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特表2022-529246L-アミノ酸を生産する微生物及びそれを用いたL-アミノ酸の生産方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-20
(54)【発明の名称】L-アミノ酸を生産する微生物及びそれを用いたL-アミノ酸の生産方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/21 20060101AFI20220613BHJP
   C12P 13/06 20060101ALI20220613BHJP
   C12P 13/12 20060101ALI20220613BHJP
   C12P 13/22 20060101ALI20220613BHJP
   C12P 13/24 20060101ALI20220613BHJP
【FI】
C12N1/21 ZNA
C12P13/06 D
C12P13/12 A
C12P13/12 B
C12P13/22 A
C12P13/24 C
C12P13/06 E
C12P13/06 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021560112
(86)(22)【出願日】2020-04-29
(85)【翻訳文提出日】2021-10-11
(86)【国際出願番号】 KR2020005674
(87)【国際公開番号】W WO2020226341
(87)【国際公開日】2020-11-12
(31)【優先権主張番号】10-2019-0054430
(32)【優先日】2019-05-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508139664
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダン コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】CJ CHEILJEDANG CORPORATION
【住所又は居所原語表記】CJ Cheiljedang Center,330,Dongho-ro,Jung-gu,Seoul,Republic Of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ユ,ヒョ リュン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ソ-ヨン
(72)【発明者】
【氏名】パク,ヒョ ミン
(72)【発明者】
【氏名】リ,ソン クン
(72)【発明者】
【氏名】リ,チン ナム
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヒョン ア
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ソル
(72)【発明者】
【氏名】ホ,ラン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AE08
4B064AE09
4B064AE14
4B064AE16
4B064AE26
4B064CA02
4B064CA19
4B064CA50
4B065AA14X
4B065AA24X
4B065AA26X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA17
4B065CA41
4B065CA44
4B065CA48
(57)【要約】
本発明は、L-アミノ酸又はその前駆体を生産する微生物、及びその微生物を用いたL-アミノ酸又はその前駆体の生産方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質を発現するように改変された、L-アミノ酸又はその前駆体を生産する微生物。
【請求項2】
前記タンパク質は、アゾトバクター・ビネランディ(Azotobacter vinelandii)由来のものである請求項1に記載のL-アミノ酸又はその前駆体を生産する微生物。
【請求項3】
前記微生物は、さらに、i)活性が低下したホスホセリンホスファターゼ、ii)活性が強化された3-ホスホセリンアミノトランスフェラーゼ、又はiii)活性が低下したホスホセリンホスファターゼ及び活性が強化された3-ホスホセリンアミノトランスフェラーゼを有する請求項1に記載のL-アミノ酸又はその前駆体を生産する微生物。
【請求項4】
前記微生物は、さらに、trpオペロンの強化、トリプトファナーゼ(Tryptophanase; TnaA)の不活性化、Mtr膜タンパク質(Mtr membrane protein; Mtr)の不活性化、又はそれらの組み合わせにより改変されたものである請求項1に記載のL-アミノ酸又はその前駆体を生産する微生物。
【請求項5】
前記微生物は、さらに、hisオペロンが強化されたものである請求項1に記載のL-アミノ酸又はその前駆体を生産する微生物。
【請求項6】
前記微生物は、さらに、McbR(Transcriptional regulator; mcbR)の不活性化、メチオニンシンターゼ(Methionine synthase; meth)の強化、亜硫酸レダクターゼ[NADPH]ヘムタンパク質βコンポーネント(Sulfite reductase [NADPH] hemoprotein beta-component; cysI)の強化、又はそれらの組み合わせにより改変されたものである請求項1に記載のL-アミノ酸又はその前駆体を生産する微生物。
【請求項7】
前記微生物は、コリネバクテリウム属又はエシェリキア属である請求項1に記載のL-アミノ酸又はその前駆体を生産する微生物。
【請求項8】
前記微生物は、コリネバクテリウム・グルタミカム又はエシェリキア・コリである請求項7に記載のL-アミノ酸又はその前駆体を生産する微生物。
【請求項9】
L-アミノ酸又はその前駆体は、L-セリン、L-トリプトファン、L-ヒスチジン、L-メチオニン、L-システイン、O-スクシニルホモセリン、O-アセチルホモセリン、L-ホモセリン、アセチルセリン、L-シスタチオニン、L-ホモシステイン及びO-ホスホセリンからなる群から選択されるものである請求項1に記載のL-アミノ酸又はその前駆体を生産する微生物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の微生物を培地で培養するステップを含む、L-アミノ酸又はその前駆体の生産方法。
【請求項11】
前記培養した微生物又は培地からL-アミノ酸又はその前駆体を回収するステップをさらに含む請求項10に記載のL-アミノ酸又はその前駆体の生産方法。
【請求項12】
L-アミノ酸又はその前駆体は、セリン、トリプトファン、ヒスチジン、メチオニン、L-システイン、O-スクシニルホモセリン、O-アセチルホモセリン、L-ホモセリン、アセチルセリン、L-シスタチオニン、L-ホモシステイン及びO-ホスホセリンからなる群から選択されるものである請求項10に記載のL-アミノ酸又はその前駆体の生産方法。
【請求項13】
配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質における、L-アミノ酸又はその前駆体生産増加における使用。
【請求項14】
配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質を発現するように改変された微生物、又は前記タンパク質を含む、L-アミノ酸又はその前駆体生産用組成物。
【請求項15】
請求項14に記載の組成物を用いた、L-アミノ酸又はその前駆体の生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、L-アミノ酸又はその前駆体を生産する微生物、及びその微生物を用いたL-アミノ酸又はその前駆体の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
L-アミノ酸は、タンパク質の基本構成単位であり、薬品原料や食品添加剤、動物飼料、栄養剤、殺虫剤、殺菌剤などの重要素材として用いられる。前記L-アミノ酸及びその他の有用物質を生産すべく、高効率生産微生物及び発酵工程技術の開発のために様々な研究が行われている。例えば、L-リシンの生合成に関与する酵素をコードする遺伝子の発現を増加させたり、生合成に不要な遺伝子を除去するなどの標的物質特異的アプローチ方法が主に用いられている(特許文献1)。
【0003】
一方、コリネバクテリウム属菌株(Corynebacterium)、特にコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)は、L-アミノ酸及びその他の有用物質の生産に多く用いられているグラム陽性微生物である。前記アミノ酸を生産すべく、高効率生産微生物及び発酵工程技術の開発のために様々な研究が行われている。例えば、コリネバクテリウム属菌株において、アミノ酸の生合成に関与する酵素をコードする遺伝子の発現を増加させたり、アミノ酸の生合成に不要な遺伝子を除去するなどの標的物質特異的アプローチ方法が主に用いられている(特許文献2,3)。また、前記方法以外に、アミノ酸生産に関与しない遺伝子を除去する方法、アミノ酸生産における具体的な機能が知られていない遺伝子を除去する方法も活用されている。しかし、依然として効率的に高収率でL-アミノ酸を生産する方法に関する研究が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】韓国登録特許第10-0838038号公報
【特許文献2】韓国登録特許第10-0924065号公報
【特許文献3】韓国登録特許第10-1208480号公報
【特許文献4】韓国登録特許第10-1048593号公報
【特許文献5】韓国登録特許第10-0620092号公報
【特許文献6】国際公開第2006/065095号
【特許文献7】国際公開第2009/096689号
【特許文献8】韓国登録特許第10-1783170号公報
【特許文献9】韓国登録特許第10-1632642号公報
【特許文献10】韓国登録特許第10-1381048号公報
【特許文献11】米国特許出願公開第2012/0190081号明細書
【特許文献12】韓国公開特許第2018-0089329号公報
【特許文献13】韓国登録特許第10-0930203号公報
【特許文献14】韓国特許公告第1992-0007401号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Scheit, Nucleotide Analogs, John Wiley, New York, 1980
【非特許文献2】Uhlman及びPeyman, Chemical Reviews, 90: 543-584, 1990
【非特許文献3】J. Sambrook et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 2nd Edition, Cold Spring Harbor Laboratory press, Cold Spring Harbor, New York, 1989
【非特許文献4】F.M. Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc., New York
【非特許文献5】Karlin及びAltschul, Pro. Natl. Acad. Sci. USA, 90, 5873, 1993
【非特許文献6】Methods Enzymol., 183, 63, 1990
【非特許文献7】http://www.ncbi.nlm.nih.gov
【非特許文献8】Introduction to Biotechnology and Genetic Engineering, A. J. Nair., 2008
【非特許文献9】DG Gibson et al., NATURE METHODS, VOL.6 NO.5, MAY 2009, NEBuilder HiFi DNA Assembly Master Mix
【非特許文献10】J. Biochem. Mol. Biol. 32, 20-24, (1999)
【非特許文献11】One-step inactivation of chromosomal genes in Escherichia coli K- 12 using PCR products, Datsenko KA, Wanner BL., Proc Natl Acad Sci USA. 2000 Jun 6;97(12):6640-5
【非特許文献12】JOURNAL OF BACTERIOLOGY, July 1997, p. 4426-4428
【非特許文献13】ACS Synth. Biol., 2014, 3 (1), pp 21-29
【非特許文献14】Microb Biotechnol. 2014 Jan;7(1):5-25
【非特許文献15】J. Biotechnol. 103:51-65, 2003
【非特許文献16】van der Rest et al., Appl Microbiol Biotechnol 52:541-545, 1999
【非特許文献17】Biotechnology letters vol 13, No. 10, p. 721-726(1991)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、L-アミノ酸を高効率で生産する微生物を開発すべく鋭意研究した結果、異なる由来のタンパク質を導入するとL-アミノ酸の生産収率が増加するという事実を確認し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、配列番号1のアミノ酸配列又はその機能的フラグメントを含むタンパク質を発現するように改変された、L-アミノ酸又はその前駆体を生産する微生物を提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は、配列番号1もしくはその機能的フラグメントを含むタンパク質を発現するように改変された微生物、又は前記タンパク質を含む、L-アミノ酸又はその前駆体生産用組成物を提供することを目的とする。
【0009】
さらに、本発明は、前記微生物を培地で培養するステップと、前記培養した微生物又は培地からL-アミノ酸又はその前駆体を回収するステップとを含む、L-アミノ酸又はその前駆体の生産方法を提供することを目的とする。
【0010】
さらに、本発明は、配列番号1もしくはその機能的フラグメントにおける、アミノ酸又はその前駆体生産増加用途を提供することを目的とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の配列番号1もしくはその機能的フラグメントを含むタンパク質を発現するように改変された、L-アミノ酸又はその前駆体を生産する微生物は、L-セリン、L-トリプトファン、L-ヒスチジン、L-メチオニン、L-システイン及び/又はO-ホスホセリンを高効率で生産することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0013】
なお、本発明で開示される各説明及び実施形態はそれぞれ他の説明及び実施形態にも適用される。すなわち、本発明で開示される様々な要素のあらゆる組み合わせが本発明に含まれる。また、以下の具体的な記述に本発明が限定されるものではない。
【0014】
また、当該技術分野における通常の知識を有する者であれば、通常の実験のみを用いて本発明に記載された本発明の特定の態様の多くの等価物を認識し、確認することができるであろう。さらに、その等価物も本発明に含まれることが意図されている。
【0015】
本発明の目的を達成するための本発明の一態様は、配列番号1のアミノ酸配列又はその機能的フラグメントを含むタンパク質を発現するように改変された、L-アミノ酸又はその前駆体を生産する微生物を提供する。
【0016】
配列番号1のアミノ酸配列又はその機能的フラグメントを含むタンパク質は、D-3-ホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼ(D-3-phosphoglycerate dehydrogenase)活性を有するタンパク質であってもよい。
【0017】
本発明における「D-3-ホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼ(D-3-phosphoglycerate dehydrogenase)」とは、主に次の化学反応を触媒する酵素を意味する。
【0018】
【化1】
【0019】
【化2】
【0020】
本発明の目的上、前記D-3-ホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼは、SerAであってもよい。また、公知のデータベースであるNCBIのGenBankからその配列が得られる。さらに、それに対応する活性を有し、かつ前記タンパク質が含まれるL-アミノ酸又はその前駆体を生産する微生物とは異なる由来のタンパク質であればいかなるものでもよい。具体的には、前記タンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質であってもよい。配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列から構成されるタンパク質、配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質、又は配列番号1のアミノ酸配列を有するタンパク質と混用されるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
前記タンパク質は、配列番号1及び/又は配列番号1と70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%もしくは99%以上の相同性(homology)もしくは同一性(identity)を有するアミノ酸配列であってもよい。また、そのような相同性もしくは同一性を有し、前記タンパク質に相当する効能を示すアミノ酸配列であれば、一部の配列が欠失、改変、置換又は付加されたアミノ酸配列を有する補助タンパク質も本発明に含まれることは言うまでもない。
【0022】
それに加えて、公知の遺伝子配列から調製されるプローブ、例えば前記ポリペプチドをコードする塩基配列の全部又は一部に対する相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドであって、D-3-ホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するポリペプチドであればいかなるものでもよい。
【0023】
また、本発明の目的上、前記タンパク質は、前記タンパク質が含まれるL-アミノ酸又はその前駆体を生産する微生物とは異なる由来であることを特徴とし、具体的にはアゾトバクター(Azotobacter)属由来、又はアゾトバクター属由来のタンパク質と同じタンパク質であってもよいが、L-アミノ酸又はその前駆体の生産を増加させるものであれば特に限定されるものではない。前記アゾトバクター(Azotobacter)属微生物は、より具体的にはアゾトバクター・アギリス(Azotobacter agilis)、アゾトバクター・アルメニアカス(Azotobacter armeniacus)、アゾトバクター・ベイジェリンキイ(Azotobacter beijerinckii)、アゾトバクター・クロオコッカム(Azotobacter chroococcum)、アゾトバクター属DCU26(Azotobacter sp. DCU26)、アゾトバクター属FA8(Azotobacter sp. FA8)、アゾトバクター・ニグリカンス(Azotobacter nigricans)、アゾトバクター・パスパリ(Azotobacter paspali)、アゾトバクター・サリネストリス(Azotobacter salinestris)、アゾトバクター・トロピカリス(Azotobacter tropicalis)又はアゾトバクター・ビネランディ(Azotobacter vinelandii)であり、本発明の一例として、アゾトバクター・ビネランディ(Azotobacter vinelandii)由来のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
本発明における「機能的フラグメント」とは、前記タンパク質に相当する効能を示すアミノ酸配列を意味するものであり、前記タンパク質に相当する活性を有するものであれば、前記タンパク質のアミノ酸配列の一部の配列が欠失、改変、置換又は付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質も本発明に含まれることは言うまでもなく、本発明の目的上、それらも機能的フラグメントといえる。
【0025】
本発明において「特定配列番号で表されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はポリペプチド」、「特定配列番号で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質又はポリペプチド」又は「特定配列番号で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質又はポリペプチド」と記載されていても、当該配列番号のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同一又は相当する活性を有するものであれば、一部の配列が欠失、改変、置換、保存的置換又は付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質であっても本発明に用いられることは言うまでもない。例えば、前記アミノ酸配列のN末端及び/又はC末端にタンパク質の機能を変更しない配列の付加、自然に発生し得る突然変異、その非表現突然変異(silent mutation)又は保存的置換を有するものが挙げられる。
【0026】
前記「保存的置換(conservative substitution)」とは、あるアミノ酸が類似した構造的及び/又は化学的性質を有する他のアミノ酸に置換されることを意味する。このようなアミノ酸置換は、一般に残基の極性、電荷、溶解性、疎水性、親水性及び/又は両親媒性(amphipathic nature)における類似性に基づいて発生し得る。例えば、正に荷電した(塩基性)アミノ酸としては、アルギニン、リシン及びヒスチジンが挙げられ、負に荷電した(酸性)アミノ酸としては、グルタミン酸及びアスパラギン酸が挙げられ、芳香族アミノ酸としては、フェニルアラニン、トリプトファン及びチロシンが挙げられ、疎水性アミノ酸としては、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン及びトリプトファンが挙げられる。
【0027】
本発明の他の態様は、配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0028】
本発明における「ポリヌクレオチド」は、DNA及びRNA分子を包括する意味で用いられ、ポリヌクレオチドにおける基本構成単位であるヌクレオチドには、天然ヌクレオチドだけでなく、糖又は塩基部位が変形したアナログも含まれる(非特許文献1、2参照)。
【0029】
配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、アゾトバクター・ビネランディ(Azotobacter vinelandii)由来のD-3-ホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードする配列であればいかなるものでもよい。あるいは、配列番号1のアミノ酸配列を含むL-アミノ酸又はその前駆体の生産を増加させる活性を有するタンパク質をコードする配列であればいかなるものでもよい。
【0030】
前記ポリヌクレオチドは、例えば配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の相同性もしくは同一性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであってもよい。具体的には、例えば配列番号1又は配列番号1と70%以上の相同性もしくは同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、配列番号95又は配列番号95のポリヌクレオチド配列と70%、75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%以上の相同性もしくは同一性を有するポリヌクレオチドであってもよい。
【0031】
また、コドンの縮退(codon degeneracy)により、配列番号1又は配列番号1と70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質又はそれと相同性もしくは同一性を有するタンパク質に翻訳されるポリヌクレオチドも本発明に含まれることは言うまでもない。さらに、公知の遺伝子配列から調製されるプローブ、例えば前記ポリヌクレオチド配列の全部又は一部に対する相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることにより、配列番号1のアミノ酸配列と70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列であればいかなるものでもよい。前記「ストリンジェントな条件」とは、ポリヌクレオチド間の特異的ハイブリダイゼーションを可能にする条件を意味する。このような条件は文献(例えば、非特許文献3、4)に具体的に記載されている。例えば、相同性もしくは同一性の高い遺伝子同士、70%以上、80%以上、具体的には85%以上、より具体的には90%以上、さらに具体的には95%以上、一層具体的には97%以上、特に具体的には99%以上の相同性もしくは同一性を有する遺伝子同士をハイブリダイズし、それより相同性もしくは同一性の低い遺伝子同士をハイブリダイズしない条件、又は通常のサザンハイブリダイゼーションの洗浄条件である60℃、1×SSC、0.1%SDS、具体的には60℃、0.1×SSC、0.1%SDS、より具体的には68℃、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度及び温度において、1回、具体的には2回~3回洗浄する条件が挙げられる。ハイブリダイゼーションは、たとえハイブリダイゼーションの厳格さに応じて塩基間のミスマッチ(mismatch)が可能であっても、2つのポリヌクレオチドが相補的配列を有することが求められる。「相補的」とは、互いにハイブリダイゼーションが可能なヌクレオチド塩基間の関係を表すために用いられるものである。例えば、DNAにおいて、アデノシンはチミンに相補的であり、シトシンはグアニンに相補的である。よって、本発明には、実質的に類似したポリヌクレオチド配列だけでなく、全配列に相補的な単離されたポリヌクレオチド断片が含まれてもよい。
【0032】
具体的には、相同性又は同一性を有するポリヌクレオチドは、55℃のTm値でハイブリダイゼーションステップが行われるハイブリダイゼーション条件と前述した条件を用いて検知することができる。また、前記Tm値は、60℃、63℃又は65℃であってもよいが、これらに限定されるものではなく、その目的に応じて当業者により適宜調節される。
【0033】
相同性(homology)及び同一性(identity)とは、2つの与えられたアミノ酸配列又は塩基配列が互いに関連する程度を意味し、百分率で表される。
【0034】
相同性及び同一性は、しばしば相互交換的に用いられる。
【0035】
保存されている(conserved)ポリヌクレオチド又はポリペプチドの配列相同性又は同一性は標準的な配列アルゴリズムにより決定され、用いられるプログラムにより確立されたデフォルトギャップペナルティが共に用いられてもよい。実質的には、相同性を有するか(homologous)又は同じ(identical)配列は、中程度又は高いストリンジェントな条件(stringent conditions)下において、一般に配列全体又は全長の少なくとも約50%、60%、70%、80%又は90%以上ハイブリダイズする。そのハイブリダイゼーションは、ポリヌクレオチドがコドンの代わりに縮退コドンを有するようにするものであってもよい。
【0036】
前記ポリペプチド又はポリヌクレオチド配列の相同性又は同一性は、例えば文献によるアルゴリズムBLAST[参照:非特許文献5]やPearsonによるFASTA(参照:非特許文献6)を用いて決定することができる。このようなアルゴリズムBLASTに基づいて、BLASTNやBLASTXというプログラムが開発されている(参照:非特許文献7)。また、任意のアミノ酸又はポリヌクレオチド配列が相同性、類似性又は同一性を有するか否かは、定義されたストリンジェントな条件下にてサザンハイブリダイゼーション実験で配列を比較することにより確認することができ、定義される好適なハイブリダイゼーション条件は当該技術の範囲内であり、当業者に周知の方法(例えば、非特許文献3、4)で決定される。
【0037】
本発明における、タンパク質が「発現するように/する」とは、標的タンパク質が微生物に導入されるか、微生物中に存在するタンパク質の場合、内在性活性又は改変前の活性に比べて活性が強化された状態を意味する。
【0038】
具体的には、「タンパク質の導入」とは、微生物が本来持っていなかった特定タンパク質の活性が現れるようにすること、又は当該タンパク質の内在性活性もしくは改変前の活性に比べて向上した活性が現れるようにすることを意味する。例えば、特定タンパク質をコードするポリヌクレオチドが微生物中の染色体に導入されることや、特定タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む断片又はベクターが微生物に導入されてその活性が現れることであってもよい。「内在性活性」とは、自然要因又は人為的要因により遺伝的に変異して微生物の形質が変化する場合に、形質変化の前に親株が本来有していた特定タンパク質の活性を意味する。
【0039】
本発明における「アミノ酸又はその前駆体」とは、前記タンパク質を用いて生産するアミノ酸又はその前駆体であって、セリン、トリプトファン、ヒスチジン、メチオニン、システイン、L-シスタチオニン、L-ホモシステイン、O-アセチルホモセリン、O-スクシニルホモセリン、L-ホモセリン及び/又はO-ホスホセリンが含まれるものであるが、これらに限定されるものではない。本発明において、前記アミノ酸は、L-アミノ酸であり、微生物が各種炭素源から代謝過程を経て生産するあらゆるL-アミノ酸が含まれ、具体的にはL-セリン、L-トリプトファン、L-ヒスチジン、L-メチオニン又はL-システインであり、前記前駆体は、O-アセチルホモセリンスルフヒドリラーゼ(O-acetylhomoserine sulfhydrylase)によりメチオニンに変換される前駆体(特許文献4)であるO-アセチルホモセリンもしくはO-スクシニルホモセリン(O-succinylhomoserine)、メチオニンの前駆体であるL-ホモセリン(L-homoserine)、L-ホモシステイン(L-homocysteine)、L-シスタチオニン(L-cystathionine)、L-システインの前駆体であるアセチルセリン(acetyl-serine)、及び/又はO-ホスホセリンスルフヒドリラーゼ(O-Phosphoserine sulfhydrylase, OPSS)によりシステインに変換される前駆体であるO-ホスホセリンであるが、これらに限定されるものではない。前記アミノ酸又はその前駆体は、より具体的にはL-セリン、L-トリプトファン、L-ヒスチジン、L-メチオニン、O-ホスホセリン又はL-システインであるが、これらに限定されるものではない。
【0040】
前記L-アミノ酸又はその前駆体の生合成を強化するために、本発明の配列番号1もしくはその機能的フラグメントを含むタンパク質を用いることができる。例えば、L-セリン、L-トリプトファン、L-ヒスチジン、L-メチオニン、L-システイン、L-ホモシステイン、L-シスタチオニン、アセチルセリン、O-アセチルホモセリン、O-スクシニルホモセリン、L-ホモセリン及び/又はO-ホスホセリンの生合成を強化するために、本発明の配列番号1のアミノ酸配列又はその機能的フラグメントを含むタンパク質を発現するように微生物を改変することができる。具体的には、配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質を導入したり、その活性を強化することができる。さらに、特定タンパク質の活性を導入又は強化したり、特定タンパク質の活性を不活性化することにより、L-アミノ酸又はその前駆体の生産能を一層向上させることができる。
【0041】
具体的には、前記微生物は、さらに、i)活性が低下したホスホセリンホスファターゼ、ii)活性が強化された3-ホスホセリンアミノトランスフェラーゼ、又はiii)活性が低下したホスホセリンホスファターゼ及び活性が強化された3-ホスホセリンアミノトランスフェラーゼを含み、L-アミノ酸又はその前駆体を生産するものであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0042】
前記微生物は、さらに、trpオペロンの強化、トリプトファナーゼ(Tryptophanase; TnaA)の不活性化、Mtr膜タンパク質(Mtr membrane protein; Mtr)の不活性化、又はそれらの組み合わせにより改変されたものであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0043】
具体的には、前記微生物は、さらに、L-トリプトファン生産に関与するL-トリプトファン生合成遺伝子の(trpEDCBA)発現を抑制するTrpRを不活性化することによりtrpオペロンが強化されたものであってもよく、細胞の外部のL-トリプトファンを細胞内に流入させる役割を果たすトリプトファナーゼ(Tryptophanase; TnaA)、及び細胞内のL-トリプトファンと水分子をインドール(Indole)、ピルビン酸(pyruvate)、アンモニア(NH3)に分解する役割を果たすMtr膜タンパク質が不活性化されたものであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0044】
さらに、本発明の目的上、前記微生物は、さらに、hisオペロンが強化されたものであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0045】
具体的には、前記微生物は、L-ヒスチジン生合成経路の強化のために、計4つのオペロン(operon)に分離されている生合成遺伝子をプロモーターが置換された形態のclusterで導入したものであってもよい。前記L-ヒスチジン生合成clusterは、計4つのオペロン(operon)(hisE-hisG,hisA-impA-hisF-hisI,hisD-hisC-hisB,cg0911-hisN)に分離され、前記生合成遺伝子を一度に微生物中に導入するベクターを用いてhisオペロンを強化するものであるが、これに限定されるものではない。
【0046】
さらに、本発明の目的上、前記微生物は、さらに、McbR(Transcriptional regulator; mcbR)の不活性化、メチオニンシンターゼ(Methionine synthase; meth)の強化、亜硫酸レダクターゼ[NADPH]ヘムタンパク質βコンポーネント(Sulfite reductase [NADPH] hemoprotein beta-component; cysI)の強化、又はそれらの組み合わせにより改変されたものであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0047】
具体的には、前記微生物は、さらに、メチオニンシステイン転写調節因子タンパク質であるMcbRの不活性化、メチオニン合成酵素であるメチオニンシンターゼ(Methionine synthase; Meth)の強化、亜硫酸レダクターゼ[NADPH]ヘムタンパク質βコンポーネント(Sulfite reductase [NADPH] hemoprotein beta-component; cysI)の強化、又はそれらの組み合わせにより改変されたものであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0048】
前記特定タンパク質及び/又は遺伝子の活性を導入、強化、不活性化する方法は、微生物が有する特徴に応じて、当該分野で公知の好適な方法により行うことができる。
【0049】
本発明におけるタンパク質の活性の「強化」とは、前記タンパク質の活性が導入されるか、内在性活性に比べて活性が増加することを意味する。前記活性の「導入」とは、微生物が本来持っていなかった特定ポリペプチドの活性が自然に又は人為的に現れるようにすることを意味する。
【0050】
本発明におけるタンパク質の活性が内在性活性に比べて「増加」するとは、微生物が有するタンパク質の内在性活性又は改変前の活性に比べて活性が向上することを意味する。前記「内在性活性」とは、自然要因又は人為的要因により遺伝的に変異して微生物の形質が変化する場合に、形質変化の前に親株又は非改変微生物が本来有していた特定タンパク質の活性を意味する。これは、「改変前の活性」と混用される。前記活性の増加は、外来タンパク質の導入により行うこともでき、内在性タンパク質の活性の強化により行うこともできる。前記タンパク質の活性の増加/強化は、遺伝子の発現の増加/強化により達成することができる。
【0051】
具体的には、本発明におけるタンパク質の活性の増加は、1)前記タンパク質をコードするポリヌクレオチドのコピー数の増加、2)前記ポリヌクレオチドの発現を増加させる発現調節配列の改変、3)前記タンパク質の活性を強化する染色体上のポリヌクレオチド配列の改変、4)前記タンパク質の活性を示す外来ポリヌクレオチド又は前記ポリヌクレオチドのコドン最適化された変異型ポリヌクレオチドの導入、又は5)それらの組み合わせにより強化する改変などにより行われるが、これらに限定されるものではない。
【0052】
前記1)ポリヌクレオチドのコピー数の増加は、特にこれらに限定されるものではないが、ベクターに作動可能に連結された形態で行われるか、宿主細胞内の染色体に挿入されることにより行われる。具体的には、本発明のタンパク質をコードするポリヌクレオチドが作動可能に連結された、宿主に関係なく複製されて機能するベクターが宿主細胞に導入されることにより行われるか、前記ポリヌクレオチドが作動可能に連結された、宿主細胞内の染色体に前記ポリヌクレオチドを挿入することのできるベクターが宿主細胞に導入されることにより前記宿主細胞の染色体内の前記ポリヌクレオチドのコピー数を増加する方法で行うことができる。
【0053】
次に、2)ポリヌクレオチドの発現を増加させる発現調節配列の改変は、特にこれらに限定されるものではないが、前記発現調節配列の活性がさらに強化されるように、核酸配列の欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより配列上の変異を誘導して行うこともでき、より強い活性を有する核酸配列に置換することにより行うこともできる。前記発現調節配列には、特にこれらに限定されるものではないが、プロモーター、オペレーター配列、リボソーム結合部位をコードする配列、転写及び翻訳の終結を調節する配列などが含まれる。
【0054】
前記ポリヌクレオチド発現単位の上流には、本来のプロモーターに代えて強力な異種プロモーターが連結されるが、前記強力なプロモーターの例としては、cj1~cj7プロモーター(特許文献5,6)、lysCP1プロモーター(特許文献7)、EF-Tuプロモーター、groELプロモーター、aceA又はaceBプロモーター、lacプロモーター、trpプロモーター、trcプロモーター、tacプロモーター、ラムダファージPRプロモーター、PLプロモーター、tetプロモーター、gapAプロモーター、SPL1、SPL7、SPL13プロモーター(特許文献8)、O2プロモーター(特許文献9)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、3)染色体上のポリヌクレオチド配列の改変は、特にこれらに限定されるものではないが、前記ポリヌクレオチド配列の活性がさらに強化されるように、核酸配列の欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより発現調節配列上の変異を誘導して行うこともでき、より強い活性を有するように改良されたポリヌクレオチド配列に置換することにより行うこともできる。
【0055】
さらに、4)外来ポリヌクレオチド配列の導入は、前記タンパク質と同一/類似の活性を示すタンパク質をコードする外来ポリヌクレオチド、又はそのコドン最適化された変異型ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入することにより行うことができる。前記外来ポリヌクレオチドは、前記タンパク質と同一/類似の活性を示すものであれば、その由来や配列が限定されるものではない。また、宿主細胞内で最適化された転写、翻訳が行われるように、導入された前記外来ポリヌクレオチドのコドンを最適化して宿主細胞に導入してもよい。前記導入は、公知の形質転換方法を当業者が適宜選択して行うことができ、宿主細胞内で前記導入されたポリヌクレオチドを発現することにより、タンパク質が産生されてその活性が増加する。
【0056】
最後に、5)前記1)~4)の組み合わせにより強化する改変は、前記タンパク質をコードするポリヌクレオチドのコピー数の増加、その発現を増加させる発現調節配列の改変、染色体上の前記ポリヌクレオチド配列の改変、及び前記タンパク質の活性を示す外来ポリヌクレオチド又はそのコドン最適化された変異型ポリヌクレオチドの改変の少なくとも1つの方法を共に適用することにより行うことができる。
【0057】
本発明におけるタンパク質の活性の「低下」とは、タンパク質の活性が内在性活性に比べて減少するか、不活性化することを意味する。
【0058】
このようなタンパク質の活性の低下は、当該分野で周知の様々な方法を適用することにより達成することができる。前記方法の例として、前記タンパク質の活性を除去する場合をはじめとして、前記タンパク質をコードする染色体上の遺伝子の全部又は一部を欠失させる方法、前記タンパク質の活性が低下するように突然変異させた遺伝子により染色体上の前記タンパク質をコードする遺伝子を代替する方法、前記タンパク質をコードする染色体上の遺伝子の発現調節配列に変異を導入する方法、前記タンパク質をコードする遺伝子の発現調節配列を活性が低い配列や活性のない配列に置換する方法(例えば、前記遺伝子のプロモーターを内在性プロモーターより弱いプロモーターに置換する方法)、前記染色体上の遺伝子の転写産物に相補的に結合させて前記mRNAからタンパク質への翻訳を阻害するアンチセンスオリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスRNA)を導入する方法、前記タンパク質をコードする遺伝子のSD配列の前にSD配列と相補的な配列を人為的に付加することにより2次構造物を形成させてリボソーム(ribosome)の付着を不可能にする方法、当該配列のORF(open reading frame)の3’末端に逆転写するようにプロモーターを付加するRTE(Reverse transcription engineering)方法などが挙げられ、それらの組み合わせによっても達成することができるが、上記例に特に限定されるものではない。
【0059】
具体的には、タンパク質をコードする遺伝子の一部又は全部を欠失させる方法は、微生物中の染色体挿入用ベクターを用いて、染色体内の内在性標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを一部の核酸配列が欠失したポリヌクレオチド又はマーカー遺伝子に置換することにより行われる。例えば、相同組換えにより遺伝子を欠失させる方法を用いることができるが、これに限定されるものではない。また、前記「一部」とは、ポリヌクレオチドの種類によって異なり、当業者が適宜決定することができ、具体的には1~300個、より具体的には1~100個、さらに具体的には1~50個である。しかし、特にこれらに限定されるものではない。
【0060】
また、発現調節配列を改変する方法は、前記発現調節配列の活性がさらに低下するように、核酸配列の欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより発現調節配列上の変異を誘導して行うこともでき、より活性が低い核酸配列に置換することにより行うこともできる。前記発現調節配列には、プロモーター、オペレーター配列、リボソーム結合部位をコードする配列、及び転写と翻訳の終結を調節する配列が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0061】
また、染色体上の遺伝子配列を改変する方法は、前記タンパク質の活性がさらに低下するように、遺伝子配列の欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより配列上の変異を誘導して行うこともでき、活性がさらに低下するように改良された遺伝子配列又は活性がなくなるように改良された遺伝子配列に置換することにより行うこともできるが、これらに限定されるものではない。
【0062】
本発明における「L-アミノ酸又はその前駆体を生産する微生物」とは、培地中の炭素源からL-アミノ酸又はその前駆体を野生型又は非改変微生物と比較して過剰量で生産する微生物を意味する。あるいは、前記微生物とは、自然にL-アミノ酸又はその前駆体の生産能を有する微生物、又はL-アミノ酸又はその前駆体の生産能のない親株にL-アミノ酸又はその前駆体の生産能が付与された微生物を意味する。具体的には、前記微生物は、配列番号1のアミノ酸配列又はその機能的フラグメントを含むタンパク質を発現するように改変されたL-アミノ酸又はその前駆体を生産する微生物であるが、これらに限定されるものではない。
【0063】
また、前記「L-アミノ酸又はその前駆体を生産する微生物」とは、野生型微生物や自然に又は人為的に遺伝的改変が行われた微生物が全て含まれるものであり、外部遺伝子が挿入されるか、内在性遺伝子の活性が強化又は不活性化されるなどの原因により、特定機序が低下又は強化された微生物であって、目的とするL-アミノ酸又はその前駆体の生産のために遺伝的変異を起こすか、活性を強化した微生物である。具体的には、前記微生物は、L-アミノ酸又はその前駆体を生産するものであればその種類が特に限定されるものではなく、エンテロバクター(Enterobacter)属、エシェリキア(Escherichia)属、エルウィニア(Erwinia)属、セラチア(Serratia)属、プロビデンシア(Providencia)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属又はブレビバクテリウム(Brevibacterium)属に属する微生物である。より具体的には、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属又はエシェリキア(Escherichia)属に属する微生物である。前記コリネバクテリウム(Corynebacterium)属微生物は、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)、ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)、コリネバクテリウム・サーモアミノゲネス(Corynebacterium thermoaminogenes)、コリネバクテリウム・エフィシエンス(Corynebacterium efficiens)、コリネバクテリウム・スタティオニス(Corynebacterium stationis)などであるが、これらに限定されるものではない。さらに具体的には、エシェリキア(Escherichia)属微生物はエシェリキア・コリ(Escherichia coli)であり、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属微生物はコリネバクテリウム・グルタミカム(corynebacterium glutamicum)であるが、これらに限定されるものではない。
【0064】
本発明の目的上、前記微生物は、これらのタンパク質をはじめとする、L-アミノ酸又はその前駆体を生産する微生物であればいかなるものでもよい。
【0065】
本発明における前記「L-アミノ酸又はその前駆体を生産する微生物」は、「L-アミノ酸又はその前駆体を生産できる微生物」、「L-アミノ酸又はその前駆体生産能を有する微生物」と混用される。
【0066】
本発明のさらに他の態様は、配列番号1もしくはその機能的フラグメントを含むタンパク質を発現するように改変された微生物、又は前記タンパク質を含む、L-アミノ酸又はその前駆体生産用組成物を提供する。
【0067】
前記L-アミノ酸又はその前駆体生産用組成物とは、本発明のタンパク質によりL-アミノ酸又はその前駆体を生産する組成物を意味する。前記組成物には、前記タンパク質、その機能的フラグメント、又は前記タンパク質を作動させることのできる構成が全て含まれる。
【0068】
本発明のさらに他の態様は、前記微生物を培地で培養するステップを含む、L-アミノ酸又はその前駆体の生産方法を提供する。
【0069】
前記方法は、前記培地又はその培養物からL-アミノ酸又はその前駆体を回収するステップをさらに含んでもよい。
【0070】
前記方法において、前記微生物を培養するステップは、特にこれらに限定されるものではないが、公知の回分培養法、連続培養法、流加培養法などにより行われる。ここで、培養条件は、特にこれらに限定されるものではないが、塩基性化合物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム又はアンモニア)又は酸性化合物(例えば、リン酸又は硫酸)を用いて適正pH(例えば、pH5~9、具体的にはpH6~8、最も具体的にはpH6.8)に調節し、酸素又は酸素含有ガス混合物を培養物に導入して好気性条件を維持する。培養温度は20~45℃、具体的には25~40℃に維持し、約10~160時間培養するが、これらに限定されるものではない。前記培養により生産されたアミノ酸は、培地中に分泌されるか、又は細胞内に残留する。
【0071】
また、用いられる培養用培地は、炭素供給源として糖及び炭水化物(例えば、グルコース、スクロース、ラクトース、フルクトース、マルトース、モラセス、デンプン及びセルロース)、油脂(例えば、大豆油、ヒマワリ油、落花生油及びココナッツ油)、脂肪酸(例えば、パルミチン酸、ステアリン酸及びリノール酸)、アルコール(例えば、グリセリン及びエタノール)、有機酸(例えば、酢酸)などを個別に又は混合して用いることができるが、これらに限定されるものではない。窒素供給源としては、窒素含有有機化合物(例えば、ペプトン、酵母エキス、肉汁、麦芽エキス、トウモロコシ浸漬液、大豆粕及び尿素)、無機化合物(例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム及び硝酸アンモニウム)などを個別に又は混合して用いることができるが、これらに限定されるものではない。リン供給源としては、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、それらに相当するナトリウム含有塩などを個別に又は混合して用いることができるが、これらに限定されるものではない。また、培地は、その他金属塩(例えば、硫酸マグネシウム又は硫酸鉄)、アミノ酸、ビタミンなどの必須成長促進物質を含むが、これらに限定されるものではない。
【0072】
本発明の前記培養ステップで生産されたアミノ酸を回収する方法は、培養方法に応じて、当該分野で公知の好適な方法を用いて培養液から目的とするアミノ酸を回収(collect)することができる。例えば、遠心分離、濾過、陰イオン交換クロマトグラフィー、結晶化、HPLCなどが用いられ、当該分野で公知の好適な方法を用いて培地又は微生物から目的とするアミノ酸を回収することができるが、これらに限定されるものではない。
【0073】
また、前記回収ステップは、精製工程を含んでもよく、当該分野で公知の好適な方法を用いて行うことができる。よって、前述したように回収されるアミノ酸は、精製された形態であってもよく、アミノ酸を含有する微生物発酵液であってもよい(非特許文献8)。
【0074】
さらに、本発明の目的上、前記アゾトバクター(Azotobacter)属微生物由来のD-3-ホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼを発現するように改変された微生物は、セリン、トリプトファン、ヒスチジン、メチオニン又はO-ホスホセリンが含まれるL-アミノ酸又はその前駆体の生産量が増加することを特徴とする。これは、野生型コリネバクテリウム属菌株がL-アミノ酸又はその前駆体を生産できないか、生産したとしても極微量しか生産できないのに対して、L-アミノ酸又はその前駆体の生産量を増加させることができることに意義がある。
【0075】
本発明のさらに他の態様は、配列番号1もしくはその機能的フラグメントを含むタンパク質を発現するように改変された微生物、又は前記タンパク質を含む組成物を用いた、L-アミノ酸又はその前駆体の生産方法を提供する。
【0076】
配列番号1もしくはその機能的フラグメントを含むタンパク質を発現するように改変された微生物、及びそれを含む微生物については前述した通りである。
【0077】
本発明のさらに他の態様は、配列番号1もしくはその機能的フラグメントを含むタンパク質における、L-アミノ酸又はその前駆体生産増加用途を提供する。
【0078】
配列番号1もしくはその機能的フラグメント、L-アミノ酸、及びその前駆体については前述した通りである。
【実施例
【0079】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。しかし、これらの実施例は本発明を例示するものにすぎず、本発明がこれらに限定されるものではない。なお、本明細書に記載されていない内容は、当業者であれば十分に認識、類推できるものであるので、その説明を省略する。
【実施例1】
【0080】
アゾトバクター(Azotobacter)由来の3-ホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼ(D-3-phosphoglycerate dehydrogenase, serA(Avn))過剰発現ベクターの作製
アゾトバクター・ビネランディ(Azotobacter vinelandii)由来のD-3-ホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼ(D-3-phosphoglycerate dehydrogenase, 以下、「SerA(Avn)」という)を強化した場合にセリン及びOPS生産能が向上するか否かを確認するために、発現ベクターを作製した。
【0081】
SerA(Avn)をコードする遺伝子serA(Avn)(配列番号1)の発現のために、pCL1920ベクター(GenBank No. AB236930)を用いた。また、発現プロモーターとしてtrcプロモーター(Ptrc)を用いて、pCL-Ptrc-serA(Avn)の形態のベクターを作製した。
【0082】
対照群としては、セリンに対するフィードバック阻害が解除された大腸菌由来の3-ホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼを含むベクターを作製し、pCL-Ptrc-serA*(G336V)と命名した。前記各ベクターを作製するために用いたプライマー配列を表1に示す。
【0083】
【表1】
【0084】
両ベクターの作製に共通して用いられるPtrc PCRには配列番号2及び3のプライマーを用いた。具体的には、外来serA(Avn) PCRには配列番号4及び5のプライマーを用い、serA*(G336V) PCRには配列番号6及び7のプライマーを用いた。増幅したPtrc及び各遺伝子の断片serA(Avn)、serA*(G336V)は、それぞれsmaIの制限酵素で処理したpCL1920ベクターとギブソンアセンブリ方法を用いてクローニングし、pCL-Ptrc-serA(Avn)とpCL-Ptrc-serA*(G336V)を作製した。
【実施例2】
【0085】
大腸菌野生型菌株にアゾトバクター由来のserA(Avn)を導入した菌株の作製及びセリン生産能の評価
親株として大腸菌野生型菌株であるW3110を用いて、実施例1で作製した2種のプラスミドをそれぞれW3110に導入した菌株を作製し、セリン生産能を評価した。
【0086】
各菌株をLB固体培地に塗抹し、その後33℃の培養器で一晩培養した。LB固体培地で一晩培養した菌株を表2の力価培地25mlに接種し、次いでこれを34.5℃、200rpmの培養器で40時間培養した。その結果を表3に示す。
【0087】
【表2】
【0088】
【表3】
【0089】
表3に示すように、セリンに対するフィードバック阻害が解除されて活性も強化されたserAを含むW3110/pCL-Ptrc-serA*(G336V)菌株は、野生型に比べてセリン生産量が60%も増加した。それに対して、アゾトバクター由来のserA(Avn)を含むW3110/pCL-Ptrc-serA(Avn)は、W3110に比べてセリン生産量が160%増加し、W3110/pCL-Ptrc-serA*(G336V)に比べて62.5%増加することが確認された。
【実施例3】
【0090】
serBの低下及び外来アゾトバクター由来のserA(Avn)を導入した菌株の作製及びOPS生産能の評価
大腸菌野生型菌株であるW3110において内在性ホスホセリンホスファターゼ(phosphoserine phosphatase, SerB)の活性が低下したO-ホスホセリン(OPS)生産微生物、KCCM11212P(「CA07-0012」と命名した;特許文献10,11)を準備した。
【0091】
実施例1で作製した2種のプラスミドをそれぞれ前記CA07-0012に導入した菌株を作製し、OPS生産能を評価した。
【0092】
各菌株をLB固体培地に塗抹し、その後33℃の培養器で一晩培養した。LB固体培地で一晩培養した菌株を表4の力価培地25mlに接種し、次いでこれを34.5℃、200rpmの培養器で40時間培養した。その結果を表5に示す。
【0093】
【表4】
【0094】
【表5】
【0095】
表5に示すように、セリンに対するフィードバック阻害が解除されて活性も強化されたserAを含むCA07-0012/pCL-Ptrc-serA*(G336V)菌株は、野生型に比べてOPS生産量が57%増加した。アゾトバクター由来のserA(Avn)を含むCA07-0012/pCL-Ptrc-serA(Avn)は、野生型に比べてOPS生産量が107%増加し、CA07-0012/pCL-Ptrc-serA*(G336V)に比べて32%増加することが確認された。
【実施例4】
【0096】
アゾトバクター(Azotobacter)由来のserA(Avn)及び大腸菌由来のserCの同時過剰発現ベクターの作製
大腸菌由来の3-ホスホセリンアミノトランスフェラーゼ(3-phosphoserine aminotransferase, serC)を過剰発現する菌株にserA(Avn)を導入した場合にセリン及びOPS生産能がさらに向上するか否かを確認するために、serA(Avn)とserCをオペロンの形態で発現するpCL-Ptrc-serA(Avn)-(RBS)serCの形態のベクターを作製した。
【0097】
その陽性対照群として、大腸菌由来のserA*(G336V)とserCを同時に発現する微生物を作製するために、pCL-Ptrc-serA*(G336V)-(RBS)serCベクターを作製した。前記各ベクターを作製するために用いたプライマー配列を表6に示す。
【0098】
【表6】
【0099】
Ptrc_serA(Avn) PCRには、実施例1で作製したpCL-Ptrc-serA(Avn)を鋳型とし、配列番号2及び8のプライマーを用い、Ptrc_serA*(G336V) PCRには、pCL-Ptrc-serA*(G336V)を鋳型とし、配列番号2及び11のプライマーを用いた。両ベクターの作製に共通して用いられる大腸菌由来の(RBS)serCは、w3110ゲノミックDNAを鋳型とし、配列番号9及び10のプライマーを用いたPCRにより得た。
【0100】
増幅したPtrc_serA(Avn)及び(RBS)serCの断片と、Ptrc_serA*(G336V)及び(RBS)serCの断片は、それぞれsmaIの制限酵素で処理したpCL1920ベクターとギブソンアセンブリ(非特許文献9)方法を用いてクローニングし、pCL-Ptrc-serA(Avn)-(RBS)serCとpCL-Ptrc-serA*(G336V)-(RBS)serCを作製した。
【実施例5】
【0101】
serCの強化及びアゾトバクター由来のserA(Avn)を導入した菌株の作製及びセリン生産能の評価
serCを過剰発現する菌株にアゾトバクター由来のserA(Avn)を導入した場合のセリン生産能を評価するために、実施例4で作製した2種のプラスミドをそれぞれW3110に導入した。
【0102】
各菌株をLB固体培地に塗抹し、その後33℃の培養器で一晩培養した。LB固体培地で一晩培養した菌株を表7の力価培地25mlに接種し、次いでこれを34.5℃、200rpmの培養器で40時間培養した。その結果を表8に示す。
【0103】
【表7】
【0104】
【表8】
【0105】
表8に示すように、serA*(G336V)を含むw3110/pCL-Ptrc-serA*(G336V)-(RBS)serC菌株に比べて、アゾトバクター由来のserA(Avn)を含むw3110/pCL-Ptrc-serA(Avn)-(RBS)serCのL-セリン生産量のほうが高いことが確認された。すなわち、L-セリン生産能が増加した菌株においても、アゾトバクター由来のserA(Avn)を含む場合にL-セリン生産能がさらに増加することが確認された。
【0106】
前記w3110/pCL-Ptrc-serA(Avn)-(RBS)serC菌株をCA07-4383と命名し、ブダペスト条約上の国際寄託機関である韓国微生物保存センター(KCCM)に2018年11月9日付けで寄託番号KCCM12381Pとして国際寄託した。
【実施例6】
【0107】
serBの低下、serCの強化、及びアゾトバクター由来のserA(Avn)を導入した菌株の作製及びOPS生産能の評価
serBの活性が低下してserCを過剰発現する菌株にアゾトバクター由来のserA(Avn)を導入した場合のセリン生産能を評価するために、実施例4で作製した2種のプラスミドをそれぞれCA07-0012に導入した菌株を作製し、OPS生産能を評価した。
【0108】
各菌株をLB固体培地に塗抹し、その後33℃の培養器で一晩培養した。LB固体培地で一晩培養した菌株を表9の力価培地25mlに接種し、次いでこれを34.5℃、200rpmの培養器で40時間培養した。その結果を表10に示す。
【0109】
【表9】
【0110】
【表10】
【0111】
表10に示すように、serA*(G336V)を含むCA07-0012/pCL-Ptrc-serA*(G336V)-(RBS)serC菌株に比べて、アゾトバクター由来のserA(Avn)を含むCA07-0012/pCL-Ptrc-serA(Avn)-(RBS)serCのOPS生産量のほうが高いことが確認された。すなわち、L-セリン生産能が増加した菌株においても、アゾトバクター由来のserA(Avn)を含む場合にL-セリン生産能がさらに増加することが確認された。
【実施例7】
【0112】
アゾトバクター由来のserA(Avn)を導入したエシェリキア属菌株の作製及びトリプトファン生産能の評価
実施例7-1:L-トリプトファンを生産するエシェリキア属微生物の作製
エシェリキア属L-トリプトファン生産菌株は、野生型の大腸菌W3110から開発した。L-トリプトファン排出活性を有するタンパク質を発現するように改変することによりL-トリプトファン生産量が画期的に増加するかを確認するために、L-トリプトファンを生産するように作製した菌株を親株として用いた。具体的には、コリスメート(Chorismate)からのL-トリプトファン生産に関与するL-トリプトファン生合成遺伝子の(trpEDCBA)発現は、TrpRにより抑制される。よって、それをコードするtrpR遺伝子を除去した。また、L-トリプトファン生産向上に伴うTrpEポリペプチドのフィードバック阻害(feedback inhibition)を解消するために、TrpEのN末端から21番目のアミノ酸であるプロリン(Proline)をセリン(Serine)に置換した(非特許文献10)。
【0113】
Mtr膜タンパク質は細胞の外部のL-トリプトファンを細胞内に流入させる役割を果たし、TnaAタンパク質は細胞内のL-トリプトファンと水分子をインドール(Indole)、ピルビン酸(pyruvate)、アンモニア(NH3)に分解する役割を果たす。よって、L-トリプトファン生産を阻害して分解するmtr遺伝子とtnaA遺伝子を除去した。
【0114】
このような遺伝子の除去のために、ラムダレッド組換え(λ-red recombination, 非特許文献11)方法を用いた。mtr遺伝子の除去のために、pKD4ベクターを鋳型とし、配列番号12と配列番号13のプライマーを用いて、FRT-kanamycin-FRT cassetteと染色体の相同組換えが生じるmtr遺伝子の両側の相同な50bpの塩基対が結合された遺伝子断片(1580bp)をPCRにより得た。pKD4ベクターのカナマイシン抗生剤マーカーは、ターゲット遺伝子の除去及び抗生剤遺伝子挿入の確認のために用いた。FRT部位は、ターゲット遺伝子を除去した後に抗生剤マーカーを除去する役割を果たす。重合酵素としてはSolgTM Pfu-X DNAポリメラーゼを用い、PCR増幅条件は、95℃で2分間の変性後、95℃で20秒間の変性、62℃で40秒間のアニーリング、72℃で1分間の重合を27サイクル行い、その後72℃で5分間の重合反応を行うものとした。
【0115】
【表11】
【0116】
ラムダレッドリコンビナーゼ(gam,bet,exo)を発現するpKD46ベクターを大腸菌W3110菌株にエレクトロポレーションにより形質転換し、50mg/Lのカナマイシンを含むLB固体培地に塗抹した。pKD46ベクターの形質転換が確認された大腸菌W3110菌株は、30℃でOD600が約0.1になったときに10mMのL-アラビノース(L-arabinose)添加により組換え酵素発現を誘導し、OD600が約0.6になったときにコンピテントセルを準備し、その後上記過程で得られたFRT-kanamycin-FRT cassetteとmtr遺伝子の両側の相同な50bpの塩基対が結合された線形遺伝子断片をエレクトロポレーションにより形質転換した。25mg/Lのカナマイシンを含むLB固体培地で生育したコロニーは、配列番号14と配列番号15を用いてコロニーPCRを行い、782bpの遺伝子断片が作製されるコロニーを選択した。
【0117】
【表12】
【0118】
相同組換えが生じてmtr遺伝子が除去された菌株は、カナマイシン抗生剤マーカーの除去のためにコンピテントセルを準備し、その後pCP20ベクターを用いてエレクトロポレーションにより形質転換した。pCP20ベクターは、FLPタンパク質を発現し、カナマイシン抗生剤の両側のFRT部位を認識して染色体上に結合することにより、FRT部位間の抗生剤マーカーを除去する。100mg/Lのアンピシリン(Ampicillin)と25mg/Lのクロラムフェニコール(Chloramphenicol)を含むLB固体培地で成長したpCP20ベクター形質転換菌株を30℃のLB液体培地で1時間培養し、その後42℃で15時間追加培養してLB固体培地に塗抹した。生育したコロニーは、100mg/Lのアンピシリン(Ampicillin)と25mg/Lのクロラムフェニコール(Chloramphenicol)を含むLB固体培地、12.5mg/Lのカナマイシンを含むLB固体培地、抗生剤を含まないLB固体培地に培養し、抗生剤を含まないLB固体培地でのみ生育したコロニーを選択した。ゲノムシーケンシングによりmtr遺伝子の除去を最終確認し、それをCA04-9300と命名した。
【0119】
tnaA遺伝子の除去のために、上記方法と同様に遺伝子操作を行った。pKD4ベクターを鋳型とし、配列番号16と配列番号17を用いて、FRT-kanamycin-FRT cassetteと染色体の相同組換えが生じるtnaA遺伝子の両側の相同な50bpの塩基対が結合された遺伝子断片(1580bp)をPCRにより得た。重合酵素としてはSolgTM Pfu-X DNAポリメラーゼを用い、PCR増幅条件は、95℃で2分間の変性後、95℃で20秒間の変性、62℃で40秒間のアニーリング、72℃で1分間の重合を27サイクル行い、その後72℃で5分間の重合反応を行うものとした。
【0120】
【表13】
【0121】
pKD46ベクターの形質転換を確認し、10mMのL-アラビノース添加により組換え酵素を発現するCA04-9300菌株は、エレクトロポレーションにより上記過程で得られたFRT-kanamycin-FRT cassetteとtnaA遺伝子の両側の相同な50bpの塩基対が結合された線形遺伝子断片を形質転換した。25mg/Lのカナマイシンを含むLB固体培地で生育したコロニーは、配列番号14と配列番号18を用いてコロニーPCRを行い、787bpの遺伝子断片が作製されるコロニーを選択した。
【0122】
相同組換えが生じてtnaA遺伝子が除去された菌株は、カナマイシン抗生剤マーカーの除去のためにコンピテントセルを準備し、その後pCP20ベクターを形質転換し、FLPタンパク質の発現によりカナマイシン抗生剤マーカーが除去された菌株を作製した。ゲノムシーケンシングによりtnaA遺伝子の除去を最終確認し、それをCA04-9301と命名した。
【0123】
trpR遺伝子の除去のために、pKD4ベクターを鋳型とし、配列番号19と配列番号20のプライマーを用いて、FRT-kanamycin-FRT cassetteと染色体の相同組換えが生じるtrpR遺伝子の両側の相同な50bpの塩基対が結合された遺伝子断片(1580bp)をPCRにより得た。重合酵素としてはSolgTM Pfu-X DNAポリメラーゼを用い、PCR増幅条件は、95℃で2分間の変性後、95℃で20秒間の変性、62℃で40秒間のアニーリング、72℃で1分間の重合を27サイクル行い、その後72℃で5分間の重合反応を行うものとした。
【0124】
【表14】
【0125】
pKD46ベクターの形質転換を確認し、10mMのL-アラビノース添加により組換え酵素を発現するCA04-9301菌株は、エレクトロポレーションにより上記過程で得られたFRT-kanamycin-FRT cassetteとtrpR遺伝子の両側の相同な50bpの塩基対が結合された線形遺伝子断片を形質転換した。25mg/Lのカナマイシンを含むLB固体培地で生育したコロニーは、配列番号14と配列番号21のプライマーを用いてコロニーPCRを行い、838bpの遺伝子断片が作製されるコロニーを選択した。
【0126】
相同組換えが生じてtrpR遺伝子が除去された菌株は、カナマイシン抗生剤マーカーの除去のためにコンピテントセルを準備し、その後pCP20ベクターを形質転換し、FLPタンパク質の発現によりカナマイシン抗生剤マーカーが除去された菌株を作製した。ゲノムシーケンシングによりtrpR遺伝子の除去を最終確認し、それをCA04-9307と命名した。
【0127】
前記CA04-9307菌株において、feedback resistant trpE形質を持たせるために、大腸菌W3110 gDNAを鋳型とし、制限酵素EcoRIを含む配列番号22、配列番号23を用いて、EcoRI配列を含むtrpE遺伝子断片(1575bp)をPCRにより得た。重合酵素としてはSolgTM Pfu-X DNAポリメラーゼを用い、PCR増幅条件は、95℃で2分間の変性後、95℃で20秒間の変性、62℃で1分間のアニーリング、72℃で1分間の重合を27サイクル行い、その後72℃で5分間の重合反応を行うものとした。
【0128】
【表15】
【0129】
上記方法で得たtrpE遺伝子及びpSG76-Cプラスミド(非特許文献12)をそれぞれEcoRI制限酵素で処理してクローニングした。クローニングしたプラスミドを大腸菌DH5αにエレクトロポレーションにより形質転換し、クロラムフェニコール(chloramphenicol)25μg/mlを含むLBプレートから形質転換された大腸菌DH5αを選択してpSG76-C-trpEプラスミドを得た。
【0130】
前述したように得たpSG76-C-trpEプラスミドを用いて、site directed mutagenesis(Stratagene, 米国)方法により配列番号24、配列番号25のプライマーでpSG76-C-trpE(P21S)を作製した。
【0131】
【表16】
【0132】
CA04-9307菌株にpSG76-C-trpE(P21S)プラスミドを形質転換してLB-Cm(Yeast extract 10g/L,NaCl 5g/L,Tryptone 10g/L,Chloramphenicol 25ug/L)培地で培養し、その後クロラムフェニコール耐性を有するコロニーを選択した。選択した形質転換体は、pSG76-C-trpE(P21S)プラスミドがゲノム内のtrpE部分に1次挿入された菌株である。確保したtrpE(P21S)遺伝子を挿入した菌株に、pSG76-Cプラスミド内に存在するI-SceI部分を切断する制限酵素I-SceIを発現するプラスミドであるpAScep(非特許文献12)を形質転換し、LB-Ap(Yeast extract 10g/L,NaCl 5g/L,Tryptone 10g/L,Ampicilline 100ug/L)で生長する菌株を選択した。選択した菌株において、配列番号22、配列番号23のプライマーを用いてtrpE遺伝子を増幅し、増幅した遺伝子は、シーケンシングによりtrpE(P21S)に交換されたことを確認した。このように作製した菌株をCA04-4303と命名した。
【0133】
実施例7-2:アゾトバクター由来のserA(Avn)を導入したエシェリキア属微生物の作製及びトリプトファン生産能の評価
実施例1で作製したpCL-Ptrc-serA(Avn)ベクターと対照群としてのpCL1920ベクターを実施例1で作製したCA04-4303に導入し、CA04-4303/pCL1920、CA04-4303/pCL-Ptrc-serA(Avn)菌株を作製した。この2つの菌株CA04-4303/pCL1920、CA04-4303/pCL-Ptrc-serA(Avn)のL-トリプトファン生産量を確認するために、50mg/Lのスペクチノマイシン(Spectinomycin)を含むLB液体培地に12時間培養した。次に、生産培地25mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに初期OD600値が0.01になるように接種し、37℃、200rpmで48時間振盪培養した。培養終了後に、HPLCによりL-トリプトファンの生産量を測定した。
【0134】
CA04-4303/pCL1920とCA04-4303/pCL-Ptrc-serA(Avn)における培地中のL-トリプトファン生産の結果を表17に示す。CA04-4303/pCL1920菌株は、1.2g/LのL-トリプトファンを生産し、中間産物として37mg/Lのインドールが蓄積されたが、前述したようにserA(Avn)を導入した菌株は、インドールが蓄積されることなく、1.7g/LのL-トリプトファンを生産した。
<生産培地(pH7.0)>
グルコース70g,(NH4)2SO4 20g,MgSO4・7H2O 1g,KH2PO4 2g,酵母抽出物2.5g,Na-citrate 5g,NaCl 1g,CaCO3 40g(蒸留水1リットル中)
【0135】
【表17】
【0136】
これらの結果から分かるように、serA(Avn)の導入によりL-セリンの供給が円滑になったものと推測され、L-トリプトファン生合成の最後のステップの中間産物であるインドールが蓄積されず、L-トリプトファン収率も向上することが確認された。
【0137】
実施例7-3:外来アゾトバクター由来のserA(Avn)を導入したトリプトファンを生産するコリネバクテリウム・グルタミカム菌株の作製
前述したようなアゾトバクター由来のserA(Avn)遺伝子の効果をコリネバクテリウム属トリプトファン生産菌株においても確認するために、L-トリプトファンを生産するコリネバクテリウム属菌株としてKCCM12218P(特許文献12)を用いた。
【0138】
コリネバクテリウム・グルタミカムserA(以下、serA(Cgl))遺伝子をアゾトバクター由来のserA(Avn)遺伝子に置換し、gapAプロモーターにより発現するように菌株を作製した。
【0139】
このような遺伝子操作のために、まず染色体の相同組換え(Homologous recombination)が生じるserA(Cgl)遺伝子のプロモーターの上流(Upstream)領域とserA(Cgl)遺伝子のORFの下流(Downsteam)領域を得た。具体的には、コリネバクテリウム・グルタミカムの染色体DNAを鋳型とし、配列番号26と配列番号27のプライマーを用いて、プロモーターの上流(Upstream)領域をPCRにより得て、配列番号28と配列番号29のプライマーを用いて、下流(Downsteam)領域の遺伝子断片をPCRにより得た。また、gapAプロモーター部位も、コリネバクテリウム・グルタミカムの染色体DNAを鋳型とし、配列番号30と配列番号31のプライマーを用いてPCRを行った。
【0140】
重合酵素としてはSolgTM Pfu-X DNAポリメラーゼを用い、PCR増幅条件は、95℃で5分間の変性後、95℃で30秒間の変性、58℃で30秒間のアニーリング、72℃で60秒間の重合を30サイクル行い、その後72℃で5分間の重合反応を行うものとした。
【0141】
アゾトバクター由来のserA(Avn)遺伝子部分は、実施例1で作製したpCL-Ptrc-serA(Avn)ベクターを鋳型とし、配列番号32と配列番号33のプライマーを用いてPCRを行った。
【0142】
重合酵素としてはSolgTM Pfu-X DNAポリメラーゼを用い、PCR増幅条件は、95℃で5分間の変性後、95℃で30秒間の変性、58℃で30秒間のアニーリング、72℃で30秒間の重合を30サイクル行い、その後72℃で5分間の重合反応を行うものとした。
【0143】
染色体の相同組換えが生じるように増幅した上流領域と下流領域、gapAプロモーター、アゾトバクター由来のserA(Avn)遺伝子、及びSmaI制限酵素で切断した染色体形質転換用ベクターpDZは、ギブソンアセンブリ方法を用いてクローニングすることにより組換えプラスミドを得て、pDZ-PgapA-serA(Avn)と命名した。クローニングは、ギブソンアセンブリ試薬と各遺伝子断片を計算されたモル数で混合し、その後50℃で1時間保存することにより行った。
【0144】
作製したpDZ-PgapA-serA(Avn)ベクターを、L-トリプトファンを生産するコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM12218P菌株にエレクトロポレーションにより形質転換し、その後2次交差過程を経て、serA(Cgl)遺伝子をgapAプロモーターにより発現するアゾトバクターserA遺伝子に置換した菌株を得た。当該遺伝子を挿入した相同組換えの上流領域及び下流領域の外部部位をそれぞれ増幅する配列番号34と配列番号35のプライマーを用いたPCR法とゲノムシーケンシングにより当該遺伝的操作を確認し、それをKCCM12218P-PgapA-serA(Avn)と命名した。
【0145】
本実施例で用いたプライマーの配列を表18に示す。
【0146】
【表18】
【0147】
実施例7-4:アゾトバクター由来のserA(Avn)を導入したコリネバクテリウム・グルタミカム菌株のトリプトファン生産能の評価
実施例7-3で作製したKCCM12218P-PgapA-serA(Avn)菌株と親株であるKCCM12218Pのトリプトファン生産量を確認するために次の方法で培養した。種培地25mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに各菌株を接種し、30℃、200rpmで20時間振盪培養した。次に、生産培地25mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに1mlの種培養液を接種し、30℃、200rpmで24時間振盪培養した。培養終了後に、HPLCによりL-トリプトファンの生産量を測定した。
<種培地(pH7.0)>
グルコース20g,ペプトン10g,酵母抽出物5g,尿素1.5g,KH2PO4 4g,K2HPO4 8g,MgSO4・7H2O 0.5g,ビオチン100μg,チアミンHCl 1000μg,パントテン酸カルシウム2000μg,ニコチンアミド2000μg(蒸留水1リットル中)
<生産培地(pH7.0)>
グルコース30g,(NH4)2SO4 15g,MgSO4・7H2O 1.2g,KH2PO4 1g,酵母抽出物5g,ビオチン900μg,チアミン塩酸塩4500μg,パントテン酸カルシウム4500μg,CaCO3 30g(蒸留水1リットル中)
【0148】
【表19】
【0149】
KCCM12218P、KCCM12218P-PgapA-serA(Avn)における培養物中のL-トリプトファン生産の結果を表19に示す。
【0150】
親株であるKCCM12218P菌株は、2.5g/LのL-トリプトファンを生産し、中間産物として59mg/Lのインドールが蓄積されたが、前述したようにserA(Avn)を導入した菌株は、インドールが蓄積されることなく、3.1g/LのL-トリプトファンを生産した。
【0151】
これらの結果から、L-トリプトファンを生産するコリネバクテリウム・グルタミカム菌株においても、アゾトバクター由来のserA(Avn)の導入によりL-セリンの供給が円滑になったものと推測され、よってL-トリプトファン生合成の最後のステップの中間産物であるインドールが蓄積されず、L-トリプトファン収率も向上することが確認された。このように前駆体が向上すると、トリプトファンの生産においてシナジー効果が大きくなることが分かる。
【0152】
前記KCCM12218P-PgapA-serA(Avn)菌株をCM05-8935と命名し、ブダペスト条約上の国際寄託機関である韓国微生物保存センター(KCCM)に2018年11月27日付けで寄託番号KCCM12414Pとして国際寄託した。
【実施例8】
【0153】
アゾトバクター由来のserA(Avn)を導入したコリネバクテリウム・グルタミカム菌株の作製及びヒスチジン生産能の評価
実施例8-1:ヒスチジン生産能を有するコリネバクテリウム・グルタミカム菌株の作製
コリネバクテリウム・グルタミカムL-ヒスチジン生産菌株は、野生型ATCC13032菌株から開発した。L-ヒスチジン生合成経路の最初の酵素であるHisGポリペプチドのフィードバック阻害(feedback inhibition)を解消するために、HisGのN末端から233番目と235番目のアミノ酸をそれぞれグリシン(Glycine)からヒスチジン(histidine)に、トレオニン(Threonine)からグルタミン(Glutamine)に同時置換した(配列番号88)(非特許文献13)。また、L-ヒスチジン生合成経路の強化のために、計4つのオペロン(operon)に分離されている生合成遺伝子(hisD-hisC-hisB-hisN)をプロモーターが置換された形態のclusterに作製して導入した(配列番号89)。
【0154】
このような遺伝子操作のために、まず染色体の相同組換え(Homologous recombination)が生じるhisGの233番目、235番目の変異の上流(Upstream)領域及び下流(Downsteam)領域を得た。具体的には、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032の染色体DNAを鋳型とし、配列番号36と配列番号37のプライマーを用いて、hisGの233番目、235番目の変異の上流(Upstream)領域をPCRにより得て、配列番号38と配列番号39のプライマーを用いて、hisGの233番目、235番目の変異の下流(Downsteam)領域の遺伝子断片をPCRにより得た。
【0155】
重合酵素としてはSolgTM Pfu-X DNAポリメラーゼを用い、PCR増幅条件は、95℃で5分間の変性後、95℃で30秒間の変性、60℃で30秒間のアニーリング、72℃で60秒間の重合を30サイクル行い、その後72℃で5分間の重合反応を行うものとした。
【0156】
増幅したhisGの233番目、235番目の変異の上流領域と下流領域、及びSmaI制限酵素で切断した染色体形質転換用ベクターpDZ(特許文献2)は、ギブソンアセンブリ(非特許文献9)方法を用いてクローニングすることにより組換えプラスミドを得て、pDZ-hisG(G233H,T235Q)と命名した。クローニングは、ギブソンアセンブリ試薬と各遺伝子断片を計算されたモル数で混合し、その後50℃で1時間保存することにより行った。
【0157】
作製したpDZ-hisG(G233H,T235Q)ベクターを野生型コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032菌株にエレクトロポレーションにより形質転換し、その後2次交差過程を経て、染色体上でhisGの233番目、235番目のアミノ酸を、それぞれグリシンからヒスチジンに置換し、トレオニンからグルタミンに置換(配列番号88)した菌株を得た。遺伝子を挿入した相同組換えの上流領域及び下流領域の外部部位をそれぞれ増幅する配列番号40と配列番号41を用いたPCR法とゲノムシーケンシングにより当該遺伝的操作を確認し、それをCA14-0011と命名した。
【0158】
本実施例で用いたプライマーの配列を表20に示す。
【0159】
【表20】
【0160】
また、L-ヒスチジン生合成経路の強化のために、計4つのオペロン(operon)に分離されている生合成遺伝子をプロモーターが置換された形態のclusterに作製して導入した。具体的には、前記L-ヒスチジン生合成clusterは、計4つのオペロン(operon)(hisE-hisG,hisA-impA-hisF-hisI,hisD-hisC-hisB,cg0911-hisN)に分離されており、前記生合成遺伝子を一度に微生物中に導入するベクターを作製した。
【0161】
また、前記生合成clusterの挿入部位には、γ-アミノ酪酸パーミアーゼをコードするNCgl1108遺伝子(非特許文献14)を用いた。
【0162】
このような遺伝子操作のために、まず染色体の相同組換え(Homologous recombination)が生じるNCgl1108の上流(Upstream)領域及び下流(Downsteam)領域を得た。具体的には、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032の染色体DNAを鋳型とし、配列番号42と配列番号43のプライマーを用いて、NCgl1108の上流(Upstream)領域をPCRにより得て、配列番号44と配列番号45のプライマーを用いて、NCgl1108の下流(Downsteam)領域の遺伝子断片をPCRにより得た。
【0163】
重合酵素としてはSolgTM Pfu-X DNAポリメラーゼを用い、PCR増幅条件は、95℃で5分間の変性後、95℃で30秒間の変性、60℃で30秒間のアニーリング、72℃で60秒間の重合を30サイクル行い、その後72℃で5分間の重合反応を行うものとした。
【0164】
増幅したNCgl1108の上流領域と下流領域、及びSmaI制限酵素で切断した染色体形質転換用ベクターpDZ(特許文献2)は、ギブソンアセンブリ(非特許文献9)方法を用いてクローニングすることにより組換えプラスミドを得て、pDZ-△NCgl1108と命名した。クローニングは、ギブソンアセンブリ試薬と各遺伝子断片を計算されたモル数で混合し、その後50℃で1時間保存することにより行った。
【0165】
作製したpDZ-△NCgl1108ベクターをCA14-0011菌株にエレクトロポレーションにより形質転換し、その後2次交差過程を経て、染色体上でNCgl1108遺伝子が破砕した菌株を得た。遺伝子が破砕した相同組換えの上流領域及び下流領域の外部部位をそれぞれ増幅する配列番号46と配列番号47を用いたPCR法とゲノムシーケンシングにより当該遺伝的操作を確認し、それをCA14-0736と命名した。
【0166】
本実施例で用いたプライマーの配列を表21に示す。
【0167】
【表21】
【0168】
また、生合成clusterの強化のために、4つのオペロン遺伝子群と置換するプロモーター部分を確保した。改良型lysCプロモーター(以下、lysCP1,特許文献13)部位とhisE-hisG部位、gapAプロモーター部位とhisA-impA-hisF-hisI部位、SPL13合成プロモーター(特許文献8)部位とhisD-hisC-hisB部位、CJ7合成プロモーター(特許文献5,6)部位とcg0911-hisN部位を得た。具体的には、KCCM10919P菌株(特許文献13)の染色体を鋳型とし、配列番号48と配列番号49のプライマーを用いてPCRを行った。PCR反応のための重合酵素としてはPfuUltraTM高信頼DNAポリメラーゼ(Stratagene)を用い、こうして増幅したPCR産物をQIAGEN社のPCR Purification kitを用いて精製し、lysCP1プロモーター部位を得た。コリネバクテリウム・グルタミカムCA14-0011の染色体DNAを鋳型とし、配列番号50と配列番号51のプライマーを用いて、hisE-hisG部位の遺伝子断片をPCRにより得た。配列番号52と配列番号53のプライマーを用いて、gapAプロモーター部位をPCRにより得て、配列番号54と配列番号55のプライマーを用いて、hisA-impA-hisF-hisI部位の遺伝子断片をPCRにより得た。また、合成作製したプロモーターSPL13を鋳型とし、配列番号56と配列番号57のプライマーを用いてPCRを行い、コリネバクテリウム・グルタミカムCA14-0011の染色体DNAを鋳型とし、配列番号58と配列番号59のプライマーを用いて、hisD-hisC-hisB部位の遺伝子断片をPCRにより得た。さらに、合成作製したプロモーターCJ7を鋳型とし、配列番号60と配列番号61のプライマーを用いてPCRを行い、コリネバクテリウム・グルタミカムCA14-0011の染色体DNAを鋳型とし、配列番号62と配列番号63のプライマーを用いて、cg0911-hisN部位の遺伝子断片をPCRにより得た。
【0169】
本実施例で用いたプライマーの配列を表22に示す。
【0170】
【表22】
【0171】
重合酵素としてはSolgTM Pfu-X DNAポリメラーゼを用い、PCR増幅条件は、95℃で5分間の変性後、95℃で30秒間の変性、60℃で30秒間のアニーリング、72℃で180秒間の重合を30サイクル行い、その後72℃で5分間の重合反応を行うものとした。
【0172】
増幅したlysCP1部位とhisE-hisG部位、gapAプロモーター部位とhisA-impA-hisF-hisI部位、SPL13合成プロモーター部位とhisD-hisC-hisB部位、CJ7合成プロモーター部位とcg0911-hisN部位、及びScaI制限酵素で切断した染色体形質転換用ベクターpDZ-△NCgl1108は、ギブソンアセンブリ(非特許文献9)方法を用いてクローニングすることにより組換えプラスミドを得て、pDZ-△NCgl1108::lysCP1_hisEG-PgapA_hisA-impA-hisFI-SPL13_HisDCB-CJ7_cg0911-hisNと命名した。クローニングは、ギブソンアセンブリ試薬と各遺伝子断片を計算されたモル数で混合し、その後50℃で1時間保存することにより行った。
【0173】
作製したpDZ-△NCgl1108::PlysCm1_hisEG-PgapA_hisA-impA-hisFI-SPL13_HisDCB-CJ7_cg0911-hisNベクターをCA14-0011菌株にエレクトロポレーションにより形質転換し、その後2次交差過程を経て、染色体上で生合成遺伝子を挿入した菌株を得た。遺伝子を挿入した相同組換えの上流領域及び下流領域の外部部位をそれぞれ増幅する配列番号46と配列番号47を用いたPCR法とゲノムシーケンシングにより当該遺伝的操作を確認し、それをCA14-0737と命名した。
【0174】
前記CA14-0737菌株は、ブダペスト条約上の国際寄託機関である韓国微生物保存センター(KCCM)に2018年11月27日付けで寄託番号KCCM12411Pとして国際寄託した。
【0175】
実施例8-2:外来アゾトバクター由来のserA(Avn)を導入したHis生産能を有するコリネバクテリウム・グルタミカム微生物菌株の作製
前述したアゾトバクター由来のserA(Avn)遺伝子のL-ヒスチジン生産能の向上効果を確認するために、CA14-0737菌株を実施例に用いた。
【0176】
実施例7-3で作製したpDZ-PgapA-serA(Avn)を用いて、serA(Cgl)遺伝子をアゾトバクター由来のserA(Avn)遺伝子に置換し、gapAプロモーターにより発現するように菌株を作製した。
【0177】
pDZ-PgapA-serA(Avn)ベクターを、L-ヒスチジンを生産するコリネバクテリウム・グルタミカムCA14-0737菌株にエレクトロポレーションにより形質転換し、その後2次交差過程を経て、serA(Cgl)遺伝子を強いプロモーターであるgapAプロモーターにより発現するアゾトバクターserA遺伝子に置換した菌株を得た。当該遺伝子を挿入した相同組換えの上流領域及び下流領域の外部部位をそれぞれ増幅する配列番号34と配列番号35のプライマーを用いたPCR法とゲノムシーケンシングにより当該遺伝的操作を確認し、それをCA14-0738と命名した。
【0178】
実施例8-3:アゾトバクター由来のserA(Avn)を導入したコリネバクテリウム・グルタミカム菌株のL-ヒスチジン生産能の評価
実施例8-1、8-2で作製したCA14-0011菌株、CA14-0736菌株、CA14-0737菌株、CA14-0738菌株のL-ヒスチジン生産能を確認するために次の方法で培養した。種培地25mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに各菌株を接種し、30℃、200rpmで20時間振盪培養した。次に、生産培地25mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに1mlの種培養液を接種し、30℃、200rpmで24時間振盪培養した。培養終了後に、HPLCによりL-ヒスチジンの生産量を測定した。
<種培地(pH7.0)>
グルコース20g,ペプトン10g,酵母抽出物5g,尿素1.5g,KH2PO4 4g,K2HPO4 8g,MgSO4・7H2O 0.5g,ビオチン100μg,チアミンHCl 1000μg,パントテン酸カルシウム2000μg,ニコチンアミド2000μg(蒸留水1リットル中)
<生産培地(pH7.0)>
グルコース100g,(NH4)2SO4 40g,酵母抽出物3g,KH2PO4 1.0g,MgSO4・7H2O 0.4g、MnSO4・H2O 0.01g、FeSO4・7H2O 0.01g、ビオチン50μg、チアミン100μg,CaCO3 30g(蒸留水1リットル中)
【0179】
【表23】
【0180】
コリネバクテリウム・グルタミカムL-ヒスチジン生産菌株の培養物中のL-ヒスチジン生産の結果を表23に示す。
【0181】
ヒスチジン生産能を増加させた親株のCA14-0737菌株は、4.09g/LのL-ヒスチジンを生産したが、前記serA(Avn)を導入したCA14-0738菌株は、前記CA14-0737に比べて20%も増加した5.07g/LのL-ヒスチジンを生産した。
【0182】
これらの結果から、アゾトバクター由来のserA(Avn)の導入によりL-ヒスチジン生産能が向上することが確認された。前記CA14-0738菌株は、ブダペスト条約上の国際寄託機関である韓国微生物保存センター(KCCM)に2018年11月27日付けで寄託番号KCCM12412Pとして国際寄託した。
【実施例9】
【0183】
アゾトバクターserAを導入したメチオニン(Met)生産菌株の作製及び評価
実施例9-1:mcbR遺伝子の欠損のための組換えベクターの作製
本実施例においては、メチオニン生産菌株を作製するために、ATCC13032菌株において公知のメチオニンシステイン転写調節因子タンパク質をコードするmcbR(非特許文献15)を不活性化するベクターを作製した。
【0184】
具体的には、mcbR遺伝子をコリネバクテリウムATCC13032の染色体上で欠損させるために、次の方法で組換えプラスミドベクターを作製した。米国国立衛生研究所の遺伝子バンク(NIH Genbank)に報告されている塩基配列に基づいて、コリネバクテリウム・グルタミカムのmcbR遺伝子及び周辺配列(配列番号91)を確保した。
【0185】
mcbR遺伝子を欠損させるために、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032の染色体DNAを鋳型とし、配列番号64及び65、配列番号66及び67のプライマーを用いてPCRを行った。PCR条件は、95℃で5分間の変性後、95℃で30秒間の変性、53℃で30秒間のアニーリング、72℃で30秒間の重合を30サイクル行い、その後72℃で7分間の重合反応を行うものとした。その結果、それぞれ700bpのDNA断片が得られた。
【0186】
コリネバクテリウム・グルタミカム中で複製が不可能なpDZベクター(特許文献2)と前述したように増幅したmcbR遺伝子断片を染色体導入用制限酵素smaIで処理し、次いでDNA接合酵素を用いて連結し、その後大腸菌DH5αに形質転換し、カナマイシン(25mg/l)を含むLB固体培地に塗抹した。PCRにより標的遺伝子が欠損した断片が挿入されたベクターで形質転換されたコロニーを選択し、その後プラスミド抽出法によりプラスミドを得て、pDZ-△mcbRと命名した。
【0187】
本実施例で用いたプライマーの配列を表24に示す。
【0188】
【表24】
【0189】
実施例9-2:metHとcysIを同時に強化する組換えベクターの作製
本実施例においては、メチオニン生産菌株を作製するために、ATCC13032菌株において公知のメチオニン合成酵素をコードするmetH(Ncgl1450)と、亜硫酸レダクターゼをコードするcysI(Ncgl2718)を同時に強化するためのベクターを作製した。
【0190】
具体的には、metH及びcysI遺伝子をコリネバクテリウムATCC13032の染色体上に追加挿入するために、次の方法で組換えプラスミドベクターを作製した。米国国立衛生研究所の遺伝子バンク(NIH Genbank)に報告されている塩基配列に基づいて、コリネバクテリウム・グルタミカムのmetH遺伝子及び周辺配列(配列番号92)、cysI遺伝子及び周辺配列(配列番号93)を確保した。
【0191】
まず、これらを挿入するために、Ncgl1021(Transposase)を除去するためのベクターを作製した。米国国立衛生研究所の遺伝子バンク(NIH Genbank)に報告されている塩基配列に基づいて、コリネバクテリウム・グルタミカムのNcgl1021及び周辺配列(配列番号94)を確保した。Ncgl1021遺伝子を欠損させるために、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032の染色体DNAを鋳型とし、配列番号68及び69、配列番号70及び71のプライマーを用いてPCRを行った。PCR条件は、95℃で5分間の変性後、95℃で30秒間の変性、53℃で30秒間のアニーリング、72℃で30秒間の重合を30サイクル行い、その後72℃で7分間の重合反応を行うものとした。その結果、それぞれDNA断片が得られた。コリネバクテリウム・グルタミカム中で複製が不可能なpDZベクター(特許文献2)と前述したように増幅したNcgl1021遺伝子断片を染色体導入用制限酵素xbaIで処理し、次いでギブソンアセンブリ方法を用いてクローニングし、その後大腸菌DH5αに形質転換し、カナマイシン(25mg/l)を含むLB固体培地に塗抹した。PCRにより標的遺伝子が欠損した断片が挿入されたベクターで形質転換されたコロニーを選択し、その後プラスミド抽出法によりプラスミドを得て、pDZ-△Ncgl1021と命名した。
【0192】
次に、metH及びcysI遺伝子を得るために、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032の染色体DNAを鋳型とし、配列番号72及び73、配列番号74及び75のプライマーを用いてPCRを行い、また、metH遺伝子の発現を強化するために、Pcj7プロモーターを用い、cysI遺伝子の発現を強化するために、Pspl1プロモーターを用い、それらを得るために、Pcj7は、コリネバクテリウム・アンモニアゲネスATCC6872の染色体DNAを鋳型とし、配列番号76、77を用いてPCRを行い、Pspl1は、公知のspl1-GFP(特許文献8)ベクターDNAを鋳型とし、配列番号78、79を用いてPCRを行った。PCR条件は、95℃で5分間の変性後、95℃で30秒間の変性、53℃で30秒間のアニーリング、72℃で30秒間の重合を30サイクル行い、その後72℃で7分間の重合反応を行うものとした。その結果、metH及びcysI遺伝子、Pcj7プロモーター及びPspl1プロモーターのDNA断片が得られた。
【0193】
コリネバクテリウム・グルタミカム中で複製が不可能なpDZ-△Ncgl1021ベクターを制限酵素scaIで処理し、次いで前述したように増幅した4つのDNA断片を染色体導入用制限酵素scaIで処理し、次いでギブソンアセンブリ方法を用いてクローニングし、その後大腸菌DH5αに形質転換し、カナマイシン(25mg/l)を含むLB固体培地に塗抹した。PCRにより標的遺伝子が欠損した断片が挿入されたベクターで形質転換されたコロニーを選択し、その後プラスミド抽出法によりプラスミドを得て、pDZ-△Ncgl1021-Pcj7metH-Pspl1cysIと命名した。
【0194】
本実施例で用いたプライマーの配列を表25に示す。
【0195】
【表25】
【0196】
実施例9-3:L-methionine生産菌株の開発及びそれを用いたL-methionineの生産
前述したように作製したpDC-△mcBR、pDZ-△Ncgl1021及びpDZ-△Ncgl1021-Pcj7metH-Pspl1cysIベクターを染色体上での相同組換えによりATCC13032菌株にそれぞれエレクトロポレーションで形質転換した(非特許文献16)。その後、スクロースを含む固体培地で2次組換えを行った。前記2次組換えが終了したコリネバクテリウム・グルタミカム形質転換株を対象に、配列番号80、81のプライマーを用いたPCRによりmcBR遺伝子が欠損した菌株を確認し、また、配列番号82、83のプライマーを用いて、Ncgl1021遺伝子が欠損した菌株及びNcgl1021の位置にPcj7-metH-Pspl1cysI遺伝子が正確に挿入されたか否かを確認した。本組換え菌株をそれぞれコリネバクテリウム・グルタミカム13032/ΔmcbR、13032/ΔNcgl1021、13032/ΔNcgl1021-Pcj7metH-Pspl1cysIと命名した。
【0197】
本実施例で用いたプライマーの配列を表26に示す。
【0198】
【表26】
【0199】
前述したように作製した13032/ΔmcbR、13032/ΔNcgl1021、CJP13032/ΔNcgl1021-Pcj7metH-Pspl1cysI菌株のL-メチオニン生産能を分析するために、親株であるコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032菌株と共に次の方法で培養した。
【0200】
次の種培地25mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032と発明菌株コリネバクテリウム・グルタミカム13032/ΔmcbR、13032/ΔNcgl1021、13032/ΔNcgl1021-Pcj7metH-Pspl1cysIを接種し、30℃、200rpmで20時間振盪培養した。次に、生産培地24mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに1mlの種培養液を接種し、30℃、200rpmで48時間振盪培養した。前記種培地及び生産培地の組成は、それぞれ次の通りである。
<種培地(pH7.0)>
グルコース20g,ペプトン10g,酵母抽出物5g,尿素1.5g,KH2PO4 4g,K2HPO4 8g,MgSO4・7H2O 0.5g,ビオチン100μg,チアミンHCl 1000μg,パントテン酸カルシウム2000μg,ニコチンアミド2000μg(蒸留水1リットル中)
<生産培地(pH8.0)>
グルコース50g,(NH4223 12g,Yeast extract 5g,KH2PO4 1g,MgSO4・7H2O 1.2g,ビオチン100μg,チアミン塩酸塩1000μg,パントテン酸カルシウム2000μg,ニコチンアミド3000μg,CaCO3 30g(蒸留水1リットル中)
【0201】
上記培養方法で培養し、培養液中のL-メチオニン濃度を分析した。それを表27に示す。
【0202】
【表27】
【0203】
その結果、mcbR単独除去菌株は、対照群菌株に比べてL-メチオニン生産能が0.12g/L向上することが確認された。また、mcbRが欠損せず、metH及びcysIを過剰発現する菌株は、対照群菌株に比べてL-メチオニン生産能が0.18g/L向上することが確認された。
【0204】
実施例9-4:アゾトバクター(Azotobacter)由来の3-ホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼ(D-3-phosphoglycerate dehydrogenase, serA(Avn))過剰発現ベクターの作製
アゾトバクター由来の3-ホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼ(D-3-phosphoglycerate dehydrogenase, 以下、「serA(Avn)」という)を強化するとメチオニン生産能が向上するか否かを確認するために、発現ベクターを作製した。
【0205】
SerA(Avn)をコードする遺伝子serA(Avn)(配列番号1)の発現のために、コリネバクテリウム・グルタミカムへの形質転換に使用可能なシャトルベクターであるpECCG117(非特許文献17又は特許文献14)を用いた。発現プロモーターとしてspl1プロモーター(以下、Pspl1)を用いて、pECCG117-Pspl1-serA(Avn)形態のベクターを作製した。Pspl1プロモーターPCRには配列番号84及び85を用い、外来serA(Avn) PCRには配列番号86及び87のプライマーを用いた。増幅したPspl1及びserA(Avn)遺伝子断片をEcoRVの制限酵素で処理したpECCG117ベクターとギブソンアセンブリ方法を用いてクローニングし、pECCG117-Pspl1-serA(Avn)を作製した。
【0206】
本実施例で用いたプライマーの配列を表28に示す。
【0207】
【表28】
【0208】
実施例9-5:L-methionine生産株に大腸菌野生型菌株を用いたアゾトバクター由来のserA(Avn)を導入した菌株の作製及びL-methionine生産能の評価
前述したように作製したpECCG117-Pspl1-serA(Avn)ベクターを13032/ΔmcbR及び13032/ΔNcgl1021-Pcj7metH-Pspl1cysI菌株にそれぞれエレクトロポレーションで形質転換した(非特許文献16)。本組換え菌株をそれぞれコリネバクテリウム・グルタミカム13032/ΔmcbR(pECCG117-Pspl1-serA(Avn))及び13032/ΔNcgl1021-Pcj7metH-Pspl1cysI(pECCG117-Pspl1-serA(Avn))と命名した。
【0209】
前述したように作製した13032/ΔmcbR(pECCG117-Pspl1-serA(Avn))及び13032/ΔNcgl1021-Pcj7metH-Pspl1cysI(pECCG117-Pspl1-serA(Avn))菌株のL-メチオニン生産能を分析するために、親株である13032/ΔmcbR及び13032/ΔNcgl1021-Pcj7metH-Pspl1cysI菌株と共に次の方法で培養した。
【0210】
次の種培地25mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032と発明菌株コリネバクテリウム・グルタミカム13032/ΔmcbR、13032/ΔNcgl1021、13032/ΔNcgl1021-Pcj7metH-Pspl1cysIを接種し、30℃、200rpmで20時間振盪培養した。次に、生産培地24mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに1mlの種培養液を接種し、30℃、200rpmで48時間振盪培養した。特に、ベクターを導入した菌株は、カナマイシン(25mg/l)をさらに添加して培養した。前記種培地及び生産培地の組成は、それぞれ次の通りである。
<種培地(pH7.0)>
グルコース20g,ペプトン10g,酵母抽出物5g,尿素1.5g,KH2PO4 4g,K2HPO4 8g,MgSO4・7H2O 0.5g,ビオチン100μg,チアミンHCl 1000μg,パントテン酸カルシウム2000μg,ニコチンアミド2000μg(蒸留水1リットル中)
<生産培地(pH8.0)>
グルコース50g,(NH4223 12g,Yeast extract 5g,KH2PO4 1g,MgSO4・7H2O 1.2g,ビオチン100μg,チアミン塩酸塩1000μg,パントテン酸カルシウム2000μg,ニコチンアミド3000μg,CaCO3 30g(蒸留水1リットル中)
【0211】
上記培養方法で培養し、培養液中のL-メチオニン濃度を分析した。それを表29に示す。
【0212】
【表29】
【0213】
その結果、pECCG117-Pspl1-serA(Avn)に形質転換された2種の菌株は、どちらもメチオニン生産能が増加した対照群に比べてメチオニン生産能が増加した。13032/ΔmcbR(pECCG117-Pspl1-serA(Avn))は対照群に比べて83%も増加し、13032/ΔNcgl1021-Pcj7metH-Pspl1cysI(pECCG117-Pspl1-serA(Avn))は対照群に比べて78%も増加した。よって、本実施例から、アゾトバクター由来のserA(Avn)を導入すると微生物のL-メチオニン生産能の向上効果が得られることが確認された。
【0214】
前記13032/ΔmcbR菌株をCM02-0618と命名し、ブダペスト条約上の国際寄託機関である韓国微生物保存センター(KCCM)に2019年1月4日付けで寄託番号KCCM12425Pとして国際寄託した。また、前記13032/ΔmcbR(pECCG117-Pspl1-serA(Avn))菌株をCM02-0693と命名し、ブダペスト条約上の国際寄託機関である韓国微生物保存センター(KCCM)に2018年11月27日付けで寄託番号KCCM12413Pとして国際寄託した。
【0215】
以上の説明から、本発明の属する技術分野の当業者であれば、本発明がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。なお、上記実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本発明には、明細書ではなく請求の範囲の意味及び範囲とその等価概念から導かれるあらゆる変更や変形された形態が含まれるものと解釈すべきである。
【0216】
【0217】
【0218】
【0219】
【0220】
【0221】
【配列表】
2022529246000001.app
【国際調査報告】