(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-20
(54)【発明の名称】キャビティリングダウン分光法システムとその光ビームを変調する方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/3504 20140101AFI20220613BHJP
【FI】
G01N21/3504
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021560520
(86)(22)【出願日】2020-02-26
(85)【翻訳文提出日】2021-11-30
(86)【国際出願番号】 CA2020050252
(87)【国際公開番号】W WO2020198844
(87)【国際公開日】2020-10-08
(32)【優先日】2019-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521441618
【氏名又は名称】ピコモル・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー・クエンティン・パーヴス
(72)【発明者】
【氏名】デニス・デュフール
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059BB01
2G059EE01
2G059FF04
2G059GG01
2G059GG03
2G059HH01
2G059JJ13
2G059JJ30
2G059LL03
(57)【要約】
キャビティリングダウン分光法システムとその光ビームを変調する方法を提供する。キャビティリングダウン分光法システムは、光ビームを発生させる少なくとも一つのレーザと、少なくとも一つのレーザからの光ビームを減衰させるように位置する第一光変調器と、第一光変調器からの光ビームを減衰させるように位置する第二光変調器と、第二光変調器からの光ビームを受けるように位置するリングダウンキャビティと、リングダウンキャビティから漏れ出た光の強度を測定する少なくとも一つの光センサと、を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ビームを発生させる少なくとも一つのレーザと、
前記少なくとも一つのレーザからの光ビームを減衰させるように位置する第一光変調器と、
前記第一光変調器からの光ビームを減衰させるように位置する第二光変調器と、
前記第二光変調器からの光ビームを受けるように位置するリングダウンキャビティと、
前記リングダウンキャビティから漏れ出た光の強度を測定する少なくとも一つの光センサと、を備えるキャビティリングダウン分光法システム。
【請求項2】
前記リングダウンキャビティの光モードに整合するように光ビームを集束させるための少なくとも一つの集束レンズを更に備える請求項1に記載のキャビティリングダウン分光法システム。
【請求項3】
前記第一光変調器と前記第二光変調器が音響光学変調器である、請求項1に記載のキャビティリングダウン分光法システム。
【請求項4】
前記第一光変調器の減衰限界に又は該減衰限界近傍に光ビームを減衰させるように前記第一光変調器に指示するのと同時に、前記第一光変調器からの光ビームの強度を低減又は消失させるように前記第二光変調器の減衰限界に又は該減衰限界近傍に光ビームを更に減衰させるように前記第二光変調器に指示するように構成されている制御器を更に備える請求項2に記載のキャビティリングダウン分光法システム。
【請求項5】
キャビティリングダウン分光法システムにおいて光ビームを変調する方法であって、
少なくとも一つのレーザで光ビームを発生させることと、
第一光変調器で前記少なくとも一つのレーザからの光ビームを減衰させることと、
第二光変調器で前記第一光変調器からの光ビームを減衰させることと、
前記第二光変調器が減衰させた光ビームをリングダウンキャビティ内に受けることと、
前記リングダウンキャビティから漏れ出た光の減衰率を測定することと、を備える方法。
【請求項6】
前記第一光変調器と前記第二光変調器が音響光学変調器である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記第一光変調器の減衰限界に又は該減衰限界近傍に光ビームを減衰させるように前記第一光変調器に指示するのと同時に、前記第一光変調器からの光ビームの強度を低減又は消失させるように前記第二光変調器の減衰限界に又は該減衰限界近傍に前記リングダウンキャビティに向けて伝搬する光ビームを更に減衰させるように前記第二光変調器に指示することを更に備える請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2019年4月3日出願の米国仮出願第62/828750号の優先権を主張し、その全内容は参照として本願に組み込まれる。
【0002】
本願は概してガス状サンプル分析に係り、特にキャビティリングダウン分光法システムとその光ビームを変調する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
キャビティリングダウン分光法(cavity ring‐down spectroscopy,CRDS)は、ガス状サンプル内の単一の検体をその吸収スペクトルを用いて特定及び定量するのに一般的に用いられる手法である。典型的なCRDSシステムは、二つの高反射ミラーを有するチャンバのキャビティ内に向けられるビームを生成するレーザを用いる。ビームは可視光スペクトル内に通常はあり、近赤外(infrared,IR)スペクトル内にあることも多く、単一の分子の存在を特定するための単一の波長に同調される。そして、ビームはミラー同士の間で繰り返し反射されて、光の一部がリングダウンキャビティから出射するようにする。レーザがキャビティモードで共振状態にあると、強め合う(建設的)干渉によりキャビティ内で強度が上がる。キャビティ内に入る光が消失して、空になると、リングダウンキャビティ内の光の強度が所定の割合で減衰する。僅かな光がミラーによって反射されずリングダウンキャビティから出射する。出射光の強度をセンサ部によって測定して、減衰率を決定する。
【0004】
ガス状サンプルがリングダウンキャビティ内に入れられると、ガス状サンプル内に存在する検体が光の一部を吸収することによって、リングダウンキャビティ内の光の強度の減衰を加速する。特定の波長におけるガス状サンプルの存在下における光の減衰時間を、その波長におけるガス状サンプルの不存在下における光の減衰時間に対して測定することによって、吸収スペクトルが得られる。多様な検体の既知の吸収スペクトルを用いたガス状サンプルの測定吸収スペクトルの線形回帰で、ガス状サンプル内の個別の検体の特定及び定量化が可能となる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
一態様において提供されるキャビティリングダウン分光法システムは、光ビームを発生させる少なくとも一つのレーザと、少なくとも一つのレーザからの光ビームを減衰させるように位置する第一光変調器と、第一光変調器からの光ビームを減衰させるように位置する第二光変調器と、第二光変調器からの光ビームを受けるように位置するリングダウンキャビティと、リングダウンキャビティから漏れ出した光の強度を測定する少なくとも一つの光センサと、を備える。
【0006】
キャビティリングダウン分光法システムは、リングダウンキャビティの光モードに整合するように光ビームを集束させるための少なくとも一つの集束レンズを更に含み得る。
【0007】
第一光変調器と第二光変調器は音響光学変調器であり得る。
【0008】
キャビティリングダウン分光法システムは、第一光変調器の減衰限界に又は減衰限界近傍に光ビームを減衰させるように第一光変調器に指示(命令)するのと同時に、第一光変調器からの光ビームの強度を低減又は消失させるように第二光変調器の減衰限界に又は減衰限界近傍に光ビームを更に減衰させるように第二光変調器に指示するように構成されている制御器を更に備え得る。
【0009】
他の態様において提供されるキャビティリングダウン分光法システムにおいて光ビームを変調する方法は、少なくとも一つのレーザで光ビームを発生させることと、第一光変調器で少なくとも一つのレーザからの光ビームを減衰させることと、第二光変調器で第一光変調器からの光ビームを減衰させることと、リングダウンキャビティ内で第二光変調器によって減衰された光ビームを受けることと、リングダウンキャビティから漏れ出した光の減衰率を測定することと、を備える。
【0010】
第一光変調器と第二光変調器は音響光学変調器であり得る。
【0011】
本方法は、光ビームを第一光変調器の減衰限界に又は減衰限界近傍に減衰させるように第一光変調器に指示(命令)するのと同時に、第一光変調器からの光ビームの強度を低減又は消失させるように、リングダウンキャビティに向けて伝播する光ビームを第二光変調器の減衰限界に又は減衰限界近傍に更に減衰させるように第二光変調器に指示することを更に備え得る。
【0012】
他の技術的利点は、以下の図面と説明を読むことで当業者に明らかとなり得る。
【0013】
本開示の実施形態のより良い理解のため、また、実施形態が如何に実施可能であるのかをより明確に示すために、以下、添付図面を単に例として参照する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】一実施形態に係るキャビティリングダウン分光法システムの多様な光学部品と空気圧部品の概略図である。
【
図2】
図1に示されるキャビティリングダウン分光法システムの多様な光学部品と空気圧部品を制御するための電気制御システムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
特に断らない限り、図面に示される物体は必ずしも縮尺通りではない。
【0016】
例示を単純明快にするため、適切であれば、対応又は類似の要素を指称するために参照番号を図面にわたって繰り返し得る。また、本開示の実施形態の完全な理解を与えるために多数の具体的な細部が与えられる。しかしながら、こうした具体的な細部を有さずとも本開示の実施形態が実施可能であることは当業者に理解されるものである。場合によっては、本開示の実施形態を曖昧にしないために周知の方法、手順、構成要素の詳細は説明されていない。最初に、例示的な実施形態が図面に示され以下説明されるが、本開示の原理は、現状で知られている又は知られていない多数の手法を用いて実施可能であることを理解されたい。本開示は、図面に示され以下説明される例示的な実施形態と手法に限定されるものではない。
【0017】
本開示全体にわたって使用されている多様な用語は、特に断らない限りは以下のように読まれ理解され得るものである。本願全体において用いられている「又は」は、「及び/又は」と記載されているかの如くに包括的なものである。本願全体において用いられている単数形での記載は複数形の場合を含むものであり、またその逆も同様である。同様に、性別に関する記載はその逆の性別の場合を含ものであって、本願記載の使用、実施、性能は単一の性別に限定されて理解されるものではない。「例示」は、「図示」や「例」と理解されるものであって、必ずしも他の実施形態に対して「好ましい」ものではない。用語に関する更なる定義が本願に与えられ得て、本開示を読むことで理解されるように、こうした用語はその記載の前の場合と後の場合にも当てはまり得る。
【0018】
本開示のシステム、装置、方法には、本開示の範囲を逸脱せずに、変更、追加、省略が行われ得る。例えば、システムや装置の構成要素は統合又は分離され得る。更に、本開示のシステムや装置の動作は、より多い構成要素、より少ない構成要素、又は他の構成要素によって実現可能であり、本開示の方法は、より多いステップ、より少ないステップ、又は別のステップを含み得る。更に、ステップはあらゆる適切な順序で実行可能である。本開示において、「各」は、或る集合(組)のうちの各部を称し、又は或る集合(組)の部分集合のうちの各部を称する。
【0019】
命令を実行するものとして本開示で例示されているあらゆるモジュール、ユニット、サーバ、コンピュータ、端末、エンジン又はデバイスは、記憶媒体、コンピュータ記憶媒体、データ記憶デバイス等のコンピュータ可読媒体(例えば、磁気ディスク、光学ディスク、テープ)を含むか、これらにアクセス可能である。コンピュータ記憶媒体としては、コンピュータ可読命令、データ構造、プログラムモジュール、他のデータ等の情報の記憶用の方法や技術で実現されている揮発性、不揮発性、取り外し可能、取り外し不能の媒体が挙げられる。コンピュータ記憶媒体の例として、RAM、ROM、EEPROM、フラッシュメモリ、他のメモリ技術、CD‐ROM、DVD(デジタル多用途ディスク)、他の光学ストレージ、磁気カセット、磁気テープ、磁気ディスクストレージ、他の磁気ストレージデバイスが挙げられ、又は、所望の情報を記憶するのに使用可能であってアプリケーション、モジュール若しくはこれら両者によってアクセス可能なあらゆる他の媒体が挙げられる。こうしたコンピュータ記憶媒体はデバイスの一部であるか、デバイスにアクセス可能又は接続可能なものである。また、特に断らない限りは、本開示中のプロセッサやコントローラは単一のプロセッサとして実現可能であり、又は複数のプロセッサで実現可能である。複数のプロセッサはアレイ型や分散型となり得て、本開示で言及されているあらゆる処理機能は複数のプロセッサのうち一つによって実行され得るが、単一のプロセッサとしても実現可能である。本開示のあらゆる方法、アプリケーション、モジュールは、こうしたコンピュータ可読媒体に記憶又は保持可能であって一つ以上のプロセッサによって実行可能なコンピュータ可読/実行可能命令を用いて、実行され得る。
【0020】
CRDSシステムは、レーザからの光を変調する光変調器を典型的には含む。光変調器は、光の強度又はパワーを減衰させるために光を他の経路に偏向させ得る。音響光学変調器(AOM,acousto‐optic modulator)は光変調器の一種であり、ゲルマニウムやガラス等の物質に結合された圧電トランスデューサを用いる。本開示の実施形態において、物質はゲルマニウムである。発振電気信号が圧電トランスデューサに印加されると、圧電トランスデューサが振動して、物質中に音波を発生させる。音波が物質を伸縮させることによって、屈折率の周期的な変動が生じて、ブラッグ回折を可能にする。音波の伝搬軸に対して垂直な平面に対する一次ブラッグ角でAOMに入射する光は、最大効率においてブラッグ角の二倍に等しい量で偏向される。電気信号の消失で、物質のブラッグ回折性が無くなり、光が偏向されずに通過するようになり、偏向させた光路に沿った光を効果的に減衰させる。AOMの副作用は、偏向されている光の周波数がシフトすることである。
【0021】
電気光学変調器は別種の光変調器であり、DC(直流)又は低周波電場を物質に印加して、物質の分子の位置、向き及び/又は形状を乱す。結果として、屈折率が変更されて、出射ビームの位相が印加場の関数として変化する。ビームを偏光子に通すことによって、位相変調が強度変調に変換される。他の方法では、干渉計の分岐に配置された位相変調器が強度変調器として作用することができる。
【0022】
光変調器を用いて、レーザが発生させる光ビームの強度を制御する。音響光学変調器の使用の副作用の一つは、光の周波数がシフトすることである。このシフトは、光の絶対周波数に対して相対的に小さい。
【0023】
CRDSでは、リングダウンキャビティ中のガス状サンプルの吸収スペクトルを理解するためにリングダウンキャビティ中の光の減衰率を決定する。しかしながら、単一の光変調器を用いる従来のCRDSシステムでは、リングダウンキャビティに供給される光を所望の通りに素早く完全に消失させることが困難である。これは、近赤外(NIR)や可視波長の場合よりも中赤外(MIR)の場合により当てはまり得る。一般的に、光変調器は、完璧なステップ関数出力を発生させるようには動作せず、立ち上がり時間と立ち下がり時間を有する。結果として、リングダウン事象の開始時にリングダウンキャビティに入る追加の光を補償し難く、既知の検体吸収スペクトルでの線形回帰を困難にする。
【0024】
特定の実施形態に係るCRDSシステム20の多様な構成要素が
図1に示されている。CO
2レーザ24と炭素13(
13C)O
2レーザ28が設けられる。CO
2レーザ24と炭素13O
2レーザ28はガス管レーザであり、調節可能な回折格子装置を用いて急速選択可能な一続きの準均等間隔で周知の周波数において発光する。ガス管レーザ技術は長い歴史を有するものであり、正確に分かっている周波数において赤外線を発生させるための安定でロバストな方法である。CO
2レーザ24と炭素13O
2レーザ28は両方とも中赤外スペクトルで発光する。
【0025】
CO2レーザ24と炭素13O2レーザ28の各々はアクチュエータと出力カプラを有し、レーザキャビティの長さの調節を可能にすると共にキャビティ後方における格子の角度を変更することによって、どの波長で反射するのかを調節するようにそのピッチを変更する。レーザキャビティの長さを変更することと格子の角度を変更することとの両方によって、レーザを特定の波長と所望のモード質に極めて正確に同調させることができる。
【0026】
CO2レーザ24が第一レーザビーム32を生成し、炭素13O2レーザ28が第二レーザビーム36を生成する。所望の光周波数に応じて、CO2レーザ24を同調させて第一レーザビーム32を発生させる一方で炭素13O2レーザ28を離調させるか、又は、炭素13O2レーザ28を同調させて第二レーザビーム36を発生させる一方でCO2レーザ24を離調させるかのいずれかとなる。このようにして、最大でもCO2レーザ24と炭素13O2レーザ28の一方のみが特定の時点においてビームを出力して、第一ビーム32と第二ビーム36が同時に組み合わさらないようにする。中赤外線、特に長波長赤外線が、この範囲内の光を大抵の揮発性有機化合物が吸収するので、光の種類として選択されていた。結果として、多数の揮発性有機化合物を単一のシステムで測定することができる。CO2レーザはこの範囲で動作し、リングダウン分光法に十分なパワーと線幅の狭さを有する。二つのレーザを用いることで、ガス状サンプルを分析するのにCRDSシステム20が使用することができる利用可能な波長の範囲と数が追加される。
【0027】
第一レーザビーム32は、光学系マウント上のミラー40を介してビームスプリッタ44に向け直される。ビームスプリッタ44は一部反射一部透過性であり、第一レーザビーム32と第二レーザビーム36の各々を、サンプリングビーム48とワーキングビーム52という二つのビームに分割し、ワーキングビーム52は、サンプリングビーム48と同じ特性を有し、サンプリングビーム48と同等の強度のものとなり得る。
【0028】
サンプリングビーム48は高速検出器56によって受光される。高速検出器56は、オシロスコープを用いてサンプリングビーム48の振幅とうなり(ビート)周波数を測定する。うなり周波数は、CO2レーザ24と炭素13O2レーザ28のうち最適同調未満のものに起因する高次モードの存在を示すことができる。望ましくないうなり周波数の検出に応答して、うなり周波数の振幅が最小になるか消失する一方で強度が最大になるまで、対応のレーザ24又は28を同調させる。うなり周波数の振幅を許容可能なレベル未満に低減させることができない場合には、レーザが別の波長に同調され得る。
【0029】
ワーキングビーム52は第一光変調器60に進み、第一光変調器60がワーキングビーム52を光学系マウント上のミラー64に偏向させる。ミラー64は光を第二光変調器68に向け直し、今度は、第二光変調器68がワーキングビーム52を集束レンズ72に偏向させる。本実施形態では、第一光変調器60と第二光変調器68はAOM(ブラッグセルとも称される)であるが、他の実施形態では電気光学変調器ともなり得る。
【0030】
第一光変調器60と第二光変調器68は、ワーキングビーム52の強度を調節してリングダウン事象の開始時にビームを消失させる減衰器として作用する。AOMであると、第一光変調器60と第二光変調器68は音響光学効果を用いて、音波(通常は無線周波数の音波)で光を回折させる。第一光変調器と第二光変調器の各々において、圧電トランスデューサがゲルマニウムやガラス等の物質に結合され、発振電気信号を用いて、圧電トランスデューサを振動させる。振動している圧電トランスデューサは物質に音波を発生させ、音波が物質を伸縮させることによって、屈折率の周期的な変動を生じさせて、ブラッグ回折を可能にする。音波の伝搬軸に垂直な平面に対してブラッグ角でAOMに入射する光は、最大効率においてブラッグ角の二倍に等しい量で偏向される。電気信号の消失で、物質のブラッグ回折性が無くなり、光が偏向されずに通過するようになり、偏向させた光路に沿った光を効果的に消失させる。このように、音の強度を用いて、偏向ビーム中の光の強度を変調させることができる。
【0031】
第一光変調器60と第二光変調器68の各々によって偏向される光の強度は、入力光強度の略85%(光変調器60、68の最大偏向効率を表す)と略0.1%という第一光変調器60及び第二光変調器68の各々の減衰限界との間となり得る。ゲルマニウムに印加されている音波がオフに切られると、偏向ビームは、以前の強度の略30dB、つまり99.9%を失う。減衰限界は、光変調器によって入力光強度を減衰させることができる程度の上限を意味する。
【0032】
光変調器は非対称であり、つまり、副作用として、その第一端で入力光を受光する際に第一モードで光の周波数をドップラーシフトさせ、その第二端で入力光を受光する際に第一モードと逆の第二モードで光の周波数をドップラーシフトさせるが、減衰パワーは同じである。光の周波数のドップラーシフトは、光が第一端又は第二端に入射するのかにかかわらず、同じ方向に沿う。
【0033】
従来のCRDSシステムは、単一の光変調器を用いているので、結果として、周波数シフトされているワーキングビームを有する。こうした周波数シフトは、一般的に光の周波数に対しては相対的に小さく、光がキャビティ内の物体によって吸収される様を変化させ得るが、この周波数シフトは分析中に補償され得る。回折がAOMの音波源に向かう場合には周波数シフトは下方シフトとなり、回折が音波源から離れる場合には周波数シフトは上方シフトとなる。上述のように、この効果は最小である。
【0034】
第二光変調器68によって偏向されたワーキングビーム52は、リングダウンキャビティ84の光学モードに整合するように集束レンズ72を介して集束される。レーザビーム、つまりはワーキングビーム52は、CO2レーザ24又は炭素13O2レーザ28から伝搬するので、発散し続ける。集束レンズ72は、ワーキングビーム52を集束させて戻す。
【0035】
その後、光学系マウント上のミラー76が、リングダウンチャンバ80にワーキングビーム52を向け直す。二つのミラー64、76は、ワーキングビーム52の経路長を伸ばす。
【0036】
リングダウンチャンバ80は、その内部でリングダウンキャビティ84を画定する細長の管である。前方キャビティミラー88aと後方キャビティミラー88b(代わりにまとめてキャビティミラー88とも称される)がリングダウンキャビティ84の長手方向端に位置決めされる。キャビティミラー88は、リングダウンキャビティ84の外側からキャビティミラー88に向けられる光と、リングダウンキャビティ84内部からキャビティミラー88に向けられる光の両方に対して高反射性である。結果として、前方キャビティミラー88aに向けられたワーキングビーム52の一部(略0.1%)が前方キャビティミラー88aを通過して、リングダウンキャビティ84に入り、ワーキングビームの大部分(略99.9%)が反射されてミラー76に向けて戻される。
【0037】
キャビティミラー88はミラーマウント92上に取り付けられ、ミラーマウント92は、キャビティミラー88の位置と向きを調節するように作動可能である。特に、リングダウンダウンキャビティ84の前方に向かう前方キャビティミラー88aは、三つの機械式マイクロメータ96aを介して作動可能なミラーマウント92に取り付けられる。リングダウンキャビティ84の後方に向かう後方キャビティミラー88bは、三つの電動マイクロメータ96bを介して作動可能なミラーマウント92に取り付けられ、これら三つの電動マイクロメータ96bは、光整列用に手動で調節可能であり、又は圧電体を用い圧電ドライバで更に調節可能である。
【0038】
各キャビティミラー88の角度は、ミラーが完璧に整列するように変更可能であり、光ビームがリングダウンキャビティ84に入る際に光ビームが逸脱しないようにする。一方のキャビティミラー88が斜めになっている場合、特に、一部の光がリングダウンキャビティ84の側方に反射され、光の強度が失われ、高次モードが生じる。また、マイクロメータ96はリングダウンキャビティ84の長さを変更させるように同時に同調可能である。これが、リングダウンキャビティ84の同調を可能にして、リングダウンキャビティ84が、リングダウンキャビティ84に入射している光の周波数で共振する。
【0039】
集束レンズ72は、リングダウンキャビティ84の光学モードに整合するようにレーザ光を集束させて、ビームの最小ウエストがリングダウンキャビティ84の最小ビームウエストと同じ箇所に位置するようにする。
【0040】
液体窒素冷却検出器100型の光センサが後方キャビティミラー88bの後方に配置されて、そのミラーを出射する光を受光する。液体窒素冷却検出器100は、リングダウンキャビティ84を出射する光の強度を測定する。出射光の強度を測定するための他の種類のセンサ(熱電冷却検出器等)が液体窒素冷却検出器100に代えて使用可能である。
【0041】
同調プロセス中においては、CO2レーザ24と炭素13O2レーザ28の一方を同調させて、高速検出器56に到達するサンプリングビーム48を分析して、うなり周波数を特定する。サンプリングビーム48にうなり周波数が存在する場合、望ましくないうなり周波数が除去されるか又は許容可能な限界未満の振幅に低減されるまで、対応のレーザを調節する。
【0042】
また、キャビティミラー88の位置をマイクロメータ96で調節して、リングダウンキャビティ84内に高次モードが存在しないようにする。
【0043】
検査用のガス状サンプルを収集するのに使用される熱脱着管104からリングダウンキャビティ84内にガス状サンプルが投入される。熱脱着管は一般的にステンレス鋼製であり、多様な種類の固体吸着材を含む。特定の化合物をサンプリングして、他の化合物の存在下であっても対象化合物を捕捉及び保持して、収集された化合物を分析用に簡単に脱着や抽出することを可能にするために固体吸着剤が選択されている。また、選択される固体吸着剤は、対象化合物と反応しない。
【0044】
特定の一例では、ガス状サンプルは、患者から収集された人間の呼気サンプルである。熱脱着管104の受け端108は、被験者から収集した人間の呼気を受ける。結果として、対象化合物は、熱脱着管104の受け端108に向けて濃くなる。
【0045】
空気圧システム112を用いて、熱脱着管104からリングダウンキャビティ84内にガス状サンプルを投入し、リングダウンキャビティ84を含め空気圧システム112を排気する。ガス状サンプルの投入中に、空気圧システム112は、収集されたガス状サンプルでリングダウンキャビティ84を充填し(つまり、熱脱着管104からガス状サンプルを脱着させて、汚染物質を導入せずにリングダウンキャビティ84内にガス状サンプルを入れる)、リングダウンキャビティ内の圧力を1気圧にし、温度を50℃にして、リングダウンキャビティ84を密封する。本実施形態では、測定吸収スペクトルと比較される一組のサンプルの吸収スペクトルをこの圧力と温度において決定し、結果に影響を与え得るパラメータ同士の間の一貫性を保つ。しかしながら、他の実施形態では、圧力と温度は、既知の測定吸収スペクトルの他のレベルに固定され得る。ガス状サンプルの排気中に、空気圧システム112は、以前に提供されたガス状サンプルを、リングダウンキャビティ84から除去し、また、熱脱着管104からリングダウンキャビティ84にガス状サンプルを誘導するための種々の導管から除去する。
【0046】
空気圧システム112は、窒素ガス源116を含む吸気部を有する。窒素ガス源116は、加圧されている極めてクリーンな窒素ガスの供給源であるか、窒素ガスを1気圧以上に加圧することができるものである。本実施形態では、窒素ガス源116は、大気圧よりも高く5psiに加圧されるが、リングダウンキャビティ84を1気圧に、又は分析が行われるよう選択された他の大気圧に加圧するのに圧縮が十分なものである限りで変更可能である。図示の実施形態では、窒素ガス源116は、液体窒素容器から蒸発する窒素ガスである。窒素ガス源116は導管120を介してガス入口弁124aに接続される。補助ガス入口弁124bが他のガスの接続を可能にするが、通常は用いられない。ガス入口弁124aと補助ガス入口弁124bはガス吸入ライン120aと連通している。圧力計128がガス吸入ライン120aとガス吸入弁124cに沿って配置される。フィルタ130aが、キャビティ入口弁124dの前方においてガス吸入ライン120aに沿って配置され、そのキャビティ入口弁124dは、ガス吸入ライン120aをリングダウンキャビティ84から密封する。フィルタ130aは汚染物質がリングダウンキャビティ84に入り込むことを抑制するが、リングダウンキャビティ84において汚染物質はキャビティミラー88上に堆積して反射性に干渉し得るものである。
【0047】
ガス入口弁124aと補助ガス入口弁124bは、流路制御(pathing)弁124eと連通している。流路制御弁124eは、脱着管ライン120bとサンプル出口ライン120cに対する直接アクセスを有効又は無効にする。
【0048】
脱着管ライン120bは前方弁124fと後方弁124gを含む。熱脱着管104は前方弁124fと後方弁124gとの間に配置され、熱脱着管104の受け端108が後方弁124gに向けて配置される。熱脱着管104は加熱器132内に配置される。
【0049】
サンプル出口ライン120cは、サンプル出口弁124hと質量流量制御器136を含む。
【0050】
また、空気圧システム112は、リングダウンキャビティ84と連通しているキャビティ出口弁124iを含む出口部も有する。出口ライン140はキャビティ出口弁124iと連通している。圧力計144が出口ライン140に沿って配置される。真空遮断弁124jが圧力計144と真空ポンプ148との間に配置される。真空吸入弁124kが真空ポンプ148と連通していて、ポンプ吸入ライン150を通して空気を吸い込む。フィルタ130bがポンプ吸入ライン150内に配置されて、真空ポンプ148の動作と干渉し得る汚染物質が入り込むことを抑制する。
【0051】
弁124a~124kは代わりにまとめて弁124と称され得る。
【0052】
キャビティ入口弁124dとキャビティ出口弁124iは特定の箇所においてリングダウンキャビティ84に適宜結合されているものとして示されているが、弁124d、124iがリングダウンキャビティ84に結合される箇所は異なり得ることを理解されたい。好ましい構成では、キャビティ入口弁124dは、前方キャビティミラー88aに隣接するリングダウンキャビティ84の端部に向けてリングダウンキャビティ84と連通していて、キャビティ出口弁124iは、後方キャビティミラー88bに隣接するリングダウンキャビティ84の端部に向けてリングダウンキャビティ84と連通している。
【0053】
新たなガス状サンプルがリングダウンキャビティ84に投入される際には、新たなガス状サンプルを含む熱脱着管104が図示のように空気圧システム112に結合される。
【0054】
排気段階中においては、真空吸入弁124kを開いて、真空ポンプ148をオンにする。次いで、真空吸入弁124kを閉じて、順に真空遮断弁124j、キャビティ出口弁124i、キャビティ入口弁124d、ガス吸入ライン弁124c、流路制御弁124eを開く。この流路に沿ったラインとリングダウンキャビティ84の含有物は、真空ポンプ48によってCRDSシステムから排気される。特に圧力計12が真空ポンプ148から遮断されている際に、圧力計144が、システムが十分に排気されていることの決定を可能にする。システムが十分に排気されていると決定されると、開いている上記弁124j、124i、124d、124c、124eを逆の順序で閉じる。その後、窒素充填段階中に、弁124a、124c、124d、124i、124jを開いて、窒素ガス源116からの窒素ガスがライン120aとライン140を充填するようにする。次いで、別の排気段階で窒素ガスを排気する。窒素充填段階と排気段階は、ラインを清浄に空にするために所望の通りに繰り返し可能である。このようにして、以前に検査されたガス状サンプルがCRDSシステム20から排気される。
【0055】
新たなサンプルの投入中においては、熱脱着管104を洗浄し、熱脱着管104から二酸化炭素と水を除去して、リングダウンキャビティ104に投入される二酸化炭素と水の量を最小にする。熱脱着管104を洗浄するため、ガス吸入弁124a、ガス吸入ライン弁124c、後方弁124を開いて、熱脱着管104を洗浄するための窒素ガスの経路を与える。熱脱着管104は、二酸化炭素と水がガス状サンプルと集まることを抑制するように選択されるが、それでも典型的には或る程度の二酸化炭素と水が熱脱着管104内に存在する。
【0056】
500mlの窒素ガスを熱脱着管に入れて、熱脱着管104内に残留している二酸化炭素と水を元々のサンプルから除去する。次いで、前方弁124fとサンプル出口弁124hを開いて、質量流量制御器136への経路を与える。質量流量制御器136は、窒素ガス並びに搬送された二酸化炭素及び水を特定の流量で放出することを可能にする。本構成では、流量は500ml/minである。次いで、全ての弁124を閉じる。
【0057】
二酸化炭素と水が熱脱着管104から除去されると、上述と同じプロセスを用いて空気圧システム112が再び排気され、空気圧システム112のラインに導入されたばかりの窒素ガスを除去する。次いで、熱脱着管104を取り囲む加熱器132が、熱脱着管104を所望の温度に加熱して、熱脱着管104内の新しいサンプルを熱脱着させる。次いで、ガス入口弁124a、流路制御弁124e、前方弁124f、後方弁124g、キャビティ入口弁124dを開いて、窒素ガス源116から、脱着した対象化合物を有する熱脱着管104を通りリングダウンキャビティ84に向かう窒素ガス用の直接流路を与える。
【0058】
リングダウンキャビティ84内を1気圧にすることが望ましいが、その理由は、収集及び分析される全ての基準データがこの圧力レベルにおけるものであることによって、結果が再現可能であることが保証されるからである。
【0059】
ガス入口弁124aはシステムによってトグル操作で開閉され、次いで、システムは圧力計128の圧力読取値が安定して1気圧に達するのを待つ。圧力計128が安定しても、圧力読取値が1気圧未満である場合には、ガス入口弁124aを再びトグル操作して、圧力読取値が1気圧になるまでプロセスを繰り返す。圧力計128がリングダウンキャビティ84内の圧力レベルが1気圧であることを示すと、全ての弁を閉じる。
【0060】
複数の温度値での脱着が望まれる場合には、真空ポンプ148をオンにして、キャビティ出口弁124iと真空遮断弁124jを開いて、リングダウンキャビティ84を排気する。次いで、脱着プロセスを繰り返す前にキャビティ出口弁124iを閉じる。
【0061】
後方弁124gとキャビティ入口弁124dの間には失われるであろうガス状サンプルが或る程度存在しているので、一般的には複数の脱着の間で完全な排気は行われない。
【0062】
このようにしてガス状サンプルを含む固定体積のリングダウンキャビティを所望の圧力レベルに加圧することによって、キャビティ内の圧力を所望のレベルに上昇させるのに使用可能な可変体積リングダウンキャビティと比較して、化合物が付着し得るリングダウンキャビティ内の表面積が減少し得る。
【0063】
更に、圧力計128が、熱脱着管104からリングダウンキャビティ84に向かうガス状サンプルの流路の上流に存在することによって、サンプルによる汚染を防止する。
【0064】
図2は、例示的なCRDSシステム20の多様な構成要素用の電子制御サブシステム200の概略図である。全てのラインは電気又は電子信号を表し、矢印は一方向通信、電圧の設定等を表し、矢印無しのラインは双方向通信を表す。
【0065】
一つ以上のプロセッサを含むコンピュータ204は、
図1に示される多様な構成要素の機能を制御する制御器として作用する。
【0066】
一対のRFドライバ208が、CO2レーザ24と炭素13O2レーザ28に動力供給する40MHz信号を送信する。レーザ24とレーザ28の各々は、出力カプラとアクチュエータ212を用いて同調される。各出力カプラは、1000Vの出力カプラ圧電体216によって駆動される。出力カプラ圧電体216に動力供給する2チャネル高電圧増幅器220は、0Vから1000Vの間で調節可能である。高電圧増幅器220は、コンピュータ204のデータ取得(「DAQ」)カード224からのアナログ出力信号で設定される。DAQは0Vから10Vの間の出力を発生させ、高電圧増幅器220は信号を100倍に増幅し、出力カプラ圧電体216に動力供給する0V~1000Vの信号を発生させる。格子の角度を変更する各アクチュエータ212は、RS‐232を介してコンピュータ204から命令を受けるアクチュエータドライバ228によって駆動される。各アクチュエータ212をミリメートル単位で動かし、これが、レーザ24、28のピッチ角に変換される。
【0067】
空気圧システム112の圧力計128、144からのデータ信号はRS‐232を通して受信される。
【0068】
高速検出器56が接続される小増幅器232とオシロスコープ236は、レーザ24、28を同調させるのに用いられるうなり信号の振幅と周波数を読み取るのに使用可能なものである。
【0069】
熱脱着管加熱器132用の温度制御器240は、コンピュータ204によってRS‐232を介して制御される。管加熱器132は、加熱テープで巻かれたアルミニウム片と温度センサを含む。加熱テープと温度センサはどちらも温度制御器240に接続され、その温度制御器240はPID(proportional integral derivative,比例積分微分)制御器である。制御器は、温度を設定し、RS‐232を介してメインコンピュータ204にリードバックする。
【0070】
リレー板244はコンピュータ204に接続され、全てのソレノイド弁124と真空ポンプ148をオンオフするのに用いられる。
【0071】
3チャネル圧電ドライバ248は、リングダウンキャビティ84の長さを調節するようにマイクロメータ96を作動させる圧電アクチュエータ252を駆動させる。各チャネルは、RS‐232を介する圧電ドライバに対する通信と、DAQカード224からのアナログ入力という二つの成分を有する。
【0072】
各音響光学変調器60、68は、略40MHzの信号を送信するRFドライバ256で駆動される。RFドライバ256の周波数を変更することで、所与の光波長に対してブラッグ角を変更し、又は、所与又は固定のブラッグ角が同調される光波長を変更する。RFドライバ256が特定の周波数に同調されてフルパワーに設定されると、ワーキングビーム52の大部分(略85%)が通過する。80%、70%に調節されると、光変調器60、68が減衰する。RFドライバ256がゼロに設定されると、光変調器60、68が完全にオフになる。RFドライバの周波数は、RS232を介した成分で設定される。アナログ及びデジタル成分がRFドライバ256のオンオフ条件と振幅を設定し得る。特に、DAQカード224はタイミング回路260に信号を送信し、そのタイミング回路260がRFドライバの振幅を有効にして設定するのに必要な四つの必須信号を発生させる。タイミング回路260は、タイミング回路260が四つの電圧値をゼロに設定し、次いで、所定時間後に以前の電圧レベルに戻るリングダウン始動条件又は定常状態条件において動作し得る。
【0073】
DAQカード224からのデジタル出力(「DO」)が、定常状態モード又はリングダウン始動モードのいずれかにタイミング回路260を設定する。リングダウン始動モードでは、デジタイザ264からの始動出力が、タイミング回路260を始動させて、RFドライバの電圧を0に設定する。定常状態モードでは、タイミング回路260はトリガー出力(「TRIG」)をDAQカード224からデジタイザ264に送り、キャビティのスイープ(掃引)を(AWGを介して)液体窒素冷却検出器100と同期させる。つまり、リングダウンキャビティ84の自由スペクトル範囲全体がスイープされる際に、キャビティ圧電体を共振させるように設定する電圧を近似的に決定することができる。
【0074】
リングダウン測定を行うことが望まれる場合、高速検出器56とオシロスコープ236を用いてレーザ24と28のうち一方を同調させる。レーザが同調されると、DAQカード224によって生成されたランプ(ramp)信号を圧電ドライバ248に送信することによって、リングダウンキャビティをスイープし、次いで、対応の出力ビーム強度を液体窒素冷却検出器100で測定する。これは、リングダウンキャビティ84内で共振点がある箇所(例えば、10V)の描写を与える。
【0075】
圧電ドライバがRS‐232を介して10Vに設定されると、1V~2Vの小振幅の正弦波がDAQカード224から送信され、圧電ドライバ248にも向かう。これは、圧電ドライバ248に向かう10~12Vの正弦波をもたらす。液体窒素冷却検出器100は、リングダウンキャビティ84内の共振点にわたって前後するスイープを示し、前方スイープと後方スイープの時間が等しくなるまで、中心位置をRS‐232によって調節して上下させる。これが、リングダウンキャビティ84を共振点に同調させる。
【0076】
500回のリングダウンを測定し、吸収係数計算に用いられる減衰時間を計算する。
【0077】
ガス状サンプルがリングダウンキャビティ84内に投入されると、一方のレーザ24、28を特定の波長に同調させて、その光は、第一光変調器60に向けられ、ミラー64によって反射され、第二光変調器68を通り、ミラー72によって反射され、リングダウンチャンバ80に向かう。光変調器60、68はワーキングビーム52を或る程度減衰させて強度を変調する。
【0078】
ワーキングビーム52が前方キャビティミラー88aに達すると、その一部(略0.1%)が前方キャビティミラー88aを通り抜けて、リングダウンキャビティ84に入る。ワーキングビーム52の大部分(略99.9%)はまずは反射されて、同じ経路に沿って作動している方のレーザ24又は28に戻される。
【0079】
最初、リングダウンキャビティ84は照らされていない。光がリングダウンキャビティ84に入ると、リングダウンキャビティ84内の光の大部分は二つのキャビティミラー88の間で反射されるので、ワーキングビーム52を介して外部から更に光が導入されるにつれて、リングダウンキャビティ84内の光の量やパワーが増加し始める。特定の割合の光がキャビティミラー88から漏れ出す。リングダウンキャビティ84を光で「充満」させるには或る期間がかかる。その時点において、入射光と漏光は平衡状態にある。この平衡状態が達成されると、レーザ24、28の光を消失させ、又は、光変調器60、68を介したリングダウンキャビティ84への入射を止める。
【0080】
リングダウンキャビティ84が共振状態にあり平衡状態(つまり、キャビティミラー88を介して漏れ出す光の量がワーキングビーム52からの入射光の量に等しい状態)に近づくと、入射レーザ光との弱め合う(破壊的)干渉で、入射レーザ光がほとんど又は全く前方キャビティミラー88aで反射されなくなる。結果として、リングダウンキャビティ84が平衡状態になると、前方キャビティミラー88aに向けられるリングダウンキャビティの帯域幅内の一部のワーキングビーム52の反射が実質的に無くなる。
【0081】
リングダウンキャビティが平衡状態にあると、リングダウン事象を開始させることができる。リングダウンキャビティ84に入る光を可能な限り素早く消失させ、赤外線検出器(つまり、液体窒素冷却検出器100)が、リングダウンキャビティ84の後端から出てくる光の光強度を測定して、光強度の指数関数的減衰を決定する。リングダウンキャビティ84内の光がリングダウン又は減衰するには特定の期間がかかる。強度が開始強度又は他のレベルの1/e(略0.37に等しい)に低下する時間の長さとして定義される減衰定数(T)を測定し、サンプル無しでの基準減衰時間と比較することで、どれ位の光がガス状サンプルによって吸収されているのかを決定することができる。リングダウンの加速は、リングダウンキャビティ84内のガス状サンプルの存在に起因する。測定された減衰時間を用いて、吸収係数を周波数/波長について計算することができる。
【0082】
リングダウンキャビティ84に入る光を消失させるため、コンピュータ204は、第一光変調器60の減衰限界に又は減衰限界近傍に光ビームを減衰させるように第一光変調器60に指示(命令)するのと同時に、第一光変調器60からの光ビームの強度を低下させるように第二光変調器68の減衰限界に減衰限界近傍に光ビームを更に減衰させるように第二光変調器68に指示する制御器として機能する。従来のCRDSシステムでは、単一の光変調器によって偏向される光が、短期間でゼロに低下する。リングダウンキャビティ84に入る可能性のある追加の光が分光結果を歪曲し得る。従って、レーザ光を可能な限り素早く消失させることが望ましくなり得る。
【0083】
CRDSシステム20では、両方の光変調器60、68を同時にシャットオフするように指示することによって、短期間で第一光変調器60によって偏向される光の量が、第二光変調器68がシャットダウンされていることによって、顕著に減る。
【0084】
第二光変調器68は、第一光変調器60単独で達成される減衰を大幅に増強する。ここで説明する実施形態では、第一光変調器60が30dBの減衰を可能にし、第二光変調器68が更に30dBの減衰を可能にし、これら光変調器60、68で達成される全減衰は各減衰の和、つまり60dBとなる。リングダウンキャビティ84が光で満たされている間においては、光変調器60、68がワーキングビーム52を減衰させてその強度を変調する。本構成では、各光変調器60、68はワーキングビーム52を5dB減衰させ、10dBの全減衰となる。結果として、各光変調器60、68は、ワーキングビーム52の消失中における50dBの更なる全減衰のためワーキングビーム52を更に25dB減衰させるものとなり得る。従来の設定では、一つの光変調器がワーキングビームを10dB減衰させなければならず、ワーキングビームを消失させるための20dBの更なる減衰が残る。理解されるように、ワーキングビーム52は、一つの光変調での20dBの更なる減衰の場合よりも二つの光変調器60、68での50dBの更なる減衰ではるかに素早く減衰可能である。結果として、光変調器60、68をシャットダウンするように指示した後にリングダウンキャビティ84に導入される追加の光の量は、従来のCRDSシステムの単一光変調器設定で更に導入される光よりも少ない。ワーキングビーム52をより素早く消失させることによって、リングダウンキャビティ84内の光の測定減衰が、光変調器60、68の立ち下り時間中の追加の光の影響を受け難くなり、観測された減衰時間を既知の減衰時間と整合させる際の精度を高くする。
【0085】
プロセスを複数の周波数値の光について繰り返して、ガス状サンプルの吸収スペクトルを生成する。例えば、CO2レーザ24が発生させる光が、或る周波数範囲について複数の吸収係数を与える。同様に、炭素13O2レーザ28からの光について或る周波数範囲で吸収係数を生成することができる。このようにして、サンプルについての吸収スペクトルを展開することができる。
【0086】
上述の実施形態における光源は中赤外範囲の光生成する二つのレーザであるが、他の光源も使用可能であることを理解されたい。例えば、可視スペクトルの光を生成するレーザや近赤外レーザが使用可能である。更に、場合によっては、CRDSシステムは、ワーキングビームを発生させるために、三つ以上のレーザ、又は単一のレーザを含むことができる。
【0087】
音響光学変調器に代えて電気光学変調器が使用可能である。
【0088】
音響光学変調器は、ワーキングビームの周波数を上方又は下方シフトするように構成可能である。音響光学変調器によって実現される正味の周波数シフトが、レーザが生成しているワーキングビームの周波数からワーキングビームの周波数を顕著に離してシフトさせて、反射光が、生成されているレーザ光の帯域幅外である限り、反射光と生成ワーキングビームとの間の干渉量を最小にすることができる。
【0089】
他の実施形態では、二つよりも多くの光変調器をCRDSシステムにおいて用いて、リングダウン事象の開始時にワーキングビームをより素早く消失させる更なる消失性能を与えることができる。
【0090】
他の実施形態では一つ以上の集束レンズを用いて、リングダウンキャビティをモード整合させることができる。
【0091】
他の実施形態ではガス状サンプルの分析を1気圧以外の圧力レベルで行うことができる。それに応じて吸収スペクトルの幅が変化し得る。
【0092】
具体的な利点を上記で列挙してきたが、多様な実施形態は、列挙されている利点の一部、全部を含むもの、またいずれも含まないものとなり得る。
【0093】
更なる代替実施形態や修正が可能であり、上記例は一つ以上の実施形態の単に例示であることを当業者は理解するものである。従って、その範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるものである。
【符号の説明】
【0094】
20 CRDSシステム
24 CO2レーザ
28 炭素13O2レーザ
32 第一レーザビーム
36 第二レーザビーム
40 ミラー
44 ビームスプリッタ
48 サンプリングビーム
52 出力ビーム
56 高速検出器
60 第一光変調器
64 ミラー
68 第二光変調器
72 集束レンズ
76 ミラー
80 リングダウンチャンバ
84 リングダウンキャビティ
88 キャビティミラー
88a 前方キャビティミラー
88b 後方キャビティミラー
92 ミラーマウント
96 マイクロメータ
100 液体窒素冷却検出器
104 熱脱着管
108 受け端
112 空気圧システム
116 窒素ガス源
120 導管
120a ガス吸入ライン
120b 脱着管ライン
120c サンプル出口ライン
124 ソレノイド弁
124a ガス入口弁
124b 補助ガス入口弁
124c ガス吸入ライン弁
124d キャビティ入口弁
124e 流路制御弁
124f 前方弁
124g 後方弁
124h サンプル出口弁
124i キャビティ出口弁
124j 真空遮断弁
124k 真空吸入弁
128 圧力計
130a フィルタ
130b フィルタ
132 加熱器
136 質量流量制御器
140 出口ライン
144 圧力計
148 真空ポンプ
200 電子制御サブシステム
204 コンピュータ
208 RFドライバ
212 アクチュエータ
216 出力カプラ圧電体
220 高電圧増幅器
224 DAQカード
228 アクチュエータドライバ
232 増幅器
236 オシロスコープ
240 温度制御器
244 リレー板
248 3チャネル圧電ドライバ
252 圧電アクチュエータ
256 RFドライバ
260 タイミング回路
264 デジタイザ
【国際調査報告】