(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-17
(54)【発明の名称】糖尿病を処置するための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/23 20060101AFI20220610BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20220610BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20220610BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20220610BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20220610BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20220610BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20220610BHJP
A61K 31/231 20060101ALI20220610BHJP
A61K 31/232 20060101ALI20220610BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220610BHJP
A61K 38/28 20060101ALI20220610BHJP
A61K 31/48 20060101ALI20220610BHJP
A61K 31/506 20060101ALI20220610BHJP
A61K 31/522 20060101ALI20220610BHJP
A61K 31/403 20060101ALI20220610BHJP
A61K 31/4985 20060101ALI20220610BHJP
A61K 31/366 20060101ALI20220610BHJP
A61K 31/351 20060101ALI20220610BHJP
A61K 31/64 20060101ALI20220610BHJP
C07D 519/02 20060101ALN20220610BHJP
C07D 401/04 20060101ALN20220610BHJP
C07D 473/08 20060101ALN20220610BHJP
C07D 209/94 20060101ALN20220610BHJP
C07D 487/04 20060101ALN20220610BHJP
C07D 309/30 20060101ALN20220610BHJP
C07D 309/10 20060101ALN20220610BHJP
A23L 33/115 20160101ALN20220610BHJP
C07D 223/06 20060101ALN20220610BHJP
【FI】
A61K31/23
A61P3/10
A61P3/06
A61P3/04
A61P13/12
A61P9/12
A61P9/10 101
A61K31/231
A61K31/232
A61P43/00 121
A61K38/28
A61K31/48
A61K31/506
A61K31/522
A61K31/403
A61K31/4985
A61K31/366
A61K31/351
A61K31/64
C07D519/02
C07D401/04
C07D473/08
C07D209/94
C07D487/04 145
C07D309/30 R
C07D309/10
A23L33/115
C07D223/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021541605
(86)(22)【出願日】2020-04-16
(85)【翻訳文提出日】2021-09-10
(86)【国際出願番号】 IB2020053627
(87)【国際公開番号】W WO2020212915
(87)【国際公開日】2020-10-22
(31)【優先権主張番号】10-2019-0044514
(32)【優先日】2019-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516343099
【氏名又は名称】エンジーケム ライフサイエンシーズ コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】ENZYCHEM LIFESCIENCES CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100189131
【氏名又は名称】佐伯 拓郎
(74)【代理人】
【識別番号】100182486
【氏名又は名称】中村 正展
(74)【代理人】
【識別番号】100147289
【氏名又は名称】佐伯 裕子
(72)【発明者】
【氏名】ソン,キ ヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ジェ ファ
(72)【発明者】
【氏名】ユン,ソン ヨン
【テーマコード(参考)】
4B018
4C050
4C063
4C072
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB02
4B018LB06
4B018LB07
4B018LB08
4B018LB10
4B018MD10
4B018ME03
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4C050GG01
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4C084ZC75
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4C086ZA45
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4C206AA02
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4C206MA01
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4C206NA14
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4C206ZC33
4C206ZC35
4C206ZC75
(57)【要約】
糖尿病を処置するための方法および組成物が開示される。該組成物は、糖尿病を処置するための有効成分として式1のモノアセチルジアシルグリセロール化合物を含む。
【化1】
[式中、R1およびR2は、独立して、14~22個の炭素分子の脂肪酸残基である。]
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象に、有効量の式1の化合物:
【化1】
[式中、R1およびR2が独立して、14~22個の炭素原子の脂肪酸残基である]を投与することを含む、糖尿病に罹患しているかまたは易罹患性の対象を処置するための方法。
【請求項2】
R1およびR2が、独立して、パルミトイル、オレオイル、リノレオイル、リノレノイル、ステアロイル、ミリストイル、およびアラキドノイルからなる群から独立して選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
式1の化合物が以下の式2の化合物:
【化2】
である、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
対象に有効量の式1の化合物:
【化3】
[式中、R1およびR2が、独立して、14~22個の炭素原子の脂肪酸残基である]を投与することを含む、2型糖尿病、糖尿病性脂質異常症、耐糖能異常または耐糖能不適合(IGT)、空腹時血糖異常(IFG)、代謝性アシドーシス、ケトーシス、肥満、糖尿病性神経障害、糖尿病性網膜症および腎疾患、高脂血症、動脈硬化、高血圧、インスリン抵抗性、高血糖、高コレステロール血症、脂質異常症、またはX症候群、に罹患しているかまたは易罹患性の対象を処置する方法。
【請求項5】
R1およびR2が、パルミトイル、オレオイル、リノレオイル、リノレノイル、ステアロイル、ミリストイル、およびアラキドノイルからなる群から独立して選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
式1の化合物が以下の式2の化合物:
【化4】
である、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
対象が、2型糖尿病、糖尿病性脂質異常症、耐糖能異常または耐糖能不適合(IGT)、空腹時血糖異常(IFG)、代謝性アシドーシス、ケトーシス、肥満、糖尿病性神経障害、糖尿病性網膜症および腎疾患、高脂血症、動脈硬化、高血圧、インスリン抵抗性、高血糖、高コレステロール血症、脂質異常症、またはX症候群に罹患していることが特定され;および
式1の化合物が、前記特定された対象に投与される、請求項4~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
対象がヒトである、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
(a)式1の化合物:
【化5】
[式中、R1およびR2が、独立して、14~22個の炭素原子の脂肪酸残基である]の化合物;および
(b)対象における糖尿病を処置または予防するために前記化合物を使用するための説明書を含む、キット。
【請求項10】
R1およびR2が、独立して、パルミトイル、オレオイル、リノレオイル、リノレノイル、ステアロイル、ミリストイル、およびアラキドノイルからなる群から独立して選択される、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
(a)1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチルグリセロール(PLAG);
(b)糖尿病を処置または予防するためにPLAGを使用するための説明書
を含む、キット。
【請求項12】
治療有効量のPLAGを含む、請求項11に記載のキット。
【請求項13】
PLAGの使用のための書面による説明書を含む、請求項9~12のいずれか一項に記載のキット。
【請求項14】
説明書が製品ラベルである、請求項9~13のいずれか一項に記載のキット。
【請求項15】
(a)対象に、有効量の式1の1つまたは複数の化合物:
【化6】
[式中、R1およびR2が独立して、14~22個の炭素原子の脂肪酸残基である]を投与すること;および
(b)対象に、前記式1の1つまたは複数の化合物とは異なる、有効量の1つまたは複数の糖尿病薬または糖尿病処置薬を投与すること
を含む、糖尿病に罹患しているかまたは易罹患性の対象を処置するための方法。
【請求項16】
(a)対象に、有効量の式1の化合物:
【化7】
[式中、R1およびR2が独立して、14~22個の炭素原子の脂肪酸残基である]を投与すること;および
(b)対象に、前記式1の1つまたは複数の化合物とは異なる、有効量の1つまたは複数の糖尿病薬または糖尿病処置薬を投与すること、
を含む、2型糖尿病、糖尿病性脂質異常症、耐糖能異常または耐糖能不適合(IGT)、空腹時血糖異常(IFG)、代謝性アシドーシス、ケトーシス、肥満、糖尿病性神経障害、糖尿病性網膜症および腎疾患、高脂血症、動脈硬化、高血圧、インスリン抵抗性、高血糖、高コレステロール血症、脂質異常症、またはX症候群、に罹患しているかまたは易罹患性の対象を処置する方法。
【請求項17】
前記式1の1つまたは複数の化合物が、前記式1の1つまたは複数の化合物とは異なる前記1つまたは複数の糖尿病薬または糖尿病処置薬と組み合わせて投与される、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
R1およびR2が、パルミトイル、オレオイル、リノレオイル、リノレノイル、ステアロイル、ミリストイル、およびアラキドノイルからなる群から独立して選択される、請求項15~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
式1の化合物が以下の式2の化合物:
【化8】
である、請求項15~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
対象がヒトである、請求項15~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記1つまたは複数の糖尿病薬または糖尿病処置薬が、1つまたは複数のインスリン(例えば、フムリン、ノボリン、ノボログ、フレックスペン、フィアスプ、アピドラ、ヒューマログ、フムリンN、ノボリンN、トレシーバ、レベミル、ランタス、トウジェオ、ノボログミックス70/30、ヒューマログミックス75/25、ヒューマログミックス50/50、フムリン70/30、ノボリン70/30、ライゾデグなど)、アミリン模倣薬またはプラムリンチド(例えば、シムリンペン120およびシムリンペン60)、α-グルコシダーゼ阻害薬(例えば、アカルボース(Precose)、およびミグリトール(グリセット))、ビグアニド(例えば、メトホルミン-アログリプチン(カザノ)、メトホルミン-カナグリフロジン(インボカメット)、メトホルミン-ダパグリフロジン(シグデュオXR)、メトホルミン-エンパグリフロジン(シンジャルディ)、メトホルミン-グリピジド、メトホルミン-グリブリド(グルコバンス)、メトホルミン-リナグリプチン(ジェンタドゥエート)、メトホルミン-ピオグリタゾン(アクトプラス)、メトホルミン-レパグリニド(プランディメット)、メトホルミン-ロシグリタゾン(アバンダメット)、メトホルミン-サキサグリプチン(コンビグリーゼXR)、およびメトホルミン-シタグリプチン(ジャヌメット))、ドーパミンアゴニスト(例えば、ブロモクリプチン(サイクロゼット))、ジペプチジルペップチダーゼ4(DPP-4)阻害薬(例えば、アログリプチン(ネシナ)、アログリプチン-メトホルミン(カザノ)、アログリプチン-ピオグリタゾン(オセニ)、リナグリプチン(トラゼンタ)、リナグリプチン-エンパグリフロジン(グリクサンビ)、リナグリプチン-メトホルミン(ジェンタドゥエート)、サキサグリプチン(オングリザ)、サキサグリプチン-メトホルミン(コンビグリーゼXR)、シタグリプチン(ジャヌビア)、シタグリプチン-メトホルミン(ジャヌメットおよびジャヌメットXR)、シタグリプチンおよびシンバスタチン(ジュビシンク))、グルカゴン様ペプチド1受容体アゴニスト(例えば、アルビグルチド(タンゼアム)、デュラグルチド(トゥルリシティ)、エキセナチド(バイエッタ)、持続放出型エキセナチド(バイデュレオン)、リラグルチド(ビクトザ)、およびセマグルチド(オゼンピック))、メグリチニド(例えば、ナテグリニド(スターリクス)、レパグリニド(プランジン)、およびレパグリニド-メトホルミン(プランディメット))、ナトリウム-グルコース輸送体(SGLT)2阻害薬(例えば、ダパグリフロジン(ファシーガ(Farxiga))、ダパグリフロジン-メトホルミン(シグデュオXR)、カナグリフロジン(インボカナ)、カナグリフロジン-メトホルミン(インボカメット)、エンパグリフロジン(ジャルディアンス)、エンパグリフロジン-リナグリプチン(グリクサンビ)、エンパグリフロジン-メトホルミン(シンジャルディ)、およびエルツグリフロジン(ステグラトロ))、スルホニル尿素(例えば、グリメピリド(アマリル)、グリメピリド-ピオグリタゾン(デュエタクト)、グリメピリド-ロシグリタゾン(アバンダリル)、グリクラジド、グリピジド(グルコトロール)、グリピジド-メトホルミン(メタグリップ)、グリブリド(ダイアベータ、グリナース、ミクロナース)、グリブリド-メトホルミン(グルコバンス)、クロルプロパミド(ダイアビネース)、トラザミド(トリネース)、およびトルブタミド(オリネース、トルタブ))、チアゾリジンジオン(例えば、ロシグリタゾン(アバンディア)、ロシグリタゾン-グリメピリド(アバンダリル)、ロシグリタゾン-メトホルミン(アマリルM)、ピオグリタゾン(アクトス)、ピオグリタゾン-アログリプチン(オセニ)、ピオグリタゾン-グリメピリド(デュエタクト)、およびピオグリタゾン-メトホルミン(アクトプラスメット、アクトプラスメットXR)、アスピリンなど、ならびに先のいずれかの医薬上許容される塩または酸のうちの1つまたは複数である、請求項15~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
(a)1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチル-rac-グリセロール(PLAG);
(b)PLAGとは異なる、1つまたは複数の糖尿病薬または糖尿病処置薬;および
(c)糖尿病を処置または予防するために前記PLAGを使用するための説明書、
を含む、キット。
【請求項23】
i)糖尿病を処置するための式1の化合物
【化9】
[式中、R1およびR2が独立して、14~22個の炭素原子の脂肪酸残基である];および
ii)1つまたは複数の糖尿病薬または糖尿病処置薬、
を含む、組成物。
【請求項24】
式1の化合物が、PLAGである、請求項23に記載の組成物。
【請求項25】
糖尿病が、I型糖尿病(IDDM)またはII型糖尿病(NIDDM)である、請求項23または24に記載のキットまたは組成物。
【請求項26】
前記1つまたは複数の糖尿病薬または糖尿病処置薬が、1つまたは複数のインスリン(例えば、フムリン、ノボリン、ノボログ、フレックスペン、フィアスプ、アピドラ、ヒューマログ、フムリンN、ノボリンN、トレシーバ、レベミル、ランタス、トウジェオ、ノボログミックス70/30、ヒューマログミックス75/25、ヒューマログミックス50/50、フムリン70/30、ノボリン70/30、ライゾデグなど)、アミリン模倣薬またはプラムリンチド(例えば、シムリンペン120およびシムリンペン60)、α-グルコシダーゼ阻害薬(例えば、アカルボース(Precose)、およびミグリトール(グリセット))、ビグアニド(例えば、メトホルミン-アログリプチン(カザノ)、メトホルミン-カナグリフロジン(インボカメット)、メトホルミン-ダパグリフロジン(シグデュオXR)、メトホルミン-エンパグリフロジン(シンジャルディ)、メトホルミン-グリピジド、メトホルミン-グリブリド(グルコバンス)、メトホルミン-リナグリプチン(ジェンタドゥエート)、メトホルミン-ピオグリタゾン(アクトプラス)、メトホルミン-レパグリニド(プランディメット)、メトホルミン-ロシグリタゾン(アバンダメット)、メトホルミン-サキサグリプチン(コンビグリーゼXR)、およびメトホルミン-シタグリプチン(ジャヌメット))、ドーパミンアゴニスト(例えば、ブロモクリプチン(サイクロゼット))、ジペプチジルペップチダーゼ4(DPP-4)阻害薬(例えば、アログリプチン(ネシナ)、アログリプチン-メトホルミン(カザノ)、アログリプチン-ピオグリタゾン(オセニ)、リナグリプチン(トラゼンタ)、リナグリプチン-エンパグリフロジン(グリクサンビ)、リナグリプチン-メトホルミン(ジェンタドゥエート)、サキサグリプチン(オングリザ)、サキサグリプチン-メトホルミン(コンビグリーゼXR)、シタグリプチン(ジャヌビア)、シタグリプチン-メトホルミン(ジャヌメットおよびジャヌメットXR)、シタグリプチンおよびシンバスタチン(ジュビシンク))、グルカゴン様ペプチド1受容体アゴニスト(例えば、アルビグルチド(タンゼアム)、デュラグルチド(トゥルリシティ)、エキセナチド(バイエッタ)、持続放出型エキセナチド(バイデュレオン)、リラグルチド(ビクトザ)、およびセマグルチド(オゼンピック))、メグリチニド(例えば、ナテグリニド(スターリクス)、レパグリニド(プランジン)、およびレパグリニド-メトホルミン(プランディメット))、ナトリウム-グルコース輸送体(SGLT)2阻害薬(例えば、ダパグリフロジン(ファシーガ(Farxiga))、ダパグリフロジン-メトホルミン(シグデュオXR)、カナグリフロジン(インボカナ)、カナグリフロジン-メトホルミン(インボカメット)、エンパグリフロジン(ジャルディアンス)、エンパグリフロジン-リナグリプチン(グリクサンビ)、エンパグリフロジン-メトホルミン(シンジャルディ)、およびエルツグリフロジン(ステグラトロ))、スルホニル尿素(例えば、グリメピリド(アマリル)、グリメピリド-ピオグリタゾン(デュエタクト)、グリメピリド-ロシグリタゾン(アバンダリル)、グリクラジド、グリピジド(グルコトロール)、グリピジド-メトホルミン(メタグリップ)、グリブリド(ダイアベータ、グリナース、ミクロナース)、グリブリド-メトホルミン(グルコバンス)、クロルプロパミド(ダイアビネース)、トラザミド(トリネース)、およびトルブタミド(オリネース、トルタブ))、チアゾリジンジオン(例えば、ロシグリタゾン(アバンディア)、ロシグリタゾン-グリメピリド(アバンダリル)、ロシグリタゾン-メトホルミン(アマリルM)、ピオグリタゾン(アクトス)、ピオグリタゾン-アログリプチン(オセニ)、ピオグリタゾン-グリメピリド(デュエタクト)、およびピオグリタゾン-メトホルミン(アクトプラスメット、アクトプラスメットXR)、アスピリンなど、ならびに先のいずれかの医薬上許容される塩または酸のうちの1つまたは複数である、請求項23~25のいずれか一項に記載のキットまたは組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年9月30日出願の米国仮特許出願公開第62/908,382号明細書、および2019年4月16日出願の韓国特許出願第10-2019-0044514号公報に対する優先権の利益を主張しており、これらの出願の内容全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、糖尿病を処置するためのモノアセチルジアシルグリセロール化合物を含む組成物、より詳細には、糖尿病を処置することができるおよび糖尿病の症状を軽減することができる経口投与用のモノアセチルジアシルグリセロール化合物を含む組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
真性糖尿病は、インスリン機能の不全によるグルコース、脂質および/またはアミノ酸の代謝の異常に起因する慢性疾患である。糖尿病は、ランゲルハンス島のβ細胞が破壊され、インスリン分泌が不可逆的に低減して高血糖になるI型糖尿病(インスリン依存性糖尿病:IDDM)と、ランゲルハンス島において、グルコースに対するインスリン応答が低下するかまたはグルコースに対するインスリン抵抗性が上昇し、それにより慢性的な高血糖を結果としてもたらすII型糖尿病(インスリン非依存性糖尿病:NIDDM)とに大きく分類される。
【0004】
グルコースは、身体の主要なエネルギー源のうちの1つであり、ほとんどの細胞によって使用され、細胞機能において重要な役割を担っている。グルコースが摂取されると、血糖値が上昇して膵ベータ細胞内でインスリンが分泌される。分泌されたインスリンに応答して、血糖が筋肉または脂肪組織へと吸収され、エネルギー源として使用される。しかしながら、血糖値の上昇は、膵ベータ細胞の機能および生存に対して有害な影響を及ぼす。高濃度のグルコースは、ベータ細胞の過剰刺激を誘導し、このことによって、インスリン合成速度がインスリン分泌速度よりも低くなる。結果として、ベータ細胞の最も重要な機能であるグルコース刺激性インスリン分泌(GSIS)が適切に機能しない。加えて、高濃度グルコースは、酸化ストレス、小胞体ストレス、またはアポトーシスを誘導するだけでなく、細胞分化も抑制し、したがって、ベータ細胞の生存に負の影響を及ぼす。
【0005】
糖尿病のための新たな療法を有することが望ましいであろう。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様では、モノアセチルジアシルグリセロール化合物を含む、糖尿病を処置するための組成物および方法が提供される。好ましい方法および組成物では、過剰なグルコース取り込みに起因するベータ細胞の損傷は、膵ベータ細胞におけるグルコース輸送体2(GLUT2)のエンドサイトーシスを促進することによって軽減または緩和することができる。
【0007】
別の態様では、毒性がなく、かつ糖尿病の症状を軽減するモノアセチルジアシルグリセロール化合物を含む、糖尿病を処置するための組成物および方法である。
【0008】
より詳細には、糖尿病を処置するための式1のモノアセチルジアシルグリセロール化合物を含む組成物および方法が提供される。
【0009】
【0010】
式中、R1およびR2は独立して、14~22個の炭素原子の脂肪酸残基、好ましくは15~20個の炭素原子の脂肪酸残基である。
【0011】
一実施形態では、モノアセチルジアシルグリセロールは、以下の式2の化合物である。
【0012】
【0013】
式2の化合物は、1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチル-rac-グリセロールであり、式1のR1およびR2がそれぞれパルミトイルおよびリノレオイルである式1の化合物に相当する。式2の化合物は、本開示では「PLAG」または「EC-18」と称されることがある。
【0014】
本発明はまた、糖尿病を軽減または予防するための式1または式2のモノアセチルジアシルグリセロール化合物を含む健康機能性食品組成物、および該組成物を糖尿病の疑いのある対象に投与することを含む、糖尿病を処置する方法も提供する。
【0015】
ある特定の好ましい態様では、本発明によるモノアセチルジアシルグリセロール化合物(すなわち、式1または式2の化合物)を含有する、糖尿病を処置するための組成物は、グルコース輸送体2(GLUT2)のエンドサイトーシスを促進し、それにより、過剰なグルコース取り込みによる膵ベータ細胞損傷を減弱させる。
【0016】
考察したように、式1および式2の化合物は、I型糖尿病またはII型糖尿病をはじめとする糖尿病に罹患しているかまたは易罹患性の対象を処置するために使用することができる。
【0017】
詳細な態様では、式1または2の化合物は、糖尿病前症患者を処置するために使用される。
【0018】
さらなる態様では、式1または2の化合物は、2型糖尿病、糖尿病性脂質異常症、耐糖能異常または耐糖能不適合(IGT)、空腹時血糖異常(IFG)、代謝性アシドーシス、ケトーシス、食欲調節、肥満、糖尿病性神経障害、糖尿病性網膜症および腎疾患をはじめとする糖尿病と関係する合併症、高トリグリセリド血症、高コレステロール血症および食後高脂血症をはじめとする高脂血症、動脈硬化、ならびに高血圧、に罹患しているかまたは易罹患性の対象を処置するために使用される。
【0019】
なおもさらなる態様では、式1または2の化合物は、インスリン抵抗性、高血糖、高脂血症、高コレステロール血症、脂質異常症、X症候群またはメタボリックシンドロームに罹患しているかまたは易罹患性の対象を処置するために使用される。
【0020】
詳細な態様では、本明細書に開示される疾患または障害の処置のために対象が特定および選定され、次いで、式1または2の化合物が該特定および選定された対象に投与される。例えば、患者を2型糖尿病に罹患していると特定および選定することができ、2型糖尿病に罹患していると特定された患者に式1または2の化合物を投与し、それにより、2型糖尿病を軽減または処置することができる。
【0021】
ある特定の態様では、本治療方法は、創傷または損傷組織に悩む対象の処置とは関係していない。この態様では、創傷もしくは損傷組織に悩む対象および/または創傷もしくは損傷組織のための処置を求めている対象は、本治療方法から除外される。関連する態様では、組織の修復または再生を包含する処置を求めている対象は、本治療方法から除外される。
【0022】
さらなる態様では、先に明らかにされた式1または2の化合物を含む医薬組成物が提供される。該組成物は、適切には、1つまたは複数の医薬上許容される担体を含むことができる。好ましい実施形態では、該組成物は、本明細書に開示される糖尿病または他の疾患もしくは障害の処置のために製剤されることができるか、またはさもなくば該処置に適合していることができる。好ましい態様では、該組成物は、錠剤またはカプセル剤として経口投与に適合していることができる。
【0023】
なおもさらなる態様では、本明細書に開示される糖尿病または他の疾患もしくは障害を処置または予防するために使用するためのキットが提供される。本発明のキットは、適切には、1)式1または式2の1つまたは複数の化合物と、2)本明細書に開示される糖尿病または他の疾患もしくは障害を処置または予防するために1つまたは複数の化合物を使用するための説明書とを含むことができる。好ましくは、キットは、治療有効量の式1または式2の1つまたは複数の化合物を含む。説明書は、適切には、製品ラベルをはじめとする、記載された形式であることができる。
【0024】
別の態様では、併用療法のための組成物が提供される。該組成物は、
i)糖尿病を処置するための式1の化合物;
【化3】
[式中、R1およびR2が独立して、14~22個の炭素原子の脂肪酸残基である];および、
ii)1つまたは複数の糖尿病薬または糖尿病処置薬
を含む。
【0025】
さらなる態様では、糖尿病に罹患しているかまたは易罹患性の対象を処置するための方法が提供される。該方法は、該対象に、有効量の式1の化合物を投与すること:
【化4】
【0026】
[式中、R1およびR2が独立して、14~22個の炭素原子の脂肪酸残基である];および
該対象に有効量の1つまたは複数の糖尿病薬または糖尿病処置薬を投与すること、を含む。
【0027】
別の態様では、2型糖尿病、糖尿病性脂質異常症、耐糖能異常または耐糖能不適合(IGT)、空腹時血糖異常(IFG)、代謝性アシドーシス、ケトーシス、肥満、糖尿病性神経障害、糖尿病性網膜症および腎疾患、高脂血症、動脈硬化、高血圧、インスリン抵抗性、高血糖、高コレステロール血症、脂質異常症、またはX症候群、に罹患しているかまたは易罹患性の対象を処置する方法が提供される。
【0028】
該方法は、該対象に、有効量の式1の化合物:
【化5】
[式中、R1およびR2が独立して、14~22個の炭素原子の脂肪酸残基である]を投与すること;および
該対象に、有効量の1つまたは複数の糖尿病薬または糖尿病処置薬を投与すること、
を含む。
【0029】
ある特定の態様では、式1もしくは2の1つまたは複数の化合物またはPLAGは、該式1もしくは2の1つまたは複数の化合物またはPLAGとは異なる1つまたは複数の糖尿病処置薬と組み合わせてまたは協調して対象に投与することができる。
【0030】
別の態様では、(a)PLAG;(b)1つまたは複数の糖尿病薬または糖尿病処置薬;および(c)糖尿病を処置または予防するためにPLAGを使用するための説明書を含むキットが提供される。
【0031】
本発明の他の態様を以下に開示する。
本特許または出願ファイルは、カラーで作成された少なくとも1つの図面を含有している。本特許または特許出願公開の、カラー図面付きの写しは、請求および必要な料金の支払いに応じて特許庁によって提供される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】
図1(
図1A~
図1Dを含む)は、本発明の一実施形態による組成物を投与したときの、血糖値のチャート(
図1A)、血清インスリンのチャート(
図1B)、測定された体重変化のチャート(
図1C)、および染色された膵臓組織の画像(
図1D)を示す。
【0033】
【
図2】
図2(
図2A~
図2Cを含む)は、本発明の一実施形態による組成物を投与したときの、フローサイトメトリーによって分析されたINS-1細胞における細胞アポトーシスを示すチャート(
図2A)、細胞アポトーシスのチャート(
図2B)、ならびにBAX、シトクロムcおよびカスパーゼ3などのアポトーシス関連タンパク質の発現のチャート(
図2C)を示す。
【0034】
【
図3】
図3(
図3A~
図3Cを含む)は、本発明の一実施形態による組成物を投与したときの、ウエスタンブロット法によって測定されたグルコース輸送体2(GLUT2)およびRac1の発現のチャート(
図3Aおよび
図3B)、ならびに免疫蛍光アッセイで観察されたグルコース輸送体2(GLUT2)の発現の画像(
図3C)を示す。
【0035】
【
図4】
図4(
図4A~
図4Eを含む)は、本発明の一実施形態による組成物を投与したときの、活性酸素種(ROS)の発現のチャート(
図4Aおよび
図4B)、免疫蛍光アッセイで観察されたROS発現の画像(
図4C)、および膵ベータ細胞における細胞内ROSの産生とアポトーシスとの関連性を解析するチャート(
図4Dおよび
図4E)を示す。
【0036】
【
図5】
図5(
図5A~
図5Cを含む)は、本発明の一実施形態による組成物を投与したときの、グルコース取り込みのチャート(
図5Aおよび
図5B)および免疫蛍光アッセイで観察されたグルコース取り込みの画像(
図5C)を示す。
【0037】
【
図6】
図6(
図6A~
図6Eを含む)は、本発明の一実施形態による組成物を投与したときの、GLUT2発現と、アポトーシス、ROS産生およびグルコース取り込みとの関係についてフローサイトメトリーによって分析されたチャートを示す。
【0038】
【
図7】
図7(
図7A~
図7Fを含む)は、本発明によるPLAGの構造式、およびPLH(A)、ならびにPLAG活性の特異性を示すチャートを示す。
【0039】
【
図8】
図8は、PLAGが高グルコース誘導性細胞アポトーシスを低減させることを示す。INS-1細胞における細胞アポトーシスを、アネキシンV色素および7-AAD色素を使用するフローサイトメトリーによって分析した。糖毒性誘発膵ベータ細胞損傷に対するPLAGの保護効果を、高グルコース(HG)処理後にさらに調べた。細胞アポトーシスは、HG処理細胞において最大35%上昇し、PLAGは、HG誘導性細胞アポトーシスを用量依存的に低下させた。
【0040】
【
図9】
図9は、PLAGが高グルコース(HG)誘導性細胞内ROS産生を低減させることを示す。INS-1細胞における細胞内ROS産生を、DCFH-DA色素を使用するフローサイトメトリーによって分析した。ROS産生もまた、HG処理細胞内で上昇し、PLAG処理によって用量依存的に低下した。
【0041】
【
図10】
図10は、PLAGが、高グルコース処理したINS-1細胞においてGLUT2のエンドサイトーシスを加速させたことを示す。高グルコース処理したINS-1細胞における原形質膜GLUT2発現に対するPLAGの効果。膜画分中のGLUT2の発現をウエスタンブロット法によって分析した。HGは、GLUT2およびTXNIP(αアレスチン)の発現を活性化するChREBP誘導を刺激する。PLAG処理した細胞では、原形質膜におけるGLUT2発現は、15分まで徐々に低下し、次いで回復し、60分で対照レベルに戻った。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本発明の糖尿病を処置するための組成物は、式1のモノアセチルジアシルグリセロール化合物を有効成分として含む。
【0043】
【0044】
本発明では、「モノアセチルジアシルグリセロール化合物」という用語は、アセチル基と2個のアシル基とを含有するグリセロール誘導体を意味し、モノアセチルジアシルグリセロール(MADG)とも称される。
【0045】
式1中、R1およびR2は、独立して、14~22個の炭素原子の脂肪酸残基であり、好ましくは15~20個の炭素原子の脂肪酸残基である。該脂肪酸残基は、-OH基がそのカルボキシル基から除外された脂肪酸における残存部分を意味する。式1中、R1およびR2の非限定的な例としては、パルミトイル、オレオイル、リノレオイル、リノレノイル、ステアロイル、ミリストイル、アラキドノイルなどがある。R1およびR2の好ましい組み合わせとしては、オレオイル/パルミトイル、パルミトイル/オレオイル、パルミトイル/リノレオイル、パルミトイル/リノレノイル、パルミトイル/アラキドノイル、パルミトイル/ステアロイル、パルミトイル/パルミトイル、オレオイル/ステアロイル、リノレオイル/パルミトイル、リノレオイル/ステアロイル、ステアロイル/リノレオイル、ステアロイル/オレオイル、ミリストイル/リノレオイル、ミリストイル/オレオイルなどがある。R1およびR2のより好ましい組み合わせは、パルミトイル/リノレオイルである。光学活性において、式1のモノアセチルジアシルグリセロール誘導体は、(R)-形態、(S)-形態またはラセミ混合物であることができ、好ましくはラセミ混合物であることができ、これらの立体異性体を含んでよい。
【0046】
一実施形態では、モノアセチルジアシルグリセロールは、以下の式2の化合物である。
【0047】
【0048】
式2の化合物は、1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチル-rac-グリセロールであり、式1のR1およびR2がそれぞれパルミトイルおよびリノレオイルである式1の化合物に相当する。式2の化合物は、本開示では「PLAG」または「EC-18」と称されることがある。
【0049】
モノアセチルジアシルグリセロール化合物は、天然のシカの枝角から分離および抽出することができるか、または公知の有機合成法(韓国特許第10-0789323号公報)によって製造することができる。より具体的には、シカの枝角をヘキサンで抽出した後、残渣をクロロホルムで抽出し、クロロホルムを除去してクロロホルム抽出物を得る。この抽出のための溶媒の量は、シカの枝角を浸漬するのにちょうど十分である。一般に、シカの枝角1kgに対して約4~5リットルのヘキサンおよび/またはクロロホルムが使用されるが、これに限定されない。この方法によって取得された抽出物を、さらに、一連のシリカゲルカラムクロマトグラフおよびTLC法を用いて分画および精製して、本発明のモノアセチルジアシルグリセロール化合物を取得する。抽出のための溶媒は、クロロホルム/メタノール、ヘキサン/酢酸エチル/酢酸から選択されるが、これらに限定されない。
【0050】
モノアセチルジアシルグリセロール化合物の調製のための化学合成方法は、韓国特許第10-0789323号公報に示されている。具体的には、該方法は、(a)1-R1-グリセロールの3位に保護基を導入することによって、1-R1-3-保護基-グリセロールを調製する工程、(b)1-R1-3-保護基-グリセロールの2位にR2を導入することによって、1-R1-2-R2-3-保護基-グリセロールを調製する工程、(c)1-R1-3-保護基-グリセロールの脱保護反応とアセチル化反応とを同時に行うことによって、所望のモノアセチルジアシルグリセロール化合物を調製する工程を含む。モノアセチルジアシルグリセロール化合物は、必要な場合、さらに精製してよい。あるいは、モノアセチルジアシルグリセロール化合物は、ホスファチジルコリンの酸分解(アセトリシス)によって調製することができるが、これに限定されない。式1の化合物の立体異性体も本発明の範囲内である。
【0051】
本発明のモノアセチルジアシルグリセロール化合物は、糖尿病の処置および/または軽減に有効に用いることができる。「糖尿病」という用語は、インスリン機能の不全によるグルコース、脂質および/またはアミノ酸の代謝の異常に起因する慢性疾患である。糖尿病は、ランゲルハンス島のβ細胞が破壊され、インスリン分泌が不可逆的に低減して高血糖になるI型糖尿病(インスリン依存性糖尿病:IDDM)と、ランゲルハンス島において、グルコースに対するインスリン応答が低下するかまたはグルコースに対するインスリン抵抗性が上昇し、それにより慢性的な高血糖を結果としてもたらすII型糖尿病(インスリン非依存性糖尿病:NIDDM)とに大きく分類される。本発明によるモノアセチルジアシルグリセロール化合物は、I型糖尿病およびII型糖尿病の処置に用いることができる。「処置」という用語は、糖尿病によって引き起こされる症状が改善されるかまたは有益に変化する組成物による何らかの作用を指す。
【0052】
本発明の実施形態によれば、モノアセチルジアシルグリセロール化合物を投与すると、1)糖尿病による体重減少を正常な状態まで回復させることができ、2)膵臓組織におけるインスリン発現を上昇させることができ(実施例1)、3)膵ベータ細胞の損傷を低減することができることがわかった。これらの事実は、モノアセチルジアシルグリセロール化合物の投与により糖尿病が改善されることを示している。
【0053】
グルコースは、身体の主要なエネルギー源のうちの1つであり、ほとんどの細胞によって使用され、細胞機能において重要な役割を担っている。グルコースが摂取されると、血糖値が上昇して膵ベータ細胞内でインスリンが分泌される。分泌されたインスリンに応答して、血糖が筋肉または脂肪組織へと吸収され、エネルギー源として使用される。しかしながら、血糖値の上昇は、膵ベータ細胞の機能および生存に対して有害な影響を及ぼす。高濃度のグルコースは、ベータ細胞の過剰刺激を誘導し、このことによって、インスリン合成速度がインスリン分泌速度よりも低くなる。結果として、ベータ細胞の最も重要な機能であるグルコース刺激性インスリン分泌(GSIS)が適切に機能しない。
【0054】
体細胞は、それ自体ではグルコースを受け取らないが、グルコース輸送体(GLUT)と呼ばれるタンパク質を経てグルコースを受け取る。すなわち、食物を摂取した後、GLUTは血液中のグルコースを細胞内へと輸送する。さまざまなグルコース輸送体(GLUT)のうち、グルコース輸送体2(GLUT2)およびグルコース輸送体4(GLUT4)は、インスリン刺激によるグルコース取り込みを制御する。GLUT2はインスリン抵抗性と密接に関連している。GLUT2が適切に機能しない場合、膵ベータ細胞におけるインスリンの分泌は正常に起こらない。インスリン分泌の低減は、多くの組織が血糖を適切に吸収するのを妨げ、高い血中グルコース濃度は、最終的にベータ細胞の生存に対して負の影響を生じる。また、高い血中グルコース濃度は、細胞の酸化ストレスおよび小胞体ストレスを誘導する。酸化ストレスはまた、グルコースの自己酸化、糖化生成物の形成、糖尿病患者におけるタンパク質のグリコシル化、および活性酸素種(ROS)によっても引き起こされる。膵ベータ細胞は抗酸化酵素を低レベルで発現するので、酸化ストレスによりベータ細胞が破壊され、細胞分化が抑制される。加えて、糖尿病による高い血中グルコース濃度は、炎症細胞の形成を誘導する。これらの炎症細胞はサイトカインを分泌し、ストレスシグナル伝達経路を活性化して、膵ベータ細胞の機能を阻害および破壊する。
【0055】
本発明の実施形態では、さまざまな実験後に対象の膵臓組織を調査した。この調査によれば、モノアセチルジアシルグリセロール化合物を投与すると、1)糖尿病に起因する体重減少が観察されず、膵臓組織においてインスリン発現が上昇し(実施例1)、2)膵ベータ細胞株INS-1においてアポトーシス関連タンパク質の発現が低下し(実施例3)、3)GLUT2のエンドサイトーシスが促進され(実施例4)、4)ベータ細胞における高グルコースレベルに起因するROSの産生が低減し(実施例5)、5)ベータ細胞のグルコース取り込みが調節された(実施例6)。したがって、モノアセチルジアシルグリセロール化合物は、膵ベータ細胞の過剰なグルコース取り込みを防止し、GLUT2のエンドサイトーシスを促進し、正常なベータ細胞機能を維持し、それにより、急速なグルコース取り込みによって引き起こされる有害な効果を軽減する。結果として、モノアセチルジアシルグリセロール化合物は糖尿病の処置に有効であることがわかった。
【0056】
ROSは、正常な酸素代謝によって自然に発生し、細胞シグナル伝達および恒常性において重要な役割を担っている。過剰なグルコースまたは過剰に産生されたフルクトースはタンパク質に結合してROSを産生し、このことがアポトーシスおよび糖尿病合併症を誘発する。
【0057】
要約すると、過剰なグルコース摂取はROS産生および酸化ストレスを誘導するので、これは制御されるべきである。PLAGは、GLUT2のエンドサイトーシスを促進する。したがって、たとえベータ細胞が高グルコースレベルに曝露されたとしても、PLAGはグルコースの急速な流入を調節し、高グルコース濃度に起因する膵ベータ細胞の損傷を軽減する。損傷を受けていないベータ細胞は、通常、インスリンを分泌し、血糖は、脂肪および筋肉組織内へと吸収される。したがって、PLAGは、糖尿病および高血糖によって引き起こされる膵ベータ細胞の損傷を防ぐことができる。
【0058】
本発明のモノアセチルジアシルグリセロール化合物を含む医薬組成物は、従来の医薬上許容される担体、賦形剤、または希釈剤を含むことができる。該医薬組成物中のモノアセチルジアシルグリセロールの量は、特に制限されず、幅広く変えることができ、具体的には、組成物の総量に関して、0.0001~100重量%、好ましくは0.001~90重量%であり、例えば、該モノアセチルジアシルグリセロールは、70~80重量%含有されてよい。
【0059】
さらに、一態様では、式1もしくは2の1つまたは複数の治療化合物化合物、またはPLAGと、1つまたは複数の異なる糖尿病薬または糖尿病処置薬とを組み合わせて患者に投与することができる。
【0060】
本明細書で使用する場合、対象への療法の投与の文脈における「組み合わせて」という用語は、治療上の利益のための1つを超える療法の使用を指す。投与の文脈における「組み合わせて」という用語はまた、少なくとも1つの追加の療法と共に使用されるときの対象への療法の予防上の使用を指すこともできる。「組み合わせて」という用語の使用は、療法(例えば、第1および第2の療法)が対象に投与される順序を制限しない。療法は、糖尿病に罹患したことがある、糖尿病に罹患している、または糖尿病の疑いのある対象への第2の療法の投与の前(例えば、1分前、5分前、15分前、30分前、45分前、1時間前、2時間前、4時間前、6時間前、12時間前、24時間前、48時間前、72時間前、96時間前、1週間前、2週間前、3週間前、4週間前、5週間前、6週間前、8週間前、または12週間前)に、該投与と同時に、または該投与に続いて(例えば、1分後、5分後、15分後、30分後、45分後、1時間後、2時間後、4時間後、6時間後、12時間後、24時間後、48時間後、72時間後、96時間後、1週間後、2週間後、3週間後、4週間後、5週間後、6週間後、8週間後、または12週間後に)投与することができる。該療法は、該療法が一緒に作用することができるように、連続してかつある時間間隔内で対象に投与される。詳細な実施形態では、療法は、他の方法で投与された場合よりも高い恩恵をもたらすように、連続してかつある時間間隔内で対象に投与される。いずれの追加の療法も、その他の追加の療法と共に何らかの順序で投与することができる。
【0061】
化合物(例えば、式1もしくは2の化合物、またはPLAG)ならびに1型糖尿病、2型糖尿病、糖尿病前症および妊娠糖尿病のための1つまたは複数の糖尿病薬または糖尿病処置薬の投与。
【0062】
化合物(例えば、式1もしくは2の化合物、またはPLAG)および1つまたは複数の異なる糖尿病薬または糖尿病処置薬は、同時にまたは逐次投与されてもよい。いくつかの実施形態では、糖尿病の処置は、疾患適応症のための確立された療法であり、化合物(例えば、式1もしくは2の化合物、またはPLAG)の添加によるものであり、このような処置は患者に対する治療上の恩恵が向上する。このような向上は、患者ごとの応答の上昇または患者集団における応答の上昇として測定することができる。併用療法はまた、より少量の用量またはより頻度の少ない治療薬の投与での応答性の向上をもたらし、結果としてより良好な許容される処置投与計画が得られる。示されるように、式1もしくは2の1つまたは複数の化合物、またはPLAGと、糖尿病を処置するための1つまたは複数の異なる薬または糖尿病処置薬との併用療法は、例えば、i)インスリンを投与すること、ii)膵臓によって分泌されるインスリンの量を上昇させる作用薬を投与すること、iii)インスリンに対する標的器官の感受性を上昇させる作用薬を投与すること、および/またはiv)グルコースが消化管から吸収される速度を低下させる作用薬を投与すること、によって臨床活性を増強することができる。
【0063】
いくつかの態様では、該方法(例えば、糖尿病処置のための併用療法)は、第2の異なる治療薬(例えば、糖尿病薬または糖尿病処置薬)の投与、または糖尿病処置のための第2の療法(例えば、当技術分野において標準的である治療薬または療法)を用いた処置を含むことができる。
【0064】
いくつかの態様では、該方法(例えば、糖尿病処置のための併用療法)は、第2の治療薬(例えば、糖尿病薬または糖尿病処置薬)の投与、または糖尿病(例えば、1型糖尿病、2型糖尿病、糖尿病前症、および妊娠糖尿病)の処置のための第2の療法(例えば、当技術分野において標準的である治療薬または療法)を用いた処置を含むことができる。
【0065】
例示的な治療薬には、1つまたは複数の糖尿病薬または糖尿病処置薬がある。「糖尿病薬」または「糖尿病処置薬」または他の類似の用語は、血糖(グルコース)レベルを制御することによって糖尿病(例えば、1型糖尿病、2型糖尿病、糖尿病前症、および妊娠糖尿病)の処置において有用な化合物(薬物)または生物製剤である。一般に、本明細書で言及される「糖尿病薬」または「糖尿病処置薬」は、PLAGなどの式1または式2の化合物とは異なる。
【0066】
PLAGなどの式1または式2の化合物の投与と組み合わせてまたは該投与と共になど、本明細書中の方法、キットおよび組成物において議論の対象となり得る糖尿病薬または糖尿病処置薬の例としては、1つまたは複数のインスリン(例えば、フムリン、ノボリン、ノボログ、フレックスペン、フィアスプ、アピドラ、ヒューマログ、フムリンN、ノボリンN、トレシーバ、レベミル、ランタス、トウジェオ、ノボログミックス70/30、ヒューマログミックス75/25、ヒューマログミックス50/50、フムリン70/30、ノボリン70/30、ライゾデグなど)、アミリン模倣薬またはプラムリンチド(例えば、シムリンペン120およびシムリンペン60)、α-グルコシダーゼ阻害薬(例えば、アカルボース(Precose)、およびミグリトール(グリセット))、ビグアニド(例えば、メトホルミン-アログリプチン(カザノ)、メトホルミン-カナグリフロジン(インボカメット)、メトホルミン-ダパグリフロジン(シグデュオXR)、メトホルミン-エンパグリフロジン(シンジャルディ)、メトホルミン-グリピジド、メトホルミン-グリブリド(グルコバンス)、メトホルミン-リナグリプチン(ジェンタドゥエート)、メトホルミン-ピオグリタゾン(アクトプラス)、メトホルミン-レパグリニド(プランディメット)、メトホルミン-ロシグリタゾン(アバンダメット)、メトホルミン-サキサグリプチン(コンビグリーゼXR)、およびメトホルミン-シタグリプチン(ジャヌメット))、ドーパミンアゴニスト(例えば、ブロモクリプチン(サイクロゼット))、ジペプチジルペップチダーゼ4(DPP-4)阻害薬(例えば、アログリプチン(ネシナ)、アログリプチン-メトホルミン(カザノ)、アログリプチン-ピオグリタゾン(オセニ)、リナグリプチン(トラゼンタ)、リナグリプチン-エンパグリフロジン(グリクサンビ)、リナグリプチン-メトホルミン(ジェンタドゥエート)、サキサグリプチン(オングリザ)、サキサグリプチン-メトホルミン(コンビグリーゼXR)、シタグリプチン(ジャヌビア)、シタグリプチン-メトホルミン(ジャヌメットおよびジャヌメットXR)、シタグリプチンおよびシンバスタチン(ジュビシンク))、グルカゴン様ペプチド1受容体アゴニスト(例えば、アルビグルチド(タンゼアム)、デュラグルチド(トゥルリシティ)、エキセナチド(バイエッタ)、持続放出型エキセナチド(バイデュレオン)、リラグルチド(ビクトザ)、およびセマグルチド(オゼンピック))、メグリチニド(例えば、ナテグリニド(スターリクス)、レパグリニド(プランジン)、およびレパグリニド-メトホルミン(プランディメット))、ナトリウム-グルコース輸送体(SGLT)2阻害薬(例えば、ダパグリフロジン(ファシーガ(Farxiga))、ダパグリフロジン-メトホルミン(シグデュオXR)、カナグリフロジン(インボカナ)、カナグリフロジン-メトホルミン(インボカメット)、エンパグリフロジン(ジャルディアンス)、エンパグリフロジン-リナグリプチン(グリクサンビ)、エンパグリフロジン-メトホルミン(シンジャルディ)、およびエルツグリフロジン(ステグラトロ))、スルホニル尿素(例えば、グリメピリド(アマリル)、グリメピリド-ピオグリタゾン(デュエタクト)、グリメピリド-ロシグリタゾン(アバンダリル)、グリクラジド、グリピジド(グルコトロール)、グリピジド-メトホルミン(メタグリップ)、グリブリド(ダイアベータ、グリナース、ミクロナース)、グリブリド-メトホルミン(グルコバンス)、クロルプロパミド(ダイアビネース)、トラザミド(トリネース)、およびトルブタミド(オリネース、トルタブ))、チアゾリジンジオン(例えば、ロシグリタゾン(アバンディア)、ロシグリタゾン-グリメピリド(アバンダリル)、ロシグリタゾン-メトホルミン(アマリルM)、ピオグリタゾン(アクトス)、ピオグリタゾン-アログリプチン(オセニ)、ピオグリタゾン-グリメピリド(デュエタクト)、およびピオグリタゾン-メトホルミン(アクトプラスメット、アクトプラスメットXR)、アスピリンなど、ならびに先のいずれかの医薬上許容される塩または酸)があるが、これらに限定されない。
【0067】
糖尿病薬または糖尿病処置薬の例示的な有効日用量には、現行の臨床で使用されている作用薬について、該作用薬が現に投与されている薬用量がある。一般に、糖尿病薬または糖尿病処置薬一般の適切なまたは例示的な有効な日用量は、0.1μg/kg~100μg/kg体重、例えば、0.1、0.3、0.5、1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、または99μg/kg体重であってよい。
【0068】
あるいは、別個の1つまたは複数の糖尿病薬または糖尿病処置薬は、1週間あたり約1回、例えば7日ごとに約1回投与してよい。または、別個の1つまたは複数の糖尿病薬または糖尿病処置薬は適切には、1週間に2回、1週間に3回、1週間に4回、1週間に5回、1週間に6回、または1週間に7回投与されてよい。該1つまたは複数の糖尿病薬または糖尿病処置薬の例示的な有効な毎週の用量には、0.0001mg/kg~4mg/kg体重、例えば、0.001、0.003、0.005、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、または4mg/kg体重がある。例えば、該別個の1つまたは複数の糖尿病薬または糖尿病処置薬の有効な毎週の用量は、0.1μg/kg患者の体重~400μg/kg患者の体重である。
【0069】
本発明の医薬組成物はさらに、糖尿病の治療効果を有する他の有効成分を含んでよい。該医薬組成物は、経口投与または非経口投与のための固形状、液状、ゲル状または懸濁状形態、例えば錠剤、ボーラス剤、散剤、顆粒剤、硬質または軟質のゼラチンカプセル剤などのカプセル剤、エマルション剤、懸濁剤、シロップ剤、乳化可能な濃縮物、滅菌水溶液剤、非水溶液剤、凍結乾燥製剤などに製剤されてよい。該組成物の製剤化では、充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、および界面活性剤などの従来の賦形剤または希釈剤を使用することができる。経口投与用の固形製剤としては、錠剤、ボーラス剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などがあり、該固形製剤は、1つまたは複数の有効成分と、デンプン、炭酸カルシウム、スクロース、ラクトース、ゼラチンなどの少なくとも1つの賦形剤とを混合することによって調製することができる。賦形剤の他に、ステアリン酸マグネシウムおよびタルクなどの潤滑剤もまた使用することができる。経口投与のための液体製剤としては、エマルション剤、懸濁剤、シロップ剤などがあり、水および流動パラフィンなどの従来の希釈剤を含んでよく、または湿潤剤、甘味料、香味料、および防腐剤などのさまざまな賦形剤を含んでよい。非経口投与用製剤としては、滅菌水溶液剤、非水溶液剤、凍結乾燥製剤、坐剤などがあり、このような液剤のための溶媒としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油などの植物油、オレイン酸エチルなどの注射器による注射のためのエステルがあってよい。坐剤の基剤材料としては、ウィテップゾール、マクロゴール、トゥイーン61、カカオバター、ラウリンおよびグリセロゼラチンがあってよい。
【0070】
モノアセチルジアシルグリセロール化合物は、医薬有効量で投与することができる。「医薬有効量」という用語は、医学的処置において所望の結果を達成するのに十分である量を指すために使用される。「医薬有効量」は、対象の区分、年齢、性別、疾患の重症度および種類、薬物の活性、薬物に対する感受性、投与時間、投与経路、排泄率などによって決定することができる。本発明の組成物は、単独で、または他の治療薬と共に逐次もしくは同時に投与することができる。本発明の組成物は、単回投与または複数回投与することができる。本発明の組成物の好ましい量は、患者の容態および体重、疾患の重症度、薬物の製剤の種類、投与経路ならびに処置期間によって変えることができる。1日あたりのPLAGなどの式1または式2の化合物の適切な総投与量は、医師によって決定することができ、一般に約0.001~約5,000mg/kg、好ましくは約0.05~1,000mg/kgで1日1回であるか、または分割用量で1日に複数回投与することができる。本発明の組成物は、糖尿病の予防または処置を必要とする何らかの対象に投与することができる。例えば、本発明の組成物は、ヒトだけでなく、サル、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット、ラット、マウス、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギなどの非ヒト動物(具体的には哺乳動物)にも投与することができる。
【0071】
いくつかの実施形態では、本発明は、式1のモノアセチルジアシルグリセロールを有効成分として含む、糖尿病を予防、軽減または改善するための健康機能性食品組成物を提供する。
【0072】
本発明のモノアセチルジアシルグリセロール化合物は、対象における糖尿病を改善するための健康機能性食品組成物へと含まれていてよい。モノアセチルジアシルグリセロール化合物および糖尿病疾患は、先に説明した通りである。本発明の化合物が健康機能性食品組成物へと含まれているとき、該健康食品組成物中のモノアセチルジアシルグリセロールの量は、意図した使用に応じて適切に決定することができる。一般に、モノアセチルジアシルグリセロールの量は、食品または飲料に含まれるとき、該健康機能性食品組成物の総量に関して、好ましくは0.01重量%以上15重量%未満である。しかしながら、モノアセチルジアシルグリセロールの量は増減してよい。健康管理および衛生の目的のための長期使用の場合、モノアセチルジアシルグリセロールの量は、先の範囲未満とすることができる。安全性の点で問題がないので、モノアセチルジアシルグリセロールは、先の範囲を超える量で使用してよい。本発明の化合物を添加することができる食品は、制限されておらず、さまざまな食品、例えば食肉、ソーセージ、パン、チョコレート、飴、スナック菓子、ピザ、麺類、ガム類、アイスクリームなどの日用品、スープ、飲料、茶、嚥下可能な飲料、アルコール飲料、複合ビタミン類およびいずれの健康機能食品も含まれる。
【0073】
モノアセチルジアシルグリセロールが飲料製品において使用されるとき、該飲料製品は、甘味料、香味料または炭水化物を含んでよい。炭水化物の例としては、グルコースおよびフルクトースなどの単糖類、マルトースおよびスクロースなどの二糖類、デキストリンおよびシクロデキストリンなどの多糖類、ならびにキシリトール、ソルビトールおよびエリスリトールなどの糖アルコールがある。飲料組成物中の炭水化物の量は、具体的な制限がなく幅広く変えることができ、該飲料100mlあたり、好ましくは0.01~0.04g、より好ましくは0.02~0.03gである。甘味料の例としては、タウマチンおよびステビア抽出物などの天然甘味料、ならびにサッカリンおよびアスパルテームなどの人工甘味料がある。上記に加えて、本発明の健康機能性食品組成物には、さまざまな栄養素、ビタミン類、電解質、香味料、着色料、ペクチン酸およびその塩、アルギン酸およびその塩、有機酸、保護コロイド増粘剤、pH調節剤、安定剤、防腐剤、グリセリン、アルコール、炭酸飲料に用いられる炭酸化剤などが含まれてよい。さらに、本発明の健康機能性食品組成物は、天然果汁および果汁飲料、ならびに野菜飲料を調製する上で使用されるような果実類を含んでよい。
【0074】
本発明は、糖尿病疾患の疑いのある個体に該医薬組成物を投与するステップを含む、糖尿病を処置するための方法を提供する。糖尿病の疑いのある対象に該組成物を投与することによって、該糖尿病が効率的に処置される。「糖尿病の疑いのある対象」という用語は、糖尿病に罹患している対象または糖尿病を発症する可能性のある対象を指す。糖尿病疾患は、該糖尿病疾患を処置しまたは予防する必要のある患者に、有効量の該化合物を投与することによって、処置しまたは予防することができる。モノアセチルジアシルグリセロール化合物の種類、およびモノアセチルジアシルグリセロール化合物の用量、ならびに糖尿病疾患については、先に説明した通りである。「投与」という用語は、本発明の医薬組成物を何らかの適切な方法によって、必要とする患者に導入することを意味する。投与経路は、標的組織に到達することができる限り、経口または非経口と、何らかのまたはさまざまな経路であってよく、例えば、経口投与、腹腔内投与、経皮投与(局所適用など)、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、鼻腔内投与、直腸投与、鼻腔内投与、腹腔内投与などが使用されてよいが、これらに限定されない。
【実施例】
【0075】
以下の実施例は、本発明をよりよく理解するために提供される。しかしながら、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0076】
糖尿病疾患の処置における1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチル-racグリセロール(EC-18またはPLAG)の有効性を確認するために、ストレプトゾトシン(STZ)誘発性糖尿病モデルを本実験に使用した。
【0077】
実験例:対照群および実験群の準備
マウスを4つの群(対照群、STZのみによる処置群、PLAGとの共処置群、およびPLAGによる後処置群)に分けた。16時間の絶食後、対照群を除く3つの処置群に、クエン酸緩衝液の新たに調製されたSTZ(200mg/kgBW)を腹腔内注射した(BWは体重を意味する)。STZのみの処置のマウスには、追加の処置は行わなかった。
【0078】
同日に、PLAGとの共処置群マウスは、3日間連続して1日1回、PLAG(250mg/kg、経口)による処置を開始した。PLAG後処置群には、STZ注射の1日後から開始して2日間連続してPLAG(250mg/kg、経口)を投与した。PLAGとしては、式2によって表される1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-アセチル-rac-グリセロールを使用した。
【0079】
実施例1:血糖および体重変化の測定
眼窩後部叢を介して血液を採取し、本実験中に血糖値をモニタリングした。血糖を、Accu-Chekグルコメーター(Roche、大韓民国ソウル市)を使用して測定した。
図1Aは、1日目の対照群および実験群の血糖を測定するチャートである。
【0080】
全てのマウスを実験の最終日(4日目)である4日目に屠殺し、血清インスリンを測定した(
図1B)。対照群および実験群の膵臓組織の組織を収集し、さらなる分析のために10%ホルマリン中で固定した。本実験中、対照群および実験群の体重変化を測定した(
図1C)。
【0081】
図1A~
図1Cを参照すると、1日目に、STZのみで処置した動物において血糖上昇が観察された。しかしながら、PLAG共処置群は、対照群と比較して血糖の有意な上昇がなかった。STZのみでの処置群のインスリン分泌は、対照群および他の実験群よりも有意に低い。また、STZのみでの処置群は、対照群および他の実験群よりも体重変化が大きい。
【0082】
実施例2:膵島の組織病理学的性質
膵臓組織を10%ホルマリン中で固定し、パラフィン中に包埋し、4μmの厚さで切片作製した。免疫組織化学的性質のために、キシレンおよび段階的エタノール系列を使用して切片を脱パラフィンおよび脱水した。染色を、Real EnVision Detection System Peroxidase-DABキット(Dako,デンマーク国グロストルプ)を製造元の説明書に従って使用して行い、次いで、光学顕微鏡(オリンパス、日本国東京都)下で観察した(
図1D、400倍率)。
【0083】
実施例3:細胞死に対するPLAGの効果
STZ誘導性細胞アポトーシスに対するPLAGの効果を、アネキシンVおび7-AAD色素を用いたフローサイトメトリーを用いて分析した(
図2Aおよび
図2B)。細胞をトリプシン処理によって回収し、PBSで洗浄した。細胞アポトーシス分析のために、INS-1細胞をアネキシンV(BD Biosciences、米国ニュージャージー州フランクリンレイクス地区)と共に室温で10分間インキュベートし、7-AAD(BD Biosciences)で染色した。分析は、BD FACSVerseフローサイトメーター(BD Biosciences)を用いて行った。アネキシンV色素および7-AAD色素は、細胞死の一種であるアポトーシスを標識する色素である。
【0084】
加えて、特別なタンパク質検出試験(ウエスタンブロット法)を行うために、プロテアーゼ阻害薬およびホスファターゼ阻害薬(Thermo Scientific、米国マサチューセッツ州ウォルサム市)を補充したRIPA緩衝液(LPS溶液、韓国大田広域市)によって細胞を溶解した。タンパク質を12%ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル上で分離し、ポリビニリデンジフルオリド膜(EMD Millipore、ドイツ国ダルムシュタット市)に転写した。膜を5%BSAで1時間ブロッキングし、GLUT2(bs-0351r、Bioss、米国マサチューセッツ州ウーバン市)、RAC1(03589、EMD Millipore)、BAX(BS1030、Bioworld Tech、米国ミネソタ州セントルイスパーク市)、BCL-2(BS1031、Bioworld)、シトクロムc(#4272、Cell Signaling Technology、米国マサチューセッツ州ダンバース町)、カスパーゼ3(#9662、Cell Signaling Technology)、およびNa+-K+ATPアーゼ(#3010S、Cell Signaling Technology)に対する一次抗体と共にインキュベートした。PBSTで3回洗浄した後、膜をHRP結合二次抗体(Enzo Life Sciences、1:5,000希釈)と共に室温で1時間インキュベートした。タンパク質のバンドを、ECL試薬(Thermo Scientific)を使用して検出し、次いで、フィルム上で可視化した。Bcl-2、Bax、シトクロムc、カスパーゼ3などのアポトーシス関連タンパク質の発現をウエスタンブロット法によって分析し、Bax/Bcl-2比を棒グラフによって表す(
図2C)。データを平均±標準偏差(対照に対して
***P<0.001、STZに対して#P<0.05、##P<0.005)として提示する。
【0085】
図2A~
図2Cを参照すると、10μg/mLのPLAGで処理した細胞では、アポトーシスが約50%で観察され、100μg/mLのPLAG処理群では約30%であり、用量依存的な保護を示した。
【0086】
抗アポトーシスタンパク質BCL-2は、STZによって低下し、PLAGによって回復した。逆に、アポトーシス関連タンパク質BAX、シトクロムc、およびカスパーゼ3の発現はSTZによって上昇し、PLAGの添加によって減弱した。
【0087】
実施例4:細胞膜におけるGLUT2の発現に対するPLAGの効果
GLUT2原形質膜局在化に対するPLAGの効果を調べるために、膜画分におけるGLUT2の発現およびRac1の発現をウエスタンタンパク質ブロット法と同じ様式で検討した(
図3A~
図3B)。
【0088】
加えて、免疫蛍光アッセイによってGLUT2の局在化を観察した。細胞を24ウェルプレート内のカバーガラス上で成長させ、STZおよびPLAGで処理した。氷冷PBSで洗浄した後、細胞を4%ホルムアルデヒドで固定した。細胞膜において発現したタンパク質のみを同定するために透過処理を行わなかった。細胞を抗GLUT2抗体(1:500希釈)と共にインキュベートし、次いでAlexa Fluor 488結合二次抗体(Enzo Life Sciences、1:1000希釈)およびDAPI(Invitrogen)で染色した。染色された細胞をZeiss LSM800共焦点顕微鏡(Carl Zeiss、ドイツ国イェーナ市)下で観察した(
図3C)。
【0089】
図3Aを参照すると、膜発現GLUT2は、STZ処理細胞において着実に低下した。PLAG処理した細胞では、GLUT2発現は、10分まで徐々に低下し、次いで回復し、60分で対照レベルに戻った。
【0090】
図3Bを参照すると、ROSを産生するNADPHオキシダーゼであるRAC1の発現は、STZ群では膜画分において着実に上昇したが、PLAG処理群では、15分でわずかに上昇した後に減衰した。
図3Cを参照すると、PLAG処理した細胞では、GLUT2のインターナリゼーションの加速が観察され、GLUT2は60分で再び膜において観察された。
【0091】
実施例5:ROSに対するPLAGの効果
PLAGを投与した後の細胞内ROSの分析のために、細胞を2μMのDCFH-DA(2’,7’-ジクロロジヒドロフルオレセインジアセタート、Invitrogen、米国カリフォルニア州カールスバッド市)と共に、37℃で30分間インキュベートした。分析を、BD FACS Verseフローサイトメーター(BD Biosciences)を使用して行い(
図4Aおよび
図4B)、活性酸素種(ROS)の発現を免疫蛍光アッセイによって観察した(
図4C)。本発明者らはさらに、細胞内ROS生成と膵ベータ細胞のアポトーシスとの関係を検討するために、3種類のROS阻害薬(アポシニン、MitoTEMPO、NAC)で同時処理した細胞における細胞アポトーシスを検討した。発現したアポトーシス関連タンパク質およびアポトーシスの程度を、阻害薬で処理した細胞において観察した(
図4Dおよび
図4E)。ROS阻害薬として、アポシニン(NADPHオキシダーゼ阻害薬)、MitoTEMPO(ミトコンドリアROS阻害薬)、およびN-アセチル-L-システイン(NAC、全体的なROS阻害薬)を用いた。データを平均±標準偏差(対照に対して
*P<0.05、
**P<0.005、
***P<0.001、STZに対して#P<0.05、##P<0.005)として提示する。
【0092】
図4Aを参照すると、細胞内ROSは、STZ処理した細胞において上昇し、PAG処理した細胞において用量依存的に低下した。
図4Bおよび
図4Cを参照すると、ROSは、STZ処理した細胞において時間依存的な様式で急速に上昇したが、これはPLAG処理した細胞においては減衰した。
【0093】
また、
図4Dおよび
図4Eを参照すると、発現したアポトーシス関連タンパク質およびSTZ誘導性細胞アポトーシスの有意な低減が、阻害薬で処理した細胞において観察された。これらの結果は、STZ処理後のROS生成が、膵ベータ細胞アポトーシスに寄与することを示唆している。
【0094】
実施例6:(ベータ細胞のグルコース取り込みに対するPLAGの効果)
2-[N-(7-ニトロベンゼン-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イル)アミノ]-2-デオキシ-D-グルコース(2-NBDG、N13195、Thermo Scientific)をグルコース取り込みアッセイに使用した。グルコース取り込みアッセイを、蛍光色素と結合した2-NBDGを使用して行った。細胞内2-NBDGを60分で測定し(
図5A)、2-NBDG処理5分後~480分後でフローサイトメトリーによって連続的に計算した(
図5B)。血清含有完全培地を除去し、INS-1細胞をPBS中で洗浄した。細胞を、グルコース非含有培養培地中で、37℃で1時間培養し、次いで、2-NBDGで処理した。細胞内蛍光は、BD FACS Verseフローサイトメーター(BD Biosciences)を用いて測定した。
【0095】
細胞内2-NBDG発現はまた、免疫蛍光アッセイを使用しても観察された(
図5C)。データを平均±標準偏差として提示する。対照に対して
*P<0.05、
**P<0.005、
***P<0.001、STZに対して#P<0.05、##P<0.005。
【0096】
図5Aを参照すると、2-NBDG処理した細胞において蛍光強度を測定したが、60分でより低い蛍光強度がPLAG処理した群において検出された。
【0097】
図5Bを参照すると、グルコース取り込みは、2-NBDG単独よりもむしろPLAGを投与した実験群において減衰した。これらの結果は、PLAGがGLUT2のインターナリゼーションを加速させ、グルコース流入を制限することを示唆している。
【0098】
図5Cを参照すると、2-NBDGのみで処理した群では、2-NBDGが5分で細胞膜に観察され、細胞質において漸増し、蛍光強度は時間依存的な様式で上昇した。細胞内2-NBDGは、PLAG処理した群においてより緩徐に上昇した。これらの結果は、PLAGが、GLUT2のエンドサイトーシスを促進し、同時に正常なベータ細胞機能を維持することを経て、迅速なグルコース取り込みの有害な効果を減弱させることがあることを示唆している。
【0099】
実施例7:GLUT2発現抑制細胞に対するPLAGの効果
GLUT2発現抑制細胞を調製して、STZ処理した細胞におけるGLUT2の役割を明らかにした。INS-1細胞にGLUT2siRNAをトランスフェクトして、GLUT2発現がSTZ誘導性細胞アポトーシスおよびROS生成に関連しているかどうかを決定した。
【0100】
膵ベータ細胞のアポトーシス、細胞内ROS生成およびグルコース取り込みを、GLUT2siRNAをトランスフェクトした細胞を使用してフローサイトメトリーによって分析した(
図6A~6C)。エンドサイトーシス関連タンパク質、クラスリンまたはカベオリンのsiRNAをトランスフェクトした細胞における(D)細胞アポトーシスおよび(E)ROS生成に対するPLAGの効果を解析した(
図6Dおよび6E)。データを平均±標準偏差として提示する。対照に対して
**P<0.005、
***P<0.001、STZ群に対して##P<0.005、###P<0.001。N.S.:有意性なし。製造元のプロトコルにより、HiPerFect試薬(Qiagen、ドイツ国ヒルデン町)を用いてsiRNAのトランスフェクションを行った。GLUT2、クラスリン、およびカベオリンに対する特異的siRNAをSanta Cruz Biotehnology(米国テキサス州ダラス市)から得た。
【0101】
細胞アポトーシス(
図6A)および細胞内ROS生成(
図6B)は、STZで処理した細胞では顕著に上昇したが、GLUT2発現抑制細胞では上昇しなかった。グルコース取り込みもまた、GLUT2発現抑制細胞では有意に上昇しなかった(
図6C)。PLAGの生物学的活性がGLUT2の細胞内輸送に依存しているかどうかを決定するために、本発明者らは、siRNAを使用してエンドサイトーシス関連タンパク質であるクラスリンおよびカベオリンの発現を抑制した(
図6D、
図6E)。PLAGは、クラスリンまたはカベオリンを発現抑制した細胞では、アポトーシスまたはROS生成に影響を及ぼさなかった。このことは、PLAGの作用がGLUT2のエンドサイトーシスと関係することを示唆している。
【0102】
実施例8:PLAGおよびPLHの効果の比較(PLAG活性の特異性)
PLAGおよびPLH(1-パルミトイル-2-リノレオイル-3-ヒドロキシル-rac-グリセロール)で処理した後、アポトーシス、細胞内ROS生成およびグルコース取り込みをフローサイトメトリーによって分析した(
図7B~7E)。加えて、膜画分におけるGLUT2の発現をウエスタンブロット法によって分析した(
図7F)。データを平均±標準偏差として提示する。対照に対して
***P<0.001、STZに対して#P<0.05、##P<0.005。N.S.:有意性なし。
【0103】
図7Aは、PLAGおよびPLHの単純な構造を示す。PLHは、PLAGの構造類似体である。PLAGはアセチル基を有するが、PLHはグリセロールの3位に水酸基を有する。
図7Bおよび7Cを参照すると、PLAGは、細胞アポトーシスおよびROS生成を低下させる上で、PLHよりも有効であった。グルコース取り込みアッセイでは、PLH処理群は対照群と同様のパターンを示し、PLH処理した細胞におけるグルコース取り込みに対する影響はなかった。PLAGを投与した実験群では、2-NBDGが緩徐に吸収され、GLUT2のエンドサイトーシスが促進された。逆に、PLH処理した細胞では、2-NBDG取り込みまたはGLUT2インターナリゼーションに変化はなかった(
図7Dおよび7E)。これらの結果は、GLUT2エンドサイトーシスを促進する上でのPLAGの特異性を確固としている。
【0104】
実施例9:高グルコース(HG)誘導細胞におけるPLAGの効果)
(PLAGはHG誘導性細胞アポトーシスを低減させる(
図8))
膵ベータ細胞保護に対するPLAGの効果を、HG処理後に調べた。HG誘導性細胞アポトーシスを、フローサイトメトリーを使用して分析した。INS-1細胞を50μg/mLまたは100μg/mLのPLAGで1時間前処理し、次いで30mMのHGで48時間処理した。INS-1細胞を高グルコース条件で維持すると、対照細胞と比較して細胞アポトーシスの有意な上昇があった。対照的に、50μg/mLまたは100μg/mLのPLAGで処理した細胞では、アポトーシスの速度低下が観察され、用量依存的保護を示した。
【0105】
糖毒性誘発膵ベータ細胞損傷に対するPLAGの保護効果を、HG処理後にさらに調べた。細胞アポトーシスは、HG処理細胞において最大35%上昇し、PLAGは、HG誘導性細胞アポトーシスを用量依存的に低下させた。
【0106】
PLAGは、HG誘導性細胞内ROS生成を低減させる(
図9)
細胞内ROS生成も、DCFH-DA色素を使用したフローサイトメトリーによって分析した。蛍光強度の変化を分析することによってROS生成を決定した。INS-1細胞を50μg/mLまたは100μg/mLのPLAGで1時間前処理し、次いで30mMのHGで48時間処理した。30mMのHGで処理したINS-1細胞は有意に増強した蛍光強度を示し、PLAG処理はHG誘導性細胞内IROS生成を用量依存的に低下させた。
【0107】
PLAGは、HG処理したINS-1細胞においてGLUT2エンドサイトーシスを促進する(
図10)
GLUT2原形質膜局在化に対するPLAGの効果を調べるために、膜タンパク質を分画し、ウエスタンブロット法によって分析した。INS-1細胞を100μg/mLのPLAGで1時間前処理し、次いで30mMのHGで表示時間処理した。膜に発現したGLUT2は、HG処理した細胞において着実に上昇した。PLAG処理した細胞では、GLUT2発現は15分まで漸減し、次いで回復し、60分で対照レベルに戻った。これらの結果は、PLAGが高グルコース条件下でGLUT2のインターナリゼーションを促進することを示唆している。
【0108】
材料および方法
【0109】
細胞培養
INS-1ラット膵島ベータ細胞を、10%ウシ胎児血清(Tissue Culture Biologicals、米国カリフォルニア州ロングビーチ市)、50μMのβ-メルカプトエタノール、100単位/mLのペニシリン、および100μg/mLのストレプトマイシン(抗生物質-抗真菌液、Welgene)を含有するRPMI-1640培地(Welgene,大韓民国慶尚北道区)中で培養した。細胞を、37℃、5%CO2の加湿した雰囲気中で成長させた。
【0110】
化学物質および試薬
PLAGは、Enzychem Lifesciences(大韓民国ソウル特別市)から得た。D-グルコースは、Sigma-Aldrich(米国ミズーリ州セントルイス市)から購入した。PLAGをエタノール中に溶解し、最終作業濃度を0.1%(v/v)とした。D-グルコースを細胞培養培地中に溶解した。
【0111】
フローサイトメトリー
細胞をトリプシン処理によって回収し、氷冷PBSで洗浄した。細胞アポトーシス分析のために、INS-1細胞をアネキシンV(BD Biosciences、米国ニュージャージー州フランクリンレイクス地区)と共に室温で10分間インキュベートし、7-AAD(BD Biosciences)で染色した。細胞内活性酸素種(ROS)の分析のために、細胞を2μMのDCFH-DA(2’,7’-ジクロロジヒドロフルオレセインジアセタート、Invitrogen、米国カリフォルニア州カールスバッド市)と共に、37℃で30分間インキュベートした。分析は、BD FACSVerseフローサイトメーター(BD Biosciences)を用いて行った。
【0112】
ウエスタンブロット法
膜タンパク質分画のために、製造元の説明書に従って、Mem-PER(商標)Plus Kit(Thermo Scientific、米国マサチューセッツ州ウォルサム市)を使用して行った。タンパク質を12%ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル上で分離し、ポリビニリデンジフルオリド膜(EMD Millipore、ドイツ国ダルムシュタット市)に転写した。膜をブロッキングし、GLUT2(bs-0351r、米国マサチューセッツ州ウーバン市)およびNa+-K+ATPアーゼ(#3010S、Cell Signaling Technology、米国マサチューセッツ州ダンバース町)に対する一次抗体と共にインキュベートした。PBSTで3回洗浄した後、膜をHRP結合二次抗体(Enzo Life Sciences、米国ニューヨーク州ファーミングデール村)と共に室温で1時間インキュベートした。タンパク質のバンドを、ECL試薬(Thermo Scientific)を使用して検出し、次いで、フィルム上で可視化した。
【0113】
統計解析
データを平均±標準偏差として提示する。平均間の差の統計学的有意性を、一元配置分散分析(ANOVA)とそれに続くTukey検定によって検討した。P<0.05を統計学的に有意とみなした。対照群と比較して***P<0.001、高グルコール(HG)群と比較して##P<0.005、###P<0.001。
【国際調査報告】