏向するので、物体がプリズムの頂部に向かって、見かけ上の変位現象が発生する。
【0011】
プリズムレンズを利用して、視覚対象刺激とユーザによる照準動作との間の偏向の度合いを評価する解決策の例が、米国特許公報2015/320350号明細書から知られている。
【0012】
しかしながら、この解決策は、脳の障害によるユーザの機能不全の動きを検知し、その起源を区別するためにのみ設計されており、リハビリテーションの意図には適していない。実際、前述の先行技術文献に係るシステムは、ユーザの照準動作と視覚対象刺激とのずれを記録することに限定されており、ユーザの適応を誘導するものではない。
【0013】
従って、複数の障害の治療のためにプリズムを使用する手順は知られているが、短期及び長期の記憶や言語などの重要な認知機能のリハビリテーション及び/又は強化のためのものは存在しない。実際、これらのニーズに応えるシステムや手順、認知機能の向上を利用して免疫反応を調整するシステムや手順は存在しない。
【発明の概要】
【0014】
本発明の目的は、上述の問題を解決することにある。
【0015】
この結果を得るために、本発明は、少なくとも1つのプリズムレンズを回転可能に支持する装着可能な光学機器によって誘導される、生理的信号(視覚)の「摂動」の誘導を通じて、注意、言語、運動技能、短期記憶及び長期記憶などの広範囲の認知機能を非侵襲的に変調するシステム及び方法を提案する。
【0016】
このような空間的な摂動は、その影響を補うために神経回路の再調整を促す。この再調整が脳の可塑性プロセスを誘導し、その特異性は対象者が行う手順/タスクに依存する。実行される認知タスクは、システムと連動して動作するソフトウェアアプリケーションによって管理される。
【0017】
このようにして、ユーザの適応ステップ(装着可能な光学機器による空間的な歪みの誘導中)及び適応後のステップ(空間的な後の歪み)を誘導することが可能であり、その結果、対象者の能力の有益な調整が得られる。
【0018】
本装置の変形例では、空間的な歪みにおいてより没入感のある体験を可能にするために、バーチャルリアリティビューアにプリズムが組み込まれる。
【0019】
本装置の更なる変形例では、特定の波長の光をフィルタ処理し、特定の認知機能(例えば、625~585nmの波長に関連する機能)の強化を最適化するために、着色されたプリズムレンズ(例えば、オレンジ色)を使用することが考えられる。
【0020】
以下に、本発明に係るシステムを使用したリハビリテーションの手順の一例を示し、その技術的効果及び達成可能な利点を説明する。実際、対象者は、例えばスクリーン(コンピュータのモニタ、タブレットやスマートフォンなどの携帯機器)の中央の位置に表示されるか、或いは、可変角度(好適には最大21°)で右又は左に配置された、様々なタイプの刺激に対して(指やマウスなどで)照準を合わせる動作をするように求められる。対象者は、プリズムによって誘導される空間的なずれを克服して、できる限り正確に対象物にヒットするように求められる。照準動作は、体幹の正中矢状面にほぼ対応する中央空間(0°)の開始位置から行うと簡便である。
【0021】
システムは、対象者が中央の刺激に向かって右の空間又は左の空間で照準動作を行うように設定されている。使用する機器に応じて、照準動作は、マウスを用いて行われたり、タッチスクリーンを備えた機器を使用する場合は手の指を使って行われたりしてもよい。また、視角で測定される偏向量は、例えば、視覚刺激を表示するのと同じアプリケーションによって記録されてもよい。
【0022】
到達すべき刺激は、強化/回復すべき認知機能に応じて、円形の刺激、英数字、数字、単語など、様々な種類の刺激であってもよい。
【0023】
空間の様々な位置での各刺激の提示は、対象者が行った動作で刺激に到達したとき又は可変の時間間隔の後に刺激が消失し、可変の時間間隔の後に次の刺激が出現するというように、時間が決められてもよい。
【0024】
本発明に係るシステムは、適応後のステップで使用されてもよく、対象者は、空間的な歪みがもはや存在しない状態で、例えば、ディスプレイスクリーンの中央に位置する刺激(0°)に向かって、右に位置する刺激(好適には最大21°の偏倚)に向かって、左に位置する刺激(好適には、最大21°の偏倚)に向かって、照準動作を行ってもよい。視野内の画像の動きに以前から適応していた結果、視野の初期の偏向とは反対側の空間に注意を移す現象が見られる。例えば、頂部が右に位置するプリズムレンズを使用し、画像が右に移動したように見える場合、適応後のステップでは、対象者の注意が左に移動し、その結果、視覚対象刺激に対する対象者の照準動作が左に移動したことを記録することが可能になる。頂部が左に位置するプリズムレンズで初期の適応を行い、画像を左に移動させた場合には、逆の偏向(すなわち、右の空間に向かう)が認められる。
【0025】
更に、このシステムは、コンピュータ、タブレット、スマートフォンなどの異なるデバイスで刺激を提示するソフトウェアと関連してもよい。当該ソフトウェアは、強化すべき認知機能に応じて提示する刺激の種類を選択してもよく、プリズムレンズの底部と頂部との位置は、ユーザによって直接設定されてもよい。
【0026】
本発明に係るシステムの目的は、以下でより特定されるモードに応じた空間的な歪みの誘導を可能にすることで、頭部外傷、脳卒中、失読症や計算障害などの発達障害などの脳の病態に伴う広範な認知能力の障害を強化することができ、既存のリハビリテーションの手順よりも脳の適応性に直接作用し、認知リハビリテーションの効果を高め、時間を短縮することにある。
【0027】
上記及びその他の目的と利点は、本発明の一態様に係る、請求項1で定義された特徴を有する認知機能の強化又はリハビリテーションのためのシステム及び方法によって達成される。本発明の好適な実施形態は、従属請求項に定義される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
次に、本発明に係る認知機能強化又はリハビリテーションのためのシステム及び方法の幾つかの好適な実施形態の機能的及び構造的特徴について説明する。以下、添付の図面を参照して説明する。
【0029】
図1】本発明の一実施形態に係るシステムの一部を形成する装着可能な光学機器の概略斜視図である。
図2図1の光学機器の分解斜視図である。
図3】本発明の実施形態に係るシステムとインターフェースで接続するユーザの概略図である。
図4】本例では対象者に対して42°の視覚的円弧に沿って提示される、視覚対象刺激を生成する方法の概略図である。
図5a】対象者の片耳及び両耳を刺激するための音響刺激を生成する方法の模式図である。
図5b】対象者の片耳及び両耳を刺激するための音響刺激を生成する方法の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の複数の実施形態を詳細に説明する前に、本発明は、その適用において、以下の説明に提示された又は図面に示された構成要素の構造の詳細及び構成に限定されないことに留意すべきである。本発明は、他の実施形態を採ることができ、異なる方法で実施又は実質的に実施されてもよい。また、フレーズや用語は説明のためのものであり、限定的に解釈されるものではないことは理解されるべきである。
【0031】
例として図1を参照すると、対象者の認知能力を強化又はリハビリするためのシステム9は、対象者が装着可能な光学機器10を備えている。光学機器10は、対象者による視覚対象刺激Tの視覚の摂動を誘導するような方法で、視覚対象刺激Tから来る光線を逸らすように構成された少なくともプリズムレンズ12を有する。
【0032】
装着可能な光学機器10は、少なくとも1つのプリズムレンズ12を回転可能に支持するように構成された、プリズムレンズ12のためのハウジングシート14を備えている。
【0033】
プリズムレンズ12は、ハウジングシート14内に回転可能に収容されたリングナット又はリング13に連結されてもよい。
【0034】
システムは、投影スクリーン、コンピュータモニタ、又はタブレットなどの視覚対象刺激Tを表示するためのスクリーン16と、対象者の視線を集中させることを目的とした所定の順序の視覚対象刺激Tを、スクリーン16の領域上の可変位置に生成するようにプログラムされた電子画像生成ユニットと、対象者による視覚対象刺激の照準を検知するように配置された照準センサ手段(照準は、例えば、対象者がマウスや指を使って行うことができる)と、各視覚対象刺激Tに関連する対象者による照準動作及び/又は照準位置を記録するように配置された記録手段と、視覚対象刺激Tの表示位置に対する前記照準位置の偏向量を決定するための処理手段と、を更に備えている。例として、そのような偏向量は、視角の度合いで決定されてもよく、及び/又は、対象者の視線が視覚対象刺激Tの表示位置に対して偏向するスクリーン16の側を検知することを含んでもよい(例えば、対象者の視線が視覚対象刺激Tの表示位置に対して右又は左により多く偏向すると仮定する)。
【0035】
また、対象者の認知プロファイルを示すデータと、対象者に対する所定の治療効果に関連する対象者による視覚対象刺激Tの視覚の摂動を誘導するように構成された少なくとも1つのプリズムレンズ12の向きと、を記憶するように構成された記憶手段が設けられている。
【0036】
処理手段は、対象者の認知プロファイルに応じて、所定の治療効果を誘導するために、少なくとも1つのプリズムレンズ12のどの向きが必要かを決定するように配置されている。言い換えれば、処理手段は、認知プロファイルと、当該認知プロファイルに機能的な治療効果を達成するように構成されたプリズムレンズ12の向き又は調整と、を関連付ける。
【0037】
対象者の認知プロファイルは、対象者の健康状態及び/又は対象者が感じる障害を示す情報を含む。対象者の認知プロファイルは、データが記憶手段に事前にロードされるように、処理の前に利用可能であってもよい。或いは、対象者の認知プロファイルは、処理手段によって取得され、視覚対象刺激Tに対する対象者の応答が処理手段によって処理されてもよい。処理手段は、認知プロファイルを示すデータを導出し、当該データは、記憶手段に記憶されてもよい。一般的に、対象者の認知プロファイルは、対象者への質問、臨床的な過去の検査などの神経心理学的及び認知的なテストによって取得され、記憶手段によって記憶可能な一連の情報にコード化される。
【0038】
達成すべき治療効果は、対象者の認知プロファイル(注意力、言語、運動能力、短期及び長期記憶などの能力の強化又はリハビリテーション)に応じて事前に決定される。所望の治療効果は、(本明細書の続きで例として示されている方法に係る)対象者による視覚対象刺激Tの視覚に対応する摂動を誘導することができる少なくとも1つのプリズムレンズ12の向き又は調整の度合いと関連している。処理手段は、対象者の認知プロファイルと所望の治療効果とを比較することによって、少なくとも1つのプリズムレンズ12に与えられるべき最適な向きを決定する。
【0039】
処理手段は、視覚対象刺激Tの表示位置に対する照準位置の偏向量と、記憶手段によって記憶される認知プロファイルの関数として対象者に対する所定の治療効果に関連する所定の摂動とを比較するように配置されてもよい。このようにして、例えば、対象者の認知プロファイルを取得し(及び/又は所望の治療効果を達成するためにプリズムレンズ12の向きを決定し)、対象者の反応と期待される治療効果との対応関係を検証することが可能となる(また、この対応関係が不十分である場合、処理手段は、少なくとも1つのプリズムレンズ12の向きをどのように修正すべきかを決定し得る)。
【0040】
一実施形態によれば、処理手段は、所定の治療効果に関連する対象者による視覚対象刺激Tの所定の視覚の摂動を誘導するように、少なくとも1つのプリズムレンズ12を配向させるために、光学機器10と相互作用するように配置される。したがって、処理手段によって操作され、それぞれのハウジングシート14内でプリズムレンズ12を回転させるように構成されたアクチュエータ手段(図示せず)が存在してもよい。スクリーン16の領域上の中央位置、スクリーン16の第1の側部に属する位置、及び垂直方向の対称軸に関して第1の側部とは反対側のスクリーン16の第2の側部に属する位置には、電子画像生成ユニットが、交互に視覚対象刺激Tを生成するようにプログラムされてもよい。
【0041】
なお、照準センサ手段は、マウスや、スクリーン16の触覚面を備えてもよい。
【0042】
更に、電子画像生成ユニットは、前記処理手段によって制御され、可変時間、又は前記処理手段が視覚対象刺激Tの表示位置に対する前記照準位置の略一致を決定する間、視覚対象刺激Tをスクリーン16上に表示する。
【0043】
一実施形態によれば、少なくとも1つのプリズムレンズ12は、視覚対象刺激Tから来る光線の決められた波長をフィルタ処理するように配置される。例えば、少なくとも1つのプリズムレンズ12は、赤、オレンジ、又は青の色に対応する電磁スペクトルの区間に属する光線の前記波長を透過するように配置されてもよい。好ましくは、少なくとも1つのプリズムレンズ12は、620nmと750nmとの間に含まれる範囲の波長の光線、又は、450nmと480nmとの間に含まれる範囲の波長の光線のみをフィルタ処理するように配置される。
【0044】
好適な実施形態によれば、装着可能な光学機器10は、一対の眼鏡であり、少なくとも1つのプリズムレンズ12のハウジングシート14を有するフレーム10aを備えている。フレーム10aは、一対のプリズムレンズ12を回転可能に支持するように構成されてもよい。
【0045】
フレーム10aは、ハウジングシート14を収容する1以上の横フレーム10cが連結された中央本体10bと、着用者の快適性を高めるために中央本体10bに連結可能な内側ゴム10dと、一旦着用されたプリズムレンズ12を支持する1以上のテンプル10eと、のうちの1以上の構成要素を備える。
【0046】
代替的な実施形態によれば、装着可能な光学機器10は、少なくとも1つの統合されたプリズムレンズ12を有するバーチャルリアリティビューアである。
【0047】
視覚対象刺激Tは、円形の画像、アルファベットの文字、数字、単語、図面の少なくとも1つであってもよい。
【0048】
一実施形態によれば、電子画像生成ユニットは、10Hz乃至40Hzの周波数の視覚対象刺激Tに対応する信号を光学機器10に送信するように配置される。
【0049】
更なる実施形態によれば、前記システムは、音響刺激の電磁信号を生成する電子ユニットを備える。電子ユニットは、音響刺激の電磁信号を、装着可能な光学機器に連結された受信手段(図示せず)に送信するように配置されている。受信手段は、視覚対象刺激と相補的な方法で対象者をコンディショニングするために、音響刺激の電磁信号を、対象者が聴取可能な少なくとも1つの周波数の少なくとも1つの音響刺激に変換するように構成されている。
【0050】
例えば、受信手段は、光学機器10のテンプル10eの一方又は両方に取り付け可能であるか、又は一体化されてもよく、便宜上、テンプル10eに組み込むことができるバッテリによって電力供給されてもよい。受信手段は、音響刺激をユーザの耳に送信するように構成されたヘッドセット(例えば、Bluetoothタイプのもの)と関連してもよい。
【0051】
任意で、装着可能な光学機器に連結された受信手段は、片耳音響刺激及び/又は両耳音響刺激を発するように制御される。一実施形態によれば、対象者が聴取可能な周波数は、40Hzから80Hzの間で変化する周波数である。
【0052】
図5a及び図5bに示すように、例えば、440Hzの周波数の音Aと480Hzの周波数の音Bという異なる周波数の音を受信手段に送信することよって、結果として40Hzの周波数の音Cを得ることで、左右の片耳刺激(図5a)を得ることが可能である。同様に、480Hzの周波数で音A,Bを送信することによって、同時の両耳刺激(図5b)を得ることが可能である。この場合も、結果として40Hzの周波数で音Cが得られる。
【0053】
本発明に係るシステムを使用することができるリハビリテーションの手順の幾つかの例を、このシステムの効果及び可能性をより十分に説明するために、以下に示す。
【0054】
右大脳半球の興奮性を高めるために、例えば、プリズムレンズ12を回転させて頂部が右側に位置するように、すなわち、左のプリズムの頂部が鼻側(内側)の位置に、右のプリズムの頂部が側頭側(外側)の位置に位置するようにすることで、右の空間に向けて視野の偏向を誘導することが可能である。適応ステップは、便宜的に、円形の刺激(例えば、視角約1°の直径を有する)に向けた照準動作で行われる。適応後のステップは、常に同じ刺激に向けた照準動作で行われてもよい。適応後のステップにおいて、対象者は、左の空間に向かって偏向し、これにより右半球の興奮性が増加する。
【0055】
同様に、左大脳半球の興奮性を高めるために、例えば、プリズムレンズ12を回転させて頂部が左側に位置するように、すなわち、左のプリズムの頂部が側頭部側(外側)の位置に、右のプリズムの頂部が鼻側(内側)の位置に位置するようにすることで、左の空間に向けて視野の偏向を誘導することが可能である。適応ステップは、円形の刺激(直径:視角約1°)に向けた照準動作で行われる。適応後のステップは、常に同じ刺激に向けた照準動作で行われてもよい。適応後のステップにおいて、対象者は、右の空間に向かって偏向し、これにより左半球の興奮性が増加する。
【0056】
また、上述のように視野の偏向を誘導することによって、時間間隔の過小評価を引き起こすことも可能である。適応ステップは、対象者の体幹の中央矢状面に対して中央の位置に、ソフトウェアでランダムに選択された一定時間、約2000msの便宜的に円形の刺激(例えば、視角約1°の直径を有する)を提示することによって行われてもよい。対象者は、この刺激に向かって照準動作を行うことが求められる。この刺激は、"標準刺激"と呼ばれる。後続の刺激は、最初の刺激と同じ視覚特性を有し、便宜的にソフトウェアによってランダムに選択された可変の持続時間を有し、最小の差が200ms、最大の差が400msで、標準刺激よりも低く又は高く、常に中心に位置するように提示される。これらの刺激は、「テスト」刺激と呼ばれる。この手順において、対象者は、テスト刺激の持続時間が標準刺激の持続時間よりも短いと判断した場合には、左の空間(好適には、最大-21°)に位置する固定刺激(例えば、視角の約1°の高さを有する縦棒)に向かって照準運動を行い、テスト刺激の持続時間が標準刺激の持続時間よりも大きいと判断した場合には、右の空間(好適には、最大+21°)に位置する刺激に向かって照準動作を行う必要がある。
【0057】
適応後のステップは、上述の手順に従って、常に同じ刺激に向けた照準動作で行われてもよい。適応後のステップにおいて、対象者は、左の空間に向けて偏向し、時間的に過小評価の効果を決定することになる。
【0058】
また、視野の偏向を誘導することによって、音韻的又は意味的な言語流動性の促進を誘導することも可能である。適応ステップは、例えば、プリズムレンズ12を回転させて頂部が左側に位置するように、すなわち、左のプリズムの頂部が側頭部側(外側)の位置に、右のプリズムの頂部が鼻側(内側)の位置にするようにすることで、左の空間に向けて視野の偏向を誘導することで行われる。適応ステップの間及びその後、対象者は、アルファベットの文字が表示されているスクリーンの様々な位置に向けての照準動作によって、特定のアルファベットの文字で始まる単語や特定の意味のカテゴリに対応する単語を構成する、言語及び音韻の流暢性のタスクを行うことができる。
【0059】
言語的短期記憶の促進を誘導するために、適応ステップは、例えば、レンズを回転させて頂部が左側に位置するように、すなわち、左のプリズムの頂部が側頭部側(外側)の位置に、右のプリズムの頂部が鼻側(内側)の位置に位置するようにすることで、左の空間に向けての視野の偏向を誘導することによって行われる。適応ステップの間及び後に、対象者は、前述の刺激が存在するスクリーンの様々な位置に向けての照準動作によって、以前に表示された数字や記号の増加する順序を再現するタスクを実行することができるようになる。
【0060】
空間的短期記憶の促進を誘導するために、適応ステップは、例えば、レンズを回転させて頂部が右側に位置するように、すなわち、左のプリズムの頂部が鼻側(内側)の位置に、右のプリズムの頂部が側頭部側(外側)の位置に位置するようにすることで、右の空間に向けての視野の偏向を誘導することによって行われる。適応ステップの間及びその後、対象者は、コード化された空間的位置に対応する様々なスクリーンの位置に向けての照準動作によって、以前に表示された視覚刺激によって特定された空間的位置の増加する順序を再現するタスクを実行することができるようになる。
【0061】
長期的な言語記憶の促進又は神経免疫調節プロセスを誘導するために、適応ステップは、例えば、レンズを回転させて頂部が左側に位置するように、すなわち、左のプリズムの頂部が側頭部側(外側)の位置に、右のプリズムの頂部が鼻側(内側)の位置に位置するようにすることで、左の空間に向けての視野の偏向を誘導することによって行われる。適応ステップの間及びその後、対象者は、記憶しておくべき前述の刺激が表示されているスクリーンの様々な位置に向けての照準動作によって、短期記憶スパンを超える数、単語、顔、建物などの順序を、以前に表示されていた順序で再現/再演/認識することができるようになる。
【0062】
また、時間間隔の過小評価を引き起こすことも可能である。提案された各手順について、ソフトウェアは、提案されたタスクにおける対象者のパフォーマンスを、眼鏡の有無に関わらず、自動的に分析し、生のスコアと、年齢や学校教育によって矯正されたスコアの両方を提供することができる。従って、各テストについて、調整されたスコアが5段階(0から4まで)で表示されてもよい。
【0063】
本発明に係るリハビリテーションシステム及び方法の様々な側面及び実施形態について説明してきた。各実施形態は、他の任意の実施形態と組み合わせることができることが理解される。更に、本発明は、説明した実施形態に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲によって定義される範囲内で変化させることができる。
図1
図2
図3
図4
図5a
図5b
【国際調査報告】