(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-15
(54)【発明の名称】方向を定められたマスクを含む気体吸気装置
(51)【国際特許分類】
F02F 1/42 20060101AFI20220608BHJP
F02B 23/00 20060101ALI20220608BHJP
【FI】
F02F1/42 F
F02B23/00 T
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021559747
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(85)【翻訳文提出日】2021-12-03
(86)【国際出願番号】 EP2020058714
(87)【国際公開番号】W WO2020212117
(87)【国際公開日】2020-10-22
(32)【優先日】2019-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591007826
【氏名又は名称】イエフペ エネルジ ヌヴェル
【氏名又は名称原語表記】IFP ENERGIES NOUVELLES
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】ゴートロト、 グザヴィエ
(72)【発明者】
【氏名】トロスト、 ジュリアン
(72)【発明者】
【氏名】リッター、 マーティン
(72)【発明者】
【氏名】クリーゲル、 アーノルド
(72)【発明者】
【氏名】ルカ、 ポール-ジョージアン
【テーマコード(参考)】
3G023
3G024
【Fターム(参考)】
3G023AA07
3G023AB01
3G023AB05
3G023AC01
3G023AC04
3G023AD05
3G023AD06
3G023AD08
3G023AD14
3G024AA14
3G024DA06
3G024DA08
(57)【要約】
本発明は、内燃機関のシリンダーのための気体吸気装置(1)に関する。気体吸気装置(1)は、吸気ポート(5)と、吸気弁(4)と、吸気弁(4)の較正部(6)と、シリンダー内の気体のタンブル型の空気力学的な運動を形成する手段と、マスク(10)とを備える。さらに、吸気ポート(5)と較正部(6)との交差部(7)は、触火面(FF)の平面に平行ではない直線に沿っている。加えてマスク(10)は、吸気ポート(5)の端部と同じ形態で方向を定められている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のシリンダーのための気体の吸気装置であって、前記吸気装置(1)は、吸気ポート(5)と、前記吸気ポート(5)内に配置された少なくとも1つの吸気弁(4)と、前記吸気ポート(5)の一端(3)に配置されて前記シリンダーの触火面(FF)に向けられている、前記吸気弁(4)の少なくとも1つの較正部(6)と、前記気体を偏流させて、前記シリンダーの軸に実質的に垂直な軸の周りで前記シリンダー内の前記気体の空気力学的な運動を発生させる手段と、前記シリンダーに開口する前記吸気ポート(5)の前記端部(3)を部分的に塞ぐ少なくとも1つのマスク(10)と、を備え、前記吸気ポートのイントラドス上において前記吸気ポート(5)と前記較正部(6)との間の交差部(7)は、前記触火面(FF)に平行な平面に対して5°と45°の間の角度αを形成しかつ前記吸気ポート(5)と前記較正部(6)との間の交点を通る直線母線(YY)によって支持された、直線部分を形成する吸気装置において、
前記マスク(10)の中間面(PM10)が、γ=α±5°であるように、前記吸気ポート(5)の中間面に対し、前記吸気弁(4)の軸の周りで角度γを形成することを特徴とする、吸気装置。
【請求項2】
角度γはγ=α±2°で規定され、好ましくは角度γは角度αと実質的に等しい、請求項1に記載の吸気装置。
【請求項3】
前記角度αは5~20°であり、好ましくは8~15°である、請求項1または2に記載の吸気装置。
【請求項4】
前記シリンダーの軸に実質的に垂直な軸の周りで前記シリンダー内の前記気体の空気力学的な運動を発生させる前記手段は、前記吸気ポートの形状からなり、特に、前記吸気ポート(5)の通路部分の踏み切り台形状(9)及び/または収斂(8)、及び/または前記吸気ポート(5)の傾斜による前記吸気ポートの形状からなる、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の吸気装置。
【請求項5】
前記吸気ポート(5)は、前記シリンダーに通じる2つの気体出口と、2つの吸気弁とを備える、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の吸気装置。
【請求項6】
前記マスク(10)は、前記吸気弁(4)の軸の上に中心(O)が位置する円環の一部分の形状を実質的に有する、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の吸気装置。
【請求項7】
前記円環の一部分は、150~200°、好ましくは160~180°、優先的には実質的に170°の角度範囲δにわたって延在する、請求項6に記載の吸気装置。
【請求項8】
前記マスク(10)の高さは、2~4mmであり、好ましくは2.8~3.2mmであり、優先的には実質的に3mmと等しい、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の吸気装置。
【請求項9】
前記マスク(10)の前記シリンダーへのフィレット半径は、1~3mmであり、優先的には実質的に2mmと等しい、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の吸気装置。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の少なくとも1つの吸気装置と少なくとも1つの排気装置と燃料噴射手段とを備えるシリンダーを少なくとも1つ有する、内燃機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用の気体吸気装置の分野に関する。特に本発明は、エンジンのシリンダー内で空気力学的な気体運動を発生させることができる気体吸気装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のエンジンは、一般に、少なくとも1つのシリンダーと、このシリンダー内を往復直進運動で摺動するピストンと、酸化剤用の吸気手段と、燃焼ガスの排出手段と、燃焼室と、燃料を噴射する噴射手段と、を備える。
【0003】
一般的に認識されているように、エンジンを設計する場合、性能と汚染物質排出に関する制約はますます厳しくなっているので、最終的なエンジン効率を高めるために新しい解決法を見出す必要がある。
【0004】
かくして燃焼効率を上げることは、同等かそれ以上の性能に対して汚染物質の排出を制限するための重要な点である。そのため、燃焼室内に存在する燃料の全てが、例えば、環境気圧の空気、過給された空気、または、(過給または非過給の)空気と再循環された燃焼ガスの混合物とを含む、酸化剤によって使用されることが非常に重要である。
【0005】
実際、燃焼室内の燃料混合気(酸化剤/燃料)は、できるだけ均質である必要がある。
【0006】
さらに、良好な燃焼速度と並んで良好な効率を確保するために、燃料混合気の点火の瞬間とそれに続く燃焼の過程において、高いレベルの乱流、より具体的には高いレベルの乱流運動エネルギーを有することが望ましい。
【0007】
この高レベルの乱流は、特定の吸気空気力学、すなわちスワンブル(swumble)を使用することによって達成できる。この種の空気力学は、燃料混合気の巨視的運動が、スワール(swirl(旋回))(垂直なシリンダー軸の周りでのシリンダー内の気体の回転運動)とタンブル(tumble)(エンジンの長手方向軸の周りでの、シリンダー内の気体の回転運動)との合成であることを特徴とする。
【0008】
シリンダー軸に共線的な軸の周りでの燃料混合気の巨視的な回転運動であるスワールは、吸気プロセス中の、より具体的にはピストンの上昇中の、良好な運動保存によって特徴付けられる。それは、圧縮点火内燃機関に一般的に使用される空気力学的な巨視的運動であり、そのような内燃機関における、燃料混合気を均質化する良い方法である。
【0009】
タンブルも同様に燃料混合気の巨視的な回転運動であるが、全体としてシリンダーの軸に垂直な軸の周りでの巨視的な回転運動である。それは、ピストンが上昇するときに乱流を作り出す微視的な空気力学的運動に変化するという特有の特徴を有する。これは、制御点火内燃機関に一般的に用いられる空気力学的な巨視的運動であり、そのような内燃機関のために適切な燃焼速度を得る良い方法である。またこの運動は、最大リフト高さと同様に、広がりに関して、燃焼室の幾何学的形状とリフト法則に非常に敏感である。
【0010】
スワンブルを使用することにより、圧縮期での最良の現行の制御点火エンジンで観察されたレベルより高い乱流レベルのおかげて、上記に詳述した2つの空気力学的構造の利点から、したがって優れた均質化とより良い燃焼速度から、利益を得ることができる。
【0011】
シリンダー内のこれらの乱流を達成するために種々の技術的解決法が開発されている。
【0012】
第1の解決策は、米国特許第6606975号明細書に特に記載されている。この解決策は、乱流を発生させるように吸気ポート内に配置したフラップを制御することからなる。この特許は、低負荷スワンブルという概念にさらに言及している。このような解決策は、シリンダー充填に関して複雑であって不利益をもたらす。
【0013】
第2の解決策は、米国特許第5056486号明細書に特に記載されている。この解決策は、複雑な空気力学を発生することを可能にする非対称吸気ポートの定義を提供する。ただしこのその解決策では、吸気弁の開弁の位相シフトを必要とし、そのような位相シフトは高負荷時に不利益をもたらす。
【0014】
第3の解決策は、独国特許発明第10128500号明細書及び欧州特許出願公開第1783341号明細書の特許出願に特に記載されている。この解決策は、吸気ポート内の受動的または能動的な突起物を用いることによって、複雑な空気力学を生成することを可能にする。どちらの場合も、これらの突起物は、シリンダーへの気体の充填を制限する。さらに、能動的な突起物は、そのような解決策をより複雑にする制御装置を必要とする。
【0015】
第4の解決策は、米国特許公開第2008/0149063号明細書、特開2010-261314号公報及び米国特許公開第2012/0160198号明細書の特許出願に特に記載されている。この解決策は、吸気ポートの端部に配置されたマスクを使用して、シリンダー内の気体の空気力学的な運動を発生させることからなる。しかしながら、気体のスワンブル型の空気力学的な運動を得るためには、吸気ポートあたり2つのマスクを使用する必要があるか、あるいは特別なバルブリフト法則を使用する必要があるかのように思われ、この解決策を複雑なものにするであろう。また、使用されるマスクは、シリンダーへの気体の充填を制限する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】米国特許第6606975号明細書
【特許文献2】米国特許第5056486号明細書
【特許文献3】独国特許発明第10128500号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第1783341号明細書
【特許文献5】米国特許公開第2008/0149063号明細書
【特許文献6】特開2010-261314号公報
【特許文献7】米国特許公開第2012/0160198号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、簡単なやり方で良好なエンジン性能を得ることができる吸気装置によって、特に、顕著な乱流エネルギーと安定したスワンブル型の気体空気力学構造とを伴なう吸気装置によって、これらの欠点を克服することである。そのため本発明は、内燃機関のシリンダーのための気体吸気装置に関する。気体吸気装置は、吸気ポートと、吸気弁と、吸気弁の較正部(calibration)と、シリンダー内の気体のタンブル型の空気力学的な運動を形成する手段と、マスクとを備える。さらに、吸気ポートと較正部との交差部は、触火面(face feu)の平面に平行ではない直線に沿っている。この傾斜はシリンダー内でのスワール型の空気力学的な運動の発生を可能にし、これがタンブルと組み合わさって、スワンブル型の空気力学的な運動を形成する。さらに、マスクは吸気ポートの端部と同じ形態で方向が定められており、シリンダー内の気体の空気力学的な運動を促進する。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、内燃機関のシリンダーのための気体の吸気装置に関し、前記吸気装置は、吸気ポートと、前記吸気ポート内に配置された少なくとも1つの吸気弁と、前記吸気ポートの一端に配置されて前記シリンダーの触火面に向けられている、吸気弁の少なくとも1つの較正部と、前記気体を偏流させて、前記シリンダーの軸に実質的に垂直な軸の周りで前記シリンダー内の前記気体の空気力学的な運動を発生させる手段と、前記シリンダーに開口する前記吸気ポート(5)の前記端部(3)を部分的に塞ぐ少なくとも1つのマスク(10)と、を備え、前記吸気ポートのイントラドス上において前記吸気ポートと前記較正部との間の交差部は、前記触火面に平行な平面に対して5°と45°の間の角度αを形成しかつ前記吸気ポートと前記較正部との間の交点を通る直線母線によって支持された、直線部分を形成する。前記マスクの中間面は、γ=α±5°であるように、前記吸気ポートの中間面に対し、前記弁の軸の周りで角度γを形成する。
【0019】
一実施態様によれば、角度γはγ=α±2°で規定され、好ましくは角度γは角度αと実質的に等しい。
【0020】
一実現形態によれば、前記角度αは、5~20°、好ましくは8~15°である。
【0021】
一態様にしたがうと、前記シリンダーの軸に実質的に垂直な軸の周りで前記シリンダー内の前記気体の空気力学的な運動を発生させる前記手段は、前記吸気ポートの形状からなり、特に、前記吸気ポートの通路部分の踏み切り台形状及び/または収斂、及び/または前記吸気ポートの傾斜による前記吸気ポートの形状からなる。
【0022】
1つの特徴によれば、前記吸気ポートは、前記シリンダーに通じる2つの気体出口と、2つの吸気弁とを備える。
【0023】
1つの選択肢によれば、前記マスクは、前記吸気弁の軸の上に中心が位置する円環の一部分の形状を実質的に有する。
【0024】
有利には、前記円環の一部分は、150~200°、好ましくは160~180°、優先的には実質的に170°の角度範囲δにわたって延在する。
【0025】
有利には、前記マスクの高さは、2~4mmであり、好ましくは2.8~3.2mmであり、優先的には実質的に3mmと等しい。
【0026】
好ましくは、前記マスクの前記シリンダーへのフィレット半径は、1~3mmであり、優先的には実質的に2mmと等しい。
【0027】
さらに本発明は、前述の特徴の1つによる少なくとも1つの吸気装置と少なくとも1つの排気装置と燃料噴射手段とを備えるシリンダーを少なくとも1つ有する内燃機関に関する。
【0028】
本発明による装置の他の特徴及び利点は、以下に説明する添付の図面を参照して、非限定的な実施形態の以下の説明を読むことで明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の一実施態様による吸気装置をその動作位置で示す図である。
【
図2】本発明の一実施態様による吸気装置のマスクをその動作位置で示す図である。
【
図3】弁の軸に垂直な平面上における、従来技術による吸気装置のマスクの方向を示す図である。
【
図4】弁の軸に垂直な平面上における、本発明の一実施態様による吸気装置のマスクの方向を示す図である。
【
図5】それぞれ動作位置における、従来技術による気体吸気装置と本発明の一実施形態の気体吸気装置のイントラドスを示す図である。
【
図6】460°であるクランク軸角度に関し、従来技術によるマスクを装備した吸気装置の場合の吸気弁から出てくる気体の空気力学的な運動を示す図である。
【
図7】460°であるクランク軸角度に関し、本発明の一実施形態によるマスクを装備した吸気装置の場合の吸気弁から出てくる気体の空気力学的な運動を示す図である。
【
図8】一方が本発明による吸気ポートに関し、他方が従来技術の吸気ポートに関する、CAD(クランク角の角度)の関数として乱流運動エネルギーの2つの曲線を示す図である。
【
図9】590°であるクランク軸角度に関し、従来技術によるマスクを装備した吸気装置の場合のシリンダー内の気体の空気力学的な運動を示す図である。
【
図10】590°であるクランク軸角度に関し、本発明の一実施形態によるマスクを装備した吸気装置の場合のシリンダー内の気体の空気力学的な運動を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、内燃機関のシリンダーのための気体吸気装置に関する。
【0031】
気体吸気装置は、
・気体をシリンダー内に受け入れるための気体吸気ポートと、
・吸気ポート内に挿入され、開弁することで気体がシリンダー内に入ることを可能にする吸気弁と、
・吸気弁のシリンダー側端部に配置されてシリンダーの触火面に向けられている吸気弁較正部であって、内部で弁が移動する実質的に円筒形状の機械的構成要素である吸気弁較正部と、
・気体を偏流させて、前記シリンダーの軸に垂直な方向においてシリンダー内の気体の空気力学的な運動を発生させる手段、言い換えれば、気体のタンブル型の空気力学的な運動を形成する手段と、
・シリンダー内に開口する吸気ポートの端部を部分的に塞ぐ吸気マスクと、を備える。気体を加速しそれにより燃焼室内の乱流を増加させるために、吸気弁の弁座の部位の近くでの燃焼室における特定の機械加工であって、弁座における吸気ポートの通路領域の一部にわたって通路を遮断することができるものを、吸気マスクと定義する。
【0032】
シリンダーの軸に直交する(内燃機関の)シリンダーヘッドの下面は、触火面(face feu)または燃焼面(face combustion)と呼ばれる。弁の較正部(calibration)は、シリンダーに気体を供給するように、シリンダーヘッドの下面に挿入される。
【0033】
本発明によれば、吸気装置は、前記吸気ポートのイントラドス(intorados)上で、吸気ポートと弁の較正部との交差部が、触火面に平行な平面に対して5°と45°の間の角度αを形成しかつ吸気ポート(5)と弁の較正部との間の交点を通る直線母線によって支持された、直線部分を形成する。(吸気ポートが動作位置にある場合に)吸気ポートの下面は、吸気ポートのイントラドスと呼ばれる。したがって、弁の較正部に対する吸気ポートの下面の(直線部分である)交差部は、触火面に平行な平面に対して傾斜する。この傾斜により、較正部に入る気体、ひいてはシリンダーに入る気体を偏流させることができる。この気体の偏流は、シリンダーの軸に平行な方向でのシリンダー内の気体の空気力学的な運動、言い換えれば、気体のスワール型の空気力学的な運動を形成する。この傾斜は、その端部での吸気ポートの回転に転換し(したがって、吸気ポートの端部はねじれている)、気体のスワール型の空気力学的な運動を促進することができる。さらにこの実施態様は、マスク型、フラップ型またはブレード型の何らかの特定の突起物なしに、気体に対してスワール型の空気力学的な運動を与えることを可能にする。さらにこれらの吸気装置の構造は、単気筒または多気筒内燃機関のシリンダーヘッド内にそれを配置することに対する追加の制約を伴なわない。
【0034】
5~45°の角度αでの傾斜は、気体のスワール型の空気力学的な運動の発生を可能にする。5°未満では、傾斜は、シリンダー内の気体の空気力学的な運動に大きな影響を及ぼすほど十分ではない。45°を超えると吸気ポートの幾何学的形状が複雑であって達成が困難である。
【0035】
気体のタンブル型及びスワール型の空気力学的な運動を組み合わせることにより、本発明による気体吸気装置は、シリンダー内の気体のスワンブル型の空気力学的な運動を可能にし、これにより、圧縮相において最良の現行の制御点火エンジンで観察されるよりも高いレベルの乱流のおかげで、優れた均質化及びより良い燃焼速度という利益を提供する。
【0036】
本発明の一態様によれば、吸気ポートの通路部分は、角が丸められた実質的に長方形を有することができる。その場合、吸気ポートと弁の較正部との交差部は、4つの縁部、すなわちイントラドス側にある1つの縁部、エクストラドス側にある1つの縁部、及び側方側にある2つの縁部からなる。
【0037】
この実施形態の1つの例によれば、弁の較正部との交差部における吸気ポートの長方形の通路部分は、触火面の方向に対して傾斜している。換言すれば、長方形の通路部分の縁部のいずれも、触火面に平行な面に対して平行でも垂直でもない。
【0038】
本発明によれば、マスクの中間面は、角度γをγ=α±5°の関係によって規定することができるように、吸気ポートの中間面に対してバルブの軸の周りに非零の角度γを形成する。本出願において、X±Y(X及びYは正の数である)は、値Xを中心とするある範囲を意味し、この範囲は、値X-YとX+Yとの間(端点を含む)である。したがってマスクは、吸気ポートの端部と同じ形態で方向づけられており、これにより、シリンダー内の気体の空気力学的な動きを促進する。このやり方は、アプローチは上死点の近傍での乱流運動エネルギーの利得をもたらし、気体のスワンブル型の空気力学的な運動を発生させる手段を備えたマスクのない吸気装置と比較して、シリンダー内の気体の空気力学的な運動の構造の安定性が改善される。さらにこの構成は、エンジンのシリンダーヘッドにこの構成を組み込むことに関する追加の制約が課されることがなく、シリンダー内の気体の空気力学的な運動を簡単に得ることを可能にする。マスクを2つの同じ部分に分割するとともに吸気弁の軸を含む平面は、マスクの中間面と呼ばれる。マスクの中間面は、その対称面であってもよい。吸気ポートを2つの実質的に同一の部分に分割するとともに吸気弁の軸を含む平面は、吸気ポートの中間面と呼ばれる。
【0039】
本発明の一実現形態によれば、角度γは、γ=α±2°で定義することができる。好ましくは、角度γは角度αと実質的に等しくてもよい。これらの好ましい値は、マスクの配向と吸気ポートの端部の配向との間のより大きな類似性のおかげで、乱流運動エネルギーにおける利得と気体の空気力学的な運動の安定性における利得の最適化を可能にする。
【0040】
気体は、酸化剤または燃料混合気(間接噴射の場合)であり、特に、環境気圧の空気、過給された空気、及び、(過給または非過給の)空気と燃焼ガスとの混合物であってよい。
【0041】
本発明の一実施態様によれば、角度αは、5~20°、好ましくは8~15°であってよい。これらの角度範囲は、気体のスワール型の空気力学的な運動の最適化を可能にし、したがって、気体のスワンブル型の結合された空気力学的な運動の最適化を可能にする。
【0042】
本発明の一実現形態によれば、気体偏流手段は、吸気ポートの形状のみからなる。したがって、吸気ポートを介する気体の通過を妨げる能動的または受動的要素が存在しない。
【0043】
第1の例示的な実施形態によれば、気体偏流手段は、吸気ポートの下側プロファイル上に踏み切り台(tremplin)形状を備えることができる。この踏み切り台形状は、吸気ポートの下側プロファイルの凹形状を変化させることによって得られてもよい。踏み切り台形状は、吸気ポートの壁からの気体流の離脱を促し、そして、気体のタンブル型の空気力学的な運動を最大にするように、吸気ポートの上部に向かって、したがって、シリンダーの上部に向かって気体流を導く。
【0044】
(第1の例示的な実施形態と組み合わせることができる)第2の例示的な実施形態によれば、気体偏流手段は、弁の較正部の近傍における通路部分の収斂を有することができる。換言すれば吸気ポートの通路部分は、弁の較正部に最も近いその端部に向かって減少する。この収斂は、気体の充填及び空気力学的な運動に有益である気体流の加速を引き起こす。
【0045】
(第1及び/または第2の例示的な実施形態と組み合わせることができる)第3の例示的な実施形態によれば、気体偏流手段は、吸気ポートの傾斜を備えることができる。吸気ポートのこの傾斜は、0~45°である、較正部に対する吸気ポートの交点での接線の角度によって規定されてもよい。この傾斜は、シリンダーの燃焼室の上部の勾配と結合されてもよい。吸気ポートの傾斜は、気体のタンブル型空気力学的な運動を形成するために、シリンダーに入る気体流を傾斜させることを可能にする。例えば気体のタンブル型の空気力学的な運動の最適化は、吸気ポートの角度と燃焼室上部の勾配の角度との間の接触(tangence)によって達成することができる。
【0046】
本発明の一実施態様によれば、マスクは、中心が吸気弁の軸上に位置する円環の一部分の形状を実質的に有していてもよい。この形状は、シリンダーの充填とシリンダー内の気体の空気力学的な運動との間の妥協点を提供する。吸気弁の低い弁リフトの場合に吸気ポートの通路部分の一部をマスクすることにより、弁リフトが低いので、充填を過度に犠牲にすることなく、シリンダー内の気体の空気力学的な運動が開始される。ひとたび吸気弁の弁リフトがより大きくなると、マスクは機能しなくなり、したがって、シリンダー内の気体のすでに開始された空気力学的な運動を伴なって最大限の充填が行われ、次いで運動は発達することができる。有利なことには、環の内径は、弁の較正部の直径に実質的に対応することができる。有利なことには、環状部分は、150~180°、好ましくは160~180°の角度範囲にわたって延在してもよく、優先的には170°に等しくてもよい。これらの角度範囲は、吸気ポートを出る気体の空気力学的な運動を、シリンダー内の気体の空気力学的な運動を最適化するように方向づけることを可能にする。
【0047】
本発明の実施態様の一選択肢によれば、マスクの高さは、2~4mm、好ましくは2.8~3.2mmであり、優先的には3mmと実質的に等しくてもよい。これらの数値範囲は、シリンダーの充填を犠牲にすることなく、シリンダー内の気体の空気力学的な運動を開始させるための良好な妥協を可能にする。
【0048】
有利なことには、マスクをシリンダーの頂部に接続するフィレット半径(rayon de raccordement)は1~3mmであってもよく、実質的に2mmと等しくてもよい。これにより、燃焼室(シリンダー)内の孤立したゾーンが回避される。さらに、角ばった形状は、シリンダー内の燃焼に不利であろう。
【0049】
本発明の一態様によれば、気体吸気装置は、サイアミーズ型であってもよい。換言すれば、吸気ポートは、単一の入口とシリンダーに通じる2つの出口とを有し、出口の各々は、吸気弁と吸気弁較正部とを含む。各出口は、気体のスワンブル型の空気力学的な運動を形成するように規定された角度特徴を有する。2つの吸気弁を備えたシリンダーに適したこの型の吸気装置は、吸気プレナムの設計を簡素化する(吸気プレナムは吸気ポートの上流の容積である)。加えて各出口は、本出願において定義される特徴にしたがって配向されたマスクを有する。
【0050】
図1及び
図2は、本発明の一実施形態による吸気装置1を概略的及び非限定的に示している。
図1は、作動可能な状態の吸気装置1の側面図であり、
図2は、マスクの領域における
図1の拡大図である。吸気装置1は、吸気ポート5と、吸気ポートに導入されたバルブ4と、吸気弁の較正部(calibration)6とを備える。前記弁を開けるために気体の通路を提供する吸気弁4の端部は図示されていない。吸気ポート5は、気体入口2と、吸気弁4及びその較正部6が配置された気体出口3とを備える。
【0051】
吸気装置1は、気体を偏流させて、シリンダーの軸に実質的に垂直な方向に沿ったシリンダー内の気体の空気力学的な運動(気体のタンブル型の空気力学的運動)を発生させる手段をさらに備える。この気体偏流手段は、弁較正部6の近傍における吸気ポート5の通路部分の収斂8を含む。この収斂8は、弁の較正部6の近傍における通路部分の減少に対応する。さらに気体偏流手段は、吸気ポート5の下側プロファイルの凹形状の変動によって吸気ポート5の下側プロファイル上に形成された踏み切り台形状9を備える。さらに気体偏流手段は、指示線AAに対する、吸気ポート5の較正部6への交点7に接する接線によって定義される、吸気ポート5の傾斜を含む。この図は、触火面の面に属する直線FFを特徴とし、指示線AAは直線FFと平行である。
【0052】
さらに吸気装置1はマスク10を備える。マスク10は、吸気ポート5の出口3を部分的に塞ぐように、弁の較正部6内に配置される。マスク10は、高さHと、シリンダーの燃焼室の頂部に対する曲率半径Rとによって規定される。図示された実施形態の場合、高さHは3mmに等しくてもよく、接続フィレット半径Rは2mmに等しくてもよい。
【0053】
図3は、従来技術による吸気装置のマスクの、弁の軸に垂直な平面上での配向を概略的に示している。マスク10は、環状部分の形状を有する。マスク10は、(ちょうどその一方の壁が描かれている)較正部6に配置される。マスク10の外径は、較正6の直径に対応する。マスク10の環状部分は、中心O(中心Oは弁の軸上に位置する)を有し、実質的に170°に等しくてよい角度範囲δにわたって延在する。さらにマスク10は、(直線で示されている)中間面PM10を有する。マスク10の中間面PM10は、弁の軸を含む、マスクの対称面である。この図は、吸気ポートの(直線で示された)中間面PM5も示している。従来技術の実施態様の場合、中間面PM5及びPM10は一致している。
【0054】
図4は、本発明の一実施態様による吸気装置のマスクの、弁の軸に垂直な平面上での配向を概略的かつ非限定的に示している。マスク10は、環状部分の形状を有する。マスク10は、(ちょうど一方の壁が描かれている)較正部6に配置される。マスク10の外径は、較正部6の直径に対応する。マスク10の環状部分は、中心O(中心Oは弁の軸上に位置する)を有し、実質的に170°に等しくてよい角度範囲δにわたって延在する。さらにマスク10は、(直線で示されている)中間面PM10を有する。マスク10の中間面PM10は、弁の軸を含む、マスクの対称面である。この図は、吸気ポートの(直線で示された)中間面PM5も示している。本発明によれば、中間面PM5とPM10とは一致しておらず、中間面PM10は、弁の軸の周りでの角度γでの中間面PM5の回転によって得られる。
【0055】
図5は、吸気ポートのイントラドス(下面)の部分図を概略的かつ非限定的に示している。
図5は、(吸気装置が作動位置にあるときに)触火面に対して垂直な平面内にある。左側の図は、気体を偏流させて気体のスワール型の空気力学的な運動を形成する手段を備えない、従来技術によるポートに対応する。右側の図は、イントラドスの領域において、吸気ポートと弁の較正部との間の交差部の傾斜により気体のスワール型の空気力学的な運動が形成される、本発明の変形例による装置に対応する。図示された実施形態の場合、ポート(吸気ポート)の断面は、実質的に長方形である。
【0056】
これらの図において、直線FFは、触火面の面(この面は描かれていないシリンダーによって定義される)に属し、指示線F’F’は、吸気ポート5と吸気弁の較正部6との間の交点を通る、触火面FFに平行な面に属する直線である。
【0057】
左側の図に示す従来技術によれば、吸気ポート5と吸気弁の較正部6との交差部7は、直線F’F’と一致する直線部分である。
【0058】
対照的に、右側の図に示された本発明によれば、吸気ポート5と吸気弁の較正部6との間の交差部7は、平面F’F’に対して角度αだけ傾斜した軸YYの直線母線によって支持された直線部分を形成する。この角度αは5~45°である。右側の図から、接合部の近傍において、この傾斜が、実質的に長方形の通路部分を有する吸気ポート5のわずかな回転につながることが分かるであろう。本発明によれば、角度αは、
図4に示す角度γに対し、式:γ=α±5°によって結び付けられる。
【0059】
本発明はまた、内燃機関のシリンダーと、上述の変形例または変形例の組み合わせの1つにしたがう吸気装置とを含む組立体に関する。
【0060】
さらに、本発明は、少なくとも1つのシリンダーを備える内燃機関に関し、各シリンダーは、
・シリンダー内に気体を受け入れるために、上述の変形例または変形例の組み合わせのうちの1つによる少なくとも1つの吸気装置を備え、
・シリンダーから燃焼ガスを除去するための少なくとも1つの排気装置であって、有利には排気弁を備えている少なくとも1つの排気装置を備え、
・燃焼から(クランクシャフトの回転を通して)機械的エネルギーを発生するために、シリンダ内において往復直線並進運動を有するピストンを備え、
・燃焼を発生させるための燃料噴射手段を備えている。
【0061】
一実施態様によれば、燃料噴射手段は、直接噴射手段であってもよく、これは、燃料噴射手段がシリンダー内に直接配置されていることを意味する。
【0062】
あるいは燃料噴射手段は、間接噴射手段であってもよく、これは、燃料噴射手段が吸気装置内に配置されているということを意味する。
【0063】
本発明の一実施形態によれば、内燃機関は制御点火エンジンである。その場合、エンジンは、気体と燃料との混合物の燃焼を開始させる少なくとも1つの点火プラグも備える。
【0064】
あるいは内燃機関は、圧縮点火エンジンである。その場合、エンジンは、気体と燃料との混合物の燃焼を開始させるための点火プラグを一切備えていない。
【0065】
内燃機関は、複数のシリンダー、特に3、4、5または6のシリンダーを備えることができる。
【0066】
好ましくは燃焼エンジンは、シリンダーあたり4つの弁(2つの吸気弁及び2つの排気弁)を有するエンジンであってもよい。
【0067】
本発明の一態様によれば、シリンダーが2つの吸気ポートを備える場合、これらの2つのポートは同一であって、燃焼室の中間面に関して平行であってもよい。
【0068】
変形例としてシリンダーは、サイアミーズ型吸気装置によって気体が供給されてもよい。
【0069】
さらに本発明は、ミラーサイクルまたはアトキンソンサイクルに基づく、上述した変形例または変形例の組合せの1つによる内燃機関の使用に関する。
【0070】
ミラーサイクルは、吸気相中においてピストンが下死点に達する前に1以上の吸気弁が閉じることを特徴とする熱力学サイクルである。これにより、吸気され充填されたもの冷却を可能にするとともに、より大量の仕事を回収することが可能になる。本発明による吸気装置は、気体のスワンブル型の空気力学的な運動の発生のおかげで、拡張された作動範囲にわたるいわゆるミラーサイクルでの使用に特に適している。
【0071】
アトキンソンサイクルは、可変内燃機関で使用される標準的な熱力学サイクルである。
【0072】
本発明による内燃機関は、道路、海上または航空輸送の分野のような移動用途の分野、または発電装置のような固定設備の分野で使用することができる。
【0073】
本発明が単に例として上述した吸気装置のこれらの実施態様に限定されるものではなく、むしろ全ての変形例を包含するものであることは、言うまでもない。
【実施例】
【0074】
本発明による方法の特徴および利点は、以下の比較実施例を読み取ることによって、より明確になるであろう。
【0075】
この比較実施例では、スワンブル型の空気力学的な運動を発生させるための同一の手段と、170°の角度部分にわたって延在する環状部分の形状のマスクとを備えた2つの吸気装置の間で比較がなされる。比較された第1の吸気装置では、マスクは従来技術(
図3)にしたがって方向づけられる。比較された第2の注吸気装置では、マスクは、本発明の一実施形態(
図4)にしたがって方向づけられ、α=15°及びγ=15°である。
【0076】
図6及び
図7は、それぞれがマスク10を備える2つの吸気ポートと、2つの排気ポート12とを備えるシリンダー13を(作動位置において)上方から見た図である。
図6及び
図7は、吸気相の開始に対応する、460°のクランク軸角度に対する気体11の空気力学的な運動を示している。
図6は従来技術による実現例に対応し、
図7は本発明の一実施形態による実現例に対応する。これらの図では、気体の空気力学的な運動の異なる配向に注目することができる。本発明では、流れのより良い配向が、気体のシリンダー内でのスワンブル型の空気力学的な運動を生成することを可能にする。
【0077】
図8は、CAD(クランク軸角の角度)の関数として、吸気の各タイプごとの乱流運動エネルギーTKEを描いている。従来技術によるマスクの配向に関する曲線はAAと記され、本発明の一実施形態によるマスクの配向に関する曲線はINVと記されている。下側の図は、650°~740°のCAD範囲に関して上側の図を拡大表示したものである。上死点に近い乱流運動エネルギーの利得が、本発明によるマスクの配向で得られることに留意されたい。この利得は上死点付近で10%のオーダーである。
【0078】
図9及び
図10は、それぞれがマスク10を備える2つの吸気ポートと、2つの排気ポート12とを備えるシリンダー13を(作動位置において)上方から見た図である。
図9及び
図10は、(圧縮行程中の、点火前にピストンが上死点に近づく)クランク軸角度が590°に対するシリンダー13内の気体14の空気力学的な運動を示し、したがって、(図示されていない)吸気ポート内での気体15の空気力学的な運動を示している。
図9は、従来技術による実現例に対応し、
図10は、本発明の一実施形態による実現例に対応する。
図9において、シリンダー内の気体14のスワンブル型の空気力学的な運動は、3つの直線部分からなる破線で示されている軸16の周りで実現されていることに留意されたい。対照的に
図10において、シリンダー内の気体14のスワンブル型の空気力学的な運動は、単一の直線で構成される軸16の周りで実現されていることに留意されたい。したがって、本発明によるマスクの配向は、シリンダー内の気体のスワンブル型の空気力学的な運動の構造の安定性を可能にする。
【国際調査報告】