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特表2022-528958植物材料のスクリーニングおよび繁殖のための方法、システム、および装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-16
(54)【発明の名称】植物材料のスクリーニングおよび繁殖のための方法、システム、および装置
(51)【国際特許分類】
   A01H 4/00 20060101AFI20220609BHJP
   C12N 5/04 20060101ALI20220609BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220609BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20220609BHJP
【FI】
A01H4/00
C12N5/04
C12N5/10
C12M1/34 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021560453
(86)(22)【出願日】2020-04-20
(85)【翻訳文提出日】2021-10-04
(86)【国際出願番号】 GB2020050983
(87)【国際公開番号】W WO2020212713
(87)【国際公開日】2020-10-22
(31)【優先権主張番号】1905542.5
(32)【優先日】2019-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521442006
【氏名又は名称】フィトフォーム ラボラトリーズ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】PHYTOFORM LABS LTD.
【住所又は居所原語表記】Lawes Open Innovation Hub West Common Harpenden Hertfordshire AL5 2JQ United Kingdom
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】特許業務法人河崎・橋本特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クラール, ニコラス
(72)【発明者】
【氏名】ペルトン, ウィリアム
【テーマコード(参考)】
2B030
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
2B030AA02
2B030AB04
2B030AD20
2B030CA28
2B030CB02
2B030CB03
2B030CD08
2B030CD12
2B030CD18
4B029AA07
4B029BB12
4B029CC13
4B029DG10
4B029FA04
4B029FA10
4B029HA09
4B065AA88X
4B065AB01
4B065BA01
4B065BB40
4B065BC47
4B065BD06
4B065CA53
(57)【要約】
植物材料およびそれによって得られる植物細胞を繁殖させるための方法およびシステムが提供される。方法は、カプセル化媒体またはカプセル化媒体前駆体を含む複数の植物プロトプラストを含む溶液を提供することと、溶液をマイクロ流体デバイスに導入することと、マイクロ流体デバイスにおいて溶液の液滴であって、そのうちの少なくとも一部が単一のプロトプラストをカプセル化する、液滴を形成することと、カプセル化媒体またはカプセル化媒体前駆体をマイクロ流体デバイスにおいてゲル化させることと、カプセル化されたプロトプラストを収集することと、を含む。システムは、液滴発生器を含むマイクロ流体デバイスと、第1の液体を含み、かつ第1の液体を液滴発生器に注入するように構成された第1の注入システムと、第2の液体を含み、かつ第1の液体と非混和性である第2の液体を液滴発生器に別々に注入するように構成された第2の注入システムと、を含む。第1の液体は、プロトプラストを含む溶液であり、第1の液体は、カプセル化媒体またはカプセル化媒体前駆体を含み、システムは、液滴が液滴発生器で形成され、各液滴が単一のプロトプラストを封入するか、またはプロトプラストを封入せず、カプセル化媒体またはカプセル化媒体前駆体を含むように構成される。液滴中のカプセル化媒体またはカプセル化媒体前駆体は、マイクロ流体においてゲル化されて、単一のプロトプラストを封入するか、またはプロトプラストを封入しないゲル化液滴を生成する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物材料を繁殖させるための方法であって、カプセル化媒体またはカプセル化媒体前駆体を含む複数の植物プロトプラストを含む溶液を提供することと、前記溶液をマイクロ流体デバイスに導入することと、前記マイクロ流体デバイスにおいて前記溶液の液滴であって、そのうちの少なくとも一部が単一のプロトプラストをカプセル化する、液滴を形成することと、前記カプセル化媒体またはカプセル化媒体前駆体を前記マイクロ流体デバイスにおいてゲル化させることと、カプセル化された前記プロトプラストを収集することと、を含む、方法。
【請求項2】
前記方法が、前記マイクロ流体デバイスを流れる液滴中のプロトプラストの存在を検出することと、プロトプラストを含有する液滴とは別のチャネルにプロトプラストを含有しない液滴を向けることと、をさらに含み、任意選択的に、液滴中のプロトプラストの存在を検出することが、クロロフィルに関連する蛍光信号を検出することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項3】
前記マイクロ流体デバイスにおいて前記溶液の液滴を形成することが、前記プロトプラストを含む前記溶液をメインチャネルに導入することと、カプセル化ゾーン内で前記メインチャネルと交差する2つのメインチャネルに第2の溶液を導入することと、を含み、前記第2の溶液が、前記プロトプラストを含む前記溶液と非混和性であり、好ましくは、
前記メインチャネルが、約50~約150μm、約80~約120μm、もしくは約100μmの幅を有し、かつ/または
前記サイドチャネルが、約50~約300μm、約100~約300μm、約150~約250μm、もしくは約200μmの幅を有し、かつ/または
前記メインチャネルが、前記カプセル化ゾーンの直前および直後の区分を含み、前記区分において、前記メインチャネルが、直前または直後の区分よりも狭く、任意選択的に、前記より狭い区分が、約60μmの直径を有する、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
植物プロトプラストの前記溶液が、成長促進剤を含む、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記成長促進剤が、塩、ビタミン、炭水化物、オーキシン、サイトカイニン、ホルモン、ファイトスルフォカイン、およびオリゴペプチドを含む群から選択される1つ以上の化合物を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記カプセル化媒体前駆体またはカプセル化媒体が、アルギン酸ナトリウム、寒天、アガロース、フィタゲル、またはジェランから選択される、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記溶液が、カプセル化媒体前駆体を含み、前記カプセル化媒体前駆体を前記マイクロ流体デバイスにおいてゲル化させることが、前記マイクロ流体デバイスにおける溶液の前記液滴を、前記カプセル化媒体のゲル化を直接的または間接的に誘発する化合物と接触させて、ゲル化したカプセル化媒体を形成することを含む、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記カプセル化媒体前駆体が、アルギン酸ナトリウムである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記溶液が、Ca2+イオンをさらに含み、前記Ca2+イオンが、放出可能な様式で前記溶液から分離され、好ましくは、前記Ca2+イオンが、キレート化される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ゲル化を誘発する前記化合物が、酸、好ましくは酢酸などの無毒の酸である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記マイクロ流体デバイスにおける溶液の前記液滴を、前記カプセル化媒体前駆体のゲル化を直接的または間接的に誘発する化合物と接触させることが、第1の液体と非混和性であり、かつ前記マイクロ流体デバイスにおいて前記液滴を形成するために使用される第2の液体中に前記化合物を含むことを含む、請求項7~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記酸が、約0.3体積%~約2体積%、約0.5体積%~約1体積%、約0.35体積%~約0.5体積%、または約0.35体積%の濃度で前記第2の液体中に存在するか、または前記酸が、前記液滴のpHが5.5~5.9、好ましくは約5.7に減少するような濃度で存在する、請求項10に従属する請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記溶液が、カプセル化媒体を含み、前記カプセル化媒体を前記マイクロ流体デバイスにおいてゲル化させることが、液滴発生器の下流で前記カプセル化媒体の前記ゲル化を誘発する条件を適用することを含み、任意選択的に、前記ゲル化を誘発する前記条件が、温度の減少を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記マイクロ流体デバイスを通って流れる前記プロトプラストに関連する所望の特徴の存在を検出することと、前記所望の特徴を有さないプロトプラストを含有する液滴を、前記所望の特徴を有するプロトプラストを含有する液滴とは別のチャネルに向けることと、をさらに含む、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
所望の特徴の存在を検出することが、蛍光タンパク質に関連する蛍光信号を検出することを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
所望の特徴の存在を検出することが、感染を示す信号の存在または不在を検出することを含む、請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
感染を示す信号の存在を検出することが、病原体核酸または病原体タンパク質の存在に関連する蛍光信号または化学発光信号を検出することを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
無病植物材料を選択および繁殖する方法であって、プロトプラストの溶液を病気マーカーで処理することと、請求項17に記載の方法を適用して、植物材料を分離、選択、および繁殖することと、を含む、方法。
【請求項19】
所望の特徴を有する植物材料を操作する方法であって、プロトプラストの集団を遺伝的に改変することと、請求項14または15に記載の方法を適用して、植物材料を分離、選択、および繁殖することと、を含む、方法。
【請求項20】
植物材料を繁殖させるためのシステムであって、液滴発生器を含むマイクロ流体デバイスと、第1の液体を含み、かつ前記第1の液体を前記液滴発生器に注入するように構成された第1の注入システムと、第2の液体を含み、かつ前記第1の液体と非混和性である第2の液体を前記液滴発生器に別々に注入するように構成された第2の注入システムと、を含み、前記第1の液体が、プロトプラストを含む溶液であり、前記第1の液体が、カプセル化媒体またはカプセル化媒体前駆体を含み、前記システムが、液滴が前記液滴発生器において形成され、各液滴が単一のプロトプラストを封入するか、またはプロトプラストを封入せず、前記カプセル化媒体またはカプセル化媒体前駆体を含み、前記液滴中の前記カプセル化媒体またはカプセル化媒体前駆体が前記マイクロ流体においてゲル化されて、単一のプロトプラストを封入するか、またはプロトプラストを封入しないゲル化液滴を生成するように構成される、システム。
【請求項21】
前記システムが、前記液滴発生器の下流に第1の検出システムおよび第1の選別システムをさらに含み、前記第1の検出システムが、前記マイクロ流体デバイスを流れる液滴中のクロロフィルの存在を検出するように構成され、前記第1の選別システムが、前記第1の検出システムに動作可能に接続され、前記検出システムが前記液滴中のクロロフィルの存在を検出しない場合に、前記マイクロ流体デバイスのサイドチャネルに液滴を向けるように構成される、請求項20に記載のシステム。
【請求項22】
前記システムが、前記液滴発生器の下流に第2の検出システムおよび第2の選別システムを含み、前記第2の検出システムが、前記マイクロ流体デバイスを流れる液滴中の所望の特徴の存在を検出するように構成され、前記第2の選別システムが、前記第2の検出システムに動作可能に接続され、前記第2の検出システムが前記液滴中の前記所望の特徴の存在を検出しない場合に、前記マイクロ流体デバイスのサイドチャネルに液滴を向けるように構成される、請求項20または21に記載のシステム。
【請求項23】
前記マイクロ流体デバイスを出る液滴を収集するための収集システムと、単一の液滴を培養支持体上に堆積させるように構成されている自動分配システムと、をさらに含む、請求項20~22のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項24】
任意選択的に、前記植物細胞が、遺伝子操作されている、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法によって得られる植物細胞。
【請求項25】
請求項24に記載の植物細胞から得られる植物。
【請求項26】
前記植物が、Solanum spp.、Brassica spp.、Capsicum spp.、Lupinus spp.、Phaseolus spp.、Vigna spp、Vicia faba;Cicer arietinum、Pisum sativum、Lathyrus spp.、Glycine max;Psophocarpus;Cajanus cajan;Arachis hypogaea;Lactuca spp.、Asparagus officinalis;Apium graveolens;Allium spp.、Beta vulgaris;Cichorium intybus;Taraxacum officinale、Eruca spp.、Cucurbita spp.、Spinacia oleracea;Nasturtium officinale;Cucumis spp.、Olea europaea;Daucus carota;Ipomoea batatas;Ipomoea eriocarpa;Manihot esculenta;Zingiber officinale;Armoracia rusticana;Helianthus spp.、Cannabis spp.、Pastinaca sativa;Raphanus sativus;Curcuma longa;Dioscorea spp.、Piper spp.、Zea spp.、Hordeum spp.、Gossypium spp.、Triticum spp.、Vitis vinifera;Prunus spp.、Malus domestica;Pyrus spp.、Fragaria vescaおよびFragaria×ananassa;Rubus idaeus;Saccharum officinarum;Sorghum saccharatum;Musa balbisianaおよびMusa×paradisiaca;Oryza sativa;Nicotiana tabacum;Arabidopsis thaliana;Citrus spp.、Populus spp.;Tulipa gesneriana;Medicago sativa;Abies balsamea;Avena orientalis;Bromus mango;Calendula officinalis;Chrysanthemum balsamita;Dianthus caryophyllus;Eucalyptus spp.;Impatiens biflora;Linum usitatissimum;Lycopersicon esculentum;Mangifera indica;Nelumbo spp.;Poaceae spp.;Secale cereale;Tagetes erecta;ならびにTagetes minutaのうちの1つ以上から選択される、請求項25に記載の植物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物工学の分野に関する。特に、本発明は、植物材料を改変、選択、および繁殖するための方法、システム、および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
植物の遺伝子工学、選択、および繁殖は、現代の園芸および農業の不可欠な部分となっている。最近の研究では、Cas9などのタンパク質複合体および他の試薬を植物のプロトプラストに送達することが可能であることが証明されており(Woo et al.,2015、Liang et al.,2016、またはMalnoy et al.,2016参照)、それによって植物工学の新しい道が開かれる。しかしながら、これは、現在、改変されたプロトプラストの低い生存率と併せて、対象の改変の存在について植物をスクリーニングすることの困難さが妨げとなっている。その結果、遺伝子編集された植物全体の回収は、非常に低くなる。
【0003】
マイクロ流体工学は、植物システムの迅速な表現型決定への潜在的なアプローチとして提案されている(Yu et al.,2017)。このシステムは、マイクロ流体チップを使用して、個々の水滴中の単一のプロトプラストを分離し、次いで、蛍光信号に基づいて選別することに依存している。しかしながら、このシステムの細胞生存率は低く、そのため、その後の生存可能な植物の回収は、非常に非効率的であるか、または不可能ですらある。この問題は、それ自体が細胞生存に影響を及ぼし、かつ低い形質転換効率を有し得る遺伝子工学および遺伝子編集プロセスと併せて、特に顕著である。実際、そのような場合、形質転換された植物の効率的な選択および高い回収が特に重要である。したがって、そのような技術を使用する植物の改変および選択は、現在、商業的に適用するにはあまりにも非効率的である。
【0004】
WO2018/071448A1は、単一細胞またはプロトプラストなどの生体試料を含むマイクロカプセルを生成および分析するためのマイクロ流体システムおよび方法について記載する。生体試料を含むマイクロカプセルは、生体試料の周りにヒドロゲルを形成する重合プロセスによって保存され得る。しかしながら、カプセル化ゲルの重合は、複雑であり、別々の相として第3の試薬を導入する場合にのみ発生する。重合剤は、均一な重合を生成することができない石灰化オレイン酸であり、これによって、石灰化オレイン酸が1つの軸からのみ分配されることと併せて、均一な重合が不可能になる。細胞の分離には、外部構成要素(濾紙)を獲得する必要がある。さらに、細胞における蛍光の検出は、細胞をマイクロウェルにトラップすることによってのみ発生し、これは、細胞を迅速に選別し、効率的または迅速に分離することができないことを意味する。記載されたデバイスおよび方法は、植物細胞の植物全体までの回収のための適合性を欠いている。
【0005】
WO2017/218486A1は、変形可能なゲルビーズ中の固体支持体(ポリマーまたはアルミニウムまたは鋼金属など)を乳化するための方法および組成物に関する。いくつかの実施形態では、単一の固体支持体は、液滴中の単一細胞でカプセル化される。このデバイスは、植物細胞を保護するか、または植物全体の再生に対する細胞の効率を増加させることを目的としておらず、デバイス内での蛍光の検出またはカプセル化された細胞の選別を含まない。
【0006】
CN106190779は、マイクロ流体チップに基づく、単一細胞の単離およびカプセル化のデバイスおよび方法について記載する。この文書は、医療用途に焦点を合わせており、植物細胞での使用のための適合性を欠く。細胞カプセル化試薬は、主に緩衝剤から構成され、ヒドロゲルは使用されない。単一細胞から植物全体まで植物細胞を保護および支持するための化学的手段については記載されておらず、蛍光検出または細胞選別機能を実行するいずれの能力も欠如している。
【0007】
Yuら(“Droplet-based microfluidic analysis and screening of single plant cells”PLoS ONE 13(5):e0196810.May 2018)は、蛍光レポータータンパク質の遺伝子発現に基づいて、微水滴中で個別にカプセル化された植物プロトプラストのハイスループット特徴化および選別について記載する。単一の植物細胞を保護するか、またはそれらを植物全体に再生する効率を改善するための成功方法については開示されていない。むしろ、デバイスは、純粋に診断用であり、再生カプセル化を欠き、結果として、再生の可能性が非常に低くなるだけである。細胞のカプセル化およびその後の蛍光シグネチャによる選別は、2つの異なるデバイスでも発生し、接続が複雑であるため、損傷および汚染の危険性の増加がもたらされる。
【0008】
同様に、GrassoおよびLintilhac(“Microbead encapsulation of living plant protoplasts:A new tool for the handling of single plant cells”,Applications in Plant Sciences 2016 4(5):1500140)は、個々の植物プロトプラストを正確なサイズのアガロースマイクロビーズに組み込むためのプロトコルを提供する。単一細胞から植物全体を再生する効率を改善するか、または蛍光シグネチャに基づいて細胞を選別するための努力はなされていない。単一の植物細胞の生存能力を低下させ、かつ細胞をカプセル化するのに非効率的であるヒドロゲル化学が使用され、その結果、25%のみが細胞を含有するカプセルが生成される。
【発明の概要】
【0009】
したがって、植物、特に遺伝子工学または編集プロセスに供される植物を選択、改変、および回収する新しくより効率的な方式が依然として必要とされている。
【0010】
一態様では、本発明は、植物プロトプラストの回収および植物全体への繁殖を高効率で可能にするマイクロ流体チップを含むシステムに関する。マイクロ流体チップに導入されたプロトプラストは、細胞溶液を単一細胞に分離するマイクロ流体チャネルを通して誘導され、次いで、プロトプラストを保護して栄養を提供する媒体においてカプセル化される。その結果、得られたプロトプラストの生存能力が大幅に増加し、これらのプロトプラストから植物全体を回収する効率も増加する。
【0011】
具体的には、本発明は、植物材料を繁殖させるためのシステムを提供し、システムは、液滴発生器を含むマイクロ流体デバイスと、第1の液体を含み、かつ第1の液体を液滴発生器に注入するように構成された第1の注入システムと、第2の液体を含み、かつ第1の液体と非混和性である第2の液体を液滴発生器に別々に注入するように構成された第2の注入システムと、を含む。第1の液体は、プロトプラストを含む溶液であり、第1の液体は、カプセル化媒体またはカプセル化媒体前駆体を含む。システムは、液滴が液滴発生器で形成されるように構成され、各液滴は、単一のプロトプラストを封入するか、またはプロトプラストを封入せず、カプセル化媒体またはカプセル化媒体前駆体を含む。システムは、液滴中のカプセル化媒体またはカプセル化媒体前駆体がデバイスでゲル化されて、単一のプロトプラストを封入するか、またはプロトプラストを封入しないゲル化液滴を生成するようにさらに構成される。
【0012】
実施形態では、システムは、追加的に、蛍光シグネチャなどの特徴に基づいて、マイクロ流体デバイスにおけるプロトプラストをスクリーニングするための手段を含む。陽性で選択されたカプセル化された細胞は、マイクロ流体デバイスから誘導され、細胞分裂および成長を維持する媒体に堆積され得る。これにより、正確な細胞が選択される可能性が急激に増加し、植物の回収後に必要なスクリーニングの量が低減する。
【0013】
実施形態では、マイクロ流体デバイスは、マイクロ流体チップである。
【0014】
具体的には、システムは、液滴発生器の下流に第1の検出システムおよび第1の選別システムをさらに含み得、第1の検出システムは、マイクロ流体デバイスを通過する液滴中のクロロフィルの存在を検出するように構成される。第1の選別システムは、第1の検出システムに動作可能に接続され、検出システムが液滴中のクロロフィルの存在を検出できない場合に、液滴をマイクロ流体デバイスのサイドチャネルに向けるように構成される。
【0015】
第1の検出および選別システムに代替的にまたは追加的に、システムは、液滴発生器の下流に第2の検出システムおよび第2の選別システムを含み得、第2の検出システムは、マイクロ流体デバイスを流れる液滴中の所望の特徴の存在を検出するように構成される。第2の選別システムは、第2の検出システムに動作可能に接続され、第2の検出システムが液滴中の所望の特徴の存在を検出しない場合に、液滴をマイクロ流体デバイスのサイドチャネルに向けるように構成される。
【0016】
実施形態では、システムは、マイクロ流体デバイスを出る液滴を収集するための収集システムをさらに含む。システムは、任意選択的に、単一の液滴を培養支持体上に堆積させるように構成されている自動ディスペンサーも含み得る。
【0017】
別の態様では、本発明は、植物材料を繁殖させるための方法に関する。方法は、カプセル化媒体またはカプセル化媒体前駆体を含む複数の植物プロトプラストを含む溶液を提供することと、溶液をマイクロ流体チップに導入することと、マイクロ流体チップにおいて溶液の液滴であって、そのうちの少なくとも一部が単一のプロトプラストをカプセル化する、液滴を形成することと、カプセル化媒体またはカプセル化媒体前駆体をマイクロ流体チップにおいてゲル化させることと、カプセル化されたプロトプラストを収集することと、を含む。
【0018】
有利には、この方法は、得られたプロトプラストの生存能力の改善を達成し、その結果、これらのプロトプラストからの植物全体の回収の効率を増加させ得る。
【0019】
好ましい実施形態では、方法は、マイクロ流体デバイスを流れる液滴中のプロトプラストの存在を検出することと、プロトプラストを含有する液滴とは別のチャネルにプロトプラストを含有しない液滴を向けることと、をさらに含む。いくつかの実施形態では、液滴中のプロトプラストの存在を検出することは、クロロフィルに関連する蛍光信号を検出することを含む。有利には、これよって、植物を再生する潜在性を有するこれらの液滴のみを回収および培養することが可能になり、それによって、植物回収プロセスの効率が増加し、培養物中の液滴を維持するために使用される材料および資源が低減する。
【0020】
実施形態では、マイクロ流体デバイスにおいて溶液の液滴を形成するプロセスは、メインチャネルを介して複数のプロトプラストを含む第1の溶液を導入することと、交差する2つのサイドチャネルを介して第2の溶液を導入して、それによって、カプセル化ゾーン内でメインチャネルと連通することと、を含み、第2の溶液は、プロトプラストを含む第1の溶液と非混和性である。有利には、これは、メインチャネルおよびサイドチャネルの流体圧力を調整し、メインチャネルおよび流体チャネルの直径を調整することによって、一貫して予測可能なサイズおよび体積を有する液滴の流れを生成し得、液滴のサイズは、プロトプラストのサイズに合わせて選択され得る。さらに、本発明者らは、この構成が、細胞に優しく、ひいては方法の回収効率をさらに改善する、比較的遅い流れで植物プロトプラストに適切なサイズの液滴を生成する機能を十分果たすことを見出した。好ましくは、メインチャネルは、約50以上かつ150μm以下、約80以上かつ約120μm以下、または任意選択的に約100μmの直径を有する。サイドチャネルは、約50以上かつ約300μm以下、約100以上かつ約300μm以下、約150以上かつ約250μm以下、または任意選択的に約200μmの直径を有し得る。実施形態では、メインチャネルは、カプセル化ゾーンの直前および直後の収縮区分を含み、その区分において、メインチャネルは、直前または直後の区分よりも口径が狭い。より狭い区分は、約60μmの直径を有し得る。
【0021】
実施形態では、カプセル化媒体前駆体またはカプセル化媒体は、アルギン酸ナトリウム、寒天、アガロース、寒天代替物(phytagel(商標)など)、およびジェランからなる群から選択される。
【0022】
実施形態では、溶液は、カプセル化媒体前駆体を含み、カプセル化媒体前駆体をマイクロ流体デバイスにおいてゲル化させることは、マイクロ流体デバイスにおける溶液の液滴を、カプセル化媒体前駆体のゲル化を直接的または間接的に誘発する化合物と接触させて、それによってゲル化されたカプセル化媒体前駆体を形成することを含む。
【0023】
いくつかの実施形態では、カプセル化媒体前駆体は、アルギン酸ナトリウムである。実施形態では、溶液は、Ca2+イオンをさらに含み、Ca2+イオンは、放出可能な様式で溶液から分離される。これにより、制御可能な様式で、アルギン酸塩のゲル化を誘発することが可能になる。さらに、アルギン酸ナトリウムは、一般的に入手可能であり、多くの植物繁殖条件および媒体と適合性がある。実施形態では、Ca2+イオンは、キレート化される。そのような実施形態では、ゲル化を誘発する化合物は、酸であり得る。有利には、酸は、Ca2+イオンの放出を誘発するのに必要な濃度で無毒であるように選択され得る。例えば、酢酸は、必要な濃度で植物細胞に対して毒性がなく、また人間のオペレータに対しても毒性がないため、有利に使用してもよい。
【0024】
実施形態では、マイクロ流体チップにおける溶液の液滴を、カプセル化媒体前駆体のゲル化を直接的または間接的に誘発する化合物と接触させることは、第1の液体と非混和性であり、かつマイクロ流体チップにおいて液滴を形成するために使用される第2の液体中に化合物を含むことを含む。有利には、これによって、液滴が形成された直後またはその時点で、液滴の制御されたゲル化が可能になり得る。
【0025】
いくつかのそのような実施形態では、酸が、第2の液体中に提供され得る。本発明者らは、酸が液滴中に拡散し、かつカプセル化媒体前駆体のゲル化を誘発することができるように、第2の液体としての使用に好適な疎水性溶液中に酸を提供することが有利に可能であることを見出した。好ましくは、酸は、約0.3体積%~約2体積%、約0.5体積%~約1体積%、約0.35体積%~約0.5体積%、または約0.35体積%の濃度で第2の液体中に存在する。本発明者らは、油中のそのような濃度の酸が、プロトプラストを含む溶液の液滴中に存在するアルギン酸塩のゲル化を誘発するのに十分である一方で、上記溶液のpHを過度に低下させず、それによって液滴中の細胞への損傷を回避または低減することも見出した。有利には、酸は、液滴中のpHが約5.5以上、適切には約5.9以下、典型的には約5.7に減少するような濃度で、第2の液体中に存在し得る。
【0026】
代替の実施形態では、溶液は、カプセル化媒体を含み、カプセル化媒体をマイクロ流体チップにおいてゲル化させることは、液滴発生器の下流でカプセル化媒体のゲル化を誘発する条件を適用することを含む。いくつかのそのような実施形態では、ゲル化を誘発する条件は、温度の低下を含む。そのような実施形態は、ゲル化を誘発するさらなる化合物を提供する必要性および/またはそのような化合物の存在を制御する必要性を有利に回避し得る。
【0027】
有利な実施形態では、植物プロトプラストの溶液は、成長促進剤を含む。塩、ビタミン、炭水化物、オーキシン、サイトカイニン、ホルモン、ファイトスルフォカイン、およびオリゴペプチドからなる群から選択される1つ以上の化合物の使用は、特に有利である。成長促進剤は、カプセル化されたプロトプラストからの植物回収を有利に開始および/または促進し得る。
【0028】
いくつかの実施形態では、方法は、マイクロ流体デバイスを通って流れるプロトプラストに関連する所望の特徴の存在を検出することと、所望の特徴を有さないプロトプラストを含有する液滴を、所望の特徴を有するプロトプラストを含有する液滴とは別のチャネルに向けることと、をさらに含む。有益なことに、そのような実施形態は、例えば、細胞選別器、例えば、誘電体集束器と組み合わせた、検出システム、例えば、光学的検出システムによって実装され得る。
【0029】
実施形態では、所望の特徴の存在を検出することは、蛍光タンパク質または分子に関連する蛍光信号を検出することを含む。
【0030】
実施形態では、所望の特徴の存在を検出することは、感染を示す信号の存在または不在を検出することを含む。いくつかの実施形態では、感染を示す信号の存在を検出することは、病原体核酸または病原体タンパク質の存在に関連する蛍光信号または化学発光信号を検出することを含む。したがって、有利には、本発明の方法を使用して、健康なプロトプラストを選択し、これらの細胞からのみ植物を再生することができる。培養物に感染した細胞が1つでも含まれていると、培養物を消毒するために行われたすべての努力が無効になる可能性があるため、無病の植物材料の繁殖は、困難であることで有名である。本発明の方法は、いずれの不健康な細胞も確実に排除しながら、健康な細胞の回収率を劇的に増加させる、この問題に対する解決策を有利に提供する。
【0031】
したがって、さらなる態様によると、本発明は、無病の植物材料を選択および繁殖する方法を提供し、方法は、プロトプラストの溶液を病気マーカーで処理することと、先の態様の方法を適用して、植物材料を分離、選択、および繁殖することを含む。
【0032】
有利には、本発明の方法は、代替的または追加的に、例えば、この特徴が植物に操作されているために、所望の特徴を有するプロトプラストを選択するために使用することができる。植物において特徴を操作することは、資源集約的であり、これは、少なくとも部分的に、操作プロセスの収率が典型的には非常に低く、資源および時間集約的なプロセスで大量の細胞を植物に成長させてから、これらの植物のいずれかの改変が成功したか否かを査定することが可能になるからである。本発明の方法は、植物の再生前に、確実な様式で、かつプロトプラストからの植物の非常に効率的な回収を伴って、所望の特徴を有するプロトプラストの選択を可能にするため、培養における努力および資源を、所望の特徴を有するこれらの植物の成長のみに集中させることが可能になる。
【0033】
したがって、さらなる態様によると、本発明は、所望の表現型または特徴を有する植物材料を操作する方法を提供し、方法は、プロトプラストの集団を遺伝子改変することと、本明細書に記載の方法を適用して、植物材料を分離、選択、および繁殖することと、を含む。
【0034】
さらなる態様によると、本発明は、本発明の方法を使用して得られる植物細胞、および植物細胞の再生によって得られる植物または小植物に関する。実施形態では、植物細胞は、遺伝子操作されている。
【0035】
いくつかの実施形態では、植物は、Solanum spp.、Brassica spp.、Capsicum spp.、Lupinus spp.、Phaseolus spp.、Vigna spp、Vicia faba;Cicer arietinum、Pisum sativum、Lathyrus spp.、Glycine max;Psophocarpus;Cajanus cajan;Arachis;hypogaea;Lactuca spp.、Asparagus officinalis;Apium graveolens;Allium spp.、Beta vulgaris;Cichorium intybus;Taraxacum officinale、Eruca spp.、Cucurbita spp.、Spinacia oleracea;Nasturtium officinale;Cucumis spp.、Olea europaea;Daucus carota;Ipomoea batatas;Ipomoea eriocarpa;Manihot esculenta;Zingiber officinale;Armoracia rusticana;Helianthus spp.、Cannabis spp.、Pastinaca sativa;Raphanus sativus;Curcuma longa;Dioscorea spp.、Piper spp.、Zea spp.、Hordeum spp.、Gossypium spp.、Triticum spp.、Vitis vinifera;Prunus spp.、Malus domestica;Pyrus spp.、Fragaria vescaおよびFragaria×ananassa;Rubus idaeus;Saccharum officinarum;Sorghum saccharatum;Musa balbisianaおよびMusa×paradisiaca;Oryza sativa;Nicotiana tabacum;Arabidopsis thaliana;Citrus spp.、Populus spp.;Tulipa gesneriana;Medicago sativa;Abies balsamea;Avena orientalis;Bromus mango;Calendula officinalis;Chrysanthemum balsamita;Dianthus caryophyllus;Eucalyptus spp.;Impatiens biflora;Linum usitatissimum;Lycopersicon esculentum;Mangifera indica;Nelumbo spp.;Poaceae spp.;Secale cereale;Tagetes erecta;ならびにTagetes minutaのうちの1つ以上から選択される。
【0036】
任意の態様による方法は、本明細書に記載の植物材料を繁殖させるためのシステムおよび装置の実施形態のいずれかを含み得る。さらに、本明細書に記載の方法に関連して記載される特徴のいずれかは、本明細書に記載の植物繁殖のためのシステムおよび装置に存在し得る。
【図面の簡単な説明】
【0037】
ここで、本発明の1つ以上の実施形態を、例としてのみ、添付の図面を参照して説明する。
図1】本発明の実施形態による植物を繁殖および選択する方法のフロー図である。
図2】本発明の実施形態による植物の繁殖および選択システムの概略図である。
図3A】本発明の実施形態による粒子変形分析システムで使用するためのマイクロ流体デバイスの概略図である。
図3B】本発明の実施形態による粒子変形分析システムで使用するためのマイクロ流体デバイスの概略図である。
図3C】本発明の実施形態による粒子変形分析システムで使用するためのマイクロ流体デバイスの概略図である。
図4】本発明によるマイクロ流体デバイスのチップ設計概略図(図4A、4C)、および図4Aおよび4Cのチップのカプセル化ゾーンのより詳細な概略図(それぞれ図4Bおよび4D)を示す。
図5図4A~4Bに示されるデバイスを使用して本発明に従って得られた試料(カプセル化されたプロトプラスト)およびカプセル化されていないプロトプラストを含む比較試料について、培養物中6日後の分裂プロトプラストの割合を示すグラフである。
図6A】比較試料(カプセル化されていないプロトプラスト)における、培養物中5日後のプロトプラスト培養物の写真を示す。
図6B】比較試料(カプセル化されていないプロトプラスト)、における、培養物中5日後のプロトプラスト培養物の写真を示す。
図6C】本発明に従って得られた試料(すなわち、マイクロ流体カプセル化後)における、培養物中5日後のプロトプラスト培養物の写真を示す。
図6D】本発明に従って得られた試料(すなわち、マイクロ流体カプセル化後)における、培養物中5日後のプロトプラスト培養物の写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明は例として説明されるが、本発明が、添付の特許請求の範囲で定義される本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、多くの代替形態をとるように修正され得ることが当業者によって理解されるであろう。
【0039】
本明細書で引用されるすべての参考文献は、その全体が参照により組み込まれる。別段の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。
【0040】
本発明によると、マイクロ流体デバイスを含むシステムと、マイクロ流体デバイスを使用して植物プロトプラストの回収および植物全体への繁殖を高効率で可能にする方法と、が提供される。マイクロ流体デバイスに導入されたプロトプラストは、細胞溶液を単一細胞に分離するマイクロ流体チャネルを通して誘導され、次いで、プロトプラストを保護して栄養を提供する媒体においてカプセル化される。その結果、得られたプロトプラストの生存能力が大幅に増加し、これらのプロトプラストから植物全体を回収する効率も増加する。
【0041】
図1は、本発明の実施形態による植物を繁殖および選択する方法のフロー図を示す。ステップ100において、プロトプラストの溶液が、植物組織の試料から得られる。
【0042】
本明細書で使用される場合、「植物プロトプラスト」(本開示全体を通して単に「プロトプラスト」とも呼ばれる)という用語は、その細胞壁が完全にまたは部分的に除去された植物細胞を指す。細胞壁の除去は、機械的、化学的、または酵素的手段によってもたらされ得る。実施形態では、プロトプラストは、細胞壁消化酵素を使用して好適な植物材料から得られる。例えば、セルラーゼ、マセロザイム、ペクチナーゼ、ヘミセルラーゼ、ペクトリアーゼ、ドリセラーゼ、キシラナーゼ、およびそれらの組み合わせなどの酵素は、本発明の文脈での使用に好適であり得る。実施形態では、セルラーゼは、1重量%~1.5重量%の濃度で使用され得る。実施形態では、マセロザイムは、0.2重量%~0.4重量%の濃度で使用され得る。実施形態では、ヘミセルラーゼは、2重量%~5重量%の濃度で使用され得る。実施形態では、ペクトリアーゼは、0.01重量%~0.5重量%の濃度で使用され得る。実施形態では、ドリセラーゼは、0.5重量%~2重量%の濃度で使用され得る。植物組織からプロトプラストを得るためのプロトコルは、当技術分野で知られており(例えば、Sheen et al.,2007参照)、ここではこれ以上考察されない。実施形態では、好適な植物細胞材料は、根組織、葉肉、および/または培養カルスを含み得る。実施形態では、プロトプラストは、参照により本明細書に組み込まれる、Yoo,Cho,&Sheen(2007)に記載されるプロトコルを使用して得られる。
【0043】
ステップ110において、プロトプラストは、以下でさらに説明されるように、所望の特徴を得るために任意選択的に操作される。
【0044】
実施形態では、(任意に操作された)プロトプラストは、溶液中に再懸濁される前に、1回以上洗浄される。例えば、プロトプラストは、緩衝液を使用して1回以上洗浄され得る。ステップ112において、プロトプラストを含有する溶液は、粒子分離、カプセル化媒体によるカプセル化、ならびに任意選択的にスクリーニングおよび選択のためにマイクロ流体デバイスに導入される。実施形態では、プロトプラストが懸濁される溶液は、プロトプラストが由来する植物の種に適合される。実施形態では、植物媒体(例えば、Gamborg-B5またはMurashige Skooge)は、使用される種に特別に適合され得る1つ以上の塩、ビタミン、および炭水化物で補充され得る。実施形態では、溶液は、プロトプラスト再生を刺激するように適合される。実施形態では、溶液は、プロトプラストを1つ以上のオーキシン、サイトカイニン、ホルモン、ファイトスルフォカイン、オリゴペプチド、もしくはプロトプラスト再生を支持する他の成分、またはそれらの組み合わせに曝露することによって、細胞の未分化状態を維持するように適合される。プロトプラスト再生を支持する溶液を調製するためのプロトコルは、例えばEeckhaut et al.,2013に見られ得る。実施形態では、溶液は、Ca2+イオンを含む。Ca2+イオンは、細胞壁の再形成を助ける重要な成分であると考えられ、そのため、溶液中のその存在によって、プロトプラストの再生および回収が促進される。加えて、以下でさらに説明するように、Ca2+イオンは、プロトプラストのカプセル化において重要な役割を果たし得る。実施形態では、プロトプラストを含有する溶液中の実質的にすべてのCa2+イオンは、キレート化されるか、そうでなければ、放出可能な様式で溶液から分離される。水溶液中で放出可能な様式でCa2+イオンを分離することに好適なキレート剤は、当技術分野で知られている。実施形態では、Ca2+イオンは、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)によってキレート化される。実施形態では、プロトプラストを含む溶液は、Ca2+イオンおよびEDTAを含み、溶液中のEDTAの濃度は、実質的にCa2+イオンの濃度以上である。実施形態では、溶液は、少なくとも50mM、少なくとも80mM、少なくとも100mM、少なくとも120mM、少なくとも150mM、または少なくとも200mMのCa2+イオンを含む。実施形態では、溶液は、Ca2+イオンをCaClとして含む。
【0045】
本明細書で使用される場合、「マイクロ流体」という用語は、典型的にはピコからマイクロリットルの範囲の体積を伴う、数十から数百マイクロメートルの最小寸法のチャネルのネットワークにおける流体の操作に関連する科学技術を指す。本明細書で使用される場合、マイクロ流体チャネルを含むデバイスは、「マイクロ流体チップ」と呼ばれ得る。マイクロ流体チップは、一般的に、数平方ミリメートルから平方センチメートルのサイズの寸法の材料片であり、そこに所望の構成のチャネルが作成される。シリコン、ガラス、またはプラスチックチップは、マイクロ流体デバイスに一般的に使用される基板である。マイクロ流体チップは、複数の成分を混合するか、液体をインキュベートもしくは保存するか、成分を分離するか、または流体成分を移動するように設計されている、幾何学的特徴がエッチングまたは彫刻されたチャネルを含み得る。
【0046】
ステップ114において、プロトプラストの溶液は、マイクロ流体チップにおいて単一細胞の流れに分離される。例えば、これは、プロトプラスト溶液の濃度、チャネルのサイズ、および/またはマイクロ流体チップにおける溶液の流速を調節することによって達成され得る。ステップ116において、プロトプラストは、プロトプラストを含む液滴を形成し、液滴の少なくとも外側部分にゲルの形成を誘発することによってカプセル化される。実施形態では、液滴の形成は、マイクロ流体チップにおけるプロトプラストを含む溶液の流れを、プロトプラスト溶液と混和性ではない第2の液体の流れと収束させることによって達成され得る。実施形態では、第2の液体は、疎水性液体である。例えば、第2の液体は、油、好ましくは不活性油を含み得る。例えば、第2の液体は、鉱油を含み得る。
【0047】
本明細書で使用される場合、「カプセル化」という用語は、プロトプラストが保護される液滴を形成または封入するなど、プロトプラストの周りにゲルなどの非液体媒体(本明細書では「カプセル化媒体」と呼ばれる)を形成するプロセスに関する。カプセル化は、「人工細胞壁」のように機能する、細胞の周りの保護媒体の層を形成することによって、システムを出入りして流れる間にプロトプラストが保護されることを確実にする。その結果、プロトプラストの細胞生存能力が増加し、これらのプロトプラストからの植物全体の回収効率が改善される。
【0048】
実施形態では、プロトプラストが懸濁される溶液は、カプセル化媒体前駆体を含み、カプセル化ステップは、液滴を形成することと、溶液中のカプセル化媒体前駆体の少なくとも一部のゲル化を誘発することと、を含む。本開示の文脈内において、カプセル化媒体前駆体は、既定のゲル化条件下でゲル化することができる化合物である。
【0049】
実施形態では、カプセル化媒体は、アルギン酸カルシウムを含み、カプセル化溶液は、アルギン酸ナトリウムをカプセル化媒体前駆体として含む。アルギン酸ナトリウムは、Ca2+イオンの存在下でゲル化することができる。Ca2+イオンと接触すると、アルギン酸ナトリウム溶液は、アルギン酸カルシウムゲルを形成し、これは、プロトプラスト溶液中に存在するプロトプラストの保護「カプセル」を形成し得る。
【0050】
実施形態では、カプセル化ステップは、プロトプラストおよびカプセル化媒体前駆体を含む溶液を、カプセル化媒体前駆体のゲル化を直接的または間接的に誘発する化合物を含む第2の溶液と接触させることを含む。例えば、カプセル化媒体前駆体は、アルギン酸ナトリウムを含み得、カプセル化ステップは、プロトプラストおよびアルギン酸ナトリウムを含む溶液を、Ca2+イオンまたはプロトプラストおよびアルギン酸ナトリウムを含む溶液中に存在するCa2+イオンの放出を引き起こすことができる薬剤を含む溶液と接触させることを含み得る。例えば、プロトプラストを含む溶液は、アルギン酸ナトリウムおよびEDTAでキレート化されたCa2+イオンを含み得る。そのような例では、溶液は、酸を含む第2の液体(本明細書では「第2の溶液」とも呼ばれる)と接触され得る。例えば、第2の液体は、酢酸または、EDTAキレートからCa2+イオンの放出を引き起こすのに十分な濃度で、プロトプラストに対して好ましくは無毒である任意の他の酸を含み得る。実施形態では、第2の液体は、少なくとも約0.3体積%の濃度で酢酸を含む。実施形態では、第2の液体は、最大約2体積%の濃度で酢酸を含む。実施形態では、第2の液体は、少なくとも約0.3体積%かつ最大約2体積%、少なくとも約0.5体積%かつ最大約1体積%、適切には約0.35体積%~約0.5体積%、または約0.35体積%の濃度で酢酸を含む。実施形態では、第2の液体は、第2の溶液中のpH中性の水性の5μlの液滴が、第2の溶液が0.3体積%の酢酸を含有する場合に得られるのと少なくとも同じくらい低いpHになるような量、好ましくは、第2の溶液が2体積%の酢酸を含有する場合に得られる以上になるような量の酸を含む。実施形態では、第2の液体は、プロトプラスト溶液の液滴が、液滴の周囲の第2の液体中の酸の存在のために、約5.5~約5.9、好ましくは約5.7のpHになるような量の酸を含む。当業者が理解するように、液滴中でこのpHをもたらす第2の液体中の酸の正確な濃度は、少なくとも使用される特定の酸に依存し得る。さらに、当業者が理解するように、第2の液体中のpH当量は、好ましくは液滴中で達成されるpH以上であり得る。例えば、第2の液体中のpH当量は、少なくとも約4.5~約7、好ましくは約5~6、例えば5~5.5であり得る。
【0051】
実施形態では、第2の溶液は、油中の少なくとも約0.3体積%の酢酸、油中の約0.3体積%~約2体積%、約0.5体積%~約1体積%、約0.35体積%~約0.5体積%、または約0.35体積%の酢酸を含む溶液のpHと同等のpHを有する。pHが、例えば、1つ以上のH+供与体(プロトン性溶媒)またはルイス酸の添加によって調整され得ることが理解されるであろう。実施形態では、第2の溶液は、乳化剤を含む。実施形態では、第2の溶液は、約2体積%~約10体積%、約2体積%~約5体積%、または約4体積%の濃度で乳化剤を含む。実施形態では、乳化剤は、ポリソルベート80(スパン80としても知られている)である。乳化剤は、特に第2の溶液が疎水性である場合に、第2の溶液中に酸を分散させるのに役立ち得る。
【0052】
実施形態では、第2の溶液は、カプセル化媒体前駆体のゲル化を直接誘発する化合物を含む。例えば、第2の溶液は、酸を含み得、酸は、第1の溶液中のカプセル化媒体前駆体のゲル化を直接誘発し得、ここで、カプセル化媒体前駆体のゲル化は、Hイオンによって誘発され得る。そのような実施形態は、例えば、カプセル化媒体前駆体としてジェランガムを使用し得る。
【0053】
実施形態では、カプセル化媒体前駆体は、アルギン酸ナトリウムであり、アルギン酸ナトリウムは、0.01~10重量%、0.01~5重量%、0.1~5重量%、0.5~5重量%、0.1~2重量%、0.5~2重量%、または0.5~1.5重量%の濃度で、プロトプラストを含む溶液中に提供される。
【0054】
実施形態では、カプセル化媒体は、例えば冷却に基づいて、ゲル化することができる他の化合物を含む。例えば、カプセル化媒体は、低融点(EEO)アガロース、低融点(EEO)寒天、フィタゲル、および/またはジェラン(例えばGelrite(登録商標))を含み得る。実施形態では、低融点(EEO)アガロースは、0.01~5重量%の濃度で存在し得る。実施形態では、低融点(EEO)寒天は、0.01~5重量%の濃度で存在し得る。実施形態では、フィタゲルは、0.01~2重量%の濃度で存在し得る。実施形態では、ジェランは、0.01~0.2重量%の濃度で存在し得る。実施形態では、カプセル化ステップ116は、プロトプラストを含む液滴を形成することと、液滴の流れを冷却することによって液滴の少なくとも外側部分にゲルの形成を誘発することと、を含む。したがって、本発明のシステムは、液滴の流れを冷却するための手段を含み得る。
【0055】
実施形態では、カプセル化媒体またはカプセル化媒体前駆体を含む溶液は、以下でさらに説明されるように、成長促進剤を含む。これにより、カプセル化されたプロトプラストの細胞生存能力がさらに増加し、植物全体の回収収率が高くなる。実施形態では、特定のゲル化剤の選択およびカプセル化媒体の組成物は、プロトプラストが由来する植物の種および/またはプロトプラストが懸濁される溶液(成長促進溶液)の組成物に依存し得る。
【0056】
当業者が理解するように、カプセル化ステップは、各々が単一のプロトプラストを封入する液滴を形成することを目的とし、この場合、液滴は、ゲル化されるか、またはゲル化された外層を含む。しかしながら、実際には、プロトプラスト溶液中のプロトプラストの濃度およびマイクロ流体チップで使用される流速に応じて、複数(例えば2つなど)のプロトプラストを含む、またはプロトプラストを含まない(「空の液滴」)液滴が形成され得る。好ましくは、プロトプラストの濃度および流速は、空の液滴が複数のプロトプラストを含む液滴よりも可能性が高いように選択される。
【0057】
ステップ118において、カプセル化媒体を含む液滴は、任意選択的に、第1の検出および選別システムに向けられる。第1の検出および選別システムは、各液滴中のプロトプラストの存在を検出するように構成される。例えば、以下でさらに説明されるように、クロロフィルに関連する蛍光信号の存在は、この目的のために使用され得る。検出および選別システムは、空の液滴(すなわち、プロトプラストを含有しない液滴)を、プロトプラストを含有すると決定された液滴とは異なるチャネルに向け、この場合、空の液滴は、例えば、廃棄物収集システムに向けられ得る。実施形態では、検出および選別システムは、省略され、すべての液滴(空の液滴を含む)は、マイクロ流体チップから排出される122。
【0058】
ステップ120において、液滴は、任意選択的に、さらなる検出および選別システムを通って流れる。さらなる検出および選別システムは、各液滴中でカプセル化されたプロトプラストにおける所望の特徴の存在を検出するように構成される。例えば、蛍光タンパク質に関連する蛍光信号の存在が検出され得、そのコード配列は、ステップ110での操作によってプロトプラストに導入または活性化されている。さらなる検出および選別システムは、任意の陰性の液滴(すなわち、所望の特徴を有さない液滴)を陽性の液滴とは異なるチャネルに向けることができ、この場合、陰性の液滴は、例えば、廃棄物収集システムに向けられ得る。当業者が理解するように、さらなる検出および選別システムの性質は、テストされる特徴、ならびにステップ110でプロトプラストの改変が行われたか否かに応じて変動してもよい。実施形態では、第2の検出および選別システムは省略され得る。実施形態では、複数の特徴は、1つ以上のさらなる検出および選別システムによって検出され得る。そのような実施形態では、液滴は、陰性であるとみなされ、既定の部分集合、または特徴のすべてが存在しない場合があれば、廃棄物収集システムに送られる。第1のおよびさらなる検出および選別システムは、各々が存在するか、または存在しなくてもよい。実施形態では、第1のおよびさらなる検出および選別システムは、プロトプラストの存在および所望の特徴の両方を検出し、任意の陽性の(ひいては空ではない)液滴とは異なるチャネルに、任意の陰性のまたは空の液滴を向ける、単一のシステムにまとめられてもよい。
【0059】
ステップ122において、(任意選択的に選択された)液滴は、出口を通ってマイクロ流体チップから排出される。
【0060】
ステップ124において、以下でさらに説明されるように、液滴は、収集され、細胞培養プレート上にプレーティングされる。ステップ126において、カプセル化されたプロトプラストは、マイクロカルスを生成するために培養される。次いで、これらのマイクロカルスを使用して、小植物全体を再生することができる。
【0061】
図2は、本発明の実施形態による一般的なシステムの概略図である。システム1は、液体注入システム2、マイクロ流体チップ4、廃棄物収集システム6、およびプロトプラスト収集システム8を含む。収集システム8は、マイクロ流体チップ4から流れるカプセル化されたプロトプラストを収集するための機構を含み得る。実施形態では、収集システム8に収集されたカプセル化されたプロトプラストは、選択された細胞培養システムに手動で分配され得る。実施形態では、収集システム8に収集されたカプセル化されたプロトプラストは、自動的に分配され得る。例えば、「インクジェットプリンター」型の配分システムを使用して、選択した細胞培養システム上にカプセル化されたプロトプラストを分配してもよい。実施形態では、カプセル化されたプロトプラストは、1つ以上のマイクロウェル培養プレート上に手動または自動で分配され得る。有利には、個々のカプセル化されたプロトプラストは、各マイクロウェルに分配され得る。必要に応じて、他の型の培養プレートを使用してもよい。実施形態では、カプセル化されたプロトプラストは、媒体(例えば、寒天プレート)を含有するゲル化剤を有する培養プレートのウェルに固定され得る。実施形態では、植物成長培養媒体は、培養プレートに提供され得る。
【0062】
図示されるシステムは、検出システム10、および選別システム12をさらに含む。例えば、検出システム10は、レーザーダイオードと、蛍光顕微鏡または光検出器などの蛍光検出システムとを含み得る。検出システムからのデータは、コンピュータなどのコンピューティングデバイス14に転送される。コンピューティングデバイス14は、プロセッサ、メモリ、およびインターフェースを含む。コンピューティングデバイス14は、検出システム10からのデータを使用して、対象の特徴を有するマイクロ流体チップを通って流れるプロトプラストを識別し、任意選択的に、インターフェースを介してこのデータをユーザに提供するように構成される。コンピューティングデバイス14は、好ましくはほぼリアルタイムで、選別システム12への制御信号を生成するために、検出システム10からのデータを処理し得る。選別システム12は、マイクロ流体チップ4を通って流れるプロトプラストを、マイクロ流体チップ4に提供された2つ以上の分岐のうちの選択された1つに向ける機構を含む。実施形態では、選別システム12は、誘電泳動力を生成することができる圧力弁または一対の電極を含む。上で説明したように、異なる特徴を選択するために、複数のそのような検出10および選別12システムが直列に提供され得る。例えば、第1の検出システム10および選別システム12は、空ではない液滴を選択し得、第2の検出システム10および選別システム12は、対象の特徴について陽性である液滴を選択し得る。検出システム、選別システム、およびマイクロ流体チップについては、以下の関連するセクションでより詳細に説明する。
【0063】
液体注入システム2は、典型的には、少なくとも2つのシリンジ2a、2bと、シリンジをマイクロ流体チップ4の入口に接続するチューブ2cとを含む。具体的には、液体注入システム2は、プロトプラスト溶液である第1の液体をマイクロ流体チップの入口に注入するように構成されている第1のシリンジ2aと、マイクロ流体チップの2つの追加の入口に第2の液体を注入するように構成されている、リストにある第2のシリンジ2b(または図示する実施形態のように2つの別々のシリンジ2b)と、を含む。第2の液体は、上で説明したように、第1の液体と非混和性である媒体を含み、第1の液体の液滴を形成し得る。液体注入システム2は、有利には、オペレータがマイクロ流体チップ4への液体の流れを制御することを可能にするポンプ機構を含む。当業者が理解するように、マイクロ流体チップと共に使用するのに好適な当技術分野で知られている任意の注入システムを本発明のシステムで使用してもよい。好ましくは、注入システムは、中断されない流れを提供するように構成されているシリンジポンプを含む。好ましくは、使い捨ての滅菌プラスチック設備、または再利用可能な滅菌可能な設備を使用して、注入システムがシステムに汚染を導入しないことを確実にする。例えば、neMESYSシリンジポンプ(Cetoni)、2mlのPlastipakシリンジ(BD)および/または1/16インチPTFEチューブ(Sigma-Aldrich(登録商標))または他のオートクレーブ可能なプラスチックチューブ、または同様のパルスレスシリンジ設備を使用してもよい。同様に、廃棄物収集システム6は、典型的には、1つ以上の容器6aと、マイクロ流体チップ上の1つ以上の出口を1つ以上の容器6aに接続する管6bとを含む。収集システムの詳細は、本発明に必須ではなく、ここではさらに詳細に説明しない。
【0064】
図3A~C(以下でより詳細に考察される)に示されるように、マイクロ流体チップ4は、プロトプラストが流体または液体(第1の液体)の流れによって運ばれるメインチャネル26と、第1の液体と非混和性である第2の液体のそれぞれの流れがメインチャネル26の流れと収束するように作製される2つのサイドチャネル28a、28bとを含む。メインチャネル26とサイドチャネル28a、28bとの間の合流点で、単一のプロトプラストおよびカプセル化媒体またはカプセル化媒体前駆体を含む液滴が形成される。実施形態では、カプセル化媒体またはカプセル化媒体前駆体のゲル化もまた、合流点で誘発され、ゲル化されたカプセル化媒体を含む単一の液滴が形成される。実施形態では、ゲル化は、第2の液体中に存在する成分によって直接的または間接的に誘発される。実施形態では、ゲル化は、例えば、液滴を冷却することなどによって、ゲル化を促進する条件を適用することによって、液滴形成後に誘発される。
【0065】
実施形態では、各液滴は、平均して単一細胞を含有する。例えば、液体注入システム2は、プロトプラスト溶液が、カプセル化媒体がマイクロ流体チップに注入される圧力よりもわずかに低い圧力でマイクロ流体チップ4に注入されるように構成され得る。これは、有利には、メインチャネル26とサイドチャネル28a、28bとの交差点で形成されたカプセル化媒体の液滴の大部分が1つの細胞を含むか、または細胞を含まないという結果をもたらす。
【0066】
本発明の実施形態によると、マイクロ流体チップと、マイクロ流体チップを含む植物材料を繁殖させるためのシステムと、が提供される。
【0067】
図3A、3B、および3Cは、本発明の実施形態によるマイクロ流体チップ20を概略的に示す。マイクロ流体チップ20は、第1の入口またはメインの流れの入口22を含み、図3Aおよび3Bの実施形態では、一対の第2の液体流入口24A、24bを含む。第1の入口22は、プロトプラストの流れをマイクロ流体チップ20のメインチャネル26に導入するために使用される。入口24A、24bは、プロトプラストおよびカプセル化媒体またはカプセル化媒体前駆体を含む液滴を形成するために、マイクロ流体チップのサイドチャネル28aおよび28bに液体の第2の流れを導入するために使用される。代替の実施形態では、図3Cに示されるように、単一の入口24が、チャネル28aおよび28bの両方に供給するために提供され得る。
【0068】
実施形態では、図3Bおよび3Cに示されるように、マイクロ流体チップ20は、1つ以上の慣性集束器44を含む。例えば、慣性集束器は、曲率半径および幅が異なる交互の曲げを含み得る。Xuan et al.2010に記載されるものなど、他の集束原理を使用してもよい。この流体要素には2つの主な効果があり、慣性集束器の下流のチャネルの中央に集中して、散乱した細胞を単一のストリームに集束させることと、ストリームに沿って連続する細胞間に均等な間隔を導入することとである。慣性集束器では、集束効果は、二次ディーンフローと慣性リフトとの間の適切な比率の結果であり、チャネルの寸法、アスペクト比、曲率半径、粒子径、および流速に依存する(例えばAmini et al.,2014参照)。長手方向の間隔は、懸濁液濃度、チャネルレイノルズ数Re、および粒子レイノルズ数Reに依存する。粒子を単一のストリームに集束させることができるマイクロ流体要素を利用してもよい(例えば、Di Carlo et al.,2007、Kahkeshani et al.,2016参照)。マイクロ流体チップ内での選択イベントの後、メインチャネルは2つに分割され、慣性集束は、2つのアームのうちの1つを優先する。物理的に移動しない限り、細胞は、常に優先アームを下に移動し続ける。これが可能な微細構造を利用してもよい(例えばChung et al.,2013参照)。
【0069】
2つのサイドチャネル28a、28bは、カプセル化ゾーン36でメインチャネル26と交差する。有利には、サイドチャネル28a、28bは、カプセル化ゾーン36におけるメインチャネル26の周りに実質的に対称的に配置される。好ましくは、サイドチャネル28a、28bは、対向する側面でメインチャネル26と交差するように、カプセル化ゾーン36おいてメインチャネル26に対して実質的に垂直である。サイドチャネル、メインチャネル、およびカプセル化ゾーンが連携して、マイクロ流体液滴発生器を形成する。
【0070】
有利には、カプセル化の流れおよびメインの流れは、別々の入口を介してチップに導入されるため、流れは、別々の注入システム2によって独立して制御され得る。
【0071】
カプセル化ゾーン36を通過した後、組み合わされた流れは、メインチャネル26を通って進行し続け、図3Aに示される実施形態では、第1の検出ゾーン38を通って進行する。第1の検出ゾーン38において、カプセル化ゾーン36で形成された液滴は、クロロフィルの吸収波長の光に曝露され、クロロフィルの発光波長の発光の存在または不在が検出される。
【0072】
検出ゾーン38の後、図3Aに示されるマイクロ流体チップ20は、選別システムに関連するさらなるサイドチャネル28cを含む。選別システムは、液滴をメインチャネル26からサイドチャネル28cに向けることができる。サイドチャネル28cは、出口40を介して廃棄物収集システムと連通し得る。
【0073】
図3Cに示される実施形態では、マイクロ流体チップは、第2の検出ゾーン38’を含む。第2の検出区分ゾーン38’において、メインチャネル26における液滴は、対象の特徴の存在または不在について評価される。例えば、液滴は、細胞に導入または活性化された蛍光タンパク質の吸収波長の光に曝露され得、上記タンパク質の発光波長における発光の存在または不在が検出され得る。
【0074】
第2の検出ゾーン38’の後、図3Aに示されるマイクロ流体チップ20は、選別システムに関連するさらなるサイドチャネル28dを含む。選別システムは、液滴をメインチャネル26からサイドチャネル28dに向けることができる。サイドチャネル28cは、出口42を介して廃棄物収集システムと連通し得る。
【0075】
最後に、メインチャネルにおける液滴は、出口44を通して排出される。
【0076】
本発明のいくつかの実施形態では、メインチャネル26およびサイドチャネル28は、実質的に等しい断面を有する。他の実施形態では、メインチャネル26およびサイドチャネル28は、異なる断面を有する。実施形態では、サイドチャネル28a、28bは、実質的に等しい断面を有する。実施形態では、サイドチャネル28c、28dは、メインチャネルの対応する領域(すなわち、流れがメインチャネル26とサイドチャネル28cまたは28dとに分離する点)において、メインチャネル26の断面とは異なる断面を有する。実施形態では、メインチャネル26は、一定の断面を有する。実施形態では、メインチャネル26は、複数の区分を含み、各区分は、その前後の断面とは異なる断面を有し得る。これらの寸法は、分析する粒子の平均サイズだけでなく、例えば細胞選別のために存在し得る他の要件によって決定付けられる(以下参照)。有益なことに、チャネルのサイズは、粒子のそれらの寸法を少なくとも50%超えるように選択されて、チャネルの壁との潜在的な機械的接触を回避し得る。実施形態では、チャネルの一部またはすべては、実質的に長方形の断面を有する。一部またはすべてのチャネルは、楕円形または円形の断面を有し得る。実施形態では、メインチャネルおよび/またはサイドチャネルの直径/幅Wは、少なくとも40~最大300μmであり得る。チャネルの幅および直径という用語は、この説明において交換可能に使用され、円形断面のチャネルの直径と長方形断面のチャネルの幅と呼ばれ得る寸法を指す。実施形態では、メインチャネル26は、約50~約150μm、約80~約120μm、または約100μmの幅を有する。実施形態では、サイドチャネル28a、28bは、約50~約300μm、約100~約300μm、約150~約250μm、または約200μmの幅を有する。実施形態では、図3Bに示されるように、メインチャネル26は、カプセル化ゾーン36の直前および直後の区分262、264を含み、その区分において、メインチャネルは、直前(区分260)または直後(区分266)である区分260、266よりも狭い。例えば、区分260および266は、約100μmの直径を有し得、区分262、264は、約60μmの直径を有し得る。
【0077】
前に説明したように、カプセル化ゾーン38では、液滴は、第1の液体の流れおよび第2の液体の流れの収束によって形成され、第2の液体は、第1の液体と非混和性である。図2および3に示される実施形態では、第1および第2の液体の流れの収束は、第1の液体を運ぶ第1またはメインチャネルおよび第2の液体を運ぶ2つのサイドチャネルを伴う交差構成を使用して得られる。この構成は、流れ集束システムとも呼ばれ、ここで、第1の液体の流れが第2の液体の2つのストリームの間で「圧迫」され、それによって液滴が生成される。本発明者らは、この構成が、比較的遅い流れの使用を可能にしながら、適切なサイズ(流体圧力およびチャネル幅の両方が液滴サイズの決定に寄与する)の液滴を生成するため、他の液滴発生器構成よりも好ましいことを見出した。液滴の比較的遅い流れは、それが細胞に対して比較的優しく、かつ例えば、品質管理および細胞選別の目的のためにより容易に監視されるため、有利であり得る。本開示の文脈内において、流れは、約200μl/時間未満である場合に、「遅い」と呼ばれ得る。当業者が理解するように、他の構成が可能である。具体的には、本発明の場合、マイクロ流体チップにおいて液滴を生成するのに好適であると考えられる任意の構成を文脈内で使用してもよい。例えば、第1および第2の液体は、2つの直交するチャネルに注入され得、ここで、第1の液体を運ぶチャネルは、第2の液体を運ぶ単一のチャネルと結合し、その後、第2の液体を運ぶチャネルを進行する第1の液体の液滴を形成する。
【0078】
本発明の実施形態によると、プロトプラストは、成長促進剤を含む媒体にカプセル化される。これは、本発明に従って生成されたプロトプラストの生存率を増加させ、結果として、本発明の方法および装置を使用して完全な植物の回収の効率を増加させる。
【0079】
本発明の実施形態によると、マイクロ流体チップを流れるマイクロカプセルは、クロロフィルに関連する蛍光信号の存在に基づいて選択され得る。これは、生きたプロトプラストを含有するマイクロカプセルの選択を可能にし、それによって、本発明の方法およびシステムを使用する完全な植物の回収の効率が増加する。
【0080】
実施形態では、本発明のシステムは、クロロフィルに関連する蛍光信号の存在を検出するように構成された蛍光検出システムを含む。例えば、検出システムは、クロロフィルの吸収波長で光(励起光)を提供し、クロロフィルの発光波長での光の発光を検出するように構成され得る。例えば、検出システムは、405~544nmの光を発光する光源と、600~800nmなどの495nmを超える光の発光を検出する検出器とを含み得る。実施形態では、励起光は、レーザーダイオードによって提供される。実施形態では、発光は、蛍光顕微鏡によって検出される。
【0081】
実施形態では、本発明のシステムは、1つ以上の所望の特徴に基づいて、カプセル化されたプロトプラストを検出し、任意選択的に選択する機構を含み得る。本発明のシステムおよびデバイスが、カプセル化された各プロトプラストが次々にメインチャネルを通って流れるマイクロ流体チップを含むため、理論的には、マイクロ流体チャネルを流れる細胞から得られ得る任意の情報をさらに得ることができる。実施形態では、本発明のシステムは、蛍光検出システムなどの光学的検出システムを含む。選別機構と組み合わせて、これは、対象の特徴を示す蛍光マーカーを有するプロトプラストの選択を可能にする。実施形態では、本発明の方法は、蛍光タンパク質のコード配列をプロトプラスト培養物に導入することを含む。そのような実施形態では、本発明の方法は、蛍光検出システムを使用して、マイクロ流体デバイスを通って流れるカプセル化されたプロトプラストにおける蛍光タンパク質の発現を検出することを含み得る。
【0082】
実施形態では、蛍光検出システムは、クロロフィルの存在を示す信号と、対象の特徴を示す蛍光マーカーの存在を示す信号との両方を検出するように構成され得る。そのような実施形態では、検出システムは、選別機構に結合され得、システムは、クロロフィルの存在を示す信号と、蛍光マーカーの存在を示す信号との組み合わせた存在に基づいて、選別機構が2つの異なるチャネル間でマイクロカプセルを分離するように構成され得る。
【0083】
実施形態では、化学発光検出システムが、システムに追加され得る。選別機構と組み合わせて、これは、対象の特徴を示す化学発光マーカーを有するプロトプラストの選択を可能にする。実施形態では、本発明の方法は、1つ以上の化学発光タンパク質(エグルシフェリン、エクオリンなど)のコード配列をプロトプラスト培養物に導入することを含む。そのような実施形態では、本発明の方法は、発光検出システムを使用して、マイクロ流体デバイスを通って流れるカプセル化されたプロトプラストにおける化学発光タンパク質の発現を検出することを含み得る。
【0084】
いくつかの実施形態では、単独で、または任意の他の実施形態と組み合わせて、細胞の他の特性を測定するための手段をシステムに追加してもよい。例えば、プロトプラストのサイズおよび/または形態を測定する画像化システムを、システムに追加してもよい。例えば、画像化/光学的システムを使用して、カプセル化が成功したか否か(すなわち、プロトプラストが液滴中に存在するか否か)の指標を提供してもよい。さらに、カプセル化の前または後のプロトプラストのサイズおよび/または形態を評価するシステムを使用して、プロトプラストの生存能力の指標を提供してもよい。このようなシステムでは、回収に成功する可能性が高いプロトプラストを選択することが可能であり得る。
【0085】
本発明の実施形態によると、マイクロ流体チップは、上述の検出機構のうちの1つ以上と動作可能に接続された1つ以上の選別機構を含む。実施形態では、上で説明したように、選別機構は、コンピューティングデバイスを介して検出機構に接続される。
【0086】
実施形態では、マイクロ流体チップは、メインの流れのチャネルから分離する1つ以上のさらなるサイドの分岐を含み、システムは、検出機構から受信した信号に応じて、誘電泳動(DEP)によって、カプセル化されたプロトプラストをメインの分岐またはサイドの分岐のいずれかに向けるように構成される一対の電極を含む。有利には、DEPは、シリンジポンプによって生成される流れの速度または方向を変更する必要なく、個々のカプセル化されたプロトプラストを選別する方式を提供する。
【0087】
実施形態では、例えば、電場の使用を回避することが好ましい状況では、DEPの代わりに光誘電泳動(ODEP)を使用してもよい。有利には、ODEPによって、プロトプラストをより弱い光に曝露しながら、光ピンセットと同様の効果を達成することが可能になり、それによって、フルオロフォアの漂白またはプロトプラスト自体の損傷の危険性が低減される。
【0088】
実施形態では、磁気選別を使用してもよい。実施形態では、微粒子の位置および/またはマイクロ流体システムの複数の分岐のうちの1つへのそれらの侵入に影響を変更するための他のシステムおよびデバイスは、当技術分野で知られており、さらに説明しない(例えば、Gi-Hun Lee et al.,2016、Tzu-Keng Chiu.,2016参照)。
【0089】
上で説明したように、カプセル化されたプロトプラストを含有する液滴のカプセル化および選別の後、単一のカプセル化されたプロトプラストは、組織培養システム、例えば、植物成長媒体を含有する寒天ゲルプレート上、または植物成長促進媒体を含むゲルおよび液体を含有するマイクロウェルプレートに手動または自動で置かれ得る。
【0090】
実施形態では、カルス誘導媒体を使用してもよい。例えば、Gamborg B5、Murashige Skoog、または他のものなどの媒体を使用してもよい。上で説明したように、単一のプロトプラストのカルスへの成長を促進する塩、ビタミンおよびオーキシン、サイトカイニン、および/または他のホルモンは、媒体または組織培養プレートに含まれ得る。
【0091】
実施形態では、既定のサイズを達成したカルスは、芽形成を誘導するために、異なるオーキシンおよびサイトカイニンの比率を有する植物成長媒体に移動され得る。実施形態では、芽形成を受けたカルスは、根形成を誘導するためにさらに別の植物成長媒体に移動され得る。好ましくは、カルスの任意の操作は、無菌条件下で行われ得る。
【0092】
次いで、上記プロセスから生じる小植物を、従来の微小繁殖技術で使用してもよい。
【0093】
本発明の実施形態によると、対象の特徴を有する植物を効率的に操作および回収するための新規の方法および装置が提供される。本発明によってもたらされる単一細胞の迅速な表現型決定および植物全体の回収の高効率の組み合わせは、植物工学の観点から特に有利である。
【0094】
具体的には、本発明は、CRISPR/Cas9、他の核酸誘導ヌクレアーゼ、またはTALENまたはZFNなどの任意の他のヌクレアーゼによる遺伝子編集処理を供された後に、植物プロトプラストをスクリーニングするために使用され得る。実施形態では、本発明は、参照により本明細書に組み込まれるWO2017061805A1に記載されるように、遺伝子編集処理を供された後に植物プロトプラストをスクリーニングするために使用され得る。
【0095】
実施形態では、方法は、PEG形質転換または他の細胞膜浸透技術(例えばWoo et al.,2015参照)を使用して、リボヌクレオタンパク質(RNP)または他のヌクレアーゼタンパク質を個々のプロトプラストに送達することを含む。
【0096】
実施形態では、ヌクレアーゼは、GFP、RFP、または非タンパク質ベースの蛍光マーカーもしくはルシフェリンなどの化学発光マーカーなどの蛍光分子でタグ付けされ得る。有利には、マーカーを使用して、ヌクレアーゼの細胞への送達が成功したことを確実にすることができる。結果として、システムが、遺伝子編集剤を含有するプロトプラストを選択することが可能であり(例えば、上で説明したように、例えば、液滴中のプロトプラストの存在/不在に応じて、選別と組み合わせた、または選別からの後続のステップにおける、マイクロ流体チップにおける選別によって)、それによって、遺伝子編集プロセスの効率が大幅に増加する。
【0097】
当業者が理解するように、本発明の方法は、ヌクレアーゼに付着した蛍光または化学発光信号生成分子で細胞を選別することに限定されず、プロトプラストのプラスミド形質転換成功に由来する蛍光または化学発光タンパク質などのプロトプラスト中に存在する任意の蛍光または化学発光信号に限定される。
【0098】
実施形態では、本発明のシステムは、対象のプラスミドの存在または不在に応じてプロトプラストを選別するために使用され得(例えば、プロトプラストの選択は、成功したプラスミド形質転換を受けた)、プラスミド形質転換は、遺伝子編集、または他の任意の他の目的を対象とし得る。
【0099】
実施形態では、本発明のシステムおよび方法は、遺伝子発現の信号として、例えば蛍光または化学発光タンパク質を有する導入遺伝子を発現するトランスジェニック植物の細胞壁分解によって作製されたプロトプラストを選択するために使用され得る。
【0100】
実施形態では、本発明のシステムおよび方法は、細胞型を示す、例えば蛍光または化学発光タンパク質を有する導入遺伝子を発現するトランスジェニック植物の細胞壁分解によって作製されたプロトプラストを選択するために使用され得る。
【0101】
実施形態では、本発明のシステムおよび方法は、タンパク質(例えば、抗体、転写因子など)または植物細胞の任意の内部成分と相互作用することができる他の分子を有する、当技術分野で知られている形質転換(例えば、PEG、プラスミドなど)の任意の方法を使用して形質転換されたプロトプラストを選択するために使用され得る。
【0102】
本発明の実施形態によると、本発明による植物材料を繁殖および選択するためのシステムを含む診断アッセイが提供される。
【0103】
園芸および農業植物の繁殖における大きな問題の1つは、繁殖する植物材料が無病であることを確実にする必要があることである。実際、ウイルス性、細菌性、または真菌性の病原体によって引き起こされるような病気は、培養物に壊滅的な影響を与え得る。現在、植物材料が無病であるか否かを発見する主な方式は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)診断テストを介する。このようなテストは、特に、感染性因子に曝露された疑いのある数百または数千もの植物で行われる場合、非常に手間であり、かつ費用がかかる。加えて、これらの方法を使用して病気が検出された場合であっても、その病気は依然として培養物から除去しなければならない。これに使用される最も一般的な方法は、植物の分裂組織を単離し、植物のこの部分を繁殖に使用することである。これは、感染が十分に早く発見された場合に植物分裂組織が感染する可能性が低いという仮定に依存しているため、分裂組織から植物を新たに成長させると、植物培養物が無病である可能性が増加する。しかしながら、これも労働力を要し、かつ費用がかかる。加えて、単離された分裂組織に存在する感染細胞がたった一つであっても、分裂組織自体からであろうと汚染によるものであろうと、操作全体を危険にさらす可能性がある。実際、分裂組織の最も正確な顕微鏡的単離でさえ、何百もの植物細胞を含有し、任意の単一細胞に感染性病原体が存在すると、繁殖が損なわれる。
【0104】
本発明の方法およびデバイスは、上記の問題のすべてを解決するために使用され得る。具体的には、葉、子葉、または分裂組織などの任意の植物材料は、プロトプラストの出発源として使用され得る。さらに、本発明のデバイスおよび方法は、高効率で完全な植物に回収され得る単一のカプセル化されたプロトプラストを生成するため、回収される各単一の植物は、単一細胞に由来し、したがって、完全かつ確実に無病であるか、または病気であるか(この場合、破棄することができる)である。
【0105】
加えて、本発明のスクリーニング能力を使用して、それらが回収および成長する前にそれらの病気のプロトプラストを濾過して取り除くことができ、それによって、無病の植物材料のみが繁殖することが確実になる。実施形態では、カプセル化されたプロトプラストは、病気マーカーの存在または不在に基づいて選択される。例えば、ウイルス性、細菌性、または真菌性の病原体などの病因の存在を示す光出力を使用することができる。実施形態では、蛍光または化学発光に基づく病気検出方法を使用して、単一細胞における病原体の存在を検出することができる(レビュー、例えば、Fang and Ramasamy,2015参照)。
【0106】
実施形態では、診断用FISH(蛍光原位置ハイブリダイゼーション)を使用して、単一の植物プロトプラストに見られる細菌または真菌からのリボソームRNAおよびDNAを検出してもよい。実施形態では、診断用FISHを使用して、単一の植物プロトプラストに見られるウイルス核酸を検出してもよい。有利には、そのような手法は、培養された病原体および培養されていない病原体の両方を検出することができ得る。したがって、問題の病原体を単離して成長させる能力は、病原体の検出には必要ではない。
【0107】
実施形態では、免疫蛍光技術を使用して、病原体由来の分子(例えば、タンパク質)を検出してもよい。例えば、特定の病気マーカーに結合するように設計された蛍光タグを含む抗体を使用して、病因の存在を検出してもよい。
【0108】
記載されたような病気検出方法のいずれかを使用して、本発明の方法およびシステムによって、病気マーカーを示さないカプセル化されたプロトプラストの選択が可能になり得る。結果として、本発明は、無病材料の効率的な選択および繁殖を可能にし得る。
【0109】
当業者が理解するように、光出力を生成する任意の他の診断方法は、デバイスの発明と組み合わせて、無病の植物材料の効率的なスクリーニングおよび選択を得ることができる。
【0110】
本発明の実施形態によると、本発明による植物材料を繁殖および選択するためのシステムを含む診断アッセイが提供される。
【0111】
市販されている多くの植物は、種子ではなく、挿し木の組織培養物を介して繁殖する。挿し木から新しい小植物を生成するプロセスは、非常に手間がかかり、かつ時間がかかることが多い。実際、プロセスは、組織培養技術者が既存の植物を数十または数百の小さな組織試料にスライスし、次いでそれを組織培養媒体に置いて再生することに依存している。挿し木から小植物が成長したら、プロセスを1回以上繰り返して、所望の量の小植物、典型的には100,000~10,000,000単位を得る。このプロセスは依然として非常に手動的であるため、非常に労働力を要し、時間がかかり、かつ反復的である。さらに、各挿し木段階は、材料に病気を導入する危険性の増加に関連している。
【0112】
本発明の方法およびデバイスは、上記の問題のすべてを解決するために使用され得る。具体的には、葉、子葉、または分裂組織などの任意の植物材料は、プロトプラストの出発源として使用され得、各植物は、数億個の細胞を含み、その大部分は、本発明の方法およびシステムを使用して植物全体に回収する潜在性を有する。本発明のマイクロ流体チップは、非常に高速、例えば毎分100~1000個の細胞で、単一の植物細胞のカプセル化を可能にする。上で説明したように、成長促進緩衝液でカプセル化されている各プロトプラストによって、カプセル化されたプロトプラストが組織培養条件に置かれたときに、植物全体の高い回収が可能になる。したがって、本発明の方法およびシステムは、単一の迅速な自動化されたステップを使用して、商業的に関連する規模(例えば、100,000~1,000,000単位)での植物単位の生成を可能にする。これにより、材料の生成に必要な費用、時間、および労力が大幅に低減されるだけでなく、病気導入の危険性も大幅に低減する。
【0113】
本発明が、市販食品または動物飼料作物、商業用バイオマスまたはバイオ燃料作物、実験用のモデル植物生物、薬用植物、園芸植物、および絶滅危惧、育成、または遺伝子操作品種などの希少植物を表す植物種への適用において特に価値があることが理解され得る。本発明が特に有用であると想定される植物種および属には、Solanum spp.(例えば、S.lycopersicum、S.tuberosum、S.melongena、S.muricatum、S.betaceum);Brassica spp.(例えば、B.oleracea、B.napobrassica、B.napus、B.cretica、B.rupestrisおよびB.rapa);Capsicum spp.(例えば、C.annuum、C.baccatum、C.chinense、C.frutescens、C.pubescens);Lupinus spp.(例えば、L.angustifolius、L.albus、L.mutabilisおよびL.luteus);Phaseolus spp.(例えば、P.acutifolius、P.coccineus、P.lunatus、P.vulgarisおよびP.dumosus);Vigna spp(例えば、V.aconitifolia、V.angularis、V.mungo、V.radiata、V.subterraneaおよびV.unguiculata);Vicia faba;Cicer arietinum、Pisum sativum、Lathyrus spp.(例えば、L.sativusおよびL.tuberosus);Lens spp.(例えば、L.culinarisおよびL.esculenta);Glycine max;Psophocarpus;Cajanus cajan;Arachis hypogaea;Lactuca spp.(例えば、L.sativa、L.serriola、L.saligna、L.virosaおよびL.taterica);Asparagus officinalis;Apium graveolens;Allium spp.(例えば、A.cepa、A.oschaninii、A.ampeloprasum、A.wakegi、A.porrum、A.sativumおよびA.schoenoprasum);Beta vulgaris;Cichorium intybus;Taraxacum officinale、Eruca spp.(例えば、E.vesicariaおよびE.sativa);Cucurbita spp.(例えば、C.argyosperma、C.digitata、C.pepo、C.moschata、C.ecuadorensis、C.ficifolia、C.foetidissima、C.galeottii、C.lundelliana、C.maxima、C.moshata、C.pedatifolia、C.radicans);Spinacia oleracea;Nasturtium officinale;Cucumis spp.(例えば、C.sativus、C.melo、C.hystrix、C.picrocarpusおよびC.anguria);Olea europaea;Daucus carota;Ipomoea batatas;Ipomoea eriocarpa;Manihot esculenta;Zingiber officinale;Armoracia rusticana;Helianthus spp.(例えば、H.annuusおよびH.tuberosus);Cannabis spp.(例えば、C.sativaおよびC.indica);Pastinaca sativa;Raphanus sativus;Curcuma longa;Dioscorea spp.(例えば、D.rotundata、D.alata、D.polystachya、D.bulbifera、D.esculenta、D.dumetorum、D.trifidaおよびD.cayennensis);Piper spp.(例えば、P.aduncum、P.guineenseおよびP.nigrum);Zea spp.(例えば、Z.maysおよびZ.diploperennis);Hordeum spp.(例えば、H.vulgare、H.pusillum、H.murinum、H.marinum、H.jubatumおよびH.intercedens);Gossypium spp.(例えば、G.hirsutum、G.barbadense、G.arboreumおよびG.herbaceum);Triticum spp.(例えば、T.aestivumおよびT.timopheevii);Vitis vinifera;Prunus sp.(例えば、P.avium、P.armeniaca、P.cerasifera、P.cerasus、P.domestica、P.persicaおよびP.dulcis);Malus domestica;Pyrus spp.(例えば、P.communis、P.cordataおよびP.pyrifolia);Fragaria vescaおよびFragaria×ananassa;Rubus idaeus;Saccharum officinarum;Sorghum saccharatum;Musa balbisianaおよびMusa×paradisiaca;Oryza sativa;Nicotiana tabacum;Arabidopsis thaliana;Citrus spp.(例えば、C.×aurantiifolia、C.×aurantium、C.×latifolia、C.×limon、C.×limonia、C.×paradisi、C.×sinensisおよびC.×tangerina);Populus spp.(例えば、P.tremula、P.balsamifera、およびP.tomentosa);Tulipa gesneriana;Medicago sativa;Abies balsamea;Avena orientalis;Bromus mango;Calendula officinalis;Chrysanthemum balsamita;Dianthus caryophyllus;Eucalyptus spp.(例えば、E.leucoxylon、E.maculata、E.polybractea、E.sargentii);Impatiens biflora;Linum usitatissimum;Lycopersicon esculentum;Mangifera indica;Nelumbo spp.(例えば、N.nuciferaおよびN.pentapatala);Poaceae spp.;Secale cereale;Tagetes erecta;ならびにTagetes minutaが含まれるが、これらに限定されない。
【0114】
ここで、本発明について、以下の非限定的な実施例によってさらに示す。
【実施例
【0115】
実施例1
本実施例では、本発明の方法およびデバイスを使用して選択されたプロトプラストの回収率(生存能力)を評価した。本実施例は、本発明の方法および装置が、比較設定で得られるものと比較して、プロトプラストから完全な植物をより効率的に回収することを可能にすることを実証する。
【0116】
方法
プロトプラストの生成。Arabidopsis thalianaのプロトプラストを、Yoo,Cho,&Sheen,2007に記載のプロトコルを使用して得て、緩衝剤で2回洗浄して、いずれの遊離カルシウムイオンも除去した。次いで、洗浄したプロトプラストを、200細胞/μlの細胞濃度まで第1の溶液中に再懸濁した。第1の溶液は、100mMのCaCl2、100mMのEDTA、2%w/vのアルギン酸ナトリウム、およびオートクレーブ滅菌した0.5Mのマンニトールを含んでいた。
【0117】
デバイス製作。図4A~B(図4B図4Aのデバイスのカプセル化ゾーンのより詳細な図を示す)および4C~D(図4D図4Cのデバイスのカプセル化ゾーンのより詳細な図を示す)に示されるようなマイクロ流体チップを得た。マイクロ流体チップの型は、標準的なフォトリソグラフィー技術を使用して開発した。具体的には、フォトリソグラフィーを使用して、シリコンウエハー上にSU-8を使用してネガ型を作成した。レプリカを、ポリジメチルシロキサン(PDMS)(Sylgard 184 Silicone Elastomer Kit;Dow Corning Corporation)を使用したソフトリソグラフィーによるSU-8型を使用して得て、レプリカを、プラズマ結合を使用して清潔なスライドガラスに接着した。
【0118】
カプセル化。プロトプラスト懸濁液を、細胞装填入口22を通してデバイスに導入し、0.35%v/vの酢酸および4%w/wの乳化剤(具体的には、スパン80)を含む鉱油の形態の第2の液体を、ポート24に導入した。。両方の液体を、ルアーロック継手と外径0.8mmおよび内径0.25mmのポリエーテルエーテルケトン(PEEK)生体適合性チューブを含む1mlシリンジに装填した。2つのシリンジからのフラックスを、シリンジポンプを使用して独立して制御し、5μl/時の第1の液体(プロトプラスト溶液)の流れおよび63μl/時の第2の溶液(油および酸)の流れを生成した。。第1の液体(細胞、ならびにカプセル化媒体前駆体、アルギン酸ナトリウム、およびキレート化されたCa2+イオンを運ぶ)と第2の液体(油および酸)との流れの間の接合部で、単一のプロトプラストを含む液滴が形成され、第2の溶液中の酸が液滴中に拡散するにつれて、第1の溶液のpHが低下するために、第1の溶液中のカルシウムイオンが放出される。これにより、次に、第1の溶液中に存在するアルギン酸塩がナトリウムをカルシウムに交換し、少なくとも各液滴の外層でゲル化する。ゲル化した液滴を、出力ポート44に接続されたチューブを通して排出し、緩衝液の相上で鉱油を含むファルコンチューブに収集した。このような設定では、ゲル化したカプセルは、油を通して沈み、緩衝剤中に収集される。
【0119】
培養物。アルギン酸塩カプセルを、周囲照明の下、室温でインキュベートし、細胞分裂測定のためにサンプリングした。
【0120】
比較試料。プロトプラストを、上で説明したように得て、カプセル化せずに、上で説明したように培養した。
【0121】
図5は、図4A~5Bに示されるデバイスを使用して本発明に従って得られた試料(カプセル化されたプロトプラスト)およびカプセル化されていないプロトプラストを含む比較試料について、培養物中6日後の分裂プロトプラストの割合を示す。各条件の2つのレプリカを得て、図6のエラーバーは、得られた値の95%信頼区間を示す。
【0122】
図6A~Bは、培養物中5日後の比較試料の写真を示す。図6C~Dは、培養物中5日後の、本発明に従って得られた試料(すなわち、マイクロ流体カプセル化後)の写真を示す。図6A~Bに見られるように、カプセル化されていないプロトプラスト培養物は、多くの損傷した細胞および断片を含有する。対照的に、図6C~Dのカプセル化されたプロトプラストは、アルギン酸塩カプセル内の健康な分裂細胞を含む(図6C~Dの矢印で示される)。図6Dに見られるように、本発明に従ってカプセル化されたプロトプラストは、培養物中5日後に再形成された細胞壁を示す。
【0123】
図5および6A~Dのデータは、本発明によるカプセル化が、培養物中6日後にA.thalianaプロトプラスト細胞分裂の可能性を600%増加させ(図5)、健康な分裂細胞をもたらすことを示す。
【0124】
実施例2
本実施例では、本発明者らは、第1の液体中に存在するキレート化されたCa2+の放出により、第1の液体中のアルギン酸塩のゲル化を誘発するために、第2の液体(この特定の例では鉱油)中の酸の最適濃度を決定しようとした。上で説明したように、第1の溶液(プロトプラスト含有溶液)中に存在するアルギン酸塩のゲル化は、Ca2+イオンとの組み合わせによって誘発される。いくつかの実施形態では、第1の溶液は、カルシウムイオンを含むが、カルシウムイオンはEDTAによって結合されるため、アルギン酸塩にアクセスできず、凝固を誘発しない。第1の溶液が酸性化した油と接触すると、酢酸が液滴に拡散する。酸の拡散により液滴のpHが低下し、EDTAが溶液から脱落し、カルシウムイオンが放出される。次いで、放出されたカルシウムイオンは、アルギン酸塩の凝固を誘発する。理論に拘束されることを望まないが、プロトプラストへの損傷の危険性を低減するために、より低い濃度の酸が好ましいと考えられている。しかしながら、第2の液体中の酸の濃度が低すぎる場合、アルギン酸塩の適切なゲル化を引き起こすのに十分ではない場合がある。好ましくは、液滴中の少なくとも5、少なくとも5.5、または約5.7のpHが使用される。実施形態では、最大6.8または最大6.5のpHが使用される。
【0125】
3つの10mlの鉱油の試料(4%のスパン80)を、15mlのファルコンチューブにおいて0.1%、0.5%、および1%v/vの酢酸で酸性化した。5μlのカプセル化溶液(すなわち、第1の溶液であるが、プロトプラストを含まない第1の溶液-100mMのCaCl2、100mMのEDTA、2%w/vのアルギン酸ナトリウム、およびオートクレーブ滅菌した0.5Mのマンニトール)を添加し、油の底に沈めた。カプセル化溶液の液滴が底に落ち着いたら、ファルコンチューブを激しく振って、液滴の完全性(またはカプセル化溶液が固化したかどうか)をテストした。
【0126】
0.5%および1%の酢酸を含む油中の液滴は無傷のままであったが、0.1%v/vの酢酸を含む油中の液滴は、そうではなかった。したがって、0.25%および0.35%の酢酸を含有する鉱油を同じ方式でテストした。0.25%の酢酸を含有する油は、アルギン酸塩を固化させなかったが、0.35%の酢酸を含む油は、固化させた。
【0127】
この実験の結果は、0.35%の酢酸に相当する酸濃度が、第1の溶液中でアルギン酸塩のゲル化を引き起こすのに十分であることを示す。上記の実施例1で実証されているように、このような濃度は、プロトプラストに重大な損傷を引き起こさない。
【0128】
実施例3
本実施例では、本発明の方法およびデバイスを使用して選択されたトマト(Solanum lycopersicum)プロトプラストの回収率(生存能力)を評価する。本実施例は、本発明の方法および装置が、比較設定で得られるものと比較して、プロトプラストからの完全な植物のより効率的な回収を可能にすることを実証する。
【0129】
方法
プロトプラストの生成。Solanum lycopersicumのプロトプラストを、Hossain,Imanishi and Egashira,1995およびShahin,1985に記載のプロトコルを使用して得て、CaClを含まないTM2緩衝剤で2回洗浄して、いずれの遊離カルシウムイオンも除去した。上記の実施例1と同様の後続のステップを実行してもよい。洗浄したプロトプラストを、200細胞/μlの細胞濃度まで第1の溶液中に再懸濁することができる。第1の溶液は、100mMのCaCl、100mMのEDTA、2%w/vのアルギン酸ナトリウム、およびオートクレーブ滅菌した0.5Mのマンニトールを含む。
【0130】
デバイス製作。図4A~B(図4B図4Aのデバイスのカプセル化ゾーンのより詳細な図を示す)および4C~D(図4D図4Cのデバイスのカプセル化ゾーンのより詳細な図を示す)に示されるようなマイクロ流体チップを得る。マイクロ流体チップの型は、標準的なフォトリソグラフィー技術を使用して開発することができる。具体的には、フォトリソグラフィーを使用して、シリコンウエハー上にSU-8を使用してネガ型を作成することができる。レプリカを、ポリジメチルシロキサン(PDMS)(Sylgard 184 Silicone Elastomer Kit;Dow Corning Corporation)を使用したソフトリソグラフィーによるSU-8型を使用して得ることができ、レプリカを、プラズマ結合を使用して清潔なスライドガラスに接着する。
【0131】
カプセル化。プロトプラスト懸濁液を、細胞装填入口22を通してデバイスに導入することができ、0.35%v/vの酢酸および4%w/wの乳化剤(具体的には、スパン80)を含む鉱油の形態の第2の液体を、ポート24に導入することができる。両方の液体を、ルアーロック継手と外径0.8mmおよび内径0.25mmのポリエーテルエーテルケトン(PEEK)生体適合性チューブを含む1mlシリンジに装填することができる。2つのシリンジからのフラックスを、シリンジポンプを使用して独立して制御し、5μl/時の第1の液体(プロトプラスト溶液)の流れおよび63μl/時の第2の溶液(油および酸)の流れを生成することができる。第1の液体(細胞、ならびにカプセル化媒体前駆体、アルギン酸ナトリウム、およびキレート化されたCa2+イオンを運ぶ)と第2の液体(油および酸)との流れの間の接合部で、単一のプロトプラストを含む液滴が形成され得、第2の溶液中の酸が液滴中に拡散するにつれて、第1の溶液のpHが低下するために、第1の溶液中のカルシウムイオンが放出される。これにより、次に、第1の溶液中に存在するアルギン酸塩がナトリウムをカルシウムに交換し、少なくとも各液滴の外層でゲル化する。ゲル化した液滴を、出力ポート44に接続されたチューブを通して排出し、緩衝液の相上で鉱油を含むファルコンチューブに収集することができる。このような設定では、ゲル化したカプセルは、油を通して沈み、緩衝剤中に収集される。
【0132】
培養物。アルギン酸塩カプセルを、周囲照明の下、室温でインキュベートし、細胞分裂測定のためにサンプリングすることができる。
【0133】
比較試料。プロトプラストを、上で説明したように得て、カプセル化せずに、上で説明したように培養することができる。
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図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
【国際調査報告】