(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-22
(54)【発明の名称】ショットクリート組成物
(51)【国際特許分類】
C04B 28/04 20060101AFI20220615BHJP
C04B 28/06 20060101ALI20220615BHJP
C04B 24/04 20060101ALI20220615BHJP
C04B 24/30 20060101ALI20220615BHJP
C04B 24/12 20060101ALI20220615BHJP
C04B 24/18 20060101ALI20220615BHJP
C04B 24/22 20060101ALI20220615BHJP
C04B 24/26 20060101ALI20220615BHJP
C04B 24/06 20060101ALI20220615BHJP
C04B 22/10 20060101ALI20220615BHJP
【FI】
C04B28/04
C04B28/06
C04B24/04
C04B24/30 Z
C04B24/12 Z
C04B24/18 Z
C04B24/22 B
C04B24/18 B
C04B24/26 E
C04B24/06 Z
C04B22/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2021561634
(86)(22)【出願日】2020-04-17
(85)【翻訳文提出日】2021-12-06
(86)【国際出願番号】 EP2020060920
(87)【国際公開番号】W WO2020212607
(87)【国際公開日】2020-10-22
(32)【優先日】2019-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503343336
【氏名又は名称】コンストラクション リサーチ アンド テクノロジー ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Construction Research & Technology GmbH
【住所又は居所原語表記】Dr.-Albert-Frank-Strasse 32, D-83308 Trostberg, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ミトキナ,タチアナ
(72)【発明者】
【氏名】デングラー,ヨアヒム
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112MB06
4G112MD01
4G112PA10
4G112PB03
4G112PB16
4G112PB20
4G112PB23
4G112PB24
4G112PB31
4G112PB35
(57)【要約】
a)セメント質結合材、b)(i)グリオキシル酸縮合物及び/又はグリオキシル酸付加物を含むエトリンガイト形成制御剤、並びにc)アルカリを含まずアルミニウムをベースとするショットクリート促進剤を含む、ショットクリート組成物。本発明は更に、a)セメント質結合材、及びb)(i)グリオキシル酸縮合物及び/又はグリオキシル酸付加物を含むエトリンガイト形成制御剤を含むセメント質組成物を準備することと、アルカリを含まずアルミニウムをベースとするショットクリート促進剤をセメント質組成物に混和してショットクリート組成物を得ることと、ショットクリート組成物を表面上に塗布してショットクリート構造体を得て、ショットクリート構造体を硬化させることと、を含む方法に関する。本発明はまた、この方法により得られる硬化したショットクリート構造体にも関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)セメント質結合材、
b)(i)グリオキシル酸縮合物及び/又はグリオキシル酸付加物を含むエトリンガイト形成制御剤、並びに
c)アルカリを含まずアルミニウムをベースとするショットクリート促進剤
を含む、ショットクリート組成物。
【請求項2】
グリオキシル酸縮合物が、アミン-グリオキシル酸縮合物、好ましくはメラミン-グリオキシル酸縮合物、尿素-グリオキシル酸縮合物、メラミン-尿素-グリオキシル酸縮合物及び/又はポリアクリルアミド-グリオキシル酸縮合物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
グリオキシル酸付加物が、グリオキシル酸の亜硫酸水素塩付加物又はその塩若しくは混合塩であり、亜硫酸水素塩付加物が好ましくは一般式(I)
【化1】
(式中、
M
1は独立してH又はカチオン等価物K
rから選択され、Kはアルカリ金属、アルカリ土類金属、亜鉛、銅、鉄、アルミニウム、アンモニウム若しくはホスホニウムのカチオン、又はこれらの混合物から選択され、rは1/vであり、vはカチオンの原子価である)
を有する、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
エトリンガイト形成制御剤が更に、(ii)好ましくは0.1gL
-1以上の水溶解度を有する無機炭酸塩、有機カーボネート、及びこれらの混合物から選択されるカーボネート源を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
無機炭酸塩が炭酸ナトリウム、炭酸リチウム及び炭酸マグネシウムから選択され、有機カーボネートがエチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートから選択される、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
エトリンガイト形成制御剤が更に、(iii)
-全てのカルボキシル基が中和されていない形態であると仮定してカルボキシル基のミリ当量数が5.00meq/g以上、好ましくは5.00~15.00meq/gであるポリカルボン酸又はその塩、及び
-α-ヒドロキシカルボン酸又はその塩
から選択される成分を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
ポリカルボン酸が、ホスホノアルキルカルボン酸、アミノカルボン酸、及びポリマー性カルボン酸から選択される、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
セメント質結合材が、ポルトランドセメント、アルミン酸カルシウムセメント及び/又はスルホアルミネートセメントから選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
更に、潜在性の水硬性結合材若しくはポゾラン結合材、又はこれらの混合物を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
更に分散剤を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
分散剤が
-ペンダントセメント固定基及びポリエーテル側鎖が結合している炭素含有主鎖を有する櫛形ポリマー、
-ペンダント加水分解性基及びポリエーテル側鎖が結合している炭素含有主鎖を有しており、加水分解性基が加水分解の際にセメント固定基を放出する、非イオン性櫛形ポリマー、
-スルホン化メラミン-ホルムアルデヒド縮合物、
-リグノスルホネート、
-スルホン化ケトン-ホルムアルデヒド縮合物、
-スルホン化ナフタレン-ホルムアルデヒド縮合物、
-ホスホネート含有分散剤、
-ホスフェート含有分散剤、及び
-これらの混合物
の群から選択される、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
アルカリを含まずアルミニウムをベースとするショットクリート促進剤が、アルミニウム塩、アルミニウム錯体、アルミニウム酸化物、アルミニウム水酸化物、及びこれらの混合物から選択される、請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
-a)セメント質結合材、及びb)(i)グリオキシル酸縮合物及び/又はグリオキシル酸付加物を含むエトリンガイト形成制御剤を含むセメント質組成物を準備することと、
-アルカリを含まずアルミニウムをベースとするショットクリート促進剤をセメント質組成物に混和して、ショットクリート組成物を得ることと、
-ショットクリート組成物を表面上に塗布してショットクリート構造体を得て、ショットクリート構造体を硬化させることと、
を含む、方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法により得られる硬化したショットクリート構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ショットクリート組成物及びその適用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ショットクリート(又は吹き付けコンクリート)は、搬送設備から例えばホースを通して運搬され、空気圧により高速で表面に発射されるモルタル又はコンクリートの製品である。ショットクリートは、砕けた又は過度の負荷がかかった地盤中の不安定な岩塊に支えを提供することに加えて、露出した岩を風化による崩落から保護し、且つデディケーション(dedication)を保護するために使用されている。通常、混和剤をセメント/骨材混合物に導入して、その物理的性質を改良する。
【0003】
鉱業用途においては、労働者の安全性を脅かすことなく、切通し、立て坑又は坑道を作製するのにかかる時間を減らして、そのような構造の生産性を増大する願望がある。開削において、リフトが除かれた場合に、新たに露出する地盤は直立している時間が限られているので、最初に安定化のためにショットクリートを吹き付け、その後に永続的な支持のためにロックボルト又は他の支持手段を設置する。坑道を掘り採掘する場合、発破のための次の過程の準備が整うまで、露出した面にショットクリートを吹き付けておくことが多い。更に、ロックボルト又はスチールリング又はコンクリートセグメント覆工が設置できるまで、坑道表面にショットクリートを吹き付けておくことが多い。
【0004】
従来のショットクリートはたった数分で凝結することができるが、硬化するのは比較的遅く、その強度の殆どを実現するのに数日かかる。これは、ショットクリートを吹き付けた後、ショットクリートの近くで採掘活動を再開するのが安全になるまで硬化するのに、かなりの遅延があることを意味する。この遅延は、コンクリートが実現することが必要とされる、許容できる強度であると考えられる程度に依存する。この時間の遅延は採掘作業を遅くし、ショットクリートを使用できる用途を制限する。時間遅延は、速く硬化し高い初期強度を生じるショットクリート組成物を使用することによって、最小にすることができるであろう。特に、速い進行速度が必要とされる不安定な地盤のような困難な作業条件下で、又は厚い層を頭上に吹き付けなければならない場合に、ショットクリートの高い初期強度は非常に重要である。
【0005】
Wangら、Materials 2019、12、20133、「Comparison of Effects of Sodium Bicarbonate and Sodium Carbonate on the Hydration and Properties of Portland Cement Paste」は、吹き付けコンクリート用促進剤としての炭酸ナトリウム及び重炭酸ナトリウムを論じている。
【0006】
ショットクリートを作製する際のもう1つ別の問題は、凝結時間及び初期強度発現とショットクリートのポンパビリティー及び吹き付け性との間のトレードオフである。ショットクリートのポンパビリティー及び吹き付け性の改良は、電力消費及び閉塞リスクを最小にする。
【0007】
また、強度発現に対する低温の影響が減少した、従って例えば冬季の建設に使用するのに適したショットクリートを提供するという願望もある。
【0008】
国際公開第2017/212045号は、グリオキシル酸の亜硫酸水素塩付加物又はその塩及び無機結合材を含む建設用化学組成物を記載している。組成物はモルタル特性、例えば、オープンタイム、加工性、凝結及び圧縮強度に有利に作用すると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Wangら、「Comparison of Effects of Sodium Bicarbonate and Sodium Carbonate on the Hydration and Properties of Portland Cement Paste」、Materials 2019、12、20133
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ショットクリート組成物であって、そのポンパビリティー及び吹き付け性を損なうことなく、又は更にはポンパビリティー及び吹き付け性を改良しつつ、数時間内の硬化時間で高い圧縮強度をもつ、ショットクリート組成物が必要とされている。加えて、より寒冷な条件でショットクリートするのに適したショットクリート組成物が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記問題は
a)セメント質結合材、
b)(i)グリオキシル酸縮合物及び/又はグリオキシル酸付加物を含むエトリンガイト形成制御剤、並びに
c)アルカリを含まずアルミニウムをベースとするショットクリート促進剤
を含む、ショットクリート組成物によって解決される。
【0013】
本発明はまた
-a)セメント質結合材、及びb)(i)グリオキシル酸縮合物及び/又はグリオキシル酸付加物を含むエトリンガイト形成制御剤を含むセメント質組成物を準備することと、
-アルカリを含まずアルミニウムをベースとするショットクリート促進剤をセメント質組成物に混和して、ショットクリート組成物を得ることと、
-ショットクリート組成物を表面上に塗布してショットクリート構造体を得て、ショットクリート構造体を硬化させることと、
を含む、方法にも関する。
【0014】
幾つかの実施形態において、ショットクリート構造体はショットクリート層の形態である。
【0015】
本発明は更に、上述の方法によって得られる硬化したショットクリート構造体に関する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
セメント質系の水和の際、エトリンガイトが迅速反応で生成する。エトリンガイトは式Ca6Al2(SO4)3
*32H2O又は代わりに3CaO*Al2O3
*3CaSO4
*32H2Oを有する、カルシウムアルミニウム硫酸塩化合物である。この反応は、セメント質組成物の初期圧縮強度の発現を担っている。エトリンガイトは、長い針状晶として生成する。しかしながら、新たに生成した小さい針状のエトリンガイト結晶は、セメント質組成物の加工性又は流動性を低下させる傾向がある。更に、エトリンガイトはその化学量論式中に、32モルの水を含有する。これは、エトリンガイト形成に際して、かなりの量の水が固体結晶内に束縛され、組成物の流動性が低下することを意味する。
【0017】
本発明によると、反応を遅らせ、加工性を改良するために、エトリンガイト形成制御剤が組成物に添加される。制御剤は反応性のセメント成分、特にアルミン酸塩(アルミネート)の溶解を抑制することにより、及び/又はカルシウムイオンをマスクすることにより、水和反応の開始を遅らせて、水和反応を遅くする。
【0018】
本発明によると、エトリンガイト形成制御剤は(i)グリオキシル酸縮合物及び/又はグリオキシル酸付加物を含む。グリオキシル酸縮合物又はグリオキシル酸付加物は、アルミン酸塩相を安定化し、それによりアルミン酸塩相の溶解を遅くすることによって、セメント質結合材に由来するアルミン酸塩相からのエトリンガイトの形成を抑制すると考えられる。
【0019】
1つの実施形態において、グリオキシル酸縮合物は、アミン-グリオキシル酸縮合物である。用語「アミン-グリオキシル酸縮合物」は、グリオキシル酸と、アルデヒドと反応性のアミノ又はアミド基を含有する化合物との縮合物を意味することを意図する。アルデヒドと反応性のアミノ又はアミド基を含有する化合物の例には尿素、チオ尿素、メラミン、グアニジン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン及びその他のアシルグアナミン並びにポリアクリルアミドがある。
【0020】
好ましくは、アミン-グリオキシル酸縮合物はメラミン-グリオキシル酸縮合物、尿素-グリオキシル酸縮合物、メラミン-尿素-グリオキシル酸縮合物及び/又はポリアクリルアミド-グリオキシル酸縮合物である。尿素-グリオキシル酸縮合物が特に好ましい。
【0021】
アミン-グリオキシル酸縮合物は、グリオキシル酸と、アルデヒドと反応性のアミノ又はアミド基を含有する化合物とを反応させることにより、得ることができる。グリオキシル酸は水溶液として、又はグリオキシル酸塩として、好ましくはグリオキシル酸アルカリ金属塩として使用することができる。同様に、アミン化合物は塩として、例えばグアニジニウム塩として使用することができる。一般に、アミン化合物とグリオキシル酸とは、1つのアルデヒドと反応性のアミノ又はアミド基当たり0.5~2当量、好ましくは1~1.3当量のグリオキシル酸のモル比で反応させる。反応は20~120℃、好ましくは25~80℃の温度で行われる。pH値は0~7である。反応で得られる粘稠な生成物は、そのままで使用することができ、希釈若しくは濃縮により所望の固形分に調整することができ、又は例えばドラム乾燥若しくはフラッシュ乾燥により蒸発乾固させることができる。
【0022】
一般に、アミン-グリオキシル酸縮合物は500~25000g/mol、好ましくは1000~10000g/mol、特に好ましくは1000~5000g/molの範囲の分子量を有する。
【0023】
1つの実施形態において、グリオキシル酸付加物はグリオキシル酸の亜硫酸水素塩付加物又はその塩若しくは混合塩である。用語「グリオキシル酸の亜硫酸水素塩付加物」は、亜硫酸水素塩の等価物、即ち亜硫酸水素イオン(HSO3
-)をグリオキシル酸に添加することができるイオウ及び酸素を含有する化合物とグリオキシル酸との付加物を意味することが意図されている。
【0024】
好ましくは、亜硫酸水素塩付加物は一般式(I)
【0025】
【化1】
(式中、
M
1はH又はカチオン等価物K
rから独立して選択され、Kはアルカリ金属、アルカリ土類金属、亜鉛、銅、鉄、アルミニウム、アンモニウム若しくはホスホニウムのカチオン、又はこれらの混合物から選択され、rは1/vであり、vはカチオンの原子価である)
を有する。
【0026】
M1がカチオン等価物Krである場合、得られる化合物は混合塩も含めた塩である。更なる実施形態において、塩はアルカリ金属、アルカリ土類金属、亜鉛、銅、鉄、アルミニウム、アンモニウム又はホスホニウムの塩から、好ましくはアルカリ金属塩、例えばナトリウム又はカリウムの塩から選択される。
【0027】
亜硫酸水素塩付加物は、市販されているか又は当業者に公知の伝統的な方法により調製することができる。この点に関して更なる詳細については、例えば、国際公開第2017/212045号参照。
【0028】
好ましい実施形態において、エトリンガイト形成制御剤は更に(ii)炭酸塩源(カーボネート源)を含む。驚くべきことに、成分(i)及び(ii)は相乗的に機能することが判明した。炭酸塩源の存在は、混合水が初め炭酸イオンに高度に集中することを確実にする。炭酸イオンは、エトリンガイトの結晶化を抑制すると考えられる。炭酸塩源は、0.1gL-1以上の水溶解度を有する無機炭酸塩でよい。無機炭酸塩の水溶解度は水中でpH7及び20℃で決定される。これらの特徴は当業者に周知である。
【0029】
「無機炭酸塩」は炭酸の塩、即ち、炭酸イオン(CO3
2-)及び/又は炭酸水素イオン(HCO3
-)の存在により特徴付けられる塩を意味することを意図している。
【0030】
無機炭酸塩はアルカリ金属炭酸塩、例えば炭酸ナトリウム又は炭酸リチウム、及び所要の水溶解度を満足するアルカリ土類金属炭酸塩、例えば炭酸マグネシウムから適切に選択し得る。更なる適切な無機炭酸塩としては、窒素含有塩基の炭酸塩、例えば炭酸グアニジニウム及び炭酸アンモニウムがある。
【0031】
代わりに、炭酸塩源は有機カーボネートから選択される。「有機カーボネート」は炭酸のエステルを意味する。有機カーボネートは、セメント質系の存在下で加水分解されて炭酸イオンを放出する。1つの実施形態において、有機カーボネートはエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、グリセロールカーボネート、炭酸ジメチル、ジ(ヒドロキシエチル)カーボネート又はこれらの混合物、好ましくはエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、及びグリセロールカーボネート又はこれらの混合物、特にエチレンカーボネート及び/又はプロピレンカーボネートから選択される。無機炭酸塩及び有機カーボネートの混合物も、使用することができる。
【0032】
成分(i)と成分(ii)との重量比は、典型的には約10:1~約1:10、好ましくは約5:1~約1:5又は約1:1~約1:4の範囲である。
【0033】
1つの実施形態において、エトリンガイト形成制御剤は更に
(iii)全てのカルボキシル基が中和されていない形態であると仮定して、カルボキシル基のミリ当量数が5.00meq/g以上、好ましくは5.00~15.00meq/gであるポリカルボン酸又はその塩、及び
α-ヒドロキシカルボン酸又はその塩
から選択される成分
を含む。
【0034】
本明細書で使用される用語ポリカルボン酸とは、2個以上のカルボキシル基が分子に結合している化合物又はポリマーを意味する。
【0035】
適切なポリカルボン酸は、
低分子量ポリカルボン酸(例えば500g/mol以下の分子量を有する)、特に脂肪族ポリカルボン酸、例えばシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、又はリンゴ酸、
ホスホノアルキルカルボン酸、例えば1-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、3-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、4-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、2,4-ジホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、2-ホスホノブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸、1-メチル-2-ホスホノペンタン-1,2,4-トリカルボン酸、又は1,2-ホスホノエタン-2-ジカルボン酸、
アミノカルボン酸、例えばエチレンジアミン四酢酸、又はニトリロ三酢酸、
ポリマー性カルボン酸、例えばアクリル酸のホモポリマー、メタクリル酸のホモポリマー、ポリマレイン酸、コポリマー、例えばエチレン/アクリル酸コポリマー及びエチレン/メタクリル酸コポリマー、アクリル酸及び/又はメタクリル酸とスルホ又はスルホネート基含有モノマーとのコポリマーである。1つの実施形態において、スルホ又はスルホネート基含有モノマーは、ビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、4-ビニルフェニルスルホン酸又は2-アクリルアミド-2-メチルプロピルスルホン酸(ATBS)の群から選択され、ATBSが特に好ましい。前述のスルホ又はスルホネート基含有モノマーのうちの1種以上が、コポリマーに含有されることが可能である。
【0036】
一般に、ポリマー性カルボン酸の分子量は、1000~30000g/mol、好ましくは1000~10000g/molの範囲である。
【0037】
適切なα-ヒドロキシカルボン酸又はその塩には、酒石酸、クエン酸、グリコール酸、グルコン酸、並びにそれらの塩及び混合物が含まれる。グルコン酸ナトリウムが特に好ましい。
【0038】
成分(i)と成分(iii)との重量比は、一般に約10:1~約1:10、好ましくは約5:1~約1:5又は約3:1~約1:1の範囲である。
【0039】
好ましくは、(i)、又は(i)及び(ii)の合計、又は(i)、(ii)及び(iii)の合計の添加量(dosage)は、セメント質結合材の重量に対して0.05~3%、好ましくは0.1~1%である。
【0040】
エトリンガイト形成制御剤は、溶液又は分散液、特に水性の溶液又は分散液として存在することができる。溶液又は分散液は、好適には10~50重量%、特に25~35重量%の固形分を有する。或いは、エトリンガイト形成制御剤は、例えばドラム乾燥、噴霧乾燥又はフラッシュ乾燥により得ることができる粉末として存在することができる。エトリンガイト形成制御剤は、混合水中に導入してもよいし、又は水の添加前に、モルタル又はコンクリートの混合中に導入してもよい。
【0041】
ショットクリート組成物中のエトリンガイト形成制御剤(b)とセメント質結合材(a)との重量比は、典型的には約0.05~約10%、好ましくは約0.1~約4%又は約0.2~約3%の範囲である。
【0042】
典型的には、a)セメント質結合材、及びb)上に定義されるエトリンガイト形成制御剤を含むセメント質組成物が提供される。セメント質組成物は、当技術分野で慣習的であり以下に例示される追加の成分を含んでいてもよい。セメント質組成物は、水と混和される。水と混和されたセメント質組成物は「セメントペースト」ともいわれる。
【0043】
アルカリを含まず、アルミニウムをベースとするショットクリート促進剤をセメント質組成物と混和して、ショットクリート組成物を得る。欧州規則(PREN 934-5 「Admixtures for Sprayed Concrete - Definitions, Requirements, Conformity, Marking and Labelling」)によると、促進剤はNa2Oの当量として表されたナトリウム及びカリウムの濃度が1%未満の場合、「アルカリを含まない」と分類される。リチウムもアルカリ金属であるが、科学文献はそれがコンクリートに負に作用しないので、Na2Oの当量の計算において考慮されないことを示している。「アルカリを含まない」促進剤は、アルカリ土類金属化合物、例えばカルシウム塩、マグネシウム塩、及びこれらの混合物を含んでいてもよい。
【0044】
典型的には、アルカリを含まずアルミニウムをベースとするショットクリート促進剤は、取扱いを容易にするためにショットクリート促進剤配合物に含まれる。アルカリを含まずアルミニウムをベースとするショットクリート促進剤の他に、ショットクリート促進剤配合物は貯蔵安定性及びその他の望ましい特性をショットクリート促進剤配合物に提供するため、添加剤を含有する。ショットクリート促進剤配合物は、液体形態又は固体形態、例えば粉末形態であってもよい。
【0045】
本明細書中の実施例に示されるように、アルカリを含まない促進剤の使用は、ショットクリート組成物の初期強度に関して、アルカリを含有する促進剤と比べてかなりの利点を有する。また、アルカリを含有する促進剤の存在に関連する不都合が回避できる。
【0046】
特に、アルカリを含有するショットクリート促進剤、例えばアルカリ金属アルミン酸塩、アルカリ土類金属アルミン酸塩、アルカリ金属ケイ酸塩、アルカリ土類金属ケイ酸塩及びこれらの混合物は、長期の機械的強度に負に作用し得る。また、それらは、そのアルカリ性のため皮膚を刺激し、目との接触は厳密に避けなければならない。従って、労働者の安全のために特別な保護装置が必要とされる。更に、アルカリ金属物質は骨材と反応し、コンクリート特性を損なうアルカリシリカ反応に都合がよい可能性がある。加えて、ショットクリート中のアルカリ含量が高過ぎると、鋼補強材の腐食を起こす可能性がある。最後に、アルカリを含有するショットクリート促進剤は、地下水のpHを上昇させることにより、危険な汚染物質となり得るアルカリ性物質を放出する。
【0047】
本発明の組成物のアルカリを含まない促進剤は、アルミニウム化合物、例えばアルミニウム塩、例えば硫酸塩、硝酸塩、フッ化物及び/又はそれらの水和物、アルミニウムの酸化物、並びにアルミニウムの水酸化物をベースとする。アルカリを含まない促進剤は、アルミニウム塩、アルミニウム錯体、アルミニウム酸化物、アルミニウム水酸化物、及びこれらの混合物から選択され得る。好ましくは、アルカリを含まない促進剤はアルミニウム塩、特にアルミニウムの硫酸塩から選択される。
【0048】
ショットクリート組成物中のセメント質結合材(a)と、アルカリを含まずアルミニウムをベースとするショットクリート促進剤(c)との重量比は、典型的には約1000:1~約3:1、好ましくは約100:1~約10:1又は約35:1~約5:1の範囲である。
【0049】
アルカリを含まないショットクリート促進剤の配合物は、様々な化学物質により安定化され得る。そのような安定化剤の例としては、有機酸、例えばカルボン酸、ジカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸、アミノカルボン酸、リン酸、亜リン酸、ホスホン酸、スルファミン酸、無機酸、例えば硫酸、亜硝酸、リン酸、亜リン酸、フッ化水素酸、ヘキサフルオロケイ酸、及びこれらの混合物、尿素、ポリマー性の安定化剤、例えばポリアクリルアミド、ポリカルボキシレート、ポリスルホネート、及びコポリマー並びにこれらの混合物、アルミノシリケート、例えばアタパルジャイト、セピオライト及びベントナイト、及びコロイド状シリカが挙げられる。更に、ショットクリート促進剤は、加えてカルシウム及びマグネシウムの化合物、例えば、硫酸塩、並びにアミン、例えばアルカノールアミン、例えばジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン及びトリイソプロパノールアミン並びにこれらの混合物を含んでいてもよい。
【0050】
適切なアルカリを含まない促進剤及びそれらの製造は、例えば、国際公開第2008/006410号、同第2010/063777号、同第98/18740号、同第03/029163号及び欧州特許出願公開第1167317号に記載されている。
【0051】
好ましくは、本発明によるショットクリート組成物は更に、無機結合材用の少なくとも1種の分散剤、特にコンクリート又はモルタルのようなセメント質混合物のための分散剤を含む。好ましくは、分散剤は、アルカリを含まずアルミニウムをベースとするショットクリート促進剤の混和に先立って、セメント質組成物に含まれる。
【0052】
有用な分散剤の例には次のものがある。
-ペンダントセメント固定基(anchoring group)及びポリエーテル側鎖が結合している炭素含有主鎖を有する櫛形ポリマー、
-ペンダント加水分解性基及びポリエーテル側鎖が結合している炭素含有主鎖を有する非イオン性櫛形ポリマー、ここで加水分解性基は、加水分解の際にセメント固定基を放出する、
-スルホン化メラミン-ホルムアルデヒド縮合物、
-リグノスルホネート、
-スルホン化ケトン-ホルムアルデヒド縮合物、
-スルホン化ナフタレン-ホルムアルデヒド縮合物、
-ホスホネート含有分散剤、
-ホスフェート含有分散剤、及び
-これらの混合物。
【0053】
1つの実施形態において、分散剤は、ペンダントセメント固定基及びポリエーテル側鎖が結合している炭素含有主鎖を有する櫛形ポリマーである。セメント固定基は、アニオン性及び/又はアニオノゲン性(anionogenic)の基、例えばカルボン酸基、ホスホン酸若しくはリン酸の基又はそれらのアニオンである。アニオノゲン性の基は、ポリマー性の分散剤中に存在する酸基であり、アルカリ性条件下でそれぞれのアニオン性基に変わることができる。
【0054】
好ましくは、アニオン性及び/又はアニオノゲン性の基を含む構造単位は、以下の一般式(Ia)、(Ib)、(Ic)及び/又は(Id)
【0055】
【化2】
(式中、
R
1はH、C
1-C
4アルキル、CH
2COOH又はCH
2CO-X-R
3A、好ましくはH又はメチルであり、
XはNH-(C
n1H
2n1)若しくはO-(C
n1H
2n1)、n1=1、2、3又は4であるか、又は化学結合であり、窒素原子又は酸素原子はCO基に結合しており、
R
2はOM、PO
3M
2、又はO-PO
3M
2であり、但しR
2がOMであればXは化学結合であり、
R
3AはPO
3M
2、又はO-PO
3M
2である)
【0056】
【化3】
(式中、
R
3はH又はC
1-C
4アルキル、好ましくはH又はメチルであり、
nは0、1、2、3又は4であり、
R
4はPO
3M
2、又はO-PO
3M
2である)
【0057】
【化4】
(式中、
R
5はH又はC
1-C
4アルキル、好ましくはHであり、
ZはO又はNR
7であり、
R
7はH、(C
n1H
2n1)-OH、(C
n1H
2n1)-PO
3M
2、(C
n1H
2n1)-OPO
3M
2、(C
6H
4)-PO
3M
2、又は(C
6H
4)-OPO
3M
2であり、
n1は1、2、3又は4である)
【0058】
【化5】
(式中、
R
6はH又はC
1-C
4アルキル、好ましくはHであり、
QはNR
7又はOであり、
R
7はH、(C
n1H
2n1)-OH、(C
n1H
2n1)-PO
3M
2、(C
n1H
2n1)-OPO
3M
2、(C
6H
4)-PO
3M
2、又は(C
6H
4)-OPO
3M
2であり、
n1は1、2、3又は4であり、
ここで、各Mは独立して、H又はカチオン等価物である)
のうちの1つである。
【0059】
好ましくは、ポリエーテル側鎖を含む構造単位は、一般式(IIa)、(IIb)、(IIc)及び/又は(IId)
【0060】
【化6】
(式中、
R
10、R
11及びR
12は、互いに独立してH又はC
1-C
4アルキル、好ましくはH又はメチルであり、
Z
2はO又はSであり、
EはC
2-C
6アルキレン、シクロヘキシレン、CH
2-C
6H
10、1,2-フェニレン、1,3-フェニレン又は1,4-フェニレンであり、
GはO、NH又はCO-NHであるか、或いは
E及びGは一緒になって化学結合であり、
AはC
2-C
5アルキレン又はCH
2CH(C
6H
5)、好ましくはC
2-C
3アルキレンであり、
n2は0、1、2、3、4又は5であり、
aは2~350、好ましくは10~150、より好ましくは20~100の整数であり、
R
13はH、非分岐状若しくは分岐状C
1-C
4アルキル基、CO-NH
2又はCOCH
3である)
【0061】
【化7】
(式中、
R
16、R
17及びR
18は、互いに独立してH又はC
1-C
4アルキル、好ましくはHであり、
E
2はC
2-C
6アルキレン、シクロヘキシレン、CH
2-C
6H
10、1,2-フェニレン、1,3-フェニレン、若しくは1,4-フェニレンであるか、又は化学結合であり、
AはC
2-C
5アルキレン又はCH
2CH(C
6H
5)、好ましくはC
2-C
3アルキレンであり、
n2は0、1、2、3、4又は5であり、
LはC
2-C
5アルキレン又はCH
2CH(C
6H
5)、好ましくはC
2-C
3アルキレンであり、
aは2~350、好ましくは10~150、より好ましくは20~100の整数であり、
dは1~350、好ましくは10~150、より好ましくは20~100の整数であり、
R
19はH又はC
1-C
4アルキルであり、
R
20はH又はC
1-C
4アルキルである)
【0062】
【化8】
(式中、
R
21、R
22及びR
23は、独立してH又はC
1-C
4アルキル、好ましくはHであり、
WはO、NR
25、又はNであり、
Vは、W=O又はNR
25であれば1であり、W=Nであれば2であり、
AはC
2-C
5アルキレン又はCH
2CH(C
6H
5)、好ましくはC
2-C
3アルキレンであり、
aは2~350、好ましくは10~150、より好ましくは20~100の整数であり、
R
24はH又はC
1-C
4アルキルであり、
R
25はH又はC
1-C
4アルキルである)
【0063】
【化9】
(式中、
R
6はH又はC
1-C
4アルキル、好ましくはHであり、
QはNR
10、N又はOであり、
Vは、Q=O又はNR
10であれば1であり、Q=Nであれば2であり、
R
10はH又はC
1-C
4アルキルであり、
AはC
2-C
5アルキレン又はCH
2CH(C
6H
5)、好ましくはC
2-C
3アルキレンであり、
aは2~350、好ましくは10~150、より好ましくは20~100の整数であり、
ここで、各Mは独立して、H又はカチオン等価物である)
のうちの1つである。
【0064】
構造単位(I)と構造単位(II)とのモル比は、1:3~約10:1、好ましくは1:1~10:1、より好ましくは3:1~6:1で変化する。構造単位(I)及び(II)を含むポリマー性分散剤は、従来の方法によって、例えばフリーラジカル重合によって調製することができる。分散剤の調製は、例えば、欧州特許出願公開第0894811号、同第1851256号、同第2463314号、及び同第0753488号に記載されている。
【0065】
幾つかの有用な分散剤はカルボキシル基、その塩又は加水分解の際にカルボキシル基を放出する加水分解性基を含有する。好ましくは、これらの分散剤中に含有されるカルボキシル基(又は分散剤中に含有される加水分解性基の加水分解の際に放出可能なカルボキシル基)のミリ当量数は、全てのカルボキシル基が中和されていない形態であると仮定して、4.90meq/g以下である。
【0066】
より好ましくは、分散剤はポリカルボキシレートエーテル(PCE)の群から選択される。PCEにおいて、アニオン性基は、カルボン酸基及び/又はカルボキシレート基である。PCEは、好ましくはポリエーテルマクロモノマー及びアニオン性及び/又はアニオノゲン性の基を含むモノマーのラジカル共重合によって得ることができる。好ましくは、コポリマーを構成する全構造単位の少なくとも45mol-%、好ましくは少なくとも80mol-%が、ポリエーテルマクロモノマー又はアニオン性及び/又はアニオノゲン性の基を含むモノマーの構造単位である。
【0067】
ペンダントセメント固定基及びポリエーテル側鎖が結合している炭素含有主鎖を有する櫛形ポリマーの更なる適切な種類は、構造単位(III)
【0068】
【化10】
(式中、
Tはフェニル、ナフチル又は5~10個の環原子を有し、そのうちの1又は2個の原子がN、O及びSから選択されるヘテロ原子であるヘテロアリールであり、
n3は1又は2であり、
BはN、NH又はOであり、但しBがNであればn3は2であり、BがNH又はOであればn3は1であり、
AはC
2-C
5アルキレン又はCH
2CH(C
6H
5)、好ましくはC
2-C
3アルキレンであり、
a2は1~300の整数であり、
R
26はH、C
1-C
10アルキル、C
5-C
8シクロアルキル、アリール、又は5~10個の環原子を有し、そのうちの1又は2個の原子がN、O及びSから選択されるヘテロ原子であるヘテロアリールである)
及び(IV)を含み、
ここで、構造単位(IV)は、構造単位(IVa)及び(IVb)
【0069】
【化11】
(式中、
Dはフェニル、ナフチル又は5~10個の環原子を有し、そのうちの1又は2個の原子がN、O及びSから選択されるヘテロ原子であるヘテロアリールであり、
E
3はN、NH又はOであり、但しE
3がNであればmは2であり、E
3がNH又はOであればmは1であり、
AはC
2-C
5アルキレン又はCH
2CH(C
6H
5)、好ましくはC
2-C
3アルキレンであり、
bは0~300の整数であり、
Mは独立して、H又はカチオン等価物である)
【0070】
【化12】
(式中、
V
2はフェニル又はナフチルであり、場合によりR
8、OH、OR
8、(CO)R
8、COOM、COOR
8、SO
3R
8及びNO
2から選択される1又は2個の基により置換されていてもよく、
R
7AはCOOM、OCH
2COOM、SO
3M又はOPO
3M
2であり、
MはH又はカチオン等価物であり、
R
8はC
1-C
4アルキル、フェニル、ナフチル、フェニル-C
1-C
4アルキル又はC
1-C
4アルキルフェニルである)
から選択される。
【0071】
構造単位(III)及び(IV)を含むポリマーは、芳香族又はヘテロ芳香族のコアに結合したポリオキシアルキレン基を有する芳香族又はヘテロ芳香族の化合物、カルボン酸部分、スルホン酸部分又はリン酸部分を有する芳香族化合物、及びアルデヒド化合物、例えばホルムアルデヒドの重縮合によって得ることができる。
【0072】
1つの実施形態において、分散剤は、ペンダント加水分解性基及びポリエーテル側鎖が結合している炭素含有主鎖を有する非イオン性櫛形ポリマーであり、この加水分解性基は、加水分解の際にセメント固定基を放出する。好都合には、ポリエーテル側鎖を含む構造単位は、上述の一般式(IIa)、(IIb)、(IIc)及び/又は(IId)のうちの1つである。ペンダント加水分解性基を有する構造単位は、好ましくはアクリル酸エステルモノマー、より好ましくはアクリル酸ヒドロキシアルキルモノエステル及び/又はヒドロキシアルキルジエステル、最も好ましくはアクリル酸ヒドロキシプロピル及び/又はアクリル酸ヒドロキシエチルに由来する。エステル官能性は、好ましくは、セメント質結合材と水とを混合することにより提供されるアルカリ性のpHの水に曝露されると(脱プロトン化された)酸基に加水分解し、得られた酸官能基はその後、セメント成分と共に錯体を形成する。
【0073】
適切なスルホン化メラミンホルムアルデヒド縮合物は、水硬性結合材のための可塑剤として、しばしば使用される種類のものである(MFS樹脂ともいわれる)。スルホン化メラミンホルムアルデヒド縮合物及びその調製は、例えば、カナダ国特許出願公開第2172004号、ドイツ国特許出願公開第4411797号、米国特許第4,430,469号、米国特許第6,555,683号及びスイス特許第686186号、並びにUllmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry、第5編、A2巻、131頁、及びConcrete Admixtures Handbook - Properties, Science and Technology、第2編、411, 412頁に記載されている。好ましいスルホン化メラミンホルムアルデヒド縮合物は、次式の(非常に単純化され理想化された)単位
【0074】
【化13】
(式中、n4は一般に10~300を表す)を包含する。モル重量は、好ましくは2500~80000の範囲である。加えて、スルホン化されたメラミン単位に、他のモノマーを縮合により組み込むことが可能である。特に適切なのは尿素である。また、更なる芳香族単位、例えば没食子酸、アミノベンゼンスルホン酸、スルファニル酸、フェノールスルホン酸、アニリン、アミノ安息香酸(ammoniobenzoic acid)、ジアルコキシベンゼンスルホン酸、ジアルコキシ安息香酸、ピリジン、ピリジンモノスルホン酸、ピリジンジスルホン酸、ピリジンカルボン酸及びピリジンジカルボン酸も、縮合により組み込み得る。メラミンスルホネート-ホルムアルデヒド縮合物の一例は、BASF Construction Solutions GmbHにより供給されているMelment(登録商標)製品である。
【0075】
適切なリグノスルホネートは、製紙産業で副産物として得られる製品である。それらは、Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry、第5編、A8巻、586, 587頁に記載されている。それらは、次の極めて単純化された理想式の単位を含んでいる。
【0076】
【化14】
リグノスルホネートは、2000~100000g/molのモル重量を有する。一般に、それらは、そのナトリウム、カルシウム及び/又はマグネシウムの塩の形態で存在する。適切なリグノスルホネートの例は、Borregaard LignoTech, Norwayにより供給されているBorresperse製品である。
【0077】
適切なスルホン化ケトン-ホルムアルデヒド縮合物は、ケトン成分としてモノケトン又はジケトン、好ましくはアセトン、ブタノン、ペンタノン、ヘキサノン又はシクロヘキサノンを含む製品である。この種の縮合物は公知であり、例えば国際公開第2009/103579号に記載されている。スルホン化アセトン-ホルムアルデヒド縮合物が好ましい。それらは、一般に次式の単位
【0078】
【化15】
(式中、m2及びn5は一般に各々10~250であり、M
2はアルカリ金属イオン、例えばNa
+であり、比m2:n5は一般に約3:1~約1:3、より特定的には約1.2:1~1:1.2の範囲である)
を含んでいる(J. Plank et al., J. Appl. Poly. Sci. 2009, 2018-2024による)。また他の芳香族単位、例えば没食子酸、アミノベンゼンスルホン酸、スルファニル酸、フェノールスルホン酸、アニリン、アミノ安息香酸、ジアルコキシベンゼンスルホン酸、ジアルコキシ安息香酸、ピリジン、ピリジンモノスルホン酸、ピリジンジスルホン酸、ピリジンカルボン酸及びピリジンジカルボン酸を縮合により組み込むことも可能である。適切なスルホン化-アセトンホルムアルデヒド縮合物の例は、BASF Construction Solutions GmbHから供給されているMelcret K1L製品である。
【0079】
適切なスルホン化ナフタレン-ホルムアルデヒド縮合物は、ナフタレンのスルホン化及びその後のホルムアルデヒドとの重縮合により得られる製品であり、Concrete Admixtures Handbook - Properties, Science and Technology、第2編、411-413頁を含めた参考文献及びUllmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry、第5編、A8巻、587, 588頁に記載されている。それらは次式の単位を含んでいる。
【0080】
【化16】
典型的には、1000~50000g/molのモル重量(Mw)が得られる。また、他の芳香族単位、例えば没食子酸、アミノベンゼンスルホン酸、スルファニル酸、フェノールスルホン酸、アニリン、アミノ安息香酸、ジアルコキシベンゼンスルホン酸、ジアルコキシ安息香酸、ピリジン、ピリジンモノスルホン酸、ピリジンジスルホン酸、ピリジンカルボン酸及びピリジンジカルボン酸を、縮合により組み込むことも可能である。適切なスルホン化β-ナフタレン-ホルムアルデヒド縮合物の例は、BASF Construction Solutions GmbHにより供給されているMelcret 500 L製品である。
【0081】
一般に、ホスホネート含有分散剤は、ホスホネート基及びポリエーテル側基を含む。
【0082】
適切なホスホネート含有分散剤は、次式
R-(OA2)n6-N-[CH2-PO(OM3
2)2]2
(式中、
RはH又は炭化水素残基、好ましくはC1-C15アルキル基であり、
A2は独立してC2-C18アルキレン、好ましくはエチレン及び/又はプロピレン、最も好ましくはエチレンであり、
n6は5~500、好ましくは10~200、最も好ましくは10~100の整数であり、
M3はH、アルカリ金属、1/2アルカリ土類金属及び/又はアミンである)
によるものである。
【0083】
セメント質結合材は、ポルトランドセメント、アルミン酸カルシウムセメント及び/又はスルホアルミネートセメントから適切に選択される。
【0084】
鉱物学的相は、その通常の名称の後にそのセメント表記を続けることにより示される。基本の化合物はセメント表記法において酸化物の種類によって表される。CはCaO、SはSiO2、AはAl2O3、$はSO3、FはFe2O3、HはH2Oを示す。この表記法が全体を通して使用される。
【0085】
用語「ポルトランドセメント」はポルトランドクリンカー、特にEN規格197-1、パラグラフ5.2の意味でのCEM I、II、III、IV及びVを含有する、任意のセメント化合物を意味する。好ましいセメントは、硫酸カルシウム(<7重量%)を含有し得るか又は本質的に硫酸カルシウムを含まない(<1重量%)、DIN EN 197-1による普通ポルトランドセメント(OPC)である。ポルトランドセメントを構成する相は、主にエーライト(C3S)、ビーライト(C2S)、アルミン酸カルシウム(C3A)、カルシウムフェロアルミネート(C4AF)及び他の副次相である。エーライト(C3S)が、主として強度特性を提供する。
【0086】
アルミン酸カルシウムセメント(高アルミネートセメントともいわれる)は、アルミン酸カルシウム相を含有するセメントを意味する。用語「アルミン酸塩相(aluminate phase)」は、アルミン酸塩(化学式Al2O3、又はセメント表記法の「A」)と他の鉱物種との組合せの結果得られる、任意の鉱物学的相を意味する。アルミナ(Al2O3の形態)の量は、蛍光X線(XRF)によって決定して、アルミン酸塩を含有するセメントの全質量の≧30重量%である。より正確には、アルミン酸塩タイプの前記鉱物学的相は、アルミン酸三カルシウム(C3A)、アルミン酸一カルシウム(CA)、マイエナイト(C12A7)、鉄アルミン酸四石灰(C4AF)、又はこれらの相の幾つかの組合せを含む。
【0087】
スルホアルミネートセメントは、15重量%を超えるイーリマイト(化学式4CaO.3Al2O3.SO3又はセメント表記法のC4A3$)の含量を有する。
【0088】
1つの実施形態において、セメント質結合材は、ポルトランドセメントとアルミネートセメントとの混合物、又はポルトランドセメントとスルホアルミネートセメントとの混合物又はポルトランドセメント、アルミネートセメント及びスルホアルミネートセメントの混合物を含む。
【0089】
1つの実施形態において、セメント質結合材がアルミン酸塩含有セメントを含有する場合、セメント質組成物は更に少なくとも1種の硫酸カルシウム源を含有し得る。硫酸カルシウム源は、硫酸カルシウムの二水和物、無水物、α-及びβ-半水和物、即ちα-バサナイト及びβ-バサナイト、又はこれらの混合物から選択され得る。好ましくは、硫酸カルシウム源は、α-バサナイト及び/又はβ-バサナイトである。一般に、硫酸カルシウム源は、アルミン酸塩含有セメントの重量に対して約1~約20重量%(wt.-%)の量で含まれる。1つの実施形態において、建築用化学組成物は、更に少なくとも1種の硫酸カリウム若しくは硫酸ナトリウムのようなアルカリ金属硫酸塩、又は硫酸アルミニウムを含有する。
【0090】
ショットクリート組成物はまた、潜在性の水硬性結合材及び/又はポゾラン結合材を含有していてもよい。典型的には、これらの潜在性の水硬性結合材及び/又はポゾラン結合材は、アルカリを含まずアルミニウムをベースとするショットクリート促進剤の混和前に、セメント質組成物に含まれる。本発明の目的のために、「潜在性の水硬性結合材」は好ましくは、モル比(CaO+MgO):SiO2が0.8~2.5、特に1.0~2.0の結合材である。一般的に、上述の潜在性の水硬性結合材は、工業及び/又は合成のスラグから、特に高炉スラグ、電熱リンスラグ、製鋼スラグ及びこれらの混合物から選択することができる。「ポゾラン結合材」は一般に、非晶質シリカ、好ましくは沈降シリカ、ヒュームドシリカ及びマイクロシリカ、粉末ガラス、メタカオリン、アルミノケイ酸塩、フライアッシュ、好ましくは褐炭フライアッシュ及び無煙炭フライアッシュ、もみ殻灰、天然ポゾラン、例えば凝灰岩、トラス及び火山灰、天然及び合成ゼオライト並びにこれらの混合物から選択することができる。
【0091】
スラグは工業スラグ、即ち工業プロセスからの廃棄物、又はその他合成スラグであってもよい。工業スラグは常に一定した量及び品質で入手可能であるとは限らないので、後者が有利である可能性がある。
【0092】
高炉スラグ(BFS)は、ガラス炉工程の廃棄物である。その他の材料は粒状高炉スラグ(GBFS)及び微細に粉砕されている粒状高炉スラグである粉砕粒状高炉スラグ(GGBFS)である。粉砕粒状高炉スラグは、由来及び処理方法に依存する粉砕微粉度及び粒度分布の点で変化し、粉砕微粉度は反応性に影響する。ブレーン(Blaine)値は粉砕微粉度に対するパラメーターとして使用され、典型的には200~1000m2kg-1、好ましくは300~500m2kg-1の程度の大きさを有する。より微細な製粉によって、より高い反応性が得られる。
【0093】
しかしながら、本発明の目的から、「高炉スラグ」という表現は、上述したあらゆる程度の処理、製粉、及び品質から得られる材料(即ちBFS、GBFS及びGGBFS)を含んで意味する。高炉スラグは一般に、30~45重量%のCaO、約4~17重量%のMgO、約30~45重量%のSiO2及び約5~15重量%のAl2O3、典型的には約40重量%のCaO、約10重量%のMgO、約35重量%のSiO2及び約12重量%のAl2O3を含む。
【0094】
電熱リンスラグは、電熱リン生産の廃棄物である。これは、高炉スラグより反応性が低く、約45~50重量%のCaO、約0.5~3重量%のMgO、約38~43重量%のSiO2、約2~5重量%のAl2O3及び約0.2~3重量%のFe2O3、並びにフッ化物及びリン酸塩を含む。製鋼スラグは、様々な鋼生産工程の廃棄物であり、大きく変化する組成を有する。
【0095】
非晶質シリカは、好ましくはX線-非晶質シリカ、即ち粉末回折法で結晶化度を示さないシリカである。本発明の非晶質シリカのSiO2の含量は、有利には少なくとも80重量%、好ましくは少なくとも90重量%である。沈降シリカは水ガラスから出発して、沈降法によって工業規模で得られる。幾つかの生産方法から得られる沈降シリカは、シリカゲルともいわれる。
【0096】
ヒュームドシリカは、水素/酸素火炎中でクロロシラン、例えば四塩化ケイ素の反応によって生成される。ヒュームドシリカは粒径5~50nm、比表面積50~600m2g-1の非晶質のSiO2粉末である。
【0097】
マイクロシリカは、ケイ素生産又はフェロシリコン生産の副産物であり、同様に大部分が非晶質のSiO2粉末からなる。粒子は0.1μm程度の大きさの直径を有する。比表面積は15~30m2g-1程度の大きさである。
【0098】
フライアッシュは、とりわけ発電所での石炭の燃焼中に生成する。クラスCフライアッシュ(褐炭フライアッシュ)は、国際公開第08/012438号によると、約10重量%のCaOを含んでいるが、クラスFフライアッシュ(無煙炭フライアッシュ)は8重量%未満、好ましくは4重量%未満、典型的には約2重量%のCaOを含んでいる。
【0099】
メタカオリンは、カオリンを脱水する場合に生成される。100~200℃で、カオリンは物理的に結合水を放出するが、500~800℃では脱ヒドロキシル化が起こり、格子構造が崩壊し、メタカオリン(Al2Si2O7)が生成する。従って、純粋なメタカオリンは、約54重量%のSiO2及び約46重量%のAl2O3を含む。
【0100】
本発明の目的から、アルミノケイ酸塩は、水性のアルカリ環境中で硬化するAl2O3と共にSiO2をベースとする、上述の反応性化合物である。もちろん、ケイ素及びアルミニウムが、例えばAl2Si2O7の場合のように酸化物形態で存在することが必須ではない。しかしながら、アルミノケイ酸塩の定量化学分析の目的から、酸化物形態(即ち「SiO2」及び「Al2O3」)のケイ素及びアルミニウムの割合を述べるのが通常である。
【0101】
セメント質組成物は、例えばコンクリート、モルタル又はグラウトであってもよい。用語「モルタル」又は「グラウト」は、細骨材、即ち直径が150μm~4mmの骨材(例えば砂)、及び場合により、非常に細かい顆粒を含有するセメントペーストを意味する。グラウトは隙間又は間隙を満たすのに充分に低い粘度の混合物である。モルタルの粘度はモルタル自身の重量だけでなく、その上に設けられる石細工の重量も支えるのに、十分に高い。用語「コンクリート」は粗骨材、即ち直径が4mmより大きい骨材を含有するセメントペーストを意味する。
【0102】
本発明における骨材は、例えばシリカ、石英、砂、砕いた大理石、ガラス球、花こう岩、玄武岩、石灰岩、砂岩、方解石、大理石、蛇紋石、石灰華(トラバーチン)、白雲石、長石、片麻岩、沖積砂、その他のあらゆる耐久性骨材、及びこれらの混合物であってもよい。骨材はフィラーといわれることも多く、特に結合材として働かない。
【0103】
ショットクリート組成物は更に添加剤、例えば、
-アミン、アミノアルコール、グリコール、グリコール誘導体、グリセロール、グリセロール誘導体、モラッセ、コーンシロップのような粉砕助剤、
-細粒形態のケイ酸カルシウム水和物化合物のような造核剤、
-アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属硝酸塩、アルカリ土類金属硝酸塩、アルカリ金属亜硝酸塩、アルカリ土類金属亜硝酸塩、アルカリ金属チオシアン酸塩、アルカリ土類金属チオシアン酸塩、アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ土類金属ハロゲン化物及びアルカリ土類金属ギ酸塩のような強度増強剤、
-スクロース、グルコース、ポリマー糖及びホスホン酸のような凝結遅延剤、
-合成ポリマー性繊維(例えばポリプロピレン)、天然繊維、鋼繊維、又はこれらの材料のメッシュのような機械的補強材、
-セルロースエーテル及びセルロース誘導体、デンプン、デンプンエーテル及びその他のデンプン誘導体、キサンタンガム、ウェランガム、ジウタンガム、高分子量ポリアクリルアミド並びにそのアクリル酸及び/又はATBSを含むコポリマーのような安定化剤又は増粘剤、
-ポリアクリレート、スチレン-ブタジエンコポリマー及びエチレン-酢酸ビニルコポリマーのような液体形態又は固体形態、例えば粉末形態のポリマー分散物、並びに
-これらの混合物
を含んでいてもよい。
【0104】
典型的にはこれらの添加剤は、アルカリを含まずアルミニウムをベースとするショットクリート促進剤を混和する前に、セメント質組成物中に含まれる。
【0105】
本発明による方法は
-a)セメント質結合材、及びb)(i)グリオキシル酸縮合物及び/又はグリオキシル酸付加物を含むエトリンガイト形成制御剤を含むセメント質組成物を準備することと、
-アルカリを含まずアルミニウムをベースとするショットクリート促進剤をセメント質組成物に混和してショットクリート組成物を得ることと、
-ショットクリート組成物を表面上に塗布してショットクリート構造体を得て、ショットクリート構造体を硬化させることと、
を含む。
【0106】
好ましくは、ショットクリート組成物は、表面上に空気圧で発射される。
【0107】
1つの実施形態において、アルカリを含まずアルミニウムをベースとするショットクリート促進剤又はショットクリート促進剤配合物は、静的混合装置、例えば押出機若しくは標準の吹き付けコンクリートノズル、又は動的混合装置、例えばコンクリートミキサーのような標準の機械的ミキサーを用いて、セメント質組成物に混和される。ショットクリート促進剤配合物は、水溶液の形態、水性懸濁液の形態、固体の形態、又はこれらの混合の形態のセメント質組成物に混和され得る。
【0108】
2つの基本的なショットクリート技術があり、そのいずれも本方法を適用できる。「乾式」方法では、セメント、細骨材及び/又は粗骨材並びに粉末促進剤の混合物を空気圧で、ノズルを通して送達ホースに運び、そこで本質的に乾燥した材料に水リングを介して水を加える。「湿式」方法では、セメント、骨材及び水を塑性硬さに混合した後、液圧でノズルに運び、そこで圧縮空気を加えて湿った材料を空気圧で表面上に発射する。しかし、更に「混合」ショットクリート技術が存在する。
【0109】
1つの実施形態において、本発明のショットクリート組成物は、様々な物品の3D-プリンティングに使用することができ、建築、装飾及び更なる目的に使用することができる。
【0110】
本発明を添付の図面及び以下の実施例によって、更に詳細に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【
図1a】
図1aは、コンクリートミックスのミニスランプ試験の実験結果を示す。
【
図1b】
図1bは、コンクリートミックスのミニスランプ試験の実験結果を示す。
【
図2a】
図2aは、コンクリートミックスの圧縮強度を決定するための試験の実験結果を示す。
【
図2b】
図2bは、コンクリートミックスの圧縮強度を決定するための試験の実験結果を示す。
【
図3a】
図3aは、更なるコンクリートミックスの圧縮強度を決定するための試験の実験結果を示す。
【
図3b】
図3bは、更なるコンクリートミックスの圧縮強度を決定するための試験の実験結果を示す。
【
図4a】
図4aは、モルタルミックスの貫入抵抗力を決定するための試験の実験結果を示す。
【
図4b】
図4bは、モルタルミックスの貫入抵抗力を決定するための試験の実験結果を示す。
【
図5a】
図5aは、更なるモルタルミックスの貫入抵抗力を決定するための試験の実験結果を示す。
【
図5b】
図5bは、更なるモルタルミックスの貫入抵抗力を決定するための試験の実験結果を示す。
【実施例】
【0112】
[実施例]
A.)材料
ドイツ及びオーストリアの2つの典型的なショットクリートセメントタイプを使用した:Mergelstetten CEM I 52,5R及び混合セメント2:1(w/w)Eiberg CEMI 52,5N:Fluasit(後者は石灰岩、スラグ及びフライアッシュの混合物である)。両方のセメントタイプは、ポルトランドセメントクリンカー及び硫酸塩源を含む。
【0113】
可塑剤として、いずれもBASF Construction Solutions GmbHから入手可能なMasterGlenium SKY 594(更にMG SKY 594又はSKY 594と略記される)及びMelflux 6680L(更にMFと略記される)を使用した。MasterGlenium SKY 594及びMelflux 6680Lはいずれも、ポリカルボキシレートエーテル(PCE)をベースとする可塑剤である。
【0114】
参照ミックスにおいて、BASF Construction Solutions GmbHから入手可能な水和制御添加剤MasterRoc HCA 10(更にMR HCA 10又はHCA 10と略記される)を使用した。MasterRoc HCA 10は、ホスホン酸及びクエン酸を含む有機酸の水溶液である。
【0115】
吹き付けコンクリート促進剤として、いずれもBASF Construction Solutions GmbHから入手可能なMasterRoc SA 160及びSA 167を使用した。MasterRoc SA 160及びSA 167はいずれも、固形分がそれぞれ50±4%及び60±5%の範囲の、硫酸アルミニウムをベースとする水性懸濁液タイプのアルカリを含まない促進剤である。参照促進剤として、いずれもアルカリ含有促進剤である、固形分40%の水溶液としてのアルミン酸ナトリウム、及び固形分41.5%の水溶液としてのケイ酸ナトリウムを、実験に含ませた。
【0116】
グリオキシル酸尿素縮合物を、以下のようにして合成した。グリオキシル酸(1.2gのグリオキシル酸、水中50wt.-%溶液)を反応容器に仕込み、水性水酸化カリウム(40wt.-%)を、5のpH値に達するまで加えた。1gの尿素を加え、混合物を80℃に加熱した。7時間後、極めて粘稠な物質を、以下に記載するゲル浸透クロマトグラフィー方法(GPC)により分析した。こうして得られたグリオキシル酸尿素縮合物は、固形分49.3%の水溶液である。
【0117】
エトリンガイト形成制御剤は、次の方法に従って調製した。
BMF:グリオキシル酸尿素縮合物を、グルコン酸ナトリウム及び炭酸ナトリウムと、固体/活性物質の重量割合3:1:3で混合した。
【0118】
B.)分析方法
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)
カラムの組合せ:OH-Pak SB-G、OH-Pak SB 804 HQ及びOH-Pak SB 802.5 HQ、Shoed, Japanより;溶離剤:80vol.-% HCO2NH4水溶液(0.05mol/l)及び20vol.-%アセトニトリル;注入容積100μl;流量0.5ml/分。分子量の較正は、PSS Polymer Standards Service, Germanyから購入したRI検出器用ポリ(アクリレート)標準を用いて行った。
【0119】
C.)適用試験
C.1)コンクリート試験
コンクリートミックスは、次表による組成に従って調製した。
【0120】
【0121】
ベース組成物及び次表による成分を含む8つのコンクリートミックスを、調製した。
【0122】
【0123】
全ての成分を混合することにより、コンクリートミックスC1~C8を調製し、スランプ保持を評価した。
【0124】
コンクリート混合手順:
コンクリートの混合は、容量4.7リットルのボウルを用いて二重混合機能(シャフト及び遊星)を有するHobartミキサーで行った。砂、あら砂及びセメントをボウルに入れ、乾燥状態においてスピード1で混合した。続いて、水の80%を加え、得られた混合物をスピード1で更に2分間混合した。その後、残りの20%の水中の可塑剤、及び該当する場合にMasterRoc HCA 10の水溶液を加え、混合物を再び2分間、スピード1で混合した。
【0125】
エトリンガイト形成制御剤BMFを含む混合物の場合、修正された混合手順を使用した。即ち、可塑剤及びエトリンガイト形成制御剤の両方をコンクリートミックス用の混合水100%中に溶かし、乾燥成分の最初の予備混合後直ちに加える。更なる混合手順は、上述の場合と同じである。
【0126】
混合物を更に、スランプ保持評価に使用する場合、全部で5分間混合した後、コンクリートミックスをミニスランプコーンに移す(以下のミニスランプ試験の記載参照)。
【0127】
混合物を更に促進剤と混合する場合、全部で5分後混合の速度をスピード2に変え、促進剤をシリンジにより、できるだけ速く混合物中に注入する。促進剤と15秒混合した後、混合物を4×4×16cmのプリズムモールド中に充填し、振動台で30秒高密度化し、プラスチックフォイルで密封し、更なる強度測定のために20℃、65%相対湿度で保存する。
【0128】
ミニスランプ試験:
ミニスランプ試験は、小さい容積のコンクリート用の修正されたコンクリートスランプ試験であり、規格化されたコンクリートスランプ試験DIN EN 12350-2の結果の正確な予測が可能である。ミニスランプ試験では、標準のAbramsコーンの「半分」を表す修正されたミニスランプコーンを使用する(上部内径、低部内径及び高さが50、100及び150mmの寸法の円すい台)。このコーンを平らなプレート上に載せ、新鮮なコンクリートミックスをほぼ等しい容積で二段階に満たし、各層を15回突き固める。その後、上部のコンクリート表面を平らにし、次にコーンを除き、スランプ(コーンの高さと、得られるコンクリート塊の高さとの差)を記録する。
【0129】
この試験を必要なだけ繰り返して(この場合15~30分ごと)、ミックスのスランプ保持を評価する。各々繰り返したスランプ試験ではコンクリートミックスを、Hobartミキサーで1分間スピード1で予め混合する。
【0130】
図1aは、コンクリートミックスC1~C4のミニスランプ試験の結果を示す。
図1bは、コンクリートミックスC5~C8のミニスランプ試験の結果を示す。両方のセメントタイプで、エトリンガイト制御剤の添加量を変えて、スランプ保持及び促進剤の存在下での強度発現に対するその効果を調べた。ミックス間の比較可能性を可能にするために、可塑剤の添加量を調整することにより、ミックスの最初のスランプを同じ最初の値に調整した。
【0131】
明らかに、本発明のエトリンガイト形成制御剤を含むコンクリートミックスは充分に長いオープンタイムを示し、これは、エトリンガイト制御剤の添加量変化により所望の値に調整することができる。
【0132】
更に、視覚的に、本発明のエトリンガイト形成制御剤を含むコンクリートミックスが、促進剤を含んでも含まなくても、エトリンガイト形成制御剤を含まない比較のコンクリートミックスより、初めは粘稠ではないことが判明し、これはより高い程度のポンパビリティー及び吹き付け性を示す。
【0133】
次表に従って上で調製したコンクリートミックスに、促進剤を加えた(「加速コンクリートミックス」)。
【0134】
【0135】
4、6及び24時間後、調製した加速コンクリートミックスを含むプリズムの圧縮強度を、規格DIN EN 206-1/DIN 1045-2に従って測定した。ZWICK 1446機を用いることにより、各々のプリズムを2つの等しい破片に砕いた。こうして、各プリズムに対して2つの値を得ることができた。
【0136】
結果を
図2a、2b、3a及び3bに示す。明らかに、本発明のエトリンガイト形成制御剤を含むコンクリートミックスは、対応する比較のコンクリートミックスよりかなり高い初期強度を示し、このことは、鉱山及び坑道へより早く再入するために、速い進行速度が必要とされる不安定な地盤のような困難な作業条件下で、又は頭上に厚い層を吹き付けなければならない場合に、特に適切である。
【0137】
C.2)-モルタル試験
次表による組成のモルタルミックスM1~M12を、調製した。
【0138】
【0139】
【0140】
モルタルミックスM1~M6は上に記載したコンクリートミックスと同様に得たが、組成の差は、これらのモルタルミックスが2~5mmの範囲の骨材を含まないために、1.6mmのニードルを備えた電子式吹き付けコンクリート針入度計(Mecmesin AFG 500N)を用いて貫入抵抗力の測定が可能であることである。
【0141】
混合及び測定手法:
促進剤を除いて全ての成分を3.5分間混合し、同じ初期稠度をもたせ、等しい大きさのバケツで調製した。その後、促進剤を加え、混合物を更に40秒混合し、得られた加速モルタルミックスをバケツ内で圧縮して滑らかな平面を作成した。上部の滑らかにした表面からモルタルミックス内へのニードル(直径1.6mm)の貫入抵抗力を、促進剤の添加からはじめて6分~6時間の期間にわたって(平均を計算するために各時点で10回の測定を行う)上述の針入度計(Mecmesin AFG 500N)を用いて測定した。貫入抵抗力測定の結果はモルタルミックスの強度と直接関連し、対応する大規模なコンクリート試験の予測として使用することができる。測定結果を
図4a、4b、5a及び5bに示す。
【0142】
図4aは、2:1(w/w)のEiberg CEMI 52,5N:Fluasitセメントを含むモルタルミックスM1~M4の結果を示す。M1~M3の比較は、アルカリを含まない促進剤SA 167の存在下で、本発明のエトリンガイト形成制御剤を含むモルタルミックスが、参照水和制御添加剤HCA 10を含むモルタルミックスよりかなり高い初期(6分~6時間)強度を示すことを示す。M2~M4の比較は、この効果が、アルカリを含まない促進剤SA 160の存在下でも観察されることを示す。
【0143】
図4bは、Mergelstetten CEMI 52,5Rセメントを含むモルタルミックスM5及びM6の結果を示す。ここでも明らかに、アルカリを含まない促進剤SA 167の存在下で、本発明のエトリンガイト形成制御剤を含むモルタルミックスは、エトリンガイト形成制御剤を含まないモルタルミックスよりかなり高い初期(6分~6時間)強度を示す。
【0144】
図5aは、2:1(w/w)のEiberg CEMI 52,5N:Fluasitセメント及びエトリンガイト形成制御剤BMFを含むモルタルミックスM7~M9の結果を示す。明らかに、アルカリを含まない促進剤SA 167の存在下で、モルタルミックスは、アルカリ含有促進剤のアルミン酸ナトリウム及びケイ酸ナトリウムそれぞれの存在下よりもかなり高い初期(6分~6時間)強度を示す。
【0145】
図5bは、Mergelstetten CEMI 52,5Rセメント及びエトリンガイト形成制御剤BMFを含むモルタルミックスM10~M12の結果を示す。ここでも明らかに、アルカリを含まない促進剤SA 167の存在下で、モルタルミックスは、アルカリ含有促進剤のアルミン酸ナトリウム及びケイ酸ナトリウムそれぞれの存在下よりもかなり高い初期(6分~6時間)強度を示す。
【手続補正書】
【提出日】2021-06-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)セメント質結合材、
b)(i)グリオキシル酸縮合物及び/又はグリオキシル酸付加物を含むエトリンガイト形成制御剤、並びに
c)
アルミニウム塩、アルミニウム錯体、アルミニウム水酸化物、及びこれらの混合物から選択されるアルカリを含まずアルミニウムをベースとするショットクリート促進剤
を含む、ショットクリート組成物。
【請求項2】
グリオキシル酸縮合物が、アミン-グリオキシル酸縮合物、好ましくはメラミン-グリオキシル酸縮合物、尿素-グリオキシル酸縮合物、メラミン-尿素-グリオキシル酸縮合物及び/又はポリアクリルアミド-グリオキシル酸縮合物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
グリオキシル酸付加物が、グリオキシル酸の亜硫酸水素塩付加物又はその塩若しくは混合塩であり、亜硫酸水素塩付加物が好ましくは一般式(I)
【化1】
(式中、
M
1は独立してH又はカチオン等価物K
rから選択され、Kはアルカリ金属、アルカリ土類金属、亜鉛、銅、鉄、アルミニウム、アンモニウム若しくはホスホニウムのカチオン、又はこれらの混合物から選択され、rは1/vであり、vはカチオンの原子価である)
を有する、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
エトリンガイト形成制御剤が更に、(ii)好ましくは0.1gL
-1以上の水溶解度を有する無機炭酸塩、有機カーボネート、及びこれらの混合物から選択されるカーボネート源を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
無機炭酸塩が炭酸ナトリウム、炭酸リチウム及び炭酸マグネシウムから選択され、有機カーボネートがエチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートから選択される、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
エトリンガイト形成制御剤が更に、(iii)
-全てのカルボキシル基が中和されていない形態であると仮定してカルボキシル基のミリ当量数が5.00meq/g以上、好ましくは5.00~15.00meq/gであるポリカルボン酸又はその塩、及び
-α-ヒドロキシカルボン酸又はその塩
から選択される成分を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
ポリカルボン酸が、ホスホノアルキルカルボン酸、アミノカルボン酸、及びポリマー性カルボン酸から選択される、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
セメント質結合材が、ポルトランドセメント、アルミン酸カルシウムセメント及び/又はスルホアルミネートセメントから選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
更に、潜在性の水硬性結合材若しくはポゾラン結合材、又はこれらの混合物を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
更に分散剤を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
分散剤が
-ペンダントセメント固定基及びポリエーテル側鎖が結合している炭素含有主鎖を有する櫛形ポリマー、
-ペンダント加水分解性基及びポリエーテル側鎖が結合している炭素含有主鎖を有しており、加水分解性基が加水分解の際にセメント固定基を放出する、非イオン性櫛形ポリマー、
-スルホン化メラミン-ホルムアルデヒド縮合物、
-リグノスルホネート、
-スルホン化ケトン-ホルムアルデヒド縮合物、
-スルホン化ナフタレン-ホルムアルデヒド縮合物、
-ホスホネート含有分散剤、
-ホスフェート含有分散剤、及び
-これらの混合物
の群から選択される、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
-a)セメント質結合材、及びb)(i)グリオキシル酸縮合物及び/又はグリオキシル酸付加物を含むエトリンガイト形成制御剤を含むセメント質組成物を準備することと、
-
アルミニウム塩、アルミニウム錯体、アルミニウム水酸化物、及びこれらの混合物から選択されるアルカリを含まずアルミニウムをベースとするショットクリート促進剤をセメント質組成物に混和して、ショットクリート組成物を得ることと、
-ショットクリート組成物を表面上に塗布してショットクリート構造体を得て、ショットクリート構造体を硬化させることと、
を含む、方法。
【請求項13】
請求項
12に記載の方法により得られる硬化したショットクリート構造体。
【国際調査報告】