(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-22
(54)【発明の名称】ジストロフィン機能を修復するためのCRISPR/Casをベースにしたゲノム編集組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20220615BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20220615BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20220615BHJP
C12N 15/55 20060101ALI20220615BHJP
C12N 15/31 20060101ALI20220615BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20220615BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220615BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220615BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220615BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220615BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220615BHJP
A61K 38/46 20060101ALI20220615BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220615BHJP
A61P 21/04 20060101ALI20220615BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220615BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N15/12 ZNA
C12N15/11 Z
C12N15/55
C12N15/31
C12N15/864 100Z
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K38/46
A61K48/00
A61P21/04
A61P43/00 105
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021560850
(86)(22)【出願日】2020-04-14
(85)【翻訳文提出日】2021-12-07
(86)【国際出願番号】 US2020028154
(87)【国際公開番号】W WO2020214613
(87)【国際公開日】2020-10-22
(32)【優先日】2019-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507189666
【氏名又は名称】デューク ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100154988
【氏名又は名称】小林 真知
(72)【発明者】
【氏名】ガーズバック チャールズ エイ
(72)【発明者】
【氏名】ピッカー オリヴァー エイドリアン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA44
4C084AA02
4C084AA13
4C084BA44
4C084DC22
4C084NA14
4C084ZA941
4C084ZA942
4C084ZB211
4C084ZB212
4C084ZC541
4C084ZC542
(57)【要約】
CRISPR/Casをベースにしたゲノム編集組成物、およびジストロフィン機能を修復することによってデュシェンヌ筋ジストロフィーを処置する方法が本明細書中に開示されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)突然変異ジストロフィン遺伝子の断片を標的とするガイドRNA(gRNA)、
(b)Casタンパク質を含むCasタンパク質または融合タンパク質、および
(c)野生型ジストロフィン遺伝子の断片を含むドナー配列
を含む組成物をコードしている1個または複数個のベクターを含む、CRISPR/Casをベースにしたゲノム編集システム。
【請求項2】
(a)突然変異ジストロフィン遺伝子の断片を標的とするガイドRNA(gRNA)、
(b)Casタンパク質を含むCasタンパク質または融合タンパク質、および
(c)野生型ジストロフィン遺伝子の断片を含むドナー配列
を含む、CRISPR/Casをベースにしたゲノム編集システム。
【請求項3】
野生型ジストロフィン遺伝子の断片が、2個のgRNAスペーサーおよび/またはPAM配列によって挟まれている、請求項1または2に記載のシステム。
【請求項4】
gRNAが、突然変異ジストロフィン遺伝子のエクソンと並置されているイントロンを標的とし、エクソンが、突然変異ジストロフィン遺伝子のエクソン1~8、10、11、12、14、16~22、43~59、および61~66から選択される、請求項1~3のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項5】
ドナー配列が、野生型ジストロフィン遺伝子のエクソンまたはその機能的均等物を含み、エクソンが、野生型ジストロフィン遺伝子のエクソン1~8、10、11、12、14、16~22、43~59、および61~66から選択される、請求項1~3のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項6】
突然変異ジストロフィン遺伝子のエクソンがジストロフィン遺伝子から突然変異しているもしくは少なくとも部分的に欠失している、または、突然変異ジストロフィン遺伝子のエクソンが欠失しており、イントロンが、対応する野生型ジストロフィン遺伝子中で欠失したエクソンがあるはずであろう場所と並置されている、請求項4に記載のシステム。
【請求項7】
エクソンがエクソン52である、請求項4または5に記載のシステム。
【請求項8】
gRNAが、
a)配列番号17もしくは配列番号18、
b)配列番号17もしくは配列番号18の断片、
c)配列番号17もしくは配列番号18の相補体、またはその断片、
d)配列番号17もしくは配列番号18と実質的に同一である核酸、またはその相補体、あるいは
e)ストリンジェントな条件下で配列番号17もしくは配列番号18とハイブリダイズする核酸、その相補体、またはそれに実質的に同一な配列
を含むポリヌクレオチド配列と結合し、それを標的とする、請求項1~7のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項9】
gRNAが、配列番号19もしくは配列番号20のポリヌクレオチド配列、またはその変異体を含む、またはそれによってコードされている、請求項1~8のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項10】
Casタンパク質が、化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)Cas9タンパク質または黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)Cas9タンパク質である、請求項1~9のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項11】
Casタンパク質が、配列番号1、2、3、または4のアミノ酸配列を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項12】
2個のgRNAスペーサーが、配列番号5~8および25~45から選択される配列を独立して含む、請求項3~11のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項13】
2個のgRNAスペーサーが同一である、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
2個のgRNAスペーサーが異なる、請求項12に記載のシステム。
【請求項15】
2個のgRNAスペーサーのうちの少なくとも1個が、配列番号25または配列番号26の配列を含む、請求項3~14のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項16】
ドナー配列が、配列番号21または配列番号22のポリヌクレオチドを含む、請求項1~15のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項17】
ベクターがウイルスベクターである、請求項1および3~16のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項18】
ベクターがアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである、請求項17に記載のシステム。
【請求項19】
AAVベクターが、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV-10、AAV-11、AAV-12、AAV-13、またはAAVrh.74ベクターである、請求項18に記載のシステム。
【請求項20】
1個または複数個のベクターのうちの1個が、配列番号23または24のポリヌクレオチド配列を含む、請求項18に記載のシステム。
【請求項21】
gRNAとドナー配列との間のモル比が、1:1、または1:15、または5:1~1:10、または1:1~1:5である、請求項1~20のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項22】
野生型ジストロフィン遺伝子の断片を含むドナー配列またはその機能的均等物をコードしている組換えポリヌクレオチドであって、断片またはその機能的均等物が2個のgRNAスペーサーによって挟まれている、組換えポリヌクレオチド。
【請求項23】
ドナー配列がジストロフィン遺伝子のエクソンを含み、エクソンが、エクソン1~8、10、11、12、14、16~22、43~59、および61~66から選択される、請求項22に記載の組換えポリヌクレオチド。
【請求項24】
組換えポリヌクレオチドが配列番号23または24の配列を含む、請求項22または23に記載の組換えポリヌクレオチド。
【請求項25】
請求項22~24のいずれか1項に記載の組換えポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項26】
ベクターが組換えポリヌクレオチドの発現を駆動する異種プロモーターを含む、請求項25に記載のベクター。
【請求項27】
請求項22~24のいずれか1項に記載の組換えポリヌクレオチドまたは請求項25もしくは26に記載のベクターを含む細胞。
【請求項28】
請求項1~21のいずれか1項に記載のシステム、請求項22~24のいずれか1項に記載の組換えポリヌクレオチド、または請求項25もしくは26に記載のベクターを含む、突然変異ジストロフィン遺伝子を有する細胞においてジストロフィン機能を修復するための組成物。
【請求項29】
請求項1~21のいずれか1項に記載のシステム、請求項22~24のいずれか1項に記載の組換えポリヌクレオチド、または請求項25もしくは26に記載のベクター、または請求項28に記載の組成物を含むキット。
【請求項30】
細胞または対象を、請求項1~21のいずれか1項に記載のシステム、請求項22~24のいずれか1項に記載の組換えポリヌクレオチド、または請求項25もしくは26に記載のベクター、または請求項28に記載の組成物と接触させることを含む、突然変異ジストロフィン遺伝子を有する細胞または対象においてジストロフィン機能を修復するための方法。
【請求項31】
ジストロフィン機能が、野生型ジストロフィン遺伝子のエクソン52の挿入によって修復される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
対象がデュシェンヌ筋ジストロフィーを患っている、請求項30または31に記載の方法。
【請求項33】
細胞または対象を、請求項1~21のいずれか1項に記載のシステム、請求項22~24のいずれか1項に記載の組換えポリヌクレオチド、または請求項25もしくは26に記載のベクター、または請求項28に記載の組成物と接触させることを含む、1個または複数個の欠失または突然変異したエクソンによって引き起こされた、破壊されたジストロフィン遺伝子を有する細胞または対象において、ジストロフィン機能を修復するための方法。
【請求項34】
ジストロフィン機能が、1個または複数個の欠失または突然変異したエクソンに対応する、ジストロフィン遺伝子の1個または複数個の野生型エクソンを挿入することによって修復される、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
欠失または突然変異したエクソンのうちの1つがエクソン52である、請求項34に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その全体で本明細書中に参考として組み込まれている、2019年4月14日に出願の米国仮特許出願第62/833,759号の優先権を主張するものである。
連邦支援の研究に関する記載
本発明は、政府支援で、国立衛生研究所によって授与された助成金第R01AR069085号の下で行われた。政府が発明の特定の権利を有する。
本開示は、CRISPR/Casをベースにしたゲノム編集組成物、およびジストロフィン機能を修復することによってデュシェンヌ筋ジストロフィーを処置する方法に向けられている。
【背景技術】
【0002】
序論
デュシェンヌ筋ジストロフィー(DMD)は、新生男児において約1:5000で起こる、最も一般的な致死的遺伝性小児疾患である。患者の二十代半ばでの死亡をもたらす進行性の筋力低下は、ジストロフィン遺伝子中の突然変異の結果である。ほとんどの事例において(約60%)、突然変異は、ジストロフィン遺伝子からの79個のエクソンのうちの1個または複数個の欠失からなり、リーディングフレームの破壊がもたらされる。以前の治療戦略は、典型的には、DMDと比較してより緩和な症状に関連しているベッカー型筋ジストロフィーに対応する遺伝子型を反復する、切断されているが部分的に機能的なジストロフィンタンパク質の発現を生じることを目的とする。たとえば、いくつかのグループは、特定のエクソンを欠失させることによってジストロフィンリーディングフレームを修復するために、培養ヒトDMD細胞およびDMDのmdxマウスモデルにおいて遺伝子編集のためのCRISPR/Cas9技術を適応している。しかし、完全な、完全に機能的なジストロフィンタンパク質を修復するための遺伝子編集戦略を開発する必要性が残存する。
【発明の概要】
【0003】
一態様では、本開示は、CRISPR/Casをベースにしたゲノム編集システムに関する。システムは、(a)突然変異ジストロフィン遺伝子の断片を標的とするガイドRNA(gRNA)、(b)Casタンパク質を含むCasタンパク質または融合タンパク質、および(c)野生型ジストロフィン遺伝子の断片を含むドナー配列を含む組成物をコードしている1個または複数個のベクターを含み得る。さらなる一態様では、システムは、(a)突然変異ジストロフィン遺伝子の断片を標的とするガイドRNA(gRNA)、(b)Casタンパク質を含むCasタンパク質または融合タンパク質、および(c)野生型ジストロフィン遺伝子の断片を含むドナー配列を含み得る。一部の実施形態では、野生型ジストロフィン遺伝子の断片は、2個のgRNAスペーサーおよび/またはPAM配列によって挟まれている。一部の実施形態では、gRNAは、突然変異ジストロフィン遺伝子のエクソンと並置されているイントロンを標的とし、エクソンは、突然変異ジストロフィン遺伝子のエクソン1~8、10、11、12、14、16~22、43~59、および61~66から選択される。一部の実施形態では、ドナー配列は、野生型ジストロフィン遺伝子のエクソンまたはその機能的均等物を含み、エクソンは、野生型ジストロフィン遺伝子のエクソン1~8、10、11、12、14、16~22、43~59、および61~66から選択される。一部の実施形態では、突然変異ジストロフィン遺伝子のエクソンは、ジストロフィン遺伝子もしくはゲノムから突然変異もしくは少なくとも部分的に欠失している、または、突然変異ジストロフィン遺伝子のエクソンは欠失しており、イントロンは、対応する野生型ジストロフィン遺伝子中で欠失したエクソンがあるはずであろう場所と並置されている。一部の実施形態では、エクソンはエクソン52である。一部の実施形態では、gRNAは、a)配列番号17もしくは配列番号18、b)配列番号17もしくは配列番号18の断片、c)配列番号17もしくは配列番号18の相補体、またはその断片、d)配列番号17もしくは配列番号18と実質的に同一である核酸、またはその相補体、あるいはe)ストリンジェントな条件下で配列番号17もしくは配列番号18とハイブリダイズする核酸、その相補体、またはそれに実質的に同一な配列を含むポリヌクレオチド配列と結合し、それを標的とする。一部の実施形態では、gRNAは、配列番号19もしくは配列番号20のポリヌクレオチド配列、またはその変異体を含む、またはそれによってコードされている。一部の実施形態では、Casタンパク質は、化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)Cas9タンパク質または黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)Cas9タンパク質である。一部の実施形態では、Casタンパク質は、配列番号1、2、3、または4のアミノ酸配列を含む。一部の実施形態では、2個のgRNAスペーサーは、配列番号5~8および25~45から選択される配列を独立して含む。一部の実施形態では、2個のgRNAスペーサーは同一である。一部の実施形態では、2個のgRNAスペーサーは異なる。一部の実施形態では、2個のgRNAスペーサーのうちの少なくとも1個は、配列番号25または配列番号26の配列を含む。一部の実施形態では、ドナー配列は、配列番号21または配列番号22のポリヌクレオチドを含む。一部の実施形態では、ベクターはウイルスベクターである。一部の実施形態では、ベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである。一部の実施形態では、AAVベクターは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV-10、AAV-11、AAV-12、AAV-13、またはAAVrh.74ベクターである。一部の実施形態では、1個または複数個のベクターのうちの1個は、配列番号23または24のポリヌクレオチド配列を含む。一部の実施形態では、gRNAとドナー配列との間のモル比は、1:1、または1:15、または5:1~1:10、または1:1~1:5である。
【0004】
さらなる一態様では、本開示は、野生型ジストロフィン遺伝子の断片を含むドナー配列またはその機能的均等物をコードしている組換えポリヌクレオチドに関し、断片またはその機能的均等物は2個のgRNAスペーサーによって挟まれている。一部の実施形態では、ドナー配列はジストロフィン遺伝子のエクソンを含み、エクソンは、エクソン1~8、10、11、12、14、16~22、43~59、および61~66から選択される。一部の実施形態では、組換えポリヌクレオチドは配列番号23または24の配列を含む。
本開示の別の態様は、本明細書中に詳述する組換えポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。一部の実施形態では、ベクターは、組換えポリヌクレオチドの発現を駆動する異種プロモーターを含む。
【0005】
本開示の別の態様は、本明細書中に詳述する組換えポリヌクレオチドまたは本明細書中に詳述するベクターを含む細胞を提供する。
本開示の別の態様は、本明細書中に詳述するシステム、本明細書中に詳述する組換えポリヌクレオチド、または本明細書中に詳述するベクターを含む、突然変異ジストロフィン遺伝子を有する細胞においてジストロフィン機能を修復するための組成物を提供する。
【0006】
本開示の別の態様は、本明細書中に詳述するシステム、本明細書中に詳述する組換えポリヌクレオチド、もしくは本明細書中に詳述するベクター、または本明細書中に詳述する組成物を含むキットを提供する。
本開示の別の態様は、突然変異ジストロフィン遺伝子を有する細胞または対象においてジストロフィン機能を修復するための方法を提供する。方法は、細胞または対象を、本明細書中に詳述するシステム、本明細書中に詳述する組換えポリヌクレオチド、もしくは本明細書中に詳述するベクター、または本明細書中に詳述する組成物と接触させることを含み得る。一部の実施形態では、ジストロフィン機能は、野生型ジストロフィン遺伝子のエクソン52の挿入によって修復される。一部の実施形態では、対象はデュシェンヌ筋ジストロフィーを患っている。
【0007】
本開示の別の態様は、1個または複数個の欠失または突然変異したエクソンによって引き起こされた、破壊されたジストロフィン遺伝子を有する細胞または対象において、ジストロフィン機能を修復するための方法を提供する。方法は、細胞または対象を、本明細書中に詳述するシステム、本明細書中に詳述する組換えポリヌクレオチド、もしくは本明細書中に詳述するベクター、または本明細書中に詳述する組成物と接触させることを含み得る。一部の実施形態では、ジストロフィン機能は、1個または複数個の欠失または突然変異したエクソンに対応する、ジストロフィン遺伝子の1個または複数個の野生型エクソンを挿入することによって修復される。一部の実施形態では、欠失または突然変異したエクソンのうちの1つはエクソン52である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】ジストロフィンタンパク質をコードしているエクソンおよび細胞中の様々な相互作用の模式図である。
【
図3】hDMD-エクソン52の上流にあるhDMD-イントロン51を標的とするgRNAを作製するための戦略を示す図である。
【
図4A-4B】
図4Aは、
図4Bに示すサーベイヤー分析のための、プライマー番号および予想されたバンドサイズを示す。
図4Bは、hDMD-エクソン52の上流にあるhDMD-イントロン51を標的とするgRNAの編集効率を示すゲルの図である。
【
図5A-5B】
図5Aは、プライマー位置に基づいたHEK293T SNP結果を示す図であり、ゲルを
図5Bに示す。
【
図6A-6B】
図6Aは、19~23bpのスペーサーを用いて再設計したgRNAをコードしているプラスミドを用いて電気穿孔した筋芽細胞を示すゲルの図であり、さらなる結果を
図6Bに示す。
【
図7】gRNA発現プラスミドまたはAAV-HITIドナープラスミドのHEK293T形質移入の結果を示すゲルである。
【
図8A-8B】
図8Aは、hDMDΔ52/mdxマウス由来の初代筋芽細胞内に電気穿孔した、AAVプラスミド(AAV-CMV-Cas9プラスミドおよびAAV-U6-gRNA-Ex52プラスミド)のHITI媒介性組込みを検出するためのネステッドPCR結果を示すゲルである。
図8Bは、予想されたHITI媒介性挿入を用いたサンガーシーケンシング結果を示す図である。
【
図9】in vivo編集を確認するため、最良のgRNA/ドナー配列の組合せを決定するため、およびAAV-Cas9対AAV-ドナープラスミドの最良の比を決定するために使用した実験の模式図である。
【
図10A-10B】
図10Aは、標的切断部位の下流の、プライマーを用いたマウスのゲノムDNA中の標的Ex52挿入を示すゲルである。
図10Bは、標的切断部位の上流の、プライマーを用いたマウスのゲノムDNA中の標的Ex52挿入を示すゲルである。
【
図11】処置したhDMDΔ52/mdxマウスのmRNA中の標的Ex52挿入を示すゲルである。
【
図12】処置したマウスにおけるタンパク質修復を確認するウエスタンブロット分析を示す図である。
【
図13】編集したマウスにおけるAAV-ITRゲノム組込みのIlluminaディープシーケンシング定量からの結果を示す図である。
【
図14A-14B】
図14Aは、エクソン45~エクソン69からのcDNAの増幅を示すゲルである。
図14Bは、mRNAのPacBioシーケンシング分析からのものであり、エクソン51とエクソン53との間の118bpを有するシーケンシングのリードがエクソン52配列と一致することを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示は、CRISPR/Casをベースにした遺伝子/ゲノム編集組成物、およびジストロフィン機能を修復することによってデュシェンヌ筋ジストロフィー(DMD)を処置する方法を提供する。DMDは、典型的には、リーディングフレームを破壊するジストロフィン遺伝子中の欠失によって引き起こされる。内部で切断されたジストロフィンタンパク質は部分的に機能的であり続けることができることが示されているため、DMDを処置するための多くの戦略は、追加のエクソンを除去またはスキップすることによってリーディングフレームを修復することを目的としている。ジストロフィン遺伝子を補正するための、AAVをベースにした相同性非依存性標的組込み(HITI)媒介性遺伝子編集治療を本明細書中で詳述する。具体的には、欠損したエクソンの、ジストロフィン遺伝子内への標的挿入を指示するために、本発明者らはCRISPR/Cas9遺伝子編集技術を適応した。治療上関連のある標的として、完全長ヒトジストロフィン遺伝子を保有するマウスにおいてエクソン52が除去されている、DMDのヒト化マウスモデル(hDMDΔ52/mdxマウス)においてHITI媒介性ゲノム編集戦略を最適化した。標的組込みを達成するために、エクソン52を含めた欠失したゲノム配列を含有するAAVベクターを、Cas9/gRNA発現カセットをコードしているAAVと共に同時送達した。培養細胞中の標的エクソン52組込みが確認された。AAV送達と組み合わせて、欠損したエクソンの標的挿入のためのHITI媒介性戦略は、完全長ジストロフィンを修復する方法、および改善された機能的結果を提供する。
【0010】
1.定義
本明細書中で使用する用語「含む(comprise(s))」、「含む(include(s))」、「有する(having)」、「有する(has)」、「できる(can)」、「含有する(contain(s))」、およびその変形は、追加の動作または構造の可能性を排除しない、開放型の移行句、用語、または単語であることを意図する。単数形「a」、「and」、および「the」は、内容により明らかにそうでないと指示されない限りは、複数形の参照物を含む。また、本開示は、明確に記載されているかどうかにかかわらず、本明細書中に提示する実施形態または要素を「含む(comprising)」、「からなる(consisting of)」、および「から本質的になる(consisting essentially of)」他の実施形態も企図する。
本明細書中の数値範囲の列挙については、それらの間のそれぞれの介在する数値が同じ度合の精度で明確に企図される。たとえば、6~9の範囲では、6および9の数値に加えて7および8が企図され、6.0~7.0の範囲では、6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、および7.0の数値が明確に企図される。
【0011】
本明細書中で使用する用語「およそ」または「約」とは、当業者によって決定された特定の値について許容される誤差範囲内を意味し、これは、値がどのように測定または決定されるか、すなわち測定システムの制限に部分的に依存する。たとえば、「およそ」は、当分野における実施に従って、3以内または3を超える標準偏差を意味することができる。あるいは、「およそ」は、所定の値の20%まで、好ましくは10%まで、より好ましくは5%まで、さらにより好ましくは1%までの範囲を意味することができる。あるいは、特に生物系または生物学的過程に関して、この用語は、値の10倍以内、好ましくは5倍以内、より好ましくは2倍以内を意味することができる。
別段に定義しない限りは、本明細書中において使用するすべての技術および科学用語は、当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。矛盾する場合は、定義を含めた本文書が支配する。好ましい方法および材料は以下に記載されているが、本明細書中に記載のものと同様または均等の方法および材料を本発明の実施または試験に使用することができる。本明細書中で言及するすべての出版物、特許出願、特許、および他の参考文献は、その全体で参考として組み込まれている。本明細書中に開示する材料、方法、および例は、例示的のみであり、限定することを意図しない。
【0012】
本明細書中で互換性があるように使用される「アデノ随伴ウイルス」または「AAV」とは、ヒトおよび一部の他の霊長類種に感染する、パルボウイルス(Parvoviridae)科のディペンドウイルス(Dependovirus)属に属する小さなウイルスをいう。AAVは現在、疾患を引き起こすことは知られておらず、したがって、このウイルスは非常に緩和な免疫応答を引き起こす。
本明細書中で使用する「結合領域」とは、CRISPR/Casをベースにしたゲノム編集システムによって認識されてそれと結合する、標的領域内の領域をいう。
本明細書中で使用する「クロマチン」とは、ヒストンに関連する染色体DNAの組織的な複合体をいう。
本明細書中で互換性があるように使用される「クラスター化された定期間隔の短い回文構造反復(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats)」および「CRISPR」とは、配列決定された細菌の約40%および配列決定された古細菌の90%のゲノム中に見つかる、複数の短い直接反復を含有する座位をいう。
【0013】
本明細書中で使用する「コード配列」または「コードしている核酸」とは、タンパク質をコードしているヌクレオチド配列を含む核酸(RNAまたはDNA分子)を意味する。コード配列は、プロモーターおよびポリアデニル化シグナルを含めた調節要素と作動可能に連結された、核酸を投与する個体または哺乳動物の細胞中において発現を指示することができる、開始および終止シグナルをさらに含むことができる。コード配列はコドン最適化されていてよい。
核酸に関して本明細書中で使用する「相補体」または「相補物」とは、核酸分子のヌクレオチドまたはヌクレオチド類似体間のワトソン-クリック(たとえばA-T/UおよびC-G)またはフーグスティーン塩基対合を形成することができる核酸を意味する。「相補性」とは、互いに逆平行にアラインメントされた際にそれぞれの位置でのヌクレオチド塩基が相補的となるような、2個の核酸配列間で共有される特性をいう。
【0014】
本明細書中で互換性があるように使用される「デュシェンヌ筋ジストロフィー」または「DMD」とは、筋変性および最終的には死をもたらす、劣性の致命的なX連鎖の障害をいう。DMDは、3500人に1人の男性に起こる、一般的な遺伝性の一遺伝子的疾患である。DMDは、ナンセンスまたはフレームシフトのジストロフィン遺伝子中の突然変異を引き起こす遺伝性または自発性の突然変異の結果である。DMDを引き起こすジストロフィン突然変異の大多数は、リーディングフレームを破壊し、ジストロフィン遺伝子の未熟な翻訳終止を引き起こす、エクソンの欠失である。DMD患者、典型的には、小児期中に自身を物理的に支持する能力を失い、ティーンエージ期中に進行的に脆弱になり、その二十代に亡くなる。
本明細書中で使用する「ジストロフィン」とは、筋線維の細胞骨格を、周囲の細胞外基質を通じて細胞膜に接続させるタンパク質複合体の一部である、桿形状の細胞質タンパク質をいう。ジストロフィンは、筋肉細胞の完全性および機能の調節を司っている細胞膜のジストログリカン複合体に構造的安定性をもたらす。本明細書中で互換性があるように使用されるジストロフィン遺伝子または「DMD遺伝子」は、座位Xp21で2.2メガ塩基である。一次転写物ではおよそ2,400kbが測定され、成熟mRNAはおよそ14kbである。79個のエクソンは、3500個のアミノ酸を超えるタンパク質をコードしている。
【0015】
本明細書中で使用する「エクソン52」とは、ジストロフィン遺伝子の52番目のエクソンをいう。エクソン52は、DMD患者中においてフレームを破壊する欠失にしばしば隣接している。エクソン52は配列番号21のポリヌクレオチドを含み得る。エクソン52は配列番号22のポリヌクレオチド内に含まれ得る。
本明細書中で使用する「エンハンサー」とは、複数の活性化因子およびリプレッサー結合部位を含有する非コードDNA配列をいう。エンハンサーは、200bp~1kbの長さの範囲であり、近位、すなわち、プロモーターの5’上流側もしくは調節される遺伝子の第1のイントロン内、または遠位、すなわち、隣接遺伝子のイントロンもしくは座位からかなり離れた遺伝子間領域中のいずれかであり得る。DNAルーピングを通じて、活性エンハンサーは、コアDNA結合モチーフプロモーターの特異性に依存的に、プロモーターと接触する。4~5個のエンハンサーが1個のプロモーターと相互作用し得る。同様に、エンハンサーは、連結の制限なしに複数の遺伝子を調節する場合があり、より遠位のものを調節するために隣接遺伝子を「スキップ」する場合がある。転写調節は、プロモーターが存在するものとは異なる染色体中に位置する要素に関与していてもよい。隣接遺伝子の近位エンハンサーまたはプロモーターは、より遠位の要素を動員するためのプラットフォームとして役割と果たし得る。
【0016】
本明細書中で使用する「機能的」および「完全に機能的」とは、生物活性を有するタンパク質を説明する。「機能的遺伝子」とは、mRNAへと転写される遺伝子をいい、これが機能的タンパク質へと翻訳される。
本明細書中で使用する「融合タンパク質」とは、元は別々のタンパク質をコードしていた2個以上の遺伝子を結合させることによって作製した、キメラタンパク質をいう。融合遺伝子の翻訳は、元のタンパク質のそれぞれに由来する機能的特性を有する単一のポリペプチドをもたらす。
本明細書中で使用する「遺伝子コンストラクト」とは、タンパク質をコードしているヌクレオチド配列を含むDNAまたはRNA分子をいう。コード配列は、プロモーターおよびポリアデニル化シグナルを含めた調節要素と作動可能に連結された、核酸分子を投与する個体の細胞中において発現を指示することができる、開始および終止シグナルを含む。本明細書中で使用する用語「発現可能な形態」とは、個体の細胞中に存在する場合にコード配列が発現されるように、タンパク質をコードしているコード配列と作動可能に連結されている、必要な調節要素を含有する遺伝子構築物をいう。
【0017】
本明細書中で使用する「ゲノム編集」とは、遺伝子を変えることをいう。ゲノム編集は、突然変異遺伝子を補修または修復することを含み得る。ゲノム編集はスプライスアクセプター部位を変更させ得る。ゲノム編集は、目的遺伝子を変えることによって疾患を処置するまたは筋肉修復を増強させるために使用し得る。
本明細書中で使用する用語「異種」とは、自然においては互いに同じ関係性では見つからない2個以上の部分配列を含む核酸をいう。たとえば、組換え産生させた核酸は、典型的には、合成的に配置されて新しい機能的核酸を作る、関連性のない遺伝子由来の2個以上の配列、たとえば、1個の供給源由来のプロモーターおよび別の供給源由来のコード領域を有する。したがって、2個の核酸は、この文脈において互いに異種である。細胞に加えた際は、組換え核酸も細胞の内在遺伝子に対して異種となるであろう。したがって、染色体中において、異種核酸は、染色体内に組み込まれた非ネイティブ(天然に存在しない)核酸、または非ネイティブ(天然に存在しない)染色体外核酸を含むであろう。同様に、異種タンパク質は、タンパク質が、自然においては互いに同じ関係性では見つからない2個以上の部分配列(たとえば、2個の部分配列が単一の核酸配列によってコードされている「融合タンパク質」)を含むことを示す。
2個以上の核酸またはポリペプチド配列の文脈において本明細書中で使用する「同一」または「同一性」とは、配列が、指定された領域にわたって同じである、指定された残基百分率を有することを意味する。百分率は、2個の配列を最適にアラインメントすること、2個の配列を指定された領域にわたって比較すること、両方の配列中で同一の残基が存在する位置の数を決定して、一致した位置の数を得ること、一致した位置の数を指定された領域中の位置の総数で除算すること、および結果を100で乗算して配列同一性の百分率を得ることによって計算し得る。2個の配列が異なる長さのものである、またはアラインメントにより1個または複数個のねじれ型末端が生じ、指定された比較領域が単一の配列のみを含む場合は、単一配列の残基を計算の分母には含めるが分子には含めない。DNAおよびRNAを比較する場合、チミン(T)およびウラシル(U)は均等物としてみなし得る。同一性は、手動で、またはBLASTもしくはBLAST2.0などのコンピュータ配列アルゴリズムを使用することによって行い得る。
【0018】
本明細書中で互換性があるように使用される「突然変異遺伝子」または「突然変異した遺伝子」とは、検出可能な突然変異を受けた遺伝子をいう。突然変異遺伝子は、遺伝子の正常な伝達および発現に影響を与える、遺伝物質の喪失、獲得、または交換などの変化を受けている。本明細書中で使用する「破壊された遺伝子」とは、未熟なストップコドンの原因となる突然変異を有する突然変異遺伝子をいう。破壊された遺伝子産物は、完全長の破壊されていない遺伝子産物と比較して切断されている。
本明細書中で使用する「正常遺伝子」とは、遺伝物質の喪失、獲得、または交換などの変化を受けていない遺伝子をいう。正常遺伝子は正常な遺伝子伝達および遺伝子発現を受ける。たとえば、正常遺伝子は野生型遺伝子であり得る。
本明細書中で使用する「核酸」または「オリゴヌクレオチド」または「ポリヌクレオチド」とは、一緒に共有結合された少なくとも2個のヌクレオチドを意味する。単鎖の描写は相補鎖の配列も定義する。したがって、核酸は、示した単鎖の相補鎖も包含する。核酸の多くの変異体を同じ目的で所定の核酸として使用し得る。したがって、核酸は、実質的に同一の核酸およびその相補体も包含する。単鎖は、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で標的配列とハイブリダイズし得るプローブを提供する。したがって、核酸は、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズするプローブも包含する。
【0019】
核酸は、一本鎖もしくは二本鎖であり得るか、または、二本鎖および一本鎖の配列の両方の一部分を含有し得る。核酸は、DNA(ゲノムおよびcDNAの両方)、RNA、またはハイブリッドであってよく、核酸は、デオキシリボ-およびリボ-ヌクレオチドの組合せ、ならびにウラシル、アデニン、チミン、シトシン、グアニン、イノシン、キサンチン、ヒポキサンチン、イソシトシン、およびイソグアニンを含めた塩基の組合せを含有し得る。核酸は、化学合成方法によってまたは組換え方法によって得られ得る。
「オープンリーディングフレーム」とは、開始コドンで開始され、ストップコドンで終わる、コドンの区間をいう。複数のエクソンを有する真核生物遺伝子では、イントロンが除去され、その後、転写後にエクソンが一緒に結合されて、タンパク質翻訳のための最終mRNAが得られる。オープンリーディングフレームはコドンの連続的な区間であり得る。一部の実施形態では、オープンリーディングフレームは、タンパク質の発現のための、スプライシングされたmRNAにのみ適用され、ゲノムDNAには適用されない。
【0020】
本明細書中で使用する「作動可能に連結されている」とは、遺伝子の発現が、それが空間的に接続されているプロモーターの制御下にあることを意味する。プロモーターは、その制御下にある遺伝子の5’(上流)または3’(下流)に位置し得る。プロモーターと遺伝子との間の距離は、プロモーターが由来する遺伝子における、プロモーターとそれが制御する遺伝子との間の距離とほぼ同じであり得る。当分野で知られているように、この距離の変動は、プロモーター機能の喪失なしに適応され得る。
核酸またはアミノ酸配列は、互いに機能的関係に配置されている場合に、「作動可能に連結されている」(または「稼働可能に連結されている」)。たとえば、プロモーターまたはエンハンサーは、コード配列の転写を調節する、またはその変調に寄与する場合に、コード配列と作動可能に連結されている。作動可能に連結されているDNA配列は典型的には連続的であり、作動可能に連結されているアミノ酸配列は、典型的には連続的であり、かつ同じリーディングフレーム中にある。しかし、エンハンサーは、一般に、プロモーターから数キロ塩基まで、またはそれより多く隔てられている場合に機能し、イントロン配列は可変の長さであってよいため、一部のポリヌクレオチド要素は作動可能に連結されているが連続的ではない場合がある。同様に、一次ポリペプチド配列中で非連続的である特定のアミノ酸配列は、たとえばポリペプチド鎖の折り畳みのおかげで、依然として作動可能に連結されている場合がある。融合ポリペプチドに関して、用語「稼働可能に連結されている」および「作動可能に連結されている」とは、構成要素のそれぞれが、他の構成要素と連結されて、そのように連結されていないかのように、同じ機能を行うことをいうことができる。
【0021】
本明細書中で使用する「部分的に機能的」とは、突然変異遺伝子によってコードされており、機能的タンパク質よりも低いが非機能的タンパク質よりも高い生物活性を有するタンパク質を説明する。
本明細書中で互換性があるように使用される「未熟なストップコドン」または「アウトオブフレームストップコドン」とは、野生型遺伝子中には通常見つからない位置にストップコドンをもたらす、DNAの配列中のナンセンス突然変異をいう。未熟なストップコドンは、タンパク質の完全長バージョンと比較してタンパク質が切断されるまたは短くなることを引き起こし得る。
【0022】
本明細書中で使用する「プロモーター」とは、細胞中の核酸の発現を与える、活性化する、または増強させることができる、合成または天然由来の分子を意味する。プロモーターは、発現をさらに増強させるため、ならびに/またはその空間的発現および/もしくは時間的発現を変更するために、1個または複数個の特定の転写調節配列を含み得る。また、プロモーターは、遠位のエンハンサーまたはリプレッサー要素も含んでいてよく、これは、転写の開始部位から数千塩基対もの場所に位置していてよい。プロモーターは、ウイルス、細菌、真菌、植物、昆虫、および動物を含めた供給源に由来し得る。プロモーターは、構成的に、または発現が起こる細胞、組織、もしくは臓器に関して発現が起こる発生段階に関して示差的に、または生理的ストレス、病原体、金属イオン、もしくは誘導剤などの外部刺激に応答して、遺伝子構成要素の発現を調節し得る。プロモーターの代表的な例としては、バクテリオファージT7プロモーター、バクテリオファージT3プロモーター、SP6プロモーター、lacオペレータープロモーター、tacプロモーター、SV40後期プロモーター、SV40初期プロモーター、RSV-LTRプロモーター、CMV IEプロモーター、SV40初期プロモーター、またはSV40後期プロモーター、およびCMV IEプロモーターが挙げられる。
【0023】
たとえば、細胞、または核酸、タンパク質、もしくはベクターを参照して使用する用語「組換え」とは、細胞、核酸、タンパク質、またはベクターが、異種核酸もしくはタンパク質の導入またはネイティブ核酸もしくはタンパク質の変更によって改変されている、あるいは、細胞が、そのように改変した細胞に由来することを示す。したがって、たとえば、組換え細胞は、細胞のネイティブ(天然に存在する)形態内に見つからない遺伝子を発現する、あるいは、そうでなければ正常もしくは異常に発現される、過少発現される、または全く発現されない、ネイティブ遺伝子の第2のコピーを発現する。
本明細書中で使用する「骨格筋」とは、体性神経系の制御下にあり、腱として知られるコラーゲン線維の束によって骨に付着している、横紋筋の一種をいう。骨格筋は、筋細胞、または「筋肉細胞」として知られ、場合によっては口語的に「筋線維」と呼ばれる、個々の構成要素からなる。筋細胞は、筋形成として知られるプロセスにおける、発達筋芽細胞(筋肉細胞を生じさせる胚性前駆細胞の一種)の融合から形成される。これらの長い、円柱状、多核の細胞は筋原線維とも呼ばれる。
本明細書中で使用する「骨格筋状態」とは、筋ジストロフィー、加齢、筋変性、創傷治癒、および筋力低下または萎縮などの、骨格筋に関連する状態をいう。
【0024】
本明細書中で互換性があるように使用される「対象」および「患者」とは、それだけには限定されないが、哺乳動物(たとえば、ウシ、ブタ、ラクダ、ラマ、ハリネズミ、アリクイ、カモノハシ、ゾウ、アルパカ、ウマ、ヤギ、ウサギ、ヒツジ、ハムスター、モルモット、ネコ、イヌ、ラット、およびマウス、非ヒト霊長類(たとえば、カニクイザルまたはアカゲザル、チンパンジーなどのサル)、ならびにヒト)を含めた、任意の脊椎動物をいう。一部の実施形態では、対象はヒトまたは非ヒトであり得る。対象または患者は、他の形態の処置を受けていてもよい。
「処置する」、「処置すること」、または「処置」とは、本明細書中でそれぞれ互換性があるように使用され、そのような用語が適用される疾患、またはそのような疾患の1種もしくは複数種の症状の進行を逆転、軽減、または阻害することを説明する。処置は、急性または慢性の様式のどちらかで行い得る。この用語はまた、疾患またはそのような疾患に関連する症状の重篤度を、疾患を罹患する前に低下させることもいう。そのような疾患の重篤度の、罹患前の低下とは、抗体または医薬組成物を、投与時に疾患を患っていない対象に投与することをいう。「防止すること」とは、疾患またはそのような疾患に関連する1種もしくは複数種の症状の再発を防止することもいう。「処置」および「治療上」とは、上記定義した「処置すること」のように処置する行為をいう。
【0025】
核酸に関して本明細書中で使用する「変異体」とは、(i)参照したヌクレオチド配列の一部分もしくは断片、(ii)参照したヌクレオチド配列もしくはその一部分の相補体、(iii)参照した核酸もしくはその相補体と実質的に同一である核酸、または(iv)ストリンジェントな条件下で、参照した核酸、その相補体、もしくはそれと実質的に同一である配列とハイブリダイズする核酸を意味する。
アミノ酸の挿入、欠失、または保存的置換によってアミノ酸配列が異なるが、少なくとも1種の生物活性を保持している、ペプチドまたはポリペプチドに関する「変異体」。また、変異体は、参照したタンパク質と実質的に同一であるアミノ酸配列を有しており、少なくとも1種の生物活性を保持しているアミノ酸配列を有するタンパク質も意味し得る。アミノ酸の保存的置換、すなわち、アミノ酸を、同様の特性(たとえば、親水性、荷電領域の度合および分布)の異なるアミノ酸で置き換えることは、当分野において、典型的には軽微な変化に関与するとして認識されている。これらの軽微な変化は、当分野において理解されるようにアミノ酸の疎水性親水性指標を考慮することによって、部分的に同定し得る。Kyte et al., J. Mol. Biol. 157:105-132 (1982)。アミノ酸の疎水性親水性指標は、その疎水性および荷電の考慮に基づく。同様の疎水性親水性指標のアミノ酸を置換しても、依然としてタンパク質機能を保持し得ることが、当分野で知られている。一態様では、±2の疎水性親水性指標を有するアミノ酸を置換する。また、アミノ酸の親水性を使用して、生物学的機能を保持しているタンパク質をもたらす置換も明らかにし得る。ペプチドの文脈におけるアミノ酸の親水性の考慮は、そのペプチドの最大局所平均親水性の計算を可能にする。置換は、互いに±2以内の親水性値を有するアミノ酸を用いて行い得る。アミノ酸の疎水性指標および親水性値はどちらも、そのアミノ酸の具体的な側鎖によって影響を受ける。この観察と一貫して、生物学的機能と適合性のあるアミノ酸置換は、疎水性、親水性、荷電、大きさ、および他の特性によって明らかにされる、アミノ酸の相対的類似度、具体的にはこれらのアミノ酸の側鎖に依存すると理解されている。
【0026】
本明細書中で使用する「ベクター」とは、複製起点を含有する核酸配列を意味する。ベクターは、ウイルスベクター、バクテリオファージ、細菌人工染色体、または酵母人工染色体であり得る。ベクターはDNAまたはRNAベクターであり得る。ベクターは、自己複製する染色体外ベクターであってよく、好ましくはDNAプラスミドである。たとえば、ベクターは、Casタンパク質もしくは融合タンパク質をコードしているポリヌクレオチド配列、および/あるいは配列番号19もしくは配列番号20の少なくとも1個のgRNAヌクレオチド配列または配列番号17もしくは配列番号18を含むヌクレオチド配列を標的とするgRNAを含む、本明細書中に記載のCRISPR/Casをベースにしたゲノム編集システムをコードしていてよい。
【0027】
2.ジストロフィンを修復するためのCRISPR/Casをベースにしたゲノム編集システム
ジストロフィン遺伝子機能の修復において使用するための、CRISPR/Casをベースにしたゲノム編集システムを本明細書中で提供する。一部の実施形態では、CRISPR/Casをベースにしたゲノム編集システムは、Casタンパク質または融合タンパク質と、配列番号17または配列番号18に対応するポリヌクレオチド配列と結合し、それを標的とする、少なくとも1個のガイドRNA(gRNA)とを含む。一部の実施形態では、少なくとも1個のガイドRNA(gRNA)は、配列番号19または配列番号20のポリヌクレオチドを含む、またはそれによってコードされている。融合タンパク質は2個の異種ポリペプチドドメインを含むことができる。一部の実施形態では、融合タンパク質は、Casタンパク質および塩基編集ドメイン、または他の酵素機能を有するドメインを含む。一部の実施形態では、少なくとも1個のgRNAは、a)配列番号17もしくは配列番号18の断片、b)配列番号17もしくは配列番号18の相補体、またはその断片、c)配列番号17もしくは配列番号18と実質的に同一である核酸、またはその相補体、あるいはd)ストリンジェントな条件下で配列番号17もしくは配列番号18とハイブリダイズする核酸、その相補体、またはそれに実質的に同一な配列に対応するポリヌクレオチド配列と結合し、それを標的とする。
【0028】
a)ジストロフィン遺伝子
ジストロフィンは、筋線維の細胞骨格を、周囲の細胞外基質を通じて細胞膜に接続させるタンパク質複合体の一部である、棹形状の細胞質タンパク質である(
図1)。ジストロフィンは、細胞膜のジストログリカン複合体に構造的安定性をもたらす。ジストロフィン遺伝子は、座位Xp21で2.2メガ塩基である。一次転写物ではおよそ2,400kbが測定され、成熟mRNAはおよそ14kbである。79個のエクソンは約2.2百万個のヌクレオチドを含み、3500個のアミノ酸を超えるタンパク質をコードしている(
図2)。正常な骨格筋組織は少量のみのジストロフィンを含有するが、異常発現によるジストロフィンの非存在は重篤かつ不治の症状の発生をもたらす。ジストロフィン遺伝子中の一部の突然変異は、罹患患者において欠損ジストロフィンの産生および重篤なジストロフィー表現型をもたらす。ジストロフィン遺伝子中の一部の突然変異は、罹患患者において、部分的に機能的なジストロフィンタンパク質およびはるかにより緩和なジストロフィー表現型をもたらす。
【0029】
DMDは、ジストロフィン遺伝子中のナンセンスまたはフレームシフトの突然変異を引き起こす遺伝性または自発性の突然変異の結果である。DMDは最も一般的な致死的遺伝性小児疾患であり、5,000人の新生男児中の約1人が罹患する。DMDは進行性の筋力低下によって特徴づけられており、機能的なジストロフィン遺伝子を欠くことが原因で、しばしば二十代半ばの年齢で対象の死亡をもたらす。ほとんどの突然変異は、リーディングフレームを破壊するジストロフィン遺伝子中の欠失である。天然に存在する突然変異およびその結果は、DMDについて比較的よく理解されている。桿状ドメイン内に含有されるエクソン45~55領域中に起こるインフレーム欠失が、高度に機能的なジストロフィンタンパク質を産生することができ、多くのキャリアは無症候性であるか、緩和な症状を表示することが知られている。ジストロフィンのエクソン45~55は突然変異のホットスポットである。さらに、60%を超える患者が、理論的には、ジストロフィン遺伝子のこの領域中のエクソンを標的化することによって処置し得る。mRNAスプライシング中に非必須エクソンをスキップすること(たとえばエクソン45スキッピング)して、内部欠失であるが機能的なジストロフィンタンパク質を生じさせることによって、DMD患者中の破壊されたジストロフィンリーディングフレームを修復する努力がなされている。内部ジストロフィンエクソンの欠失(たとえばエクソン45の欠失)は、適切なリーディングフレームを保持しており、内部的に切断されているが部分的に機能的なジストロフィンタンパク質を生じることができる。ジストロフィンのエクソン45~55の間の欠失は、DMDと比較してはるかにより緩和な表現型をもたらす。
【0030】
ジストロフィン遺伝子は突然変異ジストロフィン遺伝子であり得る。ジストロフィン遺伝子は野生型ジストロフィン遺伝子であり得る。ジストロフィン遺伝子は、野生型ジストロフィン遺伝子と機能的に同一である配列を有しいてよく、たとえば、配列は、コドン最適化されているが、それでも依然として野生型ジストロフィンと同じタンパク質をコードしていてよい。突然変異ジストロフィン遺伝子は、野生型ジストロフィン遺伝子と比較して1個または複数個の突然変異を含み得る。突然変異は、たとえば、ヌクレオチドの欠失、置換、付加、塩基転換、またはその組合せを含み得る。突然変異は、少なくとも1個のイントロンおよび/またはエクソンの全体または一部の欠失を含み得る。突然変異ジストロフィン遺伝子のエクソンは、ジストロフィン遺伝子から突然変異しているまたは少なくとも部分的に欠失していてよい。突然変異ジストロフィン遺伝子のエクソンは完全に欠失していてよい。突然変異ジストロフィン遺伝子は、野生型ジストロフィン遺伝子中の対応する配列に対応する一部分またはその断片を有し得る。一部の実施形態では、欠失または突然変異したエクソンによって引き起こされた破壊されたジストロフィン遺伝子は、対応する野生型エクソンを付加して戻すことによって、DMD患者において修復することができる。一部の実施形態では、欠失または突然変異したエクソン52によって引き起こされた破壊されたジストロフィンは、野生型エクソン52を付加して戻すことによって、DMD患者において修復することができる。ある特定の実施形態では、リーディングフレームを修復するためにエクソン52を付加することは、欠失突然変異を有するDMD対象を含めたDMD対象において表現型を寛解させる。ある特定の実施形態では、1個または複数個のエクソンを、破壊されたジストロフィン遺伝子内に付加して挿入し得る。1個または複数個のエクソンを付加して挿入して、ジストロフィン中の対応する突然変異または欠失したエクソンを修復し得る。エクソン52を付加して戻し、挿入することに加えて、1個または複数個のエクソンを破壊されたジストロフィン遺伝子内に付加して挿入し得る。ある特定の実施形態では、ジストロフィン遺伝子のエクソン52とは、ジストロフィン遺伝子の52番目のエクソンをいう。エクソン52は、DMD患者中においてフレームを破壊する欠失にしばしば隣接しており、オリゴヌクレオチドをベースにしたエクソンスキッピングについて臨床治験において標的とされている。
【0031】
本明細書中に開示する遺伝子コンストラクト(たとえばベクター)は、ジストロフィン遺伝子(たとえばヒトジストロフィン遺伝子)内への高効率のエクソン52付加を媒介することができる。本明細書中に開示する遺伝子コンストラクト(たとえばベクター)は、DMD患者由来の細胞中におけるジストロフィンタンパク質発現を修復することができる。エクソン52は、DMD中においてフレームを破壊する欠失にしばしば隣接している。ジストロフィン転写物へのエクソン52の付加を使用して、DMD患者を処置することができる。本明細書中に開示する遺伝子コンストラクト(たとえばベクター)を、ヒトDMD細胞内に形質移入させ、正しいリーディングフレームへの効率的な遺伝子の改変および変換を媒介し得る。タンパク質修復はフレーム修復と同時であってよく、CRISPR/Casをベースにしたゲノム編集システムで処置した細胞のバルク集団中において検出する。
【0032】
b)融合タンパク質
CRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムは、融合タンパク質、または融合タンパク質をコードしている核酸配列を含み得る。融合タンパク質は、Casタンパク質および遺伝子/ゲノム編集ドメイン、または他の酵素機能を有するドメインを含み得る。一部の実施形態では、融合タンパク質をコードしている核酸配列はDNAである。一部の実施形態では、融合タンパク質をコードしている核酸配列はRNAである。
【0033】
i)Casタンパク質
CRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムはCasタンパク質を含み得る。Casタンパク質はgRNAの3’末端と複合体を形成する。CRISPRをベースにしたシステムの特異性は2個の要因、すなわち標的配列およびプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)に依存する。標的配列はgRNAの5’末端に位置しており、プロトスペーサーとして知られている正しいDNA配列で、宿主DNA上の塩基対と結合するように設計されている。単にgRNAの認識配列を交換することによって、Casタンパク質を新しいゲノム標的に向けることができる。PAM配列は変更したいDNA上に位置しており、Casタンパク質によって認識される。Casタンパク質のPAM認識配列は種特異的であることができる。
Cas9タンパク質は核酸を切断するエンドヌクレアーゼであり、CRISPR座位によってコードされており、II型CRISPRシステムに関与している。Cas9分子は、1個または複数個のgRNA分子と相互作用することができ、gRNA分子と協同して、標的ドメイン、ある特定の実施形態ではPAM配列を含む部位に局在化する。PAM配列を認識するCas9分子の能力は、たとえば当分野で知られている形質転換アッセイを使用して決定することができる。一部の実施形態では、CRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムは、化膿性連鎖球菌由来のCas9タンパク質を含む。一部の実施形態では、Cas9タンパク質は配列番号1のアミノ酸配列を含む。一部の実施形態では、CRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムは、黄色ブドウ球菌由来のCas9タンパク質を含む。一部の実施形態では、Cas9タンパク質は配列番号2のアミノ酸配列を含む。
【0034】
一部の実施形態では、CRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムは、触媒的に死んだdCas9を含む。一部の実施形態では、Cas9タンパク質は、ヌクレアーゼ活性が失活しているように、突然変異していてよい。立体障害によって遺伝子発現をサイレンシングするために、エンドヌクレアーゼ活性を有さない失活したCas9タンパク質(「iCas9」、「dCas9」とも呼ばれる)を、gRNAによって、細菌、酵母、およびヒト細胞中の遺伝子に標的化してよい。ヌクレアーゼ活性を失活させるための、化膿性連鎖球菌Cas9配列を参照とした例示的な突然変異としては、D10A、E762A、H840A、N854A、N863A、および/またはD986Aが挙げられる。D10A突然変異を有する化膿性連鎖球菌Cas9タンパク質は、配列番号3のアミノ酸配列を含み得る。D10AおよびH849Aの突然変異を有する化膿性連鎖球菌Cas9タンパク質は、配列番号4のアミノ酸配列を含み得る。ヌクレアーゼ活性を失活させるための、黄色ブドウ球菌Cas9配列を参照とした例示的な突然変異としては、D10AおよびN580Aが挙げられる。
【0035】
Cas9タンパク質または突然変異Cas9タンパク質は、化膿性連鎖球菌、黄色ブドウ球菌、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophiles)、または髄膜炎菌(Neisseria meningitides)などの、任意の細菌または古細菌の種由来であり得る。一部の実施形態では、Casタンパク質または突然変異Cas9タンパク質は、ストレプトコッカス属(Streptococcus)、スタフィロコッカス属(Staphylococcus)、ブレビバシラス属(Brevibacillus)、コリネバクター属(Corynebacter)、スッテレラ属(Sutterella)、レジオネラ属(Legionella)、フランシセラ属(Francisella)、トレポネーマ属(Treponema)、フィリファクター属(Filifactor)、ユーバクテリウム属(Eubacterium)、ラクトバチルス属(Lactobacillus)、バクテロイデス属(Bacteroides)、フラビイボラ属(Flaviivola)、フラボバクテリウム属(Flavobacterium)、スフェロヘータ属(Sphaerochaeta)、アゾスピリルム属(Azospirillum)、グルコンアセトバクター属(Gluconacetobacter)、ナイセリア属(Neisseria)、ロゼブリア属(Roseburia)、パルビバキュラム属(Parvibaculum)、スタフィロコッカス属、ニトラチフラクター属(Nitratifractor)、マイコプラズマ属(Mycoplasma)、またはカンピロバクター属(Campylobacter)の細菌属に由来するCas9タンパク質である。一部の実施形態では、Cas9タンパク質または突然変異Cas9タンパク質は、それだけには限定されないが、化膿性連鎖球菌、フランシセラ・ノビシダ(Francisella novicida)、黄色ブドウ球菌、髄膜炎菌、ストレプトコッカス・サーモフィルス、トレポネーマ・デンティコラ(Treponema denticola)、ブレビバチルス・ラテロスポラス)Brevibacillus laterosporus、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)、ジフテリア菌(Corynebacterium diphtheria)、ユーバクテリウム・ベントリオスム(Eubacterium ventriosum)、ストレプトコッカス・パステリアヌス(Streptococcus pasteurianus)、ラクトバチルス・ファルシミニス(Lactobacillus farciminis)、スフェロヘータ・グロバス(Sphaerochaeta globus)、アゾルピリルム属(Azospirillum)、グルコンアセトバクター・ジアトロフィカス(Gluconacetobacter diazotrophicus)、ナイセリア・シネレア(Neisseria cinerea)、ロゼブリア・インテスティナリス(Roseburia intestinalis)、パルビバキュラム・ラバメンチボランス(Parvibaculum lavamentivorans)、ニトラチフラクター・サルスギニス(Nitratifractor salsuginis)、およびカンピロバクター・ラリ(Campylobacter lari)を含めた群から選択される。
【0036】
ある特定の実施形態では、標的核酸と相互作用してそれを切断する、Cas9分子または突然変異Cas9タンパク質の能力は、PAM配列依存性である。PAM配列は標的核酸中の配列である。ある特定の実施形態では、標的核酸の切断はPAM配列から上流で起こる。様々な細菌種由来のCas9分子は、様々な配列モチーフ(たとえばPAM配列)を認識することができる。ある特定の実施形態では、化膿性連鎖球菌のCas9分子は、標的核酸配列の切断を、その配列から1~10、たとえば3~5bp上流で指示する、配列モチーフNGG(配列番号10)を認識する(たとえばMali 2013を参照)。ある特定の実施形態では、黄色ブドウ球菌Cas9分子は、標的核酸配列の切断を、その配列から1~10、たとえば3~5bp上流で指示する、配列モチーフNNGRR(R=AまたはG)(配列番号12)を認識する。ある特定の実施形態では、黄色ブドウ球菌のCas9分子は、標的核酸配列の切断を、その配列から1~10、たとえば3~5bp上流で指示する、配列モチーフNNGRRN(R=AまたはG)(配列番号13)を認識する。ある特定の実施形態では、黄色ブドウ球菌のCas9分子は、標的核酸配列の切断を、その配列から1~10、たとえば3~5bp上流で指示する、配列モチーフNNGRRT(R=AまたはG)(配列番号14)を認識する。ある特定の実施形態では、黄色ブドウ球菌のCas9分子は、標的核酸配列の切断を、その配列から1~10、たとえば3~5bp上流で指示する、配列モチーフNNGRRV(R=AまたはG、V=AまたはCまたはG)(配列番号15)を認識する。前述の実施形態では、Nは、任意のヌクレオチド残基、たとえば、A、G、C、またはTのうちの任意のものであることができる。Cas9分子を操作して、Cas9分子のPAM特異性を変更することができる。
【0037】
一部の実施形態では、Cas9タンパク質または突然変異Cas9タンパク質は、PAM配列NGG(配列番号10)またはNGA(配列番号16)を認識することができる。一部の実施形態では、Cas9タンパク質または突然変異Cas9タンパク質は、PAM配列NNNRRT(配列番号11)を認識することができる。一部の実施形態では、Cas9タンパク質または突然変異Cas9タンパク質は、PAM配列ATTCCT(配列番号9)を認識することができる。一部の実施形態では、Cas9タンパク質または突然変異Cas9タンパク質は黄色ブドウ球菌のCas9タンパク質であり、配列モチーフNNGRR(R=AもしくはG)(配列番号12)、NNGRRN(R=AもしくはG)(配列番号13)、NNGRRT(R=AもしくはG)(配列番号14)、またはNNGRRV(R=AもしくはG)(配列番号15)を認識する。前述の実施形態では、Nは、任意のヌクレオチド残基、たとえば、A、G、C、またはTのうちの任意のものであることができる。Cas9分子を操作して、Cas9分子のPAM特異性を変更することができる。
それに加えてまたはその代わりに、Cas9分子またはCas9ポリペプチドをコードしている核酸は核移行配列(NLS)を含み得る。核移行配列は当分野で知られている。
【0038】
c)gRNA
CRISPR/Casをベースにしたゲノム編集システムは少なくとも1個のgRNAを含み得る。gRNAは、ジストロフィン遺伝子の断片を標的とし得る。gRNAは、突然変異ジストロフィン遺伝子の断片を標的とし得る。gRNAは、野生型ジストロフィン遺伝子の断片を標的とし得る。断片は、およそ5~およそ200、およそ10~およそ200、およそ5~およそ300、またはおよそ10~およそ300個のヌクレオチドの長さであり得る。断片は、少なくともおよそ5、少なくともおよそ10、少なくともおよそ15、少なくともおよそ20、少なくともおよそ30、少なくともおよそ40、少なくともおよそ50、または少なくともおよそ100個のヌクレオチドの長さであり得る。gRNAは、突然変異もしくは欠失を含むジストロフィン遺伝子の断片もしくは一部分、またはそれに近位もしくは並置されている配列を標的とし得る。gRNAは、ジストロフィン遺伝子のエクソンに並置されているイントロンを標的とし得る。gRNAは、突然変異ジストロフィン遺伝子のエクソンに並置されているイントロンを標的とし得る。野生型ジストロフィン遺伝子の断片は、本明細書中に詳述するように、2個のgRNAスペーサーおよび/またはPAM配列によって挟まれていてよい。それぞれのgRNAスペーサーは、配列番号5~8および25~45から選択されるアミノ酸配列を含み得る。2個のgRNAスペーサーは同一であってよい。2個のgRNAスペーサーは異なっていてよい。一部の実施形態では、2個のgRNAスペーサーのうちの少なくとも1個は、配列番号25または配列番号26の配列を含む。エクソンは、ジストロフィン遺伝子のエクソン1~8、10、11、12、14、16~22、43~59、および61~66から選択され得る。一部の実施形態では、エクソンはエクソン52である。gRNAは、CRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムの標的化をもたらす。gRNAは、2個の非コードRNA、すなわちcrRNAおよびtracrRNAの融合物である。sgRNAは、標的化特異性を与える20bpのプロトスペーサーをコードしている配列を、相補的塩基対合によって、所望のDNA標的と交換することによって、任意の所望のDNA配列を標的とし得る。gRNAは、II型エフェクターシステムに関与している天然に存在するcrRNA:tracrRNA二重鎖を模倣する。たとえば42個のヌクレオチドのcrRNAおよび75個のヌクレオチドのtracrRNAを含み得るこの二重鎖は、Cas9のガイドとして役割を果たす。
【0039】
一部の実施形態では、少なくとも1個のgRNAは、標的領域を標的としてそれと結合し得る。一部の実施形態では、1~20個のgRNAを、標的遺伝子を変更する、たとえばスプライスアクセプター部位を変更するために使用し得る。たとえば、1個のgRNA~20個のgRNA、1個のgRNA~15個のgRNA、1個のgRNA~10個のgRNA、1個のgRNA~5個のgRNA、2個のgRNA~20個のgRNA、2個のgRNA~15個のgRNA、2個のgRNA~10個のgRNA、2個のgRNA~5個のgRNA、5個のgRNA~20個のgRNA、5個のgRNA~15個のgRNA、または5個のgRNA~10個のgRNAを、CRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システム中に含めて、スプライスアクセプター部位を変更するために使用し得る。一部の実施形態では、少なくとも1個のgRNA、少なくとも2個のgRNA、少なくとも3個のgRNA、少なくとも4個のgRNA、少なくとも5個のgRNA、少なくとも6個のgRNA、少なくとも7個のgRNA、少なくとも8個のgRNA、少なくとも9個のgRNA、少なくとも10個のgRNA、少なくとも11個のgRNA、少なくとも12個のgRNA、少なくとも13個のgRNA、少なくとも14個のgRNA、少なくとも15個のgRNA、または少なくとも20個のgRNAを、CRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システム中に含めて、スプライスアクセプター部位を変更するために使用し得る。一部の実施形態では、30個未満のgRNA、25個未満のgRNA、20個未満のgRNA、15個未満のgRNA、10個未満のgRNA、5個未満のgRNA、または3個未満のgRNAを、CRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システム中に含めて、スプライスアクセプター部位を変更するために使用し得る。
【0040】
CRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムは、様々な配列および長さのgRNAを使用し得る。gRNAは、配列番号17もしくは配列番号18を含む標的配列、または配列番号17もしくは配列番号18を含む標的配列の相補的ポリヌクレオチド配列などの、標的DNA配列の相補的ポリヌクレオチド配列、続いてNGGを含み得る。gRNAは、相補的ポリヌクレオチド配列の5’末端に「G」を含み得る。gRNAは、少なくとも10塩基対、少なくとも11塩基対、少なくとも12塩基対、少なくとも13塩基対、少なくとも14塩基対、少なくとも15塩基対、少なくとも16塩基対、少なくとも17塩基対、少なくとも18塩基対、少なくとも19塩基対、少なくとも20塩基対、少なくとも21塩基対、少なくとも22塩基対、少なくとも23塩基対、少なくとも24塩基対、少なくとも25塩基対、少なくとも30塩基対、または少なくとも35塩基対の標的DNA配列の相補的ポリヌクレオチド配列、続いてNGGを含み得る。gRNAは、40塩基対未満、35塩基対未満、30塩基対未満、25塩基対未満、20塩基対未満、または15塩基対未満の標的DNA配列の相補的ポリヌクレオチド配列、続いてNGGを含み得る。gRNAは、標的遺伝子のプロモーター領域、エンハンサー領域、または転写された領域のうちの少なくとも1個を標的とし得る。
【0041】
少なくとも1個のgRNAは、配列番号17または配列番号18を含む核酸配列と結合し、それを標的とし得る。標的配列は、配列番号17または配列番号18のポリヌクレオチド、またはその断片、もしくは5’切断物などのその切断物を含み得る。切断物は、配列番号17または配列番号18の配列よりも1、2、3、4、5、6、7、8、または9個のヌクレオチド短くてもよい。gRNAは、配列番号17または配列番号18に対応するポリヌクレオチド、その相補体、その変異体、またはその断片を含み得る。gRNAは、配列番号17または配列番号18を含むポリヌクレオチド配列によってコードされ得る。ゲノム中の標的配列を標的とするgRNAの一部分は、gRNAスペーサーまたはプロトスペーサーと呼び得る。プロトスペーサーは、ゲノム中の標的化配列に相補的であるgRNAの一部分として定義し得る。プロトスペーサーは、配列番号17または配列番号18のポリヌクレオチド、またはその断片、もしくはその切断物、もしくはその相補体を含み得る。gRNAはgRNA足場を含み得る。gRNA足場は、Cas9とgRNAとの結合およびエンドヌクレアーゼ活性を促進する。gRNA足場は、gRNAが標的とする配列に対応するgRNAの一部分に続くポリヌクレオチド配列である。gRNA標的化部分とgRNA足場は、一緒になって1個のポリヌクレオチドを形成する。一部の実施形態では、gRNA標的化部分とgRNA足場は一緒になって、配列番号19または配列番号20のポリヌクレオチド配列、またはその相補体を含み得る。一部の実施形態では、gRNA標的化部分とgRNA足場は一緒になって、配列番号19または配列番号20のポリヌクレオチド配列、またはその相補体によってコードされている。gRNAは、配列番号19のポリヌクレオチド、その相補体、その変異体、もしくはその断片、または配列番号20、その相補体、その変異体、もしくはその断片によってコードされていてよい。
【0042】
d)ドナー配列
CRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムは、少なくとも1個のドナー配列を含み得る。ドナー配列はジストロフィン遺伝子の断片を含み得る。たとえば、ドナー配列は、ジストロフィン遺伝子の1個のエクソンまたはエクソンの任意の組合せをコードしている核酸配列を含み得る。ドナー配列は、野生型ジストロフィン遺伝子のエクソンまたはその機能的均等物を含み得る。エクソンは、ジストロフィン遺伝子のエクソン1~8、10、11、12、14、16~22、43~59、61~66から選択され得る。一部の実施形態では、エクソンはジストロフィン遺伝子のエクソン52である。ドナー配列は、野生型ジストロフィン遺伝子の断片またはその機能的均等物を含んでいてよく、断片またはその機能的均等物は、2個のgRNAスペーサーに挟まれていてよい。ドナー配列は、挿入したいエクソンの周囲または付近のイントロン配列に対応する、少なくとも1個の追加のポリヌクレオチドをさらに含み得る。ドナー配列は、エクソン52の周囲または付近のイントロン配列に対応する、少なくとも1個の追加のポリヌクレオチドをさらに含み得る。ドナー配列は、配列番号21または配列番号22のうちの少なくとも1個の核酸配列、その相補体、その変異体、またはその断片を含み得る。
gRNAおよびドナー配列は様々なモル比で存在し得る。gRNAとドナー配列との間のモル比は、1:1、または1:15、または5:1~1:10、または1:1~1:5であり得る。gRNAとドナー配列との間のモル比は、少なくとも1:1、少なくとも1:2、少なくとも1:3、少なくとも1:4、少なくとも1:5、少なくとも1:6、少なくとも1:7、少なくとも1:8、少なくとも1:9、少なくとも1:10、少なくとも1:15、または少なくとも1:20であり得る。gRNAとドナー配列との間のモル比は、20:1未満、15:1未満、10:1未満、9:1未満、8:1未満、7:1未満、6:1未満、5:1未満、4:1未満、3:1未満、2:1未満、または1:1未満であり得る。
【0043】
3.ジストロフィン機能を修復するための組成物
ジストロフィン機能を修復するための組成物を本明細書中に開示する。組成物は、1個または複数個のエクソンを付加してジストロフィンのリーディングフレームを修復することによって、ジストロフィン機能を修復し得る。たとえば、付加するエクソンはエクソン52であり得る。組成物は上述のCRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムを含み得る。組成物はウイルス送達系も含み得る。たとえば、ウイルス送達系は、アデノ随伴ウイルスベクターまたは改変レンチウイルスベクターを含み得る。
核酸を宿主細胞内に導入する方法は当分野で知られており、任意の既知の方法を使用して核酸(たとえば発現コンストラクト)を細胞内に導入することができる。適切な方法としては、たとえば、ウイルスまたはバクテリオファージ感染、形質移入、コンジュゲーション、プロトプラスト融合、ポリカチオンまたは脂質:核酸コンジュゲート、リポフェクション、電気穿孔、ヌクレオフェクション、免疫リポソーム、リン酸カルシウム沈殿、ポリエチレンイミン(PEI)媒介性形質移入、DEAE-デキストラン媒介性形質移入、リポソーム媒介性形質移入、粒子銃技術、リン酸カルシウム沈殿、直接マクロ注入、ナノ粒子媒介性核酸送達などが挙げられる。一部の実施形態では、組成物は、mRNA送達およびリボ核タンパク質(RNP)複合体送達によって送達し得る。
【0044】
a)コンストラクトおよびプラスミド
上述の組成物またはシステムは、本明細書中に開示するCRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムをコードしている遺伝子コンストラクトを含み得る。プラスミドまたは発現ベクターなどの遺伝子コンストラクトは、CRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムをコードしている核酸および/またはgRNAのうちの少なくとも1個を含み得る。上述の組成物は、改変アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターをコードしている遺伝子コンストラクト、および本明細書中に開示するCRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムをコードしている核酸配列を含み得る。一部の実施形態では、上述の組成物は、改変アデノウイルスベクターをコードしている遺伝子コンストラクト、および本明細書中に開示するCRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムをコードしている核酸配列を含み得る。プラスミドなどの遺伝子コンストラクトは、CRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムをコードしている核酸を含み得る。上述の組成物は、改変レンチウイルスベクターをコードしている遺伝子コンストラクトを含み得る。プラスミドなどの遺伝子コンストラクトは、Casタンパク質または融合タンパク質をコードしている核酸および少なくとも1個のgRNAを含み得る。遺伝子コンストラクトは、機能的な染色体外分子として細胞中に存在し得る。遺伝子コンストラクトは、セントロメア、テロメア、またはプラスミド、またはコスミドを含めた直鎖状のミニ染色体であり得る。
【0045】
また、遺伝子コンストラクトは、組換えレンチウイルス、組換えアデノウイルス、および組換えアデノウイルス関連ウイルスを含めた組換えウイルスベクターのゲノムの一部であり得る。遺伝子コンストラクトは、弱毒化した生きた微生物中の遺伝物質の一部または細胞中に生きる組換え微生物ベクターであり得る。遺伝子コンストラクトは、核酸のコード配列の遺伝子発現のための調節要素を含み得る。調節要素は、プロモーター、エンハンサー、開始コドン、ストップコドン、またはポリアデニル化シグナルであり得る。
【0046】
核酸配列は、ベクターであり得る遺伝子コンストラクトを構成し得る。ベクターは、CRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムなどのCasタンパク質または融合タンパク質を哺乳動物の細胞中で発現させることができ得る。ベクターは組換えであり得る。ベクターは、CRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムなどのCasタンパク質または融合タンパク質をコードしている異種核酸を含み得る。ベクターはプラスミドであり得る。ベクターは、CRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムをコードしている核酸で細胞を形質移入するために有用である場合があり、形質転換させた宿主細胞は、CRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムの発現が起こる条件下で培養および維持する。
コード配列は、安定性および高い発現レベルのために最適化し得る。一部の例では、コドンは、分子内結合が原因で形成されるものなどの、RNAの二次構造形成を減らすように選択される。
【0047】
ベクターは、CRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムをコードしている異種核酸を含んでいてよく、CRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムのコード配列の上流であり得る開始コドン、およびCRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムのコード配列の下流であり得るストップコドンをさらに含んでいてよい。開始および終止コドンは、CRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムのコード配列とインフレームであり得る。また、ベクターは、CRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムのコード配列と作動可能に連結されているプロモーターも含み得る。プロモーターは遍在性プロモーターであり得る。プロモーターは組織特異的プロモーターであり得る。組織特異的プロモーターは筋肉特異的プロモーターであり得る。CRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムは、空間および時間における遺伝子/ゲノム編集のダイナミック制御を可能にするために、光誘導性または化学誘導性の制御下であり得る。CRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムのコード配列と作動可能に連結されているプロモーターは、シミアンウイルス40(SV40)由来のプロモーター、マウス乳癌ウイルス(MMTV)プロモーター、ウシ免疫不全ウイルス(BIV)末端反復配列(LTR)プロモーターなどのヒト免疫不全ウイルス(HIV)プロモーター、モロニーウイルスプロモーター、トリ白血症ウイルス(ALV)プロモーター、CMV前初期プロモーターなどのサイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、エプスタイン・バーウイルス(EBV)プロモーター、またはラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーターであり得る。また、プロモーターは、ヒトユビキチンC(hUbC)、ヒトアクチン、ヒトミオシン、ヒトヘモグロビン、ヒト筋肉クレアチン、またはヒトメタロチオネインなどの、ヒト遺伝子由来のプロモーターであり得る。また、プロモーターは、天然または合成の、筋肉または皮膚特異的プロモーターなどの組織特異的プロモーターであってもよい。そのようなプロモーターの例は、その内容がその全体で本明細書中に組み込まれている米国特許出願公開US20040175727号に記載されている。プロモーターは、たとえば、CK8プロモーター、Spc512プロモーター、MHCK7プロモーターであり得る。
【0048】
ベクターは、CRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムの下流であり得るポリアデニル化シグナルも含み得る。ポリアデニル化シグナルは、SV40ポリアデニル化シグナル、LTRポリアデニル化シグナル、ウシ成長ホルモン(bGH)ポリアデニル化シグナル、ヒト成長ホルモン(hGH)ポリアデニル化シグナル、またはヒトβ-グロビンポリアデニル化シグナルであり得る。SV40ポリアデニル化シグナルは、pCEP4ベクター(Invitrogen、カリフォルニア州San Diego)からのポリアデニル化シグナルであり得る。
【0049】
ベクターは、CRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムまたはsgRNAの上流にエンハンサーも含み得る。エンハンサーはDNA発現に必要であり得る。エンハンサーは、ヒトアクチン、ヒトミオシン、ヒトヘモグロビン、ヒト筋肉クレアチン、または、CMV、HA、RSV、もしくはEBV由来のものなどのウイルスエンハンサーであり得る。ポリヌクレオチド機能エンハンサーは、それぞれの内容が参考として完全に組み込まれている、米国特許第5,593,972号、第5,962,428号、およびWO94/016737号に記載されている。ベクターは、ベクターを染色体外に維持し、細胞中でベクターの複数コピーを生じるために、哺乳動物複製起点も含み得る。ベクターは、ベクターを投与した哺乳動物またはヒト細胞中での遺伝子発現によく適している場合がある調節配列も含み得る。また、ベクターは、緑色蛍光タンパク質(「GFP」)などのレポーター遺伝子および/またはハイグロマイシン(「Hygro」)などの選択マーカーを含んでいてもよい。
【0050】
ベクターは、参考として完全に組み込まれているSambrook et al., Molecular Cloning and Laboratory Manual, Second Ed., Cold Spring Harbor (1989)を含めた、ルーチン技法および容易に入手可能な出発物質によってタンパク質を産生させるための発現ベクターまたはシステムであり得る。一部の実施形態では、ベクターは、Casタンパク質または融合タンパク質をコードしている核酸配列と、配列番号19の核酸配列、その相補体、その変異体、もしくはその断片、または配列番号20の核酸配列、その相補体、その変異体、もしくはその断片、または配列番号17もしくは配列番号18の核酸配列を標的とするgRNA、その変異体、もしくはその断片を含む、少なくとも1個のgRNAをコードしている核酸配列とを含む、CRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムをコードしている核酸配列を含み得る。一部の実施形態では、2個のベクターは、Casタンパク質または融合タンパク質をコードしている核酸配列を含む第1のベクターおよび少なくとも1個のgRNAをコードしている核酸配列を含む第2のベクターを含む、CRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムをコードしている核酸配列を含み得る。
一部の実施形態では、組成物は、mRNAおよびタンパク質/RNA複合体(リボ核タンパク質(RNP))によって送達する。たとえば、精製Casタンパク質または融合タンパク質をガイドRNAと組み合わせてRNP複合体を形成することができる。本明細書中に記載する方法は、本明細書中に記載のDNAドナー配列の送達も必要とし得る。
【0051】
b)改変レンチウイルスベクター
エクソン52を付加または挿入するための組成物は、改変レンチウイルスベクターを含み得る。改変レンチウイルスベクターは、Casタンパク質もしくは融合タンパク質コードしている第1のポリヌクレオチド配列および少なくとも1個のgRNAをコードしている第2のポリヌクレオチド配列を含む。第1のポリヌクレオチド配列は、プロモーターと作動可能に連結されていてよい。プロモーターは、構成的プロモーター、誘導性プロモーター、抑制性プロモーター、または調節可能プロモーターであり得る。
第2のポリヌクレオチド配列は少なくとも1個のgRNAをコードしている。たとえば、第2のポリヌクレオチド配列は、少なくとも1個のgRNA、少なくとも2個のgRNA、少なくとも3個のgRNA、少なくとも4個のgRNA、少なくとも5個のgRNA、少なくとも6個のgRNA、少なくとも7個のgRNA、少なくとも8個のgRNA、少なくとも9個のgRNA、少なくとも10個のgRNA、少なくとも11個のgRNA、少なくとも12個のgRNA、少なくとも13個のgRNA、少なくとも14個のgRNA、少なくとも15個のgRNA、少なくとも16個のgRNA、少なくとも17個のgRNA、少なくとも18個のgRNA、少なくとも19個のgRNA、または少なくとも20個のgRNAをコードしていてよい。たとえば、第2のポリヌクレオチド配列は、30個未満のgRNA、25個未満のgRNA、20個未満のgRNA、15個未満のgRNA、10個未満のgRNA、5個未満のgRNA、または3個未満のgRNAをコードしていてよい。第2のポリヌクレオチド配列は、プロモーターと作動可能に連結されていてよい。プロモーターは、構成的プロモーター、誘導性プロモーター、抑制性プロモーター、または調節可能プロモーターであり得る。少なくとも1個のgRNAは、エクソン52に対応する標的領域などの標的遺伝子または座位と結合し得る。
【0052】
c)アデノ随伴ウイルスベクター
AAVは、様々なコンストラクト立体配置を使用して組成物を細胞に送達するために使用し得る。たとえば、AAVは、Casタンパク質または融合タンパク質およびgRNA発現カセットを別々のベクター上で送達し得る。あるいは、Casタンパク質または融合タンパク質および2個までのgRNA発現カセットの両方を、単一のAAVベクター中で4.7kbのパッケージング限界内で組み合わせ得る。
上述の組成物は改変アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを含む。改変AAVベクターは、哺乳動物の細胞中において部位特異的ヌクレアーゼを送達および発現させることでき得る。たとえば、改変AAVベクターはAAV-SASTGベクターであり得る(Piacentino et al. (2012) Human Gene Therapy 23:635-646)。改変AAVベクターは、AAV1、AAV2、AAV5、AAV6、AAV8、およびAAV9を含めたいくつかのカプシド型のうちの1種または複数種に基づき得る。改変AAVベクターは、全身性および局所的な送達によって骨格筋または心筋に効率的に形質導入する、AAV2/1、AAV2/6、AAV2/7、AAV2/8、AAV2/9、AAV2.5、およびAAV/SASTGベクターなどの代替筋肉向性AAVカプシドを有するAAV2偽型に基づき得る(Seto et al. Current Gene Therapy (2012) 12:139-151)。コンストラクトは配列番号23のポリヌクレオチド配列を含み得る。コンストラクトは配列番号24のポリヌクレオチド配列を含み得る。
【0053】
4.突然変異ジストロフィン遺伝子を有する対象においてジストロフィン機能を修復する方法
本明細書中に開示する主題は、DMDを患っているおよび/または突然変異ジストロフィン遺伝子を有する細胞および/または対象において、ジストロフィン機能(たとえば、突然変異ジストロフィン遺伝子、たとえば突然変異ヒトジストロフィン遺伝子)を修復する方法を提供する。本方法は、上述の、CRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システム、前記CRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムをコードしているポリヌクレオチドもしくはベクター、または前記CRISPR/Cas9をベースにした遺伝子編集システムの組成物を、細胞または対象に投与することを含むことができる。一部の実施形態では、対象はデュシェンヌ筋ジストロフィーを患っている。一部の実施形態では、ジストロフィン機能は、1個または複数個の欠失または突然変異したエクソンに対応する、ジストロフィン遺伝子の1個または複数個の野生型エクソンを挿入することによって修復される。一部の実施形態では、ジストロフィン機能は、野生型ジストロフィン遺伝子のエクソン52の挿入によって修復される。
【0054】
本方法は、上述の本明細書中に開示する遺伝子コンストラクト(たとえばベクター)またはそれを含む組成物を、細胞または対象に投与することを含むことができる。本方法は、上述のように、本明細書中に開示する遺伝子コンストラクト(たとえばベクター)またはそれを含む組成物を、骨格筋および/または心筋中におけるゲノム編集のために、対象の骨格筋および/または心筋に投与することを含むことができる。CRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムを骨格筋または心筋に送達するための、本明細書中に開示する遺伝子コンストラクト(たとえばベクター)またはそれを含む組成物の使用は、完全に機能的または部分的に機能的なタンパク質の発現を修復し得る。CRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システム、功を奏したかつ効率的な遺伝子改変の率が高いことで、高度なゲノム編集の利点を有する。
【0055】
本方法は、Casタンパク質または融合タンパク質、前記Casタンパク質または融合タンパク質をコードしているヌクレオチド配列、および/あるいは、配列番号19を含む、もしくはそれによってコードされている、もしくはそれに対応する少なくとも1個のgRNA、その相補体、その変異体、もしくはその断片、または配列番号20を含む、もしくはそれによってコードされている、もしくはそれに対応する少なくとも1個のgRNA、その相補体、その変異体、もしくはその断片、または配列番号17もしくは配列番号18の核酸配列を標的とするgRNA、その変異体、もしくはその断片を投与することなどの、CRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムを投与することを含み得る。
CRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムを標的筋肉に送達するための、本明細書中に開示する遺伝子コンストラクト(たとえばベクター)またはそれを含む組成物の使用は、たとえば、完全に機能的または部分的に機能的なタンパク質の発現を、修復鋳型またはドナーDNAを用いて修復でき、これは、遺伝子全体または突然変異を含有する領域を置き換えることができる。CRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムを使用して、部位特異的な二重鎖切断を標的としたゲノム座位に導入し得る。部位特異的な二重鎖切断は、CRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムが標的DNA配列と結合することによって作られ、それによって標的DNAの切断が可能となる。このDNA切断は天然のDNA修復機構を刺激する場合があり、これは、2個の可能な修復経路、すなわち、たとえば相同組換え修復(HDR)または非相同末端結合(NHEJ)経路のうちの1個をもたらし得る。
【0056】
開示したCRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムは、相同組換え修復またはヌクレアーゼ媒介性非相同末端結合(NHEJ)をベースにした補正手法の使用に関与する場合があり、これは、相同組換えまたは選択をベースにした遺伝子補正を受け入れない場合がある、増殖が制限された初代細胞系において効率的な補正を可能にする。この戦略は、フレームシフト、未熟なストップコドン、異常なスプライスドナー部位、または異常なスプライスアクセプター部位を引き起こす非必須コード領域中の突然変異によって引き起こされた遺伝病を処置するための効率的な遺伝子編集方法を用いた、活性CRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムの迅速かつ頑強なアセンブリを組み込んでいる。
内在性突然変異遺伝子からのタンパク質発現の修復は、鋳型なしのNHEJ媒介性DNA修復によるものであり得る。標的遺伝子RNAを標的とする一過的方法とは対照的に、一過的に発現されたCRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムによるゲノム中の標的遺伝子リーディングフレームの補正は、それぞれの改変細胞およびそのすべての子孫による永久的に修復された標的遺伝子発現をもたらし得る。ある特定の実施形態では、NHEJはヌクレアーゼ媒介性NHEJであり、ある特定の実施形態では、これは、二本鎖DNAを切断するCas分子により開始されるNHEJをいう。本方法は、骨格筋または心筋中におけるゲノム編集のために、本明細書中に開示する遺伝子コンストラクト(たとえばベクター)またはそれを含む組成物を、対象の骨格筋または心筋に投与することを含む。
【0057】
ヌクレアーゼ媒介性NHEJ遺伝子補正は、突然変異した標的遺伝子を補正し、HDR経路を越えるいくつかの潜在的な利点を提供し得る。たとえば、NHEJは、非特異的挿入突然変異を引き起こし得るドナー鋳型を必要としない。HDRとは対照的に、NHEJは細胞周期のすべての段階において効率的に作動し、したがって、周期中の細胞および筋線維などの分裂終了細胞の両方において有効に活用し得る。これは、オリゴヌクレオチドをベースにしたエクソンスキッピングまたは薬理学的に強制したストップコドンの読み過ごしに対する、頑強な永久的な遺伝子修復の代替方法を提供し、理論的にはわずか1回の薬物処置しか必要としない可能性がある。CRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムを使用した、NHEJをベースにした遺伝子補正、ならびにメガヌクレアーゼおよびジンクフィンガーヌクレアーゼを含めた他の操作したヌクレアーゼを、本明細書中に記載したプラスミド電気穿孔手法に加えて、細胞および遺伝子をベースにした治療のための他の既存のex vivoおよびin vivoプラットフォームと組み合わせ得る。たとえば、mRNAをベースにした遺伝子移入による、または精製した細胞透過性タンパク質としての、CRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムの送達は、挿入突然変異のいかなる可能性をも回避するであろう、DNAを含まないゲノム編集手法を可能にすることができる。
【0058】
近年、相同性非依存性標的組込み(HITI)のための、CRISPR/Cas9のAAV送達の戦略が、in vivoでのニューロンのゲノム編集をもたらしている。Suzuki, K., Tsunekawa, Y., Hernandez-Benitez, R., et al. In vivo genome editing via CRISPR/Cas9 mediated homology-independent targeted integration. Nature 540, 144-149 (2016)を参照されたい。DMDを補正するための、AAVをベースにしたHITI媒介性遺伝子編集治療を本明細書中に記載する。そのようなAAV CRISPR/Cas9送達系を使用して、たとえばDMDのヒト化動物モデルにおける効率的かつ機能的な補正を提供し得る。
【0059】
5.医薬組成物
CRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムは医薬組成物中であり得る。医薬組成物は、およそ1ng~およそ10mgの、CRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムをコードしているDNAを含み得る。本明細書中に詳述する医薬組成物は、使用する投与様式に従って配合する。医薬組成物が注射用医薬組成物である場合、これらは無菌的であり、発熱物質を含まず、粒子を含まない。等張配合物を好ましくは使用する。一般に、等張性のための添加剤としては、塩化ナトリウム、デキストロース、マンニトール、ソルビトール、およびラクトースを挙げ得る。一部の事例では、リン酸緩衝生理食塩水などの等張溶液が好ましい。安定化剤としてはゼラチンおよびアルブミンが挙げられる。一部の実施形態では、血管狭窄剤を配合物に加える。
CRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムを含有する医薬組成物は、薬学的に許容される賦形剤をさらに含み得る。薬学的に許容される賦形剤は、ビヒクル、アジュバント、担体、または希釈剤などの機能的分子であり得る。薬学的に許容される賦形剤は形質移入促進剤であってよく、免疫刺激複合体(ISCOMS)などの界面活性剤、フロイント不完全アジュバント、モノホスホリル脂質Aを含めたLPS類似体、ムラミルペプチド、キノン類似体、スクアレンおよびスクアレンなどの小胞、ヒアルロン酸、脂質、リポソーム、カルシウムイオン、ウイルスタンパク質、ポリアニオン、ポリカチオン、もしくはナノ粒子、または他の既知の形質移入促進剤を挙げ得る。
【0060】
形質移入促進剤は、ポリアニオン、ポリ-L-グルタミン酸(LGS)を含めたポリカチオン、または脂質である。形質移入促進剤はポリ-L-グルタミン酸であり、より好ましくは、ポリ-L-グルタミン酸は、CRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムを含有する医薬組成物中に6mg/ml未満の濃度で存在する。形質移入促進剤は、免疫刺激複合体(ISCOMS)などの界面活性剤、フロイント不完全アジュバント、モノホスホリル脂質Aを含めたLPS類似体、ムラミルペプチド、キノン類似体、ならびにスクアレンおよびスクアレンなどの小胞も含んでいてよく、また、ヒアルロン酸も遺伝子コンストラクトと併せて投与して使用し得る。一部の実施形態では、CRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムをコードしているDNAベクターは、脂質、レシチンリポソームもしくは当分野で知られている他のリポソームなどのリポソームをDNA-リポソーム混合物として(たとえばW09324640号を参照)、カルシウムイオン、ウイルスタンパク質、ポリアニオン、ポリカチオン、もしくはナノ粒子、または他の既知の形質移入促進剤などの形質移入促進剤も含み得る。好ましくは、形質移入促進剤は、ポリアニオン、ポリ-L-グルタミン酸(LGS)を含めたポリカチオン、または脂質である。
【0061】
6.送達方法
CRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムの遺伝子コンストラクトおよび/またはタンパク質を提供するために、CRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムの医薬配合物を送達する方法を、本明細書中に提供する。CRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムの送達は、細胞中に発現されて細胞の表面へと送達される1個または複数個の核酸分子としての、CRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムの形質移入または電気穿孔であり得る。CRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムタンパク質を細胞に送達し得る。核酸分子は、BioRad Gene Pulser XcellもしくはAmaxa Nucleofector IIb装置または他の電気穿孔装置を使用して電気穿孔し得る。BioRad電気穿孔溶液、Sigmaリン酸緩衝生理食塩水製品番号D8537(PBS)、Invitrogen OptiMEM I(OM)、またはAmaxa Nucleofector溶液V(N.V.)を含めたいくつかの異なる緩衝液を使用し得る。形質移入は、Lipofectamine 2000などの形質移入試薬を含み得る。
【0062】
CRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムタンパク質をコードしているベクターは、in vivo電気穿孔、リポソーム媒介性、ナノ粒子促進性、および/または組換えベクターを用いたまたは用いないDNA注入(DNAワクチン接種とも呼ばれる)によって、哺乳動物に送達し得る。組換えベクターは、任意のウイルス様式によって送達し得る。ウイルス様式は、組換えレンチウイルス、組換えアデノウイルス、および/または組換えアデノ随伴ウイルスであり得る。
CRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムタンパク質をコードしているヌクレオチドを細胞内に導入して、標的遺伝子の遺伝子発現を誘導し得る。たとえば、標的遺伝子に向けられたCRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムをコードしている1個または複数個のヌクレオチド配列を、哺乳動物細胞内に導入し得る。CRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムを細胞に、その結果ベクターを哺乳動物の細胞に送達した際、形質移入した細胞はCRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムを発現する。CRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムを哺乳動物に投与して、哺乳動物における標的遺伝子の遺伝子発現を誘導または変調し得る。哺乳動物は、ヒト、非ヒト霊長類、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、アンテロープ、バイソン、水牛、ウシ科動物、シカ、ハリネズミ、アリクイ、カモノハシ、ゾウ、ラマ、アルパカ、マウス、ラット、またはニワトリ、好ましくはヒト、ウシ、ブタ、またはニワトリであり得る。
【0063】
本明細書中に開示する遺伝子コンストラクトまたは組成物を組織に、その結果ベクターを哺乳動物の細胞内に送達した際、形質移入した細胞はgRNA分子およびCas9分子を発現する。遺伝子コンストラクトまたは組成物を哺乳動物に投与して、遺伝子発現を変更し得る、またはゲノムを再操作もしくは変更し得る。たとえば、遺伝子コンストラクトまたは組成物は、哺乳動物においてジストロフィン機能を修復するために、哺乳動物に投与し得る。哺乳動は、ヒト、非ヒト霊長類、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、アンテロープ、バイソン、水牛、ウシ科動物、シカ、ハリネズミ、アリクイ、カモノハシ、ゾウ、ラマ、アルパカ、マウス、ラット、またはニワトリ、好ましくはヒト、ウシ、ブタ、またはニワトリであり得る。
gRNA分子およびCas9分子をコードしている遺伝子コンストラクト(たとえばベクター)は、in vivo電気穿孔、リポソーム媒介性、ナノ粒子促進性、および/または組換えベクターを用いたまたは用いないDNA注入(DNAワクチン接種とも呼ばれる)によって、哺乳動物に送達することができる。組換えベクターは、任意のウイルス様式によって送達することができる。ウイルス様式は、組換えレンチウイルス、組換えアデノウイルス、および/または組換えアデノ随伴ウイルスであることができる。
【0064】
本明細書中に開示する遺伝子コンストラクト(たとえばベクター)またはそれを含む組成物を細胞内に導入して、ジストロフィン遺伝子(たとえばヒトジストロフィン遺伝子)のジストロフィン機能を遺伝子修復することができる。ある特定の実施形態では、本明細書中に開示する遺伝子コンストラクト(たとえばベクター)またはそれを含む組成物をDMD患者由来の筋芽細胞内に導入する。ある特定の実施形態では、遺伝子コンストラクト(たとえばベクター)またはそれを含む組成物をDMD患者由来の繊維芽細胞内に導入し、遺伝子補正した繊維芽細胞をMyoDで処置して筋芽細胞への分化を誘導することができ、補正されたジストロフィンタンパク質が機能的であるかを検証するため、および/または対象を処置するために、これを対象の損傷筋肉などの対象内に移植することができる。改変細胞は、人工多能性幹細胞、骨髄由来前駆体、骨格筋前駆体、DMD患者由来のヒト骨格筋芽細胞、CD133+細胞、中血管芽細胞、およびMyoDもしくはPax7で形質導入した細胞、または他の筋原性前駆細胞などの幹細胞であることもできる。たとえば、CRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムは、人工多能性幹細胞の神経性または筋原性の分化を引き起こし得る。
【0065】
7.投与経路
CRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムおよびその組成物は、たとえば、経口、非経口、舌下、経皮、直腸、経粘膜、外用、吸入を介する、頬側投与を介する、胸膜内、静脈内、動脈内、腹腔内、皮下、筋肉内、鼻腔内、くも膜下腔内、および関節内、またはその組合せを含めた様々な経路によって、対象に投与し得る。獣医学的使用には、組成物は、通常の獣医学的実施に従った適切に許容される配合物として投与し得る。獣医師が、具体的な動物に最も適切である投薬レジメンおよび投与経路を容易に決定し得る。CRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムおよびその組成物は、従来のシリンジ、無針注入装置、「微粒子衝撃遺伝子銃」、または電気穿孔(「EP」)、「流体力学的方法」、もしくは超音波などの他の物理的方法によって投与し得る。組成物は、in vivo電気穿孔、リポソーム媒介性、ナノ粒子促進性、組換えレンチウイルス、組換えアデノウイルス、および組換えアデノウイルス関連ウイルスなどの組換えベクターを用いたまたは用いないDNA注入(DNAワクチン接種とも呼ばれる)を含めたいくつかの技術によって哺乳動物に送達し得る。
【0066】
本明細書中に開示する遺伝子コンストラクト(たとえばベクター)またはそれを含む組成物は、たとえば、経口、非経口、舌下、経皮、直腸、経粘膜、外用、吸入を介する、頬側投与を介する、胸膜内、静脈内、動脈内、腹腔内、皮下、筋肉内、鼻腔内、くも膜下腔内、および関節内、またはその組合せを含めた様々な経路によって、対象に投与し得る。ある特定の実施形態では、本明細書中に開示する遺伝子コンストラクト(たとえばベクター)または組成物は、筋肉内、静脈内、またはその組合せで対象(たとえばDMDを患っている対象)に投与する。獣医学的使用には、本明細書中に開示する遺伝子コンストラクト(たとえばベクター)または組成物は、通常の獣医学的実施に従った適切に許容される配合物として投与し得る。獣医師が、具体的な動物に最も適切である投薬レジメンおよび投与経路を容易に決定し得る。組成物は、従来のシリンジ、無針注入装置、「微粒子衝撃遺伝子銃」、または電気穿孔(「EP」)、「流体力学的方法」、もしくは超音波などの他の物理的方法によって投与し得る。
【0067】
本明細書中に開示する遺伝子コンストラクト(たとえばベクター)または組成物は、in vivo電気穿孔、リポソーム媒介性、ナノ粒子促進性、組換えレンチウイルス、組換えアデノウイルス、および組換えアデノウイルス関連ウイルスなどの組換えベクターを用いたまたは用いないDNA注入(DNAワクチン接種とも呼ばれる)を含めたいくつかの技術によって哺乳動物に送達し得る。組成物は、骨格筋または心筋内に注射し得る。たとえば、組成物は、前脛骨筋または尾部内に注射し得る。
一部の実施形態では、本明細書中に開示する遺伝子コンストラクト(たとえばベクター)またはその組成物は、1)成体マウス内への尾部静脈注入(全身性)、2)成体マウスへの筋肉内注射、たとえば、TAもしくは腓腹筋などの筋肉内への局所注入、3)P2マウス内への腹腔内注射、または4)P2マウス内への顔面静脈注入(全身性)によって投与する。
【0068】
8.細胞種
これらの送達方法および/または投与経路のうちの任意のものは、無数の細胞種、たとえば、それだけには限定されないが、野生型およびDMD患者由来の系統、原始(primal)DMD真皮線維芽細胞、人工多能性幹細胞、骨髄由来前駆体、骨格筋前駆体、DMD患者由来のヒト骨格筋芽細胞、CD133+細胞、中血管芽細胞、心筋細胞、肝細胞、軟骨細胞、間葉前駆細胞、造血幹細胞、平滑筋細胞、およびMyoDもしくはPax7で形質導入した細胞、または他の筋原性前駆細胞などの不死化筋芽細胞を含めた、細胞をベースにしたDMDの治療について現在調査されている細胞種で利用することができる。ヒト筋原細胞の不死化は、遺伝子補正した筋原細胞のクローン誘導に使用することができる。ゲノム中のタンパク質コード領域中に遺伝子補正または修復されたジストロフィン遺伝子を含み、他のヌクレアーゼで導入された突然変異を含まない不死化DMD筋芽細胞のクローン集団を単離および拡大するために、細胞をex vivoで改変することができる。あるいは、非ウイルス性もしくは非組込み型ウイルス遺伝子移入による、または精製タンパク質および細胞透過モチーフを含有するgRNAの直接送達による、CRISPR/Casをベースにしたシステムの一過性in vivo送達は、外因性DNAの組込みのリスクが最小限またはない、特異性の高いin situの補正および/または修復を可能にし得る。
【0069】
9.キット
突然変異したジストロフィン遺伝子を補正するおよび/またはジストロフィン機能を修復するために使用し得るキットを本明細書中に提供する。キットは、少なくとも、配列番号19のポリヌクレオチド配列、その相補体、その変異体、もしくはその断片を含むもしくはそれによってコードされているgRNA、または配列番号20のポリヌクレオチド配列、その相補体、その変異体、もしくはその断片を含むもしくはそれによってコードされているgRNA、または配列番号17もしくは配列番号18のポリヌクレオチド配列を標的とするgRNA、その相補体、その変異体、もしくはその断片、ジストロフィン機能を修復するため、およびCRISPR/Casをベースにした編集システムを使用するための指示を含む。また、骨格筋または心筋中のジストロフィン遺伝子の編集に使用し得るキットも本明細書中に提供する。キットは、上述の骨格筋または心筋中におけるゲノム編集のための遺伝子コンストラクト(たとえばベクター)またはそれを含む組成物、および前記組成物を使用するための指示を含む。
【0070】
キット中に含められる指示は、梱包材料に貼り得る、または添付文書として含められ得る。指示は典型的には文書または印刷された物体であるが、これらはそれに限定されない。そのような指示を記憶し、それらを最終使用者に伝達することができる任意の媒体が、本開示によって企図される。そのような媒体としては、それだけには限定されないが、電子記憶媒体(たとえば、磁気ディスク、テープ、カートリッジ、チップ)、光学的媒体(たとえばCD ROM)などが挙げられる。本明細書中で使用する用語「指示」としては、指示を提供するインターネットサイトのアドレスを挙げ得る。
骨格筋または心筋中のジストロフィン機能を修復するための遺伝子コンストラクト(たとえばベクター)またはそれを含む組成物は、ジストロフィン遺伝子の一領域と特異的に結合してそれを切断する、上述のgRNA分子およびCasタンパク質または融合タンパク質を含む改変AAVベクターを含み得る。上述のCRISPR/Casをベースにした遺伝子編集システムは、突然変異したジストロフィン遺伝子中の特定の領域、たとえばエクソン52と特異的に結合し、それを標的とするために、キットに含め得る。
【実施例】
【0071】
10.実施例
前述の記載は、例示目的で提示し、本発明の範囲を限定することを意図しない以下の実施例を参照することによって、より良好に理解させ得る。本開示は、添付の非限定的な例によって例示される複数の態様および実施形態を有する。
【0072】
(実施例1)
HEK293T細胞中におけるhDMD-イントロン51標的のためのSaCas9 gRNAの設計およびスクリーニング
SaCas9 hDMD-エクソン52の上流にあるhDMD-イントロン51を標的とするgRNAを、21bpのスペーサーを用いて設計し、個々の発現プラスミド内にクローニングした(
図3)。24ウェルプレート中のHEK293T細胞を、CMVプロモーター下でSaCas9を発現するプラスミド(375ng)およびU6プロモーター下で個々のgRNAを発現するプラスミド(125ng)で形質移入した。形質移入の3日後にゲノムDNAを抽出した。編集効率をサーベイヤー分析によって評価した(
図4Aおよび
図4B)。陰性対照(NC)はgRNAを含有していなかった。HEK293TゲノムDNA中の単一ヌクレオチド多型性(SNP)に関連する過剰なバンドも観察された。これらのバンドは、SNPの位置に基づいて予想された大きさに対応していた(
図5A、
図5B)。試験を19~23bpのスペーサーについてgRNA03、gRNA06、gRNA07、およびgRNA09で続けた。
【0073】
(実施例2)
ヒト8036筋芽細胞中におけるhDMD-イントロン51標的のためのSaCas9 gRNAの設計およびスクリーニング
HEK293T中で試験したgRNAの編集活性に基づいて、上位のgRNAを19~23bpのスペーサーを用いて再設計し、個々の発現プラスミド内にクローニングした。再設計したgRNAをヒト8036筋芽細胞中でスクリーニングした。6ウェルプレート中のヒト8036筋芽細胞を、CMVプロモーター下でSaCas9を発現するプラスミド(10μg)およびU6プロモーター下で個々のgRNAを発現するプラスミド(10μg)で電気穿孔した。ゲノムDNAを電気穿孔の3日後に単離した。編集効率をサーベイヤー分析によって評価した(
図6A、
図6B)。陰性対照(NC)はgRNAを含有していなかった。編集効率をタイド分析によっても評価した。gRNA g12、g16、およびg7を選択してAAV組込み(integraion)ベクターを作製した。
【0074】
(実施例3)
HEK293T細胞中におけるAAV-HITIドナープラスミドのSaCas9 gRNAスクリーニング
ヒト8036筋芽細胞中で試験したgRNAの編集活性に基づいて、上位のgRNAをAAV-HITIドナープラスミド内にクローニングした(gRNA g12、g16、およびg7)。24ウェルプレート中のHEK293T細胞を、CMVプロモーター下でSaCas9を発現するプラスミド(375ng)およびU6プロモーター下で個々のgRNAを発現するプラスミド(125ng)またはU6プロモーター下で個々のgRNAを発現するAAV-HITIドナープラスミド(125ng)で形質移入した。形質移入の3日後にゲノムDNAを抽出した。編集効率をサーベイヤー分析によって評価した(
図7)。個々のgRNAを発現するAAV-HITIドナープラスミドの編集活性に基づいて、g7およびg12ドナーを先の実験で使用して、AAV-HITIドナープラスミドを作製した。
【0075】
(実施例4)
hDMD-エクソン52のin vitro HITI媒介性組込み
初代筋芽細胞をhDMDΔ52/mdxマウスから単離した。6ウェルプレート中のこれらの細胞を、AAV-CMV-Cas9プラスミド(10μg)および個々のgRNAを発現するAAV-U6-gRNA-Ex52ドナープラスミド(10μg)で電気穿孔した。ゲノムDNAを電気穿孔の6日後に抽出した。ネステッドPCRを使用して、HITI媒介性hDMD-エクソン52の組込みを検出した(
図8A)。gRNA12-ドナー試料中の四角で囲んだバンドを切り取り、サンガーシーケンシングに送って(
図8B)、標的部位でのhDMD-エクソン52ドナーの組込みが確認された。
【0076】
(実施例5)
hDMDΔ52/mdxマウスモデルにおけるhDMD-エクソン52のin vivo HITI媒介性組込み
図9に、in vivo編集を確認するため、最良のgRNA/ドナー配列の組合せを決定するため、およびAAV-Cas9対AAV-ドナープラスミドの最良の比を決定するために使用した実験の模式図を示す。雄の6~8週齢のhDMDΔ52/mdxマウスに、前脛骨(TA)筋中への局所筋肉内注射を介してAAV-Cas9およびAAV-HITIドナーを注射した。注射の4週間後、TA筋肉を採取して処理し、HITI媒介性編集を評価した。PBSを注射したマウスが陰性対照として役割を果たした、N=4匹。
【0077】
hDMDΔ52/mdxマウスのゲノムDNA中における標的Ex52挿入を、標的切断部位の下流のプライマー(
図10A)および標的切断部位の上流のプライマー(
図10B)を用いて調査した。ゲノムDNAをTA筋肉から抽出した。PCR分析により、標的部位でのEx52挿入の存在が確認された。
処置したhDMDΔ52/mdxマウスのmRNA中における標的Ex52挿入を調査した(
図11)。全RNAをTA筋肉から抽出し、cDNAを作製するために使用した。PCR分析により、RNA転写物中のスプライシングを介したEx52挿入の存在が確認された。
【0078】
(実施例6)
処置したhDMDΔ52/mdxマウスのジストロフィンタンパク質修復
タンパク質をTA筋肉から抽出し、ウエスタンブロット分析に使用した。PBSおよび処置したTA筋肉には、25μgの全タンパク質をロードした。陽性対照として役割を果たすために、hDMD/mdx TA筋肉由来の3.125μgの全タンパク質をロードした。膜を抗ジストロフィン(クローン2c6、MANDYS106)または抗GAPDH(クローン14C10)で染色した。ウエスタンブロット分析により、処置したマウスにおけるタンパク質修復が確認された(
図12)。
【0079】
(実施例7)
編集したhDMDΔ52/mdxマウスにおけるAAV-ITR配列組込みのディープシーケンシング定量
図13に、編集したマウスにおけるエクソン52ゲノム組込みのIlluminaディープシーケンシング定量からの結果を示す。ゲノムDNAをTA筋肉から抽出した。不偏シーケンシング分析のために、Nextera Tn5トランスポゾンを使用してゲノムDNAをタグ付けした。標的化配列を濃縮するために、イントロン51標的部位の上流のゲノム特異的プライマーを使用してPCRを完了し、トランスポゾンによって挿入されたタグ配列に特異的な逆方向プライマー対合させた。第2のPCRを使用して実験バーコードおよびIlluminaアダプター配列を付加した。ITRの組込みを次世代シーケンシングによって検出した。ボウタイ分析を使用して、AAVベクターに一致するITR配列、およびゲノム特異的プライマーとイントロン51標的部位との間のゲノムDNA配列に一致したゲノム特異的配列の存在を検出した。
【0080】
(実施例8)
編集したhDMDΔ52/mdxマウスのmRNA中のエクソン52挿入のPacBioシーケンシング定量
全RNAをTA筋肉から抽出し、cDNAを作製するために使用した(
図14A)。標的化配列を濃縮するために、エクソン45およびエクソン69中のプライマーを使用してPCRを完了した。第2のPCRを使用して実験バーコードおよびPacBioアダプター配列を付加した。エクソン52挿入をPacBioシーケンシングによって検出した(
図14B)。3’-エクソン51配列と5’-エクソン53配列との間の118ntのリードを定量した。意図した編集の確認のために、これらの配列をエクソン52ドナーとアラインメントした。エクソン51とエクソン53との間の118bpを有するシーケンシングのリードがエクソン52配列と一致した。
【0081】
完全性の理由のため、様々な態様を以下の付番した条項中に記載する:
条項1.(a)突然変異ジストロフィン遺伝子の断片を標的とするガイドRNA(gRNA)、(b)Casタンパク質を含むCasタンパク質または融合タンパク質、および(c)野生型ジストロフィン遺伝子の断片を含むドナー配列を含む組成物をコードしている1個または複数個のベクターを含む、CRISPR/Casをベースにしたゲノム編集システム。
条項2.(a)突然変異ジストロフィン遺伝子の断片を標的とするガイドRNA(gRNA)、(b)Casタンパク質を含むCasタンパク質または融合タンパク質、および(c)野生型ジストロフィン遺伝子の断片を含むドナー配列を含む、CRISPR/Casをベースにしたゲノム編集システム。
条項3.野生型ジストロフィン遺伝子の断片が、2個のgRNAスペーサーおよび/またはPAM配列によって挟まれている、条項1または2に記載のシステム。
条項4.gRNAが、突然変異ジストロフィン遺伝子のエクソンと並置されているイントロンを標的とし、エクソンが、突然変異ジストロフィン遺伝子のエクソン1~8、10、11、12、14、16~22、43~59、および61~66から選択される、条項1~3のいずれか1項に記載のシステム。
【0082】
条項5.ドナー配列が、野生型ジストロフィン遺伝子のエクソンまたはその機能的均等物を含み、エクソンが、野生型ジストロフィン遺伝子のエクソン1~8、10、11、12、14、16~22、43~59、および61~66から選択される、条項1~3のいずれか1項に記載のシステム。
条項6.突然変異ジストロフィン遺伝子のエクソンがジストロフィン遺伝子から突然変異しているもしくは少なくとも部分的に欠失している、または、突然変異ジストロフィン遺伝子のエクソンが欠失しており、イントロンが、対応する野生型ジストロフィン遺伝子中で欠失したエクソンがあるはずであろう場所と並置されている、条項4に記載のシステム。
条項7.エクソンがエクソン52である、条項4または5に記載のシステム。
条項8.gRNAが、a)配列番号17もしくは配列番号18、b)配列番号17もしくは配列番号18の断片、c)配列番号17もしくは配列番号18の相補体、またはその断片、d)配列番号17もしくは配列番号18と実質的に同一である核酸、またはその相補体、あるいはe)ストリンジェントな条件下で配列番号17もしくは配列番号18とハイブリダイズする核酸、その相補体、またはそれに実質的に同一な配列を含むポリヌクレオチド配列と結合し、それを標的とする、条項1~7のいずれか1項に記載のシステム。
【0083】
条項9.gRNAが、配列番号19もしくは配列番号20のポリヌクレオチド配列、またはその変異体を含む、またはそれによってコードされている、条項1~8のいずれか1項に記載のシステム。
条項10.Casタンパク質が、化膿性連鎖球菌Cas9タンパク質または黄色ブドウ球菌Cas9タンパク質である、条項1~9のいずれか1項に記載のシステム。
条項11.Casタンパク質が、配列番号1、2、3、または4のアミノ酸配列を含む、条項1~10のいずれか1項に記載のシステム。
条項12.2個のgRNAスペーサーが、配列番号5~8および25~45から選択される配列を独立して含む、条項3~11のいずれか1項に記載のシステム。
条項13.2個のgRNAスペーサーが同一である、条項12に記載のシステム。
条項14.2個のgRNAスペーサーが異なる、条項12に記載のシステム。
条項15.2個のgRNAスペーサーのうちの少なくとも1個が、配列番号25または配列番号26の配列を含む、条項3~14のいずれか1項に記載のシステム。
条項16.ドナー配列が、配列番号21または配列番号22のポリヌクレオチドを含む、条項1~15のいずれか1項に記載のシステム。
【0084】
条項17.ベクターがウイルスベクターである、条項1および3~16のいずれか1項に記載のシステム。
条項18.ベクターがアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである、条項17に記載のシステム。
条項19.AAVベクターが、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV-10、AAV-11、AAV-12、AAV-13、またはAAVrh.74ベクターである、条項18に記載のシステム。
条項20.1個または複数個のベクターのうちの1個が、配列番号23または24のポリヌクレオチド配列を含む、条項18に記載のシステム。
条項21.gRNAとドナー配列との間のモル比が、1:1、または1:15、または5:1~1:10、または1:1~1:5である、条項1~20のいずれか1項に記載のシステム。
条項22.野生型ジストロフィン遺伝子の断片を含むドナー配列またはその機能的均等物をコードしている組換えポリヌクレオチドであって、断片またはその機能的均等物が2個のgRNAスペーサーによって挟まれている、組換えポリヌクレオチド。
【0085】
条項23.ドナー配列がジストロフィン遺伝子のエクソンを含み、エクソンが、エクソン1~8、10、11、12、14、16~22、43~59、および61~66から選択される、条項22に記載の組換えポリヌクレオチド。
条項24.組換えポリヌクレオチドが配列番号23または24の配列を含む、条項22または23に記載の組換えポリヌクレオチド。
条項25.条項22~24のいずれか1項に記載の組換えポリヌクレオチドを含むベクター。
条項26.ベクターが組換えポリヌクレオチドの発現を駆動する異種プロモーターを含む、条項25に記載のベクター。
条項27.条項22~24のいずれか1項に記載の組換えポリヌクレオチドまたは条項25もしくは26に記載のベクターを含む細胞。
【0086】
条項28.条項1~21のいずれか1項に記載のシステム、条項22~24のいずれか1項に記載の組換えポリヌクレオチド、または条項25もしくは26に記載のベクターを含む、突然変異ジストロフィン遺伝子を有する細胞においてジストロフィン機能を修復するための組成物。
条項29.条項1~21のいずれか1項に記載のシステム、条項22~24のいずれか1項に記載の組換えポリヌクレオチド、または条項25もしくは26に記載のベクター、または条項28に記載の組成物を含むキット。
条項30.細胞または対象を、条項1~21のいずれか1項に記載のシステム、条項22~24のいずれか1項に記載の組換えポリヌクレオチド、または条項25もしくは26に記載のベクター、または条項28に記載の組成物と接触させることを含む、突然変異ジストロフィン遺伝子を有する細胞または対象においてジストロフィン機能を修復するための方法。
条項31.ジストロフィン機能が、野生型ジストロフィン遺伝子のエクソン52の挿入によって修復される、条項30に記載の方法。
【0087】
条項32.対象がデュシェンヌ筋ジストロフィーを患っている、条項30または31に記載の方法。
条項33.細胞または対象を、条項1~21のいずれか1項に記載のシステム、条項22~24のいずれか1項に記載の組換えポリヌクレオチド、または条項25もしくは26に記載のベクター、または条項28に記載の組成物と接触させることを含む、1個または複数個の欠失または突然変異したエクソンによって引き起こされた、破壊されたジストロフィン遺伝子を有する細胞または対象において、ジストロフィン機能を修復するための方法。
条項34.ジストロフィン機能が、1個または複数個の欠失または突然変異したエクソンに対応する、ジストロフィン遺伝子の1個または複数個の野生型エクソンを挿入することによって修復される、条項33に記載の方法。
条項35.欠失または突然変異したエクソンのうちの1つがエクソン52である、条項34に記載の方法。
【0088】
配列
化膿性連鎖球菌Cas9(配列番号1)
MDKKYSIGLDIGTNSVGWAVITDEYKVPSKKFKVLGNTDRHSIKKNLIGALLFDSGETAEATRLKRTARRRYTRRKNRICYLQEIFSNEMAKVDDSFFHRLEESFLVEEDKKHERHPIFGNIVDEVAYHEKYPTIYHLRKKLVDSTDKADLRLIYLALAHMIKFRGHFLIEGDLNPDNSDVDKLFIQLVQTYNQLFEENPINASGVDAKAILSARLSKSRRLENLIAQLPGEKKNGLFGNLIALSLGLTPNFKSNFDLAEDAKLQLSKDTYDDDLDNLLAQIGDQYADLFLAAKNLSDAILLSDILRVNTEITKAPLSASMIKRYDEHHQDLTLLKALVRQQLPEKYKEIFFDQSKNGYAGYIDGGASQEEFYKFIKPILEKMDGTEELLVKLNREDLLRKQRTFDNGSIPHQIHLGELHAILRRQEDFYPFLKDNREKIEKILTFRIPYYVGPLARGNSRFAWMTRKSEETITPWNFEEVVDKGASAQSFIERMTNFDKNLPNEKVLPKHSLLYEYFTVYNELTKVKYVTEGMRKPAFLSGEQKKAIVDLLFKTNRKVTVKQLKEDYFKKIECFDSVEISGVEDRFNASLGTYHDLLKIIKDKDFLDNEENEDILEDIVLTLTLFEDREMIEERLKTYAHLFDDKVMKQLKRRRYTGWGRLSRKLINGIRDKQSGKTILDFLKSDGFANRNFMQLIHDDSLTFKEDIQKAQVSGQGDSLHEHIANLAGSPAIKKGILQTVKVVDELVKVMGRHKPENIVIEMARENQTTQKGQKNSRERMKRIEEGIKELGSQILKEHPVENTQLQNEKLYLYYLQNGRDMYVDQELDINRLSDYDVDHIVPQSFLKDDSIDNKVLTRSDKNRGKSDNVPSEEVVKKMKNYWRQLLNAKLITQRKFDNLTKAERGGLSELDKAGFIKRQLVETRQITKHVAQILDSRMNTKYDENDKLIREVKVITLKSKLVSDFRKDFQFYKVREINNYHHAHDAYLNAVVGTALIKKYPKLESEFVYGDYKVYDVRKMIAKSEQEIGKATAKYFFYSNIMNFFKTEITLANGEIRKRPLIETNGETGEIVWDKGRDFATVRKVLSMPQVNIVKKTEVQTGGFSKESILPKRNSDKLIARKKDWDPKKYGGFDSPTVAYSVLVVAKVEKGKSKKLKSVKELLGITIMERSSFEKNPIDFLEAKGYKEVKKDLIIKLPKYSLFELENGRKRMLASAGELQKGNELALPSKYVNFLYLASHYEKLKGSPEDNEQKQLFVEQHKHYLDEIIEQISEFSKRVILADANLDKVLSAYNKHRDKPIREQAENIIHLFTLTNLGAPAAFKYFDTTIDRKRYTSTKEVLDATLIHQSITGLYETRIDLSQLGGD
【0089】
黄色ブドウ球菌Cas9分子(配列番号2)
MKRNYILGLDIGITSVGYGIIDYETRDVIDAGVRLFKEANVENNEGRRSKRGARRLKRRRRHRIQRVKKLLFDYNLLTDHSELSGINPYEARVKGLSQKLSEEEFSAALLHLAKRRGVHNVNEVEEDTGNELSTKEQISRNSKALEEKYVAELQLERLKKDGEVRGSINRFKTSDYVKEAKQLLKVQKAYHQLDQSFIDTYIDLLETRRTYYEGPGEGSPFGWKDIKEWYEMLMGHCTYFPEELRSVKYAYNADLYNALNDLNNLVITRDENEKLEYYEKFQIIENVFKQKKKPTLKQIAKEILVNEEDIKGYRVTSTGKPEFTNLKVYHDIKDITARKEIIENAELLDQIAKILTIYQSSEDIQEELTNLNSELTQEEIEQISNLKGYTGTHNLSLKAINLILDELWHTNDNQIAIFNRLKLVPKKVDLSQQKEIPTTLVDDFILSPVVKRSFIQSIKVINAIIKKYGLPNDIIIELAREKNSKDAQKMINEMQKRNRQTNERIEEIIRTTGKENAKYLIEKIKLHDMQEGKCLYSLEAIPLEDLLNNPFNYEVDHIIPRSVSFDNSFNNKVLVKQEENSKKGNRTPFQYLSSSDSKISYETFKKHILNLAKGKGRISKTKKEYLLEERDINRFSVQKDFINRNLVDTRYATRGLMNLLRSYFRVNNLDVKVKSINGGFTSFLRRKWKFKKERNKGYKHHAEDALIIANADFIFKEWKKLDKAKKVMENQMFEEKQAESMPEIETEQEYKEIFITPHQIKHIKDFKDYKYSHRVDKKPNRELINDTLYSTRKDDKGNTLIVNNLNGLYDKDNDKLKKLINKSPEKLLMYHHDPQTYQKLKLIMEQYGDEKNPLYKYYEETGNYLTKYSKKDNGPVIKKIKYYGNKLNAHLDITDDYPNSRNKVVKLSLKPYRFDVYLDNGVYKFVTVKNLDVIKKENYYEVNSKCYEEAKKLKKISNQAEFIASFYNNDLIKINGELYRVIGVNNDLLNRIEVNMIDITYREYLENMNDKRPPRIIKTIASKTQSIKKYSTDILGNLYEVKSKKHPQIIKKG
【0090】
化膿性連鎖球菌Cas9(D10Aを有する)(配列番号3)
MDKKYSIGLAIGTNSVGWAVITDEYKVPSKKFKVLGNTDRHSIKKNLIGALLFDSGETAEATRLKRTARRRYTRRKNRICYLQEIFSNEMAKVDDSFFHRLEESFLVEEDKKHERHPIFGNIVDEVAYHEKYPTIYHLRKKLVDSTDKADLRLIYLALAHMIKFRGHFLIEGDLNPDNSDVDKLFIQLVQTYNQLFEENPINASGVDAKAILSARLSKSRRLENLIAQLPGEKKNGLFGNLIALSLGLTPNFKSNFDLAEDAKLQLSKDTYDDDLDNLLAQIGDQYADLFLAAKNLSDAILLSDILRVNTEITKAPLSASMIKRYDEHHQDLTLLKALVRQQLPEKYKEIFFDQSKNGYAGYIDGGASQEEFYKFIKPILEKMDGTEELLVKLNREDLLRKQRTFDNGSIPHQIHLGELHAILRRQEDFYPFLKDNREKIEKILTFRIPYYVGPLARGNSRFAWMTRKSEETITPWNFEEVVDKGASAQSFIERMTNFDKNLPNEKVLPKHSLLYEYFTVYNELTKVKYVTEGMRKPAFLSGEQKKAIVDLLFKTNRKVTVKQLKEDYFKKIECFDSVEISGVEDRFNASLGTYHDLLKIIKDKDFLDNEENEDILEDIVLTLTLFEDREMIEERLKTYAHLFDDKVMKQLKRRRYTGWGRLSRKLINGIRDKQSGKTILDFLKSDGFANRNFMQLIHDDSLTFKEDIQKAQVSGQGDSLHEHIANLAGSPAIKKGILQTVKVVDELVKVMGRHKPENIVIEMARENQTTQKGQKNSRERMKRIEEGIKELGSQILKEHPVENTQLQNEKLYLYYLQNGRDMYVDQELDINRLSDYDVDHIVPQSFLKDDSIDNKVLTRSDKNRGKSDNVPSEEVVKKMKNYWRQLLNAKLITQRKFDNLTKAERGGLSELDKAGFIKRQLVETRQITKHVAQILDSRMNTKYDENDKLIREVKVITLKSKLVSDFRKDFQFYKVREINNYHHAHDAYLNAVVGTALIKKYPKLESEFVYGDYKVYDVRKMIAKSEQEIGKATAKYFFYSNIMNFFKTEITLANGEIRKRPLIETNGETGEIVWDKGRDFATVRKVLSMPQVNIVKKTEVQTGGFSKESILPKRNSDKLIARKKDWDPKKYGGFDSPTVAYSVLVVAKVEKGKSKKLKSVKELLGITIMERSSFEKNPIDFLEAKGYKEVKKDLIIKLPKYSLFELENGRKRMLASAGELQKGNELALPSKYVNFLYLASHYEKLKGSPEDNEQKQLFVEQHKHYLDEIIEQISEFSKRVILADANLDKVLSAYNKHRDKPIREQAENIIHLFTLTNLGAPAAFKYFDTTIDRKRYTSTKEVLDATLIHQSITGLYETRIDLSQLGGD
【0091】
化膿性連鎖球菌Cas9(D10A、H849Aを有する)(配列番号4)
MDKKYSIGLAIGTNSVGWAVITDEYKVPSKKFKVLGNTDRHSIKKNLIGALLFDSGETAEATRLKRTARRRYTRRKNRICYLQEIFSNEMAKVDDSFFHRLEESFLVEEDKKHERHPIFGNIVDEVAYHEKYPTIYHLRKKLVDSTDKADLRLIYLALAHMIKFRGHFLIEGDLNPDNSDVDKLFIQLVQTYNQLFEENPINASGVDAKAILSARLSKSRRLENLIAQLPGEKKNGLFGNLIALSLGLTPNFKSNFDLAEDAKLQLSKDTYDDDLDNLLAQIGDQYADLFLAAKNLSDAILLSDILRVNTEITKAPLSASMIKRYDEHHQDLTLLKALVRQQLPEKYKEIFFDQSKNGYAGYIDGGASQEEFYKFIKPILEKMDGTEELLVKLNREDLLRKQRTFDNGSIPHQIHLGELHAILRRQEDFYPFLKDNREKIEKILTFRIPYYVGPLARGNSRFAWMTRKSEETITPWNFEEVVDKGASAQSFIERMTNFDKNLPNEKVLPKHSLLYEYFTVYNELTKVKYVTEGMRKPAFLSGEQKKAIVDLLFKTNRKVTVKQLKEDYFKKIECFDSVEISGVEDRFNASLGTYHDLLKIIKDKDFLDNEENEDILEDIVLTLTLFEDREMIEERLKTYAHLFDDKVMKQLKRRRYTGWGRLSRKLINGIRDKQSGKTILDFLKSDGFANRNFMQLIHDDSLTFKEDIQKAQVSGQGDSLHEHIANLAGSPAIKKGILQTVKVVDELVKVMGRHKPENIVIEMARENQTTQKGQKNSRERMKRIEEGIKELGSQILKEHPVENTQLQNEKLYLYYLQNGRDMYVDQELDINRLSDYDVDAIVPQSFLKDDSIDNKVLTRSDKNRGKSDNVPSEEVVKKMKNYWRQLLNAKLITQRKFDNLTKAERGGLSELDKAGFIKRQLVETRQITKHVAQILDSRMNTKYDENDKLIREVKVITLKSKLVSDFRKDFQFYKVREINNYHHAHDAYLNAVVGTALIKKYPKLESEFVYGDYKVYDVRKMIAKSEQEIGKATAKYFFYSNIMNFFKTEITLANGEIRKRPLIETNGETGEIVWDKGRDFATVRKVLSMPQVNIVKKTEVQTGGFSKESILPKRNSDKLIARKKDWDPKKYGGFDSPTVAYSVLVVAKVEKGKSKKLKSVKELLGITIMERSSFEKNPIDFLEAKGYKEVKKDLIIKLPKYSLFELENGRKRMLASAGELQKGNELALPSKYVNFLYLASHYEKLKGSPEDNEQKQLFVEQHKHYLDEIIEQISEFSKRVILADANLDKVLSAYNKHRDKPIREQAENIIHLFTLTNLGAPAAFKYFDTTIDRKRYTSTKEVLDATLIHQSITGLYETRIDLSQLGGD
【0092】
PAM(配列番号9)
ATTCCT
PAM(配列番号10)
NGG
PAM(配列番号11)
NNNRRT
PAM(配列番号12)
NNGRR(R=AまたはG)
PAM(配列番号13)
NNGRRN(R=AまたはG)
PAM(配列番号14)
NNGRRT(R=AまたはG)
PAM(配列番号15)
NNGRRV(R=AまたはG、V=A、C、またはG)
PAM(配列番号16)
NGA
【0093】
gRNA7の標的(配列番号17)
TCATTTATAATACAGGGGAAT
gRNA12の標的(配列番号18)
TTAAGTAATCCGAGGTACTC
gRNA7(標的配列および足場を含む)(配列番号19)
TCATTTATAATACAGGGGAATGTTTTAGTACTCTGGAAACAGAATCTACTAAAACAAGGCAAAATGCCGTGTTTATCTCGTCAACTTGTTGGCGAGA
【0094】
gRNA12(標的配列および足場を含む)(配列番号20)
TTAAGTAATCCGAGGTACTCGTTTTAGTACTCTGGAAACAGAATCTACTAAAACAAGGCAAAATGCCGTGTTTATCTCGTCAACTTGTTGGCGAGA
エクソン52(配列番号21)
GCAACAATGCAGGATTTGGAACAGAGGCGTCCCCAGTTGGAAGAACTCATTACCGCTGCCCAAAATTTGAAAAACAAGACCAGCAATCAAGAGGCTAGAACAATCATTACGGATCGAA
【0095】
一部のイントロンを有するエクソン52(配列番号22)
GTTAAATTGTTTTCTATAAACCCTTATACAGTAACATCTTTTTTATTTCTAAAAGTGTTTTGGCTGGTCTCACAATTGTACTTTACTTTGTATTATGTAAAAGGAATACACAACGCTGAAGAACCCTGATACTAAGGGATATTTGTTCTTACAGGCAACAATGCAGGATTTGGAACAGAGGCGTCCCCAGTTGGAAGAACTCATTACCGCTGCCCAAAATTTGAAAAACAAGACCAGCAATCAAGAGGCTAGAACAATCATTACGGATCGAAGTAAGTTTTTTAACAAGCATGGGACACACAAAGCAAGATGCATGACAAGTTTCAATAAAAACTTAAGTTCATATATCCCCCTCACATTTATAAAAATAATGTGAAATAATTGTAAATGATAACAATTGTGCTGAGATTTTCAGTCCATAATGTTACCTTTTAATAAATGAATGTAATTCCATTGAATAGAAGAAATAC
【0096】
gRNA7のためのAAV(配列番号23)
gRNA7を有するエクソン52ドナー配列のためのAAVゲノム:
【化1】
【0097】
gRNA12のためのAAV(配列番号24)
gRNA12を有するエクソン52ドナー配列のためのAAVゲノム:
【化2】
【0098】
配列番号25 gRNA7スペーサー
ATTCCCCTGTATTATAAATGA
配列番号26:gRNA12スペーサー
GAGTACCTCGGATTACTTAA
【0099】
【配列表】
【国際調査報告】