(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-20
(54)【発明の名称】アマンタジン結合タンパク質
(51)【国際特許分類】
C12N 15/11 20060101AFI20220613BHJP
C07K 14/00 20060101ALI20220613BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20220613BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20220613BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220613BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220613BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220613BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220613BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220613BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220613BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220613BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20220613BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20220613BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20220613BHJP
A61K 31/7088 20060101ALN20220613BHJP
【FI】
C12N15/11 Z
C07K14/00 ZNA
C07K19/00
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61P43/00 105
A61K48/00
A61K38/17
A61K35/76
A61K35/12
A61K31/7088
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021560975
(86)(22)【出願日】2020-04-15
(85)【翻訳文提出日】2021-11-19
(86)【国際出願番号】 US2020028280
(87)【国際公開番号】W WO2020214679
(87)【国際公開日】2020-10-22
(32)【優先日】2019-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517075883
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ ワシントン
【氏名又は名称原語表記】University of Washington
【住所又は居所原語表記】4545 Roosevelt Way NE, Suite 400, Seattle, Washington 98105 US
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】パク,ジュヨン
(72)【発明者】
【氏名】ボーイケン,スコット
(72)【発明者】
【氏名】ウェイ,キャシー
(72)【発明者】
【氏名】オーバードーファー,グスタフ
(72)【発明者】
【氏名】ベイカー,デイビッド
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C086
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA26X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C084AA01
4C084AA02
4C084AA13
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA20
4C084BA41
4C084DC50
4C084NA13
4C084NA14
4C084ZB21
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA13
4C086NA14
4C086ZB21
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB65
4C087BC83
4C087CA12
4C087NA13
4C087NA14
4C087ZB21
4H045AA10
4H045BA50
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】アポトーシス促進性および炎症促進性シグナル伝達カスケードにおける三量体化の重要性にもかかわらず、化学的に誘導可能な三量体化システムは開発されていない。したがって、小分子誘導性三量体化因子(trimerizer)の設計は、かなりの実用的な関連性を備えたデノボタンパク質設計のための課題である。
【解決手段】アマンタジン結合ポリペプチド、それらの融合タンパク質、ならびにそのようなポリペプチドおよび融合タンパク質の使用が本明細書に開示される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1のアミノ酸配列の全長に沿って、少なくとも75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、配列番号1の残基の番号付けに基づいて、71位にS71およびT71からなる群から選択される残基を含む、ポリペプチド。
【請求項2】
前記ポリペプチドが、配列番号1の残基の番号付けに基づいて、64、67、および68位の各々に疎水性残基を含む、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
前記ポリペプチドが、配列番号1の残基の番号付けに基づいて、64、67、および68位のうちの1つ以上にアラニン残基を含む、請求項1または2に記載のポリペプチド。
【請求項4】
前記ポリペプチドが、配列番号1の残基の番号付けに基づいて、67および68位のうちの1つ以上にアラニン残基を含む、請求項1または2に記載のポリペプチド。
【請求項5】
配列番号1の残基の番号付けに基づくI64、L67、A68、およびS71残基が前記ポリペプチドにおいて保存されている、請求項1~4のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項6】
配列番号2のアミノ酸配列のアミノ酸配列の全長に沿って、少なくとも75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸配列を含み、括弧中の前記残基が任意選択である、請求項1~5のいずれか一項に記載のポリペプチド。
配列番号2
(MGSSHHHHHH)(SSGLVPRGSHMG)DAQDKLKYLVKQLERALRELKKSLDELERSLEELEKNPSEDALVENNRLNVENNKIIVEVLRIILELAKASAKLA(ABP_全長_ORF配列)
【請求項7】
配列番号3、配列番号4、または配列番号5のアミノ酸配列のアミノ酸配列の全長に沿って、少なくとも75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸配列を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項8】
前記ポリペプチドが、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、または配列番号5のアミノ酸配列の全長に沿って、少なくとも85%同一であるアミノ酸配列を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項9】
前記ポリペプチドが、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、または配列番号5のアミノ酸配列の全長に沿って、少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項10】
前記ポリペプチドが、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、または配列番号5のアミノ酸配列の全長に沿って、少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項11】
配列番号1の配列に対する残基6Lが6Qに修飾されている、請求項1~10のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項12】
配列番号1に対する残基16、17、20、24、27、31、41、42、43、49、51、56、57、58、59、および60の各々が疎水性残基である、請求項1~11のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項13】
以下の残基:A16、L17、L20、L24、L27、L31、A41、L42、V43、L49、V51、I56、I57、V58、V59、L60のうちの1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、または16個すべてが配列番号1に対して保存されている、請求項1~12のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項14】
配列番号1に対する残基30、46、47、50、23、53、および54の各々が親水性残基である、請求項1~13のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項15】
以下の残基:S30、N46、N47、N50、S23、N53、およびN54のうちの1、2、3、4、5、6、または7つすべてが、配列番号1に対して保存されている、請求項1~14のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項16】
以下の残基:A16、L17、L20、L24、L27、L31、A41、L42、V43、L49、V51、I56、I57、V58、V59、L60、S30、N46、N47、N50、S23、N53、およびN54のうちの1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、または23個すべてが配列番号1に対して保存されている、請求項1~15のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項17】
参照タンパク質からのアミノ酸変化が、保存的アミノ酸置換である、請求項1~16のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項18】
カスパーゼ-1、-3、-8、または-9などの細胞死ポリペプチドを含むがこれらに限定されない、生物活性ポリペプチドに遺伝的に融合された、請求項1~17のいずれか一項に記載のポリペプチドを含む、融合タンパク質。
【請求項19】
アマンタジンに結合した、請求項1~17のいずれか一項に記載のポリペプチド、または請求項18に記載の融合タンパク質。
【請求項20】
前記ポリペプチドまたは融合タンパク質が単量体またはホモ三量体である、請求項1~19のいずれか一項に記載のポリペプチドまたは融合タンパク質。
【請求項21】
脂質膜に結合するかまたは脂質膜内に埋め込まれた、請求項1~20のいずれか一項に記載のポリペプチドまたは融合タンパク質。
【請求項22】
請求項1~21のいずれか一項に記載のポリペプチドまたは融合タンパク質をコードする、核酸。
【請求項23】
好適な制御要素に作動可能に連結された、請求項22に記載の核酸を含む発現ベクター。
【請求項24】
請求項1~21のいずれか一項に記載のポリペプチドもしくは融合タンパク質、請求項22に記載の核酸および/または請求項23に記載の発現ベクターを含む、宿主細胞。
【請求項25】
請求項1~21のいずれか一項に記載のポリペプチドもしくは融合タンパク質、請求項22に記載の核酸、請求項23に記載の発現ベクター、および/または請求項24に記載の宿主細胞、ならびに薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物。
【請求項26】
細胞または遺伝子治療のための安全スイッチとしてを含むがこれに限定されない、任意の好適な目的のための、先行請求項のいずれか一項に記載のポリペプチド、融合タンパク質、核酸、発現ベクター、宿主細胞、または医薬組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
相互参照
本出願は、2019年4月16日に出願された米国仮特許出願第62/834592号に対する優先権を主張し、参照により、その全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
アポトーシス促進性および炎症促進性シグナル伝達カスケードにおける三量体化の重要性にもかかわらず、化学的に誘導可能な三量体化システムは開発されていない。したがって、小分子誘導性三量体化因子(trimerizer)の設計は、かなりの実用的な関連性を備えたデノボタンパク質設計のための課題である。
【0003】
配列表への言及
本出願には、「19-142-PCT_Sequence-Listing_ST25.txt」と称する電子テキストファイルとして提出された、5kbのサイズを有する、2020年4月8日に作成された配列表が含まれている。この電子ファイルに含まれる情報は、米国特許法施行規則第1.52条(e)(5)に従ってその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【発明の概要】
【0004】
一態様では、本開示は、配列番号1のアミノ酸配列の全長に沿って、少なくとも75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、配列番号1の残基の番号付けに基づいて71位にS71およびT71からなる群から選択される残基を含む、ポリペプチドを提供する。一実施形態では、ポリペプチドは、配列番号1の残基の番号付けに基づいて、64、67、および68位の各々に疎水性残基を含む。別の実施形態では、ポリペプチドは、配列番号1の残基の番号付けに基づいて、64、67、および68位のうちの1つ以上にアラニン残基を含む。さらなる実施形態において、ポリペプチドは、配列番号1の残基の番号付けに基づいて、67および68位のうちの1つ以上にアラニン残基を含む。一実施形態では、配列番号1の残基の番号付けに基づくI64、L67、68、およびS71残基は、ポリペプチドにおいて保存されている。多様な実施形態では、ポリペプチドは、配列番号2、配列番号3、配列番号4、または配列番号5のアミノ酸配列のアミノ酸配列の全長に沿って、少なくとも75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一であるアミノ酸配列を含み、括弧内の残基は任意選択である。別の実施形態では、配列番号1の配列に対する残基6Lは、6Qに修飾されている。
【0005】
一実施形態では、配列番号1に対する残基16、17、20、24、27、31、41、42、43、49、51、56、57、58、59、および60の各々は、疎水性残基である。別の実施形態では、以下の残基:A16、L17、L20、L24、L27、L31、A41、L42、V43、L49、V51、I56、I57、V58、V59、L60のうちの1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、または16個すべてが、配列番号1に対して保存されている。さらなる実施形態において、配列番号1に対する残基30、46、47、50、23、53、および54の各々は、親水性残基である。別の実施形態では、以下の残基:S30、N46、N47、N50、S23、N53、およびN54のうちの1、2、3、4、5、6、または7つすべてが、配列番号1に対して保存されている。一実施形態では、以下の残基:A16、L17、L20、L24、L27、L31、A41、L42、V43、L49、V51、I56、I57、V58、V59、L60、S30、N46、N47、N50、S23、N53、およびN54のうちの1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、または23個すべてが、配列番号1に対して保存されている。別の実施形態において、参照タンパク質(配列番号1)からのアミノ酸変化は、保存的アミノ酸置換である。
【0006】
一実施形態では、本開示は、カスパーゼ-1、-3、-8、または-9などの細胞死ポリペプチドを含むがこれらに限定されない、生物活性ポリペプチドに遺伝的に融合した本開示の任意の実施形態または実施形態の組み合わせのポリペプチドを含む、融合タンパク質を提供する。
【0007】
別の実施形態では、本開示は、アマンタジンに結合した、本開示の任意の実施形態または実施形態の組み合わせのポリペプチドまたは融合タンパク質を提供する。一実施形態では、ポリペプチドまたは融合タンパク質は、単量体またはホモ三量体である。別の実施形態では、本開示は、脂質膜に結合するかまたは脂質膜内に埋め込まれた本開示の任意の実施形態または実施形態の組み合わせのポリペプチドまたは融合タンパク質を提供する。
【0008】
本開示はまた、本開示の任意の実施形態または実施形態の組み合わせのポリペプチドまたは融合タンパク質をコードする核酸、好適な制御要素に作動可能に連結された核酸を含む発現ベクター、および本開示の任意の実施形態または実施形態の組み合わせの核酸クレーム、発現ベクター、ポリペプチド、または融合タンパク質を含む、宿主細胞を提供する。本開示はまた、本開示の任意の実施形態または実施形態の組み合わせのポリペプチド、融合タンパク質、核酸、発現ベクター、および/または宿主細胞、ならびに薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物も提供する。本開示はまた、本開示の任意の実施形態または実施形態の組み合わせのポリペプチド、融合タンパク質、核酸、発現ベクター、宿主細胞、または医薬組成物を、細胞または遺伝子治療のための安全スイッチとして含むがこれらに限定されない任意の好適な目的のために使用するための方法も提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1a-c】計算設計法。(a)ホモ三量体足場は、タンパク質および小分子のC
3軸が整列されるように、アマンタジンに結合するように設計された。(b)ABPの結合ポケットは、アマンタジンのアミノ基に水素結合する(破線)極性セリン残基(Ser-71)、およびアマンタジンの疎水性部分の形状を補完する非極性残基(Ile-64、Leu-67、およびAla-68)を有するように設計された。(c)設計モデルには、ABPの三量体アセンブリを指定する水素結合ネットワークが含まれている。
【
図2a-c】アマンタジンのABPへの結合特性。(a)280nm(mAU)での吸光度をモニタリングするSECクロマトグラムおよび推定分子量(MALSから)。(b)Apo-ABP(白丸)は、アマンタジンの存在下(黒丸)で低下する高い初期蛍光シグナルを示す。予期される通り、2LC3H6_13(白抜きのひし形)および2LC3H6_13プラスアマンタジン(黒塗りのひし形)は、非常に低い初期蛍光シグナルを示す。(c)加熱および冷却後の25℃、75℃、95℃、および25℃でのABPのCDスペクトル。25℃でのABPのCDスペクトルは、すべてα-らせんである構造を示唆し、これは75℃までかなり安定したままである。
【
図3a-d】ABP-アマンタジン相互作用の構造的特徴づけ。(a)アマンタジンと複合したABPの高解像度X線構造(白)は、計算モデル(灰色)に非常に近い(RMSDはそれぞれ0.63Åおよび0.59Å)。(b)アマンタジンに対応する正の電子密度は、リガンド中でモデリングする前のABPの結合部位内で観察することができる(3.0σで輪郭を描いたF
o-F
cマップ)。(c)モデル構築および改良におけるリガンドの追加は、アマンタジンに対応する明確な観察可能な電子密度をもたらす(1.0σで輪郭を描いた2F
o-F
cマップ)。(d)ABPの結合部位にあるアマンタジンおよび秩序化された水分子のための明確な電子密度を観察することができる(1.0σで輪郭を描いた2F
o-F
cマップ)。水を介した水素結合が、Ser-71とアマンタジンのアミノ基の間に観察される(黒い破線)。
【
図4】アマンタジン存在下でのABPのCDスペクトル。加熱および冷却後の25℃、75℃、95℃、および25℃での5mMアマンタジンの存在下でのABPのCDスペクトルは、ABPの熱安定性がアマンタジンの存在によって有意に影響されないことを示唆する。
【
図5】ABPの代表的な領域の電子密度マップのステレオ画像。1.0σで輪郭を描いた2F
O-F
Cの電子密度マップ。。
【
図6】ABP_L6Qの代表的な熱蛍光融解曲線。ABP_L6Qは、ABPと同様に、アマンタジンの存在下(黒丸)で低下する高い初期蛍光シグナル(白丸)を示す。
【
図7】アマンタジンと複合したABP_L6QのX線結晶構造。ABP_L6Q+アマンタジンのX線結晶構(2.00Å)は、ABP+アマンタジン構造と非常によく似ている。結晶学的な水分子を球として示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
引用されるすべての参考文献は、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈からそうでないことが明確に示されない限り、複数の指示対象を含む。
【0011】
本明細書で使用される場合、アミノ酸残基は、以下のように省略される:アラニン(Ala;A)、アスパラギン(Asn;N)、アスパラギン酸(Asp;D)、アルギニン(Arg;R)、システイン(Cys;C)、グルタミン酸(Glu;E)、グルタミン(Gln;Q)、グリシン(Gly;G)、ヒスチジン(His;H)、イソロイシン(Ile;I)、ロイシン(Leu;L)、リジン(Lys;K)、メチオニン(Met;M)、フェニルアラニン(Phe;F)、プロリン(Pro;P)、セリン(Ser;S)、スレオニン(Thr;T)、トリプトファン(Trp;W)、チロシン(Tyr;Y)、およびバリン(Val;V)。
【0012】
本開示の任意の態様のすべての実施形態は、文脈からそうでないことが明確に示されない限り、組み合わせて使用することができる。
【0013】
文脈上明らかに必要でない限り、発明を実施するための形態および特許請求の範囲全体を通して、「含む(comprise)」、「含んでいる(comprising)」などの語は、排他的意味の対語としての包括的意味、または網羅的意味で、すなわち、「含むがそれらに限定されない」の意味で解釈されたい。単数または複数を使用する語は、それぞれ、複数、単数も含む。さらに、「本明細書における」、「上に」、および「以下に」という語、ならびに類似の意味の語は、本出願で使用される場合、全体としての本出願を指すものであり、本出願のいかなる特定の部分を指すものではない。
【0014】
本開示の実施形態の説明は、網羅的であるようにも、本開示を、開示された正確な形態に限定するようにも意図されていない。本開示の特定の実施形態および実施例が例証目的で本明細書に記載されているが、当業者であれば認識するであろうように、様々な同等の修正が本開示の範囲内で可能である。
【0015】
一態様では、本開示は、配列番号1のアミノ酸配列の全長に沿って、少なくとも75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、配列番号1の残基の番号付けに基づいて、71位にS71およびT71からなる群から選択される残基を含む、ポリペプチドを提供する。
【化1】
【0016】
本明細書の実施例に示されるように、本発明者らは、本明細書に開示されるポリペプチドがアマンタジンに結合することが可能であり、したがって、例えば、細胞または遺伝子治療の安全スイッチとして使用することができることを示した。例えば、ポリペプチドは、細胞死タンパク質(アポトーシス促進タンパク質など)に連結され、細胞治療に使用されている細胞中で発現され得る。次に、アマンタジンを対象に投与して、細胞治療に使用された細胞の細胞死を促進することができる。本明細書に開示されるポリペプチドは、C3対称小分子に結合するホモ三量体タンパク質の最初の成功したデノボ設計を構成する。
【0017】
一実施形態では、ポリペプチドは、配列番号1の残基の番号付けに基づいて、64、67、および68位に疎水性残基を含む。疎水性残基は、本明細書では、Ala、Cys、Gly、Pro、Met、Sce、Sme、Val、Ile、およびLeuとして定義されている。別の実施形態では、ポリペプチドは、配列番号1の残基の番号付けに基づいて、64、67、および68位のうちの1つ以上にアラニン残基を含む。さらなる実施形態において、ポリペプチドは、配列番号1の残基の番号付けに基づいて、67および68位のうちの1つ以上にアラニン残基を含む。さらに別の実施形態では、配列番号1の残基の番号付けに基づく残基I64、L67、A68、およびS71は、ポリペプチドにおいて保存されている。64、67、68、および71位は、アマンタジン結合界面に存在する。本明細書で使用される場合、「保存された」は同一を意味する。
【0018】
一実施形態では、ポリペプチドは、配列番号2のアミノ酸配列のアミノ酸配列の全長に沿って、少なくとも75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一のアミノ酸配列を含み、括弧内の残基は任意選択である。
配列番号2
(MGSSHHHHHH)(SSGLVPRGSHMG)DAQDKLKYLVKQLERALRELKKSLDELERSLEELEKNPSEDALVENNRLNVENNKIIVEVLRIILELAKASAKLA(ABP_全長_ORF配列)
【0019】
一実施形態では、ポリペプチドは、配列番号3、配列番号4、または配列番号5のアミノ酸配列のアミノ酸配列の全長に沿って、少なくとも75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一のアミノ酸残基を含み、括弧内の残基は任意選択である。
配列番号3
(SSGLVPRGSHMG)DAQDKLKYLVKQLERALRELKKSLDELERSLEELEKNPSEDALVENNRLNVENNKIIVEVLRIILELAKASAKLA(いくつかの任意選択の残基を含むABP_全長_ORF配列)
配列番号4
(SSGLVPR)GSHMGDAQDKLKYLVKQLERALRELKKSLDELERSLEELEKNPSEDALVENNRLNVENNKIIVEVLRIILELAKASAKLA(いくつかの任意選択の残基を含むABP_全長_ORF配列)
配列番号5
GSHMGDAQDKLKYLVKQLERALRELKKSLDELERSLEELEKNPSEDALVENNRLNVENNKIIVEVLRIILELAKASAKLA(ABP_全長_ORF配列)
【0020】
一実施形態では、以下の実施例に記載されるように、(配列番号1に対する)残基6Lは、6Qに修飾され得る。別の実施形態において、残基16、17、20、24、27、31、41、42、43、49、51、56、57、58、59、および60の各々は、疎水性残基である。これらの残基は、ポリペプチドおよび/またはそのホモ三量体の内側にあると考えられており、ホモ三量体の形成に関与している可能性がある。さらなる実施形態において、以下の残基:A16、L17、L20、L24、L27、L31、A41、L42、V43、L49、V51、I56、I57、V58、V59、L60のうちの1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、または16個すべてが、配列番号1に対して保存されている。
【0021】
一実施形態では、残基30、46、47、50、23、53、および54の各々は、親水性残基である。これらの残基はポリペプチドの内側にあると考えられており、ホモ三量体の形成に寄与する水素結合ネットワークに関与している可能性がある。別の実施形態では、以下の残基:S30、N46、N47、N50、S23、N53、およびN54のうちの1、2、3、4、5、6、または7つすべてが、配列番号1に対して保存されている。
【0022】
さらなる実施形態において、以下の残基:A16、L17、L20、L24、L27、L31、A41、L42、V43、L49、V51、I56、I57、V58、V59、L60、S30、N46、N47、N50、S23、N53、およびN54のうちの1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、または23個すべてが配列番号1に対して保存されている。
【0023】
別の実施形態において、参照タンパク質からのアミノ酸変化は、保存的アミノ酸置換である。
【0024】
ここで使用されている「保存的アミノ酸置換」とは、次のことを意味する。
o 疎水性アミノ酸(Ala、Cys、Gly、Pro、Met、Sce、Sme、Val、Ile、Leu)は、他の疎水性アミノ酸でのみ置換され得る。
o かさばる側鎖を有する疎水性アミノ酸(Phe、Tyr、Trp)は、かさばる側鎖を有する他の疎水性アミノ酸でのみ置換され得る。
o 正に帯電した側鎖を有するアミノ酸(Arg、His、Lys)は、正に帯電した側鎖を有する他のアミノ酸でのみ置換され得る。
o 負に帯電した側鎖を有するアミノ酸(Asp、Glu)は、負に帯電した側鎖を有する他のアミノ酸でのみ置換され得る。
o 極性の非荷電側鎖を有するアミノ酸(Ser、Thr、Asn、Gln)は、極性の非荷電側鎖を有する他のアミノ酸でのみ置換され得る。
【0025】
別の実施形態において、本開示は、カスパーゼ-1、-3、-8または-9などの細胞死ポリペプチドを含むがこれらに限定されない、生物活性ポリペプチドに遺伝的に融合された、本明細書に開示される任意の実施形態または実施形態の組み合わせのポリペプチドを含む、融合タンパク質を提供する。生物活性ポリペプチドは、意図された目的に好適な任意の活性を有するポリペプチドである。1つの非限定的な例において、生物活性ポリペプチドは、細胞死ポリペプチドを含み得る。任意の好適な細胞死ポリペプチドは、カスパーゼを含むがこれに限定されない、本開示のポリペプチドに連結され得る。本明細書に開示されるポリペプチドは、アマンタジンに結合することができる。したがって、例えば、ポリペプチドは、細胞治療に使用されている細胞中で発現させることができる。次に、担当医療関係者によって適切であるとみなされる場合、アマンタジンを対象に投与して、細胞治療に使用された細胞の細胞死を促進することができる。本開示のポリペプチドおよび生物活性ポリペプチドは、意図された使用に適切であるとみなされる場合、任意の好適な長さまたはアミノ酸組成のアミノ酸リンカーによって連結され得る。
【0026】
一実施形態では、本明細書の任意の実施形態または実施形態の組み合わせのポリペプチドまたは融合タンパク質は、脂質膜に結合するか、または脂質膜内に埋め込まれる。そのような一実施形態では、ポリペプチドまたは融合タンパク質は、細胞の表面上に発現される。この実施形態は、上で考察されたように細胞治療に使用することができる。
【0027】
別の実施形態において、本開示は、本明細書に開示される任意の実施形態または実施形態の組み合わせのポリペプチドまたは融合タンパク質を提供し、ポリペプチドまたは融合タンパク質は、単量体またはホモ三量体である。実施例に記載されるように、本開示のポリペプチドは、アマンタジンに結合し、ホモ三量体を形成することができる。
【0028】
別の実施形態では、本開示は、アマンタジンに結合した、本明細書に開示される任意の実施形態または実施形態の組み合わせのホモ三量体ポリペプチドまたは融合タンパク質を提供する。そのような結合複合体は、例えば、上で考察されたような細胞治療の過程で形成され得る。結合特性およびそのような結合を検出するためのアッセイは、添付の実施例に詳細に例示されている。様々な非限定的な実施形態において、結合の検出は、示差走査蛍光測定、核磁気共鳴、X線および中性子散乱研究によって実施され得る。
【0029】
別の態様では、本開示は、本開示の任意の実施形態または実施形態の組み合わせのポリペプチドまたは融合タンパク質をコードする核酸を提供する。核酸配列は、ゲノムまたはcDNA形態の一本鎖または二本鎖のRNAまたはDNA、あるいはDNA-RNAハイブリッドを含み得、これらの各々は、化学的または生化学的に修飾された、非天然の、または誘導体化されたヌクレオチド塩基を含み得る。そのような核酸配列は、コードされたポリペプチドの発現および/または精製を促進するために有用である追加の配列を含み得、限定されないが、ポリA配列、修飾コザック配列、ならびにエピトープタグ、搬出シグナル、分泌シグナル、核局在化シグナル、および形質膜局在化シグナルをコードする配列が含まれる。本明細書の教示に基づいて、どの核酸配列が本開示のポリペプチドまたは融合タンパク質をコードするかは、当業者には明らかであろう。
【0030】
さらなる態様において、本開示は、好適な制御配列に作動可能に連結された本開示の任意の態様の核酸を含む発現ベクターを提供する。「発現ベクター」は、核酸コード領域または遺伝子を、遺伝子産物の発現をもたらすことができる任意の制御配列に作動可能に連結するベクターを含む。本開示の核酸配列に作動可能に連結された「制御配列」は、核酸分子の発現をもたらすことができる核酸配列である。制御配列はそれらがその発現を指示するように機能する限り、核酸配列と隣接する必要はない。したがって、例えば、介在性で翻訳されないが転写される配列がプロモーター配列と核酸配列との間に存在することができ、プロモーター配列は依然、コード配列に「作動可能に連結された」とみなされ得る。他のそのような制御配列には、ポリアデニル化シグナル、終結シグナル、およびリボソーム結合部位が含まれるが、これらに限定されない。そのような発現ベクターは任意のタイプのものであることができ、限定されないが、プラスミドおよびウイルスに基づく発現ベクターが含まれる。哺乳動物系において、開示される核酸の発現を駆動するために使用される制御配列は、構成的(限定されないが、CMV、SV40、RSV、アクチン、EFを含む様々なプロモーターのいずれかによって駆動される)または誘導性(限定されないが、テトラサイクリン、エクジソン、ステロイド応答性を含む多数の誘導性プロモーターのいずれかによって駆動される)であり得る。発現ベクターは、エピソームとして、または宿主染色体DNAへの組み込みによって、宿主生物において複製可能でなければならない。様々な実施形態において、発現ベクターは、プラスミド、ウイルスに基づくベクター、または任意の他の好適な発現ベクターを含むことができる。
【0031】
別の態様において、本開示は、本明細書に開示されるポリペプチド、融合タンパク質、核酸、発現ベクター(すなわち、エピソームまたは染色体に組み込まれた)、ポリペプチド、または融合タンパク質を含む宿主細胞を提供し、宿主細胞は、原核生物または真核生物のいずれかであり得る。細胞は、本開示の発現ベクターを取り込むように一時的または安定的に遺伝子操作することができ、限定されないが、細菌形質転換、リン酸カルシウム共沈降、エレクトロポレーション、またはリポソーム媒介性、DEAEデキストラン媒介性、ポリカチオン媒介性、またはウイルス媒介性トランスフェクションを含む技術を使用する。一実施形態では、宿主細胞は、細胞表面上にポリペプチドまたは融合タンパク質を発現する。
【0032】
別の態様では、本開示は、本明細書に開示される任意の実施形態または実施形態の組み合わせのポリペプチド、融合タンパク質、核酸、発現ベクター、および/または宿主細胞、ならびに薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物を提供する。本開示の医薬組成物は、例えば、以下に記載される本開示の方法において使用することができる。医薬組成物は、本開示のポリペプチドに加えて、(a)リオプロテクタント(lyoprotectant)、(b)界面活性剤、(c)増量剤、(d)張度調整剤、(e)安定剤、(f)保存剤、および/または(g)緩衝剤を含み得る。一部の実施形態において、医薬組成物中の緩衝剤は、Tris緩衝剤、ヒスチジン緩衝剤、リン酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、または酢酸緩衝剤である。医薬組成物は、リオプロテクタント、例えば、スクロース、ソルビトール、またはトレハロースも含み得る。ある特定の実施形態において、医薬組成物は、保存剤、例えば、塩化ベンザルコニウム、ベンゼトニウム、クロロヘキシジン、フェノール、m-クレゾール、ベンジルアルコール、メチルパラベン、プロピルパラベン、クロロブタノール、o-クレゾール、p-クレゾール、クロロクレゾール、硝酸フェニル水銀、チメロサール、安息香酸、およびこれらの様々な混合物を含む。他の実施形態において、医薬組成物は、グリシンのような増量剤を含む。さらに他の実施形態において、医薬組成物は、界面活性剤、例えば、ポリソルベート-20、ポリソルベート-40、ポリソルベート-60、ポリソルベート-65、ポリソルベート-80、ポリソルベート-85、ポロキサマー-188、モノラウリン酸ソルビタン、モノパルミチン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、モノオレイン酸ソルビタン、トリラウリン酸ソルビタン、トリステアリン酸ソルビタン、ソルビタントリオレアスト(sorbitan trioleaste)、またはこれらの組み合わせを含む。医薬組成物はまた、張度調整剤、例えば、製剤をヒトの血液と実質的に等張または等浸透圧にする化合物も含み得る。例示的な張度調整剤には、スクロース、ソルビトール、グリシン、メチオニン、マンニトール、デキストロース、イノシトール、塩化ナトリウム、アルギニン、および塩酸アルギニンが挙げられる。他の実施形態において、医薬組成物は、安定剤、例えば、目的のタンパク質と組み合わせると、凍結乾燥または液体の形態での目的のタンパク質の化学的不安定性および/または物理的不安定性を実質的に防止または低減する分子をさらに含む。例示的な安定剤には、スクロース、ソルビトール、グリシン、イノシトール、塩化ナトリウム、メチオニン、アルギニン、および塩酸アルギニンが挙げられる。
【0033】
ポリペプチド、融合タンパク質、核酸、発現ベクター、および/または宿主細胞は、医薬組成物中の唯一の活性剤であり得るか、または、組成物は、意図された使用に好適な1つ以上の他の活性剤をさらに含み得る。本開示のポリペプチド、融合タンパク質、核酸、発現ベクター、宿主細胞、および医薬組成物は、本明細書で詳細に記載されるように、任意の好適な目的のために使用され得る。
【0034】
別の態様において、本開示は、細胞または遺伝子治療のための安全スイッチとしてを含むがこれらに限定されない任意の好適な目的のための、本明細書に開示されるポリペプチド、融合タンパク質、核酸、発現ベクター、宿主細胞、または医薬組成物の使用を提供する。
【0035】
本明細書の実施例に示されるように、本発明者らは、本明細書に開示されるポリペプチドがアマンタジンに結合することが可能であり、したがって、例えば、細胞または遺伝子治療の安全スイッチとして使用することができることを示した。例えば、ポリペプチドは、細胞死タンパク質(アポトーシス促進タンパク質など)に連結され、細胞治療に使用されている細胞中で発現され得る。次に、アマンタジンを対象に投与して、細胞治療に使用された細胞の細胞死を促進することができる。一実施形態では、ポリペプチドまたは融合タンパク質は細胞表面上に存在する。
【実施例】
【0036】
本発明者らは、デノボタンパク質設計を使用して、小分子薬アマンタジンに結合するホモ三量体タンパク質を作製した。X線構造は設計モデルに非常に近く、中性子構造は設計された水素結合ネットワークを再現し(データは表示されていない)、溶液NMRデータはアマンタジン結合が局所的な構造変化を引き起こすことを示している(データは表示されていない)。C3対称タンパク質界面での小分子結合は、計算タンパク質設計に向かう進歩である。
【0037】
アポトーシス促進性および炎症促進性シグナル伝達カスケードにおける三量体化の重要性にもかかわらず、化学的に誘導可能な三量体化システムは開発されていない。したがって、小分子誘導性三量体化因子の設計は、かなりの実用的な関連性を備えたデノボタンパク質設計のための課題である。
【0038】
本発明者らは、小分子にそれらの対称軸上で、3回対称で結合する三量体タンパク質の設計に着手した。C
3対称化合物であるアマンタジンは副作用プロファイルが低いFDA承認薬であるため、本発明者らはこの化合物に焦点を当てた
9。タンパク質三量体のC
3軸でのアマンタジン結合部位をデノボ設計するため、本発明者らは各々3つのらせんを有する2つの同心円状の輪からなるパラメータ生成されたC
3対称らせん束主鎖から開始した。タンパク質足場とアマンタジンの対称軸を揃え、残りの2つの自由度(対称軸に沿った配置およびこの軸を中心とした回転)をグリッド検索でサンプリングした(
図1a)。各配置について、RosettaDesign(商標)使用して、高アフィニティ結合のためアマンタジンの12.5Å以内の残基の同一性とコンフォメーションを最適化し、かつ12.5Åを超える距離の残基コンフォメーションを最適化して、Rosetta HBNet(商標)によって同定された水素結合ネットワークを保持した(
図1b~c)。本発明者らは、高解像度の結晶構造を伴う以前に特性評価された設計(2L6HC3_13)から始めて、特に低エネルギーの解答を見出した
10。(
図1a)。本発明者らがABP(アマンタジン結合タンパク質)と称するこの解答は、Ser-71からアマンタジンの極性アミノ基への水素結合と、Ile-64、Leu-67、およびAla-68で構成される形状補完的結合ポケットを含む(
図1b)。
【0039】
ABPをコードする合成遺伝子を得て、タンパク質を大腸菌で発現させた。設計は可溶性画分で、高レベルで発現され、SEC-MALSによってアマンタジンの存在下および不在下で三量体であることが見出された(
図2a)。アマンタジンとの相互作用を、熱蛍光色素結合アッセイ(示差走査蛍光測定)を使用して調べた。apo-ABPの熱蛍光融解曲線は、25℃で高い初期蛍光シグナルを示し(
図2b)、タンパク質コア中の疎水性残基が溶媒に曝露されていることを示す。タンパク質を95℃まで加熱すると、より高温でのタンパク質凝集に対応して、蛍光シグナルが減少した。アマンタジン(1mM)の存在下では、初期蛍光シグナルははるかに低く、これは適切に折りたたまれたタンパク質の特徴であり(
図2b)、アマンタジン結合が局所的な秩序を引き起こし、溶媒を排除する可能性があることを示唆する。対照的に、同じ主鎖パラメータを有するが、アマンタジン結合部位がない2L6HC3_13は、熱蛍光アッセイでは熱的に安定しており、約80℃でようやく変性し始める(
図2b)。予期された通り、アマンタジンは2L6HC3_13の融解曲線に影響を与えず、これは、ABPとの相互作用が、設計された結合部位を介していることを示唆する(
図2b)。25℃でのABPのCDスペクトルは、222nmならびに208nmに負のバンド、および190nmに正のバンドを有し、すべてα-らせんである構造を示唆する(
図2c)。サンプルを95℃まで加熱すると、1mMアマンタジンの存在下では有意に変化しなかったCDシグナルの損失が観察された(
図2c
図4)。
【0040】
本発明者らは、ABPとアマンタジンの間の相互作用を特徴づけるために結晶学的研究を実施した。結晶化スクリーントレイを、約5倍モル過剰のアマンタジン(7.5mM)を伴いまたは伴わず、同じタンパク質サンプルでセットアップした。結晶は、アマンタジンの存在下で得られたが、アマンタジンの不在下では得られず、これは、アマンタジン結合時の秩序と一致している。ABP+アマンタジンのX線結晶構造を1.04Åまで解析し、ABP-アマンタジン複合体構造の高解像度ビューを提供した(
図3a)。結晶構造は、0.63ÅのRMSDで設計モデルとよく重なる(TMAlign
11)(
図3a)。設計モデルと結晶構造の主な違いは、アマンタジン結合領域中のらせんのコンパクトさにある(
図3a)。ABPのSer-71残基への水素結合を媒介する、秩序だった水分子を有するアマンタジンの明確な電子密度が観察された(
図3b~d)。
【0041】
本発明者らの知る限り、これは、C3対称の小分子に結合するホモ三量体タンパク質で初めて成功したデノボ設計であるため、本発明者らの結果は、タンパク質設計に向かう進歩である。設計されたタンパク質は、三量体状態とアマンタジンへの水を介した結合を指定する水素結合ネットワークを含む。溶液NMRデータ(データは示していない)は、ABPが安定した対称構造を採用し、アマンタジンに容易に結合することを示唆する。アマンタジンと複合した設計タンパク質の高解像度X線結晶構造は、計算モデルに非常に近く、中性子構造(データは示していない)は、設計された水素結合ネットワークの存在を示している。
【0042】
ABPに関して記載したものと同じ様式で、ABPの突然変異体であるABP_L6Qを発現し、精製した。ABP_L6Qは、熱蛍光アッセイにより、ABPと同様のプロファイルを示した(
図6)。ABPと同様に、apo-ABP_L6Qの熱蛍光融解曲線は、25℃で高い初期蛍光シグナルを示し、タンパク質コア中の疎水性残基が溶媒に曝露されていることを示す。タンパク質を95℃まで加熱すると、より高温でのタンパク質凝集に対応して、蛍光シグナルが減少した。アマンタジン(1mM)の存在下では、初期蛍光シグナルははるかに低く、これは適切に折りたたまれたタンパク質の特徴であり、アマンタジン結合が局所的な秩序を引き起こし、溶媒を排除する可能性があることを示唆する(
図6)。
【0043】
結晶化スクリーントレイを、約5倍モル過剰のアマンタジン(7.5mM)の存在下、ABP_L6Qでセットアップした。ABP_L6Q+アマンタジンのX線結晶構造を2.00Åまで解析した(
図7)。Ser-71残基の2つの代替コンフォメーションを観察した。1セットの配座異性体はアマンタジンと水素結合相互作用を行い、もう1セットでは、Ser-71残基がここで、この変異体中のQ6に最適以下の水素結合を行う。
【0044】
参考文献
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10.Boyken,S.E.et al.De novo design of protein homo-oligomers with modular hydrogen-bond network-mediated specificity.Science 352,680-687(2016)。
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12.Thomaston,J.L.et al.Inhibitors of the M2 Proton Channel Engage and Disrupt Transmembrane Networks of Hydrogen-Bonded Waters.J.Am.Chem.Soc.140,15219-15226(2018)。
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【0045】
補足方法:
RosettaDesign(商標)
RosettaDesign(商標)を使用して設計計算を実施した。Rosetta(商標)ソフトウェアスイートは、アカデミックユーザーが無料で利用でき、Rosetta(商標)Commonsウェブサイトからダウンロードすることができる。
【0046】
最初の2LC3H6_13足場は、パラメータ設計を使用して前もって生成された10。簡潔には、パラメータ生成骨格を、Rosetta(商標)における直交座標空間最小化を使用して規則化し、HBNet(商標)プロトコルの特例-HBNetStapleInterface(商標)を使用して、水素結合ネットワークの組み合わせを同定した。単量体サブユニットのらせんを単一鎖に接続し、C3対称において対称Rosetta(商標)配列設計計算を使用して、組み立てられたタンパク質を設計した。
【0047】
アマンタジン結合部位を生成するために、リガンドから15Å以内の残基位置のユーザー定義設計で、RosettaScripts(商標)プロトコルを使用した(.xml)。Rosetta(商標)制約(.cst)ファイルを使用して、アマンタジンの原子対制約を指定した。RosettaDesign(商標)でアマンタジンの分子パラメータ(.params)ファイルを生成した。アマンタジンを3分の1に分割し、回転軸上の窒素原子と炭素原子を仮想化した。回転異性体をLayerDesign(商標)で再充填し、resfileタイプ(.res)を使用して、アマンタジンに水素結合する残基位のSer/Thrを特定した。
【0048】
クローニング、タンパク質発現および精製
ABPを、NdeIおよびXhoI制限部位でpET28b(+)ベクターにクローニングした。構築物をBL21-Star(DE3)コンピテント細胞(Life Technologies)に形質転換した。プラスミドを宿す細胞を、0.05mg/mlカナマイシンの最終濃度を含有するTerrific Broth(商標)II培地中、37℃で増殖させた。細胞が0.6~0.8のOD600に達したら、細胞を18℃まで冷却し、0.25mM IPTGで一晩誘導した。この期間後、細胞を4,000rpm、4℃で10分間遠心分離することによって採取した。細胞ペレットを、Terrific Broth(商標)II培地1Lあたり、60mLの25mM Tris(pH8.0)、300mM NaCl、20mMイミダゾール(pH8.0)、および1mM PMSF中に再懸濁し、-80℃で保存した。
【0049】
細胞を0.25mg/mlリゾチームの存在下で解凍し、氷上で60秒間超音波処理を使用して破砕した。13,000rpmで30分間、4℃で遠心分離して細胞抽出物を得て、洗浄緩衝液(25mM Tris(pH8.0)、300mM NaCl、および20mMイミダゾール(pH8.0))で平衡化したNi-NTAアガロースビーズ(Qiagen)上に適用した。洗浄緩衝液を使用して、ニッケルカラムを5カラム容量で3回洗浄した。洗浄後、タンパク質を5カラム容量の溶出緩衝液(300mMイミダゾールを含む洗浄緩衝液)で溶出した。
【0050】
溶出液をSAXS緩衝液(25mM Tris(pH8.0)、150mM NaCl、および2%グリセロール)と緩衝液交換して、イミダゾール濃度を約300mMから<20mMに下げ、制限等級のトロンビン(EMD Millipore 69671-3)で、20℃で一晩切断した。一晩切断した後、平衡化したNi-NTAアガロースビーズにサンプルを流し、フロースルーを捕捉した。
【0051】
SAXS緩衝液で平衡化したSuperdex(商標)75 Increase 10/300 GLカラム(GE Healthcare)を使用するゲルクロマトグラフィーによって、タンパク質サンプルをさらに精製した。目的のタンパク質を含む画分をプールし、3 K MWCO Amicon(商標)遠心フィルター(Millipore)を使用して濃縮した。
【0052】
熱蛍光アッセイ
CFX96 Touch(商標)リアルタイムPCRマシン(Bio-Rad)を使用して、SAXS緩衝液中、熱蛍光アッセイを実施した。SAXS緩衝液中、45μLの5μMタンパク質(1mMアマンタジンを伴うまたは伴わない)および5μLの新たに調製された200X SYPRO(商標)オレンジ(Thermo-Fisher)溶液を使用して、熱安定性アッセイを実施した。温度を25℃~95℃まで0.5℃刻みで、5秒間隔で上昇させた。FRETスキャンモードで蛍光を読み取った。緩衝液+SYPROオレンジ溶液(タンパク質対照なし)の3つの複製物の平均を、各サンプルの3つの複製物の平均から差し引いた。
【0053】
円二色性
JASCO(商標)J-1500またはAVIV(商標)モデル420 CD分光計を使用して、CD波長スキャン(260~195nm)および温度溶融(25℃~95)を測定した。温度溶融は222nmで吸収シグナルをモニタリングし、4℃/分の加熱速度で実行された。0.1cmキュベット中、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)pH7.4中に0.25mg/mLで、タンパク質サンプルを調製した。
【0054】
ABPの結晶化
精製したABPサンプルを、SAXS緩衝液中、約13mg/mlまで濃縮し、7.5mMアマンタジン(約5倍モル過剰)とインキュベートした。次の結晶化スクリーン:Morpheus(Molecular Dimensions)、JCSG+(Qiagen)、およびIndex(Hampton Research)を利用してPhoenix Robot(Art Robbins Instruments、カリフォルニア州サニーベール)で低密度マトリックス法(Jancarik and Kim、1991)を使用してサンプルをスクリーニングした。結晶化条件JCSG+B9:0.1Mクエン酸(4.0)、20%w/v PEG 6000(最終pH5.0)で結晶を得た。0.2μLのタンパク質溶液と0.2μLのリザーバー溶液の1:1混合物からなる液滴を用いたシッティングドロップ蒸気拡散法によって、1~14日後に結晶を得た。
【0055】
ABPのX線回折収集と構造決定
ABP結晶を、20%(v/v)グリセロールを含むリザーバー溶液に入れ、液体窒素中でフラッシュ冷却した。X線データセットは、アルゴンヌ国立研究所(ANL)のAdvanced Photon Source(APS)のBeamline 19-IDで1Åの波長で収集された。HKL2000を使用してデータセットをインデックス化し、スケーリングした
18。最初の検索モデルとして設計モデルを使用して、Phoenix(商標)スイート
20内のプログラムPHASER(商標)
19で、分子置換法により、すべての設計構造を決定した。分子置換から得られた原子位置と、結果として得られた電子密度マップを使用して、設計構造を構築し、結晶学的精密化およびモデル再構築を開始した。phenix.refine
21プログラムを使用して構造精密化を行った。COOT
22を使用して手動の再構築と水分子の追加により、最終モデルの構築が可能になった。Phenix(商標)
20を用いて、結合長、角度、および二面角に関して理想的な形状からの平均二乗偏差の差を計算した。プログラムMOLPROBITY(商標)
23を使用して、すべての最終モデルの全体的なステレオ化学品質を評価した。モデルは、ラマチャンドランプロットの好ましい領域に100%の残基があり、外れ値が0%であることを示した。図は、Pymol(商標)(Pymol Molecular Graphics System、バージョン2.0;Schrodinger、LLC)を用いて調製された。電子密度マップの代表的な領域のステレオ画像を
図5に示す。
【配列表】
【国際調査報告】