(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-20
(54)【発明の名称】リチウムイオンキャパシタを予備リチオ化する方法
(51)【国際特許分類】
H01G 11/50 20130101AFI20220613BHJP
H01G 11/86 20130101ALI20220613BHJP
【FI】
H01G11/50
H01G11/86
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2021560501
(86)(22)【出願日】2020-04-02
(85)【翻訳文提出日】2021-11-19
(86)【国際出願番号】 NO2020050093
(87)【国際公開番号】W WO2020204728
(87)【国際公開日】2020-10-08
(32)【優先日】2019-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NO
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521441489
【氏名又は名称】ビヨンデル アーエス
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ロウ フェンリウ
【テーマコード(参考)】
5E078
【Fターム(参考)】
5E078AB06
5E078BA13
5E078BA18
5E078BA26
5E078BA38
5E078DA02
5E078DA03
5E078DA06
5E078DA13
5E078LA03
(57)【要約】
本発明は、リチウムイオンキャパシタ電極を予備リチオ化する方法に関するものであって、この方法は、リチウムイオン(5)を活性炭電極表面に吸着させるステップと、電解液内で活性炭電極と負極とを組み立てることにより、リチウムイオンキャパシタを構築するステップと、組み立て後、リチウムイオンキャパシタを充電することにより、アノードをリチオ化するステップとを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンキャパシタを予備リチオ化する方法であって、前記方法が、
リチウムイオンを活性炭電極に吸着させるステップと、
電解液内で前記活性炭電極と負極とを組み立てることにより、リチウムイオンキャパシタを構築するステップと、
組み立て後、前記リチウムイオンキャパシタを充電することにより、アノードをリチオ化するステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、リチウムイオンを活性炭電極に吸着させる前記ステップが、リチウムイオンを含む電解液内で、前記活性炭電極の電気化学ポテンシャルを低下させる工程を含むことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオンキャパシタを予備リチオ化する(pre-lithiating)方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン(Li-イオン)キャパシタは、リチウムイオン電池の負極、例えば黒鉛と、スーパーキャパシタの正極、一般には活性炭とを一体化したハイブリッドシステムである。これにより、高い比出力(specific power)、良好なサイクル安定性、適度な比エネルギー(specific energy)を示すため、幅広い潜在的用途を持つ。しかし、アノードの電位を下げて、操作電圧(operation voltage)ウィンドウを広げ、比エネルギーを大きくするために、予めリチウムイオンでアノードを予備リチオ化するステップが必要である。リチウムイオンキャパシタの負極を予備リチオ化するため、様々な方法が提案されている。これらは、3つのグループ、即ち、リチウム金属、リチウム含有化合物、またはリチウムイオンを用いる方法に分けられる。
【0003】
米国特許第6862168B2号は、最初の充電の際に部分的または完全に溶解する犠牲金属リチウム電極を使用する方法を開示している。欠点は、リチウムイオンを通すための電流コレクタとして、貫通孔を持つ高価な金属箔が必要なことである。更に、予備リチオ化過程も非常に遅い。
【0004】
予備リチオ化には、安定化したリチウム金属粒子も使用されている。炭酸リチウム(Cao, W.J. and J.P. Zheng, Li-ion capacitors with carbon cathode and hard carbon/stabilized lithium metal powder anode electrodes. Journal of Power Sources, 2012. 213: p. 180-185)、または、ヘキサフルオロリン酸リチウム(米国特許出願公開第2017/0062142A1号および米国特許出願公開第2014/0146440A1号)をリチウム金属粒子の表面に被覆して、酸素との反応を防ぐ。しかし、安定化したリチウム金属粒子を扱うための乾燥室が更に必要である。
【0005】
リチウムイオンキャパシタを予備リチオ化するためのリチウム源としてリチウム含有化合物も使用されている。Kimおよび共働者(Park, M.-S., et al., A Novel Lithium-Doping Approach for an Advanced Lithium Ion Capacitor. Advanced Energy Materials, 2011. 1(6): p. 1002-1006.)は、正極として、活性炭と混合したリチウム遷移金属酸化物を使用し、これにより最初の充電ステップの際、リチウム陽イオンを負極に供給する。遷移金属酸化物は、その後の放電過程の際に再びリチオ化されることはない。脱リチオ化した金属酸化物が電気化学的に不活性な物質として正極内に残留すると考えられる。このため、セルの比エネルギーが低下する。
【0006】
近年、F. Beguinおよび共働者(Jezowski, P., et al., Safe and recyclable lithium-ion capacitors using sacrificial organic lithium salt. Nature Materials, 2017)は、正極として犠牲有機リチウム塩と活性炭との混合物を採用した。最初の充電の際、リチウム塩が酸化され、リチウム陽イオンが負極へ放出される。酸化した塩は電解液に溶解すると考えられる。しかし、提案された塩は空気の影響を受け易いため、取り扱いが難しい。
【0007】
予備リチオ化のリチウム源として、電解液中のリチウム塩も考えられた。F. Beguinおよび共働者は、電解液から負極にリチウム陽イオンを供給する特別な荷電プロトコルを採用した(Khomenko, V., E. Raymundo-Pinero, and F. Beguin, High-energy density graphite/AC capacitor in organic electrolyte. Journal of Power Sources, 2008, 177(2): p. 643-651)。Stefanらは、電解液中のリチウム塩を酸化することによって、負極を予備リチオ化した(米国特許出願公開第2015/0364795A1号)。リチウム塩は通常、有機溶媒への溶解性が限られているため、電解液の伝導度が(このため比出力も)低下する。
【0008】
米国特許出願公開第2002/0122986A1号では、リチウムイオンを分子ふるい(molecular sieve)で作られたセパレータ内に貯蔵し、リチウムイオン電池内でのリチウムイオンの損失を補償することによってリチウムイオン電池の寿命を延ばす方法が示されている。しかし、商業的応用にはコストが高過ぎ、リチウムイオンの貯蔵容量も非常に限られる。
【0009】
米国特許出願公開第2018/197691A1号は、リチウムイオンキャパシタの別の製造法を開示している。
【0010】
リチウムイオンキャパシタの負極を予備リチオ化する上でこれらの方法は全て有効または一部有効であるが、いずれも欠点がある。効率が良く、低コストで取り扱いが安全、また副次的な悪影響があまりないという要求を同時に満たすことのできる方法は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第6,862,168号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2017/0062142号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2014/0146440号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2015/0364795号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2002/0122986号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2018/0197691号明細書
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Cao, W.J. and J.P. Zheng, Li-ion capacitors with carbon cathode and hard carbon/stabilized lithium metal powder anode electrodes. Journal of Power Sources, 2012. 213: p. 180-185
【非特許文献2】Park, M.-S., et al., A Novel Lithium-Doping Approach for an Advanced Lithium Ion Capacitor. Advanced Energy Materials, 2011. 1(6): p. 1002-1006
【非特許文献3】Jezowski, P., et al., Safe and recyclable lithium-ion capacitors using sacrificial organic lithium salt. Nature Materials, 2017
【非特許文献4】Khomenko, V., E. Raymundo-Pinero, and F. Beguin, High-energy density graphite/AC capacitor in organic electrolyte. Journal of Power Sources, 2008, 177(2): p. 643-651
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、先行技術の少なくとも1つの欠点を改善もしくは低減すること、または、先行技術に少なくとも有益な改変を加えることを目的とする。この目的は、以下の記述および後の請求項に明記されている特性により達成される。本発明は独立特許請求項に明示されており、本発明の有益な実施形態は従属請求項に明示されている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
より詳細には、本発明の第1の態様は、リチウムイオンキャパシタを予備リチオ化する方法に関するものであり、この方法は、リチウムイオンを活性炭電極に吸着させるステップと、電解液内で活性炭電極と負極とを組み立てる(assembling)ことにより、リチウムイオンキャパシタを構築する(constructing)ステップと、組み立て後、リチウムイオンキャパシタを充電することにより、アノードをリチオ化するステップとを含む。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1A】リチウムイオンが吸着していない活性炭電極表面の一部を示す図である。
【
図1B】リチウムイオンが吸着している活性炭電極表面の一部を示す図である。
【
図2】実施例1で組み立てたリチウムイオンキャパシタと比較例とを比べた、サイクル数と容量の関係を示すグラフである。
【
図3】実施例2で組み立てたリチウムイオンキャパシタと比較例とを比べた、サイクル数と容量の関係を示すグラフである。
【
図4】実施例3で組み立てたリチウムイオンキャパシタと比較例とを比べた、サイクル数と容量の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
より詳細には、本発明の第1の態様は、リチウムイオンキャパシタを予備リチオ化する方法に関するものであり、この方法は、リチウムイオンを活性炭電極に吸着させるステップと、電解液内で活性炭電極と負極とを組み立てることにより、リチウムイオンキャパシタを構築するステップと、組み立て後、リチウムイオンキャパシタを充電することにより、アノードをリチオ化するステップとを含む。活性炭に吸着させると、リチウムイオンを安全で効率良く、制御された方法でリチウムイオンキャパシタに組み込むことができ、また、好ましくない追加的材料が導入されない。アノード材料は、例えば、黒鉛、硬質炭素、軟質炭素、金属合金、ケイ素、酸化ケイ素、金属酸化物、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバ、グラフェン、またはこれらの任意の組み合わせを含むことができる。
【0017】
ある実施形態において、リチウムイオンを活性炭電極に吸着させるステップは、リチウムイオンを含む電解液内で、活性炭電極の電気化学ポテンシャルを低下させる工程を含むことができる。これは、例えば、活性炭を含むセルを放電させる(活性炭が正極として働く)ことによって、または、活性炭を含むセルを充電する(活性炭が負極として働く)ことによって実現できる。このリチウムイオン吸着工程は、バッチ式(bath to bath way)または連続式で行うことができる。この方法では、正に荷電したリチウムイオンが活性炭に引き寄せられ、吸着性が良くなると考えられる。
【0018】
組み立て後、リチウムイオンキャパシタを充電してアノードをリチオ化するステップにおいて、活性炭からのリチウムイオンは、電解液を通ってアノードへ向かうと考えられる。アノードの予備リチオ化は、アノードの電位を下げて、リチウムイオンキャパシタの出力電圧を高める効果がある。アノードが、例えば黒鉛を含む場合、リチウムイオンが黒鉛内に挿入され、これにより電位を下げることができる。予備リチオ化によってアノードの電位が低下する度合いは、アノード材料に応じて若干変化することがある。
【0019】
本発明は更に、負極と活性炭電極と電解液とを含む、予備リチオ化したリチウムイオンキャパシタに関するものであって、リチウムイオンキャパシタの予備リチオ化は、本発明の第1の態様による方法を用いて行うことができる。
【0020】
以下では、望ましい実施形態の例について述べる。これらの実施例は添付図により補足されている。
【実施例】
【0021】
実施例において、活性炭電極は、活性炭 YEC-8B(Fuzhou Yihuan Carbon Co., Ltd製)と、カーボンブラック Super C65(Imerys Graphite & Carbon Switzerland Ltd製)と、市販のカルボキシメチルセルロースと、スチレン-ブタジエンゴムラテックスとを、88:8.0:1.5:2.5の質量比で含む水性スラリーを、エッチングしたアルミホイルに塗布して作製する。黒鉛電極およびケイ素/炭素複合電極は、面積容量1.1mAh/cm2のものを、Customcells Itzehoe GmbHより購入する。
【0022】
[比較用セル(先行技術)]
作用電極として活性炭電極(直径φ16mm)と、対向電極として黒鉛電極(直径φ16mm)と、電解液として市販のリチウムイオン電池電解液とを備えたスプリット(split)リチウムイオンキャパシタセル(EL-Cell GmbH製)を組み立てる。このセルを、最初に、0.025、0.1、および0.5mA/cm2の電流密度で充電および放電させて、黒鉛電極上に安定な固体電解質界面膜を形成する。
【0023】
このセルは2.0から4.0Vの間で充放電できるが、容量が小さく、容量の減退が非常に速い。
【0024】
[実施例1]
作用電極として活性炭電極(直径φ16mm)と、対向電極としてリチウム箔(直径φ16mm)と、電解液として市販のリチウムイオン電池電解液を備えたスプリットセル(EL-Cell GmbH製)を、Liに対して1.5Vまで放電させた後、分解する(disassembled)。
図1に、一般的に認められている、炭素原子3の六角格子を含む活性炭表面1へのリチウムイオン吸着メカニズムを示す。リチウムイオン5が吸着していない活性炭表面1(
図1A)および吸着している活性炭表面1(
図1B)を示す。その後、正極としてリチウムイオンを吸着させた活性炭電極と、負極として黒鉛電極と、電解液として、3:7(v/v)の炭酸エチレン/炭酸エチルメチルに加えた1.2M LiPF
6を用いて、リチウムイオンキャパシタスプリットセルを組み立てる。このセルを、最初に、0.025、0.1、および0.5mA/cm
2の電流密度で充電および放電させて、黒鉛電極上に安定な固体電解質界面膜を形成する。
【0025】
このセルは、両方の電極の電極材料により、最大120Wh/kgまでの比エネルギーと、最大12kW/kgまでの出力で、2.0から4.0Vの間で、適切に充放電することができる。
【0026】
組み立てたセルのサイクル安定性を
図2に示す。これは、実施例1のセル(黒丸)および比較用セル(白丸)の容量とサイクル数との関係を示している。サイクル数は、セルを充放電した回数である。この図から、容量とサイクル安定性の改善が明らかである。
【0027】
[実施例2]
作用電極として活性炭電極(直径φ16mm)と、対向電極としてリチウム箔(直径φ16mm)と、電解液として市販のリチウムイオン電池電解液を用いたスプリットセル(EL-Cell GmbH製)を、リチウムに対して1.75Vまで放電させた後、分解する(disassembled)。正極としてリチウムイオンを吸着させた活性炭電極と、負極として黒鉛電極と、電解液としてリチウムイオン電池電解液を用いて、リチウムイオンキャパシタスプリットセルを組み立てる。このセルを、最初に、0.025、0.1、および0.5mA/cm2の電流密度で充放電させて、黒鉛電極上に安定な固体電解質界面膜を形成する。
【0028】
このセルは、両方の電極の電極材料により、最大100Wh/kgまでの比エネルギーで、2.2から4.2Vの間で、適切に充放電することができる。組み立てたセルのサイクル安定性を
図3に示す。これは、実施例2のセル(黒丸)および比較用セル(白丸)の容量とサイクル数との関係を示している。
【0029】
[実施例3]
活性炭電極(直径φ16mm)と、電解液として1M LiTFSI水溶液を用いた対称スーパーキャパシタスプリットセル(EL-Cell GmbH製)を、1.25Vまで充電した後、分解する(disassembled)。正極としてリチウムイオンを吸着させた活性炭電極と、負極としてケイ素/炭素複合電極(直径φ16mm)と、電解液としてリチウムイオン電池電解液を用いて、リチウムイオンキャパシタスプリットセルを組み立てる。このセルを、最初に、0.025、0.1、および0.5mA/cm2の電流密度で充放電させて、ケイ素/炭素電極上に安定な固体電解質界面膜を形成する。
【0030】
このセルは、両方の電極の電極材料により、最大120Wh/kgまでの比エネルギーで、2.0から4.0Vの間で、適切に充放電することができる。組み立てたセルのサイクル安定性を
図4に示す。これは、実施例3のセル(黒丸)および比較用セル(白丸)の容量とサイクル数との関係を示している。
【0031】
上記の実施形態は、本発明を制限するものではなく、説明するためのものであり、当業者は、添付請求項の範囲から外れることなく、変更を加えた多くの実施形態を考案することができると考えられる。請求の範囲において、括弧内にある引用符号はいずれも、請求の範囲を制限するものと解釈すべきではない。動詞“含む(comprise)”およびその活用形の使用は、請求の範囲に述べられていない要素またはステップの存在を除外するものではない。ある要素の前にある冠詞“a”または“an”は、これらの要素が複数存在することを除外するものではない。
【国際調査報告】