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特表2022-528916X線によって医療製品を滅菌するための装置および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-16
(54)【発明の名称】X線によって医療製品を滅菌するための装置および方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 2/08 20060101AFI20220609BHJP
   A61L 2/24 20060101ALI20220609BHJP
【FI】
A61L2/08
A61L2/24
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021559668
(86)(22)【出願日】2020-04-07
(85)【翻訳文提出日】2021-10-07
(86)【国際出願番号】 EP2020059906
(87)【国際公開番号】W WO2020208025
(87)【国際公開日】2020-10-15
(31)【優先権主張番号】102019109210.8
(32)【優先日】2019-04-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】594102418
【氏名又は名称】フラウンホーファー-ゲゼルシャフト ツル フェルデルング デル アンゲヴァンテン フォルシュング エー ファウ
【氏名又は名称原語表記】Fraunhofer-Gesellschaft zur Foerderung der angewandten Forschung e.V.
【住所又は居所原語表記】Hansastrasse 27c, D-80686 Muenchen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】アンゲラ バイアー-ゴシュッツ
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン シュタルケ
(72)【発明者】
【氏名】ハビエル ポルティージョ カサダ
(72)【発明者】
【氏名】フランク-ホルム レーグナー
(72)【発明者】
【氏名】イグナシオ ガブリエル ヴィセンテ ガバス
【テーマコード(参考)】
4C058
【Fターム(参考)】
4C058AA12
4C058BB06
4C058DD07
4C058KK01
4C058KK32
(57)【要約】
装置が、放射線源と好適には1つの検出器とを有しており、これら放射線源と検出器との間には医療製品が設けられており、放射線源は、開ループ制御装置および/または閉ループ制御装置と検出器のフィードバックとによって閉ループ制御可能、もしくは線量マッピングまたはシミュレーションの結果によって開ループ制御可能である。医療製品を滅菌するための方法は以下のステップ、すなわち、医療製品を滅菌装置内に設置するステップ;医療製品を、滅菌装置の放射線源によって、好適にはX線源によって照射するステップ;医療製品の各位置で放射強度を求め、(基準測定またはシミュレーションで求められ)制御装置内に記憶された、検出器における放射強度と相応の個所における医療製品の最小線量との関係に応じて、放射線源を開ループ制御および/または後から調整し、これにより医療製品を均一に照射し、ひいては滅菌するステップ、を有している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療製品(8)を滅菌するための方法であって、以下のステップ、すなわち、
a.医療製品(8)を滅菌装置(1)内に設置するステップ;
b.前記滅菌装置(1)の放射線源(2)によって、前記医療製品(8)を漸次にまたは継続的に、局所的に照射するステップ;
c.線量マッピングおよび/またはシミュレーションによって、前記医療製品(8)内の放射強度を局所的に求めるステップ、
d.前記医療製品(8)の各位置で、滅菌のために最低限必要な放射強度を全体にわたって達成するように、制御装置(3)によって前記放射線源(2)を開ループ制御または閉ループ制御するステップ、
を有している、方法。
【請求項2】
前記医療製品(8)を、複数の側から同時に照射し、かつ/または1つの軸線を中心として回転させる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記放射強度は、空間的に分解されて、それぞれ異なるかつ/または可変的である、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記医療製品(8)を、放射線源(2)と検出器(6)との間に設置する、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記放射線源(2)の閉ループ制御を、前記検出器(6)のフィードバックによって行う、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記検出器(6)は、前記医療製品(8)よりも大きな面積を有しており、前記放射強度を求める、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記放射線源(2)の開ループ制御を、前記シミュレーションによってまたは前記線量マッピングによって行う、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
少なくとも1つの医療製品(8)を滅菌するための装置(1)であって、
-少なくとも1つの放射線源(2)、
-放射強度を検出するための好適には少なくとも1つの検出器(6)、
-前記放射線源(2)の前で、好適には前記放射線源(2)と前記検出器(6)との間で、医療製品(8)を保持するための少なくとも1つのホルダ(10)、および
-前記放射線源(2)および好適には前記ホルダ(10)を開ループ制御または閉ループ制御するための少なくとも1つの制御ユニット(3)、
を有している装置(1)において、
前記医療製品(8)の各位置で、滅菌のために最低限必要な少なくとも1つの放射強度が達成されるように、前記制御ユニット(3)によって前記放射線源(2)の放射強度を継続的にまたは間欠的に、フィードバックによって閉ループ制御することができるかつ/またはフィードフォワード制御によって開ループ制御することができることを特徴とする、装置(1)。
【請求項9】
前記放射線源(2)は、100~800keVの光子エネルギを提供するように設けられて、適合されている、請求項8記載の装置(1)。
【請求項10】
前記ホルダ(10)は、前記医療製品(8)を前記放射線源(2)と前記検出器(6)との間で搬送可能な搬送装置を有している、請求項8または9記載の装置(1)。
【請求項11】
前記ホルダ(10)は、好適には少なくとも1つの軸線を中心として、回転可能である、請求項8から10までのいずれか1項記載の装置(1)。
【請求項12】
前記装置(1)は、それぞれ少なくとも2つの、好適には3つの放射線源(2)と検出器(6)とを有している、請求項8から10までのいずれか1項記載の装置(1)。
【請求項13】
前記制御ユニット(3)は、請求項1記載の方法ステップが記憶されている記憶媒体を有している、請求項8から12までのいずれか1項記載の装置(1)。
【請求項14】
前記放射線源(2)は、100~800keVのエネルギを有する一次電子線から成るX線を提供するように、設けられていて適合されている、請求項8から13までのいずれか1項記載の装置(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低エネルギX線によって3次元的な医療製品を滅菌するための装置および方法に関する。
【0002】
発明の背景
滅菌は、多くの医療製品に対する中心的なニーズである。生存可能な微生物が製品上にまたは製品内に存在する確率が、10~6以下であるならば、医療製品は滅菌されていると言える(EN556-1:2001)。
【0003】
医療製品とは、人間の医学的治療目的または診断目的で使用される物体または物質を指している。医療製品の所定の主要な効果は、医薬品とは異なり、薬理学的、代謝的、または免疫学的なものではなく、主に物理的または物理化学的なものである。したがって、医療製品とは、製造業者が人間用に以下の目的のために規定した、個別にまたは互いに組み合わせて使用することができる全ての機器、デバイス、装置、ソフトウェア、物質、またはその他の物体である。以下の目的とは、病気の検出、予防、観察、治療、または緩和;怪我や障害の検出、観察、治療、緩和、または補償;解剖学的構造または生理学的プロセスの調査、置換、または変更;妊娠調整およびその所定の主要な効果、である。同様に、医療製品の「洗浄、消毒、または滅菌のために特に規定された製品」は、医療製品に該当する。
【0004】
医療製品を滅菌するための1つの可能性は、電離放射線による照射にある(放射線滅菌)。医療製品の照射に大規模工業的に使用されている方法は、γ線による滅菌(γ線滅菌)、加速電子による滅菌(電子ビーム滅菌、電子線滅菌、β線滅菌)、および高エネルギX線による滅菌(X線滅菌、レントゲン滅菌)である。
【0005】
γ線滅菌
γ線は、複数の天然放射性核種または人工放射性核種の原子核の自発的壊変(「崩壊」)の際に生じる特に透過性の電磁放射線である。したがって、γ線は、核反応によって生じる短波光子を指すが、X線は、電荷をもった粒子の速度変化により生じる。γ線は、侵入深さが主として50cmを超えるので、使い捨ての医療機器、例えば注射器、針、カニューレ、静脈セット(IV-Sets)、ならびに食品の滅菌にしばしば使用される。技術的には、最大1.3もしくは0.66MeVの光子エネルギで放出される放射性同位体(主にコバルト60(60Co)またはセシウム137(137Cs))が使用される。
【0006】
γ線は、(光線、赤外線、X線、または紫外線と同様に)電磁波である。しかしながら、γ線は波長が短いので(0.005nm未満)、エネルギが大きくなる。照射の際に、このエネルギは、製品の分子の電子に伝達され、このときに反応性の高いラジカルが生成される。したがって、電離放射線とも呼ばれる。これらのフリーラジカルは、今や、存在している微生物のDNAを破壊するので、これら微生物はそれ以上増殖できず、死滅する。したがってこのように照射された製品は滅菌されている。γ線は、分子の電子殻にのみ影響を与えるので、照射された製品自体が放射性になることは物理的にあり得ない。
【0007】
照射プロセスは、特別な設備で行われる。このために必要なγ線は、放射性同位体コバルト60の崩壊により生じる。コバルト60は、設備内のステンレス鋼シリンダ内に収容され、放射線源を成す。照射作動中、照射すべき製品は、搬送システムに沿って放射線源の周りを動かされる。設備に安全に入ることができるように、放射線源を貯水槽に沈めることができ、その水柱が放射線を遮断する。最終パッケージ内の製品を滅菌することができるγ線の良好な浸透能力が大きな利点である。これにより、製造プロセスが容易にされ、製品が後続の包装作業によってそれ以上汚染されないことが保証される。
【0008】
照射時に、製品もしくは照射された物体によって吸収されるエネルギは、キログレイ(kGy)の単位で測定される。製品もしくは照射された物体によって吸収されるエネルギは、様々なファクタ(とりわけ、曝露時間、放射線源の放射強度、材料の密度、製品のパッケージ密度およびサイズ、包装材料)に依存しており、1つ以上の線量計によってチェックされる。したがって、各製品が、規定の照射線量を受けていることを確認することができる。
【0009】
電子線滅菌
電子源(陰極)から放出された電子は、電場(直流電圧または交流場)の真空容器内で、湾曲軌道(例えば、ロードトロン、サイクロトロン、ベータトロン)または直線軌道(陰極線管、線形加速器、コッククロフト・ウォルトン加速器、バンデグラーフ型加速器)に沿って、ほぼ光速度まで加速される。その後、加速された電子は、場合によっては、規定された面に負荷することができるように、交番磁場によって偏向(スキャン)され、場合によってはさらに、加速方向とは異なる側で製品に負荷することができるように、静電磁場によって偏向されて、次いで適切な流出窓を通って真空から出て周囲の雰囲気に、次いで製品へと案内される。実際の滅菌プロセスは、周囲条件下で行われる。電子線滅菌のためには、70keV~10MeVの電子エネルギが使用される。
【0010】
電子ビーム照射プロセスでは、ビーム生成は、熱陰極で生成された電子から始まり、この電子が、加速ユニット、いわゆるキャビティ内に導入される。ロードトロンの原理では、電子は、磁気的偏向システムによって、所定のエネルギに達するまで複数回キャビティを通過する。医療製品の電子ビーム処理の際には、電子は、最大10MeVのエネルギでキャビティから外へ出される。生成された電子は、走査磁石によって、水平方向の振動運動をさせられ、これにより電子もしくはX線光子は、滅菌すべき物品全体に沿って流れる。
【0011】
X線滅菌
X線のスペクトルは、極紫外線以下で、約10nmの波長(超軟X線)で始まり、1pm未満(超硬X線または高エネルギX線)まで到る。γ線のエネルギ範囲とX線のエネルギ範囲とは、広範囲で重なっている。放射線の種類は両方とも電磁放射線であるので、同じエネルギで同じ効果がある。差別化の基準は由来である:X線は、γ線とは異なり、原子核内のプロセスではなく、高エネルギの電子プロセスによって生じる。X線管内で生成される放射線スペクトルは、連続的なスペクトル(制動放射線)と離散的なスペクトル(特性X線)の重畳である。X線管からの光子は、約1keV~250keVのエネルギを有している。
【0012】
電子線滅菌およびX線滅菌では、電子加速器によって高エネルギの電子を発生させる。電子線滅菌では、電子が直接、滅菌のために使用される。X線技術(レントゲン技術)による製品処理の際には、電子は真空容器から出ないで、金属プレート、いわゆるターゲットに向かって加速される。このターゲットとの相互作用において、そのエネルギの一部が変換され、X線(X-Ray)の形態で放出されて、製品の滅菌に使用される。X線滅菌のためには、5~7MeVの電子エネルギを有した設備が使用される。
【0013】
X線は、γ線と同様に、極めて透過性の高い種類の放射線であり、電子ビーム技術の場合よりも大きな体積かつ高密度を滅菌することができる。γ線およびX線滅菌は、光子の侵入深さが深いため、パレタイズ商品の滅菌に適している。
【0014】
放射線滅菌の欠点
説明した3つの滅菌方法は、特定の欠点を有している。γ線滅菌のための設備は、放射性同位体に依存するものである。原子炉におけるCo-59の中性子活性化によるCo-60の製造、および崩壊生成物の輸送ならびに廃棄は、安全上のリスクと高いコストとを伴う。さらに、長期的な可用性は保証され得ない。
【0015】
電子線滅菌は、同じエネルギのγ線もしくはX線と比較して、透過性に乏しいので、小型かつ低密度の医療製品にしか適していない。
【0016】
X線滅菌で生じる問題は、使用される電気エネルギの大部分が、原理に基づき、X線に変換されず、X線ターゲットで廃熱となり、これにより結果として効率が悪くなることである。さらに、電子線滅菌設備およびX線滅菌設備には、コストのかかる高エネルギ電子加速器が必要である。
【0017】
3つ全ての方法には、十分な放射線防護を保証するために、手間のかかる遮蔽措置が必要である。γ線滅菌設備、電子線滅菌設備、およびX線滅菌設備は、したがって、放射線防護バンカー内で稼働される。医療製品の製造プロセスに直接組み込むことができる、コンパクトな滅菌ユニットの構造は、説明した従来の滅菌方法によっては困難かつ極めて手間がかかる。
【0018】
低エネルギX線
多数の医療製品の連続的な製造プロセスに組み込むことができる、電離放射線の滅菌効果に基づく滅菌方法を実現する可能性は、低エネルギの電離放射線の使用にある。これにより、主要な2つの利点が得られる。1つには、低下したエネルギにより放射線の侵入深さが下がるので、放射線を遮蔽する措置が減じられる。また1つには、低エネルギX線を生成するためには、高エネルギ電子加速器が不要であり、コンパクトな電子放射器もしくはX線管を使用することができる。これらの機器により、約800keVまでの電子エネルギを生成することができる。以下では、「低エネルギ」X線もしくは「軟」X線の概念は、この限度までのエネルギ範囲を意味する。
【0019】
低エネルギX線は、高エネルギ電子加速器を使用せずに発生させることができ、放射線遮蔽のための必要な手間が少なく、このことは、多数の医療製品の連続的な製造プロセスに組み込み可能な滅菌方法の実用化を可能にする。
【0020】
侵入深さ
電離放射線によって医療製品を滅菌するためには、放射線は十分深く侵入することができなければならない。(電子線滅菌において)加速された電子は、その粒子の特性に基づき、材料と相互作用する確率が高い。したがって、その侵入深さは僅かである。例えば、600keVのエネルギを有する電子は、ポリエチレンにおいて約2mmの侵入深さを有し、したがって、2次元的な、すなわち極めて薄い医療製品の滅菌または表面の滅菌にしか適していない。したがって、3次元的な医療製品、すなわち、その高さ/厚さがその長さおよび幅と同じオーダにあり、センチメートル以上の範囲にある医療製品の滅菌のためには、低エネルギの電子は適していない。
【0021】
電子とは異なり、光子(γ線/X線)には、電荷および質量はない。したがって、材料を透過する際に光子が相互作用する確率は電子の場合よりも著しく低い。したがって、γ線もしくはX線は、同じエネルギの電子線よりも極めて深く材料に侵入することができる。光子線によって、例えば、透析器のような3次元的な医療製品を透過するためには、2桁の低いkeV範囲の光子エネルギで十分である。光子線のエネルギの増加は、線量の均一性の向上につながる。入力される吸収線量の均一性が低い場合、最大線量が形成される個所で、材料の損傷が起こるほど高い線量が生じるおそれがある。これにより、例えば生体適合性といった、医療製品の使用特性が低下するおそれがある。
【0022】
背景技術
国際公開第2014/132049号(低エネルギのX線を生成するための装置)には、低エネルギのX線を生成するために用いられる装置と、この装置によって製品を滅菌する方法とが開示されている。この装置によって滅菌すべき使用分野としては、とりわけ、医療製品と医薬製品とが挙げられている。この装置はいくつかの点で、古典的なX線管とは異なっている(例えば、陽極(X線ターゲット)で生じるX線は、散乱して陰極に戻り、陰極を透過するが、X線管では、陽極は規定された角度を有しており、X線は斜めに放射される)。
【0023】
英国特許出願公開第2444310号明細書(表面の滅菌)には、50keV未満のエネルギのX線を生成する装置が開示されている。この装置は、表面および薄い材料の滅菌のために使用することができる。
【0024】
欧州特許出願公開第2668963号明細書(滅菌チェック機能を備えた容器を滅菌するための装置)には、容器を滅菌するための装置が開示されており、この場合、容器は搬送装置によって滅菌装置を通過するように搬送され、そこで放射線によって滅菌される。次いで容器は、滅菌結果をチェックする別の装置を通過するようにガイドされる。滅菌のためには、電子線が好適な放射線の形式として挙げられており、X線または紫外線も容器の滅菌のために使用できることが説明されている。容器以外には、別の使用例は挙げられていない。この方法の目的は専ら表面の滅菌である。
【0025】
国際公開第2008/129397号(PET容器およびPETボトルのための滅菌システム)には、PET製の容器を滅菌するためのシステムが開示されている。滅菌のためには電子線が使用される。電子線の滅菌作用は、衝突した電子線をX線に変換するX線ターゲットがシステムの内側に配置されていることにより促進されている。
【0026】
国際公開第93/17446号(マイクロ波X線源および滅菌の方法)には、サイクロトロン共振プラズマによってX線を生成する装置が開示されている。用途としてはとりわけ、医療設備および器具の滅菌が開示されている。
【0027】
背景技術の欠点
低エネルギ領域のX線源は、主として分析目的で使用される。したがって、これらのX線源は、できるだけ高画質が得られるように設計されている。これに対して、滅菌では、必要なレベルの滅菌安全性(SAL)に最短時間で達するために高い放射線出力を生成する必要がある。したがって、医療製品の滅菌のために市販のX線管を使用することは適切ではない。
【0028】
電離放射線の滅菌作用に基づく、医療製品のための従来の滅菌方法(γ線滅菌、電子線滅菌、および高エネルギX線滅菌)は、医療製品の製造プロセスに大きな手間をかけて組み込むことしかできない。その主な理由は、この場合、手間のかかる放射線防護措置が必要な高い放射線エネルギが生じるからである。電子線滅菌および高エネルギX線滅菌ではさらに、高放射線エネルギおよび高放射線出力の高エネルギ電子加速器を使用する必要があり、これには大きなスペースとコストがかかる。
【0029】
発明の課題
したがって、本発明の根底にある課題は、コンパクトで、放射性物質の使用を回避し、良好に開ループ制御および閉ループ制御可能で、高い滅菌効率を有し、高い侵入深さを可能にし、もしくは滅菌すべき製品内に均一な線量が得られるような、医療製品を滅菌するための装置および方法を提供することである。
【0030】
上述したように、X線エネルギが低いことにより、3次元的な医療製品内に入力される線量の均一性は低下し、これにより必然的に、局所的な過剰な線量が生じた場合、この領域で材料損傷が生じるおそれがある。さらに、多くの医療製品は、そのジオメトリ的な形態および材料組成に関して不均一であり、すなわち、他の領域よりも大きな厚さおよび/または密度を医療製品が有している領域が存在しており、これによっても高い局所的な過剰線量、ひいては材料損傷が生じるおそれがある。
【0031】
したがって、好適には本発明の課題はさらに、不均一な医療製品/3次元的な医療製品を低エネルギのX線のもとでもできるだけ均一に照射し、もしくは過剰線量係数(製品に局所的に付与される最大線量/目標線量)を減じることである。
【0032】
発明の簡単な説明
本発明の課題は、請求項1記載の医療製品を滅菌するための方法および請求項8記載の医療製品を滅菌するための装置により解決される。
【0033】
少なくとも1つの医療製品を滅菌するための装置は、少なくとも1つの放射線源、放射強度を検出するための好適には少なくとも1つの検出器、放射線源の前で、好適には放射線源と検出器との間で、医療製品を保持するための少なくとも1つのホルダ、および放射線源および好適にはホルダを開ループ制御または閉ループ制御するための少なくとも1つの制御ユニット、を有している。この場合、医療製品の各位置における放射強度が、滅菌のために最低限必要な予め規定されたまたは予め規定可能な値をとるように、制御ユニットによって放射線源の放射の強度を、好適には継続的にまたは間欠的に、フィードバックによって閉ループ制御することができるかつ/またはフィードフォワード制御によって開ループ制御することができる。換言すると、医療製品の各点における必要な滅菌線量の達成、医療製品における均一な線量分布(過剰線量の最小化)、および短縮された照射時間(=必要な滅菌線量を達成するための時間)につながる、X線の予め規定された最適な強度分布が得られるように、制御ユニットによって放射線源の放射の強度を、好適には継続的にまたは間欠的に、フィードバックによって閉ループ制御することができるかつ/またはフィードフォワード制御によって開ループ制御することができる。X線の予め規定された最適な強度分布は、好適には、線量マッピングまたはシミュレーションによって実験的に求められる。医療製品の各位置とは、医療製品の3次元的な本体内/本体表面におけるあらゆる位置を意味する。
【0034】
少なくとも1つの医療製品を滅菌するための装置は、滅菌装置もしくは滅菌ユニットと呼んでもよく、または医療製品の滅菌のために設けられ、適合された、滅菌装置もしくは滅菌ユニットと呼んでもよい。
【0035】
放射線源は、好適には、100~800keVのエネルギの一次電子を提供/生成するために設けられ、適合された、指向性の放射線源、好適には電磁放射線源、好適にはX線源、および特に好適には低エネルギX線源である。放射線源はさらに、放射線の放射強度/吸収線量を、場所に応じて/空間的に分解して/空間的に規定して/個別に、すなわち負荷される照射領域の内側で、間欠的にまたは継続的に、個別に調節するように、設けられ、適合されている。したがって医療製品内に入力される吸収線量は、場所的に開ループ制御もしくは閉ループ制御可能であって、これにより通常、医療製品の内側で、不均一な/開ループ制御可能な照射強度が生じる。
【0036】
検出器は好適には、放射線源の放射線の検出のために設けられ、適合されている。さらに好適には、検出器は、面状検出器(大面積のセンサを備えた検出器)、好適にはX線検出器もしくは面状X線検出器である。検出器はさらに好適には、データ信号を生成し、制御装置へと転送するデジタル検出器である。放射線源は、放射線を放出し、指向性をもたせて放射線を送出し、検出器は好適には、指向性の放射線内に/放射線経路内に配置される。これは、検出器が放射源によって照射されることを意味する。検出器は好適には少なくとも、影になった面の最小寸法を検出することができるように必要なサイズを有し、好適には少なくとも、医療製品全体における吸収線量についての推論を引き出すことができるように、医療製品によって影となった全ての面積を検出するために必要なサイズを有する。検出器が別の次元の方向に動かされる場合、もしくは医療製品がこの方向に動く場合、同じことが言える。
【0037】
医療製品は、一般的に公知であり、明細書導入部で定義されている。この場合、方法および装置は、少なくとも1つの医療製品を一度で、滅菌するために設けられ、適合されている。
【0038】
この装置は、好適には、少なくとも1つの医療製品を、特に好適には放射線源と検出器との間で保持するように設けられ、適合されているホルダ/緊締装置/保持装置/医療製品ホルダを有している。ホルダは、さらに好適には、医療製品を放射線源と検出器との間で搬送可能な搬送装置を有している。換言すると、搬送装置によって医療製品は、所定の期間、放射線経路内へと動かされ、その後再び外へ出される。さらに、ホルダは好適には、少なくとも1つの軸線を中心として医療製品を回動させるもしくは回転させるまたは揺動させる運動装置/回転装置/回動装置を有している。換言すると、少なくとも1つの医療製品は、ホルダ内で、位置固定可能/安定化可能/保持可能であり、好適には長手方向軸線を中心として回転可能である。この場合、ホルダは、指向性の放射線内に/放射源の放射線経路内に設けられ、好適にはX線放射経路内に設けられる。ホルダは、したがって医療製品は、放射線源と検出器との間に配置されている。この場合、ホルダは、1つの態様では、医療製品のサイズが、放射線経路内の照射領域を超過している場合に、医療製品の一部のみを放射線経路内に配置することができるが、個々のまたは複数の医療製品を同時に放射線経路内に配置し、したがって滅菌することもできる。さらに、ホルダは、医療製品の照射が妨げられないように、もしくは場合によっては照射の妨げが最小限であるように、医療製品を保持する。好適には、ホルダが、照射方向で医療製品に重ならないように、ホルダは医療製品を保持し、もしくは医療製品はホルダに緊締される。換言すると、医療製品とホルダとは、放射線方向で相前後して配置されるのではなく、並列に配置される。好適には、医療製品はホルダによってその外面で保持され、もしくは緊締される。
【0039】
本発明の別の態様では、ホルダは、少なくとも1つの医療製品を、X線源とX線検出器との間の放射線経路を通して搬送可能な搬送装置を有している。換言すると、少なくとも1つの医療製品は、好適には、ベルトコンベヤ等によって、放射線経路を通して機械的/電子機械的に搬送され得る。
【0040】
したがって、装置は、1つの放射線源と1つの検出器とから成っていて、これらの間に医療製品が設けられているが、複数の放射線源・検出器対から成っていてもよく、この場合、医療製品はこれらの間に配置されている。好適には、装置は、それぞれ少なくとも2つの、好適には3つのX線源とX線検出器とを有している。
【0041】
医療製品を滅菌するための方法は以下のステップ、すなわち、
a.医療製品を滅菌装置内に設置するステップ;
b.滅菌装置の放射線源によって、医療製品を局所的に照射するステップ;
c.線量マッピングまたはシミュレーションによって、放射強度を局所的に求めるステップ、
d.医療製品の各位置で、少なくとも滅菌のために最低限必要な放射強度が達成されるように、制御ユニットによって放射線源を開ループ制御または閉ループ制御するステップ、
を有している。換言すると、医療製品の各点における必要な滅菌線量、医療製品における均一な線量分布、および短縮された照射時間となる、X線の予め規定された最適な強度分布が得られる。
【0042】
滅菌装置/照射装置/医療製品を滅菌するための装置内への医療製品の設置は、手動でかつ/または機械的に行うことができ、好適には放射線源と検出器もしくは検出器のセンサとの間で行うことができる。さらに好適には、医療製品の設置、および/または後からの交換は自動的に、好適にはコンピュータ制御により行われる。さらに、医療製品は、さらに好適には、ホルダ/緊締装置によって、放射線源と検出器との間で保持される/位置固定される/支持される。ホルダは、運動装置および/または回転装置および/または搬送装置を有している。ホルダの回転装置は、この場合、少なくとも1つの軸線を中心として医療製品を回転させ、搬送装置は、医療製品を交換するもしくは搬送する。
【0043】
滅菌装置の放射線源による、好適には漸次的なかつ/または継続的/連続的な、医療製品の(医療製品に沿った)局所的な/個別の照射は、好適には指向性の放射線源もしくは電磁放射線源もしくはX線源もしくは低エネルギX線源、もしくは100~800keVのエネルギの一次電子を使用するように設けられ、適合された低エネルギのX線源によって行われる。局所的な照射とは、対象物もしくは医療製品の様々な面/個所/場所/位置を、相対的に/互いに異なる放射線/放射強度/放射線量/線量/吸収線量/光子エネルギで照射することができる、局所的に強度が分解された照射を意味する。これは、医療製品の各個所/個別の位置/別の位置を、様々な強度で照射できることを意味する。
【0044】
医療製品の各位置での放射強度の決定は、放射線源から放出された放射線がどの程度医療製品に吸収されるのかを示している。
【0045】
放射線源の開ループ制御または閉ループ制御は、医療製品の各位置で、滅菌のために最低限必要な放射強度を医療製品において達成するように行われる。換言すると、医療製品の各点における必要な滅菌線量の達成、医療製品における均一な線量分布、および短縮された照射時間につながる、X線の予め規定された最適な強度分布が得られる。さらに換言すると、医療製品のための照射の(強度)モデルを事前に作成することができ、制御ユニット/CPUの記憶ユニットに格納することができ、これにより制御ユニットが、放射線源の空間的な分解を開ループ制御する。この(強度)モデルは、この場合、基準測定のシミュレーション/計算によって求めることができる。
【0046】
本発明の別の態様では、医療製品は、複数の側から照射され、かつ/または少なくとも1つの軸線を中心として、好適には、ホルダ内で/ホルダ上で/ホルダと共に、回転する。これは、医療製品が、複数の放射線源を備えた滅菌装置内に設置され、かつ/またはこの場合、好適には固有の軸線を中心として、ホルダ上で/ホルダ内で/ホルダと共に、回転することを意味している。装置は、この場合、複数の放射線源に加えて付加的に、さらに複数の検出器を有することもできる。
【0047】
複数の放射線源を備えた態様では、医療製品は、2つ、3つ、またはそれ以上の側から同時に照射される。したがって、低エネルギX線を生成するための装置は、多重に形成され、医療製品の周囲に均等にずらされて配置されている。複数の側からの照射には、1つの側からの照射と同じ出力を有する複数のX線源を使用することにより、滅菌時間が短縮されるという利点がある。代替的には、個々のX線源の出力を減じることにより、ターゲットの熱負荷が減じられ、ひいてはターゲットの耐用期間が向上する。医療製品は回転する必要はないので、ホルダを構造的に簡単に構成することができる。医療製品の周りに配置されているX線源の数を増やすことにより線量の均一性は向上する。照射中の医療製品の回転は、医療製品の周囲に無数のX線源を配置することに匹敵し、したがって、最良の線量の均一性を提供する。
【0048】
別の代替的な実施形態では、2つの側またはそれ以上の側から照射する構造が選択され、2つ以上が相前後して配置される。これにより、1つの滅菌トンネルが形成され、複数の医療製品を搬送装置によってこの滅菌トンネルを通して搬送することができ、この際に照射することができ、したがって滅菌することができる。所与の目標線量では、搬送速度、ひいては達成可能なスループットは、放射線源の強度、および搬送方向で相前後して配置される放射線源の数に依存している。
【0049】
さらなる実施形態は、上記に説明した実施形態の組み合わせにより得られる。例えば、短縮された照射時間で、またはターゲットの減じられた熱負荷のもとで高い線量の均一性を得るために回転照射を、2つ以上の側から行うこともできる。
【0050】
本発明の別の態様では、医療製品は、医療製品における線量ができるだけ均一/均等に分配されているように、X線の放射強度が局所的に変化させられ、調節されるように照射される。これは、医療製品の各点/各位置に、少なくとも最小限の線量が生じることを意味する。この場合、好適には、必要時に放射線源を相応に後から調整するために、放射線経路において製品の後方に位置する検出器によって測定することのできる、透過されたX線の特定の強度分布が生じる。このような放射強度の分布は、最適な強度分布と呼ばれる。
【0051】
既に上述したように、医療製品の各位置で最適な強度分布が達成されるように、放射線源は制御ユニットによって開ループ制御または閉ループ制御される。開ループ制御は、滅菌するための装置における医療製品の位置と形状とが制御装置に記憶され、医療製品が、予め規定された強度で、場所的に分解されて放射線源によって照射されることにより行われる。したがって、各医療製品のための(強度)モデル(予め規定した強度で場所的に分解して照射するためのモデル)が、事前に作成される。(強度)モデルは、基準測定またはシミュレーションによって規定される。基準測定はとりわけ、線量マッピングを含む。
【0052】
線量マッピングの際には、テストサンプルに線量計(例えば、アラニン線量計)を装備する。線量計を、線量の最小値および最大値が期待されるところすべてに配置する。次いで、医療製品を照射し、線量計を評価する。
【0053】
最適な強度分布を求めるためには、医療製品を、そのジオメトリおよび/または材料組成が実質的に異なる複数の領域に、長さにわたって分割する。各領域iのために、この領域に対する最適な強度を得るために、相応の領域におけるX線の強度に乗算される係数k_iを求める。k_iは、考慮される領域の最小線量が、必要な滅菌線量に相当するように選択される。係数k_iを求めるために、各領域について生じる最小線量D_min,iを、線量マッピングまたはシミュレーションによって、求めることができる。各領域の最小線量D_min,iから、調和平均D_min,HMが計算される:
【数1】
【0054】
各領域の係数k_iは、最小線量の調和平均を、各領域の最小線量によって割ることにより得られる:
=Dmin,HM/Dmin,i
このように得られた強度分布についてのデータは、医療製品のジオメトリと材料、および滅菌機器のパラメータ(放射線エネルギ、ターゲットと医療製品との間の距離等)が不変であるならば、このタイプの全ての医療製品について有効であり、使用することができる。
【0055】
シミュレーションは、モンテカルロシミュレーションまたは減衰の法則に基づくシミュレーション等であってよい。
【0056】
検出器は、医療製品内に取り込まれた線量をチェックするために使用することができ、これにより医療製品は照射後に直接、解放される。この目的のために、求められた強度分布が事前テストで調節され、線量計を備えた医療製品が照射される。医療製品が放射線経路内に位置することにより、検出器の検出面上に「影」が生じる。照射中、検出器で測定された線量は、記録される。次いで、医療製品内の線量計が評価され、各点で、必要な滅菌線量が達成されたかどうかがチェックされる。達成されていたならば、検出器の記録されたデータを、同じタイプの、もしくは同じサイズの医療製品のその後すべての照射のために使用することができる。各滅菌工程では、検出器で求められた線量が、記録された線量と比較される。偏差が規定された範囲を超過していなければ、照射された医療製品は、滅菌されたと判断され、解放することができる。
【0057】
放射線源の強度の変更、もしくはターゲットの面にわたってX線ターゲット上に入射する電子放射線の強度の変更により、X線領域を空間的に分解して医療製品に適合させることができる。この場合、ホルダによって、少なくとも1つの医療製品のために、医療製品を空間において動かすことができ、好適には軸線に沿って軸線を中心として回転させることができる。検出器によって、医療製品によって吸収されたX線を測定することができる。滅菌するための装置の遮蔽により、オペレータは保護される。医療製品を滅菌するためのこのような滅菌ユニットを使用するための方法は、上記の装置を使用して行われる。吸収線量を適合させるために医療製品が回転する場合には、X線領域は、いわば、滅菌すべき医療製品に、時間の経過と共に継続的に適合される。好適には、強度分布の決定は、照射すべき医療製品のテストサンプルへの連続照射の前に行われる。このために、線量マッピングまたはコンピュータシミュレーション(例えば、モンテカルロシミュレーション)が実施される。
【0058】
滅菌ユニットの遮蔽は、製造スタッフと環境とが放射線の影響から保護され、適用される法律、条例、および基準が遵守されるように設計されている。
【0059】
ホルダは、少なくとも1つ以上の医療製品を同時に収容でき、製品への所望の放射線作用を妨げないように設計されている。1つの実施形態では、ホルダは、照射中に医療製品を動かすことができ、例としての製品のための好適な実施形態では、回転させることができる。このシステムにより、低エネルギでX線の制限された侵入深さのために生じる深さ線量分布に基づき生じる線量の不均一性が改善され得る。医療製品の周りに配置されるX線源の数を増やした場合、線量の均一性を向上させることができる。医療製品の回転は、無数のX線源に相当し、したがって、線量の高度な均一性を達成するということに関しては、最良のケースである。ホルダは好適には、医療製品の全自動の充填および取外しが可能であるように設計されている。
【0060】
本発明により、X線が低エネルギであっても、高い線量の均一性を達成することができる。さらに、本発明により、例えば、Co-60γ線照射装置または10MeV電子ビーム照射装置と比較して、低い放射線エネルギ、ひいては必要な遮蔽手段が僅かであることにより、医療製品の連続的な製造プロセスへの組み込みが可能である。γ線、高エネルギ電子線、または高エネルギX線によって滅菌を実施するサービス事業者への依存が省かれる。システムは良好に拡張可能である:生産設備のスループットに応じて、必要数の滅菌ユニットが購入される。複数の滅菌ユニットを冗長的に作動させることにより、高い生産安全性を実現することができる。低エネルギX線による滅菌は、さらに、電離放射線の滅菌効果に基づく方法による公知の利点も有している。その利点には、例えばエチレンオキシドのような有害物質の使用の回避、最終包装における滅菌の可能性、および適用された吸収線量に応じたパラメトリックな製品解放が含まれる。
【0061】
滅菌プロセスを監視するために、好適にはプロセスモニタリング装置が設けられている。この装置は、医療製品で吸収された吸収線量を推測することができるように配置された少なくとも1つのX線検出器から成る。このために、好適には、電子的に読取り可能な検出器プレートが、X線源と検出器プレートとの間に滅菌すべき医療製品が位置するように配置される。検出器プレートのサイズは、医療製品によって影がつけられたX線が完全に検出され、かつ医療製品によってX線が減衰されなかった領域も完全に検出されるように選択されている。医療製品によって減衰されたX線の強度と、減衰されなかったX線の強度との差から、医療製品によって吸収されたエネルギを推測することができる。低エネルギX線で3次元的な医療製品を滅菌するための方法は、以下に記載するステップで行うことができる。
【0062】
方法の具体的な経過は、単純にするために、単一の医療製品についてのみ説明する:
・電離放射線による滅菌のために適した、耐放射線性の滅菌バリアシステム/パッケージ内へ医療製品を準備し、設置するステップ(オプション:酸素中での照射が材料を損傷するおそれがある医療製品の場合、パッケージから酸素を除去するステップ);
・パッケージされた医療製品を、滅菌ユニットに、好適には自動化された処理システムによって充填するステップ;
・装置の放射線安全性を保証するために必要な全ての措置を導入するステップ;
・例えば、国の基準にしたがって、必要な照射線量を達成するために、定義された照射時間にわたって、上記の説明にしたがって、局所的に互いに異なる放射強度で医療製品を照射するステップ、滅菌された医療製品を、好適には自動化された処理システムによって取り出すステップ;
・X線検出器のデータを評価し、医療製品を線量測定により解放するステップ。
【0063】
装置が、放射線源と好適には1つの検出器とを有しており、これら放射線源と検出器との間には医療製品が設置されており、放射線源は、開ループ制御装置および/または閉ループ制御装置と検出器のフィードバックとによって閉ループ制御可能、もしくは線量マッピングまたはシミュレーションの結果によって開ループ制御可能である。好適には、閉ループ制御では、X線源が、空間的に分解された強度によって、空間的に分解された検出器の目標値が達成されるように、閉ループ制御される。医療製品を滅菌するための方法は以下のステップ、すなわち、医療製品を滅菌装置内に設置するステップ;医療製品を、滅菌装置の放射線源によって、好適にはX線源によって照射するステップ;医療製品の各位置で放射強度を求めるステップ、(基準測定またはシミュレーションで求められ)制御装置内に記憶された、検出器における放射強度と相応の個所における医療製品の最小線量との関係に応じて、放射線源を開ループ制御および/または後から調整し、これにより医療製品を均一に照射し、ひいては滅菌するステップ、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0064】
図1】装置の構造を概略的に示す図である。
図2】真空中のマッシブなターゲットを備えたX線源(従来のX線管)を示す図である。
図3】透過型ターゲットを備えたX線源を示す図である。
図4】適合された強度分布の作用のための簡略化されたモデルを示す図である。
図5】医療製品の(この場合、例示的に透析器の)ジオメトリと材料組成とに依存した、X線領域の強度分布の目標とする変化を示す図である。
図6】X線源の数を増やすことにより向上する線量の均一性を示す図である。
図7】本発明による第2の実施形態、すなわち、3つの側からの照射を示す図である(ホルダとシールドは図示せず)。
図8】本発明による第3の実施形態、すなわち、滅菌トンネルを成す複数のX線モジュールの両側の配置を示す図である(X線検出器、ホルダ、およびシールドは図示せず)。
【0065】
図1には、本発明の好適な実施例による、医療製品を滅菌するための装置の構造が概略的に示されている。滅菌するための装置1には、X線源2(放射線源)が取り付けられている。X線源は、CPU/制御ユニット3によって制御される。この場合、図1の図は概略的であり、CPU3は実際には放射線空間の外側に配置されている。放射線源2は、局所的に規定されたエネルギ線量もしくは強度を有する指向性の放射線4を放出する。指向性の放射線4の方向には、検出器6が配置されている。指向性の放射線4の方向で、検出器6の手前には、すなわち、放射線源2と検出器6との間には、医療製品8が、例えば透析器が設けられている。医療製品8は、ホルダ10に保持されていて、このホルダによって医療製品を回転させることもできる。
【0066】
図2には、真空中のマッシブなターゲットを備えたX線源(古典的なX線管)が示されている。放射線源は、電子線14を、指向性をもって加速させる電子源12から成る。電子線14は、X線ターゲット16に衝突し、ここで指向性のX線4が発生する。X線は、流出窓18を通って真空から外へ出る。
【0067】
図3には、透過性ターゲットを備えたX線源が示されている。図3のX線源の構造は、図2の構造と同様であるが、例外は、電子線がマッシブなX線ターゲットに衝突してそこでX線が発生するのではなく、電子線14は、同時に流出窓としても機能する極めて薄いX線ターゲット22に衝突し、ここで指向性のX線4が、一次電子線の方向で発生することである。
【0068】
換言すると、X線ターゲット16および22の配置は2つの態様で可能であると言うことができる。X線ターゲットは、電子加速装置の真空容器内に位置するマッシブターゲット(分厚いターゲット)16として形成することができる(この構造は、古典的なX線管に相当する)。しかしながら、X線ターゲットは、透過型ターゲット(薄いターゲット、トランスミッション型ターゲット)22として形成することもできる。
【0069】
電子源12は、続いて、すなわち、電子源12とターゲット16,22との間に、X線ターゲット16,22に衝突する電子の流れの強度を規定された範囲で、空間的に分解して高めるまたは減じるためのシステムを有している。次いでX線ターゲットは、加速された電子の運動エネルギを、それぞれ空間的に分解して高められたまたは減じられた強度を有するX線に変換する。
【0070】
X線ターゲット16,22は、好適には原子番号の高い金属から成る。1つの実施例は、その高いX線収量および極めて良好な耐熱性により、タングステンである。別の実施例は銀であり、何故ならば、特性X線の銀の輝線が、タングステンの場合よりも低いエネルギ範囲にあるからである。この低いエネルギ範囲では、医療製品の材料の質量エネルギ吸収係数μen/ρが、高いエネルギにおけるよりも大きく、これにより、医療製品内に入る吸収線量がより大きくなり、これにより、照射プロセスの効率が向上し得る。X線ターゲット16,22は、好適には、ターゲットを冷却するための装置を有している。
【0071】
図4には、生じた吸収線量が、1次元的な、平行に延在する2つの個々の単一エネルギのX線ビーム24および26によって極めて簡略化されて示されている。両X線ビームは、均一な材料から成る医療製品8を透過し、この場合、ビーム24によって透過される材料の厚さは、ビーム26によって透過される材料の厚さの半分の大きさでしかない。放射方向で、医療製品8の後方には検出器6が示されている。高密度の領域では、低密度の領域よりも、滅菌線量に達するまでに長い照射時間が必要である。しかしながら医療製品8は全体として照射されるので、各領域に同じ照射時間がかかる。したがって、低密度の領域は、滅菌線量に達するために必要であるよりも長い時間照射される。
【0072】
図5には、医療製品8の、この場合、例示的に透析器の、ジオメトリと材料組成に依存した、X線領域の強度分布の目標とする変化を示している(上図:医療製品の概略図、下図:場所に応じた放射線強度)。透析器は、透析器の両端部におけるPURソケット(9)の領域で、中央領域よりも高密度を有する。均一な線量入力を得るために、高密度の領域で、放射場の強度を上げ、低密度の領域で減じる(強度全体もしくは出力は一定に保たれる)。これに対して代替的にまたは付加的に、均一な線量入力は、より長い照射時間を見積もること、かつ/または照射時に透析器を回転させることによっても得られる。これにより全体として、均一な線量分布が生じる。医療製品全体に対する照射時間は減じられる。このように短縮された照射時間を、低密度の領域における減じられた放射線強度と組み合わせることにより、低密度の領域における最大線量が減じられ、これにより、潜在的に有害な放射線を誘発する物質変化が減じられる。これに対して高密度の領域では、短縮された照射時間と高められた放射線強度とが相殺されるので、最大線量は変化しない。照射時間の短縮により、プロセス効率が高まる。図5では、透析器の透析器管片が上方に向かって図示されており(放射線強度の図から離れるように)、放射線は図面に向かって図平面内へと入射する。
【0073】
図6には、X線源の数を増やすことにより、線量の均一性が向上することが示されており、この場合、X線源の前で医療製品を回転させることが最良である(この場合、16のX線源によってシミュレートされている)。シミュレーションのパラメータは:マッシブなタングステンターゲット、ターゲット角度:45°、電子エネルギ:400keV、1mmのAlフィルタ、透析器の中心点までのX線源の距離:12cmであり、水中で吸収された線量が示されている。この場合、Aは、左側の放射線源における吸収線量を示しており、Bは、それぞれ左側および右側の2つの放射線源における吸収線量を示しており、Cは、医療製品の周囲に均一に分配された16の放射線源における吸収線量を示している。
【0074】
図7は、本発明による第2の実施形態を示しており、すなわち、医療製品8の3つの側からの照射を示している(ホルダとシールドは図示せず)。この場合、医療製品8は、一平面上に等角度間隔で分配された3つの放射線源2(約120°の円中心角)から、指向性のX線4によって照射される。X線の放射方向で、医療製品8の後方には、それぞれ1つの検出器が位置している。
【0075】
図8は、本発明による第3の実施形態を示しており、すなわち、滅菌トンネルを成す複数のレントゲンモジュールの両側の配置における実施形態を示している(X線検出器、ホルダ、およびシールドは図示せず)。医療製品8は対向する2つの側から放射線源2によって照射され、概略的に示した搬送方向28で搬送装置(図示せず)によって搬送される。したがって、医療製品8は、「照射トンネル」を通って送られる。この場合も、例えば図7に示したような、放射線源2の別の配置も可能である。
【符号の説明】
【0076】
1 滅菌するための装置
2 放射線源
3 CPU
4 指向性のX線
6 検出器
8 医療製品
10 ホルダ
12 電子源
14 電子線
16 X線ターゲット
18 流出窓
20 真空
22 統合されたX線ターゲットを備えた流出窓
24 低強度のX線
26 高強度のX線
28 搬送方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】