(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-15
(54)【発明の名称】回折光学素子、効率アクロマートされた回折構造体の設計方法、及び効率アクロマートされた回折素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/18 20060101AFI20220608BHJP
【FI】
G02B5/18
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021560917
(86)(22)【出願日】2020-04-09
(85)【翻訳文提出日】2021-10-13
(86)【国際出願番号】 EP2020060216
(87)【国際公開番号】W WO2020212257
(87)【国際公開日】2020-10-22
(31)【優先権主張番号】102019109944.7
(32)【優先日】2019-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504284168
【氏名又は名称】カール ツァイス アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ヴェルデハウゼン、ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】デッカー、マヌエル
【テーマコード(参考)】
2H249
【Fターム(参考)】
2H249AA02
2H249AA12
2H249AA14
2H249AA36
2H249AA51
2H249AA62
2H249AA65
(57)【要約】
本発明は、屈折率の空間的変化を有する回折光学素子(1)に関する。屈折率の空間的な変化によって、一連の隣接するセクション(3A~3D)が形成され、その内部において屈折率がそれぞれ変化し、その一連の隣接するセクションは、回折構造体(3)を形成する。その回折構造体(3)は、少なくとも300nm以上に及ぶスペクトル範囲において、全波長域において平均された、少なくとも0.95の回折効率を有する。全スペクトル範囲において平均された、少なくとも0.95の回折効率の値は、少なくとも2つの屈折率と少なくとも2つのアッベ数との最適な組み合わせを有する単一の単層回折構造体(3)によって、一連の隣接したセクションの各セクション(3A~3D)内において実現されている。屈折率の変化は、サブ波長域におけるドーピング、材料の混合、又は構造化によって実現される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈折率の空間的変化を有する材料からなる回折光学素子(1;10;100)であって、
前記屈折率の空間的変化によって、一連の隣接するセクション(3A~3D;13A~13D、13’A~13’;、103A~103D)が形成され、その一連の隣接するセクション内において前記屈折率がそれぞれ変化し、その一連の隣接するセクションが回折構造体(3;13;113)を形成するものであり、
前記回折構造体(3;13;113)が、少なくとも300nm以上に及ぶスペクトル範囲において少なくとも0.95の多色性積分回折効率を有する、回折光学素子において、
少なくとも300nmのスペクトル範囲において平均された、少なくとも0.95の回折効率の値が、最適化された少なくとも1つの最大屈折率n
max及び最適化された1つの最小屈折率n
min、並びに、最適化された少なくとも1つの高アッベ数ν
max及び最適化された1つの低アッベ数ν
minとからなる組み合わせを有する単一の単層回折構造体(3;13;113)によって、前記一連の隣接したセクションの各セクション(3A~3D;13A~13D、13’A~13’D;103A~103D)内において実現されていることを特徴とする、回析光学素子(1;10;100)。
【請求項2】
少なくとも300nmのスペクトル範囲において平均された少なくとも0.95の回折効率の値が、少なくとも300nmのスペクトル範囲の特定の波長において最適化された少なくとも1つの最大屈折率n
maxと、少なくとも300nmのスペクトル範囲の特定の波長において最適化された1つの最小屈折率n
minと、最適化された1つの高アッベ数ν
maxと、最適化された1つの低アッベ数ν
minとからなる組み合わせを有する単一の単層回折構造体(3;13;113)によって、前記一連の隣接したセクションの各セクション(3A~3D;13A~13D、13’A~13’D;103A~103D)内において実現されていることを特徴とする、請求項1に記載の回析光学素子(1;10;100)。
【請求項3】
少なくとも300nmのスペクトル範囲の特定の波長において前記最適化された少なくとも1つ最大屈折率n
maxと、300nmのスペクトル範囲の特定の波長において前記最適化された前記最小屈折率n
minと、前記最適化された高アッベ数ν
maxと、前記最適化された前記低アッベ数ν
minとからなる前記組み合わせに加えて、前記各セクション(3A~3D;13A~13D、13’A~13’D;103A~103D)内において、最適化された第1の部分的な部分分散、及び、最適化された第2の部分的な部分分散が存在することを特徴とする、請求項2に記載の回析光学素子(1;10;100)。
【請求項4】
前記最適化された高アッベ数ν
maxは、前記最適化された最大屈折率n
maxを有する範囲(7A~7D、107A~107D)にあり、前記最適化された低アッベ数ν
minは、前記最適化された最小屈折率n
minを有する範囲(5A~5D、105A~105D)にあることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の回析光学素子(1;10;100)。
【請求項5】
前記最適化された最大屈折率n
maxと前記最適化された最小屈折率n
minとの間の屈折率差Δnは、少なくとも0.005の値を有していることを特徴とする、請求項4に記載の回析光学素子(1;10;100)。
【請求項6】
前記最適化された高アッベ数ν
maxと前記最適化された低アッベ数ν
minとの間のアッベ数差Δνは、少なくとも8の値を有することを特徴とする、請求項4又は5に記載の回析光学素子(1;10;100)。
【請求項7】
前記一連の隣接したセクション(13A~13D、13’A~13’D)は、セクション(13A~13D、13’A~13’D)の横方向の寸法が変化する回折構造体(13)を形成し、その回折構造体は、規定され変化する回折角を、前記回折構造体(13)上の位置に依存してもたらすことを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の回析光学素子(1)。
【請求項8】
前記回折構造体(3;13)は、ドーピングされた材料から成り、前記屈折率の空間的変化は、ドーピングの変化によるものであることを特徴とする、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の回析光学素子(1;10)。
【請求項9】
前記回折構造体(3;13)は、異なる屈折率を有する少なくとも2つの材料の混合材料から成り、前記屈折率の空間的変化は、前記混合材料が混合された、前記材料の混合比の変化に起因していることを特徴とする、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の回析光学素子(1;10)。
【請求項10】
- 前記回折構造体(113)は、交互に配置された、第1の屈折率を有する第1の材料(A)の第1の領域(115)と、第1の屈折率よりも高い第2の屈折率を有する第2の材料(B)の第2の領域(117)とによって構成されており、
- 前記第1及び第2の領域(115、117)は、それぞれ、前記一連の隣接するセクション(103A~103D)のセクション(103A~103D)内において交互に配置されており、前記第2の領域(117)の幅は、前記セクション内の第1の領域(115)の幅に対して、それぞれ、セクションの一端から他端に向かって相対的に増加しており、
- 前記第1の領域(115)及び前記第2の領域(117)の最大幅は、少なくとも300nm以上に及ぶスペクトル範囲の中央波長よりも常に小さいことを特徴とする、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の回析光学素子(100)。
【請求項11】
前記第1の領域(115)及び前記第2の領域(117)の前記最大幅は、少なくとも300nm以上に及ぶスペクトル範囲の中央波長の0.3倍よりも常に小さいことを特徴とする、請求項10に記載の回析光学素子(100)。
【請求項12】
少なくとも前記第2の領域(117)の前記最大幅は、少なくとも300nm以上に及ぶ前記スペクトル範囲の前記中央波長の少なくとも0.3倍であり、少なくとも300nm以上に及ぶ前記スペクトル範囲の前記中央波長の、多くとも1.0倍であることを特徴とする、請求項10に記載の回析光学素子(100)。
【請求項13】
少なくとも300nm以上に及ぶ前記スペクトル範囲において、スペクトル回折効率の少なくとも2つの最大値が存在することを特徴とする、請求項1乃至12のいずれか一項に記載の回析光学素子(1;10)。
【請求項14】
少なくとも2つの最大値が存在する場合、最も外側の2つの最大値が存在する波長には、互いに少なくとも150nmの差があることを特徴とする、請求項13に記載の回析光学素子(1;10)。
【請求項15】
請求項1乃至14のいずれか一項に記載の回析光学素子(10)を含む、屈折型又は反射型の光学素子(15)。
【請求項16】
屈折率の空間的変化を有する効率アクロマートされた回折構造体(3;13)を設計する方法であって、前記屈折率の空間的変化によって、一連の隣接するセクション(3A~3D;13A~13D、13’A~13’D)を形成し、前記セクション(3A~3D;13A~13D、13’A~13’D)内の前記屈折率がそれぞれ、最大屈折率n
maxと最小屈折率n
minとの間において変化するものであり、
- 少なくとも300nm以上に及ぶスペクトル範囲と、前記少なくとも300nmに及ぶスペクトル範囲において平均されて達成すべき回折効率とを設定し、
- 前記セクション(3A~3D;13A~13D、13’A~13’D)内の、少なくとも前記最大屈折率n
max及び前記最小屈折率n
min、並びに、前記セクション(3A~3D;13A~13D、13’A~13’D)内の、前記最大屈折率n
maxに関連する高アッベ数ν
max及び前記最小屈折率n
minに関連する低アッベ数ν
minを、前記設定された、少なくとも300nmに及ぶスペクトル範囲において平均されて達成すべき回折効率が得られるように、最適化することを特徴とする、方法。
【請求項17】
前記最大屈折率n
max、前記最小屈折率n
min、前記高アッベ数ν
max、及び前記低アッベ数ν
minに加えて、前記最大屈折率n
maxに関連した第1の部分的な部分分散と、前記最小屈折率n
minに関連した第2の部分的な部分分散とを、少なくとも300nmのスペクトル範囲において平均された、設定された前記回折効率が達成されるように最適化することを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記最大屈折率n
max、前記最小屈折率n
min、前記高アッベ数ν
max、及び前記低アッベ数ν
minの最適化を、並びに、必要に応じて、第1の部分的な部分分散及び第2の部分的な部分分散の最適化を、プロファイル高さhが最小になるように、又は少なくとも所定の最大値を超えないように行うことを特徴とする、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項19】
前記最大屈折率n
max、前記最小屈折率n
min、前記高アッベ数ν
max、及び前記低アッベ数ν
minの最適化を、並びに、必要に応じて、第1の部分的な部分分散及び第2の部分的な部分分散の最適化を、スペクトル回折効率の少なくとも2つの最大値が存在するように行うことを特徴とする、請求項16乃至18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記最大屈折率n
max、前記最小屈折率n
min、前記高アッベ数ν
max、及び前記低アッベ数ν
minの最適化を、並びに、必要に応じて、前記第1の部分的な部分分散P
1及び前記第2の部分的な部分分散の最適化を、前記少なくとも2つの最大値が互いに少なくとも150nm、離れているように行うことを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
効率アクロマートされた回折光学素子(1;10)を製造する方法であって、
請求項16乃至20のいずれか1項に従って設計された回折構造体(3;13)を提供し、
前記回折構造体(3;13)を、ドーピングされた材料の使用及びそのドーピングの変化によって、又は、混合材料の使用及びその混合比の変化によって作成し、
前記ドーピング又は前記混合比は、前記ドーピングされた材料又は前記混合材料の少なくとも前記屈折率及び前記アッベ数を決定し、
前記ドーピングの変化又は前記混合比の変化を、少なくとも、最適化から生じる前記屈折率及び前記アッベ数における変化が、前記ドーピングの変化又は前記混合比の変化によって実現されるように行うことを特徴とする、方法。
【請求項22】
前記回折光学素子(1;10)の製造は、3D印刷を使用して、及び、印刷時にドーピング又は混合比率を変化させる、ドーピングされた又は混合された印刷材料を使用して、前記回折構造体(3;13)を印刷することを含むことを特徴とする、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記回折光学素子(1;10)の製造は、空間的に変化するドーピングを、基材から成る本体に導入することによって、前記回折構造体(3;13)を製造することを含むことを特徴とする、請求項21に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屈折率に空間的な変化を有する回折構造体を備えた回折光学素子(Diffraktives optisches Element:DOE)に関する。さらに、本発明は、効率アクロマートされた(effizienzachromatisierten)回折構造体の設計方法と、効率アクロマートされた回折素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回折光学素子は、例えば、光の分光、及び、光の偏向に利用される。このような素子は、光波の回折の原理に基づいており、回折構造、すなわち回折格子の助けを借りて、特定の波長の光を特定の方向に偏向させるように設計されている。格子構造に到達した光のうち、どの程度の割合が特定の回折次数、すなわち所望の方向に回折されるかを示す指標が、回折光学素子の回折効率であり、その回折効率は一周期内の格子プロファイルに依存する。回折効率は、全伝搬エネルギー束に対する、所望の回折次数において伝搬するエネルギー束の比を表している。原理的には、回折光学素子の特定の波長、いわゆる設計波長に対して、シャドーイング効果の無視の元に、設計波長の全ての光が同じ回折次数において回折されること、且つそれによって同じ方向に偏向されることが実現でき、その結果、設計波長に対して1(又は100%)の回折効率が得られる(いわゆるブレーズ格子、又はエシュレット格子)。しかしながら、設計波長から外れた波長についてはこの限りではない。設計波長から外れた波長の光は、異なる最大回折に偏向され、それによって異なる方向に向かう。これは、多色光の回折の場合は、回折次数外の散乱光を発生させ、それによって解像度を低下させる。
【0003】
そのため、特定の波長域の全波長に対して、特定の回折次数(主に1次回折次数)において高い回折効率を実現できる回折光学素子が開発されている。このような回折光学素子は、効率アクロマートされた回折光学素子と呼ばれる。効率アクロマートされた回折光学素子は、そのため、特定の回折次数の特定の波長域の全ての波長に対して、高い回折効率が得られる回折光学素子である。例えば、C.Ribot et al.,「Broadband and Efficient Diffraction」in Advanced Optical Materials 7 (2013)では、赤外線において効率アクロマートされた金属レンズが記載されている。
【0004】
効率アクロマートされた回折光学素子の製造のために、様々なアプローチがある。例えば、米国特許第6873463号明細書、米国特許第9696469号明細書、米国特許出願公開第2001/013975号明細書、米国特許第5487877号明細書においては、効率アクロマートを実現するために、多層回折光学素子の使用が提案されている。独国特許出願公開第102006007432号明細書、米国特許出願公開第2011/026118号明細書、米国特許第7663803号明細書、米国特許第6912092号明細書、米国特許出願公開第2013/057956号明細書、米国特許出願公開第2004/051949号明細書、米国特許第5847887号明細書から、多層回折光学素子において、ある層の屈折率を調整して、別の層の分散を打ち消すことも知られている。米国特許出願公開第2011/090566号明細書、米国特許第9422414号明細書、米国特許第7031078号明細書、米国特許第7663803号明細書、米国特許第7196132号明細書、米国特許第8773783号明細書から、効率アクロマートを実現するために、異常分散の材料を用いた回折光学素子が知られている。
【0005】
回折する光の波長に比べて周期が非常に大きい回折光学素子においては、所定の設計波長(λ0)における回折効率が理論的に100%になるように、単層の回折光学素子を設計することができる。しかしながら、波長がこの設計波長からずれると、設計波長からのずれが大きくなるにつれて、回折効率が急激に低下してしまう。これは、光イメージングシステムにおいて不要な散光を引き起こし、そのため、広帯域の光学システムにこのような回折光学素子を使用することができない。この問題は、例えば、米国特許第6873463号明細書、米国特許第9696459号明細書、米国特許出願公開第2001/013975号明細書に記載されているように、屈折率の異なる材料で作られた追加の回折層を追加することで解決できる。その際、2つの層は、異なるプロファイル高さ(Profilhoehe)を有することができ、所望の波長域において平均回折効率を最大化するために、それらプロファイル高さを適合させることができる。これは、例えば、B.H.Kleemann et al.「Design-Concepts for broadband high-efficieny DOEs」、Journal of the European Optical Society-Rapid publications 3 (2008)に記載されている。他方において、第2の材料を適切に選択することによって、層のプロファイル高さが同一の際において、所望の波長域における平均回折効率を最大化することも可能である。プロファイル高さが異なる回折光学素子は、通常、多層DOEsと呼ばれるのに対し、層のプロファイル高さが同じ回折光学素子は、通常「Common Depth DOEs」と呼ばれる。Common Depth DOEを実現するためには、分散を可能な限り補い合う材料の組み合わせを選ぶ必要がある。Common Depth DOEsは、例えば、独国特許出願公開第102006007432号明細書、米国特許出願公開第2011/0026118号明細書、米国特許第7663803号明細書、米国特許第6912092号明細書、米国特許出願公開第2012/0597741号明細書、米国特許出願公開第2004/051949号明細書、米国特許第5847877号明細書に記載されている。どちらのアプローチも、すでに市販の写真対物レンズに採用されている。
【0006】
回折光学素子は、先に述べた多層DOEs及びCommon Depth DOEsのように、例えば傾斜面によって実現することができる。回折光学素子を製造する代替的なアプローチとして、素子内の屈折率を場所の関数として周期的に変化させる方法がある。それによって、いわゆる勾配屈折率(Gradientenindex)DOE(略してGRIN DOE)と呼ばれるものが得られる。しかしながら、勾配屈折率DOEの回折効率は、波長に強く依存する。この問題は、他の単層回折光学素子においても知られており、例えばB.H.Kleemannの上記引用した刊行物に記載されているように、多層DOEに類似した第2のGRIN-DOE層を適用することによって回避することができる。しかしながら、この場合も2層の回折光学素子となり、システム全体の高さが増加してしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような従来技術に鑑み、本発明の第1の課題は、低いプロファイル高さにおいて製造可能な効率アクロマートされた回折光学素子を提供することである。本発明の第2の課題は、低いプロファイル高さを有する効率アクロマートされた回折光学素子の製造を可能にする効率アクロマートされた回折構造体の設計方法を提供することであり、本発明の第3の課題は、低いプロファイル高さを有する効率アクロマートされた回折光学素子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の課題は、請求項1に記載の回折光学素子によって解決され、第2の課題は、請求項16に記載の効率アクロマートされた回折構造の設計方法によって解決され、第3の課題は、請求項21に記載の回折光学素子の製造方法によって解決される。従属請求項は、本発明のより有利な実施形態を含む。
【0009】
本発明による回折光学素子(DOE)は、屈折率の空間的変化を有する単一の回折構造体を備える。屈折率の空間的変化によって、一連の隣接するセクション(eine Folge aneinandergrenzender Abschnitte)が形成され、その一連の隣接するセクション内において屈折率がそれぞれ変化し、その一連の隣接するセクションが回折構造体を形成する。そのため、本発明による回折光学素子は、GRIN-DOEである。その一連の隣接するセクションは、周期的な構造を形成することができる。代替的に、周期的な構造に代えて、セクションの横方向の寸法が変化する構造を形成することもできる。この構造によって、回折構造体上の位置に依存して、規定され変化する回折角が得られ、それによって、例えば構造の偏向効果に加えて、例えば、フォーカス効果、デフォーカス効果、収差補正効果、その他の光学効果を得ることができる。
【0010】
この回折構造体は、少なくとも300nm以上、好ましくは少なくとも350nm以上に及ぶスペクトル範囲において、このスペクトル範囲において平均された少なくとも0.95の回折効率を有する。その際、スペクトル範囲は、可視光域の一部分であってもよく、特に、可視光域全体の、すなわち400~800nmの、又は、より狭義には400~750nmのスペクトル範囲であってもよい。
【0011】
本発明による回折光学素子は少なくとも300nmのスペクトル範囲において平均された、少なくとも0.95の回折効率の値が、最適化された少なくとも1つの最大屈折率nmax、及び最適化された1つの最小屈折率nmin、並びに、最適化された少なくとも1つの高アッベ数νmax、及び最適化された1つの低アッベ数νminからなる組み合わせを有する単一の単層回折構造体によって、一連の隣接するセクションの配列の各セクション内において実現されていることを特徴とする。
【0012】
本発明による回折光学素子は、スペクトル範囲において平均された少なくとも0.95の回折効率が単一の単層回折構造体によって実現されているという事実に基づいて、低いプロファイル高さのもとに製造され得る。回折構造体のプロファイル高さが低いほど、プロファイル高さに起因するシャドーイング効果が低くなる。シャドーイング効果が低いほど、光の入射角が大きくなった際に、及び/又は、一連の隣接するセクションの、セクションの横方向の広がりが小さくなった際に、回折効率の低下が遅くなる。
【0013】
本発明による回折光学素子の有利な実施形態においては、少なくとも300nmのスペクトル範囲において平均された、少なくとも0.95の回折効率の値が、少なくとも300nmのスペクトル範囲の特定の波長において最適化された1つの最大屈折率nmax、少なくとも300nmのスペクトル範囲の特定の波長において最適化された1つの最小屈折率nmin、最適化された1つの高アッベ数νmax、及び最適化された1つの低アッベ数νmin、並びに、任意に、最適化された第1の部分的な部分分散(partiellen Teildispersion)、及び最適化された第2の部分的な部分分散からなる少なくとも1つの組み合わせを有する単一の単層回折構造体によって、一連の隣接したセクションの各セクション内において実現されている。
【0014】
屈折率は波長依存性の量であり、その波長依存性は、特に可視光域においては、例えばコーシー方程式によって記述することができる。そのため、最適化された最大屈折率nmax及び最適化された最小屈折率nminの波長依存性を記述するためには、パラメータの異なる2つのコーシー方程式が必要となる。コーシー方程式の波長依存性は、特定の波長での屈折率の値、アッベ数の値、及び部分的な部分分散の値によって十分近似的に確定することができるため、本実施形態では、6つのパラメータの最適化によって、波長依存の最大屈折率nmax、及び、波長依存の最小屈折率nminを最適化することができる。ここで6つのパラメータは、特定の波長での最大屈折率nmax、特定の波長での最小屈折率nmin、高アッベ数νmax、低アッベ数νmin、第1の部分的な部分分散、及び第2の部分的な部分分散である。コーシー方程式の部分的な部分分散への依存性の、少なくとも300nmのスペクトル範囲において平均された回折効率の値への影響は少ないため、最適化において部分的な部分分散を変化させることなく、部分的な部分分散は、それぞれ所定の値に保たれる。
【0015】
スペクトル範囲の特定の波長における最大屈折率nmax、スペクトル範囲の特定の波長における最小屈折率nmin、高アッベ数νmax、及び低アッベ数νmin、並びに、任意に、第1の部分的な部分分散、及び第2の部分的な部分分散の最適化された値においては、少なくとも300nmのスペクトル範囲における波長λの関数としての差Δn(λ)=nmax(λ)-nmax(λ)は、ほぼ線形である。
【0016】
本発明による回折光学素子においては、最適化された高アッベ数νmaxは、好ましくは、最適化された最大屈折率nmaxを有する領域にあり、最適化された低アッベ数νminは、好ましくは、最適化された最小屈折率nminを有する領域にある。これは、屈折率が高くなるほどアッベ数が小さくなるという光学材料の傾向とは逆に、例えば、ドープされた光学材料又は混合された光学材料を使用することによって可能になる。
【0017】
本発明による回折光学素子においては、屈折率差Δnが大きいほど、回折構造体のプロファイル高さを低く抑えることができるため、最適化された最大屈折率nmaxと最適化された最小屈折率nminとの間の屈折率差Δnは、少なくとも特定の波長において、少なくとも0.005の値、特に少なくとも0.01の値、好ましくは少なくとも0.015の値を有する場合、有利である。
【0018】
本発明による回折光学素子においては、最適化された高アッベ数νmaxと最適化された低アッベ数νminとの間のアッベ数差Δνは、少なくとも8の値、特に少なくとも15の値、好ましくは少なくとも30の値を有する場合、有利である。アッベ数差Δνが大きいほど、屈折率差Δnも大きくなり、スペクトル範囲において平均した回折効率が少なくとも0.95以上となり、それは、回折構造体のより低いプロファイル高さを実現できる。
【0019】
本発明による回折光学素子においては、スペクトル回折効率の少なくとも2つの最大値が、少なくとも300nm以上、好ましくは少なくとも350nm以上に及ぶスペクトル範囲に存在してもよい。少なくとも300nm以上のスペクトル範囲において平均された回折効率は、スペクトル範囲において平均された回折効率の値を表しているが、スペクトル回折効率は、回折光の波長の関数としての回折効率を表している。スペクトル回折効率が少なくとも2つの最大値を有する場合、特に、スペクトル回折効率の2つの最大値の場合、最大値が位置する波長が互いに少なくとも150nm、好ましくは少なくとも200nm異なる場合、少なくとも300nmのスペクトル範囲において平均された回折効率の特定の値に対して、スペクトル範囲におけるスペクトル回折効率の均一な推移を達成することができる。2つ以上の最大値が存在する場合には、特に、外側の2つの最大値が位置する波長が互いに少なくとも150nm、好ましくは少なくとも200nm異なる場合である。
【0020】
本発明による回折光学素子の回折構造体は、ドープされた材料、又は、異なる屈折率を有する少なくとも2つの材料の混合材料から構成することができる。その際、屈折率の空間的な変化は、ドーピングの変化、又は、混合比の変化に基づいている。空間的に変化するドーピングの導入によって、又は、供給された混合材料の混合比率を時間的に変化させて3D印刷することによって、回折構造体を比較的容易に製造することができる。また、複数の印刷ノズルを有するプリンタを使用する場合は、時間経過とともに変化する混合比に代えて、ノズルを介して変化する混合比を使用することもできる。
【0021】
しかしながら、本発明による回折光学素子をメタ表面として形成することも可能である。メタ表面は、波長よりも小さいが数千個の原子又は分子からなるナノメートル領域の構成要素、いわゆるメタ原子によって構成されている。メタ原子の特性を変化させることによって、入射波面の位相と振幅を場所の関数としてサブ波長の分解能によって変化させることが可能になる。損失を避けるために、通常は位相のみを変化させる設計が目指される。それによって、回折光学素子(DOE)を実現することができる。メタ表面として実現される本発明による回折光学素子は、第1の屈折率を有する第1の材料の第1の領域と、第1の屈折率よりも高い第2の屈折率を有する第2の材料の第2の領域とが交互に配置された回折構造体を有している。第1及び第2の領域は、一連の隣接するセクションのセクション内において、それぞれ交互に配置されており、第2の領域の幅は、各セクション内の第1の領域の幅に対して、それぞれ、セクションの一方の端から他方の端に向かって、増加する。第1の領域及び第2の領域の最大幅は、少なくとも300nm以上に及ぶスペクトル範囲の中央波長よりも常に小さい。それによって、第1の領域の屈折率及び第2の領域の屈折率、並びに、体積内における第1の領域と第2の領域との体積比に依存する有効屈折率を提供することができる。特に、第1の領域及び第2の領域の最大幅が、少なくとも300nm以上に及ぶスペクトル範囲の中央波長の0.3倍より小さい場合、回折構造体は、それぞれのセクションの一端から他端まで連続的に増加する有効屈折率を有するかのように、実質的に波面に作用するメタ表面を形成する。代替的には、少なくとも第2のセクションの最大幅は、少なくとも300nm以上に及ぶスペクトル範囲の中心波長の少なくとも0.3倍以上であり、少なくとも300nm以上に及ぶスペクトル範囲の中心波長の、多くても1.0倍であり得る。それによって、第2の領域は、その最大幅に達したところでは、導波路のように作用し、それは、連続的に増加する屈折率を有する回折素子と比較して、P.Lalanne「Waveguiding in blazed-binary diffractive elements」 in J.Opt.Soc.Am.16(1999)によれば、シャドーイング効果の低減につながる。少なくとも第2の領域の最大幅が小さくなり、少なくとも300nm以上に及ぶスペクトル範囲の中心波長の約0.3倍の値に達すると、導波路効果のあるメタ表面と導波路効果のないメタ表面の間のスムーズな移行が起こる。この移行領域において、導波路効果は、特に波長域における小さな波長においてはまだ存在することができるが、大きな波長においてはもはや存在できない。
【0022】
本発明によれば、さらに、本発明による回折光学素子を含む屈折型又は反射型の光学素子が提供される。回折光学素子によって、屈折光学素子又は反射光学素子にさらなる光学的自由度を加えることができる。例えば、回折光学素子を用いてフレネルゾーンをレンズに組み込むことによって、複数の焦点距離を有するレンズを実現できる。その際、焦点距離の1つは光の屈折(屈折)に基づき、残りの焦点距離は光の回折(回折)に基づく。この方法によって、例えば多焦点の眼内レンズを作ることができる。このような用途は、鏡においても考えられ、その際、焦点距離の1つは、光の反射に基づく。さらに、屈折焦点距離と回折焦点距離の波長依存性が異なることに基づいて、レンズに組み込まれた回折光学素子によってレンズの色ずれを補正するという可能性がある。
【0023】
本発明による、屈折率の空間的変化を有する材料からなる効率アクロマートされた回折構造体を設計する方法において、屈折率の空間的変化によって、一連の隣接するセクションを形成し、セクション内の屈折率がそれぞれ最大屈折率と最小屈折率との間において変化するものであり、
- 少なくとも300nm以上、好ましくは少なくとも350nm以上に及ぶスペクトル範囲と、少なくとも300nm以上、好ましくは少なくとも350nm以上のスペクトル範囲において平均されて達成すべき回折効率とを設定し、
- セクション内の、少なくとも最大屈折率nmax及び最小屈折率nmin、並びに、セクション内の、最大屈折率nmaxに関連する高アッベ数νmax及び最小屈折率nminに関連する低アッベ数νminを、少なくとも、全スペクトル範囲において平均されて達成すべき回折効率が得られるように最適化する。
【0024】
本発明による効率アクロマートされた回折構造体の設計方法を用いて、単一の回折層のみを有する、効率アクロマートされた回折構造体を実現することができる。それによって、回折構造体のプロファイル高さを低く抑えることができる。回折構造体において可能な限り良好な効率アクロマートを実現するために、少なくとも300nm、好ましくは少なくとも350nmのスペクトル範囲において平均されて達成すべき回折効率について、その際、特に、少なくとも0.95の値を設定することができる。
【0025】
本発明による方法の有利な実施形態においては、最大屈折率nmax、最小屈折率nmin、高アッベ数νmax、及び低アッベ数νminに加えて、最大屈折率nmaxに関連した第1の部分的な部分分散、及び、最小屈折率nminに関連した第2の部分的な部分分散が、少なくとも300nm、好ましくは少なくとも350nmのスペクトル範囲において平均された、設定された回折効率が達成されるように、最適化される。
【0026】
上記のように、コーシー方程式の波長依存性は、特定の波長における屈折率の値と、アッベ数の値及び部分的な部分分散の値とによって十分に近似的に決定することができる。そのため、この方法の上記有利な実施形態においては、最大6つのパラメータ、すなわち特定の波長における最大屈折率nmax、特定の波長における最小屈折率nmin、高アッベ数νmax及び低アッベ数νmin、並びに、任意に、第1の部分的な部分分散及び第2の部分的な部分分散の最適化に基づいて、最適化を行うことができる。この6つの値によって、コーシー方程式のパラメータが十分に決定され、それによって、最大屈折率nmaxの波長依存性、及び最小屈折率nminの波長依存性が十分に決定される。スペクトル範囲の特定の波長における最大屈折率nmax、スペクトル範囲の特定の波長における最小屈折率nmin、高アッベ数νmax、及び低アッベ数νmin、並びに、任意に、第1の部分的な部分分散及び第2の部分的な部分分散の最適化された値においては、少なくとも300nmのスペクトル範囲における波長λの関数としての差Δn(λ)=nmax(λ)-nmax(λ)は、ほぼ線形である。
【0027】
効率アクロマートされた回折構造体を設計するための本発明による方法の範囲内において、最大屈折率nmax、最小屈折率nmin、高アッベ数νmax及び低アッベ数νmin、並びに、必要に応じて、第1の部分的な分散、及び第2の部分的な分散の最適化を、回折構造体のプロファイル高さhが最小になるように、又は少なくとも所定の最大値を超えないように行うことができる。これによって、シャドーイング効果を最小限に抑えることができ、このことは、入射角が大きくなるほど、及び/又は、回折構造体のセクションの横方向の寸法が小さくなるほど、少なくとも300nm、好ましくは少なくとも350nmのスペクトル範囲において平均された回折効率の低下をより緩慢にする。
【0028】
特に、効率アクロマートされた回折構造体を設計するための本発明による方法においては、最大屈折率nmax、最小屈折率nmin、高アッベ数νmax、及び低アッベ数νmin、並びに、必要に応じて、第1の部分的な部分分散及び第2の部分的な部分分散の最適化を、スペクトル回折効率の少なくとも2つの最大値がスペクトル範囲内に存在するように行う。これによって、設定されたスペクトル範囲の広い部分においてスペクトル回折効率の均一な推移を達成することができる。特に、最大値間のスペクトル回折効率が、0.95を、好ましくは0.97を、特に0.98を下回らないことが達成される。その結果、設定されたスペクトル範囲の大部分において高いスペクトル回折効率が得られる。2つの最大値が存在する場合において最大値が位置する波長は、有利には、この高い回折効率が得られる波長域を可能な限り広くするために、少なくとも150nm、好ましくは少なくとも200nm互いに異なる。2つ以上の最大値の場合、外側の2つの最大値が存在する波長は、互いに150nm以上、好ましくは200nm以上異なる。
【0029】
本発明の効率アクロマート化された回折構造体を設計する方法において、一連の隣接するセクションは、特に周期的な構造を形成してもよい。しかしながら、回折構造体にさらなる光学特性を持たせるために、一連の異なる幅のセクションを形成することもできる。例えば、回折構造体は、一連の幅の異なるセクションによって、フォーカス構造又はデフォーカス構造となり、その結果、回折レンズとして機能することができる。しかしながら、一連の異なる幅のセクションを用いた回折構造体の他の形態も可能であり、例えば、異なる幅のセクションを用いて回折構造体を収差補正構造にすることができる。
【0030】
本発明による方法は、本発明による効率アクロマートされた回折光学素子の製造のための効率アクロマートされた回折構造体の設計を可能にする。
【0031】
さらに本発明は、回折光学素子の製造方法を提供する。この方法においては、効率アクロマートされた回折構造を設計するために本発明の方法に従って設計された回折構造体が提供される。この回折構造体は、ドーピングされた材料及びそのドーピングの変化の使用によって、又は、混合材料及びその混合比の変化を用いて作成され、ドーピング又は混合比は、ドーピングされた材料又は混合材料の少なくとも屈折率及びアッベ数を決定する。ドーピングの変化又は混合比の変化は、少なくとも、最適化から生じる屈折率及びアッベ数における変化が、ドーピングの変化又は混合比の変化によって実現されるように行われる。
【0032】
それによって、ドーピング又は材料の混合を利用することによって、例えば、3D印刷を使用して、及び、印刷時にドーピング又は混合比率を変化させる、ドーピングされた又は混合された印刷材料を使用して、回折構造体を印刷することによって、設計した回折構造体を有する光学素子を製造することができる。代替的に、回折光学素子の製造は、空間的に変化するドーピングを基材からなる本体に導入することを含み得る。
【0033】
本発明のさらなる特徴、特性、及び利点は、添付の図を参照した以下の実施例の説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】回折光学素子の第1の例示的な実施例を示す図である。
【
図2】最大屈折率が1.7、最大アッベ数が50の場合のグラフであり、これによって最小の屈折率と最小のアッベ数との適切な組み合わせを表すことができる。
【
図3】様々な回折光学素子のスペクトル回折効率を波長の関数として示す図である。
【
図4】
図3の回折光学素子の、最大屈折率、最小屈折率、高アッベ数、及び低アッベ数のそれぞれの組み合わせを示す図である。
【
図5】回折光学素子の第2の例示的な実施例を示す図である。
【
図6】回折光学素子を内蔵したレンズの概略図である。
【
図7】回折光学素子の製造工程のフローチャートである。
【
図8】回折光学素子の第3の例示的な実施例を示す図である。
【
図9】円筒形導波路の屈折率の直径依存性を示す図である。
【
図10】
図9の導波路の屈折率の周辺媒質への依存性を示す図である。
【
図11】
図9の導波路のアッベ数の周囲媒質への依存性を示す図である。
【
図12】
図9の導波路の部分分散の周辺媒質への依存性を示す図である。
【
図13】TiO
2の屈折率をn
max(λ
0)に選択した回折構造体の多色性積分回折効率(polychromatische integrale Beugungseffizienz)を、n
dとν
dの関数として可視波長域において示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明による回折光学素子の第1の実施例を、
図1~
図4を参照して説明する。
図1は、一連の隣接するセクション3A~3Dから構成される回折構造体3を有する回折光学素子1の断面を示す。回折構造体3(同時に光学素子1)は、100μm以下、特に50μm以下、好ましくは20μm以下のプロファイル高さhを有する。プロファイル高さに垂直な方向において、回折構造体は屈折率の空間的変化を有しており、それによってセクション3A~3Dが定義されている。各セクション3A~3Dにおいては、低い点密度によって示される領域5から、高い点密度によって示される領域7まで、屈折率が連続的に増加している。ここで、領域5は、回折構造体の特定の波長λ
0に対して最小の屈折率n
min(λ
0)を有する領域を表し、領域7は、特定の波長λ
0に対して最大の屈折率n
max(λ
0)を有する領域を表す。このような回折構造体は、Gradientenindex-DOE(略してGRIN-DOE)と呼ばれている。このような回折格子は、特定の波長λ
des(いわゆる設計波長)において、そのスペクトル回折効率η(λ)が理論的に1又は100%の値になるように設計することができる。その際、設計波長λ
desは特定の波長λ
0と一致している必要はない。しかしながら、可視光域全体において高い回折効率を達成し、同時に回折構造体のプロファイル高さを低くしたい場合、特定の波長λ
0と設計波長λ
desとが一致していると、回折構造体の設計が容易になる。
【0036】
本実施例では、特定の波長λ0における屈折率n(λ0)の連続的な増加は、領域5に存在する特定の波長λ0における最小屈折率nmin(λ0)から、領域7に存在する特定の波長λ0における最大屈折率nmax(λ0)までの直線的な増加によって特徴付けられる。回折構造体3の特定の波長λ0における最小屈折率nmin(λ0)及び最大屈折率nmax(λ0)は、設計波長λdesの光が、最大屈折率nmax(λ0)の領域を透過するときに、最小屈折率nmin(λ0)の領域を透過するときと比較して、j×2π(jは回折次数を表す)の位相シフトを示すように、選択される。例示的な本実施例においては、光が1次の回折次数に偏向されるように、j=1が選択される。しかし、j>1、つまり高い回折次数、又はj<0、つまり負の回折次数を選択することも可能である。負の回折次数の場合、最大屈折率nmax(λ0)は領域5に、最小屈折率nmin(λ0)は領域7に存在することになる。
【0037】
特定の波長λ0における最小屈折率nmin(λ0)及び最大屈折率nmax(λ0)は、特定の波長における最大屈折率nmax(λ0)が、特定の波長における最小屈折率nmin(λ0)よりも少なくとも0.005、特に少なくとも0.01、好ましくは少なくとも0.015だけ高い値を有するような値を有する。特定の波長λ0が同時に回折構造体の設計波長λdesである場合、最大屈折率と最小屈折率との間の屈折率差Δn(λdes)=nmax(λdes)-nmin(λdes)は、次式によって回折構造体のプロファイル高さhを決定する(一次の回折次数において)。
h=λdes/Δn(λdes)
j番目の回折次数においては、プロファイルの高さhは、対応して、
h=jλdes/Δn(λdes)
によって与えられる。
特定の波長λ0が回折構造体の設計波長λdesと異なる場合は、回折構造体のプロファイル高さを計算するためには、まず所定の波長における屈折率nmax(λ0)及びnmin(λ0)を設計波長λdesにおける屈折率nmax(λdes)とnmin(λdes)に換算する必要がある。
【0038】
例示的な本実施例における特定の波長λ0は、回折構造体の設計波長λdesに等しく、値は587.56nmである。これは、ヘリウムのd線に相当する。しかしながら、原則として、回折構造体の効率アクロマートが行われる波長域内であれば、所定の波長λ0以外の任意の波長、例えば水銀のE線の波長(546.07nm)を使用することができる。本実施例では、この波長域は、可視波長域、すなわち、400~800nmの波長域、又は、やや狭義には400~750nmの波長域である。したがって、本実施例の特定の波長λ0の587.56nmは、多かれ少なかれ可視波長域の中心に位置する。
【0039】
可視光域において回折構造体3の効率アクロマートを実現するために、その材料は、例示的な本実施例では、1.700の最大屈折率nmax(λ0)、及び、1.695の最小屈折率nmin(λ0)を有し、それによって0.005の屈折率差Δn(λ0)=nmax(λ0)-nmin(λ0)が存在する。さらに、最大屈折率nmax(λ0)の領域7ではアッベ数νmaxが50であり、低い屈折率nmin(λ0)の領域5ではアッベ数νminが42であり、それによって値8のアッベ数差Δνが存在する。この値は、値の組み合わせ(nmax(λ0)=1.7000、νmax=50)を固定し、nmin(λ0)及びνminの値、つまり屈折率差Δn(λ0)及びアッベ数差Δνを、可視光域において平均して高い回折効率が得られるように最適化したことに由来する。nmax(λ0)及びνmaxの値の代わりに、nmin(λ0)及びνminの値を固定することもできる。さらに、最大屈折率nmax(λ0)、最小屈折率nmin(λ0)、アッベ数νmax、及び、アッベ数νminの値を最適化し、これらのどの値も固定しないようにすることも可能である。
【0040】
あるスペクトル範囲において平均された回折効率の高さ(つまり回折構造体の効率アクロマートの度合いを示す量)、を与えるための使用を見出し得る量は、多色性積分回折効率η
PIDE(PIDE:Polychromatic Integral Diffraction Efficiency)である。多色性積分回折効率η
PIDEは、特定のスペクトル範囲(本実施例では可視光域)において平均されたスペクトル回折効率η(λ)であり、以下の式に従って計算される。
【数1】
ここで、スペクトル回折効率η(λ)は、シャドーイング効果が無視できる場合において、次式で与えられる。
【数2】
j次の回折次数においては、「-1」を「-j」に置き換える必要がある。
ここで、sincはsinc関数、hは回折構造体のプロファイル高さ、Δn(λ)=n
1(λ)-n
2(λ)は波長依存の屈折率差、λは波長を示し、ここで、n
1(λ
0)=n
max(λ
0)、及び、n
2(λ
0)=n
min(λ
0)である。
【0041】
屈折率n(λ)の波長依存性は、アッベ数と部分分散を用いて、以下のコーシー方程式によって、特に可視光域においては非常によく近似できる。
【数3】
この場合、係数a、b、cは次のように計算できる。
【数4】
及び、
【数5】
以下を用いて、
【数6】
ヘリウムのd線(587.56nm)の際の屈折率n
dによって、アッベ数ν
dと部分分散P
g,Fが表される。
【0042】
アッベ数とは、光学材料の分散特性を表す無次元量である。本実施例では、アッベ数を以下のように定義している。
【数7】
ここで、添え字の「d」は、アッベ数の定義にヘリウムのd線が使われていることを意味している。この定義においては、n
dはヘリウムのd線波長(587.56nm)の屈折率を、n
Fは水素のF線波長(486.13nm)の屈折率を、n
Cは水素のC線波長(656.27nm)の屈折率を表している。しかしながら、ν
d以外のアッベ数の定義(例えば、ν
e)も、本発明の文脈では使用することができる。ν
eの場合、上式において、ヘリウムのd線波長での屈折率n
dの代わりに、水銀のe線波長(546.07nm)での屈折率n
eが使用され、水素のF線波長における屈折率n
Fの代わりに、カドミウムのF’線波長(479.99nm)における屈折率n
F’が使用され、水素のC線波長における屈折率n
Cの代わりに、カドミウムのC’線の波長(643.85nm)における屈折率n
C’が使用される。本発明は、選択されたアッベ数の定義に依存しないので、アッベ数は、本明細書においては指標なしの単にνと記している。可視光域以外のスペクトル範囲では、上記の波長の屈折率に代えて、効率アクロマートを行うためのスペクトル範囲内の他の波長の屈折率を選択する。選択された波長は、いずれも回折構造体の設計波長と一致する必要はない。
【0043】
部分分散とは、基準波長間隔に関連した、2つの特定の波長の屈折率の差を表し、これら2つの波長間のスペクトル範囲における分散の強さの度合いを表す。本実施例における2つの波長は、水銀のG線の波長(435.83nm)と水素のF線の波長(486.13nm)であり、そのため本実施例における部分分散P
g,Fは以下のように与えられる。
【数8】
ここで、n
Fとn
Cは、ν
dの場合と同様である。また、部分分散の場合には、例えば、水素のF線及びC線を、カドミウムのF’線及びC’線に置き換えるような、別の定義を用いることもできる。
【0044】
別の波長が効率アクロマートを行うためのスペクトル範囲内にある限り、コーシー方程式の係数に直接含まれているヘリウムのd線波長における屈折率ndは、その別の波長における屈折率に置き換えることもできる。ただし、係数a、b、cの式は、その別の波長の際の屈折率に適合させる必要がある。
【0045】
それによって、上述の最適化は、多色性積分回折効率ηPIDEの所定の最小値を達成することに関して、又は多色性積分回折効率ηPIDEの最大値を達成することに関して行うことができる。その際、多色性積分回折効率ηPIDEに対する部分分散Pg,Fの影響は、アッベ数νの影響よりも明らかに小さいことが示されている。それによって、部分分散Pg,Fの広い範囲の値に対する多色性積分回折効率ηPIDEは、Δn(λ0)とΔνの最適化、又はnmax(λ0)、nmin(λ0)、νmax、及びνminの最適化によって、0.95以上の値を得ることができる。しかしながら、原理的には、nmax(λ0)、nmin(λ0)、νmax、及びνminの最適値、又は、Δn(λ0)及びνΔの最適値の代わりに、nmax(λ0)、nmin(λ0)、νmax、νmin、Pg,F,1、及びPg,F,2の最適値を決めることも可能である。その際、Pg,F,1にはnmax(λ0)及びνmax、が割り当てられ、Pg,F,2にはnmin(λ0)及びνminが割り当てられる。単に、nmax(λ0)、nmin(λ0)、νmax及びνmin、又は、Δn(λ0)及びΔνを最適化した場合、スペクトルの回折効率η(λ)には2つの最大値が得られる。さらに、Pg,F,1及びPg,F,2の両方を最適化する場合、Pg,F,1とPg,F,2との差が十分に大きくなる限りにおいて、すなわちPg,F,1が十分に大きく、Pg,F,2が十分に小さい限りにおいて、スペクトル回折効率η(λ)には3つの最大値が得られる。
【0046】
図2は、λ
0=587.56nmにおける所定の最大屈折率n
max(λ
0)が1.700、所定の最大アッベ数ν
maxが50の場合の多色性積分回折効率η
PIDEを、最小屈折率n
min(λ
0)及び最小アッベ数ν
minに依存してグレースケールで示したものである。
図2のプロットの基となる計算の際には、部分分散P
g,F,1とP
g,F,2は一定に保たれた。多色性積分回折効率η
PIDEは、曲線n
min(ν
min)に沿って最大値をとる。この曲線は、
図2に破線で示されている。意外にも、この曲線上の多色性積分回折効率η
PIDEの最大値は1に近く、さらにこの曲線を中心とした範囲では0.95以上の値に達している。点(ν
min,n
min)が曲線から離れるほど、多色性積分回折効率η
PIDEは低くなる。上記の値n
max(λ
0)=1.700、n
min(λ
0)=1.695、ν
max=50、ν
min=42において、
図2のプロットから読み取れるように、多色性積分回折効率η
PIDEは少なくとも0.95を達成している。
【0047】
屈折率差Δn(λ
0)が0.005の場合、上記の実施例と同様に、プロファイル高さhは117.5μmとなる。屈折率差Δn(λ
0)の値が大きいほど、より低いプロファイル高さを実現できる。
図2は、説明した屈折率差Δn(λ
0)とアッベ数差Δνとの組み合わせ以外にも、0.95以上の多色性積分回折効率η
PIDEが得られる屈折率差Δn(λ
0)とアッベ数差Δνとの組み合わせが多数存在することを示している。例えば、最小屈折率n
min(λ
0)の値が1.695の代わりに1.650であり、屈折率差Δn(λ
0)の値が0.005の代わりに0.05の場合、プロファイル高さhは11.75μmでよい。この場合、多色性積分回折効率η
PIDEを少なくとも0.95とするためには、アッベ数ν
minは約18~約30の範囲とする必要がある。最高の多色性積分回折効率η
PIDEは、アッベ数ν
minが約25においてn
min(λ
0)=1.650の時に、すなわちアッベ数差Δνが約25の時に達成される。上記の最適化の範囲の中で、最適化の結果が望ましくないほど大きなプロファイル高さになることを避けるために、最大プロファイル高さhを境界条件として設定することができる。しかしながら、Δn(λ
0)及びΔνの最適化、又は、n
max(λ
0)、n
min(λ
0)、ν
max、ν
minの最適化、又は、n
max(λ
0)、n
min(λ
0)、ν
max、ν
min、P
g,F,1、及びP
g,F,2の最適化は、多色性積分回折効率η
PIDEが最大になるように、また、プロファイル高さhが最小になるように行うこともできる。多色性積分回折効率η
PIDE及び/又はプロファイル高さhの最大化に関する最適化の代わりに、又は、そのような最適化に加えて、多色性積分回折効率η
PIDEが所定の最小値に達することに関する最適化、及び/又は、プロファイル高さhが所定の最大値を下回ることに関する最適化を行うこともできる。
【0048】
可視光域における最適化された回折構造体のスペクトル回折効率η(λ)の例を、屈折率差Δn(λ
0)とアッベ数差Δνとが異なる多数の回折構造体について、
図3及び
図4に示す。その際、特定の波長λ
0は、いずれの場合もヘリウムのd線の波長、すなわちλ
0=587.56nmである。
【0049】
図3は、回折構造体が異なる4種類の回折光学素子のスペクトル回折効率η(λ)を示している。DOE1と記された回折光学素子は、本発明による最適化がなされていない単層の比較素子である。DOE2~DOE4と記された回折光学素子は、本発明に基づいて最適化された回折光学素子の例を表している。
【0050】
図3のDOE1と記された回折光学素子では、プロファイル高さhが7.70μm,設計波長λ
0が553nm,屈折率差Δn(λ
0)が0.08である。
図4から認識できるように、低屈折率は約1.5、高屈折率は1.6弱である。この場合、低屈折率のアッベ数は約60の値であり、高屈折率のアッベ数(約50の値)よりも約10高くなっている。スペクトル回折効率η(λ)は、設計波長からの小さな差異において、すでに急降下しており、可視光域では多色性積分回折効率η
PIDEを0.95以上にすることができないことが認識できる。
【0051】
本発明による回折光学素子DOE2では、プロファイル高さが4.0μm、設計波長が503nm、屈折率差Δn(λ
0)が約0.15であり、最小屈折率n
min(λ
0)が1.6をわずかに下回り、最大屈折率n
min(λ
0)が1.7をわずかに上回っている。
図4から認識できるように、回折光学素子DOE2のアッベ数は、回折構造体3の高屈折率の領域では約60の値を持つ一方で、回折構造体3の低屈折率の領域では約10の値を持つため、アッベ数差Δνは約50の値を持つことになる。それによって、わずか4.0μmという非常に低いプロファイル高さにおいて、
図3に示す推移のように、可視波長域全体でほぼ1という非常に高いスペクトル回折効率η(λ)を達成している。
図3に示すスペクトル回折効率η(λ)曲線では、ほぼ1の値を有する多色性積分回折効率η
PIDEも達成できる。
【0052】
同様に、本発明に基づいて設計された回折光学素子DOE3では、プロファイル高さが18.1μm、設計波長が445nm、屈折率差が約0.03であり、その際、最大屈折率が1.6強、最小屈折率が1.6弱である。回折構造体3の高屈折率の領域では、回折光学素子DOE3は約50のアッベ数を有し、回折構造体3の低屈折率の領域では、約25の値のアッベ数を有する。そのため、回折光学素子DOE3のアッベ数差Δνは約25という値である。回折光学素子DOE3の回折構造体3は、この屈折率差Δn(λ0)とアッベ数差Δνとの組み合わせにおいて、回折光学素子DOE2ほど均一なスペクトル回折効率η(λ)を示すわけではない。しかしながら、それでも可視光域のほぼ全域においてスペクトル回折効率η(λ)は0.97以上である。そのため、回折光学素子DOE3は、0.95以上の高い多色性積分回折効率ηPIDEを有する。
【0053】
図3に示す第4の回折光学素子DOE4では、プロファイル高さが32.6μm、設計波長が437nm、屈折率差Δn(λ
0)が約0.015であり、その際、低屈折率が1.56付近、高屈折率が1.58付近である。回折構造体3の高屈折率の領域7のアッベ数は約55の値を有し、回折構造体3の低屈折率の領域5のアッベ数は約35の値を有し、それによって、回折光学素子DOE4のアッベ数差は約20の値を有する。回折光学素子DOE4のスペクトル回折効率η(λ)は、回折光学素子DOE3よりもさらに不規則な推移を示しているが、この回折光学素子においても、可視光域の大部分においてスペクトル回折効率η(λ)が0.97以上の値を有する。そのため、回折光学素子DOE3も0.95以上の高い多色性積分回折効率η
PIDEを有する。
【0054】
従来の回折光学素子DOE1のスペクトル回折効率η(λ)と、本発明による回折光学素子DOE2~DOE4のスペクトル回折効率η(λ)との比較は、本発明による回折光学素子の最適化によって、スペクトル回折効率η(λ)を可視光域全体において高くすることができ、また、回折光学素子DOE1と比較して非常に均一にすることができることを示す。これは、DOE2からDOE4の例では、従来の回折光学素子DOE1と比較して、スペクトル回折効率η(λ)が複数の最大値を持つことで実現されている。回折光学素子DOE2は、486.13nmに加え、約725nmと約400nmとに位置する、3つのスペクトル回折効率η(λ)の最大値を有する。回折光学素子DOE3は、656.27nmと約445nmとの、2つのスペクトル回折効率η(λ)の最大値を有する。回折光学素子DOE4も、643.45nmと約437nmとの、2つのスペクトル回折効率η(λ)の最大値を有する。最小値の間では、スペクトル回折効率η(λ)が低下し、その際、屈折率差が大きくなるほどその低下が小さくなり、それによって、回折光学素子の回折構造体3のプロファイル高さhがより低くなる。
【0055】
DOE2~DOE4の例から認識できるように、屈折率差が大きいほど、アッベ数差も大きいものを選択する必要がある。屈折率差が大きくなるとプロファイル高さが低くなり、それによって、シャドーイング効果が減少するため、大きな屈折率差Δn(λ
0)と大きなアッベ数差Δνとの組み合わせが有利である。回折光学素子DOE2~DOE4の屈折率差とアッベ数差との組み合わせは、
図2に破線で示した多色性積分回折効率η
PIDEが最大となるラインを中心とした狭い範囲にある。
【0056】
本発明による回折光学素子10の第2の例示的な実施例を
図5に示す。
図1の回折光学素子1では、屈折率の変化によって、その断面3A~3Dの一定の幅を有する周期的な回折構造体3が実現されているのに対し、第2の例示的な実施例の回折光学素子10における回折構造体13は、回折構造体13の中心部において2つの水平方向にミラーリングされた回折構造体13,13’が隣接するような、変化を有する。回折構造体13の中心からの距離が増加するにつれて、屈折率が最小屈折率n
min(λ
0)から最大屈折率n
max(λ
0)までそれぞれ変化するセクション13A~13D及び13A’~13D’の横方向の寸法が小さくなる。それによって、回折光学素子10を例えば回折レンズとして形成することが可能となる。その際、回折構造体13の中心からの距離の増加に伴って横方向の寸法が減少する方法は、特にどのような焦点位置を実現するかに依存する。
【0057】
第1の例示的な実施例と同様に、回折構造体13の設計波長λdesにおける最小屈折率nmin(λ0)及び最大屈折率nmax(λ0)は、以下のように選択される。すなわち、設計波長λdesの光が、最大屈折率nmax(λ0)を有する領域を透過したときに、最小屈折率nmin(λ0)を有する領域を透過したときに対して、j×2π(jは回折次数を表す)の位相シフトを生じるように選択される。幅の小さいセクション13D、13D’では、最大屈折率nmax(λ0)のエリア7D、7D’から最小屈折率nmin(λ0)のエリア5D、5D’までの屈折率の推移は、例えば幅の大きいセクション13B、13B’と比べて急峻でなければならないことを意味する。
【0058】
図5に示すような回折光学素子10を、例えば、
図6に概略的に示すようなレンズ15に組み込み、それによって、レンズ15による屈折に基づく焦点に加えて、回折光学素子10による回折に基づく焦点を作り出すことができる。これは、例えば眼内レンズの場合において以下の点において興味深い。すなわち、そのようなレンズによって、複数の焦点を有する眼内レンズを作ることができ、眼内レンズを装着した人が同一のレンズによって異なる距離を鮮明に見ることができるようになる。さらに、屈折及び回折は異なる波長依存性を有する。そのため、回折光学素子の波長依存性がレンズの屈折波長依存性を補い、それによって、レンズの色ずれを補正するように、回折光学素子を形成することができる。
【0059】
本発明による回折光学素子100の第3の例示的な実施例を
図8に示す。第1の例示的な実施例及び第2の例示的な実施例の回折光学素子とは異なり、回折構造体113のセクション103A、103B、103C、103D内の屈折率は、設計波長λ
desにおいて最小屈折率n
min(λ
0)から最大屈折率n
max(λ
0)まで連続的に増加しない。代わりに、セクション103A、103B、103C、103Dのそれぞれは、第1の屈折率n
a(λ
0)を有する第1の材料Aの複数の第1の領域115と、第2の屈折率n
b(λ
0)を有する第2の材料Bの複数の第2の領域117とを有する。その際、第1の領域115はセクション内において第2の領域117と互いに入れ替わる。その際、第2の屈折率n
b(λ
0)は、第1の屈折率n
a(λ
0)に比べて大きい。セクション103A、103B、103C、103Dが互いに続く回折構造体の、少なくとも延長方向における個々の領域115、117の最大幅は、回折構造体の効率アクロマートが行われる波長域の中央波長よりも小さい。このような構造体は、いわゆるメタ表面を形成する。
【0060】
本例示的な実施例においては、回折構造体の効率アクロマートが行われる波長域は、可視波長域、すなわち、400~800nmの波長域、又は、より狭義には、400~750nmの波長域であり、また、領域115,117の最大幅Bmaxは、100nmである。そのため、最大幅Bmaxは、可視波長域の中央波長の0.3倍よりも小さく、しかも可視波長域の最小波長の0.3倍よりも小さい。最大幅Bmaxは、セクション103A、103B、103C、103Dの端部105A、105B、105C、105Dの領域115に対してそれぞれ実現される。他方、最大幅Bmaxは、セクション103A、103B、103C、103Dの端部107A、107B、107C、107Dの領域117に対してそれぞれ実現される。領域115,117の最大幅Bmaxは中央波長よりも小さいため、セクション103A,103B,103C,103Dにおいて、波長に対応したエッジ長(本実施例においては400~800nmのエッジ長)を有する体積要素は、実効屈折率neff(λ0)を有する均質な領域のように作用する。その際に、有効屈折率neff(λ0)は、第1の領域115の屈折率na(λ0)及び第2の領域117の屈折率nb(λ0)並びにそのような体積要素内の第1及び第2の領域115,117の体積比から導かれる。そして、それぞれのセクション103A、103B、103C、103D内の位置の関数として有効屈折率neff(λ0)を変化させることによって、回折に必要な位相シフトをもたらすことができる。その際、セクション103A、103B、103C、103D内の実効屈折率neff(λ0)の変化は、セクション103A~103D内の位置の関数として、第1の領域115及び/又は第2の領域117の幅を変化させることによって、また、それによって、第1の材料A及び第2の材料Bの体積分率を変化させることによって実現することができる。それによって、端部105A、105B、105C、105Dにおける最小有効屈折率neff,min(λ0)と端部107A、107B、107C、107Dにおける最大有効屈折率neff,max(λ0)との間において、有効屈折率neff(λ0)を各セクション103A、103B、103C、103D内の位置の関数として変化させることができる。効率アクロマートのために、最小有効屈折率neff,min(λ0)及び最大有効屈折率neff,max(λ0)の最適化は、先に説明した勾配屈折率DOEの最小屈折率nmin(λ0)及び最大屈折率nmax(λ0)と同様に行うことができる。確定された屈折率の実現は、第1の材料A及び第2の材料Bの適切な選択によって、及び/又は、第1の領域115及び第2の領域117の適切な寸法によって、メタ表面において実施することができる。
【0061】
第3の例示的な実施形態の変更例では、領域115、117の最大幅Bmaxは、400nmと800nmの波長域の中央波長の0.3倍以上である。その代わりに、少なくとも高屈折率の領域の最大幅Bmax、すなわち、本例示的な実施例においては、屈折率nbを有する第2の領域117の最大幅は、回折構造体の効率アクロマートが行われる波長域の中央波長の0.3倍から1.0倍の間である。それによって、第2の領域117は、最大幅Bmaxに達したところにおいて導波路のように機能し、それは、勾配屈折率DOEと比較して、シャドーイング効果を低減することができる。これは、例えば、P.Lalanne「Waveguiding in brazed-binary diffractive elements」 in J.Opt.Soc.Am.A16(1999)に記載されているように、入射角が大きい場合、又は、断面の幅が小さい場合に特に有効である。導波路を形成する第2の領域117の屈折率nbは、より高い屈折率を有する領域117の幾何学的形状と、周囲の媒体の屈折率との両方に依存し、例示的な本実施例においては、したがって、第1の領域115の屈折率naに依存する。同様のことが、アッベ数及び部分分散についても当てはまる。
【0062】
図9は、酸化チタン(TiO
2)からなる大きな母体の屈折率の波長依存性を、直径が100nmから1000nmの範囲にある酸化チタン(TiO
2)から成る円筒形導波路の基本モードの屈折率と比較して示している。図は、導波路の直径が小さくなるにつれて、波長依存の屈折率が酸化チタンからなる大きな母体の波長依存の屈折率からより大きくずれていくことを示している。特に小さな導波路直径D
wavにおいては屈折率、アッべ数及び部分分散が、周囲の材料に明らかに依存していることが、図から明白である。
【0063】
図10,
図11,
図12は,ヘリウムのd線(波長:587.56nm)における、二酸化チタン(TiO
2)からなる円筒形導波路の基本モードの屈折率(
図10)、アッベ数(
図11)、部分分散(
図12)の依存性を、導波路直径D
wavの関数として、導波路を囲む材料を変えて示している。その際、導波路を囲む材料は、選択的に、空気、水(屈折率n
d:1.33、アッベ数ν
d:55.8、部分分散P
g,F:0.51)、ショット社がN-SF11の名称で販売しているガラス材料N-SF11(屈折率n
d:1.78、アッベ数ν
d:25.8、部分分散P
g,F:0.61)である。比較のために、図には、二酸化チタン(TiO
2)から成る大きな母体の屈折率も示されている。
【0064】
図13は、TiO
2の屈折率をn
max(λ
0)に選択した回折構造体の多色性積分回折効率η
PIDEを、n
dとν
dの関数として可視波長域において示している。
図13の実線は、空気に囲まれたTiO
2の円筒形導波路において、直径D
wavの0~2500nmの間の変化から生じるn
dとν
dの組み合わせを示している。この図は、空気に囲まれたTiO
2の円筒型導波路においては、可視波長域において多色性積分回折効率η
PIDEを0.95以上にすることができないことを示している。
【0065】
点線は、水に囲まれたTiO
2から成る円筒形導波路において、直径D
wavの0~2500nmの間の変化から生じるn
dとν
dの組み合わせを示している。n
d=1.5、ν
d=1.5付近の範囲では、非常に高い多色性積分回折効率η
PIDEが得られることが認識できる。n
d=1.5とν
d=1.5という値は、
図10と
図11から認識できるように、円筒形導波路の直径D
wavが約80nmにおいて達成できる。この直径は、600nmの約0.13倍(可視波長域の中央波長の0.13倍)と、400nmの約0.2倍(可視波長域の最小波長の0.2倍)に相当する。酸化チタンと水の組み合わせの場合、n
dとν
dを最適化することによって、メタ表面に適した実効最小屈折率n
eff,min(λ
0)が得られるが、導波路効果は発生しない。
【0066】
破線は、N-SF11に囲まれたTiO
2から成る円筒型導波路において、直径D
wavの0~2500nmの間の変化から生じるn
dとν
dの組み合わせを示している。n
d=2、ν
d=4.2付近の範囲において非常に高い多色性積分回折効率η
PIDEが得られることが認識できる。
図10及び
図11から認識できるように、n
d=2及びν
d=4.2という値は、円筒形導波路の直径D
wavが約280nmにおいて達成できる。この直径は400nmの約0.7倍、600nmの約0.46倍、800nmの約0.35倍に相当し、可視波長域の最小波長の約0.7倍、中波長の約0.46倍、最大波長の約0.35倍となる。このケースは、変更された第3の例示的な実施例、すなわち導波路効果を有するメタ表面に対応する。
【0067】
neff,min(λ0)及びneff,max(λ0)の最適化は、それぞれ異なるアプローチによって実現することができる。第一に、各導波路を囲む材料を調整することができる。第二に、導波路自体の材質を調整することができる。最後に、導波路の形状も最適化することができる。その際、しかしながら、円柱よりも複雑な形状を使用する必要がある。
【0068】
以下、本発明による効率アクロマートされた回折光学素子の製造について、
図7を参照して説明する。図は、本実施例においては、ステップS1とステップS2によって回折光学素子の回折構造体を設計する方法を含む、製造工程のフローチャートを示す。本発明による効率アクロマートされた回折光学素子を製造するための方法のステップのうち、回折構造体の設計に関連するステップは、
図7の破線によって囲まれている。例示的な本実施例においては、このように、回折光学素子の実際の製造に、その回折構造体を設計するための方法が先立って行われる。しかしながら、例えば、回折構造体のカタログがあらかじめ設計されており、その中から回折光学素子の製造のために回折構造体が選択される場合などには、回折光学素子の製造を回折構造体の設計から切り離すことも可能である。
【0069】
本実施例においては、回折光学素子の製造工程は、回折光学構造体の設計の最初のステップS1から始まる。ステップS1においては、少なくとも300nm以上、好ましくは350nm以上に及ぶスペクトル範囲のすべての波長に対して達成すべき多色性積分回折効率ηPIDE_Zielを設定する。達成すべき多色性積分回折効率ηPIDE_Zielは、通常、少なくとも0.95の値を有する。任意に、回折構造体の最大プロファイル高さhmaxもステップS1において設定することができる。
【0070】
ステップS1において達成すべき多色性積分回折効率の値η
PIDE_Zielが設定された後に、例示的な実施例のステップS2においては、多色性積分回折効率η
PIDEを最適化するために、n
max(λ
0)、n
min(λ
0)、ν
max、ν
min、P
g,F,1、及びP
g,F,2の値が、誤差関数Δη
PIDE=η
PIDE_Ziel-η
PIDEが終了条件を満たすまで変化する。その際、η
PIDEは以下の積分、
【数9】
によって与えられる。終了条件は、特にη
PIDEの最大値に達することである。このような最大値は、本実施例においては、η
PIDE_Zielとして、ステップS1において値「1」が設定された場合にΔη
PIDEが最小となる、又は、ステップS1において値η
PIDE_Zielに全く値が設定されず、代わりに誤差関数Δη
PIDE=1-η
PIDEが使用される場合にΔη
PIDEが最小となることが、認識される。代替として、Δη
PIDE≦0という条件を満たすことを終了条件とすることもできる。その際、η
PIDE_Zielとして、ステップS1において特に「1」よりも十分に小さい値が設定される。
【0071】
nmax(λ0)、nmin(λ0)、νmax、νmin、Pg,F,1、及びPg,F,2の値は、最適化の枠組みの中において、コーシー方程式を介して屈折率n(λ)に入り、それによって、コーシー方程式を介して統合されるスペクトル回折効率η(λ)に入る。nmax(λ0)、nmin(λ0)、νmax、νmin、Pg,F,1、及びPg,F,2の値の制限は、使用可能な材料によって与えられる。これらの制限は、任意に、境界条件として最適化に含めることができる。
【0072】
nmax(λ0)、nmin(λ0)、νmax、νmin、Pg,F,1、及びPg,F,2を最適化する代わりに、これらの量の1つ又は2つに固定値を与え、残りの自由な量のみを最適化することも可能である。特にPg,F,1及びPg,F,2には固定値を与えることができる。なぜなら、ηPIDEは、nmax(λ0)、nmin(λ0)、νmax、及びνminに比べてPg,F,1及びPg,F,2への依存度が低いからである。Pg,F,1>Pg,F,2の場合が有利である。しかしながら、Pg,F,1=Pg,F,2の場合、又は、Pg,F,1<Pg,F,2の場合においても、後者の場合はPg,F,1とPg,F,2の差が大きくなりすぎなければ、本発明を実現することができる。
【0073】
さらに、スペクトル範囲において平均した、可能な限り高い回折効率ηPIDEに関してのみではなく、可能な限り低いプロファイル高さhに関しても最適化を行うことができる。誤差関数ΔηPIDE=1-ηPIDE又は誤差関数ΔηPIDE=ηPIDE_Ziel-ηPIDEの最小化に加えて、プロファイル高さhも最小化される。また、プロファイル高さhの最小化に代えて、ステップS1において、プロファイル高さの最大値hmaxを設定し、また、h≦hmaxの式を満たすという境界条件のもとに最適化を行うことも可能である。
【0074】
ステップS2において回折構造体の設計が完了した後、ステップS3においては、最適化において決定された、所定の波長λ0における最大屈折率nmax(λ0)と、最適化において決定されたアッベ数νmaxとを有する第1の材料と、最適化において決定された、所定の波長λ0における最小屈折率nmin(λ0)と、最適化で決定されたアッベ数νminと、固定の又は最適化において決定された、Pg,F,1及びPg,F,2の値を有する第2の材料とが選択される。nmax(λ0)、νmax、及びPg,F,1の対応する値、並びに、nmin(λ0)、νmin、及びPg,F,2の対応する値を有する材料は、例えば、ナノ粒子を埋め込んだ材料の複合体として提供することができる。ナノ粒子が埋め込まれた材料として、特に、例えばポリメチルメタクリレート(略してPMMA)、又はポリカーボネート(略してPC)のようなポリマーが考えられる。ナノ粒子は、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)、二酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化チタン(TiO2)のような酸化物から、又は、ダイヤモンドから構成することができる。
【0075】
ステップS4においては、設計された回折構造体を有する回折光学素子を3D印刷によって製造する。選択された材料は、時間とともに変化する混合比率において3Dプリンタに投入される。その際、混合比の時間的変化は、最大屈折率n
max(λ
0)、アッベ数ν
max、部分分散P
g,F,1を有すべき(
図1及び
図5を参照)回折構造体の領域7が第1の材料のみによって印刷され、最小屈折率n
min(λ
0)、アッベ数ν
min及び部分分散P
g,F,2を有すべき回折構造体の領域5が第2の材料のみで印刷されるように、印刷される回折構造体の幾何学形状に合わせて調整される。これらの領域5,7の間に横たわる一連の隣接するセクション3A~3Dの領域は、第1の材料と第2の材料の混合比が第1の材料100%から第2の材料100%まで連続的に変化するように印刷される。複数の印刷ノズルを持つプリンタを使用する場合、経時的に変化する混合比は、異なる印刷ノズルに異なる混合比を供給することで置き換えることができる。
【0076】
代替的に、回折光学素子1の回折構造体2を、変化する混合材料の代わりに、印刷機に供給される単一の材料を用いて製造することも可能であり、この単一の材料は印刷中にナノ粒子によってドーピングされる。その際、この材料のドーピングは、最大屈折率n
max(λ
0)、アッベ数ν
max、及び部分的な部分分散P
g,F,1を有すべき(
図1及び
図5参照)、回折構造体のそれらの領域7が、第1のドーピングを有し、また、最小屈折率n
min(λ
0)、アッベ数ν
min及び部分的な部分分散P
g,F,2を有すべき、回折構造体のそれらの領域5が、第1のドーピングとは異なる第2のドーピングを有するように、時間的に変化する。そして、回折構造体3の各セクション3Ab~3D内において、ドーピングが第1のドーピング値から第2のドーピング値へと連続的に変化するように、基材のドーピングが行われる。第1のドーピング及び第2のドーピングは、同一ドーピング材料を用いた最大ドーピング及び最小ドーピング、又は異なるドーピング材料を用いた2つのドーピングを表すことができる。
【0077】
さらに代替的な方法として、まず、例えば3D印刷を用いて基材の本体を提供し、次に、その基材に空間的に変化するドーピングを施すことができる。そして、回折構造体3の各セクション3Ab~3D内において、第1のドーピング値から第2のドーピング値へとドーピングが連続的に変化するように、ドーピングの空間的変化が形成される。
【0078】
本発明は、説明のために例示的な実施例を参照して詳細に説明されている。しかしながら、当業者であれば、さらなる実施例を実現するために、本発明の範囲内において、例示的な実施例と相違してもよいことを認識するであろう。例えば、スペクトル範囲において平均された回折効率が、達成された効率アクロマートの度合いの適切な尺度である限りにおいて、例示的な実施例において使用されている多色性積分回折効率は、スペクトル範囲において平均された別の回折効率に置き換えられ得る。さらに、ナノ粒子を埋め込んだ材料として、例示的な実施例において述べたもの以外の高分子材料又はナノ粒子材料も原理的には考えられる。したがって、本発明は、記載された例示的な実施例によって限定されることを意図するものではなく、添付の請求項によってのみ限定されるものである。
【手続補正書】
【提出日】2021-11-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0001
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0001】
本出願に至るプロジェクトは、マリー・スクウォドフスカ・キュリー助成合意書(Marie Skwodowska-Curie grant agreement)第675745号の下で、欧州連合のホライゾン2020研究・イノベーションプログラム(European Union’s Horizon 2020 research and innovation programme)から資金提供を受けている。
本発明は、屈折率に空間的な変化を有する回折構造体を備えた回折光学素子(Diffraktives optisches Element:DOE)に関する。さらに、本発明は、効率アクロマートされた(effizienzachromatisierten)回折構造体の設計方法と、効率アクロマートされた回折素子の製造方法に関する。
【国際調査報告】