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特表2022-529595パワーステアリングシステムの一部にかかる摩擦力の値を数学モデルにより推定する方法
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  • 特表-パワーステアリングシステムの一部にかかる摩擦力の値を数学モデルにより推定する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-23
(54)【発明の名称】パワーステアリングシステムの一部にかかる摩擦力の値を数学モデルにより推定する方法
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20220616BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20220616BHJP
   G01M 17/06 20060101ALI20220616BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20220616BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
G01M17/06
B62D119:00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021559531
(86)(22)【出願日】2020-04-22
(85)【翻訳文提出日】2021-11-05
(86)【国際出願番号】 FR2020050683
(87)【国際公開番号】W WO2020217020
(87)【国際公開日】2020-10-29
(31)【優先権主張番号】1904489
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511110625
【氏名又は名称】ジェイテクト ユーロップ
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ゴダン セルジュ
(72)【発明者】
【氏名】ボドワン ニコラ
(72)【発明者】
【氏名】ムレール パスカル
【テーマコード(参考)】
3D232
3D333
【Fターム(参考)】
3D232CC08
3D232DA15
3D232DA62
3D232DA63
3D232DC03
3D232DD02
3D232EB05
3D232EB11
3D232GG01
3D333CB02
3D333CB16
3D333CC06
3D333CE49
(57)【要約】
【課題】多数の物理現象を考慮することによって、長い学習時間を必要としない摩擦力の値を推定する方法を得る。
【解決手段】本発明は、車両(2)のパワーステアリングシステム(1)の一部に加えられる摩擦力の値を推定する方法に関し、パワーステアリングシステム(1)の一部は、モータトルク(T12)を加える少なくとも1つのモータ(12)を含み、摩擦力の値は、数学モデルによってモータトルク(T12)を修正することを可能にする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(2)のパワーステアリングシステム(1)の一部が、モータトルク(T12)を及ぼす少なくとも1つのモータ(12)を含み、前記パワーステアリングシステム(1)の一部に及ぼされる摩擦力の値が、前記モータトルク(T12)を修正することを可能にする、前記摩擦力の値を推定する方法であって、
前記パワーステアリングシステム(1)の一部を仮想的に表す数学モデルに対応するモデルパワーステアリングシステム(1’)の一部を決定し、
前記パワーステアリングシステム(1)の一部において、少なくとも1つの入力変数(T12,T3,γ)の値を測定し、
前記数学モデル及び前記少なくとも1つの入力変数(T12,T3,γ)を用いて少なくとも1つの出力パラメータ(
)を計算し、
前記パワーステアリングシステム(1)の一部において、前記少なくとも1つの出力パラメータ(
)に類似する物理量を表す少なくとも1つの出力変数(v)の値を測定し、
前記少なくとも1つの出力パラメータ(
)と前記少なくとも1つの出力変数(v)との間の少なくとも1つの偏差(e)を計算し、
前記偏差(e)及び内部係数の機能としての前記数学モデルの少なくとも1つの内部パラメータ(
)の値を補正し、
少なくとも1つの補正された内部パラメータ(
)からの力(FFriction)による摩擦の値を決定することを特徴とする推定方法。
【請求項2】
前記数学モデルが、前記モデルパワーステアリングシステム(1’)の一部に加えられる少なくとも1つの力(TMO,TTB,FTR-RA
)を受ける、前記モデルパワーステアリングシステム(1’)の一部の慣性の集合に等しいモデル質量(M)を含む1次数学モデルである、請求項1に記載の推定方法。
【請求項3】
前記数学モデルの前記摩擦力(
)が、ルグレモデルによって決定される、請求項1に記載の推定方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つの内部パラメータ(
)の補正を可能にする前記少なくとも1つの内部係数が、リアプノフの定理を適用することによって決定される、請求項1に記載の推定方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つの入力変数が、前記モータトルク(T12)、ハンドルトルク(T3)、前記車両(2)の横方向加速度(γ)、又はタイロッド上の力から選択される、請求項1から4のいずれか1項に記載の推定方法。
【請求項6】
前記出力パラメータ(
)及び前記出力変数(v)が、前記モータ(12)の回転速度に対応する、請求項1から5のいずれか1項に記載の推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のパワーステアリングシステムの分野に関し、より詳細には、パワーステアリングシステムの一部にかかる摩擦力の値を計算する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のステアリングシステムは、運転者がハンドルによって車両の車輪の向きの角度を修正することによって、車両の軌道を制御することを可能にすることを意図している。車輪の向きの角度は、特にハンドルの角度に連動している。運転者は、ハンドルに力(以下、「ハンドルトルク」と呼ぶ)を加えることによって、ハンドルの角度を変更させる。
【0003】
一般に、ステアリングシステムは、前記ハンドル、ラック、及び各タイロッドに接続された2つの車輪を含むいくつかの要素を備える。ラックとは、タイロッドを介して、車輪の配向を変えることができる、つまり車輪の操縦を可能にする部分である。ラックは、ハンドルの角度を車両の車輪の旋回に変換する。
【0004】
パワーステアリングシステムは、ハンドルトルクの関数として制御モータトルクを決定するコンピュータを備える。このようにして、運転者は、ハンドルを多かれ少なかれ容易に回転させることができる。
【0005】
制御モータトルクは、制御モータによって作用される。
【0006】
機械式パワーステアリングシステムでは、一般にステアリングコラムによって作られる機械的連結が、ハンドルとラックの間に存在する。ステアリングコラムは、ラック上のステアリングピニオンによって噛み合う。次に、制御モータは、ラック又はステアリングコラムに制御モータトルクを加えることによって、制御モータトルクをハンドルに間接的に加える。
【0007】
「バイワイヤ」タイプのパワーステアリングシステムでは、操縦モータトルクを及ぼす操縦モータがラックによって車両の車輪の配向を変更するように、ハンドル角が測定又は計算される。そして、制御モータは、制御モータトルクをハンドルに直接作用させて、特に運転者にラック上の力を認識させる。
【0008】
パワーステアリングシステムの構成部品は、互いに接触するように調整されている。しかしながら、車両生産中の公差、より一般的には、粗さの変動又は寸法の変動のような製造方法に固有の任意のばらつきは、同じシリーズの2台の車両間、即ち、同様の特性を有する2台の車両間でパワーステアリングシステムに働く摩擦力の値のばらつきをもたらす。
【0009】
さらに、摩擦力の値は、部品の摩耗によって変化する。したがって、それはまた、経時的に変化する。
【0010】
機械式パワーステアリングシステムの場合、パワーステアリングシステムに働く摩擦力の値の違いは、同じ一連の2台の車両で運転者のフィーリングに違いをもたらす可能性がある。しかし、自動車メーカーは、同じ条件下に置かれた同じ一連の2台の車両でのフィーリングの差をできるだけ低くしたいと望んでいる。
【0011】
「バイワイヤ」型パワーステアリングシステムの場合、ステアリングシステムの上部、すなわち、ハンドルと制御モータとからなる一部に働く摩擦力の値の変動は、同シリーズの2台の車両におけるフィーリングの差異につながる可能性があるのに対して、ステアリングシステムの底部、すなわち、ラックと操縦モータとからなる一部に働く摩擦力の値の変動は、同シリーズの2台の車両の軌道に対する応答の差異につながる可能性がある。ステアリングシステムの底部、すなわち、操縦モータとラックとからなる一部にかかる摩擦力の値の変動は、同シリーズの2台の車両間で、操縦モータの同一荷重時の応答ダイナミクスの差につながる可能性がある。
【0012】
したがって、機械式又は「バイワイヤ」式ステアリングシステムのいずれにおいても、制御モータトルク又は操縦モータトルクを増大させることによってこれを補償するために、車両の動作時間全体にわたって、車両のパワーステアリングシステム又はパワーステアリングシステムの一部に作用する摩擦力の価値を推定する必要がある。
【0013】
一方では、測定された補助力の値に関連する摩擦力の測定値に対応する一連の特徴付け点を取得するステップを実行し、他方では、特徴付け点間の相関の法則が確立される経験的摩擦モデルを構築するステップを実行することによって、車両のパワーステアリングシステムに及ぼされる摩擦力の値を推定することを可能にする公知の解決手段(特許文献1)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】国際公開2015/140447号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
この解決手段によってもたらされる欠点は、多数の特徴付け点によって摩擦力の値を決定することである。したがって、この解決手段は、長い学習時間を必要とする。
【0016】
さらに、この解決手段は、乾燥摩擦の値、すなわち、滑り速度とは無関係であり、動的である、すなわち、接触している要素が動いているときの値を決定するだけである。
【0017】
本発明は、即時摩擦力の値の推定値を提案し、多数の物理現象を考慮することによって、前述の欠点のすべて又は一部を克服することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、車両のパワーステアリングシステムの一部に作用する摩擦力の値を推定する方法に関し、パワーステアリングシステムの一部は、モータトルクを作用させる少なくとも1つのモータを備え、前記摩擦力の値は、前記モータトルクを修正することを可能にする、
パワーステアリングシステムの一部を仮想的に表す数学モデルに対応するモデルパワーステアリングシステムの一部を決定し、
少なくとも1つの入力変数の値をパワーステアリングシステムの一部上で測定し、
前記数学モデル及び前記少なくとも1つの入力変数の手段によって少なくとも1つの出力パラメータを計算し、
前記パワーステアリングシステムの一部上で、前記少なくとも1つの出力パラメータに類似する物理量を表す少なくとも1つの出力変数の値を測定し、
前記少なくとも1つの出力パラメータと前記少なくとも1つの出力変数との間の少なくとも1つの偏差を計算し、
前記偏差及び内部係数の機能として、前記数学モデルの少なくとも1つの内部パラメータの値を補正し、
前記少なくとも1つの補正された内部パラメータから前記摩擦力の値を決定する、各ステップを備えることを特徴とする方法に関する。
【0019】
本発明の摩擦力の値を推定する方法は、機械式パワーステアリングシステムに適用され、パワーステアリングシステムの一部は、パワーステアリングシステム全体に対応することになり、モータは制御モータである。
【0020】
本発明による摩擦力の値を推定する方法は、「ワイヤによる」タイプのステアリングシステムにも適用される。次いで、パワーステアリングシステムの一部は、パワーステアリングシステムの頂部に対応し、モータは制御モータであり、又はパワーステアリングシステムの底部に対応し、モータは操縦モータである。
【0021】
したがって、用語「モータ」及び「モータトルク」は、以下、ステアリングシステムの考慮される一部に応じて、制御モータ及び制御モータトルク、又は操縦モータ及び操縦モータトルクを示す。
【0022】
摩擦力の値を決定することは、目標の摩擦値に達するようにモータトルクの値を修正することを可能にする。言い換えれば、モータトルクを変更することによって、同じ一連の2台の車両が同等の挙動を有するように、摩擦力の値を多かれ少なかれ補償することが可能である。
【0023】
その後、理解を容易にするために、摩擦力の値が推定されるパワーステアリングシステムの一部は、「ステアリングシステム」という用語によってのみ指定されることになる。
【0024】
本発明による方法は、検討したステアリングシステムを簡略化した方法で表す数学モデルを決定する。言い換えれば、数学モデルは、研究した実際のステアリングシステムの単純化された仮想表現である。以下、検討したステアリングシステムの簡略化表現をモデルパワーステアリングシステムと呼ぶことにする。この数学モデルは、少なくとも1つの入力パラメータと、少なくとも1つの出力パラメータと、少なくとも1つの内部係数と、少なくとも1つの内部パラメータとを含み、これらのうちの1つは、仮想表現に及ぼされる摩擦力の値である。
【0025】
より具体的には、入力及び出力パラメータは、物理システム上で測定することができる物理システムの変数に対応し、内部パラメータは、測定することができない物理システムの変数に対応する。内部係数は、内部パラメータの値を物理システムの対応する変数の値に向かわせるように、内部パラメータの補正を可能にする。
【0026】
この方法は、実際のステアリングシステムに作用する摩擦力の値に対応する内部パラメータを推定することを意図する。
【0027】
そのために、少なくとも1つの入力変数が実際のステアリングシステムで測定される。少なくとも1つの入力変数は、数学モデルの少なくとも1つの入力パラメータと同一の物理量、すなわち物理特性を表す。
【0028】
この入力パラメータを用いて、入力変数に対応して、数学モデルの少なくとも1つの出力パラメータが計算される。
【0029】
次に、実際のステアリングシステム上で、数学モデルの少なくとも1つの出力パラメータと同一の物理量を表す少なくとも1つの出力変数が測定される。
【0030】
次に、予測誤差と呼ばれる出力パラメータと出力変数との間の偏差が計算される。
【0031】
実際のステアリングシステムの数学モデルが代表的であればあるほど、予測誤差は小さくなる。すなわち、数学モデルが完全な場合には、予測誤差はゼロ、すなわち、測定された出力変数と出力パラメータは等しい。
【0032】
したがって、数学モデルを、実際のステアリングシステムをより良く表すものにするために、数学モデルの少なくとも1つの内部パラメータは、予測誤差の機能として、かつ内部係数の適用を介して、修正される、すなわち補正される。実際のステアリングシステムについての情報がない場合には、これらの内部パラメータは予め定められており、従って、実際のステアリングシステム上でそれらが対応する物理量をあまり表していない。予測誤差の機能としてのこれらの内部パラメータの補正は、それらの値を、それらが表す測定不可能な物理量の値に向かわせることを可能にする。したがって、これは、これらの測定不可能な物理量の推定値を得ることを可能にする。
【0033】
しかし、仮想表現に働く摩擦力の値は数学モデルの内部パラメータの一部である。
【0034】
最後に、実際のステアリングシステムに働く摩擦力の値は、数学モデルが修正されたときに仮想表現に働く摩擦力の値に等しいと設定される。
【0035】
本発明による方法は、実際のステアリングシステム上の少なくとも1つの入力変数及び少なくとも1つの出力変数の各測定について、実際のステアリングシステムの摩擦力の値を推定する。与えられた時間点におけるステアリングシステム上の少なくとも2つの測定によって、この方法は、与えられた時間点におけるステアリングシステムに働く摩擦力の値を推定する。摩擦力の値の推定は、計算時間と比較して、実質的に即時である。言い換えれば、所望の推定値を得るために、ステアリングシステムに対して複数の異なる時点で測定を行う必要はない。
【0036】
さらに、本発明に係る方法は、ストライベック湾曲に関連する潤滑現象、粘性現象、結合剛性の現象、すなわち、2つの固体が可撓性薄板を介して接触しているモデルで決定される剛性など、異なる種類の摩擦にリンクした多数の物理現象を考慮に入れている。このようにして、この方法は摩擦力の値の非常に正確な推定を行う。
【0037】
本発明の特徴によれば、本方法は、パワーステアリングシステムの一部上で、複数の入力変数の値を測定する。
【0038】
本発明の特徴によれば、本方法は、複数の出力パラメータを計算する。
【0039】
本発明の特徴によれば、本方法は、パワーステアリングシステムの一部において、複数の出力パラメータに類似した複数の物理量を表す複数の出力変数の値を測定する。
【0040】
本発明の特徴によれば、本方法は、複数の出力パラメータと複数の出力変数との間の複数の偏差を測定する。
【0041】
本発明の特徴によれば、本方法は、前記数学モデルの複数の内部係数の値を少なくとも1つの偏差の機能として補正する。
【0042】
本発明の特徴によれば、数学モデルは、モデルパワーステアリングシステムの一部に作用する少なくとも1つの力を受ける、モデルパワーステアリングシステムも一部の慣性の集合に等価なモデル質量を含む1次数学モデルである。
【0043】
1次数学モデルは、このシステムを1個の単一質量だけで表すように、相対運動する数個の固体で構成される実際のステアリングシステムの複雑さの減少に対応する。
【0044】
したがって、数学モデルは単純である。これにより、単純なソフトウェアの実装と、コンピュータの資源の消費量の削減が可能になる。
【0045】
モデルパワーステアリングシステムの一部に働く少なくとも1つの力は、実際のステアリングシステム上で決定される必要がある少なくとも摩擦力に相当する。
【0046】
本発明の特徴によれば、数学モデルの摩擦力は、ルグレモデルによって決定される。
【0047】
摩擦力は、以下の式に従ってルグレモデルによってモデル化される。
[式1]
[式2]
[式3]
[式4]
ここでは、
: ルグレモデルによる結合剛性、内部減衰、及び粘性摩擦係数をそれぞれ表す数学モデルの内部パラメータ
: ルグレモデルの内部状態
: モデル質量の速度に対応するモータの回転速度
: 「ストライベック速度」、すなわち静的摩擦と動的摩擦との間の遷移を記述するストライベック曲線の形状を制御するルグレモデルのパラメータ
: ルグレモデルの内部パラメータ
: 摩擦レベル
: 静摩擦レベル、とする。
【0048】
本発明の特徴によれば、少なくとも1つの内部パラメータの補正を可能にする少なくとも1つの内部係数は、リアプノフ定理の適用によって決定される。
【0049】
リアプノフ定理は、「リアプノフ」と呼ばれる正の定数関数の存在を証明することによって可能になり、この関数は、
一方で、予測誤差として知られる数学モデルの出力パラメータと物理系の出力変数との間の推定誤差と、
他方で、数学モデルの内部パラメータと実際のシステムの対応する物理量の値との間の推定誤差であって、導関数が負の半定値であり、推定誤差が有界であってシステムが安定であることを証明する推定誤差と、の間の推定誤差に依存する。
【0050】
さらに、予測誤差がゼロでないときにリアプノフ関数の導関数が負に定義される場合、これらの予測誤差はゼロに向かって収束することを示すことが可能である。
【0051】
こうして定義された関数の表現によって、モデルの少なくとも1つの内部係数の表現を数学的な方法で決定することが可能になり、このモデルの挙動が、それが表す実際のシステムのゼロに向かって収束することを確実にすることが可能になる。
【0052】
本発明の特徴によれば、少なくとも1つの入力変数は、モータトルク、ハンドルトルク、車両の横方向加速度、又はタイロッド上の力から選択される。
【0053】
かくして、この方法は、ステアリングシステムにおいて一般的に測定される変数を使用する。
【0054】
入力変数は、検討したステアリングシステムと選択した数学モデルに依存する。
【0055】
機械式ステアリングシステムの場合、少なくとも1つの入力変数は、モータトルク、操舵トルク、又は車両の横方向加速度から選択される。好ましくは、3つの入力変数は、モータトルク、ハンドルトルク及び車両の横方向加速度に対応して決定される。
【0056】
本発明の特徴によれば、出力パラメータ及び出力変数は、モータの回転速度に対応する。
【0057】
モータの回転速度は、一方では、モータの位置よりもステアリングシステムの動的挙動の良好な反応を保証し、他方では、モータの加速度よりも容易な測定を可能にする。
【0058】
本発明は、非限定的な例として与えられ、添付の概略図を参照して説明される、本発明による実施形態に関する以下の説明により、より良く理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0059】
図1】車両の機械式パワーステアリングシステムの概略図である。
図2図1のパワーステアリングシステムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0060】
本発明は、車両2のパワーステアリングシステム1の少なくとも1つの一部に働く摩擦力の値を推定する方法に関し、より詳細には、乗客を輸送することを目的とした自動の車両2に関する。
【0061】
以下に説明するパワーステアリングシステム1は、機械式のものである。
【0062】
それ自体公知の方法で、図1に示すように、パワーステアリングシステム1はハンドル3を含み、このハンドルは、「ハンドルトルク」T3と呼ばれる力をハンドル3に加えることによって、運転者がパワーステアリングシステム1を操縦することを可能にする。
【0063】
前記ハンドル3は、好ましくは、ステアリングコラム4に取り付けられ、車両2の回転に誘導され、かつ、ステアリングピニオン5によって噛み合い、それ自体が、車両2に締結されたステアリングケース7で並進誘導されるラック6上にある。
【0064】
好ましくは、ラック6の端部のそれぞれは、車輪10,11(それぞれ左側車輪10及び右側車輪11)のステアリングナックルに取り付けられたステアリングタイロッド8,9に接続され、これにより、ラック6の長手方向の並進運動が、前記ハンドルの回転角(ヨー角)を修正することを可能にする。
【0065】
更に、操舵輪10,11は、好ましくは駆動輪であってもよい。
【0066】
また、パワーステアリングシステム1は、その操縦を補助する制御トルクT12を出力するように構成された制御モータ12を備えている。
【0067】
制御モータ12は、好ましくは、2つの動作方向を有する電気モータであり、好ましくは、ブラシレス型回転電気モータである。
【0068】
制御モータ12は、必要に応じて、ステアリングコラム4自体の減速機を介して係合して、いわゆる「シングルピニオン」機構を形成するか、又は、例えば、ステアリングコラム4がラック6と噛み合うことを可能にするステアリングピニオン5とは別個の第2のピニオン13によってラック6に直接係合して、図1に示すように、いわゆる「ダブルピニオン」機構を形成するか、又は、ステアリングピニオン5から距離をおいてラック6の対応するねじ山と協働するボールねじによって係合することができる。
【0069】
本発明による摩擦力の値の推定方法は、パワーステアリングシステム1の一部に作用する。なお、以下に説明する場合では、パワーステアリングシステムの一部は、図1に示すようにパワーステアリングシステム1全体に相当し、ハンドルトルクT3を測定するトルクセンサ23の下流、つまりラック6からトルクセンサ23までを備えたステアリングシステムに相当する。
【0070】
この方法は、パワーステアリングシステム1を表す数学モデルに対応するモデルパワーステアリングシステム1’の一部を決定するステップを含む。本発明で用いるモデルパワーステアリングシステム1’の一部は、図2に示すように、パワーステアリングシステム1を簡略化したものであり、図1及び図2に示す例では、モデルパワーステアリングシステム1’の一部をモデルパワーステアリングシステム1’と呼ぶことにする。
【0071】
ソフトウェアの実施を単純化し、パワーステアリングシステム1のコンピュータの資源消費を低減するために、パワーステアリングシステム1は、本発明による方法では、実際に研究されたステアリングシステム1の単純化された仮想表現である数学モデルによって表される。数学モデルは1次システムである。
【0072】
より具体的には、モデルパワーステアリングシステム1’に対応する数学モデルは、モデルステアリングピニオン5’が発揮されるモデルラック6’と、第2のモデルピニオン13’によってモデルラック6’に係合するモデル制御モータ12’とを含む。
【0073】
数学モデルは、モデルパワーステアリングシステム1’の1組の慣性に対応する1つの単一モデル質量Mを含む。
【0074】
モデル質量Mは、次式に従って書かれる。
[式5]
ここでは、
: モデルラック6’の質量
: モデル制御モータ12’の慣性
: モデルステアリングピニオン5’の慣性
: 減速機+第2種ピニオン13’セットの減速比
: モデルステアリングピニオン5’の減速比、とする。
【0075】
モデル質量Mは、モデルパワーステアリングシステム1’に作用する少なくとも1つの力を受けると設定される。この例では、モデル質量Mは以下の4つの力を受ける。
【0076】
・実際のパワーステアリングシステム1における制御モータ12の制御トルクT12に相当するモデルモータ力TMO
・ステアリングコラム4の高さにおける摩擦値を除いて、実際のパワーステアリングシステム1におけるトルクセンサ23によって測定されるハンドルトルクT3に実質的に相当するモデルドライバ力TTB
・ステアリングタイロッド8,9によってラック6に加えられる力に相当するモデルタイロッド力FTR-RAであって、この力は直接測定されず、以下の直線関係に従って車両の横方向加速度γから推定される。
[式6]
ここで、
は、タイヤの線形挙動の領域において、車両の横方向の力と横方向の加速度との間の比例係数を表す内部パラメータである。
・実際のパワーステアリングシステム1に及ぼされる摩擦力FFrictionに等しい模範的な摩擦力
【0077】
また、モデル摩擦力
は、以下の式に従ってルグレモデルによってモデル化されるように決定される。
[式7]
[式8]
[式9]
[式10]
ここでは、
: ルグレモデルによる結合剛性、内部減衰、及び粘性摩擦係数をそれぞれ表す数学モデルの内部パラメータ
: ルグレモデルの内部状態
: モデル質量Mの速度に対応する制御モータ12の回転速度
: 「ストライベック速度」、すなわち静的摩擦と動的摩擦との間の遷移を記述するストライベック曲線の形状を制御するルグレモデルのパラメータ
: ルグレモデルの内部パラメータ
: 摩擦レベル
: 静摩擦レベル、とする。
【0078】
考察したモデルパワーステアリングシステムにルグレモデルを適用すると、次のようになる。
[式11]
[式12]
[式13]
ここでは、
: 模型質量Mの加速度、
RFE: モデルモータ力TMOとモデルドライバ力TTBの合計で、ラック6の基準で表される。
: 例えば、ハンドルトルクT3又は車両の横方向加速度γの測定値におけるオフセットの存在のような、測定値における可能な一定の誤差に対応する内部パラメータ
: ルグレモデルの内部状態の微分、とする。
【0079】
実際のステアリングシステム1を代表する数学モデルを作るためには、モデル質量Mのみが既知であると仮定し得る。他の内部パラメータ
は、可変すぎるため事前に正確に推定できない。
【0080】
この方法はまた、パワーステアリングシステム1上で、少なくとも1つの入力変数の値を測定するステップを含む。図1及び図2の例では、入力変数は、制御モータ12の制御トルクT12、ハンドルトルクT3、及び車両の横方向加速度γである。
【0081】
この方法は、次いで、数学モデル及び少なくとも1つの入力変数によって少なくとも1つの出力パラメータを計算するステップを含む。
【0082】
少なくとも1つの出力パラメータを計算するステップは、入力変数の機能として制御モータ12の回転速度
に対応するモデル質量Mの速度
を決定することを可能にする。より具体的には、入力変数は、上述した数学モデルにおいて統合され、これにより、モデル質量Mの速度
を推論することが可能となる。
【0083】
次いで、この方法は、パワーステアリングシステム1の一部上で、少なくとも1つの出力パラメータに類似した物理量を表す少なくとも1つの出力変数の値を測定するステップを含む。
【0084】
少なくとも1つの出力変数の値を測定するステップの間、制御モータ12の回転速度は、パワーステアリングシステム1で測定される。この方法は、少なくとも1つの出力パラメータと少なくとも1つの出力変数との間の少なくとも1つの偏差eを計算するステップを含む。
【0085】
換言すれば、偏差eは、少なくとも1つの出力変数から少なくとも1つの出力パラメータを引いたものに等しい。
【0086】
今回の場合、偏差eは、モデル質量Mの速度
から制御モータ12の回転速度
を引いた速度に等しい。
[式14]
【0087】
予測誤差とも呼ばれる偏差eは、数学モデルの欠陥を象徴的に表す。換言すれば、数学モデルが完全である場合、偏差eはゼロである。
【0088】
この方法は、予測誤差の機能として、前記数学モデルの少なくとも1つの内部パラメータの値を補正するステップを含む。
【0089】
このようにして、パワーステアリングシステム1をより代表的なものとするために、数学モデルを修正する。数学モデルを修正するために、内部パラメータ
の値が修正される。
【0090】
内部パラメータ
の値を変更するには、ここでは再現されない方程式を解く必要があり、これによって非線形項が明らかになる。
【0091】
この課題を解決するために、内部状態zの2つの推定値を含む構造を使用して非線形項を分離することが知られている。次に、リアプノフ定理を適用した後、内部係数の式が決定される。
【0092】
この方法は、少なくとも1つの補正された内部パラメータから摩擦力の値を決定するステップを含む。
【0093】
最後に、実際のパワーステアリングシステム1に作用する摩擦力
に対応するモデル摩擦力
を次式に従って決定することができる。
[式15]
ここでは、
: ルグレモデルによる結合剛性、内部減衰、及び粘性摩擦係数をそれぞれ表す数学モデルの内部パラメータ;
: ルグレモデルの内部状態
: モデル質量Mの速度に対応する制御モータ12の回転速度、とする。
【0094】
摩擦力の値を決定することは、目標の摩擦値に達するように制御トルクT12の値を修正することを可能にする。言い換えれば、制御トルクT12を変更することによって、同じ一連の2台の車両が同等の挙動を有するように、摩擦力の値を多かれ少なかれ補償することが可能である。
【0095】
もちろん、本発明は、添付の図面に記載され、表された実施形態に限定されない。特に、様々な要素の構成に関して、又は技術的均等物の置換によって、本発明の保護範囲から逸脱することなく、変形例が依然として可能である。
図1
図2
【国際調査報告】