(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-22
(54)【発明の名称】B型肝炎ウイルスの増殖を抑制する組成物及びその方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20220615BHJP
C12N 15/55 20060101ALI20220615BHJP
C12N 15/861 20060101ALI20220615BHJP
C12N 15/863 20060101ALI20220615BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20220615BHJP
C12N 15/867 20060101ALI20220615BHJP
C12N 15/869 20060101ALI20220615BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20220615BHJP
C12N 9/22 20060101ALI20220615BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N15/55 ZNA
C12N15/861 Z
C12N15/863 Z
C12N15/864 100Z
C12N15/867 Z
C12N15/869 Z
C12N7/01
C12N9/22
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021562027
(86)(22)【出願日】2020-04-20
(85)【翻訳文提出日】2021-12-17
(86)【国際出願番号】 KR2020005203
(87)【国際公開番号】W WO2020214003
(87)【国際公開日】2020-10-22
(32)【優先日】2019-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516355531
【氏名又は名称】ツールゲン インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】TOOLGEN INCORPORATED
(71)【出願人】
【識別番号】519010514
【氏名又は名称】ハンドン グローバル ユニバーシティ インダストリーアカデミック コーオペレイション ファウンデーション
【氏名又は名称原語表記】HANDONG GLOBAL UNIVERSITY INDUSTRY-ACADEMIC COOPERATION FOUNDATION
【住所又は居所原語表記】558, Handong-ro, Heunghae-eup, Buk-gu Pohang-si Gyeongsangbuk-do 37554 Korea
(71)【出願人】
【識別番号】516286604
【氏名又は名称】コングク ユニバーシティ グローカル インダストリー-アカデミック コラボレーション ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】イ ジェヨン
(72)【発明者】
【氏名】イ キュジュン
(72)【発明者】
【氏名】イ ジョンミン
(72)【発明者】
【氏名】キム キュンファン
(72)【発明者】
【氏名】ウォン ジュヒ
【テーマコード(参考)】
4B050
4B065
【Fターム(参考)】
4B050CC03
4B050DD02
4B050LL01
4B065AA96X
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA01
(57)【要約】
本出願はB型肝炎ウイルスの増殖を抑制する組成物及び方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
B型肝炎ウイルス(Hepatitis B virus,HBV)の増殖を抑制する方法であって、
前記B型肝炎ウイルスは少なくともHBV A型、HBV B型、HBV C型、HBV D型、HBV E型、HBV F型又はHBV G型から選択される2つ以上のHBV遺伝子型であり、
前記方法は、
a)ガイド核酸又はこれをコードする核酸配列、及び
b) Cas蛋白質又はこれをコードする核酸配列を対象に導入することを含み、
この場合、前記ガイド核酸はSEQ ID NO.51、52、56、57、69、70、73、74、75、76、80、85、87及び89から選択されるいずれか1つ以上をそれぞれ含み、
前記導入によりB型肝炎ウイルス遺伝子内核酸配列にインデル(indel)を形成させることを特徴とする方法。
【請求項2】
B型肝炎ウイルス(Hepatitis B virus,HBV)遺伝子内に保存された配列を不活性化する方法であって、
前記B型肝炎ウイルス遺伝子は少なくともHBV A型、HBV B型、HBV C型、HBV D型、HBV E型、HBV F型又はHBV G型から構成されるHBV遺伝子型から選択される1つ以上であり、
前記保存された配列は前記HBV遺伝子型の配列間に保存される配列であり、
この場合、前記保存された配列は、SEQ ID NO.1~45から選択されるいずれか1つ以上であり、
前記不活性化は前記保存される配列を切断(cleavage)することであり、
前記方法は、
a)ガイド核酸又はこれをコードする核酸配列、及び
b) Cas蛋白質又はこれをコードする核酸配列を対象に導入することを含み、
前記ガイド核酸は前記保存された配列と一部又は全体が相補的な配列又は相同性を有する配列であり、
この場合、前記ガイド核酸はSEQ ID NO.51、52、56、57、69、70、73、74、75、76、80、85、87及び89から選択されるいずれか1つ以上をそれぞれ含むことを特徴とする方法。
【請求項3】
前記Cas蛋白質は、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)由来のCas9蛋白質、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)由来のCas9蛋白質から選択される1つ以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
a)のガイド核酸は、SEQ ID NO.51、52、56、57、69、70、73、74、75及び76から選択されるいずれか1つであり、
b)のCas蛋白質は、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)由来のCas9蛋白質であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項5】
a)のガイド核酸は、SEQ ID NO.80、85、87及び89から選択されるいずれか1つであり、
b)のCas蛋白質はカンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)由来のCas9蛋白質であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記ガイド核酸とCas蛋白質は、ベクターの形態で導入されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記ベクターは、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、ワクチニアウイルス、ポックスウイルス及び単純ヘルペスウイルスから構成される群から選択される1以上のベクターであることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ガイド核酸は、SEQ ID NO.51、57及び73が共に導入されることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記ガイド核酸は、SEQ ID NO.51、73及び76が共に導入されることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項10】
前記B型肝炎ウイルスの抗原であるHBeAg、HBsAgから選択されるいずれか1つ以上が抑制されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項11】
B型肝炎ウイルス(Hepatitis B virus,HBV)ゲノム内に保存される配列を標的とするB型肝炎ウイルスの増殖を抑制する組成物であって、
前記組成物は、
a)ガイド核酸又はこれをコードする核酸配列、及び
b) Cas蛋白質又はこれをコードする核酸配列を含み、
前記ガイド核酸は、SEQ ID NO.51、52、56、57、69、70、73、74、75、76、80、85、87及び89から選択されるいずれか1つ以上をそれぞれ含み、
前記保存された配列は、SEQ ID NO.1~45から選択されるいずれか1つ以上であることを特徴とする組成物。
【請求項12】
前記Cas蛋白質は、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)由来のCas9蛋白質、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)由来のCas9蛋白質から選択される1つ以上であることを特徴とする請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記組成物はベクター形態であることを特徴とする請求項11に記載の組成物。
【請求項14】
a)のガイド核酸は、SEQ ID NO.51、52、56、57、69、70、73、74、75及び76から選択されるいずれか1つであり、
b)のCas蛋白質は、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)由来のCas9蛋白質であることを特徴とする請求項11に記載の組成物。
【請求項15】
a)のガイド核酸は、SEQ ID NO.80、85、87及び89から選択されるいずれか1つであり、
b)のCas蛋白質はカンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)由来のCas9蛋白質であることを特徴とする請求項11に記載の組成物。
【請求項16】
前記組成物は、SEQ ID NO.51、57及び73を含有するガイド核酸を含むことを特徴とする請求項11に記載の組成物。
【請求項17】
前記組成物はSEQ ID NO.51、73及び76を含有するガイド核酸を含むことを特徴とする請求項11に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、多様な遺伝子型のB型肝炎ウイルスの増殖を抑制する方法に関する。
【0002】
本出願は、多様な遺伝子型のB型肝炎ウイルスの増殖を抑制する組成物に関する。
【0003】
本出願は、多様な遺伝子型のB型肝炎ウイルスの増殖を抑制する組成物の多様な用途に関する。
【背景技術】
【0004】
B型肝炎(Hepatitis B)は、B型肝炎ウイルス(Hepatitis B virus,HBV)により生じる肝臓の炎症である。
【0005】
B型肝炎ウイルスの感染は世界的に発生頻度が高いだけではなく、年齢や人種に関係なく誰でも感染する可能性があり、感染の経路も様々である。
【0006】
今までに開発されたB型肝炎治療剤は、多様な遺伝子型が存在するB型肝炎ウイルスの遺伝子型のうち一部の遺伝子型のB型肝炎に対して、症状のみを好転させるので再発が頻繁に起きる。
【0007】
また、B型肝炎ウイルスの活性を減らすために、CRISPR/Casシステムを利用してB型肝炎ウイルスの増殖を抑制しようと研究した色々な文献(特許第EP2014830911号、論文World J Gastroenterol.2015 Aug 28;21(32):9554-9565.)でもB型肝炎ウイルスの標的部位によりB型肝炎ウイルスの抑制効果が異なり、また、HBV遺伝子型のそれぞれに対して異なる効果があるということが報告されている。
【0008】
このように、B型肝炎ウイルスの再発を減らすための努力と共に多様なB型肝炎ウイルス遺伝子型に対する増殖抑制の必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本出願の1つ課題は、多様な遺伝子型のB型肝炎ウイルスの保存領域を標的として、B型肝炎ウイルス増殖を抑制する方法を提供することを目的とする。
【0010】
本出願の他の課題は、多様な遺伝子型のB型肝炎ウイルスの保存領域を標的とする組成物を提供することを目的とする。
【0011】
更に、本出願の他の課題は、多様な遺伝子型のB型肝炎ウイルスの保存領域の保存配列を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本出願は前記課題を解決するために、B型肝炎ウイルス(Hepatitis B virus,HBV)の増殖を抑制する方法を提供することができる。この場合、前記B型肝炎ウイルスは少なくとも、HBV A型、HBV B型、HBV C型、HBV D型、HBV E型、HBV F型又はHBV G型から選択される2つ以上のHBV遺伝子型であり、
前記方法は、
a)ガイド核酸又はこれをコードする核酸配列、及び
b) Cas蛋白質又はこれをコードする核酸配列、を対象に導入することを含み、
この場合、前記ガイド核酸はSEQ ID NO.51、52、56、57、69、70、73、74、75、76、80、85、87及び89から選択されるいずれか1つ以上をそれぞれ含む方法を提供することができる。特に、この場合、前記導入によりB型肝炎ウイルス遺伝子内の核酸配列にインデル(indel)を形成させる方法を提供する。
【0013】
本出願は前記課題を解決するために、B型肝炎ウイルス(Hepatitis B virus,HBV)遺伝子内に保存された配列を不活性化する方法を提供する。この場合、前記B型肝炎ウイルス遺伝子は、少なくともHBV A型、HBV B型、HBV C型、HBV D型、HBV E型、HBV F型又はHBV G型から構成されるHBV遺伝子型から選択される1つ以上であり、前記保存された配列は前記HBV遺伝子型の配列間に保存される配列であり、この場合、前記保存された配列はSEQ ID NO.1~45から選択されるいずれか1つ以上であり、前記不活性化は前記保存された配列を切断(cleavage)することであり、
前記方法は、
a)ガイド核酸又はこれをコードする核酸配列、及び
b) Cas蛋白質又はこれをコードする核酸配列、を対象に導入することを含み、
前記ガイド核酸は、前記保存された配列と一部又は全体が相補的な配列又は相同性を有する配列であり、前記ガイド核酸はSEQ ID NO.51、52、56、57、69、70、73、74、75、76、80、85、87及び89から選択されるいずれか1つ以上をそれぞれ含む方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0014】
本出願によれば次のような効果を有する。
【0015】
1)本出願によれば、多様な遺伝子型のB型肝炎ウイルスの保存領域を標的として、遺伝子型に大きく制限されずに、B型肝炎ウイルスの増殖を抑制する方法を提供することができる。
【0016】
2)本出願によれば、多様な遺伝子型のB型肝炎ウイルスの保存領域を標的とする組成物を提供できる。この場合、前記多様な遺伝子型のB型肝炎ウイルスに対し同じ組成物を使用して治療効果を示すことができる。
【0017】
3)本出願によれば、多様な遺伝子型のB型肝炎ウイルスの保存領域を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】HBV 遺伝子型(genotype) B、C、Dを標的とすることができるCRISPR gRNAs設計模式図を示す図である。
【
図2】Open Databaseをベースに作成したHBV 遺伝子型 Bに対する仮想 ユニバーサル(virtual universal) HBV ゲノム(genome)を示す図である。
【
図3】Open Databaseをベースに作成したHBV 遺伝子型 Cに対する仮想 ユニバーサル HBV ゲノムを示す図である。
【
図4】Open Databaseをベースに作成したHBV 遺伝子型 Dに対する仮想 ユニバーサル HBV ゲノムを示す図である。
【
図5】仮想 ユニバーサル HBV 遺伝子型 B又はC又はDを標的とすることができるSpCas9のgRNAの分布を示す図である。
【
図6】仮想 ユニバーサル HBV 遺伝子型 B又はC又はDを標的とすることができるCjCas9の分布を示す図である。
【
図7】導出されたOpen databaseベースの保存領域を標的とする配列、韓国の患者由来のHBV 遺伝子型 C、及び利用できるHBV細胞モデルの配列において、共通の保存領域を標的とするSpCas9のgRNAの分布を示す図である。
【
図8】導出されたOpen databaseベースの保存領域を標的とする配列、韓国患者由来のHBV 遺伝子型 C、及び利用できるHBV細胞モデルの配列において、共通の保存領域を標的とするCjCas9のgRNAの分布を示す図である。
【
図9】本出願のHBV gRNAの標的領域を示す図である。
【
図10-13】CjCas9のためのgRNA候補(Cj#06,Cj#45,Cj#47,Cj#57)のHBV D 遺伝子型のHBsAg及びHBeAgを測定した結果を示す図である。
【
図14-17】SpCas9のためのgRNA候補(Sp#17,Sp#20,Sp#89,Sp#90,Sp#154,Sp#159,Sp#193,Sp#194,Sp#196,Sp#197)のHBV D 遺伝子型のHBsAg及びHBeAgを測定した結果を示す図である。
【
図18】CjCas9のためのgRNA候補(Cj#06,Cj#45,Cj#47,Cj#57)のHBV D 遺伝子型のHBsAg及びHBeAgを測定した結果を示す図である。
【
図19】SpCas9のためのgRNA候補(Sp#17,Sp#20,Sp#89,Sp#90,Sp#154,Sp#159,Sp#193,Sp#194,Sp#196,Sp#197)のHBV D 遺伝子型のHBsAg及びHBeAgを測定した結果を示す図である。
【
図20-21】SpCas9のためのgRNA候補(Sp#17,Sp#90,Sp#193,Sp#197,Sp#17+90+193,Sp#17+90+197,Sp#17+193+197,Sp#90+193+197)のHuh7(HBV D 遺伝子型)及びHepG2(HBV D 遺伝子型)細胞株からHBsAg及びHBeAgを測定した結果を示す図である。
【
図23-26】SpCas9のためのgRNA候補(Sp#193,Sp#197,Sp#17+90+197,Sp#17+193+197)のHBV 遺伝子型 A型、HBV 遺伝子型 B型、HBV 遺伝子型 C型、HBV 遺伝子型 D型のそれぞれに対するHBsAg及びHBeAgを測定した結果を示す図である。
【
図27】SpgRNA 1個、Cas9及び蛍光蛋白質をプラスミドで発現できるように設計したベクターマップを示す図である。
【
図28】CjgRNA 1個、Cas9及び蛍光蛋白質をプラスミドで発現できるように設計したベクターマップを示す図である。
【
図29】SpgRNA 3個、Cas9及び蛍光蛋白質をプラスミドで発現できるように設計したベクターマップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
他に定義されていない限り、本明細書で使用される全ての技術的及び科学的用語は当業者によって通常理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載されたものと類似又は同じ方法及び物質は本発明の実施又は試験で使用することができるが、適切な方法及び物質は以下に記載される。本明細書で言及される全ての刊行物、特許出願、特許及び他の参考文献は全体が参照に組み込まれる。さらに、物質、方法及び実施例は単に例示であり、制限することを意図していない。
【0020】
B型肝炎は、世界的に広く発生する感染疾患の一つであるだけではなく、肝硬変や肝臓癌と同じ慢性肝疾患に進行する可能性が高い病気である。
【0021】
B型肝炎を起こすB型肝炎ウイルスであるHBV(Hepatitis B virus)は、Hepadnaviridaeに属するDNAウイルスとして、約3.2kb(3200bp)の塩基から構成される不完全な二本鎖ウイルスである。
【0022】
HBVは、完全な円形のマイナス鎖(minus strand) DNAの内側に不完全な相補的構造のプラス鎖(plus strand) DNAが位置する。
【0023】
HBVゲノムにはORF(open reading frames) 4個が重なっており、それぞれpre-S/S、C,P,Xを指定する遺伝子を有する。HBV遺伝体のORFは互いに重なっている部分が50%を超える。特にHBV polymeraseはpre-S/S全体と重なり、他のORFとも重なる。これにより、HBV複製時に生じる突然変異は一個以上のORFに影響を及ぼす可能性があり、HBV複製時に突然変異が特によく生じる。
【0024】
HBVは今までA型~G型で合計7種類の多様な遺伝子型が存在することが知られている。それぞれの亜型はHBV全体塩基配列上で8%以上の差が生じる。
【0025】
HBVの遺伝子型は地域により分布様式が異なる。西ヨーロッパと北アメリカにはではA型とD型が主タイプであり、アジアではB型とC型が主タイプとして知られている。E型はアフリカに限定され、F型は中央アメリカに一般的である。特に、HBV B型とC型は他の型に比べてウイルス増殖が長期間維持されるという報告もある(J Infect Dis 1997;176:851-858)。
【0026】
このように、B型肝炎ウイルスには多様な遺伝子型が存在するため、このような遺伝子型に大きく制限されず、B型肝炎ウイルス増殖を抑制できる効果的な方法が必要となる。
【0027】
多様な遺伝子型のB型肝炎ウイルス(Hepatitis B virus,HBV)増殖抑制の困難性:
上述した通り、B型肝炎ウイルスは、肝炎、肝臓癌などの病気の原因になるだけではなく、HBV遺伝子型は合計7種類の多様な遺伝子型が存在することが知られている。
【0028】
HBVが血液内へ侵入すると、主に肝細胞内に位置することになるが、私たちの体はHBVを除去するために免疫反応が起きる。そのため、B型肝炎治療剤として最初に開発されたインターフェロンアルファ(Interferonα)は、HBVに感染した肝細胞で主要組織適合遺伝子複合体I(Major Histocompatibility Complex I、MHC I)抗原の発現を促進させてHBVに感染した肝細胞の破壊を促進するように開発された。
【0029】
しかし、これは多様なHBV遺伝子型の全てに効果があるものではなく、一部の遺伝子型にのみ効果を有するだけであり、肝細胞にインテグレーション(integration)されて活性化されたHBV DNAを不活性化させるものではないので、再発の可能性が存在する。
【0030】
最近CRISPR/Casシステムを利用してインテグレーションされたHBV DNAを不活性化してB型肝炎ウイルスの増殖を抑制しようとする研究がされている(EP2014830911;、World J Gastroenterol 2015 August 28;21(32):9554-9565)。
具体的には、EP2014830911文献は、B型肝炎ウイルスの保存領域(conserved region)を標的とする数百個のガイド核酸候補を開示している。このうち、B型肝炎ウイルスの増殖が抑制されているかをスクリーニングするために選択したガイド核酸候補は約24個が開示されている。さらに、スクリーニングの結果、約24個のガイド核酸候補のうち実質的にB型肝炎ウイルスの増殖を抑制できるガイド核酸は約3個程度であると報告されている。
【0031】
World J Gastroenterol 2015 August 28;21(32):9554-9565)文献も、B型肝炎ウイルスの保存領域を標的とするガイド核酸候補を約15個の程度開示している。該文献でも約15個のガイド核酸に対して単独及び組み合わせでB型肝炎ウイルス抑制に対してスクリーニングを行っているが、EP2014830911文献と同じくガイド核酸候補のそれぞれの効果が異なることが報告されている。また、特定ガイド核酸の組み合わせのうちでも一部のみ多様な遺伝子型のB型肝炎ウイルス抑制効果が発生したことが報告されている。
【0032】
このように、いくつかの文献の報告によれば、B型肝炎ウイルスの保存領域を標的とする組成物であってもB型肝炎ウイルスの増殖抑制効果は一部にしか現れず、また、多様なB型肝炎ウイルス遺伝子型に適用可能なガイド核酸もきわめて一部に過ぎなかった。
【0033】
換言すれば、B型肝炎ウイルスの増殖抑制効果はB型肝炎ウイルスの保存領域を標的とする場合であっても、特定配列のみでB型肝炎ウイルスの増殖抑制効果が現れている。したがって、このような公知事実によれば、B型肝炎ウイルスの多様な遺伝子型のうち、一部の遺伝子型のB型肝炎ウイルスの増殖抑制効果のみで、他の遺伝子型のB型肝炎ウイルスの増殖抑制効果が発生することを容易に予測できないことがわかる。
【0034】
したがって、本分野でHBV DNAを不活性化してB型肝炎ウイルスの増殖を抑制しようとする研究において、多様な遺伝子型のB型肝炎ウイルスに対し実質的な増殖抑制効果がある特定の対象配列を探すことが要求されている。
【0035】
このような要求に対し、本出願は多様な遺伝子型のB型肝炎ウイルス増殖を抑制する方法及び組成物を提供する。特に、本出願はB型肝炎ウイルスの保存領域を従来よりも更に多様な対象から抽出し、これを標的とするように設計することで、多様な遺伝子型のB型肝炎ウイルスに対し実質的な増殖抑制効果がある他の特定の対象配列を利用する。
【0036】
本出願の技術的特徴:
本出願はB型肝炎ウイルスの保存された特定領域を標的とする組成物及びこれを利用する方法に関し、特に多様な遺伝子型のB型肝炎ウイルスを同時に抑制できることを特徴とする。
【0037】
本出願において、標的とされるHBVゲノム上での特定領域は従来技術と異なる方法により導出され、本出願により決定されたこのような特定領域は従来技術により開示されている領域とは明確に異なる。
【0038】
具体的には、B型肝炎ウイルスの保存された特定領域を抽出する対象を、既存のデータベースの情報、実質的なB型肝炎ウイルスに感染した患者由来の情報及びB型肝炎ウイルスを注入した細胞株由来の情報を組み合わせて導出する。
【0039】
このような方法により決定されたHBVゲノム上での特定領域を標的とすることで、多様な遺伝子型のB型肝炎ウイルスに対して全て効果的に増殖抑制効果を示すことができる。
したがって、本出願は多様なHBV遺伝子型、例えば、HBV A型、HBV B型、HBV C型、HBV D型、HBV E型、HBV F型及びHBV G型に対し、各遺伝子型の配列を考慮する治療方法ではなく、同じ配列(領域)を利用して各遺伝子型に対して全て効果的な治療方法を適用することができる。すなわち、多様なHBV遺伝子型に対する大きな制限なしにB型肝炎ウイルスを一種類の組成物で増殖を抑制することができる。
【0040】
したがって、本出願は次のような技術的特徴を保有する。
【0041】
1)、本出願のB型肝炎ウイルス増殖を抑制する方法は、B型肝炎ウイルス遺伝子内に保存された特定配列を不活性化することである。この場合、前記保存された特定配列は、多様なHBV遺伝子型の配列間に変異が起こりにくい領域として保存される配列である。そのため、多様なHBV遺伝子型に制限されずに本出願の方法を適用することができる。本出願ではHBV A型、HBV B型、HBV C型、HBV D型、HBV E型、HBV F型又はHBV G型から選択される少なくとも2つ以上のHBV遺伝子型を同時に抑制することができる。
【0042】
2)、本出願の特定領域を標的としてB型肝炎ウイルス増殖を抑制する組成物及び方法によれば、多様なHBV遺伝子型のB型肝炎ウイルスに対し一種類の特定領域を利用して治療効果を示すことができる。すなわち、同じ組成物及び方法を利用して、HBV A型、HBV B型、HBV C型、HBV D型、HBV E型、HBV F型又はHBV G型によるB型肝炎を治療することができる。
以下、本出願の前記技術的特徴を有する多様な遺伝子型のB型肝炎ウイルス増殖を抑制する方法について更に詳しく説明する。
【0043】
多様な遺伝子型のB型肝炎ウイルスの共通する標的を利用する増殖抑制方法:
本出願の1つ態様は、共通する標的領域を利用して多様な遺伝子型のB型肝炎ウイルスの増殖を抑制できることに関する。
【0044】
具体的には、本出願の前記B型肝炎ウイルスの増殖抑制方法は、多様な遺伝子型のB型肝炎ウイルスの保存された共通の特定領域を標的とする技術を利用してB型肝炎ウイルスの増殖を抑制することである。
【0045】
前記B型肝炎ウイルスの遺伝子型は、HBV A型、HBV B型、HBV C型、HBV D型、HBV E型、HBV F型及びHBV G型から選択されるが、これらに限定されない。
本出願のB型肝炎ウイルスの増殖抑制方法は、HBV A型、HBV B型、HBV C型、HBV D型、HBV E型、HBV F型及びHBV G型から選択される1つ又は複数の遺伝子型のB型肝炎ウイルス増殖を同時に抑制することができる。
【0046】
本出願における用語"保存領域"は次のように解釈されるべきである。B型肝炎ウイルス遺伝子型であるHBV A型、HBV B型、HBV C型、HBV D型、HBV E型、HBV F型又はHBV G型から選択される少なくとも2つ以上の遺伝子型の配列間に変異が起こりにくい部分を意味する。特に、B型肝炎ウイルス遺伝子型の塩基配列を得る対象をデータベースだけではなく、B型感染ウイルスに感染した患者由来、B型肝炎ウイルスを注入した細胞モデルを全て考慮して選択されたHBV遺伝子型の塩基配列間の保存領域を意味する。本明細書における前記保存領域の核酸配列を"保存された配列"と称することもある。
【0047】
本出願の前記保存された配列は次のような方法を利用して得ることができる。
【0048】
任意の実施例において、前記多様な遺伝子型のB型肝炎ウイルスの保存された配列を探す方法は、
HBV B型、HBV C型、HBV D型のそれぞれの塩基配列をデータベースから得て整列させる段階と、
前記整列されたHBV B型、HBV C型及びHBV D型の配列を比較して保存された配列を探す段階と、で実施することができる。
【0049】
前記方法により得た保存された配列は、下記[表1]のSEQ ID NO.1~45から選択されるいずれか1つ以上である。
【0050】
【表1】
他の例として、本出願の前記多様な遺伝子型のB型肝炎ウイルスの保存された配列を探す方法は、
次の多様な遺伝子型のB型肝炎ウイルス塩基配列を以下から得る段階、
HBV B型、HBV C型、HBV D型それぞれのデータ ベースの塩基配列、
HBV D型細胞モデルの塩基配列、
HBV C型に感染した患者由来の塩基配列、
前記得た塩基配列を整列(アラインメント(alignment))する段階、及び、
前記整列した配列から保存された配列を探す段階
により実行される。
【0051】
前記方法により得られる本出願の保存された配列は、例えば、[表1]のSEQ ID NO.6,7,11,12,24,25,28,29,30,31,35,40,42,及び44から選択されるいずれか1つ以上であってもよい。
本出願の多様な遺伝子型のB型肝炎ウイルスの保存された配列を探す最も好ましい方法は、前述のように、多様な遺伝子型のB型肝炎ウイルス塩基配列を得る対象を拡張して得ることである。
【0052】
このような方法により、多様な遺伝子型のB型肝炎ウイルスに対して同時に抑制効果を示すことができる本出願の共通の保存領域を決定することができる。前記の決定しかつ保存された配列は、SEQ ID NO.1~45であり、更に好ましくは、SEQ ID NO.6,7,11,12,24,25,28,29,30,31,35,40,42,及び44の配列、及び前記配列に対し70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上又は100%の相同性を有する配列であってもよい。
【0053】
このように、上記の本明細書の方法が標的とするB型肝炎ウイルスの保存された配列は、好ましくは、多様な遺伝子型のB型肝炎ウイルスに対する塩基配列情報をデータベース由来、患者由来、細胞モデル由来の多様な対象の組み合わせから得ることができる。
【0054】
このように決定された前記特定の保存された配列は、従来の場合とは異なり、HBV遺伝子型に制限されずにB型肝炎ウイルスの増殖を抑制することができる対象であり得る。
【0055】
以下で更に具体的に説明する本出願の組成物は、前記多様な遺伝子型のB型肝炎ウイルスの保存領域を標的とするように設計したものである。
【0056】
本出願の一実施例は、多様な遺伝子型のB型肝炎ウイルスの増殖を抑制するための組成物に関する。
【0057】
前記組成物は多様な遺伝子型のB型肝炎ウイルスの保存領域を標的とする。
【0058】
前記「標的」という用語は、B型肝炎ウイルスの保存領域自体の配列の変形又は機能の不活性化を誘導して、B型肝炎ウイルスの増殖の抑制又は死滅効果を示すメカニズムを総称して意味する。
【0059】
多様な遺伝子型のB型肝炎ウイルスの増殖を抑制するための本出願の前記組成物は、先に決定された共通の特定領域、すなわち保存領域(配列)を標的とする機能を有するものであれば制限はない。例えば、B型肝炎ウイルスのゲノムDNA上の保存領域の突然変異を導入できる組成物、又はB型肝炎ウイルスのmRNA上の保存領域の翻訳を抑制できる組成物などをすべて含むことができる。
【0060】
1つの具体例では、本出願の前記組成物はCRISPRシステムを含む。
【0061】
具体的には、本出願の保存領域を標的とするガイド核酸及びCas蛋白質を含むことができる。
【0062】
このようなCRISPRシステムは、ゲノムDNA上でPAM(proto-spacer-adjacent Motif)配列周辺の対象配列を標的として、人為的な突然変異を導入できるシステムである。具体的には、前記ガイド核酸とCas蛋白質は互いに結合して(又は相互作用して)、ガイド核酸-Cas蛋白質複合体を形成し、目的するDNA配列を切断することによって、ゲノムDNA上に突然変異インデル(indel)を誘導することができる。本出願の組成物は、前記説明した保存領域にインデルを導入することによって、型肝炎ウイルスの増殖又は機能を抑制することができる。
【0063】
前記ガイド核酸、Cas蛋白質、ガイド核酸-Cas蛋白質複合体に対し更に具体的な説明は、韓国公開特許第10-2017-0126636号を参照されたい。
【0064】
本出願において、前記Cas蛋白質は、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes,Sp)由来のCas9蛋白質、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni,Cj)由来のCas9蛋白質からなる群から選択される一つ以上の蛋白質又はこれをコードする核酸配列の中から選択される一つ以上を含んでもよい。前記Cas9蛋白質は対象のゲノムDNA配列上でPAM(proto-spacer-adjacent Motif)配列を認知し、ガイド核酸と相互作用してPAM配列の隣接位置でDNA配列を切断する機能を行う。
【0065】
本出願において、前記ガイド核酸は、本出願の保存される配列を対象配列にし、B型肝炎ウイルスゲノムDNA配列のうち前記対象配列に相補的結合を行うことができる。
【0066】
ガイド核酸は、前記対象配列と相補的に結合する部位(以下、ガイド部位と称する)と、Cas蛋白質と複合体を形成することに関与する部位(以下、複合体形成部位と称する)を含む。
【0067】
この場合、前記ガイド部位はSEQ ID NO.1~45、更に好ましくは、SEQ ID NO.6、7、11、12、24、25、28、29、30、31、35、40、42及び44の配列と相同性を有する配列又は相補性を有する配列である。前記ガイド部位が対象配列と結合することにおいて、0~5個のミスマッチが含まれてもその複合体の機能に影響がなければあまり問題にならない。
【0068】
前記B型肝炎ウイルスの保存された配列を標的とする配列は[表 2]のSEQ ID NO.46~90から選択されるいずれか1つである。
【0069】
1つの例では、前記ガイド核酸は、SpCas9蛋白質と相互作用し、SEQ ID NO.46~79から選択されるいずれか1つである。
【0070】
他の例では、前記ガイド核酸は、CjCas9蛋白質日と相互作用し、SEQ ID NO.80~90から選択されるいずれか一つを含むことができる。
【0071】
この場合、前記複合体形成部位はCas9蛋白質由来の微生物の種類によって決定することができる。例えば、SpCas9蛋白質と相互作用するガイド核酸の場合、前記複合体形成部位は5'-GUUUUAGUCCCUGAAAAGGGACUAAAAUAAAGAGUUUGCGGGACUCUGCGGGGUUACAAUCCCCUAAAACCGCUUUU-3'を含んでもよく、CjCas9蛋白質と相互作用するガイド核酸の場合、5'-GUUUUAGAGCUAGAAAUAGCAAGUUAAAAUAAGGCUAGUCCGUUAUCAACUUGAAAAAGUGGCACCGAGUCGGUGC-3'を含むことができる。
【0072】
【0073】
本出願の前記ガイド核酸のガイド部位配列(配列番号46~90)は、表1に記載した保存された配列である配列番号1~45に相補的に結合できる配列として、前記保存された配列に隣接して位置するPAM(proto-spacer-adjacent Motif)配列を考慮して設計したものである。
【0074】
前記PAM(proto-spacer-adjacent Motif)配列として、spCas9蛋白質を使用する場合、NGG(NはA、T、C又はGである)が考慮され、cjCas9蛋白質を使用する場合、NNNNRYAC(Nはそれぞれ独立してA、T、C又はGであり、RはA又はGであり、YはC又はTである)が考慮される。
【0075】
前記組成物はガイド核酸を1個又は複数個含むことができる。
【0076】
任意の例において、本出願のガイド核酸は、[表 2]のSEQ ID NO.46~90から選択される1つ以上を選択して利用することができる。好ましくは、前記配列のうち2つ以上の組み合わせを選択して利用することができる。
【0077】
1つの具体例では、SEQ ID NO.51、52、56、57、69、70、73、74、75、76、80、85、87及び89から1つを選択し、又は2つ以上の組み合わせを選択して利用することができる。一実施例では、SEQ ID NO.51、57及び73の組み合わせ又はSEQ ID NO.51、73及び76の組み合わせを利用している。
【0078】
本出願の組成物は、例えば、SEQ ID NO.51、52、56、57、69、70、73、74、75、76から選択される1つ以上を含むガイド核酸又はこれをコードする核酸配列、及びSpCas蛋白質又はこれをコードする核酸配列を含むことができる。
【0079】
または、SEQ ID NO.80、85、87、89から選択される1つ以上を含むガイド核酸又はこれをコードする核酸配列、及びCjCas蛋白質又はこれをコードする核酸配列を含むことができる。
【0080】
本出願の前記組成物は、HBV A型、B型、C型、D型、E型、F型及びG型から選択される2つ以上のB型肝炎ウイルス遺伝子型の保存領域を同時に標的とすることができる。
【0081】
1つの例では、HBV B型、C型、及びD型のB型肝炎ウイルス遺伝子型の保存される領域を同時に標的とすることができる。
【0082】
本出願の組成物の形態は、ベクター形態又はRNP(ribonucleoprotein)形態であってもよい。そのため、前記組成物は、
a)ガイド核酸又はこれをコードする核酸配列、及び
b) Cas蛋白質又はこれをコードする核酸配列を含む。
【0083】
この場合、ベクター形態の組成物である場合、ガイド核酸及び/又はCas蛋白質をコードする核酸配列を同時に又は個別に含むベクターにより構成することができる。
【0084】
例えば、前記ベクターは、ガイド核酸とCas蛋白質をコードする核酸配列を同時に含んでもよく、他の例では、前記ベクターは、ガイド核酸とCas蛋白質をコードする核酸配列を個別に含んでもよい。
【0085】
この場合、前記ガイド核酸及び/又はCas蛋白質は1種以上を使用することもできる。1つの具体例では、前記ガイド核酸を2個又は3個を組み合わせて利用することができる。
前記ベクターはウイルスベクター又はプラスミドであってもよい。
【0086】
前記ウイルスベクターは、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、ワクチニアウイルス、ポックスウイルス及び単純ヘルペスウイルスから構成される群から選択される1つ以上であってもよい。
【0087】
1つの具体例では、前記組成物は、
a)のガイド核酸は、SEQ ID NO.51、52、56、57、69、70、73、74、75及び76から選択されるいずれか1つであり、
b)のCas蛋白質は、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)由来のCas9蛋白質を含むことができる。
この場合、一実施例では、前記ガイド核酸は、SEQ ID NO.51、57及び73の組み合わせ又はSEQ ID NO.51、73及び76の組み合わせを利用することができる。
【0088】
他の具体例では、前記組成物は、
a)のガイド核酸は、SEQ ID NO.80、85、87及び89から選択されるいずれか1つであり、
b)のCas蛋白質は、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)由来のCas9蛋白質を含むことができる。
【0089】
一方、前記組成物はRNP(ribonucleoprotein)形態で構成することもできる。
【0090】
これは、本出願のガイド核酸RNA配列及びCas蛋白質が互いに結合された(又は相互作用して形成された)複合体(complex)形態を意味する。
【0091】
本出願の組成物は、多様なB型肝炎ウイルスの特定の保存領域を標的とすることにより、B型肝炎ウイルスの遺伝子型に大きく制限されずに、前記ウイルスの増殖を抑制することができる。
【0092】
前記組成物のガイド核酸及びCas蛋白質複合体は、B型肝炎ウイルスのHBVゲノムDNA内に保存領域を標的として前記保存領域の二重配列を切断(cleavage)する。その結果、前記保存領域内にインデル(indel)、すなわち、人為的な突然変異(mutation)が形成されて前記ウイルスを不活性化させることによりB型肝炎ウイルスの増殖を抑制する。
【0093】
前記不活性化の結果として、ノックダウン(knock down)、ノックアウト(knock out)形態を全て含む。
【0094】
「不活性化」は、標的遺伝子又はこれをコードする核酸が細胞内で正常な発現過程を経由させないようにしたり、その機能を不能化させたり抑制することを意味する。これは標的遺伝子又は核酸の転写及び/又は翻訳できない状態を誘導することによって形成される。
【0095】
「ノックアウト(knockout)」は、特に遺伝情報を削除する方法、例えば、遺伝子のDNA断片を切断する場合などを含む。前記ノックアウトによって病気を誘発する遺伝子又は異常な機能を有する遺伝子の転写及び/又は翻訳を抑制することができる。
【0096】
「ノックダウン(knockdown)」は、特に遺伝子が蛋白質に翻訳されることを遮断することで、例えば、iRNA,miRNAなどのような特定物質を利用してmRNAから蛋白質への生成を遮断する場合を含むことができる。
【0097】
本出願の組成物は、特に標的とする対象配列内にDNA切断を導入することによって、HBVゲノム上にNHEJによるインデル(indel)を生成させることができる。これによりHBVの増殖又は機能を抑制する効果を発揮することができる。
【0098】
本出願において、前記B型肝炎ウイルスの保存領域を標的とすると、B型肝炎ウイルスの増殖が抑制でき、B型肝炎ウイルス抗原の産生又は発現を抑制することができる。
【0099】
本出願の前記組成物は、HBV A型、HBV B型、HBV C型、HBV D型、HBV E型、HBV F型、HBV G型から選択される2種以上のHBVにおける同時増殖を抑制することができる。また、HBsAg,HBeAg,HBcAgから選択されるいずれか1つ以上のB型肝炎ウイルス抗原の産生又は発現を抑制することができる。
【0100】
本出願の他の態様では、前記組成物を利用したB型肝炎ウイルスの増殖抑制方法に関する。
【0101】
本出願の前記B型肝炎ウイルスの増殖を抑制する方法は、本出願の組成物を対象に導入又は投与することによって実施され、この場合、前記組成物は、
a)ガイド核酸又はこれをコードする核酸配列、及び、
b) Cas蛋白質又はこれをコードする核酸配列を含むことができる。
【0102】
この場合、前記ガイド核酸はSEQ ID NO.51、52、56、57、69、70、73、74、75、76、80、85、87及び89から選択されるいずれか1つ以上をそれぞれ含むことを特徴とする。この場合、前記組成物によってB型肝炎ウイルス遺伝子内核酸配列にインデル(indel)が形成される。このような方法により、HBV A型、HBV B型、HBV C型、HBV D型、HBV E型、HBV F型又はHBV G型のうち2種以上のHBVの増殖を同時に抑制することができる。
【0103】
本出願の前記方法は、本出願の一つの同じ組成物により、前記多様なHBV遺伝子型のB型肝炎ウイルスのうち複数個のHBV遺伝子型のB型肝炎ウイルスを同時に増殖抑制することができる。
【0104】
一方、本出願の他の態様は、B型肝炎ウイルス(Hepatitis B virus,HBV)遺伝子内に保存された配列を不活性化する方法に関する。
【0105】
前記方法は、B型肝炎ウイルス遺伝子型と無関係に特定の保存配列を標的とすることを特徴とする。前記保存された配列は前記HBV遺伝子型の配列間に保存される配列であり、例えば、保存された配列SEQ ID NO.1~45から選択されるいずれか1つ以上、好ましくは、SEQ ID NO.6、7、11、12、24、25、28、29、30、31、35、40、42及び44から選択される一つ以上の保存配列を不活性化させることを目的とする。この場合、前記不活性化は前記保存された配列を切断(cleavage)することを含む。
【0106】
このような方法を利用すれば、遺伝子型に大きく制限されず、すなわち、例えば、HBV A型、HBV B型、HBV C型、HBV D型、HBV E型、HBV F型又はHBV G型から構成されるHBV遺伝子型から選択される1以上のウイルスを不活性化させることができる。
【0107】
本出願の一実施例では、このような方法を実施するために、
a)ガイド核酸又はこれをコードする核酸配列、及び、
b) Cas蛋白質又はこれをコードする核酸配列、を対象に導入又は投与することができる。
1つの具体例では、前記ガイド核酸は、SEQ ID NO.51、52、56、57、69、70、73、74、75、76、80、85、87及び89から選択されるいずれか1つ以上を含むことができる。一実施例では、前記ガイド核酸は、SEQ ID NO.51、57及び73の組み合わせ又はSEQ ID NO.51、73及び76の組み合わせを利用することができる。
【0108】
本出願の前記方法は、前記B型肝炎ウイルス(Hepatitis B virus,HBV)遺伝子内に保存された配列を不活性化することである。この場合、多様なHBV遺伝子型の配列間に変異が起こりにくい保存された配列を利用するため、多様なHBV遺伝子型に制限されずに本出願の方法を適用してB型肝炎ウイルスの増殖を抑制することができる。
【0109】
本出願の前記方法はB型肝炎を治療する効果を有する。
【0110】
本出願の組成物を投与が必要な対象に導入又は投与することによって実施することができる。
【0111】
前記対象は、B型肝炎ウイルスに感染した哺乳動物、1つの具体例では、ヒト、サル、マウス、ラットなどであってもよいが、これらに限定されない。
【0112】
この場合、前記対象がHBV A型、HBV B型、HBV C型、HBV D型、HBV E型、HBV F型又はHBV G型の中の任意の種に感染している場合に実施することができる。しばしば、これらのうち、2以上種により同時感染している場合も含めることができる。
【0113】
すなわち、本出願は多様な遺伝子型のB型ウイルスを同時に抑制できる効果を有するため、本出願の組成物及び方法を使用すれば、感染したB型ウイルスの具体的な種類と無関係に、効果的に増殖を抑制でき、B型肝炎を治療することができる。
【0114】
前記投与は、注射(injection)、輸血(transfusion)、挿入(implantation)又は移植(transplantation)のような、任意の便利な方式で実行されることができる。投与経路は、網膜下(subretinal)、皮下(subcutaneously)、皮内(intradermaliy)、眼球内(intraocularly)、硝子体内(intravitreally)、腫瘍内(intratumorally)、結節内(intranodally)、骨髄内(intramedullary)、筋肉内(intramuscularly)、静脈内(intravenous)、リンパ内(intralymphatic)、腹膜内(intraperitoneally)等から選択されることができる。
【0115】
投与時、組成物の1回投与量(所定の希望する効果を得るための薬学的有効量)は投与対象の体重kgあたり104-109細胞、例えば、105~106細胞/kg(体重)程度で前記数値範囲内の全ての整数値の中から選択されるが、これに限定されるものではなく、投与対象の年齢、健康及び体重、同時に受ける治療の種類、もしあれば治療の頻度、望む効果の特性などを考慮して適切に処方することができる。
【0116】
<発明の実施のための形態>
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
【0117】
これらの実施例は、単に本発明を更に具体的に説明するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例によって制限されないことは、当業者にとって自明である。
【0118】
本出願の多様なHBV遺伝子型を標的とする組成物を作成する設計図を、
図1に示す。
図1にはHBV 遺伝子型 B、C、Dを標的とすることができるCRISPR gRNAsを設計する模式図を示している。
【0119】
図1に示すように、韓国患者由来のHBV 遺伝子型 C、open databaseのHBV 遺伝子型 B、C、D、及びHBV細胞モデルゲノムの全てを多重(multi)標的化可能な遺伝子はさみを設計した。
以下、
図1の模式図を詳細に説明する。
【0120】
実施例1、HBV 遺伝子型 B、C、Dに対するゲノムクエリー及びアラインメント
HBV遺伝子型B型、C型、D型のゲノムクエリーのためにHBV genome data base (HBVdb,https://hbvdb.lyon.inserm.fr/HBVdb/HBVdbIndex)からHBV B、C、D 遺伝子型に対するそれぞれの全配列 1638個、2136個、923個を収集した。収集した配列を配列 アラインメントによって仮想 HBV ゲノム (以下vHBV) 配列を作成した。
【0121】
仮想 HBV ゲノム配列 B型、C型、D型は得られたHBV B型、C型、D型全配列それぞれの整列された配列のうち、80% 配列相同性(homology)である部位に基づいて作成した(
図2~
図4)。
【0122】
SEQ ID NO.91は
図2の配列と対応し、SEQ ID NO.92は
図3の配列と対応し、SEQ ID NO.93は
図4の配列と対応する。SEQ ID NO.91~93の配列において、大文字で表示される部分は、本出願で分析した配列と相同性が80%以上であり、小文字で表示された部分は相同性が80%以下である。
【0123】
【0124】
実施例2、gRNA設計(guide RNA design)
実施例1で得られたHBV遺伝子型B型、C型、D型それぞれの仮想 ユニバーサル HBV genomeベースによりCRISPR標的gRNAを設計した。
【0125】
SpCas9(from Streptococcus pyogenes(5'-NGG-3' for target、5'-NRG-3' for off-target))とCjCas9(from Campylobacter jejuni:5'-NNNNRYAC-3')に対するgRNA 設計は、Cas-Designer(
http://www.rgenome.net/cas-designer/)とし、off-targetがmismatch1と2を有するgRNAは除外した。vHBV B、C D 遺伝子型で保存されたgRNAを
図5~6のように得た。
【0126】
設計の結果、仮想 ユニバーサル HBV 遺伝子型 Bに対する標的(SpCas9のためのgRNA 150、CjCas9のためのgRNA 80)、HBV 遺伝子型 Cに対する標的(SpCas9のためのgRNA 168、CjCas9のためのgRNA 66)、及びHBV 遺伝子型 Dに対する標的(SpCas9のためのgRNA 158、CjCas9のためのgRNA標的71)が導出された。また、仮想 ユニバーサル HBV 遺伝子型 B、C、Dを同時に標的とすることができるSpCas9のためのgRNAは34個、CjCas9のためのgRNAは11個を得た(
図5~
図6)。
【0127】
前記「表 2」のSEQ ID NO.46~90のgRNAは、HBV 遺伝子型であるB、C及びDのうち、最小1個でも標的とすることができるgRNAであり、そのうち、SEQ ID NO.46~79は、SpCas9のgRNAであり、SEQ ID NO.80~90はCjCas9のgRNAである。
【0128】
実施例3、HBV 遺伝子型 B、C、Dを全て標的とするgRNA選択
導出されたOpen databaseベースの保存領域を標的とする配列と韓国患者由来のHBV 遺伝子型 C、及び利用可能なHBV細胞モデルの配列で共通して保存領域を標的とするgRNAは、総SpCas9のgRNAが10個、CjCas9のgRNAが4個設計されている(
図7~
図8)。
【0129】
患者由来のHBV Cタイプである4個のウイルスと一般的にHBV実験に使用される2つの細胞ライン(Dタイプ)を全て標的とすることができるSpCas9のgRNAは[表 2]のSEQ ID NO.51、52、56、57、69、70、73、74、75及び76であり、CjCas9のgRNAは「表 2」のSEQ ID NO.80、85、87及び89である。
【0130】
実施例4、HBV標的部位のスクリーニング
実施例3で得られたOpen databaseベースの保存された配列、韓国患者由来のHBV genotpye C及びHBV細胞モデルの配列で共通して保存領域を標的とするgRNAが標的とするHBV標的部位をスクリーニングした結果、
図9のHBV P、X、PreS1、PreS2、C、S、PreCのうち、1つ以上を標的とすることを確認できた。
【0131】
各gRNAが標的とするHBVの標的部位を「表4」にまとめた。
【0132】
【0133】
実施例5、細胞培養及びトランスフェクション(transfection)
i)ベクター
実施例3で得られたgRNAを細胞に導入するためのベクターコンストラクション(construction)を準備した(
図27~29)。
各gRNAはgRNAのセンス(sense)とアンチセンスオリゴ(antisense oligo)を各200 pmolずつT4 リガーゼバッファー(ligase buffer)と混ぜて95℃で2分、95-85℃で-2℃/s 5 cycles、85-25℃で-1℃/s 60 cyclesでオリゴアニーリング(oligo annealing)を行った後、制限酵素でプラスミドのU6 プロモーター(promoter)の後に挿入した。
【0134】
図27は、SpgRNA 1個、Cas9及び蛍光蛋白質をプラスミドで発現できるように設計した。
【0135】
図28は、CjgRNA 1個、Cas9及び蛍光蛋白質をプラスミドで発現できるように設計した。
【0136】
図29は、SpgRNA 3個、Cas9及び蛍光蛋白質をプラスミドで発現できるように設計した。
【0137】
ii)材料
HBVゲノム1.2コピーがコードされているHBV 1.2プラスミド(遺伝子型 D、Addgene #51294),pAAV HBV 遺伝子型 A、B及びC (kindly provided by Pei-Jer Chen,Taipei city,Taiwan),Cj CRISPR Cas9のgRNA (Cj#06,Cj#45,Cj#47,Cj#57) plasmids (Toolgen),Sp CRISPR Cas9のgRNA (Sp#17,Sp#20,Sp#89,Sp#90,Sp#154,Sp#159,Sp#193,Sp#194,Sp#196,Sp#197,N#17,N#90,N#193,N#197,N#17-90-193,N#17-90-197,N#17-193-197,N#90-193-197) plasmids (Toolgen)
【0138】
ヒト肝臓癌細胞株であるHuh7とHepG2は、Korean Cell Line Bank (Seoul,Korea)から入手した。細胞培養及び維持はDulbecco's modified Eagle's medium (Welgene,Gyeongsan-si,Korea)に10% fetal bovine serum (Capricorn,Ebsdorfergrund,Germany)と1% penicillin/streptomycin (Gibco,Carlsbad,CA,USA)を添加して使用した。細胞の維持は、37℃ の温度と5% CO2が維持されるインキュベーターで維持した。
【0139】
Huh7又はHepG2細胞は6ウェルプレートのそれぞれのウェルに4 x 105個の細胞を播種し、1μgのrepliconと1μgのCRISPR Cas9(SpCas9又はCjCas9)とgRNAを発現するプラスミドを、Lipofectamin 2000を利用してトランスフェクションした。24時間後、細胞培地を新しい培地に交換した。3日後、ELISAのために細胞の上清液を得た。
【0140】
実施例6.HBsAg及びHBeAg測定
実施例5で得た細胞の上清液内のHBsAgとHBeAgの量を測定するために、商業的ELISAキットHBeAg ELISA Kit (WB-2496,Wantai Pharm Inc.,Beijing,China),HBsAg ELISA Kit (WB-2296,Wantai Pharm Inc.,Beijing,China )を使用して、キットのプロトコルにより測定した。細胞の上清液はPBSでHBeAgは1/10、HBsAgは1/25で薄めて使用した。HBeAg、HBsAgの吸光度は、SPECTRA max PLUS 384 Microplate ReaderとSoftMax Pro 5.2プログラムを利用してWavelength range 450nmで測定した。
【0141】
結果1) SpCas9のgRNA候補及びCjCas9標的gRNA候補スクリーニング
実施例3で得たSpCas9のgRNA候補及びCjCas9のgRNA候補のそれぞれを、HBV D 遺伝子型 HBV 1.2を利用して、HBeAg、HBsAg量を測定した。
【0142】
CjCas9のgRNA候補であるCj#06,Cj#45,Cj#47,Cj#57それぞれのHBeAg、HBsAgの量を測定した結果、Cj#47はHBeAgとHBsAgの量が最も少ないことが分かった(
図10~13,
図18)、すなわち、Cj#47はCjCas9標的gRNAで効果が最も良いと予想できた。
【0143】
SpCas9のgRNA候補であるSp#17,Sp#20,Sp#89,Sp#90,Sp#154,Sp#159,Sp#193,Sp#194,Sp#196,Sp#197それぞれのHBeAg、HBsAgの量を測定した結果、ほとんどのHBeAgの量は少なかったが、相対的にHBsAgの量が高かった。
【0144】
多様なgRNAの候補のHBeAg、HBsAgの量を測定した時、候補ごとにHBeAg、HBsAgそれぞれに対する抑制程度が異なることが分かった(
図14~17、
図19)。
【0145】
すなわち、B型肝炎ウイルスの保存された配列を標的とするgRNAであっても、このようにHBeAg、HBsAgそれぞれに対する抑制能力が異なる可能性があることが確認できた。
【0146】
結果2) SpCas9のgRNA候補のB型肝炎ウイルス細胞モデル(HBV D型)でのHBeAg及びHBsAg抑制能力の確認
ヒト肝臓癌細胞株であるHuh7(pAAV HBV D 遺伝子型導入した細胞)及びHepG2(pAAV HBV D 遺伝子型導入した細胞)それぞれにおいて、SpCas9のgRNA候補のうち、Sp#17(N#17と命名),Sp#90(N#90と命名),Sp#193(N#193と命名),Sp#197(N#197と命名),Sp#17+Sp#90+Sp#193組み合わせ(N#17-90-193と命名),Sp#17+Sp#90+Sp#197組み合わせ(N#17-90-197と命名),Sp#17+Sp#193+Sp#197組み合わせ(N#17-193-197と命名)に対するHBeAg及びHBsAgの量を測定した(
図20~22)。
【0147】
Huh7及びHepG2細胞株の全てにおいて、Sp#17,Sp#90,Sp#193,Sp#197単独でのガイド核酸よりSp#17+Sp#90+Sp#197組み合わせ又はSp#17+Sp#193+Sp#197組み合わせのガイド核酸を使用した時、HBeAg及びHBsAgの抑制能力が優れていることが分かった。
【0148】
結果3) SpCas9のgRNA候補のHBV A型、HBV B型、HBV C型、HBV D型のB型肝炎ウイルスのHBeAg及びHBsAg抑制能力の確認
ヒト肝臓癌細胞株であるHuh7にpAAV HBV 遺伝子型 A、B、C、Dそれぞれを導入したHBV A型、HBV B型、HBV C型、HBV D型(それぞれ遺伝子型 A、遺伝子型 B、遺伝子型 C、遺伝子型 Dと命名)それぞれの細胞株からSpCas9のgRNA候補Sp#193(N#193と命名)、Sp#197(N#197と命名)、Sp#17+90+197(N#17+90+197と命名)、Sp#17+193+197(N#17+193+197と命名)のHBeAg及びHBsAgの量を測定した。
【0149】
SpCas9のgRNA候補のそれぞれHBV A型、HBV B型、HBV C型、HBV D型それぞれの細胞株からHBeAg及びHBsAgの抑制能力が異なることが分かった。
【0150】
遺伝子型 A、B、C、Dの全ての結果を比較した時、N#193,N#197(single gRNA)はHBeAgを減少させる傾向を示したが、HBsAgは減少させることができなかった。N#17-90-193,N#17-193-197はHBeAg、HBsAgを効果的に減少させることが確認された。
【0151】
すなわち、N#17-90-193,N#17-193-197が遺伝子型 A、B、C、D全てのHBVを効果的に抑制することが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0152】
本出願は多様な遺伝子型のB型肝炎ウイルスの増殖を抑制する方法に関する。
【配列表】
【国際調査報告】