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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-15
(54)【発明の名称】インベストメント用粉末
(51)【国際特許分類】
   B22C 1/08 20060101AFI20220608BHJP
【FI】
B22C1/08 D
B22C1/08 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021557822
(86)(22)【出願日】2020-03-26
(85)【翻訳文提出日】2021-11-22
(86)【国際出願番号】 GB2020050808
(87)【国際公開番号】W WO2020201721
(87)【国際公開日】2020-10-08
(31)【優先権主張番号】1904495.7
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】1906989.7
(32)【優先日】2019-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514247584
【氏名又は名称】グッドウィン ピーエルシー
【氏名又は名称原語表記】GOODWIN PLC
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100131990
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 玲恵
(72)【発明者】
【氏名】グッドウィン,シモン ロバート
(72)【発明者】
【氏名】パリン,マイケル ジェラルド
【テーマコード(参考)】
4E092
【Fターム(参考)】
4E092AA04
4E092AA08
4E092AA15
4E092BA12
(57)【要約】
リン酸三カルシウムを含む従来の粉末よりも安全であり、吸入性画分中に遊離シリカを実質的にまたは完全に含まず、さらに、750℃での総合膨張率が、鋳造中の鋳型クラッキングを防ぐのに十分な1%以上である、インベストメント用粉末。鋳造物を作製する方法であって、石膏結合インベストメント用粉末を水と混合することでスラリーを形成するステップと、低融点材料模型を囲むステンレス鋼製フラスコにスラリーを注ぐステップと、スラリーを凝結させて鋳型を画定するステップと、鋳型を加熱して模型を焼尽するステップと、鋳型に材料を流し込むステップとを含み、ステンレス鋼製フラスコが、400シリーズのマルテンサイト系ステンレス鋼からなる、方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸三カルシウムを含み、吸入性画分中に1重量%未満の遊離シリカを含む、石膏結合インベストメント用粉末。
【請求項2】
プラスターをさらに含む、請求項1に記載のインベストメント用粉末。
【請求項3】
30重量%超~70重量%のリン酸三カルシウムを含む、請求項1または請求項2に記載のインベストメント用粉末。
【請求項4】
前記プラスターが、乾燥プラスターを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載のインベストメント用粉末。
【請求項5】
酸化マグネシウムを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載のインベストメント用粉末。
【請求項6】
1種または複数の低シリカ鉱物をさらに含む、請求項1から5のいずれか一項に記載のインベストメント用粉末。
【請求項7】
10~30%のプラスター
25~75%のリン酸三カルシウム
10~65%の酸化マグネシウム
0~25%の1種または複数の低シリカ鉱物
0~10%の添加剤
を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載のインベストメント用粉末。
【請求項8】
前記低シリカ鉱物が、バーミキュライト、ネプタリンシアナイト、カイアナイト、緑泥石、長石、マイカ、およびタルクからなる群から選択される、請求項6または請求項7に記載のインベストメント用粉末。
【請求項9】
添加剤として、1種または複数の湿潤剤、脱泡剤、懸濁剤、促進剤、または凝結遅延剤を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載のインベストメント用粉末。
【請求項10】
インベストメント鋳造用鋳型に成形したときに750℃での総合膨張率が、0.7%超、好ましくは1%超、より好ましくは2%超である、請求項1から9のいずれか一項に記載のインベストメント用粉末。
【請求項11】
本明細書に実質的に記載されるインベストメント用粉末。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載のインベストメント用粉末を水と混合することによって、インベストメント鋳造用スラリーを作製する方法。
【請求項13】
鋳造物を作製する方法であって、請求項12に記載のスラリーを形成するステップと、低融点材料模型の周りに前記スラリーを注ぐステップと、前記スラリーを凝結させて鋳型を画定するステップと、前記鋳型を加熱して前記模型を焼尽するステップと、前記鋳型に材料を流し込むステップとを含む、方法。
【請求項14】
10~30%のプラスター
25~75%のリン酸三カルシウム
10~65%の酸化マグネシウム
0~25%の1種または複数の低シリカ鉱物
0~10%の添加剤
を含む組成物の、インベストメント用粉末としての使用。
【請求項15】
鋳造物を作製する方法であって、石膏結合インベストメント用粉末を水と混合することでスラリーを形成するステップと、低融点材料模型を囲むステンレス鋼製フラスコに前記スラリーを注ぐステップと、前記スラリーを凝結させて鋳型を画定するステップと、前記鋳型を加熱して前記模型を焼尽するステップと、前記鋳型に材料を流し込むステップとを含み、前記ステンレス鋼製フラスコが、400シリーズのマルテンサイト系ステンレス鋼からなる、方法。
【請求項16】
前記400シリーズのマルテンサイト系ステンレス鋼が、410ステンレス鋼である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記インベストメント用粉末が、プラスターおよびリン酸カルシウムを含むインベストメント用粉末を含む、請求項15または請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記インベストメント用粉末が、リン酸三カルシウムを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記インベストメント用粉末が、酸化マグネシウムをさらに含む、請求項17または18に記載の方法。
【請求項20】
前記インベストメント用粉末が、1種または複数の低シリカ鉱物をさらに含む、請求項17から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記インベストメント用粉末が、乾燥プラスターを含む、請求項15から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記インベストメント用粉末が、
10~30%のプラスター
25~75%のリン酸カルシウム
10~65%の酸化マグネシウム
0~25%の1種または複数の低シリカ鉱物
0~10%の添加剤
を含む、請求項15から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記インベストメント用粉末が、添加剤として、1種または複数の湿潤剤、脱泡剤、懸濁剤、促進剤、または凝結遅延剤を含む、請求項15から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記インベストメント用粉末が、請求項1から11のいずれか一項に記載の通りである、請求項15から23のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブロック鋳型精密鋳造法における鋳型の製造で使用する粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
ブロック鋳型鋳造法では、ワックスまたはプラスチックなどの低融点有機材料から最終的に所望される形状の模型が作製される。次いで、模型は、典型的には円筒形鋼製容器で、かつ一般にフラスコと呼ばれる容器内に置かれる。時にはインベストメント用粉末と呼ばれる粉末を水と混合して、スラリーを形成し、それを、模型周囲の空間を埋めるように容器に導入する。スラリーが凝結した後、蒸気を使用して溶融もしくは燃焼することによって、または炉に入れることによって模型を取り除く。これにより、鋳型材料に模型と同じ形状の空洞ができる。次いで、容器をさらに加熱して、残留炭素を焼尽させ、鋳型を鋳造に適した温度にする。金属は、鋳型に液体金属を注ぐことによって鋳造される。これは、例えば、重力または遠心力の影響下で行うことができる。金属が固化した後、鋳型を破壊し、金属を洗浄することができる。
【0003】
ブロック鋳型鋳造法は、寸法精度が高く、表面の細部が正確に再現され、比較的低コストでそれらを実現することができることから、多くのタイプの金属製品がブロック鋳型鋳造法を使用して作製される。インベストメント鋳造によって製造される製品の例としては、宝飾品、彫刻、歯科用製品、および工業用途向けのより大きな鋳造物が挙げられる。インベストメント鋳造することができる金属としては、金、銀、白金族金属、アルミニウム合金、黄銅および青銅合金が挙げられる。ガラスおよび他のセラミックもインベストメント鋳造法を使用して鋳造することができる。
【0004】
優れたインベストメント用粉末は、鋳造物に、クラックまたはフラッシングのない良好な表面仕上げを提供するであろう。
【0005】
フラスコを炉内で加熱しているときの粉末の膨張が、固化した粉末およびワックスツリーが入っている金属製フラスコの膨張と一致しない場合(例えば、粉末の膨張がフラスコよりも小さい場合)、ワックスが溶融し、フラスコから流出する前にワックスが膨張するため、ワックスツリーおよびワックスパターンの膨張により耐火性鋳型が破壊される。ワックスは、溶融する前に最大15%膨張することがある。この鋳型の破壊はワックスフラッシングと呼ばれ、真空または遠心力による圧力下で鋳型に金属が充填されると、割れ目が開き、鋳造物の表面に金属フラッシングが生じる。
【0006】
次いで、固化した粉末が十分に多孔性ではない場合、焼尽サイクル中に残留水が逃げにくくなり、それによって、鋳型がワックスパターンに入り込んでいる鋳造面にスポーリングが生じる可能性がある。
【0007】
固化したインベストメント用粉末は、金属が固化する前に金属が破砕してこぼれ落ちることなく、金属が鋳型に入る力に耐えることができなければならない。
【0008】
インベストメント用粉末は、慣例的に、耐火成分、通常は、石英、クリストバライト、または両方の混合物と、バインダーとからなる。典型的には、バインダーは、石膏(石膏結合インベストメント(gypsum-bonded-investment)、すなわち、GBI)であるか、または鋳造が高温で行われる場合はリン酸アンモニウムマグネシウム(リン酸結合インベストメント(phosphate-bonded-investment)、すなわち、PBI)である。慣例的に、GBIインベストメント用粉末は、約25%のプラスター、30%~40%の石英、40%のクリストバライト、および1%の添加剤からなる。ほとんどの用途では、これらの成分を非常に細かい粉末に粉砕して、最終鋳造物に優れた表面仕上げを施すことができる。
【発明の概要】
【0009】
残念なことに、シリカの多形体である石英およびクリストバライトは、遊離シリカからなり、特に微粒子で存在する場合は、慎重な取り扱いおよび安全対策が必要となる。遊離シリカは、ケイ肺症などの呼吸器疾患および他のより重篤な肺疾患の原因となることが示されている。本発明の目的は、低レベルのシリカを含み、そのため、従来のインベストメント用粉末を取り巻く安全性の問題を最小限にするまたは回避する、改良されたインベストメント用粉末を提供することである。
【0010】
本発明によれば、リン酸三カルシウムを含み、吸入性画分中に3%未満、好ましくは1%未満、好ましくは0.1%未満の遊離シリカを含むインベストメント用粉末を提供する。好ましい一実施形態では、インベストメント用粉末は、プラスターをさらに含む。好ましくは、リン酸三カルシウムは、合成リン酸三カルシウムである。リン酸三カルシウムは、分子式Ca(POを有する。最も好ましくは、リン酸三カルシウムは、無水であり、例えば、無水Ca(POである。好ましくは、プラスターは、乾燥させたベータプラスターである。乾燥させたプラスターについては以下でより詳細に説明する。さらなる好ましい一実施形態では、インベストメント用粉末は、酸化マグネシウムをさらに含む。酸化マグネシウムは、好ましくは死焼マグネサイトである。マグネサイトは、式MgCOの鉱物である。
【0011】
本発明は、従来の粉末よりも安全なインベストメント用粉末を提供する。インベストメント用粉末は、遊離シリカを完全にまたは実質的に含まない可能性があり、さらに、0.4%超の凝結膨張率、および750℃での0.7%以上、例えば、1%または好ましくは2%以上などの総合膨張率を有する可能性がある。次いで、本発明は、鋳造中の鋳型クラッキングを防ぐのに十分に高い凝結膨張率および熱膨張率を有するインベストメント用粉末を提供することができる。
【0012】
本発明のさらなる一態様によれば、石膏結合インベストメント用粉末を水と混合することでインベストメント鋳造用スラリーを形成し、低融点材料模型を囲むステンレス鋼製フラスコにスラリーを注ぎ、スラリーを凝結させて鋳型を画定し、鋳型を加熱して模型を焼尽することによって、石膏ベースのインベストメント用粉末からインベストメント鋳造用鋳型を作製する方法であって、ステンレス鋼製フラスコが、400シリーズのマルテンサイト系ステンレス鋼、好ましくは410ステンレス鋼からなる、方法を提供する。金属鋳造物は、溶融金属を鋳型に流し込み、金属を固化させることによって形成することができる。石膏ベースのインベストメント用粉末は、従来の石膏/石英/クリストバライト粉末でも、上述のインベストメント用粉末でもよい。
【0013】
本発明の別の一態様によれば、上記のインベストメント用粉末を水と混合することを含むインベストメント鋳造用スラリーを作製する方法を提供する。この方法は、流動させるために添加する水を、従来のシリカベースのインベストメント用粉末よりも必要としないインベストメント鋳造用スラリーを提供することができる。この方法は、小さな粒子サイズの遊離シリカが存在しないため、従来の方法よりも安全である。さらに、この方法は、鋳造中の鋳型クラッキングを防ぐのに十分に高い凝結膨張率および熱膨張率を有するインベストメント鋳造用スラリーを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
製造する鋳造物が好ましくは満たすべきいくつかの基準は、使用するインベストメント用粉末に大きく依存する可能性がある。正確な鋳型を製造するためには、インベストメント用粉末をある量の水と混合したときに、模型周囲のすべての隙間を埋めるのに十分な流動性のスラリーを得ることが重要である。鋳型を溶融金属で完全に充填しなければならない。模型を正確に再現しなければならない。鋳造金属の表面に、鋳型の細部を正確に再現しなければならない。鋳造製品は、サイズおよび重量が一貫しており、欠陥がないようにしなければならない。鋳造の欠陥には、通常、フラッシングまたはフィニングがあり、それらは、過剰な水をインベストメント用粉末と混合したことが原因の可能性がある。水が少なすぎると、粘度が高すぎるインベストメント用スラリーとなり、鋳造物表面に気泡が生じる可能性がある。充填材料が懸濁液から沈降した場合、または過剰な水が使用された場合、鋳造物に透かし模様が生じる可能性もある。
【0015】
次いで、鋳型材料が弱すぎる場合、加熱または鋳造中に鋳型にクラッキングが生じ、容認できない鋳造物になる可能性がある。それほど深刻ではない場合でも、鋳型材料が弱いと、鋳造物にフラッシングまたはフィニングが生じる可能性があり、鋳造物に追加の仕上げ作業が必要になるであろう。
【0016】
現在、インベストメント用粉末に石英およびクリストバライトが使用されているのは、プラスターと組み合わせると、それらが鋳型に高い強度を与えることができるからである。これは、凝結および加熱のサイクル中に鋳型材料の膨張によって生成される圧縮力の結果である。凝結中、プラスターは、水を吸収し、膨張する可能性がある。このいわゆる凝結膨張は、鋳型用混合物が容器に対して膨張することを確実にし、したがって、生成された圧縮力により鋳型に強度が与えられる。石英およびクリストバライトを包含することは、正確な量はプラスター/石英/クリストバライトの比に非常に影響されやすいが、凝結膨張率が1%と高くなる可能性があることを意味する。加熱中、プラスターは、無水になり、収縮する。同時に、金属製容器は膨張する。このプラスター収縮および容器膨張は、インベストメント用粉末の残りの成分の膨張で補わなければならず、そうでない場合は、鋳型の強度が低下し、鋳型が損傷して、得られた金属製品のフラッシングが生じるリスクがある。加熱中、石英およびクリストバライトは、約250℃および570℃で相転移を起こす。いずれの場合も、鉱物はアルファ相からベータ相に転移し、それに伴って、大きな正の体積変化が起こる。この膨張により、より高温でプラスターの体積が減少する可能性があるにもかかわらず、生成される圧縮力(したがって、鋳型の強度)が、鋳型が受ける温度範囲全体で高いままである可能性がある。このため、今までは石英およびクリストバライトが使われてきた。いくつかの鉱物は、相転移を起こし、そのために膨張するが、石英およびクリストバライトよりもはるかに高い温度になる。インベストメントで使用されるプラスターバインダーは800℃を超えると急速に分解するため、相転移によるこれらの鉱物の膨張を、プラスター収縮の影響を打ち消すのに使用することはできない。
【0017】
上記の結果として代替インベストメント用粉末に対して確立された目標基準は、遊離シリカを実質的に含まず、さらに、好ましくは0.2%超、好ましくは0.5%超、例えば0.8%超など、より好ましくは1%以上の凝結膨張率と、750℃での、好ましくは0.7%超、より好ましくは1%超、例えば2%以上などの総合膨張率とを有することであった。インベストメント用粉末は、流動させるために添加する水が、従来のシリカベースのインベストメントよりも必要とされないことが好ましい。典型的には、添加する水の量は、50重量/重量%未満、例えば40重量/重量%未満、例えば30重量/重量%未満、例えば20重量/重量%未満である。とりわけ、満足のいく鋳造物を恒常的に製造できるようにすべきである。
【0018】
要約すると、良好なインベストメント鋳造用粉末から次のことを達成する必要がある:
1)良好な表面仕上げ;
2)高速焼尽サイクルを可能にする良好な多孔性;
3)ワックスの微細部を再現することができるような良好な流動性;
4)20℃から700℃以上への温度上昇に伴う良好な膨張性;
5)全体のプロセスサイクルを最小限にすることができるような高速固化;
6)焼尽サイクル中、780℃に耐えることが可能。
【0019】
多大な調査の後、リン酸三カルシウムを耐火成分として使用すると、上記の基準を満たすことができる満足のいく石膏結合インベストメント用粉末のベースが得られることが分かった。リン酸三カルシウムは、インベストメント用粉末が上述の様々な段階で機能するのに必要な熱膨張性を提供する。
【0020】
リン酸カルシウムは、骨の主な燃焼生成物である。リン酸カルシウムはまた、鉱物岩に由来していてもよい。本発明のインベストメント用粉末中のリン酸カルシウムは、リン酸三カルシウムである。リン酸三カルシウムは鉱物岩中に天然に存在するが、合成リン酸三カルシウムが好ましい。合成リン酸三カルシウムは、ヒドロキシアパタイトをリン酸および消石灰で処理して、非晶質リン酸三カルシウムを生成することによって形成することができ、非晶質リン酸三カルシウムをか焼すると結晶性リン酸三カルシウムが形成される。結晶性リン酸三カルシウムには3種の型;菱面体晶β型、ならびに単斜晶α型および六方晶α’型の2種の高温型がある。当業者なら、任意の特定の用途用のインベストメント用粉末での使用に最適な結晶型を選択することができるであろう。
【0021】
インベストメント用粉末中に存在するリン酸三カルシウムの量は、粉末の性質を決定し、所望の性質を得るために変えることができる。一般に、インベストメント用粉末は、約25重量%~約75重量%のリン酸三カルシウム(例えば、約25重量%~約75重量%のCa(PO)を含む。好ましくは、インベストメント用粉末は、30重量%超~約70重量%のリン酸三カルシウムを含む。より好ましくは、インベストメント用粉末は、約35%~約65%のリン酸三カルシウム、好ましくは合成リン酸三カルシウム、例えば、約38%~約53%など、約40%~約60%のリン酸三カルシウム、例えば、約39%~約50%のリン酸三カルシウム、例えば、約48%のリン酸三カルシウムを含む。リン酸三カルシウムの任意の適切な源を、本発明のインベストメント用粉末に使用することができる。リン酸三カルシウム(Ca(PO)2)は、商業的に広く入手可能である。リン酸三カルシウムは、水和物または無水物材料の形態でよい。好ましくは、リン酸三カルシウムは、高い熱膨張率を有する。好ましくは、リン酸三カルシウムは、20℃~750℃に加熱したとき、1%超、より好ましくは1.5%超、例えば2%超などの熱膨張率を有する。
【0022】
インベストメント用粉末中に存在するプラスターの量は、膨張性に影響を及ぼす。一般に、リン酸三カルシウム/プラスターベースのインベストメント用粉末には、約10重量%~30重量%のプラスターが望ましい。好ましくは、プラスターは、乾燥させたベータプラスターである。プラスターは、石膏(CaSO.2HO)をか焼して半水和物を形成することによって生成される。乾燥剤、潮解剤、好ましくは無機潮解剤、特には塩化カルシウムの存在下で石膏をか焼することによって乾燥石膏プラスターを生成するプロセスが、例えば、米国特許第1,370,581号および米国特許第3,898,316号に記載されている。得られた生成物は、乾燥プラスターと呼ばれ、必要とされる水が低下したプラスターである。乾燥プラスターは、好ましくは、約10重量%~30重量%、好ましくは12重量%~22重量%、より好ましくは13重量%~15重量%、例えば14重量%などで存在する。
【0023】
リン酸三カルシウムに加えて、インベストメント用粉末は、酸化マグネシウムを含有することができる。任意の適切な形態の酸化マグネシウムを使用することができる。好ましくは、酸化マグネシウムは、DBMとしても既知の死焼マグネサイトの形態である。DBMは、マグネサイト(MgCO)を制御した高温で焼結することによって形成することができる。酸化マグネシウムはまた、加熱下で膨張プロフィルを示す。酸化マグネシウムは、必要な温度範囲でリン酸三カルシウムほど高い膨張レベルを示さないが、リン酸三カルシウムは繊維状である可能性があり、熱膨張をもたらす耐火成分としての酸化マグネシウムの存在は、十分な膨張を達成しながら、インベストメントと比較してインベストメント用粉末の流動性能を向上させることができる。酸化マグネシウムは、使用する場合、好ましくは、約10%~65%、好ましくは約15%~約50%、より好ましくは22%~45%、より好ましくは23%~28%で存在する。好ましくは、使用する酸化マグネシウムは、DBOである。好ましくは、DBOは、例えば、10重量%未満、より好ましくは5重量%未満、例えば、2重量%未満、好ましくは1重量%未満など、低レベルの任意のシリカ不純物を有する。好ましくは、酸化マグネシウムは、約50~約400、例えば約60~約325のメッシュサイズを有する。
【0024】
バーミキュライト、緑泥石、マイカ、およびタルクは、低レベルのシリカ(1.5重量%未満)を有する。これらは、リン酸三カルシウム/プラスターベースのインベストメント用粉末の膨張性を向上させるために低レベルで使用することができる。好ましくは、このような鉱物は、インベストメント用粉末の25重量%未満、より好ましくは5重量%~20重量%、最も好ましくは8重量%~15重量%、例えば約12重量%などで存在する。好ましい鉱物としては、バーミキュライト、ネプタリンシアナイト(Nepthaline Cyanite)、カイアナイト、緑泥石、長石、マイカ、およびタルクが挙げられる。この目的には、マイカが特に好ましい。
【0025】
もっぱらプラスターおよびリン酸三カルシウムからなり、任意選択でマグネサイトおよびマイカを含むインベストメント用粉末を用いて、目的によっては満足のいく成形を実現することができるが、インベストメント用粉末の性質は、追加の添加剤成分を使用することによって必要に応じて変更することができる。
【0026】
使用する添加剤は、促進剤、凝結遅延剤、湿潤剤、脱泡剤、および懸濁剤を挙げることができる。これらの場合、使用するバインダーが依然としてプラスターであるため、従来のシリカベースのインベストメント用粉末の製造で使用される化学物質が有効である。促進剤および凝結遅延剤は、インベストメント用粉末の凝結時間を制御するために必要であり、湿潤剤、脱泡剤、および懸濁剤は、鋳造物の全体的な表面仕上げを向上させるために使用される。添加剤の量は、典型的には、全インベストメント用粉末の1重量%未満である。
【0027】
好ましい諸実施形態では、存在する添加剤は、
凝結促進剤を0重量%~3重量%、好ましくは0.05重量%~0.5重量%、
粉末を水と混合したときにスラリーの流動性を高める可塑剤を0重量%~3重量%、好ましくは0.02重量%~1重量%、
凝結遅延剤を0重量%~3重量%、好ましくは0重量%~1.5重量%、
脱泡剤を0重量%~0.5重量%、好ましくは0.05重量%~0.3重量%含む。
【0028】
インベストメント用粉末は、鋳造物の良好な表面仕上げを得るために、微粒子サイズであることが好ましい。インベストメント用粉末の分粒された粒子は、鋳造物の所望の表面特性が得られるように選択することができる。したがって、好ましくは、インベストメント用粉末は、約2000μmまで、より好ましくは約100nm~約1000μm、例えば約1μm~約500μm、例えば約10μm~約100μmなどの粒子サイズを有する。
【0029】
したがって、本発明の好ましいインベストメント用粉末は、
- 約25重量%~約75重量%のリン酸三カルシウム、
- 約10重量%~約30重量%のプラスター、および
- 約10重量%~約65重量%の酸化マグネシウムを含み、
リン酸三カルシウム、プラスター、および酸化マグネシウムの合計は、100重量%を超えない。
【0030】
したがって、本発明のさらなる好ましいインベストメント用粉末は、
- 約30重量%超~約70重量%のリン酸三カルシウム、
- 約10重量%~約30重量%のプラスター、および
- 約10重量%~約60重量%の酸化マグネシウムを含み、
リン酸三カルシウム、プラスター、および酸化マグネシウムの合計は、100重量%を超えない。
【0031】
本発明のさらに好ましいインベストメント用粉末は、
- 10%~30%のプラスター
- 30%超~70%のリン酸三カルシウム
- 10%~60%の酸化マグネシウム
- 0%~25%の1種または複数の低シリカ鉱物
- 0%~10%の添加剤を含む。
【0032】
このようなインベストメント用粉末は、本発明者らによって鋳造材料の製造において試験されており、典型的には、良好な表面仕上げ、優れた鋳造品質、および良好なクリーンオフ/クエンチ特性を有する鋳造物をもたらす。
【0033】
本発明のより好ましいインベストメント用粉末は、
- 約35重量%~約65重量%のリン酸三カルシウムであって、好ましくは、20℃~750℃に加熱したときに1%超の熱膨張率を有する、リン酸三カルシウム、
- 約12重量%~約22重量%の乾燥プラスター、ならびに
- 約15重量%~約50重量%の酸化マグネシウムであって、好ましくは死焼マグネサイトを含む、酸化マグネシウム、ならびに
- 任意選択で、1重量%~25重量%の、バーミキュライト、緑泥石、マイカ、およびタルクから選択される鉱物
を含み、
リン酸三カルシウム、プラスター、酸化マグネシウム;ならびに(存在する場合)バーミキュライト、緑泥石、マイカ、およびタルクから選択される鉱物の合計は、100重量%を超えない。
【0034】
このようなインベストメント用粉末は、本発明者らによって鋳造材料の製造において試験されており、典型的には、非常に良好な表面仕上げ、優れた鋳造品質、および非常に良好なクリーンオフ/クエンチ特性を有する鋳造物をもたらす。
【0035】
本発明のさらにより好ましいインベストメント用粉末は、
- 約38重量%~約53重量%のリン酸三カルシウムであって、好ましくは、20℃~750℃に加熱したときに1.5%超の熱膨張率を有する、リン酸三カルシウム、
- 約13重量%~約15重量%の乾燥プラスターであって、好ましくは乾燥ベータプラスターである、乾燥プラスター、
- 約22重量%~約45重量%の酸化マグネシウムであって、好ましくは死焼マグネサイトであり、好ましくは約50~約400のメッシュサイズを有する、酸化マグネシウム、ならびに
- 5重量%~20重量%の、バーミキュライト、緑泥石、マイカ、およびタルクから選択され、好ましくはマイカである、鉱物
を含み、
リン酸三カルシウム、プラスター、酸化マグネシウム;ならびにバーミキュライト、緑泥石、マイカ、およびタルクから選択される鉱物の合計は、100重量%を超えない。
【0036】
このようなインベストメント用粉末は、本発明者らによって鋳造材料の製造において試験されており、典型的には、優れた表面仕上げ、優れた鋳造品質、および優れたクリーンオフ/クエンチ特性を有する鋳造物をもたらす。
【0037】
本明細書に記載の好ましいインベストメント用粉末のいずれも、上述のように、1種または複数の促進剤、凝結遅延剤、湿潤剤、脱泡剤、および/または懸濁剤をさらに含むことができ、インベストメント用粉末中の成分の合計は、100重量%を超えない。
【0038】
典型的には、従来の石膏-石英-クリストバライトインベストメント用粉末を用いたブロック鋳型鋳造プロセスで使用されるステンレス鋼製フラスコは、304または316のステンレス鋼から形成される。304または316のステンレス鋼への言及は、一般に使用されている米国鉄鋼協会AISI(American Iron and Steel Institute)の命名法に基づいている。300シリーズのステンレス鋼は、クロム-ニッケル合金であるオーステナイト系ステンレス鋼であり、それらは最も広く使用されているステンレス鋼であり、特に、最も一般的なオーステナイト系ステンレス鋼である304ステンレス鋼は、18%のクロムおよび8%のニッケルの組成に基づいて18/8としても知られており、2番目に非常に一般的なオーステナイト系ステンレス鋼である316ステンレス鋼は、2%のモリブデンを含んでいる。
【0039】
本発明のインベストメント用粉末およびプロセスで使用するには、410ステンレス鋼など、400シリーズのマルテンサイト系ステンレス鋼からステンレス鋼製フラスコを形成することが好ましい。金属製フラスコが表面で加熱されると膨張することを前述したように、鋳型の圧縮強度を維持するためには、インベストメント用粉末の膨張は、石膏成分が無水になるにつれて収縮するにもかかわらず、金属製フラスコの膨張と少なくとも一致しなければならない。
【0040】
304、316、および410ステンレス鋼は、以下のように異なる線膨張係数を有する:
304ステンレスは0.0000173の係数を有し、
316ステンレスは0.0000160の係数を有し、
410ステンレスは0.0000099の係数を有する。
【0041】
750℃まで加熱した、公称直径が100mmの円筒形フラスコの場合、直径は以下のようになる:
304ステンレスでは100.041
316ステンレスでは100.038
410ステンレスでは100.023
【0042】
フラスコの膨張が小さいと、所与のインベストメント用粉末に対する鋳型の圧縮強度が高くなるであろう。
【0043】
一方、304、316、および410ステンレス鋼は、異なる耐熱性を有しており、耐熱性は、歪みおよび相互汚染につながる可能性がある、炭素の分解および遊離(腐食および酸化)に関係している。一般に容認されている最大連続使用温度は、
304ステンレス鋼では925℃、
316ステンレス鋼では925℃、
410ステンレス鋼では705℃である。
【0044】
ステンレス鋼の耐熱性と、高温、通常約750℃で鋳型を焼尽する必要性との観点から、410ステンレス鋼は、304または316ステンレス鋼ほどは適していないと思われるかもしれない。しかし、300シリーズ(304および316など)の鋼の熱サイクルにより、高温スケールが形成される。このスケールは、主成分金属とは異なる膨張係数を有し、それによって、クラッキングおよび歪みが促進される。クラッキングおよび歪みの促進を伴うこの高温スケールは、410などの400シリーズマルテンサイト系鋼では観察されない。したがって、300シリーズの一般に容認されている最大断続使用温度が、連続使用の場合よりも低いことは非論理的に思えるかもしれないが、これがその事例である。一般に容認されている断続使用温度は、
304ステンレス鋼では870℃、
316ステンレス鋼では870℃、
410ステンレス鋼では815℃である。
【0045】
したがって、410ステンレス鋼は、304または316ステンレス鋼よりも酸化耐熱性が低いにもかかわらず、約750℃の焼尽段階中に断続的な温度を必要とする熱サイクル内で機能することができる。
【0046】
従来の石膏-石英-クリストバライトインベストメント用粉末では、約250℃でのクリストバライトおよび570℃での石英の正の体積変化を伴うα型からβ型への相転移が、インベストメント用粉末の十分な膨張をもたらして、石膏成分の収縮および従来の304または316ステンレス製フラスコの熱膨張を補う。本発明のインベストメント用粉末では、本インベストメント用粉末の熱膨張は従来のインベストメント用粉末の熱膨張と近い可能性があるが、410ステンレス鋼製フラスコを使用すると、304または316ステンレス鋼製フラスコを使用した場合と比較して、フラスコの膨張が低くなるため、鋳型の圧縮強度が向上し、そのため、鋳型の品質が向上する可能性がある。
【0047】
本発明のフラスコのサイズは特に限定せず、従来の任意のフラスコサイズを使用することができる。いくつかの実施形態では、フラスコは、8インチ×4インチのフラスコまたは6インチ×4インチのフラスコである。
【0048】
[実施例1]
以下の試験は、316または410ステンレス鋼のフラスコにおいて、リン酸三カルシウム、乾燥ベータプラスター、および死焼マグネサイトを含むインベストメント用粉末を使用して行った。
【0049】
粉末9.8kgを秤量し、水3.724リットルを計量した。これは、38/100の混合比である。
【0050】
4個のフラスコを用意し、2個は9×4インチの316フラスコ、2個は7×4インチの410フラスコであった。
【0051】
粉末を水に添加し、真空なしで30秒間混合し、次いで、ブレードからスラリーをこすり落とし、スラリーを真空下で4分間混合した。4個のフラスコに合計2.25分かけて注ぎ、次いで、さらに1分間真空にした。
【0052】
真空解除後、合計14.75分で光沢が生じ、スラリーの温度は18℃であった。
【0053】
焼尽サイクル
フラスコを90分間ベンチセットし、次いで、以下の焼尽サイクルを使用して炉で焼成した。
150℃/時で220℃に加熱
220℃で4時間保持
150℃/時で720℃に加熱
720℃で5時間保持
鋳造温度まで冷却
【0054】
鋳造
すべての鋳造を銀で行い、15分で急冷した。
【0055】
試験1-316フラスコ-9×4インチ
フラスコ温度700℃
金属温度1000℃
金属重量11オンス
【0056】
ツリーの中央、主に片側に少量のフラッシングが観察された。4ピースが影響を受けた。
【0057】
試験2-410フラスコ-7×4インチ
フラスコ温度650℃
金属温度975℃
金属重量9.5オンス
【0058】
この鋳造では、欠陥はなかった。
【0059】
試験3-316フラスコ-9×4インチ
フラスコ温度500℃
金属温度1000℃
金属重量17.5オンス
【0060】
この316フラスコのツリーでも、ツリーの中心にフラッシングがあった。
【0061】
試験4-410フラスコ-7×4インチ
フラスコ温度500℃
金属温度950℃
金属重量9.5オンス
【0062】
この鋳造物は、410フラスコにおける良好な表面および急冷により完璧であった。
【国際調査報告】