(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-22
(54)【発明の名称】化学修飾ビーズを用いた小分子スクリーニング細胞アッセイ
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6811 20180101AFI20220615BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20220615BHJP
C12Q 1/6813 20180101ALI20220615BHJP
【FI】
C12Q1/6811 Z
C12Q1/02
C12Q1/6813 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2021549955
(86)(22)【出願日】2020-04-15
(85)【翻訳文提出日】2021-10-26
(86)【国際出願番号】 EP2020060616
(87)【国際公開番号】W WO2020212439
(87)【国際公開日】2020-10-22
(32)【優先日】2019-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512115852
【氏名又は名称】エフ.ホフマン-ラ ロッシュ アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110001346
【氏名又は名称】特許業務法人 松原・村木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ザッツ、アレクサンダー、リー
(72)【発明者】
【氏名】デルニク、グレゴール
(72)【発明者】
【氏名】ザンバルド、クラウディオ
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QA20
4B063QQ06
4B063QQ42
4B063QQ79
4B063QR32
4B063QR48
4B063QR55
4B063QR83
4B063QS24
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】
細胞標的(11)中の活性のための化学構造体(2)のDNAコード化ライブラリをスクリーニングする方法である。ライブラリの化学構造体(2)及び対応するコード化DNA(4)、並びに場合によっては、応答分子(12)に反応する化学プローブ(7、8、9)がビーズ(1)に共有結合している。前記方法は、細胞標的(11)を有するインキュベーション培地(13)又はそのアリコートと、1つ又は複数のビーズ(1)とを設けるステップと、構造連結子(3)を切り離すことにより、インキュベーション培地(13)又はそのアリコートにおいてビーズ(1)から化学構造体(2)を放出するステップと、放出された化学構造体(2)及び細胞標的(11)をインキュベートするステップと、ビーズ(1)に存在する又は残存しているコード化DNAを配列決定するステップとを有する。前記方法に適したビーズ(1)も提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞標的(11)中の活性のための化学構造体(2)のDNAコード化ライブラリをスクリーニングする方法であって、
前記細胞標的(11)は、活性化学構造体と接触したときに、応答分子(12)を放出すること又は当該放出を変化させることが知られており、
前記ライブラリの前記化学構造体(2)及びこれに対応するコード化DNA(4)並びに場合によっては、前記応答分子(12)に反応する化学プローブ(7、8、9)がビーズ(1)に共有結合しており、
各ビーズ(1)は、
a) 前記ライブラリにおける単一の化学構造体(2)の複数のインスタンスと、
b) 前記化学構造体(2)をコード化するDNA配列(4)の複数のインスタンスと
を有し、
前記化学構造体(2)の前記インスタンスのそれぞれは、構造連結子(3)を介して前記ビーズ(1)に共有結合しており、
前記構造連結子(3)は、切り離し可能な構造連結子部位(3a)で切り離し可能であり、
前記DNA配列(4)は、タグ連結子(5)を介して前記ビーズ(1)に共有結合しており、
前記タグ連結子(5)は、切り離し可能なタグ連結子部位(5a)を含むと共に、切断剤(6)により切り離し可能であり、
前記切り離し可能な構造連結子部位(3a)は、前記切り離し可能なタグ連結子部位(5a)を切断する反応条件下では切断可能ではなく、その逆も成立し、
前記タグ連結子(5)及び/若しくは前記切り離し可能なタグ連結子部位(5a)並びに/又は前記DNA配列(4)が前記応答分子(12)によって切り離し可能であり、
前記DNA配列(4)並びに/又は前記切り離し可能なタグ連結子部位(5a)及び/若しくは前記タグ連結子(5)が、前記応答分子(12)により切り離される場合、前記ビーズ(1)は、応答分子感受性の化学プローブ(7、8、9)を欠いていることが好ましく、
前記方法は、以下のステップ(i)、(ii)、(iii)を有し、
(i) 以下の(i-a)又は(1-b)の一方のステップを有し、
(i-a)個別の化学構造体(2)それぞれ及びアッセイされる個別の細胞標的(11)それぞれについて、前記細胞標的(11)を有するインキュベーション培地(13)と、前記個別の化学構造体(2)に結合された1つ又は複数の前記ビーズ(1)とを設けるステップと、
前記切り離し可能な構造連結子部位(3a)において前記構造連結子(3)を切り離すことにより、前記前記インキュベーション培地(13)において前記ビーズ(1)から前記化学構造体(2)を放出するステップと、
前記インキュベーション培地において、前記細胞標的(11)及び放出された前記化学構造体(2)をインキュベートするステップと
を有し、又は
(i-b)前記細胞標的(11)と、前記ライブラリの全ての前記化学構造体(2)に連結された全ての前記ビーズ(1)とを有する単一のインキュベーション培地(13)を設けるステップと、
前記インキュベーション培地から、1つ又は複数のビーズ(1)を有する複数のアリコートを区分するステップと、
前記切り離し可能な構造連結子部位(3a)において前記構造連結子(3)を切り離すことにより、前記アリコートそれぞれにおいて前記ビーズ(1)から前記化学構造体(2)を放出するステップと、
前記インキュベーション培地(13)の前記アリコートにおいて、前記細胞標的(11)及び放出された前記化学構造体(2)をインキュベートするステップと
を有し、
(ii) 前記DNA配列(4)並びに/又は前記切り離し可能なタグ連結子部位(5a)及び/若しくは前記タグ連結子(5)が前記応答分子(12)によって切り離し可能である場合、
(ii-a-1) 前記インキュベーション培地(13)又は前記アリコートは、前記ビーズ(1)からの前記コード化DNA配列(4)又はそのフラグメントの放出が監視され、前記放出が検出された場合、全てのビーズ(1)を全ての前記インキュベーション培地(13)又は全ての前記アリコートから分離して、分離した全ての前記ビーズ(1)をプールし、
(ii-a-2) プールされた前記ビーズ(1)における前記切り離し可能なタグ連結子部位(5a)は、前記切断剤(6)により切り離されて、前記コード化DNA配列(4)又はそのフラグメントを放出させ、
(ii-a-3) 放出された前記コード化DNA配列(4)又はそのフラグメントは、増幅されて配列決定されて、前記コード化DNAライブラリの中から完全な前記DNA配列を特定し、
(ii-a-4) 前記コード化DNAライブラリに含まれる完全なDNA配列のうち、前記ステップ(ii-a-3)において特定されなかった残りは、前記コード化DNAライブラリにおいて対応する化学構造体(2)に関連付けられ、
或いは、前記ビーズ(1)が前記応答分子感受性化学プローブ(7、8、9)を有する場合、
(ii-b-1) 前記インキュベーション培地(13)又はそのアリコートは、前記応答分子(12)に対する前記プローブ(7、8、9)の反応又は当該反応の変化が監視され、前記反応又はその変化が検出された場合、全てのビーズ(1)を全ての前記インキュベーション培地(13)又は全ての前記アリコートから分離してプールし、
(ii-b-2) 前記プローブの反応又は当該反応の変化を示したビーズ(1)は、プールから抽出され、
(ii-b-3) 前記プールから抽出された前記ビーズ(1)における前記切り離し可能なタグ連結子部位(5a)は、前記切断剤(6)により切り離されて、前記抽出されたビーズ(1)に共有結合された前記コード化DNA配列(4)を放出させ、
(ii-b-4) 放出された前記DNA配列(4)は、増幅及び配列決定され、
(ii-b-5) 前記ステップ(ii-b-3)で配列決定された前記DNA配列は、前記コード化DNAライブラリにおける対応する化学構造体(2)と関連付けられ、
(iii) ステップ(ii-a-4)又は(ii-b-5)で関連付けられた化学構造体(2)は、さらなる活性化学構造体として選択される
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
前記インキュベーション培地(13)又はそのアリコートは、以下の式(2)で定義される平均ビーズ集団λを有し、
【数1】
式(2)において、(k
m)iは、i番目のインキュベーション培地におけるビーズの数、又はインキュベーション培地のi番目のアリコートにおけるビーズの数を示す整数であり、
Mは、インキュベーション培地の数、又はインキュベーション培地におけるアリコートの数であり、
合計は、全てのM個のインキュベーション培地又はインキュベーション培地における全てのM個のアリコートに亘るものである
ことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法において、
前記タグ連結子(5)及び/若しくは前記切り離し可能なタグ連結子部位(5a)並びに/又は前記DNA配列(4)が前記応答分子(12)によって切り離し可能であり、
前記ステップ(ii-a-1)、(ii-a-2)、(ii-a-3)、(ii-a-4)が実行される
ことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法において、
前記細胞標的(11)は、活性化学構造体と接触した際に細胞死するものとして知られた原核細胞、特にバクテリアであり、前記応答分子(12)としてヌクレアーゼを放出し、
前記タグ連結子(5)及び/若しくは前記切り離し可能なタグ連結子部位(5a)並びに/又は前記DNA配列(4)が前記ヌクレアーゼによって切り離し可能である
ことを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の方法において、
前記ビーズ(1)は、前記応答分子(12)に反応し且つ前記ビーズ(1)に共有結合された化学プローブ(7、8、9)を含み、
前記ステップ(ii-b-1)、(ii-b-2)、(ii-b-3)、(ii-b-4)、(ii-b-5)が実行される
ことを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法において、
前記細胞標的(11)は、所望の細胞標的又は経路が適切な化学構造体(2)に接触した際、前記応答分子(12)が分泌された胚性アルカリホスファターゼ(SEAP)であるように変形された真核細胞であり、
前記化学プローブは、前記分泌された胚性アルカリホスファターゼに反応する
ことを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の方法において、
前記化学プローブ(7、8、9)は、前記蛍光体(7)と、蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)又は前記蛍光体(7)に対する接触消光により作用する消光剤(8)との組合せであり、
前記蛍光体(7)及び前記消光剤(8)は、前記応答分子(12)により切り離し可能なスペーサ(8)を介して互いに結合され、
前記ステップ(ii-b-1)において、前記インキュベーション培地(13)又はそのアリコートは、前記蛍光体(7)の蛍光に伴う前記応答分子(12)による前記スペーサ(9)の切り離しが監視される
ことを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の方法において、
前記切り離し可能なタグ連結子部位(5a)は、前記切断剤(6)としての制限エンドヌクレアーゼにより切り離し可能なヌクレオチド配列である
ことを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法において、
前記タグ連結子(5)は、-0-(CH2-CH2-0)n-の構造を有し、前記切り離し可能なタグ連結子部位(5a)の直ぐ近くに配置される二価のスペーサ(5b)を有し、
ここで、nは、5~10の整数であり、好ましくは8である
ことを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の方法において、
前記ビーズ(1)それぞれは、UV光により切り離し可能な構造連結子(3)を介して前記ビーズ(1)に結合された前記化学構造体(2)の前記複数のインスタンスを含む
ことを特徴とする方法。
【請求項11】
ビーズ(1)であって、
a) 有希ポリマー、特にポリスチレンのビーズコアと、
b) 単一の化学構造体(2)の複数のインスタンスであって、各インスタンスは、切り離し可能な構造連結子部位(3a)において切り離し可能な構造連結子(3)を介して前記ビーズと共有結合されたものと、
c) 前記単一の化学構造体(2)をコード化するDNA配列(4)の複数のインスタンスであって、各DNA配列(4)は、切断剤(6)により切り離し可能なタグ連結子部位(5a)を有するタグ連結子をー(5)を介して前記ビーズ(1)と共有結合されたものと、を有し、
前記タグ連結子(5)及び/若しくは前記切り離し可能なタグ連結子部位(5a)並びに/又は前記DNA配列(4)が応答分子(12)によって切り離し可能であり、
前記切り離し可能な構造連結子部位(3a)は、切断可能な構造連結子部位3aは、前記切り離し可能なタグ連結子部位(5a)を切断する反応条件下では切断可能ではなく、その逆も成立し、
前記ビーズ(1)は、前記応答分子(12)に対して感受性、開裂性及び/又は反応性を有する他の化学的部分を欠いていることが好ましく、
或いは、前記ビーズ(1)は、上記a)、b)及びc)を備える
ことを特徴とするビーズ。
【請求項12】
請求項11に記載のビーズにおいて、
前記応答分子(12)がヌクレアーゼである
ことを特徴とするビーズ。
【請求項13】
請求項11又は12に記載のビーズ(1)において、
前記切り離し可能なタグ連結子(5)は、前記切断剤(6)としての制限エンドヌクレアーゼにより切り離し可能なヌクレオチド配列を前記タグ連結子部位(5a)として有する
ことを特徴とするビーズ。
【請求項14】
請求項13に記載のビーズにおいて、
前記タグ連結子(5)は、-0-(CH2-CH2-0)n-の構造を有し、前記切り離し可能なタグ連結子部位(5a)の直ぐ近くに配置される二価のスペーサ(5b)を有し、
ここで、nは、5~10の整数であり、好ましくは8である
ことを特徴とするビーズ。
【請求項15】
請求項11~14のいずれか1項に記載のビーズ(1)において、
前記切り離し可能な構造連結子部位(3a)は、UV光により切り離し可能である
ことを特徴とするビーズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬学的に関心のある細胞標的の活性を変化させる際の潜在的効力のための小分子をスクリーニングするスクリーニングアッセイ、及びアッセイを実施する手段に関する。
【背景技術】
【0002】
薬学的に関心が向けられる多くの標的は、細胞状況において活性である。標的の活性を変化させる小分子を調査する場合、当該調査を細胞状況で行うことは有益であり、そのような場合には、大きな多様性を有する化合物のスクリーニングが含まれる。
【0003】
標的を調節する小分子に対するシステムの所望の反応の一つは、細胞からの分子の放出であり得る。これらの分子は、酵素、タンパク質、核酸又は代謝産物のような細胞のより小さい産物であり得る。分子の放出は、指示された放出によって又は単純な漏れによって生じ得る。スクリーニングの間、これらの放出された分子は、化合物の作用の手段として検出可能である。
【0004】
医薬産業において、細胞アッセイにおける小分子化合物のスクリーニングは、一般に、単一容器中の化合物及び細胞を組み合わせることによって達成される(Jones E, Michael S, Sittamparam GS, 「Basics of Assay Equipment and Instrumentation for High Throughput Screening」, 2012年5月1日(2016年4月2日更新)、 Sittampalam GS, Coussens NP, Brimacombe K他、「Assay Guidance Manual」(インターネット), ethesda (MD), Eli Lilly & Company and the National Center for Advancing Translational Sciences; 2004年)。従って、小分子は、細胞の外側若しくは細胞膜中で細胞分子に作用するか、又は細胞に入り、細胞内でその作用を実行することができる。そして、細胞の活性を調節する化合物の能力は、評価可能なアッセイの出力を監視することによって判断される。このアッセイの出力は、例えば酵素による基質の処理であってもよい。基質の処理は、蛍光信号を生成するものであってもよい。別の手段は、例えば、タンパク質標的への小分子の結合が、例えば蛍光の変化によって監視される場合である。
【0005】
多数の異なる小分子を、nウェルプレート(nは一般に、96、384又は1536)の形態のような微小区画を用いて標的の活性又は結合を調節する能力について質問(=スクリーニング)することができる。市販のマイクロプレートリーダは、プレート中の個々のウェルごとに、残りの基質(又は生成物の外観)を測定することにより各小分子の活性を測定するために一般的に使用されている。このようなアッセイを多数の微小区画に分割する別の公知の方法は、油中水型エマルジョンの形態でアッセイ試薬を含有する水滴の生成である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
マイクロプレートリーダを使用する場合、特に非常に多数のプレートを取り扱う場合、小分子プレートの長期保存のロジスティックスは困難である。さらに、マイクロプレート中の生成物の形成を評価するのに必要な時間は、小分子の数と共に直線的に増加し、このことは、数百万の小分子を調査する場合に問題となる(現在の技術を用いると、200万の分子の評価に10営業日程度かかる)(Brouzes E., Medkova M., Savenelli N., Marran D., Twardoski M., Hutchison J.B., Rothberg J.M., Link D.R., Perrimon N., Samuels M.L., PNAS 106, pp. 14195-14200((2009))。
【0007】
このようなアッセイは、有用であることが見出された化学化合物の構造が容易に判断されることを必要とする。この課題に対する解決策は、DNAコード化された化学ライブラリー(DEL:DNA encoded chemical library)の形態でスクリーニングされる化合物を提供することである(Brenner及びLerner, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:5381-5383((1992))。DELでは、各化合物は、その構造に対応する特有のDNA配列で予め連結(タグ付け)されている。従って、有用な化合物自体の構造を同定する必要はなく(この作業は構造に依存してもよく、また不可能であってもよい。)、対応するDNAタグのみを配列判定する必要があり、これはすべての有用な化合物と同一の標準的な手順である。
【0008】
しかしながら、このようなDELベースのアッセイは、DNAタグに関連付けられた化合物が、遊離化合物としてのアッセイにおいて同じように挙動しない可能性があるという問題から遅れている。WO2018/087539では、化合物及びそれに関連付けられたDNAタグをアッセイ前に切り離す(cleave)が、遊離化合物及びそれに関連付けられたDNAタグを「空間的関連付け」(spacial association)で残すことが示唆されている。
【0009】
ACS Chem. Biol. 13, pp. 761-771(2018)は、消光された蛍光プローブと、これに結合され、DNAタグを有する小分子とを有するシリカビーズを使用する小分子アッセイを開示している。このアッセイでは、ビーズは、それ自体がマイクロコンパートメントとして作用する細胞標的に浸透する。小分子は、光によって浸透ビーズから切り離される。細胞標的に致死的な任意の小分子は、浸透中のビーズにおいて、細胞標的のアポトーシスを引き起こし、カスパーゼ-3の放出を引き起こし、蛍光体から消光剤を除去する。このような蛍光細胞標的(且つ蛍光微小区画)は、フローサイトメトリーを用いて選別され、そこに含まれる任意のビーズのDNAが配列判定され、アポトーシスを引き起こした、対応する小分子が見出される。
【0010】
US5958703Aは、レポータ分子によって修飾可能なテザー(tether)を有する支持体、及び関連するスクリーニング処理を開示している。この公報は、修飾されたテザーを有する支持体を「分離」(isolate)する。従って、この公報は、修飾されたテザーで支持体を分離する前に全ての支持体をプールしない。
【0011】
WO2013/057188A1における化合物の放出は、化合物が「固体支持体/ビーズの内部に残留する」ようになされるか、若しくは「各化合物がその親の固体支持体の内側に物理的に配置される」ようになされるか、若しくは各化合物が"ビーズの内部"においてなされるか、又は「基質」が「支持体/ビーズ内」に吸収されることを許容するようになされる。そのため、この公報は、アッセイすべき化合物をインキュベーション媒体中に放出するのではなく、ビーズ内にそれらを保持する。従って、この公報が標的としている「物理化学的又は生物学的システム」は、可溶性種であり、細胞標的ではない。後者の場合、2つの不均一相(化合物含有ビーズ及び細胞標的)が存在する可能性があり、この不均一相は、それらの間の相互作用を排除する。
【0012】
ACS Com. Sci. 19, pp. 524-532(2017)は、油中水滴型アッセイの原理を記載している。DNAコード化ライブラリのビーズを液滴に封入し、試験アッセイでインキュベートする。インキュベーションアッセイにおいて陽性反応を示す任意の液滴(及び任意の陽性の微小区画)は、最初に選別され、そのような選別された液滴から分離されたビーズは、統計的に関連したヒットであるためにさらに検査される。
【0013】
ACS Com. Sci. 21, pp. 425-435(2019)にも、油中水滴型アッセイの原理が記載されている。DNAコード化ライブラリのビーズを液滴に封入し、オートタキシン阻害活性のスクリーニングアッセイでインキュベートする。このアッセイは、細胞標的ではなく、均一に溶解したオートタキシンを標的として使用する。この刊行物では、ヒットした液滴を最初に選別する。
図1は、蛍光検出を用いる「液滴選別接合(5)」を示す。
【0014】
ビーズを基にしたこれらの従来技術のアッセイでは、「陽性」の微小区画(マイクロウェル、液滴、細胞等)を最初に選択又は選別し、次いで、選別した微小区画に含まれる全てのビーズをプールし、それらのDNAタグを分析する。しかしながら、「陽性」の微少区画(マイクロコンパートメント)は、1つより多くのビーズを含んでいてもよく、通常、そのうちの1つのビーズのみがヒットビーズ(すなわち、活性小分子をもたらすビーズ)であり、他のビーズは非ヒットビーズである。前記刊行物は、これらの非ヒットビーズを「パッセンジャービーズ」(passenger beads)として同定し、このような非ヒットビーズの分離及び発見の程度を記述する「偽発見速度」の数学的表現を導出した。分離されたビーズが非ヒットビーズであることの確認は、2回目の試験においてのみ可能である。
【0015】
このような従来技術のアッセイにおいて、分離されたビーズがヒットビーズである確率Phは、以下に説明するように計算可能である。
【0016】
微少区画中のビーズ集団Pbは、以下のポアソン分布である。
【0017】
【0018】
式(1)において、kmは、対象となっている微少区画中のビーズの数(0、1、2、、、)である。kmは、上限閾値K(ビーズの体積及び微小区画の容積に依存し、その体積の再現性に依存する)を超えることができない。例えば、微小区画に含まれる全てのビーズの全体積を、微小区画自体の容積よりも大きくすることは不可能である。微小区画の容積が可変であり、無限大とする場合、上限閾値Kは無限大に向かい得る。しかしながら、マイクロウェル又は液滴のような実際の微小区画は、非常に小さく、容積において非常に良好に再現可能である。従って、実際の微小区画のためには、Kは典型的には10未満である。微小区画の容積及びKを減少させることは、λを低くするための一般的な方法の一つである。微小区画の平均ビーズ集団λは、最大可能なビーズ集団Kよりも小さくなければならない。λは、微少区画の平均ビーズ集団であり、式(2)で定義される。
【0019】
【0020】
式(2)において、Mは全ての微小区画の数であり、合計は全てのM個の微小区画の範囲に亘る。前記Pbは、所与の微小区画が実際に(km)ビーズを含有しない確率である。この種のビーズ分布は、ビーズ集団を微小区画に分割する全ての既知の装置で得られる。
【0021】
所与の微小区画の前記kmビーズ内にkpのヒットビーズが実際に存在する確率Ppは、以下の式(4)として超幾何学的に分布する。
【0022】
【0023】
式(4)において、Nは、DNAコード化ライブラリ中の個々の化学構造体の数である。rは、いわゆる「ライブラリヒット率」(対象のアッセイにおける「活性」化学構造体であるライブラリ化合物の割合(ゼロに近い不明の数))である。εは、いわゆる「ライブラリ等価」(ビーズと、これにリンクしたライブラリの同じ化学構造体を有するビーズの数)である。kpは、ヒットビーズの数である。kmは上記で定義した通りである。ここでは、εN、rεN、ε(1-r)Nは整数である、或いは、整数に丸められた数であることを前提としている。
【0024】
所与の微小区画がkmのビーズを含み、正確にkpのビーズが、細胞標的とのインキュベーション後に、ヒットビーズとなる(これらの事象は互いに独立している)確率Pは、次の式(5)の通りである。
【0025】
【0026】
先行技術の処理では、微小区画に関連付けられたkpが0より大きい場合(従って、少なくとも1つのヒットビーズを含む場合)、インキュベートされた微小区画を「陽性」として認識した。このような「陽性」の微少区画も、0より大きいkmを有していた。 全てのこのような「陽性」の微少区画から得られた全てのビーズ(ヒットビーズ及び非ヒットビーズ)の量Btotは、以下の式(6)で示される。
【0027】
【0028】
式(6)において、kpの和は、微少区画におけるヒットビーズの全ての可能な数に亘り、微少区画内のビーズの総数kmまでの範囲を取り得る。kmの和は、一つの微小区画が含有可能な最大ビーズ数である上限閾値Kまで亘る。式(6)では、所与の微少区画が有するビーズに関する1つの数km又は別の数km’は、相互に排他的な事象であり、所与の数kmのビーズを有する所与の微小区画が、1つの数kp又は別の数kp’のヒットビーズを含むことも、相互に排他的な事象であることを前提としている。
【0029】
全てのこのような「陽性」の微少区画から得られるヒットビーズの量Bhは、式(7)で定義される。
【0030】
【0031】
式(7)において、全ての記号及び説明は上記の通りである。式(7)は、式(6)について上述したような相互排他性に関する同一の前提を伴う。
【0032】
上述のPhは、式(8)で定義される。
【0033】
【0034】
式(8)の分子におけるkpが、分母における対応するkmより小さいため、このPhは1より小さい。Phは、λが増加するにつれて小さくなる。なぜならば、式(8)の分母におけるλ多項式は、分子内のλ多項式よりもλの増加に伴って速く増加するため、及び、上記のように、kpは、対応するkmよりも小さいためである。しかしながら、Phはλ=0のとき最大である。すなわち、これらの従来技術の処理は、微小区画における実用的に実現不可能な平均ビーズ集団λでの非ヒットビーズの誤発見の程度が最も低い。実用的に実現可能な平均ビーズ集団は、0より大きいλを有する(1つ又は複数のビーズを含有する微少区画が存在すべきである。)。
【0035】
従って、従来技術の処理は、非ヒットビーズの誤発見の最小化及び分析と、実用的に実現可能な微小区画のビーズ集団との両方同時に最適とはならない。すなわち、一方は、他方に対してトレードオフの関係にある。
【0036】
本発明は、上記の課題を解決しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0037】
本発明は、以下のようなものである。
1.細胞標的中の活性のための化学構造体のDNAコード化ライブラリをスクリーニングする方法であって、
前記細胞標的は、活性化学構造体と接触したときに、応答分子を放出すること又は当該放出を変化させることが知られており、
ライブラリの化学構造体及びこれに対応するコード化DNA並びに場合によっては、応答分子に反応する化学プローブがビーズに共有結合しており、
各ビーズは、
a) 前記ライブラリの単一の化学構造体の複数のインスタンスと、
b) 前記化学構造体をコード化するDNA配列の複数のインスタンスと
を有し、
前記化学構造体の前記インスタンスのそれぞれは、構造連結子を介して前記ビーズに共有結合しており、
前記構造連結子は、切り離し可能な構造連結子部位で切り離し可能であり、
前記DNA配列は、タグ連結子を介して前記ビーズに共有結合しており、
前記タグ連結子は、切り離し可能なタグ連結子部位を含むと共に、切断剤により切り離し可能であり、
c) 前記切り離し可能な構造連結子部位は、前記切り離し可能なタグ連結子部位を切り離す反応条件下では切り離し可能ではなく、その逆も成立し、
前記タグ連結子及び/若しくは前記切り離し可能なタグ連結子部位並びに/又は前記DNA配列が前記応答分子によって切り離し可能であってもよく、
前記DNA配列並びに/又は前記切り離し可能なタグ連結子部位及び/若しくは前記タグ連結子が、前記応答分子により切り離し可能である場合、前記ビーズは、応答分子感受性の化学プローブを欠いていることが好ましく、
前記方法は、以下のステップ(i)、(ii)、(iii)を有し、
(i) 以下の(i-a)又は(1-b)の一方のステップを有し、
(i-a)個別の化学構造体それぞれ及びアッセイされる個別の細胞標的それぞれについて、前記細胞標的を有するインキュベーション培地と、前記個別の化学構造体に結合された1つ又は複数の前記ビーズとを設けるステップと、
前記切り離し可能な構造連結子部位において前記構造連結子を切り離すことにより、前記インキュベーション培地において前記ビーズから前記化学構造体を放出するステップと、
前記インキュベーション培地において、前記細胞標的及び放出された前記化学構造体をインキュベートするステップと、
を有し、又は、
(i-b)前記細胞標的と、前記ライブラリの全ての前記化学構造体に連結された全ての前記ビーズとを有する単一のインキュベーション培地を設けるステップと、
前記インキュベーション培地から、1つ又は複数のビーズを有する複数のアリコートを区分するステップと、
前記切り離し可能な構造連結子部位において前記構造連結子を切り離すことにより、前記アリコートそれぞれにおいて前記ビーズから前記化学構造体を放出するステップと、
前記インキュベーション培地のアリコートにおいて、前記細胞標的及び放出された前記化学構造体をインキュベートするステップと
を有し、
(ii) 前記コード化DNA配列並びに/又は前記切り離し可能なタグ連結子部位及び/若しくは前記タグ連結子が応答分子によって切り離し可能である場合、
(ii-a-1) 前記インキュベーション培地又は前記アリコートは、前記ビーズからの前記コード化DNA配列又はそのフラグメントの放出が監視され、
前記放出が検出された場合、全てのビーズを全ての前記インキュベーション培地又は全ての前記アリコートから分離して、分離した全ての前記ビーズをプールし、
(ii-a-2) プールされた前記ビーズにおける前記切り離し可能なタグ連結子部位は、前記切断剤により切り離されて、前記コード化DNA配列又はそのフラグメントを放出させ、
(ii-a-3) 放出された前記コード化DNA配列又はそのフラグメントは、増幅されて配列決定されて、前記コード化DNAライブラリの中から完全な前記DNA配列を特定し、
(ii-a-4) 前記コード化DNAライブラリに含まれる完全なDNA配列のうち、前記ステップ(ii-a-3)において特定されなかった残りは、前記コード化DNAライブラリにおいて対応する化学構造体に関連付けられ、
或いは、前記ビーズが前記応答分子感受性化学プローブを有する場合、
(ii-b-1) 前記インキュベーション培地又はそのアリコートは、前記応答分子に対する前記プローブの反応又は当該反応の変化が監視され、
前記反応又はその変化が検出された場合、全てのビーズを全ての前記インキュベーション培地又は全ての前記アリコートから分離してプールし、
(ii-b-2) 前記プローブの反応又は当該反応の変化を示したビーズは、プールから抽出され、
(ii-b-3) 前記プールから抽出された前記ビーズにおける前記切り離し可能なタグ連結子部位は、前記切断剤により切り離されて、前記抽出されたビーズに共有結合された前記コード化DNA配列を放出させ、
(ii-b-4) 放出された前記DNA配列は、増幅及び配列決定され、
(ii-b-5) 前記ステップ(ii-b-3)で配列決定された前記DNA配列は、前記コード化DNAライブラリにおける対応する化学構造体と関連付けられ、
(iii) ステップ(ii-a-4)又は(ii-b-5)で関連付けられた化学構造体は、さらなる活性化学構造体として選択される。
【0038】
本方法の好適な実施形態は、従属請求項に係るものである。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】本発明に係る処理に適すると共に、本発明の一部を形成するビーズの概略図である。
【
図2】本発明に係る処理に適する別のビーズの概略図である。
【
図3】前記ビーズ及び細胞標的を含むインキュベーション培地の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
従来技術の処理とは対照的に、本発明に係る処理は、全てのアッセイ区画(「陽性」か否かにかかわらない)の全てのインキュベーション培地又はそのアリコートから全てのビーズ(ヒットビーズ又は非ヒットビーズにかかわらない)を分離してプールする。次いでプールされたビーズ中のヒットビーズを同定する。本発明に係る処理では、選別されたビーズのPhは個別のものであり、微少区画に存在する平均ビーズ集団λから独立している。本発明に係る処理では、プローブ反応に基づいて又はDNA配列判定に基づいて、より多くのビーズを同定しなければならないことは問題ではない。前者については、非常に強力な選別を行う自動選別ツール(例えば、蛍光プローブの場合にはFACS)が存在し、後者については、例えば、自動化された次世代配列シーケンシング(NGS)が存在する。さらに、ヒットビーズのためのビーズプールの一部のみを検査する可能性がある。そのようなビーズプールの一部は、aであってもよい。その代表的部分(例えば、ライブラリ中に存在する化学構造体の数であるビーズの数は、先に述べた定義の「ライブラリ等価」εを乗じたものであり、ここで、εは、典型的には1~100、好ましくは5~50である。
【0041】
最初に全てのビーズをプールし、次いで、ヒットビーズを選別することによる1つの有利な効果を、以下の4つの段落で説明する。
【0042】
先に述べた先行技術の処理では、最初に、ヒットした微小区画(例えばヒットした液滴)を選別する。従って、全ての微小区画(ビーズを含むもの及び含まないもの)は、ソータにより活性について試験する必要がある。Bhのヒットビーズを得ることが想定される場合には、従来技術の処理において活性について試験されなければならない微少区画の数Mpriorartは、上記式(7)を使用する。
【0043】
【0044】
本発明に係る方法は、最初に、全ての微小区画(インキュベーション培地又はそのアリコート)から全てのビーズ(ヒットビーズ及び非ヒットビーズ)を分離及びプールし、次いで、ヒットビーズを選別する。ビーズの分離及びプールに用いられる必要な微少区画の数は、Minventionである。分離及びプールされたビーズ(ヒットビーズ及び非ヒットビーズ)の数は、λMinventionである。ここで、λは、微少区画の上記平均ビーズ集団であり、上記式(2)に従って計算される。次に、プールからのヒットビーズの選別により、ヒットビーズの数rλMinventionが与えられる。ここで、rは、上述の"ライブラリヒット率"である。このヒットビーズの数は、上記従来技術の処理と比較する目的で、Bhが割り当てられる。従って、以下の式(10)が得られる。
【0045】
【0046】
式(9)と式(10)を比較すると、以下の条件において、所望のヒットビーズの数Bhを得るためには、本発明に係る処理で必要とされる微少区画の数Minventionは、従来技術の処理で必要とされる微少区画の数Mpriorartよりも小さくなる。
【0047】
【0048】
上限閾値Kを1と仮定すると、上記の不等式から以下の式が得られる。
e-λ < 1
この式は、N、ε、rに依存せず、λ>0を満たすあらゆるλについて満たされる。
既に述べたように、λはKよりも小さくなければならない。K=1の場合、λのための有用な範囲は、0<λ<1であり、この場合、本発明に係る処理は、所与のヒットビーズの数Bhを得るために、必要とされる微少区画の数について、先行技術の処理よりも効率がよい。
【0049】
従って、本発明に係る処理の好ましい実施形態は、以下の通りである。
1a) ステップ(1-a)において、インキュベーション培地は、その中に含まれ得るビーズの数に関し、値が1である上限閾値Kを有する。すなわち、インキュベーション培地は、1より多いビーズを含有することが許されない。或いは、1b) ステップ(1-b)において、インキュベーション培地からの各アリコートは、その中に含まれ得るビーズの数に関し、値が1である上限閾値Kを有する。すなわち、各アリコートは、1より多いビーズを含有することが許されない。さらに、2)平均ビーズ集団λは、次の式(2)のように定義され、0よりも大きく且つ1.0よりも小さい。
【0050】
【0051】
式(2)において、(km)iは、i番目のインキュベーション培地におけるビーズの数、又はインキュベーション培地のi番目のアリコートにおけるビーズの数を示す整数である。Mは、インキュベーション培地の数、又はインキュベーション培地におけるアリコートの数である。合計は、全てのインキュベーション培地又はインキュベーション培地における全てのアリコートに亘る。
【0052】
K=1という上記要件は、適度な小容積を有するマイクロウェルのような固い(rigid)微小区画により容易に実現される。そのような硬さは、そのようなkを強制するためである。液滴のような柔らかい微小区画の場合、ビーズを有する液滴は、K=1を確保するように十分に小さい容積で直ちに生成されてもよい。それとは別に又はそれに加えて、液滴は、ACS Comb. Sci. 21, pp. 425-435((2019)で使用されている「液滴分配器」(droplet splitter)によって、容積をさらに小さくしてもよい。
【0053】
図1、
図2及び
図3を参照すると、上記の問題に対する解決手段は、切り離し可能な(又は切断可能な、若しくは開裂可能な)構造連結子3(cleavable structure linker)を介して、化学構造体2の形態の小分子をビーズ1に連結することで、小分子をビーズ1に関連付けることによって提供される。構造連結子3は、切り離し可能な構造連結子部位3aを含む。さらに、ビーズ1は、ビーズ1にタグ連結子5(tag linker)を介して連結されたDNAバーコード4を含む。タグ連結子5は、切り離し可能なタグ連結子部位5a(
図1)を含み、タグ連結子部位5aは、切断剤(開裂剤)により切り離し可能である。本発明に係るスクリーニング方法において、切断可能なタグ連結子部位5aは、細胞標的のインキュベーション後及びビーズの分離及びプール後に使用されるものであり、全てのDNAバーコード4をビーズ1から切断し、それにより、それらの配列決定及びライブラリの対応する化学構造体との相関を可能にする。
図1の実施形態において、タグ連結子5及び/若しくは切断可能なタグ連結子部位5a並びに/又はコード化DNA4は、インキュベーションの間に生成された応答分子12によって切断可能であると想定され、従って、ビーズ1は、(その後不要な)プローブを欠いている。或いは、タグ連結子5、切断可能なタグ連結子部位5a、コード化DNA4のいずれも応答分子12によって切断可能でない場合、
図2の実施形態に示すように、ビーズ1はさらに、ビーズ1にスペーサ10を介して連結された化学プローブ7、8、9を含む。ここで、
図2に示すように、化学プローブ7、8、9は、発蛍光団7と、発蛍光団7の消光剤8とからなり、発蛍光団7及び消光剤8は、応答分子を開裂可能なスペーサ9上で一緒に連結されていることが好ましい。
図3において、細胞標的11は、試験区画内で、ビーズ1と共にインキュベーション培地13又はそのアリコート中に結合又は共封入される。また、切断可能な構造連結子部位3aを切断することにより、化学構造体2はビーズ1から放出される。応答分子に対する化学プローブの反応(
図2)又は開裂されていない形態のタグ連結子の持続性(いずれも
図3では示されていないが、ビーズ1に連結されているため、黙示的に想定されている)のいずれかは、培養培地13又はそのアリコート中の細胞標的11によって放出される(又は異なるレベルで放出される)応答分子12の存在及び/又は活性を記録する。
図3は、本発明の好ましい実施形態である、区画内の1つのビーズ1のみを示しているが、各々が同じ化学構造体を有する複数のビーズであってもよい。同様に、図示されている単一の細胞標的11の代わりに、複数の細胞標的11が存在してもよい。
【0054】
本発明に係るスクリーニング処理は、ライブラリの化学構造体、対応するDNAバーコード、及び必要に応じて応答分子用プローブで修飾されたビーズを使用する。本発明の目的のために、任意のタイプの粒状物質、固体又はゲル状物質を、当該物質が下記を満たす場合、「ビーズ」として使用可能である。
a) 当該物質が、本発明に係るスクリーニング処理が実施されるインキュベーション培地に対して(特に水性媒体において)不活性であること(ここで、「不活性」は、物質がインキュベーション培地と反応せず、実質的にその中に不溶であることを意味する。)、及び
b) 当該物質が、化学構造体、化学プローブ及びDNAバーコードをそれぞれの連結子を介してビーズの表面に共有結合させる化学反応性部分を含む粒子表面を有すること。
【0055】
前記化学反応性部分が主にヒドロキシルである場合、ビーズのバルクは、無機粒状物質(例えば、シリカ又はアルミナ)であってもよい。別の好適な実施態様では、ビーズのバルクは、有機ポリマー(特にポリスチレン)であり、化学反応性部分の導入によって表面が修飾されていてもよい。市販されている修飾された表面を有する市販の多くのそのような有機ビーズ材料(例えば、Rapp PolymereによりTenagel (登録商標)の商品名で市販されているビーズ)が存在する。これらのビーズは、典型的には、0.1~0.5mmol/gのビーズの範囲の化学反応性部分の表面を含んでもよい。ビーズは、略球状であることが好ましく、また、50μm~500μmの範囲の平均直径を有することが好ましい。これらのビーズは、化学反応性部分で修飾された表面を有するものでさえ、従来のものである。
【0056】
本明細書で使用される用語「化学構造体」(chemical structure)は、遊離形態又はビーズに結合したその誘導体のいずれかの小分子を意味し、それによって当該用語が使用される文脈から、2つの意味のうちいずれかが適用されることは明らかであろう。
【0057】
本発明に係るスクリーニング処理は、最初にビーズから化学構造体を切り離し、その結果、遊離のDNA-タグレス化学構造体が細胞標的に浸透する。一旦、細胞標的に浸透したら、化学構造体は、細胞標的中に存在する任意の系に対する相互作用、反応、干渉、促進又は阻害をすることができる。そのような系は、例えば、細胞分化、転写、翻訳、呼吸、膜構造、及び有糸分裂に関与する任意の種類の系又は受容体であってもよい。
【0058】
化学構造体をビーズに連結する構造連結子は、一方の側でビーズ表面に結合し、他方の側で化学構造体に結合した任意の有機2価の基であってもよい。構造連結子が切断可能な構造連結子部位を含むことで、インキュベーション培地中のビーズから化学構造体を放出することを可能にする。開裂可能な構造連結子部位は、化学構造体に直ぐ近傍に配置され、その結果、切断されると、化学構造体は、構造連結子から残存する残基がほとんど含まれていないことが好ましい。
【0059】
そのような切断可能な構造連結子部位の好ましい例は、以下の表1中にある(*は、構造連結子の残りに連結されることが好ましい価数を示し、**は、化学構造体に直接連結されることが好ましい価数を示す。)。
【0060】
【0061】
これらの切断可能な構造連結子部位自体は、従来からあるものであり、資料において多くの例が存在する。
【0062】
本発明に係るスクリーニング処理で使用されるビーズは、まず、開裂可能な構造連結子を介してビーズ表面に共有結合したライブラリの化学構造体を有する。化学構造体は、合成手段によって生成される性質、又は転写のような(修飾された)生物学的活性により見出される任意の化学化合物とすることができる。化学構造体の分子量は、例えば、数百ダルトンから数千又は数万ダルトンの範囲とすることができる。
【0063】
スクリーニングライブラリの一部を形成可能な化学構造体の好ましい例は、下記a)~d)の全てを満たす任意の薬学的に許容される化学化合物である。
a) 当該化学化合物は、水素原子を最大5個含有し、これらの水素原子は、水素結合に関与することができるものであり、ヒドロキシ(そのような水素原子を1つ提供する)及び1級アミノ基(そのような水素原子を2つ提供する)並びに2級アミノ基(そのような水素原子を1つ提供する)から誘導される。
b) 当該化学化合物は、水素結合受容体(水素結合に関与することができる孤立電子対を含む部分)として作用することができる酸素原子及び窒素原子を最大10個含有する。
c) 当該化学化合物の分子量は、最大500ダルトンである。
d) オクタノール/水分配係数の負の常用対数(-log (Cn-octanol/Cwater)は、最大+5であり、好ましくは、-0.4~+5の範囲である。ここで、Cn-octanolは、n-オクタノール中の化合物のモル濃度である。Cwaterは、水中における化合物のモル濃度である。化合物のn-オクタノール溶液と化合物の水溶液は互いに接触しており、25℃での熱力学的平衡状態となる。上記条件を満たす化合物は、通常、「5化合物の規則」として定義される。
【0064】
好ましくは、本発明に係るスクリーニング処理は、ビーズに連結される候補としての化学構造体に関する公知のライブラリに依存してもよい。公知のライブラリのレビューは、J. Med. Che. 59, pp. 6629-6644(2016)の表1に示されている。ビーズを採用するインスタント処理における化学構造体として使用するためには、この刊行物の表1に示されるように、アミノ基を介して化学構造体に直接結合されたDNAタグは、切断可能な構造連結子及びそれに連結されたビーズによって置換される(詳細は、本明細書で記載する。)。さらに、本明細書に記載の分割及びプール方法は、化学構造体及び関連するDNAタグセグメントのセグメント及びビルディングブロックを同時に構築するために使用される。
【0065】
ビーズには、「複数」のそのような化学構造体が連結されている。この複数の数は、化学構造体が単一のビーズから一旦放出されると、細胞標的から応答分子が検出可能に放出することを確保するように、インキュベーション培地において、数が十分であるか、又は濃度が十分に高くなるように十分に大きくなければならない。この「複数」は、ビーズの表面上に存在する反応性部位の数によって制限される。ビーズの全ての反応性部位が化学構造体に連結されていても、細胞標的からの応答分子の検出可能な放出を得ることができない場合、その化学構造体は、意図された目的のためには無効であることが推測され、アッセイからは除かれ得る。さらに、「複数」の化学構造体体は、化学反応性部分を有するビーズの上記表面に基づいて、0.001~0.01モル当量の範囲とすることができる。
【0066】
本発明の処理で使用されるビーズは、第二に、ビーズ表面にタグ連結子を介して共有結合したコード化DNAを有する。上記の通り、タグ連結子は、切断可能なタグ連結子部位を含み、細胞標的を伴うビーズのインキュベーション、ビーズの分離及びプールの後に、当該タグ連結子部位が、ビーズからDNAバーコードを放出可能である場合、タグ連結子は、任意の適切な有機二価連結子であってもよい。それらの単離及びそれらのプーリングを可能にする切断可能なタグ連結子部位及びそれに関連付けられた切断剤の例は、切断可能な構造連結子部位及びその関連する切断剤について上記したようなものとすることができ、好ましくはヌクレオチド配列である。より好ましくは、切断可能なタグ連結子部位は、切断剤としての制限エンドヌクレアーゼによって切断可能なヌクレオチド配列であり、その場合、ヌクレオチド配列は、その制限エンドヌクレアーゼの認識部位を含む。適した制限エンドヌクレアーゼ及びそれらに関連付けられた認識部位の数多くの例は、文献により公知である。例えば、WO2010/94036A1の表2の第2列には、分類された制限エンドヌクレアーゼ及びそれらに関連付けられた認識部位及び切断部位が開示されている。開裂剤として最も好ましい制限エンドヌクレアーゼは、Stu 1である。
【0067】
制限エンドヌクレアーゼによって切断可能な切断可能なタグ連結子部位の場合、タグ連結子は、5~10のエチレングリコール単位長(好ましくは8のエチレングリコール単位長)を有し且つ切断可能なタグ連結子部位に直ぐ近くに位置するPEG2価スペーサも含むことがさらに好ましい。これは、制限エンドヌクレアーゼによる認識部位の開裂に有利であり得る。
【0068】
開裂可能な構造連結子部位は、コード化DNAの直ぐ近傍に配置され、その結果、切断されると、コード化DNAは、構造連結子から残存する残基がほとんど含まれていないことが好ましい。好ましくは、タグ連結子自体は、いわゆる「クリック化学」反応("click chemistry" reactions)によって構築される。
【0069】
タグ連結子、開裂可能なタグ連結子部位及びDNAバーコードの上記の好ましい変形例は、タグ連結子の一部を形成するPEGスペーサを伴ってもよく、また、切断可能なタグ連結子部位の直ぐ近くに配置されてもよく、さらに、以下の合成スキームに従って構成されることが好ましい。
【0070】
【0071】
このスキームでは、Fmoc-PEG誘導体は、例えば、JenKem(米国)、Abbexa(英国)又はIris Biotech(ドイツ)から市販されている。ここで、nは、5~10であり、好ましくは8である。mは、0又は1であり、kは0~2である。好ましくは、m及びkは0であり、或いは、mは0であり且つkは0より大きい。C6アミノ末端デオキシチミジン(dT)誘導体は、例えば、GeneLink(米国)から市販されている。その後、Fmoc保護アミン部分を脱保護し、既にビーズに連結されたDNAタグ連結子に遊離アミンを連結してもよいし、或いはカルボキシル表面官能性を有するビーズに遊離アミンを直接連結してもよく、この場合、PEG連結子自体がDNAタグ連結子を形成することとなろう。X及び/又はYとしての1つ又は2つのオリゴは、DNAセグメントをさらにコード化する本明細書に記載されている分割及びプールの方法において、連続的に連結可能なヘッドピースDNAとして作用可能である。XとYの両方がDNAオリゴである場合、これをその後に用いて、ヘアピンDNAの形態のDNAタグを構築することができる。開裂可能なタグ連結子部位は、例えば、デオキシチミジン部分の近くの二重結合を、アルカリ性過酸化水素を使用してビシナルジオールに変換することによって形成可能であり、次いで、これは、Nal04によって切断可能なタグ連結子部位となり得る(上記表1を参照)。或いは、X及び/又はYとしてのオリゴは、上記のように、切断可能なタグ連結子部位として制限エンドヌクレアーゼ認識部位を含んでもよい。
【0072】
本発明に係る処理及び本発明に係るビーズについて、切断可能な構造連結子部位及び切断可能なタグ連結子部位は、反応性において「直交」(orthigonal)である。すなわち、切断可能な構造連結子部位は、切断可能なタグ連結子部位を切断する反応条件下で切断可能ではなく、その逆も同様である。
【0073】
タグ連結子及び/若しくは切断可能タグ連結子部位並びに/又はコード化DNAは、インキュベーションの間に生成された応答分子によって切断可能であってもよく、この場合、化学プローブは不要である。また、切断可能なタグ連結子部位自体は、まず開裂剤によって、さらに任意に応答分子によって開裂可能である。ここで、開裂剤及び応答分子は、異なっていてもよいし、或いは、同じであってもよく、好ましくは異なっている。
【0074】
コード化DNAそれ自体は、ヘアピンDNAであることが好ましい。これにより、それ自体が二本鎖を構成するので、単一のDNA鎖のみから完全な二本鎖DNAを構築可能となる。従って、1つのコード化DNA配列のみの構築が必要である。コード化DNAは、コード化される化学構造体に特徴的な実際のコード配列特の他に、さらに前及び/又は後の配列を含んでもよい。これらの配列は、コード化DNAをビーズに連結する際に、及び/又は切断可能なタグ連結子部位でタグ連結子を開裂する際に、必要又は有益となり得る。これらのさらなる前及び/又は後の配列は、典型的には、全てのコード化DNAインスタンスについて同一である。
【0075】
ビーズは、「複数」のそのようなコード化DNAインスタンスを有する。この複数は、単一ビーズからのコード化DNAインスタンスが増幅(例えば、PCRによる)及びその後の配列決定を可能にするのに数の点で十分な大きさでなければならない。
さらに、「複数」のコード化DNAインスタンスは、化学反応性部分を有するビーズの上記表面に基づいて、0.001~0.01モル当量の範囲とすることができる。
【0076】
本発明で使用されるビーズは、応答分子に反応し且つビーズに連結された化学プローブを含んでもよい。化学プローブは、放出された応答分子の基質であってもよい。この基質は、放出された物質及び適切な添加剤とのインキュベーション後にビーズが蛍光を発するように(又は蛍光を停止するように)、酵素、タンパク質又は分子であってもよい。これとは別に(或いはこれに加えて)、放出された酵素は、増幅又はハイブリダイゼーションによる検出が変調されるように、ビーズに結合したDNAバーコードを分解又は変化させてもよい。プローブは、レポータ分子を含む化学的インジケータを含んでもよい。化学的インジケータは、例えば、比色(すなわち、応答分子と、可視範囲の光を吸収するプローブとの間の着色された反応生成物の結果)、蛍光(例えば、応答分子及びプローブを、特定の波長の光によって励起されたときに蛍光を発する反応生成物に変換する酵素に基づく)並びに/又は発光(例えば、生物発光、化学発光及び/若しくはフォトルミネセンスに基づく)であってもよい。好ましくは、プローブは、応答分子と接触したときに蛍光により反応し、従って、蛍光団又は蛍光団と関連付けられた消光剤との組み合わせである。応答分子は、蛍光団から消光剤を切断する。しかしながら、化学プローブは、応答分子によって切断可能であるタグ連結子をビーズが含まない場合にのみ存在する。
【0077】
プローブをビーズに連結するスペーサは、構造連結子及び/又はタグ連結子について上述したようなものであってもよい。
【0078】
細胞標的は、好ましくは原核細胞又は真核細胞である。原核細胞のより好ましい例は、グラム陽性バクテリア、グラム陽性コッカス、グラム陰性コッカス及びグラム陰性バクテリアである。真核細胞のより好ましい例は、真菌細胞及び動物細胞、特にヒト細胞である。細胞標的は、細胞標的の外部から細胞媒体中に浸透する化学構造体と相互作用し易いタンパク質、受容体又は他の種を含む。その相互作用に続いて、応答分子の生成を開始する、若しくは応答分子の生成を増加させる、又は応答分子の生成を低下若しくは中断させることも可能である。
【0079】
本発明に係るスクリーニング処理で使用されるビーズは、公知の化学に従って、コードDNAをタグ連結子に直接結合させ、化学構造体を連結子及びビーズに結合させることによって合成される。
【0080】
或いは、コード化DNA及び化学構造体は、例えば分割及びプール合成によって、ビーズ上に直接的に且つ段階的に合成してもよい。この変形例では、最初に「足場」(scaffold)(試験すべきライブラリの全ての小分子に共通の化学的コア構造)が、上記のような開裂可能な連結子を介してビーズに連結され、さらにコードDNAを含まないタグ連結子もビーズに結合される。足場は、典型的には、典型的には1~3個の多様性部位のような多様性部位のセットを含むリング含有構造である。そのような多様性部位の各々は、種々の異なる置換基が1つの合成経路上で連結可能な官能基である。多様な部位の反応性は、複数の多様性部位が存在する場合には、「直交」(orthogonal)である。すなわち、一方の多様性部位は、その特定の反応条件下で、他の多様な部位に影響を及ぼすことなく、その特定の反応条件の下で反応することができる。他方の多様性部位は、前記一方の多様性部位とは異なる反応条件下でのみ反応性がある。このように導入された足場を含むビーズバッチは、化学ライブラリ中に第1の置換基があるので、多くのサブバッチに分割され、各サブバッチは、そのような第1の置換基の1つで修飾され、同時に又はそれに続いて、関連付けられた第1のコード化DNA増分がタグ連結子に添加される。次いで、サブバッチは、単一のバッチに再プールされる。ライブラリの更なる置換基に等しい数のサブバッチへの再分割と、T4リガーゼのような通常のリガーゼの使用による、さらなる置換基と、既にビーズに結合されているDNAタグへのさらなる関連付けられたコード化DNA増加分との連結と、再プールとが繰り返される。当該繰り返しは、足場に連結されるさらなる置換基が存在する限り、できるだけ多い回数で行われる。すなわち、足場における全ての多様性部位が化学ライブラリのそれぞれの置換基によって修飾されるまで行われる。
【0081】
足場のための多様性部位の例は、以下の表2に従う(*は、足場に対する多様性部位の可能な連結点を示す)。
【0082】
【0083】
上記の多様性部位及び反応は、同じ分子又は反応媒体中に存在するDNA部分と相溶性であることが知られており、従って、コード化DNAの存在下で修飾可能である(Satz, A.L., Cai, J., Chen, Y., Goodnow, R., Gruber, F., Kowalczyk, A., Petersen, A., Naderi-Oboodi, G., Orzechowsky, L., Strebel, Q., Bioconjugate Chemistry 26, pp.1623 ff.(2015)参照)。
【0084】
本発明に係る処理において、インキュベーション培地中でのビーズ及び細胞標的のインキュベーションは、以下の変異体により実現可能である。
変異体a):
インキュベーション培地を設け、単一に定義される化学構造体の複数インスタンスを含む複数のビーズと、それに関連付けられたコード化DNA及び細胞標的とを、インキュベーション培地の中で結合させ、
単一のインキュベーション培地においてインキュベーションを実行する(この別の方法は、各化学構造体及び各タイプの細胞標的に対して1つのインキュベーション培地を要する)。ここで、「インキュベーション培地」(incubation medium)は、微小区画(例えば、マイクロウェル又は油中の若しくは微少噴射された若しくはインク噴出された液滴)に含まれるのに十分に小さい媒体容積であるが、少なくとも1つのビーズを含有するのに十分な大きさであることが理解されよう。
【0085】
変異体b):
インキュベーション培地を設け、ライブラリの全ての化学構造体の複数インスタンスを含む全てのビーズと、細胞標的とを、インキュベーション培地の中で結合させ、インキュベーション培地から複数のアリコートを分割する(この別の方法は、全ての化学構造体及び各タイプの細胞標的に対して1つのインキュベーション培地を要する)。ここで、「インキュベーション培地のアリコート」(aliquot of an incubation medium)は、巨視的サイズのインキュベーション培地から分離された小容積部分であり、必ずしも巨視的なインキュベーション培地において規定された容積の画分を表すものではなく、微小区画(例えば、マイクロウェル又は油中の若しくは微少噴射された若しくはインク噴出された液滴)に含まれるのに十分に小さいが、少なくとも1つのビーズを含有するのに十分な大きさであることが理解されよう。
【0086】
1つのアリコート中に2個以上のビーズを有し、複数のビーズが異なるタイプの場合、先行技術のアッセイにおいて曖昧な結果を与えることがあり得る。しかしながら、本発明に係る処理は、最初に全てのビーズ(ヒットビーズ及び非ヒットビーズ)を分離して、非ヒットビーズからヒットビーズを区分することができるので、本発明の方法には有害ではない。これらの異なるタイプのうちの1つの個別のビーズを含む多くの他のアリコートが常に存在し得る。典型的には、所定タイプの1つのビーズを含む数十個のアリコートがあり、その所定タイプを単独(優勢な状況)で、又は他のタイプの1つ又は複数のビーズと組み合わせて含有している。アリコートは、マイクロプレートのウェル、微細加工されたナノウォール、油中の水性液滴、又は脂質二重層からなる区画を含む任意の形態をとることができる試料区画に存在してもよい。このような試料区画自体は従来のものである。アリコートは、機械的マイクロポッティングを介してインキュベーション媒体中に細胞標的及びビーズを共スポッティングすることによって調製することができる。この場合、試料区画は、単に、空間的距離によって互いに分離されたアリコート液滴として定義することができる。或いは、アリコートは、細胞標的、ビーズ及び任意の添加剤を含有するバルクインキュベーション培地から、油中水型エマルジョン等の水性液滴の形態で生成されてもよい。ここで、各単分散液滴は、1つのビーズのみを含むことが好ましい。
【0087】
各インキュベーション培地又はそのアリコート中において本発明のアッセイを実施するためには、1つのビーズのみで十分である。従って、約1である(好ましくは0.2~0.9である)平均ビーズ集団λの実施形態が好ましい。ここで、λは、導入で記載したように定義及び計算される。
【0088】
細胞標的は、インキュベーション培地を前記アリコートに分割する前にインキュベーション培地に添加可能であることが好ましい。ビーズから化学構造体を切断するための切断条件が細胞標的に有害である場合、アリコートの中に含まれるビーズから化学構造体を切断した後に(及び、場合によっては、有害な開裂化学物質の残りを不活化した後に)、細胞標的を既に分割されたアリコートに添加することが好ましいかもしれない。
【0089】
しかしながら、ビーズからの化学構造体の開裂は、アリコートへの分割後に行われ、開裂された化学構造体と、ビーズ結合されたコード化DNAタグとの閉じ込めを維持しなければならない。
【0090】
インキュベーション培地自体は、通常、水性媒体であり、典型的には、さらなる補助剤(adjuvant)及び/又は栄養素(開裂した化学構造体のための酵素及び潜在的モジュレータを含む。)を含有し、アッセイを実施するために及び/又は細胞標的の生存率を維持するために必要とされる。インキュベーションの実施は、典型的には、細胞標的の生存率を維持可能な条件(例えば、室温又はその近傍値で、生理学的ph及び塩濃度)の下で、インキュベーション培地において又は1つ若しくは複数のアリコートにおいて、応答分子の分離可能性又は分離の変化が観察されるまでの時間の間行われる。また、インキュベーションの実施は、ビーズに取り付けられたプローブの反応により、若しくは、インキュベーション培地中の切断されたDNAの出現により、又は、インキュベーション培地中の応答分子の存在又は量を検出するのに適した他の技術(例えば、GC-MS)により行われる。本発明の処理では、応答分子とプローブとの反応、又は場合によっては、タグ連結子及び/若しくは開裂可能なタグ連結子部位の任意の開裂、及び/若しくは応答分子によるコード化DNAのいずれかの開裂が、動力学的に不可逆的であることが好ましい又は必須である。すなわち、可逆的な反応の場合には、反応したプローブは、未反応プローブに復帰可能となり得る。或いは、開裂されたタグ連結子及び/又は切断されたタグ連結子部位、並びに/又は切断されたコード化DNAの場合、これらは、応答分子が上記のようにビーズから分離されると、熱力学的平衡の単純な再確立によって再結合されるであろう。
【0091】
インキュベーションに続いて、ビーズのプール、ヒットビーズの分離、コード化DNAの特徴付け、及びライブラリの化学構造体との相関のための2つの代替手段がある。
【0092】
代替手段a(タグ連結子及び/若しくは切断可能なタグ連結子部位並びに/又はDNA配列が応答分子によって切断可能である場合):
一度、任意の放出されたコード化DNA又はその断片が、インキュベーション培地中又はその任意のアリコート中で若しくは多数のアリコート中で検出されると、ビーズは全てのインキュベーション培地から分離されて又は全てのアリコートから分離されてプールされる。このプール処理は、インキュベーション培地中又はそのアリコートに存在した平均ビーズ集団λからのPhの依存性(導入において議論されたもの)を排除する。また、この分離は、任意の残りの応答分子からビーズを分離するのに役立ち、そのような分離は、従来技術に記載された方法を使用することは不可能である。アリコートからのビーズの分離は、所望の時点でアッセイを終了させ、その後に、プールされた状態における分析(すなわち、PCR増幅及び配列決定)を可能にする。そのようなフォローアップ分析は、従来技術に記載された方法を用いると、本質的に不可能である。このような分離がない場合、応答分子は、プールされたビーズと相互作用し続け、プールされた全てのビーズに結合したDNA連結子のさらなる開裂を生じ得る。このことは、それに結合した活性化学構造体を有するビーズの同定を不可能にするであろう。この代替手段a)において、全ての分離されたビーズのDNAは、切断可能なタグ連結子部位を切断することによってビーズから放出される。その後、放出された全てのDNA物質を分析し、配列決定する。ほとんどの場合、放出されたコード化DNAの完全な長さのインスタンスが存在する(例えば、インキュベーションの間、応答分子が、タグ連結子、切断可能なタグ連結子部位、コード化DNAのいずれも切断しなかった場合)。従って、放出されたコード化DNAのこれらの全長のインスタンスは、インキュベーションの間に不活性である化学構造体を担持したビーズから放出された。さらに、放出されたコード化DNAのフラグメント(インキュベーションの間に応答分子がコード化DNA自体を切断した場合)、及び、放出されたDNA材料中に完全に存在しないDNA配列のコード化(インキュベーションの間に応答分子がタグ連結子又は切断可能なタグ連結子部位を切断した場合)が存在し得る。コード化DNAにおけるこれらの放出されたフラグメント(断片)及び放出されたDNA物質中に完全に存在しないDNAをコードする任意の全長のインスタンスは、インキュベーションの間に活性であった化学構造体を担持したビーズからのものである。従って、ライブラリ中の活性化学構造体との相関は、放出されたDNA物質中に存在するコード化DNAのフラグメント、及び放出されたDNA物質中に完全に存在しないDNAをコードする全長のインスタンスから作られる。
【0093】
ビーズのスクリーニングバッチのインキュベーションの間のコード化DNAの除去の程度は、ビーズの制御バッチに関する比較に基づいてもよい。制御バッチは、インキュベーションなしで単にDNA配列決定される。或いは、制御バッチは、DNA配列決定の前に、スクリーニングバッチと同じ条件下で(但し、細胞標的が存在しないことを除く。)、任意にインキュベートされる。スクリーンとコントロールの両方は、同じ総数のビーズを使用して行われる。より好ましくは、スクリーニングバッチ中及び制御バッチ中のビーズの数は、アッセイされた化学ライブラリ中の化学構造体の数の20~100倍である。従って、導入において定義されたεは、20~100の範囲である。ここで、1つの所与の化学構造体を有する少なくとも5個のビーズが制御バッチ中に見出された場合(すなわち、完全に対応するDNAタグは、これらの少なくとも5個のビーズ中に見出されることができる場合)及び、化学構造体を担持する2個未満のビーズが、スクリーニングバッチにおいて見出された場合(すなわち、完全に対応するDNAタグが、2個未満のビーズのみにおいて見出されることができる場合)、当該化学構造体は、ヒットの可能性があると判定される。ここで、1つの所与の化学構造体を担持する実質的に全てのビーズが制御バッチ中に見出された場合(すなわち、完全に対応するDNAタグは、各化学構造体のために採用されたビーズの数に実質的に対応する数のビーズが見出された場合)、及び化学構造体を担持するビーズがスクリーニングバッチにおいて実質的に見出されなかった場合(すなわち、完全に対応するDNAタグが、スクリーニングバッチのビーズにおいて実質的に見出されなかった場合)、当該化学構造体は、明確なヒットであると判定されてもよい。
【0094】
代替手段b (応答分子に共有結合した化学プローブをビーズが有する場合):
インキュベーション培地中又はそのアリコート中のインキュベーションが十分に進行すると、上記の通り、全てのビーズは、全てのインキュベーション培地又はそのアリコートから分離され、そして任意の残りの応答分子から分離され、次いでプールされる。このプール処理は、インキュベーション培地中又はそのアリコートに存在した平均ビーズ集団λからのPhの依存性を排除する。また、この分離は、ビーズを応答分子の残りから分離するのにも役立つ。そのような分離が存在しないと、応答分子は、さらにプールされたビーズのプローブとの相互作用を継続し、それに結合した活性化学構造体を有するビーズの同定を不可能にし得る。加えて、そのような分離は、従来技術に記載された方法を用いると、不可能である。アリコートからのビーズの分離は、所望の時点でアッセイを終了させ、次いで、収集されたビーズの選別を最適化させ、より後の時点での選択の達成を可能にする。この代替手段b)において、反応したプローブを有するビーズは、未反応プローブを有するビーズから分離される。反応したプローブが蛍光を有し且つ非反応プローブが蛍光を有しない場合(又はその逆の場合)、そのような選別は、市販の蛍光活性化セルソーターを用いて行うことができる(1億個のビーズを数時間で選別することが可能であり、これは、従来技術に記載されたものより100倍速い速度である。)。市販の蛍光活性化セルソーターの使用は、従来技術に記載された方法を使用する場合には不可能であり、そしてその高いスループットは数値的に大きな化学ライブラリを調べるために必要とされる。この代替手段b)において、反応したプローブを有する全ての分離されたビーズのDNAは、切断可能なタグ連結子部位を切断することによってビーズから放出される。その後、放出された全てのDNA物質を分析し、配列決定する。放出されたコード化DNAの完全な長さのインスタンスのみが存在するであろう。従って、ライブラリ中の活性化学構造体との相関は、放出されたDNA物質中に存在するコード化DNAにおける全ての全長のインスタンスから作られる。
【0095】
代替手段b)において、ライブラリの各化学構造体に使用されるビーズの数は、5~10の範囲であることが好ましい。その場合、導入において定義されたεは、5~10の範囲である。
【0096】
上記分離の代替手段a)又はb)のいずれかにおいて、インキュベーション反応は、必要に応じて、ビーズの分離における最初のステップの前又はその間に、例えば、補助剤及び/又は応答分子の破壊又は不活性化によって終了させてもよい。そのような破壊又は不活性化は、例えば、エタノールのような変性剤によって、又は、加熱、蒸発、沈殿、pHの変化、酸化的破壊又は塩析によって行ってもよい。
【0097】
上記分離の代替手段a)又はb)のいずれかにおいて、プール処理は、全ての使用されたインキュベーション培地(上記のインキュベーション変異体a)又はその全ての使用されたアリコート(上記のインキュベーション変異体b)からのいずれかである。
【0098】
上記分離の代替手段a)又はb)のいずれかにおいて、いずれかの放出されたコード化DNA又はその放出されたフラグメントは、標準的な技術(PCR等)により増幅されて、標準的なプロトコルを用いて配列決定されることが好ましい。次世代の高スループット配列決定は、配列決定レーン毎に2億の配列読み取りをもたらすことができる。このようにして、調査された試料数の10倍の増加は、処理時間にほとんど影響を及ぼさず、従って、1000万個の小分子を、100万個の分子と同様に容易に調査することができる。従って、本発明に係る処理は、ロジスティクス及び処理時間の両方に関してスケーラブルである。
【0099】
本発明のスクリーニング方法は、例えば、次のようなスクリーニングに役立つことができる。
【0100】
a) 病原性細胞標的に対する化合物ライブラリの化学構造体の致死性。この場合、応答分子は、細胞標的の死又はアポトーシスを示すタンパク質であってもよく、或いは、細胞標的自体からの分解生成物であってもよい。細胞標的のインキュベーションの間における応答分子の放出の開始は、致死性を示す。
【0101】
b) 細胞標的における化合物ライブラリの化学構造体の有益性。この場合、応答分子は、健康な細胞標的によって一定のレベルで放出されることが知られている任意の化合物であってもよく、或いは、欠陥のある細胞標的においてより高い(又は低い)レベルで放出されることが知られている任意の化合物であってもよい。細胞標的のインキュベーションの間における応答分子の放出の低下(又は増加)は有益性を示す。
【0102】
c) 薬剤自体が細胞標的に浸透できない場合には、細胞標的に浸透可能なプロドラッグとしての化学構造体の適合性。
【0103】
本発明に係る処理のための第1の好適な用途は、分泌された胚性アルカリホスファターゼ(SEAP)レポーターアッセイである(SEAP: secreted embryonal alkaline phosphatase)。このアッセイは、細胞標的からインキュベーション培地又はそのアリコートに分泌されるSEAPの増強された発現に亘って化学構造体によって内部活性化を間接的に報告する遺伝子操作されたレポーター細胞を使用する。そのような遺伝子操作されたレポーター細胞は、一方で、公知の技術に従ってカスタム設計可能である。公開された例は、例えば、Huh7.5-EG(_4B 5A)SEAP細胞株(Pan KL., Lee JC., Sung HW., Chang, TY., Hsu, JTA、Antimicrob Agents. Chemother 53(11) pp. 4825-4834 (2009)) (C型肝炎ウイルスによる感染の際にSEAPを分泌する。)、及び293e/CRE-SEAP細胞株(Durocher D., Perret S., Thibaudeau E., Gaumond MH., Kamen A., Stocco R., Abamovitz M., Anal. Biochem. 284, pp. 316-326(2000))(多くの公知の薬物について重要な標的であるGタンパク質共役受容体の活性化の際にSEAPを分泌する。)。そのような操作された細胞は、市販されている場合がある。従って、実施例は、細胞株HEK-Blue(登録商標)IFN-a/b (ヒトIFN-a又はIFN-bを用いた刺激時にSEAPを発現し分泌する)、及びInvivoGen により市販されているTFIP1-Blue(登録商標)ISG細胞株(インターフェロン遺伝子のスティミュレータ(STING)の活性化の際にSEAPを発現及び分泌するものであり、その活性化は癌及び感染症の治療において重要である。)である。これらの全ての細胞株は、本発明のSEAPアッセイにおいても同様に使用することができる。
【0104】
本発明のSEAPアッセイにおける候補として使用され且つビーズに連結される化学構造体は、一方で、上述した「5の規則」(rule of 5)タイプの化合物としてもよい。第2の好適なカテゴリは、公知のDNA適合性化学を用いて合成することができる任意の化合物である。化学構造体候補の第3の好適なカテゴリは、大環状ペプチドである。環状ペプチドのライブラリは、例えば、ACS Chem. Biol. 13, pp. 53-59(2017)に開示されている。代わりの方法及びビーズにおける化学構造体として使用するためには、この刊行物に示されるように、アミノ基を介して環状ペプチドに直接結合されたDNAタグは、切断可能な構造連結子及びそれに連結されたビーズによって置換される(詳細は、本明細書で記載する。)。化学構造体候補のさらなる例示的なサブセットは、例えば、以下の表3に示される以下のライブラリの1つに従うことができる。
【0105】
【0106】
表3の各例全てに出現する多様性部位X1、X2は、互いに独立であり、例えば、-O-、-NH-、-(CH2)-、天然又は非天然のアミノ酸であってもよい(それらのアミノ基でそれぞれのカルボニルの足場に結合すると共に、それらのカルボキシル基でそれぞれのアミノの足場に連結されていることが好ましい。)。また、多様性部位X1、X2は、天然アミノ酸からなるジペプチド又はトリペプチドであってもよい(それぞれのカルボニルの足場にそれらのN末端を介して連結されると共に、それらのC末端を介してアミノの足場に連結されていることが好ましい。)。
【0107】
開裂可能な構造連結子に亘るこれらの化学構造体の結合は、表1の下に概説したものと同様に行ってもよい。
【0108】
本発明のSEAPアッセイにおけるビーズに連結されるプローブは、一方では有機、特に芳香族若しくは多芳香族、ヒドロキシル含有発蛍光団又は発色団であってもよく、ヒドロキシルは、放出されたSEAPにより開裂を受けやすいリン酸塩に変換されている。インキュベーション媒体又はアリコートの中に放出されるSEAPによる開裂の際、リン酸基は加水分解され、従って、蛍光団の蛍光又は発色団の着色若しくは色変化を可能にする。
そのようなリン酸消光蛍光団の公知の例は、1-オキソ-3'、6'-ジホスホノ-スピロ[イソベンゾフラン-3、9'-キサンテン]-5-カルボン酸、及び1-オキソ-3'、6'-ビス(ホスホノオキシメトキシ)スピロ[イソベンゾフラン-3、9'-キサンテン]-5-カルボン酸である。これらのリン酸化発色団又は蛍光団は、ビーズに既に接続されている適当なアミノ基末端連結子を用いてアミド基形成によりビーズに結合することを可能にするカルボン酸基を含有することが好ましい。反応性蛍光は、対応する均質な先行技術のアッセイにおけるように、プールされたビーズ中で容易に検出可能である。ビーズを結合させた発色団の反応性着色又は反応性の色変更は、対応する均質な先行技術のアッセイにおいて使用されるような標準的な分光法の代わりに、例えば、プールされたビーズの反射率により測定可能である。
【0109】
本発明のスクリーニング方法のための第2の好適な用途は、抗生物質のスクリーニングである。ここで、細胞標的は、細胞死の際に応答分子としてヌクレアーゼを放出する病理学的細菌であろう。この第2の用途において、ビーズは、単一の化学構造体を有する複数のインスタンスと、上記ヌクレアーゼにより切断可能な部分を含むタグ連結子を介してビーズに共有結合されるコード化DNA配列の複数のインスタンスとを含むことが好ましい。それとは別に、ビーズは、その応答分子に対して感受性、開裂性及び/又は反応性を有する他の化学的部分を欠いている。すなわち、ビーズは、ビーズコアと、連結された化学構造体と、連結されたコード化DNAとからなり得るが、他のものを欠いている。そのようなビーズ自体は、本発明の目的である。ここで、複数の可能な抗生物質候補のいずれかを、1つの工程で等数のビーズ(又は等しい数のビーズバッチ)に連結し、それと同時に、対応するコード化DNAタグを、そのような各ビーズ(又は各ビーズバッチ中のビーズ)に接続してもよい。或いは、ビーズは、さらなる置換基で修飾されると、抗生物学的に活性な化学構造体を生成する高い確率を有する適切な足場を用いて、段階的に構築してもよい。ここで、そのような足場は、例えば、さらなる置換基を結合するための多様性部位としての例えばヒドロキシ及び/又はアミノを提供するリジン、アスパラギン及び/又はセリンの単位を含む環状オリゴペプチドであってもよい。
【0110】
本発明のスクリーニング方法のための第3の好適な用途は、可能な抗癌剤のための小分子のスクリーニングである。有効な抗癌剤は、標的癌細胞のアポトーシスを誘導し得る。そのようなアポトーシスは、カスパーゼの放出を伴う。この第3の好適な用途において、本発明のビーズは、以下の化学式で示される部分を、プローブとして有することが好ましい。当該ビーズは、ACS Chem. Biol. 2018, 13, 761-771において、Yozwiak C.E., Hirschhorn, T., 及びStockwell, B.R.により記載されている微粒子ベースのシステムと同様のものである。
【化2】
【0111】
ここで、「スペーサ」(spacer)は2価の残基である。R1は、蛍光団であり、R2は、蛍光共鳴エネルギー転移(FRET: fluorescence resonance energy transfer)によって作用する消光剤、又はR1として蛍光団への接触消光によって作用する消光剤である。同文献におけるペプチド配列は配列番号3である。このプローブは、DEVD配列の右端のDアミノ酸でカスパーゼ-3を放出する場合に切断され、これは、R2として消光剤を除去すると共に、R1による蛍光を可能にする。蛍光ビーズは、市販の蛍光活性化セルソーター(FACS: fluorescence activated cell sorter)を用いて選別することができる。陽性に分類されたビーズは、DNA増幅及び配列決定に供されて、小分子が最初にこれらのビーズに接続され、アポトーシス及びカスパーゼの放出を引き起こしたことを判定される。好ましくは、上記の化学式において、R1及びR2は、次の表における行の1つに従って選択される。
【0112】
【0113】
次に、以下の非限定的な実施例により、本発明を説明する。
【0114】
実施例1:細菌に対するフルオロキノロン活性のアッセイ
【0115】
この試験は、シプロフロキサシン又はレボフロキサシンのような細菌に酸化ストレスを誘導可能なフルオロキノロンを用いて実施される。酸化ストレスは、DNA損傷を引き起こす可能性があり、そのため、酸化ストレスを加えた細菌から、エンドヌクレアーゼ(BapE DNAエンドヌクレアーゼ等)の放出を引き起こすことがある。
【0116】
ステップ1:バーコードDNAの調製及びそれに対する付着物のビーズへの付着(分析すべき1つのフルオロキノロンに相当する個々のバーコードDNAごとのプロトコル)
【0117】
用途の一般的な説明部分に記載されているように、それぞれのフルオロキノロンの「タグ」に固有のヌクレオチド配列を含むそれぞれのヘッドピースDNAが設けられ、8PEG鎖及び一級アミンで官能化される。この官能化されたヘッドピースDNAの溶液(H 20において1mM)に、0℃で、Hunigs'塩基(5当量)及び((1R,8S,9S)-ビシクロ[6.10]非-4-yn-9-イルメチルN-スクシンイミジルカーボネート(3当量)(NMPにおいて0.2M溶液として供給されるもの)を添加する。反応が完了すると、ESI-TOF質量分析により判断されるように、反応は報告された沈殿手順に従って精製される。得られた官能化DNAヘッドピース(以下のDNA-BCN中のもの)を、1mMの濃度で水中に再懸濁し、さらに精製することなく使用する。
【0118】
アジドペンタン酸(0.29mmol/gでロードされた)で官能化されたTetagelビーズは、アッセイされるフルオロキノロンの数に対応する多数のバッチに分割される。各バッチ内のビーズをPBSで簡単に洗浄し、次いで水、最後にCH3CNで洗浄する。先のステップから得られたDNA-BCNの各々(0.004当量)を、PBS:CH3CNの1:1混合物に溶解する(代わりに、水の10%ピリジンを使用してもよい。)。そして、アジド修飾ビーズを用いてバッチの1つに添加する。次いで、歪みを促進したアルキンアジド環状付加(SPAAC: Strain promoted alkyne azide cycloaddition)を、インキュベーター中において45℃で約24時間実施する。DNA-BCN官能化ビーズバッチをCH3CN、PBSで洗浄し、最終的に分子生物学グレードの水で洗浄し、さらに使用するまで氷浴中で0℃に維持する。
【0119】
ステップ2:フルオロキノロンをビーズに付着させる
【0120】
ステップ1から得られた全てのDNA-BCN官能化ビーズバッチは、DCM中のトリフェニルホスフィン及び室温でH20を用いて、残りのアジド部分を一級アミン部分に変更される。
【0121】
このようにして得られた各ビーズバッチを、以下のプロトコルに従ってそれぞれのフルオロキノロン抗生物質と反応させる。ビーズは、標準的なペプチド結合を受け、そして酸不安定性Rink連結子で官能化され、続いてPEG8連結子及び2個のリジン残基で官能化される。各バッチのビーズ(1.0当量、0.0096mmol)を、NMP 100μlにおいて、4-(4-(1-ヒドロキシエチル)-2-メトキシ-5-ニトロフェノキシ)ブタン酸(2級アルコール光分解性連結子;4.0当量、38.4μmol)、HATU (3.8当量、36.5μmol)、及びHunig塩基(6.0当量、57.6μmol)の予備活性化溶液で、室温で2-12時間処理する。次に、ビーズを注意深く洗浄し、そして分析試料を酸媒介開裂時にLCMSによりチェックする。150μLの無水THF及びフルオロキノロンの溶解を補助する少量のNMPにおいて、フルオロキノロン抗生物質(10.0当量、48.0μmol)、DIAD (15.0当量、72.0μmol)、トリフェニルホスフィン(15.0当量、72.0μmol)の溶液を調製し、Mitsunobu complex formationを0℃で実施する。そのようにして調製した溶液をビーズ(1.0当量、0.0048mmol))の上に注いだ。反応は最初に0℃で行われ、次いで室温で12時間行われ、フルオロキノロンからのカルボキシレートにより、既にビーズ結合した光分解性連結子のヒドロキシルを置換する。次に、ビーズを注意深く洗浄し、そして分析試料を酸媒介開裂時にLCMSによりチェックする。全てのバッチのビーズを最終的にプールして、各々が単一の特有のフルオロキノロン/DNA-BCNの組み合わせで修飾されたビーズを含む単一のプールを得る。
【0122】
ステップ3:ビーズと細菌細胞のカプセル化及びアッセイ(試験すべき細菌株毎のプロトコル)
【0123】
フロー集束マイクロ流体チップを使用すると、油中に水性液滴が生成され、単分散液滴のエマルジョンが得られる。水性相は、対象となっている細菌株の細胞と、上記のように調製されて完全に官能化され且つバーコード化されたビーズと、添加剤とを含み、各液滴が、0、1又は複数のビーズと、0、1若しくは複数、又は数万個までの細菌細胞とを含むようにする。液滴は、微少な反応チューブ内に収集される。ビーズを有する液滴を数分間のUV光に暴露して、上記の光分解性連結子の光分解的開裂により、全てのビーズからフルオロキノロンを遊離させる。液滴を数時間インキュベートする。次いで、液滴は任意に(所望のアッセイ反応に依存して)熱不活性化される。或いは、エマルジョンが有機溶媒によって破壊され、これもまた検出反応を停止する。ビーズはフリット上に集められる。濾液はPCRによって増幅され、細菌エンドヌクレアーゼによって切断される可能性のあるいずれかのヘッドピースDNAの存在を試験するために配列決定される。当該存在は、ヘッドピースDNAに関連するフルオロキノロンがその細菌に対して活性であることを示す。
【0124】
実施例2:
化学構造体の連結ライブラリ及び連結されたコード化DNAを含むビーズの分割及びプール合成を考慮した、ビーズ連結されたコード化DNAの連続的な構築
【0125】
8PEG鎖及び一級アミン(H20中で1 mM)で官能化されたヘッドピースDNAオリゴマーと、用途の概要説明で記載した一級アミンとの溶液に対して、Hunigs'塩基(5当量)と、(1R,8S,9S)-ビシクロ[6.1.0]非-4-yn-9-イルメチルn-スクシンイミジルカーボネート(3当量)(NMP中0.2M溶液として供給されたもの)が0℃で添加される。反応が完了すると、ESI-TOF質量分析により判断されるように、反応は報告された沈殿手順に従って精製される。得られた官能化DNAヘッドピース(DNA-BCN)を、1mMの濃度で水中に再懸濁し、さらに精製することなく使用する。
【0126】
アジドペンタン酸(0.29mmol/gでロードされた)で官能化されたTetagelビーズをPBSで簡単に洗浄し、次いで水、最後にCH3CNで洗浄する。先のステップから得られたDNA-BCNの各々(0.004当量)を、PBS:CH3CNの1:1混合物に溶解する(代わりに、水の10%ピリジンを使用してもよい。)。そして、Tentagelビーズに添加する。次いで、歪みを促進したアルキンアジド環状付加(SPAAC)を、インキュベーター中において45℃で約24時間実施して、最初のヘッドピースDNAオリゴマーが連結されたビーズを得る。
【0127】
先のステップから得られたビーズをCH3CNで洗浄し、次いでPBS、最後に分子生物学グレードの水で洗浄する。ライゲーション(連結反応)混合物を調製しながら、ビーズを氷浴中で0℃に維持する。前工程からのDNA装填に関して、既存のDNAタグ(1.2当量)に連結されるさらなる標識化DNAは、DNAse遊離水で希釈され、DNAse遊離水で希釈し、10X T4連結緩衝液を添加し、混合物を氷上に保持する。10-15mgsのビーズについて連結最終容積を150μLとする。次いで、T4 DNAリガーゼを加え、混合物をビーズ上に注ぐ。次いで、反応を、室温で5~16時間行う。
【0128】
上述したDNAタグ付け工程は、分割及びプール合成において固定足場に連結される可変置換基が存在する限り、できるだけ多い回数で実施される。
【0129】
実施例3:ビーズの選別
【0130】
この処理は、例えば、本発明のアッセイにおいて使用されたビーズに適用可能である。当該ビーズは、蛍光団及びこれに関連付けられた消光剤をプローブとして含み、消光剤は、応答分子によって除去されている。インキュベーションの終了後、インキュベーション培地及びその応答分子からビーズを分離し、次いで分離したビーズ(並びに蛍光及び非蛍光プローブの両方)をプールする。プールしたビーズは、市販の蛍光活性化セルソーター(FACS)を用いて、ビーズの所望の特性(蛍光か否か、及び品質管理のための潜在的な他のゲート)をゲートすることにより選別した。陽性に分類されたビーズをDNA増幅及び配列決定に供した。
【0131】
実施例4:ビーズベースの分泌された胚性アルカリホスファターゼ(SEAP)レポーターアッセイ
【0132】
ステップ1:消光されたフルオレセイン標識ビーズの調製
【0133】
消光されたフルオレセイン誘導体(例えば、1-オキソ-3',6'-ジホスホノ-スピロ[イソベンゾフラン-3,9'-キサンテン]-5-カルボン酸、又は1-オキソ-3',6'-ビス(ホスホノオキシメトキシ)スピロ[イソベンゾフラン-3,9'-キサンテン]-5-カルボン酸)を、一本鎖DNA(5'-アミノC6で修飾されたもの)及び水互換性アシル化試薬(例えば、DMT-MM (4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチル-モルホリニウム塩化物))と共に、水性緩衝液中でインキュベートする。ビーズ結合DNAバーコードを有するコード化DNAライブラリビーズは、一本鎖DNA末端を含み、その配列は、上記フルオレセイン一本鎖DNA結合体の配列と相補的である。フルオレセイン一本鎖DNA複合体は、ライブラリビーズのプールとのインキュベーションの際に、ビーズ上でその相補体でアニールされ、安定な二本鎖DNA二本鎖を形成する。
【0134】
或いは、フルオレセイン一本鎖DNA結合体を、別の一本鎖DNAオリゴマーでアニールし、オーバーハングを有する二重鎖を形成してもよい。この場合、ビーズ結合DNAバーコードを有するコード化DNAライブラリビーズは、2-4塩基の短いオーバーハングで終結し、このオーバーハングは上記フルオレセイン結合二本鎖DNAのオーバーハングと相補的である。そして、二本鎖DNAオリゴマー及びバーコードを、先に記載したようにリガーゼを用いて共有結合させる(Clark外参照)。上記の方法のいずれかを使用して、要求に応じて、ライブラリビーズを任意のプローブで標識付けすることができる。
【0135】
ステップ2:ビーズと真核細胞(THP1-Dual(登録商標)KI-hSTING-S154、InvivoGen)のカプセル化及びアッセイ
【0136】
フロー集束マイクロ流体チップを使用すると、油中に水性液滴が生成され、単分散液滴のエマルジョンが得られる。水性相は、所望の真核細胞と、上記のように調製されて完全に官能化され且つバーコード化されたビーズ(付加的にリン酸化されたフルオレセインで標識されている)と、添加剤とを含み、各液滴が、0、1又は複数のビーズと、0、1若しくは複数、又は数百までの真核細胞を含むようにする。添加剤は、細胞がTHP1-Dual(登録商標)KI-hSTING-S154である場合、2'3'-cGAMPを含むことができることに留意されたい。加えて、後の統計的分析及びビーズ選別のためのベースラインを提供するための添加剤として、ポジティブコントロール(公知の不可逆小分子インヒビター H-151、InvivoGen)を用いてもよい。液滴は、微少な反応チューブ内に収集される。ビーズを有する液滴を数分間のUV光に暴露して、上記の光分解性連結子の光分解的開裂により、全てのビーズからライブラリーメンバーを遊離させる。液滴を数時間インキュベートする。次いで、液滴は熱不活性化される。或いは、エマルジョンが有機溶媒によって破壊され、これもまた検出反応を停止する。ビーズはフリット上に集められてプールされる。また、蛍光が弱いヒットビーズは、FACSによりプールから選別される。次いで、弱い蛍光のビーズは、PCRにより増幅され、配列決定される。弱い蛍光は、バーコードDNAに関連する放出された小分子が、STINGの活性化を阻害し、それによってSEAPの放出を防止するのに成功したことを示す。
【国際調査報告】