IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ クリプト・クオンティーク・リミテッドの特許一覧

特表2022-529024量子トンネル電流によるデバイスの識別
<>
  • 特表-量子トンネル電流によるデバイスの識別 図1
  • 特表-量子トンネル電流によるデバイスの識別 図2
  • 特表-量子トンネル電流によるデバイスの識別 図3
  • 特表-量子トンネル電流によるデバイスの識別 図4
  • 特表-量子トンネル電流によるデバイスの識別 図5
  • 特表-量子トンネル電流によるデバイスの識別 図6
  • 特表-量子トンネル電流によるデバイスの識別 図7
  • 特表-量子トンネル電流によるデバイスの識別 図8
  • 特表-量子トンネル電流によるデバイスの識別 図9
  • 特表-量子トンネル電流によるデバイスの識別 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-16
(54)【発明の名称】量子トンネル電流によるデバイスの識別
(51)【国際特許分類】
   H04L 9/10 20060101AFI20220609BHJP
【FI】
H04L9/10 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021561724
(86)(22)【出願日】2020-04-08
(85)【翻訳文提出日】2021-12-14
(86)【国際出願番号】 GB2020050918
(87)【国際公開番号】W WO2020212689
(87)【国際公開日】2020-10-22
(31)【優先権主張番号】1905446.9
(32)【優先日】2019-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521452588
【氏名又は名称】クリプト・クオンティーク・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Crypto Quantique Limited
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100135703
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 英隆
(74)【代理人】
【識別番号】100161883
【弁理士】
【氏名又は名称】北出 英敏
(72)【発明者】
【氏名】カミレリ,パトリック
(72)【発明者】
【氏名】モサエビ,シャフラム
(72)【発明者】
【氏名】オーカティ,ファイサル
(57)【要約】
デバイスの識別子値を決定するための方法が開示され、デバイスは、個別にアドレス指定可能なセルのアレイを備え、各セルは、量子トンネル障壁を有する電子部品を備える。方法は、アレイのアドレス指定可能なセルの選択物の各セルについて、セルの電気部品に電位差を与えることを含み、電位差は、量子トンネル障壁を通過する電荷キャリアの通り抜けを可能とするのに十分である。方法は、アレイの個別にアドレス指定可能なセルの選択物の各セルについて、量子トンネル障壁を通過する量子トンネル電流を表す電気信号を基準電気信号と比較することをさらに含む。方法は、アレイの個別にアドレス指定可能なセルの選択物の各セルについて、比較から、セルの識別子値を決定することをさらに含む。方法は、個別にアドレス指定可能なセルの選択物の各セルの識別子値から、デバイスの識別子値を決定することをさらに含む。デバイス、装置、制御装置及びコンピュータ可読媒体が、また、記載される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
デバイスの識別子値を決定する方法であって、前記デバイスは、個別にアドレス指定可能なセルのアレイを備え、それぞれのセルは、量子トンネル障壁を有する電子部品を備え、前記方法は、
前記アレイの前記個別にアドレス指定可能なセルの選択物の各セルについて、
前記セルの前記電子部品に、前記量子トンネル障壁を通過する電荷キャリアの通り抜けを可能にするのに十分な電位差を与えることと、
前記量子トンネル障壁を通過する量子トンネル電流を表す電気信号を基準電気信号と比較することと、
比較から、前記セルの識別子値を決定することと、
個別にアドレス指定可能なセルの前記選択物の各セルの前記識別子値から、前記デバイスの識別子値を決定することと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記電気信号が前記基準電気信号より大きい場合、前記セルの前記識別子値が第1ビット値に決定され、
前記電気信号が前記基準電気信号より小さい場合、前記セルの前記識別子値が前記第1ビット値とは異なる第2ビット値に決定される、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
各セルの前記電子部品は、トランジスタ又はコンデンサである、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
第1量子トンネル障壁を有する前記電子部品は、第1量子トンネル障壁を有する第1電子部品であり、各セルは、第2量子トンネル障壁を有する第2電子部品をさらに備え、前記方法は、
前記アレイの前記個別にアドレス指定可能なセルの前記選択物の各セルについて、
前記セルの前記第2電子部品に、前記量子トンネル障壁を通過する電荷キャリアの通り抜けを可能にするのに十分な電位差を与えること、をさらに含む、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記量子トンネル障壁を通過する量子トンネル電流を表す電気信号を基準電気信号と比較することは、
前記第1量子トンネル障壁を通過する第1量子トンネル電流を表す第1電気信号を、前記第2量子トンネル障壁を通過する第2量子トンネル電流を表す第2電気信号と比較すること、を含む、
請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記量子トンネル障壁を通過する量子トンネル電流を表す電気信号を基準電気信号と比較することは、前記電気信号を、前記アレイの第2セルの第2電子部品の第2量子トンネル障壁を通過する第2量子トンネル電流を表す第2電気信号と比較することを含む、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記第2電子部品は、トランジスタ又はコンデンサを備える、請求項4から請求項6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記方法は、前記量子トンネル電流から増幅された電圧を生成することをさらに含み、
前記量子トンネル電流を表す前記電気信号は、前記増幅された電圧を含む、
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記個別にアドレス指定可能なセルの前記選択物を選択することをさらに含む、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記デバイスの決定された識別子値を既知の識別子と比較することをさらに含み、前記既知の識別子は、アレイの個別にアドレス指定可能なセルの選択物に対応する、請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
通信プロトコル又はデータトランザクション、選択的には通信プロトコル又はデータトランザクションの態様の暗号化又は認証での使用のために、前記デバイスの前記識別子値を提供すること、及び/又は、前記デバイスの前記識別子値を物理的なオブジェクト又はデジタルオブジェクトのデジタル識別子として提供することをさらに含む、請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記デバイスは、集積回路を備える、請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
命令を有するコンピュータ可読媒体であって、前記命令は、前記コンピュータ可読媒体内に格納され、プロセッサによって実行されると、請求項1から請求項12のいずれか一項に記載の方法をプロセッサに実行させる、コンピュータ可読媒体。
【請求項14】
遠隔デバイスの識別子を決定するように構成された制御装置であって、
請求項1から請求項12のいずれか一項に記載の方法を実行させるために前記遠隔デバイスと通信するように構成された1つ又は複数のプロセッサを備える、
制御装置。
【請求項15】
デバイスであって、
個別にアドレス指定可能なセルのアレイであって、各セルは量子トンネル障壁を有する電子部品を備える、アレイと、
前記アレイの前記個別にアドレス指定可能なセルの選択物の各セルについて、
前記セルの前記電子部品に、前記量子トンネル障壁を通過する電荷キャリアの通り抜けを可能にするのに十分な電位差を与え、
前記量子トンネル障壁を通過する量子トンネル電流を表す電気信号を基準電気信号と比較し、
比較から、前記セルの識別子値を決定する、
ように構成された処理回路と、
を備え、
前記処理回路は、
個別にアドレス指定可能なセルの前記選択物の各セルの前記識別子値から、前記デバイスの識別子値を決定する、
ようにさらに構成された、
デバイス。
【請求項16】
量子トンネル障壁を有する前記電子部品は、第1量子トンネル障壁を有する第1電子部品であり、
各セルは、第2量子トンネル障壁を有する第2電子部品をさらに備え、
前記処理手段は、前記個別にアドレス指定可能なセルの前記選択物の各セルについて、前記セルの前記第2電子部品に、前記第2量子トンネル障壁を通過する電荷キャリアの通り抜けを可能にするのに十分な電位差を与えるようにさらに構成され、
前記量子トンネル障壁を通過する量子トンネル電流を表す電気信号を基準電気信号と比較することは、
前記第1量子トンネル障壁を通過する第1量子トンネル電流を表す第1電気信号を、前記第2量子トンネル障壁を通過する第2量子トンネル電流を表す第2電気信号と比較することを含む、
請求項15に記載のデバイス。
【請求項17】
前記処理手段は、
前記アレイの前記個別にアドレス指定可能なセルの前記選択物の各セルについて、前記量子トンネル障壁を通過する前記トンネル電流を表す前記電気信号を前記基準電気信号と比較するように構成されたラッチ付き比較器を含む、
請求項15又は請求項16に記載のデバイス。
【請求項18】
前記処理手段は、
前記アレイの前記個別にアドレス指定可能なセルの前記選択物の各セルについて、前記量子トンネル電流から増幅された電圧を生成するように構成されたトランスインピーダンス増幅器を含み、前記量子トンネル電流を表す前記電気信号は、前記増幅された電圧を含む、
請求項15から請求項17のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項19】
前記トランスインピーダンス増幅器は、前記セルの前記電子部品に前記電位差を与えるようにさらに構成される、請求項18に記載のデバイス。
【請求項20】
通信モジュールをさらに備え、前記通信モジュールは、
前記アレイの前記個別にアドレス指定可能なセルの前記選択物を示す通信を第三者から受信し、
前記デバイスの前記識別子値を示す第2通信を伝達する、
ようにさらに構成される、請求項15から請求項19のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項21】
前記処理回路は、
前記アレイの個別にアドレス指定可能なセルの前記選択物を選択し、
前記アレイの個別にアドレス指定可能なセルの前記選択物の各セルの前記識別子値を決定し、
個別にアドレス指定可能なセルの前記選択物の各セルの前記識別子から、前記デバイスの前記識別子値を決定する、
ように構成された構成された1つ又は複数のプロセッサをさらに備える、
請求項15から請求項20のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項22】
前記アレイは、物理複製困難関数である、請求項15から請求項21のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項23】
アレイに関するチャレンジ及び応答を格納するように構成されたコンピュータ可読記憶媒体であって、前記アレイは、複数の個別にアドレス指定可能なセルを備え、前記アレイの各セルは、量子トンネル障壁を有する電子部品を備え、前記コンピュータ可読記憶媒体は、
前記アレイのセルの選択物として解釈可能な第1情報と、
前記アレイの識別子値として解釈可能な第2情報と、を含み、前記アレイの前記識別子値は、前記アレイのセルの前記選択物に関連づけられ、請求項1から請求項12のいずれか一項に記載の方法を実行することで、前記アレイのセルの前記選択物から決定可能である、
コンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、デバイス装置の識別子値の決定または生成に関する。特に、本開示は、量子トンネル効果を利用することによるデバイスの識別子値の決定または生成に関する。
【背景技術】
【0002】
インターネットなどのネットワークは、日常業務の実行方法を変え、情報セキュリティに大きな影響を与えている。多くの日常業務は、デジタルデバイスが安全に認証したり、他の当事者によって認証されたり、及び/又は個人情報を安全に処理したりする必要がある。認証者が識別子を物理的に利用できる世界では、これは些細な問題である。例えば、銀行の窓口係は、顧客のパスポート又は他の識別文書を確認することで、銀行の支店で銀行の顧客を認証できる場合がある。ただし、顧客の識別文書がすぐに利用できない場合、例えば顧客がオンラインバンキングサービスを提供されている場合、状況ははるかに複雑になる。銀行は、正しい顧客が正しい資源と情報にアクセスできるようにする必要がある。しかし、銀行は、どのようにしてネットワークを介して顧客への通信リンクを保護し、データの盗聴又は改ざんを防ぐことができるだろうか?また、顧客は、自分がなりすましではなく銀行サービスに接続していることをどのように確認できるだろうか?
【0003】
このような問題に対処するために使用され得る多くの暗号化アプリケーションがある。例えば、デジタル署名又は他の秘密の暗号化鍵などである。安全な記憶又は認証源を提供するために、1つの一般的な方法は、暗号化鍵を不揮発性の電気的に消去可能なプログラマブル読み取り専用メモリ(EEPROM)またはバッテリバックアップ式スタティックランダムアクセスメモリ(SRAM)に配置し、デジタル署名又は暗号化などの暗号化操作を使用することである。ただし、このようなアプローチはしばしば多大な時間がかかり、電力消費の点でコストがかかり得る。さらに、不揮発性メモリは、暗号化鍵が取得され得る侵入型攻撃に対して脆弱であることがよくある。盗まれた暗号化鍵が、例えば銀行取引で、第三者によって使用された場合、銀行は当該鍵が第三者によって不正に使用されていることをすぐに知る方法がないため、そのような不正な取引は進み得る。
【0004】
したがって、ユーザに関連付けられたデバイス/装置を一意に識別できることが望ましく、デバイス/装置がないと、特定の操作またはトランザクションが進行しない可能性がある。つまり、デバイスの「指紋」を取得できることが望ましい。このような指紋または識別子は、複製が困難であり、かつ環境要因に対してほとんど不変である必要がある。これにより、デバイスの識別子が照会されるたびに、堅牢で信頼できる回答が返される。
【0005】
物理的に複製できない関数(物理複製困難関数又はPUFとしても知られる)は、安全なEEPROM及び他の高価なハードウェアを必要とせずに認証と秘密鍵の保存に使用される暗号化要素(プリミティブ)である。PUFは、秘密をデジタルメモリに保存する代わりに、通常は製造時に導入されるデバイスの固有の物理的特性から秘密を取得する。既知のPUFは、小さなシリカ球が浮遊している硬化エポキシのシートを介したレーザー光の散乱、又はいくつかの回路でのゲート遅延の製造ばらつきなど、古典的または巨視的な物理学と一般的に考えられるものに基づいて提供される。しかし、技術が進歩するにつれて、これまで以上に小型のデバイスが必要になり、そのような設計に基づくPUFの縮小は困難である。
【0006】
本発明の実施形態の目的は、先行技術の問題の1つまたは複数を少なくとも軽減することである。
【発明の概要】
【0007】
本発明の一態様によれば、デバイスの識別子値を決定するための方法が提供される。デバイスは、個別にアドレス指定可能なセルの1つ又は複数のアレイを含み、各セルは、量子トンネル障壁を有する電子部品を含む。この方法は、1つ又は複数のアレイの個別にアドレス指定可能なセルの選択物の各セルについて、セルの電子部品に電位差を与え、電位差は量子トンネル障壁を通る電荷キャリアの通り抜けを可能にするのに十分である。この方法は、1つ又は複数のアレイの個別にアドレス指定可能なセルの選択物の各セルについて、量子トンネル障壁を通る量子トンネル電流を表す電気信号を基準電気信号と比較することをさらに含む。この方法は、アレイの個別にアドレス指定可能なセルの選択物の各セルについて、比較から、セルの識別子値を決定することをさらに含む。この方法は、個別にアドレス指定可能なセルの選択物の各セルの識別子値から、デバイスの識別子値を決定することをさらに含む。
【0008】
本明細書に記載されているようなデバイスの識別子値を決定するための方法は、デバイスの大きさが縮小された場合でも、検証などのセキュリティ問題に対処することを好適にできるようにする。直感に反して、システムまたは部品での損失またはノイズの原因としてよくみられる量子トンネル効果は、代わりに、デバイスを識別できるという有利な効果に使用される。さらに、本明細書に記載の方法及びデバイスは、温度変化などの環境効果に対してほとんど不変であり、したがって、デバイスを識別するために確実に使用され得る。
【0009】
さらに、量子トンネル障壁のナノスケール、分子、または原子スケールの構造を改ざんすることは非常に困難であるため、デバイスの識別子値を導出するために量子トンネル電流を使用すると、信頼性の高いデバイス認証が可能になる。対照的に、SRAM-PUFなどの他の(従来の)PUFは、例えば、SRAM-PUFのセルに光を当てることによって改ざんされ得る。量子トンネル現象は、(トンネル障壁の)原子層のナノ構造に非常に敏感である。これらのナノ構造は、原子の位置と欠陥の本質的にランダムな性質に起因して、一意かつランダムである。これらの構造をシミュレートするには、膨大な計算能力が必要であり、適度な量子コンピュータを使用しても、合理的な所要時間では達成できない。これにより、アレイの出力が量子安全になる。
【0010】
アレイは、任意の適切な大きさ及び形状であり得る。「アレイ」という用語は、配列の/一群の/複数の個別にアドレス指定可能なセルを意味すると解釈され得る。セルは、任意のアレイのアドレス指定可能なユニットであってもよく、アレイの最小のアドレス指定可能なユニットを意味すると理解されてもよく、理解されなくてもよい。したがって、「セル」という用語は、広く解釈されることを意図しており、1つまたは複数の基本回路を意味すると解釈され得る。基本回路とは、量子トンネル電流を生成するために必要な最小限の回路を含む回路、具体的には量子トンネル障壁を備えた電子部品を意味すると解釈され得る。すなわち、セルは、複数の基本回路(最小アドレス指定可能ユニット)を含み得、それにより、複数の電子部品を含み得る。セルがアドレス指定されると、アドレス指定される基本回路の数は、セルに含まれる基本回路の数と等しくなる。例えば、アレイは基本回路の行および列を含み得、セルは基本回路の行/列全体を含み得る。さらに、第1セルは、1つまたは複数の基本回路の第1セットを含み得、第2セルは、1つまたは複数の基本回路の第2セットを含み得、いくつかの例では、第1セットおよび第2セットは、部分的に重複し得る。したがって、アレイ内では、基本回路よりも多くの可能なセルの組み合わせがアレイ内にあってもよい。
【0011】
セルの選択物は、1つまたは複数のセルの任意の組み合わせであってもよい。例えば、アレイのセルの選択物は、アレイの単一のセル、またはアレイの複数のセルの選択物を含んでもよく、またはいくつかの状況では、個別にアドレス指定可能なセルのアレイ全体であってもよい。セルの選択物は、セルの順序付けられた選択物であってもよい。つまり、セルの選択物は、アレイのセルが問い合わせ/探査される順序の指示を含んでもよい。
【0012】
セルの電子部品は、単一の/唯一の/2つより少ない量子トンネル障壁を含み得る。つまり、電位差が単一の量子トンネル障壁にのみに与えられ、部品の量子トンネル障壁を通過するトンネル電流を生成できるため、部品内での量子閉じ込めがない可能性がある。したがって、各セルの識別子値は、セル内の量子閉じ込め効果に依存せず決定され得る。上記されているように、セルは、複数の基本回路を含み得、識別子値が量子閉じ込め効果に依存しないように基本回路のそれぞれは単一の量子トンネル障壁を有する電子部品を有する。
【0013】
各セルの電子部品は、トランジスタを含み得る。トランジスタは、ソース端子、ドレイン端子及びゲート端子を含み得、ゲート端子は、トランジスタに固有の量子トンネル障壁(すなわち、トランジスタのゲート端子とチャネルとの間の絶縁酸化物層)によってソース端子及びドレイン端子から分離される。ソース端子とドレイン端子の間の電位差は実質的にゼロであり得る。電位差は、ゲート端子と、ソース端子及びドレイン端子の少なくとも1つとの間に与えられ得、電位差は、量子トンネル障壁を通る電荷キャリアの通り抜け(トンネリング)を可能にするのに十分である。結果として生じるゲート漏れ電流は、量子トンネル電流を含み得る。トンネル電流はさらに、ソース端子とドレイン端子の間の半導体チャネルの特性であってもよい。したがって、ゲート漏れ信号は、チャネルのナノスケール特性、たとえばチャネル内のランダムなドーパント分布に特徴的であってもよい。
【0014】
電子部品は、浮遊ゲートトランジスタを含み得る。電子デバイスは、量子ドットトランジスタを含み得る。
【0015】
各セルの電子部品は、コンデンサを含み得る。量子トンネル障壁は、コンデンサの2つの端子の間の誘電体層を含み得る。
【0016】
電荷キャリアは電子であってもよい。電荷キャリアは、正孔などの準粒子であってもよい。
【0017】
量子トンネル障壁は、5ナノメートル以下の平均厚さを有してもよい。例えば、量子トンネル障壁は、3ナノメートル以下の平均厚さを有し得る。
【0018】
量子トンネル電流は、漏れ電流、例えばゲート漏れ電流を含み得る。
【0019】
量子トンネル電流を表す電気信号は、量子トンネル電流自体を含み得る。電気信号は、増幅された電流または増幅された電圧を含み得る。電気信号は、量子トンネル電流を表す任意の適切な信号を含み得る。
【0020】
電気信号が基準電気信号よりも大きい場合、セルの識別子値は第1ビット値であると決定され得る。電気信号が基準電気信号よりも小さい場合、セルの識別子値は、第1ビット値とは異なる第2ビット値であると決定され得る。例えば、第1ビット値はゼロであり得、第2ビット値は1であり得る。第1ビット値は1であり、第2ビット値はゼロであってもよい。条件はさらに改善されてもよい。例えば、電気信号が基準電気信号以上である場合、セルの識別子値は、第1ビット値であると決定されてもよく、又は代替的に、電気信号が基準電気信号以下である場合、セルの識別子値は、第2ビット値であると決定されてもよい。もちろん、セルの識別子値は、任意の適切な形式、例えば、電流または電圧値をとることができる。
【0021】
第1量子トンネル障壁を有する電子部品は、第1量子トンネル障壁を有する第1電子部品であり得る。各セルは、第2量子トンネル障壁を有する第2電子部品をさらに含み得る。この方法は、アレイの個別にアドレス指定可能なセルの選択物の各セルについて、セルの第2電子部品に電位差を与えることを含み得、電位差は量子トンネル障壁を通る電荷キャリアの通り抜けを可能にするのに十分である。量子トンネル障壁を通る量子トンネル電流を表す電気信号を基準電気信号と比較することは、第1量子トンネル障壁を通る第1量子トンネル電流を表す第1電気信号を、第2量子トンネル障壁を通る第2量子トンネル電流を表す第2電気信号と比較することを含み得る。第2電子部品は、トランジスタまたはコンデンサを含み得る。好適には、各セルは、互いに比較するための2つの電子部品を含むため、各セルの識別子値は、他のセル/信号などを参照することなく確立され得る。
【0022】
量子トンネル障壁を通る量子トンネル電流を表す電気信号を基準電気信号と比較することは、電気信号を、アレイの第2セルの第2電子部品の第2量子トンネル障壁を通る第2量子トンネル電流を表す第2電気信号と比較することを含み得る。第2電子部品は、トランジスタまたはコンデンサを含み得る。したがって、基準電気信号は、アレイの別のセルから抽出され得る。
【0023】
他の例では、基準電気信号は、アレイの外部のデバイスのいくつかの機能によって生成され得る。すなわち、量子トンネル電流を表す電気信号は、各セルについて、共通の基準信号と比較される。好適には、これにより、アレイの各セルに必要な部品が少なくなる。
【0024】
この方法は、量子トンネル電流から増幅された電圧を生成することをさらに含み得、量子トンネル電流を表す電気信号は、増幅された電圧を含み得る。
【0025】
この方法は、個別にアドレス指定可能なセルの選択物を選ぶことをさらに含み得る。
【0026】
デバイスの識別子値を決定することは、(セルの所与の選択物に対して)デバイスの一意の識別子値を生成することを含み得る。例えば、登録者は、保存するデバイスの識別子値を生成し得る。登録者は、例えば、アレイのセルの第1選択物に基づいてデバイスの第1識別子値を生成し、セルの第1選択物の指示及び第1識別子値をメモリに格納できる。登録者は、アレイのセルのさらなる選択物に基づいてデバイスのさらなる識別子値を生成し、セルのさらなる選択物のさらなる指示をメモリに格納できる。このようにして、登録者は、セルと対応する識別子値の可能な組み合わせのデータベースを構築できる。
【0027】
デバイスの識別子値を決定することは、デバイスの識別子値を検証することを含み得る。例えば、認証者は、例えば、セルと対応する識別子値との可能な組み合わせの格納された又はアクセス可能なデータベースを参照することによって、デバイスを検証するためにデバイスの識別子値を決定し得る。アレイのセルの1つまたは複数の選択された組み合わせでデバイスを調べ、結果の識別子値を既知の値と比較することにより、認証者はデバイスを認証できる。
【0028】
この方法は、デバイスの決定された識別子値を、アレイの個別にアドレス指定可能なセルの選択物に対応する既知の識別子と比較することをさらに含み得る。このようにして、認証者は、認証者が通信しているデバイスが特定のアレイ、より具体的には既知の識別子が対応するアレイにアクセスできるかどうかを決定できてもよい。したがって、認証者はデバイスを認証できる。
【0029】
デバイスの識別子値は、任意の適切な方法で決定され得る。例えば、デバイスの識別子値は、セルの選択物のために決定された識別子値の連結を含み得る。デバイスの識別子値は、2進数のビット文字列を含み得る。他の例では、セルの識別子値は、関数への入力として、場合によっては非線形関数として考えられ得る。関数は、暗号化ハッシュ関数を含み得る。関数は、暗号化鍵導出関数を含み得る。関数は、暗号化鍵生成関数を含み得る。関数は、擬似ランダム置換を含み得る。関数は、擬似ランダム関数を含み得る。
【0030】
デバイス識別子値は、いくつかのアレイのセル識別子値から決定され得る。
【0031】
デバイス識別子は、アレイに関係のない他の特徴にさらに依存し得る。
【0032】
デバイスの識別子値は、対称ストリーム暗号鍵生成器又はブロック暗号への入力として使用され得る。デバイスの識別子値を使用して、非対称の公開鍵/秘密鍵対の公開鍵と秘密鍵を生成できる。デバイスの識別子値を使用して、ポスト量子暗号(量子安全)、つまり量子コンピュータによる攻撃に対して安全な、非対称の公開鍵/秘密鍵対の公開鍵と秘密鍵を生成できる。デバイスの識別子値を使用して、ポスト量子(量子安全)対称及び非対称暗号化システムの暗号鍵を生成できる。
【0033】
デバイスの識別子値は、鍵対及び識別子生成のためのブロックチェーンプロトコル(例えば、暗号通貨)などの分散プロトコルで使用され得る。
【0034】
方法は、通信プロトコル又はデータトランザクションで使用するためのデバイスの識別子値を提供することをさらに含み得る。デバイスの識別子値は、通信プロトコル又はデータトランザクションの態様の暗号化又は認証のために使用され得る。方法は、物理的なオブジェクト又はデジタルオブジェクトのデジタル識別子としてデバイスの識別子値を提供することをさらに含み得る。方法は、通信プロトコル若しくはデータトランザクションで識別子値を使用すること、及び/又は対象物若しくはデジタルオブジェクトのデジタル識別子として一意の識別子を使用することを含み得る。
【0035】
デバイスは、集積回路またはマイクロチップを含み得る。デバイスは、相補型金属酸化膜半導体(CMOS)チップを含み得る。デバイスは、モノのインターネットデバイスであってもよい。デバイスは、例えばインターネットを介した安全な通信で使用するためのものであってもよい。
【0036】
本発明の一態様によれば、コンピュータ可読媒体が提供される。コンピュータ可読媒体は、プロセッサによって実行されると、プロセッサに本明細書に記載の方法を実施させる、コンピュータ可読媒体に格納された命令を有する。コンピュータ可読媒体は、非一時的なコンピュータ可読媒体であり得る。
【0037】
本発明の一態様によれば、コンピュータ可読記憶媒体が提供され、コンピュータ可読記憶媒体は、アレイに関連するチャレンジ及び応答を格納するように構成され、アレイは、複数の個別にアドレス指定可能なセルを備え、アレイの各セルは、量子トンネル障壁を有する電子部品を備える。コンピュータ可読記憶媒体は、アレイのセルの選択物として解釈可能な少なくとも第1情報を含む/包含する。コンピュータ可読記憶媒体は、アレイの識別子値として解釈可能な少なくとも第2情報を含む/包含する。アレイの識別子値は、アレイのセルの選択物に関連付けられている。アレイの識別子値は、本明細書に記載の方法を実行することにより、アレイのセルの選択物から決定可能である。
【0038】
本明細書に記載のような方法を実行するためのコンピュータプログラム及び/又はコードは、コンピュータ可読媒体またはコンピュータプログラム製品上で、コンピュータなどの装置に提供され得る。コンピュータ可読媒体は、例えば、電子、磁気、光学、電磁気、赤外線、又は半導体システム、又は例えばインターネットを介してコードをダウンロードするためのデータ伝送のための伝播媒体であり得る。あるいは、コンピュータ可読媒体は、半導体又はソリッドステートメモリ、磁気テープ、リムーバブルコンピュータディスケット、ランダムアクセスメモリ(RAM)、読み取り専用メモリ(ROM)、剛体磁気ディスク、及びCD-ROM、CD-R/W又はDVDなどの光ディスクなどの物理的なコンピュータ可読媒体の形態をとることができる。
【0039】
本発明の一態様によれば、制御装置が提供される。制御装置は、本明細書に記載の方法を実行することにより、遠隔デバイスの識別子を決定するように構成される。制御装置は、遠隔デバイスと通信して本明細書に記載の方法の実行を引き起こすように構成された1つまたは複数のプロセッサを備える。具体的には、制御装置は、遠隔デバイスにアレイに問い合わせさせる通信を送受信し得る。
【0040】
制御装置は、登録者/登録デバイスと考えられ得、いくつかのチャレンジ及び関連する応答を決定して保存するように構成され得る。チャレンジは、問合せられるアレイのセルの選択物として解釈可能な任意の情報を含み得る。応答は、問い合わせ中のデバイスの識別子値として解釈可能な任意の情報を含み得る。
【0041】
制御装置は、アレイを有するデバイスにチャレンジ(アレイセルの選択物を示す情報)を送信し、応答を受信するように構成された認証者/認証デバイスとして考えられ得る。制御装置は、受信した応答を処理して、受信した識別子値を決定するように構成され得る。制御装置は、受信した識別子値を、チャレンジに関連付けられた保存された予想される値と比較するように構成され得る。制御装置は、比較から、デバイスがチャレンジに正常に応答したかどうかを判断するように構成され得、その後、デバイスが予想される値が関連付けられている特定のアレイにアクセスできるかどうかを判断する。本発明の一態様によれば、デバイスが提供される。デバイスは、個別にアドレス指定可能なセルのアレイを含み、各セルは、量子トンネル障壁を有する電子部品を含む。デバイスは、処理回路の形態の処理手段をさらに含む。処理回路は、アレイの個別にアドレス指定可能なセルの選択物の各セルについて、セルの電子部品に電位差を与えるように構成され、電位差は、量子トンネル障壁を通る電荷キャリアの通り抜けを可能にするのに十分である。処理回路は、アレイの個別にアドレス指定可能なセルの選択物の各セルについて、量子トンネル障壁を通過する量子トンネル電流を表す電気信号を基準電気信号と比較するように構成される。処理回路は、アレイの個別にアドレス指定可能なセルの選択物の各セルについて、比較から、セルの識別子値を決定するように構成される。処理回路はさらに、個別にアドレス指定可能なセルの選択物の各セルの識別子値から、デバイスの識別子値を決定するように構成される。
【0042】
量子トンネル障壁を有する電子部品は、第1量子トンネル障壁を有する第1電子部品であり得る。各セルは、第2量子トンネル障壁を有する第2電子部品をさらに含み得る。処理回路は、個別にアドレス指定可能なセルの選択物の各セルについて、セルの第2電子部品に電位差を与えるようにさらに構成され得、電位差は、第2量子トンネル障壁を通る電荷キャリアの通り抜けを可能にするのに十分である。量子トンネル障壁を通る量子トンネル電流を表す電気信号を基準電気信号と比較することは、第1量子トンネル障壁を通る第1量子トンネル電流を表す第1電気信号を、第2量子トンネル障壁を通過する第2量子トンネル電流を表す第2電気信号と比較することを含み得る。
【0043】
処理回路は、アレイの個別にアドレス指定可能なセルの選択物の各セルについて、量子トンネル障壁を通るトンネル電流を表す電気信号を基準電気信号と比較するように構成されたラッチ付き比較器を含み得る。
【0044】
処理手段は、アレイの個別にアドレス指定可能なセルの選択物の各セルについて、量子トンネル電流から増幅された電圧を生成するように構成されたトランスインピーダンス増幅器を含み得る。量子トンネル電流を表す電気信号は、増幅された電圧を含む。トランスインピーダンス増幅器は、セルの電子部品に電位差を与えるようにさらに構成され得る。
【0045】
デバイスは、第三者からの通信を受信するように構成された通信モジュールをさらに含み得る。通信は、アレイの個別にアドレス指定可能なセルの選択物を示す。通信モジュールは、デバイスの識別子値を示すことを示す第2通信を送信するように構成され得る。例えば、通信モジュールは、本明細書で説明される制御装置などの認証者に識別子値を通信できる。
【0046】
処理回路は、アレイの個別にアドレス指定可能なセルの選択物を選ぶように構成された1つまたは複数のプロセッサを備え得る。処理回路は、アレイの個別にアドレス指定可能なセルの選択物の各セルの識別子値を決定するように構成された1つまたは複数のプロセッサを備え得る。処理回路は、個別にアドレス指定可能なセルの選択物の各セルの識別子から、デバイスの識別子値を決定するように構成された1つまたは複数のプロセッサを備え得る。デバイスは、モノのインターネットデバイスであってもよい。デバイスは、たとえばインターネットを介した安全な通信で使用するためのものであってもよい。
【0047】
アレイは、物理複製困難関数であってもよい。具体的には、アレイの各セルは、量子トンネル障壁を有する1つまたは複数の部品を含み、本明細書で説明するように、量子トンネル障壁を通る量子トンネル電流は、当該量子トンネル障壁の特徴であり、電子部品は物理的に複製困難であり得る。量子トンネル電流によって明らかにされる量子トンネル障壁の特徴は、同じ半導体製造プロセスによって生成された表面上同一の部品間の部品-部品間のばらつきから生じる部品の1つまたは複数の特徴的なナノスケール特性に起因し得る。部品ごとに変化する特徴的なナノスケールの特性は、部品の製造に使用される半導体製造プロセスの制御を超え得る。したがって、同じ識別子値が実現できるようにアレイを複製することは困難である。
【0048】
本発明の一態様によれば、ウェハ又は基板が提供される。ウェハは、本明細書に記載の複数のアレイを含み、各アレイは、複数の個別にアドレス指定可能なセルを含み、各セルは、当該部品に固有の量子トンネル障壁を有する電子部品を含む。
【0049】
本明細書に記載の発明の多くの改良及び他の実施形態は、本明細書に提示された教示を参照して、これらの発明が関係する当業者に思い浮かぶであろう。したがって、本明細書の開示は、本明細書に開示される特定の実施形態に限定されないことが理解されよう。さらに、本明細書で提供される説明は、要素の特定の組み合わせの文脈における例示的な実施形態を提供するが、ステップおよび/または機能は、本発明の範囲から逸脱することなく、代替の実施形態によって提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0050】
ここで、本発明の実施形態は、添付の図面を参照して、例のみの目的で説明される。
【0051】
図1図1は、量子トンネル障壁を通過する粒子の1次元波動関数を示す。
図2図2は、トランジスタ部品の概略図を示す。
図3図3は、複数のセルを含むアレイを示し、各セルは、量子トンネル障壁を有する電子部品を含む。
図4図4は、デバイスの識別子値を決定するための方法のフローチャートを示す。
図5図5は、アレイと処理回路を示す。
図6図6は、デバイスのブロック図を示す。
図7図7は、制御装置/別のデバイスのブロック図を示す。
図8図8は、デバイスを登録する方法のフローチャートを示す。
図9図9は、デバイスを認証する方法のフローチャートを示す。
図10図10は、コンピュータ可読媒体のブロック図を示す。
【0052】
本明細書及び図面全体を通して、同様の参照番号は同様の部品を指す。
【発明を実施するための形態】
【0053】
本発明は、デバイスの識別子値を決定するための新規の/改善された方法、および当該方法を実行するための適切な装置およびデバイスを提供することに努める。以下に様々な実施形態が説明されるが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、これらの実施形態の変形は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲内に十分入り得る。
【0054】
以下では、物理複製困難関数、物理的に複製できない関数、及びPUFという用語は同じ意味で使用される。PUFは、関数的な動作を実行するオブジェクトを有する。つまり、特定の入力でクエリを実行すると、PUFは測定可能な出力を生成する。PUFへの入力は、複数の起こりえる出力を有し得るため、PUFは数学的な意味で真の関数ではない。通常、PUFへの入力は「チャレンジ」と呼ばれ、結果として得られるPUFの出力は「応答(レスポンス)」と呼ばれる。与えられたチャレンジとその測定された応答は、「チャレンジ/応答ペア」または「CRP」として知られている。「登録」とよく呼ばれる一般的な適用シナリオでは、1つ以上のチャレンジ/応答ペアが特定のPUFから収集され、対応するデータベースに保存される。「検証」または「認証」とよく呼ばれる別の一般的な適用シナリオでは、データベースからのチャレンジがPUFに与えられ、PUFによって生成された応答がデータベースからの対応する応答と比較される。1つまたは少数のチャレンジによってのみ問い合わせることができるPUFは、「物理的に難読化された鍵」または「POK」と呼ばれることがある。
【0055】
PUFは、対応するCRPの知識を持つ有効な認証者によって特定のチャレンジへの応答が予測され得るように、環境条件に対してほとんど不変であるべきである。この考えは、1つのPUFインスタンス化での2つの評価間の「イントラ距離」の概念によって主に捉えられる。これは、同じPUFに特定のチャレンジを2回与えた結果として生じる2つの応答間の距離である。PUFの1つのインスタンス化も、別のインスタンス化と明確に区別できる必要がある。特定のチャレンジの場合、2つのPUFインスタンス化間の「インター距離」は、両方のPUFインスタンス化にチャレンジを1回与えた結果として生じる2つの応答間の距離である。使用される距離測度は、応答の性質によって変わり得る。例えば、応答がビット文字列の場合、ハミング距離が使用されてもよい。望ましくは、PUFは、小さなイントラ距離、及び大きなインター距離を有するべきである。
【0056】
集積回路(IC)に関連して、PUFは、集積回路の(相補型金属酸化膜半導体「CMOS」)製造工程のランダムな乱れを利用して、ICの微細構造を固定長文字列へと物理的に縮小することによりランダムで一意の識別子を生成する擬似ランダム関数である。
【0057】
より高い集積密度及び性能を達成するために、CMOSデバイスとそれらの部品は、量子力学的効果がそのようなデバイス/部品の動作にとってより重要になっている範囲で、近年大きさが縮小されている。例えば、この小型化により、デバイスが、古典的には電流が流れることができないはずであった「オフ」状態にあると見なされた場合でも、デバイスの1つまたは複数の部品に電流が流れる可能性がある。漏れ電流を含むそのような量子力学的効果は、通常、そのようなシステムの損失と考えられる。例えば、トランジスタの漏れ電流は、そのトランジスタの制御に対する制限と考えられることがよくある。したがって、CMOSデバイスおよびICがますます小型化するにつれて、そのような一見有害な影響を軽減、修正、または排除しようとする傾向がある。
【0058】
本発明者らは、そのような量子力学的効果が損失又はノイズの発生源と考えられるのとは反対に、量子力学的効果、特に量子トンネル現象、がCMOS部品などの部品において有用な暗号化要素として利用され得ることを認識した。特に、そのような量子力学的効果は、基礎となる部品のナノスケールまたは原子スケールの特性に基づいており、本発明者らは、これらの量子力学的効果を使用して、基礎となる部品を一意に識別できることをさらに認識した。つまり、そのような量子力学的署名は、物理複製困難関数または物理的に難読化された鍵を記述するために使用され得る。
【0059】
本発明者らは、特に、量子トンネル障壁を通る量子トンネル電流が、量子トンネル障壁自体を一意に特徴づけ、量子閉じ込めを利用するデバイスとは異なり、環境効果、特に外部温度に対してほとんど不変であることを認識した。したがって、本明細書に開示される方法およびデバイスは、デバイスを識別するための堅牢な識別子値または署名値を提供できる。したがって、本発明者らは、量子トンネル電流を分析することによって、PUFまたはPOKを実装できることを認識した。
【0060】
本明細書に記載される方法の基礎となる原理を、図1を参照して説明する。この図は、粒子の波動関数110に対する量子トンネル障壁100によって提供されるエネルギーポテンシャルVの効果を示している。
【0061】
巨視的な世界では、物体が障害物にぶつかると、障害物を通過するのに十分なエネルギーがない限り、その経路はブロックされる。しかし、微視的な世界では、物体が古典的に必要なエネルギーを持っていなくても、物体が障害物又は障壁を通過する可能性がある。量子力学は、古典的には通過できないはずの物体が障害物の向こう側に見つけられ得る確率を教える。これが発生するプロセスは、量子トンネル現象として知られるランダムなプロセスである。
【0062】
電子などの荷電粒子が、古典的には通過できないはずの障壁を通過する場合、この電荷の移動によりトンネル電流が発生する。電子は波動のような性質を持っており、波動関数110で表すことができる。これは、図1に示す例では、1次元の波動関数ψ(x)である。
【0063】
図1の領域120(x<x)の領域120では、電子のエネルギーEは周囲のポテンシャルエネルギーV(x)よりも大きく(つまり、この領域には量子トンネル障壁がないため、電子は自由に移動できる)、したがって、この図では、波動関数110は第1形式を有する。
【0064】
(古典的な粒子が反射される位置)とx+bとの間である、図1の領域130では、電子のエネルギーEは、障壁のエネルギーV(x)より小さい。ここで、bは量子トンネル障壁100の厚さである。
【0065】
トンネリング中に波動関数110によって提供される透過振幅は、以下に比例する。
【0066】
【数1】
【0067】
【数2】
【0068】
ここで、xは古典的な転回点、mは粒子の質量、hはプランク定数である。障壁の反対側(電子のエネルギーEが再びポテンシャルエネルギーV(x)よりも大きい領域140)で粒子を見つける確率は、この振幅の2乗に比例する。
【0069】
【数3】
【0070】
ここで、bは障壁100の幅である。障壁を通過する確率関数の急激な減衰のため、障壁を通過したことが実際に判明する電子の数は、障壁100の厚さまたは幅に依存する。
【0071】
実際には、量子トンネル障壁100は、障壁が、対象の粒子のドブロイ波長に対応する長さスケール以下の空間寸法を有する限り、任意の適切な形態をとることができる。例えば、障壁100は、ナノスケールの誘電体、空気、真空、または他の媒体を含み得る。さらなる例が以下で提供される。
【0072】
当業者によって理解されるように、図1のポテンシャル障壁100は、ポテンシャルV(x)がその幅全体にわたって一定である一次元ポテンシャル障壁として簡略化された形で示されている。ただし、実際には、1次元の場合でも、障壁のナノスケールまたは原子スケールの構造的特徴、たとえば障壁が形成される誘電体の不純物は、その幅全体でポテンシャルV(x)の変動を引き起こし、障壁を通過する電子などの粒子の透過振幅が障壁固有に減衰することにつながる。これは、障壁を通るトンネリングから生じるトンネル電流が、障壁100の固有の特徴によっても影響を受けることを意味する。したがって、測定されたトンネル電流を使用して、量子トンネル障壁及びそのような量子トンネル障壁が配置されている任意のデバイスを一意に識別できる。当業者は、同じ考慮事項が、2次元障壁又は3次元障壁(ポテンシャルは、それぞれ多変量関数V(x,y)又はV(x,y,z)で記載され得る)などのより高い次元の障壁にも適用されることを理解するであろう。
【0073】
上記したように、PUFは、通常、製造工程中に導入されるデバイスの固有の物理的特性を利用する。このようなデバイス間のばらつきの発生源は、CMOS部品、特に金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)または金属絶縁膜半導体電界効果トランジスタ(MISFET)に関連して以下でさらに説明される。当業者は、これらのばらつきの発生源が他の構造および電子部品にも関連していることを理解するであろう。
【0074】
図2は、電子部品、特に、MOSFETまたはMISFETなどのトランジスタ部品200の概略図である。部品200は、ソース端子210、ドレイン端子220、ゲート端子230、およびボディ240を備える。ゲート端子230は、絶縁層250によって、ソース端子210およびドレイン端子220から分離されている。トランジスタ部品200は、絶縁層250が量子トンネル障壁200として機能するようにナノスケールの厚さを有するように、小さい。
【0075】
トランジスタ部品200は、電荷キャリア(電子または正孔)がソース端子とドレイン端子との間を流れるチャネルの電子的に可変な幅を有する。チャネルの幅は、ソース210とドレイン220との間に位置するゲート端子230の電圧によって制御される。
【0076】
前述のように、トランジスタ200などの部品が小さくなるにつれて、絶縁層250などの絶縁層は、ナノスケールで、絶縁層250を通じて電荷キャリアの量子トンネル現象が起こり得るまで薄くなる。特に、トランジスタ部品200では、トンネリングは、絶縁層250を介してゲート端子230に(またはその逆向きに)向かう。この効果はゲート漏れ電流と呼ばれることもあり、近年では、より厚い絶縁体層を使用したり、誘電率の高い絶縁材料を使用したりすることで、この漏れを低減する取り組みが行われている。しかしながら、本発明者らは、ゲート漏れ電流が部品に固有の特徴であり、部品の固有の識別子値を決定するために使用され得ることを認識した。
【0077】
ゲート漏れ電流は、絶縁体層250の厚さ(酸化膜厚)と強く相関している。酸化膜厚が大きい(例えば、3nmより大きい)と、電子の量子トンネル現象が少なくなるため、ゲート漏れ電流が小さくなる。一方、薄い酸化物の場合、より多くの電子がトンネリングし、ゲート漏れ電流が大幅に増加する。ゲート漏れ電流は、酸化膜厚が減少するにつれて指数関数的に増加する。
【0078】
酸化膜厚は、1~30nmの横方向のスケール、および数百ナノメートルの横方向のスケールで変化することが知られている。この変動は、ばらつきのランダムな発生源である。厚さのばらつきは、Si/SiO界面の粗さに関連しており、数桁のトンネル電流密度のばらつきにつながる。したがって、トランジスタ200のゲート漏れ/量子トンネル電流は一意であり、別の部品によって物理的に複製可能ではない。
【0079】
トランジスタ部品200は、シリコン基板上に二酸化ケイ素(SiO)の層を成長させ、金属または多結晶シリコンの層を堆積させるなど、任意の適切な工程によって製造され得る。複数のトランジスタは、ウェハまたは基板上に製造され得、各トランジスタは固有の量子トンネル障壁を有する。
【0080】
トランジスタ200の量子トンネル障壁250の固有のトンネル特性は、部品の製造中に生じる部品の公称特性からの逸脱から生じる。
【0081】
プロセスの変動性は、集積回路(IC)が製造されるときに、トランジスタなどの半導体部品の特性に自然に発生する変動である。プロセス変動の量は、変動は部品の全長又は幅の大部分にあり得、形状が原子の大きさ及びパターンリソグラフィマスクの光の波長などの基本寸法に近づくため、小さいスケールで特に関係がある。プロセスの変動性は、環境的、時間的、または空間的であり得る。空間的な変動は、部品間の性能の違いを引き起こし、この違いは、部品間の距離、又は例えばIC上の部品の位置によって変化する。
【0082】
線幅又は膜厚の不均一性などの典型的な空間的変動は、ロットにわたって、ウェハ(スライスまたは基板とも呼ばれる)にわたって、チップとダイにわたって、および回路ブロックとデバイス間で普遍的に存在する。つまり、任意のCMOSベースのデバイスの製造中、デバイスの公称デバイス特性からの変動は、ロット間変動、ウェハ間変動、チップ間変動、およびダイ内の変動などのオンチップでの変動に起因して入り込む。
【0083】
空間的変動は、系統的変動とランダム変動にさらに分類され得る。系統的変動は、リソグラフィシステムの非理想性、チャンバ効果、光学的近接効果、及び歪みシリコン効果による部品の空間的位置に依存する公称デバイス特性からの再現可能な逸脱である。一方、ランダムな変動は、製造工程のランダムな変動に起因する不均一性、ランダムドーパントゆらぎ(RDF)と呼ばれる半導体チャネル内(例えば、MOSDETのソース電極とドレイン電極との間のチャネル内)のドーパント原子の数と位置の微視的な変動、ラインエッジ粗さ(LER)、及び、例えばSi/Sio界面粗さなどの、界面粗さによる原子スケールの酸化膜厚変動(OTV)など、デバイスの変動性の予測できない特徴である。
【0084】
ランダムドーパントゆらぎ(RDF)は、最新のCMOSプロセスにおけるランダム変動の大きな原因であり、注入された不純物濃度の変動に起因する。特に、ランダムドーパントゆらぎは、金属酸化膜半導体などの材料中、例えばMOSFETのチャネル領域内、におけるドーパント原子の数と位置のランダムな変動を指す。ランダムドーパントゆらぎは、材料内の電界と電子密度を局所的に変調し、材料を通る直接のトンネル電流は非常に敏感であり、電子部品間の測定可能な変動源につながる。MOSFETにおいて、これは、RDFがゲート酸化物を介した量子トンネル効果から生じるゲート漏れ電流に対して大きな影響を有することを意味する。RDFはまた、閾値電圧(Vt)、短チャネル効果、ドレイン誘起障壁低下(DIBL)など、電子部品間で他の電気的特性について不一致を発生させる。ゲート長が100nm未満に縮小されると、ゲート下のドーパント原子の総数が数千または数百に減少し、トランジスタ部品の閾値電圧と駆動電流が大幅に変動する。
【0085】
非常に小さい構造、たとえば長さが100nm以下の場合、ドーパント電荷の離散性だけでなく、物質の原子性も個々の部品の特性に大きなばらつきをもたらす。例えば、MOSFETの場合、25nmでのゲート酸化物の厚さは、1~2原子層の一般的な界面粗さを持つ数個のシリコン原子層に相当する。これは、1nmのゲート酸化物/絶縁体層を使用したプロセスでは、酸化膜厚において50%より大きな変動をもたらす。
【0086】
ゲート漏れ電流(ゲートトンネル電流)は、ゲート酸化物の厚さに指数関数的に依存するため、トランジスタ部品200の酸化膜厚変動(OTV)もまた、トランジスタ部品間のゲート漏れ電流の差をもたらす。ゲート酸化物の厚さは、数百nmの横方向のスケール、及び1~30nmのはるかに小さい横方向のスケールで変化し得る。より小さな横方向のスケールでの厚さのばらつきは、Si/SiO界面の粗さに関連しており、公称酸化膜厚から1つのSi(001)原子間平面距離だけずれる。1~1.5nmの厚さのSiOゲート誘電体の場合、このような厚さのばらつきにより、局所的なトンネル電流密度が数桁変動し、均一なトランジスタ部品の平均と比較して総トンネル電流の平均が増加する。
【0087】
RDFとOTVの複合効果は、ゲート漏れ電流の変動に大きく影響する。高いゲートバイアスでは、ゲート漏れの変動は酸化膜厚のばらつきの影響によって支配され、個別のドーピング原子による影響はごくわずかである。これは、高いゲートバイアスでは、基板内の過剰な電子電荷がイオン化不純物の裸のポテンシャルを遮蔽し、OTVによって引き起こされる変動と比較して、RDFによって引き起こされるトンネル電流密度の変動が局所的になりすぎるためである。
【0088】
ラインエッジ粗さ(LER)は、固有のゲート漏れ変動のもう1つの原因である。ラインエッジ粗さは、リソグラフィフォトレジストがポリマー鎖に凝集する傾向があるために発生する。これらの集合体は、レジスト現像工程の速度に局所的に影響を与えるのに十分な大きさであり、これは解像度の低下とラインエッジの忠実度の低下につながる。これは、ゲートパターンの形成にとって重要であり、デバイスの幅に沿ったゲート長の不確実性に変換される。漏れゲート電流はゲートの寸法に直線的に比例するが、ソースとドレインの延長を形成するランダムな不純物の分布は、ゲートラインエッジの粗さに相関していることに注意する必要がある。
【0089】
電子部品200などのMOS構造では、ファウラー-ノルドハイムトンネル、直接トンネル、およびトラップアシストトンネルなどの3つの異なる量子トンネルプロセスを区別できる。
【0090】
直接トンネルでは、電荷キャリアは伝導帯によって形成されるポテンシャル障壁を直接通り抜けることができる。直接トンネルの重要性は、酸化膜(例えば、絶縁体層250)厚と酸化物の垂直な場に指数関数的に依存するが、ゲート幅とソース/ドレインの広がりとの重なりに線形的にのみ敏感である。直接トンネルは、基板の伝導帯からゲート端子230の伝導帯(またはその逆)へ通過する電子(伝導帯内の電子(ECB)として知られている)、又は基板の価電子帯から金属の伝導帯へ通過する電子(価電子帯トンネリング(EVB)として知られている)を含み得る。
【0091】
直接トンネル電流密度は、次のようにモデル化され得る。
【0092】
【数4】
【0093】
ここで、JDTは直接トンネル電流密度であり、Vox及びφoxはそれぞれゲート酸化物及びトンネル障壁の高さでのポテンシャル降下であり、mはシリコンの伝導帯の電子の有効質量であり、Toxは、酸化膜厚である。
【0094】
直接量子トンネル電流は次のように表すことができる。
【0095】
【数5】
【0096】
ここで、W及びLは、それぞれ有効なトランジスタの幅及び長さである。
【0097】
さらに、酸化物を横切る電界は温度に強く依存しないため、量子トンネル電流は弱い温度依存性を示す。好適には、これは、トランジスタ200の絶縁層250を通る量子トンネル電流を表す測定された電気信号から決定された識別子値が、温度にほとんど影響を受けず、したがって、温度に依存するメカニズムに基づく識別子よりも再現性が高いことを意味する。
【0098】
図3は、デバイスの識別に使用するためのアレイ300のブロック図を示している。図3に示されているように、アレイ/配列300は、複数のセル310を含む。複数のセルの各セルは、行デコーダ320および列デコーダ330を使用して個別にアドレス指定され得る。アレイ300は、任意の数のセル310を含むことができる。セルは、選択的に探査され得るアレイ300の構成単位(unit)と考えられ得る。図3に示される例では、各セル310は、量子トンネル障壁を有する単一の基本回路を含むが、当業者は、セルが、例えば、アレイの行全体若しくは列全体、又はアレイの他のアドレス可能ないくつかのユニットを含むことができることを理解するであろう。つまり、図3を参照すると、セルと基本回路とは同じ意味であると考えられるが、そうである必要はない。セルがいくつかの基本回路、例えばアレイの行又は列を含む場合、セルの決定された識別子は、セルの各基本回路の量子トンネル障壁を通る量子トンネル電流に基づいて決定され得る。
【0099】
図3では、電子回路の少なくとも一部は、アレイ300の特定のユニットセル310’/基本回路を構成する。アレイ300の各セル310は、表面上は特定のユニットセル310’と同じ電子回路を含み得、又は変化し得、例えば、アレイ300のいくつかのセルは、トランジスタの代わりにコンデンサ、又はトランジスタとコンデンサの組み合わせを含み得る。
【0100】
特定のセル310’は、トランジスタの形態の第1電子部品(そのため、図2と一致する200と符号が付されている)と、第2電子トランジスタ200’の形態の第2電子部品とを含む。第1トランジスタ200のソース210、ドレイン220、およびボディ240は、すべて同じ電位(接地として示されている)に保持される。第2トランジスタのソース210’、ドレイン220’、およびボディ240’もすべて当該同じ電位に保持される。第1トランジスタ200は、トランジスタ200のチャネルとゲート端子230(図3において「L」と符号が付されている)との間に第1量子トンネル障壁250を有する。第2トランジスタ200’は、トランジスタ200’のチャネルとゲート端子230’(図3において「R」と符号が付されている)との間に第2量子トンネル障壁250’を有する。上述したように、製造中に導入されるトランジスタの固有の差異により、第1量子トンネル障壁250は第1トランジスタ200を一意に特徴付け、第2量子トンネル障壁250’は第2トランジスタ200’を一意に特徴付ける。セル310’は、第1量子トンネル障壁と第2量子トンネル障壁との間に電位差を与えるために、端子「V」に電圧を印加するために行デコーダ320および列デコーダ330を使用して選択され得る。電位差は、電流が古典的に第1量子トンネル障壁または第2量子トンネル障壁のいずれかを通過できであろう閾値電圧を下回ってもよい。したがって、セルが選択されると、量子トンネル電流は、第1トランジスタ200の第1量子トンネル障壁を通って流れることができ、量子トンネル電流は、第2トランジスタ200’の第2量子トンネル障壁を通って流れることができ、古典的電流は流れ得ない。
【0101】
第1トランジスタ200と第2トランジスタ200’の酸化物層の間の固有の違いにより、第1トランジスタ200を介した端子「L」への第1量子トンネル電流は、第2トランジスタ200’を介した端子「R」への第2量子トンネル電流と、障壁間の電位差によって本質的に異なる。端子「L」及び「R」から測定されたトンネル電流(またはそれらのトンネル電流を表す他の電気信号)は、トランジスタ200および200’に特有であり、したがって、特定のセル310’に特有である。
【0102】
当業者は、特定のセル310’がセル310の一例に過ぎず、アレイのセルが非常に異なってもよいことを理解するであろう。例えば、2つの電子部品200、200’であって、それぞれが量子トンネル障壁を有する、2つの電子部品200、200’が図3に示されているが、より多くの電子部品であって、それぞれが(その部品を一意に特徴付ける)量子トンネル障壁を有する、より多くの電子部品があってもよい。例えば、各セルは、3つの部品、または4つの部品、またはそれ以上の部品を含んでもよく、それぞれが薄い量子トンネル障壁を有する。
【0103】
セルは、セルの識別子を確立する際に使用するための量子トンネル障壁を有する2つの部品を含み得、当業者によって理解されるように、特定のセル310’について示されるもの以外の多くのアーキテクチャが可能である。
【0104】
他の例では、各セルは、セル(そしてデバイス)の識別子値を確立する際に使用するための(特定のセル310’のような複数の部品とは対照的に)量子トンネル障壁を有する単一の電子部品を含む。例えば、セルは、端子「V」と「L」との間にコンデンサを含み得、端子「R」がなくてもよい。
【0105】
アレイ300のセル310からの量子トンネル電流は、通常、(ナノアンペア以下のスケールで)非常に小さい。各セル310は、そのような小電流を処理できるさらなる電子回路、例えば、セルを効果的に「オフ」にできるようにするためのスイッチング回路を備えることができる。このような回路は、「Near-zero leakage switching circuit」という名称の、2018年5月2日に出願された英国特許出願第1807214.0号に記載され、本件明細書の一部を構成するものとしてその開示全体を本件明細書に援用する。
【0106】
図4は、デバイスの識別子値を決定するための方法のフローチャートを示し、デバイスは、個別にアドレス指定可能な(選択可能な)セルのアレイを含み、各セルは、量子トンネル障壁を有する電子部品を含む。以下の図4の説明は図3を参照しているが、当業者は、図4の方法がより一般的に他のアレイ設計に適用可能であることを理解するであろう。
【0107】
410で、個別にアドレス指定可能なセルの選択物の各セルについて、電位差がセルの電子部品全体に与えられる。電位差は、量子トンネル障壁を通過する電荷キャリア(例えば、正孔または電子)の通り抜けを可能にするのに十分である。図3に関して、特定のセル310’が選択され、端子「V」と「L」の間に電位差が与えられ、端子「V」と「R」の間に電位差が与えられてもよい。
【0108】
420で、個別にアドレス指定可能なセルの選択物の各セルについて、量子トンネル障壁を通過する量子トンネル電流を表す電気信号が、基準電気信号と比較される。図3に関して、選択されたセル310’の第2電子部品200’を通る第2トンネル電流(端子「R」)を表す電気信号は、そのセルの基準電気信号と考えられ得る。選択されたセル310’の第1電子部品200を通る第1量子トンネル電流(端子「L」)を表す電気信号は、セルの当該基準電気信号と比較され得る。
【0109】
当業者は、基準電気信号が任意の適切な基準電気信号であり得ることを理解するであろう。例えば、基準電気信号は、アレイの基準セルを通るトンネル電流であってもよい。例えば、アレイの各セルは、量子トンネル障壁を有する1つの電子部品を有し得、その障壁を通る量子トンネル電流は、基準セルからの量子トンネル電流と比較され得る。一例では、基準セルは、選択的に選ばれてもよく、例えば、アレイの第1セルからの信号がアレイの第2セルからの信号と比較される一方、アレイの第3のセルがアレイの第4のセルと比較される。
【0110】
他の例では、基準電気信号は、すべてのセルに共通の基準信号、例えば、アレイの外部の信号であり得る。すなわち、共通の基準電気信号が420で使用されてもよい。
【0111】
430で、個別にアドレス指定可能なセルの選択物の各セルについて、そのセルの識別子値が、比較に基づいて決定される。図3に関して、一例では、端子「L」を通る(すなわち、ユニットセル310’の第1トランジスタ200を通過する)第1量子トンネル電流を表す電気信号が、基準電気信号(例えば、ユニットセル310’の端子「R」を通る第2量子トンネル電流を表す電気信号)よりも大きいことがわかると、そのセルの識別子値は「1」であると決定され得る。この例では、端子「L」を通る第1量子トンネル電流を表す電気信号が基準電気信号よりも小さいことが分かると、そのセルの識別子値は「0」であると決定され得る。このようにして、アレイ300の選択された個別にアドレス指定可能なセルの各セルについて識別子値を決定できる。もちろん、当業者は、セルの識別子値が2進数ビットではなく、他の適切な値、例えば、電流または電圧値であってもよいことを理解するであろう。
【0112】
440で、デバイスの識別子値が決定される。一例では、デバイスの識別子値は、ビット文字列、例えば、セルの選択物の各セルの識別子値を決定するときにステップ430で生成されるビット値の連結を含んでもよい。
【0113】
(セルの当該選択のための)デバイスの識別子値は、任意の適切な方法で決定され得る。別の例として、アレイ300の選択されたセル310から生成されたビット値の順序付けられた連結は、暗号化ハッシュ関数に入力され得る。ハッシュ関数は、任意のサイズのデータを固定サイズのデータにマッピングするために使用できる任意の関数である。暗号化ハッシュ関数は、暗号化での使用に適した特定のプロパティを持つ特殊なクラスのハッシュ関数であり、具体的には、一方向性関数を使用して、任意のサイズのデータを固定サイズのビット文字列(ハッシュ)にマッピングする、すなわち、反転できない関数である。したがって、ステップ430でのビット値の順序付けられた連結から生じるハッシュ値は、順序付けに大きく依存している。ハッシュ関数の使用は、アレイ300をPUFとして使用する場合、チャレンジがアレイのセル310の選択物及び順序付けを含み得るので、ポテンシャルのチャレンジ-応答ペアの数を有利に拡大する。デバイス識別子の値は、非対称暗号化公開鍵及び秘密鍵対の公開鍵と秘密鍵を生成するために使用可能であってもよい。
【0114】
図5は、アレイ300、及びアレイ300から識別子値を抽出するための例示的な処理回路500を示す。具体的には、図5は、アレイ300からの2つの信号(例えば、アレイ300の特定のセル310’の「L」および「R」端子からの2つの信号)を示しているが、当業者は、他の例において、信号のうちの1つだけがアレイ300から取得され得、アレイ300の外部の基準電気信号が、比較に使用され得る(各セルの信号が共通の基準信号と比較され得る)ことを理解するであろう。
【0115】
処理回路500は、トランスインピーダンス増幅器(TIA)510を備える。図5では、1つのTIAのみが示されているが、処理回路500は、例えば、各セルの2つの出力からのトンネル電流を増幅する、例えば、図3のアレイ300セル310’の「L」及びの「R」からの信号をそれぞれ増幅する、第1TIAと第2TIAとを備えてもよい。トランスインピーダンス増幅器510は、アレイ300の選択されたセル310からの量子トンネル電流を電圧に変換し、信号を増幅するように構成される。例えば、TIA510は、シングルエンドTIAであり得、セル310’の第1電子部品200(端子「L」)を通るトンネル電流を増幅された電圧に変換するように構成され得る。増幅された電圧は、量子トンネル障壁を通過するトンネル電流を表す電気信号として使用され、基準電圧(基準電気信号)と比較されて、選択されたセル310の識別子を決定できる。第2TIAは、セル310’の第2電子部品200’(端子「R」)を通るトンネル電流を増幅された基準電圧に変換するように構成され得る。当業者によって理解されるように、任意の適切なTIAを使用できる。図3に関して、TIA510は、アレイ300の個別にアドレス可能なセル310の選択物の各セル310について、量子トンネル電流から増幅された電圧を生成するように構成され得る。量子トンネル電流を表す電気信号は、増幅された電圧を含む。
【0116】
TIA510は、ソースメジャーユニットとしても動作できるようなソースメジャー機能を有してもよい。例えば、TIA510は、アレイ330のセル310の電子部品に電位を与え、また、結果として生じる小さな量子トンネル電流を、量子トンネル電流を表す電圧に変換するように構成されてもよい。図3に関して、TIA510は、アレイ300の個別にアドレス可能なセル310の選択物の各セル310について、セル310の電子部品に、部品の量子トンネル障壁を通過する量子トンネル現象を可能にするために必要な電位差を与えるように構成され得る。
【0117】
処理回路500は、電気信号、例えば電圧または電流、を比較し、どちらが大きいかを示すデジタル信号を出力する(又は、どちらの入力が小さいかを示すデジタル信号を出力する)ように構成された比較器520をさらに備える。比較器520は、入力が特定の時点で比較され得るように、ラッチされた(時間計測された)比較器を備えてもよい。比較器520への入力は、TIA510からの電気信号(例えば、増幅された電圧)および基準電気信号を含んでもよい。比較器520の出力は、0または1などのビット値として解釈可能な出力電圧であってもよい。したがって、比較器520は、アレイ300の個別にアドレス指定可能なセル310の選択物の各セル310について、セル310の電子部品の量子トンネル障壁を通るトンネル電流を表す電気信号を、基準電気信号と比較するように構成される。
【0118】
図5には示されていないが、各セルの識別子値は、プロセッサによって処理され、選ばれたセルの選択物に基づいてアレイ300又はアレイ300が設置されているデバイスの識別子値を決定するために使用され得る。
【0119】
当業者は、処理回路500が別の形態をとることができることを理解するであろう。例えば、処理回路は、いくつかの他の増幅手段、例えば、電流増幅器を含み得る。別の例では、処理回路は、信号が比較される前及び/又は後に信号をさらに処理するためのさらなる電子部品を含んでもよい。
【0120】
図6は、デバイス600のブロック図を示す。デバイス/データ処理システム600は、コンピュータの例であり、コンピュータで使用可能なプログラムコードまたは処理を実行する命令が配置され、それに基づいて実行され得る。当業者は、他のアーキテクチャが想定されることを理解するであろう。デバイス600は、デバイスの識別子値を決定する図4の方法を実行できる。
【0121】
デバイス600は、視覚的ディスプレイ610などの視覚化手段及び仮想または専用のユーザ入力/出力ユニット612を含む多くのユーザインタフェースを備える。入力/出力ユニット612は、デバイス600に接続され得る他のデバイス/ユーザとのデータの入出力を可能にする。例えば、入力/出力ユニット612は、キーボード、マウス、及び/又は他の適切な入力デバイスを介したユーザ入力のための接続を提供できる。さらに、入力/出力ユニット612は、出力をプリンタに送信できる。
【0122】
デバイス600はさらに、1つまたは複数のプロセッサ614、メモリ616、永続メモリ628、および電力システム618を含む。
【0123】
デバイス600は、プロセッサ614とリモートシステムとの間で通信を送受信するための通信モジュール620を備える。例えば、通信モジュール620は、インターネットなどのネットワークを介して通信を送受信するために使用され得る。通信モジュール620は、物理的および無線通信リンクのいずれか又は両方を使用して通信を提供できる。
【0124】
デバイスは、例えば、プロセッサ614によって処理される命令を含む非一時的なコンピュータ可読媒体を受けるためのポート622をさらに備える。
【0125】
デバイスはさらに、アレイ626、例えば図3のアレイ300、及びアレイ626と相互作用するための処理回路624を備える。アレイ626は、複数の個別にアドレス指定可能なセルを含み、複数の個別にアドレス指定可能なセルの各セルは、量子トンネル障壁を有する1つまたは複数の電子部品を含む。処理回路624は、プロセッサ614と動作してデバイス600の識別子を決定するために、アレイ626と相互作用するための手段を備える。
【0126】
メモリ616および永続ストレージ628は、記憶装置の例である。記憶装置は、例えば、限定しないが、一時的および/または永続的のいずれかでデータ、関数形式のプログラムコード、及び/又は他の適切な情報などの情報を格納できるハードウェアの任意の部品である。これらの例では、メモリ616は、例えば、ランダムアクセスメモリまたは任意の他の適切な揮発性または不揮発性記憶装置であり得る。永続ストレージ628は、特定の実装に応じて様々な形態をとることができる。例えば、永続ストレージ628は、1つまたは複数の部品またはデバイスを含み得る。例えば、永続ストレージ628は、ハードドライブ、フラッシュメモリ、書き換え可能な光ディスク、書き換え可能な磁気テープ、又は上記のいくつかの組み合わせであり得る。永続ストレージ628によって使用されるメディアもまた、取り外し可能であり得る。例えば、リムーバブルハードドライブが永続ストレージ628に使用され得る。
【0127】
プロセッサ614用の命令は、格納され得る。例えば、命令は、永続ストレージ628上で関数形式であり得る。これらの命令は、プロセッサ614による実行のためにメモリ616に読み込まれ得る。
【0128】
プロセッサ614は、メモリ616に読み込まれ得るソフトウェアのための命令を実行する機能を有する。プロセッサユニット614は、特定の実装に基づいて、1つまたは複数のプロセッサの一式であってもよく、又はマルチプロセッサコアであってもよい。さらに、プロセッサユニット614は、メインプロセッサがシングルチップ上にセカンダリプロセッサとともに存在する1つまたは複数の異種(ヘテロジニアス)プロセッサシステムを使用して実装されてもよい。別の例示的な例として、プロセッサユニット614は、同じタイプの複数のプロセッサを含む対称型マルチプロセッサシステムであってもよい。
【0129】
プロセッサ614は、データを受信し、メモリ616および永続ストレージ628にアクセスし、当該メモリ616若しくは永続ストレージ628のいずれかから、通信モジュール620から、又はユーザ入力デバイス612から受信した命令に基づいて動作するように構成される。
【0130】
プロセッサ614は、アレイ626との相互作用を制御するために処理回路624と相互作用するようにさらに構成される。「処理回路」という用語は広く解釈されるべきであり、したがって、いくつかの実施形態における処理回路はまた、それ自体で1つまたは複数のプロセッサを含み得る。
【0131】
プロセッサ614は、探査するアレイ626のセルの選択物を選択するように構成される。選択物は、第三者からプロセッサ614に提供され得る。例えば、「チャレンジ」は、通信モジュール620を介して、図7の制御装置700などの遠隔関係者からプロセッサ614で受信され得、遠隔関係者は、デバイス600を認証しようとする。チャレンジは、プロセッサ614によって処理されるときに、アレイ626のセルの選択を行うために使用される情報を含み得る。
【0132】
プロセッサ614は、処理回路626に、セルの選択物の各セルについて、そのセル内の電子部品(例えば、トランジスタ200)の量子トンネル障壁を横切って電位差を与えるように構成される。プロセッサ614は、処理回路624から、デバイス600の(セルの選択物に対応する)識別子値の指示または選択された複数のセルの各セルの識別子値の順を追った指示のいずれかを受信するように構成され得る。プロセッサ614は、アレイ626の選択された各セルの識別子値の受信された指示からデバイス600の識別子値を決定するように構成され得る。
【0133】
プロセッサ614は、デバイス600について決定された識別子値を、通信モジュール620を介してチャレンジが発信された遠隔関係者に通信するように構成され得る。すなわち、プロセッサは、チャレンジを受信し、応答の送信を調整するように構成され得る。遠隔関係者は、応答を使用して、少なくとも部分的にデバイスの識別を決定/デバイスを認証できる。
【0134】
図6は、デバイス600を参照して説明されてきたが、当業者は、デバイスが任意の適切なデバイス、例えば、サーバまたはモバイル電子デバイスを含み得ることを理解するであろう。デバイスは、モノのインターネットデバイスを含んでもよい。デバイスは、CMOSチップ/集積回路を備えていてもよい。デバイス600の機能の多くは、チップ上に提供され得る。デバイスは、アレイと、プロセッサなどの処理回路とを含み得、アレイを調べることから識別子値を決定する。
【0135】
図7は、制御装置700のブロック図を示している。デバイス600と同様に、制御装置はまた、視覚的ディスプレイ710などの視覚化手段及びユーザ入力/出力ユニット712を含む多くのユーザインタフェースを備える。制御装置700は、プロセッサ714、メモリ/ストレージユニット716、電源718、通信モジュール720、およびポート722をさらに備える。制御装置700の機能は、デバイス600の対応する機能と同様に動作できる。
【0136】
制御装置700は、登録者もしくは登録機関であってもよく、または認証者もしくは認証機関であってもよい。
【0137】
登録のために、制御装置700は、通信モジュール720を介してデバイス600にチャレンジ(すなわち、デバイス600のアレイ626のセルの選択物の指示)を通信するように構成され得る。選択物は、順序付けられた選択物であり得、例えば、通信は、選ばれた順序で、選択されたセルの識別子値を決定するようにデバイス600に指示できる。プロセッサ714は、通信モジュール720を介して、デバイス600の識別子値を受信できる。デバイス700は、セルの選択物(すなわち、チャレンジ)を、選択物が順序付けられた選択物であるかどうかなどの他の関連情報とともにストレージ716に格納でき、対応する応答をストレージ716に格納することもできる。制御装置700は、チャレンジ-応答ペアのデータベースまたはルックアップテーブルを構築するために、アレイ626の可能なセルの組み合わせごとに繰り返すことができる。
【0138】
認証のために、プロセッサ714は、通信モジュール720を介してデバイス600にチャレンジ(すなわち、デバイス600のアレイ626のセルの選択物の指示)を通信するように構成され得る。プロセッサ714は、通信モジュール720を介して、デバイス600の識別子値を受信できる。プロセッサ714は、ストレージ716内のルックアップテーブルを参照し、受信したデバイス識別子の値がルックアップテーブルの内容に基づいて予想される値と一致するかどうかを決定できる。プロセッサ714は、制御装置700がその特定のアレイ626を有するデバイス(デバイス600)と実際に通信していることを検証するために、必要な数のチャレンジを送信し、必要な数の応答を受信できる。
【0139】
当業者は、図6及び図7に関連して上記で説明した例が限定的ではなく、他のアーキテクチャが可能であることを理解するであろう。例えば、量子トンネル障壁を有する部品のアレイを備えるデバイス/装置は、例えば、集積回路(IC)またはマイクロチップを含み得る。図6及び図7に示されている構成要素は限定的ではない。当業者は、構成要素の任意の適切な組み合わせを使用でき、例えば、装置/デバイスは、ユーザ入力デバイス612、712、視覚的ディスプレイ610、710、又はメモリ/ストレージ616、628、716、又は電源若しくはポート622、722のうちの1つまたは複数を備えてもよく、備えなくてもよいことを理解するであろう。
【0140】
図8は、デバイス600などのデバイスを登録するための方法のフローチャートを示しており、任意の適切な装置によって実行され得る。一例として、デバイス600の回路は、それ自体を使用して、後の通信での認証者による使用のための外部記憶装置にポート622を介して送信される一連のチャレンジ-応答ペアを確立できる。登録は、例えば、デバイス600などのデバイスが製造された後、デバイスが工場を出る前に行われ得る。この方法は、デバイス600などの、アレイを有するデバイスの認証に使用するための多くのチャレンジ-応答ペアを確立するためのものである。810で方法が始まる。
【0141】
820で、アレイのセルの第1選択が行われる。セルの選択物の各セルについて、そのセル内の電子部品に電位差を与えて、量子トンネル電流を流し、量子トンネル電流を表す電気信号が基準電気信号と比較される(830)。比較に基づくセルの識別子値は、永続的または一時的に保存され得る(840)。
【0142】
セルの選択物のすべてのセルについて識別子値がまだ識別されていない場合、方法はステップ830に戻って次のセルを評価する。セルの選択物のすべてのセルの識別子値が決定された場合、(その選択物に基づいて)デバイスの識別子値が決定される(860)。
【0143】
デバイスの決定された識別子値は、セルの選択物の指示と共に格納される(870)。その他の必要な情報も保存される。例えば、チャレンジは、選択されたセルの順序付けられたリストを含み得、デバイスの決定された識別子値は、対応する順序でのセルの選択物の各セルについて識別された値の連結のハッシュ値を含み得る。このような場合、順序の指示も保存され得る。
【0144】
880で、チャレンジ応答ペアのテーブルがあれば(つまり、アレイのセルのさらなる選択物が必要がない場合)、方法は終了する(890)。そうでなければ、さらなる選択物/識別子値が必要な場合、方法は820に戻る。
【0145】
図9は、個別にアドレス指定可能なセルのアレイを有するデバイスを認証するための方法のフローチャートを示し、各セルは、量子トンネル障壁を有する電子部品を備える。デバイスは、デバイス600などのデバイスであり得る。当業者は、図9の方法が、デバイスを認証するための単なる1つの方法の例であることを理解するであろう。方法は910で始まる。
【0146】
920で、第1チャレンジが選択される。チャレンジは、アレイのセルの指示を含む。
【0147】
930で、デバイスの識別子値が受信される、つまりチャレンジ-応答ペアの応答とされる値が受信される。デバイスの識別子値は、図4の方法400を使用して決定され得る。
【0148】
940で、受信された識別子値が確認される。具体的には、ルックアップテーブルを参照して、受信された識別子値が、選択されたチャレンジに関連付けられた予想される識別子値と一致することを確認できる。
【0149】
受信された識別子が予想される識別子と一致しない場合(950)、認証は失敗したと考えられ得る(960)。ただし、受信された識別子が予想される識別子と一致する場合、方法は970に進む。
【0150】
(970)認証プロトコルが、正常に解決されるべき複数のチャレンジを必要とする場合、方法は920に戻り、さらなるチャレンジが選択される。
【0151】
必要な数のチャレンジがうまく解決された場合、認証者は、応答が実際に特定のアレイ626を有するデバイス(デバイス600)に対応することを決定できる。方法は990で終了する。
【0152】
図10は、いくつかの例によるコンピュータ可読媒体1000を示す。コンピュータ可読媒体1000は、ユニットを格納し、各ユニットは、実行されるとプロセッサまたは他の処理デバイスに特定の動作を実行させる命令1010を含む。コンピュータ可読媒体1000は、実行されると、処理デバイスにアレイの個々のセルにわたって電位差を付与させ、アレイのセルの識別子値を決定させ、アレイが設置されているデバイスの識別子値を決定させる命令1010を含む。
【0153】
コンピュータ可読媒体1000などのコンピュータ可読媒体は、ポート、例えばデバイス600のポート622、を介して、デバイス600などのアレイを有するデバイスと相互作用できる。
【0154】
コンピュータ可読媒体1000などのコンピュータ可読媒体は、また、特定のアレイのチャレンジ-応答ペアの一式を格納するために適切であり得る。例えば、コンピュータ可読媒体は、特定のアレイのセルの選択物に関連する第1情報を格納できる。コンピュータ可読媒体は、アレイの識別子値に関連する第2情報をさらに格納でき、識別子値は、本明細書に記載の方法を実行することでアレイから決定可能である。
【0155】
記載された実施形態の変形が想定され、例えば、開示された実施形態のすべての特徴は、そのような特徴が互換性がない場合を除いて、任意の方法及び/又は組み合わせで組み合わせられ得る。
【0156】
コンデンサは、アレイのセルの機能であり得る別の部品の例である。多くのコンデンサの設計があるが、最も単純な形式では、コンデンサは、誘電体媒体で分離された2枚の導電性プレートを備える。誘電体媒体が十分に薄いとき(例えば、平均厚さが3nm未満)、誘電体は完全な絶縁体として機能しないため、2つのプレート間に電位差が与えられると、誘電体を通って漏れ電流が流れる可能性がある。ナノアンペア(nA)の領域でのこの小さなDC電流の流れは、量子トンネル効果に基づいている。漏れ電流は、電子が誘電体媒体を物理的に通過する結果発生し、電源電圧が除去されるとコンデンサが経時的に完全に放電するため、不要な作用と考えられることがよくある。しかしながら、本発明者らは、コンデンサの漏れ電流を使用して、当該コンデンサを一意に識別できることに気付いた。したがって、コンデンサも、アレイの電子部品として使用され得る。
【0157】
本明細書に記載されるような量子トンネル障壁は、障壁を通る量子トンネル現象が起こり得るような任意の適切な厚さであり得る。例えば、量子トンネル障壁は、5nm未満、または4nm未満、または3nm未満、または2nm未満または1nm未満であり得る。量子トンネル障壁は、誘電酸化物などの任意の適切な絶縁材料で形成され得る。本明細書を通じてシリコンが言及されているが、III-V族材料などの他の材料が使用されてもよい。量子トンネル障壁を形成するために、任意の適切なk値を持つ誘電体が使用され得る。
【0158】
本明細書を通じて、トランジスタデバイスが説明されてきた。当業者は、トランジスタデバイスがp型又は/及びn型にドープされたトランジスタデバイスであってもよいこと、及びデバイスのドーパント密度もまた変化され得ることを理解するであろう。
【0159】
本明細書に記載のデバイスは、任意の適切なデバイス、例えば、金属酸化膜半導体デバイス、又は金属絶縁膜半導体デバイスであり得る。デバイスは、部品、チップ、コンピュータ、タブレット、携帯電話、又は他のそのようなデバイスを含むことができる。
【0160】
本発明の実施形態は、ハードウェア資源、ソフトウェア、又はハードウェア資源とソフトウェアとの組み合わせの形で実現され得ることが理解される。任意のそのようなソフトウェアは、消去可能若しくは書き換え可能であるかどうかにかかわらず例えばROMのような記憶装置などの揮発性若しくは不揮発性ストレージの形態で、又は、例えばRAM、メモリチップ、デバイス若しくは集積回路などのメモリの形態で、又は、例えばCD、DVD、磁気ディスク若しくは磁気テープなどの光学的若しくは磁気的に読み取り可能な媒体に、格納され得る。記憶装置および記憶媒体は、実行されたときに本発明の実施形態を実施する1つまたは複数のプログラムを格納するのに適した機械可読ストレージの実施形態であることが理解される。したがって、実施形態は、任意の特許請求の範囲に記載のシステムまたは方法を実装するためのコードを含むプログラムと、そのようなプログラムを格納する機械可読ストレージとを提供する。さらに、本発明の実施形態は、有線または無線接続を介して伝えられる通信信号などの任意の媒体を介して電子的に伝達され得、実施形態はこれを適切に包含する。
【0161】
(添付の特許請求の範囲、要約および図面を含む)本明細書に開示されたすべての特徴、及び/又はそのように開示された任意の方法または処理のすべてのステップは、相互に排他的であるそのような特徴及び/又はステップの少なくともいくつかの組み合わせを除いて、任意の組み合わせで組み合わされ得る。
【0162】
(添付の特許請求の範囲、要約および図面を含む)本明細書に開示されている各特徴は、特に明記しない限り、同じ、同等または類似の目的を果たす代替の特徴に置き換えられ得る。したがって、特に明記されていない限り、開示されている各特徴は、同等または類似の特徴の一般的なシリーズの一例にすぎない。
【0163】
本発明は、前述の実施形態の詳細に限定されない。本発明は、(添付の特許請求の範囲、要約および図面を含む)本明細書に開示された特徴の任意の新しいこと、若しくは任意の新規の組み合わせ、又は開示された任意の方法または処理のステップの任意の新しいこと、若しくは任意の新規の組み合わせに及ぶ。特許請求の範囲は、前述の実施形態だけを対象とすると解釈されるのではなく、特許請求の範囲内に含まれる任意の実施形態も対象とすると解釈されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【国際調査報告】