(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-20
(54)【発明の名称】船舶用エンジンまたは点火制御エンジン内でのガスの異常燃焼の削減および/または制御方法
(51)【国際特許分類】
C10M 145/14 20060101AFI20220613BHJP
F01M 9/02 20060101ALI20220613BHJP
F01M 11/00 20060101ALI20220613BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20220613BHJP
C10N 40/25 20060101ALN20220613BHJP
C10N 40/26 20060101ALN20220613BHJP
【FI】
C10M145/14
F01M9/02
F01M11/00 Z
C10N30:00 Z
C10N40:25
C10N40:26
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021562022
(86)(22)【出願日】2020-04-17
(85)【翻訳文提出日】2021-12-07
(86)【国際出願番号】 EP2020060835
(87)【国際公開番号】W WO2020212562
(87)【国際公開日】2020-10-22
(32)【優先日】2019-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514170019
【氏名又は名称】トタル マーケティング セルヴィス
(74)【代理人】
【識別番号】100080447
【氏名又は名称】太田 恵一
(72)【発明者】
【氏名】ドワイアン,ヴァレリ
【テーマコード(参考)】
3G015
3G313
4H104
【Fターム(参考)】
3G015EA03
3G313AB11
4H104BA04A
4H104BA07A
4H104BB31A
4H104BB41A
4H104CA04A
4H104CB08C
4H104CB14A
4H104CJ02A
4H104DA02A
4H104DA06A
4H104LA20
4H104PA41
4H104PA42
4H104PA44
(57)【要約】
本発明は、アルキルメタクリレートモノマーに対応する反復単位を含むコポリマー(C)の使用において、前記モノマーが少なくとも:(C6~C10)アルキルメタクリレートモノマーの中から選択された、同一のまたは異なるものである単数または複数のモノマー(A)と;(C10~C18)アルキルメタクリレートモノマーの中から選択された、同一のまたは異なるものである単数または複数のモノマー(B)と;を含んでいる、エンジン、好ましくは船舶用エンジンまたは点火制御エンジン内のガスの異常燃焼を削減および/または制御するための少なくとも1つの基油を含む潤滑組成物中での使用に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキルメタクリレートモノマーに対応する反復単位を含むコポリマー(C)の使用において、前記モノマーが少なくとも、
- (C6~C10)アルキルメタクリレートモノマーの中から選択された、同一のまたは異なるものである単数または複数のモノマー(A)と、
- (C10~C18)アルキルメタクリレートモノマーの中から選択された、同一のまたは異なるものである単数または複数のモノマー(B)であって、前記モノマー(A)とは異なっている前記モノマー(B)と、
を含んでいる、
エンジン、好ましくは船舶用エンジンまたは点火制御エンジン内のガスの異常燃焼を削減および/または制御するための少なくとも1つの基油を含む潤滑組成物中での使用。
【請求項2】
コポリマー(C)が、
- (C6~C10)アルキルメタクリレートモノマーの中から選択された、同一のまたは異なるものであるモノマー(A)と、
- 少なくとも1つの(C12)アルキルメタクリレートモノマーおよび/または少なくとも1つの(C14)アルキルメタクリレートモノマーを含む、(C10~C18)アルキルメタクリレートモノマーの中から選択された、同一のまたは異なるものであるモノマー(B)と、
に対応する反復単位を含む、
請求項1に記載の使用。
【請求項3】
モノマー(A)およびモノマー(B)が、コポリマー(C)の調製のために使用されるモノマーの合計の少なくとも75重量%を占めており、好ましくはそれらが少なくとも90重量%、より好適には少なくとも95重量%、さらに好ましくは少なくとも97重量%、さらに良くは少なくとも99重量%、好ましくは少なくとも99.5重量%を占めている、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
モノマー(B)とモノマー(A)の重量比が約99:1~約10:90である、請求項1から3のいずれか一つに記載の使用。
【請求項5】
モノマー(A)が分岐モノマー、好ましくは2-エチル-ヘキシルメタクリレートであり、かつ/またはモノマー(B)が直鎖モノマーであり、好ましくはモノマー(B)がC10アルキルメタクリレート、C12アルキルメタクリレート、C14アルキルメタクリレート、C16アルキルメタクリレートおよびC18アルキルメタクリレートの混合物である、請求項1から4のいずれか一つに記載の使用。
【請求項6】
コポリマー(C)が、C10アルキルメタクリレート、C12アルキルメタクリレート、C14アルキルメタクリレート、C16アルキルメタクリレートモノマー、C18アルキルメタクリレートおよびC8アルキルメタクリレートのモノマーに対応する単位を含む、請求項1から5のいずれか一つに記載の使用。
【請求項7】
潤滑組成物が、組成物の総重量との関係において、活性物質の50~10000重量ppmのコポリマー(C)を含む、請求項1から6のいずれか一つに記載の使用。
【請求項8】
エンジンが、船舶用エンジン、好ましくは2サイクルまたは4サイクルの純ガスまたはデュアルフューエル船舶用エンジンである、請求項1から7のいずれか一つに記載の使用。
【請求項9】
エンジン、好ましくは船舶用エンジンの燃焼室内の潤滑組成物の量を削減するための、請求項1から8のいずれか一つに記載の使用。
【請求項10】
- 少なくとも1つの基油と、
- 請求項1から7のいずれか一つで定義された少なくとも1つのコポリマー(C)と、
を含む潤滑組成物の使用であって、
- エンジン内、好ましくは船舶用エンジン内または点火制御エンジン内のガスの異常燃焼を削減および/または制御するため、好ましくはエンジン内、好ましくは船舶用エンジン内、特に2サイクルまたは4サイクルの純ガスまたはデュアルフューエルエンジン内のガスの異常燃焼を削減および/または制御するため、および/または
- エンジン、好ましくは船舶用エンジンまたは点火制御エンジン、好ましくは船舶用エンジンの、燃焼室内の潤滑組成物の量を削減するため、および/または
- エンジン、好ましくは船舶用エンジンまたは点火制御エンジン内、好ましくは船舶用エンジン、特に2サイクルまたは4サイクルの純ガスまたはデュアルフューエルエンジン内での潤滑組成物の自己発火由来のガスの異常燃焼を削減および/または制御するための、
使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶用エンジンまたは点火制御エンジン内のガスの異常燃焼の削減および/または制御に関する。
【0002】
本発明は、船舶用エンジンまたは点火制御エンジン内のガスの異常燃焼を削減および/または制御するための、潤滑組成物中での単数または複数のポリマーの使用を目的とする。
【0003】
本発明はまた、船舶用エンジンまたは点火制御エンジン内のガスの異常燃焼を削減および/または制御するための方法をも目的とする。
【0004】
本発明はまた、潤滑組成物および船舶用エンジンまたは点火制御エンジン内のガスの異常燃焼を削減および/または制御するためのその使用をも目的とする。
【背景技術】
【0005】
船舶用推進産業は、ガスで作動する船舶用エンジンの効率を増大することに取り組んでおり、こうしてこれらの船舶用エンジンは、増々負荷の高い作動条件下で動作することを余儀なくされている。しかしながら、高い負荷に付随する低い回転速度は、エンジンの破壊を生み出しかねない異常燃焼の現象の出現を促進する。正常な点火制御前の空気-ガス予混合物の自己発火を特徴とする過早点火は、ガスエンジンのシリンダ内の圧力を異常に増大させることになる。
【0006】
概して、船舶用エンジン内または点火制御エンジン内でのガスまたはより厳密には空気/ガス混合物の燃焼は、アーク放電とガスの間の接触に由来するか、または拡散火炎を開始させる液体燃料のパイロット噴射に由来する制御された点火によって開始させられる。制御された点火は、船舶用エンジンの燃焼室内または船舶用エンジンの燃焼室に隣接する船舶用エンジンの副燃焼室内で直接実現され得る。
【0007】
制御された点火によって直接燃焼が開始させられる場合に、ガスの燃焼が制御されていると言うことができる。この制御された燃焼は、概して、燃焼室を通した火炎前面の制御された拡張によって特徴付けられる。制御された燃焼はまた、正常な燃焼と呼ぶこともできる。
【0008】
吸気と共に、潤滑組成物の小滴(または粒子)は、燃焼室内に同伴される。空気/ガス混合物は、特に燃焼室内にある潤滑組成物の自己発火により、制御された点火の前に時期尚早に自己発火し得る。この場合には、無制御過早点火現象と言うことができる。この無制御過早点火現象は、燃焼室を通した火炎前面の無制御拡張を特徴とするガスの異常燃焼という形で現われる。
【0009】
ガスのこの異常燃焼は、燃焼室内に温度および圧力の強い上昇を発生させる。これらの異常なほどに高い温度および圧力条件は、船舶用エンジンまたは点火制御エンジンの効率および包括的性能に対し有意な負の影響を及ぼし、エンジンの内部部品すなわち船舶用エンジンまたは点火制御エンジン内のシリンダ、ピストン、点火プラグおよびバルブに対して不可逆的な損傷をひき起こすに至る可能性がある、ということが確認されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
出願人は、その研究の間に、ガスの異常燃焼がとりわけ、船舶用エンジンまたは点火制御エンジンの動作の際のガスの圧縮サイクルおよび/またはガスの燃焼中に燃焼室内に再出現する潤滑組成物の小滴(または粒子)の自己発火に由来し得る、ということを証明した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
したがって、燃焼室内の潤滑組成物の前記小滴(または粒子)の存在を制限して、前述の欠点を制限することが有利であると思われる。
【0012】
「異常燃焼」とは、無制御過早点火によって開始させられる燃焼室内のガスの燃焼を意味する。異常燃焼は、燃焼室を通した火炎前面の無制御拡張として解釈される。異常燃焼はまた、船舶用エンジンまたは点火制御エンジン内のガスの燃焼の公称圧力より少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、より好適には少なくとも30%高い燃焼室内の圧力レベルとして解釈される。異常燃焼は特に、吸気により燃焼室内に同伴された潤滑組成物の小滴(または粒子)の自己発火に起因する。
【0013】
「公称圧力」とは、例えばシリンダ、ピストン、点火プラグおよびバルブなどのエンジンの内部部品の全てまたは一部分の劣化の危険性無く燃焼室内のガスの制御された燃焼の際にエンジンの部品が耐える最大圧力を意味する。
【0014】
「ガス」とは、ガスと空気の混合物のことである。本発明の意味において、ガスと空気の混合物は、船舶用エンジンまたは点火制御エンジンの点火の前に燃焼室の上流側または燃焼室内で形成される。ガスと空気の混合物を得ることを可能にするステップは、予混合ステップと呼ばれる。本発明の意味において、「ガス」および「ガスと空気の混合物」なる用語は、等価の意味を有し、互換的に使用可能である。
【0015】
「ガスの均質な燃焼」という用語は、ガスが空気と予混合されている場合に使用される。本発明の意味において、「ガスの燃焼」、「ガスと空気の混合物の燃焼」、「ガスの均質な燃焼」または「ガスと空気の混合物の均質な燃焼」なる用語は、等価の意味を有し、互換的に使用可能である。
【0016】
「船舶用エンジン」とは、純ガスエンジンとも呼ばれるガスのみで作動するかまたはデュアルフューエルエンジンとも呼ばれるガスおよび燃料で作動する2サイクルまたは4サイクルの船舶用エンジンを意味する。本発明に係るエンジンは特に、潤滑剤がその取込み前に燃料に予混合されない2サイクルエンジンまたは4サイクルエンジンである。
【0017】
「点火制御エンジン」とは、例えば2サイクルまたは4サイクルタイプのガソリンエンジンであり得るガソリンエンジン、純ガスエンジンおよび低圧ガスデュアルフューエルエンジンである。典型的には、本発明中で使用される点火制御エンジンは、ディーゼルサイクルエンジンとは対照的に、オットーサイクルエンジンである。
【0018】
本発明において、「xxx~yyy」とは、値xxxおよびyyyが範囲内に含まれることを意味する。
【0019】
本発明は、アルキルメタクリレートモノマーに対応する反復単位を含むコポリマー(C)の使用において、前記モノマーが少なくとも:
- (C6~C10)アルキルメタクリレートモノマーの中から選択された、同一のまたは異なるものである単数または複数のモノマー(A)と;
- (C10~C18)アルキルメタクリレートモノマーの中から選択された、同一のまたは異なるものである単数または複数のモノマー(B)であって、モノマー(A)とは異なっているモノマー(B)と;
を含んでいる;
エンジン内のガスの異常燃焼を削減および/または制御するための少なくとも1つの基油を含む潤滑組成物中での使用に関する。
【0020】
有利にも、本発明に係る使用は、燃焼室内の潤滑組成物の小滴(または粒子)の存在を制限することを可能にし、こうして、船舶用エンジンまたは点火制御エンジンであってよいエンジン内のガスの異常燃焼の削減および/または制御を可能にする。
【0021】
典型的には、モノマー(A)は、モノマー(B)と異なるものである。したがって、コポリマー(C)は少なくとも1つのモノマー(A)および少なくとも1つのモノマー(B)から得られる。
【0022】
典型的には、コポリマー(C)が(C10)アルキルメタクリレートタイプの2つの異なるモノマーから得られる場合には、好ましくは、2つのモノマーのうちの一方はC10の直鎖アルキル鎖を有し(この場合、これはモノマーBである)、他方はC10の分岐アルキル鎖を有する(この場合、これはモノマーAである)ことになる。
【0023】
特定の一実施形態によると、本発明は、アルキルメタクリレートモノマーに対応する反復単位を含むコポリマー(C)の使用において、前記モノマーが少なくとも:
- (C6~C9)アルキルメタクリレートモノマーおよびC10の分岐アルキル鎖を有するアルキルメタクリレートモノマーの中から選択された、同一のまたは異なるものである単数または複数のモノマー(A)と;
- (C11~C18)アルキルメタクリレートモノマーおよびC10の直鎖アルキル鎖を有するアルキルメタクリレートモノマーの中から選択された、同一のまたは異なるものである単数または複数のモノマー(B)と;
を含んでいる;
典型的には燃焼室内の潤滑組成物の小適(または粒子)の存在を制限することにより、エンジン内のガスの異常燃焼を削減および/または制御するための少なくとも1つの基油を含む潤滑組成物中での使用に関する。
【0024】
好ましくは、モノマー(B)は、少なくとも1つの(C12)アルキルメタクリレートを含む。
【0025】
モノマー(A)および(B)は、直鎖または分岐モノマーであり得る。
【0026】
好ましくは、本発明のコポリマー(C)は、モノマー、すなわち異なるものであるモノマー(A)とモノマー(B)から誘導された少なくとも2つの単位を含む。
【0027】
好ましくは、モノマー(B)は、モノマー(B)の総重量との関係において50~80重量%、好ましくは55~70重量%の(C12)アルキルメタクリレートを含む。
【0028】
有利には、モノマー(B)はさらに、少なくとも1つの(C14)アルキルメタクリレートを含む。好ましくは、モノマー(B)は、モノマー(B)の総重量との関係において15~40重量%、好ましくは20~30重量%の(C14)アルキルメタクリレートを含む。
【0029】
好ましくは、モノマー(B)は、
- モノマー(B)の総重量との関係において50~80重量%、好ましくは55~70重量%の(C12)アルキルメタクリレートと、
- モノマー(B)の総重量との関係において15~40重量%、好ましくは20~30重量%の(C14)アルキルメタクリレートと、
を含む。
【0030】
本発明に係るコポリマー(C)はさらに、他のモノマーに対応する反復単位を含み得る。前記他のモノマーは、(C1~C5)アルキルメタクリレート、(C19~C24)アルキルメタクリレート、架橋モノマー、(C1~C24)アルキルメタクリレート、スチレンなどの中から選択され得る。
【0031】
本発明の特定の一実施形態によると、コポリマーには、実質的に、本発明の中で定義されているモノマー(A)およびモノマー(B)と異なるモノマーを含まず、詳細には、例えばメチルメタクリレートなどを含めた(C1~C5)アルキルメタクリレートを含まない。一実施形態によると、本発明にしたがって使用されるコポリマーは実質的にメチルメタクリレートを含まない。メチルメタクリレートタイプのモノマーは、油中のコポリマーの溶解度を低下させ、したがってこのタイプのモノマーは典型的には少量でしか使用されないかまたは、典型的には本発明に係るコポリマーには存在しない。
【0032】
本発明の意味において、相反する規定の無いかぎり、「実質的にモノマーXを含まないコポリマー」なる表現は、そのコポリマーが、コポリマーの総重量との関係において、3.0重量%未満の前記モノマーX、好ましくは1.0重量%未満の前記モノマーX、好ましくは0.5重量%未満の前記モノマーXを含むことを意味する。
【0033】
好ましくは、(C6~C10)アルキルメタクリレートの中から選択されたモノマー(A)および(C10~C18)アルキルメタクリレートの中から選択されたモノマー(B)は、コポリマー(C)中で使用されるモノマーの総重量の少なくとも75重量%、好ましくは少なくとも90重量%、より好適には少なくとも95重量%、好ましくは少なくとも97重量%、またはより良くは99重量%、好ましくは少なくとも99.5重量%を占める。
【0034】
好ましくは、コポリマー中のモノマー(B)とモノマー(A)の重量比は99:1~10:90である。
【0035】
有利には、モノマー(A)は、モノマー(A)の総重量との関係において少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも75重量%、より好適には少なくとも90重量%、さらにはより好適には少なくとも99重量%の(C8)アルキルメタクリレートを含む。
【0036】
好ましい一実施形態によると、モノマー(A)は、2-エチル-ヘキシルメタクリレートまたはイソデシルメタクリレートなどの分岐モノマー(すなわちアルキルメタクリレートのアルキル部分が分岐しているもの)である。
【0037】
有利には、モノマー(B)は、少なくとも1つの(C10)アルキルメタクリレート、(C12)アルキルメタクリレート、(C14)アルキルメタクリレート、(C16)アルキルメタクリレート、(C18)アルキルメタクリレートの混合物を含むことができ、ここでC10のアルキルメタクリレートは好ましくは直鎖アルキル鎖を有している。
【0038】
より有利には、モノマー(B)は少なくとも:
- 典型的にはC10の直鎖アルキル鎖を有する、モノマー(B)の重量との関係において0.1~2重量%の(C10)アルキルメタクリレート;
- モノマー(B)の重量との関係において50~80重量%の(C12)アルキルメタクリレート;
- モノマー(B)の重量との関係において15~40重量%の(C14)アルキルメタクリレート;
- モノマー(B)の重量との関係において2~12重量%の(C16)アルキルメタクリレート;
- モノマー(B)の重量との関係において0.1~1重量%の(C18)アルキルメタクリレート;
の混合物を含み得る。
【0039】
好ましくは、モノマー(B)は少なくとも:
- 典型的にはC10の直鎖アルキル鎖を有する、モノマー(B)の重量との関係において1~2重量%の(C10)アルキルメタクリレート;
- モノマー(B)の重量との関係において55~70重量%の(C12)アルキルメタクリレート;
- モノマー(B)の重量との関係において20~30重量%の(C14)アルキルメタクリレート;
- モノマー(B)の重量との関係において4~10重量%の(C16)アルキルメタクリレート;
- モノマー(B)の重量との関係において0.1~0.5重量%の(C18)アルキルメタクリレート;
の混合物を含む。
【0040】
好ましい一実施形態において、モノマー(B)は直鎖であり、特に、n-(C10)-アルキルメタクリレート、n-(C11)-アルキルメタクリレート、ラウリルメタクリレート(n-(C12)-アルキルメタクリレート)、n-(C13)-アルキルメタクリレート、ミリスチルメタクリレート(n-(C14)-アルキルメタクリレート)、n-(C15)-アルキルメタクリレート、n-(C16)-アルキルメタクリレート、n-(C17)-アルキルメタクリレート、n-(C18)-アルキルメタクリレートの中から選択される。
【0041】
異なるモノマーの比は、コポリマー(C)の所望される特性に応じて当業者によって適応され得る。例えば、モノマー(B):モノマー(A)の重量比は、10:90、15:85、20:80、25:75、30:70、35:65、40:60、45:55、50:50、55:45、60:40、65:35、70:30、75:25、80:20、85:15、90:10、95:5または99:1であり得る。特に、モノマーは、10:90、15:85、20:80、25:75、30:70、35:65、40:60、45:55、50:50、55:45、60:40、65:35、70:30、75:25、80:20、85:15、90:10、95:5または99:1という(C10-C18)アルキルメタクリレート/(C8)アルキルメタクリレート重量比で存在し得る。
【0042】
好ましくは、本発明において、(C8)アルキルメタクリレートのアルキル基は、直鎖または分岐C8のアルキルである。好ましくは、(C8)アルキルメタクリレートは2-エチルヘキシルメタクリレートである。
【0043】
特に好ましい一実施形態によると、コポリマー(C)は、2-エチルヘキシルメタクリレートと、(C10)アルキルメタクリレート、(C12)アルキルメタクリレート、(C14)アルキルメタクリレート、(C16)アルキルメタクリレートおよび(C18)アルキルメタクリレートを含むモノマー混合物とのコポリマーである。
【0044】
別の好ましい実施形態によると、本発明のコポリマー(C)は、(C10)アルキルメタクリレート、(C12)アルキルメタクリレート、(C14)アルキルメタクリレート、(C16)アルキルメタクリレートおよび(C18)アルキルメタクリレートを含むモノマー混合物と、(C8)アルキルメタクリレートモノマーとのコポリマーであり、ここで、モノマー混合物と(C8)アルキルメタクリレートの重量比は、約99:1~約10:90である。
【0045】
別の好ましい実施形態によると、本発明のコポリマー(C)は、(C8)アルキルメタクリレート、(C12)アルキルメタクリレート、(C14)アルキルメタクリレートおよび(C16)アルキルメタクリレートを少なくとも含むかまたは好ましくはこれらで構成されているモノマー混合物のコポリマーであり、これらのモノマーは混合物中で、混合物の総重量との関係において以下の重量比で存在する:
- 5~30重量%の(C8)アルキルメタクリレート;
- 40~70重量%の(C12)アルキルメタクリレート;
- 12~35重量%の(C14)アルキルメタクリレート;
- 1~12重量%の(C16)アルキルメタクリレート;
- 0.1~15重量%、好ましくは0.5~10重量%、より好適には1~5重量%の他のメタクリレート。
【0046】
概して、本発明に係るコポリマー(C)は、典型的にはテトラヒドロフラン溶剤中の流体力学的カラムクロマトグラフィー-多角度光散乱(英語では「Hydrodynamic Column Chromatography-Multi Angle Light Scattering」の略であるHCC-MALS)によって測定される場合に、約100~約200(nm)Rg、好ましくは約120~約190(nm)Rg、より好ましくは約130~約180(nm)Rg、さらに好ましくは約140~約170(nm)Rgの平均回転半径(Rg)を有する。
【0047】
本発明のコポリマー(C)は、例えば、懸濁重合およびエマルジョン重合を含めた、溶液重合、沈殿重合、分散重合などの当業者には公知のビニル添加による従来のあらゆる重合方法によって合成され得る。
【0048】
一実施形態において、ポリマーは懸濁重合によって形成され、この中で、不水溶性または低水溶性のモノマーが水中に小滴の形態で懸濁させられている。懸濁状態のモノマーの小滴は、機械式撹拌および安定剤の添加によって維持される。ポリマー界面活性剤、例えばセルロースエーテル、ポリ(ビニルアルコール-co-酢酸ビニル)、ポリ(ビニルピロリドン)および(メタ)アクリル酸を含むポリマーのアルカリ金属塩、そしてリン酸三カルシウム、ヒドロキシアパタイト、硫酸バリウム、カオリンおよびケイ酸マグネシウムなどの無機粉末の(不水溶性)コロイドを、安定剤として使用することができる。その上、単数または複数の安定剤と組合わせて、スルホン酸ドデシルベンゼンナトリウムなどの少量の界面活性剤を使用することができる。重合は、油溶性の開始剤を使用することで開始される。適切な開始剤としては、過酸化ベンゾイルなどの過酸化物、tert-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエートなどのペルオキシエステル、および2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)などのアゾ化合物が含まれる。重合の終りで、固体ポリマー生成物をろ過により反応媒質から分離し、水、酸、塩基または溶剤で洗浄して、反応しなかったモノマーまたは遊離安定剤を除去することができる。
【0049】
別の実施形態において、ポリマーはエマルジョン重合によって形成され、単数または複数のモノマーが水相中で分散され、重合は水溶性開始剤を用いて開始される。モノマーは、典型的には、不水溶性またはほとんど水溶性ではなく、水相中でモノマー小滴を安定化させるためには、界面活性剤または石けんが使用される。重合は、膨張したミセルおよびラテックス粒子の中で発生する。エマルジョン重合において存在し得る他の成分は、特に、分子量を制御するためのメルカプタン(例えばドデシルメルカプタン)などの相間移動剤、pHを制御するための電解質、および水相の極性を調整するための少量の有機溶剤、好ましくは非限定的にアセトン、2-ブタノン、メタノール、エタノールおよびイソプロパノールを含めた水溶性有機溶剤である。使用可能な開始剤は、特に、アルカリ金属塩または過硫酸アンモニウム、水溶性アゾ化合物、例えば2,2’-アゾビス(2-アミノプロパン)ジヒドロクロリド、および酸化還元系、例えばFe(II)およびクメンヒドロペルオキシドおよびtert-ブチルヒドロペルオキシド-Fe(II)-アスコルビン酸ナトリウムである。使用可能な界面活性剤としては、特に、アニオン界面活性剤、例えば脂肪酸石けん(例えばステアリン酸ナトリウムまたはカリウム)、硫酸塩およびスルホン酸塩(例えばドデシル20ベンゼンスルホン酸ナトリウム)、スルホコハク酸塩(例えばスルホコハク酸ジオクチルナトリウム);非イオン界面活性剤、例えばオクチルフェノールエトキシレートおよび直鎖または分岐アルコールエトキシレート;カチオン界面活性剤、例えばセチルトリメチルアンモニウムクロリド;および両性界面活性剤が含まれる。アニオン界面活性剤、およびアニオン界面活性剤と非イオン界面活性剤の組合せが最も頻繁に使用される。ポリ(ビニルアルコール-co-酢酸ビニル)などのポリマー安定剤もまた、界面活性剤として使用可能である。水性媒質を含まない固体ポリマー生成物は、最終的エマルジョンの不安定化/凝固とそれに続くろ過、ラテックスからのポリマーの溶剤による沈殿またはラテックスの噴霧化を含めた異なるプロセスによって得ることができる。
【0050】
ポリマーは、例えば溶剤交換、溶剤蒸発、噴霧化および凍結乾燥などの当業者にとっては公知の従来の方法によって単離され得る。
【0051】
- (C6~C10)アルキルメタクリレートの中から選択された単数または複数のモノマー(A);
- (C10~C18)アルキルメタクリレートの中から選択された単数または複数のモノマー(B);
を少なくとも含むアルキルメタクリレートモノマーの組合せによって得られたコポリマーの特性は、反応媒質に添加される補足的試薬を制御することによって制御され得る。これらの試薬には非限定的に、開始剤系および界面活性剤系が含まれる。
【0052】
重合媒質中で使用される開始剤系の性質および数量は、結果として得られるポリマーの特性に影響を及ぼし得る。開始剤系は、唯一の開始剤化合物(例えば過硫酸塩)かまたは2つ以上の化合物(例えば過硫化水素およびアスコルビン酸ナトリウム)の混合物であってよい。いくつかの例において、開始剤系は、酸化剤、還元剤そして任意には金属塩を含むことができる。酸化剤は過硫酸塩、例えば過硫酸アンモニウム、または過酸化物、例えば過酸化水素(H2O2)またはtert-ブチルヒドロペルオキシド(TBHP)であり得る。所望されるコポリマーは、例えば、重合媒質が、混合物の全てのモノマーの重量との関係において約0.01~約0.06重量%の量でtert-ブチルヒドロペルオキシドを含む場合に得ることができる。他の実施例においては、混合物は、モノマー混合物の約0.01~約0.03重量%の量でtert-ブチルヒドロペルオキシドを含むことができる。他の実施例においては、混合物はさらに、モノマー混合物の0.013重量%の量でtert-ブチルヒドロペルオキシドを含む。本発明のコポリマーの通常の開始剤としては、従来の酸化還元開始剤が含まれる。
【0053】
一実施形態において、酸化還元開始剤系の還元剤はアスコルビン酸またはその塩の1つであり得る。例えば、重合混合物は、モノマー混合物の約0.04~約0.1重量%の量でアスコルビン酸ナトリウムを含むことができる。他の実施例では、アスコルビン酸ナトリウムは、モノマー混合物の約0.08~約0.1重量%の量で存在し得る。他の実施形態において、重合混合物は、モノマー混合物の約0.098重量%の量でアスコルビン酸ナトリウムを含む。
【0054】
開始剤系はまた金属塩を含むこともできる。金属はあらゆる遷移金属、例えば鉄であり得る。一実施形態において、開始剤系の金属塩は、硫酸鉄(FeSO4)であり得る。別の実施形態において、金属塩は、モノマー混合物の約0.0005~約0.1重量%の量で重合混合物中に存在する。いくつかの実施例において、金属塩は、溶液の形態で重合混合物に添加される。
【0055】
コポリマーはまた、さらに界面活性剤を含む混合物の形態でもよい。一実施形態において、界面活性剤は、スルホン酸基を含むことができる。例えば、界面活性剤は、ジアルキルスルホコハク酸塩、例えばジオクチルスルホコハク酸ナトリウム塩を含むことができる。界面活性剤は例えば、Aerosol(登録商標)OTであり得る。
【0056】
コポリマーは、統計コポリマー、ブロックコポリマーまたはそれらの混合物であり得る。一実施形態において、コポリマーは、実質的に統計コポリマー(例えば90、95、98または99重量%超)である。コポリマーはまた部分的に統計コポリマーで部分的にブロックコポリマーでもあり得る。この場合、統計コポリマーとブロックコポリマーの重量比は、概して、90:10、80:20、70:30、60:40、50:50、40:60、30:70、20:80または10:90である。コポリマーはまた、実質的にブロックコポリマー(例えば90、95、98または99重量%以上)でもあり得る。他の実施例では、本発明のコポリマー(C)は、(C6~C10)アルキルメタクリレートの中から選択されたモノマー(A)の補足としての他のモノマー、および(C10~C18)アルキルメタクリレートの中から選択されたモノマー(B)を含むことができる。これらの補足のモノマーは、25重量%未満、好ましくは10重量%未満の量で存在し得る。一実施形態において、補足のモノマーは、約0.5~10重量%または約1~10重量%または約1~5重量%または約5~10重量%の量で存在する。別の実施形態において、モノマーは10、9、8、7、6、5、4、3、2、1または約0.5重量%未満で存在する。補足のモノマーは、例えば(C1~C5)アルキルメタクリレートおよび(C19~C24)アルキルメタクリレート、架橋性モノマー、(C1~C24)アルキルアクリレート、スチレンおよび他の類似のモノマーを含むことができる。
【0057】
コポリマー(C)はまた、架橋されていてもよい。したがってコポリマーは、ポリマーの骨格の単数または複数の鎖を結合させるモノマー単位を含むことができる。いくつかの実施例では、コポリマーは、コポリマーの約5重量%にまで至る量で存在する架橋モノマー単位を含む。別の実施形態によると、本発明に係るコポリマーは架橋されておらず、架橋剤の機能を有するモノマーが実質的に含まれない。他の実施形態によると、コポリマーを得るためのモノマー混合物には、架橋剤が実質的に含まれない。
【0058】
本発明の意味において、「架橋剤が実質的に含まれないコポリマー」なる表現は、コポリマーが、ポリマーの骨格の単数または複数の鎖を結合するモノマーユニットを、コポリマーの総重量との関係において1.0重量%未満、好ましくは0.5重量%未満を含むことを意味している。
【0059】
架橋コポリマーは、モノマー混合物が架橋剤を含んでいる場合にこのような架橋剤を添加することによって得られることができる。一実施形態において、架橋剤は、ジアクリレートまたはジメタクリレート架橋剤、例えば1,6-ヘキサンジオールジメタクリレートである。混合物は例えば、混合物中のモノマーの約0.005重量%までの量で、架橋剤を含むことができる。
【0060】
例えば、コポリマー(C)の調製方法が以下で説明される。該方法は、(C6~C10)アルキルメタクリレートの中から選択されたモノマー(A)と(C10~C18)アルキルメタクリレートの中から選択されたモノマー(B)の重合、有利には、C10アルキルメタクリレート、C12アルキルメタクリレート、C14アルキルメタクリレート、C16アルキルメタクリレートおよびC18アルキルメタクリレートを含むモノマーの混合物とC8アルキルメタクリレートの重合を含み、ここでコポリマー中のモノマー(B)/モノマー(A)の重量比は、約99:1~約10:90(例えば10:90、15:85、20:80、25:75、30:70、35:65、40:60、45:55、50:50、55:45、60:40、65:35、70:30、75:25、80:20、85:15、90:10、95:5、99:1)である。
【0061】
該方法は、(C6~C10)アルキルメタクリレートの中から選択されたモノマー(A)と(C10~C18)アルキルメタクリレートの中から選択されたモノマー(B)の組合せ、有利には、C10アルキルメタクリレート、C12アルキルメタクリレート、C14アルキルメタクリレート、C16アルキルメタクリレートおよびC18アルキルメタクリレートを含むモノマーの混合物とC8アルキルメタクリレートの、約10:90、15:85、20:80、25:75、30:70、35:65、40:60、45:55、50:50、55:45、60:40、65:35、70:30、75:25、80:20、85:15、90:10、95:5、99:1(混合物/C8アルキルメタクリレート)の重量比での組合せ、そしてコポリマーを提供するためのモノマーの重合の開始、を含む。
【0062】
例えば、モノマーの比率および開始剤または開始剤系は、上述の通りに選択され得る。該方法は、所望の特性を有するコポリマーを提供するために他の化合物を含むことができる。例えば、該方法はまた界面活性剤、例えばAerosol(登録商標)OT、または架橋剤、例えば1,6-ヘキサンジオールジメタクリレートを含むことができる。
【0063】
重合は、水性媒質中または水性溶剤と有機溶剤を含む混合物中で実施され得る。例えば、重合媒質は、水とアセトンの混合物を含むことができる。一実施形態において、重合媒質は、有機溶剤を必要とする可能性がある。(C10~C18)アルキルメタクリレートモノマーが使用されるときには有機溶剤を含めることが有利であり得る。このような重合反応のために使用可能な有機溶剤は公知であり、当業者によって選択され得る。使用可能な有機溶剤は特に、アセトン、2-ブタノン、メタノール、エタノールおよびイソプロパノールである。
【0064】
コポリマー(C)は好ましくは、潤滑組成物の総重量との関係において活性物質の50~10000重量ppm、好ましくは100~1000重量ppmの量で使用される。
【0065】
本発明の潤滑組成物はまた、洗浄剤、特に当業者にとって周知の洗浄剤も含むことができる。
【0066】
本発明の特定の一実施形態によると、潤滑組成物の調合において一般的に使用されている洗浄剤は典型的には、親油性炭化水素長鎖と親水性頭部を含むアニオン化合物である。関連するカチオンは典型的には、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の金属カチオンである。洗浄剤は好ましくは、カルボン酸、スルホン酸、サリチル酸、ナフテン酸ならびにフェネート塩のアルカリまたはアルカリ土類金属塩の中から選択される。アルカリ金属およびアルカリ土類金属は好ましくは、カルシウム、マグネシウム、ナトリウムまたはバリウムである。これらの金属塩は、ほぼ化学量論量で金属を含有し得る。この場合、一定の塩基性ももたらすものの、非過塩基性または「中性」の洗浄剤が言及されている。これらの「中性」の洗浄剤は典型的には、ASTM D2896に準じて測定された、200mgKOH/g未満、または190mgKOH/g未満、さらには180mgKOH/g未満のBNを有する。中性と呼ばれるこのタイプの洗浄剤は、本発明に係る潤滑剤のBNに部分的に寄与することができる。例として、例えばカルシウム、ナトリウム、マグネシウム、バリウムなどのアルカリ金属およびアルカリ土類金属のカルボキシレート、スルホネート、サリシレート、フェネート、ナフテネートタイプの中性洗浄剤を利用するものとする。金属が過剰(化学量論量を超える量)である場合、過塩基性と呼ばれる洗浄剤ということになる。それらのBNは高く、150mgKOH/g超、典型的には200~700mgKOH/g、概して250~450mg/KOH/gである。洗浄剤に過塩基性の性質をもたらす過剰の金属は、例えばカルボネート、ヒドロキシド、オキサレート、アセテート、グルタメートなど、不油溶性の金属塩の形態を呈し、好適にはカルボネートである。同じ過塩基性洗浄剤中で、これらの不溶性塩の金属は、油溶性の洗浄剤のものと同じであってよく、あるいは異なるものであってもよい。これらは、好適には、カルシウム、マグネシウム、ナトリウムまたはバリウムの中から選択される。過塩基性洗浄剤は、こうして、油中で可溶性の金属塩の形態で洗浄剤により潤滑組成物中に懸濁状態に維持されている不溶性金属塩で構成されたミセルの形態を呈する。これらのミセルは、単数または複数のタイプの洗浄剤によって安定化された単数または複数のタイプの不溶性金属塩を含み得る。単一のタイプの洗浄剤可溶性金属塩を含む過塩基性洗浄剤は、概して、この洗浄剤の疎水性鎖の性質にちなんで命名されることになる。したがって、これらの洗浄剤は、それがそれぞれカルボキシレート、フェネート、サリシレート、スルホネートまたはナフテネートのいずれであるかに応じて、カルボキシレート、フェネート、サリシレート、スルホネート、ナフテネートタイプのものと言われることになる。過塩基性洗浄剤は、ミセルが、その疎水性鎖の性質により互いに異なっている複数のタイプの洗浄剤を含んでいる場合に、混合タイプのものと称されることになる。本発明に係る潤滑組成物中で使用するためには、油溶性の金属塩は好適には、カルボキシレート、フェネート、スルホネート、サリシレート、およびフェネートとスルホネートおよび/またはカルシウム、マグネシウム、ナトリウムまたはバリウムのサリシレートの混合洗浄剤となる。過塩基性の性質をもたらす不溶性金属塩は、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の炭酸塩、好適には炭酸カルシウムまたは炭酸マグネシウムである。本発明に係る潤滑組成物中で使用される過塩基性洗浄剤は、好適には、カルボキシレート、フェネート、スルホネート、サリシレート、およびフェネートとスルホネートまたはサリシレートの混合洗浄剤で、炭酸カルシウムまたは炭酸マグネシウムで過塩基化されている。
【0067】
好ましくは、潤滑組成物は、潤滑組成物の総重量との関係において4~30重量%、好ましくは5~25重量%、例えば6~25重量%の洗浄剤を含む。
【0068】
好ましくは、潤滑組成物は、ASTM D-2896規格に準じて決定される場合に、潤滑剤1グラムあたり70ミリグラム以下、より好適には60ミリグラム以下のカリというBNを有する。
【0069】
有利には、潤滑組成物は、ASTM D-2896規格に準じて決定される場合に、潤滑剤1グラムあたり3~50ミリグラムのカリ、好ましくは4~40ミリグラムのカリというBNを有する。
【0070】
本発明の特定の一実施形態によると、潤滑組成物中に含まれる基油は、鉱物由来の油、合成油または植物油ならびにそれらの混合物の中から選択される。
【0071】
概して本出願中で使用される鉱油または合成油は、下表中にまとめられたようにAPI分類中で定義されているクラスの1つに属している。
【0072】
【0073】
第1群の鉱油は、選択されたナフテン系またはパラフィン系原油の分解蒸留、次いで溶剤での抽出、溶剤または触媒での脱ろう、水素化処理または水素添加などのプロセスによるこれらの留出物の精製によって得ることができる。
【0074】
第2群および第3群の油は、より厳しい精製プロセス、例えば水素化処理、水素化分解、水素添加および触媒による脱ろうの間での組合せによって得られる。
【0075】
第4群または第5群の合成基油は、エステル、シリコーン、グリコール、ポリブテン、ポリアルファオレフィン(PAO)、アルキルベンゼンまたはアルキルナフタレンの中から選択され得る。基油として使用されるポリアルファオレフィンは、例えば、4~32個の炭素原子を含むモノマーから、例えばオクテンまたはデセンから得られ、その100℃粘度は、ASTM D445規格に準じて1.5~15mm2/sである。その平均分子質量は概して、ASTM D5296規格に準じて250~3000である。
【0076】
基油はまた、天然由来の油、例えば、ヒマワリ油、菜種油、ヤシ油、大豆油などの天然資源から得ることのできるアルコールとカルボン酸のエステルであってもよい。
【0077】
これらの基油は、単独でまたは混合した形で使用可能である。鉱油を合成油と組合せてもよい。
【0078】
船舶用の2サイクルディーゼルエンジンのためのシリンダ油は、典型的には、SAE-40~SAE-60の粘度測定等級、概して16.3~21.9mm2/sの100℃動粘度と等価であるSAE-50を有する。
【0079】
等級40の油は、12.5~16.3mm2/sの100℃動粘度を有する。
【0080】
等級50の油は、16.3~21.9mm2/sの100℃動粘度を有する。
【0081】
等級60の油は、21.9~26.1mm2/sの100℃動粘度を有する。
【0082】
業務上の用途に応じて、船舶用2サイクルディーゼルエンジン向けのシリンダ油は、18~21.5、好適には19~21.5mm2/sの100℃動粘度を有するように調合され得る。
【0083】
この粘度は、例えば、第1群の鉱物性基油、例えばNeutral Solvent基油(例えば500NSまたは600NS)およびBrightstockおよび/または第2群の鉱物性基油を含む基油と添加剤とを混合することによって得ることができる。添加剤と混合した状態でSAE-50等級と両立し得る粘度を有する鉱物性、合成または植物由来の基油の他の全ての組合せが使用可能である。
【0084】
一実施形態によると、潤滑組成物は、潤滑組成物の総重量との関係において少なくとも40重量%の基油、好ましくは少なくとも50重量%の基油、より好適には少なくとも60重量%の基油、さらには少なくとも70重量%の基油を含む。
【0085】
典型的には、船舶用低速2サイクルディーゼルエンジンのためのシリンダ潤滑剤の従来の調合物は、SAE40~SAE60等級、好適にはSAE50等級(SAEJ300分類に準じる)のものであり、例えばAPI第1群および/または第2群クラスの船舶用エンジンでの使用に適応された、すなわち選択された原油の分解蒸留そしてその後の溶剤での抽出、溶剤または触媒での脱ろう、水素化処理または水素添加などのプロセスによるこれらの蒸留物の精製によって得られた、鉱物由来および/または合成の単数または複数の潤滑基油を少なくとも50重量%含む。第1群基油については、その粘度指数(VI)は80~120であり、その硫黄含有量は0.03%超であり、その飽和物含有量は90%未満である。第2群の基油については、その粘度指数(VI)は80~120であり、その硫黄含有量は0.03%以下であり、その飽和物含有量は90%以上である。
【0086】
本発明の特定の一実施形態によると、潤滑組成物はさらに、高温下でも低温下と同様に組成物の粘度を増大させる役割を有する単数または複数の増粘添加剤、または粘度指数(VI)改良添加剤を含むことができる。
【0087】
好ましくは、これらの添加剤は、およそ2000~50000ダルトン(Mn)の低分子量のポリマーであることが最も多い。
【0088】
これらは、水素添加されているかまたはされていない、PIB(およそ2000ダルトン)、ポリアクリレートまたはポリメタクリレート(およそ30000ダルトン)、オレフィン-コポリマー、オレフィンとアルファオレフィンのコポリマー、EPDM、ポリブテン、高分子量のポリアルファオレフィン(100℃粘度>150)、スチレン-オレフィンコポリマーの中から選択され得る。
【0089】
本発明の特定の一実施形態によると、本発明に係る潤滑組成物中に含まれる単数または複数の基油は、これらの添加剤によって部分的にまたは完全に置換され得る。
【0090】
したがって、単数または複数の基油を部分的または完全に置換するために使用されるポリマーは、好適には、PIBタイプの前述の増粘剤(例えばIndopolH2100の名前で市販されているもの)である。
【0091】
本発明の特定の一実施形態によると、潤滑組成物はさらに少なくとも1つの摩耗防止添加剤を含むことができる。
【0092】
好ましくは、摩耗防止添加剤は、ジチオリン酸亜鉛つまりZDDPである。このカテゴリ中には、リン、硫黄、窒素、塩素およびホウ素を含むさまざまな化合物も含まれる。
【0093】
多様な摩耗防止添加剤が存在するが、最も多く使用されるカテゴリは、金属アルキルチオリン酸塩、詳細にはアルキルチオリン酸亜鉛、そしてより具体的にはジアルキルジチオリン酸亜鉛またはZDDPといったリン-硫黄を含む添加剤のカテゴリである。
【0094】
リン酸アミン、ポリスルフィド、特に硫黄含有オレフィンも、一般的に使用されている摩耗防止添加剤である。
【0095】
同様に、通常、潤滑組成物中には、例えば金属ジチオカルバメート、詳細にはジチオカルバミン酸モリブデンなどの含窒素および含硫黄タイプの摩耗防止および極圧添加剤も見られる。グリセロールのエステルも同様に、摩耗防止添加剤である。例えば、モノ、ジおよびトリオレエート、モノパルミテートおよびモノミリステートを挙げることができる。
【0096】
本発明の特定の一実施形態によると、潤滑組成物はさらに少なくとも1つの分散剤を含むことができる。
【0097】
分散剤は、特に船舶向けの分野で応用するための潤滑組成物調合物中に使用される周知の添加剤である。その第1の役割は、当初から潤滑組成物中に存在するかまたはエンジン内で使用する間に潤滑組成物中に現われる粒子を懸濁状態に維持することにある。これらの分散剤は、立体障害に作用することによって、その凝集を防止する。同様に、中和に対する相乗効果を有することもできる。
【0098】
潤滑剤用添加剤として使用される分散剤は、典型的に、概して50~400個の炭素原子を含む、比較的長い炭化水素鎖に結び付けられた極性基を含む。極性基は、典型的に少なくとも1つの窒素、酸素またはリン元素を含む。
【0099】
コハク酸から誘導された化合物は、潤滑添加剤として特に使用されている分散剤である。詳細には、無水コハク酸とアミンの縮合によって得られるスクシンイミド、無水コハク酸とアルコールまたはポリオールの縮合によって得られるコハク酸エステルが使用される。
【0100】
これらの化合物は、次に、さまざまな化合物、特に硫黄、酸素、ホルムアルデヒド、カルボン酸ならびにホウ素または亜鉛を含む化合物によって処理されて、例えばホウ酸化スクシンイミドまたは亜鉛ブロックスクシンイミドを生成することができる。
【0101】
アルキル基で置換されたフェノール、ホルムアルデヒドおよび一級または二級アミンの重縮合によって得られるマンニッヒ塩基も同様に、潤滑剤中で分散剤として使用される化合物である。
【0102】
例えばホウ酸化または亜鉛ブロックされたPIBスクシンイミド族の分散剤を使用することができる。
【0103】
本発明の特定の一実施形態によると、潤滑組成物はさらに、それらの使用に適応させられたあらゆるタイプの添加剤、例えばポリメチルシロキサン、ポリアクリレートなどの極性ポリマーであり得る消泡添加剤、酸化防止および/または防錆添加剤、例えば有機金属洗浄剤またはチアジアゾールなどを含むことができる。これらは、当業者にとって公知のものである。
【0104】
本発明によると、記載された潤滑剤組成物は、混合前に別個に取り上げられた化合物を意味しており、ここで前記化合物は混合の前後で同じ化学的形態を保っていてもいなくてもよい。好ましくは、別個に取り上げられた化合物の混合によって得られる本発明に係る潤滑剤は、エマルジョンの形態でもマイクロエマルジョンの形態でもしていない。
【0105】
本発明に係る潤滑組成物は同様に、次の中から選択された少なくとも1つの脂肪族アミンを含むことができる:
- 式(I)のアミン:
R
1-[(NR
2)-R
3]
q-NR
4R
5、(I)
式中:
・ R
1は、少なくとも12個の炭素原子そして任意には窒素、硫黄または酸素の中から選択された少なくとも1つのヘテロ原子を含む、直鎖または分岐、飽和または不飽和の炭化水素基を表わし、
・ R
2、R
4またはR
5は独立して、水素原子または、任意には窒素、硫黄または酸素の中から選択された少なくとも1つのヘテロ原子を含む、直鎖または分岐、飽和または不飽和の炭化水素基を表わし、
・ R
3は、単数または複数の炭素原子を含み、かつ任意には窒素、硫黄または酸素の中から選択され好ましくは酸素である少なくとも1つのヘテロ原子を含む、直鎖または分岐、飽和または不飽和の炭化水素基を表わし、
・ qは、0以上であり、好ましくはqは1以上であり、より好適には1~10、さらに一層好適には1~6の整数であり、有利には1、2または3の中から選択される;
- 式(III)および/または(IV)の単数または複数のポリアルキルアミンを含む脂肪族ポリアルキルアミン混合物であって:
【化1】
【化2】
式中、
・ 同一のまたは異なるものであるRは、8~22個の炭素原子を含む、直鎖または分岐アルキル基を表わし、
・ nおよびzは、互いに独立して、0、1、2または3を表わし、
・ zが0超である場合、oおよびpは、互いに独立して0、1、2または3を表わし、
少なくとも1つのnまたはzが1以上となるような少なくとも3重量%の分岐化合物またはそれらの誘導体を含む前記混合物;または
- 式(I)、(III)および/または(IV)の脂肪族アミン混合物。
【0106】
このような脂肪族アミンは、特に国際公開第2018/202743号の中に記載されている。
【0107】
当業者であれば、潤滑組成物の特定の使用に応じて機能的添加剤の数量を適応させることができるものである。
【0108】
特定の一実施形態によると、本発明中で使用される潤滑組成物は、洗浄剤、分散剤およびそれらの混合物の中から選択された少なくとも1つの添加剤を含む。
【0109】
特別な一実施形態によると、本発明の中で使用される潤滑組成物は、単数または複数の洗浄剤および単数または複数の分散剤を含む。この実施形態によると、潤滑組成物が船舶用エンジン中で使用される場合には、洗浄剤の質量分率は好ましくは分散剤の質量分率より大きくなり、潤滑組成物が点火制御エンジン中で使用される場合には、洗浄剤の質量分率は好ましくは分散剤の質量分率より小さくなる。
【0110】
潤滑組成物中での本発明に係るコポリマー(C)の使用は、吸気による潤滑組成物の小滴(または粒子)の同伴を削減および/または制御し、こうして燃焼室内の潤滑組成物の存在を制限し、これにより船舶用エンジンまたは点火制御エンジンなどの、詳細には船舶用エンジン内でのガスの異常燃焼を削減および/または制御することを可能にする。
【0111】
本発明の特定の一実施形態によると、エンジンは、船舶用エンジン、詳細には2サイクルまたは4サイクルの純ガスまたはデュアルフューエルエンジンである。
【0112】
本発明の特定の一実施形態によると、本発明に係るコポリマー(C)の使用は、エンジン、好ましくは船舶用エンジン内での潤滑組成物の自己発火に由来するガスの異常燃焼を削減および/または制御することを可能にする。
【0113】
本発明の特定の一実施形態によると、潤滑組成物中での本発明に係るコポリマー(C)の使用は、あらゆるタイプのガス、特に低メタン数(MN)、好ましくは80未満、より有利には60未満のメタン数を有するガスの異常燃焼を削減および/または制御することを可能にする。
【0114】
概して、ガスのメタン数(MN)が低ければ低いほど、ガスの異常燃焼現象はなお強調されるということが知られている。
【0115】
上述の異なる実施形態、変形形態、選好性、および利点は、本発明の第1の目的を実施するために別個にかまたは組合せた形で取り上げることができる。
【0116】
本発明の別の目的は、エンジンの燃焼室内の潤滑組成物の量を削減するための方法において、前記潤滑組成物中でのコポリマー(C)の使用を含む方法を網羅する。エンジンは、上述の通りのものであり、詳細には、これは船舶用エンジンまたは点火制御エンジンであってよく、好ましくはエンジンは船舶用エンジンである。
【0117】
コポリマー(C)および潤滑組成物は、上記で定義された通りである。
【0118】
エンジン内のガスの異常燃焼を削減および/または制御するための潤滑組成物中でのコポリマー(C)の使用を網羅する本発明の第1の目的について説明された異なる実施形態、好適形態、有利な形態、変形形態は、上述の方法を網羅する本発明の他の目的に対して、別個にかまたは組合せた形で適用される。
【0119】
本発明は同様に、エンジン、好ましくは船舶用エンジン、詳細には2サイクルまたは4サイクルの純ガスまたはデュアルフューエル船舶用エンジン内でのガスの異常燃焼を削減および/または制御するための、本発明に係るコポリマー(C)または潤滑組成物の使用にも関する。
【0120】
本発明は同様に、エンジン、好ましくは船舶用エンジン内の潤滑組成物の自己発火由来の異常燃焼を削減および/または制御するための、本発明に係るコポリマー(C)または潤滑組成物の使用にも関する。
【0121】
本発明に係る使用は、あらゆるタイプのガス、特に低いメタン数(MN)、好ましくは80未満、より有利には60未満のメタン数を有するガスに関係する。
【0122】
本発明は同様に、本発明に係る潤滑組成物または本発明に係る少なくとも1つのコポリマー(C)を含む潤滑組成物によるエンジンの潤滑を含む、エンジン内のガスの異常燃焼の削減および/または制御方法にも関する。エンジンは、上記で定義した通りのものであり、好ましくはエンジンは船舶用エンジン、詳細には、2サイクルまたは4サイクルの純ガスまたはデュアルフューエルエンジンタイプの船舶用エンジンである。
【0123】
本発明は同様に、本発明に係る潤滑組成物または本発明に係る少なくとも1つのコポリマー(C)を含む潤滑組成物によるエンジンの潤滑を含む、エンジン内の潤滑組成物の自己発火に由来するガスの異常燃焼の削減および/または制御方法にも関する。エンジンは、上記で定義した通りのものであり、好ましくはエンジンは船舶用エンジン、詳細には、2サイクルまたは4サイクルの純ガスまたはデュアルフューエルエンジンタイプの船舶用エンジンである。
【0124】
本発明に係る方法は、あらゆるタイプのガス、特に低メタン数(MN)、好ましくは80未満、より有利には60未満のメタン数を有するガスに関係する。
【0125】
本発明は、非限定的に示される以下の実施例によって例示される。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【
図1】取込み温度に応じた潤滑剤による過早点火百分率を表わす。
【
図2】取込み温度に応じた異常燃焼の頻度を表わす。
【発明を実施するための形態】
【0127】
異なる潤滑組成物を使用する際のガス混合物の過早点火の頻度を測定するためのテストを、1054cm3という単気筒のシリンダ容積に対応する11.4という圧縮比でそれぞれ108mmのボアと115mmのストロークを有する燃焼室を含むガス単気筒エンジン内において実施した。
【0128】
ガス単気筒エンジンの回転速度は1000rpmである。選択された動作点は、強いエンジン負荷を表わす利用分野に対応する23バールの標示された平均圧力に等しい。
【0129】
ガス単気筒エンジンには、エンジン燃焼の各サイクル毎に正確に点火制御を繰返すことができるように、「オープンチャンバ」技術での点火プラグによる点火システムが備わっている。ガス単気筒エンジンには同様に、シリンダ内の圧力の推移を測定し、各エンジンサイクルにおける最大シリンダ圧力値を決定しかつ燃焼サイクルの間に生成されるエネルギ放出を計算するためにシリンダ圧力センサも備わっていた。
【0130】
燃焼室内のガスの異常燃焼を測定するためのテストに先立って、ガスの燃焼のために使用される化学量論比に対して1.6の余剰空気比(空気/ガス)で窒素と酸素を含む空気と70%と等価のメタン数を有するガスとで構成された混合物を調製した。異常燃焼現象に対する潤滑剤の効果が出現するのを見るため、空気/ガス混合物を約55℃の温度に加熱し、その後、特に110℃の最高温度まで漸進的に上昇させ、3.6バールに圧縮した状態でガス単気筒エンジン内に取込んだ。
【0131】
下表2にしたがった潤滑組成物をテストした。
【0132】
【0133】
コポリマー(C)は以下のプロトコルにしたがって得られた:
撹拌器、凝縮器、熱電対および窒素パージが具備された4口フラスコ内に、645.5gの水と8.7gのAerosol(登録商標)OTを添加した。撹拌を200rpm(毎分回転数)に調節し、窒素パージを始動させた。反応混合物に対し、C10~C18のアルキルメタクリレート240g、2-エチルヘキシルメタクリレート60g、およびアセトン129.9gを添加した。反応媒質を、45℃に調節した水浴を介して43℃に加熱する。反応媒質が43℃に達した時点で、7.5gの水中の0.04gのt-ブチルヒドロペルオキシドを添加した。5分後に、7.5gの水中に溶解させた0.29gのアスコルビン酸ナトリウムと、0.60gの硫酸鉄六水和物の0.25%溶液を添加した。窒素パージを、窒素不活性化で置換した。反応を5時間続行し、その後、反応混合物を室温で冷却させ、隔離した。
【0134】
[実施例1]ガス単気筒エンジンの点火制御前の潤滑剤による過早点火の頻度および潤滑剤の過早点火によって生成される異常燃焼の頻度の測定実験プロトコル
異常燃焼現象に対する潤滑剤の効果を決定するために、ガス単気筒エンジン上で、エンジンの主点火制御前の潤滑剤に起因する過早点火の頻度、ならびに異常燃焼に対応するシリンダ圧力の上昇を生成する潤滑剤による過早点火の頻度を測定した。
【0135】
潤滑剤に起因する過早点火の頻度を決定するために、各燃焼サイクルについて、放熱率を測定した。点火制御は、上死点前の-4°のクランク角度で反復可能な形で設定された。こうして、各サイクルについて、-6°のクランク角度の前に始まる各々のエネルギ放出上昇が、エンジンの主点火制御前に潤滑剤により生成される異常な過早点火として計数化された。テストを、約55℃に設定された空気-ガス予備混合物の取込み温度で開始した。テスト全体を通して、温度を、過早点火事象が観察されるまで漸進的に上昇させた。各テストの30分間に記録された15000回の燃焼事象全体に関連する場合、これらの異常事象全体により、エンジンの主点火制御前に潤滑剤が発生させる異常な過早点火の頻度が得られた。
【0136】
異常燃焼に対応するシリンダ圧力の上昇を生成する潤滑剤による過早点火の頻度を決定するために、各サイクルについて、シリンダ内で達した最大圧力を測定した。テストを、約55℃に設定された空気-ガス予備混合物の取込み温度で開始した。テスト全体を通して、温度を、過早点火事象が観察されるまで漸進的に上昇させた。ガス単気筒エンジンの動作点は固定され、80バールの正常な最大シリンダ圧力を生成した。異常燃焼の場合には、燃焼室の最大シリンダ圧力は、潤滑剤により生成される異常な過早点火としてサイクルが計数化されるように、120バールの限界を超過するべきであると考えられた。各テストの30分間に記録された15000回の燃焼事象全体に関連する場合、これらの異常事象全体により、潤滑剤が発生させる異常な過早点火の頻度が得られた。
【0137】
このテストにより、とりわけ、正常な点火制御前の潤滑剤の自己発火に起因する空気/ガス混合物の過早点火現象に対する耐性に対する潤滑剤の効果、および異常燃焼により放出されるエネルギを表わす異常燃焼の場合の最大シリンダ圧力のピークの強度に対する潤滑剤の効果を証明することができた。
【0138】
表2にしたがった潤滑組成物をテストした。
【0139】
図1中に示されている結果は、異常燃焼現象が開始された温度条件から生成されており、異常燃焼現象の強度を表わしている。
【0140】
表2中に示されている結果は、異常燃焼現象の出現以後の温度条件、および所与の一サイクルについてのこの現象の出現頻度を表わしている。
【0141】
図1では、潤滑組成物による過早点火の頻度を測定している。この百分率は、本発明に係る組成物については低下していることが分かる。その上、潤滑剤による過早点火が、本発明に係る潤滑組成物についてはより高い温度で始まっていることが認められる。
【0142】
図2では、空気-ガス予備混合物の取込み温度に応じた異常燃焼の頻度を測定している。本発明に係る組成物については頻度が低下していること、すなわち異常燃焼とも呼ばれる過早点火の頻度が、比較用組成物とは異なり、より高い温度で始まっていることが分かる。
【0143】
したがって、
図1および
図2の結果から、本発明に係る組成物が、比較用組成物とは異なり、異常燃焼現象の出現を制限すると同時に、その強度を制限することを可能にする、ということが分かる。
【国際調査報告】