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特表2022-528696アンチコドンループを延長した合成転移RNA
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-15
(54)【発明の名称】アンチコドンループを延長した合成転移RNA
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/11 20060101AFI20220608BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20220608BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20220608BHJP
   A61P 21/04 20060101ALI20220608BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220608BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20220608BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220608BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20220608BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220608BHJP
【FI】
C12N15/11 Z ZNA
A61P1/04
A61P37/06
A61P21/04
A61P25/00
A61P3/00
A61P43/00 105
A61K31/7105
A61K48/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021559312
(86)(22)【出願日】2020-04-09
(85)【翻訳文提出日】2021-11-15
(86)【国際出願番号】 EP2020060217
(87)【国際公開番号】W WO2020208169
(87)【国際公開日】2020-10-15
(31)【優先権主張番号】LU101182
(32)【優先日】2019-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】LU
(31)【優先権主張番号】102019109664.2
(32)【優先日】2019-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521425733
【氏名又は名称】アークタラス テラピュウティクス、インク
(74)【代理人】
【識別番号】100130111
【弁理士】
【氏名又は名称】新保 斉
(72)【発明者】
【氏名】イグナトヴァ、ゾヤ
(72)【発明者】
【氏名】トルダ、アンドリュー
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084NA14
4C084ZA011
4C084ZA012
4C084ZA681
4C084ZA682
4C084ZA941
4C084ZA942
4C084ZB081
4C084ZB082
4C084ZB111
4C084ZB112
4C084ZB211
4C084ZB212
4C084ZC211
4C084ZC212
4C086AA01
4C086AA03
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA01
4C086ZA68
4C086ZA94
4C086ZB08
4C086ZB11
4C086ZB21
4C086ZC21
(57)【要約】
延長したアンチコドンループを有する合成転移RNAに関する。フレームシフト変異に関連する神経線維腫症のような遺伝子疾患の治療に有用な合成抑制因子転移RNAを提供する。前記合成転移RNAは、4ヌクレオチドアンチコドンまたは5ヌクレオチドアンチコドンを有する延長アンチコドンループを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
4ヌクレオチドのアンチコドンまたは5ヌクレオチドのアンチコドンを有する延長したアンチコドンループを含む
ことを特徴とする合成転移RNA。
【請求項2】
前記アンチコドンループは7~12、好ましくは7~10または8~10ヌクレオチド、より好ましくは8または9ヌクレオチドから成る
請求項1に記載の合成転移RNA。
【請求項3】
前記転移RNAはアミノアシル化する
請求項1または2に記載の合成転移RNA。
【請求項4】
前記転移RNAはジペプチドでアミノアシル化する
請求項3に記載の合成転移RNA。
【請求項5】
前記合成tRNAは、任意の天然tRNAに対して70%未満、65%未満、60%未満、65%未満、または50%未満、好ましくは49%未満、48%未満、47%未満、46%未満、45%未満、44%未満または43%未満の配列同一性を有する
請求項1ないし4のいずれかに記載の合成転移RNA。
【請求項6】
前記合成転移RNAは、3ヌクレオチドのアンチコドンが4ヌクレオチドまたは5ヌクレオチドのアンチコドンに置換された天然転移RNAと比較して、または同族アミノ酸の天然tRNAと比較して安定性が同等か、または高く、4ヌクレオチドアンチコドンを有する合成転移RNAの安定性は、3ヌクレオチドアンチコドンが4ヌクレオチドアンチコドンに置換された天然転移RNAに匹敵するか、または同族アミノ酸の天然tRNAに匹敵し、また、5ヌクレオチドアンチコドンを有する合成転移RNAの安定性は、3ヌクレオチドアンチコドンが5ヌクレオチドアンチコドンに置換された天然転移RNAに匹敵するか、または同族アミノ酸の天然tRNAに匹敵する
請求項1ないし5のいずれかに記載の合成転移RNA。
【請求項7】
前記合成転移RNAは、転移RNAナンバリング規定に準拠するナンバリングに従って、アンチコドンループ中、32位にC、及び/または37位にAを有する
請求項1ないし6のいずれかに記載の合成転移RNA。
【請求項8】
前記延長アンチコドンループは、G‐CもしくはC‐G対に挟まれるか、または5’‐3’方向にU‐A対に挟まれる
請求項1ないし7のいずれかに記載の合成転移RNA。
【請求項9】
前記合成転移RNAは:
a)5’から3’方向に、連続した配列、A、B、及びC部分から成る配列であって、A部分は、配列番号01、配列番号02、配列番号07、配列番号08、配列番号27、配列番号28、配列番号29、及び配列番号30に記載の配列のうちの1つを有するか、または含み、B部分は、配列番号03、配列番号04、配列番号06、配列番号25、配列番号31、及び配列番号32に記載の配列のうちの1つを有するか、または含み、C部分は、配列番号5、配列番号33、及び配列番号34に記載の配列のうちの1つを有するか、または含む、配列;あるいは、
b)上記a)に従った配列のうちの1つと少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%の配列同一性を有する配列;あるいは、
c)上記a)またはb)の配列のうちの1つに従った配列であって、前記ヌクレオチドの少なくとも1つは対応する修飾ヌクレオチドで置換されている配列
を有するか、または含む
請求項1ないし8のいずれかに記載の合成転移RNA。
【請求項10】
医薬として使用するための
請求項1ないし9のいずれかに記載の合成転移RNA。
【請求項11】
野生型タンパク質と比較して機能低下または機能しないタンパク質を生成するフレームシフト変異が少なくとも部分的に原因となる疾患における医薬として使用するための
請求項1ないし9のいずれかに記載の合成転移RNA。
【請求項12】
クローン病、テイ・サックス病、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、嚢胞性線維症、神経セロイドリポフスチン症、または神経線維腫症1型を治療するための医薬として使用するための
請求項1ないし9のいずれかに記載の合成転移RNA。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアンチコドンループを延長した合成転移RNAに関する。
【背景技術】
【0002】
転移リボ核酸(tRNA)は、メッセンジャーRNA(mRNA)のヌクレオチド配列をタンパク質のアミノ酸配列に翻訳するために必要な成分として、生細胞のタンパク質合成機構に必須な部分である。天然のtRNAには、アミノ酸と共有結合可能なアミノ酸結合ステム、及びmRNA上の「コドン」と呼ばれる対応する塩基トリプレットに非共有的に結合可能な「アンチコドン」と呼ばれる塩基トリプレットを含むアンチコドンループが含まれる。タンパク質は、特にリボソーム及びいくつかの補助酵素を含む多成分系に支援されて、mRNA上のコドン配列を鋳型として、tRNAが担持するアミノ酸を組み立てることにより合成される。
【0003】
遺伝性疾患の群に属する疾患のいくつかは、遺伝情報の変化、例えば、コード遺伝子のDNAにおける変異に基づいている。これには、単一または複数のヌクレオチドの交換、欠失または挿入が含まれる。この場合、変異した遺伝子から転写されたmRNAは、改変された遺伝情報も担持することになり、異常な、そして機能しない可能性のあるタンパク質が形成される。1つまたは複数のヌクレオチドの欠失または挿入(総称してインデルと呼ぶ)は、例えば、コード領域内のリーディングフレーム(即ち、リボソームがmRNA内の情報を読み取る3ヌクレオチド域)を変化させ、その結果、変異の下流に全く新しいアミノ酸配列が生じ、非機能的なタンパク質が生成される。一例として、ニューロフィブロミン1(NF1)及びニューロフィブロミン2(NF2)をそれぞれコードする遺伝子の変異により、それぞれ神経線維腫症I型(NF1)及び神経線維腫症2型(NF2)という疾患が引き起こされ可能性がある。遺伝子NF1及びNF2は、腫瘍抑制因子として機能すると考えられている。NF1及びNF2における変異は、出生時(遺伝性またはデノボ)のみならず体細胞状態でも発生する。最も多い変異は、1~12ヌクレオチドの欠失または挿入を伴うフレームシフト変異であり、欠失は挿入よりも頻度が高い(非特許文献1、非特許文献2)。
【0004】
マクロライドなどの数種の抗生物質はフレームシフトを促進するが、フレームシフトを修正するためにマクロライドを使用する試行はこれまで報告されていない(非特許文献3、非特許文献4)。
【0005】
まだ始まったばかりではあるが、患者の細胞に修正遺伝物質を導入することが含まれる遺伝子治療は、遺伝子疾患の治療に重要なものとなりつつある。遺伝子の下流にある主体、主にmRNAの修正に基づくアプローチは、遺伝子配列(またはDNA)が変化しないままであるため、古典的な遺伝子治療アプローチには属さないので好ましい。しかし、mRNAは本質的に短命であり、mRNA配列の長さは治療応用に問題をもたらす。特定のmRNAは、例えば、遺伝子送達及び治療用の現在利用可能なベクターの積載容量より長い場合もある。
【0006】
mRNAと比較して、tRNA分子は安定性が非常に高く、平均して10倍ほど短いため、標的組織への導入の問題が軽減される。これにより、未成熟な停止コドンを有するmRNAからトランケートタンパク質が形成されることを防止し、代わりに妥当なアミノ酸を導入する目的でtRNAを遺伝子治療に用いることが試みられている(例えば、非特許文献5、特許文献1、及び特許文献2を参照)。
【0007】
アンチコドン中の余分なヌクレオチド、または短いコドンダブレットを有する天然tRNAが細菌中で発見されている。これらの異常なコドンは、特定のフレームシフト位置を抑制するために自然に利用されている(非特許文献6、非特許文献7、非特許文献8)。Sakoら(2006年)(特許文献9)は、トランスフェクトにより細胞に導入された抑制因子tRNAを用いて、PTC含有mRNAを通読するアプローチを報告している。非センストリプレットコドン及び4塩基コドンは、ヒトtRNA(Ser)由来の対応する抑制因子tRNAに読み取られた。
【0008】
非天然アミノ酸をタンパク質に組み込み、アンチコドンループ中6~10ntを含むtRNAを有する2、3、4、5、6塩基コドンのフレームシフト抑制の分子機序に取り組むために、4塩基または5塩基アンチコドンを含む延長アンチコドンループを有するtRNAも細菌のインビトロ翻訳系に導入している(特許文献3、特許文献4、非特許文献10、非特許文献11、非特許文献12、非特許文献13)。しかし、非天然アミノ酸の組み込み収率は極めて低く、またmRNAの環境に影響を受ける。更に、アンチコドンループにおいて修飾したtRNAにより非天然(非標準的または非タンパク質原性)アミノ酸をタンパク質に組み込むアプローチでは、いわゆる直交翻訳系、即ち修飾tRNAに非標準アミノ酸を結合させるために、操作したアミノアシルtRNA合成酵素を用いる翻訳系が一般的に使用されている(非特許文献14、非特許文献15、特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許出願公開第2003/0224479号明細書
【特許文献2】米国特許第6964859号
【特許文献3】米国特許出願公開第2006/0177900号明細書
【特許文献4】国際公開第2005/007870号
【特許文献5】国際公開第2005/019415号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Pros,E.、Gomez,C.、Martin,T.、Fabregas,P.、Serra,E.、及びLazaro,C.、「Nature and mRNA effect of 282 different NF1 point mutations:focus on splicing alterations」、Human Mutation、2008年、第29号:E173‐E193、doi:10.1002/humu.20826
【非特許文献2】Ars E、Kruyer H、Morell Mら、「Recurrent mutations in the NF1 gene are common among neurofibromatosis type 1 patients」、Journal of Medical Genetics、2003年;第40号:e82、doi:10.1136/jmg.40.6.e82
【非特許文献3】Brierley,I.、「Macrolide‐Induced Ribosomal Frameshifting:A New Route to Antibiotic Resistance」、Molecular Cell、2013年、第52号、p.613‐615、doi:10.1016/j.molce1.2013.11.017
【非特許文献4】Atkins,J.F.及びBaranov,P.V.、「Molecular biology: Antibiotic re-frames decoding」、Nature、2013年、第503(7477)号、p.478‐479、Doi:10.1038/503478a
【非特許文献5】Koukuntla,R、「Suppressor tRNA mediated gene therapy」修士学位論文、10920号、アイオワ州立大学、2009年、http://lib.dr.iastate.edu/etd/10920
【非特許文献6】Qian,Q.、Li J‐N.、Zhao H.、Hagervall T.G.、Farabaugh P.J.、Bjork G.R.、「A New Model for Phenotypic Suppression of Frameshift Mutations by Mutant tRNAs」、Molecular Cell、1998年、第1号、p.471‐482
【非特許文献7】O’Mahony DJ、Hughes D、Thompson S、Atkins JF、「Suppression of a -1 Frameshift Mutation by a Recessive tRNA Suppressor Which Causes Doublet Decoding」、Journal of Bacteriology、1989年、第171(7)号
【非特許文献8】Walker,SE、Fredrick,K.、「Recognition and Positioning of mRNA in the Ribosome by tRNAs with Expanded Anticodon」、Journal of Molecular Biology、2006年7月14日;第360(3)号:p.599‐609、doi:10.1016/j.jmb.2006.05.006
【非特許文献9】Sako Y、Usuki F、Suga H.、「A novel therapeutic approach for genetic diseases by introduction of suppressor tRNA」、Nucleic Acids Symposium Series(オックスフォード)、2006年;第50号:p.239‐240
【非特許文献10】Hohsaka T、Ashizuka Y、Murakami H、Sisido M、「Five‐base codons for incorporation of nonnatural amino acids into proteins」 Nucleic Acids Research、2001年;第29(17)号:p.3646‐3651
【非特許文献11】Hohsaka T、Sisido M、「Incorporating of non‐natural amino acids into proteins」、Current Opinion in Chemical Biology、2002年12月;第6(6)号:p.809‐15
【非特許文献12】Anderson JC、Magliery TJ、Schultz PG、「Exploring the limits of codon and anticodon size」、Chemistry&Biology、2002年、第9(2)号:p.237‐44、DOI:10.1016/S1074‐5521(02)00094‐7
【非特許文献13】Hohsaka,T.、「Incorporation of Nonnatural Amino Acids into Proteins through Extension of the Genetic Code」、Bulletin of the Chemical Society of Japan、2004年、第77号、p.1041‐1049、DOI:10.1246/bcsj.77.1041
【非特許文献14】Wang,K.、Sachdeva,A.、Cox,D.ら、「Optimized orthogonal translation of unnatural amino acids enables spontaneous protein double-labelling and FRET」、Nature Chemistry、2014年、第6号、p.393‐403、doi:10.1038/nchem.1919
【非特許文献15】Ohtsuki,T.、Manabe,T.、Sisido,M.、「Multiple incorporation of non‐natural amino acids into a single protein using tRNAs with non‐standard structures」、FEBS Letters、2005年、第579号、p.6769‐6774、doi: 10.1016/j.febslet.2005.11.010
【非特許文献16】Sprinzl M、Horn C、Brown M、Ioudovitch A、Steinberg S、「Compilation of tRNA sequences and sequences of tRNA genes」、Nucleic Acids Research、1998年;第26(1)号:p.148‐53)
【非特許文献17】Iannuzzi MC、Stern RC、Collins FS、Hon CT、Hidaka N、Strong T、Becker L、Drumm ML、White MB、Gerrard B、Dean,M.、「Two frameshift mutations in the cystic fibrosis gene」、American Journal of Human Genetics、1991年、第48(2)号:p.227‐31、PMID:1990834;PMCID:PMC1683026
【非特許文献18】Gardner E、Bailey M、Schulz A、Aristorena M、Miller N、Mole SE、「Mutation update:Review of TPP1 gene variants associated with neuronal ceroid lipofuscinosis CLN2 disease」、Human Mutation、2019年;第40(11)号:p.1924‐1938、doi:10.1002/humu.23860
【非特許文献19】Edgar,R.C.、「Muscle:multiple sequence alignment with high accuracy and high throughput」、Nucleic Acids Research、2004年、第32号、p.1792‐1797、doi:10.1093/nar/gkh340
【非特許文献20】Katoh,K.及びStandley,D.M.、「MAFFT Multiple Sequence Alignment Software Version 7」、Molecular Biology and Evolution、2013年、第30号、p.772‐780、doi.org/10.1093/molbev/mst010
【非特許文献21】Goto,Y.、Kato,T.及びSuga,H.、「Flexizymes for genetic code reprogramming」、Nature Protocols、2011、第6(6)号、p.779、doi:10.1038/nprot.2011.331
【非特許文献22】Maini R、Dedkova LM、Paul R、Madathil MM、Chowdhury SR、Chen S、Hecht SM、「Ribosome‐Mediated Incorporation of Dipeptides and Dipeptide Analogues into Proteins in Vitro」、Journal of the American Chemical Society、2015年、第137号、p.11206‐11209、doi10.1021/jacs.5b03135
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
フレームシフト変異の影響の阻止する必要性、及び/またはフレームシフト変異を抑制する必要性が依然として存在する。従って、本発明の目的は、このような手段、特にフレームシフト変異に関連する遺伝子疾患、例えば神経線維腫症を治療するためのフレームシフト変異抑制因子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一態様では、本発明は合成転移リボ核酸(tRNA)を提供するものであり、この合成転移RNAは、4塩基または5塩基のアンチコドンを有する延長アンチコドンループを含む。この4塩基アンチコドンはメッセンジャーRNA上の5つの連続したヌクレオチド塩基と塩基対合するように構成しており、リーディングフレーム域を-1フレーム及び+1フレームに変化させるmRNA上の連続したコドン塩基トリプレット中の挿入や欠失を修正する。
【0013】
本発明は、-1または+1フレームシフト変異を高い特異性で環境依存的に抑制するために使用できる新規な抑制因子tRNAを提供する。これにより、例えば、コード配列に変異を有するmRNAから機能的タンパク質を合成する細胞の能力が回復する。これが無ければ、タンパク質配列が異なるものとなり、タンパク質の機能性が低下するか、または機能しないものとなる。本発明の合成tRNAは、1または2ヌクレオチド延長されたアンチコドンループを含む。本発明の合成tRNAは、mRNA上の2つの隣接するコドンの4または5塩基に相補的であり、第1のコドンはインデル(挿入または欠失)のあるコドンであり、第2のコドンは無傷の隣接するコドンである。4塩基または5塩基のコドンを有する本発明の合成tRNAは、mRNA上のコドン、及び後続のコドン(-1フレームシフトの場合)または先行するコドン(+1フレームシフトの場合)の残りの部分と塩基対合する。その結果、tRNAに担持されるアミノ酸が成長アミノ酸鎖に組み込まれ、リーディングフレームが修正される。-1フレームシフトの場合、本発明の合成tRNAがジペプチドで(プレ)アミノアシル化されていなければ、得られるタンパク質は野生型タンパク質、即ち野生型mRNAから合成したタンパク質よりもアミノ酸が1つ少なくなるが、それでも機能的なタンパク質が得られる可能性は高い。
【0014】
有利にも、本発明は、非天然アミノ酸の組み込みに使用される先行技術の抑制因子tRNAと比較して高い結合親和性をもたらすアンチコドンループを有するように設計した合成転移RNAを提供する。インデル(挿入または欠失)のあるコドンと、それに隣接する未改変コドンの2つの連続したコドンに結合することは、天然の2ヌクレオチド‐アンチコドン抑制因子tRNAと比較して高い特異性が伴う。その結果、本発明の合成tRNAは特定の変異部位に効果的に結合するように設計することが可能となり、mRNAの他の部分的に相同な領域へ非特異的に対合するリスクを大幅に低減することが可能となる。
【0015】
用語「転移リボ核酸」または「tRNA」とは、通常73~90ヌクレオチド長のRNA分子を指し、これはメッセンジャーRNAのヌクレオチド配列をタンパク質のアミノ酸配列へと翻訳することを媒介する。tRNAは、アクセプターステムの末端にある3’CCA尾部で特定のアミノ酸と共有結合し、アンチコドンアームのアンチコドンループにある3ヌクレオチドのアンチコドンを介して、メッセンジャーRNAの3ヌクレオチド配列(コドン)と塩基対合することが可能である。いくつかのアンチコドンは、不安定な塩基対合として知られる現象により、複数のコドンと対合できる。tRNAの二次的な「クローバー葉」構造は、アミノ酸と結合するアクセプターステム、及びループ(Dループ、TΨCループ、アンチコドンループ)中で終わる3つのアーム(「Dアーム」、「Tアーム」、「アンチコドンアーム」)、即ち不対ヌクレオチドを有する部位を含む。アミノアシルtRNA合成酵素は、tRNAに特定のアミノ酸を担持させる(アミノアシル化する)。各tRNAは、アミノ酸の1つ以上のコドンと塩基対合可能な、他とは明確に異なるアンチコドントリプレット配列を含む。慣習的に、tRNAのヌクレオチドは、76個のヌクレオチドから成る「コンセンサス」tRNA分子に基づいて、tRNAの実際のヌクレオチド数には関係なく、5’リン酸末端から始まって1~76の番号が付けられることが多い。tRNAは、tRNA中にDループなどの可変部分があることから、必ずしも76ヌクレオチド長ではない(図3参照)。この慣例に従えば、天然tRNAのヌクレオチド34~36位はアンチコドンの3つのヌクレオチドを指し、74~76位は終止CCA尾部を指す。任意の「規定数以上の」ヌクレオチドは、コンセンサスtRNAの一部である既存のヌクレオチドの番号にアルファベットを加えて、例えば20a、20b...のように慣例に従ってナンバリングするか、または、可変ループの場合、ヌクレオチド同士独立してナンバリングし、e11、e12...のように先頭文字を加えることでナンバリングすることが可能である(例えば、非特許文献16参照)。以下では、tRNA固有のナンバリングを「tRNAナンバリング規定」または「転移RNAナンバリング規定」とも称する。
【0016】
用語「合成転移リボ核酸」または「合成tRNA」とは、非天然tRNAを指す。また、この用語は、天然tRNAの類似体、即ち、天然tRNAに構造的に類似するがtRNAが構成される1つ以上のヌクレオチドの塩基成分、糖成分、及び/またはリン酸成分が修飾されているtRNAも包含する。修飾tRNAは、例えば、ホスホジエステル架橋がホスホロチオエート、ホスホロアミデート、またはメチルホスホネート架橋に置換されるように修飾したホスホジエステル骨格を有してもよい。糖成分は、例えば、デオキシリボヌクレオチドへと脱ヒドロキシル化することにより、またはメトキシ基、メトキシエトキシ基、またはアミノエトキシ基で置換することにより、2’OH基で修飾してもよい。合成転移リボ核酸は、例えばインビトロで化学的及び/もしくは酵素的に合成可能であり、または、細胞ベースの系、例えばインビボの細菌細胞中で合成可能である。
用語「コドン」とは、タンパク質合成時に特定のアミノ酸または停止シグナルに対応するヌクレオチドトリプレット、即ち3つのDNAまたはRNAヌクレオチドの配列を指す。コドン(mRNAレベル)及びコード化したアミノ酸の一覧を以下に示す。
【0017】
アミノ酸 一文字コード コドン
Ala A GCU、GCC、GCA、GCG
Arg R CGU、CGC、CGA、CGG、AGA、AGG
Asn N AAU、AAC
Asp D GAU、GAC
Cys C UGU、UGC
Gln Q CAA、CAG
Glu E GAA、GAG
Gly G GGU、GGC、GGA、GGG
His H CAU、CAC
Ile I AUU、AUC、AUA
Leu L UUA、UUG、CUU、CUC、CUA、CUG
Lys K AAA、AAG
Met M AUG
Phe F UUU、UUC
Pro P CCU、CCC、CCA、CCG
Ser S UCU、UCC、UCA、UCG、AGU、AGC
Thr T ACU、ACC、ACA、ACG
Trp W UGG
Tyr Y UAU、UAC
Val V GUU、GUC、GUA、GUG
開始:AUG
停止:UAA、UGA、UAG、略称「X」
【0018】
本明細書で使用する用語「センスコドン」とは、アミノ酸をコードするコドンを指す。用語「停止コドン」または「非センスコドン」とは、通常タンパク質に見られる20種のアミノ酸のうち1種をコードしておらず、メッセンジャーRNAの翻訳の停止をシグナル伝達する遺伝子コードのコドン、即ちヌクレオチドトリプレットを指す。
【0019】
用語「フレームシフト変異」とは、3で均等に割り切れない数のヌクレオチドのフレーム外挿入または欠失(総称して「インデル」と称する)を指す。これにより、3ヌクレオチド塩基のステップで進行するヌクレオチド配列の解読が阻害される。用語「-1フレームシフト変異」とは、単一のヌクレオチドを欠失すると、リーディングフレームが1ヌクレオチド分シフトし、後続のコドンの最初のヌクレオチドが、ヌクレオチドを欠失したコドンの一部として読み取られることを意味する。数個のトリプレットと共に上流のコドンから1つのヌクレオチドが欠失すること(即ち4、7、10個等のヌクレオチドの欠失)も、-1フレームシフトと考える。用語「+1フレームシフト変異」とは、トリプレットへの単一のヌクレオチドの挿入、または2つのヌクレオチドの欠失を指す。いずれの事象の結果も、リーディングフレームが1ヌクレオチド分シフトし、上流側コドンのヌクレオチドが下流側コドンの一部として読み取られる。数個のトリプレットと共に1つのヌクレオチドが挿入されること(3n+1ヌクレオチド、nは整数、即ち4、7、10個等のヌクレオチドの挿入)、または数個のトリプレットと共に上流側コドンから2つのヌクレオチドが欠失すること(即ち、5、8、11個等のヌクレオチドの欠失)も+1フレームシフトと考える。フレームシフト変異は、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)、クローン病(CD)、テイ・サックス病(TSD)、嚢胞性線維症(CF)、神経セロイドリポフスチン症(NCL)、神経線維腫症1型(NF1)などの様々な遺伝子疾患に関与している。
【0020】
用語「アンチコドン」とは、mRNA上のコドンの3つの塩基(ヌクレオチド)と塩基対合する(非共有結合する)通常3つのヌクレオチドの配列を指す。アンチコドンは塩基が修飾されたヌクレオチドも含み得る。用語「4ヌクレオチドアンチコドン」または「4塩基アンチコドン」とは、mRNA上の4つの連続した塩基と対合する4つの連続したヌクレオチド(塩基)を有するアンチコドンを指す。用語「クアドラプレットヌクレオチド・アンチコドン」または「クアドラプレット・アンチコドン」は、「4ヌクレオチドアンチコドン」を意味するために使用してもよい。用語「5ヌクレオチドアンチコドン」または「5塩基アンチコドン」とは、mRNA上の5つの連続した塩基に結合(塩基対合)する5つの連続したヌクレオチド(塩基)を有するアンチコドンを指す。用語「クインタプレットヌクレオチド・アンチコドン」または「クインタプレット・アンチコドン」は「5ヌクレオチドアンチコドン」を意味するために使用してもよい。
【0021】
用語「アンチコドンループ」とは、アンチコドンを含むアンチコドンアームの、対合していないヌクレオチドを指す。天然tRNAは通常、アンチコドンループ中に7つのヌクレオチドを有し、そのうち3つのヌクレオチドはmRNA中のコドンと対合する。
【0022】
用語「延長アンチコドンループ」とは、ループ内のヌクレオチドの数が天然tRNAより多いアンチコドンループを指す。延長アンチコドンループは例えば、7個を超えるヌクレオチド、例えば、8、9、または10個のヌクレオチドを含み得る。特にこの用語は、mRNA内の対応数の連続ヌクレオチドと塩基対合することが可能な3つを超える連続したヌクレオチド、例えば4、5、または6個のヌクレオチドから成るアンチコドンを含むアンチコドンループを指す。
【0023】
用語「アンチコドンステム」とは、アンチコドンループを担持する、アンチコドンアームの対合したヌクレオチドを指す。
【0024】
用語「Tステム」は、Tループを担持する、Tアームの対合したヌクレオチド、即ちTアームの対合していないヌクレオチドを指す。
【0025】
用語「可変ループ」とは、アンチコドンアームとTアームとの間に位置するtRNAループを指す。可変ループを構成するヌクレオチドの数は、tRNAごとに大きく変わる場合もある。そのため、可変ループは比較的短く、もしくは欠落さえしている可能性もあり、または比較的大きく、例えばヘリックスを形成している可能性もある。用語「可変アーム」は、用語「可変ループ」の同義語として使用してもよい。
【0026】
本明細書で使用する場合、用語「コドン塩基トリプレット」または「アンチコドン塩基トリプレット」は、コドンまたはアンチコドンを形成する3つの連続したヌクレオチドの配列を指す。同義語として、用語「3ヌクレオチドコドン」(「3塩基コドン」ともいう)もしくは「3ヌクレオチドアンチコドン」(「3塩基アンチコドン」ともいう)、またはその略語、例えば「3ntコドン」または「3ntアンチコドン」を使用してもよい。
【0027】
用語「塩基対」とは、水素結合により接合した塩基の対、またはこのような塩基対の形成を指す。塩基対の一方の塩基は通常プリンであり、他方の塩基は通常ピリミジンである。RNAでは、塩基アデニンとウラシルとが塩基対を形成し、塩基グアニンとシトシンとが塩基対を形成できる。しかし、他の塩基対(「不安定な塩基対」)、例えばグアニン‐ウラシル(G‐U)、ヒポキサンチン‐ウラシル(I‐U)、ヒポキサンチン‐アデニン(I‐A)、ヒポキサンチン‐シトシン(I‐C)の塩基対の形成も可能である。用語「塩基対合可能な」とは、ヌクレオチドまたはヌクレオチドの配列が、対応するヌクレオチドまたはヌクレオチド配列と水素結合安定化構造を形成する能力を指す。
【0028】
本明細書で使用する用語「塩基」は、例えば「塩基A、C、GまたはU」といった用語では、文脈が別段に明確に示していない限り、用語「ヌクレオチド」を包含するか、または「ヌクレオチド」の同義語として使用する。
【0029】
「PTC」とは、未成熟な終止コドンを指す。これは、非センス変異、即ち標準遺伝コードで指定されている20種のタンパク質原性アミノ酸の1種をコードするセンスコドンが鎖終止コドンに変化する変異によりコード核酸配列に導入された停止コドンである。そのため、この用語は、mRNAに含まれる遺伝子コードの翻訳において未成熟な停止シグナルを指す。
【0030】
用語「クローン病」または「クローン氏病」とは、NOD2遺伝子に関連する胃腸炎症性疾患を指す。この疾患に関連する共通の変異は3020位でのシトシンの挿入である。
【0031】
用語「テイ・サックス病」とは、神経細胞の破壊をもたらす遺伝子疾患を指し、生後約2~3か月の幼児期に顕著になる。重度の運動障害、難聴、てんかん発作等を招く。多くの場合、幼児期において死亡に至る。
【0032】
用語「デュシェンヌ型筋ジストロフィー」(DMD)(「ベッカー型筋ジストロフィー」(BMD)とも称する)とは、機能的なジストロフィンタンパク質の欠失により発症する進行性の筋変性及び筋力低下を特徴とするX染色体関連劣性遺伝子障害を指す。ジストロフィンの欠失は、ジストロフィン遺伝子の非センス変異が原因となり得る。
【0033】
「レックリングハウゼン病」とも呼ばれる「神経線維腫症1型」(NF1またはNF‐1)は、ニューロフィブロミンをコードする17番染色体上に存在するNF1遺伝子の変異により引き起こされる常染色体優性遺伝性疾患である。NF1は神経系に沿って腫瘍を引き起こす。
【0034】
用語「嚢胞性繊維症」とは、常染色体劣性態様で遺伝する遺伝子疾患を指す。嚢胞性線維症は、嚢胞性線維症経膜コンダクタンス調節因子(CFTR)タンパク質の遺伝子の両複製物に変異が生じることで発症する。嚢胞性線維症は、例えば、未成熟停止コドンの導入をもたらすフレームシフト変異により発症する可能性がある(例えば、非特許文献17参照)。
【0035】
用語「神経セロイドリポフスチン症」とは、リソソーム中のトリペプチドの変化に関連する神経変性リソソーム蓄積症を指す。神経セロイドリポフスチン症は、例えば他の変異の中でも、トリペプチジルペプチダーゼI(TPP1)またはCLN2‐遺伝子のフレームシフト変異に起因する可能性がある(例えば、非特許文献18参照)。
【0036】
用語「フレームシフト抑制」とは、フレームシフト変異の影響を消し、野生型の表現型を少なくとも部分的に復旧する機序を指す。
【0037】
用語「抑制因子tRNA」とは、いくつかの翻訳系において、メッセンジャーRNAの読み取りを改変するtRNAを指す。抑制因子tRNAの例としては、アミノ酸を担持し、2つの連続したコドンを覆う変異コドンに塩基対合できるtRNAが挙げられる。この2つの連続したコドンの1つは無傷であり、他の1つは挿入または欠失がある。従って、翻訳系によりリーディングフレームが修正できる。
【0038】
核酸に関連する用語「相同性」は、核酸のヌクレオチド配列と他の核酸のヌクレオチド配列との間の類似性または同一性の程度を指す。相同性は、第1の配列中のある位置と第2の配列中の対応する位置を比較して、その位置に同一のヌクレオチドが存在するか否かを判定することにより決定する。最良の配置を可能にするためには、配列ギャップを考慮に入れなければならない場合もある。2つの核酸間の類似性または同一性の程度を決定するためには、比較する核酸の最小長さ、例えば、各配列中のヌクレオチドの少なくとも25%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.2%、または99.5%を考慮に入れることが好ましい。好ましくは、比較のため、各核酸(単数または複数)の全長を使用する。2つの配列の類似性または同一性の程度は、MUSCLEなどのコンピュータープログラム(非特許文献19)、またはMAFFT(非特許文献20)を用いて決定できる。本明細書において、「x%相同的である」または「x%の相同性」といった用語を使用する場合、この用語は、2つの核酸が配列同一性または類似性を有し、好ましくは配列同一性がx%、例えば50%であることを意味する。
【0039】
用語「アミノアシル化」とは、tRNAにアミノ酸を担持させる酵素反応を指す。アミノアシルtRNA合成酵素(aaRS)は、特定の同族アミノ酸またはその前駆体を、適合可能な同族tRNAへとエステル化することを触媒し、アミノアシル‐tRNAを形成する。従って、用語「アミノアシル‐tRNA」とは、アミノ酸が結合したtRNAを指す。各アミノアシル‐tRNA合成酵素は、あるアミノ酸に対して非常に特異的である。同じアミノ酸に対して複数のtRNAが存在する場合もあるが、20種のタンパク質原性アミノ酸の各々に対してアミノアシルtRNA合成酵素は1種しか存在しない。用語「担持」または「付加」は、「アミノアシル化」の同義語としても用いられる場合がある。本発明の合成tRNAに関連する用語「アミノアシル化」とは、tRNAが標的細胞に入る時に既にアシル化されているようにアミノ酸またはジペプチドを既に担持させた(事前に担持させた)合成tRNAを指す。この文脈では、用語「事前にアミノアシル化した」を同義語として使用してもよい。
【0040】
tRNAに関する用語「修飾ヌクレオチド」(または「異常ヌクレオチド」)は、修飾または異常ヌクレオチド塩基、即ち、通常の塩基であるアデニン(A)、ウラシル(U)、グアニン(G)及びシトシン(C)以外の塩基を有するヌクレオチドを指す。修飾ヌクレオチドの例としては、4‐アセチルシチジン(ac4c)、5‐(カルボキシヒドロキシメチル)ウリジン(chm5u)、2’‐O‐メチルシチジン(cm)、5‐カルボキシメチルアミノメチル‐2‐チオウリジン(cmnm5s2u)、5‐カルボキシメチルアミノメチルウリジン(cmnm5u)、ジヒドロウリジン(d)、2’‐O‐メチルシュードウリジン(fm)、ベータ、D‐ガラクトシルキュエオシン(gal q)、2’‐O‐メチルグアノシン(gm)、イノシン(i)、N6‐イソペンテニルアデノシン(i6a)、1‐メチルアデノシン(m1a)、1‐メチルシュードウリジン(m1f)、1‐メチルグアノシン(m1g)、1‐メチルイノシン(m1i)、2,2‐ジメチルグアノシン(m22g)、2’‐O‐メチルアデノシン(am)、2‐メチルアデノシン(m2a)、2‐メチルグアノシン(m2g)、3‐メチルシチジン(m3c)、5‐メチルシチジン(m5c)、N6‐メチルアデノシン(m6a)、7‐メチルグアノシン(m7g)、5‐メチルアミノメチルウリジン(mam5u)、5‐メトキシアミノメチル‐2‐チオウリジン(mam5s2u)、ベータ、D‐マンノシルキュエオシン(man q)、5‐メトキシカルボニルメチル‐2‐チオウリジン(mcm5s2u)、5‐メトキシカルボニルメチルウリジン(mcm5u)、5‐カルバモイルメチルウリジン(ncm5U)、5‐カルバモイルメチル‐2’‐O‐メチルウリジン(ncm5Um)、5‐メトキシウリジン(mo5u)、2‐メチルチオ‐N6‐イソペンテニルアデノシン(ms2i6a)、N‐((9‐ベータ‐D‐リボフラノシル‐2‐メチルチオプリン‐6‐yl)カルバモイル)トレオニン(ms2t6a)、N‐((9‐ベータ‐D‐リボフラノシルプリン‐6‐y1)N‐メチルカルバモイル)トレオニン(mt6a)、ウリジン‐5‐オキシ酢酸‐メチルエステル(mv)、ウリジン‐5‐オキシ酢酸(o5u)、ワイブトキソシン(osyw)、シュードウリジン(p、Ψ)、キュエオシン(q)、2‐チオシチジン(s2c)、5‐メチル‐2‐チオウリジン(s2t)、2‐チオウリジン(s2u)、4‐チオウリジン(s4u)、5‐メチルウリジン(t)、N‐((9‐ベータ‐D‐リボフラノシルプリン‐6‐イル)‐カルバモイル)トレオニン(t6a)、2’‐O‐メチル‐5‐メチルウリジン(tm)、2’‐O‐メチルウリジン(um)、ワイブトシン(yw)、3‐(3‐アミノ‐3‐カルボキシ‐プロピル)ウリジン、(acp3)u(x)が挙げられる。
【0041】
用語「対応する修飾ヌクレオチド」とは、配列中の所与の位置にある修飾ヌクレオチドを指し、その修飾ヌクレオチドの塩基は、修飾ヌクレオチドを含む配列と比較すべき元の配列中の同じ位置で、ヌクレオチドの通常の、即ち修飾されていない塩基をベースとして修飾されている。従って、対応する修飾ヌクレオチドは、細胞内で、通常のヌクレオチドを修飾することにより通常のヌクレオチドから通常生成されるヌクレオチドであればどのようなヌクレオチドでもよい。ウリジンに対応する修飾ヌクレオチドは、例えば、ウリジンの修飾に由来するヌクレオチドであればどのようなヌクレオチドでもよい。一例として、配列中の特定の位置にある5‐(カルボキシヒドロキシメチル)ウリジン(chm5u)は、元の配列の同じ位置にあるウリジンに対応する修飾ヌクレオチドであってもよい。ウリジンに対応する更なる修飾ヌクレオチドとしては、例えば、5‐メチルウリジン(t)、2’‐O‐メチル‐5‐メチルウリジン(tm)、2’‐O‐メチルウリジン(um)、または5‐メトキシウリジン(mo5u)が挙げられる。別の例として、イノシンはアデノシンから生成されるため、アデノシンに対応する修飾ヌクレオチドである。
【0042】
本発明の合成転移RNAは、天然tRNAをベースとして合成してもよい。しかし、本発明のtRNAは、好ましくは、計算により(「インシリコ」)設計し、インビトロで化学的及び/または酵素的に合成する。本発明の合成tRNAを計算により設計することにより、細胞内に存在する他のtRNAに干渉しないtRNAが設計及び合成できる。生細胞、好ましくは哺乳動物細胞、例えばヒト細胞に天然に存在するアミノアシルtRNA合成酵素により、変異コドンに隣接するコドンまたはインデルを受けた野生型コドンにコードされた特定のアミノ酸をtRNAに担持させることができるように、本発明の合成tRNAを選択または設計する。
【0043】
アンチコドンループの拡大による不安定化の可能性を阻止するために、本発明の合成tRNAは、そのアンチコドンループの内部または外部で、安定性が高まるように更に構造的に修飾してもよい。好ましくは、天然の3ヌクレオチドのアンチコドンが4ヌクレオチドまたは5ヌクレオチドのアンチコドンに置換された天然tRNAと比較して安定性が少なくとも同等または高くなるように、または同族アミノ酸の天然tRNAと比較して安定性が少なくとも同等または高くなるように、本発明のtRNAを設計する。用語「安定性」とは、翻訳因子が存在しない状態でtRNAが安定して正しく折り畳まれた機能的構造を取ることを指し、折り畳み時の自由エネルギー変化を推定することで予測可能であり、及び/または、tRNAと伸長因子とを相互作用させて伸長を可能にする伸長因子との安定的な結合を指す。「高い安定性」とは、例えば、機能的状態へとtRNAが折り畳まれる時の望ましい自由エネルギー変化が大きいことを意味する。これは、所望の構成の、即ち、十分にまたは完全に折り畳まれたtRNA分子の割合が高いことも意味する。「より高い安定性」とは、伸長因子との結合の安定性が高いこと、例えば、結合親和性が高いことを意味し得るが、更に、翻訳部位の好ましく滞りない伸長を可能にすることも意味する。4ヌクレオチドアンチコドンを有する本発明の合成転移RNAの安定性は、3ヌクレオチドアンチコドンが4ヌクレオチドアンチコドンと置換された天然転移RNAに匹敵するか、または同族アミノ酸の天然tRNAに匹敵する。また、5ヌクレオチドアンチコドンを有する本発明の合成転移RNAの安定性は、3ヌクレオチドアンチコドンが5ヌクレオチドアンチコドンに置換された天然転移RNAに匹敵するか、または同族アミノ酸の天然tRNAに匹敵する。安定性の低いtRNAと比較して、本発明の合成tRNAの高い安定性により、細胞内の折り畳まれたtRNAの濃度が高まる。更に好ましくは、本発明の合成tRNAは、伸長因子(例えばeEF1A)との複合体においては安定性が低くなるように構成しているため、翻訳の際にtRNAの機能が乱雑になり、その結果、抑制が活性的になる。
【0044】
tRNAは、例えば、アンチコドンアーム、またはアンチコドンアーム以外の成分、例えば、Dアーム、Tアーム、可変アームのヌクレオチド組成に従って修飾してもよい。例えば、本発明の合成tRNAは、アンチコドンループ中、32位にC、即ちヌクレオチドCを有し、37位にA、即ちヌクレオチドAを有することが好ましい。このナンバリングは上述のtRNAナンバリング規定に従っている。更に、アンチコドンループはG‐CまたはC‐G対に挟まれていること、即ち、アンチコドンループの方向にアンチコドンステムの末端でG‐CまたはC‐G対を有することが好ましい。用語「G‐C対」または「C‐G対」とは、水素結合を介して対合し、アンチコドンループにより5’‐3’方向に分離される塩基(ヌクレオチド)C及びGを指す。tRNAナンバリング規定に従って、G‐CまたはC‐G対は31位及び39位の位置を取る。即ち、「G‐C」対の場合、31位にG、39位にCがあり、または「C‐G」対の場合、31位にC、39位にGがある。別の好ましい実施形態では、U‐A対(5’‐3’方向)はアンチコドンループを挟み、即ち、tRNAのナンバリング規定によれば、アンチコドンループの方向のアンチコドンステムの末端、即ち31位及び39位に位置する。
【0045】
+1フレームシフト変異または1フレームシフト変異の抑制因子としての使用に適し、31位にU、39位にAを有するアンチコドンループを持つアンチコドンアーム(U31‐A39アンチコドンアーム)の例は以下の通りである。
+1フレームシフト:
AUGGUCUNNNNAAACCAU(配列番号17)
-1フレームシフト:
AUGGUCUNNNNNAAACCAU(配列番号18)
下線部のNは4ntまたは5ntのアンチコドンを表す。
【0046】
本発明の好ましい実施形態では、本発明の合成tRNAは以下の構造を有するTステムを含む。
1CGGG‐T‐ループ‐CCCGN2、配列中、
1=A、G、またはC
2=C、U、またはG
最初の5つのヌクレオチド(N1CGGG)及び最後の5つのヌクレオチド(CCCGN2)は対合し、Tステムを形成し、その間にTループがある。
1とN2との好ましい組み合わせは以下の通りである。
1=G、N2=C
1=A、N2=U
1=G、N2=U
1=C、N2=G
【0047】
好ましい実施形態では、Tアームは、以下の一般配列(配列番号19)を有する。
1CGGGNNNNNNNCCCGN2
1及びN2は上記で定義したとおりであり、
内側の連続したNはTループを形成し、Nは、任意のヌクレオチドまたは任意の対応する修飾ヌクレオチドである。
Tループは以下の配列を有していてもよい。
UUCGAAU
【0048】
従って、好ましい実施形態では、Tアームは以下の配列番号20の配列を有してもよい。
1CGGGUUCGAAUCCCGN2
配列中、N1及びN2は上記で定義したとおりである。
Tアームの特に好ましい実施形態は以下の通りである。
GCGGG‐T‐ループ‐CCCGC、
ACGGG‐T‐ループ‐CCCGU、
GCGGG‐T‐ループ‐CCCGU、または
CCGGG‐T‐ループ‐CCCGG
Tループは、好ましくは、上記で与えられた配列(UUCGAAU)を有し、Tアームは好ましくは、以下の配列を有する。
GCGGGUUCGAAUCCCGC(配列番号21)、
ACGGGUUCGAAUCCCGU(配列番号22)、
GCGGGUUCGAAUCCCGU(配列番号23)、または
CCGGGUUCGAAUCCCGG(配列番号24)
上記のようなTアームを含む本発明の合成tRNAは安定性に優れ、特にフレームシフト変異の抑制のみならず、非センス変異(センスコドンを停止コドンに変換する変異、PTC)を抑制するための抑制因子tRNAとしての使用に有用である。
【0049】
本発明の好ましい実施形態では、合成tRNAは以下の配列(配列番号25)を有する可変ループを含む。
UGGGGNNNNNNCCCCGC
可変ループの好ましい実施形態の1例を以下の配列(配列番号26)に示す。
UGGGGUCCACUCCCCGC
【0050】
上記のTアームを含むtRNAと同様に、上記可変ループを含む合成tRNAは安定性に優れていることが確認されており、フレームシフト変異の抑制だけでなく、例えば非センス変異の抑制にも有利に利用できる。
【0051】
本発明の合成tRNAは、上述のTアームまたは可変ループをそれぞれ単独で、または組み合わせて含んでもよい。本発明のtRNAは、U31‐A39アンチコドンアーム、即ち、31位にU、39位にAを有するアンチコドンアームを含むことが更に好ましい。アンチコドンアームは、配列番号17または配列番号18に示す配列を有してもよい。
【0052】
当業者は、tRNAが特定のアミノアシルtRNA合成酵素(aaRS)により特定のアミノ酸でアミノアシル化されること、またaaRSがtRNAのアクセプターステム及び/またはアンチコドンループにある固有の識別要素を介してその同族tRNAを認識可能であることは理解している。インビボでその同族アミノ酸を付加したtRNAを提供するために、当業者は、好適な固有の識別要素を有する本発明の合成tRNAを設計することがある。また、本発明の合成tRNAをフレキシザイムでアミノアシル化し、アミノアシル‐tRNAとして真核細胞にトランスフェクトすることも可能である(非特許文献21)。
【0053】
本発明のtRNAは、好ましくは、どのような天然tRNAにも配列同一性が低く、配列同一性は、好ましくはtRNAの全長に対して、好ましくは70%未満、65%未満、60%未満、65%未満、または50%未満であり、特に好ましくは49%未満、48%未満、47%未満、46%未満、45%未満、44%未満、または43%未満である。
【0054】
本発明の合成転移RNAでは、アンチコドンループは、4または5ヌクレオチドのアンチコドンを収容してmRNAと塩基対合できる十分に数の多いヌクレオチドにより延長されている。本発明の合成転移RNAのアンチコドンループは、例えば、7~12個、好ましくは7~10個、または8~10個、更に特に好ましくは8または9個のヌクレオチドから構成してもよい。
【0055】
本発明の合成tRNAの延長アンチコドンループは、一実施形態では、4塩基アンチコドンを含み、このアンチコドンは、ヌクレオチドを追加した標的mRNA上の4塩基コドン、即ちコドン塩基トリプレットと塩基対合できる。別の実施形態では、本発明の合成tRNAは塩基ダブレットを含む5塩基アンチコドンから成り、この塩基ダブレットは、コドン中のヌクレオチドを欠失させた後にmRNA上のコドントリプレットから残ったコドンダブレットに塩基対合することが可能である。一方、隣接するアンチコドン塩基トリプレットは好ましくは、mRNA上の欠失のあるコドンに先行または後続するセンスコドン、即ち5’または3’に塩基対合する。用語「先行する」または「後続する」は、翻訳の方向、即ちmRNAの5’‐3’方向を指す。
【0056】
本発明の合成tRNAの延長アンチコドンループにおける5ヌクレオチドアンチコドンの例としては、変異していないmRNA内のGAAAUC(5’‐3’)と一致するGAUUC(5’‐3’方向、または3’‐5’方向のCUUAG)が挙げられ、ここでは、UCはコドンGAAのAを欠失させた後に残った塩基ダブレットGAと塩基対合可能であり、GAUはイソロイシンをコードするコドンAUCと塩基対合可能である。
【0057】
本発明の合成転移RNAはアミノアシル化してもよく、即ち、そのアクセプターステムの末端にアミノ酸またはジペプチドを担持してもよい。tRNAは、4または5ヌクレオチドのアンチコドンと塩基対合するセンスコドンにコードされたアミノ酸によりアミノアシル化することが好ましい。本発明の合成tRNAは、化学的及び/または酵素的に単一のアミノ酸またはジペプチドでアミノアシル化することが可能である。tRNAにジペプチドを付加することは、当業者に公知の方法で達成できる(例えば、非特許文献22参照)。tRNAをジペプチドでアミノアシル化するために、例えば、操作した細菌tRNA合成酵素またはRNAをベースとする触媒を使用してもよい。ジペプチドは、欠失の場合、連続した未変異コドンにコードされたアミノ酸から構成されることが好ましい。このようなジペプチドでアミノアシル化された合成tRNAを使用すると、-1フレームシフトが意図した通りに抑制され、非トランケート型タンパク質が生成されるだけでなく、野生型タンパク質のアミノ酸配列を有するタンパク質が生成される。
【0058】
好ましい実施形態では、本発明の合成転移RNAは以下を有するか、または含む:a)5’から3’方向に、連続した配列、A、B、及びC部分から成る配列であって、A部分は、配列番号01、配列番号02、配列番号07、配列番号08、配列番号27、配列番号28、配列番号29、及び配列番号30に記載の配列のうちの1つを有するか、または含み、B部分は、配列番号03、配列番号04、配列番号06、配列番号25、配列番号31、及び配列番号32に記載の配列のうちの1つを有するか、または含み、C部分は、配列番号5、配列番号33、及び配列番号34に記載の配列のうちの1つを有するか、または含む、配列;あるいは、b)上記a)に従った配列のうちの1つと少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%の配列同一性を有する配列;あるいは、c)上記a)またはb)の配列のうちの1つに従った配列であって、ヌクレオチドの少なくとも1つは対応する修飾ヌクレオチドで置換されている、配列。本発明のtRNAは、上記A、B、及びC部分の任意の組み合わせから構成してよいが、但しそれら部分の順序は、5’‐3’方向にA‐B‐Cである。
【0059】
好ましい実施形態では、本発明の合成tRNAは3つの配列A、B、及びC部分から成り、これらは、例えばホスホジエステル結合を介して5’から3’方向に共有結合している。
【0060】
4ntアンチコドンtRNAでは、A部分は4nt‐アンチコドン(以下、下線付きの「N」)を含み、好ましくは配列番号1、配列番号2、配列番号27、または配列番号28の配列を有する。
配列番号1
NNCAGNNUGNNCGAGNNGUCUAAGNNNNNNGCCUNNNNAUGCNNNUN
配列番号2
NNCAGNNUGNNCGAGNNGUCUAAGNNNNNNGCCUNNNNAGCNNNUN
配列番号27
NNCAGNNUGNNCGAGNNGUCUAAGNNNNNNGUCUNNNNAAACNNNUN
配列番号28
NNCAGNNUGNNCGAGNNGUCUAAGNNNAUGGUCUNNNNAAACCAUUN
N=任意のヌクレオチド、または任意の対応する修飾ヌクレオチド
ここでは以下のことに留意されたい。本発明のtRNA配列中では未知の複数のヌクレオチド(N)を組み合わせることが可能であり、即ち配列中の位置は任意のヌクレオチドまたは対応する修飾ヌクレオチドが存在可能であるが、但し、ループの1つにあるヌクレオチドのように塩基対に関与しないヌクレオチドは例外であり、例えば、Tループまたはアンチコドンループは、塩基対合を介して機能的tRNA分子を形成できるヌクレオチドに限定される。
【0061】
B部分は、可変長であってもよく、可変ループを含むかまたは可変ループから成り、配列番号3、4、6、25、31、または32(N=任意のヌクレオチド、または任意の対応する修飾ヌクレオチド)の配列を有することが好ましい。
配列番号3
NNNNNNNNNNN
配列番号4
NNNNNNNNNNNNNNN
配列番号6
UGGGGUCACUCCCCG
配列番号25
UGGGGNNNNNNCCCCGC
配列番号31
NNNNNNNNNNNNNNNNN
配列番号32
UGGGGUCCACUCCCCGC
【0062】
C部分は配列番号5、33、または34に記載の配列を有することが好ましい。
配列番号5
CNUGGNUUCGAAUNCCANNNCUGNNACCA
配列番号33
CNCGGGNNNNNNNCCCGNNNCUGNNACCA
配列番号34
CNCGGGUUCGAAUCCCGNNNCUGNNACCA
【0063】
上記A~C部分から成る本発明の好ましい4nt‐アンチコドンtRNAは、例えば、以下の配列を有する(配列番号9~12、35~38;N=任意のヌクレオチド、下線はアンチコドン)。
配列番号9
NNCAGNNUGNNCGAGNNGUCUAAGNNNNNNGCCUNNNNAUGCNNNUNNNNNNNNNNNNCNUGGNUUCGAAUNCCANNNCUGNNACCA
配列番号10
NNCAGNNUGNNCGAGNNGUCUAAGNNNNNNGCCUNNNNAGCNNNUNNNNNNNNNNNNCNUGGNUUCGAAUNCCANNNCUGNNACCA
配列番号11
NNCAGNNUGNNCGAGNNGUCUAAGNNNNNNGCCUNNNNAUGCNNNUNUGGGGUCACUCCCCGCNUGGNUUCGAAUNCCANNNCUGNNACCA
配列番号12
NNCAGNNUGNNCGAGNNGUCUAAGNNNNNNGCCUNNNNAGCNNNUNUGGGGUCACUCCCCGCNUGGNUUCGAAUNCCANNNCUGNNACCA
配列番号35
NNCAGNNUGNNCGAGNNGUCUAAGNNNNNNGUCUNNNNAAACNNNUNNNNNNNNNNNNNNNNNNNCNCGGGNNNNNNNCCCGNNNCUGNNACCA
配列番号36
NNCAGNNUGNNCGAGNNGUCUAAGNNNNNNGUCUNNNNAAACNNNUNUGGGGUCCACUCCCCCGCCNCGGGNNNNNNNCCCGNNNCUGNNACCA
配列番号37
NNCAGNNUGNNCGAGNNGUCUAAGNNNNNNGUCUNNNNAAACNNNUNUGGGGUCCACUCCCCCGCCNCGGGUUCGAAUCCCGNNNCUGNNACCA
配列番号38
NNCAGNNUGNNCGAGNNGUCUAAGNNNAUGGUCUNNNNAAACNNNUNUGGGGUCCACUCCCCCGCCNCGGGUUCGAAUCCCGNNNCUGNNACCA
【0064】
5nt‐アンチコドンの場合、tRNAのA部分は5nt‐アンチコドン(下記の下線付きの「N」)を含み、好ましくは配列番号7、配列番号8、配列番号29、または配列番号30の配列を有する(N=任意のヌクレオチド)。
A部分:
配列番号7
NNCAGNNUGNNCGAGNNGUCUAAGNNNNNNGCCUNNNNNAUGCNNNUN
配列番号8
NNCAGNNUGNNCGAGNNGUCUAAGNNNNNNGCCUNNNNNAGCNNNUN
配列番号29
NNCAGNNUGNNCGAGNNGUCUAAGNNNNNNGUCUNNNNNAAACNNNUN
配列番号30
NNCAGNNUGNNCGAGNNGUCUAAGNNNAUGGUCUNNNNNAAACCAUUN
【0065】
B部分は可変長であってもよく、可変ループを含むか、または可変ループから成る。好ましい実施形態では、B部分は以下の配列の1つを有する。
配列番号3
NNNNNNNNNNN
配列番号4
NNNNNNNNNNNNNNN
配列番号6
UGGGGUCACUCCCCG
配列番号25
UGGGGNNNNNNCCCCGC
配列番号31
NNNNNNNNNNNNNNNNN
配列番号32
UGGGGUCCACUCCCCGC
【0066】
C部分は、好ましくは以下の配列を有する。
配列番号5
CNUGGNUUCGAAUNCCANNNCUGNNACCA
配列番号33
CNCGGGNNNNNNNCCCGNNNCUGNNACCA
配列番号34
CNCGGGUUCGAAUCCCGNNNCUGNNACCA
【0067】
本発明のA~C部分から成る5nt‐アンチコドンtRNAは、好ましくは以下の配列を有する(N=任意のヌクレオチド;下線はアンチコドン)。
配列番号13
NNCAGNNUGNNCGAGNNGUCUAAGNNNNNNGCCUNNNNNAUGCNNNUNNNNNNNNNNNNCNUGGNUUCGAAUNCCANNNCUGNNACCA
配列番号14
NNCAGNNUGNNCGAGNNGUCUAAGNNNNNNGCCUNNNNNAGCNNNUNNNNNNNNNNNNCNUGGNUUCGAAUNCCANNNCUGNNACCA
配列番号15
NNCAGNNUGNNCGAGNNGUCUAAGNNNNNNGCCUNNNNNAUGCNNNUNUGGGGUCACUCCCCGCNUGGNUUCGAAUNCCANNNCUGNNACCA
配列番号16
NNCAGNNUGNNCGAGNNGUCUAAGNNNNNNGCCUNNNNNAGCNNNUNUGGGGUCACUCCCCGCNUGGNUUCGAAUNCCANNNCUGNNACCA
配列番号39
NNCAGNNUGNNCGAGNNGUCUAAGNNNNNNGUCUNNNNNAAACNNNUNNNNNNNNNNNNNNNNNNNCNCGGGNNNNNNNCCCGNNNCUGNNACCA
配列番号40
NNCAGNNUGNNCGAGNNGUCUAAGNNNNNNGUCUNNNNNAAACNNNUNUGGGGUCCACUCCCCCGCCNCGGGNNNNNNNCCCGNNNCUGNNACCA
配列番号41
NNCAGNNUGNNCGAGNNGUCUAAGNNNNNNGUCUNNNNNAAACNNNUNUGGGGUCCACUCCCCCGCCNCGGGUUCGAAUCCCGNNNCUGNNACCA
配列番号42
NNCAGNNUGNNCGAGNNGUCUAAGNNNAUGGUCUNNNNNAAACNNNUNUGGGGUCCACUCCCCCGCCNCGGGUUCGAAUCCCGNNNCUGNNACCA
【0068】
上記の配列において、Nは塩基A、C、G、またはUのいずれか、または任意の修飾塩基を表す。好ましくは、その塩基は、図3に示すような塩基対合を侵害しない。許容される塩基対は、例えばG‐C、C‐G、A‐U、U‐A、並びにG‐U、U‐G、I‐U、U‐I、I‐A、A‐I、及びI‐C、C‐Iのような不安定な塩基対である。
本明細書で使用するような記号G、C、A、またはUは、未修飾塩基または対応する任意の修飾塩基(下記参照)を表してもよい。従って、本発明のtRNAは1つ以上の修飾ヌクレオチドを含んでいてもよい。
【0069】
明確にするために、本発明の合成転移RNAは任意の修飾ヌクレオチドを含むように合成してもしていなくともよいことに留意されたい。従って、本発明の合成転移RNAはいかなる修飾ヌクレオチドも含まなくてよい。しかし、それにも関わらず、細胞に入った後、その合成tRNAの1つ以上のヌクレオチドは細胞酵素機構により細胞内で修飾されてもよい。その結果、修飾ヌクレオチドを含まずに設計、合成、及び投与されている本発明の合成tRNAは、生細胞中で、細胞がヌクレオチドに行った修飾により、1つ以上の修飾ヌクレオチドを含む可能性がある。実際、本発明の合成tRNAは、修飾ヌクレオチドを全く含まずに、細胞に何らかの修飾を残すように、合成及び投与することが好ましい。
投与前に既に修飾ヌクレオチドを含むように、修飾ヌクレオチドを用いて本発明の合成tRNAを合成する場合、本発明のtRNAは、以下の修飾ヌクレオチド(表1)の1つ以上を含むことが好ましい。
【0070】
表1.tRNA内の存在し得る修飾ヌクレオチド及びその位置(普及した「コンセンサス」tRNAの特定のtRNAナンバリング規定に従った位置ナンバリング、図3も参照のこと)
【0071】
【表1】
【0072】
m1g、1‐メチルグアノシン;am、2’‐O‐メチルアデノシン;cm、2’‐O‐メチルシチジン;gm、2’‐O‐メチルグアノシン;Ψ、シュードウリジン;m2g、N2‐メチルグアノシン;ac4c、N4‐アセチルシチジン;d、ジヒドロウリジン;m22g、N2,N2‐ジメチルグアノシン;m2g、N2‐メチルグアノシン;I、イノシン;m5c、5‐メチルシチジン;mcm5u、5‐メトキシカルボニルメチルウリジン;mcm5s2u、5‐メトキシカルボニル‐メチル‐2‐チオウリジン;ncm5u、5‐カルバモイルメチルウリジン;ncm5um、5‐カルバモイルメチル‐2’‐O‐メチルウリジン;q、キュエオシン;m5c、5‐メチルシチジン。
【0073】
上述したように、本発明の合成tRNAの配列における未修飾ヌクレオチドは、対応する修飾ヌクレオチドで置換してもよい。従って、本発明のtRNAの上記配列における記号A、C、G、またはUは、未修飾の塩基または対応する任意の修飾塩基を表してもよい。配列中のAは、例えば、アデニンヌクレオチド(A)または対応する修飾ヌクレオチド、例えば、1‐メチルアデノシン(m1a)を表してもよい。tRNAの合成時には、使用塩基は未修飾塩基とすることも可能である。しかし、合成したtRNAの塩基は、インビトロで化学的及び/または酵素的に修飾してもよい。細胞に導入または組み込まれると、tRNAは、未修飾または修飾ヌクレオチドを用いてインビトロで合成されたか否かに関わらず、細胞により修飾してもよい。
【0074】
更なる態様では、本発明は、医薬として使用するための、本発明の第1の態様に従った合成転移RNAに関する。本発明の転移RNAは、機能的なタンパク質の欠損またはタンパク質の機能低下を引き起こすフレームシフトに関連する疾患に罹患した患者の治療に特に有用である。本発明のtRNAが有利に使用され得る疾患の例としては、神経線維腫症1型、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、クローン病、嚢胞性線維症、神経セロイドリポフスチン症、及びテイ・サックス病が挙げられる。tRNAを細胞に送達するための好適な組成物または手段が知られている。これら手段には、アデノ随伴ウイルス(AAV)をベースとするウイルスベクターなどのウイルスベクターや、ナノ粒子へのカプセル封入、またはナノ粒子への連結が挙げられる。
【0075】
更なる態様では、本発明は、フレームシフト変異に関連する疾患に罹患した患者を治療する方法に関する。当該方法には、本発明の合成転移RNAまたは本発明の合成転移RNAを含む組成物を有効量でその患者に投与することを含む。好ましい実施形態では、当該方法は、神経線維腫症1型、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、クローン病、嚢胞性線維症、神経セロイドリポフスチン症、及び/またはテイ・サックス病を治療するための方法である。
【0076】
更に別の態様では、本発明は、延長アンチコドンループを有し、以下を含む合成転移RNAに関する。
a)配列番号32の配列を有するか、もしくは含む可変アーム、並びに/または
b)配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、及び配列番号24に記載の配列のうち1つを有するか、もしくは含むTアーム、並びに/または
c)tRNAナンバリング規定に準拠した31位のU、及び39位のA。
【0077】
本発明のこの態様のtRNA、特に、配列番号32の配列を有するかもしくは含む可変アームから成るtRNA、または配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、及び配列番号24に記載の配列のうち1つを有するかもしくは含むTアームから成るtRNA、または配列番号32の配列を有するかもしくは含む可変アームと、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、及び配列番号24に記載の配列のうち1つを有するかもしくは含むTアームとの組み合わせから成るtRNAは、細胞環境、例えば哺乳動物細胞内で安定しており、非センス変異またはフレームシフト変異を抑制するために有用である。延長アンチコドンループは、フレームシフト変異または非センス変異を抑制するために4nt‐、5nt‐、または6nt‐アンチコドンを含んでもよい。従って、このtRNAは有利にも、抑制因子分子として、このような変異に関連する疾患、例えば神経線維腫症1型、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、クローン病、嚢胞性線維症、神経セロイドリポフスチン症、またはテイ・サックス病に罹患した患者を治療するために利用できる。
【0078】
本発明のこの態様のtRNAは、31位にU、39位にAを有するアンチコドンアームを有することが好ましい。アンチコドンアームは、例えば配列番号17または配列番号18の配列を有してもよい。本発明の態様のtRNAは、このようなアンチドンアームを単独で含んでもよいし、このようなアンチドンアームと、上述の可変ループと組み合わせても、上述のTアームと組み合わせても、上述の可変ループ及びTアームと組み合わせて含んでもよい。
以下、本発明を、例を挙げて、説明のみを目的とする添付図を用いて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0079】
図1】本発明の合成tRNA、及び+1フレームシフト変異を抑制するための標的mRNAの概略図である。Aは標的mRNAに結合した合成tRNAである。Bは挿入を有するコドンを含むmRNAである。Cは挿入が無い元の(野生型)mRNAである。
図2】本発明の合成tRNA、及び-1フレームシフト変異を抑制するための標的mRNAの概略図である。
図3】普及した「コンセンサス」tRNA構造、及びtRNAナンバリング規定に準拠したそのナンバリングの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0080】
図1は、+1フレームシフト抑制因子として有用な本発明の合成tRNA1、及びヌクレオチド13が挿入された変異コドン17を担持する標的mRNA15の概略的な例を示す。図1Aは、ヌクレオチド13が挿入された変異コドン17を有するmRNA15に結合した合成tRNA1を示し、図1Bは、変異コドン17を有するmRNA15を示し、図Cは、ヌクレオチド13が追加された元の非変異(野生型)mRNA15を示す。本発明の合成tRNA1は、tRNAヌクレオチド11から成り、CCA尾部10を有するアクセプターステム2、TΨCループ6を有するTアーム3、Dループ7を有するDアーム4、5ヌクレオチドステム部分8及びアンチコドンループ9を有するアンチコドンアーム5を含む天然tRNAの共通クローバー葉構造を有する。アミノ酸14はアクセプターステム2のCCA尾部10に結合する。延長アンチコドンループ9は9つのヌクレオチド11から成り、4ヌクレオチド(クアドラプレット)アンチコドン12、即ち通常の3つのヌクレオチドの代わりに4つのヌクレオチド(中黒の丸)から成る「コドン」を含む。4ヌクレオチドアンチコドン12は、mRNAヌクレオチド16から成る標的mRNA15上の変異コドン17(同様に中黒)と塩基対合できる。変異コドン17は、元の塩基トリプレットコドンが挿入ヌクレオチド13により延長されるように挿入を有する。4ヌクレオチドアンチコドン12(中黒の丸)はmRNA15上の変異コドン17(同様に中黒)と塩基対合できる。tRNAは未変異コドンにコードされたアミノ酸を担持することが好ましい。Tアームとアンチコドンアームとの間の可変ループは図に示していない。
【0081】
図2は、-1フレームシフト抑制因子として有用な、本発明の合成tRNA1の概略的な例を示す。図2Aに示すように、本発明の合成tRNA1の本実施形態は、5ヌクレオチドアンチコドン19、即ち、mRNA15上の相補的な5つのヌクレオチドと塩基対合可能な5つのヌクレオチドから成るアンチコドンを担持する。図2B及び図2Cは、変異したmRNA15(B)及び元の未変異mRNA15(C)を示す。変異mRNA15は、ヌクレオチド20が欠失した変異コドン22(ハッチングした部分)を担持する。先行する未変異コドン21、即ち元のヌクレオチドトリプレットコドンは、中黒で示す。本明細で示す実施形態では、5ヌクレオチドアンチコドン19は、変異(トランケート)コドン22に先行する相補的なコドン21と塩基対合可能な3つのヌクレオチド(中黒の丸)から成り、また、残りの2つのヌクレオチド(ハッチングした丸)は、変異コドン22(同様にハッチングしている)、即ち、元のコドン22からヌクレオチド20が欠失した後に残ったヌクレオチドダブレットと塩基対合可能である。tRNA1は、変異コドン22に先行するコドン21にコードされたアミノ酸14、または元の未変異コドン22にコードされたアミノ酸14を担持してもよい。また、変異コドンに先行するコドン21及び変異コドンにコードされたアミノ酸から成るジペプチドをtRNAに付加することも可能である。当然ながら、tRNAは、変異コドンが未変異コドンに先行する2つのコドンと塩基対合するように設計することも可能である。
【0082】
図3は、普及している「コンセンサス」tRNAに適用され、5’末端が1で始まり、3’末端が76で終わる従来のナンバリングに準拠してナンバリングしたtRNAの一例を示す。このような「コンセンサス」tRNAでは、先行するヌクレオチドの実際の数に関わらず、天然アンチコドントリプレット25のヌクレオチドは常に34位、35位、及び36位にある。tRNAには、例えば、1位と34位との間、例えば、Dループ中や、45位と46位との間の可変ループ24中にヌクレオチドが追加されてもよい。追加したヌクレオチドは、例えば、20a、20b等のように、アルファベットを付加してナンバリングしてもよい。可変ループ24では、追加したヌクレオチドは、ループ中のヌクレオチドの位置に応じて、前に「e」、後ろに数字を付けてナンバリングする。例えば上記の表1に収載しているような修飾ヌクレオチドが配列中に存在してもよい。
【実施例1】
【0083】
tRNAの安定性や非正規コドン(タンパク質原性アミノ酸をコードしないヌクレオチドトリプレット)の読み取り能力に及ぼす様々なヌクレオチド及びヌクレオチド対の影響を試験するために、Hep3B細胞中で様々な構成物を試験した。このため、初めにtRNAをインビトロで転写し、次いでレポータープラスミドと共にHep3B細胞にトランスフェクトした。レポータープラスミドはルシフェラーゼ遺伝子を含み、当該ルシフェラーゼ遺伝子では、開始コドンの下流で非正規コドンが組み込まれ、ここに試験tRNAの全てが対合する。tRNAの変化はT‐ステム及びアンチコドンステム中で起こり、残りのtRNA体は一定に保たれた。
【0084】
以下のTアーム及びアンチコドンアームを単独または組み合わせて試験した(以下の表2参照)。ステム部分のみが変化し、Tアーム(UUCGAAU)のループ及び試験したアンチコドンアーム(CUUCAAA、下線はアンチコドン)のループはそのままであった。
【0085】
【表2】
【0086】
【表3】
【0087】
組み合わせ実験(修正Tステム+修飾アンチコドンステム)では、上述のA‐ステム変異体1(U31‐A39)をアンチコドンステムとして使用した。
【0088】
【表4】
【0089】
インビトロでのtRNA転写
設計したtRNAのT7プロモーター駆動転写用テンプレートは、T7プロモーター配列(5’‐TAATACGACTCACTATA‐3’)を含む各tRNAの全長をカバーする2つの重複するDNAオリゴヌクレオチド(市販品)のアニーリング及びプライマー延長により生成した。両オリゴヌクレオチドは95℃で2分間変性させ、0.2MのTris‐HCl(pH7.5)中、室温で3分間インキュベートすることにより、部分的に重複した領域でアニーリングした。DNA鋳型を補完して完全二本鎖DNAにするため、アニーリングしたオリゴヌクレオチドに0.4mMのdNTP、4U/μLのRevertAid Reverse Transcriptase(Thermo Fisher Scientific社、米国)、及び1×RT緩衝液を添加し、反応物を37℃で40分間インキュベートした。DNAテンプレートをフェノール/クロロホルムで精製した。
【0090】
tRNAのインビトロT7駆動型転写を行うために、1×転写緩衝液中で30μgのdsDNAテンプレートと、2mMのNTP、5mMのGMP、及び0.6U/μLのT7RNAポリメラーゼ(Thermo Fisher Scientific社、米国)を混合し、37℃で一晩インキュベートした。tRNAをエタノールで沈殿させ、10%変性ポリアクリルアミドゲルで分離し、50mMのKOAc及び200mMのKCl pH7.0と共に、一定に振盪(1000rpm)しながら4℃で一晩溶出させた。tRNAをろ過し、エタノール沈殿により回収し、DEPC‐H2Oに再懸濁した。10%変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動でtRNAの完全性を分析し、tRNAを今後の使用のために-80℃で保存した。
【0091】
Hep3B細胞中でのtRNA効率試験
10%ウシ胎児血清(FBS)及び1%グルタミン(GIBCO)を添加したDMEM培地中、Hep3B細胞を37℃、5%CO下で維持した。同時トランスフェクトの1日前に、約10,000個の細胞を96ウェルプレートに播種した。トランスフェクト混合物は、Opti‐MEM(Thermo Fisher Scientific社、米国)中、レポータープラスミド(pGL4.51[luc2/CMV/Neo]骨格(Promega社、米国))(25ng/ウェル)、抑制因子tRNA(100ng/ウェル)、リポフェクタミン3000(0.3μl/ウェル)及びP3000試薬(0.2μl/ウェル)(Thermo Fisher Scientific社、米国)を含む。細胞をトランスフェクト混合物と共に5時間インキュベートした。その後、培地を新鮮な培地と交換した。24時間後、細胞を1×PBSで洗浄し、1×Passive Lysis Buffer(Promega社、米国)を添加し、攪拌しながら室温で15分掛けて溶解した。Fireflyルシフェラーゼ試薬(Promega社、米国)を添加し、Tecan Sparkマイクロプレートリーダー(Tecan社、スイス)を用いてルシフェラーゼ活性を測定した。
【0092】
設計したtRNAでは、T‐ステム及びアンチコドンステム中のヌクレオチド対が変化した一方で、tRNAの他の部分は全て一定のままであった(上述を参照)。インビトロで転写したtRNA100ngを、非正規コドンを有するルシフェラーゼレポーターを発現するpGL4.51[luc2/CMV/Neo]と同時トランスフェクトし、24時間掛けて発現させた。非正規コドンへ対合すると、ルシフェラーゼ活性が得られ、このルシフェラーゼ活性を、マイクロプレートリーダーを用いてFireflyルシフェラーゼ発現を測定して監視した。結果を下記表2に示す。
【0093】
表2:Tステムまたはアンチコドン(A)ステムを最適化した様々なtRNA設計物の活性。設計したtRNAでは、T‐ステム及びアンチコドンステム中のヌクレオチド対が変化し、それによりtRNAの他の部分は全て一定のままであった。インビトロで転写したtRNA100ngを、非正規コドンを有するルシフェラーゼレポーターを発現するpGL4.51[luc2/CMV/Neo]と同時トランスフェクトし、24時間掛けて発現させた。非正規コドンへ効率的に対合すると、ルシフェラーゼ活性が得られ、このルシフェラーゼ活性を、マイクロプレートリーダーを用いてホタルルシフェラーゼ酵素活性により監視した。データは平均値±SD(n=3)である。
【0094】
【表5】
【0095】
a T‐ステム変異体の安定化エネルギーは、エネルギーがΔG°=0.5kcal/molである伸長因子への天然ヒトSer‐tRNA変異体の結合を介した安定化エネルギーとの差(ΔΔG°)として計算する。伸長因子はT‐ステムに特異的に結合するため、このエネルギーはT‐stem変異体にのみ与えられ、複合変異体には与えられない。
b 異なるルシフェラーゼ基質を用いて複数セットの実験を行ったため、各実験はセットそれぞれの対照と比較する必要があったことに留意されたい。2つのセットは太いレーンで区切られている。
c Fluc活性の割合は、野生型ルシフェラーゼ活性かmock値を差し引いて計算した。
d A/T変異体3及び4では、T‐ステムは更に変異して安定性aを増加させたが、これらの変異体は単一のT‐ステム変異体としては試験していない。
図1
図2
図3
【配列表】
2022528696000001.app
【国際調査報告】