(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-21
(54)【発明の名称】導電性パターンの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 13/00 20060101AFI20220614BHJP
C09D 11/38 20140101ALI20220614BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20220614BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20220614BHJP
H05K 3/12 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
H01B13/00 503D
C09D11/38
B41M5/00 120
B41M5/00 132
B41M5/00 100
B41J2/01 125
B41J2/01 501
H05K3/12 610B
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021562093
(86)(22)【出願日】2020-04-14
(85)【翻訳文提出日】2021-10-19
(86)【国際出願番号】 EP2020060457
(87)【国際公開番号】W WO2020212347
(87)【国際公開日】2020-10-22
(32)【優先日】2019-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】593194476
【氏名又は名称】アグフア-ゲヴエルト,ナームローゼ・フエンノートシヤツプ
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】特許業務法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】コルテス・サラザール,フェルナンド
(72)【発明者】
【氏名】ファン・デン・ボッシェ,カール
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
5E343
5G323
【Fターム(参考)】
2C056FC01
2C056FD10
2C056HA46
2H186AA17
2H186AB02
2H186AB11
2H186AB12
2H186AB23
2H186FB07
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB30
2H186FB31
2H186FB56
4J039BA06
4J039BA39
4J039BC07
4J039BC10
4J039BC13
4J039BC20
4J039BC49
4J039BC51
4J039BC52
4J039BC53
4J039BC55
4J039BE01
4J039CA07
4J039DA03
4J039EA24
4J039EA41
4J039EA46
4J039GA24
5E343AA01
5E343AA16
5E343BB25
5E343BB72
5E343CC06
5E343DD15
5E343ER35
5E343FF05
5E343GG02
5E343GG08
5E343GG11
5E343GG20
5G323CA03
5G323CA05
(57)【要約】
基材上に導電性の銀パターンを形成する方法であって、前記基材上に銀インクを塗布して銀パターンを形成する工程、および前記塗布した銀パターンを焼結する工程を含み、前記銀インクが、焼結中に発熱分解する化合物Aを含むことを特徴とする方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に導電性の銀パターンを形成する方法であって、
前記基材上に銀インクを塗布して銀パターンを形成する工程、および
前記塗布した銀パターンを焼結する工程を含み、
前記銀インクが、焼結中に発熱分解する化合物Aを含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
焼結が、前記塗布された銀パターンを近赤外放射にさらすことによって行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
化合物Aの量が、前記インク中の銀の重量に対して少なくとも1重量%である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
化合物Aが、式I~IVの化学構造を有する、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【化1】
式中、
Qは、置換または非置換の5員または6員複素芳香環の形成に必要な原子を表し;
Mは、水素、一価カチオン性基、およびアシル基からなる群から選択され;
R1およびR2は、水素、置換または非置換アルキル基、置換または非置換アルケニル基、置換または非置換アルキニル基、置換または非置換アルカリール基、置換または非置換アラルキル基、置換または非置換のアリールまたはヘテロアリール基、ヒドロキシル基、チオエーテル、エーテル、エステル、アミド、アミン、ハロゲン、ケトン、およびアルデヒドからなる群から独立して選択され;
R1およびR2は、5~7員環の形成に必要な原子を示すことができ;
R3~R5は、水素、置換または非置換アルキル基、置換または非置換アルケニル基、置換または非置換アルキニル基、置換または非置換アルカリール基、置換または非置換アラルキル基、置換または非置換のアリールまたはヘテロアリール基、ヒドロキシル基、チオール、チオエーテル、スルホン、スルホキシド、エーテル、エステル、アミド、アミン、ハロゲン、ケトン、アルデヒド、ニトリル、およびニトロ基からなる群から独立して選択され;
R4およびR5は、5~7員環の形成に必要な原子を示すことができる。
【請求項5】
化合物Aが式Iの化学構造を有する、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【化2】
式中、
Mは、水素、一価カチオン性基、およびアシル基からなる群から選択され;
Qは、5員複素芳香環の形成に必要な原子を表す。
【請求項6】
式IのMが水素である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
Qは、イミダゾール;ベンズイミダゾール;チアゾール;ベンゾチアゾール;オキサゾール;ベンゾオキサゾール;1,2,3-トリアゾール;1,2,4-トリアゾール;オキサジアゾール;チアジアゾールおよびテトラゾールからなる群から選択される5員複素芳香環である、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
Qがテトラゾールである、請求項5から7のいずれかの項に記載の方法。
【請求項9】
化合物Aが、N,N-ジブチル-(2,5-ジヒドロ-5-チオキソ-1H-テトラゾール-1-イル-アセトアミド、5-ヘプチル-2-メルカプト-1,3,4-オキサジアゾール、1-フェニル-5-メルカプトテトラゾール、5-メチル-1,2,4-トリアゾロ-(1,5-a)プリミジン(primidine)-7-オール、およびS-[5-[(エトキシカルボニル)アミノ]-1,3,4-チアジアゾール-2-イル]O-エチルチオカーボネートからなる群から選択される、請求項5から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
化合物Aの量が、前記インク中の銀の重量に対して5重量%未満である、先行するいずれかの請求項に記載の方法。
【請求項11】
銀インクが銀インクジェットインクである、先行するいずれかの請求項に記載の方法。
【請求項12】
前記銀インクを塗布する前に、前記基材上に受容層を塗布する、先行するいずれかの請求項に記載の方法。
【請求項13】
前記受容層が、0.5μmを超え20μm未満の粗さRaを有する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記銀インクが、2-フェノキシエタノール、プロピレンカーボネート、プロピレングリコール、n-ブタノール、および2-ピロリドンからなる群から選択される液体担体を含む、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記インクジェットインクをプリントヘッドに装填する前に超音波で処理する、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の基材上に導電性パターンを形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属ナノ粒子を含有するメタリック印刷用またはコーティング用液への関心が、ここ数十年の間に高まっているが、これは、ある金属のバルク特性と比較した場合に、その金属ナノ粒子が独特の特性を示すことによる。例えば、金属ナノ粒子の融点は、粒度が小さくなるにつれて低下するが、これにより、プリント電子機器、電気化学、光学、磁気、および生物学における応用が期待されている。
【0003】
例えばインクジェット印刷による印刷が可能であるか、または高速でのコーティングが可能な安定な濃縮されたメタリック印刷用またはコーティング用液は、低コストでの電子デバイスの製作を可能にするため、その製造への関心が高まっている。
【0004】
メタリック印刷用またはコーティング用液は、典型的には、金属ナノ粒子および分散媒を含む金属ナノ粒子分散液である。このような金属ナノ粒子分散液は、印刷用またはコーティング用液としてそのまま使用できる。しかしながら、金属ナノ粒子分散液に追加の成分を添加し、得られるメタリック印刷用またはコーティング用液の特性を最適化することがしばしば行われている。
【0005】
特許文献1(Agfa Gevaert社)は、特定の分散媒、例えば、2-ピロリドンを含有し、高分子分散剤を使用することなくより安定な分散液となる金属ナノ粒子分散液、例えば、銀インクジェットインクを開示している。
【0006】
典型的には、メタリック印刷用またはコーティング用液を基材上に塗布した後、塗布したパターンまたは層の導電性を誘導/向上するため、硬化工程とも呼ばれる焼結工程が高温で行われる。
【0007】
メタリック印刷用またはコーティング用液の有機成分、例えば、高分子分散剤は、焼結効率を低下させるおそれがあり、これにより、塗布されたパターンまたは層の導電率が低下し得る。このため、このような有機成分を分解するために、より高い焼結温度やより長い焼結時間が必要となる場合が多い。
【0008】
高温焼結は、高温に耐えられない基材には行えない。このため、このような基材上に高導電性のパターンを形成することは、多くの場合困難である。
【0009】
特許文献2(Agfa Gevaert社)は、銀ナノ粒子、液体担体、および特定の分散安定化化合物を含有する金属ナノ粒子分散液を開示している。
【0010】
しかしながら、特許文献2の銀インクジェットインクの噴射安定性は、信頼性の高い、長期に渡るインクジェット印刷を可能とするには十分でないことが多い。
【0011】
噴射安定性を向上させるには、より多くの量の安定剤が必要となる場合があるが、これにより、最終的に得られる銀層の導電性に悪影響を及ぼす可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】欧州特許出願公開第2671927(A)号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第3037161(A)号明細書
【発明の概要】
【0013】
本発明の目的は、高い導電率、十分な接着性、信頼性の高い噴射性能、および良好な解像度を有する導電性パターンを種々の基材上に作製する方法を提供することである。
【0014】
この目的は、請求項1に記載の方法により実現される。
【0015】
本発明のさらなる利点および実施形態が、以下の記載および従属請求項から明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0016】
発明の詳細な説明
定義
本明細書で使用されるポリマー支持体および箔という用語は、自立性のポリマー系シートを意味し、このようなシートは、1以上の接着層、例えば、下塗り層を伴ってもよい。支持体および箔は、通常、押出成形により製造される。
【0017】
本明細書で使用される層という用語は、自立性ではないと考えられ、(ポリマー)支持体または箔上にコーティングまたは噴霧することによって製造されるものを指す。
【0018】
PETは、ポリエチレンテレフタレートの略語である。
【0019】
アルキルという用語は、アルキル基の各炭素原子数について存在し得るあらゆる変形、すなわち、メチル、エチル、炭素原子数が3の場合にはn-プロピルおよびイソプロピル、炭素原子数が4の場合にはn-ブチル、イソブチル、および第三級ブチル、炭素原子数が5の場合にはn-ペンチル、1,1-ジメチル-プロピル、2,2-ジメチルプロピル、および2-メチル-ブチル等を意味する。
【0020】
特に示さない限り、置換または非置換アルキル基は、C1~C6-アルキル基であることが好ましい。
【0021】
特に示さない限り、置換または非置換アルケニル基は、C2~C6-アルケニル基であることが好ましい。
【0022】
特に示さない限り、置換または非置換アルキニル基は、C2~C6-アルキニル基であることが好ましい。
【0023】
特に示さない限り、置換または非置換アルカリール基は、1個、2個、3個、もしくはそれ以上のC1~C6-アルキル基を含むフェニル基またはナフチル基であることが好ましい。
【0024】
特に示さない限り、置換または非置換アラルキル基は、アリール基、好ましくはフェニル基またはナフチル基を含むC1~C6-アルキル基であることが好ましい。
【0025】
特に示さない限り、置換または非置換アリール基は、置換または非置換のフェニル基またはナフチル基であることが好ましい。
【0026】
環式基は、少なくとも1個の環構造を含み、単環式基または1以上の環が縮合した多環
式基のいずれであってもよい。
【0027】
複素環式基は、その環(1もしくは複数)の環員として少なくとも2種類の異なる元素の原子を有する環式基である。複素環式基の対立概念は同素環式基であり、その環構造は炭素のみからなる。特に示さない限り、置換または非置換の複素環式基は、好ましくは酸素原子、窒素原子、硫黄原子、セレン原子、またはこれらの組み合わせから選択される1個、2個、3個、または4個のヘテロ原子によって置換された、5員環または6員環であることが好ましい。
【0028】
脂環式基は、環原子が炭素原子からなる非芳香族同素環式基である。
【0029】
ヘテロアリール基という用語は、環構造中に、炭素原子、ならびに窒素、酸素、セレン、および硫黄からそれぞれ独立して選択される1個以上のヘテロ原子、好ましくは1個~4個のヘテロ原子を含む単環式または多環式の芳香環を意味する。好ましいヘテロアリール基の例としては、ピリジニル、ピリダジニル、ピリミジル、ピラジル、トリアジニル、ピロリル、ピラゾリル、イミダゾリル、(1,2,3,)-および(1,2,4)-トリアゾリル、ピラジニル、ピリミジニル、テトラゾリル、フリル、チエニル、イソキサゾリル、チアゾリル、イソキサゾリル、およびオキサゾリルが挙げられるが、これらに限定されない。ヘテロアリール基は、非置換でもよいし、または、1個、2個、もしくはそれより多い好適な置換基で置換することもできる。ヘテロアリール基は、その環が1個~5個の炭素原子および1個~4個のヘテロ原子を含む単環であることが好ましい。
【0030】
置換という用語は、例えば、置換アルキル基の場合には、アルキル基が、通常そのような基中に存在する原子以外、すなわち、炭素および水素以外の原子によって置換され得ることを意味する。例えば、置換アルキル基は、ハロゲン原子またはチオール基を含んでもよい。非置換アルキル基は、炭素原子および水素原子のみを含む。
【0031】
特に示さない限り、置換アルキル基、置換アルケニル基、置換アルキニル基、置換アラルキル基、置換アルカリール基、置換アリール、置換ヘテロアリール、および置換複素環式基は、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、1-イソブチル、2-イソブチルおよび第三級ブチル、エステル、アミド、エーテル、チオエーテル、ケトン、アルデヒド、スルホキシド、スルホン、スルホン酸エステル、スルホンアミド、-Cl、-Br、-I、-OH、-SH、-CN、およびNO2からなる群から選択される1以上の置換基により置換されることが好ましい。
【0032】
導電性パターンを作製する方法
基材上に導電性の銀パターンを作製する本発明の方法は、
前記基材上に銀インクを塗布して銀パターンを形成する工程、および
前記塗布した銀パターンを焼結する工程を含み、
前記銀インクが、前記焼結工程中に発熱分解する化合物Aを含むことを特徴とする。
【0033】
焼結工程
銀パターンが基材上に塗布された後、硬化工程とも呼ばれる焼結工程が行われる。この焼結工程中に、溶媒が蒸発し、金属粒子が焼結して一体となる。銀粒子間にひとたび連続的な浸透回路網(percolating network)が形成されると、前記パターンの導電性が向上する。
【0034】
従来の焼結は、熱を加えることにより行うのが典型的であり、典型的にはオーブン内で行われる。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)またはポリスチレン(PS)等、高温での熱処理に耐えられないポリマー基材を使用する場合には、例えば、150℃
を超える温度とすることはできない。
【0035】
本発明に係る方法では、焼結は、塗布された銀パターンを近赤外(NIR)放射にさらすことによって行うことが好ましい。
【0036】
NIR放射は、通常、780~2500nmの波長を有する。
【0037】
NIRランプシステムは、ADPHOS社等の供給業者から市販されており、種々のランプ配列(例えば、電球1~6個)および1.2~8.3kWの範囲のランプ出力のものが準備できる。NIRランプによれば、数分を要する従来のオーブン焼結とは対照的に、Agナノ粒子をベースとするインクの焼結を数秒で行える。
【0038】
NIR焼結を使用することにより、オーブンを使用する従来の焼結には耐えられないポリマー基材上に、高導電性の銀パターンを実現し得ることがわかっている。
【0039】
さらに、NIR焼結のような放射焼結技術は、材料の加熱が当該材料自体による直接吸収によって実現されるため、エネルギー効率的に有利である。このため、オーブン全体を予熱する必要はない。
【0040】
前記パターン中の銀粒子は、NIR放射の吸収体として作用し得る。NIR放射の吸収を高めるため、NIR吸収化合物を銀パターンに添加してもよい。このようなNIR吸収化合物は、カーボンブラックもしくはTi02等のNIR吸収顔料、またはシアニン色素等のNIR吸収色素であってもよい。
【0041】
しかしながら、NIR吸収体を銀パターンに添加することで、金属粒子の浸透回路網または分散液の安定性が乱れ、焼結プロセスに悪影響を及ぼすおそれがある。
【0042】
また、銀パターンを塗布する基材の種類も、NIR硬化効率に影響を与え得ることが観察されている。NIR硬化効率は、透明な基材を使用した場合に低下するようであり、その結果、このような基材上では銀パターンの導電性が低くなるようである。
【0043】
このような透明基材上に白色受容層を用いることでNIR硬化効率が向上することが観察されており、その結果、このような基材上の銀パターンの導電性が高くなる。
【0044】
さらに、熱安定性の低い基材上に白色受容層を使用すると、当該基材のTgよりも高い温度でのNIR焼結プロセスを、基材の変形を生じることなく行える。
【0045】
銀インク
銀インクは、焼結工程中に発熱分解する化合物Aを含む。
【0046】
銀インクは、フレキソインク、オフセットインク、グラビアインク、またはスクリーンインクであってもよいが、インクジェットインクであることが好ましい。
【0047】
銀インクは、その特性のさらなる最適化のため、液体担体、高分子分散剤、およびその他の添加剤をさらに含有してもよい。
【0048】
化合物A
銀インクは、焼結工程中に発熱分解する化合物Aを含む。
【0049】
原理的には、焼結工程中に発熱分解し、これにより前記インクにより得られるコーティ
ングまたはパターンの導電性を向上させる化合物であれば、前記インクの安定性および噴射性(jettability)等の他の特性が許容レベルに保たれる限り、どのような化合物を使用してもよい。
【0050】
化合物Aの分解温度(Tdec)は、好ましくは300℃未満、より好ましくは250℃未満、最も好ましくは200℃未満である。
【0051】
発熱分解を示すこのような化合物の例としては、トリチルアジド(Tdec=198℃)、2,5,8-トリアジド-s-ヘプタジン(Tdec=202℃)、トリアジドペンタエリスライトアセテート(Tdec=242℃)が挙げられる。
【0052】
焼結工程中に発熱分解する化合物Aは、式I、II、III、またはIVの化学構造を有することが好ましい。
【化1】
式中、
Qは、置換または非置換の5員または6員複素芳香環の形成に必要な原子を表し;
Mは、水素、一価カチオン性基、およびアシル基からなる群から選択され;
R1およびR2は、水素、置換または非置換アルキル基、置換または非置換アルケニル基、置換または非置換アルキニル基、置換または非置換アルカリール基、置換または非置換アラルキル基、置換または非置換のアリールまたはヘテロアリール基、ヒドロキシル基、チオエーテル、エーテル、エステル、アミド、アミン、ハロゲン、ケトン、およびアルデヒドからなる群から独立して選択され;
R1およびR2は、5~7員環の形成に必要な原子を表すことができ;
R3~R5は、水素、置換または非置換アルキル基、置換または非置換アルケニル基、置換または非置換アルキニル基、置換または非置換アルカリール基、置換または非置換アラルキル基、置換または非置換のアリールまたはヘテロアリール基、ヒドロキシル基、チオール、チオエーテル、スルホン、スルホキシド、エーテル、エステル、アミド、アミン、ハロゲン、ケトン、アルデヒド、ニトリル、およびニトロ基からなる群から独立して選択され;
R4およびR5は、5~7員環の形成に必要な原子を示すことができる。
【0053】
焼結工程中に発熱分解する特に好ましい化合物Aは、式Iの化学構造を有する。
【化2】
式中、
Mは、水素、一価カチオン性基、およびアシル基からなる群から選択され;
Qは、5員複素芳香環の形成に必要な原子を表す。
【0054】
式IにおけるMは、水素であることが好ましい。
【0055】
Qは、イミダゾール;ベンズイミダゾール;チアゾール;ベンゾチアゾール;オキサゾール;ベンゾオキサゾール;1,2,3-トリアゾール;1,2,4-トリアゾール;オキサジアゾール;チアジアゾールおよびテトラゾールからなる群から選択される5員複素芳香環であることが好ましい。
【0056】
Qは、テトラゾールであることがより好ましい。
【0057】
焼結工程中に発熱分解する化合物のいくつかの例を、表1に示す。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【0058】
化合物Aは、N,N-ジブチル-(2,5-ジヒドロ-5-チオキソ-1H-テトラゾール-1-イル-アセトアミド、5-ヘプチル-2-メルカプト-1,3,4-オキサジアゾール、1-フェニル-5-メルカプトテトラゾール、5-メチル-1,2,4-トリアゾロ-(1,5-a)プリミジン(primidine)-7-オール、およびS-[5-[(エトキシカルボニル)アミノ]-1,3,4-チアジアゾール-2-イル]O-エチルチオカーボネートからなる群から選択されることが好ましい。
【0059】
式I~IVの化合物は、非高分子化合物であることが好ましい。本明細書で使用される非高分子化合物とは、分子量が好ましくは1000未満、より好ましくは500未満、最も好ましくは350未満の化合物を意味する。
【0060】
化合物Aの量は、銀インク中の銀の総重量に対する重量%で表すと、好ましくは0.05~10重量%、より好ましくは0.1~7.5重量%、最も好ましくは0.15~5重量%である。
【0061】
化合物Aが式I~IVの化学構造、好ましくは式Iの化学構造を有する実施形態では、化合物Aの量は、好ましくは少なくとも1.0、より好ましくは少なくとも1.25、最も好ましくは少なくとも2.0である。
【0062】
銀の総重量に対する分散安定化化合物の量が少なすぎると、安定化効果が低くなりすぎるおそれがあり、また、分散安定化化合物の量が多すぎると、銀インクにより得られるコーティングまたはパターンの導電率に悪影響を及ぼす場合がある。
【0063】
銀粒子
本発明の銀インクは、銀粒子、好ましくは銀ナノ粒子を含む。
【0064】
銀ナノ粒子は、透過型電子顕微鏡観察によって測定した平均粒度または平均粒径が、150nm未満、好ましくは100nm未満、より好ましくは50nm未満、最も好ましくは30nm未満である。
【0065】
インク中の銀ナノ粒子の量は、銀インクの総重量に対して、好ましくは少なくとも5重量%、より好ましくは少なくとも10重量%、最も好ましくは少なくとも15重量%、特に好ましくは少なくとも20重量%である。
【0066】
銀ナノ粒子は、欧州特許出願第2671927(A)号明細書の[0044]~[0053]段落および実施例に開示の方法によって調製されることが好ましい。
【0067】
また、銀インクは、銀フレークまたは銀ナノワイヤーを含んでもよい。
【0068】
高分子分散剤
銀インクは、高分子分散剤を含有してもよい。
【0069】
高分子分散剤は、典型的には、いわゆるアンカー基を分子の一部分に含有し、分散させる銀粒子上にこれらのアンカー基が吸着する。高分子分散剤は、分子の別の部分に、液体ビヒクルとも呼ばれる分散媒および最終的に得られる印刷用またはコーティング用液中に存在するあらゆる成分に適合性を有するポリマー鎖を有する。
【0070】
高分子分散剤は、典型的には、アクリル酸、メタクリル酸、ビニルピロリジノン、ビニルブチラール、酢酸ビニル、またはビニルアルコールモノマーから調製されるホモポリマーまたはコポリマーである。
【0071】
また、欧州特許出願公開第2468827号(A)明細書に開示されている、熱重量分析による測定において300℃未満の温度で95重量%の分解率を有する高分子分散剤を使用してもよい。
【0072】
しかしながら、好ましい実施形態では、金属ナノ粒子分散液は、当該分散液の総重量に対して5重量%未満、より好ましくは1重量%未満、最も好ましくは0.1重量%未満の高分子分散剤を含む。特に好ましい実施形態では、前記分散液は、高分子分散剤を全く含まない。
【0073】
高分子分散剤の存在は、焼結効率に悪影響を及ぼし得ることが観察されている。
【0074】
液体担体
銀インクは、液体担体を含むことが好ましい。
【0075】
液体担体は、有機溶媒であることが好ましい。有機溶媒は、アルコール、芳香族炭化水素、ケトン、エステル、脂肪族炭化水素、高級脂肪酸、カルビトール、セロソルブ、および高級脂肪酸エステルから選択してもよい。
【0076】
好適なアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、1-ブタノール、1-ペンタノール、2-ブタノール、t-ブタノールが挙げられる。
【0077】
好適な芳香族炭化水素としては、トルエンおよびキシレンが挙げられる。
【0078】
好適なケトンとしては、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、2,4-ペンタンジオン、およびヘキサフルオロアセトンが挙げられる。
【0079】
また、グリコール、グリコールエーテル、N,N-ジメチル-アセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミドを使用してもよい。
【0080】
金属ナノ粒子分散液の特性を最適化するため、複数の有機溶媒の混合物を使用してもよい。
【0081】
好ましい有機溶媒は、高沸点溶媒である。本明細書で言及する高沸点有機溶媒とは、水の沸点よりも高い沸点(>100℃)を有する溶媒である。
【0082】
【0083】
特に好ましい高沸点溶媒は、2-フェノキシエタノール、プロピレンカーボネート、プロピレングリコール、n-ブタノール、2-ピロリドン、およびこれらの混合物である。
【0084】
銀インクは、銀インクの総重量に対し、好ましくは少なくとも25重量%、より好まし
くは少なくとも40重量%の2-フェノキシエタノールを含む。
【0085】
添加剤
印刷特性の最適化のため、さらには、使用する用途に応じて、還元剤、湿潤/均染剤、脱湿潤剤、レオロジー改質剤、接着剤、粘着剤、保湿剤、噴射剤、硬化剤、殺生物剤、または酸化防止剤等の添加剤を、上述の銀インクに添加してもよい。
【0086】
銀インクは、界面活性剤を含んでもよい。好ましい界面活性剤は、変性尿素の溶液であるByk(登録商標)410および411、ならびに高分子尿素変性媒体極性ポリアミド(a high molecular urea modified medium polar polyamide)の溶液であるByk(登録商標)430である。
【0087】
界面活性剤の量は、銀インクの総量に対して、0.01重量%を超え20%重量%未満であることが好ましく、0.05重量%を超え5重量%未満であることがより好ましく、0.1重量%を超え0.5重量%未満であることが最も好ましい。
【0088】
欧州特許出願公開第2821164号(A)明細書に開示されるように、無機酸の金属またはこのような酸を生成することができる化合物を少量、銀インクに添加することが有利な場合がある。このような銀インクで形成される層またはパターンでは、より高い導電率が観察された。
【0089】
また、欧州特許出願公開第3016763(A)号明細書に開示されるように、銀インクが式Xの化合物を含有する場合にも、より高い導電率が得られる場合がある。
【化3】
式中、
Xは、置換または非置換の環の形成に必要な原子を表す。
【0090】
特に好ましい式Xの化合物は、アスコルビン酸またはエリソルビン酸の誘導体化合物である。
【0091】
基材
基材は、ガラス、紙、またはポリマー基材であってもよい。
【0092】
好ましいポリマー基材は、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート(PET)、またはポリ塩化ビニル(PVC)をベースとする基材である。好ましいPET支持体は、例えば、MacDermid社製のAUTOSTAT(商標)熱安定化ポリエステルである。
【0093】
上述の支持体は、塗布された導電性のインクジェットインク、スクリーンインク、またはフレキソインクの接着、吸収、または広がりを向上させるために、1以上の層を備えていてもよい。
【0094】
ポリマー支持体は、塗布された導電性のインクジェットインク、スクリーンインク、ま
たはフレキソインクの接着を向上させるために、いわゆる下塗り層を備えることが好ましい。このような下塗り層は、典型的には、ビニリデンコポリマー、ポリエステル、または(メタ)アクリレートをベースとしている。
【0095】
この目的に有用な下塗り層は、当技術分野において周知であり、例えば、塩化ビニリデン/アクリロニトリル/アクリル酸のターポリマーまたは塩化ビニリデン/アクリル酸メチル/イタコン酸のターポリマーのような、塩化ビニリデンのポリマーが挙げられる。
【0096】
その他の好ましい下塗り層としては、ポリエステル-ウレタンコポリマーをベースとする結合剤が挙げられる。より好ましい実施形態では、前記ポリエステル-ウレタンコポリマーは、好ましくはテレフタル酸とエチレングリコールとヘキサメチレンジイソシアネートとをベースとするポリエステルセグメントを使用したイオノマー型のポリエステルウレタンである。好適なポリエステル-ウレタンコポリマーは、DIC Europe GmbH製のHydran(商標)APX101 Hである。
【0097】
下塗り層の塗布は、ハロゲン化銀写真フィルム用ポリエステル支持体製造の技術分野において周知である。例えば、このような下塗り層の調製が、米国特許第3649336号明細書および英国特許第1441591号明細書に開示されている。
【0098】
国際公開第2015/000932号パンフレットに開示されるように、酸生成化合物を、支持体上のプライマー層に組み込んでもよい。好ましいプライマーは、塩化ビニリデン、アクリル酸エステル、イタコン酸のコポリマーを含む。
【0099】
好ましい実施形態では、下塗り層は、0.2μm以下、または好ましくは200mg/m2以下の乾燥厚みを有する。
【0100】
別の好ましい支持体は、透明な導電性酸化物をベースとする支持体である。このような支持体は、典型的にはガラス支持体またはポリマー支持体であり、その上に、透明導電性酸化物(TCO)の層またはパターンが設けられる。このような導電性酸化物の例としては、ITO(酸化インジウムスズ)、ZnO、SnO2、または、ZnO:Alのようなドープ酸化物が挙げられる。特に好ましいTCOは、ITOである。
【0101】
好ましい紙ベースの支持体は、Arjowiggins Creative Papers社製の、プリンテッド・エレクトロニクス用に設計された基材であるPowercoat HD(登録商標)紙基材である。
【0102】
複数の金属層またはパターン、すなわち、パターン化された、またはパターン化されていない層を重ねて基材上に塗布してもよい。よって、前記金属層またはパターンを作製する方法において言及される支持体には、先に塗布された金属層またはパターンも包含される。
【0103】
受容層
好ましい実施形態では、基材上に受容層が塗布され、それから銀インクが当該受容層上に塗布される。
【0104】
このような好ましい方法は、
受容層を基材上に塗布する工程、
上述の銀インクを前記受容層の少なくとも一部上に塗布し、これにより銀パターンを形成する工程、および
前記銀パターンを焼結する工程を含む。
【0105】
受容層は、実質的に基材全体を覆うコーティングとして、基材上に塗布してもよい。次いで、銀インクを受容層の少なくとも一部上に塗布する。
【0106】
しかしながら、受容層は、基材上に画像様に塗布してもよい。
【0107】
例えば、受容層を、第1画像の通りに基材上に塗布してもよい。それから、銀インクを、その第1画像の少なくとも一部上に塗布する。
【0108】
受容層は、接着性の向上、解像度の向上、および効率的なNIR硬化を確実なものとするため、銀インクよりも若干幅広に印刷することが好ましい。
【0109】
これは、最小限の追加インクの使用で実現可能である。なぜなら、インクジェット機器の高い位置決め精度により、銀パターン(例えば、銀回路)を単に「太くする」または「幅広にする」ことで、受容層(第1画像)に必要なパターンを形成することができるからである。これは、デジタルワークフローで極めて容易に達成できる。
【0110】
受容層は、UV硬化型インクジェットインクとして、インクジェット印刷により基材に塗布されることが好ましい。
【0111】
十分な粗さRzを有する受容層を得ると共に、種々の基材上で十分な受容層の接着を実現するためには、UV硬化型インクジェットインクが好ましい。インクジェットインクの広がり性を調整することによって、またはUV硬化パラメータを調整することによって、得られるRzを最適化し得る。
【0112】
UV硬化型インクジェットインクが好ましいが、熱硬化型インクを採用することも可能であり、熱硬化パラメータを調整することにより、同様の粗面層を得ることができる。
【0113】
受容層の粗さRzは、好ましくは1μmを超え75μm未満、より好ましくは2μmを超え~60μm未満、さらに好ましくは5μmを超え50μm未満である。
【0114】
受容層の粗さRaは、好ましくは0.5μmを超え20μm未満、より好ましくは1μmを超え15μm未満、最も好ましくは2μmを超え10μm未満である。
【0115】
基材と金属パターンとの間に1μmを超え75μm未満の粗さを有する受容層を挿入することにより、パターンの接着性が向上し、パターンの印刷解像度がより良好となることが観察されている。
【0116】
受容層の厚さは、好ましくは10μmを超え500μm未満、より好ましくは20μmを超え350μm未満、最も好ましくは30μmを超え250μm未満である。
【0117】
受容層は、白色受容層であることが好ましい。このような白色受容層の存在により、より効率的なNIR硬化が生じ、この結果、パターンの導電性が高くなることが観察されている。
【0118】
特に好ましい白色受容層が、国際出願PCT/EP2018/065062号明細書(2018年6月7日出願)に開示されている。
【0119】
銀インクの調製
銀インクの調製は、典型的には、攪拌、高せん断混合、超音波処理、またはこれらの組
み合わせ等の均質化技術を使用し、化合物Aおよび他の成分を銀粒子に添加することを含む。
【0120】
銀インクの調製に用いられる銀粒子は、典型的には、銀ナノ粒子のペーストもしくは高濃度分散液である。
【0121】
銀ナノ粒子の好ましい調製方法が、欧州特許出願公開第2671927(A)号明細書に開示されている。
【0122】
均質化工程は、100℃までの高温で行うことができる。好ましい実施形態では、均質化工程は、60℃以下の温度で行われる。
【0123】
銀インクジェットインクに関し、インクジェットをプリントヘッドに装填する前に超音波処理を行うことで、噴射性能およびインクの安定性、すなわち、信頼性および噴射周波数(jetting frequencies)を向上し得ることが観察されている。
【0124】
インクジェット印刷装置
導電性パターンまたは受容層をインクジェット印刷により生成する装置について、種々の実施形態を使用し得る。
【0125】
フラットベッド印刷装置では、支持体はフラットベッド上に配される。銀インクジェット液の液滴が、プリントヘッドから支持体上に噴射される。
【0126】
プリントヘッドは、典型的には、移動する支持体(y方向)の端から端までを横方向(x方向)に往復移動して走査する。このような双方向印刷は、マルチパス印刷と呼ばれる。
【0127】
別の好適な印刷方法は、いわゆるシングルパス印刷法であり、この方法では、プリントヘッド(複数)、またはジグザグ配置された多数のプリントヘッドが、支持体の幅全体をカバーする。このようなシングルパス印刷法では、プリントヘッドは通常静止したままであり、プリントヘッドの下方で支持体が給送される(y方向)。
【0128】
最大のドット配置精度を得るため、プリントヘッドは、支持体の表面に可能な限り近接して配置される。プリントヘッドと支持体表面との間の距離は、好ましくは3mm未満、より好ましくは2mm未満、最も好ましくは1mm未満である。
【0129】
プリントヘッドと支持体表面との間の距離は、ドット配置精度に影響を与える可能性があるため、支持体の厚さを測定し、支持体の厚さの測定値に基づいてプリントヘッドと支持体表面との間の距離を調節することが有利となり得る。
【0130】
静止プリントヘッドと印刷装置上に取り付けられた支持体表面との間の距離は、例えば、支持体のうねり、または支持体表面におけるその他のむら(irregularities)のため、支持体全体にわたってばらつく場合がある。したがって、支持体の表面トポグラフィーを測定し、測定した表面トポグラフィー中の差異を、支持体上への硬化性液の液滴のいわゆる噴射時間(firing time)を制御するか、またはプリントヘッドと支持体表面の間の距離を調整することによって補うことも有利となり得る。リソグラフィ用支持体の表面トポグラフィーを測定するための測定装置の例が、ISO 12635:2008(E)に開示されている。
【0131】
好ましい実施形態では、インクジェット印刷装置は、支持体下方の真空室等の押さえ込
み手段(holding down means)を有し、例えば真空によって、支持体をいわゆる押さえ込み領域内に押さえ込む。より好ましい実施形態では、支持体は、支持体上の真空圧を高めるように独立して制御され、2以上の押さえ込み領域を支持体上に発生させる、支持体下方の複数の真空室のような独立して作用する押さえ込み手段によって、支持体に対して押さえ込まれる。支持体の押さえ込みにより、噴射された液滴の液滴配置、ならびに位置精度が向上する。
【0132】
プリントヘッド
UV硬化型インクジェットインクおよび銀インクジェットインクの噴射は、1または複数のプリントヘッドが、当該プリントヘッドと相対的に移動しているインク受容層の表面に対し、インクの小滴を制御しながらノズルを介して吐出することによって行い得る。
【0133】
インクジェット印刷システム用の好ましいプリントヘッドは、圧電ヘッドである。圧電インクジェット印刷は、電圧印加時の圧電セラミック変換器の動きに基づく。電圧を印加すると、プリントヘッド内の圧電セラミック変換器の形状が変化して空隙ができ、そこにインクが充填される。再び電圧を解除すると、セラミックは膨張して元の形状に戻り、プリントヘッドからインクの液滴を吐出する。しかしながら、本発明に係るインクジェット印刷方法は、圧電インクジェット印刷に限定されない。
【0134】
好ましいプリントヘッドは、50pL以下、例えば、35pL以下もしくは25pL以下の体積の液滴を吐出する。液滴の体積がこれより大きくなると、印刷された受容層の粗さが大きくなることが観察されている。
【0135】
別の好ましいプリントヘッドは、通過流型(throughflow)の圧電インクジェットプリントヘッドである。通過流型圧電インクジェットプリントヘッドとは、プリントヘッドの液体流路内に液体の連続流を循環させ、当該流れの攪乱効果および液滴配置不良の原因となり得る液体中の凝集を回避するプリントヘッドである。通過流型圧電インクジェットプリントヘッドを使用して液滴配置不良を回避することで、支持体上の導電性パターンの品質を向上し得る。このような通過流型プリントヘッドを使用することの別の利点は、噴射させる硬化性液の粘度限界が高くなり、当該液の組成的バリエーションの範囲が広がることである。
【0136】
インクジェットプリントヘッドは、通常、移動するインク受容層表面の端から端までを横方向に往復移動して走査する。多くの場合、インクジェットプリントヘッドは、戻る途中では印刷しない。高い面積処理量を得るためには、双方向印刷が好ましい。別の好ましい印刷方法は、「シングルパス印刷プロセス」によるものであり、これは、インク受容層表面の全幅をカバーするページ幅のインクジェットプリントヘッド(複数)またはジグザグ配置された多数のインクジェットプリントヘッドを用いて行える。シングルパス印刷プロセスでは、インクジェットプリントヘッドは通常静止したままであり、インクジェットプリントヘッドの下方で基材表面が給送される。
【0137】
受容層は、マルチパス印刷プロセスの1回のパスで塗布されてもよい。受容層の厚みを十分なものとするためには、マルチパス印刷プロセスが好ましい場合がある。
【0138】
応用
本発明に係る方法により、NIR焼結工程と組み合わせた場合に高導電性パターンを提供することができる安定性の高いインクジェットインクが実現される。
【0139】
しかしながら、このような結果を得るには、あるパラダイムを克服しなければならない。より安定した噴射可能なインクを作るために、多量の安定剤をインクに添加することが
一般的である。しかしながら、インクに安定剤を多く添加すればするほど、最終的に得られる印刷層の導電性は低下する。後者は、残存する安定剤がナノ粒子間の障壁として作用し、これらナノ粒子の焼結プロセスを阻害することに起因する。これを解決するためには、安定剤を完全に除去できるように、より高い焼結温度およびより長い焼結プロセスを使用することが必要となるが、これは、熱安定性の低い基材または高スループットなプロセスとは相容れない場合ある。
【0140】
上述したような化合物Aを安定剤として使用することで、安定したAgインクジェットインク(良好な噴射性能および長い貯蔵寿命)を得ることができる。
【0141】
限定されるものではないが、この結果の説明として、比較的低い温度での化合物Aの発熱分解が考えられる。これにより、化合物Aが完全に除去されると共に、銀ナノ粒子の表面において追加の熱が局所的に発生する。
【0142】
さらに、NIR焼結を用いることで、化合物Aの分解温度と正確に一致させることができ、迅速な焼結プロセスが可能となる。
【0143】
高い生産性および信頼性が必要とされる産業用途では、本明細書に記載の開発されたAgインクジェットインクを使用することで恩恵を享受できる。スマートパッケージ用RFIDアンテナ、ポイントオブケア診断用センサ、静電容量式タッチセンサの製造等の用途。
【0144】
本方法によれば、PCBの作製に一般的に使用されているFR-4基材上に高導電性パターンを提供することができる。
【実施例】
【0145】
材料
以下の実施例で使用される材料は全て、特に示さない限り、ALDRICH CHEMICAL Co.(ベルギー)およびACROS社(ベルギー)等の標準的な供給元から容易に入手可能なものであった。使用した水は、脱イオン水であった。
【0146】
A-01は、Chemosyntha社から市販されている分散安定化化合物N-ジブチル-(2,5-ジヒドロ-5-チオキソ-1H-テトラゾール-1-イル)アセトアミド(CASRN168612-06-4)である。
【化4】
【0147】
A-17は、Kowa Amerian Corp.からDURANOLTM G3450Jの名称で市販されているポリアルキレンカーボネートジオールである。
【0148】
A-C01は、Aramco Performance Materials社からConverge Polyol 212-10の名称で市販されている1000Mwのポリカーボネートジオールである。
【0149】
測定方法
銀コーティングの導電率
銀コーティングの表面抵抗(SER)を、4点コリニアプローブ(four-point collinear probe)を用いて測定した。表面抵抗またはシート抵抗は、以下の式により算出した。
SER=(π/ln2)*(V/I)
式中、
SERは、Ω/平方で表される層の表面抵抗であり;
πは、3.14にほぼ等しい数学定数であり;
ln2は、2の自然対数に等しい数学定数であり、0.693に略等しく;
Vは、4点プローブ測定装置の電圧計で測定される電圧であり;
Iは、4点プローブ測定装置で測定されるソース電流である。
【0150】
各サンプルについて、異なる箇所での6回の測定をコーティングに対して行い、平均値を算出した。
【0151】
コーティングの銀含有率MAg(g/m2)を、WD-XRFにより求めた。
【0152】
次いで、コーティングされた層の導電率を、下記式を使用して、銀のバルク導電率に対するパーセント値として算出することにより求めた。
【数1】
式中、σ
Agは銀の比導電率(6.3×10
7S/mに等しい)、σ
CoatはAgコーティングの比導電率、ρ
Agは銀の密度(1.049×10
7g/m
3)である。
【0153】
粘度測定
特に記載のない限り、粘度は、例えばTA Instruments社のDHR-2 Rheometer(ダブルウォールリング)のような市販の粘度計を用いて、25℃で1000s-1のせん断速度で測定した。
【0154】
噴射性能評価
調製した各種インクジェットインクの噴射性能を、JetXpert社の液滴観察装置(drop watcher)に組み込まれた工業用プリントヘッド、すなわち、KM1024i LHEで評価した。インクの噴射性能は、広範な周波数範囲(例えば、1~25kHz)で安定して噴射される能力、ならびに、選択された周波数範囲内での1分間、2分間、および3分間の連続噴射後に不良ノズルがないことに基づいて評価した。
【0155】
示差走査熱量測定(DSC)
DSC測定は、DSC Q1000 V9.9 Build 303(TA Instruments社製)を用いて行った。窒素流量は50mL/分で、サンプリング間隔を0.10秒/pt、0℃から250℃までの昇温速度を10.00℃/分とした。表3は
、分析対象の化合物が発熱分解または吸熱分解し始めた開始温度を示す。
【0156】
表3は、実施例で使用した化合物のこのようなDSC測定の結果を示す。
【表3】
【0157】
実施例1
銀ナノ粒子分散液NPD-01の調製
酸化銀(Umicore社製)20.0gを、エタノール40.0gおよび2-ピロリドン23.0gの混合物に撹拌しながら加えた。その後、当該プレ分散液を、24時間撹拌した。
【0158】
次に、2.67mlのギ酸を、室温に保ちつつ撹拌しながら、プレ分散液に添加した(1.25ml/分)。ギ酸添加後、得られた混合物を23℃~25℃で2.5時間さらに撹拌した。
【0159】
そして、60μmのろ布を用いて混合物をろ過した。その後、ろ液の濃縮を40℃で、最初は110mbarで60分間、次に60mbarで30分間行い、銀を±45重量%含有する銀ナノ粒子分散液を得た。
【0160】
銀インクの調製
50重量%のNPD-01を、2-フェノキシエタノール25重量%、γ-ブチロラクトン25重量%、および実施例で指定した量の化合物Aと混合し、銀インクを調製した。化合物Aの量([A])は、銀の重量に対する重量%で表している。
【0161】
実施例2
発熱分解する化合物A-17および吸熱分解する比較用化合物A-C01を使用し、上述のように銀インクジェットインクSI-01~SI-07を調製した。両化合物の量は、表4に明示している。
【表4】
【0162】
銀インクジェットインクSI-01~SI-07を、Powercoat HD基材上に、湿潤塗膜厚み10μmとなるようにコーティングした。次に、コーティングされたサンプルを、NIRランプ(NIR ADPHOSランプ、電球1個、ランプ電力5.4kW)の下方に延びるベルトシステムに配置した。全サンプルを、ランプ-基材間の距離を24mmに保ち、10mm/秒のプラットフォーム速度でランプの下を通過させた)。
【0163】
導電率を上述のように測定し、表4に示している。
【0164】
表4から明らかなように、発熱分解する化合物A-17を銀インクに添加した場合には(SI-02~SI-04)、コーティングされた銀インクの導電率がより高くなる。
【0165】
実施例3
化合物A-01を用いて、上述のように銀インクジェットインクSI-08~SI-11を調製した。銀の重量に対する重量%で表した化合物A-01の量([A-01])を、表5に示す。次に、銀インクを、Dimatixプリンタ(DMP2800、Fujifilm Dimatix社)を用いてPowercoat HD基材上に印刷した。次いで、印刷された銀を、150℃の温度のオーブンで30分間焼結するか、または、NIRランプ(Adphos社、ランプ出力100%、プラットフォーム速度10mm/秒)を用いてNIR焼結した。
【0166】
上述のように測定した銀インクの噴射安定性および印刷された銀の導電率を、表5に示す。
【表5】
【0167】
表5の結果から、NIR硬化では、150℃のオーブン焼結と比べて高い導電率が得られることが明らかである。
【0168】
また、化合物A-01の量が増加すると、導電率が高くなることも明らかである。化合物A-01の量がさらに増えると、導電率は再び低下する。
【0169】
また、化合物A-01の存在が、銀インクの噴射安定性にも影響を及ぼすことも明らかである。
【0170】
化合物A-01の量が銀の重量に対して1重量%を上回れば、最適な導電率および噴射安定性が得られる。
【0171】
実施例4
化合物A-01を用いて、上述のように銀インクジェットインクSI-12~SI-16を調製した。銀の重量に対する重量%で表した化合物A-01の量([A-01])を、表6に示す。次に、銀インクを、Dimatixプリンタ(DMP2800、Fujifilm Dimatix社)を用いてPowercoat HD基材上に印刷した。次いで、印刷された銀を、150℃の温度のオーブンで30分間焼結するか、または、NIRランプ(Adphos社、ランプ出力100%、プラットフォーム速度10mm/秒)を用いてNIR焼結した。
【0172】
上述のように測定した銀インクの噴射安定性および印刷された銀の導電率を、表7に示す。
【表6】
【0173】
表7に示す結果から、化合物A-01の量が増加すると、導電率が高くなることが明らかである。化合物A-01の量がさらに増えると、導電率は再び低下する。
【0174】
また、化合物A-01の存在は、銀インクの噴射安定性にも影響を及ぼすことも明らかである。
【0175】
化合物A-01の量が銀の重量に対して1重量%を上回れば、最適な導電率および噴射安定性が得られる。
【0176】
実施例5
上述の銀インクSI-13およびSI-15の噴射信頼性を、表8に詳細に示す。
【0177】
SI-15については、インクの超音波処理を行った場合と行わなかった場合の噴射信頼性を評価した。超音波処理は、インクをプリントヘッドに装填する前の30分間に行った。
【表7】
【0178】
表8に示す結果から、SI-15は、SI-13よりも優れた噴射信頼性を示すことが明らかである。表8からわかるように、両インク間の相違は、化合物A-01の量である。
【0179】
また、表8から明らかなように、SI-15に超音波処理を施すと、噴射信頼性がさらに向上する。
【手続補正書】
【提出日】2021-10-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に導電性の銀パターンを形成する方法であって、
前記基材上に銀インクを塗布して銀パターンを形成する工程、および
前記塗布した銀パターンを焼結する工程を含み、
前記銀インクが、焼結中に発熱分解する化合物Aを含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
焼結が、前記塗布された銀パターンを近赤外放射にさらすことによって行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
化合物Aの量が、前記インク中の銀の重量に対して少なくとも1重量%である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
化合物Aの量が、前記インク中の銀の重量に対して少なくとも1重量%である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
化合物Aが、式I~IVの化学構造を有する、請求項1に記載の方法。
【化1】
式中、
Qは、置換または非置換の5員または6員複素芳香環の形成に必要な原子を表し;
Mは、水素、一価カチオン性基、およびアシル基からなる群から選択され;
R1およびR2は、水素、置換または非置換アルキル基、置換または非置換アルケニル基、置換または非置換アルキニル基、置換または非置換アルカリール基、置換または非置換アラルキル基、置換または非置換のアリールまたはヘテロアリール基、ヒドロキシル基
、チオエーテル、エーテル、エステル、アミド、アミン、ハロゲン、ケトン、およびアルデヒドからなる群から独立して選択され;
R1およびR2は、5~7員環の形成に必要な原子を示すことができ;
R3~R5は、水素、置換または非置換アルキル基、置換または非置換アルケニル基、置換または非置換アルキニル基、置換または非置換アルカリール基、置換または非置換アラルキル基、置換または非置換のアリールまたはヘテロアリール基、ヒドロキシル基、チオール、チオエーテル、スルホン、スルホキシド、エーテル、エステル、アミド、アミン、ハロゲン、ケトン、アルデヒド、ニトリル、およびニトロ基からなる群から独立して選択され;
R4およびR5は、5~7員環の形成に必要な原子を示すことができる。
【請求項6】
化合物Aが、式I~IVの化学構造を有する、請求項4に記載の方法。
【化2】
式中、
Qは、置換または非置換の5員または6員複素芳香環の形成に必要な原子を表し;
Mは、水素、一価カチオン性基、およびアシル基からなる群から選択され;
R1およびR2は、水素、置換または非置換アルキル基、置換または非置換アルケニル基、置換または非置換アルキニル基、置換または非置換アルカリール基、置換または非置換アラルキル基、置換または非置換のアリールまたはヘテロアリール基、ヒドロキシル基、チオエーテル、エーテル、エステル、アミド、アミン、ハロゲン、ケトン、およびアルデヒドからなる群から独立して選択され;
R1およびR2は、5~7員環の形成に必要な原子を示すことができ;
R3~R5は、水素、置換または非置換アルキル基、置換または非置換アルケニル基、置換または非置換アルキニル基、置換または非置換アルカリール基、置換または非置換アラルキル基、置換または非置換のアリールまたはヘテロアリール基、ヒドロキシル基、チオール、チオエーテル、スルホン、スルホキシド、エーテル、エステル、アミド、アミン、ハロゲン、ケトン、アルデヒド、ニトリル、およびニトロ基からなる群から独立して選択され;
R4およびR5は、5~7員環の形成に必要な原子を示すことができる。
【請求項7】
化合物Aが式Iの化学構造を有する、請求項1に記載の方法。
【化3】
式中、
Mは、水素、一価カチオン性基、およびアシル基からなる群から選択され;
Qは、5員複素芳香環の形成に必要な原子を表す。
【請求項8】
化合物Aが式Iの化学構造を有する、請求項6に記載の方法。
【化4】
式中、
Mは、水素、一価カチオン性基、およびアシル基からなる群から選択され;
Qは、5員複素芳香環の形成に必要な原子を表す。
【請求項9】
式IのMが水素である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
Qは、イミダゾール;ベンズイミダゾール;チアゾール;ベンゾチアゾール;オキサゾール;ベンゾオキサゾール;1,2,3-トリアゾール;1,2,4-トリアゾール;オキサジアゾール;チアジアゾールおよびテトラゾールからなる群から選択される5員複素芳香環である、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
Qがテトラゾールである、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
化合物Aが、N,N-ジブチル-(2,5-ジヒドロ-5-チオキソ-1H-テトラゾール-1-イル-アセトアミド、5-ヘプチル-2-メルカプト-1,3,4-オキサジアゾール、1-フェニル-5-メルカプトテトラゾール、5-メチル-1,2,4-トリアゾロ-(1,5-a)プリミジン(primidine)-7-オール、およびS-[5-[(エトキシカルボニル)アミノ]-1,3,4-チアジアゾール-2-イル]O-エチルチオカーボネートからなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
化合物Aの量が、前記インク中の銀の重量に対して5重量%未満である、請求項6に記載の方法。
【請求項14】
銀インクが銀インクジェットインクである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記銀インクを塗布する前に、前記基材上に受容層を塗布する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記受容層が、0.5μmを超え20μm未満の粗さRaを有する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記銀インクが、2-フェノキシエタノール、プロピレンカーボネート、プロピレングリコール、n-ブタノール、および2-ピロリドンからなる群から選択される液体担体を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記インクジェットインクをプリントヘッドに装填する前に超音波で処理する、請求項14に記載の方法。
【国際調査報告】